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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part5

1名無しリゾナント:2014/07/26(土) 02:32:26
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第5弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

134名無しリゾナント:2014/08/24(日) 02:57:56
「辛かったね、なっきー」
「え…?」
「ひとりで秘密を抱えてきたんだね、ずうっとひとりで、苦しんできたんだね」

抱きしめてくれた
強く、強く、強く

「これは、二人だけの秘密」

彼女は言った
私を抱きしめながら

「これからは、二人だけの秘密」

さわやかな笑顔。
ただ、『さわやかなだけ』の、笑顔。

135名無しリゾナント:2014/08/24(日) 02:59:03
ただ、優しく
ただ、あたたかく

「私が、全部、許してあげる、私が、すべて許してあげる」

私は、もう、逆らえない
彼女は、私の、すべてだから
私のすべては、彼女のものだから

「もう何も心配しなくていい、ね?なっきー」

堕ちていく
どこまでも
堕ちていく


そして私は、彼女の『所有物』となった

136名無しリゾナント:2014/08/24(日) 03:00:33
>>132-135
■ ギルティ −中島早貴− ■
でした

137名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:19:54
>>126-130 の続きです



福田花音は、急いでいた。
今日は久々の「エッグ」のミーティングだ。いつものように「一部の人間を除いて立入りを禁じられている」エリアを顔パスで通り、早
足で会議室へと向かう。
今回のミーティングの内容よりも、彼女には気がかりなことがあった。スマイレージのリーダーである彩花のことだ。
別に彼女の症状がどうだとか、そういうことは考えていない。問題は、彼女を自分達の拠点に置き去りにしたこと。間の悪いことに
後輩メンバーたちには全員仕事が入ってしまい、呆けてしまった彩花を監視するものはいない状態。比較的軽い仕事の中西香菜
がすぐに戻るとは言ってくれたものの。

「随分急ぎ足じゃない。トイレにでも行きたいの?」

早足で歩く花音を追い越しながら、女が話しかけてくる。
自称「新宿のシンデレラ」などというふざけた異名を持つ、目の上のたんこぶ。

「エッグ」の中で比較的早くから頭角を現していった花音だが、人の思考を読み取り戦闘に利用するというかつての高橋愛顔負け
の能力を発揮したその後輩は。瞬く間に集団の稼ぎ頭となった。エリートとしてのプライドはその時、大きく傷つけられそして今に至る。

138名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:20:50
「別に。真野ちゃんには関係ない」

水色を基調としたフリフリのドレスを着た女 ― 真野恵里菜 ― を振り切ろうと、花音はさらに早足で歩き続ける。無視されたこと
で気を悪くした恵里菜の取った行動は。

「あっそ。て言うか私のこと真野ちゃんって呼ぶのやめてくれないかなあ。今は『サトリ』で通ってんだから」
「…ふん」

文句を言いながら花音を抜き返す恵里菜。
だが花音はそんな恵里菜を抜き返そうと、さらにスピードアップを図る。

「…さとります。『あんたになんて絶対負けたくない。て言うかシンデレラはあたしだから』って思ってるでしょ」
「勝手に人の心読むのやめてくれる?」
「あんただって今私に何とかレボリューションかけようとしてたじゃん」
「は?そんなことしてないし」
「さとります」
「疑うことなく信じるにょん」
「さとります」
「疑うことなく信じるにょん」

恵里菜が両手で作ったファインダーで花音の心を覗こうとすれば、対抗して花音も人差し指を恵里菜の眼前に突きつける。
精神に作用する能力者同士の、意地の張り合いと言ってもいい。

不毛な争いを繰り広げながら、肩と肩をぶつけ合い廊下を駆け抜ける二人。
互いが自らの精神にロックをかけているのは、本気で相手を自らの能力の支配下に置こうとしている何よりの証拠だった。
最終的に、会議室にもつれ込む二人。部屋の中の面々は慣れっことばかりに苦笑するのみだ。

139名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:22:11
「うんうん、ライバル関係大いに結構」

髪を肩まで伸ばした童顔の女性が、いいものでも見たかのように感想を述べる。
能登有沙。対能力者集団「キッズ」の最年長だ。

「エッグ筆頭のお前がそんなんでどうするんだ…これを毎回御してる俺の身にもなってくれ」
「そうですか?」
「まあ主任が御してるようにも思えませんけどねえ」

身も蓋もない突っ込みをするのは、派手な顔だちのワガママボディ。
どいつもこいつも、と顔を苦くしつつも主任と呼ばれる男はふう、と大きくため息をついた。仮初の地位とは言え、このひと癖もふた癖
もある連中を率いるのは自らの使命だ。そう言わんばかりに。

「取り合えず主だった面々は揃ったな」
「例の5人は来ないんすか?主任言ってたじゃないですか、そろそろ前線に配備してもいいかなって」

いかにもな軽いノリで、主任に語りかける友。

「あいつらには別の仕事をしてもらってる…まあお前らに比べたらまだまだ新人だ。この場に連れてくることもあるまい。ところで福田、
和田の調子はどうなんだ」
「当分復帰は無理です」
「そうか。とにかく。今回はお前らにどうしても知らせなければならないことがある。まずは…これだ」

花音の簡素な報告に肩を竦める間もなく、主任が正面のホワイトボードに二枚の写真を貼り付ける。一見、どこにでもいる普通の少女たち
だが。写真からですら伝わる、禍々しい黒い気配。

140名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:23:58
「うっわぁ、見るからにやばそうな人たちですねぇ」
「分かるか、吉川。そうだ。こいつらは最近『ダークネス』が招聘した新しい幹部だ。それぞれ『金鴉』『煙鏡』と呼ばれてるらしいが
それ以上のことはまだ調査中でな」
「…そいつらを、殺ればいいのか」

会議室の後方。
斜めにおろした前髪で表情は窺えないが、口元だけで笑みを作っている女 ― 北原沙弥香 ― がぽつりと言う。
彼女の抱えている影は深く、そのいでたちはさながら殺し屋のようだ。
実際、彼女の能力は隠密行動そして暗殺にもっとも適したものであった。

「いや、それには及ばない。本題は別件だからな。能登、頼む」
「はいよ」

主任の呼びかけに席を立ち、ホワイトボードの前に立つ有沙。
緊張感のない顔だが、その口から発せられる言葉の破壊力は。

「『組織』が『天使』を幽閉してる場所がわかったよ」

絶大だった。
ミーティングの参加者がそれぞれ言葉を発することさえせずに、顔を見合わせる。
「銀翼の天使」。ダークネスのとある実験の被験体となり制御不能となった彼女が、リゾナンターを襲撃し決して消えることのない傷を
残した事案。この場にいるもので知らないものは、いなかった。

「まさか、『天使』を解放するなんてことは言わないでしょうね。薬である程度はコントロールされてても、基本的には制御不能の破壊
兵器状態って聞きましたけど」

花音は言葉では否定しつつも、内心は主任の返答に期待していた。
敵サイドの人物とは言え、白き羽で全てを無に還す「能力者の最高峰」に憧れを抱いているものは少なくない。花音もまた、その一人で
あった。

141名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:25:20
「いや。我々には『天使』を制御することのできる切り札がある。『ベクレル』『セルシウス』という新たな戦力も手に入れた。『天使』
を手中に収めることができれば、幹部の一角崩しどころじゃない詰みの一手(チェックメイト)を打つことになるだろう」

そして、上司の言葉は期待以上。
切り札が何を指すのかは知らないが、実現可能ならばこれほど素晴らしいことはない。理想が齎す光に花音が胸を躍らせているその時。

懐のスマホが震える。
席を中座し通話に切り替えた花音は、通話相手の第一声に顔を青くした。

「・・・かななん、ほんとなのそれ」

受話器の向こうの力ない返事を聞いてから、通話を打ち切った。
主任に断ることもないだろう。事は一刻を争う。

和田さんが…いつの間にかいなくなってたんです…

香菜の泣きそうな声が、耳から離れない。いや、責任感の強い彼女のことだ。実際にもう泣いていたのかもしれない。
彩花自身が無気力になっていたせいで、まさか部屋を抜け出すなどという行動にでるとは思わなかった。そういう意味では花音のほうに咎
がある事態ではあるのだが。

やっぱ、あたしが決着(ケリ)、つけなきゃいけないのかな。

握られた拳が、意図せず固められてゆく。
彼女の中に、最悪の事態を想定した上での決意が焔のように揺らいでいた。

142名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:30:16
「いや。我々には『天使』を制御することのできる切り札がある。『ベクレル』『セルシウス』という新たな戦力も手に入れた。『天使』
を手中に収めることができれば、幹部の一角崩しどころじゃない詰みの一手(チェックメイト)を打つことになるだろう」

そして、上司の言葉は期待以上。
切り札が何を指すのかは知らないが、実現可能ならばこれほど素晴らしいことはない。理想が齎す光に花音が胸を躍らせているその時。

懐のスマホが震える。
席を中座し通話に切り替えた花音は、通話相手の第一声に顔を青くした。

「・・・かななん、ほんとなのそれ」

受話器の向こうの力ない返事を聞いてから、通話を打ち切った。
主任に断ることもないだろう。事は一刻を争う。

和田さんが…いつの間にかいなくなってたんです…

香菜の泣きそうな声が、耳から離れない。いや、責任感の強い彼女のことだ。実際にもう泣いていたのかもしれない。
彩花自身が無気力になっていたせいで、まさか部屋を抜け出すなどという行動にでるとは思わなかった。そういう意味では花音のほうに咎
がある事態ではあるのだが。

やっぱ、あたしが決着(ケリ)、つけなきゃいけないのかな。

握られた拳が、意図せず固められてゆく。
彼女の中に、最悪の事態を想定した上での決意が焔のように揺らいでいた。

143名無しリゾナント:2014/08/24(日) 12:34:19
>>141>>142で二重投稿してしまいましたすいません
>>137-141
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

144名無しリゾナント:2014/08/30(土) 01:56:01
>>137-141 の続きです



彩花の姿を目にした時に、春菜が最初に思ったのが。

早くこの人を助けないと!!

必死だった。
ふらふらと、あてもなく彷徨う魂の抜け殻のような彩花。
まるで少しずつ輪郭を失い、消えていってしまうような。

リゾナントを飛び出し、春菜は自らの五感をフル解放する。
普段は絶対にやらない、無謀の極み。何故なら自らの五感を無限に研ぎ澄ますことは、五感を司る器官への大きなダメージとなって必ず
返ってくるからだ。引き際を間違えてしまえば、該当する感覚自体を失うことにもなりかねない。

だが幸いに、周囲の雑音や臭気が春菜に襲い掛かる前に彩花の痕跡を探り当てることに成功した。
ここから北東の方角、距離は300メートルほど。いつの間にそこまで距離を離されたのかはわからないが、春菜の能力ならば追う事の
できない距離ではない。

春菜は意を決して、探知した位置に向かって走り出す。
能力全開状態をいつまでも続けることはできないから、まずは必要最低限の出力で彩花の痕跡を追う。痕跡が途切れてきたら一時的に出
力を上げて、探知し次第再び絞りさらに追う。

145名無しリゾナント:2014/08/30(土) 01:58:10
春菜の能力は、リゾナンターの面々の中では索敵に向いていた。
物理的にはあらゆる障害物を無効化する千里眼を持つ遥のほうがやや有利ではあるが、逆に特定の条件さえ揃えば春菜の能力は遥のそれ
に比肩する。
ただし、周囲に彼女の能力の妨げになるものがある場合は効果が半減してしまうが。

例えば、共鳴しあうものたち(リゾナンター)。精密な計数器が強力な電磁波に弱いかのごとく、春菜の索敵精度が落ちてしまうのだ。
かつて喫茶店を飛び出した時に春菜が自らの能力を最大限に発揮できなかったのは、そういう理由からであった。

だから、逆に今の状況は春菜に彩花を探す上での絶対的な自信を植え付けていた。
研ぎ澄まされた五感から得られる情報を元に、路地裏を抜け、塀を越え、民家と民家の間を縫う。そして、ついに彩花を見つけるのだが。

「わ、和田さん!?」

鉄条網のフェンスの向こう。
彩花は、柵を乗り越えてその先に敷かれている鉄道の線路上をふらふらと歩いていた。
いかにも危険であるその状況は、春菜が予想するより早く最悪の事態を迎える。

遠くから聞こえる、鋼の軋む音。
轟音を上げながら、列車が彩花目がけて迫り来る音だった。

早くしないと!!

最早鉄条網を上品によじ登っている暇は無い。
触覚の無効化により、力のリミッターを外し金網を引きちぎる。もちろん反動は大きく、春菜の五指はずたずたになってしまった。指の
骨も折れているかもしれない。ただ、今はそれしきのことで泣き言を言っている暇などなかった。

146名無しリゾナント:2014/08/30(土) 01:59:15
彩花を安全圏に引き離そうと、春菜が走る。
全速力で、そして最大限の瞬発力で。
だが無情にも、列車は瞬く間に彩花との距離を縮めてゆく。
彩花はその様子を身じろぎすることなく、虚ろな瞳でただ眺めていた。

だめだ、間に合わない!!!!

これから繰り広げられる惨劇に、一瞬目を瞑ってしまう春菜。
そして再び目を開けた時、別の意味で驚愕することになる。

「え…」

彩花は、静かに佇んでいた。
片手を、停車している列車に添えながら。
停車。自らの頭でその単語を思い描きながらも、離れない違和感。
本当に列車が停止したのなら、急ブレーキの音が響き渡っているはず。それが一切聞こえないということは、その列車は急ブレーキをか
けることなくその場に停止したことを意味していた。

「わ、和田、さん…」
「…っちゃえ」
「え?」
「消えちゃえ」

小さく呟いた彩花の言葉を、春菜の耳が捉える。
もの凄く、嫌な予感がした。列車を止めた力を振るったのが彩花なら、それだけの力を再び目の前の鉄の塊に振るう結果は容易に想像で
きた。

147名無しリゾナント:2014/08/30(土) 02:00:31
「ダメですっ!!!!!!!」

何か途轍もなく大きな力を解放しようとした彩花を、春菜が体に組み付きそして押し倒した。春菜のことをまったく見ていなかった彩花
はいとも容易くバランスを崩し、そして線路脇の砂利の敷かれた地面に倒れこんだ。

春菜に倒され、しばらく呆けたように空を見つめていた彩花。
そんな彼女の視界に、覆いかぶさった春菜の手が映る。
限界まで力を使ったせいで、ずたずたになった、血まみれの手。

「い、いや…」
「和田さん?」

彩花の脳裏にあの光景が蘇る。
赤い死神に、成すすべもなく刈り取られた命たち。
全身を爆破され肉片すら残さず死んでいった、紗季。
そして。心臓を砕かれ、赤い花を咲かせて死んだ憂佳。
赤い花。真っ赤な、真っ赤な血の花。

「いやぁああぁぁ!!!!!!!!!!!!!」

春菜を押しのけて、錯乱しながら絶叫する彩花。
体から溢れる禍々しい気に、思わず後ずさりしてしまう。

148名無しリゾナント:2014/08/30(土) 02:03:05
「死んじゃえしんじゃえ死んじゃえしんじゃえあははみんな死んじゃえ!!!!!」

眩暈のするほどの黒い感情は力となって、具現化される。
彩花の足元のバラストが数個浮き上がり、意志でも持っているかのように弧を描きながら空へ向かって飛んでいった。
それは飛翔と言うよりも散乱。しかも、計り知れない力が加わっているのか、飛ばされたバラストは軌道の途中で光となって消えてしま
う。あまりにも不可解な現象、しかし春菜は強化された視覚と聴覚・嗅覚でその理由を知ることができた。

あれは…物凄い加速を加えられて、空気抵抗の摩擦で燃え尽きた!?

彩花が能力者ならば、おそらく物体の加速度を操る類の能力を使役するのだろうと春菜は推測した。
しかしながら。今の彩花の状態は間違いなく普通ではない。そして彼女から溢れる、闇にも似たオーラは。

「能力の暴走…そんな…どうすれば…」

自然と、かつて仲間の小田さくらが陥っていた状況を彷彿させた。
もしそうだとしたら、とても自分ひとりで手に負えるものではない。どうすればいい。緊急でリゾナンター全員に呼びかけるか。いや、
全員の到着を待っていたら取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
迷う春菜の心を、ぴしゃりとよく通る声があった。

「はるなん!えりに任せて!!」

声のしたほうを振り返ると、そこには頼もしい先輩の顔があった。
その先輩は皮手袋に仕込まれたピアノ線を揺らしながら、すでに臨戦態勢に入っている。
春菜が必死の形相で店を飛び出したのを見て、跡をつけていたのだ。

149名無しリゾナント:2014/08/30(土) 02:04:09
「生田さん!!」
「えりが来たからにはもう安心やけんね」
「本当ですか!でもいったいどうやって」
「わからん!!」

なぜか自信満々な衣梨奈の言葉に、思わずずっこけそうになる春菜。
前後撤回。やっぱり少々不安かもしれない。

その間にも、虚ろな目をした彩花が能力の暴走でバラストを不規則な方向に次々と飛ばし続ける。
偶然にも春菜たち目がけて飛んできた石をピアノ線で弾こうとした衣梨奈だが、逆にピアノ線が切断されたことに驚愕する。

「このっ!!こうなったら…」
「待ってください生田さん!この子は私の友達なんです!!」
「友達やろうが関係ない!もしこの子の飛ばした石が上空の飛行機にでも当たったらどうすると!?」
「…そうだ生田さん!私を和田さん…この子の精神の中にダイブさせてください!!」

強硬手段に出ようとした衣梨奈を宥めるために咄嗟に出た案。
しかし春菜自身、もしかしたらとも思う。
さくらを闇の底から救い出した力、それはもともとは衣梨奈の精神潜航が成功したおかげでもあったからだ。

「でも、あの時はたまたま成功しただけで…」

意外にも、あまり自信のなさそうな衣梨奈。
それもそのはず。結果的に10人もの大人数による「サイコダイブの相乗り(オムニバス)」を師匠である里沙に胸を張って報告した衣
梨奈だが、「あんたねー…じゃあ試しにあたしの精神の中にダイブしてみなさい」の一言であっさりと落ちがついてしまった。簡単に言
えば、衣梨奈はただの一度もダイブに成功できなかったのだ。

150名無しリゾナント:2014/08/30(土) 02:04:46
「何言ってるんですか!生田さんならできますって!」
「はるなん…」
「だって生田さんは世界一の能力者を目指してるじゃないですか、うさぎ系女子じゃないですか!!」
「そ、そう?」
「ええ!リゾナンターの未来の看板にできないことなんて、ないはずです!!」

趣味も合わない。
二人だけだと会話も弾まない。
おまけに「はるなんと話しても何も得せん」などと言われる始末。
けれど、春菜は確信する。太鼓持ち体質の自分と、おだてに乗りやすい衣梨奈の相性は、決して悪くないと。

「わかった。衣梨奈に任せて」

先程までの不安顔が嘘のように、表情を引き締め意識を集中させる衣梨奈。
それを見て、春菜はうまくいったと拳を握る一方で、彩花のことを思う。
何故彩花が能力者なのか。そして彼女の身に何があったのか。
何ひとつわからないけれど、彼女の中に入ることできっと何かが得られる。
そして、それが彩花を救う唯一の方法だと信じていた。

春菜の思いを形にするかのように、蜂蜜色のオーラが彼女を包み込む。
そして、彩花に吸い込まれるようにして消えていった。

151名無しリゾナント:2014/08/30(土) 02:05:52
>>144-150
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

152名無しリゾナント:2014/09/04(木) 09:51:50
>>144-150 の続きです



はぁ…金がしこたま入って来るのはええねんけど、こんなんばっか続くとしんどいわぁ。
せっかくのあいぼんさんのつるつる卵肌にめっちゃ影響出るやん。
社長の机っちゅうのも案外居心地のええもんと違うな。
て言うか何やねんこの事業計画書の山は。「詐術師」のやつ、こんな山ほどみみっちい仕事抱えてたんか。そらチリも積もれ
ば山となるんやろうけど、なぁ。
欲かいて首領の首も狙うわな。それで死んだら元も子もないか。

何や。うちめっちゃ忙しいねんけど。
お客さん?そんなん聞いてへんわ、とっとと追い返し。
だいたいアポなしでうちに会おうなんて100年早いわ…
ほんまか。ほんまにそいつはそう名乗ったんやな。
成りすましてこともあるやろうけど、ま、ええわ。早よこっち通し。
しっかし随分久しぶりに聞く名前やな。うちらがあないな目に遭わされた前後で姿消しよったって聞いてたんやけど。
毎回ろくなことせえへん奴やったから、粛清人にでも消されたとばかり思ってたわ。
はーい、空いてますよ?

153名無しリゾナント:2014/09/04(木) 09:54:31
ああ、いやいや、どうもお久しぶりです。
そちらもお変わりなく…って敬語はここまでにしよ。
今となっちゃ、あんたはうちらの「上の立場」でも何でもないんやからな。ざっくばらんにタメ語でいかしてもらおか。
はは、随分下品な顔に変えたみたいやけど、うちならあんたやってわかるわ。ま、座ってや。適当にお茶でも出させたるさかい。
おい、お客さんにお茶出しや。本場のアールグレイのやつやで。
ああ、ぼちぼち儲けさせてもらってるわ。とは言っても前任のクソチビのシマ、そっくりそのまま貰ろただけなんやけど。
あいつも身内殺すようなマネせえへんかったら、こないな美味しいポジション失うこともなかったのにな。アホ言え、あいつより
ももっと稼いだるわ。
せっかく娑婆に出たからには、腕の違いを見せ付けんとあかんやろ。

で、何の用や。
…なんでそんなんうちに聞くねや。ついこないだ戻ってきたばっかやぞ。
矢口さんと飯田さんと亜弥ちゃんは死んだわ。梨華ちゃんも半死半生。何でもリゾナンター、っちゅうやつらのせいでそないなこ
とになったらしいな。うちもよう知らんけど。
せや、あのi914が率いてた連中や。今は代替わりしてるみたいやな。ま、そんなんどうでもええわ。
のんの奴はともかく、うちが帰ってけえへんかったらどないするつもりやったんやろ。
美貴ちゃんも何やおかしなことなっとるし、よっちゃんだけで孤軍奮闘してるみたいやで。
って、知ってたんかい。
は?ただの挨拶やって?そんなくだらない用事のためにわざわざ顔出しよったんか。はっ、弟子によう似て食えないやっちゃ。
ええ、そうですそうです。あんたの弟子はあんたが見込んだ通りに立派に育ってますとも。底意地が悪くて常に人をおちょくった
ような態度なんてソックリや!!

154名無しリゾナント:2014/09/04(木) 09:57:38
ところでほんまにそないな下らん挨拶しに来たん?大方あれや、うちらの動向探ろうと思て来たんやないか?
はっは、そんなん言えるわけないやん。
何で部外者のお前なんかにうちの可憐な胸の内をオープンハートせなあかんねん。
何やと。お前その情報どこで手に入れた。
ちょ、待てや。それはあかん。せや、こんなんはどうや。うちは今日、お前と会ったことは綺麗さっぱり忘れたるわ。べ、別に
取引のええ材料見つけたとか思ってへんで。最初から秘密にするつもりやったわ。その代わり。うちとのんがこれからしようと
してる事も組織には内緒や。

…ほう。何となく目的はわかる、やって?
目的はほれ、ただの遊びや。それ以上もそれ以下もあらへん。
は?お前何言うてるん?
ええわ。言うてみ。
あいぼんさんは心が広いから、お前の話が厨二病丸出しの最終ファンタジーでも聞いたるわ…
は、はは。意外とええ線言ってるやないか。まあ外れやけど。べっ別に顔なんて引き攣らせてへんわ。
アホ。ドアホ。はぁ…聞いて損したわ。うちの貴重な時間返せ。
ったくお前のつまらん妄想話でうちの毛根細胞1万個くらい死んでもうた。

155名無しリゾナント:2014/09/04(木) 09:59:40
毛根細胞と言えば。うちの能力はなあ、「鉄壁」言うてな。
自分の精神力の強さで、周りの事象を「拒否」することで絶大な防御力を得ることができる。理論上は核ミサイルの直撃も防
げるんやて。
別にそんなんに使うつもりもないし、ほんまに防げるとも思ってへんけど。
チートな能力やな、今そんな顔してたで? ただな…
ダークネスの幹部が全員能力を二重底にしてるのはお前も知ってるやろ。自分の能力をひけらかす馬鹿は早死にする。つまり
はそういうこっちゃ。うちかて、ただぼけーっとあの地下で隔離されてたわけと違うからな。乙女の言葉にささやかな嘘はつ
きものやで? 
まあ、お前に今更こんな講釈垂れてもしゃあないか。
とにかく、精神めっちゃ使うから、こっちに来んねん。おかげで能力使うた翌朝は枕元に抜け毛がべっとり…
って何言わすねん! 誰が若ハゲじゃ、やかましいボケ。
おいお前何これ見よがしに商売っ気出して…いらん、そんなん要らんわ!! なんかめっちゃ頭髪で困ってる人みたいやんうち。

156名無しリゾナント:2014/09/04(木) 10:01:44
は?もう帰る?
まさかお前、ハナからそのくっだらないもん売りつけるんが目的やったんか。
しょうもな。余裕のよっちゃんってやつか。
あんたが何企んでるか知らんけど、これだけは言うとくわ。
近いうちに組織の勢力図は塗り替えられるやろな…
せやから、さっきの話とは関係ない言うてるやろ。
うっさい、ひつこいわ。もうとっとと帰り。
おい、お客様がお帰りや。そこらへんに塩撒いとき。何やったらその胡散臭い男目がけて直接塩投げつけてもええねんで。
ってまだお前おったんかい。今日は午後からうちも出かけるんや。どこへ何でお前に話せるわけないやろ。
いい加減にしいや。あほ。ぼけなす。出てけ出てけ。その下品な顔二度と見せるなや。

157名無しリゾナント:2014/09/04(木) 10:02:34
>>152-156
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
いつもと違うスタイルなので出来が心配ですがw

158名無しリゾナント:2014/09/13(土) 13:16:56
>>152-156 の続きです



自らの体が溶けてゆくような感覚。
目の前が黄緑色の光に包まれ、そして視界が晴れてゆく。

これ、あの時と同じ感覚…?

衣梨奈は、さくらの精神にダイブした時のことを思い出す。
成功したのか。喜びに思わず握り締めた拳は、しかし目の前の光景が先ほどまでとまったく変わっていない。
当たり前のようなそうでないような。思わず首を傾げざるを得ない。

レールの上に停車している電車。
地面に敷き詰められたバラストに枕木。横たわっている黒髪の少女。
いや、これこそが彼女の精神世界なのか。

そんな想定は、慌てて電車から降りてやって来る若い男の姿に否定される。

「きっ君たち大丈夫かい!!!」

どうやら線路上に突如現れた彩花を轢いてしまったものと勘違いしているらしい。
顔は顔面蒼白、表情を引き攣らせながら駆けつけた運転手は、倒れている少女たちがほぼ無傷に近い状態であるのを見
てやや安心した様子ではあったが。

159名無しリゾナント:2014/09/13(土) 13:18:15
「大変だ!その子手にひどい怪我をしてるじゃないか!!すぐに救急車を…」
「べ、別に大した傷やないと!!」

気を失った春菜の手が血まみれになっているのを見つけた運転手を、慌てて制止する衣梨奈。
サイコダイブが失敗したのなら、何故春菜が倒れているのか。理由もわからず何とかこの場を切り抜けようと考えていると、
頭の奥へと訴えかけるような甲高い声。

― 生田さん!生田さん!! ―

「は、はるなん?」

― よかった!返事が帰って来た!ところで生田さんはどこにいるんですか? ―

どこにいる、とはまた何とも要領を得ない問いではあるが。
とにかく、語りかけてくる春菜に対して衣梨奈は。

― どこにいるも何も、さっきと同じ場所っちゃよ。はるなんこそどこに… ―

訊き返そうとした衣梨奈だが、はるなんの「ということは…」や「もしかしてこれは…」「そう考えるとこの状況はたぶん」
などという独り言の嵐に飲み込まれてしまう。

― ちょっとちょっと、一人で納得しとらんと、衣梨奈にも説明してよ!! ―

痺れを切らした衣梨奈に、春菜は現在の状況を掻い摘んで話し始めた。
光に包まれ、その光が引いていった時に広がる不思議な光景。そしてその場に立つ感覚が、かつてさくらの精神にダイブし
た時にとてもよく似ていることを。

160名無しリゾナント:2014/09/13(土) 13:19:30
それらのことをまとめ結論づけると。
衣梨奈と春菜の共鳴に伴なうサイコダイブはある意味成功し、そしてある意味失敗に終わった。というのは、春菜の精神は
無事に彩花の中に潜行できたものの、衣梨奈は現実世界に取り残されてしまったからだ。

― でも、生田さんの力がないときっと私は和田さんの中からはじき出されてしまうと思います。 ―

確かにその通りだと衣梨奈も思った。
今こうしている間も、春菜の言う「和田さん」という少女の中に自分の力が流れ込んでいっているような感覚がある。つま
りは彼女の精神を救うことは春菜と衣梨奈の共同作業になるということだ。

「君、さっきから何をぶつぶつと…もしかして頭でも打ったかい?」

そうと決まれば、あとは実践あるのみ。
と同時に申し訳ないがお邪魔虫にはおとなしくしてもらわないといけない。

「怪我はないですけど。あ、それより実はえり、魔法が使えるんです」
「はぁ?」

いよいよ怪我で頭がおかしくなってきたのか。
訝しげに衣梨奈を見る運転手を他所に、衣梨奈が人差し指を向ける。

161名無しリゾナント:2014/09/13(土) 13:22:03
「傘の魔法って言うんですけど」
「ま、魔法?」

確かに空は今にも泣きだしそうではあるのだが。
困惑する男を無視して衣梨奈は話を続ける。

「ほら、今にも雨が降りそうやけん。じゃあいきますよ、ちちんぷいぷい魔法にかーかれ!」

効果範囲は半径55cm、でも何でもなく。
最初から魔法など信じてはいないが思わず自らの頭上に目を向けた若い男は、尋常ならざる力で視界がぐるりとひっくり返
されるのを感じる。そしてそのまま地面に頭をぶつけて気絶してしまった。

「…ちょっとやり過ぎやったとかいな。ま、いっか」

相手が頭上に気を取られている隙に、相手の足にピアノ線を巻きつけ前方に思い切り引っ張りこけさせる。衣梨奈の師匠の
里沙ならこんな手荒な真似をせずとも男の記憶を奪うことができるだろうが、なにぶん衣梨奈の力は調整が利かない。

おそらく回送列車だったのだろう。
運転手の他には誰もいなさそうだ。これなら「精神潜行」に集中することができる。
衣梨奈は彩花を、そして春菜を背負い線路脇の芝生まで移動した。

162名無しリゾナント:2014/09/13(土) 13:23:18
>>158-161
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了
さりげなく某スレのネタを入れつつ

163名無しリゾナント:2014/09/14(日) 02:15:32
■ リホ −生田衣梨奈・鞘師里保− ■

「里保」

鞘師里保は生田衣梨奈にそう呼ばれていた。
たしか、出会ってすぐのころは「りほちゃん」だった気がした。
それが、知らないうちに呼び捨てになっていた。
そこまであっという間だった気がする。
なんだかでも、ちょっとうれしかったな、里保だって、んふふ…
あれ?いつからだったっけ?
いつから…


「里保」

生田衣梨奈は鞘師里保をそう呼んだ。
たしか、出会ってすぐのころは「りほちゃん」だった。
初めて、衣梨奈の気持ちを分かってくれた、初めての、大切な、友達。
衣梨奈は、いっぱいこの人に甘えていいんだ、そうおもった。
だって、りほちゃんは強くて、衣梨奈の気持ちを分かってくれて、だから、甘えてもいいんだ。

164名無しリゾナント:2014/09/14(日) 02:16:15
でも今は違う

大切なだけじゃだめだ、大切だから、それだけじゃだめだ。
りほちゃんは強い、でもそんな里保が、衣梨奈のせいで、衣梨奈の甘えのせいで、傷ついた、ボロボロになった。

里保は、ちっとも気にしてなかった。
でも、それがくやしかった、たまらなく、くやしかった。

「イクちゃんは、ぽんこつだから…」

イクちゃんイクちゃん、ぽんこつえりちゃん、えりぽんえりぽん…

里保にとって、衣梨奈は、対等な存在じゃないんだ。
衣梨奈のせいで傷ついても、そのことを少しも気にしてもらえないほど、
この人の中に、自分はいないんだ。

だから、「里保」そう呼んだ。

もう二度と、里保を傷つけさせない。

衣梨奈は強くなる。

戦うんだ。
戦って勝つ、衣梨奈は里保に勝つ。
それが、いつか、里保を傷つけることになろうとも


かまわない!

165名無しリゾナント:2014/09/14(日) 02:18:55
>>163-164
■ リホ −生田衣梨奈・鞘師里保− ■
でした。

166名無しリゾナント:2014/09/16(火) 21:41:27
TIKI BUN…TIKI BUN…TIKI BUN…

「なんだ?この低周波は…」

発動時そのスーツは特殊な低周波を発生させる

「前方に敵影…もとい武装なし、民間人、8…10人、全員女性…
なんだ、まだ子供か…しかしなんだあの恰好は」

その右脇から、ゆらめく赤と黒の炎、
黒く沈み、赤く光るインナー、
そして揃いの白いジャケット、

彼女らの名は…

「…撃て…」
「なっ、正気ですか、相手は子供ですよ!」
「命令だ!今すぐ全弾撃ち尽くせ! 全滅したくなかったら、今すぐに!」

167名無しリゾナント:2014/09/16(火) 21:42:09
>>166
以上です

168名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:30:04
★★★★★★

新垣と光井が去ったリゾナント、店内には残された10人
頼れるリーダーと頼もしき8人の仲間、そう9人は各々を信じて疑わない
「・・・」
ともに戦ったかつての友が去って行った扉をただ眺め、虚空に浮かぶ過去の偶像を描くのはリーダー、道重

ブーン、と空気清浄機の機械音がただただ空気を震わせ、こごもった芳香剤のにおいが鼻をつく
(こういう時になんて声をかければいいのだろう?)
同世代とは比較できない程多くの人と出会い、経験した鞘師ですら顔に浮かぶは困惑の色
『敵はかつての大親友』、気付いたとはいえ、改めて口に出すことで受け止めざる得ない現実を知り、傷ついたリーダー
それを齢一回りも離れた私なんかが簡単に『大丈夫ですか?』なんて平凡な言葉でいいのか?と悩む

「・・・ねえ、DOどぅ。まーちゃんが敵になったらどぅはまさを倒してくれる?」
「へ?」
突然空気をぶち壊して工藤にそんな突拍子もない質問をしたのは、本来空気を読めるはずの佐藤であった
「まあちゃん、何言ってるの?」
「ねえ?どぅだったらまさを殺してくれるの?」
「そ、そんなの・・・」
「まさはね、どぅが敵になったら、ためらいもなくスカーンって倒してあげる!!」
「な!!」

何を言い出してるのか、止めなくては、と自身の心拍数が明らかに警告を発しているのに喉から言葉が出ない
まあちゃんは変人だ、はっきり言ってしまえば一般常識がない・・・だけど何も考えていないわけでもない

「だってまさはどぅの友達だもん。それにどぅはまさと同じリゾナンターでしょ?
 まさがリゾナンターになって悲しむ人を減らせるように頑張ってるんだもん」
「そ、それはそうだけどさ」
「まさはどぅが悲しむの見たくない!どぅが悲しむ人を自分の手で増やすの見たくないもん!
 まさもそんなどぅ救いたいから。どぅはそんなこと望まないもん!」

169名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:30:42
何を佐藤が言いたいのか鞘師は理解した
佐藤は佐藤なりに道重に対して自分の意見を伝えようと必死なのだ
絶対的に語彙が足りない、でも・・・その思いは仲間達に伝わった

道重はふっと笑う
「何言ってるの、さゆみだってとっくに覚悟はしているの
 もしかしたら戦わなくてはならないそんなときもあるかもしれない、なんてね
 大丈夫、だって、さゆみはリゾナンターなんだから。心配いらないの」

その言葉を信じ、その夜はそれぞれ帰宅の途についた
帰り道の暗闇は明日、どうなるか知らない、とでもいうようにいつもより深く重く感じられた
目を瞑ったらすぐに寝れる筈の鞘師もその日は日付を跨ぐまでは夢を見ることができなかった

★★★★★★

それから二日後、再びリゾナンターはダークネスの気配を感じ、現場へと駆けつけた

鞘師の刀が幾千もの弧を描き、石田のリオンが縦横無尽に駆け抜ける
鈴木が敵を張り倒し、佐藤が無邪気に突き破り、生田がワイヤーで敵を絡めとる
小田が急所を的確に突き動けなくし、飯窪が仲間達の痛覚を麻痺させ疲労を軽減させる
工藤と譜久村は道重を守り抜き、道重が指揮を滞りなく務めていく

やはり、今日もリゾナンター優位のようだった
そんなダークネスを従えているのはまたしても詐術師だった
「な、なんなんだよ、おまえら、いつも、なんでおいらの邪魔をするんだ!」
誰もその問いに答えようとはしない。

二度と立ち向かってこないように、と思いを込めながら戦い続ける
傷ついた肉体と同じくらいに、気持ちが深く刻まれ、消えない思いとなってくれればいいのに、そう何度祈っただろう

170名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:31:51
しかし、願いは叶わない。何百回、こうやってダークネスと闘ったろう?それなのに一向に戦いは終わらない

(さゆみは正しいことしているのかな?変わらなきゃいけないのはさゆみのほうじゃないのかな?)
そのとき親友は答えた
(さゆはさゆのままでいい)
それだけでも嬉しかった。でもメール無精な彼女から数十分後にメールが届いた
(さっきの間違い。さゆはさゆのまま『が』いい)
涙が自然と出てきた、止まらなかった
嬉しかった、誰よりもわかってもらいたい人にそういわれることが

それから誓った、戦うしかない、自身の信念に従い、終わるともわからぬ永遠の中で
だから何を言われても構わない、それが私のできることだって信じているから

また一つ、近くで砂煙があがる。リオンに飛ばされたのだろう、男が背中を地面に打ち付け動かなくなる
現実に戻るといつも思う、なんでこんなに普通じゃないんだろうって
でも、それを選んだのは私なんだ、誰にでもできることじゃないし、普通じゃない私しかできないんだから

「さあいい加減あきらめてください! もうこれ以上傷つけるのはお互いやめましょう!」
「うるさい!!」
小さなその体から不釣り合いなほど強大で、絞り出したような悲鳴に近い声だった
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・うるさい!!!!!
 もう、あとがないんだ、おいらには、なんとしてでも手柄を示さなくちゃいけないんだ」
その叫びに呼応するかのごとく突風が吹いた

(((!? これは)))(((もしかして?)))(((風ということは)))

砂埃が止み、開けた視界。座り込む矢口の近くに一人の女が棒立ちで立っていた
女は矢口に手を貸すわけでもなく、ただ矢口を見下ろしていた

「・・・えり」
名前を呼んだその声の主へ、彼女はゆっくりと顔を向ける

171名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:32:27
フードも被っていない、電灯に照らされたその顔、忘れることのできない親友
「なんで?えり、さゆみだよ。ほら」
亀井は表情を変えずに首を横に傾げた
「えりの風はダークネスなんかにこれ以上汚されちゃいけないんだよ!ほら、こっちに来てよ」
真顔のまま、先ほどと反対側に傾がれる首

「なにやってるんだ!カメイ!!そこにいるリゾナンター全員をやっつけるんだ!!」
這いつくばったままの矢口の命令に従うように亀井はゆっくりと手を掲げる

「道重さん、危ない!」と工藤が叫んだころにはすでに風の刃が道重に向かって放たれていた
慌てて佐藤が飛んで道重を捕まえ、間一髪のところで切り抜ける
「道重さん、あぶなかった〜でも、みんなも危ない。とうっ」
リオンで早く移動できる石田といえどもあの工藤以外には見えない刃を避けることは困難
小田が一時的に時を自分だけが動けない空間にしたところで、速度自体はかわらない
そんなことは考えず、直感的に危険、と判断した佐藤は仲間全員を少し離れた倉庫群の一つの倉庫内に移動させた

「な、なんでまーちゃん、ここに跳んだの?」
突然瞬間移動したことに対応できず、しりもちをついてしまった石田が尋ねるが、佐藤はうーんと唸っている
「・・・なんでだろ?なんとなくここに行きたいって思って」
「な、なんとなくってそんな理由で?危ないじゃない!まあちゃん、どうしたの?」
しかし小田は冷静に周囲を観察しながら、相変わらずのトーンで会話に入り込む
「・・・いえ、この場所は亀井さんの風をよけるためにはうってつけかもしれないです
 ・・・四方に壁がありますから、攻撃するには障害物を破壊しなくてはりませんから、攻撃を視覚化できます
 ・・・それに障害物があるということはその分、風が届きにくくなります」
道重も同じことを思っていたのだろう、表情を引き締めなおしていた

「すごいね、まあちゃん!一瞬でこんなことを思いつくなんて」
『違う』
そこに直接、頭に飛び込んできた声
『佐藤には、何かあったらそこにいくように刷り込んでおいただけだよ』

172名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:33:15
「だ、誰?姿を現せ!!」
工藤がその声に向かって吠えた
『いやいやいや、工藤、何言ってるの?姿見せたら作戦台無しでしょ?』
「さ、作戦?はる達を追い込むための作戦だと?」

『いやいやいや、そんなことひとっこともいっていないから
工藤、話しっかり聞く、状況考える、冷静になる。教わったでしょ?』
「お、教わった?」
きょとんとする工藤に暗がりから声がかかる
「そや、これはうちらの作戦や。そこでしっかりみとき」
「関西弁?ということは?」
月明かりが窓から差し込み、暗がりを照らした。そこには光井の姿、そしてその手にはトランシーバーが

「襲撃することは視えとった。せやから、次に何かあった時にはここにくるように新垣さんが佐藤にうえつけといたんや」
二日前に佐藤を褒めるように頭をなでている新垣の姿が思い出された
「あ、あのときですか?」

「それで愛佳がいるのはいいけど、何をする気なの?」
「・・・道重さん、やはりこの件は愛佳たちも手をかすべきやと思います
 もともとの原因がうちらにあるわけですから」
『そういうこと。さゆみん、私達も協力させてもらうからね』
トランシーバーから新垣の声が流れてきた

しかし、と鞘師は思う。いったい、どうやって新垣が亀井を捕えるのかと
『そろそろやすしが、どうするのかな?なんて思う頃だろうね』
自分の心を完全に読まれているようで、唇を少し噛みしめた
『さあ、その倉庫からでてみなさい。ただしゆっくりね』

「ゆっくりとってどういうことなんだろうね?香音の眼にはなんも見えないんだけど」
そういいさらに数歩踏み出そうとする鈴木
「! まってください、鈴木さん」

173名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:33:48
「ま、待ってっといわれても急には止まれない 痛いっ」
痛みを訴え倒れこんだ鈴木、その足首から血が流れていた
「・・・ピアノ線ですね。それも視えないくらいの細さ」
「ええ、はるの眼でようやくみえるくらいのピアノ線。それもこの倉庫群全部に張り巡らされています」
地面には鈴木のものと思われる血溜りができていた

「鈴木、動かないで。治してあげるから。ねえ、愛佳いつからこの準備をしていたの?」
「準備ですか?そうですねえ、作戦を思いついたのはこの前会う時より前ですね
 準備、という意味でしたら・・・数時間というところですかね」
「たった数時間で?」
驚くのも当然だろう。工藤の眼にみえているのは巨大な倉庫群だったのだから
そこにすべてピアノ線を張る、それがどれほどの労力がいるのか、精神力がいるのだろう
「・・・新垣さん、さすがやね」
『こら〜生田!感心している場合あったら、周囲を警戒する
 カメは私達を狙っているんだから、気を抜くと危険だよ』

しかし、と譜久村は疑問に思ったことを光井に問いかけた
「どうやって、亀井さんは私たちの居場所を把握しているんでしょうか?」
光井はニヤリと笑った
「それはな、愛佳と道重さんがおるからこそできる作戦なんや」
「作戦?」

「もともと私たちはリゾナンター、共鳴のもとに繋がっておることはみんなも知っとるやろ?
 今回は、その絆のために愛佳と新垣さんは亀井さんが復活したっちゅうことに気づいた
 っちゅうことは逆もありえるやろ?」
はっと気づいたように譜久村が手を口元にあてた
「お二人の共鳴の絆を頼りに私たちの居場所を突き止めることが亀井さんにできる」
「そういうことや。共鳴を逆手にとって亀井さんをここにおびきよせる」
『そして近づいたところを私が生け捕りにする』

174名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:34:47
「でも、風の刃でワイヤーを破壊することだって想定されるじゃないですか
 遠距離から攻撃してきたらどうするんですか?」
『だからこそ、そのためにこれだけ広範囲に結界をはっているの
 幾重にもワイヤーを断てば、風の刃の飛んでくる方向くらい簡単に解析できる』
穴はない、ってことですか、先輩、と鞘師は思う

「亀井さんは瞬間移動することはできへん、遠距離からの風または近づいてからの攻撃しかあらへん
 それにもしダークネスの瞬間移動装置を使ったとしても、この倉庫の周りにも幾重のワイヤーが張り巡らされてる
 近距離ならあんたらでも攻撃できるやろ?風の動きはこの使っていない倉庫にたまった埃で見えるようになっとる」
鼻を刺激する黴のような臭いが漂っているのはそのせいだった
「さすが愛佳とガキさんですね」
『何言ってんの、みんなにも協力してもらうんだからね。ただ自分の身は自分で守ってもらうよ、自己責任だからね』

先輩二人の作戦には落ち度はないように感じられた
新垣を攻撃する可能性もあるが、そこは新垣のことだ、安全な場所にいるのだろう
問題は亀井を捕えてから、ということも鞘師は考えていた
いずれにせよ、まずはその姿を捕えなくてはならないと、柄を持つ手にも力が入る

トクン、トクンと自身の心臓の刻むリズムが静寂を不気味に助長させる
一分が数時間にも感じられるような濃い時間が流れる

そして、その時が訪れる
「来るで」
『来た!!』
新垣の張っていたピアノ線が一斉に竜のように一か所に集まっていく

その中心には当然のように亀井の姿
目に見えないとはいえ、明らかに自分を狙っている何者かの気配を感じあらゆる方向にカマイタチを放つ
カマイタチにより切断された糸は地上にいる11人からは見えない
しかし、その後ろから新たなもピアノ線が次々と亀井の元へと集まっていくのだろう、亀井の手は動き続ける

175名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:35:21
「いける、これなら亀井さんを捕まえられます!」
「で、でも新垣さんは大丈夫なんでしょうか?あのピアノ線は新垣さんが全て操っているんですよね?
 あのピアノ線を辿れば新垣さんの元にたどり着くことになるんじゃ?新垣さんはいま、無防備なんですよ」

「だれが無防備なんだって?」
振り向くとそこには新垣が腕を組んでたっていた
袖からは操っているはずのピアノ線の束は全く見えない
「え?え?新垣さん?なんでここに?」
「新垣さんがここにいるのにどうやってピアノ線が亀井さんにむかっているんですか?」

「・・・あれはフェイクなんですね」
「そうや、もともと、ここの現場には詐術師が現れたっちゅう未来は視えとった
 新垣さんのワイヤー操作の根本は精神操作、それを阻害されたらすべて終わり
 せやから、新垣さんはこの工場を選んだ」
「そういえば、ここはなんの工場なんですか?」
その問いに答えたのは工藤であった
「繊維工場の倉庫ですね」
「御名答、前もって新垣さんはただの繊維に自身の念動力で亀井さんの位置をただ辿るように念をかけた
 そして、建物の周囲にだけ本物のワイヤーで亀井さんが攻撃をしてきたときに方角を把握できるようにした
 攻撃されたとき、その位置を座標で示し、念を込めた糸たちが自然と飛んでいくようにしただけや」
「・・・あの糸にはなんの殺傷力もない、ただ亀井さんの位置を示す、それだけの役割なんですね」
小田の眼をまっすぐにとらえて、新垣が満足そうにうなずく
「小田ちゃん、やるね」

「すごーい!!新垣さん!!それでこれからどうするんですか?」
生田の問いに振り返って新垣は袖から透明な糸を取り出した
「あの糸に集中している間に死角からこれで直接たたく。なるべく生け捕りにしたいからね」
無数の糸に絡み取られそうになっている亀井を地上から仰ぎながら、悲しそうな目でつぶやく
「カメを救わなきゃね」
そして、その糸を亀井めがけ、伸ばしていく

176名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:36:47
絶妙に亀井のカマイタチを避けながら糸は伸びていく
時折、新垣は「おりゃ」だの「およよ」だの呟きながらも集中力を欠かすことなく伸ばしていく
そして亀井にあと少し、というところまで伸びていったのだろう、小さく、「いくよ」と仲間達を振り返り力強く言った
ワイヤーが亀井の体をぐるぐると囲み、一気にその腕を縛り上げた
突然動かなくなり、縛り付けられた形になった腕を亀井は見上げた
地上からはその時の亀井の表情は判断できなかった

「さあ、みんな、ここからカメの動きを」

そこで新垣の言葉は途切れ、地面に吹き飛ばされた
突然、飛ばされた新垣に仲間達は驚き、慌ててかけよった

「新垣さん、どうしたんですか?」
「あ、愛佳、カメのヤツ、私のワイヤーをやぶった」

そんなはずはない、と鞘師は宙を見上げる
あのとき、『確実に』亀井さんの腕は動きを封じられていた
これまでの攻撃を見る限り亀井さんの風は掌の上から生み出されている
それをしってのうえで新垣さんは亀井さんの腕を縛り上げたはずなのに

そして、自分自身が風のように飛んでくる亀井の姿が目に映った
「な、やばい!こっちに来る!」
慌てて石田がリオンを呼び出し、鞘師が水の刃を生み出す
しかし、視えない風を相手に何ができるのだろう?
不安が急速に膨らんでいくと同時に、距離が縮まっていく

光井が叫ぶ
「2秒後、飯窪と譜久村、左に飛び込め!5秒後、佐藤、工藤と石田を抱え飛ぶ
 鞘師は鈴木につかまり、鈴木は透過を発動。小田は生田とともに倉庫の中に避難
 道重さんは9秒後に新垣さんの左腕を治してください!」

177名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:37:33
予言通り、7秒後新垣の左腕がはじけとび、道重が慌てて腕をつかみ患部同士を繋ぎ合わせる
「ちょっと、愛佳!!これはやばいんじゃない?」
「さ、佐藤、可能な限り早く、飛んで逃げるで」
「む、むり〜さっきの移動ですぐにはとべない!!」

こうしている間にも無表情の亀井は迫ってくる
目的はやはり、リーダーシップをとっている新垣、または光井か
それとも治癒を行える道重か、攻撃の要の鞘師か?

しかし・・・亀井はそんな4人を無視し、工藤達が逃げ込んだ倉庫へ向かいカマイタチを放った
轟音とともに屋根の一部が崩れ落ちる

「生田!小田ちゃん!」
道重は叫ぶが、次々とカマイタチが倉庫を襲いその声はかき消される
「な、なんであそこばかり?」
「そんなこといってられないですよ!このままじゃ、二人が」

豆粒ほどだった亀井の姿がもう肉眼でもその表情がはっきり見えるほどに迫っている
倉庫の二人以外に亀井の興味はないらしい、倉庫へ一直線

「こ、こうなったらえりがなんとかしなきゃいかんけん」
「・・・いやはや、きびしいですね」
倉庫の中の二人は臨戦態勢をとっているものの、能力は心もとない
小田が時を感じなくしてもカマイタチがなくなるわけではない、放っているカマイタチは存在するのだ
それを小田は避けられるかもしれないが、生田が避けられる保証はなかった
(・・・能力は使っても意味はない、ということですか)
万事休す、そう思ったのだろう、笑ってしまう
「なに笑っていると!さくらちゃん、構えると!」

178名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:39:12
どうすればいい、と鞘師はまたも考えをめぐらす
この距離でなにかできるのか?いや、できない。何もできないのか?後悔するしかないのか?
いやだ、いやだ、いやだ、でも・・・何もできない、のか?

そう思い、亀井の姿を目で捉えた
風になびく緩やかな黒髪、魅惑的なあひる口、柔らかそうな肌、仲間達に向けられた両手、ピンク色に輝く瞳
(・・・ピンク色?)

「え〜い、これでもくらうと!えりぽん必殺!ワイヤー攻撃」
新垣と比較するとどうしてもその粗さが目立つが、ワイヤーが亀井向かって伸びていく
しかし、そのワイヤーの先端は亀井に触れる、その直前で淡雪かのように崩れていく
「な、なんやと?」
小田は思い出す
(・・・あの時と同じ、私が投げたナイフが消えていったのと同じだ)

迫りくる亀井を生田が恐怖に満ちた目で眺め、ぺたんと座り込む
「む、無理やって、これは、さすがに」
「・・・大丈夫ですか?生田さん?」
ハハ、と引きつり笑いをうかべながら弱弱しく答える
「大丈夫じゃないと」

そのとき、目の前が突然、太陽が昇ったかのごとく明るくなった
「イヤ」
誰かの声が届き、次の瞬間には緑色の炎がたちあがり、亀井を飲み込んでいた
「バッチリデス」
小柄な女性が残っている倉庫の屋根の上から顔をのぞかせ、笑って見せた

179名無しリゾナント:2014/09/19(金) 00:43:06
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(4)です
今のメンバーに興味がないわけではないですよ。だーいし面白い!
初期のメンバーばかり活躍させているけど、後半に現娘。メンが活躍するのでご安心を。
卒業までには完結は厳しいな。

ここまで代理よろしくお願いします。

180名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:49:57
■ コールドウォール −新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹− ■

「たっなっさっ!たーーーーーーーん!」
空を切って跳躍する影、猛烈な速度で田中の背後から迫りくるは、魔獣か悪魔か。
もういい加減うんざりとしながら身構える。
同時に強烈な激突、衝撃が背中を襲う。
「ぐはっ痛ったい!佐藤!」
「ぐふふふーひゃー!」
「うーるさい!」
「たっ田中さんすんません!もうまーちゃん田中さんから離れろよ!」
「やですよーだ!まーちゃんのたなさたんだもーん!」
「やめろ!『の』ってなんだよ『の』って!失礼だろっ!」
「べーっだ!まーちゃんのったらまーちゃんのだよーん!ねー?たなさたん!ねー?」
「いやちがうけん」
「ほらー!まーちゃんはなれろよー!」
「ひゃー!やだー!ぐひひひひ!」

「…いやー、なぁんか、上が騒がしいねぇ…」
「そうですねぇ、ええことちゃいますかぁ?」
階下では新垣、光井が並んで食後の洗い物。
「まぁねぇ、そうだねぇ…」
複雑な思い。
新垣はもう一度、天井を見上げる。

”あの”たなかっちがねぇ…

181名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:54:52
朝からなぜこんなに騒がしいのか。

近くのアパートメントに仮住まいしていた10期、
――先日の入院騒ぎの後、
いつのまにか、あの4人はそう呼ばれるようになっていた――、
は、現在、リゾナント前の通りを挟んで向かい側、
新築マンションの2部屋を買い取り、そちらに移り住んでいた。

ちなみに2部屋なのは凰卵女学院で寮生活を続ける9期、
――ついでのように、
譜久村、生田、鞘師、鈴木の4人までヘンテコな呼び名で通るようになっている――
も、いずれは卒業するだろうからで、
まあとにかくも、その結果、当然のように起床と同時に4人はリゾナントに殺到するようになっていたのである。

朝食の後、石田は凰卵学院へ、道重と飯窪は開店準備、そして佐藤と工藤のお世話係が…

”あの”たなかっち…

なのである。

田中は難しい人間だ。
人間嫌い、子供嫌い、干渉嫌い、まさに野良猫のような性格。
とても子供の世話が務まるような”出来た”人間ではない。
実際、10期が身を寄せた当初、田中は完全に、この4人を拒絶していた。

拒絶。

明確で、巨大で、分厚い…、冷たい、壁。

だが佐藤優樹は、そんな壁をものともせず、頭から突っ込んでいく。
何度も何度も何度も…何度も、である。

182名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:55:40
新垣は、佐藤が田中に罵声を浴びせられ、
冷たく拒絶される場面を数えきれないほど思い出せる。
そう、こんな短期間で、すでに数えきれないほど。

怒号。

ほかの10期が小さくなるほどに怯え、縮こまるほどの鋭い罵声。
そのたびに、佐藤は、げらげら笑いながら、こっちに走ってくる。
「ひゃー!にがきさーんたすけてー!たなたさ…えっと、こわいひと怒ってるー!」
「ちょ、アタシを巻き込まないでくれるぅ?」
そのたびに、新垣が返す言葉。

ほんとうに、アンタはすごいよ…アタシはさ、そう、アタシはたった一回で…

ズキリ、かつての傷が、新垣の胸を突く。
佐藤が罵声を浴びせられる場面は、数えきれないほど思い出せる。
だが、新垣は一度しか、思い出せない。
新垣自身が田中に浴びせられた罵声、冷たい拒絶、その場面を。
ズキリ、また痛む。

「いやーしかし、すごいよねーあの子は、さ。」

田中の難しさは何も新人にだけ向けられているものではない。
その拒絶の壁は初対面に近かったころには、すべてのメンバーが
一度は向けられていたものだ。

道重や光井は慣れたもので、もう最初からそういうものとして田中と接してきた。
機嫌が悪そうならそっとしておき、機嫌がいい時はそれなりに楽しく盛り上がる。

183名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:56:21
では新垣は違うのか?
いや、道重や光井と変わらない、もともと関係は悪くはなかったはずだ。
それに、今でも仲が悪いわけではない。
皆が集まってワイワイしている中でならば、普通に会話もする仲だ。
だが、二人きりになった途端、完全に会話が途切れてしまう。
やがて、どちらともなく、二人きりになる事自体を互いが避けるようになり…
そんな状態が現在まで続いている。

いつからだろう?やっぱり愛ちゃんがいなくなった、あの時の…
ズキリ、新垣は強く言い過ぎたのかもしれない。
ズキリ、そしてそれは田中も…
お互いに、それがわかっていながら…

184名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:57:07
あのとき、アタシも、もう一度、飛び込むべきだったの、かねぇ…

ドシーン!バターン!ぎゃひー!
怒号と足音が降りてくる。

「ちょっ?ちょい?なにぃ?」

勢いよくリビングへ飛び込んでくる佐藤。
靴下履きの足でフローリングを文字通り滑走、両手を突いて減速させると同時に、
一直線で新垣へ向かって突っ込んでくる。
「キャハハハハ!ひゃー!にがきさーん!たすけてー!」

満面の笑み。
この笑顔が、田中の心を溶かしたのだ。
自分には出来なかった、あの壁を、この子はあっさりと…

「もう怒ったけん!ガキさん!そんガキつかまえて!今日こそは!」
「だーからさーアータシは巻き込まないでって…」

もしかしたら、さ、また、アタシたちも、もしかしたら、さ…
ねぇ?たなかっち…

185名無しリゾナント:2014/09/19(金) 19:58:34
>>180->>184
■ コールドウォール −新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹− ■
でした。

186名無しリゾナント:2014/09/20(土) 09:24:16
>>179です
代理投稿ありがとうございました。
いつもありがとうございます。

187名無しリゾナント:2014/09/20(土) 13:56:59
>>158-161 の続きです



一方、彩花の精神世界に入り込んだ春菜は。

一面に草花が咲き誇る草原に立っていた。
見上げると、抜けるような青い空。それでも、春菜はその景色に違和感を覚えていた。
一番大きな違和感は、ここまで晴れ渡っているにも関わらず。
光差し込む源が存在していないということ。太陽が、ない。

吹き抜けるそよ風も、美しく咲く花も、どこまでも広がる草原も。
色彩だけが強調され、そこに温度と言うものが存在していなかった。
さらに、もう一つの異常な光景は。

目の前には、木枠に嵌った美しい絵画。
それと同じものが、無数に空間に浮かんでいた。

これが、今の和田さんの精神世界…

かつて春菜の前で絵の魅力について語った彩花。
だが、色彩だけが暴走し無数の絵画が不安定に浮かんでいる光景からは。
その片鱗すら、見受けられない。

188名無しリゾナント:2014/09/20(土) 13:58:26
それにしても、見たことのない絵ばかりだ。
絵画に関してはある程度の知識を持つ春菜だが、空間に浮かぶ絵画たちのタッチには見覚えがまるでなかった。
もしかしたら彩花の心が描くオリジナルのものかもしれない。

その絵画のうちの一つに、自然に目がいく。
そこには、繊細なタッチで描かれた四人の少女たちの肖像画があった。

これは…和田さん?

右手前に描かれた少女は、今よりも幾分幼さを残しながらも凛とした美しさを湛えている彩花。そして春菜は、他
の少女たちにも見覚えがあることに気づく。

この人たちは。そうか、そういうことだったんだ…

彩花の隣に立つ、色白で柔和な表情を浮かべる少女。
後ろに立つ、聡明そうな少女。その隣にいる、浅黒い活発そうな少女。
「スマイレージ」と名乗り、春菜たちに戦闘を仕掛けた三人の能力者たちだった。

― うちには隠し玉の『リーダー様』もいるしね ―

そして戦いの後、花音の残した言葉が春菜が見ている絵と符合する。
和田彩花こそ、彼女の言っていたスマイレージのリーダーなのだろう。
彼女が垣間見せた能力の一端は、その予測を補完するに十分であった。

彩花は春菜がリゾナンターだと知っていて近づいたのか。
否。春菜は首を振る。もし本当にそういうつもりなら、あの時に他のメンバーとともに姿を現すのが効果的だろう。
そのような小細工を弄するようなタイプにはとてもではないが、思えなかった

189名無しリゾナント:2014/09/20(土) 13:59:55
思い直した春菜の目に飛び込んで来たのは、傷だらけの四人が互いを支えあいながら辛うじてその場に立ってい
る絵だった。先ほどの絵とタッチは似ているが、そこには苦しさや忍耐のようなものが含まれているように思えた。
見ているだけで、胸が押しつぶされるような絵。息を呑むことすら忘れてしまいそうなプレッシャー。
この姿が、彼女たちが辿ってきた道だというのだろうか。

和田さん、どうしてここまで?

言葉と共に、自然に絵画に手が伸びる。
カンバスに手が触れた瞬間、電撃にも似た衝撃が春菜を突き抜けた。
とともに彼女の頭に流れ込んでくる、膨大な情報。
頭の中に描かれる、もう一つの世界。

190名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:00:30


人工能力者「エッグ」としてダークネスに育てられた、文字通りの能力者の卵たち。
とある幹部の思惑で組織を離れ、警察機構の手に渡る事になった彼女たちだったが、待ち受けていたのは苦難の連続だった。
ダークネス時代と変わらない過酷な実験、そして実戦さながらの訓練。

襲い掛かる苦難を耐え、そして地に伏せることなく立っていられたのは。
自分達が一人前の能力者として、認められたいという強い意志。
そして共に目標へと向かってゆく仲間の存在があったからだった。
だが無情にも、一人、また一人と脱落してゆく子供達。その中に、彩花が親友と呼んで憚らないある少女がいた。

いつもにこやかな笑顔を浮かべるその少女は。
人々を癒す力を持ちながらも、戦う力をほとんど持たなかった。
いつしか彩花が彼女を守り、傷ついた彩花を少女が癒す。
戦場で築いた絆はやがて永遠へと続いてゆくとすら思えた。しかし。

運命は彩花に苛烈な結末を与える。少女はとある訓練のさなかに命を落としてしまったのだ。

その少女を喪った悲しみ、絶望は計り知れなかった。
一度は闇の淵に落とされた彩花。
その心を救い出したのは、他ならぬ同僚の前田憂佳だった。
彩花は憂佳に心を預けるとともに、もう二度と「友」を喪わないと心に誓った。

191名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:03:14


どうやら、衣梨奈の能力と春菜の能力が共鳴しあった結果、通常ではありえない現象が起きているらしい。対象物に触れるこ
とでその情報を引き出すと言えばサイコメトリーとも言うべき能力であり、能力複写を得意とする譜久村聖の基本能力でもあ
る。それが春菜にも行えるというのは、一重に衣梨奈による精神世界の具現化と春菜の五感強化、さらに彩花の精神世界の中
にいるという条件が揃った結果の産物だった。

春菜は得心する。
「スマイレージ」の三人と交戦した時の、ともすればこちらが突き落とされそうになるほどの彼女たちのプライドの理由を。
彼女たちは、負けられなかったのだ。この程度の相手に遅れを取るようでは、先にある大きな目標など遠い夢。
確かに感じは良くはなかったが、彼女たちなりに高みを目指していたからこその態度。
彼女たちの未来へと足掻く姿と誇りが、目の前の絵には込められている。素直にそう思えた。

そこで初めて、春菜は疑問に感じる。
共に支えあった、目的を同じにした仲間たち。そんな仲間たちがいるのにも関わらず、今の彩花は廃人同然だ。一体、彼女の
身に何が起こったのか。

その答えは、無数に浮かぶ絵画たちの最奥にある絵にある。
そう春菜の直感が訴えていた。
その絵だけが、他の絵とは一線を画した禍々しい気に覆われている。
カンバスは黒く塗りつぶされていて、何が描かれているかもわからない。
それだけに、その絵画が今の彩花を形作る何かであるように思えた。

192名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:07:10
黒い絵に向かって、一歩踏み出したその時だった。
空間が激しく揺れ、所々に大きな歪みが生み出されてゆく。

「これはもしかして外の生田さんに何か…!?」

彩花の精神世界と言えど、それを形にしているのは紛れも無く衣梨奈の力。
その世界が揺らいでいるということは、明らかに彼女の身に何かがあったということだ。

だが、春菜には衣梨奈を手助けする術はない。
彼女自身は自らの意思で彩花の精神世界から脱出することはできないのだ。
いや。そんなことを考えること自体、衣梨奈に失礼な話。彼女は自分を信頼しているからこそ、サポートに回ったのだ。
自分が先輩である彼女を信頼できないはずがない。

ならば、やることは一つ。

あの絵を読み解いて、和田さんを助けるための鍵を絶対に…見つける!!

春菜の強い願い。
それを嘲笑うかのように、黒く塗りつぶされた絵はゆらゆらと、歪んでゆく空間に浮かんでいた。

193名無しリゾナント:2014/09/20(土) 14:08:12
>>187-192
『リゾナンター爻(シャオ)』 更新終了

194名無しリゾナント:2014/09/23(火) 22:28:41
■ サンクスフォア −工藤遥− ■

キラキラと床に広がる白い霧、その中心に立つは白狼と3人の少女たち。

「うん…かっこいいよすごく」
「ウチも見せてあげたいよ、けっこう似てるのリオンに」
「どぅーきれーい…」

「ありがとう…」

みんなありがとう

この姿を見ても
誰もハルを嫌わなかった。
誰もハルを恐れなかった。
みんなハルを認めてくれた。

「でもちょっと寒いかなこの霧」
「そぉ?ウチは平気だけど」
「どぅーの毛皮冷たくてきもちいー!でっかいどーの雪みたい!」

「おいおい…」

みんなありがとう

じゃあ、みんな、いこうか

195名無しリゾナント:2014/09/23(火) 22:29:12

>>194
■ サンクスフォア −工藤遥− ■
でした。

196名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:09:35
■ モックコンバット−新垣里沙・田中れいなX9期・10期− ■

リゾナント地下、モニター室に座るは道重、光井。
二人の見つめる先、4面の大画面と10面の小モニターには、様々な角度から映される2つの部屋。

一方は新垣と9期メンバー4人の姿が
一方は田中と10期メンバー4人の姿が

9期10期…変な呼び方や。
ほんまに佐藤は変なことばっかり考えるんやから。

「新垣さんのAルームのほうは生田が先鋒みたいですね」
「生田かぁ。生田もずーっと新垣さん新垣さんよね」
「生田にとっては貴重な体験なんちゃいます?
思い切り能力使ってもびくともしない相手とやらんと、体得できないタイミングというか」
「ガキさんが言うにはそれでも相っ当!痛いらしいけどね、生田の【精神破壊】受けるの」

「けどこうやって分かれてみるとそれぞれの色…というか
4人集まったときの性格の違いみたいなんがはっきりでるもんですね」
「ええ…」

Aルーム、新垣に対する4人は生田を先鋒に一対一の模擬戦を開始するようだ。
ところが一方、Bルームは…

197名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:10:09
「もうはじまっとりますやん」
「前へ!前へ!って感じね」

総がかり。

あいさつもそこそこ、いきなり襲い掛かる。
最初から一対一なんて考えてもいない。
4人いるんだから4人で戦うのが当たり前、それが彼女たち10期の色。

「なんかずうっと喋ってますね」
「戦いながら作戦会議してる」
「手と口が同時に動くっちゅうか…あ、田中さん容赦なく飯窪行った、え?」
「佐藤が止める、あ、ふきとんだ…でもすごいね、読んでたんだ」
「あらー、田中さん飯窪への攻撃外しよりました?」
「モニター越しって面白いね、これ飯窪さんきっと自分の位置ずらしてるんだよ」
「そか飯窪のホントの場所がみえへんのや…
ある意味恐ろしい能力ですよね。あの田中さんですらあっさりかかってしまう」

「他の3人は見えてるの?飯窪さんをうまく庇いながられいなの左右に回り込んでる」
「そのようですわ、おー工藤当てた?いやぎりぎり避け、完全に引き裂きに行ったであれ、恐ろしい」
「速いね、狼になると。」
「あの子も思い切りええとこあります。普段は田中さんの目も見れんほどモジモジしとるくせに」
「うふふ。でも私とか愛佳には、普段からちょっと上からよねあの子。」
「生意気盛りで困ったもん…あー田中さんの膝が入った…全然効かんか…頑丈やなー」

198名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:11:11
「石田はほんと愛ちゃんみたいな戦い方するね」
「テレポートからの格闘…ほんまです。
でも攻撃が似てるだけに、読心術の有無の違いが浮き彫りになりますね。
田中さんもそのへんの差で石田を読み切って…あ、でも石田当てた!お、お、お、おおっ?あ!
ふー田中さん打ち終わりに合わせて一発、あの返しで連打を切りましたね、今のあぶなー。
目にも留まらんような連撃、キレっキレや…あの子、ホンマ強い。」
「【幻想の獣】は使ってないみたいね。たぶん禁止はしてないんだろうけど…ねえあれ、
飯窪さんあの子なにやってるの?ほふく前進?」
「あーこれは…無茶やなぁ…」
「これ、偽の自分にれいなおびき寄せて足掴んで引き倒す気?
もーそんな手、れいなひっかかるわけないとおもうけど…でも…面白いかも」
「佐藤が誘導役ですね、普段あんなんなくせにこういうとこ察しが早いねん」
「きた…れいなきたよ…もうすこしもうすこし…あっ」
「あっ、掴ん」
「ばれてるしー」
「残念、ほかの子の動きから飯窪の場所読まれてましたやん…あ、飯窪KO」
「移動が遅すぎて不自然だったのもあるかも、あ…石田」
「まともに入りましたね、こら立てへんわ。残りは工藤と佐藤ですかって言ってるそばから工藤、
3、4、5…わからんけど、いま田中さんが何度も蹴り込んだあたりに顔が埋まっとったんやな」
「あー溶けてる溶けてる…こっちは決着ね、佐藤もう笑っちゃってるし」
「でも惜しかったー…皆ガンガン攻めて、飯窪みたいなタイプ普通後方待機するもん思たけど
あの子らは迷わず全員で攻撃に参加するんですね、あぶないわー」
「なんか途中から不思議と応援しちゃってたね…あそういえばガキさんたちのほうは?」

「もう2人終わってますね、生田・譜久村と」
「あとで録画みなおしましょ…あーおしい、鈴木が…」
「自分が攻撃してるときに同時に見えない角度から打撃されると、
【透過】が間に合わないみたいですね…あとは鞘師か。」
「はーん!凛々しいりほりほもかわいいの…」

「……(ホンマこの人は)……」

199名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:11:46
――――

「やー完敗よ、もー鞘師には全然歯が立たないわ。
あーっと思ったらさ、もう腕も脚も極められちゃって。
ほぁー?って、もう参った。」

「でも新垣さんが【精神干渉】使ってたら逆に私たち全員何もできてないです」
「いーのいーの鞘師、細かいことは。
みんなも自信もってダイジョブだよー。前やった時よりみんな成長してる。」
「新垣さん!衣梨は?衣梨はどがいだったとですか?エリは?エリは?!」

「うー…なんでかなー?なんで上手くポンポンポンとこう、繋がってかないのかなー?うーっ」
「や、でもほら私たちだけであんなに協力してがんばれたんだし、みんなで
私の事、何度も守ってくれたし、私感動したの、あゆみんすっごい良かったと思うよ」
「……そう?」
「うん!すっごく!それに【幻想の獣】温存した状態であんなに戦えるなんてすごいよ!」
「えっ?そーかなぁ?えーっ?そーおぉ?」
「そーだよおー」「そーかなー?へへへっ」「そーだよおー」

「チェッ!チェッ!チェーッ!なんだよ!結局センパイに勝てたの鞘師さんだけじゃんか!
ちくしょー!つーかまーちゃん!なんで降参しちゃったんだよ!ちゃんと最後まで戦えよ!」
「だってどぅーがビターン!って倒れてビターンって、こんな感じ、ビターン!って!ぐひゃひゃ!」
「なっ、笑うな!モノマネするな!」
「ビターン!」
「やめろー!」


悲喜交々

リゾナントは今日もにぎやかだ。

200名無しリゾナント:2014/09/25(木) 19:12:30
>>196->>199
■ モックコンバット−新垣里沙・田中れいなX9期・10期− ■
でした。

201名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:44:54
■ アイエフブイ −鈴木香音・鞘師里保− ■

「もしかしたら、かのんちゃんの力って【物質透過】じゃないかもしれない」
あのとき、りほちゃんが言ってたことがなんなのか、
アタシには、まだよくわかんないんだけど、
それでも、りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
だから…

カカカカカカッ
シュシュシュシュシュ…
ズズズズズズゥンン!!ズシィン!!!

「うーぉっ!強烈っ!」
アタシは頭を抱える。
鼓膜がおかしくなりそうな轟音。土ぼこりがもうもうと巻き上がる。
アタシたちがなんでこんな目にあってるか、説明したいとこなんだけど、
いまちょっと取り込んでるんだよね。
だっからもーのすごく簡単に言うと、アタシとりほちゃん、
めっちゃくちゃ撃ちまくられてる最中なわけ…

…戦車に。

うわまた来た!

ズガン!ズズズズン!

戦車って言っても、なんだっけか?
ほへーせんとーしゃーりょ?なんかわからんけど、まあ戦車だよ戦車。

「やー、この位置、もうばれちゃってるねー」
もーりほちゃん冷静すぎてアタシのほうが焦るよ。

202名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:45:58
「りほちゃん、どーする?後ろに見えるあそこの瓦礫まで走る?」
「んー、突っ込もうか」
「うんわかった…え?」
「かのんちゃん、あれに突っ込もう」
「お、おういいね…詳しく聞こうじゃないか」

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
りほちゃんが「やる」といったことにアタシが反対する理由なんかない。
でも、さすがにそれはさぁ。

「こないだ練習してた時の事、覚えてる?」
「うん、もちろん」

格闘訓練、りほちゃんの攻撃、アタシが【物質透過】、りほちゃんの突きが身体をすり抜ける。
ふと、りほちゃんが動きを止める。
じっと自分の手を見る、曲げたり伸ばしたり。
「どったの?りほちゃん」
「かのんちゃん、もっかい」
言うが早いか突き、アタシ【透過】
ズボ!すんごい音がして突き抜ける。
で、今度はそのまま、んーとか唸ってる。
なんか、手をにぎにぎしたりとか、やってたみたい、アタシの後頭部だから見えんかったけど。
そのうち、両手を突っ込んだり、その手をパタパタ交差させたり、
スリッパもってきて片腕突っ込んだままアタシの上から落として透過させたり、
しばらく不思議な動きを繰り返して、
で、こう言ったんだ。

「やっぱり…ちょっとだけ…『ズレ』る」

203名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:46:29
ズズズン!ガラガラガラ!
うわぁ崩れてきたぁ!ここもとうとうオシマイだよ。

「そういうわけだから、かのんちゃん、今決めたリズムで突っ込んで。
あとはウチが合わせるから。」
「アタシはいいけど、りほちゃん戦車まで『そうする』つもりなの?」
「うん、だいじょうぶ、かのんちゃんとならウチやれるよ。」
そっかアタシとならやれるか…うん…じゃあやろう。

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」ことなんだ。
りほちゃんが「やる」といったことにアタシが反対する理由なんかない。

たしかに、忘れ物が多かったり、朝起きれなかったり、すぐ転んだり、
ちょっと足りないところもあるけど、大丈夫…
あれ?なんか不安になってきたよ?
まあいいや、とにかくやろう、うん、やっちゃおう。

「じゃあいくよ!かのんちゃん!」
「よし来い!りほちゃん!」

うおおおおおおおおおおおおおおお!

アタシは瓦礫から飛び出す!
【物質透過】全開!
足の裏を除く、全身を同時に【透過】、そのまま突っ込む!
ほんとだ、ギリギリ間に合う。
りほちゃんの言った通りの距離だ。

204名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:47:07
戦車の上の小さいほうの鉄砲がこっちを向く、いっせいに撃ってきた!
信じられないだろうね、無数の弾丸がアタシを通過していくけど、
アタシには一切当たらない。
毛ほどの傷も、アタシには付けられないんだ。
でも、さ、白状しちゃうと、この状況、アタシもギリギリなわけ。
長い時間全身を【透過】させ続けるのって、めっちゃしんどいんだ体力的に。
水の中で息止めてるみたいな、そんな感じの100倍きつい。

だからきっと、戦車に届くギリギリの距離だから、アタシは、もうそこで限界。
戦車まで、戦車まで行くのが…限界…、きっとそこで、アタシはガス欠。
そしたらもうアタシはオシマイ。
でも、大丈夫、なんも問題なし、だってアタシには、アタシには…。

戦車まであと少し、目がかすむ、もう少し、もうちょっとだ。
あたしは最後の力を振り絞る、戦車の正面、思いっ切り、突っ込む。

装甲を、突き抜ける!

戦車の中は、思ってたよりずっと狭かった。
そこらじゅうにゴテゴテと機械がくっついてて、しかもなによりびっくりしたのは
中にすっごいたくさん敵が座ってて、ぎゅうぎゅうなの。
でみんなこっちみて口あんぐりしてんのよ。
でもそれも一瞬、即座に武器を構えて、銃口がぜんぶこっちに…
アタシはさ、もう無理なわけ、もう限界、もう【物質透過】させ続ける力は、残ってないわけ。
だから、アタシは、ここで、オシマイ、だから、あとは…

あとは!

205名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:47:55
「いっけえええええ!りほちゃん!」

きらめく水の刀、りほちゃんが飛び出す。

もうすごいんだ、りほちゃんは、あんな狭くて、立ってることもできないほど天井も低くて、
あんだけの数の敵がさ、いてもさ、もうすんごいはやさで動き回れるわけよ、
みんな同士討ちが怖くて、全然撃てなくてさ、あっという間にどんどん倒していっちゃうわけ。

そう、アタシの中にずっと入ってたんだ、りほちゃんは。
りほちゃんが言うには、アタシの中は、真っ暗で、何も聞こえなくて、息も吸えない、
でもりほちゃんはどこまでがアタシで、どこから外なのかわかるって言った。
だから、アタシの動きを全部読み切って、アタシと寸分たがわず動いて、アタシに重なったまま、
一呼吸もせず、ここまで走って来ちゃったんだ。
それで、あの動きだもん、まいっちゃうよ。

りほちゃんはこうも言った。
「大丈夫、かのんちゃんに重なってる物同士が接触することは、無いから」
つまり重なってる間にアタシに撃ちこまれる弾丸は、りほちゃんにも当たらない。
なんでそんなこと確信できるのか、アタシには全然わかんないけど、ほら、

りほちゃんが「やれる」といったことは「やれる」こと、だから、さ。

あーこらもう勝ったよ、うん。
たぶん、だけど、たぶん、いやだってアタシはサ、もう…気が遠く…なって…

…りほちゃん…あとは…よろしく…。

206名無しリゾナント:2014/09/29(月) 18:50:18
>>201-205
■ アイエフブイ −鈴木香音・鞘師里保− ■
でした

スーツ設定も使いたかった…

207名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:22:57
光。闇。そしてまた光。
常夜灯で照らされたアスファルトを縫うように、十の影が駆け抜ける。
赤と黒に彩られた、異能の少女たち。
目指すは噎せ返るような闇の奥、白塗りの無骨な建造物。組織の研究所の一つだ。

だが、そうやすやすとは突破させてくれないようで。
彼女たちの行く手を漆黒の魔獣が阻む。
熊ほどの巨大な体躯に、特製のプロテクターを装着された「戦獣」。
その数、4、5頭ほど。陸自の一小隊に匹敵する戦力だ。

「ちっ、相変わらずこんなもの使って!」
「可哀想だけど…殲滅するよ」

生命を弄ぶ非道に憤る亜佑美。
その気持ちを汲みつつも、リーダーのさゆみが決断する。
彼女の言葉が合図となり、二つの人影が前方に飛び出した。

208名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:23:55
白のジャケットが基本デザインではあるが、肩から襟に取り付けられている赤い長布。
それが、踊るように撓り、そして鋭く魔獣の体を切り裂く。
赤く流れる閃光の布同様、血飛沫を上げる自らの体。激痛に身悶える異形の獣が、目の前に立つ少女の頭を叩き潰そうと剛
腕を振り上げたその時のこと。獣の腕は唸る太刀筋によって、あっさりと切断されてしまった。

「うーん、やっぱこっちのほうがしっくりくるかも」

自らの愛刀と、彼女の纏う戦闘服の機能による斬撃の鋭さを比べる里保。
自分の実力以外の何かに頼るのはあまり好まない性質ではあるが、実際戦闘が楽になっているプラス面は無視できない。
腕を斬り落とされ、それでもなお標的を食い殺そうと立ち上がる戦獣。
しかしその狂暴な顎が開くその前に、思いもしない方向から襲い掛かる音の塊によって聴覚器官が完膚なきまでに破壊された。

「なぁにさぼってんのさ里保ちゃん」
「大丈夫、信じてたから。かのんちゃんのサポート」

止めを刺してくれた親友に、里保は親指を立てて意思表示。
彼女の操る音もまた、戦闘服の赤い布によって増幅された代物だった。

一方、戦獣に立ち向かったもうひとつの影。
彼女は里保と違い、その手に得物を持っていない。
にも拘らず、漆黒の獣を飛び回るだけで分厚い毛皮が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
「時間跳躍」は彼女の所有する能力だが特筆すべきはそこではない。

209名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:25:29
端的に言えば。
さくらは、時間跳躍を最大限に活用することで「自分が一番効率よく相手にダメージを与えることのできる角度」に自分を移動
させることができた。ただの時間停止ならば相手が攻撃してくる方向を予測し防御することもできなくはない、がそれを許さな
いさくらの身のこなしと格闘センス。そして攻撃力は戦闘服の赤い布が補う。
だが、相手に致命傷を与えるよりもどの角度に自分を位置させるか。目的より手段が勝ってしまうことがままあるのは彼女の性
格ゆえか。

「小田ぁ!遊びすぎだぞ!!」

さくらが飛び跳ねている隙を見計らい、音もなく表れた少女が黒くごわごわした剛毛に覆われた獣の額に手をやる。
無限大の振動を加えられた戦獣の脳は、原型を留めないほどにシェイクされ、黒い巨体が地響きを上げて派手に倒れ込んだ。

「佐藤さん!私が戦ってたのに」
「いいじゃん、イヒヒヒ」

さくらと優樹がもめている間に。
同じ「赤組」の里保と香音、そしてさゆみが残りの戦獣たちを倒していた。

「これで全部かな」
「にしても凄いですね、この服」

辺りを見回すさゆみと、自らが纏う服の性能に改めて驚愕する香音。
戦闘力の高い里保とさくらだけでなく、本来は後方支援に向いている自分やさゆみまで飛躍的な攻撃力を発揮できるとは。
見た目は白のジャケットと黒のインナー。アクセントの赤い布が肩から垂れ下がっている。しかしこれが、戦闘服。
赤の布地は着用者の精神に感応し、時に武器となり時に能力増幅器官となり。また黒のインナーには防弾チョッキも真っ青な耐
久性が備わっているという。
あらためてこれを用意した、例の胡散臭い関西人のコネクションの広さに感心せざるを得ない。

210名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:26:26
「…まだ、みたいね」

さゆみの視線は、緩められることなくアスファルトで覆われた通用路の前方へ。
彼女たちが立っている場所から数十メートル。戦獣が全滅することなど計算のうちだったのだろう。
ロケットランチャーを構えた数人の男たちが、その矛先をこちら側に向けていた。

「ここは私たちが!!」

叫び声とともに、四人の少女たちが正面に踊り出る。
さゆみたちとは違い、白のジャケットは共通点としつつもインナーと肩の布が正反対。言わば「黒組」。

組織の警備兵たちが、濛々とした煙とともに一斉にランチャーを射出した。
勢いに任せた弾頭が、瞬く間に少女たちに肉薄する。だが彼女たちは微動だにしない。

「じゃあ聖がやるね」

そのうちの一人である聖が、一歩前に出る。
彼女の肩口からの黒い布が、大きく広がる。その大きさは、前方の視界を完全に塞いでしまうほどに。
まるで黒い何かの生き物のような布が、飛んできたミサイルを呑み込んだ。行き場を失ったそれが強制的に着弾し、凄まじい
爆発を起こす。それさえ、黒い布の前には衝撃ごと吸収されてしまった。

「な、なんだあれは」
「ミサイルが…食われた?」

呆気に取られる警備兵、そうしている間に三人の少女が一斉に走り出す。
我に返った兵の一人が小銃を取り出し、躊躇うことなくトリガーを引いた。

211名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:31:41
「だから、そんなん全然効かんとよ」

涼しい顔をして駆け抜ける衣梨奈。
彼女の黒い布はまるでプロペラのように高速で前方に回転、打ち出された銃弾をことごとく弾き返していた。

「今度はあたしが行きますね!!」

亜佑美の高速移動が、赤いインナーの身体能力増強によって切れ味を増す。
まさしく目にも止まらぬ速さで男たちに迫ると、同じく増強された蹴り技によって次々と警備兵たちをなぎ倒していった。

「おおー、さすがあゆみん。技のキレはピカイチだね!」
「太鼓鳴らしてるだけじゃなくてはるなんも働いてよ!!」
「みんながあまりにも凄すぎて、私なんかの出番はないかなぁって」

笑いながらそんなことを言っている春菜だが、倒れたふりをしていた警備兵の一人が不意打ちを仕掛けるのを余裕でかわし、
そして炸裂する裏拳。戦闘服の身体能力増強は、非力な春菜ですら立派な戦闘メンバーに変えていた。

さゆみたちが着ていた戦闘服とは違い、彼女たちの着ていた服は。
黒の布は伸縮自在の盾となり、身に降りかかるあらゆる攻撃を軽減または無効化する。
さらに、赤のインナーは着用者の身体能力を飛躍的に向上させる。仕組みは違えどこちらも戦闘服として絶大な効果を発揮
していた。

「今度こそ邪魔者はいなくなったかな。くどぅー、見てみて」
「よっしゃ、ハルの出番だぜ!!」

212名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:32:11
さゆみの指示で、後方に控えていた遥が自らの瞳の力を解放した。
物陰に潜む敵、研究所内に配備されている兵隊。全ての可能性が「千里眼」によって丸裸にされる。

「大丈夫っす。あとはもう『標的』しかいませんよ」
「そっか。ありがとね」

先程の警備兵たちが組織の最後の切り札だったらしい。
安心するさゆみに、亜佑美に伸された警備兵が苦しげに笑いはじめる。

「お、お前らはたどり着けない。お前らは、知らないのだ。『m0202』の恐ろしさをな」
「うるさい。おやすみ」

男の額を、刀の柄で一突き。
鮮やかな技を見せながらも、里保はさゆみに不安な視線を送らざるを得ない。

「だいじょうぶだよ、りほりほ」
「道重さん?」
「『あの子』のことは、さゆみが一番知ってるから」

胸に手をやりながらそんなことを言うさゆみは、里保を安心させているようにも。
そして自分自身に問いかけているようにも見えた。

大丈夫だ、この人を信じよう。

いつだって、自分たちを引っ張ってきたリーダー。そこに疑う余地など一片もない。
さゆみが先頭を切って歩き始めると、やがて後輩たちも後をついてゆくように先へと進む。
目指すは、闇深き研究所。

213名無しリゾナント:2014/10/01(水) 02:33:29
>>207-212
今日の結果を受けての撮って出しなので質はアレですが
単発もののくせに後半に続く…かも?w

214名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:14:58
あなたは何者なんですか?

私はごく平凡な家庭でうまれ、平均以上の愛情に包まれ、ごくごく幸せな日常を送りました
いろんなところに連れていってもらえました。動物園、水族館、博物館、そして教会
幼い私にとってはなにもかもが新鮮で、「あれはなに?」「これは?」「こっちは?」、いつも質問しては父を困らせてましたね
ただ、いつも笑顔で両親は私に教えてくれて、いい父でした

なんてことない普通の一日、父と母に連れられ、公園へ
帰り道、ふとめまいを感じ、座り込んだ。ほんの一瞬のめまい、目の前がゆがむような感覚
立ち上がり、ふと顔を上げると心配そうな父と母の顔がありました
しかし、私の目線は二人の上に向かわざるを得ませんでした。頭の上に数字が並んでいたのだから
『830』『826』、私は父に尋ねたんです。頭の上にあるその数字は何か、と

父は笑って答えました、何を言っているんだ?数字なんてないさ、と。
母も笑ってました。面白いことを言うのね、なんて言って
自分だけにしか見えない数字、その存在をその時は気にも留めませんでした

でもそれは冗談ではありません。周りを見れば、すべての生き物、人間だけでなく犬や鳥にも、数字が浮かんでいたから
『2000』『189』『3900』・・・いろいろな数字
そしてそれらはゆっくりと減っていて、そのスピードは個人差、いや種族差があるようでした

帰り際、近所の野良猫と出会ったのを覚えています―数字は『10』
頭を撫でようとするといつもなら逃げようとする、それなのにその日に限って静かににゃあ、と鳴くだけでした

家に帰ると飼っていた金魚の水槽にも数字が浮かんでいました、その数字は『8』
えさをあげると水辺にやってくるはずなのに、その日、沈んできた餌を食べていました

夜、夕食を囲んだとき、父と母の頭の上の数字は『750』『740』に減っていたんです

翌日、水槽を覗き込むと金魚が浮いていて、庭に行くと昨日頭を撫でた猫が倒れていました
あたまのうえに浮かんでいた数字はそれぞれ『0』になっていた

215名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:17:22
その時に直感的にわかってしまったんです
「この数字が0になったとき命が終わる」ことを
視えてしまっているのだ、他人の寿命を、なんて難しいことを今なら表現できます

そこに私の名前を呼ぶ父の声がして、金魚の墓を作ろうと提案してきました
父の頭の上の数字は『520』に減っていました

昨日から急激に数字が減っていたので、私は怖くなって父に抱き付いたんです
父は私が金魚がいなくなって寂しがっていると思い、大丈夫だよ、とやさしく抱きしめてくれました
父のたくましい腕が私の冷えた心を温めると当時に、すぐに恐怖のために冷えを感じていました

一日で300程度も減った父の数字
同じペースでへるなら明後日にも0になる
0になったとき父と私は永遠に別れなくてはならない
「ねえ、お父さん、お父さんはいなくならないでね」
「なにを言っているんだ?お父さんはずっとそばにいるからね」
・・・嘘だ。嘘だ。あと二日しかいられないくせに

いつも以上に両親にべったりだった私に両親はペットを失ったことの喪失感以上の原因がわからなかったと思います
だって誰が思います?明後日にも自分が死ぬ、なんて!!
朗らかに談笑する父も母も数字は明らかに減っていたんですよ

翌日も父と母と一日中、そばにいようとしたので、さすがに不思議がっていました。
適当に言い繕ってごまかしたのは覚えていますし、その一日のことは深く覚えています
夕食時には数字は100程度にまで減っており、眠れないの、といって両親の部屋で寝ることにしました
最後の夜になる、そう思っていましたから。

そして、その日の夜、暗がりの中でガラスの割れる音が響いたんです
その音に気づいた父が、母を起こし、動かないでいるようにと指示を出したのが耳に入ってきました
部屋を出ていく父の数字は一ケタになり、母の数字はもう3になっていました

216名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:18:11
突然、争うような音が起こり、ついでなにか固いものが倒れる音
母が私を起こし、押し入れの中に隠れるようにやさしくいってきました
私が戻ってくるまでここでいい子にしているのよ、なんて。
母は懐中電灯を手に、父を捜しに出かけた。暗闇でも光ってみえるカウントは2になっていた

幼い私は死ぬことよりもいなくなることが怖かったんです
はっきりいって死の恐怖というものを理解できなかった。ましてや自分が死ぬことは考えていなかった
だからこそ、私はこっそりと母の後を追って部屋を出ました

暗闇の中を壁伝いに歩いていくと、暗闇にあのカウントが浮かんでいたので、駆け寄りました
うつぶせに倒れているが、間違いなくそれは母でした
背中から殴られたのだろう、抱き起した私の手は血で濡れていて、その近くで壁に背をあずけている形で父もみつけました

私は父と母の名前を呼んで、起きて、と何度も大声で叫んだ
がたっと物音がし、振り返るとそこには黒い影と頭の上に光る数百万のカウント
「あ〜あ、ガキもいたのか。まいったな。ま、いいや、一緒にやっちゃえば」
私に向かってその影は蹴りを放ち、私の体は父と母の間に飛ばされる形となった
痛みで私は胃の中のものを吐き出しそうになりましたが、視線は男の陰に向いたままでした

私に止めをさそうと近づいてきた男の足をつかみました
必死の抵抗なのだが、所詮は子供、と思ったのでしょう、男は気にもせず、片膝をついて、私に話しかけてきました
「ムダで〜す、お兄さんには効きません」
その声はゲームをしているように弾んでいました

その時初めて、顔が見えないが、こんなやつに父と母を奪われるなんて、怒りを感じた
大好きな父と母の笑顔と目を見開いている今の父と母の表情
(許せない)
その怒りが天に伝わった・・・そう信じるしかない・・・でしょう
私の目に映る男の頭上のカウンターが数十万から急激に減少していったんです

217名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:19:09
・・・20万・・・10万・・・5000・・・・1000・・・500・・・100・・・50
そして、カウント5、4、3、2,1・・・0!

男は突然胸を押さえて倒れこみました

カウント0は終わりの印
この手で男の命を奪うことになった、それは恐ろしいほどあっけないものでした
自分が奪ったという実感はないのだが、それは事実、現実

それよりもこの男が両親を奪った事実、それがその時は何より大事でした
もうあの優しい声も笑顔も楽しい思い出もできない、それがつらかった
そこで私は気づいたんです。ガラスにうつった自分の頭の上に先程までなかった数字が浮かんでいることを
数十万の数字、それは先程、急激に減っていった男のカウント、そのままでした

もしかして、と思い、急いで父のもとにかけよりその腕を掴みました
(お願い、生き返って!!)
そう、願うと私の上のカウントは急激に減っていき、父のカウントが0から増えていくのです
0、1,2、3・・・・1000・・・50万!!
母の元にも駆け寄り、手をつかむとカウントを増えていきます
私の頭の上のカウントは0になっていたが、母のカウントは数十万まで上昇していた

そして、父がゆっくりと体を起こし、私の姿を見つけた父は私が無事なことを確認し、強く抱きしめてくれた
続いて、母もゆっくりと体を起こす。不思議なことに後頭部の傷は塞いでいるようだ
そして、倒れている男に気づき、警察に通報した

結局、警察は『犯人』の男が『突然死』したものと断定し、私達家族は「被害者」で事件は終了しました
後になってわかったことなんですが、この男は強盗殺人の常習犯でした
殺されずに済み、突然死を起こしたことが幸いでしたね、と警官は両親に話していました

218名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:19:53
でも、違うんです。私だけが知っている、父と母は『一度』死んだ、ということを。
それ以降も私の目には寿命のカウントは見える。ただ、あの日のようにほかの人のカウントを奪うことはありません

他の人の寿命が見える、それがどんな意味を持つのかわからない
ただ・・・見えてしまう。私は普通でないんです!!

だからこそ、カウントが見えない、あなたのことを私は知りたいんです
あなたは何者なんですか?

    −さゆみっていうの。よろしくね真莉愛ちゃん

219名無しリゾナント:2014/10/05(日) 20:25:17
>>
「カウントダウン」です。
思い付きだけで書いてしまった。
真莉愛ちゃんは共鳴系がいいってスレでは出ているけど、俺の中では真莉愛ちゃんは治癒能力系のイメージ
ま、名前からきているだけですが。真莉愛だし、あのビジュアルだから勿体ない!!
さゆの生命力増幅、マルシェの原子合成に続きあらたな治癒系として寿命の継ぎ足しを提案します
とはいえ、これは息抜き用に書いたものですから、スルーしていただいても構いませんよ

220名無しリゾナント:2014/10/05(日) 22:01:16
代理投稿行ってきます

221名無しリゾナント:2014/10/05(日) 22:13:37
代理投稿完了!うまくできてなかったらごめんなさい

222名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:42:00
☆ ★ ☆

「その子は、特殊な能力の持ち主でして」

モニターに映る、白衣を着た女。

「うちの組織の被験体、いわゆる『エッグ』というカテゴリーに属するんですが」

薄闇に佇むその姿は、いつ見ても嫌悪感しか催さない。
なぜならば。

「さゆ。あなたなら、知ってますよね? 彼女の能力の『本質』を」

画面の向こう側の女が浮かべる笑みは、命を弄ぶ人間のそれだからだ。
白と、赤と黒が交差する戦闘服を身に着けた十人の少女たちはそのことを痛感する。

「まあ、あなたたちがその子を連れだすことを阻みはしません。どうぞご自由に」

だから、本能的に理解できる。
彼女が投げかける、次の言葉を。

「ただし、『できるならば』ね」

223名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:42:48
☆ ★ ☆

部屋が再び、沈黙に沈む。
研究所の最奥、隔離されたような作りの部屋にその少女は立ち尽くしていた。
身柄を拘束されている感じではない。むしろ、逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せるような。
そんな状況ですらあった。
現に、建物内には護衛の人間が誰ひとりいない。

作戦開始時は夕刻だったのに、いつのまにか日が沈んでいたようで。
窓から差し込むのは、淡い月光。
言いたいことだけ言って切れてしまったモニターの光源が消えると、部屋は頼りない月の光だけが頼りとなる。

窓際に近い場所にいた、白いワンピースの少女。
その顔には年相応よりは大人びた幼さと、儚さが同居していた。
青みがかった月の光に照らされ、神秘的にさえ映るその表情。
それがどこから齎されているものなのか、すぐに知ることになる。

「もう大丈夫、だよ」

聖が、少女を安心させるために声をかけた。
少女の体が、ぴくっと跳ねる。

「私たちは、あなたを助けるためにここまで来たの。だから、もう大丈夫。悪い人たちは全員やっつけたから」

亜佑美が少女に近づき、手を差し伸べようとしたその時だった。
それまで黙ってこちらを見ていた少女が。

「だめっ!近づかないで!!」

大きく、叫んだ。
意外な少女の反応に、異能の戦士たちの表情に戸惑いが浮かぶ。

224名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:43:27
「なんで!えりたちはあんたを助けに―」
「無理です。あなたたちに私を助けることはできない」

窓の外から、一匹の蛾が迷い込む。
何かに誘われるようにひらひらと舞っていた小さな生き物は。
軌道の途中で、白い煙を上げて消えてしまった。

「え」
「どうしたの、どぅー」

些細な、見落として当たり前の出来事を。
優樹に訊ねられ、遥が事実を語る。

「が、蛾が…真っ黒な灰になってぼろぼろに崩れたんだ…何だよあれ…」
「そこの人には、見えたんですね。私の『能力』が」

言い放つ少女の顔は、どこか悲しげで。
けれども、諦めにも似た響きを伴っていた。

「生きとし生けるものは。私に近づくことすらままならない。私の力は、人を傷つける」
「…私なら、平気です」

一歩前に踏み出したのは、さくらだった。

「私の話、聞いてなかったんですか?」
「触れることで能力が発動するなら、その前に時を止めればいいんです」

225名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:43:57
世界が、灰色になる。
「時間跳躍」によって止められた時を、さくらが縫うように突き進む。
目標は白いワンピースの少女。1秒で彼女を捉え、1秒でこちらへ引き寄せる。
その目論見は。

「きゃっ!!」

止められた時に、色が戻る。
大きな力に弾かれ、床に転がるさくら。
彼女が纏っていた戦闘服は、焼け焦げたように崩れていた。

「小田ちゃん!!」
「だから、言ってるじゃないですか。人は皆、いつかは死ぬものです。そしてまた生まれる。破壊と創造は…」
「常に表裏の関係なのです。だよね?」

諦めと悲しみで満たされていた少女の、はじめての驚く表情。
少女が言おうとしていた言葉は、さゆみによって先に言われてしまった。

「道重さん…」
「さゆみは。この子の力がどういうものか、知ってる」

胸に手を当てながら、さゆみ。
さゆみの中にいる、もう一人の自分。
その力を、目の前の少女は再現させられていた。

「だから、どうすればいいのかも、知ってる」
「やめて、近寄らないで」
「大丈夫。さゆみが全部、受け止めてあげる」
「来ないで!お願い!あなたもみんなと一緒で、死んじゃう!!!」

226名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:44:27
さゆみが、ゆっくりと少女に近づく。
一段と濃い闇に差し掛かったところで、さゆみの体から立ち上る白い煙。
少女の発する「滅びの力」の射程圏内に入ったのだ。

「たっ大変だ!道重さんが消されちまう!!」
「大丈夫だよ、くどぅー。道重さんは消えないから」

自分が見た蛾と同じようになってしまう、そう思い慌てふためく遥を春菜が落ち着かせる。
その言葉通りに、さゆみは安らかな表情のまま、少女に近づいてゆく。
戦闘服はあらかた溶けてなくなってしまってはいたが。
その肌には、傷一つすらついていない。

「ほんとだ…でも、どうして」
「きっと、滅びの力を治癒の力が中和してるんだろうね」

香音の言うとおりだった。
さゆみは自らの体に治癒の力を纏わせることで、身を襲う滅びの力を打ち消していた。
自らもまた滅びの力を操るからこそ、できる芸当ではあるのだが。

そして、ついにさゆみが少女の体を捉える。
はじめは抵抗していた少女だが、さゆみが自分の力によって消滅しないことを知ると、操り糸が切れた人形のように脱力してしまった。

227名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:45:41
「あなたは…平気なんですか…みんな、みんな私に触れる前に消えちゃうのに」
「ふふ。平気ってわけでもないけど。でも、ちっちゃい子をハグできる喜びのほうが」
「え?」
「それは冗談だけど。あなたにはきっと、さゆみの力が受け継がれてる。だから、あなたの力のことは、さゆみが一番良く
知ってる」
「そんな…でも…」
「さゆみなら。あなたがこの力をコントロールする方法を教えてあげることができる。それに、聞こえるよ? あなたが苦
しんで、心の底から助けを求めている声が」

最早、声にならなかった。
能力を発現させてから、誰も自分に触れるものはいなかった。
だから、今自分を包み込む優しさが懐かしくて。うれしくて。
感情の流れは、自然に涙と大声になって溢れだした。

「ねえ、ところで」

泣きじゃくる少女を抱きしめたまま、さゆみが後ろを振り返る。

「誰か、替えの服、持ってない?」

困った表情を浮かべるさゆみは、一糸纏わぬ真っ裸。
全裸の女性が少女を抱きしめる姿は、冷静に見るとあまり褒められるようなものでもなかった。

さゆみは、かつて戦闘の度に必然的に全裸になってしまう同僚のことを思い出し。
はじめて彼女が能力を使うたびにこの問題で悩む気持ちを理解したのだった。

228名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:46:57
☆ ★ ☆

「真莉愛ちゃん、おいで。ハグの時間だよ」
「はぁい」

それから数か月後。
すっかり喫茶リゾナント名物となった、不埒な行為、もとい能力コントロールの特訓。
そのためにはハグをするのが一番効果的、というさゆみの妙に説得力のある提案により始まったこの行為。
あの日助け出された少女 ― 牧野真莉愛 ― も意外と嫌がるそぶりは見せず、むしろさゆみに抱きしめられるのを喜ん
でいる節すらあるようだ。

「真莉愛ちゃんだけずるい!まさもみにしげさんとハグする!!」
「佐藤はあとでやったげるから。ほらほら特訓の邪魔しない」

軽くあしらわれ、頬を膨らませる優樹。
おそらく特訓以外の疚しい何かを感じ取っているのだろう。
そしてその抱擁の様子をじっと見ていた里保は、誰に言うともなく「あー、なんだか私もお腹が痛くなってきたなぁ」と意
味不明な独り言を呟くのだった。

さゆみに抱きしめられている真莉愛。
嬉しそうに真莉愛を抱くさゆみ。その頭上に、妙なものが見えていた。

数字の、羅列。

何故自分がそんなものを見ることができるのか。
そもそも、その数字が何を意味しているのか。
真莉愛にはわからなかった。自分の能力が関与しているのかどうかすらも。

あの白衣を着た女の人なら知ってるのかな…

思いかけたことを、必死になってかき消す。
もう、あんな生活には戻りたくない。この優しいぬくもりを知った今となっては。
今は、さゆみにずっと抱きしめられていたい。

けれど、真莉愛は知らない。
さゆみの頭上に浮かぶ数字が、少しずつ、減っていることを。

229名無しリゾナント:2014/10/06(月) 02:49:40
>>207-212 の続き
>>222-228 「闇を抱く聖母」 でした

設定の一部を直近の方からリゾナントしてしまいました
節操のなさにお詫びいたしますw

230名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:44:37
■ ロングレンジヘビーウェイト −鞘師里保・鈴木香音− ■

「えっそういうもんなの?」

鞘師にとっては意外な、そして鈴木香音にとってもまた意外な答え。

「刀と槍ってあんなに長さ違うじゃん」
「ん?んーそう?全体の長さはあんまり関係ないんだ」
「ぬぇー不思議だなー」
「不思議?ふしぎかなー」

鞘師にはその不思議がわからない。
刀と槍の優劣なんて比べること自体無駄なことだ。
目的が違うものを比べても意味はない。

先ほどまで二人は、銃剣付きの突撃銃を使った格闘を想定し汗を流していた。

そんな中「りほちゃん能力なしで刀しかなかったら、こうゆうときどうする?」
みたいな話となり、そこから槍の場合はどう?、という話となり、というわけである。
今は大きなエアコンの前、おせんべいとミネラルウォーター、休憩である。

本当はやって見せちゃったほうが早いのだが、今は、おせんべいだ。

「長いほうが遠くから戦えて有利なんじゃない?」
「あーそうかうんそゆことか。かのんちゃん、槍は全然遠くないんだよ」
「ぬぬ?アタシちょっとわからなくなってきたよ。遠くない?どゆこと?」
「えーとね…」

刀と槍に優劣はない。これは古典にもある真理である。
三尺三寸の刀、一丈の槍、長さにして概ね三分の一、
はるかに短い太刀に対し槍は相打ちとなる、
すなわち互角である、と。

231名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:45:08
もっともこの程度のことは古典にあたるまでもない、技の上達とともに勝手に体得する戦術上の真理だ。
「長い柄のついた槍でも、突いてくるなら尖ってるとこは自分の近くに来るじゃん。遠いのは持ってる人間だけでしょ」
「???」

俗にいう一足一刀の間合いと呼ばれるものがある。
実体的な距離のみではない、時間や心理といったものまで含んだ距離感。
あと一歩踏み込めば相手を斬れる、同時に相手にも斬られる間合い。
ここまでなら、だれでも容易に理解できる。
ではその次である。
両者の武器が同じならいい。
が、片方の武器だけ長ければ、どうなる?
長いほうは一歩踏み込まずとも当たり、短いほうは2歩3歩入らなければ当たらない。
それは明らかに長いほうが有利、ということではないのか?

いま鈴木香音の頭の中にある疑問もこれだろう。
当然の疑問である。
至って正しい考察、とくに現代人ならば、普通の感覚だ。

ところが鞘師は、そんな疑問を抱いたことすらない。
彼女のそれは「技術」を最初から、一足飛びで、身に付けてしまった者特有の感覚である。
戦術はそれを発想する者の「技術」によって決定される。
「技術」の低い者には高い「技術」を前提とした戦術は生み出せない。
推測することすら、できない。
鞘師の普通、それは鎌倉時代や戦国時代の、武に生きる者の「普通」なのだ。

相手の得物が長いならば、相手の「得物」に対して「一足一刀の間合い」を取ればよい。
それが答え。
武に生きる者は、誰に教わるでもなく、この解答を直感しうる。

232名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:46:04
「ええっ?ますますわからないよ」
「相手が持ってる槍だって突いたり叩いたりしないとウチをやっつけられないわけじゃん」
「うん」
「だったらさ、ウチに向かって突いてくる槍自体を切っちゃえば、いいんだよ」
「えーそんなことできんの?」
「長いってことは重たいってことだしね、そんなにひょいひょい動かないし難しくないよ」

ちょちょちょ、ちょっとまてまて、鈴木は心の中で突っ込む。
鞘師が槍を扱う、確かにその姿こそ鈴木は知らないものの、6尺棒8尺棒、あるいは、
それに準ずるような、長い棒を扱う姿なら、鈴木は数限りなく見てきている。

りほちゃん、あんたいつもとんでもない速さで突きまくって叩きまくってるけど?
あれで「そんなにひょいひょい動かない」って言われても説得力ゼロだよ。

「…そんなもんかなぁ、でも切っちゃうの難しくない?りほちゃんしかできない気がするんだけど」
「切り落とせなくても、たとえば切込み付けただけで相手は槍を手繰れなくなるから、
それでも相当の攻撃を封じられるし…というか、うん、なんでもいいんだよ、そうゆうのは。
柄を切ってもいいし、掴んでもいいんだけど、そういうのはなんでもよくて、その前に…」

すでに別の話。
より高度な、さらに、さらに高い技術を前提とした…

鞘師はおせんべいとストローの生えたペットボトルを向き合わせる。
「この真ん中の線を割って、相手の線を反らしちゃえば、ウチには当たらなくなるんだ。長さは関係ないんだ」
「あーりほちゃんがたまにいうやつね、でもアタシそれ全然わかんないんだ」
「そっかー」

鈴木は別に鞘師の弟子というわけでもない。鞘師も水軍流そのものを教えるわけではない。
格闘についてのレクチャーの際、鞘師の口から出る言葉は平易でシンプルなものばかりである。
もっともそれは鞘師自身が持つ武術的な言葉の知識が少ない、というのが実際のところなのだが。

233名無しリゾナント:2014/10/09(木) 20:47:46
鞘師が言っている事、これは正中の話である。
槍だの刀だのという些末なことで優劣が極端に変化するのは、
「ここ」を抑える技量のない者同士の世界のことであって、
鞘師が住む、戦国の技量の世界では、そもそもが考えるだけ無駄なことなのである。
だがこの「考えるだけ無駄」ということが、現代の人間には理解できない。

「無駄」?そんなことはないはずだ。
もし無駄なら、そもそも槍を生み出す意味がない。
なぜ槍がある?それは刀より強いからに決まっている。

そう考えてしまう。
その考え自体が初めから間違っている、とは思い至らない。

刀や槍、それらが実用されてきた時代において、
両者はどちらに対してどちらが強いか、といった理由ではなく、「何を」目的とするかで選択されてきた。
「何を」そう、両者の優劣が如実に変化するとしたらそれは戦術ではなく「戦略上において」、なのである。

ではある、のだが…

「でも一番いいのはやっぱり」
「やっぱり?」

鞘師は言葉をつづける。
それは、今までの話を根底から―――

「こっちもでっかい刀使うのが一番いいね」
「え?」

「だって、武器は、でっかいほうが有利だからね」

ずこーっ


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