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【臨時レス置き場】異能者達の奇妙な冒険【荒らし対策】
186
:
41 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/11/14(日) 01:14:22
>「あの…生天目さん…でしたっけ? 名前がハンサム太郎になって…ますよ…?」
「…戦場カメラマンみたいな話し方ね」と生天目。
「でも建物の中に入れてよかった。警備員さんがいるから入れないかと思ってたんだ」
生天目はどうしても心霊写真をとりたいらしい。
――そうこうして生天目は後悔していた。
「このメンバーってさ!やっぱり混ぜるな危険なのよ!!」
変わり果てた警備員の姿に驚いて猫ジャンプ。
放り投げられたデジカメはというとリノリウムの床に転がっている。
ほんの少し荒くなる呼吸に、何故か頭に浮かんでいるのは九頭龍一。
冷房の効きすぎというわけでもなく体がチクチクし始める。
まわりを犬のように駆け回っている御前等も恐怖に拍車をかけている。
これがトラウマというものなのだろうか。
あの時、硬質化した髪の毛で蜂の巣にされたあと一瞬で鬱になり、お菓子を貪っていた生天目。
>「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」
>「なるほど……どうやら本当にプレイランドみたいですね。ここは甲、即ちエイドリアン・リムの手の上。
完全に"敵"の領域。こうなった以上、逃れる術は無いかと…」
「あなたってよくそんな冷静でいられるわね!逃れるすべはないって…ありえないからっ!
なんとかしなきゃ!ね?ひとみん!!」生天目は軽いパニック状態になっていた。
【スタンド攻撃にトラウマ。ホールへ誘導お願いします】
187
:
42 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/14(日) 01:15:06
―――ボンッ……ドグシャッ―――
破裂音を聞いて振り向いた者の目に焼き付いたのは、頭半分が吹き飛んだ警備員の姿。
一瞬の隙を突いて起こった異常な事態――ひとみは反射的にスタンドを発動して身構えた。
―――何よこれッ?!スタンド攻撃?!
スタンドシートを出して反応を確認する――が、警備員の死骸付近にスタンドの気配は無い。
これまでに出会ったスタンド使いを基準に判断すると、一般的にスタンドのパワーは射程距離と反比例する。
一撃で頭を吹き飛ばすほどのパワー…遠隔操作型とは考えにくい。
それなのに、この建物付近100m以内に自分達以外のスタンド使いの反応が出ないのだ。
二度目の爆発の直前…ひとみの目は警備員の頭に刺さっていた銀色の円盤――小型ディスクを捉えた。
*************************************************
>「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」
会館内をブリッジで這い回っていた時とは裏向きの体勢…つまりうつ伏せの腰砕け状態で、扉の外から御前等裕介が帰還する。
白い粒子が漏れ出し輪郭がぼやけていた御前等の身体は、会館の中に収まった途端に収束し安定した。
カサコソとゴキブリじみた動きで這い寄る男の背中を、ひとみはサンダルのヒールで思いっきり踏みつけた。
「いい加減にしなさいッ!!今すぐその人間離れした動きを止めないと、あんたから先にブッ殺すわよ!」
ひとみはヒステリックな声を上げて御前等の動きを制止した。
「もうテンパッたってどうにもならないわ!私達はここから出られない!閉じ込められたのよ。」
ひとみの視線は最寄りの窓に向いていた。
視線の先に居るのは、自らのスタンド『フルムーン』
眼球を野球ボール大のケースに収めたそのスタンドは、開け放たれた窓の外に向けて数本の触手を伸ばしていた。
外気に晒された触手は先端から白い霧を上げ気化し始めている。
触手を導火線代わりに近づいてくる霧に気づいて、ひとみは勢いよく窓を閉めた。
窓枠によって断ち切られた触手の残骸は、空気に溶けるように拡散し消滅した。
背中に靴跡をつけた男を指差し、ひとみは少しだけ声のトーンを抑えて言葉を続けた。
「この馬鹿が頼みもしないうちから実験してくれたから、確かめる必要も無かったんだけど…
見たでしょう?この建物の外に出るとああなるのよ…私達自身だけじゃなくスタンドもね。
何が『第3条 場の外に出てはならない』よ!禁止じゃなくて強制じゃない!『出られない』って最初から書きなさいよ!」
床に散らばった紙の中から自分の署名の入った書類を拾い上げ、暫し考え込んだ後に再び口を開く。
「……発動に条件のあるスタンド……そんなスタンドがあるっていうの…?
でもこの状況…よね君、あんたの言う通り『契約書』へのサインが攻撃のきっかけと考えるしかなさそうね。
私達こんな所まで出向いてまんまと網に掛かったわけね……馬鹿みたい…!
近くにスタンド使いの反応が無かったから油断したわ。
……何よ、あんた達?その目は何…?最初にサインした私が悪いって言うのッ?!
あんた達だって何の疑いも無くサインしたじゃないの!それって自己責任でしょッ!」
一同から向けられた視線と重苦しい空気に耐えかねて、ひとみはついに上擦った声を上げた。
188
:
43 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/14(日) 01:16:04
>「なるほど……どうやら本当にプレイランドみたいですね。ここは甲、即ちエイドリアン・リムの手の上。
>完全に"敵"の領域。こうなった以上、逃れる術は無いかと…」
やけに落ち着き払った態度で、よねが口を挟む。違和感を感じるほど達観した口調。
取り乱している自分が馬鹿らしくなるじゃないか。
ひとみは強引に平静を取り戻して話を続けた。
「とにかく異変の原因と相手の能力を見破って、外に出る方法を探すより他無いわね。
本体を叩くのが手っ取り早いんだけど、この建物内にそれらしい反応が出ないのよ。
…っていうか閉じ込められて以来、探知の範囲を建物外に広げることさえ出来ない。
私達を閉じ込めている奴が、この建物の外にいるのなら打つ手無しだわ。
でも恐らくそれは無い。この紙(契約書)に『詳しいことはホールで説明する』って書いてあるけれど、
外からスタンドを自在に操作出来るのなら、わざわざ内側で私達にコンタクトを取る必要は無いもの。
何が目的か分からないけど、敵が自分から正体を明かしてくれるなら世話無いわ。とりあえずホールに行ってみるしかなさそうね。」
そこで一旦言葉を区切り、少女と少年の顔に視線を向けた。
「勝手についてきたその男はともかく、有葵とそこの子…天野君だっけ? あんた達は完全に巻き添えね。
ツイてないってボヤきたい所だろうけど、こうなった以上協力してもらうしかないわ。
ホールに行く前に私達がここに来た理由を話しておいたほうが良さそうね。
…ところであんた達、最近、この街でスタンド使いに襲われたことない?」
最後の質問を皮切りに、ひとみはこの建物――通称『市民会館』を偵察に来た経緯を語り出した。
数日前、"ワースト"と名乗るスタンド使い達に襲撃されたこと、そこで得た情報を。
・この街を拠点に『悪魔の手のひら』なるものの完成を目指して活動する一団がいる。
・奴らの中心人物は『NEWDIVIDE』なる謎の骨男。そいつは『スタンド』と『記憶』をディスク化する能力を持っている。
・『悪魔の手のひら』の完成には少なくと22体の『スタンドの生贄』が必要であり
奴らは手当たりに次第にスタンド使いを襲い、犠牲者の『ディスク』を集めている。
・スタンド使いを襲う兵隊として通称『ワースト』という超長期服役囚が街に放たれている。
・『ワースト』はかつて『NEWDIVIDE』にディスクを抜かれ身体を失い、この街で新たに身体を与えられている。
・ワーストの記憶から得た情報によると、現在の奴らの活動拠点がこの『市民会館』
【使いまわしですがw佐藤が御前等さんたちに語った情報は↑の通りです。
この後ホールに向かう予定ですが、他に伝えていたほうがいい事、挟みたい質問等があれば、今の内にどうぞ〜】
189
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/14(日) 02:07:40
「なるほど話は大体分かった」
佐藤に踏まれ、無様に床にへばりついたままの御前等は、供された情報を咀嚼して嚥下した。
どうやら知らぬ間にとんでもない陰謀に巻き込まれていたらしい。自分から首を突っ込んだ案件なので自業自得ではあるが。
「しかし佐藤さん、アンタなかなかにイケイケな武闘派なんだな。『スタンド』に対抗しうるのは『スタンド』でしかないとは言え、
こんな敵の懐に自分達だけで乗り込もうなんて。熱いじゃないか。――いいぜ、そういうのは大歓迎だ」
世界を牛耳る悪の組織とかならいざ知らず、こんな地方都市で犯罪者がうろついてるっていうただそれだけの事態。
自分の身を守るだけなら、荷物を纏めて引っ越すか、しばらくおうちで引きこもっていれば良い。
それを是とせず、敢えて敵の本拠地にまで肉薄しようというのはパンピーの及びもつかない発想であり、常軌を逸した行動力だ。
端的に言うなら、主人公ぽい。
御前等の言葉を借りるなら、『世界の中心』だ。
「最近めっきり忘れかけている設定だが俺はそういうキャラを目指していたんだッ!
佐藤さん!アンタだけに良いカッコさせるわけにはいかないぞ!ここからは『暇つぶし』から『正義の戦い』にシフトだッ!!」
膝、腰、肩の全てに捻りを加えた超カッコいいキメポーズで叫ぶ。
「命を賭けよう!体を張ろう!!痛みも怒りも苦しみも、全て覚悟でここに在ろう!!!
世界は変わる!この不安定な安寧は、観測者の眼で形を変える!俺が本気になった以上――」
キメ顔。
「――たった今からここが『世界の中心』だ!」
【佐藤さんからの情報を共有。ようやく事態を把握し、戦闘意志を表明】
190
:
46 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/11/17(水) 23:26:04
>「…戦場カメラマンみたいな話し方ね」
「戦場カメラマン…? ああ、あれですか…」
>「や、ヤバいぞ……俺達このままじゃあもう二度と陽の光を浴びれなくなる」
>「いい加減にしなさいッ!!今すぐその人間離れした動きを止めないと、あんたから先にブッ殺すわよ!」
>「なるほど……どうやら本当にプレイランドみたいですね。ここは甲、即ちエイドリアン・リムの手の上。
完全に"敵"の領域。こうなった以上、逃れる術は無いかと…」
「あはは…。良く分からないテンションの人に冷静な人、感情表現が豊かな人…。かなりカオスな空間ですね…ここ」
別に普段から敬語と言うわけではないのだが、見知らぬ人がたくさんいるため、つい敬語になってしまう天野
>「勝手についてきたその男はともかく、有葵とそこの子…天野君だっけ? あんた達は完全に巻き添えね。
ツイてないってボヤきたい所だろうけど、こうなった以上協力してもらうしかないわ。
ホールに行く前に私達がここに来た理由を話しておいたほうが良さそうね。
…ところであんた達、最近、この街でスタンド使いに襲われたことない?」
佐藤の言葉を聞き、
「ああ…巻き込まれたんですか…僕…。はい、状況は大体把握しました。
スタンド使いに襲われたこと…ですか。僕はないですね」
「それにしても…能力も顔も目的も分からない相手と対面…ですか…
いいですね! 僕の研究者魂が燃え盛るってもんです!」
若干テンションをあげる天野
【佐藤の言葉を把握。やる気を出し始める】
191
:
47 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/11/17(水) 23:27:01
「へー…ややこしいー。ワースト?よくわかんないけど、ひとみんたちは正義に燃えてるってことね。
私なんてお昼ご飯が食べられるか食べられないかくらいのことしか心配していないのに…」
唾を一つ飲みこみ、やっと落ち着きをとりもどしつつある生天目。
「ぢゃあホールに行こ」
【キャラ的によくわからないままついていく生天目】
192
:
448 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/17(水) 23:27:44
>44
ひとみが話し続けている間、床に這いつくばっていた男――御前等祐介が突然顔を上げ口を開いた。
>「しかし佐藤さん、アンタなかなかにイケイケな武闘派なんだな。『スタンド』に対抗しうるのは『スタンド』でしかないとは言え、
> こんな敵の懐に自分達だけで乗り込もうなんて。熱いじゃないか。――いいぜ、そういうのは大歓迎だ」
「…何馬鹿なこと言ってんの?別に乗り込みに来たわけじゃないわ。ちょっと偵察に来ただけよ。
ことがスタンド絡みである以上警察沙汰にするわけにもいかないし…
逃げるにしろ放置するにしろ、相手の規模や目的がわからなきゃ……」
言いかけた言葉を、御前等はまるで聞いていない。ひとみは小さな溜め息を零し口を噤んだ。
連中の狙いである『悪魔の手のひら』が何なのか?それさえ未だ分からないのだ。
カルト教祖の妄想の産物……実体の無い空想物である可能性だって大いに在り得る。
オカルトフリークのスタンド使いを畏れて、生活も仕事も投げ棄てて街を出るなんて馬鹿げている。
教祖がたまたまスタンド使いというだけのイカれた潰れ掛けのカルト団体ならば、案外簡単に対処できるかも知れない。
…その程度の腹積もりでこんな所まで出張ってきて、結果まんまと罠に嵌ったのである。
―――奴らは本気で生贄を集めている。
一度『獲物』と見なしたひとみ達を、飽く迄も『狩る』ために網を張っていたのだ。
敵を甘く見ていた自分の浅慮が腹立たしい。ひとみは今一度大きく溜め息を吐いた。
>「――たった今からここが『世界の中心』だ!」
ひとみの態度などそっちのけで勝手に盛り上がっている御前等が、全身をくねらせた"奇妙な"ポーズを決めている。
少年漫画の読みすぎとしか思えない思考回路。
ひとみはますます呆れたが、イザという時の戦力はその気にさせておく限る。
「『正義の戦いに体を張る』なんて、まるでヒーローね!
か弱い女性を守るのもヒーローの仕事でしょう?
何が起こるかわからないこんな場所で、女に扉を開けさせたりしないわよね?
順路は私が指示するから、あんたが先頭を歩いてね。ホールまでエスコートして。」
意味有りげな流し目をくれて、ひとみは御前等に語りかけた。
***********************************************
193
:
49:佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/17(水) 23:28:41
閉ざされたホールの扉を開く。(もちろん自分で開かずに御前等に開かせる)
講演会や小規模の演劇等をこなせる円形の小劇場、中は薄暗く静まり返っている。
座席が上ったままの作り付けの椅子が数百脚、奥の舞台に向けてなだらかな下り坂を成して整然と並んでいる。
出しっぱなしのスタンドシートが放つ仄かな光がひとみの顔を下から照らす。
半透明のスタンドシートに青い蛍光ラインで描かれた建物1F平面図が浮かび上がる。
平面図上のホール内に5つの光点が表示されている。ひとみ達の現在地だ。
「やっぱりダメ!私達以外の反応が出ない!
本当に誰もいないのか?それとも何かが私の能力に干渉して反応をマスクしてるのか…」
眉根を寄せてひとみは声を上げる。手元には4枚に分離したスタンドシート、全ての階の平面図が表示されている。
ひとみの言葉の終わりを待たずに、突然――舞台にスポットライトが灯った。
暗い客席に照らされた舞台……今しも舞台開幕といった様相。
騒々しい電子音のファンファーレが鳴り響く。
出入り口が開き、飛び込んできたのは白い矢印――!
空を舞う龍のように縦横にホール内を飛び回る。
ある時は竜巻のように渦を巻き、ある時は二叉に分かれ縺れながら―――見ようによっては酷く滑稽な動きで。
おちょくるように何度もひとみ達の脇をすり抜け、最後には舞台の上で絞り上げた雑巾の如く捻じくれて動きを止めた。
矢印の輪郭がぶれ始める。
数秒ほど輪郭をモヤモヤさせていた矢印は白い霧に変化し、次の瞬間にはもう新しい形を成していた。
『ハーイ!みんなお集まりだね♪』
鼻をつまんで出したような甲高い声。
壇上に立って手を広げているのは、誰もが見たことのある有名キャラクターを模していた。
大きな丸い顔に大きな目……頭上にくっついた丸い大きな耳、大きな手袋、大きな靴……
末尾に『シー』とか『ランド』のつく場所に生息するあの巨大なネズミ……
既知のそれと違うのは色が白一色であること。さながら塗り絵の原画の如きキャラクターが壇上に立っていた。
『やあ!みんな♪僕のプレイランドにようこそ!!
みんなが契約してくれたおかげで僕のプレイランドができたよ♪ありがとう♪
自己紹介がまだだったね♪
僕はの名前は【ザ・ファンタジア】!天才アニメーター【エイドリアン・リム】のスタンドさ♪』
スポットライトの下、満面の笑顔を浮かべた『あのネズミ』は小首を傾げて靴をタンと鳴らした。
194
:
64 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/18(木) 00:46:52
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない♪僕と楽しい"ゲーム"をしてもらうためさ♪
僕は皆のことがだ〜〜い好きだけど、僕のボスは君達に死んで欲しいらしいんだ♪
何でも、クトウ殺しに関わってる奴らはキケンだとか…関係ない奴らも"材料"として使えるからってね♪
でも君達のことがだ〜い好きな僕としては、即殺っちゃうのは不本意だから、君達に生き残るチャンスをあげるよ♪
ゲームのルールは一度しか言わないから、よ〜〜く聞いてね♪
題して……
『追いつ追われつ カクれんボ』〜〜〜♪
"鬼ごっこ"するもの寄っといで〜〜♪」
『あのネズミ』は得意満面の笑顔で手を叩いている。
笑い転げながら輪郭をモヤつかせ、霧になって拡散し姿を消した。
直後、ひとみ達の間に霧が流れ込み巨大な白い手が現れた。丸っこい手は人差し指をピンと立てている。
数秒後、霧に変化した手は壇上に流れ、再び『あのネズミ』の姿を取った。
ネズミは一つ咳払いをして話を続ける。
「僕の能力は【『契約』と引き換えに『場』を作り出す】こと♪『場』の支配権は僕にある♪ゲームマスターは僕さ♪
契約は平等である必要はないけれど、双方に利が無いと成り立たないよね♪
この場合、君達の『利』は生きてここを出られること!生き残りのチャンス!
ゲームクリアの条件は、僕の本体を見つけることだよ♪
クリアできれば、この『場』からの退出を許可するよ♪
あ、ちなみに僕の許可を得ないで外に出たら君達!霧になって空気に溶けて、あぼーんだから♪」
体の左半分を霧に変えて右手でハンカチを振り、わざとらしく涙を流すネズミ。
ハンカチで涙を拭うと、一転してまた笑顔。つくづく癪に障るネズミだ。
「アハハ♪もう知ってた?スデにお試し済みかな?
それと!この『プレイランド』は2時間経つと自動的に消滅するから♪もちろん中にいる君達も一緒にね♪
君達が2時間以内に脱出できるように祈ってるよ♪」
***********************************************
195
:
65 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/18(木) 00:49:26
壇上に立つ『あのネズミ』の姿をしたスタンドは、大袈裟な身振り手振りを交えて喋り続ける。
イベントの前説でもしているかのような軽妙な口調で流暢に―――彼の言う"鬼ごっこ"のルールを。
------------------------【ゲームの概要、ルール】--------------------------------
『鬼ごっこ』+『かくれんぼ』+『しっぽ鬼』 3つ合わせたようなゲーム
追跡する敵スタンド『ザ・ファンタジア』から逃走あるいは撃退しながら
市民会館内のどこかに潜む本体『エイドリアン・リム』を見つけ出し、彼にタッチすればゲームクリア→外に出られる
本体は、一度隠れた場所から動くことが出来ない。(それが"契約"条件であるため)
追いかける側→鬼
逃げる側 →子 と表記
・敵スタンド『ザ・ファンタジア』は常に鬼
・『ザ・ファンタジア』の掌(掌だけ黒い)に触れられた子は精神を支配され、鬼の仲間となる
・鬼になった者は敵スタンドと意識が同調し、子を探し捕らえる為に動いてしまう
(鬼になっても性格や嗜好は元のまま、スタンド能力も使えます)
・鬼になった子には尻尾が生える(○ッキーマウスのような細くて黒いヤツ)
・鬼になった子の掌はスタンドと同じく黒くなる。黒い部分で触れられた子は鬼化する
・子が鬼(敵スタンドを除く)の尻尾を切れば、その鬼は子に戻る
・鬼化している者のビーコンは一時機能停止状態、鬼が子に戻ると再び機能する
・『場』が消滅するタイムリミット、2時間を待たずに全員が鬼化したばあいはゲームオーバー
(全員ディスクを抜かれ死亡確定)
鬼が子に与えるヒント
・子の首にはビーコン付きの首輪がはまる
・鬼が子の3m以内に近づくとビーコンから音楽が流れる(曲はエレクトリカル・パレード)
・鬼が『もーいいかい』と尋ねると、一番近くの子のビーコンから『もーいいよ』という声が流れる(3m以上離れていても)
攻撃について
※ザ・ファンタジアは実体化している状態であれば攻撃を当てることが出来ます(霧化時は攻撃無効)
ただし撃退は出来てもダメージを与えることは出来ません
ダメージを受けても一度霧化すると再生します
------------------------------------------------------------------------------------
『フー…説明も楽じゃないなァ〜♪』
ひとしきり説明を終えたザ・ファンタジアは霧でハンカチを作り出し汗を拭く仕草。
客席で話を聞く一同は気づくだろう。いつの間にか自分の首に鉄の首輪がはめられていることに。
首輪の正面には、簡略化したネズミの顔型(丸の上に丸二つくっつけた形)の装置が付けられている。
これが鬼ごっこ用ビーコンである。
『君達の様なおバカさんに一回で理解しろって言うのもカワイソーだから、契約書にルールを書いておくね♪』
面々の手には契約書が握らされている。
ロビーで見たものと同じ書類だが、ゲームの"ルール"が箇条書きで追記されていた。
『じゃあそろそろいいかナ〜〜♪"鬼ごっこ"を始めるよ〜〜♪
まずは僕が追いかけるから、10数える間に逃げてね〜〜♪
い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪しーい♪………』
真っ白なネズミは掌で大きな目を覆い、節をつけて数を数え始めた。
それは狂ったゲームへのカウントダウン……!!
【鬼ごっこを始めます。ルールなどで、分かりづらい所があれば避難所で質問を受け付けます
敵スタンドが十数えている間の行動は、逃げるも良し、攻撃を当ててみるも良しw】
196
:
66 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/18(木) 20:33:33
【本体】
名前:エイドリアン・リム
性別:男
年齢:33
身長/体重: 158/55
容姿の特徴: いつも意味無く笑顔、愚鈍そう。子供に警戒感を与えない印象。
人物概要:ロリペド野郎。著作権に異様に厳しい某アニメ会社のアニメーターだった。
キャラクターの絵などを餌に子供を遊びに誘い出し弄った後に殺害する手口が定番の猟奇殺人犯。
懲役年数: 125年
被害者推定: 15才以下の小児数十人を殺害。
【スタンド】
名前:ザ・ファンタジア
タイプ/特徴:白っぽい霧。自在に霧散、集合し形を変化させる。
能力詳細: 『契約』を結ぶことで『場』を創造する能力。
一度作り出した『場』に入り込んだ者は強制的に『契約』に縛られる。
アルカナ/ 魔術師(正位置)
破壊力-B スピード-B 射程距離-『場』の中において∞
持続力-D 精密動作性-C 成長性- E
A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ
射程距離の目安
A:100m以上 B:数10m(50m) C:10数m(20m) D:数m(5m) E:2m以下
197
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/18(木) 23:17:39
>「何が起こるかわからないこんな場所で、女に扉を開けさせたりしないわよね?
順路は私が指示するから、あんたが先頭を歩いてね。ホールまでエスコートして。」
「ふふふ透けて見えるぞ佐藤さん。――俺に護られたいというヒロイニズムな願望がな!よござんしょよござんしょ」
煽てられた御前等は愚直なまでに直進し、ホールへ続く扉を蹴破った。
まあ蹴破るまでもなく鍵はかかっていなかったし、来訪者を誘うかの如く勝手に開いたんだけど御前等はわざわざ足で開けた。
無意味な行動が伏線になると信じて!
「劇場か……俺も中学のときに合唱コンクールでこういうとこに来た記憶があるな」
いわゆるすり鉢型ホールというやつで、なだらかに傾斜する坂には夥しい量の椅子が群生していた。
佐藤が展開したスタンド地図には現在地とその周囲が綿密に記載されていた。そして――ただ、それだけだった。
>「やっぱりダメ!私達以外の反応が出ない!本当に誰もいないのか?それとも何かが私の能力に干渉して反応をマスクしてるのか…」
「ふむ、この状況には既視感があるな……」
御前等は意味ありげに回想に突入する。時間がないので描写はしない。
「最近地の文が私況で描写の過多を選ぶようになったな。あまり素が出過ぎると疎まれるというのに」
御前等はふん、と鼻を鳴らすと再び述懐に路線を戻した。
「そう!この状況!この途方も無いアウェイ感は――『どっきりカメラ』……!どこかにプラカードがあるはずだ、探せ!!」
普通に無視された。
御前等の戯言を真に受けるだけ時間の無駄だと判断された。
とまあ、時系列が前後することになるが、佐藤が言い終わるか終わらないかという段になって事態が急に進展する。
スポットライトに火が入り、けたたましいファンファーレ……というか例のアメリカねずみ音頭が鳴り始める。
大音響で。大音声で。どっきりカメラでなくとも心臓に悪い衝撃はCMの後もまだまだ続くよ!
>『ハーイ!みんなお集まりだね♪』
アメリカねずみだった。
アメリカねずみだった。
アメリカねずみだった。
「どうした地の文、どうせこんなところまで検閲が入るでもなし、正式名称を言えばいいじゃないか。
そう、あれはミッ髯堺シ丞セ後・謾ソ豐サ菴灘宛縺ッ縲檎樟逧・ョ、荳九」
おっと何故だか、本当に何故だか文字化けしてしまったぜ!
「驕募渚繧偵@縺ヲ豁ヲ蜉幄!!。 御スソ繧定。!? 後▲縺溷嵜縺ォ蟇セ縺励――ッ!!」
それはマジでヤバい。
デズニーさんちのヲルト君と愉快な仲間達が今すぐ俺の家を訪れてもおかしくない。
ああ!窓に!窓に!!
「久々の来客かと思ったら窓に体当たりするカナブンだったよフゥーハハハ!」
198
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/18(木) 23:17:51
>『やあ!みんな♪僕のプレイランドにようこそ!!みんなが契約してくれたおかげで僕のプレイランドができたよ♪ありがとう♪
自己紹介がまだだったね♪僕はの名前は【ザ・ファンタジア】!天才アニメーター【エイドリアン・リム】のスタンドさ♪』
ああそうなんだ!エイドリアン・リム君のザ・ファンタジアってスタンドなんだ!
この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のもので
実在の人物及び団体・事件とは一切関係ないんだね!よかった!!
>「今日、皆に集まってもらったのは他でもない♪僕と楽しい"ゲーム"をしてもらうためさ♪」
>「題して……『追いつ追われつ カクれんボ』〜〜〜♪"鬼ごっこ"するもの寄っといで〜〜♪」
「またゲームか。なんだってこの街にはいい歳こいて他人をむりやりゲームに巻き込む連中が多いんだ」
>「ゲームクリアの条件は、僕の本体を見つけることだよ♪クリアできれば、この『場』からの退出を許可するよ♪
あ、ちなみに僕の許可を得ないで外に出たら君達!霧になって空気に溶けて、あぼーんだから♪」
「何ィ!?さっきのアレがそうか!この野郎、そういうことは先に言えっ……!!」
>「アハハ♪もう知ってた?スデにお試し済みかな?」 >「君達が2時間以内に脱出できるように祈ってるよ♪」
「佐藤さん俺あいつ殴ってもいいかな!?いいよな!」
アメリカねずみはペラペラとゲームのルールを熱弁し――ときどきチラチラどや顔しながら――説明を終えた。
いつの間にか御前等の首にはチョーカー型の輪が嵌められていて、狙いどころの分からない装身具と化していた。
先程むしゃむしゃしたはずの契約書が復元されている。そこにはさっき話したルールがそのまま……
「あとからこんな紙渡すなら喋った意味あったのか!? くそ、こいつ何かにつけて人をイラつかせたいざかりか……!」
御前等も相当人の事言えない人間なのだが、彼を遥かに凌駕するウザネズミのせいで相対的にキャラが薄くなっていた。
こんな常識的なツッコミもいれちゃうぐらいである。
>『じゃあそろそろいいかナ〜〜♪"鬼ごっこ"を始めるよ〜〜♪まずは僕が追いかけるから、10数える間に逃げてね〜〜♪
い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪しーい♪………』
「だが断る。その法に触れそうな顔を合法レベルにまで整形してやるゥーッ!!」
アイデンティティと沽券に関わる危機に立たされた御前等は、スタンドを出しながら特攻する。
「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
清々しいほどかませなパターンだった。
【特に何も考えずアメリカねずみに奇襲】
199
:
80 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/11/19(金) 20:58:43
>『ハーイ!みんなお集まりだね♪』
アメリカンなマウスが甲高い声で話す
「…貴方は…! ピカチュウと並ぶほど有名なネズミ…! ミッ…さんじゃないですか!」
最後まで言わなかったからセーフ! のはず…
>「今日、皆に集まってもらったのは他でもない♪僕と楽しい"ゲーム"をしてもらうためさ♪
僕は皆のことがだ〜〜い好きだけど、僕のボスは君達に死んで欲しいらしいんだ♪
何でも、クトウ殺しに関わってる奴らはキケンだとか…関係ない奴らも"材料"として使えるからってね♪
でも君達のことがだ〜い好きな僕としては、即殺っちゃうのは不本意だから、君達に生き残るチャンスをあげるよ♪
ゲームのルールは一度しか言わないから、よ〜〜く聞いてね♪
題して……
『追いつ追われつ カクれんボ』〜〜〜♪
"鬼ごっこ"するもの寄っといで〜〜♪」
「ふむ…ゲームですか…。まぁ、とりあえずルールを聞いておきましょう」
>「僕の能力は【『契約』と引き換えに『場』を作り出す】こと♪『場』の支配権は僕にある♪ゲームマスターは僕さ♪
契約は平等である必要はないけれど、双方に利が無いと成り立たないよね♪
この場合、君達の『利』は生きてここを出られること!生き残りのチャンス!
ゲームクリアの条件は、僕の本体を見つけることだよ♪
クリアできれば、この『場』からの退出を許可するよ♪
あ、ちなみに僕の許可を得ないで外に出たら君達!霧になって空気に溶けて、あぼーんだから♪」
「なるほど。池谷さんが身をもって実証してくれたあれですね」
と言うかこいつはいい加減タメ口に戻らないのだろうか。
そしてネズミのわざとらしい涙には一切触れない天野
>『フー…説明も楽じゃないなァ〜♪』
「なるほど。ルールは大体理解しました。つまり僕達は貴方から逃げ回り! そして本体を捕まえればいいわけだ!
む。何でしょうこの首輪…」
いつの間にか首に付いていた鉄の輪が気になる天野
>『君達の様なおバカさんに一回で理解しろって言うのもカワイソーだから、契約書にルールを書いておくね♪』
「貴方ほどじゃありませんけど、ありがたく受け取っておきます」
少し皮肉めいたことを言い、契約書を読む
>『じゃあそろそろいいかナ〜〜♪"鬼ごっこ"を始めるよ〜〜♪
まずは僕が追いかけるから、10数える間に逃げてね〜〜♪
い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪しーい♪………』
>「だが断る。その法に触れそうな顔を合法レベルにまで整形してやるゥーッ!!」
>「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
「どうもこの人のテンションにはついて行けませんね…。では…ただいまの室温…26℃
25℃、24℃…20℃」
取り合えずザ・ファンタジアのいる部屋の気温を下げつつ、逃げることにした
200
:
83 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/11/20(土) 01:42:39
Sum For Oneの思考のみが許される空間によねは居た。
目の前には凍てついたように動かない他のスタンド使い達、そして、ネズミ――
(襲い掛かるべきか?いや、だがこの『場』は相手によって支配されている…殴り倒せるわけが無い)
よねは徳井が突然の理由で再びどこかへ行ってしまった事に歯がゆい思いをしていた。
彼が居たならば、あるいはこの状況を打開できたかもしれない。
ハマも同様である。
ついて来てもらえばその豊富な経験と知識に頼れたかもしれないのだ。
結局、ここはゲームのルールに従う事にした。
そして凍てついていた空間が、時間が再び行動を開始し始める。
よねが、ここは従うべきだ、と意見しようとするよりも早く。
まるで、Sum For Oneの能力下でよねと同じように思考していたかのように御前等が真っ先に動き出す。
/「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
「ご愁傷様です…御前等さん、無茶しやがって…」
小さく呟く。御前等を助けるつもりは"更々無い"。
よねは気付かぬ内に首に馴染んでいた鉄の首輪を少し触る。
無理矢理取れば恐らく…
ルールの書かれた契約書を綺麗に折り畳み、ポケットに突っ込む。
(制限時間は2時間、たったの2時間…逃げてる暇なんてない。ここは"攻め"で行かせてもらおうッ!)
ロビーの外にあったパンフレット形式の会館案内図を一つ取る。
まず目指すのは…一階守衛室。
よねの狙いは一つだった。それは"監視カメラ"の利用。
利用できるか出来ないかは不明瞭だが、利用できたのなら、エイドリアン・リムの居場所を割り出すのが容易くなる。
狙ってみる価値はあった。
よねはまず守衛室へ向かった。
【北ロビーを経由して守衛室へ】
201
:
84 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/20(土) 15:30:28
『10数える間に逃げてね〜〜♪い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪し〜い♪…』
後ろ向きになって顔を隠し、数を数え出す『あのネズミ』。
>「だが断る。その法に触れそうな顔を合法レベルにまで整形してやるゥーッ!!」
ネズミに歩み寄る御前等。
「ちょっと不用意なことは止めなさいよ!ゲームのルールが本当なら、あんたが鬼になる可能性も…」
ひとみの制止など耳に入っていない様子で、御前等は更にネズミの背後に近づく。
>「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
御前等の腕から剥離したスタンド――アンバーワールドの拳がネズミに迫る―――!
今しも拳が叩き込まれる…という刹那、ネズミの後頭部がバクリと口を開いた。
ネズミの顔の裏に出来たもう一つの顔……
カトゥーンアニメを思わせる漫画チックで巨大なオオカミの口が、アンバーワールドの腕を呑み込んだ。
拳が牙の生え揃った白い口腔内に捕えられた途端、オオカミの口はガチリと噛み合わせられた。
輪郭をモヤつかせていたネズミの後頭部から、千切れるように、牙を立てたままのオオカミの顔が分離する。
『ぎゃははははッ♪ヤッテヤッタぁーー♪不意打ちのつもり?ザンネンでしたァーーッ♪
そんなに殺気を撒き散らしてたんじゃあ不意打ちもクソもないジャン♪
てか僕はモトモト霧だよ?この目は飾りダヨぉ〜♪じゃあ何で目隠ししてたかって?遊びには気分が大事ジャン♪』
アンバーワールドへの対処を分離したオオカミに任せ、御前等から3mほど距離を取ったネズミは、
腹を抱えて笑い転げている。
『僕と君のどっちがウザいかって?そりゃ君に決まってるよ♪僕は背後の文と会話したりしないからね♪
背後+君……単純に見積もってウザさ二倍だモーーン♪
ウザさでもトップを取りたい君の負けず嫌いを称えて、【ウザキング】の称号を君に贈るよ♪
ウザキング君!君がルールを破ったから、10数えるのはナシね♪
たった今から鬼ごっこ開始ぃ〜〜♪』
アンバーワールドの腕に食らいついているオオカミの顔の根元から、ほの白い腕が2本、萌芽し伸張する。
御前等を掴まんと迫る腕―――掌の部分だけ他と対照的に真っ黒である。
時を同じくして、ネズミ…もといザ・ファンタジアの体表が陽炎のように揺らぐ。
直後、ネズミの纏っていた服はタキシードから魔法使いのような長いローブと三角帽子に変っていた。
ザ・ファンタジアは口から吐き出した霧で四本の竹ホウキを作り出し、宙に放り投げた。
空を回転する白いホウキ…柄の部分から細長い腕が伸びる。御前等に噛み付いているオオカミ同様、掌だけが真っ黒だ。
着地したホウキは穂を足代わりに歩き出し、それぞれが細い腕を揺らめかせ、ひとみ達に向かって駆け寄って来る。
4本のホウキのうち2本が目標を失い、ホール内を右往左往している。
『チェッ♪ふたり逃げられてたかァーー♪まあいいや♪ゲームは時間一杯楽しまないとね♪
何だか冷えてきたなァー♪冷房の効かせ過ぎは良くないんだゾッ♪』
【御前等さんに分離したオオカミ顔で噛み付き攻撃。まだホールに残っている生天目さん&佐藤に竹ボウキ攻撃
黒い掌に3秒間触れられ続けると鬼化します
逃げちゃった人たちはもうちょっと待って〜】
203
:
85 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/11/20(土) 15:31:46
交戦中の御前等に、早速逃げ出す天野とよね。
そして白いホウキのスタンドに襲われる佐藤と生天目。
「まだ話がよく飲み込めないんだけど、本体を見つけたらいいってことよね?
それと時間がないからバラバラに手分けして敵本体を探すことには賛成!
でもバラバラに動いて同じところを重複して探してちゃ世話ないのかなー?
それに3mルールってきつくない?先にステポニのソナーに引っかかってくれると助かるんだけど。
まっ、私の予想だと普通に考えても絶対見つからない場所に隠れていると思うわ。たぶんねたぶん」
そう佐藤に話しかけながらも、音の性質をもつステレオポニーが床に反射するとホウキに蹴りを放つ。
非力なスタンドでも見た目がホウキ程度のものになら力負けはしないはず。
「ホウキってゴミじゃあるまいし舐めんな!!スピードなら負けないんだから!!」
【ホウキに蹴りを放つステレオポニー】
204
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/22(月) 01:14:33
>『僕と君のどっちがウザいかって?そりゃ君に決まってるよ♪僕は背後の文と会話したりしないからね♪
背後+君……単純に見積もってウザさ二倍だモーーン♪
ウザさでもトップを取りたい君の負けず嫌いを称えて、【ウザキング】の称号を君に贈るよ♪
ウザキング君!君がルールを破ったから、10数えるのはナシね♪たった今から鬼ごっこ開始ぃ〜〜♪』
「げェーっ!それじゃあ俺一人の功績にならんじゃないか!地の文とニコイチだなんて御免だぞ俺は!」
もっと等身大の自分を見て欲しい(笑)みたいな。
ともあれ御前等の奇襲にもなっていない奇襲は失敗に終わり、アメリカねずみから分離した狼にスタンドの腕を喰われた。
食らいついた狼は人外の膂力でどれだけ振り回しても外れず、そこから生えた腕が御前等本体を狙う!
「寒っ!」
真夏だというのに室内が急激に冷えだした。冷房なのか、はたまたスタンド能力なのか、御前等には区別できない。
黒の掌は御前等の腕をがっちり掴み、じっくりじわじわ侵食範囲を広げていた。
「えっと、この腕に掴まれ続けたらどうなるんだっけ」
1秒。
「佐藤さーん、俺あのネズミの説明全部聞き流してたんだけど、こいつは一体どうすればいいんだ?」
2秒。
「おっと、そうだそうだ。ネズミがくれた紙があったじゃないか。――って、腕掴まれてたら読めねえ!?」ドギャーン
3秒。
御前等は全身くまなく余す所なく黒に染められ、最後に無駄なハイライトのかかっていた瞳から光が消えた。
「う……っ!」
膝をつき、悶え始める。
意識の奥底から噴水にようにせり上がってくる真っ黒い衝動と情動。
指の先まで張り詰めた糸で繋がれる感触。全てがどうでもよくなって、ノリと勢いに任せた人生でもいいなって。
……まあそれは普段の御前等とあまり変わらないけど!とにかく御前等の中になんか凄い良い気分の澱が芽生えてきた。
「は、ははは、はははは」
短く息を吐く。
蹲っていた御前等はゆっくりと立ち上がり、そしてぐるりと目を剥いた。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
ケツのあたりからにょっきりとネズミの尻尾みたいなのが飛び出した。
カマキリの尻から出てくるハリガネムシみたくうねうねと蠕動して生理的嫌悪を与える実にキモいビジュアルである。
アルカイックな笑みを顔面に張り付けた御前等(やっぱりいつもとそんなに変わらないけど)は弾かれたようにホールを駆ける。
「合法的に痴漢しまくるチャーーーーーーーーーンス!!」
異能力は法の外の概念なので別に合法でもなんでもないのだが、御前等にはそもそもそんな思考力は存在しない。
恐ろしいまでに下半身と直結した脳味噌を披露しながら、御前等は最初のターゲットを決めた。
「佐藤さんは怖いからパスで!そこのトロそうなキャミソール女を狙うぜェー!女子供に痴漢するのは簡単さ!動きが鈍いからな!」
箒とスタンドバトルを繰り広げている生天目へと人智を超えたスピードでにじり寄る。
片腕に狼をぶら下げて、もう片方の掌は箒と同じく真っ黒だ。手に意識を集中して念じると、昨日の人面フルーツが出現した。
『御前等の実』は吉野の能力の副産物とは言え、その本質はアンバーワールドと同じくスタンドエネルギーの凝縮体だ。
しからばスタンドと同じく『発現』という形で出し入れすることは理論上可能なのである!
取り出した実を握り、御前等は『願い』を込めて自分と生天目との間に放り投げた。空中で実は爆ぜ、プログラムされた事象を発動する。
「――――『行く手の万難討ち祓う剣と化せ我が結実』!」
言葉に特に意味はない。ただ精神集中と、カッコ良いから詠唱するだけである。
御前等の実は炸裂すると中身が無数のスタンドエネルギーでできた刃となり、生天目を襲う箒に殺到した。
ザクザクと小気味良い音を立てて箒はハリネズミとなり、生天目のスタンド攻撃も相まって呆気無く吹っ飛んでいく。
「さあこれで邪魔者は消えた!おっと俺は悪くないよ敵のスタンドに操られてるだけだからね!?」
御前等の下衆極まりない人格を反映したような真っ黒の掌が、蹴りを放った直後の生天目に迫る!
首から聞こえるアメリカねずみ音頭が、凄まじく癪に触った。
【鬼化。"あくまで操られて"生天目をお触りしにいく】
205
:
88 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/24(水) 23:19:05
>85-87
後ろ向きになった『あのネズミ』に迫るアンバーワールドの拳――!策も覚悟も無い思いつきだけの特攻。
結果―――こちら側の利になることは、何一つ起こらなかった。
『ウザキング君!君がルールを破ったから、10数えるのはナシね♪たった今から鬼ごっこ開始ぃ〜〜♪』
忌々しいほど楽し気なネズミの声が、ゲーム開幕を告げる。
御前等はスタンドを、ネズミから分離したカトゥーンオオカミに食い付かれ
未だホールに居残っていた有葵とひとみは、霧製のホウキに追い回されるハメになった。
混乱と狂騒――ネズミの高笑いと、ひとみ達の首輪から流れ出すアホみたいに能天気な電子音のメロディ、
それに怒号と悲鳴が混じり合いホール中を反響している。
「だから止めろって言ったのにッ!いっつもロクなことしないんだから!このクズッ!!」
ひとみは迫り来るホウキの手をかい潜り、座席の間を逃げ回りながら怒声を上げた。
霧オオカミは、ジャレ付くアホ犬の如きしつこさで、アンバーワールドの腕に食らい付き振り回している。
御前等のスタンドは徳井と同じ近距離パワー型。射程距離はせいぜい2m程度だ。
スタンドは本体から一定以上離れることは出来ない。また逆もしかり。スタンドが動きを封じられれば本体も動けない。
スタンドを捕えられた御前等は、逃走も闘争も不可能で、ただスタンドの側で棒立ちになるより他ない。
オオカミの生首から生えたひょろひょろの腕が、御前等に向かって真っ直ぐに伸びる――!
事の重大さを認識していないのか、御前等は大した抵抗もせず、アッサリと黒い掌に腕を捕まれた。
>「えっと、この腕に掴まれ続けたらどうなるんだっけ」
>「佐藤さーん、俺あのネズミの説明全部聞き流してたんだけど、こいつは一体どうすればいいんだ?」
>「おっと、そうだそうだ。ネズミがくれた紙があったじゃないか。――って、腕掴まれてたら読めねえ!?」ドギャーン
能天気男の自問自答。
「馬鹿ッ…!何でもいいからさっさとその手をッ!振り払いなさいッ!!」
逃走の間隙を縫って御前等に視線を移し、金切り声を上げるひとみ。
―――が、時既に遅し。
オオカミの掌から転移した黒に全身を侵食され、蹲る御前等。一瞬真っ黒に染まる身体。
……数秒を置いて、立ち上がった男の瞳からは光が消え完全に瞳孔が開ききっていた。唇は強張った薄笑いを浮かべている。
『ハ〜〜イ♪鬼のいっちょあがりぃ〜〜〜〜♪よ〜しよし♪プ○ート♪噛み付き攻撃ヤーーーメぇ♪』
ネズミはケタケタ笑い、オオカミの攻撃を制した。
オオカミ…もとい出来の悪いネズミの飼い犬は、スタンドの腕にぶら下がったまま大人しくなった。
>「合法的に痴漢しまくるチャーーーーーーーーーンス!!」
狂気の男は、尾骨辺りに生え揃った黒ミミズの如き尻尾を揺らめかせ、人外のスピードで有葵に飛び掛る。
ホウキをご都合主義な『実』の力で一蹴し、真っ黒な掌を突き出し息を荒げて有葵に迫る!
まさに少女を襲う変質者を地で行っている。
206
:
89 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/24(水) 23:19:48
以前、白い竹ボウキとの追いかけっこを続けているひとみ。
逃走の経路で軽くジャンプ――足元には、通路の床上20cmの位置に触手製のワイヤーが予め張り巡らされていた。
ひとみを追いかけていたホウキは、触手ワイヤーに躓いて空に投げ出され数秒の滞空の後、カランと音を立てて床に落ちた。
座席の隙間に身を潜めていたフルムーンがホウキの側に姿を現す。
機を逃さず、足代わりの穂を触手でぐるぐる巻きに固定し、ホウキの動きを奪う。
床に転がるホウキを尻目に、ひとみは走る。
御前等の猛追を前に、呆然と立つ有葵の手首を掴み――ホールの出口に向かって駆け出した。
ひとみと有葵――二人の頭上に浮遊するフルムーンから、触手を繋ぎ合せた薄い皮膜が降りて来て、その姿を包み込む。
インビジブル発動―――
皮膜に覆われた二人は、空気に溶けるように姿を消した。
透明化によってザ・ファンタジアと御前等の目を眩ませた二人は、ホールを抜けて
一気に南ロビーの階段を上がり、二階廊下、医務室前あたりまで移動した。
「バラバラに手分けして本体を探す…なんて冗談じゃないわ!
敵スタンドに襲われた時、私達の非力なスタンドで、一人きりで対処できると思ってるのッ?
あのスタンド、分離したホウキのパワーは大したこと無かったけど、ネズミ自体の攻撃力は完全に私達より上よ。
それにあの馬鹿男まで鬼になったんじゃ、もう…!」
透明化を解いたひとみは、有葵に向かってボヤくような口調で語りかけた。
手元のシートには竹ボウキに接触した時に得たスタンドデータが表示されている。
*********************************************
>>83
一方、一階守衛室に移動した、よね。
狭い部屋の中は無人だ。数台の事務用机と椅子が雑然とした部屋に詰め込まれているのみ。
壁一面に設置された十数台のモニターは生きていて、各部屋の監視カメラの映像が映し出されていた。
すべてのモニターに写る映像を逐一チェックしていくのは一仕事だが…
よねは気づくだろうか?
モニターに映る4Fライブラリ…蔵書や映像を保管する、ちょっとした図書館のようなこの部屋。
ライブラリの隅に置かれた大画面TVの前で、何やら食べながら寛ぐ男の姿がチラリと映った事に……。
**********************************************
場面はまたホールに戻る。
ひとみ達に逃げられ、取り残された『鬼二人』――ザ・ファンタジアと御前等。
『ウザキング君…!鬼になってくれてうれしいよ♪仲良くしようね♪
さっきは背後とニコイチ扱いしてゴメンね♪君一人でも充分過ぎるほどウザイって♪
僕のペットが君に懐いちゃってるみたいだけど、とりあえず返してもらうよ♪』
ザ・ファンタジアが唇を尖らせスゥーーーーっと息を吸う。
アンバーワールドの腕にぶら下がっていた駄犬は、霧となってネズミの口に吸い込まれていった。
『さて、外に出て手分けして哀れな子羊を追い詰めようか♪何かこの部屋妙に寒いしね…』
スタンドは全身を震わせて、クシュンと一つくしゃみをした。
『…と言っても僕、霧だから別に寒さは感じないんだけどね♪…ってかそもそもスタンドって寒さ感じるの?』
しょうもない戯言を垂れ流しながらホールを後にする一人と一匹であった。
どちらが一人でどちらが一匹かは、ご想像にお任せする。
【佐藤と生天目さんの現在地は2F廊下、医務室前あたり】
【よねさん、守衛室のモニターに謎の男が映ってます(4Fライブラリ内)今行ってみても誰もいないかも】
【御前等さんの今後の行動はお任せ。ちょっとの間誰かを追っかけてくれるとうれしいな】
【天野さんの現在地って今どこ?】
207
:
91 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/11/25(木) 13:04:09
何の問題もなく守衛室にたどり着いたよね。
「ビンゴ…ッ!監視カメラはあるみたいだ」
だが、モニタの数は十台以上もあった。
これを一つずつチェックするのはいくらなんでも骨が折れるし、時間が無い。
どうするべきかを考えるためにSum For Oneを発動した時だった。
思考のみが許される空間の中で、音楽が鳴り響いていた。
あり得ない。だが、確かに聞こえる。
"ラ・マルセイエーズ"
(これは…フランス国歌…?La Marseillaise…?)
音楽が反響して聞こえている。
しかし、その音楽はまるでよねを導くかのように音源を移動させた。
その先には大きなモニタ…というよりただのテレビだ。
丁度、4Fライブラリーが表示されている。
(!?…コイツは…ッ!?)
テレビにはゴソゴソと何かをしている謎の男。恐らく"甲"なのだろう、とよねは直感的に思った。
そして気付いた時には音楽は鳴り止んでいた。
Sum For Oneを解除するよね。
「あの音楽はなんだったんだ…?だが、情報は得られた。これがいつ撮られたものかはわからない…
が、ライブラリーに行ってみる価値はある…ッ!」
もしも、このゲームが始まってから撮られたものならば、
ルール上"甲"は移動が出来ないはずなのである。即ち、チェックメイトだと言うこと。
そして守衛室から飛び出て一気に4階まで駆け上がる。
目指すはライブラリーだ。
【謎の男を捕捉。ライブラリーへ】
208
:
92:生天目
◆gX9qkq7FNo
:2010/11/25(木) 13:06:09
>「さあこれで邪魔者は消えた!おっと俺は悪くないよ敵のスタンドに操られてるだけだからね!?」
御前等の夢のハイテンションはマッハで生天目の肺腑を貫き四肢を硬直させていた。
「ち、ちかづかないで!それ以上ちかづいたらステポニが音速で飛びかかって、
お尻についてる尻尾と一緒に、前についてる尻尾もひきちぎってやるんだからー!!」
ホールに走る緊張感。握った掌の中が室内の冷気と反比例して熱く汗ばんでいる。
(射程は充分…。ただ一発で仕留めなきゃ…つかまったらおわり…)
「うっ!!」
突然、横から腕を掴まれ体をビクつかせる生天目。掴んだ主は佐藤ひとみだ。
出口に駆け出すと同時に発動するインビジブル。透明化した二人は二階廊下、医務室前あたりまで移動する。
>「バラバラに手分けして本体を探す…なんて冗談じゃないわ!
敵スタンドに襲われた時、私達の非力なスタンドで、一人きりで対処できると思ってるのッ?
あのスタンド、分離したホウキのパワーは大したこと無かったけど、ネズミ自体の攻撃力は完全に私達より上よ。
それにあの馬鹿男まで鬼になったんじゃ、もう…!」
「でも私たち以外の人は結果的にはバラバラになっちゃったんだよ!
何かあったら携帯で連絡とれるからいいのかもしれないけど。
それと本体は移動しているわけじゃなくって、一度隠れた場所からは動けないんだよね?
虱潰しに探したら楽勝だと思うんだけど…」
竹箒のスタンドデータを佐藤と一緒に見ながらしばらくの沈思。
そのあと当てもしないで医務室の扉を開けてベッドの下をしゃがみこんで覗いてみたりした。
「隠れている本体は鬼じゃないんだよね?ただの人…人…神の忌子…。はあ…おなか空いてきた…。
話は変わっちゃうけど、ひとみんたちってワーストたちにまんまといっぱい食わされっちゃったね。
ワーストたちが意図してたのか意図してなかったのかはわかんないけど、
調査も何もここってスタンドホイホイだったわけじゃん。地雷原にでんぐり返しで転がっていったようなものだもの。
流石のひとみんも知恵くらべで斜め上を行かれちゃったか…」
とりあえず戸棚や引きだしなどパカパカと開けていく生天目。
【生天目:2F医務室付近を調査中(キャラ的にちょっとブーブー言ってますw)】
209
:
93 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/11/26(金) 23:05:10
「とりあえず調理室で足止め用の水と護身用の何かを取ってこよう」
そう呟き、階段から調理室に向かう天野。その途中で佐藤達の会話が聞こえた。後で合流しようか…
「とりあえず今は調理実習室だ。まあ、ペットボトルくらいあるよね…」
人が居ないところではいつも通りの喋り方になる天野
「まだ鬼の気配はしないな…。なんか池谷さんが鬼になったみたいだったけど…」
そんなことを言いながら階段を上る
【天野:調理実習室に向かう】
210
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/27(土) 05:09:07
「逃げられたか」
先程のハイテンションが嘘のように静かになって、御前等は独りごちる。
生天目を仕留めることは叶わず、駆けつけた佐藤によって救出され、二人は姿を消した。
恐ろしいまでの手際の良さだ。きっと逃げ慣れているのだろうが、しからば今から追ったところで逃げ切る算段はついているだろう。
(下手に深追いして待ち伏せ挟撃トラップなんてことになっても面白くない。どうせこの会館からは出られないんだ)
女連中は後回しでも良いと判断。
御前等はスタンドを仕舞い、静かにホールを歩く。水を打ったような静寂は、天井の果てまで空間を占めていた。
>『ウザキング君…!鬼になってくれてうれしいよ♪仲良くしようね♪
さっきは背後とニコイチ扱いしてゴメンね♪君一人でも充分過ぎるほどウザイって♪』
「あまり馴れ合うな。俺は婦女子に痴漢できればそれで良い。貴様とよろしくやるつもりはないぞ」
>『僕のペットが君に懐いちゃってるみたいだけど、とりあえず返してもらうよ♪』
「好きにしろ。俺もそろそろ本気を出す」
かつてないほどのローテーションで。ありえないほどに真面目な顔で。
御前等は狼の霧を吸いきったアメリカねずみに軽く蹴りを入れ、ポケットに手を突っ込みながら歩き出した。
(隠れんぼの基本は――推理、あるいは虱潰し。推理は愚策だな、相手があの女なら心理誘導されている可能性がある)
ならば採択すべきは後者だろう。
幸いこの市民会館はさして複雑な構造をしていない。虱潰しでも入れ違いになることなく回りきれるだろう。
つまり時間さえかければ、必ず他の参加者達を発見することは可能なのだ。
>『さて、外に出て手分けして哀れな子羊を追い詰めようか♪何かこの部屋妙に寒いしね…』
「ああ。エアコンが中央管制のままなところを見るにどうやら何らかの異能が左様しているらしいな。心当たりのある能力が多すぎる」
>『…と言っても僕、霧だから別に寒さは感じないんだけどね♪…ってかそもそもスタンドって寒さ感じるの?』
「……とりあえず、お前の本体がこのホールに居ないってことはこれではっきりしたな」
それ以上の会話を一方的に打ち切って、御前等はホールの扉をゆっくりと開ける。
ブービートラップを警戒していたが、特に張り巡らされてはいないようだ。念のためスタンドの視覚も用いて廊下を行く。
冷えたホールの空気と、平常運転の生温かい廊下の空気が上下に混ざり合って、足元が妙に寒かった。
(さて……虱潰しに探すと決めたは良いが。近い場所から順繰りに調べるのがセオリーだがそれも少しつまらない)
これには待ち伏せへの警戒も含んでいる。
御前等の進行経路が推理によるものにせよ虱潰しにせよ、ある程度の行動パターンは予測できるし誘導もできる。
あの生天目ならともかく心理戦術に長けた佐藤が逃亡者のブレーンについている以上、むしろそれは当然として捉えるべきだ。
(あの女とこのままことを構えるのは些か不味い。まんま掌の上で踊らされる羽目になりかねん)
呼吸の頻度すら抑えて御前等は滑るように廊下を行く。
向かう先はロビーにある2Fへの階段。その一段目を注意深くスタンドで精査しながらゆっくりと足を乗せた。
(階段にトラップは無し……否、仕掛けるなら警戒される序段はむしろ無防備にしておくか?……チッ)
御前等は舌打ちし、汗を吸ったバンダナに指を掛けて額を外気に晒して冷やす。
(泥沼だ……こちらが考えれば考えるほど術中に嵌っていっている気がする)
「おい、アメリカねずみ。……『ザ・ファンタジア』、お前のことだ。――手分けすると言ったな、ならお前は1Fを隈なく制圧しろ」
尻から生えた尻尾で床を指しながら、御前等は上を見上げた。
「俺は2F以降を探す。……そうだな、やはり順路通りに行ってもつまらんから、一気に最上階から攻めてみるか」
スタンドエネルギーによる結界にも対処できるようアンバーワールドに先行させながら、御前等は階段を静かに上っていく。
掌を染めるだけだった黒の領域は、今や肘にあたりまで闇色で侵食し、御前等の根源を堕とし込まんとしているのだった。
211
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/27(土) 05:10:32
「クソ、この階段は二階までか。ならエレベーター脇のを使うまでだ」
流石に自ら逃げ場を塞ぐつもりはなかったのでエレベーターには気を向けなかった。
その脇にある全階を繋ぐ階段を上り、ようやく彼は4F以降へと辿りつく。
(4Fは学習エリア……自習室や研修室、それからPCルームがあるのだったな)
階段を登り切って4Fへ至る直前、ちょうど目の高さと4Fの床とが釣り合った瞬間に、御前等は息を飲んだ。
真っ黒の掌に汗を握り、空調が効いているはずなのに酷く熱く感じる。口の中は乾ききり、指先がチリチリした。
(いた――!)
人影を見つけた。
佐藤ではない。生天目でもない。背の高い、痩せ型の体型をした眼鏡の男は、一昨日佐藤によねと呼ばれた男。
どのようなスタンドを修得しているかは寡聞にして知らない御前等だったが、佐藤が彼の能力を高く評価していたことは覚えている。
(何をしている……?図書館に隠れ場所を探しているのか、いや、ならば何故こんな最上階まで来る必要がある)
他に隠れやすそうな場所はもっとたくさんあった。
鬼化した御前等を迎え撃つにしても、御前等がわざわざ4Fまで登ってくることを織り込み済みでなければありえない選択だ。
――すなわち、それら以外の理由。『のっぴきならない事情』があって、よねはここ4Fに居る。
そしてそれは十中八九この鬼ごっこについての事情だろう。この領域においては、それこそが全てに優先されるのだから。
(この短時間でそこまで突き止めたのか……?恐ろしく頭の切れる。要マークは佐藤さんだけかと思っていたが、)
真に警戒すべきはよね。この男。
ここで会ったが僥倖で、しからば百年目だ。
(今こいつを潰せば――その口を封じれば!この鬼ごっこが早々に終了する最悪の事態は回避できるッ!!)
決めたが最後、御前等は駆け出していた。
最低限の足音は消しているが、それでも研ぎ澄まされたスタンド遣いならば気配で察知してしまうだろう。
要は、『気付かれるまでにどれだけ肉迫せきるか』。状況は鬼ごっこから、さながら『だるまさんが転んだ』へと変貌していた。
御前等の実を発現させる。
投擲までのタイムラグは、一瞬――
「――脱兎を戒め地に磔す縛鎖と化せ我が結実!!」
人面果実が炸裂し、茨状に展開したスタンドパワーがよねを襲う!!
【4Fにてよねを背後から襲撃。御前等の実で鎖を創り拘束の一撃】
【鬼化の侵食が進む。普段からハイテンションの御前等は今度は逆作用して冷静に。躁鬱状態みたいなものです】
212
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/28(日) 04:42:06
>「Sum41ッ!この壁と自分は反発しあうッ!」
「――ッ!!」
スタンドの茨に拘束され、進退極まったよねが選択したのは退路を捨て、立ち向かう機動。
能力で傍の壁に自分との反発性質を付与し、生み出した推進エネルギーを御前等への激突に変える。
「チィッ――『アンバーワールド』! 俺を護れッ!!」
よねがこちらに吹っ飛んでくる直前、彼我との間にアンバーワールドを発現。
鋼の偉丈夫は腕を交差させて防御姿勢をとり、よねの体当たりを受け止めた。
(奴の能力は対象の性質を恣意的に変化させること……接近戦はマズい!)
アンバーワールドで殴ったとして、それを受け止められ厄介な性質を付与されればその時点で詰みである。
しかるによねの能力とは、戦況の天秤を一撃でひっくり返しかねないジョーカー的能力だ。念を押すに越したことはない。
「アンバーワールドッ!」
即座にスタンドをよねから退かせ、御前等は右足を軽く挙げた。
その足裏にアンバーワールドの掬い上げるような剛腕がヒットし、御前等はその刹那右足を思いっきり触れた拳へ踏み込む。
生み出されるのはカタパルトのごとき推進力。おおきくかち上げられた御前等は空中で器用に姿勢を制御して弾丸のように図書室を翔ぶ。
かくして目にも留まらぬ速さと距離の跳躍を実現した御前等は、よねの死角に入るようにして閉架書庫の林立する本棚の影へと飛び込んだ。
(正面立ってやり合うのには些か分が悪すぎるな……正直、奴がどのように能力を応用してくるか予測がつかん)
足場に粘着性質を付与されても詰み、御前等の周囲だけを真空にされても詰み、衣服の重量を書き換えられても詰む。
従ってあのよねという男を相手取るならば、見えないところから、聞こえない速さで、触れられない距離での一撃が必要。
奇しくも状況は限定的な隠れんぼと洒落こんでいて、この場においては鬼はよねの方だった。こうやって隠れるのもいつまで有効か分からない。
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
苦味を伴なう汗が滲む。バンダナがぐっしょりと湿ってしまったので替えを取り出してきつく締める。
階段を駆け上ってきた運動量は容易く御前等の心臓をオーバーヒートさせ、血が物凄い速度で巡っているのが聴覚で分かった。
(対するこちらのアドバンテージは……まだ『実』以外の能力が割れていないこと……こいつを最大限に活かす)
そしてこちらはよねの能力が大概知れている。
一昨日の佐藤の件で一回、そしてついさっきに一回、この目でよねのスタンドを目の当たりにしているのだ。
当面は『どのような効果を齎すか』に限定された情報だが、射程距離や連続発動の限度まで知れればぐっと戦いやすくなるはずだ。
(っふ、こうやって真っ向から攻略するのは久し振りだな……こちらから仕掛けてみるか――!)
胸ポケットに刺さっていた、先程契約書を書く際に用いたボールペン。
内部にバネが仕込んであり、尻の部分をノックすることでペン先の出し入れができるタイプのものだ。
それをアンバーワールドに持たせ、閉架書庫の影からよねへ向かって人外の膂力で投擲した。よねには当たらず、その奥の壁へと激突した。
「アンバーワールド!」
能力を発動する。ボールペンに貼っておいた歯車が回転し、中のバネの張力を暴走させる。
結果として起きる現象は壁にぶつかってはバネで跳ね、ぶつかっては跳ねのボールペン跳弾乱反射。図書室を縦横無尽に跳び回る。
閉架書庫の中に逃げれば安全だが、それは当然の如く御前等の罠だ。
よねが閉架書庫に入った瞬間、アンバーワールドを発動させて移動書架を閉じ、間に入ったよねを押しつぶす算段である。
【ボールペンに能力を発動し乱反射させる。閉架書庫に入るとトラップ発動で押し潰される】
216
:
99 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:43:39
よねが御前等に向けて吹っ飛ぶ。
/「チィッ――『アンバーワールド』! 俺を護れッ!!」
御前等のアンバーワールドによってその起死回生の体当たりはあっけなく止められた。
相手もよねの能力は知っている。
それ故、接近戦は分が悪いと判断したのだろう。
御前等はとっさに身を引き、数秒後。
まるで、今までの御前等の行動からは想像できないほどの…スピード。
スタンドとの絶妙な連携によって生み出されたそれは、
よねに何をされたのかすらをも把握させれないほどだった。
(くっ……どこに消えた…?この状況下、やたらめったら動き回るのは自殺行為だ…ッ)
素晴らしい汎用性を誇るSum41の能力。
頭脳戦や心理戦では恐らくこちらの方が上。
だが、先ほどまでは優位な状況に立っていたというのに、
一転、罠に誘い込まれ追い詰められたのはよね自身だった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
御前等が取ってくる戦法は三つ考えれた。
一つ目は死角からの急襲。接近戦では分が悪いならば、相手に気付かせる暇もなく始末してしまえばいい。
二つ目は誘い込み。こちらがしびれを切らして動き始めたところで確実に安全に始末するのだ。
三つ目は――その両方だ。
(考えろ、考えろ考えろ…奴はどこから出てくる?どこから見ているッ?どこに誘い込んでいるッ!?)
そう思考している時であった。
ピシュゥオッ!
空を切り裂く何かの音。少し前にテレビで見たどこかの部族の吹き矢のような音。
しかし、その何かはよねには当たらず後ろの壁に当たった。
おかしい。壁に当たって一度音が鳴る。地面に落ちてもう一度音が鳴るはずである。
だが、音は壁に当たった一回のみッ!
(こ、これがッ!御前等裕介の能力ッ!アンバーワールドの能力ッッ!?)
何をしているか見当が付かない。だが、その能力はかなり強力な物だという事は分かった。
ビシュゥッ!
不意に何かが腕を掠める。
"アレ"だ。御前等が放った"アレ"が、よねの腕を掠めたのだ。
兆弾の様に図書館内を跳ね回る"アレ"。早すぎて捉えることすらも困難ッ!
「仕方ないッ!スタンドエネルギー等と悠長な事はッ!
Sum41 Phase2ッ!この図書館内では全ての物理運動が停止するッッ!!!」
よねを中心に黒い影の様な円が図書館全体に広がる。
スタンドの能力によって"アレ"が何かをされ、こうして跳び回っているとしても、
あくまで物理運動を利用してるに過ぎないはずである。
故にこの兆弾は円に引っかかり、その動きを止めるはずなのだ。
【慣性バリア展開。スタンドエネルギー的にバテてきています】
217
:
101 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/01(水) 01:44:10
(よし、誰にも見つからなかった!)
天野は今、調理実習室で水(500mlペット3本)と、バナナ一房、鍋を手に入れ、適当なところに隠れていた
「鬼ごっこ…。触られたらその人も鬼になる…。で、僕達はあのネズミ…ザ・ファンタジアの本体を捕まえれば勝利…」
ブツブツ呟きながら状況の整理をする
「米さんが向かったのは恐らく守衛室…。たぶん監視カメラの映像を利用しようと考えたんだろう。
それ以降どこに行ったかは見てないけど…。
で、佐藤さんと生天目さんは2階…の何処かは分からない。ただいまの鬼は、ザ・ファンタジアと池谷さんか…」
状況の整理をしている。未だに御前等のことをイケメン谷ハンサム太郎、略して池谷半太郎と思っているようだが
「で、佐藤さんの能力は恐らく感知とスタンドの保護色、米さんと池谷さんは不明、で、生天目さんのスタンドが…突進?」
味方の能力を分析している。理系の天野は観察力に秀でているのだ。所々分からないものもあるが…
「で、僕はどうしよう…このまま隠れ続けるか、他の人と合流するか、一人で本体を探すか…」
1は一番安全だが攻められない、また、見つかった相手が自分に不利なら終わり。
2は少々危険が伴うが、誰かと協力できる分多少の弱点は補えるだろう
3は一番攻めてるが効率が悪い
「良いのは1か2だな…さて、どうしよう…。合流しようかな…。でも誰と?
池谷さんは鬼化したから論外、米さんはどこにいるか分からないからパス、となると佐藤さんか生天目さんか…」
天野は悩んでいた。自分の能力の弱点をカバーしてもらうか、より多数で協力するか、それとも…
「…取り合えず2階に下りてみよう」
そういって隠れていた場所から出た
【隠れ場所から出て、誰かと合流するために2階に降りようとしている】
218
:
102 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280
:2010/12/01(水) 01:44:48
【時間軸:御前等さんがよねさんに襲い掛かる数分前(戦闘中の御前等さん、よねさんとは時間軸がズレてます)】
医務室の扉を細く開けて中を覗く。
簡易ベッド、医療器具を乗せた棚に丸椅子。こういった部屋につきものの設備が置かれているだけで特に異変はない。
医務室は逆Lの字型廊下の角に位置し、それぞれの廊下に面した入口がある。
片方の扉から"鬼"に侵入されても、別の扉から脱出できる為、最悪な袋の鼠状態は避けられる。
ひとみは有葵を促し周囲を警戒しながら部屋の中に入った。
>話は変わっちゃうけど、ひとみんたちってワーストたちにまんまといっぱい食わされっちゃったね。
>ワーストたちが意図してたのか意図してなかったのかはわかんないけど、
>調査も何もここってスタンドホイホイだったわけじゃん。地雷原にでんぐり返し
>で転がっていったようなものだもの。
>流石のひとみんも知恵くらべで斜め上を行かれちゃったか…」
有葵は相変わらず口も態度も忙しない。その上、能天気な口調で痛いところを突かれて、ひとみはとうとう声を荒らげた。
「だから!さっきから何度も"嵌められた"って言ってるでしょッ!!人の話聞いてないんだから!あんたはッ!!
シートにスタンド使いの反応が出れば、私だって無防備にこんな所に入り込むようなマネしなかったわよ!!
大体この状況において、その緊張感の無さは何ッ?あんたはいつも真剣味が足りないのよ!
あの時だって……!」
…言いかけて、ハッとして喉元まで出かかった悪態を引っ込める。
腹を立ててもプラスになることは何も無い。寧ろ冷静さを損なうだけ生き残りの道は険しくなる。
ひとみは、湧き上がる苛立ちを強引に呑み込み、深い溜息に変えて吐き出した。
「ランチの心配は生きてここを出られてから、ゆっくりすることね……
今はこの下らない"鬼ごっこ"のことを考えましょう。
あんたは『虱潰しに本体を探せば楽勝』なんて言ったけど…そりゃ、あのネズミが居なきゃそれで楽勝でしょうけどね。
ネズミが何もせずに、虱潰しに探させてくれると思ってるの?
あのネズミは"追跡者"…"鬼の元締め"なのよ。アイツに触れられたら私たちだって"鬼"になる。
問題は【追っかけてくる"鬼"を撃退しながら、本体を探さなきゃならない】ってことよ。
私達のスタンドは、あのネズミよりパワーもスピードも下。狙われたら一人では対処できない。
オマケに、ホールで鬼になった馬鹿も私達を探して追いかけてくる筈だわ。
撃退しながら探索するには、最低二人で行動する方が利口だと思わない?」
苛立ちを押さえ、潜めた声で噛んで含むように有葵に語りかけるひとみ。
「これも、さっきから言ってることだけと…もう一度確認しておくわ。私の探知能力はアテにしないで。
建物内で反応が出るのは私達のものだけ。あのネズミと本体の反応が出ないのよ。
『場』には私の能力を狂わせる何かが働いてる。
…あのネズミも言っていたことだけど、『場』は『ゲームのルール』に基づいて創造されている。
恐らくゲームそのものを不成立する能力には制限が掛けられてるのかも……。
どっちみち、"鬼"の手を逃れながら、虱潰しに本体を探すしかないわね…」
219
:
103 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280
:2010/12/01(水) 01:45:17
言いながら、ひとみはレイヤーを剥がすようにスタンドシートを分離した。
4枚の分離シートにはそれぞれの階の平面図が表示されている。
「幸い、私達鬼ごっこ参加者の位置はマーカーで表示できるわ。これは利用しなきゃね。
天野君の現在地は3F調理室付近……よね君と馬鹿男は4Fにいる…
馬鹿男がだんだんよね君に近づいていってる…
"鬼"になった馬鹿男……どうやらよね君を見つけて、彼にターゲットを絞ったみたいね。
これって一種のチャンスだわ。鬼の数は少ないに越したことはない。
馬鹿男がよね君を狙ってる隙に、姿を隠して背後から近づいて、私達がアイツの尻尾を切り落としてしまいましょう。
あんたのステレオポニーでも、尻尾を切り落とすくらいのパワーは……」
言葉尻に被せるように電子音のメロディが鳴り響く。音の発信源は自らの首に嵌められた首輪――!
―――すなわち、鬼の接近を告げる警告音!
コンコン――コンコン――…
電子音に混じり、広い方の廊下に面した扉をノックする音がする。
『ここかなぁ〜♪この部屋の中かなぁ〜♪聞こえる…聞こえるぞぉ〜…レディーの声がするぞぉ〜♪
ウザキング君には悪いけど、僕がお先に痴漢しちゃおうかなぁ〜♪』
聞こえてくるのは独特の甲高い声―――
フルムーンで扉の向こう側スキャンすると、
案の定、扉の前には『あのネズミ』が○ィズニーキャラクターとは思えぬ悪辣な笑みを浮かべて立っている。
「クソッ!突き止めるのが早すぎるわッ!有葵!あっちの扉から脱出するわよ!!」
ひとみはもう一方の扉を指差し、駆け寄った。
同時にワイヤー程度の固さにした触手で、ドアノブが回らないように雁字搦めに固定し、触手を切り離す。
「ほら早く!!」
有葵を促し、もう一方の扉のドアノブに手をかけ、回そうとする――が、
ノブはガチャガチャ音を立てるばかりでビクとも動かない。フルムーンの『眼』で動かない鍵穴を覘くと――
鍵穴の中には白い固形物がギッシリ詰まっていて、ドアの開閉を阻止していた。
ホウキを作った時同様、あのネズミが分離した霧で『鍵』を作り、逃げ道を塞いでいたのだ。
「やれらた――!閉じ込められたわ!!」
開かぬ扉の前で無駄な足掻きを続けているひとみ達の背後…ノック音の続く扉から、モヤモヤした霧が染み通るように侵入してくる。
ひとみと有葵が振り返った時――部屋の中央には既に『あのネズミ』が立っていた。
ネズミの大きな耳はパラボラアンテナをつけた集音機の形状を模している。
この霧製集音機でひとみ達の話し声を探知し、居所を突き止めたのだろうか。
『僕は志向的に幼女崇拝派なんだなぁ〜♪幼女の裸ほど美しいものはないよ♪女なんて13歳過ぎたらオバサンだからね♪
どっちもババアだけど狙うならコッチかなぁ〜〜〜♪』
真っ白なザ・ファンタジアの顔に、邪悪な笑みが刻んだ皺が灰色の影を落としている。
白い体表を蠕動させたザ・ファンタジアは、右手を鎌首を擡げるコブラに変化させ、有葵に向かってけし掛けた!
シャアァアアアーーー!威嚇音を漏らし、有葵に襲い掛かる白コブラの口の中は真っ黒だった。
【冒頭でも書きましたがこの出来事は、御前等さんvsよねさんの戦闘とは時間軸が違います。】
【1ターン後には追いつきますので、もう少し待って〜。】
【天野さん合流歓迎ですが、次ターン以降にお願いします。お待たせしてすいません。】
【生天目さん、ザ・ファンタジアは霧化していない時は普通に殴ったりして撃退できます。】
220
:
104 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2010/12/01(水) 01:45:52
ザ・ファンタジアが侵入した方とは反対側の扉が、音を立てて内側に倒れた。
倒れ込んだドアに続いて赤い消化器が部屋に転がり込む。
ドアの傍にいた佐藤は少々危ない目にあったかもしれない。
「……あら、ごめんなさい。先客がいましたか」
医務室の戸を破ったのは、吉野きららだった。
重い消化器を投げて前のめりになった体勢を早々に立ち上げて、彼女は素っ気ない謝辞を述べる。
顔を上げた彼女の表情は眉根が寄り、目は細められ、唇は真一文字で、酷く険しい。
だがそれは彼女が置かれているこの状況に対してばかりではない。
尖った表情に隠れてはいるが、吉野の顔色は蒼白だ。
彼女は背伸びをして、医務室の中を佐藤の肩越しに覗き込む。
そして一層疎ましげに表情を歪ませて、溜息を吐いた。
「まったく、本当に間が悪い……」
辟易としながら、吉野は佐藤と視線を交錯させる。
「……私はですね。貴女達を殺すつもりで付けてきました。お陰でこんなゲームに巻き込まれてしまいましたが」
淡々と、彼女は自分の敵意を告白した。
「正直言って、ここで貴女達を殺すのは簡単ですわ。少しばかりここを通せんぼしてやれば、それでいい」
彼女が述べるのは、純然たる事実。
だからこそ、佐藤は理解出来るだろう。
「……ですが、それでは私が助からない。私は幸せになる為に貴女達を殺すのです。私まで死んでは、意味がない」
据わった目付きで自分を睨む、彼女の言わんとする事が。
「だから手を組みましょう。お互いが幸せになれる、素晴らしい提案だと思いませんか?」
今この状況下で、佐藤と吉野には共通の敵、ザ・ファンタジアがいる。
故に、本来は敵対する筈の二人に結託の余地が生まれるのだ。
無論、これは理屈の上での話に過ぎない。
「と言うより、組まざるを得ないと言うのが正しい所ですかね」
不遜な物言いの相手に対して、思い通りになる。
それが佐藤にとって堪え難い恥辱であれば、結果はまた変わってくる。
「で、どうしますか?答え、急いだ方がいいと思いますけど」
冷ややかな口調と共に、吉野は佐藤の背後で戦う生天目を指差した。
生天目のスタンド能力を吉野は知らないが、見るからにパワー型ではない。
真っ向勝負でザ・ファンタジアが撃退出来るとは、吉野は到底思わなかった。
要するに彼女は生天目を見くびっていた。
あまつさえその感情を声にして、生天目の背中に吐き掛けたのだ。
スタンド能力は感情によって出力が上下する。
吉野の言葉に生天目が怒りを抱いたなら、それはスタンドの力になるだろう。
だが逆に「やっぱり無理だ」などと萎縮してしまっては、出来る事も出来なくなってしまう。
――或いは、緊迫状態にある生天目には吉野の声など聞こえないかもしれないが。
ところで今さっき、彼女はドアを挟んで佐藤のすぐ傍にいた。
にも関わらず、吉野は佐藤のスタンド探知に引っかからなかった。それが意味する事はつまり――
【消化器で佐藤側のドアを破る。医務室に用があったけど出来そうにない。
協力を提案しながらも小馬鹿にしてます。】
221
:
109 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/12/01(水) 01:46:46
>「だから!さっきから何度も"嵌められた"って言ってるでしょッ!!人の話聞いてないんだから!あんたはッ!!
シートにスタンド使いの反応が出れば、私だって無防備にこんな所に入り込むようなマネしなかったわよ!!
大体この状況において、その緊張感の無さは何ッ?あんたはいつも真剣味が足りないのよ!
あの時だって……!」
「あの時って?もしかして九頭龍一との戦いの時?それに真剣味ってどんな味?
私にとっては空腹も立派な敵の一人なの。毎日襲来する強敵なの」
静かな医務室にカタンパタンと音が響く。
「ねー。もしかしたらよ。敵のスタンド使いがいっぱいいたとしたら、
かくれんぼしている本体に細工なんかする敵がいたとしたらどうなるの?イジワルクイズみたいになるね。
複数のスタンド能力の重ねがけって大有なせんじゃない?ん〜…でもルール違反?
そこまで卑怯なやつならルールとか黙りこくって2時間待つもんね。
それに、この医務室ってついさっきまで使われてた感じ。カルテとかあるし…。あ!これドイツ語?」
まるで頭から車庫入れをするような拙い生天目の言葉を聞いてか聞かずに
スタンドシートを広げると、それを打ち消すように理路整然とした会話を始める佐藤ひとみ。
生天目は説明を聞きながらふんふん頷いている。
「えっと…4Fに行って、さっき鬼になった人の尻尾を切り落とす…のね。はーい、わかりました」
佐藤の言葉尻に食い気味に被せた生天目の言葉に、さらに覆い被せるように電子音のメロディが鳴り響く。
コンコン…。コンコン…。電子音と復唱するノックの音。
>『ここかなぁ〜♪この部屋の中かなぁ〜♪聞こえる…聞こえるぞぉ〜…レディーの声がするぞぉ〜♪
ウザキング君には悪いけど、僕がお先に痴漢しちゃおうかなぁ〜♪』
「うげ!!見つかった!ネズミのくせにドアなんかノックして、憎い演出ね!でもその隙にこっちから逃げちゃうんだから!!」
しかし…
>「やれらた――!閉じ込められたわ!!」と佐藤が叫ぶ。
「えー!!うそ!!戦うしかないのーっ!?」
>『僕は志向的に幼女崇拝派なんだなぁ〜♪幼女の裸ほど美しいものはないよ♪女なんて13歳過ぎたらオバサンだからね♪
どっちもババアだけど狙うならコッチかなぁ〜〜〜♪』
二人が振り返ると、霧状になりドアの隙間から侵入してきたザ・ファンタジアが部屋の中央から、コブラに変化させた右手で生天目に攻撃をしかける。
「あのね!私はババアって言われて怒るほどのババアじゃないっ!!」
生天目の叫びと一緒にステレオポニーが飛び出すとザ・ファンタジアの右腕に音速の右拳が放たれ
開口した漆黒の大口の中に肩口まで深々と突き刺さる。
医務室の中央で邂逅を果たす二つのスタンド。右肩から鮮やかに噴き出す生天目の血が白いカーテンに飛び散った。
蛇の口に突き刺さったスタンドの右手は噛まれていると同時にザ・ファンタジアの右手に掴まれている。
鬼になるまでは3秒の時間は皆に平等。スタンドはスタンドでしか倒せない。
同じフィールドに存在するのならスタンドの固有振動数、この場合は精神の周波のようなものと
同じ周波数の精神の超音波を浴びせることによって対象を破壊することが出来るはず。
逆に3秒は敵の精神エネルギーに振動を浴びせるには充分な時間だ。
「うりゃーーーっ!!」
ステレオポニーの裂帛の気合と共にザ・ファンタジアが右腕から粉々砕けていき、伝わった破壊振動が胸の上から頭にかけて敵スタンドを吹き飛ばす。
右手と胸から上を失ったザ・ファンタジアは霧状の血飛沫を空中に巻き起こしながらあたふたしている。演技なのかもしれないが。
「やった!けど…やってない!!今の技って、あいつが手を掴んでてくれたから成功したけどネタバレしたからもうダメね!!でも時間稼ぎにはなった!?」
くるりと振り向いて佐藤をうかがうと吉野うららがいた。戦闘に夢中の生天目は吉野の声にも、まるっきり気がついていなかったのだ。
「ちょとお!ドアが開いてるんだったら教えてよー!馬鹿みたいじゃない!あとひとみんは私の右手治してね!」
【ザ・ファンタジに攻撃。時間稼ぎに成功?ステレオポニーの今回の技は普通のスタンドや物に使ったらヒビがじわじわ入っていく程度です。
ザ・ファンタジアには固有振動が合いすぎたことにしてw】
222
:
110 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE
:2010/12/01(水) 01:47:15
>「仕方ないッ!スタンドエネルギー等と悠長な事はッ!Sum41 Phase2ッ!この図書館内では全ての物理運動が停止するッッ!!!」
「なん……だと……!?」
無意識に言葉が口をついて出るのを止められない。
よねのスタンドにはまだ『奥』があった。フェーズ2。彼の足元より展開する漆黒の真円。
その能力は洞察するに『指定領域内の情報上書き』――ボールペンの跳弾は制空権を奪われ空中に固着する。
(なんだあの能力は……! 慣性を強制排除する結界だと? 反則級だ……!!)
だが、例外はあった。よねから広がる真円の領域は御前等の隠れる閉架書庫も含めた図書館全域を飲み込んでいるが、
(『俺の身体』は動く……どういうことだ? まさか『生物』には効かないとか、あるいは『領域に侵入する運動のみ排除』か……?)
おそらく前者、世に遍く全ての生物が身に纏う微弱な精神エネルギーがよねの領域に干渉しているのだろう。
この能力は確かに強力無比の禁止級だが、それ故にアンコントローラブル。適用対象を条件で絞らなければまともに運用できない。
――御前等はそう、大雑把に推察した。
(ともあれあの能力がある以上遠くから仕留めるのは下策も下策……振り出しに戻ったわけだ)
重ね重ね末恐ろしい能力。触れた物体の情報を書き換えるスタンドと、遠距離攻撃を無力化する結界。
この2つの異能を両輪に、よねは『接近戦を挑むほかない状況』を戦場に作り上げている。畏怖さえ覚えるほど巧妙に。
(手駒は――スタンドと、『実』と、それから閉架書庫内の器物……『実』は使えないな、書き換え合戦になるだけだ)
千日手でいたずらに貴重な『実』を消費するわけにもいかない。
御前等の実の『念動力に指向性を与える』効果はすなわち御前等の精神エネルギーの方向性を完全に支配下におくことができる。
奇しくもよねとは同質にして真逆の存在。ここで会ったが百年目とは正しく御前等とよねの対峙を揶揄していた。
「ク……クク……クククク」
声を殺して笑う。腕から侵食する黒は最早肩を超えて胸の辺りまで染め上げている。
御前等はその黒い指で額のバンダナを弾き、極度の興奮状態にある瞳孔の高鳴りを掌で覆ってゆっくりと鎮めた。
「これだ!この感覚!!俺は今誰よりも何よりも『世界の中心』に漸近している……!!」
漸近。
決して交わることのない、だけれど限りなく近い曲線。
御前等は居場所が露呈するのも構わず声を張り上げて、想いの丈を虚空に吐き出す。
「よね君。この世に神がいるならば、俺達ほどよく計算された関係はあるまい。なればこそ――俺は君を超えるよ」
閉架書庫から姿を現し、アンバーワールドの後ろ押しで人外の速度でよねへと肉迫する。
このまま愚直に突進すれば、鴨打ち以外の何者でもないが。――彼とよねとの間には、フェーズ2によって空中に固定されたボールペン。
動かないなら動かないで、使いようはあるものだ。御前等は一足跳びで跳躍すると、ボールペンに足をかけ――それを足場にもう一度跳んだ。
223
:
111:御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE
:2010/12/01(水) 01:47:43
「何故ならば!」
幻の二段ジャンプ。少しでも足を滑らせたら固定されたボールペンで身体を貫かれかねない、常軌を逸した挙動。
命知らずの跳躍がもたらした高度は、図書館の天井に手がつくほどの大跳躍。そして、御前等はアンバーワールドを出現させた。
ボールペンを足場にしてまでジャンプにスタンドを使わなかったのは、『温存するため』だ。天井に能力を発動する、その残高を『温存するため』。
「――今日から俺が世界の中心だ!!」
渾身の『アンバーワールド』。人外の拳は天井を、『天井に据えられたスプリンクラー』を正確に殴り抜く。
能力が発動し、スプリンクラーにスタンドエネルギーの『歯車』が貼り付けられた。
「いくぞ我が能力の真骨頂――アンバーワールド『逆回転』!!」
貼り付いた『歯車』は、回転することでその機構を起動する。
スプリンクラーの歯車は、いつもと逆の回転をしていた。――『逆の起動』。アンバーワールドはただ機械を動かすだけのスタンドではない。
文字通り『ギミックによってもたらされる効果』を支配する。消化器《スプリンクラー》を逆回転させればそれは、
「火炎放射器だ――!」
スプリンクラーの散布範囲に、バーナーの如き幅広の炎霧が降り注ぐ。
【停められたボールペンを足場にして天井に到達、スプリンクラーを逆発動。火炎放射器となって炎の霧発射】
【成長した能力テンプレ】
名前:アンバーワールド
タイプ/特徴:
近距離パワー型/人形で随所に歯車の意匠
能力詳細:
触れた機械・機構を操作する能力。
機械の定義は『エネルギーを与えるすることで一定の効果を出力する人工物』の総称。
電子機器から果てはドアの蝶番まで、稼働し可動する人工物であるならなんでも操れる。
歯車型に固めたスタンドパワーの塊に、機械をどのように動かすかインプットし、
動かしたい機械に貼りつけ任意のタイミングでインプットした動きを出力させる。
『逆発動』――歯車を逆回転させることで機構の効果を反転させる。
スプリンクラーは火炎放射器に、消化器も火炎放射器に。
『御前等の実』――吉野の『メメント・モリ』によって咲かされた御前等の花に熟した実
中身は御前等の念動力(スタンドエネルギー)の塊で、実を破壊した際にプログラムした通りに念動力を発揮する。
破壊力-B スピード-C 射程距離-E(歯車だけならB) (実はC)
持続力-C 精密動作性-A 成長性-B
224
:
112 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:48:15
/「よね君。この世に神がいるならば、俺達ほどよく計算された関係はあるまい。なればこそ――俺は君を超えるよ」
まるで、居場所を知らせるのも厭わぬかのように、大声で宣言する。
よねはこれもトラップか、と疑っていたが、どうやらそうではないらしい。
奴は、御前等裕介は完全に戦闘を楽しんでいる。
よねの潜在的意識の中で何かが音をたてて弾けた。
「ふ…ふふふふふ……くくくくはははははッッ!面白い!御前等裕介ッ! ならば超えてみせろッ!超越しろッ!
戦いこそが真なる悦楽だと言うならば…ッ!!」
狂った。いや、狂わされた。御前等裕介が操る、歯車によって。よねの歯車はギシギシと音をたて、錆び、やがて崩れた。
無意識的に出た言葉。自分の言った言葉ではない。まるで、誰かに操られたかのように、よねは御前等に答えた。
そして、高速で、よねに捉えることの出来ないほどの速さで、御前等は姿を現し、よねに迫ってきた。
(動いたな、御前等裕介ッ!いくら速くても、身構えてるこちらの方が有利だッ!勝ったッ……第三部か…)
だが、御前等は字の如く"超越"した。二段跳び。人外もここまでくると清々しいものだ。
「な、なにィィィッ!?一体どうやってッッ!?」
よく見ると、御前等の下には――フェイズ2によって空中に固定されたボールペン。
墓穴を掘った、よねがそう確信した時、御前等は火災防止用のために天井に設けられたスプリンクラーを――殴った。
/「いくぞ我が能力の真骨頂――アンバーワールド『逆回転』!!」
スプリンクラーは通常、水が噴出される。
だが、御前等の能力、アンバーワールド『逆回転』によって干渉されたスプリンクラーが放つのは……炎。
(チィッ!?だが、バカめッ!ここはPhase2の領域下だッ!炎であろうと物理運動は…"停止しない"ッッ!?)
予想外だった。この期に及んで、よねは自分の能力を把握できていなかった、否、御前等が例外過ぎたのだ。
よねのPhase2の能力は"自然の原理によって起こされ得る可能性のある物理運動を停止させる能力"。
通常、スプリンクラーは炎など噴射しない。故にPhase2で止めることができないのだ。
「くぅっ!?Sum41ッ!Phase2を解除しろォーッ!私を護れェッ!!」
スタンドに干渉できるのはスタンドのみ。Sum41を盾にすることで炎の霧から逃れようとしたのだ。
だが――Sum41は答えなかった。
「な、なにをしている!?主の命令を聞かないスタンドなどあるものかッ!護れッ!!私を――ッ」
体を包み込む炎の熱が感じられなくなった時だった。
よねは、いや、よねの姿をした何かは堕ちた。
225
:
113:よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:48:43
―――――――――――
――――――――
―――――
そこは、深い闇の底だった。よねが九頭との闘いの後に、頻繁に見るようになった悪夢の場所と酷似していた。
よねがこの状況に気付くと、目の前にはよね自身が立っていた。そして、BGMは…"La Marseillaise"、フランス国歌。
「ごめんごめん。脅かしちゃったね。あまりに君が愚かで浅はか過ぎるから少しの間、乗っ取らせてもらった、というよりも融合させてもらっていた、が妥当かな」
目の前のよねが言う。奇妙なものだ。とても、とても――…。
「貴方は…どうして同じ姿を……?ここは…一体…?」
今度は自分。どちらもよねであるが、どちらもお互いに別物である。
よねがこれはスタンド攻撃か、と闇の中で思考する。
すると、
「スタンド攻撃?フフ、違うよ。ここは正真正銘、君の精神世界。私は君の、そうだね、短絡的に言うと"裏"かな」
読まれている。こいつが裏だというならば、それは同時に表のよねと共通しているということになる。
「御前等さんは…鬼ごっこは?えっと、なんだ…思い出せない…」
よねは御前等との戦闘の事を必死に思い出そうとする。
だが、まるで夢だったかのように、既によねの記憶から消し飛んでいた。
「安心しな。君はいたって正常。さっきも言ったろう?乗っ取らせてもらったってね。
覚えてないのも無理は無い。なんといっても、さっきまで御前等裕介と戦っていたのは――この私なんだからね」
は?何を言ってる?こいつは馬鹿か?よねは嘲笑した。それと同時に恐怖した。
「私は今まで君に何度も呼びかけてきたんだ。君だって本当は闘いを望んでいるんだろう?
でも、それは出来ない。君には中途半端な理性と、中途半端な知性、それと私――即ちSum41、君のスタンドがあるから。
理解できない?私は君の"深層心理"の顕在。矛盾に聞こえるかもしれないけど事実。そして私は同時に君が今まで使役していたSum41と同等の存在」
目の前のよねが浮かべる笑みは、とても恐ろしく見えた。
あまりの恐怖によねの額に気持ちよくない汗が出てくる。
「お前は一体何者なんだッ!?元の世界に戻せッ!」
よねがそう言おうとする。だが、自分の言おうとした事を、目の前のよねが言う。
「言ったよね、私は君の"深層心理"。闘いと混沌を好む君の本性の顕在。
元の世界はSum For Oneの能力で停止してるよ。ここは君の精神世界だ。あの市民会館とは隔絶されてる」
今度は自分の口が勝手に動く。ガタガタと目の前のよねが震えだす。
恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい…
「フフ…気付いた?私と君は入れ替わるんだよ。あまりに君が無能すぎるから。異能者にして無能、滑稽だね。
今は意識しか入れ替わってきてないけど、だんだん、全部入れ替わってくるよ。恐れなくてもいいよ、君が私を体験するだけ。君が私の"深層心理"になるだけ」
またもや自分の口が勝手に動く。よねはこれが夢であってほしいと、心の底から願った。
そして…よねの足元が急にぬかるむ。
底なし沼の様によねは闇の奥底へと堕ちていく、堕ちていく。
「じゃあね。ごきげんよう。言っておくけど、私の呼びかけに答えてくれなかったのは君だ。自業自得だと――思うけどね」
226
:
114:よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:49:05
―――――
――――――――
―――――――――――
舞台は再び図書館へと移される。
Sum For Oneの能力で全てが停止している。
「Sum For One…そして世界は回り始める……」
凍てついた世界はやがて熱を帯び始める。
ゴウゴウと音をたててよねを包む炎。
だが、そんなことよねにはどうでも良かった。
「フフフ…ククククク…やっと手に入った。なんだ、簡単じゃないか。
聞こえるか、御前等裕介。楽しかった。初陣を君との戦いで飾れて光栄に思うよ。
けど…折角手に入れた肉体だ。私はここで死ぬわけにはいかないのでね」
そして図書館の床に手を伏せる。ここは4階だ。
"リバース"
「Sum41 Re・Birth…ッ!この床は液状化する!」
液状化した床はよねを階下へと運んだ。
よねの変化を汲み取れる人間は現段階では鬼化している御前等裕介ただ一人。
このまま"米 コウタ"として他のスタンド使いに接触すればいい。それが"今のよね"の考えだった。
【本体】
名前:米 コウタ(裏)
人物概要:本能に忠実ではない米 コウタ(表)に嫌気がさし、
よねの体を乗っ取った"深層心理"の顕在。
一人称は「私」。非戦闘時は穏やかな口調。戦闘時は激しい口調になり、好戦的。
好きな楽曲はフランス国歌「La marseillaise」。好きな言葉は「変革」。
【スタンド】
名前:Sum41 Re・Birth(リバース)
タイプ/特徴:標準型
能力詳細:"深層心理"の顕在である裏のよねと精神が入れ替わったよねが使うSum41。
基本的にSum41と変わりはなく、進化したわけでもない。
227
:
115 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/01(水) 12:57:52
扉が開かない―――!
鍵穴の中に触手を突っ込んで白い霧の塊を除去しようとするも、塊は鍵穴に隙間なく入り込み
ガチガチに固まっていて埒が明かない。こうなったら建具の金具を外すしかない。
硬質化したフルムーンの触手で疑似工具を作り出し、蝶番のボルトに差しこみ緩めようと試みていたその時――
―――ゴウンッ…衝撃音と共に扉が傾いた。
重量物の齎す風圧がひとみの前髪を煽る。寸手の所で身を捩り、体勢を崩しながらも一歩体を引く。
扉はひとみの半身を掠めるように倒れ、転がり込む消火器と共に、床に叩きつけられて派手な音を立てた。
自分達の逃走を阻む障害が倒壊したというのに、ひとみはその場から動けない。
扉を失った開口部に立つ人影に釘付けになっていた。
……あの女だ……!
フラッシュバックする映像と声……『魔』たる球体を臨む、あの場所での二人きりの邂逅――
九頭は『魔』の正体と『留流家』の来し方を闇に投影して見せた。
そして九頭が最後に見せたヴィジョンは、他ならぬこの少女の姿であった。
――――『彼女は見事に階段を登り、私が認め得る存在となった。』
――――『私は彼女の誕生を心から祝福し、次に残す事にしたのだよ。』
九頭龍一の口から発せられた少女への賛美と称賛。
あの時感じた屈辱、嫉妬、怨嗟が、生々しい感情の渦となってと蘇る……。
>「……あら、ごめんなさい。先客がいましたか」
凛とした少女の声が回想を打ち破った。
ひとみの中で何重にも黒い感情が渦巻いていた時間は、まばたき数回ほどの一瞬でしかなかったのだ。
我に返ったひとみは、現在の至上命題である、この部屋からの脱出に意識を向け直した。
>「……私はですね。貴女達を殺すつもりで付けてきました。お陰でこんなゲームに巻き込まれてしまいましたが」
>「正直言って、ここで貴女達を殺すのは簡単ですわ。少しばかりここを通せんぼしてやれば、それでいい」
「何馬鹿なこと言ってんのよッ?さっさとそこから退きなさい!
でないと、その男受けだけは良さそうな小奇麗な顔に傷が付くことになるわよ!!」
少女の向ける静かな――しかし確固とした敵意を打ち返し、ひとみは彼女を威嚇する。
振り上げた触手の鞭を、少女に向けて振り下ろさんとした刹那――――
『にぎゃぁぁあああああああ!!!シャレにならないよ♪♪!!痛い!!痛い!!痛いよぉおおおおお!!!!!!』
搾り出すような絶叫を耳にして、ひとみは思わず振り返った。
部屋の中央部で、ステレオポニーと『あのネズミ』―――ザ・ファンタジアが互いの腕を交差させている
蛇を模したザ・ファンタジアの右手に食いつかれたステレオポニーの肩にはヒビ割れ、
しかし、その小さな手でザ・ファンタジアの手首をしっかと掴んでいた。
ステレオポニーの拳によって増幅された超音波振動を受けたザ・ファンタジア
右腕から胸部にかけて、連鎖的に細かいヒビ割れが走り――バリンッ―――!と瀬戸物が砕けるような音を立てて砕け散った。
白い破片が部屋中に飛び散り、下半身だけ取り残されたスタンドも煙になって消失していく。
228
:
116 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/01(水) 12:59:06
敵の気配の消えた医務室に取り残された三人の女。
>「ちょとお!ドアが開いてるんだったら教えてよー!馬鹿みたいじゃない!あとひとみんは私の右手治してね!」
流血しながらも有葵の声はどこか能天気だ。
「治せるからって救急箱扱いは止めてよね。治療だって疲れるのよ。」
ボヤきながらも有葵の肩の傷をフルムーンの触手で縫い合わせていく。
「まったくもう…急用でイタリアに帰ったどっかの馬鹿みたいに全力で負傷するのは止めなさいよね…」
更に小言を付け加えようとして、ひとみは背後に違和感を感じて口を噤んだ。
『―――♪呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン♪なんてね♪
お呼びでない?お呼びでない?コリャマッタ失礼シマシタぁ〜〜〜っ♪……キャラが違うって?
ジャパーンの古典アニメもグッだよね♪アニメじゃないのも混じってるけど♪
ぎゃはははっ!びっくりした?僕は霧だから不死身なんだよ〜ん♪』
声と共に再び鳴り響く電子音のマーチ。
ひとみの背後にぴったりと寄り添うように、何時の間に現れたのか、にこやかな笑顔の『あのネズミ』が立っていた。
『今度は大年増つーかまーーーーえたーーーー♪!!!』
ひとみは両肩をザ・ファンタジアの丸っこい手に掴まれていた。
スタンドの掌を中心にひとみの身体に染みのように広がる黒い汚染地帯…
フルムーンの触手鞭で肩を掴む手を滅多打ちにするが、ネズミは妙な嬌声を上げるだけで手を離そうとしない。
「なっ…何なの?コイツ…ダメージは無効化…瞬間移動みたいにイキナリ現れるなんて…反則的すぎるッ…」
抵抗むなしく時間は過ぎていく。
1秒…………2秒………2.5秒………2.7秒――――――!
黒い染みは指の第二関節辺りまで迫っている。
「じょッ冗談じゃないわ!!こんなクズネズミの仲間になるなんてッ!!
有葵!あんた、私が鬼になったら、何を置いても私の尻尾から切り落としてよォオォォォォォ!!!」
語尾は自然に叫び声に変わっていく。
とうとう観念して目を瞑って――――――
3秒…………4秒…………5秒…………6秒…………………
………『その瞬間』は訪れない。
そういえば、肩に感じていた圧力が無くなっている。
ひとみはそうっと目を開く。掌も腕も足も、常の肌色に戻っていた。
>「……ですが、それでは私が助からない。私は幸せになる為に貴女達を殺すのです。私まで死んでは、意味がない」
>「だから手を組みましょう。お互いが幸せになれる、素晴らしい提案だと思いませんか?」
開口部に佇んで、医務室内のドタバタを静観していた少女が冷ややかに口を開いた。
冷や汗まみれのひとみは言い返す気力も無かった。
【レス終了時の時間軸はよねさんと御前等さんがライブラリに侵入してバトルをおっぱじめた頃です】
【天野さんこの後合流しますか?】
【生天目さん、レス内での疑問『スタンドの重ねがけ』に関しては結論を言っちゃうとNOですw】
【吉野さん傍観者にしちゃってごめんなさいw】
229
:
117 :生天目
◆gX9qkq7FNo
:2010/12/01(水) 13:00:48
生天目の攻撃によって下半身だけなったザ・ファンタジアは煙になって消失した。
「あれ?消えちゃった」
>「治せるからって救急箱扱いは止めてよね。治療だって疲れるのよ。」
>「まったくもう…急用でイタリアに帰ったどっかの馬鹿みたいに全力で負傷するのは止めなさいよね…」
「ごめんね。でもこれも、ひとみんを信頼してるから出来ることなの。
回復役が死んじゃったらゲームオーバーだし、私みたいなスタンド使いでも盾くらいにはなれるよ。
時間稼ぎでもしたら、ひとみんがなんとかしてくれるって瞬間的に思いついたんだよ。
…少しでもこの劣勢を押し戻さなきゃ私に明日のポッキーはないもん。
…うん。縫うのは出血しないくらいでいい。血の足跡とか残らないくらいでいいから、早くここから出て本体を探そう」
傷口の縫合が終わり、消火器を跨いで、倒れているドアの方向に生天目が一歩足を踏み出すと―
>『―――♪呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン♪なんてね♪
お呼びでない?お呼びでない?コリャマッタ失礼シマシタぁ〜〜〜っ♪……キャラが違うって?
ジャパーンの古典アニメもグッだよね♪アニメじゃないのも混じってるけど♪
ぎゃはははっ!びっくりした?僕は霧だから不死身なんだよ〜ん♪』
電子音と共に再び出現するザ・ファンタジア。驚いて振り返った生天目は思わず言葉を返す。
「あなたが不死身なのは知ってる!!あなたのことは頭の悪い私でも理解できてきたわ!!ついでに分からない事もね!
あなたの本体ってどうやって私たちを見つけているの!?私のスタンドみたいに自動操縦に切り替えたり出来るってこと!?
基本的に私のスタンドには自我があるけど、遠く離れたときには一つの命令でしか動けない。
例えたら、お菓子を買ってくるとか単純な行動しかできなくなるの!途中に一億円が落ちてたってステポニは拾わないわ。
つまり、あなたにもなにか仕掛けがあるんじゃない?無敵能力と引き換えの制約みたいなものがね。
まーその秘密はこの生天目有葵さまが、きぐるみのチャックを開くみたいに暴いてみせるけど!!」
ネズミはその言葉を無視して白い顔面ににこやかな笑みを浮かべると
佐藤ひとみの両肩を、どす黒い掌で握り締める。
>「じょッ冗談じゃないわ!!こんなクズネズミの仲間になるなんてッ!!
有葵!あんた、私が鬼になったら、何を置いても私の尻尾から切り落としてよォオォォォォォ!!!」
「やばっ!!」
後手にまわり佐藤を救出する時間はなかった。せまい医務室内に鬼が二匹になってしまっては圧倒的に不利な状況に陥る。
踵を返し逃げようとした生天目は頭に激痛を受けて「ぎゃ!」と一言発し医務室の床に転がる。
出口と思って慌てて飛び込んだのは姿見鏡。本物のドア付近にはそれを冷ややかに見つめている吉野きららがいる。
>「……ですが、それでは私が助からない。私は幸せになる為に貴女達を殺すのです。私まで死んでは、意味がない」
>「だから手を組みましょう。お互いが幸せになれる、素晴らしい提案だと思いませんか?」
「…いてて…冷静に話している場合じゃな…い…。逃げないとつかまるわ…。それはもうひとみんじゃなくって鬼婆…。
捕まったら貴女も鬼になるんだから。みんなが鬼になったらこのゲームは負けて終わりなのよ〜」
小さい鼻からポタポタと鼻血が垂れているのがわかる。割れた鏡を通して佐藤を見ると冷や汗まみれ。
ザ・ファンタジアの姿はないように見えた。
「…え?」
割れた鏡越しの情報に予想外の違和を感じた生天目は振り返り
尻尾がないか恐る恐る佐藤の後ろにまわり込んでみた。
「ふむぅ〜…」
机の箱ティッシュで鼻血をふきながら唸る生天目だった。
230
:
122 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/05(日) 01:27:28
背後からひとみの肩を掴んでいたネズミの姿が消えた――――
押し寄せる安堵と混乱に、ドッと冷や汗が吹き出す。ひとみは暫し茫然と立ちつくしていた。
手を広げて掌に目を落とす。
極度の緊張によって汗ばんだ掌は、血の気を失って真っ白だ。
―――ひとみはホールの光景を思い起こした。鬼になった御前等祐介の掌は黒く変色していた。
自分は"鬼"になったのか否か……?自覚症状はない……肉体的にも精神的にも変化は感じられない。
……しかし何故ネズミは目的を達せずに、忽然と消えたのか――――?
>「と言うより、組まざるを得ないと言うのが正しい所ですかね」
戸口に立つ少女が、畳み掛けるように『提案』を持ちかける。
>「で、どうしますか?答え、急いだ方がいいと思いますけど」
嘲笑を潜めたイケ好かない物言いが、ひとみの神経を酷く逆撫でした。
込み上げる怒りが意識を現実に引き戻し、少女への敵愾心が却ってひとみに冷静さを取り戻させた。
ひとみは溜め込んでいた呼気を吐き出してから、静かに口を開いた。
「私を殺すためにストーキングしてた…なんて言う、頭のおかしい女と手を組むなんて虫唾が走るッッ!
…と言いたい所だけど……いいわ……。
こんな外部と隔絶された場所で揉めたって得な事は一つも無い。
ゲーム参加者同士での内輪揉めなんて、それこそ悪趣味なネズミの喜びそうなことだわ。
共通の敵である糞ネズミを倒して外に出るまで、一時手を組みましょう。臨時の対ネズミ協定ってとこね。」
少女への返答は『限定的YES』。
彼女に向けていた視線を逸らし、ひとみは背後を振り返った。
そこには白い壁があるばかりで『あのネズミ』がいた痕跡は何も残っていない。
「それにしても、『あのネズミ』は何で急に消えたのかしら?
あとコンマ0.何秒か待てば、私を"鬼"に出来たのに……少なくとも原因は、ここにいる私達じゃないわよね?
私の攻撃は全く効いていなかったし、あんた達が何かした訳でもなさそうね…?」
有葵と戸口の少女、交互に視線を向けて確認を取る。
「ネズミが消えた原因を探るとして、まず考えるべきなのは、私達以外の参加者の行動ね。
ゲームのフィールドである『場』が消えてないところを見ると、誰かが本体を見つけて倒した訳ではない。
でも何か…ネズミの弱点…とか、『場』を持続させる為の秘密とか…
私達以外の誰かが、その類のものを発見して何かしたのかも……?
あくまで一つの可能性にしか過ぎないけど、合流して確認を取る方がよさそうね。」
231
:
123 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/05(日) 01:27:57
ひとみの手の下に淡く光るスタンドシートが出現した。
4層に分離したシートには各階の見取り図と、数個の光点が浮かび上がっている。
「鬼化した馬鹿は、まだ4階ライブラリにいる。よね君は3階…スポーツジムのロッカー付近ね。
よね君、あの馬鹿を上手く巻いて、下の階に脱出したのかしら?
天野って子は3階、調理室辺り。
さて…これからどうするか?選択肢は2つ。
ネズミ消失の謎解きを優先させるなら、よね君か天野って子と合流して話を聞く。
若しくは、リスク軽減を優先させるなら、あの馬鹿の尻尾の始末を先にやっておく手も……」
言葉尻を呟きに変え、頬に指を当ててちょっと考え込むひとみ。
今一度スタンドシートを覗き込む。
何かがおかしい―――シートを眺めているうちに、ようやく違和感の正体に思い至った。
自分達の現在地――医務室周辺の光点の数が足りない……
ひとみと有葵の二つだけで、少女の光点が表示されていないのだ。
特殊なフィールドである『場』によって、ひとみの探知能力は狂わされている。
存在を認識していない能力者を捕捉出来ない可能性はあるとしても、目の前にいる人間に反応が出ないなど考えられない。
「これ…どういうこと?あんたまさか……?」
医務室周辺を拡大したシートを少女に向け、ひとみは少女を問い詰めた。
【引き続き調整のため大きな動きなしです。スイマセン】
【天野さん合流したかったら、いつでも言ってくださいね】
232
:
124 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/05(日) 01:28:51
>116>123
(下の階から聞こえてたネズ…ザ・ファンタジアの声は消えたな…
じゃあ、階段を降りよう。慎重に)
そう念じながら、階段を一歩ずつ、慎重に静かに急いで降りていく天野
無事、二階まで降りることに成功した。そして合流するため、佐藤達を探し始める
【短くてすみません。合流して良いですか?】
233
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/12/08(水) 01:53:20
人が変わったように尊大なもの言いをするよねが床を溶かして階下に消えて、その後。
御前等は、ゆっくりと息をしながら事態の経過を見守っていた。張り詰めた精神と、スタンドパワーを使い過ぎた。
「なんだったんだあいつは……」
これまでのよねとはまるで違う、氷のようで鉄のようで、それでいて溢れる出る血液にも似た男だった。
こちらに対する攻撃意思がなかったのは僥倖と言う他ない。さしもの御前等とて、この状態で再戦は望めない。
――特に今は。御前等はかつてないほどに冷静で、明晰だった。黒の侵食は既に首から下を全て覆っている。
(逃げられたか)
またしても、取り逃がした。
図書館に降った火は既に鎮まり(スタンドを解除するだけだ)、御前等の周囲は水を打ったように静かだ。
実際のところ水ではなく火を打ち、ついでに言えば非を打ったわけだが、それはそれとしてとりあえずの決着は得た。
御前等の目的はよねの鬼化。それを成し得ていない以上、勝負に勝利したとは言うまい。
今すぐに追いすがることも可能ではあるが、流石に疲労が募り憚られた。
(やむを得まい、一旦ザ・ファンタジアと合流するか)
もたれかかっていた書庫から興味の引くタイトルを一冊抜き、小脇に抱えるようにして図書室を後にした。
ザ・ファンタジアには一階を隈なく探すよう申し付けてある。無論あの人を喰ったようなスタンドに従う義理はないが。
ともあれこのまま一人で彷徨くよりかは合理的だと判断して、御前等は階段を一段飛ばしで降りていく。
「おっ」
二階に降りようとしたところで、いた。御前等に先行するようにして階段を降りていくのはハンチング帽を被った少年だ。
気付かれないように気配を消し、慎重に足を降ろす。よねの件もあることだし、暫く泳がせて様子を見たほうが良いだろう。
(どこへ向かうつもりだ……?)
天野の後ろをそっとついていく。
【現在地:二階と三階とを繋ぐ階段。天野君を発見し気配を消して尾行】
234
:
127 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/12(日) 23:30:39
佐藤ひとみが『ザ・ファンタジア』に肩を掴まれた時、
吉野は沈黙と共に衣服のポケットに右手を潜り込ませていた。
布地の内に秘めているのは、比較的大きめの果物ナイフだ。
スタンド使いでも、胸を刺せば死ぬ。
首を切っても死ぬ。頭部を強打しても死ぬ。
吉野はもしも佐藤が鬼になってしまったら、その時は間髪入れず彼女を殺す気だった。
けれどもそれは未遂に終わる。
『ザ・ファンタジア』は一体どうした事か、
佐藤ひとみを鬼にする事なく消え去ったのだ。
ナイフを手放し右手をポケットから出して、吉野は小さく息を吐く。
そして改めて協力の是非を問い掛けた。
>「私を殺すためにストーキングしてた…なんて言う、頭のおかしい女と手を組むなんて虫唾が走るッッ!
…と言いたい所だけど……いいわ……。
こんな外部と隔絶された場所で揉めたって得な事は一つも無い。
ゲーム参加者同士での内輪揉めなんて、それこそ悪趣味なネズミの喜びそうなことだわ。
共通の敵である糞ネズミを倒して外に出るまで、一時手を組みましょう。臨時の対ネズミ協定ってとこね。」
「……貴女がそれを言いますか?まぁ、深くは言及しませんけど。どうぞよろしく」
佐藤の返答に吉野はもう一度、今度は嘲笑混じりの吐息を零した。
愛する者が自分の手に入らないのならばいっそ殺してしまおう。
そう考え、あまつさえ実行に移した女から、まさか頭がおかしいと謗られるとは思わなかったのだ。
だが佐藤の言う事は、彼女が言えた事ではないが――それでも正しかった。
幸せになる為に殺す。
誰かを不幸にすれば、相対的に自分は幸せになれる。
吉野きららが抱き締めていた信条は、致命的に壊滅的に破綻しているのだ。
それは彼女の現状を見れば明らかな事だ。
九頭龍一は殺し損ね、一度は手にした完成した能力も瓦解して。
躍起になって人殺しを繰り返している内に、訳の分からない男に絡まれ、顔面を殴られて。
そして今、九頭との戦いで『何かを得た者』を殺す事で
『何も得られなかった自分』を乗り越えようとした彼女は、
生死を分かつゲームへの参加を余儀なくされている。
彼女は段々と不幸に陥っていた。
そしてそれに気付いてしまったが故に、吉野きららはスタンド能力を失った。
スタンド能力は精神力の具現化した物だ。
幸せになりたいと願う精神に根差していた彼女の能力は、文字通り力の源泉を失ってしまった。
今や吉野は「ここでやめてしまっては何も残らない」と言う惰性の下で、動いている。
>「それにしても、『あのネズミ』は何で急に消えたのかしら?
あとコンマ0.何秒か待てば、私を"鬼"に出来たのに……少なくとも原因は、ここにいる私達じゃないわよね?
私の攻撃は全く効いていなかったし、あんた達が何かした訳でもなさそうね…?」
「そう、ですね……」
何も出来なかったのだとは言わない。
露呈するまでは敢えて明かす必要のない情報だ。
むしろ悟られてしまえば、役には立たず、
敵になっても怖くない存在だと盾にされてしまうかもしれない。
235
:
128 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/12(日) 23:31:04
>「ネズミが消えた原因を探るとして、まず考えるべきなのは、私達以外の参加者の行動ね。
ゲームのフィールドである『場』が消えてないところを見ると、誰かが本体を見つけて倒した訳ではない。
でも何か…ネズミの弱点…とか、『場』を持続させる為の秘密とか…
私達以外の誰かが、その類のものを発見して何かしたのかも……?
あくまで一つの可能性にしか過ぎないけど、合流して確認を取る方がよさそうね。」
「貴女のそのシート、過去の位置情報も分かるのですか?もしそうなら
さっきネズミが消えた時、他の参加者が何処にいたのか。分かるんじゃないでしょうか。
少なくともいざ合流した時「今から何分前、何をしていた?」と聞いても答えは得られないでしょう。
この状況でまともな時間間隔が保てるとは思えませんし、時計だってそうそう確認している余裕はない筈ですからね」
他の参加者達の現在位置を確認している佐藤に、吉野は問いと提案を投げかける。
佐藤の能力でそれが分からなければ、それは合流後に他の面々の曖昧な時間間隔に頼るしかない。
「知るべき情報は現在だけじゃなく、過去だと思いますわ」
だが、時間で言うのならまだ一分ほど前、『ネズミが消えた瞬間』に他の参加者は何処にいたのか。
その正確な情報が得られれば、それは現状に対する値千金の突破口に成り得る。
>「これ…どういうこと?あんたまさか……?」
けれども返って来たのは、吉野が求めた情報ではなかった。
佐藤が示す『これ』――即ちスタンドシートを、吉野は顔を上げて見下すように覗き込む。
恐らくは各階の見取り図と思しい映像に、幾つかの光点が点在している。
先ほどの口振りからして光点は生物や仲間の位置かと吉野は予想した。
しかし突き付けられたシートを見ると、光点が一つ足りない。
丁度自分が立っている位置にあるだろう点が、無いのだ。
そして、吉野は察した。
この点が示しているのは生物でも仲間でもなく――スタンド使いの反応なのだと。
「……お察しの通りですわ。私のスタンドは幸せになる為の物でしたから。
私、気付いてしまいまして。こんな事を続けても幸せになんかなれる筈がないと」
自嘲の笑みを零して、吉野は自白した。
「ですから私がスタンド能力を失ったのは、当然の事ですわ。……正確には、殆ど全てを」
言葉に伴って、彼女は右手を胸の高さに掲げた。
そして掌を上にして、伸ばした人差し指の先に小さな花の蕾を兆させて見せる。
236
:
129:吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/12(日) 23:31:28
「このちっぽけな蕾が、今の私のスタンド能力。そして未練ですわ。
咲く事がないと分かっていても尚、捨てられない。
捨ててしまえば、後には何も残らない、最後の未練」
己を嘲るような口調で、吉野は続けた。
「だから私は貴方達を殺さなきゃいけないんです。
勿論このゲームも生きて打破しなくては。なので暫くの間ですけど、仲良くしましょうか」
彼女の宣言は佐藤へ向けた物でありながら、一方で彼女が自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「……ところで先ほどの選択肢ですけど、私は後者を推しますわ。
あの男を元に戻すと言う事は敵の数を減らし、こちらの数を増やす。
一つの行動で二つの利があるのですから」
明瞭で明快な理屈に従って、吉野は提案した。
そして佐藤に一つ、問いを放つ。
「……で、あの男は今何処にいるんですか?そのシートならすぐに分かるのでしょう?」
【知りたい情報→『ネズミが消えた時、他の参加者は何処にいたのか』
合流後聞きたい情報→『そこで何をしていたのか』
吉野の能力→蕾を咲かせるだけの能力。物体に咲かせる事でスタンドに対して影響力が付加出来る
佐藤に「天野を追跡中?」の御前等の位置を尋ねる】
237
:
130 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/12(日) 23:32:15
>>126
(どこにいるのかな…)
とりあえず二階に有る部屋を片っ端から探り、佐藤達と合流しようとしている天野
(ここじゃ無いみたいだ…)
御前等の尾行には気づいていないようである
「早く誰かと合流した方が良いよね…。イケなんとかさんとかザ・ファンタジアとかに見つかったらまずいし…」
独り言のように呟く天野
(ここはどうだ…? …違うみたい)
なかなか佐藤達の居る医務室にたどり着けない
「早く合流しないと…もしかしたら今も誰かに狙われてるかも知れないのに…」
念のために言っておくが、御前等の気配には気づいていない。ただの心配症である
(怖いな…急に襲われたらどうしよ…。僕って理系だから運動苦手なんだよな…)
などと心で思いながら二階を探索している天野
(念のために確認した方が良いかな…)
キョロキョロと辺りを見回す天野。かなり挙動不審だ
(後ろも確認した方が…いや、その瞬間襲われたら元も子もない…だったら!)
手に持っている水入りペットボトルに黒いハンカチを当てる…即席の鏡だ。それで後ろの様子を探る
(!! 池…谷さん!? ぜんぜん気づかなかった…)
ペットボトルで御前等を発見。内心驚いている
238
:
131 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/12(日) 23:32:35
(よし…逃げるが勝ちだ…!)
足に力を込め、走り出す天野。とにかく逃げることが優先らしい
240
:
134 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/13(月) 00:13:08
>「……お察しの通りですわ。私のスタンドは幸せになる為の物でしたから。
> 私、気付いてしまいまして。こんな事を続けても幸せになんかなれる筈がないと」
>「ですから私がスタンド能力を失ったのは、当然の事ですわ。……正確には、殆ど全てを」
スタンド能力を失った――――少女の告白を境に沈黙の間が場を支配した。
細い指の先に兆す小さな蕾を挟み、対峙する佐藤ひとみと吉野きらら。
ひとみは無言でスタンド探知センサーの感度を上げシートに目を落とした。
シート上の見取り図、丁度少女立つ戸口付近に、ぼんやりとした光点が現れた。
少女の言う通り彼女の能力は弱まっている。が、失っている訳ではない。
嘲りを込めた小さな吐息を漏らし、ひとみは口を開く。
「気分が下がってスタンド絶不調ってわけ?思い通りに行かないから?随分気紛れな能力ね。」
ひとみが少女と顔を突き合わせるのは二度目だ。初顔合わせは決戦の地となった廃校のグラウンド。
あの時、「九頭龍一を乗り越えることで『幸福』に至る」と宣言する少女に、ひとみは激しい嫌悪感を抱いた。
九頭は誰かの幸福の踏み台になるような安い男ではない。
が、少女が九頭を通じて幸福を得られると感じていることさえ許せなかった。
幸福なんて感覚の位相次第でどうにでも変わる下らないモノ。
そんなものに拘る女に、その無意味さを知らしめて叩きのめしてやりたい―――少女と敵対していた時の気持ちが蘇る。
少女は自ら求めるものの虚しさを知ったのか……いや、この女はそんなしおらしいタマではない。
事実彼女がひとみに向ける敵意は少しも和らいではいない。
「あんたが落ち込んで能力を失おうがどうしようが、そんなこと知ったことじゃないわ。
今問題なのはあんたが役に立つかどうか。
戦力として二軍以下なら多少損な役割でも引き受けてもらうわよ。」
ひとみは言葉を加え、一旦スタンドシートの映像を切った。
数秒後、再びシートに全階の見取り図が浮き上がる。
「ネズミが消えた瞬間の参加者の位置……確かに確認しておく方が良さそうね。
誰がどこで何をしていたか…参加者の行動を映像として見るのは無理だけど、
マーカーの位置だけならキャッシュが残っている数分前のものまでなら表示できるわ。」
ネズミ消失時の全員の位置を問う少女の提案は、中々的を射たものだ。
誰ともつるまず、たった一人で九頭に挑もうとした女の胆力と洞察力は馬鹿にできない。
姿を隠した敵相手のゲーム…"かくれんぼ"は言ってみれば知力勝負。
機転や推理力はスタンド能力に負けない有効な武器である。
騒々しいばかりの御前等、インテリの割に肝心なところが抜けているよねよりも、案外戦力になるやも知れない。
シートの光点がせわしなく動き始める。現在の情報ではない。数分前までマーカーの位置を巻き戻している。
光点がある位置に到達すると、ひとみは声を上げた。
「ここ…確か有葵が鏡に向かって走り始めた時よね!ネズミが消えた瞬間って……!」
光点は一度静止し、再び動き出した。ネズミ消失の数秒前から再生させているのだ。
「他の参加者の位置は……3F…天野って子は調理実習室でじっとしてる。
4Fは…丁度、馬鹿男がよね君に襲い掛かった?二人のマーカーがライブラリに入り込んで接触してるわ。」
その後、暫く接触と離脱を繰り返していた2つのマーカーだが、よねを現すマーカーが突然消失し3Fに現れる。
241
:
135 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/13(月) 00:13:33
シートを見つめ一通りマーカーの位置を確認した少女は、別の提案を持ちかけた。
すなわち、ひとみの持ちかけた選択肢…情報収集か、はたまたリスク潰しが先かの答えを。
>「……ところで先ほどの選択肢ですけど、私は後者を推しますわ。
>あの男を元に戻すと言う事は敵の数を減らし、こちらの数を増やす。
>一つの行動で二つの利があるのですから」
>「……で、あの男は今何処にいるんですか?そのシートならすぐに分かるのでしょう?」
少女は"リスク潰し"の選択を選んだ。ひとみも同意を示し、シートを現在の位置情報に切り替える。
御前等の現在地はエレベーター横の階段、3Fから2Fの間の踊り場付近。
少し距離を置いて御前等の前を移動するマーカーが一つ……天野だ。
二つのマーカーは一定の距離を開けたまま動いている。
御前等は天野を付けている……!
天野はエレベーター横の階段を下り2Fに至ると、廊下を真っ直ぐ進む。
天野のマーカーが廊下の途中にある音楽スタジオの扉付近で、突如移動のスピードを上げた。
御前等に付けられていることに気づいたらしい。
廊下は一本道。他に逃げ場は無い。天野は廊下の突き当たりから、そのままホールに入り込んだ。
「…天野君、あの馬鹿から逃げ切れるかしら。これ以上鬼が増えたらたまったもんじゃないわ。
ホールに行きましょう。遠回りになるけど、ホールなら1Fからでも入れる。
あの馬鹿に悟られずに近づくチャンスよ。」
ひとみはシートを指でなぞり西側の階段を下り、南ロビーからホールに至る順路を示した。
*************************************
――― 一方、よねの現在地、スポーツジムのロッカー
天井付近に渦巻く白い霧の渦が現れた。
渦は床上に降り立ち、数秒後には『あのネズミ』の姿が出来上がっていた。
よねのすぐ目の前、2m程離れた位置に立つ『あのネズミ』。
「あ〜〜♪メガネ君!♪やっぱりココにいたんだぁ〜♪
メ〜ガネ君♪あっそび〜ましょ〜♪』
いかにして知ったのだろう?ネズミは、よねの位置を特定してこの場に現れたのだ。
ネズミは真っ黒な掌を広げ、じりじりとよねに近づいてくる…!
ロッカー室の扉は全て霧の塊で鍵がかけられている。ひとみ達を医務室に閉じ込めた時のように。
よねは正にロッカー室の中で"袋のネズミ"となっている。
【天野さんが逃げ込んだのはホールの2Fとしていますがいいでしょうか?(ホールの温度低下はもう解除してます…よねw)】
【吉野さん、生天目さんに御前等さん&天野ッチを追いかけてホールに行かないかと提案】
【御前等さん、1ターンほど天野さんを追いかけてくれるとうれしいな】
【黒化よねさんの前にネズミさんが現れました。タッチして鬼化しようとしています】
242
:
136 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/13(月) 20:13:59
(気付かれた……!)
天野がなにやらペットボトルを眺めたかと思うと、弾かれるように走りだした。
場所は二階に降りて少し歩いたところであり、一本道の廊下を奥へ奥へと駆けていく。突き当たり、角を曲がる。
気付かれた以上なりふり構えない御前等もそれを追い、トラップの存在だけには警戒しながら進み、角に差し掛かった。
(待ち伏せがあるならここだな)
手鏡を持ち合わせていなかったので携帯をアンバーワールドに持たせカメラの自分撮り機能で角の先を写す。
誰も写っていなかった。ままよとばかりに角を曲がれば、鉄扉がついさっき開かれた痕跡として揺れているところだった。
記憶を辿る。
(この先は――佐藤さんのシートによれば、『ホール』。鬼ごっこのスタート時に俺達が集められた場所)
正確にはその『二階席』に通じる扉だ。すり鉢型の演場は4階までの吹き抜けであり、二階は報道カメラも入る指定席。
扉を開ければ、並んだイスと手すりの向こうにホールの一階が一望できるはずだ。
(厄介なところに逃げこまれたな……やむを得ん、佐藤さん達に合流されても面倒だ、ここで仕留める!)
アンバーワールドに扉を押してもらい、慎重に中の様子を伺いながら身体を入れる。
天野のあの慌てようなら、この短時間で即座に効果的な罠を作成している公算は低い。
ましてやこちらは機構を支配できる能力者だ。ギミックが基本のブービートラップ程度なら、解除しつつ進める。
(どこだ……視界から外したのは不覚だったな、曲がり角、扉と経由されてはどのタイミングからでも姿を隠せる)
具体的には御前等は、天野がホールに入ってどう行動したのか何一つとして知りえない。
足跡でも残っているなら別だがここは屋内であり、リノリウムにそこまでの擦過性は期待できない。
すなわち、御前等には天野が扉を通って『どっちに向かったか』すら把握していないのだった。
(この状態はマズい。いつ不意打ちを喰らってもおかしくないッ!)
壁に背をつけながら、御前等はゆっくりと二階席の探索を始めた。
【天野くんをロスト。二階席を虱潰しに探し始める】
243
:
138 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/12/13(月) 20:14:38
>「…天野君、あの馬鹿から逃げ切れるかしら。これ以上鬼が増えたらたまったもんじゃないわ。
ホールに行きましょう。遠回りになるけど、ホールなら1Fからでも入れる。
あの馬鹿に悟られずに近づくチャンスよ。」
「わかったわ。じゃあヒトエモン。透明シート出して。あと鬼に3メートルまで近づくと音楽がなるんだよね?
それはステポニがノイズキャンセラでどうにかする。それといい作戦とかあったら教えて」
そう言い残し、助言を胸に秘めながら生天目はホールに消えた。
【奇襲作戦はじめました】
245
:
167 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/15(水) 00:37:28
佐藤の皮肉に、吉野は何一つ反駁しなかった。
彼女にとって幸せになる事は、人生を貫く命題だった。
だと言うのに自分は、それとは真逆の方向に突き進んでいたのだ。
彼女の精神力は荒廃し、衰退しきっている。
今の彼女を動かしているのは、後戻り出来ない程に誤ってしまったのなら、いっそ最後貫いてしまおうと。
要するに捨て鉢な感情だけだった。
>「…天野君、あの馬鹿から逃げ切れるかしら。これ以上鬼が増えたらたまったもんじゃないわ。
ホールに行きましょう。遠回りになるけど、ホールなら1Fからでも入れる。
あの馬鹿に悟られずに近づくチャンスよ。」
佐藤の提案に異論はない。
吉野は無言のままに頷いて、移動を開始する。
>「わかったわ。じゃあヒトエモン。透明シート出して。あと鬼に3メートルまで近づくと音楽がなるんだよね?
それはステポニがノイズキャンセラでどうにかする。それといい作戦とかあったら教えて」
「……透明シート、あるんですか?あの子行っちゃいましたけど」
言葉を交わす暇もなく、生天目はホールに飛び込んだ。
彼女の背中を細めた双眸で見送りながら、吉野は呟く。
「まあ、無かったら無かったで悪くないと思いますけどね。三人纏まって動く必要はありませんから。
誰か一人があの男の背後を取れば良い訳で。貴女の触手なら姿を晒さずに捕縛が出来るでしょう」
一旦言葉を切り、吉野は開かれた扉の奥に広がるホールを一望した。
規則正しく並んだ椅子がずらりと広がっている。
「あの椅子の下、触手を通せばあの男にはさっぱり見えないんじゃないですか?
万が一ネズミが出ても、ここなら逃げ道を塞がれる事は無いでしょう。
散り散りになった時の集合場所は、決めておいても損はないと思いますけどね」
ともあれ、彼女は「と言う訳で」と言葉を繋いだ。
ポケットからナイフを取り出し、右腕をだらりと下ろして、彼女は言う。
「行ってきますわ。出来れば私やあの子がやられる前に、事を済ませて下さいな」
錆びたような笑みを零して、吉野はホールへと向かう。
自分と生天目が注意を引き、その隙に隠密行動が可能な佐藤が御前等の尻尾を切る。
作戦としては筋が通っている。
だがその裏には、いっそここで死んでしまえれば、
自分の体に満ちて精神を蝕む失意から逃れられる。
楽になれると言う、無自覚の願望が潜んでいた。
そして吉野はホール一階の中心に姿を晒した。
ナイフを微かに揺らして、その存在を強調する。
スタンドの拳に殴られるよりも確実な死をもたらすそれを見せる事で、警戒心を煽るのだ。
無論、今の吉野に二階にいる御前等にナイフを届かせる術はない。
それでもブラフ程度にはなるだろう。
それにもしも一方的な攻撃に撃ち抜かれたのなら、それはそれで吉野にとっては救済だ。
【吉野は佐藤さんの透明化能力を知りません。
姿を晒して囮モード】
247
:
168 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/16(木) 00:55:50
(危なかった…!)
何とか御前等を一時的にまいた天野
(恐らくあの人の性格上、僕の逃げ込んだホールを虱潰しに探すはずだから、
見つかるのは時間の問題だな…)
天野は走って上がっていた息を整えていた
(性格…といえば。あの人、初めて会った時はお調子者で頭で考えるより先に体が動く…って印象だったけど
今のあの人は何だか雰囲気が違った…。会ったときのあの人なら、僕を見つけるや否や襲い掛かってきてもおかしくない…何でだろう…)
息を整えながら考えていた。御前等の印象について。
(まあ、今はそれよりも…)
ふぅ、と小さくため息をつき
(如何にしてこの状況を打破するか、だな…
あの人のスタンド能力はまだ分かってないけど、こちらの能力も割れてないはず
でも最初のときに気づかれた可能性もあるな…。そうでなくとも、今の池谷さんがそれを思い出したら…
それを防ぐためにも、先手必勝だ…ただいまの室温、28℃、湿度60%。気温上昇開始…35、40、50、60…湿度上昇、65%、70%、80%…)
フリーシーズンで室温と湿度をどんどん上げる天野。もちろん、自分の周りを冷たい空気で覆うのも忘れない。そうして、蒸し暑い空間を作り上げようとする
【フリーシーズンで気温と湿度を上昇中。そのうちサウナになります】
248
:
182 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/16(木) 00:56:35
「暑いな……さっきまでこのホールは不自然に寒かったはずだが。誰かの"能力"か」
御前等は再び吹き出した汗をバンダナで拭いつつ林立するイスの群れに埋めていた顔を出した。
ポーチからセロハンテープを取り出し適当な長さで切る。吹流しのように空中をヒラヒラやるとひとりでに渦を巻いた。
セロハンは湿気に反応して収縮する性質を持つ。すなわち巻き具合を見れば大まかな湿度は観測できるのである。
(やはり湿度が高くなってきている……この急激な温度上昇といい、あからさまに不自然。蒸し焼きにでもする気か?)
能力の詳細はわからないが、とにかく寒暖や湿度を上下させる能力なのだろう。
あるいは、"水"を操る能力なのかもしれない。水分子を高速で振るわせれば電子レンジの要領で高温の水蒸気になる。温度下降は気化熱で説明がつく。
(天野くんの能力か……?このホールに『他に誰もいなければ』――消去法でそういうことになる)
そう思考した刹那、中断された。
視界の端――すり鉢状のホールの最底辺、一階の中心部に人影が現れたのだ。
天野かと思えば否。御前等は温度と湿度のあまり蜃気楼でも見たかと我が目を疑った。そこに居たのは居るはずのない――吉野きらら。
(何故あの女がここへ……?幻覚か?でなければこうも都合良く俺の知り合いが不自然に現れるものか!)
咄嗟に身を伏せたがこちらに気付いたのだろう、遠くの吉野は御前等の居る場所から視線を外さなかった。
挑発するように――だらりと下げた右手に光るのは小さなポケットナイフ。
(何故スタンドを使わない……?"あんなもの"が、俺に対する牽制になると思っているのか?)
殺傷力の観点で言えばナイフに分はあれど、やはり対スタンド戦においてリーチの短い刃物は後手に回る。
御前等にはその10倍、攻撃を届かせる距離を保てるし、彼女のナイフにスタンドエネルギーがない以上、アンバーワールドを傷つけることもできない。
(あるいは、"誘い"……か。いずれにせよ、ここで立ち往生するのは奴の目論見通りだ)
御前等は判断した。遠くから距離を保てば吉野は眼中から外して良し。ただし、完全なるイレギュラーである彼女を放置はしておけない。
天野が逃げたにせよ、御前等の入ってきた入り口はアンバーワールドで施錠してある。となれば他に逃げ場は対岸のもう一つの出入り口しかない。
だがその先は――楽屋。すなわち袋小路だ。天野が本気でこちらを迎撃に来ない限り、余裕を持って対処できる。
事態は詰み将棋に似てきていた。相手の有利をこちらの有利で阻み、塞ぎ、叩き潰す。外堀から順に埋立ていく作業。
(先に不確定要素を潰すか)
御前等は立ち上がり、スタンドを利用して跳躍する。大きく弧を描いた幅跳びは、着地点を二階席の手摺に定めた。
ほんの10センチほどしかない、虚空と席とを分ける手摺。足を滑らせれば間違いなく一階まで真っ逆さまの致命点へ、御前等は猫のように静かに立った。
アメリカねずみに与えられた黒の尻尾を器用に使ってバランスをとり、ホールの中央にいる吉野を見下ろす形で――対峙した。
「久し振りだな吉野さん。何故君がここに"居る"かは興味ないが――何故ここに"来た"かは目下知りたいところだ。答えてもらおう」
アンバーワールドの歯車を展開しながら、いつでも射出できる体勢で、御前等は問うた。
【逃げ場を塞いだことで安心し天野君を後回しに。目下不確定要素の吉野ちゃんに尋問】
249
:
6 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/22(水) 03:41:13
【1Fホワイエ、ホール入口】
>「行ってきますわ。出来れば私やあの子がやられる前に、事を済ませて下さいな」
鉄砲玉の有葵に続いて、花使いの少女もホールの扉をくぐった。
二人の背中を見送り、ひとみも僅かに開いた扉の隙間からホールの中に身体を滑り込ませる。
舞台だけがスポットライトに照らされている。客席は薄暗い。
ホールの中は不自然に蒸し暑かった。
にわか雨が降った直後の真夏の路上のような不快な湿気が肌に纏わりつく。
差し当たっての仕事は、ホールに飛び込んでいった有葵に事情を伝えて誤解を解くことだ。
インビジブルはスタンドと共に本体を透明化する能力。
ひとみ以外の人間に光学迷彩を施すには、フルムーンの作る触手製皮膜の内側に居なければならない。
皮膜をフルムーンから切り離してしまうと透明化の機能は失われる。
フルムーンと行動を共にしなければ透明化の恩恵は受けられないのだ。
薄闇に満たされた客席、壁際は一層暗く、そこに誰かが居ても目を凝らさねば視認できないほどだ。
壁際の闇に潜み、ひとみはスタンドシートを出し、有葵の位置を捕捉する。
有葵は舞台に近い座席の影に隠れていた。人並みに警戒心はあるらしい。
ひとみは触手を床に這わせ、有葵の足首に巻きつけた。
ディープダイブ(精神干渉)を開始し、有葵の精神に呼びかける。
『言っておくけど"透明シート"なんて都合のいいもの無いわよ!
透明化するにはフルムーンと繋がってなきゃならないの!
ステレオポニーを透明化してあの馬鹿を奇襲する気かもしれないけど、
私のフルムーンでは、ステポニのスピードについていけないわ。その作戦は却下!
あんたのスタンドなら透明にならなくてもスピードで翻弄できるでしょ?!
私がアイツの体を拘束する!それまであの女と一緒に時間を稼いで!』
精神干渉の続く10秒を限界まで使い、早口で用件だけを捲くし立て、有葵の足首に巻いた触手を解く。
その後、二階席の手摺に巻き付けていた触手に掴まり、ワイヤーを巻き取る要領で触手を縮め二階席の通路に上がった。
ひとみの位置から離れてはいるが、通路には先客がいる。
人を襲う鬼と化した御前等だ。
幸い御前等は、一階座席中央に現れた少女―――吉野きららに気を取られている。
二階席の手摺に立ち一階を見下ろす御前等。見上げる少女。視線を交わす両者。
ひとみは姿勢を低くし闇に紛れて通路を移動する。
二階に上がるに当たり選んだのは、御前等の後ろを通らずとも目的の場所に至れる位置。
このまま少女と有葵が陽動を続けていてくれれば、御前等に気づかれることは無いだろう。
向かう先は通路の奥に位置する楽屋……そこに天野が身を隠している。
250
:
7 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/22(水) 03:41:41
【現在地:楽屋3】
二階席を抜け楽屋廊下に至ると、ひとみは再びスタンドシートを出して目標物の位置を捕捉した。
廊下の突き当たり、一番奥の部屋に天野がいる。
フルムーンの触手で鍵をこじ開け、ドアを開く。ひとみは一見誰もいない楽屋に向かって語りかけた。
「天野君…いるんでしょ?さっさと出て来なさいよ。言っておくけど私は鬼じゃないわよ。」
隠れ場所からおずおずと顔を出す天野。ひとみは両の掌を広げ天野に向けた。
肌色のままの掌は『鬼』でないことの証明。
「この蒸し暑さ……あんたの能力ね?」
能力を推理して天野に問う。
スタンドシートはホール全体のサーモグラフィーに切り替えている。
ホールの空調が故障しているわけではない。エアコンの吹き出し口からは冷気が出ている。
しかし、その効果も及ばぬ速度で上昇する気温と湿度。何らかの"能力"を使ったと考える方が自然だ。
「鬼になったあの馬鹿はまだホールにいるわ。さっさとアイツの処理をしてゲームを進めましょう。
…その雲みたいなスタンド…それで気温や湿度を操れるのね?
君にも力を貸してもらうわよ。」
天野の後ろに現れた白い雲のようなスタンドを指差し、協力を迫る。
「ところで、天野君。その雲のスタンドでミニチュアの積乱雲を作れる?」
ひとみは尋ねる。
天野の能力が気温と湿度の操作と仮定して……
気温を局地的に変化させられるならば、空気の温度差による対流で気流を起こすことも可能な筈だ。
雲は上昇気流に乗った湿度の高い空気が、上空の冷たい空気に触れて、水蒸気が凝結または固化することで形成される。
蒸し暑いホールの天井付近だけを冷気で満たしておけば、
気流と湿度の操作で小型の雲を作ることが出来るのでは…と踏んでの問いかけだ。
「これから、ホールの座席下にスタンドの触手を張り巡らせて罠を張るわ。
この罠はあの男が、ホール1階の床に足を付けなれば発動できない。
あの馬鹿…人間離れした動きでホール中を飛び回って、ウザったいったら!
それに、私のスタンドのパワーはあの男よりずっと下。
例え上手く捕えたとしても、普通の状態では直ぐに触手を引き千切られてしまう。
相応のダメージを与えなければ確実に捕獲出来ない。
そこで…君の力を借りたいのよ。
積乱雲は成長を終えると、強烈な下降気流を発生させる。
いわゆる『ダウンバースト(下降噴流)』…!上から下に叩きつける突風よ。
アイツが飛び上がった拍子にダウンバーストを起こして床に叩きつけて欲しいのよ。
その機を狙って、私が罠を作動させてアイツを捕獲するわ。
雲の成長に多少時間が必要なら、時間稼ぎ要員(吉野&有葵)に頑張ってもらうわ。
どうこの作戦…?君のスタンドで雲が作れなければ別の方法を考えるしかないわね。」
【吉野さん、有葵ちゃんに御前等陽動作戦を丸投げ】
【天野さん結構限定的に動かしちゃってごめんなさい。
位置は、一番奥の楽屋(楽屋3)としてしまいましたがいいでしょうか?】
【楽屋3で天野っちと合流。ダウンバースト作戦を話す(作戦の意味が分かりづらかったら避難所で質問ください)】
251
:
8 :生天目
:2010/12/22(水) 03:42:09
>『言っておくけど"透明シート"なんて都合のいいもの無いわよ!
透明化するにはフルムーンと繋がってなきゃならないの!
ステレオポニーを透明化してあの馬鹿を奇襲する気かもしれないけど、
私のフルムーンでは、ステポニのスピードについていけないわ。その作戦は却下!
あんたのスタンドなら透明にならなくてもスピードで翻弄できるでしょ?!
私がアイツの体を拘束する!それまであの女と一緒に時間を稼いで!』
「……」足首から伝わってくる情報に、生天目の顔は薄闇の中で真っ赤になっていた。
無知である自分への恥かしさとホール内の蒸し暑さが頭のなかでバタフライをしていた。
だが今は、兎にも角にも陽動作戦を成功させなくてはならない。
唾を一つ飲み込んだあと意を決して、座席の影から頭を出してみるとホール中央には吉野きらら。
一見無謀にも見える吉野の行動だったが理にかなっている。少女の存在は御前等に何かしらの疑問を与え、
作戦上、最悪の展開とも言えるが吉野を鬼に変えるための3秒は御前等の隙を生む。
「でも…感情を殺さなくっちゃあんなことできない…すごい女…」
少し生天目の体は震えた。すでに吉野の視線の先には御前等。
「私って今まで自分のことしか考えていなかったけどがんばろ…」
ステレオポニーはスポットライトまで飛んで行くと御前等の顔面を照らす。
「まぶしいでしょ?」
生天目は知っている。御前等のスタンド能力の片鱗を。廃校でみたジャングルジムを。
(今つっこむのって危ないわよね。ひとみんもまだ動いてないみたいだし…。
陽動っていうか時間稼ぎって言うか、ホールの女がぐっちゃりやられそうになったら…
そのときはいかせてもらうけど…)
【御前等さんの顔にスポットライトを浴びせました】
252
:
9 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/22(水) 03:42:44
何故だか、ホールは蒸し暑かった。
熱気と多湿が肌にじんわりと汗を滲ませる。
上昇し続ける室温はやがて、五感や思考にさえも靄を掛けるだろう。
そうなれば不利になるのは吉野の方だ。思考がなくても力は振るえる。
だが彼女には振るうべき力が無いのだから。
しかしながら一方で、吉野の目的は時間を稼ぐ事でもある。
矛盾だ。だがこの矛盾は容易に解消出来る。
吉野がどちらか一方を諦めてしまえば、それでいいのだ。
そして彼女は既に、諦めている。
無意識の内にではあるが、彼女は自ら進んで死に歩み寄っているのだ。
幸せになれない、やり直しのきかない、失意に苛まされるばかりの生など終わってしまえばいいのにと。
>「久し振りだな吉野さん。何故君がここに"居る"かは興味ないが――何故ここに"来た"かは目下知りたいところだ。答えてもらおう」
見下し、スタンドの両腕を突き付けて、高圧的に御前等が問うた。
対して吉野は、嘲りの笑みを浮かべる。矛先の定まらない、自嘲にも見える笑みを。
「……さあ、何故でしょうね。ほんの少し前なら、幸せになる為と答えていたのですけれど」
要領を得ない答えだ。時間稼ぎの目的に適った回答。
けれども吉野は本当に、自分が何故ここにいるのか明確な答えを出せないでいた。
ここにいる限り、スタンド使いである限り、生きている限り、幸せにはなれないと言うのに。
彼女は今、目先の目的と上辺だけの意識で動いている。
極論、この市民会館から生きて出られたとしても、彼女は幸せになれはしない。
それでも心の表層でなんとなく、死ぬのは不幸な事だと思っているから、
彼女は薄弱な意志で御前等と対峙しているのだ。
>「まぶしいでしょ?」
不意に、御前等の顔に眩い光が浴びせられた。
生天目が操作したスポットライトだ。
直後、吉野はナイフにスタンドの蕾を付加する。
そして振り被り、御前等目掛け投擲した。
蕾自体には何の効果もないが、それでもスタンドに対する影響力は与えられる。
これは牽制であり、攻撃だ。
御前等が油断し生半可な防御をすれば、ナイフは彼のスタンドを傷付けるだろう。
そうでなくとも、吉野に彼を殺傷する術があると知らしめる事が出来る。
【スポットライトに合わせてナイフを一本投擲。
蕾付きナイフは、ピストルズの乗った弾丸がスタンドに効くってのと同じ感じで】
253
:
10 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/22(水) 23:18:13
>7
>「天野君…いるんでしょ?さっさと出て来なさいよ。言っておくけど私は鬼じゃないわよ。」
(佐藤さんの声…? 大丈夫かな、出てっても…)
一瞬小さな疑念を抱いた天野だったが、それは一瞬で消える。何故なら佐藤が自分の掌を見せたから。彼女の掌は肌色。つまりそういうことだ
「はい…」
静かに隠れていた場所からでる天野
>「この蒸し暑さ……あんたの能力ね?」
>「鬼になったあの馬鹿はまだホールにいるわ。さっさとアイツの処理をしてゲームを進めましょう。
…その雲みたいなスタンド…それで気温や湿度を操れるのね?
君にも力を貸してもらうわよ。」
「はい。その通りです。正確には気温、湿度に加えて気流も操れますけど…。僕で良いのでしたら…」
やや恐縮気味に答える天野。少し人見知りが激しいようだ
>「ところで、天野君。その雲のスタンドでミニチュアの積乱雲を作れる?」
「はい…。作れますよ。気温、湿度、気流を上手く操作すればどんな雲でも大体作れます…」
>「これから、ホールの座席下にスタンドの触手を張り巡らせて罠を張るわ。
この罠はあの男が、ホール1階の床に足を付けなれば発動できない。
あの馬鹿…人間離れした動きでホール中を飛び回って、ウザったいったら!
それに、私のスタンドのパワーはあの男よりずっと下。
例え上手く捕えたとしても、普通の状態では直ぐに触手を引き千切られてしまう。
相応のダメージを与えなければ確実に捕獲出来ない。
そこで…君の力を借りたいのよ。
積乱雲は成長を終えると、強烈な下降気流を発生させる。
いわゆる『ダウンバースト(下降噴流)』…!上から下に叩きつける突風よ。
アイツが飛び上がった拍子にダウンバーストを起こして床に叩きつけて欲しいのよ。
その機を狙って、私が罠を作動させてアイツを捕獲するわ。
雲の成長に多少時間が必要なら、時間稼ぎ要員(吉野&有葵)に頑張ってもらうわ。
どうこの作戦…?君のスタンドで雲が作れなければ別の方法を考えるしかないわね。」
「なるほど。ダウンバーストですね。了解しました。…ところで佐藤さん。この暑さで貴方の集中力が切れて反応が遅れたら元も子もありませんから…」
そういって天野は自分の周りもそうしているように、佐藤の周りの気温も下げ始める
「これくらいかな? たぶんこれで熱中症の心配は無いと思います。では、作戦に移りますね。『フリーシーズン』!
ただいまの上空の室温100℃、気温低下開始、95℃、90℃、80℃、70℃、60℃、50℃…」
天井付近の温度をどんどん下げてゆく天野。多少の時間はかかるが、まあまあ上手くいきそうだ
【佐藤さんのダウンバースト作戦開始】
254
:
19 :御前等 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/24(金) 22:56:02
>「……さあ、何故でしょうね。ほんの少し前なら、幸せになる為と答えていたのですけれど」
御前等が放った上からの問いに、吉野の答えは返答ではなかった。
質問を質問で返す女。テストを白紙で提出する愚行。あるいは、胸の深淵への自問自答か。
「ふん。らしくないじゃないか、吉野さん。俺の知っている君は、もっと歪みなく濁った目をしていた。
目的のためなら手段を選ばず、他者の命すら平気で糧とする生き意地の汚さは、しかし美しくもあったものだ」
俺は君のそういうところに惹かれたのだがな。と御前等は補足。
御前等の目には、今の吉野の姿は、萎れた花に等しく魅力を削いだものに映った。
この女は今、命に執着していない。幸福に執着していない。目的に執着していない。全てを唾棄してここにいる。
「……下らん。実に反吐の出る話だ。かくも人とはこの短期間でこうも劣化できるものなのか?
短期間でこうも、己の進むべき道を――誤るのではなく、違えるのでもなく。見失うものなのか。その覇気のない顔をやめろ」
御前等は両腕を抱擁するように構え、歯車の群れを纏わせる。
一斉放射の前兆挙動。この距離で、この体勢で、この状況から叩き込めば、吉野はあと一瞬の命もないだろう。
「二度とそんなツラを俺に見せるな。それが無理なら――――ッ!?」
不意に、視界が削がれた。
それは光であり、同時に闇を孕む明星。指向性を持った極光は御前等の眼球を貫き、網膜をホワイトアウトさせる。
>「まぶしいでしょ?」
キャミソール女――――生天目の声。そのスタンドによるものか、"そこにいないはず"の女の声と、行動の結果が生じた。
舞台の強力なスポットライトがその性能を遺憾なく発揮し、御前等の視力を奪う。
(目眩ましか……!チィッ、天野くんと吉野さんを警戒しすぎた。あの女……やってくれる!)
回復しない視界の向こうで、吉野が手元から何かをこちらに向けて投げ放つのが見えた。
否、投げ放った後。目眩ましに乗じて放たれた"何か"が、投擲の速度でこちらへ飛来する。
眩んだ眼では捉えきれない。何が、どのように飛んできているのか把握できない。
255
:
20 :御前等 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/24(金) 22:56:29
「アンバーワールド!俺を護れッ!」
スタンドの手のひらを前に出す。上半身をカバーするように、吉野と自己との遮蔽物とするように。
方向はわかっているのだから、吉野の位置から御前等に届かせるのに必ず描く軌道もまた把握できる。
そこにスタンドを置いておけば、吉野の投擲物が如何なるものであれ防げる。彼女のスタンドは近接型だ。スタンドによる飛び道具ではない。
だが。
吉野の投げた"何か"。――鼻先まで迫ってそれが先程のナイフだと気づいたが、そのナイフは。
『アンバーワールドを貫いて御前等に迫った。』通常の器物に対しては絶対の防御力を誇るはずのスタンドが、容易く射抜かれる。
「な、何ィーーーッ!?『蕾』だとッ!こんな方法で!」
ナイフの柄尻には吉野が扱うのと同じ『蕾』が芽吹いていた。
スタンドで構成されたそれは、器物にスタンドへの攻撃力を付与する効果があるのかアンバーワールドの手のひらを破壊してなお止まらない。
御前等は上体を逸らして距離をとるが、不安定な足場ではそれが精一杯。ナイフは刹那で彼我の距離を食い潰す。御前等の頭部へ迫る!
ザシュ、と小気味良い刺穿音。御前等の――顔の前に構えたハードカバーの本に刺さるナイフ。先程ライブラリから持ち出した本だった。
本を持つ手の甲が裂け、穴が開いて血が吹き出す。拳を握って無理やり止血した。
「驚いた。ヒトが微弱な精神エネルギーを常に体に帯びているのと同じように――ナイフにスタンドパワーを帯びさせたのか。
……なかなか面白い応用をするじゃないか。それだ、それでこそ俺の見初めた吉野さんだ。愉快な思いをさせて貰った礼に――」
本でスポットライトからの光に影を作り、数枚の歯車をライトへと射出した。
生天目が何の対策も講じなければスポットライトは破壊され、そこに居るスタンドにも傷が入るだろう。
御前等は残りの歯車を、吹き抜けのホールの虚空へぶちまけた。紙吹雪のようにゆっくりと降る歯車はやがて自由落下を超えた速度を得る。
「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
さながら滝のごとく。吉野だけを狙う正確緻密なコントロールで、歯車の雨はホールの虚空を縦に貫く。
【吉野のナイフを被弾。致命傷は本で防ぐ。ヤバいと感じ歯車を飛ばしてステポニ&吉野ちゃんに攻撃】
257
:
21 :名無しになりきれ
:2010/12/25(土) 22:33:39
――3F スポーツジム ロッカー室
よねは"本来のよね"が持っていた"敵の情報"を必死に手繰り寄せていた。
本来のよねから乗っ取ったその体に今のよねは慣れていなかった。
元々、一つの人間であるが故に記憶や身体能力は共有している。
だが、脳―前頭葉や側頭葉―の使い方がまだいまいち把握できていないのだ。
そうしているうちに、今対峙している敵の情報を捉えた。
全てを把握すると、よねは気付いた。非常に危険な状態という事に。
(ネズミに追い詰められて袋のネズミ…皮肉か……折角手に入れたこの体、こんなくだらないことで手放せるか…ッ!)
それでもなおジリジリと近づいてくる霧の怪物。
この手に掴まれば全てが台無しだ。
「待てよ、待て。私と交渉しないか、聞こえてるでしょう。そのスタンドの本体。…エイドリアン、だったかな?
今、私は私がここに入ってきたときの米コウタではない。私は米コウタの深層心理の顕在。二重人格、とでも捉えてくれれば分かり良いでしょう。
そこで、です。私は提案します。他のスタンド使いは私が入れ替わった事に、おそらく気付いていません。
なにを言わんとしているかわかりますね?」
よねの提案はこうだ。
他のスタンド使い―佐藤ら―はよねが深層心理の顕在である"裏のよね"と入れ替わった事を知らないハズだ。
そこでよねが味方のふりをして佐藤らに近付き、佐藤らを油断させ、そこをエイドリアンと一網打尽にする。もちろん、御前等も。
その代わりに、エイドリアンはよねの安全を保障する――と、このような提案だ。
「もちろん、拒否して、私をあからさまに敵としてわかるようにし、力押しで彼女らを捕らえるのもアリでしょう。
ですが、私とて大人しく捕まりはしません。同じように彼女らも何らかの抵抗はするでしょう。
お互い、安全に事を進めるべきと思います。
私をこの"ゲーム"の参加者から除外する事で、確実に他のスタンド使いたちを始末できる。
そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」
よねも、提案が受け入れられなければ本格的に戦う。いざとなれば逃げる事も可能だ。
だが、提案を受け入れられなかった場合のリスクは高い。
よねとしては、なんとしても提案を受け入れさせたいところだった。
【交換条件:よねの身の安全と交換に佐藤らを捕まえるために協力するという提案をしました】
258
:
22 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/12/25(土) 22:35:44
がらんとした薄暗いホール。スポットライトを浴びた少年は少女の投擲したナイフによって拳を血で染めている。
生天目は座席の後ろに隠れながらそれらを見つめる一人の観客と化しており、自分も登場人物の一人なのだということさえ忘れていた。
すると…
(え!!?)
光の中心で御前等の影が動き無数の何かがステレオポニーに投擲される。
(もう避けきれナイ!!)
独語しスタンドはスポットライトの影に隠れた。矮躯な体ではあったが全身を隠すにはまだ不十分。
(でもコレなら)
ステレオポニーはスポットライトの頭、円柱のようになっているライト部分をスタンド能力を込めて蹴りあげ内部で「反響」をおこし飛んでくる歯車方向に向けて破片を炸裂させた。
これは戦車などに使われている爆発反応装甲の原理。装甲の間に爆発物を埋め込み被弾時に内部から爆発を起こして外部からの力を反発させ軽減する方法。
音波というスタンドエネルギーを帯びたスポットライトの破片は歯車たちを弾き飛ばしスタンドへの直撃を回避する。
「きゃあ!!」
とは言えダメージは0でもなく、スタンドをかすった歯車は生天目本体の左手に傷を残している。
(やばい!ちょうしいいこと考えてたけどなんかやばい!!あの歯車はやばすぎる!!)
左手の肘の上から流れる血が床を濡らす。
(ひとみんはまだなの!?それにあっついし!歯車はふわふわ飛んでるし!!)
生天目は急いでステレオポニーを本体のガードに回すと座席の死角に潜りこむ。
佐藤ひとみと天野の作戦は遂行中なのかも知れないが生天目の目線からではまだ確認できていない。
>「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
吉野きららにむけ、歯車の雨が虚空から降り注いだ。
259
:
32 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/25(土) 22:36:19
【現在地 楽屋3 佐藤・天野】
>「なるほど。ダウンバーストですね。了解しました。
>…ところで佐藤さん。この暑さで貴方の集中力が切れて反応が遅れたら元も子もありませんから…」
周囲の空気から熱気が引いていくのを感じる。
スタンドシートのサーモグラフィーを見ると、ひとみの周囲は摂氏30度以下を示す緑色に変化していた。
ホール全体は未だ50度以上の高温域を示す明るい黄色が覆っているというのに……
天野の周りも、ひとみ同様の色を示している。
「なるほど…冷気のスーツってわけね。あと二人、これやってもらわなきゃならない人間がいるわ。
天野君、ホールに行きましょう。」
天野を促しホールへ向かう。楽屋廊下とホール二階を繋ぐ出入り口の前で、ひとみは足を止めた。
多少死角はあるが、出入り口の開口部から一階座席が俯瞰できる。
ホール内では以前、御前等と吉野きららが交戦中。
スタンドシートに吉野と有葵の現在地を表示し、天野に向かって語りかける。
「冷気で覆って欲しいのはこの二人。
それと…天野君、携帯出して。私の番号送るからずっと通話中にしておくのよ。
私はこれから一階に降りて罠を張る。君はここで雲を成長させていて。
ここならアイツ(御前等)の動きが見えるでしょう?
タイミングが合えばダウンバーストを起こしてアイツを床に叩きつけて!場合によっては私が合図を送るわ。」
天野への指示を残し、透明化した状態で浮遊するフルムーンの触手に掴まり、一階に身体を降ろした。
透明化したまま触手を急速に成長させることはできない。座席の影に身を隠すと、ひとみは迷彩を解き、
フルムーンから伸びる無数の触手を床に這わせ、ズラリと並ぶ座席下を通していく。
やがてホール全体の座席下に網の目のように張り巡らされた触手。
御前等を捕獲するための"罠"は完成した。あとは機を図るだけだ。
分離させたシートに浮かび上がるのは、ホールの縦断面の温度分布図。
4階まで吹き抜けになっているホールの天井は高い。
1、2階にいる者には体感できないが、天井付近の温度が急速に低下していく。温度は上空数十キロ圏内と同じ氷点下20度。
上下の気温差と天野の操作する気流に乗って湿度の高い空気が天井に向けて立ち昇る。
シートを室内の水分分布図に切り替える。
立ち昇った空気は天井付近の冷気に冷やされ、水蒸気が結露または直接氷に固化し雲が生まれる。
薄暗いホールの天井付近に生まれた雲。
視認は困難だが、スタンドシートには直径3mほどの積乱雲が水分子の塊として映し出されている。
積乱雲は上昇気流によって形成される。が、成長中、雲によって蓋をされた上昇気流は行き場を失い、
積乱雲の下は一時的に気圧が高くなり『メソ・ハイ』という局地的な高気圧が生まれる。
自然界では、雲の中で成長した雨や雹が落ちることで上昇気流が解消される。
ここでは天野が能力を以って上昇気流を停止させれば良い。
上昇気流の下支えを失ったメソハイが一気に崩れ突風(ダウンバースト)が発生するはず…!
「天野君、雲の成長は充分よ…!アイツの動向に注意して!」
携帯を片手に小声で天野に訴え、ひとみはただ、罠発動の機を待つ。
【ダウンバースト作戦準備完了】
【現在地 天野2F通路入口、佐藤1Fどっかの座席の影】
260
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2010/12/26(日) 02:35:10
【よね、ザ・ファンタジア 現在地:3Fスポーツジム ロッカー】
御前等との戦闘後、3階に逃れたよねを襲う白い霧のネズミ―――ザ・ファンタジア
出入り口の扉は、全て霧の鍵で塞いでいる。
余裕綽々のネズミは白い顔に邪な笑みを浮かべ、真っ黒な掌を突き出してよねに迫る。
>「待てよ、待て。私と交渉しないか、聞こえてるでしょう。そのスタンドの本体。…エイドリアン、だったかな?
>今、私は私がここに入ってきたときの米コウタではない。
>私は米コウタの深層心理の顕在。二重人格、とでも捉えてくれれば分かり良いでしょう。
突然の告白。ネズミは眼を丸くして立ち止まった。
ネズミはフンフン頷きながら、よねの話を大人しく聞いている――――が、表情に出さぬも内心はかなり呆れていた。
『私は以前の私とは別人格ですから、あなたの敵ではありません。協力しましょう』
こんな説得を受け入れて、攻撃を思い留まる御目出度い敵がどこの世界にいるだろうか?
このインテリ風メガネの青年が、その愚かさを認識していないはずはあるまいに…。
苦し紛れの命乞いとしか思えないタワゴトを口走るほど、精神的に追い詰められているのか?
(メガネ君にはガッカリだな〜♪もうちょっと気の利いた抵抗をして楽しませてくれると思ったんだがなあ〜♪)
そもそもザ・ファンタジアは、ゲームの参加者を"捕えて鬼化する"ことにそれ程執着してはいなかった。
霧のスタンドは『場』において無敵。さらに2時間経てば『場』は消失する。
タイムアップを待てば、何もしなくとも、自動的に参加者全員の命とディスクを奪うことが出来るのだ。
開放条件である『本体の発見』とて、現在のゲーム参加者に叶えられる筈がない…と絶対の自信を持っていた。
『場』に取り込んだ時点で、命はこちらが握っているようなものだ。
変則鬼ごっこは時間つぶしの為の慰み……
自らの手に命運を握られた囚われ人が、逃げ惑い恐怖に怯える様を楽しみたいが為、ゲームを持ちかけたに過ぎない。
そう……抵抗など不可能な、力の劣る小児を捕えて嬲り殺しにしていた時のように……。
(アレに感づかれたかと焦ったけど、ビビッて損したなー♪メガネ君のおつむも所詮この程度だったってコトか♪
なら折角だから利用させてもらおうっカナー♪)
ネズミは目を細め最上級の笑みを零してよねに語りかけた。ご丁寧に揉み手までしながら。
『わかったよ!メガネ君♪。君の中にいた、もう一人の君が目覚めたってことなんだね!裏人格♪!!
そういうことって往々にして在り得るよねぇ♪まったく在り得る話だよ!
君が味方の振りをして奴らをおびき寄せる作戦も、超グッドだよ♪グー♪
まさか中身が『裏人格』に入れ替わっていようとは奴らも予想しやしないだろうからね♪
君が『鬼でない証拠』を見せて近寄れば一網打尽だネ♪ヒーホ〜〜♪やろうやろう♪その作戦!』
ザ・ファンタジアはハナから『よねが別人格と入れ替わった』という話を信じていない。
ただ助かりたい一心でヨタ話を捻り出したのだ…と思っている。
だがこの青年が、そんなヨタ話を持ち出すほどに自らの安全に執着しているのなら……
他人を犠牲にしても自分だけは助かりたい…という下衆な精神の持ち主なら……それはそれで利用価値がある。
『僕の性質柄、握手はできないけどヨロシクね♪メガネ君♪』
白いネズミは胸の前に構えていた手を引っ込めて、にっこり微笑んだ。
【よね君の提案(共同戦線の申し入れ)を一応受け入れる】
【ザ・ファンタジアはよね君を利用しようとしているだけで、身の安全を確保するつもりはさらさら無いようです】
261
:
47 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/28(火) 19:40:56
>「冷気で覆って欲しいのはこの二人。
それと…天野君、携帯出して。私の番号送るからずっと通話中にしておくのよ。」
「了解しました。その人とあの人ですね。『フリーシーズン』!」
天野はフリーシーズンで吉野と生天目の周りの空気も冷やす
さらに佐藤の言葉通り携帯を通話中にして、入道雲の生成を続ける天野
「4O℃、30℃、20℃、10℃、0℃、−10℃、−20℃…!」
上空の気温を下げ続け、ついに−20℃まで下がった。天野の操る気流の助けもあり、入道雲はどんどん大きくなっていく
>「天野君、雲の成長は充分よ…!あいつの動向に注意して!」
「了解です…!では、健闘を祈りますよ…!」
佐藤の小声での指示に対し、こちらも小声で答える天野。上から御前等の様子を伺い始める
262
:
62 :吉野きらら◇HQs.P3ZAvn.F
:2010/12/29(水) 03:08:08
>「……下らん。実に反吐の出る話だ。かくも人とはこの短期間でこうも劣化できるものなのか?
短期間でこうも、己の進むべき道を――誤るのではなく、違えるのでもなく。見失うものなのか。その覇気のない顔をやめろ」
ナイフを投げ終えた後で、吉野きららは小さく独りごちる。
「……見失っただけなら、どれだけ良い事でしょうね。私にはまだ、しっかりと見えていますわ。
幸せになる為の道が。だけどもう、その道に戻る事は出来ません。見えているのに、戻れないのです
それはただ見失うよりもずっと……ずっと辛い事だと思いませんか?」
九頭龍一のゲームに巻き込まれなければ、北条市に来なければ、幸福になる為だと人殺しをしなければ、
スタンド能力に目覚めなければ、日常に転がっている些細な分岐路を誤らなければ、吉野きららは幸せになれた筈だった。
だが過去に積み重ねられた間違った選択を、運命がどう転んだのかを正す事など出来る訳がない。
彼女はもう幸せになる事は出来ない。
スタンド使いは惹かれ合う。例えこの場を凌いだとしても、新たなスタンド使いがやってくるのだ。
切り刻まれ、殴られて、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされるような不幸が必ずやってくる。
絶対に不幸が訪れると分かり切った未来に歩んでいく事は、それさえもが既に不幸な事だ。
>「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
それでも、降り注ぐ鈍色の死を慈雨と受け入れられる程、吉野は達観していない。
痛みも死も、嫌に決まっている。故に彼女は身を投げるように横に跳んだ。
だが避け切れない。雨霰と発射された歯車の一つが彼女の顔面へ迫る。
スタンドを使えない彼女に、それを防ぐ手立てはない。
「ぐっ……!」
歯車は吉野に直撃した。くぐもった鈍い音が皮膚の内側から響く。
アンバーワールドの歯車は、彼女の骨を容易く砕いた。彼女の、腕の骨を。
彼女には歯車を防ぐ手立てはなかったが、それでも最悪を回避する事は出来た。
頭部への直撃の代わりに、左腕を犠牲にする事で。
「そしてこのまま倒れ込めば……ひとまずは一段落ってところでしょうか」
腕の真芯で疼く熱を帯びた痛みに顔を顰めながらも、吉野は呟く。
ホールの一階には座席がずらりと並んでいる。
倒れ込んでしまえば、それこそ真上から覗き込まない限り御前等は吉野を視認出来ない。
或いは階下を塗り潰すように歯車を撃ち込まれれば、
最早吉野には虫ケラのように這いずり回るしかなくなってしまうが。
「何だか涼しくはなってきましたが……まさかこれだけさせておいて、それだけって事はないでしょう?」
ともあれこれで御前等は何らかの動きを見せる事だろう。
【頭部コースの歯車を左腕で防御。並んでいる座席の下に倒れ込んで身を隠す】
263
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/12/29(水) 03:40:06
吉野きららは被弾した。
その腕を盾に、致命傷を避ける。絶命こそ避けたものの創傷は避け得ず、出血しながら彼女は倒れこんだ。
――――林立するイスの中に。吉野は姿を隠す。
(馬鹿な……ここからでは奴の姿が『視認』できないッ!高低差がアダになったか!)
同時に悪寒。スポットライトへ目を走らせれば、撃墜したはずのキャミソール女のスタンドは健在だった。
ライトこそ破損しているものの、どうやって護りきったかあれだけの歯車を受けて尚、そこに居た。
(凌がれた……!あの妙ちきりんなスタンドへ飛ばす分の歯車を吉野さんへ向ければ確殺していたというのにッ!配分を誤った……判断を誤ったッ!!)
そして生まれる包囲網。生天目が無事で、しかも視界に存在しない。
それすなわち伏兵に同義で、孤立無援のこの状況では命に達する刃だった。
(くっ……どうする。あのキャミ女があの場所にいない以上、いつ背後から刺されるかわからん。
くそッ、暑いな――これも天野君か?判断力を奪おうって魂胆か?)
だとすれば、それはこの上なく効力を発揮している。
流れ落ちる汗は視界を奪い、加熱する脳は思考を濁らせる。吉野の消失、生天目の潜伏、気温の上昇。
御前等に仇なす要素は積み上がり、まるで彼を包囲するかのような疑心暗鬼の罠がホールを形成する。
(落ち着け――!確実に一人ずつ潰していけば良いことだ。ダンジョン攻略を想定すれば良い。
攻略とは、進展とは、目の前に累積した壁と困難を一つずつ分解し簡単にしていく作業をいうのだからな)
とにもかくにも、まずは正確な地点の割れている吉野から処理すべきだろう。
これは容易い。ホールの一階に降り立ち、イスの林を掻き分け目視照準で止めを刺せば良い。
しかし馬鹿正直に降りるわけにはいかなかった。下に降りるということは、高さのアドバンテージをみすみす逃すということに他ならない。
一階を隈なく歯車で打ち抜くという案もあるにはあるが、これも現実的とは言えない。
ただでさえ四面楚歌のこの状況で、いたずらにスタンドエネルギーを浪費するのは下策も下策だ。
(角度が問題なのだ……林立するイスに姿が隠せるのは!俺の視点が斜め上からだからだ。
麻雀で相手の手牌を覗き見るように!真上から見下ろぜば正確に爆撃できる。その技量が俺にはある)
決まった。手摺から飛び、ホールの虚空を横切って向こう岸の観客席へ飛び移る。
アンバーワールドの膂力を借りた跳躍なら可能だ。そしてその空程で、真上から真下吉野を確認し狙撃する。
上方のアドバンテージを手放さず、吉野だけを正確に潰せる最善策だ。
「たった一度、進まんとしていた道を違えた程度で下を向くなよ求道者。人生にやり直しが効かないなどと勘違いしてるんじゃあないだろうな。
どこにも道がないのなら、そこに道を拓けば良い。届かない道ならば、"その道へ至る道"を拓け。可能なはずだ、俺達には!
悟りきったような顔して、悟りきったようなことをほざく君に、俺から一つだけ常識を贈ろう」
アンバーワールドをカタパルトにして、御前等は虚空へ身を飛ばす。
いくつかの歯車を腕に纏わせて。吉野を穿つのには一発で良い。残りは保健と、生天目への牽制。
「――諦めたらそこで試合終了だ!」
ホールの吹き抜けに精緻な弧を描いて。御前等は吉野の直上へ到達する。
【隠れる吉野を上から見つける為に大ジャンプ】
264
:
64 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/30(木) 23:48:25
御前等が大きく跳んだのを見て、
(来た…!)「作戦実行します。フリーシーズン!」
携帯で小声で佐藤に伝え、作戦を実行する。フリーシーズンの能力で操っていた上昇気流を止めた
「ダウンバースト!」
上昇気流の蓋が外れた積乱雲。中の乱気流が下の方向、即ち御前等に向かって勢いよく落ちる。
ものすごいパワーの下降噴流、ダウンバーストだ。強いダウンバーストが空中の御前等を床にたたきつける
「とりあえず僕の仕事は成功だ! グッジョブ、フリーシーズン!」
だが、まだ天野は御前等から目を離さない。天野は降水確率0%でも必ず鞄に折り畳み傘を入れておく主義なのだ
家に帰るまでが遠足、全部成功するまでが作戦なのだ。最後まで気を抜いてはいけない
【ダウンバースト作戦、実行】
265
:
65 :名無しになりきれ
:2010/12/31(金) 19:26:39
/ 君が『鬼でない証拠』を見せて近寄れば一網打尽だネ♪ヒーホ〜〜♪やろうやろう♪その作戦!』
(やったッ!!これで、これで……ッ!!)
よねは今すぐにでも飛び上がって歓喜の声を上げたかった。
「それじゃあ、作戦を開始しましょう。私は佐藤さん達と接触します。
そしてそこに貴方が現れる。その後、佐藤さん達が交戦を開始してきたら私、貴方、御前等さんの三人で一網打尽にしましょう。
あの人たちが逃げ出したら……その時はジリジリと追い詰めて確実に、堅実に仕留めましょう」
カンタンな打ち合わせをするよね。
では、いこうか、とザ・ファンタジアに向けて言った。
――その頃、よねの精神世界
暗く広く、どこまでも深い穴に堕ちていっている。そんな錯覚によねは陥っていた。いや、もしかしたら錯覚ではないのかもしれない。
そうだ、錯 覚 で は な い 。
事実として、よねは精神世界の穴を凄まじいスピードで落下していた。
(表は…現実じゃあどうなってるんだ……?御前等さんは…)
少なくとも、"本当のよね"はよねの精神世界の中で思考できている。
どうやらよねの命は無事なようだ。
(裏の人格……潜在意識の顕在だなんて…バカバカしいにも程がある…)
しかし、現実に起こっている事実でもある。
"本当のよね"はそんな非現実的なことが認められずに居た。
(ヤツは…ヤツのとんでもなく強靭な精神力、"鋼鉄の精神"で人格を奪った。
ヤツにも出来たなら、元々は同じ自分にも出来るはず!否、出来ないわけが無いッ!!)
そう思うやいなや、"本当のよね"の落下スピードが少し遅くなった。
よねの精神世界は闇に包まれている。落下スピードが遅くなったとしても周囲の景観の移り変わりが遅くなったりするわけではない。
しかし、よねは感じた。確実に落下スピードは落ちてきている、と。
精神世界を落ちて行くスピード、それは自らの精神力と関係している。
よねはそう確信していた。
【現実:作戦決行の準備。
精神世界:"本当のよね"が人格を取り戻せるかもしれない方法を発見】
266
:
66 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/02(日) 20:06:50
2階から降りた佐藤ひとみは、壁際に近い座席の影に身を潜めていた。
しゃがんだ体勢のひとみの側には、浮遊するフルムーンが床上10cmほどの低い位置に控えている。
眼球を内包するケースから伸びる触手は床を這い伝い、植物の根のように枝分かれしながら伸びていく。
1分かからぬ内に、床全面に網の目状に成長した触手が張り巡らされた。
薄暗い座席、視力の良い者であっても、よくよく眼を凝らさねば触手の成長を捉えられぬはずだ。
再びスタンドと本体の体表を迷彩で覆い、罠発動の機を窺う。
>「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
御前等の一声と共に回転する歯車の乱舞―――吉野きららに降り注ぐ歯車の雨!
金属質の落下音がホール中に響き渡る。あの数の歯車に身体を撃ち抜かれたら、無事で済むはずがない。
ひとみは少女の絶命を覚悟したが―――否、歯車は目的を達していない。
シートには少女の生命反応がある。
いくつもの座席を透視し、視界に捉えた少女は出血する腕を庇い座席の下に身を伏せていた。
>「たった一度、進まんとしていた道を違えた程度で下を向くなよ求道者。人生にやり直しが効かないなどと勘違いしてるんじゃあないだろうな。
>どこにも道がないのなら、そこに道を拓けば良い。届かない道ならば、"その道へ至る道"を拓け。可能なはずだ、俺達には!
>悟りきったような顔して、悟りきったようなことをほざく君に、俺から一つだけ常識を贈ろう」
>「――諦めたらそこで試合終了だ!」
少女に止めの一撃を見舞わんとするか、
二階席から飛び降りる御前等。自らのスタンドの背に足をつき、その背筋をバネに虚空に跳ねる―――!
通話中の携帯電話から天野の声が漏れる。
>「作戦実行します。フリーシーズン!」
―――御前等に向けて、吹きつける突風!
上空から下方に吹き降ろす強烈な下降気流―――ダウンバーストだ。
天野の気流操作によって正確無比なコントロールを得た噴流は、ピンポイントで目標を撃ち落とす。
ゆっくりと弧を描き宙を舞っていた御前等の身体は、慣性を失い座席を繋ぐ通路の床に叩きつけられた。
吹き降ろした風が床にぶつかり余波が四方に広がる。立ち上がったひとみは風に大きく髪を煽られた。
クモが巣にかかった獲物の場所を知るように、触手の網は御前等の落下点を感知していた。
触手は御前等を中心に急速に収束し、その手足に絡み付く。
一瞬の後には、両手両足と胴体を固定された簀巻き状態の男が床に転がされていた。
最後の仕上げとばかりに、口元まで触手で覆い発声の自由さえ奪う。
風に煽られ顕になった右目を掌で庇い、乱れた髪を直しながら、ひとみは男に歩み寄る。
「ああ!せいせいしたわ!コイツには二度と喋らせたくないッ!
酒飲みながら絡んでくる酔っ払いの説教も最悪だけど、攻撃しながら説教ってどういう了見なのッ?!
な〜にが『"その道へ至る道"を拓け』よ?!
どうせ近所のコンビニに行く程度の安っすい道しか持ってないくせに!
もう、ウザすぎて吐きそうだわ!
誰の為にこんな手間負ってると思ってんのよ!このクズ男ッ!
このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
物陰から姿を現した有葵は左手から血を流していた。よく見ると簀巻き男も掌を傷つけている。
歯車を被弾した少女の左腕の負傷も決して軽くは無いだろう。
これから施す治療の手間を考えて、ひとみは大きな溜め息を漏らした。
【御前等さん決定ロール的に動かしちゃってすいません】
【御前等さん捕獲成功。有葵ちゃんに尻尾切り落としを依頼】
267
:
67 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/03(月) 19:36:15
>このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
生天目のスタンド、ステレオポニーは簀巻きにされた御前等まで飛んでいくと簡単に右手で尻尾を掴む。
御前等も拘束されていては流石に何も出来ないらしい。
(尻尾を引っ張ったら歯車が飛んでくるとか仕掛けなんてないわよね?)
遠目から生天目はちょっと心配しつつ、スタンドの右手で尻尾をピーンとひっぱって、爪先で尻尾の根元を蹴飛ばしブツンと切り離した。
ぺたん
切り離しに成功して、弾力で縮んで右手に軽く巻きついた尻尾そのままステレオポニーは本体の生天目に戻る。
本体の生天目はと言うとちゃっかり佐藤の傍に歩み寄って治療を受ける気満々。
「気持ち悪い…そんなの捨ててきなさいよ」
持ってきた尻尾を見て生天目が怒るとステレオポニーは不貞腐れて尻尾を放り投げ、投げられた尻尾は偶然に佐藤の服に滑り込む。
「ちょっと!どこに捨ててんの〜!尻尾でも敵スタンドの力が宿っているのよ!たぶんね。万が一にでも変なことが起きたらどうするのよ!?
あ、でもひとみんは鬼にならないんだっけ?結局は医務室のあれってなんだったんだろ…?
ホールでイケメン太郎さんは鬼になって医務室でひとみんは鬼にならなかったの…。その違いってなに?
違いって言ったらイケメン太郎さんが鬼になった時にホールはものすごく寒かったね。でもそれはたぶんあの人の能力ででしょ?」
生天目は視界に入った天野を指差し佐藤にはなし続ける。
「私の断片的な思い出を辿っても違いがよくわからないよ。ひとみんの体感としてはどうだったの?
ひとみんとかよねさんってみんなが紙にサインしたのがスタンド攻撃の起点だとか見破っちゃうし、もうその直感に頼ってもいい?
まあわかんなくっても本体を見つけられたらそれでいいってことなんだろうけど…。もう私にはわかりません。それと今何時?おなかすいちゃった」
生天目のおなかがクゥと鳴る。
268
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/01/05(水) 04:44:45
スタンドのカタパルトによって超跳躍を得た御前等は空中を遊歩しながら吉野を探していた。
臨戦の興奮か意識は加速し視界は静かにせせらいでいく。音は消え、光は間延びする。
(撃ち抜くっ……!俺は躊躇いなく……例えそれがヒトの形をしていようとも、殺められるっ……!)
越えまいとしていた一線。御前等を日常に繋ぎ止める命綱。
"人を殺めない"という、脆弱で手前味噌な制約は、精神を掌握するスタンド能力の前では風前の紙人形に等しい。
寸分の狂いもなく狂っていた。御前等は、本気で吉野を殺害するつもりだった。
既に『ザ・ファンタジア』による鬼化は顔面にまで及び、空中で御前等の姿を一点の抜けなき漆黒へと変貌させる。
――そして、風が吹いた。
上から下へ、屋内であるはずのホールの大気が牙を剥く。
支えなき空中にて、御前等の体は帆に同じだ。風の瀑布を一面に受け、弾丸にように打ち出される。
御前等は、墜落する。
(…………ッ!!何が!)
思考に許されたのは一瞬。そこから先は寸断される。
自由落下より早く眼前に迫った床は壁の如く御前等を阻み、その質量と重厚さで彼の全身を打ち据えた。
「がッは……!」
咄嗟にスタンドで致命傷を避けるが、伝導する衝撃を逃がす術はない。
床に叩きつけられた御前等は肺腑の中身を全てさらけ出して痙攣し、そのまま動けなくなった。
同時、床に違和感。無限に配線されたケーブルのように地面を網羅していた"何か"が、彼を包んだ。
蜘蛛の巣にかかった餌食のような格好であった。閉ざされた視界の向こうで、声がする。
>「ああ!せいせいしたわ!コイツには二度と喋らせたくないッ!
酒飲みながら絡んでくる酔っ払いの説教も最悪だけど、攻撃しながら説教ってどういう了見なのッ?!」
(この声は……佐藤さんか。チッ、声も出ない。この用意周到さ……全ては罠だった、ということか)
無防備な姿を晒した吉野も、ここへ逃げ込んだ天野も、スポットライトの生天目でさえそこには一定の統率があった。
共通の目的。御前等の撃墜。個々の技能とスタンドを活用した、正真正銘の包囲網。
それを掌握し、これほどの作戦を即座に創り出して見せた佐藤という女の智謀。全ては彼女の掌の上だったというわけだ。
前言に偽りはなかった。佐藤ひとみ。繋ぎ合わせ、紡ぐ者。それこそパッチワークのように、彼女は『状況』を産む。
>「このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
もう一つ、人の気配がして。
鬼化した御前等の意識は、そこで尻尾と共に切断された。
269
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/01/05(水) 04:45:15
………
……
…
尻尾を切られた御前等は、簀巻きにされたままで暫し沈黙していた。
鬼化していたとは言え生身のまま二階から落下したのだから、回復にも相応の時間が必要である。
ともあれ佐藤の治療もあって(何気にこれは初の体験である)、やがて御前等は意識を取り戻した。
取り戻してしまった。
「ふ……ふふふ……ふふふふふふはははははははははははははははははははははははははははァーーッ!!」
簀巻きの繭をバリっと破って、御前等は生まれた。再出産だ。生まれ直したのである。
頭のてっぺんまで真っ黒だった御前等の体はもとの肌色を取り戻し、いつもの狂気的な笑みが張り付いている。
立てばイケメン座ればイケメン歩く姿はマジイケメンの風評芳しき、完全完璧完調完充の御前等祐介その人がここに復活したのである。
「久しぶりだ!久しぶりだぞこのノリも!長らく地の文も真面目だったからなッ!」
凄く疲れた。
あんまりにも久方ぶりすぎて、生前どんな文体だったかも忘れていた。
「んっンー良い気分だ。元旦にトランクスを替えたような……そういえば何ヶ月遅れかしらんがあけましておめでとう!
みんな今年の正月はどんなふうに過ごしたかな?俺は紅白見てた。小林幸子最終形態は毎年凄いな。いつか倒す」
あくまで劇中時間は真夏であり、半年ほど前の正月について唐突に語りだしただけなのでなんら問題はない。
「さて!さてさてさて!俺はまったくさっきまでの記憶がないぞーっ!俺がネズミに触れた後に一体何が起こったんだ!?
誰か説明してくれ!三行以下でな!……んー?そこにいるのは吉野ちゃんじゃあないか!なんでこんなところに!
君が何故こんなところにいるかはぶっちゃけまったく興味ないが、"どうして来たか"については興味津々だな。
わざわざ俺に会いに来たのかなーっ!?気持ちは嬉しいけどそーいうのはちょっと重いゾ☆……で、よね君はどこ行った?」
一気にまくしたて、喉が乾いたのか懐に入れていた野菜生活の封を切っておもむろに飲み始める。
ちなみにこの野菜生活、鬼化の最中もずっと携行していたので当然のことながら激ヌルだ。
「ん?おやおや佐藤さんさっきから服のあちこちを押さえて何をやってるんだ?虫でも入ったか?
よーーーーーーーーーしほいだば僭越ながら俺が除去してしんぜちゃうぞー!!」
尻尾を服に放りこまれた佐藤の元へ、その現況がルパンダイブで跳びかかる。
【鬼化解除。普段の御前等に戻る。鬼化していた間の記憶がないので周囲に状況説明を要請】
270
:
93 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/07(金) 01:34:42
歯車の直撃した左腕を押さえて、吉野は耐え難い苦痛に体を丸めていた。
彼女は上を見上げたりはしなかった。どうせ追撃されてしまえば防ぐ手立てはない。
死を甘受していながらも、直視するのが恐ろしくて、彼女は下をむいたままでいた。
>「ああ!せいせいしたわ!コイツには二度と喋らせたくないッ!
だが彼女に死は訪れなかった。代わりに佐藤の金切り声が耳に届く。
視認は出来なかったが何とか御前等を捕獲したのだと、吉野は察した。
激痛に顔を歪めながらも、彼女は右腕のみで体を起こす。
完全に立ち上がる前に、彼女は額に滲んだ汗を拭う。
瞬きを何度も繰り返して瞳から苦悶の色を落とし、右手で口元を弄って無理矢理にでも笑みを作る。
>このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
「ん?おやおや佐藤さんさっきから服のあちこちを押さえて何をやってるんだ?虫でも入ったか?
よーーーーーーーーーしほいだば僭越ながら俺が除去してしんぜちゃうぞー!!」
「……終わりましたか?」
平然を装って、吉野は佐藤達に声をかける。
御前等の妄言に反応を返すような余裕は、無かった。
「だったら早い事、さっきネズミが消えた時何をしていたかを聞いたらどうですか?
……ここは出口も複数ありますから、何処にネズミが湧いても対処出来るでしょうし」
スタンドを使えない自分が更に怪我をしたと知られれば、切り捨てられてしまうかもしれない。
例え死ぬにしても、そんな屈辱的な死に方は耐えられない。
そう考えた彼女は左腕の骨折を隠して振舞っていた。
【吉野は佐藤さんの治療能力を知りません
御前等さんの情報は避難所で相談すれば聞いた事にして進行しちゃってもいーかなーとか】
271
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/01/09(日) 21:02:05
「ペラい男の薄っぺらな説教ほど聞くに耐えないものはないわッ!
中身の無い男に限って最もらしいこと言いたがるけど、お前が言うなっていうのよ!
何の目的も持たない男が道を語るなんてお笑い草だわ!空き巣が万引きに説教してるようなもんじゃない!」
尻尾を千切られ足元に転がる男を前にして、ひとみの悪態は止まらない。
言葉通り安手の説教をする男が大嫌いだからでもあったが、半分は八つ当たりである。
この不条理なゲーム―――『鬼ごっこ』に巻き込まれた苛立ちを罵倒に変えて吐き出していた。
「こんな不愉快なもの聞かされた私の気分をどうしてくれんのよッ!ああ腹が立つッ!」
八つ当たりの仕上げとばかりに、簀巻きの男を蹴り上げんと踵を上げて構えた刹那――――
上空から落ちてきた"何か"が、ブラウスの襟からするりと胸元に入り込む。
細いロープの如き"何か"が動き回り服の中で暴れている。
「やだッッッ!!何なのよこれッッ―――?!」
ひとみは胸元に手を突っ込む。が、ブラウスの中を縦横に跳ね回るモノを容易に掴めない。
>「ん?おやおや佐藤さんさっきから服のあちこちを押さえて何をやってるんだ?虫でも入ったか?
>よーーーーーーーーーしほいだば僭越ながら俺が除去してしんぜちゃうぞー!!」
悪戦苦闘中のひとみにムササビよろしく飛び掛る影。
鬼状態から復活した御前等だ。
一歩足を引いて半身になり、衝突寸前で男から身を翻す。
男を避けた拍子に、乱れたブラウスの裾から"何か"が落下した。床に落ちたのは、御前等から切り離された尻尾。
黒い線虫に似たそれは、暫し小刻みに痙攣していたが、やがて白い煙を上げて消滅していく。
床に墜落した男に、ひとみは更に怒声を浴びせる。
「どこまで人を不愉快にすれば気が済むのよッこのクズ男ッッ!
爪の先から髪の毛一本、切り離した尻尾にまでウザさが染み付いてるのね!あんたって!
ネズミに触られた後の記憶が無い?どこまで役立たずなのッ?
三行と言わず一行で済ましてやるわよ。
『鬼になって散々迷惑かけてたあんたを、私達が苦労して元に戻してやったの!』
少しでも感謝の気持ちがあるんなら、そこで棒立ちになって口を挟んでこないで!
メタだか何だか知らないけど、そのノリで話に割り込まれると余計に話がややこしくなるんだから!」
>「……終わりましたか?」
ひとみの金切り声と対照的な、静かな少女の声。座席中央に目を向けると、
そこには左腕に庇うように右手を添えて立つ、吉野きららの姿があった。
「左腕橈骨の亀裂骨折……尺骨の粉砕骨折…」
ひとみの眼―――フルムーンに組み込まれた右目は、即座に少女の負傷箇所を捉えていた。
肘と手首を繋ぐ2本の骨に亀裂と複数個所の離断が見られる。
吉野きららは、先の戦闘で囮として充分な有用性を発揮した。
ゲームはまだ続行中。まだまだ役に立ってもらわねば困る。
272
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/01/09(日) 21:04:01
少女の左腕付近を纏わり付くように浮遊するフルムーンから触手が伸びる。
糸のように細かく枝分かれした触手が、歯車を被弾した皮膚の傷口から侵入していく。
しなやかさとワイヤー並みの強度を兼ね備えた触手が、骨折箇所に巻きつき離断した骨を正常な場所に整復し粘液で固定する。
全ての骨折箇所の修復を終え、引き抜かれた触手が外創を縫い合わせて治療が完了した。
触手由来の粘液や糸は、自然に周囲の組織と一体化し、数十分経てば、ほぼ完全に治癒するだろう。
「その左手、暫く動かさないことね。15分あれば指先の動作の違和感も無くなるわ。」
少女に視線を向けたまま、フルムーンを有葵と御前等の治療に当たらせる。こちらは単なる皮膚の裂傷、縫合だけで済む。
* * *
「天野君、終わったわ!こっちに降りて来て。」
ずっと通話中だった携帯電話を切り、ひとみは腕時計に目を落とす。
時刻は正午を回っている。
警備員とのすったんもんだの末、この建物に入り込んだのが午前11時過ぎ。既に一時間ほど経っている。
「安心しなさい。あと1時間後には、永遠にお腹なんて空かなくなるから。」
腹の虫を泣かせている有葵に腕時計を示す。
「あのネズミ…霧のスタンドは無敵だわ。攻撃が通じても一時的なもので直ぐに再生する。
生きてここを出てランチにありつく為には、あんたの言う通り本体を見つけてブチのめすしか無いわ。
直感で本体を見つけられれば苦労は無いわよ。攻撃の起点に気づいたのは直感じゃなくて推理推論。
全員がサインした直後に警備員が死んで、扉は閉ざされ、私達はここに閉じ込められた。
加えてあの『契約書』。
状況と示された材料を繋ぎ合せれば、それくらいの推理は出来るでしょう?
警備員は多分操られていただけね。サインが済んで不要になったから始末された。
爆発した脳みその中に小型のディスクが見えたわ。
敵の中にスタンドや記憶をディスク化する能力を持つ者がいる……」
1階に下りてきた天野を交え、ひとみは数日前、ワーストとの邂逅で得た"ディスク"の情報を語った。
運命を操作するスタンド…その使い手の烏を殺した時、死体から飛び出した二枚のディスク。
人体を一瞬でバラバラにするスタンド…その使い手の女子高生の肌に触れたときに見た記憶の断片―――
それは少女の記憶とは思えぬ狂った医者の視点だった。
そしてマイソン・デフューの記憶の中の、ディスクを操る骸骨のような男―――
男は死体同然の肉体に『記憶』と『スタンド』を与えた―――
「ソイツがこの『鬼ごっこ』をお膳立てした黒幕ね、きっと。
どっちにしても、ネズミを倒してここから出なければディスクの謎になんか辿り着けないけど。」
当面考えるべきは『鬼ごっこ』の対策……と、ひとみは脱線した話を元に戻す。
「『鬼ごっこ』のルールは明文化されているわ。何故足枷になりかねない"ルール"を設置するのか?
これは乱暴な推論だけど、奴が"そういうスタンド"だからと考えるしかない。
情報の公開という制約と引き換えに『場』の中で無敵の力を発揮する―――それが奴の能力。
ルールには『3秒以上鬼に触れられた者は鬼化する』と明記されている。」
バッグに仕舞っていた契約書(ルールが追記されている)を取り出し、掲げて見せた。
273
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/01/09(日) 21:06:08
「鬼ごっこに関するイレギュラーな情報を、私達は一つだけ持っている。
私は医務室でスタンドネズミに触れられた。3秒以上触れ続ける余裕はあった筈なのに、私は鬼にならなかった。
何故鬼にならなかったのか―――二つの状況を考えなきゃならないわ。
そもそもネズミは、私に3秒以上触れていたのか、触れていないのか?
ネズミに3秒触れられていたのに、私が鬼にならなかったのだとしたら、鬼ごっこのルールはその点において破綻している。
ルールと引き換えに無敵を手に入れるスタンドだもの。『場』においてルールを破綻させる何かが働くとは考えにくい。
寧ろ、ネズミは私に3秒触れていない―――と考えた方がしっくり来るわ。
では何故ネズミは3秒触れ続けなかったのか―――ネズミの気まぐれかもしれないけど、、
<<触れ続けることが出来ない理由があった>>とも考えられる。じゃあ<<触れ続けることが出来なかった原因は何か?>>
私はそれを、医務室にいなかったゲーム参加者の行動にあるのでは…と予想して
その女に言う通りに、当時の全員の位置を確認したわ。
ネズミの消えた瞬間―――天野君は、3F調理実習室内にいた。
―――よね君とクズ男は丁度4Fの簡易図書室(ライブラリ)に侵入する所だった。」
天野と御前等の顔を見回して、ひとみは尋ねる。
「あんた達に聞くわ。
天野君、あの時調理実習室で何をしていたの?何の為にそこに行ったの?
そこのクズ(御前等)にも同じことを聞きたい所だけど、何も覚えてないって言うなら、よね君に当たるしかないわね。」
****************************************************
【よね、ザ・ファンタジア:スポーツジムのロッカー】
―――― 一方、スポーツジムのロッカーでは、
裏人格に身体を乗っ取られたよねと、ザ・ファンタジアの共同戦線が張られていた。
>「それじゃあ、作戦を開始しましょう。私は佐藤さん達と接触します。
>そしてそこに貴方が現れる。その後、佐藤さん達が交戦を開始してきたら私、貴方、御前等さんの三人で一網打尽にしましょう。
『そうだね♪味方だと思っている君が近づけは、奴らが油断すること受けあいだね♪
奴らの反応が楽しみだなぁ〜〜♪』
ザ・ファンタジアの耳がパラボラ型の集音機に変化する。
『ホールの吹き抜けからドタバタ音がするぞぉ〜〜♪奴らそこに集まってるみたいだね♪
こりゃ一網打尽のチャンスだぁ〜♪メガネ君って運も強いんだね♪
メガネ君、先にホールに行っててよ♪頃合を見計らって僕も行くからね♪』
ネズミの体の輪郭がブレ始め霧が漏れ出す。白いモヤがロッカー中に拡散し、やがてネズミは霧と共に姿を消した。
【吉野さん、御前等さん、生天目さん治療済み】
【もののついでに、場にいる全員にNDとそのディスク化の能力のことを話す】
【鬼ごっこ対策:ネズミが医務室から消えた瞬間、何をしていたのか、御前等さんと天野さんに尋ねる】
【ザ・ファンタジア、よねさんとホールで待ち合わせを指示】
274
:
12 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/13(木) 21:19:52
>「あんた達に聞くわ。
天野君、あの時調理実習室で何をしていたの?何の為にそこに行ったの?
そこのクズ(御前等)にも同じことを聞きたい所だけど、何も覚えてないって言うなら、よね君に当たるしかないわね。」
「僕は水と護身用の武器を探すために調理室に行きました。ほら、僕のスタンド能力って水と相性が良いんですよ。
気温を下げて氷を作ったり、気温を上げて失った水分を補給したり。…それにそのおかげでいち早くイケなんとかさんの接近に気づけたわけですし
…それと僕のスタンド、射程はすごく広いけど力は皆無でして…。接近戦に持ち込まれたらほぼ成す術がないんですよ…
だから何か武器になりそうな物を探したんです。フライパンとか、バナナとか…。そしてついでに隠れようと思ったわけです。
…ところで。そこの元鬼のテンションが高いイケなんとかさん。本当は何て名前なんですか?」
佐藤に調理実習室に行った目的を話した後、御前等の本名を聞く天野
275
:
13 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/13(木) 21:20:26
>「左腕橈骨の亀裂骨折……尺骨の粉砕骨折…」
自分を見据える佐藤の零した呟きに、吉野の心臓が冷たく跳ねた。
取り繕った表情が引き攣る。拭った筈の冷や汗が再び滲み始めた。
注視してみれば佐藤のスタンドは眼球を模しているのではなく、彼女の右眼と同化しているようだった。
文字通りの意味で、吉野が覆い隠したつもりの負傷は見透かされていた。
>「その左手、暫く動かさないことね。15分あれば指先の動作の違和感も無くなるわ。」
「どうも。……本当に厄介な能力ですのね」
言葉尻は聞き取られないよう、殆ど唇の動きだけで呟いた。
厄介と言うのはつまり、吉野はいつか佐藤を殺す気でいるからだ。
彼女の歩んできたのは幸せから程遠い道だった。
だったが、それでも諦めてしまったら何も残らない。だから殺す。
成し遂げたところで得る物など何も無い目標だ。
それでも盲目的にそれを目指さなくては、彼女は折れてしまうのだ。
それが今折れるか、後で折れるかの違いでしかなくてもだ。
「安心しなさい。あと1時間後には、永遠にお腹なんて空かなくなるから。」
ともあれ、その為にはまずこのゲームから生還しなければならない。
吉野は生きる事への執着を失っていたが、プライドは残っていた。
あんなふざけ倒したネズミの戯れに屈して死ぬような屈辱は、御免だった。
276
:
14 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/13(木) 21:20:57
>「ソイツがこの『鬼ごっこ』をお膳立てした黒幕ね、きっと。
> どっちにしても、ネズミを倒してここから出なければディスクの謎になんか辿り着けないけど。」
そして、このゲームを仕組んだ黒幕とやらに対しても、それは同じだった。
遙か大上段から一方的に押し付けられた死を甘受するなど、死よりも耐え難い。
吉野は無言のまま、唇を噛んだ。淀んでいた双眸が、ほんの僅かにだが研ぎ澄まされる。
最早、生きる気力はない。だが死に方くらいは選んでやろう。
惨めな死を払い除けて、自分が満足出来る形で死んでやろうと、彼女は細やかながら目的を抱いた。
終着点に横たわる物は自分自身の死と言う、倒錯的な目的ではある。
だが、人生を終わらせてしまいたい。そのくせ死ぬのが怖い。
そんな臆病に侵されていただけの今までよりかは、格段にマシだった。
><<触れ続けることが出来ない理由があった>>とも考えられる。じゃあ<<触れ続けることが出来なかった原因は何か?>>
「……貴女が先程体験したイレギュラーですけど」
延々と押し黙っていた吉野が、口を開く。
「再現してみればいいんじゃないですか?」
そして、提案した。
「私があのネズミに捕まりますわ。もしもまた同じ事が起こったなら、
何が原因だったのかを見極めて下さい。起きなかった時は……
尻尾を切り落としてもう一度ですわ。ネズミがこちらの思惑に気付くまで、ですけど」
滔々と、淀みなく彼女は続ける。
「スタンドの使えない私なら、簡単に元に戻せるでしょう。
射程の長い貴女やその子のスタンド……さっきは聞きそびれましたが、
透明になれるなら予め私の傍にスタンドを待機させておいてもいい」
言い終えて一息の間隙を置いて、勿論と言葉が追加された。
「そこのゲスともう一人や、その……よねでしたか?それらから
話を聞くだけで推理出来るのなら、それに越した事はないんですけどね」
【ちょいと提案。でも別に必ずしも拾ってくれなくても無問題なのです】
277
:
15:よね
:2011/01/16(日) 01:38:57
/メガネ君、先にホールに行っててよ♪頃合を見計らって僕も行くからね♪』
「わかった。とにかく私がヤツらを油断させる。ヤツらが少しでも隙を見せたらヨロシク頼むよ」
そして、そのネズミ―ザ・ファンタジア―はまさに"霧"のように姿を消した。
(素直に捕まってくれよォ〜〜…?)
何度も何度も頭の中でシミュレートしながら階段を降りて行くよね。
「やァ、佐藤さん。無事だったかい?……ンン、違うな。
ああ、佐藤。無事だったのか。…これも違う……ウーン…」
一人でブツブツと階段を降りながら対面した時の文句を考える。
(フム、まあいいか。指摘されないだろうし、されたとしてもテキトーに誤魔化せばいい)
――1F 佐藤らの居る部屋の前
小さく咳払いをするよね。心拍数が上がってきているのがわかる。
ここでヘマをすれば自身の自由、折角手に入れた体の自由は奪われる。
そんなこと絶対あってはならない。
よねは大きく唾を飲み込むと、佐藤らの方向へと駆けていった。
「ああ、皆さん、ご無事で」
まさしく本来のよね同然の声、口調だ。
(これなら行ける……!!)
「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
あえて御前等との戦闘については触れない。自分が図書館に行っていたことも。
事実、"今のよね"は御前等と戦闘を行っていた記憶自体殆ど無いのだ。
なにしろ、体を奪った時には既に辺りは火の海で命からがら逃げ出してきたのだから。
しばらく佐藤らの話や、問い詰めに耳を傾け、適当に答えを返す。
―――
一通り、質問に答えた後。しばらくの沈黙を破ったのはよねだった。
「…そうだ。一つ良いお知らせがあります」
(ネズミ野郎…見てるんだろ……?今から私が隙を作り出すぞ?頃合を見て出てこいよ?見逃さないでくれよ……ッ!)
あくまで冷静に喋りながら、しかし、内心はとんでもなく動揺していた。もはや気が気でなかった。
もちろん、良い知らせなどあるわけがない。事を急いでしまったが故に口からポロリと出てしまったのだ。
だが、後に引けない。よねは続ける。
「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
【よね:隙を作り出すために"脱出できるかもしれない"と仄めかす。
また、―――は時間軸のズレを表すものです。『適当に答えを返す』とありますが、次のレスできちんと答えますので、
なんでもよねに聞いて下さい】
278
:
16 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/16(日) 01:39:57
>「安心しなさい。あと1時間後には、永遠にお腹なんて空かなくなるから。」
「きゃ〜!もう一時間しかないの?それにお腹が空かなきゃお菓子が食べれなくなるからイヤッ!」
そして焦燥の色が隠せない生天目有葵に追い討ちをかけるように伝えられるワーストの情報。
続けて佐藤は現時点での難敵、ファンタジアを攻略するため御前等と天野に質問を投げかける。
「……」
生天目がわかったような顔でうなずいていると押し黙っていた吉野きららが佐藤にある提案を持ち出した。
それを聞いた生天目はなるほど顔で口をはさむ。
「危険だけど急がば回れってことね。まず外堀を埋めて攻略の糸口を掴む。
上手くいって鬼化を防ぐ方法を見つけ出せたら私たちは優位に立てるもの。
で、どうするの?罠をしかけるでしょ。まず条件作りが大切だと思うんだけど」
作戦を立てる一同。
すると聞き覚えのある声がホールに響く。
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
声の主はよね。手のひらをチラ見したが白い。鬼にはなっていないようだ。
よねは黙って話を聞いていたようだったが
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」と言う。
「うそ?どうやって?教えて!敵のスタンド使いがいつ出てきてもおかしくない状況なのよ!はやく教えて!!」
生天目はよねに問い詰めた。
280
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/01/16(日) 02:45:48
>「どこまで人を不愉快にすれば気が済むのよッこのクズ男ッッ!
爪の先から髪の毛一本、切り離した尻尾にまでウザさが染み付いてるのね!あんたって!」
(ああ……これだ!この感覚!罵られてると凄くドキドキする……!)
半狂乱になりながら御前等を罵倒する佐藤曰く、どうやら自分は『鬼』になってしまったらしい。
その間の記憶がないのも頷ける。なるほど自分の与り知らぬうちに壮絶な能力バトルがあったようだ。
(なんてことだ……俺も参加したかったぞその展開!なんとも少年誌チックじゃないか!)
ともあれ。起承転結の、大きな一つの大きな区切りがついたことは確かだった。
おそらく今の章で御前等にスポットライトが当たることはもうないだろう。伏線を全て使い切ってしまった。
吉野や生天目と共に治療を受けていると、ハンチング帽の少年――天野もじきに合流した。
>「あのネズミ…霧のスタンドは無敵だわ。攻撃が通じても一時的なもので直ぐに再生する。
生きてここを出てランチにありつく為には、あんたの言う通り本体を見つけてブチのめすしか無いわ」
情報共有の時間だ。
御前等の知らない言葉と単語が並べ立てられ、その一つ一つに適切なキャプションが割り当てられていく。
ワースト、ディスク、骸骨……エトセトラ。どれも御前等がこの先話に入っていくのに必須の情報だ。
すなわち彼は、ただの小物な雑魚敵から正式にこの物語の登場人物として轡を並べる権利を得たのである。
>「あんた達に聞くわ。天野君、あの時調理実習室で何をしていたの?何の為にそこに行ったの?
そこのクズ(御前等)にも同じことを聞きたい所だけど、何も覚えてないって言うなら、よね君に当たるしかないわね。」
>「…ところで。そこの元鬼のテンションが高いイケなんとかさん。本当は何て名前なんですか?」
「俺の名前をそんなメインなのに空気的扱いを受けている不遇のキャラみたく呼ぶんじゃあない。
イケメン谷ハンサム太郎――これこそが俺の本名でありソウル・ネームだ。コレ以外の呼称は許可しないッ。
人によっては御前等祐介などという偽名で呼ぶ輩がいるにはいるが、そんな連中の戯言など二秒で聞き流すが良い!」
ここだけの話鬼化していた時の御前等は天野とは一言も言葉を交わしていないので、天野にとってはこのクズ男が御前等の全てだろう。
能力バトルする御前等ではなく、冷静沈着な御前等でもなく、やたらテンションの高いキモオタ。
イケメン谷ハンサム太郎である。
>「……貴女が先程体験したイレギュラーですけど」>「再現してみればいいんじゃないですか?」
>「危険だけど急がば回れってことね。まず外堀を埋めて攻略の糸口を掴む。
上手くいって鬼化を防ぐ方法を見つけ出せたら私たちは優位に立てるもの。
で、どうするの?罠をしかけるでしょ。まず条件作りが大切だと思うんだけど」
「え?え?なに、今難しい話する空気?仕方あるまい天野くんあっちで俺と今季のアニメについて論を交わそうじゃないか」
>「ああ、皆さん、ご無事で」
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
そのとき、さっきから姿の見えなかったよねが謝罪を手土産に入室してきた。
御前等にはよねと戦っていたときの記憶もないので、
(はははよね君は愚かだなあ)
程度のことを思っていた。何から何までゲスでクズの棚上げ男である。
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
「流石よね様!さあ早速俺だけにそっと耳打ちして教えるんだその情報を高額で連中に売ることで二人で大金持ちになろう!」
【生天目ちゃんを押しのけて自分だけ助かろうと擦り寄る】
281
:
18 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/17(月) 22:57:41
【現在地ホール1F:天野、御前等、佐藤、生天目、吉野】
ホールの通路に円陣を組んで、鬼ごっこの情報を交わす一同。
黙ってひとみの話を聞いていた吉野きららが不意に口を挟む。
>「私があのネズミに捕まりますわ。もしもまた同じ事が起こったなら、
>何が原因だったのかを見極めて下さい。起きなかった時は……
>尻尾を切り落としてもう一度ですわ。ネズミがこちらの思惑に気付くまで、ですけど」
話を遮られたひとみは、チラと横目で少女を睨んだ。
しかし表情とは裏腹に、今では吉野きららの冷静さに一目置いていた。
誰かを殺して―――他人を貶めてこそ幸福に至れる、と信じていた女である。
ひとみの感覚からすれば、馬鹿馬鹿しい信条ではあったが、
だからこそ幸福の為には犠牲を惜しまぬ胆力を生むのだろうか。
「あんたを囮にして謎を解け……って意味…?あんたが囮って点は悪くない考えだけど、
再現しようにも、何を再現のポイントにするべきかハッキリしないこの状況じゃあね…
分かっている事と言えば、天野君が調理室、
よね君とそのクズ(御前等)がライブラリに侵入したタイミングでネズミが消えたって事だけ。
そうそう何度も『あのネズミ』が騙されてくれるとも思えないし…上手くやれて2度が限界ってとこじゃない?」
吉野に向き直り、ひとみは尋ねる。
「それとも、何を『再現』するべきか、あんたにその考えがあるって言うの?」
―――そんなやり取りの最中、ホールの両開き扉が細く開き、蛍光灯の白い光が流れ込む。
開いた扉の前に立っているのは、よねだ。
>「ああ、皆さん、ご無事で」
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
近づいて来る、よね。
密かにフルムーンを背後に回らせて確認するが、鬼化の要素は見られない。
つい数分前まで三階で孤立していたはずのよねが、都合良くホールに現れた事に不審を感じないでもなかったが、
鬼化していない彼に、これ以上疑念を持つ必要もない。
ひとみはよねに問いかけた。
「よね君…丁度良かったわ。あんたに聞きたいことがあるの。
あんたさっきまで3階のスポーツジムにいたわね……?その前は4階の簡易図書室(ライブラリ)いた。
大方、鬼化したこの男(御前等)に襲われてあの部屋に入り込んだんだろうけど…この馬鹿が何も覚えてないっていうのよ。」
御前等を指差し軽く舌打ちして、言葉を続ける。
「だからよね君、その時の行動を出来るだけ詳しく教えてくれない?
特にライブラリに入り込む前後の行動を……そもそも何のために4階に行ったのか…それも聞いておくわ。」
282
:
19 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/17(月) 22:58:25
―――― 一通りひとみの持ちかけた質問に応えたよねは、暫し沈黙した。そして、おもむろに口を開く。
>「…そうだ。一つ良いお知らせがあります」
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
にわかに信じがたい一言。ひとみは呆気に取られ言葉を無くした。
生きてここから脱出する方法などハナから分かっている。
ネズミの本体を見つけ出して叩きのめす―――
ゲームのフィールドである『場』を取り仕切り、尚且つ不死身のスタンドであるネズミを攻略するには、本体を叩くより他にない。
よねはそれ以外に脱出の道を見つけたとでも言うのだろうか?
有葵と御前等が、よねに駆け寄り、脱出の方法を問い詰めている。
時同じく――――スポットライトを破壊された暗い舞台上には、モヤモヤとした白い霧が渦巻いていた。
【吉野さんに『再現』の具体的な方法を質問…しかし答えづらいタイミングだと思うので暫し保留しましょーか?】
【そのうちまた持ち出すので考えといてくだしい】
【よね君にライブラリで何してたのか、何しに行ったのか質問】
【次のターン指定は、よねさん!―――の部分(質問)の答えが得られないと時間軸が入り組んでややこしくなるのでw】
【同じく時間軸が入り組むと、いつ、誰が何をしているのか、分かりづらくなるのでネズミ登場は次レスで〜】
283
:
21 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/17(月) 22:59:15
よねは動揺していた。
あまりにも呆気なく佐藤たちの中に溶け込めた。
だが、逆にそれがよねを追い詰めていたのだ。
失敗は許されない…という意識がよねにはあった。
/「よね君…丁度良かったわ。あんたに聞きたいことがあるの。
そう佐藤から問われた、よねは余裕を装いその質問に答え―られなかった。
よね自身も御前等と同じく、体を奪う前の記憶など殆ど無いに近い。
今のよねが自分自身の体、またそれをコントロールする大脳の使い方を完全に取り戻せたのならば思い出せるだろう。
だが、そんなことは不可能であった。
(ら、ライブラリに入り込む前後……?何のために4階に行ったかだと…?…クソッ!このクソ女めッ!!余計な事を聞くな、チクショウッ!)
ここで答えられなかったならば――よねに待っているのは"破滅"のみだ。
答えられなかったくらいで佐藤らはよねを殺しはしないだろう。
だが、ザ・ファンタジアが現れる様子も無い。今ここでしくじれば一網打尽の計画も全て崩れてしまうのだ。
「何のために4階に行ったのか……ですか。単純な理由ですよ。やはり女性や、自分よりも若い人を4階まで昇らせるのはどうかと思っただけです。
もちろん、エレベーターを使うというのも手でしたが、この空間で使えるかわからなかったもので…先走ってしまいましたね。
そもそも時間は限られてるわけですし、自分が鬼ならスタート地点から最も遠い所に隠れる、というのも選択肢としてはアリですし。
ライブラリに入る前は…」
(考えろ考えろ……入る前だ、入る前…御前等は何も覚えていない……考えろ…)
一度間をおいてしまったよねだが、
出来る限り自然になるように再び口を開いた。
「ライブラリに入る前は、4階を虱潰しに探索していました。鬼らしき人物は確認できませんでしたが……
そして突然、鬼となってしまった御前等さんに。その後はしばらく御前等さんと戦って、ライブラリへ。
そこでかなり追い詰められてしまったので命からがら逃げ出してきた……という訳ですよ。燃やされたんです。この帽子のコゲを見てくださいよ……」
上手く言い逃れれたか、と安堵し溜め息をつきかける。が、それも制止した。
284
:
22 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/17(月) 22:59:52
――――
一通り、質問に答えた後。しばらくの沈黙を破ったのはよねだった。
「…そうだ。一つ良いお知らせがあります……もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
追い詰められたよねは自らチャンスを作りに出た。だが、もちろん脱出する方法などよねは考えてもいない。デタラメである。
と、途端に生天目と御前等が近付いて、その方法をよねに問い詰めた。
「ま、待ってください。今説明しますから」
まず、と小さく呟いてから、それらしく見せるためにポケットから、食べずに綺麗に折り畳んでいた"契約書"を取り出した。
「…今思ったのですがとんでもなく馬鹿げた考え、簡単にいうとトンチです。
その上ギャンブル要素があります。気を楽にして聞いていただければ幸いですが…
この契約書を覚えていますか?
契約書にはこう書かれています。"第1条、甲は市民会館内部に創造された『場』の支配権を有する"と。
即ち、市民会館を『場』と扱い、その中ではエイドリアン・リムの支配が及ぶわけです。
何が言いたいか、お解かりでしょうか?
つまり………」
ゴクリと唾を飲み込む。よく自分でも咄嗟にここまで考えられたものだ、とよねは自分自身を賞賛した。
「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"のです。
そうすることでエイドリアン・リムの支配権は失われる、
と同時に『場』自体も崩壊するワケですから、外に出ても問題ない……ハズです。
ただ…ギャンブル要素と言ったのはこの表記です。
"市民会館内部に創造された"…これはつまり、"市民会館内部という限定的な空間のみでしか『場』は存在し得ない"のか、
それとも"『場』は市民会館に内包されているだけで因果は無い"というニュアンスを含んでいるのか……それが解らないのです」
全てを説明した後よねは、すいません、と謝った。
(これではまるで私がコイツらの仲間になったようではないか……)
修羅場を越えたよねの頭には様々な情報や考えが飛び交っていた。
【質問に答え、不確定な情報だが脱出方法を提示】
285
:
23 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/18(火) 23:01:22
『市民会館から脱出する方法がある』―――
有葵と御前等に乞われるまま、よねはその"方法"を語り始めた。
>「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"のです。
>そうすることでエイドリアン・リムの支配権は失われる、
>と同時に『場』自体も崩壊するワケですから、外に出ても問題ない……ハズです。
>ただ…ギャンブル要素と言ったのはこの表記です。
>"市民会館内部に創造された"…これはつまり、"市民会館内部という限定的な空間のみでしか『場』は存在し得ない"のか、
>それとも"『場』は市民会館に内包されているだけで因果は無い"というニュアンスを含んでいるのか……それが解らないのです」
よねの説明が途切れ、再び沈黙が訪れた。黙って耳を傾けていたひとみは口を挟む。
「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"…それって建物を壊す…壁や窓を壊して脱出するってこと?
それとも一瞬の内にパッと会館自体を消してしまえばいいって意味なの?
前者はギャンブルの中でもかなり危険な賭けね。
覚えてない?ゲームが始まって直ぐ、私は窓を開けてフルムーンの触手を外に出してみたわ。
外気に触れた触手は霧化して崩れた。
『開けた窓』と『壊した窓』、どれ程の差があるものか……
いきなり壁をぶっ壊して、外気に身体が触れた途端、霧になって蒸発…なんて、たまったもんじゃないわ。
後者はリスクを除外して考えても、そんなことが現実に可能なの?
いくらよね君の能力が万能だからって、4階建ての建物を一瞬で消去したり、別のものに変質させるなんて
そんな都合のいい事が出来るの?」
それにしても今日のよねは饒舌すぎる。いつもの彼とて寡黙ではないが、
実現すら難しい『方法』に拠った希望的観測を長々と披露するほど現実逃避に走るタイプではない。
閉鎖空間におけるゲームで精神が疲弊してしまったのか、焦っているのか…?
「イチかバチかのギャンブル頼みなんて、よね君らしくないわね。
それに、何故私がライブラリ入室前後に限定して『4階で何をしていたか』を尋ねたのか、質問の意図を聞かないの?
タイムリミットが迫って焦るのは解るけど、冷静さを損なうとそれだけ生き残りの道は険しくなるだけよ」
ひとみ自身の焦りもあって、口調は徐々に詰問めいてくる。
その時―――
『メーーーガーーーネーーーー君ーーーーー♪♪』
独特の甲高い声がホールに響いた。
壊れていた筈のスポットライトが光を取り戻し、舞台を照らしている。
光の円の中心に立っているのは、白い『あのネズミ』だ。
『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
ネズミは舞台の上から動こうとしない。にやにやと嫌らしい笑みを顔に貼り付けてよねを見つめている。
額と鼻に刻まれた幾本もの皺が、白い笑顔の悪辣さをことさら際立たせていた。
286
:
25 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/19(水) 22:52:59
>「それとも、何を『再現』するべきか、あんたにその考えがあるって言うの?」
「生憎ですが、そこまではありませんわ。ただ、先程と出来る限り条件を揃えてやれば、
もしもそれで成功したのなら僥倖。失敗したのなら、そこには何か条件が足りなかったと言う事になります。
その真空地帯を浮き彫りに出来るのなら、と思ったのです」
要は成功には勿論、失敗にだって必ず理由がある。
その理由を明確に突き止める事が出来れば、結果的に成功に歩み寄れるのではないかと言う事だ。
提案の根幹にあるのは、人を不幸にする事で相対的な幸せを目指した、彼女の逆説の思考回路だ。
>「…そうだ。一つ良いお知らせがあります……もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
合流したよねの言葉に、吉野は微かに反応を示した。
自分が囮になる事なく脱出出来るなら、当然それが最良だ。
だが無条件に食い付いたりは、しない。
彼女は佐藤と同じく、思考を基本的にはロジックの積み重ねによって為していく人間だ。
しかし彼女が問いを発する前に、佐藤がよねを問い詰める。
故に吉野は沈黙を守る結果となった。
>『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
彼女の沈黙は『ザ・ファンタジア』が現れても、
如何にも「よね」が味方だと言わんばかりの言動が続いても、守られた。
彼女は依然沈黙したまま、だが密かに、無事な右手をポケットに潜らせて予備の果物ナイフを握った。
【質問に答えつつ、割り込ませていただきました】
287
:
26 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/19(水) 22:53:45
/「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"…それって建物を壊す…壁や窓を壊して脱出するってこと?
即興で考えた適当な方法だというのに佐藤らは真剣に考えている。
「そこまでは考えていません。ですが、契約に"内部を『場』とする"とありますから、今我々が居る場所を"内部"でなくしてやれば良いと思っているのです。
そうですね……窓を壊す、も建物を消すも正解のようで不正解です。一気に倒壊させる、と言いましょうか。
なにより、『窓から手を出す』という行動は能動的です。それに対し、例えば今ここで我々が立ったまま急に建物全体が崩れ始めたら…
受動的で自ら望んで外に出たわけでもなく、かつ既にそこは"市民会館内部"ではないわけですから。
とはいえ、やはりそんなことは不可能ですね。
自分一人の力では……あるいは全員が力をあわせればなんとかなるかもしれませんが」
だが、よねはここで気付いた。
佐藤が何か腑に落ちない様子だということを。
それでもよねはあくまでよねであり続ける。冷静を装い。平然と。
/ それに、何故私がしつこく『4階で何をしていたか』を聞いたのか、質問の意図を聞かないの?
「質問の意図……ですか。……確かに冷静でなかったかもしれませんね。すいませ――」
その時だった。
/『メーーーガーーーネーーーー君ーーーーー♪♪』
聞き覚えのある声がよねを現実に引き戻した。
そうだ、私は生きてここから出るのだ、と。そしてその為には目の前の佐藤らを陥れる必要があるのだ、と。
/ 頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
そう聞くと、よねは遂に決心した。
動きを出来る限り悟られないように、最も脅威となるであろうスタンド使い―頭が切れ、カンも鋭く何より厄介な能力を持つ佐藤―の背後に近付いて足元の床に手を付いた。
「悪く思わないでくださいね……Sum41 Re・Birthッ!!この床は水に変化するッッ!」
Sum41は対象が無生物である場合、書き換えの範囲を決めることが出来る。
かつて、暴風と突風のスタンド"イダテン"を操る老人、秋名高次との戦いにおいて重宝した能力のルールである。
そして佐藤の足が水となった床に沈んだのを確認すると、
「Sum41ッ!この水はチタンになるッ!」
チタンはよねが知る限り、強度が通常の金属よりも高い金属である。
そこに足が埋まってしまっている。徳井の能力があったならばそれすらも無意味な抵抗であっただろう。
そして佐藤という一つの司令塔の動きを止めることで、今後の戦闘を有利に運べる。そうよねは判断したのだ。
「覚悟は良いですね……すいません、騙したようで。皆さんが助かる希望なんてもう無かったんですよ。
……災厄の元凶、パンドラの箱を開けて最後に出てきた物は"希望"。真の"絶望"とは、その"希望"すらも失われること……」
ちらりとザ・ファンタジアの方を見る。
「出来る限り早く佐藤の始末をよろしくお願いします。私は他のスタンド使い達を……」
だが、よねは知らなかった。
吉野が、ここに"人間を殺す"つもりで来ているということを。そして、ポケットには鋭利なナイフを忍ばせているということも。
その上、生天目や天野の能力を直接見たことが無かったのだ。
それがよねにとっては大きな痛手になるかもしれないというのに。
【佐藤さんを拘束。よねは吉野さんが能力を失っていることと、生天目さんと天野さんの能力の正体を知りません】
288
:
27 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/19(水) 22:54:16
>『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
「!!…なんか様子がおかしいって思ったらそういうことだったのねーッ!?
…ってことで私は逃げるから、じゃ。」
踵を返し皆に背をむけた生天目は、よねの裏切りの行動を見ることもなく
ホールから飛び出すと廊下から佐藤に携帯電話をかけた。
「もしもしひとみん?わたしです。有葵です。これから私は調理室とライブラリーにいきます。
あの時、誰かがそこに行ってネズミが消えたのなら、私が行ったらもしかしたらまたネズミが消えるかもしれません。
これってありの作戦でしょ〜?」
天野+吉野+記憶のない御前等+黒よね+佐藤の言葉×1時間=それが今の生天目のだした答え。
佐藤のスタンド地図で部屋の位置をある程度覚えていた生天目はまず始めに調理室にむかうらしい。
選択肢①
佐藤さんが生天目を一喝して引き返すように促す。
選択肢②
数分後。調理室に入った生天目から携帯電話。(時間軸。佐藤さんの任意のタイミングに合わせます)
調理室からの生天目電話「調理室につきました!ネズミは消えた?」
選択肢③
調理室で消えなかった場合。さらに数分後。ライブラリに到着。
ライブラリからの生天目電話「なんだこりゃ!?ライブラリにつきました!ネズミは?」(時間軸。同じく佐藤さん合わせ)
【生天目ホールを飛び出しました。後手キャンありです】
289
:
28 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/19(水) 22:54:46
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
. . . . .
「初めまして。あなたがよねさんですね? 僕は天野晴季と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
天野たちは吉野以外全員ホールで一度会っている。にもかかわらず天野は「初めまして」と挨拶した。それも、本当に初対面のように
天野はなんとなく、このよねとは初めて会った気がしたのだ。だが、あくまで何となく。要するに勘である。なので天野はそこまで気にかけていなかった
だが、無意識のうちに「初めまして」と挨拶してしまった。自分でも気づかぬうちに
>「俺の名前をそんなメインなのに空気的扱いを受けている不遇のキャラみたく呼ぶんじゃあない。
イケメン谷ハンサム太郎――これこそが俺の本名でありソウル・ネームだ。コレ以外の呼称は許可しないッ。
人によっては御前等祐介などという偽名で呼ぶ輩がいるにはいるが、そんな連中の戯言など二秒で聞き流すが良い!」
「なるほど。よく分かりました。イケメン谷(笑)ハンサム太郎(笑)こと御前等祐介さんですね。これからは御前等さんと呼ぶことにします」
>「え?え?なに、今難しい話する空気?仕方あるまい天野くんあっちで俺と今季のアニメについて論を交わそうじゃないか」
御前等がなにやら誘ってきた。なので、
「ああ、そういえば銀魂4月からアニメ再開決定したらしいですね。楽しみです。早く4月にならないかなー。でもこの話はまた今度で」
取り合えず話に乗りつつ、真面目な方向へ持っていった
>「…そうだ。一つ良いお知らせがあります」
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
よねが興味深いことを言ってきた。咄嗟の思い付きだろうか? それともずっと前から考えていたのだろうか?
「!? 確実かはともかく、気になりますね。詳しくお聞かせ願えませんか?」
やはり気になった天野。詳しく聞いてみることにした
>「…今思ったのですがとんでもなく馬鹿げた考え、簡単にいうとトンチです。
その上ギャンブル要素があります。気を楽にして聞いていただければ幸いですが…
この契約書を覚えていますか?
契約書にはこう書かれています。"第1条、甲は市民会館内部に創造された『場』の支配権を有する"と。
即ち、市民会館を『場』と扱い、その中ではエイドリアン・リムの支配が及ぶわけです。
何が言いたいか、お解かりでしょうか?
つまり………」
>「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"のです。
そうすることでエイドリアン・リムの支配権は失われる、
と同時に『場』自体も崩壊するワケですから、外に出ても問題ない……ハズです。
ただ…ギャンブル要素と言ったのはこの表記です。
"市民会館内部に創造された"…これはつまり、"市民会館内部という限定的な空間のみでしか『場』は存在し得ない"のか、
それとも"『場』は市民会館に内包されているだけで因果は無い"というニュアンスを含んでいるのか……それが解らないのです」
「…なるほど。確かにギャンブルですね。成功するかはともかく、僕はあまり好きじゃないですね…。
曲がりなりにも僕は科学者ですので、貴方の“市民会館という場が消えればエイドリアンの能力の効果も無くなる”という仮説を実証しないことには…
それにこの巨大な市民会館を消すだなんてかなり困難ですよ。まぁ、どこぞの負完全が『市民会館をなかったことにした』とかするなら話は別ですが、
僕達の中にそんな都合の良すぎるスタンドを持ってる人がいるなんてとても思えませんし…」
よねの提案に正直に意見する天野
「まぁ、でも視野に入れておくのも悪くないと思います」
が、やはり情報は多い方がいい。一応視野には入れておこう、と提案する
佐藤もよねにいろいろ問い詰めていた。と、その時…
>『メーーーガーーーネーーーー君ーーーーー♪♪』
>『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
例のネズミが現れた。口ぶりからして、よねと協力しているようだ
「ああ、見つかってしまいましたね…! しかもあのスタンド、あらゆる攻撃を無力化できるみたいですし…かなりピンチですよね…!」
290
:
29 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/19(水) 22:55:14
>「悪く思わないでくださいね……Sum41 Re・Birthッ!!この床は水に変化するッッ!」
>「Sum41ッ!この水はチタンになるッ!」
よねのスタンド能力だろうか。佐藤の足元の床が水になったあと、金属…チタンに変わった
「床が変化した? そんな何でもありのような能力なんですか!? いえ、でも何か対策法はあるはずです。だって彼は炎で帽子を焼いているんですから…」
天野は考えた。どうすべきかを。
(僕はまだよねさんに能力を見せていない…後はこのアドバンテージをどう使うか、ですが…。
少し見ただけでも彼の能力は厄介ですね…)
「フリーシーズン。こっそり湿度と温度を上げますよ。気づかれないように、ゆっくりと」
小さな声でフリーシーズンに命令する天野。ホールの湿度と温度がじわじわ上がっていく。
(さて、問題は佐藤さんをどう助けるか、ですが…。溶かすにしてもチタンの融点は1668℃。
僕のフリーシーズンで上げられる気温は最高で100℃までですから、とても届きませんね…
だったらチタンを温めて、その後急激に冷やしてみましょう。今僕に出来るのはそれくらいしか…)
291
:
30 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/21(金) 22:37:53
舞台の上でスポットライト浴びる『あのネズミ』。
ネズミは腰に手を当て、片足に体重をかけた…所謂「休め」の体勢で、ゆったりと座席の面々を見下ろしている。
ひとみはネズミが仄めかしたよねの行動―――裏切り行為が、にわかに信じられなかった。
佐藤ひとみは、性格的に他人に信頼を置くことのできない出来ない人間である。
それでも幾多の戦いを共有してきた経験から、よねにはある程度の信用(信頼ではない)を持っていた。
第一裏切り行為など、自信家の癖に何処か抜けた所のある、この青年には似合わない。
「よね君……あのネズミ何言ってんの?オトモダチ…?クズネズミめ…何かの心理作戦のつもり?」
ひとみの問いかけに、よねは答えなかった。
壇上のネズミに視線を定め、ネズミが仄めかす裏切りを否定するでもなく、只立ち尽くしている。
よねを見据えるひとみの右手で、携帯電話が震えた。
ひとみは反射的に通話ボタンを押して携帯を耳元に寄せる。
>「もしもしひとみん?わたしです。有葵です。これから私は調理室とライブラリーにいきます。
>あの時、誰かがそこに行ってネズミが消えたのなら、私が行ったらもしかしたらまたネズミが消えるかもしれません。
>これってありの作戦でしょ〜?」
聞こえるのは有葵の声。
天然の割に抜け目なく勘の鋭い有葵は、危機をいち早く察してホールから脱出していたようだ。
さすがは感覚が行動に直結する単細胞。行動力を如何なく発揮して
脱出に続き、吉野きららの提案―――"ネズミ消失時の再現"を実行に移すつもりらしい。
吉野提案の実験は、状況を再現する間、ネズミの行動を監視し続ける人間が必要である。
無敵の霧であるネズミ相手に、時に逃げ、時に攻防を繰りひろげつつ、だ。
複数人でネズミに対処できる、このタイミングは再現にうってつけだ――――ただネックは様子のおかしい、よねの挙動。
「……了解……通話を切らずに作戦を続けて。経過を随時報告すること。こっちも取り込み中なのよ。一旦話を止め……」
小声で有葵に伝えた瞬間――――
>Sum41 Re・Birthッ!!この床は水に変化するッッ!」
ひとみは足元に違和感を感じて視線を落とした。
自分の周囲だけ、床が軟化し、石を投じた水の如く波紋を刻み揺らいでいる。
脱出のいとまも与えず、床はずぶずぶとぬかるみ、ひとみの足を呑み込む。
足首が沈み、脹脛が……忽ち底なし沼と化した床に膝頭のあたりまで沈み込んだ。
>「Sum41ッ!この水はチタンになるッ!」
二度目のかけ声と共に、沈降が止まる。
かわりに感じる脚の圧迫感。床はひとみの脚を呑み込んだまま、再び硬化していた。
絨毯敷きの床から一変し、灰白色の光沢を放って―――ひとみは金属製の床に埋め込まれてしまった。
「よね君、これ何かの冗談……?」ひとみは顔に引きつった笑いを浮かべて、よねに尋ねる。
「何の真似よッッ?こんな事して、あんたに何の得があるって言うのッ?!」
無言の応酬は疑惑を深める。ひとみの口調は次第に非難の色を帯びていく。
>「出来る限り早く佐藤の始末をよろしくお願いします。私は他のスタンド使い達を……」
よねの口から吐き出された言葉は、裏切りを決定付けるものであった。
292
:
31 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/21(金) 22:38:51
一方――――壇上のネズミは、
よねの依頼を受けて尚、一向に動く気配すらない。相変わらずニタニタ笑いを続けている。
『ひひひっ♪そういう事なんだよぉ〜〜♪僕達なかよしの契約を結んだのさぁ〜♪
何の得があるの…?だって?wwww
メガネ君は、君達を犠牲にして自分だけ助かりたいんだってさあ〜www♪賢明な選択だよ♪
友情の格言に≪天気のいい日は二人乗りだが、悪い日は一人乗り。そんな程度の船≫なんてのがあるけどさあ〜
キヒヒッ♪友情なんて、命の危機に瀕したらモロいモンだよね〜全くwwwwwww♪
だけどメガネ君の友人達!裏切られたからって、そんなに悲しまないで♪
メガネ君だって内心忸怩たる想いを抱えているんだよぉ〜♪
"いまの自分は【潜在意識の顕在】で前の自分とは別人格だ"…なんて言い訳しちゃってさぁ♪
そーやって自分をゴマ化さなきゃ、恥ずかしくてやってらんないんだろーねwww♪案外小心者だね♪キヒヒヒヒッ!!』
ネズミは話し続ける。
『絶望の例えにパンドラの箱を持ち出すなんてシャレてるね♪メガネ君は♪…だけどねぇ〜一つだけ間違いがあるよ〜♪』
ネズミはますます口角を吊り上げて微笑む。
『"希望すら失うことが絶望"なんかじゃあない♪"人は希望を持つが故に絶望する"んだよぉ〜〜♪
希望と絶望は直線上に繋がっているもんさ♪
希望なんか持たなければ、絶望することだって無いんだからねぇ〜〜……』
そこで一旦言葉を切り、ネズミは掌を天に向けて高く差し伸べた。まるで万雷の拍手に応えるマジシャンのように。
次の瞬間―――ネズミは息を吹きかけられた煙の如く霧散して、かき消えた。
誰もが、無人となった舞台に目を奪われる中、
よねは気づくだろう。自分の背後に何者かがいる……と。
『君だってそうさ・・・・・・♪
"自分だけは助かるんじゃないか"なんて儚い希望を抱かなければ、絶望せずに済んだのにねぇ〜』
よねの背後に現れたのは他でもない『あのネズミ』。
ネズミの胸から下は、大蛇のそれに変化していた。
ネズミオロチは一瞬の内によねの身体に巻きつき、万力のような力で締め付ける。
『あっれぇ〜♪メガネ君♪意外そうな顔してどうしたの?
僕は一人でもゲームに勝てるんだよ♪
君の力なんて借りなくても、時間さえかければ造作なく全員を始末できるんだ。そう、メガネ君、君も含めてね。
平たく言うと、君と協力関係を結ぶメリットが無いんだよ♪♪
でも面白い出し物が見れて楽しかったよぉ〜♪"友情崩壊の瞬間"…それに今の君の顔ったら……www!!』
そう、よねの裏切りを明かし、他の鬼ごっこ参加者がたじろく様を楽しむことこそが、
よねと手を結んだザ・ファンタジアの目的であった。
たとえ参加者の間に元々友情など無くとも、一人の裏切りは疑心暗鬼を呼ぶ。
参加者が混乱すればするほど、ザ・ファンタジアの愉悦は深まるのだ。
『それにしてもメガネ君は面白い能力を持っているねぇ♪君が鬼になったら面白いだろうなァ〜〜♪
中途半端な協力と言わずに、鬼になって誠心誠意、僕に仕えてよぉ〜〜♪♪』
ザ・ファンタジアは真っ黒な掌を差し伸べ、よねの身体に触れた。
【ザ・ファンタジア:よねが裏よねと入れ替わっていることを明かす】
【ザ・ファンタジア:佐藤や他メンバーをほったらかして、よね君を鬼化しようとする】
【天野さんの行動のリアクションは次に取る予定です】
【生天目さんの選択肢は②を選択します。調理室に着くタイミングはいつでもいいよ
ライブラリに着くタイミングは指示するからちょっと待って〜〜】
293
:
33 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/21(金) 22:39:30
>「悪く思わないでくださいね……Sum41 Re・Birthッ!!この床は水に変化するッッ!」
>「Sum41ッ!この水はチタンになるッ!」
>『それにしてもメガネ君は面白い能力を持っているねぇ♪君が鬼になったら面白いだろうなァ〜〜♪
中途半端な協力と言わずに、鬼になって誠心誠意、僕に仕えてよぉ〜〜♪♪』
吉野の初動は無言の舌打ち、直後にポケットからナイフが抜かれる。
よねの能力は強力無比で凶悪だ。敵に回すくらいなら――いや、既に敵対しているのだ。
どうあっても殺さなくてはならない。
「佐藤さん、そのスタンド……触手を体内に潜り込ませられるのなら、
足へと血の下る血管を一度塞いでしまったらどうですか?
血が抜けると人間の手足ってのは、案外細るものです」
手短に告げて、吉野は力強くも軽やかに床を蹴った。
よねが捕まってから、鬼になるまでの三秒間。
喉を掻き切って、或いは目玉を貫いて脳を損傷させて、
死に至らしめても離脱の形でお釣りが来る。
「まさか、止めませんよね?裏切りは、さっきの攻撃で明白ですもの」
背中越しに佐藤に釘を刺して、吉野はナイフを鋭く突き出した。
【足を細らせて、あとフリーシーズンの効果でどうにかならないかなーとか
よねを殺害に掛かります。止めるなってのは、まあ「押すなよ!絶対に押すなよ!」みたいな。どうしようと自由であります】
294
:
34 :アンドレ ◇n.pJPZU7Yk
:2011/01/21(金) 22:40:16
>『それにしてもメガネ君は面白い能力を持っているねぇ♪君が鬼になったら面白いだろうなァ〜〜♪
>中途半端な協力と言わずに、鬼になって誠心誠意、僕に仕えてよぉ〜〜♪♪』
>ザ・ファンタジアは真っ黒な掌を差し伸べ、よねの身体に触れた。
自分の完全勝利を確信し酔心していたネズミは何の躊躇もなくよねの身体に触れようとした。
――その刹那、自らの耳半分が帽子ごと切り裂かれようとは。切り口から血飛沫のように霧が止めどなく
噴出している。
間違いなく今、自分を攻撃できる存在などいない。たとえ生天目とか言う小娘の仕業か!?いや、たとい到着したとしても
これほどの威力を持つスタンドではなかったはず……では、一体“どいつがこの僕を攻撃した”?
突然の強襲のためかしだいに困惑が襲ってきた。もう、茶目っ気のある愛らしいキャラクターの風貌も薄れてきている。
勝ち誇ったとその瞬間、事態は逆転したのだ。
もはやファンタジアはただ次にい何が起こるのかと臆しながらじっとしているしかなかった…
「やれ…決まったようだな」
!!
「驚くのも無理は無い。ついさっき来たばかりだし、キサマやそこの女が探知できるはずがないからなこの俺を。
バッチシ、計画通りだった」
猛然とした態度で言い放ったのは、入口付近で気怠そうにテーブルの上で足を組んでいるのは栗色の髪の男だった。
ラテン系のハンサムな顔立ちで、仕立てたばかりアルマーニのグレイスーツをしっかりと着こなし、お澄まし顔で
見下ろしている。
「くく…そろそろ最終ラウンドと行こうじゃないか。しかしキサマは既に詰みの状態なんだがね」
【乱入、奇襲なんでもござれ。去年の暮れ頃に参加宣言していた者です】
【名前とスタンドの紹介は次レスまで持ち越しということで…実は定まってないだけなんですけどw】
【状況としてはよねの全体攻撃より後から忍びこんできたことになりますかね
少なくともスタンド能力で会館に侵入しました】
295
:
36 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/21(金) 22:40:54
そこは原始、海だった。精神の、穏やかな波音がする海。
あらゆる意識と思考が混ざり合い、複雑で、それでいて美しい海だった。
だが、今は違う。深く深く、どす黒く、どこまでも闇が続く世界。
その世界には闇の中をゆっくり浮き上がる一人の青年。
そして青年は気付く。
そこは今でも海だと。美しくも恐ろしい、二面性を持った海。
どれだけ美しい海であろうと、深く潜れば潜るほど光は届かなくなる。
――もしも目隠しをされたまま深い海の底に沈められたなら。
恐らく人は、上に広がる神秘の海を知らぬまま、溺れるだろう。
―――
よねは窮地に立っていた。
/『あっれぇ〜♪メガネ君♪意外そうな顔してどうしたの?
ザ・ファンタジアの裏切り。耐え難い精神的苦痛がよねを襲った。
(な……?ど、どういうことだ?契約のハズだろう?……騙された…のか…?)
すでによねの体は霧の大蛇と化したザ・ファンタジアに拘束されていた。
普通の人間ならばここで諦めるだろう。
だが、"今のよね"の異常なまでの自我に対する執着が挫折を許さなかった。
「今の私の顔……?君には私の顔がどのように見える?あまりの恐怖に萎縮している顔か?それとも君の裏切りに奮い立っている顔か?」
よねの問い掛けを気にすることも無く、ザ・ファンタジアはよねに掌を延ばしてくる。
だが、今度はハッタリや即興で作った嘘ではない。
"今のよね"は"本来のよね"から精神力のみで自我を奪い返した。
凄まじい精神力――即ち"鋼鉄の精神"の持ち主だったのだ。
「それとも……罠にかかった哀れなネズミに勝ち誇っている顔かッッ!?
お前の下僕になるつもりはないねッ!!私は私だッ!この身体は私自身のモノだッ!!
騙されていたのはお前だッ!周りを見てみろッ!私には仲間がいるッ!決して裏切ってはならない仲間だッ!
…ネズミ野郎、お前は今、"私の身体"に巻きついているのかッ!?それとも"私の着ている服"に巻きついているのかッ!?」
よねがニヤリと笑う。と同時に、Sum41の能力のルール―能力の解除―を利用して佐藤の足元のチタンをただのコンクリに戻す。
「答えは聞いていないッ!!Sum41 Re・Birthッ!!私の服は水を弾く!つまりレインコートとなるッ!」
霧とは本来"水"である。たとえ実体化していてもザ・ファンタジアの主成分は"水"だ。そして霧の大蛇となったザ・ファンタジアはよねの衣服に密着していた。
よねはザ・ファンタジアが衣服に弾かれよねからほんの少し離れた隙を突いて拘束を解除する。
「形成逆転だとは思わないか?お前は次に、"僕は霧だからダメージは与えられないよ〜〜♪"と言うッ!
無駄だァッ!周りを良く見ろと言ったハズだッ!お前の周りに立っているスタンド使いは全員、布で出来た服を纏っているッ!意味がわかるか?
"スタンド能力によって吸水力を上げてやればお前の攻撃はことごとく無効化できる"ということだよッッ!!」
【ザ・ファンタジアとの契約破棄。佐藤の足元を元に戻し、自身は拘束を逃れ、ザ・ファンタジアと対峙】
296
:
37 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/21(金) 22:41:28
だが、拘束を逃れたよねは不意に後ろに立つ人影を感じる。
吉野だった。ナイフを手に持っている。
「冷静に考えるんだ。思考しろ、吉野きらら。今の敵は目の前に立つ全ての元凶か、それとも副次的に生み出される可能性のある敵未満の人間か?」
ナイフは依然、掲げられたままだ。
「好きにするといい。だが、これだけは宣言させてもらうよ。私は私の身体を守る為ならば、いくら仲間とはいえ――殺すつもりでいる」
そう宣言し、再びザ・ファンタジアの方を見る…何かがおかしい。
ザ・ファンタジアの耳が断絶されている。
「なんだッ!?どういうんだ!?」
/「くく…そろそろ最終ラウンドと行こうじゃないか。しかしキサマは既に詰みの状態なんだがね」
声のするほうを見ると、一人のハンサムな男。
言葉使いは違うものの、どこか徳井を彷彿とさせる要素が、その謎の男にはあった。
【辻褄あわせ。】
297
:
39 :アンドレ ◇n.pJPZU7Yk
:2011/01/21(金) 22:42:18
>「なんだッ!?どういうんだ!?」
「見ての通り、悪霊とか催眠術のようなオカルトではない、事実さ。
生命エネルギーの像(ヴィジョン)、その名も幽波紋(スタンド)!
そして俺のスタンドの名は『カーマイン・アピス』だ」
そう高らかに宣言する男の裾は傷ひとつ見当たらないのにぐっしょりと赤く濡れていた。
【本体】
名前:アンブロジオ・ドラード (本名はもっと長いためアンドレと略)
性別:男
年齢:34
身長/体重:187cm/85kg
容姿の特徴:栗毛のラテン系オジサン。アルマーニなどやたら高級なものを身につけるが特にこだわりはない
人物概要:SPW財団直属のスタンド使い。元はインターポールでスタンドによる犯罪を捜査していたが
疲労困憊のため倒れてしまい、29歳の若さで一線を退く。その後、故郷の片田舎でほぼ隠居していたところを
能力を高く評価したSPW財団にヘッドハンティングされた。
ジョジョ本編で言う承太郎のような立場で各国のスタンド使いたちを調査している。
今回、日本に訪れたのは北条市でのスタンド事件について依頼があったため。
【スタンド】
名前:カーマイン・アピス
タイプ/特徴: 一体化型/本体の血液
能力詳細:本体の血液にスタンドエネルギーを加えてスタンド化させる。
そしてスタンドとなった血を皮下組織から滴らせ銃弾や刃物に変形させて
直接放つことで攻撃できる。
その威力・スピード・射程距離は使用する血液の量によって変動し
より生命への危機が高いほど力を増す。当然のことながら短時間に連続で
使用すればそれだけ負担も大きく寿命を縮める危険性がある。
例:銃弾の場合
〃10cc以下→プラスチック弾〜小口径弾数発(亜音速)、射程距離10m
〃 20cc →大口径数発(超音速)、射程距離10m
〃 50cc →ライフル弾2発(超音速)、射程距離20m
〃 80cc →機関銃クラス(超音速)、射程距離20m
〃100cc →重機関銃(超音速)、射程距離30m
〃200cc →機関砲(超音速)、射程距離40m
〃400cc →高速徹甲弾に匹敵(極超音速)、射程距離50m
ちなみに刃物に加工したときの射程距離は銃弾の3/1以下で
威力もやや劣る
破壊力-(量によって変動)スピード-(量によって変動)射程距離- (量によって変動)
持続力-E 精密動作性-C 成長性-B
【
>>35
スイマセン…元来せっかちなものでつい…。でもまあ、これだけ余裕ぶっこいているんで
“ツケ”があります。そういうスタンドです】
【よねさん:物語の整合ありがとうございます。
僕のせいで混乱させてしまってスイマセン
TRPGって難しいですね。身が重たいです】
【佐藤さん:初めまして。実は吉野さんより少し先に投下したつもりでしたが…ズレてたみたいです
申し訳ないです】
298
:
41 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/21(金) 22:43:02
ホールから抜け出した生天目有葵はリノリウムの冷たい廊下を調理室に向かって直走っていた。
どことなく張り詰めたような静寂が廊下の底辺に停滞し先ほどまでの騒がしさはまるで嘘のよう…。
耳にあてた携帯電話の向こうでは佐藤ひとみが別の誰かと会話を交わす声が遠く聞こえている。
「今回はちっこいホウキのやつとか追いかけて来ないね」
追っ手に警戒しながらも調理室前に到着した生天目は静かにドアを開け調理室に侵入。
周囲を見まわしながら一つ息を吸って吐き、携帯電話の向こうの佐藤に問いかける。
「はーい。調理室につきました!ネズミは消えた?」
ここでもしもネズミが消えれば、消える理由の一つとして考えられることは調理室にエイドリアンが潜んでいるということ。
たとえホールの全員を鬼に変えたとしても本体であるエイドリアンが見つかってしまっては元も子もない。
あの時、鬼に変えることが出来たはずの佐藤ひとみを鬼に変えれなかった理由も
本体であるエイドリアンにゲーム終了の危機が訪れたと考えることが妥当なのかも知れない。
「ハズレ?でも室内は調べとくね。あの大きな冷蔵庫の中とかぜったい怪しい!」
冷蔵庫の扉を開ければそこには箱に入ったショートケーキ。よく見れば箱の側面にマジックで名前が記入されている。
「かげぬきのけーき?なにこれ…せこ…。この人のケーキなの?でもお腹がすいたから食べちゃお」
生天目はケーキを頬張りながら再び携帯で佐藤に話しかける。
「ねー。ネズミ消えてないでしょ?それぢゃあこれから私、ライブラリにむかっちゃうけど、
たしかライブラリではイケメンさんとよねさんがスタンドバトルしたんだよね?
やっぱ怪しいのはそこ?バトルに驚いたエイドリアン君が本体を守るために、
ひとみんの鬼化も放り投げてネズミを本体の守りに戻したって考えが妥当…?
うーん。それはそれでなんだか単純な気もする…。まあ、とりあえずライブラリにむかうから。ぢゃ…」
唇についた生クリームをぺろりとなめると生天目は調理室をあとにした。
299
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/01/23(日) 00:11:22
>「答えは聞いていないッ!!Sum41 Re・Birthッ!!私の服は水を弾く!つまりレインコートとなるッ!」
勝ち誇った表情のよねにしがみついている内に、ネズミの心にちょっとした悪戯心が湧き上がった。
――――この青年の勘違いに乗ってやるのも面白い―――と。
よねはザ・ファンタジアを見た目通り『霧』として扱ったが、それは間違いである。
『霧』は空気中に微細な水滴が浮遊し乱反射を起こすことで白濁して見える。一見気体のように見えるが液体の粒子の集合体である。
霧化状態のザ・ファンタジアを『液体の水』=水滴の集合とするならば
実体化したザ・ファンタジアは『固体の水』=氷という理屈が成り立ってもおかしくは無い。
では、煙となって消失したザ・ファンタジアは無色透明な気体である『水蒸気』に姿を変えていたのか?
読みとしては悪くないが、この説ではザ・ファンタジアの行動に説明のつかない部分がある。
よねの前にザ・ファンタジアが現れた時、スポーツジムの扉は全て施錠されていた。
よねは目にしていた筈だ。まず天井付近に霧が渦を巻き、地上に降りて実体化する様を。
ザ・ファンタジアは天井をすり抜けて現れたのだ。
分子の大きい『水蒸気』では壁や天井を通り抜けるのは困難である。
ならば、ザ・ファンタジアはどうやってコンクリートをすり抜けたのか――――?
ザ・ファンタジアの特殊能力は、身体を分解し粒子化すること。
身体を原子――素粒子レベルまで分解することで、不可視化、物体透過、肉体の再構成を可能にする。
可視化できるレベルまでしか分解が進んでいない粒子の荒い状態が、見た目として『霧』のように見えていただけなのだ。
よねは読みを誤った。しかしその誤りに敢えて乗ってやろう。
反撃の手段を思いつき、一転攻勢に出て青年は、いわば絶頂の状態にいる。
希望を膨らますだけ膨らませた挙句に、絶望の淵に叩き込んでやったら青年はどんな顔をするだろうか。
想像するだけで愉悦の余り震えが走る。天狗の鼻は高ければ高いほど折り甲斐がある。
悪趣味なネズミはそう思い、心の裡でほくそ笑んだ。
ザ・ファンタジアは、それとなくよねに巻きつけていた大蛇の胴体を緩め、大袈裟に声を上げた。
『アレッアレレレ〜〜〜♪身体が、手が滑るよぉ〜〜体が弾かれるゥーーーーーー♪どういうことだなんだァーーー??』
ネズミは悪知恵こそ回るものの、演技は大根そのものだった。
少し気の利いた者ならばそれと見破るのは容易いだろう。
ネズミが締め付けを緩めた拍子に、よねは速やかに大蛇の縛めを脱した。
青年は高らかに勝利を謳い上げる。
>「形成逆転だとは思わないか?お前は次に、"僕は霧だからダメージは与えられないよ〜〜♪"と言うッ!
>無駄だァッ!周りを良く見ろと言ったハズだッ!お前の周りに立っているスタンド使いは全員、布で出来た服を纏っているッ!意味がわかるか?
>"スタンド能力によって吸水力を上げてやればお前の攻撃はことごとく無効化できる"ということだよッッ!!」
『……僕は霧だからダメージは与えられないよ〜〜♪……ハッ???吸水力??なっナンダッテぇ〜〜〜???!!!』
同じ台詞を被せ、"しまった"とばかりに両手で口を塞ぐ。もちろん演技だ。
ネズミは思惑通りに事が進んでいることに満足していた。
300
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/01/23(日) 00:13:12
『ちっちっくしょおぉぉぉ〜〜〜♪完全に手詰まりだァーーーーーッ!!もう逃げるしかねぇ〜〜〜♪』
情けない後ずさりの仕草を見せつつ、ネズミは再度よねに襲い掛かるチャンスを伺う。
襲われたよねは、服の吸水率を書き換えるだろう。
しかし、その行動の無意味さを知る頃にはもう遅いのだ。今度こそ鬼化は避けられない。
ザ・ファンタジアが、よねとの間合いを測っていた、その時――――
ズバン!!!
凄まじい風圧が、ネズミの顔を掠めて通り過ぎた。
何かがヒラヒラと宙を漂う―――輪切りの三角錐と、ウチワのような丸いモノが……。
ネズミは自らの右耳にゆっくりと手を当て、そして叫んだ。
『ギャッアァァァアアアアアアアアーーーーーーーッッ!!痛てえ!!痛てえよぉぉぉ♪♪みっ耳がああああ!!!』
傷口から溢れ出す霧を丸っこい手で押さえ、ネズミは背後を振り返る。
座席の一つに陣取る見慣れぬ顔―――そこには今まで"居なかった筈の男"が、足を高々と組み上げて座っている。
>「なんだッ!?どういうんだ!?」
男は、よね達の仲間ではなかったのか。よねさえ驚きの声を上げている。
>「やれ…決まったようだな」
>「驚くのも無理は無い。ついさっき来たばかりだし、キサマやそこの女が探知できるはずがないからなこの俺を。
>バッチシ、計画通りだった」
座席に座っていた男―――くっきりとした顔立ちの外国人は、澄ました顔で云った。
301
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/01/23(日) 00:16:52
「ちょっと……!誰か早く引っ張り上げてよ!私の細い足を更に細くしたって、自力では出られないんだから!」
闖入者出現を余所に、佐藤ひとみは一人、床から足が抜けずに、もがいていた。
よねは床を元に戻したが、素材が金属からコンクリートに変わっただけで、ひとみが床に埋め込まれている状況は変わらない。
『いっ痛えぉよ〜!!ちっくしょおぉおおおぉぉ♪こうなったら、是が非にでも鬼を増やしてヤルゥ〜〜〜♪
まずは手近な所からダァ!据え膳食わぬは男の恥じィ〜〜♪
化粧がヒビ割れそうな年増ババァでも、この際仕方ねェ〜〜!!』
耳を押さえ床を転がりまわっていたネズミが、突如起き上がり、駆け出した。
ネズミの下半身は既に霧化し始めている。
林立する座席を物ともせずに通り抜け、一直線に向かう先は、動きを封じられ、孤立した佐藤ひとみ。
誰よりも早く、コンクリ詰めとなった女の側に到達し、その腕をむんずと掴んだ。
「ひいっ……!ヤダっ…何なのよこれ……ッ!!」
ひとみは悲鳴を上げた。
掴まれた腕が白い煙を上げて崩れ、同じく霧となったネズミに混じり込んでいく。
その様を注視するものは気づくだろう。ひとみの腕を掴む手、その掌が常の黒色を欠い白く変色していることを。
3秒ほどで、ひとみの身体は完全に霧と化し、ネズミと共に霧散し消え失せた。
床に脚型のついた二つの穴を残して――――
しばらく後、ホールの二階席から声が響く。
『ひひひっ♪大年増はもらったよぉ〜〜♪……あと1秒〜〜〜♪ハイ♪鬼ババァの完成〜〜〜♪♪』
二階席を見上げれば、そこには
背後からネズミの黒い掌に両腕をしっかりと掴まれ、茫然自失で立つ、佐藤ひとみの姿。
『ヘイ♪そこのクソッたれラテン人♪オマエだよオマエ♪気障ったらしい顔しやがってぇ〜♪
さっきはよくも僕のチャームポイントを吹っ飛ばしてくれたねぇ〜〜♪
オマエは鬼にはしないよ♪今すぐブッ殺してやるゥ〜〜〜♪』
ネズミは自らの身体を、へらの様な平たい形状に変化させた。
そして、金属並みの硬度を付加した身体を高速で回転させ、錐揉みしながら二階席から飛び降りる。
回転するへら状の身体はヘリコプターの羽、兼、ミキサーの刃。
空中を自在に飛び回り、ネズミミキサーはラテン系の男に体当たりを目論む。
高速回転の刃は生半可な銃弾など弾き飛ばす威力だ。もし仮に身体に触れたならばズタズタに切り裂かれるだろう。
302
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/01/23(日) 00:24:13
一方―――虚ろな目つきで棒立ちになっていた、二階席の佐藤ひとみに変化が起こる。
眼に暗い光が宿り、口の端が少しずつ吊り上がる。
佐藤ひとみは下を向いたまま呟く。
「………すご〜くハイな感じで、それでいて腹立たしいような…変な気分……何だかイライラするわ…」
ヴィトンの皮製トートバッグから、アルミ製のハンドドライヤーのような物を取り出し、
階下の面々に見せ付けるように掲げた。
「これ、何だと思う?護身用になるかと思って…フルムーンに3Fの工房から持ってこさせてたのよ。
答えは『ネイルガン』……釘を打ち出す道具よ。
便利なのよ〜コレ…このボタンを押せば非力な女でも簡単に釘打ちが出来るんだから……
ちょっと押してみようかしら?」
銃に似た無骨な工具のグリップを握り、引き金代わりのボタンに人差し指を添えて―――押す。
鋭利な先端を持つ鉄の棒が、銃口から弾き出され―――天野の直ぐ足元の床に突き刺さる。
けたたましい笑い声を上げながら、
佐藤ひとみは、階下の面子―――天野、よね、吉野を狙い、手当たり次第に釘の弾丸を撃ち出し続ける。
>「はーい。調理室につきました!ネズミは消えた?」
場違いに能天気な有葵の声が、床に落ちた携帯電話から漏れ出している。
吉野きららの足元には、佐藤ひとみが投げ出した携帯電話が転がっていた。
【1レス目:ザ・ファンタジア、よねの勘違いに乗って、霧(水)の振りをする】
【2レス目:アンドレさんが現れて、ネズミの耳をちょん切る】
【3レス目:ブチキレたネズミ、佐藤を鬼化し、アンドレさんにミキサー攻撃】
【4レス目:鬼化した佐藤、天野さん、よねさん、吉野さんにネイルガン(釘打ち機)で攻撃】
【ザ・ファンタジアは触れた物体を、自分の体と一緒に粒子化する能力を持っています。
この能力を使う時や、体が一部でも粒子化(霧化)している時は、触れた相手を鬼化する能力を失ないます】
【吉野さんに携帯電話を誰かに拾ってほしいなぁ〜なんて…】
303
:
アンドレ ◇n.pJPZU7Yk
:2011/01/23(日) 23:45:51
>『ヘイ♪そこのクソッたれラテン人♪オマエだよオマエ♪気障ったらしい顔しやがってぇ〜♪
>さっきはよくも僕のチャームポイントを吹っ飛ばしてくれたねぇ〜〜♪
>オマエは鬼にはしないよ♪今すぐブッ殺してやるゥ〜〜〜♪』
ふんと軽く鼻を鳴らすアンドレ。もはや彼はファンタジアただのよく喋る小動物としか捉えていない。
「こいよミ●キー。霧になんかならないで全力でかかってこい」
挑発しているにも関わらず、特に身構えもせずにただ涼しい顔で見据えるこの男の目には
確かな勝利の色がギラギラと輝いていた。
>回転するへら状の身体はヘリコプターの羽、兼、ミキサーの刃。
>空中を自在に飛び回り、ネズミミキサーはラテン系の男に体当たりを目論む。
>高速回転の刃は生半可な銃弾など弾き飛ばす威力だ。もし仮に身体に触れたならばズタズタに切り裂かれるだろう。
報告通りだ、とだけ彼は思った。ザ・ファンタジアは不定形でありながら自動操縦タイプのスタンド。
単体だけで自由自在に姿形を変えこのようにドリルに化けて襲いかかることくらい造作も無いのだろう。
予測はしていたし、手はもう打ってあった。
バキンッ
ネズミのドリルの先端部分がいきなり断裂した。その断面には淡い赤色の液体…
そう!血がベットリこびり付いていた。
「“お前は詰んでいる”と言ったはずなんだがな。
頭に血を上らせて必死こいて反撃する前にまず、俺のスタンドについて少しでも考察したほうが良かったんじゃないか」
目の前から飛び込んでくるドリルを腕で受け止める。先がなくなり鋭利ではなくなったとはいえ
激しい勢いで回転する刃は彼の肉を引き千切って血飛沫を噴き上げ鈍い音が響いた。
…だが、不思議なことにこの猛烈な攻撃は骨にまでは達しなかった。
何かが回転刃の進行を阻害しているかのように…
「『流血バリア』…流れ出る血でつくる結界だ。砲弾だって受け止められる
このままじゃあまりにも可哀想だからチョットだけ教えてやるが、
俺のスタンド『カーマイン・アピス』は俺自身の血液だ。よってあらゆるスタンドに付着させることができる。
スタンドでさえあれば雲だろうと―ナンであろうと。
そして俺の腕に食い込んでなかなかお前が抜けないのはこの能力が流れる血の硬度や形状すら
変えられるから…おかげで腕がぐちゃぐちゃで感覚も麻痺してきているな」
【身を呈して攻撃を受けきったアンドレ。余裕ぶっこいていますが血がかなり抜けて
若干意識が朦朧としてきています…大技は後一回できるかどうか…】
【ちなみに血で受け止めていますが霧化(粒子化?)で抜け出すことは可能です
そのまま追撃されるとさすがに不味いですね】
304
:
尋深 業
◆36nLoxn7a2
:2011/01/24(月) 00:46:35
「大掃除なんてするもんじゃないな」
重い足取りで市民会館へ向かう1人の少年
その手には、そこで半年以上も前に借りた本が握られている
「なかなか見つからないから返したんだとばかり思っていたが…まさか、あんな有り得ない場所に隠れてたとはな
やれやれ、せっかくの午前授業もこれじゃ台無しだな」
そう愚痴りながら少年は市民会館のドアに手をかけた
とその時、少年の背中に霊感じみた寒気が走る
「!?」
一瞬戸惑い、少年はドアノブから手を離し、辺りを見回す
「…気のせいか」
そう自分に言い聞かせ、再度ドアノブに手をかけ、今度こそ市民会館内部へと侵入してしまった
後々、いや、直後少年は「借りた本のことなど忘れるべきだった」と後悔する
市民会館に入った少年がまず始めに目撃したのは、何故か自身に向かってくる『釘』の存在だった。
「ッ…ゴールドフィンガー99!これを弾き溶かせェッ!」
少年が自身の異能の名を叫ぶと、背後から獅子の兜をつけた狂戦士があらわれ、黄金に輝く両拳で飛来する釘を叩き落とす。
叩き落とされた釘は煌々と赤く染まり、まるで飴細工のようにぐにゃりと曲がっている
「誰だ。こんなものを飛ばしてきたのは」
淡々とそうしゃべり、半狂乱気味に釘銃を乱射する佐藤に視線を向ける。
【本を返すつもりで市民会館に侵入と同時に佐藤の流れ弾が迫るのを確認、それをスタンドで叩き落とす】
305
:
吉野
:2011/01/25(火) 02:59:59
状況は目紛るしく反転、流動を繰り返していた。
よねが裏切り、傍若無人の闖入者が現れ――佐藤ひとみが鬼にされた。
薄暗い邪悪な笑みと共に、佐藤が釘打ち機を取り出す。
直後、凶悪な響きの笑い声に後押しされて降り注ぐ釘の雨を、吉野は再び床に身を投げて回避する。
御前等の歯車同様、並べられた椅子の塹壕に隠れてしまえば、二階から吉野を射線に捉える事は出来ない。
とは言え安心は出来ない。浮遊、長射程、複数の触手、視覚能力を併せ持つ佐藤のスタンドならば、
釘打ち機をスタンドに委ねて直上からの射撃が可能なのだ。
姿勢を低く保ちながらも、早急に離脱を図らなければならない。吉野は左手を庇いつつ這い始めて、
>「はーい。調理室につきました!ネズミは消えた?」
しかし不意に背後から聞こえた声に、動きを止めた。
肉声とは言い難い薄っぺらで雑な音声は、床に放り捨てされた携帯から漏れている。
そう言えば先程、ネズミの消失を再現するべくホールから出て行った少女がいた。
思い出して、吉野は左手を伸ばして携帯を掴んだ。
まだ違和感の残る左手だが、携帯を掴むくらいならば十分可能だ。
「……ネズミの代わりに、あの女の幾許も無い理性が消えましたわ」
呑気な質問に、吉野は皮肉を返す。
生天目にも携帯越しに聞こえているだろう。
釘打ち機を乱射する佐藤の、けたたましい笑い声が。
「ですが……貴女はこのまま、図書室に向かって下さいな。
もう時間もあまりありません。一歩退いて体勢を立て直すより、転んででも前に進むべきですわ。
予定通り、ネズミの消失条件に参加者の場所が関係しているのかを調べて下さい」
静かに手短に生天目に告げた吉野は、視線をネズミの方へと向けた。
正確にはネズミと対峙している、外国人風の男にだ。
吉野が注意しているのは、男のスタンド攻撃と同時に漂い出した臭気。
「あと……今調理室でしたよね。だったら水と、自然塩を出来るだけ持ち出して下さい。
自然塩がないのなら、まあ普通の塩でも構いませんわ。どうせ私が使う訳じゃありませんし」
最後の一言は小さく呟いて、彼女は更に続ける。
もう一つ、通話はこのままで。仮にネズミが消失したとしたら、そのタイミングは正確に知りたい。
電源に関しては……一応、アテがあります。どうあれ、今は惜しむべきではない」
306
:
吉野
:2011/01/25(火) 03:00:16
左手を添えたまま、吉野はほんの僅かにだけ椅子の塹壕から頭を覗かせた。
御前等のスタンドならば佐藤の釘打ち機をどうにか出来るかも知れない。
だが御前等は、この状況の急変に付いて行けず精神的に右往左往しているようだった。
「折角役に立つ時が来たと思えば……あのゲス男……!」
しかし恨み言を零していても仕方がない。
頼りの綱は御前等だけではない。
一度は浅慮の末に妄言と共に裏切ったよね意外にもう一人、協力を仰げる人間がいる。
>「誰だ。こんなものを飛ばしてきたのは」
「あの女を許してあげて下さいな。彼女は今、在り来たりな言い方をするなら操られているのです。
あちらのネズミ……貴方も持っている不思議な力、『スタンド能力』によって。
そう、貴方のソレ……私にも見えていますわ。そこのゲスにも、あの女にも」
椅子の陰にしゃがみ込んで体を隠したまま、吉野は尋深に話し掛ける。
彼女の視線は尋深と同時に、彼の傍に立つスタンドをも捉えていた。
「詳しい説明をしている時間はありませんが……一時間後に爆発する時限爆弾と目の前の殺人狂なら、
当然殺人狂の相手をすべきだと思いますよね?と言う訳で、あの女の気を引いて欲しいのです。
断ってくれても構いませんが……お互いに死ぬ可能性が上がるだけなので悪しからず、ですわね」
一方的に淡々と告げると、吉野は再び身を隠して移動を始める。
向かう先は二階ホールへの階段だ。
スタンド能力を殆ど失っている彼女は今、佐藤のスタンド探知に補足されない。
医務室前での微かな反応も、蕾を使った後でしか感知されなかった。
今の半狂乱の佐藤ならば、密かに近付いて尻尾を切り落とせる。
吉野はそう判断したのだ。
逆にここから佐藤を逃してしまっては、非常に不味い事になる。
何せ相手からはこちらの位置が筒抜けである上に、透明化が可能なのだ。
一網打尽にされてしまうのは、眼に見えているのだから。
【尋深さん→佐藤の気を引いてくれたらなと。もうちょい気の利いた事言えたら良かったんですけど、
状況が状況だしあんまり長話もなぁと……すいません
佐藤さん→椅子の合間に身を隠しつつ接近。こっそり尻尾を切るつもりです
鬼ババアタイムがどれくらい続けたいかによって仕掛けるタイミングとか考えようと思いまする
生天目さん→水と自然塩のデリバリー注文しました。あと図書室に向かうように頼んでみたり。使い走りみたいですいません】
307
:
8 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/26(水) 21:14:35
>「答えは聞いていないッ!!Sum41 Re・Birthッ!!私の服は水を弾く!つまりレインコートとなるッ!」
>「形成逆転だとは思わないか?お前は次に、"僕は霧だからダメージは与えられないよ〜〜♪"と言うッ!
無駄だァッ!周りを良く見ろと言ったハズだッ!お前の周りに立っているスタンド使いは全員、布で出来た服を纏っているッ!意味がわかるか?
"スタンド能力によって吸水力を上げてやればお前の攻撃はことごとく無効化できる"ということだよッッ!!」
「…あの。ザ・ファンタジアからは水のにおいがしません。もしかしたら霧じゃないのかも…」
>『アレッアレレレ〜〜〜♪身体が、手が滑るよぉ〜〜体が弾かれるゥーーーーーー♪どういうことだなんだァーーー??』
(え…こいつ本当にアニメーターのスタンドなのか…? それともこのわざとらしい演技も作戦の内なのか…?)
>「ひいっ……!ヤダっ…何なのよこれ……ッ!!」
>『ひひひっ♪大年増はもらったよぉ〜〜♪……あと1秒〜〜〜♪ハイ♪鬼ババァの完成〜〜〜♪♪』
「佐藤さんッ!? …ダメだ、間に合わない…」
佐藤がザ・ファンタジアと共に霧化して、二階席へ移動した。そしてネズミの言葉通り…
>「………すご〜くハイな感じで、それでいて腹立たしいような…変な気分……何だかイライラするわ…」
鬼化していた
>「これ、何だと思う?護身用になるかと思って…フルムーンに3Fの工房から持ってこさせてたのよ。
答えは『ネイルガン』……釘を打ち出す道具よ。
便利なのよ〜コレ…このボタンを押せば非力な女でも簡単に釘打ちが出来るんだから……
ちょっと押してみようかしら?」
佐藤がネイルガンから打ち出した釘が、天野の足元に刺さる
「うわぁあああ!!!!」
後ずさる天野
「落ち着け…落ち着くんだ…。フリーシーズン。佐藤さんの右手部分の気温を下げるよ…手の感覚が無くなる位に」
フリーシーズンの能力を、佐藤の右手部分のみに集中させて発動する天野。フリーシーズンの気温・湿度操作は、範囲が狭いほどそのスピードを上げるのだ
狙いは佐藤の手を悴ませて、ネイルガンの操作を封じることだ
(さっきあのネズミの手…白かった。真っ白だった。その時明らかに3秒以上触っていたのに、佐藤さんは鬼じゃなく霧になった
…これもあいつの能力か…?
だとするとあいつは自分と触ったものの形を変えられ、その間は鬼化能力が使えない、という仮説が立つわけだけど…
…後で実証してみよう。今は佐藤さんの鬼化を解くのが先だ…)
フリーシーズンの能力使用中、天野は考えた。自らの取り得、『観察力』をフルに使って。
308
:
10生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/01/27(木) 15:14:11
>「……ネズミの代わりに、あの女の幾許も無い理性が消えましたわ」
携帯からは吉野きららの舌鋒。それにまじり佐藤ひとみの哄笑も聞こえる。
(……)
生天目有葵は想像した。
没表情な白目となって、酔い痴れたような目付きの佐藤ひとみが口を大きく開き
呆けた高笑いを喉の奥から吐き出している様を。赤い舌が御前等の顔面に蛇のように巻きついている様を。
(地獄絵図ね…)
>「ですが……貴女はこのまま、図書室に向かって下さいな。
もう時間もあまりありません。一歩退いて体勢を立て直すより、転んででも前に進むべきですわ。
予定通り、ネズミの消失条件に参加者の場所が関係しているのかを調べて下さい」
地獄でも冷静な吉野は手短に静かに言葉を紡ぐ。
>「あと……今調理室でしたよね。だったら水と、自然塩を出来るだけ持ち出して下さい。
自然塩がないのなら、まあ普通の塩でも構いませんわ。どうせ私が使う訳じゃありませんし」
最後の一言は小さく呟いて、吉野は更に続ける。
>「もう一つ、通話はこのままで。仮にネズミが消失したとしたら、そのタイミングは正確に知りたい。
電源に関しては……一応、アテがあります。どうあれ、今は惜しむべきではない」
「えっと…。自然塩と水を持って、私はそのままライブラリにむかってもいいってこと?
よくわからないけどわかったわ。通話はそのままにしとく…。あなたもがんばってね」
生天目は自然塩と水を探すために調理室を物色し始める。
水はケーキが保存されていた家庭用の冷蔵庫にペットボトル入りの天然水が数本あったため容易に見つけることが出来た。
でも問題は自然塩。
「ここの調理室ってよく見ると本格的な感じ。レストランの厨房みたい。
バジルとかあるし、あっちの奥にはもっと大っきい冷蔵庫があるし」
調理室の奥には人が数人入れるほどの業務用の冷蔵庫。
生天目がゆっくりと扉を開けてみると幸運なことに大き目のタッパーに自然塩が入っていた。
ステレオポニーは部屋の隅にあったレストランなどで料理を運ぶ車輪のついたテーブルにペットボトルや自然塩を積みはじめる。
おまけに鍋や調理器具なども入手し積む。
「…ここってレストランじゃないよね?元市民会館って思ってたんだけど…。
貴族でも住んでるみたい。それにこれを見てよ。ソーセージにワイン」
生天目は業務用の冷蔵庫の中のソーセージを見つめていた。
ソーセージはあり得ないほど冷蔵庫中に溢れかえっており、よく見ればわかるだろう。なんと人の生首の切断面から生えている。
このソーセージの正体はブローノ・レンツィのクッキング・テンパラスの犠牲者たち。
哀れな犠牲者たちは自分の内臓で自分の肉を包みこみワーストたちの集会時には美味しい料理としてその身を捧げていたのだ。
生天目はそんなことも露知らず車輪付き猫足テーブルを押しつつ調理室をあとにするのであった。
309
:
14 :ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/01/31(月) 21:52:51
身体を螺旋状の刃に変形させてホールの上空を飛び回るザ・ファンタジア。
高速回転する切刃を目標に向け、その肉体を貫かんと、ラテン系の男に飛び掛る。
>バキンッ
鈍い金属音。何か硬質の物が回転刃に当たり、弾かれて飛んだ。
直後、ピシリ、と身体の内側から亀裂音が走る。ネズミは回転速度を落とし視線を下に向けた。
視界に捉えたものは先端部分の欠けた自らの体と、断面にこびり付いた赤い液体。
ネズミ自身のものではない赤い液体が、何者かの攻撃の痕跡を示している。
『ギャッアァァァーーーーッッ!!なんじゃあ♪♪こりゃぁあああ♪!!』
足先をもがれるような激痛に、ネズミは顔を歪め叫び声を上げた。
折れた先端の断面から、絶え間なく白い粒子が流れ出している。
一度粒子化し身体を再構成すれば、あらゆる負傷、欠損が完治してしまう無敵のスタンド…ザ・ファンタジア、
しかし、実体化時の負傷は痛覚を伴うのだ。
『やりやがったなァ♪♪この腐れラテン野郎!!
このまま削り取ってやるゥゥゥーーー!!背骨まで砕いてカルシウムたっぷりのミンチ肉にしてやるゥ♪ーーー!!!』
激高したネズミはラテン男に体当たりを目論む。
先端部分が欠けたとはいえ、金属をも穿つ高速回転の切刃は、生身の肉体を砕くに充分な威力を持つ。
相手が、能力―――スタンドを盾に防御の構えを取れば、スタンドごと肉を裂き、骨を砕いてやるまでだ。
自らの肉体を再構成するよりも、相手に止めを刺すことが先決…ネズミはそう判断した。
切刃を外側に立てて殺傷力を上げた身体を激しく回転させ、男にぶち当てる。
男は咄嗟に片腕を上げて回転刃を受け止めた。
切り裂かれた肉片が飛び散り、血が噴水のように吹き出す。
(勝った……ざまぁwww♪♪♪)ネズミは、ほくそ笑んだ。
肉体で刃を受けきるなど下の下策…策のない証拠だ。
このまま腕を粉砕しながら進み、死に至るまで胴体を削り取るまで――――!
―――しかし、吹き出す血を前に、ネズミドリルは前に進めない。
それどころか自在に形を変える血の幕は螺旋形の刃の間に入り込み、ドリルの回転をも阻害する。
いつしかネズミは金属並みの強度で凝固した血液に捕えられ、進むことも引くことも出来なくなっていた。
>頭に血を上らせて必死こいて反撃する前にまず、俺のスタンドについて少しでも考察したほうが良かったんじゃないか」
>「『流血バリア』…流れ出る血でつくる結界だ。砲弾だって受け止められる
ズタズタに負傷した腕にまるで無頓着な様子で、男は能力の解説すらしてのける。
310
:
15:ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/01/31(月) 21:53:26
ネズミは歯噛みして悔しがるものの、血の幕を破ることが出来ない。
ならば……、とネズミは策を転じた。
脱出と負傷の回復、新たな攻撃に備えての肉体の再構成。
一挙両得ならぬ一挙三得を狙い、ネズミはドリルの形状を捨てて粒子化し、血液バリアから逃れる。
しばらく後……、アンドレの頭上2m程の位置にモヤモヤとした霧が集い、形を取り始めた。
まずは丸い耳二つ備えた頭部が現れ、次には背中に生える大きな薄い羽が形作られた。
手足はいやに細く、体の下にだらりと垂らしている。
特筆すべきはその口元。細く長く伸びたその口の先端は、注射針のように鋭く尖って……
その姿を表すならば、ネズミの顔を持つ巨大な蚊―――!
『ラテン男〜〜♪♪お前アホかあ〜〜♪自分の能力をペラペラ喋っちゃってさあ〜〜♪
後悔させてやるぜぇ〜〜〜♪その余裕綽々の態度を〜〜♪』
ネズミ蚊は耳障りな羽音を響かせてホール上空に舞い上がる。羽音が小さくなるほど高く。
天井付近の闇に溶け込むほど高く舞い上がると、ネズミは一転急降下し、
落下の勢いそのままに、尖った口先をアンドレの首筋を狙って突き立てる。
『血液を変形させる能力だってぇ〜〜♪なら材料を全部吸い取ってやるまでだァ〜〜
カラッカラに干からびやがれ〜〜♪このスカシ野郎!!!』
【ザ・ファンタジア:蚊に変身しアンドレさんの血を吸い取ろうとしています】
【アンドレさんは負傷の程度も軽くないですし、求む!援軍】
311
:
16 :アンドレ ◇n.pJPZU7Yk
:2011/01/31(月) 21:54:42
>『ラテン男〜〜♪♪お前アホかあ〜〜♪自分の能力をペラペラ喋っちゃってさあ〜〜♪
>後悔させてやるぜぇ〜〜〜♪その余裕綽々の態度を〜〜♪』
(やれやれ言ってくれるな…素人なら昏睡状態になるぐらい血を流したんだぜ
既にボロボロだ…だが、それこそ俺の真骨頂…フフフ、まんまと喰いついてくれた
傷ついたことによって研ぎ澄まされた『カーマイン・アピス』の真髄を拝ませてやる)
>落下の勢いそのままに、尖った口先をアンドレの首筋を狙って突き立てる。
>『血液を変形させる能力だってぇ〜〜♪なら材料を全部吸い取ってやるまでだァ〜〜
> カラッカラに干からびやがれ〜〜♪このスカシ野郎!!!』
落ちてくる鋭い針を一重で避け、腕で払いのけて距離を空ける。
「無駄無駄。蚊に変身したくせして随分動きが単調じゃないか。」
すかさず僅かな血を後方の壁ににぶつけた。
威力をわざと弱めたため音も小さくファンタジアの死角のため気づかれないはずだろう。
さっきのバリアでかなりの血が壁や床に飛び散っているのだから。
それは血文字だった。本来カーマイン・アピスはそれほど精密に操れるスタンドではないのだが
彼の手先が器用な事もあり指先で微妙な調整ができ、血を字形の弾丸に変化して放つこともできなくはなかった。
ただしこれは戦闘よりももっぱら別の事に使われており、それはメモノートに日程を記している際ペンのインクが切れたのが発端だった。
幾度の試行錯誤の上、彼がようやく習得したちょっとした小技だ(そのため彼はいままでに練習用のメモ帳を軽く3桁は突き破っている)。
彼は日本語にやや疎いこともあり血文字の内容はひらがなとカナ混じりの雑な字。
“おレだケデハしトメキれなイ、だレカてをカしテほシイ”(俺だけでは仕留め切れない、誰か手を貸して欲しい)
充分にあのネズミ野郎に対する勝算はあったが、血をいつもより流したし、保険替わりになる。悪くない賭けだ。
(さて…あとは奴の鼻を明かすだけ)
「ところでファンタジア。もしかしたらお前はもうすぐ再起不能になるかもしれないんだが
本体――エイドリアンの場所を教える気はないか?」
掲示板や照明具などに飛び散った血が床に滴り、しだいに血の池を形成していた。
【ちをすうだなんてとんでもない!殺られる前におおおおおっ、刻むぞ血液のビート!】
【血の池といっても比喩です。500ccぐらいです(まあ一度に池ができるくらい血が噴きだしたらやばいですから…)】
【援軍してくれる親切な方はおられませんか。自分も可能なかぎり単身で挑むつもりですが】
312
:
63 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/02/02(水) 21:11:32
佐藤ひとみは二階席の手摺から身を乗り出し、右手に構えた釘打ち機から釘の弾丸を乱射し続ける。
ホールに響き渡る女の高笑い、降り注ぐ釘の雨!
まずは天野を狙い、次は吉野を…よねを……
気の向くままに標的を変え、悪ふざけのように外して撃ち外しては撃ちを繰り返す。
そうこうしている内に、いつの間にか天野と吉野の姿が視界から消えていた。
ずらりと並ぶ観客席…その何処かに身を隠し、釘を避けているらしい。
小さく舌打ちして、ひとみは手元にスタンドシートを出現させる。
シートには、座席の見取り図と数個の光点―――"ホール1Fのスタンド使いの位置情報"が映し出されている。
透視を使えば障害物の向こう側の相手をつぶさに視認できるが、透視対象に意識を集中する分、視野が著しく狭まる。
固体認識できずとも、ホール全体をカバー出来る能力者探知の方が効率的、と判断したのだ。
案の定、座席の下に二つの反応が在る。
ひとみはその反応を『天野晴季』と『吉野きらら』のものだと判断した。
ザ・ファンタジアに精神干渉を受けた人間は、欲望のままにゲーム参加者を攻撃する鬼と化す。
鬼の体内ではアドレナリンが過剰分泌し、闘争心が増し気分が高揚する。
しかし副作用もあった。異常な興奮は冷静さを削ぎ判断力を狂わせる。
ひとみは吉野きららの能力喪失を……"能力者探知"に反応が出ないことを、完全に失念していた。
そして、釘を乱射している間にホールに侵入した青年――――尋深業の存在に気づくことも無かった。
そう、座席下の二つの反応は『天野』と『尋深』。
佐藤ひとみは吉野きららの行動を―――自らに接近する者の動きを、察知していない。
シートに向けていた視線を上げ、ひとみは憎々しげに呟く。
「ゴキブリって追いかけるとす〜ぐ家具の下に隠れちゃうのよねえ。コソコソ這い回って汚らわしいったらないわ!」
バッグに手を突っ込み、白いビニール袋に入った小さな容器を取り出す。
虫の絵がプリントされた短筒状のその容器は、いわゆる『燻蒸式殺虫剤』。
市民会館までの道すがら、立ち寄ったドラッグストアで購入していたものだ。
季節は真夏。意外に生活のだらしない佐藤ひとみの部屋は、それが必要な状態にあったのだ。
313
:
64 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/02/02(水) 21:11:56
「コソコソ隠れる害虫は駆除しなきゃねえ〜……」
黄色い帯の巻かれた容器の蓋を開け、内蓋のアルミを一気に剥がす。
既に細く煙を上げ始めた容器を掲げ、1F座席に向かって放り投げた。
白い煙が放物線を描き、天野と尋深の潜む場所の丁度中間地点に落下していく。
カランと軽い音を立てて床に落ちた容器から、もうもうと白煙が吹き出す。
害虫駆除の煙幕は空気よりも重く、下に溜まり安い。姿勢を低くしている者は、じきに呼吸すら困難になるだろう。
「ムカデや南京虫もイチコロな強力バ○サンよ。さっさと出てこないと窒息しちゃうわよ〜!」
ひとしきり獲物を燻り出す煙幕を眺めた後、ひとみは視線の矛先を変えた。
一人だけ椅子の下に身を隠すこともせず、白煙の海から突き出すように立ち尽くしている青年に。
「ふふっ……よね君は隠れたりしないのね。さすが男の子、立派だわ……
でも、私をチタン漬けにしてくれた事に関してはオシオキが必要ねえ〜…
安心して!鬼になってくれたら怪我は治してあげるから!」
言うが早いか、よねの肩に狙いを絞り、釘打ち機の引き金を引く――――
断続的に発射された三発の釘がよねに迫る!
興奮剤であるアドレナリンは痛覚を麻痺させる。
ひとみは気づいていなかった。
自らの手が最早狙いを定められない程に冷え、悴んでいることに。
【1F座席にバ○サンを投げて、隠れている人を燻り出すそうとしています】
【尋深さんは吉野さんのかわりに座席下に隠れてることにしちゃってす。すいません】
【よね君を釘打ち機で攻撃。天野君のおかげで手が冷えてるので狙いはかなりぺっぽこです。簡単に避けられるかも】
314
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/02/13(日) 04:35:02
気配を限界まで薄め空気になりきることで存在感を秘匿する自宅警備スキル『影絶ち』。
よねが裏切りネズミが現れ佐藤が鬼と化したその瞬間から、御前等は隠密の如く息を潜め事態の経過を見守っていた。
理由はたったひとつ。ヘタレ故である。
(怖かったーーーッ!一体何がどうなってこーなってるんだ!?)
鬼化していた間の記憶がすっぽ抜けている御前等は現状の把握に人二倍の時間をかけねばならず、
しからば目まぐるしく変動する戦況に対応しきれていないのもまた道理であった。
吉野も天野も生天目も佐藤やネズミに対応するためどこそこへ散り、御前等はまたしても一人になった。
そんな彼が実況を見分すべく適当に歩いていると、壁に刻まれた飛沫血痕に不自然な歪さを発見した。
目を凝らさねば判別のつかない形であるが、そこに込められたスタンドエネルギーは感覚の目で読み取れる。
>“おレだケデハしトメキれなイ、だレカてをカしテほシイ”(俺だけでは仕留め切れない、誰か手を貸して欲しい)
確かにそう書いてあった。
まだ新しい、ついさっき刻まれたばかりと言わんばかりの、それはSOS信号だった。
(スタンドエネルギーが残っているということは、『これ』を刻んだ人間はまだ生きてる……)
助けられる、ということ。
その観念を御前等の価値観に照らし合わせ、言葉を修正するならば。
「まだ!俺にも『世界の中心』へ歩み寄る道が残されていたか――!」
叫び、決意し、覚悟して、御前等は踵を返した。
* * * * *
>『血液を変形させる能力だってぇ〜〜♪なら材料を全部吸い取ってやるまでだァ〜〜
> カラッカラに干からびやがれ〜〜♪このスカシ野郎!!!』
>「ところでファンタジア。もしかしたらお前はもうすぐ再起不能になるかもしれないんだが
本体――エイドリアンの場所を教える気はないか?」
「その話、俺も興味あるな」
例のアメリカねずみと謎のラテン系男が拳を交えるその場所は、すぐに発見できた。
ご丁寧に壁や床へぶちまけられたおびただしい血液が、さながら軌跡の如く彼らの存在をガイドしてくれたのだから。
御前等がスタンドを発現させながら、ゆっくりと血糊を踏みしめるようにして闇の中から歩み出てきた。
「お久しブリーフ&トランクスだなアメリカねずみ。相変わらず著作権に弓引く見た目をしているなあお前は!
なんだそれは蚊のつもりか!?その格好はアナーキー過ぎるというか、本国の人間からしてみりゃ冒涜だぞ!
そして俺を呼んだのはアンタかラテン系のイイ男!あっ、ちょっと待ってリテイク。――我を喚んだのは貴様か!」
魔王っぽく演出しながら御前等は更に一歩。
一同に会した三者の、その誰もが己の殺傷圏内に相対する二人を入れて。
「よござんしょ、契約成立だ。今日の俺は召喚獣的なノリで誰かに手を貸そうと今決めた。感謝して敬え。
そしてアメリカねずみ!ビジュアルの出ない文章媒体だからって貴様はやり過ぎた!」
アンバーワールドの両腕一杯に歯車を出現させ、
「かくなる上はこの俺が――著作権に抵触しないオリジナルなお前に造形し直してやる!」
その全てを回転させた――丸鋸のように切断力を持った拳となってアメリカねずみを刻まんと繰り出した。
腕いっぱいに張り付いて回転する歯車は、触れただけで色々と切り飛ばすだろう。
【アンドレとの間に割って入り、ファンタジアさんに向けてラッシュ】
315
:
9 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/02/14(月) 20:33:22
/ 安心して!鬼になってくれたら怪我は治してあげるから!」
プシュンプシュンプシュンとよねに釘が三連発で飛来する。
だが、その弾道はバラけていて、軽く身を動かせば用意にかわす事が出来た。
(あのクソアマが〜ッ!煙たいわ、釘が飛んでくるわで……)
佐藤の動きに気を配りながら、佐藤の死角になりそうな所を探す。
(釘か……そういや、役立たずの野郎がPhase2とか言ってたなァ。今使えればどれだけ便利か…)
もともと、よねが使っていたSum41 Phase2は"裏のよね"、即ち「好戦」という精神を司る潜在意識が発動を可能にしていたのだ。
今となってはそれが逆転している。フェイズ2はおろか、通常のSum41の能力ですらも十分に出し切れていないのが現状だ。
(だが、ヤツは釘を撃って回収はしていない…いつか釘は尽きるはず。本当に"いつか"だけどね…)
もはや神頼みだった。
佐藤の照準は正確ではない。このまま避け続けることも不可能ではないだろう。
だが、あまりにも非効率すぎる。何km走ればいいのかわからないマラソンほど心理的に辛いものは無い。
それに、どういう訳か部屋の室温が下がってきている。よねの体力が持つかどうかすらも怪しい。
そんな事を考えている時だった。
プツリと何かがよねの左足に刺さった。
佐藤の放った一本の鋭く尖った釘。それがよねの太もものあたりに深く突き刺さっていた。
あまりに突然の出来事に初めは痛みすらも感じなかった。
「えっ…は…?あ…ッ!あ、ああああ足ィーッ!!このドグサレがァァッ!!チ、チクショウ!!」
不運。当たり所が悪かったのか、足が思うように動かない。ピリピリと痺れているのだ。
次は確実に殺られる。
よねは後悔した。この煙の中なら、声さえ上げなければ被弾したことを佐藤に悟られなかっただろう。
(こ、殺されるッ!せっかくこの身体を自由に扱えるようになったってのに……ッ!!)
ずるずると自由の利かない左足を引きずってなんとか物陰に隠れようとする。
その間も容赦なく飛んでくる釘。物陰は未だ遠い。殺されるのも時間の問題だ。
316
:
10 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/02/14(月) 20:33:47
このまま逃げれば確実に殺される。
――よねは覚悟を決めた。
死ぬ覚悟ではない。生き抜く覚悟だ。
「……流石だ。流石。凄いなあ、佐藤さんよぉ〜。ほんとスゲェよ。私をここまで追い詰めるんだ。釘一本で。表の私が認めてるだけありますね。
でも、それもこれで終わりです。釘は鉄だよなァ?ってことは、磁石にくっつくよなあ……?
この米コウタのアホ野郎の記憶が戻ってくるんだよ。脳の使い方っていうかね。覚えてるかい、佐藤さん?」
プツリ。鋭い釘が一本。今度は右腕だった。
痛いが我慢する。
「私、前に一度あなたにSum41の力で磁力の強い磁石を渡したんですよ。居場所がどうのこうので。このアホはもう能力を解除しちゃってるみたいだけどね……
で、考えたんだ。今ここでもう一度それを作れば釘は全部それにいっちまうよなぁ〜って」
そしてよねはかけていたメガネを取り、
「わかったか、このドアホッ!?よくも私の身体に傷を付けてくれたなァァッ!許さん!
Sum41、Re・Birthッ!このメガネは強い磁力を帯びるッ!」
そしてそのメガネを佐藤のいる方向に投げた。ちょうど佐藤の後ろに落ちるように。
「お前がバラまいた釘でくたばりやがれェェッ!!
いくら味方とは言え、この身体を傷つけたのは極刑に値するッッ!!」
そして地面に散らばっている、佐藤自身が放った釘が、佐藤の後ろにあるメガネへと強い磁力でひきつけられる。
その光景はまるで地面から無数の釘が佐藤に向かって放たれている様であった。
【散らばっている釘を利用して反撃】
317
:
11 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/02/14(月) 20:34:23
>「ムカデや南京虫もイチコロな強力バ○サンよ。さっさと出てこないと窒息しちゃうわよ〜!」
佐藤が強力バ○サンを焚き、天野達を炙り出そうとしているようだ
(ゲホ…これは…確かに…キツイですね…でも…)
「フリー…シーズン…」
フリーシーズンの気流操作で、バ○サンの煙の流れを変え、窒息を免れる天野。勿論、尋深も避けるように操作している
「ゲホ…僕に、気体の攻撃は無意味だって…知っているはずですよね…佐藤さん…」
佐藤に向かって言っているのだろうか、だが声が小さい
「さて…。僕もしっかりしないと…逃げちゃ駄目だ」
リュックからコートとマフラー、手袋を取り出す天野。そして、それらを全て身に付けた。夏なのに
「よし、準備完了! …後は陰からこっそり…。準備して、フリーシーズン」
フリーシーズンに気温操作の準備をさせ、臨戦態勢をとる天野。(隠れながら)
(さて…狙いは佐藤さんの尻尾。湿度は十分。時間はかかるけど…気温を下げて即興の棘を作る…!)
心でそう呟き、佐藤の尻尾の上辺りの気温を下げ始めた
318
:
12 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2011/02/16(水) 23:23:43
>「ムカデや南京虫もイチコロな強力バ○サンよ。さっさと出てこないと窒息しちゃうわよ〜!」
(こちらには気付いていない……。この分なら問題なく尻尾は切れそうですね……)
二階に上がり、果物ナイフを片手に、吉野は座席の谷間を進んでいた。
佐藤は相変わらず半狂乱の状態で、吉野の接近には全く気付いていない。
>「わかったか、このドアホッ!?よくも私の身体に傷を付けてくれたなァァッ!許さん!
Sum41、Re・Birthッ!このメガネは強い磁力を帯びるッ!」
が、不意に吉野が握るナイフが、彼女の意図に反して揺れた。
よねの作り出した、超磁力を帯びたメガネに引き寄せられているのだ。
吉野は強く握り締めてナイフを保持し続けようとするが、叶わない。磁力が強すぎる。
(自信家で激情家……最も厄介な人種ですわね。それが自分を優秀だと思い込んでいるのなら、尚更に)
同時に、かつて自分もそうであったと思い出して、吉野は状況にそぐわない自嘲の笑みを零す。
だが、その表情は長く続かない。磁力に負けて、彼女の手からナイフが滑り抜けた。
横合いからのナイフが佐藤に刺さる事は無いが、間違いなく接近を悟られる。
故に――吉野は即座に立ち上がり、駆け出した。
予備のナイフはもう無い。無手のまま、それを隠さず、さらけ出して床を蹴る。
「貴女は、私を嘲笑うでしょうね。武器もスタンドも持たず何をするつもりだと。ですが……」
言葉と同時に彼女は身を屈めた。
疾駆の勢いは殺さぬまま、床を滑り、佐藤の背後に回る。
両手を伸ばした。左手は佐藤に生えた尻尾へ。
そして右手は――もう一本、メガネに引き寄せられたナイフへ。
先ほど御前等へと投擲した、ナイフへと。
「ナイフは二本あった。平時の貴女なら、気付いたでしょうに」
小さな蕾の兆したナイフが、白線となって一閃する。
しかし佐藤の尻尾は、完全には切断出来なかった。
磁力に引き寄せられたナイフを、吉野が御しきれなかったのだ。
「……失敗、ですか。これでもう、打つ手なしですわ」
苦々しく吐き捨てた吉野が、ナイフを手放した。
磁力に誘われたナイフは床へと直下せず、メガネに吸い寄せられる。
「ところで、最後の一つ教えてもらえませんか?今のその状態、頭の中はどうなってますの?
自分の現状はサッパリ忘れている?その方が、これからなる身としては幸せですけど」
吉野が尋ねた。
最後のと銘打った問いは、けれども自暴自棄から来る物では、ない。
佐藤の尻尾を掴んだ時、吉野は手の平に異様な冷たさを覚えた。
間違いなく、スタンド能力によるものだ。
誰かが何かをしようとしていると理解して、故に吉野は時間稼ぎを図った。
【ナイフが磁力で手元から離れる、間違いなく気付かれる、フルムーンでマジに警戒されたら接近なんて無理
だからいっそ一気に距離を詰めた、スライディングで背後に回って(磁力に引き寄せられてくる)御前等に投げたナイフ回収
尻尾を斬りつける、完全に切り離せず失敗、だけど誰か(天野)が何か(棘を作ろうと)してると察して時間稼ぎ】
319
:
14 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/02/19(土) 19:59:27
>9-11
>13
狩りの興奮に酔いしれる佐藤ひとみは、急激な冷却による右手の痺れを全く感知していない。
1階に立ち込める白煙の海を見下ろし、ひとみは小さく笑い声を零した。
「ふふっ…ここからが狩りの本番よ…!」
宙に浮くスタンドシートには、1階の赤外線量を色域で表示したサーモグラフィ(熱分布画像)と、
加えて釘打ち機の照準が記されている。
人体から発せられる熱量を現すオレンジ色が、気温の下がったホール全域の青と鮮やかな対比を見せていた。
「よね君…相変わらず、どっか抜けてるわねぇ…煙幕の中に身を隠しているつもり?
私の能力を忘れたの?あんたの動きは筒抜けよ…。
ゴキブリみたいに椅子の下に這い蹲らなきゃ釘は避けなれないわよ。
あんたより少しは利口な天野君のようにね!」
シート上の照準がよねを現すオレンジ色の人型に重なる。ひとみは釘打ち機のボタンに添えた指に力を込めた。
発射された釘は狙いの軌道を僅かに逸れたが、それでも的を射抜いた。
白煙の下から悲鳴が響く。
>「えっ…は…?あ…ッ!あ、ああああ足ィーッ!!このドグサレがァァッ!!チ、チクショウ!!」
「ビンゴ!…でも残念!
頭を狙ったつもりだったけど足に当たっちゃったみたいねぇ〜…。
フルムーンの照準は正確な筈なのに……発射の反動で手が痺れてきたのかしら?
このクソ重い工具に私の華奢な手が耐えられないのも無理はないわね。」
ひとみは釘打ち機を自らのスタンド、フルムーンに委ねた。
フルムーンは絡ませた触手で器用に釘打ち機を支え、ホール上空に飛んだ。
よねの斜め上―――頭上2.5mの位置で滞空し、釘打ち機の照準を再びよねに合わせる。
よねの位置をシートで感知できるひとみに対し、煙幕内の彼の視界は閉ざされたに等しい。
頭上に浮遊するフルムーンの存在を察知しているはずがない。
「よね君!あんたの負けね!痛い目を見て反省することね!
"もう一人のボク"と入れ替わった…なんて邪気眼病の中学生みたいなこと言ってないで、さっさと鬼になれば良かったのよ!」
まずは一発…牽制の為に右腕を打つ。
そしてもう一発、今度はこめかみに狙いを定めたその時、煙の下からよねの声が響いた。
>Sum41、Re・Birthッ!このメガネは落下運動を終えると、強い磁力を帯びるッ!」
白煙の海を突き破り、何かが宙を舞った。それは、よね愛用のメガネ―――
緩いカーブを描き、ひとみの頭を越えて背後の床に落ちる。
320
:
15 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/02/19(土) 20:01:30
刹那――――
フルムーンの構える釘打ち機が、目に見えぬ力を受け、大きく傾いだ。
釘打ち機の素材はアルミだが、中にセットした鉄釘がメガネの発する磁力に引き寄せられたのだ。
同時に1階の床に散らばっていた釘が、一斉にひとみに向かって飛来する。
ひとみの立つ2階の縁は、バルコニーのように1階座席の上にせり出し、落下防止の手摺が設置されている。
2階の床に落ちたメガネに引き寄せられる釘の軌道は、ひとみの腰より上に至ることはない。
よって、殆どの釘がバルコニーの床と手摺によって堰き止められた。
しかし全ては防げない。
手摺の隙間から飛び込む釘を避けて、ひとみは横に飛んだ。そのまま床に伏し飛来する釘をやり過ごす。
避け損なった釘が、右足の太ももと脛にグサリと突き刺さっていた。
白いスカートが滲み出す血に赤く染まっていく。
「あんのクソガキッッ!!よくもやってくれたわね!!」
ひとみは金切り声を上げた。
鬼化の副作用、アドレナリンの過剰分泌により、あまり痛みは感じない。
直ぐさま立ち上がり、よねへの反撃を開始しようとするも、それは叶わなかった。
背後に何者かの気配を感じたからだ。
振り返ったひとみの目に映る、吉野きらら――――ひとみの斜め後ろ、1mほど離れた位置に立っている。
右手を半開きのまま構えたその姿から察するに、メガネの磁力に負けてナイフを取り落としたらしい。
ひとみはニヤリと笑った。
釘打ち機を捨てたフルムーンが、ひとみの側に飛来する。
磁力を持つメガネは吸着した釘に覆われ、ソフトボール大の鉄塊を成していた。
フルムーンは触手を伸ばし、釘山の表面に張り付くナイフを引き剥がす。
「惜しかったわね。これがあんたの切り札?
虫も殺せないような澄ました顔して、こ〜んな物持ち歩いて…清廉なお嬢様を気取る女ほど本性は悪どいのよねぇ〜…
正直驚いたわ…こんなに近くまで来ていたなんて。
さすがは泥棒猫…猫みたいに気配を消すのはお手の物ってわけ?」
皮肉を投げかけ、更に唇を吊り上げて意地悪く嗤う。
吉野きららは応えず、突如駆け出した。
>「貴女は、私を嘲笑うでしょうね。武器もスタンドも持たず何をするつもりだと。ですが……」
女は身を屈め、床を滑る。
次の瞬間、ひとみは既に背後を取られていた。
吉野きららの手には鈍く光るナイフが―――ひとみが奪った筈のナイフが握られている。
>「ナイフは二本あった。平時の貴女なら、気付いたでしょうに」
彼女はひとみの位置から死角になっていた釘山のナイフを―――もう一本のナイフを拾ったのだ。
真後ろに迫る女に、ひとみは咄嗟に対処出来ない。
捕まれた尻尾に、刃が当てられる。しかし完全な切断には至らなかった。
尻尾の切れ目から、血ではなく白い霧が漏れ出す。
321
:
16 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/02/19(土) 20:03:46
>「……失敗、ですか。これでもう、打つ手なしですわ」
女の手から離れたナイフが、再び釘の山に落ちた。
>「ところで、最後の一つ教えてもらえませんか?今のその状態、頭の中はどうなってますの?
>自分の現状はサッパリ忘れている?その方が、これからなる身としては幸せですけど」
「忘れた方が幸せなこともある…ってこと?残念ながら、そう都合よく何でも忘れられる訳じゃないわ…
いけ好かない泥棒猫の顔なんかは、特に……!」
吉野きららを見つめるひとみの顔は、憎悪に歪んでいた。
鬼化の副作用は精神にも及び、心の裡に仕舞い込んだ欲望やコンプレックスが増幅する。
鬼化した御前等が欝状態に陥ったのも、普段の自分に心のどこかで嫌気が差していたからかも知れない。
佐藤ひとみは心の奥底で、吉野きららに敗北感を抱いていた。
自身では存在すら認めたくない感情であったが、それは意識の底でいつも燻っていた。
九頭龍一は死を齎したひとみに感謝を捧げたが、決してそれ以上では無かった。
ひとみが吉野に抱く憎悪は、九頭に賛辞された女への嫉妬だけでは説明の付かない何かがあった。
「あんたは鬼になんかしない……!あんただけは、生かしておけない……!」
目にどす黒い狂気を宿し、ひとみは呪いの言葉を吐くように呟く。
フルムーンから伸びる幾本もの触手が、吉野きららの首に巻きつき、ゆっくりと締め付け始める。
【横っ飛びで釘を避けるも足を負傷】
【吉野さんにやられた尻尾は半分切れてプランプランです】
【吉野さんが首絞められて危ないよー天野さん決行は今だ!w】
322
:
17 :ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/02/22(火) 23:03:22
>8
蚊に変身し、アンドレの首筋めがけて急降下するザ・ファンタジア。
しかし、直線的な攻撃は軌道を読まれ、紙一重で避けられる。
腕からおびただしい血を噴出させながらも泰然自若として、アンドレはネズミの頭を持つ巨大な蚊に問いかけた。
>「ところでファンタジア。もしかしたらお前はもうすぐ再起不能になるかもしれないんだが
>本体――エイドリアンの場所を教える気はないか?」
『ハァ〜?♪おまえ素で馬鹿だろ?♪♪
頭沸いてんのォ〜〜?♪♪ハッタリが使える状況か考えてからモノ言えよぉ〜〜♪
グチャグチャの右手から血噴き出させて何言ってんの?出血多量で意識不明寸前の癖によぉおお〜♪
もうすぐ再起不能になるのはお前だろッ?どう見てもよォオオ〜〜〜♪
100人に聞いたら100人がそう言うぜぇええ〜♪
馬鹿相手に手加減しても面白くないから、今度は本気スピードで行かせてもらうよ♪』
再び首筋を狙い、上空に飛び上がろうとした、その時
>「その話、俺も興味あるな」
ホールの暗がりから発せられた何者かの声。
薄闇の中から歩み寄る御前等祐介の姿を認めて、ネズミは呆れ顔で溜息をついた。
『ま〜た君かぁ〜〜♪♪ウザキングに戻ってるってことは、誰かに尻尾を切られたみたいだね?
相変わらずウザイ言動してんね〜〜♪鬼の時はまだマシだったのにナーーー♪』
ウザキングこと御前等は、ザ・ファンタジアの言葉など、まるで耳に入っていない様子。
"契約"だの"召還獣"だのと―――独特の言い回しでアンドレへの協力を宣言している。
>「かくなる上はこの俺が――著作権に抵触しないオリジナルなお前に造形し直してやる!」
御前等の前に立ちはだかるスタンド―――アンバーワールドが歯車を帯びた拳を繰り出す。
自らの正中線に向けて叩き込まれる拳と、その腕一杯に張り付く丸鋸のような歯車を避けて、
ザ・ファンタジアは急旋回し、上空に舞い上がった。
御前等の頭上3m、スタンドの拳が及ばぬ位置に滞空し、嘲る様にその姿を見下ろす。
『トロい…トロいよ♪君のスタンドは〜♪そんなんじゃ蚊一匹殺せやしないよぉ〜〜だ♪
>――我を喚んだのは貴様か!………だって……ダサwww♪
それだってアニメかゲームのパクリみたいなもんでショ〜〜?
オリジナリティに言及するなら、君もそーいうの控えたらどうさ?
アニメやゲームはクールジャパンかもしれないけどさぁ〜…それが大好きな大きいお友達は全然クールじゃないよね♪
むしろフリーク!!♪そーいうのジャパ〜ンでは"キモヲタ"って言うんだろぉ〜♪
繰り返すけど、ダッサwwww♪ついでにそのバンダナもwwダサッ♪』
腹を抱えて笑い転げつつ御前等を指差す、空中のザ・ファンタジア。
輪郭をモヤつかせたその体が、風に吹かれた雲のように、少しずつ千切れだす。
千切れた雲の一つ一つから、手のひらサイズのネズミ蚊が生まれ、やがてその数は数十体に及んだ。
323
:
18 :ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/02/22(火) 23:04:14
『君たちの下品なスタンドに近づかなくても、ダメージを負わせる術はあるんだよぉ〜〜♪
単細胞な君たちとは違って、僕の能力は応用が効くんだ♪』
同じ台詞をハモる数十体のネズミ蚊。それぞれが耳障りな羽音を響かせてホールを飛び回る。
次第に羽音は甲高く―――まるで黒板のひっかき音を大音量で再生したが如き不快な音に変じた。
『鼓膜に直接ダメージを与える超音波だァーーーー!!♪
(人に聞こえない周波数が超音波なんで正確には超音波じゃないけど♪)
ここにいる連中全員!耳から血を噴出させて悶絶しやがれぇぇぇーーーー♪♪』
蚊達は全て上空に逃れ、闇の中で羽音を鳴らし続けている。
遠距離攻撃が可能なアンドレの血液弾や御前等の歯車を以ってしても、
集中力を裂く激痛の中、視認できぬ相手の狙撃は困難を極めるであろう。
ホールにいる者全員が、鼓膜を針で差すような激しい痛みに苦しむ最中、
突然――――本当に何の前触れもなく、耳をつんざく羽音がピタリと止んだ。
一転して静寂に満たされるホール。
ネズミが攻撃方法を変えて、いつ襲ってくるかと身構える者もいたが、
ネズミ蚊は…いつまで待っても、上空から降りてこない。
*******************************************
一方その頃、
丁度ライブラリに到着した生天目有葵。
扉を開けた有葵は、部屋の中をバタバタと、慌てて走る足音を耳にするだろう。
直後、ガチャンと金属質の音が響く。
室内は、本をびっしりと詰めた書棚が整然と並び、御前等とよねの戦闘による痕跡は見当たらない。
天井の焦げ跡も破壊された書棚も、まるで戦いなど無かったかのように元通りに修復されている。
DVDコーナーに設置された白いテレビは、モノクロの古いディ○ニーアニメを再生中だ。
部屋の奥に、書庫に続く金属の扉がある。金属質の音はこの扉が開閉音なのだろうか?
扉に鍵はかかっていない。
しかし、もし書庫に入り詳細に調べたとしても、中には誰もいない。
ライブラリにも、書庫にも、何者かが潜む痕跡を見つけることはできないであろう。
【ザ・ファンタジア、数十体の蚊に分身。天井付近の闇に紛れて、
羽から生じる特殊な衝撃波で、ホールにいる全員の鼓膜を攻撃→なぜか突然消滅】
【生天目さんお待たせしました!ライブラリに到着しちゃって下さい!】
324
:
19 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/02/22(火) 23:05:21
ライブラリの扉を開けた生天目有葵は部屋の中をバタバタと慌てて走る足音を耳にした。
扉を開ける寸前まで、携帯電話から聞こえていた怪音は今はピタリと止んでいる。
「ライブラリに着きました。どぉ〜?ねずみは消えた?
なぁんて聞くまでもない?だって誰かがいるみたいなんだもん」
生天目は携帯電話の向こうにいるであろう吉野きららにひとこと言うと
天然水と一緒に持ってきたフライパンを片手にライブラリに進入する。
DVDコーナーに設置された白いテレビは、モノクロの古いディズ○ーアニメを再生中で
部屋の奥には書庫に続く金属の扉。
「えっと。足音がして金属の音がしたってことは…。たぶんあの扉があやしいわ…。
ふふふ。私、おおあたりぢゃん!本体が隠れているんだとしたらサッサとやっつけちゃうわよ〜」
書庫の扉に鍵はかかっていない。
生天目は扉をあけると書庫内にスタンドを飛ばして中を調べた。
しかしなかはもぬけのから。
「……ぇ。…そんな、誰もいないなんて。そんなバカなことって…」
生天目は目眩がした。
まるでテスト終了間近にマークシートがずれているのに気がついた学生のように…。
こみ上げてくる焦りと緊張もすでに隠すことは出来ない。
底の暗い不安が蠢動し自分の心臓を薄黒く覆いつくすような感覚が生天目有葵を支配してゆく。
【ライブラリに到着。調べたけど蛻の殻でした】
325
:
20 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/02/22(火) 23:06:07
(よし…氷は出来た…! 後はこれを風で…)
佐藤の尻尾の上部分で氷を生成することに成功した天野。今は気流操作で支えている
そして、さらに気流操作で氷の塊を削る
(……………もう少し……よしッ!)
遂に完成。氷の塊が鋭い刃の形になる
(行け! 狙いは尻尾…佐藤さんが米さんに気を取られてるうちに…一気に切断するッ!)
佐藤の尻尾に狙いをつけ、支えていた気流を外し、尻尾目掛けて氷の刃を落とす天野。さらに気流による補助でスピードも上げている
>『鼓膜に直接ダメージを与える超音波だァーーーー!!♪
(人に聞こえない周波数が超音波なんで正確には超音波じゃないけど♪)
ここにいる連中全員!耳から血を噴出させて悶絶しやがれぇぇぇーーーー♪♪』
(…っ!!! 正確には超音波じゃな…ってそんなことどうでもいい! 耳が壊れ…!
…あれ? 音が止んだ…。何か仕掛けて…来る様子はない、かな…?)
【佐藤さんの尻尾に氷の刃を落としました】
326
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/02/26(土) 19:47:02
>『トロい…トロいよ♪君のスタンドは〜♪そんなんじゃ蚊一匹殺せやしないよぉ〜〜だ♪』
風に舞う木の葉の如く御前等の拳をひらりと回避したアメリカねずみは宙を行く。
こちらの攻撃の届かない範囲を浮遊。逃げを打たないのはその必要がないから。
ザ・ファンタジアの防御性能は御前等の攻撃力を軽く凌駕していて、例え拳を当てたとしてものれんに腕押し、糠に釘。
>『♪そーいうのジャパ〜ンでは"キモヲタ"って言うんだろぉ〜♪
繰り返すけど、ダッサwwww♪ついでにそのバンダナもwwダサッ♪』
その発言で御前等の心に赫怒の炎が灯った。
「貴っ様ァァァァァァァァァッ!!大きなお友達が社会通念的に言ってキモいのはまあ認める!
認めるが!――この俺を!そのセンスを!侮辱するのだけは絶対に許さんぞおおおおおおおおおおお!!」
精神の炉に甚大な薪がくべられ、彼の内燃機関は渦動する。
大地を踏み締め咆哮の如き唸り。魂を鼓舞し、スタンドに鬼神の迫力を宿す。
「この俺のファッションセンスをディスるってことは貴様は相応のお洒落さんなんだろうなッ!
そのデザインで!貴様なんかが…『お洒落』だと…?勝負しろアメリカねずみ!!!今ここで!!貴様を倒す!!!
シャツinズボンにバンダナが『最強』だって!!!俺が証明してやる!!!」
かくして勃発したオシャレ論争にしかしザ・ファッションセンスは取り合わない。
空中で形状を変える。細胞分裂の如く細切れになり始めた。その数、やがて数十匹。
>『君たちの下品なスタンドに近づかなくても、ダメージを負わせる術はあるんだよぉ〜〜♪
単細胞な君たちとは違って、僕の能力は応用が効くんだ♪』
「っは!何をやり出すかと思えば細切れになっただけじゃあないか!そんなちっぽけな蚊柱で何をするって――」
>『鼓膜に直接ダメージを与える超音波だァーーーー!!♪
ここにいる連中全員!耳から血を噴出させて悶絶しやがれぇぇぇーーーー♪♪』
始まったのは鳴動。空気を微細に揺らす振動。ぽつりぽつりと聞こえ始めたそれらは次第に数を増やす。
ねずみ算に増え続け、やがてホールを埋め尽くすそれは羽音だった。
「ぐあああああああああああああああ!!!!!!!!」
御前等は耳を抑えて蹲った。
耳元で蚊にぶんぶんやられたら相当イラッと来る。それが幾重にも連なり、更に指向性を持って御前等を攻め立てる!
あまりのストレスに御前等は耳から血が出そうになった。直接鼓膜をドンドコ殴られてる気分だった。
「ぐげげげげげごごごごごがががががが……っ!」
のた打ち回る御前等!しかし音の責め苦は止むことはない!ラテンさんのことなど視界に入ってないかのように!
御前等はホールの床をごろごろと転げまわる!水もないのにバタ足を始める!頭が割れそうだった。
そして。
「……――――お?」
音が、消えた。
スピーカーの電源をブツ切りにしたかの如き静寂。
先生がマジギレしたときの教室内のような居心地の悪い静謐は、いつ追撃がくるかわからないからだ。
果たして追撃はなかった。アメリカねずみはまるきり、うんともすんとも言わなくなったどころか――姿を消してしまったのである。
「どこへ――まあ良い。ラテンさんの止血が先だ。天野クーン氷をくれ!血がヤバいことになってる!」
ホールのどこかにいるであろう天野。彼へ向けての救援要請を御前等はどこへともなく張り上げた。
【アメリカねずみの攻撃がストップ。どっかにいるであろう天野くんに氷を要求】
327
:
31 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/02/27(日) 23:34:52
>「どこへ――まあ良い。ラテンさんの止血が先だ。天野クーン氷をくれ!血がヤバいことになってる!」
「了解です! 血まみれのラテン系な人の血を凍らせれば良いんですね? フリーシーズン、気温低下…!」
ピンポイントで傷の周りの気温を下げる…が、これでいいのだろうか。たぶんいいと思う。恐らく。
「ああ、あと御前等さん。貴方、『シャツシャツinズボンにバンダナが『最強』』って言ってたじゃないですか。
『※あくまで御前等氏の個人的な見解です』←これ忘れてますよ?」
意外に毒舌な天野であった
328
:
35 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2011/03/01(火) 22:05:26
>「忘れた方が幸せなこともある…ってこと?残念ながら、そう都合よく何でも忘れられる訳じゃないわ…
いけ好かない泥棒猫の顔なんかは、特に……!」
>「あんたは鬼になんかしない……!あんただけは、生かしておけない……!」
フルムーンの触手が吉野の首を締める。
スタンドを持たない吉野に抵抗の術はない。
冷気のスタンド使いの一手は、未だに訪れない。
このままでは死ぬ。目的を見失った生だが、弄ばれるように死ぬのは御免だった。
ならば佐藤になら、どうだろうか。佐藤には吉野を殺すに足るだけの熱量がある。
理由はどうあれ、彼女は本気で自分を憎んでいると、吉野は佐藤の眼光から悟った。
「けれど……今の貴女に殺されるのは癪……ですわ」
吉野が詰まる息を振り絞る。
頭上から降り注ぐ超音波に揺れる脳裏で、『ザ・ファンタジア』の笑い声が反響した。
ここで死んでしまったら、『ザ・ファンタジア』はそれを大いに嘲笑うだろう。
顔も知らぬ相手に、死んだ後で一方的に侮辱される。それは耐え難い恥辱だった。
ふと、超音波が途絶えた。頭上を仰ぎ見る。
蚊の群体となっていた『ザ・ファンタジア』は、一匹残らず消え失せていた。
>「ライブラリに着きました。どぉ〜?ねずみは消えた?
なぁんて聞くまでもない?だって誰かがいるみたいなんだもん」
磁力のせいか酷く雑音の混じった声が携帯から聞こえた。
もしかしたら、脱出まではあと一歩なのかもしれない。
「……やっぱり、まだ死ねませんわね」
呟いて、吉野が佐藤の足を――釘によって負った傷を蹴り抜いた。
頭上を見上げた時、吉野は『ザ・ファンタジア』の代わりに、氷の刃を見ていた。
気を逸らして、隙を作る事が出来れば、氷の刃が今度こそ佐藤の尻尾を切り落とすと踏んだのだ。
329
:
36 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/03/02(水) 18:20:47
>35
佐藤ひとみは、触手に首を絞められる吉野きららを、怨嗟の篭った目で見つめていた。
九頭との最後の戦い―――その記憶の一つ一つがモザイクのように繋ぎ合わされて、ひとみの脳裏に押し寄せる。
死にゆく九頭は、『"魔"に対抗しうる者――力を高みに上らせた者の存在を目にして、ようやく安らかな眠りにつける』と語った。
ならば、百年にわたる長き時を国守に捧げた九頭の心を安んじる"特別な存在"は、自分ではない。
ひとみの能力は"視る"ことだけであり、あの戦いに於いて、強大な存在に抗う力など何一つ得てはいないのだから。
寧ろ『階段を昇り到達した者―――次代に残すべき特別な存在』と、九頭に賞賛された吉野きららこそ、
それに値する者ではないのか?
九頭が最期に口にした、ひとみへの言葉は、自らの中に迷い込んだ女への哀れみであり、
逝く者が遺される者に手向けた優しさに過ぎなかったのかもしれない。
燻り続けてきた不安が精神の変調によって堰を切って溢れた。氾濫した黒い情念がひとみの心を占拠する。
ひとみは憎悪を込めた言葉を吐き続ける。
「何故あんたなの……?何故あんたが選ばれて……私が…私は……一体何だったの…?
力を得たからってそれが何なのよ?結局その力さえ失って!あんたみたいな女……死ねばいいのよ…!!」
耳障りな蚊の羽音が、痛みを伴う振動となって鼓膜を襲う。
しかし、その痛みすら情念を煽り、怒りに火を注いだ。
ひとみの眼光は狂気を増し、フルムーンは攻撃の手を緩めない。
突然、蚊の羽音がピタリと止み、ホールに静寂が訪れた。
足に鈍い衝撃が走り、ひとみの体が大きく傾く。
吉野きららが窒息を堪え、ひとみの足を強く蹴り上げていたのだ。
限界まで昂まった憎悪が痛覚を制し、痛みは感じない。しかし負傷した足で体重を支えてはいられなかった。
バランスを崩し、後ろに倒れるひとみの尻尾めがけて、天野が作り上げた氷片が落とされる。
氷のギロチンは既に切れ目の入っていた尻尾を正確に切り落とした。
ひとみの意識が一瞬途切れ、フルムーンは触手に込める力を失う。
>22無駄!
ひとみの頭の中を、稲妻のように一つの言葉が貫く。
――――無駄……?そうよ…本当は解ってる……
想いも恨みも憎しみも、今となっては全て無駄なのだ。
……だって、あの男はもう――――……
タールのような闇が渦巻くひとみの精神に、一条の光が差し込む。
光の中に、キリスト教の聖人が身につけるような白い被衣を頭から被った男が、背を向けて立っていた。
ゆっくりと振り返る背の高い男。
しかし、ひとみはその顔を見ることが出来ない。
男の顔がこちらを向いた途端、視界が急速にホワイトアウトし、ひとみの精神は現実に戻されていた。
意識を取り戻したひとみの視線の先に、床に落ちた携帯電話に手を伸ばす、吉野きららの姿があった。
毒気を抜かれたひとみは、床にへたり込んだまま、その姿をただ眺めていた。
【尻尾を切られた佐藤、正気に戻るが暫し呆然自失】
【吉野さん、良かったらもう少し有葵ちゃんと電話で話してもらっていいでしょうか?】
330
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/03/03(木) 05:31:59
>「了解です! 血まみれのラテン系な人の血を凍らせれば良いんですね? フリーシーズン、気温低下…!」
御前等の指示に迅速に対応する天野。ラテンさんの傷表面を凍結させ、止血を施す。
一度血管を収縮させてしまえば切り口が窄み、激しい運動でもしない限り再出血はないだろう。
圧力や重力とは無縁に影響力を発揮できるスタンド能力ならではの治療法だ。
>「ああ、あと御前等さん。貴方、『シャツシャツinズボンにバンダナが『最強』』って言ってたじゃないですか。
『※あくまで御前等氏の個人的な見解です』←これ忘れてますよ?」
ガシャアアア ガクッ
御前等の背後に展開されていた背景がガラスのように割れ(心象風景)、膝から崩れ落ちる。
「連載終了してしまった――――!」
天 才 !!
しかし天野くん、なかなかにデキる男である。
御前等の発言から正確に意図を汲み取り、要求されたリアクションを完遂する――至極のスキルだ。
例えそれが打ち切り漫画のパロディネタであっても!
「天野くん…そんな戯言二秒で切り返してくださいよ」
さておき、状況は進んだ。
天野くんがここに戻ってきたということは、佐藤の尻尾切り作戦は成功を収めたのだろう。
「ここまでは予想に織り込み済み……問題はここからだ。未曾有の電撃作戦となる――!」
嘘である。特に御前等が関与したわけでもなく、そもそも殆ど状況に参加していない。
なんとなくおいてきぼりを食うのが寂しかったのでそれっぽい言葉を並べているだけだった。
「そんで今どういう状況なの天野くん。俺たちこんなとこでネタ問答してて良い系なの?
駄目ならば・・・ ここで 本筋を突き付けてやるのが仲間としての優しさだ!!」
【天野くんに現在の状況を質問】
331
:
39 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/03/04(金) 00:17:43
激しい耳鳴りの余韻が残っている耳を押えつつ、なおも上空を警戒する。
ホールの天井は高く、上層部は暗くてよく見えない。姿を隠すには絶好のポイントだろう。
だが、ザ・ファンタジアが姿を隠す意図が分からない。
天野や御前等の能力をもってしても、本体にダメージを与えることが出来ないからだ。
故に自らを隠す必要もないし、同様に逃げる必要も無い。
(だとすれば、考えられるのは戦略的撤退……)
様々な弊害を引き起こす可能性のある、Sum41の能力を全て解除する。
メガネは磁力を帯びなくなり、よねの衣服は水を弾かなくなる。
「どういうことだろうな……攻撃をしなくなった…?」
ボソリと呟く。それからスッと立ち上がり、「天野クーン」と叫んでいる御前等にゆらゆらと近づく。
まだ耳が痛い。その上、意識も朦朧としている。
「御前等さん、一体どういう事でしょうね。ザ・ファンタジア……あのまま攻撃を続けていれば、再起不能かあるいは…
何か、特別な理由でもあるんでしょうか?自分には見当もつきませんが…」
御前等はしばらく考えた後、『とにかく』と、ホールのどこかにいるであろう天野に現状を問うた。
「…時間も限られています。全員で手分けをして素早く本体を探すのはどうでしょう?自分はそのほうが……」
そしてその時、よねは気づいた。
自身の一人称が変化していることに。"裏のよね"の一人称は「私」だったのだ。
だが、今は…そう、まるで"表のよね"の様な一人称、「自分」へと変化していたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「もうちょっと……あと少しッ!!」
深い精神の闇の海の底から、凄まじいスピードで―落下してきた時の速度よりも早く―浮き上がっていくよね。
そのあまりのスピードに、逆に落下しているかのような錯覚を覚えた。
よねの眼には精神の海の海面がすぐそこに見えていた。
◇◆◇◆◇◆◇
――とある日の北条市立病院
『ハマ君、ところで…』
綾和は手に持った本―多重人格者の真実という題名―を見つめながら言う。
『人格統合、という言葉を知っているかな?複数の人格を一つの人格に纏め上げるという治療法さ。心理学者ではないからよく分からないけど……
では、もしも、多重人格者がスタンドを持っていた場合、その人格一つ一つに別々のスタンドが宿ることになる。スタンドとは、いわば人格の具現だからだ。
もっとも、保守的な人間は保守的なスタンドしか持たないというわけではないだろうがね。
その場合、人格統合を行うとどうなると思う?お互いが打ち消しあってしまうのかもしれないし、スタンドも融合し更に強力に進化するかもしれない。
まだまだ仮定の域だがね。フフッ…ついついSF好きが干渉してしまうな。どうであれ調べる方法もない、空想科学だ』
隣で話しを聞いていたハマが時計を見る。しばらくの間、静寂が続き、ハマは【それでは】と会釈をして席を立つ。
『精神の融和、か。果たして……』
時計は既に夜の8時にさしかかっていた。
【エイドリアン捜索を提案】
332
:
40 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2011/03/05(土) 00:28:57
佐藤ひとみの尻尾は切れた。
吉野の首を絞めていた触手が緩んで、吉野は床に打ち捨てられる。
何度も咳き込み、体を大きく上下させて、吉野が息を整えた。
触手の痕が残る首を、一度撫でる。
>「何故あんたなの……?何故あんたが選ばれて……私が…私は……一体何だったの…?
力を得たからってそれが何なのよ?結局その力さえ失って!あんたみたいな女……死ねばいいのよ…!!」
佐藤の言葉を思い出して、吉野は彼女を一瞥した。
「……殺したければ、どうぞ殺してみて下さいな。どうせもう、私の人生に、幸せに至る為の道は残っていないのですから。
ただし……この下らないゲームを仕組んだ者の手のひらから、降りた後で。死んで尚、嘲笑されるなんて、御免ですから」
そう告げて、今度は床に落とした携帯を拾い上げた。
>「……ぇ。…そんな、誰もいないなんて。そんなバカなことって…」
「……落ち着いて下さい。いいですか、貴女がライブラリに着いた時、確かにこちらのネズミは消えました。
そこには間違いなく何かがある。……相手がミスリードを狙っているのでなければ、ですが」
もしもそうであった場合、つまりライブラリとネズミの消失が本来無関係で、
あたかも関連性があると思わせ、時間を浪費させる為に事が仕組まれていたのなら、
今度こそ手がかりはなくなってしまう。
だが確実に仕留められる状況でわざわざそうする必要があったとは思えない。
まず大丈夫だろうと、吉野は踏んでいた。
「何かと言うのは、つまり目的と必要性です。参加者を鬼にして、
または殺害すると言う目的よりも優先して、スタンドを消失させなくてはならない理由がある筈です。
例えば……ルールに嘘がないのなら動く事の出来ない本体を隠す為、とか」
そうでなくても、ルールに『特定の行動によるネズミの消失』が記されていない以上、
そこには何らかの意図がある筈だ。
「ライブラリを隈なく探しましょう。それ以外に当てがあるのなら、別ですが」
333
:
41 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/03/05(土) 00:29:41
>「……落ち着いて下さい。いいですか、貴女がライブラリに着いた時、確かにこちらのネズミは消えました。
そこには間違いなく何かがある。……相手がミスリードを狙っているのでなければ、ですが」
>「何かと言うのは、つまり目的と必要性です。参加者を鬼にして、
または殺害すると言う目的よりも優先して、スタンドを消失させなくてはならない理由がある筈です。
例えば……ルールに嘘がないのなら動く事の出来ない本体を隠す為、とか」
>「ライブラリを隈なく探しましょう。それ以外に当てがあるのなら、別ですが」
携帯電話越しに若干割れた吉野きららの声。
「…そうね。わかったわ、よく探してみる」
生天目は絶望を蹴飛ばすかのように答えると、書庫のドアを開けてライブラリに戻った。
(あのこが言ったみたいに、ここまでやってきたことに間違いはないのかも。
…動く事の出来ない本体を隠す為…。なるほどね。だってあいつのスタンドって霧みたいになって
ホウキにも変化できるんだし、この部屋にはたぶん何かあるんだわ。いいえ、たぶんじゃなくって絶対!)
確信した生天目はライブラリの出口の扉に向かって走る。
「ステレオポニーッ!!」叫んだ体からはスタンドが躍り出て天井に飛ぶ。
「ソノルミネッセンスよ!!」
ステレオポニーは天井に反射するとライブラリ中央の床を踏みつけるように着地した。
と同時にスピーカーを彷彿させる両足の蹄から超音波が放射され、湖面に広がる波紋のように床一面に伝わっていく。
続けてパンッと破裂音。音の正体は生天目が持ってきた自然水の入ったペットボトル。
スタンドの着地点に近い場所に投げ捨てられ転がっていたペットボトルが発光後に破裂して水蒸気をあげたのだ。
「隠れているのなら出てきなさい!そのペットボトルみたいに血のなかの酸素が爆発しちゃってもいいの!?」
と扉の向こうの廊下、安全圏から生天目の声。
ライブラリ全体に、ステレオポニーを中心とした超音波の渦が広がりつつあった。
しかしこれは一つの賭け。スタンドエネルギーの消耗も激しく、使用後の足にかかる負担も尋常ではない。
生天目自慢の逃げ足も封じられてしまうのだ。
ソノルミネッセンス (sonoluminescence, SL) は、液体中の気泡が超音波によって圧壊したときに起こる発光である。
発光機構については見解が統一されておらず、未解明な部分が多い現象である。
液体に超音波を照射すると、キャビテーション現象によって無数の気泡が発生する。
気泡は超音波が負圧になったときは膨張し、正圧になったときは収縮する。
特に、超音波の共振径付近のサイズの気泡は音速に近い速度で急激に収縮するため、
断熱圧縮の効果によって瞬間的に数千度以上の高温状態となる
334
:
52 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/03/06(日) 03:34:14
>「連載終了してしまった――――!」
「残念ですよね本当。面白かったのに。アンケート出しとけばよかった…」
今更悔やんでもどうしようもないが。というか今は関係ないが。
>「ここまでは予想に織り込み済み……問題はここからだ。未曾有の電撃作戦となる――!」
「――と思っていたが 違った 御前等さん絶対何も考えてないでしょう。見れば分かります」
やはり毒舌だった。そして、こんなくだらないところで観察力を使う天野
>「そんで今どういう状況なの天野くん。俺たちこんなとこでネタ問答してて良い系なの?
駄目ならば・・・ ここで 本筋を突き付けてやるのが仲間としての優しさだ!!」
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
「今の状況ですか…今の状況ねぇ…。…………………刹那で忘れちゃった まぁいいかこんなバトル
……………と、まぁ冗談はさておき。まず、佐藤さんと吉野さんが戦ってて、僕が佐藤さんの尻尾を氷で切り、佐藤さんは元に戻りました。少しボーっとしてますが。
で、生天目さんは別のところで探索中です。米さんは貴方に近づき、問いかけてます。一人称が『私』になってます。他は良く分かりません。…こんな説明でいいですか?」
御前等に現在の状況を説明する天野。かなり端折っているが。というか米さんの件は必要だったのだろうか? 説明というより実況である
335
:
73 :ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/03/07(月) 00:57:15
>「ソノルミネッセンスよ!!」
体から剥離したスタンドに命じる有葵。
ソノルミノセンスは液体に超音波を照射した際、発生する気泡(ギャビティ)が破裂時に起こる化学発光のことを言う。
発光はごく微弱であり、通常は暗室内でなければ視認されない。、
ソノルミノセンスを伴う超音波利用のギャビテーションは、何も特殊な技術ではなく、
超音波洗浄機、超音波歯ブラシなど、身近なものにも応用されている。
物体に纏わり付く気泡が破裂する時の衝撃を、汚れを落とす力として利用したのが超音波洗浄機である。
その気泡は、瞬間的に数千度に達することもあるが、サイズがごく微細であるため、
一般的な超音波洗浄機ならば、3リットルの水を20度上昇させる為に1時間以上の時間を要する。
あくまで、超音波洗浄機に利用する程度の超音波ならば…である。
ステレオポニーの足から放射される超音波は、圧倒的な音圧を伴っていた。
それは、人の耳には聞こえぬ大音量の高周波。
強力な超音波振動を受けたペットボトルの水は、通常は有り得ぬ威力のギャビテーション効果を発揮し、
忽ち沸点を超えて膨張、破裂した。
>「隠れているのなら出てきなさい!そのペットボトルみたいに血のなかの酸素が爆発しちゃってもいいの!?」
ステレオポニーを中心に、ライブラリ全域に広がる超音波。
開いたままの扉から奥の書庫にも超音波が伝播している。
けれどもライブラリの中は静まり返り、扉の外の有葵は、音一つ耳にすることはない。
ステレオポニーが超音波の放射を終えて、1分、いや、2分も経っただろうか?
有葵の警告通り、部屋の中に潜む者がいれば、とっくに血液が沸騰し死亡している筈である。
突然、有葵の首に嵌った首輪から、騒々しいメロディーが流れ出した。
ほぼ同時に、有葵は背後から何者かに体を拘束され、口を塞がれる。
白いゴムバンドの如き平らなモノが、まるで大きな包帯のように巻きつき、有葵の膝から口元まですっぽり覆っていた。
手足をミイラのように固定され、口さえ塞がれた有葵は、電話の応答すらままならない。
『やってくれるね♪小ババァ♪
あと30秒足りなければ、かーなりヤバいことになっていたよー♪』
背後から聞こえる声は、紛れもなく『あのネズミ』のものだ。
336
:
74 :ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/03/07(月) 00:57:40
『人体を沸騰させよう♪なんて、顔に似合わず残ッ酷で凶悪な攻撃持ってんねー♪
どうやって感づいたか知らないけど、この場所に気づいたからには、君はもう無事ではいられないヨ〜〜♪
何もせず殺っちゃうのも勿体ないから、鬼になってもらった後、セクハラしてポイするコトに決めたッ♪
言っておくけど医務室の時みたいに、超音波の共振で僕の体を破壊しようとしても無駄だからね♪
体組成をゴム構造に変えたから♪ゴムみたいに弾力のあるものは超音波の振動を吸収しちゃかうからねェ〜〜♪』
ネズミは、体同様アイロンをかけてペシャンコにしたような顔に、嫌らしい笑みを浮かべて有葵の体を締め付けている。
ザ・ファンタジアの出現は、当然、本体の無事を意味している。
有葵や吉野の推理通り、本体がライブラリ内に居たのならば、
生身の人間である本体は、いかにしてソノルミノセンスを防いだのだろうか?
ソノルミノセンスは、『液体に超音波を照射』した際に起こる反応である。
"液体"でなければ反応は起こらない。
ならば気体は…?あるいは、気体のように拡散した粒子に効果はあるだろうか?
ザ・ファンタジアは自らの体を粒子化する能力持っている。その効果が本体にも及ぶとしたら……?
佐藤が鬼化したときの状況を目にしていた者ならば、その可能性に気づけるかも知れない。
ザ・ファンタジアの平たい体から、これまた平たい腕がひょろひょろと伸び、真っ黒な掌が有葵の両目を覆う。
『これから三秒後ーーーーー♪鬼になった君の見る世界は輝いているはずサ♪
鬼化した君で、いろいろと楽しませてもらうよぉ〜〜♪お楽しみにネ♪』
パワーを使い果たして消耗したスタンドで、有葵はこの危機を脱することができるだろうか?
それともネズミの思惑通り、鬼と化してしまうのだろうか?
【ザ・ファンタジア、体をゴム化して有葵ちゃんを拘束、鬼化しようとしています】
【生天目さんは防ぐもよし、鬼化してみるもよし、お任せです】
337
:
75 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/03/07(月) 01:04:10
尻尾を切断された佐藤ひとみは、ぼんやりと床に座り込んでいた。
鬼化で変容した精神は緩やかに回復しつつあった。
しかし、目に写る光景は未だひどく頼りなく、白昼夢のように現実感が無い。
>「……殺したければ、どうぞ殺してみて下さいな。どうせもう、私の人生に、幸せに至る為の道は残っていないのですから。
>ただし……この下らないゲームを仕組んだ者の手のひらから、降りた後で。死んで尚、嘲笑されるなんて、御免ですから」
吉野きららの問いかけが、未覚醒の精神にこだまする。
……この女は、かつて抱いていた信条の無意味さを理解している。
少なくとも自身が何かを失った事だけは知っている。
果たして自分はどうだろうか…?
あの男に関わって、何を得て、何を失ったのか……?
ひとみは敢えて考えないようにしていた。いや、考える事すら怖れている……――――――?
靄のかかる精神は急速に収束し、現実に引き戻されていく。
「やだッ!痛いッ!」
ひとみは大腿部と脛に鋭い痛みを感じて悲鳴を上げた。意識の覚醒と共に痛覚が甦っていた。
「何よこれッ?酷い!ランバンのスカートが台無しじゃないのッ!」
血に染まった白いスカートを視線を落とし、ひとみは更に声を張り上げた。
鬼化していた間の記憶は曖昧だったが、断片的に覚えていることもあった。現状を全く把握できないほどではない。
前後の記憶も材料にして思考を組み立て、自身が鬼になり回復したのだと理解した。
ひとみは吉野と有葵の通話に耳を傾けながら、足に刺さった釘を引き抜き、触手で治療を行っていた。
傷痕を残さぬよう入念に自身に治療を施した後、漸くフルムーンをよねの治療に向かわせる。
一度はザファンタジアに寝返り、自分達を攻撃したよねだが、足に負傷を負わせたまま放置する訳にはいかなかった。
逃げ遅れたよねが鬼化されるような事になれば、より面倒なことになる。
「よね君!あのネズミがあんたを特別扱いする気が無い以上、ネズミは私達共通の敵よ。
あんたが何を考えてるのか、本っ当にワケわかんないけど、
せめてここから出るまでの間、私達に協力する方が利口だってこと、それくらいは分かるわよね?」
治療を受けるよねに二階から言葉をかけ、念を押す。
その頃、携帯電話の向こうで事態は急転していた。
吉野きららの手の中の携帯電話から、甲高い声が漏れ聞こえる。
>『やってくれるね♪小ババァ♪
>あと30秒足りなければ、かーなりヤバいことになっていたよー♪』
「ちょっと!それクズネズミの声じゃない?!どうなってんのよ?あの子今一人じゃない!マズいんじゃないの?!」
ネズミが有葵の前に現れたのならば、単独行動中の彼女は危機的状況にいる。
ひとみは吉野きららを問い詰めた。
【佐藤とよねさんの負傷治療済み】
【電話の向こうで何が起こってるのか、吉野さんに確認】
338
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/03/07(月) 03:49:36
>「今の状況ですか…今の状況ねぇ…。…………………刹那で忘れちゃった まぁいいかこんなバトル」
(天野くんが忘れてから……話の空気が変わった……!!)
ともあれ、天野くんは必要な情報を全てもってきてくれた。仕事の早い男である。
ほぼ実況だったので御前等は目の前の光景を自分の目で見る必要すらなかった。
(しかしいやいや百聞は一見にしかずとも言う……ここから先は、己の目で見据えるべきだ……!)
見た。
>「御前等さん、一体どういう事でしょうね。ザ・ファンタジア……あのまま攻撃を続けていれば、再起不能かあるいは…
何か、特別な理由でもあるんでしょうか?自分には見当もつきませんが…」
さんざん裏切りに裏切りを重ねた(そうでもないけど)よねが、のうのうと喋くりながら接近してきていた。
天野くん曰く一人称すら変わっている。憑き物の落ちたような顔で、ふらふらと歩いている。
「よねっちゃん――まさか ス タ ミ ナ 切 れ !?」
スタミナというか、燃料というか。
ほとんど気絶していた御前等にとってよねはソッコー裏切ってソッコーバテたようにしか見えていないのだった。
>「…時間も限られています。全員で手分けをして素早く本体を探すのはどうでしょう?自分はそのほうが……」
「えっ、ちょっと待って、ちょっと待て、おいィ?何フツーに仲間みたいなツラして話しかけてんのこの人。
どの面下げてしゃべっとんじゃいワレーーッ!誰のせいでこんな状況(佐藤鬼化)になってると思ってやがる!」
自分以下のゲスを見つけたと判断した御前等はここぞとばかりに非難モードに入る。
もちろん自分のことは棚上げである。
「手分けして!捜すとか!完ッ全に孤立させて後ろから刺すフラグだろーが!なんか治療されてるしィー!
まったくこのパーティはホントに甘ちゃんばっかだな!佐藤さん…敵は身内にいるんDeathよ?外ばっかり見てたらケガします」
聞こえてないだろうとタカをくくってついでに佐藤もディスる。
吹けば飛ぶような自尊心を虚飾の瓦礫で積み上げて、御前等というパーソナリティは完成していた。
「一体どういうこともクソもあるかッ!よね君、おい、アンタ、ふざけたこと言ってんじゃ……」
と、そろそろ話進んでないことに気づいた御前等は空気を読んだ。生まれてきて初めて空気読んだ。
「――刹那で許しちゃった。まあいいかこんな裏切り。アメリカねずみ捜すったってなあ。どこを探せというんだ?
さっきどっか行ったあの娘……ナマテンメちゃんだっけ?苗字の字しか知らんけど。あの子のとこにでもいくか?
俺の自宅警備員としての本能がそこへ行くなと言っている。ということは、そこへ行けば何かあるということだろう」
本筋の方では緊迫したシーンが続いているというのに、呑気に提案するその姿は、3バカ的な扱いを彷彿とさせた。
【ファンタジア捜索について会議】
339
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/03/07(月) 15:18:56
ライブラリの中央。生天目のスタンド、ステレオポニーが発動させたソノルミノセンス。
スタンドの真上のスプリンクラー(書物を火災から守るための)からは水蒸気がシューシューと噴出している。
(どうして出てこないのよ。まさかのハズレ?それとも死んだの?悲鳴もなにも出さないできもちわるい)
いわゆる手ごたえらしきものはなかった。場を支配する騒々しい沈黙。
焦りとともに早くなる鼓動。たしかに超音波はライブラリ全体に伝播されているはず。
その証拠にステレオポニーはソノルミノセンスがライブラリ全体に行き渡ったと実感している。
「まだ、まだもう少し時間がかかるのかも…。続けなさいステレオポニー!」
『了ー解ッ!サッサト、アノ世へ逝キヤガレーッ!!』
スタンドパワー全開。ライブラリ全体が高周波で震える。次の瞬間だった。
何かが溶けて消えたような感覚が微弱な振動を通じスタンドと本体に伝わる。
「やったわ!手ごたえあり!!」
ライブラリの一部で抵抗を失った高周波の反響。そこだけ突然抜けた感じ。
生天目とステレオポニーの共通した主観ではそんな感じの手ごたえがあった。
「あいつ。あんなところに隠れていたなんてね…。でももうおわり。大人しく出てこないからしんじゃったのよ。
ワーストかなんか知らないけどはっきりいって邪魔なの。ま、怒るだけムダかしら。
なんとかぎりぎり、ランチの時間には間に合うみたいだし。もう、さよなら…」
へろへろになった生天目は扉の柱に手を添えて寄りかかり、力尽きたスタンドはガクリと膝まつく。
「え!!?」
突然、生天目の首に嵌った首輪から騒々しいメロディー。同時に拘束される体。
「むぅ〜ぎゅぅう〜!!」
>『やってくれるね♪小ババァ♪
あと30秒足りなければ、かーなりヤバいことになっていたよー♪』
ザ・ファンタジアは生きていた。鼓膜を震わす嫌らしくて耳障りな声。
ぺらぺらと話しかけてくるが口から膝まで拘束された生天目に言葉を返すことは不可能だった。
>『これから三秒後ーーーーー♪鬼になった君の見る世界は輝いているはずサ♪
鬼化した君で、いろいろと楽しませてもらうよぉ〜〜♪お楽しみにネ♪』
三秒後。生天目有葵は鬼になった。柔らかいザ・ファンタジアの体はダイヤモンドよりも壊れない。
脱出は不可能だった。
「あ〜あ〜…。鬼になっちゃったのね私…。今の私が鬼になっても役に立たないと思うんだけどねぇ。
それはそうと、さっきのお楽しみってなによ?崖っぷちの最終ラウンドの始まりってこと?
君の本体の居場所も多分バレちゃってるしタイムリミットも迫ってるみたいだし、
きっと、あいつら死に物狂いでここに来るわよ。きゃはははははー!まぢうけるwww」
鬼化した生天目はお腹を抱えケタケタと笑っている。
【生天目が鬼化しました】
340
:
148 :ザ・ファンタジア ◇tGLUbl280s
:2011/03/08(火) 03:00:43
>「あ〜あ〜…。鬼になっちゃったのね私…。今の私が鬼になっても役に立たないと思うんだけどねぇ。
>それはそうと、さっきのお楽しみってなによ?崖っぷちの最終ラウンドの始まりってこと?
>君の本体の居場所も多分バレちゃってるしタイムリミットも迫ってるみたいだし、
>きっと、あいつら死に物狂いでここに来るわよ。きゃはははははー!まぢうけるwww」
ロードローラーでプレスされたような平たい体が、ポンッと音を立てて厚みを取り戻した。
元の体型に戻ったザ・ファンタジアは、鬼化した生天目有葵の身体を、ねっとりとした目つきで眺めている。
(お楽しみぃ〜?そんなもんエロ関係に決まってんだろ♪
今日びの女子高生なんざ、ウリなんかやってるクソビッチばっかだろォ〜?…オボコぶってんじゃねぇよォ〜♪
年のワリに幼児体型だから殺さず鬼化してやったが、やっぱ女は12歳越えたらゴミだナ♪
さっさとヤッて始末しちまおう♪)
鬼化した人間は精神に干渉を受け、ザ・ファンタジアから受けた命令に背く事ができない。
ネズミはそれを利用して、有葵に猥褻行為を働く魂胆であった。
最低なロリペド野郎、筋金入りの性犯罪者の精神から発露したスタンドである。
ぼくらのたのしいクラブハウスのリーダーのそのものの外見をしていながら、本体の下衆な嗜好をそのまま受け継いでいた。
早速、お楽しみにとりかかろう…とばかりに、有葵に『意のままになる』命令を下そうとしたが、
急に何か引っかかる物を感じて、ネズミは口を噤んだ。
にやけ顔を凍りつかせて、有葵の台詞を反芻する。
>君の本体の居場所も多分バレちゃってるし………>あいつら死に物狂いでここに来るわよ。
(―――――本体の居場所がバレちゃってる――――……だと…???♪♪
この女、タマタマあのバカ(エイドリアン)が立てた物音を聞きつけて、この部屋に勘付いた訳じゃないのかぁ〜〜?
まさか他のメンツと示し合わせて、ここに来ていたのかあぁぁ〜〜〜???♪♪)
床に転がった携帯電話に目を留めて、ザ・ファンタジアは顔を引きつらせた。
ライブラリが本体の隠れ場所……と目星をつけて来たのなら、
まず確実に、この女(有葵)に入れ知恵した人物―――司令塔がいる。
とすれば、通話の途切れに異変を感じたその人物がライブラリに駆けつけるのは時間の問題だ。
(マズイ――!マズイぞぉ〜〜♪…部屋だけバレたところで、どーってことないが、
長時間あの部屋の中を探し回られるようなことになれば厄介だぞぉ〜〜♪)
ザ・ファンタジアは、冷や汗がわりの白い汁を垂らしながら思考を巡らせる。
………しかし、その司令塔とやらも『本体の隠れ場所がライブラリである』ことに確信を抱いてはいない筈だ。
確信があるなら、この女が単独で偵察のような行動を取っている理由がつかない。
参加者連中がよねの裏切りに撹乱されず、協力体制を維持しているとすれば、
連絡を取り合いながら、当たりをつけた複数の場所を手分けして捜索している……と考える方が自然だ。
ならば、生天目有葵の口さえ塞いでしまえば、ライブラリ内の捜索をやり過ごせるかも知れない。
何しろ、あの能力を使っている間は、物体としての本体の身体は無くなったも同然なのだから。
ザ・ファンタジアは有葵の目を覗き込んで命令を伝える。
ネズミに両肩を捕まれた有葵は、渦を巻く白い瞳孔を見るだろう。
『いいかい?今から僕の言う通〜〜〜りに、君の記憶は上書きされるッ♪
ライブラリには誰もいなかったんだぁ〜〜♪
部屋中に超音波を照射したけれどナぁンーニも起こらなかった♪従って本体はライブラリにはいないッ♪
君は、偶然廊下に現れた僕に鬼化されたんだヨ♪
絶対に僕の本体の居場所について口を割ることはないッ!OK?♪
後は自由にしてヨシッ!君のかつての仲間がここに来たら、存分に遊んであげるんだネ♪』
【ザ・ファンタジア、催眠術的なものを使って有葵ちゃんに本体の居場所を忘れるように命令】
【あとは自由に攻撃しちゃってOKです♪悪役の有葵ちゃんを楽しんでもらえると嬉しいな】
【ザ・ファンタジアは自分の声が携帯から漏れていたことには気づいてないです】
341
:
吉野
:2011/03/26(土) 00:51:06
生天目の携帯からザ・ファンタジアの声が届いた。
続けざまに、生天目のけたたましい笑い声が響く。
それは彼女の鬼化をこれ以上なく明確に示唆していた。
「……往生際の悪いネズミですね。これで、奴は自らライブラリに何かがあると
明かしたようなものです。
あの子も、鬼になる直前、何か手応えを感じていたようですし」
高笑いを最後に一切音を届ける機能を放棄した携帯を睨んだまま、吉野が言う。
「本体がライブラリにいて、何らかの方法で姿を隠しているのだとしたら……佐
藤ひとみ。
貴女のスタンドならば、それを探り出せる筈です」
もちろん、『フルムーン』のスタンド探知能力は使えない。
そんな事は吉野も分かっている。
「貴女のスタンドの触手、結構な射程を持っていますよね。
それで文字通り、手探りでライブラリを探索すればいい。
どんな手段で身を隠してるにせよ、スタンドなら通常の物体は透過出来る。
にも関わらずその触手に触れる物があったのなら……それは奴の終わりを掴ん
だと言って間違いない」
立て板に水を流すように澱みなく、吉野は説明する。
「今更、鬼が一人増えた所で焼け石に水、貴女がライブラリに着けば決着です。
今、一番厄介なのは……あのネズミがそれを見越して、
ライブラリ到着前にもう一度仕掛けてくる事ですね」
破壊も捕縛も出来ない相手が本気で妨害を仕掛けてきたとしたら。
対処は困難を窮めるに違いないのだ。
「……急ぎましょう。もうあまり、時間はありません」
携帯の画面に表示された時間を見て、吉野が歩き出した。
「あと、そこの三人。いざと言う時はもう一度、あのネズミと戦ってもらいます
から。
佐藤ひとみがライブラリに辿り着けるようにね」
と、吉野は足を止めないまま振り返って、延々と漫談を繰り広げている三馬鹿を
薮睨みにした。
【ライブラリに向かいました。現状がどんなもんか、一応くっちゃべらせてもら
いました。
間違ってたら佐藤さんの方でこっそり訂正しちゃってください】
342
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/03/27(日) 03:55:04
吉野きららが握る携帯電話から、有葵の狂気じみた笑い声が漏れ聞こえる。
考えられる事象は―――生天目有葵の鬼化だ。
新たに持ち上がった問題に、ひとみは眉を寄せて溜め息をついた。
とはいえ、状況は一つの方向を差し示している。
『ザ・ファンタジアの消滅』と『ライブラリへの侵入』この2つの関連性を調査しに行った有葵が、
ライブラリに到着直後にネズミは消え、さらに有葵は鬼化された―――
ホールから消えたネズミがライブラリ付近に現れたのだ。
吉野きららが説く通り、本体の隠れ場所がライブラリである蓋然性は高い。
>「……急ぎましょう。もうあまり、時間はありません」
>「あと、そこの三人。いざと言う時はもう一度、あのネズミと戦ってもらいますから。
>佐藤ひとみがライブラリに辿り着けるようにね」
背中を向けて歩き始めた吉野きららに続き、ひとみもホールの階段を下りる。
「聞いたでしょ?美女二人のエスコート兼ボディガードがあんた達の仕事!
下らないネタトークに花咲かせてた口閉じて、さっさとライブラリに向かうわよ。」
すれ違い様に皮肉を投げかけ、三人を促してホールを出た。
この三人は有葵がライブラリに出向いた目的を知らない。
ライブラリに向かう途中、ひとみは掻い摘んで事情を説明した。
・医務室でひとみを捕えておきながら、突如姿を消したザ・ファンタジア。
消失は、丁度よねと御前等がライブラリで戦闘を始めた時刻と重なる。
・有葵はその関連を再現する実験の為にライブラリに向かった。
・有葵のライブラリ到着直後、ホールを飛び回っていた蚊―――ネズミの化身である蚊の羽音が途切れた。
・ネズミはライブラリに人が近づくのを怖れている?ライブラリに何か秘密を抱えているから?……その秘密とは―――
意外にもライブラリへの経路で、ネズミの妨害は無かった。
一行はエレベーター横の階段を上がり4階へ向かう。
3階と4階を結ぶ階段の踊り場で、ひとみは足を止め一行の歩みを制した。
ひとみの視線はスタンドシートの赤い点―――
シートに表示された建物見取り図の4階、階段とライブラリを繋ぐ短い廊下を動き回るマーカーに向けられていた。
「このマーカー…有葵よ。獲物を探すゾンビみたいに廊下を行ったり来たりしてる。
あの子のスタンドは"音"のスタンド…恐らく音波振動で私達の接近を感知して待ち構えているわ。
パワーは無いけど、応用性の高いスタンドよ…どんな攻撃方法で仕掛けてくるかわからないし、
スピードで翻弄されたらやっかいよ。
あんた達があの子と応戦している隙に、私はライブラリに辿り着いて室内を探索する。
誰か一人、私のボディーガードとしてライブラリに付いてきて。」
潜めた声で語り終えたあと、ひとみは視線の弧を描いて一行の顔を見回した。
【調整と状況確認のレスのため、あまり動きがありません。すいません】
【御前等さん、よねさん、天野さんに、ネズミとライブラリの関係を話しながら、ライブラリに向かう】
【有葵ちゃんの居場所は4階ライブラリ付近の廊下としてますが、よかったかな?
鬼化すると体力をセーブする大脳のリミッターが外れて疲れを感じなくなる…ことにしてw
疲労は気にせず存分に攻撃をしかけてもらえるとうれしいです】
【佐藤について来てくれる人の人選はお任せします。避難所で名乗り出てくださっても可ですw】
343
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/03/27(日) 16:20:11
スタンドシートに映し出されている生天目有葵のマーカーはゆっくりと佐藤たちに近づいていく。
こつこつとミュールの鳴らす足音が佐藤たちの耳には、すでに届いているはず。
階段の踊り場からは四階を見上げる形となるため、最初に見えたのは生天目の栗色の頭。次に目。肩。
両腕は胸の前で閉じていた。生天目は何かを両手で引きずって来ているようだった。
ゴゴゴゴゴゴ
と音が鳴る。ステレオポニーが効果音を発しているのだろう。
「えっと…敵ってこういうとき何て言うのかしら?何にも言葉が出て来ないものね。
ただ思っていることを口にするのなら、ひとみん必死すぎ。鬼みたいな顔してる。
私とひとみん、どっちが鬼かわからなくない?
ねー?昔の優しいひとみんはどこ行っちゃったの?私にはわかるんだよ。
私みたいな多感な時期の人には、人の心の奥がさ、透けて見えるんだよ。
ひとみんは今も病みたいなものを抱えてる。その原因は九頭龍一。そうでしょ?」
生天目は引き摺っていたものから手を放し身体を起こす。足下には赤いポリタンク。
「ふぅー。重かった。倉庫にあったんだよ〜これ。ガソリンだよねぇ?」
赤いポリタンクのフタをひねるとフタを投げ捨て、ポリタンクを傾ける生天目。
中からはガソリンが流れ階段を濡らしていく。終いにはポリタンクを足で蹴る。
ポリタンクはガタガタと階段を落ちて佐藤たちのいる踊り場で止まった。
「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。
こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」
生天目はマッチの炎を投げ捨てた。ガソリンで濡れた階段に…。
344
:
天野晴季
◆TpIugDHRLQ
:2011/04/07(木) 16:26:54
>「聞いたでしょ?美女二人のエスコート兼ボディガードがあんた達の仕事!
下らないネタトークに花咲かせてた口閉じて、さっさとライブラリに向かうわよ。」
「了解です。あと下らないは酷いですよー」
>「このマーカー…有葵よ。獲物を探すゾンビみたいに廊下を行ったり来たりしてる。
あの子のスタンドは"音"のスタンド…恐らく音波振動で私達の接近を感知して待ち構えているわ。
パワーは無いけど、応用性の高いスタンドよ…どんな攻撃方法で仕掛けてくるかわからないし、
スピードで翻弄されたらやっかいよ。
あんた達があの子と応戦している隙に、私はライブラリに辿り着いて室内を探索する。
誰か一人、私のボディーガードとしてライブラリに付いてきて。」
佐藤がスタンドシートを手に説明する
「音のスタンドですか…つまり反響定位(エコーロケーション)とかが得意なわけですね
…余談ですけど、シャチって指向性の高い反響定位の音波を獲物に当てて麻痺させることがあるって噂ですよ。…生天目さんも出来るんですか?
音速で移動するのは厄介ですね…」
「…?」
生天目の接近に気づき、上を向く天野
(何か引きずってる…。身体の向きと歩くスピードからして恐らく重い物…)
次に天野は耳を澄ます。
こつ、こつ、こつ、こつ
生天目の足音が聞こえる
更に耳を澄ます。すると…
ちゃぷん
液体が揺れるような音が聞こえる
(僕じゃあ有るまいし、水を態々運ぶ意味なんか無い。液体で、攻撃に使うのに有利な物…可燃物…
…もしかして灯油かガソリン!?)
「フリーシーズン!」
咄嗟にフリーシーズンを使い、気温を下げ湿度を上げ始める天野
>「ふぅー。重かった。倉庫にあったんだよ〜これ。ガソリンだよねぇ?」
天野の推測どおり、生天目が引きずっていたのはガソリンだった。生天目はガソリンを廊下にばら撒く
(間に合え、間に合えッ! ガソリンの引火点はマイナス40℃以下…生半可な気温低下じゃ皆仲良く消し炭だ!)
ただいまの気温、-20度
(駄目だこれじゃあ…間に合わない…! どうする? 確実に生天目さんは火を起こす手段を持ってる。何か手は…)
ただいまの気温、-30度
>「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。
こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」
遂に生天目がマッチを取り出す。
(まずい、まずいまずいまずい…! どうする、ガソリンに引火した時点で死亡確定だぞ…
ん? 引火した時点で?)
湿気でマッチに火がつかないことを願った天野だったが、結局マッチは火を点した
(だったら…マッチがガソリンに触れるまでに火を消せば良いんだ…!)
「フリーシーズン、気流操作!」
咄嗟にひらめき、フリーシーズンの3つ目の能力を発動する天野。気流操作により、空中にあるマッチを一旦上に飛ばして時間稼ぎをし、
更に気流操作でマッチの周囲の気圧を下げる。…そして、マッチの周りは真空になった
真空になったことで燃焼の条件、可燃物、温度、酸素のうち酸素を失ったマッチの火は、ガソリンに触れる前に消えた
「は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。…生天目さん。火遊びは駄目って…小学校で習わなかったんですか?」
かなり集中力を使った様子の天野。既に息が切れ掛かっている
【天野晴季:取り合えず焼死は防ぐことが出来たが、スタミナが限界に近い】
345
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/04/12(火) 00:09:07
>「あと、そこの三人。いざと言う時はもう一度、あのネズミと戦ってもらいますから。
佐藤ひとみがライブラリに辿り着けるようにね」
>「聞いたでしょ?美女二人のエスコート兼ボディガードがあんた達の仕事!
下らないネタトークに花咲かせてた口閉じて、さっさとライブラリに向かうわよ。」
「ふふふようやく本音が出始めたな佐藤さん……わかっているとも、この俺の圧倒的紳士力にほだされ
エスコートされたくてしゃあないんだろう!って、どっかでこのセリフを使った覚えがあるな。デジャビュか?」
さてさて、ホールを後にした佐藤with三羽烏はずんずこずんずこ上を目指す。
向かう先にはライブラリ。御前等本人は知らぬことだが、鬼化した際に一度訪れた場所でもある。
どうやらこの場所に、このイベントの核心を迫るキーが隠れているそうな。佐藤の言である。
三階とライブラリのある四階とをつなぐ階段の踊り場にて、佐藤隊長から行軍中断のハンドサインが出た。
>「このマーカー…有葵よ。獲物を探すゾンビみたいに廊下を行ったり来たりしてる。
あの子のスタンドは"音"のスタンド…恐らく音波振動で私達の接近を感知して待ち構えているわ」
>「音のスタンドですか…つまり反響定位(エコーロケーション)とかが得意なわけですね
…余談ですけど、シャチって指向性の高い反響定位の音波を獲物に当てて麻痺させることがあるって噂ですよ」
「なんだ、その程度なら俺にもできるぞ。こう、水面近くの岩にでかい岩を投げつけてだな……」
ガチンコ漁法であった。現在では禁止されているが、昔は手榴弾とかでやっていたらしい。
>「あんた達があの子と応戦している隙に、私はライブラリに辿り着いて室内を探索する。
誰か一人、私のボディーガードとしてライブラリに付いてきて。」
佐藤が同行者を募る。ライブラリを家探しし、いざというときには彼女の盾となる肉の壁要員だ。
「俺が行こう。俺は詮索されるのは大嫌いだが、誰かの秘密を探るのはチョコレートパフェより好きなんだ」
その為に自分の命を危険に晒してもいいと思えるぐらいには。
ちなみに御前等に詮索されるような秘密は一つもない。特筆すべき事項もなければ、本当にただのキモオタであった。
>「フリーシーズン!」
「ん、どうした天野くん」
突如スタンドを出した天野くんの挙動に御前等は疑問で返す。
圧倒的にニブチンなこの男は、>ゴゴゴゴゴゴ ←これにも気付かず未だのほほんとしていた。
>「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」
いつの間にか接近していた生天目がガソリン入りのポリタンクを転がし、点火済みマッチを放るところだった!
「ぬわーーっ!何さらそうとしてんだこの女ッ!?」
>「フリーシーズン、気流操作!」
マッチが飛ぶ!天野くんが叫ぶ!マッチガソリンの上へ!……直前で、火は消えた。
天野くんがスタンドで消したと思しき状況に、御前等はただひたすら冷や汗を拭うばかりだ。
「いいぞ天野くん!君は本当に欲しいところに欲しい仕事をするな!」
>「は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。…生天目さん。火遊びは駄目って…小学校で習わなかったんですか?」
「その女の相手は任せたっ!行くぞ佐藤さん!!――――と見せかけてキィーック!!」
天野へ向けて親指を立て、佐藤の背を押して生天目をかわすようにしてライブラリにまろび込む。
そのついでと言わんばかりに、生天目の尻へ回し蹴りを入れておいた。階段の上だったから、運が良ければ落ちるだろう。
【佐藤の同行を申し入れ、をライブラリへ押し込む。生天目ちゃんのケツへ蹴りを入れ天野くんの方へ押し出す】
346
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/04/14(木) 21:58:39
鬼化した有葵は4階にいる。
階段の踊り場で有葵の能力について説明するひとみに天野が質問を入れた。
>「音のスタンドですか…つまり反響定位(エコーロケーション)とかが得意なわけですね
>…余談ですけど、シャチって指向性の高い反響定位の音波を獲物に当てて麻痺させることがあるって噂ですよ。…生天目さんも出来るんですか?
>音速で移動するのは厄介ですね…」
御前等も口を挟み質問をまぜっ返す。
>「なんだ、その程度なら俺にもできるぞ。こう、水面近くの岩にでかい岩を投げつけてだな……」
ひとみは二人の話を受けて、考えを口にした。
「『音波』って言い方あるでしょう。『音』の正体は空気や液体を振動させる『波』よ。
超音波、低周波といった人の耳には聞こえない音も存在するわ。
どんな使い方をしようと『音』が『波』であり『振動』であることは変わらない。
反響定位は音波の反射を感知して標的の位置捕捉に使い、シャチは音波を衝撃波として相手にぶつけているだけ。
ステレオポニーが音に特化したスタンドである以上、あらゆる使用法が可能だと考えていた方がいいわね。
ただ、あの子がその使い方に気づいているかだけど…」
いい終わらぬうちに言葉は途切れた。
>ゴゴゴゴゴゴ
地響きのような効果音と共に、有葵が階上に姿を現したからだ。
階段の上に立つ生天目有葵は、意地の悪そうな含み笑いを浮かべていた。普段の有葵には見られない表情である。
それでも口調は何処かあっけらかんとしていて、いつも通りの開けっぴろげな雰囲気を残していた。
やはり鬼化の向精神作用は個人差が大きいのだろうか。
鬼化したひとみやザ・ファンタジアに見られるようなドス黒い空気感がないのだ。
歯止めの利かぬ子供の好奇心のような悪。だからこそ余計にそら恐しい。
>ねー?昔の優しいひとみんはどこ行っちゃったの?私にはわかるんだよ。
>私みたいな多感な時期の人には、人の心の奥がさ、透けて見えるんだよ。
>ひとみんは今も病みたいなものを抱えてる。その原因は九頭龍一。そうでしょ?
有葵は引き摺って来たポリタンクの蓋を開けて容器を倒す。
容器の口から溢れた液体が階段を伝って流れ落ちた。液体の放つ独特の臭気が周囲に立ち込める。
>「佐藤ひとみは、ここでダメ男たちと一緒に焼死します。
>こんなことなら九頭龍一と一緒に死んでいればよかったね?
>かなしいね。では、さようなら…。ひとみんと愉快な仲間たち」
有葵の指先からオレンジ色の閃光が弾かれて飛んだ。それはマッチ棒に灯された炎。
足を濡らす液体の不快感も、階段を転がり落ちるポリタンクの騒音も、ひとみの意識の外にあった。
347
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/04/14(木) 21:59:37
ひとみは弓なりの軌跡を描いて落下する小さな炎を、棒立ちになってただ眺めていた。
『九頭龍一』―――――
頭の中で何度も繰り返した名であるに関わらず、
いざ音として外部から耳に入ると無意識のうちに一瞬、体が硬直してしまうのだった。
視線で追う炎の動きはまるでスローモーションだ。ひとみは炎の中に九頭との闘いの記憶を見た。
―――― 抱えている?…私が……?九頭の何を抱えているっていうの――――?
記憶はあまりにも鮮烈であったが、九頭と関わった時間は正味数日に過ぎない。
想いを自覚してからはたったの数時間……数時間であの男は消えてしまった。
あの戦いの後だって、何も変わってはいない。
時折スタンド使いと接触する以外は、いつもの日常が延々と続いているだけだ。
だから、自分は何も失っていない。九頭は通り過ぎただけの男。
そもそも何も得てはいないのだから、失ったものなど何もない
そう思い込むことだってできる筈だ―――それなのに――…?!
突然、滞空中の炎が音も無く消えた。天野が能力を使って鎮火させたのだ。
網膜に映る光の刺激が途切れて、ひとみはハッと我に返った。
一度唇を噛んで感情を振り払い、ひとみはライブラリへ同行の意思を示した御前等と共に、階段を駆け上った。
有葵の脇をすり抜ける拍子に、御前等は行きがけの駄賃とばかりに彼女の尻に蹴りを入れる。
>「その女の相手は任せたっ!行くぞ佐藤さん!!――――と見せかけてキィーック!!」
御前等に背中を押し出されるようにして、バランスを崩した有葵の横を通り抜け、ライブラリに通じる廊下に至った。
御前等は廊下を走り、突き当たりにあるライブラリの扉を勢いよく開けて室内に入った。
数十秒時間を空けて、ひとみは開いたドアから室内を覗き込む。
陽動の御前等に異変がないことを確認し、室内に足を踏み入れた。
ライブラリの中はシンと静まり返っている。
ひとみはフルムーンをライブラリのほぼ中央あたりに浮遊させた。
宙に浮くフルムーンから触手が伸び、ひとみと御前等を避けて細かく枝分かれしながら更に伸びていく。
開いたままの奥の扉から、書庫の中にも触手は侵入し成長を続ける。
やがて3分経過する頃には、ライブラリ中に触手の網が張り巡らされた。
しかし、手ごたえがない。書棚や建具以外に触手に触れるものがないのだ。
「いない―――…誰もいないわ……!」
ひとみは思わず声を上げた。
予めスタンドシートで確認していたライブラリの配置図は、奥の書庫も含めスチール製の書棚が立ち並ぶばかりで
人が隠れられる大きさの棚やロッカーは無かった。
何かが室内に潜んでいるならば―――それこそ人間一人が隠れているのならば
ネットのように張り巡らされた触手を避けて潜み続けられるとは思えない。
何かがおかしい―――この部屋に本体がいるのならば、何故ザ・ファンタジアは妨害してこない?
何故姿すら現さない?ライブラリを探る自分たちの行動は間違っているのではないか?
寧ろザ・ファンタジアの罠に嵌りかけているのではないか―――?
ひとみの頭に様々な疑念が過ぎった。
【ライブラリの中に触手を張り巡らせて探索するも、何も見つけられず】
348
:
よね
◆0jgpnDC/HQ
:2011/04/17(日) 21:09:53
(天野さんはもう戦えない…生天目さんと戦えるのは…自分だけ…ッ)
疲労しきった天野には任せられない、よねはそう判断した。
だが、かくいうよねも決して万全な状態ではなかった。
ずっと意識に違和感を感じるのだ。
なにか、時たま思考にノイズが入るような、そんな感覚が続いていた。
「天野さん!下がっていてください!」
(あの液体はガソリン、あるいは灯油…これを利用しない手はないッ!)
液体は少ない量で広い面積をカバーできる。
同じ物質であれば、Sum41の能力で一気に操作できるのだ。
よねは床いっぱいに広がっているガソリンに手を浸し、
「Sum41ッ!このガソリンは潤滑油になるッ!」
生天目は階段の上で、御前等に蹴りを入れられよろめいている。
そのまま転がり落ちるのは無いにしろ、反動で階段を一段くらいは降りらざるを得ないだろう。
階段には生天目自身が撒いたガソリンが満たされている。
そして今、そのガソリンは、まるでローションの様に滑りやすい液体に変化しているのだ。
生天目が階段を下りれば、潤滑油に転び階段から転げ落ちるに違いない。
「すいません、今の自分に出来ることは、こんな事しか…」
よねの能力は現在Sum41のみに限定されている。
最高で孤高の思考空間である、Sum For Oneもどういうわけか使えない。
故にリアルタイムで作戦を練る必要があるのだ。
その上、思考のノイズによって頭も回らない。
結果、思いついた『生天目が階段を一段下りて、潤滑油に足を踏み入れるだろう』という、
あまりにも不確実な方法を取らざるを得なかったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
海面が近い。
本来のよねが人格の主導権を握る時が近づいていた。
対して潜在意識の顕在であるよねも主人格の座を譲ろうともしていない。
(必ず奪い取って見せる。米コウタは自分だ…)
"表のよね"が人格の海の海面に到達する時は、近かった。
349
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/04/18(月) 02:08:35
生天目が投げたマッチの火は、階段に垂れ流された謎の引火性液体を燃やすことはなく
天野のスタンドフリーシーズンの能力によって消された。
>「は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。…生天目さん。火遊びは駄目って…小学校で習わなかったんですか?」
「大人がダメって言うことは大抵の子どもが面白いって思うことなのよね。私は子どもじゃないけど」
そう言っておきながら生天目は満面の笑みで、再びマッチ箱からマッチを取り出そうとしていたが…
>「その女の相手は任せたっ!行くぞ佐藤さん!!――――と見せかけてキィーック!!」
跳んで来た御前等のまわし蹴りでつんのめり、バランスを崩した本体を階段側へ落としかける。
「あわわわ!待ちなさい!」
手をぶんぶんさせて叫ぶ生天目をよそに佐藤と御前等はライブラリに姿を消していた。
「行かないで…ひとみん…。九頭の所には私が行かせてあげたのに…」
少女の瞳からは悲しみが溢れた。
>「Sum41ッ!このガソリンは潤滑油になるッ!」
Sum41を発動させるよね。
彼には蹴られてよろめいているかのように見えた生天目だったが
実は、お尻から生えている尻尾をステレオポニーがしっかりと握り締め
つんのめっている本体を廊下側へと引っ張り、懸命に階段への落下を阻止しようとしている。
それでもミュールの踵が階段の縁に辛うじて引っかかって、命綱は尻尾一本という危ない体勢なのだが。
「この弓なりの体勢ってやばくない!?」
予想通り、プチンと尻尾は切れて階段に一歩足を踏み入れた生天目は
滑って転んで階段を滑り落ち、頭をアホほど打って気を失った。
「…ここはどこ?」
無意識の海のなか。生天目はよねの姿をみたような気がしたが目を開ければ
やっぱり市民会館の階段。体は生まれたての小鹿ようにヌルヌル。
「そうそう。私ライブラリに行こうって思ってたんだー。みんなも行くの?」
一時的に記憶を失くした少女はザ・ファンタジアの居場所も覚えていない。
生天目はぬるぬるおばけのように階段をのぼりライブラリの入り口へとむかった。
350
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/04/18(月) 02:43:43
御前等のヤクザキックを受けた生天目が階段側へとつんのめる隙に、御前等と佐藤はライブラリへと踏み込んだ。
水を打ったように(実際そうだったが)静まり返り、物音ひとつ立たぬライブラリ。
林立する本棚の一つ一つに敵の潜伏を留意しながら、御前等はひとまず回遊魚のようにふらふらと歩く。
「さあ!続け佐藤さん!カムヒア!ゴーアヘッド!!――あれ?おーい、佐藤さーん……?」
佐藤は御前等の呼びかけには応じず、まるで囮に齎される危難の予兆を見分するようにして数十秒沈黙。
御前等の身に何も起こらないと判断したのかようやくライブラリへ足を踏み入れた。
(こ、この女〜〜〜ッ!この俺を弾除けにしやがったな!?レディーファーストの本来の意味を教えてやろうかッ!)
>「いない―――…誰もいないわ……!」
ドラクエの雑魚敵のような外見をしたスタンドから触手を伸ばしていた佐藤は、それで精査が完了したのか小さく零した。
「何ィ!?佐藤さん、あれだけ勿体ぶってここまで来てっ!何もありませんでしたじゃあ下のモンに示しがつかんぞ!
あ、でもナマテンメちゃんには会えたから収穫はあったと言えなくもないな!よかったな佐藤さん!!」
ライブラリに備え付けられた、閲覧用のキャスター付き椅子に腰掛けてグルグル回る。
鬼化の反動か、ここへ来てこの男、完全に呆けていた。
【ライブラリ到達】
351
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/04/20(水) 20:39:44
>>349
ライブラリ内。ひとみは部屋中にフルムーンの触手を張り巡らせた。
しかし、触手は室内に潜む者の存在を捉えることができない。
御前等はラチもないことを喋くりながら、車輪つきの椅子を回してハシャいでいる。
緊張を和らげる為というより、事の重大さを全く認識していないとしか思えない能天気さだ。
ひとみは大いに苛立った。
御前等の座っている椅子を引き倒してやりたかったが、全ての触手を室内の探査に回している状況ではそれも叶わない。
爆発寸前の怒りを飲み込んで、ひとみは思いつくかぎりの皮肉を吐き出した。
「随分と余裕綽々ねぇ〜大物だわ!あんたって!
時間切れまでにあのネズミを倒せなかったら自分の身がどうなるか、考えたことないの?
それ位の想像力すら持ち合わせてないのかしらぁ?それとも、あんたの想像力は現実逃避の妄想専用で
アニメの女の子との恋愛は妄想できても、現実の危機には非対応ってワケ?
じゃなかったら自殺願望でもあるの?クソつまんない日常に戻るよりここで消滅した方がマシなのかしらッ?!」
押さえかねる苛立ちで、こめかみの血管が浮き出し数回脈打ったのが自分でも分かった。
数日前知り合ったばかりの御前等のプライベートなど全く知らない。
服装と見た目の先入観だけでオタクと決め付けて罵った。
彼を罵倒した所で状況が好転するわけもないのに。完全な八つ当たりである。しかも罵っても全くスッキリしない。
どうにも冷静さを保っていられなかった。
焦りと苛立ちは、本人も預かり知らぬうちにジワジワと入り込み、精神を侵食しているのかもしれない。
御前等からプイと視線を逸らし、再びライブラリの探索に意識を向け直す。
本体の居場所について、何か手がかりは無いか―――?
ひとみはホールで聞いた有葵と吉野きららの通話を思い出していた。
有葵の『ソノルミネッセンス!』という叫び声。
ひとみは九頭の追っ手と戦った際に、一度その技を目にしたことがある。
ソノルミネッセンスは超音波照射による液体の発泡現象である。ただの発泡とはいえ侮れない。
出力が高ければ人間の血液を沸騰させかねない大技だ。
ライブラリを本体の隠れ場所と疑った有葵は、ソノルミネッセンスを敵のいぶり出しに使ったに違いない。
本体がこの部屋に潜んでいたのなら、いかにしてソノルミネッセンスを凌いだのだろうか?
血液が液体である限り避けようのないあの技を―――?
352
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/04/20(水) 20:44:11
ソノルミネッセンスは液体中に発泡現象を引き起こす。
逆に考えると、液体でなければ反応は起こらない。液体でなければ―――
ザ・ファンタジアは、霧のように体を粒子化し姿を消すことができる。
その効果は粒子化開始時に手を触れた相手にも適用される。
現に、よねの能力によって床に埋め込まれたひとみは、ザ・ファンタジアに一時的に粒子化された。
ザ・ファンタジアが本体の隠匿にその能力を利用していたとしたら―――?
空中に拡散した粒子の状態ならば、液体にしか効かないソノルミネッセンスを無効化できるのではないか。
仮にその推理が的中しているとすれば、最早ひとみ達には手の打ちようがない。
ネズミがひとみ達を殺すことだけを目的にするのならば、
ゲームの『場』である会館が消滅するタイムリミットまで、本体と共に粒子化したまま、ただ待てば良いのだから。
ザ・ファンタジアが能力を解除しない限り、目に見えず、触れることもできない本体を捕える術はない。
そうなれば、この『鬼ごっこ』は所謂『詰みゲー』だ。理不尽すぎる。
ひとみは、もう一度、有葵と吉野の通話を順を追って思い返してみた。
あの時、有葵が『ソノルミネッセンス』と発声した数分後に、携帯からネズミの声が漏れ聞こえた。
―――『やってくれるね♪小ババァ♪
――― あと30秒足りなければ、かーなりヤバいことになっていたよー♪』
ネズミは確かにそう言っていた。
『あと30秒足りなければ』―――とは何を意味するのだろう。30秒時間が足りなければ何が起こっていたのか?
ネズミが本体の体を粒子化してソノルミネッセンスをやり過ごしていたと仮定し、ネズミの台詞に言葉を継ぎ足してみる。
『あと30秒、粒子化していられる時間が足りなければ、ソノルミネッセンスを食らっていた』―――
こう解釈するならどうだろう。
つまり……粒子化していられる時間には限界がある―――?
この仮説は単純なやり方で確認できる。このまま根気よく触手の網を張り続けていればいい。
353
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/04/20(水) 20:52:13
程なくして、その瞬間は訪れた。
張り巡らせた触手の網を押しのけるようにして、突如出現した人型の存在を、フルムーンは感じ取った。
ライブラリの更に奥の小部屋―――書庫の中にいる!
ひとみは、書庫の中に張り巡らせていた触手を、人型に向けて収束し、拘束した。
触手で捕縛した人型は、成人男性にしては小柄だが小太りだった。
「やっぱりね!見つからないはずだわ!本体と一緒に粒子化して隠れていたなんて!
本体は捕獲したわ!あんたもすぐ書庫に行って!!」
御前等に向かって、声を張り上げた刹那だった。
フルムーン発動中の、空になった右目に激しい衝撃が走った。ひとみは自分の体が宙に浮き、後ろに弾け飛ぶのを感じた。
滞空中の一秒にも満たぬ時間の中で、書庫に視線を向けたひとみは見た。
書庫の扉の裏側から、剥がれるように現れ出た、紙のように平たく、白い物体を。
『あのネズミ』だった。
扉に貼り付けていた体を半分剥がして、戸口にその姿を見せている。
平たい体の中で、唯一厚みを取り戻している右腕は、狙撃銃のような形状に変化し、その銃口は細く煙を上げていた。
銃口の先は、宙に浮くフルムーンに向けられていた。
眼球を丸いケースの内側に収めた機械の如きスタンドは、表面に幾つもの亀裂が走りヒビ割れている。
床に仰向けに倒れたひとみは唇を噛んだ。生暖い液体が右目から流れ落ちている。
―――粒子化に時間制限があるのなら、本体と共にネズミも実体に戻っている筈だった。
本体を拘束する前に、ネズミの不在について、もっと深く不審を抱くべきであった。
粒子化の時間切れを迎えたネズミは、書庫の扉の真後ろを実体化の場所に選んだ。
そして本体と分離し、実体に戻った瞬間に体を平らにして扉の裏に張り付き、触手の探査を逃れた。
追い詰められたネズミは本体を囮にして、ひとみの意識を逸らしたのだ。
ひとみの意識と共に、フルムーンは触手ごと色を薄め、消えはじめていた。
書庫の扉の開口部に立つネズミは、狂気じみた笑顔を浮かべていた。
その表情に以前の余裕はなく、明確な焦りが見て取れる。
ネズミは御前等に照準を合わせ、立て続けに5発、銃と化した腕から白い弾丸を発射した。
【何回か前のレスから匂わせてきた通り、ネズミは本体と一緒に粒子化してライブラリに入る人をやり過ごしてました】
【佐藤、実体化した本体を捕えるも、ネズミにフルムーンを狙撃されて負傷】
【フルムーンが消えてしまったことで捕縛に使った触手は無くなっちゃいましたが、本体は書庫の中にいます】
【書庫の扉の前に立ちふさがるネズミ。御前等さんに向かってライフル5発連射】
354
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/04/27(水) 03:22:46
>「やっぱりね!見つからないはずだわ!本体と一緒に粒子化して隠れていたなんて!
本体は捕獲したわ!あんたもすぐ書庫に行って!!」
佐藤は回答を得たようだった。出された指示に了解し、踏み出そうとした御前等。
しかしてその目の前で、佐藤が不可視の自動車にでも跳ねられたように吹っ飛んだ。
「佐藤さん!」
右目から滂沱と血が流れている。確か彼女のスタンドは『そこ』にあった。
ダメージフィードバック。スタンドを攻撃されたのだ。
(一体どこから……!?)
首筋を駆ける悪寒。続けて風切音。飛来する白い弾丸。
信じられないことに――発砲音どころか、銃の動作音すらなく、書庫から射撃されたのだ。
弾丸は5発。防ぎきれない数ではない。スタンドに4発弾かせ、最後の一発を掴みどらせた。
「やはりな……こいつはアメリカねずみの『煙』!弾丸に変えて飛ばしてきたかッ!!」
視線が目指すは書庫の扉。ここであったが百年目、むくつけきアメリカねずみが出現していた。
佐藤は負傷したが御前等にそれを治療する術はない。ならば彼にできるのは、一撃でも多くの拳を叩き込むこと。
跳躍一つでアメリカねずみまで接近し、アンバーワールドの歯車付きラッシュを繰り出した。
着弾する拳の群れはねずみの胴体から頭部を中心に打撃の杭で穿ちまくる。砕けるように爆ぜるねずみの身体。
が、駄目……っ!
「のれんに腕押しとはよく言ったものだな……!便利な身体してやがるぜッ!」
ねずみの身体は素粒子となって分解され、離れた場所に再び実体化した。
確かに穿ったはずの孔も、抉り抜いた傷痕も、痕跡なく消失し、新調したかのようにまっさらだ。
再び指先に銃口を出現。撃ってくる。アンバーワールドで弾きながら御前等はサイドステップ。書架の影へ飛び込む。
(厄介な能力だ……どれだけ殴っても!一度素粒子化されてしまえば元の木阿弥!全回復呪文使うボスの如き理不尽さだ!)
しかし相手の能力の厄介さが明確に把握できているということは、それ自体が光明ともなる。
逆説的に言えば、『厄介さを封じる』方向にだけ努力の熱量を絞れば良いということなのだから。
暗中に闇雲と矢を放つよりかは、一点光の照らす場所を的とするように。
(攻撃するとき、奴は必ず実体化している……すなわち!『素粒子のまま無力化する』か『そもそも素粒子化させない』
……このどちらかを達成すれば良いッ!)
いずれにせよねずみに対する情報が出揃ってない。要検証。
御前等は意を決して書架から飛び出した。ねずみのライフルが照準を合わせるより早く、スタンドを発現。
下から突き上げるようにアッパーカットの連打を浴びせる。近距離パワー型がここまで接近したのだ。ねずみは粉々。
「ここだッ!」
再び修復のため素粒子するタイミングを狙って、御前等はポケットからジャスコのビニール袋を取り出した。
市民会館編の冒頭で買ったジュースやアイスを入れてきたものである。空気を孕ませるように、ねずみへ向けて振り抜く。
素粒子状態のねずみは、全部とまではいかなくとも大半をビニール袋にもっていかれた。
「獲ったどーーーっ!」
袋の口をきつく縛って、ライブラリの床に転がした。
【検証その1。素粒子化したねずみをビニール袋に閉じ込めて出方を伺う】
355
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/04/30(土) 18:11:45
―――人間の目で捉えられる物体の大きさは限界がある。
視力の良い者が目を凝らせば1mmの1/10ほどの大きさのダニが蠢いている姿を見ることはできるだろう。
しかし、それ以下のサイズのもの、例えば0.3〜10μm(μマイクロ:1mmの1/1000)の
カビの胞子や細菌を肉眼で捉えることはできない。
細菌よりさらに微細なウイルスは、電子顕微鏡が登場するまで、ついに人類がその形状を知ることは無かった。
ハウスダスト、花粉、カビ、細菌、ウイルス……
目に見えぬが確かにそこに存在するモノに囲まれて、人は生活している。
霧か煙のように姿を消し、壁や床を通り抜ける、捉え所のないスタンド――ザ・ファンタジア。
だが、その消失のトリックは単純だ。ザ・ファンタジアは体を粒子化する能力を持っている。
体をウイルスレベルのナノサイズ(1mmの100万分の1)にまで細かく分解し、
目視不可なサイズになることで、その場に居ながらにして"見えない"状態になっていたのだ。
ウイルスが、その微細さゆえ、素焼きの陶器のような肌理の荒い物体を通過することは、20世紀初頭に実証されている。
意思を持つウイルスサイズ微粒子の集合体と化したザ・ファンタジアにとって、
経年劣化したコンクリートのヒビ割れや気孔を縫って壁を通り抜けることなど容易いことであった。
吉野きららと生天目有葵の読み通り、本体はライブラリの中にいた。
よねと御前等が戦闘を繰り広げている間も、生天目有葵が超音波を照射し続けている間も
ザ・ファンタジアと本体は、ずっとライブラリの中に潜んでいたのである。
ゲームのルールに縛られ、移動を制限されている本体を侵入者の目から隠すために
本体と共に粒子となって室内を漂いながら、その動向を窺い、危機が去るのを待っていたのだ。
* * *
356
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/04/30(土) 18:12:14
(年増ババァ〜♪……しつけぇ〜んだよォ…男の浮気でも探るみたいにネチッこく疑ってんじゃねぇェ〜…♪
ここには誰もいねえんだよォ〜…♪さっさと他をあたりやがれッ!!)
ライブラリの奥、書庫の中で―――ザ・ファンタジアは焦り始めていた。
何百年も扉を閉じたままの屋根裏部屋の蜘蛛の巣のように、グロテスクに枝分かれした触手が部屋中に張り巡らされていたが、
空中に拡散した粒子の状態のでいさえすれば、自らの存在を触手に悟られる心配はなかった。
問題は触手の網がいつまでも解除されないことだ。
ザ・ファンタジアの焦り、それは粒子化していられる時間の制限にあった。
粒子化状態で、個体としての意識を維持するには一定以上の密度が必要なのだ。
空気中の粒子は、密度の高いところから低いところに移動し、次第に拡散し薄まっていく
限界密度を越える前に実体に戻らなければ、粒子は拡散し続け、ザ・ファンタジアという意識体は消滅してしまう。
限られた時間内で何かを探さねばならぬ時、通常、人は一度探し終えた場所を次の捜索候補から外す。
"ない"と分かっている場所を何度も探るより、他の場所を当たった方が効率的だからだ。
不運な偶然が重なり、ゲーム参加者にこの部屋に対する疑念を抱かれてしまったようだが、いや疑念を抱かれているからこそ
今回の捜索をやり過ごしてしまえば、これ以上の安全な隠れ場所ない。
しかし、既に潜伏者の不在を確認するには充分な時間が経過しているのに、
何故、触手の主である女は、徒労としか思えぬ探索を諦めようとしないのだ―――?
(なんだかピンチ臭ぇじゃね〜か…♪
このクズ野郎め…お前が物音なんぞ立てるからバレそうになってんだろうがぁ〜…♪
何の役にも立たないウスノロの分際で足引っ張りやがって〜ッ…♪)
粒子状態のネズミは自らに中に混じり込んだ異物に向かって心の中で毒づく。
いや、異物…という表現は正しくない。それは光を受けると必ず現れ出る影のように自らと不可分の存在なのだから。
実体がなければ影は存在しえず、しかも、どちらが"影"かといえば、やはり自分の方と言わざるを得ない。
ザ・ファンタジアはそれが堪らなく腹立たしかった。
御前等と佐藤がライブラリに足を踏み入れた直後に粒子化を開始したのだから、既に10分が経過しようとしている。
もはや粒子の拡散は限界点に達しようとしていた。
ザ・ファンタジアは覚悟を決めた。
散らばった粒子を収束させ、霧状態を経て実体を取り戻し、銃口を模した指をいまいましい触手の主に向ける。
猫が捕えたネズミを弄ぶような、おちょくり半分の攻撃はもう止めだ。
白い弾丸が音もなく空を切る。
――――殲滅戦の開始だ。
* * *
357
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/04/30(土) 18:12:41
殴打され体を粉砕されては、粒子化して再生―――そんな応酬を二回ほど繰り返した。
ザ・ファンタジアが御前等祐介のスタンド、アンバーワールドと対峙するのは三度目だ。
御前等のスタンドは近距離パワー型。短い射程の反面、直接攻撃のパワーは圧倒的である。
一般的に攻撃力のあるスタンドほど、スタンドパワーの源である精神力の消耗も大きい。
大振りな攻撃の繰り返しは、疲労を生み、疲労は隙を生む。
スピードの劣るアンバーワールドの攻撃を回避せず、敢えて拳を受け続けたのは、
御前等の集中力の途切れる隙を狙っているからでもあった。
書棚の影から飛び出したアンバーワールドの拳が、ザ・ファンタジアの顎めがけて迫る。
強烈なアッパーカットの連打を浴びたネズミは、弾かれたように吹っ飛び、背後の壁にぶち当たった。
白い石膏像の如きその体に無数のヒビが入り、音を立てて粉々に砕け散る。
破片の一つ一つが煙を上げて、白い霧に変化していく。
>「ここだッ!」
絶好の機を得たとばかりに、御前等は粒子の霧の中に飛び込み、ジャ○コのビニール袋を振り回す。
今まさに空中に拡散しはじめた粒子の群れは、約半分ほどがビニール袋の中にすくい取られてしまった。
>「獲ったどーーーっ!」
雄たけびを上げる御前等。
空気と微粒子で膨らんだビニール袋が、床に放り投げられて転がった。
御前等の前方…1mほど離れた位置に、ぼんやりと白い霧が現れた。
霧は逡巡するかのように渦を巻き、数秒の時間を置いて、ようやく『あのネズミ』の形をとり始める。
姿こそかって知ったる『あのネズミ』であるものの、
大きさは某ランドで土産物として売られる大き目の縫いぐるみ程度に縮小されている。
『やってくれたね♪ウザキング君……♪』
実体化したネズミは、自らの体や手足を眺めて呟いた。
体が小さくなったせいか、元々の高い声が、さらに甲高くいびつな音に変質している。
『君にしてはイイ読みだったねぇ〜〜…ウザキング君♪
材料を取り上げられたら僕だって完全な形で再生できないんだねぇ〜♪この体じゃパワーもガタ減りだ♪
だけどねぇえぇ〜♪』
御前等の背後で、床に投げ出されたビニール袋がカサリと音を立てた。
固く結ばれたビニール袋の結び目から白い粒子が漏れ出している。
358
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/04/30(土) 18:13:15
ネズミは袋から漏れ出す粒子を一気に吸い込み、一度飲み込んでから、尖らせた唇から鋭く息を吐いた。
吐き出された粒子の群れは、空中に白い残像を残し、
繰り出されるアンバーワールドの拳も及ばぬスピードで、御前等の体に到達した。右腕から鮮血がほとばしる。
御前等の腕に食らいついたモノ…それは大きく口の裂けた犬の頭部だった。
ワニのように巨大な口吻が、前腕全体に牙を食い込ませている。
鋭い牙が皮膚を食い破り、肉を貫き、御前等の体内で骨の軋む音を奏でた。
『発想はワルくなかったけどツメが甘過ぎたネ〜♪
君、犬を飼ったことあるかい?こーいうビニール袋を犬のウ○コ袋として使う奴いるけどサ♪
あれいくら固く結んでも、やっぱウ○コ臭さが漏れるんだよね〜
匂いって粒子なんだよ?
つまりウ○コの粒子が漏れてるってことさ♪
匂い分子と同程度に分解しちまえば脱出なんて朝飯前♪ぎゃっはー♪』
得意満面の笑顔で滔々と言葉を紡ぎだすネズミ。黙して止めの動作に移ることを肥大した自我が許さなかった。
高分子樹脂であるビニールは、ウイルスサイズの物質も透過させない。
しかしどれ程固く結んでも、所詮は人力の結び目。
ナノサイズの粒子からすれば、結び目は曲がりくねった巨大なトンネルに過ぎず、簡単に漏れ出してしまう。
『僕の犬に噛まれるの二度目だっけ?ゴメンネ♪甘噛みじゃなくて♪
さぁて♪利き腕をやられて防げるかなァ〜?』
ネズミは再び大きく息を吸い込む。
御前等の腕に食らい付く犬は、忽ち霧と化しネズミの口に吸収された。
元の大きさを取り戻したザ・ファンタジアは、腕を機関銃に変化させ、白い銃弾の雨を浴びせかけんと構える。
照準を合わせる必要はない。圧倒的な連射速度と体から作り出される無尽蔵の弾丸が、必ずや敵を殲滅するのだから。
―――その時、廊下に面したライブラリの扉が細く開いた。
扉の向こうに3つの人影…
勝ちに乗じて興奮するザ・ファンタジアは開かれた扉に気づいていない。
【体を構成する粒子が全て揃わない状態で実体化した場合、ネズミは変身能力や再生能力を失います。
ぬいぐるみサイズのネズミは、変身や再生が使えなかったんですね。
今はビニールの中の粒子を取り戻したので、体の一部を犬にしたり、銃に変化させたりが使えるようになりました】
【ライブラリの扉を開けたのは、有葵ちゃん、天野君、よね君の三人組…ということでいいかな?
できたらライブラリに突入してほしい〜】
359
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/04/30(土) 22:51:39
―――その時、廊下に面したライブラリの扉が細く開いた。
扉の向こうに3つの人影…
意表をついてアンドレだったら笑えるかもしれないけどご心配無用。
否、ご心配あれ!アホの生天目が助けに来た!
隙間からのぞきながら生天目は小声で後ろの二人に話しかける。
「天野さんよねさん。よねさん天野さん。あれを見て!
みんながピンチよ。私たちのスタンドパワーはスッカラカンだけど
何とか助けよー!恩返ししよー!
万人が忌み嫌うカオスのチカラを今こそ発揮する時がきたのよ!」
とカオスの権化である生天目は言ってみたけれど、まーウソっぱち。
ぬるりと細い扉の隙間からライブラリに進入した生天目は、
仰向けに倒れている佐藤ひとみの側に座りステレオポニーを出現させる。
「死んじゃだめ…。ひとみん…」といきなり項垂れ泣いた。
ステレオポニーはわずかに残ったスタンドエネルギーで
佐藤ひとみにヒーリングソニックを放射し傷の治療を始めた。
360
:
よね
◆Cj3ysYNKG2
:2011/05/01(日) 11:36:34
/みんながピンチよ。私たちのスタンドパワーはスッカラカンだけど
生天目が不意に発した言葉によねはハッとした。
"スタンドパワーはスッカラカン"。
本来ならばよねのスタンドパワーもとっくに底をついているハズである。
だが、よねのスタンドパワーはまるで巨大なスタンドパワーの倉庫から取り出してきているかのように、無尽蔵に湧き出てきていた。
(どういうことだか知りませんがこれは好機!)
「Sum41ッ!この床は自分と反発しあうッ!!」
よねは足元の床に手をつけて、Sum41を発動させた。
ビシュッと音を立ててよねの体が宙を舞う。
ライブラリの扉から御前等の位置までの距離を一気に詰める。
「Sum41!この床は盛り上がり、ゲル状になる!」
滑り込むように床に着地すると、再びSum41を発動させた。
ライブラリの床はザ・ファンタジアの放った弾丸から御前等とよねを守るように盛り上がる。
さらにその床が老朽化したコンクリではなくゲルへと変化する。
ゲル化することで密度が均一になり、さらに衝撃吸収能力もアップするのだ。
「人体に傷を与えることが目的の弾丸なら、粒子の様に物質を透過して移動することは不可能なハズッ!
このゲルの壁に阻まれろッ!!」
だが、ゲルの盾はあくまでその場しのぎに過ぎない。
ザ・ファンタジアが放つ弾丸は、銃弾ではないものの、実際のマシンガンとほぼ同等の威力を持っているはずなのだ。
ゲルの盾で白い銃弾を阻めるのはたった2秒ほど。
その間に御前等が何かアクションを起こすことに賭けて、よねはライブラリに飛び込んだのだ。
【御前等を白い銃弾から守るようにゲルの盾を展開、ただし長くは持ちません】
361
:
天野晴季
◆TpIugDHRLQ
:2011/05/03(火) 14:55:09
「うわっ…何これ。ライブラリに入ってみればいきなり御前等さんがピンチって…」
ライブラリについてため息を吐きながら呟く天野
>「天野さんよねさん。よねさん天野さん。あれを見て!
みんながピンチよ。私たちのスタンドパワーはスッカラカンだけど
何とか助けよー!恩返ししよー!
万人が忌み嫌うカオスのチカラを今こそ発揮する時がきたのよ!」
「…そうですねぇ、さっき誰かさんがとんでもないことしてくれたお陰で多少パワーを消費しましたけど。
…まぁでもまだ0じゃありませんし、頑張るとしますか。フリーシーズン!」
雲型のスタンド、フリーシーズンを出現させる天野
「湿度上昇、気温低下、位置御前等裕介の周辺。…氷の壁で守れる量なんて高が知れてるけど、1秒でも時間が稼げるなら…
さらにそれに並行して、フリーシーズン気温低下。対象、僕の仲間の周囲以外。…全身全霊で温度を下げるよ」
(そもそも温度の上下は原子の振動、つまり熱振動で決まる。…僕のスタンドの場合、大きくする方の上限は摂氏100℃までだけど。
低くする方なら最低の。絶対零度まで下げられる。時間はかかるけど。あらゆる原子の振動が最低で最小になるこの温度なら…あいつの動きを遅くできるかも知れない
…これははっきり言って(言ってないけど)賭けだけど…買わない宝くじは当たらない!)
【御前等を守るため氷の壁を生成。さらにライブラリの温度をどんどん下げてます】
362
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/05/03(火) 21:28:31
薄汚れた天井の下、浮遊するひび割れたフルムーン。表面の破片が崩れるように剥がれ落ちている。
その光景を最後に視界が暗転し、周囲は暗闇に包まれた。
一条の光も射さぬ海底、タールのような闇。ひとみは闇の底に立っていた。
ある男の中で見た闇の海に似ている…と、思ったのも束の間、ひとみの体は錘を切られたように浮力を得て上昇を始める。
加速度を増して闇の海を浮上する。海底から海面へと。
海面付近で、青い帽子を被った青年が懸命に水面に顔を出そうと足掻いている姿を見た。
―――誰もが恐れる程の能力を持ちながら、何処か未熟な精神の持ち主……
不釣合いな力に呑み込まれることなく、無事に水面に上がれればいいのだけれど……彼は誰だったか―――?
ひとみは何となく青年の身を案じたが、ついに誰なのか思い出すことも出来ぬまま、
体は海面を抜けて、更に高く高く上昇していく。
そうしているうちに、次第に自分が何者かも分からなくなっていくようで
心細くもあったが、妙に静かな悪くない気分だった。
不意に、肩に重みを感じて、上昇が止まった。
間近に人の気配がして目を開ける。白い衣を纏った人間が、力強い掌でひとみの肩を押さえつけていた。
並外れて逞しい体躯の男だ。ひとみは反射的に、その者の顔を見上げる。
頭部を覆う白い被衣が顔に深い影を落として、口元しか見えない。
その固く引き結ばれた口元と意思的な顎の稜線を、本当はどこかで見知っている気がした。
男は片腕をひとみの肩から外して、ゆっくりと下を指差す。
男の指し示す方向に視線を移すと、そこには、仰向けの体勢で床に倒れている女と、側に跪く少女の姿があった。
全身の毛穴が総毛立った。闇に包まれる前に、何があったのかを思い出した。
あの女は自分だ―――
気づいて身震いした瞬間、男に強く肩を突き飛ばされて、ひとみは落下した。
右目にほんのりと暖かい力を感じて、視界にうっすらと光が満ちる。
視界の半分が赤く染まっていたが、自分を覗き込む少女の顔は判別できた。
涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らした生天目有葵が、ひとみを見下ろしていた。
363
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/05/03(火) 21:44:03
視点が定まると、途端に激痛が走った。痛む右目を庇って掌を当てる。顔半分が液体で濡れていた。
ひとみは小さく呻き声を上げて半身を起こす。
部屋の反対側の壁際では、ザ・ファンタジアと御前等、よねを交えた三人が、攻防を繰り広げている。
「あのクズネズミ〜〜〜……よくもやってくれたわね……
…冗談じゃないわ!!こんな所で、お喋りクソネズミの思惑通りに、死んでたまるかってのよ……!!」
咽から搾り出すような声で、ひとみは呟く。
立ち上がろうとしても足に力が入らず、身を捩ってネズミの死角になる一番近くの書棚の影に体を移動させる。
「有葵…私を起こして…手を貸して…
……書庫に行くわよ!まず間違いなく、奴の本体はそこにいる!
私を粒子化した時と同じ能力で本体を守っているとしたら、ネズミは本体に手を触れない限り粒子化できない!
ネズミに気づかれないように接近できれば、私達で本体を叩けるわ!」
意識をスタンドの発動に集中する。
ひび割れたフルムーンが二人の目前に発現した。時折砂嵐が混じるようにスタンドのヴィジョンが乱れる。
スタンド経由で得る視界は、右目の眼窩に溜まった血のせいか、赤く濁って何も見えなかった。
これではスタンドの遠隔操作は出来そうにない。
「フルムーンはもう迷彩程度にしか使えない…本体への攻撃はあんたがやるのよ…!」
爪が食い込むほどに強く有葵の手を握って、ひとみは訴える。
フルムーンの触手が皮膜状に薄く延びて二人の体を包み込む。
二人の姿は透明の皮膜の内側に溶け込んだ。
【有葵ちゃんに書庫行きを提案。
生天目さん、佐藤さんはまともに動けませんので、よかったら書庫まで連れて行ってあげてね。
ネズミとの決着にかかる時間次第では、書庫内でひと悶着入れるかもです】
364
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/03(火) 22:01:53
>>360
>>361
『ヒヒッ…おわりだぁ!!ウザキング君!!♪僕よりウザい人材は貴重だから残念だよ!♪』
機関銃を模した腕から、雨あられと吐き出される白い銃弾。
>「人体に傷を与えることが目的の弾丸なら、粒子の様に物質を透過して移動することは不可能なハズッ!
>このゲルの壁に阻まれろッ!!」
御前等に向かって放たれた銃弾は、室内に飛び込んだよねによって展開されたゲルの盾に着弾して止まった。
衝撃と共に銃弾を取り込んだゲルはドロドロと床に崩れ落ち始める。
再び連射した銃弾は、天野が張った氷の壁に食い込み、割れる氷と共に砕け散る。
『クソッ…うすらメガネまで登場しやがった♪裏人格に精神を乗っ取られた設定はどうなったんだよ!!♪』
ネズミは舌打ちして、銃口を上方に向ける。
標的は、天井擦れ擦れの高さまで設置された金属製の書棚。軌道を計算して3発を別々の書棚に発射する。
書棚に当てた弾丸の跳弾で、上部から御前等とよねへの着弾を狙ったのだ。
なぜ変幻自在なザ・ファンタジアが、跳弾という非効率的な攻撃を選んだのか?
ザ・ファンタジアの腕から発射された弾丸は体と同素材。言わば体から削り出して造った弾丸だ。
その弾丸が何十個も床に溜まったゲルの内側に閉じ込められている。
肉体の変化と再構成は、体の構成素材が全て揃わねば不可能。
ゲルが溶けて霧化させた弾丸を回収するまで、ネズミは変身能力を封じられていたのだ。
【よね君のゲルと天野君の氷の壁に弾丸を防がれたネズミ、跳弾で御前等君とよね君を狙う。
書棚に反射させた弾丸が3発、上から御前等さんとよねさんに降ってきてます。
弾丸の威力は半減してるから、当たっても死ぬことはないでしょうw】
365
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/05/05(木) 23:34:03
束の間、拘束されたファンタジアを見下ろし勝ち誇る御前等。
身体を構成する粒子の殆どを奪われたアメリカねずみは所体なさげに漂うばかり。と、思いきや。
ねずみが口を窄め、何かを吹いた。瞬間、右腕に灼熱感。
>『発想はワルくなかったけどツメが甘過ぎたネ〜♪
「な……馬鹿な!こいつはッ!『煙のワニ』だとォォォ〜〜〜ッ!?」
確かに捕らえたはずの袋は平らになり、そしてその中に入っていた容積分だけのアギトが腕に食らいついていた。
激痛と共に迸る鮮血。血圧の急降下にブラックアウトしかける視界。暗くなりゆく眼前に、ねずみの醜悪な笑顔。
(ビニールすら透過するのかっ……?いや!『結び目』ッ!どんなにキツク締めても生まれてしまう絶対の猶予!)
>『僕の犬に噛まれるの二度目だっけ?ゴメンネ♪甘噛みじゃなくて♪さぁて♪利き腕をやられて防げるかなァ〜?』
舐めきっているのかまともに照準もつけていない煙の火線が、しかし連射速度ゆえに薙ぐようにして御前等へ迫る。
すわ被弾か――御前等は思わず目をつぶり、迎える痛みに身構えた。果たせるかな、弾は来ない。届かない。
>「Sum41!この床は盛り上がり、ゲル状になる!」
さながら壁のごとく隆起した床がネズミの煙を全て飲み込んだのだ。
駆けつけたるはよね。御前等の命を救ったのは奇しくもかつて対峙したスタンド『Sum41』。
そして。
>「フリーシーズン気温低下。対象、僕の仲間の周囲以外。…全身全霊で温度を下げるよ」
天野くんの『フリーシーズン』が、部屋の気温を提げ始める。
ネズミを含めた戦闘領域の『御前等達以外』が一気に氷点下を突破し、更に温度を下げんと力を放っていた。
「ク、ククク……はははははは!!墓穴を掘ったなアメリカねずみ!貴様が立てたのは『逆転フラグ』だッ!!」
御前等はあえてフリーシーズンの例外範囲から負傷した腕を出して氷点下に晒し、無理やり止血。
出血、裂傷に加えて凍傷まで上乗せされたが逆に痛みも麻痺してしまった。右腕はしばらく使い物にならないが、邪魔にもならない。
「殺るならさっさとやっとけばよかったものをッ!『勝ち誇るのは勝ってから』……常識だぞ、忘れたか!
俺はこうして生き残り!そして『頼れる仲間が駆けつけた』……アンバーワールド、歯車を起動せよッ!!」
御前等は今より以前にライブラリを訪れたときがあった。鬼化している最中に、ここでよねと一戦交えた。
そのときに散乱させた『歯車』――機械を操るスタンドパワーの塊は、まだこの部屋に残っていた!
御前等は自分の知る由もなく散っていた歯車の存在を必然と決めた。ご都合主義の謗りを受けようとも、これが怒涛の伏線回収だ!
『歯車』が発動したのはライブラリの天井に設置されたエアコン。その機構を操り、送風機能を暴走させる。
結果、生まれるのはライブラリ内を吹き荒れる暴風。――氷点下の空気を攪拌する風。
「アメリカねずみよ、貴様は粒子が云々の説明にウンコの喩えを出したが……もう一つ常識を教えてやる。
――――『凍ったウンコは臭わない』ッ!!」
粒子状態が無敵ならば、別の方法で『粒子以外に変えれば良い』。
そう、粒子とて凍る。水を含まない素粒子はそのものが凍結することはなくても、空気中の水分ごと凍らせることはできる。
天野くんのフリーシーズンで氷点下となったこの部屋の空気は冬の風と違って湿気を多分に含んでいる。
ただでさえホールの湿度は天辺回っていたのだ。構造的に空気を共有するこのライブラリも然り。
保管するものがものだけに除湿機こそあれど、――その除湿機能を備えたエアコンは、御前等の支配下にあるッ!!
「今だよね君ッ!氷と『一つ』になった今なら、君の能力が通じるはずだっ!
知的財産権の侵害という、エンターテイナーとして最も忌むべき所業をしくさったあいつに――外れぬ枷を嵌めてやれ!」
【エアコンを操って天野くんの能力で氷点下になった室内に暴風を吹かせる。湿度も相まって凍るはず……?】
366
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/05/06(金) 16:37:00
意識を取り戻した佐藤に、生天目は胸を撫で下ろし破顔一笑。
>「あのクズネズミ〜〜〜……よくもやってくれたわね……
…冗談じゃないわ!!こんな所で、お喋りクソネズミの思惑通りに、死んでたまるかってのよ……!!」
「そう、しんじゃダメ。みんなで生きよぅ」
二人はこっそりと書棚の影に移動する。
>「有葵…私を起こして…手を貸して…
……書庫に行くわよ!まず間違いなく、奴の本体はそこにいる!
私を粒子化した時と同じ能力で本体を守っているとしたら、ネズミは本体に手を触れない限り粒子化できない!
ネズミに気づかれないように接近できれば、私達で本体を叩けるわ!」
「よーし。じゃあ叩くよ。このフライパンで。…にしても粒子のスタンドだったなんてね。
粒子になっちゃったら、それ以上は砕けないんだもの。破壊するって感覚じゃ一生倒せなかったのね。
…柚木に聞いた秋名ってヤツと少し似てる…」
生天目が護身用のフライパンを持って小鼻を膨らませると、フルムーンの透明シートが体を包む。
幸い、ザ・ファンタジアは御前等たちとの戦いに夢中で佐藤たちの動きには気がついていないようだ。
あとは書庫に隠れているエイドリアンを懲らしめるだけ。
>「フルムーンはもう迷彩程度にしか使えない…本体への攻撃はあんたがやるのよ…!」
「任せて、ひとみん。うんこねずみにチューチュー天誅よ」
そう答え、佐藤の剣幕に微苦笑する。
いつも頼りっぱなしの佐藤に、逆に期待されたことが面映い。
―――生天目は寄り掛かる佐藤と一緒に忍び足で書庫に入った。
ライブラリとは打って変わって静まり返っている書庫。緊張で激しさを増す鼓動。
(どこ…?どこにいるの?)と佐藤に目で訴える。(階段から落ちたから記憶が抜けています)
「…!」
キャミワンピから染み出す潤滑油に気がついたのは書庫の中央付近だった。
服に染み込んでいた潤滑油が腕を伝わり握ったフライパンの柄に染み込む。
(やば!すべる!)
コーンッ!甲高い音が耳朶を打つ。
床に静かに置くもなにも、フライパンを持ち直そうとしておもいっきり投げてしまったのだ。
367
:
よね
◆Cj3ysYNKG2
:2011/05/07(土) 22:42:58
ザ・ファンタジアが放った銃弾はゲルの壁と、天野によって作り出された氷の壁に阻まれた。
また、銃弾を止めただけでなく、ザ・ファンタジアの構成素材をゲルの中に閉じ込め、
ザ・ファンタジアの厄介な変身・再構築能力を―よねが能力を解除するまでではあるが―封じるという副次的な効果も生まれた。
/『クソッ…うすらメガネまで登場しやがった♪裏人格に精神を乗っ取られた設定はどうなったんだよ!!♪』
「その設定はまだまだ健在ですよッ!このネズミ野郎ッ!」
よねは弾丸を防いだ勢いでザ・ファンタジアに接近しようとした。
だが、再びザ・ファンタジアが白い、粒子の弾丸を天井に向け発射したので、懐に飛び込むのを躊躇ってしまった。
(上に向けて撃った?一体どういうんだ?……まさか、跳弾を狙ったかッ!?)
本来ならば左右前後どこかに避けることも出来ただろう。
だが、一瞬の迷いがよねの反応を鈍らせた。まるで、テニスでスマッシュを打たれた時のようにその場を動くことが出来なかった。
「具現化しろ、Sum41!別々の所へ撃っても、着弾点は全弾同じッ!この身を呈して弾丸を受け止めるッ!」
よねは、『ザ・ファンタジアはこれ以上、身体を構成している粒子を無駄に削って弾を撃つことは出来ないから、出来る限り弾丸の威力を節約して発射してくるだろう』と踏んで、
Sum41を能力の発動の為ではなく、御前等とよね自身を守らせるために―よねにはダメージのフィードバックがあるのだが―出現させた。
つまり、よねはSum41を盾にしたということである。ザ・ファンタジアの精密な軌道計算を逆手に取ったのだ。
ドスドスドスッとSum41に3発の弾丸が撃ちこまれる。と同時によねの身体に激痛が走った。
それはあまりに強烈すぎる痛み。打たれ強いとはお世辞にも言えないよねにとっては尚更である。
だが、よねが身を呈すことによって弾丸が御前等へと着弾することは免れ、
その間に御前等はアンバーワールドの能力を発動し、チャンスを掴み取ったのだ。
/「今だよね君ッ!氷と『一つ』になった今なら、君の能力が通じるはずだっ!
(〜〜〜〜ッ!!しまったァーッ!)
御前等はあえて負傷した右腕を氷点下に晒すことで止血した。その代償として、右腕が使い物にならなくなってしまったが。
それと同様に今のよねが氷点下に飛び出せば、止血することは可能だとしても、その後満足に身体が動く保証は無い。
なぜこのような事をを考えなければならないか。
Sum41の能力を発動するには、能力の対象によねかSum41のどちらかが触れていなければならない。
そして、Sum41の射程は数あるスタンドの中でも最低ランクなのだ。
氷漬けのザ・ファンタジアに、よねが触れるにせよ、Sum41が触れるにせよ氷点下へ身を晒すのは必至だからである。
(だが…ッ!このチャンスを無駄にするワケにはいかない…ッ!)
意を決したよねが氷点下の中、ザ・ファンタジアに向けて走り出す。
例外範囲を出た瞬間に、銃弾に貫かれる痛みよりも凄まじい激痛がよねを襲った。
だが、その激痛は次第に和らいでいき、ついにはただの違和感へと変わった。
よねはよく動かない腕で、氷漬けのザ・ファンタジアを抱えるようにした。
「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」
ただでさえ、傷を負い、度重なる能力の発動で疲労しているよねである。
Sum41の能力で直接燃やしたり、爆発させたりということは不可能に近かった。
可燃性にするだけならば、Sum41での書き換えが『不燃性→可燃性』という一度の書き換えで済む。
よねは賭けたのだ。
以前、ライブラリで御前等と戦った時に使われた、火炎放射スプリンクラーの存在に御前等が気付くことに。
氷塊まるごとが、まるで可燃性ガスになったようである。
当然、氷塊に包まれ、氷塊と同化していると言っても過言ではないザ・ファンタジアの身体を構成する粒子一つ一つも同様である。
ほんの少し火をつけてやれば、ザ・ファンタジアは燃焼してしまうだろう。
【跳弾を阻止。ザ・ファンタジアを可燃性にしました。
因みによねはやや重傷です】
368
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/09(月) 23:16:22
>>365
弾丸を全て防ぎきった御前等が、一歩、また一歩とザ・ファンタジアに歩み寄る。
男の背後で拳を構える陽炎の如きオーラを纏う鋼の守護神に恐れをなしてか、
ネズミは、詰められた距離の分だけじりじりと後ずさる。
四歩下がったところで壁に背中が当たり、退路を塞がれてネズミはついに立ち止まった。
顔じゅうに白い冷や汗を垂らしてネズミは立ち尽くす。
>「ク、ククク……はははははは!!墓穴を掘ったなアメリカねずみ!貴様が立てたのは『逆転フラグ』だッ!!」
御前等が声を張り上げた瞬間、焦燥の表情から一転、ネズミの瞳が鈍い光を放った。
床に溜まっていたゲル―――その粘性の高さゆえ、ゆっくりと溶け落ちるゼリー状物質の中に
閉じ込められていた銃弾が、ようやく外気に触れるまでに顕わになったのだ。
空気に触れ、蒸発するかの如く、一瞬で粒子に変化する弾丸。
ザ・ファンタジアは、銃弾から立ち上る白い霧を一息に吸い込み、唇の端を曲げて不敵な笑みを浮かべた。
同時に、体表が湖面に立ち込める霧のように揺らめき始める。
『"逆転フラグ"かァ…♪
君の脳内では現実より色鮮やかなオタクコンテンツ界の因果律のことかい?
僕がスクリーンで活躍した古き良き時代には、心地良いマンネリと予定調和に
そんな陳腐で記号的な名前を嵌め込んだりはしなかったなァ…♪
最近のジャパニメーションは何もかも記号的でウンザリするよ♪その記号をありがたがる君みたいな人間もね!!…♪』
体をモヤつかせながら、ネズミは次第に語気を強めた。
膝を折り深く体を沈めたかと思うと、バネ仕掛けの人形のように、一気に天井付近まで跳躍する。
『君が思っているほど現実は甘くはないよぉ〜♪
"逆転フラグ"なんざ、そうそう都合よく立ってたまるかッ!!……フリークめ♪思い知れッ♪現実をッッ!!』
空中でローブの袖を翻し、両腕を広げるザ・ファンタジアは、さながら頭ばかり大きい不恰好な鳥のようだ。
体の端々から、砂が零れるように粒子が散り始める。
ザ・ファンタジアは体を粒子化し、完全なる肉体の再構成を試みていた。
銃弾を全て回収し、体構成粒子を全て取り戻した今、機銃の乱射という非効率的な攻撃手段をとり続ける必要は無い。
すなわち、機動力と一撃必殺の攻撃を可能にする形態に……
背中に猛禽の翼を持ち、両腕に巨大な刃を宿した破壊天使の姿に変化し、
上空から三人の敵(御前等、よね、天野)の首を一閃―――刎ね落とさんと狙っていたのだ。
パワーで互角の御前等は利き腕を負傷、
さらにザ・ファンタジアにスピードで上回るスタンドの持ち主は、この場にいない。
―――"場"において無敵の支配者である自分が、捕えた獲物に負けるわけがない。
ネズミは数秒後には床に転がるであろう三人の生首を思い浮かべ、鼻に皺を寄せて嗤った。
369
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/09(月) 23:21:25
ザ・ファンタジアは体表の粒子化を加速し始めた。
その時だった――――
>「殺るならさっさとやっとけばよかったものをッ!『勝ち誇るのは勝ってから』……常識だぞ、忘れたか!
>俺はこうして生き残り!そして『頼れる仲間が駆けつけた』……アンバーワールド、歯車を起動せよッ!!」
御前等が上げたのは、恐怖の絶叫でも命乞いでもなく、起死回生の策を謳い上げる声。
――――室内に吹き荒れる暴風!急速に氷点下まで低下する室温!
まるで永久凍土に吹き荒れるブリザードだ。
風は唸りを上げ渦を巻いて、粒子化したザ・ファンタジアを攪拌する。
新しい形態に変化するまでの、ほんの束の間、ザ・ファンタジアのコントロールを離れた粒子の群れは、
拡散することもできずブリザードに呑み込まれ、冷気の渦の中、成すすべも無く回転するのみであった。
『こ…この風はエアコンッ…?ウザバカの能力ッ!にぎゃぁあああああああ〜〜〜♪
こんなご都合主義にムザムザ引っ掛かるなんてぇ♪しっしかも体が凍るッッ!!!』
エアコンの空調口を通して御前等が引き寄せたホールの湿気、それをネズミの周囲に集約する天野の気流操作。
二人の共同作業によって、瞬く間にネズミの白い体表は、ほの青い氷片に覆われる。
体表が不安定な状態で氷に閉じ込められ、粒子化を封じられたザ・ファンタジアは身動きがとれない。
>>367
その瞬間、
被弾したよねが、負傷した体を押してザ・ファンタジアに向かって飛び掛り、抱きついた。
>「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」
『なっナニぃ〜〜…♪ヤッやめろッウスラボケメガネッッ!!
裏人格に乗っ取られたキミは、闘いの欲求が押さえきれずに仲間を全滅させたがってる設定だったろ?
今更何でコイツらの味方してんだよ!!オイ止めろッッ!!
手を触れて口に出しさえすれば、何でも叶う能力なんて反則だろぉ〜〜!!オイ♪!!』
ネズミは、懸命に身を捩って脱出を試みるが、
氷の結晶を透過するほどの微粒子に体を分解することも、実体化して内側から氷を砕くことも不可能で
ただ虚しく氷の中で喚き声を上げるのみであった。
『ちくしょぉおおおお〜!!!こうなったら最後の手段だ!!!♪』
ライブラリの床や壁の一部が液状化し、まるで泥水を煮詰めたようにボコンボコンと気泡が盛り上がる。
泥土の泡は、忽ち歪な人型を成して、御前等たちに襲い掛かった。
床と壁から生まれた二足歩行のアヒルとリス…各々つがいで2組、合計4匹!
それらの醜悪な傀儡は、表面が溶けかけたドロドロの腕で、3人(御前等、天野、よね)の手足を引っ張り
隙あらば首を絞めようと体に絡み付いていた。
ザ・ファンタジアはゲームフィールドである"場"を、自在に変質させる能力を持っていた。
しかしそれは、"場"の自己修復力と言った方が近い性質のもので、
ネズミ自身が意図的に発動する必要に駆られたことは、これまでに一度もなかった。
御前等とよねの戦闘中、火炎放射で焼かれたはずのライブラリが、僅かの間に修復されていたのもその能力によるものである。
動けぬネズミは今、まさに死力を尽くして、フィールド操作能力を発動させていた。
これはザ・ファンタジアにとってもリスクの大きい苦肉の策、
僅かでも集中力が途切れ"場"が暴走、崩壊してしまえば自身の消滅もありうるのだ。
【ドナル○&○イジー+チッ○&○ィールもどきの泥人形が、御前等さん、天野さん、よねさんにしがみ付いていますが
決定ロールで蹴散らして、ラストアタックやっちゃってください】
370
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/05/09(月) 23:27:51
>>366
一方、フルムーンの迷彩に身を隠し、ひそかにライブラリ奥の別室―――書庫に侵入した生天目有葵と佐藤ひとみ。
ライブラリは極寒の冷気が吹き荒れていたが、
扉一枚を隔てた密室の書庫には、未だそれほど冷気は入り込んでいなかった。
>(どこ…?どこにいるの?)
フライパンを構え、視線で本体の居場所を尋ねる有葵に、ひとみは精神感応で応える。
「迷彩時は、シートの位置捕捉が使えないのよ。でも本体がこの部屋にいるのは間違いないわ。
ステレオポニーのエコーロケーション(音波探知)で探せないの?」
仮に迷彩を解いたとしても、探知能力は使いものにならないだろう。
右目の負傷で眼窩に血が溜り、スタンドの視界も濁っている。
フルムーンは視覚のスタンド。視神経を痛めると能力の大半を失ってしまう。
ひとみは続けて有葵の精神に語りかける。
「それとね…一つ言っておくけど、
『お仕置き』や『懲らしめ』程度の浮ついた気持ちでいたら、私達生きてここから出られないわよ。
本体の危機に気付けば、ネズミは必ずここに来るわ。
あのバカやよね君達が足止めしてくれてるけど、それだっていつ突破されるか……。
確実に生きてここを出たかったら、ネズミが来る前に…できれば一撃で本体を仕留めなきゃならない。
殺す覚悟で掛からなきゃ隙ができるわ。
あんたの命とこれからの人生、あのクズネズミにくれてやっても惜しくないのなら別だけど、
そうじゃないなら………"戦う覚悟"を決めなさい。」
無言のうちに心に言葉を伝えながら、二人は部屋の中央辺りまで歩を進めた。
ひとみは立ち止まって有葵の顔を見下ろし、その瞳をじっと見つめた。射るような視線が回答を求めている。
>コーンッ!
狭い書庫内に響き渡る金属の落下音―――!
階段で浴びた潤滑油に手を滑らせた有葵が、得物のフライパンを取り落としたのだ。
「うわああぁあああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁああ!!!!!」
絶叫と共に、部屋の奥の備え付けの書架の影から、転がるように人影が飛び出す。
キャラクターがプリントされた黄色のトレーナーとピンクのスウェットパンツという、すさまじいファッションセンスの男だ。
右手に刃渡り20cmほどのバタフライナイフを握っている。
男は、二列に並ぶ書架を挟んだ細い通路に立ち、首を激しく振り回して周囲を見回していた。
状況を全く把握していない…といった風情で、目は泳ぎ、傍目に見ても分かるほどに激しく体を震わせている。
間の悪いことに、それまでノイズ交じりのヴィジョンでひとみ達の上に浮かんでいたフルムーンが
力尽きるように点滅して消えた。迷彩を失った二人の姿が顕わになる。
男は、部屋の中央に突然現れた二人の女に目を留め、
まさに死に物狂いといった表情で、ナイフを振りかざし襲い掛かった。
有葵に体重を預けていたひとみは、ナイフを避けた弾みでバランスを崩し、床に尻もちをついた。
「ひいいあぁああああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」
男は攻撃を止めない。立っている有葵に標的を絞り、奇声を上げてナイフを振り回し続けた。
【佐藤さんの集中力切れでフルムーンが消えたので、透明じゃなくなっちゃいました】
【エイドリアーンは決定ロールで倒してもらっても大丈夫です】
371
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/05/13(金) 17:20:15
ライブラリの書庫。冷んやりとした空気と張り詰めたような静寂が密室の床に停滞している正午。
佐藤ひとみと生天目有葵はフルムーンの迷彩に身を隠し、書庫に侵入していた。
(誰もいない……)
衣擦れの音。息づかい。周囲を見まわしながら一つ息を吸って吐く。
エイドリアンの姿はなかった。生天目が視線で佐藤に問えば、頭に直に流れこんでくる佐藤の声。
>「迷彩時は、シートの位置捕捉が使えないのよ。でも本体がこの部屋にいるのは間違いないわ。
ステレオポニーのエコーロケーション(音波探知)で探せないの?」
「あ…忘れてたっ!」少女は、佐藤にうなずいてみせ、スタンドを放つ。
背後から亡霊のように現われたスタンド、ステレオポニーが床にぺったりとひっつき音波探知を始める。
佐藤は続けて、生天目の精神に語りかけてくる。
>「それとね…一つ言っておくけど、
『お仕置き』や『懲らしめ』程度の浮ついた気持ちでいたら、私達生きてここから出られないわよ。
本体の危機に気付けば、ネズミは必ずここに来るわ。
あのバカやよね君達が足止めしてくれてるけど、それだっていつ突破されるか……。
確実に生きてここを出たかったら、ネズミが来る前に…できれば一撃で本体を仕留めなきゃならない。
殺す覚悟で掛からなきゃ隙ができるわ。
あんたの命とこれからの人生、あのクズネズミにくれてやっても惜しくないのなら別だけど、
そうじゃないなら………"戦う覚悟"を決めなさい。」
静かな世界で二人の視線がぶつかった。少女は眉根を寄せ困惑の表情をみせる。
しかし……
うなずく。
「わかったわ。ひとみん…」
奇妙な気持ちだった。世界には死が満ちている。
胸いっぱいに広がる、息を出来なくさせる甘酸っぱさは、いらだちは、足元の頼りなさはなんだろう。
自分はテレビゲームの世界の、神様に守られているようなヒロインなんかじゃない。
明日には死んでしまうかも知れない脆弱な存在。死は身近な友達。
372
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/05/13(金) 17:20:51
だけど…。だから、力いっぱい生きるのだ。その一瞬を一瞬を。
生天目は強くフライパンの柄を握りしめる。潤滑油で滑るフライパン。
耳朶を打つ金属の落下音。
>「うわああぁあああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁああ!!!!!」
静寂を埋める闇の声に空気がたわむ。
絶叫と共に書庫の影から現われたのは一人の男。恐らく彼がエイドリアンだろう。
右手にバタフライナイフを持ち激しく体を震わせている。
(とうとう会えたわね、ネズミの本体!!)
生天目は心の中で叫びエイドリアンをねめつけた。…と男とぱちりと目があう。
「はぇ?」
気付けば、フルムーンの迷彩が色を失っている。佐藤ひとみが力尽きたのだ。
死に物狂いで近づいてくるエイドリアン。その形相の凄まじさはまるで悪夢。
「くっ!!」
>「ひいいあぁああああああぁぁぁぁあああああ!!!!!」
「ばかね!スタンドもなしにかなうと思ってんの!?
今のあなたなんておしゃべりクソネズミじゃなくって、羽根をなくした蛾よッッ!!」
「オトトイキヤガレーーーーッ!!!!」
声だけが残る。スタンドは声を置き去りにしエイドリアンに回し蹴り。
彼の右手がヒズメにに弾かれ、バタフライナイフが喉元を薙ぐ。
噴出す鮮血に佐藤ひとみの視界が赤に染まる。次いで生天目も佐藤の横にぺったりと尻餅をつく。
「おわった?こんな狂ったノリスケみたいのに殺されたらたまらない。
スタンド使い同士って引き合うっていうけど、こんなキモヲタと一時間でも人生を交じあわせるなんて
金輪際真っ平ごめんよ…」
小さく肩を落とすと、生天目有葵は深くため息をついた。
373
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/05/15(日) 01:00:27
>「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」
御前等を庇って負傷し、それでもなお回ってきたパスに応えんとするよねの決死の突進。
物体の性質を書き換えるスタンドが発動し、アメリカねずみを内包した氷塊は可燃性を持つ。
「さすがの手際だなよね君ッ!俺は信じていたッ!きみならば、このクサレねずみに最も最も最も最も最も最も最もッ!!
恐怖と苦痛を与えるやり方で俺のフィニッシュに繋いでくれると!!きみの中に宿る残虐性を信じていた!」
御前等は氷のフィールドから歩み出る。もはやものを言うだけの、身じろぎ一つ効かぬ氷塊を見下げる。
あれだけイラっとする挙動と笑顔に満ちていたアメリカねずみは、いまや凍りついたような絶望を文字通り凍りつかせている。
>『ちくしょぉおおおお〜!!!こうなったら最後の手段だ!!!♪』
突如床から盛り上がってきたのはアメリカねずみと同郷のアメリカアヒルとアメリカリス。
もはや形を留めきらぬ彼らは――驚いたことに、それは粒子ではなく実物の床材だったが、御前等の足を掴み、首を締めにかかった。
御前等は表情を変えず、喉の筋肉を強ばらせて気道を確保、窒息を防御。無事な左手でねずみを指さす。。
「フン、最後の手段、か……。清々しいほどに敗北フラグを立てるじゃあないかアメリカねずみ!
貴様もわかっているのだろう?『創作幻想《ザ・ファンタジア》』。最古の創作物たる貴様は、創作世界の住人であるが故に――
アニメーション黎明の時代から連綿と受け継がれてきた黄金の予定調和(フラグ)、『お約束』には逆らえないッ!!」
リスが脚を万力の如く締めようとも、アヒルに締められた首がうっ血して唇から色が失われても。
御前等とザ・ファンタジアの距離はすでに2メートル。――アンバーワールドの射程距離だった。
「――それで、アメリカねずみよ。この俺に現実を知れとか抜かしたな」
左腕にスタンドの拳を宿して。
息を吸い、精神の力を発現する。
「だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが」
左拳だけのラッシュがアメリカねずみを蜂の巣に変える!
秒間80発はあろうかという拳の連打がたっぷり10秒ほど続き、フィニッシュブローで壁へと氷塊ごと突き刺さった!
「――――――だが断るッ!!(お断りだ)」
ただのラッシュではない。御前等のスタンドエネルギーの塊――歯車を付与した拳の嵐である。
無数の歯車達は着弾の瞬間に拳を離れ、氷塊へと付着し、ラッシュによって釘のように深く深く埋め込まれた。
御前等が指パッチンすると、氷塊内の歯車が一斉に回転し、歯車同士でこすれ合って火花を生じた。
『それは可燃性となった氷に着火する。』
ドバババババァァンッツッ!!
爆発、炎上。その勢いや凄まじかった。
通常ロウソクのロウやガソリンは、揮発した気体に引火して燃える。
気体になって密度が薄まった状態であれだけ燃えるのだ。凝固した個体のままスタンドによって引火性を付与されたものならば。
ダイナマイトにも匹敵するような轟音と爆炎を吐き出しながら、室内に生まれた極小の太陽は内包する全てを焼き尽くした。
「説教臭い作風は嫌われるぜアメリカねずみ。忘れるための現実に言及した時点で、お前は駄作なのさ」
【アメリカねずみにラッシュ後、氷を着火】
374
:
天野晴季
◆TpIugDHRLQ
:2011/05/16(月) 18:52:50
>「Sum41ッ!!!この氷塊は…可燃性となるッ!」
「ナイスですよねさん!」
>『なっナニぃ〜〜…♪ヤッやめろッウスラボケメガネッッ!!
裏人格に乗っ取られたキミは、闘いの欲求が押さえきれずに仲間を全滅させたがってる設定だったろ?
今更何でコイツらの味方してんだよ!!オイ止めろッッ!!
手を触れて口に出しさえすれば、何でも叶う能力なんて反則だろぉ〜〜!!オイ♪!!』
「…貴方に一つ教えてあげます。『分かるかいザ・ファンタジア。この市民会館では設定なって何の意味も持たないんだ。』
…それと君の能力も十分チートだよ。気温と湿度と気流を操るだけの僕なんか足元にも及ばないさ」
叫ぶファンタジアにそう言葉を投げかける天野
>『ちくしょぉおおおお〜!!!こうなったら最後の手段だ!!!♪』
「最後の手段? 違うね。最期の手段だよ。ところでトイレは済ませたかい? 神様にお祈りは? 部屋の隅でがたがた震えながら命乞いするも凍えて氷像なる心の準備はOK?
フリーシーズン。気流操作。タイプ:氷属性鎌鼬ッッ!!!!」
気流操作で超低温の鎌鼬を創り出し、泥人形を切り刻む天野
「…さ、これで終わりだよ。御前等さんが君を燃やすのを補助するために…
フリーシーズン! 気流操作! タイプ:旋風!!!」
ザ・ファンタジアの周りの空気をかき混ぜ、より効率よく燃えるようにした天野。これで御前等の炎は更によく燃えることだろう
「燃えてなくなれ。凍って砕けろ。切り刻んでズタズタになれ。吹き飛んで壊れろ。濡れて溺れろ。…そしてもう二度と。僕達の前に姿を現すな」
【泥人形達を切り刻み、御前等をアシスト】
375
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 20:43:49
>>373
>>374
泥土の如き粘着性の腕で、御前等の大腿にしがみつくアヒル。
背中に負ぶさるように首にぶら下がる出っ歯剥き出しのリス。
身体に絡みつく二体の傀儡を引き摺りながらも、渾身の力で一歩―――御前等は足を踏み込む。
間合いを削る一足。
今やザ・ファンタジアと御前等の間隔は、近距離型スタンドの射程二メートルを切っていた。
『くぅうっ〜〜…♪!!!チッ○!ド○ルド!そのウザバカの動きを止めろぉおお!!!♪』
ザ・ファンタジアに命じられた傀儡どもは、万力のような力で御前等を締付け、動きを封じようとするが…
>フリーシーズン。気流操作。タイプ:氷属性鎌鼬ッッ!!!!」
天野の一声で、超低温の鎌鼬が泥土の如き傀儡の体を容易く切り裂く。
バラバラに解体された手足頭が床に転がった。ドロドロと溶け落ち、元の床材に戻る傀儡の残骸。
体の自由を取り戻した御前等が、また一歩、足を踏み出し、ネズミの眼前に立ち塞がる。
>「――それで、アメリカねずみよ。この俺に現実を知れとか抜かしたな」
御前等と対峙するネズミの脳裏に、警鐘のような"声"が鳴り響く。
――――ザ・ファンタジアァぁぁああ!何をしているッ!早く来いッ!
俺が死んじまったらお前だって消えちまうんだぞぉおッッ!!――――
"声"は危機が"双方に"迫っていることを示していた。
しかし、氷塊の中に囚われたネズミに許される唯一の行為は、身に降りかかる惨禍をただ眺めることのみ。
(うるせぇ♪この役立たずッッ!!♪自力でなんとかしろッ!!こっちのが断然ヤベェんだよッッッ!!♪)
頭の中の"声"に答え終えた時には、既にスタンドと二重になった御前等の拳が眼前に迫っていた。
限界まで見開かれたザ・ファンタジアの目が恐怖を反射して煌く。
『―――――ぶげッッ♪』
ネズミの顔面にめり込むアンバーワールドの拳。
刹那の間を置き、繰り出される左ストレートの連弾!
>「だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
>だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
>だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが
>だがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだがだが」
氷と一体化したザ・ファンタジアの身体に、容赦なく鋼の拳が叩き込まれる。
半ば粒子化した状態のまま凍りついたザ・ファンタジアの身体は、氷の破片を撒き散らしながら
受けた拳の形に陥没し、見る影も無く変形していく。
拳の穿つ無数の穴に埋め込まれるスタンドの歯車―――異能の小片!
>「――――――だが断るッ!!(お断りだ)」
376
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 20:44:30
『ぷげらっっっ!!!♪』
吹っ飛ばされ、壁に激突するザ・ファンタジア。
氷塊と一体化したネズミの身体は、衝撃で砕けた壁の亀裂に突き刺さった。
>『それは可燃性となった氷に着火する。』
御前等がパチンと指を鳴らす。
ネズミの体内で擦れ合い着火する歯車。
ガソリンのような燃焼促進剤は、必然的に引火点以下の温度となる固体状態の時に火を近づけても、直ちに燃え移ることはない。
しかし、よねの能力によって設定を書き換えられた氷塊は、
常温の固体でありながら爆発的燃焼を引き起こす『火薬』に近い可燃性固体の性質を有していた。
>「燃えてなくなれ。凍って砕けろ。切り刻んでズタズタになれ。吹き飛んで壊れろ。濡れて溺れろ。
>…そしてもう二度と。僕達の前に姿を現すな」
加えて、天野の操作する気流が燃焼を促進させる。
>ドバババババァァンッツッ!!
建物を揺るがす轟音!立ち昇る爆炎!
ザ・ファンタジアの白い身体を紅蓮の炎が包み込む。
炎の衣を纏い、立ち上がったザ・ファンタジアは、どこかキョトンとした目をしていた。
あまりの出来事に状況を把握できずにいる者の目だ。
両手を広げて燃え上がる炎を見つめ、初めて身に起きた異変を察知したかのように、その瞳に戦慄が浮かぶ。
と、やにわに狂ったように頭を抱え絶叫しはじめた。
『ぎゃあぁああぁぁああああああぁあああああッッ――――ッ!!!!!!!!
熱い!熱い!!熱いッッッーーーーーーーー!!
嫌だッ!嫌だ!!嫌だぁあああああああッッッ――――――――!!!
死にたくないぃいぃぃッッ!!消えるのは嫌だぁあぁああああああぁぁぁぁぁあああああ!!!』
叫び声を上げる口の中も炎が燃えている。
粒子同士を凍結させていた水分が可燃物化し、内部からネズミを焼き焦がしていた。
地獄の業火は悪行の報いに罪人を焼くという。
人ならぬ身の悪を裁く炎があるのなら、まさにこれを業火と呼ぶべきなのかもしれない。
『嫌だあぁぁぁぁーー!!!消えたくないぃいいいいいいいいぃ――――ッッ!!!!………』
断末魔が途切れ、最後の残渣を焼き尽くすかのように炎が一際輝く。
宙に散った炎が消えた時、ネズミの姿はそこになく、床に白っぽい灰が薄く散らばっているだけだった。
377
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 20:46:19
* * *
エイドリアン・リムは冴えない男だった。職業は時間給のアニメーター。
小太りで低身長の上、引っ込み思案、当然女にはモテない。大抵の女は虫ケラでも見るような視線を彼に浴びせかける。
だがそんな彼も、子供…ことに幼い少女と遊ぶことは好きだった。
ボランティアで身寄りのない子供たちの施設に慰問に行くこともあった。
子供たちは、キャラクターの絵を描いてやると、とても喜んだ。
ずっと自分は子供好きなんだと思っていた。
その影に潜む抑圧された欲望に決定的に気づかされたのは、
人気のない森の中で出合った少女を衝動的に手をかけ、殺してしまった後だった。
死体を見下ろし途方にくれる彼の前に、それは現れた。
―――ザ・ファンタジア…彼にとってのヒーローの姿をしたアイツが。
以来、"エイドリアン・リムの欲望から発露した"と語る白いネズミが、彼の欲望を解き放った。
どんな残酷な欲望も、奴がいれば叶えられた。何をしたって警察にバレる筈がなかった。
最高に刺激的な友達が出来た気分だった………が、それも最初のうちだけだった。
奴は次第にコントロールできる"場"を広げ、勝手に行動し始めた。
"場"が発動している時、本体である彼は、何が起こっているのか知ることすらできず、脇役以下の役割しか与えられない。
今やどちらが主体だか分からない。
それに、ネズミが時折彼に向ける、"ウンザリ"という文字が浮かんできそうな視線……
自身から生まれたものにすら蔑ろにされるのかと、酷く屈辱的で虚しかった。
彼は、ザ・ファンタジアを制御したいと願い、その為の力を欲した。
―――"アイン・ソフ"…"悪魔の手のひら"…あらゆる異能を思うままに発現し操ることが可能だという、その力を……
勿論、あの女の言葉を全て信じていた訳ではない。それでも、疑いつつも、欲せずにはいられなかった…
しかし、それももうどうでもいい事だ。
ザ・ファンタジアが作り上げた"場"が崩壊する気配を感じる。
――――所詮、アイツは俺から自由にはなれない。一緒に逝くしかないんだ。アイツ悔しがるだろうな…
薄れゆく意識の中でエイドリアン・リムは、ささやかな復讐心を満足させた。
* * *
378
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 20:52:47
>>372
一文字に切り裂かれた咽元の切り疵を見せて、仰向けに床に転がる小男。
男は一度ゴボリと音を立てて血を吐き、そのまま動かなくなっていた。
今や何も映さぬ虚ろな目が天井に向かって見開かれている。
佐藤ひとみは、隣にぺたんと腰を下ろす生天目有葵に視線を向ける。
振り回された刃物を避け損なったのだろう。ワンピースは所々が切り裂かれ、頬に出来た傷に一筋の血が滲んでいた。
視線を交わして、少女は呟く。
>「おわった?こんな狂ったノリスケみたいのに殺されたらたまらない。
>スタンド使い同士って引き合うっていうけど、こんなキモヲタと一時間でも人生を交じあわせるなんて
>金輪際真っ平ごめんよ…」
ひとみは少女の問いに答える。
「おわったわ…多分ね……」
床の男は、どう見ても事切れている。が、ひとみは少女の前で"死"を口にすることを無意識に避けた。
返り血を点々とつけた少女の顔を、まじまじと見つめる。
人の生き死にとは無縁の、ごく普通の少女が、身を守るためとはいえ生身の人間を手にかけたのだ。
ひとみは有葵に"戦う覚悟を持て"と諭した。
覚悟なき殺人は、それがいかに正当な理由であろうとも、心に動揺と深い傷痕を残す。
覚悟は、不意に襲いくる動揺を、後悔を、良心の呵責を、跳ね返す強力な壁になる。
しかし、有葵のような恵まれた少女が、生来まっとうな生活を送りながら培ってきた素朴な良心は、
そう簡単に割り切れるものではないことも想像できた。
ひとみ自身も、あの時…あの男の命を奪うと決めた時…充分に"覚悟"を決めていた…筈だった。
それでも、時折押し寄せる後悔とも自責ともつかぬ感情に手を焼いていた。
もはや気の迷いと糊塗できぬまでに募り、処理のつかない感情は何なのだろう――――?
この出来事が……他者の命を――生きる価値のないクズといえど――自らの手で奪ったという事実が、
いつか少女の心に、染みのような黒い影を落としはしないか、抜くことのできぬ小さな棘となりはしないか、
ひとみは、有葵の小さな顔を見つめながら、同情に近い気持ちで、少しだけ彼女の行く末を案じた。
………ふと気づくと、並んで腰を下ろす二人の周囲の空間が、ぐにゃりと歪んでいた。
異変は部屋全体に及んでいる。床は波打ち、壁や書棚の輪郭がブレ始める。
触れると表面が小さく崩れ、粒子が宙に舞った。
その上、ライブラリから書庫に通じる扉の隙間から、焦げ臭い煙が入り込んでいる。
「あっちはあっちでカタがついたみたいね。
ここから出ましょう。早いとここの建物から脱出しないとマズイことになりそうだわ。」
ひとみは有葵を促して立ち上がった。
379
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 21:00:28
書庫と同様に、ライブラリも異変に見舞われていた。
壁も、床も、建具も、建物全ての輪郭が揺らぎ粒子が端々から零れている。
ネズミから飛び散った火の粉が書架の本に燃え移ったのだろう。書架から書架へ次々と火の手が広がり始めていた。
有葵の肩を借りて書庫から出たひとみは、ライブラリの面々の顔を見て叫んだ。
「あいつが死んで"場"が不安定になってる!今ならここから脱出できるかもしれない!
…てゆうかここにいたら、どっちにしても焼け死ぬわ!!四階廊下の突き当たりに非常口がある!そこに向かうわよ!」
ひとみはライブラリの唯一の出入り口、廊下に通じる扉を指差す。
…と、その時……
『く……ひ…ひひひぃ♪』
本を焼く炎の弾ぜる音に紛れて、不気味な笑い声が耳に入った。
声のする扉の方に目を向ける。
風に吹き寄せられるように床の灰が集まり、扉の前で『あのネズミ』が実体化していた。
実体化したネズミは以前とは様相が違っていた。
色は灰色を帯び、粗い粒子が寄せ集まっただけの体は、所々背後が透けて見える。
空中に灰をばら撒いて固めたような粗放な姿。
『ヒヒヒッ…残念だったねぇ〜…♪この通り僕は不死身さぁ〜…♪
ヒヒッ…あの役立たずめ…くたばりやがった…♪ヒヒヒッ…
それでも僕は消えずに存在してる…!!♪こりゃどういうこったぁ〜ッッ?進化だよ♪進化ッッッ!!♪
僕は今、自分の為だけに存在してる!スタンドを越えた存在ナンだぁ〜!!』
狂気に近いほどの饒舌で語るネズミの体表から、ボロボロと崩れるように灰の塊が剥がれ落ちる。
『オメーらは逃げられねえよォぉ〜!!♪タイムリミットは目前だァ〜♪
場の支配権は、まだ僕の手にある…!!ヒヒッッ!!』
勢いに乗せて、バン――――!と、ネズミが背後の扉を叩いた途端……
消し炭になったまま辛うじて形を保っていた柱の支える廃墟が、僅かな衝撃で跡形も無く崩落するように
ネズミの体が膝からガクンと折れ、粉々に砕け散った。
砕けた灰塵は再び寄せ集まることもなく、次第に空気中に拡散していく。
『……ちくしょう…体を保てねえ…〜…♪ダメージを受けすぎたのか…それともアイツが死んだせいか…?
……僕は所詮アイツの"創作幻想"でしかいられなかったのかァ…?…』
ネズミは自嘲気味に呟き、御前等に視線を移しニタリと笑った。
『…ウザキング君……君にはヤラレたよ……ヒヒッ…
僕と君は似た者同士だ…♪お互い創作物から借りたものでなきゃ自分を表現できないんだから…
……僕は姿を、君は創作物から派生した言葉をね…
僕には君の心がよ〜く分かる…♪
君は他人から嫌われるより、無視されることの方が余程怖いんだろ…?
だから、ウザがられ、嫌われても声高に自己主張をし続ける…クヒヒッ…違うかい?』
380
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 21:04:30
背後が透けて見えるほどに拡散した灰となりながら、ネズミは語り続ける。
『君はメガネ君のことを"頼れる仲間"なんて言ったけど、そうじゃないだろぉ〜♪
タマタマ目的が同じだから協力しただけだろ?言わば僕が作ってやった臨時のお友達さ♪
君には本物の仲間なんかいやしないんだ。ヒヒヒ…図星だろ…?
ヒヒッ……"忘れるべき現実"だって?……忘れたって現実は無視しきれるもんじゃない…
いつか必ず、忘れた筈の現実に足を掬われる時がくるぜ……ヒヒヒ…
君みたいなカラッポな人間が、望み通り、注目を浴びて、人の中心にいたいなら…
"力"を手にするしかないだろうね…
無視しようったって出来ない程の強大な"力"を……
じゃなきゃ、いつまでも耳元で羽音を立てる煩い虫ケラ扱いされて終わりさ…』
御前等を挑発する言葉に、ザ・ファンタジアは自らを重ねて語っていた。
忘れていたかった現実を突きつけられて愕然としているのも、
かつて、偽の現実を本物にするために、"力"を欲していたのも、紛れもなく自分自身のことだった。
ザ・ファンタジアは自我を肥大化させすぎたが故、
自身がエイドリアン・リムに従属する"能力"でしかない、という事実を受け入れ難くなっていた。
スタンドを越えた『個』としての存在を望んだ。
…ニューディバイドというあの骸骨男…あの生物ともスタンドともつかぬ存在は、
本体に束縛されることなく自由意志で行動している。スタンド自身が本体といえる存在なのだ。
…"アイン・ソフ"…"悪魔の手のひら"…全ての異能の根源ともいえる強大な力…
ニューディバイドが狙うその力を手にし、『個』としてあの骸骨以上に力を持つ存在になりたかった。
ネズミは天野に視線を移す。
『そこの少年…チートってのは"負けない"存在のことを言うんだ…♪負けちまったら結局は弱者の仲間入りさ…
気をつけな…君も借り物の言葉ばかり使ってると、ウザキング君みたいになっちまうぜぇ……♪』
もはやネズミの形すらなく、空を漂うだけの灰であった。
『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』
最後の言葉を吐いて、ネズミは空気中に散り、見えなくなった。
381
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2011/05/22(日) 21:11:56
ザ・ファンタジアが扉を塞いでいた間にも、"場"の崩壊は着々と進行していた。
粒子化し始めた床が、ぬかるみのように足を取り、今や歩行すら困難な状態だ。
スプリンクラーの放水が気休めにしかならない程、書棚の火災も広がっている。
佐藤ひとみは、ゲームの残り時間をセットしていた携帯電話に目を落とし、金切り声を上げた。
残り30秒のカウントダウンが始まっている。
「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
各自スタンドで何とかできるでしょ?下は芝生!上手く落ちれば骨折程度!死にゃしないわ!!」
南側に面した窓を大きく開け、ひとみは身を乗り出す。
体が外気に触れても、もう肌の表面が粒子に変化することはない。
根性で出現させたフルムーンの触手に両手を絡め、窓の外に飛び出した。
崩壊していく"場"にザ・ファンタジアの混濁した意識が流れ込む。
"場"から逃れようと足掻く面々は、ザ・ファンタジアの記憶の断片を見るだろう。
………黒衣の女が掲げる水晶の指輪から光が放たれ、ヴィジョンが浮かび上がる。
――――北条市の上空に10個の大きな実をつけた"逆さまの樹"が現れ、実を繋ぐ22本の直線が輝きを放つ。
――――地は巨大な爪に掻き回され街は廃墟と化し…――――そして生まれる強大なパワー!
――――禍々しく名状しがたき力なれど、異能の持ち主であれば気づくだろう。
――――その圧倒的な力が、自らの中にあるものと同種のものだということに……
意識が消滅する直前、ザ・ファンタジアは『あのウザい青年は僕のことを忘れられないだろうな』と思った。
……忘れてほしくない…と願った。
あれだけムカッ腹の立つことを言ってやったのだ。忘れようとしても、忘れられるものではないだろう……
最後の挑発の理由であった。誰かの記憶の中にあるうちは、完全な"消滅"は訪れないのだから。
* * *
辛くも市民会館から、全員が脱出を果たした直後、四階の窓が一斉に割れ、爆炎が噴き出した。
ライブラリから出火した火の手が、物置に保管されていた灯油に引火したのだ。
かつて市民会館と呼ばれた建物は、空を焦がす猛火と黒煙に包まれて燃え盛っていた。
【ザ・ファンタジア、灰になって消滅】
【各自、飛び降りるなりスタンドを使うなりして、四階の窓から脱出してください】
【黒衣の女(影貫)が見せたヴィジョンは『このパワーはイメージです』みたいな感じので
現実に起こったこと(起こること)とは限りません】
382
:
よね
◆Cj3ysYNKG2
:2011/05/23(月) 00:57:34
よねは満身創痍で、ライブラリの壁に座りながらもたれかかっていた。
意識は朦朧としている。辛うじて、声にもならないほどの小さな声を出せるくらいであった。
/『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』
「やりましたね…勝ちましたよ…我々は……理不尽な状況から、激しい逆境から……ヤツのゲームに…勝ったんです…」
身体中の感覚が無い。よねは、床の、壁の感覚をも感じることすら出来なかった。
それでも、よねは何とか最後の力を振り絞り、立ち上がろうとする。
だが、ライブラリの床は既にぬかるんでおり、
よねは立ち上がれずに、再びその場に、ドタッと崩れる。
「勝ったのに…悔しいなぁ…………」
床に倒れたよねは、誰にも聞こえない様な声で小さく呟いた。
間接的に自分が放火したであろう、書棚の火。
その火の粉がよねの衣服や、愛用の帽子に降りかかる。
"地獄の業火は悪行の報いに罪人を焼くという。"
だが、果たして、よねに地獄の業火に焼かれるほどの大罪はあったのだろうか?
眠気に似た感覚に襲われていたよねの耳に、佐藤の声が聞こえてくる。
/「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
(そうか……脱出する、というのが勝利の条件だったのか…ってことは、このゲーム、自分の負け…ですか…)
勝敗条件を勘違いしていた自分を、心の中で笑う。
よねの意識が遠のいてゆく。
人は死ぬ間際に走馬灯を見る、とよく聞く。だが、よねにはその様な類のものは見えなかった。
フッと、蝋燭が消えるように、よねの意識も消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
よねの意識が無くなってから、何時間、いや何日、いや何ヶ月経っただろうか?
意識を失っていたよねが再び目を開く。
厳密には目を開いたわけではない、視界が回復したのだ。
視界には、だいぶ前に見た気がする、市民会館のライブラリ。
忌まわしき、狂った"ゲーム"があったライブラリ。
床はまるで泥沼のようで、書棚や床にはところどころ火がついている。
だが、それら全てが、まるで凍ったかのように、静止していた。
無音であった。物が燃焼する音も、生理的な耳鳴りの音も、無かった。
(ここは……Sum For Oneの空間…?まさか、ずっとこの世界で意識を失っていたのか…?)
383
:
よね
◆Cj3ysYNKG2
:2011/05/23(月) 00:57:52
Sum For Oneは、よねの潜在意識の顕在である、通称"裏のよね"が表の人格を奪ってから使えなくなっていたSum41の能力である。
そこは、あらゆる物理運動は停止し、時間でさえも静止する世界。唯一、動くことが許されるのはよねの思考、即ち意識のみ。
(…勝手にSum For Oneが発動したのだろうか?)
そんな事は有り得るはずも無い。何故ならば、スタンドとは人間の精神の具現化であり、本体の精神無しには存在しえないからである。
だが、エイドリアン・リムのスタンド、ザ・ファンタジアが最期にやって見せたように、
スタンドだけがほんの少しの間だけ、自我を持ち、存在することが可能なのだとすれば…?
よねがそんな事を考えていると、
「自分でも思うだろう?裏の人格、潜在意識の顕在だなんてつくづくフザけた設定だって」
よね自身の声がする。否、これはよねの声ではない。"裏のよね"の声だ。
「でもね、私は確かに存在するよ。君の潜在意識の顕在として。そして君の"表の人格"を奪ったんだ。
けれど、君は"表の人格"を私から取り戻そうとした。おかげでこの有様だよ」
何物も動くことを許されないハズの世界で、よねの視界によねが現れる。
だが、そのよねは体の大半が黒く変色していた。
「一つの身体に、二つの人格が"表の人格"として存在し続けれるワケないだろう?だから、私と君の人格もとい精神は"融合"し始めているんだ。
だから、使えなくなっていたSum For Oneの能力も復活した。そしてそれを朦朧とした意識の中で私が発動させたのさ。この私の体の変色も"融合"のせいだよ」
べらべらと、目の前のよねは一人で喋っていた。だが、その話はどこか性急に感じられた。
「精神が融合するってことはさ、私の精神と君の精神がそれぞれ一つずつ持っていたスタンドも一つになっちゃうってことだよね。
半分になったスタンドとスタンドが融合…私はきっと元に戻るだけなんだろうなって思っていたのさ。
けど、違った。私が君から人格を奪っている時に、私の精神が持っていたスタンド、つまり私のSum41が成長してしまったんだよ。
本当なら、半分と半分で一つのスタンドに戻るハズだった。けれど、片方が大きくなったから本来のスタンドよりも大きくなってしまうんだ。
本来の許容量を超えたスタンドはどうなるか…これは十人十色かもしれないけれど私たちの場合は――」
その話の突然、何かが弾けた様な音と共に、Sum For Oneが解除された。
動き出した世界。物が燃焼する音も、生理的な耳鳴りの音も、確かに存在していた。
(本来の許容量を超えたスタンドは……消滅する…ッ!?)
最後まで言葉を聞かなくとも、"裏のよね"が言わんとすることは理解できた。
これも精神と精神が融合しはじめている証拠である。
(大丈夫…まだSum41は使えるみたいだ…出来る限り早く脱出する…ッ!)
今のよねはゲームに負け、死を確信していたよねではない。
よねの精神は十分に休息を取り、復活していた。
「足は使えないッ…!けれどスタンドならッ!これが最期の"書き換え"だァァァッ!
Sum41ッ!この床は自分と反発しあう!それもとびきりヤバいくらいにッ!!」
最後にSum41がよねに見せた姿。
よねの精神以上のスタンドとなったSum41は、以前の少年のようなスタンドから、大人びた風貌に成長していた。
ドビッシュゥゥッ!!
凄まじい勢いでよねが南側の窓から飛び出す。
その時、頭の中にとてつもなく禍々しいヴィジョンが流れ込んできた。
だが、よねはそれどころではなく、上手く着地するために姿勢を作るのに必死だった。
着地!すると同時に勢いを殺さずにゴロゴロと芝生の上を転がる。
身体中が痛む。視界も霞んでいる。しかし、よねが感じた外の世界は、普段と特に何も変わらず、爽やかだった。
――米コウタ、スタンド消滅、再起不能
【よねも脱出しました】
384
:
生天目有葵
◆gX9qkq7FNo
:2011/05/26(木) 20:29:31
無惨なものが生天目有葵の目に映りこむ。
それは書庫の天井を見上げ転がっているエイドリアン・リムの死体。
>「おわったわ…多分ね……」と佐藤ひとみ。
「…そう……やっぱり死んじゃったのか」
少女の胸に小さな痛みが走った。
見つめ返す佐藤の瞳には影がちらついていた。体の芯が震え胸がざわめいた。
彼女の心に繋がろうと、ひたすらに言葉を探す自分が、生天目には不思議だった。
でもそうしないと、胸がなんだか痛い。痛いまま。
>「あっちはあっちでカタがついたみたいね。
ここから出ましょう。早いとここの建物から脱出しないとマズイことになりそうだわ。」
「え…。うん。そうしよ…」
※ ※ ※
炎上する市民会館。崩壊する『場』。
最後の悪あがきで扉の前に立ちはだかるザ・ファンタジアをステレオポニーがなじる。
>『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』
「ザカシイネズミダヨ〜!最後マデ人ヲ馬鹿二シテ!自分(エイドリアン)サエ「ゴミ」扱イカイ?
トットトサリヤガレ悪党!自分自身二、アノ世デ詫ビナッ!」
ザ・ファンタジアは霧散し道が開ける。ぐねぐねの床が怖いくらい気持ち悪い。
非力な生天目に、天野、御前等、よねを助ける余裕なんてなかった。
>「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
各自スタンドで何とかできるでしょ?下は芝生!上手く落ちれば骨折程度!死にゃしないわ!!」
「うそーっ!!ヒモなしバンジーなんて冗談じゃないぃいいっ!!」
意を決し飛び下りる。頭上で響く轟音。
流れる風景に混濁するヴィジョン。錯覚と言うにはあまりにもリアルなヴィジョンだ。
スタンドをクッションにして着地する。振り仰げば四階は炎に包まれている。
――眩しいくらいの夏の雲がゆるゆると蒼天を流れる。
光る風が渡る。さわさわと茂みが鳴りどこかで咲く花の香りが
生き残った者たちのあいだを流れさる。
風は佐藤ひとみの長い黒髪を大地から掬いあげ天へなびかせていた。
風の行方を目で追い雲間からこぼれた陽射しのまぶしさに生天目は目びさしをした。
見あげた北条市の空は悲しくなるほど青かった。
385
:
天野晴季
◆TpIugDHRLQ
:2011/05/27(金) 19:02:28
>『そこの少年…チートってのは"負けない"存在のことを言うんだ…♪負けちまったら結局は弱者の仲間入りさ…
気をつけな…君も借り物の言葉ばかり使ってると、ウザキング君みたいになっちまうぜぇ……♪』
「…そうでもしないとキャラが立たないんだよ…。君や御前等さんは良いよね、キャラが強くてさ。…取り合えず『非科学的だ』を口癖にしてみるか?
…でもスタンド使いって時点でそんなこと言える立場じゃないよね。伊達眼鏡でもかけてみるか? …眼鏡キャラはよねさんと被るな…
でも良く考えたら他作品ネタ多様も御前等さんと被るんだよな…
…『チートは“負けない”存在のことを言う』か…ま、確かにそうかもね。でもさ…
『負けることしかできない』ってのも、それはそれでチートなんじゃないかな…? …なんてね! ただの独り言だよ!
だから気にせずそのまま消えちゃって!」
ちょっとメタっぽいことを言う天野
>『……弱者は"力"を手に入れなきゃゴミさ…"力"を……』
「消える間際に全国の弱者を敵に回したね、君。全国の弱者様申し訳ございません。お気を悪くしたのであれば、
えーと…すみません。何も思いつきませんでした」
全国の弱者様ってなんだよ。
「…さて、これでザ・ファンタジアは消えて僕達の勝ち。ハッピーエンドですねっ!
じゃ、早くここから脱出しないと火達磨になっちゃうな…」
そう言って窓を開ける天野
「…うん。いい風だ。この風なら…フリーシーズン。気流操作! タイプ:エアクッション!」
無風状態で気流操作をするには、風を生み出してそれを操る必要があるのだが、既に風が吹いているのなら、
その向きを変えるだけで良い。足りない分の風力は生み出して補えば良い。
「よし、脱出!」
窓から飛び降り、風で自分の身体を支えてゆっくり地面に降りる天野
「ふわり。さて、皆は大丈夫かな…」
脱出に成功して、特に怪我もないので周りの様子を窺う天野
【脱出成功】
386
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/06/08(水) 05:06:04
崩れゆくライブラリ、ひいては市民会館の中で、ザ・ファンタジアは末期の叫びを上げた。
終わっていく。ザ・ファンタジアというコンテンツが、終了していく。それは大団円などでは決して無い――強制終了。
>『……ちくしょう…体を保てねえ…〜…♪ダメージを受けすぎたのか…それともアイツが死んだせいか…?
……僕は所詮アイツの"創作幻想"でしかいられなかったのかァ…?…』
ザ・ファンタジアの、白濁して機能を失った眼球が、ぐるりと御前等を見た。
死神に首を触れられた死者が、生者を引きずり込もうと必死になる、そんな眼をしていた。
>『…ウザキング君……君にはヤラレたよ……ヒヒッ…
僕と君は似た者同士だ…♪お互い創作物から借りたものでなきゃ自分を表現できないんだから…
……僕は姿を、君は創作物から派生した言葉をね…僕には君の心がよ〜く分かる…♪
君は他人から嫌われるより、無視されることの方が余程怖いんだろ…?
だから、ウザがられ、嫌われても声高に自己主張をし続ける…クヒヒッ…違うかい?』
「フハハ、知ったような口を聞くじゃないかアメリカねずみよ!オワコンの貴様と一緒にされちゃ――」
>『君はメガネ君のことを"頼れる仲間"なんて言ったけど、そうじゃないだろぉ〜♪
タマタマ目的が同じだから協力しただけだろ?言わば僕が作ってやった臨時のお友達さ♪
御前等の、いつもの白々しい発言が。初めて他者の言葉で潰された。
類まれなる自己主張の強さを誇る御前等にとって、それは初めてに近い経験だった。
図星だったのである。
> ヒヒッ……"忘れるべき現実"だって?……忘れたって現実は無視しきれるもんじゃない…
いつか必ず、忘れた筈の現実に足を掬われる時がくるぜ……ヒヒヒ…
君みたいなカラッポな人間が、望み通り、注目を浴びて、人の中心にいたいなら…
"力"を手にするしかないだろうね…
「フン……いいだろう。ここから先は俺も腹を割ろう」
御前等は、いつも顔面を装飾していた、狂気じみた笑みを消した。
今の彼はまったくの無表情で――それこそが、御前等祐介の本音の顔。偽らざる真実の意志。
「本当は、ずっと前から分かっていた……『俺には何も無い』。縋れる過去も!誇れる栄光も!忌むべき歴史すらない!
ここに至る18年余の人生で!自分以外の誰からもモブキャラ以上の認識をされなかった!だから、だから俺は――」
ウザキャラを被ることにした。
場違いなテンションで騒ぎ立てていれば、誰からも忘れられずに済むから。御前等は、絶やすことなく誰かに構って欲しかった。
「空気を読んで!おとなしくしていて!得られたものなんてなかった!敵意だって関心なんだ!だから俺は戦えた!
お前もそうなんだろザ・ファンタジア!どうしようもなくしょうもない、最後の自己表現として、俺たちは正しく間違えたんだ!」
きっと、彼はザ・ファンタジアのことを憎めずにいたのだ。同じ志を持つ、共感できる相手として。
敵味方の枠組みを超えて、自分に関心を向けてくれる最良の相手として。いつの間にか、友情めいたものを感じていた。
「根っこの部分以上に、同じなんだよ俺達は!似たもの同士が戦って、より自己主張の強い方が勝ち、負けたほうが死んだ。
だからこの物語は、これでおしまいなんだ、ザ・ファンタジア。俺とお前の戦いは、『終わってしまった』……!」
>「もう間に合わないッッ!!ここから飛び降りるわよ!!
各自スタンドで何とかできるでしょ?下は芝生!上手く落ちれば骨折程度!死にゃしないわ!!」
建物の維持が限界に達していた。
床が傾き、壁が崩れ、御前等は外に放り出される。消えていくザ・ファンタジアを、最後まで視界に捉えながら。
「俺はお前を忘れない。お前が俺を忘れないようにな。お前という存在にケリをつけたのは俺だ。
最後の最後――お前という『世界』の『中心』は、間違いなく俺だったッ!俺が渇望したものは、お前の中にあったんだッ――!」
重力加速度が御前等から血圧を奪い、脳から血の気が引いて意識が遠のいていく。
体中がズタボロで、全身が疲労していて、なにより今日はスタンドを使い過ぎた。精神が瞼を落とすのに、逆らえるはずもなかった。
意識を手放す直前、御前等は唇を震わせて、確かに呟いた。
「――これが、たった一つの俺の勝ち方だ」
【脱出&気絶】
389
:
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:2013/11/30(土) 04:09:11
【臨時レス置き場】異能者達の奇妙な冒険【荒らし対策】 - なな板TRPG よろず掲示板 モンクレール アウトレット
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390
:
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:2014/03/07(金) 04:19:26
次に、オーデマピゲ、AP。 優れた要約を踏まえだけでなく、非常に最も伝統的なトレンドの突破口に八角形の昔ながらの場合と原則として見る「ロイヤルオーク」(RoyalOak)、になります、特に9要因が、それは、9美しいアンカーネジになってしまった 非常に強い、非常に困難である。 APの値が売却可能ヘンドリーも言葉高価な宝石、通常排他、素晴らしいことができる、「ロイヤルオーク」とすることで、さまざまな値札78000元となる金属を提供しています。第三、オーデマピゲ、AP。 高いアカウントによるだけでなく、非常に時代を超??越したモデルの始まりは、八角形の風ケースに関連付けられたポリシーと見られ、「ロイヤルオーク」(RoyalOak)として際立っている、実際の6エッジが8月10日かなりアンカーのネジになってしまった 、それは本当に自己主張が強い、非常に不確実です。 APのコストは間違いなく高く、頻繁にちょうどヘンドリーも販売番号ネックレス、「ロイヤルオークは、 / sとメンズ品種費78000元が含まれ、それは完全な18金イエローメタル結婚式はコストが問題の1 3のうち何千もの改善を呼び出しています 。
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