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肉屋DEAD繁盛記

1警告:2020/01/28(火) 19:04:46
・この作品は、ドS女やドM男向けの変態小説です。
・この作品には流血表現があります。
・この作品には食人描写があります。
・この作品には性的描写があります。

以上の点をご了承のうえでご覧下さい。

2鮫姫:2020/01/28(火) 19:08:06
とある、海に面した町がある。
昔は小さな漁村があったのだが、隣町に漁港ができたため漁師達はそちらに移り、今ではすっかり漁業は行われていない。
ただ、遠浅の砂浜があるので夏となれば海水浴客で賑わうし、少し沖に出ればそれなりに豊かな魚礁があるためスキューバダイビングを目的とした観光客も来る。
海水浴客もすっかりいなくなった秋、そんな街に一人の青年が訪れた。
特徴のない中肉中背に短く刈った髪、人の良さそうな垂れ目と柳眉に、間の抜けたような印象を与えるやや大きめの口。海に近い旅館に数日の予定で投宿し、宿帳に記すのは『新倉洋次』という名前と関東圏の住所。
部屋に荷物を置くと、日が暮れてから彼は今夜は戻らない旨を従業員に告げ、にやけ顔でピッと右手の小指を立てる。従業員は馴染みなのか納得した顔で彼を見送った。
懐中電灯をカチッとつけると足下を照らし、彼は海岸沿いの道を海に面した岩場の方へと向かう。やがて到着すると周囲を見回して人の気配がない事を確認してからフッと懐中電灯を消す。そうしてから彼は暗闇の中、岩場を海に向う。にも関わらず、そのスタスタとした足取りには迷いも躊躇いもなく、躓くことなく歩いていく。
やがて岩場の先端、周囲を幾つもの大岩で囲まれた場所に到着すると、そこに一人の女性が待っていた。彼は再びカチッと懐中電灯を点ける。
光の中にポウッと浮かび上がったのは、ウェットスーツに包まれた大きなバストとヒップに細いウエストのいかにも女性的なプロポーション、褐色の肌に俗にウルフカットと呼ばれるギザギザした髪、ギロッとした目付きの鋭さがその魅力をわずかに減じているもののそれでも充分に美人と呼ばれる整った顔立ち、そんな二十歳くらいの女性だった。

3鮫姫:2020/01/28(火) 19:11:36
「ダーリン、半年ぶりじゃん」
その美女、鮫島広海はニカッと笑いかける。獰猛な肉食獣のような笑みだった。
「広海も元気そうで何より」
青年はニコッと微笑む。
「もう、アタイをこんなに放っとくなんて、酷いダーリン。もうちょっと来れんだろ?」
口を尖らせ、ギロリと睨む。
「いや、僕の方もいろいろと忙しくってさ……」
困り顔で後頭部をガシガシと掻く。
「そんなに他の女がいるってのかよ! そりゃ、そういうの納得しての関係だけどよぉ……」
プウッと頬を膨らませる。
「い、いや。ほら、仕事の方も忙しいし……って。待て、そもそも僕らの関係は、単なる商売だったはずだろ?」
「だって、一応ダーリンとは結婚してるわけだし」
スッと目を伏せ、しおらしい表情を浮かべる。
「それも、儀式として、形式上の事じゃないか」
「形式だろうと何だろうと、アンタはもう何年もアタイのダーリンで、ちゃんと義務を果たしてくれてるんだ。これで惚れるなってのが無理な話だろ?」
真剣な眼差しでじっと見詰めながら、その美しい顔を近寄せる。青年は両手の掌を向けて押しとどめるような動作をする。
「ま、その、広海みたいな美女……しかもこんなに情の深い人に惚れられて、悪い気はしない……いや、むしろ嬉しいけどさ」
彼女の顔に、ニィッと勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。
「だろ? だったらコレ抜きで一度くらい遊びに来いよ。最近ダイビングのインストラクター始めたから、一緒にダイビングしようぜ。絶好のダイビングスポットを案内するから」
「ああ、わかった。考えておくよ」
「約束だからな」
そのザクッと挿すような力強い眼差しは、あくまでも真剣で真摯で真面目で揺るぎがない。
「はい。可能な限り善処します」
その視線に心を射貫かれて、青年は可能な限り譲歩する。それを聞いてから広海はフウッと肩の力を抜いた。

4鮫姫:2020/01/28(火) 19:14:18
「じゃ、始めようぜ」
言うが早いかウェットスーツを脱ぎ始めると、剥き出しの大きな胸がポロリとこぼれる。彼女はその下には何も付けておらず、スルリと脱ぎ続けるにつれ、褐色に焼けた見事なプロポーションが露わになる、結構な筋肉質だ。
「あのー、広海サン……」
恐る恐る青年が尋ねると、彼女は怪訝そうに返す。
「ん、何だよ?」
「その、水着の跡とかないんですけど……」
「あん? 嫌いなんだよ、そこだけ白く残ってるの。だからワザワザ焼いたんだ。あ、ちゃんと人がいない所でやってるからな」
「あ、うん」
青年も服を脱いでトランクスタイプの海パン姿になる。中肉中背に見えて実は結構筋肉質で、腹筋などもわずかに割れ目が浮き上がっている。
「何だよ。裸でいいじゃないか。どうせアタイ以外見てる奴はいないんだし」
青年の腰の辺りにジロジロと無遠慮な視線を投げかける。
「いや、まあ、なんというか、やっぱりモロ出しってのは恥ずかしいんだよ」
脱いだ自分の服と彼女のウェットスーツを簡単に纏め、青年はズッシリした石を重しとして服の上に載せると、懐中電灯のスイッチをカチッと切る。
「まあいいや、どうせ脱がすんだし。ほら、行くよ」
彼女がスッと手を差し出す。
闇の中、青年の姿が変わった。夜目や遠目にはわからないが肌は血の気の失せた土気色に、顔は若干干涸らびて目がギョロっとした感じになる。生ける死人、それが青年の本性だった。
彼が手を取ると広美はそれをガシッと握り、グイッと引っ張ってからピョーンと跳ぶ。一瞬のフワッとした浮遊感、そしてドボンという衝撃とともに二人は海中にいた。
広海の首の両脇に、鰓の亀裂がパクッと広がる。その顔に、自信に満ちあふれたニッという笑顔が浮かぶ。
そして彼女は泳ぎだした、青年をグイグイと引っ張って。高速でバタバタと足を動かし、おおよそ魚か何かのような人間には出し得ない速度でスイスイと海中を進む。
鰓呼吸に息が止まった者のコンビだ、息継ぎはない。夜の闇色の水の中でも、広海の感覚には周囲が手に取るように浮かび上がるし、青年の死人の目は闇を見通せる。だから何の不自由もなく二人はただひたすら水中を進んでいく。
やがて沖合にある小島に到着すると、二人はそのまま水中を進んで海蝕洞に入り、突き当たりの小さな砂浜へと上陸する。

5鮫姫:2020/01/28(火) 19:16:19
「ただいま、ってのも変か」
そう、広海がポツリと呟くと、青年が砂浜の向こうの岩場にある小さな祠を見る。
「ただいま、でいいんだよ。だってここは、二人の愛の巣なんだから」
彼女の頬がポッと赤らむ。
「ああ、もう。恥ずかしいこと言いやがって、惚れ直しちまうだろう」
青年は祠の裏にあった電池式のランプを取り出してパッと点灯させ、同時にドクンと心臓を動かす。手元のまばゆい光に照らされるのは、生気に満ちた生者の姿だ。
「じゃ、早速ヤろうぜ」
広海はペロリと舌なめずりをして砂浜でクイクイっと手招きをし、足下を指さす。青年はヒラリと海パンを脱ぎ、上体を後ろに、足を前に投げ出すようにしてそこに腰を下ろす。
そこへ広海がガバッと覆い被さる。肉食獣の、捕食者の、血に飢えた笑みを浮かべ、情熱的に唇を奪う。舌をグイッと差し込み、口腔をグルグルとかき回し、青年の舌とヌルヌルと擦り合わせる。舌だけではない、首を僅かにグッグッと振り、少しでも舌を奥にねじ込もうとする。
やがて二人はプハァッと唇を離す。ともに頬は朱に染まり、ハアハアと息を荒げたままキラキラと潤んだ瞳で互いに無言のまま見つめ合う。青年は下の方が臨戦態勢になっている。
広海は彼をドサッと押し倒すと、再び濃厚な口づけをする。同時に彼の下の方に手を伸ばしてサワサワと愛撫を始める。彼も手を伸ばして彼女の豊かなバストやヒップに手を伸ばし、ニギニギと愛撫を始める。
広海は再び口を離すと、今度は彼の頬・首筋・胸などを順にゆっくりとペロペロ・クチュクチュと口で愛撫してゆく。ちなみに両手は彼の両手とギュッと恋人繋ぎをしつつ、しっかりと押さえつけている。
「ふふっ、アンタは動くなよ。しばらくアタイにされるままで居な」
まるで倒れ伏した得物を食べる肉食獣のような体勢で、青年を見下ろしつつ広海は言い放つ。ただですら悪い目付きがギラリとした凶悪な輝きを放つ。どうや『鮫』だけあって、マグロが好物のようだ。
広海の舌は彼をペロペロと舐め、ときにカリッと甘噛みし、浮き出た乳首、両側の脇、筋肉が浮き出た腹、そこに穿たれた臍と次第に下へと移っていく。既に両手は解放しているが、もはや彼は為すがままされるがままだ。やがてツツッと太腿を舐め終えると、彼のモノをパクッと咥えた。
彼女の口が奏でるペロペロ・クチュクチュ・ズッズッという快楽に、青年の口からわずかに喘ぎ声が漏れる。
「ちょ、ちょっと、ストップ、ストップ! 出ちゃう、出ちゃうから!」
しばしその快楽に溺れていた彼の口から、懇願の言葉が紡がれる。一度出せば回復までしばらくかかり、その分本番が、さらに後に続く真の『本番』が遠のいてしまう。
「チッ、しゃーねーな」
プハッと口を離すと軽く悪態を吐き、彼女はスックと立ち上がって仁王立ちで彼の腰を跨ぐ。横たわる彼を完全に見下ろし、軽く睨め付け、凶悪な笑みを浮かべる。

6鮫姫:2020/01/28(火) 19:17:50
「いくぜ」
そう言って広海はゆっくりと腰を下ろし、両手を彼我の男女の双方のソレに添えて位置を合わせると、今度は下の方で彼のモノをグッと咥えた。一瞬、フッと吐かれる二人の息が合う。
あとはもう、ひたすらケダモノ達の貪りあいだった。
広海はズプッズプッと激しく腰を動かし、ただただ己の快楽のみを追求する。青年は彼女の両胸に手を当て、ひたすら荒々しくグニッグニッと愛撫し、ときに上体を起こして口もそこに参加させる。
やがて、感極まった彼女が前倒しになって荒々しく三度目の口づけをした頃、青年は一度果てる。
だが、彼はそのままの状態でいまだ果てられぬ彼女を強引にグイッと引き倒し、ギュッと抱きしめる。
「愛してるよ。広海」
耳元でボソッと囁かれる甘い言葉。彼女の上気した頬がさらにカーッと赤らむ。
——誰にでもそう言ってるんだろう? この女たらし——
照れ隠しと青年の真実を混ぜ合わせて浮かんだその言葉は、広海の口を出る前に消え失せた。少なくともこの日この刻この瞬間、彼は間違いなく——肌を交えているせいもあるのだろうが——彼女の事を愛しているのは確かだろう。
彼はそのまま優しくサワサワと愛撫を始める、バストやヒップや太腿ばかりではない、肩や腰や背中、頭や頬や首筋に、ときに頬摺りなども含めて優しく穏やかに慈しむように。それは正に『愛撫』と呼ぶに相応しい。
そして彼は囁くように呟くように言うのだ、「広海」とか「愛してる」とか「好きだ」とか。
広海は身も心もくすぐったく、むずかゆく、こそばゆく感じ、それが却って新たな刺激となる。やがて、彼女が咥えたままの彼のモノが回復してくる。
そしてそのまま第二ラウンドが始まり、再び激しく腰を動かす広海。両手をしっかりと恋人繋ぎにして互いに夢中で名を呼び合い、今度は一緒に果てる事ができた。
互いに荒い息で汗だくのまま身体を重ね合わせ、呼吸が静まるのを待つ。その間、青年は自分の胸の上の広海の頭を幾度となく優しく撫でた。

7鮫姫:2020/01/28(火) 19:19:43
やがて呼吸を整えた青年はスックと立ち上がると、広海を残してバシャバシャと水の中に入っていく。そして首までの深さに到着すると、洗うように手で身体をゴシゴシと拭う。
「そろそろ『本番』いいか?」
すぐ近くで広海の声がした。この海蝕洞は壁面沿いに丁度通路のように岩が張り出している。彼のすぐ近くの岩の上に彼女がしゃがみ込んで——ちなみに全裸で足を開いている——こっちを見ていた。先程肉欲に溺れたよりも、もっと攻撃的で、もっと飢えてて、もっと情熱的な眼差しだ。彼女がベロリと舌なめずりをしたあと、ゴクリと唾を飲む。
「どうぞ、鮫姫様」
青年は微笑みつつ彼女を見、後ろの深みへと立ち泳ぎで移動する。
「な、なあ。一遍にじゃなくて、少しずついいか?」
涎を垂らしながら、彼女は問う。その口に並ぶ歯は、人間にはあり得ない程尖っていた。
「ああ、最初のときみたいにか。どうぞ、リクエストは?」
青年はニコリと微笑んで是を返す。
「ええと、まずは左腕っ!」
彼女がニヤリと凶悪で凶暴で残虐な喜色満面の表情を浮かべて跳び上がり、ドボンと水へと飛び込む。続いてブワッと水が膨張して波が彼を押し流す。
否、水が膨張したのではない、彼女が膨張したのだ。
そこにあったのは水中の捕食者としての機能美だった。恐竜すらいなかった古来より、水中を高速で泳ぐ捕食者としての頂点としての姿であり、後に大型海棲爬虫類や哺乳類も追随した綺麗なスラリとした流線型の体。
それは、大きな鮫であった。何度見てもとても美しい、青年はそう思う。
再び水がバシャッと爆ぜ、彼の体にドンと衝撃が走った。すぐにそれは左肩のカッとした灼熱感に代わり、やがて名状しがたい激痛へと変化していった。だが青年は片頬をグッとしかめるだけで済ませる。見れば左腕が消失し、肩の断面からは水中に血が噴き出していた。
美しき鮫が、すれ違いざまに一瞬にして彼の左腕を食い千切ったのだ。
続いて再び急激な水流、ただし今度は膨張ではない。引き寄せるような水の流れ、即ち収縮だ。
鮫の姿がかき消え、そこから褐色の美女がバシャッと水面上へと飛び上がる。その手に掲げているのは、青年から失われた左腕。
彼女は壁面の岩にスタッと降り立つと、顔を上に向けて手にした彼の左腕を掲げる。そして口から離したジョッキから酒でも飲むかのように、その断面からボタボタと流れ出す細い紅の美酒を口で受ける。
流れの安定しないそれは、彼女の鼻を頬を唇を顎を首を肩を胸元を、禍々しく忌まわしく悍ましく紅に汚してゆく。
「おーい、血ぐらいなら後で幾らでもやれるんだけど」
そう青年の呑気な声がする。その姿は既に生気のない死人のもの、しかし見た目に反して左肩の出血は止まり、断面を肉が覆い始めている。
「だってさあ、勿体ないじゃんか。折角ダーリンがくれたものだし」
断面からポタポタと滴る血潮を舐めつつ広海は答える。

8鮫姫:2020/01/28(火) 19:21:45
「そりゃ、どーも」
気のない返事で彼は応じ、右腕一本で自分の体を彼女と同じ岩の上にザバッと引き上げる。そしてしばし意識を集中してからフンッと気合を込めると、見る間にニョキニョキと左腕が生えてくる。『ピッコロ』という言葉が浮かんでくるが、彼女にそれは通じないだろう。
一方の広海はというと、ドカッと胡座をかいて——ちなみに全裸でスッポンポンでオールヌードなので丸見えである——両手で彼の左腕を抱えてその鋭い牙でその肉を一心不乱にガツガツと食む。
「なあ、今回はその姿で食うのか?」
「たりめーだろ。こっちの姿の方が小さいから、食った感じするじゃんか。半年ぶりのダーリンのお肉だよ、一口で済ますなんてできないだろ。できるだけ味わったりしたいじゃん」
血糊のついた頬をポッと染め、鮫の女は答える。
「ああ、もう、ほんと可愛いなあ」
そう言って青年は生者の姿になって彼女の背後でしゃがみ、そっと抱きしめる。
「そんな事言われたら、生贄冥利につきるよ」
広海の頬の赤みが一層濃くなり、動きがピタッと止まる。
「ほらほら、まだまだ食べ足りないんだろ? お代わりを出すから、早く食べちゃいなよ」
耳まで顔を真っ赤にして、広海はガツガツと猛烈な勢いで腕の肉を平らげる。
同様の事は何度も何度も行われる。右腕、左脚、右脚、再び右腕、ときに下半身丸ごと……、その度に青年は激痛を味わい脂汗を流すが、声はあげずにただ僅かに表情が揺らぐのみ。
最後に食いちぎった青年の下半身丸ごとを掲げ、ザバッと海から飛び出た広海は心の中で喝采を叫ぶ。
——うおおおっ! やった! ダーリンのアレだ!——
前回までの彼女は彼の胴体全部をガブッと口に咥え、その首をブチッと噛み千切って残りをゴクンと呑み下す。首だけになった彼はそこから全身を再生させ、ときにはお代わりとしてもう一度喰われたりする。
しかし今回、青年のモノを口で愛撫したときにストップをかけられて広海はふと思ったのだ、これだけをガブリと噛み千切って食べてみたいと。
とはいえ広海も一応は女の子で、男のそこを露骨に食べるというのにも恥じらいを感じてしまう。だからそれをカムフラージュするために、少しずつの食い千切りという我が儘——青年に余計な苦痛を与える事になる——を叶えて貰うことにしたのだ。
青年のいる海中に目をやれば、彼は下半身がないので立ち泳ぎが出来ず、そのままゆるりと沈んでいる。彼に呼吸の必要はないし、瞬間再生はそう連続してできるものではない。だからそのまま水中で通常の高速再生で下半身が生えるのを待つつもりだろう。

9鮫姫:2020/01/28(火) 19:22:51
——おっし、ダーリンは見てない——
広海は掲げた下半身の両脚の間に顔を埋め、彼のモノの先端をパクッと頬張りその尖った牙でブチリと食い千切る。柄にもなく顔を赤らめ、口の中でレロレロと転がしてその形を舌で充分なぞってからからモグモグと咀嚼する。
こうしてその部分のパーツを一口ずつ噛み千切り充分に舌で転がして、ゆっくりゆっくりと完食する。
次は臀部だ。筋肉質で引き締まった青年のそこからは、排泄物の臭いはしない。女神様に汚物を喰わせるわけにいかないと、消化器官も含めて完全にきれいにしているのだ。
ちなみにその方法は、この青年らしく常軌を逸している。『通常の客』用の商品として一度首から下を切り落とし、その後に全身を再生、以降は食事をせずにここまで来ているとの事だった。空腹を紛らわせるために、小まめに飲食不要なゾンビ状態を繰り返しているとも聞いた。
——やっぱ愛だよな——
広海は嬉しげにニコッと微笑む。
さっきはなんとなく流れでできなかったので、一度そこの全体を舐め回し、きれいにしてある穴にも一度舌を差し込み、それから固そうなその膨らみにツブッと牙を立てる。
それからはもう、食欲の赴くままにガジガジと囓り続ける。愛する人の肉——下半身丸ごとだから結構な分量だ——を夢中で腹に収めていくうちに、下半身の再生を終えた青年が海から上がってくる。

「ふう、喰った喰った。もう満腹だぜ」
やがて広海が岩の上に大の字に横たわる、もちろん全裸でだ。その腹は大きく膨れていた。ちなみに骨も鮫状態で残さずいただきました。
彼女は横目で傍らに佇む青年を見る。無限に再生可能な不死身の身体でも、やはりなんらかの消耗はあるのだろう。或いは身体を食いちぎられる苦痛のせいか、彼は生者の姿をしてはいるが生気の失せた疲労感を漂わせるげっそりとした表情でしゃがみ込んでいた。
「はあ、別の意味でお腹を膨らませられたらな……」
右手で丸くなった腹を撫でつつ、その視線は海パンを履いた青年の腰に注がれている。
「え、ちょ、ちょっと。まだ塾講師の給料じゃ子供なんて……」
「冗談だって。アタイはどうも子供はできないみたいなんだ。多分、アタイが生み出せるのはこの海の幸と安寧だけみたいだ」
この一帯の海を司る豊穣の女神、その『海の幸を生み出す』能力が強すぎるせいで『自らの子を産む』という能力は阻害されているようだ。
「では、鮫姫様。これから一年の間の海の幸と安寧をお願いいたします」
青年は、サッと正座して深々と頭を下げる。
「お、おう。任せろ。不漁だの海難事故なんて起きないよう、ちゃんと管理するぜ」
広海は起き上がるのは億劫なので、寝そべったまま答える。

10鮫姫:2020/01/28(火) 19:25:18
今は鮫島広海と名乗っている鮫の女神、それが生まれたのは恐らく二千年はくだらないだろう昔の事だ。彼女もまた大抵の土着の神々と同じように、この付近に住む人間の信仰心が凝って生まれた。
漁業の成果と安全を求める人々の想いから生まれたのだから、当然ながら彼女は豊穣の女神であり、時化や潮流を司る海神でもあった。そして古の自然神に相応しく、その自然に棲む生き物——大抵は代表的な強い生き物——の姿をとる事になる。よって、彼女は鮫神として生を受けた。
豊穣神とはつまるところ生命の神である。何故なら豊穣によって与えられる糧や道具の材料などは、結局のところ生命を繋ぐ為にあるのだから。そして生命を司るということは、与えるだけではなく奪う事もその権能に含まれてしまう。彼女は鮫だ。恐るべき海中の肉食動物だ。だから彼女は古代の母神によくあるような人食いの女神でもあった。
自然とは気まぐれなものである。人の都合などお構いなしに地震・台風・噴火などの天災を起こす。だから人々の想いによって神格化された自然もまたそうなってしまうのは自明の理。人々はそういう神々に対して、崇め奉り貢ぎ物で機嫌を取ろうとする。だから彼女は豊穣神として諸々のものを与えるために、対価を欲する性質を与えられてしまう。
そして命を繋ぐものの対価は、それもまた命である。こうして彼女は神としての豊穣や安全をもたらす能力を振るう為には、人間の生贄が必要な存在となってしまった。
とはいえ、この海は比較的豊かで穏やかだ。だからよほどの不漁や時化が続いたときしか、贄は捧げられない。
それでもまだ彼女の自我が目覚めぬ頃、ただ本能のまま人々の思い描いた神として振る舞っていた頃に三人の生贄を受け取った。
最初の二人は老人——当時の基準で——だった。不漁や時化が続いて村が飢え始めたとき、老いて衰えた身を村の為に捧げて逝った。その新鮮な肉は、何故か全く美味くはなかった。
三人目は少年だった。事故で両親を失って養ってくれる肉親もなく、村では未だ充分な労働力としては扱われずに、やむなく予約的な贄扱いとなった者だった。
『生贄』だの『人身御供』だのという呼称は聞こえが悪いので、彼は女神の『花婿』と呼ばれた。彼は村での簡単な作業と広海の世話や祭の儀式をする神官としての役割をこなし、やがて青年へと成長した花婿を広海は抱いた。彼女にとっては初めての男性だった。
そして、長期にわたる荒天とそれによる不漁が訪れた。広海は村に糧を与える為、花婿を口にした。
「どうぞ、海神様」
彼は、総てを覚悟した優しい笑顔でそれを受け入れた。
その肉は不味かった。不味かった。不味かった。とてつもなく不味かった。
通常の苦みやえぐみを遙かに凌駕する不味さで、一瞬でも口に含むことさえ躊躇われる程であった。さらには、咀嚼すればそれは口中にとてつもない不快感を広げ、そして嚥下など到底不可能な程の吐き気すら催した。
それでも必死になって広海は我慢してゴクリと嚥下した。そうしなければ彼の命が無駄になり、彼が命を賭した願いは無になってしまうからだった。人間ならダラダラと脂汗を流しブツブツと鳥肌を立てバタバタとのたうち回る程の苦痛を堪え、ようやく彼を腹に収めて彼女は神としての力を振るう。

11鮫姫:2020/01/28(火) 19:27:10
村は救われた。だが、広海は救われなかった。
もう彼とは会えない。彼の声も、彼の笑顔も、彼の温もりも、彼の優しさも、総て二度と感じる事はできない。なぜなら自らの手で愛する人の命を奪ってしまったからだ。
彼の居ない日々が延々と続くと思うだけで、目の前がサアッと真っ暗になるような気がした。その闇の中で彼女は懊悩する。
自分は自然を司る神として生を受け、何も考えずに贄を摂るのは普通の事だと思っていた。しかしこのとき以来、神としての在り方に疑問を疑念を迷いを感じ、悩んで悩んで悩んで、そして在り方を変えた。
「我が花婿はただ一人。これからは花婿は取らぬ」
体の良い言い訳とともに彼女が提案したのは、水葬であった。
「海の幸により命を繋ぐ代償として、死後はその身を海に捧げよ」
幸い、広海は生きている人間を食べる必要はない。おおよそ人間一人分の人肉が得られるのならば、新鮮な死体で充分なのだ。こうして彼女は以降は人を殺さずに過ごせた。
彼女は海の女神であり、基本的に陸地の事には関与できない。そして陸には疫病があった、戦乱があった、また、地震による津波にはさしもの彼女も力が及ばない。悠久の時のなかで村は幾度となく無くなり、そして新しい人々が訪れて再び村は興る。
その度毎に村人は海神に祈りを捧げ、彼女はそれに応えて水葬と引き替えの海の幸と安寧を約束する。
そして長い年月が経ち、やがてローカルでマイナーで小さな神は忘れ去られ、ここ百年ばかりは水葬の習慣もなくなった。ただの鮫の妖怪として暮らすなら、彼女は人を食べる必要はない。ときに人の姿を採り、人の世界をうろつく事もよくあった。
そんなある日、彼女の祠のある小島にボートで一人の青年が訪れ、海蝕洞に入ってきた。彼は神より低位の超常の存在、妖怪だった。
「お初にお目に掛かります。この海域を統べる、美しく麗しく慈悲深き鮫神様。私は亡者『DEAD』と申しまして、贄としての人肉を売っております」
彼は耳を疑う事を言った。
妖怪もまた神と同じく人間の想いが実体化したものであるから、その想いに支えられて身体の恒常性を持つ。具体的に言えば四肢などを欠損しても時間が経てば元の状態に戻るし、死んでも長い年月の後には再び蘇ることすらある。
四肢などの再生には通常は数ヶ月かかるのだが、青年はわずかな時間でそれをすませる事ができる。その特性を利用して、人食い妖怪や古の神などに自分の血肉を売っているのだと言う。
「ふざけたヤローだ」
お試しにどうぞという彼に対し、彼女は鮫の姿となってその左腕をガブッと食いちぎってやった。彼はわずかに顔をしかめ、そしてその場でズルリと腕を生え替わらせてみせた。

12鮫姫:2020/01/28(火) 19:28:16
「初回でお試しですので、いくらでもどうぞ」
そう言って彼は、嫌がる事もなく幾度も幾度もその身体を捧げた。食いちぎられる度に痛みは感じているのだろうが、ほぼ微かに表情に出るだけで叫びもしない。
食べても食べても短時間で再生するその肉は、記憶にある生きた贄と比べてちっとも不味くはなかった。いや、むしろ美味いとさえ感じるようになった。
やがて満腹となり、久々にすっかり神としての力を取り戻した広海は問う。
「オマエ、何が望みだ? こんなに痛い目をみてまでして、何が欲しい」
「肉の対価として、この海での豊穣と安寧をもたらして下さい」
そう、青年は答える。
「豊穣って言っても、もう漁業なんてやってねーぞ」
隣町に大きめの漁港ができて久しい。それに対して観光客の釣り程度で構わないと彼は答える。むしろ安寧——即ち海難事故の防止——の方に力を注いで欲しい、そう頼んできた。
「そんなもんでいいのか? というか、オマエ余所者だろ? なんでこんな田舎町の事を……」
「僕は観光事業の方と繋がりがありましてね、そちらからの依頼です。人々の安全のために、慈悲深き鮫の女神のお力添えをいただきたいので、僕に白羽の矢が立ったわけです」
言い得て妙だ。白羽の矢とはそもそも生贄の家への目印なわけだから。
こうして青年は、定期的に広海の下を訪れて自らの肉を捧げた。彼女が力を維持するには年に一度で良いのだが、彼は半年に一度は訪れる。何時しか、彼女は彼を心待ちにするようになった。
そして贄であるから、かつての慣例に倣って彼を花婿と呼び、やがて実際に花婿としての関係を結ぶにいたった。彼には多数の顧客——古の人食い女神を多数含む——がいて、何柱ともそういう関係を結んでいる事を承知の上で。
また同時に、人の世に住む彼——本業は学習塾の講師だという——への興味から、地元の妖怪達の協力を得て人間としても生活するようになった。鮫島広海というのも、そのときにつけた名前だ。

13鮫姫:2020/01/28(火) 19:29:55
広海はふと目を覚ました。どうやら激しい運動の後に満腹となったので、眠ってしまったらしい。気休め程度ではあるが、身体にレジャーシート——ランプと同じで以前青年が持ち込んだ物——が布団代わりに掛けられていた。
青年はと見ると、すぐ近くで同じく眠っているようだ。ようだ、というのは呼吸も脈拍も体温もないゾンビモードで横たわっているため、一見するとただの屍にしか見えない。それでも暫く見れば寝返りを打ったりするのがわかる。
広海は、しばし彼を観察する。細い眉に垂れ目と間の抜けた印象の口の柔和な顔で、平々凡々な平穏な人生(妖生?)を送ってきたようだ。それが塾講師という職業もあるのに、なぜわざわざ『人肉屋』などという苦行を背負っているのだろう。そんな疑問が浮かんできた。考えて見れば、彼の生い立ちに関しては殆ど何も聞いてない。
「あ、起きた?」
気配を察したのか、青年はピョンと飛び起きる。生気のないやつれた感じの顔なのだが、喰われた事による消耗はすっかり回復しているようだ。すぐに生者モードへと移行する。
「あれ、寝過ごした? 待たせちゃった?」
「ううん」
広海はフルフルと頭を振る。
「ねえ、ダーリン」
「んん?」
「ダーリンはさ、なんで『人肉屋』なんてやってるのさ。いくら不死身で痛みにも強いっていっても、フツー有り得ないじゃん」
彼女はズイッと詰め寄る。
「そっか、話してなかったね」
彼は思い出すように、少し上を見上げる。
「僕は十年前までは、ごく普通の人間だった」
「え、それって『先祖返り』って事?」
人間と妖怪が結ばれる事がたまにあるが、そうしてできた子孫は普通すぐに血が薄れて人間と変わらなくなってしまう。しかし何代も前の先祖に妖怪がいる人間が、ある日突然何かの拍子に先祖と同じ妖怪になってしまう事もある。
「いいや。正真正銘の人間だよ。妖怪の実在も何も知らない、極々普通の人」
その眼差しには、何か鋭いものが混じっている。
「ある日、友達と遊びに行った帰り、悪の妖怪の集団に襲われて、……友達諸共殺されたんだ」
険しい顔になった彼に、広海は驚きの声を返す。
「え……!?」
それは一浪して大学に合格し入学式を控えた三月の事だった、友人達と一緒に車で出かけた帰り、夜の道路で妖怪に襲われて車ごと崖下に転落させられた。
「そのときに死体にゾンビ化の術がかけられ、それが歪んだ結果、僕が生き返……いや、生まれた」
動かぬ者に仮初めの命を与えて操る類の妖術は、たまに暴走して術者に敵対的な魔物を生み出す事がある。

14鮫姫:2020/01/28(火) 19:31:51
「不死身と怪力を持ってたんで、その場で相手を皆殺しにして、友達と僕自身の仇討ちをしたよ」
フロントガラスの破片を礫として投げつけて目を潰し、百キロ婆の首と手足をへし折り、首無しライダーの胴を引き千切り、幽霊自動車はひっくり返して折れた標識で滅茶滅茶に叩き壊した。
柔和な顔は、すでに凶悪な表情を帯びている。
「それからはもう、殺戮の日々さ。人間に危害を加える妖怪を探しては殺す日々だったね」
彼は、軽く肩を竦めた。
「すぐに人間に味方する妖怪達から接触を受けたよ。鬼太郎とか見てるから、そういった人……妖怪達は受け入れられた。そして、僕は殺し屋になった」
緊張の面持ちで、ゴクリと広海が唾を飲む。
「戦力や士気的に期待できるからって、人間との共存を脅かすような妖怪を次々に殺して回る処刑人としての役目を請け負ったんだ。不死身だから、そのとき無茶な戦い方を散々したよ。
 胸にマンホールの蓋を叩き込まれてもすぐに引っこ抜いて投げ返すとか、全身にガソリンを被って火達磨になって相手に抱きついて焼き殺すとか、もうね、死なないのをいいことに、ズタボロになりながら戦ったよ。
 先輩……教師としての先輩なんだけど、その人……妖怪に言わせれば『自分を傷つけるのは、自分だけ生き残った後ろめたさの裏返し』なんだそうだ」
彼女はポカンと放心した表情で彼を見詰める。不死身故に何をされても平気だから温厚な人物だと思っていたが、思わぬ狂気・凶状・魔性を秘めていたようだ。
「よく憶えてないけど、多分、殺した妖怪は百はくだらないと思う。そんな中、屍肉漁りの妖怪に出会ったよ」
不安気な表情でじっと広海を見る。
「人肉を喰わないと生きていけない、でも人殺しはしたくない。だから凶悪な人食い妖怪の後をついていって、そのおこぼれで命を繋いでいる奴らだった」
彼女の顔に、パァッと納得の表情が浮かぶ。
「そう。それで『人肉屋』なんて仕事を思い付いたのさ。僕の体質なら、そういった連中を人間と共存させる事ができるって。
 僕は元々人間だから、妖怪の状態……つまり死者の姿でもその肉は人肉と認識される。さらには負傷が酷いと人間の姿を維持できなくなって身体が死体の状態になる。これは『人を殺した』として認識される。だから、人肉や殺人が必要な妖怪を満足させられる。
 それで、人肉売りを始めたんだ。勿論、客になるのを拒む奴らもいたし、客になっても結局は人殺しをした連中もいた。そういうのは……処刑した」
殺し屋としての側面を伺わせる、強い眼差し。しかしそれはやや下の方へと向けられていた。

15鮫姫:2020/01/28(火) 19:34:35
「じゃ、じゃあ、アタイも……」
もしもを考えて、その顔をサッと恐怖の陰りが覆う。
「広海は違うだろ。聞いたよ、昔っから生きた人間を食べるのは嫌がってたって」
「ん、まあそうだけどよ」
「そうして『客』が増えるなか、広海に……僕を好きだって言ってくれる女に出会った」
広海はポッと頬を染めつつ、彼の額をペシリと引っ叩く。
「こら、この女たらし。ダーリンには、何人も女がいるだろう!」
両手の拳で彼の両方のこめかみを挟むと、グリグリとねじ込む。
「あだだだだ。いや、だって、まさか、女神の贄になったら、本当に花婿扱いなんて思わなかったんだよ」
「んなもん、ダーリンだって知ってたはずじゃん? 生贄は神の嫁や婿扱いだって」
「それって、世間体とかのための方便でしょ? 喰い殺すなんてストレートに言えないだけでしょ?」
「妖怪なら知っとけよ、アタイ達だって人間の想いに縛られてるんだから、婿だって言われると本当にそうなるって事を」
広海はフゥッと息を吐き、自分の褐色に焼けた右腕をしげしげと見詰める。そしておもむろに歯を尖らせると、ガブリと噛みついた。
「いでででで!」
「お、おい、何やってんだよ!」
青年はあわてて彼女の腕をガシッと掴む。ジワリと僅かに血がにじんでいる。
「いや、さ。ダーリンがどのくらい痛いのかって思って、ちょっと試してみたんだけど、結構痛いじゃん」
「もう、慣れたよ。元々、妖怪退治で何度もミンチ寸前までいったんだし」
「でも、ゴメン。こんな痛い思いさせてたんだ」
しおらしい表情を浮かべる彼女に、彼はポッと頬を赤らめて視線を逸らす。
「でも、その、広海に囓られるのは嫌じゃないんだけどな。なんていうか、ほら、愛されているとか、必要とされてるとか、そんな感じがして。そりゃ痛いけど、その分想いの強さみたいなものを感じられて、その……嬉しいんだ」
広海の腕で、彼の触れているところがポウッと暖かい感じがした。すると今しがた作った咬傷がみるみる治ってゆく。
「え、これって、ダーリンが?」
「うん。余剰生命力を分けて傷を治す妖術だよ」
「ダーリン、優しいんだな」
いつも睨み付けるようだった広海の目付きが穏やかになり、にっこりと微笑む。
「ははっ、よく言われるけど、僕は殺人鬼みたいなもんだからね。この手だって、もう血塗れだよ」
悲しげな笑みを浮かべ、今しがた癒しの力を放った手をスッと上げて見せる。
「殺人鬼は自分の肉なんて食わせないし、そもそも亡者ってのは命を害する能力しかないじゃん、普通。だからこういうのがやれちゃうダーリンはスゴイと思うぜ」
広海はその手をしっかりと握る。
「ありがとう」
彼が優しく微笑んで正面から見詰めると、広海の顔が赤らむ。

16鮫姫:2020/01/28(火) 19:35:54
「さてと、遅くなったし、もう戻るぜ」
照れ隠しにそう叫んで、広海はドボンと海に飛び込む。
「ちょっと待って、今片付けるから」
青年もレジャーシートを畳み、亡者状態になってからランプを消す。と、呟く。
「あ、もう夜が明けちゃってる」
「ん? あ、力がでなくなってるのか」
亡者故に夜は怪力で俊敏だが、その分昼間は不死身程度しか能力がない。
「そっか、夜が明けたんなら、ちょっと寄り道するぜ」
海蝕洞の入り口付近が明るくなっているのを見て、広海はニヤリと笑う。
「寄り道?」
「そうさ。今まで夜明け前に戻ってただろ? だけど、今なら海の中が見える。ちょっと観光していこうぜ」
「うん。ただ、この状態であんまり日光には浴びたくないんだけど……」
青年が微かに眉根を寄せて鼻白む。実は直射日光でも消耗してしまう。
「いいじゃん、いいじゃん。どうせアタイが引っ張っていくんだから。それにすぐ近くだぜ」
彼は広海が水中から伸ばした手を掴むと、グイッと引っ張られてドボンと落ちる。
再び鰓呼吸をして高速で泳ぐ彼女に引かれて、彼はその小島——鮫島と呼ばれる——の周りを一周する。
「見なよ! 今ここが、この辺り最高のダイビングスポットさ!」
水中で、彼女は誇らしげに叫ぶ。
青く透き通った海水の下、数m下の砂の海底までは様々な海洋生物の宝庫だった。ゆらゆらと揺れる海藻の林や所々にある岩礁、その間を多種多様な魚などがスイスイと泳ぎ回り、海底にも様々な動物が棲息しているのが見える。豊かな生態系は水中での視界の及ぶ限りに広がっていた。確かにここは絶好のダイビングスポットだろう。
「ダーリンのお陰で、ついにここまで繁栄したんだ! ここはまさしく、アタイとダーリンの愛の結晶だよ!」
かつて浜辺の漁村を支えた鮫神の力による漁場、それは今、最盛期の姿を取り戻しさらに広がろうとしていた。
人を食わねば力を振るえない悲しき女神と、死の象徴たる亡者、その両者によって作られたのは、豊かで美しい生命に満ちあふれた海域であった。
——でも、やっぱり一番美しいのは……——
青年は、無邪気にはしゃぐ褐色の人魚を愛おしげに見詰めた。
<了>

17巨大娘:2020/06/14(日) 00:13:57
麗らかな春の日差しの降り注ぐ休日の午後、とある山を一人の青年が登っていた。
中肉中背の身体を白地に黒のチェック模様の長袖のシャツと黒っぽいスラックスで包み、白黒のスニーカーを履いてリュックサックを背負う。帽子を被ってない頭には短く刈られた髪、そして人の良さそうな細い眉に垂れ目と間の抜けた印象を与える大きめの口。
そんな彼が鬱蒼とした森に挟まれた、踏み固められた登山道を一人テクテクと歩いている。
平野ではもう桜の季節なのだが、登るにつれて季節は遡り次第に咲く割合が減ってやがては冬枯れの森に入る。
不意に青年のお腹がグウッと鳴る。彼は登山道を離れて常緑樹の木陰へと入り、そこでしゃがんで一休みする。
リュックから野球帽を取り出して目深に被り、その鍔で顔を隠す。その手はやけに血の気がなく、鍔でも隠しきれない頬は先程とは異なり妙に痩けていた。
そのまましばし休息をすると、何も口にしてないのに次第に空腹感は収まる。
「ふう、そろそろか……」
そう独りごちて帽子を脱ぐと、元通りの血色と頬に戻っている。
青年はさらに登山道を登っていくと、やがて指定された目印の長い大岩——たしか『鬼の腰掛け』とか——の前に一人の女性がいた。
ボブカットの頭に登山帽を被り、薄茶に赤の格子模様の長袖のシャツを着て、ジーンズと登山靴を履いていて、その背中には小ぶりのリュックサック。近づいてみると女性としては背は高く、円らな瞳のやや幼く感じる可愛らしい顔立ちをしている。
「こんにちは。えっと、山野恵さんでしょうか?」
青年は問う。用件が用件だけあって、相手を間違えるわけにはいかない。
「はい。えっと、お肉屋さんのDEADさんで宜しいでしょうか?」
ニコッと微笑む。とても愛らしい。
「はい。僕が肉屋DEADで、亡者です」
彼はついでにその正体も明かす。
「あたしは今は妖怪『山女』——山中に出現する美しい女巨人——ってことになってますが、正式にはこの山の古いにしえの女神です」
そういう彼女の首より下はまさに山だった。二つの巨大な膨らみによって服は内側からグッと突き上げられ、下の方は裾はベルトでようやくギュッと絞られている。続くジーンズも腰のところはシワがよっているが、すぐ下では大きく膨らんでいる。
彼は視線を彼女の顔から離さず、視界の隅でチラッとそこまでを確認した。それは命を賭ける戦闘において、心理的視野狭窄を起こさずに視界全体から情報を得るテクニック、その応用である。
実は以前に付き合ってた女性の胸をガン見して窘たしなめられた事があるので、以降は注意してこうするようにしているのだ。

18巨大娘:2020/06/14(日) 00:16:15
「すみません、わざわざお越し頂いて。本当だったら、あたしの方から出向くべきなのに……」
「いえいえ、お気になさらず。土地神ならば、地元に居るのは当然の事ですよ」
そうニッコリと微笑むと、恵も微笑みを返す。
「では、行きましょう。この先にあたしの『隠れ里』——普通の人間は入れない異空間——があります」
彼女は彼の手首をシッカと掴むと、グイグイ引っ張って上機嫌で先導をする。
「うふふ。あたし、嬉しいんです。もう二度と神としての力を取り戻せないって思ってたのに、それが叶うなんて。しかもそれで誰も殺さずにすむなんて、本当に夢のようです」
女神の輝かんばかりの笑顔に、青年も笑顔で返す。
「僕の方でも、そういう優しい方のお力になれるのが嬉しいんですよ」
『鬼の腰掛け』から登山道を逸れて獣道のような踏み分けの道に入ると、不意に一瞬だけ視界と平衡感覚がグニャッと歪んだ気がした。多分それは空間を越えた影響、つまりは隠れ里に入ったという事だ。
景色は今までと同じ冬枯れの森のまま変わらないが、様々な隠れ里や結界を見てきた青年には、今までとは何か空気のようなモノの違いを敏感に感じていた。
恵は手を離すとグルリと振り返って彼を見る。些か緊張の面持ちだ。
「あの……、DEADさん。もし宜しければ、ここに居る間だけでも”旦那様”と呼んでも良いでしょうか?」
——ブルータス、お前もか——
青年はただでさえ垂れた目を更に垂れさせて、眉根にグッと皺を寄せてフウッと僅かに溜息を吐く。

19巨大娘:2020/06/14(日) 00:17:01
「え、いや、その、山野さん、ちょっと待って下さいよ。僕らはさっき出会ったばかりじゃないですか」
両手の掌を相手に向けて、グッと押しとどめるような動作も加える。なお、下手して胸に触らないように、ちゃんと距離を取る。
「でも、私にとっては大恩人なんですよ。もうそれだけで好きになってしまったんです。
 それに、裸の男の人と”そんなコト”をするのですから、やっぱりそれなりの関係じゃないといけないと思うんです」
数センチ差とはいえ彼女の方が背が低い。その上目遣いの懇願に、青年の心臓がドキッと跳ね上がる。
「で、でも、僕には既に、そういう関係の女ひとが……」
恵は一瞬でその可愛らしい顔を曇らせ目を逸らす。
「そうですよね。こんな素敵な人なんですもの。もう決まった人が……」
——僕は一般的な意味での”素敵”ってのはちょっと違うと思うけど——
そう思いつつも、心がザワザワする。
「あ、とは言っても、その、山野さんと同じ関係で、その、こういう事をする間だけの関係ってなってますけど……」
ついつい口を吐いて出てくる言葉。口説いてくる美女を目の前にして、彼もまた男なのである。
「では、旦那様とお呼びしても宜しいでしょうか」
その美しい笑顔で迫られると弱い。
「は、はい。喜んで」
その応えを聞いてから、恵はモジモジしつつ口元に手をやり頬をポッと染めて軽く眼を逸らす。
「それから……、あの……、旦那様とお呼びする……夫婦になる以上……、今はまだ心の準備ができてませんけど、多分、次からは、ちゃんと夫婦としての営みもしたいな、と思うんですけど……。ダメでしょうか?」
——異類婚姻譚のヒロインとは、基本的に勝手に一目惚れしてくれる『ちょろイン』である——
不意に彼の脳裏に誰だかの言葉がよぎる。そして目の前で真摯な瞳で彼をじっと見詰めているのは、まさにその”異類の嫁”である。
「え、あ、いや、でも山野さん。この場合の夫婦って、あくまでも儀礼的なものじゃ……」
身を引き裂かれる苦痛にすら平然と耐えきるはずの青年が、あからさまに狼狽える。再び彼女の顔が曇る。
「あ、あの。ダメなんでしょうか。で、でも、その、裸で”そういう事”をする以上、きちんと”そういった関係”でないといけないと思うし、旦那様が身を捧げて下さる以上、あたしも相応のモノ……つまりあたし自身で返さないと気が済まないんです」
可愛らしい美女が頬をポッと染め、ウルウルとさせた上目遣いによる懇願。これを断るのは非常に申し訳ない。
「もし、仮初めとはいえ夫婦になるのがお嫌なのでしたら……、折角のお申し出ですが、お断りさせていただくことも……」
ガクリと俯く彼女の、その語尾はモゴモゴと不明瞭だ。頬に一筋光る物がツツッと流れる。
百年? いやひょっとしたら千年以上? 本来の神としての力を取り戻せずに……いや取り戻さずにいて、ようやく希望が叶うと思った矢先にそれが潰える。なまじ希望を抱けただけに、その喪失感は苦痛は悲しみは途轍もなく大きく重く暗いものとなるだろう。
青年の心がズキリと痛む。
「わかった。君のその気持ちを踏みにじる事なんて、僕にはできない」
思わず彼女の両肩に優しくそっと手を置く。
「本当ですか!?」
パッと頭を上げると、涙に濡れた瞳にキラキラと歓喜の輝きが宿り、顔に太陽のような笑顔を浮かべる。
「あ、ああ。本当だ」
彼女の笑顔を見ていると、ついつい頬が赤らむ。
「嬉しいっ! ありがとうございます。旦那様!」
恵はピョンっと飛びつくようにしてギュッと抱きつく。胸に当たる感触は、柔らかながら心身ともに強力な圧力を秘めていた。
——ごめん、でも決して君達への気持ちが揺らいだわけじゃないんだよ——
心の中で複数の女性へ謝罪の言葉を呟きつつ、彼は思わず恵を抱きしめた。
「あの、旦那様」
顔が近い。
「な、なんでしょうか。山野さん」
「もう、夫婦なのですから、”恵”とお呼び下さい」
「わかった。”恵ちゃん”でいいかな?」
「はい。ありがとうございます。DEADさん」
「あ、それなんだけど……DEADは通り名で、本名は別なんだ。いろいろと荒事もやってるから、普段は通り名で過ごしてるんだけど。
 僕の名は新倉洋次。新しい倉庫に、海の洋に次男坊の次」
「新倉洋次さんですね。お名前を伏せたいのでしたら、普段は旦那様とお呼びいたします」
新妻は新郎に優しく微笑んだ。

20巨大娘:2020/06/14(日) 00:17:38
彼女の先導で冬の森の中を少し進むと、開けた場所に出る。木製の小屋やら四阿やら、半分に割った丸太のベンチやらがある。
「ここが私の隠れ里での家です」
恵はベンチへと案内して一休みするように促す。
「あ、これ、お土産です。何がいいのかわからなかったんで、何となく無難そうなものを」
青年はそう言って、リュックから地酒の一升瓶と地元銘菓の箱を取り出す。
「ありがとうございます」
恵は喜んでそれを受け取る。
「それで旦那様。お食事、お風呂、それともあ・た・し?」
クスリと悪戯っぽい笑顔を浮かべて彼女は問う。
「えっと、食事は後回しだね、わざわざ消化器官を空っぽにしてきたんだから。……ん、お風呂があるの?」
「ええ。この裏に温泉が湧いてます」
「じゃあ、身体を洗うんで、お風呂をお願いします」
「わかりました。少しお待ち下さい」
恵はそそくさと小屋へ向かい、ガラリと戸を開けての中へと消えていく。
青年がしばし腰掛けて休んだ後、小屋から恵が出てくる。
「旦那様、湯浴みの支度が整いました。どうぞこちらへ」
案内された小屋はカーテンで仕切られており、半分以上が見えない。そのこちら側には簡素な腰掛けに藤製の籠、そして後ろへ抜ける扉。
「ここが脱衣所で、この奥が露天風呂になっております」
彼女は「ではごゆっくり」と言い残してガラリと引き戸を閉める。
青年は服を脱ぎ、畳んで籠に入れる。普通程度の肉付きに見えて、そこそこ引き締まった筋肉質の身体で体毛は濃くはない。持参したタオル二枚を手に、ギイッと扉を開ける。
小屋の裏手には砂利の中に飛び石が続いていた。それは数メートル先で一度分岐になっており、そこを過ぎた先にはちょっとした石畳。そしてその先にはモワッと湯気を立てる露天風呂。湯気の向こうはちょっとした登りの崖になっており、その中腹からは源泉と覚しきチョロチョロとした流れ。
「さすが山の神の住処だ」
石畳でそう独りごちると、彼は側に置いてあった手桶でお湯を汲んで身体にザバリと掛け、タオルの一本を使って身体をゴシゴシと洗い始める。
やがて汗を流し終えるとドブンと湯につかる。それからしばらくすると小屋の方から声がした。
「旦那様。お背中流しましょうか?」
「あ、いや。もう洗い終わったから」
少し慌てつつも湯船につかったままグルリと振り返ると、飛び石の分岐のところに恵が立っていた。
麻と覚しき素材の長袖の長衣に長ズボン、革製と覚しき長靴を履いており、長衣には遮光器土偶の胴のそれに似た紋様が描かれていた。恐らくは縄文か弥生辺りのファッションで、山の神である彼女が生来持っている”衣装”なのだろう。
「あの、湯浴みが終わったら、……その、裸のままこちらに来て下さい」
彼女はスッと分岐の先を指さす。飛び石の続く先には、人の背丈程の高さの長い台座のような巨石が一つデンと転がっていた。待ち合わせ場所だった”鬼の腰掛け”に似ている。恐らくは両方に跨がって存在しているか、どっちかがコピーなのだろう。
「あの磐座いわくらの上でお待ち下さい」
「あ、ああ、わかった」
青年の返答に、彼女は小屋へと戻って行く。
日も暮れていよいよその刻が近づき、いろいろな意味——裸とか行為の内容とか——で、多少なりとも緊張する。いろいろな相手に何度もやっててもこれは変わらない。
ザバリと湯から立ち上がると、青年は両手で頬をパシンと張る。さあ、出陣だ。まずは二本目のタオルで身体を拭こう。

21巨大娘:2020/06/14(日) 00:18:51
月明かりに照らされた磐座はそれなりにゴツゴツとしていて足がかりがあって登りやすい。登り切った先のキングサイズのベッドよりも広い平坦な場所で青年は正座をして待つ、全裸で。多分、横たわるのが正解なのだろうが、全裸でその姿勢となるのは流石に気恥ずかしい。
「旦那様」
不意に上から声がした。振り仰げば、そこには月明かりに照らされた巨大な恵の顔があった。いや、顔だけではない、巨大なのは全身だ。
彼女は人間のとき同様の可愛らしく美しい貌と、同じく古代の服装に身を包んだグラマラスな肢体をしていて、それがそのままで巨大化しているのだ。そのあまりの大さに畏怖すら憶える。
青年は過去の幾多もの妖怪との交戦経験から、即座に彼我の距離や角度からそのサイズを割り出す。その数字、おおよそ20メートル弱、つまりは人間時の約十倍。
「外では二倍サイズまでしかなれないんですけど、この隠れ里でなら、本来の十倍サイズまで大きくなれるんです」
妖怪に通常の生物と同じ身体の比率による筋力——断面積に比例する百倍——は適用されない。大抵は身長比と大体同じ、つまりは概ね常人の十倍かそこらであろう。
——十倍か。こりゃ、僕じゃ絶対勝てないな——
無意識に戦力差を考えてしまうのは、ここ数年間の『始末屋』としての密度の濃い経験によるものだ。
「旦那様。誓いの言葉をお願いします」
恵は真摯な瞳でじっと彼を見下ろす。
「麗しく美しく慈悲深く、そしてとても可愛らしい我が愛しの山の女神、恵様。僕はこの地の繁栄と安寧と引き替えに、貴女にこの身を捧げます」
座った姿勢のまま深々と頭を下げる。
「我が愛しの旦那様。その願い、確かに聞き届けました」
ポッと軽く頬を赤らめつつ彼女は応じた。
「では、バンザイして下さい」
彼がそのままの姿勢で両腕を上げると、恵がしゃがみ込んで彼を見る。人の背丈程の磐座の上であっても、座ったままでは彼女の膝にすら届かないのだ。
彼女は青年の両腕を右手でむんずと掴んでヒョイと持ち上げる。下の支えを失った足がやや曲げたままブランと伸ばされて両脚の間に挟んでいたモノが露出し、思わずしっかりと両脚の間を閉じる。
「脚は伸ばして下さい」
間近に迫った自分の背丈程もある巨大な顔かんばせがそう命じると、彼は羞恥心を憶えつつもゆっくりと脚を伸ばす。ただしせめてもの抵抗で股はギュッと閉じる。荒くなった鼻息が微風となってフウッと吹きかかる。

22巨大娘:2020/06/14(日) 00:19:36
彼女は彼を見つつスックと立ち上がると、彼もヒョォッと上に引っ張られる。下を見れば地上は遙かに遠く、だいだい五階くらいの高さだろうか。
別に高所恐怖症というわけではないし、ここから真っ逆さまに落ちたところで命に別状があるような柔な身体はしていない。実際に、緊急時には上階から地上へのショートカットとして飛び降りる事も良くある。
しかし全裸で両腕を押さえられて、他人に吊されているというのはいささか心細い。
恵はそんな彼をじぃっと見詰める。心なしか口の端が僅かにグッと釣り上がり、その瞳は夜の暗がりの中で肉食獣の様に輝いていた。
その視線をよくよく辿れば、臍から膝の間辺りにじっと注がれているのがわかる。
「ちょ、ちょっと恵ちゃん」
「何でしょう? 旦那様」
「そ、そこをジロジロと見られると、その、恥ずかしいんですけど……」
彼女は、さらに口角を上げてニイッと攻撃的な笑みを浮かべる。
「うふふ。だって夫婦なんですから、別に見たっていいでしょう?」
その巨大な口でニタァっと笑った。
——あれは確か『水木しげるの妖怪事典』の「古杣ふるそま」の項に記載されていた「山中の怪」に関する事だった——
——山中で失せ物を探すときのお呪まじないについて触れられており、それは男性の局部を露出して山の神様にお願いする、というものだった——
——何故なら山の神は女性であり、男性の局部や裸を見るのが大好きだからだと説明されていた——
目の前にいる外見だけは可愛らしい巨大な女性は、まさにその山の女神である。
——こ、これも目的だったのか!——
実は好色だった彼女に嵌められた事に気付いても、最早後の祭りである。空中で両腕を拘束されて吊されていてはどうしようもない。
別に女性経験が無いわけではないのだが、こういう晒し者状態というのは大変恥ずかしい。勿論、早速オブラートに包んだ抗議をする。
「あ、あの、恵ちゃん」
「何でしょう? 旦那様」
彼女は視線をピクリとも動かさない。じっと一点に注いだままだ。
「その、早く本番をお願いしたいんですけど」
「えぇぇっ、久々のイチモツなんですから、もうちょっと見せてくれてもいいじゃないですかぁ」
懇願は無情にも無慈悲にも、けんもほろろに却下される。声と口調こそ女の子らしく可愛らしいが、言ってる事はヒヒジジイ並である。
なお、眉根に皺を寄せててもその視線は揺るがない。恐るべき色欲である。
「で、でも、時間は今晩一晩しかないから、なるべくなら早くしていただけると幸いなんですけど……」
「わかりましたよぉ」
ムゥと口を尖らせていた恵は、不意にニヤッと意地悪な笑みを浮かべる。
「あの、だったら、舐めてもいいですか?」
「ん、まあ、それくらいなら」
「では、遠慮無く」

23巨大娘:2020/06/14(日) 00:20:09
意地悪な笑顔のまま十倍サイズ——出ている部分は縦横おおよそ50センチ程度——の舌をベロリと出す。そしてその巨大な首全体をググッと動かすと、なるべく平たくしたそれが彼をズルリと舐め上げていく。
ヌルヌルとした唾液に包まれ、それ自体が独立した軟体動物のような舌が、彼のつま先から順に上へ上へとズルズルと這い上っていく。表面の味蕾のザラザラが微妙な緩急となって触覚を刺激する。
ヌルヌルザラザラした感覚が、つま先、足の甲、脛、太腿、陰部、下腹部、胸、乳首、喉、顎、顔——唇、鼻、両頬、額——、と抜けていく。
陰部や乳首を味蕾がザラリと舐める度に、彼の背すじにピクッとした感覚が走り、それがその突起部分を益々敏感にしていく。
彼の頭頂までゆっくりと舐め終わり、離れていく舌と彼の短い髪の間にツッと銀の糸が引かれて切れる。
「うふふ、美味しいです。旦那様」
身体の前面を唾液でヌルヌルにした彼を、口を三日月のように釣り上げて満月のように大きく煌々と輝く瞳で再び見る。彼の心臓がドキッと跳ね上がるのは、恐怖か欲情かはたまた……?
再び舌を伸ばし、彼女は彼の右つま先から舐める。暖かく滑りつつもザラつく舌がズズッと脚の右側面を這い上がっていく。
引き締まった太腿を撫でたあと、その湿った柔らかく大きなものは一旦身体の正中線、即ち両脚の付け根へと移る。再びのヌルッという感触の合間のザラッとした刺激を受けて、その意に拘わらず彼のモノが僅かに起き上がってくる。
ヌメヌメザラッとした感覚は再び右側部へと移り、脇腹にわずかなこそばゆさを残しつつ上り、少しずれて胸へと移動する。そして今度は尖った舌先で平らな胸板に浮かぶ乳首を転が……せないので、グリグリと押す。先刻の脇腹と同じく微妙にくすぐったく妙な感覚がゾクゾクとしてくる。
そして今度は脇の下だ。下から舐め上げるのではなく舌先でグリグリと付いたり、突き出した舌を前後に出し入れして敏感な部分をヌルヌルザラザラと刺激する。くすぐったい他、何か妙な気分になっていく。
それからヌルゥッと腕を舐め上げて行く。感覚への刺激が終わったようなので、彼はフウッと息を吐く。
勿論これで終わりな訳はない。続いて左側である。再び各種の刺激と妙な感覚が身体を走る。
お次は顔だ。まずは平たくした舌で顔全体を全体をゆっくりベロリベロリと舐める。顔より大きな滑りザラつく舌に何度も覆われるのはちょっと息苦しい。
彼女は自身の唾液でビショビショにした青年の顔を、今度は尖らせた舌で突つき、あるいは首を転がそうとする。
「ぷ……ぷはっ、ちょ……ちょっ……と」
ベロベログッグッとした舌に阻まれ、青年の抗議は言葉にならない。言葉を発した途端、舌の動きがペロリペロリからベロベロッと変わったところを見ると、多分わざとなのだろう。

24巨大娘:2020/06/14(日) 00:20:53
やがて舌の猛攻は終わり、青年はハアハアとようやく一息つく。ふと見れば、満月のように輝く恵の視線は、再びじっと彼の下腹部へと注がれている。そりゃもう、眼からビーッとビームが出るんじゃないかってくらいに。
眼からビームは出てこなかったが、口からは再びベロリと舌が出てくる。そして今度はもっと露骨な事を始めてきた。
身体の正中線に沿って、太腿から下腹部へとベロリベロリと執拗に往復するのだ。彼のその箇所に血液が集中し、次第にムクムクと頭をもたげてくる。恵は舌を尖らせてその舌先で股間の突出した部分を更に執拗にレロレロと弄る。
「お、おい。いくらなんでも、そこは……」
早々に抗議はしたものの、暖簾に腕押し柳に風、糠に釘とばかりに恵は確信に満ち満ちた笑顔をニィィッと浮かべる。
「舐めても良いって、言ったじゃないですか?」
間近で見る十倍サイズ——彼の身長と同等——の巨大な顔、その威圧感は半端ない。この巨体相手には何を言っても無駄だと悟って青年は口を噤んだ。
夜は彼の時間である。普段の不死身に加えて卓越した身体能力——特に筋力——を発揮できる。さすがに十倍サイズの相手には通用しないだろうが、やろうとすれば力尽くによる身体の自切(&短時間での再生)すら可能だ。
だがしかし、ここで腕を自切して逃げ出しては”肉屋”とか”始末屋”とかの沽券に関わる。結局のところ、彼は股間の事情より沽券の事情を選ぶ事にした。
そこで恵は彼を持ち変える。今まで上げた彼の両腕を右手一つで握っていたのが、今度は両側から両手で彼の下ろさせたた両腕ごとその胴をしっかと掴む。まずい、さっき以上に身動きができない。そして彼女は同時にペタンと座り込む。文字通り腰を据えたわけだ。
満面の笑みを浮かべた恵は、再び顔をグウッと近づける。その大きなツヤツヤウルウルの唇を持つ口から、形の良い鼻から荒い息がフゥッフゥッと吹きかけられる。
そして尖らした舌の先端で彼の尖った部分をピンピンと弾き出した。その柔らかで滑っているはずのものは、彼の尊厳というか矜持というか自尊心を激しく削り砕き傷つけていく。
涙は出さない、だって男の子ですもん。
ちなみに先端への刺激は大雑把すぎて、高まりこそすれ果てる事はできない。ある意味生殺しであり、それもまた彼の気力を削いでいく。
ようやく舌を離すと唾液と淫液の混じった糸がツッと引かれる。
「旦那様、脚を開いて下さい」
青年はその人の良さそうな顔に泣きそうな引きつった表情を浮かべる。
「あの、そろそろ”本番”に入っていただけると嬉しいのですが……」
花が綻ぶような満面の笑みで、しかし彼女はドキッパリと却下した。
「ん、もう、旦那様。ちゃんとさっき、『この身を捧げる』って言ったじゃないですか。往生際が悪いですよ?」
微かに眉根に皺を寄せて口を尖らす。サイズさえ除けば申し分のない美人の不満顔で、実際に申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。
前言撤回は男らしくない。彼はそろそろと脚を開いた。途端、恵の舌がニュッと突き出されて独立した生き物であるかのように激しくレロレロと動く。
今度は突起部分だけではない、股の間全体だ。舌全体を使って最前の突起部分から続く下垂部分、そして後ろの方まで激しくペロペロと往復する。
新たな未知の刺激に彼の背筋にゾゾッと戦慄が走り、下垂部分が縮こまる。恵はときに一回一回間を置いてベロリベロリと舐め、ときに続けてベロペロと舐め、さらには極めてゆっくりとペローリと舐めた。なお、先程と同じく大雑把過ぎて果てる事はできない。
恵への生贄になるべくして来た訳なのだが、ここまでされると正直、屈辱というか恥辱というか陵辱という感じがする。
だがしかし、彼はしっかりと口を噤んで彼女の行いを甘受する事にした。なに、悪の妖怪との戦いで全身を切り刻まれるよりは痛くない、痛くはないけど……
「あ、あの……。そろそろ脚が疲れてきたので、一休みさせて頂けませんか?」
しばらく為すがままにされていた青年が、おずおずと声を掛ける。嘘ではない、実際に宙ぶらりんで脚を開き続けている疲労がジワジワと高まってきているのだ。
「あ、すみません。もう脚を閉じて下さい」
恵は優しげにニコッと微笑むので、彼は疲れた両脚を閉じる——実際は力を抜いて重力に任せるだけなのだが——。
「旦那様、今度はしゃぶることにします」

25巨大娘:2020/06/14(日) 00:21:36
「え、しゃぶるって……」
即座に思い付くのは、未だ生殺し状態で屹立しているモノである。
「上半身です」
さすがは女神、スケールが違った。青年の頬が僅かにヒクッと引き攣る。
そして恵は再び贄を持ち変える。今度は両手をしっかりと組み、その中に彼の揃えた両脚をキュッと握る。
「はーむ」
上からグワッと巨大な口が覆い被さり、青年の上半身は闇に包まれる。先程ベロベロと体中や股間を舐めまくった舌、それが根元まで十全に使われて、彼の上半身前面をベロベロと蹂躙していく。
それだけではない、さらにはギュッと窄めた頬やら舌でグイッと持ち上げられた結果グッと押し付けられる口蓋、それらによって先程よりもさらに激しく熱く息苦しい攻めが行われる。
不意に下半身を拘束する手がパッと緩む。そして片手——多分右手だ——一つで掴まれ、ぐるりと180度捻られる。丁度仰向けにされた形だ。なお、恵のややすぼまった唇は彼の臍の辺りをキュッと締め付けている。
——こ、この体勢は、まさか!——
上向きである、露出している下半身前面が上向きである。青年の予想はズバリ的中した。恵は再び下半身を両手で握るが、今度は指——多分人差し指だろう——の先端で萎えかけた突起部分を弄くり始める。
——や、やっぱりぃぃぃっ!——
心の中で絶叫をあげるが、両腕も含めた上半身はすっぽりと咥えられていて身動きは取れない。再び活動を始めた舌が後頭部から背中の密着してグネリグネリと蠢く。同時に両頬が肩から腕をギュッと圧迫し、顔が口蓋に押しつけられる。そして思いっきりチュウウウウウッと吸われた。息苦しさが高まり、首が引っ張られる。
やがて吸引が泊まり、舌や頬や口蓋や唇の拘束が緩んで、一旦外にプハッと出される。青年はほっと息を吐く。
「旦那様、今度はピストン、いいですか?」
彼が仰向けで眺めるにこやかな笑顔を浮かべる巨顔は、最早有無を言わせぬ迫力を秘めている。
「お手柔らかに」
フッと肩を竦めて答える。もうどうにでもなれだ。
「ありがとうございます。絶対に歯は立てないようにしますから」
「えっと、腕が邪魔になるんじゃないかな?」
そう言って彼は軽く腕を抱く。
「お気遣いありがとうございます」
恵は満面の笑みでその巨大な口をくぱあっと開け、青年の上半身をパクリと呑み込む。再び熱く湿った息苦しい場所へと戻る。
そしてピストン運動が始まった。彼の身体が素早く、リズミカルに、頭頂方面と足下方面へのズッズッと往復運動を始める。
秒速にして約一往復、かなりのシェイク具合である。その急激な加速度の変化もさながら、もっと気になるのは下半身のアレだ。
すでに力を失ったそれは、ピストン運動により慣性の法則に従ってブルンブルンと揺れピタンピタンと恵の上唇に当たっている。明らかにわざとだろう。
度重なる羞恥プレイに、青年もいい加減無感動になってくる。ただひたすらに為すがままにされる。
やがて、シェイクされすぎていい加減身体の感覚がおかしくなる頃、ようやく女神様の気が済んだのかプハアッと解放された。
仰向け引っ張り出される彼の唾液でびっしょりに濡れた頭と恵の口との間に、唾液がツウッと糸を引く。
——さて、そろそろ”本番”かな?——
すっかり頬を上気させ、目尻を下げた陶然としたトロンとした表情で彼女は彼を見る。
「旦那様。もっとしゃぶってもいいですか?」
ホゥッと桃色の溜息を吐いてから問う。その表情だけで、すっかり項垂れていた青年のそれにトクトクと血液が巡ってくる程に艶めかしい。

26巨大娘:2020/06/14(日) 00:22:19
「……どうぞ」
下半身をガッシリと握られ、仰向けからやや逆さにの状態で拘束されていては是と答える以外にはない。
彼の身体が前回りにグルリと半回転する。俯せで今度は恵に足を向ける形……いや、足ではない下半身だ!
彼女はその手を上半身へとしっかりと持ち直し、半ば怯え顔で振り向いている彼に、静かで落ち着いたしかし有無を言わせぬ威厳を込めてこう命ずる。
「足を開いて下さい」
その途轍もなく淫らでふしだらでいやらしい笑みを見て、青年の部分が再び萎える。だが、すぐに復活させられるだろう、彼女の舌技によって。
「では、いただきます」
彼の身体がグイッと引っ張られ、下半身がパクッと咥えられて熱く湿った圧力が包み込む。特に腰回りは一際強くギュッと絞められる。そして身体の下側で巨大な舌がモゾモゾと蠢き始める。
今度の刺激はさっきよりも強烈だ。舌の先の方の平で擦られ強ばってきたモノは、そのまま下腹部に押しつけられてヌルヌルと擦られる。味蕾が先程より圧着してザラザラと責め立てる。
固くなったところだけではない、縮み上がった下垂部やその後ろの敏感なところまでをヌルヌルザリザリと刺激する。
それどころか舌の先端は臀部の谷間までグイグイとこじ開けようとする。
普通なら恥辱や屈辱を感じるはずなのだが、先程からの連続プレイにより最早不感症と化しており、彼の頭に浮かぶのはただ事前に全部きれいにしておいてよかった、程度の事である。
舌の平による強ばった部分への刺激は尚も続き、今度は絶頂に向かってグングンと高まっていく。恐らくは”伏せオナ”と似たような状況なのだろう。
「ちょ、ちょっと、このままだと出ちゃうんですけど」
相手の口中へピュッと出す。一部の男性が大変好み、そのままゴクリと嚥下すら望むその行いは、実は青年にとって女性の口を汚す事であり、あまり好みではない。
実際、出たソレは異臭はするし”相手の器官”の酸性の分泌液を中和するためアルカリ性で苦いし、やたらとベタついて喉とかに絡んで苦しくなったりもする。殿方を喜ばせる目的以外で、本気で口内へのソレを望む女性というのはそう多くはないだろう。
「大丈夫ですよ。そのまま出してしまってかまいません」
恵は舌の平で口中の彼のモノを攻めながらそう言う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
——民話『食わず女房』では山姥が二口女に化けていた——
——恐らく、恵もその類なのだろう——
青年は、そう遠くない将来に恵にその頭上へと吊されて、後頭部にパックリと開く口中に下ろされる自分の姿を想像した
と、意識が余所へと向いて気が緩んだ拍子にパシャッと放ち、果ててしまった。排泄により彼女の口を汚してしまって僅かに罪悪感を憶える。
ズルリと下半身が引っ張り出され、つま先と口との間に銀色の唾液の糸がツゥっと引かれる。先程まで固かった部位は既に力なく項垂れている。
「うええ、苦いです」
首だけで振り向いてみた恵の顔はわずかにしかめられ、ペロッと出した舌先には異臭を放つ僅かな白濁液がペトッと付着していた。
「ご、ごめん」
ついつい謝罪の言葉が漏れる。
「あ、いいえ、いいんです、旦那様。出させたのはあたしですから」
青年をそっと磐座の上へと下ろす。
「少し待ってて下さい」
そう言って身を傾け、その巨大な腕をグォッと伸ばして温泉の湯をザバリとひと掬いする。そしてそれを口に含んでガラガラブクブクとうがいをした後、さらに身を屈めて温泉の排水路にザバアッと吐き出す。
幾度もそれを繰り返し、ようやく恵は彼に向き直る。
「ふう、やっと無くなった。……旦那様の身体もお洗いしますね」
最初のときのように彼の上に挙げた腕を右手で掴み、その全身をグッと持ち上げる。彼女は腕を伸ばして彼の下半身を温泉にバシャッと漬け、前後にザバザバと揺すって洗う。
——さっきこの温泉に入ってから、まだ小一時間くらいだよな——
——なんか、すっかり物扱いされるのに慣れちゃったような——
身体が前後にフリフリと揺すられ温水が下半身をザバザバ洗ってゆく感覚に浸りながら、青年はぼんやりと考える。
じきに下半身がきれいになり、彼の身体はグイッと引き上げられる。そして三度磐座の上へとそっと置かれた。

27巨大娘:2020/06/14(日) 00:22:58
「旦那様、いよいよ本番に入りたいと思います……」
全裸で磐座の上に立つ青年を、恵は真摯な目でじっと見詰める。その奥には若干の脅えの影が見える。
「あの、最後に確認しますが、本当に大丈夫なのですか? あたしは口の中で贄を噛み殺さないといけないんですけど……」
「大丈夫ですよ、女神様。首さえ残していただければすぐに復活できますから」
垂れ目に柳眉の青年は優しげにニッコリと微笑む。それを見て彼女は幾度かスウハアと深呼吸をする。
「では、いきます。旦那様、口に収まるように蹲うずくまってください」
その言葉に従い、彼は体育授業のときのようにサッと三角座りをする。
恵はその身体を右手でそっと掴み、左手の掌の上に同じくそっと乗せる。二人は互いに目を合わせ、慈しむようにニッコリと微笑み合う。
彼女はクパァッと口を開き、そこへ彼を乗せた左手をグウッと近づける。と、一旦その手がピタリと止まる。
「あ、あの、やっぱり見られていると、その、恥ずかしいというか、何というか」
恋する初心な乙女のようにモジモジした態度に、青年は優しく笑う。
「では、目を瞑りましょうか? それとも、反対を向いた方が……」
「すみません。やっぱり後ろ向きになって下さい」
言うが早いか再び右手で優しくそっと掴むと、くるりと反時計回りに半回転させる。
「ではいただきます」
再度グウッと口に近づけられ、そこでピタリと止まる。しゃがんでいる彼の腰に彼女の大きく柔らかな下唇がフワッと触れ、背中に生暖かい吐息がフウッと吹きかけられた。
そして彼の眼前に横向きに指をそろえた巨大な右手がグウッと迫ってくる。その手は小指側で彼の身体を掬い取るようにしてグッと口の中に押し込める。すっかりお馴染みになった熱く湿ったグネッとした巨大な舌の感覚が、今度は脛や膝小僧を抱えている腕に伝わる。
人間よりも硬く大きく鋭い歯が、ギロチン、いや鋏の刃のように上下からカッと彼の首に当たる。
「いきます」
彼の身体を包み込んでいる口腔、その歯も口も舌も動いてないのに酷く真剣な恵の声が聞こえる。やはり”二口女”なのだろう。
「どうぞ、ひと思いに」
一瞬、フッと歯の感触が失せる。口がクワッと開かれたのだ。そして彼の首にドンッと衝撃が走った。
カッとした灼熱感と続くグワッと走る激痛にクワッと眼を見開く。だが、彼の意識は既に無い。切り落とされた生首が、血の尾を引きつつ恵の左の掌にボトリと落ちる。

28巨大娘:2020/06/14(日) 00:25:29
「お、おいひい」
ハッと目を見開きながら、右手で押さえた口から漏れたのは、青年の肉体をガリガリと咀嚼する音と共に美食を湛える言葉。
——ああ、本当に美味しい——
——多分もう、千年以上ぶりの生きた人間——
——人間は文明を手にして段々と神の力に頼らなくてもよくなって、切羽詰まって人身御供を捧げる必要は無くなって——
——それを受けてあたしは生贄は受け取らなくなって——
——その代わりに神の力を失って——
——でも、人々の暮らしはそれでも維持できて——
——人々の幸福こそ、豊穣神であるあたしの願いだから納得して——
——以来、生きた人間を口にした事はなくって——
青年の身体を咀嚼しつつ、恵はグルグルと追想する。
その舌がジーン焼け付くように鮮烈な血の味を味わい、そのグニッと柔らかくもどことなく力強い風味の肉をムシャムシャと食み、そのガシッと硬く逞しい骨をバリボリと噛み砕き、彼女の全身は歓喜にブルッと打ち震えていた。
やがて、口中の肉体は既に骨諸共ブツブツの細切れにされた。名残惜しいものの、これ以上の咀嚼は無意味だ。天上の甘露にも等しいそれを味わう事はできるが、もっとその先——神としての力を取り戻す——ためにはゴクリと嚥下しなければならない。
喉をゴクリと動かすと、ドロドロとなった彼の肉体は口中からズルリと抜けて彼女の喉を、食道を潤し、胃袋にズッシリと収まる。
その瞬間、恵の全身と精神に得も言われぬ感覚がカッと走る。
それは一体何に例えよう?
障害物がなくなり視界がパアッと開けたような、暗雲がサアッと晴れて日が差す様な、夜闇に覆われた大地を曙光がピカッと照らすような、まるで周囲が広がったり自分がグウッと大きくなって遠くまで見渡せるようになったときのような、そんな感覚。
いや、周りが見える——知覚が広がる——だけではない。もっと能動的なモノもあった。
自分の中が何かにザアッと満たされるような、力がググッと漲みなぎるような、自分の密度がギュウッと濃くなるような、血がフツフツと滾たぎるような、力がグワッと溢れ出るような、そんな感覚。
「あ、あ、ああああああっ!」
血塗れの口からは放たれたのは歓喜の叫び、キラキラと輝く目からはボタボタ滴るのは滂沱の涙。
「忘れてた!」
血混じりの唾をピッピッと飛ばしつつ叫ぶ。
「これが、これが、神の力だったんだ。もう、ずっとずっと前で、ずっとずっと取り戻せないと思って、ずっとずっと忘れていた神の感覚なんだ!」
グスグスと鼻をすすり、巨神はウオオオオッと咆哮する。

29巨大娘:2020/06/14(日) 00:26:03
ふと、不安に駆られて左の掌の上に血にまみれてゴロっと転がっている生首を見る。先程とは異なり、血の気が失せて頬がガクッと痩けた青年の首、それが生存確認のために二・三度パチパチと瞬きをする。
彼は切断された瞬間はその衝撃で意識を失ったものの、その不死性からすぐに身体の回復が始まり、じきに意識を取り戻したのである。いまだ首にズキンズキンとした痛みはあるが切断時程は強くなく、それも急速に薄れていく。
すると生首に劇的な変化が起きた。青年の首の切断面から下がズルリと生えてきたのだ、さながら宙から湧き出るかのように。肌こそ血の気の失せた土気色だが元通りの肩と胸までが再生され、それが一旦止まる。すると彼は暫く目を瞑りって意識を集中、そして再び下腹部までがズルリと生えてくる。三度目では右腕がズルリと生えてきた。
そこで彼は右腕で身を起こし、ニッコリと微笑む。
「いかがですか。女神様」
「ほんとにもう、凄いです! 旦那様」
涙でグショグショの笑みを浮かべ、恵は叫ぶ。
「旦那様のお陰で、もうすっかり忘れていた神の力とか感覚が取り戻せました。本当にありがとうございます」
彼の乗っている左手をグッと掲げ、深々とお辞儀をする。彼ははにかんで右手で後頭部をポリポリと掻く。
「それに、旦那様も凄いです! 首だけになっても生きてて、すぐに再生できるなんて! 本当にヤミちゃんの言った通りでした」
実は首である必要はない。手足の一本程度でも生存は可能であるが、脳がなければ意識が保てず”瞬間再生”ができない。
「あ、あの、それで、旦那様。その、不躾というか、そのずうずうしいかもしれませんが……」
「お代わりですか? いいですよ」
たった今、激痛を体験したというのに、彼はニッコリと慈しむように総てを許容する優しげな笑みを浮かべる。
「ほ、本当ですか?」
目を見開き、パアッと屈託のない満面の笑みを浮かべる。
この手の”お客”は初回のお試しで、大抵はお代わりを希望する。彼は経験則からそれを十二分に知っている。
「ありがとうございます。旦那様!」
「ただ、疲労が激しくて今はこれ以上の再生は無理なので、一時間程待っていただけませんか?」
「はい。ではえっと……」
恵は下をキョロキョロと見回す。
「そこの磐座の上にでも下ろして下さい」
「は、はい」
彼女は上半身だけの彼を壊れ物でも扱うかのように丁寧にそっと下ろす。実際は身体がこのような状態であっても、彼にとってはこの程度の高さなら放り出されても平気なのだが、彼女のその心遣いはとても嬉しい。
さっきの陵辱的で屈辱的で恥辱的なプレイには辟易しうんざりし閉口したものの、根は優しい女性なのがわかる。
返り血の付いた左掌をペロリと舐めてから、彼女は人間の二倍サイズまでシュッと縮む。
「えっと、では、しばらくそこでお休み下さい」
ペコリと一礼をすると、彼女はトタトタと小屋まで走っていく。死人ならではの闇を見通す目でそれを追っていると、さらに縮んで人間サイズになったのだろう、普通にガラリと裏口を開けて入っていった。

30巨大娘:2020/06/14(日) 00:26:41
磐座の上で青年は休む為に右腕一本でゴロリと仰向けになる。目に入るのは満天の星空で、見覚えのある春の星座があった。
——ここって隠れ里ってことは現実とは異なる異次元空間なんだよな——
——天体との関係ってどうなってるんだろう?——
——やっぱり現実世界と連動している”プラネタリウム的な何か”って事なんだろうか?——
そんなとりとめもない思索をしているうちに、ズッシリとした疲労のあまりついウトウトとする。
ハッと気がつけば、すっかり疲れは回復していた。麗しき彼女のお代わりの為に、すぐさま再生を行う。
精神を集中させてまずは左腕、次に腰部、そして右脚。ズルリズルリと次々と再生させているうちに、気がつけば傍らに恵が立っていた。先程見た人間の二倍サイズの姿である。
「あの、旦那様」
おずおずと声をかける彼女に、即座に返答する。
「あ、ゴメン。左脚がまだなんで、もうちょっと待ってください」
「は、はい」
彼が意識を集中すると、左脚も即座にズルリと生えてくる。肌こそ死人特有の血の気の失せたやや干涸らびた感じだが、もう完全に五体満足な状態に戻っている。
——まだ”成りたて”の頃は、もう少し時間がかかってたけど、早くなったもんだ——
ふと、ここ数年の急激にギュッと密度の濃くなった人生を回想する。
友達共々妖怪に殺されて、自分だけ妖術でゾンビとして生き返って、独りで妖怪退治を始めて、妖怪社会での始末人となって、悩める人食い妖怪達と出会って、不死身の身体で人肉屋を始めて、そしてこの『女神計画』を持ちかけられて……
そして、女神かのじょ達と出会った。
彼はスックと立ち上がると、恵と目を合わせる。
「再生は終わりました。……ええっと、また、その、さっきみたいなペロペロから始めるのでしょうか?」
彼女の頬にポッと朱がさし、若干目がフラリと泳ぐ。
「えっと……、今度は、その、”本番”の方をお願いします」
「わかりました、女神様。ただ、実は消耗が激しくて、生者モードになると気絶してしまうので、その辺はご了承ください」

31巨大娘:2020/06/14(日) 00:27:18
疲労でふらくつ身体でサッとしゃがむと、心臓をドクンと動かす。途端に肌が血色を取り戻し、痩けた頬もふっくらと元通りになる。これで”生きた人間”状態だ
しかし同時に、彼の身体を満たしていた夜の亡者としてのべらぼうな体力が失われ、残るは常人レベルの体力のみ。人の身では全身を再生させた際の莫大な消耗を購う事はできない。途端に疲労感がズンッと押し寄せ、フッと意識が途絶えた。
ハッと意識が戻ると、再び恵の左掌の上だった。首に激痛が走りそこから下の感覚がない。斬首で人間としての生理機能を維持できなくなった結果、自動的に亡者状態に戻ったわけである。
身体の状態——とは言っても首だけなのだが——から判断するに、恐らく斬首からは数秒後。人間状態で気を失っていたのを含めても数分も経ってないだろう。
今回は先程のように落ちたままゴロンと転がってるのではなく、上下をちゃんとして鎮座している。
「あ、気付かれましたか旦那様」
巨大な、優しく慈悲深く情に厚いニッコリとした笑顔が眼前にあった。
返事をしたいところだが、首から下がすっかり無いという事は声帯や肺が無いわけだから喋れないし、首回りの筋肉も無いから口すらまともに動かせない。そして現在、再生する為の体力は使い果たしており、文字通り”手も足も出せない”状態だ。
敵の多い”始末屋”としての習慣から、日頃はこんな風に完全に無力化するのは避けている。しかしここは巨神のお膝元。その庇護を得られるからこそ、安心して首だけのままゴロンと転がっていられるのだ。
なお、青年にとって斬首自体は日常茶飯事である事を付け加えておく。
実際に、ここに来る前夜も消化器官の洗浄も兼ねて——肉屋の矜持・誇り・自負に掛けて女神様に汚物を喰わせるわけにはいかない——体力の回復を待って何度もズバッと首を斬られてはズルリと再生している。肉屋は忙しいのである。
「どうぞ、ここでお休み下さい」
いつの間にか磐座の上には座布団ともクッションともつかぬフワッとした物が用意されており、恵はその上に彼の首をそっと横たえる。再びキラキラとした満天の星が見える。
既に首のズキンズキンとした痛みは殆ど無く、その断面は肉に覆われ始めていた。放っておいても二日もすれば五体満足に戻るのだが、流石にそこまで悠長に待つ気はない。疲労が回復し次第、順次瞬間再生をするつもりだ。
——夜なら三十分以内に四肢一つ分を再生させる体力が回復するから、都合二時間半もあれば完全回復できる——
——となれば、ここからの帰還も考えれば今晩できる”お代わり”はあともう一回程度しかできない——
肉屋——ただし商品は自分自身である——の経験から、彼はそう計算する。
ウトウトとした浅い眠りとハッとした覚醒を繰り返し、体力が回復し次第次々と身体を再生する。
まずは首から繋がる胸部、続いて腹部、それから腰部。腕より先に陰部を含めた腰を再生するにあたり、恵の”性癖”が少々気に掛かる。だが、幾度もの戦闘において全身をズタズタにされた経験に比べれば大した事はない。
こうして彼は全身を復帰させたが、未だこの地をを統べる女神様はお出ましにはならない。

32巨大娘:2020/06/14(日) 00:27:43
「恵ちゃん!」
呼吸が必要のない肺にスウッと一息吸ってから、彼は大声で叫んだ。
「再生が終わりました! もし宜しければ、また”お代わり”をしてください!」
わずかに経ってから、バタンと小屋の扉を開いてゴツンという音と共に恵が出てきた。頭を押さえて鴨居をくぐっている辺り、うっかり中で巨大化してしまったのだろう。
通常より速くダダッと駆け寄ってくるように見えるが、彼女の足下を見ればそれが目の錯覚なのがわかる。駆け寄りつつ巨大化しているのだ。
「あの、もう一回宜しいんでしょうか?」
その巨体をグォっとしゃがませて、ズイッと顔を近づける。
「ええ。もう一回くらいなら今夜中に回復できますから、どうぞお食べ下さい」
夜は亡者の時間であり、逆に昼は亡者の時間ではない。故に日中は彼の疲労回復の速度も常人程度に落ち込んでしまう。四肢一本の再生を行う分の体力を回復させるのだって一時間半以上かかってしまうから、七箇所なら文字通り日が暮れる。
その旨を伝え、再びしゃがんで心臓をトクッと再鼓動。意識がフッと薄れる。
恵はその身体をそっと押さえ、グッと持ち上げる。しゃがんだ体勢が崩れないように、しかし傷つけないようにそっと両手で掴む様は、さながら多段重ねのハンバーガーを持つがごとし。
何故ハンバーガーに例えるのか? それは勿論口中でバリボリと咀嚼するからだ。大きく口を開けて彼の首から下を総て咥える。
「旦那様。本当にありがとうございます」
気絶した彼の身体を口にパックリと咥えたまま、彼女は明瞭な発音で感謝を告げる。
基本的に、生物は生存に必要な栄養素を美味いと感じるようにできている。妖怪もまた然りで、生きた人間の命を必要とする以上、口中でそれを奪うのを美味と感じるようになっている。
「いただきます」
首が落ちないように左手を顎に添え、バリッと勢いよく歯を綴じて彼の首をズパッと切り落とす。恵の頬に歓喜の涙が一筋ツウッと流れた。

33巨大娘:2020/06/14(日) 00:28:36
一回目は、とにかく神の力を取り戻すためよく味わう間もなくゴクリと呑み下した。そして、もう忘却の彼方に追いやられていた力を取り戻す感覚に、ただただ歓喜して感動して愉楽に浸っていた。
力の維持には年に一度で済むのだが、彼はお代わりを許してくれた。そして迎えた二回目の供儀で、ようやく人体それをゆっくりと味わう事ができ、それが自分にとってはとてつもなく旨くて美味おいしくて佳味かみである事を思い出した。
そしてさらに三回目だ。彼の肉体をバリバリと咀嚼しながら、心ゆくまでその至高で究極で無上の味を口の中で十二分に味わう。
思えば、自分は難儀な性質の妖怪である。
人肉を喰わねば力を振るえない、或いは生きられない妖怪はそこそこいる。大概は死や危険を象徴する者達だが、そんな連中も大抵は人の屍肉——既に死んだ人間の肉——を食せば生き延びる事ができる。
彼の”お客”も大半がそうだろう。しかし、自分を含めた極一部はそうはいかない。
恵は山の神、即ち大地母神の直系の末裔だ。だから生命の総て、つまりは誕生から成長、老衰そして死までを司る。それらは密接不可分、生と死は表裏一体。ゆえに生命の力を振るうにあたっては、死もまたもたらさねばならない。
だから、生を司る女神の力を振るうためには、生者——即ち生きている人間——を殺め食らわなければならない。人と同じ精神性を持つ彼女にとっては、それは途轍もなく重い事。
だが、今それを覆す存在が現れた。即ち、人としての命を捧げてもなお生き続けて無限に再生する不死身の男。
もうこの神の力と極上の美味がもたらす快楽を悦楽を歓楽を、忘れる事なんて失う事なんて無くす事なんて二度とできない。彼女は自らの思いで意志で感情で、自らが縛られ捕らえられ囚われていくのを自覚し認識し理解する。
——ああ、あたしはもう、この人からは離れられないんだ——
クッションの上に鎮座させた生首をじっと見つつ、恵は痛感する。
捧げられた贄を伴侶と呼ぶため、自分はとても惚れっぽい。だから、ともすれば彼を婿としてずっと手元に置きたいという気持ちが沸き上がる。しかし、それが無理だということは事前に釘を刺されてもいた。
「いい? 山神ヤマちゃん。もし、どんなに彼の事を気に入ったとしても、独占は無理だから」
そう、電話越しに闇姫ヤミちゃんが念を押す。なお、そのときは、まさか独占したいと思うなんて想像もつかなかった。

34巨大娘:2020/06/14(日) 00:29:19
「既に何人か紹介しちゃってるし、今後の”お見合い”の予定もあるし、そもそも人食い妖怪どもをこんな風に鎮められるのって、アイツだけだからね」
彼女の言葉を追憶し、再び磐座の上のクッションで眠れる首を注視する。
彼は前々から妖怪社会における人肉屋なわけだし、既に何柱かと『女神の花婿にえ』の関係を結んでいる。とてもではないが、自分一人の”花婿”にはできない。
——ならばせめて、彼の心を繋ぎ止めるような……——
と、スッとその顔が青ざめた。彼女にとって贄とは同時に旦那様であり、性的なパートナーでもあるからして、ついつい暴走して劣情の欲情の色情の赴くままに嬲ってしまった事を思い出す。
彼が嫌がるそぶりを見せたにも拘わらず、彼の身体、特に性的な部分を何度も執拗にしつこくペロペロと舐めてしまった。
——まずい! もしこれで嫌われちゃったら——
と、突然彼の眼がパチッと開き、恵の心臓がドキンと跳ね上がる。
「あ、あの旦那様、先程は大変失礼をしてしまい……」
語りかける彼女に対し、彼は突然眼をパチッと瞑る。
「あ、あの、旦那様?」
語りかけても生首はピクリとも動かない。何度呼びかけても身じろぎ——とは言っても今は顔の上半分の表情筋くらいしかないわけだが——しない彼に対し語りかけるのを止め、しばらく待ってから彼女は小屋に戻った。
やがて、体力が全快したのを感じて彼は目覚め、胸・腹・両腕をズルリと再生する。一旦はそこで打ち止めだ。
さっきの彼女の言葉の続きは恐らく謝罪。しかし、彼は最低でも胸と腹がないとまともに喋れない。そんな状態で恵の懺悔だの謝罪だのお詫びだのを聞かされても、どうしようもない。
最悪、下手に取り乱されてわんわんと泣き出されても困る。だから敢えて会話が可能になるまで狸寝入りを決め込んだのだ。
「あの、旦那様?」
いつの間にかそこに居た二倍サイズの恵がおずおずと声を掛ける。どうやら時々様子を見に来ていたらしい。
「あ、恵ちゃん。ごめん、さっきは体力の限界で眠っちゃって」
「そ、その、さっきは大変失礼いたしました」
ペコリと頭を下げる。
「ペロペロの事なら、別に気にしてないよ」
即答する。
「”そういうの”も込みで”贄”なんだし。その、何と言うか、最後は気持ち良かったというか、なんと言うか……」
彼は、はにかみつつ頬をポッと赤らめる。
「え、では……」
「”次”からもどうぞ」
ニコッと微笑む。
「よ、よろしいんですか?」
破顔一笑。その美しい貌に驚きの入り交じった喜びの表情をパアッと浮かべる。それを見ただけで、なにかこう心がグッと満たされる気がする。
「ええ。あと、できれば今度はもっと早めに落ち合って、”それ”は日中に済ませて欲しいかな?
 最初の”供儀”を日没後すぐにすれば、夜明けまでにはあともう一回の供儀ができるから」
「ほ、本当ですか!?」
彼女はニコニコとした喜色満面のえびす顔になる。それはとても眩しくて、同時に心がざわめくような、逆に落ち着くような甘やかな不思議な気持ちを覚える。
「ええ、なんとか夜明けまでに回復しきれますよ」

35巨大娘:2020/06/14(日) 00:29:51
心の動きを押し殺して——なに、全身をミンチにされる苦痛に耐えるのよりも簡単だ——穏やかな笑顔のままそう続けつつ、彼は自らの心の内を冷静に分析する。
——あ、これ、僕が恋に落ちた——
脈拍も呼吸もないから心臓の鼓動だの頬の赤らみだの呼吸の加速だのでは判断できない。だからといって、そこまで人生経験が浅くは無いし自らの心の動きに鈍感でもない。
——まずいな、まだ前の恋もその前の恋も冷めてないってのに、またか——
不意に脳裏に”先輩”の声が蘇る、「お前は相当なドスケベなんだよ、それも相当なムッツリだ」と。否定は出来ない。
「えっと、そういうわけで、これからも宜しくお願いします。恵ちゃん」
両腕で身体を支えると、頭をペコリと下げた。
「いいえ。こちらこそ、宜しくお願いします。旦那様」
彼女はその倍サイズの両腕で、上半身だけの彼の胴をガッシと掴みグイッと引き寄せて、その胸にギュッと抱きしめる。
「あの、今日はまだ心の準備ができてなかったのですが……、その、次回はちゃんと”男女の営み”もさせてください」
その大きく柔らかく豊満な胸に顔をギュッと押しつけられつつ、心の中で突っ込む。
——”あんな事”までやってて、まだ”心の準備ができてない”ってのか……——
——好色で男好きで淫蕩な女ひとの考えはちょっとついていけないかも——
それでもこの胸に宿った気持ちは醒めはしない。
「そ、それでですね。あの、せめて、これだけは……」
恵は彼の身体をスッと離して、自らの目線と合うようにヒョイッと持ち上げ、そしてそれを顔にグッと近寄せる。眼をギュッと瞑ってチョコッと唇を尖らせる。
「ちょ、ちょっと待って、恵ちゃん」
その意図を察して青年は両手をパッと開いて突き出す。パッと見開いた彼女の瞳に悲しみの色がジワリと滲む。
「え、あの……」
彼女の憂いを無くす為、彼は素早く叫ぶ。
「待ってくれ、せめて”コレ”は僕からさせてくれ」
言うが早いか、自らの胴を押さえている彼女の両手を両腕でグッと押して引き抜くようにして身体を近づける。大きな艶やかな唇と、冷たくしなびた唇がフッと触れ合う。
「愛してます。恵ちゃん」
真摯な視線でキッパリと告白する。
「え、な……」
頬を赤らめ、戸惑う。
「ゾンビの唇で悪いけど……」
「嬉しいです。旦那様!」
彼を優しくフワッと抱きしめ、今度は彼女の方からギュッと口づけをする。
フッと大小の唇が離れると、突如甘い花の香がフワッと匂い、辺りに薄桃色の花弁がヒラヒラと舞っていた。
見れば今まで常緑樹が葉を残すのみだった冬枯れの森が突如一斉にパッと芽吹き、所々にある桜——赤茶けた葉も混じるから恐らくは山桜だろう——の花がブワッと咲き誇っていた。
「見て下さい! これがあたしの力……旦那様のお陰で取り戻せた力の一部なんです」
生命に満ちあふれたその木々をうっとりと眺める恵。そのポッと上気した頬やキラキラと潤んだ瞳はとてつもなく美しい。
「ああ、とても素敵だよ」
そう青年はニッコリと微笑んだ。

36巨大娘:2020/06/14(日) 00:30:39
その後、青年は体力回復のためにもう一眠りすることにした。小屋の中に残してきた服——下半身再生後すぐに着られるように——と荷物を持ってきてもらい、腕時計のアラームをセットする。
その後、夜明け前に一度目を覚まして下半身を瞬間再生すると、服を着て再び体力回復のために眠りに就く。ただし日光が苦手なので磐座の西側に降り、広げたレジャーシートの上に身を横たえる。
やがてアラームで目覚めるとすっかり夜が明けていた。
「恵ちゃん。恵ちゃん?」
レジャーシートを畳んで声を掛けるが女神は出てこない。
——眠っているんなら起こさない方がいいかな?——
眠ってるとしたら恐らく小屋の中だろうから、そこをグルリと迂回して表側に出る。
この”隠れ里”は恐らく里の住民の許可無く出られない”監禁型”ではなく、招かれなければ入れない単純な”閉鎖型”だろうから、このまま里の端まで歩けば”鬼の腰掛け岩”の付近に出られるだろう。
と、背後から声。
「待って下さい、旦那様!」
振り向けば小屋の戸がガラリと開き、そこから恵が鴨居に頭をゴンとぶつけつつ出てくる。表の戸も普通サイズだから、どうやら巨大化してるらしい。
彼女は頭を打ってのけぞった拍子に今度は躓いてグラリと倒れるが、その姿がグングンと接近してくる。いや、違う、さらにムクムクと巨大化している最中だ。
遠近法で頭の方が大きく下半身が小さく見え、そして彼の上方に伸ばした身長ほどもある手がグワッと覆い被さる。咄嗟のことで避けきれず、ベシャアッと叩きつけられる。
「グワッ!」
骨がミシミシと軋み激痛が走る。いかに負傷に慣れていても、予め覚悟してなければつい声を上げる事もある。
「ああっ! ごめんなさい、旦那様」
幸いなことに巨手はすぐにサッとどけられるが、既に青年の心臓は止まっている。いや、わざと止めて亡者モードの肉体で負傷を再生しているのだ。その代わり夜の住人として東からの陽光で徐々に疲労が始まる。
「も、申し訳ありません。その、どうしても戻って欲しくて……」
十倍サイズの巨体で上体をパッと起こしてペタンと座り、彼をヒョイッと抱え上げる。
「あ、いや、もう大丈夫だよ」
ニッコリと笑う。実際、人間なら全治一・二ヶ月の怪我でも亡者モードの彼では一分以内に治ってしまう。
「そ、その、旦那様のご奉仕というか労力というか……、そういうのにお応えするために、ご馳走を用意したんです!」
巨神は、顔を真っ赤にして恥ずかしげに目を瞑ってそう叫ぶ。

37巨大娘:2020/06/14(日) 00:31:00
「え、ご馳走?」
「は、はい。だって旦那様は、その……”汚物を女神に食べさせない”ために、お食事を抜いてここまで来られたんですよね!?」
真摯な表情で女神は問う。
「う、うん。そうだけど」
実際にその前の晩は多数の人食い妖怪達の”食事”用として、切り落とされた首から下を専用の屠殺業者の”食人餓鬼じきにんがき”——彼が最初に出会った人間を殺したくない人食い妖怪——に何度も——つまりは再生して——提供している。
その際に消化物の入った腸は、屠殺屋が金持ち食人鬼向け商品のソーセージの材料として利用している。そして再生したその後は上記の理由により一切食事を摂っていない。
「あたし、女神の力として食べものを出す事ができるんです。ですから”贄”のお礼として、お腹を空かせた旦那様に是非ともお食事をしていただきたいんです」
正直それは嬉しいし、真っ直ぐな眼差しでじっと見られると否とは言えない。というか十倍サイズの女神に捕らえられていては、昼間の常人並の身体能力では逃げられはしない。
「というか、豊穣の女神のプライドにかけて、旦那様をお腹を空かせたまま帰したくはないんです」
美しく巨大な顔でじっと見詰める。
「じゃあ、ありがたくご馳走になります」
その言葉に、女神はニッコリと輝くような笑顔で応えた。

38巨大娘:2020/06/14(日) 00:31:34
小屋の中、脱衣の際にはカーテンで仕切られていたもう半分には、調理台やガスボンベ式のコンロやアウトドア用の卓や椅子などがあった。そして調理台の上にはまだ暖かい料理が入った鍋釜等々が並んでいた。
恵と生者モードの青年は小屋の前に卓や椅子を出し、その上に料理を並べる。最初、彼女は彼の分の皿しか出そうとしなかったのだが、青年の「折角だから一緒に食べようよ」という誘いで彼女も一緒に朝食を摂ることにした。
そもそも卓上にズラリと並ぶ数々の料理は、胃袋に自信のある彼でも正直言って完食は不可能である。
「久々だったんで、ちょっと作り過ぎちゃいましたね」
テヘヘと笑う。
料理は野菜や川魚、それに果物を使ったもので、穀物や獣肉の類はない。なお、調味料以外の素材はすべて恵の神としての能力——つまりは最初の供儀以降だ——で作り出したものだそうだ。
食材のラインナップが偏っているのは、何でも動植物の可食部分を周囲丸ごと——皮だのも含む——しか出せないので、脱穀の必要な穀物や裁くのに手間取る獣は今回は使わない事にしたのだそうだ。
料理には新大陸産のトマトやジャガイモ、デザートには南国産のバナナやパイナップルまで使われている。
「陸おかのものだったら、食べた事があれば再現できるんです」
豊穣の女神としてはいかにもな能力である。
ちなみに採れたままの生の”食材”しか出せないので、大抵は食べるのには調理が必要なのだとも付け加えた。
「いただきます」
まさに彼女が”作った”食べ物を前に彼が手を合わせる。
「どうぞ」
恵は固唾を呑んで、期待に満ち満ちたキラキラとした瞳で箸を持つ彼の手元を見る。
「人のために作ったのって、久々なんです」
愛しい人の期待を裏切ってはならない。だから彼はすぐさま手近な皿に箸をスッと伸ばす。
「お、美味しい!」
里芋の煮っ転がしをパクッと一口食べ、青年は素直に感想を盛らす。素材の質も良いし、火加減・塩加減等々絶妙なバランスで今まで食べた中でもトップクラスの味だ。なお、亡者モードでは飲食不要——空腹や栄養失調すら自動的に回復する——なので、別に「空腹に不味いもの無し」というわけではない。
考えてみれば当然の話だ。相手は縄文だか弥生だかの時代から生き続けている女神なのだから、その間に何かの研鑽を積めば超一流の域に達するだろう。つまりは年の功だ。
「ふふっ。旦那様に喜んで貰えてとっても嬉しいです」
花が綻ぶような輝く笑顔でニパッと笑う。それだけで彼の心に何か満たされるような感覚がする。彼女の好意を無駄にしてはならない、そう思って彼は卓上に並ぶ料理をバクバクと口に放り込む。それはどれもとても素晴らしく美味だった。
——あ、これ、しばらくは外食とかじゃ絶対満足しない展開になるな——
——自炊とかしても、どんなに味見して調味して試しても、多分絶対必ずこの味の再現なんてできない——
——つまりは、胃袋を掴まれたってことか——
心臓を鷲掴みにされて引きずり出されても平気な彼だが、どうも胃袋を掴まれてはそうはいかないようだ。

39巨大娘:2020/06/14(日) 00:32:09
「ごちそうさま」
やがて青年は両手を合わせる。ズボンのベルトを緩めなければならないほど腹がポッコリと膨らんでいる。
「お粗末様」
恵が笑顔で返す。
「美味しかったんで、ちょっと食べ過ぎちゃったな……」
ここは山中であり、今日中には帰宅せねばならない。下りとはいえ何時間か山道を歩くのにこのお腹では少々きつい。
「大丈夫ですよ、後ほど麓までお送りしますから。片付けをしますから、少しそこで休んでいてください」
「手伝おうか?」
「いえいえ、旦那様はお休み下さい」
言うが早いか、彼女はググッと巨大化する。そして右手に巨大な木の匙を持ち、左手で皿や鉢を次々にひょいと摘むと上の料理をパクリと一口で片付けていく。
——十倍サイズだから体積は千倍、僕の身体——首から下——が六十キロくらいだから、三回食べてもせいぜい茶碗一杯分か……——
相手が規格外の存在である事を認識し、ぼんやりと思いを馳せる。
恵は二倍サイズにシュッと縮み、空いた食器類を持って少し離れた水場へと持って行く。
——食べた物も一緒に縮むわけかな?——
ふと頭をよぎる。しかし、妖怪の能力に関して既存の理屈——特に物理学とか——は通用しない。現に彼自身、飲まず食わず呼吸もせずに怪力を振るえるし、何も摂取せずとも肉体を再生させる事ができる。考えても無駄な事はしないことにした。
——そういえば送るって言ってたけど、どうやるんだろう?——
——山の神だから、熊とか鹿とか猪とかでも呼べるのだろうか?——
とりとめもなく思考を彷徨わせていると、やがて彼女が戻ってきた。”衣装”の古代服のままだが、手には会った時に背負っていたリュックがある。
「では、麓までお送りします」
「あ、うん。えっと……?」
「どうぞ、お乗り下さい」
彼女がグウッと十倍サイズまで巨大化して、その手をズウッと差し出す。
「千年ぶりにこの姿で、山を駆け回りたいんです」
彼女はニコッと笑う。

40巨大娘:2020/06/14(日) 00:33:04
「ちょ、ちょっと、いくら山の中だからっていっても、そんな事したら……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと『人払いの結界』くらい使えますから。だから、ほら……」
彼は自分のリュックを抱えると、差し出された巨手の上に乗った。彼女に持ち上げられるのは、昨晩から数えてこれで何度目だろうか?
「何でしたら、ここでも構いませんよ?」
恵は古代服の胸元から覗く胸の谷間——かなり深い——をスッと指し示す。いや、流石にそこに収まるのは体裁が悪いし、何より安定しなさそうだ。
こうして彼は力を取り戻した山の神の手の上に乗り、彼女の疾走を間近で見る。
人間の十倍の巨体でよどみなく山をドドドッと走り抜ける。彼女の足下に目をやれば、踏みつける場所の木々が自然自然とサッと傾いて避けていくのがわかる。恐らくは神としての能力だろう。
「ヒャッホーイ! 凄いです、旦那様。もう、本当に、千年以上ぶりにこの景色を見られました!」
高所からの山の景色を眺め、彼女は満面の笑みをパァッと浮かべる。何と美しく麗しく心満たされる笑顔なのだろう。彼の心臓がドキッとする。こうして巨神の十倍の歩幅による駆け足によって、二人は行きよりも遙かに速く山を下っていく。
なお、途中に二度落とされた事を追記しておく。
一度目は単に掌の上に乗せていただけのため、はしゃぎすぎた彼女がうっかりドサッと落っことしてしまったのだ。咄嗟に防御力に長けた亡者モードに変化したので殆どダメージはなかったものの、彼女からはえらく恐縮されてしまった。
二度目は彼女がすっ転んだためである。先程の失敗を教訓にして両手をお椀状にしてそこに彼を乗せていたのだが、変化に富んだ山の地形に足を取られて盛大にズデンと転び、その際に勢いよくポーンと放り出してしまったのだ。
勿論、彼は即座に亡者モードになって着地して事無きを得たが、木の枝で黒のチェック模様の服や黒のズボンのあちこちに鉤裂きができてしまった。

41巨大娘:2020/06/14(日) 00:33:40
「も、申し訳ありません。旦那様」
仏の顔も三度まで、流石に今朝から不注意が過ぎただろう。
——うう、ただでさえ痛みを伴う供儀とかしてもらってるのに、その前の”いろいろ”や今朝からのドジで、もし愛想つかされちゃったら……——
「いや、僕なら平気だから。それより恵ちゃんの方こそ大丈夫?」
しかし彼は安堵させるような笑みを浮かべ、素早く生者モードに戻り彼女にトコトコと近づく。
「は、はい。大丈夫です」
俯せからググッと上体を起こした彼女の言葉とは裏腹に、その右肘からダラダラと血が流れている。本人にとってはかすり傷なのだが十倍サイズだからそれなりに出血量がすごい。
「今、治すから」
彼に右腕に触れられると、そこから暖かな何かが流れ込んできて痛みがスウッと引いて見る間に傷が癒える。
「すみません、旦那様」
「いやいや、大事がなくて何よりだよ」
そう微笑みを返してくる。
こうして恵は以降は安全第一で彼をしっかりと掴むと、比較的平坦な場所——山の地理なら総て把握している——を選んで早歩き程度でズンズンと進む。やがて昼前には麓にたどり着いた。
彼女は彼をそっと下ろすと人間サイズにシュッと縮み、改めて向き直る。
「そ、その。今回は、いろいろとご迷惑をお掛けしました」
改めて頭をペコリと下げようとすると、青年が両掌をサッと向けてそれを止める。
「待った。それは気にしないで。そういうのも込みで”贄”になってるんだから」
不死身故に無茶をやり、大抵の肉体的苦痛を味わい、やがて苦痛そのものに対して不感症に近くなっている。むしろ彼女は”本番”で一撃で首を落としてくれる分、痛みがないから楽とすら言える。
「あ、あの、それでは……」
「うん。次は半年後だね。今度は直接連絡するよ」
今回は両者の共通の知人『闇姫』を仲介としている。
「ありがとうございます。それで、ですね……」
「うん?」
彼女はポッと頬を赤らめると、スッと目を逸らす。
「あ、あの、さっきも言いましたけど、次はその、ちゃんと”男女の営み”をしたいと思いますので……期待しててください」
言うが早いか、しっかりと目を合わせて彼の肩をギュッと抱き寄せ、チュッと口づけをする。彼の頬がカァッと赤らむ。
「うん。次は……、あ、そうだ!」
不意に叫ぶ。
「その、次はもっと”ちゃんとしたお付き合い”をしたいんだ。例えば、今日はもう帰らなきゃいけないけど、その……デートとか」
「は、はい。喜んで!」
緊張していた彼女の顔がパアッと綻ぶ、ただそれを見ただけで彼の心に多幸感が恍惚感が陶酔感がフワッと沸き上がる。
こうして青年は次の”供儀”の際のデートの約束を取り付け、帰路に就いた。一方の彼女の方は、まだこの姿で支配領域やまを駆け巡りたいという事で、荷物を樹の上に置いてドドドッと走り去った。
なお後日、人的被害は一切出さなかったものの、この山で何カ所もの土砂崩れが発見された。それは原因不明で、まるで”巨人が暴れたような”ものだったそうである。また、その当日にそれに伴うであろうドシンという地響きが幾度も聞こえたという。
はしゃぎ過ぎて転んだりする彼女の姿が青年の脳裏にありありと浮かぶ。
「恵ちゃん、大丈夫かな?」
ドジっ娘な山の女神の安否を心配し、彼は呟くのだった。
<了>

42妖怪に化かされた名無しさん:2022/07/24(日) 02:19:51
「肉屋DEAD繁盛記」挿入歌「我が身を食(は)めよ」

食(は)めよ、食めよ、我が身を食めよ。
(一オクターブ上がって)飢えたる物怪(もの)よ、乾きたる物怪よ、
(一オクターブ上がって)我が肉で満たせ、我が血で潤せ。
(一オクターブ上がって)食めよ、食めよ、我が身を食めよ。

43妖怪に化かされた名無しさん:2022/09/23(金) 22:04:29
先日の事だ。ふと妙な言葉が口をついて出てきた。
「将来は、美味しいハムやソーセージになりたいな」
自分で作ったキャラに人格が浸食されてきてるな……。

44妖怪に化かされた名無しさん:2023/06/01(木) 22:49:00
「肉屋DEAD繁盛記」挿入歌「我が身を食(は)めよ」2番「我が身を継(つ)げよ」」

継げよ、継げよ、我が身を継げよ。
(一オクターブ上がって)失いたる部位を、病みたる所を、
(一オクターブ上がって)我が骨肉で補え、我が内臓(モツ)と替えよ。
(一オクターブ上がって)継げよ、継げよ、我が身を継げよ。


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