したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

姫子の日記

1姫子:2002/07/17(水) 16:02
読んで字のごとく日記。
主に(0^〜^0)と小説について。

24姫子:2002/11/01(金) 09:27
昨日のうたばんはなかなか興味深かった。
いしよしもよしかごもかおよしもみんなあってよかったじゃないか。

でも、正直、あたしもいかんせん立派な大人なので、CPなんて所詮メルヘンだと思ってる。
つーかふつーに考えたらあるわけないじゃん。
それでも幻想だと思ってても萌えるのが楽しいわけで。
人の楽しみ方にけちつける訳じゃないけど、よっちぃの梨華ちゃんを彼女にもしたくないし同じユニットも嫌発言に対してあまりにも熱くあーだこーだ言って、挙句の果てによっちぃは想像力に欠けるとまで言われてるのを見てちょっとなんだかなぁと。
あれはあれでおもしろかったじゃねぇか。
想像で楽しむ世界と現実を一緒くたに語ってんじゃねーよ。

なーんて思いました。
まぁあたしは真性CP萌えの人じゃないからね。
常に初めによっちぃありきの吉澤原理主義。
よっちぃかわいいよよっちぃ。

25MASTER CARD:2002/11/07(木) 21:29
桃のいしよしスレのこと?

あれには俺もちょっとどうかと思った。
人を傷つける失言なんていつしたんだろ??
つうかしてるわけないだろそんな発言。

所詮は「いしよしの石川に萌える」人達ということかな。

26姫子:2002/11/13(水) 19:24
復活ついでに家の掃除。
この前したばっかりだと思ってたのによく考えたら1ヶ月ぶりだった。
どうりで汚かったはずだ。月日がたつのは早いもんよのぉ。

ついでに血まんこ。
くそう今月こそと思ったのに。
あたしの排卵日はいつなんだろう。

>マスタ
狼のいしよしスレもね。
桃はもともと石ヲタの聖地なんだからけちつけることも無いんだが、と思いながらもつい書いちゃったよ。
んでまさか晒されるとはな。

27MASTER:2002/11/14(木) 22:01
晒された?狼のいしよしスレに?
なにかとムカツクことが多いからあのスレは見て無いんだよね。
さっき見に行ったらムカツクレスのオンパレードw
今のスレには無かったんだけど前スレだったのか?

1ヶ月振りの掃除かい・・・

28姫子:2002/11/15(金) 14:33
前スレかな?
姫子って誰だよって言われちゃったさ(w

29姫子:2002/11/23(土) 20:06
マイPC入院ケテーイ。
3週間もかかるなってまじかよ。
ああ、不便だ。

勝手にひーちゃんをいしかーさんの「都合よくカッコイイ彼氏」に見立てといて、ひーちゃんが「優しい彼氏」らしくない行動をとるとひーちゃん批判か。
最近のいしよしスレをみていると本当にいしよしが嫌になりそう。

30MASTER:2002/11/23(土) 21:18
ご愁傷様です。
次は信G(ry

「親しき〜」ってやつかな?
あんなアフォな意見はどうでもいいな。
いしよしは既に自分の中では小説の中だけの存在となっております。

こんなこと書いてるとまた貼られちゃうぞw

31MASTER:2002/11/23(土) 21:27
あれ?狼のことだった?

32MASTER:2002/11/23(土) 22:04
なんでagaってるのかと思ったら全角かよ!

33信号:2002/11/23(土) 23:15
姫たん、ご立腹。(w
次はおいらか…。・゚・(ノД`)・゚・
でも、小説をかか(ry

「親しき〜」ってやつなんだろうね。
親しいから言えるって考えはないのかな?
まぁ、がんばってくださいや。て、かんじだな。(w
最近は、いしよしの絡みないから、みんな殺気立ってんじゃないのかな?
28日が楽しみだ。(;´Д`)…ハァハァひーちゃん…めがねこんこんもハァハァ

34(0^〜^0)<あばよ:(0^〜^0)<あばよ
(0^〜^0)<あばよ

35MASTER:2002/11/24(日) 19:39
PCを修理に出す場合、致命的な故障(起動しない)以外は、
お気に入りなんかはコピーしといた方がいいよ。

今日、30GBのデータのバックアップが完了してまた修理に出した。
バックアップに相当な労力を使ったよ。
冗長検査エラーってなんだよこのヴォケPCが!

てなわけで姫子大先生とどっちが早く直るかな?
まあ、負けるな。IBMだから。

36姫子:2003/04/04(金) 23:57
吉総研10万HIT記念、姫ちゃんの書き下ろし小説。


『HEY!!TRAVIS』

37姫子:2003/04/04(金) 23:58

「かおりんはさ、マリア様みたいだよね」

あの子の言葉が頭の中に響く。
窓の外、「クソったれ」の汚い街が飛び去っていく。
車はスピードを上げて、あの子と暮らした街を切り裂いていく。

ごめんね、ごめんね。
一緒にいてあげられなくて、ごめんね。

38姫子:2003/04/04(金) 23:58

**********

一人で橋を渡ったのは初めてだった。

私の住む町を半分に分ける大きくて濁った河。
こちら側は裕福な者の住む街。
向こう側は貧しき者の住む街。
こんな分け方が正しいわけないって思ってたけど。
でも、そう分けられているのが当たり前だった。
私はこちら側の人間で幸せだって、心のどこかで思ってた。

21のバースデーにパパが連れてきた男の人。
背が高くて、ハンサムで、優しくて、頭がよくて、お金持ちの人。
彼は、22のバースデーに私の旦那様になる人だった。

何も問題はなかった。
とてもいい人。私のことを愛してくれた。
ただ、私が愛せなかった。

それまでは何の不満もなかったの。
優しくて頼りになるパパ。
優しくて綺麗なママ。
なに不自由ない生活。
周りの人たちはみんな私と友達になりたがった。

ただ、あの人のお嫁さんになる夏が来る前。
ふいに。
何かが間違っている気がして。
何かが足りない気がして。

愛のない結婚なんてしなくないなんて。
子供じみた考えに取り付かれて。

私は家を飛び出した。

そして。
決して一人で行ってはいけないって言われてた。
橋の向こうの街に足を踏み入れた。

39姫子:2003/04/04(金) 23:59

**********

「ふわぁー、こりゃまたエライべっぴんのねーちゃんだな」

橋の向こうの街に住む唯一の知り合いの家を探して、こちら側の街とは正反対の汚い路地を歩いていると、ガラの悪い男の人たちに囲まれてしまった。
彼らのだらしなくみすぼらしい風貌と荒んだ目に体がすくんだ。

「アップタウンのおじょーさんだな。こりゃあ上玉に引っかかったぜ」
「さぁ、中身と外見とどっちがいい?どっちもたまらねぇ価値がありそうだぜ?」
「そりゃあもちろん、中身をたっぷり味見してから、外見のモンも全部いただくしかねーだろ」

怖い。
足がガクガクと震えた。
男達はニヤケ顔で、まるで私を値踏みするみたいに、嘗め回すように見た。
私はとっさに自分の体を抱いた。

男達は少しづつこっちに近づいてくる。

助けて!
叫ぼうと思っても、まるで喉が貼りついたみたいに引きつって声が出ない。

「勝手なマネしてんじゃねーよ」

その時、私の背後から声がして。
振り返ると。

カーキ色のだぶだぶのロングジャケットを着た―――、そのときは男か女かわからなかった。
ジャケットのフードを目深にかぶって、両手はポケットにつっこんで。
でも、オーラじゃないけど、全然、怖がってなんかなくて、堂々とした、そんな風に感じた。

「ここは、BRATSの縄張りだってこと、忘れちまうくらいモウロクしたのかよ?JAILSのオッサン達よー」

その声は、女の子にしてはちょっと低かったけど、柔らかくて、男の人ではないってわかった。
男達は彼女を見て、態度を決めかねるように顔を見合わせていた。

「くそー、うぜぇのが出てきたな」
「とっととこっから立ち去るんだったら何もなかったことにしてやってもいいけど。うだうだしてっと痛い目見るぜ?」
「んだよっ。こっちは頭数揃ってんだ。てめぇ一人くらいどうにでもできるんだぜ」

40姫子:2003/04/04(金) 23:59

彼女は、うるさそうに頭にかぶってたジャケットのフードを振り払った。
そこに現われたのは。

金髪に染めた短い髪。
まるで透き通るような白い肌。
男達を睨みつける大きな目。
心持ち歪めた薄い唇。
まだ幼さを残した、ふっくらした頬。

とても強くて美しい少女だった。

「へぇ?結構ユーカンなんだ」

彼女は、右手を突っ込んだポケットを心持ち上げてみせた。
ポケットは、男達に向けて銃口の形に膨らんでいた。

「さー、かかっておいでよ。誰から天国に行く?」

その余裕綽々の態度。
男達は、捨て台詞というギリギリのプライドを置いて、一目散に逃げて行った。

私は恐怖から解放されて、思わずその場にへたり込むようにしゃがみ込んだ。
彼女はそんな私に近づいて。
銃口の形のポケット、そのまま私に狙いをつけた。

私は驚いて、心臓が止まりそうになる。

助かったと思ったのに。
私、こんなところで不良少女に撃たれて死んじゃうの?

そしたら。
彼女は、ゆっくりポケットから右手を出す。

銃口の形は。
そのまま、彼女の指で作ったピストルの形だった。
そして、私の目の前で、その手を開いて差し出した。

「助け賃ちょーだい」

彼女はいたずらっ子のような顔で笑ってみせた。

41姫子:2003/04/05(土) 00:00

**********

「ここは、おねーさんみたいにキレーな人が社会見学に来るようなとこじゃないよ?」

彼女は「助け賃」と称して私から巻き上げた、去年のクリスマスにあの人に貰ったルビーの指輪を薬指にはめて、嬉しそうにニヤニヤしながら言った。
多分うんと高価なもの。華奢なプラチナの台に大きなルビーと、ルビーの両脇に小さなダイヤが一粒づつ。
ちっとも惜しくはなかったけど。
彼女の薄汚れた服装とその高価な指輪は、全然似合ってなくて、ちょっとおかしかった。

「社会見学に来たんじゃないわ」
「どっちにしても、そんな綺麗なナリに無防備な顔してこんなとこウロウロしてたら、どうぞヤってくださいカモってくださいって言ってるようなもんだよ?」
「……知り合いの家を探してるの」
「ふーん」

彼女は真っ直ぐな目で私を見た。
多分。
騙してもっと巻き上げるべきか、助けてやるべきか、ちょっと思案していたんだと思う。

そして、子供のようなあどけない顔で笑ってみせた。
「しょーない。助け賃にしてはゴーカなモン貰っちゃったし、送ってやるよ」

騙されるかも知れないって、ちょっと思ったけど。
彼女の目はとても綺麗だったし。
笑顔があんまりにも無邪気だったから。
私は彼女を信じた。

42姫子:2003/04/05(土) 00:00

「で、知り合いの家ってどこ?住所わかってるの?」
「PストリートのYUMってお店の上って言うのは聞いてるんだけど。Pストリートがどこかわかんなくて……」
私が言うと、彼女は少し驚いたような顔をして私の顔をマジマジと見た。それから、おかしそうにクスクス笑いを漏らした。
「アンタみたいなお嬢様の口からPストリートなんて言葉が出るなんて。あはは。そりゃあ地図には載ってねーし、標識も出てねーし迷うよなぁ」
「何?どういうこと?」
「PストリートのPって何か知ってる?」
私は無言で首を横に振った。
「prostituteのP。つまり、Pストリートってのは淫売通りってこと。まぁpissのPって説もあるけどね。どっちにしてもアンタみたいな小ぎれいなねーさんには似合わないとこだよ」
「淫売……」
「まさか、淫売の意味から説明しなきゃなんないほどお嬢様なワケなねーよな?」
「それぐらい知ってます!」

私と彼女は落書きだらけの裏路地を並んで歩き始めた。
この街にそぐわない白いワンピース姿の私を、道行く人たちがものめずらしそうに見る。
でも、隣にいる彼女のおかげで誰も声をかけてこようとはしなかった。

「YUMの上に住んでるっていうとさ、もしかして」
彼女が恐る恐ると言うように私の顔を見た。
「アンタの友達って、金髪でいつもカラコン入れてる、ちょっと怖い女の人だったりする?」「えっ?」
「そんで、きっつい関西弁で、もうじき三十路だって話になると烈火のごとく怒ったりしない?」彼女の上げた特徴は、私の探している友達の特徴をとても的確に表現していた。
「あなた、裕ちゃんのこと、知ってるの?」
「あちゃー。マジかよ」
彼女は頭を抱えた。
そして「やべぇ、カモにしなくてよかったぁー」と小さくつぶやくのを聞いた。

43姫子:2003/04/05(土) 00:01

通称「Pストリート」淫売通りは安い香水と生ゴミと公衆トイレの匂いが混じったような、なんともいえないすえた匂いが漂ってた。壁という壁に何かをぶつけるみたいに殴り書かれた落書き。

そして、半分裸みたいな格好で通りに立つ、私と変わらない年の女の子たち。

世間知らずの私にも、彼女達が売春婦だってことは分かった。
くわえタバコでぼんやり立つ女の子、通りがかる男達にだれかれ構わず声をかける女の子、フェイクファーのコートの下から伸びる裸の足。
どの子達もみんな、汚れた街の風に晒されて艶のない肌をしている。

「吉澤さぁん」

そんな女の子たちの一人が彼女に声をかけてきた。
綺麗な黒髪に少しつりあがった目の東洋美人の顔つき。
でも、真っ赤なルージュを引いたその笑顔はあどけないどころか、まだ、子供そのもののようだった。

「おう、高橋か」
「この前はありがとうございましたぁ」
どこか、田舎の訛りを残すイントネーション。
「アイツはあれから何にも言ってこない?」
「はいぃ。おかげさまでぇ、中澤さんにもぉいろいろ目をかけてもらってるしぃ、だいじょぶですぅ」
「……結局、立つのは辞めなかったんだ」
幼い少女は、泣き出しそうな顔でへへへと笑った。
「やっぱりぃ、お金がいるんでぇ」
彼女―――吉澤さんっていうんだ―――は、少女の頭をぽんっと撫ぜた。
「体、できるだけ大切にしな。無茶すんなよ」
「はいぃ」

吉澤さんは、少女を残して歩き出した、私も慌てて彼女の後を追った。

「あの子、まだ15なんだよ。田舎から出てきて、タチの悪い男に引っかかって、気がついたらヤバいポン引きにウリやらされててって、クソみたいによくある話。ポン引きからは手を切らせたけど―――、誰も彼も、このクソったれの街じゃ、あっという間に汚れてっちまう……」

私に言うというより、自分に吐き捨てるように彼女は言った。
本当にここは汚れた街なんだ。
私はそう思った。

44姫子:2003/04/05(土) 00:02

**********

「YUM」というお店はまだ開店していなかった。
この通りの他の店と同じよう狭い間口と汚れたドア、煤けたネオンチューブ。

吉澤さんは店のドアの隣の、蝶番の外れかかったドアを押して中に入った。
そこには上に上がる細くて薄暗い階段が続いていた。
ベコベコに凹んだ郵便受けが6つ並んでいて、上はアパートになっているみたいだった。
彼女は無言のまま階段を上がった。私も後に続く。
安物の香水と食べ物の、すえた匂いが一層強くなった。

3階まで上がって、一番奥の部屋にたどり着く。
彼女は「ココだよ」って親指でドアを指した。
「あの、ありがとう」
私が言うと、照れくさそうに笑った。
「多分、この時間じゃ、あの人寝てると思うんだよねぇ。あの人、寝てるの起こすと機嫌悪いんだよなぁ」
彼女はつぶやきながらドアをドンドンと叩いた。
「ヨシザワっすー」
返事はない。
私が彼女の顔を見ると、彼女は大丈夫と言うようにうなづいて、さらにドアを叩き続けた。
「ナカザーさーん!お客さんでっせー!」

しばらくそれを続けていると、やっと、ドアの向こうに人の気配がして。
「るっさい!」
地獄から響くような声。
吉澤さんはぴたっとドアを叩く手を止めた。

そして、ドアが開く。
寝起きを絵に描いたような。
ついでに不機嫌も絵に描いたような。
ぼさぼさ頭にノーメイクの裕ちゃんが顔を出した。

「てめぇヨシザワ、こんな時間にアタシを起こすなんてええ根性しとるやんけ―――」
言いながら、吉澤さんの影にいる私に気がついて。

「カオリ!!!」

裕ちゃんは驚いて私の名前を呼んだ。

45姫子:2003/04/05(土) 00:03

**********

ノーメイクの裕ちゃんを見るのは初めてだった。
心持ち疲れ切ったことを思わせる白い肌。
でも、どことなく幼くも見えた。

変な気分。

私の知ってる、アップタウンで会う裕ちゃんは、いつもビシッと化粧をして、かっこよくてちょっとセクシーなスーツやドレスを着て。立ち振る舞いはどことなくエレガントで。
今の裕ちゃんは私の知ってる裕ちゃんじゃないみたいだ。

裕ちゃんはキッチンのテーブルに腰掛けて、吉澤さんに淹れさせたコーヒーをすすっている。厳しい表情で、こめかみを指で押さえている。

「で、何でカオリがこんなとこにおんねん」

裕ちゃんはため息と一緒に吐き出すみたいにそう言った。
私は何て答えていいかわからなくて、ちょっと迷って。

「逃げてきちゃった」

そう答えた。

「逃げてきたて、あんた」
「行く当てなくて。そしたら裕ちゃんの顔が頭に浮かんで。だから来ちゃった」
所在無げに、私たちの会話を聞いていた吉澤さんが口を挟んだ。
「この人、マーキーの通りで早速JAILSのチンピラどもに身包み剥がされそうになってたから、連れてきた」
裕ちゃんは顔を上げて吉澤さんをじっと見た。
「なるほど、ほんで、ソレ、助け賃とかなんとかいうてカオリから巻き上げたワケやな」
吉澤さんは慌てて、私のルビーの指輪をはめた手をポケットに隠した。
裕ちゃんはそれ以上何もいわないで、ちょっと吉澤さんを睨みつけてから、私に視線を戻した。「ここは、アンタの来るようなとこやないってわかったやろ?帰り」
「やだ」
「やだって」
「この間、大学卒業して、夏になったら結婚、決まってて。ふと気がついたら、私何にも自分ではしてないって。何か足りないって。こんな気持ちのまま一生生きてくのかなって思ったら。結婚、したくなくて。どこか行きたくて。お願い裕ちゃん、ここに置いて」
私は必死に裕ちゃんにお願いした。

「あまちゃん」

吉澤さんが一言、言った。
私のこと、蔑んだみたいな冷たい目で見てた。
何だか、自分がすっごく恥ずかしくなった。
私だって必死だったのに。
涙が出そうになって、俯いた。

46姫子:2003/04/05(土) 00:03

「アンタは黙っとき」

裕ちゃんの、静かで、でも厳しい声。
顔を上げると、裕ちゃんは吉澤さんを睨みつけ、吉澤さんはバツが悪そうに、でも不満そうに視線を反らした。

「アンタはあっち行っとき。いつもんとこに、今週のアガリ置いてあんで、数えて帳面つけて、アイツのトコに持ってく用意しとき」
吉澤さんは裕ちゃんに言われたとおり、ベッドルームと思われる部屋の方に消えていった。

「この街では、食べていくだけでもしんどいんや。それにアイツは下のモン抱えてイロイロ苦労しとるみたいやし。まだ若いし。やから、アンタが抱えとる精神的な問題までは理解できひんのやろ。気にせんといたってや」
裕ちゃんはそう言うと、テーブルの上のタバコを取って、綺麗な指で火をつけた。

「私、甘いのかな?」
「そりゃ、アンタは金持ちの家に生まれて金の苦労はしてへんから、甘いかもしれんけど。人の悩みに優劣はつけれやんとアタシは思う。本人にしか分からんことやしな。そやろ?」
「うん」
裕ちゃんは優しく微笑んだ。
「正直、アンタの言うたこと、アタシにはようわからへんから、アドバイスも何もできひんけど。アンタはどうしたいん?」
「私―――。私、ただ、とにかく今のままじゃいけない気がして。何かを変えたくて―――。
わかんない。どうしたいのかもわかんないんだよ」

言ってて、情けなくなった。
吉澤さんにあまちゃんって言われてもしょうがない気がした。
夏になれば22になるっていうのに。
もう大人なのに。
自分がどうしたいのかも分からないなんて。
何てだらしない人間なんだろうって。

「そんな顔、せんとき」

裕ちゃんは、俯いてしまった私の頭を優しく撫ぜてくれた。
「この街は、危ないよ。アンタにとっては信じられへんようなことも、嫌なこともいっぱいあるし。それに立ち向かう覚悟があって、この街で答えが見つけられると思うんやったら、好きにしたらええ」
「ほんとに?」

それから、裕ちゃんは、ほんの少し悲しそうな顔で言った。

「アンタは信じられへんくらい綺麗やから、アタシは、アンタにこの汚い街で汚れて欲しないんやけど、な」

47姫子:2003/04/05(土) 00:04

**********

「ここは、仕事が仕事やから、アンタをおいたるワケにはいかへん」
裕ちゃんはそう言って、吉澤さんを呼んだ。
「アンタ、えらいええモン、カオリから巻上げたやろ?チンピラから助けたった礼にしては、ごっついおつりがくるやろ?」
いたずらっ子のような、でも有無を言わせない口調で。
「アンタっとこに、しばらくカオリ置いてやんな」
吉澤さんはあからさまに不満そうな顔をしたけれど、文句を言わずに裕ちゃんの言うことを聞いてた。
裕ちゃん、力あるんだ、って思った。
裕ちゃんの部屋を出るとき、裕ちゃんは言った。

「今日は、ちょっと予定があるで、明日、一緒に飯食お。迎えやるから。あ、それと、吉澤。カオリのこと、別に接待せぇとは言わんけど、アタシの友達やってこと忘れんときや」

そして、私は、彼女。
この汚れた街で、一人で闘い生きている、強くて不器用な少女。
「吉澤ひとみ」と一緒に暮らすことになった。

それは、そんなに長い月日ではなかったけど。
彼女は。
そして彼女との生活は。
甘くて、頼りなくて、弱かった私を、確実に変えてくれた。




                          つづく

48姫子:2003/04/06(日) 03:03

「さっきはゴメン」

ふたりで並んで歩いていると、吉澤さんがポツリと言った。
その、照れくさそうな横顔に、私は話題を変えた。
「吉澤さんが、裕ちゃんと知り合いでよかった。あの、いろいろありがとう。それから、何か迷惑かけるみたいだけど、えっと、よろしく」
吉澤さんは私を見て笑った。
「吉澤さんて……。そんな呼ばれ方したの初めてだよ」
「でも、吉澤っていうんでしょ?」
「呼び捨てでいいよ。別に。年下だし」
「いくつ?」
「もうすぐ18」

そう答えた彼女の横顔は、確かに大人と子供の間を行ったり来たりしているようだった。

「それにしても。アンタと中澤さんが知り合いなんて、こっちが驚いたよ。いったいどんな接点があんの?」
彼女が笑顔になってこっちを見た。

あまり目線が変わらない。

その時になって初めて気づいた。
私は、女の子にしては背が高いから、大抵の友達や女の子と並んでいると、どうしても見下ろしてしまうみたいになってしまうけど。
彼女は私とあまり背の高さが変わらないみたいだった。
この、大きな背がほんのちょっとコンプレックスだったから、ちょっと嬉しかった。

「前に―――もう、3年くらい前だけど。アップタウンで、私が財布を忘れちゃて困ってるとき裕ちゃんが助けてくれたんだ。それから、裕ちゃんがアップタウンに来るときはよく一緒に遊んだりして。裕ちゃん仕事で来てるって、よく言ってたけど……」

そこで、私はふいに言葉に詰まってしまった。
裕ちゃんがこっちに住んでるってことは知ってた。アップタウンには仕事で来てるって。私が「何の仕事?」って聞いても、裕ちゃんは「カオリには言えないような仕事やから」っていつも笑ってごまかしてて。漠然といい仕事ではないのかもしれないとは思ってたけど。Pストリートに住んでるってことは、つまり―――。

「中澤さんは高級娼婦だから。時々アップタウンに呼ばれるんだよ」
彼女はぽつりとつぶやくように言った。

そうだよね。つまりそういうことなんだよね。
今まで何も知らなかった自分を思い知らされるみたいに、いろんな現実が、急に突きつけられたみたいに感じた。裕ちゃんのことももちろん、荒んだ目をした男の人達や、15歳の娼婦、そしてこの街で生きている、年下の強い彼女―――。
ここには、私の知らなかった現実がごろごろと転がっている。

49姫子:2003/04/06(日) 03:03

「吉澤…さん、も。裕ちゃんと知り合いだったんだね」
やっぱり、会ったばかりの人を呼び捨てになんてできなくて、変な呼び方になってしまった。
「この辺の女の子たちは大抵中澤さんの世話になってるんだよ」
そして、ちょっと目を伏せて、こう言った。

「親父にヤられるのが嫌で、15のときにこの街に逃げて来て、行き倒れる寸前だったとこを中澤さんに拾って貰ったから、あたしも」

何でもないことみたいに、彼女はさらりと言ったけど。
だからこそ、それが彼女の心の傷になってるって、分かっちゃった。

ほら、ここにもまた、痛い現実がひとつ。

私が今までいた。
自分が生きてるのかも死んでるのかも分からないような。不自由は何も無いけど、夢の中みたいなぬるま湯の生活の中では、知ることの無かった。
―――そう、つまり、「リアル」。
汚らしくて痛いことばかりなのに。
ここにいる人たちは、みんな「生きて」るんだって。
私は、そう感じた。

ただ、どっちが幸せなのか。
それは、わからなかった。

50姫子:2003/04/06(日) 03:04

**********

彼女の部屋は。
裕ちゃんの住んでいたアパートもお世辞にも豪華とは言えないと思ったけど。
それ以上に。
ううん、っていうか、裕ちゃんが「高級娼婦」っていうのは本当だったんだって。
裕ちゃんのアパートはこの辺では高級な物件だったんだって。
そう思えるような、ところだった。
って言うか、すでに人が住むようなところじゃない。
何ていうのかな。
廃屋?倉庫?
そんな感じだった。

町外れに近いその場所は、ほんの少し、潮の匂いがした。
あの、汚い、この市を半分に分ける河が流れ込む、やっぱり汚れた母なる海が近いのかもしれない。
その建物の右隣は、崩れかかった、多分昔は商店だったと思われる完全なる廃屋で。左隣は草の生え茂った、荒れ果てた更地。そして、彼女の住処らしいその建物も、ブロックが剥がれ落ちて辛うじて原型をとどめているような、2階建てのこじんまりした―――言うなれば古い映画に出てくる昔の法律事務所兼倉庫みたいなのが、うっかり時代に見過ごされて今まで残ってしまったみたいな代物だった。

内心、私、こんなところで暮らせるんだろうかって、思った。
でも、贅沢は言えないことは分かってた。

よく気をつけてないと足を踏み外してしまいそうな、欠けた石段を上がって、後で誰かが「とりあえず」に付けたような、建物とはちぐはぐの頑丈そうな鉄の扉。
その扉には赤いスプレーで大きく「BRATS」と書きなぐられていた。

「不法占拠だからさ、まぁ、多少の不便はガマンしろよ」
彼女は扉を開ける前に、私にそう言った。
ああ、何もかもが私の知らない世界。

51姫子:2003/04/06(日) 03:04

そして、彼女は、その、重そうな鉄の扉を開けた。

建物の中は、その外見よりはひどくなかった。
もちろん、外見よりはひどくないってだけで、私にとっては、とても人の生活できるような場所じゃないって思いに変わりはなかったけど。

扉の向こうは、玄関もホールも廊下も何もない。ただのだだっ広いフロアになっていて、どこかで拾い集めてきたようなちぐはぐな家具が、無秩序に並べられていた。
テーブル、椅子、ソファー。

そして、数人の女の子たちが、そこにいた。

不思議なことに、煦々と電気がついていて、少女達はテレビの周りに、思い思いの格好でくつろいでいて。みすぼらしくて汚いことには変わりないのに、なぜか、とても温かく感じたんだっけ。

「よっすぃーおかえりー!」

部屋に入ってきた私たちに一番最初に気がついた、黒目がちの目をした可愛らしい女の子が、関西弁風のイントネーションで言った。
その後に続くように他の女の子達も口々に「おかえりなさい」を連呼する。

52姫子:2003/04/06(日) 03:05

「その人、誰?」

そして、その黒目がちの女の子は私に気づいて、そう言った。
「カオリさん。中澤さんの友達で、しばらくここで暮らすことになったから」
吉澤さんは、着ていたカーキのジャケットを脱ぎながら、ぶっきらぼうにそう言った。
そして、私に向き直って。
「この子達は、ウチのチームの子達。うるさいと思うけど、まぁ、ガマンして」
「チーム……」
そう言った私に、黒目がちの女の子が言った。
「なんやぁ小ぎれいなねーちゃんやなぁ、アップタウンから来たんか?」
「うん、よろしく」
「あんなぁ、ここは天下の「BRATS」のアジトなんやで。ホントはチームやないヤツは入れへんのやからな―――」
吉澤さんはまくし立てるように言う少女の頭を優しく撫ぜた。
「コイツはあいぼん。うるさいけど結構気もつくし、しっかりしてるから、何か分からんことがあったら、コイツに聞いて」
「何や!うるさいて!」
あいぼんと紹介された少女は噛み付くように吉澤さんに言った。
「あはは、ごめんごめん。―――新垣は?」
吉澤さんが言うと、まだ、どう見ても子供の、小さな体と小さな顔の女の子が返事をした。
「集金、どう?」
「はい、予定分は終了しました。ただ、まこっちゃんがまだ帰ってなくて。終了の報告はあったんですけど。まこっちゃんが戻ってきたら全部揃います」
言いながら、その少女は黒いブリーフケースを吉澤さんに渡した。妙にしゃちこばった態度とせっかちな口調が可愛らしい女の子。
「ん。ありがと。―――あ、あと、彼女、カオリさん、上に寝てもらうから。用意してくれる?」
「はいっ」
少女は小さい体を弾かれたように、部屋の奥の2階へ続く階段を駆け上がっていった。

53姫子:2003/04/06(日) 03:06

「適当に、くつろいでて」
吉澤さんは私にそう言うと、部屋の奥に歩いていった。
そして、ソファーに座った女の子の顔を覗き込んだ。

その子は、何ていうか。
ちょっと気味が悪いくらい虚ろな目をしていた。

吉澤さんが、その子の頭を優しく撫ぜると、その子は初めて吉澤さんの存在に気がついたように吉澤さんを見て。
それから、ぎゅうっと、彼女の腰の辺りに抱きついた。

「んー?のの、どうした?寂しかったか?」

吉澤さんは、今まで見せたことのないよう優しい目で、その子の頭を撫ぜてあげていた。
「また、新しい友達が来たから。カオリさんって。綺麗で優しい人だから、何も心配しなくていいからな。仲良くするんだよ」
そして、優しく言い聞かすように少女に言う。
少女は、ありえないくらい、澄んだ目をして、吉澤さんに笑いかけた。
そして、その少女に抱きつかれたまま、少女に何か話しかけていた吉澤さんは、しばらくして、黒いブリーフケースを持って立ち上がった。

「あたし、上に行くから。上にあんたの寝床の用意したから、眠くなったら上に来て」
素っ気無くそう言って、階段を上がっていった。
私は、この見知らぬ少女たちの中に取り残されてしまった。

54姫子:2003/04/06(日) 03:07

「ほんまにあんた何にも知らんのやなぁ」

あいぼんが私にいろんなことを教えてくれた。

「よっすぃーはな、今ここらへんを取仕切っとる「BRATS」っていうチームのボスなんや。まぁ、他にもいろいろチームはあるんやけど、ガールズオンリーのチームはウチだけやねん。今までこの街でガールズオンリーのチームが幅きかせられたんは、あんた、カオリさんやっけ?の友達の中澤さんが仕切っとった大昔―――、あ、ウチが大昔って言うてたんは内緒やで?そんなん中澤さんにバレたら、ウチ殺されるっちゅーねん―――と、よっすぃーの代だけやねん。それぐらいすごいことなんやで?今んとこ、この辺を仕切っとんのは、ウチら「BRATS」と、「JAILS」と「REBEL」ちゅー3っつのチームやねん。他のふたつは男ばっかりやからな、その中で自分達の縄張りを守ってくのは大変なんやで。よっすぃーは全然平気みたいな顔して、それをして、しかも、ウチらみたいな行くとこのないハンパモンの面倒まで見てくれとんのや。ああ、ウチはあいぼん。加護亜依っていうねん。ちなみに今年15になったばかりのピチピチや。ほんで、あの眉毛ボーンなんが里沙ちゃん。ウチよりひとつ下やけど、「BRATS」の細々したことはみんなあの子がやっとるねん。ほんで、あの、ソファーにおるんが―――。のの、ちょっとこっち来。大丈夫、よっすぃーが連れて来たんやから、この人はええ人や。この子がのの。希美ってゆうんやけど、みんなののとかのんとかって呼んどるねん。あんな、ちょっと人見知りやけど、ののはウチらの天使やねん。たまにしか口聞かんけど、ホンマええ子やから大事にしたってな。それから後、今おらへんけどまこっちゃんって子もおるねん。まぁ、ここでゴロゴロしとんのはそれくらいかなぁ。あ、別に他にもメンバーはいっぱいおるねんで?せやけど帰るとこがなくて、よっすぃーの世話になっとるのはウチらぐらいやねん。でも。せやけどな。ウチら別にええ加減な気持ちでよっすぃーの世話になっとるワケやないんやで?」

機関銃のような勢いで、関西弁でまくし立ててたあいぼんが、すこし、言葉を切って。
そして。
急に、15歳とは思えないような大人びた目になって。
こう言った。

「ウチらみんな。よっすぃーの為なら、死ねるねん」

55姫子:2003/04/06(日) 03:09

この子は。
私よりずっとずっと幼いのに。
自分の命と同じだけの重さの物を知ってるなんて。

またひとつ、突きつけられる現実に、私はめまいを起こしそうだった。

その夜を境に、私は、吉澤さんのことを、あいぼんたちに倣って「よっすぃー」と呼ぶようになった。
そして。
私にはこの街のルールなんて、本当は何一つわかっちゃいなかったけど。
でも。
気がついたら、このファミリーが大好きになっていた。

アップタウンの生活では、決して知ることの無かった事実。
自分より大切な誰かがいるなんて関係。

友達って。
たとえば一人でご飯を食べるのが嫌なとき。
夜更けに誰かとバカ話がしたいとき。
そんなときにしか必要なモノでしかないって思ってた。
言うなれば、利用し利用される関係って。

でも、この、目の前にいるたった15歳の少女は、「よっすぃー」の為に命を賭けると、何のためらいもなく言い切った。
何の見返りも無く、ただ、無条件に愛する心。
強い、信頼と言う名の絆。

私の知らなかったモノが。
この、今にも崩れ落ちそうな。
少女達が肩を寄せ合って暮らしている家には。

それが、あった。

56姫子:2003/04/06(日) 03:09

**********

その夜更け。

よっすぃーに言われた様に、よっすぃーの居住区らしい二階に上がると、よっすぃーは赤ん坊の様に、大きな体の手足を丸めて、ベッドの上で丸くなって眠っていた。

2階にも家具らしい家具は見当たらず、やっぱり、どこかで拾ってきたようなちぐはぐなタンスやテーブルと、無造作に投げ捨てられた、洋服や雑誌やビールの缶やお酒のビン―――そいうったモノたちが床の上に転がっていた。

私は、多分私の為に用意されたと思われる、部屋の隅の床の上に直に置かれたマットレスと擦り切れた毛布の寝床にすべり込んだ。

ねぇ、バスルームは無いの?
熱いお風呂に入りたいよ。
この毛布、本当に綺麗なの?
自分のベッドのひんやりとした清潔なシーツに包まりたいよ。

アップタウン暮らしの、わがままな自分が顔を出す。

でも。
分かってるよ。
それがココの暮らし。

ガマンできなければ、私にはいつだって帰る場所がある。
温かく食べきれないほどの食事も。
清潔な寝床も。
豊富なお湯のシャワーも。

笑っちゃうね。

その、何でもあるのに、「何かが足りない」自分の場所を飛び出してきたのに。
そんな取るに足らないささいな贅沢が恋しくなるなんて。

ねぇ、私に必要なのは一体何?

暖かなベッド?
それとも、ここに溢れている「足りない者達」のリアルな現実?

私が眠りにつく頃に、その事件が起こるまで。
私はまだ迷っていた。

自分が何を求めているのか、全く見当もつかなくて。

57姫子:2003/04/06(日) 03:10

**********

体はくたくたに疲れていたけれど、いろんなことがありすぎて気が昂ぶっててなかなか寝付けなかった。
何度も寝返りをうって。
今日私の身におこったことを考えたり。
そうして、やっと眠りに落ちたのは真夜中を過ぎた頃だと思う。

慣れないベッドに夢と現実の間をゆらゆらとさまよっているみたいな浅い眠り。
それを、階下から聞こえてきた悲鳴が打ち破った。

突然現実に呼び戻された私は、一瞬何が起こったのかわからなくて。
私は即席ベッドの上に飛び起きた。
キョロキョロと見回した。

自分のベッドでぐっすりと眠っていたはずの彼女、よっすぃーは、そのときにはすでに部屋を出て階段を駆け下りようとしているところだった。
何が何だかよくわからなかったけど、私はよっすぃーの後をついて1階に下りようとした。

「来るな!あたしが呼ぶまで絶対下りてくんな!!」

立ち上がった私に気づいたよっすぃーが、振り返ってそう怒鳴った。
鋭い目。
そして、右手に握った、今度こそ本物の。
―――ピストル。
その迫力に、ちょっと気おされた。
そしてよっすぃーは風のように私の視界から消えた。

私はしょうがなく、よっすぃーに言われた通り、ベッドに腰掛けて大人しく待っていた。
下のざわめきが聞こえてくる。
誰か女の子たちの興奮した声やよっすぃーの何か指示する声、バタバタと慌ただしく歩き回るいくつもの足音。
何が起こったのか見当もつかなくて、妙に胸がドキドキとしてた。

58姫子:2003/04/06(日) 03:12

そうやって、落ち着かない気持ちでひとりで待つこと10分くらい。
階段を駆け上がってくる音がして、よっすぃーが現われた。

私はそのよっすぃーの姿に息を呑んだ。

彼女の手には黒いピストルがしっかりと握られたままで。
白いTシャツの肩口から胸元にかけて真っ赤な血が。

そして、彼女の目。

私が今まで見たことの無いような目をしていた。
ぎらぎらと、不吉なくらい変に輝いてて。

元から白い肌は、より一層色を無くして死人のようで。
でも口元は変に歪んで、どこか笑っているようにも見えて。

私は彼女の姿に。
いつかに見た戦争映画の。
戦場でたった一人死を目の前にして、それでも敵地に飛び込んでいく狂った兵士の姿を思い出した。

「小川が撃たれた。今医者を呼びに行ってる。あたしは行かなきゃなんないから、あんた、びびらない自信があるんだったら小川のこと看ててやって欲しい」

短いセンテンスで用件を伝える彼女の声は平坦で。
余計に狂気を感じさせた。

そして彼女は私の答えを待たずに、さっと身を翻すと、また下に下りていった。
私はとっさに彼女のあとを追った。

59姫子:2003/04/06(日) 03:13

そこに見たものは。

血まみれで横たわる少女。
明らかに失血状態を起こしてる青い顔と荒い息遣い。
新垣と呼ばれた、あの子供のままの少女が必死の顔でその子の横腹辺りをタオルで押さえている。そのタオルも新垣の手も、真っ赤に染まっている。
新垣の小さな顔を強調するように丸出しにしたおでこには汗が光り、目には今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。

足が、ガクガク震えた。
こんなのテレビの中でした見たこと無いよ。
こんないっぱいの血も。
誰かに撃たれた人間も。

でも。
私よりうんと幼い女の子。
撃たれたのも。
彼女のそばで涙をこらえているのも。

怖気づく私を追い越して。
違う私が二人の少女のそばに駆け寄っていた。

新垣の後ろに跪いて、彼女の手の上に自分の手を重ねて、撃たれた少女の傷口を押さえた。
新垣は驚いたように私の顔を見た。

「大丈夫。大丈夫だよっ」

今思えば無責任な言葉だったのかもしれない。
でも、そのとき、私は。
この撃たれた少女も新垣も助けてあげたいと。
安心させてあげたいと。
そればっかり思ってた。

新垣は力強く、大きく。
私の言葉にうなずいた。

60姫子:2003/04/06(日) 03:14

「あいぼん、のの」

そんな私たちの上に、よっすぃーの堅い声が重なった。
よっすぃーは昼間着ていたカーキ色のジャケットを着て、目深に黒いベースボールキャップをかぶって戸口に立っていた。
呼ばれたあいぼんとののちゃんは、まるで影のように、すっとよっすぃーのそばに立った。

機関銃のようによく喋る、ちょっとおしゃまな女の子のあいぼん。
何も話さないのに、何もかも見通したような澄んだ目をした女の子のののちゃん。

そんな風に私が感じてたふたりの女の子はどこにもいなかった。

そこにいたのは。
よっすぃーと同じように、どこか狂った―――。

ああ。

そのとき私はやっと気づいた。
彼女たちの目は狂ってなんかいるんじゃない。

研ぎ澄まされた、野性の目なんだ。

今まで私の住んでいた、あのぬるま湯のような街では、誰も持つ必要も権利も無かった、野性の目。
動物園の猛獣には無くて、路地裏をうろつく野良犬は持っている。
私には無くて、彼女達には必要な。
生きるために牙を剥く。
ギラギラといやらしく光る。
野性の目。

「カオリさん。あと、よろしく」

よっすぃーの感情を抑えた乾いた声。
背筋がぞっと寒くなった。

「どこ行くのっ?!」

彼女達は戦場に飛び出して行く。
そんなこと分かってたのに。
情けない声でそう叫んでた。

彼女達は答えずに、夜の闇に消えた。

61姫子:2003/04/25(金) 00:40

----------------------------------------

よっすぃー達が出て行ってしばらくすると、よれよれの白衣を着た女の人が、女の子を一人連れて飛び込んできた。

正義感に溢れた強い目をしたその女の人は、私と新垣を突き飛ばすように撃たれた少女のそばに座り込むと物も言わずに治療を始めた。

「できるだけたくさんお湯を沸かしてください。それから清潔なガーゼかシーツか、とにかく布切れを集めてください」
女の人が連れてきた、真っ直ぐな黒髪のどんぐりまなこの女の子が細い声で、でもしっかりした口調で言った。
私と新垣はワケも分からず、とにかく必死で二人の指示に従った。

目の前で繰り広げられる緊急手術。
床の上に寝かされたままの少女、ありあわせの道具。
医学の心得のないあたしにだってこんなのムチャなことだってわかった。
それでも女医さんは真剣な表情で治療を進める。

私と新垣はそんな様子を、手を握り合ってただ見ていることしかできなかった。
撃たれた少女が助かることを祈って。

62姫子:2003/04/25(金) 00:41

「とりあえず応急処置はすんだ。後は診療所に移すから」

しばらくして女医さんが言った。
助手の女の子が散乱した治療道具を手早く片付ける。
撃たれた少女は依然青白い顔のまま身じろぎもせずに横たわっている。

「あの、まこっちゃんは……」
新垣が泣きそうな声で尋ねた。
「魔法使いじゃないんだから、そんなの分かるわけないでしょ。とりあえず最善を尽くすだけだよ―――。あの3バカは、仕返しに行ったの?」
「はい」
「何で―――。あんた達みたいな無鉄砲な不良少女が死んでくのを見るために医者になったんじゃないんだから……」
女医さんはやりきれないと言うような顔で言った。
その横顔には疲れが滲んでいた。

63姫子:2003/04/25(金) 00:41

「片付け終わりました」
「よし、じゃあ車まで運ぼう。手伝って」

私たちはできるだけ少女を動かさないように気をつけて、そっと、外に停めてあった女医さんのボロボロのワーゲンの後部座席に少女を運んだ。

「私も行きます!」
運転席に乗り込もうとした女医さんに新垣が言う。
「無理よ、どこに乗るつもり?」
「でも……」
「大丈夫とは言わないけど、最善は尽くすから、あんたはここで神様にでも祈ってな。それに、もしあの3バカが怪我して帰ってきたら、あんたがいないと困るでしょ?」
「はい。……あの、よろしくお願いします」

「アタシも……あの子達が無事に帰ってくること祈ってるわ」

撃たれた少女を乗せて、女医さんの車は走り去った。

64姫子:2003/04/25(金) 00:42

----------------------------------------

部屋に戻ると、新垣はあたたかいコーヒーを入れてくれた。
その香ばしい匂いと温かさに、ほんの少し心が落ち着いた。

「あの人は、保田さんって言って。すごく頼りになるお医者さんなんです。何かあるといつもすぐに飛んできてくれて。一緒にいたのあさ美ちゃんって言って、保田さんの遠い親戚らしいんですけど、学校に行きながら保田さんのお手伝いをしているがんばりやさんなんです」

新垣が話してくれた。
多分、何か話していないと不安でしかたないんだろう。

「まこっちゃん、集金の帰りに「REBEL」のヤツらに捕まって、どうやらあいつらのアジトに連れてかれたみたいで。そこから逃げるときに撃たれたらしいんです。まこっちゃん、何とかここまで帰ってきて。それだけ言って気を失っちゃったから……。まこっちゃん結構大口の集金を受け持ってたから……それも取られちゃって。吉澤さんにごめんなさいってしきりに言ってて……。すごい、すごい血だったのに……」

ずっとガマンしてたんだろう。
急に、気丈だった新垣の顔が歪んで。
子供のように泣きじゃくり始めた。

「私と、まこっちゃんは、一緒にここに来たんです。私たちふたりとも同じ施設にいて。でもそこが嫌いで、ふたりで逃げ出してきて……。でも、どこにも行くところがなくて。そんなときに吉澤さんに声をかけてもらって……。ふたりとも物心ついたときから一緒で。姉妹みたいに。まこっちゃんが、まこっちゃんがいなくなっちゃったら……」

65姫子:2003/04/25(金) 00:42

私は新垣をそっと抱きしめた。
新垣は私の腕の中で、小さな体をもっと小さく縮こまられて泣いた。
他にどうしてあげたらいいのかわからなかった。

この街では。
こんな小さくて、一生懸命な女の子にも容赦なく、悲しみが襲うんだ。

「大丈夫だよ。ね?さっきの女医さんも言ってたじゃない。彼女が助かるように祈ってなって。
彼女も今がんばってるんだよ。私たちもがんばって神様にお願いしよう?」

私はこの街のことも、この子達のことも、ここのルールも。
何も知らない。
橋の向こう側の街でぬくぬくと守られて暮らして来たから。
多分、何にもできないし、甘いだろうし、弱いだろうし。

この子達を助けてあげることなんてきっとできない。

でも、こうやってそばにいてあげることで。
ほんの少しでも、力になることができるんなら。

それが、私の、今までの生活を捨ててもやりたかったことなのか。
それが、今までの私に足りなかった何かなのか。
そんなこと、わからないけど。

でも、私はここにいるべきなんだ。

こちら側の街が、この小さな少女達に容赦なく与える現実。
そして、必死にそれと戦おうとする少女達を見て。

わたしは、生まれて初めて、自分の胸の中に強い気持ちが生まれるのを感じた。

66姫子:2003/04/25(金) 00:44

----------------------------------------

わたしと新垣はいつの間にか眠ってしまったみたいだった。
二人で、折り重なるようにしてソファーの上で。

建物の外で物音がするのに気がついて、あたしは飛び起きた。
新垣もその音に目が覚めたらしくソファーから飛び起きた。

ぼうっとしているわたしとは反対に、素早い身のこなしで部屋の明かりを消して、ドアの方に向かう。

「何…?」
「飯田さんは上に行っててくださいっ」

さっきまでわたしの腕の中でメソメソ泣いていた女の子とは思えない、はっきりした口調。
なんの迷いもない素早い動き。
それでも彼女も、ここで生きて行くように鍛えられた人間なんだ。

わたしはぼんやりそう思った。

新垣はドアのそばに張り付いたまま動こうとも、口を開こうともしない。
敵の襲撃に備えてるんだってことは、わたしにもわかった。
わたしは、2階にいくべきなのか、どうしたらいいのか分からなくて、暗闇の中ぼんやりと立ち尽くしていた。

67姫子:2003/04/25(金) 00:45

辺りを静寂が包んで。
長く感じられた、でも本当はほんの数秒の緊張の時間の後。

「あたし、開けて」

聞き慣れた。
そして妙に安心感を感じさせる、よっすぃーの声だった。

新垣に安堵のため息がはっきり聞こえた。
新垣は鍵を開けて、扉を開いた。

扉の向こうは、もう朝日が昇り始めていたみたいで、真っ暗闇の部屋の中よりずっと明るくて。
わたしはまぶしくて目を細めた。
そうか、この部屋には窓がひとつもないんだ。

扉の向こうには逆光の中。
よっすぃーと頭ひとつ分彼女より小さなあいぼんとののちゃん。

わたしはその光景を今も忘れることができない。

68姫子:2003/04/25(金) 00:46

まるで後光が差してるみたいに。
光の中に立つ3人の影は、力強く、美しくて。
テレビで見た、夜明けのサバンナの。
野生のトラを思わせた。

彼女達は、戦士なんだ。

ふいにそんな思いが、わたしの胸にうずまいた。

「小川は?」

ドアを閉めて、新垣が部屋の明かりをつける。
よっすぃーもあいぼんもののちゃんも、とても疲れた顔をしていた。
でも目だけはは変な興奮が醒めないみたいにギラギラと輝いてた。

そして、3人の血に濡れた体。
ののちゃんの頬にこびりついた血。
よっすぃーの血に染まった手。

わたしは知らないうちに身震いしていた。
そのあどけなさを残す少女の顔と、赤黒い血のコントラストが、余計に恐怖を感じさせた。

「保田さんの診療所に。大丈夫かどうかは……」

69姫子:2003/04/25(金) 00:47

そこで、新垣は言葉を切って俯いた。
よっすぃーは、多分、そんな新垣の頭を撫ぜてやろうと手を伸ばして。
血に染まった自分の手に気づいて―――。
ほんの一瞬、悲しそうな顔をして、その手をジャケットのポケットの中にしまった。

「朝になったら見にいってやんな」

素っ気無くそれだけ言うと、そのまま2階に上がっていった。

あいぼんとののちゃんは、物も言わず、着ていた血に汚れた服をかなぐり捨てるように脱いで下着姿になると、部屋の隅の毛布に包まった。
小さな子犬のように寄り添って。
抱き合って。
一瞬のうちに眠りに落ちていった。

新垣は二人が脱ぎ散らかした服を拾い集めながら、わたしを見て笑った。

「よかった。吉澤さん達が無事に帰ってきてくれて。……飯田さんも眠ってください」
「うん、ありがとう」

70姫子:2003/04/25(金) 00:47

わたしは2階へ上がった。
普段ならそんなマナー違反したことなかったのに。
ノックをするのを忘れてしまった。

この街に来て、まだ1日しかたってないのに。
あっちの世界の自分を、もう忘れてしまったみたい。

ドアを開けると、よっすぃーが着替えている最中だった。

突然開いたドアに驚いてこっちを見る。
「ご、ごめん!!」
わたしはあわてて言ってドアを閉めた。

でも、はっきりと目に残ってた。
よっすぃーの真っ白い背中と。

その背中に、大きく斜めに走る、古い、赤い、傷跡。

一体彼女は今までどんな道を歩いてきたのだろう。
あの、白くて痩せた背中に、どれほどの傷を背負ってきたのだろう。
そして、これから先どれほどの―――。

71姫子:2003/04/25(金) 00:48

ガチャリ。
ドアが開いてよっすぃーが顔を出した。
「入れば?」

何だか妙に気恥ずかしくて、赤くなってしまった。

よっすぃーは、金髪を後ろに撫で付けて、黒いTシャツと鋲の付いた革ジャンを着ていた。
ジーンズのウエストに拳銃がねじ込まれているのが、ジャンパーの影にちらりと見えた。

「出掛けるの?」
不安になってたずねた。
また危ないところに行ってしまうんだろうか。

よっすぃーはジャンパーのチャックを閉めて、黒いサングラスをかけた。
ほんのちょっと、心のどこかが、「カッコいい」って言ってた。

「驚いただろ?でもココはこういうとこなんだよ。今日みたいなことは日常茶飯事なんだ。アンタはこんなとこに居るべきじゃないんだよ。明るくなったらさっさと帰えんなよ」

よっすぃーはわたしの質問には答えないで、そう言った。
何だか、バカにされたみたいで悔しくなった。

72姫子:2003/04/25(金) 00:49

「出てかないよ。怖くなんてないし」

本当は怖いと思ったくせに。

よっすぃーは、サングラスの上からじっとわたしを見た。
わたしはそのよっすぃーの目を睨み返した。

でも、出て行きたくなんかないもの。

先によっすぃーが目をそらした。
戸口に立ったままのわたしの横を歩き去る。
よっすぃーの横顔は疲れきって見えた。

ドンッ。
背後で音がして、振り返る。

よっすぃーがドアのそばの壁を拳で殴りつけた音だった。

「怪我してからじゃ、おせーんだよっ」
吐き棄てるように言って、よっすぃーは部屋を出て行った。


わたしの腕は、彼女を抱きしめるためには弱すぎるだろうか。

73姫子:2003/04/25(金) 00:50

つづく。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板