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勇者シリーズSS総合スレ避難所 part2
311
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/01/16(月) 02:33:27 ID:ROxOeCM20
乙です。
こっちは結局クリスマスに間に合わず、ボツってしまいましたが。
何はともあれ、ミニスカサンタのアイ、ごちそうさまでした。
ぺったんこにだって需要はあるさ!
しかしカイトめ、なんとうらやましい……。
アイの扱いを心得てるだけなのか、それとも実はプレイボーイなのか、
どちらかは分かりませんが。
……そろそろ悠羽とのデートも進めてやらないと。
312
:
名無しさん@避難中
:2012/01/16(月) 04:24:16 ID:YTZY4vpEO
投下乙。
ミニスカサンタコスでマジカル火炎放射器を気軽にぶっぱなす生物学者アイさんコワス。もう何者だよw
カイトがトナカイトになれば完璧だった。
そして不意に始まったおさわりに違和感なさすぎてびっくりした。カイト何してんw
313
:
天空勇者
◆tTB5y6n.0k
:2012/01/25(水) 01:37:20 ID:BhBBKF5M0
ロボティクスACTをマイトガイン狙いで回した結果
ガオガイガーx2、レアx1
エクスカイザーx2、レアx1
マイトガインx1
という、なんというかなーな結果になってしまったのであります。
>>311
ありがとうございます。
カイトはプレイボーイ! ではないです一応w
いつも振り回されている仕返し……だと思います!ww
季節物は基本的に間に合わないと……ですよね。
正月も書く予定はありましたけど結局無理でした。
>>312
頭脳は明晰。だけどバカ。生物学者の木谷美アイです!
トナカイトは盲点だったw カイトにそこまでのノリを求めてはいけないってことでここは一つ。
おさわりに関しては、どうしてこうなった……! としかw
314
:
名無しさん@避難中
:2012/01/28(土) 18:02:13 ID:VQQNGkAQO
俺も見掛けたから回したー。一応僻地にも来てくれて助かった。
8回トライしてコンプリ。
315
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/01/29(日) 21:46:43 ID:7hfqCv8Y0
クリスマスには間に合わなくとも何とかバレンタインには……と思いきや、
こっちも無理そうで、どうしたものやら。
もし書くとするなら、悠羽が作ったチョコを巡って血で血を洗う争いが……
的なノリになりそうな気配ですが、やっぱり書けそうにないなぁ。
ホワイトデー頃には身の回りが落ち着きそうな気もしますが、その時期には書く事がなさそうな。
その前に色々書くものが溜まっているのは、言わないお約束。
316
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/02/26(日) 03:48:14 ID:E7qTHvm20
久々の書き込み&連投ですね。
とりあえず生存報告として、短いですがSSの続きを投下します。
続きは近い内に投下出来ればいいなぁ、と思ったり。
では、投下をば。
317
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/02/26(日) 03:49:22 ID:E7qTHvm20
ワタシのカレは天空の勇者 その5
「そう、悠羽ちゃんは私と勝負するんだからね!」
未だに事態が呑み込めず、正座したまま目を上下左右に泳がせている悠羽を改
めて指差したアイは、既に結果を確信したかのような余裕の笑みを浮かべ、カイ
トへと顔を向ける。
「カイトも、それで文句無いよね?」
「あるに決まっているだろう」
アイの言葉を真っ向から否定したカイトは、彼女に聞こえるよう、意識して大
きなため息を吐き出し、批難の色を多分に含んだ視線をゆっくりと向ける。
「お前はいきなりやって来て、何を勝手に話を進めているんだ。ほら、早く研究
所に戻れ」
「がーん! か、カイトが冷たいよぉ……」
漫画に出てきそうな擬音を自ら口に出し、シートの上に崩れ落ちたアイは、先
ほどのお返しとばかりに、批難めいた視線をカイトに向ける。
「そんなに悠羽ちゃんがいいんだ? そうだよね、悠羽ちゃん可愛いし、足長く
てスタイル良いし、家は何だか凄いし。どうせ私は可愛くない女ですよ〜だ」
「誰もそんな事言ってないだろう。大体、勝負って言うけど、何の勝負をする気
なんだ?」
「え……? そ、それは……えっと……」
カイトの指摘に答えを詰まらせたアイは、頬を掻きながら上手く回らない頭を
全力で稼働させ、ようやく混乱の治まりかけた悠羽の横顔を伺う。
「ぼ、ボクシング、とか?」
「……お前、跡形も残らないぞ」
「そんな事ありませんっ!」
悠羽が慌ててカイトの言葉を否定するが、
「そういえば悠羽ちゃん、この前ブレイバーズでやった合同訓練で、訓練所の壁
をウォーミングアップみたいな軽いノリでブチ抜いてたよね」
「さすがの武藤さんも青ざめてたな。天農博士は『くわばらくわばら』だけ言い
残してどこかに消えるし」
「やっぱりトンデモ系だよね。私もあの呼吸を教えてもらおうかな?」
「お前は研究所を破壊しそうだから勘弁してくれ。ある意味、フォグ・ラインよ
り厄介になる」
「二人とも、ひどいですっ!」
いつまでも続きそうな二人の会話を止めたのは、悲鳴に近い悠羽の叫び。
「確かに、あの時はちょっと加減を間違えて壁を壊しましたけど……。でも、あ
れはちょっとした事故です。それを、そんな風に言わなくても」
「私、力加減のミスでブチ抜かれたくないなぁ……」
「ごめんごめん。確かに言いすぎたね。それじゃ、こいつは無視して次の場所に
行こうか」
「ちょっと! ここに来てサラっと無視しないでくれるかな!?」
荷物をまとめ、立ち上がろうとする二人を大きく広げた両手で必死に制するア
イ。
「アイ、お前はさっきから勝負がどうとか言ってるけど、何でそんなに月守さん
と勝負したがってるんだ?」
「そ、それは……」
318
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/02/26(日) 03:50:19 ID:E7qTHvm20
カイトの膝枕が賭かっているからに決まってるじゃない、と出かかった言葉を
懸命に飲みこんだアイだが、代わりの言葉が出てこない。
「それは、ね」
「アイかて悠羽と遊びたいんや。そうやろ?」
アイの言葉を引き継いだのは、彼女の後ろから現れたもう一人の女性。
「悪いなお二人さん。今日は後を尾けさせてもらってたで」
「……えっと、篠原さん、でいいのかな? この関西弁の女性は」
「早希さん、ですよね? 関西弁ですし」
「関西弁以外でウチを判断できんのかい!」
「ひどいよ二人とも! 普段は化粧も無ければ色気も胸も無い、機械だけが友達
の早希ちゃんがオシャレしたっていいじゃない!」
「アイ、お前が一番ひどい事言ってないか」
「アイさん、さすがにそれはちょっと」
「…………アイ、あんたの気持、よう分かったわ」
バッグを静かにシートに置いた早希は、自由になった両手でアイの身体を力強
くホールド。
続いて足をアイの身体に絡ませ、そのまま彼女の身体を絞り上げる。
「胸の事に関しては、アンタにとやかく言われたくないんやけどな!」
「早希ちゃん! ギブ! ギブ! コブラツイストはキツイよ!」
身体を絞めあげられ、涙目になりながらギブアップを宣言するアイは、カイトに
視線で助けを求めるが、
「良かったなアイ、篠原さんと仲良くしてもらえて。それじゃ、俺達は別の場所に
行くから」
「え!? ね、ねえ、カイト! 助けてくれないの!? 可愛いくて愛しのアイちゃ
んの大ピンチなんだけど!」
「可愛くも愛しくもないからな。篠原さん、アイをよろしくお願いします」
「よっしゃ、任せとき。……と、言いたい所やけど」
アイに技をかけた体勢のままの早希の顔に、試すような笑みが浮かぶ。
「せっかくやし、ここで開発してる『アレ』のテストを、この二人にやらせてみた
らええんちゃう? 『アレ』なら白黒ハッキリつけられるやろ」
「確かに『アレ』は、そろそろテストをしようと思ってた所だからなあ」
早希の言葉の意味を理解したカイトは、事情を理解できていないアイと悠羽を交
互に見る。
「まあ、この二人なら大丈夫かな」
「そういうこっちゃ」
アイの身体を解放した早希は、目に涙を浮かべて身体をさする彼女の背中を軽く
叩く。
「アイ、望み通り悠羽と勝負させたるわ。内容は……そうやな、ロボットの操縦技
術ってのはどうや?」
319
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/02/26(日) 03:51:33 ID:E7qTHvm20
白川グループの運営する一大テーマパーク『エル・ドラド』の北側に位置する、
白と黒の大きな建物。
SF小説に出てくる宇宙船のような外観のそれは、ゲームセンターやボーリング、
カラオケなどをまとめたアミューズメント施設であり、敷地内にに点在する他の施
設と同じく、設備の質や規模において、日本最大級を誇っている。
「悠羽とアイは、『ICS(イクス)プロジェクト』って知ってる?」
早希の声が響くのは、施設の性格ゆえ、若者やカップルの姿が目立つアミューズ
メントパークの地下に広がる無機質な廊下。
最新の機種が揃い、非日常の喧騒に包まれる地上とは対照的な、蛍光灯の灯りに
照らされる白い一直線の廊下は、清潔感と機能性こそ感じるものの、多くの人が集
まり賑わう園内において、異質な存在といえる。
とはいえ、それなりの広さを持つ廊下は決して無人という訳でもなく、左右に並
べられたドアから出入りする者や、カイトらとすれ違う者の動きは、ここが彼らの
日常である事を無言で主張している。
「ICS? 私は知りませんが、アイさんは?」
「私もサッパリ。人の名前かな?」
廊下で誰かとすれ違うたびに軽く挨拶を交わすカイトや早希とは違い、園内とは
雰囲気の異なる初めての場所に戸惑い、視線を泳がせる悠羽とアイは、早希から告
げられた言葉を半ば聞き逃しながら、周囲の探索を続行する。
「まあ、そうやろうね」
二人の気の無い返事に当然のように扱い、足早に廊下を進む早希。
「『ICS』っちゅうんは、Intelligence Control Systemの略称でな。カイトの
開発した超AIの派生形、っていえばイメージがつきやすいか。超AIみたいに完
全な自律行動はせえへんけど、ある程度の自我を持って機体のシステム制御や搭乗
者のサポートをしてくれるシステムなんよ」
廊下の突き当たりのドアの横に付けられたカードリーダーに、早希の懐から取り
出したIDカードが通される。
「ICSのサポートがあれば、ペーペーの搭乗者でもそれなりの実績が期待できる
し、ICS自身も、情報を蓄える事で、より正確で迅速なサポートを行えたり、仲
間内のICS同士で情報の共有もできたりと、まあ、リアルタイムで成長する便利
なサポートシステムを機体に組み込んでみよう、ってのがICSプロジェクトの大
雑把な所やな」
早希の説明と共に、音も無くスムーズに開くドアの奥に広がっていたのは、小さ
な体育館ほどある空間と、その中に所狭しと並べられた大型の機械の数々。
「で、今はそのICSを各組織で協力して作ってる最中なんやけど、それをゲーム
に転用してみようって話になってな。……そんな事言い出したんは、ウチらの所の
大将やけど」
大型の機械に張り付くスタッフに目で挨拶する早希が指差すのは、部屋の中央に
置かれた二つの白い立方体。
「そんなワケで、簡易版のICSを搭載したゲームの試作版が出来たから、そのテ
ストを二人にやってもらおう、と思ってな。これやったら、前の模擬戦みたいに危
険な事も無いし、ちょうどええやろ」
「つまり、私と悠羽ちゃんが、このゲームで対戦するって事?」
「ああ。アイも月守さんもロボットの操縦には慣れてるからな。何をそんなに勝負
したがってるのか知らないけど、これで勝敗をつければいいだろ」
「うん、何だか面白そうだし、これなら私の命も安心だね!」
「だ、だからアレ事故なんです!」
思わず声を大にして反論する悠羽をよそに、軽い足取りで筐体である白い立方体
に入るアイ。
320
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/02/26(日) 03:52:28 ID:E7qTHvm20
およそ二メートル四方ある筐体の中は、当然というべきか、ロボットのコクピッ
トを模した作りになっており、周囲の壁や天井と足下までに全天モニターを思わせ
るディスプレイが敷かれている事に、アイは小さな驚きと感嘆の声をあげる。
『アイ、聞こえるか』
ゲームセンターに置かれる筐体にしては分不相応な質のシートに腰掛けたアイの
耳に届くのは、シートの後方のスピーカーを通したカイトの声。
「あ、カイトだ。このシート、すっごい座り心地いいね。研究所に持って帰りたい
んだけど」
『そういうのは自腹でな。それじゃ、ゲームを起動させるぞ』
カイトの言葉が終わるより早く、アイの周囲を囲むディスプレイに光が宿り、ロ
ボットの格納庫を思わせる風景が映し出される。
「おお、リアルだね」
三百六十度映像が展開し、ここがゲームの筐体の中である事を早くも忘れそうに
なったアイは、顔を上下させ、天井や地面に至るまで完全に再現された映像の完成
度に再度の感嘆を口にする。
「『鋼の勇者たち(ブレイブ・サーガ)』っていうんだ、これ」
正面に表示されたタイトルを口にしながら。アイは両手を前に伸ばし、レバーを
掴む。
左右で独立した動きの出来るレバーは、それぞれの五指に対応した計十個のボタ
ンが付けられており、正面のディスプレイには、それぞれのボタンが担う役割につ
いての説明が表示されている。
「左右の手に持つ武器や盾の使用や切り替え、上半身の向き、ロックオン……なか
なか複雑だね……っと、次は足の説明か」
説明に従い、左右の指を細かく動かしていくアイの正面の画面が切り替わる。
ディスプレイが映すのは、アイの両足に位置する二つのペダル。
自動車のアクセルとブレーキに似た二つのペダルだが、片足で両方を扱う自動車
のそれとは違い、左右の足でそれぞれを操作する方が適切だという説明が表示され
る。
「こっちは下半身と推進系のコントロールか。ペダルを踏む力加減が大切っぽいね」
説明の内容を理解したアイは、左右の足でペダルを踏み、その固さを確かめる。
『それでは、使用する機体を選択して下さい』
操作の説明が終わり、平坦な女性の声と共に、再度画面が切り替わる。
どこかで聞いた声だな、と思いつつ、アイは右手のレバーを前後に動かしてカー
ソルを操り、自分が使用する機体を選ぶ。
いかにもゲームらしい、機能よりもデザインが先行した機体の数々にカーソルを
合わせると、その機体の名称や特徴が表示されていく。
そして、騎士や電光など、どこかで見た事のあるようなキーワードを盛り込んだ
機体を一つずつ吟味していくアイの動きが、ある機体の所で止まる。
「スカイ・ルーラー、かぁ」
背に戦闘機を思わせる鋭角の大きな一対の翼を持ち、装甲を空の青で彩った機体
の名を呟いたアイは、機体の横に表示される説明に目を通す。
『その翼で大空を駆ける天空の支配者。機動力と火力は申し分ないが、装甲の頼り
なさには要注意なので、盾の使い方が重要。充実した装備と専用のICSと共に戦
場を支配しよう!』
説明文の横に書かれる機体のスペックにも目を通したアイは、恐らくこの機体の
元になっているであろう勇者を想像し、小さく頷く。
「うん、私にはこれがいいや」
右手のボタンで機体を決定させたアイは、機体ごとに設定されているICSの説
明を見落としていた事に気付き、改めて画面に目を通す。
『スカイ・ルーラー専用ICS:Oタイプ。天空の支配者にピッタリの王様タイプ。
王様なので、実はサポートには向いていないかも。でも、声がカッコイイので、耳
元で美声に囁かれたいアナタにオススメ!』
「何これ、変なの」
機体の説明とは違う、奇妙なそれにアイが目を通し終えた直後、
『私を選んだのは卿か』
威厳を感じさせる低さの中に、聞く者を陶酔させる甘さを含んだ、説明通りの美
声が彼女の聴覚を刺激する。
『さあ、共に参ろうか。これより我等に敵対する者に、ことごとく見せつけてやろ
う。王の闘争というものをな』
「このぶっ飛んだ変態じみたノリって……」
以前、戦闘の場で相対した異世界の王を思い出したアイは、なぜ彼の人格が使わ
れているのかを疑問視するが、彼のような際立った存在はゲームに馴染みやすいの
だろうと、自分なりの結論を導き、納得する。
「とにかく、今日はよろしくね。悠羽ちゃんに勝って、カイトの膝枕をゲットする
んだから」
『よかろう。卿の望みを叶えるのも、王の務めというもの』
「……サポートシステムのくせに、すごい上から目線なんだけど」
姿の見えない相棒に不安を覚えつつも、アイは切り替わっていく画面に集中する。
「よし、いくよ悠羽ちゃん! 絶対に負けないんだから!」
321
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/02/26(日) 03:56:12 ID:E7qTHvm20
今回は以上です。
次回で最終回を迎えられる、はず。
書きながら「悠羽とアイ」で「you & I」を連想したものの、だからといって何もありません。
王様を出したのは、その場のノリの産物なので、この後はどうしようかな、と思ったり。
ではでは、また近い内に。
322
:
名無しさん@避難中
:2012/02/29(水) 01:09:00 ID:2N3ZO2r.O
投下乙
「力加減のミスでぶちぬかれたくない」w
悠羽さんマジ破壊者。くわばらくわばら。
細かいとこで色々小ネタを挟んできてるんだね。
このゲームはまたどっかで使えそうだ。空の支配者スカイ・ルーラー……いったい何騎なんだ……
323
:
名無しさん@避難中
:2012/03/03(土) 03:03:59 ID:9mrZlL72O
age
俺も夏が来たら本気出すわ。改めて過去作読み返すとなんか新鮮だ
324
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:06:06 ID:wDl8tQck0
>>322
どこかで使っていただけるなら、ぜひ使って下さい。
あまり細かい事は考えてませんので、何か聞かれても深くは答えられませんが。
その辺りは書く人のノリにお任せ、という事で。
……次で最終回、と言いましたが、実はそんな事は無かったですw
某死神漫画風に言うなら、
「いつから次が最終回だと錯覚していた?」
な状態です。
あまり無責任な事を言うものではないと、今更ながらに反省。
では、最終回じゃない投下をば。
325
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:07:27 ID:wDl8tQck0
ワタシのカレは天空の勇者 その6
「えっと、このボタンで攻撃して、こっちのボタンで防御して……あ、逆でした」
アイが機体選びを行っている頃、一歩遅れて筐体に入った悠羽は、画面に表示さ
れている操作説明の内容を理解するのに苦労していた。
悠羽の愛機である聖炎凰を始めとする鋼騎の操縦方法は、脳と機体をリンクさせ
るHMLSと呼ばれるシステムによるものであり、このゲームのようにレバーやペ
ダルなどを操作する方法ではないのだ。
そのため、複数のボタンを素早く駆使して機体を操作するという感覚は、悠羽に
とって未知の世界であり、その挙動はとてもパイロットのそれには見えない。
『それでは、使用する機体を選択して下さい』
悠羽の戸惑いを無視し、画面は機体選択へと変わっていく。
「あ、まだ操作を覚えてないです……」
不安に満ちた、か細い声で放たれた悠羽の抗議は当然受け入れられず、彼女の視
界には、自身が操作するべき機体が映し出される。
「仕方ありません。あとは実際に動かしながら覚えるしかないですね」
小さく息を吐き出し、気持ちを切り替えた悠羽は、目の前に表示される機体の説
明に目を通していく。
視線を素早く動かし、必要な情報を的確に取得していく悠羽が重要視するのは、
ただ一つ。
それは、機体の持つ武装。
自身が鍛えた格闘技術をそのままフィードバックする聖炎凰を駆る彼女にとって、
他の機体が装備している銃や剣といった武装は全くの未経験であり、このゲームに
おいても、上手く扱える自信が無い。
当然の帰結として、悠羽が求めているのは、聖炎凰と同じく格闘術を主体とした
機体である。
敵を屠るのに、余計な武装や機能は必要無い。
必要なのは、鍛え抜かれた五体と極限まで高めた集中力、そして、それらを支え
る正しいリズムの呼吸が織り成す、格闘術とは名ばかりの暴力。
それをゲーム上で体現できる機体を探す悠羽の動きが、不意に止まる。
それまでよりも画面を注視する悠羽の視線の先に表示されているのは、
「葬牙(そうが)、ですか」
刃で作った装飾品のような、鋭角で構成された黒い細身のボディに、重量バラン
スなど一切考慮されていない巨大な左腕を持つ機体であった。
これが実際の機体なら、直立すらままならないであろう異様な外見を有する葬牙
の横に書かれた説明文は、ただ一言。
『ぶん殴れ。それだけだ』
「はい。そうさせてもらいます」
説明というにはあまりにも乱暴なその一文に、これを書いた者の姿を想いながら、
悠羽は操作する機体を確定させる。
『フハハハハハ! この超天才ICSとである私と葬牙に任せるがいい!』
直後、筐体内に、高笑いと、絶対の自信に満ちた雄叫びにも似た男の声が響き渡
る。
「……えっと、この声、どこかで聞いたような」
唐突に聞こえてきた男の声を記憶から引っ張り出そうとする悠羽だが、あと一歩
の所で解答に辿りつけない。
『葬牙専用ICS:Fタイプ。こんなバランスの悪い機体を選んだアナタには、自
称超天才ICSのFタイプがピッタリ! 超天才のサポートで明日を目指そう!』
機体説明の横に書いてあるICSの紹介を読むが、やはり悠羽には声のモデルと
なった人物が分からない。
「どこかで聞いた事のある声なんですけど」
「さあ、全宇宙に見せてやるのだ! 私と! 葬牙の! 大! 活! 躍! を!」
「……あ、思い出しました!」
悠羽の中で、搭乗者を無視し、勝手に盛り上がるICSの声と自身の記憶が合致す
る。
「この声、あの痴漢さんです!」
以前、偶然に偶然を重ねた結果、自分の胸を鷲掴みにした自称天才科学者の声を思
い出した悠羽は、なぜ彼の声が使われているのかという事と、あの時、思わず蹴り飛
ばしてしまったが大丈夫だろうかという事を想うが、この筐体の中にその答えは無い。
全ては偶然によるものであり、彼に邪な気持ちは無かったのだが、悠羽にとっては、
ただ「胸を鷲掴みにされた」という事実が全てであり、そこに至るまでの事情など知
る由も無い。
「と、とにかく気を引き締めないと」
一瞬だけ胸を見て当時を思い返した悠羽だが、目の前の画面の切り替わりに合わせ
て小さな呼吸を数度繰り返し、意識を集中させる。
『さあ、超天才のショータイムだ!』
「天才ではありませんが、いきます!」
格納庫の扉が開き、戦闘開始を告げる音が筐体を包む中、一人と一機はそれぞれの
言葉を放ち、戦場へと臨む。
326
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:08:10 ID:wDl8tQck0
Sky Ruler(スカイ・ルーラー)
分類:高機動万能型
全高:18メートル
専用ICS:Oタイプ
メインウエポンA(右手):ストームセイバー(中型剣・実体)
メインウエポンB(左手):ゲイルファング(中型ライフル・実体弾とエネルギー弾の切り替え可)
サブウエポンA(左腕):ウインドガード(シールド・実体)
サブウエポンB(左手):エアステーク(小型マシンガン・実体弾)
サブウエポンC(両肩):テンペスト(大型キャノン・エネルギー弾)
特性1:飛行
特性2:変形
葬牙(そうが)
分類:特殊格闘型
全高:20メートル
専用ICS:Fタイプ
メインウエポンA(左手):葬拳(そうけん。大型腕部・実体)
サブウエポンA(右手):葬壁(そうへき。シールド・エネルギー型)
特性1:高機能センサー
327
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:08:58 ID:wDl8tQck0
アイの目に飛び込んで来たのは、傾き始めた太陽の光。
次に、アスファルトが砕け、地面が多く露出した道路と、半ばから折れてはいるも
のの、それでもなお自機より高い高層ビルの数々。
ヒトはおろか、あらゆる生命の息吹が感じられない荒れ果てた街は、かつてここで
大規模な戦闘があったのだと容易に想像が出来る。
無論、これは現実でなく、あくまでゲームの世界なので、この破壊による人的、物
的被害について心配する事は何も無いが、最新の技術で構成された架空の街は、アイ
が思わず息を呑んでしまうほどに精巧なものであった。
戦闘が終わってからかなりの時間が経っているらしく、所々でビルの風化が始まり、
細かな破片になったビルの残骸が、街を通り抜ける風に乗って舞い上がる。
「凄いねこの映像。現実と区別がつかないよ」
廃墟と化した街にはそぐわない、鮮やかな青の彩りを刻んだ天空の支配者は首を左
右に動かし、周囲の様子を確認する。
かつては華やかな大都会だったのだろう、どこを見ても延々と続く高層ビルの群れ
の中に、同じ戦場にいるはずの悠羽の姿は見えない。
「悠羽ちゃんがどこにいるのか分かる? レーダーとか無いの?」
『そのようなものは無い。己が目で迅速に、しかし気取られぬように敵を探し、これ
を討つ。それがこの遊戯の規則というものだよ』
「なるほど、かくれんぼバトルだね。だからビルが壊れててもこんなに高いのか。う
んうん、納得納得」
素早くゲームのシステムを理解したアイはレバーを前に倒し、青の機体を前進させ
る。
「ねえ、ICS」
『何か用かね?』
周囲に気を配りつつ、両手に武器を携えたまま荒廃した街を慎重に進むアイの声に
応えるICS‐Oの声は、やはり王の威厳に満ちたものである。
「時間を止める、ってホントにできるのかな?」
『時間を止めるとは 卿は面白い事を言う』
明らかにゲームの内容から逸脱した問いに対して、どういう反応をするか疑問だっ
たアイが、淀みなく応える事の出来るシステムの完成度に感心すると同時に、王の模
造品は言葉を続ける。
『私には出来ぬ芸当だが、もし本当に時間を止めるなどという事が出来るのなら、そ
れはまさに世界を跪かせる王の能力と言えよう』
王の言葉を聞きながら悠羽の機体を探すアイは、自分の疑問が解決しない事に何の
感慨も抱かない。
声や口調を真似てはいるが、今自分と話しているのは、あくまでゲームのシステム
であり、以前出会った、王を名乗る生体兵器ではないのだ。
――う〜ん、やっぱりアレってカイトの言う通り、ホントに時間を止めたのかな?
未だに見えない敵影を探し続けるアイの意識が、過去へと遡っていく。
市街地に現れたギルナイツの暗黒騎士を撃破した勇者達の前に現れた、三対六枚の
翼を有する、純白の機体。
「卿らが、道化殿の言う『勇者』か」
鏖魔が操る機動兵器、鎧鏖鬼特有の能力である黒い霧からの転移によって現れた白
の鎧鏖鬼から言葉が発せられるのと、鋼の勇者達が異世界の破壊者を囲むのは同時。
この時、アイもフライトナーに搭乗し、沈みかけた夕陽を受けて輝く破壊の王と対
峙している。
そして、勇者達が一斉に攻撃を仕掛けようとした、まさにその瞬間、
「この場で王の闘争を見せてやっても良いが、今は舞台を整える事が優先なのでな」
戯曲を謳い上げるかのような、どこか芝居じみた響きを持った声が、夜の闇が訪れ
始めた空の下に響く。
彼を囲んでいた勇者達の後方から。
「世界を跪かせる我が能力。卿らには見る事も感じる事も出来はすまい」
夜の闇の中でも輝きを失わない純白の機体から放たれる声を追うように、その姿が
徐々に黒い霧状に変化していく。
「今日は卿らの存在を確認できただけで良しとしよう。次は闘争の場で会いたいもの
だな」
古くからの友人に優しく語りかけるような穏やかさで紡がれた言葉を残し、白の機
体は完全に消失した。
「時間を、止めた?」
「ああ、そう考えるしかない」
翌日、大空研究所の食堂で朝食を摂りながら、昨日の不可思議な現象についてのカ
イトの見解を聞いたアイは、思わず同じ単語を繰り返し、続きを促す。
「アイはすぐに寝たから知らないだろうが、あの後、皆と意見を交換してみたけど、
どの機体の計器にも一切の反応が無かったんだよ。あの状況で何の痕跡も残さずに移
動するなんて、これはもう、時間を止めたとしか思えない」
とりあえずの結論を導いたものの、納得していない事を表情で物語るカイト。
「とにかく、早急に対策を立てないとな」
328
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:10:07 ID:wDl8tQck0
――時間を止める敵への対策、かぁ
意識を現在に戻したアイは、悠羽の機体が見えない事を再度確認し、時間という事
象に介入する能力にどう対抗するかを考えようとしたが、
「やめやめ。今はこっちに集中しないと」
即座に思考を切り替え、荒廃したビルの群れに意識を集中させる。
「どんな敵が来ても、カイトやみんながいれば大丈夫」
背の翼がビルに擦らないよう気を付けながら足を進めるアイは、自分なりの結論を
導き出し、それを言葉にする。
「だって、私達は勇者なんだもん……って、そういえば」
シートに座ったまま後ろを向き、背の翼を見るアイ。
「この機体、空を飛べるんじゃないの?」
機体名といい、この翼といい、空中戦を意識した設計である事は疑いようがない。
「空から一気に悠羽ちゃんの所に行きたいんだけど?」
『なるほど。確かにこの機体は、空にあってこそ真価を発揮する。王とは遥かな高み
より全てを見下ろすものだからな』
「相変わらずのノリだなぁ。で、どうやればいいの?」
『残念だが、今は無理だ。これは完成版では無いからな。飛行や変形といった機能は
まだ実装されていない』
「がーん!」
告げられた真実に、またも漫画のような叫びが響く。
「それじゃ、この機体の良い所が台無しだよ! 背中の大きな翼がただの飾りになっ
ちゃうじゃない!」
『そう腐る事もあるまい。例え空を飛べずとも、機動性の高さは保証しよう。地を駆
け、制するというのも、王の在り方として悪くはなであろう?い』
「ぶ、ぶれないなぁ、この人……」
あくまで変わらぬ王の言葉に呆れつつも、飛行出来ない事実を受け入れ、即座に意
識を切り替える。
本人に自覚は無いが、この切り替えの早さがアイの長所であり、ロボットのパイロッ
トとして重要な資質でもある。
そして、どこまでも続く風景にアイが飽き始めた時、
「……ん? 今のって」
正面のビルの隙間に、わずかだが見える黒い輝き。
刃のような鋭さを持ち、陽光を浴びて輝く黒は、この街を構成するパーツとは明ら
かに異なっている。
「ねえ、あの黒いのって」
『この位置からだと正確な判別は難しいが、形状から見て、恐らくは葬牙だろう。格
闘戦に特化した機体ゆえに、間合いを詰められれば厄介な相手となる』
「悠羽ちゃんらしい選択だね。よし、ここは一気に」
『待て』
声に、葬牙をロックオンしようとしたアイの指が止まる。
『ロックオンをすれば射撃の精度は上がるが、敵にもロックオンが伝わり、こちらの
位置を教えてしまう事になる。敵機の特性と、こちらのみが敵を補足している状況を
生かし、ここは離れた位置からの射撃を行うのが上策といえる』
「…………」
『何を惚けている?』
「まともなアドバイス、出来るんだ」
『……卿は私を何だと思っていたのだ。ともあれ、気を付けたまえ。葬牙はセンサー
の質が良い。目と耳の優れた相手に気取られぬよう、この地点まで移動するとしよう』
ICS‐Oの言葉が終わると同時、右側にあるビルが黄色く点滅し始める。
『このビルの上ならば、射線も開けていて狙いやすかろう。空は飛べずとも、これく
らいなら飛翔は可能だ』
「オッケー! それじゃ、張り切っていってみよう!」
ついに戦闘開始とあって、返事にも力が込もるアイは、正面の機体に気付かれない
よう、ビルの陰に身を隠すようにして慎重に足を動かしていく。
支配者の名に相応しくない、隠密行動で目的のビルを目指す途中、アイは機体の首
をわずかに傾け、悠羽の駆る黒の機体の様子を伺う。
戦闘行動ができるのか疑問視してしまうほどの細いボディに、何かの冗談のように
巨大な左腕が取り付けられた機体は、ある種の怪異じみた不気味さを放っている。
――悠羽ちゃん、トンデモ系の機体に乗ってるなぁ
自分なら選ばない、しかし彼女らしい機体の選択に、アイの頬が緩む。
329
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:10:49 ID:wDl8tQck0
――それにしても
荒れ果てた街に佇む怪異と化している葬牙を見るアイの中に、一つの疑問が浮かび
上がる。
彼女もまた、こちらを探しているのであろう、上半身を左右に動かして索敵をして
いるように見受けられるが、
――悠羽ちゃん、操作に慣れてないのかな?
その動きのぎこちなさは、端から見ていても不安になるほどのものであった。
索敵中に余計な動作を入力しているため、下手なダンスのようなステップを刻んで
いるその挙動は、素人のそれと変わらない。
普段、彼女が特殊な操縦方法で機体を操っている事が原因だという事に思い至らな
いアイは、実戦時とのギャップに小さな驚きを感じると共に、口元が勝利の笑みに変
わる。
――悪いけど、この勝負はもらったよ悠羽ちゃん
初心者とは思えない滑らかな挙動で目的地へ近付いていくアイは、彼我の技量差を
認識し、小さくガッツポーズ。
「もし悠羽ちゃんに勝ったら、カイトからご褒美があったりして」
わずかに緊張が解け、勝利した後の事に気を回す余裕が生まれたアイは、シートに
座る身体をくねらせる。
「『アイ、よくやった。これが俺からのご褒美だ』なんて展開があったりなかったり?
やだ! カイトったらそんな大胆な! でも、そんな肉食系なカイトも」
『盛り上がっている所すまないが、目的地に到着したぞ』
「ちぇっ。せっかく良い所だったのに」
妄想の中断を余儀なくされたアイは舌打ち一つで気持ちを切り替え、目的地である
高層ビルを見上げる。
スカイ・ルーラーの倍近い高さを有する高層ビルは、破壊の嵐に晒された街の中で
は珍しくそのままの形で残っており、屋上部分に陣取れば簡易な狙撃が行えそうであ
る。
スラスターを使用して機体を上方向に持ち上げ、屋上に降り立った天空の支配者は、
片膝をつき、左手のライフル、ゲイルファングを構える。
『ゲイルファングは実弾とエネルギー弾の切り替えが出来るが、このような場合は、
射程が長く一撃の威力が高いエネルギー弾を使用した方がいい。距離が詰まれば、速
射性に優れる実弾か、サブウエポンのエアステークを使用したまえ』
「了解了解っと。王様もちゃんとサポートできるじゃない」
ICSの言葉に従い、ボタンを操作して使用する弾丸を変更したアイは、未だに眼
下で索敵を続けている黒い機体に狙いを定める。
スカイ・ルーラーの武装、ゲイルファングは狙撃に向いている銃とは言い難いが、
ここなら見通しが良く、目標との距離がさほど遠くないため、狙い撃つ事も十分に可
能である。
「気分は暗殺者、なんちゃって」
ロックオンを使用しない、マニュアルの射撃を行うべく、アイは精神を集中させ、
周囲の世界から自身を切り離していく。
生物学者という本業で培った集中力の高さを発揮するアイの、トリガーボタンにか
かった指に、一切の震えは無い。
――まだ
悠羽の索敵は自機の目線でしか行われていないため、こちらに気付く気配は無い。
――もう少し
例え一瞬でも、あの黒い機体の動きが止まる時を待つ。
――あとちょっと
初心者ゆえの不規則な動きが徐々にアイの手中に収まっていく。
そして、
「今!」
周囲の索敵を終え、次のポイントに向かうべく一瞬だけ葬牙の動きが止まった瞬間
を、見逃しはしなかった。
必中の願いを込めたアイの叫びと共に放たれた青い一条の光が、廃墟と化した街の
空気を切り裂く。
『一気に決めたまえ。王の闘争は、相手に絶対的な絶望と畏怖を抱かせる事にこそ、
その意義がある』
「私、王じゃないけど、チャンスは逃さないよ!」
その結果を見るよりも早く、素早く立ち上がり、右手の剣、ストームセイバーを構
える。
天空の支配者を象徴する、翼を模した柄に、長く伸びた両刃の刀身を持つ剣を手に
したスカイ・ルーラーは、背中のスラスターの出力を一気に上げる。
間も無く、眼下の敵を断ち切る一陣の風になった青の機体が、黒の機体と激突する。
破壊し尽くされた偽りの街で始まった戦闘が、一気に加速していく。
330
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/04(日) 22:13:57 ID:wDl8tQck0
今回は以上です。
今回はアイ視点メイン、次回は悠羽視点メインでいこうかと。
しかしまあ、自称超天才さんのキャラ設定が。
そこはゲームだし、そもそも別人という事で。
ではでは、続きはまた近い内に。
331
:
名無しさん@避難中
:2012/03/04(日) 23:10:13 ID:jBcIyLZ2O
投下乙。
スカイルーラー飛ばないのかよw
通常では有り得ない組み合わせを擬似的にでもセッティングできるのがこれのいいところ。
ちょい回想の王騎さんもちーす。尊大な態度がいかにもって感じでいいのではないかと。
しかし、葬牙のICS……いったい何ラインなんだ……。
ってそれよりも胸揉んだって、ちょ、ええー、……ふざけるなッ!!
332
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/11(日) 22:04:23 ID:SSNEj84E0
>>331
確かに組み合わせ次第では色々面白そうな事になりそうですね。
また機会があれば、他の機体とICSを考えてみようかな。
悠羽と某超天才とのアレコレは、一応おおまかには考えてあるものの……。
さてさて、書く事があるのやら。
333
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:24:55 ID:wsDV5cyA0
さてさて、悠羽とカイトのデート編、これが最後の投下です。
と言いつつ、カイトの台詞が一切無いのは何事か。
最後はデートでも何でもないけど気にしちゃいけません。
……次に書く機会があれば、ちゃんとデートさせてやろう。
では、投下いたします。
334
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:26:14 ID:wsDV5cyA0
ワタシのカレは天空の勇者 その7
それは、悠羽にとって、あまりにも唐突であった。
ゲーム開始から五分余り、未だに基本的な操作に四苦八苦している彼女を、右側か
ら放たれた一条の青い光が襲う。
「きゃぁっ!」
青の光に射抜かれた右肩の装甲が砕け、黒の機体の姿勢が崩れる。
同時に、擬似的なダメージの表現として、悠羽の座るシートとディスプレイに表示
された映像が揺れる。
「び、びっくりしました」
『敵が来たぞ!』
思わぬダメージの演出に声をあげてしまったのが恥ずかしかったのか、わずかに頬
を赤らめた悠羽の声を塗り潰すように響くのは、ICS−Fの声と、
『見つけたよ悠羽ちゃん!』
ある一定の距離に近付く事で可能になる、敵機との直接通信を用いたアイの声。
そして、アイの声よりも速く迫る、空の青に染められた機体。
『ええい! この超天才が先手を取られるとは! まずはシールドで凌ぐのだ!』
「分かりました!」
操作に慣れていない悠羽であったが、ここで素早く正確な操作を行う事が出来たの
は、ただの偶然か、彼女の集中力のなせる技か。
そのどちらにせよ、結果として葬牙の右肘に内蔵された発生機から生み出された白
い光の壁が支配者の剣を弾き、両者は街の通路で対峙する形となった。
『見事に防げたな。さすがは葬牙。さすがは私。しかし、気を付けるのだ。この葬牙
のシールドはエネルギー型。展開できる時間に制限がある上に、攻撃を受ける度にそ
の時間はどんどん短くなっていく。その代わり、防御性能は実体型よりも優れている。
場所も重量も取らんし、私はエネルギー型の方が好きだぞ。何よりも、ハイテクな感
じが超天才に相応しいではないか! あ、しかし発生機自体を壊されるとシールドの
展開が出来なくなるので注意するんだぞ』
「え〜っと、アイさんとお話しするボタンは……」
『ICSだって無視されると悲しいんだぞ! 通信の切り替えは、両手の親指のボタ
ンを同時押しだ。本来はチームでの戦闘を予定しているので、特定の味方機、味方全
体、特定の敵機、範囲内の敵機全機、といった具合に切り替えられるようになる、は
ずなのだよ。さあ、通信モードを切り替えたなら、あの敵機、スカイルーラーに向かっ
てこう叫ぶのだ!『ずっと前から好きでした!』とな! フハハハハ! 戦場に咲く
恋の花の行方、見届けようではないか!』
「そ、そんな事言いません! もう、変な事を言わないで下さいっ!」
ICS−Fの言葉に反論しながらも、その指示通りに通信モードを切り替える。
「えっと、テステス。マイクのテストです。アイさん、聞こえます?」
『……悠羽ちゃん、緊張感とか大事にしようよ』
直後、アイの呆れた声が、悠羽の操作が滞りなく行われた事の証明として筐体内に
反響する。
『まあいいや。とにかく、今日は手加減無しでいくから』
言葉に合わせて動く青の機体を見る悠羽は、気付いていない。
会話の最中に、スカイルーラーの左手に握られている銃が切り替わっている事に。
『悠羽ちゃんには負けないよ!』
言葉は、支配者が新たに手にした銃、エアステークから放たれた大量の弾丸と同時。
短い銃身から連続して吐き出される弾丸は、一発あたりの威力こそ低いものの、そ
の速射性と弾数によって、牽制や面制圧において真価を発揮する。
葬牙は右腕のシールドを再展開し、殺到する弾丸の嵐を防ぎながら、近くのビルに
身を隠す。
335
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:27:04 ID:wsDV5cyA0
が、
『隠れてもムダムダぁっ!』
昂ぶりを隠そうともしないアイの声と共に、葬牙が盾にしていたビルが半ばから横
一直線に断ち割られる。
高さを失ったビルから覗く青の支配者と、寸前の所で回避した黒の牙の視線が絡み
合う。
『今の私は王様だから、何でも出来る!』
『それなら私は、超天才です!』
右手の剣を外へ振り抜くより早く、左の銃を構えようとするスカイ・ルーラーだが、
それよりも速く、葬牙の巨大な左腕が動く。
『え!? 速すぎなんだけど!?』
『この葬牙が特殊格闘型と呼ばれている理由を魅せる時が来たぞ! 左腕の打撃が当
たったタイミングに合わせて、左手の人差し指のボタンを押すのだ!』
「いきます!」
小さい、しかし速く鋭い踏み込みを経て繰り出された黒の拳が、咄嗟に銃から切り
替わった盾に命中した瞬間、悠羽はICS−Fの指示を正確に遂行する。
その瞬間、葬牙の左腕が変化した。
変化は、街を染める夕陽よりも鮮やかで力強い色で染められた、揺らめく紅という
形で現れる。
その赤は、炎、または火焔という名を持つ。
肘に至るまでを紅蓮の炎で覆った葬牙の拳を受けた支配者の盾は、砕かれるよりも
早く灰となり、風に乗って空中へと消え去る。
本来なら、盾から炎が本体に燃え移り、ダメージを与える能力もあるのだが、アイ
は瞬時の判断で、その寸前に盾を本体から切り離したため、スカイ・ルーラー本体に
ダメージは届いていない。
『ちょっとマズいかも! 撤退!』
盾を失った支配者は、追撃をかけようとする敵機をエアステークで牽制し、後方へ
と飛翔。
「あ、逃げられました……」
『さすがに速い。しかし、奴の盾を破壊する事には成功したぞ。さすがは超天才たる
私の機体。一撃の重みが違う』
「凄いですね。まさか、神炎掌が使えるなんて」
『むむ? これはそんな名前では無いぞ。今のは炎の打撃、『葬拳・爆』という、こ
の葬牙の持つ六つの特殊打撃の内の一つ。間違っても、その『新年ショー』などとい
う、めでたい名前ではない』
「し、神炎掌です! 私の左手は隠し芸なんて出来ません!」
思わず力が入り、危うく炎を生みだしそうになった左手を慌てて自制した悠羽は、
そこで一つの疑問を抱く。
「あれ? 今、『六つの特殊打撃』って言いました?」
『うむ。一つのものに囚われず、様々なものを生み出すのが、天才というものだから
な。葬牙の左手首辺りを見るといい』
言葉通りに視線を向ければ、葬牙の左手首は、通常とは違い、リボルバー拳銃の弾
倉のような形になっているのが分かる。
『葬拳は通常の打撃でも十分な威力があるが、手首にある特殊弾を使う事で、先ほど
のような攻撃が出来るようになるのだ。ただし、一撃ごとの使い切りでリロードも出
来ないので、使いどころには気を付けるのだぞ』
「と、言う事は」
『葬拳・爆はもう使えない、という事だ。特殊弾の切り替えは左手の操作で出来るの
で、好きなものを選んでおくといい』
「そ、そうですか……」
告げられた事実に、悠羽はわずかな落胆の混ざった吐息を一つ。
「せっかくの神炎掌で盾しか壊せないなんて、少し残念です」
『だから、これはそんな愉快な名前ではないと言っているだろう!』
「ですから、新年ショーじゃありませんっ!』
繰り返しとなる会話の応酬に、意識して呼吸を深くする事で自制心を保つ悠羽は、
左手を数度開け閉めして感触を確かめる。
「では、今度はこちらから行きましょう。アイさんを驚かせますよ」
336
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:28:53 ID:wsDV5cyA0
「いやあ、危なかったね」
『葬牙は接近戦では無類の強さを誇る機体だ。次に隙を見せた時に、身を守る盾が無
い事、くれぐれも忘れてくれるなよ。簒奪者というものは、王の隙を待っているもの
だからな』
「そうだね。でも、最後に勝つのは私なんだから」
盾を失いながらも声に力強さを失わないアイは、エアステークの弾丸を補充する。
二種類の銃を瞬時に持ち替えたり、リロード出来る弾丸が無制限であったり、やっ
ぱりゲームは便利だね、と呟くアイの視界に、葬牙の姿は無い。
「悠羽ちゃん、追ってこないね」
『油断はするな、と先ほど伝えたはずだが?』
わずかに緊張が緩んだアイの声に、ICS−Oの声が重なる。
『葬牙は格闘戦に特化した機体であるがゆえに、敵に気取られず近付くための能力が
非常に高い。敵の動きを掴むための高機能センサー。空を飛べぬ代わりに与えられた、
優れた走破性。影のように敵の背後に立つ事の出来る機体、それが葬牙だ』
瞬間、スカイ・ルーラーの背後のビルが盛大に砕け散る。
大小様々な破片となったビルの奥から見えるのは、死を告げる悪魔を思わせる、鋭
角で構成されたシルエットと赤い眼光。
『すまんな、前言を撤回する。葬牙は影のように背後を取るのではない。我らを葬る
牙として、背後から襲いかかってくるのだ』
「どっちでもいいよそんなの! てか、マジでやばいんだけど!」
完全に虚を突かれながらも、アイは咄嗟に機体を反転させ、葬牙と向き合う。
ビルを砕き、今まさにこちらを砕かんとする規格外の左腕に宿るのは、先ほどとは
違う、深い青の光。
先ほど盾を灰にした一撃とは色が異なるものの、その危険性に変わりは無いと判断
するアイだが、迎撃をするための時間も、防御をするための盾もない。
「こうなったら!」
進退窮まったアイの叫びは、しかし絶望の色など微塵も感じさせない。
迫る黒の牙を前に、青の支配者は右手の銃、エアステークを前へと放り投げる。
その狙いは葬牙本体では無く、
「これを殴ってくれれば!」
アイの願い通り、青く光る葬牙の左腕は、その軌道上に放たれたエアステークを捉
える事で、敵機本体へと届く事無く攻撃を終える。
本体の代わりに青の打撃を受けたエアステークは、その身を一瞬にして氷の塊へと
変化させた後、道路に落ちて砕け散る。
「とにかく回避!」
葬牙の奇襲を凌ぎ、すぐさま距離を取ろうとするアイの動きに対し、
『させません!』
それを否定する悠羽の言葉と、その言葉が示す通りの現象が起こる。
「……うそ!?」
信じられない事実に、アイの表情が固まる。
彼女の眼前に広がっていたのは、先ほどエアステークを凍らせる攻撃――葬拳・凍――
を終えたばかりの葬牙が、回避行動をしたこちらに追いついている、という事実。
葬牙の左腕は、その巨大さのため、攻撃の後に必ず隙が生まれるはずである。
しかし、眼前の事実は、それを真っ向から否定している。
何がどうなっているのか、と問う時間は無い。
「んきゃぅ!」
急変する事態にアイの思考が追いつくよりも速く、黒の拳が支配者の胸部を捉える。
巨大な腕で力任せに殴りつけただけの一撃を受けたスカイ・ルーラーは、その機体
を大きく吹き飛ばされるが、その途中で背のスラスターを用いて姿勢を制御。
「お返しだよ!」
着地と同時に実体弾モードのゲイルファングで行った反撃は、葬牙のシールドの前
に止められるが、それもアイの計算の内である。
シールドの展開に合わせ、ゲイルファングの弾をエネルギー弾に切り替えたアイは、
先ほど行った狙撃の要領で慎重に狙いを定める。
その狙いは、ただ一つ。
「お返しって言ったよ!」
狙いすました一撃は、アイの狙い通りの場所に命中する。
それは、葬牙の右肘に内蔵されたシールド発生機。
最初に放った実体弾を弾き、反撃に移るためにシールドを解除した、まさにそのタ
イミングで、右肘のシールド発生機を撃ち抜いたのだ。
「これでお互いシールドがなくなったね。でも、あの時、なんで悠羽ちゃんが速く動
けたんだろ?」
『葬牙の特殊機能の内の一つだ。一度だけ、通常では有り得ぬタイミングで有り得ぬ
機動を可能にする。確か、葬拳・迅と言ったか。厄介な能力だが、二度目は無いので、
そこは安心して構わん』
337
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:29:35 ID:wsDV5cyA0
「なるほど。さすがトンデモ系。色々あるんだね。ねえ、この機体には何か無いの?
特殊な武器とか、必殺技とかさ」
シールドを失った葬牙に対し、距離を取り、射撃で牽制していくアイの言葉に、I
CS-Oは、ふむ、と漏らす。
『必殺技、と呼べるかは分からんが、この機体における最大威力の武器は、両肩につ
いている砲、テンペストで間違いあるまい』
「あ、そういえば、肩についてるこれ、すっかり忘れてた」
会話の間にも、葬牙がビルの間を縫って接近し、時折近接戦闘を仕掛けてくるが、
距離を取っての戦闘に徹しているアイは、そこに無理に付き合おうとせず、剣で軽く
応戦するだけに留まる。
このゲームの完成型は、複数対複数のチーム戦なので、このような場合、葬牙を接
近させるために何らかのフォローが入るのが理想だが、一対一というこの状況下にお
いて、スカイ・ルーラーが逃げに徹するのは、そう難しい事ではない。
『そろそろテンペストのエネルギーも溜まった頃合いだ。支配者の持つ最大の一撃、
見せてやるとしようか』
何度目になるか分からない葬牙の接近を凌ぐアイ。
『テンペストを使うならば、今まで以上に距離を取りたまえ。これは撃つまでにわず
かな時間を要する』
「オッケー!」
言うが早いか、ゲイルファングの実体弾を出来る限り速射して葬牙の接近を防いだ
スカイ・ルーラーは、己の推力を最大限に発揮し、全力で地を這うような低空を駆け
抜け、街の外の平原に辿り着く。
「これくらいでいいかな」
『ああ。では、始めるとしようか』
「それじゃ、ぶっ放してみよう!」
右手のボタンを操作し、テンペストの発射体勢に入るスカイ・ルーラーのふくらは
ぎから、機体を地面に固定するための補助的な脚が伸びる。
次いで、スカイ・ルーラーの両肩に備えられた大型の砲、テンペストの砲口に青の
光が満ちていく。
戦闘開始から自動で充電されるエネルギーは既に発射可能な領域に達しているもの
の、この砲を撃ち出すには、わずかな時間を必要とする。
それは、時間にして数秒にも満たない短いものであるが、近接戦闘の間合いにおい
ては長過ぎる時間であり、葬牙の走破性を考えれば、中距離でも安心できない。
機体を固定している上に、発射の途中解除が出来ないため、側面や背後に回られて
しまえばそれまで、という致命的な欠点を抱えているテンペストであるが、両肩から
生み出されるその破壊力は、その欠点を補うに余りある。
そして、天空の支配者が絶対の破壊を行うまでのわずかな時間に、それは来た。
夕陽を背に浴び、刃を重ね合わせたような黒の機体を、影で更に黒くしながら。
地を駆ける牙には天空からの支配など意味は無い、という意志を見せつけるように、
正面から堂々と、黒の牙が迫る。
だが、その疾走は、支配者の光を止めるには、あまりにも遅い。
『撃ちたまえ』
「いっけぇ!」
アイの咆哮を乗せて放たれた青の光が、巨大な双の柱となって街ごと消滅させる勢
いで、葬牙へと向かう。
それはまさに、天空の支配者が己に刃向かう者の悉くを罰するために放つ、裁きの
光であった。
338
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:30:15 ID:wsDV5cyA0
視界を埋め尽くす青の光を前に、しかし悠羽の心に焦りは無い。
あくまで冷静な心境の中において、奥底で確かな闘志が渦巻いている彼女の精神は、
これまでのゲームに臨むものとは違う、実戦時に近いものとなっている。
敵が最大の攻撃を繰り出してくるという勝負の山場において、悠羽の集中力が、こ
れまで以上に研ぎ澄まされてく。
まともに命中すれば機体の消滅は免れないであろう、圧倒的な破壊の光と正面から
対峙する葬牙の左手が、強く握り締められる。
『先ほども言ったが、タイミングが大事だぞ。私のような超天才的タイミングを逃せ
ば、それでおしまいなのだからな』
「はい」
短く応える悠羽は、自分が動くべきタイミングと呼吸を合わせる。
――落ち着いて狙えば
小さく息を吸い込む動きに合わせ、次の一撃を繰り出すため、葬牙の左腕が黒の光
に包まれる。
――チャンスは一瞬です。
小さく息を吐き出す動きに合わせ、次の一撃を繰り出すため、葬牙の左腕が後ろに
引かれる。
――この機体を、ICSを信じれば
すっ、と小さな音を口から漏らし、悠羽は一瞬だけ呼吸を止める。
その動きに合わせ、葬牙は軽く膝を曲げ、全身の力を左腕に集める。
そして、機体が青の光に呑みこまれる、その刹那、
「これが!」
今まで溜めていた力を込めた、黒い光に覆われた拳が、正面からテンペストの光を
殴りつける。
「葬拳・絶です!」
光を殴るという、現実では有り得ない現象を当たり前のように実行した黒の拳は、
それを呑みこまんとする青の光と拮抗し、その侵攻を紙一重の所で食い止める。
スカイ・ルーラーにとって、テンペストが必殺と呼べる武装であるように、葬牙に
もまた、葬拳・絶という名の必殺と呼べる武装が存在する。
葬拳に装備された六種の特殊弾の内、通常の状態で使えるのは、爆、凍、迅、雷、
鋼の五種。
戦闘開始から一定時間を経る事で使用可能になる六種目の特殊弾、絶の能力は、
『あらゆるものを圧倒的な破壊力で殴り飛ばす』という、非常にシンプルなものであ
る。
格闘戦に特化した機体が到達した極地であるそれが示す「あらゆるもの」は、支配
者の放つ裁きの光さえも例外ではない。
テンペストと拮抗する機体にかかる負荷が、激しい振動となって筐体の中の悠羽に
伝わるが、彼女の心も動きも、一切乱れる事は無い。
彼女の中にあるのは、この光を殴り抜け、その奥にいる敵を倒す、ただそれだけで
ある。
テンペストと拮抗する機体の各所にかかる負担が限界を超え、関節から白煙が上が
ろうと、その意志は変わらない。
天空からの支配に抗う黒の拳に、無数の細かな亀裂が走る。
『お前の神炎掌、その程度か』
視界を埋め尽くす青に、拳一つで立ち向かう中で悠羽が思い起こすのは、葬牙と同
じ黒の機体を駆る、悪魔の肉体を手に入れた男にして、実の兄の言葉。
『この絶氷葬が生み出す静止した静死の世界の前に、そんな炎など何の意味も持たな
い事を教えてやる』
あの時は肩から先を凍らされ、砕け散った左腕だが、
「負けません」
次第に弱くなっていく黒の光を前に、悠羽は静かに、だが力強く呟く。
「もう、負けません!」
呟きが叫びに変わった時、視界を埋め尽くしていた青の光が、一気に消失する。
葬牙の拳がテンペストを凌ぎ切ったのだと理解するよりも速く、悠羽は機体を前進
させ、倒すべき敵の所へと駆ける。
この戦闘の決着を着けるために。
339
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:30:58 ID:wsDV5cyA0
「……で、残念ながら負けてしもうたワケやけど」
すっかり陽も落ち、半月を戴くようになった空の下を、赤い軽自動車が走る。
「テンペストを殴り飛ばしたのは良かったんやけど、あんなムチャしたら機体がガタ
ガタになるのは当たり前やしな。まあ、テストの結果としては上々やし、うちとして
は文句はあらへんけど」
運転席に座る早希は、慣れた仕草で創世島までの帰路を運転しつつ、赤信号のタイ
ミングで、助手席に座る悠羽を見る。
「負けませんって言った五秒後に負けました……」
テンペストを凌いだ結果、機体の耐久力が限界寸前にまで落ち込み、あっさりと返
り討ちになった事を思い出した悠羽は、自分の顔を見せぬよう、開け放した窓に顔を
向けたままの言葉を外に漏らす。
「気分は、どよ〜ん、です……」
「何やそのベタな効果音みたいなヤツは」
「どよ〜ん、です」
「繰り返さんでええ」
「どよよ〜ん、です」
「微妙に変えてきよったな」
「ぱお〜ん、です」
「それは違うんとちゃうか」
「すぽ〜ん、です」
「段々と原形が無くなってきてるで」
「すっぽん、です」
「もう好きにしたらええわ」
「すっぽんぽん、です」
「それはアカン!」
他愛の無い会話に早希の口元は綻ぶが、外に顔を向ける悠羽の背中は、未だに活力
が感じられない。
「……ほんまに、しゃあない子やな」
未だに復活する気配の無い悠羽を見かねた早希は、再び赤信号で停車した際に、後
部座席から何枚かの紙を取り出す。
「ほら、これ見てみ」
「これ、は……?」
先ほど自分で述べた言葉通り、どよ〜ん、といった表情で振り向いた悠羽は、早希
から受け取った紙に目を通していく。
「どや? 元気出てきたか?」
「はい。少し元気になりました」
全ての紙に目を通した悠羽の顔に、弱々しいながらも、笑みがこぼれる。
「実現はまだ先やけど、これでもう負ける事はあらへんよ」
「そうですね。楽しみにしてます」
少しずつ笑顔が戻ってきた悠羽は、ありがとうございます、と言葉を添えて、紙を
早希に返す。
そこに書かれていたのは、聖炎凰を始めとする勇者達の強化プランである。
各世界の技術を集め、勇者達の機体や装備を強化するためのプランの中には、無論、
聖炎凰も含まれている。
テンペストに正面から対峙した時の悠羽の言葉を聞いていた早希には、なぜ彼女が
回避ではなく迎撃を選んだのかが理解できているのだ。
「……あのアホタレ、ウチらで止めてやらなアカンな」
「次こそは、必ず」
そう応え、左手を見る悠羽の顔は、普段と変わらぬ、活力に満ちたものであった。
「ようやく元気になったな。ほな、甘いモンでも食べて帰ろか」
「はい!」
一時間後、悠羽の食欲は、早希の財布から多くの紙幣を奪う事になるが、それはま
た別の話である。
340
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/18(日) 21:36:59 ID:wsDV5cyA0
以上でデート編は終了です。
あとは長らく放置してる文化祭編やら、他スレのものやら、色々残ってますが、
とりあえずひと段落つきました。
某Fさんのキャラやら喋りやらが安定してないのは、自分の至らなさの表れです。
他作品のキャラを書くのは難しいと、改めて実感しました。
では、また近い内に何かをお見せできれば。
341
:
名無しさん@避難中
:2012/03/20(火) 18:49:44 ID:MEiS0Zj2O
カイトいねえwww
ギミックが熱い。ここまでガチにやるならいっそ単体作品にすればいいのにw
擬音好きだな悠羽。
そういえば凌牙も、(時間じゃないけど)凍結能力持ちだったね。
てか、なんか人いないな。
342
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/03/23(金) 09:30:17 ID:ilkOrlJM0
あああああ。
なんか余計な事ばかりに時間と手間を取られて……
SS投稿乙彼様です。
感想とか、ちょっと時間下さい。
343
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/24(土) 20:10:08 ID:QwBRCbRY0
>>341
単品でやるなら、色々練り直さないといけませんね。
機会があれば、バージョンアップという名の設定変更をして、
他の誰かに遊んでもらうのも良さそうではありますが。
非戦闘員の方々のバトルも書けますから、そういった方向も面白そうですね。
凌牙は超低温で運動エネルギーを奪ったり生命活動を止めたり、
そういった方向の凍結能力ですね。
触れた瞬間に何でも止めるという反則気味の能力ですが、
時間を止めるのに比べれば、まだかわいいの、かな?
ボスキャラの能力がチートじみているのは、この手のお約束という事で。
>>342
感想は強制するものでもありませんので、書いて頂ける時に書いて頂ければ。
色々と忙しそうな感じですが、無理をなさらないで下さいね。
344
:
名無しさん@避難中
:2012/03/26(月) 00:06:13 ID:g1Cv.8BYO
書くのがいつになるかは知らんが、時間凍結の攻略法ならもう考えてる。
して欲しかったこととはズレがあるとは思うが……まあチートの宿命ってやつだな。
345
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/03/28(水) 23:03:05 ID:xvnzAHA.0
おお、もう考えてましたか。
どういう方法なのか、楽しみに待ってますね。
王騎達の設定は、まだ出していない部分も色々ありますので、その辺りもお伝えしないといけませんね。
それ用のSSを用意するのもいいかもしれませんが。
SSにかまけて、すっかり放置していた本編が思ったように進んでくれません。
説明が多いので、ちゃんと伝わるかどうかで、普段よりも気を遣いますね。
次回は「鎧鏖鬼ってどういうモノ?」って感じです。
こちらも近い内にお見せできればいいのですが。
346
:
名無しさん@避難中
:2012/07/03(火) 05:39:45 ID:YDG90foMO
ジャイロゼッターからの流れであれよあれよとシリーズ復活しないかな。
サンライズの吉井Pのインタビューを読んだ限りでは、(採算取れないこと考えても)絶対に無理って感じでもなさそうなんだよな。
347
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/07/04(水) 19:02:53 ID:8SC.xMfg0
本スレがどうやら鯖墜ち(あえて誤植w)したね。
もうここでやるしかないって?
アークレイオン終わらせるぞー!
風呂敷広げすぎて畳みきれないぞー!!
348
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/07/05(木) 05:21:38 ID:H5mDCQDg0
本スレ復活してた。
どうやらただの鯖トラブルだったか。
349
:
名無しさん@避難中
:2012/07/08(日) 18:24:55 ID:gvfNxEO.0
ここもすっかり過疎になってしまったな
作者さん達はどうしてるんだろうか
そういえば、クロスの勇者チームの名前もまだ決まってなかったっけ
350
:
名無しさん@避難中
:2012/07/09(月) 03:33:09 ID:3oD3NofoO
夏になったら本気出すってばぁ(ダラダラ)
351
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/07/11(水) 19:19:34 ID:pJnGJRRA0
書いてるよ……書いてますよ……
なかなか進まないけど……
352
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/13(金) 03:00:14 ID:FVk3hNI20
はい、とりあえず生きてます。
色々な物が中途半端でしまって、困ったさんな状態ではありますが、
さて、そんな状態なのに、また新しいものに手をつけてしまいました。
>>345
で書いてた王騎達の設定を伝えるためのSSです。
人様に使ってもらうキャラなのに、ほとんど設定が表に出ていないので、
SS形式で伝える事が出来たら、と。
では、さっそく投下をば。
353
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/13(金) 03:02:57 ID:FVk3hNI20
破壊の王と暗黒の傭兵 その1
「貴様、何の用があってここに来た?」
宇宙空間に浮かぶ、ギルナイツの拠点である漆黒の魔城、ギルキャッスルに、城
が持つ禍々しくも荘厳な空気を象徴するかのような声が響き渡る。
「私の用は至極単純なものだよ、ギルカイザー殿」
暗黒の声の主、ギルカイザーの問いに応えるのは、威厳に満ちた低さと重さの中
に、聞く者を陶酔させる甘さを含んだ男の声。
ギルカイザーや、彼の両脇に控える多数の暗黒騎士らの全てに明確な敵意と殺気
を向けられる中、魔城の闇に溶けそうな黒の長衣をまとった男の声に、恐れの色は
微塵も感じられない。
重厚さと美しさを兼ね備えた長衣を完璧に着こなす見栄えの良い長身に、整えら
れ過ぎている事が逆に不自然にさえ感じられる白髪赤眼の美貌を持つ男は、口元に
微笑を浮かべ、自身を取り囲む暗黒騎士らの存在などまるで意に介さず、正面に見
える赤い燐光、ギルカイザーのみを見据えている。
「私の目的は、いついかなる時も唯一つ」
男性としての一つの極地を具現化させた鏖魔、王騎の口から紡がれるのは、彼を
始めとする生体兵器の代名詞ともいえる、一つの言葉。
「『至高の一滴』の完成、それだけだ」
「王を気取る破壊者風情が、ほざきよるわ」
明らかな嘲笑を含むギルカイザーの声に合わせ、魔城の空気そのものが揺れる。
「それで、貴様の求めるその一滴とやらが、ここにあるとでもいうのか?」
「残念だが、ここに私の求めるものは無い。更に言うならば、ここに来る事に意味
などありはしない。ただの気まぐれ、とでも言おうか」
「貴様! ギルカイザーの御前ぞ!」
「ふざけた事を!」
戯曲を高らかに謳いあげるかのような王騎の言葉に、ギルカイザーの周囲に控え
る暗黒騎士らが怒声を張り上げるが、白髪の王はそれらに微塵も意識を割く事無く、
決して崩さない微笑から言葉を続ける。
「卿らギルナイツにとっての仇敵、ブレイブナイツといったか」
瞬間、魔城の空気が停滞する。
自身が口にした言葉が持つ意味の強さを確認した王騎は、眼前の闇の主に己の声
を染み渡らせるよう、ゆっくりと口を開く。
「私が、彼らを滅ぼそうと思ってな。鋼の身体を持つ騎士にして勇者、王の闘争の
相手として悪くはなかろう」
「……その言葉、冗談では済まされんぞ」
押し殺した声と共に、赤い燐光が激しく燃え上がり、魔城に住まう全ての暗黒騎
士から、憤怒の奔流が殺到する。
この怒りの大渦が、ブレイブナイツの騎士に倒された多くの暗黒騎士を悼む心が
そうさせるのか、単に己の獲物を横取りされそうになっている事に対する怒りの感
情の発現なのか、王騎は一瞬だけ思考したが、その思考の無意味さ故に、小さな笑
声を合図に瞬時に思考を切り替える。
「そこまで怒りを露わにするとは、卿は存外に感情的なのだな。ならば、この後の
言葉に、卿はどのような反応をするのだろうな」
常人ならこの場に居合わせただけでショック死してしまうのではないかというほ
どの殺気に包まれた空間の中、微笑を絶やさない王騎の深紅の瞳がわずかに輝きを
増す。
「ブレイブナイツの騎士を滅ぼした後、私は彼らの護る姫の脳を奪う。神に繋がっ
ている、という彼女らの脳を組み込む事が出来れば、『至高の一滴』の完成に、大
きく近付く事が出来る」
354
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/13(金) 03:03:44 ID:FVk3hNI20
「この痴れ者がっ!」
暗黒の咆哮は、巨大な火球を伴って放たれた。
黒一色の空間を紅蓮に染め上げる火球は、この魔城にそぐわない白髪の異端者を
周囲の全てを巻き込みながら焼失させるため、ギルカイザーの眼前に着弾。
「ぐぉぉ!」
「がぁぁ!」
運悪く巻き添えを食らってしまった暗黒騎士の叫びさえも焼き尽くす炎の嵐は、
しかし通常の物理法則を無視して急速に勢いを失っていく。
それがこの魔城における物理法則なのか、それともギルカイザーの力によるもの
なのか。
その答えがどちらであるにせよ、ギルカイザーの放った火球がもたらした結果は、
炎に包まれた己の部下と、
「臣下の扱いには気を付けたまえ。あれでは不憫に過ぎる」
先ほどよりも己の懐に近い位置から言葉を紡ぐ、異世界の生体兵器の声であった。
「貴様は王よりも奇術師が似合っているようだな。……だが、次は無いぞ」
今の火球に、避ける暇を与えたつもりはなかった。
だが、目の前の男は避けるどころか、こちらに接近してきている。
そこにどういう仕掛けがあったのか、ギルカイザーが疑問に思うよりも早く、黒
衣の王が次の行動に移る。
「闘争をしに来た訳では無いのだが」
至近距離でギルカイザーと向き合う王騎の右手の内に、まるで魔法のように、黄
金の鞘に包まれた、一振りの長大な剣が現れる。
破壊を生みだす生体兵器、鏖魔が持つには相応しく無い、柔らかな笑みを浮かべ
る女神の姿が彫られた鞘の中から覗くのは、数多の文字を表面に刻んだ、鞘と同じ
黄金の刀身。
「王の闘争が見たいというなら、その対価を支払ってもらう事になる。覚えておき
たまえ」
暗黒の空間においても輝きを失わない黄金を手にした王騎の微笑が、わずかに深
いものへと変化していく。
「己が城を墓標にするといい」
「叩き潰してくれるわ!」
そして、黄金と暗黒の力がぶつかり合う、まさにその直前、
「ちょ、ちょ、ちょ〜〜っと! いけませんよ! いけませんねえ!」
突如、殺意の塊と化していた二人の間に、あまりにも場違いな素っ頓狂な声が走
り抜ける。
「いけないなあ! ああ、本当にイケナイ! どうして貴方がたはこちらの脚本を
壊そうとばかりするのか! それでもエンターテイナーですか!?」
全ての者が虚を突かれ、動きを止めた空間に、新たな来訪者の姿が徐々に浮かび
上がる。
陽炎のような揺らめきから生まれたその実体は、サーカスなどで見かける道化そ
のものの姿をしていた。
「挨拶に行けば痛い目に遭うわ、いざ事を始めてみれば脚本通りに動いてくれない
わ、挙句の果てには仲間割れとは……。ワタクシ、今回の公演の運営にどれほど苦
労を重ねればいいのか……」
見ている者が呆れかえるほどの大袈裟な口調と仕草で泣き真似をする道化、ダー
クラウンの登場に、場の誰もが次の行動を起こせないでいた。
それほどまでにこの道化の登場は唐突であり、彼の持つ空気が奇妙極りないのだ。
「ギルカイザーさんに王騎さん、貴方がたの舞台はココではありませんYO! まっ
たく、私の力作を台無しにしないでいただきたいものです」
泣き真似をやめ、両手に数十枚のビラを手にしたダークラウンは、暗黒の空間を
塗り替えるかのように、両手に持ったそれらを宙にばら撒く。
「む?」
「ほう」
空中遊泳を楽しむようにゆっくりと宙を舞うビラに目を通したギルカイザーと王
騎は、それぞれに短い言葉を口から漏らす。
次回公演のおしらせ
超次元ワンダランドが送る次のステージは……
ギルナイツを従える暗黒の王、ギルカイザー!
超科学が生み出した破壊の王、王騎!
とっても強くて悪い二人の王がアナタの街にやってくる!
『ザ・ダブルキング・パニック』お楽しみに!
355
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/13(金) 03:04:24 ID:FVk3hNI20
直視するに耐えない毒々しい色彩と装飾に塗れたビラが全て魔城の床に落ちた頃、
ダークラウンは、もはや闘争の空気を完全に失った二人の王に交互に視線を移す。
「このビラ、もう良い子のみんなに配ってしまったのですよ。予告を打って公演で
きないとなると、この超次元ワンダランドの信用問題なのですよ?」
「道化殿の職務など、私の知る所ではないが」
手に持っていたビラを放り投げた王騎は、彼にしては珍しい、呆れの色を含ませ
た息を吐き出し、黄金の剣を鞘に収める。
「興が殺がれた。私は白槍に戻るとしよう」
「そう簡単に逃げられると思っているのか?」
剣を消し、身を翻そうとした王騎に、ギルカイザーの声が降りかかる。
「あの騎士めらを打ち倒し、神の力を奪おうという貴様を、このまま何もせずに帰
す訳がなかろう」
「ああもう、ワタクシの話を聞いてなかったのですか!?」
「黙っていろ道化。これ以上邪魔するなら、お前も叩き潰す」
赤の燐光に再び激しい怒りの輝きが宿る。
「ギルカイザーに逆らう者には死を!」
「あの鏖魔を生きて帰すな!」
暗黒の王の輝きに応え、それぞれに雄叫びをあげる暗黒騎士の群れを前に、王騎
はやはり変わらぬ微笑を浮かべたまま、道化に深紅の視線を投げかける。
「さて、どうやら道化殿の脚本は上手くいかぬ運命にあるようだ。その代わりに、
この城に巣食う者らの死骸を街頭に吊るしておけるようにしておこうか」
「ああ、本当にこの人らは……」
ギルカイザーの怒りに応じて輝く燐光に対し、彼の周囲の空間を包む暗闇は、次
第にその深さを増していく。
輝きを増す燐光の横で暗くなっていく暗黒という矛盾を内包した空間の緊張が膨
張していく中、
「待て、ギルカイザー」
戦場の空気を貫いたのは、芯の通った鋭い男の声。
「ボルドルーガか」
ギルカイザーの声を受けて暗闇から姿を見せたのは、他の暗黒騎士とは明らかに
違う雰囲気を放つ、赤い戦士。
「ここは俺に任せてもらおう」
ギルカイザーに従う暗黒騎士と違い、対等な立場で言葉を交わす赤の戦士、ボル
ドルーガは、それ一つとっても達人の技を伺わせる足取りでギルカイザーと王騎の
間に割って入る。
「王騎、といったな。お前の相手はこの俺だ」
「よかろう。王の前に立つ事の意味、教えてやろう」
「くれぐれも公演の支障にならないように、お願いしますよ」
356
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/13(金) 03:08:01 ID:FVk3hNI20
今回は以上です。
やっぱり人様のキャラは難しいもので、何かが色々違う気がします。
今回は導入部で、次回からバトルですね。
王騎のお供二人も、ちゃんと出してやらねば。
ではでは、また近い内に。
357
:
名無しさん@避難中
:2012/07/13(金) 03:19:33 ID:oY3wI7VU0
久々の投下、乙です。
358
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/07/15(日) 21:46:31 ID:85CBwtNE0
>>352-356
お疲れ様です。
自分の作品のキャラがそうやって動いているのをみると新鮮ですね。
遠慮なく暴れさせてやってくださいな。
359
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/15(日) 21:52:09 ID:E/ALqoEU0
>>357
ありがとうございます。
本編も早く更新出来ればいいのですが。
なんだかノリノリで書けたので、続きが出来ました。
けど、ここに投下するには長くなりすぎた感がありましたので、HPでのアップにさせていただきました。
良ければ見てあげて下さい。
なんだか収集がつかなくなってる気がするのは、気のせいではありません。
ではでは。また近い内に。
http://greatfuldead.dousetsu.com/bangai.html
360
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/15(日) 21:57:28 ID:E/ALqoEU0
あ、気がつけばレスが。
>>358
ありがとうございます。
先ほどアップした続きでは、もっと好き勝手やらせて頂いてます。
気に入らない部分があれば、いつでも言って下さい。
361
:
名無しさん@避難中
:2012/07/25(水) 22:53:31 ID:RPbwrqZM0
まさしくダブルブッキング
362
:
名無しさん@避難中
:2012/07/28(土) 00:07:17 ID:xY6.Q6/c0
>紅勇者氏
投下乙です!
巨大な悪たちのひしめき合う空気感が・・・いいね。
いろんなキャラにスポットが当たってるので見ていて楽しいし参考にもなる。
王騎さんのフットワークの軽さにはちょっとわろた。新世代の大物は行動力も備えてるってことか。
能力の一端が明らかになったわけだが、ちょっと毛色は違うけどアイバンホーンあたりと解析合戦させてぇ・・・
>>361
ビックリマン2000にそんなやついたなぁw
夏になったけど
引っ越しとかいろいろあって心身が安定しないのでまだだいぶ待ってえ・・・
363
:
ヘ ノ
: ヘ ノ
ヘ ノ
364
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/07/31(火) 01:58:19 ID:NUuwYAlQ0
>>362
色々なキャラを出したものの、はてさてどう収束させたものか、かなり迷いますね。
なにしろ考えなく書いてしまったものですから。
ただ、「シンヤのワクワクお使い編」だけは別で書く機会が……あるのかな?
いつの間にやら構想だけ膨らんでしまってますけど。
アイバンホーンと相対すれば、王騎の能力も一発で見破られてしまうのか、気になりますね。
といっても、王騎は能力を隠してるわけでもないので、時間停止がお前の能力か、
と言われれば、いつものスマイルでアッサリと認めそうではありますが。
365
:
名無しさん@避難中
:2012/07/31(火) 03:44:24 ID:l/prcStAO
がんばれー
アイバンホーンのシステムスキャンは、敵の来歴・属性・能力・本心とかを見抜く感じ。
話の上では一度敵の実力を認めておいて「それでもお前に勝機はない」って居丈高に攻撃ぶちこむテンプレの一部だけど、
格上相手なら見抜けないこともあると思う。(ただBCSで出力を底上げできれば可能かも)
366
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/08/01(水) 02:33:19 ID:3z.HD/vA0
なるほど、色々見えるものですね
お互いに対峙した時、何が見えるのやら。
2人とも騒がしいタイプではないので、淡々とお互いが何者かを見極めるだけなのかもしれませんけど。
BCSは、勇気という概念を持っていない鏖魔にとって理解不能なシステムに映るのは請け合いですね。
続きを書く時には、その辺りも少し掘り下げてみようかな。
本編では勇気を取り扱っていないので、こういう場でないと書けない気がしてきました。
367
:
名無しさん@避難中
:2012/08/25(土) 01:39:29 ID:4ABAucAIO
なーに、勇気のあるなしは行動描写だけでも扱えるから。
……そう考えるとアイバンホーンは「勇気がある」とは言えないな。
あれは誰か召喚者の勇気に呼応して代わりに戦うシステムなだけで、
アイバンホーン本人は別に恐怖を乗り越えたりしてるわけじゃないんだよね。
368
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/08/28(火) 02:27:09 ID:Xs7v1VRw0
勇気をどう表現するか、難しいものです。
……と、これからちょっと更新が厳しくなりそうなので、
中途半端ですが書き上げた所までをアップしときました。
本当は前後編にしたかったのですが、今回は中編になってしまいました。
次はラストまで一気に書き上げるので、その時に後編にまとめてしまおうか。
今回も好き勝手にやらせてもらってるので、作者の皆様方は何かありましたらご一報をば。
しかしまあ、いつから志穂が主役に……。
ではでは、次の更新は、なるべく早くしたい所ですが。
http://greatfuldead.dousetsu.com/bangai.html
369
:
名無しさん@避難中
:2012/08/29(水) 00:01:19 ID:JZWJk2JMO
投下乙ん。
きばおー「こんなんチートや!チーターや!」
だんだん王騎の全貌が明らかになってきたかな。
ソウトーガとかサブロボが頑張ってるのを見ると嬉しくなるね。
そして志穂さん男前だなぁ。さすが俺の(ry
関係ないけどチェスといえばボーディオン氏は息災だろうか。
370
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/09/01(土) 07:21:48 ID:v5nXbl1g0
出遅れた マジ気付かなかった(汗
>>368
紅氏 乙です
おお! こんな形で志穂がクローズアップされてしまうとわ!?
まあ、キャラのチョイスとかは紅氏らしいっちゃらしいですよね。
おれだったら多分、やっぱりマドカ前面に押し出して、
ケチョンケチョンに論破されそうw
天然系ヒロインなんで〜
なんだったら百合に組み込んでくれても良いんですぜ許しますぜ(爆
ううう……アークレイオン&ディバルガー&ガンプラビルダーズ+それ以外で、
なかなか前に進めません。
ディバルガーの小ネタ書きかけなんですが、詰まったのでモウイイヤ……(涙
おまけによせばいいのにエルドランネタまで思いついちゃってますが、
考えたらエルドランスレはもう存在しないので、書かなくても良いんだよねソウダヨネ???
とりあえずディバルガーで、ソール達が良いところまでパワーアップできるところまで持っていかなければ(汗
でわでわ♪
371
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/09/02(日) 21:43:24 ID:adyjVyqU0
感想ありがとうございます。
>>369
ソウトーガ達ファルブレイク勢の活躍は、次回をお待ち下さい。
王騎だけでなく、他の鏖魔の設定の説明もありますので。
姫様ズの中で王騎と会話をした場合どうなるか、という所から考えて、
志穂に頑張ってもらいました。
前編の流れのまま、マーヤに喋らせても良かったのですが。
ボーディオンさんは……また書き込んでくれればいいのですけど。
>>370
マドカと王騎なら、志穂のような「王とは何か?」ではなく、
「闘争以外にも幸せはあるんだよ」的な流れになるのかな?
そしてそのまま「私達と一緒に来れば、闘争以外にも生きる楽しみを見つけられるよ」
みたいな流れで仲間フラグが……w
闘争の否定という点では同じですが、マドカの性格的に、こんな感じですかね?
何かが違う気もしますが。
百合展開は、また別に書かせていただきますよ。
書きたいものが色々あって手に付かない時は、出来る所からやってみてはどうです?
それか、いっその事何も書かずに気分転換でも。
372
:
天空勇者
◆tTB5y6n.0k
:2012/09/03(月) 05:50:13 ID:EST7d49w0
悠羽カイトのデート編その1が投稿されてから1年が経とうとしていることに気付き絶望した……orz
そしてサボりまくった結果フライトナー本編は全く進んでいないという事実! あぁー。
373
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/09/03(月) 20:17:37 ID:gt5Id9xwO
ごめん。
何もしなかったわけじゃないけど燻り続けて夏が終わった。
374
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/09/05(水) 19:15:58 ID:E/uhN7AU0
>>371
紅氏
うーん、ちょいと考えてみましたが、
マドカは説得タイプじゃないと思うので、そういう風に説く感じじゃないと思いますね。
どっちかというと、ひたすら「やめようよ 悲しいよ」タイプじゃないかと。
つまり、お話にならない(爆
絶対じゃないですが、まあ思考より感情が先に立つタイプかと。
375
:
名無しさん@避難中
:2012/09/06(木) 01:57:41 ID:VNKViQ3oO
一方アスミはサッカーボールを使った。
376
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/09/16(日) 18:38:29 ID:IQ9dBgeI0
>>374
なるほど、マドカならそうきますか。
それはそれで書いてみても面白そうではありますが。
マドカの純粋な感情こそ、志穂のいう「無垢なる祈り」に通じるものがあるでしょうし。
>>375
アスミは……さて、どうしたものか。
騎士と姫合わせて8人になると、どう動かしたものか迷いますね。
志穂以外にも言葉で王と相対するポジションが欲しい所ではありますが。
こちらは諸事情によって諸々の更新がしばらく滞りそうです。
申し訳ありませんが、アークレイオン、ファルブレイク勢の活躍は今しばらくお待ちを。
377
:
名無しさん@避難中
:2012/10/13(土) 04:27:30 ID:/mQWzGWAO
創発とあんま関係ないけどブレイブガムのエクスカイザー組んでみた。
シール超大変だったけど満足。
しかしこのサイズでよくもまあ……
378
:
名無しさん@避難中
:2012/10/13(土) 23:19:26 ID:3hMszHvI0
あちこち探し回っているけど見つからない
379
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/10/27(土) 22:06:14 ID:V3XWA2qo0
>>378
行きつけの模型店に2セットあった
380
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/11/04(日) 02:54:31 ID:sfcKqNZY0
そろそろ再開できそうな気配がしてきましたので、
できるだけ早いとこ諸々の更新に取りかからねば。
唐突にスレとはあまり関係のない話ですが、主人公とラスボスの
最終的なパワーバランスはどんな感じが好きですか?
1、主人公>ラスボス
主人公がラスボスより強くなるタイプ。
最後に圧倒的な力で無双したりするのは爽快ですね。
最初から最後まで主人公最強、なパターンもあったりはしますが。
2、主人公=ラスボス
互いの実力が拮抗してるタイプ。
ラスボスではありませんが、マキバオーとカスケードの関係はとても好きです。
ポッと出の親玉相手ではなく、長い間続いてたライバル関係の総決算、
といった展開のラストバトルは燃えますね。
3、主人公<ラスボス
最後までラスボスの方が強いタイプ。
この場合、愛だの奇跡だの不思議アイテムだの
各種ご都合主義の力を借りて倒したりします。
個人的に1番好きなのはこれ。
やはりラスボスは1番強く、でも最終的には敗れ去る存在であるべきかと。
381
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/11/04(日) 10:31:16 ID:y7tQFR7.0
>>紅氏
おれも好みで言うなら3かな?
もちろん最後は主役無双状態が理想ではありますが。
カタルシスがないと盛り上がりませんからねえ。
382
:
名無しさん@避難中
:2012/11/05(月) 18:12:58 ID:7sFy9wdMO
実力はラスボスと同等かそれ以下、機転や一瞬の気迫の差で劣勢を覆して勝つのが一番好きですかねー。
383
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/11/08(木) 21:17:24 ID:oo5sss.o0
えー、突然ですが。
このスレの住人の皆さんには大変お待たせしておりますが、
「天帝勇者ディバルガー」、本編ではなく小ネタの方が書きあがってしまいました(汗
現在細かい手直し中。
近々晒そうと思いますが、いつもの様にURL貼るのと、スレにコピペとどっちがいい?
384
:
名無しさん@避難中
:2012/11/09(金) 17:04:34 ID:K.1r1WC2O
おー!
URLでいっちょお!
385
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/11/21(水) 19:20:25 ID:GFfMqycg0
遅くなって申し訳ない!
ttp://www.wind.sannet.ne.jp/kazmad7/divss01.htm
お待たせした上に、戦闘シーン一切無しの話でアレだが(汗
386
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/11/21(水) 23:23:35 ID:ZdYpC8/w0
>>385
乙です。
こういう日常の風景もいいですねえ。
戦闘が無くても十分楽しめましたよ。
相変わらずバイク愛に溢れてて、楽しみながら書いてるんだろうなと想像したり。
自分は原付にさえ乗った事が無いので、その辺りはサッパリですが。
今のところクロス企画のラインナップから外れてるディバルガーですが、
機会があればこちらのSSでディバルガーの面々を登場させようかな、と考えています。
どこで誰をどう使うかは全くの未定ですけど。
次の作品も楽しみにしてますね。
387
:
名無しさん@避難中
:2012/11/22(木) 14:26:52 ID:t.1xNriYO
読んだよー。
こういうキャラの掘り下げ方もありなんかもねえ。ただ俺はバイクのことはさっぱりなのでコメントは難しいw
ちんぴらに何故かライスピのストロンガー回を思い出した。こういう近所のニーチャン的な斜めっぽい?関係っていいよなぁと。
パスタ娘の言語の壁はなんかクロス向きなネタな気がする。機会があるかは知らないけど。
ソールのからむ日常も見てみたいなって。
388
:
名無しさん@避難中
:2012/11/22(木) 14:28:29 ID:t.1xNriYO
むむむ。さっぱりがダブってしまった。
不覚ッ。
389
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/11/22(木) 22:03:52 ID:jhAu4PGU0
>>386-387
どもども!
うーん、まあバイクと武術はある意味ディバルガーの売りの部分でもあるので、
読んでる人が理解するしないに関わらず、全力展開するしかない訳ですがw
パスタ娘……呼称として採用!w
言葉の壁は、割と早期に取り払われる予定ですが、そもそもネイティブじゃないので、
意図的に誤用させるってのはアリかな。
クロスとしては、書き始めに宣言した通り、滑り込み狙ってます!(ニヤリ
まあ、そのためにはもう少し合体を段階を進めないとね。
てな訳で。
もうちょっと話を進めるとしましょう。
アークレイオンの方もジリジリと書いてますが……
かなり難産かも(汗
390
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/11/22(木) 22:28:26 ID:JKju3vLU0
言語の壁はネタとして面白そうですね。
その辺りは貴重な外国人枠として頑張ってもらいたい。
イタリア語となると、ウチの中でちゃんとコミュニケーションとれるのは
ソフィアだけですね。
あとは基本的に肉体言語が共通語な連中ですし。
言語という事で、本編に書く予定の無いどうでもいい設定を書いておくと、
鏖魔は日本語と英語を駆使して悠羽達と意思疎通しています。
鏖魔どうしだと自分達がもといた世界の言語を使う事もありますが、
「ここではリントの言葉で話せ」状態で、移動先の世界に合わせてる感じですね。
391
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/11/23(金) 07:53:16 ID:P02ICzEY0
>>紅氏
ソフィアさんって何人でしたっけ? ロシア???
うちでバイリンガル以上な人材と言うと、志穂と岩崎女史、
そして意外と(?)高遠博士かな?
それでも大体英語くらいですが。
女史は今時北京語くらいは出来た方が、仕事的に良いかもしれないですが。
ディバルガーの面々に関しては、やっぱり世界中を飛び回る関係上多言語を普通に操る設定ですね。
書いてる本人は標準語と関西弁と山陽弁くらいしかわかりませんが(爆
あ、あと真吾は肉体言語もいける!(核爆
392
:
紅勇者
◆c8S1V4qkFs
:2012/11/23(金) 13:39:39 ID:AV47AHHo0
さすが博士、インテリですね。
仕事柄、国際的な舞台で喋る機会もあるでしょうし、
英語が堪能なのは当然といえば当然かもしれませんね。
ソフィアは(あくまで書類上は)フランス出身、パリ生まれのパリ育ちですよ。
公的機関のメタガで要職に就く関係上、(あくまで書類上は)帰化していますので、
国籍は日本ですが。
彼女は世界の95%以上の人間と会話ができる超マルチリンガルなので、
国際会議の多い烈の通訳として大活躍しております。
ちなみに悠羽は日本語、英語、ドイツ語、フランス語の4ヶ国語対応です。
393
:
名無しさん@避難中
:2012/12/05(水) 23:21:47 ID:5GFyqP.wO
ブレイバーズのメンバーもかなりのエリートっぽいし英語あたりは喋れそう。
でもシンヤには全然そんなイメージないなw
カイトは堪能かも? でも専門バカという可能性もなきにしもあらず。
フォグ・ラインは……あいつどこ系の人だ?w
作風が無国籍的なだけに。
394
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/12/06(木) 20:17:05 ID:RH4tMYbk0
話題が広がらない……
語学関係の設定は、また作者さんご本人にネタバレしてもらうとして……
でも勇者関係って、本家でも言語の壁って完全にバリアフリー状態だよねとw
アークレイオンを書くはずが、なぜかおまけSSで加速がついたディバルガーが進行中。
テレビアニメだったら、本家勇者でも仲間探しの過程で、何回かハズレ回があるのが当たり前なんだけど、
こういう形だと、当り回の連続にするしかないのが悩みどころだなあ。
ここは超AI型と搭乗型で占められてるので、そういう悩みはなさげっぽいけど。
395
:
名無しさん@避難中
:2012/12/06(木) 22:41:25 ID:rCpTP//MO
勇者の石やパワーストーンみたいに、それも一種の勇者的?パターンとは言えるかもね。
あとダグオン形式でも似たような作りはできる気はする。
新しい仲間や力が毎話毎話ポンポン出るだけというのは、
それはそれで何か釈然としないというか、販促臭さを消しづらいというか。
やっぱり工夫は大事だなと思った。
396
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/07(金) 03:00:45 ID:M4EA6rZA0
投下するよ!
天農が三人娘にちょっかい出すやつ
>>94
-
>>97
の続き
397
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/07(金) 03:01:39 ID:M4EA6rZA0
−4−
……マドカちゃん、俺ともお馬さんごっこ、しない……?
聞き捨てならなかった。
その台詞を耳にした瞬間、クレイオンは不届き者に躍り掛かった。
疾風の名を体現する白銀のスポーツカー。自動車でありながら、地形に頼ることなく跳
躍してみせる。かつて、マドカをして“ダンス”と言わしめた、特異なアクティブサスペ
ンションによる駆動では断じてない。
「ナイトチェーンジッ!!」
叫んだ時には既に、彼のシルエットはスポーツカーの物ではなかった。人間のような腕
があり、人間のような脚があった。
クレイオンが変形したのだ。輝かしい白銀のみを受け継いで、巨人の姿に。
高遠マドカを守護する鋼の騎士。人類におよそ三倍する機械仕掛けの体躯で走る、それ
は〈鋼の騎士道〉世界の〈勇者〉のひとり。
ひと跳びのうちに変形を終えて、その身は未だ空中にあり。オープンカフェのパラソル
を彩る赤や黄が映りこみ、今や白銀のボディに憤怒の炎を顕現させていた。
「クレイブレードッ!!」
クレイオンの右腕が、左腰に回される。
どのような原理か、クレイオンの手の中で腰当てのパーツが高速伸長、すらりとした両
刃剣に変化した。それこそ騎士の聖剣、クレイブレード!
抜き打ちのように、腰溜めから弧を描いて放たれる斬撃! 生半可でない鋭さ。人類で
はそれに反応できない。
狙うは、遮光器の下にも好色の本性を隠しきれぬ不埒者。今こちらを見て口の端を引き
攣らせた男。延加拳の天農という名の最危険人物。
――私の“姫”に何ということを!
「成敗ッ!!」
さすがに、命まで取るつもりはなかった。ぎりぎりのところで自制心が働いていた。
ただ、天農をさんざんに驚かして、度重なる破廉恥な言動の“つけ”を払わせてやるつ
もりだった。そして、マドカには自分という騎士が付いているのだということを思い知ら
せてやろうと思っていた。
398
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/07(金) 03:04:04 ID:M4EA6rZA0
天農の爪先、数センチメートル、いや数ミリメートルの石畳を割るように、騎士の剣が
振り下ろされる。
しかし、
――がつん――
動作の途中。クレイブレードに速さが乗りきる前に、その運動エネルギーは大部分が相
殺されていた。二者の間に割りこんだ何者かが、クレイブレードの白刃の側面に精妙な角
度で剛力を加えて、その進行を押し止めたのだ!
「何!?」
クレイオンがこの一閃、本気だったかと自問すればそうでもない。
しかし、怒りの分、それなりの力が乗ってはいた。
(それを、“横から殴って止めた”だと?)
そんなことが出来るのは――
ふと思い出す。あれは確か、えーいち朗が語ったのだ。延加拳の天農は、あの“鏖魔”
に襲撃されながら生還したことがあるという。
――鏖(みなごろし)にするんじゃないのか? 殺しても退屈だの、殺す価値がないだ
のスカしてないで、殺してみせろよ。この俺を、……この、延加拳の天農を!
達人の天農をも瞬殺し得る鏖魔を人の身で挑発するなど、真島流破鋼拳を修めた超人で
もなければ、自殺志願だろう。
しかし、天農は生き延びた。最後まで、傷ひとつ負うことなく。哄笑さえ残して。
断じて強運のためではない。鏖魔が乗らなかったからでもない。天農自身が強いからで
もない。
背後に“やつ”がいたからだ! そいつは、鏖魔の攻撃に対して発生後から反応できる
ほどの速さを持っている!
ならば、あるいは、守護騎士クレイオンの剣に対応できてもおかしくはない!
「びびったぜ。……乱心したか、騎士殿?」
『今のは、師匠が悪いと判断する』
「ほざけ。お前には分からんのだ。男のロマーンというやつがだ」
それは今まさに狂博士と会話する者だ。身長およそ五メートルの人型だった。クレイオ
ンと体格は同じ、変形前もカテゴリとしては同じ。
ただし白銀の騎士とは異なり、その肌は金属光沢の青色を発し、手にはいかなる武器も
持っていない。何故ならば、機体そのものが一個の兵器であるからだ。ただ、肘と下腿に
あるスーパーカー時からの車輪だけが、主の戦意を受けるようにわずかに回転。
〈高速格闘フィールド〉世界において、異界の怪物“魔族”に孤独な戦いを挑んだ機械
仕掛け。
同系の〈勇者〉のうちの多くがそうするようには、巨大合体による強化を行わない。し
かし一説には、合体した〈勇者〉にも匹敵するだけのポテンシャルを誇るとか。
その故に、それは〈勇者〉ならざる身にして、“勇者級”と呼ばれるのだ――
「流派超重延加拳、スプリガン!」
天農の延加拳の流れを汲み、ロボットとしての機構を最大限に応用することで独自の流
派を開いたという、鋼の拳法家が立っていた。
399
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/07(金) 03:05:39 ID:M4EA6rZA0
−5−
『我が師の非礼は詫びる』
スプリガンは、マドカたちとクレイオンに謝罪した。
その声は、クレイオンのそれよりさらに電子的な響きを持つ、ディムロードのシステム
ボイスにも近いものであったが、あるいは人間以上に誠実な謝意を感じさせた。とてもで
はないが隣でそっぽを向いて口笛を吹いてみせるロクデナシの弟子には見えなかった。
あの後――
そのままでは目立ちすぎるという理由から、クレイオンとスプリガンはどちらもスーパ
ーカー形態に変形し、三人の女子高生たちと天農、そして高遠博士を人気のない河川堤防
まで運んでいた。夕方だけに、ジョギングや犬の散歩をしている人びとがいそうなものだ
が、幸いそれらしい姿は見えない。
「……さっきは余計なことをしてくれた。俺は“達人”だぜ。当てる気のない攻撃など食
らうものかよ」
『師匠のその言葉が、私の援護を計算に入れた強がりだということは明らかだ』
「そ、そんなことないよ……?」
天農の挙動は相変わらず怪しい。見切っていたのか、強がりなのか、あまりに演技臭い
ためにほんとうのところが判然としないのだ。
スプリガンの天農を見る視線(車輌形態における彼の見掛け上の“目”は自動車のライ
トである)から温度が消えていった。
『師匠、あなたの言動はいつも配慮を欠いている』
「そうかぁ? 騎士殿が潔癖症なだけだろ」
「いやいやいや」
師弟の会話に割って入って、アスミが顔の前で高速で手を振っていた。その言い草は無
理があるよと。
「スプリガンさんが謝られることではありませんわ」
『いいや……』
スプリガンに微笑んでみせる志穂だが、聞えよがしな台詞には天農への棘があった。そ
れでも弟子からの筋違いの謝罪を突っぱねないのが、彼女なりの優しさではある。
400
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/07(金) 03:06:59 ID:M4EA6rZA0
マドカは、目まぐるしい状況の変化については保留にして、取り敢えず気になったこと
を片づけることにした。
「……ねぇ、クレイオン、ひょっとしてあたしたちのことずうっと見てたの? おじいち
ゃんと?」
ぎくり。白銀の騎士は表には出さずに狼狽えた。
このお姫様はときどき妙な勘の鋭さを発揮する。
さすがに騎士たる者、尾け回したことについて潔く謝るべきか。
「……申し訳ない」
「いやいや、心配だったんだよ、なあ!?」
「心配、ねえ……」
アスミは何か言いたげだったが、結局は口を噤んだ。
面白いこと大好きな高遠博士が言うと説得力がガタ落ちな気もしたが、一応の言い訳は
立っている。護衛は騎士の本分ではあるのだし。
「そういうことなら! 俺、俺、俺も心配だったんですー! ほんとうなんですー!」
天農がハイハイハーイと手を挙げて、いけしゃあしゃあと無罪放免に向けた自己弁護に
走る。……が、さすがにこちらに納得する者などいない。
「……マドカちゃん、俺ともお馬さんごっこ、しない……?」、これだけでも最低の屑
確定である。その上でこの発言とくれば、もはや更生の余地はないような気さえする。
「この男は……」
『全く反省していない……』
あまりの態度に、クレイオンが車体の温度を上げた時だった。
このままではいつ戦争が勃発してもおかしくない。
そんな雰囲気の中――
「よぉ〜し! この一件、この高遠光次郎が預かったっ!」
年長者は皺だらけの掌を打ち鳴らして妙案を告げる。
その口元に浮かぶ悪戯っ子のような笑みを見て、クレイオンとスプリガンは揃って何だ
か不吉な予感を覚えたのだった。
401
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/07(金) 03:08:12 ID:M4EA6rZA0
以上。
今回はここまでってことで。
・・・天農屑だなこいつ。まったく誰に似たんだか(すっとぼけ)
402
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/12/07(金) 19:23:34 ID:X.IF2yoE0
>>397-401
投下乙です。
まー、クレイブレードは聖剣って程大袈裟な武装ではありませんが、
ただの人間が食らって無事で済むもんでもないよねって事で。
もうクレイオン頭に血が上りすぎだよw
街中で変形ってwww
危うく公衆の面前で一触即発の図。
続きを待つ!
さて。
寒くなってきた事ですし、まあ他のSSが完全に終わった訳ではありませんが、
ちょっと温泉ネタでも考えてみるかな?(ニヤリ
403
:
名無しさん@避難中
:2012/12/07(金) 22:59:51 ID:EE4N/3Pc0
邪悪を斬り捨てんと振るわれる剣
これを聖剣と呼ばずして何と呼ぼう
>>394
ゴルドランでは、意味不明な言語で喋っている宇宙人に対して
「こういうときは宇宙人も地球の言葉しゃべるのになー」
「しかも日本語だよね」
というやりとりがあったり
有名な(?)子持ち勇者の回ですね
404
:
名無しさん@避難中
:2012/12/08(土) 07:15:18 ID:2NINDCWIO
>>402
らしくないかなぁとも思ったけど、強行した。
クロスだといろいろ極端にしがちだよね。
温泉回か。
アークレイオンにもディバルガーにも覗き要員がいないようなw
あ、ラッキースケベ要員ならいるか。
405
:
勇者騎士
◆NblATia1b6
:2012/12/08(土) 09:19:20 ID:W3sem0U60
どもども
>>403
うん、まあ言い方は色々あると思う。
聖剣って言い方は、こっちの作品ではアークキャリバーにのみ適用してたんだけど、
その辺は堅く考える必要ないので〜
ゴルドランのあの回は衝撃だったw
>>404
極端な方が面白いって事もある。
この後はおそらくバトルに雪崩れ込むんだろうけど、
博士が絡むと、ただ戦うってので済まなそうな気もするなあ。
温泉はねえ。
個々の作品でやるか、クロスとしてやるかはちょっとまだ考えてないんだけど、
クロスでやるなら、作者自身が書く以上ディバルガーは出すよ。
リサと勝負になりそうな相手は……志穂、悠羽、……他に誰がいた?
っていうか何の勝負だ おれっ!?(滝汗
天農、虫っぽい動きとかするかなあ?(カサカサカサ……
406
:
名無しさん@避難中
:2012/12/08(土) 10:54:19 ID:2NINDCWIO
>聖剣
気づかなかった。そういうこだわりはいいよね。
>温泉
巻きタオルと上げた髪に期待大。
>虫っぽい動き
変態だからできるかも。
そこまでじゃないけど、設定上は流派延加拳に“犬神猿神”っていう四足走行技もある。
四つん這いの体勢から、鍛え上げた腕・手・指を使って四足獣の足運びを再現し、流して走るていどの速さで敵に近づく。
(……人体でそんなことホントは物理的に不可能だろうけど、天農だし)
ひたすら不気味なのと超低空姿勢で敵の攻撃パターンを限定して読み易くするってくらいであんまり意味はないw
407
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/08(土) 11:20:48 ID:8X9dvlx20
投下するか。
>>394
-
>>400
の続き。
408
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/08(土) 11:22:03 ID:8X9dvlx20
−6−
〈紅蓮の血闘〉世界、創世島は防衛組織“メタル・ガーディアン”食堂にて。
「クレイオンも苦労人だよな」
いつかの“焼き鳥大決戦”からさほどの間もなく再び設置された大型スクリーンを見上
げながら、相馬シンヤはしみじみと呟いた。
麻生コンツェルンの私設した防衛組織“ブレイバーズ”の実動隊員となった彼は、超A
I搭載のロボット・ブレイクたちとともに、凶悪な犯罪者と日夜戦い続けている。〈騒嵐
の世界〉の〈勇者〉たちだ。
『セイエンオーとの模擬戦に続いて、今度はスプリガンだからな』
ここでは、相棒の〈勇者〉ブレイクとは、端末ブレイアームズを介した音声のみのやり
とりとなる。
さすがに、五メートルから一〇メートル級以上の〈勇者〉たちをぞろぞろと招き入れる
だけの広さはないからだ。
こちらでの戦闘の模様は、映像データとして希望者にリアルタイムで送られることにな
っていた。観戦室での会話にも(やはり音声のみではあるが)参加できる手筈になってい
る。当初はいわゆる“テレビ電話”の導入も検討されたが、個々の通信機の外部出力装置
が高性能であったため、差し当たっては必要なしということで決着を見ている。
相馬シンヤは、ブレイバーズ隊長・武藤黒の『近くで観戦するのも、いろいろと勉強に
なると思いますよ』の一声で〈紅蓮の血闘〉世界に飛んでいた。
近くで観戦といっても、カメラを通してのものではあるのだが、武藤のデスクには現地
観戦者名簿が置かれていたので、つまりこれも交流の一環なのだろうと解釈した。
シンヤは周囲を見渡し、感嘆の溜め息を吐いた。
「にしても、錚々たる顔ぶれだな……」
〈騒嵐の世界より〉、ブレイバーズ隊長・武藤黒、隊員・相馬シンヤ。
〈足らざる世界〉より、勇者を知るという少年・えーいち朗。
〈科学の都市〉大空研究所より、若き天才科学者・大空カイト、その幼馴染でもある生
物学者・木谷美アイ。
〈紅蓮の血闘〉メタル・ガーディアンより、司令の真島烈、整備班副主任・篠原早希、
そして〈勇者〉鋼騎“聖炎凰”フェンサー(操縦者)・月守悠羽。
〈願い人の対局場〉より、高校生・香月遥介。
このあたりの面々は、めいめい観戦室の中で歓談中である。みんな自分の世界の平和は
大丈夫なのか。他人のことは言えないが。
「見ようによっては、クレイオン対スプリガンはそれだけのカードってことか」
『確かに、あのふたりがどのような戦いを繰り広げるのかには私も興味がある』
どちらも並み居る〈勇者〉の中でも屈指の技量を持つふたりである。特に身体操作面で
学ぶべきものは多い。以前、クレイオンや、スプリガンの師でもある天農博士、月守悠羽
に受けた体術の指南をちらと思い出す。
409
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/08(土) 11:25:30 ID:8X9dvlx20
「おぅ〜い! シンヤ〜!」
不意の呼び声にシンヤが視線をずらすと、駆け寄って来る影があった。
茶色のポニーテールが跳ねるのを視線が追う。
篠原早希が、眼鏡の下で弾けるような笑顔を浮かべていた。
「“オペレーション・ザッパー”ではおおきにな!」
日本人は国民性として恩を受けると会う度にしつこいほどに感謝の言葉を繰り返すとい
うが、この日の彼女もその例に漏れなかった。
――〈紅蓮の血闘〉世界における人類の敵“鏖魔”に対して米軍が行った、無謀極まる
作戦がある。
オペレーション・カミカゼと名づけられたそれは、篠原早希の手掛けた鋼騎“ライトニ
ング・ストライク”を流用し、鏖魔の空中戦艦“黒刃”に失敗前提の単機特攻を掛けると
いうものだった。
メタル・ガーディアンによって推測された、その作戦目的はふたつ。
決闘を好むとされる鏖魔たちが、本拠地への鋼騎の一騎駆けにどのような反応を見せる
かを実験するというのがひとつ。
米軍が開発した鋼騎の性能を“人類国家に”見せつけるデモンストレーションであると
いうのがもうひとつだ。
この作戦については、そもそもは米軍からメタル・ガーディアンに事前の通達があった
ものであり、異世界の〈勇者〉たちには秘匿されるべき機密だった。
何者の唇からそれの情報が漏洩したのか。もはや問うまい。
いかなる理由から彼らが剣を執ったのか。もはや質すまい。
――ウチはあれが戦うところなんて、見たくない。一機くらい、戦闘とは無縁の世界で、
思いっきり空を飛ぶ機体があってもええと、そう、思ってたんやけどね
既に手を離れたとはいえ我が夢を託した鋼騎を想う早希の涙に、わずかながら立ち上が
った者たちがいた。
作戦名、“オペレーション・ザッパー”。
ザッパー。風を切るもの。
米軍のオペレーション・カミカゼに先んじる形で展開されたその作戦は、鋼騎ライトニ
ング・ストライクに代わって〈勇者〉からの志願者一名がそれを再現し、取得した情報を
一方的に送りつけるというものだった。
ライトニング・ストライクとほぼ同速で飛翔し、敵本拠地に到達。反撃の暇を与えず制
圧を狙う。作戦の性格上、複数の〈勇者〉を投入することは出来ない。
制約多きこの作戦を成功に導けるとすれば、それは名だたる〈勇者〉たちの中でも彼ら
しかいまい。
――“飛翔合体、ファルブレイク”――
相馬シンヤを乗せる超大型バイク型装甲車から変形するブレイクと、そのサポートメカ
である戦闘機ファルコンウイングが飛翔合体した、この巨大なる戦士(ファイター)は、
〈勇者〉でも類を見ない飛翔加速能力を誇る。奇しくもその新必殺技ジェットスマッシュ
は、“嘴”の付いた盾を前面に押しての、急降下突撃でもあった。
410
:
創発ブレサガ
◆46YdzwwxxU
:2012/12/08(土) 11:27:06 ID:8X9dvlx20
かくて発動したオペレーション・ザッパーの推移は以下のようになる。
戦艦黒刃をジェットスマッシュにより強襲したファルブレイクは、距離一キロメートル
地点で一体の鏖魔からの迎撃を受けた。
黒刃の搭載兵装ではない(黒刃には衝角以外の武装は存在していない)。艦載機にたと
えるべき鎧鏖鬼ですらなかった。
『真っ白なスーツの女だった。長い刀のような物を携えていたと思う』
相馬シンヤはそう証言し、カメラの映像もそれを裏付けている。後に鏖魔七将がひとり
“斬華”という個体であることが明らかになる彼女は、その“刀”で一キロメートル先の
ファルブレイクに有り得ざる斬撃を加えたのだ!
〈足らざる世界〉の勇者級ディムロードが、その発生の直前に“次元の歪みの力”のよ
うなエネルギーを感知し、警告を発していなければどうなっていたか分からない。
ファルブレイクは予想を超える鏖魔の迎撃を紙一重で躱すことに成功したが、その影響
で理想軌道を外れたため、黒刃本体への直接攻撃も未遂に終わっている。より正確を期す
なら、ファルブレイクが攻撃を成功させてしまうと、かえってこの無謀な作戦の有効性を
強調してしまうため都合が悪く、敢えて軌道を修正しなかったのであるが。
このオペレーション・ザッパーの成否と是非については、〈勇者〉関係者の間でも議論
が真っ二つに割れた。
ライトニング・ストライクによるオペレーション・カミカゼは、“政治的な働き掛けの
ために”延期となっている。戦艦黒刃の迎撃手段及び鏖魔の戦闘能力の一部が判明したこ
とが大きい。その恐るべき能力が反対派に勢いを与え、“今のところは”米軍の急進を掣
肘してくれている(実は最大の要因は、〈勇者〉を知る大人たちによる裏取引にあったと
いうこともここに言い添えておく)。
もちろん、凍結されたわけではまったくないのだが、篠原早希個人がライトニング・ス
トライクに託した理想については、それが砕けるまでに多少の猶予を得たと言える。
ただし、いわゆる一騎駆けがあるていど有効であることが確認されたことと、ファルブ
レイクの性能がプライドを傷つけるかたちになってしまったことから、今後の米軍の方針
はかえって篠原早希の望まざるものとなっていく可能性が高まったことも否定できない。
さらに、最大の問題が、〈勇者〉関係者の内部で発生した。
そもそも、この作戦は、篠原早希に同情した一部の〈勇者〉たちが、あくまで“個人と
して”行ったものである。
これがたとえば〈黄金精神〉世界の〈勇者〉であるアイバンホーンあたりが実行したこ
とならまだ諦めも付いた。既に人類の管理を離れたアイバンホーンには、社会的な立場も
責任も存在しないからだ。もちろん、知的生命体の仲間としてその介入を咎めるのも人類
の自由として、ではあるが。
しかし、相馬シンヤとブレイクはそうはいかなかった。ブレイク及びファルコンウイン
グは麻生コンツェルンの私有財産であり、オペレーション・ザッパーはその濫用に当たる
と判断されたのだ。
(まあ、当然も当然だよな)
勇者級の“兵器”が、まったくの個人的な正義で戦うことがどれだけ危険であるか。多
かれ少なかれすべての〈勇者〉たちが向き合っている問題ではあるが、麻生コンツェルン
の私設防衛組織ブレイバーズは、なまじ組織としての体裁が整っている以上、そういった
問題に関してはとりわけ厳格にならざる得ないのである。
心情的に一定の理解を示す者がいたとしても、管理職としての責任を預かるメンバーに
してみれば、それはやはり言語道断の行為なのだった。
詳細は割愛するが、相馬シンヤとブレイクに下された処分は重かった。いや、それでも
“罪状”の割りにはまったく軽いと言ってよい。〈勇者〉やその関係者たちの必死の訴え
があったとはいえ、今は以前と同様に戦線に復帰できている。
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