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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part4

1名無しリゾナント:2013/07/04(木) 23:13:52

アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第4弾です。

ここに作品を上げる →本スレに代理投稿可能な人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
① >>1-3に作品を投稿
② >>4で作者がアンカーで範囲を指定した上で代理投稿を依頼する
③ >>5で代理投稿可能な住人が名乗りを上げる
④ 本スレで代理投稿を行なう
その際本スレのレス番に対応したアンカーを付与しとくと後々便利かも
⑤ 無事終了したら>>6で完了通知
なお何らかの理由で代理投稿を中断せざるを得ない場合も出来るだけ報告 

ただ上記の手順は異なる作品の投稿ががっちあったり代理投稿可能な住人が同時に現れたりした頃に考えられたものなので③あたりは別に省略してもおk
なんなら⑤もw
本スレに対応した安価の付与も無くても支障はない
むずかしく考えずこっちに作品が上がっていたらコピペして本スレにうpうp

890名無しリゾナント:2014/05/30(金) 00:40:17
都内で次々と発生する、自殺未遂事件。
共通点は、いずれも中高生、不眠症を患った末の精神錯乱。

「うちの娘は、自殺なんかするような子じゃなかったのに」

涙ながらに訴える被害者の母親。
救いの手を差し伸べるリゾナンターは、事件の陰に能力者がいることを確信する。



「ただ、仲間が欲しかっただけなんだ」

里保たちは、全ての元凶である一人の人物のもとに辿り着く。
ごく普通の、どこにでもいそうな、少年。

「だから、ぼくの邪魔をするやつは全員…殺す」

訓練されていないにも関わらず、ありえないほど強力な精神干渉。
里沙のサイコダイブにより少年の意識の内側に入った里保が見たものは。

次回 瑞珠剣士・鞘師 「孤独」
緩やかな毒は、やがて人の命すら奪う。

891名無しリゾナント:2014/05/30(金) 00:41:47
>>890
第6話終了

892名無しリゾナント:2014/05/30(金) 10:03:00
里保は、迷う。
この迷路のような街の構造に。
そして、彼女自身の決断に。

「あなたは確かリョウマくんだったよね」

大人数で二人の少女を取り囲んでいた、グループのリーダーらしき少年に声をかけた。
少年の素性は、依頼人によってもたらされていた。
だがそれが、全ての始まり。

「…あんた、何で俺の素性を知ってるのかしんないけどさ。もう、逃げられないよ?」

少年が携帯に耳を押し当てた瞬間。
街のすべての人間が、敵になった。



路地裏を走り、壁を駆け昇り、屋上伝いに空を翔ぶ。
それでも、少年の息のかかった「追手たち」は里保を追うのをやめない。

彼らを倒すのは簡単だ。里保の腕なら、傷を負わせることなく無力化できるだろう。
けれど、里保を追う青ざめた、必死の形相が決断を鈍らせる。

止むことのない追手の追撃を交わし続け、ついに里保は少年の待つ場所を突き止める。
天を衝く刃の先は、どのような答えを導き出すのか。

次回 瑞珠剣士・鞘師 「群集」
その剣は、人の心を糺すためにある。

893名無しリゾナント:2014/05/30(金) 10:03:52
>>892
第7話終了
元ネタとはずいぶん趣向が違ってしまいましたがリゾナントとは得てしてそんなものですw

894名無しリゾナント:2014/05/31(土) 00:44:32
休日。彫刻展示会に足を運んだ春菜。
しかし彼女はそれきり消息を絶ってしまった。

手がかりを探そうと、展示会の会場を訪れた里保が見たものは。
春菜そっくりの彫刻。

「ちょうどいいモデルの方がいたので、協力していただいたんですよ」

ベレー帽を被った細身の女性が、にこやかにそう話す。
いかにも怪しい。里保は直感でそう感じるが、確証はなかった。
そこで、とある一計を案じることに。



「私の作品を…どうするつもり?」
「返してもらいますよ、もちろん」

女の能力で彫刻になってしまった、遥と優樹を前にして里保が言う。
だが、女が有する石化能力は少々厄介だった。

石化の視線の対策となったはずの鏡を全て破壊され、里保が取った最後の手段。
それは・・・

次回 瑞珠剣士・鞘師 「彫刻」
闇に、魅入られるな。

895名無しリゾナント:2014/05/31(土) 00:45:13
>>894
第8話終了

896名無しリゾナント:2014/06/01(日) 01:23:43
じゆうけんきゅう 1−A さとう まさき


こんちくわ〜、まーちゃんは〜あえあさんをそだてることになりました
きっかけはしりあいのおねえさんがあえあさんをそだてたら?といってくれたことです
むかし、ほっかいどうにいたころみたいで、なんだかぽくぽくして楽しかったです



優樹が育てていたのは、恐ろしい生物だった。
「Animal with Epidemic Abomination」略して「AEA」。
伝染性の憎悪を撒き散らす「AEA」は優樹の籠から逃げ出し、街に逃げ込む。
多くの人間が行き交う場所において憎悪が伝播したらどうなるか。
里保たちは最悪の事態を防ぐべく、総員で「AEA」の捕獲に向かった。

衣梨奈と里沙の尽力により、被害は最小限に食い止められる。
そして亜佑美の高速移動によって、ついに「AEA」は路地裏に追い詰められた。
だが、その前に立ちはだかる人影。

「やめて!あえあさんを殺さないで!!」

涙ながらに訴える優樹に対して、里保は言う。

次回 瑞珠剣士・鞘師 「宿題」
結末の果てに、何が綴られるのか。

897名無しリゾナント:2014/06/01(日) 01:24:40
>>895
第9話終了

898名無しリゾナント:2014/06/01(日) 23:43:49
テレビ局が、謎の武装集団にジャックされた。
局員、スタッフ、果てはタレントまで。局内にいた全ての人間が拘束されてしまう。
その中には、かつてリゾナンターであり、今は力を失った久住小春の姿もあった。

武装集団のリーダーはテレビの画面から高らかに宣言する。
東京スカイツリーに取り付けられた装置により、24時間以内に電波の範囲内の人間は全て「ステーシー」という名の存在に変えられてしまうことを。

交換条件などはない。
ただの、死刑宣告だった。



テレビを見ていた里沙と愛佳の表情が変わる。
彼女たちは見つけたのだ。
意気揚々と演説する男の後ろに立っている、小さな女の姿を。

「『詐術師』…こいつは、ダークネスの幹部や」

吐き捨てるように言う愛佳。
そんな時だった。愛佳の「最後の」予言が降りたのは。

次回 瑞珠剣士・鞘師 「神託」
その言葉は、運命の悪戯か。

899名無しリゾナント:2014/06/01(日) 23:44:55
武装集団の野望を阻止するために、スカイツリーとテレビ局、二つの目的地に分かれたリゾナンターたち。テレビ局へと向かった里保たちは先輩である小春や、
小春の知人である田島明夫の尽力もあり、全ての人質を解放する事に成功する。

だが、全てが終わったと思った瞬間。
背後から、数発の銃声。

里保以外の、若きリゾナンター全員が血を流し、倒れていた。



牛柄パーカーの、背の小さい金髪の女が言う。
甲高い、耳障りな声で。

「なあ。銃は剣より強しって知ってるか?」

女の能力で能力を封じられている中、里保はただ、自らの刀の鞘に手をやり待つ。

「ばーか。そんな原始的な武器でおいらに勝てるわけないじゃん」

待っていた。
相手を切り伏せるだけの十分な間合いが、取られる事を。

次回 瑞珠剣士・鞘師 「凶弾」
狂った魔弾が、闇から撃たれる。

900名無しリゾナント:2014/06/01(日) 23:45:26
リゾナンターたちの活躍で、都民の総ステーシー化は免れた。
だが、危険な目に遭ってまでダークネスと対峙しなくてはならないという不文律についに聖が反発する。

「フクちゃん、ガキさんは先輩やろ!!」

見かねたれいなが一喝し、聖が悲しみに啜り泣く中。
里沙は、リゾナンターとダークネスの因縁について語り始める。



その夜は、聖夜だった。
愛は願っていた。全ての人の悲しみが消えることを。
さゆみは。れいなは。絵里は。愛佳は。ジュンジュン、リンリンは。
この世が平和で満たされることを願っていた。

里沙は。
「あの人」が救われることを、願っていた。

けれど。
願いは、叶う事はなかった。

次回 瑞珠剣士・鞘師 「惨劇」
虚ろな天使が、全てを無に還す。

901名無しリゾナント:2014/06/01(日) 23:46:34
>>898-900
第10話・11話・最終話終了
一気にあげてしまいましたw

902名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:05:14
里保がまだ、「鞘師」の名を継ぐ前のこと。
東京の「トレゾア」というセレクトショップを舞台とした、とある不可解な事件。
事件の解決の為にリゾナンターが招聘される。サポートとして全国各地から戦闘能力の高い能力者が集められるが、その中の一人が里保だった。

事件の解決は困難を極めた。
当時から才覚を発揮していた里保にとっても、それは同様だった。
そんな中、彼女はある一人の女性に話しかけられる。

「ねえ、お姉さんとお話しよう?」

その女性が、なぜ自分に話しかけたのか。
里保は今でも理由を見つけることはできない。
過酷な任務につい苦い顔を見せてしまっていたのか。
今ではそう考える事にしている。

「山口と広島って、近いよねえ」
「はぁ。そうですね」

実際、里保にとって今回の任務は初めてのチームを組んでのものだった。
本当は声をかけてもらったのが嬉しかったくせに、気の利いたことすら言えなかったのは、プレッシャーに身を固くしていたせい。

それが、道重さゆみと鞘師里保の最初の接触だった。

903名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:06:00
見覚えのある景色、たった一つだけ違うのは。
目の前にいるさゆみに、色が無い事だけ。
彼女だけが、モノクロ映画の登場人物のように色を欠いている。

「りほりほ。さゆみがここに出てきたってことは…わかるよね?」

ある程度の予想はついていた。
今の自分が、自分の心が思い描く最強の敵は、きっと彼女なんだろうなと。
それでも、実際に目の前に姿を現されると。
覚悟を、決めなければならない。

「遠慮なく、行かせてもらいますよ。道重さん」

里保が、腰の刀に手をかける。
すると周りの景色から、すうっ、と色が抜けていくのが見えた。
石畳が、ショーウィンドウが、行き交う車が、そして空が。モノクロの世界に沈む。
それとは裏腹に、目の前のさゆみが色づいてゆく。

「手加減は、しないから」

背筋が凍える感触。じわりじわりと、滅びの気配が体を伝う。
間違いない、『彼女』だ。
普段はさゆみの中で優しく妹を見守っている存在。

904名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:06:40
”さえみお姉ちゃん”

だが、今のさゆみはさえみに人格変化していない。
にも関わらず、醸しだしている空気はさえみのもの。

さゆみが、里保に向かって駆ける。
意外。現実のさゆみなら、絶対に取らない戦法。それが里保の抜刀を遅らせた。

危機一髪。
さゆみの腕は、里保が前に突き出した鞘つきの刀によって押し留められる。
あと少し行動が遅れていれば、間違いなく滅びの手の餌食になっていた。

ただ、悠長なことは言ってられない。
いかに「鞘師」の一族が鍛え上げた鞘とは言え、さゆみの手の接触に少しずつではあるが、黒い煙をくゆらせている。

「やあっ!!」

さゆみの手を止めている状態から一閃。
鞘から刀を抜き、片方の手で鞘による打ち降ろし。
さゆみが怯んだところに、もう片方の手に握られた刀の袈裟懸け。しかしこれはバックスウェイでかわされてしまった。

905名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:07:14
「刀と鞘の二刀流、そんなこともできるんだ」

神木で作られた鞘に打ち据えられれば、骨の一つや二つは簡単に折れてしまう。
けれど、そんなことはなかったかのようにまっすぐに立っている。
確かに手ごたえはあったのに。

違う。
治癒の力で、直している。まさかの治癒と滅びの力の、同時使用。

「でもその程度じゃ、さゆみには届かない」

さゆみの掌で、滅びの力の象徴である黒い渦が踊る。
やがて渦を巻きながら大きくなったそれは、ゆっくりと地に下ろされ、里保に向かってうねりはじめた。

まずい、あれに巻き込まれたら。
考えている間にも、渦は石畳を破壊し、巻き上げた石材を黒の彼方へ消してゆく。
一旦退くか。いや、背を向けた時に追撃される可能性の方が高い。ならいっそ…

里保は。
刀を抜き、まっすぐに渦に向かってゆく。
自殺行為とも言うべき行動を前にして、さゆみが微笑んだ。
黒い渦は。里保を飲み込まない。
体に張った水のヴェールがその力を阻んでいるのだ。

「考えたね。でも、いつまでそのヴェールがもつか」
「その前に決着をつける!!」

渦を斬り裂くように突進した里保が、さゆみの眼前に迫る。
体勢を低くしたところからの斬り上げを狙う刃の切っ先。それをさゆみは体を大きく仰け反らせて回避した。掠めた斬撃が、靡いた黒髪を断つ。

906名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:08:26
しかしそれで終わりではなかった。
体を反り返らせた勢いでさゆみはブリッジの要領でそのまま地に手を着き、反動で里保に両足からの蹴りを食らわせたのだ。死角
からの攻撃に防御することもできずに、里保は通り沿いのショーケースへ飛ばされてしまう。

強い衝撃に、脆いガラスはいとも簡単に割れ崩れてしまう。
破片を撒き散らしながらマネキンたちの中に突っ込んだ里保を、さゆみが追った。

ばらばらになったマネキンに埋もれる里保。
そこにさゆみが滅びの力を纏わせた手刀を突き入れる。
砂糖菓子のように、容易く形を崩し消滅する人の形。

「鞘師は怖いの?さゆみがいなくなるのが!!」

マネキンの体を消滅させた黒い手が、さらなる鋭さで迫る。
だがそこには横に構えられた銀色の刃が。

「そんなことないです!!」
「じゃあ、何でこんなにさゆみは強いの!?」

刀を、手で弾かれた。両腕に痺れが走る。
想像だにしなかった強靭な力は、里保の胴をがら空きにしてしまった。
矢継ぎ早に、さゆみが手に取ったマネキンの足で殴打を食らう。

確かに、現実のさゆみの実力からすればこの結果はありえない。
これは。里保が思い描く、さゆみの「強さ」に他ならない。

907名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:09:22
愛やれいなすら凌ぐのではないかと思わせるほどの、格闘能力。
癒しの力と滅びの力を同時に扱う離れ業。
どちらも、現実からかけ離れたさゆみの力だ。
けれど、ある意味間違いであり、ある意味真実だった。

愛に導かれるまま、リゾナンターへの道を踏み出したさゆみ。
仲間の傷を癒すという後方援護の立ち位置でありながら、彼女は確実に成長していった。かつて共に戦った仲間たちが一人抜け、
二人抜け。ついには当時のメンバーはさゆみ一人になってしまった。それでも、ダークネスという強大な力に立ち向かうため、
若きメンバーたちを引っ張っていった。里保は、さゆみの後ろ姿に単純な力では計り知れないものを見ていたのだった。

能力者としてと言うよりも。
リゾナンターを継承するものとして。一人の人間として。
里保は、さゆみを尊敬していた。
だからこそ、彼女の抜けることによって生じるであろう穴のことについて。
思いを巡らす事ができないほどに衝撃を受けていた。

908名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:10:02
倒れた里保に、さゆみが跨る。
両手が封じられ、完全に不利な体勢になってしまった。

「ねえ。何を、恐れてるの?」

そう問いかけるさゆみの顔は。
喫茶店のカウンターで里保や、メンバーたちに向けられる柔らかな笑顔そのものだった。
だから。つい、本音が出てしまう。

「だって!だって、道重さんは!!私たちをここまで導いてくれたじゃないですか!!道重さんがいなかったから、今の私たちは…今のうちはなかった!!!」

言ってしまった。
本当はそんなこと言うつもりはなかったのに。
けれど、一度封を切ってしまった感情は止まらない。

「そんな道重さんがいなくなったら、心配なんです!!うちらはどうすればいいのか、不安なんです!!!」

さゆみがリゾナントを去ると聞いた時。
多くのメンバーが不安を口にした。さゆみ抜きのリゾナンターなど、考えたこともなかった。
そんな中、里保はみんなを励ますと共に、これからは全員でリゾナントを支えて行こうという決心を口にした。

でも、本音は。
誰よりも、不安に苛まれていた。
そして名実共に自分がリゾナントの剣となることの重圧に襲われていた。
誰もそのことを、知らなかった。

言ってしまってから、里保は自分が泣いていることに気づいた。
いつもは大人ぶっているくせに、恥ずかしい。
そんな思いを、癒しの両手が包み込んでくれた。

909名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:10:39
「鞘師は。もう少しさゆみのことを信じてくれてもいいかな。さゆみがリゾナントを去るってことは、さゆみがいなくてもみんなはやってけるって確信したから」
「道重、さん」
「鞘師は、一人じゃない。フクちゃんがいる。飯窪も。石田も。鈴木や生田、工藤やまーちゃん。小田ちゃんだって。だから、できるよ」

すっかり力の抜けてしまった体を、さゆみが抱え上げ、立たせる。
先にショーケースの中を出てゆくさゆみの後姿を見ながら、里保は。

そうだ、何を思い悩んでたんだろう。
道重さんは、いなくなるんじゃない。信頼して、託したんだ。

もう、迷わなかった。
中途半端に割れていたガラスを刀で弾き、外に出る。

「…表情が、変わったね。さっきとは別人に見えるよ」
「すみません。仕切りなおし、ですね」

自らの意思を表示するように、刀を、一振り。
涼しげな風斬り音を立てて、それから正面に構えた。

里保にとってのさゆみの存在の大きさ、強さが目の前のさゆみを形作っているのなら。
それは、必ず乗り越えるべき存在。

「うおおおおおおおおっ!!!!!!!!」

喉が割れんばかりに、叫んだ。
刀を構えながら、さゆみに向かって駆け出す。
さゆみが両手から黒い渦を生み出し、前方に放った。

910名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:11:28
それでも里保の走りは止まらない。
風が髪を揺らし、靡かせる。吹きぬける風の向こうに、彼女がいた。
走りながら、刀の先を下に向けての斬り上げ。放った剣圧が、滅びの渦を一気に切り裂く。

さらに、斬った勢いで刀を上空に投げ捨てる里保。
一気に距離を縮めさゆみの懐に入った上での、近接攻撃。

刀が一本であるのに対し、さゆみの滅びの手は二つ。
ならばやることは一つ。ありったけの水を纏わせた拳で、さゆみの滅びの手を殴りつける。
さらに、もう片方の手。上空を舞いながら、落ちてゆく刀。

さゆみの両手を弾き、ノーガードになった体。
里保は目の前に降ってきた刀を掴み取り、そのまま水平に胴を薙いだ。
モノクロームの血飛沫が、勢いよく上がる。

「道重さん。うちは、もっと強くなります。だから、リゾナントを去るまでの時間。もっと、学ばせてください」

それが、里保の導き出した結論。
里保が刀を納めるのを満足そうに見ていたさゆみは、やがて白黒の世界へと姿を消した。

911名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:13:38
月光。
その眩しさに、里保は目を開ける。
全身を襲う疲労感。今までの出来事が夢でも幻でもない証拠だった。

「見事試練を突破したようじゃの」
「じいさま」

気がつくと、背後に里保の祖父がいた。
さゆみ同様、里保のことをずっと見てくれている人物の一人だ。

「…いい目をしとる。ただ、お前さんが生きてる限り、試練に終わりは無い。日々是試練、そうじゃろ?」
「はい!!」

試練は確かに乗り越えた。
それでも自分が道重さゆみという存在を乗り越えたとは思わない。
そんな軽い存在ではないことは、里保自身が一番よく理解していた。
けど、いつかはきっと。

里保は再び月の光を仰ぐ。
そして自分が「鞘師」の名を継ぐものであるということ。
そして。愛や里沙たちが、さゆみが築き上げたリゾナンターという存在。
そのリゾナンターの一人であるという事を、強く実感するのだった。

912名無しリゾナント:2014/06/02(月) 11:14:44
>>902-911
「光と影」 了

913名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:22:07
「LILIUM-リリウム少女純潔歌劇-」に少し関連した短編投下します
ネタバレにはなっていないと思いますが未見の方や苦手な方はスルーお願い致します

914名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:22:44

「鞘師さんは、永遠をどう思いますか?」

夕方。逢魔が時と呼ばれる時間帯。
西日が「喫茶リゾナント」に射し込み、思わず目を細めてしまう。
ふいに声をかけられた鞘師里保は、「うん?」と何処か情けない声で振り返る。

「なんでそんなこと聞くの?」

責めるつもりはなかったが、言葉尻を捉えて批判したような格好にもなった。
陽の光をその背中に受けた小田さくらは、哀しい顔をするでもなく、膝を曲げて里保の目の前に置いてある観葉植物に向き合う。
脚を折った瞬間に、ぱきっと小気味いい音がした。まるで成長期の骨のようだ。彼女はまだ身長が伸びているのだろうか。
里保の成長は少しずつ止まりつつあり、この目線が暫く、私の世界になるのだなと理解した。

もう少しだけ、高い世界も見てみたいのだけれど。どうやらそれは、ないものねだりになりそうだ。
あの人が見ていた世界を、あの人が感じた世界を、同じ目線で知りたいのに、と。
そういう願いは相変わらず、叶いそうにない。

915名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:23:26
「鞘師さん、よく植物の栽培に失敗するから」
「……バカにしてる?」
「お水あげすぎなんですよ。あと、葉っぱじゃなくて、根元にあげるのが良いんです」
「え。そうなの?」

里保は慌てて傾けていたじょうろを立てる。
なんとなく、葉に水が当たり、雫が垂れている方が植物は元気になるような気がしていた。
そうか、水は根元にあげるのが普通なのか。と、納得しながらじょうろを床に置くと、さくらが柔らかく笑った。
それは幸福の象徴のような優しい表情なのに、何処か、寂しそうにも見えた。それは、1日の終わりのオレンジの光を浴びているからなのだろうか。

「永遠に枯れない花があったら良いなって、思いませんか?」

さくらは里保から視線を外すと、たっぷりの水をたたえた葉に触れる。
人差し指に落ちる水滴を気にすることもなく、葉脈をなぞるその姿は妙に官能的でぞくぞくした。
色気と言えば譜久村聖が頭に浮かぶけれど、彼女もまた、それに似た雰囲気を常に醸し出している。そのベクトルは両者で異なるけれど。
いずれにせよ、私にはないものだ。これもやはり、ないものねだりか。

916名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:24:11
「小田ちゃんの能力って…」
「“時間編輯(タイムエディティング)”―――停止ではないので、この空間の時間を止めることはできませんけど、
応用すれば、擬似的な永遠をつくることもできるかも、って考えてますよ」

里保は阿呆のように突っ立ったまま、葉をいじるさくらと、彼女の云う永遠を考えた。
花を枯らし、湿気を増やしすぎてカビさえ生やすポンコツな自分に、植物の栽培は確かに向いていない。
だけど、いつか綺麗な花が咲いたら、私はそれを愛でるだろう。
鮮やかに咲き誇る赤やピンクに目を細め、柔らかい表情をたたえて、その花を守ろうとするだろう。
どんな雨風でも凌げる覆いをつくり、絶えず陽の光を浴びられる場所に置き、そこにある命を長らえさせようとするだろう。

そうして、そのうち、願うのかもしれない。
永遠に咲き続ける花があれば良いと。

花だけじゃない。
ずっと変わらないものがあれば良いと。

917名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:24:53
気の遠くなるような長い時間、ずっと変わらずに此処に居られれば良い。
哀しみや痛みを分かち合うことができる、この10人で。ともに、この世界で。この場所で。永遠を共有できたら―――


―――「鞘師のこと、信じてるから」


淡い空気を震わせるような言葉が、よみがえった。
頭の中でガラスが割れるような感覚を知る。

この手から大切なものを失いかけたあの瞬間、あの人は私を救い出してくれた。
バラバラに壊れかけた心を丁寧に拾い上げ、糸を紡ぐように私をこの世界に繋ぎとめてくれた。
もうすぐ、この場所を去っていくあの人は。
あの人は私に、約束をしてくれた。

「永遠なんて…哀しいよ」

里保が発した言葉に、葉をいじるさくらの手がふと止まった。

「少しずつ変わるから、私たちは強くなれる」

あの人が去る日はまだ決まっていない。だが、年を越えるころには、あの人はもう、此処にはいない。
私たちに託せると確信できたから、あの人は此処から歩いていく。その歩みをだれも、遮ることはできない。
時間が止まれば良い。永遠に閉じ込められたこの空間で過ごせたら良いと、どうしても、願いたくなる。

918名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:25:36
それでも、それでも、それでも。

あの人が託したのは、未来だ。
変わりゆく世界の、新しく生まれくる、未来なんだ。

「変わるからこそ、美しいんだよ」

木も、草も、花も、動物も。
風も、空も、海も、人も。
変わらずに揺蕩うものはなく、一定の時間の中でその生命を燃やし、輝きを放つ。
それは「終わり」ではなく、「永遠」でもない。
生を受けて、生きて、死んで。そしてまた何処かでなにかが生まれる。
ただそこに紡がれていくのが、世界の約束だと、思った。

「良かった……」

さくらはそう言うと、膝に手を置いて立ち上がった。
また、ぱきっと骨が鳴る。里保よりも少し低い視線から、こちらを見上げる。上目遣い、というやつだ。大きな瞳に見つめられると、心が微かに揺れ動く。
この独特で、妖艶ともいうべき色に、絆される。

「私も、永遠は哀しいと思います」

その言葉を聞き、里保は一瞬眉をひそめた。

919名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:26:08
「……じゃあ、なんで、私に聞いたの?」
「だって、鞘師さん、植物育てるの下手ですから。
そのうち、花屋さんで買ってきた百合を見ながら、枯れないでほしい・永遠がほしい、なんて言い出すんじゃないかと思って」

いたずらっ子のように笑う彼女に、ちょっとだけむっとした。
あからさまに唇を突き出し、怖い表情をつくってみせる。さくらは相変わらず気にも留めないで「冗談ですよー」とケラケラ笑った。

「でも……」

その笑顔を一瞬引っ込めて、彼女はトーンを落とした。

「人同士の絆とか、優しさとか、そういう変わらないものも、あると良いですね」

カタカタと、窓が動いた。
風が啼いている。西日が徐々に細くなり、もうすぐ夜に呑み込まれる。

時間と空間。
軸をたたえて存在するこの世界にある、変わらないものと、変わるもの。
永遠はないからこそ、永遠を願う。
烏滸がましく、情けない。
儚く散りゆくからこそ美しいのだと、分かっているのに。

920名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:26:56
「想いの力次第、かな」

気付いたときにはさくらを真正面から抱き締めていた。
自分が取った行動に意味づけることは不可能だったけれど。自分でも不思議なほどに、動揺はしていなかった。
こんなふうに、だれかを抱き締める日が来るなんて、あのころは想像もしていなかった。

ああ、やはり私は変わった。
時間が、空間が、歴史が、仲間が、私を変えた。

「人を繋ぎとめるのは、お金や権力じゃなくて、想いだよ」

変わってしまう心を、憎しみや哀しみに溢れたこの世界を。救えるものがあるとすれば、それは力ではなく祈りだ。
あの人が命を賭して、私を世界に引き戻したように。
私もまた、純粋に祈りを捧げたい。
この両の手が、血で穢れていたとしても。
この両の目が、血で染まっていたとしても。

「鞘師さんって……意外と詩的ですね」
「……さっきからちょいちょいバカにしてるよね?」
「ふふ。すみません」

さくらはまた楽しそうに笑うが、いちど言葉を切ると、

「……ありがとうございます」

柔らかく、甘く、愛おしい声を呟き、里保の背中に腕を回した。

921名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:27:38
西日の断末魔は消え、夜の帳が街に落ちる。もうすぐ月が、その顔を出す。

「道重さんのこと、笑顔で送り出せると良いですね」

耳元で囁かれたその声が、微かに涙で滲んでいた気がした。
それに引っ張られないように心を正し、震えながらも「そうだね…」と返す。

永遠は、そこにはない。
あの人はもうすぐ、此処から去る。
それでも、変わらないものは、変えたくないものは、確かにある。
祈りを捧げることもまた、ひとつの呪いだと分かっているけれど。

業が深くても、私は祈ろう。

あの人が、どうか、これからもシアワセでありますようにと。


里保とさくらの吐息が重なる。
ふたりの捧げるひとつの祈りは、ただ静かにそこに鎮座すると、ゆっくりと空気に溶けていった。

922名無しリゾナント:2014/06/08(日) 19:28:24
>>914-921
以上「pray for you」

923名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:42:34
その場所は、見渡す限り、水に覆われていた。
果てしない水と、果てしない空が広がっているだけ。
水深は、大して深くない。精々里保の踝を濡らす程度。
それでも、やはり気が乱れる。あの時のトラウマをどうしても思い出してしまう。
この場所を「リクエストした」のは里保自身なので、文句など言えないが。

改めて、相手を見る。
屈強そうな女性が、二人。
一人は細身ながら鍛え上げられた筋肉が嫌でも目に付く、長い黒髪の女性。
そしてもう一人はいかにもパワータイプといった感じの短髪の女性。
どちらも、里保よりも背が高い。まともに組み付かれれば不利、しかも人数分のアドバンテージが向こうにはある。

それでもやるしかない。
意を決した里保が駆け出す。水しぶきが飛び、水面に波紋が走る。
目標は短髪の黒髪。もしも里保が水限定念動力 ― アクアキネシス ― を使うことが許されていたら、どちらかに決め打ちする
ことなく双方を攻撃の射程圏内に入れていただろう。しかし、今回はそういう目的の戦闘ではない。

「舞美じゃなくて、まぁなわけ? その選択、後悔するよっ!!」

短髪の女性は、その肉厚な唇の端を上げ、体勢を低く構えた。
金剛化。一度硬化した肉体は、生半可な攻撃など受け付けない鋼の鎧と化す。

「でやぁっ!!!!」

相手の懐に入り込んだ里保が、怒涛の攻撃ラッシュを仕掛けた。
小さな体からは想像もつかない勢いの、右拳の一撃。間髪おかず、二発、三発。さらに。
相手の利き足であろう右足へのローキックからの、旋回回し蹴り。そこから展開した飛燕脚。

924名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:43:47
鞭のように撓る蹴り技は、まさに踊っているかのように軽やかに。
それでいて、食い込むような鋭さを併せ持つ。
短髪の女性はそれらを受け止めながらも、里保が繰り出す技の影に一人の女性の姿を見出していた。
あの建設現場で、彼女たち七人を向こうに回して圧倒的な力の差を見せつけた、その姿を。

里保が蹴り足で真上に振り上げる。
空を切り裂く踵落とし、しかしそれは女性の頭上に組まれた両腕に止められてしまった。

「まだまだ一撃が軽いね!!」

里保の足を弾き飛ばし、体勢を崩したところに相撲の張り手を彷彿させる掌底が襲う。
まともに喰らえば内臓破裂、または重度の骨折を引き起こすほどの威力ではあるが。

「…小手調べですから」

大きく後ずさったものの、里保はほぼ無傷。
衝撃から体を逃がし、ダメージを最小限に抑えたのだ。

「こっちにもいるの、忘れないでほしいなあ」

刹那。
背後から伝わる強烈な気配。咄嗟に身を翻したのは正解だった。
短髪の巨漢に気を取られているのを好機と捉えたのか、ノーマークの長髪の女性が里保に向かって殴りつけてきたのだ。標的を見失
い、拳がそのまま水面に炸裂すると、周囲に凄まじい量の水飛沫が飛び散った。

925名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:44:36
一対一の形に持ち込もうとしたのに、相手に強引に一対二の形にさせられてしまった。
ただ、これは想定済み。
里保は短髪の女性と手合わせしたことがなかったから、相手の力量を測る意味で最初に狙いをつけていただけの話。

二人の女性を前に、腰の刀を抜く。
そして刀とは逆の手で、黒塗りの鞘を持ち空を切り、鞘と刀を交差させて構える。
ここからが、本番。里保は意志の強そうな口元を真一文字に引き締めた。

「そんな二刀流もあるんだ」
「舞美、感心してる場合じゃないって」

素直な感想を述べる長髪の女性を諌めつつ、里保の出方を伺う短髪。
最初にこの小さな剣士の話を聞いた時にはそんな戦闘スタイルをとるとは聞いていなかった。考えられることは一つ。
当時より、成長したということか。

「でも、まぁたちだってあれから強くなったんだよ!!」

迅い。
構えつつも後方の攻撃にも備えていたつもりだが、それでも。
見た目の巨体からは想像もつかない速度で、短髪が突進してくる。それはまさに、猛獣の如く。
普段の里保なら、水の盾を展開し相手をけん制しつつ、もう一方に攻め込むだろう。
だが、今回はアクアキネシスを使うことなく、体術と剣術のみで戦わなければならない。

一撃必殺。
そう表現するのに相応しい短髪の女性の腕が里保に迫る。
一際大きな掌が里保のか細い首を掴みへし折る前に。
黒い軌跡がその手を弾く。
怯まず繰り出されたもう片方の手もまた、刀の黒い柄に打ち据えられた。
相手が踏み込む度に、水飛沫が飛び、里保の視界を遮る。対して里保の動きは滑らかな鏡のように。
静と動、互いの息をも吐かせぬほどの攻防。踊るような里保の刀裁きに、怪力で鳴らす短髪の女性は攻めあぐねていた

926名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:45:57
しかし。
そうこうしているうちに、長髪の女性もまた里保との距離を詰めていく。
もちろんそのことに気付かない里保ではなく。
かつて里保を苦しめた、体に纏わせた水の鎧は健在。背後には龍のようなオーラすら見える。あれは水を操る力が具現化したものか。
さて、どうする。どう切り抜ける。

里保は、迷うことなく宙を舞う。
それは襲う側の二人も想定済み。だが。

「そんなのあり!?」
「高い!!」

明らかに、跳躍の到達点が高い。
それもそのはず。里保は水面に刀を突き立て、それを足場に宙返りを繰り出していた。
結果、二人は空に舞う里保を目で追おうと顔を上げる形となる。

死角になりやすい上空からの奇襲。
ただ、逆に言えば攻撃特化の防御がおろそかになる攻撃。
このまま落ちていけば、下手をすれば力自慢の二人の餌食になってしまう。

その時だった。
長髪の女性目がけて投げられる、里保の刀。
拳で弾き飛ばすも、そこに一瞬のタイムラグが発生した。

「うおおおおおっ!!!!!」

急降下する里保の目標は短髪。
そこへ、挟まれた時間差を取り戻そうと長髪の女性が猛追する。
里保の攻撃が届くのが先か、それとも挟み撃ちにされるのが先か。
一瞬。ほんの一瞬だけ。相手の二人のほうが速かった。

927名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:46:38
落下点で発生した強烈な衝撃で、地面の水が派手に飛び散る。
水しぶき、いや水煙と化したそれが晴れてゆくとともに見えたのは。

両側からの攻撃を、鞘と刀で食い止めている里保の姿だった。

「はーい、三人ともそこまでー」

場に合わない甲高い声が響き渡る。
それとともに、周りの景色が変化していった。

見慣れた部屋の壁。衝撃を最小限に抑える床マット。
里保は大きく、息をついた。

ここは、喫茶リゾナントの地下に設けられたトレーニングルーム。
そこを先程の甲高い声の女性が幻視の能力によって、水の張られた空間のように見せていたのだ。

「あれからそんなに経ってないのに、ここまで体術を完成させるなんてね」

ついさっきまで拳を交え戦っていた長髪の女性。
そんなことなんてなかったかのように、明るい笑顔で握手を求めてきた。

「いや、まだまだです。剣術ともっとうまく融合させないと、完成したなんて言えないです」
「鞘師ちゃんは真面目だねえ。うちの千聖にも見習わせたいくらい」

928名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:48:04
堅く握手を交わす。
矢島舞美。かつてダークネスの先兵として里保と激戦を繰り広げてきた彼女と、こうして握手できる日が来るとは。
あの時の戦いを思い出し、感慨に身を浸していると、

「ヤッシー、めちゃくちゃ強いじゃーん!!さすがリゾナンターのエースだね!!!」

ばちーん、と音がしそうな勢いで背中を叩かれた。
先程の攻撃よりも力を込めてるんじゃないか。そう思わざるを得ないほどの一撃に、里保は目を白黒させる。

「エースだなんてそんな…田中さんと比べたら」
「さっきのローキック?あれすっごい効いたんだけど。田中さんの蹴りとそん色ないくらいに」

巨漢の女性・須藤茉麻が豪快に笑いながらそんなことを言う。
彼女もまた、ダークネスの命を受け田中れいなに挑んだ過去があった。

「やっぱさー、若い分だけ成長が早いんじゃない?ヤッシーまだ赤ちゃんみたいな顔してるし。うちらなんてもうおばさんだからさー」
「もう、ちぃったら。ももが聞いたら『ももち、まだぴちぴちですぅ〜』とか言うよ?」
「う、今リアルに想像して寒気がした」

幻視能力の持ち主である徳永千奈美も含めた彼女たちは。
リゾナンターに破れた後、警察組織の預かりとなった。そして彼女たちの能力を惜しんだ上層部が、彼女たちをそのまま能力者による
特殊部隊に組み込んでしまったのだ。

「でも、みなさんにそう言っていただけると光栄です。胸を貸して欲しいなんてわがまま言ってしまいましたけど、よかったと思います」
「鞘師ちゃんは謙遜家だね。例の海上の孤島の事件の後も、結構活躍したんでしょ?」
「あ、千奈美知ってる!ゴキゲン洋でのシージャック事件だっけ?あと新都心が大量の虫に襲われた事件とか。そうそう、元ダークネ
スの下部構成員が地方で作った組織ともやり合ったんだって?」

929名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:49:13
千奈美の言うように、田中れいなを失ってからも、いや、失ったからこそリゾナンターたちは破竹の勢いで実績を上げてきた。業界内
ではかつての9人の時代に匹敵するくらいの高評価を得ているとも言う。だが。

「まだ、足りないんです。うちらは、うちは。もっと強くならないと」

道重さんを支えられるくらいに。

れいなという大きな戦力を失ったリゾナンターたちは、さゆみを先頭にそれまで以上の活躍をしてみせた。リゾナンターのリーダーと
してさゆみは単純な戦闘力ではなく、戦略を組んだり相手との交渉を有利に進めることで、若きメンバーたちを引っ張ってきた。
だから彼女の負担を少しでも軽くするために、自分達も向上していきたい。

突然鳴り響く、着信音。千奈美の携帯からだった。

「もしもし、あ、熊井ちゃん?えっ、何言ってるかわかんないよ落ち着いて。とにかく、どこにいるの?わかった、すぐ急行するから」
「千奈美どうしたの?」
「よくわかんないけど、熊井ちゃんと梨沙子が手こずってるみたい」

電話の相手は彼女たちの同僚である熊井友理奈だった。
任務で向かった能力者討伐に苦戦しているという。

「ごめん鞘師ちゃん、私たち行かないと」
「いえ。これだけしてもらっただけでもありがたいです。今はお友達のほうを優先してあげてください」
「そう言ってもらえると助かるよ」

申し訳無さそうに言いながら、舞美たち三人はトレーニングルームを後にした。

930名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:51:19
その背中を見送りつつ、大の字になって倒れこむ里保。
形式だけの模擬戦とは言え、やはり相当体力を消耗させられていたようだ。
やっぱりあの人たちは強い。自分は、まだまだだ。けど、それで終わらせるわけにはいかない。
そういう思いを、強くする。

あれ以来、ダークネスの動きはない。
自ら情報屋を営む里保たちの先輩である光井愛佳によると、例の孤島での戦いの最中に組織内で内乱があり、数人の幹部を欠いた状態
であるという。また、孤島に同行した元リゾナンターのリーダー・新垣里沙は孤島にいた幹部の一人と戦い、再起不能の状態に追い込
んだと語っていた。
つまり、相手は自らの組織の建て直しでリゾナンターに構っている暇はないということになる。

けれど、そんな無風な状態がいつまで続くか。
連中は再びこちらに手を出してくる。さゆみは確信に近い口調でそう言った。
ならば、その間に少しでも強くならないといけない。
能力を失い一戦を退いたれいなに格闘術の手ほどきを請願したのも、そのためだった。

焦っていると言えば、それまでかもしれない。
けれど、悠長にしていられるほどの時間はない。
里保の感覚が、そう訴えていた。

931名無し募集中。。。:2014/06/13(金) 01:53:55
>>923-930
「リゾナンター爻(シャオ)」更新終了

性懲りなくЯの続編を始めてしまいましたw
おそらくこれで最後になるはずです
みなさんのお話の繋ぎとなるべく何とか更新していきますのでよろしくお願いします

932名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:15:30
Fantasyは始まらない

★★★★★★

「・・・う、ううん」
「よかったえりちゃん、目が覚めたんだね」
冷たいタオルを受けとるが、頭がすっきりせず、気持ち悪さのみが残っていた
「??? ここは??」
「リゾナントだよ」
「あいつらは?ダークネスは?」
「落ち着いてえりぽん、ダークネスは帰りましたわ」
興奮している生田を落ち着かせようと譜久村はホットミルクを差し出した。温もりが体の芯から広がっていく

「・・・えりはいったい何をされたと?」
「それははるが訊きたいですよ!ピアノ線を通して心を壊そうとしたんですよね?
それなのに、生田さんのほうが膝に力が入らないように崩れて、倒れこんだんですよ」
「えりが?・・・ダークネスの方じゃなくて」
いきなり立ち上がる生田。マグカップの中のミルクが床に零れ落ちる
「・・・覚えていないんですか?」
額に皺を寄せながら頷く

「心の強さだけでいえば私たちの中で一、二を争う生田さんが打ち負けるなんて・・・」
「・・・覚えとうこともあるっちゃけど。気味が悪いと
 ・・・変な気持ちになったと。頭のなかでこう、シャボン玉が膨らんでは弾けての繰り返し、壊れていくような」
「それってえりぽんの精神が逆に破壊されそうになったってこと?」

精神破壊、それが生田の能力。精神干渉の亜種でもあり、精神を狂わすことに特化した能力
元々その力で生田自身の精神も狂わされていたがゆえに孤独であった
しかし、同じ精神操作系能力者である新垣の指導の元で能力のコントロールを可能にした

そんな生田を狂わせるほどの精神の強さを有しているとでもいうのか?あのフードは
「・・・生田さんの精神を超えるということは、よほどの実力者ということになりますね」

933名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:19:21
「鞘師さんの斬撃をはじいたのも只者ではない証拠ですよ!」
鞘師は決して怪力の持ち主ではない。刀身は鞘師の念動力で固めた水
しかし鞘師が斬れなかったものは数えるしかない。それはすべて鞘師の才能、努力によって培われたもの
「あの鞘師さんが斬れなかったなんて、どんな武器を持ってたんですかね?」
問いに対して、違う、と首をふる鞘師
「みんな、隠しても仕方ないから言うんだけど、驚かないで聞いてくれる?
どうやって私の太刀をさばいたのか、恥ずかしながらわからなかった」
「わ、わからなかったって鞘師さんの動体視力で、あの距離で?」
「ありえないって!だって里保ちゃんはうちらのエースなんだよ。それなのに見えないなんてありえないよ」
寸分の狂いなく太刀を振るうことができる鞘師に捉えられないものはない、それが仲間達の共通の認識

「DOどぅは何も見えなかったの?」
千里眼の持ち主工藤に尋ねるは佐藤
「・・・はるにも何も見えなかった。鞘師さんの言うように、あいつ、何も持っていなかった」
フードは何も持っていないにもかかわらず、鞘師の刀を手で弾いた、そう映った
「はるの眼は絶対正しいものしか映さない。はるの眼を欺くなんて不可能だよ
そりゃ、もちろん透明なものは見えないけど、何かを持つような手の形ですらなかった」
「透明化、っていうわけでもないようですね」

「さくらちゃんは何か知らない?」
「・・・それは私が最近までダークネスに所属していた。そのうえで問いかけた、ということですか?」
一瞬回答に詰まる譜久村だが、事実、それを承知の上で尋ねたわけだから仕方がない
「え、ええ、それは知ってることでしたが、それを咎めたりするわけでは」
「・・・もちろん、譜久村さんに悪意がないことはわかっていますよ。純然たる事実から糸口を模索せんとすべきですから
 ・・・あくまでも、元ダークネスとしての立場、それだけです。今は只のリゾナンターですし
 ・・・さてその問いに対しての回答ですが、残念ながら私は何も知りません
 ・・・ダークネス幹部ほぼ全員に会ったことはあります。ただ、あのフード姿は見たことがありません」
「ということはフードは幹部ではないということ?」
「でも、幹部の詐術師を同じく幹部の永遠殺しと助けに来たんだよ
 永遠殺しの部隊の限りなく幹部に近いっていうことじゃないか!」
永遠殺しの余裕のある態度が鮮明に呼び起される

934名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:21:42
「それからですね、気付いてるかもしれないのですが、詐術師の様子もおかしくありませんでしたか?」
別の切り口から分析を図ろうとするは飯窪
「もちろん焦っていたのもおかしいですが、フードの存在をまるで知らないように見えました」
「確かにはるの眼にも宙に浮いたときのあいつの驚きの表情が見えた!
 本当に初めて宙を飛んだみたいで、どうやったのかわからないようだった」

「・・・それよりどうやって空に浮いたんでしょうか?」
「道重さんから聞いたことがあります。永遠殺しの能力は『時間停止』だと」
「『時間を止める』能力ですか。幹部らしい強力な能力ですね
 もし直接戦うとしたらどのように戦うか、事前に対策しなくてはならない相手ですね
 さくらちゃんの力が効く、そういう感じではありませんし」
「・・・私は数秒しか自分の世界を生み出せませんので、未来永劫止められる敵とは相性悪いと思います」

それにしても、と譜久村は生田に目を向けた。生田が珍しく静かだ
「何か考えてるの?えりぽん?聖たちでいいなら聴くよ」
「・・・道重さんもなんか様子おかしいっちゃ。えり、道重さんのとこ行ってくると!」
「だ、だめだよ、えりぽん、道重さん、ちょっと疲れているようだから」
「でも、こういうときにこそリーダーにいてほしいと
 えり達よりもずっと前からダークネスに立ち向かっているとよ。何か知っとうことあるかもしれんやん」

「道重さんは知ってるで」
9人の誰とも違う、低い声
「誰?」
とたんに空気が張り詰める。何者かが二階に潜んでいたようだ
空調に混じりコツコツと何かで床を打ちつけるような音。否が応にも緊張感が生まれる
鞘師は右手を鞘、左手をペットボトルホルダーに伸ばす。石田の背後に幻獣が浮かび上がる
「ちょ、誰って、この声でわかるやろ?このスィートな声を忘れたとはいわせへんで」
声の主は朗らかな表情を浮かべながら姿を現した
「石田、力みすぎ、工藤、ナイフをしっかり研ぐように言うとったのさぼったやろ?」
「光井さん!!」
後輩達に向け、ウインクを放った

935名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:22:52
★★★★★★

ダークネスの本部に戻った三人を迎えた人物がいた
「おかえりなさい、詐術師さん、危ないところでしたね」
「ぜんっぜん、あぶねくねーし!もう少しであいつらの息の根を止めてやるっていうところだったのに
 また、お前のせいでチャンスを逃したじゃないか!どうしてくれるんだ、マルシェ」
嫌味を言われても表情一つ変えずにこにこと笑みを浮かべるのは白衣の女性
ダークネス、闇の叡智、と称されるDrマルシェ

「そうですか。それでは矢口さんをですね、リゾナントにお送りいたしましょうか?もうセッティング済みですよ」
「え?い、今は、ほ、ほら、あれだ、機械は使いすぎると誤作動を起こすだろ?
 機械も休ませてやらないといけないだろうから、今日のところは諦めてやるよ」
「もう一台、予備の転送装置を用意しておりますから、その心配は無用かと」
マルシェは隣のすでに準備万端な状態に仕上げている装置の元へと歩みを進めた
「え?そ、そんなことよりボスが呼んでるんだろ?
 早くいかないとまずいだろ!おいら一足先にいってるからな!!」
そういうや足早に逃げるように飛び出していった

「というか、逃げてますがね」
「マルシェ、どうした?何かつぶやいたか?」
「あ、いえ、独り言ですよ」
「それより、マルシェ、あいつ、すっかり仲間に馴染んでいたぞ」
あいつ、と言われて数秒はわからなかったが、ああ、とでも言うように笑った
「『サクラ』ですか。小田さくら、なんてしっかりした名前をつけてもらって。元気そうですか?」
「元気なんてもんじゃないよ。あいつ、矢口の首ちょんぱするとこだったぜ」

それを聞いて嬉しそうに目を輝かせるマルシェ
「やはりダークネスの戦闘教育は間違っていませんね、素晴らしい」
「おいおい、大切な先輩が一人消されそうだったのにその言い分はないだろ」
「・・・いつまでも自分の時代に固執しているだけでは生き残れない、そう気づいていただきたいだけですよ
 私なりの愛情表現なのですが、一向に気づいていただけないようでして」

936名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:24:00
「お前、先輩を敬うという思いはないのか?」
「尊敬はしてますよ。しかし、科学と感情は天秤にかけられないものです。組織にとって私は技術のみを求められた存在です
 組織にとって必要な歯車になれというなら進んでこの身を捧げましょう」
「穏やかじゃないね」
「日本人的、とでもいってくださいよ」

「おいおい、お前ら何してんだ?さっき詐術師が走っていったが、何かあったのか?」
現れたのは金髪の麗人、精神系能力者ながら単純な肉弾戦を好む変わり者、吉澤
「なんつーか、逃げているようにも見えたが、あれはあの件かね?
 自分で自分の首をしめることとなった、あの失敗を取り戻そうとしているのかね?」
「・・・あんまり、詮索しないほうがいいこともあるわよ」
「まあ、俺が気にしなくてもなんとかできるだろう。あの人なら。ん?」
そこで二人の横にいるフードの存在に気づいたようだ

「おい、マルシェ、こいつは」
表情を変えることなくマルシェは頷く
「ええ、その通りですよ」
「・・・なるほどな、こいつが『二の矢』か」
「・・・」
フードは俯いたまま何も語らず、佇んでいる

★★★★★★

「光井さん、なんでここに?というかいつの間に二階に上がっていたんですか?」
「いつってあんたらが出て行ったあとやで。歩けへんわけでもないし、合い鍵もあるから待たせてもらってただけや
 しかし鞘師、少しは二階を片付けたほうがええで、生活の乱れは心の乱れにも通じる。意識せなあかんで」
8人の脳裏に浮かぶのは食べ物をこぼす姿や、服をたためずそのまま放置しっぱなしのアパート
「あの部屋に勝てるくらい汚い部屋を作れるんは一人しか知らんわ」

「それよりどうして光井さん、リゾナントに来られたんですか?
 もう私達が十分に強くなったってそうおっしゃって、離れられたはずでは?」

937名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:25:21
足の怪我、それは決して日常生活を送ることができなくなるほど重大−というわけではない
実際、普通に生活することは全く問題ない。しかし、彼女たちは普通の生活をすることができないのだ
未来予知、という戦闘補助という役割に徹し、攻撃手段を持たない光井は、足の怪我をだれよりも悔いた
自分自身の力ですら、自分の身を守れない、そうなる可能性があり、それは仲間たちの迷惑になると考えた
守られるために仲間達の負担になるわけにはいかない、それが結論。彼女はリゾナントを去った

「確かに愛佳はここから離れた。せやけど、リゾナントに来ないなんて一言もいうてへんで
 力を失ったわけやない。未来は視えるわけやから、可愛い後輩達の成長にアドバイスするくらい構わないやろ?」
「そ、そうですか」
「とはいえ、よほどのことがない限り、そんな邪魔な真似はせえへんと思うとったんやけどな
 愛佳も一線を退いた身や。今のリゾナンターを知らんもんがあれこれ口出しするんは却ってお節介やろ?」

何も希望を持てない虐められた過去をもつ光井
それを救ったのは、初代リーダーの高橋
その高橋も光井を救うために自殺を止めようとしなかった
リゾナントにおいで、それだけ伝えて明日を導いた。

彼女に出会い光井は変わった
成長するために必要なこと、それは、変えるのではない、変わること
自ら考え、悩み、苦しみ、もがき、動き、失敗し、それでも悩んで進むこと
教わるのではない、教えられるではない、教えを待つのではない、教えを求めるのではない
自分で自分を成長させるには、待ってはならない、それを高橋から光井は学んだ
そして、それを後輩たちにも強く求めた

「それなのに光井さんが来られたってことは???」
「ま、そういうことや。ここまで来たら大方察しはついてるやろ?
 さっきのフード、あいつについてのことや」
「ということは、光井さんは何かを視たってことなんですね」
「教えてください!光井さん!あいつは何者なんですか?」
「何を知っているんですか?」
矢継ぎ早に答えを求める後輩達に対して光井は視線を外した

938名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:26:32
「・・・それは愛佳の口からは言えん。愛佳が言うよりもっと相応しい人がおるからや」
「なんでですか?光井さんが知っているなら光井さんが教えてくださるだけでも」

その時、鍵の開いた音がした。今の音は表の扉から届いたようだ
再び緊張感が張り詰める。それを和らげようと光井が9人に向けて笑いかけた
「大丈夫や。愛佳が呼んだ人や」

(光井さんが呼んだ人って?)

「いや〜リゾナントも変わってないね〜うーん、落ち着くね、この感じ」
「「「新垣さん!!」」」
当然のごとく新垣の胸に飛び込もうとする生田と、それを予測してロープを張り巡らせていた新垣
数秒後には生田は床の上に芋虫のような状態で転がることとなっていた
「やあ、みんな久しぶりだね」

「光井さんがおっしゃった『相応しい人』っていうのは新垣さんだったんですね」
光井に再び集まる視線
首を横に振る光井、そして「そうやない」と小さくつぶやいた
今度は新垣に集まる視線

そんな視線を払うように新垣はキッチンの奥へと進んでいった
「私はね愛佳からの電話で未来を知らされただけ。
 驚いたよ、その未来に、外れてほしいような、あたってほしいような複雑な感情だった」
一歩一歩、ある人物に近づく新垣
「教えるのは簡単。でもね、それだけじゃ乗り越えられないこともあるの、ね、わかってるでしょ?さゆみん」
肩をやさしく叩かれ、腫れた瞼で新垣と視線を合わせる
「・・・」

939名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:28:03
「やはり道重さんは知っているんですね、あのフードの正体を」
頼もしき後輩達も全員、駆け足で頼れるリーダーのもとに集まっていく
「おかしいとおもっていたんですよ、全員が
鞘師さんの刀を弾いた後、一瞬顔が見えたとたんに道重さんの顔色が青ざめたんですから!」
千里眼で捉えなくてもその表情は誰しもが同じ捉え方をするであろう、信じられないものを見た、といった表情
「何を見て、何を隠しているのですか?そんなに私達に隠しておかなくてはならないことがあるのですか?
 道重さん、聖たちは道重さんからみて、頼ることができない存在なのでしょうか?」
珍しく強く迫る譜久村。飯窪も続く
「お願いします、教えてください」
頭を下げる二人に倣うように、7人も頭を下げた

「そうおっしゃってますよ。道重さん」
「どうするの?さゆみん」
二人はあくまでも自分から伝えようとする意思はないようだ

「・・・4年前、まだリゾナンターが9人だったころ」
黙り込んでいた唇が開いた
「ある人物が、行方不明となった。共鳴の力を使い、8人はその仲間を救い出さんとアジトに乗り込んだ
 しかし、その人物は見つからず、数日の時が過ぎた」

「突然、その消えた人物の声が仲間達に届いた。それは助けを求める叫び
 その声に従い、再び8人はその声の元へと駆けつけた」
黙って話を聞き続ける9人の仲間達
「助けを求めたのは−さゆみ。そして、そこに待っていたのも私、いいえ、さえみお姉ちゃん」

意味が分からないといった表情の工藤をはじめとする数人に説明を加える光井
「道重さんは治癒能力を持つ主人格と、過剰治癒能力ですべてを破壊するさえみさん、二つの人格を持っとったんや」

「さえみお姉ちゃんはね、私をね、守ろうとしたの。リゾナンターを辞めさせようと私の身を隠そうとしたの
 でもさゆみはみんなと一緒にいたかった。抵抗した
 おねえちゃんはそれを許さなかった。だからさゆみを巡って戦ったの、リゾナンターと」

940名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:30:30
(仲間同士で戦ったってこと?)
鞘師は心の中で問う。そんなことが起こりうるのか、と

「さゆみも必死でもがいたの、戦いたくないって、何度も何度も。
 でも、無理だった、お姉ちゃんは強すぎた。みんな傷つき、もうだダメだと思った
 そんなとき、ある大切な仲間が、お姉ちゃんを倒した・・・自分を犠牲にして
 彼女はさゆみにとって一番の親友だった。なんでもわかりあえた存在だった」

道重の告白を聴きながら鞘師は壁に飾られた写真を視界の端で捉えていた
(はじまりの9人)
困難な道を歩いているなんて微塵も感じさせない程の笑顔の9人
しかし、9人は少しずつそれぞれの道を進むことになったという。その原因となったのは・・・・

「9人が8人になった、その原因はさゆみ。そして、消してしまった仲間の名前は

★★★★★★

フードに手をかける吉澤
「先輩の前では礼儀としてフードは外すべきだろ」
そういいゆっくりとフードを後ろにおろしていく

パサッと音を立てて、蛍光灯に照らされたその顔を見て吉澤は口笛を吹いた
「ほう、変わってねえな、こいつ。
 4年間も経ったのにあのままじゃねえか。可愛いままじゃねえか」
肩ほどまで伸びた黒髪、いわゆるあひる口、くりっとした愛嬌に満ちた真ん丸い眼
すらっと伸びた鼻筋、潤いに満ちた誘惑的な唇、ぷっくりとした頬
「・・・」

★★★★★★

「『亀井絵里』―あのフードは間違いなく、絵里だった」

941名無しリゾナント:2014/06/15(日) 18:36:58
>>
『Vanish!Ⅲ 〜password is 0〜』(2)
仕事が忙しくてぜんぜん筆が進まない(涙。間に合うかな?
このシリーズは古い設定なので知らない方ばっかでしょうねw
ただ、昔の作者が今の時代の設定で書くことで何か面白い化学反応が起きればいいな、なんて思ったりして。
Updataすべきところはして、残すべきものはそのままで描き切りたいです

ここまで代理お願いします。

942名無しリゾナント:2014/06/15(日) 19:11:59
行って参ります

943名無しリゾナント:2014/06/15(日) 19:18:28
行って参りました

944名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:35:35


都内某所の喫茶店。
リゾナンターのリーダー・道重さゆみは、とある人物に会うためにその店に向かっていた。
彼女が自らの店ではなく敢えて遠く離れた他所の喫茶店を待ち合わせ場所に選んだ理由、それは。

チェーン店らしく、画一的にカスタマイズされた店の内装は、シンプルであるとともに何か物足りなさを感じる。さゆみは、やはりリ
ゾナントの手作りだけれど温かみのある佇まいのほうが好きだった。

「いらっしゃいませー」

マニュアル丸出しの店員の声を背に、店舗の奥へ進む。
目的の相手はすぐに見つかる。よくもまああんな格好でここまで来れたものだ。

「おう、呼び出してすまんな」

結婚式の帰りの新郎のような、白のタキシード。
肩の近くまで伸ばした金髪も相まって、どう見ても普通の職業についてるとは思えない。
能力者プロデューサー、という胡散臭い肩書きが妙にしっくりと来る。

945名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:36:08
「お久しぶりです、つんくさん」

テーブルを挟んで、胡散臭い男・つんくと正対した。
アイスティーでええか?とだけさゆみに聞くと、ウェイトレスを呼びつけて注文をはじめた。
つんくの前には飲みかけのアイスコーヒーが。どうやら少しばかり待たせてしまったらしい。

「お前らの活躍は聞いてるで。例の蟲使いの騒動とか、あとヘタレみたいなやつが率いてた能力者集団との戦いとか」
「今日はお忙しいんじゃないですか?」

いつものように饒舌なつんくをさゆみが牽制する。
さゆみ自身も、早く本題に入りたかった。

「ああ、呼びつけといて申し訳ないんやけど。次の予定もあるんでな。いやあ、売れっ子はつらいわなあ」

愚にもつかないことを言い、一人で笑うつんく。
さゆみの白い視線に気づくと、ようやく思い直したように表情を引き締めた。

「っと。本題やな。あれから、体の調子はどないや」
「ええ。特に問題なく、安定してますけど…」

ほんの少しの間。
けれどそれは、さゆみ自身の躊躇。
自身のアイスティーが運ばれるタイミングを見計らって、話を切り出した。

「『お姉ちゃん』の声が、聞こえないんです」

946名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:37:21
今から数ヶ月前のことだ。
囚われの身となった田中れいなと小田さくらを助け出すために、リゾナンターたちは絶海の孤島へと乗り込んだ。その際にさゆみがつ
んくから渡されたのはいかにも怪しげな薬だった。

これを飲めば、一度だけ姉人格と自由に入れ替わる事ができる。

つんくの言うとおり、通常ではさゆみの生命の危機が訪れた際にしか現れない姉人格・さえみはさゆみの呼びかけによりいとも容易く
出現することができた。
だがその副作用は激しく、立っていることもままならないほどの劇的な体力消耗が数日後にあらわれた。それ以来、さゆみが内なるさ
えみを感じることはなくなってしまう。

「あれ以来、お姉ちゃんが出てくるようなシチュエーションに遭遇してはいないんですけど。それでも不安で」
「…まさかそんなことになるとはな。俺も迂闊やった」
「いえ、いいんです。実際、あの時は薬のおかげで窮地を脱する事ができたわけですし」

ただ、この先も姉人格を使わないままやり過ごせるとは思えない。
れいなが離脱してからの戦いも、お世辞にも軽く乗り切ったとはとても言えない有様だった。それに。

ダークネス。
今はおとなしくしているが、孤島の研究所の一件の借りを返してくるのは間違いない。
幹部を数人失ったと聞いているが、逆に言えばそれ以外の幹部は健在。いずれその魔手をリゾナンターたちに伸ばしてくるのは間違い
ないとさゆみは見ていた。

947名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:38:58
「俺から言えることは、一つだけや。姉人格が発現するような状況には、なるべく身を置かんほうがええ」
「考慮に、入れておきます」

さゆみには、そうとしか答えられなかった。
仮に、かわいい後輩たちが生命の危機に瀕しているのを目の当たりにしたら。
さゆみは迷うことなく脅威の前に立ち塞がるだろう。その後にたとえ何が起ころうとも。
それだけの覚悟が、彼女にはあった。

「ところで、何やったっけ。あの。時間止める」
「…小田ですか?」
「せや。小田や。小田さくら。あいつ、どないしてる?」
「元気ですよ。力はスケールダウンしたけど、リゾナントの戦力です」

ふとしたきっかけでさゆみたちと出会い、そして絶海の孤島でれいなと共に救い出すこととなった、人工能力者の少女。彼女はつんく
の伝手で里親に引き取られ、学生としての生活を送りながらリゾナンターとしても活躍していた。

「ほー。この前入ったばっかやのに、もう戦力か。そいつは楽しみやな」

そんな事を言いながら、また怪しげな笑みを浮かべるつんく。
それは彼がいつも自慢げに紹介するいかがわしいアイテムを出した時の笑顔に似ていた。
知的好奇心、と言えば聞こえはいいけれど。

さゆみはつんくのその知的好奇心の塊のような言動を見るたびに、思う。
この人は能力者の斡旋業などではなく、何かの研究分野に携わっているほうが性に合うのではないかと。一度それとなく話を向けたら、
それもええなあ、俺最近米の品種に拘ってんねん、とどうでもいい薀蓄が始まったので慌てて話を切り上げたのだが。

948名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:39:57
「じゃあ、今日はこれで」
「何や、もう行くんかい。アイスティーなくなるくらいまでの間やったら時間あるで?」

つんくの指摘したとおり、さゆみのアイスティーはまだ半分ほど残っている。
コップの側面に付着した水滴が中の琥珀色を反射させていた。

「いえ。お邪魔になるといけないので。それに。れいながいなくなってから、あの喫茶店で過ごす時間がより大切なものになってきた
気がするんです」
「さよか。ほな、気ぃつけてな」

さゆみはつんくに軽く一礼すると、席を立ち店を立ち去った。
さゆみの姿が完全に店内から見えなくなったところで。

「ええ趣味してるわ。盗み聞きか?」

一人になった席で、つんくは話しかける。

「まさか。待ち合わせの場所に少しだけ早く着いただけですって」

つんくの後ろの席。
そこに白いフリルのワンピースを着た少女が座っていた。

「そっち、行ってもいいですか?」

言いつつ、つんくが答えないうちに席を移動する。
自然に少女の姿がつんくの視界に入った。
肩にかかった、巻かれた髪。薄めの顔つきながら、きゅっと上がった口角が印象的に映る。

949名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:40:50
「ええで、って言う前に自分から移ってるやないか」
「細かい事は気にしないほうがいいですよ」

悪戯っぽい、というよりも人を小ばかにしているとすら思える挑発的な笑顔。
歯を見せずに笑う女は本心を決して見せない、という誰かの言葉をつんくは思い出した。

「あれから、どないやねん。特に和田とか」
「あやちょですか? 憂佳やサキチィがいなくなってから、ずーっとふらふらしてますよ。ま、その分めいめいやタケが働いてくれる
から、いいんですけど」
「ダークネスの幹部の一角を崩した、っちゅう勲章の代償か」

その時。
つんくには目の前の少女・福田花音の笑みが一瞬だけ消えたように感じた。

「『赤の粛清』を倒したのは、高橋さんですから」

花音の言う事は紛れもない、事実。
事実少女を含めた「スマイレージ」はたった一人の能力者の前に瓦解し、その能力者を討ったのは高橋愛だった。

言葉で言うのは、容易い。
けれど心はいつも、裏切る。

「そんなの到底認められないんですけど、って顔しとるで」
「そうですか?」

再び笑顔を取り繕う花音。
ただ、その仮面はいつもよりもほんの僅かだけ不自然に。

950名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:42:31
「それよりも」
「何や」
「主任がぼやいてましたよ。そろそろ現場に戻ってきてもらわないと困るって」

意趣返し。
それが彼女のせめてもの抵抗だった。
あの時受けた屈辱を不躾に甦らせた目の前の相手への。

「…せや。今日はお前にとっておきの新製品、持ってきたんや。『シンデレラマシーン』ゆうてな、これさえあればどんな野暮ったい
奴でも」
「明らかに話題を逸らしましたね。まあいいです。今日はあくまでもただの”報告”ですから」

言いながら、席を立つ花音。
ちょい、待ちいな、シンデレラの生まれ変わりやで。そんな謳い文句が毛ほどもヒットしないのを確認すると、取り残された派手な中
年はやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

「プライドを砕かれたエッグのエリート、どう動くか。楽しみやな」

アイスコーヒーが、一気に飲み干される。
中の液体がなくなるのとつんくの姿が店内から掻き消えるのは、ほぼ同時だった。

951名無しリゾナント:2014/06/24(火) 11:46:35
>>944-950
「リゾナンター爻(シャオ)」更新終了
狼への転載はのちほど

952名無しリゾナント:2014/06/24(火) 18:54:42
「まもなく、完成する」
「完成? 何の事だ?」
「始まりの9人が去り、新たに加わった9人だけの──」
「ああ、リゾナンターの事か。永かったな」
「6年以上か。確かに、永かった。よく続いたと思うよ」
「数多くの敵や障害に遭おうと、全てを振り切りここまで来た」
「……しかし〝完成〟と言うのは一体?」
「始まりの9人で〝完成したリゾナンター〟が1人抜け、3人抜け、4人が加わり……と、変化して来た」
「そうだったな。まさかメンバーが変わっても〝共鳴〟が続くとは思わなかったさ。リゾナンターってのは、予測不能の体現だな」
「これまでの変化を〝進化〟とするか〝退化〟とするか……それぞれ受け取り方は違うだろう。だがな……」
「どうした? 勿体ぶらずに言えよ」
「始まりの9人の最後の1人、道重さゆみが抜ける事で、リゾナンターは別の存在と成る。そして、新たな9人から切り離され〝完成〟するんだ」
「……別の存在?」
「もう始まりの9人では無い、全く別の9人に成るんだ」
「……」
「あの頃のリゾナンターはもう居無い」
「……」
「あの頃の9人はもう居無いんだ」
「……」
「あの頃に抱いた未来や希望は、永遠に失われる」
「……」
「永遠を以って〝完成〟されるんだ」
「……ちょっと待てよ」
「どうした?」
「今の10人に、これからの9人に、未来や希望は無いのか」
「当然だ。弱過ぎる。そして、まだまだ青過ぎる。未来や希望を掲げるだけの強さは──」
「それぞれ受け取り方は違う。だったら、これからの9人に未来や希望を抱いても良いはずだよな」
「……そうだな。世界は、互いに持つ価値観をぶつけて形成される。それぞれの価値観を示し、それぞれが想う様に成せば良い」
「自分に出来る事を成せば良い、か」
「否定では無く、嘘の肯定でも無く、だな」
「違いを認識するだけで良い。争う理由は、何処にも無い」
「想いが重ならぬ事も在る。重なる者同志で〝共鳴〟し、重ならぬ者と〝競鳴〟し、世界を紡ごう」

953名無しリゾナント:2014/06/24(火) 18:57:49
>>952
保全作

代理投稿お願いします。

954名無しリゾナント:2014/06/24(火) 19:46:27
>>953
代理いってきました

955名無しリゾナント:2014/06/24(火) 22:57:46
>>954
ありがとうございます。

読み返したら相当ヒドイ文だと反省しました。
想いだけで書き進めてはいけませんね。

956名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:04:41


里保がトレーニングルームからリゾナントの店舗へ上がると、そこには既に何人かのメンバーたちが集まっていた。

「あ、鞘師さん。譜久村さんがハーブティーを入れてくれるって」

里保の姿を見つけた石田亜佑美が、我先にと言った感じで報告する。
確かにカウンターに目をやると、品のよさそうなティーカップに紅茶を注いでいる聖の姿が見えた。

「さすがフクちゃん。輸入か」
「おー、お嬢様ぁ」
「そんなことないよ!100円ショップで売ってるさ!!」

里保のお嬢様いじりと、それに追随する春菜。
すかさず反論する聖だが、彼女の父が当主を務める譜久村財閥は間違いなく日本のトップクラスの企業集団だ。それをお嬢様ではない
と言うには少しばかり無理がある。

「ハル、味の違いとかわかんないから何でもいいや。譜久村さん早くー!!」
「はいはい、今持ってくから」

お茶を嗜む、には縁遠いポジションの遥に急かされ、聖がトレイに乗ったティーカップをこちらに持って来る。亜佑美、里保、春菜、
遥が窓際のテーブル席に移動すれば即席のお茶会の開始だ。

それぞれの目の前にカップを置いた聖が、隣から持ってきた椅子に座る。
そんな時だった。里保の脳裏に何かが過ぎる。違和感。もしくはおぼろげな既視感。

957名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:05:16
「みんな、ちょっと待って」

その声に思わず全員が視線を向ける。
真っ先にカップに口をつけた亜佑美が目を白黒させた。どうやら寸前で間に合ったようだが。

「どうしたの、里保ちゃん」
「…その紅茶を、飲んじゃ駄目だ」

地下での、舞美と茉麻との戦いで研ぎ澄まされた感覚がその危険を捉える。
いわゆる第六感が、警鐘を鳴らしていた。

「鞘師さんの言う通りです。この紅茶には、毒が入ってます」
「ええっ!!」

里保の言葉を聞いて嗅覚強化した春菜が同意する。
彼女の嗅覚は、おいしそうな紅茶から匂いたつ死の気配を識別していた。

「ちくしょう、誰がこんなこと!!」
「聖全然気づかなかった、いつの間に」

誰も気づかない間に侵入者を許してしまったのか。
辺りを見回す遥と困惑する聖。そんな中、春菜は迷いながらも。

「何かの間違い、ですよね。譜久村さん」
「え、どういう…」
「紅茶に仕込まれた毒と同じ匂いが、譜久村さんの左手の薬指からするんです」

里保は、ようやく自分が抱いた違和感の正体に気づく。
聖の、心の声が聞こえない。それが意味するものは。
かつて里保は同じようなことを同じ場所で経験していた。
つまり、今この場所にいる聖は。

958名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:06:16
「また、偽者か」

かつてダークネスが、喫茶リゾナントに擬態能力者を送り込んだことがあった。
そしてそれよりも前、高橋愛がリゾナンターのリーダーだった時にも。

「偽者って…どういうこと?」
「お前は…フクちゃんじゃない。擬態能力者が擬態した、偽者だ」
「違う!聖は偽者なんかじゃない!!だって、聖は聖だもん!!」

必死に潔白を訴える聖。
その表情も、仕草も聖そのもの。
それでも、紅茶に毒を仕込んだという事実。里保の言葉。相手の外堀を埋める材料は揃いつつあった。

「なんで、何でみんな黙ってるの?聖は悪くない!里保ちゃん、ちょっとおかしいよ!!毒の匂いだって、本当の犯人が触った部分を
知らないで触っちゃっただけなのかもしれないのに…」

だが、ドアベルを鳴らす人影がそれを否定する。

「ただいま…って、え、なにこれ」

目の前の光景に思わず買い物袋を落としてしまったのは。
喫茶店の中にいる聖と、瓜二つの同じ顔。

「やっぱり!!」
「ちっ!!」

聖本人が現れたことで開き直った偽者の聖が、懐から何かを取り出して地面に叩き付ける。
その瞬間、店内に猛烈な勢いで白い煙が立ち篭め始めた。

959名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:07:27
「しまった!」
「逃げられます!早く追わないと!!」

一瞬にして全員の視界を遮った白煙。
ただその目くらましの効果は意外と短く、あっという間に煙は晴れてゆく。

「よっしゃ、煙がなくなってきた…って、ええっ!!」

煙が晴れたことに安堵する亜佑美は、信じられないものを見たかのように大きく叫んだ。
彼女が見たものは。

「ねえ、これ、どういうことなの?」
「ねえ、これ、どういうことなの?」

綺麗に揃ったユニゾン。
里保たちの前に、二人の聖が並んでいた。

「あなた何者?聖の偽者でしょ!」
「そっちこそ偽者でしょ!!」

お互いに顔を見合わせ、言い争う聖たち。
冗談のような光景だが、この二人のうちの一人が偽者で里保たちに毒を飲ませようとしていたのは間違いない。

「一体どうすれば…」

以前喫茶リゾナントで勃発した偽者騒ぎの時も、擬態能力者は聖に擬態し潜入していた。
その時は本物は不在で偽者だけだったので話は簡単だった。しかし、今回は偽者と本物がまったく区別のつかない状態で互いを偽者だ
と主張している。

960名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:08:19
「見た目も、背格好も、ほくろの数も一緒」
「ほくろの数って。鞘師さんどこ見てんすか」
「肌のさわり心地も、一緒…」
「ちょっと里保ちゃんやめてよ!」
「ちょっと里保ちゃんやめてよ!」

遥の突っ込みやダブル聖の非難などどこ吹く風。
二の腕や頬のあたりを触りまくったが、やはり区別がつかない。

「わかった!ハルが今から譜久村さんを一発ずつ殴る!」
「ちょ、ちょっと待ってどぅー!!」

痺れを切らし拳をぐるぐる回す遥を、亜佑美が必死に止める。
そんな様子を見た春菜が咳払いをしながら席を立ち、聖たちの前に出た。

「みなさん。たった今、『能力者』に共通する見分け方を発見しました」

春菜の、思いがけない一言。
これには言い争っていた二人の聖も一斉に春菜を見る。
春菜は手をパンツのポケットに突っ込み、普段の猫背を最大限に伸ばしながら。
はっきりと言った。

「『能力者』に共通する見分け方。それは『能力者』がハーブティーの香りを少しでも吸うとだな…胸のサイズが1カップ上がる」

「ええっ!!」
「そんなのないわ!!」
「嘘だろはるなん!!」

慌てて自らの慎ましいそれに手をやるリゾナンターたち。
しかしこの時、既に真実は露見していた。

961名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:11:08
春菜が、ゆっくりと指をさす。
そこには、里保たちと同じように自らの胸を摩っている聖の姿が。

「アッ!」
「偽者は、あなたです」
「な、何でそんなので聖が偽者ってなるの?だって胸がおっきくたってそんなこと言われたら摩っちゃうじゃん!!」

自らを偽者と決め付ける春菜に、聖は強く反論する。
それでも、春菜の強い視線は揺らがない。

「本物の譜久村さんは。今でも十分立派なものをお持ちなので、そんな反応はしません。そんな反応をするのは、本来はみすぼらしい
ものを持ってる人だけです!!」

決定的だった。
確かにもう一人の聖は、自らの胸に手をやっていなかった。

「は…あはは、こんなくっだらねーことであたしの『擬態』がばれるとはねえ」

開き直った、聖の姿をした何か。
その体はゆっくりと縮んでゆき、やがてまったく別の人間へと姿を変えた。

「せっかくあたしの能力でてめえら全員騙くらかして毒殺しようとしてたのに!『オリジナル』が帰って来るまでに手柄立てようと思
ったのによ!!」

ポニーテールを揺らしながら毒づく少女。
だが、程なくして自らの退路が完全に塞がれていることに気づいた。

962名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:20:38
「残念ですが、あなたに逃げ場はもうありません」
「聖に化けるなんて、許さない!」
「絶対に捕まえてやる」
「ちくしょう、ハルたちをバカにしやがって」

出口に里保と亜佑美が。
そして勝手口側に春菜・聖・遥が立つ。
追い詰められた侵入者だが、その表情には余裕が。

「逃げ場がない?そいつはどうかな!!」

少女は自らの懐に再び手を入れ、それを炸裂させた。
こういう時のために煙幕をもう一つ仕込んでいたのだ。
あっという間に濛々とした煙が広がってゆく。

煙に紛れ、素早い動きで勝手口へと突っ切ろうとする刺客の少女。
亜佑美と里保、二人の実力者のラインを突破する自信はさすがにない。ならば三人とは言え、視覚のアドバンテージが活用できる相手
のほうがいい。遥の千里眼は確実にこちらの姿を捉えるだろうが。

「はるなん!譜久村さん!!そっち行った!!」
「え、どこどこ?!」
「煙で見えない!!」

少女の目論見通り、姿は把握はできても捕まえることはできない。
だが、三人の包囲網を突破したところで誤算が生じる。

963名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:21:18
「疾ッ!!」

白煙に覆われ視界の取れない店内。
だが里保は鋭い踏み込みで、逃走しようとする相手の背中を刀の腹で正確に打ち据えたのだ。
女はぐっ、と呻くような声をあげたものの、立ち止まることなくそのまま逃げてしまった。

「浅かったか」
「追えば間に合うかも!」
「待ってどぅー!!」

遠ざかってゆく足音を追おうとする遥だが、聖に止められる。

「何だよ、止めんなよ!」
「『擬態能力者』が単独で行動してるとは思えない。下手に追ったら相手の罠にかかるかも知れないし」

その言葉に、大きく頷く里保。
かつて同じような手口で喫茶リゾナントへ乗り込んだ擬態能力者がまさにそうだったからだ。
深追いするよりも、まずは攻撃の第二波に備えるべきだ。

「やはり、ダークネスなんでしょうか」
「手口が似てるからね。間違いないと思うけど」

束の間の平和の終わり。
それは、新たな激戦の幕開けでもあった。

964名無しリゾナント:2014/06/27(金) 02:22:54
>>956-963
「リゾナンター爻(シャオ)」更新終了

965名無しリゾナント:2014/07/01(火) 01:55:33


喫茶リゾナントのある街区を抜け、住宅街を突っ切り、全速力で走る刺客。
彼女はダークネスに属する能力者。ただし、オリジナルの能力者を元に作り出された「クローン」だった。

あいつ、煙幕で見えないはずなのに的確に打ち込んできやがった…

忌々しげに背中を摩る少女。
不自由な視界の中で繰り出された一撃、それは里保の腕前がかなりの高水準に達していることの証拠でもあった。
正直、少女は自分の戦闘力に自信などなかった。となれば、引きつけてからの不意を叩くしか方法はない。
あの場所でやり合わないで正解、計算どおりに自分を追ってくればこの先にいるパートナーと組んで反撃に打って出る手はずになって
いる。

やつらの顔は全員憶えた。
例え偽者だと頭では理解していても、自分の知っている相手の姿をした人間をそう簡単に攻撃できる人間は少ない。
意を決めたとしても、迷いが大きく力を鈍らせる。その隙を、突く。
それが、少女と彼女の相方の必勝法であった。

966名無しリゾナント:2014/07/01(火) 01:56:37
人気のない資材置き場に出た。そこで少女はようやく走るのを止める。
相棒がすぐ近くにいるはずだが、追っ手が迫って来るような気配は無い。
それを刺客の少女は相手が怖気づいたと判断した。

「へっ。何がリゾナンターだ。とんだチキンどもじゃねーか。なぁ?」

少女は物陰に潜んでいると思しきもう一人の少女に語りかける。
返事は無い。少女の声が静寂に響き渡るのみだ。

「大体、うちらダークネスが躍起になって潰しにかかるような連中かね。幹部連中さえ手を拱いてたってのもずいぶん昔の話だろ?」

やはり返事は無い。
少女は急に不安に襲われた。

「おい、無視すんなよ!そこにいるんだろ?くだらねー真似してんじゃねえよ!!」

少女は自分のパートナーが自分のことをからかっているのだと思った。
状況が状況だけに、笑えない。そんなことしてる場合かよ、と毒づくのも当然の話。
だが、そんな表向きの感情とは裏腹に。何となく嫌な雰囲気が少女を覆っていたのもまた確かだった。

その予感を払拭するかのように、さらに声を張り上げて相手の名を呼ぶ。
叫び、姿を探そうと髪を揺らし、そしてまた叫ぶ。
小さな体に似合わぬ大声に反応したのだろうか。
そこで、ようやく電柱の影からゆっくりと人影が動いた。

「…いい年してかくれんぼとか、つまんねえことしてんな…よ…」

だが。その影を目の当たりにした少女の顔が引き攣る。

967名無しリゾナント:2014/07/01(火) 01:57:47
少女のパートナーは。相方は。
ガラス玉のような瞳で、こちらを見ていた。
いや、その機能は既に停止していたのは明らかだった。
相方の土気色の顔、その下は。

喉の部分だけを、綺麗に切り抜かれ、絶命していた。

「なっ、なんだ、なんだこれ!!!!!!」

恐怖に引き攣ったまま固まった顔で、目玉をぐるんと真上に回したままどさりと崩れ落ちる死体。
誰が何のためにこんなことを。少女の思考は一瞬にしてパニックに陥ってしまう。
腰が抜け、尻餅をついた状態で思わず後ずさる少女の視界を何かが遮った。

「う、うわああああっ!!!!!!」
「ピーピーうっせえよ。雑魚」

少女の顔が。
何ものかによって鷲掴みされていた。
誰かの手によって視界が塞がれていたのだ。

「だっ、だだ誰だお前―」

言い終わる前に、柔らかなものが潰れる嫌な音が響く。
まるでグレープフルーツの果実でも握り潰すかのように。
少女の首から下が真っ赤な液体で汚される。少女を一瞬にして葬り去ったその人物は、血に塗れた掌をじっと見つめ、それから「汚ね
っ」と呟きながら死体の服に擦り付けた。

968名無しリゾナント:2014/07/01(火) 01:59:08
「はぁ。『のん』のクローンにしちゃ弱すぎだろ、お前」

心底軽蔑した視線で一瞥し、それから小石でも蹴飛ばすかのように物言わぬ少女を。
蹴り飛ばした。
頭を失いバランスをひどく欠いた肉塊が弧を描いて飛び、水を含んだずた袋みたいな音を立てて地面に落ちた。

「あーあ、また殺しちゃった」
「…いるんだったら最初から言えよ」

背後から、可愛らしい高声が聞こえてくる。
太陽に照らされて黒く刻まれた、お団子頭のシルエット。

「いくら組織の使いっ走りでも、勝手に殺したらダメだよぉ」
「うっせえ。て言うかそのきもい喋り方やめろよ、吐き気がする」

おえええ、と吐くようなジェスチャーをするポニーテールの少女。
それまで天使のような微笑を浮かべていたもう一人の少女は、途端に不機嫌な顔になった。
つかつかと歩み寄り、ポニーテールの肩を引き寄せて自分の正面に向かせる。

「うちはお前とは違うんや。組織裏切って死んだチビの地盤引き継いで、可愛らしい子供みたいな理想のボス像を演じなあかんのやから」
「そうそう、その下品な関西弁があんたにはぴったり」
「ハァ?下品な顔の自分に言われたないわ。顔変えすぎてオリジナルの顔忘れたんと違うか?」
「黙れハゲ。カゴック。体重が三倍界王拳」

お団子頭がそれまでの高音から信じられないくらいのドスの効いた声を出すと、対するポニーテールも相手の黒のワンピースの襟を思い
切り掴んだ。まさに、一触即発の状況だ。
顔をつき合わせ、互いににらみ合う二人の少女。
先に引いたのは団子頭のほうだった。わざとらしいくらいの笑みを作り、拍子抜けした相手の手を軽く振りほどく。

969名無しリゾナント:2014/07/01(火) 02:00:29
「まあええ。とにかく、自分が拵えた死体を何とかせな。早いとこ、よっちゃんとこの死体処理班に連絡しい。釈放早々騒動起こした
なんて聞いたらまた『首領』に怒られるわ」
「へいへい」

不承不承、携帯を手に取りちまちまといじるポニーテール。
とぅるるる。あーもしもし、早速だけどゴミ回収頼むわ。は?つべこべ言ってるとてめーもゴミにしてやるぞ。ったく。場所は、○
○区の…なに?じーぴーえす?わけわかんねえこと言ってんじゃねえよ。あ?場所がわかるって?だったら最初から言えよ。アホか
ボケナス。がちゃ。

「ごくろーさん」
「…しっかしこの『すまほ』?ってやつ、めっちゃ使いづらいんだけど。押したい場所押そうとしても変なとこ開いちゃうし」
「せやから何個もぶっ壊してるんやな。うちなんてもうスマホマスターやで?やっぱ頭が原始人なお前とは格が違うわな」
「は?誰が原始人だって?」
「済まん済まん。原始人っちゅうか、ゴリラやった」

今にも掴みかかろうとしてる相方を他所に、お団子頭の携帯が鳴る。
簡素な了承の返事だけをして、通話を切った。

「…誰からだよ」
「ふぐっ面サイエンティストや。今日の夜に幹部集会やと。ついこないだ幹部に復帰したばかりやのに、忙しいこっちゃ」
「ふうん。いいんじゃない?久しぶりにみんなの顔、見たいしね」

肩を竦める団子頭 ― 煙鏡 ― と、期待にポニーテールを揺らす ― 金鴉 ― それぞれの反応。
しかし、どちらもそれが自分達にとって「大事な」集会であることは理解していた。

「ほな帰ろか。”噂の喫茶店”も覗いてみたかったけど」
「まあいいじゃん。いつでも殴り込めるような場所だし」

そんなことを言いつつ、その場を去ろうとする二人。
が、「金鴉」が何かを思い出したかのように立ち止まった。

970名無しリゾナント:2014/07/01(火) 02:01:47
「何やねん、急に」
「忘れてた」

それだけ言うと、自らが喉をくり抜いたもう一つの死体に歩み寄り、やおらその首根っこを掴む。
そして。

「飛んでけ!!」

片手だけの力で。
「金鴉」は死体を思い切り空に向かってぶん投げる。手足があらぬ方向に曲がったままそれは宙を泳ぎ、やがて生前の相方の上に雑
に落ちてゆく。ぐしゃ、ともぼきり、ともつかぬ嫌な音が聞こえて「煙鏡」は大げさに顔を顰めてみせた。

「めいちゅう!っと。のん、めっちゃコントロール良くない?」
「アホ。仏さんは大事にせんと、呪われるで」
「うわぁ、ババくさっ」
「誰が線香の臭いや、めっちゃフローラルやっちゅうねん」

そんな愚にもつかないことを言い合いながら、資材置き場から離れる二人。
入れ替わるようにして現れたのは、全身黒ずくめの怪しい集団だった。
無残にも惨殺された擬態能力者たちを取り囲み、そして何事もなかったように散開する。
後には、血痕すら残っていなかった。

971名無しリゾナント:2014/07/01(火) 02:02:22
>>965-970
「リゾナンター爻(シャオ)」更新終了

972名無しリゾナント:2014/07/07(月) 22:53:37
今日は七夕。
あちこちに、笹の七夕飾りがあるっちゃ。

色とりどりの短冊に、それぞれ願いが書かれとう。
あんまりいけん事かもしれんけど、どんな願いが書いてあるかちょっと見せてもらったと。

『おこづかいがふえますように』
うん、えりも書いた覚えある。

『かんけん1きゅうにうかりますように』
そこはせめて漢字を使ってほしいw

『お母さんが悪いお兄さんと別れますように』
何があったんやろ…。

『円満退職できますように(次はブラックじゃありませんように)』
が、頑張って下さい…。

色んな願い事があるなぁって思ったっちゃけど、やっぱり子供と大人の願い事って違うなって感じたと。

17才って、子供でいられる最後の年なんかも。
18才になったら車の免許も取れるし、色んな事ができるようになるけど、その分責任も重くなる。

でも、今分かることってそれくらいかも。
大人になるってことは、大人になってからじゃないと分からないと思うと。

973名無しリゾナント:2014/07/07(月) 22:55:36
そういえば、テレビで林先生が言っとった。
七夕の神様って、習い事や技術とか、あと豊作のお願いに関することしか本当は受け付けてくれんらしいと。

んーw
そうやったんや…。
おこづかいのお願いされても神様は困っとったやろねw

みんな、勉強やお仕事とかの、身になる事なら叶えてくれる。

技術…。
お仕事…。

自分の精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)という能力。
今は、その能力をもっと磨こうとしてる。

戦ってる時はそれで良いのかもしれんけど、将来平和になった時に、その能力ってどうなると?
道重さんの治癒とか、そのまま平和に生かせる能力を持つみんながちょっと羨ましいっちゃ。

974名無しリゾナント:2014/07/07(月) 22:57:11
…新垣さんから前に聞いた話を思い出した。
飛行機の中かどっかで、トラブルがあって、その場に居合わせた芸人さんに精神干渉して、その場を落ち着かせた話。
精神干渉って、一見平和に生かすのが分からんけど、そういうこともできる。

えりの能力はもっと生かし方が分からんかもしれん。
やけど、何か道はあるはずよね。

…あっ!
もしかしたら、こういうことに気付けるのが、ひとつ大人になったってことかも。

きっと七夕って、願い事を考えることで自分のなりたい未来に向かって踏み出す日なんだ。

こちらの世界から、川の向こう岸のあちらの世界へ。
織姫の彦星は、川の向こうで待っている。
彦星の織姫は、川の向こうで待っている。

その川が、運命を分ける 天の川。

えっ?
えりの願い事は何かって?
そんなん、内緒に決まっとーやろ!w

975名無しリゾナント:2014/07/07(月) 23:00:58
>>972-974
「STARLESS NIGHT」
えりぽんおめでとう

976名無しリゾナント:2014/07/08(火) 00:29:24
遅くなりましたが行って参ります

977名無しリゾナント:2014/07/08(火) 00:32:19
行って参りました
気付くのが遅くなってしまい申し訳ありませんm(__)m

978975:2014/07/08(火) 00:52:26
いえいえ
代理ありがとうございました

979名無しリゾナント:2014/07/12(土) 10:11:06


学校帰りにカレー屋に寄っていく、として先に帰った里保たちとは別行動を取っていた鈴木香音・生田衣梨奈・佐藤優樹・小田
さくらの四人。主に香音が十分に腹を満たした後にリゾナントに帰還すると、実に珍しい光景が。

「なに書いてんのあゆみー」

真っ先に目をつけた優樹が、テーブルに座り書き物をしている亜佑美の後ろからしがみ付く。
ぶつかった勢いであらぬ方向にペンが走ってしまい、優樹を睨みつけながら書きかけのそれを丸めて投げ捨てた。

「あれっちゃろ?石田あゆ先生力作の、メルヘンポエム♪」
「違いますよー。『Dorothy』の先生たちに手紙を書いてるんです」

かつて亜佑美が自信満々に発表したとんでもポエムのことをからかう衣梨奈に対し、手を大きく振って否定する亜佑美。

「確かそれって亜佑美ちゃんが所属してた」
「ええ。東北にある、能力者の研究施設です」

亜佑美は中学を迎えた頃に発症した「謎の奇病」の治療のために、両親の伝手で紹介された「Dorothy」という施設に入ることに
なった。施設での調査の結果、亜佑美を襲う症状は奇病ではなく、所謂異能力の暴走だったことが判明する。そこで能力の安定
と適正な使用方法を学ぶ中で、喫茶リゾナントを訪ねるきっかけとなったある事件が発生するのだが。
結果亜佑美は、リゾナントでの生活を選択した。

980名無しリゾナント:2014/07/12(土) 10:12:48
「自分の選択で施設を離れはしましたけど、経過の報告だけは必ずするって約束でしたから」

報告の方法が手紙なのは施設が隠れ里の様相を呈しているため、電気設備が一切ないからであった。そんな環境でどんな研究を
するのか、というメンバーかつてのの問いにアナログで色々やるんですよとシンプルな亜佑美の回答。要するに、詳しいことは
研究対象だった彼女自身にも理解できていないようだった。

「それはそうと。実はみんながカレー屋さんに行ってる間にね―」
「ただいまー」

聖が先の襲撃者についての話をしようとした時。
タイミングよくさゆみが帰ってくる。まずはさゆみにそのことを報告し、改めてミーティングという形で事件をまとめることに
なった。

「そうなの、そんなことが…」

先ほどまで喫茶店で起こっていた出来事の報告を受けたさゆみは、真っ先にかつての事件を思い出す。あの時は確か、擬態能力
者はれいなに擬態していたはず。通常の擬態能力者なら、背格好の似た人間をターゲットに選ぶはずだが、聞いた話だと擬態
した少女は聖に比べるとかなり小柄だったようだった。

ダークネスが、とある一人の擬態能力者をオリジナルとして大量のクローンを製造していることはさゆみも知っていた。何故な
ら彼らの非合法活動に擬態能力は欠かせないツールだからだ。しかし共通しているのは、あまり自分とかけ離れている人間に擬
態することはできないということ。それがクローンたちの抱える欠点だったはず。

「もしかしたら、擬態能力者たちの能力が上がっているのかもしれない。原因はわからないけど」
「じゃあ、またこういった手を使ってくるってことですか?」

春菜の問いに、さゆみがゆっくりと首を横に振る。

981名無しリゾナント:2014/07/12(土) 10:13:53
「相手も馬鹿じゃない。短期間のうちに同じ手を二度も使うとは思えない。でも、もしもう一度仕掛けてくるなら…もっと巧妙
で複雑なやり方で来ると思う」
「今回ははるなんの機転で何とかなりました。でも、次は」
「大丈夫。さゆみがとっておきの秘策を伝授してあげる」

不安がる聖、さゆみは肩に手を置きながらそんなことを言う。
とっておきの秘策とは、一体。
不意に、さゆみが里保に耳打ちしてきた。

「あのね…」
「ああっ、ちょ、みっしげさん耳に息吹きかけないでくださいっ」
「…というわけなの。わかった?」
「はぁ。吐息で若干聞きづらいところはありましたが、だいたい判りました。じゃあ次はフクちゃん、こっちきて」

変態から変態へ。もとい、先輩から後輩へ。
何故か耳打ちリレーが始まる。
優樹を途中に挟んだのは明らかに失敗だったと誰もが思いつつ、何とか全員にさゆみの意図を伝える事ができたようだ。

「この方法なら相手は絶対に尻尾を出す。みんな、さゆみを信じて」
「言われるまでもなく信じます。だって、道重さんはここまでみんなを引っ張ってくれたじゃないですか」
「石田…」

いつものようにだーいし感を漂わせつつも胸を張る後輩が、前にも増して頼もしく見える。
亜佑美だけではなく。後輩ひとりひとりが、激戦を乗り越えて成長してきた。そんな今なら自信を持って言える。自分達が今の、
リゾナンターだと。

982名無しリゾナント:2014/07/12(土) 10:15:18
絶望的とすら思えた、ダークネスとの戦力差。
それが今は、僅かながらでも希望の光が射している。敵勢力が体制を崩しているというのもあるが、新しいリゾナンターの著し
い成長がその希望を支えているのも一因。そのことは彼女たちを見守るさゆみが一番良く知っていた。

そんな時だった。
さゆみの携帯が鳴ったのは。

「もしもし、さゆみです。あっ、ガキさん?久しぶり…って。え、それどころじゃない?うん、ううん、え…そう。わかった。
場所は? うん、すぐそっちに行く」

只ならぬ様子に、後輩たちがさゆみの顔を覗き込む。
特にさゆみを慕う優樹は気が気でない。

「みにしげさん何かあったんですか?」
「うん。ガキさんから。何者かにガキさんの同僚が襲われて、ひどい怪我してるんだって。ちょうど部署内の治癒能力者が全
員出払ってるみたいで、急がないと」
「新垣さん!?あの、衣梨奈も行きます!がんばって生田!!」
「あ、生田別に来る必要ないから」

明らかに里沙目当ての衣梨奈を牽制し、店を出ようとするさゆみ。
それを見て慌てて香音が声をかけた。

「道重さん、移動だったら優樹ちゃんが」
「ダメ。この子、この前さゆみのこと間違えて池の上に瞬間移動させたから」

983名無しリゾナント:2014/07/12(土) 10:16:06
以前、急用で現場にできるだけ早く駆けつけなければならなかった時に。
優樹にテレポートを頼んだのが間違いのもとだった。みにしげさん任せてください、の言葉と裏腹に。
転送されたのはとある池の水面の上だった。
水深が浅かったからよかったものの、タクシーで運転手に嫌な顔はされるわ恥ずかしいやら。

優樹らしいエピソードと言えばそれまでだが。
そんなことは初耳とばかりに怖いお姉さま方が優樹を取り囲んでいる間に、さゆみは走ってリゾナントを出て行ってしまった。

遠ざかる背中を見て、里保は思う。
以前のさゆみなら同じシチュエーションでも、どちらかと言えば後ろ髪を引かれる思いで喫茶店を出ていたはずだ。けれど、
今は何の気兼ねもなく、店のことを任せてくれているように見える。

少しは道重さんも、うちらのことを認めてくれてるのかな。

れいなが抜けてから、ずっと考えていた。
自分たちは。いや、自分は。さゆみが安心して背中を預けられるような存在になれるのだろうかと。
さゆみ以外は決してベテランとは言い難い未熟者の集まり。それでもいくつもの修羅場を潜り抜けることでそれなりに成長して
きたつもりだ。そして最近は、自分たちの成長がさゆみの信頼にそのまま繋がっているような気がする。

里保だけではない。
この場にいる全員が願い、そして感じていた。
一人一人がさゆみを守ることができる、そんな存在になりたいと。

984名無しリゾナント:2014/07/12(土) 10:17:11
>>979-983
「リゾナンター爻(シャオ)」更新終了

985名無しリゾナント:2014/07/26(土) 01:36:20
■ ジュッキジェネレイション −飯窪春奈・石田亜佑美・佐藤優樹・工藤遙− ■

だいっきらい

「どぅーなんてもうしらないっ!いっしょーおしゃべりしないっ!」
「あっそーですかーいいですよーっだ、むしろ、せいせいするわ」
「だいっきらい!だいっきらい!だいっきらい!だいっきらーいっ!」
「あ、あのまーちゃん、す、すこしだけ静かに…」
「めしはだまってろ!」
「まーちゃん!年上に向かってそういうのダメでしょ!謝んなさい!」
「なんでっ!どうしてあゆみはまーにばっかりいじわるするの?まーにばっかりおこるの?くどぅーがわるいのにっ!」
「もういい加減にしてっ!」
「ばかばかばか!あゆみのばか!あゆみもきらい!みんなきらい!きらい!きらい!だいっきらいー!」


だいっきらい


最後の言葉が耳の中でリフレインする。

いつのまにかテーブルを拭く手が止まっていた。

石田亜由美は、小さく、だが、とても深い、ため息をついた。

喫茶リゾナント、目の前には飯窪春奈、そして工藤遥。

皆、浮かない顔だ。

986名無しリゾナント:2014/07/26(土) 01:37:15
きっと、みんなも同じことを考えている。

高く、透き通った、赤子のような、幼い声。

あゆみんあゆみん、こっちにだよー

時々うるさい時もあるけれど、不思議とあの声を聴くと心が安らいだ。

もう、何日も、あの声を聴いていない。

あの日からずっと、佐藤優樹は―――

放課後、駅で待ち合わせ。
4人で買い物に行くはずだった。

「えっとね、まーちゃんね、急いだんだけど、わかってたんだけど、五色の天使さんがひゅーんって、それでねっ」

言い訳。

また始まった、いつもの通りの見え透いた嘘。
そして始まる、お定まりの喧嘩。
いつもと同じだ、そう、よくある事だ。

だが、違った。
その日は、違ったのだ。

佐藤が倒れたのは、その直後だった。

頭の悪い石田には、医者の説明はよくわからなかった。
さけいぶりん?とにかく風邪とかではなく、物凄い熱が出てとても動けるような状態ではなくなるらしい。

987名無しリゾナント:2014/07/26(土) 01:37:49
もう、ほんとに…
ほんとに、もうっ…

嘘をついたのは、自分のせいで、みんなが買い物に行けなくなるとおもったから?

病気だったなんて、あんなに熱が出てたなんて。

くちびるをきゅっと噛む。

大人げない。なんてバカなんだ。
なんで気づいてあげなかった?ウチは、なんで。

「『3人には、会いたくない』って…」
面会謝絶。
だが、新垣や道重は面会している。
それは佐藤の意志。

どんなに喧嘩をしても5分もすればけろっと忘れるような佐藤から、
これほどの強い拒絶を受けたのは、3人とも初めてのことだった。

もう一度、ため息。
工藤は、なにともなく、ごにょごにょとつぶやきながら、箒と塵取りを奥の部屋へ。
飯窪は空いたテーブル、携帯を。

『いま休憩中。今日は晴れてるね。』
飯窪は、入院の翌日から毎日、何度となく佐藤に向けてメールを送っているらしい。

返信はない。

だが、それでも送り続けている。

988名無しリゾナント:2014/07/26(土) 01:39:11
工藤が飯窪の隣へ。
はす向かい、石田も腰を下ろす。
ぼーっと追う、小刻みに動く、小麦色の指。

ウチも何かしたい。
メールを送ってみる?
ううん、だめだ。
なんて書いたらいいかわからない。
でもこのままじゃ、いやだ。
何か、何か。

ブーン。
3人の携帯に着信の振動音。

「ああ?なんだこりゃ」
「えっ何、どうしたの?」
「いいからあゆみも見てみろよ」

件名は無し、本文は、たった一行。


『めしくぼに会いたいくどぅーに会いたいあ10気組』


え?ウチは?

そこに石田の名前は無かった。

飯窪と工藤二人の名前だけ。

989名無しリゾナント:2014/07/26(土) 01:39:49
あとは『あ10気組』という、意味不明な文字の羅列。

「えと、こっ、この『あ10気組』ってのがあゆみんのこと?かな?」
顔色の変わった石田の様子を即座に察し、飯窪がフォローを入れてくる。
それがわかるだけに、余計にみじめになる。
「ふんっどうだか」

どうしてよ。
まだウチにだけ怒ってる?
そ、そりゃちょっと強く言い過ぎたかもしれない、でもケンカしてたのはくどぅーとだったのに、どうしてウチだけ?
どうして?なんで?

続けて着信。

『10気に会いたい10気に会いたい10気に会いたい10気に会いたい10気に会いたい』

そして改行。

『10期に会いたい』

「なんじゃこりゃ?全っ然意味わからん」
不機嫌そうに工藤が携帯を放り出す。

「『あ』が取れちゃったね。最後『10期』になってるし」

大人げない。
また同じこと繰り返すの?
いまは、まーちゃんがメールを返してくれたことを素直に喜ぶべき。
ウチの名前がなかったのだって、大した理由はないかもしれない。
ただ単に打ちもらしてただけ、そう、きっとそう。


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