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98氷の玉座(1):2006/10/16(月) 02:43:01
「この玉座は冷たい」
象牙と白磁、そして白豹の革で作られた純白の玉座を見て男は呟く。
「まるで座ると凍てつくようだ。『北方諸侯による連合帝国』、いや『北方帝国』というその名に相応しいぐらいに座った人間を凍てつかせる」
男は玉座の皮の手触りを確かめるように撫で、そして腰を下ろした。
かつて男はこの玉座に憧れていた。
いつかこの玉座に腰をおろし、広大な国家の全てをその手に統べることを夢見ていた。
そして、夢は叶った。
誰かの力によるものではなく、自らの力によって。
北方帝国を構成する諸侯全ての代表者にして北方帝国の皇帝。
それが彼だ。
けれど、手にしてみればその玉座は彼の思い描いていたものとは違った。
玉座は『皇帝』と言う人間を超えた存在のために作られたものでは無かった。
『皇帝』と言う人間のために作られたものでもなかった。
「人形のための椅子だったのさ」
皮肉な台詞を口にして彼は口元を歪める。
確かにその通りだった。
「北方帝国」という国家に、意思を持って政を行う『皇帝』という個人は必要ではなかった。
この国にとって必要なのは、諸侯達の代表者である央機卿の決めた政に対して「よきに計らえ」と一言答えるだけの人形だった。
「だったら、最初から精巧な人形でも作って座らせておけば良かったのさ」
無論、そのシステムのメリットというものを彼は知らないわけではない。
皇帝は君臨し、央機卿の政に対して許可と言う名の看過を行う。そうすれば、その政が失政であっても責任を負う事は無い。
そして、その事は何があっても国家と言う名の体制は維持されることを意味する。
「つまらん」
だが、彼は思う。そのような体制の下に『皇帝』と呼ばれ、玉座に座らせられるのは、生きて氷漬けにされるようなものではないかと。
だから彼は皇帝になった時に、少しづつ央機卿の権限を奪い、自らの権限を増やしていった。
「俺は氷漬けの人形にはならない。生きた、暖かい血の通う、人間としてこの玉座に座る」
しかし、その対価は、央機卿達による寵妃を使った暗殺未遂というものだった。
彼はじっと自らの両の掌を眺める。
寵妃を抱きしめ、愛し、その体温を確かめた掌だ。
だが、その寵妃は、もういない。この世のどこを探してもいない。
「央機卿制度の廃止の代償の対価と考えるべきなのだろうな……いや、俺が『皇帝』という名の人間になるための対価と考えるべきか」
だが、その対価は高すぎたのではないかと思う。


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