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【774の真夜中連載小説】

3ぽにょ ◆Ponyo.BYss:2014/10/01(水) 22:45:16 ID:???0
「先生…右腕の具合がおかしいんですけど…」
「君のおじいちゃん愛用のツルハシを取り付けてみたんだ。アタッチメントの不具合かな?」

「いえ、重くて上がりません」
「そういうフィードバックはありがたい! よしっ、手首にモーターをつけよう」

4ぽにょ ◆Ponyo.BYss:2014/10/01(水) 22:45:58 ID:???0
「先生、奥歯の噛み合わせがおかしいんですけど…」
わた坊は自力で立ち上がれるようになっていた。右腕に取り付けられたじいちゃん愛用ツルハシを削りコンパクト化したからだ。

「はははっ、昨夜君が寝ている間に奥歯にスイッチを仕込んだんだよ」
「スイッチ…?」
「強く噛み締めてみたまえ」
わた坊が歯を食いしばるとチュイーンという金属音と共に右腕のずいぶん小さくなったツルハシが回転した。

「ははははっ どうだっ!?」
「ど、どうだと言われても…」

先生の高笑いが響く病室で、ただただ自分の回転する右手を見つめるわた坊であった。

5ぽにょ ◆Ponyo.BYss:2014/10/01(水) 22:47:58 ID:???0
気分の優れないわた坊を先生は散歩に連れ出した。

「どうだい? 山も良いが川も良いだろう?」

わた坊は黙って川を眺めていた。
淀みなく流れるその営みを見つめていると、自分の手首にツルハシを取り付けられたことなど些細な事に思えてくる。

その時だった。
水面に何かが浮上し、こちらに近付いてきた。

「せっ先生! ワニですっ! この川、ワニいますっ!」

それが岸から上がろうとする姿にわた坊は後退り、尻餅をついた。

頭はワニ。しかしその下に付いているモノは小型犬の体であった。細い足にネズミのような先細りの尾。

「わた坊くん。恐れるな。あれはチワワニだ」
「ち、チワワニ!?」

チワワニと呼ばれた生き物は毛の無い体をブルリと震わせた。

「うん。チワワニ。この川に生息する非常に獰猛な肉食獣だ」
ゴクリとツバを飲む。
「ま、まさか先生はチワワニと戦わせる為に僕に改造をっ!?」

チワワニが長い顎を引き摺りながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

わた坊はきりりと奥歯を噛み締めた。
自分の右手首がチュイーンと鳴るのが聴こえた。

6ぽにょ ◆Ponyo.BYss:2014/10/01(水) 22:49:37 ID:???0
ズリっズリっ
重たそうに顎を引き摺りながらチワワニがこちらに一歩一歩近づいてくる。その細い四肢は小刻みに震えていた。
横座りになったままのわた坊の身体も、不規則に震える。しかしその中で確かに回転する右手だけが、彼女の全身に力を与えるように思えた。
「じいちゃん…」
巨大な顎がわた坊の身体に迫ろうとした刹那! 彼女は眼をつむり左腕を支えに右腕を前に突き出した。
「落ち着きなさいっ!わた坊くんっ!」
強く右肩を引かれた衝撃で眼を開けると、彼女の回転する右ツルハシは巨大な顎の顔前で止まっていた。
「チワワニが人間を襲うことはない」
諭すように静かな声で先生が言う。
「でも、獰猛な肉食獣だって言ったじゃないですかっ!」
わた坊は当然反論した。しかし、その声は先生の絶叫に打ち消された。
「チワワニは絶滅危惧種なんだっ! それを…それを害そうとするなんて…一体君は何を考えているんだっ!」
チュイーンイイーンイーンインインインイー…イイー……
先生の迫力に押されて、わた坊の右手の回転は徐々におさまっていった。

7ぽにょ ◆Ponyo.BYss:2014/10/01(水) 22:50:15 ID:???0
「なあ、生き物なんてみんな獰猛で野蛮さ…己れが生き延びる為に他を殺し喰らう…君も私もやっていることだろう? 違うかい?」
当然始まった先生の独白にキョトンとするわた坊。その彼女のまだ伸ばしたままだった右腕の先を長く大きな舌がゾロリと舐めた。
「ヒッ!!」
思わずその手を引っ込める。
「なっ、可愛いだろ? こいつは人懐こい奴なんだ…」
チワワニは舌を出しながら、先細りの尻尾をぶるんぶるんと千切れんばかりに振っていた。
わた坊は舐められた右手をさすっていた。感覚の無い筈の右手。しかし今確かにざらりとした舌でゾロリと舐められる感触があった。
先生の言葉は続く。
「チワワニはこの奇形地味た体型のせいで、自由に陸に上がって餌を求めることが出来ない」
わた坊は素直に頷いた。目の前のチワワニは頭の重さに負けて今にも膝から崩れ落ちそうだ。
「じゃあ、チワワニは何を餌にしているんですか? 魚ですか?」
同情の気持ちが湧きあがったのか、彼女から質問する。
「いや、チワワニは水中の生物を捕食しない。それどころか、特定の種目、いや、特定の品種しか喰わないんだ」
「ええっ!? 一体ナニを食べてるんですか!!?」
「そりゃあ、もちろんチワワだよ。川岸に水を飲みにきた野良チワワを捕食するんだ」
先生はそう言うと遠い目で川面に視線を移した。
その流れは先程とは違いどんよりと重い流れのようにわた坊は感じた。

8774:2014/10/03(金) 04:37:35 ID:3QkkoJQQ0
酷く喉が渇いていた。
いつから歩いていたのかわからない。
数歩先に水溜りがある。
膝が折れ腰が落ちた。霞んだ太陽が視界を一瞬よぎり頭は水に沈む。
飲んだ飲んだ飲んだ。
濁った水を飲み干し、顔を上げた時、既に無い筈の水溜りからワニの大きく広げられた口が飛び出した。

9774:2014/10/03(金) 04:48:26 ID:3QkkoJQQ0
「わたちゃん!?」

ビクリと身を起こした。
顔が冷たい。

「わたちゃん大丈夫なの!?」
心配そうに顔を覗き込むのは佐和先輩。

わた坊はようやく眠りから覚めた。

10774:2014/10/03(金) 05:30:20 ID:Mt9SQZHA0
「だ、大丈夫れす…」

呂律の回らない寝起きのまま、わた坊は今現在における自分の状況を素早く分析した。

ワニ 水 ナースステーション 佐和先輩 溺れる ワニ 冷たい 顔

「わたちゃん、顔、びちょびちょだよ? 大丈夫!?…寝不足なのかな?」

自分が突っ伏していたデスクには涎の水溜りが出来ていた。
咄嗟にそれを両手で覆う。

「ぼ、僕は夜勤前にはドキドキしちゃって眠れないんです! うたた寝してたのはごめんなさい!だからだから大丈夫です!」

佐和先輩が怪訝な表情でナースステーションから去るまでわた坊は自分の右手首を左手でしっかりと押さえていた。

チュインチュインチュインチュイイーン

開放されたモーター音が鳴く。

なんだあ夢落ちじゃないのかあ…

わた坊は虚ろな表情で涎に塗れた柔らかな頬を拭う。それを拭った銀色は明らかに怪しい艶を増した。

11774:2014/10/10(金) 03:41:27 ID:gox4dl5M0
「野良チワワを捕獲してきて欲しい」
先生は水面を見詰めたまま、そう言った。
川はいつの間にか落ちていた陽射しを受けて赤く染まっていた。
「この辺りの野良チワワは激減した。奴らも馬鹿ではない。犬だ。より安全な住処を求め群れで山へ移動したと聞く」

夕焼けが照り付ける川が血に染まっていく。

「わた坊くん、君の住まいの裏山、其処が奴らの本拠地だ」

わた坊の眼前にはどす黒く重いコールタールの川が流れを停止させていた。

12774:2014/10/10(金) 04:38:42 ID:gox4dl5M0
「で、出来ません」
わた坊は声を震わせながらも先生の要求を拒否した。

「出来る、出来ないかじゃない。やるか、やらないかだ」
「やりません」
今度はしっかりとした声で即答した。
「ヒャッ!」
先生の顔を睨みつけたわた坊の顎をチワワ二の長い舌が捉えた。その舌がゆっくりと首筋に流れてゆく。
「ヒャッヒャッ!」

「わた坊くん、君はこの醜くも可愛い生物が、地球上から絶滅しても良いと言うのかね?」

「ぜ、絶滅は良くないです…ヒャッ! で、でもチワワを餌になんて…ヒャッ」

チワワ二の舌が鎖骨を舐めあげ、さらに下降していく。

「チワワなんていくらでもいるさ。絶滅しやしない。いや、絶滅したって構わないだろ?」

先生が歪んだ笑みを浮かべた時、チワワ二の舌もわた坊の核心部にとどいた。

「あーーっ!!? そこはダメーーっ!!!」
わた坊の悲鳴を無視してチワワ二は湧き出る泉を貪り吸った。
「いやーー!やめてー!!」

「では野良チワワを…」
「それもいやーーっ!」
「やれやれ、ワガママだね」

不快と快感の最中の悦楽。
しとどに濡れ落ちる液体。

誰にも向けることの出来ない右手首がチュインギュワンと回転しながらひたすら地面をほる。

やがてわた坊は観念し、コクリと力無く頷いた。
それを認めた先生は懐からワニ革の笛を取り出し唇に当て、音もなく吹いた。

夢中でむしゃぶついていたチワワ二がすくと顎を上げ、わた坊から離れた。

グッタリと横たわるわた坊。
そのTシャツの腋はぐっちょんぐっちょんに濡れていた。

13774:2015/01/16(金) 06:59:37 ID:8ioMeVoY0
満月。

太陽の光を浴びた月明かりの道をひとり歩く。

『あのお月様は光さんのおでこみたい』

不安を掻き消すように呟く。

長期入院患者の光さん。前立腺肥大の治療が主だが、認知症も併発している。
冬山に登るのが趣味だったらしい。
来月にも登山計画を立てていて病院のスリッパを念入りに手入れしている。


慣れない道。

周囲の木が密度を増していく。地面が影に覆われる。


ここは自宅から数百メートルの裏山。その険しさから散歩ルートに選んだことはなかった。

ゴクリ

生唾を飲む。

目の前にはほぼ直角にそり立つ壁。

20メートル上を見上げる。小さな影。
それが「キャン」と高い声を発して消えた。

『野良チワワだ』

獲物を確認したわた坊は右手を岩山に突き立てた。

14774:2015/01/24(土) 04:33:07 ID:163fuiiQ0
あからさまに疲れた顔をしている。

洗面所の鏡に写る自分を見て、わた坊は深く溜息を吐いた。

『昨日は50センチしか登れなかった』

頂上は遥か遠く高く、絶望的な道程だった。

「あ、わた〜 何溜息ついてんの?」

突然、横から声を掛けられたわた坊は腰を抜かしかけた。

「光さん! ここは女子トイレですよ! 光さんは入っちゃ駄目なんです!」

ああ、そうなの? と言いながら悪びれる様子も無く光が侵入してきた。

「それで? 何をお悩み?」

わた坊は違う意味で溜息を吐いた。
光は女子職員の間では非認知性認知性「ひにんちせいにんちしょう」と呼ばれている。

その光がわた坊の左手首をぐいと掴んだ。

「ギャッ」っと叫んだわた坊にはお構い無しに掌を撫でさする。

「な、なにを…」
「柔らかい手だな」
「は、はい…?」
「でも指先だけ少し硬質化している」
「……」

15774:2015/01/24(土) 05:06:02 ID:gYmGNtbo0
しばらく掌を眺めた後に、今度は右手首を掴んだ。

「こっ、これは…」
慌てて手を引こうとしたわた坊だが、光の握力に抗えない。

「かっ、硬い…」
「こ、これは色々事情があって、と言うか離して下さいっ!!」
「俺のチンコ並みに硬いっ!!」

わた坊の腋から汗が噴き出した。

「いや…やめて…離して」
「ここまで鍛えた右手と軟弱な左手…これが意味するところは…」
「いいから離してくらさい〜」

「…わかった!」
「はい、離して…」
「こいつはピッケルだ! わた…お前はクライマーだったんだな!! ここまで鍛え上げたなら相当な奴だ! ………でも、左手は……義手か…最近、事故に遭い左手を失ったのか…素材は分からないがリアル過ぎて耐久性が無い。うん…こんな手を付けられたら悩むよな。でも安心しろ。俺が再びお前を一流のクライマーにしてやるっ!!」

光の輝く瞳を見つめながら、コクンと、わた坊は頷いた。


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