したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

アメリカ軍がファンタジー世界に召喚されますたNo.15

1名無し三等陸士@F世界:2016/10/03(月) 01:41:59 ID:9R7ffzTs0
アメリカ軍のスレッドです。議論・SS投下・雑談 ご自由に。

アメリカンジャスティスVS剣と魔法

・sage推奨。 …必要ないけど。
・書きこむ前にリロードを。
・SS作者は投下前と投下後に開始・終了宣言を。
・SS投下中の発言は控えめ。
・支援は15レスに1回くらい。
・嵐は徹底放置。
・以上を守らないものは…テロリスト認定されます。 嘘です。

386ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:13:17 ID:pfN/LKiE0
1486年(1946年)1月29日 午後1時 ヒーレリ領オスヴァルス

アメリカ太平洋艦隊司令長官を務めるチェスター・ニミッツ元帥は、オスヴァルスにいるアメリカ北大陸派遣軍司令官
ドワイト・アイゼンハワー大将を訪ねていた。
2人は会談の後に昼食を終え、今は食後のティータームを楽しみながら雑談を交わしている。
彼らの表情は、先日に起きたある事件が話題に上ると、次第に暗くなり始めていた。

「……現場ではそのような事があったのですね」
「ホーランド・スミス司令官の報告を見る限りは、凄惨な光景が広がっていたようです。しかし、クロートンカ事件は、本国でも大きな
話題となっています。一般市民の中には、シホールアンルの断固たる決意を垣間見た気がした、という者も現れ始めているようです」

アイゼンハワーは溜息混じりにそう答えながら、本国から送られてきたニューヨークタイムズの新聞に視線を向けた。
クロートンカ事件とは、1月22日に解放の成ったクロートンカで発生した事件で、クロートンカに潜入したシホールアンル軍ゲリラ兵が
ミスリアル軍将校を殺害した後、逃走中にアメリカ軍部隊に追い詰められ、降伏勧告を無視して自殺している。
この25日付けの新聞には、追い詰められた女性兵が、自らの腹に剣を刺し、苦痛に顔を歪めながらも前を睨み据えている写真が一面で掲載され、
見出しには

「シホールアンルゲリラ兵、独白の後の一突き」

という文字が大きく書かれていた。
この報道は、アメリカ本国で大きな話題となり、新聞に書かれた事件の詳細を知った国民の間で議論が巻き起こっていた。
その中には、

「軍が敵の捕虜を追い詰めすぎて、ハラキリを強要させたのだ!」

という軍を批判する声も上がり始めており、軍上層部はその対応に追われているという。
だが、国民の多くは、追い詰めても降伏せず、自らの命を絶った敵兵に背筋を凍り付かせると同時に、覚悟を決めたシホールアンルが、予想される
帝国本土侵攻で死に物狂いの抵抗を行いかねない事態に、憂鬱めいたものを感じ始めていた。

387ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:14:08 ID:pfN/LKiE0
「本国では色々と議論が沸き起こっておりますが、私としては、この事件は様々な要因が重なって起きたと思います」
「と、言いますと?」

ニミッツは怪訝な表情を浮かべながら、発言を促す。

「この事件は、我々連合国が行った行為が原因で起こった物かもしれないのです。まず第一に考えられるのは、現在実施中のシホールアンル本土に対する
戦略爆撃です。自殺したレニエスと言う名のシホールアンル兵は、あの場所で、我が軍の行為を糾弾したと言われています。そして、次に考えられるのが、
同盟国軍将兵が抱える、心の闇です」
「心の闇……ですか?」

アイゼンハワーは頷いてから、言葉を続ける。

「合衆国も加入している南大陸連合は、既に8年以上もシホールアンルと戦っています。この北大陸にいる同盟軍将兵の中には、緒戦から戦い抜いた者も
多数在籍していると聞きます。歴戦の将兵というと、頼りになる印象がありますが、一方では、それは……戦場の闇を多く見てきたという事にもなります」

アイゼンハワーは新聞にある顔写真に視線を向ける。

「クロートンカ事件で殺害されたリヴェア・ヘミートゥル少佐は、ミスリアル軍の中でも歴戦の第8機械化歩兵師団で大隊長を務める程の優秀な軍人で、
ラルブレイト閣下(マルスキ・ラルブレイト大将。ミスリアル軍派遣軍司令官)とも面識があり、彼曰く、優秀なミスリアル軍軍人を具現化したかのような
人物と言われていました。ですが……」

アイゼンハワーは語調を重くしながら、言葉を続ける。

「彼女は、4年近く前のミスリアル本土決戦で、故郷を焼かれ、家族を失ったという辛い過去がありました。その後も、ヘミートゥル少佐は軍に在籍し、
赫々たる戦果を収め続けていたようですが、彼女の部隊は、先月の中旬に行われたシホールアンル軍残党の掃討で、捕虜殺害の残虐行為を行っていた事が
明らかになりました」
「捕虜殺害……」

ニミッツは表情を曇らせる。

388ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:14:49 ID:pfN/LKiE0
「ヘミートゥル少佐は真面目であったが故に、その内心には、敵に対する憎しみを溜め込んでいたかもしれません。それが、先の掃討戦で一気に
溢れ出した可能性が高い……と、私はラルブレイト閣下から、そうお聞きしました」
「もし、そのヘミートゥル少佐が捕虜殺害を命じていなければ、助かった可能性はあると思われますか?」
「ゲリラ兵がどのような動機でヘミートゥル少佐を害したかは不明ですが……もし、ゲリラ兵がその部隊の所属していたのならば、自暴自棄の
復讐に走る可能性はあるでしょう。ですがもし、捕虜として遇していれば……」

アイゼンハワーは、右手の人差し指で、新聞を3度ほど小突いた。

「本国で、このような新聞記事が出る事は無かったと、私は思います」

彼はそう言ってから、新聞を脇に避けた。

「さて、重要なのはここからです。この一件で、同盟国軍内でも同様の問題を抱えている、または、問題が起きつつあるという事が考えられる
ようになりました。今後は、帝国本土での戦いとなり、周囲にいるのは純然たるシホールアンル帝国の臣民ばかりになります。既に、先の
戦略爆撃でシホールアンルの一般市民に多数の犠牲が出ている事は、誠に痛ましい事ですが、逆を言えば、外れ弾の多い爆撃だからこそ、
ある意味仕方ないという諦めも生まれます。ですが……これからは爆撃機のみならず、地上部隊が大挙して敵国本土に押し寄せます。
そこで更なる残虐行為を我が連合軍が行ってしまえば……敵側をより焚き付ける事になり、それは戦線にも多大な影響を及ぼします」

アイゼンハワーは一旦言葉を止め、コーヒーを少し飲んでから続ける。

「そこで、私は連合国派遣軍の司令官をもう一度集め、派遣軍将兵に対する心のケアを重視するように提案するつもりです。要するに、
カウンセリングや、戦闘後のサポートを強化させるのです」
「なるほど……我が海軍も、その面に関しては抜かりのないよう心がけているつもりです。ですが、同盟軍は元々、そう言った考えが
根付いていないのが現状ですからな。それに、我が合衆国軍も努力しているとはいえ、問題は山積みのままです」

ニミッツは腕組をしつつ、渋い表情を張り付かせたままアイゼンハワーに言う。

「とはいえ、不確定要素を減らすためには、必ずやるべき事だと思います。心の闇は必ず取り払うべきであり、それが完全に出来ぬとしても、
せめて和らげるべきです。骨は折れますが、幸いにして、派遣軍の将星達は皆、聡明な方ばかりです」

389ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:15:30 ID:pfN/LKiE0
「そこが救いですな」

ニミッツは微笑みながら、相槌を打った。

連合国派遣軍の司令官達は、それぞれの本国内では一癖も二癖もある軍人として知られているが、実際は聡明であり、アイゼンハワーの
提案にも良く応じてくれていた。
無論、彼らは彼らなりに物事を考え、異論を挟むことも決して少なくない。
だが、アイゼンハワーは、この小さな事件で明らかとなった、連合軍将兵の心に潜む闇を顕在化させないためにも、根気よく彼らに提案し、
説得して行こう……と、心中でそう決意していた。

「私は、戦争終結後に連合軍がシホールアンルと同じになる事は決して望みません。ですが、このまま何もしなければ、他の侵略軍と一緒と
罵倒されるのは必定……となるでしょう」
「その為の改革、という訳ですな」

ニミッツが言うと、アイゼンハワーは深く頷く。

「戦争に勝者と敗者と言う間柄は必ず出る。しかし、勝者だからと言って敗者に対してやりたい放題とは限らない……その考えが広まれば、
後の占領政策も円滑に進むと、私は確信しております」


1486年(1946年)1月30日 午前7時 ヒーレリ領リーシウィルム港

リーシウィルム港には、幾多もの艦船が沖に艦首を向け、煙突から排煙を上げて今しも出港しようとしていた。

「出港用意!」

アメリカ太平洋艦隊所属の第5艦隊旗艦である戦艦ミズーリの艦橋では、第5艦隊司令用長官を務めるフランク・フレッチャー大将が、
周囲の僚艦を双眼鏡で眺め回しながら、出港用意の報告を聞いていた。

390ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:16:24 ID:pfN/LKiE0
「長官、そろそろです」

第5艦隊参謀長であるアーチスト・デイビス少将の声に、フレッチャーは無言で頷いた。
第5艦隊の主力である第58任務部隊は、先の第2次レビリンイクル沖海戦で大きく損耗したが、それ以降は損傷艦の修理と戦力の補充に努めた為、
TF58に在籍する各母艦航空隊はフル編成で出撃が可能となった。
第58任務部隊は現在、正規空母9隻、軽空母7隻を有している。
3日前までは正規空母8隻、軽空母7隻であったが、先の海戦で損傷したリプライザル級空母のキティーホークが、修理を終えて戦列復帰したため、
母艦戦力は16隻に増えた。
TF58はこれらの空母を4つの任務群に分けている。

TG58.1は、正規空母リプライザル、ランドルフ、ヴァリー・フォージ、軽空母ラングレーを主力に据えており、この空母群を戦艦ミズーリと、
重巡ヴィンセンス、軽巡ビロクシー、モントピーリア、サンディエゴと、駆逐艦24隻が護衛する。

TG58.2は正規空母レンジャー、グラーズレット・シー、軽空母タラハシー、ノーフォークを主軸に据え、これを戦艦アラバマ、重巡セントポール、
ノーザンプトン、軽巡フェアバンクス、フレモント、デンバーに加えて、駆逐艦24隻が周囲を固めている。

TG58.3は正規空母サラトガ、モントレイ、軽空母ロング・アイランド、ライトを主力とし、重巡デ・モイン、軽巡ウースター、ロアノーク、
ウィルクスバール、メーコンの他、駆逐艦26隻で構成される。

TG58.4は正規空母キティーホーク、ゲティスバーグ、軽空母サンジャシント、プリンストンを主力としており、この4空母を戦艦ウィスコンシン、
重巡カンバーランド、ボイス、軽巡サヴァンナ、スポケーン、メンフィス、駆逐艦24隻が護衛する。

正規空母9隻のうち、3隻は最新鋭のリプライザル級航空母艦であり、残り6隻も、未だに新鋭艦に部類されるエセックス級空母ばかりである。
航空戦力は総計で1400機にも上り、今回の作戦でも、その威力を大いに発揮するであろう。
双眼鏡を洋上に向けると、既に出港を終えたTG58.2の空母群が、陣形を整えながら沖へ向かいつつある。

「それにしても、久方ぶりの出撃ですな」

デイビス参謀長がようやくと言いたげに、フレッチャーに話しかける。

391ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:17:09 ID:pfN/LKiE0
「陸軍も連合軍と共同で、ヒーレリ領からシホールアンル軍を完全に叩き出したと言います。我々も、これに乗じて暴れ回りたいものです」
「参謀長の言う通りだが、肝心のシホールアンル海軍は既に戦力を消耗している。残りの敵竜母が決意を決めてこっちに向かってくれば、
こっちも多少楽にはなるが」
「決意と言えば……先日のクロートンカ事件の記事を思い出しますな。全く、追い詰められたとはいえ、言いたい放題言ってくれたものです」

参謀長の言葉を聞いたフレッチャーは、苦笑しながら返答する。

「だが、当たっている所もある。我々も油断していたら、敵に痛いしっぺ返しを食らわされるぞ」

フレッチャーは戒めの言葉を発した。

クロートンカ事件の顛末は、第5艦隊内にも伝わっており、将兵の中には、自害したゲリラ兵をクレイジーだと罵倒する者も現れたが、
フレッチャーのように、油断せぬように改めて気を引き締める者も、少なからずいる。
現に第5艦隊は、これまでに敵の主力艦隊と死闘を繰り広げており、多数の僚艦を失っている。
クロートンカ事件の顛末を、戒めとして捉える雰囲気が艦隊内で醸成されつつあった。

「先導駆逐艦、出港します!」

見張りの声が艦橋に響き、フレッチャーは双眼鏡をミズーリの艦首方向に向ける。
先導役のアレン・M・サムナー級駆逐艦4隻が、発行信号を放ちながら外界へと向かっていく。
それにニューオリンズ級重巡のヴィンセンスが続き、僚艦のクリーブランド級軽巡ビロクシー、モントピーリア、アトランタ級軽巡のサンディエゴが後を追う。
ミズーリの発する機関音が徐々に大きくなり、程無くして、艦体がゆっくりと前進を始めた。
艦前部に据えられている2基の48口径17インチ3連装砲は、仰角をやや上げ、砲身は空を睨んでいる。
長い艦首は海水を掻き分け、先導した駆逐艦、巡洋艦の後を追っていく。

「リプライザル、出港開始!」
「ランドルフ、ヴァリー・フォージ、出港開始しました!」

見張り員から僚艦出港の報せが次々と艦橋に伝えられる。

392ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:17:42 ID:pfN/LKiE0
リプライザル級航空母艦のネームシップであるリプライザルは、ミズーリの後に続いて、その巨体を前進させていく。
重量的には、満載時に6万トン以上の重量を誇るミズーリに分があるが、全体的にはリプライザルが大きい。
特に、飛行甲板も含めた艦の長さは295メートルと、リプライザルの方が長い。
その威容は、合衆国海軍の期待を担った新鋭艦に相応しい物であった。
後に続くエセックス級空母のランドルフとヴァリー・フォージも、体のでかい後輩に負けじとばかりに、誇らしげに洋上を航行する。
後続するインディペンデンス級軽空母ラングレーは、それらに追随する従者と言った感があるが、1943年に初陣を飾って以来、幾つもの大海戦に
参加した歴戦の軽空母だ。
乗員から「ラッキー・ラングレー」というあだ名を頂戴した軽空母は、今回もまた、その任を十二分に果たすべく、威風堂々と出港しつつあった。

ミズーリはリーシウィルム港を出港した後、時速12ノットで所属する僚艦と共に輪形陣を組みながら航行を続ける。

「長官。今回は敵の本土西岸部の拠点を順次攻撃する予定ですが……昨日の会議で、状況次第ではルィキント列島ならびに、ノア・エルカ列島の爆撃も
考慮すると言われていましたな」

デイビス参謀長の問いに、フレッチャーは頷いてから答える。

「同地点には、現在、潜水艦部隊が進出して海上交通路の寸断に当たっているが、敵が何らかの対応策を行った際、通商破壊に支障を来す可能性がある。
例えば、針路を大きく北に大回りさせ、本土と列島の直通路は使わない……と言った感じに」

フレッチャーは、右手で大きく半円を描いた。

「だが、元を叩いてしまえば、そんな事をする余裕は無くなる。聖地であった辺境の島にまで空母機動部隊が襲撃してくる……敵からしてみれば、
溜まったものじゃないぞ」
「まさに、悪夢と言えますな」

デイビス参謀長は、唯一の聖地すら、高速空母部隊の射程に捉えられたシホールアンルに対して、ある種の同情すら感じていた。

「とはいえ、ルィキント列島とノア・エルカ列島の攻撃はまだ決めてはいない。まずは、沿岸部を叩いて、そこから天気と相談してから決める事だな」

フレッチャーはそう言ってから、視線を空に向ける。
空は久しぶりに晴れ渡っていた。
本来なら、第58任務部隊は1月22日に出港をする筈であったが、進出予定の現場海域が予想以上に荒れ続けていたため、出港日は延期となった。
陸軍が地上戦で活躍を続けている間、待機を続けていた艦隊の将兵は切歯扼腕の想いで天候の回復を待っていたが、今日、それがようやく叶う事となった。
また、出港日が繰り延べになった事で、キティーホークという強力な援軍を迎え入れる事も出来た。
キティーホークは先の海戦で、思わぬ損傷を追って戦線を離脱したが、本国での修理を終えて前線復帰を果たしたのだ。
今日の好天は、戦力を再編したTF58の出港を祝っているかのようであった。

「さて……今度はこちらの決意を見せる時だな」

フレッチャーはミズーリの動揺に身を任せつつ、小声でそう呟いていた。

393ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/06/29(金) 20:18:33 ID:pfN/LKiE0
SS投下終了です。

394名無し三等陸士@F世界:2018/06/29(金) 22:24:18 ID:7GZKSXek0
乙です。
レニエスの言い分はわからんでもないが、一応仕掛けてきたのはお前達シホット側なんだぜ?
それとも情報は末端兵のレニエス達には伝わってなかったのか?
情報統制敷かれてた場合は一番惨めだろうな。

ただシホットの執念というべきものを理解したとしても、彼らが敗戦後にまってるのは地獄しかないだろうな。
生き残ってる働ける層の若者達の人数を考えると執念でなんとかなるとはもう思えないな。

395名無し三等陸士@F世界:2018/06/29(金) 22:48:20 ID:xcVmLF4g0
乙でした
二人の復讐者(アヴェンジャー)、どちらも真っ当な死に方は出来なかった(しなかった)か
だがそれが復讐者という存在が均しく背負う運命なのかも知れない…

しかしこの一件、メディアに取り上げられた結果これほどまでの影響を及ぼすとは
ペンは剣よりも強し(この場合はカメラですが)とはまさにこのことか

396名無し三等陸士@F世界:2018/07/03(火) 07:21:24 ID:QFrqX0M20
あ、あれ?
更新されてる。。。。

なんだこれ、神か?

397名無しさん:2018/07/08(日) 21:01:23 ID:bwOFyX2Q0
全く、さっさと殺しておけばよかったのに

ならば、二度と立ち上がらないように徹底的に叩き潰すのみだ

398名無し三等陸士@F世界:2018/07/08(日) 21:13:25 ID:Jc/oq3m20
彼らも我々と同じように祖国を愛し、家族を愛している。だから彼らに最高の敬意を払い、細心の注意をもって…皆殺しにしろ…  師団長ヴァンデグリフト少将(ジパング)

この言葉はいいよな

399名無し三等陸士@F世界:2018/07/12(木) 00:24:50 ID:Z7mT7VDw0
投稿乙

ある意味恨みつらみが浅い、新参者の米軍が侵攻軍の中心だから
この程度で済んでる。って感じなんだよな。

もしソビエトポジの国がこの世界にあったら今頃犠牲者数一桁多かったろうな…

400名無し三等陸士@F世界:2018/07/13(金) 00:58:03 ID:Z7mT7VDw0
戦後には『非人道的魔法兵器全面禁止条約』とかできそうとかふと

401ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:23:13 ID:ATfagNLg0
皆様レスありがとうございます!

>>394氏 特殊部隊出身とはいえ、彼女は末端兵ですから上から伝えられる情報も多くは無かったですね
開戦の理由などは都合よく伝えられているだけですので

>敗戦後
罪深き先人達の愚挙として糾弾される事もあり得そうです
国土は開戦前と比べても、既に荒れまくっておりますから、もう悲惨な物です

>>395氏 >しかしこの一件、メディアに取り上げられた結果これほどまでの影響を及ぼすとは
内容からしても非常にショッキングでしたからね。ただ、連合軍側での綱紀粛正も進むでしょうから、
ある意味ではいいタイミングで起きた事件とも言えるでしょう。

>>396氏 お待たせいたしました。ごゆるりとお楽しみください

>>397氏 石器時代に戻してあげましょう(鬼畜

>>398氏 その言葉、自分も好きですね。海兵隊らしさが前面に押し出されている感じが特にいいです。

>>399氏 >もしソビエトポジの国がこの世界にあったら今頃犠牲者数一桁多かったろうな…
そんな国があったら、戦場のみならず、普通の市街地でももっと悲惨な状況になってましたね。
占領地での略奪暴行なんかは当たり前でしょうし。

>>400氏 フェイレに施されたような戦略級魔法は、間違いなく禁止にされるでしょうな。

402ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:37:14 ID:ATfagNLg0
それでは、これよりSSを投下いたします

403ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:38:17 ID:ATfagNLg0
第287話 狭間の国の使者

1486年(1946年)2月1日 午前8時 シホールアンル帝国首都ウェルバンル

シホールアンル帝国首都ウェルバンルの北1ゼルドのホメヴィラと言う集落に差し掛かった馬車は、そこで首都方面より
出てくる避難民の群れに巻き込まれた。
それまで快調に進んでいた馬車は急に速度を緩め始め、程無くして止まってしまった。

「特使殿!申し訳ありませんが、しばらく通りの流れが悪くなります!」

御者台に座る男が、内装の施された車内に向けてそう伝える。
馬車に乗る2人の男は、それを聞いても特に気にする様子は無かった。

「相分かった。道を行く民に気を付けながら動かしてくだされ」

黒い三角状の帽子を被った2人の男の内、茶色を基調とした、特徴のある服装をした男が顔に笑みを交えながら、御者にそう返す。

「了解いたしました」

返事を聞いた御者は、そのまま前に向き直った。
もう1人の男は、一旦窓に顔を向け、複雑そうな表情を浮かべてから、仕えている彼に顔を向ける。

「若殿、見て下さい。シホールアンルの民が大勢、家財道具を抱えて都から逃れております……ウェルバンルは、シホールアンル随一の都の筈ですが」
「うむ……やはり、見通しが暗いのであろうな」

若殿と呼ばれた男は、鼻の下に整えた髭を触りつつ、付き人である彼に言う。
若殿……もとい、イズリィホン将国特別使節であるホークセル・ソルスクェノは、特に何も感じていないような口調で部下に言いはしたが、
彼も内心では、世界一の超大国であるシホールアンルで見るこの光景に、心の中で驚きを抱いていた。

404ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:38:51 ID:ATfagNLg0
「となると……幕府上層部はやはり、この国を」
「クォリノよ。ここはこれぞ……?」

彼は、クォリノと言う名の付き人に対し、自らの口の前に人差し指を置いた。
特別使節補佐兼、ソルスクェノの付き人であるクォリノ・ハーストリは、それを見て軽く咳ばらいをした。

「は、少し口が過ぎましたな」
「とはいえ、そちがそう思うのも無理からぬ事だ。幕府の言う事も、ようわかる」

ソルスクェノは、先日受け取った本国からの通信を思い出し、頷きながらそう言う。

「しかし、これでイズリィホンに戻れますな。実に6年ぶりでございますか……大殿や奥方様も、今頃は首を長くして待っておられる事でしょう」
「おいおい、気の早い奴よ」

ハーストリの言葉に、ソルスクェノは思わず苦笑してしまった。
2人は雑談をかわして暇を潰していくのだが、馬車は避難民の列に引っ掛かったまま、思うように進まなかった。
そのまま10分程過ぎた時、それは唐突に始まった。
馬車の外から、急に異様な音が響き始めた。

「これは……」
「若殿!」

ハーストリは、血相を変えてソルスクェノと目を合わせた。

「くそ!こんな時に空襲警報か!!」

御者台にいた国外相の男が苛立ち紛れに叫びながら、馬車を道の脇に止める。
そして、慌ただしく御者台から降り、馬車のドアの向こうから避難を促した。

405ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:39:26 ID:ATfagNLg0
「特使殿!空襲警報が発令されました!これより最寄りの退避所まで走りますので、馬車から出て下さい!」

2人は、互いに目を合わせたまま頷くと、ハーストリが先に立って、ドアを開いた。
周囲にいた人だかりは、突然の空襲警報にパニック状態に陥っていた。
そこに現れた2人は、一瞬ながらも周囲の注目を集めた。
視線が集中するのを感じた2人は、半ば恥ずかしい気持ちになるが、それも空襲警報のサイレンと共にすぐに消えうせた。

「さあ、こちらへ来てください!」

2人は、御者の男に先導されながら、待避所まで走った。
程無くして、官憲隊が開放してくれた半地下式の防空待避所の傍まで走り寄った。

「来たぞ、あれだ!」

官憲隊の若い男が、空を指差しながら叫んだ。
ハーストリとソルスクェノは、男の言う方向に目を向ける。
冬晴れと言える心地の良い青空には、南の方角から無数の白い線が伸びつつあり、それはウェルバンル方面に向かいつつあった。
彼らは知らなかったが、この時、南方より出現したB-36爆撃機40機が、首都周辺に残存する戦略目標を叩く為、
飛行高度14000を保ちながら目標に接近しつつあった。

「あれが、音に聞こえるアメリカと言う国の……」
「特使殿!まもなく敵の爆撃が始まります。急いで中に!」
「う、うむ!」

ソルスクェノは、御者に勧められるがまま中に入ろうとしたが、何かを思い出し、その場に踏み止まった。

「クォリノ!例の物は持っているか!?」
「若殿!抜かりなく!」

406ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:40:04 ID:ATfagNLg0
ハーストリは、背中に抱いた貢ぎ物をソルスクェノに見せた。

「よろしい!中に入るぞ!」

空襲警報のサイレンを聞きながら、2人は待避所の中に入っていった。
内部には、既に避難してきた住民が溢れんばかりに入っており、2人は御者と共に、窮屈な中で爆撃が収まるのを待ち続けた。

どれほど待ったのかは判然としなかったが、唐突に大地が揺れ動き、次いで、轟音が響くと、ソルスクェノは自らの鼓動が急に
高まるのを感じた。
伝わって来る衝撃は大きく、待避所の内部が揺れ動くたびに、天井の埃が上から落ちてくる。

(これが、空襲という物か……なんて恐ろしい物じゃ)

ソルスクェノは心中で、恐怖を感じていた。
祖国イズリィホンでは、名のある武家の後継ぎとして多くの事を学び、その中でも武芸の類は小さい頃から習得に励んできた事も
あって、どのような状況においても冷静になれるとの自負があった。
だが、今……ソルスクェノは、異界の国が作った、戦略爆撃機の空襲から逃れ、どこかで炸裂する爆弾の振動や衝撃に体を小さく
して堪えるだけだ。
昨年12月のウェルバンル空襲も、彼は自らの目で見、計り知れない衝撃を受けたが、あの時は遠巻きに見ているだけであり、
危険範囲内にはいなかった。
しかし、今は違う。
今日体験する爆撃は、自分達も巻き添えを受けた物だった。
唐突に、一際大きな爆発音が響き、待避所内がこれまで以上に大きく揺れた。
中では悲鳴が起こり、赤子の鳴き声も響く。

(爆撃という物は、やたらに外れ弾が出るとも聞いている。という事は、わしが隠れているここに爆弾が落ちるという事も……)

ソルスクェノはそう思うと、背筋が凍り付いた。
実際、過去の爆撃では、防空壕や待避所に爆弾が直撃し、多数の民間人が死亡した事例も発生している。
彼は、爆弾炸裂に伴う揺れが続く中、ただひたすら、自分達が生き残る事を祈り続けた。

407ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:40:47 ID:ATfagNLg0
それから20分後……
真冬であるにもかかわらず、大勢の人で詰まった待避所の内部は暑苦しかった。
しかし、空襲警報解除の報せが伝えられると、2人はようやく外に出る事ができた。

「ふぅ……全く、肝を冷やしますな」

ハーストリは、額の汗を拭いながらそう言うが、隣のソルスクェノは、ある方角を見たまま立ち止まってしまった。

「……若殿。如何なされました?」
「クォリノよ……武士という者は、死を恐れてはならぬと古来より教えられている物じゃが……」

彼は目を細めながらクォリノに言いつつ、北の方角に右手を伸ばした。
その方角からは、幾つもの黒煙が立ち上っている。

「手も足も出ぬまま、空から一方的に狙われるのは恐ろしい物だ。見よ、あの惨状を」
「確か……そこにはさほど大きくはないとはいえ、この国の工場が幾つか建てられておりましたな」
「高空から来た爆撃機とやらは、どうやら、あの工場を叩いたそうじゃな。クォリノよ……この惨状を見て、そちはどう思う?」
「は………幕府上層部のご指示は、正しかったと思われます。あの煙の下には、工場だけではなく、民の暮らす家々も数多にあったはず……
恐らくは、上方も、我々が巻き添えを食らう事を恐れて」
「ふむ……わしは、もっと見たかったのだが……この国の行く末を……のう」

彼は、懐から扇を取り出すと、それを広げて自らの顔に向けて仰ぐ。

「特使殿!敵の爆撃機は退避行動に移りました。国外相へ移動を再開いたします故、馬車へお乗りください」
「うむ、それでは」

御者に勧められると、ソルスクェノはパチンという小さな音と共に扇を閉じ、袴の内懐に収めた。
程無くして、馬車に戻ると、御者が扉を開けて2人を招き入れた。

408ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:41:30 ID:ATfagNLg0
御者は扉を閉めながらも、上空に顔を向け、苛立ったような表情を見せた。
高空には、無数の白いコントレイル(飛行機雲)がまだ残っており、そのやや下では、高射砲の炸裂した黒煙が見える。
その下の空域には、迎撃に向かった10機前後のケルフェラクが編隊を維持しながら、魔道機関特有の爆音を響かせて飛行していた。

「畜生!届かない高射砲を撃ちまくって、敵の高度に辿り着けない飛空艇は遊覧飛行をするだけか……!」

御者は苛立ち紛れにそう吐き捨てながら、御者台に座って馬を前進させた。


午前8時45分 首都ウェルバンル 国外省

国外相の正面前まで辿り着いた一行は、職員の案内を受けながら、館内の応接室前まで歩いた。
2人は、袴に頭に付けた烏帽子といった、シホールアンル国内では滅多にお目に掛かれないイズリィホン国武士が身につける服装のため、
国内省の面々からは道中、注目を集めていた。
応接室前まで到達した2人は、ふと、部屋の内部から荒々しい声が響いているのに気付いた。

「ん……?若殿」
「ああ、何やら聞こえるが……」

2人は小声で言い、互いに頷き合うと、そのままの態勢で室内に聞き耳を立てる。

「敵機動部隊がまた首都方面に接近しつつあるだと!?それで、また退避命令か!」
「前回のように、官庁街に敵の艦載機が向かってくる可能性もあります。ここは軍の指示通りにされるのが良策かと」
「く……仕方ない。私はこれから大事な客人と合わなければならん。今は軍の指示通りに動く事にし、後に詳細を詰める事にする」
「了解いたしました」

部屋の中から聞こえる会話はそれで終わり、程無くしてドアが開かれた。
中から、職員と思しき男が会釈しながら退出し、かわって、2人に付き添っていた職員が手をかざして入室を促した。

409ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:42:11 ID:ATfagNLg0
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ……」

2人は入室すると、居住まいを正したグルレント・フレル国外相が満面の笑顔を浮かべて出迎えた。

「これはこれは、ソルスクェノ特使!お久しぶりでございます」
「国外相閣下、お久しゅうございます。国外相閣下におかれましては、お変りも無く」

ソルスクェノとフレルは、挨拶を行いつつ、固い握手を交わした。

「ささ、どうぞこちらへ」

フレルは、室内のやや奥に置かれた2つのソファーの内の1つに2人を座らせると、彼はその対面に座った。

「いやはや、こうしてお顔を合わせるのは、実に2年ぶりになりますかな」
「は。その通りです。それがしも、あの日からもう2年経ったのかと、いささか驚いております」
「もう2年……短いようで長い。しかし、長いようで短いのか……まぁそれはともかく、敵爆撃機の襲来もあるこの情勢の中、
使節館より足を運ばれて頂いた事に、心から感謝しております」

フレルは感謝の言葉を述べてから、本題に入った。

「さて、本日お二方にお越し頂きましたが、あなた方から直接、私にお話ししたい事があると聞き及んでおります。そのお話したい事とは、
一体何でしょうか?」
「は……先日、幕府外務所より命令を承りました。その命令でありますが……それがしは使節館の共を率い、此度の任期満了を待たずして
イズリィホンに帰還せよ、との命令をお受けいたしました」

ソルスクェノは懐から、白い包みを取り出し、それをフレルに手渡した。
フレルは、それを両手で取ると、包みを開き、その中にある折り畳まれた白い紙を開いて、黒い墨で書かれた文字をゆっくりと呼んでいく。
書かれた文字はシホールアンル語である。

410ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:42:53 ID:ATfagNLg0
「なるほど。つまり、離任の挨拶に参られた、という事ですな……」

文を読み終えたフレルは、しばし黙考する。

「貴国外務所の判断は正しいと、私も思います」

彼は顔を上げてから、ソルスクェノにそう言った。

「我がシホールアンル帝国は、不本意ながらも、南大陸連合軍相手に不利な戦を強いられています。貴方達も、昨年12月に起きた首都空襲や、
断続的に行われている、首都近郊の戦略爆撃は目にしておられる筈です。その現状を知った貴国上層部が帰還命令を出すのは当然の事であると、
私は思います」
「国外相閣下。我が祖国イズリィホンとシホールアンルは300年の間、友好国として関係を深めてまいりました。いずれは、軍事同盟を結び、
戦の際は迷う事無く陣に赴き、ともに轡を並べて、雄々しく戦場を駆け抜ける事を夢見ておりました。ですが、それも叶わず……終いにはこのような
事に至り、面目次第もござりません」

ソルスクェノは、沈痛な面持ちで謝罪の言葉を述べる。
だが、フレルは頭を左右に振りながら口を開いた。

「いえ、それは違いますぞ、特使殿。この度の現状は……いわば、シホールアンルに対する罰なのです。そう……業を背負いすぎた偉大なる帝国が
受ける罰です。ですが、友好国の使節の方々にまで、我が国はその罰の巻き添えを負わそうとしている。特使殿、あなた方は悪くありません。
むしろ、悪いのは……このシホールアンルなのです」

彼は深く溜息を吐く。

「思えば、シホールアンルは北大陸を統一した時点で、歩みを止めるべきだったのかもしれません。ですが、それだけでは満足できずに、更にその
先へと足を運んだ。そして、行きつく先がこの現状となるのです。貴国上層部の判断は正しい。私は……その判断を尊重いたします」
「国外相閣下……」

ソルスクェノは顔を上げて、フレルを見つめる。

411ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:43:24 ID:ATfagNLg0
柔和な笑みを浮かべるフレルには、前回会った時に感じた刺々しさは完全に失せており、今では顔全体に疲れが滲んでいるように見える。
傍から見ても、フレルが内心苦悩している事が容易に想像できた。

「……わがイズリィホンが、貴国との友好関係を結んだのは今から300年前。きっかけは、沖合で難破した貴国の船の乗員を、イズリィホンの民が
救助した事でございました。以来、イズリィホンとシホールアンルの関係は深まり、様々な面でご支援を賜ってまいりました。それがしも、この国に
来てから多くの事を見て学び、各所で見聞を広めてまいりましたが、ただただ、シホールアンルと言う国の大きさに圧倒されるばかりでした。
そのシホールアンルが、異世界から来たアメリカと言う名の国に追い詰められつつある……それがしは、今もその事が夢のようであると思うております」
「若殿……」

ソルスクェノの言葉に含まれていたある部分に、ハーストリは血相を変えた。
彼は慌てて何かを言おうとしたが、それを察したフレルが片手を上げて制した。

「ハーストリ殿。大丈夫ですぞ」
「国外相閣下……!」

フレルは、何故か清々しい表情を浮かべていた。

「さすがは、イズリィホンの中でも有数の武家であるソルスクェノ氏のご子息だ。次期棟梁と呼ばれるだけあり、やはり聡明なお方ですな。
南大陸軍が実質的に、アメリカ軍が主導している事もご存じのようで」
「は……それがしの知識は、風の噂を聞き続けた程度ではござりますが……その噂の中でも、アメリカという国に関する噂は興味が尽きませぬ。
あれほど、烏合の衆とまで呼ばれた南大陸連合の軍勢が、何故、再び息を吹き返し、この北大陸に押し掛けて来たのか。そして、その軍勢に多くの
戦道具を与えながらも、自らの軍にも十分な武具を揃える事ができる、その力……!」

ソルスクェノは次第に語調を強めていく。

「それがしは、その果てしない力を持つアメリカを知りたいと、心の底から思うております。狭間にあるイズリィホンの将来の為にも」
「なるほど……しかし、イズリィホンは尚武の国。これまでに、フリンデルドを始めとする諸外国の侵攻を全て阻止した実績があります。
貴国の軍は強く、数も多いと聞く」

412ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:44:03 ID:ATfagNLg0
「軍は確かに強い。されど、過去のそれは、島国という特徴を活かした事で得た勝利でもあります。兵の扱う武器は依然として、旧態依然とした
ままでございます。もし、イズリィホンがアメリカと戦を行えば……」

ソルスクェノは、しばし間を置いてから言葉を続ける。

「国は一月と持たずに、アメリカに攻め滅ぼされる事になりましょう」

その言葉を聞いたフレルは、ソルスクェノに半ば感心の想いを抱く。
同時に、あの時……シホールアンルにも彼のような冷静さと、探求心があればという、強い後悔の念が沸き起こった。

「今の所、イズリィホンは貴国のみならず、200年前は敵であったフリンデルドとも国交を結び、よしみを深めてまいりました。しかし、
国際情勢という物は移り変わりがある物でございます。今こうしている間にも、イズリィホンを取り巻く環境は変わりつつあると、考えております」
「……正直申しまして、特使殿の考えはよく理解できます。思えば、私も特使殿のように、よく考え、良く判断できれば……と思う物です」

フレルが言い終えると、ソルスクェノは無言で頭を下げた。
顔を上げた彼は、改まった表情を浮かべながら口を開く。

「幾ばくかお話が長くなり、申し訳ございませぬ。さて、此度の儀につきましては、ご多忙の中お会いして頂き、感謝に耐えませぬ」
「いえ。こちらこそ、空襲警報が鳴る中、郊外より端を運んで頂いた事には、深く感謝しております。特使殿、この離任の挨拶の後ですが、国を
離れるのはいつ頃になられますかな?」
「準備が出来次第、早急に移動するように言われております故、さほどを間を置かぬ内にお国を離れるかと思います」
「それがよろしいでしょう」

フレルは顔を頷かせながら相槌を打つ。

「軍の情報によりますと、敵の機動部隊がシギアル沖に向かっているようです。昨年12月のような大空襲も予想されますので、なるべく早い内に、
首都を離れられた方がよろしいでしょう……それから、お国の帰還船はどちらから出られますかな」

413ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:44:49 ID:ATfagNLg0
「予定では、北西部の一番北にあるミロティヌ港で船に乗り、祖国へ向かう事になっております。万が一の場合を避けるため、ルィキント、
ノア・エルカ列島付近は大きく北に迂回する航路を取る予定になっております」

一瞬、フレルは眉を顰めたが、すぐに真顔になって頷く。

「アメリカ海軍は北西部沿岸部のみならず、同列島の中間地点にも潜水艦を差し向けておりますからな。妥当な判断と言えるでしょう」
「は……それでは国外相閣下。それがしはこれにて帰国いたしまするが、最後にお渡ししたい物がございます」

ソルスクェノは隣のハーストリに目配せする。
ハーストリは傍らに置いてあった、紫色の棒状の包みを手に取ると、それを両手でソルスクェノに渡す。
ソルスクェノも両手で受け取ると、ゆっくりとした動作で、フレルに差し出した。

「これは……?」
「貢ぎ物でございます」

フレルは困惑しながらも、恐る恐ると手に取った。
包みを取ると、中には剣が入っていた。
剣は、柄に質素ながらも、白と茶色の模様が付いており、それは半ば湾曲していた。
イズリィホンの特徴である湾曲した剣は、イズリィホン軍の将兵の主要武器として採用されており、その切れ味は他に類を見ないと言われている。
鞘から剣を抜くと、銀色の刃が現れる。
剣は光に反射して美しく光り、その滑らかな刃は、長い時間見つめても飽きを感じさせないような気がした。

「これを、私に……?」

フレルの言葉に、ソルスクェノは無言で頷く。
噂では聞いていたイズリィホンの太刀を、初めて間近で見たフレルは、その美しさに見とれていたが、程無くして我に返り、剣を鞘に納めた。

「よろしいのですか?このような、立派な剣を……」

414ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:45:31 ID:ATfagNLg0
「構いませぬ」

ソルスクェノは微笑みながら言葉を返す。

「その剣は……太平の剣と呼ばれた物でございます。わがソルスクェノ家伝来の剣で、父上から餞別として譲り受けたものですが……その剣が
作られたのは、今から300年程前でございます。作られた当時、ソルスクェノ家は田舎の小さな一豪族にしか過ぎませんでしたが、それ以降、
我が一族は幾つかの戦乱を経て、今日のように幕府の要職を任されられる程の大名にまでなりました。その時の流れを、代々の当主と共に経て来た
この剣ですが……実を言いますと、この剣は人を斬った事が一度もないのです」
「なんと……」

その信じられない事実に、フレルは目を丸くしてしまった。

「し、しかし……この剣は当主に代々受け継がれてきた物だと……」
「それがしはそう申しました。ですが、この剣は不思議と、戦場において抜かれる事がなかったのでございます。ある時は、敵の軍勢が逃げてしまい、
戦が終わった。ある時は、戦が始まる前に敵を調略して戦わずに済んでしまった。また、ある時は、剣を一時的に紛失してしまい、代わりの剣で
戦場に臨んだ等々……不思議な事に、人を斬る機会を逸し続けたのでございます。そして、先代当主においては、この剣を持つと何かしらの不幸が
起きると決めつけ、別の剣を刀匠に鍛えさせた末に、この剣を、蔵に押し込んでしまったのです」

それまで、淡々と話していたソルスクェノは、途端に表情を暗くしてしまう。
だが、彼は何事も無かったかのように、表情を明るくして言葉を続ける。

「しかしながら、現当主である父は、それがしがシホールアンルに赴任する前に、「この剣は、遥か昔に鍛えられて以来、一度も人を斬る事は無かった。
何故、斬れなかったか分かるか?それは……この剣が戦を嫌う、太平の剣であるからだ」と、それがしに申したのでございます。父がこの剣を渡したのは、
未だに戦を行うシホールアンルで、それがしが災いに巻き込まれないで欲しい……と、願ったからではないのかと思うのです」
「……」

フレルは、無言のまま剣を見つめ続ける。
そのフレルに向けて、ソルスクェノは言葉を続けた。

415ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:46:06 ID:ATfagNLg0
「今、貴国は文字通り、民草をも挙げての大戦を行われております。国外相閣下も、いつ果てるとも知らぬと思われている事でしょう。
しかしながら……始まりがある物には、必ずや、終わりが来る物でございます。それ故に……」

ソルスクェノは、一度は剣に視線を送る。
そして、再びフレルと目を合わせた。

「それがしは、大戦の終わりを切に願いたく思い……この太平の剣をお渡ししたのでございます」
「そう……でしたか……」

フレルは、思わず言葉が震えた。
しばし呼吸を置くと、フレルは語調を改めて、ソルスクェノに返答する。

「この貢ぎ物。謹んでお受けいたします」

フレルは、太平の剣を両手で掲げながら、感謝の言葉を送った。
彼の言葉を聞いた2人も、深々と頭を下げた。

「それでは、我らはこれで」

2人は立ち上がると、室内から退出しようとした。
ソルスクェノが部屋から出かけたその時、フレルは彼を呼び止めた。

「特使殿!」
「……は。国外相閣下」

ソルスクェノは振り返り、フレルと目を合わせた。

「シホールアンルとイズリィホンの関係が今後も続く事を、私は心から願っております。例え……帝国でなくなったとしても」

ソルスクェノは数秒ほど黙考してから、言葉を返した。

「それがしも、貴殿と同じ思いでございます」

416ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:46:50 ID:ATfagNLg0
国外相本部施設を出たソルスクェノらは、午前10時30分には北に5ぜルド離れた町にある、イズィリホン将国使節館に戻っていた。
馬車から降り、地味なレンガ造りの使節館に入った彼は、一室にハーストリと共に入室し、室内にある椅子に腰を下ろした。

「若殿、帰国準備は順調に進んでおるようです。この分なら、一両日中には出立できるかと思われます」
「うむ。いよいよ、この地から離れるのだな……」

ソルスクェノは感慨深げな口調で返しながら、脳裏にはこの国で見てきた事が次々と浮かんでいた。
初めて目にする大きな軍艦や、イズィリホンとは違った街並みには心を大きく揺り動かされた。
シホールアンルで見る物全てが、イズィリホンには無い物であり、超大国とはこうである物かと、何度も思い知らされてきた。
だが、ソルスクェノは、シホールアンルと言う国の在り方や、文化を見て学んだだけでは無かった。
彼は、シホールアンルが指揮する対米戦を直接見た訳ではなく、目にした物と言えば、アメリカ軍機の爆撃を受ける街並みぐらいだ。
だが、彼は戦のやり方が従来の物と比べて、大きく変わったという事を肌に感じていた。
それに初めて気づいたのは、昨年12月に、首都周辺を散策していた時に遭遇したあの空襲を見てからだ。

「クォリノよ。わしは、国に帰ったら……この国で見た事を全て話すつもりじゃ。国に帰れば、執権を始めとする幕府のお歴々と会見し、
そして、父上とも話し合うであろう。そこで、わしははっきりと申し上げる」
「若殿……それがしは、大殿はまだしも……幕府の上方が話の内容を完全に理解できるとは思えませぬ。逆に、幕府上層部から、法螺を
吹聴するなと言われるかもしれませぬぞ?」
「何故じゃ。わしは見てきた事、わしの心で感じた事を、包み隠さず話すだけじゃ」
「しかしながら、幕府は若殿の話を理解できましょうか……幕府の猜疑心は強い。今まで、謀反の疑いを掛けられ、族滅の憂き目にあった
御家人や、大名は少なからずおります。若殿が、このシホールアンルでの出来事を執拗に公言しようとすれば、国の不安を煽るものと見なされ、
最悪の場合は謀反を起こし、幕府を揺るがそうとする!と、捉えかねませぬが……?」
「幕府の名誉を選ぶか……わしの命……いや、ひいては、ソルスクェノ一門の命、いずれかを選ぶという事になる。そちはそう言いたいのだな?」
「御意にござります」

ハーストリは深々と頭を下げた。

417ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:48:00 ID:ATfagNLg0
「……祖父は一門を救うために、自ら命を絶たれた。謀反の疑いを晴らすために……確かに、ソルスクェノ一門の運命は、父や、わしに掛かっている
とも言える」

ホークセルは顔を俯かせるが、すぐに上げて、ハーストリを見つめる。

「だが、今の情勢は……幕府だの、一門だのと言っている場合ではない。イズィリホンは文字通り、大国の狭間と言える国じゃ。北には、急速に
発展しつつあるフリンデルドに、東にはシホールアンルがおる。いや……おったのじゃ。敵であったフリンデルドがイズィリホンとの関係を良好に
したのは、シホールアンルの機嫌を伺っての事。しかしながら、機嫌を伺ったシホールアンルは、もはやこの有様じゃ」

彼は、頭の中で浮かぶ地図の一部分に、大きく斜線を引いた。

「幕府の名誉や、一門の名誉にこだわる事は、もはや小さき事に過ぎぬ。これからは……イズィリホンという国家の事を考えなければならぬのだ。
そうしなければ、遠からぬうちに、イズリィホンは選択を誤る。そちも見たであろう?あの地獄の如き光景を」
「は。今も夢の中に出る程、心の奥底に刻み込まれております」
「わしは国に帰った時、この経験を問う者に対して……例外なくこう申していく。決して、アメリカという国だけは敵に回してはならぬ。
そうでなければ、この国のようになる……と」
(むしろ、アメリカは味方にした方が良いかもしれぬ)

彼は、最後の一言は国出さず、胸中で呟いた。





後に、イズリィホンは様々な困難を経て、米国も含む東側陣営国の一角として、大戦後の世界でその役割を果たす事になる。
ホークセルは、新生イズィリホン民主共和国の初代国家主席として辣腕を振るう事になるが、それは遠い未来の話である。

418ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:48:32 ID:ATfagNLg0
1486年(1946年)2月2日 午前8時 カリフォルニア州サンディエゴ

アメリカ太平洋艦隊情報主任参謀のエドウィン・レイトン少将は、サンディエゴの太平洋艦隊司令部に出勤するや否や、司令部の地下室より現れた
ロシュフォート大佐に引き留められた。

「おはようございます、主任参謀。出勤早々で何ですが……お付き合い頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうしたロシュフォート。私は司令部で会議に出席しなければならんのだが……それに、君。体が匂うぞ」
「はは。ここ数日、風呂に入る暇もありませんでしたので。ささ、まずはこちらへ!」

ロシュフォートは小躍りしかねない歩調で先導し、司令部の地下施設へレイトンを案内した。
地下室には、太平洋艦隊司令部で傍受した魔法通信を分析するための特別室が設けられており、そこでは南大陸より派遣された各国の分析官や補助官が、
海軍情報部の将兵と共に入手した情報の解析に当たっていた。

「カーリアン少佐、新しい文言は傍受できたかね?」
「いえ、今の所は入っておりません。傍受できるのは、確認された言葉だけです」
「よし!これで決まりだな!」

バルランド海軍より派遣されたヴェルプ・カーリアン少佐から伝えられると、ロシュフォートは掌を叩いて喜びを表した。

「ロシュフォート。何か進展があったようだが……私をここに呼んだのは、それを伝えるためかね?」
「その通りです」

彼はそう答えつつ、壁一面に張られた言葉の羅列を見回した。

「暗号通信の中で、最も気を付ける事は何だと思われますか?」
「暗号のパターンを見破られる事だろう」
「正解です。ですが、それだけでは、完璧とは言い難いですな」

ロシュフォートはレイトンに体を振り向ける。

419ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:49:10 ID:ATfagNLg0
「気を付ける事は、他にもあります。それは……使っている暗号を“変えない事”です」

この時、レイトンは、ロシュフォートが何を言おうとしているのか、瞬時に理解する事ができた。

「通常、暗号文を使用する時に、文字のパターンや使用のタイミングも重要ですが、それ以上に気を付ける事は……暗号に使う文を固定しない事です。
それを防ぐために、暗号帳を定期的に更新して解読を避けようとします。こちらをご覧ください」

ロシュフォートは、黒板や壁に掛かれた文字の羅列に手をかざす。
それぞれの文字は、貴族や地名、罵声等、様々な種類に分類され、その下に今までに記録した名や文字が書かれている。

「これらの文字の数々は、我々が今までに記録した文字の全てです。我々は、この合同調査機関が設立されて以来、読み取れる文字を記録し続けて
きましたが、この記録の更新が、昨日夜以降……終了したのです」

ロシュフォートは右手の人差し指を伸ばした。

「記録が終了したという事は……敵側は、これまで通りの暗号帳を使用したまま、暗号文を流している事になります。そう、敵は暗号帳を更新していないのです」
「つまり……敵は暗号を使用して日が浅い為、我々が常識としていた、暗号帳を更新するという事を知らない、と言いたいのだな?」
「そうです」

ロシュフォートは頷きながら答えた。

「戦時であれば、暗号帳の更新は3カ月に1回。早ければ2カ月に1回の割合で行います。しかし、シホールアンル側は、暗号を使い始めて2カ月以上
経つにもかかわらず、同一系列の暗号を使い続けています」

彼はニヤリと笑みを浮かべた。

「そして、敵は未だに、ミスを犯した事に気付いてはおりません」
「なるほど……それはビッグニュースだ」

420ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:49:55 ID:ATfagNLg0
レイトンは満足気に頷く。

「して……解読はできそうかね?」
「努力しておりますが、解読に至るまでは、いましばらく時間が必要です」
「ふむ……」

未だに解読不能という事実に、レイトンは幾分落胆の表情を見せた。

「ですが、敵が暗号帳の更新を行っていない事が判明した今、解読までの道は幾ばくか見え始めたと言えます」
「横から失礼いたしますが……私達が見る限り、この暗号書は何かの文を参考にしながら、作られている可能性が高いと思っております」

口を閉じていたカーリアンが、付け加えるように説明を始める。

「文面の綴りや、名前からして、恐らくは……何らかの本の内容を当てはめて、暗号通信を行っている可能性があります」
「何らかの本とは……これまた信じがたい物だが」
「しかし、内容を繋げてみれば、納得できるつづりも幾つか発見されています。これは間違いなく、何らかの本……有り体に言えば、小説の類や、
物語の内容を当てはめているのではないかと」
「……我々の世界では考えられん事だ」
「通常は、乱数表や数字をメインに暗号を作りますからな。ある意味、この世界の暗号は文学派と言えます」

ロシュフォートは皮肉交じりの口調でそう言った。

「よろしい。この事は、今日の会議が始まる前に長官に報告しよう。ロシュフォート、よくやってくれた。引き続き、解読作業に当たってくれ」

レイトンは彼の右肩を叩いてから、地下室から退出しようとしたが、彼は再び引き留められた。

「主任参謀、もう少しだけお待ち下さい」
「なんだ。まだ何かあるのか……?」
「は………このまま解読作業を行っても、我々は無事に暗号を解読する自信があります。ですが、今は戦争中であるため、何らかの大事件が発生し、
友軍に思わぬ損害が生じる事も考えられます。昨年行なわれた、カイトロスク会戦のような事も……」
「ふむ。今は非常時だ。敵も死に物狂いで抵抗を試みているからな」
「それを防ぐためにも、あらゆる手段を使って、暗号の解読を速める必要があります。そこでですが……」

ロシュフォートは一旦言葉を止め、タバコを咥えて火を付ける。

「少しばかり動いて、敵をせっつかせて見ましょう。そうですな……陸軍のB-36も動いて欲しいと、私は思います」

彼は紫煙を吐きながら、レイトンに説明を始めた。

421ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/13(金) 18:50:31 ID:ATfagNLg0
SS投下終了です

422名無し三等陸士@F世界:2018/07/13(金) 20:54:04 ID:QFrqX0M20
いい話だった!
作者超乙!

423名無し三等陸士@F世界:2018/07/13(金) 21:08:54 ID:xcVmLF4g0
投下乙でした
また新勢力登場ですか
フリンデルド帝国、ウディンヒエヌ魔教国、ヲリスラ深海同盟、そしてこのイズィリホン将国
これまで触れられた内容からするといずれの国も興味深い存在ですが、今回の戦争では出番ないんでしょうなぁ…残念
そしてフレル国外相の変わりよう…最初の頃とはもはや別人状態だ
まあ自分の軽はずみな言動のせいで自国が滅亡の瀬戸際に追い詰められてるともなればこうなるのも当然か

424名無し三等陸士@F世界:2018/07/13(金) 22:20:28 ID:stF6nFig0
乙です。
東側陣営国だ・・・と!?

つまり、戦後アメリカと明確に敵対する超大国が率いる西側陣営国ができるというわけか・・
どの国だろうか?

425名無し三等陸士@F世界:2018/07/14(土) 22:13:48 ID:EqI2eCk20
気がついたら2話投稿されてるヤッター!
投下乙です!
>第286話
>「アメリカは自由を標榜し、過度な暴力を禁じた近代的な国家であり、蛮族とは一線を画すと聞いていた。だが……ランフックでやった事は、
一体なんだ?帝国本土で行っている事は、一体なんだ?」
>「お前たちの味方は、何の罪も無い無辜の市民を業火で焼き尽くしたんだ!何が近代的な国家だ……貴様らは格好がいいだけで、中身は何も
できない民を嬲って楽しむ、ただの蛮族だ!!」

アメリカ合衆国憲法「自由と平和と正義はアメリカ国民に対して保証するのが目的なのでアメリカ以外ではセーフ」
ハーグ陸戦条約「シホールアンルは条約に加盟してないので明確に禁じられてないのでセーフ」

戦争が終わったら酷い目にあった人たちと捕虜で比較的温かい扱いを受けた人で
国内に対立構造ができれば戦後としては勝ちだからね
情報統制が都合よく解ける戦後にどこまで情報が浸透するのか
アメリカがシホールアンル国内の戦後復興も支援し始めたら一体何を思うことやら
戦争写真関連だとベトナム戦争で撮影された「サイゴンでの処刑」がいろいろと過酷なものです
ペンは剣よりも強しのペンが戦後アメリカ合衆国が握るとあとは(ry

>>400
戦後アメリカが核兵器を開発したあとに一言
「魔法じゃないのでセーフ」
IFでシホールアンルとアメリカが膠着状態で講話した後の核時代のSSなんても書いてみたいなぁ
オールフェスの苦悩がとんでもないことになりそうだけど

>第287話
ここに来てすごい和風の国が第三者視点から見たシホールアンルの惨状が続きますね
でも中身としてはトルコに近い感じかな?
エルトゥールル号遭難事件っぽい話もあるし
もはや時代が変わったのを肌で感じ取り戦後の新構造に向かって行く各国

そして色んな意味で悟りつつあるフレル
首都への爆撃定期便
迎撃できないシホールアンル軍

暗号解読はまさか「AFは水が不足している」をやるのかな?
エニグマ暗号を解読できることを知られないよういろいろやってたイギリスとかも面白かった

426名無し三等陸士@F世界:2018/07/15(日) 13:05:50 ID:Z7mT7VDw0
投稿乙ですー

フレル国外相、大丈夫か?
主戦派帰属に聞かれたら粛清されそうなこと言っちゃってるけど?
何気に心折れてる?

427名無し三等陸士@F世界:2018/07/15(日) 14:11:21 ID:JnIo5dbc0
イズリィホン殿・・・
これからジェット機の時代へとなっていくのに、それを見ずして帰国ですか・・・残念

428名無し三等陸士@F世界:2018/07/15(日) 19:43:08 ID:C2/f9OHQ0
投稿乙です。

まとめの方に上げましたが、ナンバリングミスで一つ削除をお願いしたいのですが…。
ttps://www26.atwiki.jp/jfsdf/pages/1617.html

429名無し三等陸士@F世界:2018/07/15(日) 21:55:05 ID:EDnbw3UE0
イズリィホンのモデルって、もしかして、鎌倉時代末期から南北朝時代の日本だったりして
して、作中の米さんは今後、冷戦に入るから……
まさか、南北朝戦乱+ベトナム戦争みたいになるのか……

430名無し三等陸士@F世界:2018/07/15(日) 22:11:03 ID:iZKiRALk0
>>429
さすがにそこまで作者様はやるとは思えないな。
そもそも現在の対シホールアンルを考えたら
それ終わった後は現代戦へと進んでいくんだから
作者様の大好きなWW2のアメリカから外れてしまうため、多分シホールアンル戦役で終わらせて
後日談的にちらっと描写して完結って流れのほうが現実的だな。

431名無し三等陸士@F世界:2018/07/16(月) 18:41:53 ID:F8sqVas.0
>>424
実は西側にはソ連が召喚されていてな・・・なんてね

432名無し三等陸士@F世界:2018/07/17(火) 17:16:46 ID:3SNTDbVY0
投下乙です。
以前少し話題に出てた日本みたいな島国がついに登場しましたね。
西洋ファンタジーが大半を占める異世界モノに、イズリィホンみたいな東洋ファンタジーの国が出てくると何か新鮮でいいですね!
今後アメリカとイズリィホンが接触した場合、アメリカ側の交渉役は日本出身の野村元大使が担当したりするんですかね?

433名無し三等陸士@F世界:2018/07/23(月) 22:36:59 ID:pfN/LKiE0
皆様レスありがとうございます!

>>422氏 ありがとうございます。
嫌われ物のシホールアンルとはいえ、それでも友好を保つ国が居る。
イズリィホンはその典型とも言える国ですので、今回登場させて良かったと思っています。

>>423氏 はい。また新しい国が出てきました。
この話で出ていない国はまだまだあり、戦後はこの国々をも巻き込んだ、様々な出来事が起こります。

ですが、今回の戦争では、良くて名前だけが出るぐらいで、この太平洋戦史においてはなんら役割を果たす事も無いまま
蚊帳の外に置かれる形になりますね。

>フレル国外相の変わりよう…最初の頃とはもはや別人状態だ
やらかした後に、今の祖国の現状ですからね……むしろ、発狂していない分まだマシと言えるでしょう

>>424氏 西側陣営国ですが、それは後の年表で明らかになりますので、それまでしばしお待ちを……
とはいえ、大方予想は付くと思います

>>425氏 恥ずかしながら、またまた舞い戻って来ました。

>アメリカ合衆国憲法「自由と平和と正義はアメリカ国民に対して保証するのが目的なのでアメリカ以外ではセーフ」
ハーグ陸戦条約「シホールアンルは条約に加盟してないので明確に禁じられてないのでセーフ」

レニエス「」

って事になりそうですね

>戦争写真関連
第286話を作るきっかけとなったピューリッツァー賞受賞の写真も、非常にえぐい物がちらほらとありますが、その分色々と
考えさせられてしまいますな。
ツイッターの方でも言いましたが、この話を作るきっかけとなったのが、ピューリッツァー賞関連の写真を見てからですので、
作成中は良い勉強になりました。

>IFでシホールアンルとアメリカが膠着状態で講話した後の核時代のSSなんても書いてみたいなぁ
オールフェスが精神に変調来たして指導者交代……という場面も見れそうな予感

>ここに来てすごい和風の国が第三者視点から見たシホールアンルの惨状が続きますね
下の方が仰られていますが、どちらかというと、鎌倉時代末期から南北朝期の日本がモデルとなっていますね
その時代の資料や、大河ドラマ太平記等を見れば、すぐに合点が付くと思います

さて、このイズリィホンですが……彼らは遠からぬ未来に、様々な困難に立ち向かう事になります
このイズリィホンは文字通り狭間の国……今後出てくる武器は弓矢、魔法だけではありませんので
非常に苦労しながらも、時代の流れを突き進む事になるでしょう

434ヨークタウン ◆.EC28/54Ag:2018/07/23(月) 22:37:35 ID:pfN/LKiE0
>>426氏 バッキバキに折れまくっています。
ですが、正気を失わずに国外相としての地位を投げ出さないだけ、まだ根性があると言えます

>>427氏 ジェット機は見れずじまいでしたが、米高速空母部隊の空襲や、B-36の戦略爆撃を体験しているので、それだけでも
大きな経験と言えるでしょう。

>>428氏 纏めに上げて頂きありがとうございます。いつもながら、非常に感謝しております。
修正に関しては誰かがやって下さるかと……

>>429氏 いやーなかなか……
ここで、ある言葉をお贈り致しましょう
「あなたのような感の良い読者様はとても(MPに逮捕されますた

>>430氏 はい。自分はシホールアンル戦役だけで終わる予定です。
戦後の世界の動きは、ズラッと年表に記す形で掲載しようと考えております。

>>431氏 残念!ソ連は元の世界に残ったままでございます。
まぁ、とある平行世界では転移先で大いに暴れておるようですが(ヤメイ

それにしても、昔は自分のアメリカSSとソ連SSがこの版で掲載されて、勝手に米ソ召喚の時代じゃ!と小躍りした物ですが……
時の流れは速い物です

>>432氏 今回の話で、イズリィホンは歴史の表舞台に姿を現し始めました。
東洋風のファンタジー国家は自分も出したいと思っていましたが、この太平洋戦史での出番はこれだけになりそうです

>アメリカとイズリィホンが接触した場合、アメリカ側の交渉役は日本出身の野村元大使が担当したりするんですかね?
野村元大使は米本土で市民権を得て、一般市民として悠々自適の生活を送っているだけで、歴史の表舞台からは姿を消しております。
交渉はアメリカ国務省や、政府官僚が行う事になるでしょう。

個人的にはキッシンジャーとソルスクェノが秘密会談を行って、米国の容赦ない工作にソルスクェノが引く姿を想像していたりしますね。

435名無し三等陸士@F世界:2018/08/21(火) 17:16:52 ID:bjezr75g0
フリンデルドとイズリィホンの位置関係ってどんな感じなんだろ?
ロシアと日本的な位置関係なのか、中国と日本的な位置関係なのか…?

436名無し三等陸士@F世界:2018/08/24(金) 19:14:29 ID:5.4QAROI0
>>435

>ロシアと日本的な位置関係なのか、中国と日本的な位置関係なのか…?

大雑把に言えば、後者の位置関係になります

437名無し三等陸士@F世界:2018/09/06(木) 23:08:32 ID:B8RxRp8k0
ここまで来るとオールフェスは独ソ戦末期のヒトラーのごとき疫病神に
なってきてますね。
政治体制そのものが近世のそれなので情報統制さえしていればある程度は
反乱や国民の不満を抑えられるとは言え、反省すらしないようでは寝首を
掻かれる前に国民の1割くらいが戦禍で消えそうです。

438ヨークタウン ◆b.dHcowXAI:2018/11/03(土) 10:20:05 ID:T.Wu/A/c0
>>437氏 オールフェスの精神状態は加速度的に悪化しつつあります
下手すれば、もっと消えそうですね……

439ヨークタウン@cv79yorktown:2019/01/31(木) 23:09:07 ID:m8U/qgi.0
こんばんは。これよりSSを投下いたします

440ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:11:16 ID:m8U/qgi.0
第288話 天空を翔ける流星

1486年(1946年)2月2日 午前8時30分 シホールアンル帝国領ドムスクル
シホールアンル帝国領ドムスクルは、ヒーレリ領北部とシホールアンル本国領の境界から、北に60マイル離れた位置にある
小さな町である。
連合軍は来たる大攻勢の前準備として、各地で小規模な攻勢を継続しており、2月1日には、米軍の先鋒部隊がドムスクルから
南20マイルの位置に到達した。
これと呼応する形で、アメリカ軍航空部隊がシホールアンル帝国領中部地区に向けて盛んに航空作戦を展開しており、防戦準備
にあたるシホールアンル軍地上部隊に対して、断続的に空襲を仕掛けていた。
事態を重く見たシホールアンル側は、前々より温存し、未だ戦場となっていない本国北部地域より徐々にかき集めつつあった
航空戦力を、本国領中部地域に投入することを決め、2月2日より連合軍航空部隊に対して、迎撃戦闘を挑む事となった。

シホールアンル軍第78空中騎士隊に所属する38騎のワイバーンは、同僚部隊である第66空中騎士隊の29騎と共に、ドムスクル方面
へ向けて進撃中の敵戦爆連合編隊を迎撃すべく、猛スピードで敵の推定位置に向かいつつあった。
第78空中騎士隊第2中隊長を務めるウルグリン・ネヴォイド大尉は、指揮官騎より発せられた敵発見の魔法通信を受けるや、
指示された方向に顔を向けた。

「いたぞ……アメリカ軍の戦爆連合編隊だ」

ネヴォイド大尉は恨めし気に呟きながら、右手で顔の左頬を撫でた。
彼の左頬には、横に引っ掛かれたような傷跡がある。

「昨年の1月に負傷して以来、苦心惨憺しながらもようやく回復できた。復帰したからには、以前よりも増して、多くの敵を撃ち抜き、
連中を血祭りにあげてやる!」

彼は顔を憎悪に歪めながらも、自らの士気を大いに奮い立たせた。
ネヴォイド大尉は、対米戦では南大陸戦から戦い続けてきたベテランであり、これまでに21機の米軍機を撃墜している。
個人の技量も優秀でありながら、媚態の掌握術も巧みであり、ネヴォイド大尉の指揮する中隊はどのような戦況にあろうとも一定の
戦果を挙げ続けてきた。
だが、その栄光は長く続かなかった。
昨年1月下旬に起きたアメリカ機動部隊のヒーレリ領沿岸の事前空襲で、ネヴォイド大尉の属していたワイバーン基地は米艦載機の
奇襲を受け、所属のワイバーン隊はその大半が、飛び立つ事もままならぬまま、地上で次々と撃破されてしまった。

441ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:11:53 ID:m8U/qgi.0
ネヴォイド大尉はその巻き添えを受けて瀕死の重傷を負い、前線から離脱せざるを得なくなった。
それからと言う物の、ネヴォイド大尉は本国送還となり、首都ウェルバンル近郊の陸軍病院で治療を受けたが、医師からは竜騎士へ
の復帰は絶望的であると伝えられた。
だが、ネヴォイド大尉は決死の覚悟で回復に励んだ。
その様は、復帰は出来ぬと判断した医師を大いに驚かせるほどであった。
懸命のリハビリの甲斐あってか、12月初めには無事退院し、12月5日には、シホールアンル西北部にあるワイバーン隊予備訓練所で
完熟訓練にあたり、そこでも抜群の成績を収めて前線復帰を果たすことができた。
そして今日……彼は待望の循環を迎えたのである。

「前方に敵編隊視認!距離、6000グレル!(12000メートル)

指揮官騎から新たな魔法通信が飛び込んできた。
言われた通りに、前方に目を凝らすと、確かに敵編隊と思しき多数の黒い物体が見受けられる。
位置的に敵を見下ろす形になっているため、高度差の有利はこちら側に取れているようだ。

「第1、第2中隊は敵の護衛機!第3、第4中隊は敵の爆撃機を攻撃せよ!」
「了解!」

ネヴォイド大尉は魔法通信でそう返してから、指揮下にある第2中隊の部下に命令を伝達する。

「第2中隊の目標は敵の護衛戦闘機!繰り返す、目標は敵の護衛戦闘機だ!訓練通り、2騎一組となって敵と戦え!」

彼が命令を伝え終わると同時に、指揮官騎直率の第1中隊が増速し始めた。
ネヴォイド大尉の第2中隊や、第3、第4中隊も負けじとばかりにスピードを上げる。
程なくして、敵側もワイバーン群の接近に対応し始めた。
爆撃機の周囲に張り付いていた戦闘機と思しき機影が多数離れ、ワイバーンに向けて上昇しつつある。
第1、第2中隊のワイバーンはそれを下降しながら向き合う形となっていた。

「敵はマスタングか」

ネヴォイド大尉は、うっすらと見え始めた敵影の機種を言い当てる。
細長い機首に涙滴型の風防ガラス、胴体化にある細長い穴……

442ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:12:49 ID:m8U/qgi.0
アメリカ軍の主力戦闘機であるP-51マスタングだ。
機体の格闘性能はワイバーンに劣るものの、機体自体のスピードが速く、上昇性能や下降性能が高い。
それに加え、近年は性能を幾らか向上したマスタング(P-51H。P-51Dと比べて最大速度と運動性能が向上している)が
前線に出始めているため、非常に厄介な敵の1つとなっている。
マスタングに対等に近い形で渡り合えるのはケルフェラクぐらいだが、この場には居ない。
ワイバーンのみで、目の前の難敵と渡り合うしかなかった。
眼前のマスタングは、3000グレル程の距離に近づくと、両翼からポロポロと、何かを投下し始めた。
ネヴォイドは、そこからマスタングがやにわに増速したように思えた。
戦闘態勢に入る敵戦闘機の後方には、箱形の密集隊形を組んでいる爆撃機群が見える。
おぼろげではあるが、その特徴のある2つの垂直尾翼や、上方向に反った主翼の根本がはっきりと見て取れた。

「ミッチェルだな」

ネヴォイドは、南大陸戦初期から見慣れた爆撃機の機種名を呟いた。
B-25ミッチェル双発爆撃機。古強者となった彼から見れば、ある意味馴染み深い敵と言える。
だが、その馴染み深い敵は、南大陸から、この神聖なる帝国本土上空にまでその姿を見せつけてきた。
祖国の空を侵した以上は、生かして帰すべきではない。
しかし、ネヴォイド達の任務は、そのミッチェルを護衛するマスタングを引き付ける事だ。
その間に、第3、第4中隊が容赦なくミッチェルを叩き落としてくれる事を期待するしかなかった。

先頭を行く第1中隊が敵との距離を急速に詰め、程なくして互いに頃合い良しと判断した距離で攻撃が開始される。
ワイバーンの光弾とマスタングの機銃弾が発射されるのは、ほぼ同時であった。
下方から競り上がるマスタングに光弾が降り注ぎ、上方目掛けて駆け上がるワイバーンに機銃弾が撃ち上げられる。
ワイバーン群の何騎かが被弾し、その周辺に防御魔法起動の光が明滅した。
第1中隊は防御魔法のお陰で脱落騎を出す事なく、マスタングの集団と瞬時にすれ違った。
一方のマスタング側は数機が被弾し、うち1機が発動機付近から濃い煙を吹き出して編隊から脱落し始めた。
マスタングはそのまま第2中隊目掛けて突っ込んで来る。
ネヴォイドは、隊長機と思しき先頭のマスタングに狙いを定めた。
マスタングも、ワイバーンも互いに250レリンク(500メートル)以上の高速で接近しているため、あっという間に距離が縮まる。
彼は、目標が距離200レリンク(400メートル)に迫った瞬間、相棒に光弾発射を命じる。

443ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:13:50 ID:m8U/qgi.0
竜騎士とワイバーン、互いの魔術回路を繋げ上で発された命令は即座にワイバーンに伝わり、大きく開かれた顎から
光弾が複数初連射された。
対して、マスタングも両翼から発射炎を明滅させる。
主翼の下から多量の薬莢を吐き出すのが見え、それ同時に、真一文字に向かってくる6条の火箭がネヴォイド騎に向かってくると思われた。
ネヴォイドは一瞬だけ身を屈めたが、機銃弾はネヴォイド騎の左側に外れていった。
ネヴォイドは、マスタングに光弾が命中する事を期待したが、マスタングは特有の発動機音をがなり立てながら、あっという間に
すれ違っていった。

「散会!2騎ずつに別れて戦え!」

第2中隊のワイバーンは、2騎単位で別れると、それぞれの目標に向かい始める。

「カンプト!離れるなよ!」
「了解!」

ネヴォイドは、僚騎を務めるカンプト少尉にそう念を押しつつ、新たなマスタング目掛けてワイバーンを進ませる。
そのマスタング2機は、右に反転しようとしている。
距離は800レリンク(1600メートル)程だが、全速力で突っ込むワイバーン2騎は、即座に距離を詰めていく。
マスタングはネヴォイドのペアに気付くや、機首を向けて増速し始める。

「一旦下降だ!」

ネヴォイドはそう叫び、ワイバーンが急に下降を始める。
2騎のワイバーンは下降したが、その時、彼我の距離は300レリンク程にまで縮まっていた。
マスタング側からすれば、狙いをワイバーンに定め始めたところに、そのワイバーンが目の前から消えた格好になる。
数秒ほど下降したネヴォイドは、今度は急上昇を命じ、相棒がそれに応えて体をくねらせ、瞬時に上昇をへと移る。

(相手がベテランなら、この方法はすぐに見破られる。さて、どうなるか!)

彼は心中で呟き、急上昇の圧力に顔を歪めながらも、マスタングに視線を向ける。
目標のマスタングは思いのほか動きが鈍く、ようやく機体を左に旋回下降させようとしていた。

「フン!相手はヒヨッコだな!」

444ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:14:22 ID:m8U/qgi.0
ネヴォイドの口角が吊り上がる。
マスタングのパイロットがネヴォイド達に顔を向けるのが見えたが、その頃には、ワイバーン2騎は射撃位置についていた。
ワイバーンは、マスタングの左側面に光弾を撃ち込む形となった。
マスタングが不意に機体の角度を傾けた事もあり、光弾は被弾面積を増大させた敵機に容赦なく突き刺さった。
敵機の両主翼や胴体に次々と命中し、特に左主翼部分には多数の光弾が叩き込まれた。
防弾装備の充実した米軍機とはいえ、一定箇所に光弾を受け続けて耐えられる筈がなかった。
左主翼から紅蓮の炎が噴き出したマスタングは、断末魔の様相を呈しながら急激に高度を下げていく。

「1機撃墜!次だ!」

ネヴォイドは次の目標を、マスタングの2番機に定め、即座に光弾を放つ。
しかし、2番機は1番機と比べて幾分反応が速かった。
ワイバーン2騎が放つ光弾の弾幕を、機首を急激に下げることで回避しようとした。
全部をかわすことは出来ず、数発が胴体や右主翼に突き刺さったように見えるが、マスタングは気にすることなく急降下に移った。

「クソ!」

ネヴォイドは舌打ちしながら、逃げに入ったマスタングを睨み付ける。
米軍機が急降下に入れば、追撃することはほぼ不可能である。
ワイバーンの急降下性能では米軍機に追いつけないからだ。
ネヴォイドの操る85年型汎用ワイバーンは、開戦時のワイバーンと比べて速度性能は大幅に改良されているが、それでもマスタングやサンダーボルト
といった米軍機の急降下性能には及ばない。
追撃が全く出来ないわけではないが、敵機は350グレル(700キロ)ほどの速度で下っていくため、ワイバーンでは追いつくどころか、
徐々に離されていくのが現状だ。

「不毛な事はやらん。次の目標を探すぞ!」

ネヴォイドは逃げ散る敵は放っておき、次の敵を探す事にした。

第1中隊10騎、第2中隊12騎のワイバーン群に対し、向かってきたマスタングは38機にも上ったが、第1、第2中隊の各騎は数の差に怯む事無く
空中戦を続けた。
最初の正面攻撃を終えた後は、彼我入り乱れての乱戦となる。

445ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:14:55 ID:m8U/qgi.0
反転したワイバーンが飛び去ったマスタングに追い縋る。
上手い具合に背後を取ったワイバーンのあるペアは、不覚を取ったマスタングの背後目掛けて光弾のつるべ撃ちを放った。
たちまち胴体や主翼に被弾し、痛々しい弾痕を穿たれたマスタングが黒煙を吐きながら墜落する。
その横合いに別のマスタングが突っかかり、ワイバーンのペアに12.7ミリ弾のシャワーを浴びせた。
防御魔法が起動し、殺到する機銃弾を悉く弾き飛ばすが、2番騎の防御魔法が耐用限界を迎えたため、一際大きな輝きを発した。
直後、横合いから複数の機銃弾に貫かれ、竜騎士共々射殺された。
撃墜された2番騎を悼む暇もなく、1番騎は別のマスタングの攻撃をかわし、隙あらば背後を取って光弾を浴びせる。
しかし、1騎のワイバーンに対し、4機のマスタングが断続的に攻撃を行ったため、しまいには下方からマスタングが放った機銃弾をまともに
受け、致命傷を負って真っ逆さまに墜落していく。
第1、第2中隊は数の差に幾分押され気味になりつつあったが、その事は想定内であった。

「第3、第4中隊、爆撃機群に取り付きます!」

新たなマスタングと格闘戦を行うネヴォイドは、その最中に入ってきた魔法通信を聞くなり、緊張で張り付いた表情を微かに緩ませた。

「いいぞ!計画通りだ!」

この時、第3中隊、第4中隊のワイバーン16騎は、敵爆撃機群の右上方より接近していた。
爆撃機の周囲についていた10機ほどのマスタングがワイバーンに立ち向かい、空戦に引きずり込もうとする。
だが、16騎のワイバーンはマスタングと短い正面攻撃を行っただけで、あとは猛然と爆撃機群に迫った。
ミッチェルの胴体上方と側面部に取り付けられた機銃が銃身をワイバーンに向けられ、機銃弾が放たれる。
ワイバーンは体をくねらせ、または横滑りさせる等して機銃弾をかわしていく。
48機のミッチェルが放つ弾幕は、なかなかに凄まじい物があるが、ワイバーンが常用している防御結界は、それが無駄な努力と嘲笑するかのように、
明滅しながら機銃弾を弾き飛ばし、瞬時に射点へ辿り着いた。
ワイバーンの光弾が、編隊の一番外側を飛行するミッチェルに叩き込まれる。
光弾が主翼の外板に突き刺さり、キラキラと光る破片が大空に吹き荒ぶ。
カモとされたミッチェルに1番騎、2番騎、3番騎と、光弾が次々と注がれ、被弾数が増していくが、流石は防御力に定評のあるミッチェルだ。
多量の光弾を叩き込まれても墜落する気配がない。
だが、操縦席に光弾が注がれてからは、状況が一変する。
直後、ミッチェルが大きく動揺し、右に機体を傾けながら編隊から離れ始めた。

446ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:15:45 ID:m8U/qgi.0
第7航空軍第451爆撃航空師団第621爆撃航空団に属する第601爆撃航空群のB-25H48機は、横合いからワイバーンの襲撃に遭い、今しも1機のB-25が
撃墜されようとしていた。

「81飛行隊の5番機が被弾!墜落していきます!」
「クソ!マスタングの連中は何やってやがる!」

第601爆撃航空群第92飛行隊の指揮官であるカディス・ヘンリー少佐は、不甲斐ない味方戦闘機を呪った。

「アリューシャンからこの前線に転戦して、最初の戦闘でこの有様とはな!」

ヘンリー少佐は怒りの余り、操縦桿を思い切り握り締めた。
第7航空軍は、元々はアリューシャン列島防衛の戦力として、1943年2月からアリューシャン列島ならびに、アラスカ島に主戦力を常駐させていたが、
1945年9月には北大陸戦線への異動が決まり、新設された第9航空軍と交代する形でアリューシャン、アラスカ島から離れた。
第7航空軍の前線到着は昨年の12月末であったが、既に敵の反攻が失敗に終わり、大勢も決した事もあって、第7航空軍の出番はなかった。
それから今日までは、ひたすら訓練に明け暮れていた。
他の味方航空部隊が前線で次々と戦果を挙げる中、第7航空軍の将兵は悶々とした日々を過ごしたが、今日の作戦が伝えられると、彼らの士気は高まった。
ヘンリー少佐は、必ずや敵の前線陣地に爆弾を叩き込み、搭載してきた機銃弾や75ミリ砲弾を1発残らず撃ち込んでやると意気込んだが、その初戦で
味方はまずい戦をしつつあった。

「マスタングの連中、半分以上が経験未熟なパイロットですからな。なんとなく予想はしてましたが、まさか当たるとはねぇ」

副操縦士のコリアン系アメリカ人であるブン・ジョントゥル中尉が苦り切った口調でヘンリー少佐に言う。
ヘンリー少佐もジョンケイド中尉も、第7航空軍に属するまでは別の部隊でB-25に乗り続けてきた猛者である。
出撃前、マスタングのパイロットたちをひとしきり見回したが、前線で戦い通した熟練者と比べると、明らかに不安があった。
601BG(爆撃航空群)の護衛には60機のP-51が当たり、その半数以上が制空隊として敵ワイバーンと戦い、残りが爆撃機の周囲に張り付いて
突破してくるワイバーンを食い止めるはずであったが、それが失敗した事は明白だ。
B-25への攻撃を終え、一旦距離を置くワイバーンに他のP-51が追い縋るが、そこの空域に護衛機は居なくなり、がら空きとなる。
そこを別のワイバーンが衝いて、猛スピードで爆撃機に肉薄し、光弾を叩き込んでいく。
コンバットボックスを組んだ爆撃機編隊も弾幕射撃で対抗するが、B-25はB-24やB-17のように多くの機銃を搭載してはいないため、打ち出す弾の数はどうしても
少なくなる。

447ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:16:15 ID:m8U/qgi.0
「81飛行隊3番機被弾!編隊から落伍します!」
「191飛行隊に向けて新たなワイバーンが接近!新手です!」
「あ、護衛機が1機やられたぞ!」

レシーバーに刻々と戦況が伝えられて来るが、どれもこれもが凶報であるため、ヘンリー少佐は心の底から不快であった。

「ええい!何かいい報告はないのか!?」
「味方戦闘機、新手のワイバーンに向かいます!敵騎の数、約20!」
「指揮官騎より各機に告ぐ!編隊を密にせよ!繰り返す、編隊を密にせよ!」

601BGの指揮官騎より、所属する3飛行隊各機に命令が下される。

「そんな事は分かってるわ!それより、味方のマスタングは何をしてるんだ!?」
「敵ワイバーンを追い掛けてますな」

ジョントゥル中尉が眉を顰めながら、機首の右側に向けて顎をしゃくった。
先に攻撃してきたワイバーンと、マスタングが空戦をしている様が見て取れる。
格闘戦に誘い込もうとするワイバーンに対し、マスタングは本国で教えられた通り、一撃離脱戦法に徹して空戦を進めているようだ。
だが、それは同時に、与えられていた護衛任務をすっぽかして敵を落とす事のみに集中している証だ。

「ヒヨッコ共が!頭に血が上って護衛任務のやり方を忘れてやがる!帰ったら連中を一人残らずぶん殴ってやるぞ!」
「一応、全部のマスタングが編隊から離れている訳では無いですな」

ジョントゥル中尉は、B-25の付近に展開したまま、ジグザグ飛行を続ける5,6機のP-51を指さした。

「いい奴らだ。これからも上手くやって行けるだろうさ」

ヘンリーは微かに笑みを浮かべ、命令を遵守したマスタングに心中で感謝の言葉を贈る。

「敵ワイバーン、191飛行隊に突っ込みます!数は10騎!」
「了解!」

448ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:17:01 ID:m8U/qgi.0
新たな報告を耳にしたヘンリーは、一言だけ返してから現在地を確認する。
現在、601BGは目標であるドムスクルまで40マイルの地点に到達しつつあった。
今は200マイル(320キロ)の速度で飛行しているため、30分以内には目標である敵の野戦陣地を攻撃できるであろう。
しかし、敵ワイバーンの迎撃は熾烈だ。
昨年の一連の戦闘で、シホールアンル帝国軍は正面の航空戦力を大量に損失した他、後方地域にあった予備航空戦力も、海軍が首都近郊へ不意打ちを
掛けたため保有数が払底し、航空戦力は壊滅した思われていた。
このため、今日の出撃では、シホールアンル航空部隊の反撃は少ないであろうと予測がされていた。
ところが、現実はこの有様だ。
敵は後方地域から残っていた航空戦力をかき集め、惜しげもなく前線に投入してきている。
負け戦にあっても、一歩も引こうとしない敵航空部隊の信念は、敵ながら見上げた物だと、ヘンリーは素直に評価していた。

「191飛行隊に被弾機あり!あっ、指揮官機です!指揮官機被弾!!」
「なんだって……指揮官機がやられただと!?」

ヘンリーは思わずギョッとなり、191飛行隊が飛んでいるであろう、左側の空域に顔を向ける。
ヘンリー機からはうっすらとだが、191飛行隊の先頭を行くB-25が、左右のエンジンから紅蓮の炎と黒煙を吹きながら、機首を下に墜落していく様子が
見て取れた。

「くそ、ゼルゲイ……!」

ヘンリーは歯噛みしながら、指揮官騎を操縦していたパイロットの名前を呟いた。
191飛行隊の指揮官であるヒョードル・ゼルゲイ少佐は、ロシア系アメリカ人の出であり、ロシア人らしい濃い顎髭と堂々たる巨躯、それに似合わず、繊細な
飛行を行うことで有名なベテランパイロットであった。
ゼルゲイ少佐とは大して面識が無かったが、年末の宴会で話したときはその人懐っこい性格から、ヘンリーも付き合っていて面白いパイロットであると思った。
年末のパーティーでゼルゲイと意気投合したヘンリーは、楽し気に会話を交わした物だったが……

「ホント、いい奴から居なくなっちまう」

ヘンリーは幾分意気消沈したが、任務中という事もあり、すぐに我に返る。

「護衛のマスタングより緊急信!新たな敵編隊接近中!敵編隊の一部にはケルフェラクも含む模様!」
「畜生!連中総出で殴りに来たぞ……!」

449ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:17:31 ID:m8U/qgi.0
彼は忌々し気に愚痴を吐いた。
直後、レシーバーに切迫した声が響いた。

「右上方より敵ワイバーン4騎!こっちに向かってきます!!」

それは、胴体上方の旋回機銃手の声だった。

「こっちにだと!?機銃手、野郎をぶち落とせ!」
「言われなくてもやりますぜ!」

レシーバーに威勢の良い返事が響く。
胴体上部機銃を任されているウィジー・コルスト軍曹は、12.7ミリ連装機銃を下降しつつあるワイバーンに向けた。
敵は緩降下しながら急速に向かいつつある。
彼はワイバーンの1番騎に照準を合わせ、距離800で機銃を発射した。
2本の銃身から機銃弾が放たれ、曳光弾が敵ワイバーンに注がれていく。
ワイバーンは体をくねらせたり、ロールを行いながら機銃弾をかわそうとする。
そのトリッキーな機動は、米軍機では絶対に真似できない代物だ。

「いつもながら、気持ち悪い動きを見せやがるぜ!このゴキブリが!!」

コルストはワイバーンに罵声を放ちつつも、敵の未来位置を予測して機銃を発射し続ける。
だが、敵の細かい動きに対応しきれず、弾が当たらない。

「ファック!この機にもB-29に積まれている遠隔機銃が付いていれば、少しはマシになると言うのに!」

B-25に搭載されている旋回機銃は、目視照準で敵に狙いを定めて発砲を行うが、B-29には遠隔装置式で、照準器に敵の未来位置を予測して
射撃を行える新型の機銃が搭載されている。
この新開発の機銃は、従来の旋回機銃と比べて格段に操作性が良い上に、複雑な動きをするワイバーン相手でも命中弾が出やすく、経験の未熟な機銃手でも
1ヶ月半ほどの訓練を積めばそれなりに扱うことができるため、故障が多い事を除けば敵の迎撃がやりやすい傑作機銃と言えた。
このため、B-29や、最新鋭のB-36以外の爆撃機は、肉眼で敵を見据えながら、難しいワイバーン迎撃をこなすしかなかった。

450ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:18:09 ID:m8U/qgi.0
敵1番騎との距離はあっという間に縮まり、距離200メートルまで迫ると、ワイバーンが大きな口を開いた。
コルストは、その口に機銃弾を食らわせようとし、12.7ミリ弾を発射し続ける。
ワイバーンも光弾を発射し、緑色の輝く光弾が機体目掛けて降り注いできた。
けたたましい機銃の発射音と共に、足元に太い50口径弾の薬莢が断続的に落下して金属的な音が鳴り響く。
その直後、機体に光弾が突き刺さり、不快気な音と共に機体が振動で揺れ動く。
コルストは、1番騎に注いだ機銃弾が外れ、1番騎が下方に飛び去って行くのを横目で見つつ、新たに2番騎へ機銃を向けて、発砲を再開する。
2番騎に夥しい数の機銃弾が注がれるが、2番騎もまた、トリッキーな機動で機銃弾をかわす。
だが、その未来位置を見計らったかのように、右側法の銃座から放たれた射弾が、上手い具合にワイバーンの横腹を抉った。
短時間で多数の機銃弾を横腹に受けたワイバーンは、断末魔の叫びを発し、横腹から出血しながら、真っ逆さまになって墜落していった。

「ハッ!思い知ったかクソが!!」

コルストは、撃墜されたワイバーンに悪態をつきながら、続けて突進してくる3,4番騎に機銃を向け、発砲を開始した。
ワイバーン3,4番騎に対して、多数の機銃弾が注がれるが、この敵ワイバーンは怖気づいたのか、400メートルから300程の距離でひとしきり光弾を撃ちまくると、
そそくさと下方に向けて飛び去って行った。
この射弾も敵の狙いが甘かった事もあり、2発が胴体部に命中しただけで大半は機体を逸れていった。

ヘンリー機は10発ほどの敵弾を受けたが、当たり所が良かったせいもあり、機体は快調に動き続けていたが、状況は悪くなる一方だ。

「敵の新手、更に接近中!」
「制空隊は何している!敵のワイバーンを殲滅できんのか!?」
「は……何騎かは撃墜したようですが、敵も今だに士気旺盛で、依然として制空隊と空戦中の模様です」
「ええい、こっちの増援はどうしたんだ?」
「その点に関しては、まだ何とも……」
「チッ!第一波の俺達が貧乏くじを引かされる形になるか……!」

ヘンリーは、護衛のP-51隊の指揮官に忌々し気にそう吐き捨ててから、一旦通信を終える。

「今日だけで、第7航空軍500機以上の攻撃隊を差し向けるが、敵の出方からして、第一波の俺たちはまだまだ叩かれ続けることになりそうだ」
「代わりに、第二波、第三波の連中は悠々と敵陣を爆撃できるって事ですかな」
「そうなるかもしれん」

451ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:18:42 ID:m8U/qgi.0
ジョントゥルの皮肉気な言葉に、ヘンリーは自嘲めいた声音で相槌を打った。

状況は悪い。
601BGのB-25のうち、一体何機が、復仇の念に燃える敵の猛攻の前に生き残れるのか。
次は燃えるのは自分か。
はたまた、隣を飛行する僚機なのか……
そんな憂鬱めいた空気がB-25編隊の中に流れ、唐突の味方編隊出現の方を聞いた時は、誰もが無反応なままであった。

戦場に到達した時、先行していた味方の戦爆連合編隊は、敵航空部隊の予想を超える抵抗の前に苦戦を強いられており、その状況は、
高度8000を行く彼らからも把握する事ができた。

「こちらホワイトスターリーダー。爆撃機編隊の指揮官騎へ。聞こえたら返事をしてくれ。応援に来たぞ!」

彼は、無線機越しにB-25編隊の指揮官騎を呼び出した。

「こちら601BGの指揮官、ラパス・ホルストン大佐だ。応援に来てくれたか!感謝するぞ!!」
「遅れて申し訳ありません。今から援護に向かいます!」
「君達は今どこにいる……あぁ……そんな所にいたのか……!」
「そちらの周囲に張り付いているワイバーンは、P-51がどうにか食い止めているようですが、貴編隊10時方向より敵の密集編隊が
迫りつつあります。我々はそちらを叩きたいが、大佐はどこを叩いてもらいたいと思われますか?」

無線機の向こうにいるホルストン大佐はしばし黙考したが、強い口調で決断を下した。

「10時方向の新手を迎撃してくれ!こっちに取り付いている敵ワイバーンはこちらで何とかしよう」
「了解!敵の新手に向かいます!」

彼はそう告げると、指揮下の各飛行隊に命令を下す。

「よく聞け!これより、B-25編隊に向かいつつある敵の新手に向かう!この機体に乗っての初の実戦だ。ヘマするなよ!」
「「了解!!」」
「よし、各機、俺に続け!」

452ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:19:22 ID:m8U/qgi.0
彼……第74戦闘航空師団第712戦闘航空団所属の第551戦闘航空群指揮官を務めるリチャード・ボング中佐は、愛機を緩やかに
左旋回させ、目標となる敵編隊の上方に付こうとしていた。
ボング中佐は、新しい愛機の発する強烈なエンジン音にこれまでに無い頼もしさを感じる。

「この機種には一度、事故で殺されかけたが……手懐ければこれほど凄い奴は居ないな」

ボング中佐は、本国勤務時に起きた出来事を思い出しつつも、自信ありげな表情を浮かべた。
愛機の速度計は600キロどころか、700キロを軽く超え、800キロに迫ろうとしている。
今までのアメリカ軍機ではあり得ない速度だ。
だが、彼が乗る機体なら、これぐらいの速度は軽々と出す事が出来る。
いや、800キロどころか、それ以上のスピードを出す事も可能である。

程なくして、ボング中佐の指揮する戦闘機隊は、敵編隊の上方に到達し、機体の右下から敵編隊を見下ろす形になった。

「全機、ドロップタンクを投棄。突っ込むぞ!」

ボング中佐は短くそう言うと、両翼についていた予備の燃料タンクを投棄し、愛機を右旋回させつつ急降下に入った。
プロペラ機とは全く異なる、金切り音を強くしたようなエンジン音が更に高くなり、スピード計は更に上昇を始める。
800キロすらも優に超えてしまうどころか、900キロ台にすら到達し、そして更にスピードが上がる。
急降下のGで体がシートに押さえつけられてしまうが、ボングはそれを気にすることなく、眼前の敵編隊に視線を集中する。
敵との距離は、文字通り、あっという間に縮まってしまった。
彼は短いながらも、敵編隊の最先頭を行くワイバーンに照準を合わせた。
ワイバーン編隊は反応は、何故か鈍い。

(フッ。それも当然だな!)

彼は心中でそう思い、いまだに相対できないままのワイバーンに向けて、機首に搭載されたの12.7ミリ機銃を猛然と撃ち放った。
機首に集中して6門配備されている為か、機銃の曳光弾はまるで、一本の太い棒のように見えた。
射撃の機会は2秒ほどしかなく、すぐに敵機の姿が後方へと消えてしまう。
10秒ほど下降してから、ボングは操縦桿をゆっくりと引いて旋回上昇に入る。

「各機、最初の攻撃が終わった後はペアに別れて動け!良い狩りを期待する!」

453ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:20:01 ID:m8U/qgi.0
ボングは970キロから、700キロ程に速度を落としながら旋回上昇を続ける。
各機に指示を伝えつつ、今しがた攻撃した敵編隊を見据え続けた。

敵編隊は、ボングの率いる戦闘機隊が攻撃したため、大きく隊形を崩し、墜落し始めている敵も5、6騎ほど確認できた。

「ようし!P-80の最初の攻撃は成功したようだな!」

ボングは最初の攻撃で敵を撃墜した事に、心の底から満足感を覚えた。


ボング中佐の操る戦闘機の名は、P-80Aシューティングスター。


アメリカが開発した、合衆国軍最新鋭にして、世界初のジェット戦闘機である。

P-80シューティングスターは、アメリカのロッキード社で開発された。
初飛行は1944年9月25日に行われ、その日から各種のテストと量産型へ向けた更なる開発がすすめられた。
前線部隊への配備は1945年11月に、アリューシャン・アラスカから前線に移動中であった第7航空軍の部隊に組み込まれる形で
進められ、45年12月末には、48機のP-80が配備を終え、今日まで出撃の機会を待ち続けていた。
P-80シューティングスターの性能は、従来のプロペラ戦闘機と比べて速度や高空性能が格段に向上した等、様々な面で特徴付けられている。
機体の性能は、全長10.5メートル、全幅11.81メートル、機体重量は無装備状態で約4トン、燃料や弾薬を搭載した場合は7.6トンとなっている。
同じ陸軍航空隊に属しているP-51と比較すると、サイズは若干大きいぐらいだが、重量自体はP-51よりも幾分重く、重戦闘機であるP-47と遜色ない重さだ。
この重い機体を、アリソン社製のJ33-A-35ターボジェットエンジンが動かし、その最大速力は970キロにも上る。

機体の外観は流線形を多用した事もあり、全体的にスッキリと引き絞られたような形をしている。
F6FやP-47等の武骨なフォルムが、米軍機のイメージとして浮かびやすいとされているが、P-80はどことなく、P-51のような優美さを連想させる
姿となっている。
この機体に搭載される武装は、12.7ミリ機銃が機首に6丁集中配備されており、機銃を発射する時は敵に対して、点を穿つような格好になるため、
射撃スタイルはP-38を思わせる形となっている。
この他にも、外装として1トンまでの爆弾、またはロケット弾が10発、あるいは12発搭載でき、地上攻撃にも対応できるよう設計されている。
P-80の性能はまさに、新時代の戦闘機と言っても過言ではない物であるが、P-80もまた、新兵器に付き物である各種の不具合に悩まされている。
特に、P-80を最も特徴付けているアリソン社製のターボジェットエンジンは故障が多く、配備直前までは四苦八苦しながら問題解決に当たっていた。

454ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:20:37 ID:m8U/qgi.0
551FG(戦闘航空群)を束ねるボング中佐も、テストパイロットとしてP-80を操縦中にエンジントラブルに見舞われ、九死に一生を得たほどだ。
とはいえ、前線部隊に配備後は、ターボジェットエンジンの不具合も改善されつつあり、稼働率は高いレベルを維持し続けている。
今回は初の実戦参加という事もあって、整備員達の努力の甲斐もあり、全機が戦場に向けて出撃できた。

アメリカ陸軍航空隊の期待を背負って出撃したP-80は、その期待に応えるべく、圧倒的な速度差を活かしてシホールアンル軍のワイバーンを
次々と撃墜したのである。

ボングは次の目標を、編隊の最後尾を行く3機編隊に定めた。

「敵はワイバーンの他に、ケルフェラクも引き連れていたか」

彼は幾分、苦みの混じった口調で呟く。
前線でP-38に乗っていた時は、ワイバーンよりもケルフェラクの方に何度も煮え湯を飲まされていた。
一撃離脱戦法をメインとするP-38は、ワイバーンを襲った後にそのまま急降下してしまえば、敵は追いつけずに諦めていくので楽だった。
だが、ケルフェラクは機体自体の性能もよく、頑丈であるため、一度離脱に掛かろうとしても追い縋ってくるのだ。
急降下性能も優秀なケルフェラクは、P-38に追いつく事も多々あるため、逃げ切れずに光弾を浴びせられ、撃墜された機は多い。
ボングも過去に、ケルフェラクとの空戦中に死にかけた事があるため、ケルフェラクに対する敵愾心は強かった。

「次の目標は、2時方向上方にいるケルフェラクだ。ついて来い!」

ボングは、僚機にそう命じると、増速してケルフェラクに向かった。
エンジンの出力が再び上がり、甲高い金属音が唸りをあげてスピードが増していく。
ケルフェラクとの距離は急速に縮まり、距離500で機銃の発射を行おうとした。
だが、ケルフェラクはP-80の接近に気付き、すぐさま散会して狙いを外した。

「チッ!勘のいい奴だ!」

ボングを舌打ちしつつ、ケルフェラクの下方を通過した。
ケルフェラクは、背後を見せたP-80に光弾を放ってきたが、コクピットからは、右側に大きく光弾が外れていくのが見えた。
P-80は800キロ以上の猛速で離脱していたため、狙いがつけ辛かったのだろう。
ボングはスピードを落とさぬまま、左旋回しながら次の射撃の機会を待つ。

455ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:21:51 ID:m8U/qgi.0
従来機と比べて、速度が速い分、旋回半径は大きい。
速度が速く、旋回性能も悪いとされるP-38ですら、P-80のように大回りする事はない。
だが、スピードが付いている為か、旋回を始めて回り切るまでの時間は思いのほか早かった。
ケルフェラクの方を見ると、ケルフェラクもまた旋回して背後を取ろうとしているのが見える。

「上昇するぞ!」

ボングは僚機に指示を飛ばすと同時に、愛機を猛スピードで上昇させた。
エンジン出力を最大にしたP-80は、900キロ以上の猛速で大空を駆け上がっていく。
高度計は5000、6000、7000、8000と、目まぐるしく変化する。
8500で上昇を止め、一旦水平飛行に移った。
ボングは右斜め後方に目を向けるが、目標としたケルフェラクは雲の向こうにいるため、姿を確認できない。

「あっさりと振り切ってしまって申し訳ない限りだ」

彼は愉快そうに呟きつつ、機体を左旋回させ、ついでに降下に入った。
雲を突っ切ると、先程攻撃を加えたケルフェラクが飛行しているのが見えた。
散会したため、1機ずつバラバラに動いている。
ボングは、一番右側を行くケルフェラクに向けて突進した。
高度8000から一気に降下したP-80は、目標までの距離を瞬時に詰めていく。
ケルフェラクは、一度見失ったP-80が左上方に迫っていたことに気付き、慌てて右旋回に入ろうとした。
しかし、その時には、ケルフェラクの未来位置を予測したP-80が射弾を送り込んでいた。
2機のP-80が放った機銃弾は、過たずケルフェラクを撃ち抜き、致命傷を負ってしまった。
ケルフェラクが被弾し、機首から白煙を噴き上げると同時に、P-80は瞬時に下方に飛び去って行く。
まさに、電光石火の如き早業である。

「1機撃墜!やりました!」

僚機の弾んだ声がボングのレシーバーに響いた。

456ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:29:07 ID:m8U/qgi.0
「了解!獲物はまだまだいる。燃料の続く限り攻撃するぞ!」

ボングは快活の良い口調で返しつつ、燃料計に視線を送る。
燃料は7割ほど残っていた。
P-80は、燃料消費がプロペラ機と比べて激しい。
航続距離は1900キロ程となっているのだが、空戦ともなると、ターボジェットエンジンは燃料をぐいぐいと消費してしまうため
実際の航続性能はカタログスペックよりも短い。
今のまま空戦を続けていれば、あと10分ほどで燃料は半分以下になってしまうだろう。
しかし、現在地は基地より200マイル(320キロ)しか離れていないため、余裕が無い訳ではない。

(まだまだやれる……)

ボングはそう確信し、次の獲物に向かうべく、愛機を増速させた。



ネヴォイド大尉は、唐突に表れた未知の戦闘機を見るなり、思考が完全に停止してしまった。

「な……何だ、あの早さは!?」

突然現れた6機の新手は、高空から飛行機雲を引いて悠々と飛んでいると思いきや、見た事のない猛スピードで空を駆け下り、
あっという間に2騎のワイバーンを撃墜したのだ。
P-51との戦闘で7騎に減っていた第1中隊のワイバーンは、この短い攻撃で更に2騎を失ってしまった。
別のワイバーンが下降して追い縋ろうとしたが、その頃には、未知の敵機は遥か下方にまで下ってしまい、追撃すらできなかった。
それに加え、未知の新型機は今までに聞いた事のない音を轟かせている。
遠雷の如き轟音に誰もが度肝を抜かされた。

「早い、早すぎる……!それに、なんて爆音だ!」

ネヴォイドは敵の非常識とも思える早さと、耳の奥に捻じ込まれるような強烈な爆音に、自分が夢を見ているのではないかと疑った。
しかし、部下の報告を聞くと、彼は、今の光景が夢ではないと確信する。

457ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:30:12 ID:m8U/qgi.0
「隊長!あの敵機の速度が速すぎます……あ、今度は下から来ます!こっちに来ます!!」
「迎撃しろ!体を敵に向けるんだ!」

ネヴォイドはすかさず指示を飛ばし、狙われている部下の小隊に迎撃するように伝える。

部下の率いる3騎のワイバーンは、急ターンで敵機に正面を向けるが、その直後に敵機から機銃弾が飛んできた。
ワイバーンは光弾を放つ直前に、敵に先手を打たれたのだ。
ワイバーンもまた光弾を放ったが、直後に小隊長騎が被弾し、次に3番騎も被弾する。
正面から竜騎士共々、致命傷を受けた2騎のワイバーンは、頭を下に高度を下げ始めるが、そこを敵機が猛速ですれ違っていく。
まるで、銀色の巨大な剣が、2騎のワイバーンに斬撃を与えたような光景であった。

「ああああ……なんて事だ……!」

ネヴォイドは、部下のあっけない死に様を見て、声を震わせる。
そして、悲報はさらに続く。

「あぐ……やられた……!誰か、第1中隊の指揮を……!」

魔法通信に悲鳴じみた甲高い声が鳴り響く。
未知の新型機は、あの6機以外にもいたのだ。

(第1、第2中隊はマスタングに加え、12機もの未知の新型機に襲われている!)

この瞬間、ネヴォイドは決断した。

「これより、このネヴォイド大尉が第1中隊の指揮を執る!第1、第2中隊はこれより撤退し、戦場を離脱する!第3、第4中隊も順次
空戦域より撤退されたし!」

458ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:31:43 ID:m8U/qgi.0
午前9時20分 ドムスクル近郊上空

ドムスクルへの銃爆撃を終えた601BGは、編隊を組み直しながら帰還の途についていた。

「味方機が上空を通過中。帰還する模様です」

コ・パイのジョントゥル中尉がヘンリー少佐にそう伝える。
上空を見つめると、高度7000で編隊を組んだP-80が南に向かっている様子が見て取れた。

「帰りも慌ただしい連中だな」
「しかし、P-80の参戦には驚きましたな。奴さん、まるで水を得た魚のように敵を落としまくってましたよ」
「初実戦だったから大暴れしたかったんだろう。俺としては、一方的にやられまくるシホット共に、半ば同情してしまったぞ」
「速度差があり過ぎますからね。あんだけ動き回れれば、後手後手になるのは致し方ない事です」

ジョントゥルの言葉に、ヘンリーは無言でうなずいた。

「しかし、あれが新時代の戦闘機の戦い方か……もはや、P-51やP-47も……いや、プロペラ機自体が時代遅れになってしまったな」

彼はそう呟くと同時に、どこか寂しいような思いも感じた。


この日の戦闘で、アメリカ軍は戦闘機、爆撃機合わせて29機の損失を出した。
29機のうち、戦闘機15機、爆撃機8機が空戦で失われ、爆撃機3機が対空砲火に撃墜され、残り3機は基地に帰還後、修復不能として廃棄処分された。

それに対して、シホールアンル側はワイバーン32騎、ケルフェラク12騎を喪失。
このうち、ワイバーン13騎とケルフェラク12騎は、P-80に撃墜されていた。
その一方で、P-80は1機が被弾し他のみで、被撃墜機はおろか、損失機すら無かった。

シホールアンル軍がようやく生み出した余剰戦力を投入して挑んだ航空反撃は、P-80シューティングスターという新型機の登場によって、初日から
大苦戦を強いられる結果となった。

459ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/01/31(木) 23:32:35 ID:m8U/qgi.0
SS投下終了です。今回はちと短めになってしまいました。

460名無し三等陸士@F世界:2019/02/01(金) 23:04:56 ID:Jxa7EpIk0
いつも投稿ありがとうございます!
今回も楽しく拝読致しました
いよいよ航空戦も末期戦状態ですね
落としどころがどうなるかに期待です

ところで>>439でトリップが割れてしまいましたので、新しいのをつけ直されることをおすすめいたします

461 ◆3KN/U8aBAs:2019/02/01(金) 23:18:28 ID:GP..ZAwg0
投稿お疲れ様です!
ジェットが登場して航空機も一気に変革の時ですなあ
40年もするとジェットのみになるんですがね

462名無し三等陸士@F世界:2019/02/02(土) 09:36:11 ID:z3hhesvo0
おおおおおお新作きたあああああああ
まってたああああああ

463名無し三等陸士@F世界:2019/02/02(土) 17:24:17 ID:bGF34tbQ0
なんか予感がして久しぶりに来てみたら新作投下きてた(*'ω'*)更新乙かれさまっす

464HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 19:47:43 ID:/1e016WM0
ヨークタウン氏乙です
貴重な航空戦力を投入した迎撃作戦、予想外の敵の登場で初手より躓く、といった感じでしょうか
しかもこの敵、例によって倍々ゲームじみた勢いで増えるのはほぼ確定
シホールアンル空中騎士団の、そしてシホールアンル帝国の終わりは近い…

ところで良い機会ですのでこちらも久々に外伝投下したいのですが、よろしいでしょうか?

465名無し三等陸士@F世界:2019/02/02(土) 21:07:40 ID:o3rpl5oY0
うおおおおお、今年初の最新話ktkr
ヨークタウンさん、いまさらですが
あけおめことよろ〜!

>>464
期待wktk

466HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 21:52:30 ID:/1e016WM0
では久々に投下行きます(確か前回投下したのは3年か4年前だった)

タイトルは『害虫と呼ばれた男』
それではしばしのお付き合いを…

467HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 21:54:18 ID:/1e016WM0
南大陸 バルランド王国首都オールレイング

南大陸きっての大国であるバルランド王国、その中心であるこの都市は南大陸有数の歓楽街があることでも知られており、そこでは戦時下であるにもかかわらず演劇や音楽といった様々な娯楽や高級な酒と料理が提供されてきた。
さらにアメリカ合衆国がこの世界に召喚され、南大陸諸国と同盟を結んでからは映画やジャズ、バーボンウイスキーといったアメリカから輸入された娯楽や物品がラインナップに加わり、訪れる人々を楽しませている。
そして今夜もまた、歓楽街に幾つもある劇場の一つで多くの人々がそういった娯楽を楽しんでいた。

だが、その楽しい時間は招かざる来客によって破られる。

「全員動くな! 合衆国陸軍憲兵隊だ!」

その叫びとともに店内に雪崩れ込んでくるアメリカ兵たち、誰もが『MP』と印刷された腕章を腕に巻き、銃を手にしている。
表玄関、裏口、その他の様々な出入り口から現れた彼らは劇場のすべての部屋を瞬く間に制圧し、居合わせた人々をその銃口で威圧した。
老いも若きも、男も女も分け隔てはしないその強硬な態度に誰もがおびえ、言葉を失う。

先程の喧騒が嘘のように静まり返る劇場の大広間。その入り口に将校に率いられたMPの一隊が現れると立ち尽くす人々をかき分けて進み、一段高い特等席で先ほどまで高級料理に舌鼓を打っていた一人のアメリカ人客を取り囲んだ。
進み出たまだ歳若い指揮官の中尉が精一杯の威厳を示しつつ、言い放つ。

「ジョゼフ・ホーランドことベンジャミン・シーゲルだな、お前を逮捕する!」

彼の一声に場の緊張が大きく高まる。だが当の本人は席を立つこともなく、整ったその顔に不敵な微笑を浮かべながら目の前の将校を見上げていた。


ベンジャミン・シーゲル、人呼んで"バグジー"(害虫)。
アメリカ合衆国の裏社会を支配する暗黒街の顔役たち、その紳士録に名を連ねるこの男はブルックリンの片隅で貧乏なユダヤ系移民の家庭に生まれ、少年時代から似たような連中と徒党を組んで様々な悪事に手を染めてきた。
窃盗、強盗、殺人、脅迫、密輸、違法賭博……決断の早さと腕っ節、そして度胸のおかげで彼は暗黒街の過酷な生存競争を勝ち抜き、ついには当時の暗黒街の超大物、チャールズ・"ラッキー"・ルチアーノなどと共に暗黒街の顔役の一人に数えられるようになり、かの悪名高い犯罪組織"マーダー・インク"(別名『殺人株式会社』、暗黒街における暗殺ビジネスを一手に担った組織として知られる)の設立にも関与、暗黒街にその名を轟かせることとなる。
だがそんな彼に転機が訪れた、派手にやり過ぎたがゆえに敵が増え過ぎたのだ。彼に恨みを持つ同業者、東部各州の州警察、FBIの捜査官たち。彼らのある者は夜昼となく彼をつけ狙い、またある者は彼を刑務所送りにすべく身辺を嗅ぎまわった。暗黒街の実力者となった彼はこれを恐れることはなかったが、彼の『商売仲間』たちは違った。

468HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 21:55:51 ID:/1e016WM0
「アイツが出来るのはわかるが、さすがにこれはやり過ぎだ」
「では彼を罰するか? それは短慮だと私は思うがね」
「それじゃ理由を付けて奴を厄介払いするのはどうだ? 幸い西海岸っていうおあつらえ向きの土地もある」
「ふむ……悪くないな」

かくして彼は新天地である西海岸のカリフォルニア州へと拠点を移し、そこでも生まれながらの悪党としての才能を存分に発揮して地元のギャングたちを束ね瞬く間に勢力を拡大、己の影響力を様々なところに及ぼすことに成功する(驚くべきことに彼の影響力はハリウッドにまで及んでいた)。
だがそこに降りかかったのが合衆国の異世界召喚という大事件である。

この事件により全米の犯罪組織が多かれ少なかれ打撃を受けたが、その中には彼のブルックリン時代からの旧友にしてルチアーノの腹心でもあるマイヤー・ランスキー(シーゲルと同じユダヤ系で、イタリア系が幅を利かせる暗黒街における彼の数少ない味方)もいた。
フロリダやニューオーリンズに地盤を持つ彼は1930年代後半からキューバで大規模なカジノ事業を営んでいたが、これが失われたことで彼の組織は大打撃をこうむり、ルチアーノ帝国での彼の地位もまた、揺らいでいたのだ。
そんな旧友の元を訪れたシーゲル、開口一番

「俺と一緒に南大陸でカジノを始めようぜ。キューバ同様FBIの連中は手が出せないし、俺が直接乗り込めばあんな野蛮な連中を抱き込むなんて造作も無いさ」

と切り出し、ランスキーを仰天させる。
当然だろう、暗黒街の大物の一人であるシーゲル自らが未知の土地へと乗り込むというのだ。若かりし頃から行動を共にし、相棒の人となり、とりわけ決断の早さとずば抜けた行動力を良く知っていた彼ではあったが、これには流石に驚いた。
だがそんな彼をシーゲルは説得する。

「俺のカリフォルニアでの仕事っぷりは知ってるだろう? それに困ってる親友を見捨てたら最後、俺は孤立無援だ」
「そう心配するなよマイヤー、相手は電気もラジオも知らない連中だぜ? まあ噂じゃ連中の魔法はヤバいシロモノだって話も聞くが、その時は鉛弾にモノを言わせるだけさ」
「ありがとう、持つべきものは友だな。あと頼みがある、俺の留守の間縄張りを見ててくれないかな? 俺の手下だけじゃ正直不安でね。ああそうだ、例のラスベガスの件は俺が帰ってくるまで待ってくれないか? いい考えがあるんだ」

そんなこんなで旧友の協力を取り付けた彼は他の暗黒街の実力者たちに己の南大陸行きを承認させ、当時犯罪組織の影響下にあった港湾労働者組合や彼自身が持つ様々な方面へのコネ、さらには旧友ランスキーの協力も得て巧みに官憲の目を欺き、見事南大陸入りに成功するのであった。

469HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 21:57:21 ID:/1e016WM0
めでたく南大陸入りに成功し、異世界の土地で行動を始めたシーゲルが目をつけたのはバルランド王国であった。これはエルフの国であるミスリアル、獣人の国であるカレアントと違い『人間の国』であり、そしていい具合に『腐って』いたからだ。
彼はまず表向きの身分である貿易商の肩書を用いてこの国の大商人たちと会食を繰り返す一方で怪しげな店にも足繁く通い、表立った商売のみならず『陰商売』つまり売春や賭博、人身売買などの非合法ビジネスに関わる者達の情報を収集する。
店で景気良く金(もちろん『汚い金』である)を使う彼のもとには瞬く間にその手の情報が集まり、程なくして彼はこの国の裏社会の実情を詳細に把握する。
だがその姿は高度に組織化された犯罪組織というものを見慣れた彼にとってあまりにも古臭いものだった。

「なんとまあ……どいつもこいつも人種に民族、身分だの何だので寄り集まってやがる。おまけにしきたりがどうの、伝統がどうのって……こんなオツムにカビが生えた連中を相手にするだけ時間の無駄だな」

アメリカ合衆国の犯罪組織は"パブリック・エネミー"ジョン・ディリンジャーや"スカーフェイス"アル・カポネといったギャングたちが幅を利かせた禁酒法時代以降も犯罪組織同士で、そして彼らの敵である法執行機関――FBI、州警察、そして"アンタッチャブルズ"の別名で知られる財務省酒類取締局――と戦いを繰り広げ、その中で成長と進化を続けてきた。
特にシーゲルと親しい間柄である"ラッキー"ルチアーノに至っては犯罪を純粋にビジネスとして捉え、優秀な人材であれば生まれや人種に囚われず取り立てて己の組織を全米有数の犯罪組織に成長させ、その力を背景に全米の犯罪組織をまとめ上げている。
それを目の当たりにしてきたシーゲルから見れば、南大陸の犯罪組織の有り様はあまりにも古色蒼然としたものだった。
だが、そんな彼の目に留まったものがある。

「『兄弟団』ね……。生まれも人種も関係ない、ひとたび兄弟の誓いを交わせば仲間同士、皆で力を合わせて助け合え、か」

それはシホールアンル帝国の一連の侵略戦争の結果生まれた組織だった。
シホールアンル帝国に征服された様々な土地で日の当たるところを歩けない稼業を営んでた人々、その中でもとりわけ若い世代の連中の中で自然発生的に生まれた組織の連合体。巨大ではあるが自衛のために全体を束ねる特定の指導者を持たない形態をとっていたが故に『頭のない怪物』と呼ばれていた存在。
彼らはかの悪名高い帝国内務省の密偵――またの名を『ジェクラの飼い犬』、あるいは『陰険男の手先』――と暗闘を繰り広げつつ帝国内務省の働きにより既存の『裏稼業』の多くが壊滅した北大陸において勢力を拡大。ついにはここ南大陸にもじわじわと力を及ぼしてきていた。

470HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 21:58:34 ID:/1e016WM0
「頭のない怪物、とは上手く名づけたもんだ。しっかししち面倒くさいことやってるもんだが、ナチの秘密警察みたいな連中がのさばってる土地じゃそっちの方が何かと都合がいいってことなんだろうな」

興味と苦々しさが半々のつぶやき、後者はユダヤ系であるが故のものだ。事実彼のナチ嫌いは相当なものであり、ナチ高官の暗殺を目論んだことすらある。
その時の記憶を反芻する彼の脳裏で二つの『帝国』を称する国、シホールアンルとナチス・ドイツが重ねあわされ、ゆっくりとイコールで結び付けられていった。

「よし……こいつに決めた。こいつらなら当てにできる」


そして一月後、彼はついにバルランド国内における『兄弟団』最大の勢力と接触することに成功する。
『オールレイング兄弟団』(兄弟団はマフィアと違い組織の名にボスの名を冠さない、これも組織防衛の一環である)。首都の半ばと周辺一帯を勢力化に収めている彼らは誕生してから数年しか経ってない新興勢力ではあったが、有能な指導者と命知らずの部下に恵まれたため旧来の勢力を次々と駆逐し急成長、今やバルランド王国の裏社会においていっぱしの存在となっていた。

そんな連中と接触するため少なからぬ資金をばら撒き、手間暇をかけて『つなぎ』を付けることに成功したシーゲル。だが彼の苦労はまだ終わらない。
実際接触出来たからといってすんなりボスに会える筈もなく、さらに数週間かけて彼らの信用を得るべくあれこれと動き回り、様々な手管を弄する。
世辞を振り撒き、時には脅す。金品の類で相手の歓心を買う。もちろん情報収集の手は片時も休めない。
その甲斐あってついにシーゲルはオールレイングの歓楽街の一角にある料理屋(もちろんただの料理屋ではない、『筋者御用達』の店である)にてかの組織のリーダー、ラティ・ベルフェスと初めて対面する。

「へぇ、アメリカの商人さん、ねえ……俺たち相手に何を商おうっていうんだい?」

開口一番そう言い放つと口を閉じ、今度は値踏みするような視線でシーゲルを射竦めるベルフェス。若々しさを漲らせた青い両目は瞬かず、ぴたりと彼に狙いを付けている。
シーゲルに負けず劣らず整った顔立ち、だがその顔に先程まで浮かべていた笑みは欠片も見て取れない。
無論そんな態度に怯むシーゲルではない。余裕たっぷりの態度で卓上のグラスに手を伸ばし、気取った手つきでそれを手にする。そのままゆっくりとグラスを弄び、時折口元に近づけては中の果実酒の香りを愉しむとおもむろに口を開く。

「あんたがたが欲しいもの、さね。商人ってのはそういうものさ」
「そうかい、じゃあ注文だ。まずはあんたの本当の名前と正体を頼むぜ」

471HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 21:59:48 ID:/1e016WM0
出会い頭に顔面目掛けての全力ストレート、とでも表現すべき発言、あるいは『お前のチンケな誤魔化しなぞとっくにお見通しだ』という恫喝。
当のシーゲルはそれを敢えていなさず、正面から受け止めた

「ベンジャミン・シーゲル、あんたらの同業者さ」
「……俺たちのシマを奪いにアメリカからわざわざ出張ってきた、ってわけじゃない。だろ?」
「話が早くて助かるぜ」

ほぼ同時に笑みを浮かべる両者。だからといって警戒を解くような真似はしない。今の二人にとってこれはある意味『戦い』なのだ。
心中で相手の意図と人となりを推し量り、言葉という武器で探りを入れ、相手の発言の端々を捕えてはまた推測を巡らせる。旨い料理と酒を愉しみつつ、二人の筋者は静かな戦いを繰り広げた。

(この世界の連中を古臭い田舎者と思ってたが、こんな奴もいるんだな。もしこいつがアメリカにいたなら今頃はいっぱしのギャングになってたに違いない。手強いぞ、こいつ。)
(手下も連れず身一つで他人の縄張りに乗り込んでくる、最初はただの向こう見ずかと思ったがどうやら違ったようだ。度胸といい行動力といい、こいつ相当なものだぞ)

言葉を重ねるうち両者は眼前の相手がどのような人物かを把握し、それまで抱いていた認識を改めた。
油断ならぬ相手、敵に回せばさぞ手ごわいだろう。だがもし味方に出来たなら大きなプラスになる。
二人の男が心中で出した結論は偶然としては出来すぎなほど一致していた。

やがて卓上に並んだ皿があらかた空になり、果実酒の瓶も空っぽになる頃。

「どうやら今夜はお開きだな、ミスター・シーゲル」
「正直飲み足りんし喋り足りんがね。雰囲気はいいし料理は旨い、実にいい店なんだが」

ベルフェスの問いかけに笑みを浮かべて返答するシーゲル。その一言に得たりとばかりにベルフェスは話を持ちかける。

「じゃあ次回は俺があんたを招待するってのはどうかな? ミスター・シーゲル」

探るような、値踏みするような視線。だが当のシーゲルは破顔一笑、まるで旧来の友人からの申し出でも受けるかのような態度でそれに応えた。

「いいねぇ、あんたのような『大物』のもてなしなら大歓迎さ。俺の宿は知ってるんだろう? 用意が出来たらあんたの所の若い衆でも寄越してくれよ。楽しみにしてるぜ」

かくして異世界の同業者からの招待を受けたシーゲル。冷静に考えればまともな判断とは到底言えない行為だろう。
友人や部下であっても全幅の信頼を置くな、本当に信じられるのは己だけ。それが暗黒街に生きる者たちの暗黙の、そして絶対のルールなのだ。ましてや一度会っただけの相手の招待を受け、身一つで相手の根城に赴く。明らかな自殺行為であった。
だが彼は怯まない。
これこそ、最大のチャンス。これをものにすることが出来れば『勝てる』。ブルックリンの路上で悪事を重ねていた頃からの経験に培われた勘がそう告げていた。

472HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:00:51 ID:/1e016WM0
そして十日後、オールレイング郊外にある邸宅の一つにシーゲルの姿があった。
この世界の建築様式で建てられた広壮な屋敷、ただし巡らされた塀は高く、敷地のそこここには武器を携えた屈強な男たちの姿が見て取れる。建物の出来といい警備の厳重さといい、この国の貴族たちの屋敷に備わってるそれと比較しても遜色ない。
その屋敷の中でシーゲルはベルフェスと共に様々なものを娯しんだ。
広々としたテーブルに上に並べられた豪勢な料理、傍らには選りすぐりの美人が美酒の瓶を携え、合図ひとつで手にした器に酌をする。
部屋の一隅では楽団がこの世界の音楽を奏で、臨時に設えられた舞台の上では煌びやかな衣装を纏った若い娘たちが音楽に合わせて踊り、歌う。
彼が仲間たちや『同業者』と何度も楽しんだパーティーとはいささか毛色が違ったが、シーゲルはこの場の様々なものを楽しみ、同時に他の列席者をそれとなく観察し、時にはバルコニーから広々とした庭を眺めたりもした。

(人一人もてなすのにこれだけのものを用意するとは、はったり混じりだとしても大したもんだぜ。だが本番はこれからだろうな。さて、何が出る?)

程なくして彼の予想は的中する。ベルフェスの合図と共に楽団が、女たちが次々に部屋を去り、入れ替わりに入ってきた召使たちが無言で酒や料理を片付け、立ち去る。部屋に残ったのは主人であるベルフェスとその取り巻きたち、そして唯一の客人であるシーゲルだけだ。
静けさを取り戻した室内、料理が片付けられたテーブルの一端に据えられた立派な拵えの椅子にベルフェスが腰を下ろすのをきっかけに一部の男たちが次々に着座し始める。他の者は壁際に退き、整列して命令を待つ兵士のように控えた。
シーゲルもまた着席を勧められ、ちょうどベルフェスと向かい合う位置に席を占める。

「では"ビジネス"の話と行こうじゃないか、ミスター・シーゲル。それとも"バグジー"って二つ名の方がいいのかな?」
「…………そう呼んでいいのは俺と本当に親しいごく一部の者だけだ。そこまで調べ上げたのなら当然知ってるだろう?」

低い、ドスをきかせた声、だが当のベルフェスは怯んだ様子など毛ほども見せず、逆に思い切った提案をする。

「俺はあんたとそういう間柄になりたいんだが、駄目かい?」
「…………」

ある意味不躾な質問に沈黙で応えるシーゲル。ただし相手を観察し続けるのは止めてない。

(手間隙かけて俺のことを調べ上げた上にこの言葉、ずいぶんと高く買われたもんだな。まあこの国の裏社会を牛耳るための後ろ盾が欲しい、そんなところか)

いや、違う、こいつはそんな奴じゃない、その程度で満足する男じゃない。目を見れば分かる。
こいつはもっとデカいことを企んでる、それに俺を引っ張り込むつもりだ。

シーゲルの予想は当たっていた。

473HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:02:30 ID:/1e016WM0
「なああんた、この国のことどう思う?」
「……身内じゃなくよそ者の俺の意見が聞きたいって事か。そうさな……」

問われるままにバルランド王国についての意見を述べるシーゲル。相手の意図を掴みきれていないため慎重に言葉を選びつつ話すのだが、その内容はかなり辛い。
貴族たちの腐敗、軍隊の後進性、硬直した社会体制ゆえ活用されてない有能な人材……この国を心から愛する者なら時に同意し、時には激怒するような内容だ。
だが当のベルフェスは彼の話を熱心に聞き、同席する男たちも黙って耳を傾ける。

「……まあ、俺が言えるのはこれくらいだな」

漸く喋り終えると背もたれに体を預け、大きく息をつくシーゲル。相変わらず警戒は解いてない。一方ベルフェスを初めとする他の男たちは口を開くことなく、ただ両の目でシーゲルを注視し続けていた。
重い、重い沈黙。だがそれをこの館の主人の一声が破る。

「貴重な意見、感謝するぜ、ミスター・シーゲル。礼といっては何だが、こいつを見てくれ……おいウェイネル、『アイツ』を持ってこい。両方ともだ」

ベルフェスの声に応じて壁際に立っていた男たちの一人が動く。
無言で部屋の奥にあるドアから出て行ったその男の方をちらりと見遣り、もの問いたげな顔のシーゲルに目配せをするベルフェス。やがて屈強な男が二人、それぞれ大きな木箱を抱えて部屋に入ってくる。最後に先ほどウェイネルと呼ばれた男が入ってくるとドアを閉じ。運び込まれた木箱を無言で開けるとその中身をベルフェスへと手渡す。

「こいつは俺の『兄弟たち』が手に入れてきた戦利品だよ。あんたにゃ見慣れたシロモノだろうが、まあ見てくれ」
「ほぉ……こいつぁ」

渡されたものを手に席を立ち、シーゲルの側へと歩み寄るベルフェス。
彼の手にあるのは彼がかつて幾度も目にし、また愛用もしたトンプソン・サブマシンガン、それも今のアメリカ軍で使用されている大量生産向けに簡略化されたM1ではなく、手の込んだ造りで知られるM1928だった。
だが、このようなものを彼はこれまで目にしたことがなかった。

フォアグリップとピストルグリップ、ショルダーストックは焦げ茶色の見たこともない木材で作られ、滑り止めのためのきめ細かなチェッカリングが刻まれている。一方銃身や機関部、弾倉といった金属部分は鈍い銀色に輝いており、所々に赤や青の宝石がはめ込まれていた。
手渡された銃の美しさに思わず感嘆のため息を漏らすシーゲル、だがベルフェスは顔をしかめ、吐き捨てるような口調で話し続ける。

「この国の貴族様の中にゃわざわざこんなシロモノを拵えさせて喜んでるバカもいるのさ。そして仲間内で集まってやくたいもない的当てごっこをやっては喜んでやがる。全くろくでもない奴らだよ」

474HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:03:27 ID:/1e016WM0
言い終えると同意を求めるような視線を向けるベルフェス。そんな彼にシーゲルはわかってるよ、と言いたげな表情を作って応じる。
再び降りた沈黙、それをベルフェスが破る。今度はことさらに明るい声で喋りつつ、部下がもう一つの木箱から取り出したものをシーゲルへと見せた。

「今度はこっちを見てくれ。俺たちのとっておきの武器でね、こいつらがあったからこそ今の俺たちがあるのさ」

こちらの銃は無骨で実用一点張り、しかもかなり荒い造りだった。短めの銃身は幾つも穴の空いた被筒で覆われ、そのすぐ後ろの機関部からは四角い弾倉が下向きに突き出し、さらにその後ろには引き金とピストルグリップが配置されている。一方機関部上部には大きめの排莢孔があり、そこから指掛け穴を開けられた遊底が見て取れた。無骨な機関部の後尾には簡素な造りの金属製銃床が蝶番を介して取り付けられている。
どうやら高価なM1の代わりに配備が進められつつあるM3サブマシンガンを独自に改造したもののようだが、使い勝手より生産性を重視したオリジナルと比べて細かなところに改善点が見て取れた。

「俺の『兄弟たち』が拵えたシロモノさ。貴族さまのお高いおもちゃにゃ見てくれでは勝てねえが、あいつ一挺拵える時にかかる金と手間でこいつがざっと十挺は揃えられる計算だ」

そう言って手にした銃を壁際にいる男たちの一人に抛るベルフェス。その男は危なげなく銃を掴みとると手慣れた様子で銃床を伸ばして射撃姿勢を取り、遠くの的を狙い撃つ仕草をしてみせた。

「あんたらの国ではこいつを"シカゴ・タイプライター"って呼ぶそうだが、それに倣えばあの銃はさしずめ"バルランド・タイプライター"ってとこだな」

ことさらに冗談めかした口調、だが彼の青い両目は笑っていない。

「この国は腐ってる。ろくでもない貴族共がのさばって、政治に戦争、その他諸々の事に毎度毎度口出しをしてやがるんだ。そのせいでこの国は滅びる一歩手前まで行ったんだぜ。あんたたちの国がこの世界に召喚されてなけりゃ今頃この国は滅んでいたさ」

強い口調で祖国のありよう、とりわけ貴族たちを批判するベルフェス。その整った顔には内心の怒りがありありと浮かんでいる。

「だがあんたたちの国は違う。威張り散らす貴族はいないし、やる気と才能さえありゃのし上がれる。俺はあんたの国には行ったことがないが、聞こえてくる噂を話半分に聞いてもほんとうに素晴らしい国だよ」

今度は笑みを浮かべ、アメリカという国に対する尊敬と憧れを口にする。

475HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:04:31 ID:/1e016WM0
両目を輝かせ、熱の籠もった口調で語り続ける相手の姿に内心驚きつつ、外見上は平静を保とうとするシーゲル。だが次の発言にはさしもの彼も度肝を抜かれた。

「だから俺は常々こう思ってるんだ。この国を俺たちの力でアメリカみたいに出来ないか、ってね。そんなところにアメリカ人のあんたがやってきた。俺たちと組んでこの国で一商売するためにね」

思わぬ方向に転がり始めた話題。内心の驚きを押し隠すシーゲルの前でベルフェスは熱弁をふるい続ける。

「俺がこの国の権力を握ったら、まずはあのろくでなし共をまとめて吹き飛ばすね。王様は立派な人だから大統領になって貰って、俺と兄弟たちがこの国を動かすのさ。俺は国務長官兼陸軍長官あたりになって、まずはあんたらと一緒にあのシホットをとっちめてやる……おいみんな、お前らはどの長官がいい?」

ウェイネルのその言葉に室内にいた手下たちが「俺は財務長官だ!」「それじゃ俺は商務長官で」「親分が陸軍長官ならあっしは海軍長官を貰いまさぁ」などと口々に答える。


こいつはバカだ。それもありきたりのバカじゃない、知恵と力を持った桁外れのバカで、おまけに極め付けにいかれてる。
俺もいかれた奴と呼ばれたことが何度もあるが、こいつのいかれっぷりは俺以上なのは間違いない。ああ、間違いない。
こんな奴と付き合った日には命が幾らあっても足りない。が、こいつの行動力は大したものだし、見た感じじゃ独力でかなりの規模の組織を作り上げ、そして維持している。組織の影響力はかなり広い範囲に及んでいそうだし、命知らずの部下もかなりいそうだ。
こいつを上手いこと手懐けてこちら側に抱き込めば、俺の計画は九割方成功したも同然だろう。
ならばこの俺の取るべき道は――


場面は再び劇場、MPたちに制圧され、逃げ出す隙など一切ないその場所でシーゲルは未だ余裕ある態度を崩さない。

「やあやあ皆様方、とっておきのニュースがあるんですが聞きたくありませんかね?それともあっしを問答無用で箱詰めにして本土に送り返しますかね?あっしとしてはどちらでもいいんですが、皆様の経歴に傷が付くんじゃないかとそれがし、ひそかに気にかけているんですがね」

満面の笑みを浮かべ、怪しげなボストン訛りで話しだすシーゲル。話し終えると胸に留めた赤いカーネーションの造花を手に取り、香りを嗅ぐ仕草をしてみせる。自分を取り巻くMPの集団を前にたじろぐどころか観客を前にした舞台俳優のようにきざったらしく振る舞う彼、MPたちの指揮を執っていた中尉の顔がみるみるうちに赤みを帯びる。

「たかがギャング風情が何を偉そうに――」

476HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:05:31 ID:/1e016WM0
怒りに任せて怒鳴り散らそうとする中尉、だが彼の声は尻すぼみとなる。MPの列をかき分けていつの間にか現れた数名の将校、その先頭に立つ少佐の階級章をつけた男が彼の肩に手をかけたのだ。その男は予想もしない出来事に驚く彼を押しのけてシーゲルに近づくとその青い目でシーゲルを値踏みするように眺める。

「その『とっておきのニュース』とやらについて詳しく聞かせてもらえないかな、ミスター・シーゲル。君の態度から察するに、それは我々にとって実に有益な情報であると私は推測しているのだが?」

氷のような声。だがシーゲルの笑みはいっそう大きくなった。その笑みを崩さないまま彼は席を立ち、目の前の男に歩み寄る。

「もちろんですとも。あっしはこれでも『愛国者』なんですぜ。ところで勇敢なアメリカ軍の皆様方は売国奴ならともかく、愛国者をとっ捕まえて牢屋に放り込むのがお仕事なんですかい?」
「………………」

『愛国者』という言葉をわざとらしく強調して言うとちらりと中尉に視線を遣り、相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべるシーゲル。相手の顔色が視界の隅で彼が胸に留めているカーネーションよりも赤くなるのを見て取ると、視線を再び目の前の男に戻す。
その顔には相手を嘲るような感情はなく、本気の勝負に出ている男特有の真剣さがあった。

無論、彼は何の考えもなしにこんな態度をとったわけではない。
あの邸宅での一時、目の前で途方もないことを言い出したウェイネルに彼は入れ知恵をしたのだ。

「あんたは力ずくでこの国を変えようとしてる。でもそれはあのクソッタレなシホット共と同じことをやらかすってことだぜ」
「あんた、俺のやり方にケチをつけるってのかい?」
「まあそう熱くなりなさんな」

色をなすベルフェスと不穏な態度を示した部下たちを落ち着かせ、話し出すシーゲル。その後のシーゲルの発言を要約すればこうなる。

「力ずくでなくても世の中は変えられるのさ。まずはあんたが持ってる金を元手に真っ当な商売をしてたんまりと稼いで、その金をあちこちにばら撒くのさ。金に汚い貴族様にその日暮らしの貧乏人、そのうちみんな金をばら撒くあんたをありがたがるようになる」

腰を浮かしかけてた男たちが元通りに着座し、彼の言葉に声を傾け始める。

「もちろん金をばら撒くだけじゃないぜ、あんたの『兄弟たち』に頑張ってもらって目障りな奴らの弱みを探りだすんだ。どんな奴にでも秘密にしておきたいことの一つや二つはある。そいつを押さえちまえばもうこっちのもんさ」

わが意を得たりとばかりに次々と頷く男たち、どうやら情報収集の重要性と手に入れた情報の活用法についてはきっちり理解してるようだ。

477HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:06:28 ID:/1e016WM0
「時には力ずくで行かなきゃならない時もあるさ、でもそういう時は喧嘩を売られて嫌々受けたって体裁にするんだ。仕掛けてきたのは奴らで、俺達は身を守るために仕方なく戦っただけだってな。で、仕上げに『連中は最後まで戦うのを止めなかったから、結局相手を叩き潰すしかなかった』って一言を付け加えておく。そうすりゃお偉いさんはケチが付けられねえし、あんたに好意的な連中は拍手喝采、あんたをヒーローにまつりあげてくれるぜ」
「まだるっこしいな、そういうのは」
「手順を踏むのは大事だぜ、女を口説く時なんか特にそうだ。要は相手を満足させながら自分の望むように動かすのさ。あんたもやったことがあるだろ?」

口を挟んだ相手にそう切り返すとニヤリと笑い、目くばせをする。
相手が一呼吸遅れて笑みを浮かべるのを見て内心胸をなでおろす。

(やれやれ、こんな思いをしたのは始めてだぜ。異世界ってのはとんでもない奴がいる所なんだな)

そんな内心など知るはずもないベルフェスは再びシーゲルへと向き直り、身を乗り出して今度は頼みごとをする。

「なあ、ミスター・シーゲル、いや、ここは"バグジーの兄貴"って呼ばせてくれ。俺たちにアメリカン・ギャングの流儀ってやつを教えてくれないか? あんたみたいな大物なら、さぞかし凄いことを知ってるんだろ?」
「いいとも、だが無料じゃあないぜ」
「分かってるさ、俺はあんたの『事業』を手伝い、あんたはその見返りに俺たちにギャングの流儀を教える、そうだろ?」
「……契約成立、だな」

手を差し出すシーゲルとその手を両手で握り返すベルフェス。異なる世界のならず者同士が手を取り合った最初の例であった。

その後シーゲルは数日にわたってこの館に逗留しつつ、彼の計画していた『事業』――カジノを中心とした大規模な歓楽街の建設――をベルフェスたちに語る一方で、この国の有力者、特に貴族たちの情報収集を依頼する。
そして瞬く間に集まる情報、その大半は人には話せない趣味や不行跡といったものだが、中には敵国であるシホールアンルに通じていること、現国王に対する反逆を企んでいることを匂わせるようなものすらも存在した。

これこそがシーゲルの言う『とっておきのニュース』の正体であった。

478HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:07:30 ID:/1e016WM0
そしてこの劇場の一件から丸一週間後の朝、オールレイング市内にあるシーゲルの宿の前に一台の立派な馬車が停まっていた。
周囲には幾つもの人影、取りまきを連れたベルフェスと旅装を調えたシーゲル。この日彼はオールレイングを発ち、貿易商の『ジョゼフ・ホーランド』としてこの国を去るのだ。

「色々と世話になっちまったな。しかも帰りの足まで用意してくれるとはありがたいぜ」
「大したことじゃないさ、あんたが教えてくれたあれこれのおかげで俺たちはバカをやらずに済んだんだからな」
「いやいや、礼を言うのはこっちさ。あんたの『兄弟たち』が集めてくれた情報がなけりゃ、俺はここにはいなかった」

シーゲルが『とっておきのニュース』として軍関係者に売り込んだバルランド貴族たちの裏情報、それはアメリカという国がこの世界における外交戦で優位に立つために喉から手が出るほど欲していたものでもあった。彼はそれを提供することにより、大手を振って帰国することができる身分を手に入れたのだ(実際はこれに加えて旧友ランスキーの口ぞえ――彼はシホールアンル工作員の国内潜入を警戒する海軍情報部と密かに協力関係を築いていた――もあったのだが、今のシーゲルはそのことを知らない)。

「おかげで面倒な連中に目を付けられちまったけどな」

ため息混じりにそう言うと、通りの向こう側でこれ見よがしに屯してる男たち――民間人を装った軍情報部の連中――を恨めしく睨むベルフェス。
彼らは相当前からシーゲルを秘密裏に監視していたのだが(かの少佐曰く『君の動向はかなり前から掴んでいたのだが、思惑がはっきりするまで泳がせていた。残念ながら思慮の浅い連中のせいでああいった結果になったがな』とのこと)これからは大っぴらな監視に切り替えることでベルフェスたちの行動を掣肘するつもりらしい。
そんな彼をシーゲルは励ます。

「なあに、商売相手が増えたと思えよ。それと遠くないうちに俺の友人が使いを寄越すはずだから、その時は良くしてやってくれ」
「マイヤー・ランスキー、だったな。任せておけよ、お前さんの昔からのダチをがっかりさせるようなことはしないさ」

別れの握手を交わす両者、馬車に乗り込んだシーゲルは名残惜しそうな顔でベルフェスに声をかける。

「それじゃそろそろお別れだ。この戦争が終わったらまた会おうぜ」
「ああ、その時はまた盛大にもてなさせてもらうよ、期待していてくれ」

馬蹄の音と共に馬車が走り出し、通りの角を回る。
こうして再会を約して別れた二人であるが、彼らが再び会うことはなかった。

479HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:08:22 ID:/1e016WM0
ラティ・ベルフェスはその後裏稼業で蓄えた資金を元手に合法的な事業を開始、戦争景気の波に上手く乗れたこともあり事業は瞬く間に成長、この結果彼は短期間でバルランドでも有数の金持ちにのし上がる。
続いて彼はその財産の一部で慈善事業を開始、多くの戦災孤児や戦争難民を救済し、更生した裏社会の顔役としてバルランド王国のみならず南大陸各国、さらにアメリカ合衆国にまでその名を知られることとなる。

しかし終戦よりおよそ10ヶ月後、彼は国内に幾つかある別荘の一つにいたところをアメリカ軍の支援を受けたバルランド王国軍の一部隊に包囲され、武器密造と禁制品の密輸、違法賭博の容疑で出頭を命じられるがこれを拒否。その場に居合わせた部下たちと別荘に隠匿していた銃器で抵抗するも射殺される。そして生きて捕らえられた仲間たちの自白と国内各地のアジトから押収された様々な物品と書類などから彼の一味がアメリカの犯罪組織と連携しつつ金と暴力でこの国を裏から牛耳ろうとしていたことが明らかになると、それまでの更生した裏社会の顔役というイメージから一転、稀代の大悪党としてその名を歴史に刻むこととなった。
ただ彼の一味が営んでいた表稼業――貿易商、製造業、そして就職斡旋業――は他人の手に渡り、バルランド王国の近代化において大きな役割を果たしてゆく。
後世の歴史家はこのバルランド近代化の原動力となった存在をこう呼んだ。
ラティ・ベルフェスの遺産(レガシー)、と。

一方ベンジャミン・シーゲルは帰国後、旧友ランスキーと共に以前から計画していたネバダ州でのカジノ事業に着手、暗黒街の同業者たちから集められた資金を手に当時は荒野の中の田舎町であったラスベガスの開発を開始する。莫大な資金を注ぎ込んだことにより開発は順調に進み、ついにはラスベガス初のホテル兼カジノである『フラミンゴ』の開業までこぎつけたシーゲル。
しかし終戦による不況のため膨大な赤字を出したうえ、出資者であるギャング仲間から資金横領の疑いまでかけられる。幸いランスキーの懸命な弁護のお陰で最悪の事態こそ免れるが、以前から低下しつつあった暗黒街での彼の声望は地に落ちた。
それでも彼はラスベガスの開発を諦めず、また『フラミンゴ』も手放すことはなかった。やがて彼の努力により『フラミンゴ』の経営状態は少しずつ好転してきたが、その時には全てが手遅れだった。

終戦一年後、シーゲルはカリフォルニアにある愛人の別荘にいたところを狙撃され、頭部に銃弾を受けて死亡する。彼と対立していた犯罪組織の仕業とも、彼を目障りに感じた軍情報部の仕業とも言われるが、確かなことは今もなおわかっていない。そして彼の死後『フラミンゴ』は他のギャングの手を転々としつつ、所有者たちに利益をもたらし続ける。
これを見た他のギャングたちもラスベガスでのカジノ事業へ次々と参入、ここにシーゲルの夢見たカジノの街ラスベガスは完成する。

ベルフェスの遺産という巨大な事業はバルランドの歴史を大きく推し進め、この世界におけるかの国の地位を大きく高めることとなった。
そしてラスベガス。一人の大物ギャングが荒野の真ん中に作った娯楽の街。その街は彼の死後も発展を続け、この街からギャングが一掃された今もこの世界の人々を魅了し続けている。

『害虫と呼ばれた男』 完

480HF/DF ◆e1YVADEXuk:2019/02/02(土) 22:14:59 ID:/1e016WM0
投下終了
当時世界トップクラス、と言ってもおかしくないほど組織化されていたアメリカの犯罪組織
彼らは史実でもアメリカ軍の勝利に陰で貢献していたとか…

あとこの世界のラスベガスにはケモ耳生やした美人カジノディーラーがいるんでしょうなあ…

481名無し三等陸士@F世界:2019/02/02(土) 22:56:06 ID:o3rpl5oY0
更新乙です!
こんな嬉しい日々が起こるとは夢のようだ。と感じてしまうほど
久々な感じです。

あの世界のアメリカにおいての人種問題で亜人達が白人側にとって好意的に受け入れられればいいが
そうすればケモ耳の美人が主体でカジノが稼動してれば満員御礼の毎日でしょうね・・・

ただ、ギャングがあの世界での活動はメキシコ以上にすごいことになりそう。

482名無し三等陸士@F世界:2019/02/03(日) 21:20:09 ID:jHo95bcg0
ヨークタウン氏も外伝氏も投下乙!

ついにジェット戦闘機の到来
P-51より安くて強い!とりあえず5000機発注の化物
しかし朝鮮戦争やらベトナム戦争でジェットの撃墜記録はあるとはいえ
今のシホットにそんな技量が残っているかどうか
オールフェスとリリスティ周囲は情報を聞きたくなさそう
リリスティ「海軍に似たような機体が出たらどうしよう」

483ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/02/03(日) 22:33:42 ID:m8U/qgi.0
皆様レスありがとうございます!

>>460氏 ありがとうございます。修正しないままやってしまいましたが、ご期待に添えられたようで良かったです。

P-80の登場によって、シホールアンル軍の劣勢ぶりが今まで以上に顕在化されたので、本国上層部も頭が痛い限りです。
トリップに関しては、既に対策済みなので大丈夫です。

>>461氏 ありがとうございます!P-80の登場は、戦争の更なる変化をもたらす事になるでしょう。
ひとまず、シホールアンル軍は今後、加速度的に増殖するP-80にあれよこれよとヤられて行く事になります。

>>462-463氏 ありがとうございます!お待たせして申し訳ない限りです。

>>464氏 ありがとうございます。最初の航空反撃は、P-80によって文字通り粉砕された形になりますね。
シホールアンル航空部隊の幕引きは、本国の命運と共に加速度的に迫りつつあります。

そしてSSを拝読いたしましたが、いやぁ……素晴らしいクライムストーリーですね。
アメリカのギャング映画も割と好きな身としては表情に楽しむことが出来ました。
機を掴んで異世界に乗り込むシーゲルと、それに対するベルフェスの息詰まるようでいて、気心の通じる痛快なシーンは
何とも言えないですね!

そして、その最期が切ないようでいて、太く短い人生を全うした彼らの遺産が、後世に有効活用されている点も
またいい物だと感じた次第です。
次回の投稿も首を長くしてお待ちしております!

>>465氏 ありがとうございます!お待たせしました。
こちらこそ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

>>481氏 ありがとうございます。ようやく更新が果たせて、自分もようやく仕事が出来た気分です。

>>482氏 ありがとうございます。
とりあえず、5000機ポンッと発注するアメリカさんは本当えげつないもんです。

あと、シホールアンル側の技量に関してですが……何とも言えないでしょうなぁ
相当上手くやれば出来るでしょうが、ジェット機を操るアメリカ軍パイロットは、隊長のリチャード・ボング中佐を始めとして
P-38出身の熟練搭乗員多数が機種転換で配置されていますから……無理そうですね(残酷

あと、海軍のジェット戦闘機は、まだ母艦航空隊に配備されておりませんので、リリスティは安心できますね!
なお、47年には初飛行の目途が付いている模様

484ヨークタウン ◆qGl8aTYr6.:2019/02/03(日) 22:38:10 ID:m8U/qgi.0
おっと、少し間違っておりました
米海軍のジェット艦上機ですが、FH-1ファントムの量産型が順次生産され、飛行隊の訓練も
初夏までに完了するため、遅くても夏までには母艦航空隊に配備されるでしょう
残念、リリスティ!

485名無し三等陸士@F世界:2019/02/04(月) 19:58:44 ID:USuBzXpI0
おお、いつの間にか更新されてる!お二人とも投下乙です。
ボング中佐、史実ではテスト飛行中に事故死したけど、この世界では一命を取りとめてたんですね…。
ボング中佐以外にもルーズベルトやキッド提督、それにアーニー・パイルも未だ健在だけど、サリバン兄弟も全員無事生き残ってるのかな?
あとジェット艦載機は配備前に戦争終わりそうですね。
そして外伝氏、転移後の世界でもやっぱり裏社会の人間が色々暗躍してたんですね…。
『兄弟たち』その他異世界の裏社会に目をつけたハリウッドが近い将来異世界版ゴッドファーザーなんかを制作する可能性が微レ存…?


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板