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† 幻想 †

1rurikan:2005/05/20(金) 12:49:09



上弦の月 



錆びた鉄格子に葡萄の蔓が縺れ


夜の月に照らし出されるとき


面伏せて歩む少年に


花散った花梗は忍び寄り


たゆたう月光は時を止める


.

2rurikan:2005/05/20(金) 12:49:35



上弦の月が頭上にかかり街が眠りについた頃
ビルとビルの隙間に人影が動く。

通りから見えない物陰に密かなささやきが漏れる。


月の光で判別出来る男の顔は
青年というには幼く少年と呼ぶには大人びていた。

髪の色は漆黒の闇にも溶けてしまいそうな黒だが
瞳は青味を帯びた碧で そのアンバランスさが美しかった。


瞳の先には女がいて
煙草の煙を燻らせながら男を値踏みするかのように
身体に視線をすべらせ微笑んだ。


.

3rurikan:2005/05/20(金) 12:50:01



「…アビス…」


女の指が男の唇に触れる。

指先が唇のラインをなぞる。
男はされるまま目を閉じ微かに震えた。


指先はしばらく唇を弄び、
それに飽きたのか唇を割って中に押し入った。


男は少し怯えた様子だったが
壁際まで追い詰められて動きが取れず諦めたように女を見つめた。


女は悠然と微笑みながら口中を支配していく。
男の身体から力が抜けていきズルズルと壁伝いに落ちていってしまった。


.

4rurikan:2005/05/20(金) 12:50:25



懇願するような眼差しで見上げる男に
女は低く「・・・・?」とささやくと男の肩を抱き寄せた。


女は 
頷き、返事をしようとした男の唇を自分の唇で塞いだ。

男は驚いたように瞳を見開いて…ゆっくりと目を閉じ女を抱く。


抱きしめたというより すがりついたとも思える様子に
女は満足そうに微笑み 男の耳に何かを囁きながら


二人は夜の闇に紛れていった。


.

5rurikan:2005/05/20(金) 12:50:48



空が白み始めた頃、物陰から一人の男が現れた。
通りに出ると
ポケットから折れてしまった煙草を取り出し口に咥え火をつけた。


空を見上げた男の瞳が金色に変わり始めていた。





向かい側の道を急いでいた少年が足を止め
しばらく怪訝な目付きで男を見つめていたが
時計を見て慌てたように走っていった。


.

6rurikan:2005/05/20(金) 12:51:30




下弦の月 


儚い指の少年は杜に仮睡み


葉の間を死が斑に影を落としている


小径を距てる悲愁が期限をつげ


雲雀が傷痕をついばむ


帳の涯で竪琴が鳴り項をはっていく


紅薔薇の匂やかな剣に死の蹄をきく


.

7rurikan:2005/05/20(金) 12:52:02



ぼくの家の裏手には 糸杉の林が在り
その中央を細い道が一本、湖まで伸びている。

ぼくはこの湖へと続く道をとても愛していた。
ぼくとぼくの母とを結ぶ白い道。



糸杉林の一本道、氷の張った水溜り。


真沙雪に合ったのは、そんな寒い水曜の午後だ。
君は水溜りに張った氷を割っていた。


パリン、パキ、花はルージュ 帽子はノエルにどうぞ♪


遠い日、幼いぼくが父のひざに抱かれて聞いた子守唄。


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8rurikan:2005/05/20(金) 12:53:00



ー木曜日



真沙雪は居間の揺り椅子で午前中の光の中で仮睡んでいた。

ぼくは知っている。
真沙雪は父が連れてきたのだ。遠い国から。



ぼくは寝ている真沙雪の顔を見つめる。
陽の光を浴び透けてみえる桜色の頬、サラサラとした漆黒の髪、
ゆるやかなカーブを描く顎から喉元、ビロウドの睫毛…。
父の血を濃く受け継いだ少年。


.

9rurikan:2005/05/20(金) 12:53:33



「起きろよ」
ぼくは真沙雪の耳元で囁く。


「う…ん…」
大きな伸びをして真沙雪は目覚めた。


「あ…おにいちゃま…?」
人懐こい瞳をぼくに向け真沙雪は微笑む。
うつむき加減の顔をやや斜めに傾け悪戯っぽく瞳を輝かせる。


「どうして逢いに来てくれなかったのぉ?昨日ずっと待っていたのにぃ…」

「真沙雪っていうんだろう?」


「うん。こうだまさゆきっていうの…
 おにいちゃまはねぇ…こうだせりえっていうんでしょぉ?」

ぼくは優しく髪を撫でながら微笑んだ。


.

10rurikan:2005/05/20(金) 12:55:59



「そうだよ。真沙雪はいくつなの?」
真沙雪は安心しきった表情を見せ ぼくの方へ身体を傾けた。


「今月の14日にねぇ、ぼく、七歳になるの。あともう少しで七歳になるの…」


ぼくの瞳の中に影がよぎる。


「今月の14日か…その日はぼくのママの命日なんだ。7年前の14日」


真沙雪の黒い瞳があどけなく僕を見つめ長い睫毛が微かに揺れる。


「おにいちゃまのママ…死んじゃったのぉ…?」


「そうだよ、死んだのさ」
「かあいそうだねぇ」


.

11rurikan:2005/05/20(金) 12:57:00



ー金曜日




糸杉に囲まれたぼくの湖。湖に続く一本道。
少年は何も知らずに僕を追う。


「おにいちゃま どこにいくの?ぼくも一緒に行っていいでしょぉ」

それは幸せだけに見守られて育った者の言い方だ。わがままな…



「この並木道、キレイだね どこ行くのぉ?」
「この先に湖がある。ママに逢いに行くんだ」
「おにいちゃまのママ…湖にいるの?」
「そうだよ 湖の底に眠っているんだよ」


.

12rurikan:2005/05/20(金) 12:57:57



並木道が過ぎ目の前に湖が広がる。
セルリアンブルーの湖面が朝日に眩しかった。
ぼくと真沙雪は いちばん眺めの良い草地に腰を下ろした。

「ぼくのママの瞳の色も この湖と同じセルリアンブルーだったんだ」
「綺麗な人?」

「…とても…綺麗だった。白い薔薇が大好きだったんだ」

ぼくは持ってきていた白薔薇を湖に投げ入れた。
湖面に母が悲しげに立っているように見えた…。


…とても愛していたのに…


涙がこぼれそうになるのを真沙雪に見られたくなくて空を見上げた。
雲が早く流れている。小鳥たちが何やら騒がしい。
今夜は嵐が来るかも知れない。


.

13rurikan:2005/05/20(金) 12:58:35



「おにいちゃまはママに似ているのね?瞳の色も髪の色も日本人じゃないみたい」


ぼくは真沙雪を見つめた。

そうだよ ぼくの全てが母に似ている。
瞳や髪の色だけでなく虚弱な身体も何もかも…。

父に似た所は何ひとつないんだ。
真沙雪、君は本当に父の血を受け継いでいる。
黒い瞳も髪もぼくに無いものを持ち、


そして君が生まれた時、
君は ぼくから父と母を奪ってしまった。


父の愛と母の命を…。


.

14rurikan:2005/05/20(金) 12:59:14



ー土曜日。



夜半から発作を起こしベッドから起きられず窓の外を見て過ごした。
しばらく発作など起こさなかったのに…。
生まれつき壊れているぼくの心臓。


…ママ…苦しいよ…


扉の向こうで看護婦と真沙雪の声がする。

「今日、おにいちゃまは?」
「瀬里絵さまとは遊べませんよ。体調が悪いんですから。静かにしているんですよ」
「逢ってもいけないの?ぼく、つまんないなぁ 逢えないの〜?」

「…しかたないですね。注射を打ったばかりですからすぐに寝てしまいますよ。
 では少しだけ、顔を見るだけですよ?」
「うん」


.

15rurikan:2005/05/20(金) 12:59:52



扉を開ける音がして真沙雪が入ってきた。
ぼくは目を閉じたまま窓の外から聞こえる風の音を聞いていた。
真沙雪が耳元で囁く。

「苦しい?」
「ああ…とても苦しいよ。身体が鉛みたいに重いんだ」
「薬を飲んで注射もしたのに治らないの?」

「…ママがいてくれたら…とても楽になるんだけど…」
「どうして?」
「…ママは こんなときぼくにやさしくキスしてくれてずぅっと側についていてくれたから」

「楽になるだけなの?治らないの?」
「治らないよ…でもママの側に行けたら…もう苦しまなくてすむんだけど…」

「…じゃあ ママのとこにいけばいいのに」
「そう…そのうちに…行くと思うよ」
「ふぅ〜ん…」


.

16rurikan:2005/05/20(金) 13:00:25



「疲れた…真沙雪、あっちにいっておいで。少し眠るから」
「明日は?起きられる?」
「わからないよ」
「そう…じゃあ、ぼく行くから」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」


身体が重い。目をつぶると地の底に引っ張られていくみたい…。
もうすぐ ぼくは死ぬのかもしれない。


.

17rurikan:2005/05/20(金) 13:01:24



ー日曜日


午後になっても、ぼくは起きられなかった。
息をするのも辛い。陽の光が眩しくて目を閉じる。

今、いつもより薬を余分に飲むだけですぐに ぼくの心臓は止まってしまうんだろう。
机の引出しの中には少しずつ貯めた睡眠薬が致死量以上になっているはず。

ぼくはこれを、父と真沙雪の母の結婚式の日に飲むんだ…。
ぼくに出来るたった一つの反抗。
ママを裏切った父への復讐。


窓の外が騒がしい。
何かを燃やしているような木の爆ぜる音がかすかにしている。
ベッドから起き上がってそれを確かめる力も ぼくにはなかった。
ただ、なにか胸騒ぎがして落ち着かない。


.

18rurikan:2005/05/20(金) 13:02:03



ちいさな足音が近づき真沙雪が入ってきた。
「おにいちゃまぁ、パパから送ってきたよ。お手紙も…」

真沙雪は父から送られてきたらしいスーツを着ていた。
そして ぼくのために仕立てたらしいお揃いのスーツをベッドの上に置く。

「お手紙、なんて書いてあるの?」

真沙雪は待ちきれない様子で椅子に腰を掛けた。
手紙からいい香りがした。


内容は事務的な調子で
送ったスーツを結婚式に着て欲しいこと、フランスには水曜日に着くこと、
それまでに不必要な物は片付けておいてほしいとこなどが書いてあった。


…まさか…


.

19rurikan:2005/05/20(金) 13:02:59



「真沙雪、お願いがあるんだ。
 書斎に行って右側の本棚の上から四番目に白いアルバムがあるんだ。
 それを持ってきてくれないか?」

「うん、右の本棚の上から四番目、白いアルバムだね?」

真沙雪が行った後、ぼくはもう一度手紙に目をやった。
美しい文字が並んでいるけれど思いやりの感じられない文章。
それがそのまま父の顔に重なった。

母を愛さなかった父、ぼくを愛せない父の顔…。

ぼくは力を振り絞って起き上がり窓を開けた。
庭を見るとママの使っていた古い机や椅子に混じって
白いアルバムが灰になろうとしていた。


ママの写真…ママの思い出が煙になって空に舞い上がっていく…。

吐き気がして涙で視界が曇った。どうしてそこまで…。


.

20rurikan:2005/05/20(金) 13:03:56



「おにいちゃまぁ、白いアルバムなかったよ?
 抜いた跡もなかったし本当にあそこに入っていたのかなぁ?」 


ママの思い出は真沙雪の言葉のように
最初からなかった物として消されてしまった。


それならば このぼくはどこに行こう…
この世になかったはずの愛の、ママから生まれたぼくはなんなのだろう…


かわいそうなママ
父の裏切りを知った日に、真沙雪が生まれた日に湖に自ら身を沈めてしまった。

ぼくのたった一つの大切な想い出まで灰にしてしまった父を
ぼくは絶対に許さない。


.

21rurikan:2005/05/20(金) 13:04:35



ー月曜日


ようやくベッドから起きることが出来たぼくはテラスで午後を過ごしていた。
まだ身体が重い。動くのが辛い。

目を閉じていると真沙雪が近づいてくるのがわかる。
ぼくはそのまま目を閉じていた。

「おにいちゃまぁ 眠っているの?」

ぼくは答えない。


「パパはまだ来ないよ、ぼくつまんないや…
 おにいちゃま 寝てばかりで遊んでくれないんだもの…」


真沙雪はぼくの側で独り言を言っていたが
そのうち その小さな指でぼくの顔をなぞり始めた。


.

22rurikan:2005/05/20(金) 13:05:50



「眠っているのぉ?」
真沙雪の指は 眉、瞼、そして唇のあたりで遊んでいた。

「ねぇ 眠っているのぉ? ぼく、おにいちゃまのこと大好きだよ」

そして真沙雪のやわらかな唇がぼくの頬に触れた。


ぼくは目を開ける。
真沙雪の肩をつかみ そっと身体を離した。


「おにいちゃま いい香りがするね。
 ぼくのママもいい香りがするよ。同じね」

「ぼく…が、君のママと同じ…だって…!」
「うん そう」

「あ…はは… ぼくが ママを苦しめた人と…!?」
「どう…したの?おにいちゃま…」

「真沙雪 君のママはやさしいか?」
「うん おにいちゃまもすぐ好きになるよ。上等なキスもしてくれる…」


.

23rurikan:2005/05/20(金) 13:06:55



真沙雪は疑いのない眼差しで ぼくを見つめる。
うらぎりがどんなものか見せてやる。

「ふ…上等なキス…か。真沙雪、おいで」


近づいた真沙雪を抱きしめた。
ぼくのうなじにからみつく小さな指、
真沙雪の吐息がかかり話すたびに首筋に触れる唇。

「おにいちゃま…ふふ やっぱりいい匂いがする…」


ぼくは、はしゃぐ小さな生贄の唇を見つめた。

「おにいちゃまぁ…」

語尾が甘く伸びる。
それほど愛されていることの証が欲しいなら受けるがいい。


.

24rurikan:2005/05/20(金) 13:07:59



両手で小さな頬を包み込み真沙雪を見つめた。
真沙雪は微笑みながら僕を見つめ返し、そして気づく。僕の中の暗い炎を…。
真沙雪の顔から微笑が消え、瞳が怯える。


「い…やっ…! こわい…」

逃げようともがく小さな鳥。
ぼくの唇が小さな真沙雪の唇と重なる。

微かな隙間からぼくは真沙雪の小さな口中を支配する。息が出来ないように。
10秒もすると、この幼い小鳥は涙を流した。

喉をかすかに鳴らせて死を逃れようと力いっぱいの抵抗をする。
唇を離すと、堰を切ったように泣き出した。


「ぼくを好きだなんて言わないことだ
 真沙雪、君は君のママだけを愛していればいい」


.

25rurikan:2005/05/20(金) 13:08:56



ー火曜日



父と真沙雪の母が明日の午後にはくるはずだ。
その前に ぼくはやらなければならないことがある。

父の部屋へ行き
自慢のワインセラーから1本抜き取り中身を捨てコルクを持って湖に急いだ。

真沙雪は昨日のことでぼくに近づかない。
もっともチラチラと気にしてこちらを見ているけれど…。



湖には白いボートが1隻浮かんでいる。
ママと一緒に乗った古い木作りのボートだ。

持ってきた彫刻刀で底にコルクの大きさの穴を開け、コルクを打ち込んでおく。


.

26rurikan:2005/05/20(金) 13:09:36



家に戻ると真沙雪が門柱の影に隠れているのが見えた。
ぼくが近づくと泣き出しそうな顔をしていた。


「真沙雪、明日の朝 湖にいかないか?ボートに乗せてあげるよ」

曇っていた顔が一瞬にして微笑みに変わった。
真沙雪の笑顔は素直でとても可愛かった。


「ほんとぉ?ぼく絶対に行くよ。よかった、
 おにいちゃま 口きいてくれないかと思ったの。怒ってないでしょぉ?」



パパはぼくの一番大切なものを取り上げた。
だからぼくもパパの一番大切なものを取り上げるのさ。


.

27rurikan:2005/05/20(金) 13:10:27



ー水曜日



夜が明けると同時にぼくは部屋を抜け出し真沙雪を起こした。

「こんなに早く行くのぅ?…まだ眠い…」

「パパたちが着く前に戻らなけりゃ心配するだろ?早く行かなくちゃ。
 それからパパが贈ってくれたスーツを着ておいで」

「うん…」

外はまだ薄暗かったが このくらいなら湖まで行ける。

ぼくは真沙雪と二人で湖に向かった。
真沙雪ははしゃいでいたが、
ぼくには歩きなれたはずの湖までの道がひどく遠くに感じた。


.

28rurikan:2005/05/20(金) 13:11:13



湖に着くとボート前方に真沙雪を乗せ岸を離れた。


もうすぐママのそばに行ける。
パパの結婚式の日に、贈ってくれたスーツを着て真沙雪を道づれにして。
これがぼくの復讐。


「おにいちゃま…苦しいの?」
「…少しね」
「薬、飲んできたのぉ?」
「…ああ、たっぷりと…ね…」


岸を離れる時 外したコルクの穴から水が入ってきているが真沙雪は気づかない。
あと15分もすれば、このボートは沈んでしまう。


.

29rurikan:2005/05/20(金) 13:11:55



「おにいちゃまぁ…苦しいの? ぼくが上等のキスをしてあげたら楽になる?」

ぼくは…家を出るとき飲んだ睡眠薬のために真沙雪の声も姿もぼやけてしまっていた…


「真沙雪、ぼくが好きなら一緒にママのところに行って…
 真沙雪…どこに…いるの…?」


ちいさな手がぼくの手を握りしめる。

「ここにいるよ おにいちゃま」


ぼくはこのちいさな手を離さない。
湖の底に着くまでしっかりと握っていよう。可哀想なぼくの弟。


.

30rurikan:2005/05/20(金) 13:12:28



「 かあいそうなおにいちゃま…もうすぐ死んでママのところへ行ってしまうの?

  そうしたらパパはぼくとぼくのママのものになるんだね。

  ぼくねぇ、パパがおにいちゃまのこと話すのとっても嫌なの。

  パパはぼくだけのものなんだもの。

  でもね…おにいちゃまも好きだから

  おにいちゃまが教えてくれた上等のキスをしてらくにしてあげるね 」


.

31rurikan:2005/05/20(金) 13:13:39


真沙雪のひんやりとした指がぼくの首を締め付ける。
ぼくには もう…はね退ける力もない。

やわらかな唇がぼくの唇に重なった。
たった一度、教えただけなのにすっかり憶えてしまったんだね…。


ぼくは薄れゆく意識の中で真沙雪の無邪気なほほえみを見たような気がした。
握っている手が解けていく。


ぼくは最後の力を振り絞ってボートの重心を右に傾けた…。


.

32rurikan:2005/05/20(金) 13:14:48



湖で真沙雪が助けられたのはお昼近くだった。
転覆したボートにしがみついていたのを村人に見つけられたのだ。


医者は一緒に乗っていた兄が発作をおこして湖に落ち、
その弾みで転覆したのだろうと言った。


父は瀬里絵の命はもう長くはもたなかったのだと自分に言い聞かせ

村人は湖に生えている藻に絡まった遺体が上がることはないかもしれないと呟いた。


.

33rurikan:2005/05/20(金) 13:15:25



可哀想なおにいちゃま

ぼくを置いてママの所に行っちゃった

おにいちゃまの好きだった白い薔薇を

これからはずっと水曜日に両手いっぱい持ってきてあげる

今はママの側にいるから

きっとはじめて逢ったときみたいに笑っているよね?


.


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