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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

332名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:22:49

かなり不自然だが何とか笑うことができた。
別に気が触れたとかではない。
【永遠殺し】はアタシをからかってるのだ。
あるいは、あるいは本当に自らが創り出した黄金の塊でトイレを詰まらせたことでパニくってしまって状況を必要以上に深刻に捉えているのだったら、そのことに気づかせてやればいい。

「何も深刻な事態なんかじゃねえじゃねえか」

怪訝そうにアタシを見ていた永遠殺しは首を傾げる。

「そう…かしら」
「そうに決まりきっているじゃねえか。アンタの能力なら誰に見咎められることもなくこの窮地から脱出できるじゃねえか」

そう、【永遠殺し】保田圭の能力は時間停止。
時間を停止させている間にこの場から立ち去って、ついでに店からも退去すれば何の問題も残らない。
いやっ何も問題が残らないということはないだろう。
少なくともこの女子トイレに黄金の塊は残る。
それを放置プレイというというモラル的な問題も発生はする。
料金を清算せずに逃亡するという明らかな犯罪も起こしてしまう。
だがそれだけだ。
それだけのことで、闇の世界で囁かれる【永遠殺し】の名誉は守られるのだ。
いきつけのカラオケボックスを一軒失うことにはなるだろうが、その程度で…。

「それはダメよ」
「はぁそれはまたどうして?」

ひよっとしてまさかの公徳心でも目覚めたか?

「そんな真似をしたらもうこの店を使えなくなるじゃないの」

333名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:24:01
それはトイレに黄金の塊を放置した奴がどのつ面下げて顔を出せるかって話だよな。
まあでもこの界隈でカラオケを唄える場所がここ一軒ってわけでもあるまいし。
まあ駅から一番近いし便利といえば便利だけど。

「そんなことをしたら、彼に会えなくなるじゃない」

はぁ?
彼ってなんだよ彼って。
この期に及んで新しい登場人物か。
オリキャラか、それともモデルはいるのか。
いたら面倒くさいぞ。

「あなただってさっき会ってたじゃない」
「あ、ええっとすいません。その彼ってまさか」
「この支店を取り仕切っている主任の彼よ」

あのゴート髭か。
ああまあこのオバハンの年齢的には、あのぐらいが似合いなのか。

「それで藤本、さっきは彼と何を話してたの?」
「いや、別に」
「別にってことはないでしょう。さっきだってアンタらしくもなくしおらしくしてたじゃない」

何がアタシらしくもなくだ。
さっきはアンタに会うのが気が重たかったからああだっただけで。
いやそもそもこんな目に遭うと分かっていたら、どんなイケメンだって突飛ばして逃げてるさ。

なんとなく見えてきた。
つまりこのオバハンは自分が憎からず思ってる男に醜態を知られたくないから、何とかして黄金の塊を極秘裏処理したいんだ。
その片棒を担がせるためにアタシを呼び出したと。
ほぅ、上等じゃねえか。だが、しかしだ。

334名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:26:05
「残念ながらそれはできませんぜ」
「何ができませんよ。私はあんたが彼と何を話してるのか訊いてるの」
「うっさい。もうそんなことはどうでもいい」
「よくないわよ。はは〜ん。さてはあんたもあの男性を…」
「いやっ、まじカンベンしてくれよ。話がややこしくなるだけだからさ。とにかくアンタがアタシに何を望んでるかはわかった」
「…そうなの」
「いやっ、アンタ物憂げに喋ったらいい女に見えるとか思ってんじゃねえだろうな」
「そんなこと…ないけど」

うわ、むかつく。
アタシはわかってしまったんだ。
自らが創り出した黄金の塊で行きつけのカラオケボックスのトイレを詰まらせたこの女が、氷雪の魔女と呼ばれるこのアタシに何を望んでるかわかってしまったんだ。
何か雑学の本で読んだことある。
ひょっとしたらテレビのクイズ番組で知ったのかもしれないけど。

アラスカとか気温氷点下が当たり前の地域では、小用を足しているその先から凍っていって中々愉快なことになるとか。

「つまり大小の違いはあるけど、要するに処理しやすいように固めちまえってことだろう。アタシの魔術で」
「結構、固まってると思うんだけどね黄金の塊」
「だからしれっと状態を言うのはやめれって絵が浮かぶから」

本質的には常識人の部類に入ると思うんだが、どこかズレてるだこの人は。
魔法という自分の異能をそんな用途に使用するのはぞっとしないが、それでもそれを行使することでこの事態から抜け出せるのなら、使いもしよう、だが。

「今のアタシには新規の魔法は使えないんだ」
「…それはどういうこと」

だからその…は、まあいい。
とにかくアタシの事情を説明するのが先だ。

335名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:26:57
「アタシの魔法がアンタの能力とは仕組みが違うってことはわかってるでしょうが」
「確か魔法陣とか呪文とかが必要だったとかかしら」

厳密に言うと、アタシ藤本美貴は能力者ではない。
“普通”の能力者なら。
一度発現した能力を学習によって我が物にした“普通”の能力者は、自分の手足を動かす感覚で異能を行使できる。
しかし、“普通”の能力者ではないアタシの場合はそうはいかない。
アタシの異能は「魔法」だ。
「魔法」を使うには儀式という手順を経て、魔力を練成する必要がある。
「魔法」の種類によっては精霊の力を借りるだの、悪魔と交わって魂を売るだの表現は異なるが、要するに能力者と同じプロセスで異能を行使したりはできないということだ。
石川梨華や吉澤ひとみや保田圭たち“普通”の能力者にとって各々の異能を行使するということは、スーパーで買い物カゴに自分の必要な商品を詰め込む作業に等しい。
勿論、財布の中身が乏しければ買い物カゴに詰め込むことを諦めなきゃいけないだろう。
商品が大きすぎれば、買い物カゴが詰め込めないこともあるだろう。
しかし一定のレベルに達した能力者にとって、その能力を使うということは日常の延長戦にある。

だがアタシが「魔法」という異能を使う場合、ちょっとばかり面倒くさい。
買い物カゴの例えでいうなら、まずカゴを作成するところから始めなきゃいけない。
カゴが出来たら今度は商品の種類や価格を一つずつチェックしてそれを音読して、旦那様にお伺いを立ててようやくカゴに in みたいな感じ。
大喰らいの科学者なんかはアタシの魔法のプロセスをプログラミングみたいだと言うんだが、…そうなのか?

「藤本、あんたの方が格上なんだからお伺いなんか立てる必要ないでしょ」
「どれだけ出たがりなんだ。 ここ後々大事なところなんだからガメラみたいな首突っ込まねえでくれよ」」

何故、そんなプログラミングみたいな行程が必要なのか。
その件を科学者に尋ねたら、こんな説明をされたことがある。

336名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:27:27
どういうわけだか、能力者には女性が多い。
いやっ男の能力者だっているにはいるが、世界の災厄や最悪、最強と称せられるほどの高レベルの能力者。
たとえば、後藤真希。たとえば高橋愛。あるいは中澤裕子。
そして今目の前に居るガメラ、保田圭。
彼女たちはみな女性だ。
どうしてそういう分布になったのか。

女と男の脳神経の機能の仕方の違い。
脳梁と呼ばれる左右の脳を繋ぐ部分を中心に、右脳と左脳をつなぐネットワークが濃く形成されている女の脳。
左右の脳をそれぞれ使って、脳の前後を接続するネットワークが形成されている男の脳。
小難しい理屈はよくわからねえが、つまり女の方が男よりも左右の脳を連携して使っているということだ。
その差、情報処理力の差こそが高レベルの能力者は女に多く現れる原因だという仮説がある。
その仮説を元に人為的な処理を経ての能力者育成プログラムが世界のどこかの国ではすでに存在するとか、そんな噂はどうでもいい。

つまり“普通”の能力者と比べて情報処理能力に劣るアタシは魔法の儀式という拡張メモリーを使用して、処理能力の補完をしているのだと、科学者は言っていた。
自分ではそんな複雑なことをしているつもりは無いんだがな。

「でもアンタいちいち呪文とか唱えなくても、氷矢とか撃ってるじゃないの」
「それは細工があるんですよ。ちょっとした細工がね」

儀式を経て練成した魔力は強力だ。
厳選した強い地脈の上で練成した魔術は、気象にさえ干渉できる。
春だというのに遭難者が続出するほどの寒波さえ呼び込めるほど、強力かつ広大な魔法を行使できる。
しかしそんな魔法は能力者との近接戦では役に立たない。
特攻機に懐に飛び込まれた大型戦艦って感じだ。
儀式を必要とするタイムラグの問題も含めて、闘いの最前線に立つには通常の魔法では不利だ。
だから、あんまり気は進まないんだが練成した魔力を近接戦向きの能力に変換して蓄えるということをアタシはしている。
蓄えるものは出来るだけ、魔法ってものが発生した時代に存在していた形が望ましい。
古式ゆかしい杖とか箒でもいいし、装飾品であったり古式のドレスとか。

337名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:28:33
「アンタのドレスにもそんな意味があったのね。私はまた時代錯誤の痛々しいコスプレ女だとばっかり」
「コスプレとか言うなっ!!」

なぜ魔力から能力への変換に気が進まないか。
それは魔力を魔法のために使う場合に比べて、交換レートが悪いってこと。、
為替の円安ドル高みたいな感じの。

「ここのところの円安にも困ったものね」
「アタシは今、アンタに困らされてるけどな!!」
「どうしたの藤本、落ち着きなさい」

いやっ、アンタに言われたくは…まあいい。

「だから今アタシは護身用に氷矢と氷槍十発ずつぐらいしか魔力は確保してないんです」
「それは本当なの、藤本」

魔力の練成にはそれなりのコストが必要だし、体力だって消費する。
だから必要以上の練成は行いたくないし、擬似能力に変換するのもより効率良く行っておきたい。

「つまり氷矢用の魔法は最初から氷矢用の擬似能力として変換してるんで、それを凍結に転用したりは出来ねえってことです」

今すぐこの場で誰にも知られず、黄金の塊を処理しやすくするよう凍結させることはできないということだ。
新たに魔力を練成するにせよ、擬似能力を再変換するにせよそれなりの手順を踏まねばならない。
魔方陣をこの場で構築するには、必要なものが足りないし、アタシの家に一度は戻った方が早い。

「まあ残念ですけど」「それは好都合だわ」

えっ。
アタシは耳を疑った。
今アタシが魔法を使えないことが好都合。
どうやって隠蔽するつもりなんだ。

338名無しリゾナント:2014/11/11(火) 14:29:24
真意を問い質そうとしたアタシの目の前で【永遠殺し】は言葉を発した。
それはまるで魔法のような事象をこの世界に顕現させるキーワード。
【時間停止】能力を発現させる際に為される詠唱の文句。

「時間よ、私の前に傅きなさい」

闇色の光というものがいったいあるのかどうかそれまでわからなかったアタシだけどたった今それを見ちまった。
それは保田圭の暗く燃える瞳から放たれる漆黒のオーラ。
収束していく時間の中でアタシが見たもの、それは…。


>>-

以上『黄金の魂』改め『黄金の塊』

次回完結。

339名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:04:56
違和感。
一言で済ませると、たった三文字で終わる。
しかし、それだけでは終われない。何故なら今は、戦闘の最中なのだから。

「凄いですね。私のテリトリーに入って平気で居られる人、はじめて見ましたよ。さすがは『鞘師』の継承者、
といったところでしょうか」

目の前の、里保よりやや年下に見える少女が言う。
テリトリー、の発音がやけに流暢だ。

里保の肩が大きく上下する。息が、乱れる。
例の「違和感」は、彼女の精神のみならず肉体にまで影響を及ぼしていた。

「『鞘師』のもの、か。その言い回し、どういう意味かな」
「意味もなにも。私は貴方が『鞘師』である以上、倒さなくてはいけない。do you understand
?」

ドゥーユーアンダースタンドと来たか。
まるで英語の授業に出ているようだ、と思いつつ。
この状況を何とか打破しなければ。でなければ。
地に這い蹲る結末が待っている。

少女が懐から取り出すは、銀色のナイフ。
それが、まっすぐに里保に向かって飛ぶ。だが、里保は回避行動を見せない。
案の上、鋭い刃は里保の体を突きぬけ明後日の方向へと消えていった。

目に見えるものは。耳で聞こえるものは。そして肌で感じるものは。
信用するな。

それが少女と短い間交戦して学んだ、事実。
太腿を走る痛々しい赤い痕が、それを教えてくれた。

340名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:06:00
「警戒してますね、鞘師さん。私の異能を」
「恐ろしい能力だからね。人の感覚を悉く”狂わせる”」

少女が里保の前に現れてから程なく、相手が仕掛けてきた。問答無用というやつだ。
違和感は既に始まっていた。
少女が投げるナイフ。速さはさほどではなかった。なのに。

避けられなかった。
いや、正確に言えば何かの嫌な予感から刀を咄嗟に下段に構えていたが故に、ナイフが深々と刺さる事はなかっ
たものの。
それでも、予想できなかった軌跡が里保の肌を裂く。
だがそれすらも、立て続けに続く不可解のほんの端緒でしかなかった。

攻勢に出た里保の一太刀はあっさりと空を切る。
避けられたわけではない。少女は涼しい顔をしてその場に立っていた。
まるで、里保自身が「目測を見誤った」かのように。

それからは。
こちらの攻撃は当たらず、相手の攻撃は読めず。
ナイフが飛んできた方向とはまったく異なる方向からの鋭利な痛み。
念のためにと張って置いた水のバリアもまた、投擲の直撃を避けるための気休めの防護策にしかならない。その
ことが、里保の精神をすり減らしてゆく。

「…じゃあそろそろ、本番と行きましょうか」
「!?」

その瞬間、少女の姿が掻き消えた。
違う。いつの間にか懐に入られていた。
そこから繰り出される、拳、蹴り。

341名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:06:41
「…体術も得意なんだ」
「むしろこっちのほうが本領ですけど」

見えている動きとはまるで関係ない場所が軋み、打ちのめされる。
防戦一方。身を固めるしか術がなかった。
先ほどのナイフは間隔を空けて攻めていたから、何とか直撃を避けることができた。
しかし肉弾戦ではその隙さえ与えられない。

このままではいずれガードが打ち崩され、決定的な一撃を与えられてしまう。
その証拠に、これだけの乱打をしておきながら少女は汗一つ、かいていなかった。
フィニッシュブローを温存しているのは、火を見るより明らかだ。

目に見える軌跡が。空を切る音が。肌で感じる空気が。全てまやかしならば。
何を信じればいいというのだろう。
里保は相手のサンドバッグになりながら、それでも考える。
浮かんだのは、遥か遠くの故郷にいる祖父の顔だった。

342名無しリゾナント:2014/11/13(木) 21:15:45
>>339-341
「幻影(前)」

野中さんの能力設定の叩き台になれば

343名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:28:38
わたしの敵はわたしの中にいるとずっと思ってた。
“精神破壊”
人の精神を焼き尽くす狂気の焔を吐く悪竜。
それがわたしの中にいる化け物の正体だ。

かつてわたしには三十人の級友がいた。
ある日わたしは三十人の級友を失った。
それはわたしが三十人の級友を地獄に突き落としたせいだ。

わたしが作り出した地獄。
それは級友を発狂させ、級友同士で傷つけ合わせ、体にも心にも決して癒えることのない傷を負わせた。
三十人、いや家族を合わせれば百人以上の人生をわたしは一瞬で壊してしまった。
決して救われることのない地獄のど真ん中で私はけたけたと笑っていた。
誰もが救えないと諦めかけたわたしにただ一人手を差し伸べてくれたやつがいた。

“なぜ、泣いてるの?”

狂乱の現場から昏睡状態で搬出された先で目覚めた私が目にしたのはペットボトルを手にベッドの横で佇んでいたあいつだった。
喉の渇きを覚えペットボトルに物欲しげな視線を注ぐ私を無視して、看護士を呼び出してから病室の外に出て行ったあいつ。
あん時はすかして小憎らしい奴やと思った。

身体の傷が癒えるにつれ、混濁していた記憶が回復していく。
自分の犯した罪を受け止めきれないでいたわたしにカウンセラーの人は言ってくれた。
わたしが悪いんじゃない。
あれは能力が暴走した結果、起きた悲惨な事故なんだって。

そんな曖昧な言葉に縋りつき、足掻いていたわたしにあいつは言った。

「能力に勝手に手足が生えて、イクちゃんたちの前にやってきたんじゃない。 あれはイクちゃんがやったことなんだ。だから…」

344名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:29:44
チカラを手にしてしまった者の責任。
そのチカラで人を傷つけないこと。
そのチカラで人を救うこと。

だからわたしはわたしの心の中の刃を二度と抜かないと心に決めた。
“精神破壊”
人の心を焼き尽くす狂気の紫を二度と燃やしてはいけないと。

今あいつは傷つき倒れ地に伏している。
わたしとの鍛錬では見せたことがないほんとうの本気を込めた一撃は敵には届かず、逆に倒されてしまった。

あいつを倒した奴は戦鎌を手に視界を睥睨している。
奴があいつの命を刈らないのはそうすることでわたしをこの場に留め、そして討ち果たすため。
今わたしがやるべきことは、奴が望まないこと。
この場を外界から隔てている結界を内から打ち破り、襲撃の事実を隠蔽できなくすること。
そして他の仲間をこの場に呼び寄せ、何人がかりでも奴を制圧して、一分一秒でも早くあいつを治療すること。

わかってる。
そんなことはわかってる。
あいつだっていざというときの覚悟はできているはずだ。
傷ついているあいつに背を向けてこの場を去ったって、わたしを責めたりなんかしない。
むしろそれが最善手だって褒めてくれる。
あいつはそういうやつだ。
わたしにそうさせるために、あいつは傷ついた体でなおも奴を足止めしようとしてくれている。
あいつの努力を無駄にしないために、背を向けろ。
そして走れ、走れ、走れ。

うるしゃい、そげなこつはわかっちいる。
黙れ、黙っちょれ。

345名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:31:01
これからの一生ずっと。
許されるなんて思ってない。
許されたいなんて思ってない。
許されようとも思ってない。
それだけの罪をわたしは犯した。

わたしはわたしの犯してしまった過ちから決して逃げないと決めた。
そんなわたしがいまやるべきことは。
そんなわたしがいまやりたいことは。

目を背けるな、過去の過ちから。
目を逸らすな、目の前の脅威から。
消えてしまえ、わたしの中の恐怖心。
冷静な判断なんてクソ喰らえ。

燃えろ、狂気の焔。
わたしの心を紫で染めろ。
怯えを狂気で塗りつぶせ。

346名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:31:36
わたしの敵はわたしの中にいると思っていた。
“精神破壊”
人の心を狂気の紫で焼き尽くす魔獣。
二度と目覚めさせないと誓った力。
今、その誓いを破ろう。
たとえこの身がどうなろうとも。
たとえこの心が破滅しようと。
わたしはわたしのなずべきことをする。
あいつの力が宿っている血刀を武器に。

「りほ、待っとき。こんどはうちが救っちゃるよ」

共鳴セヨ…蒼キ憎シミ二
共鳴セヨ…紅キ怒リニ
共鳴セヨ…紫ノ狂気二

347名無しリゾナント:2014/11/15(土) 02:32:06
>>-

『狂気の紫』

>>430の画像とか
>>433から想像してみた

リゾナント元は勿論、■ ナチュラルエネミー−生田衣梨奈− ■ http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/430.htmlです

鞘師さんから朝食を誘われた先で赤の粛清さんから襲撃されたり、
改造して復活した赤の粛清を見て生田さんが魔進チェイサーみたいだと萌えたりするシーンもあったのですが冗長すぎると思ったのでこういう形で投下しました

348名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:45:40
話は長くなるから、と前置きをして道重はこほんと咳をする
「・・・とはいえ、なにから話せばいいのか困るね」
「ええっちゃない?話がながくなっても、それだけ複雑なことやけん」
「そうかもしれないの」
そやろ?と笑うれいなはどこから拾ってきたのだろう、ドラム缶に腰掛けている
そして当然のように、佐藤が田中の手を握りしめ隣に座り込んでいた

「あの子、田中サンのこと大好きみたいダナ。犬みたいになついてル」
壁際にもたれかけながらジュンジュンがそれを眺める
「デモ田中サン、嫌がっていないからバッチリデスネ」
リンリンは地べたにあぐらをかき、先ほど道重に治してもらった手の感触を確認する
相変わらずスゴイ、とつぶやきながら緑炎を灯したり消したりを繰り返す

一方新垣は腕を組んだまま道重のそばで立ったまま、あれこれと考えているようだ
それに対し光井はリゾナンターの9人に慌ただしく目を移す
「・・・」
「ど、どうかしましたか?光井さん??」
見つめられていることに真っ先に気づいた譜久村が不安げな声で問いかける
「・・・なんでもないんや」
「??」

何から言うべきか迷っていた道重もようやく心を決めたようだ
「ガキさんがいるのにさゆみが全ていうっていうのも変な話だと思うんだけど」
「ん?いいよ、あたしは。だって、今のリーダーはさゆみんなんだからさ」
「そ、そうですか?じゃあ・・・リンリン」
突然呼ばれ驚くリンリンは「はい?」と疑問形になり、慌てて「どうしましたカ」と付け加える

「リンリン、その炎はいつから使えるの?」
「『緑炎』デスカ?そうデスネ・・・日本に来る頃には使えてましたが、いつからかは覚えてナイデス」
「初めからその色だった?」
「そうですね、緑色の炎が、刃千吏の炎の証ですカラ」

349名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:46:13
「じゃあ、石田、リオンを出してみて」
「え?は、はい、リオ〜〜〜ン」
今度は石田が間抜けな声を出してしまった。咆哮を携え蒼く輝く幻獣が姿を現し、その姿をみて田中が口角を上げた
「ふーん、石田、リオン、前よりも逞しくなっとう、鍛錬積んどうやろ?」
「え、ま、まあ、それなりには」
田中に褒められ、涼しげな顔を張り付ける石田

「じゃあ、最後に小田ちゃん、こっちにおいで。額、怪我してるから治してあげるから」
「・・・はい、ありがとうございます」
小田の額に触れ、ゆっくりと傷口にそって指をなぞらせ、桃色の光が傷を覆い、完璧に傷は消えた
「はい、終わったよ。みんな、見てあげて」

「あの、道重さん、さくらちゃんを治していただくのはありがたいのですが、早く本題に入っていただけませんか?」
飯窪がいつも以上に言葉を選びながら、道重に声をかけるが、答えたのは新垣だった
「いや飯窪、すでに本題に入りかけているから」
「へ?」

「さゆみ達の家はどこかな?工藤」
「え?家ですか??リ、リゾナントです」
「正解。いつもみんなにお菓子だったり、お茶を出しているもんね」
「は、はい、いつもおいしいケーキと飲み物を」
「そう、だからみんな、9人分、さゆみも含めると10人分の個人用のマグカップを用意してあるの」

(マグカップ??)
亀井とマグカップ、それがどうつながるであろうか?どうやっても無関係に思えてしまうのだが
鞘師はあえて口に出さずにいた、しかし、そうはいかないものもいる
「え〜それと亀井さんの話になんの関連性があると?エリにはわからんと」
それを咎めるように新垣が、生田!というが当の本人は、何ですか〜とうすら笑いを浮かべるばかり

350名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:46:57
「まあ、そうかもね、確かに生田の言うとおりかもしれないっちゃね
 さゆ、やっぱもっと簡単にいわんとじれったいと。れーなにも少しだけ説明させてほしいと」
「う、うん、かまわないけど」
「ありがと、生田、生田のカップの色は何色と?」
気味の悪い笑顔を浮かべて答える
「今は黄緑色です!新垣さんと同じ色、前はむらさきでした!!」

なにやら頭痛を感じたのであろう眉間を抑える新垣をさておいて田中は続ける
「うん、フクちゃんはピンク、鞘師は赤、鈴木と佐藤は緑、飯窪は黄色、石田は青、工藤はオレンジ、小田は紫やったっけ?」
道重に確認しながらマグカップの色をあげた
「みんなと同じようにれーな達にもマグカップがあったと
 それは愛ちゃんが用意したものっちゃけどね。れーなは水色、愛ちゃんは黄色、さゆはピンク。
 愛佳は紫、小春は赤、リンリンは緑、ジュンジュンは青
 ここまで聞いて何か気づくことはなか?」

「・・・マグカップの色と能力発動時の発色が一緒ですね」
「御名答、小田のいうとおり。マグカップの色と能力の発動時の色が一致しとう
 まあ、れーなの場合は共鳴増幅やけん、目立たん。だからわかりにくいと
 でも愛ちゃんの光は黄色、ガキさんのサイコダイブの始まりは緑色の景色、小春の電撃も赤」

鞘師はそこでふと思い出した、家宝の水軍流の鞘も紅いことを
譜久村の複写の発動時、桃色の光がともる、生田の昔の精神破壊は紫色の光を放っていた
佐藤が跳んだ時にはエメラルドグリーンの光が輝く、小田の時間跳躍の瞬間目がラベンダー色になる

「そして、この写真をみてほしいの」
道重が取り出した一枚の写真、それは9人がリゾナントの店内で撮ったもの
それぞれが楽しそうな表情でふざけあいながらカメラに目を向けている
「奥の食器置場のマグカップを見て、9個あるでしょ?」
そうなのだ、9個ある、黄、緑、橙、桃、水色、赤、紫、青、緑の9個

351名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:47:32
「道重さん、この写真は9人がいたときの写真で間違いないんですよね?
 そうすると残ったこのオレンジ色のマグカップが、亀井さんということでしょうか?」
頷く道重と、そこで何を言わんとしているのか気が付いた鞘師と小田
「基本的にはマグカップの色にあわせたつもり『だけ』、らしいの、愛ちゃん的にはね
 まあ、私もわかりやすくていいよね〜なんて言ったんだけどね」
新垣も懐かしむように笑う

「さて、ちょっとさゆみ達の昔話を聞いてほしいの
 3年前のある日のこと、あるメンバーがダークネスと思わしき組織に拉致された」
あるメンバーとはこれを語る、当事者、道重のことを指すのはいうまでもない
「そのメンバーを奪還するがために8人は声の下へ駆けつけたが、その姿はなかった
 命の危機すら感じ、その子の『親友』は精神が不安定になった」
それが亀井、ということであろうか
「しかし、数日後、助けて、という声が8人のもとに届いた
 今度こそ、救わんと駆けつけたが、そこにいたのは、道重さえみ、私の中のもう一人のわたし」
これはこの前、リゾナントで聞かされた話、そのままであった
「私を独占しようとした私の中のお姉ちゃんと8人は戦ってくれた
 結果からすれば私はみんなの元に戻れた。だけど、親友を失った」

そこでいったん区切りをつけた
「ここまでは、みんなに教えたよね?さえみお姉ちゃんという存在とえりがいなくなった理由」
「そのさえみさん、ってそんなに強かったんですか?」
「強いなんてモノじゃナイ、化け物ダ」
いつの間にかまたバナナを食べているジュンジュンが割り込む
「大陸でもさえみさんに肩を並べられるほどの能力者をジュンジュン2人しかシラナイ」

「さえみさんの力ってなんだったんですか?」
「お姉ちゃんの力とさゆみの力は根底は同じ。どちらも『生命力を増幅』させることなの
 たださゆみは傷を治す時点で止めるけど、お姉ちゃんは『過剰に生命を増幅』させる」
「そ、そうなるとどうなるんだろうね?」
「体自体が治癒に耐えきれず、崩れていくんや。それこそ、ぼろぼろに溶けていくように」

352名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:48:20
『溶ける』という表現に仲間達は反応を示した
「溶けていくってそれじゃあ、まるでさっきの詐術師みたいじゃないですか!!」
「その通りっちゃね、さえみさんが消した敵はみんなああやって雪融けのように消えたと」

「いやいやいや、でも、ですね、田中さん、亀井さんの力は風使いと傷の共有ですよ
 それがどうやって、仮にですよ、そのさえみさんの力を手に入れたとしましょう
 どうやって手に入れるんですか?だって、亀井さんは道重さんの話では消えたはずですよ!」
石田が強く答えを求めてくる
「亀井サンは消されてないデスヨ、石田ちゃん。だってリンリン達の前に現れたじゃないデスカ」
「そ、そりゃそうですけど、それでは幽霊とでもいうんですか?」
首を振る道重
「違う、えりは間違いなく生きている。それになんでえりの中にお姉ちゃんがいるのか・・・なんとなくわかる」

「わかる」と断言した道重に新垣が顔を曇らせた
「・・・さゆみん、思い当たる節があるっていうの?」
「はい、ごめんなさいガキさん、えりの姿が再び現れた時から、わかっていたんです」
そこに割り込むれいな
「それってあの日にれいなに言ったあのこと?」
「そう、あのこと」

「えりがいなくなった次の日、れいなとさゆみは、えりも含めた三人にとって大事な丘にいったの
 そこでれいなと、えりがいなくなることで・・・なんていうのかな悲しむんじゃなくて
うん、誓いをたてたの、諦めないって、世界を幸せだって気づかないくらい幸せにするって
 そしてその時にれいなにだけいったことがあるの」
お姉ちゃんがえりとともに消えるときに、お姉ちゃんがさゆみと初めて会話をしたってことを」

「さえみさんと?」
「はい、ガキさん。夢の中みたいな奇妙な出来事でした
 お姉ちゃんは、私がいなくなってもさゆみをよろしくってみんなに伝えなさいと言ってた
それから『エリちゃんのことは償わせてもらいます』とも」
「『償わせてもらう』ですか?」

353名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:49:13
「あのときカメはさゆみんの居場所を奪った最大の原因が自分だと責めていた
 だからこそ、さゆみんを救おうと自己犠牲の道を選んだ」
新垣が言葉を選びながら歩みを道重の元へ進める
「それに応えるようにさえみさんもカメを守ることを結局は選んだ、そういうことと解釈していいのかな?」
「ええ・・・たぶん、そうだと思います。さえみお姉ちゃんが守る、と言ってたので
 それはすなわちお姉ちゃんがえりの中に取り込まれ、何かあった時には身を守る、そんな意味だったと思います
 そう、だからこそえりは傷を治すことができるし、詐術師を消す力を手に入れた
 一方でさゆみはお姉ちゃんの力を失った」
さゆみの考察をきき、光井がうーんと唸った
「ありえへんことではないと思いますが・・・なんというかすんなり入ってこないですわ」
「さゆみもそれが正解とは思ってはいないけど、あのとき詐術師が桃色の光とともに消えたことを考えると・・・
 えりは自分で傷を治すこともできたのだからそう考えるしかないと思うの」

「でも、それでも説明できないあるんですが・・・」
「飯窪?遠慮なく言ってみい」
「は、はい。でも道重さんの話だと亀井さんは一旦、みなさんの前から姿を消したんですよね?
 傷の共有も風使いもその場から姿を消す、なんてことできないと思うんです」
「まさみたいにポーンって跳んだってことはあるんじゃないの?」
「仮に瞬間移動できても、皆さんが共鳴で存在を確認できるはずですよ
 だからこそ、この3年も存在が確認できないのは奇妙というか・・・」

「それについてはリンリンが説明するネ
 飯窪ちゃんの言う通りリンリン達は生きている限り、絆があれば共鳴できる
 そして、この数年間、亀井サンの存在を感じるコトはできなかった」
「ですよね?それならばなぜ」
話終えないうちにリンリンが割って入ってくる
「それは亀井サンがいなくなる事件のトキにも起きた。
道重さんがさえみさんになっていたトキ、リンリン達はさゆみさんと共鳴できなカッタ」
 そのとき道重さゆみさんは『意識がなかった』状態にアッタ」
続くはジュンジュン

354名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:49:44
「おそらく亀井サンはこの数年間眠っていたと思う。それも強制的に、ダークネスの手によって
もし亀井サンが自分の力で寝ていたとしても長すぎる、眠り姫でも長すぎる
 それに、なぜダークネスと一緒にいたのカ説明ツカナイ」

「それではいったいどうやって亀井さんの意識をダークネスは沈めたんでしょうか?」
譜久村が道重に問いかけたが、答えたのは別の人物だった
「・・・時間停止、です」
それは小田であった
「・・・永遠殺し、この前のあの人、亀井さんの横にいた女の人の能力
 ・・・亀井さんの時を止めれば、意識を戻さずに、共鳴を、生存を隠し通すことができます」

あの亀井が消えた日、現場にあらわれた永遠殺しーその目的はマルシェたちの回収ではなかった
『亀井絵里』の回収の可能性

「多分、その通りだと思ウ。本当はさえみさんの時を止めるつもりだったのカモしれませんガ
 いずれにせよ、亀井サンの時をとめて、ダークネスは亀井さんを手に入れた」
「そして、亀井さんをダークネスに染めるために洗脳教育を施した、そういうことですね?」
首を振る新垣
「違う、工藤。それなら詐術師をカメが消すはずがない」
「え?それならどうして亀井さんはダークネスの言いなりになっているんですか!!」

ジュンジュンがゆっくり立ち上がる
「亀井サンの時は永遠殺しで止められた、強制的にダ
 ただ、そこでその力を強制的に打ち消す力が現れた」
「な、なんなんですか?その力って??」
ゆっくりと腕を伸ばし、指をある人物に向けた
「小田ちゃんのちからダ―時間跳躍能力」
「!!!!」

355名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:51:20
「さくらちゃんの力がなんで亀井さんを動かすことにつながるんですか!!」
「そうですよ!小田ちゃんはただ時間を時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力なんですよ」
仲間達が強く現実を認めたくないのか先輩に問い詰める形となった
「その通りダ、今は。だけど、昔はそうでなかった、ソウダナ?」
「・・・はい、そうですね、昔の力はもっと強力で能力すら消すことができました
 ・・・ただそれだとダークネスの幹部の力すら消えてしまう、そう判断され、そんな制限をかけられました」

小田さくらの『時間跳躍』により、止められた時を強制的に動かされた『亀井絵里』

「当然、ダークネスは亀井絵里が動き始めたことに気づいたのであろう
 そして、当初からの予定、ダークネスの一員としての教育を行おうとした
 ただ、問題が一つアッタ」
道重がそこから先は受けついだ
「お姉ちゃんの攻撃を受け、体と心はボロボロになってしまった
 お姉ちゃんが傷は治したが、結局、精神までは救うことができなかった
 いまのえりにはさゆみ達の声は届いていない・・・可能性が高い」

道重、れいな、新垣・・・かつての仲間にためらいなくカマイタチを放ち、無表情な亀井
それはまるで人形のように、中身のないように見えたのであった

「じゃあ、亀井さんは操られている、ではなく」
「可能性としては言われていることをただ、忠実にこなす、作業みたいに感じているかもしれへんな」
「そんな・・・」

「リンリンとジュンジュンがここに来た、最初の目的は亀井さんの復活を感じたからではナカッタ
 本当の目的は小田ちゃん、あなたがどんな力を有しているのか確認シタカッタ」
「・・・」
「私達が心配するような悪の心はないようダ。ただ、そのためにとんでもない相手が生まれてしまっタ」
「別に小田ちゃんを責めるとかそんな気はナイ。ただ、亀井サンが復活した、それは緊急事態ダ」

356名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:52:16
「・・・私たちはどうすればいいんですか?」
譜久村が不安げな声をだす
「きまっとうやろ?戦うんや、えりと」
「・・・仲間と闘うってことですか?皆さんはそれでいいんですか?」
にやりと笑うれいな
「えりと一度、本気で闘ってみたかったとよ」
「田中ッチ、冗談言ってる場面じゃないよ
 フクちゃん、そりゃ私だって本当なら戦いたくはないけど、あんなカメを救えるのは私達しかいないんだ
 カメをダークネスの操り人形にさせる?そんなこと許せない!」
「せやからこそ、愛佳達で救わなあかんのや」
「別ニ命を奪うことが戦う目的ではナイ」
「亀井サンの記憶を要は思い出させればいいだけダロ」

『先輩』達同様に、リーダーも力強い口調、覚悟を決めているようだ
「みんな、えりの心をすくいましょう。それがダークネスとの戦いになるの
 みんなもリゾナンターならできるはずなの、力を貸してください」
そして深々と頭を下げた

「や、やめてください、道重さん」
慌てる仲間達をみて、れいなが道重の肩をたたく
ゆっくりと顔を上げる道重に仲間達は、当然とでもいうように力強い光を目に宿していた
「ありがとう、みんな、えりを、助けるのに、リゾナンターとしてではなく、友達としてよろしくなの」
自然と涙がこぼれ始め、慌てて涙をぬぐい始めた

「そんじゃ、一回リゾナントに戻るとしますか、作戦会議しなきゃね」
「そうですね・・・佐藤、そろそろいけるか?」
「うーん、もう少し」

「それなら、あっしがまとめて送るよ」
次の瞬間には道重達はリゾナントに戻っていた
「こ、これって一体?」
「みんな、期待してるがし」
その声の主―高橋愛はカウンターで笑って見せた

357名無しリゾナント:2014/11/15(土) 23:56:30
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(6)です
チャット前にここまでは上げないとと思って急いでしまい、表現の稚拙が目立ちますが・・・
無理やりな論理ですかね?
ところで、■■さんと設定かぶったのは本当に偶然です

ここまで代理お願いします。

358名無しリゾナント:2014/11/16(日) 10:36:57
>>357
ふ〜ん小田ちゃんの能力を亀井さんの復活につなげてきましたか
とりあえず行ってきます

359名無しリゾナント:2014/11/16(日) 10:51:16
>>357
代行完了しました
最後の1レスが行数オーバーだった

360名無しリゾナント:2014/11/16(日) 12:07:26
代理ありがとうございます。まあ・・・無理やりですかね?

361名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:54:51
>>339-341 の続きです



「ああ!また『はずれ』じゃ!!」

しじみの目をした少女が、悔しげに叫ぶ。
少女の期待とは裏腹に、引き上げた糸に獲物は食いついてはいなかった。

口を尖らせる少女・幼き日の里保を尻目に、白髪痩身の翁が軽快に糸を引き上げる。きらきらとした川魚が連なる
姿が、里保の不満をさらに募らせた。

「どうしてじいさまはそんなにいっぱい釣れるんじゃ」
「ほっほっほ、どうしてじゃろうなぁ」
「うちもじいさまと同じようにやってるのに」

渓流での、釣り遊び。
傍から見れば祖父と孫が戯れているようにしか見えないが。
唯一つ、普通の釣りとは異なる点。それは彼らが釣竿を持っていないこと。

「糸を的確な場所に打ち込まんと、魚は釣れないけぇのぉ」

言いながら、祖父は再び糸を川面に垂らす。
頼りなげな糸一本のみで魚を釣る。餌すらつけずに、そんな不可能に近いことを目の前の老人はいとも容易くやっ
てみせるのだ。

362名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:55:38
里保とて、何も知識がなくここへ来たわけではない。
彼女もまた、糸を使い魚を釣る事はできた。現に家の庭にある池では、祖父が目を丸くして感心するくらいに、錦
鯉をひょいと釣って見せてもいたのだが。

静止した水と流れる水では、条件が違う。
そんな言い訳じみたことは言いたくない。流れる水の速さなら、十分計算できているはず。
なのに、魚は一向に里保の糸には寄ってこない。

「そうじゃのう」

焦燥感を露にし始めた孫に、祖父が助け舟を出す。
と思いきや。

「川の水に手を入れてみるんじゃな」
「それってどういう」
「目に見えるもんが全てではない。じゃが、目に見えるもんを見逃してはいけん。そういうことじゃ」

と言ってにかっと笑って見せるだけ。
正直、里保には理解できなかった。だが、やってみなければ何もはじまらない。
意を決し、さらさらと流れる川の水に自らの手をそろりと漬けてみた。

「え…これって」
「ほっほ。もう気づいたんか。何じゃ、困らせ甲斐のない孫じゃのう」

何かに「気づいた」里保にそう言葉をかける祖父ではあったが。
その顔は満面の笑みに包まれていた。

363名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:57:54


里保の意識が追憶から戻る。
糸口は掴めた。あとはどう「やれば」いいかだけ。

「どうしました? 意識が朦朧としているんですか?」

目の前の少女が拳を再び前に構える。
だがその表情には勝利に対する確信が見て取れた。
里保は分析する。確かに少女の格闘術はなかなか侮れないものだ。加えて彼女の能力の影響下で動きの予測が立て
られない。
そんな状況から畳み掛けるように。

「『鞘師』…数百年の伝統を誇る水軍流も、意外と大したことないんですね。こんなもののために『あかねちゃん』
の人生が翻弄されるなんて…馬鹿馬鹿しい」

水軍流とそれを綿綿と伝えてきた「鞘師」への侮辱とも取るべき、少女の言葉。
しかし里保は首を振る。そんなことで激昂するより、やらなければならないことがある。
ここで倒れてしまえば、里保自身が少女の言葉を肯定したことになってしまう。

次の瞬間、少女は信じられないものを見るように目を見張った。
里保が祖父から受け継いだ赤鞘から刀を抜き、徐に自らの腿に突き刺したからだ。
強烈な痛みが、瞬時に里保の全身を駆け巡る。

364名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:58:36
「ぐっ!!」

叫びたくなるのを抑え、相手を見据える里保。
その炎にも似た視線を、少女は涼しげな顔で受け止めた。

「刺激を与えれば、能力の影響下から脱却できる、ですか」
「……」
「そんな程度じゃ、私のテリトリーは解けませんよ」

圧倒的な自信。
万が一にも、自らの敗北など考えにもない。

「ううん、わかった」
「は?」
「だいたい『わかった』」

里保は知っていた。
過信は時に、自らの身を危うくすることを。
それはこちらも同じ事。
だから一撃で、決める。

少女の視界から、里保が消える。
消えてしまったかと錯覚するくらいの、神速とも言うべき踏み込み。
なぜ里保が正確無比にこちらの懐に入ることができたのか、少女には理解できない。
だが、本能が警鐘を鳴らす。これは「危険な状態」だと。

365名無しリゾナント:2014/11/18(火) 00:59:33
水平に襲い掛かる、太刀筋。
少女はそれを体を反らして何とか回避しようとする。
ただ、少女がいた場所を流水の流れのように静かに、それでいて鋭く薙ぐ刃。

美しくも、恐ろしい。

少女がその剣技に見惚れている暇はなかった。
さらに一歩踏み出た里保の足が、不安定な少女の体勢を崩しに掛かる。

先程のは囮で、これが本命か!!

虚を突かれ、あっけなく崩れ落ちる少女。
天を仰ぐ形で倒された少女の鳩尾を襲ったのは、燃えるように赤い鞘の先だった。

魂をもぎ取られているのではないかと思うくらいの、強烈な一撃。
倒れるわけにはいかない。落ちるわけにはいかない。
強固な意志とは裏腹に、意識は穴の底に落ちてゆくが如く。

「どうして…わたしの…」
「君の能力は、精神に働きかけるものじゃなくて、物理的に『ずれ』を起こさせるもの。だったらその『ずれ』を
修正すればいい」

366名無しリゾナント:2014/11/18(火) 01:01:15
少女の能力は。
自らの領域内の気温や湿度を操作する。
それにより局地的に空気の密度を不均一にする。
言うなれば自由自在に陽炎や逃げ水を発生させるようなもの。
そして異常な湿度や不均一な空気、それに伴う気圧の変化が音の伝わりや皮膚感覚をも乱す。
彼女の「空気調律(エア・コンディショニング)」の領域に入った人間は文字通り、自分の立ち位置に迷うことに
なる。

しかし里保は、自らの体に刀を振るうことで、自らの身に齎された「ずれ」の具合を把握した。まるで目測を阻む
水の屈折具合を、自らの手を差し入れることで感覚調整するかのように。
自分が想定した刀の軌跡と、実際に打ち込まれた場所の「ずれ」。痛みの感覚と、実際に傷を負った場所の「ずれ」。

それらのずれ全てを把握し瞬時に調整することができたのは、里保が水軍流の看板を背負うこと、つまりは「鞘師」
の名を継ぐに相応しい資質の持ち主だからだろう。目に見えるものが全てではないが、目についたものは見逃して
はならない。祖父の教えを忠実に守ることで、里保は目の前の少女から勝利を得たのだ。

「そんなことで…やだ…ここで…あかねちゃん…」

それだけ言うと、少女は糸が切れたように気を失ってしまった。
里保は知らない。少女の言う「あかねちゃん」が自身の因縁に大きく関わっていることを。
そして。少女も含めた二人もまた、自身と同様に「響きあうもの」だということを。

367名無しリゾナント:2014/11/18(火) 01:11:29
>>361-366
「幻影(後)」

叩き台にと書いたものなので設定とか色々甘いとは思いますが、
設定の甘い言い訳ついでに

>>  さん
小田ちゃんの能力は、すごく雑に言えば
自分が現在いる時間の前後5秒間の時間を切り取り、編集できる
その間にあったことはなかったことにできるし、あったことにもできる 能力です。
つまりまーちゃんの前で飛び降りたという時間は飛ばしつつ、まーちゃんの
「小田ちゃんが飛び降りた」記憶はそのままにしたという感じです

>> さん >> さんが考え出した説が公式になってもよかったのですが
一応作者自身も作中のどこかで説明はしていたはずなので(書いた本人が忘れるとは!!)
説明させていただきました。
遅くなってしまいすみません。

368名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:22:46
>>286-290 の続きです



ごく小さめな、宗教画。


中央、やや左上に天使。
両腕を上に掲げ、豪華な衣装がはためく。
天に向けられた顔は、なぜかぼやけ、その表情はわからない。
広がる地上には救済を求める人々が歓喜の表情で空を見上げる。

その救済を求める人々の中に、春菜はいた。
やがて天使の手から溢れる光は、春菜を包み込み…

そうだ。
わたし、和田さんの精神世界の中にいたはずなのに。
暗闇に包まれて、意識が溶けていって。
そして今、先ほどの絵画のような光景が春菜の目の前に広がっている。

わたし、死んじゃったのかな。

精神世界での出来事は、現実の肉体にも作用する。精神世界における死はつまり、現実の死。
春菜が初めて喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした日。当時の店主だった新垣里沙はそんなことを言っていた。
コーヒーの淹れ方をレクチャーしながらの軽い雑談のようなものだったが、まさかそれが自分の身に降りかか
るとは。

369名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:24:16
天使が、春菜の手を引き天を目指して飛んでゆく。
なるほど、死んでしまうならこの光景も腑に落ちる。
たまに優樹を怒り過ぎたり、何とか相手のいいところを探して褒めようとしたけれど見つからなくて挫折したこと
はあったが。どうやら地獄に落ちるようなことにはならなかったらしい。

仲間のことを思う。
生田さんは無事だろうか。送り込まれたのが自分だけでよかった。しかし、志半ばで倒れることになってしまった。
道重さんは泣いてくれるだろうか。くどぅーとまーちゃんは仲良くやれるだろうか。小田ちゃんはみんなの輪の中
に入ってゆけるだろうか。

どうも心配事ばかり増えてしまう。
春菜は思い直し、天使のほうに目を移した。
長い黒髪。小麦色の肌。天使と言えば金髪で色白と相場が決まっているものと思っていたが、現実はそんな単純な
ものではないらしい。

天使が、振り返る。
大きい、潤んだ瞳と目が合う。
誰かにそっくり。そうだ、和田さんに似ているんだ。
そう言えば和田さんを助ける事はできなかった。あんなに大きなことを言っておいて。

― それと、次からは『和田さん』じゃなくて『彩ちゃん」ね! ―

絶海の孤島に旅立つ日の朝、偶然出会った彩花にそう言われたことをふと思い出した。
あんな綺麗な人を「彩ちゃん」だなんて。でも、一度呼んでみたかったな。ちょっと恥ずかしいけど。って言うか
もう死んでるからいいかな。天使さん、申し訳ないんですけど今だけ、和田さんの代わりになってくださいね。

370名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:25:31
「彩ちゃん!!」
「はるなん?」

天使が、大きな目を細めて笑う。
そこで春菜は違和感に気づく。自分の手を引いて空を飛んでいるはずの天使の顔が、なぜか自分の目の前にあ
るのだ。

「よかった。はるなん、気がついたんだ」

あれ? 天使さん? 何でわたしなんかの名前を知ってるの? それに親しげにはるなんだなんて。

そこでようやく春菜は、自分が布団の中で寝ている体制であることに気づく。
そう言えば天井も見慣れたもの。そうか、ここは喫茶リゾナント。じゃあ、この天使さんは。

「もしかして…わ、だ、さん?」
「なに?寝ぼけてるのはるなん」

いたずらっぽく笑う彩花を見て、春菜はようやく状況を理解する。
自分が、現実の世界にいるということを。

「えっと、あの、生田さんは!」
「えりぽんのこと?下にいるよ。彩、えりぽんからはるなんのこと、色々聞いちゃった」

少しずつ、情報の断片をつなぎ合わせてみる。
つい先ほどまで、自分は彩花の精神世界にいたはずだ。途方も無い闇に飲まれ、そのまま意識を失ってしま
った。ここまでは確実だ。

371名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:26:32
で。話の流れがぶった切られたかのように、現在がある。
見る限り、彩花に常軌を逸した狂気は見られない。となると彼女は「元に戻った」ということになる。ここで
問題。誰が、彩花を光の世界に連れ戻したのか。

A 生田さん
B わたし
C その他の第三者

Bはまずないだろう。私は失敗してしまった。だから、あの闇に呑まれてしまったわけで。
Aも考えられない。生田さん自身がサイコダイブしたならともかくだ。となると。

「おー、飯窪目ぇ覚ましたんだぁ」

部屋に入ってきた、良く知っている顔。
かつてリゾナンターたちを率いていた、前リーダー。
思わず反射的に体が飛び上がる。

「新垣さん、どうして!!」
「いやー生田に呼ばれたのよ、飯窪が倒れたって言うから。ま、あたしが何もしなくても、あんたたちは無事
生還できたみたいだけど」

そこで春菜はようやく実感する。
戻ってこれたのだ。現実の、世界に。

しかし先程の三択の答えはCである第三者、つまり里沙が自分たちを助け出したと思っていたが。今の里沙の
口ぶりだと、どうやらそうではないらしい。

372名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:27:50
「でも、私…和田さんの意識の中に取り込まれて、それで」
「ありがとう、はるなん」

そこで春菜の手に添えられた暖かな手。
あまりにも畏れ多い。春菜は自らの首をぶんぶん振る。

「いやいや、私お礼を言われることなんて何も」
「ううん」
「え?」
「彩の心が、深い闇に沈んで、どうしようもなくなって。辛いのは彩だけ、世界から取り残されたのも彩だけ
だと思ってた。でも、はるなんも辛い思いをしてたんだよね」
「それって」

春菜は思い返す。
彩花の精神世界に入り込み、壮絶な過去を垣間見た時。
確かに、フラッシュバックのように春菜自身も体験した思い出したくない出来事が甦った。
それが、彩花にも流れ込んだというのだろうか。

「でも、はるなんは立ち上がった。眩しいいくつもの光が、はるなんを導いてくれたんだね」

彩花の言うとおりだ。
異能力の詰まった肉の塊、そう形容するのが相応しいくらいの扱いを受け。
そして、闇に心を閉ざした。そこに光を当ててくれたのは、今ここにいる里沙やさらに先代のリーダーである
愛が率いたリゾナンターたち。今も春菜のかけがえのない仲間たちだ。
しかし面と向かって言われると。春菜は自分の顔に急激に血流が流れ込むのを感じていた。

373名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:29:33
「うん、確かにそうなんですけど、でも、和田さんにそんなこと言われるとわたし、何か恥ずかしくて」
「恥ずかしいのはお互い様でしょ?はるなんだって、彩の昔のことを見たんだし」
「え、それはその…はい…見ました」

肩を落とし項垂れる春菜。
そうだわたしったら和田さんの過去を勝手に見ておいて自分の過去を見られたのを恥ずかしいとか言ってもう…
そんな様子を見て、彩花はふふっと微笑んでみせるのだった。

「あやね、あの過去を見られたのがはるなんでよかったと思ってる」
「…どうして、ですか?」
「だって彩たちが背負ってるものはきっと似てるから」
「和田さん」
「だから、彩も光を見出すことができた」

そうか。そういうことか。
彩花はきっと、春菜が光に導かれ支えられているのを見て、自らもその道を選ぶことを決意できたのだ。
つまり、自身の闇から抜け出すことができたのは彼女本人の力なのだと。

「光の中にね、顔が浮かんできたの。たけちゃん、かななん、りなぷー、それにめいめい。あと誰だっけ…とに
かく、彼女たちがいる限り、彩は落ち込んでいられない、立ち上がらなきゃって。憂佳ちゃんや紗季ちぃのため
にも」
「そっか…和田さんは自分の足で立つことができたんですね」
「ううん」

自分のやったことは無駄だったのか。
そう思いしょげかえる春菜の手を、彩花が再び取る。

374名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:30:55
「彩が光を見つけることができたのは、はるなんのおかげだよ…ねえ、はるなん」
「和田さん?」
「…さっき彩のこと、『彩ちゃん』って呼んだでしょ」

思いも寄らない指摘。
再び春菜の顔に恥ずかしさの火が灯る。まさかあれを聞かれてたなんて!!

「いやっあれはその寝ぼけてただけって言うかそんなわたし如きが和田さんのことをいきなり…ぁゃ…ちゃんだ
なんて恐れ多くて」
「あれ?今何て言ったの?もう一度言ってみてよ」
「だ!ダメです!!」

彩花にからかわれ、手足をばたばたさせている春菜を遠目で見ながら里沙は。
衣梨奈から聞いていた話だと、和田彩花は心を闇に侵食された不可逆状態に陥っていたと思って間違いない。と
なると例え精神干渉のスペシャリストの里沙でも彼女を救えたかどうか怪しい。それを、春菜はやってのけた。

盗み聞きの趣味があるわけではないが、春菜と彩花の会話の断片から里沙は、二人の共通した過去が今回の事件
の解決に繋がったのだと想定した。奇しくも彩花は例の「エッグ」の被験者であり、春菜もダークネス傘下の宗
教団体の手により過酷な人体実験を受け続けたという。

「今回は、あやちょが自分の力で立ち直っただけだから。あんな奴らの力なんて、借りてない」
「…いたんだ」

里沙から、絶妙な距離をとった背後に。
苦い顔をした花音が立っている。

「増してやあんたたちに借りを作ったなんて、思ってないから」
「…あんたがどう思おうが知ったこっちゃないけど、今回御友達を救ったのは間違いなくうちの子たちだよ。あ
たしでも助けられたかどうか」
「くっ…!!」

375名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:32:38
明らかにこちらに敵意の目を向ける花音を見て。
彼女がまだダークネスの手の内にあった頃のことを思い出す。
里沙がダークネスのスパイとしてリゾナントと本拠地を行き来していた頃。隔離された研究施設にいた、虚ろな
目をした子供達の中に、彼女はいた。

一目見て、里沙は花音に精神干渉能力が備わっていることを見抜く。
それは自らの能力にとてもよく似たものを感じたから。
当時の研究主任は、今は同時に10人程度しか洗脳する力はないが、いずれ100人、ひょっとしたら1000人以上を
一度に洗脳できるくらいの能力に発展するかもしれないと誇らしげに語っていた。それほどまでの「神童」な
のだと。

結果的に彼の願いは叶うことは無かった。
彼女を含めた「エッグ」と呼ばれた子供達が何者かの手引きで奪われてしまったのだ。例の研究主任はその責
任問われた上に強奪事件の関与をも疑われたことで、即日粛清される。まるで仕組まれたかのように、迅速に。

「…あの子は連れてかないの?」

そのまま帰ろうとする花音に、里沙が声をかける。
小さな背中は、振り向くことなく。

「あやちょはもう一人で帰れるから。それと。今回のことも、『赤の粛清』の件も。あたしはあんたたちに助
けてもらったなんて、微塵も思ってない。『スマイレージ』は、あんたたちリゾナンターを超えてやるんだから」

リゾナンターという存在への、強烈な対抗心。
それは荊のように里沙の心に絡みつき、そしてなかなか消えてはくれなかった。

376名無しリゾナント:2014/11/19(水) 20:33:51
>>368-375
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

377名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:20:52
■ マスクオブホース −田中れいな− ■

衝撃波。

一撃は、破裂音に弾かれた。


「はいはい!聞いてくださーい!ちょっとだけっ!止まってくださいっ!
この先、ちょっと!お取込み中なんで!ここで!ちょっとだけ!お時間くださいっ!」

繰り返されるセリフ。

彼女は決して戦おうとはしない。
だが、決して、田中をのがさない。

立ち塞がるは覆面の少女。
パーティーグッズによくある『馬』のゴムマスク。
身長は、田中と同じほど。

ただし、腕と脚の太さは、倍ほどに違う。

ラフな赤地のTシャツ、デニムのハーフパンツ。
黒のニーソックス、黒のスニーカー。

「さっきからなん?そこどき!」
「いやー!ちょっと!それはっ!どけないっ!どけないです!」
「ちっ!なんね!」

378名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:21:26
先ほどからこの繰り返し。

左へ行けば左、右へ行けば右。
踏み込めば退き、踵を返せば猛然と追随。
再び立ち塞がる。

どかんのなら、打ち倒しようだけったい。

「ストーップ!とーまってー!」

構わず踏み込む。

「ちょ!やめてって!」

フルスイング。
強引な一撃。
辛うじてかわす『馬』の少女。
そのまま距離をとるべく、さらに退く。

「まだまだ!」

田中の猛攻。
ことごとくかわす。

だが、起伏の激しい山腹、
植林された杉が連立し、斜度もある中、
途切れることなく繰り出される田中の連撃を、凌ぎきれるものではない。

ドン。

379名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:23:09
一抱えほどの杉を背に、『馬』の少女が追い詰められる。
クロスガード。
交差した両腕の上。
叩きつけられる、田中の拳。

衝撃波。

田中の拳が『馬』の少女を捉えた瞬間、
まるで、見えない壁が、爆発したかのように、田中の拳は弾き返された。

破裂音。

拳に走る激痛が、自らの攻撃と、
衝撃波のそれとが、ほぼ比例していることを直感させる。

「だっから!あぶないって!ゆってるのにっ!」

「ちぃ!」

これが、少女の能力か。

380名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:25:52
戦車の装甲の一種に”爆発反応装甲”あるいは”炸裂装甲”と呼ばれるものがある。
装甲板に対し、斜めに衝突した弾頭を、爆薬で吹き飛ばし、内部への浸透を防ぐ、
使い捨て、換装式の二次装甲。

本来の”炸裂装甲”は装甲板に対し角度をもって衝突した弾頭でなければ効果はないが、彼女の能力は、衝突の角度に関わらず、効果を発揮するらしい。

しかも、強く殴れば殴るほど、跳ね返る衝撃波もまた、強くなるのか?

もし、そうだとするなら、
能力として、直接の攻撃手段を持たない田中にとって、
これほど相性の悪い相手もいまい。

打撃はすべて防がれ、さらに、同じだけの衝撃波が田中を襲うことになる。

「もう!田中さん!あきらめて!じっとして!手ぇこわれちゃうよっ!」

『馬』の少女はへっぴり腰。
両手を前へ出し、田中を押しとどめる。
手のひらをこちらに向け、制止を促す。

手が壊れる?
なるほど、このまま殴り続ければ、結果は見えている。


…上等たい。


赤黒く腫れ上がる、自らの拳を握りしめる。

381名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:27:24
こん道草食ってる暇、ないけんね。

「なん知らん、弾きようなら、もっと強い力で打ちよう!」
「だーっ!なんでっ!そうなるのっ!」

猪突猛進。

身を低め、一直線。

再び構える『馬』。

交錯する両者。

山林に、破裂音が響き渡る。

衝撃波。

382名無しリゾナント:2014/11/20(木) 17:28:33
>>377-381
■ マスクオブホース −田中れいな− ■
でした。

383名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:32:03
深い森の中を、走る一人の少女。
一人の少女を取り囲むようにして追う男達。その数、六。
目つきの鋭い少女は自分が追い込まれたことを知ると、観念したように立ち止まった。

「大人しくすれば、命までは取らんよ」

男のリーダー格が、言う。

「命とらん代わりに、慰み者にするんやろ。そんなんまっぴらごめんやわ」

男を睨む少女。
危機的状況からか、関西のイントネーションに棘が立つ。

「失礼な。あなたには被験対象になっていただくだけです。貴重な、ね」
「はん。要するにモルモットっちゅうわけか」

少女の両足から、ゆっくりと煙が立ち上る。
それは、地面の草が炙られ、焦がされた煙。

384名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:33:36
「…『火脚』だ、気をつけろ!」

男の一人が叫ぶ。が、それは気休めにすらならない。
次の瞬間、独楽のように舞う炎が彼らに襲い掛かったからだ。

自らの体を回転させ、火を纏った両足での空中蹴り。
その威力もさることながら、灼熱の炎は確実に標的を蝕む。

「くそ、三人やられたか!」
「構わん想定内だ!対火炎能力バリアを張るぞ!!」

男たちの体を、青白い光が包み込む。
男の一人が炎の力を防ぐ防護壁を張り巡らせたのだ。

「どうだ、これでお前の力は封じられたも同然…」
「不用意に近づくな!こいつはまだ!!」

勝ち誇った男の一人が少女を拘束しようと、肩に手をかけたその時。
肩が、爆発でも起こしたかのように盛り上がる。いや、そうではない。

385名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:35:05
男が少女だと思っていたそれは、姿形を大きく変えていた。
刹那、男の掌に焼け付くような痛みが走る。思わず手を離した後に見たそれは。

逞しい四肢。
纏っていた衣服は既に燃え散り、真紅の絨毛が赤く赤く燃え上がる。
その様はまさに、虎。

「はは、ついに正体を現したな。『火脚』を操り、炎で人の魂まで焼き尽くす…絶滅寸前の人虎が」

男たちのリーダー格は半笑いを浮かべつつ、自らが後ずさっていることに気付く。
立っているだけでも賞賛されるべきだ。他の二人は既に腰が砕け、戦意喪失していた。
煉獄の獣とでも言うべきそれは、地を焦がしながら、赤い瞳に男たちを映していた。

彼女の名は焔虎 ― 尾形春水 ―

386名無しリゾナント:2014/11/22(土) 23:36:09
>>383-385
「焔虎」でした
やっつけ感がひどくてすいませんw

387名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:32:03
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■

叫びは、声となったかどうか。

崩れ落ちる。
立っていられない。
出血が、止まらない。

【リゾネイター】亀井絵里。

かつて、共に戦った、かけがえのない仲間が、そこに。
だらりとさげたナイフ、健康的な肌、ふともも。

そう、みちがえるほどに、健康的な。

それは、いつもの彼女だ。
だがそれは、彼女の知る彼女ではない。

病、入院、心臓…

いったい、何が?
彼女に、何が?

ぼやける視界でもわかる、屈託のない、いつもの笑顔。
いつもの笑顔が、ありえぬ言葉を紡ぐ。

388名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:32:41
「さあ!ガキさん!もっと戦おう!」

ざくり

再び自らの腕にナイフを突き立てる。
亀井と新垣、等しく同じに傷が開き、
等しく同じに、血が噴き出す。

新垣に、なすすべはない。
そう、亀井には、勝てないのだ。

【精神干渉(マインドコントロール;mind control)】

不可能だ。

新垣は知っている。
目の前の彼女の、桁外れの『強さ』を。
『強い』そう『強い』のだ。

彼女は、『気』力も、『体』力も、常人ならざる『強さ』を持っていた。
人類として、ヒトという『種』として、『えげつない』ほどの『強さ』を。

だが、皮肉なことに、いや、それゆえにこそ、耐え切れなかった。
彼女の『心臓』は、彼女の『強さ』に、耐え切れなかった。

『心臓』のみが、ただ『心臓』それのみが…

彼女の精神は『強い』。
新垣の【精神干渉】は、彼女の『強さ』を凌駕出来ない。

389名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:33:12
もし、凌駕しえる手段あるとするならば、それは直接亀井の精神に…
すなわち【潜行(ダイブ)】と呼ばれる、その手段のみ。

が、それも、今となっては手遅れ。
もはや一歩も動けぬ新垣に、直接の接触が絶対条件たる【潜行】など、絶対に。

どさり

倒れ伏す。
動けない。

「ガキさん?もう寝ちゃうの?これで、おしまいなの?」

プラプラとナイフをもてあそび、ゆっくりと近づく。

「そっかぁ、じゃあこれで」

くるり、逆手にナイフを持ち替え振りかぶる。

「えりの、勝っ」

ナイフ、逆手、振りかぶった、その手首。

「まだ、早いよ、カメ」

新垣が、手首を。

突然、跳ね起きた新垣が、手首をつかむ。
そのまま身体を、ぴたりと寄せる。
刹那に、押し倒す。

390名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:33:43
―――右を小外に巻き込み、左を小内に刈り―――
浴びせ倒す。

全身は血まみれ。

だが、傷一つない、その身体。

「がきさん、傷は?」

生気に満ちた、その眼。

「さゆの、おかげだよ」

右手をひらく。

「それと」

ちいさな白い紙、単語カード。

「譜久村の」

【能力複写(リプロデュスエディション;reproduce addition)】

道重の【治癒】の力をカードに。

「ああ、『ふくちゃん』だっけ?さゆ『も』言ってたよ」

完全に組み伏せられた、その姿勢から、ゆっくりと背を丸める。

「でも…」

391名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:34:31
首が起き、肩が浮き、ほぼ背骨の力だけ、しなやかに上体が起き上がる。
新垣の、全体重を掛けても、抑えきれない。

「やっぱり、えりの勝ちだよ?ガキさん」

が、新垣に、焦りは、ない。

「カメ、ごめんよ」

謝った。

その心に直接触れることを。
その心に直接潜ることを。

やさしく、抱きしめる。
包むように、柔らかく、やわら…かく…

二人は抱き合い、そのまま深く…どこまでも、深く…

392名無しリゾナント:2014/11/23(日) 01:35:31
>>387-391
■ ディープハグ −新垣里沙X亀井絵里− ■
でした。

393名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:52:28
■ ストンプザホース −田中れいな− ■

衝撃波。

山林に、破裂音が響き渡る。

田中れいなは、吹き飛ばされた。

その距離、ゆうに5メートル。

だが

「なっ!」

動揺の声は『馬』の少女から。

衝撃で応える見えない鎧。
打ち付けられたのは、拳ではない。

クロスガード。
交差した両腕に視界が塞がれる一瞬に。

跳躍する。

突進の勢いを殺すことなく、駆け登り、蹴り下ろす。
拳より強い力、すなわち『脚』で。

『馬』の頭を。

「キックしたのぉ!」

394名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:53:01
全力の蹴り込みが、破裂音に弾かれる。

衝撃は田中を吹き飛ばす。

『馬』の少女の頭上から、斜め後方へ。

そう、障害物を、飛び越えるために。
一気に距離を、かせぐために。

空中で木々の生い茂る枝を突き抜け、斜面山側へ落下。

立ち上がると同時に駆け出す。

下方に少女と山道を確認。
『馬』の少女との距離は、すでに10メートル以上。

一気に斜面を駆け降りる。

「やべっ!待って!!!」
「待つわけないっちゃろ!」

15メートル、10メートル、距離が詰まる、『馬』の少女が追いすがる。
凄まじい走力、加速力。
ぐんぐん追いついてくる。

「ちぃ!はっや!」
「まってっ!って!ゆっ!ハァハァ!って!」

395名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:53:36
10メートル、15メートル、30メートル、さらに距離が…いや、離れていく。
目に見えて、速度が落ちる。

田中も決してスタミナのあるほうではない。
が、『馬』の少女は、それ以下だ。

どんどん離される。

「全力でふりきるっちゃ!ガキさんとこまでもてばいい!」

そんあとは、そんとき、考える!

396名無しリゾナント:2014/11/24(月) 17:54:16
>>393-395
■ ストンプザホース −田中れいな− ■
でした。

397名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:31:35
■ プレシャスポートレイト −譜久村聖− ■

一目見ただけで虜になった。

その女性は、とても可愛かった。

とてもとても、可愛かった。


「えっ?あれっ!道重さん!この子…このひとっ!いったい誰ですか?!」

道重のシール帳、一枚のプリントシール。
くぎ付けになる。
おそらくまだ10代の道重、彼女お得意の『うさちゃんピース』。
そのとなり、目を細め、口元に指をあてる10代の少女…

「あっそれ?さゆみの親友なの。さゆみの親友で『えり』って…」
「『えり』さん…」
「うん、『かめいえり』いまはちょっと入院してるんだけど『えり』もリゾ…」
「かっ…かわいい…」
「ネイ…あ、でしょー?こっちのとかもかわいいのが…」
「はぁああん!かわいい!下さい!」
「へっ?」
「シール!画像!」
「あっああ…画像もあること前提なんだ…まあ、あるけどね…いいよあげる」
「やったー!」
「…ふくちゃんってさ…たまに…凄い迫力のとき、あるよね…」

398名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:32:20
  そんなに気に入っちゃたの?
  まあわかるけどさゆみも。
  じゃあいつか、一緒にお見舞い行く?
  いくいく!いきます!いきたーい!

結局、その機会は訪れなかった。
高橋が失踪したことで、なんとなく機を逸し、今に至ってしまった。

譜久村は一枚の画像を開く。
あのときもらった、『かめい』さん…すなわち『亀井絵里』の画像。

道重の声は、少しだけ、震えていた。

絵里がいないの。

そう言って、震えていた。

399名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:33:29
ふくちゃんの【能力】で絵里の痕跡を…

新垣さん達が調査に出かけて、今リゾナントには道重さんしか年上の人はいない…
責任感の強い道重さんが、あんなに声を震わせて…
きっとすっごい震えないように我慢して、我慢したけど震えちゃってるんだ。
すっごい不安なんだ、すっごい…

みずきがたすける!

聖が助けなきゃ!聖、道重さんの役に立ちたい!大好きな道重さんの!
大好きな亀井さんを!みずき探す!

400名無しリゾナント:2014/11/25(火) 19:34:16
>>397-399
■ プレシャスポートレイト −譜久村聖− ■
でした。

401名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:13:46
 
 
血の海にすべてが沈む姿を、ただ見ている事しかできなかった。
こんな事したくない。そう心が叫んでいるのに、止める術をそこには有していなかった。
目の前に立つものすべてを破壊し尽くさんと、両の手を紅く染め、世界を闇に閉ざしていった。

「やめて……」

懇願する声を振り払うように、私はゆっくりと刀を振り下ろした。

402名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:14:19
-------

「っ――――!!」

声にならない叫びをあげて、里保は目を覚ました。
悪夢を、何度も見る。
血の雨を降らせたあの夜光景は、里保の脳裏に焼き付いて離れない。
繰り返される夢は、現実の続きにも思える。
あの夜以降、一度たりとも「赤眼」の自分は姿を現していない。
だけど、いつ再び顔を出しても不思議ではない。

能力を行使するその手前で、里保は常に躊躇する。その隙に首を刈られそうになったことだって何度もあった。
その度に聖や衣梨奈、香音からの助けを得て、何とか窮地を脱している。
状況はあの時から、何一つ変わってはいない。そればかりか、さらに悪化の一途を辿っている。
里保が一歩踏み出すのを拒むその理由を、彼女はまだ、仲間に話せていないのだから。

403名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:14:51
「眠り姫はっけーん」

額に滲んだ汗を拭おうとした矢先、背中に声をかけられた。
「眠り姫」ということは、先ほどから見られていたのだろうかとも思ったし、そんな長い間声をかけたなかったのだろうかと疑問にも感じた。
深入りしない事が大人の約束だと里保は前髪を撫で「どうして此処に?」と訊ねて腰を上げた。
プールサイドという特殊な床に座っていたせいか、臀部と太腿に痕が残った。
ちくちくする痛みとジンジンという痺れに顔を歪めると「キミこそ何でこんな場所で寝るかな」と逆に返される。

「やっぱ、水が好き?」

さゆみはそう言うと、里保の隣に腰を下ろした。
道重さん、お尻痛くなっちゃいますよとは言わず、黙って見下ろす格好になる。
水が張られたプールに、微かに波が立った。壊れっぱなしの窓から、冷たい夜風が吹き込んでくる。
此処も随分、荒らしてしまったなと思う。

最初は、蛍光灯だった。
勢いに任せて水砲を打ち上げたら、プールサイドにいた彼女の服を濡らすばかりか、天井に設置されていたそれを破壊した。

次に壊したのは、窓。
先輩2人にそそのかされて、水龍を作り上げて天上へと走ったそれは、派手な音を立ててガラスが割り、巨大な黒雲に呑みこまれていった。

そして最後は、壁。
打ち上げた水龍を制御しきれず、勢いそのままにシャワーへとぶち当たった。
ガシャガシャと派手な音を立ててシャワーが蛇のように撥ねたかと思うと、壁に亀裂が入り、そこから水がちょろちょろと流れ始めた。
水道管まで破壊し、それはそれは青ざめたのを覚えている。

404名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:15:21
「水は、嫌いです」

記憶とともにじっとりとした湿気を振り払うように、風が通り抜けた。
彼女が顔を上げる気配を感じる。
怒られているようにも、慰められているようにも、そのいずれでもないようにも感じる瞳は、ただとても、美しかった。

「私は……壊します」

その瞳から逃れるように、両の手を広げた。
あの夜、真紅に染まったそれは、ただひたすらに、雨を降らせた。


―――「破壊と絶望を振り翳し、世界を統一するための、狂気を」


大切な人を、失いかけた。
自分が未熟故に。能力を過信した故に。
ポテンシャルという名の狂気、世界のすべてを闇に帰すほどの絶望を解放しかけた。
紅を纏った自らの姿は、血に飢えた、狼と同じだ。

「それもひっくるめて、キミ自身でしょ」

さゆみはいつの間にか立ち上がり、里保より視線を高くしていた。
黒髪が夜風に揺蕩い、心地良さそうだった。
両の手を広げて、世界を感じるその姿が大きくて、凛々しくて、美しい。

405名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:15:53
「寝るのが怖いからって、変な場所で寝落ちすると体壊しちゃうよ?」

そして案の定、ばれている。
お見通しなんだ、この人は。私のことを、メンバーのことを、仲間のことをなんでも知っている。

「鞘師―――」

リーダーとしてふさわしい器を携え、しっかりと私を捉えるその声に、応えられない。
怖いのかもしれない。
あと少しで此処から去っていくこの人に、なにひとつ私は返せない。


―――「そんなこと、鞘師は、しない」


覗き込んだ深淵の先、黒き翼を携えた魔王を見ても、さゆみは最後まで里保を信じた。
その黒曜石の瞳で、幼くて純粋な輝きを護ろうと必死に息を繰り返した。
そんな強くて優しい人に、私はなにを―――

と、思考を巡らせていると、さゆみはスタート台へと昇った。
その姿は、前にも一度目にしたことがある。
そうあのときは…確か、そう。柔らかい眼差しの彼女が、「よーしっ」と両手を挙げて「せーのっ」と膝を折ったんだ。

止める余裕もなく、気付いたときには、さゆみはは水の中に飛び込んでいた。
その様はまったく、2年前に見た彼女の姿とうり二つだった。

406名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:16:30
「道重さんっ!?」

思わず飛び込んで掬い上げようかとしたが、それより先にさゆみが水面に顔を出した。
ぷはぁっと水を受け、髪を濡らしたその姿は、雨に濡れた、女神と同じだ。
手足を少し動かし、ぷくぷくと浮かぶ彼女を見てほっとしたのも束の間、すぐに身体ごと引き上げようと水面に手を翳す。

が、遠雷を聞き、雨音が耳に飛び込んできた瞬間、その手に力を込められなかった。
何かが、自分の中の何かが警鐘を鳴らす。
動かしても良いのか。使っても良いのか。能力を解放しても良いのか。


―――「……虫みたい」


標本のように男を磔にした、あの赤眼の自分が、そこに居る。
動かすな。動かすな。ダメだ。これは。まだ。私は。私は……

「りほりほー。引っ張って?」

一瞬の躊躇の隙に、さゆみは既に里保のすぐ足元にまで泳いで、というか漂ってきていた。
ぺったりと貼り付いたシャツで肌が透ける。
風の彼女よりも真っ白な肌が眩くて、思わず頬が紅潮するのを感じた。

里保はぐっと息を呑み、膝を曲げる。
黙ってそっとさゆみに手を伸ばし、掴む。

「わわっ!」

引き上げようとしたときだった。
里保が膝を伸ばして力を込めるより先に、さゆみは両手で彼女の手首を強く引いた。
バランスを崩した里保は、そのまま水の中に飛び込んだ。

407名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:17:06
派手な水音を立てて、ふたりはプールの底へと落ちていく。
次々と泡が浮かび、たくさんの水が口から鼻からと浸食していく。
それらを空気とともに吐き出して、ぐんと右腕に力を込めるが、さゆみはそれでも、里保を奥底へと引きずろうとする。

何を考えているんですか―――!

そう言おうとした言葉は、当然のように泡になって消える。
水の中で、さゆみの顔が歪む。
この両の目に溢れていたのは、プールの水なのか、それとも体内から伝った涙なのか、それすら判別することができなかった。


―――喜んで


あなたは確かにそう云った。
私に聴こえるまで、その“音”を捉えるまで傍に居てくれる、とそう云った。
なのに。なのに私は。私はあなたを―――


―――「鞘師のこと、信じてるから」


言葉が想いとなって自らを包む。
気付けばすぐそこにあって、だけどいつの間にか遠ざかってしまう。
大切だと気付いたときには、もうカウントダウンは始まっていた。
それでも私はそれに縋る。彼女のくれる感情は、いつだって宝物だから。


里保は右腕でさゆみを引き上げると同時に、左手に力を込めた。
微かに熱くなるそれを水中で大きく回し、拳を握り締めた。

408名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:17:37
すると、水底が大きくうねりを上げた。眠りを覚まされた不機嫌な水龍が、ふたりの身体を一気に水面へと押し上げた。
ざばあっという派手な音のあと、ふたりはほぼ同時に顔を出し、息を吐き出した。

「っ…げほっ!!」

塩素の強い水を吐き出しながら、「道重さんっ!」と声をかける。

「大丈夫ですか?!」
「やーっとチカラ使ったねぇ……」

里保の問いには答えず、さゆみはいつものように柔らかく笑った。
くらくらするような輝きを携えたその眼差しに、思わず目を背けてしまいそうになる。
さゆみはそれを赦さずに、水面で揺蕩いながら、里保の身体を引き寄せた。
一瞬で、ふたりの距離がゼロになる。
互いの服は濡れ、ぺったりと貼り付いて気持ち悪い。
だけど、そのぶん、相手の温もりをしっかりと感じられて、何とも愛しかった。

どくん。と鼓動がしたのを感じ取った。
その心音がどちらのものなのか、里保にもさゆみにも、分からなかったけれど。

「一人じゃないって云ったじゃない」
「えっ……」
「さゆみは確かに鞘師を止めた。だけど、さゆみ一人で止められたものを、ほかのみんなが止められないと思う?」

さゆみ、リゾナンターの中で最弱王だよ?とおどけてみせる彼女に、「そんなことっ!」と言葉を継ぐ。
だが、さゆみはそれ以上里保に想いを語らせることなく、「自惚れないで」とつづけた。

409名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:18:07
「さゆみは鞘師を過大評価してないし、みんなを過小評価してない」

ふたりだけの地下プールに、さゆみの声が響く。
共鳴して、反響して、あちこちに弾かれた声が、最後に水面に浮かんで里保のもとへと飛び込んでくる。
感情の衝突は、不快さなどはひとつも携えていなかったが、まるで透明なガラスのように真っ直ぐに尖っていた。
さくりと抉ったその心の先で、紅き血が流れるのを感じる。
それでも里保は、何も言わずにさゆみを待った。
待つこと自体、弱さなのかもしれないけれど。それでも里保は、さゆみを待った。
いつだって、鞘師里保を護ってくれる、道重さゆみという大きくて尊い存在を。

「もっと信じて。さゆみだけじゃなくて、フクちゃんも、生田も、鈴木も…みんなのこと、もっと信じて」

波紋が広がり、そして凪が訪れた。
波が収まるのを感じるのは、あの日と同じ光景だった。
感情の刃ですべてを壊しかけたその瞬間さえも、彼女はバラバラになる心を繋ぎとめてくれた。
これが、時代を紡いできた彼女の、唯一無二のチカラなのだと実感する。

「みっしげさん……」

里保はそっと、彼女の背中に腕を回す。
いつかは、赤眼の己と対峙し、淘汰しなければいけない日が訪れるかもしれない。
だが、その時に自分は一人じゃないと、何度でも彼女は諭してくれる。

此処に来て4年。
人を斬り、心を殺し、時に仲間を傷つけ、膝を折りかけた日々が繰り返されてきても。
それでも絶えず時間は巡り、季節は流れ、仲間を送り出し、新しく迎え、変わらずに絆を結んできた。

410名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:18:37
初めて出逢ったあの冬も、地下プールを壊し始めたあの夏も、コインをひっくり返されて自分を失いかけたあの春も。
すべての時を超えて、彼女との最後の秋が訪れる。

「さゆみは、水が好きだよ?」

そうしてさゆみは、揺れる水面を掬い上げ、ぱちゃりと里保の頬にかけた。
真っ赤に染まった里保の瞳は、あの日に見た赤眼のそれとは全く違う、幼さと純粋さと、そして凛とした強さを有していた。

「道重さんっ……」
「うん?」

里保は鼻を啜り、ひとつ、息を吸う。彼女の瞳を、今度こそまっすぐに見つめる。
何度迷っても、何度振り返っても、何度立ち止まっても、必ず歩き出す強さを、この人はくれる。
だから私は、ひとつだけでも、返したい。
此処を、仲間を、私たちを護りつづけてくれたこの人に。愛をもって、支えてくれた、この人に。

「ちゃんと、直します。壁も、天井も、窓も」

里保の言葉に一瞬きょとんとしたあと、さゆみは周囲を見回して「ああ」と笑った。
破壊しつくされたこの場所は、修繕作業が追いつかなくて、結局放置されたままになっている。
そんなお金ないし、此処使うのぶっちゃけ鞘師だけだからねと、さゆみはいつも愚痴のようにこぼしていた。

「直ったら、また見に来てくれますか?」

そして再び、風が撫でた。
水滴を浴びて重くなったそれは、先ほどのように靡かないけれど。
鼻を擽る夜風は、すっかり冬の匂いを携えている。
何かが焦げたような、痛みと、鋭さと、そして切なさと、複雑に交じり合うそれが、身体の熱を奪っていく。
それでもさゆみは、彼女の肩をしっかりと抱き、新しい熱を授けてくれた。

411名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:19:08
4年も前から変わらずにくれたその温もりを、里保は大事に大事に受け止める。

「直すだけじゃなくて、もっと設備とかいろいろ豪華にしといてね?」

甘やかすことをせず、微かに突き放すそれは、白き鬣を揺らし、孤高の中で吠える百獣の王のようだった。
そんなさゆみに里保はすっかり絆されてしまい、出来が悪く叱られた子どものように、くしゃりと顔を崩して肩を竦めた。
閉じられた瞼から溢れる涙を拭うこともせずに、「がんばります、みんなと」としっかり笑った。
その笑顔が尊くて、ずっと見ていたくて、そろそろプールから上がりたいなぁという言葉を、さゆみはすっかり呑み込んだ。

412名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:19:39
>>401-411 以上「水辺の誓い」

413名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:48:21
>>368-375 の続きです



学校帰り。
石田亜佑美と小田さくらは、敵襲に遭っていた。
何故この組み合わせかと言えば。ただ単にあぶれもの同士。香音と聖、里保は日ごろお世話になって
いる先輩・愛佳の用事で先に学校を出ていたからだ。それはさておき。
相手はちょうど亜佑美たちと同じ、二人。一人はいかにも屈強そうな男ではあるが、もう一人は家でネ
ットゲーム三昧してるのがお似合いの痩身の青白い小男だった。
「敵」とは言え、ダークネスの手のものではない。
組織に属さず、フリーの立場にある能力者。ただ、こうやってリゾナンターの前に顔を見せる能力者た
ちの中には、ある共通項が存在することが少なくない。

自分たちの名を、闇社会に売る。
それが彼らの主たる目的であることがほとんど。
もちろん、目的のためならどのような手段を取ることも厭わない危険性があるから、こうして亜佑美た
ちは男たちが誘うままに近隣の公園へと足を運んでいるわけだ。

「さあて、どうするの? ここなら大の大人が女の人に伸されたとしても恥ずかしくないと思うけど」

公園の森にさりかかり、人気がなくなったのを確認した亜佑美が男たちに話しかける。
こういう輩にはまず言葉でクールに威圧するべき、歴代の先輩たちからの教えを忠実に守ったつもり
ではったが。

「そうだな。ここなら小学生みてえなチビをぶん殴ったとしても非難されることはないわな」
「違いないな」

明らかな侮辱とともに、顔を見合わせて笑われる始末。

414名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:49:33
こいつら、言うに事欠いて…いや、リゾナンターはいつでもクールであるべきだ。鞘師さんのように、
感情に流されることなく、ポーカーフェイスポーカーフェイス…

逆に挑発に乗りそうになってしまうのを必死に抑える亜佑美だが、伏兵は思わぬところに。

「石田さん、挑発しようとして逆に馬鹿にされてますよ」
「う、うっさい小田! 何であんたまでそんなこと言うのよ!!」

いともたやすく、感情爆発。
ポーカーフェイスもへったくれもない。

「悪いが、お前らの学芸会を楽しむ余裕はないんでな…行かせてもらうぜ」
「へへ、お前らみたいなもんでも一応はリゾナンターらしいじゃねえか。俺たち『ヘル・ブラザーズ』
の名を上げるため、おとなしくやられてもらうぞ」
「…今時ヘルブラザーズって。中学生でもそんな名前名乗らないですよ? ねえ石田さん」
「え、っと、ちょっと今はそんなこと言ってる場合じゃない、戦闘に集中!!」

調子が狂う。
理由は一つ、隣にいるさくらの存在だ。
彼女の醸しだす独特な世界、小田ワールドとでも言うべきか。その異世界に対して最も合わないなあ
と思っているのが何を隠そう亜佑美であった。
そして密かに、ヘルブラザーズという名称に少しだけ格好よさを感じてしまっていた。

体を前傾させ、今にも飛びかからんばかりの二人の男。
亜佑美は二人を見て、さくらに耳打ちする。

415名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:50:40
「小田ちゃん、あんたは小男のほうに行って。あたしはあのデカブツをやるから」
「そうですか? 私は逆のほうがいいと思いますけど。体格の割には自信満々だし何か隠し玉を持っ
てそう。逆に大男のほうは私の『時間跳躍』が嵌りそうだし」

ったく。あたしがあんたに気ぃ使ってるの、何でわかんないかなあ。
亜佑美は後輩に負担をかけないよう、わざわざそういうチョイスをした。しかしさくらはそんな配慮
などお構いなく。

「おしゃべりしてる暇なんてねえぞ!!」

大男が、亜佑美へ向かって猪のように突進してくる。
意外と素早い。そこへ割り込むさくら。早速「時間跳躍」を使ったようだ。

「しょうがない、そっちはあんたに任せるわよ!」
「任されます!!」

こうなったらもう仕方ない。
戦闘中に合う合わないなどそれこそ、そんなことを言っている暇などないのだから。
亜佑美は「相棒」を呼び出すために意識を集中させた。

一方、自らの背丈をはるかに超える大男と対峙したさくらは。
時間跳躍能力を小刻みに使うことで、相手を翻弄する。

「ちっ、ちょこまかとうるせえチビだ!!」

相手には、さくらが高速で移動しているようにしか見えない。
しかし、何とか体に見合わない反射神経でさくらの動きを追おうとしても、徐々に遅れが目立ってき
ていた。

416名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:52:03
「時間跳躍」。Dr.マルシェの壮大な実験の副産物としてさくらに残された能力だった。
もともと持っていた「時間編輯」に比べると、あまりに矮小な力。だがさくらは自らの能力の研鑽に
より、それを自分の必殺技に変えた。

陣取(じどり)、さくらはその行為をそう呼んでいた。
時間を跳躍し、相手の死角に移動する。それだけではない。彼女はそれまでに自分が得た経験から、
「どの角度に移動すれば自分の攻撃が最大限のダメージを与えるか」を計算し、その場所に移動す
る。まさに一撃必殺の、クリティカルヒット。

「無駄な努力、ご苦労様です」
「んなあっ!?」

まったくの予想外の場所に現れたさくらを、男は捉えきれない。
無防備な角度からの、鋭い蹴りの一撃。何が起こったのかすら把握することなく、ヘルブラザーズ
の片割れは意識の沼に沈み落ちた。

「小田のくせにやるじゃない」
「ふふ、向こうに気を取られてていいのか。お前は既に俺の術中に嵌っているというのに」

あっさりと大男を倒したさくらに対抗心を燃やす亜佑美。
しかしその体は蔦のようなものに拘束されていて。

小男の能力は、植物使役。しかも拘束を目的とした蔦状の植物を好むようだ。
おそらく亜佑美とさくらが話している間にこっそり種を蒔いておいたのだろう。

「へえ。でもこんな力があるなら、あっちの小田のほうも拘束してればあんたの相方は無様な負け
方してなかったのにね」
「生憎、一人を拘束するんで精一杯なんでな。だが、お前を倒してイーブンの状態で引き揚げるっ
てのも一つの案だな」

ちらと遠くのさくらを見る男。
どうやらさくらがこちらに来る前に決着をつけるつもりのようだ。

417名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:53:02
「は?あんた、こんなちゃちな蔦であたしを縛りつけられると思ってんの? カムオン、リオン!!」

亜佑美の叫びに呼応するかのにように木霊する、獣の遠吠え。
青き風、と形容してもいいくらいの素早さで、鋭い狼牙が亜佑美を拘束する蔦を引き裂き千切ってゆく。

「…ならこれはどうだ!!」

男と亜佑美の間の地面に、再び蔦の束が溢れだす。
それは意外にも亜佑美ではなく、男に向かって巻き付きはじめた。

「ちょっとあんた何考えてんの?自殺行為じゃない!」
「それは…どうかな」

一見自分で自分を絞めているかのような異様な光景。
ところが、出来上がったのは緑の人型。言うならば、蔦人間。

「うわっ、気持ち悪っ」
「ほざけ!攻守一体のこの技の真髄を味わうがいい!!」

男の手から、射出されるように伸びる蔦。
いや、表面に棘を纏ったそれは荊。鋭さは、亜佑美がかわした背後の木の幹を傷つけるほどに。

「カムオン、バルク!!」

亜佑美の背後に、天高く青い影が聳え立つ。
呼びかけに応じ現れた鉄の巨人が、男目がけてその拳を振るった。
響く轟音、舞う土煙。
跡形も無くぺっしゃんこ、と思いきや男は軽々とバルクの拳を受け止めていた。

418名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:54:01
「どうだ、蔦がバネとなってこの程度の衝撃なら耐えられるのだよ」
「…うっざ!!」

お望みならほんとの植物人間にしてやる!って今ちょっとうまいこと言っちゃったかも。
などと愚にもつかないことを考えながら、亜佑美は再び相棒に呼びかける。

「カムオン…リオン、バルク!!」

例の孤島での戦い。
さらに、先輩である田中れいなの「能力増幅」の影響を受けて自らの能力を強化させたリゾナントのメン
バーたち。それは亜佑美とて例外ではない。能力向上によって彼女が得た新しい技術、それが幻獣の二体
同時召喚。

「なっなっなんだぁ!!!!!!」

迅と剛が、慌てる蔦人間に襲い掛かる。
リオンの鋭い爪が、牙が緑のプロテクターを剥ぐ。丸裸になった男は憐れ、バルクの一撃で空の向こうへ
と消えていった。

「石田さん、リオンとバルクを両方呼びだせるようになったんですね」

飛んで行った男の軌跡をどや顔で眺める亜佑美のもとへ、さくらが駆けつける。
男のやられ振りを見て二体が同時に呼び出されたのを察知したらしい。

「おーだー!遅いっ!先輩より先に相手を片づけたんなら、さっさとこっちに来る!」
「えーっ、でも石田さんだったら私より先に決着つけてるかなって」
「むぅ…」

ここぞとばかりに先輩風を吹かせようとしても、まさに柳に風。
ある意味正論なので返す言葉もない。

419名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:54:30
「石田さん、私たちって…合わないですよね?」
「あのねえ…そりゃこっちの台詞…」

言いかけて、言葉を止める。
当のさくらは、何だか嬉しそうだからだ。

思えば、特殊な境遇からリゾナンターになったさくらだ。
自分だけのワールドというか、そういう空気を持っているとしても仕方がないのか。
亜佑美は、彼女の特殊性を彼女自身の生い立ちや歩みに求めた。だから。

「そうね、合わないんじゃない?」
「ですよね!同じ方向目指しても歩こうと思ってもどっかですれ違っちゃうみたいな!」
「その例え分かり辛いし第一合ってるかどうかわかんないからっ!」

合わない、ということでさくらを受け入れるのもまた一つの方法。
それはそれでいっか。

「ほら、さっさと戻るよ! はるなん一人で店番とか、すっごい心配だし」
「はいっ!」

先を歩く亜佑美に、さくらがひょこひょことついてゆく。
そのさらに後ろ。二人の姿を眺めているものがあった。

「なるほどねえ、こんこんのレポート通りってわけか」

露出の多い、黒を基調とした服。
少女は、短パンのポケットに手を突っ込み、無造作に丸めていたメモ紙を取り出す。

420名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:55:33
「石田亜佑美は見えざる獣の使い手。小田さくらは元ダークネスの実験体で時間操作能力の持ち主。あと
は…うわ、きったねえ字。読めやしないじゃん。ってのん自身がこれ書いたんだっけ」

不意に、誰かが現れた気配。
少女のポニーテールと、首元から大きく垂らしたチョーカーの布が揺れる。

「鞘師里保は水使いの剣士。鈴木香音は物質透過能力。譜久村聖は他人の能力をコピーできる。生田衣梨
奈は精神干渉系。飯窪春菜は自分および他人の五感を増減させる。佐藤優樹はわけわからん仕組みのテレ
ポート。工藤遥は千里眼や。そんくらい、頭で覚えとき」
「来てたんだ、あいぼん」

不満そうに口を尖らせた相手は、彼女の「永遠の相方」。

「お前なあ、どこほっつき歩いてんねん」
「あいぼんは用事、終わったの?」
「ああ、計画通りや…って、そんなにあの連中が気になるんか?」

亜佑美たちが去って行った方向を見ている「金鴉」に、「煙鏡」がからかい口調で言う。
すると「金鴉」は大きく肩を竦め、

「ぜーんぜん。確かに例のチビ剣士には少しだけ興味あるけど、所詮はのんの敵じゃないしね。それよりも」

「煙鏡」と顔を見合わせる。

「道重」
「さゆみ」

互いに発した声はユニゾンとなり。
不吉とすら思える響きを放つ。

421名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:56:06
「あいつだけは厄介や。特に『裏の人格』がな」
「美貴ちゃんとかとも互角にやり合ったって話だからね」
「…やるか」
「めんどくさいからさ、『あの場所』で済ませようよ」
「せやな。段取りはうちが組んだるわ」
「おっけー、よろしく」

それだけ言うと、「煙鏡」に背を向けて手を振る「金鴉」。
次の瞬間には、光の中に姿を消していた。

「簡単に言いおって。よっすぃーの目ぇ誤魔化すんも、一苦労なんやで」

そして悪態を突きながらも、「煙鏡」自身も。
それこそ煙のようにその場から消えていた。

422名無しリゾナント:2014/11/25(火) 23:57:00
>>413-421
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

423名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:46:17
■ レイアスネア −譜久村聖− ■

夕暮れの光が全てをオレンジに染めていく。

亀井絵里が入院していたはずの病室。
次の患者は入っていない。
まだ、無人のまま。

集うは道重さゆみ、譜久村聖、そして石田亜佑美。
連絡を受けてすぐ、譜久村と石田は道重のもとに【跳んで】きたのだ。

【残留思念感知(オブジェクトリーディング;object reading)】

譜久村の能力。
物体に残った強い思念を読み取り、断片的なイメージとして【視】る。

424名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:48:31
ベッドに手をかける。
白いシーツ、枕…

だめ、リネンは既に交換済み。

私物の類も、すでに無い。

でも、大丈夫。
私物以外にも、この部屋には、いろんな物が、まだまだいっぱい残ってる。
必ず、亀井さんが触ってるところがあるはず。

手すりのパイプを丁寧に触っていく。

あれ?これも交換されてるのかな?
ほかをあたろう。

周囲を見渡す。

シーツ、ベッド、無機質な引き出し、TV…
サイドテーブル、梨…

425名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:50:03
ん?

梨が、サイドテーブルの上に。
皮の剥いていない、そのままの梨が。
ぽつんとひとつ、置き忘れたように。

あれ?さっきあったっけ?
なんだろう?わすれものかな?
たべものなのに、おいてっちゃったのかな?
まあいいや、それより、サイドテーブル。
亀井さん、きっと、このテーブルで何度も食事したりしてるはず。
これになら、きっと…

譜久村は手を伸ばす。
集中する。

と…その前に…
一応…確認だけ…
テーブルの前に…まずは…

 
…梨を…


手を…伸ばす…その手のひらで…その表面に…

426名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:51:18
流れ込んでくる、イメージ。

夕日

亀井さん
100円
パジャマ
はさみ
タグ
TV
夕日

パジャマ

…梨

  ヤッパリコレヲ 
  【視】ルト思ッタヨ
  ”残留思念”二
  残シテオケル”量”ニハ 
  私モ限界ガ有ルカラ
  一寸強引ナ事スルネ 
  ゴメンネ…フクチャン

427名無しリゾナント:2014/11/26(水) 22:51:56
>>423-426
■ レイアスネア −譜久村聖− ■

428名無しリゾナント:2014/11/27(木) 18:16:18
■ レイアスネア −道重さゆみ− ■

「ぐがっ!ごっ!ごえぇえええっ!」

手掛かりを探ろうとした途端、異変は起こった。

卒倒、嘔吐、痙攣。

「ふくちゃん!」
道重の悲痛な声。

うかつだった!
さゆみは、何にも考えてなかった!

429名無しリゾナント:2014/11/27(木) 18:17:08
思えば、空室のままだったこと自体、疑うべきだった。
どこの病院も、病室を無駄に空けておく余裕などない。
普通であれば、すぐに次の患者が入るはずだ。
なぜ、亀井の病室だけ、空いたままだった?
なぜ、病院の誰も、そのことに疑問を挟まなかった?

気付けるはずだ。
気付けたはずだ。

敵は譜久村の能力を知っていたのだ。
亀井がいないとなれば、その手がかりを探すため、
譜久村が【視】るだろうことを、当然のごとく想定していたのだ。
道重や普通の人間が触ってもなんともなく、
残留思念を感知できる譜久村にのみ発動する『罠』が、
―――おそらく最後に触った、梨に―――
仕掛けられていたのだ。

【精神干渉】の一種か?
だが、これは新垣のそれとは全く異質な『何か』だ。

病院関係者の記憶を操作し、
残留思念に『罠』を仕掛けておける能力。

だが、取り乱した道重に、そこまで分析する余裕などない。

「ふくちゃん!ふくちゃん!…ふくちゃん!!!」

さゆみのせいだ!さゆみのせいだ!さゆみのせいだ!

さゆみの!!!

430名無しリゾナント:2014/11/27(木) 18:17:44
>>428-429
■ レイアスネア −道重さゆみ− ■
でした。

431名無しリゾナント:2014/12/05(金) 00:23:08
■ ガアデンオブザエア −新垣里沙X亀井絵里− ■

「なーるほど、そーゆーこと…」

えりの勝ち、そう彼女は言った。

「やってくれたな、カメ」

どこまでも続く、鮮やかな青空。

青い空、白い雲。

それで全部。
それで終わり。

これが、亀井の心象風景、深層意識。

天空に浮かぶ、巨石の庭園。

大理石。

庭園の淵に立つ。

銀の骨組み、巨大な天蓋。

天空に浮かぶ、巨大な鳥籠。

出口は、ない。

青白く静まり返る、磨き抜かれた床。


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