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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part3

1名無しリゾナント:2012/11/24(土) 11:55:51
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第3弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

765生活必需品l:2013/05/25(土) 09:56:30
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766名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:26:18
 ―― ―― ―

工藤が叫ぶ、焦燥の色を露わにして、佐藤は泣いていた。

 「まーちゃん、田中さんを呼んできて!ハルが引きつけてる間に早く!」
 「ヤダ!くどぅーも一緒に来てよ!」
 「バッカッ!あの人にはこっちの思考が分かるんだよ!
 まーちゃんを追っかけられたら意味ないじゃんか!」
 「ヤダヤダ!くどぅーも居なくなるなんてヤダぁ!」
 「大丈夫、死ぬつもりなんてないから、ほら早く!」
 「くどぅー!」

譜久村聖が【能力複写】によって後方支援、だが"光"の
【精神感応】と【瞬間移動】の二重発動によって全て無効化。
追撃の拳に成す術もなく、その身体を地面に伏した。

 ――どうして

前方の生田衣梨奈は怒りに任せて【精神破壊】を暴発、"光"に幾度か
その砲撃を浴びせたが、肉体的限界を越え、意識を失った。

 ――どうして

鞘師里保が隙を狙って"光"に追撃を試みたが、意識を失った
生田の身体を盾にされ、【光使い】に呑みこまれようとしたところを
鞘師の腕を掴んだ鈴木香音の【非物質化】によって回避。
だが【瞬間移動】によって迫っていた"光"の強襲を喰らい、鈴木は倒れた。

 ――どうして

767名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:31:09
道重さゆみが【治癒能力】で4人の回復を図ろうとした時、"光"が
【光使い】を行使、飯窪が【粘液放出】によって軌道を変え、石田亜佑美の
【加速】によって場所を移動。
工藤遥による【千里眼】で戦果の拡張を試み、"光"の行動を予測する。
これによって佐藤優樹の【瞬間移動】で鞘師の【水限定念動力】を"光"に叩きつけた。
その行動に費やした時間は、約6秒。

 ――どうして

刹那、"光"は、鞘師のチカラを利用して、道重と飯窪、石田の三人へと
【瞬間移動】で水の軌道を"移動"させる。
絶望的な状況下の、彼女達による精一杯の作戦でも【精神感応】を行使されては
それは彼女への有利な結果に書き換えられてしまう。
水圧によって地面に叩きつけられた三人は動かなかった。
鞘師は捨て身とでも言うように刀を引きぬいたが、動揺が刃に震えを起こさせる。
最初の一太刀を浴びせる前に、眼前に現れた"光"の猛攻によって地に伏した。

 ――どうして!!

"光"を見つけたらすぐにその場から逃げろ。
田中にはそう言われていた。
言われていた筈なのに、リゾナンターは挑んでしまった。
裏切りの"光"に、それでも微かな希望を捨て切れずに。

佐藤には関係の無い光だった。
田中には大切な光だった。
それだけ。
それだけの違いの中、その大切だった人達の心が、『リゾナンター』に在った。

768名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:31:42
どうしてこの人は、こんな事をしているのか。
だってこの人はたなさたんの。
片膝をついて下を向いている田中の代わりに、佐藤は見上げた。
 
 心の中が、疼いた。

今の自分の心が嫌いだとか怖いだとかいう感情とは違っていた。
性質からして違う。
"光"には、何も無かった。口元も頬肉もぴくりとも動かない。
歯を食いしばっているわけでも、感情があまりにも、皆無。

 この人は、たなさたんが嫌いなの?でもたなさたんはこの人が。

"光"は田中のことを見下ろしていて、佐藤の方には一瞥もくれない。
佐藤が食い入るように見上げているのに、完全に無視している。
佐藤は思考する、考えて考えて考えて考えた。
何かをしなければ。自分も何か、工藤のように何かしなければ。

 「あ、あの、あのっ……」

唇が震えて、どもる。唇を湿らせて、再び声を発する。

 「どうして、たなさたんをなぐるの?くどぅーやはるなんや、あゆみんが
 そんなに、きらいなの?そんなに…ころしたいほどきらいなの…?」

769名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:32:15
その時初めて、初めて、"光"が、動いた。
田中に向けられていた視線が、初めて、佐藤に向けられたのだ。
血の気が薄い、虹色の線が並んだ白い肌に澱んだ黄金の両目。
その、全く動かない目の下で、頬肉がゆっくりと持ち上がる。

笑った。

声も息も漏らさず、喉も震わせること無く、笑った。
恐ろしい笑顔だった。佐藤は目を見開く。

 「たのしいの?ころすのがたのしいの?
 そ、それならほかの人でもいいじゃない。たなさたんよりも悪い人いっぱいいるよ。
 たなさたんはわるくない人だもん悪くないもん!なんでひどいことするの!?」

田中が探していた『高橋愛』という女性と同じ顔をした"光"を必死で
睨みつけながら、佐藤は叫んでいた。
佐藤は気付かない、自分の存在がどれほど目の前に居る"光"の行動を妨げているか。
笑顔は無かった、だが最初に見た何も無い表情とも違う。
何かが、あるような気がした。
佐藤はそれを読みとろうと瞬きをした時、田中が唐突に立ちあがった。

同時に、田中の腕が異様な感触なのに気付く。
その拳が青い光を放ったまま下から突き上げられ、"光"の顎を直撃。
鈍い音、だが肉体を殴ったものとは違う、田中の腕が変容しながらも
止まらずに振り抜けられ、"光"が一歩後退したところに、田中が一歩踏み出す。
踏みだしながら腰を捻り、直角に曲げられた肘が後方に引かれて打ちだされる。

770名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:32:49
佐藤は地面に座り込んだまま、その光景を見つけていた。
殴られてばかりいた田中が殴り返し、その拳が当たった。
だが、その拳が、佐藤の両目に衝撃なものとして映る。
いつもぶら下がっていた冷たくも暖かいその腕。手を握ってくれたその掌。

 黒。

赤黒い血管を並べた、黒い皮膚の手。
暗闇に溶け込んでしまいそうな黒を彩るのは黒い、滴る水。
黒い水、黒い血。

 「たなさたん…?」

うわ言のように田中の名前を呼ぶ佐藤は、その顔を覗きこもうとする。
頬に触れると、柔らかい肉の感触が返ってきた。
しかし指先に触れたのは、ぬめりのある温かい液体。
驚いて手を引き、指先を見る。
そこには黒い水が付着していた。それは血のような、涙。

 「たなさたん…っ」

青い燐光の瞳から流れる、黒ずんだ涙。

 「れいな、行きなよ。今は生きなきゃダメだよ、その子を生かす為にも」

後藤真希の声が、聞こえた。
田中は佐藤の腕を引っ掴むと、"光"のある場所から反対方向へと走る。

771名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:33:47
 「佐藤、チカラ、使える?」
 「う…はい」
 「じゃ、行こう。佐藤、生きる為に、逃げよう」

声が、響く。
田中は生き延びる為に。佐藤を生かす為に、"跳ぶ"。
強迫観念のようなものは、今では薄くなっていた。
"隔離"されていた場所から、田中れいなと佐藤優樹の気配が消える。
後藤はi914にまるで挨拶するように語りかける。

 「や、久し振りじゃないけど、久し振り。元気だった?
 まあ、会うのは分かってたけど、ずいぶんと進行はあったみたいだね。
 …それもそーとー歪んだらしい。憎悪と愛情の区別ができないくらい。
 君がまだ、そうやってあの子達に固執してる間に、結末が来るのを祈ってるよ」

そう言って、後藤は"隔離"の外へ、姿を消した。
後に残ったのは、人間のような人間ではない存在だけが佇む亜空間。
その存在が呟く言葉は、空虚な世界に溶けるだけだった。

772名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:37:53
『異能力 -Feel of afterimage-』
以上です。

今日かられいなのバスツアーですね。
なんでも夕食のときにメイド姿で出て来たらしく
その話を聞いた時にリゾスレを思い出すくらいにはここの住人だとオモタ。

773名無しリゾナント:2013/05/25(土) 18:38:53
-----------------------------ここまで。

今回は少し長くなりました…。
なので余裕がある時にでも代理をお願いしたいと思います。

774名無しリゾナント:2013/05/25(土) 21:52:09
>>764
代理投稿ありがとうございます。
代理様の被り設定が本スレに投下される日を楽しみにしていますw

というわけで大作の後に空気を読まずに続きを投下します。

775名無しリゾナント:2013/05/25(土) 21:56:32
>>237-244 の続きです


☆ ☆ ☆

ほんの些細な諍いだった。
いつもの遊び場ではじまった、聖と明梨の言い争い。
回りくどい聖の言葉は、かえって相手を苛立たせる。
ついに明梨が大声をあげて飛び出して行ってしまったのだ。
追いかけようとする聖、しかし途中で路上の凹凸に足を取られ、転んでしまう。膝は大きく擦りむけ、血が滲み
出ていた。傷の痛みと、心の痛み。聖は、大声をあげてわんわんと泣き始めてしまった。

「どうしたの?」

すると、背後から声をかけられた。
振り向くと、自分より年上のお姉さんが心配そうな顔をして立っている。
聖は、その女性に見覚えがあった。遊び場の近くにある喫茶店に出入りしている女性だ。

「うわ、膝擦りむいてるじゃん。うちに来なよ、手当てしてあげるから」

言われるままに連れて行かれ、例の喫茶店に入る。
こじんまりとした、けれども雰囲気の良さそうなお店。実は聖も一度この喫茶店に入ってみたかったのだった。
店内の人たちは、連れて来られた珍しいお客さんに興味津々。

776名無しリゾナント:2013/05/25(土) 21:57:45
「絵里。ねえ、その子は?」

カウンターの中で皿洗いをしていた女性が、物珍しそうに聞いてくる。

「えへへ、怪我してるから連れてきちゃった」
「連れてきちゃったって。あんたねー、ちっちゃい子を勝手に攫っちゃだめでしょうが」

カウンター席に座り帳簿らしきものをつけている女性が、呆れ気味にそんなことを言ってきた。

「まっさか。さゆじゃないんだから。って言うかさゆは?」
「お買い物。ちょうど食材切らしててさ」
「道重サンは、料理できナいかラ買出し係ダ」
「食っタラ、腹壊ス」

窓際の席に座っていた、大きい女性と小さな女性。
おかしなイントネーションで、楽しげにそんなことを言っている。

「そっかぁ。じゃあしょうがない。普通に手当てしますか。愛ちゃん、救急箱ー」
「あんた、もしかしてさゆみんの能力使おうとしてたってこと?」

呆れ顔をしている女性、しかしカウンターの中にいた店主らしき女性は店の奥から救急箱を取り出して、聖を助
けてくれたお姉さんにそれを渡す。

「ま、そういうのも人助けのうちだからね」
「さっすがリーダー、話がわかるね。そいじゃ2階にいこっか。大丈夫、ドクター絵里に任せなさいって」

このお姉さんの名前は、えりって言うんだ。
小さい聖にとって、突如現れた年上のお姉さんはとても頼もしく見えていた。
それが聖と絵里の、最初の出会いだった。

777名無しリゾナント:2013/05/25(土) 21:58:44
絵里に連れられ、2階に上がる聖。
部屋の真ん中のソファーで、ヤンキー風の女性がヘッドホンで音楽を聴いていた。

「れーな、ちょっとこの子の手当てしたいから」
「…わかった」

ヘッドホンをしてるはずなのに、絵里の言葉はれーなと呼ばれた女性に伝わっていた。
気だるそうにソファーから起き上がり、ベランダへと出て行く。

「どうしてあの人はお姉さんの言葉がわかったんですか」
「んー、仲間だから。じゃないかなあ。あはは」

傷の手当てをされるがままに、聖は自らの身の上を絵里にぽつりぽつりと話してゆく。
絵里の可愛らしい声は、少女の心を開くには十分な魔力を持っていた。

「そっか。お友達と喧嘩しちゃったんだ」
「はい。けんかなんか、したくなかったのに」
「聖ちゃんは優しいんだね」

言いながら、聖の傷を消毒する絵里。
消毒液の、ひやりとした痛みが肌を伝わる。

「痛っ」
「でも本当の優しさは、痛みを伴うこともある」

得意顔で話す絵里。ただ、幼い聖にはそれが何を意味するかは理解できない。
ちっちゃい子にはまだ難しかったかなー、などと絵里が言っている間に誰かが階段を登ってくる音が聞こえてきた。

778名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:00:04
「さゆおかえり」
「絵里ただいまー、って!!何その子、かわいい!!!」

現れた黒髪の女性は、手にしていた買い物袋を放り出して聖にかぶりつく。うわぁやっぱ子供の肌ってすべすべ
だねえ。など妙な触り方をしてくる女性に多少の恐怖を覚えつつも、されるがままにしていると突然絵里が大声
をあげた。

「そっか!わかった!!」

そしてやおら立ち上がり、ベランダにいた先ほどのヤンキーを引っ張り出す。

「ちょ、ちょっと絵里何しよう!」
「いいからいいから」

そして今度はもう一人の女性に近づき、無理やりその肩を寄せる。
もう片方の手でヤンキー風を捕らえているので、絵里は三人のちょうど真ん中にいることになる。

「ね、一見タイプが違う絵里たちだけど仲良しでしょ。それはね、三人がそれぞれ痛みの向こう側の本当の優し
さを知ってるから」

779名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:01:02
論より証拠。
嫌がる二人を無理やり引き寄せ「俄然強め?」などと悦に入っている絵里は本当に楽しそうだ。他の二人も迷惑
そうな顔をしつつも、満更ではない様子だ。

「だって、うちら最強だもんね」
「うーん、最強かって問われたらそうなのかも」
「ま、れなたち最強やけんね」

きっとこの人たちは痛みを乗り越えて、今の関係を築いてきたのだろう。その関係の中心に絵里がいるように、
聖には感じられた。

翌日。聖は明梨にはっきり、自分の考えている事を伝えた。
まっすぐで、不器用な言葉だったけれど。
二人の仲は元通りになった。

それから、聖はことあるごとにその喫茶店に足を運ぶようになる。
ただ、喫茶店に集う女性たちの素性を知ることになるのは、それからしばらく経った日のこと。

780名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:01:35
☆ ☆ ☆


「次で最後だ!あたしは、あたしたちは絶対に負けられない!!」

明梨が、大きく叫ぶ。
そしてその勢いのままに、こちらへと突っ込んできた。
聖は避けることなくその場に立ち、そして。
物質透過で相手がすり抜ける瞬間に、ありったけの念動弾を放った。
体の内側から弾を受けた明梨は、体のバランスを崩してその場に倒れこむ。

地面に横たわってる明梨のそばに近寄り、しゃがみ込み聖。
そして、そっと左手を差し出した。
それを見た明梨が苦しげに、けれども大きな声で叫ぶ。

「何度も、何度も言わせるな!!あたしたちは」
「わかってるよ」

言葉の先を、聖の意志が塞ぐ。
相手の気持ちを受け止めるのもまた、優しさ。

「だから、待ってる。向かってきたら、戦う。でも、この手を握ってくれるまで、聖は待ってる」
「勝手に、しなよ…」

否定なのか、諦めなのか。
答えを出す事すら拒否するかのように、明梨は瞳を閉じた。

781名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:03:24


日が、傾きかけていた。
街に出て優雅なランチだったはずが敵の襲来を受けてぼろぼろの四人。
聖の治癒能力である程度のところまでは回復したものの、本格的な治療は本家本元に頼まなければならないだろう。

「私たちがリゾナンターである限り、名声目当ての人たちも襲ってくるんでしょうか・・・」

春菜の言葉は、現実的な問題を露にしていた。
Tシャツの七人組のように、リゾナンターに打ち克ったという功績を挙げたい団体は恐らく他にもいる。彼女たち
はダークネスという強大な組織に加え、そういった類の連中をも相手にしなければならない。

「それだけ、大きな看板を抱えてるんだろうね」
「大丈夫、大丈夫」

プレッシャーに苛まれる香音を、衣梨奈がお気楽に励ます。
リゾナンターになったばかりの衣梨奈はまだ、精神がひ弱だった。程なくして入ってきた後輩の佐藤優樹に励まさ
れてしまうくらいに。
それから比べると、随分逞しくなった。自らもマイナス思考に走りがちな聖にとっては、そういう意味では非常に
頼りになるパートナーだ。

782名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:04:16
「衣梨奈がいれば、リゾナンターは安泰やけんね」

お約束のエーイング。
何でよー、元気に抗議する衣梨奈を見て、笑いが起こった。

「でも、えりぽんの言うとおりだよね。だって、聖たちは最強だもん」
「最強、ですか?」
「聖ちゃん良い事言うじゃん」
「みずきー、おいしいとこ取りすぎ。でも、賛成!」

今は仲間内だけの合言葉に過ぎないのかもしれない。
けれど現に、聖は今回の戦いで少しだけ、自分を成長させることができた。
偉大な先輩たちのように、いつかは胸を張って言いたい。

自分達が、最強だということを。

そんな聖の決意を知ってか知らずか。
下がりかけた太陽は、力強く四人を照らし出していた。

783名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:05:34
>>775-782
更新完了
お手すきの時に代理投稿お願いします

784名無しリゾナント:2013/05/25(土) 22:08:10
―――――――――――――――ここまで

番外編のくせに長い・・・
フクちゃんの過去だったりれいな卒業に合わせ6期の絆を書こうとしたりで詰め込みすぎましたw
次回からは「番外編はさくっとシンプルに」を合言葉に頑張ります

785名無しリゾナント:2013/05/26(日) 12:14:00
>>773
とりあえず『異能力』の方は転載完了
『リゾナンターΧ』は続けてだとさるさんに引っかかるので夕刻にでも

786名無しリゾナント:2013/05/26(日) 20:31:22
>>784
終了〜

>番外編のくせに長い・・・

長かったですねホント
まあしかし全登場人物を動かしきってたから冗長とか感じなかったです

787名無しリゾナント:2013/05/27(月) 22:53:26
一通りの準備。
それは"最期の戦い"の準備だけではない、母親への小包を作っていた。
大事なものは、常に自分の側に置いておくか、自分の信頼する誰かに
預かってもらうのが良いと思っている。
しかし梱包して伝票に住所を書き込んだあと、本当にこれを送っていいのか迷った。
小包だけでは心配だろうと手紙も書いたが、下書きしてみたら遺書にしか
見えない内容になってしまったことで苦笑してしまう。

急いで清書をしてみたものの、結局内容は同じだった。
書き直したかったが、これ以上時間をとってもいられないのでそのまま封筒に入れる。

自分が子供らしくない子供であった事を思い出す。

普通の子供よりも大人として"養成"された事によって、早い老成を始めたのかもしれない。
今起こっていることが全て解決し、その時自分が本当に「銭琳」として生きて
いられたなら、母に会いに行こう。そして…父にも。

 "彼女"もやがては親と向き合わなければいけない。
 自分とは違う意味で、その時自分は、何かしてあげることは出来るだろうか?

銭琳は再び日本へ行くことを決意した。
国家権力執行機関『刃千吏』の任務ではない。自身の"業"のようでもあるが
全てにおいて「行かなければいけない」という観念のようなもの。

 李純の暴走は予期していなかった事ではない。
 だがあの人が彼女を止めるのは予想外だった。
 御神体を守る者としての責務は、自身にあると思っていたから。

788名無しリゾナント:2013/05/27(月) 22:54:28
i914の表情はまるで、機械の其れ。
全ての感情が拭い落とされているその顔。
無気力に見える黄金の目。
だが、一見虚ろなその瞳には、異様な輝きもまたあった。

視線は真っ直ぐに李純の目を見つめている。
彼女の眼球がめまぐるしく動いて周囲を見ていようとも、ただ静かに。
ぴくりとも動かない瞼に眼球。
瞬きというものをしていないようだった。

 李純の【獣化】による被害者は全てダークネスの構成員だった。
 まがいものの彼らは人間では無い。
 "人間ではないものを彼女は好んで殺していた"。

i914に対して彼女は落ち付かなさそうにしている。
まとわりついている鬱陶しいものを払おうとでもするように、大熊猫
の姿だった李純は笑ったように歯茎を剥きだす。
その虚勢にも似た笑いを浮かべ、彼女は動いた。
四本の足で地面を蹴ると、右手の爪にぐっと力を込めて、それを
i914の首筋に打ち込もうとした。

i914は手を上げてその爪を遮ったかと思うと、腕に巻き込むように掴んでくる。
何をされたのかもよく分からない内に、視界が一回転していた。
李純は自分が投げられており、このままでは脳天から地面に叩きつけられる
ということを理解する前に、背中から足へと力をこめ、無理やり上体を
起こして足から地面へ着地する。

789名無しリゾナント:2013/05/27(月) 22:55:01
殴り合い、噛みつき、引っ掻く、そういう戦いしか経験のない彼女にとって
先ほどのような『技巧的』に投げられたことが無かった。
i914が前進する。
歩いてくる。
李純も倣うように前進する、背丈は二十センチも違う二人が対峙する。

思考は無い。考える事の迷いなど、この二人の間には存在しない。
躊躇いは皆無。
大熊猫が噛みつく為に口を開けた瞬間、i914の拳がその中に飛び込む。
牙を突き立てようとしたが、その硬さがヒト型のそれではない。
岩や鉄よりも硬い、顎に力を入れても、その拳が勢いよく空へと掲げられる。
同時に『大熊猫』の肉体も軽々と持ちあがり、呻きが上がった。
腕が大きく後方へ振られる。

 「ジュンジュン!」

銭琳は思わず叫んだ。地面に叩きつけられる行動だったからだ。
その声が合図のように、大熊猫は口を開けるとi914の拳を放し
身体を捻って四肢を地面に向ける。
だがその時にはi914が眼前に入り込み、顎をつま先で蹴りあげられた。

がつ、という音が、顎の骨を伝わって耳に送りこまれる。
脳震盪が起こった様に視界が黒く塗りつぶされた。
そこに今度は肩先に蹴りが入り、更には頬骨を、そしてとどめとばかりに
高々と上がった踵が脳天を直撃し、意識を失いそうになって倒れ込まされる。
だがそれを許さずに胸を軽く掌底で打たれて仰け反る羽目になった。

以前、新垣里沙が見せてくれた運動性能に酷似した動きだ。
筋肉、関節、重心運動――― 人体という機械の性能を限界まで使用した体術。

790名無しリゾナント:2013/05/27(月) 22:55:44
大熊猫の頭をi914が掴み上げ、黄金の"光"が身体を包んでいく。
【光使い】と呼ばれた"あの人"の特徴であり、殺意の象徴。

 「i914はチカラを使えば使うほど強くなる。
 それが"経験"として蓄積され、感情エネルギーとなって行使できるからだ。
 田中れいなの【共鳴増幅】はかなり動力源になっただろうさ。
 まさに呪いだよ。原初の呪い、絆は線となり、お前らを縛りつけた。
 "共鳴"のチカラが、お前らを死に近づけて行く」

事実を、銭琳は認識する。
自分が弱く、目の前で李純と対峙するi914が強い。
この目の前に居るi914を、自分が殺すことが不可能に近いという事。
敗北。
死。
他者の死は酷く身近なものだった。ヒト型の存在をその手にかけてきた。
『刃千吏』の歴史もまた、血に汚れている。
i914、"あの人"と同じ顔を浮かべる存在は血に濡れている。

強い。だが、違和感があった。
その強さは、その破壊はどんな願いから生まれている?
人型として、精神を人外のソレまでに進化させ、深化させる為の目的はなんだ?
必ず意味がある。意味のない強さは存在しない。
特にi914が欲したのは、蓄積された感情なのだから。

生みだしたダークネスの心中に隠れた闇は、何だったというのか。

791名無しリゾナント:2013/05/27(月) 23:02:50
『異能力 -Soul to return home-』
以上です。

今日久し振りにリンリンのブログを見ました。
コスプレよりもメイクに目が行ってしまった…。

792名無しリゾナント:2013/05/27(月) 23:03:47
---------------------------ここまで。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。
それにしても暑い…何か怖いものでも書きたいですねえ。

793名無しリゾナント:2013/05/28(火) 07:57:58
>>792
行ってきやした
血の気も凍りそうな話も期待

794名無しリゾナント:2013/05/28(火) 10:32:39
代理投稿ありがとうございます!
怖い系になるとオチを考えるのが大変そうだなあと常々。

795名無しリゾナント:2013/05/28(火) 21:29:56
ケーキを食べる。モシャモシャと食べる。
フォークの先についたいちごを食べる。酸味がした。
サイダーを飲む。シュワシュワと小粒の泡が浮かぶ。

第三者の目線。傍観する視線。
何処となく自分は、そういう目をする事が多いのだろうか。
自分の誕生日だから嬉しい部分もあるのに。

生まれた日を大切にする、祝ってくれる仲間が居る。
この世界では、身近にそういう子達がたくさん集まっていた。
それに疑問は持たない。
ありがとう、それを呟けば皆は笑って、自然と空気が温まる。

お皿に詰まれていたケーキが無くなって、テーブルから
別のものを持って、モシャモシャと食べる。
隣から佐藤優樹の声が聞こえた、ゲームをしようと誘ってくる。
先ほどから工藤遥や小田さくらと一緒に遊んでいたのに。
その二人も自分を見て手招きしている。

食べてるから後でね、とやんわり断ると、今度は生田衣梨奈
が隣から話し始めた。
そこに鈴木香音が笑いながら低い声で突っ込んで、譜久村聖
が生田を宥めてそこへ佐藤と小田が皆も遊ぼうと誘ってきた。

隙間がないようにしようとでも言う風に、言葉の風が舞っている。
賑やかしい。うるさいほど騒がしい。
誕生日ではなくても見慣れた光景だ。
視界の中にはさまざまな色が彩る。心地は悪くない。

796名無しリゾナント:2013/05/28(火) 21:30:37
食べて、食べて、食べる。お腹がすいていた訳ではない。
大食らいという訳でもない。
ケーキの甘さが口に広がる、感じる。

何を感じたい。何を想っていたい。

 だって、いつでもって訳じゃないから

心の奥でそう呟く誰か。
皮肉な笑顔を浮かべた誰か。サイダーを飲む。
しゅわしゅわとした炭酸が広がる、ぶつぶつと消えていく泡を感じる。
消えていく。面影を消して、また一つ生まれ変わる。

それが自分なんだ。何もない水面の上で、佇んで、生まれ変わる。
それは自分?それとも鞘師里保と名前を付けられた誰か?

 みっしげさあん、やすしさんが寝ちゃいましたー

佐藤の声が遠くの方に聞こえる。
手の中にあった箸だったかフォークだかの感触とお皿の存在が消える。
眠った直後を鞘師は覚えていない。
意識を失うように瞼が落ち、闇が浮かんだ。

 悲しいときや気分が沈んだときは、甘いモノが良いんだよ
 だって、ほら、おいしいケーキやクッキーを食べるとなんだか
 幸せな気分になるでしょ?だから、幸せの味なんだよ

797名無しリゾナント:2013/05/28(火) 21:31:22
甘い匂いがする。
ケーキの味がする、自分の存在を祝ってくれた幸せの味がする。
サイダーの味がする。
しゅわしゅわと柔らかく、静かな時間を包んでくれる味がする。
手が伸びる、暗い底で、幸せの味を探るように。

 目が覚めた時、喧騒のあとの静かさがあった。

疲れて眠ってしまった後、寝息がそこら中から聞こえる。
むくりと起きあがって、周りを見渡す。
目が慣れてきて2階の住宅スペースということに考えが至ると
喉が渇いていることに気付き、1階へ降りると、電気がまだ付いていた。

見ると、カウンターの所で道重さゆみがパソコンを見ている。
慣れた手つきで操作する機械音が響く。
手で顔を支えるような仕草で、食い入るように。
途端、道重がこちらに気付いた。

 すみません、途中で寝てしまって
 いいよ、りほりほ、昨日も遅かったしね
 なにやってるんですか?
 撮ってた写真をちょっとね、あとで見せてあげるから寝てていいよ

甘い匂いが微かにした。
残照が残る店内。どこか歴史のある世界。其処は、居るべき場所。
道重が一人で佇む。そうなってしまった世界。

798名無しリゾナント:2013/05/28(火) 21:32:09

 道重さん、どうぞ
 え?あ、ありがとうりほりほ
 無理しないでくださいね
 どうしたの?なにかあった?
 いえ、私も、こうやって入れれるようにならなきゃって思っただけです

ココアの匂いが漂う。
生まれ変わるように別の幸せを浮かべる。
浮かべれることが自分のできることなら、やり遂げよう。



 やすしさーん、ほら、可愛く撮れてますよ

翌朝、道重の見せてくれた写真の中で、佐藤の持ってきた一枚。
顔面をクリームで真っ白にさせた自分。なんて不器用な笑顔だ。
口の中にまだ残っているような甘い匂い。
サイダーを一気に飲み干した。

799名無しリゾナント:2013/05/28(火) 21:36:07
『Sweet happiness』
以上です。

何故この時に限ってリホナンターが来ないんだ…。

800名無しリゾナント:2013/05/28(火) 21:36:55
--------------------------------ここまで。

とりあえず生誕作品です。
よろしくお願いします(平伏

801ErurneGen:2013/05/29(水) 10:41:07
International Fur Association (IFTF) <b><a href="http://miumiu.biroudo.jp/#53408">miu miu 店舗</a></b>
data show that China, Japan and South Korea, fur clothing and accessories sales <b><a href="http://miumiu.biroudo.jp/#52541">ミュウミュウ 財布</a></b>
increased more than threefold over the past 10 years, in the 12 months ended April 2012 increased by 5% to $ 5.6 billion. During this period, the global fur sales rose by 3.3% to $ 15.6 billion. "Financial Times" <b><a href="http://chloe.amigasa.jp/#52189">クロエ 財布</a></b>
pointed out that despite the stagnant economic growth, <b><a href="http://chloe.amigasa.jp/#52201">chloe バッグ</a></b>
but the luxury goods sales performance since the financial crisis relatively well, such as Russia and China economies upstart consumer demand played an important role. <b><a href="http://prada.ashigaru.jp/#52155">プラダ メンズ</a></b>
International Fur Association, said that in addition to winter, <b><a href="http://gucci.amigasa.jp/#52218">ゲンテン バッグ</a></b>
fashion designers are increasingly turning to the use of fur in the spring and summer clothing design, making fur sales increase. <b><a href="http://chloe.amigasa.jp/#52201">chloe バッグ</a></b>
The CEO Mark Otten (MarkOaten,), the International Fur Association, said, despite the weak global economy, but he believes <b><a href="http://hermes.gamagaeru.jp/#45129">http://hermes.gamagaeru.jp</a></b>
that the fur sales this year will continue to rise.

802名無しリゾナント:2013/05/30(木) 23:21:42
迷惑書き込みが増えて来たみたいですね。
これは削除することは出来るのかな?

803名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:26:26
>>786
代理ありがとうございます。

さっそくではありますが、作品投下します。

804名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:28:22



円筒型の空間が、天に向かってどこまでも、伸びている。
ここは秘密結社ダークネスの地下会議場、通称「蒼天の間」。暗闇には相応しくない僭称だが、この場所を考案した人
間が名前をつけたのだから仕方が無い。もちろん「皮肉が利いててええんやない?」という首領のお墨付きではあるの
だが。

丸く囲まれた空間に配置された、13の席。
先頃復活した転移装置「ゲート」により地下深いこの場所に最初に現れたのは。

「何よ、まだ誰も来てないじゃない」

最初に席を埋めた女性が、厳しい顔をして周囲を見渡す。
時を操るものは、誰よりも時に対し正確である。ダークネスの幹部が一人、「永遠殺し」もまた機械の如くその身に時を
刻み続けていた。

「さすが『永遠殺し』!一番のりですね!!」

と思いきや、先客がいたようだ。ダークネスの幹部の中で一番の、新人。能力は瞬間移動、戦闘能力は取るに足りず、
また特筆すべき特徴も無い。なぜ彼女が幹部になれたのか、組織の七不思議の一つとして構成員の間で語り継がれ
るほどだ。

「あんたは確か…コバヤシ、コトミ?」
「あの全然名前が違うんですけど。小川、小さい川って書いてオガワです」
「そう」

805名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:29:24
「永遠殺し」はつまらないものを見た顔をしたあと、自らの席でゆっくりと瞳を閉じた。静寂な時間、しかしそれはす
ぐに破られる事になる。

「キャハハハハ!早いじゃん、『永遠殺し』。早起きが趣味のおばちゃんかよ!!」

彼女の登場によって、場が一気に下世話になる。
甲高い笑い声とともに現れたのは、「永遠殺し」と並ぶ組織の重鎮「詐術師」。だがその小さな体同様、彼女の言動に
は幹部らしい重さはまったくない。

「相変わらずね、『詐術師』。ビジネスがうまくいってるみたいで何よりだわ」
「いやホントホント。おいらが手がけた例の振り込め詐欺集団あるじゃん。あれが予想外に当たっちゃってさあ。上納
金が半端ないってーの!!」

下品に笑う「詐術師」。頭の中は金のことばかり、非常に判りやすい。
だが、彼女の働きが組織の大きな資金源となっていることもまた、事実。

再び、ゲートが開かれる。
現れたのは、黒いボンテージ姿の妖艶な女性。組織が誇る粛清人が一人、「黒の粛清」だ。

「あっ、お二人とも聞いてくださいよぉ!紺野のせいで、あたしひどい目にあったんです!もう頭にきちゃう!!」

言いながら、片方の足をぶらぶらさせる。
巻き付けられた包帯が、過剰なまでの痛々しさを演出していた。

806名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:30:40
「聞いたぜ?お前さあ、紺野にいいように利用された挙句待ち構えてたオマメに手酷くやられたんだってな」
「…自業自得ね」
「そんなあ…別にやられたって言うより、卑怯な手で騙されたって言うか。ちょっと何笑ってんのよオガワ!下っ端の
分際でむかつくわね!!」

先輩二人に冷たくあしらわれた腹いせに、下っ端のオガワに怒りをぶつける。
上に弱く、下に強い。ただし、下への当たりの強さはあまりにも苛烈だ。

「急いては事を仕損じる、ってやつ?紺ちゃんの話も聞かないでがっつくからそんなことになるんだよねえ」

そこに現れた、首に巻いた赤いスカーフが特徴的な、もう一人の粛清人。
「赤の粛清」は飄々とした、それでいて明らかに相手を見下した口調でそんなことを言う。
もちろん、言われた側が黙っているはずもなく。

「横からいきなり登場してきて、言ってくれるじゃない。あんただって始末できてないでしょ、勝ったリゾナンターた
ちを」
「そうだね。まあ、元を正せば今回は『リゾナンターへの干渉』は命令違反だけど。にゃはは」
「そ、それは!!」

「黒の粛清」は敗者である「ベリーズ」と「キュート」を。「赤の粛清」は勝者である「リゾナンター」を粛清する。
Dr.マルシェこと紺野博士の前で交わされた盟約はもともと二人の独断。成功すればまだしも、失敗しては声高に
宣言できるような話ではない。

807名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:32:54
「それにお前さあ、あのガキどもをよりによって警察に奪われてんだろ。そっちのほうがかなりヤバくね?」
「粛清人が粛清の対象。笑えない冗談ね」

「詐術師」「永遠殺し」に立て続けにからかわれ、黒い顔を青くする「黒の衝撃」。
しかし、

「『黒の粛清』の粛清かあ。あたしが狩っちゃおうかな?」

という「赤の粛清」の一言で頭の血が一気に上る。
先輩である二人に比べ彼女はあくまでも同格、その上同じ粛清人としてのプライドがその言葉を許さなかった。

「へえ。面白いじゃない。狩ってもらおうかしら。あんたなんかに狩れるほど、この首は安くないんだよ!!」
「…粛清しちゃって、よいのかな?」

「赤の粛清」は笑っていない。
目に見えるような殺気と殺気が、衝突する。一触即発の状況を「永遠殺し」は傍観し「詐術師」は面白がりオガワはお
ろおろしている。そんな状況を変えるものが、一人。

「そこまでにしときな。ったく朝から女同士のヒスとか勘弁してくれって」

開いたゲートとともに現れた、金髪の青年、のような女性。
そんなものは見飽きたとばかりに、席にどっかと座る。

808名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:34:35
「『鋼脚』ぅ、ひどいんだよ。そこのピンクバカがあたしのこと…」
「それよりも、問題はあいつがうちらを制してまで仕掛けた策をしくじった。ってことだろ」

しなを作り寄り添うが如くの「黒の粛清」を無視し、「鋼脚」が言う。あいつ、とは言うまでもなく組織の「叡
智の集積」Dr.マルシェのこと。

「そんな人間が、再びあたしたちをこの場へ呼び寄せた。納得いかないわね」

「鋼脚」の言葉に重ねるように、不満を述べるのは。
幾重もの着物を重ね着した、長い黒髪の女性。その目で未来を見通す組織の守護神、「不戦の守護者」だった。

「みんなの前で謝罪でもすんじゃねーの?おいらだったら『たぶん何かがあったんだと思います』とか言ってし
らばっくれるけどな!キャハハハハハ!!」

何がおかしいのか、自分の言ったことで更に爆笑する「詐術師」。
お寒い所業ではあるが、室内の温度が急に下がる。ゲートとともに「氷の魔女」が現れたからだ。魔女は開口一
番、あんただったら知ってるでしょ、と言わんばかりの口調でこう訊ねる。

「『不戦の守護者』さんの目で、見通せないんですか?」

「氷の魔女」は知っている。先日、紺野と接触した時に彼女が「次に繋がる良いデータは得られました」と言っ
ていたことを。しかし、あえてそれは口にしない。それは彼女自身がこの場で説明するだろうし、第一面倒だか
らだ。

809名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:35:51
「今のところ、見えないね。つまり、あの子は組織にとって有用な物事を進めている。けど…」
「それが何か、ってことだろ」

「鋼脚」がため息をつく。元々彼女は回りくどいことが好きではない。紺野のやり方はいかにも遠回りで、必要
の無い複雑さに塗れているようにしか「鋼脚」には見えなかった。

「だいたい隠し事が多いのよ、あの子」
「どうでもいいけどね。楽しい戦いさえ提供してくれれば」

まるで正反対の意見を述べる、二人の粛清人。
互いの考えを聞くなり、黒はあからさまに顔を背け、赤は侮蔑の笑みを見せる。

「ま、それは本人が来てからゆっくり聞いたらええ」

円卓の中央。
開いたゲートから姿を見せるのは、ダークネスの「首領」。
この大組織を今の形に作り上げた組織の長だ。

「みんな思うところは色々あると思うけど、あの子は無駄なことは決してせえへん。必ず何らかの結果を掴んで
くる。せやから私も、あの子には全権の信頼を置いてる」

形はどうあれ、円卓を囲む9人の幹部が同意する。
それだけの功績を、紺野はあげていた。先代の科学部門統括より引き継いだ人工能力者の育成、転移装置「ゲー
ト」をはじめとした諸機器の開発、そして「銀翼の天使」にかつてのリゾナンターが壊滅寸前まで追い込むこと
を仕向けたこと。

13の席のうちの、4つの空席。
一つは、隔離施設に収容されている「銀翼の天使」のもの。
一つは、あまりの悪行の為懲罰的措置を取られている「金鴉」「煙鏡」のもの。
一つは、突如として消息を絶ってしまった「黒翼の悪魔」のもの。
そして最後の一つが、今回の会議の、主催者。

ゲートではない、本来の蒼天の間に設置された扉が開く。
気圧差で巻き起こされた風に、白衣が靡いていた。

810名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:38:58
>>804-809
更新終了
代理投稿お願いします

今回の更新からタイトルを「リゾナンターЯ(イア)」とさせてください。

――――――― ここまで ――――――――――――――――――――

811名無しリゾナント:2013/05/31(金) 21:42:55
前の「リゾナンターX(カイ)」にもまあ色々意味があったんですが
当時のメンバーが10人というのに掛けてたり文字通りの改=カイだったりと

というわけで今回の「Я(イア)」にもやっぱり意味はあるんですが
本来ヤーと読むのをイアとしたのはヤーだとダチョウ倶楽部みたいだからです

それではまたのきかいに

812名無しリゾナント:2013/06/01(土) 14:32:05
スパムがひどいですなあ
まあ行ってきますか

813名無しリゾナント:2013/06/01(土) 14:40:26
ついに新章の始まりですか
ダークネスの幹部連とリゾナンターの直接対決が来るかな

814名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:02:30
久々にhttp://www35.atwiki.jp/marcher/pages/771.htmlつづきいきます


-------

れいなは鍛練場にひとり佇み、大きく息を吸って、長めに吐いた。
なんどかそれを繰り返し、すっと目を閉じた。
自分の呼吸に集中し、体の中心に己の“気”を集める。
流れるそれを感じるように、耳を澄ませ、開いていた心の扉を閉じる。

徐々に体が熱くなっていくのを感じ、今度は右手に意識を集中させた。
れいなの周囲の“気”が、れいなの右手へと集まってくる。
それを乱さないように、心は閉じたまま、じっと右手のみに感覚をもっていく。

頭の中で、完成のイメージ像をつくる。
最初に浮かんだそのイメージと合致するように、もっと具体的に、太く、濃く線を描く。

不定形だった“気”が、徐々に、ある形を成していく。
れいながそっとそれを握り締めると、確かに感触があった。

深く息を吐き、右手を見つめると、そこには立派な『刀』が握り締められていた。

「物体具象化能力……」

2週間前、右手に宿ったその能力に、れいなはそう名前を付けた。
具象化されたその刀を、れいなは黙って見つめる。
光のような、淡い水色を纏ったその不定形な刀は、それでも確かに手中にあった。

815名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:03:25
未完成で不完全な能力が、いままたれいなの中に出現していた。その理由が分からない。
どうして「いま」なのだろう。
もし仮にこの能力が、あの男が現れるより先に存在していたとしたら、リゾナンターがこのような形になることはなかったかもしれない。
手遅れではないのか。なぜもっと早く出現しなかった。どうしてどうしてどうして―――!

だが、いくら考えてもその答えは頭に浮かばなかった。
れいなはぐっと刀を握り締め、振り上げる。
そのままじっと、動かない。
思考がそれでも先走る。
手が届くはずのない、あり得た未来、存在したかもしれない未来を、れいなは思う。

集中しろ。いまはそれを考えるべきではない。
いま為すべきことは、他にある。
れいなは息を大きく吸って目を閉じ、具象化された刀の重さをしっかりと感じた。
広がった暗闇の中、深く息を吐くと同時に振り下ろすと、刀は一瞬で消え去った。
その手から滑り落ち、物体としての存在をなくしたそれは、再び空気へと混ざって消えた。

「まだ、完璧やない…」

れいなは天を仰いで息を吐く。困ったように頭を掻いて、未完成の能力に笑った。
すべてを投げ出すように四肢を放り出して床に寝転がる。
深く息を吐いて、目を閉じてしまうと、世界が闇に覆われ、自分という存在の確認すらも危うくなる。
それでも、“田中れいな”は確かに此処にいるのだと認識するように、れいなは自分の周囲に気を集め始めた。

ぴりぴりと、空気が震えるのを感じる。
まるで遠雷のようだと感じていると、ふいに小春の笑顔が浮かんで、消えた。
それを皮切りに、ジュンジュン、リンリン、絵里と、此処を去っていった仲間の笑顔が浮かんだ。
愛も、愛佳も、里沙までも居なくなり、もう此処には、れいなとさゆみしかいない。
哀しくて、ツラくて、寂しくて、どうしようもない想いを叫ぼうとしても、それは暗闇に呑みこまれるだけだった。

816名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:04:45
れいなはそれでも、頭の中で確かな刀のイメージ像をつくる。
集まった光は映像となり、右手に力を込めた。

瞬間、右手の中に再びあの刀が現れた。
刀身が真っ直ぐに伸びた綺麗な刀は、何処か蒼みを帯びている。
光と気を集めてつくられたれいなの刀は、“共鳴”という単語がよく似合う気がした。

「……終われんよ、やっぱ」

れいなはぼんやりとそう呟くと、刀を握り締める。
久住小春が異動を告げられたあの日から変わっていった日常は、それでもいまもなおつづいている。
れいなが此処にいる限り、その日常は失くすことなんてできない。
失くしたくないのは、過去と、いまと、そして未来なんだ。
だって、此処を去っていった仲間たちは、だれひとりとして、その未来を諦めていなかったじゃないか。


―――「だから、逃げないんだけどさ」


―――「私が護っているのは、仲間と信念だ」


―――「私は、護りたいんです……この世界を……ジュンジュンを」


―――「世界って―――やっぱ綺麗なんだね」


―――「なにがあっても、リゾナンターは、変わらんよ」


―――「考えたって仕方ないのかもしれません。未来はすぐ、そこにやって来るんですから」


―――「助けるよ、必ず―――」

817名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:05:28
それぞれが、それぞれの信念を持って、自分の正義を信じて闘っていった。
年齢も、身長も、国籍も、考え方も、なにもかも違っていたけれど、たったひとつ、“共鳴”という絆だけが9人を繋いでいた。
そうであるならば、れいなが此処で、その牙を折るわけにはいかない。
圧倒的な絶望の闇が襲いかかってこようとも、理不尽という現実を突きつけられようとも、れいなは膝を折るわけにはいかない。
この手の中には、希望がある。


―――「闘わないで良い世界を見たいっていうのが、絵里の夢なんだぁ」


きっとそれは、途方もない祈りなんだ。
だれもが傷つかない、哀しまない世界をつくることなんて、まるで無謀な話だ。
それでもれいなは、諦めの悪い子どものように、みっともなく足掻くしかない。
みっともなく足掻いて、もがいて、手足をばたつかせて闇の中を駆け回る自分を、彼女は好きだと言ってくれたから。
ないものねだりなんだけどさ。それでも悪くない。

力が抜けると同時に、右手の刀が消滅した。
まだ不安定なその能力は、出現時間が圧倒的に短い。
ちゃんと扱えるようになるまでは、もう少し時間がかかりそうだとれいなはぐっと体を起こした。
もうずいぶん夜も深まったんだなと感じながら立ち上がる。
そのとき、背後に気配を感じた。
振り返らなくても、そこに立っているのがだれであるか、れいなは知っている。
彼女がずいぶんと寂しい想いを抱えていることを、感じ取った。

「どうしたと?」

振り返らずにそう訊ねるが、彼女は答えようとはしなかった。
久し振りの会話だったが、思いのほかに素直に言葉が出てきたことに、れいなは驚いた。
なんだ、ちゃんと喋れるじゃないか、自分。

818名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:06:05
「考えてたの」

ふいに彼女がそう呟いた。

「なにを?」
「どうして、こんなことになったんだろうって」

彼女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
れいなが振り返ると、彼女は床の一点を見つめていた。暗いその瞳はなにを映しているのだろうと、れいなはぼんやり思う。
右脚を引きずっていた彼女―――道重さゆみはひとつ息を吐いて、呟く。

「ねぇ、れいな」
「うん?」
「………れいなは、どうしたい?」

唐突な質問に眉を顰めた。どうしたいとはどういう意味か、理解できなかった。
彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、意図を測ろうとしたが、その漆黒の闇はなにも語らなかった。
なにかを言おうとしたとき、周囲の空気が変わった。張り詰めた冬の痛みを携えたその空気に思わず息を呑む。

「私は、もう、終わらせたいよ」

彼女の言葉の意図が読めない。
なにを?なにを?なにが?聞きたいことは山のようにある。あるけれどなにも言えない。どうした?どうしたと、さゆ。

「全部、もう終わらせたいんだ―――」

一瞬の静寂のあと、なにかが割れるような音がした。
れいなを、そして世界を呑み込むような暗闇が広がった。
なにが起きているのか瞬時に理解はできなかった。

819名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:06:52
周囲を見回す。
無間の闇とはよく言ったものだが、れいなを包み込んだのはまさにそれだった。
いったいなにが起きているのか、状況を把握するにはあまりに困難だった。

「さゆ……?」

れいなは闇に問いかけるが返事はなかった。
天上を仰ぐが、そこには寿命が尽きそうな蛍光灯はない。
床を見下ろしても、自分がそこに立っていることを自覚するには難しい闇が広がっていた。
いったいなんだ。なにが起きている?

「れいなは、耐えられるの?」
「え……?」
「この闇の中、ひとりで佇んでいられる?だれもいない中、れいなだけの世界で、生きていける?」

さゆみの声が遠く聞こえた。彼女の話す意味が分からない。いったいなにを言っているのだ?
いやそれよりも、れいなを深く包み込んだこの闇はなんだ?
暗闇や夜の闇とは違う。擬似的につくり出されたような感覚ではあるが、どうしてそれが此処に出現しているのか理解できなかった。

「ねえ、れいな。どうする?」

さゆみの声が響いた。
れいなは方向感覚を見失いそうになるが、必死に奮い立たせた。
短くなる息を吐きながら、拳を握りしめる。

「私と、闘う?」

その声はまるで冷たくて、一瞬、さゆみであることを疑うほどであった。
れいなは眉を顰め、恐らく彼女がいるであろう方向を睨み付けた。

「闘うって、なんで、れなが、さゆと……?」
「言ったでしょ、れいな。私は終わらせたいんだよ、全部、なにもかも」

820名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:07:32
ざわりと空気が変わる。濁ったのではなく、張り詰めたのだと感じた。
瞬間、だった。
れいなの右後方になにかを感じる。
飛来物だと悟り、軽く左に避ける。が、即座に右前方より同じものが襲来した。
れいなはステップを踏むように後ろへ下がる。直後、次々にれいなに飛来物が襲いかかってきた。

舌打ちし、左脚を軸にして避ける。
スピードはさほど速くない。が、目でそれがなにか認識できるほども遅くはない。
れいなは、恐らくさゆみがいるであろう方向から目を逸らさずに、右脚で地面を蹴り上げた。
高い跳躍の中で宙に浮き、「闇」全体を把握する。
まるで方向感覚を失うような暗闇に眉を顰める。此処はいったい、何処だ?なにが起きている?
包み込んだ深淵の闇に、れいなは身震いをした。
呼吸が短くなることを感じながらも、必死に自我を保ち、落ち着けと言い聞かせる。

「さゆ、どういうことっちゃ!」

まるで猫のように着地し、再びさゆみに問う。
しかし答えは返ってこない。
「終わらせたい」と彼女は言った。「私と闘う?」と彼女は言った。
その意味が、理由が、真意が、分からない。
理解できないのか。理解したくないのか。それさえも、分からない。

「答えんね、さゆ!」

闇に問いかけても、答えは返ってこなかった。
再び舌打ちし、さゆみがいるであろう方向に駆け出した。
先ほどふたりの間にできた距離は数メートル足らずだった。れいなであれば、一足でさゆみの元に辿り着けるはずだった。
だが、走っても走っても、さゆみを掴むことはできない。
それどころか、此処は室内であるはずなのに、壁やドアにさえ、辿り着けない。
いくら地下の鍛錬場が広いとはいえ、数十秒走っても端から端まで行けないなんて、そんな馬鹿げた話はあり得ない。
とにかく、声の方向さえ分かれば、そこに向かって走れば良い。なんか、言え。なんか、喋れ。さゆ!

821名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:08:26
れいなが痺れを切らしたそのときだった。
左後方から鋭い飛来物が襲いかかってきた。一瞬反応が遅れ、避けきれなかった。
れいなの右脚の脹脛をそれは掠めた。少し遅れて痛みが走ってくる。血が流れ始めた。
動いていた脚が止まる。さほど痛くはないが、思わず蹲った。手の平で脹脛を押さえる。確かに赤い血が流れていた。
不思議だ。暗いのに、色が分かる。ぎゅうと拳を握り締めた。

「此処は“闇の回廊”だよ」

ようやく、彼女の声が聞こえた。
“闇の回廊”、と彼女は言ったが、カイロウという言葉が変換できない。なんだ、カイロウって。

「ダークネスの、たぶんあの科学者がつくった、擬似的な闇だよ」
「科学者って……なんで、さゆが、それを……?」

唐突に聞かされる「ダークネス」、そして「科学者」という言葉にれいなは眉を顰めた。
そんな彼女の足元に、何処からともなくころころとなにかが転がってきた。
こつんと足先に当たったそれを拾い上げると、その小瓶の蓋に「Corrido」と書かれていることが分かった。
血の色が分かる。ラベルが読める。やはり此処は真の闇ではないようだ。

「この前行った廃ビルで拾ったの。使い方は簡単。その瓶の蓋を開けるだけ。それだけで闇が一面に広がるの」

さゆみの声は、すぐ傍にいるような、ずっと遠くにいるような、不思議な感覚を覚えさせた。
彼女の言葉を必死に理解しようとする。「廃ビルで拾った」、「闇が広がる」、なぜ彼女は、そんなものを使っている?

「“闇の回廊”の主人は私。れいなに私が斃せるかな?」

れいなの疑問に答える代わりに、再びなにかが飛来してきた。
慌てて腰を浮かせ、逃げる。今度は一方向ではなく、四方八方から襲い掛かってくる。
闇から飛び出したそれは再び闇に沈んでいく。もしや実体がないのか?いや、そうだとすれば血が流れる理由にはならない。

822名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:10:42
「っ―――!」

思考が止まる契機になったのは、れいなの左足首にそれが突き刺さったことだ。
れいなは叫び声を呑み込み、蹲った。
左足首に生えたそれは、真っ黒な物体だった。ぐっと力を込めて握り締め、奥歯を噛み、引き抜く。
なるほど、“闇の矢”とでも呼ぶべきものかとれいなは下唇を舐めた。

「さゆ……いったいなんがあったと?」

背中に嫌な汗が滲む。
本気なのか。本気でさゆみは、れいなを殺そうとしているのか?
冗談だよと笑って済ませられる状況はもうとっくに過ぎ去っている。れいなは現に、もう2ヶ所も怪我をしている。
だが、仲間だったさゆみが、どうしてれいなを殺す必要がある?
「終わらせたい」と彼女は言った。此処でふたりが闘うことが、「終わる」ということなのか。
「終わる」―――?「終わり」とは、なんのことだ。
なにが「終わり」なのだ。


れいなは走り出した。
闇雲に走ることが得策だとは思わないが、それ以外に成す術がない。
左足首が痛む。止血すれば良かったといまさら後悔した。

「さゆ!」

再び、“闇の矢”が襲い掛かってきた。
避けきれないスピードではない。だがいかんせん、数が多すぎる。
闇の中で、れいなはステップを踏む。踊る。踊る。まるで社交パーティーだ。ラストダンスだ。相手も居やしないのに。
首元を矢が掠めたとき、微かに、その速度が上がった気がした。
この状況はまずい。敵の居場所も分からないのに、さらに攻撃の手が休まらないなんて。
とにかく、敵の狙いは不明だが、まずは相手の居場所を察知しないことには―――

823名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:11:44

れいなはそこでハッとして脚を止めた。
いま、いま、れいなはさゆみをハッキリと「敵」だと認識していた。
なぜだ。今日の今日、いまのいままで、れいなとさゆみは同じ仲間として、肩を並べて闘ってきたじゃないか。
短くなった息を吐いていると、肩に鈍い痛みが走った。
鮮血が飛び散る。
肉が切れ、骨が断たれるような音が聞こえた。

「あ゛っ……!」

鈍い声が口から漏れた。
肩口をおさえ、折れそうになる膝を堪えた。
それでも倒れまいと真っ直ぐに前を見据える。

「なん、でよ……?」

そうしてれいなは再び声を漏らした。
もう何度目の質問だろう。一向に答えない彼女に対して、れいなはそれでも問いかけた。

こんなこと、したくない。
こんなことをするために、此処に来たわけじゃない。

「なぁ!なんでよ!!」

暗闇に叫ぶが返答はない。
そこに確かに聴き手はいるはずなのに、彼女は答えてくれない。
答えないことこそが、答えなのだろうかと天を仰いだ。

824名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:12:21
生まれた意味も、生きる理由も、なにも分からなかったあのころ、れいなに手を差し伸べてくれた人がいた。
此処が自分の居場所だと、此処で生きていて良いんだと、認められた気がした。
信じあえる大切な仲間と出逢い、自らの能力と向き合い、自分の信じる正義とともに、闘いの日々を生きていた。
闘うことを喜んでいたつもりはない。だが、その日々は、否定できるものでもなかった。
れいなにとって、リゾナンターは大切な場所だった。

その場所から、あの夏の終わり、小春がいなくなった。次いでジュンジュンが血の海に沈み、リンリンも後を追うように暗闇へと消えていった。
もうだれも失いたくなかった。もうこれ以上、壊さないでほしいと祈った。
だが、震えるれいなの腕から絵里はするりと抜け落ちた。
哀しげな瞳を有して愛は去っていった。真っ黒な刃を突き立てられた愛佳の膝は折れ、里沙は崩落のビルへ消えていった。


涙なんてとっくに枯れたものと思っていた。
仲間を失って、ぼろぼろに傷ついて、飽きるほどに泣き叫んだのに、それでもまだ、この瞳から雫は落ちる。

人間とは、厄介な生き物だと、唐突に思った。
感情があるから、こんなに悩むんだ。
感情がなければ、もっと素直に行動できた。
なにも考えずに、ただ目の前にあるものを切り裂けば良かった。
欲望のままに、痛みを知らずにただ過ぎ去れば良かったのに。

それなのに。
感情があるが故に、悩み、惑い、震え、涙する。
そんなもの、とっくに捨てたと思っていたのに、こんなにも胸が熱くなる。
まだ、叫んでいる。
此処が、心が、痛いと、必死に叫んでいる。

825名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:13:09
「なんでよ………ねぇ……」

血も、汗も、涙も。
体液はその場に迸り、痛みと哀しみを教える。
それでも彼女は、叫ばずにはいられなかった。心の痛みを、子どものように叫ぶしかなかった。
信じているから。いまのこの瞬間まで、仲間を、さゆみを、信じているから。

「なんでよ、さゆ!!!」

れいなは無間につづく“闇の回廊”の中でもういちど、叫んだ。
名前を呼ばれた彼女は、その闇の奥深くで表情を崩さぬままにれいなを見つめていた。
彼女の瞳に、感情は映らない。
それなのになぜか、確かにその頬に、雫が伝っていた。

「時間が来たんだよ……」

そう彼女は呟いた。
深い哀しみを携えた声は、確かにれいなに届いていた。

「終わらせよう、れいな―――」

826名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:14:07
-------

管理官は報告書を読み終えると深く息を吐いて椅子に掛け直した。
「順調」と言って良いかは分からないが、少なくとも悪い状態ではない。
だが、それはあくまでも「こちら」の話であり、彼女たちはそうとはいかない。

「宜しいのですか……」

ひとりの男が管理官に向かってそう訊ねた。
その言葉は当然、管理官にも届いていたが、彼は首を縦にも横にも振らなかった。

「良いのか悪いのか……善悪を決めるのは私ではない」

彼はそうして立ち上がった。
もし仮に、それを決めるとするならば、それは私たち人間ではなく神でしかない。
そんな不定形な存在に頼ること自体、実に非科学的で馬鹿げた話でしかないのだがなと苦笑する。

「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ」

静かに、そう吐き出しながら管理官はつづけた。

「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ―――」

ニーチェの残した言葉を、管理官はそのふたりに送った。
いままさに拳を交えんとする彼女たちは、なにを思っているのだろう。

「“終わり”がなにか、その手で証明して見せろ」

管理官は強く拳を握りしめた。
それは微かに震えていた。これはもはや、神への祈りだと深く息を吐きながら眉を顰めた。

827名無しリゾナント:2013/06/01(土) 22:21:57
>>814-826 以上「the new WIND―――道重さゆみ」
れいな卒業までにラストどころか最終章にも辿り着きませんでした……
ちんたらちんたらと亀の足ですががんばります

---------------------------------------------此処まで

代理投下をしてくださる方へ
>>816が長いので、上の2行を815にまとめて下さると投下できるかと思います
今回もずいぶん長くてお手数ですが分割して結構ですのでお気付きの方は宜しくお願い致します

まとめ人様へ
いつもまとめていただきありがとうございます
作者欄や長編紹介欄等に乗せていただき光栄です
ひとつだけお願いがあるのですが、シリーズのタイトルは「the new WIND」にしていただけませんか
「新しい風」という言葉は確かに的を射ていますし、住人の方がそう呼ぶのは構いませんがタイトル自体はシンプルにしたいので…
申し訳ありませんがご検討のほど宜しくお願い致します。

828名無しリゾナント:2013/06/02(日) 04:46:35
これは分割したほうが良さげですね

829名無しリゾナント:2013/06/02(日) 04:52:18
とりあえず>>814-819まで転載完了

830名無しリゾナント:2013/06/02(日) 06:22:40
後半部も転載完了
れいなの心象刀が再び姿を見せた昨今運命のさゆれな対決はどう展開していくのか
気になるのであった

831名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:46:33
(第1話のおさらい)
正八角形のホールと8個の小さな部屋で構成された出口のない舘に閉じ込められた9、10期の8人
工藤の千里眼でも出口は見つからず、なぜか佐藤は眠り続けている
出口を探そうとした8人の元に突如目の前に現れたロボット
【サイサツセヨ】 その言葉に抗うべく、そして生き残るために8人は戦うことを選択する

★★★★★★

【サイサツセヨ  サイサツセヨ】
赤く点滅を繰り返す二つの眼と巨大な体を支える4本の足
ジジジと鳴り響く金属のこすれあう耳障りな音が8人を包み込む

「ど、どうしましょう!くどぅ、逃げる場所本当に見つからないんですか!」
「はるなん、うるさい!今、必死に探しているんだから黙って!!」
「まあちゃん、起きて!お願いだから起きて!」
「・・・」
慌てている仲間達と対照的に鞘師は落ち着いて自分達および敵の戦力を改めて確認する

鞘師自身の武器は水軍流の体術、洞察力、そして水を操る力
他の7人の仲間達の武器は体術および能力、そして共鳴という絆
戦闘に向いた能力者は鞘師自身と石田、それと誰かの能力を『複写』しているであろう譜久村
特に生田の『精神破壊』は機械相手では全く効果を示さないであろう
しかし生田は無駄な動きはあるものの十分な体術を会得している。
少なくとも肉弾戦なら戦力として数えられる

それに対して敵は機械および兵器による武力、圧倒的な制圧力とそれを可能にするであろう電子回路
可動性に長けた4本の足と重厚な装甲、殺戮兵器ならば当然備えられているであろう飛び道具、スタミナと縁の無い生命力

832名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:47:22
まず為すべきことはこの小さな部屋の中から脱出すること
8人が集まったこの小さなスペースでミサイルなり爆弾でも使われたなあひとたまりもない
少なくとも敵が何らかの行動を起こす前に、ここから意識を外す、または抜けださなくてはならない

(まあちゃんが起きていれば・・・)
佐藤の能力―『瞬間移動』で攻撃系の能力者、鞘師か石田と共に脱出し、部屋の外から攻撃する
それが最も理想的かつ効果的な方法だったのだが、その佐藤は眠り続けている
譜久村が動揺しているところを見る限り『複写』にも『瞬間移動』はないと考えざるを得ない

(それならば私があいつの注意をひくしかない)
腰のペットボトルホルダーから飛び出した水は刀の形となり手に収まった
ふぅっと一回吐き、呼吸を整え眼の前のロボットの懐めがけて飛び込んでいく

敵に届くまでのほんの一秒の間に鞘師は脳内で何度もシュミレーションを繰り返す

(リゾナンターで最も速い私に対して精確な射撃は困難であろう
 雨のようにふりしきる弾丸ならば水の膜をはった状態で反射神経のみで避ける
 それは田中さんから学んでいるため、可能だ)

(しかし、それがいきなりミサイルなり火炎放射をを使うことも考えられる
 私が避けるのは容易いだろうが、透過能力を持った香音ちゃんやあゆみちゃん以外は難しいだろう
 特に能力が戦闘に不向きなはるなんは避けようがないはず)

(それならば方法は一つ、脱出経路を確保し、かつ注意を私に向けさせる、しかない
 この刀で胴体部分に傷を負わせ、その衝撃を利用して頭上を飛び越え、センターホールへ道を作る
 敵はまずは私を追うだろうから、その間に他のみんなには部屋から逃げてもらう
 大きな場所に出ればそれぞれの持ち味が活かせる戦いが出来る)

833名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:48:06
「私に任せて」
駆けだした鞘師の姿に12の瞳が向けられる
視線を感じながらあと数歩でロボットに届く、そんな距離で鞘師は大きく跳んだ
目標は赤く光る2つの眼の下50cm、胸の中心部分
両手で鍔をしっかりと握りしめ、大きく両腕を後ろにふるう
刀を振るう瞬間弛緩させていた全身の筋肉を一気に硬直させ、自身が一つの大きな刀となる
大きく描かれた刃の軌道は美しい弧を描き、ロボットの胴体目がけて軌跡を描いた

ガキィィン

金属と金属がぶつかる音が響き渡る
硬度を金属並みに増した水の刃と鋼鉄の体がぶつかりあうその音に思わず鈴木は耳を押さえる
(や、やった!?)

しかし刀を振るった鞘師の眼の前には驚きの光景が
(な、なに?わ、私の刀を受け止めるなんて)
四足歩行型のロボットは二足歩行型に変形し、両腕で鞘師の刀を受け止めた
(やはり、一気に倒すことはできないか。しかしこれは困ったぞ)
キュイィィンと高調な音が響き、砲台と視線が合い鞘師は冷や汗が頬に流れたのを感じた

「里保に何すると!!」
生田の強烈な蹴りがロボットの背中に炸裂した
衝撃で鞘師の刃を掴んだ手が開き、その隙に鞘師は水の刀を解除し脱出した
「ありがとうえりぽん。助かった」
「イヒヒヒ、たいしたことしてないとよ」と部屋の外にいる生田が奇妙な笑みを浮かべる
「さあ、みんな今のうちっちゃ!こっちにくると!」
内心自分の役割を奪われたような気がする鞘師は複雑な心境ながらも、仲間達に声をかける

834名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:48:52
「わかりました、今のうちに皆さん、生田さんのいる大きなホールにいきましょう!」
飯窪、鈴木、工藤と足早に倒れ込んでいるロボットの横をすり抜けホールへと移動する
「ほら、あゆみちゃんもいくよ!」
「あ、まってください。まあちゃんが起きないんです!譜久村さん、肩をかしてくれませんか?」
「・・・いいえ、あゆみちゃんは先に行って、私がまあちゃんを背負いますわ」
そういい譜久村は不安そうな石田を押しのけ、満面の笑みで軽々と佐藤を背負った
「すごい!譜久村さん!同い齢なんて思えない!」
「そ、そうかしら?」

「あ、危ない、ロボットが動き出すよ!!」
眼を向けるとほんのわずかにロボットが震えていた
「二人とも急いでください!」
もともと高い飯窪の声が焦りのためか更に高くなる

「大丈夫よ。私は『知っている』。このロボットは私、聖が部屋を出るまで『起き上がれない』」
そうはっきりと明言する譜久村に佐藤を除いた6人の不思議なものを見るかのような視線が集まった
「譜久村さん、何言っているんですか!そんな格好つけなくていいから急いで!」
興奮する工藤と対照的に譜久村は石田に手を差し伸べ、ゆっくりとロボットの横を通り抜ける
「ほら、そいつ震えています!いつ動き出すか分からないですって!」
「大丈夫よ、くどぅ、私は『知っている』。私があと10歩動くまでロボットは『動かない』から」
1歩、2歩、3歩・・・全くロボットは動かない
そして10歩目を踏み下ろした瞬間ロボットはばねの様に跳ねあがった
「譜久村さんのいうとおりだ!!・・・何で鼻血でているんですか?」

『サイサツセヨ サイサツセヨ』
繰り返される電子音に次いでロボットの肩が大きく開いた
「!! みんな逃げて!!」
開いた穴から放たれる無数の銃弾
「ちょっと まつ っちゃ! はっ!! こんなの 避け 続けるの 無理 っちゃろ!」
「誰か あの 穴を ふさぐか 壊して! はるの 能力で みた 死角を 教えるから」
各々がハチの巣にならないように必死に銃弾から逃れようと足を速める

835名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:49:26
鞘師は逃げながらも飯窪に声をかける
「ねえ、はるなん、いつもどおりにサポートしてくれない?どぅと私の視点をはるなんの能力で繋いで!」
「な、なにいってるんですか?私、そんなことできませんよ!」
「大丈夫!私を信じて銃弾は私が全て弾き返すから、はるなんは能力の行使に集中してくれれば・・・」
「そうではなくて、私にそんな能力はありませんから!!」
「え?何言っているの?だってはるなんは」

そこに飛び込んできた工藤の声
「すごい!だーいしすごい!めっちゃ格好いい!」
いつのまにか止んでいる銃撃は石田の攻撃によるものなのだろう
振り返って眼に飛び込んだのはロボットを包む炎と同じ色の炎を手にまとった石田の姿

「なに?あの色の炎は・・・蒼い炎?」
かつてリゾナンターに所属していた火炎念動力者は緑炎を操っていた
しかし、いま、石田の掌に揺れるは蒼き炎
「譜久村さん!まあちゃんは無事ですか?」
「大丈夫だと思うけど・・・相変わらず起きないの」

「気を抜かないで!まだそいつ何かする気だよ!!」
鈴木の忠告と同時に腹部が大きく開き、ミサイルと思わしきものの先端が明るく照らし出される
「今度はミサイルゥ?やばっ あれは無理っちゃろ!逃げろ〜」
「どこに逃げればいいんだろうね!!無理だって、あれは無理!!避けられないよ!!」
「これは私も『知りません』!」

「だーいし!またさっきみたく炎であれを止めてよ!」
「よーし、この蒼き炎の一族の私が」
「だめ!炎で壊したら爆発で私達木端微塵になってしまいますよ!」
「嘘 嘘 嘘!炎で壊すなんて嘘!やめる!やめる!」

836名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:50:07
慌てふためく6人の姿をみて鞘師もさすがに焦りを感じずにはいられない
(ダメだ、私の水ではあれは止められないし、止めたところで爆発してしまう
 だからといってどうすればいいんだ?水の防御壁?いや、だめだ8人を守るなんて水が足りない)

そうしている間にもロボットの震えは加速度的に増していく

(ダメなのか?)

一陣の風が吹き、次の瞬間、ロボットが消えた
「今度はなんですか?」
「! はるなんあぶない!!」
驚きの声を上げる飯窪の懐めがけ鈴木が飛び、飯窪は衝撃のために一瞬息がつまりそうになる
「かのんちゃん!はるなんになにす」

そこで生田の言葉は遮られた
遥か上から何か大きな物体が落下し、生田のその後の言葉を打ち消したのだ
辺り一面に粉塵が舞い上がり視界が妨げられる
「かのんちゃん、はるなん!!」
二人の安否を確認する声に対して、鈴木の「大丈夫」という声が返って来て他の5人は安堵のため息を漏らす
「鈴木さん凄いな・・・はるの千里眼よりも先に動いたんだもん」

石田は落ちてきた金属の破片を拾い上げ、仲間達に見えるように高々と掲げた
「これ、さっきのロボットの赤い目に見えるんだけどみんなどう思う?」
鞘師は思った−間違いないだろう、と
(しかし・・・一体誰が?そしてどうやって?)

837名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:50:40
その疑問は静かに解決される
「あ〜」と間の抜けたような声が聴こえたのだ
「よかった、まあちゃんが起きましたわ」
「チェッ、のんきに寝ているなんてはる達の気も知らないで」と悪態をつく工藤だが嬉しそうに佐藤の元へと駈け寄る
工藤が駈け寄ったにもかかわらず佐藤はきょろきょろと辺りを見渡してばかり

「まあちゃんどうしましたか?」
「・・・」
返事を返さない佐藤は静かに金属片に指を向け、バンと撃った
譜久村の背中から一瞬背負われていた佐藤の重さが消え、すぐに戻ってきた
幾つかの大きな金属が浮かび上がり、無数の細かな破片となり崩れ落ちた
「イシシシ」
そして笑う佐藤
「じゃあ、さっきのロボットを倒したのはまあちゃん?でも様子がなんだかおかしいんだろうね」
「なんか気味悪いっちゃ」

石田も顔を青ざめながら駈け寄り声をかけた
「まさきちゃん、大丈夫ですか?怪我とかしていないですか?」
「あー、あぬみんだ〜」
間の抜けた声に一同の空気が緩んだものの、次の佐藤から出た言葉はその場を止めるには十分すぎるものだった

「なんで生きてんの?まあちゃんが殺したのに」

「・・・なにいってんのまーちゃん!!だーいしはここにいるじゃん!頭ホントにおっかしくなったの?」
誰よりも早く反応したのは誰よりも一番佐藤といることが多い工藤であった
「そ、そうですよ!まあちゃん、縁起でもありません!あゆみちゃんに謝るべきです!」
「そうっちゃ、あゆみちゃん、こうやって生きとうし、まあちゃんも生きてるっちゃろ」

838名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:51:28
「石田を殺した」という佐藤の発言を悪意のある冗談として捉える飯窪や生田と違う考えを鞘師は抱いていた

そして同様に違う感情を抱いた人物がもう一人
「まあちゃんのいっていることは嘘じゃないみたいだよ」
「? なんでそんなことわかるんですか?鈴木さん嘘はやめてくださいよ」
「だって嘘を言っている『音』がしないもん」
工藤の眼をじっと見ていう鈴木の言葉に今度は石田が反応する

「『音』ってなんですか?」
「鈴木さんの『超聴力』で心臓の音を聞いて、拍動の変化で嘘と本当を判定しているんです」
石田の問いに対して返すは飯窪
「ちょっとまってください!鈴木さんの力って『透過』じゃないんですか?」
「なに言っているの?香音の能力は『超聴力』だよ。そんなことより、あゆみんこその能力は?」

先程の蒼い炎のことを言っているのであろうと察した石田は再び炎を掌に灯した
「これのこと?これは白銀のキタキツネ様を守護する私の一族の蒼炎だよ!
 この力でまあちゃんをお守りするために私はリゾナンターに」
「待つっちゃ!あゆみちゃんの力は幻獣駆使(イリュジョナルビースト)やろ?」
「え?石限定念動力ですよね?」
「高速移動(アクセレーション)だよ!!」
「・・・みんな『嘘』の音はしないんだろうね」

鞘師は考える
全ての人間が真実を話している。にも関わらず事実は必ずしも一致していないのだ
(これを説明するには・・・)
鞘師はゆっくりと壁に近づき、水の刀を棍棒に変形させ思いっきり打ちつけた
力の限り強く打ちつけたにもかかわらず壁はまったくの無傷
先程のロボットの射撃によって開いた穴すら見当たらない
(この舘はおかしい・・・それにふくちゃんも香音ちゃんもあゆみちゃんもはるなんも私の知っている能力と違う
 もしかして・・・みんなは・・・)

839名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:51:59
★★★★★★

そんな8人を見下ろすように天井から送られたカメラの映像を一人の女性が眺めていた
ゆったりとしたソファーに座り、時折琥珀色の液体の注がれたグラスを手に取る
「おや?」
女性は表情を確認すべく、カメラのズームを鞘師にかける
何かを察知したように眉間にしわをよせた鞘師をみてふふん、と笑う
「さすがやな。勘付いたか?『水軍流の』鞘師、といったところやな
 さて・・・あいつらがどうするか、ここからが本番や」
溶けた氷がカランと音をたて楽しそうに音を響かせた
「じっくり調べさせてもらうで」

840名無しリゾナント:2013/06/02(日) 20:56:49
>>
『米』の第2話です。最近スレの他作者様の話が読み応えがあって非常に楽しいです
その一方で自分で書くとなると躊躇してしまうのが恥ずかしい
マイペースにじっくりと書いて行きます

↑ここまで転載よろしくお願いします

あと訂正で839の最後から2行目を以下のように直してください
『溶けた氷がカランと音をたて楽しそうに音を響かせた』
→『溶けた氷がカランと楽しげな音をたてた』

代理投稿よろしくお願いします

841名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:11:20
>>813
代理投稿ありがとうございました。

空気を読まずに続きを投下いたします。

842名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:14:44
>>374-380 の続きです


いつものように、遅れての出席。
しかし、幹部たちがその遅刻を責める事は無い。
今回はただ一点、いつもと違うことがあったからだ。
白衣の女性、Dr.マルシェこと紺野博士の傍らには小さな少女がいた。

「おいおい、何の冗談だよ」

咎を責めることすら忘れてしまう、異常な光景。
「鋼脚」にとって、紺野が小さな子供を連れている姿はそれこそ冗談にしか映らなかった。

「紹介します。彼女の名前は『さくら』。i914のデータを元に作り上げた、人工能力者です」
「よろしくお願いします」

さくら、と呼ばれた少女がぺこりと頭を下げる。
i914、という単語に、その場に居た幹部たちは心のざわつきを抑えることができない。
光を使役する、という強大な能力を保有する、前任科学部門統括の最高傑作。そして、組織を裏切り組織に弓を引いた、
最低の失敗作。

「おい、どういうことだよ!お前今i914って言わなかったか!」
「あんたもあいつについてはよく知ってるでしょ、何を考えてるの?」

「詐術師」と「永遠殺し」が紺野を責め立てる。
しかしそんな言葉は耳に入らないと言わんばかりに、話を先に進める。

「みなさんにお願いしたいのは、この子の教育についてです。さくらは、素晴らしい能力を持っています。いずれ組織を
支える大きな力です。そこで、幹部のみなさんにこの子の研修をしていただきたいのです」

突然の、依頼。
通常、ダークネスの一員となった能力者は専門の養成施設に入り、施設の教官によって研修期間を設けられる。
幹部が直接新入りの面倒を見ることはそうあることではない。

843名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:16:26
「めんどくさいから、パス」
「合コンの必勝法とか教えてやりゃあいいのか?キャハハハハ!!」

「氷の魔女」が肩を竦め、「詐術師」が小さな体を揺らし大笑いする。

「別に養成施設のような本格的な研修をしてくれとは言いません。ただ、さくらにはより多くの世界を見てもらいたい。
そのために少しでも力をお貸しいただければと思います」
「その子、力は確かなんやろうな」

「首領」が、確かめるように、訊いてくる。
紺野は「叡智の集積」の二つ名に相応しく、力強く頷いた。

「ほな、みんなもよろしゅう頼むわ」

組織において、首領の言葉は絶対である。
先ほどまで否定的な表情を浮かべていた幹部たちも、上からの命令なら従わざるを得ない。
こうしてさくらの実地研修の契約は、結ばれた。

紺野はさくらにあなたの用事は済んだので先に戻るよう指示する。小さく頷いたさくらはその場にいた幹部たちに一礼す
ると、再び扉を潜り外へと消えていった。

扉の閉まる、ずしりとした重い音。
紺野は、同時に宣言する。

「みなさんもご不満や不安はあることかと思います。しかしながら、彼女は今回の計画になくてはならない存在。そのた
めに、私は彼女を造ったのです」

今回の計画。
それが何を指しているのか知る者は、いない。
顔を顰めるもの、黙りこくるもの、つまらなそうに手鼻をかんでいるもの。だが、それ以前にある事実を問いただしたい
と思う人間が、いた。

「あんたの計画はともかく。前回あんたが仕掛けた戦いの顛末について説明が必要なんじゃないか?あたしたちを押しの
けてまで、実行した作戦のさ」

844名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:17:40
語り口は鷹揚だが、有無を言わせない迫力が「鋼脚」にはあった。返答次第では、ただでは済まさない。その意志が、彼
女の強い視線から感じられる。

先の会議において出されたリゾナンター討伐指令。
我こそはと立候補する「黒の粛清」「赤の粛清」「鋼脚」の三人を自前の理論で退け、その権利を得たのは紺野だった。

「彼女たちは…よく戦いました。結果負けはしましたが」
「勝った負けたはどうでもいい。ついでにそいつらの身柄が警察の手に渡ったこともな。でもさ、あんたが仕掛けた『ち
ょっかい』のおかげでリゾナンターたちが成長しちまった件について、どう言い訳してくれるんだ?」

紺野は答えない。
さらに「鋼脚」の追求は続く。

「先日、新生リゾナンターたちが『エッグ』のあぶれ者7人と交戦し、撃退した。能力自体はもちろん、戦い方に関して
も進歩が窺える。うちの部署の連中からの報告だよ」
「……」
「紺野、あんた言ってたよな。下手に強力な力でねじ伏せようとすると反動が来るって。けど、拮抗した力をぶつけた結
果はこれだ。この責任は、どう取ってくれるんだ?」

紺野は、静かな湖面のような瞳で「鋼脚」のことを見ている。
いささかも揺るがない、その水面。

「責任、ですか。私の記憶が確かならば、責任とは失態を犯した時に取るものだと」
「…何が言いたい?」
「ならば私が責任を取る必要はないですよね。『ベリーズ』『キュート』と彼女たちの戦いによって、貴重なデータを得
ることができた。彼女たちの成長はその代償としては、安い犠牲に過ぎません」

紺野の言葉で、会議場がざわつく。
自らの失態であるはずの襲撃失敗を、データの入手という功績にすり替えた。そう捉えられても、仕方ない。

「そのデータって、何なのよ。勿体ぶった言い方しちゃってさ。下らないものだったら、ただじゃおかないんだから!」

ここぞとばかりに、噛みつきにかかる「黒の粛清」。
例の一方的な密約を取り沙汰されるのを恐れていた粛清人に、この流れは渡りに舟。

845名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:19:37
「貴重、と自ら称するからにはそれなりのものなのよね?」
「まあ、組織に不利益なものではなさそうだけど」

ダークネスの重鎮たちも揃ってそう口にする。

「もし間男がその家のダンナにばったり出くわした場合の統計、みたいな下らないデータだったらおいら腹抱えて笑っち
ゃうけどな!!」

キャハハハハ、と甲高い不愉快な笑い声が吹き抜けの天井まで響き渡った。
もちろん、誰も笑わない。

紺野はふう、とため息を一つつき、それから口を開く。

「いいでしょう。今回みなさんをお呼びしたもう一つの理由をご説明します。私が採ったデータは…リゾナンターが引き
起こす、共鳴現象についてのデータです」

今度は別の意味で、幹部たちが色めき立つ。
それもそのはず、ダークネスが、たった10人程度の能力者集団を注視せざるを得ない事情がそこにあるからだ。

共鳴現象。
リゾナンターたちが心を通わせ、自らの力を共鳴させ増幅させ、そして一気に解き放つ。
個々の能力においては歴然たる実力差をつけていたダークネスの幹部たちが、9人のリゾナンターを前に悉く撤退を余儀
なくされた理由。

「ちっ。忌々しい」

「氷の魔女」が、不機嫌そうに掃き捨てる。ただ、彼女だけではない。この場にいるほとんどの幹部が、その力に煮え湯
を飲まされた経験があった。

「私がリゾナンターたちにキッズをぶつけたのには大きく分けて二つの目的がありました。一つは、新生リゾナンターの
戦力把握。そしてもう一つが、先に述べた共鳴現象のデータ解析です。そして『ベリーズ』に与えた擬似共鳴の能力はリ
ゾナンターの共鳴現象を引き出し、比較し、解析するにはちょうど良い存在だったのです」

言いながら、紺野が円卓中央に浮かび上がるモニターを起動させる。画面に大きく映し出されるのは、先代のリゾナンタ
ー9人の画像付き相関図。リーダーである高橋愛とメンバーの田中れいなの間に、太い双方向の矢印が記されていた。

846名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:21:34
「かつての共鳴現象の仕組みは、高橋愛、つまりi914と田中れいなの存在に大きく依存していました。簡単に言えば、i914が
エネルギー出力装置、田中れいながエネルギー増幅装置です。そして出力装置はその他のメンバー、言い換えるならサブ出力
装置に支えられていました」

言い終わると、愛の画像は消えてなくなり、同時に亀井絵里、ジュンジュン、リンリン。久住小春、光井愛佳。そして新垣里
沙の画像もフェードアウトする。入れ替わるように姿を現す、鞘師里保を筆頭とする8人の若きリゾナンターたち。
れいなとメンバーたちの間に、9つの細い双方向の矢印が結ばれた。

「ところが、i914がリゾナンターを離脱することでメインの出力装置は消滅します。その役割は、田中れいなを除く全員のリ
ゾナンターが力を合わせ、補っているのが現状です」
「つまり、i914がいなくなったところで状況は変わらなかったってことかよ」

「鋼脚」の問いに、紺野は首を横に振る。

「確かに現状でも共鳴の力を引き出すことは十分可能でしょう。ただし、『銀翼の天使』を退けるほどの共鳴現象を引き起こ
すにはi914クラスでないと不可能です。最も、我々としても『天使』の力を常に安全な形で行使することはできませんが」
「おいおい、ってことはナニか?今のガキンチョたちが使う不完全な共鳴能力に対しても今のおいらたちじゃお手上げだって
言うのか?」
「そうですね」

あっさりとした返答。
そうですね、の一言では納得できない面々が立ち上がる。

「じゃあさ、共鳴能力を使われる前に皆殺しにすればいいんだよね」
「もっと簡単な方法があるわよ。一人一人孤立させて、一人ずつ殺せばいいわ」
「いや、半分くらい殺っちまえば、共鳴現象の威力は落ちるはずだ」

「赤の粛清」、「黒の粛清」、そして「詐術師」。
許可さえ出れば、即実行に移しそうな三人。しかし紺野は再び、首を横に振る。

「そんなことより、もっと確実な方法があります。共鳴現象を引き起こす両輪、その片方を外すだけで、簡単に我々はその現
象を封じる事ができる」
「田中れいな、か」

首領が、れいなの名前を呟く。
それは、首領自ら「田中れいなの討伐命令」を下したに等しい。

847名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:22:46
「リゾナンターを打ち崩すには、田中れいなという共鳴現象の両輪を構成するうちのひとつを外さなければなりません。それ
さえ叶えば、彼女たちはたやすく自壊するでしょう」

紺野が、ゆっくりと視線を中央のモニターに移す。
れいなの画像がゆっくり消えてゆくと、他の9人のメンバーたちの画像はまるで散りゆく落ち葉のようにはらはらと画面の外
へと落ちていってしまう。

「なるほど。あたしたちはれいなちゃんを血祭りにあげればいいわけだ」

目を爛々と輝かせ、「赤の粛清」が嬉しそうな表情をする。

「申し訳ないんですが、ただ戦って潰す、というのは今回の計画の趣旨ではありません。あまり派手な動きはスポンサーの方
たちも望んではいないようですし」
「じゃあ、どうすんの?またあんたの極めて個人的な趣味を満たす作戦を実行するわけ?」
「我々は、罠を張ってただ待ち構えていればいい。獲物は勝手に飛び込んで来ますから」

「氷の魔女」の皮肉をかわし、紺野が言う。個人的趣味はあくまでも副産物なんですが、という言葉はとりあえずは止めてお
いた。

「もちろん、そのための準備は既に済ませてあります。みなさんにも、ご協力していただければと」

返事を聞くまでも無い。
田中れいなを落とす事。それはダークネスの幹部たちの望みの最大公約数。
そう紺野は確信していた。
自らの計画、「プロジェクトЯ」が必ず、成功すると。

848名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:24:07


会議は閉会した。
ゲートの作動によって、再び各々の持ち場へと戻る幹部たち。
自らも例の長い廊下を通って帰ろうとする紺野だが、ある人物がまだその場に残っていることに気がついた。

「…どうしました?『赤の粛清』さん」
「ちょっと、聞きたい事があるんだよね」

赤い死神が、にこりと笑顔を作る。
だが、紺野は知っている。彼女の表情、感情、全てがツクリモノであることを。
心を闇に食われたダークネスの幹部たちの中でもさらに異質な、存在。「黒翼の悪魔」が好奇心から、「黒の粛清」が残虐性
から人を殺めるのと違い、彼女のそれはただ単純に強い存在をねじ伏せる事を目的とした殺人行為であることを。

そしてそれは、ある一点の目的へと繋がっているに過ぎないことも。

「何でしょう。答えられる範囲でなら、お答えしますが」
「さっすが紺ちゃん、気前がいいね。じゃあ単刀直入にお聞きします。紺ちゃんの計画がスタートするまで、まだ時間があっ
たりするの?」

何を目的としているのか。
判りやすいと言えば、判りやすい。

「『勝者』へのごほうびですか?」
「まあね。『黒の粛清』だけ、ずるいじゃん」

赤いスカーフが、ゆらりと揺れる。
その緋色の軌跡を眺めながら、紺野は思う。
もし今、「赤の粛清」とリゾナンターたちがぶつかったら。
全滅か、あるいは。その結果は、実に興味深い。

ただ、目先の愉しみによって先の計画を棒に振るのはいささか愚か過ぎる。

「好きにしてください。ただし、あまりやり過ぎないようにお願いしますよ」
「りょーかい」

得られた回答に満足するかのように、ゲートの作用によって掻き消える赤い影。
紺野は眼鏡を外し、白衣のポケットに忍び込ませた布でレンズを拭く。

「もちろん、それなりの手は打たせていただきますが」

その言葉は、誰にも届くことなく静かに消えていった。

849名無しリゾナント:2013/06/03(月) 02:25:53
>>842-848
更新終了
代理投稿をお願いします

850名無しリゾナント:2013/06/03(月) 13:00:37
>>840
とりあえず「米」の二話を転載
ほうそう来たかという感じw

851名無しリゾナント:2013/06/03(月) 22:56:16
>>850さん
代理投稿ありがとうございます。規制されている身として本当に感謝しています
そうきましたよw ま、気付いていた人もいたんじゃないですかね?地味に1話目に伏線あったし
いつもより感想が多くてなんか感動しています。
8人のいた世界は次回更新時に明かしますね

852名無しリゾナント:2013/06/04(火) 05:49:18
>>849
行ってきたで〜
今度は対れいなが軸となるのか

853名無しリゾナント:2013/06/04(火) 16:05:22
高橋愛と初めて出会ったあの日、銭琳は聞いた。
貴方が追い求めている存在をどうするのかと。
高橋は一瞬、無表情になった。空っぽの中身を見るようだった。

 決まってる。決まってるよ、最初から、決まってる。
 あーしはそれだけに生まれて、それだけに死ぬ。
 この世界はな、そうなるように出来てるんよ。
 だから、リンリン、あーしはその願いを叶える為なら ――

選んでいる。選ばなければ、選んだ先の未来。
偽物の世界。でも誰かにとっては、本物の世界。
これを作り物の悪い夢なら、どれほど良かっただろう。

それでも高橋は笑っていた。笑っている。
自分を隠して、自分を偽って、笑うしかなかった。
狂うよりも笑うことで、自分を肯定したいと願っていた。
自分は人間だと、誰かに想っていてほしかった。

理想。妄想。想像。それでも。
高橋の手は白く、細く、そして、血の温もりを感じた。

 リンリン、あーしに命を預けることはないよ。
 あーしは多分、誰よりもワガママで、弱い人間だから。


だから、誰よりも強い心が欲しかった。

854名無しリゾナント:2013/06/04(火) 16:06:05
 ―― ―― ―

 「感情エネルギーを蓄積する、それがi914と呼ばれる疑似精神体だ。
 それをナノマシンと遺伝子操作で作り上げた肉体を合わせて、高橋愛が生まれた。
 だが、それによる人型の維持が出来ずに、最終的には消滅する。
 耐えきれないからだよ、生身にナノマシンを仕込まれて無事だと思うか?
 i914が発動すれば同時に限界値を越えてナノマシンが暴走する。
 これが今起こっている悲劇の引き金だ」
 
あの時、吉澤ひとみと二度目の会話を行った時の記録が蘇る。
生みの親である闇の帝王の心情を、問う。
吉澤は笑みを浮かべて、皮肉そうに答えた。

 「…ダークネスは何故、そんなことを?」
 「言っただろう?お前が言う正義なんてこの世には存在しない。
 するとするなら、それはお前の中にしかない。
 自分が思うことを誰かに共感されたことによって、勘違いしてるだけだ。
 高橋がお前達に声をかけたのはね、お前達がそれに固執してるのを知ったからだ。
 【精神感応】は便利だな、心を見透かし、利用する」
 「…っ、愛チャンはそんなヒトじゃなイ!愛チャンはそのチカラで気付かセテくれタ。
 独りじゃないッテ、私はトテモ、嬉しかったんダ」
 「人は闇を恐れる、人は救われたがっている。
 だから力を求める、だから群れを作りたがる。これは真理だ」
 「私、アナタのことは嫌イダ」
 「あたしはあんた達が嫌いじゃないよ。そうして反抗してくれるだけで
 お前達がまだ諦めてないことを実感する。頑張ってくれよ、自分のために頑張れ」

855名無しリゾナント:2013/06/04(火) 16:06:49
銭琳は【念動力】によってi914の身体を大熊猫から引き剥がし
【発火能力】で火球をその身体にぶつける。
が、i914は【瞬間移動】でそれを回避すると、銭琳に視線を向けた。

新緑の炎が纏われた銭琳の瞳は、ただ一つの決意を込める。
死ねない。死ねない。死ねない!死ねるものか!!

――― 重症を負いながらも、二人は喫茶店『リゾナント』へと帰ってきた。

瀕死の李純と同じく道重さゆみの【治癒能力】によって治してもらったが
李純の状態をすべて話し、銭琳は故郷へ帰還する。

喫茶店への常連客にはろくに挨拶もできず、新垣里沙や
田中れいな、道重さゆみ、光井愛佳達に別れを告げた。

 祈りの込められた言葉に包まれて。

二人が帰還した後、李純はすぐに軟禁状態となってしまった。
銭琳への尋問がいくつか行われてからは、また『刃千吏』での
護衛官として任務が始まり、1年ほどが経過する。
銭琳はそのまま流れに身を任せる、ということをする気は無かった。

 終わっていない。まだ何も、終わっていない。

銭琳は感じていた。繋がりを感じていた。"共鳴"が疼く。
李純を連れ出したことによって、もう帰ることは許されない。
だから帰らなければ、第二の故郷、日本へ。

短い旅だ、そしてこれが最後の旅になるのかもしれないと思った。

856名無しリゾナント:2013/06/04(火) 16:07:41
 ―― ―― ―

高橋は銭琳に問う。
どうして自分の味方をしてくれるのか。
ダークネスとの関係を何処から入手したのか。

無表情の高橋は言う。それは一歩間違えれば、敵とも捉えられる問い。
銭琳は片言の台詞で、答えた。
自分の組織のことを、自分が知る限りの異能のことを。
味方になりたいという想いが本物だということを。

 「リンリンは、優しい子なんやね」

思わず口走った様な言葉ではなかった。
静かに、落ち着いた口調で、穏やかな笑顔と、差し出された掌。
精神系異能者である高橋愛に嘘は通用しない。
それは組織の人間に褒められたものよりも、"認められた"気がした。

 その心が、あーしにもあったらな。

人間には僅かなチカラがある。異能ではない、誰でも保持しているチカラ。
それは願いのようであり、それは祈りのようでもある。

誰かは【呪い】と呼び、誰かは【共鳴】と呼び。
誰かは【言霊】と呼んでいた。

857名無しリゾナント:2013/06/04(火) 16:16:09
『異能力 -Soul to return home-』
以上です。

今個人的に気に入ってるのは>>435さんの作品だったりするんですが
他の皆さんもまだこんなにも文才を持ってる人が出てくるなんてアリガタヤー
やーホントに飽きないスレだなあ。

858名無しリゾナント:2013/06/04(火) 16:17:17
------------------------------------ここまで。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

859名無しリゾナント:2013/06/05(水) 10:39:23
行ってきたゾ
i914の設定とかSF方面にブッ飛んだというか踏み込んだものになってますね
しかしどう終わるんだろう

860名無しリゾナント:2013/06/05(水) 12:59:08
>>858です。
代理投稿ありがとうございました!
元々i914はSFな認識を持っていたのでブッ飛ばしてみました。
ホントにどう終わらせるんでしょうね(白目

861名無しリゾナント:2013/06/05(水) 23:16:55
絶望を抱えた少女が一人。
絶望の象徴だった少女が一つ。

少女は自覚していた、自分がいかに罪深く、そして、闇であるか。
だが何処かで違和感も覚えていた。
自分がなぜ【光使い】と称されるようになったのか。

誰かの希望であったのかもしれない、誰かの絶望であったのかもしれない。
それならば、と思っていた。
絶望よりも希望を選んだのは、それがきっと正しいものだと思ったからだ。
誰かが希望を待っているのなら、この身を差し出そう。

そう思っていた。
そう思っていたかった。

 「なんか、意外やな」
 「何が?」
 「自分が、こんなにも長生きやったんやなって」
 「バカなこと言ってないの。これからじゃない」
 「うん…」

 「なぁ、ガキさん」
 「なに?」
 「ガキさんは、このセカイが好き?」
 「…なんで?」
 「あーしがしとる事って、このセカイを守るってことが大前提やんか」
 「まぁ、そうだね」

862名無しリゾナント:2013/06/05(水) 23:17:36
 「でも中には、こんなセカイなんかキライやって言う人もおる。
 このセカイが綺麗か汚いかは、その人の価値観で決まるものやからね。
 だから、あーしの相手は時には組織以外の人らとも戦う羽目になっとる」
 「つまり?」
 「つまり、あーしらがこのセカイを守るって事は、そういう人らが現れる
 可能性、確率を高めとるんやないかって、な」

 「でも、私達みたいなのが居ないとこれまでよりもそういう人達が増える可能性だってあるよ。
 それに、愛ちゃんはこのセカイを守りたくてリゾナンターを結成したんだよね?」
 「やと、思う」
 「なに今のあいまいな答え。違うの?」
 「あーしは、今までこのセカイの未来を目指して来てたと思っとった。
 でも、それは皆に会えて、皆とおるセカイが幸せやったから、未来もきっと幸せ
 なんやろうって、思い込もうとしとったんやないかな」

愛は手のひらを擦り合わせ、開いた両手をまじまじと見つめる。
其処に、何を見つけていたのだろう。

 「時々思ってしまうんよ。
 もし、もしな、これからの未来が自分が思ってた未来と違ったものやったら、どうしようって」

一瞬の空白。
それを、その言葉の意味を、彼女は解っているのだろうか。

 「――― 未来が怖いんやない。やり直しが効かんから、進むことに臆病になるんや。
 でも出来ないからこそ、あーしらは未来を目指すことにしたんやもんな。
 あの景色を守るためにも。だから、あーしはこのセカイが、皆が好きやと思いたい」

863名無しリゾナント:2013/06/05(水) 23:18:19
酷く優しくて穏やかな声。
明日、失ってしまうかもしれないけれど、歩いていこう。
だって、ここに居るのは事実だから。

 遠くの街が光り輝く。
 クルクルと舞い踊る平穏の象徴。

光が塗り潰した世界。光が塗り替えた世界。
それは、何も無い世界。

 里沙は答えなかった。答えられなかった。
 誰もが望み、誰もが到達するまでに至らない領域への願いなど。
 
それは里沙が、最も強く想い続けていた事だということなど。

864名無しリゾナント:2013/06/05(水) 23:28:04
『異能力 -Invitation to the jaws of death-』
以上です。

>>490
突き放してはないんですが、リゾブルの構成を自分なり
に解釈してi914をメインにするとこうなってしまうんです。
ホントどう終わるんでしょうね。


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