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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part3

1名無しリゾナント:2012/11/24(土) 11:55:51
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第3弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

35名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:13:58
便乗するみたいで頭より肩身が狭い(古いネタ)ですが投稿します。

>>23
お手数かけます。

36名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:16:26
>>17-20 の続き


ここは都内某所のオフィスビル。
最上階という最も賃料が高いであろうフロアを丸々借りているその企業は、オークションサイトを経営し巨額の利益を得ていると専らの噂
であった。
そんな成功者の居城とも言うべきオフィスの廊下が、黒服を着たいかつい男たちによって埋め尽くされていた。ただし、全員気絶してのび
ているのだが。

「かっ、金ならいくらでも出す!だから命だけは、命だけは!!」

廊下の奥から聞こえてくる、情けない命乞い。
社長室、とプレートが打ち込まれた扉の内側では、エリート然とした若い男が一人の女性に対し、頭を床に擦り付けて土下座していた。

「…そんなん興味ないから。ただ、あんたが食いもんにした顧客にお金返せばいいけん」

つまらないものを見るような目つきで、女性が言う。
一般的女性に比べ身長の低い彼女に対して諂う大の大人という構図は、哀れを通り越して滑稽にすら映るのかもしれない。

37名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:18:08
「すみません!ごめんなさい!お金ならいくらでも返します!!だから…」

涙すら浮かべて謝罪の言葉を重ねる男。だが次の瞬間。

「これでカンベンしてくれよな!!!」

懐から隠し持っていた短銃を取り出した。銃口が、火を吹く。
ばーか。何で俺が稼いだ金を返す必要がある? お前がいくら女のくせに強くても、こいつにはかなわんだろう。
と、余裕の笑顔すら見せていた男が、突然苦悶の表情を浮かべる。
凶弾に倒れているはずの女性の姿が、ない。
それを認識するのと、自らの腹にお見舞いされた打撃によって意識を失うのは、ほぼ同時だった。

男が拳銃の引金を引こうとした時。
すでに彼女は動いていた。大きく横に跳び、それからくの字を描くようにして男のがら空きのボディーに強烈な一撃を叩き込む。
彼女 ― 田中れいな ― は自らの持つ増幅能力(アンプリファイア)を身体能力に応用することで、常人には捉える事のできない俊敏
な攻撃を仕掛けることができた。

38名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:20:38
「ったく。あんたみたいな悪党の手口、お見通しっちゃんね」

呆れ顔で地に這い蹲る男に言う、れいな。
彼女にとってはこの程度の仕事は朝飯前にもならないだろう。

新生リゾナンターの稼ぎ頭であるれいなは、例の事件以降、一層精力的に依頼をこなすようになった。今回この悪徳オークション会社に出
向いたのも、オークション詐欺被害にあった少女からの依頼を受けてのことだった。

数日前。リゾナンターのOGである光井愛佳が管理している仕事請負サイトに、その少女からの依頼が舞い込んだ。提示された報酬額は微
々たるものだったが、喫茶店の運営資金なら愛や里沙からの仕送りで十分事足りる。

さて。こいつらの悪事の証拠を愛佳に送らんと。
ひとりごちつつ、先ほどのした社長の椅子に座る。目の前のPCは愛佳の事前準備によって丸裸状態、簡単な操作でデータは全て彼女のP
Cを通してしかるべき場所へと送られる。軽快なタッチでキーボードを叩き、画面にデータ転送量を示すバーが表示された。暗くなった画
面。そこにれいなの顔と、その後方に見知らぬ女の顔が、三つ。

39名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:21:52
「…何の用?れいな今、忙しいっちゃけど」

このバカ社長、まだボディーガートを用意してたとかいな。
しかしれいなはすぐに自らの推測の誤りに気づく。ボディーガードにしては、妙な格好をしている。紫と黒を基調とした、派手なデザイン
の洋服。胸の十字架のワンポイントが髑髏になればれいな好みの色使いなのだが、そんなことを考えている場合ではない。

「時間は取らせませんよ」

色黒のスレンダーな女性が、背の高さに見合わぬ高い声で語りかける。
絶やさない笑顔が、逆に底知れない何かを感じさせる。

「まぁがすぐに終わらせるからね」
「え?どういうこと?うちら戦わなくていいの?」
「…熊井ちゃんも戦ってよ」

妙に自信溢れる恰幅のいい女性と、温和そうな背の高い女性がすっとぼけたやり取りをする。
最初の色黒が、すっと一歩前に出た。

「ダークネスから指示を受けました。あなたを始末するようにって」
「!!」

予期せぬ単語が、一瞬だけれいなの心をかき乱す。そのほんの僅かな隙を突くように、山のような巨体が襲い掛かった。

40名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:25:45
椅子に座るれいな目がけ、振り下ろされる鉄拳。
拳自体がれいなの体ほどはあろうかという巨大な腕が、上のPCごと机を叩き潰した。
ただしれいなは椅子から遠く離れた場所へ。

「残念でしたー。もうデータは転送済みやけん」

軽口を叩きつつも、れいなは別のことを考える。
こいつら…能力者? でも、全然気配を感じんかった。
一端の能力者であれば、かつてのリゾナンターリーダー・高橋愛のような優れた精神感応(リーディング)能力の持ち主でなくとも、近くに
居る能力者の存在くらいは感知する事ができる。しかし、目の前の三人はまったくそれを感じさせなかった。

それにしてもダークネスとは。
あの襲撃事件の後、組織は息を潜めたが如く表立った活動をしていなかった。
もちろん、喫茶リゾナントに手出しをすることすらもなく。
それが今になって小間使いらしき連中とは言え、再び名乗りを上げた。
自分の見えないところで何かが動き出している。目の前の敵に集中しつつ、不穏なものを感じていた。

41名無しリゾナント:2012/12/19(水) 22:26:51
>>36-40

投稿完了。
代理投稿お願いします。

42名無しリゾナント:2012/12/19(水) 23:40:59
行ってきますか

43名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:30:26
>>42
ありがとうございました。
引き続き、投稿いたします。

44名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:33:51
>>36-40 続きです

「あのさあ。そんなデータとかどうでもいいんだけど」

一撃で葬ったと信じていた相手が、ぴんぴんしていることに憮然としながら、大柄な女性が厚めの唇を尖らせる。その腕は先ほどと違い、常
識の範疇の大きさになっている。

目の錯覚か。それとも。
能力者の中には自らの肉体を変化させることができるものがいるという。だとしたら少々厄介だ。まるでどこかの海賊漫画の主人公みたいや
ん、とれいなは心の中で吐き捨てた。

とにかくあの太いのにノープランで突っ込むのは危険。
そう判断したれいなは攻撃の矛先を、ぽわんとした平和ボケしてそうな女性へと向ける。高速移動から相手の懐に飛び込み、その場で跳躍
しながらのアッパーカット。

れいなの拳が空を切る。
しかも相手はまったく避けた風もない。目測を誤ったか。176cmの相手を殴ろうとしたつもりが、まるで180cmオーバーの相手を殴ろう
としたかのような手ごたえのなさ。
無防備になったれいなと、女性の目が合う。

45名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:35:07
「じゃあ、反撃するね」
「!!」

れいなの体が浮き上がったかと思うと、急速に床に叩きつけられた。
今のは…重力操作!?

受身を取りダメージを最小限に抑えたれいなに、さらに巨大な足が踏みつけようとしてくる。見上げるような大きな足の裏、そんなもので
踏まれたらただでは済まない。

寸前で、身をかわして攻撃を避ける。踏まれた床が、大きく破壊された。
どうも様子が変だ。相手のペースがいまいち掴みきれない。
そんなれいなの様子を読み取ったのか、色黒の女性ががっかりしたように、

「あんた本当にリゾナンター最強? ちぃが昔聞いた話じゃリゾナンターってもっと強いはずだったんだけど」

と漏らす。
これにはれいなの闘争心に火が点かないはずがない。

「言うやん」
「だって楽勝そうだから」
「あんたたち如きが?」

侮蔑の表情を浮かべる色黒の女性に、れいなは挑発の笑みを返す。
次の瞬間にはれいなは標的に向ってまっすぐ走り出していた。

46名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:36:47
こういう時、愛佳やったら的確に今の状況を把握して対策を出すっちゃろうね。でもれいなは頭悪いけん、単純に考えるしかなかと。

出された能力は二つ。机を破壊した巨大な腕。それと重力操作能力(グラビティレーション)。
目の前の三人は太いのとノッポが前に出て、色黒が後ろに下がってる。つまり出ていない三つ目の能力は、後方支援。
なら、この妙な違和感のもとはそこにある。

れいなが色黒の女性に飛び掛ると同時に、太目の女性が背後から拳を繰り出す。しかし突進する体には届かず、纏わりつこうとする重力を
もすり抜けられる。れいなの体が翻り、背後から標的の首に腕を回した。

「ぐえっ?!」
「ちぃ!!」

慌てふためく仲間の二人。
本気の、しかも狙いを定めた高速の動きについていけなかったのだ。
もう相手の手足は巨大化しない。その破壊力が本物だとしても、もう漫画のような巨大化はできないだろうとれいなは踏んでいた。そして
その推測は、正しかった。

47名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:38:31
「一気に形勢逆転っちゃね」

重力操作能力の性質上、今のれいなを的にかければ仲間を巻き込むことになる。
そして。
れいなが今人質にしている色黒の女性の保有能力は、幻視(ハルシネーション)。精神干渉能力を視覚のみに特化した能力だが、本体を掴
まれていては自らも幻覚に取り込まれてしまう。もちろんれいなはこのことを知らないのだが、さすがは戦闘のプロの感覚の成せる業か。

「…振り出しに戻っただけじゃん」
「しかもあんたとまぁたちは、3対1。あんたのほうが不利だよ」

口々にそんなことを言う二人。
1人を犠牲にしてでも、その隙に相手を確実に討つ。そんな決意の読み取れる言葉。

「さっきの動きを見て、まだわからんとかいな。あんたらとれいなじゃ、格が違う」
「なっ…!!」

相手が言葉を発するより早く、れいなは攻撃に行動を移す。
人質に取っていた女性を、前方に蹴り倒す。と同時に残りの二人の片割れの懐に潜り込んだ。
長身の女性の足元に潜り込みながらの、電光石火の足払い。不意を突かれた女性はバランスを崩さざるを得ない。態勢が低くなったところ
に、畳み掛けるようなローキックが襲う。

48名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:40:01
「危ない熊井ちゃん!!」

咄嗟にもう一人が、れいなの前に躍り出た。
先ほど拳を交えた時点で相手の能力のことはだいたいわかってる。肉体硬化とか。
体の巨大化は幻術によるものとしても、あの破壊力は本物。その力を今度は防御に集中させるつもりか。
しかしそう理解していながらも、攻撃を中断しようとしない。
蹴りを弾かれてしまえば、今度はれいなに隙ができてしまう。
巨体の女性はそれを狙っていた。

しかしそれが誤りだったことに気づいたのは、れいなの鞭のようにしなる蹴りを両手で受け止めた時だった。凄まじい衝撃が彼女の全身を
駆け抜け、勢いのままに後方へ吹き飛ばされた。もちろん、背後にいた長身の女性を巻き込みながら。ついでに言うと、最初に倒したバカ
社長は巨体の下敷きになった。

れいなは一般的な女性の平均からすると、だいぶ小柄な部類に属する。
となると、どうしても拳や蹴りが軽くなりがちである。それを補うのが、能力増幅による攻撃の高速化。柔軟性を最大限に生かした高速の
蹴りはさながら鞭やフレイルのごとく、身を固めた敵の内部に衝撃を与えるのだ。

圧倒的。
幻術使いの女性を蹴り飛ばしてから態勢を整えるまでの間に、残りの二人を打ち倒してしまう。
かつてのリゾナンターにおいてリーダーの高橋愛と双肩を並べ、今なお随一の実力を有しているれいなに初めて刺客の三人は恐ろしさを感
じた。

49名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:41:21
「あんたらみたいなひよっこ、話にならん」

れいなが一歩、詰め寄る。
降伏か、抵抗か。どの道逃がすつもりは無い。ダークネス、その言葉を相手が口にした時から彼女の気持ちは一つに固まっていた。

こいつらから、ダークネスの居場所を聞き出す。

喫茶リゾナントを襲撃した、「銀翼の天使」と名乗る女性。
彼女によってリゾナンターたちは計り知れない大打撃を蒙った。
あるものは能力を失い、あるものはダークネスと渡り合うための実力を身に付けるために、そしてあるものは、警察上層部から引き抜かれ
て。喫茶リゾナントを去っていった。

「さすがはリゾナンター最強の能力者。うちらじゃ歯が立たないってことか。悔しいけど」

すっと立ち上がったのは、ダメージの一番少なそうな色黒の女性だった。
次いで、巨体の女性の下敷きになった長身の女性が立ち上がった。巨体の女性はれいなの蹴りの衝撃がまだ残っているのか、横たわりなが
られいなのほうを睨んでいる。

50名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:42:59
「まあいいや。最初からここで倒せるとは思ってなかったし」
「あんたは、『七房陣』で葬ってあげる」
「えーと。あれ使うの?あれ使うの初めてじゃなかったっけ?」
「…うん。使うことになってるから。とにかく。田中れいな、あんたとは今日はここでお別れ」

それだけ言うと、三人の姿がすうっと掻き消えた。
社長のオフィスデスクがあった場所の後ろの壁に、大きく穴が空いている。

「あ、やられた!!」

れいなは三人の中に幻視能力者がいることをすっかり忘れていた。
穴から外を見るも時既に遅し。重力操作を駆使して三人はすでに地上へ降り、逃走していた。

悔しがっていてももう追いつけないのだから仕方ない。
相手はご丁寧にもう一度襲撃するとの予告を出した。ならばその時に決着をつけるまで。

「でも、れいなが襲われたということは…」

刺客があの三人だけとは限らない。
ダークネスが指示を出しているとしたら、多分「もう一人」にも刺客を差し向けるはず。

ま、さゆなら大丈夫やろ。

そこには最早二人きりになってしまったかつてのリゾナンターに寄せる、信頼があった。

51名無しリゾナント:2012/12/23(日) 18:43:45
>>44-50

投稿終了。
お手すきの時に代理投稿よろしくお願いします。

52名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:40:24
読みきり短編です
お見苦しい点もあるかと思いますがご了承ください



朝から冷たい雨が降りつづいていた。
恵みの雨とはよく言ったものだが、今日は傷口が傷むため、あまり好きではない。
自分のことは「晴れ女」だと自負しているのに、どうしてこういう日に限って雨なのだろうとぼんやり思う。
気温が下がり、吐く息も白くなる。傘を持つ手がかじかむが、大股でそこへと歩く。

「寒すぎっ……」

そうして愚痴を吐いてみたが、だれも応える相手はいない。ひとりなのだから、当然と言えば当然の結果なのだけれど。
ただし、ひとりなのか、一人なのか、独りなのか、分からないけれど。
ああ、なんだかバカバカしい。今日はせっかくの誕生日だというのに、どうしてこんな気分になるのだろう。
いや、誕生日だからこそ、こんな気持ちを携えるのだろうか。

本日12月23は日本国の象徴である天皇の誕生日だった。
正直、今上天皇には会ったことも話したことも、まして見たこともないから、その存在の大きさとか偉大さなんて分からない。
とはいえ蔑にする気もないし、彼の存在自体は、なんとなく、日本という国を存続させるうえで必要なものなのだろうなとは理解している。
まあ国政も天皇の継承にも興味はないし、右翼でも左翼でもない自分が語れることなんて、これくらいしかないのだけれど。

さっきからなにを考えているのだろう。
こんなことを心に描きながらこんな場所に辿り着くつもりはなかったのだが。これもまた、「今日」という日がそうさせるのだろうか。

53名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:41:02
そのとき、ぼたっと傘に雨粒が落ちてきた。
いままでとは少し違った音と感触に眉を潜めて顔を上げると、その意味に気付いた。
雨はとうに霙へと形を変えていた。霙というべきか、もはや氷雨という方が正しいのかもしれない。
思わず傘から手を伸ばしてみた。氷雨は綺麗に手の平に舞い降りて、溶けた。

「つめたっ…」

雨は夜更け過ぎに雪へと変わる。なんて名曲が世間では流行っている。
現実は、それほどお洒落ではないけれど、こんな誕生日も悪くないかと思いながら丘を登った。
頭を垂れた草をじゃくっと踏みしめ、痛む膝を押さえて一歩、また一歩と頂上へと近づく。
寒いせいか、傷が痛むせいか、吐息が短くなり、間隔を空けずに白く世界を染めていく。
だが、歩みを止めることはなく、一気に丘の頂上まで登りきった。

「はぁ……」

膝を押さえ、息を整える。やっぱり動くにはまだ早すぎただろうかなんて苦笑しながらゆっくりと体を起こし、丘から街を見渡した。
「約束の場所」なんてカッコ良く言い切ってしまうのは照れ臭いけど、それは嘘ではない。
梅雨晴れのあの日、隣町までも見渡せるこの丘の上で3人は祈った。ただ優しい想いを届けようと、静かに祈った。
それが、3人が交わした最初の約束だった―――

54名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:41:44
そっと目を閉じる。心に何人もの笑顔と、涙が浮かんだ。
濡れて体が冷えてしまうことも厭わずに、傘を投げ捨てて両手を広げた。
氷雨が頭に、顔に、肩に、脚に、そして心に染み込んでいく。
叩かれているような、傷付けられているような、そんな感覚を残しながら頬を伝う氷雨は、何処か心地良かった。
もっと、もっと、もっと殴ってほしい。それで世界が崩壊を止めるのならば、希望の光が現れるのであれば、いくらでも甘んじたい。
まだ、まだこのままで、終わりたくない。この牙を、折りたくはなかった。


―――だいじょうぶだよ


瞬間、そんな声が聞こえてた。優しくて甘くて、なにもかもを赦してくれるようなその声に目を開ける。
相変わらず雨は降りつづき、やむ気配すら見せない。冬の雨は長引きそうだとぼんやり思った。
だが、雨が一瞬だけ途絶えた。止んだのではない、自分の周囲半径数メートルの空間でだけ、消滅したのだ。
ああ、これは彼女が近くにいるのだなと察し、ゆっくりと振り返った。果たしてそこに、彼女は立っていた。

「田中さん―――」
「……なんで、此処が分かったと?」

名を呼ばれた直後、なにか聞かれる前に先に訊ねた。
彼女は困ったように頭を掻いたあと、傘を閉じた。雨が消滅しているために、濡れることはない。だが、それも長く続く保証はない。

「フクちゃんから聞きました。此処に居るんじゃないかなって」
「なんでフクちゃんが…?」
「フクちゃんは、亀井さんのこと、たくさん、道重さんから聞いてましたから」

55名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:42:14
ああ、なるほどねと納得した。聖は絵里のことを尊敬しているため、さゆみから色々と情報を仕入れているのだろう。
ある意味でそれは過剰な敬愛かもしれないが、それもまあ悪くはないかな、なんて思ってしまう。

「風邪、引きますよ?」
「鞘師にしては上手く操れとーっちゃない?雨、ちゃんと避けられとーやん」

彼女―――鞘師里保の言葉に応えることなく、能力のことを持ち出した。
里保の有した能力―――“水限定念動力(アクアキネシス)”のおかげで、自分たちの周囲数メートルから雨を除外している。
不器用で不自然に曲がった雨であるが、リゾナンター加入2年目の彼女にしては充分な能力の作用だ。

「傷だって塞がってないじゃないですか。早く戻りましょう」
「アハッ。気付いとったっちゃ」
「昨日の今日ですよ。いくら“治癒能力(ヒーリング)”や“能力複写(リプロデュスエディション)”で回復させたとはいえ、無茶しすぎです」

ごもっともな指摘をする里保に肩を竦めた。
昨日12月22日、ダークネスからの急襲を受け、リゾナンターはその大半が大怪我を負った。
先鋒に立ったれいなもまた、当然のように傷を受け、特に脚の骨はぐちゃぐちゃに砕けていた。
さゆみや聖の能力のおかげで致命傷は免れたものの、本来ならば立つことすらままならないはずだった。

「鞘師も、結構痛そうやけど?」
「私のことはどうでも良いんです。いまは田中さんの方が心配です」
「血、滲んどぉけど?」

れいなの言葉に里保は眉を顰め頭部に巻いた包帯に手をかけた。
額から微かに血が滲んでいることを確認したが、巻き直すことはせずに一歩れいなへと近づいた。
れいなもまたそれを拒否することはなく、ふたりは並んで街を見下ろした。クリスマス前日、浮足立った人々の笑顔が所々に見える。

56名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:42:53
「……すみませんでした」

里保は唐突にそう言葉を吐いた。
なにに対する謝罪なのかが分からずに眉を顰めると、里保は苦々しく「昨日…」と言葉を吐く。

「役に立てないどころか、足手まといになって…」
「別に鞘師だけのせいやないやろ。それを言うなら、れなもさゆも総崩れやったし」
「それと……此処に、来てしまって」

ふたつ目に紡がれた言葉にれいなは返す言葉を失くした。
クスッと笑って肩を竦め、「能力、閉じて良かよ」と呟いた。だが、放った傘を持ち直すことはしなかった。
とはいえ傷ついた体で能力を開放するにはもう限界だった里保は、素直にそのチカラを納めた。
消滅していた雨は息を吹き返した。ぼたぼたとれいなと、そして里保の上に降り続ける。

「さゆはどうしとった?」
「亀井さんの傍にいました。今日は誕生日だからって……田中さんは傍に居なくて良いんですか?」
「別にれながおっても、絵里が目覚めるわけやないし」

そうして自嘲気味に笑ったが、里保はなにも返さなかった。ただ黙って、れいなの瞳を真っ直ぐに見つめている。
その眼差しが、冬なのに熱くて、困ったように肩を竦めて逃げた。こうして逃げつづけることが、成長してない証拠なんだろうなと自覚する。
里保は黙って投げ捨てられたれいなの傘を拾い、れいなに渡す。が、彼女は首を振って受け取らなかった。

57名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:43:33
手持無沙汰になった里保は、それをどうしようか逡巡し、ひょいと勢いよく放り投げた。
放物線を描いて空に舞い上がった傘をぼんやりと目で追っていると、里保の姿が視界から消えた。
唐突な出来事に眉を顰めるが、背後にその気配を感じ、慌てて振り返る。
里保は手にしていた傘を鋭く突き出す。れいなも間一髪でそれを避け、がら空きになった腹部に拳を突き出す。

「――――――」

雨の音と沈黙が残る。
拳は腹部を捉えることはなく、その手前で止まった。

「此処で闘いたくはないっちゃけど……」

その言葉を聞いた里保はもう一度改めてれいなを見つめた。
今度は彼女も、その瞳から逃げようとはせずに、黙って里保を見つめ返した。
里保は目を伏せて頷き、れいなから距離を取った。沈黙の音が支配する中、深く息を吐く。白の吐息が宙に浮かんだ。
里保は傘を差し、れいなにひょいと翳した。それを避けるほどの力は、れいなには残っていなかった。ひとつの傘に小さなふたりはすっぽり収まる。
もういちど息を吐いたあと、囁くほどの小声で、里保は云った。

「私にはまだ、想いを届けるほどの強さはありません」
「うん」
「でも、でも、だから、大切なものを護るくらいの強さは、身につけます」

静かな、とても静かな闘志だった。
氷雨に濡れたコートの袖口から見える包帯には、真っ赤に血が滲んでいる。痛々しいが、それはさながら、彼女の意志にも見えた。
れいなも同じように、膝に巻いた包帯は血をたっぷり吸い、もはやその用途を成していない。
それでもまだ、ふたりはこの場所に立っている。

58名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:44:46
「だから、田中さん、信じて下さい―――」

そのとき、冬の風が静かに吹いた。前髪を揺らして何処かに走り去った風は、どんな想いを携えているのだろう。
凍えるような今日、彼女は生まれた。宇宙の片隅のちっぽけなこの星のちっぽけな街で、その産声を上げた。
生まれながら病を抱えながらも、闘いという日々に巻き込まれ、それでも彼女はシアワセを祈った。
大切な仲間。かけがえのない大切な人。
さゆみとともに、この場所で3人は祈った。ただ静かな夜と輝く朝を迎えられるように、世界中にその想いを届けられるように。

「弱気な田中さんは、似合いませんよ」
「余計なお世話っちゃ」

里保の軽口にれいなは濡れた前髪をかき上げた。

「すみません。特別な場所だって分かってたのに」
「いや、良かよ。なんか、鞘師らしいやり方やったけん」

そうしてれいなは肩を竦めて笑った。自嘲的ではない笑みは、どこか子どもっぽさを残していて里保もまたホッとする。
弱くて、情けなくて、闇に怯えて斃れそうになったとき、脚はすでに此処に向いていた。今日が彼女の誕生日だから、という理由もあったけれど。
此処に来れば、過去を思い出して、その約束に奮い立つ気がするから。
だけど今日はそれだけじゃなかった。生意気な後輩による荒療治は、意外と功を奏したようだ。
ムチャクチャで、後先考えているのか思慮深いのか未だに掴めない里保のやり方も、嫌いじゃない。

「帰りましょう。みんな心配してます」

里保はそうして笑い、「完全に傷口開いちゃいましたね」と自分の頭部を押さえた。
そんな彼女を見ながら、随分と無茶なことをする後輩だと改めて思った。
いくられいなを奮起させるためとはいえ、昨日あれ程の襲撃を受け、全身の骨が砕けかかったというのに、里保はれいなに食って掛かってきた。
此処までその脚で歩き、能力までも開放し、殴り飛ばされることも厭わずに。

59名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:45:20
れいなはふと、思った。
もしかしたら、そうなのかもしれない。

「鞘師」

静かに、その名前を呼んだ。
里保はきょとんとして振り返る。
その目は先ほどとはまるで違い、小動物のように可愛く思った。

「信じとーよ、さゆも、絵里も。そして、鞘師のことも」

あの3人で交わした最初の約束。
それが果たして叶えられるのか、想いを届けるほどの強さがあるのか、れいなには分からなかった。そんな自信もなかった。
昨日の敵襲、崩壊しつつあったリゾナント、あの頃の仲間はもう、さゆみしかいない。そんな状態で、なにを信じていれば良いのだと。

だけど、だけど、どうしてか、今日は信じたくなった。
その牙は決して折れることはない。
たとえこの骨が砕かれても、此処にれいながいる限り、その信念を受け継いだ共鳴者たちがいる限り、想いは途絶えずに繋がっていく。

「はい」

深く、深く、その言葉を噛みしめるように里保は頷いた。
その笑顔を見て、きっと約束は終わらないのだと、れいなは確信した。


夜は静かに更けていく。
いつの間にか降り続いていた氷雨はついに雪へと変わり、街を白く染めていった。

60名無しリゾナント:2012/12/23(日) 21:46:57
>>52-59 以上「約束の場所」
絵里生誕に合わせて書いたのに暗くなって申し訳ないm(__)m
気付いた方はお手数ですが代理投下宜しくお願い致します

61名無しリゾナント:2012/12/23(日) 22:42:12
とりあえず行ってみる
投下途切れたらごめんなさい

62名無しリゾナント:2012/12/23(日) 22:49:01
>>51
行って参りました
Berryzとの攻防は胸が熱くなりますね

63名無し募集中。。。:2012/12/23(日) 23:07:35
>>60
転載完了しましたよん

64名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:19:40
>>62
ありがとうございました
ベリキュー編はしばらく続く予感です

それでは今年最後の更新を

65名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:24:00
>>44-50 の続きです


見られている。
隣町のスーパーに買出しに来ていた道重さゆみは、どこからともなく纏わり付いてくる視線を感じていた。まさか敵?と思いつ
つもどうも様子がおかしい。

確かに見られてはいるようだが、どことなくきもい。うざい。イラっとする。
さゆみが恐る恐る辺りを窺うと、精肉売場の柱の影からこちらを見ている少女の姿があった。

…さゆみのファンか何かかしら。

彼女のことをリゾナンターと知らない人間からすれば、ただの喫茶店の店主に過ぎないのだ
がそこはまあご愛嬌。敵組織の人間、とまずは疑いたいところだが、肝心の少女には敵意や緊張感というものがまるで感じられ
ない。それどころか、柱の影に隠れるのをやめてひょこひょこさゆみのほうへ近寄ってくる。

66名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:25:32
「あのー、みっしげさんですよね?」
「そうだけど。何か用?」

やはりそうだ。この子はさゆみの熱烈ファンに違いない。きっとどこかの喫茶店マニアが可愛すぎる喫茶店店主みたいなタイト
ルで隠し撮りをして、それがどこかの掲示板で大人気になっているに違いない。今は電脳の時代だからと「ネットパトロール」
と称したパソコンいじりを日課しているさゆみにとっては、揺るがしようのない事実にすら感じられた。

それにしても。
毛先が跳ね上がったツインテールという、日常あまり見かけない髪形。
少女と思いきや、近くで見るとそうでもない。さゆみとそう変わらない年に見えるのに、全力で少女ぶっている様は少々痛々し
い感じすら覚えてくる。

「やっぱり実物はかわいいですよねー」
「え?やっぱり?どこの誰か知らないけどありがとう」
「まあ、ももちには遠く及ばないですけど」

67名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:27:23
持ち上げておいて、落とされた。
きもくてもファンなんだから優しくしてやろう、というさゆみの思いは、木っ端微塵に破壊された。何者かは知らないが、徹底
的に痛めつけなくては。さゆみは得意の毒舌を披露しはじめる。

「ももちってあんたのこと? はっきり言うけど、全然可愛くないから。て言うか地味な顔だよね」
「控えめな顔って言ってくださいよ。ももちの可愛さに嫉妬してるのかもだけど」
「はぁ?何で嫉妬なんかしなきゃいけないの?さゆみのほうが可愛いし」

地味顔な女も負けてはいない。
自分の短所を短所とも思わない精神の強さ、ぶれない主張。
反論してみたものの、さゆみの表情に動揺の色は隠せない。

「だってー。みっしげさんっておいくつですかぁ?」
「に、にじゅうさんだけど」
「えーっ。じゃあももちよりみっつも、おばさんなんですねえ」

強烈な一撃がさゆみを直撃する。
いくら可愛くても、年齢だけは誤魔化せない。
特に最近はリゾナンターに自分の年齢より下のメンバーが増えてきただけに、女の発言は突如スーパーの青果売場で勃発した
「かわいい対決」における決定打のように思えた。

68名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:28:59
しかし、さゆみは仮にもリゾナンターのリーダーである。
絶対に負けられない戦いがあるとするなら、今をおいて他にない。

「…あんたさ、友達いないでしょ。て言うか女の子に好かれないタイプだよね」
「な、何をやぶから棒に」
「そうやって自分を可愛い可愛いって言うのは、他に可愛いって言ってくれる友達がいないからでしょ。あんたが必死になれば
なるほど、その事実が浮き彫りにされてくの!」

小さな目を限界まで見開き、ショックを受ける女。
一見さゆみの逆転勝利に思えたが、実はさゆみは自らの言葉で落ち込んでいた。
治癒能力。少々の傷ならば、たちまち塞いでしまう能力。使い方次第では「名医」と称され、場合によっては新興宗教の教祖に
すらなれる。しかし。さゆみがこの能力を発現したのは幼少の時。
子供たちは単純で、そして残酷だった。

結果。
さゆみに寄り付くクラスメイトはいなくなった。
公園で拾ってきた団子虫だけが、友達だった。自分のことを可愛い可愛いとやたら発言するようになったのもその頃。目の前の
女に吐いた言葉は、そのままさゆみにも当てはまっていた。

69名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:33:04
とは言え、相手の女にダメージを与えているのなら、それでよし。
自らの痛みは表に出す事無く、さゆみは露骨に勝ち誇った笑みを浮かべてみせた。
悔しがる女。だが、それは一瞬のこと。

「ももちの可愛さでみっしげさんの可愛さがくすんじゃうのは仕方ないんですけど…別にそれが言いたくてここまで来たわけじ
ゃないんですよね」
「…どういうこと?」

さゆみの問いには答えず、側にあったレモンを手にする女。
するとどうだろう。先ほどまでは瑞々しかったレモンが、段々と黒ずみしわがれ、ついには掌の中で腐り落ちてしまった。

「あんた…何を」
「見てわからないんですか? このレモンがあなたの未来ですよ、みっしげさん」

女は微笑を絶やすことなく、その瞳の色だけを闇に染めていた。

70名無しリゾナント:2012/12/29(土) 14:34:36
>>65-69

更新終了しました。
代理投稿をお願いします。

71名無しリゾナント:2012/12/29(土) 16:56:41
では行って参ります

72名無しリゾナント:2012/12/29(土) 17:03:33
行って参りました
可愛い対決良いですね中の中って感じでw
今年1年お疲れ様でした。来年もよろしくお願い致しますm(__)m

73名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:35:26
「久々だが〜お前ら、街を破壊するのだ〜」
「「「「イイイイイ」」」」
押し迫った年の瀬に突如現れた全身黒のタイツ姿の「ジ(THE)・悪役」とそれを指揮する美魔女
「キャアァァ」と高い声をあげているのは、襲われているのが愛する者だからか
襲われているのはほぼ9割以上が男(彼女連れ)であった
タイツ軍団の目標が男なのは、美魔女の指示ではなく、ほぼ個人的な感情のためなのは否定しない
「だ、だれか助けてくれ」

「ハッハッハ、無駄よ!この年の瀬、あの娘たちは忙しいのよ!
地下に潜って一日中リハーサル、いや、トレーニングなのよ!」
「それはどうかしら??」
「!! 誰や!姿を現せ!!」

道端に止まった中型のタクシーから飛び出してきたのは5人の少女たち

「あ、あなた達は?」
「お待たせしました、下々の者を助け出す、ヒーローですわ」
そういいほんのりとではなくがっつりと色気をまとったリーダーと思わしき女性は美魔女を睨みつけた

「・・・久しぶりやな」
「お久しぶりです。一カ月ほど、何が正しいか必死に考えていました。あの頃と同じと思わないでくださいね」
「な、なんやと?」
「みんな!」「「「「はい!」」」」」

しゅびしぃっと5人は一列と横に並び、決めポーズと共に名乗り始めた
「戦いはこれから!モーニング娘。52ndシングル『Help me!!』 1/23発売、リゾナントレッド!」
「記念すべき30thシングルBerryz工房『WANT!!』 絶賛発売中、リゾナントブルー!」
「祝売上二万枚 ℃-ute『②神聖なるベスト』、リゾナントグリーンなんだろうね!!」
「さよならは言いません 真野恵里菜『NEXT MY SELF』 好評発売中、リゾナントハニー」
「衝撃のデビュー s/milage『ぁまのじゃく』、リゾナントももち!」
「5人そろって、「「「「(株)リゾナントガールズ」」」」」

74名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:36:15
「まて〜〜〜〜い」
「え〜またですかぁ?この展開、正直読者も飽きていると思いますよ、いや、間隔開きすぎて逆に新鮮かも」
「うっさいわ!これまでのボケ以上のドボケがはいっとるやないか!」
「・・・なんですか?あんまり興奮すると、母乳に影響出ますよ」
「誰が悪影響及ぼしとるのか考えや!前回、僅かに回復の兆し見えたのになんや?今回?おかしいやろ!」
「なにもおかしくないんだろうね」

「だから、グリーン、せめてお前だけは頑張ってくれって」
「・・・香音だって、本当ならもっともっと言いたいことあるんだろうね
 でも、いったところで所詮、香音がいったところで・・・」
「おい、どうした?グリーンどうした?何があったんや?」
「みんなはダンスがいいとか、キャラがいいとか具体的なんだろうね
 なに?『鈴木力』って?そういう名前の人もいるんだろうね・・・本当になんなんだろうね?」
「・・・それはほんま謎やけど、現実のキャラと差がありすぎるから、せめてここでは明るいズッキで!」
「そうですよ、鈴木さんの笑顔で私達10期も頑張って行けるんですから」
「でたと!はるなんの必殺技、よいしょ」
何も言わずに鈴木の右こぶしがKY生田の顔面にめりこんだ
「・・・人生、色々あるんや、今日はグリーンは静かにしといたろ」
美魔女の優しさに(株)リゾナントガールズの4人は静かにうなずいた

そして、決戦の火ぶたがきtt「落とされないやろ!おかしいところ一個もまだつっこまれてないやん!」
「そ、そんな、あれから一カ月くらい、どうしようかと必死で考えていたんですよ!」
「・・・はい、集合」
グリーンを除く4人がしゅびしぃぃと保っていた決めポーズを解き、正座で座り込んだ
「・・・まずなんで、お前ら正座や?」
「・・・なんとなくです」
小説とはいえ、美魔女の
「おい、作者、なんで、さっきから美魔女、美魔女言うんや?」
・・・美女のオーラに負けて4人は座りこんだ
「よろしい」
「(ひそひそ)作者、折れたよ」「(ひそひそ)『美魔女』の響きが面白いらしいよ。熟女の言い変えみたいだからってw」

75名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:36:48
「まず、おまえら、一回目の自己紹介なんて名乗った?」
「リゾナントガールズ(仮)です」
「そんで前回は?」
「リゾナントガールズ(裏)です」
「・・・今回は?」
「(株)リゾナントガールズです!」
「なんで株式会社になっとんねや!お前ら、13、14、15の少女たちやろ?
 ステーシーズ化できる年齢で構成されたヒ−ローやろ?」
「いえ、私は18歳ですので、ステーシーズ化できません」
「・・・例外は必要や。かつて、一流アイドルにキスをすると吐かれる子がいたように」

「と、とにかく!なんで急に(株)になったんや!」
「そ、それはですね・・・前回の最後にももち色の」
「まてい!そこの湯上り団地妻!今回、ももち色じゃないやろ!ただのももちになっているやん!」
「え〜ももち色的には〜きゃはっ、どっちでも〜」
「それ・・・違うよね?レインボーピンクだよね?ももちじゃないよね?」
「えええ〜〜〜ん、怒ったぁ、美女さんが怒ったぁぁ」
「いや、怒ってへんし、なんというか湿り気のある子がぶりっこって色々奇妙やな」

「そ、そんなふうに怒られるなんて・・・はうはう、片思いしちゃいます♪」
「はるなんは桃色な片思いなんだろうね」
「しゅわしゅわぽん!」
「里保ちゃんのはスパークリングな桃色なんだろうね」
「グリーンが戻ってきた!というか、うちの桃色の曲多すぎひんか?」
「いい歳した人たち堂々と歌った『人知れず 胸を奏でる 秋の夜』というのもあるっちゃ!」
生田にそんな元・桃色の美女の怒りを込めた拳が撃ち込まれ、桃色に頬が腫れあがった

「それでなんで(株)になったかと、説明しますと、前回のラストももアタックの被害者が出ました」
「・・・うん、確かにそう書いてある。それで?」
「その方がですね、実はリゾスレのですね、スポンサー様でして」
「・・・は?」

76名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:37:23
「ですから、スポンサー様が倒れてしまいまして、スレが止まってしまいまして」
「え?それで前話が完走しなかったんか?」
「はい」
「・・・違う、違う、違う、違う。これあくまでも無償やから!単なる遊び、娯楽の一環やろ?」

・・・そう、この小説はすべて架空の物語の元に構築されている
故にこんなヒーローが存在したり、超能力者がいたり、喫茶店の地下がヒーローの本部だったりする
挙句の果てにはCカップのガキさんがいたりするのだ

「遊びや!遊び!社会に出て、仕事につかれて現実を忘れたい、幼き日の思い出に浸りたい!
 そんな感情を満たしてくれるのがこういうスレの醍醐味やろ?それを経営とか・・・夢ないやん」
「でも、前から『リゾナント』の経営云々っていう話ありましたよね?オレオレ詐欺にあうとか」
「そういうこともあったかもしれんが、あくまでも一部の話や、あれは違う世界の話、ここはここ、よそはよそ」
「フランスのはなしだ!」
「『おかしだ』みたいなノリでいってもすべっているんだろうね」

「それこそ、ももち色、オマエの力でなんとかすればいいやろ?おまえ財閥やろ?
 小ネタで『譜久村の提供でお送りしました』とかこれまでの二回やっとったやろ?」
「・・・前回亡くなった方は私のパトロンでしたの。恥ずかしくてずっと影から見守っていたそうです
 ドア越しとか、机の下とか、ロッカーの中とか、あとえりぽんのかばんの中とか」
「生田、気付けよ!」
「イエーイ! ストーカーとのコラボレーション!」
「えりぽん自体が新垣さんのストーカーなんだろうね。コラボレーションというか一体化なんだろうね」

「だからって、商品がおかしい!どこかの大手地方テレビ局の深夜のCM並みやん!
 SATOYAMAでも他の一般企業さん入るよ!一般人に興味持たせるの大事だよ!」
「フッフッフ・・・そこは大丈夫ですわ!他にも色々、新しいスポンサーはおりますわ!」

77名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:38:13
「ほう?どんなんのがおるんや?」
「例えば、こういうのはいかがですか?」

「川c '∀')<石田パン! 川c '∀')< 石田パン!!  川c '∀')<石田パン!!!
 川c '∀')<とっても  川c '∀')<とっても     川c '∀')<とっても、おいしいよ

          ・・・え?   まずい???

 川c :∀:)<嘘だ! 川c ;∀;)<嘘だ!! 川c :∀;)<嘘だ!!! 川c :∀:)<嘘だ!!!!

 川c '∀')<ほんとうに  川c '∀')<とっても     川c '∀')<とってもおいしいよ

 川c '∀')<仙台の石田パン! フランスの味!」

「うぜえ・・・」
「ですよねw」
「半笑いで言うくらいなら、ももち色、作ってやるなよ!」
「そんなボスさんひどいです!あゆみんはこれでもテンションMAXなんですよ!」
「あゆみちゃんは真面目にしていてもただすべるんじゃ!!可哀そうなんじゃ!」
「ヒドイ・・・」
「・・・まあ、必死な感じだけは伝わるわ」

「こういうのもありますわ」

「東でおなかがすいたら、新垣さんの写真を見て気分を満たす
 西で眠くなりそうになったら、新垣さんの寝顔を想像する
 北で笑顔になりたくなったら、新垣さんのブログを読む
 南で声が出なくなったら、静かに新垣さんの舞台を鑑賞する
 世界の中心で携帯の電池がきれたら、生写真をみてにやりと笑う
     ・・・あなたのそばにいます、ウフフ
 新垣里沙を応援する会  会員募集中。。。」

78名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:38:52
「怖いわ! これどこかの宗教だよね?絶対世界救えないよね?」
「違うっちゃ!純粋な愛っちゃ!」
「そうですわ、聖も亀井さんの愛情のために、亀井さんの妹さんのブログをよn」
「リアルにそういう人いるからそれ以上言わせねえよ!」

「なあ、こういうのではなくてまともな企業とスポンサー契約したらええやろ?
 炭火感のつくね丼がバカ売れの牛丼チェーンとかイタリア〜なピザ屋とかあるやろ?」
「現実的に関わりを持った企業様と交渉するのはネタとして危ないと思うんだろうね」
「・・・それなら、せめてしゅわしゅわぽんなサイダーとか、誰もが大好物蔵王チーズとか」
「いえ、そういうのをしてしまいますとスマ、いやステマと呼ばれてしまいますので遠慮しましたわ」

「スマで思い出したわ!ももち色!最初の自己紹介でなんでお前の担当だけ最新曲やないねん!
 モベキマまで新譜で、なんでスだけ一番古い記録?」
「やはり、子供は幼ければ幼いほど素晴らしいものですから。あの幼さはまさしく犯罪級ですわ」
「単純におまえの好みかよ!」
「・・・あと若い優秀な芽は早めに潰すに限りますわ」
「フク毒なんだろうね」

「まあ、そういうわけで収入源が減りましたので、今回から(株)とさせて活動させておりますの
 ちなみに、私が社長の譜久村でございます。よろしくお願いします。こちらつまらないものですが」
「お?なんや?」
「うちのサブメンバーのくどぅです」
「売られたよぅ」

「なんで味方を敵に売るねん!」
「売ってませんわ、無料、無償ですわ!そんなお金のことをおっしゃるなんてはしたない」
「いやいや、味方を敵に譲り渡す方がよっぽどダメだよね?というかあれほど、お金ないっていってたよね?
 というか工藤おらんくていいの?狂犬チワワだよね?あの戦闘踊族狂犬チワワだよね?」
「それなんなんだろうね?」

79名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:39:34
「とにかく、明らかに戦闘向きなのにサブメン扱いなのはおかしいよね?なんか理由あるやろ?」
「・・・納得がいきませんの」」
「・・・何がや?」
「色ですわ、くどぅの色! オレンジ色ですよ! あのオレンジ色ですよ! 亀井さんのオレンジ色!
 別に私がオレンジ色になりたかったとかそういうわけではありませんよ!
 むしろ、今の私がオレンジ色になるということ自体がオレンジ色を汚すようでできません
 オレンジ色のあの温かく包み込むような優しい雰囲気は今の私には到底だせませんから、わかります?」
「お、おう」
「そんな簡単にわからないでください!私は私なりに近づけるように頑張っているんですから!」
「わからんわ!」
「そこはわかってください!!」
「お嬢様、どないすればえーねん・・・なにが正解なんやねん」

「とにかくですね、工藤遥さんがですね、イメージカラーをオレンジ色にしてしまったことが悔しくてですね
 それが本当に悔しくてどうしようもないのです
 別にももち色はオレンジ色がよかったとか、そういうのは、全っ然!!!!なかったんですけど」
「いや、確実に嫉妬心しかないよね?オレンジ色とか言わないで本名全部言うとか明らかに怒っているよね?」
「あ〜でも、もう 本当に亀井さんって可愛いですよね〜」
「・・・なんでこいつがリーダーなんや?
 オレンジ色!お前もいいたいことあるやろ!この際だからいいたいこというたれ!」
「・・・オレンジ色はサブメンバーです。リゾナントガールズがピンチの時に現れます
 だから、早くみなさん死にかけてください」
「ごめん、ももち色、おまえが正しい!」

「さて、そろそろ戦わなければならないときですわ」
「え?この流れで戦うの?・・・・あ!そうか、この流れはまた、『お時間で〜す』のパターンやな」
「すみません、まだ放送時間残っています」
「うそやろ?なんで今回に限って時間あるんや?」
「フフフ・・・これが(株)の力ですわ!」
「職権乱用や!」

80名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:40:22
「さて、これでようやく3回目にして戦うことができますね」
向かい合うボスと5人の戦士(とそのサブメンバー)
「・・・これまで何もしていないというのがおかしいんやけど」
「覚悟するんじゃ!世界を能力者の力のもとで支配しようとするなんて許さない!」
「私達だって奇妙な力のために軽蔑・差別されてきた。でも、恨んだりはしなかった」
「それは自分と違うことが怖いからなんだろうね。香音達は伝えよう、異能者も同じ人間だってことを」
「そう、そのためには時には悲しくても、同じ能力者同士で戦わなくてはいけないんです。」
「さあ、覚悟しなさい!ダークネスと裏切り者のリゾナントオレンジ!!」

「待て!ここにきてオレンジ敵に引き込ませたのももち色 お前やろ!」
「なんのことですか?オレンジ色はオリオン座の誘惑にまけて」
「違う、違う、違う、それ違う作者で、今年度の名作だから!簡単にネタにしてはいけないレベルだから
 というか同じ能力者同士で戦うってそういう意味なの?何?ももち色、とことんくどぅ認めないの?」
「くどぅ?なんですかそれは?そこにいるのは裏切り者のリゾナント(偽)オレンジですわ」
「とうとうこの人、自分のメンバーにも( )付け始めた!」
「本物のオレンジは一人だけ。愛するものは亀井さんだけ〜」

「おかしいやろ、今回のももち色は。なんでオレンジ色が裏切るなんて
 裏切る?・・・はっ!これは、あの初期の新垣スパイ設定の逆リゾナントやろ!!
 そうだよ、くどぅは裏切ったんや!そう、お前らを守るために」
「おめでたいかたですわね。そんなことありえませんわ!」
「・・・いやいや、くどぅがあえて裏切っているほうがお前らにとって都合がええのになぜ拒否する?」
「そんな思いもっていたら、思いっきり戦えないからですわ!!
 そう、これはオレンジ色を守るための聖戦なのです!」
「この人最終的に個人的感情のみで戦い始めたよ!!」

とうとう戦いの幕が切って落とされた リゾナントガールズvsダークネス
敵として立ちはだかることとなってしまったオレンジ色の運命は?そして聖のオレンジ色は守られるのか?
次回、カラフル戦隊リゾナントガールズ(裏)第四話『ピンチから掴み取る栄光』

川c '∀')<この番組は フランスの味 石田パンの提供でお送りしました

81名無しリゾナント:2012/12/30(日) 17:45:04
>>
「colorfull戦隊リゾナントガールズ(仮)③」です
年内になんとかかきあげられました(汗
今年の後悔としては「リホナント」に参加できなかったことかなw

今年ももう終わりですね。風邪などひかないで体調に気を付けてください
来年もよろしくお願いします

以上代理投稿よろしくお願いします

82名無し募集中。。。:2012/12/30(日) 18:33:27
いってきまっくす

83名無し募集中。。。:2012/12/30(日) 18:36:55
転載完了しました〜ん

84名無しリゾナント:2012/12/30(日) 19:40:50
ありがとうございました!

85名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:33:24
子供が走って来る。母親を急かすように走っているため、目の前に居た
彼女に気付く間もなく、その身体に激突してしまう。
軽い衝撃だったが、それでも予想外の反動で子供は地面に倒れ込んだ。

 「すみません、この子ったら」
 
母親はぽかんとした表情で彼女を見る子供を叱りつける。
が、子供は何が起こったのか分からないのか、母親が怒る理由が
分からず、徐々に目が涙を溜め始めていた。
彼女は慌てて母親をなだめる様に呟く。

 「大丈夫ですよ、ごめんなさい。私もよそ見をしてて」

そう言うと、母親は謝りながら子供を起こし、手を握って去って行った。
今日から新しい年を迎え、子供達は今、冬休みの真っ最中だ。
寒い風が肌に触れるが、白い雫はこの都会に来て何度も見ていない。
買いもの袋から温かいココアの缶を取り出し、彼女は空を見上げた。

 隣には誰も居ない。誰かが居ない買いものが始まって、もう。

携帯が鳴って、誰かのメールが受信された事を告げる音。
夕方の刻。
ああ、そろそろ帰らなくては、彼女が来てしまう。
不思議なこともあるもんだと、彼女は思った。

 ご飯をしようと言ったのは、彼女だった。

86名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:34:22
そんな誘いをしてくるような人間ではないと思っていた。
その場に一緒に居るから食べるようなことは何度もあったが。
その場に集まって食べよう、という事はあまりしない方だと思っていた。

それも彼女の、道重さゆみの家で。

その為に買いものに来たが、正直料理が上手いとも言えないので
とりあえず惣菜やレンジでチンが出来る鍋物を買いこんだ。
彼女も彼女で何か持ってくるらしい。

 昨日は夜から下の子達が集まり、日の出を見に行った。

謹賀新年の挨拶をする真面目な子ばかりだが、集まるとそこは子供。
騒がしい。とにかく騒がしい。
こんな光景で若さを感じるというのは道重としても悔しさが沸くが
そんな事を思うほど彼女達の元気さは面倒でもある、が、楽しい訳ではない。
大きく言わなくても事実、楽しかった。

 「嫌いじゃないから、良いんだけどねえ」

呟いて、空き缶をゴミ箱に捨てる。歩を進める。
一人の道を、自分が帰るべき場所へ、そうして確かめるように。
白い息が上がる、ああ、誰の温かみも感じない、この一刹那。
新しい年なのに。

家に帰ると、暖房を付けて行ったので温かい風が冷たい肌に沁みる。
適当に取り出してレンジという名の料理をしていると、電子音が鳴った。

87名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:35:10
 「やっぴー、さゆ」
 「いらっしゃい…って、なにそれ?」
 「ん、なにって、ケンタッキー」
 「それだけ?」
 「あとはんー、デザート。冷蔵庫に入れとくけん」

長四角の箱に4つほど入ったチキンを嬉しそうに見せる田中れいな。
鍋物もあるのに、と思ったが、まあ食べれるだろう、と。
なんだかんだで、温まったこたつの中に潜り、持ちよった料理をテーブルに置き
冷たいものとしてお酒を用意して、それを注いでいく。

 そういえば高橋愛は、自分が成人だった頃は眼前でお酒を飲むのは控えていた。
 新垣里沙もそう。
 飲む姿を見たのは、道重や田中が成人になってからだろうか。
 ああ、確かその前に亀井絵里が。



チキンを食べる田中に対して、携帯を向けてボタンを押す。
何撮っとるとーと自分も隙アリと写メを撮り遊んでいく。
工藤や佐藤に見せたら嬉しいだろうねと言うと、見せたら怒るけんねと笑う。
アハハ。
アハハ。
会話は他愛のないものばかりだが、ほぼ下の子達のことばかりだ。
暗い話は似合わない、特に田中は、そういう話は似合わない。
だから道重も言わない。
不安さえも口にしない、彼女の前で話すことではない。

 似合わないから。似合わない、こんな新しい年に。

88名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:36:25
お酒を飲んで、頬を赤らめる二人はテーブルの料理に箸を入れる。
意外なほど、二人であの量を消化している事に今更気付く。
酔ってしまったのだろうか、瞼が少し重い。
田中は何も言わずに口を動かす。そして何も思わずに、紡いだ。

 「なんか、こういうのって初めてだよね。二人でって」
 「んーそうっちゃね」
 「なんで誘ってくれたの?」
 「なんでやろ、下のヤツばっかりおるから、ちょっとこういうのもいいかなって」
 「それなら一人で食べてもいいんじゃない?」
 「ん、んーなんかいな、なんか、さゆなら良いかなって」
 「なにそれ」
 「空気読めるし」
 「あはは、どうしたのれいな、なんか」

ああこんな役目は高橋がやる事だった。
田中的にはジュンジュンに甘える姿が多かっただろうか。
リンリンが面白い事を言ってくれた。
光井が相談にのる所で、久住が適当に空気を変えてくれた。

自分には似合わない。似合わない。

 「なんか急に、寂しくなった?」

それは自分の答えだ。自分で問い掛けた、答えだった。
一人で買いものをするようになって、一人で居る機会がほしくなって。
下の子達が増えて、田中の笑顔が増えて、自分の楽しみが増えて。
それでも少なからず、そこに、底に存在するわだかまり。

89名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:37:04
 「変わることはきっと、間違いじゃないんだよ。
 ただどうしても寂しくなるのはね、どんな時でも自分が、自分だからなんだ」

誰かの声がふと、思い返される。
田中がお酒を一杯煽ると、時計を見て「あ」と口を開けた。

 「もう2日やね」
 「そうだね」
 「今年は何があるかいな。また敵と戦うんやろね。いつまで続くとかいな」
 「どっちかが飽きるまで、だよ」
 「そうっちゃね。さゆは、飽きた?」
 「飽きたとは言えないけど、でも慣れなきゃいけないとは思ってる」
 「…そうやね」

田中はお酒が無くなって口を尖らしたが、道重が手元に残っていたお酒を注いだ。
あの頃には出来なかった事が今こうして出来ているという現実。
欠けてしまった誰かに、でもいつかはまためぐり合えるのだろう。
繋がっているならきっとまた、会えるのだ。

 「ま、今年もよろしく」
 「…うん、よろしくね、れいな」

日常は変わっていく。自分達も変わっていく。環境も、世界も、変わってく。
誰かが居なくなってしまった、誰かが居てくれた。
その差はあまりにも深く、存在力は強い。
どちらも大切で、どちらも不安な要素を拭えないが、それでもきっと、これが
自分にとっての現実だということを受け止められる日が来る。

掲げて、掲げよう。
新しい世界に手を振って、自分の存在を掲げよう。

90名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:38:05


 「あれ、絵里からあけおめメール来てる」
 「マジで?もう2日になっとうとよって文句言ってやりぃよ」
 「多分これ打って寝てると思うけどね」
 「あはは、そういえば愛ちゃんからも来てたよ」
 「ガキさんからも来てた、デコ付きで、コッテコテのヤツ」
 「れなのも良い感じやったっちゃろ?」
 「あれってどこのサイトにあったの?」
 「ちょっと待って、無料でいいところ見つけたったい」

日常の切り替えはきっと、誰でも可能なことなのだ。
少しだけ思い出に浸れたよ。
親友の姿を思い出しながら、携帯の返信を送った。

91名無しリゾナント:2013/01/02(水) 02:42:08
『始まりを知る二人の朝。』

以上です。
謹賀新年という事で、なんというか、最近二人での
画像が多いので鍋でもつっついて貰おうかな、というお話でした。
あまりにも久し振りに書いたので文章が荒っぽいですがご勘弁。

--------------------ここまで。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

今書いている話がようやく終盤に差し掛かってるんですが
あまりにも原作のセリフ使いまくりだけど投下大丈夫かな、とか思ってます。

92名無し募集中。。。:2013/01/02(水) 11:46:20
いってきまっくす

93名無し募集中。。。:2013/01/02(水) 11:49:09
いってきたにょ〜ん

94名無しリゾナント:2013/01/02(水) 12:32:02
ありがとうございますこんなに早く投下してくださり。
ただここまで、の部分までで良かったのですが、全文
やってもらえて申し訳ないです(汗

95名無し募集中。。。:2013/01/02(水) 12:50:50
すいません(滝汗)
どっちかなぁと迷いはしたのですが足りないのはどうかと思いまして
全て転載いたしました

転載は最近やらせて頂くようになったのでいたらない点もあると思いますが
教えて下さったので次回からは上手に出来るかと思います

96名無しリゾナント:2013/01/02(水) 23:27:18
こちらこそ代理をお願いしている側なのにすみません(平伏
これからお世話になるかと思いますので、よろしくお願いします。

97名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:26:29
>>72
ありがとうございます
二人のやり取りは中の中対決やらうさピーラジオやらを参考にしてますw

それでは新年一発目を

98名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:35:43
http://www35.atwiki.jp/marcher/pages/707.html のつづきです

能力者。
特有の気配などまるで感じられなかったが、間違いない。
とにかく、逃げなければ。

さゆみは踵を返し、一目散に走り出す。
治癒能力は戦闘向きの能力ではない。相手が何者で、どういう類の能力なのかはわからないが、無策で戦うなどという話になれば一
方的に嬲られるのが落ちだろう。

スーパーを出て、大通りを全速力で駆けてゆく。今のところ、相手が追ってくる気配は感じられない。
もともと運動神経の鈍いさゆみであるからして、この全速力もそう長くはもたない。とにかく、人気のない場所に行かなくては。スピード
を落とさずに、目の前の細い路地の角で急カーブ。

相手が一般人ならば。
この後どこかの物陰に隠れれば、相手の追跡をやり過ごすことができるだろう。
ただ、相手は能力者。さゆみの隠れ場所など容易く見つけてしまう。しかもこちらは相手の気配がまったく読めない。

ついにさゆみは路地裏の広い空き地に追い詰められてしまった。
周りは高い塀で囲まれ、とてもではないが飛び越えて逃げることは不可能だ。

99名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:37:11
「もう、いきなり逃げ出すなんてひどいじゃないですかぁ」

女が空き地の入口を囲んでいた有刺鉄線を掻き分けて、近づいてくる。
鉄線はまるで砂糖菓子のようにぽろぽろと崩れていった。

「なんなのあんた!!」
「ももち、みっしげさんと二人きりになりたかったんですよ」

ツインテールの女はそれだけ言うと、小指を立ててさゆみに向けて突き出す。
この攻撃は…やばい!!
一見間抜けな動作に見えるが、さゆみの本能が危険を訴える。慌ててしゃがんだ頭の先を何かが掠め、そして背後の塀を貫通した。

「え!?」
「ももち必殺『こゆビーム』ですよ?うふふふ」
「…きもっ」
「ちょっと!可愛いの間違いじゃないんですか!?」

100名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:38:44
どういう原理かはわからないが、これも女の能力だとさゆみは確信した。
だがさゆみもここでただ嬲られ殺されるわけにはいかない。この誰もいない路地裏の空き地に逃げ込んだのには、理由がある。
それに万が一「あいつ」が来ちゃった場合、人がいないほうが色々と好都合なんだよね。
そう付け加えることをさゆみは忘れない。

「ともかく、ここなら騒ぎを起こすことなくみっしげさんを始末できますよ。あんまり目立った行動をしたらダークネスさんたちに
怒られちゃいますから」
「ダークネスですって!?」

女の言葉に、さゆみは目を剥いた。
それと同時に、ついにこの時が来たのかと覚悟をする。
「銀翼の天使」が喫茶リゾナントを襲撃してから、今までの間。リゾナンターのほぼ全員を何らかの形で再起不能に追い込んだと認
識したダークネスは、犯罪者社会の表舞台から姿を消した。そもそも彼女たちの存在自体が「闇」。リゾナンター潰しのためだけに
一時的に姿を現したとすれば納得のいく話ではある。その闇たちが再び姿を表したということはすなわち。

101名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:40:19
「みっしげさん。悪いんだけど、ここで死んでください」

自分達リゾナンターが、再びダークネスの的にかけられたことを意味する。
最早猶予は無い。
さゆみはありったけの思いを込めて、念じた。

『助けて!!!!!!!』

リゾナンターたちは、互いに共鳴しあう。
それは思念においても当てはまっていた。
SOS信号は最も近い場所にいる人間に伝わり、共鳴し、さらに遠い仲間たちのもとへ駆け巡る。戦闘能力を持たないさゆみが再三
敵の脅威に晒されながらも今まで無事でいられるのは、この共鳴があるからこそであった。
さゆみが人気のない場所に逃げ込んだのには、心の叫びを察知してもらうのに条件がいいからだ。


「…でも、助けが来る前にももちがみっしげさんのこと殺したら、意味ないですよね?」
「かわいくないあんたに、さゆみは殺せない」

この女の言う通り。
仲間の助けが来るまで、さゆみは女の攻撃を避け続けなければならない。
とにかく、持ちこたえるしかない。それは一つの決意でもあった。

102名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:42:22

ツインテールの女が、一歩前に出る。
その表情はまるで鼠を目にした猫のようだ。

「まず最初にももちの能力を説明しますね。ももちの能力は『触れたものの時間の早さを、自由に進めることができる』能力なんで
す。レモンもそうだし、さっきのこゆビームもそう。つまり、みっしげさんはももちに絶対に勝てないってことですよ」
「…なんでそうなるわけ?」
「だって、みっしげさんには『治癒能力』しかないじゃないですかぁ」

この状況の問題点を言い当てられ、露骨に焦る顔をするさゆみ。
しかしそれは彼女の作戦でもあった。相手を油断させることは、戦いにおいて有利に働く。伸びる天狗の鼻を最後にへし折ってやる
のは、さゆみの性分にとてもよく合っていた。

「直接触られておばあちゃんになっちゃうか、それともこゆビームに貫かれるか。選んでもらっても、いいんですよ?うふふ」

103名無しリゾナント:2013/01/05(土) 14:44:39
少しずつ、間合いを詰めてゆく女。
掴まれたら終わり。老化した細胞はさすがに治癒能力で復元できない。
ならば、あの妙なビームを被弾した箇所を治癒しつつ逃げ続けるか。それもありえない選択肢。走りながらの能力発動など、そう簡
単にできることではない。

しかし、さゆみには勝算があった。
女を最初に見た時に感じた直感。それを、さゆみは信じる事にしたのだ。

「さゆみ、鬼ごっこなら得意なんだよね」
「えー、意外です。すっごい鈍くさいと思ってました。能ある鷹は何とやらなんですね」
「なんかすごくムカツクんだけど」

女が態勢を低くする。いつでも飛びかかれるように。
さゆみも同じく、腰を低く落とす。いつでもあの場所にバックステップできるように。
実はさゆみがこの場所にたどり着いた時、真っ先に地面に落ちている木の棒を目ざとく見つけていた。恐らく建築資材の切れ端だっ
たのだろう。相手の力が「時間の流れを自在に操れる」能力ならばそんなものは気休めにすらならないだろうが。

104名無しリゾナント:2013/01/05(土) 18:00:48
>>98-103

途中ですが今回はここまで

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ここまで

スレたて後にでも代理投稿お願いします。

105名無しリゾナント:2013/01/05(土) 22:34:33
スレ立ったので行ってきますね

106名無しリゾナント:2013/01/05(土) 22:40:41
行って参りました
新年一発目おつです
シリアスの中のキモ可愛いやり取りにほっこりw

107名無しリゾナント:2013/01/09(水) 20:59:54
>>106
代理ありがとうございました
それでは中途半端に終わった続きを

108名無しリゾナント:2013/01/09(水) 21:02:01
>>98-103 の続き

「じゃあいきますよぉ?それっ!!」

女の体が前に躍り出た。
予告つきの行動に出たのは女の驕りだ。さすがのさゆみも反応ができる。
さゆみは後ずさり地面に落ちていた棒を拾い上げて両側を持って前に突き出した。
女の手が棒に触れる。が、棒は崩れ落ちる事はなかった。

「あれ?どうして」
「やっぱりね。あんたの能力は時間の流れの操作なんかじゃない」

さゆみの言うとおり、女の能力は決して時間に関するものではなかった。
そして、何故木の棒が朽ち果てなかったのか。

「この棒にはさゆみの治癒能力を巡らせたの。だから、あんたの力に抗ってるわけ。まあ、ちょっとした賭けだったけど…あんたを
信じてよかった」
「どういう意味?」
「だって、あんた見るからにひねくれてそうじゃん。本当のことなんて絶対に言わないんだろうなって思って」

女がはじめて、薄笑いを解き悔しそうにさゆみを睨んだ。

109名無しリゾナント:2013/01/09(水) 21:03:30
「じゃあ何でレモンをあんな風にできたんだろうなって、さゆみ考えたの。あんたの言葉を真逆に取れば、能力は時間に関係するも
のじゃない。ということは、物理的にものを腐らせる能力なんじゃないかって。そしたらさゆみの治癒能力はうってつけでしょ?」
「……」
「全身に治癒の力を巡らせておけば、腐食の力が及ぶ事はない。自分の体で試すのは嫌だったから、この木の棒で保険をかけたんだ
けどね」

今度はさゆみが一歩前に出た。
先ほどとは逆の立場となる。

「お互いの能力が無効化するってことは、あとは素手での勝負になるよね? でも、さゆみは負けない。だって、さゆみはもうリゾ
ナンターのリーダーだから」

さゆみの言葉には、勢いがあった。
愛が去り、そして里沙も去った。結成当初のメンバーはれいなと自分だけ。でも、守られるだけの存在であってはならない。
里沙から長い旅に出る事を告げられた日から、密かにさゆみはトレーニングルームで自らの体を鍛え始めていた。治癒の力だけでは
なく、戦いの力を手に入れるために。

110名無しリゾナント:2013/01/09(水) 21:04:39
戦闘特化の能力者にそんな付け焼刃が通じるとは思えない。
しかし、お互いの能力が封じられてる今なら、その効果が存分に発揮されるはず。
幸い、相手はさゆみより小柄だし、何だか弱そうだ。

相手に組み付いて、そのまま地面に押し倒す!!
その通りに、さゆみは猛ダッシュで女に詰め寄り、そして両腕で体をホールドした。
そこではじめて、さゆみは自らの認識の甘さに気づくのだった。

組み付いた時の、がっちりとした硬い感触。それは女が見かけによらず筋肉質であることを意味していた。薄い唇が、笑みで曲線を
描く。
ひ弱な拘束は簡単に解かれ、よろめくさゆみに上段のハイキックが綺麗に決まった。

「あれー?もしかしてももちに勝てるとか勘違いしちゃいました?こう見えても、ももち結構鍛えてるんですよねぇ」

女の嫌味たっぷりの笑い声を遠くに聞きながら、さゆみの意識はぷっつりと途絶えてしまった。

111名無しリゾナント:2013/01/09(水) 21:08:56



さゆみの助けを求める声は、真っ先に近場にいる里保に伝わっていた。
道重さんが、危ない!
里保は即座に、それが喫茶店を訪れた三人組の仲間に襲われたことによるものと判断した。スロットルを一段階上げて、一分一秒で
も早く現場に着くため全速力で走り続ける。

雨は喫茶店を離れるとすぐに止んでしまっていた。
もちろん不用意な水との接触を嫌う里保にとってはむしろ好都合である。例えばの話ではあるが土砂降りの中で能力を開放すれば、
本人の意思では能力を制御できず力の暴走を招きかねない。

『里保、どうしたと!?』

頭の中に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
里保の友人でリゾナンターでもある、生田衣梨奈のものだ。

『えりぽん、道重さんが!』
『えっ? 道重さんに何かあったと?』
『うん。敵に襲われてるみたい!私が一番近い場所にいるみたいだから』
『わかった。衣梨もすぐ行く!せんせー、おなか痛くなったんで帰りまーす!!』

112名無しリゾナント:2013/01/09(水) 21:10:14
最後の一言で思わず里保はずっこけそうになる。
恐らく学校の授業中だったのだろうけどもう少しましな言い訳があるだろうに、まあそれもまた彼女の彼女たる由縁と言ったところ
か。
とにかくまあ、精神干渉を得意とする衣梨奈が戦いに加わればその分、敵と対峙する時に優位にことが運ぶ。ただ、衣梨奈を待って
いるほどの余裕があるわけでもない。

さゆみの心の叫びの伝わり方から、相手は一人であると里保は推測する。よほどの使い手でなければ飛んで火に入る夏の虫、という
ことにはならないと確信していた。相手の実力が多少上回ったとしても、さゆみを連れて逃げることに専念すれば問題ないはずだ。

ただ、ひとつだけ気がかりなことがあった。
さゆみの心の声が先ほどからまったく聞こえてこないのだ。
まさか、もう…
不意に訪れる嫌な予感を、大きくかぶりを振り否定する。
れいなは「さゆは大丈夫やけん」と言った。その言葉を信じるしかない。

何故大丈夫なのか。
その答えは、里保が件の空き地にたどり着いた時に判明する。

113名無しリゾナント:2013/01/09(水) 21:11:40
>>108-112 投稿完了

お手すきの時に代理投稿お願いします。

114名無しリゾナント:2013/01/09(水) 23:33:11
行って参ります

115名無しリゾナント:2013/01/09(水) 23:39:27
行って参りました
本スレにも書きましたがなぜか改行が上手くいきませんでした…申し訳ありません
次回は可愛い対決決着でしょうか。楽しみに待っています

116名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:13:31
>>115
ありがとうございます
色々お手数かけます、こちらこそすみません
今回は少し長めに

117名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:16:16
>>108-112 続きです

さゆみの反応があると思しき空き地に、辿りついた里保が見たものは。
そこに立っている二人の女。
一人はツインテールの背の低い女。そしてもう一人。

「…あんたの実力なんて、こんなもの?」

道重さゆみ。
口元の黒子が特徴的な、里保の先輩。のはず。
ただ、さゆみと大きく違うのは、自慢の黒髪が茶髪になっている点だった。

「へー。それが噂の『さえみ』ってやつですか。みっしげさん」

ツインテールの女は笑おうとするが、表情が引きつってうまく笑えないように見えた。
争った跡なのだろう。空き地の地面はところどころが抉れ、荒れていた。

「あんたの腐らせる能力なんて、さえみの物質崩壊(イクサシブ・ヒーリング)に比べたら子供だましもいいとこ」

さゆみ、であった誰かは、目の前の女の能力が物質腐敗(ディコンポジション)であることを見抜いていた。物質を変質させる力よ
りも、存在ごと崩壊させてしまう能力のほうが上位なのは明らかだ。

今度はさゆみ、いやさえみが一歩前に出る。
女が焦ったように自称必殺技「こゆビーム」を連発した。次々に飛んでくる「何か」。それは哀れにもさえみの体に届く前に砂団子
のように崩れ散ってしまう。

118名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:17:46
「腐敗の力を付与した小石を高速で飛ばして、被弾した部分が腐り落ちる。種を明かせばただの曲芸だよね」
「ちょ、ちょっとこっち来ないでくださいよ!!」

少しずつ距離を縮めてくるさえみに対し、明らかに動揺する女。
今度は女がさえみの能力に畏怖する番だ。何せ触れられたら最後、痕跡すら残さずに消滅してしまう。

その様子をぽかんと見てるだけしかないのは、颯爽とさゆみを助けに来たはずの里保だった。
髪の毛が茶髪であることを除けば、今目の前にいるのは身体的特徴からさゆみであることは疑いようが無い。しかし、里保の知って
いるさゆみは治癒能力に長けた変態、もとい戦闘能力のない能力者。
駆使する能力、相手を威圧する凄み、何かが違う。

「りほりほ!」

さえみが突然、振り向きざまに里保に向って猛突進。濃厚な抱擁をぶちかました。
そのねちっこい触り方で里保は確信する。この人は道重さんだと。

「あの、ちょっと道重?さん?」
「さゆちゃんだけずるい!さえみだってりほりほを可愛がりたいんだから!!」
「言ってる事がよくわからないんですが」
「あ〜やっぱり子供の匂いは最高だよねスー」

119名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:19:17
しかしながらさゆみの場合、里保の顔色を伺い遠慮がちにスキンシップしてくるのだが、さえみは空気が読めないというか、遠慮が
まったくない。普段抑圧されているのだから、仕方の無い話ではあるのかもしれないが。
道重さえみ。彼女こそ、道重さゆみが内包しているもう一つの人格。れいなが「さゆは大丈夫」と言い切り、さゆみが「あの人は出
したくない」とその出現を避けたかった理由。

治癒能力とは、元を正せば細胞の活性化を促す能力。
その活性化を異常なまでに亢進させることで細胞の自己崩壊を発生させる。それがさえみの能力である物質崩壊の仕組みであった。

里保の頭に顔を埋め満足そうなさえみ。
その至福の時が、終わりを告げる。腐敗の力を帯びた小石が、矢継ぎ早に飛んできたからだ。

さえみを引き剥がした里保が、背に負う愛刀「驟雨環奔」を抜き、そのまま二、三度振るう。
最初の一太刀で石に込められた嫌な力を感じた里保は刀の背で小石を弾き落とすのをやめ、鋭い刃で石を切り伏せる方法を取った。
その選択は正解、石に触れる時間・面積を必要最小限に抑えて刀へのダメージを防ぐことを、無意識のうちにやってのけたのだ。

「あんたがリゾナンターの次期エース? こけしみたいな顔してやるじゃん」
「地味な顔のあなたに言われたくないんですけど」

言いながら、大きく女の前に踏み込む里保。
標的はかつてのリゾナンターであるれいなとさゆみだけ。あとの雑魚は取るに足らない存在。そう考えていた女の認識。その隙を
突く様な鋭い切り込みは、最早避けようがないように思えた。

120名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:21:17
刀は、ツインテールの女を袈裟懸けに切り捨てているはずだった。
ところが現実は、その切っ先は思い描いていた軌跡を辿る事無く宙に浮いている。青白い刃が、行く先を阻んでいた。

「ちょっとちょっと梨沙子、邪魔しないでよ!!」
「だって、2対1になってたから」

里保の刀を止めている奇抜な髪色をした少女に、ツインテールの女が猛抗議する。
しかし柳に風、気にも留めていない様子。
それより、里保の全力の踏み込みを受け止めておきながら、表情一つ変えていない。

このままでは、逆にこちらが切り伏せられてしまう。
里保は前方に向けていた力を斜め上に変え、刀を弾いた反動を利用して間合いを広げた。
鍔迫り合いから退く事は剣士としては屈辱だったが、実力差、という三文字が現実であることを彼女は十分に理解していた。

「下がっててりほりほ。こいつらは…さえみが消滅させる」

そして里保を庇うように、さえみが再び前に出た。
ところが梨沙子と呼ばれた少女、は出していた刀を仕舞ってしまう。

「今日のところは、あんたたちと戦わない。目的は、標的の把握。ただそれだけ」
「えーっ、ももちまだ『ピンキードリル』も『ももアタック』も出してないのにぃ」
「もも、うるさい」

それだけ言うと、ツインテールの首根っこを掴んで、そのまま引きずりながらその場を立ち去ろうとした。逃がさない。そう思い後
を追おうとしたさえみの前に、背丈の倍はあるような氷の壁が立ち塞がる。梨沙子のもとの思しき声が、遮られた向こう側から聞こ
えてきた。

「かの『氷の魔女』ほどじゃないけど。足止め程度にはなるから」

二人がかりで氷の壁を切り崩した時には、敵の姿はすでに消えていた。

121名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:23:00


里保もリゾナンターとダークネスに纏わる因縁についてはある程度理解していた。
「12月24日」について語る、今はリゾナントにいない高橋愛・新垣里沙・光井愛佳。それに、れいなとさゆみ。その時の彼女
たちの表情から滲み出る、怒り、無念。それを目の当たりにする度に、ダークネスという存在が里保にとっても不倶戴天の敵
であることを心に刻んでいった。
だが、そのダークネスの眷属であろう二人組を一瞬の隙を突かれ、逃がしてしまった。

「あの、道重さん…」

里保が謝罪の意を述べようと、さえみに向き直った時。
すでにその場にさえみはいなく、空き地の壁の前で頭を壁にガンガンぶつけていた。

「なってなかった!今日のあたしはなってなかった!!」
「ええと…道重さん?」
「あんなやつら、さえみにかかったらすぐに始末できたのに!りほりほの、りほりほの可愛さに見とれた隙を突かれて取り逃
してしまった!!」
「は?」

心配になってやってきた里保をドン引きさせるほどの狂気。
この頃までにはようやく彼女も、目の前の人物がさゆみであってさゆみでないことに気づく。

122名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:23:59
「と言うわけで、傷心のさえみの心をりほりほが癒して」
「何が『と言うわけで』なのか、わからないんですけど」
「そのためには、りほりほと一緒にお風呂に入らなきゃいけないの」
「…涎を垂らしながら言う台詞じゃないですよね」

食われる。
それが何を意味するか、幼い里保には理解できなかったが、とにかく本能が危険信号を発していた。

「りほりほー!!」

刹那、宙に躍り出るさえみ。こんなシチュエーション、どこかで見たことある。確か、ルパンが不二子相手に興奮した挙句、
脱衣と相手の捕獲を同時に行おうとするあの場面だ。
あまりの、非日常感。それはさえみから身を翻す事を不可能にする。
思わず、里保は両目を瞑った。

しかし里保のこの日一番の危機は、未遂に終わった。
ゆっくり目を開くと、地べたに倒れている黒髪の女性。気を失っているようだ。
助かった。思わずそんな感想を抱かざるを得ない里保であった。

その後現場に駆けつけた衣梨奈とともに、さゆみを担ぎつつ喫茶店に戻るのだった。

123名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:34:41


喫茶リゾナントに、夜の帳が下りる。
店の扉には、営業終了の看板。店じまいに少し早いが、そんなことは言っていられない。
店には、リゾナンターたちが集まっていた。さゆみとれいな以外は、全員が高校生、または中学生という頼りない構成。だが、
彼女たちはそれぞれが常人には扱えない能力を持っていた。

れいなを中心として、めいめいが近くのテーブルに腰掛ける。
今日あったことをまとめ、そして次の対策に繋げるために。

「それにしても、どうして言ってくれなかったんですか。道重さんの能力の秘密を。事情が事情だから、しょうがないかもしれ
ないですけど。でも、本当に心配したんですから」

不満そうに口を尖らす里保。
もちろん、心配だったという思いのほかにも、「ある意味」危険だったからでもあるが。
さゆみを運び込んだ後に喫茶店に入ってきたれいなから聞いたのは、さゆみが二重人格者の持ち主であり、かつ人格によって行
使能力が変質するという衝撃の事実だった。

「まあその、タイミングってやつ? いきなりあんたらに、さゆに別人格があるって言っても混乱するだけと思ったけん」

2階で寝ているさゆみのことを気遣っているのだろう。
慣れない言葉を選ぶという行為に苦慮している様子が、れいなの表情からは見て取れた。

124名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:35:59
「それはそうと、田中さんに、道重さん。それと、鞘師さんにくどぅーとまーちゃんはダークネスに遭遇したんですよね」

発言したのは、ストレートヘアーの長い黒髪が印象的な、目鼻立ちがくっきりとした少女。
飯窪春菜。リゾナンターになってから日は浅いが、早くもさゆみとれいなを除くメンバーでも最年長であるという自覚からか、
話の核心について言及した。

「うん。はるがまーちゃんと鞘師さんと一緒に出くわしたのは、チャリンコスーツ着たお姉さんと、その他二人」

遥がその時の状況と、三人組の特徴を話す。

「れいなは、愛佳経由の依頼をこなしてる時に、黒ガリとノッポと太いのに襲われた。ま、余裕やったけどね」
「さっすがたなさたーん!!」

興奮のあまり組み付いてくる優樹を剥がしつつ、得意げに語るれいな。

「そして私と道重さんが、駅のはずれの空き地で二人組に遭遇しました」

実際に最初に対峙したのは里保ではないが、当事者のさゆみは眠りの中。
れいなの話によると、『さえみ』が発現していられるのは約5分。その後再びさゆみと入れ替わる形になるが、治癒能力の超
強化である物質崩壊を使うことによる消耗で、気を失ってしまうとのこと。
切り札が強力な分だけ、使うリスクも大きいのだ。

125名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:37:38
「…ということは、敵は少なくとも8人以上いるということですよね」

ミーティングの補助を買って出た、上品ながらもやや肉感的な少女がそう言いながら、ホワイトボードに「穏健派」「武闘派」
と大きな二つの丸を描く。穏健派の中に、小さな3つの丸。武闘派の中に、同じようにして5つの丸。

「みずき、どういうこと?何でどこの派閥に属してるかわかると?」
「8人の中で、実際に戦いを仕掛けてきたのは5人。喫茶店に来た人たちの『自分達はともかく、もう1つのグループは手出し
するかも』って言葉が本当なら、こうなるはずだよ」

疑問を投げかける衣梨奈に、丸を描いた少女 ― 譜久村聖 ― が簡潔に答える。訳あって里保たちと喫茶リゾナントを訪れ
てから2年。いつの間にか上から数えて3番目という序列についてしまった彼女だが、リゾナンターとしての、そして組織の中
間管理職としての自覚に目覚めつつあった。

「じゃあその『穏健派』と『武闘派』が今後どんな動きに出るかだよね」

鋭角的な顔つきの少女 ― 石田亜佑美 ― がテーブルから身を乗り出して言う。
彼女の言うとおり、その2グループの動きに対してどう応じるか。そこに今回のミーティングの本題があった。

「みんなの話が確かなら、『穏健派』が前もって予告してからの襲撃。『武闘派』は奇襲攻撃とかしてきそうな感じじゃない?」
「かのんちゃんの言う事ももっともだけど、そうやって決め付けるのは危険だと思う。どんな状況においても柔軟に対応できるよ
うにしなきゃ。そうですよね、田中さん」

聖が、れいなに同意を求めるように問う。異を唱えられたややシルエットが丸い少女・鈴木香音もまた、れいなの次の発言を待っ
ていた。

126名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:39:09
時が、静まる。
れいなに一斉に注がれる、16の目。期待や不安、そのほかの色々な感情が入り混じり、彼女たちの瞳を通して投げかけられて
いる。
全てを受け止めよう。それが運命なら。
れいなは意を決し、口を開いた。

「2年前のあの日。12月24日。れいなたちは、ダークネスに襲われた。色々、失った。取り返しのつくものも、それから取り返
しのつかんものも。それはれいなとさゆの問題。みんなにまでそれを背負わすつもりはないけん」

みんな、ばらばらになった。
当時のメンバーであった、高橋愛。新垣里沙。亀井絵里。道重さゆみ。田中れいな。久住小春。光井愛佳。ジュンジュン。リン
リン。
小春と愛佳は、能力を失った。ジュンジュンとリンリンは、その手酷い怪我の治療のため、母国中国に帰る事になった。

そして絵里は、今も眠りの向こうの世界にいる。目覚める保証は、まったくない。
残った愛と里沙も、能力者による犯罪に頭を悩ます警察のヘッドハンティングにより相次いでリゾナントを離れた。あの時のこ
とを知る者は、れいなとさゆみ、二人しか残っていない。
新しく入ってきた8人は、あの日の惨事を知らない。

「でも。あいつらは、ダークネスはあんたらみたいな伸びしろの多い能力者をほっとかん。闇に染まらんもんは、全員粛清される」

127名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:40:46
ここに集まったのは、何らかの理由で闇に迫害され、闇に抗ってきたものばかり。
8人の少女たちは、真剣な表情でれいなの話を聞いている。一言一句、聞き漏らさないように。

「れいなたちはあんたたちを守る。けど、あんたたちにも、戦って欲しい。覚悟ができたら明日の夕方、リゾナントに集合。
待ってるけん」

れいなを除く全員がはじめて聞く「戦う覚悟」。
今までも、それなりの連中と交戦する事はあった。ただ、それは能力を持たない一般人。バットを携えた不良集団だろうが、
銃を構えたやくざだろうが、鍛え抜かれた用心棒だろうが。油断しなければ危険な目に遭うことはない。

今回のケースが「決してそうではない」ことを、彼女たちはれいなの言葉で改めて実感することになった。それぞれが、そ
れぞれの思いを胸に秘めながら、喫茶店を後にしてゆく。

全員が出払った後の喫茶店は、怖ろしく静かだった。
さっきまで年少のちびっ子たちがはしゃいでいたテーブルも、今は外の街灯の光が差し込むのみだ。
これでええんとかいな。
自問自答するれいなの背後に、さゆみが立っていた。

128名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:41:59
「本当だったらさゆみがれいながしたこと、しなきゃいけなかったのに」
「さゆならもっとうまく言えたかもよ。りほりほはさゆみが守るの〜、とか言って」

軽口を叩くれいなだが、その言葉は本心だった。
元々戦闘能力に長けたれいなだが、その力ゆえに、グループという単位でメンバーを見たことがなかった。もともと一匹狼な
性質がそれに拍車をかけたのもある。
さゆみは、決してそうではなかった。治癒能力という、決して表舞台に出る事はないがメンバー全員を支える力を有すること
で、大きな視野でメンバーを見ることができた。里沙がさゆみを次期リーダーに指名した時に、れいながわだかまりなく納得
したのもそういう理由があった。

「…明日は長い一日になるね」
「連中の詳細は愛佳に頼んで調べてもらってる。今夜襲ってこない理由はないっちゃけど、こてんぱんにされて間もないのに
また襲ってくるほどバカじゃないと思うけど」
「でもさゆみが会った子は結構しつこそうかも。なんかクネクネしてたし小指も立ってたし」
「マジ?めっちゃきしょいやん」

そう言って笑いあう二人の間には、確かな絆があった。

「勝とうね。今ここにはいない、みんなのためにも」

さゆみの言葉に、無言で頷くれいなだった。

129名無しリゾナント:2013/01/12(土) 14:42:57
>>117-128

投稿完了
代理投稿お願いします

130名無し募集中。。。:2013/01/12(土) 20:17:46
>>129
いってきます
レス数が多いので少し時間をかけて投稿しようと思います
ご了承下さい

131名無し募集中。。。:2013/01/12(土) 20:32:42
>>129
転載完了しました

132名無しリゾナント:2013/01/14(月) 13:36:55
『友(とも)』

〈優しくいれるさ〉

1−1

10人のリゾナンターと関根梓、そして8匹の犬は、山奥の洞窟の前に立っていた。
ダークネスに囚われている梓の仲間を救出したい。そこにいる全員が同じ思いだった。
さゆみは梓に尋ねた。
「梓さん、ここがあなたのいた所?」
「はい、この洞窟の奥に、ダークネスの秘密の研究所があります。
私が瞬間移動したのは、その辺からでした。
洞窟の中では、瞬間移動を妨害する装置が作動していましたから…」
さゆみは後ろを振り向き、目を閉じて何かを探っている工藤遥に声をかけた。
「工藤、中はどう?」
「はい、ここから100mくらいの範囲には、敵の姿は特に見あたりません」
「…そう」
「警備兵がおらんってどういうことかいな?」
隣りで腕組みをしているれいなが、洞窟の入り口をにらみながら言う。
さゆみは頬に手を当てて考え込んだ。
状況が掴めない。
さゆみは、次の行動を決めあぐねていた。
その時、さゆみとれいなにとっては聞きなれた声が、頭上から鳴り響いた。
《さゆ、れいな、ハロー!あなた達も来てくれたのね。さあ、中へ入って入って!》
声の発生源を探ると、洞窟の上の茂みの中にスピーカーらしきものが見えた。
警戒するさゆみたちをよそに、その声の主はとても楽しそうに続ける。
《そこからパーティー会場までは一本道だから、早く入っておいでよ!》
さゆみとれいなが顔を見合せる。
そして、同時に小さく頷いた。
さゆみは視線を正面へ戻し、洞窟の入り口へ一歩踏み出した。

133名無しリゾナント:2013/01/14(月) 13:37:28
1−2

薄暗い洞窟を10分少々歩くと、ようやく明るい場所に出た。
そこは、野球場ほどの広さがある大きな空洞だった。
生田衣梨奈は「広っ!」と叫びながら前へ飛び出し、上を見上げた。
天井はドーム状になっている。高さは頂点部分で50mはあろうか。
床は、中心角120°半径約40mの三つの扇形の「島」に分かれていた。
扇の弧の方が空洞の壁面に接し、かなめの部分が中心を向いている。
それらの「島」と「島」の間には、氷河のクレバスのような大きな裂け目があった。
つまり、直径約100mの円が、Y字型の裂け目で三つに区切られているのだ。
裂け目の幅は20mほどあり、下の方を覗き込むと、深すぎて底が見えなかった。

さゆみ達から見て左側の「島」には、「闘技場」という額が飾られている。
一方、右側の方の「島」の壁面には、黒い鉄の扉があった。
その扉の上には、巨大なスクリーンが設置されている。
《ようこそ、パーティー会場へ!》
明るい声とともにスクリーンに電源が入る。
れいなは、そこに映し出されたマッドサイエンティストの笑顔に、思わず舌打ちした。
《No.6、あなた、やっぱり戻って来たのね。それ、正しい選択よ。
どんなに遠くへ逃げても、粛正人のあの人があなたを殺しに行くからね。
私はあの人とは違うよ。実はね、私、あなた達を預かることになったの。
あなた達を処分しないでくれって、私、一生懸命、上の人達に頼みこんだのよ》
思いがけない優しげな口ぶりに、梓は戸惑った。
「あの…、私達、殺されるんじゃなかったんですか?」
《そんなもったいないことしないよ。あなた達は、貴重な実験台だもの》
「実験台…」
《そう。まあ、運が悪けりゃ副作用で死んじゃうかもしれないけどね。
でも、あの殺人狂に嬲り殺しにされるよりは、ずっといいでしょ!》
マルシェの円らな瞳が、キラキラと輝いている。
梓はうつむき、唇を噛んだ。

134名無しリゾナント:2013/01/14(月) 13:38:12
1−3

「マルシェ!お前、この子らの命をなんだと思っとお!」
《れいな〜、落ち着きなよ。だってさあ、考えてみてごらん。
あなただって『不用品』があったら、それを使っていろいろ遊びたくなるでしょ?
そうねえ…、例えば、要らなくなった電子レンジと、ケータイがあったとするわね。
そしたら、誰だってケータイを電子レンジでチンしてみたくなるじゃない?》
「ならん!」
激昂するれいなに、マルシェはやれやれという表情で溜息をつく。
《はあ…、あんたみたいに科学的な好奇心が1ミリもない人間には分からないか…》
梓が下を向いたまま声を絞り出す。
「私達は…、『不用品』なんかじゃない…」
マルシェは、教え子を諭す教師のような口調で話し出した。
《あのね、No.6、人はね、三つの種類に分けられるの。
一つは『使う者』。もう一つは『使われる者』。
そして、そのどちらにもなれない『不用品』。
あなた達にも、『使われる者』になれるチャンスがあった。
でも、誰一人それをつかめなかった。
まあ、神様から中途半端な力しかもらえなかったんだから、それも仕方ないわね。
結局、あなた達は、『不用品』になる運命だったってことよ》
「もういい!あいつ、ぶっとばしてやる!工藤、あいつはどこにおると!」
工藤が答える前に、マルシェが言った。
《私がいる部屋が見たいの?じゃあ、見せてあげるよ》
その言葉と同時に、マルシェのいる部屋の全景が、スクリーンに映し出されていく。
カメラが部屋の奥の方にパンしたとき、梓は目を見開いた。
「まあな…」画面には、血まみれで磔にされている一人の少女が映っている。
少女の名は新井愛瞳(まなみ)。梓の仲間たちの中では、最年少の15歳である。
うなだれて動かない愛瞳に、戦闘員たちが自動小銃の銃口を向けている。
《こういうことなの》
マルシェはそう言って、マグカップに口をつけた。


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