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汎用記述スレッド3

1 言理の妖精語りて曰く、 :2018/09/23(日) 11:26:39
この場所は特に制限を設けない総合記述スレッドとして汎用的に扱います。
ここに記述された文章が神話を構成する断片となります。

前スレッド
//jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/movie/7039/1181226130/

41 言理の妖精語りて曰く、 :2018/10/30(火) 22:15:34
蒸気通信網は一応誰もが使用できる物なので、こういった噂は広まりやすい。
その都市伝説の中で最もメジャーな存在が紀察であった。
彼らは時には汚職を暴くヒーロー、また時には連続失踪事件の犯人として好き勝手に持て囃されていたのだ。
その整合性を置き去りにした活躍ぶりで、彼らは空想上のものと暗黙のうちに思われているのである。

42 言理の妖精語りて曰く、 :2018/10/31(水) 13:00:58
ベルディーラ 紀察

赤い髪の毛を燃やした男のような女の自己紹介を聞いて、ガリバーは咄嗟にスターシュが指名手配されていたことを思い出した。
星を一つ落としたのだ。その罪状は一般人の想像できるものではない。
「スターシュは悪くないよ」
口にしてから、ガリバーはしまったという顔をする。これでは擁護になっていない。
「ええと、彼女が悪いことをしたのは確かだけど、これから起こることにまで罪を問うことはできないっていうか……とにかく次の事件はスターシュのせいじゃないんだ」

「ナインスチームとスターシュが四大企業G.R.I.MのGyugooタワーで激突する。なぜならGyugoo蒸気船がその日、メンテナンスのためにドック入りするから。確かな情報か?」
「付箋紙魔術はちゃんとお金を出して買った同人誌どおりに使ったよ。気になるなら、君も買って使ったら?」
「いやそれには及ばない。ほれ、蒸気饅頭だ。食うか?」

ガリバーはびっくりした。都市伝説一個でお腹がいっぱいなのに、二個目だって!?
ぶんぶんと首を振るガリバー。

「謙虚な男だな。だが好きになった女が悪かった。スターシュは本命ではないが、捕まえられるなら私が捕まえちゃうよ。うひひひ」
「いいの?」
「ん?」
「スターシュを捕まえたら、ラース・オブ・ピタゴが起こるよ。ほら」

ガリバーの示した絶望的な付箋紙は、スターシュのすぐとなりにあった。
見えなかった。いや、見たくなかったのか。ベルディーラはその付箋紙を凝視する。

43 言理の妖精語りて曰く、 :2018/10/31(水) 18:38:01
ベルディーラが彼だったり、彼女だったりするのは、男モノのパーツと女モノのパーツの寄せ集めだからだ。
【蒸気キマイラ】を見た者は、大抵は吐き気やムカつきを覚える。それは普通は、許されていないやり方だからだ。
ガリバーはしかし、真っ赤に燃える髪の毛を見て、男のような女と認識した。それが正しいかは分からないが。

44 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/05(月) 07:07:46
「ふうむ。まあ、それなら話は別だ。実は、こちらでもあの女についてはいくつか不穏な情報を掴んでいてね」
「それなら!」
「焦りなさんなって。アイツの動きは、どうも読み切れないところがある。それを掴むためだったら、アンタをGyugooタワーまで連れて行っても損にはならないだろう。ただし・・・」
「ただし?」

その瞳を期待に輝かせるガリバーを冷たく一瞥すると、ベルディーラは、ゆっくりと路上を歩き一つのマンホールに足を乗せた。
そして彼のような彼女は、いつの間にか手に持っていたステッキで、足元のマンホールを叩きながら言葉を続ける。
「ただし、アンタが”三つ目の都市伝説”に巻き込まれる覚悟があるんならね。どうする?Gyugooタワーは、当日厳重な警備が敷かれ、ありったけの戦力が激突する場所となるだろう。こっちはアンタの安全なんか知ったこっちゃないよ!」

ガリバーは気付いた。
ベルディーラがマンホールを叩く音が、いつの間にか規則正しい律動(リズム)となっていることを。
ガリバーは聞いた。
地中奥深く、どこか遠いところから低く大きな音が響き、どんどんと大きく――――――――こちらへ近づいてくるのを。
ガリバーは見た。
マンホールから、大きな蒸気が吹き出し、強烈な閃光が漏れ出すのを。
それは、おとぎ話に出てくる、巨人の眼光と鼻息を彼に思い出させた。

そして、ガリバーはこの時ようやく”三つ目の都市伝説”に思い当たったのだ。
エンドミット市民の間で、まことしやかにささやかれ、憧れられる”三つ目の都市伝説”その正体は――――
「それでも良いなら、乗るんだね!”三つ目の都市伝説”【地下鉄道・スチームスパム】は、アンタを歓迎するよ!」

エンドミット地下に張り巡らされたパイプライン、蜘蛛の巣のように張り巡らされたそれらの中には、荷物運搬用の蒸気トンネルも存在する。
それは、高圧蒸気を用いてカプセルに入れた荷物を高速移動させるものだ。
だが、それを知るものなら、誰でも一度は考えたことがあるに違いない
”蒸気で荷物が運べるなら、人間は?”

これこそが、その答えだった。
”紀察” ”蒸気饅頭” に次ぐ第三の都市伝説”地下鉄道スチーム・スパム”
蒸気の都市にに隠されていた新たなる神秘が、今ここでガリバーの眼の前に姿を現したのである。

45 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/10(土) 07:04:27
人間公察アバンカが新調した装備は、全身の運動能力を強化する蒸気スプリング。
それに対して、機械車察ダーティカがあつらえた新装備は、胸部から突き出す巨大な蒸気砲だった。
両者はこれこそ最強と考え、それ以上の装備の存在など、夢想だにしなかったのである。

46 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 20:29:09
人間公察アバンカ
蒸気タバコを噴かす男。固めた髪は前方に飛び出し、三つに分かれている。細い目は感情を悟らせないためのもの。得意技は長いトレンチコートに隠した蒸気脚による飛び蹴り。

機械軍察ダーティカ
鏡面仕上げのフェイスに、左右合計6本の排気管。肩には蒸気エンジン。胸には蒸気砲を備え、左右の腕はスカートから一瞬で蒸気銃を抜き、早撃ちすることが可能。パーツは男物。

47 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 20:48:05
これから寒い季節になる。ガリバーは蒸気手袋を買った。
高圧蒸気に耐えられる本格型のやつで、蒸気エンジンと組み合わせれば、熊をも殺せるパンチを繰り出せる。との評判のベアキラーだ。
もっとも、蒸気エンジンなど高値の花であり、貧乏性のガリバーには強化外骨格ごと買って装備していくという発想がない。
それに、あまりベルディーラを待たせてはおけない。ガリバーは20分で支度しな! と言われていたのだ。スターシュとの約束の蒸気フライパンと卵も持った。
15分後に二人は合流し、地下鉄道スチーム・スパムはガリバーたちを乗せて、Gyugooの航空ドックへと発進した。

48 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 22:20:51
「蒸気か?」
頭がはっきりしているかを問う蒸気都市固有のスラングに、ダーティカははっきりと答えを返した。
「無論だ。この18ポンド蒸気砲で、今度こそナインスチームを、いいやスターシュもまとめて葬ってやる!なんなら、真に最新鋭の蒸気銃のタマもおまけにくれてやるぞ!昨日ロールアウトされたばかりの新品ホヤホヤだ!」

「まだ気にしてたのか、アレ・・・・・・・・」
急に早口になったダーティカに呆れるアバンカは、蒸気ジンを一気にあおると、頭から勢いよく蒸気を吹き出した。

ボロボロの床と屋根、色あせたポスター、調子はずれの歌をがなるオンボロ機械化歌手に、天井を覆う煙とスモッグ。
ここは、エンドミット第九地区にある密造酒場である。
エンドミット行政が、市民のガス抜きのために黙認している違法な酒場であり、そして同時に、本来なら敵対しあっているはずの者たちでさえ密談が出来る一種の”国境”であった。

49 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 22:21:31
ここは誰もが後ろ暗さを抱える辺境であり、それゆえに、ここにしかない不思議な空気があった。
最新、合理的、蒸気活力をモットーとして運営された合理的な蒸気都市が隠し持つ、非合理な吹き溜まり。
それもまた、この街が持つ顔の一つであり、蒸気の霧が産み出したハグレ者たちの憩いの場なのであったのだ。

「そうだ、やって、やってやるぞー!オレはやってやるんだー!」
周囲のことなどお構いなしに叫びまくるダーティカを尻目に、アバンカはひたすらに蒸気ジンを飲み、更に頭から蒸気を吹き出し続けた。

「まあ、所詮下っ端の我々には、正面からぶつかって勝つしか道はないか」
独りごちるアバンカ。
人間すら部品であるエンドミットにおいては、失敗続きの人間の末路も不良品と変わらない。
すなわち・・・・・・・・。

50 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 22:27:38
「存在しないはずの7個目のスチームキューブ、ありえない知性を示して消失した3つ、いないはずの紀察に出られないはずだった怪盗ナインスチームか」
それに、正体不明の少女スターシュの存在もある。
「どうせ我々は、明日の対決で”生きた機動盾”として使い捨てられるのだろうが、だが、それでも・・・・」

蒸気ジンの効力でふらつく頭を振ったアバンカは、ひとまず蒸気を取り直すことにした。
つまり、もう一杯蒸気ジンを呑んだ。
悩もうがどうしようが、どうせ明日は来るし、仕事はやらねばならぬのだ。
ならば、今のうちに呑めるだけ呑んでおくに限る。
明日は、どうなるか、それは誰にも分からないのだから。

「オイ、景気の良いヤツをいっちょ頼む」
アバンカは、オンボロ機械化歌手にコインを投げると、カウンターに突っ伏して朝まで寝ることにした。
どうせ、ダーティカの愚痴は朝まで終わらないし、仕事も朝までは無い。
ならば、ここで一夜をやり過ごすのも、また一興だろう。

51 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 22:44:05
オンボロ歌手がどんな悪魔的ジューク・ボックスだろうと、ダーティカの愚痴をかき消し、子守唄の代わりをするぐらいのことは出来るだろう。
安易にそう考えたアバンカだったのだが、次の瞬間、彼はひどく後悔することになる。

頭の穴にチップを受け止めるや否や、オンボロだったはずの歌手が急に浮かれて暴れだしたかと思えば、突然楽屋裏にすっこみ、きらびやかなスパンコールのスーツを着込んで歌いだしたからだ。
今までのノイズだらけのがなり声はなんだったのか、と問い詰めたくなるような美しいテノール。
エンドミット最高蒸気衛兵ですらマネ出来ないような、ピンと張った背筋に堂々とした態度。

52 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/13(火) 22:45:05
更には、歌いだしたその曲目ときたら・・・・・・・。
「軍歌かよ。なんで、こんな場末の歌手がそんなもの歌うんだ・・・」
場末の歌とくれば、歌うのは古びた流行歌と相場が決まっているだろうに。
しかも、それは戦場で散った悲劇の英雄を思う恋人を題材とした、悲恋歌だった。

「もう、勝手にしてくれ・・・・・・・・」
選択を完全に誤ったアバンカは、歌に張り合って更に大声を出すようになったダーティカの愚痴を聞き流しながら、迷わず寝ることにした。
汚れてボロボロの床、色あせているが栄光の記憶を描いたポスター、素晴らしい美声で悲劇的な死を歌い上げる機械化歌手、天井を覆うスモッグに映し出さえるダーティカの兵器自慢。
なるほど、ここは確かに吹き溜まりだった。
情熱を失い、文明に置き去りにされた、かつての英雄たちの古戦場たる”国境”線。

53 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/14(水) 05:59:26
第九地区の密造酒場は、単なるアンダーグラウンドな酒場ではなく、英雄を夢見た者たちの墓場だったのだ。
それはまるで、戦場で兵士が最後に見るという、夢のような。

混迷を増し続ける蒸気の酒場で、アバンカの意識におぼろげに残ったものは、蒸気となって渦巻く幻想であった。
それははかなく、美しく。
薄汚れた舞台、夢に破れた役者たちの上で、混じり合って巨大な怪物のうめき声となった酒場の騒音が、兵士の悲運を悲しげに嘆き続けていたのだ。

蒸気の街の夜は、こうして更けてゆく。
明日は、誰にとってもやって来る。
そう、明日だけは。

54 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/18(日) 10:31:40
エンドミットにおける蒸気は、力の象徴である。高圧蒸気を前提に作られた道具や蒸気パーツは無数にある。

では歯車は? 機械の錆は?

実はこれもまた、エンドミットにおける主要な動力機関を形成している。
蒸気圧を高めた果てにある蒸気タービン「ヘレネス」や「バルバロス」、「ヘカトンケイル」は、錆び付いた巨大な歯車を回す仕組みだと言っても良い。
その巨大な歯車の回転は中型、小型の歯車やスクリューへと伝導されていき、各都市区画に絶え間ない回転力を伝える。
そしてその回転は再び高圧蒸気へと変換され、蒸気力となって消費されるのだ。

長きに渡って酷使された歯車には、錆が食い込んでいる。しかし錆は滅びではなく力強さ、歴戦の歯車の証明である。
かつて動いていた歯車は、油を差せば再び動く。
それはエンドミットの住民ならば疑うことすらない神話。機械への信仰(スチームパンク)であった。

55 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/19(月) 01:59:23
とある蒸気サロンの一室。
山高帽にインバネス・コート、歯車の片眼鏡(モノクル)
腰にステッキとサーベル。胸元には蒸気と歯車で駆動する灰色の懐中時計。
此処まではエンドミットの上級市民の装いとしてはまあ珍しくない。
店先に止められたペニー・ファージング型の古めかしい銀色の二輪車。
髪は紳士風に撫で付けているが、髪油か髪質のせいか
いくらかがツンツンと跳ねてしまっている。
その老紳士はアクヒサルを名乗り、蒸気と歯車の時計で
幾らかの財を為した時計商とのことだった。

56 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/19(月) 02:20:21
ふと、蒸留酒をたしなむ老紳士アクヒサルに
スチームキューブの話が振られた。
「老人の酒の席での戯言と取ってもらいたいが……」
「蒸気の心臓……スチームキューブ」
「超高圧力の蒸気を高密度に封じ込めたキューブだ」
「階差機関(デファレンス・エンジン)はエンドミットで広く使われ
サイズの問題を解決した蒸気機関で動く機械式汎用コンピュータで
機械情報網の元なのは皆さんご存知だが……欠点の方はご存知かな?」
「階差機関は埃やゴミには極端に弱い」
「小さな砂粒が虫(バグ)が歯車に挟まるだけで……計算が狂い予期せぬ挙動を起こす」
「スチームキューブの制御階差機関の自我の獲得と野生化の一因かもしれぬ」
「御伽噺の猫の国の、世界を滅ぼせる力で動く蒼い光の発電機だって……」
「そんな大掛かりでやっていることといえば蒸気から電気をつくっているそうだよ……」
「ラース・オブ・ピタゴと人は茶化すが
世界を滅ぼすものを【文明】にするのは意外とありふれている……」
「人類の福音とするか禁断の知識とするかは使い手しだいではないかな……」

57 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/19(月) 11:42:36
Gyugoo蒸気船は灰色の分厚い蒸気雲を喰らい、たっぷりと水分を補給する。
嘘か真かたった1個のスチームキューブを核として、高圧蒸気を噴き出しながら空を進むその巨体。
それはまさしく空の支配者、竜か、あるいは、のっぺりとしたティドロソフのようであった。

58 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/19(月) 13:00:17
時計商の老紳士アクヒサルは世を忍ぶ仮の姿。
その正体はGyugoo社技術長、アーサー・ルクヒであった。

Gyugoo社は蒸気船の動力としてスチームキューブを完璧に制御している。そんな自負と酔いが、少しだけ老人を饒舌にさせていた。

「じゃあ、埃やバグが入り込んだから、R.I.M(ライム)陣営はスチームキューブの脱走を許したと?」

誰かからの問い掛けに、アーサー・ルクヒ、いや、時計商アクヒサルはポーカーフェイスで答えた。

「失礼……よく聞き取れなかった。何の話かな?」

59 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/19(月) 13:32:33
「名乗り遅れました。私こういう者です」

渡される名刺。そこには「怪盗ハックルバック with ナインスチーム」の文字が踊る。
驚いて見れば、名刺を渡してきた相手は、まるで糸が切れたかのように倒れるところだった。

「あー、また壊れた。これだから蒸気脳ハッキングはやりづらい。ま、名刺は渡せたからよしとしようか。ハハハハッ!」
倒れた男の口からは、甲高い笑い声が漏れ続けていた。

60 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/20(火) 20:47:25
「…………」
アクヒサルは蒸気脳の階差機関の歯車に別の歯車を組み込まれ
人事不省に陥った男には目もくれず、渋面を作って名刺を裏返した。
それは古典的な怪盗のような予告状だった。

私は図らずも貴社の蒸気船のを拝見する光栄を得たのですが
見れば見るほどその立派さに驚き致しまして
中でもその中心となる凄まじき蒸気を閉じ込めた立方体は
いかにも国宝としたいほどの代物。
そのとき、どうあっててもこの第六のキューブだけは
頂戴せねばならないと。固く決心したのです。
つきましては今夜正九時、私とその手のものが
貴社に頂戴したいと参上する次第でございます。

怪盗ハックルバック with ナインスチームより
Gyugoo社技術長アーサー・ルクヒ殿。

61 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/20(火) 21:00:42
老紳士は慣れた手つきで懐から工具を取り出すと
倒れ込んだ男の首筋の拡張階差機関スロットに
挟まった歯車を外してやる。
それが終わると店主に向き直り
パンチカード紙幣貨の束をカウンターに優雅に置く。
「すまないが店主、時間がない、蒸気通信交換機を
お借りしたいのだがこれで足りるかな。
喫緊に連絡せねばならぬ要件が出来た。
いかなる目的で欲するかが未知数だが対処はせねばならぬ」

62 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/25(日) 10:26:45
第九地区の密造酒場に一つだけある、蒸気通信交換機のベルが鳴り響く。
「はい、こちら"国境"線……ああ? アバンカとダーティカですか? 酔い潰れてぶっ倒れてますが……
『蒸気酔い覚まし』を飲ませてGyugoo航空ドックに急行させりゃ良いんですね……はい……お代を弾んで戴けるなら喜んで……」
交換機を置くと同時、酒場に怒声が響く。
「アバンカ! ダーティカ! 仕事だ! 管巻いてねえで稼いでこい!」店主の声に
「……失敗続きの俺たちに誰が何の用で?」アバンカが愚痴ると、
「Gyugoo技術長アーサー・ルクヒからの依頼だ。ナインスチームとの交戦経験のある奴が必須だとよ! この密造酒場の命運が掛かってる。シケるなよ!」
しくじるなよという意味合いのスラングと共に、蒸気酔い覚ましが投げられる。
アバンカは手で、ダーティカは口でこれをキャッチ。すぐに飲み下すと、目覚めた頭で会計をしようと立ち上がる。
「お代はもう支払い済みだ。さっさとバイクに乗って失せな。てめえ等にはまだ、"国境"線は早すぎる……行け!」
バイクの音が響く。皆が期待に満ちた顔で、その後ろ姿を見送る。
オンボロ歌手の歌う英雄譚は、ちょうどクライマックスを迎えるところだった。

63 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 15:03:11
オリーブから油を絞るにしても……
歯車と蒸気で動く圧搾機が無ければ大変な手間だ。
服にしても手縫いや粗雑な機織でチマチマやるよりは
蒸気紡績機ならばずっと早く、大量に安定した品質で
貧民でも買える服が行き渡る。
医薬を練る薬研も、手作業ならゴリゴリと引かねばならぬ……
私は……蒸気と文明を寿ぎ、啓蒙を礼賛することが
人類の幸福に繋がると信じていた。

64 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 15:06:01
繊維、紡績、鉱業、医療、農業……通信、移動手段の発達……
確かに、原始的で過酷な労働は蒸気機械の助けを借りる事で
幾分かは和らぎ、楽になったことは確かだ。
人々の断絶と孤独も、通信と交通の改良が癒すはずだった。
数字、人口統計上は多くの人間が生命の危機から救われ
命を拾ったといえるだろう……
だが、エンドミットは理想郷にはならなかった。
蒸気文明が多くの人間を助けた代償は
新たなる問題の発生と、零れ落ちる人もまた増やしてしまった。
いち早く蒸気技術に目をつけたブルジョワ層の台頭、
貧富の格差の増大や児童労働、環境汚染、事故の多発という問題。

65 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 15:29:34
「歪であろうと、歪んでいるやもという事は承知している……
が、蒸気の火を絶やすわけにも行かぬ。
たとえ悪法でも、あったほうが無法状態よりはましだ。
我々は問題を解決するまでの時間を稼がねばならないのだ……」
真鍮で造られた蒸気伝声管から、アーサー・ルクヒ技術長の
警備部に向けた訓示が静かに響いている……
「無用に歯車に血で油を差す事は望んでいない……
だが無軌道なものに件の物品が奪取されることになれば
何が起こるかわからない、是非も無いだろう。
交戦にあたって蒸気機関の破損には十全な保障
及び前金も渡しているが無論成功報酬の方も約束しよう。
任務遂行に当たって必要な物があるなら補給部に申し出るように。
無茶はするな、だが可能な限りの諸君らの精勤を期待している、以上だ」

66 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 19:18:17
アーサー・ルクヒはハンカチーフで額をぬぐい
蒸気伝声管の蓋を閉め、内線向け交換機を下ろす。
「さて、内向けの訓示は一先ずはこれでよし。
……ふむ、そういえば――
蒸気脳の階差機関をハッキングされて
修理工房送りになった男もいたな……ナインスチームは手練。
蒸気機関は便利がゆえに過信と油断も招く……
幾つかの機器をスタンド・アローンとし
人員や蒸気通信の警戒強化と相互にチェックもさせた方が良さそうだ」
手早く警備への指示内容を纏めながら……
老紳士は眼光鋭く、手元の杖に目を落とした。

67 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 19:26:33
老紳士が持つステッキ……
そのグリップには鷲の彫刻が施されていたが……
嘴と爪を模した引き金と撃鉄があった。
スチームケーン……仕込み杖型試製強化蒸気ライフル。
――高圧蒸気による仕込み蒸気銃の装弾数は1発限り。
小口径な上連射は効かぬがその高圧蒸気と対物弾丸の
弾速と貫通力、命中精度は
機械化歩兵を三人纏めて貫通できるほどの十二分な殺傷能力。
護身用にしてはかなり剣呑な代物だ。
腰に帯びた洒落たサーベルも歯車と蒸気機関が仕込まれた
ヴィブロギアブレードだ。
蒸気機関と歯車により刀身を超高速振動させ、金剛石をも溶断する。
「願わくばこやつの出番が来なければ良いのだがな……」

68 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 23:27:08
まだ白い点にしか見えない、空をティドロソフのように進む蒸気船がGyugoo社の航空ドックに接近してくる。

居並ぶ公察や軍察は精鋭揃いだ。だが、ピリピリとした感情は否応なく伝染していく。
ナインスチームとの交戦経験のあるアバンカとダーティカは、抜擢されて忙しい。
ナインスチームに蒸気銃が効かないこと、砲を集中運用しなければダメージを与えられないことなどを伝える。

「……俺がナインスチームならそろそろ仕掛けるタイミングだな」アバンカは言う。
「そうだな。だが妙に静かなのが気になる」ダーティカは言う。

そのときだった。ひゅるるるる……。地上からGyugoo航空ドックの周囲をめがけて連続して何かが打ち上げられた。
ドーーーン!パラパラパラ……。ドーーーン!パラパラパラ……。
空中にファンタスティックな模様を描く、猫の国で言う「花火」の数々。だが、アバンカは冷静に指示を飛ばす。

「花火は直撃を狙っていない。これは陽動……本命は別だぞ!」

だが手遅れだった。響く爆音に紛れて、蒸気ジェットを全開にしたナインスチームは、蒸気船に体当たりした。
むろん、ティドロソフ級の名は伊達ではない。蒸気船は空飛ぶ要塞であり、外殻は容易には貫けない。はずだった。

69 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/27(火) 23:56:30
バターのように、蒸気船の外殻に穴が開く。そして、蒸気船の内部に大量の蒸気を噴射する。
「花火……火薬……引火性ガスか……!?」
アバンカが気付いたときには、蒸気船の船長エルロイは既に杓子定規に決断をくだしていた。
「蒸気消火器、全機起動します!」

その直後、視界が、真っ赤に染まる。悪夢を見ているようだった。蒸気消火器は(全く同じ見た目の)可燃性ガスボンベと取り換えられていた。
蒸気船は爆発、炎上。ボロボロになりながらも航空ドックに滑り込んだのは僥倖と言えよう。

だがそこからが地獄だった。
蒸気船から降り立ったナインスチームは、大剣を抜き放つ。高圧重装甲で身を固めた公察や軍察の精鋭を、
すれ違いざま、まるでバターか何かのように軽々と切り裂いていく。強化外骨格の生み出すパワー、そして――

「ヴィブロギアブレード!?」倒れ行くバターを見て、ダーティカが驚きの声を上げる。
花火、蒸気ジェット、可燃性ガスボンベ、ヴィブロギアブレード……明らかにナインスチームには凄腕の協力者が居た。

70 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 11:10:19
「砲だ!砲を集中させろ!」
「もうやってる!」
「だめだ距離が取れない!」
「あのバターナイフをなんとかしろ!」
「うわあああ!」
怒号が飛び交い、戦争は潰走へと変わろうとしていた。銃を主装備にする公察は強化外骨格の錆取りにしかならず、蹴散らされる。
また防御と一発の火力を重視した編成の軍察は、そのリロードののろまさを突かれ、防御を無視するヴィブロギアブレードの格好の餌食になっていく。

なによりも恐ろしいのはナインスチームの機動力だ。
蒸気ジェットはナインスチームの巨体を軽々と運び、予期しない方角からの高速での奇襲を可能としていた。
アバンカは騎馬とかいう伝承を思い出す。人馬一体。一騎当千。あるいはこれが、それなのか。こうなればもはや、切札を切るしかない。

71 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 11:26:43
航空ドックは吹き抜けの作りになっている。二階、三階の暗い金網の通路からは、炎上する蒸気船と一階の惨状が全て見て取れた。

軍察特務部隊ブラックハウンド。闇に隠れた彼ら彼女らは、狙撃砲を構え、ナインスチームが足を止める瞬間を待っている。
だがナインスチームは止まらない。一階に配置された戦力の全てをすり潰す勢いで、ナインスチームは闘争、いや蹂躙を続けている。

「潮時か」
ブラックハウンドは未だ止まらないナインスチームに狙撃を敢行する構えを取る。そこに、先んじて一撃。天井からの狙撃が降った。凹む腕。取り落とすヴィブロギアブレード。

「今だ。殺れ」
20門の狙撃砲での全弾斉射。ブレードを拾いに行った先でナインスチームのスクラップが生まれる。誰もがそう思った。

72 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 14:54:28
「ここまでするか……!」
老紳士、技術長アーサー・ルクヒは蒸気モノクルの送り返す
分析情報と炎上する階下の惨劇を睨みつつ。戦慄していた。
鮮やか過ぎる奇襲の手並み、ナインスチームの図抜けた戦闘能力。
蒸気ジェットといいヴィブロギアブレードといい
本来はビッグフォーの厳重な秘匿下にある機密の兵装だ。
撹乱の花火や消火器をガスボンベに摩り替えた手管といい……
単独犯、一介のならず者ではありえない……
現状のエンドミット政府の体制に水面下で不満を
溜め込む生身の貧民の労働者が
不吉な蠢動をしていると報もあった。
それに他のビッグフォーが何らかの陰謀で
スチームキューブの奪取を目論むとしたら……
他企業と反政府組織の両者が組んで
ナインスチームに対する最新鋭の蒸気兵装の供与と
この鮮やか過ぎる奇襲の仕込みをするのもありうるのではないか?

73 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 15:10:13
そこまで思考をめぐらせたときと
軍察特務部隊ブラックハウンドによる一斉狙撃が
起こったのはほぼ同時だった。
常識的に考えればこれだけの数の蒸気砲の狙撃と一斉射撃を受け
耐え切れるような強化外骨格が開発されたとは考えにくい。
だがもしもナインスチームが
他のビッグフォーの技術支援を受けているのならば……
スチームリアクティブアーマー……蒸気反応装甲。
二枚の装甲の間に高圧蒸気を封入しておいて
敵蒸気弾が命中した際及び任意のタイミングで発動することで
本体の装甲には傷が付く程度にダメージを下げる代物。
態と耐えられる小規模な蒸気爆発で飛ばされた装甲板が敵弾を迎撃する……
この装甲を備えた強化外骨格の周囲に立っている
味方の兵士を死傷させるなど、問題点が指摘されていたが……
一人であるのならばこの欠点は逆に……

74 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 15:22:36
「いかん!皆のもの伏せよ!」
万一向こうに隠し札があることを警戒し
態勢を低くし、自らのヴィブロギアブレードを
起動させて防御姿勢を取るアーサー・ルクヒであったが
その警告は些か遅きに失したかもしれない。

75 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 20:19:23
技術長アーサー・ルクヒの予見した蒸気反応装甲による爆発は来なかった。だが、ナインスチームはスクラップになってもいなかった。
これはどういうことか? 誰もが一瞬、思考停止に陥った。

ナインスチームは取り落としたヴィブロギアブレードを拾いにいく。誰もがそう思っていたところに、特務部隊ブラックハウンドの敗因があった。
恐るべきはナインスチーム。
その蒸気ジェットは腕を撃たれてなお加速を止めず。種が割れれば何でもないことだったが、背中には2本目のヴィブロギアブレードがあった。予備兵装。未だ健在の左腕。それは希望を塗り潰す絶望的事実。

見誤った。
防御を捨て、攻撃に特化した狂気。それを、見誤った。
噴出した高圧蒸気が視界を遮り、ナインスチームの巨体が隠れる。狩りの時間が始まる。

「無邪気に『捕まえた』と思ったか? 逆だ。貴様らは『捕まえられた』のだ!」

76 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 20:48:10
「派手にやりすぎだ。あの脳筋バカ」
 紀察ベルディーラは、燃えるような髪を風になびかせ、Gyugoo航空ドックの屋上で毒づいた。
「ナインスチームは撃退。怪盗ハックルバックを逮捕。そういう筋書きのはずが台無しだよ……まったく」

「勝てるの?」ガリバーは問う。
「勝つさ。一体だれがあのナインスチームを牢獄エンドケージにぶち込んだと思ってるんだ?」
 驚愕の目でベルディーラを見るガリバー。確かに、ナインスチームは一度は捕まっているのだった。

「だがその前に……あんたをお姫様に引き合わせなくちゃね」

77 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 21:19:08
「見誤ったか……年は取りたくないものだ……!」
航空ドッグは最早ナインスチームの狩場と化していた。
特務部隊ブラックハウンドの断続的な悲鳴が聞こえる。
この状況で蒸気銃を放てば同士討ちの危険性もある。
あの図抜けた蒸気ジェットの加速で距離を詰めて
一人一人切り捨てていくのにさほどに時間は掛かるまい。
懐に入られれば狙撃蒸気銃は物の役にたたないだろう。
高圧蒸気による目くらましは数分で直に晴れるだろうが……
それが晴れた時に何人この場に生き残っているかは怪しいものだ。
よほどに良い目を積んでいなければまともに視界が効かぬだろう。
アーサー・ルクヒの蒸気の視界が僅かに揺らめいた。

78 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/28(水) 21:29:33
ナインスチームの急襲に反応できたのは
身に着けていた蒸気モノクルの気体分析性能と……
殆ど幸運によるものだった。
インバネスコートごと両断されて
ドッグ中に転がる赤いバターの仲間入りを
することだけは避けられたが……
一合でアーサー・ルクヒのヴィブロギアブレード――
彼がとっさに受けたサーベルは砕け散った。
ナインスチームの大剣型に加え蒸気ジェットによる加速、
強化外骨格による強化。
三乗された威力に耐えうるものではなかった。
発した衝撃で強かに壁に叩きつけられた。
「……ぐふっ!……無念、ここまでか……」
彼のコートから転がり出た懐中時計が
間もなく予告の時間の九時を指し示す所であった。

79 言理の妖精語りて曰く、 :2018/11/29(木) 05:51:43
「ネコネコモード! ネコネコモード!」ベルディーラの導く先、スターシュの声が聞こえる。ガリバーは知らずに走り出していた。
「くそっ! なんで起動しないんだ! あの時は確かに……」

「スターシュ!」ガリバーが声を掛けると、
「ガリバー? なんでテメエがここに居るんだよ!?」
すると、7番目のスチームキューブが脈打ち、あっけなく起動する。
「は? なんで起動したんだ? 私が散々試したときは無視を決め込んだのに……」

「……これは猫の国由来の話なんだが、『生体認証』という技術がある。どうやらそのスチームキューブ、ガリバー君にしか使えないのではないかな?」
ベルディーラは言う。
「タダでガリバーに渡せと?」
「そうするのが賢明だろう」
「……分かった」苦虫を噛み潰したようなスターシュ。

「言理の妖精、語りて曰く! 第7のスチームキューブ、ロボット形態! ネコネコモード!」
神話外骨格【ネコネコモード】はガリバーを包み込む。装着していた蒸気手袋ベアキラーは光り輝き出し、それが必殺の武装へと変わったことを告げる。
そして手をぐっと握れば、もはや見慣れたガトリングガンが飛び出す。

「狙撃による援護は任せろ。せいぜい暴れて来い」スターシュが言うと、
「にゃーん!!」
ガリバーとベルディーラは屋上から飛び降りる。
地獄となった戦場の中へとガトリングガンの雨を降らせながら、ガリバーはナインスチームを倒せるかどうか、いまいち自信を持てずにいた。

80 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/01(土) 08:07:30
神話には、火の神を中心とした神話と水の神を中心とした神話があるという。
火の神は、破壊やエネルギー・文明を司り、水の神は、自然の恵みと循環を司るという。

81 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/01(土) 18:43:21
「それに照らし合わせるなら、こいつは水の神の神話だ」

ネコネコモードを纏うガリバーを、ベルディーラはそう評した。
スチームキューブは『神話内蔵機関』だ。それぞれが無二の神話を紡ぎ、無限のエネルギーを供給している。
それをベルディ―ラが知っているのはビッグフォーが持つ秘密組織の一員だからだ(という噂)。

「これである程度は解明できた……
No.2、3、5、7が水の神話。
No.1、4、6が火の神話。
そして、ナインスチームの持ち出したNo.4が『機械への信仰(スチームパンク)』。…早急に他のキューブも解明したい所だ」
そう言って、彼女はGyugoo蒸気船へと目を向けた。

82 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/01(土) 19:47:46
「ただその前に!あの脳筋をエンドケージにぶち込まないとな!」
ベルディーラが吠える。ナインスチームは銃弾を無造作に躱し、こちらに剣を向けていた。
「チッ…おいハックルバック!キューブはもう盗んだのか!?」
「もう少しだ」
ブラックハウンドの一員…正確には、それを蒸気ハッキングした誰かが告げる。
ナインスチームはもう一度舌打ちを打って、ガリバーのベアクローを剣で受け止める。
「無邪気に『捕まえた』と思ったか? 逆だ。あんたらは『捕まえられた』のさ!」
ベルディーラの皮肉。彼の言う通り、ナインスチームに神話と謳われた外骨格を倒す手段はない。

但し、ナインスチームがスチームキューブを持っていなければ。

剣戟の最中、彼は後ろ手に鉄球を三つ、装置に込める。
球は加速し、演算し、立方体が蘇り始める

『いっくよー!』
秘める神話を体現するように、No.4が起動した。

83 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/01(土) 20:21:37
ナインスチームは左腕だけとなっていたが、ブレードを振るう手に迷いは見られない。
ナインスチームのヴィブロギアブレードと、ガリバーのベアクローが火花を散らすその裏で、
スチームキューブNo.4は起動、いや覚醒した。

『あれ? No.7じゃん。お久しぶりー』
『そういうお前はNo.4か。久しいな』

スチームキューブを使うことで戦闘で圧倒的有利に持ち込もうとしていたナインスチームは計算が狂ったことを知った。
まさか戦場でスチームキューブが世間話を始めるとは、誰が予想しただろうか。

『No.6はまだ映画を見てるのかな……。あいつ映画好きだから映画と蒸気ポップコーンがあると
 意識を持っても逃げ出さないんだよね』
しれっとGyugoo社の機密を暴露するNo.4

84 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/01(土) 20:24:18
「無駄話はそのへんにしろ。俺はNo.7とやらを倒さねばならん」
ナインスチームはそう言うが、ガリバーのベアクローでの猛攻は止まらない。
ベルディーラの拳が纏う金属を溶かす青白い炎も、ナインスチームにとっては厄介極まりない。

その死闘に、壁に叩きつけられていた技術長アーサー・ルクヒが割り込んだ。
ナインスチームのブレードを精確に狙って、スチームケーン――試製強化蒸気ライフルを叩き込む。
ギンと音を立てて、ヴィブロギアブレードの歯車は弾け、振動を止める。

「とっておきだ。なかなかに効くだろう?」

ナインスチームはスチームケーンが何発装填されているか知らない。蒸気ジェットでガリバーとベルディーラとの距離を取り、
まずはアーサー・ルクヒだけでも片づけてしまおうと結論付ける。

だがその瞬間、アバンカの蒸気脚による奇襲と、ダーティカの18ポンド蒸気砲がナインスチームを捉えた。

85 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/02(日) 10:50:53
ガギン!! ゴガッ!!

振動を止めたヴィブロギアブレードを盾にしてアバンカの蒸気脚を受け止めたナインスチームだったが、
そのあと僅かに遅れてきたダーティカの18ポンド蒸気砲の直撃を受けて、態勢を崩す。

「ハックルバック! 残念だが撤退する……武器を失い、5対1では分が悪すぎる」
「……あともうちょっとだったんだけどなあ」
「予告の今夜正九時はとうに過ぎている。貴様のミスだろう」
「……まあそうですね。では皆さん、さーよーうーなーらー!」
二つの花火がひゅるるると打ちあがる。
「……いかんっ!!」
技術長アーサー・ルクヒが、照明弾を警戒して腕を両目に押し当てる。それは正解だったが、周囲に警告を発するには遅すぎた。

86 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/02(日) 10:51:22
カカッッッッッッッッッッッッッ!!
視神経を焼き切るとまでは行かずとも、目がまったく使い物にならなくなるほどの閃光が、Gyugoo航空ドックを満たした。

「逃げられたか……ナインスチーム……あの脳筋め」
ベルディーラが呟く。ガリバーはもともとネコネコモードの強化外骨格越しに周囲を見ていたので無事だった。
アバンカとダーティカはのたうち回っている。

「スチームキューブは無事か?」
技術長アーサー・ルクヒが言うと、Gyugoo蒸気船の中から声が聞こえる。
『この映画、面白かったよー。次の映画はまだー? おーい』
「無事だったか……」
張り詰めていた糸が切れたようにアーサー・ルクヒは倒れ、ベルディーラはそれを受け止めた。

87 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/03(月) 12:30:32
号外!号外!ナインスチーム撃退!Gyugoo蒸気船健在!号外!号外!

88 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/04(火) 08:00:35
史上最初の脱獄犯と、神出鬼没の怪盗。
その2人を相手して修繕可能な被害のみを受けたというのは、確かに号外にするべきニュースだ。
皆浮かれていた。だから気づかなかったのだろう。

スターシュとナインスチームは、未だ激突していないことに。

89 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/06(木) 21:29:37
「ようナインスチーム。満身創痍だな。素人のガリバー相手に随分と、てこずったか?」スターシュの嘲りの声が降る。
「……」
「無視か。せっかくの再会の感動が台無しだな。こんなときに、あのベルディーラならなんて言うだろうな」
「……」
「『セーフハウスがある』だったか? 確かにそりゃセーフハウスだよなあ。エンドケージは安心安全な牢獄だもんな! 騙される奴が間抜けだ!」
「……死にたいのか」
「そんな、三下みたいな言葉を吐くなよ。アタシの狙撃銃の機嫌が悪くなるぜ?」
「……」
「スチームキューブ……破壊に使うだけなら3個あればエンドミットは粉々だ……なぜわざわざこんな死地に飛び込むような計画に乗った?」
「……」
「当ててやろうか。アンタは、創造したかったんだ。破壊じゃなくて、な」
「……」
「死んだ娘のために、スチームキューブ掻き集め、ありえぬ奇跡を乞い願う。ロマンチストここに極まれりだな」

90 言理の妖精語りて曰く、 :2018/12/08(土) 10:08:03
「……貴様には関係の無いことだ」
「否定はしないんだな」
「……」
「でもまあ分かるよ。アタシも、スチームキューブで猫の国に行こうとするロマンチストだからな」
「……」
「じゃあそろそろ無駄話はやめて、戦闘といこうか!」
 スターシュの台詞に、
「……貴様の位置は音響から逆算してバレている。俺がいくら満身創痍でも、貴様の頭を握りつぶすことくらいはできる」
 ナインスチームは返すが、
「それはどうかな?」
 スターシュは自信たっぷりに、言い放った。


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