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みんなで世界を作るスレin避難所2つめ

435狸よ躍れ、地獄の只中で:2010/08/10(火) 00:15:58 ID:MqhQA7uY0
 刀身ない発言の衝撃もようやく薄れてきたか、藤ノ大姐は迅九郎の話にずいと身を乗り出す。はだけ
た着物の中が見えかけて、さすがに焦った迅九郎は、腰にさした愛刀に目をやる。

「源氏の御大将が使われた安綱の刀身は、もともとこの刀の刀身でした。いつ、どうしてこの刀の刀身
だけが失われたのかは拙者存じません。ですが拙者がこの刀を手にした時、この刀もまた『童子切』と
呼ばれていました。そしてまた、そう呼ばれるにふさわしい力を持つ刀だったのですよ、こいつは」

 真剣な表情で綴られる迅九郎の言葉に、ふむふむと納得しかけていた藤ノ大姐だったが、ここであか
らさまな矛盾に気付く。
「待つのじゃ狸。その刀、刀身がないじゃろうが。刀身がない刀に力も宝もあるものか」
「あ、さすがです大姐様。あっさりばれてしまいました」

 てへ、という表情でうそぶく狸。藤ノ大姐、大噴火寸前である。
「されど、拙者の持つこの『童子切』にはちょっとした秘密があるのです。この刀の――」
「お喋りはそこまでニャ! 鬼婆、近いニャ!」

 アカトラの緊迫した声が、迅九郎ののんびりした言葉を遮った。アカトラの発言で迅九郎はようやく
当初の目的を思い出した。鬼婆退治。確かそうだったはずだ。

 屋敷からどれほど飛んできたのだろうか。時間で言えば結構長かったように思うが、なにぶん毛玉と
化したアカトラはただ浮遊しているだけで、速度などないに等しかった。それを考えれば、距離は大し
て離れていないのかもしれない。

 真っ黒の厚い雲に覆われた空と、灰色の濃い霧に覆われた、眼下に広がる沈みこんだ大地。華やかで
きらびやかな花の蔵屋敷が、幻であったかのようにも思えてくる。

 地獄。ここは、やはり地獄。誰もが厭うその地へと、自分は落ちた。

 ――無意味なことなど何もない。何かを無意味だと思うかどうかは、己の気持ち一つだ。

 生前、そんな言葉を誰かから聞かされたような気がする。
 自分はこの言葉に賛成はしなかった。でも今、少しだけ――

「死でさえも、意味はあるのだろうか。地獄に落ちたこと、心ならずもそこに留まっていること。それ
ら全て、意味があるというのだろうか」

 少しだけ、信じてみようかと思った。


 第四話『刀語、でござる……だ、題名考えるのが面倒だっただけでござる! パクリとかじゃござらんし!』終


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