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企画リレー小説スレッド

18 第一回4番(3) :2007/09/24(月) 22:32:59
「全く、『キュトス』に文系人間を入れなかったことをこれほど後悔したことは無かったよ。彼女は『PANGEON』による世界創造以前から自分の中に一つの世界を作り上げていた。それもわりと広大なね。そしてその世界には多数、実に数万人を超える登場人物がいた。結局中核人物を特定できなかった我々は、その時点での中核人物の特定を諦め、『PANGEON』の構築を優先した」
「そして現在までの研究結果の末、中核人物の候補者として特定された人物が彼らというわけですね」
 「うむ」と答えて、ヘリステラの視線は再びモニターへと戻る。
 モニターの中では、アルセスという男を先頭に登場人物達が歩いていた。この登場人物達の一人が、彼女の作り上げた世界の、そして物語の核、彼女自身だ。
「教授はショックを与えて、彼女をこの世界から出そうと考えているのではありませんか?」ふと、助手が口を開いて言った。「物語を破綻させて、そのショックで彼女をこの世界から引きずり出そうと考えている。違いますか?」
「だったら、どうする?」
 ヘリステラは助手の言葉を否定しなかった。確かに、それが彼女のシナリオだったからだ。多少乱暴な手だと自覚していたが、彼女達『星見の塔』には時間が無かったのだ。
「出来れば彼女をこのまま彼女の一生を夢の中で終わらせてやりたかった。彼女自身が紡ぐ物語の中で終わらせてやりたかった。だが、『この世界』の現実がそれを許してくれなかった。まったく、あの爺が不死身じゃなかったとはね……」
 マグドール卿の持病が悪化したのは1ヶ月前のことだった。『星見の塔』の総力を上げた治療にも関わらず、マグドール卿の病状は次第に悪化していった。そして、最長で余命半月というのが『星見の塔』がマグドール卿に下した診断結果だった。
「そして、マグドール卿は弁護士を通じて遺言書を作成した。その遺言書の内容は自分の財産を彼女に相続者させるということ。当然のことながら他の遺族達はこぞってこれに反対だ。まぁ、無理は無いな、彼女は『この世界』の住人ではないのだから。そして遺族や関係者による協議の結果は……」
 マグドール卿が他界するまでに彼女がこの世界で正気に戻ったのならば遺言は履行される、もし正気に戻らなければ遺言状の内容は不当とみなし破棄、財産は親族による運用委員会で運用される……それが親族達の協議の結論だった。
「もし、マグドール卿が亡くなるまでに彼女が正気に戻らなければ、『星見の塔』への出資は最悪打ち切り、そして良くても大幅減額だ。とてもじゃないが今のような研究を続けるのは無理だろうよ。もちろん、『PANGEON』の運用もな」
「マグドール卿の親族は、みんな元々『星見の塔』への出資に反対してますからねぇ」
「彼らが欲しいのは短絡的に富を生み出す産業研究機関さ。我々のような人類のための福祉研究機関なんかじゃない」
 それは事実だ。元々『星見の塔』が創設されたのは、武器商人として莫大な富を稼いだマグドール卿の世界に対する贖罪としての側面もあるのだ。だが、そんな老人の贖罪など、これから生きていく若い世代の人間には何の意味ももたない。
「だから急いで彼女を目覚めさせようという教授の考えは分かります。しかし、これは『北風と太陽』という童話で例えれば、北風が旅人のマントを剥ぎ取ろうとする行為な気がするのです」
「では、君は他の方法があるというのかね、デフォン君」
 そこで初めてヘリステラは助手の名前を呼んだ。「3日下さい」と助手、デフォンは答える。
「3日あれば教授の理論を確実な方向に、『北風と太陽』で言うところの『太陽』に是正できると思います」
「良いだろう、シナリオは50%進行を遅延させよう」
 ヘリステラは答える。それはこの助手を信頼してのことだった。
「次期『キュトス』の一員の候補と目される君の実力を拝見させてもらおうじゃないか」


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