したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

創発シェアワスレクロス企画(仮)

1名無しさん@避難中:2011/11/03(木) 18:38:39 ID:wt6dJcvM0
誤爆で軽く話をしてたシェアワのクロス企画、ちょっと真剣にやってみたいな
と思ったんで思い切ってスレ立ててみました。

と言っても今のところなにかはっきりとしたビジョンがあるわけじゃありません!
ぜひ各スレ作者様方にも参加してもらって、一から練り上げていきたいと考えてるところです!
あ、もちろん「どのシェアでも作品は書いてないけどお祭りっぽい企画は好き」
っていう書き手さんもウェルカムですので!

とこんなノリでシェアワのお祭りがしたいなーと思ったんです。
ぜひみなさん、一緒にこの祭りを創ってくれませんか!?

285名無しさん@避難中:2012/08/18(土) 23:36:08 ID:QoAkXFiw0
また動き出してくれればいいな!

286名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 14:19:04 ID:myIi3PMQ0
キッコさんマジ妖狐。堅実な思考をお持ちだ。演出とかしちゃってるけどw

仁科世界もよく見るとたまにオカルトなとこあるよな。
それでも反応がちゃんと一般人なのが異常事態に慣れっこな他の世界のキャラと対比になってていいなと。

>世界
アイスファングさんの時も思ったが、もうそのへんはフレキシブル設定でw
別に食い違っててもいいしな。

287名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 19:50:04 ID:Rw11KjzMO
自分が使うと他で使われなくなりそうで悩むよな。
でも使うけど。

288名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 20:17:05 ID:AH0LEQeg0
全世界がバラバラにくっついているかもしれない系だったっけ?

そろそろ満をじしてこの騒動の犯人が現れてもいい気がするぜ

289名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 21:08:17 ID:Rw11KjzMO
>>56が基本だけど、あんまり気にしない方向で。

まだ話が動きだしてもないのに黒幕は早いだろw

290名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:14:44 ID:AH0LEQeg0
キッコさんそのまま神様に収まってしまわないかとドキドキする

>>289
だがしかしこのスレもできて長い
誰かが大きな目標を臭わせてもそれはそれでいいと思うのだ

291名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:33:04 ID:Rw11KjzMO
まあ確かにラスボスが一話から登場してはならないって法はないな
チェンジリングやみんつくにはそれっぽい大物もいないではないか?

292名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:39:02 ID:mkN8VUYIO
それでもハルトさんなら
ハルトシュラーさんならやってくれるはず!

293名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:41:11 ID:Rw11KjzMO
彼女はシェアのキャラなのか?w

294名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:43:10 ID:tbQH5bGg0
閣下スレとかキャラスレの進行の仕方はシェアワっぽいとは思うw

295名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:45:13 ID:mkN8VUYIO
ノリノリで悪役やっとくれそうで
あまり血みどろな展開にはならなさそうだからなんとなくww

296名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:46:14 ID:AjDsc/1M0
閣下は出していいもんなのかwww

297名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:48:23 ID:Rw11KjzMO
あのへんのキャラは強烈すぎるし身内ネタが豊富すぎて、出すとなると相当な弊害がありそうだがw

お祭り企画だからやる人がいるなら止めないけど。

298名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 22:55:07 ID:mkN8VUYIO
まあ俺はハルトシュラーは名前とロリババアってことくらいしかしらんがな!
あと魔王

299名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:07:03 ID:iXtBuWZ.0
企画の趣旨から外れなければ別にいいんじゃね

300名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:23:16 ID:AjDsc/1M0
逆転の発想。「なんかエライ事になってるシェアスレ連中を観察する創発キャラの連中」

301名無しさん@避難中:2012/08/19(日) 23:36:25 ID:Rw11KjzMO
悪くない

302名無しさん@避難中:2012/08/24(金) 01:31:18 ID:etNQ8HFwO
戦闘ってむずいなぁ
手を出すべきではなかったかも

303名無しさん@避難中:2012/08/24(金) 22:50:47 ID:T4TyQlzg0
期待してるぜ

304名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 05:20:31 ID:6U8tNMtI0
戦闘って風景を書くよりずっと楽だぜ。風景は馴れないが戦闘はすぐ馴れるw がんがれw

305名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 15:53:29 ID:hMPgvrf6O
そういやここ最近風景を書いた覚えが……ない……
機会見つけて精進します

……白狐と青年の作者さんにお伺いしたいんですが、匠が棒から展開する刃は実在の刀剣のようなものでいいのでしょうか。
一応固体だけど見た目はビームサーベルみたいとか、なんか結晶を削った刃(打製石器の鏃みたいな?)的なものとかじゃなくて。

306 ◆mGG62PYCNk:2012/08/25(土) 21:32:47 ID:g43TqiuU0
>>305
>>匠が棒から展開する刃は実在の刀剣のようなものでいいのでしょうか。

おーけーです
結晶を打ち欠いたような武骨なものではなくこう……スタイリッシュな感じ?

スパロボをご存じだったらスレードゲルミルの斬艦刀とか想像していただけると絵面的にいいかもしれません

307名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 21:39:27 ID:hMPgvrf6O
どうもありがとう。把握しました。

308名無しさん@避難中:2012/08/29(水) 00:06:52 ID:nuQ67xhoO
連投で悪いんだけど、チェンジリングみんつくケモの中で黒幕ができそうなキャラって誰がいる?
できれば参加表明者だと嬉しいが、そうじゃないから交渉も視野に入れる。

ちなみに仁科は……強いていえば霧崎あたりかなぁと思うが……向いてなさそうw
もうひとりちょっと変則な候補もいるけど。

309名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 22:13:59 ID:y/Ndvl7c0
チェンジリング比留間慎也みんつくだと境灯あたりを推してみる

310名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 23:19:33 ID:9wS/8v8Y0
ケモすれはどのキャラもみんな人が良過ぎて黒幕の器にならんってね。

311名無しさん@避難中:2012/08/31(金) 00:05:12 ID:L.qnyP3kO
>>309
ありがと
確か比留間も灯も参加表明はなかったよな? ちょっと把握してからいろいろ考えてみるかー

>>310
まあ、悪意でやったわけじゃなくてもいいしなw
なんかの事故とか

312名無しさん@避難中:2012/08/31(金) 11:20:23 ID:HWS6B//20
比留間さんだと野望と被っちゃうってのもある

他にはドグマあたりが組織ぐるみでやったらできないことは無いんじゃないかなあとか
地獄は困惑してたから他国の地獄ならどうかなあとか

313名無しさん@避難中:2012/09/01(土) 01:24:36 ID:TvjkXY.kO
そのへんはおいおい考えるということで。
俺以外の人が先にやってくれたら勝手にそっちに合わせるけどな。

314:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:53:36 ID:Ex03LS.o0
投下します
>>269->>272の続き

315:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:54:35 ID:Ex03LS.o0


 ※


 ――時針は、数字の十二と一からほぼ等距離。“お楽しみはこれからだよ”。
 ――時刻は、午前零時半にわずかに足りない。“早すぎるんじゃないかな”。




 ※


 十数メートルの距離で相対する、巨大な蜘蛛の化け物と、金属の棒を携えた青年――
 それは、特撮作品のワンシーンのような、ひどく現実味のない光景だった。
 青年の背後で尻餅を突いている俺が一般市民すぎる。いや、それでもいわゆる“今週の犠牲者”になっていな
いだけ幸運か。
 戦闘の邪魔にならないように一秒でも早くこの場から逃げ出したいところだが、……今ちょっと起てる気がし
ない。これが腰が抜けたというやつなのか。うわだせぇ。一般市民以下だな。

「なかなかの大物だな」

 青年は口笛を吹くような口調で言ってのけたが、その声に油断の響きは微塵もない。やはり、こういう事態に
慣れている?

「――!!」

 蜘蛛が乱入者を敵と見定め、撥条仕掛けとなって跳んだ。成人男性ていどは頭から丸齧りにする口腔は、もは
や一個の魔窟だ。
 だが、青年は、蜘蛛が動き出すのと同時に、既に地を蹴っていた。
 空中に浮かぶ巨体の下に潜り、金属棒を突き上げる。
 狙いは、蜘蛛の腹か! だが、あれだけの図体で上を押さえられては、もし腹を突き破れたとしても圧し掛か
る死骸の重さに潰される!
 さらに、蜘蛛は青年を捕獲しようと八つの肢を総動員。それはさながら、地上の人間に覆い被さる野蛮な巨人
の掌。逃れる術はない。
 上からは巨大質量、下には大地、前後左右から殺到するのは長槍と見まがう爪牙。
 絶体絶命の状況下にあって、最期に垣間見えた青年の口元には、しかし不敵な笑み。

 ――燐光――

 信じ難いことに、一瞬、蜘蛛の巨体が、浮いた。
 俺の目撃したままを話すなら、青年が金属棒による打突に剛力を乗せて“押し上げた”、でいいのか?
 ……あの男、本当に人間か!?
 青年を刺し貫くはずだった八つの肢は、いずれも標的から上方にずれて金属棒の半ばを挟みこむに留まる。彼
はいわゆるノックバック攻撃によって、同時に回避も行ったのだ。

「……ちょっと足らなかったか」

 棒を足場に器用に一躍して距離を取る蜘蛛を見送りながら、青年はパートナーを軽く振ってみせる。

316:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:56:25 ID:Ex03LS.o0
 この戦闘――。一合目は青年の判定勝ちといったところか。
 もっとも、俺の見た感じ、蜘蛛のほうにも目立った損傷はなさそうだ。跳ぶ動きも憎たらしいほど俊敏。陸上
生物の多くが急所とする腹まで装甲でがちがちに固めていたというのもあるだろうが、狙いを外された足が結果
的に金属棒を抑えるかたちになり、その分威力が減衰したのだろう。
 無機質な四連単眼に、にわかに警戒の色が濃くなる。
 するする、するする。蜘蛛は青年との隔たりを小刻みに削る。恐る恐るやちょこちょこなどという可愛らしい
動きではない。虎視眈眈と獲物を窺って隙あらば領土を侵犯しようという厚かましい動き。

「させねぇよ」

 まどろっこしいのは好かぬとばかりに、青年がにじり寄る蜘蛛へと大きく一歩を踏み出す。
 猛者と猛獣の殺傷圏が重なり合い、学園の片隅に時期外れの嵐が巻き起こった。
 一帯を薙ぎ払う蜘蛛の前脚は、まさに暴風めいていた。一撃の重さではさすがに怪物の圧倒的有利。直撃すれ
ば人類などひとたまりもないだろう。……まあ、あの青年が人間であるかは個人的に大いに疑わしいが、彼にと
っても脅威であることは間違いない。事実、青年はまともに“受け”ようなどとは考えず、ひたすら捌きに徹し
ている。
 そう、青年は蜘蛛の猛攻をうまく捌いていた。人類の反応速度ではどう足掻いても対応できないので、反射的
に行えるようになるまで反復練習した身体操作と先の先の読み合いで戦うとか、そういう次元の話だ。
 もちろん、そこに反撃の布石も打たれているであろうことは想像がつく。
 八つの歩脚で地上を這う蜘蛛は安定性が高く、致命的に体勢を崩すことは容易ではない。だが、必要な時に必
要な動作を間に合わせないようにすることはできる。

「……ここだっ!」

 金属棒が遠心力によって青年の掌の中で滑る。そうやって間合いを変化させるのは、長柄武器の使い手の常套
手段だ。
 届かないはずの攻撃が、届く。いわゆる介者剣法の要領で、単眼周りの継ぎ目を抉る狙い。対して蜘蛛は後出
しで反応、辛うじて打点をずらし、一枚甲殻の中央で受ける。
 金属棒は、蜘蛛の顔面で撥ね返るような動きをした。効いているようにはまるで見えない。
 だが。青年は貌色ひとつ変えず、その弾みをそっくり追撃に流用する。切り上げられた金属棒が、青年の腕の
しなりで鞭のように加速、さらに螺旋運動を通して“突き”に変化。再び蜘蛛の眼窩を目掛けて射出された。
 堪らず蜘蛛が歩脚を左右側で逆に動かし、戦車でいう超信地旋回を敢行。急所を避けるが、横っ腹への衝撃で
巨体が揺らぐ。
 動きの止まった今になって気づいたが、カウンター気味に青年の肝臓に伸ばされていた蜘蛛の爪を、彼は金属
棒の手元の部分で遮っていた。かの武器には、それができるほどの長さがある。
 目まぐるしい攻防に、俺のほうはまったく付いていけてない。援護射撃に石投げちゃってもいいんだが、何か
余計なことをするとかえって場が荒れそうで怖い。

317:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 03:59:24 ID:Ex03LS.o0
 流れが青年にあると察した蜘蛛は、さらに畳み掛けようと攻撃態勢を整える青年の射程範囲から急速離脱を図
り、八つの肢を撓(たわ)めて筋力を溜める。

「させるかよ!」

 だが、見す見す退避を許す青年ではない。
 ここから先は、俺の理解をはるか超えていた。
 何の幻か。
 “光”が。
 夜蛾じゃれつく外灯すら霞む光源が、地上に出現。青年と金属棒が燐光を帯び、夜の闇を討ち祓う。
 金属棒の表面全体にひと際強い白光の線が引かれていき、それらは精緻な幾何学模様を形作っていった。

 ――奇跡を行う魔法使いが描くという魔方陣のようであるが、
 ――プリント基板の上を整然と走る電子回路のようでもある。

 体系化された技術を想わせる中にも、我らが不可能を可能とする不思議な要素があると分かる。発見されざる
極微の粒子、あるいは波動、そういう何か。

「“異形”ならざる異形のもの」

 金属棒の先端から、莫大な光が迸る。
 白い光は“本体”に劣らぬ確かさで実体化し、刃渡り二〇〇センチメートル、身幅五〇センチメートルの巨大
な刃となる!
 全体としては馬上突撃槍のようなシルエットだが、れっきとした諸刃の剣だ。芸術的な機能美に、ある種の神
々しさをすら感じさせる、流麗な金属の刃。どう考えても棒より刃のほうがでかいよな、などという考察が馬鹿
らしい。
 青年はむしろゆっくりとその切っ先を上空へ向け、

「――粉砕してやる」

 落雷と見まがう斬撃が発動。
 輝ける処刑人の刃が怪物へと落ち、目映い光が一帯を制圧。
 それは、“光の爆発”とでもいうべき圧倒的破壊現象を引き起こす。視界に灼きつく閃光、思わず体が強張る
地響き。赤褐色の煉瓦が砕かれて吹き飛ぶのがちらと見えた。

「……」

 たぶん、つかの間の静寂。耳鳴りのせいでよく分からないからたぶんだ。
 巨大な刃を振り下ろした青年の足元から前方へ、大地にはやはり巨大な割れ目が刻まれていた。氷原の裂縫の
ような奈落の暗さは、時間帯のせいなのか、傷の深さのせいなのか。どうであれ、地面を切り裂くなど、常軌を
逸しているとしか言いようがない。

「えー……」

 もう笑うしかない威力だが、笑えない。全然笑えない。これ以上こいつらに本気を出されると俺たちの学園が
倒壊する。『学園を壊しませんか?』……どこのキャッチコピーだ。やめろ!
 いや、そんなことより、蜘蛛は……!?

「いない……?」

 艶のない黄金の巨体は、悪寒を催す威圧感ともども消滅していた。……逃げた? まさかあのタイミングで仕
留められなかったというのか?

318:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 04:00:43 ID:Ex03LS.o0
 それは、まずい。
 完全に役立たずの俺がいうのも何だが、今後どれほど犠牲者が出るのか想像もつかない。日本獣害事件史に残
る三毛別羆事件のような惨劇を連想する。不吉にすぎる未来予測に、俺の顔からは血の気が失せていただろう。

「ぎりぎり間に合った」

 “逸らすのが”――
 一方、青年の吐いたのは安堵の息だった。
 蜘蛛への攻撃を、“わざと外した”と言ったのだ。
 意味が分からず、俺は青年の視線を辿って、地面の亀裂を見る。より正しくは、その左隣。
 そこに小さな人影。

 ――女の子が倒れていた。

 小柄な体格から、恐らくは小学校中学年以上、齢一〇歳ていどと見た。可憐な少女。長く綺麗な黒髪が無骨な
煉瓦の寝台の上に散らばるさまは、奇しくも彼女が蜘蛛の巣に囚われているかのように見えた。
 青年がこの女の子に必殺技をぶちこみ掛けて慌てて太刀筋を曲げたということは理解できたが、……どういう
ことだよ。

(蜘蛛が消えて、女の子が現れた?)

 とてつもなく単純に考えれば、この子があの化け物の正体だということになるが? ひとつも他の可能性を考
えられないというわけではないが、シチュエーションとして自然なのはそれくらいしかない。
 しかし、んなアホな。それじゃ質量保存の法則が……

(……ふっ……)

 馬鹿馬鹿しい。
 ことここにいたって、俺はこの件について科学的な説明を求めることを完全に諦めた。……まあ今更という気
もするが。“そういうもの”として受け入れた上で、今後をどうこうするのか考えるほうがまだしも精神衛生上
よいだろう。

(ていうか俺、もう帰っていいか? だめか)

 ……じりりりりりりぃぃ……

 我関せずとやかましく騒ぎ始めるヤブキリたちの草木に半眼をくれてやりながら、俺は空を仰いだ。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう?
 月は……まだ赤い……。




 ※

319:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 04:01:52 ID:Ex03LS.o0
毎度ぶつぎりで悪いけど今回はここまで。

ちょっと自由度が上がってきた。

320:Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/01(土) 04:09:50 ID:Ex03LS.o0
いきなり誤り。〉〉315の2行目は『午後八時には〜』だね多分
ごめんち☆

321名無しさん@避難中:2012/09/01(土) 09:03:51 ID:NxzUfr4Y0
変身解除キター
匠君強ええ

322名無しさん@避難中:2012/09/01(土) 17:37:57 ID:2a8imxPw0
乙です
変身が解けてこれからどういう状況になるんだろう

何気に三つの別世界の人間が集合しているあたりいろいろと楽しくなりそうです

323名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 08:03:39 ID:aoDCxPJsO
質問。
異形世界の教育機関ってどうなってましたっけ。
都市部に学校があるとは記述があったはずですが、もうちょっと詳しく。

324名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 15:36:52 ID:ediTBsJYO
人が少ないと有志の私塾っぼいので
都市だと学校みたいなのがあったっけ?

325名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 16:48:06 ID:aoDCxPJsO
勝手に寺子屋みたいな感じ?くらいに思ってた。
中世レベルってのが意外と曲者で……

326名無しさん@避難中:2012/09/08(土) 20:51:34 ID:d1wpmtUU0
教育機関のレベルはしっかり描写されているところはなかったような気がする
馬車が闊歩していると思ったらバイクや車や人型ロボットがいたりするのでフレキシブルなんじゃないかなと思います

327名無しさん@避難中:2012/09/09(日) 01:01:10 ID:QZ3qAjQcO
和泉の教育機関はどんな感じ?
本文では使わないかもしれないけど、そういうのも一応知っておくと心に余裕ができるのでイメージでもあれば是非。


一段落したら別の絡みも書きたいなー。

328名無しさん@避難中:2012/09/09(日) 08:48:46 ID:GruU5gLM0
和泉は道場主の夫人が子供たちを集めて初等レベルの教育を教え
学ぼうと思えば義務教育レベルまでなら和泉内でどうにかなるけども
それより上の教育を受けようと思うと都市部に出て行くしかない
そんなイメージです

329名無しさん@避難中:2012/09/09(日) 10:51:49 ID:QZ3qAjQcO
分かった。ありがとうございます。

330わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:03:33 ID:zDupdn8k0
ぱられるわーるどっぽい、単発を。

331魔剣とロミオ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:04:12 ID:zDupdn8k0

 「ロミオよロミオ。どうしてあなたはロミオなの?」

 バルコニーを模した学園の講堂のステージの上から黒咲あかねがセリフを口にすると、まるでジュリエットが乗り移ったかのように
周りを圧倒した。制服姿のあかねが華麗なるドレスを纏っているように周りの者たちは語るだろう。長いみどりの黒髪と長い脚を包む
黒いストッキングは蔭りなき闇夜が舞い降りたように美しく光っていた。

 ジュリエットを庭先で迎えに来た一人の少年。幼い頃から無鉄砲で無茶ばかりしてきた、と、かの文章から引用してもさほど違わぬ
少年・ロミオ。天界から女神が舞い降りた。さあ、魑魅魍魎、妖怪跋扈する地上へ。あかね……いや、ジュリエットは勇気ある少年の
返答を待ち焦がれた。

 「おれは……、おれは天に叛く男だぜ!両家が血を望むことが天の欲するところなら、おれはソイツに叛いてやるぜ!」
 「……続けて!」
 「貴族の名を騙った組織、はたまた魔王だな。ヒロインを救う勇者は何者にも恐れないぜ!おれには悪魔的な強さを誇る魔剣が
  味方についているんだからな!それにおれは、おれはな!姫の笑顔が見たいだけなんだ。それ以外に望みはしない」
 「岬くん!そこまで!」

 あかねはかしわ手打って、劇の稽古を中断させた。初めて演技をするとはいえ、演劇部の練習で誰にも引けをとらない岬陽太は剣を
構える振りをした。あかねは少年の天然というべきか、天から享受された才能というべきか、強いハートに心打たれていた。

 ある日、世界が割れた。世界の割れ目から世界がにょきっと踏み入れて、支配と被支配が繰り返された。そんな危機的状況のなか、
仁科学園演劇部は演劇発表会を企画した。誰が書いたか知らないけれど「こんなときこそ、演劇の力だよ」と、演劇部の大学ノートの
台本にでかでかとイヌの足跡のサイン共々凛々しいぐらいの肉厚にて筆ペンで書かれていた。

 ハンドタオルを首に掛け、スポーツドリンクを飲んでいるあかねの元に、岬陽太はステージ下から跳び上がる。
 あかねは少しびくっとして、ドリンクを口から零す。

 「なんかさ、バトルとかねーの?この劇」
 「バトル。闘いですか?」
 「そうさ!血沸き肉躍るおれは闘いによって積み重ねられ、そしてこの世の歴史を刻む男なんだぜ!」
 「ないことはないですっ。両家の若人の決闘シーンもありますし。多分、それを見込んで久遠は岬くんを選んだと思うけど」
 「じゃあ、バトルやろうぜ!バトル!世界を支配する名家どもを魔剣の錆にしてやるぜ!」

 はたして陽太はロミオとジュリエットの世界観を把握しているのかどうかと、あかねは不安げに少年の目を微妙に逸らしながら見つめた。
 あかねは年下の男子と対で話すことに慣れていなかった。いわんや厨二病に罹患した挙句の果てに拗らせた重症の患者をや。
なので、敬語で精一杯の対応をしてみるものの、果たしてそれが正しいのかあかねには判断しかねるものだった。

 「あかね。どんな話だっけ?」

 呼び捨てされて、あかねは少しムッとした。内容を知らなかったことよりもという理由だが、顔色変えずにあかねは説明を始めた。

 名門・キャピュレット家、モンタギュー家それぞれの子のロミオとジュリエット。仲たがいをしていた両家にも関わらず二人は
許されぬ恋に落ち、誰からを傷つけ、苦しんで、ジュリエットは僧侶に相談をした。そして、飲めば仮死状態になる薬を手に入れた
ジュリエットは開けることのならない箱を開けるように、一気に飲み干し、さも命を落としたように見せかけた。両親が後悔するだろうと
考えた結果だが、誤算だった。ジュリエットの動かぬ体を目にしたロミオは自ら命を絶ち……。

 「息を吹き返したジュリエットも後を追うんですっ。台本、ちゃんと読んだんですか?」
 「一応な」
 「久遠が書いたんだから、しっかり読んで下さい!」
 「久遠?」
 「演劇部の同級ですっ。本を書かせたら凄いんですっ」

 スポーツドリンクを再び口にしながら、あかねは横目で少年を叱った。

332魔剣とロミオ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:04:31 ID:zDupdn8k0

 「あかねさあ。これ、『シェークスピアの四大悲劇』って言うんだろ?抜き差しならないこの状況下でこんな演目でいいのか?」
 「え?」
 「世界が揺らいでるっていうのにさ」

 恥ずかしそうに台本を握り締めて、あかねは陽太の問いに答えた。

 「久遠が言うんですっ。『基本悲劇だけど、希望の光が見えるんだよ』って」


      #


 発表会当日。舞台となる講堂は人で埋め尽くされていた。
 吉と出るか、凶と出るか。のるかそるか。

 人々を敬愛なる目で見れば我が子の初陣を見守る当主のよう。陽太にとって初めての舞台と言うから、誰もが目を輝かせて席に
ついていた。それはそれは楽しみだろう。しかし、人は全てが善人ではないのは世の常だった。
 人々を邪悪な目で見れば土砂降りの中で誰かに踏まれ、泥だらけになった人を見に来るよう。素人の陽太が初舞台を踏むと言うから、
誰もが目を輝かせて席についていた。それはそれは見ものだろう。

 しかし。作品は裏切りで出来ている。それを体言するかのような舞台だった。舞台は恙無く進み、誰もの心を掴んだ。

 あかねの演技も本物のジュリエットよりもジュリエットであった。陽太のバトルも圧巻だった。そして、ラストのシーン。
悲劇の姫が飲んだ毒薬の効き目が切れ、ジュリエットの命が尽きたと信じ込んだロミオが斃れている姿を発見したラストカット。
 暗闇の中で斃れたロミオに明かりが当たり、やがて日が昇るようにゆっくりと上がると絶望の淵に取り残されるジュリエットの姿が
人々の目を奪っていた。涙ながらにジュリエットはセリフを進める。

 「どうして、どうして。わたしが悪かったんでしょうか。人を欺くことがいかに罪深いことかと今更知った愚か者です」

 短剣を持ったジュリエットは自らの喉に突き刺そうとした刹那、もう一つのスポットライトが舞台袖に開く。
 そこには斃れていたはずのロミオの……幽霊だった。足元は暗く、存在するのなら黄泉の国から降臨してきたよう。

 「待て!その剣を降ろせ!」

 陽太、いやロミオは紅顔していた。

 「一度でもおれを愛した者ならば分かるだろう。おれは神に叛く者だ。神が雨を降らすなら、おれは満天の星空を仰ぎ見るつもりだ。
  でも、おれは……過ちなのか、神になってしまった。このおれとしたことか、死ぬべきでなかった。しかし、運命は変えられぬ。
  恥じても恥じても取り返せない日々。でも、足踏みしても仕方がないよな。ジュリエットよ、お前はどうしてジュリエットなのか?
  お前なら分かるだろ。お前も神に叛く者ならば、神に叛くことを受け継ぐ者ならば、おれは言おう。神は一度しか言わないからな」

 講堂はロミオ、いや陽太にだけのものとなり、人々は視線を注いだ。もはや、誰もみな意地悪く人を裏返しに見る目ではなかった。
 最後の言葉でステージは暗転し舞台は幕を閉じた。

 「ジュリエット。早くこっちに来いよ」


      おしまい。

333わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/09/15(土) 09:05:03 ID:zDupdn8k0
投下おしまいっす。

334名無しさん@避難中:2012/09/15(土) 15:32:29 ID:sX4J2d2c0
投下乙
こういう日常シーンもいいね

335名無しさん@避難中:2012/09/15(土) 19:57:18 ID:OR7vxYcU0
陽太、役者さんだ!
台本にどこまで書いてあったのかが気になるw

336名無しさん@避難中:2012/09/18(火) 14:28:23 ID:QY22peAI0
結論から言えば、仁科学園演劇部の企画した演劇発表会は大盛況で幕を閉じた。部員たちによるささやかな打ち上げパーティを抜け出したロミオ役の岬陽太は、今も照明の降り注ぐ講堂のステージ上に立ち尽くしていた。後片付けは明日にするのか、と今更ながら段取りを思い出す。
さすがに衣装は脱いでいたが、まだセットが配置されているせいで妙な気分になる。少し前まで自分、というよりロミオはここで喝采を浴びていたのだ。――世界が歪み、混ざり合ったという一大事の中で。
「呑気な話だと思わないか、あんた」
 闇に沈んだ客席に投げた声。それに反応して姿を現したのは、日本刀を腰に提げた少年であった。
機嫌良さそうな微笑を整った顔に浮かべ、黒一色の和装を纏った少年は言う。
「いや。予想よりは全然面白かった」
開演中から陽太に向けて濃密な殺気を放っていたその男の頭頂部横には、いつの間にか二本の角が生えている。別世界の住人だったらしい。
やっとか。安堵にも似た思いが、陽太に溜息を吐かせた。
茶番劇とは違う本物の闘いが、ようやくできる。
「随分と神様嫌いなロミオだったけどな」
「偉そうな奴が嫌いなんだよ、俺が」
 で、と陽太は続ける。
「用があるならさっさと済ませようぜ。まさか、演劇評論をするために今まで残ってたわけじゃないんだろ」
 刀を抜きながら客席の鬼が応える。
「話が早くて助かる。途中で訊かれると興が冷めるから先に言っておくけど、俺は単に歯応えのありそうな奴と殺し合いがしたくてあちこち回ってんだ」
ロミオ――岬陽太を狙ったことに、意味は一切ない。
最後にそう言い、鬼は弾丸のような速度でステージへ跳躍してきた。凄絶な笑みと共に陽太は右手を突き出し、意識を集中させる。
「貫け――」
声と同時に虚空に生成された一本の大根。それは凄まじい速度で膨張し、一本の巨大な槍となって鬼の頭部を掠めた。
「んなっ!」
上体を大きく捻って避けた鬼は、大きく体勢を崩しながら客席の一角に着地する。勿論それを見逃してやるほど陽太はお人好しではない。
「今日はえらく燃費がいいな」
 消耗が少ない。世界が混ざってから、陽太の調子は跳ね上がっていた。別世界にあるという魔素が流れ込んだのが原因なのか、それとも別に理由があるかは知らない。
ただ、本気で力を解放したいという欲求だけは確実に強くなっていた。
今度は左手を突き出し、鬼を狙い撃つ。派手な音と共に、客席の床に巨大な穴が穿たれる。まあ非常事態だ。大目に見てもらえるだろう。
「そら」
 更に追撃するが、さすがに相手も慣れたか、三本目の大根は鬼の日本刀で綺麗に切断されていた。
「こりゃ今日の晩飯は大根だな、ったく」
 ぼやきながらも鬼は突進してくる。丁度良い。接近戦も試してみたかった。集中し、硬度を最高まで上げた左手の大根で白刃を受ける。
 刃は大根の半ばで止め、右手の大根を振りかぶりながら陽太は告げた。
「終わりだ」
「岬君!」
 舞台袖からの悲鳴じみた声。それに反応したのは鬼の方が先だった。空いていた手で鞘を腰の掴むなり、器用な投擲を見せつける。
 何故こんな所に。床の破壊音で勘付かれたのか。
 選択の余地どころか、思考する余裕さえもうなかった。完全な無意識の内に陽太は右手の大根を巨大化させ、飛び出してきた黒咲あかねへの軌道に割り込ませる。鬼の鞘は大根の八割方を吹き飛ばしたが、軽やかな音を立て床に転がる。
 そしてその時にはもう、鬼の手刀が陽太の胸の中心を貫いていた。
「意外とお人好しなんだな、ロミオ」
 ――改めて言われなくても判ってるよ、そんなこと。
 陽太が吐血した瞬間、ジュリエットの絶叫が講堂に響き渡った。

337名無しさん@避難中:2012/09/18(火) 14:30:07 ID:QY22peAI0
おいおいこれが通るのかよ…ちゃんと改行すればよかった
サブタイは「今日の晩御飯」でよろしくっ☆ミ

338Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:19:44 ID:OWlELkbw0
>>333
ふと思ったけど、そういや陽太っていっつも演技してるようなものかも。中二病的な意味でw
俺もあかねちゃんとロミジュリしたいぞう!! 年下とからむのも・・・いいね
しかし仁科本スレと同時投下とかわんこ氏は化け物だなぁ

>>337
熱い戦闘だ・・・けどこんな相手にも大根なのかwちょっとわろた
続くよね
トリもつけて欲しいな



なんかタイミング悪いかもしれないけど投下します
>>315->>318の続き

339Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:22:08 ID:OWlELkbw0


 ※


 ――“異形世界”においては。
 西暦二〇XX年、局地的な地震の多発により、日本列島が罅割れた。
 国土を網羅する未曾有の震災は全てを引き裂き、復興の遅滞は日本の文明を中世の水準にまで退行させること
となる。
 機能麻痺から回復できないでいた中央政府に見切りをつけた各地方都市は自治権獲得を目指し、防衛のための
独立武装隊を組織。政府はこれを黙認せざる得なかった。
 さらに国連による特別危険地帯指定を経て日本は鎖国に乗り出し、ついに海外との交流を断絶。
 大震災からおよそ一五年間の出来事である。
 ところで、日本が特別危険地帯指定を受けたのは、災害の頻発だけが理由ではない。
 “異形”の出現である――
 
 
 ――“異形”とは。
 地震により生じた地割れから噴き出すように出現した、異形の物たち。
 地上の生物など比ではない大量の≪魔素≫を保有する、怪物たち。
 硬い甲殻を持つ物、軟体の物、脚のない物、肢の多すぎる物、矮小な物から巨大な物、複数の動物の特徴を併
せ持つ物、あり得ざる体色の物、群れをなす物、単独で行動する物、空を飛ぶ物、地に潜る物、海に棲む物、人
類を凌ぐ知能を誇る物――
 それらは多種多様であり、地上の虫鱗介禽獣人などと似て非なる形態と生態を持つ。多くは本能のままに人間
を襲い、震災の混乱を助長した。
 第一次・第二次掃討作戦を経て、都市及びその近郊に跋扈していた異形は殲滅ないし撃退され、またその根源
と思しき出雲黄泉比良坂も厳重に封鎖されてはいる。だが、依然として、野にある異形の物が人里を襲撃するこ
とは珍しいことではない。
 人々は都市の周囲に外郭を築き、武装隊を編成し、時には知性のある異形と条約を締結して、懸命に日々の安
寧を得ようとしていた――


 ――≪魔素≫とは。
 異形の物たちの出現と前後して発見された、一種の根源物質。元素。
 それまで検出手段がなかっただけで、人類を含むあらゆる生き物は本来的に体内に持っていたものである。
 とはいえ、大気や水の中にもわずかに存在が確認されたことから、単純に生命力の一種などとして捉えてよい
かは未だ意見の割れるところである。中国の思想でいう“氣”の概念に近しいという者もいるが、その詳細につ
いては今後の研究を待つしかない。


 ――魔法とは。
 ≪魔素≫の利用は、既存の科学技術とは異なる接近方法から、地球人類文明の限界を拡張し得る可能性を秘め
ていた。
 安部――
 蘆屋――
 小角――
 平賀――
 玉梓――
 かくして五つの天才が、人知及ばぬはずの元素の振る舞いについて独自に理論を構築し、同じ数だけの魔法体
系を確立した。
 ≪魔素≫を励起、指示術式などにより再現性のある現象に誘導する。≪魔素≫はここで初めて可視化し、自然
界への干渉能力を持つようになる。
 指先から火を熾し、流水を恣に操り、砲撃を上回る拳を繰り出し、掌の中で鋼の武器を鍛え、異空間に通ずる
門を開く――
 すなわち、“魔法”。

340Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:23:05 ID:OWlELkbw0
 もっとも、人類の持つ≪魔素≫は、異形たちと比べればごく微量な上に個人差も極めて大きい。訓練によって
ある程度までは機能の増強が認められるが、保有量や制御における先天的な個人の資質はやはり無視できない要
素ではあった。
 それでも魔法は人類が有史以来初めて手にした超常の現象であった。その力は、第二次掃討作戦で異形に対し
て初めて発揮されることになる――


 ――≪魔素≫と異形について。
 あらゆる生き物が≪魔素≫を外界から吸収もしくは代謝により産生しているが、その活用に関していえば異形
はやはり別格である。
 ≪魔素≫の莫大量と高濃度が異形という存在を規定するといってよい。たとえば原始的な生物が有毒な酸素を
利用してエネルギーを得たように、つまり大地の裂け目の奥の異界だかにおいてそういう進化を遂げてきたもの
が異形であるのだと唱える研究者も少なくない。それはしばしば、その名の由来となったはずの形態の特異性な
どよりも、異形を異形たらしめる要素といえた。
 一般に強大な異形ほど≪魔素≫が多く、濃く、その制御活用に長ける。




 ※


 気を失った少女と金属棒をいっしょくたに両腕で抱えて、流しの速さで走りながら、坂上匠(さかがみ たく
み)青年は思い出していた。
 それは、坂上匠の生きていた世界において、極東の島国が歩んだ歴史の一端であった。震災を境にして、多く
のものが変わったのだという。ことなるかたちに。
 この異世界、いや正確を期すならこの“学校”と思しき施設のあった世界というべきか、ここはどんなところ
なのだろうか。
 差し当たって考えるのは、身の安全の確保だった。
 早々にあんな“大物”と戦闘することになっただけに、それなりに危険な世界なのかもしれない。
 怪物。異形ならざる異形のもの。蜘蛛のような。
 あれだけの戦闘能力を誇る異形ならば発散するそれなりの≪魔素≫を感知できたはずで、まったく別の生き物
である。
 もしもこんな化け物がうじゃうじゃいるようなら……

(まずいよなぁ……) 

 青年は金属棒の端を一瞥した。
 金属棒。魔棒とも。坂上匠愛用の武器であり、“墓標”という不吉な銘を持つ。
 ただの鋼の棍棒ではない。魔法体系を確立した五派閥の一の長である平賀老が開発したそれは、≪魔素≫を効
率的に運用する機能を備えていた。

(……≪魔素≫の伝導率も落ちてるみたいだし……)

 先の蜘蛛の怪物との戦闘で刃を形成した際、従来に数倍する≪魔素≫を金属棒に注ぎこんだにも関わらず、想
定していた長さに達しなかった。何かの不具合だろうが、実は匠にはあまり細かな調整はできない。

(ついこの前、爺さんに直してもらったばかりだってのに)

 まるで修理前に時が巻き戻ってしまったかのようだ。

341Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:24:45 ID:OWlELkbw0
 ちなみに使用分はほぼ還元されないので、今の坂上匠は深刻な≪魔素≫枯渇状態にあった。体力と同様に時間
経過で回復するとはいえ、それを待たずに、目覚めたこの少女や別種の怪物たちと連戦することにならないとも
限らない。
 怪物から変身した少女を連れていくかについては少し悩んだ。寝首を掻かれる危険は、とてもではないが、な
いとは思えない。
 しかしあのままにしておいてはいけないという強烈な保護欲のようなものに駆られ、気がついた時には抱え上
げていた。彼女を野放しにして他の誰かに被害が及ぶよりは自分の目に届くところに置いておいたほうがいいの
も理屈の上では確かではあるのだが、どことなく精神攻撃めいた不穏なものを感じなくもない。

「……まあ、なるようになるか」

 今どこにいるともしれない白狩衣の少女が聞いたら、あまりのお気楽さに不安がって説教したかもしれない台
詞だった。
 口から零れた言葉を無意識に追ったらしく、誘導役を買って先行していた少年がちらと振り向いた。
 まだほとんど会話もしていないが、この学校の生徒だろう。どうやらただの一般人であるが、この世界につい
ての話くらいは聞かせてもらおう。




 ※


 音を聞きつけて学園関係者が来ないとも限らない。
 見つかると絶対に面倒なことになる。
 剥がれて散らばる煉瓦の群れ、どうやったのか見当もつかない地面の巨大な裂け目、戦闘用金属棒を携えた青
年戦士、そして昏睡する女の子。

「……」

 ……どう考えても、青年がいろいろ不名誉な疑いを掛けられて警察にしょっぴかれていくという未来予想しか
浮かばない。特に“昏睡する女の子”あたりはそうとうマズい。
 命の恩人がそんな悲惨なことになるのはさすがに忍びない。かといって、俺の口からこの事態について誰もが
納得できるように説明できる自信もなかった。
 当然の成り行きとして、俺は青年に一刻も早くこの場を離れることを提案したのだった。

「ここなら……」

 辿り着いたのは、仁科学園北西に広がる専用農場。
 農業教育の栽培活動などに使われる菜園であるが、その向こうの未使用地域は密林となっている。
 冗談でも何でもない。“密林”である。その鬱蒼たることは南米の熱帯雨林を思わせ、そこでは蔦だの食虫植
物だの怪鳥だの変な虫だのが閉じた食物連鎖を繰り広げている。……大丈夫かよ防疫的な意味で。
 夜の時間帯、密林の深奥は見通しの利かない暗黒の空間へと変貌を遂げる――
 などと、おどろおどろしく言っておいて何だが、さすがにそこまで深く分け入る必要はない。
 精密化された機械警備が常識となっている昨今、たとえば教室に置き忘れた宿題のノートを真夜中にこっそり
回収に来るなどファンタジーもいいとこだが、学園敷地といえどさすがに校舎外までは網羅できない。こんな農
場や森林ならば尚更、監視網など布きようもないはずだった。
 門あたりにはビデオカメラもあるが、職員室に出入りすることの多い俺はモニタリングの死角くらいは把握し
ている。先ほどの青年の大立ち回りは、ぎりぎり範囲から外れていた。
 ……ただし、蜘蛛に出くわした俺が回れ右した南門あたりは明確にアウトだ。あの尋常ならざる破壊痕を見た
教員たちが録画の映像を総ざらいでもすれば追及もあり得るかもしれない。しかしまあ、それでも俺ひとりくら
いならいくらでも言い訳は立つ。
 ……逃走といい隠蔽といい、もはやどこが優等生だよとツッコまれても反論できない感じだが、取り敢えず今
は慎重に行動するのが正解だろう。たまには融通が利くってところも見せないとな。

342Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:25:55 ID:OWlELkbw0

(む?)

 そんなことをぼんやりと考えながら密林を外から眺めていると、ふと、違和感に襲われた。

(クスノキ? こんな木あったか?)

 それだけではない。全体的に、密林の植生が変わっている、ような……。アマゾンみたいなところだったはず
なのに、今はごくまっとうな日本の温帯温暖湿潤気候のものに見える。
 そこは、どこかの鎮守の森めいて、みだりな人の侵入を拒絶する結界のような空気を孕んでもいた。

 ――ぞくり

 背筋を寒気が這う。
 赤み掛かった月光に照らされて、いくつかの木の樹幹に古い創傷が刻まれているのが見えた。

(何かがいる)

 獣だ。――いや、獣ではない。
 確信に近かった。この森に入ってはいけない。命が惜しければ。
 俺が見知らぬ木々の前で立ち竦んでいると、青年が「よっこしょ」と雑草の絨毯の上に女の子を降ろすのが見
えた。どこかのんきな声のおかげで緊張が緩む。
 青年は息も切らしていなかった。消耗しているとはいえ男子高校生の全力疾走に付いて、金属棒と女の子を抱
えたままけっこうな距離を走ったというのに、いったいどういう体力をしているんだ?

「ここらで、いいかな」

 青年は躊躇なく女の子のそばに腰を下ろし、俺にも休むように促した。
 正直もう座りたいを通り越して寝たいくらいの心境だった俺は、ふたりから気持ち距離を取りつつ疲労回復を
図ることにした。

「……さっきは、ありがとうございました。助かりました」
「いいって。怪我はないか?」
「おかげさまで」

 好もしい人物のようだったが、自分から自己紹介ができる雰囲気ではなかった。

「……」
「……」

 何となく話題の切り出し方が分からず、会話が止んでしまう。お互い、どこまで関わっていいものやら分から
ない、そんな感じだった。
 かくして逃げ道を探すように、気を失ったままの少女を何とも言えない表情で覗きこむ男ふたり。ただよう激
烈な犯罪臭。
 長く伸ばされた黒髪の艶に見惚れてしまう。可愛らしい花柄のワンピースにフェミニンなボレロを羽織ってい
た。最近の小学生はお洒落だなぁとおっさん臭い感想を抱く。
 さらに特筆するなら、彼女の首にはもうひとつ――皮革のナイフホルスターが掛かっていた。腰ではなく、首
である。まるで悪趣味なペンダントのように。

343Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:26:54 ID:OWlELkbw0
 ……。
 ……ナイフ?
 ぎょっとした俺は立ち上がって少女に近づき、武骨もいいとこな鞘の内をそっと確かめた。
 納まっていたのは短剣だった。ナイフというにはやや刃渡りが長いかもしれない。
 それはどう見てもマジもんの危険物だった。実用本位らしい白刃は緩やかに湾曲し、中央に謎の溝が走ってい
る。最近の小学生は物騒だなぁとおっさん臭い感想をって何これ怖っ。
 青年の金属棒といい、くだんのデバガメヒロインといい、俺たちの街に空前の武装ブームが到来しているのだ
ろうか。治安最悪じゃねぇか。もう引っ越したい。
 少女の持ち物といえば、それくらいのものだった。さすがにこの時世、女の子のポケットの中身を漁る度胸は
ちょっとないが、あの蜘蛛ボディや短剣以上の凶器が出てくるとは思えない。
 短剣を首飾りにした少女の唇からは、すぅすぅと微かな寝息が漏れていた。未だ目を覚ます風情はない。
 ……天使の寝顔だが、騙されてはいけない。俺をさんざ追い回してくれたサディスティックなモンスターとメ
ンタリティは同じだ。
 この姿は人間を油断させる擬態なのだろうか? そう思うと見よ、たちまち可憐な少女もおぞましく感じられ
てくるではないか。
 何にせよ、

(この子を、蜘蛛をどうするか)

 今はそれが最優先の懸案事項だろう。どうにかしないとまた誰かが襲われる。下手しなくても死者が出る。
 目覚める前に最低でも拘束はしておかなくては危険極まりないと思うのだが、鉄の鎖ていどではあの蜘蛛は抑
えきれないだろう。……となると何も思いつかない。ダメだ俺。
 いくら怪物といっても、俺自身にはこの子を殺害したりするような覚悟の持ち合わせはないのだから、ここは
“異形”とやらの専門家であるらしいこの青年の判断に従うのが一番よいという気がする。どの道、ただの高校
生の身には余る。

(だがその青年は、蜘蛛を殺さなかった)

 どういうことなのだろう。青年は対策を知っていると期待していいのか。
 何かそういう怪物を外界から隔絶する施設的なものが存在するとか、少女は今夜に限ってたまたま蜘蛛の怨念
に取り憑かれていただけで既に無害とか。考えられる可能性はいくつもある。
 しかし青年の沈黙を見るに、何となくそんな雰囲気でもない。実は行き当たりばったりで、女の子に変身した
からふらふら判断を保留にしているだけかもしれない。
 ……難しい。

「そういえば自己紹介がまだだった。俺は坂上匠」
「先崎俊輔です」

 ――来た。
 自分でもどうかと思うが、「きみはもう帰っていいよ。……ああ、今日のことは誰にも言わないでくれると、
こちらとしては助かる」とか何とか、青年が事件の関係者として送り出してくれないかなーなどと俺はちょっと
待っていたのだが、特にそんなことはなかった。仁科学園の外でまで変な事件に巻きこまれる予感。
 坂上匠さんは、一瞬だけどう切り出したものかと悩ましげな表情を覗かせてから、言った。

「どうやら、世界が混ざり合ってしまったらしい」

 どういうことだよ。




 つづく

344Beyond the school gate ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:28:04 ID:OWlELkbw0
取り敢えず投下完了。
だらだらしがちなので話を一区切りします。今後もやることは変わらないけど。

魔素とか異形とかには独自解釈も含むかも。

強いキャラに制限掛けたり、アイテムシャッフルしたりしたけど、よかっただろうか。
……ほんとうは墓標も仁科学園のトンボあたりに変えてやろうかと思ってたけど、
夜のかれんちゃん相手はちょっと……ね。

345名無しさん@避難中:2012/09/18(火) 22:35:03 ID:9YTgMzNA0
>>338
そいつに触れないほうがいい

346 ◆46YdzwwxxU:2012/09/18(火) 22:47:18 ID:EdUv4WK6O
あー
ごめん
迂闊なことをしたみたい?

347名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 00:00:40 ID:R96/qD/g0
>>344
おつおつ
いい感じに混ざってきた

ナイフって誰のだっけ

348名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 00:17:46 ID:4qWae26cO
短剣は風魔ヨシユキ(ホーロー)@チェンジリングから片方をお借りしました。

349名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 19:09:01 ID:EaqJsWx.0
>>345
ハハッそんなこと言ってるとまた投下しちゃうぞ!

350名無しさん@避難中:2012/09/19(水) 23:35:38 ID:R96/qD/g0
>>348
サンクス

351名無しさん@避難中:2012/09/20(木) 00:45:45 ID:EyQ74VuM0
>>344
投下乙!
異形と魔素の話がわかりやすいっす

352名無しさん@避難中:2012/09/25(火) 21:43:30 ID:6gnxVsEE0
なんとなく自キャラとよそ様の住人の絡みを想像してみたけど自キャラがめんどくさい奴で扱い切れんw
スレ内ならもとからそっちにある程度合わせてるからいいけど

353名無しさん@避難中:2012/09/26(水) 13:07:26 ID:D6WHCB8Y0
めんどくさいくらい濃いキャラなら動かしようもある気がするけどw
一番他人が動かしにくそうなのは、一人称的視点に依存してしまいがちな主人公気質のタイプだと思う。
そういう意味では、特殊能力は個性を把握するとっかかりには便利かもしれない。

354名無しさん@避難中:2012/09/26(水) 15:42:03 ID:pdTAtv/s0
特殊な能力と言える物が大声出すくらいしかないんだがw

355名無しさん@避難中:2012/09/27(木) 01:53:37 ID:sbZ0EODkO
仁科の方?

356名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 16:46:17 ID:5XICy2k.0
ここまでwikiにまとめてきた
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/1235.html

357名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 17:05:41 ID:oDMRZ7ek0
乙である。

358名無しさん@避難中:2012/10/07(日) 19:57:45 ID:YgjC1UFs0
GJ!

359名無しさん@避難中:2012/10/09(火) 00:53:55 ID:2ewo4LfgO
ついにWikiがっ!
参戦作品一覧がありがたい。余裕があったらキャラのレベルで弄ろうかな。
おつかれさまでございます。

一方、やっぱぶつぎり投下はダメだったなぁと思ったり。

360盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:09:20 ID:8H1Wet6U0
投下します。
ダメだったなぁといいながら結局ぶつぎり。まるで成長していない・・・!

361盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:10:48 ID:8H1Wet6U0




 ※


 先崎俊輔が九死に一生を得ていたころ――
 その“後輩”であるところの少女、後鬼閑花(ごき しずか)は商店街の書店でファッション雑誌を立ち読み
していた。

(浴衣と和ゴス……先輩はどっちが好みなのでしょうか)

 柚鈴天神社の夏祭りは、愛しの先輩と回ることに決まっていた(彼女の中では)。
 今の二年生の卒業までは、あとざっと二〇ヶ月。ただでさえ大学受験も控えているのに、そろそろたらしこま
なければラブラブイチャイチャする時間が減ってしまう。だだ減りである。
 学園で顔を合わせる機会がなくなってしまう夏休みだが、後鬼閑花にとってはむしろチャンスといえた。実家
に押し掛けてご家族の覚えをめでたくすればいいじゃない?

(上品で清楚なのも捨て難いですが、やっぱりひらひらのフリルやレースは男の子の憧れです。ピュアさの中に
香るほのかなエロさ。さすがの先輩といえど、辛抱堪らずむしゃぶりついてメチャクチャにピ――(自主規制)
さずにはいられないはず)

 いまいち反応が鈍いようなら途中で中座してお色直しすればいい。今時、変身ヒーローだって敵の特性に合わ
せていくつもの姿を使い分けるのだ。その分野で女の子が遅れを取るはずがない。

(……待てよ? 意表を突いて巫女さん風というのもありでは? ちょうど神社の縁日なのだし)

 罰当たり気味な選択肢を追加しておく。巷の噂によれば、コスプレ業界には膝丈の袴や腋チラの着物もあると
かないとか。
 思い浮かべるのは、柚鈴天神社の娘である神柚鈴絵の、白衣に緋袴を纏った姿。先崎とそれなりに親しげに話
していたというだけのことで、後鬼閑花は彼女に対して勝手に敵意に近い対抗心を抱いている。

(先輩がどんな特殊な性癖をお持ちでも、この閑花ちゃんはばっちり対応しますよ。神聖な巫女さんをぐちょげ
ちょに汚したいなら巫女さん後輩に、正義のヒロインと秘密のお付き合いがしたいならキュア後輩に、街を恐怖
のずんどこに陥れたいのなら重機動メカ後輩に、けなげにフォルムチェンジ)

 いつか言ったようなことだったが、今回は心の中に留めおく。

(……どうです? ここまでしてくれるカノジョなかなかいないですよ)

 後鬼閑花が得意気に鼻から熱っぽい息を抜いたその時だった。

(――あれ?)

 世界が、ぐらりと。
 視覚の画素と、聴覚の音素が粒子状になって撹拌されていた。
 革靴越しの足裏の感触が不安定になり、また時間の刻みも分からなくなり、確固たるものと思われた自分の立
ち位置を見失う。

(これは噂に聞く……つ、つわり……? 先輩ー!! だから●●してってあれほどお願いしたのにー!!)

 バカな発想は、わりと心の余裕があったというよりは、ある種の現実逃避なのかもしれなかった。
 ……先崎俊輔の名誉のために一応念を押しておくが、これは彼女なりのジョーク(下品)であり、話題のふた
りがそういう行為に及んだ事実はまったくない。どういう行為かというと、知らないきみは知らないままのきみ
でいて欲しい、そういう行為である。

362盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:12:06 ID:8H1Wet6U0
 目と耳の中で点と点が結びついていき、後鬼閑花が世界との関わり合うための術を取り戻すと、周囲の風景が
がらりと変わっていた。

「――え?」

 そこは先ほどまでいたはずの商店街ではなく、見知らぬ荒漠たる“河原”であった。
 風雨と流水に削られ磨かれてきたと思しき大小の岩石とまるで粒の揃わぬ砂利のために、歩くにもそう容易く
は平衡を保てまい。
 浅瀬の石を流水が濯ぐ音。目の前に横たわる川は、たっぷりと水を湛えていた。霧のために対岸は見晴るかせ
ないが、幅の太いことは直感的に分かった。後から後から押しよせるその流れは、悠久の歳月を感じさせる。薄
っすらとした潮の匂い。きっと海もそう遠くはないのだろう。
 思わず仰いだ空はどこか不思議な色で、少女をひどく落ち着かない気分にさせた。
 これは“よくない状況”だと本能は訴えている。

(しかし、こういうときこそ冷静になるべきです閑花ちゃん。先輩だってきっとそう言うハズ!)

 気味の悪い動悸を抑えるように深呼吸を一回、二回。肺腑の中を換気すると、閉塞感が多少は和らいだ。

(さらに素数とか数えちゃいます。頭いいです。〇、一、一、二、三、五、八、一三、二一、三四、五五、八九、
一四四、二三三……)

 しばし待ってみるが、先輩からの打てば響くようなツッコミはなかった。

「……フッ。素数がどういうものだったか忘れてしまうとは、この閑花ちゃんともあろうものが、どうやらそう
とう混乱しているっぽいですね」

 ちなみに、彼女が素数の代わりに唱えたものを、フィボナッチ数列という。
 現実から目を逸らすのも大概にして、後鬼閑花は改めて周囲を見渡してみることにした。
 差し当たって探すのは人工物である。人間不信気味の後鬼閑花といえど、さすがに川と石ばかりの空間という
のはいかにも心細い。
 それらしいものは何もない。

363盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:13:41 ID:8H1Wet6U0
 だが、視野を補うためにその場でくるりと一回転してみたところ、革靴の先が何かを蹴飛ばした。

「あら?」

 石ではない、木だ。爪先の感触は、その物体が空洞であるらしいことを伝えていた。わずかな金属音もしたよ
うな気がする。
 拾い上げてみれば、それは木製の小さな箱だった。“ハンドル”のついた用途不明の木箱。手回しの鉛筆削り
かとも思われたが、それらしい穴なども見られない。そもそも何でこんなものがここに?
 何となく気になって、ついハンドルを回してしまう。

「――――エレキ、キテルノ……!」

 無意識にそんな言葉を口走っていた。

「……ハッ!? わ、私はいったい何を……!? も、もしやこれは、快感の電気をびりびりして、女の子をア
●顔レ●プ目の愛玩人形へと変えてしまう魔法の箱!?」

 ひとしきり騒いだ後、後鬼閑花はまじまじと得体の知れない拾得物を鑑定した。

「これ、もしかしたら、“エレキテル”、というやつでしょうか?」

 後鬼閑花たちの世界においても江戸時代の日本にオランダから伝来し、平賀源内という男が再現した摩擦起電
機がある。
 もっとも、今彼女が手にしているものは、坂上匠たちの世界で、ある天才がささやかな悪ふざけのためにこさ
えた品だった。
 製作者の意図はともかくとして、このエレキテルにもやはり超常的でいかがわしい機能など全くない。ないの
だが、後鬼閑花の反応を見るに、あるいは変態たちの間で何やら官能的な感応があったのかもしれない。

「……もし私が先輩の目の前でこれをクルクルして、エレキキてしまったら?」

 新しい夜の玩具を手に入れた後鬼閑花の妄想は、留まるところを知らなかった。
 にへら。嫁入り前の娘の口元が、だらしなく緩んでいく。にへら。

「電気の力ですっかり無防備になってしまった閑花ちゃんを見たら、先輩といえど果たして理性を保てるもので
しょうか……?」

 これこそ最も単純で美しい電気回路!

(そうと決まれば一刻も早く先輩に会って誘惑してみなければ……!! 先輩待っててくださいよー。あなたの
閑花ちゃんが参ります!)

 先ほどまでの不安は何だったのか。ロクでもない算段を立てながら、後鬼閑花はエレキテルを宝物のように抱
き締めてうきうきと歩き出した。特に意図もなく、目指すは上流。どうせ地球は丸いんだ。恋する乙女がゆくの
なら、どれも愛する人へと通じるに決まっていた。
 浮かれきっていた少女には知る由もない。
 この河原こそ、混ざり合ってしまったいくつもの世界のうちのひとつ、〈地獄世界〉は“三途の川”であると
いうことなど。

364盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:14:27 ID:8H1Wet6U0




 ※


 ひと呼吸ばかりのわずかな沈黙に、肩に立て掛けた金属棒の重さを強く感じる。

「世界が混じり合った……?」

 制服の少年は、俺の話を聴いて困惑げに眉をひそめた。
 無理もない。すぐに理解するには突飛だし、やたらに話が大きい。そうそう実感など伴わないだろう。
 俺にしても“前例”があるから当然のようにこんな荒唐無稽な推測を打ち出せているわけで、なかなか初見で
「ハイそうですか」といくものではない。

「それは、どういうことですか?」

 一笑に付されるかとも思ったが、少年の反応は取りつく島もないというほどに否定的なものでもなかった。も
ちろん内心までは分からないが、こちらへの猜疑心や不信感をあからさまに表に出すようなことはしないだけ、
人間ができている。
 先崎俊輔と名乗ったか。ここは、人名まで俺たちの日本と変わらないらしい。学校の生徒らしいし、年齢は十
代半ばから上で確定だろう。いかにも真面目で誠実そうな印象だが、歳のわりに落ち着きすぎても見える。
 けれど、まあ、どこをどう切り取ったところでただの一般人であることには変わりない。事態についてざっと
注意喚起を促して、早めに解放してやるべきかもしれない。

「ああ。今、俺の世界と、きみたちの世界は、モザイク状になっているみたいだ」
「……申し訳ない。いきなり口を挟むようですが」

 概観から説明しようとしたところ、先崎が割って入った。

「まず、あなたは本当に、自分にとって異世界人なのですか?」

 そこからか、と思う一方で、そりゃそうだよなぁ、とも思う。
 恐らく、先崎にとっては、“未知との遭遇”といえるような事件は今回が初めてなのではないか。
 世界が混ざり合ったという現象に納得する以前に、世界はひとつではないことを理解しておかなくては話に付
いていけないのも無理はない。
 これは異世界間交流なのだ。互いに常識が常識ではないかもしれない。
 なまじパッと見は同じ日本人である分に、これは意識しておかなければ容易に混乱を招きそうだった。

「うん。異世界人ということになるみたいだな」

 俺は殊更きっぱりとした口調で言い切った。
 その点に関してはよほど確信があったが、「みたいだ」といったのは先崎の常識に対してワンクッションを置
いてやるためだった。

「……そうだな。それじゃあ、俺の世界のことを語ろう」

 ――それは、神秘の元素に満ちた日本の話だ。
 ――それは、異形の怪物が蔓延る天地の噺だ。
 ――それは、鋼の武器と魔法の全盛期の譚だ。
 キーワードは、《魔素》と、異形と、魔法。
 俺たちの世界と、先崎たちの世界。果たしてどこまで共通点と相違点があるか、これで炙り出す。




 ※

365盤面の揺らぎ ◆46YdzwwxxU:2012/10/31(水) 21:18:45 ID:8H1Wet6U0
申し訳ないんだけど今回はここまで。
タイトルは「Beyond the school gate/盤面の揺らぎ」で書いていたけど、字数制限に引っかかった。
まあ「先輩とチェンジリング・デイ」と扱いは一緒で、/以前はいらない感じで

366名無しさん@避難中:2012/11/02(金) 00:30:01 ID:yuNmvnZAO
乙です
後輩ちゃんのいる場所がナチュラルに危険な気が
彼岸からでも戻ってきそうな気もしますがw

主人公組(?)は休憩なようで
かれんちゃんという男二人の空間に添える華もとい、爆弾があるところがいろいろと気にかかります

367名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 17:58:50 ID:I6wTeo/20
一応まとめてみたけれど
今回、サブタイトルはどうしたもんかね?
要望があれば言ってくれるとありがたい

368名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 18:38:01 ID:MACcUi3wO
>>367
ありがとう!
今の感じでいいです。

369名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 19:09:26 ID:I6wTeo/20
サブタイトルについては気にしなくてもいい感じですか?

370名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 20:04:33 ID:MACcUi3wO
はい。
ビヨン(ド)ザスクールゲートシリーズで一括したほうがいいかなと。
今後も区切りに合わせて「先輩と〜」とか「盤面の〜」みたいにサブタイを付けていくつもりですが、気にしない方向で。
お世話になります。

371名無しさん@避難中:2012/11/05(月) 23:24:23 ID:I6wTeo/20
あいさー

372名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:52:35 ID:bmjyCe8Q0
ちょいと投下いたします

373名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:53:30 ID:bmjyCe8Q0

 神社の近くにある自宅へとキッコと名乗る化け狐らしき女性を案内した鈴絵は、
乞われるままに学園に持って行った鞄の中から社会系の教科書を取り出して、先に風呂に入ってもらったキッコに見せた。
 キッコが興味深そうに教科書に目を通している間に風呂に入った鈴絵は、日本史の教科書を開いているキッコの顔を見つつ、
彼女と一緒に確認した自宅の様子を思い出す。
 簡潔に言えば、神柚家は精巧に作られた映画用のセットのようになっていた。
 どこを探しても家の中に家族の姿はなく、資源回収の日までは取っておかれているはずの古新聞の類もなかった。
台所も調理器具は必要最低限のものだけが配置されており、結婚式の引き出物として両親がもらってきていた食器や、
台所の隅にあったはずの火除けのお札もスペースだけ空けてなくなっていた。
 今キッコが読んでいる教科書類についても、今日学園に持っていった鞄の中のものだけ残っており、
他の教科書はいつも置いてある自分の部屋の中には存在していなかった。
 その話を鈴絵から聞いたキッコは一つ頷いて、今いるこの世界は鈴絵が元いた世界とは違うところであるらしいとのたまった。
鈴絵としては、いきなりそんなこと言われても、というところではあるが、確かにこの不気味な状況はどこか変な世界にでも迷いこんでしまったのではないかと思わざるを得ない。
 キッコは身一つで飛ばされてきたが、鈴絵は土地の複製と一緒に飛ばされてきたのだろうとのことで、
この家は神柚家であって神柚ではないらしい。
 リビングにあったテレビや、別の部屋にあったラジオ動かしてみたが、これらは動きはするが、
どこのチャンネルも映像や音声を受信する気配はなく、ダメ元で使ってみようと思った携帯に関しては間が悪いことに、
学園に忘れてきたのか、どこを探しても見つからなかった。
 現在、リビングの電気は頼もしくついてくれてはいるが、それもいつまで保つものかわからない。配電設備があっても、
それらを動かせる人間がこの世界に喚ばれているのかはわからないのだ。キッコの方も、何やら通信に使うことができるという符、
という魔法の力をもったお札がないということで、仮に知り合いがこの世界に飛ばされていたとしても連絡を取ることは今のところできないようだった。

374名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:54:26 ID:bmjyCe8Q0
 ……魔法……。
 そう、魔法だ。
 キッコの元いた世界では、≪魔素≫という、鈴絵たちの世界では存在しない
――と思われる元素を用いて魔法と呼ばれる不思議な事象を操る技術があるらしい。
 この世界は空気中にある≪魔素≫の密度が薄いようだと告げたキッコの言葉は、
にわかには信じられないものであったが、
大狐が人の姿になったりまた狐の姿になったりを説明の間に何度も楽しそうに見せられては、いい加減否定する気力も尽きてくる。
 ……そんなものが本当にあるんだ。
 大狐が人になったりするよりももっと大規模な不思議に巻き込まれてはいるが、
そちらにはいまだに実感が湧かない鈴絵は、
ひとまず驚きの焦点を目の前の女性に合わせて不思議な現象それ自体を実際に存在するものとして受け入れている。
 鈴絵の視線に気付いたのかキッコはページをめくる間にわずかに顔を上げ、おお、と言って笑む。
「風呂に入り終わったか。ちと待っておれ。あと少しで全部読み終わるのでな」
 そういって次のページへと目を走らせるキッコの衣服は神社の中に何着かあった、年末などの忙しい時に雇うアルバイト用の巫女服だ。
 金髪金瞳に白と紅の巫女服は、妙に似合っている。ただ、窮屈そうな胸元が気になるといえば気になるが――
 鈴絵はこほん、と咳払いして、邪魔かな、と思いつつ声をかけた。
「すみません。いろんなサイズを揃えられる服はそれしかなかったので」
「かまわんよ。獣としての我は畢竟、衣服はなくとも別によいと思っておるしの」
「それはやめてください」
 そう苦笑する鈴絵の服も先ほどまでとは違う巫女服だ。
客にだけコスプレのような恰好をさせるのは悪いと思ってのチョイスだったが、キッコ相手ではいらない気遣いだったかもしれない。
 キッコはまたページをめくる動きの途中で鈴絵に目をやり、
「やはり、似合っておるな」
「ありがとうございます。でも、キッコさんも似合ってますよ」
「そうかの」
 キッコは口元に笑みを浮かべ、
「このようなッ服は我の妹の方が似合うと思うのだがの」
「妹さんがいらっしゃるんですか?」
「うむ、我の血と肉を分けた妹よ」
「そうなんです……あれ?」
「どうかしたかの?」
「いえ……」
 血を分けたという言い回しなら娘ではないだろうか、とか、肉……? とか思う鈴絵の前で、キッコは文字を目で追いながら呟く。
「あれは人型が本性で獣にはなれないのだがの。ちょうど鈴絵、お前よりもう少し下くらいの年齢ではないかの」
 は、はあ、と零す鈴絵を置いてキッコはブツブツと続ける。
「もう少し鈴絵のように出るところは出て引っ込むところは引っ込めばあの朴念仁にも――まあいい」
 あまりよくなさそうに言って、本に集中しだしたトヨを眺め、
妹さんも巫女服は様になるんだろうなとかバイトに来てくれないかなとか思っていると、キッコが音を立てて本を閉じた。
 どうやら全部読み終わったようだった。

375名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:55:26 ID:bmjyCe8Q0


****

 鈴絵が学園で使っているという歴史の教科書を横に積み、キッコは鈴絵に向き直った。
 居住まいを正す鈴絵を前に、キッコはとりあえず教科書を読んだ感想を述べる。
「どうも我らの世界はそこまで大きな違いを持っているわけではない気がするの。
歴史の大まかな筋は似ておる」
「大まかな筋ですか?」
「うむ、我も人の歴史にはあまり詳しいわけではないがな。
 ≪魔素や≫魔法の有無、それに、いわゆる伝承上の存在がいくらか実在している、
というのがこの教科書で見た歴史と我の居た世界の歴史の違いかの。
あと、我らの世界はもう少し年代が先に進んでいるようだの」
「キッコさんは未来の人、ということですか?」
「単純に我らがお前たちの世界の未来から来たというかというと、またそれは違うような気もするの」
 キッコは言葉を探して視線をさ迷わせ、
「あれだの、ぱられるわーるど? そのようなものなのかもしれん」
「並行世界ですか?」
「うむ、機械系の技術にしても、自分でものを考える機会人形を作れるほどのものはないのだろう?」
「どの程度かのレベルによると思いますけど、まあ、キッコさんがおっしゃるようなものはまだまだではないかと。
――一部仁科学園の中にはそれができそうな人もいますけど、一般的ではないですし」
「うむ、だからお前たちの世界の未来は殺伐としているとは考えんでもよいだろうの」
「異形、というものが現れて日本は大変なことになっているんでしたっけ?」
「今はある程度安定は取り戻してはおるがの。人同士で主義主張をぶつけ合って騒ぐくらいには余裕があるようだて」
 キッコはそう言って、さて、と問いかける。
「我もその異形というやつでの。故あって人を殺したこともある。
偽物とはいえ、我のような者を家に置いておいていいのかの?」
 問いかけに、鈴絵はうーん、と考えるそぶりを見せ、
「話に聞く異形は本当に怪物みたいで怖いですけど、
キッコさんはそんなに怖くはないですから、いいんじゃないでしょうか?」
「ほうかほうか」
 頷きながら、キッコは当面はこの娘といても大丈夫か、と考える。
 ……が、実際に戦えばどうなるのかはわからんの。
 キッコたちの世界のことを知らないのならば尚のこと、
鈴絵が今下してくれた好意的な判断はこの後も変わらないという保証はない。
 ……何かの拍子に拒絶されるような事態に陥る前に、得られるだけの情報は仕入れておきたいの。
 もしかしたら、鈴絵が知らないだけでこの世界から脱出するヒントを彼女が知っているかもしれないし、
彼女の居た世界の町の複製であるらしいこの町に、彼女の知らない何かがあるなら、
そういうところを調べていけば何かこの世界のことが分かるかもしれない。
 ……例えば、この異変の原因や、あるいは首謀者のことも、な。

376名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:56:28 ID:bmjyCe8Q0
 別の世界が交わる。これほどの異変が発生しておきながら、
神社の上から見下ろした限りでは、どうもあの異変によって発生した余波はほとんどないように思われた。
 自然に発生した天災と考えるには洗練されているというか、そつがなさ過ぎる。
何らかの調整が働いているような、管理の跡が見られるような気がしてならない。
もしこの異変が何者かの管理の元で人為的に行われたものであるとしたら、この状態から元の世界に戻ろうとする場合、
力ずくでその何者かと争わなければならない時がくるかもしれない。
 ……そうでなくても、戦うことになる可能性はそれなりにあるの。
 元々キッコは自分がいた世界でも異形として人に狙われることがある立場だ。
 一応、あの世界の偉い人間との繋がりを証明するものも持ってはいるから、いきなり問答無用で戦うことはないだろうが、
自分以外にもこの世界にキッコが居た元の世界の者が来ていれば争うことになるかもしれないし、
鈴絵の世界の者とも争わないとは限らない。更に考えれば――
「この異変に巻き込まれた世界が二つだけとは限らないのがまた悩ましいの」
「え、まだ他にも世界が混ざっているかもしれないんですか?」
「まあ、可能性は大いにあるの」
 キッコは念を押すように鈴絵の目を見る。
「気をつけよ」

377名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:57:39 ID:bmjyCe8Q0


****

 鈴絵はキッコの言葉に深く頷いた。
 ……やっぱり、こういうことに慣れているのかな。
 難しい顔で何やら考えこんでいる様子のキッコを見て思い、鈴絵は今、
周囲にこの世界の事情を知る人がいない以上、最も頼れるのは何もわからない自分よりもこの狐さんだろうと思う。
「あの、キッコさんはこの世界から脱出する方法を探しているんですよね?」
「うん? ああ、そうだの」
「それなら、私もついて行っていいですか?」
 キッコは天井を見上げて何か考え、
「ああ、かまわぬ」
「ありがとうございます」
 これで、なんとか元の世界に戻るために前進できたはずだ。
「ではまずはどうしますか?」
「そうだの……」
 キッコは目を細め、
「まずは、このあたりの地図を作ってくれんかの? 土地勘がないまま動き回るのもあまり賢くはなかろう」
「あ、はい」
 地図はないため、簡単な図をノートに書いてこの町の土地の様子を神社を中心にして説明する。
 それらを見たキッコはやはり、と前置きして、
「調べるなら、一番大きな建物である、この仁科学園だの」
 鈴絵にとっては慣れた場所だ。学園の中でおかしなところを見つければ、
何か手がかりもつかめるかもしれない。それに、
「ラジオもテレビも通じないので怪しいですけど、学園の中の私の携帯が見つかれば、
それを使って誰かと連絡がとれるかもしれません」
 そもそも学内に携帯が飛ばされてきているのかはわからないが、見つからなかったとしても学園行きは無駄にはならないはずだ。
「もし携帯が見つからなくても、学園のスピーカーが動けばけっこう広い範囲に声をかけることができるはずですから、
それで町中に呼びかけもできます」
 鈴絵の言葉にキッコは渋い顔をした。
「私、変なこと言いましたか?」
「いや、不特定多数の者に呼びかけるというのは現状では、な。
 しばらく様子を見ておきたいのだ……」
 慎重に言うキッコに鈴絵は反論する。
「でも、キッコさんと出会えた私はいいですけお、何も知らずにこの異変に巻き込まれた人もいるはずです。
一人でこんなことに巻き込まれるのは怖いと思うんです。自分の身を守る術を持たない女の子は、ええ、特に」
 詰め寄って身を乗り出すようにして言い切ると、キッコはむ、と言って目を逸らした。
やがて、息を吐いて乱暴に髪をかき回し、
「わかった。やるだけはやろう――それと、これを持っていくといい」
 そういって髪の中から引き抜いた一枚の紙切れを鈴絵に渡した。

378名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:58:49 ID:bmjyCe8Q0
「なんですか? これ」
 よく見てみると、その紙切れにはお札か何かのように、いまいち読めない文字が書いてある。
その紙を指さしてキッコは「お守りだ」と言った。
「お守りですか?」
「我の世界で人間が作ったものでな、≪魔素≫がなくとも身を守るくらいの効果はあろう。
それに、我のいた世界で平賀か安部の名を知っている者がその符を見れば、まあ悪いようにはせんはずだの」
 一呼吸おいて、
「この先、危険があるやもしれんからの、まあ持っておけ」
「はい……」
 どう見てもただの紙のお札にしか見えないそれを懐に収める。キッコはよし、と言って立ち上がり、
「では行くかの」
 そのままの格好で外に出て行こうとするキッコに鈴絵は制止の声を投げた。
「ちょっと待ってください。着替えないんですか?」
 外に行くというのなら、今着ている巫女服より最初に着ていたラフな服装の方がいいだろう。
 キッコは自分の姿を見下ろし、
「我は服は変化の応用で後々どうにでもなるしのう。
それにこの格好ならば何か問題が起きて、我の正体を隠したい時に耳と尾を出すことになってもこすぷれ、と言って流せそうだしの」
 しかし、とキッコは鈴絵の前で身を屈めた。
「……なんですか?」
 突然かち合った視線に戸惑った声を上げる。キッコは神妙な顔で頷き。
「我の知り合いはこの手の服は履物の下着をつけないのだと言っておったのだが」
 おもむろに緋袴をめくり上げ、
「やはり履いておくものなのだな」
「な、な、な……?」
 茫然としていると、キッコは袴をもとに戻し、
「よい趣味だの。では、鈴絵もこの服のままで、早く行くとするか」
「お断りします」
 妙に晴れやかな笑顔と声で鈴絵は言う。それに対してキッコは両手を上げ、
「まあ待て、これにも意味があるのだ」
「へえ……意味ってなんですか?」
「うむ、この先、もしかしたら異世界の者とまた会うこともあるかもしれん。
その時、我のことを自分の式だと言っておけば、少なくとも我の居た世界の者相手ならばおいそれと手を出そうとは思わぬだろう。
そのような時に言葉に背得力を持たせるのが、その衣装だの。そう、その恰好は身を守るための保険なのだ」
「式ってなんですか?」
「ん? 式神――傭兵として雇った用心棒がいる証みたいなものとでも認識してくれればいい」
「そうですか……」
 先程の言葉の途中から口先が吊り上っているキッコをみて、鈴絵は実に複雑な顔をする。
 言っていることに理があるような気がしないでもないが、全体的に怪しいことこの上ない。
 ……でも、一緒に行くって決めたんだから。
 半ば自分に言い聞かせるようにして腹をくくり、鈴絵は袴の裾を整えて立ち上がった。
「ところでキッコさん」
「なんだの?」
「説得力も何も、キッコさんがその場で狐になった上で宣言すれば、
私の方に説得力なんか足さなくても皆納得してくれると思うんですけど」
 キッコはなるほど、と呟き、
「そんな眉に唾を付けた言動などせんと、下着の柄に水玉を選択するような
――そんな素直な心で我の言葉を聞いてくれればよいのだ」
「あ、ちょっと! もし誰かに会ってもそんなこと言わないでくださいよ?!」
「さてさて」
 狐は楽しそうに喉を鳴らしながら家を出て、神社から見下ろす巨大な施設を見極めようとするかのように目を細めた。

379名無しさん@避難中:2012/11/11(日) 00:59:18 ID:bmjyCe8Q0

彼女たちの戦いはまだ始まったばかりだ――!
名無しさんの次回作にご期待ください

結縁の続きです
キャラはキッコ@みんつく異形世界
神柚鈴絵@仁科
を引き続き使用です

380名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 03:15:30 ID:dYtKcOH.O
続ききた!

キッコ様マジ野生のちじょ。
鈴絵とのコンビはかなり行動力ありそうだな。一番話が進んでるw
歴史の教科書は説明に便利そう。
地理的な意味で仁科学園が熱くなるな……

世界的にはほぼ箱庭的なレプリカってことで共通認識にしていいのかな?
それから家族とかそういうキャラやメディアは絞ると。
もっと進んだらバトロワ系スレみたいに情報を整理する必要があるかもね。

それにしても、謎の書き手・名無しさん……いったい何者なんだ……!?

381名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 21:28:26 ID:JgHbcKKw0
>>379
次回作ってことは、もうこの話はこれで終わりって事?だとしたら生殺し感半端ない

382名無しさん@避難中:2012/11/12(月) 22:06:23 ID:hqP5nhvI0
>>381
他の人の動きをうかがいつつ、それにのっかる形で続きをかけたらなぁとか思っています

383名無しさん@避難中:2012/11/13(火) 00:54:00 ID:fDcfzhl.0
>>382
そうですね、マイペースで無理のないような形で続きを書いていただければと思います。
楽しみですので

384名無しさん@避難中:2012/11/13(火) 23:56:29 ID:84SifxhYO
鈴絵さん、まだ水玉か!
いいな!!
見たいな〜(チラッ


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板