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53 第1回8番(13)アルスタ・ヘルモンド :2008/03/09(日) 23:31:10
 館の中庭には、いまだ動くことのできない竜がいる。その先には平地が広がり、夜闇の下でメクセオール率いる四十四勇士が隊列を組んでいた。さらにその先にはシャーロームの森がある。そして今、森の中に人影が見えていた。クリスだ。髪を切っているが、それはたしかにクリスだった。しかし、その目の中に宿る意識はクリスではない。防寒具は着ず、それどころかまるで寝巻きのような格好だったが、それで微塵も寒さを感じていない。その様子が彼の神性を表している。
「来てやったよ」
 クリスの姿をした者が、声を響かせた。これがクリスの喉から出たものか、と驚くような、邪悪な声だった。自分もまた、あのような声を発していたのか。
「よってたかって邪魔しやがって。なあ、お前ら。お前ら、何なんだよ。なんで邪魔するんだよ。僕は、キュトスに逢いたいんだ。それだけだ。それが、いけないか? こんな大騒ぎして、何十人もで取り囲んで、神や竜まで出てきやがって。弱いものいじめだろ、これ。なあ、アルスタ。君はわかるよね? ずっとクリスを愛し続けてきた君になら、僕の気持ちがわかるはずだ。どうだい、アルスタ、僕の言う通りにすれば、クリスは返してやる。どうせ僕はこの世界からは離れるつもりなんだからさ、クリスの身の安全は保障できるよ。僕が嘘をつくのが不安なら、魂の契約を交わしたっていい。ねえ、僕の言ってること、わかるよね?」
 誰も、何も答えない。アルスタは、アルセスの言葉の意味を考えた。自分はクリスのためならどんなものでも投げ打つことができる、これは本心だ。クリスを本当に救えるのなら、自分はアルセスの言葉に従うべきなのだろうか。道理はあるように思える。そして、キュトスを失ったアルセスの思いも、アルスタにはよく理解できるのだった。
「お断りする」
 アルスタは、そう言っていた。その選択が最も正しいと確信している自分が、少し不思議だった。
「あなたは一度、ここで休むべきだ」
 アルセスの顔が、遠目にもはっきりと分かるほど引き攣った。突然、その体が高く高く持ち上げられる。地面が盛り上がったようにも見えたが、よく見ると違う。その下にあるのは肉の塊だった。肉塊は瞬く間に体積を増し、館ほどの大きさにまで成長する。その表面に人の手や、足や、顔が見える。人間の身体を、寄せ集めたものなのだ。アルスタは直観する。あれこそ、生贄とされてきたヘルモンド家の女性たちではないか。
 その巨大な肉塊に、青い金属が覆いかぶさる。文様に見覚えがあった。『石板』だ。アルセスによって掌握された『石板』エクリオベルクは、いまや彼の意思で自在に形を変え、その装甲へと変化していく。灰黒色の肉の塊が、青く武装されていく。
 メクセオールは、黙って見てはいなかった。彼の一声と共に、四十四人の勇士が一斉にアルセスの包囲にかかる。半円を描くように詰め寄る勇士たちの中で、メクセオールだけが一人突出して前にいる。彼の抜き払った朱の剣身が、夜の闇の中で輝いている。一閃されたそれは、肉塊に深々と食い込んだ。その瞬間、アルスタの視界もまた朱色に染まる。赤い、壁のようなものが現れていた。アルセスと勇士たちが、竜とメクセオールによって張られた陣に包まれたのだ。
 平地一帯を呑み込む、巨大な紅玉が出現したようだった。やがて紅玉の内外は法則の異なる空間として隔てられ、中を覗き見ることもかなわなくなる。陣が、完成したのだ。館の衛兵から声が上がる。なるほど、これが《宝石の魔》メクセオール=アインノーラの秘術かと。


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