部屋の片付けをしていたら自作したエフェクターが出てきて、そういえばそのエフェクターはベースを弾いてる幼馴染の誕生日プレゼントのために作ったものだったと思い出した。側面には「present for 〇〇」という文字が打たれた黒のダイモテープが貼ってあり、何処かにぶつけたのかところどころが掠れて読みづらくなっている。結局このエフェクターを幼馴染に渡すことは叶わなくって、上京する際にそのまま持ってきたのだった。一人暮らしのワンルームで、床のゴミに混じって転がっていたプレゼント。もはや渡す相手のいない贈り物。昔のことを思い出しながらそれを見ていたら、なんだかその四角い箱が、滑り止めの大学で目的を見失って日々の暮らしに押し流される自分のように思えて、ひどく動揺してしまった。突然不安が降ってくる。自信が消える。四肢の感覚がぼんやりとしてくる。無理だ。やめてくれ。押しつぶさないでくれ。布団に潜り込んで、暗闇の中でイヤホンをつけ、催眠音声を聞き始めた。とても正気ではいられなかった。耳元で紅月ことねの口内粘膜が立てる卑猥な音とカウントダウンの声を聞きながら、焦燥感から背中を冷や汗でぐっちゃりと濡らして、一睡もできずに朝を迎えた。