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"傷だらけの手記"

1ライア:2023/01/21(土) 14:00:25 ID:myyZEdwU0
リフォール王立戦士団の一員として研鑽を重ねる剣士、ライア。

正義感と博愛に満ちつつも、何処か歪んだ一面を孕む謎多き男。

彼の過去や経歴は、此方で纏めさせていただく。

4ライア:2023/01/21(土) 14:42:58 ID:myyZEdwU0
[Birth of Riar](3)

そうして7年の月日が流れ、11歳となった。

ある日の出稼ぎの帰り道。





爺さんは、孤児院へ続く裏路地の一角で事切れていた。

年端もいかない少女を、護る様に覆い被さって。


そして小脇に転がっていたのは紙袋に包まれ、まだ湯気の立っている形の悪いパンだった。


「たったこんだけか...稼ぎありそうなジジイだったと思ったのによ、イライラするぜ」

「あ˝ーもうこのガキも中々良さそうだったんだけどなぁ...まぁ向こうの娼館なら安くてイイ子いますから、今晩はそこで続きにしましょうや」


古びた財布と凹んだパイプを手にした大男。そして薬混じりの醜悪な匂いを漂わせる細身の男が、二人を嘲笑しながらその脇に立っていた。



助けなくちゃ



もう、二人の命の灯が消えているのは明らかだった。
だが、最後の最期まで意志を貫いた爺さんに、恥ずかしい姿を見せたくなかった。

おずおずと弱気な態度を装い、腰に両手を回し歩み寄る。


「あぁ...?せっかくのお楽しみを邪魔された後なんだよぉ!!何様のつもりだコラァ!!!」

「...んだよガキが....何か文句でもあんのk」


その刹那。大男に向かって小さく跳びつつ、思い切り逆手で鉈を振り抜く。
最初に狙ったのは力づくでは勝てないから。何より爺さんを侮辱されたからだ。

大男は掠れた息を吐きながら、ズシンと音を立て地に伏せる。


「...ッ...あ˝、ぁ!?テメェ何してくれてんだァッ!!!」

激高する細男が、後ろに大きく跳びながら銃を抜く。乾いた破裂音と共に走る灼熱感。

肩口と脇腹に1発ずつ貰うが、痛みは然程感じない。足先に力を込め、懐へ一気に踏み込む。

男怯えた表情で銃を此方に投げ捨て、短刀を抜いた。


「ヒッ....来るな、くるなァッ!!!!!」

俺の瞳は、悲痛な表情と錆びついたナイフを射殺す様に、しっかりと見据えていた。

男は叫び声を上げながら、迫りくる自分の袈裟へ無造作に刃を振り下し.....


それを鉈で流す様に弾き上げ、時間を逆再生したような鋭い返しで男の胸を一突きにした。

嗚咽を浴び、顔をしかめながらも地へと叩き伏せる。


醜く怨嗟の言葉を浴びせ続けるも、それを最後に男は動きを止めた。

5ライア:2023/01/21(土) 14:46:50 ID:myyZEdwU0
[Birth ob Riar](4)

全てが終わると鉈を手放し、徐々に身体を蝕み始めた痛みを堪えながら二人の元に歩み寄る。


劣悪な環境で日夜横行している事とはいえ、初めて人を殺めた事実は身体にずしりと圧し掛かっていた。

そんな手で純粋なこの二人に触れていいかは分からなかった。只、無慈悲に奪われた命を弔わずして仇討は果たせないと考えていた。


「....痛かったよな...。大丈夫、仇は討ったぞ。....ごめんな....。」

先程までは微かに息があったが、暴力により傷付けられた幼い身体では数刻も持たなかった。

瞼をそっと下ろし、傷付けないようそっと横たえる。


爺さんは隣で膝立ちのまま、仁王立ちの様に屹立していた。

身体は既に冷たくなっていたが、そっと背を撫でた感覚はいつも肩を叩いていたときの感触と似ていた。


幼い俺達を護ってくれた爺さんは、最後まで温かい父親のような存在だった。


「........。後は任せてくれ....必ず、皆を地上に、出してやるから...。」


爺さんと少女の亡骸は自分の手で清めたのち、路地奥にある宿の墓地へ手厚く葬った。

爺さんの買ってくれた不揃いなパンは、まだ微かに熱を保ったまま子供達へ届けることができた。


それから数ヵ月は、ライアが孤児院の面倒を見る様になった。

爺さんが居なくなり寂しがる子達もいたが、自分が代わりになれるようにと精一杯尽くしてきた。

"もしあの時助けられれば"。そんな後悔から独学で簡易的な医療術を学ぶようになり、子供達の治療もできるようになった。

独りよがりな力ではなく、誰かを護る為の、過度に被害を及ぼさない制御できる力を得られるように努力した。


転機が訪れたのは、その年の冬だった。

6ライア:2023/01/21(土) 17:24:33 ID:myyZEdwU0
[Birth ob Riar](5)


11歳になって迎えた冬。

越冬の際、豊かな王都に比べて貧しい農村地帯はライフラインが断たれるケースが多い。

雪が降り積もり命の危険まで及ぶ気温の中、多くの荷物を運搬するのはリスクの高い仕事。

だが地下からの就業者にとっては、命を天秤に掛けた格好の稼ぎ時。

無論スラムも同じかそれ以上に酷い環境ではあるが、雪が積もらない事を口実に一切手当てが入らないのはいつもの事だ。


今回は遠方110km近く、王都へ多くの野菜や工芸品を収める山奥の村へ支援物資を送ることになった。

元々温暖な地域なのだが、今年は非常に強力な寒気により吹雪が発生し、交通の便が止まる程の異常気象。

特例的に輸送の依頼が来たことで多くの住民が以来すると予想していたが、例年以上に厳しい環境という事で依頼を受けたのは俺だけだった。


面倒なのは距離や環境もそうだが、支給される防寒具にスラム出身であることを示す一種の烙印が押されている事。

結局の所、何処までいっても嫌われ者でなければならないようだ。



最低限の物資と食料をちびちび消費し、本来なら何日もかけて進んでいく。

だがその時は足が張り詰める痛みで睡魔を飛ばしつつ、最低限の休息で予定よりも早く歩を進めていった。

自身の疲労よりも、孤児院に残してきた子供達のほうが気がかりだった。



手足の感覚も薄れ、息も絶え絶えになりつつ辿り着くも、村人たちの態度は普段と変わらない。

"汚らしい"と身体に触れぬ様布袋を手に纏い、泥を払うように荷物を取り出し硬貨を籠へ入れていく。

それを尻目に村外れの凍った河原で食事を摂ったはいいものの、
凍り付いた干し肉と川べりで死んでいた雑魚を白湯に入れただけのスープでは、特段腹も膨れなかった。



スラムへ帰る最中、到着まで凡そ道半ばといった所。

雪が降りしきり視界が歪む中、不自然に凹んだ何かが視界に入った。


荷台から手を離し駆け寄ると、木の根の様に武骨な突起。その下には、黒く何重にもなった線の束が積雪によって埋もれつつあった。

「...おい!大丈夫か....!!」

温度以上に背筋が凍り付く。疲れを感じさせぬ、張り裂ける様な声で叫ぶ。すぐさま雪を掻き分ければ、悪魔のような容姿をした少年の姿が露わになった。

辺りには薪らしき樹木が散らばっている。作業中に倒れて動けなくなってしまったのだろうか。

温かそうなコートを着てはいるがそれも水分に溢れ、すっかり凍えてしまっている。明らかに低体温症の兆候だ。


「......ぁ....」

小さく漏れた声にはっとし、掘り出し終えればそっと口元へ耳を宛がう。

微かに息はあった。うっすらながら意識もある。


今ならまだ間に合う。

種族がどうとか、外の人間を何故助けるのか等は全く頭に無かった。


何度も目の前で見殺しにしてたまるか。

7ライア:2023/01/25(水) 11:16:48 ID:C35GMnMI0
[Birth of Riar](6)

辺りを見回すと、一軒の民家を見つけた。煙突からは煙も立っている。

藁にも縋る思いで少年を背負い、揺さぶらぬよう注意しながら民家の中へ運び込んだ。

住民や先客に詫びている暇はない。幸い無人で暖炉が焚かれていた民家へ運び込むと、すぐさま雪の染み込んだ衣服を脱がせていく。

「もう少し我慢しててくれよ...頼む.....。」


彼の素肌を見るに、目立った外傷は無い。小さく安堵しつつも、感覚を失った手先で家中からタオルや毛布を掻き集め、手当てを進めていく。

適度に温められた部屋は、熱とはほぼ無縁の旅を続けた自分に針山を押し付けられる様な痛みを感じさせていた。

そんな中では痛みを堪え"どうか助かる様"にと彼の生命力に祈り、治療を施す他自分に出来ることはなかった。


2時間と数十分後。

「....これで...あとは大丈夫かな....。」

少年を毛布に包み、暖炉で過度に熱されないような位置へと寝かせた所。

冷え切っていた身体も温まってきており、鼓動もはっきりと感じられるようになった。


異常に感じる熱で、既に頭がぼーっとしてきている。

自分に出来ることはした。そう言い聞かせながら、少しずつ呼吸の戻ってきた彼を見守り続けた。



ぁ    と ぅ



微かに聞こえた声と共に、そっと彼の指先が手の甲に触れる。

思わず、逃げる様に手を引いてしまった。

じわりと何か温かいものが広がる感覚を受け、眩暈に近い何かを感じたからだ。

「....今のは....」


突然。軋む程の音を立てて、玄関が叩く様に開かれる。

「フェン!?」

雪を被り、息を荒げながら大人びた女性が此方に駆け寄ってくる。

呼吸も受け答えも曖昧だったフェンという少年は、女性が近付くと小さく瞼を開けた。


「...よかった....心配したのよ、もうっ....」

涙を流し縋る女性の姿を見て、この民家が彼女らのものだという事を察した。

自分が残る意味は既に無いと理解したのか、布袋を背負い後ろ歩きで二人から身を引く。


「....勝手に踏み入ってごめん。まだ体温が戻り切ってないから...もう少し安静にさせてから、温かい物を飲ませてあげて。」

最低限の言葉を告げ、足早に扉へ手をかける。


「待って...!あなた、名前...は...」


声を掛けられ振り返ると...

女性は、着込んでいた防寒具の一点を見詰めていた。

次に、目線は俺の方に向いた。


その瞳に映っていたのは、哀れみか、或いは畏怖か。


「.....名前は、無いよ。」



震えた声で小さく呟き、俺は飛び出す様に民家を後にした。

それは過剰に感じてしまう熱を嫌った故か。

スラム住まい風情が、二人の領域を荒らしてしまったという恐怖からか。

おそらく両方とは思うが、寒さで感覚が鈍っていたあの時には、はっきりと分からなかった。


それから寒暖差で徐々に壊れつつあった身体を無理くり動かし、スラムへ帰り着いたのは2日後の事だった。


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