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135メクセトと魔女 5章(3):2007/02/26(月) 00:18:22
 何もかもが溶けてしまいそうな漆黒の闇の中で、石畳の上に彼女は横たわっていた。
 この部屋で意識を取り戻して長い、長い時間が経っていた。
 特に拘束されていたというわけではないが、虚脱感のあまりに彼女は身動きひとつできないままだった。
「もう、全ては過去のことなのね」
 力なく彼女は呟く。
 これが夢であれば、と思う。
 目を覚ませばメクセトが隣にいて、いつものように寝顔を覗き込んでいて、それに対していつもの強がりを良いながらその腕の温もりを感じることがでいればどれだけ幸せなことだろう?
 だが、もう彼はいない。
 彼女の記憶に、まるで夏の日差しのように鮮烈な思い出を残して去ってしまったのだ。
 目を閉じて耳を澄ませば、今でも彼女の心の中にはあの高笑いが響いている。
「……世界は貴方に手の平を返したのに……」
 彼の最期の言葉が、彼女の記憶の中で蘇る。
 ……最高だ、お前ら!……余はお前らを愛しているぞ!
 あの言葉はきっと本心からの言葉だったのだろう。
 彼はこの世の全てを、例えそれが綺麗なものでも、そうでないものでも、全てを受け入れてそう言ったのだ。
 彼女が破壊しようとしたものですら受け入れたのだ。
 分かった上で全てを愛したのだ。
「ずるいわ……貴方」
 彼女は、じっと両手を見つめた。
 メクセトはもういないのに、その手を握ったその感触だけはその手に残っていた。
「世界を滅ぼせても……滅ぼすことができないじゃない」
 彼女の両の頬を涙が伝って石畳に落ちた。
「あなたが、世界で一番嫌い……」
 自分の体を抱きしめながら、嗚咽混じりの声で彼女は言う。
「でも……世界で一番貴方のことが……」
 全てを無くしたメクセトには、その次の言葉を聞くことはもうできない。


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