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【SS】コスモス文庫&秋桜友達【宮廷社】

182魚屋:2005/03/16(水) 22:41:10 ID:JuhKE.oE
2ページ目
 あれは、中等部の頃だった。何時も、けだるそうにしていた江利子が小躍りするように
私の元にやってきた。
江利子「聞いてよ!!蓉子!!上級生に天体観測が趣味の方が居るのだけれど、その方の話が
とても面白くて。」
蓉子「へー、そうなんだ。なんだか楽しそうじゃない?」
 変わり者が多いリリアンの中でも一際変わっていた天体マニアの上級生。彼女に感化
された江利子は瞬く間に彼女と天体観測の虜になった。それからというもの、江利子は
毎日の様に図書室に通い、宇宙の本を読み漁った。自称お節介焼きの私は、彼女に
くっ付き、彼女の幸せを全面に応援した。そんな日々が1、2週間程続いていたある日
のことだった。
江利子「やーめた」
蓉子「え?何を」
江利子「天体観測の調べ物よ」
 目移りが激しそうに見えて、意外に執着する江利子の割には、今回はかなり早いと
思った。なんで?と彼女に聞くと、本を置き、まざまざと私の顔を見つめてきた。
江利子「遠い星よりもっと素敵な物をすぐ近くに見つけた」
蓉子「え?何それ」
江利子「教えてあげないよ」
 江利子は図書室の本を返すと、また小躍りするように図書室から出て行ってしまった。
江利子って、よく分からない。
 
 しまったな、と蓉子は思った。どれ位寝てしまったのか確認する為に、例の柱時計に
目をやると、あれから一、二分も経っていなかった。
蓉子「それにしても、ここは本当に落ち着く場所ね。危険なくらいに」
寝まいと、湯気をたてるオレンジペコをスプーンで掻き混ぜていると、甘い香りと湯気
が蓉子の眠気を再び連れ戻してきた。

183魚屋:2005/03/16(水) 22:42:21 ID:JuhKE.oE
3ページ目
聖「強い貴女が嫌い」
 二年の終わりのある日、私は聖に言われた。それは、聖が心から求めていた女性
久保栞が居なくなってから、もう二ヶ月にもなろうとしていた日のことだった。
薔薇の館での放課後の活動が終わり、解散した筈の私は忘れ物を取りに、薔薇の館
に戻った。施錠されている筈の鍵が開いていたので、誰かが居る事を確信していた私
は、それに留意しつつ、二階の会議室に上がっていった。の筈だった。
会議室のドアノブに手をかけ、少し開いたところで私は手を止めた。いや。動けなか
ったと言った方が正直だろう。すすり泣いている聖の姿に、私は心臓を握られる様な
思いがした。
聖「だれ!!」
 本人の意思に関係なく、人間も生物であるという宿命にある限り、物音立てずに
静止するなぞ、無理がある。ましてやドアノブに手をかけたままの姿勢で。
蓉子「ごめんなさい。けど、覗き見する気なかったから」
聖「じゃあ、早く帰って」
聖はつっつけどんに言い放つと、目を制服の袖でごしごし擦り、窓の方を眺めた。
蓉子「うん…忘れ物取りに来ただけだから。」
聖「…」
 テーブルの上の忘れ物。ピンク色の小さな筆箱を鞄に仕舞うと、本来の目的を
果たした私は、確かに帰らざるをいけなかった。しかし、私の口はそうは思って
くれなかったらしい。
蓉子「…なにか私に言って分かる事だったら、話して。聖」
 明らかに癪に触られた聖は、肩をいからせながら私を振り返った。

184魚屋:2005/03/16(水) 22:59:43 ID:JuhKE.oE
4ページ目
聖「あなたに言っても分からないでしょ!!」 
 たしかにそうだ。私なんかに聖の気持ちはわからないだろう。けれども話
ぐらい聞いてあげたい。気持ちを共有して、彼女と一緒に悩みたい。友達
だから…大切な人だから…
蓉子「そうね。ごめんなさい、お節介だったかしら。…じゃあ帰るね」
 悲しい。辛い。泣きたい。本当の私が喚いている。けれど、私は聖の前で
本当の気持ちを言えず、強がる事しか出来ない。それがくやしかった。
 聖の顔を見ない様に会議室から出て行こうとしていた時だ。私の肩を聖が掴む。
聖「…ごめん。ちょっと感情的になり過ぎた。」
 私は振り返らずに聖の言葉を聞いた。少し間をおいて振り返らないと心の準備
が出来ない。
一呼吸か二呼吸をおいて、振り返る。
蓉子「いいのよ。私も無神経だったかな、と思ってるんだから」
 まただ、くやしい。
聖「聞いて貰っていい?」
蓉子「うん」
 聖は、悪戯を告白する子供のように、俯きながらたどたどしく告白する。
聖「もう、お姉さまが卒業しちゃうんだなって。そう思ったら無性に寂しく
なっちゃった…」
蓉子「ロサ・ギカンティアは、本当に優しくしてくれたものね」
聖「うん。だから、頭ではお姉さまが卒業するのは分っていても、どこかでそれ
を否定し続けてきた。そしてついに、後二日。」
 ロサ・ギカンティア。その人は聖の心の中に、確かな足跡を残し、この学園
を去ろうとしている。
蓉子「そうね…今は精一杯姉孝行でもしたらどう?」
聖「うん。でも春になったらお姉さまの居ない日々が始まる…どうなっちゃう
のかな、私」
蓉子「人は出会った限り、別れは必ず来る。それは皆、平等なことだから仕方
の無いことね… でも、春になって新しい出会いがあって、自分の全てを受け
止めてくれる人が出てくるかもしれない。だから私達は前に進めるのよ」
 新しい出会い。聖の全てを受け止めてくれる人。その人は果たして誰なの
だろう。祥子達の中からか。それとも、新しく私達の元にやってくる人達の中
からか。それは、私にも皆目検討がつかなかった。けれどその時、私は私の喉元
まで出かけた何かを言おうとしたのを、明らかにためらった。
 …だって言えるわけ無いじゃない。その人は、私では駄目なのか、と。
聖「…凄いな蓉子は。あなただって、お姉さまが卒業なさるはずなのに、私じゃ
敵わないよ。本当に羨ましい。…だからそんな強い貴女が嫌い。」
蓉子「そうね…私も嫌い」
 本当に嫌い。もっと別なことを聖に言いたいのに。

聖「でも、そんなあなたが大好き。」
   
          え?
          
聖「ありがとう。蓉子」
 私を見つめる聖の顔は確かに微笑みかけていた。私は、はたはたと涙が
足元にこぼれていくのを感じた。

185魚屋:2005/03/16(水) 23:01:22 ID:JuhKE.oE
5ページ目
 目が覚めた時には、柱時計の針はあれからさらに10分も進んでいた。よくもまぁ
こんなに居眠りができるものだと、蓉子は自分にあきれると同時に、感心したりする。
蓉子「この失態の責任はあの二人に取らせなくては」
 やがて、カランコロンと店のドアが開く音が聞こえ、やかましくあの二人がやって来た。
聖「ごめーん蓉子。遅れちゃったよ」
江利子「あら、怒ってない?」
蓉子「うふふふ」
 二人は一応、40分も約束の時間に遅刻した事を謝っている。しかし、それほど真剣さが
見えないのは、やはりこの二人ならでは。
聖「え?なに?なんで笑うのよー」
江利子「ちょっと、怖いわよ。蓉子」
蓉子「やっぱり、全部私の予測通りだったから。うふふふ」
聖・江利子「?」
 だらしなくて、マイペースで、楽しくて、大好きな二人。私はこれからも、ずっと
二人と一緒にいたいな。
 蓉子は飲みかけのオレンジペコを飲み干そうとしたが、もうやめた。

蓉子「じゃあ、行きましょうか!!」  (おわり)

186ごきげんよう、名無しさん:2005/09/05(月) 23:24:15 ID:SH8ndO1I
なぜ、感想レスがつかない?
たまたま、幸運にも迷い込んだのだが、魚屋さんの作品はクオリティー高いぞ。

P.S,
マリ見て歴2ヶ月です。
で、いま、かなり重症。
「遅くなってかかった麻疹(はしか)は重くなる」という諺思い出した><


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