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ハイライト小品店

1マシー:2015/01/25(日) 22:46:52
こんばんは

本日の小品
中也の憔悴とランボーの酔いどれ船

小話
年末年始に見た映画
新宿、オススメの珈琲屋
及び新宿、安ホテルで見た夢

マシー/2014/1/25(日曜日)

2ピースもいいけれど:2015/01/25(日) 23:06:18
「憔悴」 中原中也
私はも早、善い意志をもつては目覚めなかつた 起きれば愁〈うれ〉はしい 平常〈いつも〉のおもひ 私は、悪い意志をもつてゆめみた…… (私は其処に安住したのでもないが、 其処を抜け出すことも叶〈(かな)〉はなかつた) そして、夜が来ると私は思ふのだつた、 此の世は、海のやうなものであると。 私はすこししけてゐる宵の海をおもつた 其処を、やつれた顔の船頭は おぼつかない手で漕ぎながら 獲物があるかあるまいことか 水の面〈おもて〉を、にらめながらに過ぎてゆく    II 昔 私は思つてゐたものだつた 恋愛詩なぞ愚劣なものだと 今私は恋愛詩を詠み 甲斐あることに思ふのだ だがまだ今でもともすると 恋愛詩よりもましな詩境にはいりたい その心が間違つてゐるかゐないか知らないが とにかくさういふ心が残つてをり それは時々私をいらだて とんだ希望を起させる 昔私は思つてゐたものだつた 恋愛詩なぞ愚劣なものだと けれどもいまでは恋愛を ゆめみるほかに能がない    III それが私の堕落かどうか どうして私に知れようものか 腕にたるむだ私の怠惰 今日も日が照る 空は青いよ ひよつとしたなら昔から おれの手に負へたのはこの怠惰だけだつたかもしれぬ 真面目な希望も その怠惰の中から 憧憬したのにすぎなかつたかもしれぬ あゝ それにしてもそれにしても ゆめみるだけの 男にならうとはおもはなかつた!    IIII しかし此の世の善だの悪だの 容易に人間に分りはせぬ 人間に分らない無数の理由が あれをもこれをも支配してゐるのだ 山蔭の清水〈(しみづ)〉のやうに忍耐ぶかく つぐむでゐれば愉〈(たの)〉しいだけだ 汽車からみえる 山も 草も 空も 川も みんなみんな やがては全体の調和に溶けて 空に昇つて 虹となるのだらうとおもふ……    V さてどうすれば利するだらうか、とか どうすれば哂〈(わら)〉はれないですむだらうか、とかと 要するに人を相手の思惑に 明けくれすぐす、世の人々よ、 僕はあなたがたの心も尤〈(もつと)〉もと感じ 一生懸命郷〈がう〉に従つてもみたのだが 今日また自分に帰るのだ ひつぱつたゴムを手離したやうに さうしてこの怠惰の窗〈(まど)〉の中から 扇のかたちに食指をひろげ 青空を喫ふ 閑〈ひま〉を嚥〈(の)〉む 蛙さながら水に泛〈(うか)〉んで 夜〈よる〉は夜〈よる〉とて星をみる あゝ 空の奥、空の奥。    VI しかし またかうした僕の状態がつづき、 僕とても何か人のするやうなことをしなければならないと思ひ、 自分の生存をしんきくさく感じ、 ともすると百貨店のお買上品届け人にさへ驚嘆する。 そして理屈はいつでもはつきりしてゐるのに 気持の底ではゴミゴミゴミゴミ懐疑の小屑〈をくづ〉が一杯です。 それがばかげてゐるにしても、その二つつが 僕の中にあり、僕から抜けぬことはたしかなのです。 と、聞えてくる音楽には心惹かれ、 ちよつとは生き生きしもするのですが、 その時その二つつは僕の中に死んで、 あゝ 空の歌、海の歌、 僕は美の、核心を知つてゐるとおもふのですが それにしても辛いことです、怠惰を遁れるすべがない!

3ピースもいいけれど:2015/01/25(日) 23:11:17
「酔いどれ船」 ランボー
俺は悠然たる川を下っていく一隻の船だ   もう乗組員たちが俺にかまうことはない   濃いインディアンどもが奴らの目を奪い   色鮮やかな磔台に裸のまま釘付けにした   彼らのことはどうだっていい   フランドルの小麦やイギリスの綿を運んだ奴らだ   奴らと一緒に大波に飲まれ ただ偶然に俺はひとり気ままに川を下っている   昨年の冬のことだ  狂い叫ぶ海の隙間に向かい俺は走った   子どものように 夢のように   船長である俺に目もくれず半島は   勝利の声をあげていた   海の上で甦った俺を嵐は祝福した   瓶蓋より軽く俺は波頭を踊り狂った   捕らえられたら 永遠に逃れられぬ恐ろしい波   十日のあいだ俺は灯台の光を頼りに迷い続けた   海水は甘酸っぱいりんごの肉よりなおも甘く   瑠璃色のそれは俺の体内に侵入してくる   ワインのしみも飛び散ったげろも   船底から碇まですべて洗い去る   びしょ濡れのまま俺は海の歌を聞く   星空を映し出した海は群青色に輝き   俺の青く腐った腰のあたりを   溺れた男が夢を見ながら流れていく   突然に海を青く染めながら    けだるくスローなリズムに太陽は瞬き   LSDより強烈にロックより心広く   淀んだ愛を浄水する   俺は稲妻が空を引き裂き   海が曲がる様を見る   夕べに続いて夜明けがきて   次々とあれこれと起こった   低く垂れた太陽は紫の斑点をちらつかせ   神秘的な恐怖に彩られている   最も古い劇の役者のように   遠くで深夜の床板のきしむ音を囁く波   俺は夢を見た 緑色に光る夜は大雪原のように輝き   ゆっくりと海に向かって接吻する刹那には   かつてない生気がみなぎりわたり   金色に炎の奥が揺らめき歌っていた




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