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【臨時レス置き場】異能者達の奇妙な冒険【荒らし対策】

9070 :布良 ◇1KCFGbYFSs:2010/08/28(土) 19:41:09
折りたたまれた。
感触としては大体そんな感じで、気がついたら右腕から肩にかけてが消滅していた。

「……な、にこれぇっ!」

紙飛行機に、文字通り『吸い込まれた』腕には、痛みも感触も無い。

(不用意に動いちゃ駄目なんだ……怪しいものは警戒しないといけないんだ!)

そう、影を操る能力者がいて、紙を操る能力者が居ないと何故いえるだろうか。

>>21

>「くそ……大丈夫か?…おい、時人!!
>てめぇ……あいつを何処へやった!!」

灰島に声が聞こえる、つられてあたりをみると、時人が確かに居ない。

(同じように……取り込まれた?)

自分が片腕だけですんで居るが、腕を取り込めるなら全身だって取り込めるだろう。
さらに、次の瞬間、灰島の体が轟音と共に宙に浮いた。

「……っはぁ!?」

そのままゴミ捨て場に吹っ飛び、叩きつけられる。

(あれも相手の能力……!? なの!?)

布良にはその経緯がわからなかったが、相手の攻撃そのものなのは間違いない。

9170 :布良 ◇1KCFGbYFSs:2010/08/28(土) 19:41:49
>「うわぁあああああああ!!」

更に混乱したように叫ぶ、灰島の姿。
その灰島に向かって……ダンボールの塊――恐らくあれも敵の能力下にある『紙』が向かっていく。

(――相手は、灰島さんを取り込まずに殴った、つまり取り込めない理由があった……!)

一発で消してしまえば、それで勝負がつくというのに。

(ある程度、条件があるんだ、取り込みきるには……だから、さっきの灰島さんはその条件を満たしてない!)

感触の無い右腕に歯噛みしながら、バランスを崩しつつ、それでも布良は走った。

(直接触れたら……例えスタンドでも、取り込まれる可能性がある、だったら!)

「フレイム・パニック!」

叫びと同時に出現するビジョンにもまた、右腕の肩から先が存在しない。
だが、そのほかの部位は健在で、くすんだ炭の炎の色をしていた。

フレイム・パニックはダンボールのキャタピラの前に躍り出る、タイミング的にはぎりぎりだ。

『RYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

布良が取った行動は、フレイム・パニックの能力で『キャタピラが転がる地面を炎に変える』というものだった。

所謂、落とし穴だ。
それも見えている落とし穴。

「私の炎は私を傷つけない、だから最悪私が全部取り込まれて燃やされても、多分平気……だといいな!」

相手は紙だ。
パトカーの中で受けた説明によれば、スタンドのダメージは直接本体に跳ね返るという。

「紙が炎の池に落ちたら、どうなるんだろうねっ!」

【前進してくるキャタピラの前に、ぶつかる覚悟ですっぽりはまる炎の落とし穴を設置】

9272 :ヴァン ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/08/28(土) 21:33:00
テンプレです。

【本体】
名前: ヴァン・バンチェラ
性別: 男
年齢: 27
身長/体重:172/54
容姿の特徴:今現在の肉体は日本人「馬場博巳」(ばばひろみ♂)27歳の新聞配達員。
人物概要:悪魔崇拝をしていた若き画家。
自宅の壁紙には殺害した老若男女の惨殺死体がびっちりとプリントされていた。

懲役年数:672年
被害者推定:1821人

【スタンド】
名前: ペーパードライバー
タイプ/特徴: アルカナの5番め。教皇の逆位置。束縛。躊躇。お節介。
能力詳細:本体、スタンド共に紙から紙へ瞬間移動が可能。
攻撃方法は紙の中に人を取り込むこと。取り込まれた人間はプリントされたように紙の中にとどまる。
(紙に取り込まれた者は死んではおらず意識もあるが動けない。
紙を燃やされたり破られたりした場合には破損状況に応じた損傷を肉体が受ける)

破壊力-B スピード-C   射程距離-A(瞬間移動可能な距離)
持続力-C 精密動作性-C 成長性-C

9673 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/08/29(日) 18:40:04
大アルカナⅨ『WHEEL of FORTUNE』『運命の輪』は時間の回りを螺旋状に回転する因果律を顕す。
同時に形而上と形而下、精神世界と物質世界の境界を象徴するカードである。
そのカード…『運命の輪』を象徴するスタンドの攻撃を皮切りに回り始めた運命は
もはや現実的な因果律を無視した偶然の連鎖を巻き込んで大きく回転し続けている。

運命の中心は交差点から徳井がマイソンを捕らえた路地裏に移動している。

人気のない路地裏、上空に向かいそそり立つ円柱。
目を凝らせば能力を持たない人間にも視認できる筈だが
遮蔽物の多い小さな路地に立つ半透明の水の柱に気づける者がどれだけいただろうか。


液体で満たされた円柱の中…佐藤ひとみは不幸を齎すスタンドの持ち主マイソン・デフューの
胸にナイフのように硬化し尖らせた触手を突きつけている。

ひとみは既に彼のスタンドの"不幸の靄"に憑り付かれている。
マイソンのスタンド『オンリー・ロンリー・フォーリン』は本体の支配を受けない暴走したスタンドだが
本体が死亡していても活動できるアンテロスと違い、その"存在"は本体に依存している。
本体が死ねばスタンドも消滅するだろう。
彼に直接恨みがある訳ではないが"死を齎すほどの不幸"から逃れるにはマイソンを殺すしかない。
ひとみは記憶が流れ込まないよう精神のガードを高め、彼の心臓を狙い触手ナイフを振り上げた。


――刹那、ひとみの耳に突き刺さる絶叫。
反射的に攻撃を止め、叫び声のする方向に視線を向けると…

自分達の居場所から数メートル離れたゴミ置き場で灰島がのた打ち回っている。
ゴミ置き場の壁に立てかけられたダンボールの前に神条時人が蹲っている。
少し離れた位置には片腕を失った少女の姿。
欠損した腕が負傷で失ったものではないことは出血が無く切り口が不自然なまでに整っていることから推察できた。


「こ…これは……スタンド攻撃ッ……?」

もう一度ゴミ置き場に視線を戻し目を凝らす。
神条はダンボールの"前に"居るのではなく表面に張り付いているではないか……。


ひとみは攻撃を中断し新手のスタンド使いの情報を捕捉しようと試みた。
触手ナイフをマイソンの胸に向けたまま、手元にスタンドシートを出現させる。
半透明のシートに幾何学的な光の線が浮かび上がりやがて地図の体を成す。

そこには射程距離を顕す色域と本体、及びスタンドを表す赤いマーカーが表示されていた。
灰島達を襲っているスタンドの射程距離はおよそ100m。

9774 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/08/29(日) 18:40:57
それにしても奇妙だ……。
本体とスタンドのマーカーは灰島達のごく近くに表示されているというのに姿を見ることができない。
能力により姿を消しているのか?隠れているのか?
もう少し探知の範囲を狭めれば突き止められるかも知れないが……。


この状況でマイソンに止めを刺すのは危険だ。
よねの作り出した慣性バリアの空間は基本的に非生物を対象に効果を発揮する。つまり人間やスタンドは対象外。
近くにスタンドの存在を認知している以上警戒を怠る訳にはいかない。


こういう時盾になるべき男はというと―――
因縁をつけてきたインド人にぶち切れて、殴り合い掴み合いの見苦しい喧嘩の真っ最中だ。
よねを【よねクン】などと呼んでいたインド人。彼の知り合いだろうがどうせまともな人物ではないだろう。
大体【】←こんな吹き出しで喋る人物が常識人である訳がない。
ひとみはインド人とバカギャング…2人の戦いを傍観している、よねに向かって声をかけた。


「よね君……今時小学生でもやらないような下らないケンカしてる2人のことだけど…
いい加減止めたらどうなの?
あのインド人あんたの知り合いなんでしょう?
全く…しょうもない殴り合いをする奴もする奴だけど、ノリノリで解説するあんたも相当なもんね。」


心底呆れた調子でよねに2人の仲裁を依頼するひとみ。
争いの現場にチラと目を向けると徳井はインド人を羽交い絞めし後ろに放り投げようとしている。

「徳井君!一つだけ言っておくわ。
ジャーマンはフォールを取るための技!
ぶっこ貫いて!ヘソで投げて!背中でアーチを描き!スリーカウントを取る!
投げっぱなしジャーマンなんてジャーマンとは認めないわよ!」


私見に溢れるジャーマン論を交え徳井を怒鳴りつけた直後……ひとみは小さな違和感を感じた。
マイソン胸に触れている触手ナイフを通じて感じた小さな変化……
彼を取り巻く諦めと倦怠のだらけの空気感が僅かに変わったことを……


【マイソン君の処刑を保留し灰島さん達のなりゆきを見てます。ついでに徳井さんのジャーマンに駄目出し】

9875 :◇HQs.P3ZAvn.F:2010/08/29(日) 18:41:46
>「なぜ怒らないの!?怒れぱいいじゃない!!
>何に対してでもいいから怒ればいいのよ!!

>あんたの人生を狂わせた運命に…!邪魔者扱いした両親に…!この厄介なスタンドに!!

>そんなぼんやりした感情しか持ち合わせてないから実体のないスタンドに好き勝手されるのよ!!
>最後くらい怒ってみせたらどうなの?!」

佐藤はそう言うが、彼は怒らないのではない。怒れないのだ。
例えば生まれた時から見渡す限り真っ白な空間で過ごし続けた人間に、感情と言う物は芽生えるだろうか。
検証しようがない事ではあるが、おそらくは否だ。

人間の精神は人と接する事で成長する。
心が貧相である彼は、怒りを抱けるほど感情の振り幅が無いのだ。

「……何だよ」

――だが、今回ばかりは別である。
マイソンは先程、佐藤によって脳内麻薬を無理矢理分泌させられた。
それは尋問の為であったが、彼女が意図しなかった副産物をも生んだ。
麻薬による高揚感、昂ぶり、或いは酩酊感を。
そしてそれによる、感情の激化を。

>「逃げてるんじゃねェーーーぞッ!!
>お前はッ!そうやってなにもせずに諦めて勝手に絶望してるだけなんだッ!
>『ネットに弾かれたボールがあちら側に落ちるはずがない』ってな!
>そんなことわかんねーだろ……やってみねーと……それで、何億回努力を繰り返してから諦めやがれッ!
>そうして不幸に酔ってるだけなんだ……お前はッ!先を目指さない人間なんて、死んでるのと同じだッ!
>お前のその我儘で沢山の人が死んだんだぞッ!そんな彼らにもお前と同じ人生があったってのに……!
>被害者面して、逃げて、そんなお前は───ただの『最悪』だッ!!」

「何だよ何だよ! みんな僕が悪いって言うのかッ!?
 自分に出来る事なら他人にも出来るだなんて思ってるんじゃあないぞッ!
 怖いんだよッ! 僕は! 拒まれる事もッ! 失敗に打ちひしがれる事もッ!
 死ぬ事だって怖いんだッ! そう思う事の何が悪いって言うんだよッ!
 誰もがアンタ達みたいに黄金のような精神を持っていると思うなよッ!」

彼の言葉は、突き詰めれば単なる逆ギレだ。
彼が努力をしないせいで、誰かが死ぬ。その事実には一辺の瑕疵すら無いのだから。
そしてその事を、彼は理解している。
した上で、それでも努力の二文字に気概の指先が届かないのだ。

「僕は悪くないだなんて言い出すつもりはないさ。
 けど僕だってッ! 誰かが手を差し伸べてくれればきっと頑張れたんだッ!
 なのに誰もそうはしてくれなかったッ! 父さんや、母さんでさえもッ!」

叫び終えて、マイソンは下唇を噛み締める。
水に満ちたフェイズ2の中では見えないだろうが、目尻には涙も滲み出した。

けれども周囲では、訳の分からない騒動が勃発していた。
彼の生まれて初めてと言っても過言ではない大音声は、誰かの耳に届いたのかさえ怪しい。
まるで彼などそこに存在しないかのように。
彼の最も嫌う孤立が、そこにはあった。

「うぅ……何だよ何だよ……皆して僕を無視して!
 少しくらい……僕を見てくれたっていいじゃないかッ!
 そっちがその気ならこっちにだって考えがあるぞ!」

9976 :◇HQs.P3ZAvn.F:2010/08/29(日) 18:42:24
彼は怒りを抱いた。
生まれ落ちて以来、一度も無かったくらいに強い感情を。
佐藤による麻薬の効果だが、確かに。

スタンドを制御する為の手綱を、初めて手にしたのだ。

瞬間、『オンリー・ローリン・フォーリン』のヴィジョンが揺らいだ。
髑髏の形態から靄が四散し、辺り一面の景色を塗り潰す蝶の群れに変貌する。
舞い広がっていく蝶々を見上げながら、マイソンは根拠のない確信を得る。
今なら自分のスタンドを、制御出来る気がすると。
自分の周りを満たす水の浮力に髪を逆立たせて、彼は猛る。

「そうだ……ッ! 僕に従えッ! 僕を見ろッ! 僕がッ! 僕こそが『世界の中心』だッ!」

『O.R.F』が風を呼ぶ。
風は偶然近くを通りかかった男性の髪を乱れさせ、
その拍子に男性は手にしていた缶ジュースを取り落とした。
缶ジュースは地面を転がり、ジャーマンスープレックスを喰らったハマの頭の落下点に至る。
さぞや痛かろうが、地面に直接頭をぶつけるよりかは遥かにマシだろう。

そしてハマの頭に叩き潰された缶は勢い良くジュースを噴き出した。
ジュースは車道を走っていたバイクの運転手の顔面を襲い、結果バイクは横転する。
運転手はバイクから転げ落ち、しかし怪我は無い。

だがバイクは回転しながら地を滑り
――落とし穴に落ちる寸前だった『ペーパードライバー』を巻き込んで電柱に激突した。
『ペーパードライバー』が助かった、と言う訳ではない。むしろ逆だ。

『PD』の宿るダンボールはバイクから漏れたガソリンでズブ濡れとなっている。
そしてガソリンは『フレイム・パニック』の作った『炎』の落とし穴目指して、蛇の如く地面を這う。
ガソリンは炎の直前で止まったが――もし『偶然にも風が吹きでもしたら』
『PD』は抗う暇もなく消し炭と成り果てるだろう。

「……帰って、NEWDIVIDEに伝えて下さい。僕は貴方の駒にはならない。貴方には従わない。
 そう……例えこの後すぐに殺されてしまうとしてもッ! 僕は運命に逆らってやるッ!
 この人達を助けるんだッ! 僕の『O.R.F』でッ! さぁ帰れッ! さもなきゃ消し炭にしてやるッ!
 さっき捕えた人と、彼女の右腕を返す事も忘れるなよッ! 『O.R.F』なら『偶然お前だけ』を燃やす事くらい容易いんだッ!」

マイソンの咆哮から数秒、沈黙の相対が続く。
けれども、結局『PD』の本体ヴァンは旗色が悪いと判断したらしい。
時人と布良の右腕を投げて返し、その隙にどこかの紙へ瞬間移動して、消えた。

「はは……どうだ。守ったぞ……守ったんだ。僕が……! 僕だって……最後の最後に、ちゃんとやれたんだ……!」

充実感に満ちた呟きを零して、マイソンは気を失った。
元より貧弱だった精神を酷使した事と、麻薬による尋問が相まっての事だろう。
今、彼の周囲に『O.R.F』の靄は無い。

命を奪うならば、今である。

【時人君と右腕奪取。ヴァンは逃亡と言う事にしました
 マイソン気絶。本人はもう殺される気でいます】

10079 :ヴァンと神条 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/08/29(日) 18:43:27
>「……帰って、NEWDIVIDEに伝えて下さい。僕は貴方の駒にはならない。貴方には従わない。
>そう……例えこの後すぐに殺されてしまうとしてもッ! 僕は運命に逆らってやるッ!
>この人達を助けるんだッ! 僕の『O.R.F』でッ! さぁ帰れッ! さもなきゃ消し炭にしてやるッ!
>さっき捕えた人と、彼女の右腕を返す事も忘れるなよッ! 『O.R.F』なら『偶然お前だけ』を燃やす事くらい容易いんだッ!」

「…なぜだマイソン?なぜ裏切った?」
ペーパードライバーの能力を解除して布良と神条を元に戻したヴァンは、
瞬間移動を繰り返して佐藤ひとみの遠視から逃れると、再び廃ビルの古びたイスに腰を下ろしていた。

屋上からは青くて素敵な空が見える。

「裏切り…。いや、もとから切れるような繋がりなど誰も持っていやしない。
皆、繋がっているのだと勝手に錯覚しているだけなのだ。…その錯覚が業というものなのかも知れないが…」

風が吹いて新聞紙が舞い手品のようにヴァンは消えた。

>「はは……どうだ。守ったぞ……守ったんだ。僕が……! 僕だって……最後の最後に、ちゃんとやれたんだ……!」

そう呟いて気を失っているマイソンの胸元に、佐藤ひとみは触手のナイフを突きつけている。

「…あの人…」
ことの経緯をダンボールの中から見聞きしていた神条は
脱出したあとに布良や灰島の無事を確認すると彼らの近くに寄っていって
佐藤の手に握られたものに瞠目することになる。

この光景を見ればハマが勘違いした気持ちもわからなくもなかったが
佐藤がやっていることであるから何か深い理由でもあるのだろうか。

「この人は…変な人を追い払ってくれたんだよ」神条は佐藤に言った。

10190 :よね ◇0jgpnDC/HQ:2010/08/30(月) 18:29:47
徳井にゲージ2個分のアッパーをかました瞬間だった。
ハマは既に勝利を確信していた。

だが、その確信は過信へと変わっていたのだ!

ハマは突然、体が宙に浮いた様な錯覚を感じた。
その時、ハマはつぶやいた。

【ワーストではない…ギャング…?つまり、ニートではない…だとッ!?】

そうして徳井にジャーマンスープレックスを美しく決められたのだ。

ドッギャァァン!

プロレス技の多くは使用者の体格、筋力に依存しない威力がある。
これもその内の一つだった。

さっきまでのパンチから大した事無いだろうとハマは思ってしまっていたのだ。

【ぐっ、ふッ!世界の…中心…ッ!だがッ!!】

ハマが再び攻勢に転じようとした時だった。

「あーそこまでッ!そこまでですッ!…もう、佐藤さんがお怒りじゃあないですか」

佐藤の言われるがままによねが仲裁に入ったのだ。
【】←こんな吹き出しで喋るインド人はその動きをハッと止める。

【よねクン…わかりました。どうやら彼もニートではなかった様ですし…】

そうしてハマは徳井に右手を差し出すのだ。
暖かな輝きに満ち溢れた右手を。

<<ハマ、徳井と和解しようとする。>>

10291 :よね ◇0jgpnDC/HQ:2010/08/30(月) 18:30:25
二つの戦闘が並立して行われていた。

よねはどちらか一つを疎かにする訳でもなく常にどちらにも気を配っていた。

勿論、マイソンの覚醒も見ていた。
よねはそれに首を突っ込むような事はしなかった。否、出来なかったのだ。

全てが終わると、マイソンはその場に崩れた。
そこにそっと歩み寄るよね。

「…意識はありません。どうします?確かに最後はその少年…神条君を助けた様ですが…」

自分の力を掌握した人間ほど恐ろしいものは無い。
しばらく忘れていた、忌まわしき過去の遺物がそう教えてくれた。

Sum41の能力ならば痛みを感じさせる事無く、苦しませる事無く葬る事が出来る。

もっとも、よね自身そのようなことはしたくはなかった。
殺す殺さないの問題ではない。

何故、彼自身が他のワースト達を裏切るような事をしたのか。
その真意を確かめたいのだ。

「もうPhase2は必要ないでしょう。解除します」

そうして円柱状に満たされていた水は再び空気となり、
地面に黒く残されたPhase2の刻印もやがて消えていった。

103102 :徳井一樹 ◇MnJrk02a/Yx.:2010/08/30(月) 20:32:14

「『敵が勝利を確信した時そいつは既に敗北している』………
徳井一樹スタンドエネルギーが切れて益々健在というところかな」

どや顔でジャーマンスープレックスを決める徳井。
虹のアーチの如く描かれたそのブリッジは華々しく余韻を飾った。

>【ぐっ、ふッ!世界の…中心…ッ!だがッ!!】

「まだやる気か?いいぜ…ますはその!ふざけた幻想からぶち壊」

>「あーそこまでッ!そこまでですッ!…もう、佐藤さんがお怒りじゃあないですか」

お怒りの佐藤の完璧な指示によってよねはやっと仲裁に入った。
“俺はまだやれるぞ。君が泣くまで殴るのはやめないって言っただろ”そう言おうとした時だった。
未だフォールを続ける徳井の近くで大量の蝶がひらひらと大挙して飛んでいる。
問題は次の瞬間、腰に鈍い音が鳴ったことである。

「アンギャッァァアアアアーーッ!!!!」

どうやら無理なジャーマンが腰に祟ったらしい。それとも不幸がまた彼に降り注いだのか。
とにかく激痛が走る腰に徳井は一人悶絶する。

>【よねクン…わかりました。どうやら彼もニートではなかった様ですし…】

「う゛……うん……わかっだ…ごれがら宜しくな゛……」

腰を抑えながら差し出された右手を弱々しく掴んだ。あまりの痛さに涙が出ている。
ギャングなのはいい事なのかと痛みに包まれている脳の端っこでふと思ったのは言うまでもない。

※    ※    ※

>「はは……どうだ。守ったぞ……守ったんだ。僕が……! 僕だって……最後の最後に、ちゃんとやれたんだ……!」

どういう状況なのかさっぱりわからない。
あまりに腰が痛いので今四つん這いの状態で立ち会っていた徳井だが今すぐ病院に行きたかった。
一応ここまで連れて来たのは自分だし、何かをやり遂げたであろうマイソンを労おうとする。

「いやァーー良くやったな(見てないけど……)お前は自分の意思でやり遂げたんだぜ(よく知らんけど…)
そういうのは人生において重要な経験なんじゃねえのかな、うん」

知ったかぶり丸出しの言葉である。
周囲の言動によって推理した考えだがどうやら自分の能力をコントロールしてガキを助けたようだ。
徳井としては戦えない少年がわざわざ死地に赴こうという発想に至ったのか些か疑問だったが、
この考えはバカ丸出しの見当はずれもいいとこだった。

「えーーーと、能力がコントロールできるならわざわざ始末する必要はなくないか?
情報は聞き出せたんだろ?誰にも迷惑かけない奴の為に手を汚さなきゃならない道理はねー」

またもや知ったかぶりである。
スタンドも月までブッ飛ぶような回数で怪我をしまくる
重症患者である癖に喋らずにはいられなかった。
恐らくこの喋らずにはいられない体質が彼をバカと言わしめている要因の一つなのだろう。

だからと言ってバカにつける薬などないらしいが。

104103 :吉野きらら◇HQs.P3ZAvn.F:2010/08/30(月) 20:34:13
>「『俺の幸せを奪う』……そう言ったな」
>「いいだろう!奪ってみるがいい!! ――ただし俺はお花畑な脳味噌を標準搭載していることで有名だ。
> どんな些細なことにだって幸せを感じ、その一つ一つを大事に心のなかに保存して生きていくことができる!」

>「さあ!君のそのちっぽけで矮小な『幸福のキャパシティ』は!俺の超絶多幸人生を奪い切れるかな!?
> ヘビは満腹になりすぎると動けなくなって死ぬと言う!君は如何に幸せに飢えていようとも!当方にフルコースの用意あり!!」

御前等の宣言に、吉野きららは溜息を零す。

「馬鹿らしい。幸せとは貪る物ではありません。確かに私の『幸福の花』は幸せを養分としますが、それはそれ。
 本来幸せとは積み上げる物なのです。ならば私が飽食に陥るなど、あり得ない事ですわ」

もっとも彼女は、周りを貶める事で相対的に自分を高みとしている。
それは彼女の過去、彼女にスタンドの発露が訪れた契機に関係あるのだが――やはり、それは今言及すべき事ではない。
嘆息を一つ零し、吉野は猛然と迫る『アンバーワールド』のラッシュに向き直った。

>「『鏡の中の俺は今日もハンサム』!『学校行くまでに三回ウンコ踏んだ』!『四年も高校に通える幸せ』!『目玉焼きが双子だった』!
> 『同級生にも先輩と敬われる』!『ドラクエのカジノで大金持ち』!『体育の後の教室の臭い』!!『近所のTSUTAYAがセール中』!!!」

(パワーは……向こうの方が上ですね。真っ向勝負は不利と。ですが花をあちらの腕に咲かせて軌道を逸らす事は容易ですわね。
 腕をねじ曲げて逸らし、がら空きになった懐に潜り込み、花の刃で首を刈る……と言った所でしょうか)

吉野はおよそ常軌を逸した幸福論を持っているが、同時に論理的な思考も持ち合わせている。
最小の対価で最大の成果を発揮すべく、彼女は思考し、画策した。
そして迫る拳を見極め、その腕に花を咲かせ――『アンバーワールド』の拳は一切ブレず、吉野の澄まし顔を捉えた。

「なッ――!?」

殴り飛ばされ、派手に地面を跳ねて、揺れる頭で彼女は必死に思考する。

(馬鹿なッ!? 一体何が……! 『メメント・モリ』の花は確かに咲いた筈……!)

震える腕で何とか地を捉えて、吉野上体を起こした。
視界に映った道路標識に向けて手を伸ばし、花を咲かせる。
花はまだ小さな蕾の状態だが、既に標識は僅かに曲がっている。
花を消せば標識は元の直立に戻り、逆に一気に開花させれば勢い良く曲がるだろう。
御前等が距離を詰めてきた時への対策だ。

(……能力はちゃんと機能している。だったら何故……)

更に思考を巡らせて、吉野はふと思い出した。
いつぞの九頭龍戦、幸せを養分として成長する『幸せの花』は彼に通用しなかった。
あの時は地面などの非生物に咲かせるただの花で代用を利かせたが、

(つまりはこの男もそう言う事ッ! この男の幸せは量ばかりで『薄っぺら』過ぎるッ!
 そのせいで『メメント・モリ』の花はブクブクと太るばかりで、肝心の機能を発揮できなかったッ!)

つまる所例えるならば『幸せの花』は人間で言うところの『胸やけ』や『悪酔い』に陥り、
そして御前等は
『テストの小問で思いっきり間違った公式を使ってるんだけど何故か答えだけは正解してしまった』ような
途方も無いラッキーで吉野をぶん殴れたのだ。

そしてそれは、御前等の幸運によって吉野の幸運が削り取られたとも言える。
吉野にとっては許容しがたい出来事だった。

105104 :吉野きらら◇HQs.P3ZAvn.F:2010/08/30(月) 20:34:58
(……今すぐにでも奪い返してやりたい所ですが……正直、今の私のコンディションは最悪です。
 さっきの一撃で頬は内側に炎が灯ったようですし、頭の中では警鐘が意識を見失わんばかりに響いてます。
 あぁ、それにしてもよくも私の顔を! 女を殴るなんてなどと抜かすつもりはありませんが、
 腫れた顔面を見られて憐憫の視線を向けられる事は我慢出来ませんわ……!)

一瞬御前等への怒りが再燃するが、吉野はすぐに自制する。
能力の矛先は御前等ではなく道端の電信柱。
根元に花を咲かせ、自分と御前等の隔てとなるように倒す。

「……ここは退かせて頂きます。ですがこの屈辱、痛み、忘れませんわ。
 いずれ雪辱を果たしますので、そのつもりで。……それでは」

雪辱を果たす、再挑戦の宣言。
それはつまり、吉野と御前等の立場の逆転を意味していた。
御前等裕介は今をもって、吉野きららに対しての『世界の中心』となったのだ。

怨嗟の眼差しで御前等を貫く吉野は、最後に目眩ましの花弁の嵐を残して遁走した。

【逃走開始。追うか追わざるかはお任せです】

106105 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/08/31(火) 18:06:12
路地裏はついさっきまでの騒動が嘘のように静けさを取り戻し
円柱を満たす透明の液体は僅かに揺らいでいる。

水の底に横たわる少年。フルムーンは彼の胸に触手のナイフを突きつけたまま。
佐藤ひとみは意識を失った少年を見下ろす。
いつの間に近寄ってきていたのか、水の外から神条時人の声が聞こえる。

>「この人は…変な人を追い払ってくれたんだよ」

「知ってるわ、見てたから。」
ひとみは素っ気無く答える。

――水の外で大騒動が繰り広げられていても至近距離であれだけの大声を出されれば嫌でも聞こえる。
マイソンが咆哮を上げ立ち上がった瞬間、ひとみは異変を目にしていた。
自分の体に纏わりついていた灰色の靄が突如揺らぎ…崩れ出し…小さな蝶の群れに変わっていく様を。
膨れ上がるように散り散りに飛散し水の柱を抜けて空高く舞い上がる蝶―――

ひとみは視線を自らの手足に戻し、自分が既に"不幸の靄"の呪いを外れたことに思い至る。


>91
>「…意識はありません。どうします?確かに最後はその少年…神条君を助けた様ですが…」
>「もうPhase2は必要ないでしょう。解除します」

同じくマイソンの動向を伺っていたよねも事情を察しているようだ。
よねが能力を解除すると水の柱は消滅し、内部に居たひとみ、よね、マイソン…ずぶぬれの3人が残された。


>102
>「いやァーー良くやったな(見てないけど……)お前は自分の意思でやり遂げたんだぜ(よく知らんけど…)
>そういうのは人生において重要な経験なんじゃねえのかな、うん」

>「えーーーと、能力がコントロールできるならわざわざ始末する必要はなくないか?
>情報は聞き出せたんだろ?誰にも迷惑かけない奴の為に手を汚さなきゃならない道理はねー」

腰を手で押さえて這い寄るヨレヨレの徳井がその場に居る一同の顔を見回しマイソンの処遇について口を挟む。
ひとみはその問いには答えず、暫し四つん這いの徳井を凝視していた。


「『腰椎捻挫』…椎間板の靭帯損傷…いわゆるギックリ腰ね……3、4日立てないわよそれ?
ブリッジもできない素人が見よう見真似でなんちゃってジャーマンを繰り出すからよ。
治して欲しかったら今後バカバカしいプロレスごっこは慎むことね。」


徳井を半睨みしつつフルムーンの目線を通じて負傷部位のスキャン画像を得ていたひとみは彼に釘を刺す。
とはいえ後で治療するつもりはあった。
フルムーンの触手を腰椎付近まで侵入させ触手と粘液で切れた靭帯を補強してやればいい。
ただ極細の触手を麻酔無しで患部まで突き刺す必要がある為かなり痛いだろうが。

107106 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/08/31(火) 18:06:58
「良く見てもいない癖に相変わらず鋭いわね、徳井君。目端が利くというか勘が良すぎるというか…?
"スタンドは成長する"――らしいけど…
この男、逆切れの弾みでスタンドの支配権を得たみたいね。
さっきまで纏わりついていた"不幸を運ぶ靄"は消えた…私達はこのスタンドの攻撃対象から外れたわ。

元々敵意は無かったみたいだし、スタンドも無害化された…
あんた達が言うように今すぐこいつを殺す必要はなくなったわね。
さっきのスタンドコントロールが1回こっきりのマグレだったとしても彼が失神してる間スタンドは発動しないし
この男は暫くここに転がしておけばいいわ。」

今一度見ようによっては充実した表情で地面に伏す少年に視線を落とし、ひとみは話を続ける。


「そんなことより話すべきことは別にあるでしょう?
こいつから得た情報のことよ。
私が何のためにこの男を尋問したと思ってんの?ちゃんと聞いてたんでしょうね?

――『私達を襲ってきたのは何者か?目的は何か?』――

結論を言うと襲ってきた連中は『ワースト』って言う死刑囚。
目的は『悪魔の手のひら』……。

と言っても肝心の『悪魔の手のひら』が何なのか全然わからないんだけど。
あの男が関係していたなんて驚いたわ!

"ボブ・バンソン"…○日の常連外人レスラーよ!知らないの?
思い出した…!私一度この街で見かけたことがあるわ。…確かデパートで…そうよ!アンテロスに襲われた時!」


徳井とハマの脱線戦闘にツッコミを入れたくせに、自らも話を脱線させていく佐藤ひとみであった。


【会話続行中。次の会話ディスクやワースト達の情報を整理していきます(予定)
米良さん、灰島さんは現場に居るつもりで話を進めていますが
居場所や動きは限定していませんので自由に動いてください】

108127 :神条 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/01(水) 22:13:09
灰色の靄が蝶になり空に舞い上がっていく。

>「知ってるわ、見てたから。」

(え…怒ってる?)
神条は佐藤の素っ気無い返事にそう感じてまたビクビクし始めた。

>「…意識はありません。どうします?確かに最後はその少年…神条君を助けた様ですが…」
>「もうPhase2は必要ないでしょう。解除します」

(そっか。よねって呼ばれてるこの人もスタンド使いなんだ。なんだか不思議な力を持っていそう…)
神条はPhase2に魔法使いのような印象を受ける。

>「いやァーー良くやったな(見てないけど……)お前は自分の意思でやり遂げたんだぜ(よく知らんけど…)
>そういうのは人生において重要な経験なんじゃねえのかな、うん」
>「えーーーと、能力がコントロールできるならわざわざ始末する必要はなくないか?
>情報は聞き出せたんだろ?誰にも迷惑かけない奴の為に手を汚さなきゃならない道理はねー」

(え?この人(マイソン)の能力が暴走していたってこと?この交差点の騒ぎとかはみんなこの人のせいー?)
徳井の言葉や現状をパズルのように組み合わせて神条は今起きていることを自分なりに整理してみた。
こういうことは探偵である灰島なら上手いこと推理できるのかも知れない。
が、その灰島こそが最後の鍵のような役割を担っていることを、ここにいる者たちも当人の灰島さえも知らないのだ。

>「そんなことより話すべきことは別にあるでしょう?こいつから得た情報のことよ。
>私が何のためにこの男を尋問したと思ってんの?ちゃんと聞いてたんでしょうね?
>――『私達を襲ってきたのは何者か?目的は何か?』――
>結論を言うと襲ってきた連中は『ワースト』って言う死刑囚。
>目的は『悪魔の手のひら』……。
>と言っても肝心の『悪魔の手のひら』が何なのか全然わからないんだけど。
>あの男が関係していたなんて驚いたわ!
>"ボブ・バンソン"…○日の常連外人レスラーよ!知らないの?
>思い出した…!私一度この街で見かけたことがあるわ。…確かデパートで…そうよ!アンテロスに襲われた時!」

「…死刑囚?この人死刑囚なの…?」
神条には子供なりの単純な疑念が沸いた。神条にはマイソンがどうしても死刑囚には見えなかった。
おまけに悪魔の手のひらとか…オカルト過ぎてると思う。布良みたいな女の子なら喜びそうな話なのかもしれないが、
神条はゾンビ映画を見ただけでも夜中に窓からゾンビが入ってきたらどうしようかと心配するほどの怖がりなのだ。

「佐藤さん…この人って呪術とかで操られているってことはないのかな?
僕にはどうしても、この人が悪い人には見えないんだ…。助けられたからって言ってるわけじゃないよ…」
神条はビクビクしながら言ってみた。

1098 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/04(土) 15:47:46
>「佐藤さん…この人って呪術とかで操られているってことはないのかな?
>僕にはどうしても、この人が悪い人には見えないんだ…。助けられたからって言ってるわけじゃないよ…」

ひとみの饒舌を堰き止めたのは神条時人だった。
取り留めないお喋りを邪魔されたひとみは片眉を吊上げて不満を示しつつ、おずおず問いかける神条に向き直る。


「『良い』『悪い』なんて損得の方向次第で幾らでも変わるし大した意味ないわ。
ついさっきまでその男は確実に『悪い』奴だったの。少なくとも私にとってはね!
バナナに躓いて死ぬような運命押し付けられちゃたまらないわ!

操られてる…ねぇ…?
交差点で私達を襲ってきたカラスの死骸から出てきたディスクみたいなもの…君も見たでしょう?
あのディスク…『スタンド能力』や『記憶』を封じ込めて形にしたものらしいわ…
……『スタンドを蓄積する能力』……」


言葉尻を呟きに変え、ひとみは徳井とよねの顔を見回し話を続ける。


「私達…数ヶ月前に、この街で"ある男"と否応無く関係したんだけど……
……その男も同じタイプの能力を持っていたわ。
その男は自分のスタンドに本体ごとスタンド使いを取り込むことで能力を自分のものにしていた。

一方ボブ・バンソンは『能力』を『ディスク』に変えて奪うことが出来た。
『ディスク』なんて、かさばらないモノに変化させられる分蓄積は容易だけど
問題はその『ディスク』が元の持ち主と何らかの共通項を持つ人間…
つまりかなり相性のいい体を持つ適合者でないと使えないみたいなのね。

時期は分からないけどボブ・バンソンは『シンシン刑務所』に収監されていた超極悪死刑囚軍団、
通称『ワースト』って呼ばれてた連中の能力をディスクにして奪った。
『ワースト』を自分の目的を叶える為の兵士に仕立てる為か…?
あるいは『ワースト』に他の使い道があるのか…?


ボブ・バンソンは数ヶ月前に誰かに殺されて…どういう理屈かわからないけど
亡骸からNEWDIVIDEって名乗る骸骨が現れて今はソイツが仕切ってるみたい。
とどのつまりNEWDIVIDEが『ワースト』に適合する『肉体』を与えてこの街に解き放った。
目的は【悪魔の手のひら】…とか言うものの完成?
【悪魔の手のひら】の完成には少なくとも22人のスタンド使いを生贄にする必要があるらしいわ。

そこに転がってる男は『【悪魔の手のひら】が何なのか』までは知らされてないみたい。
使えない奴ってどこの組織にでもいるものだけどコイツもその類だったのかもね。
この男が死刑囚になってた理由…?大方あの能力のせいでテロリストか何かと誤解されて逮捕されたんじゃない?」

1109 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/04(土) 15:48:43
女というのもは災難に遭った後ほど饒舌になるものだ。
神条に口を挟む余裕も与えず滔々と言葉を垂れ流すひとみ。
話はマイソンの印象から服やバッグをずぶ濡れにしてくれたよねへの罵倒、そして徳井の繰り出した
ジャーマン・スープレックスのしょっぱさに飛び、ひとしきり気の済むまで喋り倒した後でようやく要点を纏めにかかる。


「もう面倒臭いから簡単にまとめると…
NEWDIVIDEっていう骨男が【悪魔の手のひら】を完成させる為のエネルギー確保だかの目的で
スタンド使いを片っ端から狩り漁ってるってこと!
私達、また訳のわかんない"スタンド使い狩り"に巻き込まれたみたいね。」


ひとみは溜息を吐きながら振り返り、背後のゴミ置き場付近にいる灰島と女子中学生に視線を送る。


「灰島さん…やけに大げさな悲鳴を上げてたけど大丈夫?
それと右腕を盗られてたその子も。
聞いてたでしょ?今の話。さっきあんた達を襲った男も『ワースト』の一員。
一度関わっちゃった以上面倒から逃げられないかも知れないわ。覚悟しとくことね。」


【長〜台詞で状況確認と灰島さんと布良さんの安否確認
マイソン君への尋問で得たワースト、ディスク、NEWDIVIDE等の情報を面々に伝えています
会話はもう少し続行予定です(長くてスイマセン)】

11128 :徳井一樹 ◇MnJrk02a/Yx.:2010/09/07(火) 23:08:25
>「『腰椎捻挫』…椎間板の靭帯損傷…いわゆるギックリ腰ね……3、4日立てないわよそれ?
>ブリッジもできない素人が見よう見真似でなんちゃってジャーマンを繰り出すからよ。
>治して欲しかったら今後バカバカしいプロレスごっこは慎むことね。」

「ああ。何処でも土下座できるなら鉄板焼きの上でも土下座できるだろなんて無茶なこと言わなきゃな。
十分反省してるよ……つーかあんなもん戦闘でやったら死ぬわ!」

反省しているか反省していないのかわからん男である。

>「私達…数ヶ月前に、この街で"ある男"と否応無く関係したんだけど……
>……その男も同じタイプの能力を持っていたわ。
>その男は自分のスタンドに本体ごとスタンド使いを取り込むことで能力を自分のものにしていた。

「今思い出すだけでもエグイスタンドだな。ズリイよな、魔人ブウかよ」

四つん這いの状態でギックリ腰と戦いながらも減らず口は止まらないようだ。
この後も長ったらしい会話が続き遂には脱線しすぎて
「おめーのジャーマンスープレックスはしょっぱいな。ポン酢かよ」
みたいな話になっていた。
ちなみに佐藤の台詞に一部脚色が入っているのは言うまでもない。

「あのさあ……要点だけ話してくれよ…俺重傷じゃん?今すぐ救急車だろ、コレ。
俺自分で買い物誘っといて長々服選びする女の人とか嫌いなんだよなァ〜〜〜ッ
足いてーーんだよ。買いたいものぐれー最初から選んどけよボケッ!……あ、だから俺童貞なのか?
でも俺、恋愛経験豊富な奴は仲間だって認めないからな。寧ろ敵だ敵!まさしくワーストだぜ。
今すぐスタンドバトルを申し込んでやるぜって感じだね……!いや今は無理かな……」

徳井のせっかちな性格が幸いしたのか佐藤は話を纏める気になったようだ。
別に徳井のお陰ではないかも知れないが。

>「もう面倒臭いから簡単にまとめると…
>NEWDIVIDEっていう骨男が【悪魔の手のひら】を完成させる為のエネルギー確保だかの目的で
>スタンド使いを片っ端から狩り漁ってるってこと!
>私達、また訳のわかんない"スタンド使い狩り"に巻き込まれたみたいね。」

「オーーッ、ノォーーーッ!俺達って本当運がねーな……
ま、俺はどっちにしてもやる気まんまんなんだがね……で、悪魔の手のひらってなんだ?
お前は俺の手のひらの上で踊ってるにすぎないとかの手のひらじゃあねーよな。
新手の宗教か?前も言ったが俺は無神論者なんだ」



【とりあえず悪魔の手のひらについて質問。合いの手ということで】

11234 :神条 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/09(木) 00:34:11
>9
「えっとー…。まず頭の中で話の骨子を整理してみます…」
そう言って神条は地面を見つめながら腕を組んだあとに空を見つみ小さく鼻から息を吐いた。

「ボクも佐藤さんのお話自体をよく飲み込めていないのですが…。
今起きたこと。これからもみなさんにふりかかってくるであろう災難。
それはNEWDIVIDE率いる『ワースト』たちがボクたちみたいな能力者を生贄にしようと襲いかかってくる。
…そういうことですよね佐藤さん?」

言い終えて神条は再び考え込んでいる。

「正直…信じられないような出来事です…これからどうすべきか現実問題としてボクの考えをあげてみると、一つ目は引越しをして逃げる。
二つ目はNEWDIVIDEたちをやっつける。三つ目はこのまま何事もなかったように隠れて暮らす…この三つでしょうか?
あ、三つめには日常生活をしながら敵を待ちうけるって意味も含まれていたりします。ちなみにボクは三つ目がよい方法だと考えています。
一つ目の引越しは一番安直な考えですが今このタイミングで北条市から逃げるという行為は不自然で敵の追っ手がかかるという可能性も大だと思います」

普段は大人しい神条だったが今はスイッチが入ったようにけっこう語る。

一方、交差点でリタに切断された人たちは生き返っていた。いや、もとから死んでいなかったのだ。
リタは『切開』の能力を使いつつ切断していたので、見た目ほどの重傷の者は一人としていなかったのだ。

切断面をぴたりとくっつけしばらく固定しただけで自動的に繋がる負傷者たちの体に救急班は驚愕している。

リタは影貫のまえでは嘘をついていたのだがこの行為はあるワーストに依頼されたことで北条市のスタンド使いに対しての脅しだった。
無差別で残虐なスタンド攻撃を見せることによって、北条市から恐怖して逃げるスタンド使いを自動追尾するスタンドがワーストの中にいるのだ。

11335 :神条 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/09(木) 23:14:49
北条市の駅。

「ほらほら。始まった」
冷房の効いた駅の待合室でテレビのニュース速報を見ながら女が独りごちる。

「交差点で起きた惨劇と奇跡…か…。これってあきらかにスタンド攻撃じゃない。
吉泉ムヅオの情報も嘘じゃなかったのね」

レナ・オリンは九頭配下のスタンド使いだった。スタンド名はメイプルハニー。いわゆる元狩る者。
別荘の敗北のあと九頭がどうなったかはレナは知らない。
解放されたという事実だけが実感として残っているということは九頭は敗れ去ったのだろう。

「私ってオオタニに負けたあとの記憶はないんだけど、想像するに留流家からほっぽり出されたみたいになってしまったのよね。
もう九頭の留流家の加護がないと歳をとるばっかりだし、あとからムヅオに聞いたんだけど九頭は日本の国を守るために
スタンドエネルギーを養分にしていたって話じゃない。どういうことなのよ。ゲーテも笑っちゃうわ」

電車の発車時刻は間近だった。レナは席から立ち上がるとプラットホームに出た。外の熱風がレナを包みこむ。

「外…あつ…。吉泉が言っていたのはボブと関係しているワーストだっけ?
あんなのと関係している奴らが、はばを利かせているような町になんか怖くて住んでいられないわよ。
あいつってばめちゃくちゃだったじゃない。あとから仲間の白州を殺したって噂も聞いたし…骨になっても生きている?
そんな噂とかあるし…あんた化け物〜?って話よ。だからこんな町出て行くわ。
吉泉も誘ったんだけど考古学的に面白いものを見つけたとかなんとか言って北条市に残るって言ってたしほんとつれないやつ!」

そう言いつつ後ろ髪をひっぱられる様な気持ちも多少はあるレナ。
遠くからカタコトと走ってくるあの電車に乗れば悪夢の街から脱出できるという期待。それと入り混じる少しの恐怖感。
ゲームに例えたらキツイダンジョンに入ってしまってヤバイと思った帰り道、死にかけてぼろぼろになって薬草もなくてあと少しで出口って所。
この少しだけど長い間が気持ち悪い。出口に触れるのとモンスターの出現率がほとんど同時かなっていう緊張感にも似ている。

「…うそ…でしょ…?」

それがレナの最期の言葉だった。

電車の到着と同時にレナは再起不能となりディスクをワーストに捧げた。

11453 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/09(木) 23:15:45
>28
痛めた腰を庇い四つんばいの体勢で長話に口を挟む徳井。

>「オーーッ、ノォーーーッ!俺達って本当運がねーな……
>ま、俺はどっちにしてもやる気まんまんなんだがね……で、悪魔の手のひらってなんだ?
>お前は俺の手のひらの上で踊ってるにすぎないとかの手のひらじゃあねーよな。
>新手の宗教か?前も言ったが俺は無神論者なんだ」

ギックリ腰の痛みを堪え土蜘蛛のような体勢で這いずる徳井を見下ろし、ひとみは口を開く。


「『無神論者』って声高に主張する人間に限って『神』の存在に捕らわれてるのよねぇ〜どうでもいいけど。
大抵の日本人にとって神の存在なんておまじない程度の意味しかないのに。
あんたがイタリアに住んでるせいかしらね?
あ…あと更にどうでもいい事だけど…
二十過ぎのイタリアやくざが童貞?それ何かのジョークよね?
あんたのモノの使用頻度なんて無駄な情報誰も聞いてないけど?
未使用だとしたら確実にその思考回路が原因ね。買い物は買うことより過程が大事なの!
ほんっとにどうでもいい話題に手間食っちゃったわ。ああ無駄無駄…。」


徳井の軽口に釣られ、本題から外れた雑言を垂れ流すひとみ。
自ら進んで答えた癖にそれを「無駄」の一言で片付けると
真顔に戻り本題の【悪魔の手のひら】についての考察に取り掛かる。


「『悪魔の手のひら』って随分オカルトチックな名前よねぇ…
しかもソレの完成に『生け贄』が必要なんて所も…
黒魔術系のオカルト宗教っぽい臭いがプンプン漂うわ。
黒魔術に生け贄…まるきり安っぽいホラー映画たわ。馬鹿馬鹿しい!」


地面に倒れ臥したままのマイソンを指差し、ひとみは口調に更なる棘を加えて語り続ける。


「さっきも言った通りその男は『悪魔の手のひら』の正体を知らされてないの!
いくら尋問しても知らない事を答えさせるのは不可能!
つまり今のところ私達に『悪魔の手のひら』が何か知る術はないの。材料が足りないわ。
煉瓦が無ければ壁を建てられないでしょう?
それ位理解できるわよね?分かるわね…?未使用君?」


明らかに偽と知れる優しさを交えた諭し口調はセッカチな徳井に対する当て付け。
マンホールに嵌り無様な体勢を笑われたことを、ひとみは未だ深く根に持っているのだ。
徳井の目に写る女はさぞ憎たらしい顔をしているだろう。
意趣返しを済ませ少々溜飲を下げたひとみは、徳井の返事を待つことなく本題に戻り話しを続ける。

11554:佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/09(木) 23:16:18
「『悪魔の手のひら』より問題にすべきことがあるでしょ?相手の正体よ。
『22体の生贄を捧げることで完成するモノ』…ホラー映画か恐怖漫画じゃあるまいし。
本当にそんなものが存在するのかしら?
求心力を失った末期の宗教団体が教祖の妄想込みのエセハルマゲドンを創作して殺人集団に変質するのは良くあること。
『悪魔の手のひら』も案外その類いの実体のない妄想の産物かも知れないわ。
どっちにしても材料の無い『悪魔の手のひら』の正体を云々言い合っても仕方ないでしょう?

知るべきなのは、この馬鹿げた殺人とスタンド使い狩りを繰り広げてる集団の規模と正体。
そう思わない?

首謀者のニューディバイドがどれ程の統率力を持っているのか…?それと22人いるいうワーストの実力。
小規模で自己崩壊寸前のツブれかけカルト団体なら放っておいても差し支えないし。
奴らが本当に大勢のスタンド使いを『狩り集める』程の力を持っているのか?
調べるとしたらその辺りになりそうね。

あ〜面倒!本当にツイてない!
一年のうちに何度もスタンド使いの集団と追いかけっこなんてそんなこと在り得る?」

>34
ひとみは肩をすくめ溜息を吐きながら神条少年に向き直った。


「神条君、さっき『引っ越す』って選択肢挙げたわね?あれ、案外的を射てるかもよ?
君は『このタイミングで引っ越すのは不自然』って言ってたけど、むしろごく自然じゃないの?
あんな殺戮現場見せられたらスタンド使いだろうと一般人だろうと街から出ようと思うのは当前よ。
街から引っ越す数多の人間をいちいち虱潰しでスタンド使いかどうか調べるなんて手間のかかることするかしら?
奴らの中に『スタンド使いを自動認識する』能力を持つ者がいれば別だけど。
面倒が嫌なら当分…どこか遠くへ…この街から離れる手のひとつかも……」

11655 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/09(木) 23:16:48
そこまで話して・・・ひとみは急に口篭り言葉を濁す。

「しまった」とばかり、浮かべた表情を悟られまいと水浸しの髪を手櫛で整えるフリをする。
長話に乗せ要らぬことまで口を滑らせてしまったかも知れない。
九頭の時と違って今回は逃亡を阻害されてはいない。それはある意味救い…と言うべきものではあるが。
かと言って徳井達が「じゃあ逃げる」とばかりにこの街を出て行ったら自分はどうなるのか?

ひとみ自身は…と言えば「面倒を避けるために街を離れればよい」と口に出しておきながら
その選択を積極的に選ぶ気になれない自身に少し戸惑っていた。
それは未だ整理のつかないあの男への"想い"故か…。
九頭の墓標とも言えるこの地を、この街を…果たして離れることが出来るのだろうか?


"想い"を頭から振り払い、ひとみは失策を取り繕うようにスタンドシートを出現させ会話の流れを変えた。


「まあ、暫くの間様子を見ながら奴らの動向を調べるしかないわね。
これ、手がかりになるかと思って出してみたんだけど……」

―――シートにはある"建物"が映し出されている。
入り口の広い階段。正面入り口に突き出す円形のテラス。
公的施設を思わせるシンプルなデザインの3、4階建てと思しき建築物。


「そこで寝てる男の記憶から読み取ったものよ。首謀者の骨男はここに潜んでるみたい。
場所までは分からないけど北条市の中であることは間違いないみたい。
各自心当たりをあたってみる?」


映像をその場の全員に見せシートを仕舞うと、ひとみは思い出したように口を開いた。

「ああ忘れてた!徳井君!あんたに別の件で選択肢をあげるわ。
そのギックリ腰を『今治す』か『自然治癒に任せる』か…さあどっち?
言っておくけど治療はかなり痛いわよ?患部まで触手を突き刺さなきゃならないから。
一週間ほど四つんばいのまま湿布を貼って過ごすか?
…それとも一分ほど痛みを我慢してスッキリサッパリ腰の痛みとオサラバするか?
30秒ほど時間あげるからさっさと考えてね。」



【とてつもない長台詞ですが要点は『悪魔の手のひら』はおいといて
『NDとワーストの正体』を探ろうと提案しただけです。
マイソン君の記憶から読んだ『市民会館』の映像を面々に見せる。
『逃げられること』を前提に各人の『戦う動機』に今後焦点を当てたりできるかとw
オマケ:徳井さんに究極の選択】

11885 :よね ◇0jgpnDC/HQ:2010/09/12(日) 20:15:39
「この建物は…どこかで見た事があります。どこでしたか…」

よねは確かに見た覚えのあるその建物を思い出せずにいた。
思い出そうともしなかった。否、出来なかった。

理由は佐藤の言った言葉にある。

(この街から離れる…九頭龍一…)

よねはGDFFによって操られ、綾和によって見せられた九頭の深淵が忘れられないのだ。
もしかすると九頭龍一が、もしかすると深淵の更に奥深くが見えるかもしれない。
そんな事を心のどこかで今もなお期待してるのだ。

【よねクン…そしてそのお友達の皆サン…ご迷惑をおかけしました。どうやら全てワタシの勘違いだったようです。
 貴方がたはワーストではない。むしろそれと正反対の立場の人間…
 どうかこの失礼を許していただきたい】

ハマは全てを理解すると途端に謝罪を始めた。

よねは、やっとわかってくれたかとゆっくりため息をついた。

【ワタシの名前はハマ・マムド・ウルブド。ワタシの与え、奪う能力…すなわちスタンドはオーガスターと呼んでいます】

自己紹介を始めるハマ。この時すでにハマは知っていた。
自らの能力をもってすれば、よねの思い出せぬ記憶も、ワーストに関する情報も手に入ると。

だが、あえてハマはそれを選ばなかった。理由は二つだ。

一つ目は人とは自らあがいて成長するものだからだ。
そうカンタンに、わらしべ長者の様に生きていって本当の意味で成長できるはずが無い。

二つ目は交換材料が恐らく無いということ。
よねの見た事のある建物の記憶を交換するくらいならば容易いだろう。
だが、交換する記憶が重要なものであればあるほどその価値は青天井方式に高くなる。

具体的にいうならばワーストの情報である。
下手をすればハマの四肢を全て交換材料にしても成立しないかもしれない。
それほどワーストの情報はハマにとっても他の人間にとっても重要なのだ。

11987 :神条 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/12(日) 20:16:13
>「神条君、さっき『引っ越す』って選択肢挙げたわね?あれ、案外的を射てるかもよ?(中略)
>面倒が嫌なら当分…どこか遠くへ…この街から離れる手のひとつかも……」

「…うーん…」
神条が悩みこんでいると佐藤は一枚の写真をみなに見せた。

>「そこで寝てる男の記憶から読み取ったものよ。首謀者の骨男はここに潜んでるみたい。
>場所までは分からないけど北条市の中であることは間違いないみたい。
>各自心当たりをあたってみる?」

「あれ?…見たことがあるかも…」
神条の記憶はテレビの報道からのもので、その建物では数ヶ月前に事件があり
何人かの焼死体があがったとかなんとか報道していたという記憶が神条の頭の片隅にあったのだが
今は写真とその場所が一致していない。
例えたら有名になる前の俳優が何かの映画に端役で出演していたのに気づかないことに似ている。

「えっと…やっぱりわかりません。その建物の写真のコピーってできますか?」
いちおう聞いてみる神条。コピーして学校の友達や先生に聞いてみるつもりなのだ。
(現時点の神条は佐藤さんのスタンド能力やことの成り行きなどを完全に把握出来ていないので
マイソン君を起こして市民会館に案内させるとかまでの考えには到っていません、いたろうよ。
てゆうか市民会館の記憶って曖昧?ほんとはよくわかりませんごめんなさい。
あとこーいう写真とかなら灰島さんに依頼すれば捜してくれるのかなとか思ってみたんですけど
佐藤さんはみんなに話しをふっているので二重質問になってはだめと思って誰にも話をふらないで独り言みたいになっています)

神条はシートを借りて近くのコンビ二でコーピーしてそこら辺にいる警察の人に知っていますか?
とか質問してまた佐藤たちの所へ帰ってきた。交差点の事件で忙しい警察はなかなか取り合ってくれなかったようだ。

神条が帰ってくると佐藤たちの空気が少し変わっている。インドのハマが何かを言ったみたいだ。

「……」
神条は写真のコピーをポケットにたたんでしまうと探偵ごっこみたいなので心を躍らせている。
そこらへんのところはやっぱり男子らしい。

120107 :ヴァン ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/13(月) 22:47:59
=旧市民会館=

「……ま…ま…」
薄暗い旧市民会館の廊下を身の丈が2m近い全裸の大男が這っている。
その男を一言で形容するならボブ・バンソンの兄弟のようなのだが
肌はもち肌で生まれたての赤ん坊の様だった。

「気持ちわる…これが噂の失敗作ってやつかよ?」
廊下に貼ってある防犯ポスターの中の男が大男を見ながら呟いた。
市民会館にふらっとやって来たワーストのヴァンだった。

彼にマイソンの裏切りを報告するつもりはなかったし
ニューディバイドという男の器がそれだけしかなかったと認識しているくらいで
ディバイドや影貫とは同じアイン・ソフへの道を歩いているだけという感覚。

「あっ…あーっ!」
ボブもどきは廊下を、はいはいしながら奇声をあげている。

「でもよ、信じられねーぜ。ジョージや他のワーストのディスクが、この大男の体の中に入って一緒になっているなんてよ。
そもそもディスクって一人に一組なんじゃないのかい?」
ヴァンは鼻白んだ表情を見せる。

「…ま〜ま?…きゃっきゃっきゃ…」
ボブもどきはポスター内のヴァンを見てニヤニヤと笑った。

「ちっ!!!俺がお前のママなわけねーだろ!むなくそ悪りぃ。殺すぞガキ!!あ、ガキじゃねーか」

ゴワッ!!

ポスターから飛び出したヴァンのスタンド、ペーパードライバーの手刀がボブもどきの脳天をパッカリと叩き割る。

ドグシャッン!!

血と脳漿が頭部から勢い良く飛び出すと割れた二つの頭の肉がグニョリと変化して
ジョージと運命の輪の元使役者の二つの顔に一瞬だけ変化したように見えた。

「…ぉ!!?」

ヴァンが目を疑っているとボブもどきの二つに割れた頭の傷口は見る見るうちに修復されて元に戻り、彼は二重あごで澄まし顔を見せている。

「や、やっぱり、ばけものだ…。失敗作とは言え、これがあの未知のパワーの片鱗なのかよ…」

ヴァンは恐怖を感じながらもにやりと歪んだ笑みをみせた。

121125 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/14(火) 23:35:59
徳井に『二つの選択肢』を与えておきながら自由に選ばせる気は毛頭無い佐藤ひとみ。
眼球を収めるケースの隙間から次々と触手が伸びシュルシュル徳井の手足に巻き付いていく。
30秒経過する頃には完全に手足を拘束され、うつ伏せ状態で地面に転がる徳井の姿があった。

「面倒が起こりそうな非常事態だもの!当然1週間四つんばいで過ごす選択なんて有り得ないわよねぇ〜!」

抗議の声は無視され、数本の細く長い触手の針が徳井の腰を襲う!
本当は脳内麻薬を使った麻酔が可能なのだが、執念深いひとみのこと。
1分程度の治療効果つき拷問は痴態を見られた復讐のダメ押しだ。

――暫し現場には男の悲鳴がこだまする。


呻き声を上げる徳井を尻目にひとみは一同を見回し口を開いた。


「取り合えずこの騒動について、解っている情報を纏めておくわ。

・この街を拠点に『悪魔の手のひら』なるものの完成を目指して活動する一団がいる。
・奴らの中心人物は『NEWDIVIDE』なる謎の男。そいつは『スタンド』と『記憶』をディスク化する能力を持っている。
・『悪魔の手のひら』の完成には少なくと22体の『スタンドの生贄』が必要であり
 奴らは手当たりに次第にスタンド使いを襲い、犠牲者の『ディスク』を集めている。
・スタンド使いを襲う兵隊として通称『ワースト』という超長期服役囚が街に放たれている。
・『ワースト』はかつて『NEWDIVIDE』にディスクを抜かれ身体を失い、この街で新たに身体を与えられている。
・奴らの現在の活動の拠点はこの写真の建物。

……こんなところかしら?

で、この事態に対して私達はどうすべきか?
…ことがスタンド絡みである以上警察沙汰にも出来ないし…自分の身は自分で守るしかないわ。
救いは"あの時"と違って奴らが『私達だけに狙いを絞っている訳ではない』ことね。」


―――"あの時"とは、もちろん九頭龍一のゲーム…狩る者と狩られる者の戦い。
狩る者に狙われ逃げ惑ったあの事態を指している。

122126 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/14(火) 23:38:28
「身を守る選択肢として考えられるのは二つ。
『こちらから攻める』もしくは、襲ってきた者を『迎撃する』

危険を押して『攻める』には相手の規模、力量、それに目的等の情報が足りなさ過ぎるわ。
今のところ『迎撃』しながらを奴ら情報を集めること…
『攻める』にしてももう少し情報を得てからの方が賢いような気がするけど。どうかしら?」


…場合によっては……まず無いとは思うが…相手が"あの男"並みの実力の持ち主だったら…?
その場合は『逃亡』という選択も視野に入れるべきだろう。
―――が、その思いをひとみは口に出さない。
自分以外の面子に積極的に『逃亡』を選ばせたくない…という理由もあったが、
ひとみはあれ以来、九頭龍一の名を口にすることを半ば無意識的に避けていた。


刹那の沈黙を挟み、ひとみは気を失ったままのマイソンに歩み寄る。
彼の横にしゃがみ顔を覗き込むと、襟首を掴んで乱暴に揺すった。


「いつまでも寝てないでさっさと起きたらどうなの?!
どういう成り行きか心境の変化か知らないけど
あんたのしたことは奴らにとって『裏切り』以外の何物でもないわよね?
つまり今後は追われる身、あんたは『こちら側』の人間になった訳。

私達にあんたを殺す理由は無くなったわ。
だから逃げてもいいわよ?っていうか早く逃げた方がいいんじゃない?
ただその前に情報は貰うわ。

この『写真の建物』の場所を教えなさい!

あんたにとって私達に情報を漏らすことは最早マイナスにならないはずよ。」


【徳井さんをふんじばって治療。
マイソン君を起こして市民会館の場所を聞いています。
情報をどこまで伝えるか、もしくは伝えないか…マイソン君におまかせです】

12326 :ボブもどき ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/16(木) 21:48:24
ぺた…ぺた…と薄暗い廊下を這う足音。はじめのうちは遠くで聞こえていた。
誰もいない旧市民会館の廊下に、高い天井に、ほんのかすかに響く足音。
がらんどうの会館のなかでは小さな足音が思いがけないほど遠くまで聞こえる。

ぺた…ぺた…ぺた…ぺた…。…ピタ。

足音は影貫のいる部屋の近くまで来てピタリと止まった。
多分ドアを開ければ、足音の正体がわかるはず。

くちゃ…くちゃ…ぺちゃ。

ドアの向こうで柔らかいものが噛み潰されているような音が聞こえたかと思うと
クシャ、と硬いものが潰される音、ゴンッとドアを叩く音が続けざまに聞こえ、
「…ぁ…あ〜〜」と言う叫び声と一緒に、2m近い大男が這って影貫の部屋に侵入して来る。

叫んでいる大男の口の中には噛み砕かれた肉片が散らばっていた。
それは市民会館で飼っていた兎と亀。兎と亀も元はスタンド使いだったのだろうか。
詳細はディバイドでなければ分からない。

「まぁまぁ〜…」
血に染まったボブもどきの顔面の中央で爛々と光りを放つ両眼は影貫に野生の獣を想起させることだろう。

「…う…うま…うま…」
ボブもどきは口をパクパクさせながら影貫にゆっくりと這いながら近づいて来る。

「ま…」
四つん這いのボブもどきの首が突然ガクリとうな垂れると片耳の形が変形して
ヒューヒューと空気を発生させ、それは声に変わっていく。

「ひゅーひゅー…アーアー本日ハ晴天ナリ」
なんとボブもどきは耳を声帯に変化させると言葉を話し始めた。

「ガラスのコップにアルモノを入れたらトリ出せなくナクなりました。アルモノとは何でしょうカ?」

いつのまにかボブもどきの背中からはスタンドが発現している。
しかしそのスタンドのヴィジョンにはノイズが走り受信状態が悪いテレビの様に時折ガザガザと形を崩す。

そして影貫の頭の上の空中には人間を中に捕獲できるほどの大きなコップが浮かんでいる。

「答えられなければ…オマエは一生コップの中にとじコメラレルダロウ」

ボブもどきは影貫に対して不条理にもスタンド攻撃を始めたようだ。

【ボブさんもどきが意味不明暴走中。影貫さんにクイズのスタンド攻撃】

12453 :徳井一樹 ◇MnJrk02a/Yx.:2010/09/16(木) 23:25:06
>「ああ忘れてた!徳井君!あんたに別の件で選択肢をあげるわ。
>そのギックリ腰を『今治す』か『自然治癒に任せる』か…さあどっち?
>言っておくけど治療はかなり痛いわよ?患部まで触手を突き刺さなきゃならないから。
>一週間ほど四つんばいのまま湿布を貼って過ごすか?
>…それとも一分ほど痛みを我慢してスッキリサッパリ腰の痛みとオサラバするか?
>30秒ほど時間あげるからさっさと考えてね。」

「なんか前も似たようなことあったなクソ!……決まってるぜ!
一分間チャッチャッと我慢してさっさとオサラバさせてもらう」

その後治療の情景を想像し、罰が悪そうに言い直した。

「あっ!やっぱヤンピ!一週間四つん這いでいるわ!」

>「面倒が起こりそうな非常事態だもの!当然1週間四つんばいで過ごす選択なんて有り得ないわよねぇ〜!」

「オーーッノォーーーッ!!それじゃ選択させる意味ねーだろバカ!」

時既に遅し。針のような触手が徳井の腰に次々と針治療の如くブッ刺さる。
腰から素早く体中に痛みが響いていく。まるで体内にナイフでも埋め込められている気分である。

余談ではあるが、この事件により佐藤伝説が広まったのはあまり知られていない。

>「身を守る選択肢として考えられるのは二つ。
>『こちらから攻める』もしくは、襲ってきた者を『迎撃する』

>危険を押して『攻める』には相手の規模、力量、それに目的等の情報が足りなさ過ぎるわ。
>今のところ『迎撃』しながらを奴ら情報を集めること…
>『攻める』にしてももう少し情報を得てからの方が賢いような気がするけど。どうかしら?」

涙目になりながら治療を終え、ひとしきり佐藤の説明を聞く。

「俺はどっちでもいいよ…『奴らと戦う』ってのだけは変わりねーぜ。
………俺は親孝行だからな。童貞だけど」

まだ俺はその件を引き摺ってるぞ、と主張せんばかりにやや自嘲気味に言う。

>「いつまでも寝てないでさっさと起きたらどうなの?!
>どういう成り行きか心境の変化か知らないけど
>あんたのしたことは奴らにとって『裏切り』以外の何物でもないわよね?
>つまり今後は追われる身、あんたは『こちら側』の人間になった訳。

>私達にあんたを殺す理由は無くなったわ。
>だから逃げてもいいわよ?っていうか早く逃げた方がいいんじゃない?
>ただその前に情報は貰うわ。

>この『写真の建物』の場所を教えなさい!

>あんたにとって私達に情報を漏らすことは最早マイナスにならないはずよ。」

「あんまキツイ言い方してやんなよ……トラウマになるだろーからよ」

12554 : ◇HQs.P3ZAvn.F:2010/09/18(土) 00:12:22
>「いつまでも寝てないでさっさと起きたらどうなの?!
>どういう成り行きか心境の変化か知らないけど
>あんたのしたことは奴らにとって『裏切り』以外の何物でもないわよね?
>つまり今後は追われる身、あんたは『こちら側』の人間になった訳。

>私達にあんたを殺す理由は無くなったわ。
>だから逃げてもいいわよ?っていうか早く逃げた方がいいんじゃない?
>ただその前に情報は貰うわ。

>この『写真の建物』の場所を教えなさい!
>あんたにとって私達に情報を漏らすことは最早マイナスにならないはずよ。」

襟首を引っ掴まれ頭をぶん回されるに連れて、霧散していたマイソンの意識が収斂する。
朦朧としていた視線は一旦纏まりを得たものの、すぐに揺られてまた乱れてしまった。

「あ……う? って、あわわわわいやあののの話しますから! まままずは放してくださいいいいい!」

マイソンは首がもげんばかりの勢いで揺られている。
だがその実とても自然に自己の主張が出来ている事には、当然彼は気付いてはいなかった。
ともあれ彼は目が覚めてからも随分と振り回された後に漸く解放される。

小さく何度か咳き込み、頭に手を添えて横に振ってから、マイソンは佐藤へと視線を向けた。

「えっと……ですね。その建物が何て言うのかは分からないんです。
 けど、その建物を出てからどんな道を歩いてきたのかは大体覚えてますよ。
 だからその映像を貴方の能力で読み取って遡れば、きっとその建物に辿り着けると思います。……出来ますよね?」

首を傾げながら、佐藤へと問いが投げ掛けられる。

「あ……」

しかし疑問の色を浮かべていた視線は、すぐに形容しがたい薄暗さを帯びた。
不安を煽るような、意味を有さない声と共に。

「……でも、行くのはあまり……お勧め出来ませんよ? そりゃ、今はワーストも殆ど出回ってるかもしれませんけど。
 だけどあそこにはNEWDIVIDEや、影貫と言う女の人がいるし……それにアイツも多分」

思わせぶりなくせに核心に迫らない語り口を、佐藤は批判するだろうか。
とにかく彼は、説明を続ける。

「アイツって言うのは……えっと、この市から『スタンド使いを逃さないようにしているスタンド使い』の事です」

佐藤にとっては倒すべきか倒さずにおくべきか、悩ましい所かもしれない。
けれどもマイソンはそのような事は与り知らず、また言わんとする事も違う。

「でもアイツは……何だか変なんです。何と言うか、僕がO.R.Fを無作為にばら撒いていた時のような。
 『能力を拡散させて発動しているような』感じがするんです。だから」

彼が言っている事はつまり、

「もしもアイツが『能力を収束して発動したら、どうなるのか見当が付かない』んですよ」


【マイソン君が佐藤の能力を理解しているのは喰らった時の感覚で何となくって事で
 教えた事は建物の場所(の辿り方)と、敵スタンド使いの存在について】

12655 : ◇obnj1A9NIkd8:2010/09/18(土) 00:13:59
吉野きららのスタンド『メメント・モリ』は、そもそも戦闘向きのスタンドではない。
一度花が咲いてしまえば相手の命を花弁を毟るように散らす事は出来る。
だが花が咲き切る前に払い除けられてしまえばダメージは無きに等しい。

つまり彼女の能力はつくづく、屠殺用の能力であると言う事だ。
スタンドに対する抵抗力を持たない一般人に使うならば。
他のスタンドよりも遥かに効率的に虐殺を行えるに違いない。

(ですが……自身に生えた花に対処出来る連中には、正直私の『メメント・モリ』は力不足……。
 とりわけナチュラルに『幸せの花』を無力化出来るあの男には特にッ! ならば私はどうするべきか!)

答えは、まさに今吉野が体現している。
つまり――逃げるのだ。

(私の『メメント・モリ』は地面や無機物なら殆ど一瞬で花を咲かせられます。
 丁度先程の車を凌いだ時や、旧校舎の壁面を破壊した時のように。即ち……)

吉野は逃げ続ける事で攻撃の手段を得る事が出来る。
地面を隆起させ、電柱や道路標識をねじ曲げ、建物の壁面を崩落させて。
更には花びらの目隠しや刃を遠距離から放ち、彼女は逃走する。

逆に御前等は能力の性質上、操れる機械を探しながら回避と追撃をも為さねばならない。

「残念ですが……貴方では私に追いつけませんよ。いつか私に殺されるその日まで、ごきげんよう」

濃厚な花吹雪に姿を紛らせ、吉野は完全に御前等の視界から消失する。
去り際にごく小さな花の蕾を、御前等の首筋に植え付けて。
知覚出来ない程に極小の蕾は、攻撃が目的ではない。
自分のスタンドパワーによって御前等の位置を察知する、発信機の代替品だ。

(……帰って顔を冷やしますか。これくらいどうと言う事はありませんが、
 学校の連中が憐憫の視線を私に向けてくるのは耐えられません)

狼狽えながらも御前等が諦めた様子を見届けて、吉野はその場を離れる。
つもりだった。
ふと視界の端に見覚えのある――忘れようのない面々が映らなければ。

12756 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F:2010/09/18(土) 00:14:42
(……ッ! 彼らは……あの時の!)

かつて九頭との戦いで邂逅した、スタンド使い達。
何もかもが吉野の手の平から零れ落ちていったあの戦いで、何かを手に入れた者達だ。
どうしようもない怨嗟の対象に、しかし吉野が襲いかかる事はない。
それは彼女が今万全の状態でない事も理由の一つだが、

(悪魔の手のひら……? 今、あの女は確かにそう言いました……)

佐藤ひとみが発したその単語こそが、吉野の意識を強く惹きつけていた。
『悪魔の手のひら』――彼女がこの言葉を聞くのは、これが初めてではない。
三ヶ月前、ボブ・バンソンによって聞かされ、そして彼女は真の幸福の片鱗に触れた。

(もしも奴らが『悪魔の手のひら』に関わっているとしたら……ッ! これを逃がす手はないッ!)

彼らにも御前等と同じく極々小さな蕾を兆させ、吉野は唇を結び拳を固く握り締める。

(丁度いい……。どの道あの日の雪辱は晴らさねばなりませんでした。
 奴らを葬りッ! そして『悪魔の手のひら』も私が頂くのですッ!)

九頭が死に、幸福への階段は崩れ去り、幸せを狩る事にも虚しさを覚え。
灰色の日々を過ごしていた吉野は、今再び鮮明なバラの紅のように気概を胸に咲かせた。

【悪魔の手のひらについて盗み聞き。御前等置き去り。極小さいスタンドパワーで発信機(的なもの)を】

12868 :NEWDIVIDEと影貫行方 ◇tGLUbl280s:2010/09/19(日) 20:04:47
薄暗い部屋。蝋燭の灯す暖色の光が僅かに震え、壁に映った男女の影を揺らす。
男女――と言っても、男の方は黒い襤褸切れのようなマントを纏った骨の塊。
低い声音と大柄な骨格が、纏っていた肉体が強固な男のものであったろうと想起させるのみであった。

「随分舐められたものね…」

冷ややかな女の声。
常と同じ陶器の人形を思わせる青白い顔、無機質な表情。
しかし口調には明らかな不信と批難が込められている。

グリードのスタンド『ハングドハント』の拳を受け、
一度崩れさったNEWDIVIDの骨格はカチャカチャと音を立てて組みあがっていく。

「好きにするがいいさ……
あいつらも束の間の自由を手に入れてはしゃぎたかろうて。
連中がどう振る舞おうと、所詮は釈迦の掌の上の孫悟空…あるいは虫カゴの中の虫。
おっと…ワーストの中に食道楽が居たな、あの下衆好みの言い回しを使うならば
『鍋』の中の『材料』…とでも言うべきかな。
機が熟せば『鍋』ごと煮込んでしまえば、それでいい。」


NWEDIVIDEは『材料』と『鍋』に妙な抑揚をつけて話す。
『材料』は勿論ワーストを指している…では『鍋』とは……?


余裕綽々の言い様は敗者の色を微塵も見せない。
攻撃を受けた後にノイズ交じりの不協和音を奏でていた声音も、いつの間にか常の調子を取り戻していた。
影貫が目を向けると、NEWDIVIDEを構成する鉄筋の如き骨の端々に入っていたひび割れが跡形もなく消えている。


「奴らは好きに泳がせておけばいい。本能と嗜好に任せて犠牲者の山を築けばいいのだ。
歩くように平然と死体をこさえる者どもだ。血の海と恐慌の渦は我らの望むところ。
――ディスクだけでなく、それも貴重な『材料』の一つなのだからな。
なに…問題は無かろう。
奴らはディスクに刻み込んだ『情報』と『契約』に縛られている。
…確か北条市と言ったか・・・奴らはこの街から出ることも出来んのさ。」

12969 :NEWDIVIDEと影貫行方 ◇tGLUbl280s:2010/09/19(日) 20:06:26
NEWDIVIVEは集めた肉体にディスクを投入する前に、下準備として施した加工を回想する。
能力によってディスク化したスタンドは、相性さえ合えば彼自身が使用することも可能だ。
何と言う皮肉――!
数分前、NEWDIVIDEに叛旗を宣言した男――
『グリード・アヴァリティア』のスタンド『ハングドハント』がその加工に使用されていたのである。


彼らの記憶には、意図的に書き換えられた…いや付け加えられた部分がある。
加えられた『情報』は、一生を北条市で過ごし穏やかに生涯終える間近の老人のもの。
NEWDEVIDEが老人から剥ぎ取り、ワーストのディスクに貼り付けたのは
『北条市に対する無意識的な愛情、安心感』。

記憶の加工は、ワーストの面々…彼ら自身さえ気づかないであろう小さな感情の変化に顕れる。
彼らはごく自然に抱いているはずだ。
この街…北条市への愛着を。奇妙なまでの居心地の良さを。
彼らは何故かこの街を離れる気にならないであろう。
ささやかな拘りや好みは、本人すら気づかぬうちに行動や感覚を大きく制限する因子と成り得る。
街に放たれたワースト達は自ら進んでこの街を狩りの舞台にしているようでいて
その実、彼らの行動はNEWDIVIDEの思惑を色濃く反映しているのだ。

何故ゆえNEWDEVIDEは『北条市』に拘るのか。
ワースト達に記憶を附加し逃亡を阻止してまで『北条市』に拠点を据えておきたい理由は……
それこそ、この街に…北条市に【悪魔の手のひら】の萌芽が見るからに違いない。



ワースト達をもう縛るもう1つのもの―――それはNDとの『契約』だ。
NEWDIVIDEは彼らに適合する肉体を与え街に放ったが、肉体の使用を永続的に許可してはいない。
つまり期間の制限を設けている。彼らは肉体を貸し与えられているだけなのだ。
与えられた期間を過ぎると、彼らのディスクは強制的に対外に排出される様に仕込まれている。
死んだ、あるいは再起不能になったワーストのディスクが対外に飛び出す事と仕組みは同じだ。


彼らが肉体を永遠に我が物とするには
NDとの『契約』…合わせて『22枚の上質なスタンドディスク』を差し出す他は無い。
この『契約』はワースト達にも伝えられている。

『契約』を果たしても彼らが晴れて自由の身になれる可能性は低いだろう。
ディスクが揃ってしまえば、彼らには『材料』としての運命が待ち受けているのだから。
しかし、このどう転んでも不利益な情報は当然彼らに知らされている筈もない。
『契約』はNEWDIVIDEが死ぬか、あるいは彼の能力を何らかの方法で奪い取るまで消して解除されない。


【ワースト達に肉体を与える際の『契約』について言及。ワースト達は『契約』のことは知らされてます。
自分達が『材料』であることは知らない筈ですが、自ら気づいても良し】

13070 :NEWDIVIDEと影貫行方 ◇tGLUbl280s:2010/09/19(日) 20:07:23
>26
>ぺた…ぺた…ぺた…ぺた…。…ピタ。
>くちゃ…くちゃ…ぺちゃ。

沈黙のまま向かい合う影貫とNEWDIVIDEは部屋の外から聞こえる水っぽい異音に聞き耳を立てる。

乱暴な音を上げて扉が開く。

>「…ぁ…あ〜〜」

ドアの前には黒い肌の大男が這いつくばっている。
2m近い巨体には不似合いの、つるりとした肌。浮かべる表情は明らかな白痴。
口の周りを血に染めた大男は影貫に向かって這い寄る。

>「まぁまぁ〜…」
影貫は柳眉を顰め汚いものでも見るような表情で、赤ん坊と大男の混合物を見下ろす。


「ああ…忘れていたよ。ディスクの保管用に作ったプロトタイプだ。
…肉体を失ったワースト用にな。
ディスクに適合する肉体を捜すのはなかなか骨が折れるからな。
作ったはいいが使い勝手が悪いので閉じ込めて置いたんだがな…逃げ出してしまったか。
どうやら試作品の奴、退屈らしい。
しばらく相手してやってくれないか?」

声質にいたずらっ子の喜色を潜め、NEWDIVIDEは骸骨の嵌った水晶の眼球をくるりと一回転させた。
黒い襤褸を翻し影貫の横をすり抜けるNEWDIVID。
その巨体は白い煙となって拡散して消えた。
姿が消える前のほんの一瞬、ボブもどきの赤子も目を凝らしていれば気づいたかも知れない。
壁から現れた、ほの白い腕がNEWDIVIDEのマントを掴んでいたことに。


一人取り残された影貫は美しい顔にありありと嫌悪の情を浮かべ、男の形をした肉塊と対峙する。
肉塊は耳の辺りに開いた大きな穴に張られたピンク色の弁膜を震わせて音を奏で出した。
ノイズを交えた音は次第に人声に変化していく。

>「ガラスのコップにアルモノを入れたらトリ出せなくナクなりました。アルモノとは何でしょうカ?」


影貫は顰めた眉を僅かに緩める。
知性の欠片も無いと予想していた肉塊の発した人語…その意外さに興味を引かれたのだ。
黒い巨躯の赤子を見据えながら、薄く紅を差した赤い唇を開く。


「人もモノも自らに付いた傷を払い落とすことは出来ない……
すなわちガラスの水面に巣食う細いクモの巣……」


低く静かな女の声。その文言が謎の答えを孕んでいることに、ボブもどきは気づくだろうか。

131112 : ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/09/20(月) 19:38:42
黒い巨躯の赤子の問いによって流れた沈黙は赤い唇によって破られる。

>「人もモノも自らに付いた傷を払い落とすことは出来ない……
>すなわちガラスの水面に巣食う細いクモの巣……」

「大あたり〜」

影貫の頭上の巨大コップが音をたて砕け散ると
「あぇ〜まあ〜う〜あ〜〜」
などとボブもどきは意味不明の声をあげ影貫の部屋から去る。

「…なんなんだよ…あいつは…」
ことの成り行きを部屋に置いてある魔術書の隙間から見ていたヴァンだったが、
この部屋に来ると数ヶ月前に盗み聞きした嫌なことを思い出してしまう。

「材料って何なんだよ。もとから胡散臭い話だったんだ。
俺たちワーストのディスクが最初っから22枚手元にあったんなら
何で生贄にそれを使わなかったのかとかはこっちだって疑問に思っていたんだ。
汚れた俺たちのディスクじゃダメってことや、NEWDIVIDEの優しさってことも考えてみたんだが
とどのつまりは俺たちは人柱扱いされているってことだよな?
はぁ?ディバイドめ。思う壺に壷ごとはめるつもりだろうがそうはいかねーぜ。
どんな道にでも裏道や抜け道ってもんがあるもんなんだぜー」

思い出して魔術書の中で切歯扼腕しているヴァン。
彼がワースト仲間の裏切り行為に目をつむっているのもうなずける。

とりあえずスタンド使いとしては弱いほうのヴァンは大人しく道を歩いているしかないだけだったのだが
歩いている道に何か救いのヒントや啓示のようなきっかけがないものだろうかといつも考えていた。

ワーストにも救いが必要なのだ。

気がつけば廊下に出て去っていったボブもどきの音らしきものがしない。

静か過ぎる。ちょっとした異変。

ヴァンは気になって自分を救う手がかりにでもなるものではないのかと彼を探してみた。
するとボブもどきは廊下の奥の薄暗い闇の中で丸くなり石になっていた。

「……なんでだよ…」
ボブもどきはスタンドエネルギーが少なくなったために肉体を肉のままに維持できなくなったらしい。

「こいつは…。やはり悪魔の手のひらと関係しているってことなのかい…」

【ボブもどきはしばらく眠るとまた元に戻ります】

132113 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/20(月) 19:41:08
>「あ……う? って、あわわわわいやあののの話しますから! まままずは放してくださいいいいい!」
ひとみに襟首を振り回され意識を取り戻したマイソン。
彼が要領を得た答えを返すには、しばし咽返り呼吸を整える間が必要であった。
『いかな場合にも、自分だけは決して待たされるべきではない』
…という理不尽極まる感覚の持ち主であるひとみは、このささやかな小休止にさえ苛立ちを募らせるのであった。
襟首を開放したばかりの腕を胸の前に組み、腕を叩く指でイライラを表現しながらひとみは彼の回復を待つ。


>「えっと……ですね。その建物が何て言うのかは分からないんです。
>けど、その建物を出てからどんな道を歩いてきたのかは大体覚えてますよ。
>だからその映像を貴方の能力で読み取って遡れば、きっとその建物に辿り着けると思います。……出来ますよね?」

言われてみればその通りである。ひとみは小刻みに動かし続ける指を暫し止め
上空に浮かべたままのフルムーンを操作し、触手を長く伸ばしマイソンの腕に絡める。


「だったらさっさとその道順を思い出しなさい!できるだけ詳細にね!
記憶違いなんかしてたら承知しないわよ!」


棘のある口調で迫り、"能力"を使って彼の記憶を読み取る。
マイソン視点による"例の建物"への道行は、動画に変換され
空中に出現させたフルムーンのシート上に映し出されている。


>「あ……」
マイソンの上げた小さな声と共にシートの映像にノイズが走る。
一瞬、襤褸を纏った骸骨と黒衣の女が映し出され、そこで映像は途絶える。


>「……でも、行くのはあまり……お勧め出来ませんよ? そりゃ、今はワーストも殆ど出回ってるかもしれませんけど。
>だけどあそこにはNEWDIVIDEや、影貫と言う女の人がいるし……それにアイツも多分」
>「アイツって言うのは……えっと、この市から『スタンド使いを逃さないようにしているスタンド使い』の事です」

映像に表れた骸骨と黒衣の女が、NEWDIVIDEと影貫であることは尋問の内容と合わせて推察できる。
が、アイツとは何者か…?

今一度マイソンの記憶読み取りを試みるも、すぐに失望を溜息に変えて吐き出した。

133114 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/20(月) 19:42:07
「ほんっとに何も知らされてないのね!あんたって!
その『アイツ』とやらの正体も!『スタンド使いを逃がさないスタンド』の能力のことも!
肝心なことは何一つ知らないんだから!使えない奴!」

遠慮も気遣いの欠片もない罵倒を投げつつ、巻きつけた触手を解き彼を開放する。


暫し沈黙の間。思索にふけるひとみ。

――スタンド使いがスタンド使いを狩り集めるシステム…
――北条市の外に『獲物を逃がさないスタンド能力』……?

状況が"あの時"と似すぎている…。
九頭龍一のゲーム…!狩る者と狩られる者の戦い……まるで意図的にあのゲームを模しているようにも思える。
首謀者は九頭のゲームに何らかの関わりを持っているのか……?

そもそもひとみは【悪魔の手のひら】…などというオカルティックな名称で呼ばれるモノの実在には懐疑的だ。
インチキ宗教の掲げる教義に登場する理想郷の類…その程度のものとしか考えていない。
信者を操る釣り餌としてありもしないご利益や天罰を作り上げるのはカルトの常套手段。


が、一点だけ、咽に刺さった小骨のように気にかかることがあった。
ひとみの脳裏に『魔』たる球体を前に精神体として向かい合った、あの二人きりの邂逅が蘇る――。
九頭龍一は 『この街に【スタンド使いを高みに上らせる何か―― 】がある』と言った。
まさかとは思うが、それが……?


疑念を振り切り、ひとみは場の一同を見回して口を開く。

「聞いたでしょ?奴らの中に、この北条市から"スタンド使いを逃がさない"能力を持つ者がいるって。
そいつを倒すか、能力の正体を見極めない限りこの街から出るのは危険ね。
敢えて街から出て確かめてみようって言うのなら止めないけど。」

そこで言葉を区切り、地面に座り込んだままのマイソンを指差す。


「尤も、この男の曖昧な記憶からじゃあ、その能力の実在さえ怪しいものだけどね…
私達の手元にあるもので使えそうな情報といえば…現在の奴らの拠点である"例の建物"だけ。
そこから調べていくより他なさそうね。あんた達はどうするの?」

ひとみの問いかけに場は再び沈黙に包まれた。
沈黙に協力を求める無言の圧力を乗せて、ひとみは一同の様子を伺う。


――徳井はこの街にいる両親を見捨てることは出来ない筈だ。
――慎重でいながら意外なほど好奇心に捕らわれやすい、よねも提案に乗ってくるかも知れない。
他の面子、灰島や神条、そして髪の長い少女はどう出るのだろうか。


【市民会館への道順をシートに映し出す。
九頭龍一と悪魔の手のひらの関連を漠然と感知。
取り合えず市民会館を調べてみないかと場にいる全員に提案】

134御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/09/22(水) 02:39:58
吉野へ放った拳が通って、一番びっくりしたのは御前等本人だった。
彼自身、『確固たる哲学』の障壁は一筋縄では破れないことぐらいは覚悟していたのだが。
そしてなにより、

「フゥゥーー……初めて…………女を殴っちまったァ〜〜〜〜〜」

御前等祐介18歳。昼間はただの高校生(四年目内定)、その正体は裏社会で活躍する凄腕自宅警備員。
『スタンド』を手に入れるまでは口論すら避けて生きてきた。ちなみに小宮を殴った記憶は既に忘却の彼方だ。

「でも想像してたより、なんて事はないな。むしろこの沸き立つような高揚感はなんだ?悪くない感覚だ……」

じっくりと、吹っ飛ばされた吉野が起き上がって再び対峙するまでの間に今起こったことを検証する。
御前等の攻撃は『幸福』そのもので殴ったに等しい。吉野のガードを貫通した余剰分の幸福が彼女にダメージを齎しているのだ。

同じくこの身に咲き誇る花も、彼女の哲学から察するに『幸福を栄養源にしている』。
肥沃な大地が農作によって枯れないように、御前等の水増しされた幸福だけで成長を賄えているならば、花は彼を害さない。
とどのつまり、御前等の異常とも言うべき精神の特殊性は、吉野にとってあらゆる意味で天敵なのだ。

吉野が動く。御前等が追撃の構えをとる前に、彼女の能力は発動していた。
アスファルトに咲く花のように強靭な草花が電信柱をねじ曲げ、御前等と吉野の彼我を阻む。

>「……ここは退かせて頂きます。ですがこの屈辱、痛み、忘れませんわ。
  いずれ雪辱を果たしますので、そのつもりで。……それでは」

「え、ちょっ……逃げんのぉ!? せっかく俺が優位に立って楽しくなってきたのに!」

キメ顔キメポーズで吉野が向かってくるのを今か今かと待ち続けていた御前等は、踵を返した彼女に拍子を抜かす。
順当に勝ちフラグを重ねていたこともあり、通常の三倍ぐらい下衆い御前等は当然のことながら追走に入る。

が、視界の外から迫る道路標識に気付けない。

ドグシャアッ!!

「やだば――ッ!?」

吉野きららが逃亡のために仕掛けた罠――道路標識起き上がりトラップに見事に嵌り、そして御前等は意識を閉じた。

135御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/09/22(水) 02:40:58
数秒後に覚醒した。

「――っは!ここは北条市南部の住宅街の路地、俺の名前はイケメン谷ハンサム太郎。よし記憶はバッチリあるな!」

イケメン谷ハンサム太郎は辺りをキョロキョロ見回すが、既にそこに敵影なし。
代わりにひしゃげた道路標識と、巨大な木の燃え残りと、スクラップになったセダンと――

「なんだこれは、木の実?」

焦げた枝と一緒にいくつかたわわに実った果実が転がっていた。
拾い上げてみれば、それは歪な人の顔(もちろん御前等)の形をした果物。しかもちょっと生温かくて脈打っている。
どう贔屓目に見ても、御前等の木に結実した果実であることは確定的に明らかだった。

「埋めれば木になって俺が成るんじゃないかこの実。――ああ、魔法使い候補生のうちから単一生殖を経験してしまうとは!」

わが子のように慈しみをもって地面に散らばる実を拾い集める。
林檎大の『御前等の実』は全部で20個近くあり、『アンバーワールド』の両腕でようやく抱えきれるほどだった。

「ふふふ……俺の子か。そう考えるとこんな木の実如きがなんだか愛しく思えてくるから不思議だ!
 もう目に入れても痛くないぞ!食べちゃいたいぐらい可愛らしい……うん、食べちゃいたい。ていうか食いたい」

迷わず一個にかぶりついた。
つるりと滑らかな表面に歯を立てた瞬間、驚くほどあっさりと弾力のある表皮は弾ける。
限界まで瑞々しさを湛えた中身は堰を切ったように果汁を溢れさせ、唇を離すとまだ小さく幼い裂け目は自身の汁で泉を作っていた。

「うンマァァ〜〜〜〜〜〜〜〜いッ!!なんだこれは!!舌の上でシャッキリポンと踊りよるわ!!」

描写するのが面倒なので省くが、まあ魚でいうトロみたいな味である。
あまりの予想外な美味しさに御前ら……じゃなかったハンサム谷イケメン太郎は涙さえ流してさらに齧る。
気が付けば二個目に突入していた。三つめをたいらげたところでますますイケメンに磨きのかかったハンサム太郎は自制した。

「いかんいかん、あやうくひとりで全て食べ尽くしてしまうところだった。このウマさは誰かと共有したい……!」

『幸福』を一杯に溜め込んだからこんなにも美味しく実ったのだろうか。
サンドトマトという品種のトマトは、あえて乾いた土で育てることにより栄養と旨みを凝縮すると言うが……
ハンサム谷いやちがったイケメン谷ああもう御前等でいいや、御前等に芽生えた木にも同じことが起こったとでもいうのだろうか!?

「地の文のテンションがおかしいな」

迷走しているのである。
さておき、これだけ旨い果実なら商業価値を認めていいだろう。ひょっとしたら美食家に高く売れるかも。
食するだけで幸せを齎す食材なら、吉野なんか骨も残らず消滅するかも知れない。

「お前は次に『閑話休題』と言うッッ!!」

閑話休題。 ――ハッ!?    

バァァ〜〜ンッ!!

い、今起こったことをありのまま話すぜ!
『閑話休題しようと思ったら休題する閑話がなかった』……何を言ってるか(ry

ちなみに『閑話休題』と書いて『それはさておき』と読ませる場合があるらしい。
ネットに書いてあったから間違いない。

それはさておき、あ、変換はできないな。とにかく御前等はこの感動を誰かに伝えようと街へ繰り出した。
アドレス帳の件数と学年の数字が同じである御前等にとって、それは実に無謀な愚行だった。

136御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/09/22(水) 02:43:48
「む、あの一団は……」

そんな御前等が歩くこと20分、そろそろ20回目の小休止が欲しくなってきたところ、前方に珍妙な団体が見える。
年齢とか、性別とか、服装とかに一切のまとまりがないが、ほぼ全員が濡れている。この晴れの日に。ずぶ濡れだ。

「きっと『素晴らしき平日に往来で濡れまくりの会』とかそういうのに違いない。なんて面白そうな団体なんだ」

裏自宅警備員業界でも五本の指に数えられる傑物である御前等とて、そのような素敵団体の存在を知らなかった。
世の中って広い。知識の八割をネットソースで占めていると、ときどき本当に現実と妄想との区別がつかなくて困る。

>「聞いたでしょ?奴らの中に、この北条市から"スタンド使いを逃がさない"能力を持つ者がいるって。
  そいつを倒すか、能力の正体を見極めない限りこの街から出るのは危険ね。
  敢えて街から出て確かめてみようって言うのなら止めないけど。」

『ずぶ濡れ同好会』のリーダーとおぼしき女性が弁舌豊かに何かを語っている。
彼女は彼女でなんかNOTパンピーなオーラを醸しているが、それを神妙に聴く構成員の一人に御前等は見覚えがあった。

(あれは、いつぞやの九頭がどーたらこーたらの時に俺が物理的に足引っ張りまくった徳井某サンじゃないか!)

触れたものを切開するスタンドを持つ、御前等の次の次の次ぐらいにイケメン(御前等調べ)なナイスガイ。
結局あれからもう会うこともないかと思っていたが、いやはや世間は実に狭い。
偶然街でデートしてる同級生とばったり出会い邪魔になってるのに気付かず世間話に花咲かすぐらいKYな御前等は、

(強引に話に参加してやる!)

あらゆる意味で最悪の思いつきを実行に移した。

>「尤も、この男の曖昧な記憶からじゃあ、その能力の実在さえ怪しいものだけどね…
  私達の手元にあるもので使えそうな情報といえば…現在の奴らの拠点である"例の建物"だけ。
  そこから調べていくより他なさそうね。あんた達はどうするの?」

女性が面子へ問いかける。
形の良い切れ長の双眸に、その重みのある眼差しに、灼けつくような沈黙に、言外の意志を装填して。
撃鉄を起こし、引き金を引いた。弾かれるように御前等は、空砲のような言葉を穿つ。

「っふ、愚問だな。俺たちに前進以外の選択肢などなかった。そうだろう?」

胸の前で拳を握り締め、不可視の何かをそこに固めた。

「そこに道があるんだ、もう迷わない。だったら――ここで進まなきゃ嘘だぜ」

決め顔でそう言った。誰の心にも響かなかった。全世界が停止した。
常人の感覚を持ち合わせている者ならば、最初に浮かぶ思考は――『誰?』。
さも当然のように輪に入り、まるでさっきからそこに居たかのような言動だが、無論のこと欺瞞である。

会話の流れを切らずに団体に加わることを可能としたのは、『影絶ち』と呼ばれる存在秘匿術だ。
己の気配を限りなく薄め、存在感を消すことで人の認識から一歩ズレたいわゆる"空気"となる能力。

専ら休み時間を机にうつ伏せでやり過ごしたり、夜中に親を起こすことなく冷蔵庫から食料を調達するのによく使用される。
プロ自宅警備員は皆が習得している、闇に生きるものの必須技術にして必修科目なのである。

御前等は徳井の顔を見た瞬間からこれを発動し、ありえないほどの空気っぷりを発揮して認識外から歓談の輪に滑り込んだ。
特別人の気配に敏感だったり、周囲に注意を払ったりしていなければ御前等が突然そこに現れたかのような錯覚を得るだろう。
そして気付くはずだ。御前等の隣に自分達と同じく異能力を持つ者の証左として『スタンド』が立っていることに。

――その『スタンド』が、両手いっぱいに御前等の顔の形をした珍妙なフルーツを抱えていることに。

「お久しブリリアントグリーンだな徳井さん。アンタが『湿気大好きクラブ』の会員だったとは。ガム食う?」


【さも当然のように会話に入る部外者一名。佐藤さんの問いに勝手に乗っかり、唯一顔見知りである徳井サンに擦り寄る】

13711 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/09/23(木) 19:36:43
―――「あんた達はどうするの?」
ずぶ濡れのノースリーブワンピースを肌に貼り付けたまま
髪から滴る雫を払うこともなく、佐藤ひとみは場に居る面々を見据える。

交差する大通りから漏れ聞こえる車のエンジン音をBGMに、現場は静まり返っている。
無言で円を成し向かい合うスタンド使いの面々。
睥睨寸前の目力に気圧されてか…それとも息も吐かせぬマシンガントークに呆れてか…口を開く者は誰も居ない。
時間の経過と共に蓄積した沈黙は重さを増し、場に嫌な緊張感が流れる。


>「っふ、愚問だな。俺たちに前進以外の選択肢などなかった。そうだろう?」

―――場違いに弾んだ声。

口端で微笑み、眉をキリリと上げた精一杯のキメ顔で…
今までそこに"居なかったはずの男"が…さも当然の面持ちで、ひとみの問い掛けに回答の体を成して入り込む。


>「そこに道があるんだ、もう迷わない。だったら――ここで進まなきゃ嘘だぜ」

芝居掛かった…というより懐かしアニメ寄りのポーズを決めて
これまた小学生しか読まないような安い少年漫画的台詞を割り込ませてくる男。
握り締めた拳の親指が立てられていないことがせめてもの救いかもしれない。
一連の行動が何かの冗談ではないことは、すまし顔の皮一枚下に潜ませた喜色満面の笑みからも読み取れた。
闖入者の放つ思いっきり的の外れた回答に、路地裏の空気は果てしなく凍りつく。


ひとみは一時思考と動作を奪われ――言い換えると呆気に取られて――男に目を奪われ棒立ちしていた。

――何?この男……?誰…?…ていうか何なの?この痛々しいまでのウザさは…?

男の顔に視線を留め上記の問いを三回転ほど脳内に巡らせる。
流行とは無縁のデニムシャツとジーンズ、痛いセンスをアピールする額のバンダナ。
以前どこかで見たような――?手繰り寄せる記憶の断片。
あまりにも鮮烈鮮明な九頭龍一の記憶…その背後でピントのズレた背景程度に男の顔がぼんやり浮かび上がる。
しばしの努力を経て、ようやく彼が"決戦の場所"…あの校庭に現れた男だと思い至る。


「はあ?何であんたがここに居るの?」

ひとみは多少気の抜けた声で男に問いを投げる。
正直かつ当然の質問だった。


男の濃すぎる存在感に押されて気づかなかったが
よく見ると男の隣に彼の異能の体現たる歯車だらけの人型スタンドが立っている。
ひとみの目は、かのスタンドが抱える丸い物体に釘付けになった。
完熟したトロピカルフルーツばりに赤黒く艶を放つそれは人の顔を模し、さながら臓器のように小さく脈動している。
しかも見れば見るほどスタンドの主人たる男にそっくりではないか…!

切れ長の目の端を吊り上げ、嫌悪の情に唇をヒクつかせて…佐藤ひとみは脈打つ『実』を見つめている。


【佐藤は一応御前等さんを覚えているようです。何かやってくれそうな御前等の実に釘付け】

13816 :よね ◇f7.8bDzvb6:2010/09/23(木) 19:37:27
/そこから調べていくより他なさそうね。あんた達はどうするの?」

佐藤のその問いかけを最後にしばらくの沈黙が続いた。

「自分はもちろ…」

その問いかけに答えるように、よねが口を開こうとした時だった。

/「っふ、愚問だな。俺たちに前進以外の選択肢などなかった。そうだろう?」

よねの発言をまるで覆い隠すかのように何者かの声がさえぎった。
声の主の方を見ると、まるで狙っているかのようなファッションをした男が立っていた。

よねが何者か?と問おうと口を開きかけると男は突然拳を胸の前で握り締め、

/「そこに道があるんだ、もう迷わない。だったら――ここで進まなきゃ嘘だぜ」

…それにしてもこの男、ノリノリである。

「あ、貴方は…一体…?どこかで会った気もしないこともないですが…」

【オオゥ!?誰デースカ、コノ人は。いつからそこに居たのですか?全く気付きませんデーシタ】

ハマもその男に感化されてか、外国人訛りになっていた。この男もノリノリである。

なによりよね達の目を引いたのはそのスタンドが抱いている謎の物体である。
雰囲気はリンゴやミカンの様な果実、だが様子はやけに気色悪い人面フルーツである。

恐ろしく無機質で冷たい風貌のスタンド、そしてそれが抱いている謎の人面フルーツ。
明らかにミスマッチである。滑稽だとかもうそんなレベルではない。寒い、寒すぎる。

/「お久しブリリアントグリーンだな徳井さん。アンタが『湿気大好きクラブ』の会員だったとは。ガム食う?」

「徳井さん…友達選びましょうよ…あ、ガムください」

139名無しさん:2010/09/24(金) 04:53:59
◆HQs.P3ZAvn.F [sage] 投稿日:2010/09/24(金) 04:36:44 0
路地の入口――陽光と日陰の境界線で、易者が占いを営んでいた。
タロット、占い棒、手相、人相、水晶玉、様々な占いの手法が連ねられている。

そこに一人の男が訪れた。
地面を靴裏で擦る音がして、半分居眠りをしていた易者が顔を上げる。

タイを排し胸元を開放的にしたスーツ姿の男が立っていた。
精悍な顔立ちだ。
乱れた――と言うより意図的に乱したのであろうオールバックは、王冠を模しているようにも見える。
面持ちは決して険悪では無いが、何処となく近寄りがたい。
有無を言わさぬ硬質な気配を放っているのだ。

「オイお前、俺の運命を占ってみろ」

男は尊大な口調で、易者に声を掛ける。

「んあ? ……あぁへえへえ、こりゃどうも。えっと、んじゃまずお名前を……」

「あぁいいだろう。レグルス……レグルス・イマティアだ」

へこへこと中途半端な愛想を振り撒きながら尋ねる易者に名を答え、

「だがその名で俺を占う事は許さん。名前など他人が勝手に付けたモノだろう。そんなモノで俺を計るな」

しかし間髪入れず、そう断じた。
易者は一瞬、面を喰らう。

「え……あ、じゃあ生年月日……」

「却下だ。……何だ貴様、その小道具の数々は飾りか?」

そうして易者の述べた次案をまたも、レグルスはにべもなく切り捨てた。
そして腕を横薙ぎに振るい、易者の前に並ぶ占い道具の数々を指摘する。
声色と所作から発散される怒気と威圧に、慌てて易者は占い棒――大量の細い木の棒を手に取った。
易者は焦燥に駆られた手つきでそれらを振るう。

だが手を滑らせて、易者は占い棒を地面にぶち撒けた。
散乱した棒は一本が路地の外にまで転がり、通行人に踏まれて折れる。

140名無しさん:2010/09/24(金) 04:54:41
◆HQs.P3ZAvn.F [sage] 投稿日:2010/09/24(金) 04:37:36 0
「あ……す、すいませ……」

「構わん、次だ」

短調な言葉が増々、易者の緊張を煽り立てる。
震えを帯びた手で彼はタロットカードへと手を伸ばした。
が、突然吹き込んだ風にタロットの山は崩れ、吹き飛ばされる。

易者が慌てて立ち上がった。
手を伸ばす為に。

拍子に彼の前の台が揺れ、水晶玉が台上から零れる。
タロットにも水晶玉にも占い師の手は届かない。
前者は風に攫われ散り散りに、後者は地面と衝突して粉々に砕け散った。

「……もういい。邪魔したな」

商売道具を纏めて失い悲惨な様を晒す易者に背を向けて、レグルスは歩み去る。
彼の運命は、見えず仕舞いだった。
彼とて、多大なる期待を抱いていた訳ではない。

このような事は、過去何度もあった。
アカシックレコードを垣間見るスタンド使いにも会った。
それでも、彼の運命は見えなかった。

あの占い師で試したのは、所詮駄目で元々に過ぎない。

「だが……やはり失望は禁じ得んな」

言葉を掻き消して、不意に一陣の風が吹き荒んだ。
風はまるで何者かの意思に操られたかのように、一枚のカードをレグルスの元へ運ぶ。
先程吹き飛ばされたタロットの内の、一枚だ。

植物で編み込まれた輪の中に収まる、一人の男。
逆立ちをして、レグルスを睨んでいる。

『世界』の、逆位置。
その暗示が意味するのは――

「『未完成』……か。貴様なんぞに言われんでも、分かってる」

レグルスは眉を潜め、『世界』のタロットを風に返す。
カードは舞い上がり、まるで太陽に吸い込まれるように、見えなくなった。

141名無しさん:2010/09/24(金) 04:55:16
◆HQs.P3ZAvn.F [sage] 投稿日:2010/09/24(金) 04:40:29 0
【スタンド】
名前:ネイキッドキング
タイプ/特徴:着用型、厚手のマントを模したスタンド
能力詳細:『お洒落な王様』
     マントを羽織る事でこれまでに見た他人の能力を『不完全』に再現出来る
     スタンド能力に限らない
     だが一度に羽織る事の出来るマントは一枚のみ

     『世界』の逆位置『未完成』を暗示するスタンド

破壊力- スピード-   射程距離-
持続力-A 精密動作性- 成長性-?


A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ
射程距離の目安
A:100m以上 B:数10m(50m) C:10数m(20m) D:数m(5m) E:2m以下  


【本体】
名前:レグルス・イマティア
性別:男
年齢:25
身長/体重:175/65
容姿の特徴:乱したオールバックに、精悍な顔立ち。何か近寄りがたい雰囲気
人物概要:物心ついた頃からスラム街にいて、そこでリーダー紛いの事をしていた
     そこから何故彼がワーストと呼ばれるまでの犯罪者になったのかは不明

被害者推定:不明

14247 :徳井一樹 ◇MnJrk02a/Yx.:2010/09/25(土) 23:51:50
>「尤も、この男の曖昧な記憶からじゃあ、その能力の実在さえ怪しいものだけどね…
>私達の手元にあるもので使えそうな情報といえば…現在の奴らの拠点である"例の建物"だけ。
>そこから調べていくより他なさそうね。あんた達はどうするの?」

「打算的だな…答えを知ってるクイズほどつまらねーもんはねー。
俺の答えは決まりきってるぜ、コーラを飲んだらゲップするってくらいになッ!
調べるに決まってるだろ……丁度ダラダラしてたお陰でスタンドエネルギーも回復してきたしよ」

>「っふ、愚問だな。俺たちに前進以外の選択肢などなかった。そうだろう?」
>「そこに道があるんだ、もう迷わない。だったら――ここで進まなきゃ嘘だぜ」

「はいオマエラジョーク入りましたー。…ハッ!
この突然顔面に降り注いだ蜘蛛の巣の如くうざったい感覚は…」

徳井は彼を知っている。突如乱入してきた
ハイセンスでエキセントリックな男を知っている!
                      . . . . .
「イケメン谷ハンサム太郎!貴様、見ているな!」

奇妙なフルーツを抱えたスタンド。歯車を思わせる意匠。
良い意味で吐き気を催すハイセンスな言葉回し。その面構え、姿勢、癖!
徳井は全て覚えている。否、忘れたくても忘れることができねェェ〜〜〜〜ッ
九頭戦の折に不幸(こううん)にも出会ってしまった小粋な男。紹介しよう。
当たり前のように輪の中に入ってきて突っ込みどころが多すぎる彼の名はイケメン谷ハンサム太郎。
──御前等裕介という名は世を忍ぶための数ある偽名の一つであることは、周知の事実である。

>「お久しブリリアントグリーンだな徳井さん。アンタが『湿気大好きクラブ』の会員だったとは。ガム食う?」

「俺はジメジメしたのは好きじゃない。でもそのクラブの会員ナンバーは“2”だ。
№1よりナンバー2!それが俺の人生哲学なんでな。つーかガム以前にそのベイビィ・フルーツなんとかしろ。
いつ受胎完了させた?極悪な奴に育てるのか?まさか“そういう”奴だったとは…変態キャラに成り下がりやがって」

>「徳井さん…友達選びましょうよ…あ、ガムください」

「俺の仲間はそんな安くねーよッ!逆に友達だったら俺がヤバイくらい引くわ!
つーかさっきから内容がおかしいだろ!ここだけギャグ漫画か!温度差ありすぎるだろッ!」

そこまで言い終えたところで徳井は我に帰る。
『いかん…こいつらテンションがおかしい…早くなんとかしないと…』そんな神のお告げが脳裏に響いた。
恐らくこれ以上脱線事故を起こさないように、との神の御言葉なのだろう。
徳井はいつになく(キリッとした表情となり恐る恐る喋りはじめた。

本題に入る前に言っておくッ!俺は御前等裕介について嫌というほど体験した。
……いや…体験したというよりまったくの理解を超えていたのだが……
あ…ありのまま起こったことを話すぜ!
『俺は佐藤さんに返事をしようと思っていたら御前等と会話をしていた』
な…何を言ってるのかわからねーと思うが俺も何をやっていたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…つーか相手の頭がどうにかなってた……
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。
もっと恐ろしい“プロ”の片鱗を味わったぜ……とお前は言う。

「本題に入る前に言っておくッ!俺は(以下中略)もっと恐ろしいプロの片鱗を味わったぜ…ハッ!
い…いや…こんなことをしてる場合じゃなかった…つーかオメーは何しにきたんだ?2秒以内に答えろよ」

それにしても終始内容が支離滅裂である。
それでも…それでも妖精さんなら…妖精さんならきっとなんとかしてくれる…
でも妖精さんに助けを要請している時点でお察し下さい。


【要約すると御前等さんに何しにきたんだ?と質問】

14359 :天野 晴季 ◇TpIugDHRLQ:2010/09/30(木) 23:08:02
ごく一般的な見た目の高校生が町を歩いている
外は小雨。町を歩くほとんどの人が傘を差している
「もう秋だからかな…雨がよく降るよ」
彼ももちろん傘を差している
「体冷えそうだな…」
相変わらず雨が降り続ける。が、少し不可解なことが起きる
町を歩く人が汗をかき始めたのだ。急に暑くなったのか、それとも雨水に塗れただけなのか…?

【本体】
名前:天野 晴季(あまの はるき)
性別:男
年齢:17
身長/体重:16852
容姿の特徴:やや痩せているものの、一般的な高校生の体格。ハンチングを被っている
人物概要:親が気象予報士をしている。四季をこよなく愛し、毎日気温と湿度を確かめるのが日課
生粋の理系

14462 :天野 晴季 ◇TpIugDHRLQ:2010/09/30(木) 23:08:34
【スタンド】
名前:フリーシーズン
タイプ/特徴:現象操作系/雲のような見た目
能力詳細:半径1km以内の気温、湿度、気流を自由に操作する
ただし操作する温度には限度があり、上は100℃、下は−273.15℃まで


破壊力-C スピード-C 射程距離-A
持続力-∞ 精密動作性-A 成長性-C

145御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/09/30(木) 23:48:23
あまりにもあんまりな御前等の登場に停止していた世界は、秒単位の空白を置いてようやく再稼働。
『影絶ち』を解き肉眼で観測できるようになった御前等を、『濡れクラ』の連中は凝視し、認識する。

>「はあ?何であんたがここに居るの?」

最初に動いたのは、やはりリーダー格の美人。
整った柳眉をこれでもかと吊り上げ、不快を隠そうともせず御前等に対するが、どうやら彼女は彼を既知のようだ。
知り合いが片手の指で数えるほどしかいない(親含む)御前等でなくとも、こんな凄みを放つ女を忘れるはずがない。

(ということは、この美人さんは俺を一方的に知っている……つまり俺のファンだな!?)

「何でとはご挨拶だな。この俺が往来でずぶ濡れになってる女性を見逃すとでも!
 むしろずぶ濡れの女がいるところならばどこへだってエンカウントする所存と考えていただきたいッ!!」

とりあえずノっておくことにした。
御前等も御前等でこの女性を知っている気がしなくもないが、実情がどうであれ曖昧なまま放っておいても問題ないだろう。
なぜならば、そろそろベストオブ空気読み係が覚醒する頃合いだからだ。

>「あ、貴方は…一体…?どこかで会った気もしないこともないですが…」

>「はいオマエラジョーク入りましたー。…ハッ!この突然顔面に降り注いだ蜘蛛の巣の如くうざったい感覚は…」

                  . . . . .
>「イケメン谷ハンサム太郎!貴様、見ているな!」

とまあ、こんな風にそれとなく紹介してくれるのである。
さっすが徳井サン!俺たちにできないことを平然とやってのけるッ!

「そこに痺れるッ憧れるゥ〜!そろそろ俺の肛門がほんのり湿り気を帯びてきたぞ……!!」

>「俺はジメジメしたのは好きじゃない。でもそのクラブの会員ナンバーは“2”だ。
  №1よりナンバー2!それが俺の人生哲学なんでな。つーかガム以前にそのベイビィ・フルーツなんとかしろ。
  いつ受胎完了させた?極悪な奴に育てるのか?まさか“そういう”奴だったとは…変態キャラに成り下がりやがって」

「心外だな徳井サン、俺はただ純粋に、樹木のたぐいと愛を育んだだけだと言うのに!生命の神秘に刮目だな!?」

>「徳井さん…友達選びましょうよ…あ、ガムください」

「そっちのヒッピーみたいなお兄さんは話が分かるなガムをやろう」

>「俺の仲間はそんな安くねーよッ!逆に友達だったら俺がヤバイくらい引くわ!
  つーかさっきから内容がおかしいだろ!ここだけギャグ漫画か!温度差ありすぎるだろッ!」

「何を言ってるんだ大親友じゃないか俺たちは。お互いの尻のできものの数も正確に把握してる仲だろ。
 今度は生え始めた胸毛に年を取る恐怖を感じガムテで剥がしまくってたら夜が開けた話でもしようか」

>「本題に入る前に言っておくッ!俺は(以下中略)もっと恐ろしいプロの片鱗を味わったぜ…ハッ!
  い…いや…こんなことをしてる場合じゃなかった…つーかオメーは何しにきたんだ?2秒以内に答えろよ」

「良い質問だ。そこのお姉さんを初めその手のご質問のメールやFAXが全国津々浦々から続々受信中だ。纏めて答えよう」

御前等は一歩下がり、慇懃かつ無駄に丁寧な礼釈をしながら名乗る。

「初めましての人は初めまして、申し遅れたが俺の名前はハンサム谷イケメン太郎。略すときは御前等祐介とでも呼んでくれ」

次の質問。
東京都・ラジオネーム『ベルセルク新アニメ化決定!』さんからのお便り。

「『この実なんの実気になる実』……ふふふ、そんな視線をビンビン感じるぞ。気になるよな?気になるだろ?
 諸君の予想通りこの実は普通の木の実なんかじゃあない。これはな、聞いて驚くなよ?この実は――――美味しいんだ。すごく。
 あっすいません調子こきました痛い痛い投げないで缶を投げないでごめんなさい真面目にやります」

146御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/09/30(木) 23:49:01
はい次の質問。

「ああっ描写が省かれとるーっ!?地の文貴様手を抜くんじゃあないッ!まあいい、話を進めよう。
 この『御前等の実』はケセランパセランやベヘリットなどと呼ばれるオカルト物体の一種でな。先述のもの共と同様に、
 小規模ではあるが願いを叶える力がある。といっても、因果律に干渉し少しだけ都合の良い展開を喚起するだけのものだが」

ようはこの実を中心に『幸福濃度の高いフィールド』を作り出すとでも言うべきか、
ともかく御前等の薄っぺらな多幸を存分に吸収したこの果物を一度割れば、その場に限り少しばかりの『良い事』が起きる。
先程賞味した三つの実も、御前等の『美味しくいただきたい』という願いに反応して美味しくなったというわけである。

(全部憶測の出鱈目だが、地の文でこんな感じに描写しておけばそのうちそれが真実だ。ペンは剣より強し!)

「この実をここにお集まりいただいた皆様方にもれなくプレゼントしよう。食べて良し、使って良し、飾って良しの優良物件だ。
 ルックスもイケメンだぞっ――それでこいつを手土産に、俺の望みを聞いて貰いたい。なに、そこまで難しいことじゃないさ」

半ば無理やり御前等の実を数個ずつ進呈する。
嫌がろうが避けられようが泣こうが叫ぼうがプレゼントはその場の皆に公平に行き渡り、御前等は神妙に下がる。
大事な我が子達を犠牲にしてでもそれは達成しなければならない願いだった。厳正に言葉を選び、そして口に出す。

「――暇なので構ってくれ」

言った。

「さっきそこのお姉さんが地図を出していただろう。ああ、これから何をしに行くかについては俺も概ね推測している。
 こんな珍妙な団体が一同に介するとすれば、珍妙なイベントに違いない。それだけ分かれば参加しない手はないな!
 そこへの道中に俺を混ぜてくれればそれで良い。――やりたいこともやるべきことも、辿り着いた先で自分で見つけ出す」

どこまでも命のやりとりを舐め腐った態度で、御前等は一団への同行を申し出た。


【御前等の実を数個ずつ押し付ける。恩着せがましく市民会館への同行を強要】
【御前等の実:願いを込めながら破壊すると現実的な範囲内でちょっとだけ願いが叶う
       美味しくなったり、害意を込めれば簡易爆弾にも。使い勝手の悪いアイテムとしてご利用下さい】

14778 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ:2010/10/02(土) 01:30:58
気温は30℃。天野がスタンド能力で気温を上げたのだ
「うーん…暖かくはなったけど、なんか…
湿度下げようかな」
湿度をどんどん下げていく。それにより、湿度は60%まで下がり、雨も止んだ
「ふぅ、快適快適…」
その時、彼は気づいてしまった…
(あれ? 最初から湿度下げとけば傘要らなかったんじゃ…)
そして彼はもやもやした感情を抱えたまま、自宅へと向かうのであった…

14879 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/10/02(土) 01:31:40
いつの間にか路地裏の会合に紛れ込んでいた秋葉系バンダナ男。
ひとみが二時間ドラマの端役の顔を思い出すような努力の果てに男の顔を認識したというのに
彼はこちらを覚えている様子がない。
考えてみれば当然。あの決戦の最中、戦闘力の無いひとみは殆どの時間身を隠して行動していたのだから。

全面核戦争後の世界で生存者に出会ったかのようなテンションでハシャギ回るこの男を、
ひとみは冷ややかな視線で眺めていた。


(何こいつ…?ウザさ通り越してるわ…面倒くさぁ…)

思わず口から正直な感想が零れそうになるが、堪えて視線を彼のスタンドに向ける。
歯車を意匠にした機械的なスタンド。
しかし今は能力への興味より先に、否応無くスタンドの抱える『人面果実』に目を奪われる。
秋葉男はギャラリーの視線に気づいてか―――唐突に突拍子もない行動に出た。
事態を生暖かく見守る場の面子一人ひとりに、その奇妙な『実』を配り始めたのだ。
やけに手際の良い分配。男は拒む間も与えず一同に数個ずつ『実』を押し付けていく。


>「この実をここにお集まりいただいた皆様方にもれなくプレゼントしよう。食べて良し、使って良し、飾って良しの優良物件だ。
>ルックスもイケメンだぞっ――それでこいつを手土産に、俺の望みを聞いて貰いたい。なに、そこまで難しいことじゃないさ」

>「――暇なので構ってくれ」


想定を越える出来事に、ひとみは暫し呆然と両手に乗せられた気味の悪い実を見つめていた。
掌に伝わる生温かさと脈動……



―――沈黙の刹那を越えて…――現場に響き渡る女の悲鳴。続く怒声―――


「なッ……!!!
何よ!!これッ………!要らないわよッ…こんなものッ!!


よくもこんなキモいモノの触らせてくれたわねッッ!!!この屑男ッ!!
キモメン谷だかハム太郎だか知らないけど
あんたなんて10万貰っても絶対構う気にならないわ!!

この実で『願いが叶う』ですって?寝言いってんじゃないわよ!
あんたとあんたの背後が言ってるだけでしょ!説得力皆無ッ!

こんなもの手渡されて、誰が『ハイ、そーでスか、スゴイですネー』ってお礼言うと思うのッ?
何?!あの人面フルーツ!!信じられない!!もう手を洗わなきゃ一秒だっていられないッ!


もう―――私帰るッ!!」

14980 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/10/02(土) 01:32:17
水の滴る黒髪を振り乱し金切り声を上げるひとみの足元には、地面に叩き付けられ潰れた『実』が転がっている。
怒りと不快感のあまり唇を震わせながら、ひとみは踵を返し歩き始めた。

去り際、すれ違うよねに嫌味を言うのも忘れない。


「よね君タクシー代くらい出しくれるんでしょ?すぶ濡れで下着の透けてる女を歩いて帰らせるつもり?
あんたのせいで服もバッグもバッグの中のコスメも全滅だわ!」

ひとみの口からは、際限なくヒステリックな悪態が垂れ流されている。







―――この騒動の最中…異変に気付く者はいただろうか?


地面の上で無惨にひしゃげている『御前等の実』が激しく脈打ち膨れていく様を…。

イケメンフルーツの面影何処…
最早人面と認識できぬほど歪に膨れ上がった朱色の果実から、シュルリと根のような触手が飛び出す。
赤黒い触手は地面を這いずって進み、ひとみの足首から膝にかけて絡み付く。
既に歩き出していたひとみは、足を拘束した触手に引き戻されて後ろにひっくり返った。

地面に打ち付けた後頭部と背中に衝撃と鈍い痛みが走り、一瞬呼吸が止まる。
呻き声を上げて起き上がろうとするひとみを、触手は尚も引き摺っていく。


ひとみの引き摺られていく先には、熟れ過ぎた果実の如き甘い芳香を漂わせる巨大な顔が…
既に1mほどに成長した『実』は、内側に細かい歯の生えた顔面の裂け目をぱっくりと開いて獲物を待ち構えている。



得てして薄っぺらな幸福は、より高次の幸福を阻害する。
形而上の幸福を得んとする者は、欲望の発露たる小さな幸せと戦わねばならない。
甘い幸福の姿をした欲望は拒めば拒むほどに力を増し、巨大な魔物となって求道者に襲い掛かる。

…まあ要するに『ダイエットしている時に限って猛烈な食欲に襲われる』…的な法則。
薄い幸福の結実である『御前等の実』も、この幸福の二律背反を備えていたのだろうか。
ひとみの投げ棄てた果実は拒絶と悪意の念を受けて、持ち主に襲い掛かる『害毒の実』に変化していた。


【ポイ棄てされた御前等フルーツが暴走。誰か佐藤を助けてあげてください。】

15083 :井筒由数 ◇Hlq/MADhas:2010/10/03(日) 03:18:26
今日もニュースでは殺人事件が報道されている。
法律では裁けない悪。それを正義の名の下に闇へ葬る男がいた。
その男は井筒由数。この街の、検事である。

「では、判決を言い渡します。――無罪」

今日も、北条市法廷で無情な判決が下された。
ストーカーの男が、女子大生を殺害し遺棄。四股を切断し隠蔽を図るなど
その犯行は常軌を逸していた。遺族と弁護士は死刑を要求したが――
結果は心神喪失による、無罪。彼は、警察病院へと移送された。
この事件を担当していたのも、井筒だった。
法廷から出て行く直前の、遺族の怨念に満ちた目が井筒の心を揺さぶる。
それは、心臓を直接打ち叩くような怒りの波紋だった。

奴を、倒せ 潰せ 破壊しろ お前が裁け――

井筒の心の中で声がする。それは、彼自身の黄金の精神。
揺ぎ無い正義の言葉だった。
夜の柳道。井筒は無罪を受けて、護送されていく青年の隣に立っていた。
彼は、よだれを垂らし呆けたような顔をしていた。
しかし、井筒は見逃さなかった。彼の目に、喜びが宿っているのを。

「貴様は、断じて――心神喪失などではないッ!!
貴様は、自分の罪を清算しなければならない。
そう、死を以って。貴様自身の命を以ってッ――!!」

井筒の横に、3つの顔を持った影が出現する。
何も気付いていない、いや気付いたとしても何も出来ないであろう
犯人の体にその影が徐々に近付く。
次の瞬間、犯人の体が膨れ上がり――爆発した。
まるで内側から爆破されたかのようにそれは唐突かつ、衝撃的に。

横で全身に血と臓物をぶちまけられた井筒は――
そして少しだけ人のカタチを残していた犯人へ向け、一言だけ呟いた。
「お前の明日は私が貰った。」と。

年収2000万のエリートである井筒は、似つかわしくない安物のアパートの住んでいた。
血を洗い流す為に、井筒は全裸になってシャワーを浴びていた。
そして、そそり立つ男性自身を眺めようやく笑みを浮かべた。

「たまげたなぁ――私の力が、前より強くなっている。
まるで、今このそそり立つモノのように」

井筒由数の夜は深い。

151103 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ:2010/10/07(木) 22:02:52
>80
「何…あれ」
自宅へと向かう天野の目に映ったのは人を襲う謎の植物、そう、暴走した御前等の実である

『うわっ!なんだこれ!』 『襲ってきt…うわあああああ!』 『ざわ…』
   『うわぁああん!! ママー、助けて!』 『郷子ぉぉぉ!! 貴方、どうしましょうこれ!?』
 『無理だ、僕たちにはどうにも…。 おい、郷子を離せッッ!』         『ざわ…』
                               『ざわ…』  
「と、とりあえず…駆除した方がいいよ…ね?」
植物の方を向く天野。
「大丈夫、射程範囲内だ…。湿度上昇、60%、70%…、気温低下、30℃、20℃…」
御前等の木の周りの気温と湿度を操作する。
「湿度80%、90%、95%…湿度はこれくらいでいいな。気温はまだだ…」
湿度の上昇をやめ、気温の低下だけに集中し始める。
「気温15℃、10℃、5℃、0℃、−5℃、−10℃…」
どんどん気温を下げる
「−15℃、−20℃…−25℃…」
ゆっくりと、時間をかけて。気温の低下により、御前等の木の周りの水分が凍っていく
 『あれ、なんか寒くね?』 『つーかあいつ凍ってね?』 『俺らも凍ったりしねーよなッ!?』  
『ううう…寒い…。暖まりたいな…。あ、あんな所に暖かそーなコタツが…』
  『郷子!? ないわよそんなところにコタツなんて! 貴方大変よ!
  郷子があまりの寒さに三途の炬燵を渡ろうとしてるわ!』 『パ●ラッシュ、僕もう眠いんだ…』
        『貴方ぁぁぁあああああああああ!!!!』  『あはは、暖かそーな炬燵…』 『郷子ぉおおおお!』
「−30℃…。これ以上は人を巻き込む危険があるな…」
※既に巻き込んでます。  −30℃という気温と95%という湿度で御前等の木は凍り始め、雪も降り始める。
だが、この程度で終わる御前等の木ではなかった!!! なんと、細かく振るえ、発熱し始めたのだ!すごいぞ御前等の木!
そして自由になった枝の一本を天野のいる方向へと伸ばす。そしてその枝が天野の体を捕らえた!
が、そういう発熱の動作は大量のエネルギーを消費する。周りの寒さで常に発熱せざるを得ず…
だんだんと弱っていく御前等の木。雪のせいでまともに光合成できず、ただただエネルギーだけを消費していく。
が、それでも御前等の木は諦めず、天野の体を締め付ける!
まあ、でもエネルギー消費には耐えられないわけで。
御前等の木は、多数の人間に巻き付きながら枯れていったのであった…


「さて、気温と湿度を元に戻そう」
気温と湿度を元に戻し、枝からとびおりる天野

ゴキッ!

やばそうな音とともに…

152104 :よね ◇f7.8bDzvb6:2010/10/07(木) 22:03:45
「タクシー代…ですか。すいません、あいにく持ち合わせがなくて…」

確かによねの能力によって引き起こされたことであったにしろ、
生命を守るために行ったのだ。
よねもまさかこんな事を言われるとは思ってもいなかった。

「まあ、佐藤さんなら大丈夫ですよ。襲う人なんてきっといませんし、いたとしても返り討ちですから」

よねにとっては冗談のつもりだった。
だが、恐らく佐藤にとっては怒りの種にもなりうる発言だということをよねは後になって後悔した。

そうして佐藤は不貞腐れたように何処かに歩いていく。
佐藤がよねの視界から消えて数秒後。

ドシンッ!!

と尻餅をつくような音。
よねは驚いて後ろを振り返ると佐藤が触手―ただし佐藤のスタンドのそれとはかけ離れた―に引きずられている。
その触手の元を辿ると…"人面フルーツ"だ。

「佐藤さん!?何やってるんですか!」

だが佐藤は呻き声さえも上げていない。
おそらく転倒した時に体を打ちつけたのが原因だろう。

あの人面フルーツが何なのか。よねには到底理解し得なかった。
自然界に出来る物ではない。かといってスタンドでも無いだろう。
恐らく人工物なのだろう。だが、この状況下で判断の間違いは直接、危機に繋がる。
よねはしばらくSum For Oneの能力を発動させ、停止した時の中で対処法を考えた。

そして再び時は動き出し、よねは同時に触手に向かって走り出す。
よねは佐藤の足に絡みつく触手を掴むと、

「Sum41!!この触手は氷になるッ!」

こうした種類を特定しにくい物質は恐らく生物ではないと判断されるのだろう。
触手は一瞬にして凍ると、佐藤がばたつかせている足のところでポキリと折れた。

「だ、大丈夫ですか。ハマさん、念のため佐藤さんを見てもらえませんか?」

よねは後のことはハマに任せ、そして佐藤の手にタクシー代を握らせた。

この時、停止した時の中でよねが触手の対処と共に、ある一つの答えを導き出していたことはよね本人以外は誰も知らなかった。

153御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/10/09(土) 13:03:50
持ってるだけで不快指数が当社比二倍の性能を誇る御前等の実を受け取って、
個人的に御前等が一番反応を気にしていた美人は猛る。それはもう、仕事帰りに露出狂とエンカウントしたような顔で。

>「なッ……!!!何よ!!これッ………!要らないわよッ…こんなものッ!!」

諸手に抱えた御前等の実を、一つ残らずアスファルトへと叩きつけた。
瑞々しい肉感たっぷりの果肉は爆ぜ、なんかもう色々と酷い状態になっていた。

「ああっ、もったいない!!」

女性の罵倒は続く。
罵られる経験は多分にあっても往来で女性に虐げられるのは初体験で、それはとても特別な感傷だった。

(なんていうか、ドキドキしてくるなこの人に罵られていると!悪くない、悪くないぞこの状況!)

>「もう―――私帰るッ!!」

ヘッドバンキングしながら帰宅宣言する女。長い髪が凄いことになっている。
制止の余地を残すことなくさっと踵を返し、先程御前等がガムをやった男に交通費を請求していた。抜け目ない。

「え、え、帰んの?今からみんなでどっか行くっていう話は?」

とうの昔にそんな話はお流れ(しかも間違いなく御前等の責任)になっているにも関わらずキングオブKYの名を冠す御前等は
盛大に挙動を不審にしていた。親鳥を見失った雛のようにその場にいる者たちをキョロキョロするが、誰もフォローはしない。

と、そんな女性の身に更なる災難が振りかかる。
突然何も無いところでコケたかと思えば、その足には謎の触手が絡み付いていた。
触手の出所はと言うと……根元はアスファルトに打ち捨てられた御前等の実。卵程度の大きさだったはずのそれは、

「デカくなってるーーっ!?」

直径にして約1メートル。大型犬ぐらい軽く飲み込める巨大さを獲得した御前等の実には、最悪なことに歯が生えていた。
歯が生えているということは、とどのつまり咀嚼する機能を備えているということで。目下その犠牲になりそうなのは囚われの女。

「凄い、凄いぞ御前等の実!ぶっちゃけキモさ抜群だがこれもまた進化!俺という人間の可能性!!
 生物にとっての史上幸福とは正しく生存、進化、発展!まさに本能の縮図がここにありというわけだな!!」

もともとその素養があったがここへきて一気にマッドサイエンティスト的キャラを確立した御前等。
そろそろ正気に戻らないとマジで立場がヤバいぞっ!ただでさえ好感度が下方に限界突破しているというのに。

「え、そうなの?」

空気の読めない人間の正しい扱い方は、犬の躾に似ている。
『あっこいつ今空気よめてないな』と周りが判断したらその頭を思いっきり叩いてやれば良い。
『何がダメなのか分からない』=『空気が読めない』ということなのだから、ダメなことはダメと言ってやらなければいけないのだ。

まあ、和を以て尊しとなす日本人にそれを求めるのはちょっと残酷かなっ☆

「つまり地の文が俺の頭をかるーく叩いてくれれば万事解決というわけだろう。――頼んだぜ、相棒!」

ドグシャアッ!

「痛い!」

閑話きゅ

「閑話休題!さあ俺の立場の確立の為に!アンタを助けるぞ美人さん!」

御前等が両腕を翼のごとく広げる。そしてカッコよく交差する。
その両手には一つずつ御前等の実が握られていた。

「アンタの敗因はただ一つ!『正論を吐いた』――真面目に考えてたら人生やっていけないぞ!
 そして俺が、俺が一番御前等の実を上手く扱えるんだァァーッ!!」

二つの実を放り投げる。
空中を舞うそれらを、『アンバーワールド』の拳が正確無比に打ち抜いた。

「女性を助けろッ!!『御前等の実』――!」

二つの実を中心に類まれなる閃光が発生する。その場の皆の目をくらます。
そして視界が回復したころには!女性を襲っていた触手は氷に変わってバキバキに折れ散り、女性は透明な膜の中に保護されていた。
実際のところ氷の方はよねと呼ばれた男の能力なのだが、御前等にそれを知る由はないし手柄を横取りする気満々である。

>「だ、大丈夫ですか。ハマさん、念のため佐藤さんを見てもらえませんか?」

「なるほど佐藤さんって言うのか。さあ佐藤さん!アンタを救った俺を褒め称え崇め奉ると良い!幸せになれるぞ!俺が!!」

シャボン玉にようにフワフワ滞空する膜はちょっとだけ治癒効果がある。痛みを止めるくらいの効果はあるだろう。
ここぞとばかりに態度がデカくなった御前等は恩着せがましく事態の進行を促した。


【よねさんの手柄を横取りして佐藤さんに恩を着せる下衆】
【問題がなければ市民会館まで先導をお願いします】

154121 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/10/09(土) 20:22:08
世の中は『正論』だけで出来ている訳ではない―――が、
いまひとつの要素は『本音』であり『願望』ではない――――
薄っぺらな欲望とご都合主義で願いが叶うほど人生は甘くないのだ。

低次元の欲望を充足させる為だけの幸福は、甘んじて享受しているうちは優しい顔を見せるが
拒絶し乗り越えようとする者には一転して牙を向く強敵となる。
吉野きららのスタンド能力と御前等の多幸感を受けて結実した果実は、
水っぽい幸福とスタンドエネルギーの残渣を糧に、ちょっとした奇跡を顕現する万能アイテムと成っていた。
同時に『薄っぺらな幸福』を象徴する『実』は、暗喩の示すとおり拒絶する者には容赦なく襲い掛かる存在でもあった。
簡単に言うと…『信じるものは救われる』『信じない者は襲われる』
程度の低い幸福を最大限に増幅し満足しうる…そんな精神構造の持ち主にしか使いこなせない代物だったのだろう。


投げ棄てられ紅い果肉を路面に飛び散らせていた『実』は、意思を持つかのように自ら寄せ集まり、成長し
拒絶を示したひとみを捕らえ飲み込もうとしている。


場の面々がこの騒動に気を取られている間に、
叩きつけられた実のうちの一つが、顔を模した果肉の下に芋虫の足の如き触手を生やし始めていた。
『実』は柔らかい足を蠕動させ路地を出て広い往来まで這いずって行く。



―――しばらく後、往来から聞こえる通行人達の悲鳴。

>『うわっ!なんだこれ!』 『襲ってきt…うわあああああ!』 『ざわ…』

ひとみ達の居る路地裏と往来は同じモノに起因する騒動に見舞われていたのだ。



―――双方、時を同じくして事態は鎮静化を見せる。

路地裏にまばゆい閃光が走り、凍った触手の破片が辺りを飛散する。

佐藤ひとみは宙に浮いた透明の膜の中で、氷の欠片が閃光を反射して煌く様を眺めていた。
やがて透明の膜はシャボン玉よろしくパチンと弾ける。
ひとみは重力に従って地面に落ち、軽く尻餅をついた。

155122 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/10/09(土) 20:23:48
地面に腰を下ろすひとみの有様は随分と酷いものだった。
ずぶ濡れ状態で道路を引きずられたせいで、髪も服も埃にまみれ手足は擦り傷だらけで血が滲んでいた。
ワカメのように濡れて乱れた頭髪を顔の前に垂らし、隙間から虚ろな双眸を覘かせる姿は
ジャパニーズホラーの幽霊女そこのけのご面相だった。

後頭部を打って一瞬意識が飛んだせいだろうか。
あれ程喚き散らしていたヒステリーはどこへやら。怒気はすっかり鳴りを潜め、
よねに握らされた千円札数枚を手に乗せたまま、呆けた様な表情で黙って地べたに座っている。


「持ち合わせが無いって…実はあるんじゃないの。嘘吐きは浮気男の始まりなのよ…」

よねが去っていった方向を見つめ、ひとみはボソッと呟く。


時間の経過と共に後頭部と背中の痛みは治まり、意識が鮮明になりつつあった。
手足の擦り傷も既に出血は止まっている。
御前等の実による治癒効果のお陰もあるが、それはほんの気持ち程度のものであった。
御前等の実の顕現する奇跡は、彼と同じくらい御目出度い脳の持ち主でなければ殆ど効果が無いのだ。


>「なるほど佐藤さんって言うのか。さあ佐藤さん!アンタを救った俺を褒め称え崇め奉ると良い!幸せになれるぞ!俺が!!」


うざったい男の声が聞こえる。どこか遠くで叫んでいるかのように意識の外で音が止まっていた。
――アンタを救った俺…?馬鹿か?原因を作ったのは誰か?―――問い詰めたい気持ちも湧いたが
今は怒鳴る気力も惜しい。ただひたすら帰りたくなった。


「なんかもう…どうでもいいわ……。
フルムーンで取得した『建物の地図』を写メにして送るから。
知りたい人全員、さっさと携帯出して。」

ひとみはフルムーンを出現させ、細かく裂いた触手を全員の携帯に侵入させた。
ディープ・ダイブで得たヴィジョンはフルムーンをプリンタや携帯に接続することで出力可能だ。
NDが本拠地にしている建物の位置はマイソンの記憶から割れている。取得したGPS座標を地図に添付して送信すればよい。


「明後日の午前11時に現地集合。
それでいいでしょ?
取り合えず、私帰るわ。」

送信を済ませたひとみは、ボソボソと呟くような声を残し路地の出口に向かって歩き出した。
往来に出てハマの呼んでくれたタクシーに乗り込む途中、路地裏を覗き込む少年と目が合った。
ハンチングを被った高校生くらいの少年だった。


【・天野さんの退治した実は佐藤たちを襲ったのと別の実ということにしています。
 ・帰り際天野さんと目が合う。
 ・「御前等の実」は御前等さん限定で使用可能な感じにしてますが(全員が使えたらスタンドっぽくないので)
  まずかったら取り下げます。
 ・路地裏メンバーの携帯に市民会館の地図を送信。
 ・よねさんの携帯にも後で送ってるはずです。
 ・明後日、市民会館に現地集合を提案。  】

156145 : ◇HQs.P3ZAvn.F:2010/10/10(日) 12:11:54
>「なッ……!!!
>何よ!!これッ………!要らないわよッ…こんなものッ!!」

「あぁ! だ、駄目ですよぉ! 食べ物を粗末にしちゃあ……」

狼狽えと呆れの同居した表情を浮かべて、マイソンは屈み込む。
彼は自身の身の上から、衣食住の全てにおいて恵まれる事が無かった。
そう言った暮らしの中で染み込んだ癖からか、彼は地面に打ち捨てられた御前等の実を拾い上げ、

「……あれ?」

疑念の声を零した。
拾い上げた実の顔付きが何処か変貌したように思えたのだ。
地面に放り出された際に傷んだのかとも思えたが、違う。
受けた屈辱に対して、明らかに憤怒の表情を浮かべている。

『ヨウ、面白クナリソウジャネーカ』

不意にO.R.Fが下劣な笑みを浮かべて、マイソンの顔の隣に発現した。
忽ち、彼の表情が強張る。

「……一体、何をするつもり? 僕はもう君を……」

『制御出来ル、ダロ? ンナコター知ッテンダヨ。ダカラ俺ハ何モシネー』

ただ、とO.R.Fは呟いて、下劣な笑みをより殊更に劣悪に歪める。

『オマエガ何モシネーノハ、チョット問題カモシレネエナァ?』

O.R.Fの愉悦の表情に悪寒を植え付けられ、マイソンは視線を御前等の実へ押し戻す。
相変わらず怒気の横溢する面持ちでいるそれらは震えていた。
そして徐々に徐々に、肥大化していく。
マイソンが拾い上げた一つも、震えの余り彼の手から零れ落ちて、尚も変貌していく。

「……ッ、これは! スタンドこうげ……き?
 かは分からないけど『とにかくヤバい』気がするッ! 佐藤さん!」

マイソンは叫び、しかし遅い。
地面に転がる御前等の実は蔦を伸ばし、佐藤の足を絡め取った。
そのまま足払いを喰らい、彼女は勢いよく地面に倒れ込む。
同時に御前等の実が裂け、捕食の意図を露にした、凶悪な牙の羅列が暴露された。

「クッ……! 『O.R.F』ッ! 何とかして……じゃない、何とかするんだ!」

直後に自分自身さえもが蔦に捕縛されて、マイソンは叫ぶ。

『都合イイナテメー! マァ、テメーガ喰ワレチャ俺モ堪ラネー。ヤッテンヨォ!』

悪態と同時に、『O.R.F』が拡散する。
霧と化けた『O.R.F』の粒子は宙空で蝶の姿を得て、御前等の実に群がっていく。
群がる先の更なる仔細は、実が地面に忍ばせていく根の部分。

『随分トマア立派ニ成長シタモンジャネェカ。テメー自身ヲドウニカスル能力ハ俺ニハネー』

びきりと、不穏な音が地面から響いた。
『O.R.F』の能力『不運』は、言わば御前等の実の『幸福』とは対極の存在。
厄災の能力を以って『O.R.F』は地面の脆い地点に根を導き、低度の地割れを招いた。

157146 : ◇HQs.P3ZAvn.F:2010/10/10(日) 12:12:26
土台が揺らぎ、御前等の実がバランスを損なう。
実が傾き、その拍子にマイソンは蔦から解放され地面へ投げ出される。

「――って、これじゃあ……!」

『アー? アノキチ女達モ助ケロッテカ? 無理ダッツーノ。
 オマエジャァ出力不足ダ。制御出来ルノト最大出力ヲ発揮出来ルノハチゲーンダヨ』

返された答えに歯噛みして、マイソンは何も出来ぬまま歯噛みする。
――だが、何ら問題は無かった。
何も出来なくても、何もしなくても、全てを成せる者がそこにいた。

>「Sum41!!この触手は氷になるッ!」

披露された能力に、マイソンは息を飲む。
そして秘かに、戦慄を覚えた。

(そんな……スタンドによる発生物をものの一瞬で変質させるだなんて!
 強力過ぎる! いや、凶悪過ぎる……! 最早、殺人的なまでに!)

他人のスタンド能力によって発現した物質を一瞬で無力化する。
もしも対象がただの実ではなく本体とダメージを共有する物だったなら、この時点で本体は死亡している。
余りにも強力で凶悪な能力だった。

――曲がりなりにもワーストと呼ばれたマイソンが、恐れ慄く事を禁じ得ない程に。

>「明後日の午前11時に現地集合。
>それでいいでしょ?
>取り合えず、私帰るわ。」

「――えっと、じゃあ、僕も帰りますね……。一応、この体には帰る家がありますから」

何はともあれ事態は収まり、集団は解散となった。
その間のやりとりでもマイソンは上の空で、
恐ろしいまでに万能な能力を有するよねを、ただ驚愕の視線で見つめていた。

1587 : ◇HQs.P3ZAvn.F:2010/10/13(水) 22:15:28
とある廃屋、グリード・アヴァリティアの足元に一人の男が転がっていた。
ヴァン――正確には彼が器としていた男だ。
今となっては顔も身長も声も、何もかもを奪われた抜け殻だが。

「悪ィな。ちょっとばかし、必要なモンがあってな」

両者の勝敗は、一瞬だった。
勝負ですら無かった。
仲間を装いグリードが歩み寄り、隙を突いて一撃。
ただそれだけで、ヴァンは全ての情報と共に命をも奪われた。

「……チッ、テメエも『悪魔の手のひら』に関しちゃ何も知らねえか」

絶命と共に身体から抜け出たDISCを拾い上げ、頭に差し込んだ彼は、
しかし収穫が無かった事に悪態を吐く。
彼は悪魔の手のひらに関して、殆ど無知に等しい。
精々、『スタンドと、スタンドに更なる進化を齎す場所』とだけ知っている程度だ。
その為ヴァンが何かを知っているかとDISCの記憶を覗いてみたが、駄目だった。

続いてグリードはもう一枚のDISC、『ペーパードライバー』のDISCに手を添える。
『ハングドハント』の能力を以って、『紙に対象を封じる能力』の情報を奪おうとする。
――だが、叶わない。能力情報はDISCの淵で止まり、切り離せなかった。
グリードの能力の限界地点、他人のスタンド能力を切り取るには、出力不足だった。

「……こっちも駄目、と」

嘆息を零し、グリードはヴァンのDISCを無造作に放り捨てた。
誰も訪れない廃屋の片隅にDISCは転がり、死者の静寂に沈む。

「やっぱ、あの野郎を締め上げるしか手はねーよなぁ」

DISCが肉体と適合していられる制限時間もある。
対策は一応用意しているが――どうあれ間誤付いている暇はない。
ニューディバイドを直接叩き、情報を吐き出させる他に手はない。
彼はそう判断して、廃屋を後にした。

そして、彼は特に当て所なく街をうろつく。
すれ違う女や街並みの商店を眺めてみるも、どうにも食指が動かない。
彼は根本的に『欲しい物』を手に入れる為に悪事を働く。
心を揺らがせる美女がいる訳でもなし、力の限りを尽くして奪ってやりたい物がある訳でもなし。

だが、この北条市を出ようとは考えない。
ニューディバイドの手で心奥に忍ばされた、安寧と言う名の毒によって。
その為、余計にやり場のない鬱憤が募っていくのだ。

1598: ◇HQs.P3ZAvn.F:2010/10/13(水) 22:16:03
「オイ、そこのお前。あぁお前だ、お前。……そこで三回まわってワンと言ってみろ」

何とは無しにスーツ姿の通行人に『自分に従順である』情報を貼りつけ遊んでみるが、

「……つまんねえな」

やはり気分は晴れない。
貼り付けた情報を再び切り取って、その場から去る。
どうにも、グリードは退屈していた。

「……ん?」

しかし不意に、彼は立ち止まる。
剣呑に細めた双眸が、微かに見開かれる。

揺れる黒髪に、端正な顔立ち。
手足は細く華奢で、しかし女性らしい曲線は保持されている。
やや気の強そうな雰囲気は醸しているが、それが逆に魅力的とも言える。

グリードがかつて我が物とした女に、よく似た女がいた。
両の眼を研ぎ澄まし、口元を邪悪に歪めて、グリードはその女に歩み寄る。

「よう、いきなりで不躾だけどよぉ……お前の事が気に入った。俺の女になりな。
 悪くないぜ? 何せ俺は近い内に、この世界を支配する……王になる男だからなァ」

余りにも馬鹿馬鹿しい切り出しだ。
当然、女は彼の言葉をにべもなく切り捨てるだろう。

けれども、グリードは動じない。
女が承諾しようが断ろうが、彼は既に女をどうするか決めていたのだから。
即ち――『自分の物にする』と。

「まあそう言うなって。王様の女だぜ? つまりは女王だ。いい話じゃねえか」

邪な笑みは崩さず、彼は『ハングドハント』を発現する。
そして拳に『従順』の情報を載せて、女へと拳を放った。

【佐藤さんにちょっちチョッカイを。そんな長引かせるつもりはないので何卒お付き合いを……ッ!】

16010 :井筒由数 ◇Hlq/MADhas:2010/10/13(水) 22:16:42
「ディスターはどうした?お前は誰なんだっ!?」
夕闇に染まる北条市。その一角、市民会館にワーストの1人の怒号が響く。
集合したワースト達の中に、1人だけ見知らぬ男がいたからだ。
彼は、高そうなスーツに染み一つ無いハンカチを口に当て――その男の姿を見つめ返した。

「ディスター・クレイ。あぁ、彼か。彼なら今頃、崩壊した心を揺らしながら涎でも垂らしてるんじゃないかぁ?しかし、君の口臭は酷いなぁ。たまげたよ。
歯肉炎じゃないのか?もしくは、胃が腐っているのか。それとも――
魂が腐ってる、のか?んっぅ!?」

男が何かを叫んでいるが井筒は気にも留めない。
犬が罵声で叫んだところで無視する新聞配達員のように、冷静に粛々と。
中央に座る女性、影貫行方を見据えていた。
「運命の駒である事に代わりはないだろう。この男も、また新たなワーストである事には変わりない。」
美しい女性の横顔に、多少の欲情を催しながらも井筒は口に当てていた
ハンカチを懐にしまい女から漂う血生臭さと芳醇なる色香を愉しんだ。

「あぁ、私も彼(骸骨もどき)から聞いたよ。この街で、スタンド使いを
血祭りに上げる楽しいゲームの話だ。私はこの北条市の司法を掌っている。
何か問題があるなら、処方箋を上げよう。便宜でも、裏切り者の処分でもいいがね。」

市民会館の廊下をステップを踏みながら井筒は歩いていく。
そして、人の形をした1つの肢体を差し出した。
「まずは前祝い。私からのプレゼントを1つ。
目覚めたばかりで、何も出来なかった小便臭いガキのスタンド使いさ。
あ、そうそう。こいつは、もう使い物にならないよ。
私が1つめの力。―恐怖―で壊してしまったからね。」

涎を垂らし宙を見上げる少年。学生服は血に塗れている。
少年の首根っこを掴むと、影貫へ放り投げる。

「こいつは、罪を犯した。スタンドを使用し少女の体を汚し、そして自殺へ追い込んだ。だから私が裁いたんだ。実に気分がいい。
こんなに気分がいいのは、母親のコーヒーに押しピンを入れた時くらいだよ。
私は、人間は罪深い生き物だと思っているが――同時にその人間の欲望も愛している。
毎日、何かがないと退屈なんだよ。平穏なんてまっぴら御免だ。
だからこそ、君達―ワーストつまり、≪最悪の犯罪者≫―の手を貸すと決めたのさ。
さぁ、夜が来る。私は、今日もぐっすり眠るとするよ。
明日も、平穏じゃない日々が来ると信じてね。」

16111 :井筒由数 ◇Hlq/MADhas:2010/10/13(水) 22:17:27
【本体】
名前:井筒 由数(いづつ よしかず)
性別:男
年齢:30
身長/体重:176/60
容姿の特徴:紫色の髪(横分け)、痩せ型でスーツを着用、顔は北村一輝に似ている
人物概要:北条市検察の次長。しかし裏の顔は法律で裁けない犯罪者を
己の独断のみで殺害している。
歪んだ正義感の持ち主かと思われる。
ワーストの1人であったディックを再起不能に追い込み、新たなワーストとなった。
懲役年数:不明
被害者推定:不明

【スタンド】
名前:キングギドラ
タイプ/特徴:中距離系/人型
能力詳細:3つの顔を持つ人型のスタンド。それぞれの顔が
恐怖、希望、破滅を意味している。
アルカナ/11―正義

破壊力B スピードC 射程距離B
持続力A 精密動作性C 成長性C

16213 :影貫行方 ◇tGLUbl280s:2010/10/14(木) 20:15:32
夕立が止み夕陽が空を照ら始めた。
湿気に満ちた空気が落日の陽光を反射して、街全体を不吉な朱に染めていた。
謎の焼死事件以来、市民は誰も近づかない、通称『市民会館』の一室。
奥の壁には『10個の実をつけた逆さまの樹』のレリーフが掲げられている。

集うのは、仮初めの身体を持つ狩人……ワーストたちである。
只、数が揃わない。22人のワーストの内、数人がこの場に居なかった。
ワースト達はあくまで自由意思で行動している。
この日も影貫の呼び出しに応じた者のみが情報交換に集まっていた。
議題は、姿を消したワースト…アルカナ11『正義』を司るディスター・クレイの件。

扉が開き、男が入って来る。

> 「ディスターはどうした?お前は誰なんだっ!?」

男を見たワーストの一人が声を荒らげる。

> 「ディスター・クレイ。あぁ、彼か。彼なら今頃、崩壊した心を揺らしながら涎でも垂らしてるんじゃないかぁ?

男の不遜な態度にワーストはますます猛り狂い、掴みかからんと躍り出た。


ここにきて影貫行方が漸く種を明かす。
部屋の中央で薄笑いを浮かべるこの男……井筒由数がディスターを再起不能にし、アルカナ『正義』の地位を奪取した経緯を。
と言ってもごく簡単に、言葉少なに、だが。

「運命の駒である事に代わりはないだろう。この男も、また新たなワーストである事には変わりない。」

そして同じ目に遭わぬよう、各自自衛を固めよ…と。


井筒由数は凍り付いた場の空気を愉しんでいるようだった。
嫌味と言いたいほどの艶を放つ高級靴の靴音を響かせて部屋を歩き回りゆったりと出て行く。
しばらく後、戻った彼の背後には、三つ首の人影が顕れていた。何か黒っぽい物を引き摺っている。
引き摺られていたのは血塗れの学生服を纏った少年だった。白眼を剥き涎を垂らしている。


>「まずは前祝い。私からのプレゼントを1つ。
>目覚めたばかりで、何も出来なかった小便臭いガキのスタンド使いさ。

16314 :影貫行方 ◇tGLUbl280s:2010/10/14(木) 20:17:03
椅子から立ち上がった影貫は膝を屈め、
少年の頭部からはみ出したディスクを抜き出し『逆さまの樹』のレリーフに歩み寄った。
少年が使い物に成ろうと成らなかろうと、そんなことはどうでもいい。材料はスタンドのディスクだけで事足りるのだから。

レリーフを前にした影貫が何やら呟くと、ディスクはレリーフに吸い込まれ、
逆さまの樹の10個の実を結ぶ22本の直線的のうち一本が、ぼうっ……と青い焔を上げて燃え盛った。
…が、それも一瞬であとは静かに青白い光を湛えて発光するのみであった。
青く光る直線(パス)は全部で11本。

再び血塗れの少年の前に歩み出た影貫は、氷のような眼差しでその白痴の肉体を見下ろした。


「こんな生命の搾り滓でも幾ばくかの利用価値はある…
 『原初の混沌』たるアイン・ソフは生命を懐かしむ。
 アイン・ソフ…いや『悪魔の手のひら』よ!この者の命を食らうがよい!」


押し黙ったワースト達。影貫の声だけが木霊する。
刹那の静寂の後…

だらしなく口を開けている少年の周囲1m四方の床が渦を巻き始めた。
よく目を凝らせば、渦の中に大きな爪…のようなモノが見えるだろう。
渦より巨大な手が現れ…少年を掴み…渦の中に引き込んだ。
少年の身体を呑み込んだ床上の渦は、静かに凪ぎ始め、やがて元の形…リノリウム製の床に戻っていた。

影貫は床に落としていた視線を正面に戻し、声を張り上げる。


「まだ幼い……恵みをもたらすことも無い……が、呼び掛けに呼応して出現した……!
 運命の駒たちよ!径(みち)は半分まで到達している!あと半数!!
 径が全て揃えば『悪魔の手のひら』は完成する…!

 すなわち凡ての異能を生み出す完全なる力を!!
 力を欲せ!道を示せ!
 完成の暁には『径』の象徴たるそなた達も、必ずや力の恩恵を受けるであろう!!」


黒いローブの袖を一振りし、ワースト達の顔を見回す影貫行方。

暫しの沈黙を経て、場にいるワーストの面々は喝采を上げた。
幾人かの油断ならぬ目付きの者たちを除いては。


【・影貫の手に入れた生け贄ディスクはいつの間にか11枚(モブのスタンド使いが襲われたということでw)
 ・生命の樹の径(パス)が半分埋まったことで、ミニチュアの『悪魔の手のひら』を
  任意の場所に呼び出せるようになりました。
 ・まだ未完成のため何のパワーもない生命を呑み込むだけの渦巻きです。】

164115 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/10/14(木) 20:17:40
勤務後、佐藤ひとみは北条市の中心街に足を延ばしていた。
昨日擦りむいた手足は負傷箇所を触手製の人造皮膚を使って張り替え、今は傷ひとつ無い。
しかし人面果物に道路を引き摺られた時に着ていた服は再起不能に陥っていた。
駄目になった服への未練は新しい服で埋めるしかない。という訳で、行き付けのショップに向かい歩を進めていた。

早足で歩くひとみは不意に立ち止まった。
突如歩道に躍り出た男に進路を阻まれたからである。


> 「よう、いきなりで不躾だけどよぉ……お前の事が気に入った。俺の女になりな。
>悪くないぜ? 何せ俺は近い内に、この世界を支配する……王になる男だからなァ」


ひとみは男の顔をまじまじと見つめ、そして呆れた。
口元に邪な笑みを浮かべ、隠すことなく好色を顕にした視線。
ナンパの類いだろうが、確実に女を落とせると過信しているかの如き態度は不快を催すに十分なものだった。
顔付きはそう悪くないが、それ以前の問題だ。
世界を支配する…などという馬鹿馬鹿しい誘い文句も、口調は決して冗談めかしてはいない。

誇大妄想狂か…薬でもキメているのか…?
どちらにしろ関わり合いになるのはご免だった。


「悪いけど、急いでるから!」

素っ気なく言い放つと、立ち塞がる男を横に避けて先へ進もうとした。


> 「まあそう言うなって。王様の女だぜ? つまりは女王だ。いい話じゃねえか」


嫌らしい笑みを顔に張り付けた男はひとみの前に回り込む。
ひとみの右目は男の背後から影を剥がすように、うっすらと現れ出た人影を捉えた。

(…あれは…スタンド……!!)


男の拳が繰り出されるより一瞬早く、ひとみは逃げの姿勢に入っていた。
すなわちフルムーンを出現させ、触手で自らの身体を羽交い締めにし、フルムーン渾身のパワーで牽引し後ろに飛び退った。
男の拳がひとみの髪を掠め空を切った。
宙に浮いたひとみの身体は2mほど離れた地点に墜落した。
受け身は取ったが、また小さな打ち身と擦り傷をこさえてしまった。


痛みを声にする余裕もない。そのまま透明化モードを発動。
スタンドと共に脱兎の如く逃げ出した。
透明化の続く約3分間、息の続く限り走り続け、ちゃっかり目的のショップ付近に到着していた。
歩道の片隅に姿を現したひとみは、肩で息をつき呼吸を整えている。

「何?アイツ…スタンド使いなの……?ナンパにしては荒々しすぎるわ…
 まさかアイツもワーストなの……?」

ひとみは荒い息を静めながらフルムーンのシートを出現させ、出会ったばかりの男のスタンド能力の分析を試みた。


【また透明化で逃げパターンですw】

16516 :よね ◇0jgpnDC/HQ:2010/10/15(金) 19:31:35

――人に欺かれるのでは決してない、自分で己を歎くのである。


そこはどこまでも暗い、暗い闇の底。
もしも"地獄"というものが存在するならば、恐らくここはその"地獄"よりも更に深淵にある場所だろう。
即ち、世界の果て――

よねはその果てしない暗闇の中で横たわる"自分自身"をただ漠然と見つめていた。
現実世界とは完全に切り離された暗黒の中でひっそりと。

誰かの名前を呼ぼうとしても声が出せぬ。いや、体が動かせぬ。
正常な思考すらもままならない。まるで、年老いた人間が無意識に幼い日の記憶を手繰り寄せているような感覚。


――愚者も賢者も、共に害がない。最も危険なものは、半端な愚者と半端な賢者である。


よねは暗闇の中で遥か遠くに、眩く瞬く光が見えた。
だが、その光は四散しやがて花火の様によねに衝撃だけを与え消え去った。

よねは暗闇の中で遥か上に、真っ赤に輝く太陽が見えた。
だが、その紅は黒に塗りつぶされ、やがて太陽は月となった。

それらの事象がよねにとってどうでも良くなった頃。

よねが見つめていた"自分自身"がゆっくりと立ち上がる。
そしてよねの方を見て――ニヤリと笑った。


「…あ…?」

意識がハッキリとする。しかし、よねの身体は相変わらず暗闇の中だ。
よねは自分の部屋のベットの上で眠っていたのだった。

よねの体はよね自身の心地よくない汗でびっしょりとしていた。

「なんだったんだ、今のは…。夢、か?」

目が覚めて暫くすると、やがて夢の記憶は薄れていく。
時計に目をやるとまだ午前の、夜中の2時。
普通ならば再び眠りに落ちるはずだが、不思議と眠気は無い。

それに、よねは恐ろしかった。
再びあの暗闇の中に堕ちて行く気がしてならなかったのだ。
もはや殆ど記憶は残っていないが、それでも恐ろしかった。
何よりも鮮明、そして何よりも強烈に記憶に焼き付いてしまったモノが。

――自分自身の恐ろしく不気味な笑顔が。

16653 :米綾和 ◇0jgpnDC/HQ:2010/10/15(金) 23:15:10
御前等がよね達と接触していた頃、北条市立病院にて。

薄暗い部屋でペンの走る音だけが辺りを占領している。
一部を除いては平和な北条市、病室に4つ配置されたベッドの内3つが空きである。

『ふう…こんなところかな』

綾和は手にしていたペンを置く。
何枚も重ねられた原稿用紙を順番にまとめる。

一枚目、タイトルは《深層心理とその影響》。
米綾和は十年前、九頭によってアブダクトされるまで北条市にある大学で心理学について教えていた。
その時にちょうど書きかけだった原稿を見つけたので、再び筆を執ったのだ。

そこには少なからず自身のスタンド能力の経験も生かされていた。
スタンドと精神、心理学と精神。いずれも関連性はあった。

(今、私のようなスタンドと呼ばれる能力を持つものは肉体の世界を超え、精神の世界に踏み込んでいる…
では、更にその先の世界…すなわち深層心理の世界に踏み込んだなら…スタンドはどう変化してしまうのだろうか)

綾和は自身の中で終わらない探求を繰り返していた。

(いずれにせよ、私にはもはやスタンド能力と呼べるほどの能力は残っていない…)

ほうっと大きな溜め息をつくと、ペンを手に取りそれを指の上でクルリと回してみた。
ペンが美しい円を描き再び手の中に戻る。

そうした刹那に米綾和はふと思い出すのだ。
九頭龍一の手駒として生きていた、生かされていた時の事を。
自身の能力が真に目覚めた時の事を。そしてその能力で自身の息子さえも九頭の操り人形にした事も。

なにも忘れたわけではない。思い出せぬわけでもない。
ただ、あのスタンドの感覚が、まるでもう一人の凶悪な自分が存在するかのような感覚がやけに恐ろしく感じられるのだ。

もしかするとあの時、"精神世界のそのまた向こう側"へと踏み込みかけていたのかもしれない。

そんな事を考えながら綾和は読みかけのSF小説を手にとって読み始めたのだった。

16754 :米綾和 ◇0jgpnDC/HQ:2010/10/15(金) 23:31:53
――13年前、私が九頭龍一によって留流家に取り込まれる少し前のこと

その当時、私は現役の大学講師だった。
教えていたのは心理学。といってもやはりそんな学問を専攻する学生は少なく…

『…と、これがかの有名なパブロフの犬の話というわけです』

私自身も少々マンネリしていたのも事実だった。
毎日、当たり前の事を生徒に教え、当たり前の事を考え、当たり前の答えを導き出していく。

こうして人は単調なリズムを刻み、怠惰しつつもその安定した生活に甘えて一生を終える、
そんな事を考えて一人で苦悩していたこともハッキリと覚えている。

例え、あれから13年が経っていても――

だが、そんな私にある日突然、転機が訪れた。
とある学生が講義後、個人的に会いたいと申し出てきたのだ。

その日の夕刻、私の人生の中で"私"という存在が生まれた事の次に不思議な経験をした。
その学生曰く、この北条市にはある特別な、土地としての素質があるらしい。少し前に流行ったパワースポットの様なものだろうか。
何故その学生がそんな事を知っていたのか。当時の私にも、ましてあれから13年も経ったというのに現在の私にもまるで見当がつかない。

そしてその数週間後…奇しくも私はスタンド能力を得てしまう。
果たしてそれが"特別な土地としての素質"によるものなのか、他の何らかの起因によるものなのかは定かではない。

ただ、今になって"恐らくそうだろう"と言える事が一つだけある。


あの時、そんな学生は実在していなかった。

1686 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/02(火) 22:52:21
その日も相変わらずの暑さだった。
まだ午前中だというのに、分厚く白い雲が空に聳え、耳障りな蝉の鳴き声が熱気を帯びた大気に充満している。
強烈な日射しの作る影は不吉な程に濃く黒い。
ただ以前よりも僅かに薄くなった空の色が、盛夏も折り返しを過ぎたことを告げていた。


あたりは整然と舗装された道路。
歩道の脇には、最近植えられたばかりの街路樹がお仕着せのように等間隔に並んでいる。
建設途中の新興住宅地…といった所だろうか。周りはやたらに更地と休耕田が多い。
数件の民家が立っている他は車も人気もまばらで、ガランとしていた。


白い日傘の影がアスファルトに落ちる。日傘の作る影の中には髪の長い女が一人。
佐藤ひとみは人気の無い道路を歩いていた。
淡い水色のシフォン素材のブラウス、膝丈の白いタイトスカート、細いエナメルのベルト。華奢なヒールのサンダル。
決して活動的とは言えない出で立ちは、これから起こる狂騒とは不釣合いなものだ。


開けた視界の向こうに、空洞のようなこの場所に不似合いな大きさの建物が見える。
四方をケヤキ並樹に囲まれた鉄筋コンクリート造の建物。
外観からして3〜4階建てか。外壁は煉瓦風タイル加工の壁材で覆われている。
正面から見てて向かって右側の壁が大きく湾曲し円形に張り出していた。
全体の印象としてちょっと凝った造りの公的施設といった感じである。中々立派で洒落た造りだ。



ひとみは正門の前に立ち建物を見上げる。

―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――


重苦しいほどの青空を背景に聳え立つ建物は、遠近感が強調されたエル・グレコの絵画のように歪んで見え、
一種異様な存在感を放っていた。
壁のところどころに走るひび割れ、長年の風雨に晒された汚れ。
間近で見る建物は、遠目には写らなかった経年による劣化が見て取れた。

1697 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/02(火) 22:53:03

―――この建物は、通称『市民会館』。
スタンド使いを狩るために街に放たれていた"ワースト"の一員、マイソン・デフューの記憶から読み取った
ご本尊の本拠地らしき場所だ。
正門は、鉄の門扉に堅く閉ざされている。
門扉の格子の隙間を覘くと、劣化したアスファルトからちらほら雑草の生えた駐車場が見える。



腕時計に目を落とす。時刻は午前10時55分。
周囲に人気はない。

「あいつら信じられない!女を待たせるなんて。
待ち合わせ場所には15分前にスタンバイしとくのが常識ってもんでしょ…」

日傘を閉じ、街路樹の日陰になっているガードレールをベンチ変わりに腰を下ろし、ひとみは呟く。
最寄のバス停から暫く歩かねばならない辺鄙な場所だったので、到着時間の目測を誤った。
女は待ち合わせの時間通りに到着してはならない。安く見られるからだ。最低10分は遅れるべきだったのだ。

待ち合わせの面子を待つ間、ひとみはスタンドシートを出現させ、周囲100mの"スタンド能力者探知"を試みた。
反応は無い…が、どうもすっきりしない。
建物の中のスタンド使いの反応は建物内に入って確認するのが一番確かなのだが…。
こんな役所じみた建物が、本当に『悪魔の手のひら』なるオカルトじみた存在を狙う者たちの本拠地なのだろうか。
マイソンの記憶違いか思い込み…ということも考えられる。
記憶というものは主観のフィルターを通すことで歪められる。読み取った記憶が必ずしも事実とは限らない。



ふと正門に視線を移すと、いつの間に近寄ってきていたのか、門扉の向こう側に男が立っている。
警備員の服装をした愚鈍そうな大男だ。
スタンド能力者ではない。シートには反応が出ていない。


「見学希望の人?今日は会員限定のセミナーだよ。」
眠そうな目をした角刈りの警備員がひとみに問いかける。

「は?」
出し抜けに声をかけられたひとみは、思わず返答にならない一言を漏らす。


「見学希望の人?今日は会員限定のセミナーだよ。」
警備員は同じ言葉を繰り返した。


【待ち合わせ場所、市民会館の前でぐだぐだやってます。合流するもよし、後から参加も可能です】

1709 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE.:2010/11/02(火) 22:53:45
『やらないで後悔するよりやって後悔するほうが良い』。


受身体質な現代人に能動的積極性を促すスローガンであるが、大抵の人間がなんだかんだ言って前者を選ぶのには心理学的な根拠がある。
現状維持バイパスと言って、下手に動いて今より悪くなるぐらいなら多少の不満は堪えて今のままでも良いと思ってしまうものなのだそうだ。
綱渡りの最中に、一歩踏み出せば先に進めるけど足を滑らせて落ちる可能性を危惧してしまうのと同じだ。

得てして『やっちまった後悔』は酷い結果を生みやすい。『やりおおせた』なら始めから後悔しないからだ。
ではそういうたちの悪い後悔を回避するにはどうしたら良いのだろう。ざっくりと答えを出すなら、『命を賭ける』ことだ。
成功して助かれば後悔はそもそもしないし、失敗してもそれで死ぬのなら後悔すら感じない。素敵な理論だと我ながら惚れ惚れする。


後悔したくないならば――その一瞬に全てを賭ける。

それが人生における重大な選択の、『コツ』だ。



【――某月某日・北条市】


「暑い」

クーラーをがんがんに効かせた自室から出て開口一番、御前等は皮膚と交感神経を代弁した。
遠鳴りのように聴こえてくる蝉の声、呼気に混じって肺を侵す熱風、圧力を持ったみたいにじりじりと身体を抑えつける直射日光。
真夏にも関わらず長袖のチェックシャツとしまむらで購入したケミカルウォッシュのジーンズだが、流石に袖は捲らざるを得ない。

「飲み物……アイス……なんでも良い、何か手に入れなければ……コンビニにて購入せねばッ」

真夏日を乗り切る共として、しかし貧乏性が発動した御前等は最寄のコンビニではなくわざわざ徒歩20分もかけてジャスコに寄った。
従って、待ち合わせの時間ぴったりに家を出たにも関わらず遅刻したのは不可抗力、必定ゆえと言えよう。
さながらゾンビ(雑魚系)の如くふらふらぐだぐだ歩く御前等の視線の先、陽炎の向こうに白の特異点。

「佐藤さんか……誰と何を話しているんだ?」

一昨日指定された集合場所の『現地』――あれから北条町のGoogleMapをくまなく探索していた御前等は地図と同じ形状をそこに見つけた。
『市民会館』。近所の小学校が合唱コンクールをやったり、体育館でバトミントンをやったりする施設だ。
御前等の住む区とは違う区の管轄なので利用したことはないが、門扉が閉ざされているのを見るに今日は定休日だろうか。

3本ほどまとめ買いした野菜生活をストローでチビチビやりながら、非常にもっさりした足取りで佐藤へ近づく。
その手にはパンパンに膨れ上がったジャスコのビニール袋。大量のアイスとジュースを買い込み、更にドライアイスで保冷してある。

「やあ佐藤さんじゃないか、奇遇だな。この広い町で三日に二度もエンカウントするなんて運命の奴は乱数調整を誤ったな」

この男はいつも、いつでも白々しい。
まともな発言をしたことがないというのが彼にとっての矜持で、また過酷で混沌とした現実と自己と繋ぐ楔であった。
嘘である。

「メンツが揃うまで俺とUNOでもしてるか?水道管ゲームやモノポリーもあるぞ。あっ、アイスはダメよ、これは全部僕ちゃんのだからね」


【佐藤さんに合流。メンツが揃うまで足踏み】

17110 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/11/02(火) 22:54:22
「あっつ〜ぃ〜」
梅雨の存在などすっかり忘れたように快晴が続き季節は夏本番を迎える。
キャミワンピの裾を煽って風を入れても蒸した熱気が肌にへばりつくだけで効果がない。

生天目有葵は市民会館にむかって歩いていた。

「もう少し歩いたら、例の事件があったオバケ屋敷ね。心霊写真、撮れるかなー?」

生天目はオカルト雑誌に応募する心霊写真を撮るために市民会館に歩んでいる。
奇しくもその日は佐藤たちが市民会館に集合を約束した某日と合致していた。
これもスタンド使い同士は引き合うという法則がそうさせたのだろう。

「ありゃりゃ?」
市民会館の門扉の前で複数の人間が会話をしている。

「あれって…ひとみんよね?」

「隣のオトコは徳井と抱きついていたオトコだぞ」

ステレオポニーが現われて背中にくっつく。
生天目はそろそろと近づいて、流れとかあんまり考えないで話しかける。

「こんにちはっ。もしかして二人でデート?
へー。ひとみんってこういう人がタイプだったんだー意外ねー」

【合流しました】

17211 :井筒由数 ◇Hlq/MADhas:2010/11/02(火) 22:54:55
朝――市民会館

豪勢な食事をテーブルに並べ井筒由数の朝食は始まっていた。
オーガニックジュースを飲みながら井筒の目は市民会館の外へと向けられていた。
「いい朝だな。実に気分がいい。今日は、どんなハプニングが待っているかと思うと
ゾクゾクするよ。」

影貫に生ハムを勧めるがその横にいた痩男がそれを奪い取る。
生ハムに喰らいつきながら男は井筒の豪勢な食事に思わず唾を飲み込んでいる。
無理もないだろう。彼ら囚人はまともな飯にあり付けず、北条町でも
こんな辺鄙な場所で隠れている有様だ。
「そんなにがっつかなくても結構だよ。私の分も差し上げよう。」
井筒が食事を済ませハンカチで口を拭きながら男へ魚介のパスタを差し出した。
「お前、いつもこんな美味いモノ食ってんのか?」
パスタを口に詰め込みながら男は井筒の豪勢な食事について問う。
井筒は市民会館の外にいる2、3人の男女を見つけ口元を歪ませながら
それに答える。
「当然だろう。人間に生まれたからには、一番美味い物を食べて
一番気持ちの良い事をする。欲望を満たせない奴らは、自分をいいように
取り繕ってはいるが所詮は犬以下の存在でしかない。
君も、自分の欲望を果たす為に犯罪を行ってきたんだろ?
あぁ、そうだ。最後の質問だが、食事は警備員に運ばせた。」

呆けたような表情の警備員が井筒の横で突っ立っている。
そして井筒は影貫へ目配せをし、訪問者の到来を告げた。
「犬が来たようだ。それも複数、素晴らしいエサになりそうだ。」

【市民会館にて朝食、警備員を操り食事を運ばせた模様】

17312 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ:2010/11/02(火) 22:55:29
「あっついな…」
天野晴季は市民会館に向かっている
「本当暑い…気温下げよ…」
フリーシーズンで気温を下げ、涼む天野
「ふー…快適…」
市民会館に向かって歩いていき、到着した
「あれ…先客がいる。えっと…この前変な植物に捕まってた人と…よく知らない二人だ」
先に到着していた人たちのことを気にしてみる
「誰なんだろ…。まあ、いいか」
【合流…していいのかな】

17414 :よね ◇0jgpnDC/HQ:2010/11/02(火) 22:56:18
――スタンド使いは引かれ合う。

この事を考え、発見した人間は恐らくとても偉大な人間なのだろう、とよねは思った。
ある日の昼下がり。よねは連日の様に見る奇妙な夢―その内容は、思い出したいと思う様なものではなかった―に悩まされていた。
そして、その気分転換としていつもとは違うルートで散歩をしていたのだ。

北条市の市民会館。そこを偶然通りかかった時だ。
よねの眼に信じられない光景が飛び込んできた。

「あれは…佐藤さん?それにあの御前等っていう人も。あっちには、確か生天目さんだったかな?
 そして、自分…ここにいる全員が、スタンド使い…?」

どう考えても偶然などではない。これは明らかに"スタンド使いが引き合っている"ことの証明。
よねの経験上、スタンド使いが引かれ合うと、そこには確実に"戦闘"が発生することがわかっている。

(ハマさん…呼ばなければならないだろう。けれども、どこにいるかはわからない…これを逃すと次に戦えるのが"いつ"になるか…)

ハマは口実の一つだった。"戦闘"を欲する自分を少しでも抑制するための。
だが、よねは負けた。自分自身の精神に。そして市民会館の方へと歩み寄った。

「あれ、皆さん奇遇ですね。今日は何かあるんですか?」

【合流してみました】

17516 :影貫行方 ◇tGLUbl280s:2010/11/04(木) 20:17:22
白っぽい夏の陽光が鮮やかな色彩を作りだす野外とは打って変り、薄闇に満たされたこの空間――通称、市民会館の一室。
影貫行方はアンティークテーブルの上に十文字に並べられたカードの内、中心に位置する一枚を取り上げた。
捲られたカードには「∞」の形を模した帽子を被り、ステッキを手に持った男が描かれている。
―――アルカナⅠ『魔術師』―――
正位置は「創造」、逆位置は「混沌」を表すカード。
運命の転換期を彩るに相応しいカードだ。『混沌を創造し獲物を蹂躙せよ』――
影貫は唇の端を僅かに吊り上げ、冷たい微笑を漏らした。


ドアをノックする音が響く。
影貫は反射的にタロットの脇に置かれた黒檀製の杯に手をかけた。
ドアの隙間に立っていたのはワーストの一員。

――この街でディスクに適合する肉体を与えられているワースト達。
幸いにも北条市に生活の場を持つ肉体を提供された者は、肉体のかつての生活をなぞり潜伏している。
しかし、それを嫌って街中を徘徊する者、
或いは不幸にも犯罪者、逃亡者といった身を隠さねばならぬ因果を背負った肉体を用意された者は、
度々市民会館を訪れ資金を調達していた。中には市民会館を寝床代わりに使う者もいる。
因みに活動資金の収入源は、影貫が教祖を務める新興宗教団体へのお布施が9割を占めている。
業の深い殺人者の魂を持つワースト達だ。ディスクに適合する肉体の先の持ち主も「まともでない人間」というケースも多い。
今しがたドアを叩いた男もそんな逃亡者の肉体を持つワーストの一人だった。


男は、アルカナ『正義』の地位を奪い取った男――井筒由数の来訪を告げた。
何でも「朝食をともに」などと洒落た台詞を吐いて乗り込んできたと言う。
影貫は椅子から立ち上がり、大食卓の備えられた会議室に向かった。


食卓につく影貫は、黒いローブではなくクラシカルなデザインの喪服を身に着けている。
豪奢な朝食を口にしながら、井筒の垂れ流す講釈を耳に終始無言の影貫。
たまたま市民会館に居ついていたワーストもちゃっかり同席し料理にがっついていた。

>「犬が来たようだ。それも複数、素晴らしいエサになりそうだ。」


井筒の言葉と同時に、影貫の長い睫毛に覆われた暗い双眸に光が宿る。
左手にはめられた水晶の指輪には、市民会館の正門前に集う男女の姿が映し出されていた。
水晶に映るのは、能力により操る亡霊カラスの視点…文字通り鳥瞰図である。


食卓に手を付き、にわかに声を張り上げる影貫行方。

「好奇心という名の炎に引き寄せられた愚かな虫たちめ……。
この『遊戯』が成功すれば、手元のディスクは一気に増える……我らの悲願『悪魔の手のひらへの道』の完成は間近……!
もうすぐこの『場』は獲物を狩り出す為の『遊技場』と化す!
用のないワースト達は直ちにこの場を立ち去れ!」


食卓の端に腰を下ろしていた中年の男に視線を移し、言葉を続ける。
「サクラダ……お前も奴らの侵入を確認したら能力を解除し、この場を退去してよい!新たな居城に向かえ!」

影貫は食卓に持ち込んでいた黒檀の杯を手に立ち上がった。


【・鬼ごっこが始まるので用のないワーストは避難指示〜!用のある(敢えて鬼ごっこに参加する)ワーストはいていいよと。
 ・「サクラダ」は1部に登場した大谷さんの天敵「桜田恵介」です。…スタンドは探敵能力を無効化する黒い霧「スリラー」
 ・実はワーストの一員だったということでw。アルカナは「隠者」あたりで】

17617 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/04(木) 20:18:00
――― 一方、カラスの亡霊が上空を旋回する正門前。

出しっぱなしのスタンドシートには、能力者を表す複数のマーカーが一点を目指して集う様が表示されている。
ガードレールに腰を引っ掛けて警備員と向かい合っていたひとみは、集合する面々に視線を向け直した。


まず、現れたのは一昨日の騒動(人面フルーツ暴走)を誘発した張本人…路地裏に件の果実を抱えて乱入してきた男だ。
…何故この男がここに…?当然の疑問が頭を過ぎる。
よく考えると、集合場所を全員の携帯に送信した時にドサクサに紛れてこの男も携帯を差し出していたような気がする。
あの時は脳震盪の後遺症でボンヤリしていた為、違和感に気づかなかったらしい。
――何しに来たのか分からないが随分物好きな男だ……
ひとみは呆れたが馴れ馴れしい態度の男を無視し、新たに歩み寄る3人の男女に興味を移した。


陽炎の向こうから、青年、少女、少年が一定の距離を置いて近いづいてくる。
―――よね、生天目有葵、それに路地裏で見かけたハンチングの少年だ。


>「こんにちはっ。もしかして二人でデート?
> へー。ひとみんってこういう人がタイプだったんだー意外ねー」

有葵の台詞を眼力で牽制し、よねに向かって言葉をかける。


「何が『奇遇ですね』よ…!トボけてんの? 一昨日集合場所をメールしたでしょ?
 まさか忘れてて偶然こんな辺鄙な場所に辿り着いたって言うの?それ何かの冗談?」


たった数分間待たされた苛立ちを乗せて、よねに棘のある言葉を投げつけるひとみ。
しかし内心はこの偶然に舌を巻いている。
待ち合わせ場所を伝えていたフルーツ男とよねがここに現れるのは当前として、
残りの2人が同地同刻に現れたことは偶然にしては出来すぎている。
当のひとみも約束を反故にしたつもりでいて、偶然約束の時刻に神条少年に遭遇した経験がある。
スタンド使い同士には、こういった不可解な"引力"が働くのだろうか。

17718 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/04(木) 20:18:30


興味の矛先を変えたひとみに焦れたのか、再び口を開く警備員。
「見学希望の人たち?今日は会員限定のセミナーだよ。」

ひとみは正門の方に振り返った。
「セミナー…?セミナーって内容は?」ひとみは咄嗟に問いを問いで返した。

「さあ…そんなことよりあんた達、見学希望の人?」警備員は繰り返す。

「ええ…まあ…」警備員の要領を得ない態度に見切りをつけ、ひとみは曖昧に同意を示した。


ひとみの能力によると、現在建物の中にスタンド使いは居ない…が、このまま帰るわけにも行くまい。
そもそも偵察に来たのだ。中を見ておくべきだろう。
警備員は錆びかけた重い門扉を開き、ひとみを中に招いた。
ひとみの後に続く者が敷地に入っても警備員は特に拒む様子はない。


市民会館の入口は、こういった施設には珍しい木製の両開き扉だった。
扉は固く閉ざされ、中を伺うことは出来ない。
警備員は入口の手前にある警備窓口からボードに乗せた書類を取り出した。


「見学希望者は身分証を提示の上、この書類に記名してもらう規則なんだよね。身分証ある?」
張りのない態度で書類を差し出す警備員。
同じ言葉ばかり繰り返すこの警備員、いわゆる『お使い仕事』しか出来ないタチなのだろう。
かけ合ってみても埒が明かない。
ひとみは手っ取り早く中に入るために警備員に免許証を見せ、差し出されたボールペンを手に取り書類にサインした。
書類を受け取った警備員は、他の面々に「どうする?」とばかりに書類を見せ付けた。


【引き続き市民会館前でぐだぐだ。書類にサインしたらすんなり入れます。
 市民会館イベントは、今合流していない方でも参加可能です】

178御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/11/05(金) 01:36:42
>「こんにちはっ。もしかして二人でデート?へー。ひとみんってこういう人がタイプだったんだー意外ねー」

「ふふふ……そう以外でもあるまい。俺ほどのハンサムガイなら老若男女に引く手数多だ、もちろん君もなっ?」

話に割って入ってきたキャミソールの少女に指鉄砲をつくって撃つ動作をする。
不可視の弾丸は少女のハートを撃ちぬいた。御前等がそう思うならそうなんだろう。御前等の中では。

>「あれ、皆さん奇遇ですね。今日は何かあるんですか?」

>「何が『奇遇ですね』よ…!トボけてんの? 一昨日集合場所をメールしたでしょ?
  まさか忘れてて偶然こんな辺鄙な場所に辿り着いたって言うの?それ何かの冗談?」

「何ッ?一昨日の時点でみんなで楽しく遊ぶ計画をしていたのか!?馬鹿野郎何故俺を呼ばなかった!
 ナチュラルにハブられて僕ちゃん涙目だぞ!でもよく考えたら誰も俺のメルアド知らねえわ。フヒヒっ」

アドレス張に記されているのは父と母と妹と、あとはこっそり赤外線通信した吉野ぐらいである。
つい最近まで電話帳機能すら使っていなかった。家族三人の電番程度なら諳んじれるからだ。

>「見学希望の人たち?今日は会員限定のセミナーだよ。」
>「セミナー…?セミナーって内容は?」

それを尻目に警備員と佐藤とのやりとりは本題に迫っていた。
佐藤の肯定に警備員は浅く頷き、静かに門扉を開放する。休館日かと思っていたが、どうやら内輪でのイベントのようだ。

(というかこれは一体なんの集まりなんだ……?ついノリで集合してしまったが、今日の俺はびっくりするぐらい情弱だぞ)

中に入るには門扉を超え玄関を突破しなければならない。警備員は後者までは開けてくれなかった。
どうやらここで受付をするらしく、身分証の提示と書類への記入を求められる。
佐藤が先んじて手続きを終え、後続を待っていた。御前等は学生証があったのでこれを見せ、書類を受け取った。

「佐藤さんや、この期に及んでアンタの行動にケチをつける気はないが、この中で行われているのがなんのセミナーなのか把握せず突入していいのか?
 公共施設での政治的宗教的集会は禁止されているが、危ないマルチ商法や自己啓発だったどうする。
 俺達はどう贔屓目に見てもただのお友達グループじゃあない。ありがたいお話を聞いて真っ当な人間になるつもりはないんだろう?」

『イケメン谷ハンサム太郎』……さらさらと書類にサインし、ペンを置く。
振り返り、後に続いてきた者達を見る。キャミソール女、よね、あとなんかよくわからんハンチング帽の男。

「目的をはっきりさせておこう。後悔なき航海には絶対の指針が必要だ。
 見知らぬ顔もいることだし自己紹介も兼ねてまずは俺から。俺はイケメン谷ハンサム太郎、――暇なので遊びに来た。はい次の人!」


【書類にサインし佐藤さんに続く。せっかくなので雑談程度に各々のここへ来た目的を質問】

179生天目 ◆gX9qkq7FNo:2010/11/05(金) 21:59:52
「ぁ…ぅ…(その眼力はやめようね…)えへへ…」

佐藤の眼力によって生天目が感じたものは『闇』
空が白みはじめると共に、またたく星が夜明けの太陽のまえに霞んでいってしまうように、
たぶん、昼のあいだ夜が隠れていたとしても佐藤は『闇』に囚われ続けているのだろう。
そんなあえかなる悲しみのこもった瞳に生天目は言葉を失ってしまったのだ。

(狐でも憑いてるのかしらね)
パシャ。デジカメで佐藤をこっそり撮ってみた。デジカメの画面には何かが写りこんでいたが、
はっきり写り過ぎていたために生天目は気がつかない。そこに本当に人がいると思ってしまう。
(荒らしがデジカメに写っています。本編とは関係ありましぇん)

>「ふふふ……そう以外でもあるまい。俺ほどのハンサムガイなら老若男女に引く手数多だ、もちろん君もなっ?」

佐藤の眼力で凍りついていた生天目の心は御前等によって撃ち抜かれ粉々に砕け散る。

>「あれ、皆さん奇遇ですね。今日は何かあるんですか?」

>「何が『奇遇ですね』よ…!トボけてんの? 一昨日集合場所をメールしたでしょ?
  まさか忘れてて偶然こんな辺鄙な場所に辿り着いたって言うの?それ何かの冗談?」

>「何ッ?一昨日の時点でみんなで楽しく遊ぶ計画をしていたのか!?馬鹿野郎何故俺を呼ばなかった!
 ナチュラルにハブられて僕ちゃん涙目だぞ!でもよく考えたら誰も俺のメルアド知らねえわ。フヒヒっ」

「……偶然ってあるものね」生天目は独語した。

そして、生天目個人としてはオバケ屋敷と噂されていた市民会館が生きていて
警備員までいることに、少し驚きながらもノコノコついていく。

>「目的をはっきりさせておこう。後悔なき航海には絶対の指針が必要だ。
 見知らぬ顔もいることだし自己紹介も兼ねてまずは俺から。俺はイケメン谷ハンサム太郎、――暇なので遊びに来た。はい次の人!」

学生証をみせたあと書類を受け取って名前を書こうとしたら御前等がみんなに問いかけてきた。

「…えっと…私の名前は生天目有葵(なばためゆあ)。
あなたの名前ってイケメン谷ハンサム太郎さん?まじで?
私は心霊写真を撮るためにここにきたのよ。…はい次の人!」

さらさらと書類にサインを書きながら受け答えをする生天目。
『生天目ハンサム太郎』……。
書いている途中でハンサム太郎が頭に入ってしまって自分の名前をハンサム太郎と書いてしまった。
生天目のアホは今日も健在だ。

よねは九頭龍一との戦いで遠くから見ていただけだったし、
もう一人のハンチング帽の男はというと全く知らない。無意識で生天目は佐藤の傍に少しだけ近づいた。

【生天目の目的は市民会館で心霊写真を撮ること】

18031 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ:2010/11/06(土) 23:00:27
>「ふふふ……そう以外でもあるまい。俺ほどのハンサムガイなら老若男女に引く手数多だ、もちろん君もなっ?」
(ハンサム…ガイ? 面白い人も居るもんだなぁ…)

>「見学希望の人たち?今日は会員限定のセミナーだよ。」
>「セミナー…?セミナーって内容は?」
警備員らしき人と植物に襲われていた人が何か話している。セミナーとは何のことなのだろうか

>「目的をはっきりさせておこう。後悔なき航海には絶対の指針が必要だ。
 見知らぬ顔もいることだし自己紹介も兼ねてまずは俺から。俺はイケメン谷ハンサム太郎、――暇なので遊びに来た。はい次の人!」
「イケメン谷ハンサム太郎さん…ですか。長いですね…。池谷半太郎さんで良いですか?」
とりあえず挨拶的なことをする天野
「…えっと…私の名前は生天目有葵(なばためゆあ)。
あなたの名前ってイケメン谷ハンサム太郎さん?まじで?
私は心霊写真を撮るためにここにきたのよ。…はい次の人!」
「ええと…次は僕で良いですか? 僕は天野晴季。暑いのでこっちで研究しようと思って来ました」
書類にサインをしながら言う天野
『天野晴季』…。
「ん?」
そこで一つ前の生天目のサインを見る
「あの…生天目さん…でしたっけ? 名前がハンサム太郎になって…ますよ…?」
遠慮がちに話す。結構人見知りするようだ。向こうも心なしか植物に襲われていた人の傍に寄った気がする

【天野の目的は気象とか気温とか、そういったものを研究すること】

18134 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/10(水) 20:37:22
周囲の空き地に茂った夏草が、通り抜ける風に身を伏せ一斉に音を立てる。
立ち上る入道雲を背景に聳える通称「市民会館」。正門を挟んで立つ警備員と数人の男女。
一行は開かれた門をぞろぞろと通過し、次いで警備員が要求した署名に取り掛かる。


サインを済ませた果物男――警備員に差し出した学生証によると「御前等裕介」――は、
馴れ馴れしくひとみに擦り寄り耳打ちしてくる。

>「佐藤さんや、この期に及んでアンタの行動にケチをつける気はないが、この中で行われているのがなんのセミナーなのか把握せず突入していいのか?

「煩い、ちょっと黙ってて。ていうか、あんた何でついてきてんの?」
小声の叱責と共にチラと怒りを込めた流し目を送り、男の言葉を遮る。

自分達は「セミナー見学希望者」として入館手続きをしているのだ。
たとえこの男が協力を望んでこの場に来ているとしても、警備員の前で真相を話せるわけが無い。
そもそも、示し合わせて偵察に来たよね以外の面子が、ぞろぞろと会館内まで付いて来る理由が分からない。
仮に危険があったとて忠告してやるほどの親切心というものが、ひとみには無い。
面々は勝手に自己紹介を始めている。
有葵は心霊写真を撮りに、ハンチングの少年…天野晴季は図書館代わりの涼しい勉強場所を探してやってきたのだとか。
つくづく物好きな者達だ。


入口前でたむろする面子全ての署名が終わると、警備員はのろのろと両開きの扉を片方ずつ押し開いた。
まるで電池の切れかけた玩具のような、ぎこちない動きだ。
ひとみは扉に手をかけたままの警備員の横を抜けて会館の中に入った。
冷房の効いた館内の空気が肌に張り付き、一気に汗が引いていく。



全員が建物に入り終わった直後……

―――ボンッ……ドグシャッ―――


変わった物音が響いた。
柔らかいものが内側から弾ける破裂音。
音のした方……今しがた通り抜けて来た扉に向かって振り返ると……


建物の内と外を分ける境界線―――開いた扉の作り出す四角い空間の中央に、外光を背に受けて警備員が立っている。
但し、つい数秒前とはすっかり相好を変えて……
警備員の眉から上は無残にも吹き飛び、むき出しの白い頭蓋の中に赤い肉片と灰色の脳味噌の混合物を覗かせていた。

18235 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/10(水) 20:37:58


「キョウはカイインゲンテイのセミナーだヨ……カイインゲンテイのセミナーだヨ…」

眼球を左右に激しく動かし、壊れたサウンドプレイヤーの如く同じ言葉を単調に繰り返す警備員。
開いた頭蓋から一筋の煙が上がっている。
その凄惨な光景から目を背けなければ、何か光るものが頭部に刺さっているのが見えるだろう。
―――ディスクだ。直径7cm程の小型のディスクが崩れた脳の残骸に突き刺さっている。
立ち上る煙は次第に大きくなり、やがて―――バンッ!――と音を立てて爆発した。
眼球や歯を含む肉片が飛び散り、警備員の左右に開く扉にべっとり張り付いた。
二度目の爆発によって頭部はほぼ消失し、首の上には下顎と舌だけが残されていた。
警備員の身体は直立したままドサリと後方に倒れた。


警備員の骸を外に残し、入口の扉が勝手に、ゆっくりと閉じていく。
―――バタン!
扉が完全に閉じると同時に、けたたましい電子音が鳴り響いた。


『ご契約ありがとうございマーーース!たった今からここは僕と楽しく遊ぶためのプレイランドだよ♪
 みんなーーーー♪僕のプレイランドにようこそ!!』


やけに甲高く楽しげな声が会館中に響く。どこかで聞き覚えのある声だ。


閉じた扉の前、床の上にボードに乗った書類が落ちている。警備員が落としたのだろう。
ボードから書類がふわりと浮き上がった。空中に浮いた書類は端々から輪郭が崩れ白い霧に変化していく。
霧はくるくると渦を巻き小さな竜巻となって、ひとみ達の脇をすり抜けていった。
竜巻の通り過ぎた後、上から紙が落ちてくる。
紙はひとみ達が署名した書類だった。しかし文面が変わっている。書類を読むものは以下の文面を目するだろう。



――契約書――
私ことエイドリアン・リムを甲、署名者を乙と表記する。

第1条…甲は市民会館内部に創造された『場』の支配権を有する。

第2条…『場』の創造以降に『場』に侵入した者は、契約によって生ずる権利又は義務を請け負う者とする。

第3条…乙は甲の承諾を得ずに『場』の外に出てはならない。

※詳しいことはホールで説明するよ♪ ホールでコンニチハだね♪ 皆と遊べるのが楽しみだな♪



【警備員はNDに自分の記憶ディスクを抜かれて変わりに偽記憶の簡易ディスクを埋め込まれていたんですねー
 だから同じ事ばかり言っていたということでw
 ホールに向かうまでの繋ぎに状況、事情説明などを入れたいなと思ってます】

183御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/11/11(木) 00:13:45
一通りの自己紹介を終えて、佐藤を筆頭にした北条愚連隊は市民会館へ突入する。
後に続く者のうち初対面だったキャミソール女は生天目、ハンチングは天野というらしい。
各々が各々の目的を述べ、そのどれもが見事なまでに噛み合わない奇妙な一団だった。

突然だがちょっとここからダイジェストで説明するぜ!
警備員によって扉の中へと誘われた御前等達!入った瞬間後ろでくぐもった爆発音、そして水音!
振り返るとそこにはッ!なんとなんとなんと眼から上すなわち脳味噌が綺麗に吹き飛んだまま直立不動の警備員!!

「あらやだグロい」

毎日鏡と対面することで人並み外れたグロ耐性を獲得していた御前等はちょっとやそっとじゃ動じない。
が、目の前で人が死んだということはすなわち『一歩間違えれば自分が死んでいた』ということである。
実感できない人の死とは裏腹に、自分の危機だけは鮮明に予想がつき、さしもの御前等もこれにはブルった。

(優先すべきはッ!『俺の安全』!!――他の誰の命もこれには代えられないッ!!)

「『アンバーワールド』ッ!最優先で俺への攻撃を警戒しろッ!!」

反射的にスタンドを顕現する。歯車の意匠を随所にあしらった硬質な偉丈夫は正しく彼の傍へ立つ。

>「キョウはカイインゲンテイのセミナーだヨ……カイインゲンテイのセミナーだヨ…」

「佐藤さん、このパターンはヤバいぞっ!ここで打つ手を間違えば俺達もスプラッタの犠牲者だ!」

御前等は猛烈に帰りたかった。帰宅して三ヶ月ほど部屋に引き篭っていたかった。
しかしながら帰るにはグロい死体の間を通りぬけねばならず、彼らの『死の条件』が立っている『場所』だった場合、
不用意にそこへ近づくのは危機判断にはばかられた。篝火に自分から突っ込むバッタみたいなものだ。

「って、ああっ!そうこうしているうちに扉が……!」

固定されていない観音開きは勝手に閉じていく仕組みだ。たまらず御前等は駈け出し、死体の傍まで肉薄して。
――再び起こった肉の爆発にビビって足を止めた。飛び散る肉片をスタンドで防ぎ、情けない声を挙げて後ずさる。
扉はゆっくりと、そして無情にも閉じていった。膠着と牽制。様式美に乗っ取るなら、最早正面からのお帰りは叶わないだろう。

>『ご契約ありがとうございマーーース!たった今からここは僕と楽しく遊ぶためのプレイランドだよ♪
  みんなーーーー♪僕のプレイランドにようこそ!!』

見計らったように甲高い電子音。
地獄を体現したようなアナウンスは、完膚なきまでに御前等達を『そういうパターン』に落とし込んだ。

(どこの三流スプラッタだ……ホラー映画の法則に則ればここで派手に動くのは得策じゃあない。人柱を待つか――)

184御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/11/11(木) 00:14:52
足元に先程契約した書類が舞い落ちてきていた。
現状を打破するヒントか、はたまた絶望を上乗せするお便りか。祈るような気持ちで御前等はそれを拾いあげる。

(前者来い!前者来い!前者来い!前者前者前者前者前者!!)

『契約書』――
それは改変された書類であり、この空間における先んじた案内。

「『後者』でしたァー!!  バァァーン」

御前等は自分の契約書を綺麗に折り畳むと感性の赴くままむしゃむしゃと食べた。咀嚼し、嚥下した。

「クソックソッふざけやがって!俺は遊ぶのは大好きだが遊ばれるのは三度の飯より嫌いなんだよォーッ!!
 ああしまった食べるんじゃあなかったッ!どうせならケツでも拭いてやればよかった!今朝から一回も拭いてないからなッ!!」

御前等は神経質にその場でぐるぐると歩き回ると、不意にブリッジしてケタケタと笑い始めた。
逼迫する空間内のプレッシャーに耐えられなくなったので早々に幼児退行することで心を護ったのである。

「バカめ!こんな不気味な幼児がいてたまるか!ちくしょう腹いせに意味不明な行動をしてやる!」

御前等はブリッジしたまま器用に飛び跳ねると、佐藤とか生天目のまわりを犬のように駆けまわり始めた。

「こんな殺人犯がいるかもしてない館にいられるか!俺は帰らせてもらうもんネッ!!」

器用にブリッジからバック宙を決めると(スタンドでズルした)、御前等は誰の忠告も聞かず真っ直ぐに扉へ向かった。
死体の間を通り抜けるには覚悟が必要だったのでアンバーワールドを先行させとりあえず施錠の有無を確かめる為に軽く押す。

普通に開いた。
驚くほど軽い手応えだった。

「おおっ、まだ出られるぞ!ヒャッホー俺は助かったんだーっ!!」

小躍りしながら御前等は死体の間を一息にすり抜け、扉の外へと身を放る。
外は未だ夏真っ盛りで、陽光も陽炎も蝉の声も熱くなった鉄門扉も何一つ変わらずそこにあった。

ただ一つ。御前等の体に兆した変化を除いて。

「ギャー!なんじゃこりゃあ……!!」

敷地の外を踏んだ途端、日光に当たっていた部分が蒸発するように煙を上げ始めた。
咄嗟に腕を引く。爛れてはいなかったが、結構縦横無尽に生えていた腕毛が綺麗に消滅している。

「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」

死にかけのフナムシのように抜かした腰でカサカサと市民会館に帰還しながら、御前等は絶望的な口調でそう言った。


【とりあえず外へ逃げようとして失敗。ホールへの誘導をお願いします】

18540 :よね ◇0jgpnDC/HQ:2010/11/12(金) 22:07:53
もっと警戒しておくべきだった。
目の前の警備員の頭部が吹き飛んだ時、よねは自分の行動に後悔していた。

そもそもスタンド使いが引かれ合っている時点で"何か"があるのは間違いないのだ。
それにも関わらず、何のためらいもなしに契約書にサインをしてしまった。

「どう考えてもスタンド攻撃でしょうね。恐らくこの契約書が攻撃の起点…。
 あるいは、ただ純粋に遊びたいだけの可能性もありますが……」

チラリと先ほどの警備員の肉片に目をやると、それはないでしょうね、と付け加えた。

確かによねは後悔していた。だが、それでもよねの欲望は確実に満たされ始めている。

/「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」

御前等が意味不明な行動を取った後、どうやら脱出を試みたらしい。
しかし、結果は失敗。契約書通り『場』―恐らく市民会館のこと―の外に出てはならないらしい。

「なるほど……どうやら本当にプレイランドみたいですね。ここは甲、即ちエイドリアン・リムの手の上。
 完全に"敵"の領域。こうなった以上、逃れる術は無いかと…」

絶望しきっている御前等に冷静を装って言う。
ここでよねが恐ろしいまでに気分の向上を感じているということを他の人間に悟られたくなかったのだ。
悟られれば"戦闘を楽しむ人間"と認知されてしまう。それだけは避けたかった。

(何故だ…一体どうして自分を偽る必要が有る?なぜ戦闘を楽しんではならないのだ…?)

よねはそんな事を考えながらボーっと突っ立っていた。
無意識下で自問自答を繰り返していた。
我に返ったよねは不意に自身が恐ろしくなって、一度大きな溜め息をついた。

【状況把握&整理。佐藤たちと同じ場所にいます。】

18641 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5:2010/11/14(日) 01:14:22
>「あの…生天目さん…でしたっけ? 名前がハンサム太郎になって…ますよ…?」
「…戦場カメラマンみたいな話し方ね」と生天目。

「でも建物の中に入れてよかった。警備員さんがいるから入れないかと思ってたんだ」
生天目はどうしても心霊写真をとりたいらしい。

――そうこうして生天目は後悔していた。

「このメンバーってさ!やっぱり混ぜるな危険なのよ!!」

変わり果てた警備員の姿に驚いて猫ジャンプ。
放り投げられたデジカメはというとリノリウムの床に転がっている。
ほんの少し荒くなる呼吸に、何故か頭に浮かんでいるのは九頭龍一。
冷房の効きすぎというわけでもなく体がチクチクし始める。
まわりを犬のように駆け回っている御前等も恐怖に拍車をかけている。
これがトラウマというものなのだろうか。
あの時、硬質化した髪の毛で蜂の巣にされたあと一瞬で鬱になり、お菓子を貪っていた生天目。

>「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」

>「なるほど……どうやら本当にプレイランドみたいですね。ここは甲、即ちエイドリアン・リムの手の上。
 完全に"敵"の領域。こうなった以上、逃れる術は無いかと…」

「あなたってよくそんな冷静でいられるわね!逃れるすべはないって…ありえないからっ!
なんとかしなきゃ!ね?ひとみん!!」生天目は軽いパニック状態になっていた。

【スタンド攻撃にトラウマ。ホールへ誘導お願いします】

18742 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/14(日) 01:15:06
―――ボンッ……ドグシャッ―――

破裂音を聞いて振り向いた者の目に焼き付いたのは、頭半分が吹き飛んだ警備員の姿。
一瞬の隙を突いて起こった異常な事態――ひとみは反射的にスタンドを発動して身構えた。

―――何よこれッ?!スタンド攻撃?!

スタンドシートを出して反応を確認する――が、警備員の死骸付近にスタンドの気配は無い。
これまでに出会ったスタンド使いを基準に判断すると、一般的にスタンドのパワーは射程距離と反比例する。
一撃で頭を吹き飛ばすほどのパワー…遠隔操作型とは考えにくい。
それなのに、この建物付近100m以内に自分達以外のスタンド使いの反応が出ないのだ。
二度目の爆発の直前…ひとみの目は警備員の頭に刺さっていた銀色の円盤――小型ディスクを捉えた。
*************************************************


>「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」
会館内をブリッジで這い回っていた時とは裏向きの体勢…つまりうつ伏せの腰砕け状態で、扉の外から御前等裕介が帰還する。
白い粒子が漏れ出し輪郭がぼやけていた御前等の身体は、会館の中に収まった途端に収束し安定した。
カサコソとゴキブリじみた動きで這い寄る男の背中を、ひとみはサンダルのヒールで思いっきり踏みつけた。


「いい加減にしなさいッ!!今すぐその人間離れした動きを止めないと、あんたから先にブッ殺すわよ!」
ひとみはヒステリックな声を上げて御前等の動きを制止した。

「もうテンパッたってどうにもならないわ!私達はここから出られない!閉じ込められたのよ。」


ひとみの視線は最寄りの窓に向いていた。
視線の先に居るのは、自らのスタンド『フルムーン』
眼球を野球ボール大のケースに収めたそのスタンドは、開け放たれた窓の外に向けて数本の触手を伸ばしていた。
外気に晒された触手は先端から白い霧を上げ気化し始めている。
触手を導火線代わりに近づいてくる霧に気づいて、ひとみは勢いよく窓を閉めた。
窓枠によって断ち切られた触手の残骸は、空気に溶けるように拡散し消滅した。


背中に靴跡をつけた男を指差し、ひとみは少しだけ声のトーンを抑えて言葉を続けた。

「この馬鹿が頼みもしないうちから実験してくれたから、確かめる必要も無かったんだけど…
 見たでしょう?この建物の外に出るとああなるのよ…私達自身だけじゃなくスタンドもね。
 何が『第3条 場の外に出てはならない』よ!禁止じゃなくて強制じゃない!『出られない』って最初から書きなさいよ!」


床に散らばった紙の中から自分の署名の入った書類を拾い上げ、暫し考え込んだ後に再び口を開く。

「……発動に条件のあるスタンド……そんなスタンドがあるっていうの…?
 でもこの状況…よね君、あんたの言う通り『契約書』へのサインが攻撃のきっかけと考えるしかなさそうね。
 私達こんな所まで出向いてまんまと網に掛かったわけね……馬鹿みたい…!
 近くにスタンド使いの反応が無かったから油断したわ。
 ……何よ、あんた達?その目は何…?最初にサインした私が悪いって言うのッ?!
 あんた達だって何の疑いも無くサインしたじゃないの!それって自己責任でしょッ!」

一同から向けられた視線と重苦しい空気に耐えかねて、ひとみはついに上擦った声を上げた。

18843 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s:2010/11/14(日) 01:16:04
>「なるほど……どうやら本当にプレイランドみたいですね。ここは甲、即ちエイドリアン・リムの手の上。
>完全に"敵"の領域。こうなった以上、逃れる術は無いかと…」

やけに落ち着き払った態度で、よねが口を挟む。違和感を感じるほど達観した口調。
取り乱している自分が馬鹿らしくなるじゃないか。
ひとみは強引に平静を取り戻して話を続けた。


「とにかく異変の原因と相手の能力を見破って、外に出る方法を探すより他無いわね。
 本体を叩くのが手っ取り早いんだけど、この建物内にそれらしい反応が出ないのよ。
 …っていうか閉じ込められて以来、探知の範囲を建物外に広げることさえ出来ない。
 私達を閉じ込めている奴が、この建物の外にいるのなら打つ手無しだわ。
 でも恐らくそれは無い。この紙(契約書)に『詳しいことはホールで説明する』って書いてあるけれど、
 外からスタンドを自在に操作出来るのなら、わざわざ内側で私達にコンタクトを取る必要は無いもの。
 何が目的か分からないけど、敵が自分から正体を明かしてくれるなら世話無いわ。とりあえずホールに行ってみるしかなさそうね。」


そこで一旦言葉を区切り、少女と少年の顔に視線を向けた。
 
「勝手についてきたその男はともかく、有葵とそこの子…天野君だっけ? あんた達は完全に巻き添えね。
 ツイてないってボヤきたい所だろうけど、こうなった以上協力してもらうしかないわ。
 ホールに行く前に私達がここに来た理由を話しておいたほうが良さそうね。
 …ところであんた達、最近、この街でスタンド使いに襲われたことない?」


最後の質問を皮切りに、ひとみはこの建物――通称『市民会館』を偵察に来た経緯を語り出した。
数日前、"ワースト"と名乗るスタンド使い達に襲撃されたこと、そこで得た情報を。


・この街を拠点に『悪魔の手のひら』なるものの完成を目指して活動する一団がいる。
・奴らの中心人物は『NEWDIVIDE』なる謎の骨男。そいつは『スタンド』と『記憶』をディスク化する能力を持っている。
・『悪魔の手のひら』の完成には少なくと22体の『スタンドの生贄』が必要であり
 奴らは手当たりに次第にスタンド使いを襲い、犠牲者の『ディスク』を集めている。
・スタンド使いを襲う兵隊として通称『ワースト』という超長期服役囚が街に放たれている。
・『ワースト』はかつて『NEWDIVIDE』にディスクを抜かれ身体を失い、この街で新たに身体を与えられている。
・ワーストの記憶から得た情報によると、現在の奴らの活動拠点がこの『市民会館』


【使いまわしですがw佐藤が御前等さんたちに語った情報は↑の通りです。
 この後ホールに向かう予定ですが、他に伝えていたほうがいい事、挟みたい質問等があれば、今の内にどうぞ〜】

189御前等 ◆Gm4fd8gwE.:2010/11/14(日) 02:07:40

「なるほど話は大体分かった」

佐藤に踏まれ、無様に床にへばりついたままの御前等は、供された情報を咀嚼して嚥下した。
どうやら知らぬ間にとんでもない陰謀に巻き込まれていたらしい。自分から首を突っ込んだ案件なので自業自得ではあるが。

「しかし佐藤さん、アンタなかなかにイケイケな武闘派なんだな。『スタンド』に対抗しうるのは『スタンド』でしかないとは言え、
 こんな敵の懐に自分達だけで乗り込もうなんて。熱いじゃないか。――いいぜ、そういうのは大歓迎だ」

世界を牛耳る悪の組織とかならいざ知らず、こんな地方都市で犯罪者がうろついてるっていうただそれだけの事態。
自分の身を守るだけなら、荷物を纏めて引っ越すか、しばらくおうちで引きこもっていれば良い。
それを是とせず、敢えて敵の本拠地にまで肉薄しようというのはパンピーの及びもつかない発想であり、常軌を逸した行動力だ。

端的に言うなら、主人公ぽい。
御前等の言葉を借りるなら、『世界の中心』だ。

「最近めっきり忘れかけている設定だが俺はそういうキャラを目指していたんだッ!
 佐藤さん!アンタだけに良いカッコさせるわけにはいかないぞ!ここからは『暇つぶし』から『正義の戦い』にシフトだッ!!」

膝、腰、肩の全てに捻りを加えた超カッコいいキメポーズで叫ぶ。

「命を賭けよう!体を張ろう!!痛みも怒りも苦しみも、全て覚悟でここに在ろう!!!
 世界は変わる!この不安定な安寧は、観測者の眼で形を変える!俺が本気になった以上――」

キメ顔。

「――たった今からここが『世界の中心』だ!」


【佐藤さんからの情報を共有。ようやく事態を把握し、戦闘意志を表明】


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