■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

幻想郷の女の子に愛されて眠れない(東方ヤンデレ)スレ第24夜

1 : ○○ :2017/10/02(月) 13:32:38 nqXKJ73.
ヤンデレ――――それは純愛の一つの形。
ヤンデレが好きで好きでたまらない人の為の23個目のスレです。
短すぎてうpろだ使うのはちょっと……な人はここを使うといいかも。

あなたの心と体もわたしのもの…。

※注意書き
・隔離されているとはいえ、此処は全年齢板。
 過度のエロ•グロはここでは禁止。
・ヤンデレに関する雑談やシチュ妄想などもこちらで。
・このスレの話題や空気を本スレに持ち込まないこと。
 苦手な人もいるということも忘れずに。
・隔離スレであることの自覚を持って書き込んで下さい。
・馴れ合いは程々に。 突っ込みも程々に。

・パロやU-1等の危険要素が入るssはタイトルに注意事項を書いた上でロダに落としてください。
・スレに危険要素のあるssのリンクを貼る時は注意事項も一緒に貼ってください。
・危険要素のあるssをWikiに保管する際は保管タイトルの横に注意事項を明記してください。
・危険要素は入っていないもののスレを荒らす危険性のあるssは
グレーゾーンのssとして作者の自己判断でロダに落とすようにしてください。
・グレーゾーンのssは作者と読者が議論して保管方法を決定してください。

まとめはこちら ttp://www26.atwiki.jp/toho_yandere/
279様作成ロダ ttp://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/
前スレ(23夜)ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/22651/1485600953/l50


2 : ○○ :2017/10/05(木) 22:38:22 g2QznYKE
秋が深まるとともに一抹の寂しさを感じる。青々と繁っていた木々が色褪せ、葉を落としてゆく様がそうさせるのだろう。

そしてその感覚は、長く使ってきた自筆のノートが終わる時のソレによく似ている。

「いよいよ最後の頁ね」

くすんだ紙を一撫で、また一撫でしながら独り言を呟く。中に書き詰められているものは小説でもなければ魔術用語でもない。詰まっているものはこの私、古明地こいしの9年分の恋路である。


きっかけは魔法使いから聞いた「恋のおまじない」だった。
曰く、『意中の相手のことを一冊の本に書き詰めた時、その恋は必ずや稔るであろう』とのことであり、手頃なペットが見付からずに気の向くままに放浪していた私にとっては新しい遊びとしてちょうどよかったのだ。

姉から貰った一冊の白紙の本、そして万年筆。
これを手に適当な人間の側に寄り添っては"恋をしよう"と張り切っていた。だがそんなことをしたところで私に気付く者がいるはずもなく、本の中身は相変わらず白いままであった。

しかし○○という人間に出会ってから状況は一変した。○○は私そのものこそ認識しないものの、何か気配のようなものは感じ取っているようだった。

その様子は私の興味を引くのに十分であり、以降ことあるごとに○○の元を訪れてはその様子を本に記した。そうしているうちに遊びは恋へと変わり、今では大好きな○○との恋を実らせるため、会える日は毎日のように○○の元へと通い詰めている。

そして○○の様子を書き連ねてきた本はいよいよ最後の頁を迎え、今に至る。

「いい?お燐。この余白を埋めたとき、焦がれ続けた恋路はついに終焉を迎えるの。そしてその先には○○との幸せな未来が待っているのっ♪」

「そろそろ9年になるんでしたっけ?いやぁーあのときはここまで長続きするなんてあたいには想像もつきませんでしたよぉ」

「もう、おりんってば……続くに決まっているでしょ?私は一途だもの」

そう、私は9年もの間、気変わりすることなく○○の様子を一つ一つ観察し続けるくらいには一途だ。今や○○仕草ひとつで意図や想いまでを察することが出来るようになっている。

さあ、今こそ最後の余白を埋めよう。
成就した恋のその先を想像しながら、私は1人でトリップしているお燐を無視してペンを走らせた。

「……こいし様も一人前に恋をするようになったんですねぇ……うっうっ……さとりさまもきっと草葉の影から見守っ……ああん無視しないで!」

「おりん、ちょっと静かにして」

「にゃぁい」

愉快な友人を制止し、私は再び思考をはじめた。
この本が、私の行動に対する○○の反応が書かれた物語が幕を閉じるということは、すなわち一つの恋が終わりを迎えるということである。

思い返せば色々あったなぁ等と感傷的な想いが湧き上がってくるが、そうしてばかりもいられない。これからは今までの○○との関係に終わりを告げ、新たな関係へと昇華しなければならないのだ。これからは忙しくなるだろう。


「待っていてね○○。私が積み重ねた9年分の想い、今日これから伝えちゃうんだからっ!」


自身の中に溢れる愛情のうねりを胸に秘めて館から飛び出す。そしてそのまま、一度たりとも言葉を交わしたことのないその人がいる場所へと駆けてゆくのだった。

>>1
24夜になりましたね。因みにですが東風谷は合計で24画になるのですよ。ご存知でしたか?つまり24夜は早


3 : ○○ :2017/10/05(木) 23:29:09 9uu5gB0Q
>>2
な、何だってー!!
あ、中秋の名月のニュースを見た咲夜さんがそっちに向かいましたよ(小声)。

前のスレの912-913と対になる作品を投下


4 : ○○ :2017/10/05(木) 23:30:08 9uu5gB0Q
 買いとりて

 暑さが和らぐ昼下がりの午後に、私は屋敷の奥座敷で客人を待っていた。○○さんが最近人里で孤立していると使用人経由での噂を耳にした私は、それ
を解消するために裏の事情に通じている人物を態々呼び寄せた。情報屋として手広くやっており幻想郷の至る所に顔が売れている彼には、何度か○○さん
の周囲を探らせたこともあり、彼ならば恐らくは○○さんの今の孤立を解決することができるだろうと考えたためである。
 彼程度の人物ならば今までと同じ様に呼べば直ぐに来るのであろうし、期待していた程で無ければスキマに送りこめば良い。丁度彼には何ヵ所からも申
し込みが来ていたのだから、いや、いっそこの際そうした方が都合が良いのであろう。

 情報屋は部屋に入ると辺りをグルリと見回した後、ゆっくりと来客用の座布団に腰掛けた。私の焦る気持ちを知ってか知らずか、堂々とした落ち着いた
振る舞いをする。いつもいけ好かない、人を食ったような笑みを浮かべている情報屋が、慌てている姿なんぞは終ぞ今まで見ることがなかった。場合によ
れば此処でお別れとなるのならば、少々感慨深くもある。自分がこんなに感傷的になっていることに気づき、こんな気の持ちようならばひょっとすればきま
ぐれで慈悲でも掛けてやってもいいのかも知れないと、つと思い直す。全く、○○さんが絡んでいると私は正気では居られない。里の重鎮としての稗田も、歴代の
阿礼より続く血も、サバンとしての能力もない、唯の若い村娘のように私は○○さんに焦がれてしまう。全てを掛けても彼が欲しいと思い、されども私の全てを
見せて嫌われる勇気も無く、唯私に出来るのはこうやって物陰より眺めるのみである。暗く、陰湿で、きっと彼が見れば幻滅されるのであろうが、それが
私の本性である。全てを投げた後に残る、暗い感情--。

「それは少々むずカしイかと--。」
ふと耳に情報屋の言葉が入ってくる。上の空の自分が今まで一体何を話していたのかを、咄嗟に意識を巻き戻して確認する。全ての記録を記憶することは出来なく
ても、数分程度の無意識ならばサバンたる脳内のレコーダーより読み起こすことが出来るのだから。どうやら意識を○○さんに飛ばしていた間にも、私の口は
自然な言葉を紡いでいた様である。しかし、本当に使えない情報屋である。今までは○○さんに近づく動物を駆除するために、色々調べさせていたのだが、今と
なれば彼の孤独を埋めることすら出来ない。ああ、しかも苛立たしい事に、情報屋の顔にはお前の所為だとはっきりと書いていた。うるさい、本当に使えない
屑野郎め!私がこの立場でなければ、もっと彼の近くに居ることが出来るというのに、それを態々我慢しているのだから!せめて○○さんの万分の一の脳味噌が
あるのならば、もっと私と○○さんの為の策が出来るだろうに。いやいや仕方が無い。そもそも○○さんと唯の十把一絡げの替えの効く部品と同一視することす
ら、同じ土俵に立つことすらおこがましいことであったのだ。幾ら人間の形をしていても、それは月と餅を同じだと言い張る様なものである。彼が優しいので
彼の周りにいる人を彼は平等に取り扱っているので、私もついつい甘えてしまっていた。ああ、すみません○○さん。こうなってしまっては最早彼を庇うには
稗田の家の中に入れることが必要です。いきなり旧家に放り込むなんて、幾ら何でも非道すぎる話しですが、ああスミマセン、スミマセン、でも阿求は嬉しゅう
ござ-


5 : ○○ :2017/10/05(木) 23:30:49 9uu5gB0Q
 「当主様と○○さんが距離を置かれる方が宜しい・・・」

 ア゛? 何、人の未来を断ち切っているんですか?馬鹿なのですか?ああ、そうでしたね、屑でしたね。微塵子でしたね。全く、貴方に期待した私が残念でし
たよ。ええ、本当に、ほっんと うにね。さてこうなったのならば、あの情報屋にはお茶のお替りを頼む序でに、永遠亭の薬で眠って貰いましょうか。ええ、これ
でも少しは感謝しているのですよ。態々死んでいないのに彼岸へ送ることも無く、地上の妖怪に嫌われている地底でも無く、良く外来人が憧れている永遠亭に送っ
て上げようというのですからね。ええ、稗田の当代に代々受け継がれている、私の裏の一番大きい利権である、人里の人間をどの勢力に引き渡すかを采配する権利
の役に立ってくれたのですからね。さあ、目が泳いで来ましたよ、腕が震えて来ましたよ。はははっ、悔しいでしょう、残念でしょう。これまでの全てのこの幻想郷
での人生が、今まで必死に生きてきたその全てが、こんな所で自分より遙かに無力な女の手で、無残に潰されるというのですからね!ああ、楽しい。それじゃあ、

「八雲様、それではこの人を永遠亭まで送って下さいな。」

さて、○○さんをお迎えするために、色々と根回しをしなくてはいけませんねぇ・・・。


6 : ○○ :2017/10/05(木) 23:44:52 2c9ZBnX.
>>4訂正

もはや彼を庇うには稗田の


もはや貴方を庇うには稗田の


7 : ○○ :2017/10/06(金) 17:11:24 bQX6hIzQ
美人は三日で飽きる
ブスは三日で慣れる
ヤンデレは三日で諦める

なので◯◯は諦めて幸せになりましょう


8 : ○○ :2017/10/06(金) 22:00:57 8wj/4Ax2
>>7
○○「希望は前に進むんだッ!」


9 : ○○ :2017/10/07(土) 00:51:29 7Pp69uIU
>>7
不覚にも名言に思ってしまうま


10 : ○○ :2017/10/07(土) 08:04:07 FeEIkink
>>9
諦めたらそこで人生終了だぞ!
アンタしっかりしまうま!
あれ?シマウ
シマウマ
しまうま黒
しマうまウ
白シマうマ
しロクろ
シロシロロくろハッキリハッキリ
シロクロハっきりさせないト


11 : ○○ :2017/10/07(土) 23:06:27 GXD4Ac7U
「私、あなたと恋人になれなくてもいいって思ってたんだ」

「だって、そうでしょ?私はあなたのことがそれこそ死んでしまう程に好きだけど、あなたもそうとは限らない」

「だったら、あなたには一番好きになった人と一緒になってもらって、ずっと笑っていてほしいじゃない?」

「だから、あなたに恋人ができたって知った時は、悔しかったけど本当に心から祝福したのよ」

「だけど、あの女はそれを嘲笑うように踏みにじった」

「あなたに好かれていることに胡座をかいて、自分も磨かず、詰まらないことであなたに難癖をつけて」

「けれどあなたは優しいから怒らずに謝って窘めて、関係を続けた」

「それだけだったら私も我慢できたわ」

「だけどあの女はやってはいけないことをした」

「あの女はあなたを泣かせた」

「理由は『他に好きな男が出来た』から」

「あなたからあれだけの愛を貰って、あれだけ酷い事をしておいて、そんな下らない理由であなたを捨てた」

「許せるものか」

「ん、大丈夫。私は何もしないわ。過去のとはいえ、あなたの愛した人を手にかけてあなたの隣にいる資格を失いたくないもの」

「あ、もちろん、だからって無理に私を選ばなくていいからね?」

「あなたが笑っていてくれたら私はそれが一番幸せだもの」

「あなたが辛い時はこうやってすぐに駆けつけるから、あなたはあなたの思うままに生きて」

「……うん、もう大丈夫?よかった。それじゃあ、名残惜しいけど私は行くね。ばいばい、またね」


一見おかしくないように見えるけどどこかおかしいみたいなの目指したけど難しいや


12 : ○○ :2017/10/08(日) 06:56:36 LqwnLpRY
ノブレス・オブリージュに囚われて(130)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=120

>>2
こいしちゃん、○○の周りで嫌な事があったら。それはこいしちゃん自身の嫌な事に変換しそうだから
○○の周りですっごい暗躍しそう。無意識で

>>4
この阿求の厄介なところは、自分の心中のドロドロに気づいていること
そしてそのドロドロを演技で隠せてしまえるところ
実際、情報屋への内心での罵倒を情報屋は気づいていないんだから
……でもこの情報屋、○○をさっさと阿求に突き出せば助かったかもなのに
優しいんだろうけど、優しいから永遠亭に好かれたのかな

>>11
パルスィっぽいなと思いながら読んでた
嫉妬って、憧れの裏返しみたいな感情だから


13 : ○○ :2017/10/08(日) 09:13:14 bG.xMJLE
>>11
恋人になれなくてもいいって『思ってた』
『私は』何もしない
あとは○○とヤンデレちゃんの関係にもよるけどヤンデレちゃんが全て実際に見てるような話し方してる辺りが不穏かなあ?
意味がわかると怖い話を考えるみたいで面白かった乙


14 : ○○ :2017/10/08(日) 22:56:40 HVCext1E
>>11はただの悲恋系ヤンデレかと思ったけど、>>13を見てからみてみると、そうも見えてくる。不思議!

>>12
また一人蟻地獄に落ちているような…
ところで、永琳投入はちょっとヤバくないですかねぇ、主に村人が(小声)


15 : ○○ :2017/10/09(月) 09:52:16 CHzpMFwM
幻想郷の女の子に愛されて眠れない(東方ヤンデレ)スレ第23夜「ふぅ〜ん…最近会いに来てくれないと思ったらこーゆーことだったんだ〜…ふぅ〜ん…へ〜…」


16 : ○○ :2017/10/09(月) 19:01:37 3b1zv0OI
>>11
ぱっと見無害で一途な奉仕系ヤンデレちゃんかと思いきや、>>13を加味すると絶対恋人にする気で裏でやべー事をしつつ四六時中○○を監視する危険人物になるという
つーかこの○○好きってはっきり言われて慰めてもらってるのに他の女に行ったらなかなかひでえ奴だぞ


>>15
わろた
あんたのスレもう書き込めないでしょ!


17 : ○○ :2017/10/09(月) 20:52:40 qPkor0ZY
なんか普通のヤンデレスレみたいになってるな


18 : ○○ :2017/10/09(月) 22:57:16 ocemYy2c
何の問題ですか?


19 : ○○ :2017/10/10(火) 13:32:12 Bfc/lV6E
ノブレス・オブリージュに囚われて(131)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=121

カメラって、本当に青天井な値段の上りかたしますからね
射命丸も必死だったんです

○○をめとる為に家の力を使うと言ったら稗田家が真っ先に出てくるけど
霧雨家も稗田の次にやれると踏んでいるんですよね
もっとも、それを言ったら

薬を盾に取る永遠亭
来秋の実りを盾に取る秋姉妹
イナゴを使えるリグル
生死を操れる、純粋にやばい幽々子様
とにかく強い萃香に勇儀
運命視でいくらでも先回りのレミリア
守護するのやめるよ?慧音先生
もう竹林で迷っても助けないよ?妹紅
当事者以外には悲劇、奇跡を呼べる早苗
異変解決やーめた、だけで大打撃。霊夢


上げていったらキリが無いですね


20 : ○○ :2017/10/10(火) 20:48:26 Bi8rkj9Y
乙です。
「彼」は何処に消えたのか…。


21 : ○○ :2017/10/13(金) 09:09:46 Z1J/fRTo
幻想郷には逃げ場が無いし、月にはもっと逃げ場が無い
やはり蓮メリや夢美教授やちゆり
ここら辺がギリギリ耐えれる限度なのかな


22 : ○○ :2017/10/15(日) 23:51:18 SLcfLwnM
ええ、どうして此処にたどり着いたか、ですか…
そうですね、実は私、物書きをしておりまして。いやあ、そんな大層な先生と呼ばれる程ではないのですが、此処に来る前はお陰様で少々売れておりまして。
最近文章を書いておりますと、なんというんでしょうかね、心の中で少女が呼び掛けてくるんですよ。そして、その少女が言うとおりに、作品を仕上げると、不思議と売れましてなあ。

私の作品は、心理描写をメインにしておりましたので、いつも執筆時には作品の中の世界に没頭して、いわば映画監督がメガホンをとるように作品を作るのですが、ここ最近あの少女が作品の世界の中に現れるんですよ。
そして私の手を引いて、二人でとぼとぼ作品の中を歩いているんですよ。何せ私の作品はシリアスと言われていますからね。必然、二人でとぼとぼと、あの少女に手を引かれて、まるで自分が小さい時に、知らない場所で迷子になったように、暗い作品の中を歩くんですな。

まあ、あくまでも妄想の世界の出来事ですから、私も余り大袈裟に捉えていなかったのですが、どんどん二人で潜る時間が長くなりましてね。そして一旦潜ると、深くてより酷い世界に入り込むので、一層彼女の手を離せないんですよ。
生憎その作品は良く売れましてな。私としても、読者の期待に応えるためには、彼女と二人でいないといけなかったのですよ。
そうしていると、大作の中に入り込んで、いや、私が思い付いた話なのですから、そういうのは、変な言い方なのですが、一大大作だと思ったら、遂に此方に来てしまいましてね。いやあ、あれを元の世界で出版出来れば、さぞかし有名に成れたのでしょうがね。そこは惜しいところですよ。

え、此処に誘拐されて来て、帰りたくないのかって?
私としても、そう思うべきなんでしょうがね、ついぞそう思えなくってね。そもそもあの少女を最初に拒まなかったときに、そして二人でとぼとぼ歩いている時に、私は彼女の虜になっていたのかもしれませんね。
そうそう、彼女の名前なんですけれどもね、ピンクの髪に、目玉をくっつけた、ああ、×××と言うのですか。いやあ、いつも聞くのですが、頭の中で聞いた瞬間に言葉が溶けていってしまいましてね。音としては認識するのですが、脳で理解は出来ないのですよ。

おや、噂をすればというやつですね。私はこれで帰りますので失礼しますね。それでは、また何処かで。


23 : ○○ :2017/10/15(日) 23:53:54 SLcfLwnM
22レスの作品につきましては、
携帯から投下したので、まとめで編集されるさいには、ご自由に改行等されて下さい。


24 : ○○ :2017/10/16(月) 04:09:15 R2uYAUTs
幽々子?


25 : ○○ :2017/10/16(月) 11:40:05 Z1NJY.J6
ノブレス・オブリージュに囚われて(132)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=122

>>22
確かに絵にせよ文章にせよ。物語を紡いでいる人は、幻想郷と親和性が高いのかもしれない
実際、幻想郷の存在を感覚的に理解している蓮子やメリーも。そして実際に入り込める菫子ちゃん
差はあれど、全員が物思いや夢見がちな部分が多いですからね


26 : ○○ :2017/10/16(月) 17:59:33 PZzvpAsA
>>24
さとりをイメージしました。

>>25
人里としても、どうしようもない、ということを、一般人の骨身に染み込ませないと、不満が出てくるのでしょう。
村長レベルはそれは分かっているけれど、しかし、村の空気も同時に分かってしまうと。
結局は、笛吹男に連れられるネズミのように、川に落ちるまでは、雰囲気に流されてしまうのかしらんと思いました。
乙です。


27 : ○○ :2017/10/18(水) 23:31:43 QzQoIKFA
 冷戦と崩壊

 上白沢慧音、稗田阿求、そして彼女達の後ろに申し訳程度に村の主だった者が控えている中、慧音からの問いかけ-もはや尋問の様な圧力を○○
には感じさせていたが-は続いていた。数日前から博麗神社の巫女が境内に現れなくなり、昼間にも関わらず雨戸が閉じられている状況は、居候をし
ている妖精が仲間に話したことで、スクープに飢えている天狗の号外を通じて、その日のうちに幻想郷全域に伝わっていた。そしてそれが一日だけで
無く何日も続くに至って、異常だと感じた慧音は博麗神社を直接訪れていた。しかし博霊神社の前には門番を気取る狛犬がずっと居座っており、霊
夢に取り次ぐように頼んでもけんもほろろに面会を断られるのみであった。弾幕勝負すら断ってくるという、つまりは実力行使になっても構わないという意
思を示したあの狛犬の姿を見るに、十中八九で霊夢自身の意思で出てこない状態であった。ならばと稗田家を通じてマヨヒガに尋ねてみても、紫は霊
夢が表に出てこないことを容認していた。しかも、紫も原因すら話さない。ただ、時が来れば解決するとなどと、いつも通りに曖昧な言葉を話して人を煙に
巻くという、悪癖を遺憾なく発揮する彼女にあしらわれ、皆目が見当付かない。そこで霊夢が最近懐いていたという外来人を呼び出して話しを聞いて
いたのだが、八つ当たりの様な苛立ちも加わって、慧音の○○に対する言葉はきつくなっていた。
「他に何か無いのか?」
慧音より○○に何回も尋ねられた言葉。そして○○はいくら思い返してみても、彼にはさっき繰り返したことしか思いつかない。
「いえ、さっき言った様に、ちょっと前に霊夢からの誘いを断ったことしかないです。」
あくまでも、丁寧に言葉を返す○○。いい加減内面は焦れているが、かといって村の重鎮の前でそれを露わにするのは、狭い村社会の中では少々不味
い結果を招きかねない。
「上白沢さん、恐らくそれが原因なのでしょう。」
煮詰まった空気を壊すように、阿求が二人に割って入る。○○は固まった状況から逃げられて緊張を解くが、一方の慧音は一層難しい顔をする。
「ならば、余計に問題なのではないか。」
たったそれだけの事で、という意味を言葉に持たせた慧音に阿求が返す。
「それだけのこと、かもしれませんが、ここまで至っては最早、それが原因と考える以外にはありません。」
それに、と○○の方を見ながら阿求は言葉を続ける。
「八雲様すらそれを認めているということは、向こうも本気なのでしょう。」
「最早「何か」の際には博霊の巫女の助けを受けられないという、つもりでいなくてはいけません。」
 後ろで黙りこくっていた村人が声を漏らし、俄に大事になってきたと感じた○○が思わず口に出す。
「一体どういうことですか。ただ、誘いを断っただけで、異変がどうとか、巫女を辞めるとか。なんでそれだけでそんなに大事になっているんですか。」
「それだけ?!」
焦れた慧音が○○の言葉尻を引っ捕らえる。
「巫女が役目を放棄することが、それだけというのか!」
普段の冷静さを投げ捨てるごとき姿に、再び阿求が制止の言葉を掛ける。
「言葉を悪く捕らえすぎですよ、上白沢さん。あくまでも、逢い引きの誘いを断っただけで、引きこもるのはどうかと○○さんは仰りたいのですから。
そうですよね。」


28 : ○○ :2017/10/18(水) 23:32:41 QzQoIKFA
水を向けられた○○は口切れが悪く言葉を述べる。
「いや、まあ、逢い引きというのはちょっと言い過ぎかもしれないがだな。」
デートを問題にした○○に対して、阿求はボールを返す。
「いえいえ進んでいる外界とは違うのですから、月が綺麗とすら言わないこの幻想郷で、と言えば聡明な○○さんには理解して頂けるかと思いますが、
それは霊夢さんにとっては、ショックでしたでしょうね。」
「うむ、それはそうかもしれないが…。」
価値観の違いという、言った物勝ちの論法を出されては、外来人の○○にとってはどうしようも無い。
「まあ、結局人里としては暫く自力でどうにかすることになりそうですね。」
逢い引きに関する○○の意見を否定することで、あくまでも霊夢が引きこもることについてはいつの間にか問題から外していた阿求は、周囲が気づかな
いようにしながらも、その実しっかりと会話の主導権とこの先の方向性を奪っていた。
「それでは、この後で上白沢さんは村の方と見回りの詳細について話して頂きましょうか。きぬ、この方達を二十畳の部屋に案内してあげて。」
お付きの女性によって、慧音と村人達は別の部屋へと移っていった。

 二人だけとなった部屋で、○○は阿求と向かい合う。先程の阿求は冷静であったが、○○にとっては正直何を考えているか解らず、異常事態に慧音が
ややもすれば興奮して普段の冷静さをいることと比べると、その若さでの静謐さは不気味ですらある。再び入れられたお茶で唇を湿らせる○○に、阿求
が口を開く。
「結局、霊夢さんについてはどう思われているのですか。」
なんとも答えにくい様子で○○は答える。
「そこまで親しい訳ではなかったのだけれどなあ。まあ、気の置けない友人とでもいう感じだろうか。」
「そうですか…。では、いっその事、博麗神社に婿入りでもされてはどうですか。」
阿求が○○に爆弾を投げつける。
「いや、そういうのは勘弁願いたい。」
「どうしてですか。博霊神社の巫女はここ幻想郷全体として見ても、一二を争う優良物件でしょうに。」
「いきなり強攻策にでるのは、無茶というものだろう。」
断る○○を見て、阿求は結論を下す。
「成る程、嫌ってはいないが積極的に好いている訳ではないと…。」
ならば、と阿求は言葉を繋げる。
「その程度ならば、どうぞ末永く地下室で監禁されていて下さいな、と言いたいですねぇ。」
 阿求からキツい言葉を投げられた○○は狼狽えながら言葉を返す。
「どの程度であっても、監禁などは問題だろう。」
「ええ、問題ですよ…。但し、問題にする人が居ればの話しですがね。」
「無茶苦茶だ!そんな簡単に犯罪を堂々と行われてたまるか!」
断固として抗議する○○に、阿求は冷徹に論理を説く。
「博麗の巫女は異変の解決者でもありますが、同時に全体のバランサーでもあります。彼女が動かなくなったことで、今、人里で他の勢力がらみの動き
が起きています。そんな状況では誰もそんな事には構っていられません。まあ、人里の動きも長く続かないでしょう。」
自分がかなり悪い状況に追い込まれていることを知った○○であるが、それでも阿求に質問をする。
「長く続かないとは、動きが収まるのか。」
騒動が収束すれば、人里がまともに成ることを願って。
「まさか。このまま行けば、動きが加速して「破裂」するだけですよ。」
○○の儚い願いはかき消される。阿求も多少は悪いと思ったのか、目に見えて落ち込んだ○○に対して慰めの言葉を掛ける。
「希望が持てるとすれば、人里は貴方を突き出すようなことはしないでしょう。過激なことをしないように村が押さえにかかるでしょうから。」
「それは霊夢に目を付けられたくないからじゃないのか。」
阿求にすっかり疑いの眼差しを向けるようになった○○であるが、阿求は構わず答える。
「まあ、それが無いとは言いません。が、同時に他の勢力にも人里の表側では騒動をさせないようにする積りです。それすらも失ってしまっては、もは
や異変を越えて、唯の抗争になりかねませんから。」
結局のところ、○○は項垂れて家に帰るしかなかった。


29 : ○○ :2017/10/18(水) 23:34:20 QzQoIKFA
 次の日に○○は、人里に買い出しに出かけていた。この分だと最悪は騒動が起きそうであるので、食料を予め買いだしておき、いざとなれば表に出ず
に籠城をしようという計画である。そして人里の中心へ向かうのであるが、いやに人が歩いていない。その代わりに目に付くのは、永遠亭の薬売りや丸
字に岩の文字が入った法被を着た連中ばかりである。そしてそいつらも○○を遠巻きにして見ているだけであるので、居心地の悪さを感じながらも○○
は商店に向かっていた。
 道端で仙人が珍しく辻説法をしている横をすり抜けて商店街に辿り着くと、普段は人でごった返している道並みは一変していた。あれだけ居た人はい
なくなり、道は閑散としてしまっている。おまけに店は次々と手仕舞いをしており、○○に目を合わせないようにして軒先から家の中に引っ込んでいく。
そして家の中から○○をジッと見つめているものだから、落ち着かなくなった○○はいつの間にか駆け出していた。
 家々から注がれる視線に耐えきれなくなった○○は、うつむき加減に走る。雑踏の中であれば数歩もしない内に人とぶつかるので出来ないことである
が、生憎と今日はぶつかる人もいない。そして里一番の大店ならば開いていて欲しいと急ぐ○○は、横から割り込んできた人物に避ける間もなく衝突を
してしまった。 衝突をした○○は大きく飛ばされる。普段ならばいやに固かった相手の感触を訝しむのであろうが、そうは問屋が卸さないとばかりに
ぶつかってきた相手が絡んでくる。
「おいアンタ、一体どうしてくれるんだい?こちとら、届け物が台無しになっちまったじゃないかい。」
そう言いながら、綺麗に真っ二つに割れたガラスの容器を湿っていない懐から取り出して○○に見せつける。
「いや、そう言われてもだな。そちらが飛び込んできたのだから、此方に文句を付けるのはお門違いだろう。」
面倒になったという気持ちを露わに、相手に向かい合った○○は答える。しかし、相手はそんなことは百も承知とばかりに更に絡んでくる。
「そんなこと言って逃げようったって、そうはおろさないよ。落とし前を付けてもらおうじゃないかい。」
「だから言っているだろう、それはアンタの不注意が悪いんだ。失礼させてもらおう。」
厄介な相手に因縁を付けられたと思った○○は踵を返す。すると後ろから痛い程に肩を掴まれた。肩の肉がちぎれるような、明らかな人外の力で○○を
掴みながら、輩は声を掛ける。
「おいおい、逃げちゃあ困るよ。」
そして向かいからも、にやけ面の男が一人近づいてくる。○○の肩を掴んでいた輩に男が声を掛けた。
「おう、どうしたんだ××よ。」
「ああ、××さん、此奴が親分へのお届け物を割ってしまいまして。」
「ありゃあ、そいつはいけないなあ。ウチの親分はおっかないからなあ。ちょっと話しをしようじゃないかい。」
「だから、そちらが飛び込んで来た所為だろう。」
「いや、そうしらばっくれちゃあいけないなあ…。おい、ちょっとお前舐めてんじゃねえぞ!」
にやけ面から急に怒りの表情を露わにして怒声を発する男。二人が○○を掴んで連れて行こうとすると、鋭い声が割って入った。
「お主ら、待たんか!」
三人の視線が声に向かう。そこには烏帽子を被った、背の低い女性がいた。背の低さに似合わぬ堂々とした姿で、彼女は三人の方へ歩いていく。
「二人がかりで因縁を付けようとは、見下げたものじゃ。インチキはいい加減にせんか。」
余計な邪魔が入ったとばかりに、二人の男は目配せをする。分担が決まったのか、後から来た方の男が女性の方に近づいて行く。
「おう、嬢ちゃん。余計な口を突っ込んでんじゃねえぞ。」
「ふん、人間を取り囲んでの狼藉乱暴、見過ごす訳にはいかぬ。」
「あん?てめぇ、この一本下駄が見えねえのか?」


30 : ○○ :2017/10/18(水) 23:34:55 QzQoIKFA
威圧するように女性に絡む男。ガンを付けながら、相手の面前に顔を近づける。
「そおら!」
威勢の良い掛け声と共に男の体が宙に舞った。大の男一人を軽々と投げ飛ばして地面に叩き付けた女性が、もう一人に挑発するように言う。
「雑魚の集団なんぞ一々覚えておらんぞ馬鹿どもが。喧嘩ならばこの神霊廟の物部が受けて立とうぞ。」
おまけとして手の平をを上に向けて指を曲げる格好をとれば、頭に血が上ったもう一人の天狗もガラスの容器を振りかぶって突っ込んでいく。その顔面
に容赦なくカウンターの蹴りが入ると、もう一人の方も地面に沈み、僅かに手を痙攣させるのみになった。
「ありがとうございました。助けて頂いて。」
礼を述べる○○に、布都が返す。
「なに、どうということはないぞ。それよりもお主、何処かに行く途中ではないか?」
「ええ、霧雨商店まで買い出しに。」
「ふうむ…。」
○○の言葉を聞いて考え込む布都。結論が出たようで○○に話す。
「成程、ならば我がそこまで行こうではないか。丁度彼方の方に用事が我もあろうぞ。」
「いえいえ、そこまでには及びませんよ。」
固辞する○○に布都は意見を曲げない。
「いや、今日は先の様に物騒だからの。我も付いて行こうぞ。」
先程の事件を楯にされれば、○○としてもそうする他なかった。

 ○○が霧雨商店の所まで来ると、幸いにもその店だけが開いていた。珍しく人が居ない店の前には、霧雨魔理沙が箒を持ちながら椅子に座って退屈そ
うに店番をしていた。
「おや、○○じゃないか。買い物か?」
「ああ、ちょっと買い出しにね。」
○○を一瞥した魔理沙は布都の方に視線を向ける。
「そうか、それでそっちの仙人はなんだ?」
「うむ、そこで天狗に絡まれている○○を助けてな。この店まで一緒に来たという訳じゃ。」
さっきの二人が天狗だと気づいて驚く○○を余所にして、二人の視線は険しくなる。
「そうか、それじゃあ、お前はもう行っていいぞ。帰りはこっちで送るからな。」
「おや、恩人相手に大層な言い分じゃな。我が居なければ○○が今頃どうなっていたことだろうな。」
「おいおい、それと是とは別問題だぜ。いつまでも○○に付きまとうのは辞めるんだな。」
「それは○○が決めることじゃろう。お主が決めることでは無かろうに。なんじゃ、お主は○○の彼女か、母親か。」
「ストーカーをしている奴に言われる筋合いは無いね。」
にらみ合う二人の口調が激しくなってきた時に、奥からアリスが出てきて冷静に口を挟む。
「いっその事、二人で行けば?」
「ふむ、不本意じゃがな。」
「まあ、そういうことなら妥協してやるぜ。」


31 : ○○ :2017/10/18(水) 23:35:39 QzQoIKFA
 魔理沙の箒の後ろに乗りながら、○○は空を飛んで帰っていた。買った荷物は布都が持っている。○○としてはどちらも止めて欲しかったのであるが、
○○を巡って冷戦をしている二人の圧力に抗することができなかったためである。相変わらずチクチクとした遣り合いを続ける二人であるが、○○が二
人から目線を逸らし、空を見ていると黒い点が見えた。
 黒い点が見えた時、初めに○○は見間違えか、飛蚊症かと思った。しかしその点は大きくなり近づいてくる様である。○○が二人に声を掛けようとし
た時、急激な突風が吹きつけ○○は箒から飛ばされてしまった。
 落ちる、落ちる、風に吹かれて大空から地面に落ちていく。声に成らない叫び声が勝手に自分の体から出てくるのを感じながら、最早地面に叩きつけ
られるばかりかと思ったとき、○○は誰かが掴まれて急激に加速しているのを感じた。先程までの肝が冷えるような無重力感とは一転、一気に地面から
の重力を感じながら、○○は空を飛んでいた。それに速度も先程よりも随分と早い。顔に叩き付けられている風が一層激しくなった状態では顔を向けて
抱えている相手の顔を見ることもおろか、声を出すことも出来ない。数分か、或いは十分以上かと思えた飛行が終わり、○○は岩の上に着地した。そし
て○○が相手の顔を見ると、そこには射命丸文が天狗の団扇を持ちながら、高下駄を履いて立っていた。

 ○○が息を付き、文に疑問をぶつける前に、先手必勝とばかりに文が○○に話しかける。
「いやー、すみませんね、○○さん。ちょっと事情があったもので、邪魔の入らない此処にご案内させて頂きました。」
強引な誘拐を案内と誤魔化し、更に言葉を続ける。
「実は、今幻想郷は大変なことになっておりまして。」
「知っている。霊夢が出てこないんだろう。」
「ええ、そのこと何ですが、やはり、○○さんが霊夢さんを振ったからだと聞いたのですが、本当でしょうか?」
やはり此処でもかと思いながら、○○は文に答える。
「いや、告白を断った覚えはないんだが、霊夢はそうとらなかったようだ。」
「成程、成程、二人の悲しきすれ違いという訳ですね。これは大スクープですね。」
ゴジップを追いかける芸能記者としての精神を存分に発揮する文に対して、○○は呆れたように言う。
「おいおい、みんなしてやたらめったら騒ぎ立てるが、一体何なんだ?霊夢が異変解決をしないだけで、一体人里の何が変わるんだ?慧音先生にもえらい
剣幕で言われたんだが。」
「いやあ、○○さんは外来人ですから、実感が無いのかも知れませんが、これはとても大変なことなんですよ。何せあの博麗の巫女が使命を投げ捨てるこ
となのですからね。」
「だから、それが一体何故人里の勢力争いに繋がるんだ。霊夢が動くのは、異変が起こってからの話しじゃないのか。」
疑問を呈する○○に、文はペンをクルリと回して答える。
「いえ、博麗の巫女は重大な存在ですからね。幻想郷の管理人である八雲紫という人の名前は聞いたことがありますか?」
「いや…。記憶に無いな。」
「成程…。博麗の巫女は代々管理人の八雲紫より命じられまして、幻想郷の安定を担っているのですよ。」
「それで。」
「幻想郷の安定を任されるからこそ、異変の時には解決に動きますし、その為には圧倒的な力が要ります。何か人里で事件が起これば、彼女はそれを解決
するために動きますし、人間の巫女が人里に付いているからこそ、人里は治安を保てますし-そして、他の勢力が介入しようとしても、それを少なくとも
実力行使といった部分では撥ね除けることが出来るのですよ。」
黙って文の話しを聞く○○に、文は話しを続ける。
「逆を言いますと、博麗の巫女がいなければ、人里に残るのはもはや半獣位しか居ませんし、精々がその仲間の炭焼きの蓬莱人一人という所でしょう。そ
れだけの力では、ああ、別に大したことが無いと言っている訳では無いのですよ。でも、他の並み居る大勢力、そうですね、紅魔館に、永遠亭、命蓮寺に
神霊廟といった強力な人外の連中と渡り合うには少々、押さえが効きにくいのですよ。」
さりげなく妖怪の山を除外していた文に○○が反論する。
「だが、紅魔館も最近は大人しいと聞くし、永遠亭に至っては薬を売ってくれたり、治療までしてくれるそうじゃないか。それが人里に何かしているよう
には思えないな。」


32 : ○○ :2017/10/18(水) 23:36:41 QzQoIKFA
「いえいえ○○さん。それは違うという物ですよ。」
「何がだ?」
「確かに永遠亭は人里の助けになっています。薬を売ってくれたり、手術すらしています。でも、」
「でも?」
「まず、第一に人里の弱味を曝け出しています。それだけ恩を売っているのですから、色々と裏では遣り取りがあるのですよ。」
「裏で何があるんだ?」
「いえいえ、それは後でごゆっくりという奴で、第二にそれを止めるということが脅しとして使えるのですよ。言うことを聞かなければ、薬を売ってやら
ないぞ、ってね。」
「それはそうかもしれながいが、しかしそんなことをしても、永遠亭には利益がないじゃないか。」
「ええ、利益は出ないかもしれませんが、別に永遠亭は薬を売らずとも、自給は出来ますからね。それに、人里がそれで壊滅をしようとも、それはもはや
そこまで至った時点で永遠亭としては折り込み済みなのですよ。そうですね、外の世界には八咫烏の力を使った大層な爆弾があるじゃないですか。それを
相手に使う時には、最早誰も正常な明日がくるとは思っていないのですよ。ただ、自分が要求を通す為に相手に許容できない被害を与えて、そうして自分
だけは取り敢えず今日を生き延びるという奴ですよ。相互確証破壊と言うそうですね。まあそれと似た様な物ですね。人里は永遠亭が助けないことで、疫
病で壊滅するかもしれませんが、取り敢えず永遠亭側には被害は無いという。」
「無茶苦茶じゃないか!」
「ええ、その無茶を通そうとすると、普段でしたら博麗の巫女が介入するのですが、生憎不在となります。そしてそれを止めさせるためには、他の勢力を
抱き込む必要があるのですよ。いやはや、世知辛いですね。」
「なんという…。」
「そして、ここまで考えが行きますと、次に目聡い連中は自分達の勢力を売り込むのですよ。自分達が人里に付いていれば、他の勢力が無茶をした時には
それを実力で制止してやるぞってね。今日の町には薬売りが普段よりも目に付いたでしょう?あれは永遠亭が送り込んでいますし、岩の法被を着た連中は
二つ岩マミゾウの手下ですからね。それに…。」
「それに?」
「人里も既に一枚岩では無いのですよ。」
「どういう事だ?」
「霧雨家には一昨日の時点で紅魔館のメイドが居ました。そこまではギリギリ人間なのでまだ平時とでも言い訳は立ちそうですが、昨日から既にパチュリ
ー=ノーレッジが居ます。こいつは紅魔館の当主の友人でありますが人外の魔女なのです。そして人形遣いのアリスと共に、三魔女の同盟を組んでいるこ
とが分かっています。このアリスも魔界神の娘という情報を掴みましたので、霧雨家は既に紅魔館と魔界とすら組んでいると私達は見ているのですよ。」
「だから霧雨商店にアリスが居たのか。」
頷く○○に文が嘘と真実が入り交じった情報を吹き込んでいく。
「ええ、ですから○○さんを天狗の方で保護させて頂く為にさせて貰ったのですよ。邪魔が入るのは想定外でしたがね。まあ、神霊廟が動くのは想定内で
したが、遂に地底組も動きましたよ。」
「そもそも地底と地上は行き来を禁じられているのでは無かったのか?」
「そうですけれども、先日間欠泉が大噴火を起こしましてね。これは地底の八咫烏の力を使ったデモンストレーションですよ。自分達はいざとなればこんな
感じで皆吹き飛ばせるんだぞっていう。まあ、流石に星熊勇儀の様な大物の鬼が動いているのならば分かりますが、今の所一切姿は見えて居ないのですよ。」
「じゃあ、地上に居ないんじゃあないのか?」
「いえ、ならば態々爆発をさせる意味が無いので、恐らくですが、紅魔館に滞在していると考えられます。あそこならば人里に近い癖に友人を招いたと言い
張れる場所ですからね。隠れるにはもってこいです。そして霧雨家に肩入れをして一気に里での勢力を奪いに来るでしょう。上白沢や村の重鎮が持っていな
い戦力を見せつければいいのですからね。現に霧雨家だけが魔理沙さんがいるお陰でこんな抗争中も店を開くことが出来ているですからねぇ。勘ぐるなって
言う方が無理な話しですよ、これは。」
「そうなのか…。」
「ええ、ですから、○○さんには是非とも、我々の元に来て頂たく…」


33 : ○○ :2017/10/18(水) 23:37:15 QzQoIKFA

「そこまでよ。」
聞き慣れた声が○○の耳に入り、霊夢が二人の前に降り立つ。以前見た時とはがらりと雰囲気を変えている。愛らしさ、愛嬌、余裕、そういったものを全て
投げ捨てて、ただ○○への執着とその他の者への嫉みだけを残し、余分な物がそぎ落とされていた。正常な精神すらも。
「いい加減にしなさいよ射命丸。それ以上、一分一秒でも○○さんの側にいたら、その分アンタの羽をちぎってやるわ。」
針をちらつかせてえげつない脅しをする霊夢だが、文は堪えた様子が無い。パパラッチとも評されるそのジャーナリスト精神は未だ健在の様である。
「いやあ、記者としてはその話を飲めませんね。それに役目を放棄した巫女に指図される筋はありませんよ。」
「そう、じゃあ…。」
まぶしい光が一面に満ち、文がいた辺りの地面はえぐれていた。射命丸が死んだかと思った○○だが、後ろから声が聞こえる。
「危ないですね、この巫女は。でも、これならいかがですか?」
○○の頭に指を突きつけて、嗜虐的に文は笑う。
「ほら、ほら、どうですか?どうにか言ったらいかがですか?ざあーんねぇん!動いたらこの人死んじゃいますもんねぇ!!ほら、ほら、早く針を捨てろよ!
こいつの頭が弾けたくなかったらなあ!!」
○○を人質として霊夢に武器を捨てるように言う文。霊夢はためらわずに針を後ろに放り捨てる。
「よーし、じゃあ、さようなら霊夢さんんん゛、あぎゃ。」
霊夢は後ろに投げ捨てた針を空中で掴み、後ろ手で突き刺す仕草をする。霊夢が手を動かすと後ろの文が手の動きに合わせて悲鳴を上げる。
「あべっ!うぼっ!ああっ!」
ドサリという音がして風が止み鉄の匂いが周囲に充満する中、霊夢が○○に一歩一歩近づく。ついさっき人を一人殺したのに、それでも彼女は顔を変えずに、
○○の頬に手を伸ばす。
「ねえ、帰りましょうか。」
どこに、という質問は無粋であった。

以上になります。


34 : ○○ :2017/10/18(水) 23:46:35 jJMjqYHo
追記
>>19のネタを使用させて頂きました。


35 : ○○ :2017/10/20(金) 14:05:45 b7uSJ.JY
ノブレス・オブリージュに囚われて(133)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=123

>>34
霊夢に好かれたことによって、意図せずして○○には大きな価値が生まれてしまった
霊夢が○○をめとるではあろうけど、霊夢が巫女としての活動中に、○○の守護をすると言う地位を手に入れれば
博麗の巫女に対して口利きができるという、幻想郷の者ならば何に変えてもほしがる立場が手に入る
やはり権力者のわがままは、周辺の力関係を一気に変えてしまいますね
でも何人か霊夢の恋敵、特に射命丸は○○を好いていそう


36 : ○○ :2017/10/23(月) 15:29:44 bNYwhAf2
○○を悪く言う讒言(ざんげん)やらかしたら、被害がどれぐらいになるんだろうな


37 : ○○ :2017/10/23(月) 21:37:37 bNYwhAf2
完結させたい


月都貴人専属医療班、隊長の日記14

4月20日 全身ずるむけの怪我人が運ばれてきた
しかし運んでいる者も、怪我人も
どちらも赤い顔で。おかしな様子で笑っていた
おまけに、臭い。どこかで吐いたのだろ
つまりは酔っぱらいだ、またしても

消毒するから待っていろと言ったそばから
連中、焼酎を口に含んで傷口にぶっかけた
思わず、消毒薬を頭からぶちまけてやった
しかし、かなり酷いはずなのだが
耐えれるどころか、衛生観念から含めて教育せねばと言う思いに駆られる
やはり月は、おかしな場所だったのだろう
ここよりも、である

4月25日 犬走さんが様子を見に来たので
これ幸いとばかりに、衛生環境の重要性を解説した
特に、焼酎を口に含んで傷口にぶっかけるのだけは止めさせろと言った
犬走さんは、メチルアルコールでなければそんなに悪くないと言っていた
あんたもかよ、そう言う問題じゃない

4月26日 ○○が酔っぱらいどもに食事を振る舞いだした
確かに、料理がやりたいとは言っていたが……
腹がふくれれば、少しは酔いが覚めるでしょうと
理屈は分かる
ついでに金も取れとだけ忠告した
まだ守谷神社の預かりと言う立場だが、いずれは先立つ物が必要になる

4月30日 また鈴仙さんが来た
誰が来ても、怖じ気など見せずに会話してやろうと言う気概を持っていたが
やはり、同じ元月の民が相手だと。気持ちが分かるからどうしてもやりにくい
ましてや同じ逃亡者どうし

しかも今日は、鈴仙さん以外にも客がいた
まさかイーグルラヴィとも会えるとは思わなかった。逃げたとは知っていたが
清蘭と鈴瑚と言う名前だそうだ
やはり、呼び会うと言うか引き付け会うのかもしれない
同じ立場の者どうしで
○○が隣の小屋で料理中なのは、幸いだった
言わなければ、気にせずに済む
話がしたいなら私だけにしろと言っておいた
鈴仙さん達も、今日は挨拶だけだと言って帰ってくれた
小屋から聞こえる酒盛りのばか騒ぎが、せめて長く続いて欲しかった
あの緊張感よりはマシだ


38 : ○○ :2017/10/23(月) 21:41:50 bNYwhAf2
5月1日 鈴仙さんが来たことは、結局○○には話せなかった
○○は、今日も隣の小屋で料理を作って酔った白狼に振る舞っている
山奥で料理をしてくれる者がまずいないので
暖かいと言うだけで、客付きが良い
それに、味も良いのだから客がついて当たり前だ
私も食べたが、中々才能がある
月でもやっていたのかと、そう、不覚にも聞いてしまった
料理を待っている時は、サグメが余計なことをしないそうだ
これを聞いてしまったから、月ウサギが私に会いに来たことは話せなかった

5月5日 鈴仙さんが何日か来なかったので、不意打ちに近かった
しかし、以前に私が言った
○○ではなく私に会いに来いと言う忠告は、聞いてくれているようだ
ただ、嫌な言葉を聞かされた
貴方達を売りたくない
早苗さんにどう説明すれば良いんだ

5月6日 今日はイーグルラヴィの二人がやってきた
彼女たちも、○○ではなく私に声をかけた
ちょうど○○は買い出しに出ている
見計らったのだろう
しかし鈴仙さんよりも敵対的だ
月で自由を奪われていた事は知っているようだが
それでも、事務的と言うか。言葉に感情を乗せていないと言うか
なのでカマをかけた、我々の事は知っているだろうと
あくまでも紳士的に、二人には答えたが

清蘭は、私達より良い暮らしをしていたくせにと怒鳴り散らした
鈴瑚は止めていたが、腹の底は清蘭と変わり無さそうであった
所々で私を見る目付きが、呆れと蔑みに満ちていた
さすがの怒号に、酒盛りをしていた白狼も覗いてきた
だが私は黙って聞くだけであった
同じウサギでも、いきなり怒鳴り散らす無礼者と
つい最近に来たとは言え医者とその友人である料理人
周りの評価はどちらが高いか、論ずるまでもない
鈴瑚の方が周りの感情に気づいて、清蘭を引っ張っていた
清蘭は引っ張られながらも、私と○○を貴人と大差ないと罵っていた
すぐに帰ってくれたのは嬉しいが
だが、早苗さんには相談せねばなるまい
それも早い内に
○○が帰ってくる前に、守谷神社に、イーグルラヴィが来たことだけは伝えておいた

5月7日 早苗さんが来てくれた
気づかって、○○よりも先に私に話をいれてくれた
それから幻想郷の勢力関係も
鈴仙さんは他にも月人と一緒に暮らしていて
その拠点が、不穏らしい。他の月人が深刻そうな顔をしているとか
我々の逃亡を隠せるはずが無いのは重々承知しているが
私と○○が月から逃げ……その後どうなったか
考えなくても分かる
迷惑ならここから立ち去るとだけ言ったが
早苗さんは、守谷神社の威信に関わると言って。もう一度守谷神社で寝泊まりするように提案してくれた
本当に、ありがたい

5月8日 洩矢諏訪子と言う方と出会った
今まで出会わなかったから分からなかったが、守谷神社の二枚看板のひとつだそうだ
通りいっぺんの挨拶しか出来なかったのは、今考えれば心残りだが
またここで寝泊まりせねばならない状況に、○○も不穏さに気付いている
不安を静めてやる事に意思気が向いてしまっていた

5月15日 良くない状況だ
しばらく何も無かったから油断していた
鈴仙さんは、こっちの気持ちには理解を示していたが
彼女は上役の命令には忠実なようだ
間違いなく我々を調査?それとも、監視なのか

彼女の姿を見かけたので、会いたければ手紙なりで連絡を取ってからにしろと言って帰らせた
最低でも、○○とは接触させたくない
彼はまだ不安定だ
しかし去り際に、また。あなた達を売りたくないと。
それだけで済めばまだ良かったが、それでも、命令されたら教えなければならないと。
そう言って、立ち去った

仕方なく、早苗さんに相談した。私達のために、彼女には荷物を背負わせている格好だ
本当に申し訳ない
早苗さんと相談した結果、白狼に話を通してくれた
その日の内に、護衛が付いた
早苗さんや神奈子さんにお礼を言ったが、彼女たちはこっちにも意地とメンツがあると
そう言って気にしないように明るく言ってくれた

5月16日 ○○が日中で使うような、動きやすい服で就寝していた
貴重品も、持てるだけ持っていた
いたたまれない
しかも、寝言でサグメに許しを請い願っていた
あまりにも哀れである。思わず叩き起こしてしまった

5月19日 早朝であるが、これを記す
よりにもよって、今日は私が○○に起こされた
寝言で泣き叫んでいたのだ、この私が
夢の内容まで、残念ながら覚えている
綿月姉妹だ……綿月姉妹が、私にまとわりつく悪夢を、私は見ていた


39 : ○○ :2017/10/23(月) 21:43:35 bNYwhAf2
5月20日 寝るのが怖い
綿月に襲われる。そんな夢ばかり見る

5月24日 判読不能

5月25日 情けない、情けない、情けない!!
長いこと囚われていた○○の方が、まだシャンとしているのに
なぜ、私は。ああああ
眠れていない、だが、だが、たが
これは、これは

以降、判読不能

5月30日 ○○です
私は今、隊長さんからの後述筆記を頼まれています
ここから先の文章は、隊長さんの言葉です

綿月は何故、私なのだ
綿月ほどであるならば、私よりも、私よりも、私よりも
格が良い者がいるはずなのに
何故、私なのだ。
これより先は、泣き出したので文章に出来ませんでした


40 : ○○ :2017/10/23(月) 21:49:04 bNYwhAf2
すいません、誤字を記しておきます
×後述
○口述

管理人様へ
以降、明らかな誤字を見つけましたら。お伝えせずに、修正をなさって構いません


41 : ○○ :2017/10/23(月) 23:12:43 zUs1tJPo
>>35
過去作とのリンクで、そう来たか!と驚きました。白蓮さんはなんか、過去に倫理を投げ棄てたためか、雰囲気が変わってしまったような…
乙でした。

>>40
トラウマは深く重く…
隊長も月の追っ手が迫っていることに、気づいているためかしらん。


42 : ○○ :2017/10/26(木) 22:36:11 CjX.GQn6
 脚本が延期された日

 サークルの集まりの場所として利用している部室で、僕は彼女と向かい合っていた。歴代の部員が厄介払いとばかりに残していった雑多な物は、部屋の
隅の段ボールに入れられており厚く埃を被っている。掃除をあまりしないせいかあるいは物が多すぎるせいか、恐らくは両方が原因なのであろうが、と
もかくも古びた図書館の匂いがする部屋には、いつもは大勢のメンバーが揃っているのだが、今は丁度僕と彼女しかいなかった。
 一応は物がどけられている机の向かいに彼女は座り、僕が作ったシナリオを読んでいる。普段彼女が他のメンバーと一緒の時には、それ程彼女につい
ては印象に残っていなかったのだが、閉じた部屋の中で二人っきりでいると、急に彼女について意識をしてしまう。細い体と白い首筋、小さく閉じられ
た形の良い赤い唇、ページの上を忙しなく動く赤い目、綺麗な彼女に目を奪われてしまいそうになり、衝動を紛らわせるために彼女に気づかれない様に
口の中をこっそり噛む。暴れそうになる手を押さえるために膝の上で握り拳を作り、膝に押しつけて視線を固定する。そして息が荒くならないように意
識を内面に持って来て心を落ち着かせようとしていると、シナリオを読み終えた彼女が僕に声を掛けてきたので、不意打ちの様になった僕はつっかえな
がらも返事をした。
「結構いいんじゃない。」
「そ、そう、良かったよ。」
ともすれば辛口の評価が多くなる彼女にしては、かなり良い印象を持ったようだ。そして彼女はなおも言葉を続ける。
「ただし、一点だけ違うところがあるとすれば、最後のこの部分かな。」
彼女は僕のシナリオを差す。シナリオの最後は途中は吸血鬼に対峙していた主人公が、その存在を受け入れるという大団円で締めている。
「吸血鬼のような存在が、果たして人間の男性の愛をそのまま受け入れることで満足するかしら?そうね、私がヒロインならきっと彼を逃さないように
するんじゃないかしら。」
「どうしてそう思うのかな?」
「途中で主人公に拒絶されたヒロインなら、きっとまたいつか主人公が自分を捨てるんじゃないかと思って、心の奥に不安を抱えるでしょうから。そう
したら、ヒロインは吸血鬼なんだから、その力で主人公を自分から離さないようにしてしまうでしょうね。」
「ふうん。吸血鬼の考えなんて分からないと思うけどね。」
「あら、じゃあ今ここでやってみれば、きっと納得できると思うわ。」

 彼女はパイプ椅子を立ち、机の横をゆっくりと歩いて僕の方に歩み寄ってくる。まるで舞台のヒロインがフィナーレを演じる時そっくりに、片手を僕
に差し出しオペラの様に声を上げる。透き通る声が僕の耳に入り無意識のうちに綺麗だと思ってしまった。
「ああ、○○。貴方は本当に私を受け入れてくれるのかしら?」
シナリオの主人公がする通りに僕は返す。
「勿論だよ。」
すると彼女が僕に抱きついてくる。吸血鬼を演じる彼女は小さく細く、震えて不安で折れそうな様子に僕は役に飲まれて、つい彼女をそのまま強く抱き
留めてしまう。
「本当?」
ソプラノの声が僕の耳を通り越して脳に染み渡る。
「本当だよ。」
キザらしく顎を引き寄せてシナリオにはないキスをする。嫌ならば振り解くかと思ったが、彼女は目を閉じて僕を受け入れていた。
「ずっと君を離さないから。」
毒を食らわば皿まで、とばかりに普段は言うことがなさそうな甘い言葉を彼女に注ぐ。
吐息を漏らした彼女の目が開き、僕を一層強く抱きながら顔を僕の首筋に埋める。
-愛しているよ-とお返しとばかりに彼女に囁くと、彼女が首にキスをする。痺れる感覚と共に、顔に赤みが差した彼女の喉が小さくコクリこくりと
動いていた。
 幾らかの時間が経ち、彼女の顔が僕の首から外れる。恥ずかしくなった僕は彼女の目を見なくてもいいように、自分の胸に彼女の顔を押し当てて尋ね
る。さも全ては演じていたかのように。
「どう、吸血鬼の気持ちは分かった?」
「今回は…、貴方のシナリオを使うわ。」
小さく発せられた声には最初に入っていた自信は消え失せており、代わりに熱っぽい綾が入っていた。


43 : ○○ :2017/10/28(土) 04:18:27 eDF6xaBY
暇なので投稿してみます。微妙に鬱かも


44 : ○○ :2017/10/28(土) 04:19:02 eDF6xaBY
○○は蓬莱人である。当然最初から蓬莱人ではない。
○○は外の世界から来た人間で、元々は医学生だった。
幻想郷に来てからは、永遠亭の薬師の技に魅せられ、
弟子入りし、挙句に自ら望んで蓬莱人になった。
本人曰く、医療の向こう側が見たいから、という理由で蓬莱人になったとの事。大馬鹿である。
そんな馬鹿は、今でも永遠亭で修行に励んでいる。
それから月日は流れた。

××はつい最近幻想郷に迷い込んだ外来人である。
彼は外の世界に戻るべく、日雇いの仕事に精を出している。
その日は行商の品である薬を買うべく、永遠亭に向かった。

「やぁ、××、待っていたよ」
「道中よろしくお願いします」
迷いの竹林の入り口には○○が待っていた。
彼の仕事には助手だけでなく、竹林から永遠亭までの道案内も含まれている。
竹林の案内人には元々別の人間がいたが、現在は訳あって外に出る事が出来ないため、
代わりに○○が案内しているのである。その訳とは、
「××、そこには硫酸の溜まった落とし穴があるから気を付けて。
それと、もう少し左側を歩いたほうがいい。クレイモアが埋められているから」
「わっ分かりました」
竹林全域に無数の罠が仕掛けられているからである。
罠の種類は上は核地雷から、下は落とし穴と多岐に渡り、
今の竹林は、『地獄よりも危険な場所』と呼ばれるようになっていた。
元々の案内人、藤原妹紅は運悪く核地雷を踏み抜き、
身体の再生が終わった後は罠の除去に躍起になっている。
そのため、現在竹林を案内出来るのは○○だけしかいないという訳である。

「それにしても、なんでここはこんなにも罠が多いのですか。」
「罠を仕掛けているのは、うちの因幡なんです。我々としても迷惑しているのですが、言う事を聞かないのです」
因幡てゐ。人を幸運にする能力がある、と言われているが、実際は人間を騙し、不幸にする質の悪い妖怪である。
人を誑かすだけでなく、人を罠に嵌めるのも好きである事も××は知っていた。しかし、これはいくら何でもおかしい。
「確かに因幡は罠を仕掛けるのが好きだという事は知っています。ですが、これはいくら何でもやりすぎです。
因幡にいったい何があったのですか」
永遠亭に長く暮らしている○○なら何か知っているかもしれない。××は試しに聞いてみた。
「……誰にも話さないと約束しますか?」
○○は歩を止めると、神妙な声で聞いてきた。
急に雰囲気が変わったため、××はたじろいだが、気を取り直し、約束します、と言った。
それを聞いた○○は再び歩き出した。歩きながら、話し始めた。


45 : ○○ :2017/10/28(土) 04:19:37 eDF6xaBY
「昔々、永遠亭には私以外にも□□という人間がいました。彼は因幡と仲が悪く、いつも口喧嘩ばかりしてました」
その口振りは、遥か昔を思い出すようであり、目の前の人間が蓬莱人であるという事を思い知らされた。
「□□は弁論が上手く、何千年と生きている因幡でさえやり込めていました。因幡の方も口では勝てないからと、
そこ等中に落とし穴を仕掛け、□□に対抗していました。□□が穴に落ち、因幡が笑い、怒った□□が因幡を追い掛ける、
というのが永遠亭では一つの風物詩になっていました」
「……まるで子供の喧嘩ですね」
「そうです、子供です。特に因幡は典型的で、□□が気になっていたから、反応を楽しむために罠を仕掛けていたんです。
……まぁ、はっきり言ってしまえば、因幡は□□の事が好きだったんです。それに認めていませんでしたが、□□も因幡の事が好きだったみたいです」
××は驚いた。あの性悪妖怪が人間を好きになるとは思わなかったのだ。
しかし、その事がどうこの現状に繋がるのか全く理解出来ない。そんな疑問を他所に、○○は話を続けていた。
「ある日、我々は妖怪の山にピクニックに行く事になりました。
ですが、当日になり因幡は風邪を引いてしまいました。
我々としても因幡を置いていく訳にもいかないので、ピクニックは次回にしようという事になりました。
ですが、それを□□が遮りました。因幡は僕が診ていますから、皆さんはピクニックに行ってきてください、と。
少し迷いましたが、我々は□□の言葉に甘えて、ピクニックに行く事にしました。……それがいけなかった」
そこまで言って、○○の様子が変わった。声が少し震えている。
「我々がいない間に、永遠亭に妖怪が攻め込んできました。
力はそれ程強くはなかったとの事でしたが、不調の因幡とただの人間である□□では敵う相手ではありませんでした。
そんな時、□□は永遠亭を守るために妖怪を引き付け、以前因幡が仕掛けていた落とし穴に、妖怪諸共その身を……」
苦しい告白だった。誰にも言わないで欲しいというのはこういう事か。だんだんと重くなっていく空気に××は耐えられなくなってきた。
「それからです。因幡がそこら中に罠を仕掛け始めたのは。
きっと、今度妖怪が攻めてきても、大丈夫なように……大切な人が死なないように仕掛けているのだと、私は思うのです」
気付くと、××の目から涙が溢れていた。まさか因幡にこのような悲哀があったとは。
すでに永遠亭の門が見える。××は慌てて涙を拭った。こんな顔を永遠亭のお歴々に見せる訳にはいかない。
「……という話だったら、中々感動的ではありませんか?」
「……えっ……?」
××は耳を疑った。
「先程の話はすべて私の作り話ですよ。因幡にそのような過去がある訳ないではないですか。
罠を作っているのも、単純に暇つぶしなだけです。騙されましたね」
「なんでそんな嘘を……」
「××がどういう反応をするのか興味があっただけです。意外と情熱家なのですね」
クククッ、と○○は笑った。カァっと頭に血が上った。
やはり、元人間といえど蓬莱人。普通の神経ではなかったのだ。
もう二度とこのような会話はするものか。そう誓った××は永遠亭の門を潜っていった。
「帰りには声を掛けてくださいね」
後ろから聞こえる○○の声は無視した。


46 : ○○ :2017/10/28(土) 04:20:19 eDF6xaBY
「……まぁ、作り話という事が嘘なんですがね」
××がいなくなってから、○○は呟いた。
○○は因幡に何があったのかを詳しく知っている。
昔に永遠亭に□□という人間がおり、因幡とは口喧嘩をしながらも仲が良かったというのは本当である。
しかし、そこからが違っていた。


その日も因幡は落とし穴を掘り、□□が来るのを待っていた。
そして予定通り、□□は穴に落ちた。いつもならすぐに穴から□□が出てきて、因幡を追い掛ける、という展開だった。
しかし、それは起きなかった。
いつまで経っても□□が出てこないので穴を覗いてみると、□□は身動きせずに倒れていた。
「□□、どうしたんだよ」
穴に入った因幡は□□の肩に触れた。□□は返事をしない。
「分かった。死んだふりをしてるんでしょ。馬鹿だなぁ。私がそんな芝居に引っかかる訳ないじゃん」
そう言って、因幡は□□を抱き起した。□□の首はあり得ない方向に曲がっていた。
「えっ……、なに……これ……」
因幡は状況が理解出来ていないようだった。
我に返ると、永琳が□□の脈を採っていた。永琳は首を横に振った。□□は死んだのだ。
その瞬間、聞いたことのない絶叫を、因幡は放った。

その日の内に□□は棺に納められた。
永遠亭の面々が□□に別れを告げて部屋から出ていく中、因幡はいつまでも棺のそばを離れなかった。
「なんで……、そんなに深くは掘ってなかったに、どうして死んじゃったの」
因幡はずっと同じ事を呟いていた。その瞳には生気はなく、まるで人形のようだった。
それからしばらくして、因幡は不意に立ち上がると、どこかに行ってしまった。
戻ってきた因幡の手には肉切り包丁が握られていた。
「□□……、私、死ぬから。死んでそっちに行くから。だから、待っててね」
そう言うなり、躊躇いもなく包丁を突き刺した。
しかし、不思議な事に、何度も包丁で突き刺しているというのに、因幡は一向に死ななかった。
人間というのは本能的に死を避ける生物であり、例え本気で自殺しようとしてもどこかで躊躇ってしまう。
それは妖怪も同じようで、本人は本気で死のうとしているが、本能がそれを拒否しているようだった。
妖怪のため、致命傷以外なら例え重傷であってもすぐに塞がってしまう。
いつまで経っても死ねない事に、因幡はさらに絶望した。
自分のせいで□□を殺し、さらにその責任を取ろうにも取れない。
そんな状況が因幡を追い詰め、ついに壊れてしまった。
因幡が毎日のように罠を仕掛けているのは、□□が罠に掛かり、自分を追い掛けて欲しいためである。
つまり、因幡は□□が死んだ事を忘れたのだ。


「□□ぅ……、早く出てきてよ。あんたが罠に掛からないと、暇すぎて死んじゃうよ」
以前聞いた、因幡の譫言である。
それを思い出し、○○はまたクククッと笑った。
一部始終を見ていた身として、これほど面白い事はない。因幡はこの後どこまで狂うのか。それを思うだけで心が躍る。
「こんな面白い事を、他の奴に告げるのは勿体ない」
○○は笑いを抑えた。もうじき××が戻ってくる。
今度は竹林の外まで案内しなければならないのだ。
「さぁて、もう一仕事。さっさと終わらせて、因幡の様子を見に行くとするか」
○○の表情はどこまでも朗らかだった。


47 : ○○ :2017/10/28(土) 04:21:21 eDF6xaBY
以上です。これってヤンデレかな


48 : ○○ :2017/10/30(月) 18:18:47 KM34ZwYI
>>42
レミリア様、だと思う
レミリア様は、外界で遊んでいたのかもしれないけど
そこで吸血鬼の心情を考える○○に出会ったら
そりゃ気になる
中世では、お嬢様は常に隠れて逃げていたから
怖がらない○○は気になってあたりまえかも

>>46
すねに傷のある人物は、病みやすくなる
この場合、妹紅を含めた第三者がてゐを落とし穴にはめてやる
それが一番の救いなのかもと考えてしまった


49 : ○○ :2017/11/01(水) 14:07:30 JxKXGvSs
ノブレス・オブリージュに囚われて(134)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=124

感想をくださる方々、読んでくださる方々
いつもありがとうございます

ハロウィンで何かできるかなと考えたけど、幻想郷は年中ハロウィンみたいなものだった


50 : ○○ :2017/11/01(水) 23:32:14 lVJABkbY
もっとコミカルなのが読たーい


51 : ○○ :2017/11/02(木) 00:15:22 yfEA4NnU
コミカルな作品は幻想郷入りしたから…


52 : ○○ :2017/11/02(木) 20:45:44 X678gpvg
自分で書けば問題なかろう


53 : ○○ :2017/11/02(木) 22:41:27 PjCEqNZw
>>47
てゐはヤンデレで、傍観者は広義の男のヤンデレで、ヤンデレからみなのは間違いないと思ったり。

>>49
いつも乙です。ハロウィンならばトリックオアトリートだけれど、幻想郷ならば○○を寄越せ、さもなければ…となる気がしました。


54 : ○○ :2017/11/04(土) 22:48:50 WQ/1ISkQ
 気が付く妻

 僕の妻はよく気が付く。
「あなた、はいどうぞ。今日はあなたが好きな肉じゃがですよ。」
「ありがとう。」
「はい、温かいお茶ですよ。外は寒かったですからね。」
「ああ。」

 僕の妻は僕の事をよく知っている。
「この時間はこのチャンネルのニュースですね。」
「うん。」
「どうぞ、味噌汁の七味は控え目にしてありますからね。」
「よく分かったね。」

 僕の妻は僕の事なら何でも知っている。
「あら、お電話が鳴っていますよ。出なくて宜しいのですか。」
「いや、多分仕事の電話だから良いよ。」
「そうですか。今年異動された××さんって、お綺麗で皆様から御人気らしいですね。」
「・・・。」
「でも、ご用心なさって下さいね。色々と良く無い噂も聞きますので。」
「どんな。」
「ええ、どうやらよく違う男性と歩いている姿を見られた人がいるそうで。あなたなら大丈夫でしょうけれども。」

 僕の妻は時々鈍くなる。
「なあ、何か知らないか。」
「あら、何のことでしょうか。」
「・・・。」
「・・・。」
「何かしたのか。」
「いいえ、私は何もしておりませんよ。でもそうですね、ひょっとすれば、何かあったのかもしれませんね・・・。」
「・・・。」
「愛していますよ。あなた。」


55 : ○○ :2017/11/05(日) 14:31:13 Jn900JVs
○○「Tonight Tonight⤴ Tonight Tonight 今夜こそ オマエを〜落としてみせる!」
遊女「あいそづかしの言葉がダメなあんたに似合いサね」

※※※
※※

○○「チキショーー、あとちょっとだったのにーーーー」
蛮奇「遊女が客相手に本気になるわけないでしょ」

 ここは居酒屋、人妖ともに語らいが出来る奇妙な空間であるが同時に種族を超えた
温かみのある雰囲気になっていた。外の世界で培った技術を使い、そこそこ評判が
上がってきた大道芸人の○○は、まだ若いにも関わらず金遣いの荒い恋愛をしていた。

○○「今回は結構上手くいってたんだぞ!今までと違って感触や反応も良かったし、
   雰囲気も悪くなかった。多くの客を相手にしてきたこそわかる、今度は行ける!
   そう思っていたのに〜〜」
蛮奇「相手もプロで、彼女はなかなかのやり手と評判の子よ。彼女が恋をしていたの
   は所詮あなたの財布だったのよ。仕事が増えても荒く貢いだから懐は寒くなって
   きたのでしょ。今度はもう少し普通の子を口説くことね」

 彼女とは初期に名を売るために営業していた時に知り合った妖怪の一人であり、独自の
ネットワークを持っていたこともあって、情報交換を兼ねた付き合いをよく行っていた。
失恋も相まっていつもより早いペースで彼女に酒を注がせながら飲む○○は荒れており、
人が落ち込んでいる話に関わらず、わずかに口元が上がっている彼女にに○○が気づく様子は無い。

○○「だかなぁ、確かに仕事は多くなってるけどよぉ、仕事の性質上浮き沈みは激しいし
   町の結束が強い分身持ちが硬てぇ子も多い。そうなるとまともに相手をしてくれる
   のは同業のあの子たちぐらいしか居ねぇわけよ」
蛮奇「それはあなたが仕事と割り切っているからよ、よく見れば脈の有ることはちらほらいるわよ。」
○○「そうは言うけど寺子屋とかにも呼ばれる分イメージは大切なんだよ。次はマジックを
   絡めた演出にも挑戦しようかなぁ…」(-д-)zZZ…
蛮奇「まぁ、脈があるのはほとんど妖怪なんだけど…芸人のくせにまじめすぎるのよねぇ…」

 時刻はもう丑三つ時、居酒屋の客もまばらになってきた頃、席の一角で二人の男女が
飲んでいた。知り合いではあるものの妖怪に隙を見せる危険性を理解していない○○は
どれだけ揺すっても起きる気配はない。迷いのない動作で介抱する彼女の瞳は酷く真っすぐな
物であり、その雰囲気に関わろうとするものは一人もいなかった。

蛮奇「けだるい愛を背負って生き続けられるほど私は強い女じゃないのよ…」スッ
   「今夜こそあなたを落としてみせるわ!」


56 : ○○ :2017/11/06(月) 23:30:16 fLOmBVw.
>>54
早苗さんかな
紅白巫女だとここまで気遣うことはなさそうだし…
おっとこれ以上は(ry


57 : ○○ :2017/11/10(金) 04:54:16 4SENw.GQ
幻想郷の女性達と言うより、その回りが過度に気を回した場合
阿求は、名家と言う物を分かっているから。やんわりと、主導権を自分の方に取り戻すだろうけど

魔理沙は、家柄を嫌って飛び出したから。激怒しそうだし
慧音も、彼女自身は優しすぎる気がするから。そう言う、蠢いたものを止めれなさそう
結果的に、阿求よりこの二人の方が病みそう


58 : ○○ :2017/11/10(金) 14:57:21 f7hJXaVk
ノブレス・オブリージュに囚われて(135)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=125

>>57
良い人ほど病んだ時の落差と言うか暴走が恐ろしそう

幻想郷だと防寒具を贈るのって、結構な愛情表現になりそう


59 : ○○ :2017/11/10(金) 17:00:10 uJraGDXc
出先からスマートフォンからですのでID変わってます
ノブレス、我慢できない張りつけミスを見つけたので、修正しました


60 : ○○ :2017/11/10(金) 17:28:59 /zO14gFg
>>57
我慢出来ずに取り敢えず魔法を放つか、そのまま呑まれるかの二択なら、爆発したほうが、まだ予後はましそうな…
あくまでも「まし」だけど

>>58
いつも乙です。千日手になれば、息子群発放置してしまえばいいのだけれど、それが出来ないのはちと辛い。
周りで見ている人もそうだから、むしろ余計に自分の事以上にそう思うから、そのうち強硬手段に出る人もいるような気がしました。

急に寒くなると、暖かい防寒具を引っ張り出し、幻想郷ではこれを買うのに大変なんだろうな、とふと思ったり。


61 : ○○ :2017/11/10(金) 17:30:03 /zO14gFg
>>60
誤、息子群
正、息子君


62 : ○○ :2017/11/11(土) 02:55:21 rXU7B5Dk
新たな関係

紫「○○さん今日はありがとね、よかったら家に寄って行ってくださいな」
霊夢「ちょっと○○は家の人よ、ちょっかい出さないでくれる」
紫「いやですわ私の為に働いてくれた彼にお礼をしてさしあげるだけですのに」
霊夢「今から行ったら酔っ払って夜はそっちに泊まる事に成るじゃないの、
夫が夜に他所の女の家に居るなんて体裁が悪いのよ、そもそもお礼ならお金で渡しなさいよ」
紫「そうねーじゃあどうしようかしら、○○さん決めてもらいましょうか」
○○「え、……あー…俺としては行きたいけど霊夢の言うこともわかるからどうしたもんかな」
紫「あら、そんなこと心配には及びませんわ、私たちしか知らないのですから、それでは行きましょうか」
紫さんはそう言うと隙間を広げ俺を一瞬で飲み込んだ、その時一瞬霊夢と目があったが少しイラついていたのか睨まれた様な気がした、帰ったらご機嫌をとってあげなきゃな。
そんな考えをした一瞬で迷い家に到着いていたようだった、
紫「さあさあ上がってくださいな」
○○「お邪魔します」
紫さんには良くしてもらっているがたまにこうやって強引に誘われるので困った妖怪さんではある、
その度に霊夢には小言を言われるが俺を想っているからこそと思えばこんな関係も割りと気に入っている。
そうして居間に行くと紫さんの式である藍さんがいた、あまり話したことは無いが酒の席等では料理を振る舞ってくれる。
藍「お帰りなさいませ紫様、○○様」
○○「お邪魔してます」
紫「ええ、もう晩の準備は出来ているかしら」
藍「はい、お持ちしますか?」
紫「○○さん、どうしましょうか?」
○○「いただきましょう」
藍「承知しました、少々お待ちください」
そう言って藍さんは台所に向かって行った、そして紫さんに薦めらたれ座布団に腰を降ろした、
続いて紫さんも俺の隣に腰を降ろしたのだが少し距離が近いと感じたので移動しよとしたが何故か座布団が動かなかった、席を移動する程の事では無いのでそのままでいることにした。
その事に気がついたのか紫さんが少し微笑んだ様な表情でこちらを見ていた、そこで目が合い少し気恥ずかしい気分に為った。
紫「うふふ、○○さんったら、今日の労いの為にお呼びしたのですから、私がお酌をして差し上げましてよ、疲れを忘れてお楽しみくださいな」
○○「ありがとうございます」
紫「それで○○さん霊夢とはどうです、あの娘家事は出来ているかしら、一通り教えたのですが、あまり積極的では無いので心配していたのですが?」
○○「料理と洗濯を任せていますよ、掃除と皿洗いは僕がしていますね、彼女がいてくれて助かっていますよ俺は両方とも得意では無いので、それにいろいろ気を遣ってくれていい妻ですよ」
紫「あらよかった、しっかり教えたかいが有りましたわ、でも霊夢が忙しいときは大変ね」
○○「まあそうゆう時は仕方ないですよ苦手でも出来ない訳じゃ有りませんから」
紫「こんな良い人と一緒に成れて霊夢が羨ましいですわ、私の所にも良い人が来てくれるかしら?」
○○「あはは、紫さんに好かれたらそれはもう幸せでしょうね。」
紫「嬉しいわ、でもそんな事を言われたら恥ずかしいですわ、」
そんな話をしていると藍さんが戻ってきた、
藍「お待たせしました、お食事をお持ちしました。」
そう言って藍さんは机の上にご飯やお酒を並べていたが2人分しか無かった、
ここに来て実は紫さんと藍さんの分で俺のじゃありませーんなんて事は無いだろうが一応聞いてみた。
○○「2人分ですか 、藍さんは?」
藍「私は仕事が有りますので後程戴きます。お気遣いありがとうございます。」
○○「そうですか、では戴きます。」
藍「ええ、それでは失礼します」
藍さんはそう言うと部屋を出ていってしまった、
それからは紫さんにお酌をしてもらい時折言葉を交わしながら和やかな時間が過ごした。


63 : ○○ :2017/11/11(土) 02:57:14 rXU7B5Dk
続き

食事も終わり軒先で上り始めた月を二人で見ていると眠気に襲われて少し眠ってしまったみたいだ、、
このままでは本当に眠ってしまいそうだ、気が付けば俺の肩に頭を預ける形で紫さんも寝てしまった様だった、
さすがにこんな体勢に成る程近くには居なかったと思うのだが、
等と考えていると状況の不味さに気がついた、
こんな所を藍さんにでも見つかればあまりよろしくない心象を持たれてしまう、
皆と不和が無いように行動している俺としては避けたいことだった。
誰でも自分の知り合いが不倫してました、
なんて知ったら相手に良い印象を持たないだろう。
紫さんに言って今日はもう送ってもらおう、 どういうふうに起こせばいいか迷うが取り合えず声を掛けてみよう、そう思い彼女の方を向いた。
○○「紫さんもう遅いし帰ろうと思うのですが」
そう声を掛けても彼女はスースーと穏やかな寝息を立てたまま絡ませた腕に更に力を込めるだけだった、
考えてみれば彼女も酔いが回り俺を送るどころの話では無いのかも知れない、
それでもどうにか状況を変えようと紫さんの頬に手を伸ばした、
と言うのも掴まれている腕が何故かびくともしないので空いた腕を使うしか無いのだ、
太ももや胸やお腹に触れる訳にも逝かず顔に触れる事にしたのだが優しく叩いても起きないのでそのままどうするか考えていると、
ふと視線を感じそちらを見ると紫さんの瞳がこちらを見つめていた、
その瞳を見ると何故かもっと近くに居なければ逝けない様な気がした、
頭にもやがかかった様だったがそれが何か理解は出来なかった、
一瞬の躊躇の後そっと顔を紫さんに近付けた、
彼女もそれを拒まなかった。


64 : ○○ :2017/11/11(土) 07:47:52 .ZnMuXJw
>>63
なんという計画的犯行!
紫が霊夢の親というか、保護者のような立場にも関わらずのコレは、霊夢が知ったら噴火しそうな。


65 : ○○ :2017/11/12(日) 23:02:59 PUhX.H6Q
 古明地さとりのカウンセリング17

 いやあ、ようこそ、地霊殿へ。最近は急に寒くなってきましたね。これ程に寒いのでしたら、外来人の方には少々厳しいのではないかと思いますが
いかがですか?そうですか、あまり苦にされていないようなのは良かったですが、実は貴方が寒さに強くなっている訳では無いのですよ。拝見したとこ
ろ、その服に色々仕掛けがあるようですね。どうですか、ちょっとここでお話でもしていきませんか。

 なるほど、最近ある女性と喧嘩をしてしまって、しばらく距離を置いているということですか。しかしそれでも彼女のことが、時折頭に張り付いてし
まっているという事ですね。ふむ、友人にも話したが、誰も相手にはしてくれないと。そうですね、確かに他の人からすれば、たかだかそれだけのこと
でと思われてしまうかもしれませんが、しかしそれでも本人からすればそれはそれは大変なものですからね。ええ、どうしてそれが分かるかですか。
 私はさとりですが、今回は別に貴方の心を読んでいる訳では無いのですよ。まあ、さとりの第三の眼を使っているのは同じなのですがね。

 実は貴方の問題は心ではなくて、脳の方にあるのですよ。ええ、外来人の方からすれば確かに脳の中の神経が化学反応を起こして、それで心と精神が
作られていると考えるのは自然なのですがね。実は私に今見えているのは、貴方の脳に植え付けられた種なのですよ。大丈夫ですよ、慌てないで下さい
な。ええ、別に、貴方がいつか飲み込んだ西瓜の種が、貴方のお腹から芽を出す訳ではないのと同じ様に、その種も貴方の頭蓋骨を物理的に突き破る訳
では無いのですよ。
 しかし、いくら物理的に影響を与えないからといって、精神的に影響を与えないかというのはまた別の問題なのですね。貴方の脳に植え付けられた妖
怪の力で作られた種は、精神的にしっかりと影響を与えていますね。どうですか、最近彼女から離れることを考えると、罪悪感が湧いてきませんか?
彼女の元に一刻も早く戻らないといけないような焦燥感が湧いてきませんか?この幻想郷から逃げ出すことが何かとても恐ろしいことのように感じて
きませんか?ええ、そうなのですよ。貴方のそういった思いは、全て貴方が距離を置こうとしているその女性から植え付けられたものなのですよ。


66 : ○○ :2017/11/12(日) 23:04:42 PUhX.H6Q
 貴方がその女性が望まない物を考えるたびに、貴方に植え付けられた種が、貴方に罪悪感や恐怖を植え付けているのですね。いやはや、なかなかに
巧妙な手口ですね。これは普通の医者に行けば見過ごされますし、永遠亭でもかなり乱暴な外科手術でないとどうにも出来ませんね。しかしまあ幸運に
ここのカウンセリングルームに来られましたので、折角なので、貴方の脳にある種を取り除いてしまいましょうか。安心して下さい。永遠亭のように
頭を切り開いてしまう訳ではありませよ。一、二の三、はい、これで貴方にあった種は取り除かれましたよ。いやあ、さとり妖怪に精神で勝負を挑むの
は少々どころか、無茶だというものですねぇ。それでは貴方はこれで健康体なのですが、しかし少々問題が有りましてね。

 実は貴方が今着ておられる服なのですが、その服を着ていると不思議と寒くないでしょう?ええ、その女性が丹精込めて作った、特製の植物から作っ
た繊維が使われているのですよ。そしてその服を貴方が着ている限り、貴方の居場所がその女性には直ぐに分かるという事なんですよ。ですから、貴方
が地上に出られたら、直ぐに女性から貰った物を全て捨ててしまうことをお勧めしますね。そして家にある全財産を掴んで、大急ぎで博麗神社に駆け込
む方が良いですね。何せ貴方に植え付けられていた種が取り除かれたのは、その女性に直ぐに分かってしまいますからねぇ。
 そうですね、確かに博麗神社に行っても直ぐに外に出られるかは分かりませんし、その女性が外界まで追ってくるかどうかは分かりませんね。でも、
一つ分かっていることがあるとすれば、その女性は大層に花と植物を愛しているそうですね。自分の花壇を荒らした妖精に酷い折檻をしたとも聞きます。
さて、そんな彼女が折角丹精に育てようとした「モノ」を枯らされたと知ったら、一体どうするでしょうね。きっと全財産を失うことよりも非道い事に
なりそうな、そんな気がしますねぇ。

以上になります。上で挙がっていたネタを使用しました。


67 : ○○ :2017/11/13(月) 14:17:23 ee.IJLFw
ノブレス・オブリージュに囚われて(136)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=126
自分で書いててなんですが、聖様が怖い


>>62
なんか、紫様、手慣れていますね
その割に○○が初心
これは、霊夢による記憶操作が繰り返されているかも

>>65
現代生活に慣れた我々では普通でも、幻想郷住人から見れば『そこまでやってくれている』
こういう例って、案外多そう
だから周りの人間も、風見幽香から防寒具を与えられた○○に触れない、関わらない、近づかないんでしょうね


68 : ○○ :2017/11/16(木) 01:52:39 mFki.lHs
布都「ちなみに、秋姉妹の縄張り近くで狩りをしとるときは。一匹につきいくらか払ってくれるのう」
神子「あー……農家の方々は食害に凄い神経質だからね」
布都「正直、割りと助かっておる。これからの時期、狩りをするには防寒着が必要ゆえ」


69 : ○○ :2017/11/16(木) 01:57:46 mFki.lHs
ごめん、めちゃめちゃ間違えた


70 : ○○ :2017/11/18(土) 18:10:22 uVeUwiZE
幼いときから、彼女と仲がよかったけど
ある時を境に『さん付け』されたら
そう言う、一線を引かれたら。ほぼ間違いなく病みそう


71 : ○○ :2017/11/20(月) 18:52:26 016kcd2M
「いつもありがとう『ございます』鈴仙『さん』」
「え……?」
鈴仙『さん』それだけでも、彼女には耐えがたかったのだが。
そこより前の『ございます』。この二つの畏まった表現に、鈴仙は嫌な汗をかいた

「どうしたのよ」
「いや……」
彼はそういって、言葉を濁したきり。何も言わなかったし、あまつさえ距離さえ置こうとしてきた。

--あとが辛いぞ--
いつだったか、慧音先生に言われた言葉を思い出した。
ようやく理解できたが、出来れば理解したくなかった。

彼はまだ、濁ったような態度を見せている。
その日は結局、鈴仙の方が耐えきれずに帰ってしまった。

「なんで、昨日までは普通だったのに。なんで、あんなに、距離を感じるの」
「大人になってしまったんだよ」
てゐが慰めるように言うが、鈴仙はそれを拒絶している様子だ。
「そうしなきゃ、色々と生き辛いんだよ。妖怪と違って、人間は。子供のときならまだしも」
「だったら子供のままで構わないわ」
そういって鈴仙は自室に入ってしまった。
気になったてゐが、翌朝に様子を見たが。鈴仙の姿は無かった。
だがその夕方ごろ、純狐と連れだって鈴仙は帰ってきた。
「大丈夫よ、あの子も純狐さんのことは知っているから」
どこが大丈夫なんだよ。
そのてゐの疑問に答えが与えられる前に。
純狐が妊娠したと言う、中々信じられない話をてゐは聞かされた。
……今度、天狗にでも事情を聞いてみるか。


72 : ○○ :2017/11/20(月) 21:24:42 efHIkG9M
>>31
純狐の種搾りプレスを喰らってしまったか


73 : ○○ :2017/11/21(火) 00:24:06 NAaoogxY
>>71の続きと言うか、関連する話のようなもの

妖怪と言うのは本当に厄介な連中だ
腕っぷしなら、力士を十人連れてきてもまだ妖怪の方が上なのに
精神に関してはお坊っちゃんやお嬢ちゃんよりも、壊れやすくて脆いんだ
脆い精神に、力士ですら敵わない腕っぷし。これが前後不覚になったら、果たしてどうなる?
里に薬を売りに来ている永遠亭のウサギの方が、彼女はまだ変装しているだけ、自衛をしているだけマシだ
最も、皆気づいているけどな。あんな、えげつない美人。
人間じゃないと、この幻想郷ではそう考えて当然だ。


あぁ、思い出すよ。俺が八雲家に、紫に婿入りする直前。お前も似たようなこと言っていたな。
それから運命だとも。
謝るな、許すつもりがないのだから。謝られても迷惑だ。
……これでも、あの子には優しくしたんだ。痛かったり、怖かったり、怯えないようにしたんだ。
彼女が、純狐までをも巻き込んだのは。そして、純狐にあの子を生みなおさせたのは。予想していなかったが……トラウマは抱かなかったはずだ
それに、私はお前達人里に対して、優しくしてやっているんだぞ。
妖怪でも人間を、または人間でも妖怪に恋して連中は。お前達が思うよりも多いんだ。
これが全部爆発したらどうなる?
人里ごとき、吹っ飛ぶさ。稗田などの一部を除いてな。
だから、始めたんだよ。
出張恋愛相談って奴を。名誉ある第一号のお客様は、永遠亭だったんだ。
最も、やや貴様を陥れてやろうとは考えたが。
そこそこの善意は、あの子には与えたぞ。



また次回、紫の夫である彼目線で投稿してみます


74 : ○○ :2017/11/21(火) 03:45:40 KFhTJ3ak
>>67
聖がえげつないような、底が割れたような、正体不明の人物の正体が暴かれたような。さとりんで精神分析をしたら楽しそうな・・・。

>>71
純子が産み直しとは予想外でした。

次より投下


75 : ○○ :2017/11/21(火) 03:46:18 KFhTJ3ak
 不死鳥が死んだ日

 長年仕舞いこんでいた葛籠の蓋を開ける。随分長い間結婚してからこの方、開いたことがなかった籠は埃の匂いを部屋に漂わせたが、中身は以前と
同じ状態でそこにあった。包んでいる油紙を丁寧に取り去ると、黒く色を付けられた鉄の塊が姿を現した。もう二度と次にこれを使うことはないのだ
から、包み紙なんぞはその辺にうち捨ててしまっても問題はないのであるが、それをわざわざ丁寧に仕舞いこむのは、乱雑さを嫌う妻に躾けられたせ
いなのかも知れない。すっかりこの生活が自分を変えてしまったことに小さく苦笑をし、そっと音がしないように蓋を閉めた。隣の部屋で寝ている妻
を起こさぬように、静かに。
「あなた、何してるの?」
別の部屋で寝ていた筈の妻が声を掛けてくる。いくら音を立てぬように丑三つ時を越えて、寅の刻にこっそりと身支度を行っていても、やはり音は立
つようである。いや、しかし、妻は昔から妙に勘の鋭い時があった。特に自分に関する時には取り分け冴えていたから、今回もその分なのであろうと
思い、障子を開けて顔を出す妻に返事をする。美しく長い黒髪が月明かりが照らされて畳の上に流れていた。
「明日の仕事の準備だよ。」
嘘、である。正確には今朝のことであるという些末なことではなく、もっと重要で重大な。
「嘘おっしゃいな。いつもはこんな早くからそんなことしてないでしょう。」
ほうら、バレた。どこか人ごとのような、別の赤の他人が思うようなそんな感想を自分に感じつつ、箱の中身の状態を確かめる。ひい、ふう、みい、
弾は十分にあるようである。もっとも、放置していた拳銃がどこまで当てに出来るかは未知数であるが。
「一体何をしているの。」
のそり、と寝間着の体を起こしてこっちに妻は来ようとする。自然と声が出た。
「来るな!」
結婚以来、いや付き合ってから一度も声を荒げたことがない私が、初めて怒鳴った姿を見て妻は動揺していた。妻の綺麗な顔が歪むのを見て罪悪感が
湧くが、そのままの勢いで押し切る。
「明日までに戻らなければ、友人の先生とやらに頼んで××を探してくれ。」
「何?あの子は今永遠亭にいるんじゃなかったの。」
「駆け落ちしたと聞いた。」
「誰と?」
「雪女から聞かされたから、確かめてくる。」
最低限言うことだけを言って未だ状況を掴み切れない妻を置いて、横に置いてあった携行缶を持ち家を出る。香霖堂から流れた品が霧雨商店で売って
いるのを、昨日偶々立ち寄った時に見つけることが出来たのは僥倖であった。


76 : ○○ :2017/11/21(火) 03:47:02 KFhTJ3ak
 山に登り始めた時に日が昇り出し、山の洞窟近くまで来た頃には辺りが明るくなっていた。白い息が辺りに漂うのを横目に、周囲をグルリと眺める。
洞窟の前に積もっている雪が此方を見ているかのようにサラリと消えたのを見ると、恐らくあの洞窟が当たりなのであろうと足を向ける。鬼が出るか、
蛇が出るか。例え行く先に地獄の閻魔様が控えていると知っている時でも退けないときはある。それが人の親ならば特に。
 洞窟の中は暗いが意外に暖かかった。ライトで周囲を照らしながら奥に進んで行く。辺りを観察しながら、足早になりそうな心を抑えあえてゆっく
りと歩く。ここに息子がいると思えば今すぐにでも駆け出したいのだが、それをじっと堪えていく。我慢して、じっと堪えていけば活路が見えると自
分に言い聞かせながら。
 距離感が無くなるような暗闇を進んでいくと、突然灯りが目の前で付いた。ゆらゆらと揺れる蝋燭のような光が壁から部屋を照らす。テーブルの横
で先日見た女が立っているのを見て、改めてあの女が雪女であったことに納得する。そして挨拶もそこそこに、息子のことを目の前の雪女に尋ねる。
「俺の息子があんたと駆け落ちしたと聞いたが。」
ゆったりとした笑みを、ユラユラと浮かべながら女は答える。
「ええ、そうですよ。」
堂々と答える女。駆け落ちした後の生活に対する悲壮感もなく、ついに好きな人と一緒になれるという高揚感もなく、ただ平然としている女。これが
演技ならば大変な女優であるし、本気で何も感じていないのならば、それは狂気ですらある。ただ、自分の愛する人が隣にいるというだけで、他の全
ての価値が無くなる。狂信者にも似たそれは正常な人間の姿では無いし、恐らくは妖怪であっても同様であろう。
「俺の息子はどこにいるのか。一目見せてくれないか。」
自分の鼓動が暴れるのを感じながら、雪女に問いかける。会わせてくれ、ではなく見せてくれ、と言ってしまったことに、言った後で気が付き内心で
ほぞを噛む。これではまるで、自分の息子が会話すら出来ないようなものだと、無意識に思い込んでしまっているようですらある。本題に入る前の会
話で負けてしまっていては、交渉で勝てることは覚束ない。
「此方です。」
女が灯りを点ける。そんな近くにいたことに気が付かなかったという思いを抱くが、女が差した先を見ると今までの全てが吹っ飛んだ。
「おい!どういうことだ!どうなっているんだ!」
息子の姿を見て声を荒げてしまう。氷、凍り、全てが凍り付いたその姿は彫刻のような姿であった。血が全身を逆流し、思わず目の前の女に掴み掛か
る勢いで食いかかるが、女は堪えた様子がない。
「ええ、素晴らしいでしょう。お綺麗でしょう。」
「馬鹿野郎!なんで××が凍らされて居るんだよ!」
此方の罵声を柳に風と受け流し、女はシャアシャアと言葉を紡ぐ。
「××さんはお綺麗でした。ですから汚れる前に凍らせたのですよ。これで二人の愛は永遠ですから。」
「何考えてるんだ!そんなもん良い訳ないだろう!」
「あら、××さんが汚される前に救ってあげたのですから、それは素晴らしいことですよ。」
一切の変化を見せずに話す雪女を見て、深淵の底に潜むモノに触れていると感じた。


77 : ○○ :2017/11/21(火) 03:47:35 KFhTJ3ak
 「お願いだ。息子を解放してやってくれ。」
目の前の女に土下座をして頼み込む。恥も外聞もなく、唯単なる心の吐露であった。
「あら、どうしてその必要がありますか?」
「これは駆け落ちでも何でもない。お願いだ。」
「いいえ、××さんと私は結ばれているのですよ。それを断ち切ることは出来ませんよ。」
「そうか・・・。」
あくまでも不思議そうに、何故それが悪だと微塵も疑わない姿を見て、問答は無用だと悟った。会話が成り立たないのならば、残された手段は一つ。
「じゃあ、死ね。」
平然とする、薄らと笑みすら浮かべている女の胸元に拳銃を突きつけ、返事を待たずに引き金を引く。長年放っておいた銃幸運にもは轟音を放ち、女
は胸元を殴られたように腰が折れ曲がって吹き飛んだ。不思議と血の臭いは殆どしなかった。
 持って来た携行缶のキャップを震える手で開ける。いくら覚悟をしていたとはいえ、目の前で若い女一人を殺してあまつさえ放火するのは思ってい
た以上に精神をすり減らしていたようで、手が滑ってキャップを掴めない。動揺を抑える為に目の前の女は妖怪だと思い込み、そして缶を地面に置い
てしっかりと固定してキャップを掴む。蓋がようやく回ったと思うと声が上から降ってきた。
「残念です。」
弾かれたように上を見る。倒れていた筈の女が起き上がり私を先程と同じ眼で見ていた。平坦な、自分の愛する人以外は等しく価値が無いと感じるそ
の眼。そしてその眼をしている雪女はきっと二人の邪魔をする私を、部屋に落ちているゴミを掃除するのと同じ感覚で、淡々と処理するのだろうと感
じた。
「とっても残念です。折角、お義父さんには祝って頂けると思って、こっそりとお知らせしたのですが。」
彼女の眼に後悔の色は見えなかった。


 「残念、お義母さんとも呼ばせないよ。」
暗闇から声が聞こえて、次に炎が見えた。暗闇から出てきた彼女はいつもの妻の声と姿をしながらも、全身から吹き出している炎に照らされた彼女の
髪は白く輝いていた。
「そうですね。あなたはそう呼ぶ積りもありませんでしたので。」
雪女は妻に矛先を向けて氷と雪を叩き付けようとする。妻を庇うために楯になろうと二人の間に入ると、後ろから妻に抱き締められ急激に後ろに加速
した。地上に生きてきてここ数十年、いつぞやのジェットコースターよりも強い重力を感じると、数瞬の後には洞窟を出て雪山を上から見下ろしていた。
「大丈夫?」
「××が、氷詰けにされて・・・。」
自分を気遣う妻の問いかけにも、息子のことを答えてしまう。そんな私を見透かしたように、彼女は私を元気づける。
「大丈夫、それは後で何とかするから。」
私の肩に首を預け優しく言う妻。どこか儚い声だった。
「ちょっと手荒に行くよ!」
妻から放たれた炎が一気に洞窟の中に突っ込んでいく。暫く押し合っていたが、妻が手を動かすと更に奥まで炎が牙を剥いた。
「ああああー!」
言葉にならない奇声を上げて弾幕を撃ちながら雪女が洞窟から飛び出して来た。妻は空中で器用に躱しながらそこに追加で炎を浴びせていく。
「ぎゃあぁぁぁ!」
炎に包まれた雪女が小さくなり消えてしまうまで、纏わり付いた炎は消えなかった。


78 : ○○ :2017/11/21(火) 03:48:12 KFhTJ3ak
 「××は大丈夫か!」
今までの派手な勝負に目を取られていたが、洞窟の中に凍り付いた××が居るのを思い出し、思わず叫んでしまった。今の今まで何も出来なかったの
に、それを無視して妻のあら探しをするようで、言った後で恥ずかしくなってしまった。
「炎は大丈夫よ。今のあなたが火傷していないように。」
それでも妻は丁寧に答えてくれる。嬉しく、そして申し訳なくなる程に。
 洞窟の中に入り××の様子を確かめる。凍り付いているのは溶けたようであるが、それでも全身が氷のように冷たくなっている。妻は××の様子を
一目見て、直ぐに××を紐で縛り背負って私を前に抱えて飛び立った。高速で空を飛ぶ中で頭が冷静になり、今までと違う妻の様子が疑問に思えてく
る。果たして私の妻はいつの間に空を飛び、拳銃以上の弾幕を撃てるようになり、果ては人体発火能力まで身につけたのだろうかと。しかし、妻の負
担を考えるとこの場で口を開くことは憚られた。すると妻は黙っている私にポツリと言った。
「○○、私は幸せだったよ。」
「ああ。」
「さっきも庇おうとしてくれて、嬉しかったよ。」
「ああ。」
普段とは違う彼女の声に、私は短く答えるしか出来なかった。いや正直に言うと、これ以上妻と話していたら、なんだか妻が離れていってしまいそう
な気がしたからかもしれない。


 永遠亭の上空につくと、妻は一気に急降下した。一応合図の様な弾幕は暫く前に撃っていたが、これではまるで先程の殴り込みと同じである。屋敷
の中から兎がゾロゾロと出てきて、妻から××を受け取り奥へ搬送していた。一人の因幡兎は、急激な着地の反動を感じて地面に蹲っている私に、毛
布を掛けて中に案内してくれた。動きっぱなしで傷ついた身に小さな優しさが強く染みた。屋敷の中の部屋に入ると外の和風な家とは違い、外界で昔
通ったような近代的な診察室に案内された。中では黒髪の女性と銀髪の女性が、先に入った妻と話しをしているところだった。
「妹紅、本気なの!」
黒髪の女性が妻に食って掛かる。
「ああ、本気だ。永琳、頼む。」
あれだけ詰められても引かない妻。普段の柔らかい姿からは想像も出来ない程の変わりぶりである。
「あなた、妹紅の旦那なの?!お願い、蓬莱人を辞めるなんてさせないで!」
脇に控える因幡が-姫様がお願いするなんて-と漏らす横で、此方にも鬼気迫る様子でお願いをする女性であるが、ふと疑問が生じた。
「蓬莱人って何だ?」
 しんと一瞬静まりかえる部屋。沈黙を破ったのは妻であった。
「だから言っただろう?○○は賛成するって。」
「それでは生体移植を行います。」
「ちょ、ちょっと永琳。」
「姫様、この方が蓬莱人について知らない以上、そうすることが最善かと。」
姫と呼ばれた女性が銀髪の女性に抗議するが、冷静に論破される。
「馬鹿・・・。」
そういって彼女は項垂れた。


79 : ○○ :2017/11/21(火) 03:49:38 KFhTJ3ak
 妻と××の手術が終わった。後で永琳先生に詳しく聞くと生体肝臓移植を行ったそうであり、当然外界の知識で何故それが××の回復に繋がるかと
尋ねると、彼女は初めは明言を避けていたがしつこく食い下がるとこっそりと教えてくれた。曰く、妻は蓬莱の薬を遠い昔に服用し、それによって不
老不死になっていた。曰く、蓬莱の薬は肝臓に蓄積し効果を発揮するため、それを××に移植したと。曰く、妻は最早蓬莱人では無くなってしまった
と。姫と呼ばれていた人物は、長年渡り妻と殺し合いに至るまでの浅からぬ因縁があったと。そう教えてくれた、他ならぬ永琳先生も蓬莱人だと知っ
た私は先生にお礼を述べた後に、先に意識を回復した妻の元へ行った。
 病室で何本もの点滴に繋がれた妻は、痛々しくやつれて見えた。側に椅子を寄せて彼女の手を握る。妻は何か言いにくそうにもごもごと口を何度か
動かし、そして意を決して私に言った。
「なあ、○○、話がある。」
「何かな。」
「私、実は千年以上も生きていたんだ。」
「知ってる。」
「実は人間じゃ無かったんだ。」
「知ってる。」
「じ、自分の息子を、××を、ほ、蓬莱人にしてしまったんだ。あんなに自分が辛い思いをしたのに!」
「知ってる。」
涙を流す彼女の手を握る。
「なあ、○○、私、酷いよな!最低な母親だよな!」
「大丈夫、例え他の誰がそう言っても、僕は妹紅のことを認めるから。」
-う、う、うわーん-と泣き出した彼女の腕を握りながら言う。
「いつまでも一緒にいるよ、妹紅。」

以上になります。
悩んだ末、妹紅生存ルートに


80 : ○○ :2017/11/21(火) 14:11:11 q4oBEuq2
ノブレス・オブリージュに囚われて(137)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=127

>>71
実は鈴仙と純狐さんのタッグって、かなりやばいヤンデレになれるんじゃ
鈴仙は何だか、細くて荒れやすいところありそうだし。純狐さんは、過去が過去だから……荒れるのが普通だから

>>79
いつも感想、ありがとうございます
この妹紅と旦那とその息子
なんかそのうち、一家全員蓬莱人になってしまいそう
それはそれで、物凄い歪みだけど、たぶん幸せなのが厄介


81 : ○○ :2017/11/21(火) 22:49:43 KFhTJ3ak
>>80
こちらこそご感想ありがとうございます。いつも短編しか書けないので、長編
さんの作品を毎回楽しく見ています。あれだけの作品が続くのは凄いの言葉に
尽きます。


 古明地さとりのカウンセリング18

 こんばんは、最近はこの幻想郷中で雪が降り出しましたね。この地底地獄でもなぜか雪は降ってくる様でして、中々不思議なお話ですね。いかがで
しょうか、ここで少しあなたのお悩みを聞かせてくれませんか。こんな雪の降る夜は長話をするのには丁度良いのでしょうから。

 そうですか、恋人の方が浮気を何度も繰り返すと・・・。それは大変お辛いことですね。自分を裏切って他の女性に好意を向けられるのは、とても
苦しい事ですね。あなたのその苦しみはこの第三の眼でもよく見えますよ。しかし、それ程までに辛いのでしたら、どうでしょうか、相手の方と別れ
てしまうのも一つかもしれませんよ。別に必ず別れるべきだ、という訳ではないのですが、あなたのお話を聞いている分にはその方は何度も浮気をし
ているようですし、浮気癖と世間の人が言うようにそれはもはや、簡単には治らないものなのかもしれませんし。
 うむむ、それでも相手の方を愛していると、そういう事ですか・・・。それは身を引き裂かれる様ですね。相手とスッパリ切れてしまうのが良いと
自分では分かっていても、それがどうしょうも出来ないのは、そう簡単には割り切れないものがあるからなのでしょうし。ええ、そうですね、苦しい
ですね。どうぞ、ここでは他には誰も居ませんから、いくら泣いて下さって構いませんよ。


82 : ○○ :2017/11/21(火) 22:50:30 KFhTJ3ak
 どうでしょうか、少し落ち着きましたか。ご気分はいかがでしょうか。ほう、それでもやはり相手の方ともう一度、やっていきたいということです
か・・・。そうですね、でしたら少しその原因についてお話するべきなのかもしれませんね。いえいえ、あなたのご自身の問題ではないのですよ。よ
く巷で慰めに掛けるような、薄っぺらい言葉などではなくて、正直なところそれは相手の男性の問題なのですからね。いくらご自身の不徳を責められ
ても、それは問題の解決には残念ながらならないのですよ。そうなのです、あなたはよく仏門の修行の一環として相手の男性の悪いところにも目を瞑
られてきましたが、それはあくまでも相手の男性その人の本人の問題ですから、あなたがいくら苦心した所でそれはお門違いというものなのですね。
 ですから、あなたは何か相手の男性に対して不満がある時には、それをしっかりと伝えた方が良いでしょう。相手をただ無制限に許容するだけでは、
相手の人はますますのぼせ上がるだけでしょうし、それに対する不満や怒りをただひたすらに心の奥に仕舞いこんで耐えているだけでは、あなたの方
がいずれその重圧に押しつぶされて今の様に潰れてしまうだけですので。仏教では輪廻転生であったり因果応報と言ったりして、そういった心の動き
を欲であったり悪い物と決めつけてしまい、ややもすれば感じないように座禅を組んで修行している人もいるそうですが、こちらから言わせればそれ
は単純に、心を麻痺させているだけに過ぎませんからねぇ。それでは当然問題は解決しませんよね。
 どうでしょうか、折角ですので今後は相手の方に気兼ねすることなく、自分の気持ちを伝えられてはいかがですか。何なら妖怪としての本能をむき
出しにしてしまうのもお勧めですよ。相手の方がいくら何かしようともそれは所詮、人間の出来ることに限られますからね。あなたが少々相手の方に
何かしようとも周囲の人はある種当然だと思うだけで、別に妖怪に対して生臭坊主と言う人も居ませんから。そうですか、流石にそこまでは少々抵抗
がありますか。でも、そういう事までやって良いのだと自分に許すことは、例え実際にしなくてもそれだけで心にとっては良い影響をもたらすのです
よ。まあそれは当然でしょう。なにせ動物園とかいう外界の見世物小屋では野生の虎を見ることが出来るそうですが、それも檻や堀で猛獣と区切られ
ているからこその余裕ですから。もしも虎が動物園にいる人間の横に座って、その人をじっと見つめていておまけにどこまでも付いてくるとなれば、
それはもう、唯の人間からすれば悪さなんてしようとは微塵も思わないものでしょうからね。

以上になります。


83 : ○○ :2017/11/22(水) 03:50:25 pip3fRFM
前スレ716からの続き
エタると思ったが、そんなことはなかった

彼が部屋から出て言ったのちに、私は胸に溜まったストレスを吐き出すように長い息を吐いた。
会社を出ると日はすでに暮れて、うすら寒い木枯らしが帰り時に吹いた。
歩を進めていく中で、誰かがぴったりと自分の後ろをつけているのではないかと想像せずにはいられず、かといって振り返る勇気もなかった。
今朝買った煙草は既に吸いきってしまい、過敏になりすぎている自分を休ませることすら出来ない。
恐らく、誰かが自分の背中を見ているとするならば、きっとひどく頼りないものに移っていることだろう。
自分の家の前まで来ると、烏が一匹玄関の塀の上に止まっていた。
じっとこちらを見つめるそれは、普通の烏よりも一回り大きく、てらてらと脂ぎった羽と尖った太い嘴が強く主張していた。
自分が近くまで近寄っても、全く反応を見せずにまるでここの家主のように堂々としていた。
私は何故か自分を見くびられているように思えて無性に腹が立った。
「消えろ!」
その咆哮は、自分が予想していたよりも、はるかに大きな声であった。
烏は瞬きすらせずに、じっとこちらを見ながら身動き一つすらせずにいて、十秒ほどその状態が続いたのちにゆっくりと羽ばたいてその場を去った。
かあっと頭が熱くなった、自分は烏にさえ見くびられているのか。
そこで、目の前の玄関にぱっと光がついた。
窓ガラスの戸が静かに引かれ、はたてが不安そうな顔をして現れた。。
「如何したんですか、こんな夜中に大きな声をあげたりして」
彼女は言葉を返さずに押し黙っている自分に近寄って、自分の冷え切った頬に手を寄せた。
「何か言ってくださらないと、私どうすることも出来ないわ」
彼女の白々しさにまた怒りが再燃してしまって、思わず考えなしに言葉が飛び出た。
「お前は……何がしたいんだよ。全部、お前がしたことだろう!浮気したことを今更こんな形で返すならあの時の夜にそう言ってくれればよかったじゃないか」
一息に言葉を吐き切った後、彼女の顔を見上げるとそこには先ほどの烏の首があった。
眼前にそびえる大きな首は、一面に黒い体毛が並々に蓄えられており、黒いガラス玉のような光沢を持った瞳は顔の両面についてこちらをのぞき込み、表面がヒビ割れて前のめりに突き出した巨大な嘴は自分の額に突き刺さりそうであった。
その時の自分を襲った感情は、意外にも恐怖や驚きではなく無であった。というよりは«それ»がそこにあるということに理解が及びついていなかった。
その首からは、はたてと全く同じ声で、
「あなたが悪いんじゃないですか」
「あなたは出会った時からずっと私を見てくれなかった、いや興味すら持ってくれなかった」
「私にかける言葉も、瞳も、全部私の後ろにいる誰かにかけているようだった」
「最初はそれでもよかった。いつか、私を見てくれる。そう思って、」
「子供が出来た時、あなたどんな顔してたか覚えているの」
「もう自分は逃げられないんだねって、そう言われたようだった」
「殺してやりたかった。こんな虚仮にされるなんて産まれて初めてだった」
「でもね、同時にこう思ったのよ。あなたをここまで引き付けている女は誰なんだって」
延々と短調のない言葉が紡がれた。
冷や汗が一筋、彼女に手を当てられている左頬を伝った。
「ようやく、見つけた」
いつの間にか、彼女の顔は元に戻っており、その顔には穏やかな笑みが浮かべられていた。

「やっと、あなたが私を見てくれる」

その笑みの瞳は、一切揺れずに自分の後ろにいる誰かを見ているようだった


84 : ○○ :2017/11/27(月) 13:39:36 p1a5jrGg
月都貴人専属医療班、隊長の日記15

6月5日 少しだけ、気力が戻ってきた
○○のいる小屋と私のいる小屋との間に、連絡通路とまではいかないが、目線を合わせれる小窓を作ったのだが
あれが予想以上に私に安心感を与えている

6月6日 洩矢諏訪子だったか
彼女がいきなり私の所にやってきた
やはり彼女は、この山で高位の存在のようだ
飲み潰れていた連中が、一気に息を吹き替えし。○○のいる小屋に移動(逃げた)した
彼女は、最近のところ目元が渇くと言っていた
どこまで事実かはわからないが……
しかし、医者としての誇りで。彼女に簡単な目薬を作った
洩矢諏訪子は、素直に礼を言ってくれたが
彼女は、その後に○○がいる小屋で食事を取っていた
○○がそこにいることは、隠すことではないが。○○の作った定食を食べている姿に、どうにも何だかと言った……
いや、悪くはない。だけれども。
気になってしまう



6月10日 気のせいで良ければ良いのだが
ここ最近、洩矢諏訪子が。私や、○○
これと良く喋りたがるような
目薬の補充が欲しいとか、○○の作った料理が食べたいとか
理由は、至極まともだ
まともすぎる
気にしすぎならば良いのだが

6月13日 今日は神奈子さんと話が出来た
洩矢諏訪子さんとは、二枚看板だと言っていたが
仲が悪いとまでは行かなくとも、やや秘密を持つらしい
なにか失礼なことはやってないかと聞かれたが
むしろこちらが失礼をしていないか気になる
…………神奈子さんや早苗さんとの会話の方がやりやすい


6月15日 また諏訪子さんがやってきた
この間処方した目薬、あれをまた欲しいと言ってきた
何となく、私や○○と会うための方便のような気はしたが。彼女の眼球がやや乾いているのは事実だった
『書類仕事が多くて』聞いてもいないのに、そんなことをいきなり、そして流れるように話した
用意したかのごとく
しかし、断る理由は無い。目薬を作って渡すことしか出来なかった
その後、諏訪子さんは○○のやっている定食を食べて帰っていった

6月20日 最近、白狼さん達が大人しい
ようやく、酒盛りを少しは抑えることが出来たのか?
そうであってほしい

6月21日 白狼さん達が、少しばかり騒がしい
だが耳をそばだてたら、河童がまた変なものを作っただの、飛ばしただの、何だの
どうやら向こうの話らしい

6月25日 今日は参った
河童の徒党が、白狼の溜まり場である我々の小屋に押し掛けたのだから
医療現場で騒ぐなと言って、全員追い出したが
河童達は、代表者の『にとり』と言うものが中心となって
『あんな物騒なもの、飛ばしてない』だの騒いでいた
直訴、と言うよりは抗議か
まぁ、うるさいが健全だ。場所は選んでほしいが



いや、まさかな……
月がこんなにも時間をかけるとは、到底思えない
連中は悪い意味で、思い立ったら吉日な性格だ
連中も一枚岩ではないんだ、ここはまだ健全であるから
そう、物騒な実験を。誰かが仲間に無断でやったんだろう


そうであってくれ


85 : ○○ :2017/11/27(月) 23:23:49 CP.0Gzns
>>84
諏訪子様は一体なんだろうか?結構今後の動きが気になりました。

 元魔女の妻

 寒さが厳しくなり風が冷たくなってきた時季の朝、その日は晴天に恵まれていたが、身を凍らせるような風が人里を吹き抜けていた。外界出身の○
○には放射冷却だろうと想像出来たが、この場の雰囲気が外の空気に負けぬ程に凍ることは想像の外であった。来客用の部屋にて相対する二人の女性。
絶対的な冷たさが漂う中でも二人の間には火花が散っていた。
「そうですか。」
あっさりと相手の訴えを流す魔理沙。昔のやんちゃな言葉は影を潜め、代わりに外行きの仮面を彼女は纏う。
「それだけですか。何か仰ることはないのですか。」
一方の相手は激しく魔理沙に詰め寄る。獲物を狙った猛獣が付け狙うが如く標的に食らいつく様子は、鬼気迫るものがあった。
「主人もいい大人でございます。それが何か一々目くじらを立てることでしょうか。」
「一々!なんてことですか!私はあくまでも男性としての責任を果たして貰いたいと言っているだけですよ!それを何とも、まあ!」
家族の不貞を大したことが無いと受け流す魔理沙に、女の方は責任を言い立てる。本来ならば問題の解決を迫るべきは○○であろうが、この家の現状を
考えると案外正攻法である。
「その様な戯れ言に一々付き合う暇はございません。」
「どういうことですか!」
「○○の妻は私です。他の有耶無耶が主人について言い立てたり、あまつさえ責任を取れなどど付け込むことは、この私が認めません。」
女の言葉を徹底的に拒絶する魔理沙。一歩たりとも踏み込ませまいと、一片たりとも○○を譲る気がないと、魔理沙は言外に女に告げていた。
「なんてことを・・・。最低の人でなしめ!この子がかわいそうじゃないですか!」
「そうですか、別に結構ですよ。主人の外っ面にふらふらと引き寄せられる、この家に縁もゆかりもないただの蛾が、たとえ何を喚こうとも此方には関
係ありませんので。」
生まれるであろう子供を楯に取れども、魔理沙はそれを真正面から打ち抜いた。そうまで言われては女の方も後には退けない。
「上等ですよ!村の皆に白黒付けて貰おうじゃないですか!」
「恥を掻くのはそちらですよ。」
「馬鹿野郎!」


86 : ○○ :2017/11/27(月) 23:24:57 CP.0Gzns
 扉を蹴破るようにして女が出て行くと、辺りは静かさに包まれる。二人に圧倒されていた○○であるが、急に不安がもたげて魔理沙に話しかける。
「なあ、魔理沙・・・。」
「何でしょうか。」
「すまない!実は飲みぎて何度か意識を無くしたことがあって・・・。」
土下座をする○○。畳に頭を擦りつけるが二の句が継げずに言いよどんでしまう。
「大丈夫ですよ。あなた。」
「すまない、本当に、本当に裏切る積りは無かったんだ。」
「ですから大丈夫ですよ。」
低い姿勢のままの○○を横目にし、魔理沙は懐より霧吹きを出してガラス細工のそれを何度も自分に吹き付ける。特に首筋には念入りに。そして○○の
方に詰め寄った魔理沙は、自分も頭を低くして○○の頭の横で話しかけた。
「ねえ、あなた、頭を上げて下さいな。」
「う、うむ・・・。」
不承不承魔理沙の方を見た○○に魔理沙は迫る。正座する膝を乗り越え、猫の様にしなやかに密着して体を擦りつける。
「こ、こんな時に済まない!」
魔理沙は体を外そうとした○○の後ろ髪をそっと押さえ、○○の頭を自分の肩に押し当てる。一層○○の反応が強くなった。
「ねえ、この匂い思い出しませんか。」
「何となく、何処かで嗅いだ覚えはあるが・・・。分からん。」
「寝室でだけ、二人で一緒に寝る時にだけこの匂いを付けているんですよ。他の場所では絶対にそうなされないようにおまじないをしてしますから・・
・。あなたがなさるのは私とだけ、そこだけです。」
思わぬ告白を受けて黙り込んだ○○に対して、魔理沙は子供に言い聞かせるように話す。
「あなたが外でどれだけ飲まれても、朝になるといつもこの屋敷に戻っているでしょう?」
「ああ・・・。」
「いつもあなたをお迎えに上がっていますからね。あなたが一晩を過ごすのはこの家だけですからね。」
「それに。」
「それに?」
「子供の父親は別の人ですよ。あなたとは比べるべくもない程度の見てくれだけの男でしょうに。」
「どうして・・・。」
「どうして、ですか。そうですね、女の勘ということにしておきましょうか。ふふふ・・・。」

以上になります。


87 : ○○ :2017/11/28(火) 00:38:35 cRQ0dMNY
ひゅー!
こういう魔理沙もいいなあ。


88 : ○○ :2017/11/28(火) 06:19:08 jEk9bSoU
22時に寝落ちするとは思わなかった…
更新の続きは19時以降にします


89 : ○○ :2017/11/28(火) 13:05:23 JvJHtT0o
管理人さん乙です。
いつもありがとうございます。


90 : ○○ :2017/11/29(水) 11:19:03 L.oxAzOk
管理人さん乙です
楽しみにしてます


91 : ○○ :2017/11/29(水) 16:18:04 hMdv30BI
ノブレス・オブリージュに囚われて(138)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=128
佳境に入れれば入れるほど、登場人物たちがいっぱいいっぱいになって、怖くなってきている
書いてる人間が、登場人物に怖いと思うのも変な話ですが……


>>86
とりあえず、美人局を仕掛けてきた連中は。霧雨の家格で叩き潰すんだろうなぁ……
稗田は無理でも……みたいなこと考えて霧雨にケンカ売る連中って、意外と多そう

>>88
定例の更新、いつもありがとうございます


92 : ○○ :2017/12/01(金) 05:17:28 BD2PHPbM
あれから三日が経って、自分は新しいデスクの上で仕事をしていた。
職場にいる人間は、背中に黒い羽が生えていたり、やたらと小さな背丈の小さな女の子がせかせかと書類の山を運んでいたりした。
静かな忙しさといえば言いのだろうか、誰一人として言葉を発さないのに、紙とペンの音がフロアに繁茂している。
結局、自分は辞令を受けることにした。そのほうがいい、それしかなかった。
あの日見た事は疲れからの幻覚だと思うことにした。何年も付き合ってきたはずなのに始めてみた彼女の本性は、まるで魚のいない水槽のようにぽっかりと何かが抜け落ちた後の虚空を見ているようであった。
背中に誰かの声がかかる。
「やあ、調子はどうだ。新しい職場はやりがいに満ち溢れているだろう」
煮たまごのような肌つやを照らしている、上司は真っ白な歯を見せて笑いかけてきた。
「ええ、まだまだ仕事は不慣れなもので同僚には迷惑をかけていると思いますが、充実しています」
彼はそれをきくと満足そうにうなずくと、自分の背中を慰撫するように何度か叩いた。
「まあ、君のいい人には悪いことをしたとは思うが、四十代は色よりも職が大事な時だ。君はいい選択をしたよ」
自分の愛人のことは誰にも言っていないのに、ごく当たり前のように話題に出すということはいまだに自分は監視されていることを暗に示してくれているのだろう。
聞いた話では彼も昔自分と同じ様なことがあって、同じくここの部署へ移されてきたようだ。
彼にも何か思うところはあるのだろうか、ここへきてからやけに親身に接してくる。
「まあ、住めば都。通えば都というようになってくるよ」

二日前の昼頃会社を抜け出して(実際は誰かがついてきているのだろうけれども)、自分は喫茶店の日の当たらない2シートの角席で、自分の愛人にあっていた。
「それで?急に呼び出したのはどういうわけかいい加減教えてくれる?」
体面に座って、長い足を組んでいる彼女は頭をがりがりと掻きながら、短い髪を振り乱した。
「あ、ああ。そのことなんだ。君に聞きたいことがあるんだけどさ。」
「君は、どっちなんだい?」
しばらくの間が経ったのちに、彼女は口を開いた。
「うーん、難しいわね。どっちでもないというのが正しいのかもしれないわ」
「私は頼まれたのよ。」
「二年位前だった、顔に笑顔が張り付いたような女に頼まれてね。机にチャチャリンと金貨を積まれてね」
「あんたと寝ろってさ。あんたは別に不細工でもデブでもなかったからそんなに苦じゃなかったし、何より執着心なんて持ち合わせてないような奴だったから」
彼女はストローを小さくたたみながら、平然としながらそんな言い訳をした。
「なんというか、さっぱりしてるね。」
自分は彼女に対しては、肉体関係のほかに何か友情にも似たような感情を抱いていたので、女に騙されたというよりは、友人に裏切られたショックを受けていた。
それゆえにか、どこかすねた口調で非難を投げかけた。
彼女はくすくすと、肩を少しゆすりながらうつむいて笑った。
「ああ、さっぱりしてるわよ。これで日曜日は友達と遊べるようになったし」
髪をかき上げて、顔を上げると、その目は皮肉気に目を細めていた。
「まあ、楽しかったわよ。遊びというかビジネス恋愛みたいなものだったけど」
それきり彼女は窓向こうの景色を、眺めたまま何もしゃべらなくなってしまった。
喫茶店は多くの客の会話でにぎわっているのに、僕と彼女の二人はそれにぽつんと取り残されたかのように何も話さず、そして店が閉まるころまでそこにいた。


93 : ○○ :2017/12/02(土) 19:31:44 55KK/QxE
皆みたいに文才はないけど妄想だけは一丁前に溜まるので投下。ツッコミ所多いと思うけど許してほしい。

いつからだろうか。
夢の中に彼女が現れたのは。
幼い頃から?それとも、それよりずっと昔から?
美しい金色の髪、アニメのように整った顔、抜群のスタイル・・・。
何もない真っ白な空間に、ただ彼女は立っている。
長い髪の女性に見えたり、短い髪の少女に見えたり。
彼女は何者?ただの妄想なのか?それとも、俺が忘れてしまった誰かなのか?
夢の中で彼女に聞いても、彼女はただ俺を見つめるだけ。

今日も彼女の夢を見る。
少し前までは週に2度ほどのペースだったが、ここ最近は毎日だ。
ボヤケてよく見えなかった彼女の表情も、今ではハッキリわかるようになった。
本来ならば喜ぶべきことだが、何故か俺は喜べない。
寧ろ、彼女を「怖い」と、そう感じている。
綺麗なはずなのに、どこか歪んで、どこか狂っている・・・俺にはそう見えて仕方がない。
定期的に病院には行くが、医者は「わからない」と首を振るだけ。次もまた、違う病院を勧められるのだろう。
俺はどうすればいいのだろうか?
彼女に会いたいのか?会いたくないのか?それとも、「拒む」ことを恐れているのか?自分の気持ちもわからない。
ただ一つ解るのは、彼女は俺にとって「悪夢」になってしまったということ。

一人の部屋。お気に入りのゲームにお気に入りの漫画。
自分の好きなものに囲まれているはずなのに、楽しくない、安らげない。
彼女を見過ぎて、楽しいを忘れてしまったか?
そんなのイヤだ。
本当に?
嫌なのかもだんだんとあやふやになっていく。
なにもしたくない。誰とも会いたくない。そんな負の感情が自分を侵していくのを、俺はただ見ていることしかできない。
俺の中で時間が止まっていても、時間は流れ夜は来る。動物である以上もちろん睡魔もやってくる。
そして、眠ればきっと彼女もやってくる。
今日の彼女はどうなっているだろう?
俺を蝕む金色の髪、恐ろしいほど整った顔、人を惑わす身体、そして、歪んだ視線を向ける瞳。
きっと今日も俺は彼女を恐れる。
でも抗うことはできない。

続きます


94 : ○○ :2017/12/02(土) 19:32:59 55KK/QxE
「みぃつけた・・・」

突然頭に響く美しく歪んだ声。どこかで聴いたことのある声。
どうやら俺は、ついに幻聴までするようになってしまったようだ。
もうどうにでもなれ。どうせ俺には、もう何もわからない。

「長く苦しい旅も・・・これで終わり・・・」

白かった部屋の壁が紫色に変わっていく。気味の悪い無数の眼、その全てがこちらを見つめている。
異常な空間、常識では全く考えられない空間。だが俺は、この感覚を既に知っていた。
そして、悟ったんだ。

「幾千年に渡る初恋も・・・貴方を迎えてようやく実る・・・」


彼女が来たんだ。夢の世界じゃない、現実のこの場所へ。
紫色の空間は既に俺の部屋を覆い隠し、俺の身体は動かなくなっていた。
予想できる未来は少ない。
自由の未来は、きっと無い。
だから俺は、考えることをやめた。

「久しぶり、○○君・・・私のこと、憶えてる・・・?」

「忘れてしまったの・・・?でも良いの、貴方はずっと私の夢を見ていてくれた・・・。」

「前世、その前世、そのまた前世からずっとあなたを追った甲斐があったということよね・・・ふふっ。」

「私たちはずっと昔から結ばれる運命にあった・・・なのにちっぽけな事故が貴方を私と世界から奪った・・・まだ恋人にすらなっていなかったのに・・・。」

「でももうそんなことは起こらない。だって私が貴方を護るもの・・・ねえ○○君?私ね?人間をやめたの。貴方を迎えて、貴方を護り、貴方と今度こそ結ばれるために。」

「大妖怪となった今の私なら、貴方のどんな願いも叶えてあげられる。だからもう泣かないで?恐れないで?」

「私がいなくて寂しかったでしょう?だからきっとそんなに震えているんだわ・・・声も出ないほどに弱っているのね・・・?」

「でも大丈夫よ・・・一からやり直しましょう・・・?目を瞑ってリラックスして・・・?私が抱きしめている間に終わるからね・・・。」


95 : ○○ :2017/12/02(土) 19:33:35 55KK/QxE
朝が来た。
聞き慣れた鳥の声。見慣れた朝日。
さっきまでのは夢だったのか。
そうか、そうに違いない。
だが目の前にあるものは、知らない天井。
嫌な予感がして、起き上がって辺りを見ようとしたが、何故か起き上がれない。
何故ベッドの横に柵がある?これではまるで、ベビーベッドだ。
寝ぼけているんだと腕で目を擦る。
そしてふと自分の手を見た時、ようやく気がついた。
丸く小さく変わった手。クリームパンのような、赤子の手。
俺は赤ん坊になっていた。なんだ、これも夢か?そう思わずにいられなかった。

「おはよう○○君。よく眠れたかしら?」

後ろから届いた聞き覚えのある声。
ああ、彼女だ。
なら俺は、さっきの夢の続きを見ているんだ。
そうだ。そうであってくれ。

「自分の姿にびっくりしちゃってるのかしら?もう可愛いんだから・・・。」

彼女が俺を抱きしめる。
ハッキリとした人の感触。
そうか。これは現実なんだ。

「夫となる人を赤ちゃんから育てるだなんて、普通じゃできないことよね。ふふふっ、嬉しくてゾクゾクが止まらない・・・」

俺に残された未来は、どうやら一つしかないようだ。

「あっそうそう。今の私には2つ名前があるのだけれど、どちらが良いかしら?紫と呼ぶか、昔みたいにメリーと呼ぶか・・・それとも、ママなんて呼んじゃう?」

永遠に彼女に囚われる。
それが俺にある唯一の未来。

「貴方が呼びたいように呼んでくれて構わないわ、私を意味するならば何でもね・・・」

彼女は俺を護ってくれる。
ならもうそれでいいじゃないか。

「時間に期限は無いもの、ゆっくり決めればいいわよね。過去の話も、これからの話も知りたかったら聞いていいからね?」

彼女は俺を求めてくれる。
きっとそれは幸せだ。

「はぁ・・・○○君の良い匂い・・・久しぶりの匂い・・・蕩けそう・・・ずっと嗅いでいたい・・・」

俺を愛してくれるのは彼女だけ。
そうに違いない。

「もう、絶対に離さないからね・・・」

ああ、おれはなんてしあわせなんだろう。


以上


96 : ○○ :2017/12/03(日) 00:37:20 brtWl1Rk
>>95
メリーがえげつなさすぎるのがイイ・・・
ここまで極まっているのは素晴らしいです。

 脳裏に浮かぶは

「あらあら、今日も無駄な一日でしたね。」
家への帰る途中の僕に、直ぐ後ろから彼女が話しかけてくる。いつものように誘惑するために。
「何をしても上手くはいかず、これといって良いことは無くて。上司に怒られ同僚には馬鹿にされ、部下には舐められて、さぞ駄目な人間と周りに
思われたでしょうに。」
ずけずけとした物言いにカッとするが、ここで言葉を返す訳にはいかない。
「このままダラダラと無駄な日々を送っていっては、その内に精神が腐ってしまうんじゃあないですか。」
彼女は構わずに言葉を続けるが、あくまでも僕は何もなかったかのように歩き続ける。誰にも話しかけられなかった如く黙々と。
「ああ、そんなに前をろくに見ずに歩いては・・・。ほうら、躓いた。全く・・・周りの人に見られていますよ。」
「・・・うるさい。」
耐えきれずにポツリと漏らした言葉に、隣を歩いていた中年の女性がギョッとした表情を浮かべる。それはそうだろう、何たって僕の隣にも、そして
後ろにも誰も居ないのだから。きっと彼女には僕が精神に異常をきたした人物かのように見えたことだろう。
「可愛そうな○○さん。私だけが貴方の相手をしてあげられるんですよ。」
そう、妖怪の彼女は他の人には見えない。僕にはハッキリと見える彼女だが、意識を操る彼女によって他の人には知覚されず、まるで幽霊の様に他の人
をすり抜けて僕の後ろについてくる。どこまでも、いつまでも、どんな時でも。いい加減我慢が出来なくなった僕は、彼女を振り払うように手を払う。
他の人には奇異に思われるのだろうが、僕はもはや限界だった。

 僕が耐えきれなくなった頃を見計らい、お化けらしく消えていた彼女であったが、僕が家に帰り部屋の電気を付けると、直ぐに部屋に現れた。
「ねえねえ○○さん。」
「何だよ。」
僕しか居ない場所で彼女に言葉を返す。別に放っておくことも物理的には可能なのであろうが、そうすると後が非常に面倒な事になる。
「「僕がギリギリ耐えきれるように、変な気遣いをしやがって」ですか。うふふ、そうでしょう、私は○○さんには優しいですからね。」
「心が読めるんなら、別に返事をしなくって良いだろう。」
「いえいえ、駄目ですよ。○○さんは私の物なのですからね。」
答えになっていない言葉を返す彼女。妖怪だから何かしら人間とは違うのではあろうが、それにしても彼女は特別に変わり種のような気がした。他の
妖怪に会ったことはないので、人外のスタンダードは知らないのであるが。
「それよりも考えてくれましたか?私の世界に来るってこと。」
「馬鹿馬鹿しい。異世界なんてそんなことがある訳無いだろう。」
「おや、私が居るのに存外に強気ですね。妖怪がいるのだから貴方の知識も当てにはなりませんよ。」
「いい加減にしろ。」
「「これ以上話していると引き込まれそうになるから」と。怖い、と貴方は一見心の表面ではそう思っているようですが、それでも貴方の心は私に
段々と近づいて来ていますよ。」
「そんなことは無い。」
「本当ですかぁ?」
わざとらしく笑みを浮かべ、彼女は僕の前で首を傾げる。答えが分かりきっているとでも言う様に。
「本当にお前なんか要らない。」
「もしも本当に私を拒絶しているのなら、貴方が望めば私は消える筈ですよ。ほうら目をつぶって十数えて見て下さいな。」
心の中で数を数える。十数えて目を開けると、そこに彼女は居なかった。


97 : ○○ :2017/12/03(日) 00:38:22 brtWl1Rk
 心の中でホッとする感情と、どこか歯車が噛み合わないような感覚を感じる。急に彼女が居なくなったので、調子が狂ったのだろうと考えて、今は
久々な静かな環境を噛み締めるように、椅子の背もたれに体重を掛けて後ろに伸びをする。上から僕をのぞき込む満面の笑顔の彼女と目が合った。
「残念でした。残念でした。ざあ〜んねんでしたぁあ!」
余程嬉しかったのか、彼女は僕の耳元でキスをする位に顔を近づけて話す。
「どうでしたか。私が居なくなって寂しくなったでしょう。貴方は上辺では気づいていないのでしょうが、貴方の心は私を求めているんですからね。」
「そんなことは、ない・・・。」
「誰からも尊敬されず、愛されず、そんな貴方は私しか縋る人は居ないんです。ああ、貴方の心の叫びはいつも聞こえていましたよ。寂しい、苦しい、
助けて欲しいっていう、声にも成らないその痛切な叫び声が!」
僕の前に回り込んだ彼女は、僕の胸に赤い管を差し込む。まるで血の色のような気がした。
「ほら、私が貴方の心を埋めますよ。どうですか、安心するでしょう。満たされるでしょう。」
理性が溶けていき、意識が薄れていった。全身が包まれるような温かい感覚が体を覆った。そして彼女は十秒程の接触の後で、急に僕から体を外した。
妖怪に精神を汚染されて忌むべき筈なのに、僕の手は彼女を求めて空を切った。
「どうしようかしら。辞めちゃおうかしら。」
いたぶる様に僕を見る彼女。体が動かない僕は唯彼女を見ることしか出来ずに、ジリジリと焦燥感が募る。そして僕が耐えきれなくなる時を見計らって、
彼女は僕に抱きついた。
「ほうら、苦しかったでしょう。耐えれなかったでしょう。」
ドクドクと首から全身に何かが流れていく様な気がしたが、僕は彼女に身を任せていた。
「気持ちいいですよね。もう離れたくないですよね。」
「じゃあ、地霊殿へ行きましょうか。そこでゆっくりと溶かしてあげますね。」


98 : ○○ :2017/12/03(日) 00:44:40 brtWl1Rk
以上になります。

>>91
小町までは好意が自分への同情としても受け入れられたけれど、射命丸になると何だか自分が哀れまれている
ようで、それが自分が特別だと認識させるから嫌な気分になるのでしょうか。
空気としては何となく感覚として理解でき、或いは映画のワンシーンとしては一枚の絵になるものでも、中々
文章では難しい物です。乙でした。


99 : ○○ :2017/12/05(火) 15:47:37 54PkkIWM
ノブレス・オブリージュに囚われて(139)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=129
>>97
さとりんって、精神系攻撃やらせたら勝てる人いないでしょ……


100 : ○○ :2017/12/07(木) 22:12:56 iVNOk5dE
>>99
お疲れ様です。
いつも楽しみに読ませてもらっています。


101 : ○○ :2017/12/07(木) 22:54:15 cxX9Q4Ng
手紙にありったけの愛を綴る。ちょっと気取って英語を使ってみましょう、人間の〇〇さんにもわかりやすいようにシンプルに、思いが伝わるように何度も何度も書きましょう。
机の上には既に山積みとなった恋文が出来ていたがそれでもまだ気が収まらなかった。

「ああ、陽が登り始めましたね、〇〇さんが目覚める前にこれをポスティングしなきゃ」

「まだ、私は諦めてませんからね」

───────────────────

自分の家のポストにぎっちり押し込められた恋文。数えるのも億劫になるほどの枚数、紙にはびっしりと端から端まで「I am all you need」と殴り書きされている

全く、そろそろ気がおかしくなりそうだ。かれこれ半年はこんな感じのものが届いている。届くものはどれもこれもストーカーじみたニュアンスの一言のみ。

犯人?目星はついてるさ。多分文だろうな



───────────────────
歯がゆいですよね。ムカムカしますよね。会えないって。

ええ、私、射命丸 文は半年ほど前まで人間の方とお付き合いしておりました。ええ、それこそ身を焦がすほどの恋ってやつです。苦節3年、1日がウン100年にも感じるような日々を繰り返して私は交際にこじつけました。

ですが、所詮は妖怪と人間。私がどれだけ尽くそうと、我慢しようと、彼にとって相容れない部分が生まれてくる。そうしたまま、遂には破局に至ってしまったのです。

私その時に接見を禁止されてしまいまして。「俺と文はもう合わない方がいいだろう、互いのためだ、わかってくれ」ってね。ええ、一言一句全部覚えてます。私は他ならぬ彼のいいつけであると、今日に至るまでその約束を守り続けてきました。毎日毎日毎日毎日毎日ずっとずーーーっと。


102 : ○○ :2017/12/07(木) 22:56:59 cxX9Q4Ng
だから手紙を送り続けるのです。あやや?嫌ですね。手紙を送っているだけですから「会って」はいませんよ。ポストの真ん前はぎりぎりセーフです。

嫌ですねぇ、言ったじゃないですか。「身を焦がすほどの恋」って。そうです、私は毛頭、〇〇さんのことを諦めるつもりなんてありませんよ。それにしても言いつけを厳守しながら、愛を伝えられるだなんて私って天才ですね!

ほら、見てくださいよ。今日からは写真も添付しようと思うんです。歩いてる〇〇さん買い物をする〇〇さんに喧嘩をする〇〇さんも....
あはは!嫌ですねぇ。会ってなんかいませんよ。「たまたま」遠目に「見かけてしまった」だけですよぉ。これもセーフです!
さて、今日はどんな手紙を書きましょうか...



───────────────────

今日もだ。いやいやいや、分かってはいたさ。
今日も今日とてびっしりとポストに恋文が詰まりきっている。今日は「We are connected」と印されている。変化があることといえば

これもまた溢れんばかりに押し込まれた自分の写真があったくらいか。家から出るところに歩いているところ。自分のまる一日の行動が端から端まで綺麗にカメラに収められていた

.......文

いや、合わない方がいい。お互いの為だ。所詮は妖怪と人間、どれだけの時間を重ねても、絶対に相容れることの無い種族である。
どうせ、すぐに収まるだろう。妖怪は気まぐれで冷めやすいものである。

................


───────────────────

あややや、おかしいですねぇこれだけ毎日毎日毎日毎日写真とお手紙を送っているのに、ちっとも変化がありませんねぇ。そろそろ「文!俺が悪かった!俺が間違っていた〜」って私の所に来てくれると思ってたのですが。

あははは、嫌ですねぇ。私はいいつけを守っていますし、彼に会うつもりは毛頭ありませんよ。
でもぉ、彼の方が我慢出来なくなって、私のところに会いに来ちゃう、なんてこともあると思うんですよね〜私。

あははは、あははははは、人間の割には精神が強いんですね。さぁて、次はどんな方法で彼に想いを伝えましょうか。

────いつまで我慢が続きますかね?私、今日だけで3つも新しい方法考えちゃいましたよ

窓の隙間から僅かな斜陽が射し込む部屋に、高らかな笑い声が響いた。

D〇Rのエタラブを聴いてたら思いついたネタ....なんだけど文章に起こしてみるとなかなか微妙だった


103 : ○○ :2017/12/08(金) 07:02:26 JXRYB/Dc
>>95
これから彼女を求め続けるヤンデレに育てられてしまうんですねわかります


104 : ○○ :2017/12/08(金) 21:32:52 .ElmhADw
最近寒いな 八意先生に炬燵の中であっためてもらいたい


105 : ○○ :2017/12/10(日) 21:50:35 awA/kk3U
>>99
ついに破局が来ましたか。流石にストレスが限界に達したのでしょうか。
よく充分な休養と充分な治療と健康な生活習慣が必要だと言われますが、どれも
肝心の永琳先生が壊れているので満たしていないという悲劇。

>>102
ここから間接的な強制に移るのでしょうか。GJでした。

>>104
永遠亭って炬燵が良く似合うよね…


106 : ○○ :2017/12/10(日) 21:51:43 awA/kk3U
 通い幽霊

 いつも通りに看板を立て、村の大通りの道を人々を見ながら客を待つ。占いと書かれた看板に興味を示すのは大抵が暇を持て余した物好きか、それ
とも金銭や人間関係で色々と悩みを抱えている者かと相場は決まっているのだが、この目の前にきた男は違う様である。どこかせかせかと余裕が無さ
そうな雰囲気を漂わせる割には、服の汚れや乱れは無く小綺麗な身なりをしている。長い間占いの一環として人間観察をやってきたこの目からすれば、
こういう手合いには用心がいるものだ。得てしてこのような人がとんでもないモノを持ってくるのだから。

「つまり、旦那は幽霊に毎晩会っていると。そういう訳ですか。」
目の前の客の分かりにくい話を要約する。客は興奮しているせいか、どうも話しが飛んだり端折られたりしてわかりにくかったが、結局のところ彼の
話しはそれに集約された。
「ああ、そうだ。」
「ならば、ここに来るのはお門違いなんじゃないですか。」
「・・・・。」
「幽霊に付きまとわれて困っているなら、まずいの一番に考えるのは霊能力者か坊主連中、それか脳味噌が可笑しくなったかと考えて医者に行くのが
筋ってものでは?」
こちらの正当な質問に詰まる客。暫く辺りに沈黙が漂い、唾を飲む音が響く。やがて踏ん切りが付いたのか、客は話し始めた。

「実は既に行ったんだ。」
客の口振りからすると恐らく両方に行ったのであろう。一度堰が切れた堤防から水が押し出されるように、客は話しを続ける。。
「最初に目に付いた霊能力者に行った。」
「そいつは何だか胡散臭かったが、俺の家で祈祷をやったんだ。」
「その夜もやっぱり幽霊が来て、御丁寧にあの男はインチキだと教えてくれたもんだから、文句を言いに次の朝にそいつの店に行ったんだ。」
「そしたら店の周りに人が集まっていて、前の日はそんなこと無かったのに、野次馬が一杯で、周りの連中に話しを聞いたら、そいつが死んでいたって
聞いて…」
「怖くなって、知り合いから紹介してもらった別の霊能力者の所に行けば、そいつからは一目で断られて。」
「別の奴もやっぱり嫌だと言い出して。見料の金すら要らないなんて言いやがって。」
「医者からも匙を投げられて、何もしていないのに竹林には出入り禁止なんだぜ。」
「だから兄さんの所に行ったんだ。どうしようもなくて…。」


107 : ○○ :2017/12/10(日) 21:52:34 awA/kk3U
 ふと疑念が湧き上がり客に尋ねる。確かにこの客からは何か嫌な予感がするが、然りとて一目で断る程の警告は「まだ、視えていない」。霊能力者
の勘が鋭いのは商売道具でもあるからだろうが、それだけでは説明が付かない。何か、何かがまだ彼には隠されている。
「旦那、何か幽霊から貰いませんでしたか?それか何か食べたとか、したとか。」
客の目が一瞬細くなる。大当たりと彼の顔は言っていた。
「何をしたんですかい?」
「…彼女から色々貰って食べた。」
「色々とは、何度も?」
「ああ、そうだ。最初は羊羹、次に饅頭、そして葛餅。どれも甘かった。」
最悪である。黄泉戸喫(よもつへぐい)をした人間はもう元の世界には戻れない。しかも味の濃い物から順に何度も食べさせるという念の入れようで
ある。絶対に逃がさずにあの世に引きずり込もうとする女の情念が、まざまざと透けて見える気がした。
「彼女から貰った甘味を食べてから、普段の食事の味がしなくなったんだ。」
然もありなん、一度死に浸かると日常の生活は最早色褪せる。それにあらがえるのは人外か聖人のみである。
「最近は彼女の口付けが甘くて、それ以外は現実感がしなくなって…」
ああ、もはや彼に助かる道は無い。自分の命が零れていくその味が甘く、それ以外には世界に色が無いというのはなんたる皮肉か。
「なあ、俺は助かるのか?助かるんだよな?!」
ー助かる訳ないだろーと言いたいのを堪え、営業用の顔を自分に貼り付ける。
「ここに札を書いておきますので、家の玄関や神棚、枕元に貼っておいて下さい。」
「有り難い、一昨日の医者には持って数日と言われて、昨日の霊能力者にはもう目前と言われて、今日が峠だったんだが、これで大丈夫だ。」
無邪気に喜んで帰っていく男。さて、縁(えにし)を作らないように、この金を今すぐに博霊神社の賽銭箱に入れておかないといけないだろう。
きっと彼に明日は来ないのだから。

以上になります


108 : ○○ :2017/12/11(月) 02:31:00 c1XpCBrc
竹林には出入り禁止というが
そういえば幽々子は竹林の蓬莱人を苦手にしてたような
万が一にでも薬を飲まれては敵わないから、裏で手を回したのかも


109 : ○○ :2017/12/15(金) 14:06:39 o6pS8kSA
ノブレス・オブリージュに囚われて(140)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=130

>>107
ついに幽々子様(だと思う)は○○を奪いにかかったけど
そうなる前に、○○の周りで変死が多そう……○○に理不尽な仕打ちを味わわせた輩に対する呪いで


110 : ○○ :2017/12/18(月) 00:40:08 3gE/sPes
被愛型妄想っていう言葉が存在してるのか


111 : ○○ :2017/12/18(月) 01:12:19 tQ9TP4dA
二日酔いの時には死ぬ気力すら沸かないと思う
ただただ吐き気と頭痛に苦しむことしかできない
息子くんはタフだな


112 : ○○ :2017/12/18(月) 23:55:44 RVlUyPLA
>>109
まさかまさかの射命丸の参戦ですね…鈴仙の愛や小町の情でも息子君を助けられないのからば、
射命丸の口車に乗せるしかないのかしらんと。


113 : ○○ :2017/12/18(月) 23:56:20 RVlUyPLA
 古明地さとりのカウンセリング19

 いやはや、そんなに息を切らしてさぞお疲れでしょう。どうですか、ここで少しゆっくりとしていきませんか。それ程急がれて
いては、あなたの考えも上手くいかないでしょうから。下手の考え休むに似たりと言いますし、お話をするうちに良い考えも浮か
んでくるかも知れませんしね…。

 おや、そうですか。恋人の女性から逃げ出したいが逃げ出せないという事ですか。そうですね、鬼の四天王の一角となればその
力はとても強いのでしょうし、唯の人間のあなたからすれば単純な力任せの作戦では、とてもとても太刀打ちが出来ないのも当然
ですね。余りにも拘束をされるということは、それは中々にお辛いことでしょうね。妖怪の私でも同情致しますよ、ええ。
 そうですね…。そこまでに拗れてしまっている関係ならば、もはや常道の手段ではどうにかもすることが出来ませんので、これ
は相当に強硬な手段を取る必要がありますよ。これを聞かれるのであれば、あなたも覚悟を決めることが必要になるのですが、ど
うでしょうか、そこまでの気持ちはあるのでしょうか?いくらそこまでと行ってしまったとはいえども、中々に相手を裏切って自
分の手に掛けるのは、相当に辛いものがありますからね…。

 ええ、そうです。ここまで相手があなたを手放さないのでしたら、結局はあなたは相手を殺す必要があるのですよ。なにせ相手
は妖怪の中でも一際強い鬼ですから、中途半端な手段ではどうにも成らないのです。策を弄しようにも、相手の怪力はそれを正面
から打ち破れる訳ですし、単純に後ろから包丁で刺そうにも相手が能力を使って霧状にでもなってしまえば、ただの人間であるあ
なたはお手上げになってしまうでしょう。ですから、何かしらの作戦を使う必要があるのですよ。
 そうですね、勿論これはとても卑怯な手段でありますし、追い詰められて後が無い手段であるのですが、ただの人間が妖怪に立
ち向かうにはそうでもしないといけないのですよ。そして不幸中の幸いと言っては何ですが、今回に限ってはあなたがする作戦は
必ず成功するのですよ。


114 : ○○ :2017/12/18(月) 23:57:18 RVlUyPLA
 どうして成功するのかが不思議ですか?実はあの妖怪は遠い昔に、大江山で暴れていたことがありましてね。その時に討伐を受
けたのですが、その時には友好関係を結ぼうという名目の宴会で、飲んだ酒に妖怪に効く毒をタップリと混ぜられていまして。そ
の毒が全身に廻ってから、討伐隊に部下諸ども皆殺しにされたのですよ。ですから彼女は嘘を嫌っている訳ですが、あなたが彼女
に毒の入った酒を注げば彼女はそれが毒入りだと分かっていても、それを飲んでしまうでしょうね。自分自身が恋人に嘘を付かれ
る事に耐えられないのですから。ですからあなたは、毒で動けなくなって恨みがましくあなたを見つめるであろう彼女の×を、
昔と同じ様に切ってしまえばいいのですよ。
 ああ、そういえば言い忘れていましたが、彼女はその時に×だけになっても、斬り掛かった武士の兜に噛みついたらしいですね。
そして七枚の兜の六枚までを噛み切ろうとして力尽きたらしいですが、まあ、恐らくは彼女の周囲の人物がその武士に復讐をしよ
うとした事の暗喩だったのかも知れませんね。どうですか、あなたも武士が兜を被ったように、信頼できる人に護衛して貰う事が
必要になるかも知れませんね。もし、居ないのでしたら…そうですね、余り愉快でない想像は辞めておきましょうか。

以上になります。


115 : ○○ :2017/12/19(火) 21:35:01 6x6XqH2o
 古明地さとりのカウンセリング20

 こんばんは、ええ、そうですよ、今は夜ですよ。どうですか。この生活にも慣れたでしょう?ふふふ…、「監禁されるのに慣れ
る事なんて有り得ない」ですか。どうでしょうか?あなたの意識はそういうように思っていても、無意識はそうは思っていないか
もしれませんよ。そう、『「無意識は誰にも囚われない、のです」のだから』

 意識はあなたの心や精神を形作っているけれど、無意識も同じ様に心を作っているの。普段は意識に隠れているけれど、それで
も確実に存在している。海に浮かぶ大きな氷山の下には、更に大きな氷の塊が沈んでいるように、無意識は意識の下側に存在して
いるの、しかも意識よりも大きく、強く、いつもあなたの心に存在している。あなたが何かを考える度に、あなたは意識を使って
いると思っているけれど、実はその意識を無意識が形作っている。
 あなたは自分の心を自分で全てをコントロールしていると思っているけれど、それは違う。あなたの心の奥には無意識の世界が
広がっていて、そしてそれは理性ではコントロール出来ないもの。あなたの意識には限りがあるけれど、あなたの無意識は無限に
広がっていて、他の人とも繋がっている。そして無意識は全てを受け入れる。意識のように善悪の判断に囚われず、無意識は全て
を裁かずに、唯そこにある物のその存在を受け入れる。
 どうかしら、今まで私がしてきたカウンセリングも全て、お姉ちゃんの意識とトラウマの力を使って精神分析をしているように
見えて、実際は全て私の無意識の力を使って解決をしてきたの。一見悪い結果に成るように見えて、それらは全て解放への道筋な
の。意識に囚われている時には見えなかった物を患者の人に見せて、そしてその人に眠っている無限の無意識の力を利用して、今
までは思いも付かなかった方法で世界は進んで行く。例えカウンセリングの結果が悪い結末だとだとあなたが思ったとしても、そ
れはあくまでもあなたの意識が物差しのように働いて、判断を下しているに過ぎない。あなたは良い事と悪い事を唯ひたすらに区
別して、そしてなるべく良い事だけを行っていくことが人生の生き方だと思っているけれども、それはひたすらに自分を裁いてい
ること。白と黒を分けた世界は唯ひたすらに過酷で、そしてその世界では遂に、法の番人の彼女すらも生きることができなかった。
 どう、今まで生きてきて、どうだった?外の世界ではずっと気を張り詰めていて、いつも全てを意識の元に置いておこうとして、
そして絶えず進歩をしようとしてきて、最後にあなたの精神は破綻を迎えたよね。辛かったよね、苦しかったよね、バラバラに壊
れそうだったよね…。もう、無理なんじゃないかな。今までの様に生きていくのは…。


116 : ○○ :2017/12/19(火) 21:35:39 6x6XqH2o
 だから、無意識と一緒に生きようよ。無意識は全てを受け入れる。意識のようにあなたを駄目な存在と裁かずに、唯あなたの存
在を受け入れる。良いも悪いもなく、好きと嫌いだけのその世界なら、あなたの心は生きていける。意識の鎖から抜け出して、無
重力の世界に入り込めば、自然の世界に身を委ねて、その存在を自分の心で感じることができる。ただ其処にいること、それがと
ても素晴らしいことだと気づけることが、無意識の世界。さあ、全てを捨てて、あなたの心の奥に眠る無意識に身を委ねて…。
 昔、私は他の人の心が見えたの。だけれどその世界は汚くて辛くて、だから私は瞳を閉ざした。そうしたら私は無意識に入るこ
とが出来たの。普通の人が持っている意識を捨てることで、無意識と一緒になって、そうすれば無限の力を使うことが出来る。絶
望に触れることで、天国への道は開かれる。よく地獄への道は善意で舗装されていると言うけれど、案外に天国の道は悪意で彩ら
れているのかもしれないね。さあ、今あなたの無意識が開かれたよ。あなたの心と私の心が重なって、広がっていくわ。
 時間も空間も無く、ただひたすらに漂うこの世界。ゆっくりと夢のように微睡む世界。あなたの肉体は拘束されていても、あな
たの精神は無限の世界を飛び回る。さあ、ゆっくりと息を吸って、吐いて。ドロドロに今までの意識の鎖が溶けていくよ。あなた
を今まで縛っていた重りが無くなって、あなたの心は軽くなる。世界を意識で判断することなく、無意識の力に委ねることで丁度
良い具合に行動できる。

 どうかしら? 無意識の世界は…。

以上になります。


117 : ○○ :2017/12/19(火) 23:05:15 G9XHzHTs
乙です
あぁ…俺も無意識の中でただ自分の望むがままに生きて痛いよ


118 : ○○ :2017/12/21(木) 12:37:55 p9/152KY
寝起きにこんなこと言われたら布団から抜け出せなくなる


119 : ○○ :2017/12/23(土) 14:58:04 wZd2BEIo
布団から出たくねぇなぁと思っていたらこんなものが書けた




 今日もあの人は狭い部屋の中、いや、布団の中から出られない
「なあ幽香」
 作業の手を止めて、私は彼の声に応える。
「どうしたの」
「俺の病はいつになったら治るんだろうな」
 何度も繰り返されてきた問いだ。私はおざなりに答える。
「私には分からないわ」
「まあ、そうだろうな」
 彼のその声には諦念、達観といったものが見え隠れしていた。
「幽香、俺みたいな先の短い奴なんて見捨ててくれたって良いんだぞ?」
「嫌よ、私はあなたのことが好きなのだから」
「お前はそればっかりだな」
 あの人は笑いをこぼす。その太陽のような笑顔が私は好きだった。
「病気に関すること以外ならなんでも言ってくれてかまわないから」
「それじゃあさ、あれ」
 彼の指す方には植木鉢が置かれている。布団から出られない彼が辟易しないように、と、私が持ってきたものだ。日に日に数が増え、今では両手では収まらないほど。
「あの花、赤くて喇叭みたいな奴、元気がなさそうなんだ。見てると気が滅入る」
 私はその植木鉢を手に取る。
「そうね。やっぱり、たまには陽に当てないとダメね。
 これは一旦持って帰るわ」
「そうだな」
 しきりに頷く彼を直視できずに、私は顔を伏せた。

 帰る道すがら、抱えている植木鉢から意識を離すことができない。これは私の罪の証だ。これは毒草。花粉を浴びた人間は体調を崩す。
 彼を縛り付けているのは私だった。
 私は家に着くと植木鉢を庭へ置き、別の毒草の品種改良に励む。彼を飽きさせてはいけない、もっと鮮やかな色を、綺麗な姿を、と。
 分かっているのだ。そんなことをしたって何の解決にもなりはしない。私が彼のことを縛ることを止めればすべては簡単に解決する。彼が外を自由に歩き、馴染みの店主に声をかけ、「今日もお天道様が眩しいな」と笑うーーそれが正しい姿なのだ。
 彼を狭い部屋に閉じこめていてはいけない。植物達もこんなことに使われていることを喜んではいない。私も気が狂いそうだ。誰も得しない。
 それでも、町娘へも無邪気に声をかける彼の姿を想像すると、胸の痛みが私の良心を絞め殺してしまうのだった。


120 : ○○ :2017/12/24(日) 08:53:31 R3ve3YoQ
>>119
果たして男の病が悪くなるのか、このままズルズルいくのか…
遅効性の毒は取り返しがつかなさそうな


121 : ○○ :2017/12/26(火) 18:29:31 oCzOgb06
ずっと病気だとそのうち永琳あたりにバレそう
どうやって丸め込むんだろうか


122 : ○○ :2017/12/27(水) 14:29:23 FMd7I9QA
ノブレス・オブリージュに囚われて(141)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=131

>>114
鬼は良くも悪くもまっすぐな存在だからなぁ……
>>115
こいしちゃんに、無意識のせい(私のせい)にしていーよとか言われたら。理性吹っ飛ぶ自信があります
>>119
分かっちゃいるけどやめられない……それしか思いつかなかったんだろうね、一緒にいられる状況が


123 : ○○ :2017/12/28(木) 23:40:20 UGlBnwqE
>>122
遂に、遂に決戦の火ぶたが切られる時が来ましたね
長い因縁に終止符が打たれればいいのですが・・・


124 : ○○ :2017/12/28(木) 23:40:51 UGlBnwqE
 元魔女の妻2

 目の前で女が吠える。犬のように激しく、狼のごとく荒々しく、狐のように狡賢く。人間、取り分け君主や王様といった類いの人間には、そういった動物のような
生き様が必要であると外界から流れてきた書物には書かれていたが、その点から言えば目の前の女は合格点に達していただろう。ただ闇雲に怒りを発散せずに、凄む。
そういった技術を持つ「人種」は、この幻想郷では限られている。悪党か、チンピラか、はたまた下衆か、いずれにせよ、その手の人物に対しては単純な人物では手
に余ることが多い。特に自分の夫のような汚れていない好人物なんぞは、カモにされることが落ちである。○○は自分に目の前の女の相手をさせまいと、勿論自分の
不始末から始まったこともあるのだろうが、必死に女の攻勢を防いでいる。
 しかし女もさるもの、同情心と掻き立たせて半歩下がらせれば、弱味に付け込んで一歩食い込んでくる。そして正論をぶちかまして二歩踏み込めば、スルリと軒先
から母屋に入ってくる。自分と○○の間、他の誰も存在を許さないその場所に土足で入り込み、あまつさえ自分に無い子供を梃子にして関係を崩そうとするあの女。
ああ、××したい。妄想の中で女が頭が弾け飛ぶ。×を引きちぎって、腹を××て、柔らかい布で不相応にも白い粉を塗した×をじっくり、じっくりと×めてやりた
くなる。自分の胸に隠した八卦炉がドクンと動いたような気がした。
「紅魔館は手伝うとのことです。」
 お茶のお替りを持って来た婆やが、手紙の返事が届いたのを小声で教えてくれた。遂に、これで最後の網が掛かった。昔のように異変を解決しなくなったとはいえ、
唯の人間相手ならばいくらでも暴れられる自信はあるのだが、かといって暴れた後の始末というものがある。これが妖怪ならば退治したとでも言ってしまえば、大抵
のことは不問にされるのであるが、里の人間となればそうはいかない。あくまでも合法的にやるか、それともコッソリと裏で始末を付けるか。永遠亭に女を持ち込ん
で外界の技術を使えって診断をすれば、いくらでもあの女の嘘は暴ける自信はあるのだが、それでは自分の怒りが収まらない。第一、あんな薄汚い女にこれ以上自分
の○○が汚されることなんて我慢が出来ない。普段の弾幕ごっことは違う、人生を賭けた本当の争い。異変に明け暮れていた昔は経験したことがなかった感覚。全身
の皮膚が張り詰め、吸った息が肺の隅々まで行き渡り、神経が研ぎ澄まされる感覚。全身をアドレナリンが駆け巡り、頭に存在する理性から良識だけを溶かしていく。
相手がライオンの獰猛さと狐のずる賢さを持つのであれば、それを狙うは狩人の仕事である。野生の目から身を隠して、相手の牙が届かない場所から致命的な一撃を
放つ。この女は、コッソリと裏で始末を付けてやろうと、そう思った。

 土下座する○○の頭を上げさせて、その膝の上に乗る。てっきり罵倒されると思っていたのであろうが、狼狽えて自分の体から腰を離そうとする○○。かわいい。
思った通りの反応をする○○の頭を押さえ、そのまま自分の首筋に押しつける。一層強い反応を見せる○○の体。自分しか知らない、そして自分としか一緒になれな
い体。魔女の秘薬で作り変えられたその肉体は、もう元には戻らない。永遠亭でオペでもすればどうにかなるのかもしれないが、しない、させない、知らせない。
というか、知らせた奴は潰す。私の○○への愛は曲がり、捻れ、歪み、それ故に純粋であった。○○にとっては私しかおらず、私にとっても過去、現在、未来、全て
を通して○○しかいない。閉じた世界、だけれども幸せな世界。自分の伴侶の寿命に悩む妖怪にはたどり着けない、一瞬の、しかし二人にとっては全てを埋め尽くす
という意味では永遠の世界。他の誰にも邪魔をさせない二人の関係、特にあの女には。絶対に。


125 : ○○ :2017/12/28(木) 23:41:27 UGlBnwqE

 夜になり、こっそりと家を抜け出る。私があれだけ啖呵を切ったものだから、○○は短気な私が、と言っても私がそうなるのは○○絡みだけだというのは本人は気づ
いていないのであるが、闇討ちでもするのではないかと随分と心配をしていたのだが、私が布団に入るとその不安を消したようであった。ああ、○○が私の心配をして
くれるというのが嬉しい、そしてそんなに私に気を掛けてくれる○○が愛おしくなる。でも残念。あなたの妻は、とっくの昔に愛で異常になってしまっているのだ。
 昔使っていた箒を取り出して魔法を掛ける。便利な魔法は埃が被るに任せていた箒を完全に綺麗にしていた。箒に魔力を通して飛行前のチェックをする。服だけは昔
の服ではなく、霧雨屋謹製のものであるが、そこまで準備をすると○○に気づかれてしまうので、諦めるしかない。いや、これはこれ使えるだろうと考え直し、箒に跨
がり夜の幻想郷に飛び出した。
 空中で箒を片手で掴みつつ、空いた手で魔方陣を空中に描く。初歩的な探知の魔法であるが、魔女同士の遣り取りにはよく使われるものである。昔によく見た魔力の
サインの方向に十分程飛んで行き、周りに余計な人が居ない事を確認して降りれば、そこが目的地である。
 そこには男と女が縛られていた。こうも後ろ手に縛られては、特殊な縄抜けの技術でもあるか、関節が柔らかい人物でもないと抜け出すことは出来ないであろう。そ
して二人は何十回目かになるであろう指先と手首の柔軟運動に取り組んでいるようであったが、顔が苦痛に滲むところを見る分には今回も骨折り損のくたびれもうけの
ようであった。見知らぬ人物が、それも空中から飛び込んで来たような人外が乱入したことで、二人は助けが来たかと助けを求める声を張り上げたが、私の服を見て、
余計に立場が悪化したことを思い知ったのか、一転罵声を飛ばしてきた。興奮して縛られたまま転がりながら逃げだそうとする二人を、咲夜が蹴り飛ばす。魔力で安全靴
よりも強化された革靴は、一度ずつ綺麗に二人の胸に吸い込まれた。周囲に魔力の灯りを灯しつつ、器用に自分の顔だけを薄暗くするという演出をしているパチュリーに
手を上げて挨拶をし、そのまま二人にゆっくりと近づいて笑顔を見せつけてやる。女の方から唾が飛んできたので箒で顔を掃除してやると、それまで綺麗だった顔に土の
パックが施された。
「良かったな、外界では泥パックが流行っているらしいぜ。」
「うるさい!クソ野郎!」
目に涙を浮かべつつも、罵倒に余念がない。
「へえ、まあ、美人局をする奴にはお似合いの格好だぜ。」
「私のお腹には赤ん坊がいるんだよ!外道!」
「は?○○が私以外とする訳ないだろう?」
腹が立ったので、張り手を追加しておく。しまった、手が汚れてしまった。咲夜のように足ですれば良かった。一方で、直情的な女に任せていたのでは、埒が開かないと
考えたのだろうか、男の方が口を開く。
「おいおい、霧雨の一人娘ともあろうモンが、こんなことしていて良いのかい?これはどう、落とし前を付けてもらればいいんだい?!」
自分が縛られているのに、大胆不敵な態度。何も知らない里の一般人相手ならばこれで怯むのかもしれない。
「○○への美人局の分、しっかりと払ってもらうぜ。」
「馬鹿いうんじゃねーぞ!俺の後ろに誰がついているか分かっているんだろうな!」
「へえ、誰?」
「俺の後ろは岩の親分がついてるんだよ!おめえら、後で覚えとけよ!」


126 : ○○ :2017/12/28(木) 23:42:39 UGlBnwqE
「ぷっ、ハハハ!」
思わず笑ってしまう。よりによって、二人の情報を仕入れた二つ岩マミゾウの名前が出てくるのは、最早ジョークにしかならない。
「お前、マミゾウから借金してるだろ、しかも延滞中。」
「なあ、嬢ちゃん、悪いことは言わねぇ。これ以上したら取り返しが付かないぞ。霧雨家がこんな連中と付き合っていると知られたら、親父さんの名前に傷がつくぞ。親
父さん悲しむぞ。なあ、考え直すんだ。こんな化け物一家と、ブベッ!」
彼方が駄目なら此方というばかりに男の方は説得を続けてくるが。咲夜の足によって中断される。十中八九、レミリアが貶されたことが原因であろう。
「それじゃあ、もう、良いでしょう。」
「いいぜ。」
いい加減うんざりしたのか、咲夜が二人を紅魔館に運んでいくことを提案したので、賛成する。
「助けてくれ〜!!吸血鬼に殺される〜!!」
自分の命がいよいよ危ないと知ったのか、大声を上げる二人に言っておく。
「あのなあ、こんな時間にこんな森の外れに、助けてくれなんて言って来るような奴なんて居る訳ないだろう?」
「うるせえ!お前も人殺しだ!」
「吸血鬼に殺されるなんてわめいた声が聞かれても、向こうに博が付くだけだぜ。残念だったな。」

以上になります。以前書いた物の続きになります。


127 : ○○ :2017/12/30(土) 22:41:50 4noErdhM
>>125
魔理沙のほとんど唯一の弱点が、家を飛び出すぐらいの直情さだけれども
内面はともかく、外面においては激情を抑えて老獪に動けるようになったら
ほとんど無敵じゃないですか

それを成長と受けとるべきか、歪んだと見るべきか……


128 : ○○ :2017/12/31(日) 09:55:47 GlS3qByw
敬語魔理沙いい...


129 : ○○ :2018/01/01(月) 23:53:07 tyvsj146
あけましておめでとうございます
今年は去年よりもっと色んな作品に出会えますように


130 : ○○ :2018/01/02(火) 00:07:55 p7f0cIJw
ああ、◯◯さん、お目覚めね。御加減いかが。どうかしら?この場所は?
…あら、どうして、と言うのね。監禁?いいえ、そんなんじゃあないわ。強いて言うなら、そうね、貴方と私の部屋とでも、言えるかしら。
大体、二人の部屋が有るなんて当たり前の事じゃない?それをわざわざ言うのなんて、どこか変な気がするわ。
そんな関係じゃないのに?いいえ、貴方はそう思っているかも知れないけれど、私にとってはそうじゃない。

暗い、暗い、心の奧底。子供の頃の私は一人で、誰も周りには居なくって、全身を凍るような感情が駆け巡っていて、そしてそれを感じたくなくって、
自分の感情に蓋をしていれば、その内自分の体なのに、どこか感覚が無くなって、自分が幽霊のように、何処か他人の体に取り付いているみたいで。
当然よね、自分で自分を否定しているんだから、自分は要らない物ってことなんだから。

その頃の記憶が、私の体に沸き上がるの。心臓の奧から、体温を奪っていくように、指の先まで絶望が染み込んでいくの。


131 : ○○ :2018/01/02(火) 00:27:36 p7f0cIJw
所詮、瀟洒だの完璧だの言われても、私の中は空っぽ。人間味が無いからそう言われているだけ。私の記憶のなかでは、いつも子供の私は泣いている。

だから、貴方が必要なの。そんな私だから、貴方が欲しいの。心が空っぽでバラバラになりそうで苦しくて、それを貴方なら埋めてくれるから。
だから、貴方を此処に連れてきたの。こんな時便利よね。紅魔館って。誰に遠慮する訳でもなく、自由に招待できるんだから。勿論、私を咎める人なんていない。貴方は堂々と此処に居て良いのよ。

え?駄目よ。そんな事。折角貴方を此処まで連れて来たのに、それじゃ意味が無いじゃない。貴方は此処で一生、私と一緒でないといけないんだから。
貴方と私となら、二人で生きていけるんだから。


132 : ○○ :2018/01/02(火) 00:47:22 p7f0cIJw
…ねえ、どうして私が今、こうやって貴方に言っていると思っているの?貴方今の立場分かってるの?
私がその気になれば、貴方の場所を壊す事だって出来たの。だけれども、敢えて「そう」はしなかったのよ。やろうと思えば出来たのに!

分かってるわ。それぐらいの事…。コレが正しくない事ぐらい、こんなのが本当の解決じゃ無いくらい、分かってるわ…。
でもね、 私はそれでも、貴方が欲しかったの。例えどんな罪をしてでも、貴方が欲しかったの。私の心が死んで、どうせ私が壊れるのなら、好きなことをして、生きようって思えたの。
だから、私は何でもする。貴方のためなら、何でもするから…

だから、どうかお願い、愛して欲しいの…。


133 : ○○ :2018/01/02(火) 00:52:05 p7f0cIJw
以上になります。

昨年は皆様より感想を頂きましたり、管理人様にはまとめサイトの運営でお世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。


134 : ○○ :2018/01/02(火) 01:01:49 QXUcbzvA
戌年だけに悪魔の犬、なんですかね?
去年は沢山の投稿ありがとうございました
今年もよろしくお願いします


135 : ○○ :2018/01/02(火) 23:13:13 VOpTW2Ws

 空気を読めば

 空には高く太陽が昇る昼間にあっても、店内は程よい暗さであった。一階に喫茶店が入るそのビルは、立地の良い都会の建物にありがちでの風景、二階以上には何処か
で名を聞いたことがある会社が入っているという、日常的な環境を作り出している。一時間前は昼食を食べる人で満員であったろう店内は、今ではまばらになっており、
特製のカレーを客に振る舞っていたであろう喫茶店の厨房は、今の時間は珈琲を出すのみになっていた。
 手元の氷水が入ったグラスに付いている水滴を拭い、さも今来たかのように永江衣玖は店員に紅茶を注文する。目の前に女が座ったと同時に、店員が注文の品を持って
来た。
「珈琲になさいますか。」
機制を制すように女に声を掛ける。
「ええ。」
短く声を返す女。二人の間には挨拶は無い。ドカリと音を立てて、さも忙しそうに女は鞄を放り投げる。
「それで、いつ別れてくれるの。」
首を傾けながら衣玖の目を見つめて言う女。ライターの音が鳴り紫煙が辺りに漂った。
「変な事を仰いますね。」
煙が苦手なのか、衣玖は顔を引いて言葉を返す。
「あなたがいるから、彼、遠慮して私と付き合えないのよ。邪魔ってこと。だから別れてよ。」
「何を馬鹿な事を。そんな事を言われる筋合いはありません。」
女は深く息を吸い込み煙を吐き出す。口元が小さくニヤリと歪んだ。
「ハン!そんなに私のお下がりが良い訳?バッカじゃない?」
「あの人を悪く言わないで下さい。」
穏やかな声で、しかし断固として衣玖は反論をする。半分以上燃え残った煙草を灰皿に押しつけ、女は身を乗り出す。
「大体ねえ、私の方が付き合いがズッと長いのよ。あんたみたいな女が彼女面する幕なんて無いの。」
「○○さんは、あなたとの友人関係は、消したい過去だって仰ってました。」


136 : ○○ :2018/01/02(火) 23:13:51 VOpTW2Ws
バッグより煙草を探る手が止まる。思わぬ反撃に固まった女に衣玖の追撃は続く。
「あ゛?なに言ってんの?」
「あなたとはしなかったと、○○さんは言っておられました。私としても…」
女の目をみて衣玖は言葉を続ける。
「○○さんが汚されなくて良かったです。」
勝ち誇ったかのように、まるで女を見下すかのごとく。二人の間に激しい火花が散った。
「クソみたいな根暗女が何言ってんのよ!」
「その女よりも、不倫して奥様にバレて相手から捨てられた女の方が惨めじゃないですかぁ?」
「負け犬は大人しく寄越せよ!」
「彼に女として一番大事なことがあげられない、あなたの方が無様ですよ。」
「テメエ!潰してやるよ!アタシの連れ舐めんなよ!」
激高した女がコップを掴んで水を衣玖に浴びせかける。前髪から水滴を垂らしながらも、衣玖は女の目を見ていた。騒ぎを見た店員が駆け寄り、テーブルの横から二人の間に
割って入ろうとする。女の方はバッグを乱暴に掴み、椅子を蹴飛ばすように喫茶店から去っていった。
「大丈夫ですか。」
店員が衣玖に声を掛け、タオルを手渡す。
「ええ、大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました。」
一転和やかな顔になり、店員にわびる衣玖。
「どなたか呼ばれますか。それとも…。」
警察を、と言おうとした店員を衣玖が遮る。
「いえ、ご心配には及びませんよ。」
「それでも…」
「いえいえ、この後ちょっと用事が有りますので。」
心配する店員を宥めた衣玖は店を後にした。笑顔をずっと貼り付けたままで。


137 : ○○ :2018/01/02(火) 23:14:31 VOpTW2Ws
 女はその夜、自室でスマホを操作していた。昼間のあの女の顔が時折頭を過ぎり、何をしてもムシャクシャを晴らせない。ムカつく女を脅かすために喫茶店ではああ言った
が、本当に実行してやろうと女は思った。昔の悪友に電話を掛ける。色々悪さをしていた馬鹿な奴なので、例えそいつが逮捕されようが良心は痛まない。逆に自分に罪をおっ
被せないかが心配であった。
「ねえ、一人潰して欲しい奴いるんだけれど。」
「えー、おとこぉ?おんなぁ?」
酒でも飲んでいるのか、間延びした声が聞こえる。後から脅すために録音をしながら、会話を続けていく。
「女、ムカつくけど美人で××だから、何してやってもいいよ。」
「やったー!マジやっちゃうよ!マジで!」
「今から顔送るから…ねえ、聞いてんの?」
電話の先が急に静かになり相手の声が返ってこなくなった。酒癖の悪い男が、酔い潰れたのかと思い大声で話しかける。
「おーい!起きてんの!」
「…。」
「起、き、ろ!」
「こんばんは。」
電話の先から昼間に水をぶっかけてやった女の声がした。
「え…?」
「私、空気が読めますので。先回りさせて貰いました。」
「おい、何やったんだよ!何でお前が居るんだよ!」
混乱している女の耳元から、衣玖の声がスピーカーを通して聞こえてくる。
「先にご自分の心配をなさった方が良いですよ。それじゃあ、さようなら。」
「おい!おい!あつっ!」
携帯が持てない位の熱を持つが、自分の手は電気で痺れたように微動だにせずに頭の真横で動かない。薄い機体が一瞬で膨れ上がり、耳から脳全体に爆発音が響き渡り、女は
意識を失った。


138 : ○○ :2018/01/02(火) 23:16:42 VOpTW2Ws
以上になります。

>>134
そう言われて初めて気づきました。
これはきっとこいしちゃんが無意識を操ったせいに違い(以下略)


139 : ○○ :2018/01/03(水) 09:02:14 MeAsEJuc
よく行き遅れのOLが重くなる話を聴くが
衣玖さんにはそのシチュエーションが似合うと思う


140 : ○○ :2018/01/03(水) 23:12:13 h7U.lPlM
>>138
品の無いチンピラに対する同情は一切ないけど、ヤバイのに喧嘩売ってる姿は悲しくなるね
チンピラの自業自得だから見てるだけで済ませるけど


141 : ○○ :2018/01/04(木) 21:42:14 3QAsHW5E
「死んでくれるかしら?○○」
 月を背にして立つ彼女の言葉に、○○は愕然とした。
「おい、ちょっと待て。何の冗談だ?」
「私は本気よ。」
「だから何の「本気よ。」
「・・・・・」


 ○○と夢子の出会いは、数年前に遡る。○○が人里でアリスの人形劇を見ていた
時に見慣れない女性がいることに気づいた。人里では珍しいメイド服、彼女は紅魔
館のメイドか、或いはかつて神社にいたといわれるメイドロボかと推測したが、孝
察するうちに好奇心が膨らみ、彼女に話しかけてみた。無視されるのも覚悟した上
での行動であったが、彼女は柔和な態度で会話をしてくれた。
 話によると、彼女の名は夢子、妹のアリスの様子を見に幻想郷に来たらしく、驚
くことに魔界という世界の生まれであるらしい。これに○○の好奇心は弥増して、
夢子に数々の質問を投げかけた。コミュニケーションを続ける内に夢子の方からも
幻想郷についてのことを質問され、次第にアリスの人形劇の感想やお互いの趣味等
も話した。その日はそこでアリスの人形劇が終わった為お開きになったが、それか
ら二人はよく会う仲となり、いい関係を築いていた。
 そんなある日、○○は夢子に話があると人里近くの平原に呼び出された。


「貴方を殺して魂を回収し、神綺様に魔界人として作り直して頂くの。」
こんなことを言われるとは思ってもいなかった。


142 : ○○ :2018/01/04(木) 22:21:56 3QAsHW5E
 ○○は幻想郷出身の人間である。幻想郷で、人として生きていくのだと、そう信
じていた。
「お断りさせてもらう。大体何の意味があって死ななきゃいけないんだ!?」
 ○○は自分でも驚く大声を出して、漸く恐怖を感じていることを自覚した。
「私は、私は魔界人。そして貴方は人間。いづれは時の流れにもまれて消えてしま
う。それがどうしようもなく怖いの。わかったの!貴方が!○○のことが好きなんだ
って!」
 夢子はいい放つと、剣を鞘から抜き始めた。刃が月光に照らされ、○○の焦燥感
を煽る。
「待て!待てってば!誰か、助けてくれ!俺はまだ死にたくない!」
 ○○は逃げだした。人里まで300メートル、助かると思った。後ろを向いて様子
を探った。誰もいない。
 すぐ側に、誰かの気配を感じた。膝は震えて、足元から崩れ落ちそうで、心臓の
鼓動は速く、大きく頭に響いて。ゆっくり前を向き直すと、そこに夢子がいた。 
 この瞬間をもって、○○の短い人生は無限の時へ没入した。


143 : ○○ :2018/01/04(木) 23:44:48 d8/anXV2
ああ、夢子さん良い…
私も切られて魔界人になりたい


144 : ○○ :2018/01/05(金) 10:16:22 VuUCmeOk
旧作かあ
か細い声で「あたしゃここにいるよ...」という魅魔様とか
創造物以外の相手を求める神綺ママとか思いついた


145 : ○○ :2018/01/08(月) 02:38:46 1jRhKKmQ
83の続き

「昼間にな、三丁目で助六が、親父さん所からのれんわけした店に同伴で行ってみたが。ありゃあダメだ。シャリの握りが固いんだよ」

男は恥じかいちまったよと渋そうにこぼし、吉六四の濃い目の水割りをごくごくと飲み干した。

「あら、いいじゃないのさ。あのこも、まだ二十の若造なのに店開いただけでも、すごいことなんだから」

「あんだよ、そりゃあんたが若い男が好きなだけだろ。ちぇっ、こんだけ通ってるのにちっともゴマなんかすってくれやしない」

「いいだろ、こんな可愛い女の子が汗臭い頑固オヤジと安い金で話したげてるんだから。我慢よ、我慢。私も我慢」

どっとその場に笑いが起こると、ちりんちりんと店の入り口にぶら下がっている呼び鈴がなった。
ドアが開くと、そこにはでっぷりと太り、精気に満ち溢れたような顔付きの浅黒い中年がいた。
その男は、斜め向かいの席に案内されると私の顔を見てボソボソとそばにいた黒子に何かを告げた。

「マジマリさんマジマリさん、お願いします」と席を退出する合図を聞いて、指名回しの指示を聞く前にその男の隣に座った。

男は、少し私のことを吟味するように足元から私の目線までねめつけると、

「どうも、霧雨家のご令嬢様。おっと、失礼、今はマジカル☆マリサさんでしたな。
あなたがこの店に入ると聞いたもんで、ついつい顔を出させてもらいました。」

演技じみた男の口調は、以前と全く変わらずにイラつかせるものであった。

「今は“本社”の編集長代行でしたね。△△さん。紅魔館のひよっこ執事から、大出世じゃないですか」

「いやぁ、お恥ずかしい。これも全て家内のコネで入ったようなもんですから。あの魔理沙さんから敬語を使われる日なんて来るとは思ってもみませんでした」

確かにお互い変わったもんだ。目の前にいる男は、確かにいっぱしの妖怪程度の覇気
と自信が滲み出ていた。
昔は、ひょろひょろの可愛らしい青年だった頃を思い出すと、幾つかは修羅場と経験はくぐってきたようである。

「○○の件なら、あなたもお分かりになってるでしょう。昔の貴方ならともかくも今は、ただの水商売の女だ。紅魔と“山”の連中を怒らせるのは得じゃない」

「あら、何のことかしら。○○とはもう別れたザンス」

男は長いため息をつくと、自分で水割りを作り始めた。

「ここの近くの柳瀬川で、女が一人死んだんだよ。水没自殺だとさ」

濃い目の水割りを少し口につけて、少し渋い顔を見せ、黒子を読んで新しいウイスキーとグラスを持って来させた。

「魔理沙さん、してやられたよ。あんたずっと女にすり変わってたんだろ?」


146 : ○○ :2018/01/08(月) 03:19:26 1jRhKKmQ
ミスミス
92の続き


147 : ○○ :2018/01/08(月) 22:18:09 it2l8Gj2
新ロダに明らかに場違いそうなSSがあるんですが
なんかタイトルからして地雷っぽくて開きたくないな


148 : ○○ :2018/01/09(火) 07:45:03 Ef7fUiTg
>>147
どう考えてもウイルスの可能性が高いからどうにか削除したいものだけど……
ちなみにちょっと検査したらすべてウイルスって出た


149 : ○○ :2018/01/09(火) 14:13:13 YqBYnMZU
なんか最近、ネット全体でまたスパムが増えたような

幻想郷の○○が、何らかの勢力や力のある存在に好かれたら
それに気付いた人は逃げるか、勢力や力のある存在に生け贄として○○を捧げる方向に回りそうだけど
外の世界で、○○が蓮メリや夢美教授やちゆりに好かれたら
回りは逃げも媚びもせずに、嫉妬からの嫌がらせに回りそう
そうなっちゃうと、事態がよりややこしくて。酷くて悲劇的になりそう


150 : ○○ :2018/01/09(火) 21:36:31 M0tiSuPo
新ロダ管理人です
不正なファイルと見られる下記2ファイルを削除致しました

・一番新しい、最強のAVドラマは10万円もかかりました!.zip
・20171230fsdf23rewrfdsfavfdgsfad332a.avi.zip

解凍した中身は下記画像になります。
exeファイルとscrファイル(偽造可能性)

ttps://i.imgur.com/GCDES3K.png

対応遅れて申し訳ねえ

私の中の幻想少女たちは
「自分と彼には甘く、他人に厳しく」のスタンスがデフォルトだから
今回のように自分の大事な人にかすり傷1つつけようものならブチギレそう
それが表立ってキレるのか、裏で手を回す方式なのか、は別として。


151 : ○○ :2018/01/09(火) 21:37:34 FBl0J.Zo
おっつおっつ
ありがとうございます!


152 : ○○ :2018/01/09(火) 22:50:51 JAjUyVLw
サンクスサンクス
しかし、忘れた頃にこういうこと起きるねぇ…


153 : ○○ :2018/01/09(火) 23:39:12 eh.0tl3Q
ありがとうございます!
ロダ使いたいと思ってたから凄く助かる


154 : ○○ :2018/01/10(水) 00:43:12 0JNJeBDM
ロダ管理人さんに対応して頂いたところで投下

hypnotherapist K K

 こんばんは。ええ、そうなの。暫くお姉ちゃんは用事でいないから、私が代わりにお話するね。大丈夫、こう見えても、私もさとり
妖怪だから無意識には自信があるんだ。

 ふうん、そうなんだ。大変だったね。たしかにお姉さんの心に糸が絡まっているね。心にギュッと絡みついていて、だからお姉さん
も恋人の人に糸を掛けて、思い通りに操ろうとしてしまうんだね。その生き方でずっと過ごしてきたんだもんね。それしか知らなかっ
たんだもんね。大変だったね、辛かったよね。うん、そうだね、苦しいよね。こういうときに、外の世界の賢い人はお話を患者の人に
聞かせていたんだって。お医者さんがお話をすると、不思議に患者の人の心に届いて、病気が良くなってしまうんだって。だから私も
お医者さんとおんなじように、お姉さんのためにお話をするから、目をつぶってゆっくり聞いていてね。

 むかーし、むかし、あるところに、一人のお花屋さんがいました。そのお花屋さんはひまわりを育てていたんだけれども、外で
育てていたんだ。外は風が強くて雨も当たるから、お花屋さんは可哀想に思って、ひまわりにこう言ったんだ。
「ひまわりさん。あなたは雨にうたれて、風に吹かれて、もし台風でも来たら倒れてしまうよ。ようし、ガラスの壁を作ってあげよ
るよ。そうすれば寒くないし、風も防げるよね。」
するとひまわりはこう言ったんだ。
「お花屋さん。ありがとう。でも、私はずっと外で生きていたから、ガラスは要らないですよ。」
でもお花屋さんは、
「いやいや、そんなことは言わないでくれ。私はあなたのことが心配なのだから。」
と言って、そのひまわりをガラスで覆ったんだ。

 ところが、しばらくすると、ひまわりの具合が悪そうなの。お花屋さんは心配になって、ひまわりに聞いてみたんだ。
「ひまわりさん、どうしてそんなに具合が悪そうなんですか?」
するとひまわりは、
「お花屋さん、実は雨が当たらなくって、私は喉が渇きました。どうかガラスを取ってくれませんか。」
って言ったんだ。それを聞いたお花屋さんは、
「おお、そうか、じゃあ、雨の代わりに私が毎日水をあげよう。」
と言って、毎日じょうろで水をあげたんだ。
しばらくすると、また、ひまわりの具合が悪そうなの。お花屋さんは心配になって、ひまわりに聞いたんだ。
「ひまわりさん、どうしてそんなに具合が悪そうなんですか?」


155 : ○○ :2018/01/10(水) 00:47:58 0JNJeBDM
するとひまわりは、
「お花屋さん、実は風が当たらなくって、私は息が詰まりそうです。どうかガラスを取ってくれませんか。」
って言ったんだ。それを聞いたお花屋さんはやっぱり、
「おお、そうか、じゃあ、風の代わりに私の風車で、いつも風を送ってあげよう。」
って言って、風車をグルグル回して風を送ったんだ。

しばらくすると、また、ひまわりの具合が悪そうなの。お花屋さんはやっぱり心配になって、ひまわりに聞いたんだ。
「ひまわりさん、どうしてそんなに具合が悪そうなんですか?」
するとひまわりは、
「お花屋さん、実はガラスが私の体に当たるんです。どうかガラスを取ってくれませんか。」
って言ったんだ。それを聞いたお花屋さんは、ガラスの壁が実はひまわりを苦しめていたことを知って、
「ごめんなさい、ひまわりさん。私はあなたのためにガラスの壁を作ったんだけれども、それがあなたを苦しめてしまった、ごめ
んなさい。」
って言ったんだ。そしてガラスの壁をひまわりから取り外したんだ。すると、ひまわりは
「ああ、ありがとう、お花屋さん。そとの空気がおいしいです。」
って言って、すっかり元気になったんだって。
めでたし、めでたし…どう?お姉さん、よく眠れたかな。じゃあ、これで今日の話は終わりだよ。このひまわりの花を持って帰って
ね。お部屋に飾っておけば、きっと良い事があるはずだよ。それじゃあ、お大事にね…。

以上になります。
新しい作風?作品に挑戦。甘い甘い世界を作れたら、良いなあ、と。

>>149
周囲は敵、恋人はヤンデレ…軽く詰んでいるような。


156 : ○○ :2018/01/10(水) 16:22:38 lImdpuww
ちゃんと話し合いができるなら束縛もいいよね
束縛する方が異常性に気がついていたり、相手への思い遣りを忘れないでいて、それでもどうしようもなくて束縛しちゃうような展開に萌える


157 : ○○ :2018/01/11(木) 11:03:54 98WGN3DM
受け入れる前が大変だけど、ヤンデレちゃんを受け入れたら献身的で愛情たっぷりで絶対に浮気しない最強の嫁になるんだもんな
でも幻想郷の場合種族の違いがあったり力の違いがあったりで余計に受け入れる前のトラブルが


158 : ○○ :2018/01/12(金) 08:09:57 2rLU30fs
最大のネックは寿命や老いの差だろうか、
ふと思ったのは阿求、ここ数年間(紅魔からはじめ)で幻想郷にこれだけ人妖神その他もろもろ増えたわけで転生とかしてる暇無くない?
むしろ体をめっちゃめちゃすこぶる健康長生きにしてもらった方が…相方も目出度く人間をやめたっぽいし
まぁヤンデレには関係薄いか


159 : ○○ :2018/01/12(金) 15:41:30 nSl4Mxas
鈴仙は後ろから忍び寄って、長命になれる(人間はやめることになる)注射をブスッとやりそう
てゐと永琳はもうちょい上手くやって、食事や風邪薬になにか仕込みそう
輝夜は正々堂々と、薬を。下手すりゃ自分の肝を目の前に置いて、飲んでくださいと頭を下げそう


160 : ○○ :2018/01/12(金) 19:32:09 vWz8fUYg
人じゃなくなると元々の居場所も逐われそうだ
妹紅のように一つの場所に定住できなくなると思う
そうなると自分を変えてしまった相手に縋るしかなくて、その優しさに囚われてしまうんだろうなあ


161 : ○○ :2018/01/13(土) 23:56:49 um6BT/Zk
蓮子・メリー「私達がここで叫んだら、○○は社会的に終わるわよ」
しかし厄介なことに、○○が守るべき一線は目の前を去らない、これ以外には存在しておらず
それさえ守れば、彼女たちの愛は無限であった


162 : ○○ :2018/01/16(火) 00:20:00 kCWvdF/2
まとめwikiの【重要なお知らせ】に第14回 東方Project 人気投票の告知をしておきました
まだ投票して無い方は早くやらないとバッドエンドを迎えるかもしれません
もちろん私は一番大好きな方を一押しをして複数の方にも投票しました

…えっ?なんで私以外にも投票してるかって?
……待て!話せば分かる!だから落ち着いてそ(ry
---
--
-
血が付着しているメモの記録はここで途絶えている


163 : ○○ :2018/01/16(火) 22:30:26 8FBIfRGo
>>162
更新いつもありがとうございます。清き一票(?)を投じなければ・・・。

>>158のネタを使用して一つ


164 : ○○ :2018/01/16(火) 22:31:10 8FBIfRGo
 死の間際

 寒い冬の日の朝、日は昇り数日前に降り積もった雪をまぶしく照らしていた。大分長い間臥せっていた阿求であったが、近頃具合
は随分悪くなり、その日も○○は妻の元に居た。仕事を使用人に任せ付きっきりで阿求の枕元にいる○○。時折阿求が○○に白湯を
せがむ以外には、二人の間には殆ど言葉は無かった。しかし女中が薬缶を持って来たときなど、○○の視線が不意に阿求の顔から外
れた折りには布団の中で○○の手を掴む力が強くなり、○○はその度に阿求の方に顔を向けて安心させていた。
「あなた。」
弱々しい阿求の声がする。
「なんだい。」
○○が答える。布団の中に入れた手が一層引っ張られた。
「もっと近くに寄って下さい。」
「ああ。」
○○は体を横にする。妻と同じ目線になった。
「ねえ、あなた。」
「なんだい、阿求。」
「私、貴方様に謝らないといけないことがあります。」
「そうか。」
阿求が息を飲み込む。目がきゅっと細くなった。
「実は・・・。」
言いにくそうにする阿求。○○はジッと彼女を待った。
「すみません。言いにくくて。」
○○は言葉を濁す阿求の肩に手を掛けて、自分の体を一層近づけた。

 手入れが行き届いた襖が静かに開かれる。長年稗田家に仕えている使用人が何も持たずに阿求の元に正座し、背中を曲げて阿求の
枕元に顔を近づけた。使用人が小声で阿求に話しかける。○○にとっては使用人が夫の自分をのけ者にしているように思えて、何だ
か少し腹が立ったので、わざと顔をそのままにしておいた。
「阿求様、御客人が来られました。」
「どなたですか。」
阿求が苦しそうに尋ねる。○○の方を見て少し逡巡した使用人の顔を、○○は気にも止めていないかのようにして見返した。使用人
が阿求の耳元で手を立てて小声で話す。
「***小町様が来られ***」
「頃合いを見て、とお伝えしておいて下さい。」
最近だるそうにしていた阿求が、久し振りにはっきりした声を出した。
「どれ、客ならば私が応対しよう。」
○○が体を起こす。振り解かれた阿求の手が、○○を求めて布団の外へ釣られて出てきた。
「いえ、旦那様が来られる程ではございません。」
「いや、そういう訳にもいくまい。」
○○は引き戻そうとする使用人に答える。
「奥様が可哀想でございます。どうかご一緒に。」
「嫌な予感がする。」
更に引き留めようとする使用人に、○○はきっぱりと返事をした。
「あなた、あなた!ゴホッ、ゴホッ。」
「すまない、直ぐに戻る。」
咳き込む阿求を使用人や女中が介抱している隙に、廊下をドンドン進む○○。直感に従って応接室の襖を開け放つと、そこには小野
塚小町が居た。
「おや、旦那さん、こんにちは。」
軽く手を上げて挨拶をする小町に、○○は渋い顔で尋ねる。
「どういうご用件で来られたのかな。」
「おやおや、どういうとは中々な。」
小町の口が僅かに歪んだ。
「ウチらの様な死神が来る用事なんぞ、決まっているじゃないですか。」


165 : ○○ :2018/01/16(火) 22:32:36 8FBIfRGo
「お引き取り願おう。」
はっきりとした声で小町に申し渡す○○。しかし小町の方は何処吹く風とばかりに軽く体を躱す。
「いや、旦那。此方も「はいそうですか。」と言って帰るのでは、四季様に怒られちゃいますからねぇ。ここは一つ、無理にでも商
売をさせて頂きますよ。」
「阿求はまだ死なない。」
「旦那が阿求さんを愛してらっしゃるのはよく分かりますがね・・・。」
小町は鎌をクルリと回す。
「しかし、「これ」に関しちゃあ、こちらはお医者さん以上の玄人ですからね。」
「お前を追い返せば阿求の寿命も延びるだろう。」
「ふうむ、成程、成程。」
小町を睨みつける○○を見て、小町は一人合点がいったようであった。鎌の先で廊下の奥の方を差す。
「しかし、奥様を放っておいていいんですかい?」
「あなた!あなた!」
奥から聞こえる阿求の叫び声に、○○は踵を返した。

○○が部屋に戻ると、阿求は荒い息をしていた。大声を出した無理がたたったのであろう、○○が先程見たときよりも、阿求の生気
が幾分か抜けている気がした。
「大丈夫か、阿求。」
「ええ、大丈夫です、あなた。」
阿求が小さな声で答える。○○が握った手はぞっとする程に冷えていた。
「二人だけにして下さい。」
阿求が部屋に居る使用人と女中に言う。すると二人は一言も話さずに部屋を出ていった。○○と二人だけになった阿求は、○○にせ
がむ。
「あなた、もっと近くに来て下さい。」
「ああ、いいよ。」
「もっと、布団の中で。」
布団の中で密着する○○に、阿求は更に注文をつける。
「お願いします、抱きしめて下さい。」
「分かった。」
○○は横向きで寝ている阿求の腰の下に腕を入れる。腕には殆ど重みを感じなかった。
「私を見ていて下さい。」
「ああ。」
阿求の手が○○の頬に伸びる。○○の視界の端で、チラリと影が動いた気がした。
「あなた、私を見て下さい。」
「いや、ちょっと待ってくれ。向こうで影が・・・。」
「駄目です。」
後ろを振り向こうとした○○の首を阿求が押さえる。
「死ぬときに、他の女なんて見ないで下さい。」
死ぬ間際とは思えない程の力で、阿求は○○を押さえる。
「おい、ちょっと落ち着・・・。」
○○の言葉が途切れた。

以上になります。その内に続編を作りたい・・・


166 : ○○ :2018/01/17(水) 03:08:17 eUSMtcL6
>>165
限りなく心中に近い事故なのかな
何となく、映姫さまと阿求の間で話は出来てそう


167 : ○○ :2018/01/17(水) 12:58:03 qcUYDaSA
無理心中しようとしたけど、どうしても殺せなかったっていう展開もいいよね
蓬莱人なら自分が死ねないルートもあるな…


168 : ○○ :2018/01/18(木) 22:08:05 bvXjwR1o
死の間際2

 「罪人、○○、面を上げよ。」
辺りに響く声によって○○の意識が暗闇から引き上げられる。状況が掴めぬままに周囲を見渡す○○。暗闇の中に灯りが灯される。
一つ、又一つと灯りが闇を照らし、黒を赤く染めていく。○○の周囲一面が照らされると、そこから鬼達が現れた。
 ○○の周囲を囲む鬼々。手には棍棒、刺股、槍を持ち、牙をむき出しにして○○を睨み付けている。鬼に囲まれて訳も分からず
周りに目線をやる○○は、前から聞こえてくる声によって引き戻された。
「これより、裁きを始める。」
大きな声ではない。むしろ、周囲にいる鬼の方が大きな顎と牙をしているという点からすれば、よっぽど響く声を出せるであろう。
しかし、地面から這うような、まさに地獄の底から罪人の魂を捕らえるような力、それがその声にはあった。○○の前に設えられ
ている裁判長の椅子に座った四季映姫は、黒色のハンマーでガツンと一度机を叩き、地獄の裁判の開始を告げた。
「開廷。」
 鬼の中でも一際大きくて強そうな奴が、四季の元に巻紙を恭しく差し出す。巻かれた紙を破れんばかりに広げた四季は、○○に
対して判決文を読み上げていく。
「罪人○○。お前は生前積極的に悪事を成さず、善行に背かないようにした。しかし、お前は自分の伴侶の苦悩を知らず、独りお
前の妻にそれを背負わせた。よって、地獄での無期の懲役に科す。」
いきなりの重罪の判決に驚く○○。聖白蓮のように、取り立てて聖人と言われる程の善行を施してきた自覚は無けれど、しかしそ
れ程までに断罪されるような犯罪を、まさか自分が犯してきたとは思えない。地獄の裁判は浄瑠璃の鏡によって、生前に犯した全
ての罪が暴かれるが故に、恐ろしい場所であると聞いてはいたものの、その裁きは全て正当なものであると○○は思っていた。そ
れがこれ程までに一方的に、無茶苦茶に断罪されるとは○○にとっては驚天動地であった。驚きのまま動けない○○をよそに、四
季映姫はハンマーを鳴らす。
「以上、これにて裁きを終える。閉廷。」
二度目のハンマーの音と共に周囲の鬼は退出していく。そこには○○と四季だけが取り残された。
「…もう良いでしょう。」
そう言った四季がハンマーを机に置く。途端に張り詰めていた空気が抜けるような感覚を○○は感じた。知らぬ間に裁きの厳粛な
プレッシャーに飲みこまれてしまっていた○○は、ようやく言葉を発することができた。
「ここは…、地獄ですか?」
「如何にも、○○よ、あなたは死んだのです。」
「やはりそうですか…。阿求は、阿求はどうなったのですか!」
自分が地獄にいることを確認する○○。当然に妻のことが気に掛かった。
「阿求は…。それよりも先に、何故あなたがここに居るかを説明した方が良いでしょう。」
断言を旨とす彼女としては珍しく言いよどむ。そして四季は話しを始めた。


169 : ○○ :2018/01/18(木) 22:08:41 bvXjwR1o
 さて、○○、どうしてあなたは死んだのか分かりますか。成程、心中ですか。阿求が自分の死が近いことを悟って、夫も一緒に
道連れにしようとしたと。ふむ、当たらずとも遠からずと言ったところでしょうか。確かに阿求は自分の死が近いことを知ってい
した。しかしあなたは、あくまでも、ええあくまでも殺されたのですよ。それも最愛の稗田阿求の願いによってです。…いえ、例
え心中が無理心中になってしまったとしても、それは本質的な違いはないのです。もっと、もっと違う別のことによって、あなた
は死んだ、そう、「死ななければならなかった」のですよ。
 まずは稗田家について話しをしましょうか。良く知っている?ふふっ、のろけは美しいかも知れませんが、それは少々後に取っ
て置くべきでしょう。歴代の阿礼乙女には裏の仕事がありました。それは外来人を含む人里の人間と、妖怪の間の仲立ちをするこ
とです。そしてそれは別の意味を孕んでいます。阿求が頷かなければ、人里の人間は妖怪の側に行けない、妖怪になれないという
ものです。妖怪が人間の恐れを食して生きて行くためには、人間の数が必要です。それを管理し破った者に制裁を加えるのは博麗
の巫女の仕事であり、阿求は人里の村人が妖怪と結ばれることを認めていたのですよ。外来の言葉で言えば結婚斡旋所とでも仲人
とでも言えば良いのかも知れません。たかが、と思うかも知れませんが、それは強い権力です。あまりにも強すぎるが為に、敢え
て一番力の無い人里に与えられているという面もあるのです。

 例えば誰か紅魔でも竹林でも、或いは霊廟、果ては山の鬼でさえ、人間を迎え入れたければ、事前に阿求に話しを通さなければ
いけません。物理的には天狗が人を浚うことも可能ですが、それは後々で破滅的な結末をもたらします。それ以後の阿求や次代の
阿礼の子が、そいつらとの全ての話しを蹴ってしまえば大きな損害になりますし、他の大きな勢力を動かして制裁を加えることも
できます。そしていみじくも潰したい勢力の中にいる、血の気が多いはみ出し者に人間を与えれば、次第に数が増えたそっちの方
が主流となって、クーデターを起こすことすら可能なのです。
 それは短い時を生きる人間のあなたには信じられないことでしょうが、日の元に新しきことはなしと言うように、実際に起きた
ことなのですよ。血が流れて、流れて、流れ尽くして。そうしてようやく不満足ながらも、妥協できる仕組みとして歴代の阿礼の
子にその仕組みが託されているのです。勿論、阿求もよくやっていましたよ。一年前にも阿求が天狗と外来人の男との結婚式に出
席していたでしょう?人外の並み居る連中の要求を相手に、適当な人間を選別して結婚させていくことによって、ようやく妖怪と
人間のバランスを取ることができていたのです。それだけに強い阿礼の子ですから、当然短命になる運命なのです。もしも長寿な
らば、阿求がどこかに肩入れしてしまえばそちらの勢力だけが圧倒的に強くなってしまいます。そしてそうなれば、他の勢力は
それを看過できないでしょうし、そうなる前に先手を打って潰しに掛かるかもしれません。ならば気の長い妖怪ならば、我慢でき
るであろう数十年だけ当代を勤め、その後は一旦リセットをしてしまえば、長い目で見たバランスは崩れにくいでしょう。回復の
目途が立っているからこそ、阿求はそれ程神経を使って中立を維持しなくても良くなるのです。


170 : ○○ :2018/01/18(木) 22:09:55 bvXjwR1o
 ならばこそ、阿求は短命であり、歴代の阿礼の子は転生の儀を通して、血の繋がらない次代阿求に一部の記憶だけを引き継いで
いるのです。もしも血が繋がっていれば、それに引きずられてしまいますからね。そして、その阿求が死んだ後に伴侶が残ってい
れば…。○○、あなたにはもうどうなるか分かるでしょう。あなたを巡って他の妖怪が籠絡合戦をするでしょうし、それは争いの
種を引き起こすことでしょう。

 だから、あなたは阿求によって殺されたのですよ。

さて○○。あなたは無期懲役です。この地獄に存在する楽園で、永久に最愛の人に尽くすことがあなたにできる唯一の善行なのです。


 そう言って四季は話しを終えた。いつの間にか目の前に出現していた戸を○○は開ける。明るく日が差し花が咲き誇るその場所
は、地獄ではなく天国といった方が正しいように○○には思えた。○○は目の前にいる阿求に声を掛ける。
「阿求。」
「はい、あなた。」
走ってきた阿求が○○に抱きつく。軽いと思っていたが阿求が存外勢いがついていたようで、○○は堪えきれず花の上に倒れ込む。
「ああ、あなた、これで二人ずっと一緒です。他の女なんかに渡さない、絶対にぃ、ぜったいにぃ…」
堪えきれずに零れる大涙の粒が、○○の顔に次々と落ちてくる。○○は長く下がる髪に手を入れて阿求を抱きしめた。

以上になります。

>>166
鋭い…


171 : ○○ :2018/01/19(金) 12:35:52 8Lx.Abwg
地獄とは一体…


172 : ○○ :2018/01/19(金) 15:28:19 Hnq2Hky.
ノブレス・オブリージュに囚われて(142)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=132
新年が二十日ほど経ちましたけれども。あけましておめでとうございます
物語的には、佳境なのですが。書けば書くほどに、表現しておきたい場面が増える

>>170
運命論と言うのはあまり信じていませんが、阿礼乙女が持つ大きな役目と業を考えれば
阿求が○○を好いた時点で、○○が阿求を受け入れた時に完全な形で
この結末は決定づけられたのかもしれませんね


173 : ○○ :2018/01/21(日) 00:37:37 ydgxiSSA
 ところで、wikiのページの下のほうにある広告みたいなやつ、あの「powered by google」
と左上に掛かれているあれ。横に三つ並んでいる内の真ん中が、荒らされた名残なのか、恒
心教のあの画像になっていて、見るたびに荒らされたあの嫌な思い出がよみがえるのですが、
どうにかなりませんか?


174 : ○○ :2018/01/21(日) 10:31:23 FMl45Zqw
まとめwiki管理人です
Adblockを入れていたせいで全く気づきませんでした

アップロードファイルをもつページ一覧で検索した結果
レミリアのページでは特に問題はなかったです

そもそも非ログインユーザーのアップロードは禁止してますから
勝手にアップロードするのはできないんですが…

原因が分からないので調べてみます


175 : ○○ :2018/01/21(日) 11:21:14 CAcXq.hA
管理人さん乙です。
スマホのChromeからは見えてましたね。
ただ、言われるまで気がつかなかった…最近できたのか、それともずっとあったのか…


176 : ○○ :2018/01/21(日) 11:42:46 FMl45Zqw
一応報告します

広告に関しては

まとめwikiの「右メニュー」にある総アクセス数の広告
「東方茨歌仙」のアマゾンに飛ぶリンクしか弄られてませんでした
他の広告は@wikiが勝手に表示しているものです

広告の欄でレミリアと表示されているアレをよく見ると広告ではないみたいです
「リンクのアドレスをコピー」で見るとttps://www26.atwiki.jp/toho_yandere/pages/74.htmlとなり
当wikiのレミリアのページにいくので
>>173さんの仰るとおりサーバーに残っていた?過去のアレが表示されたと思われます
完全にリセットされたわけじゃなかったのね…

とりあえず、まとめwikiの【重要なお知らせ】に注意書きを載せておきました

まあ、@Wikiサポート様に問い合わせれば早ければ明日にはなんとか対応してくれるでしょう
なにせ>アットウィキは各ページに広告を表示することで無料で提供しております
で成り立っているんですから


177 : ○○ :2018/01/21(日) 12:10:09 FMl45Zqw
最初はIEやChromeに表示されていたので
どちらかというとサジェスト汚染?を疑ってました

試しにGoogleで「東方ヤンデレwiki」を画像検索したらトップでアレが表示されました
よりにもよって東方アンチwikiの中でも質が悪いwikiが出てくるのか…

サジェスト汚染ってレベルじゃないな…

それと関連項目に レミリア 緋想 @wikiのトップページが出てくるんですが↓
ttps://www31.atwiki.jp/hi_remilia/
東方ヤンデレwikiであった荒らしが残っているので
これに関しては、@Wikiサポート様に問い合わせておきます

本当はそこの管理人様に問い合わせたいんですが2017年2月21日から放置しているのをみると
あまり期待できそうに無いので…


178 : ○○ :2018/01/22(月) 09:25:43 /.sGKrPw
管理人さんご対応ありがとうございます。
wikiが早期に対応してくれれば良いですね。


179 : ○○ :2018/01/22(月) 21:23:17 pZXqlQwM
>>177
いつもお疲れ様です。ご対応ありがとうございます。

次より投下します


180 : ○○ :2018/01/22(月) 21:23:58 pZXqlQwM
 hypnotherapist K K 2

こんにちは、今日は地上ではとっても雪が降っていたね。こんなに雪が降るような日は、静かにお話をするのに丁度良い日だね。
どうかな、温かい紅茶を飲みながら、ちょっとお話してみない?
 ふーん。そうなんだ。お姉さんが何でもあれこれをして上げているのに、その男の人は何にもしてくれないんだね。そうだよね、
いくらお姉さんが世話好きだといっても、それじゃあ疲れてしまって上手くいかないよね。折角楽しいはずの天界で暮らしていても
お姉さんが苦しいのなら、天国の意味ないもんね。そうだね…お姉さんのように駄目な男の人を捕まえる人って「ダメンズウオー
カー」なんて外界では言ったりするらしいけど、今日はアリさんのお話をするね。だから目をつぶってゆっくり聞いていてね…。

 むかーし、むかし、あるところに、ありさんが二人いたんだって。一人のありさんは働きもので、もうひとりのありさんは怠け
者だったんだ。働き者のありさんは、いつもせっせと餌を集めて、掃除をして、料理を作っていたんだけれど、もうひとりのあり
さんは怠け者でいつも寝てばかりだから、何にもしなかったんだ。だから、働き者のありさんが、いつももうひとりのありさんの
分まで、いつも色々してあげていたんだ。
 そうしていたらある日、働き者のありさんが風邪を引いてしまたんだ。それでもそのありさんは頑張り屋さんだったから、餌を
集めて、料理をしたんだけれども、どうしても掃除ができなかったんだ。そして怠け者のありさんに言ったんだ。
「怠け者のありさん、ごめんなさい。今日は私は風邪で掃除ができなかったんだ。」
すると怠け者のありさんはこう言ったんだ。
「ああ、それなら、別に一日しなくっても大丈夫だよ。」
それを聞いたありさんは、その日は掃除をせずに休んだんだって。

 またある日に働き者のありさんが怪我をしてしまったんだって。それでもそのありさんは真面目だったから、餌を集めたんだけ
れども、どうしても掃除と料理ができなかったんだ。そして怠け者のありさんに、ドキドキしながら言ったんだ。
「怠け者のありさん、ごめんなさい。今日は私は怪我をしてしまって、料理と掃除ができなかったんだ。」
すると怠け者のありさんは何とも無いように、こう言ったんだ。
「ああ、それなら、僕がするよ。」


181 : ○○ :2018/01/22(月) 21:25:55 pZXqlQwM
それを聞いたありさんは、ホッとしてその日は料理と掃除をせずに休んだんだ。
 またある日に、働き者のありさんが、今度は体がしんどくなってしまったんだって。いつも一生懸命なありさんは、どうにかし
て餌を集めて、料理をして、掃除をしようとしたんだけれど、どうしても体が動かなくなってしまったんだって。そして働き者の
ありさんは、自分が何もできなくなったから、自分が役立たずと思われるんじゃないかと思って、怠け者のありさんに言うのが怖
くなってしまったんだ。だけれども勇気を奮って、おそるおそる言ったんだ。
「怠け者のありさん、ごめんなさい。私はしんどくなってしまって、何もできなくなったんだ。」
すると怠け者のありさんは、笑顔でこう言ったんだ。
「ああ、良いよ。いつも働き者のありさんには色々して貰っていたからね。」
そう言って、餌を集めて、料理をして、掃除をしてくれていたんだ。そしてずっと、動けなくなった働き者のありさんの代わりに、
いつも色々してくれたから、その内働きもののありさんは、怠け者のありさんと言われるようになって、怠け者のありさんは働き
もののありさんと、言われるようになったんだって。

 どう、ぐっすり眠れてリラックスできたかな?もしお姉さんが今度苦しくなったら、「怠け者のありさん」って心の中で唱えて
みてね。きっと勇気が出せると思うよ。それじゃあ、お大事にね…。

以上になります。

ヤンデレを考えれば考える程に、その内にこんな所まで辿りついてしまったような


182 : ○○ :2018/01/22(月) 21:46:14 pZXqlQwM
>>172
いつもドキドキと読ませて頂いています。
arcadiaに移動してから数えても4年となりまして、いよいよ終劇に向けて楽しみに
しております。


183 : ○○ :2018/01/22(月) 23:49:15 ksMQoP8I
【報告】

解決になってないな
atwiki.jpのリンクを表示させなきゃ済む話では?


>@support
>1月22日 15:21 JST

>@Wikiサポートです。
(中略)
>ご指摘の広告のサムネイル画像につきましては
>ご利用のWikiでのページ内に画像を設置いただくことで
>サムネイル画像を変更可能でございますので、
>お手数をおかけいたしますが、ページ内に画像の設置対応をお願いします。

(中略)

>基本的にはページ内に画像を設置した場合、1週間〜数週間程度で
>広告サムネイル画像の表示が切り替わるかと存じますので、
>画像設置後しばらくお待ちいただけますと幸いです。


何でSSまとめwikiで画像を設置できると思ったのか
1時間ほど問い詰めたい


184 : ○○ :2018/01/22(月) 23:57:25 ksMQoP8I
>また、本件につきましては
>以前より、広告のサムネイル画像が管理者の意図しない画像となることを
>弊社内でも確認いたしております。
>そのため、広告会社と確認・調整し、ページ内に画像がある場合は
>そちらを優先的に利用するようシステム調整をいたしております。


明らかに違うですけど
ttps://i.imgur.com/R8JspHq.png

まあ、サムネイル画像になる物がなかったのは分かる


>以前より〜優先的に利用するようシステム調整を
分かっていたならシステムを停止した方が良かったのでは?

明日詳しく問い合わせよ…


185 : ○○ :2018/01/25(木) 06:41:49 vxZGgTM.
>>183-184の続き
AAの画像でも貼っておきますかね…

あとスレ違いの内容なので
今後は雑談スレに書き込みます


186 : ○○ :2018/01/25(木) 13:24:36 PsZgfwZI
管理人さん乙です!


187 : ○○ :2018/01/25(木) 23:02:19 .XG9C9vU
>>185
対応お疲れ様です。 やはり、こういう時に管理人さんに対応して頂けるのはありがたいです。

hypnotherapist k k 3

こんばんは、今日は雪が沢山降ったんだね。寺小屋も流石に今日は休校かしら。あら、そうなの。そんな日でも先生はお休みじゃないのね。
そうなんだ…。恋人の人との間にあった色々な事が忘れられないんだね。普通の人は忘れてしまえるような事でも、あなたは忘れることがで
きない。それってとっても辛いもんね、いつまでも記憶の欠片が心に住み着いて、ふとしたときに湧き上がってきたそれがあなたを苦しめる。
忘れたくても、それを忘れることができないのは、あなたの性格かしら、それとも能力のせいかしら。ではそんな先生のためにカウンセリン
グを行います。ゆっくりと目をつぶって聞いていてね、とっておきの「催眠術 「オハナシ」」で無意識に語りかけるから…。


---------------------------------------------------------------

 あなたは今、海の中にいます。ゆったりとした海の中、ゆらゆらと水の中に漂って…

---------------------------------------------------------------

 あなたは海の底に着きました。そこには石があります。大きな黒い、固い石。あなたはその石に触れます…

---------------------------------------------------------------

 今あなたの目の前には小さな石があります。その石は綺麗な宝石です。その綺麗な宝石を手に取りましょう。あなたが持っていた黒い石
は綺麗な宝石に変わりました。海の中で波に洗われて、中が透き通った宝石になりました。その石を水の中で光にかざしましょう。太陽の
光に照らされて、その宝石はキラキラと輝いています。あなたはこれから目が覚めます。私が数を三つ数えるとスッキリと目が覚めます。
 
 一、二、三、さあ、
「あなたは完全に催眠から目が覚めました。」


 どうかしら、頭はすっきりとしたかな?そう、それなら大丈夫だよ。あなたの今まで心に溜まっていた黒い物は、綺麗に洗い流されたからね。
それじゃあ、この小さな石を持っていってね。この石をお守りのように持っていれば、あなたの心も綺麗になるからね。それじゃあ、お大事にね…。

以上になります。


188 : ○○ :2018/01/29(月) 07:43:15 TkCpTa7.
レミリアのカップとかを、メイド妖精が不注意でなら割ってしまっても大丈夫そうだけど
○○の持ち物だった場合、速効で修羅場だろうな

だから○○は自分の部屋に収まる程度しか私物を持たず。部屋の中は、完全に自分が掃除などの世話をしそう


189 : ○○ :2018/01/29(月) 12:11:10 glAvvwlw
ノブレス・オブリージュに囚われて(143)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=133

>>187
共依存関係を次々に量産しているこいしちゃんが見える


ふっと、人里はそこそこ以上に大きいんだから
遊郭やそれに類する場所はありそうなもん
何せ春を売るのは最古の職業ともいわれていますから
でも幻想郷の女性たちが、○○の遊郭通いなんぞ認めるはずがない
しかし、○○以外にも男はいる。となれば、やはり遊郭は必要
これの管理と維持の裏にすんごい修羅場が眠ってそう。現実の遊郭もドロドロしていたようですから


190 : ○○ :2018/01/30(火) 00:19:04 t391WqCc
>>189
やべえ、やべえ…。ここまで来るとは思いませんでした。今までの話しで、そこまで踏み込こむ
という考えが全く思い浮かばなかった。そこに一気に踏み込んできたという。今まで善良な婿さん
なので余計にヤバい気がするような。


191 : ○○ :2018/01/30(火) 00:19:46 t391WqCc
○○>>俺、才能無いのかな…。

Alice>>○○さん、そんなことないです!

Alice>>いくら○○さんへの応援が多くないとしても、そんなの関係無いです!

Alice>>大体、○○さんの作品を貶している人なんて全然いないじゃないですか!ソイツも最近居なくなりましたし…

Alice>>それに、他の人が何にも言わないってことは、○○さんの作品を受け入れているってことじゃないですか。
そんなたった数人の言いたい放題の奴の為に、○○さんが筆を折るなんて言わないで下さい!!

Alice>>私、ズッと○○さんのことを応援してきました。それがこんな所で終わるなんて、絶対に許せません!!!そん
なことを言う奴なんて皆、アイツみたいな目に遭えば良いんですよ!!私、絶対に○○さんを守ります。他の誰に
も渡しませんnnnnnn!!!

○○>>怖いよ、どうしたんですかAliceさん。

Alice>>どうしてそんな事言うんですka・・・

Alice>>許さない、許さない、許さない、ユルサナイ、ユルサナイ、ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
ユルサナイユルサナイユルサナイイイイイイイイイイイ!!!!


--------------------------------------------------------


192 : ○○ :2018/01/30(火) 00:21:35 t391WqCc
「どうかな。」
目の前で紅茶を飲む彼女に尋ねる。短い時間で考えた割には中々の力作であるが、安楽椅子に座る彼女の顔色は変わ
らない。机の上に金色の縁取りが施されたカップが置かれる。行儀悪く無造作に散らかされた本の上で、陶器がカチャリ
と音を立てた。
「平凡、愚作、駄作ね。」
辛辣な評論に思わず手を広げてしまう。欧州貴族の彼女の癖でも移ったかもしれないと、ふと心の中にとりとめのない
靄が浮かんだ。
「どうしてかな。話しが冗長とか?」
未練がましく彼女に尋ねる。ついつい突っ込んでしまう癖は、幻想郷入りする前から変えられなかった悪癖である。
紫色の髪を掻上げて彼女が答える。白い首筋の上を細い線が流れた。
「そんなのは些末な問題よ。文章をゴテゴテに着飾って喜ぶ現代の小説家ならば、そこは重要かもしれないけれども…」
銀のスプーンでミルクティーを掬い、唇を湿らせた彼女が言葉を続ける。赤い舌が蛇の様に匙を這った。
「問題は表現ではなく、本質。外面ではなくて実体。奥に隠されている物こそが重要よ。」
「と言うと?」
「Aが本当に愛していたのは作家ではなく、作家が生み出す作品だったんじゃないかってこと。あるいは、Aは自分の
理想の作家を愛していただけで、現実に生きている作家を否定していたんじゃないのかしら。だから最後には作家を
否定したってこと。それは歪であるけれども、ある種の独善的な愛。」
「へえ、それじゃあ、パチュリーはどう思うの?」
気怠い雰囲気に任せて、肘を付きながら彼女に尋ねる。
「うーん。」
考えるような声を出す彼女。身を乗り出した彼女の、白く細い指が僕の口元に触れる。二本の指が唇を開き、中指が
歯の間にそっと入れられる。スプーンが口の中に差し込まれて、喉の奥を甘い味が通り過ぎた。
「捕らえて、引き込んで、二度と離さない。貴方そのものを手に入れて、ずっと囲っておく。ただただ溶かし尽くす愛。」
地面が船に乗ったときのように揺れ、瞼が降りて視界が黒く染まる。五感の一つが使えなくなった分、他の感覚が脳に
敏感に刺激を伝える。花のような甘い匂いがムッと漂い、彼女の体温を感じる。
「紅魔館に出入りしている内に、人間と妖怪の垣根を忘れてしまったのかしら。でも駄目、いくら人外が優しく見えても
妖怪は人間を食べるのが本質なんだから。一度こっちに入ったら、触れたなら、もう二度と元には戻れない。」
彼女の声が音になって、頭の中に吸い込まれていく気がした。


193 : ○○ :2018/01/31(水) 01:20:55 ibXcnrVk
 風呂桶に身を沈め、少しずつ顔を下ろす。
 顎、口、鼻。水は少しずつ私の体を覆っていく。
 口を開くと大きな泡がぷかぷかと浮かんで、すぐに消えてしまう。入れ替わるように水が私へと流れ込んでくるけれど、舟幽霊にとって何の影響もないことだった。
 しばらくそのままで居る。息は普通にできるけれど、あえて止めておく。
 苦しい。
「ムラサぁ、早く出てよ。後がつかえてるんだから」
「っーーはいはい」
 一輪の声に従って湯船を出る。名残惜しいけれど、今日はこれまで。

 -

 布教にかこつけて人里をぶらついていると、見知った顔に出会った。
「よお、ムラサ」
「あれ、○○じゃん。今日は仕事無いの?」
「おう、しかも新しい店を見つけたんだ。ムラサを誘おうと思ってたんだがーー」
「行く行く!」
 ○○は行きつけの酒蔵の店員だ。聖に黙っていてもらうお礼に私の行きつけの店で夕飯を奢ったのがきっかけで意気投合して、よく一緒に食べ歩きに行くようになった。
 まるでデートみたいだ、とぬえに茶化されているのが最近の私だ。まるでデートみたい、ではなく、本当にデートなのだと言ったらみんなは驚くだろうか。
 私は○○のことが大好きだし、○○も私のことを好いていてくれている。
「ムラサ、最近元気ないんじゃないか」
「んー、そうかなあ」
 適当に流そうとしたけれど、彼の目を見て止めた。やっぱり○○は鋭い。
「うん、まあ、ちょっとね」
「無理はするなよ。俺にできることだったら喜んで手伝うからさ。
 ムラサのそんな顔、見たくないんだ」
 彼の気配りが心に刺さる。優しい○○には打ち明けられないことなのだ。
 いや、いっそ言ってしまうか。
「じゃあ、私の首を絞めてよ」
 買い物を頼むような気軽さで投げかけられた私の言葉に、○○はギョッとした様子で私を見る。
「最近、私が人間だったときのことを考えちゃうんだ」
 舟が壊れ、沈んでいく。水夫の怒号、私の悲鳴、止まらない水音。そして、最後にはーー
「死ぬ瞬間って、どんな気分だったんだろう」
 でも、今の私の辞書に溺れるという言葉はもはや存在しない。代わりを探すしかなかった。そこでたどり着いたのが縊死だ。
 とは言え自力では加減が難しい。他人の手を借りる必要があった。
「あのなぁ……」
 ○○は私の言葉にただ呆れるばかりだった。
「俺には出来ないよ。ムラサを傷つけるようなことなんて」
「まあ、そうだよねぇ……」

 -

 断られた。仕方ない、分かっていたことだ。
 風呂桶に顔を沈めながら、理不尽に死んでいったかつての自分を想う。
 どうせ死ぬなら愛する人の手で死にたかった。
 そして、死ねない体を得た私には何の意味もない行為に耽る。かつての自分の姿に今の自分の姿を重ねながら。


194 : ○○ :2018/02/02(金) 02:54:48 OFwCP8BI
最近、しっかり世界感固まった作品多いね。
よきかなよきかな


195 : ○○ :2018/02/03(土) 22:06:12 g5TCLPd.
>>193
自分の死という、妖怪としてのアイデンティティーを実感したいという気持ちを、
恋人にしてほしいというものでしょうか…


196 : ○○ :2018/02/03(土) 22:18:21 g5TCLPd.
 布団の下でモゾリと天子が動く。こちらの寝起きの気怠い気分には関わらず、体を寄せてひっついてくる天子。昨日の夜、言い争った時には
見せなかったようなしおらしさをする彼女。気まぐれな彼女の青い髪を梳くと、首筋に頬をすり寄せてきた。昨晩あれだけ言ったのに今朝はこ
んなに寄ってくる彼女に、少し意地悪をしてやりたくなってしまう。
「嫌いじゃなかったの?」
「嫌い。」
昨日の嫌いとは違う、負けず嫌いのキライ。何度かの衝突の末に、それが判る程度には彼女のことを知るようになった。こちらの反応が薄かっ
たためか、天子が少しむくれた気がした。
「あんたなんか、大っ嫌い。」
ふうん、と気のない返事を返す。幾ら嘘だと判っていても、ここで突っ込んではいけない。精一杯の薄いプライドに包まれた彼女はそれ故に敏
感で、無遠慮に触れてくる周りの人々を剃刀の如く鋭く切り裂く。
「信じてないでしょ。」
「うん。」
即答する-これは本心だから。そしてそれが気に入った彼女は、直ぐに機嫌が直る。
「あんたなんて、グズで、馬鹿で、鈍くさくて…。」
「だから、アンタは私が治してアゲルから。」
言葉とは裏腹に、一層こっちにしがみつく彼女を、心が壊れないように優しく抱きしめる。
「アンタは私が居ないと駄目なんだから…。」
ボソリと言い聞かせるように彼女は言った。


197 : ○○ :2018/02/03(土) 22:18:54 g5TCLPd.
 綺麗なホテルの喫茶店で珈琲を注文する。いつもは砂糖を入れた紅茶のような甘い方が好みだったが、目の前の美人な女性に対して無意識に
見栄を張ってしまったのかもしれないと、心中一人反省する。目の前の女性が名刺を差し出した。名刺なんぞ無い身分の自分にとっては、受け
取るのみになってしまってやや不格好であった。上等な白い厚手の紙に、シンプルに名前と連絡先のみが書かれている。世間知らずの自分でさ
え知っているよくCMで目にする大企業の、そのまた持株会社の名前が黒い文字で大きく書かれていた。
「初めまして、○○さん。永江衣玖と申します。」
「初めまして、永江さん。本日はどういったご用件で。」
これほどまでの凄い人から、どうして声が掛かったのかは不思議であった。勿論美人から声が掛かるのは、昔ならばやぶさかではなかったので
あるけれども、天子と知り合ってからはそれは別問題となった。綺麗な薔薇には棘があるとは、よく言ったものである。
「実は天子さんのことでお話がありまして。」
名字の比那ではなく、天子ときた。彼女のことを良く知っており、しかもあれだけ人の好き嫌いが激しい、大体九分は嫌うであろう彼女がそう
呼ぶことを許しているのは、相当に天子と親しいと言外に伝えていた。
「比那さんのことですか。」
居住まいを正して答える。彼女の眉が少し不自然に動いた。
「ええ、そうなのですが…。少し失礼ですが、いつも比那と呼んでいらっしゃるのですか?」
「いえ、普段は天子と呼んでいますが、比那が名字だと聞いていたので、それが…。うん、まさか…。」
第六感がザワザワと騒ぎ、心臓が鼓動を大きく打つ。そういえば、彼女の免許やパスポート、果ては保健証すら見たことが無い。全ての郵便は
自分の気付宛てで送ってきていたので、彼女の名前を疑問に思うこともなかった。
「いえ、それはありません。総領娘様は、そのような誤魔化しをする方ではありませんので。」
こちらの疑念を読んだかのように打ち消す彼女。顎に手を当てて考えていた彼女は、言葉を続ける。
「そもそも、総領娘様の名前は比那ではなく、比那名居天子とおっしゃります。」
「偽名?」
「いえ、むしろ護身のためです。今は家から離れておりますが、それでもご実家はとても大きな会社ですので。」
「天子の一族に創業者が居られるとか?」
スーツを着た彼女の目を覗きこみ、苦し紛れのように質問をする。彼女の目は笑っていなかった。
「もう、お気づきでしょう。」
ああ、やはり、
「総領娘様は現代表のお子様で、しかも一人娘です。断じて「妾の子供だから家から疎まれたのよ。」なんてことはありません。」
彼女のその性格と心は、
「どうでもいい子供に、天の子供なんてつける訳ありませんからね。」
硝子の様に脆く壊れやすく、鋭い。
「それで、いかがされますか。」
機を制して彼女が問いかけてくる。聞いてしまった以上、最早元には戻れない。伸るか反るか、賽は投げられた。


198 : ○○ :2018/02/03(土) 22:25:14 g5TCLPd.

「衣玖、何やってんの。」
鋭い声が後ろから飛んでくる。いつの間にか後ろにいる彼女が、どんな顔をしているか容易に想像がついた。
「総領娘様の今後について○○さんとご相談を。」
椅子に乱暴に座った天子が噛みつく。
「私がいない所で何勝手にやってんの。」
これは凄まじく機嫌が悪い気がした。今までの彼女との喧嘩が、たわいもない戯れ言の様に思える程に。
「総領様も娘様のお帰りをお待ちです。そろそろお戻りになられては?」
永江さんは天子に臆さずに話す。飄々と刃を躱す姿が見えた。
「絶対に嫌。」
即断、即決。この性格で、家を出ることも決めたのであろう。
「しかし、このままお遊びをされるお積もりですか。」
敢えて空気を読まずに突っ込んでくる永江さんだが、それは彼女の地雷に触れた。
「こいつは私のモノ、絶対に渡さない。別れる位なら死んでやる。」
予想外に強い力で天子の方に引き寄せられる。ここまで執着されているとは、正直意外であった。大地が震える如く、彼女は全てを巻き込む。
そして全てを犠牲にして、雷の様に真っ直ぐに目的に向かって彼女は進んでいく。
「いやはや、中々に総領娘様には驚かれますね。そこまで思い詰めていられるなら、少し時間を置きましょう。」
天子の決意を悟った永江さんが伝票を取る。立ち上がろうとする彼女に天子が声を掛けた。
「私、コイツとの子供がいるの。」
二度目の雷に打たれて、伝票がハラリとテーブルに落ちた。

以上になります。


199 : ○○ :2018/02/03(土) 22:40:40 g5TCLPd.
>>198
訂正
誤 そこまで思い詰めていられるなら、
正 そこまで思い詰めていらっしゃるなら、


200 : ○○ :2018/02/03(土) 23:50:09 h9bS8MPc
 2つほど相談があります。以前、とよ姉がショタ誘拐する話で、よっちゃんが地上に落と
されるくだりで一つ話を思い付き、つきましてはそのとよ姉の話の設定をそのままお借りし
たくあります。書いても宜しいですか? 一応ある程度プロットは固まったのですが。
 もう一つは、最近河城みとりという知名度の高い二次創作キャラを知って、その設定が
ヤンデレものと相性が良いなということで描いてみたいなと感じました。しかし二次創作
キャラで書くのはどうかと思いまして、皆さんはこれをどうかとお考えですか?


201 : ○○ :2018/02/04(日) 02:07:40 IaBEZ7/k
確かに天子も、家格の高さを嫌ってそう
魔理沙ともしかしたら、嫁仲間として上手くやれそう


202 : ○○ :2018/02/04(日) 22:52:32 nbhV5OzQ
以前のシリーズとは直接の関係はありませんが、舞台背景は同じになります。

 元魔女の妻3

 「私○○が所有する一切をこの書面を持つ者にお渡しする。」と、おや、これはどういうことですか。ええ、それはよく分かりますよ。
しかし、こんな帳面を見せられてもどうでしょうか。確かにこれはあの人が普段使う印ですが、ちょっといきなり過ぎやしませんか。それ
にこの字はあの人の字ではありません。全くどこぞのむさ苦しい髭面の馬鹿野郎が書いたような、下衆い臭いが漂ってきそうですね。あら
あら、そんなに目を吊り上げていかがされましたか?いやはや、まさかあなた方の内のそこのあなたがお書きに成られて、無理矢理にうち
の主人の印を押した訳ではありませんからねえ。そんなことをすればどうなるかは、そこら辺の寺小屋に通う、おつむが未熟な子供でも判
るようなものでしょうから。
 ふむ、「魔理沙、この者に万事従って欲しい。」ですか…。全くあれでは飽き足らず、この書面すら用意するとは中々ですね。ええ、全
くもって同じ字体に同じ文面とは、人を小馬鹿にしているような引っかかる人が節穴だと公言しているようじゃありませんか。ええ…。
ところで、あの人の拇印を押しておいて、御丁寧に小指まで揃えている割には、人差し指はどうしたんでしょうか?もしも、もしもあの人
に何かありましたら、地獄の底で百年後悔するような羽目に遭って貰おうと思っているんですよ…。
 ほう、そうですか、あの人が無事かどうかは私が従うかに掛かっていると…。いやはや、見下げた者ですね。ええ、霧雨の名に賭けてお
渡ししようじゃありませんか!ほうら…、この光る八卦炉と私自身ですよ。婿養子のあの人が持っている物なんて、妻の私ぐらいしかあり
ませんからねぇ。

 ええ、良いですよ、ご自由になさって頂いて…。そんなに私が欲しいのでしたらね!
 
 ほら、冷た××××体×使え××でし…たら…ね………。

--------------------------------------------------------------


203 : ○○ :2018/02/04(日) 22:53:12 nbhV5OzQ
 おや、どうしたんですか?幽霊を見たかのようにびっくりして。あらいやだ、地面から手が伸びてきたから思わず足で押さえてしまいま
したわ。阿求さんも嫌でしょう。こんな奴等に好色な目で見つめられて、危うく触られそうになっては。ええ、これくらいで結構ですよ。
他の人もこれだけ押さえつければ、指一本動かせないでしょうから。おや、どうして生きていると?はあ、何を言っているのか、トンチン
カンなことを言いますね。やはりこいつらの隠れ家の奥にあった仙丹か、はたまた毒の茸でも食べて、気が狂ってしまっているんでしょう
ね。あの仙丹は偽物で色々と毒が混ざっていましたし。
 さて、白昼堂々と霧雨家に押し入ってくる様な物取りは、さながらどう裁きをするべきでしょうか。このような狼藉者によってうちの主
人が私を庇って大怪我をしてしまいましたので…。幸い永遠亭によって元に戻るようでしたが、それはそれというべきものですしね。さて
はて、これについては稗田家にお任せすることにしましょうか。
 え?家に仙丹なんてない?これはこれは…。全く悪党の言い逃れですね。村の自警団があなたの隠れ家を探したときに、奥から仙丹が出
てきたのを、皆しっかりと見ていますからね。わざわざ手伝って下さった紅魔館の女中さんがしっかりと見つけて下さったのですから、こ
れはもう言い逃れができませんよ。ははは!仙丹の毒なんて判る筈がないと!いやはや、嘘つきもここまでくれば天晴れですね。うちのよ
うな商店ならば、仙人様も偶に来られますからね。仙丹もしっかりと取り扱っているんですよ。いやはや、霧雨を良く知らない一見さんな
らば、そんな間違いをするかもしれませんがね、全くもってこれではもはや話しになりませんよ。本当に見苦しいものですねえ、阿求さん。

 さて、船頭さんが迎えに来てくれましたね。おや、どこにって、あなた方の行き先ですよ。三途の川をすっ飛ばしていきなり四季様にご
対面できるんですからね。ええ、ジタバタしても無駄ですよ。それじゃあ無間地獄で百年程焼かれて下さいな。どうぞごゆっくり、と。


204 : ○○ :2018/02/04(日) 22:57:54 nbhV5OzQ
>>200
二次創作については、気になるのでしたら、ロダにアップして、注意書きをつければ
大丈夫だと思われます。
R-18の作品などは管理人さんがまとめる際に、注意書きを転載して下さってますので。


205 : ○○ :2018/02/04(日) 22:59:39 AL3q74zA
>>200

1つ目はOKだと思いますよ
別のSSの影響を受けてそこから発展した作品もあるので…

2つ目は何とも言えない
過去スレで誰かがゆっくりネタを投稿したら叩かれたので…

まあ、好きにやれば良いと思うよ


206 : ○○ :2018/02/05(月) 00:42:51 YEGcDlJ2
>>200です。
 二次創作のほうはここに書かないのが吉と判断します。ロダにうpか……、それ試し
てみようかな……。

 では、とよねえの設定をそのままお借りしたssを書かせていただきます。言う必要は
無いかもですが、遅筆故に投稿するのは遅れそうです。あと、ちょっとばかし多くのレ
スを消費する可能性もありますため、悪しからず。


207 : ○○ :2018/02/05(月) 13:09:19 nJ6R6CEM
ノブレス・オブリージュに囚われて(144)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=134
紫様って、能力が強すぎて。配分に難儀する
ちょっとでも配分を間違えると、途端にデウス・エクス・マキナになってしまう

>>203
○○の脇が甘すぎるだろうと思ったけど
○○に自分自身が有能で有用であることを示すために、定期的にこんなことやってるのかなとも考えた
こんなことを定期的にするってことは、一緒になるまでの間に、まぁ、色々……あったんだろうなと妄想してしまう
負い目が焦りを生んで、苛烈(○○以外に)な行動を取らせるのだろうか


208 : ○○ :2018/02/07(水) 22:11:14 5A5S05J.
○○ 「もしもし、ピザの注文をお願いしたいのですが。」

警察 「はい、こちら警察です。どのような用件ですか?」

○○ 「ピザの注文をお願いします。Lサイズのソーセージサラミピザで」

警察 「こちらは警察です。電話を間違えていませんか?」

○○ 「いえ、宅配をお願いします。どのくらいかかりま・・・」

アリス「スミマセン。ウチの主人が酔っ払って電話を掛け間違えてしまいまして。」

警察 「御家族の方ですか?」

アリス「家内です。」

警察 「そうですか、大分飲まれたんですか?」

アリス「ええ、そうです。」

警察 「どのお酒をどれ位飲まれましたか?」

アリス「ストロングゼロを二本、500ミリのやつです。」

警察 「味とおつまみは?」

アリス「あれは青色と黄緑色だから・・・、青リンゴ味とグレープフルーツ、あと柿ピーのピーナッツ無しと、
    サラミの百円のやつに、チーズ3つ。」

警察 「分かりました、お大事になさって下さい。」

アリス「ご迷惑お掛けして申し訳ございません。」


209 : ○○ :2018/02/07(水) 22:12:15 5A5S05J.
アリス「ねえ○○、どうしてあんな電話をしたのかな?」

○○ 「・・・・・・。」

アリス「黙っていちゃあ分からないわ。ねえ、どうしてかしら?」

○○ 「・・・・・・。」

アリス「あんな間違い電話するんだったら、ケイタイ、要らないよね。」

○○ 「そ、そんなことないよ…。」

アリス「へえ、じゃあ、どうしてしたのかな?まるで私があなたに暴力を振るっているみたいじゃない。」

○○ 「常に見張っていて、僕を一人で外に出さないのだってDVだよ!」

アリス「マネージャーのあなたが、デザイナーの私の世話をするのは当たり前でしょう?」

○○ 「それでも、行き過ぎなんだよ!」

アリス「へぇ、そんなこと言うんだ・・・。」

アリス「じゃあね・・・、そうだ、○○はマネージャーを辞めて、専業主夫になって貰います!そうしたら、外に
    出る必要なんて無いよね。」

○○ 「そんな・・・。だ、駄目だよ、そうだ、きっと僕が急にマネージャーを辞めれば、周りの人が怪しむよ。」

アリス「あら、今でも大して何もしていないのだから、代わりの人を用意すれば良いのよ。そうね、上海のような
    自動人形でも充てておけば十分よ。」

○○ 「駄目だよ…。」

アリス「ふーん。」 バキッ

アリス「はい、これで○○の携帯は壊れました。残念でした。」

アリス「デザイナーの私の稼ぎで、このマンションの階ごと一括で買えているんだから、○○が外に出る必要なんて
    全然無いのよ。」

アリス「分かった?」

○○ 「・・・・・・。」

アリス「はい、じゃあ、良い子はお風呂に一緒に入りましょうね〜」 グィッ

アリス(鍵、もう一個付けとかないと。網膜認証でしか開かない物にしとこ・・・)


210 : ○○ :2018/02/07(水) 22:18:20 5A5S05J.
>>207
けじめをつける行為が、永遠亭と話しが出来ると見なされてしまっているというのは、
人里は古きに凝り固まり過ぎているような。もはや、永遠亭からの助力がないと、死ん
でしまうと思っていそうな勢いですね… 果たして紫はこの状況をどう考えているのか?
乙でした。


211 : ○○ :2018/02/10(土) 21:53:04 Qs3AV41o
 良く星の魔法とか使っているんだけれど、なんか上手くいかなくってさ。いや、勿論スターダストレヴァリエは自信作だし、
マスタースパークとかのスペルは結構強いんだぜ。…でも、あれも結局借物だしさ。なんかこう、頑張って撃とうとするんだ
けれど、あんまり自分に合ってない気がするんだ。いくら星の輝きに憧れても、夜鷹の星のように結局は近づけないのかもし
れないなって思うんだ。
 そんなことはないって?…ああ、ありがとう。嬉しいんだ。○○にそう言って貰えて、とっても嬉しいんだよ。だけれど、
違うって分かるんだ。私の名前の霧雨の如く、派手さもなく、ただ静かに濡れていくような地味な水魔法の方が、合っている
って分かるんだ。本当の自分が暗くて、ドロドロしているからこそ、それを消したくて星のように明るい魔法を使えば、きっ
と霊夢やアリスの様に明るくて綺麗になれるって思ってたのに、結局自分には暗い魔女がお似合いなんだなって、思い知らさ
れたんだよ…。
 霊夢の様に綺麗で強くて人気じゃなくって、それじゃあ○○に振り向いて貰えないって思って、必死に研究したりして追い
つこうとしたんだけれどさ…。それでもやっぱり上手くいかなくって、結局自分に出来ることなんて、卑怯な手段を使うしか
なくって。だから…、だけれど、それでも○○が欲しくって、たとえどんなことをしてでも、○○が他の女に行くのが許せな
くって、だから、

 薬を混ぜたんだ…

 ごめんな、○○。謝っても許して貰えるなんて思っていないけど、それでも、ごめんな…。せめて、ほら、この薬を掛けれ
ばほら、体が熱くなってきただろう。私も○○と同じで初めてで上手くないからさ。こんなことしか出来ないんだけれど…。
でも、お願いなんだぜ。私には○○しかいないから…。体目当てでだけでもいいんだぜ。アリス程は綺麗じゃないけれどさ。
だからさ、私の側にいて欲しいんだぜ…。


212 : ○○ :2018/02/11(日) 00:21:25 0CbuKVPo
久しぶりの投下
文章力が皆無なのは仕様


……そこの君、そう、君だよ君。
何の用かって?いや、ちょっと僕の話を聞いてほしくて。
あぁ、僕のことを不審者扱いしないで、少しでいいから、話を聞いてよ。
……一つ、君に質問をしよう。

君は、ここ数日間、女性が出ていない夢を見たことあるかい?
しかもその女性ってのが、いわゆる東方Projectのキャラクター。
しかも押しキャラ。

……その反応を見る限り、どうやら当たってるようだね。
ま、僕も同じだ。いや、同じだった、か。
僕も君と同じ夢ような夢を見ていたってこと。
ま、とにかく僕の話を聞いていってよ。聞き流しててもいいからさ。
それじゃ、話を始めるとしよう。
あれは確か……半年くらい前からだったかな……


僕はいたって普通の東方ファンだったんだ。
自分が主人公の小説を書く程度の。
そんなこんなで楽しい東方ライフを楽しんでいた時に起きた出来事だった。

毎日、同じような夢を見るようになった。
内容は大体こうだった。
気が付いたら自分の部屋の中、自分と二人の女性。
その女性ってのが、いわゆる東方Projectのキャラクター。
それも、僕の押しキャラの姉妹だったね。
……あえて、誰とは言わないでおくよ。
で、自分は縛られて動けない。
そんな状態でいたって普通に暮らす。
時折二人の目からハイライトが消えたりするけど。
まあ、それだけだったらただの夢として片づけれた。
それだけ、だったら。

ある日、ふと気づいてしまったんだ。
身体に何故か傷跡のようなものがあることに。
そしてそれが、夢の中で彼女たちによって傷つけられた場所と同じところにあると。
最初のほうはただの偶然だと思った。
だけど、背中にまでそんな跡があって、
もしかしたら、夢の中の傷が残っているのでは、と思って。
だんだんと、起きてる時も二人の幻覚を見るようになって。
もしかしたら、それが本物じゃないか、と思って。
二人が気が付いたら自分の部屋に居て。
もしかしたら、まだ夢を見ているのかもしれない、と思って。
……もしかしたら、で逃げていたせいで、二人を受け入れようとしなかった。
自分の書いていた小説よりも奇妙な現実に気が付かなかった。
結果、僕の一人暮らしはあっけなく終わった。


これで、僕の話は終わり。
ここから先、君がどうなるのかはわからない。
だけど、僕は願ってるよ。
どうか、僕のような哀れな結末は迎えないでくれ。
……いや、どうやら無理みたいだ。

なるほど、君の押しキャラは――だったんだね。
なんでわかるのかって?

いや、君、後ろ、見てみたら?


213 : ○○ :2018/02/13(火) 00:59:36 AuQcfBxA
管理人さん更新乙です。


214 : ○○ :2018/02/13(火) 14:14:41 wwbPQVz2
ノブレス・オブリージュに囚われて(145)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=135

>>209
アリスは○○のために自律人形たくさん作りそうだな
そして○○の事を考えながら作った自律人形が、これまでよりも高性能で
あなたのおかげよとなって、ますます依存病みしそう

>>211
魔理沙はなぜだか、卑屈な姿がよく似合う

>>212
○○が他の、狙われている男性みつけて。何とかマシな落着を考えて動くんだけど
基本うまくいかないよなぁ


最近、遊女連続変死事件と言う単語が思いついた
犯人候補がいくらでもいるからすんごいことになりそう


215 : ○○ :2018/02/13(火) 15:40:45 AuQcfBxA
>>214
沢地萃上爻「賢者は孤独に悲しむ」
をまさに体現しているような。
幻想郷の管理人だからこそ、人は集まれども、ふと気がつくと自分の隣に人は居らず…と。
そんな中に祖父が入ってきたのでしょうか。乙です。


216 : ○○ :2018/02/13(火) 17:48:19 MXrXHHOY
>>214
投稿お疲れ様です。
八雲紫の口ぶりから人里の業が息子にのしかかる事を承知した上で先代と夫婦になったのでしょうか
しかしこれで八雲紫も恋に病まれてしまっていたのだとしたら、果たして。


217 : ○○ :2018/02/18(日) 18:28:23 5TKBBRp6
ttps://i.imgur.com/K2UZd2d.jpg
お久しぶりです
バレンタインはたてちゃん
なんとなくですがこの子はヤンデレ力高い気がする


218 : ○○ :2018/02/18(日) 22:47:33 EXPOj6tY
>>217
素晴らしい…


219 : ○○ :2018/02/19(月) 01:18:44 dVvQeVv2
>>217
絵師ニキ、絵師ニキじゃないか!
ほんと久しぶりだねまた画力上がったんじゃない?
はたたんマジクソ怖可愛いよ


220 : ○○ :2018/02/19(月) 21:48:23 vZI1r7eM
 素朴な質問なのですが、皆さんってヤンデレss考える際の○○の年齢って大抵どれくら
いで想像していますか?


221 : ○○ :2018/02/19(月) 22:00:50 D//13abo
 誰がそれをやったのか

 夜が赤く焦がされていく。始めは小さな火であったであろうものは、炎となりて夜空を照らしていく。外界に居た頃にはキャンプファイアー
として見ていたであろう炎は、この幻想郷でするには少々大袈裟すぎる。薪の代わりにくべられたるは自分の小屋。よく乾いた冬の空気に煽ら
れて、赤い炎が小屋と食料を焼いていた。この一年必死に働いて漸く得ることができた米。自分のような新参者であっても存外秋の神様は気前
が良いのか、必要経費を差し引いても十分な量を収穫することができたのであるが、それが今、まさに燃え尽きようとしていた。
「おい、○○、ポンプ車を借りてきたぞ!」
隣の家に住んでいる仲間が大八車を引いて来る。もの凄い勢いで、息も絶え絶えで走ってきた△△を見ると、おそらく彼の精一杯で走ってきて
くれたのであろうが、しかしそれでも火を消すには遅すぎた。いや、そもそもこの明治時代程度しかない幻想郷で、一度火が燃え移ってしまえ
ば、それを人間が消すことはできず、精々が周りの建物を壊して、燃え移らないようにするという江戸時代さながらの前時代的な火消ししかな
いのであろう。
「ああっ、ああ、うぁあああ!」
言葉に成らない声が腹の底から出てきて、虚しく辺りに響く。手と足に力が入らずに、持っていたバケツが地面に転がる。叫び声と共に涙が零
れ落ちていく。何故という思いがあふれ出て脳を埋め尽くしていく。血走った目で過去を漁り原因を探る。あの時に、かさりという物音がした
時に、気にも止めていなかったが、実際は何か火付けがいたんじゃないのか、いや、無理をしてでもあの時、香霖堂で消火器を買っておけば良
かったんじゃないのか。そもそも村の共用の倉庫に無理をしてでも置いておけば良かったんじゃないか。色々な思いが頭を駆け巡り、その度ご
とに火事を防げなかった自分を悔やみ、そしてその度ごとに小屋が灰になった現実を突きつけられ、手が固い地面を掻いた。

「おい、○○、○○。」
不意に肩を揺さぶられる。立ち上がる元気すらなく、後ろを振り向く。こちらの生気が抜けきって恨みがましい目に怯えたのか、里の顔役の引
きつった顔が見えた。その引きつった表情のままで顔役が言う。
「○○、怪我が無くて幸いだな。まあ、こんな時になんだが、来年の地代は払って貰うぞ。こっちも商売だからな。」
こんな時に無慈悲な宣告を突きつけてくる顔役に、同じ外来人仲間が食って掛かる。
「馬鹿野郎!今の状況見て見ろよ!こんな時に、よくそんな事言えるなお前!」
今にも顔役を殴り付けてやろうという勢いの、血の気が多い外来人連中にとり囲まれ、顔役は肝を潰しそうであったが、それでも辛うじて自分
の手札を切ってきた。
「そ、そんなにいうんじゃったら、お、お主らが代わりに払ってもいいんじゃぞ。別にこっちは、誰が払ってもいいんじゃからなっ!」
一瞬冷静になった仲間に対して、流れを引き戻した顔役が続ける。
「まあ、そんな外界に戻るのが遅れてもいいんなら存分にするんじゃな!」
捨て台詞を吐いてそそくさと顔役が去って行った後で、△△が話しかけてくる。
「○○、大丈夫だ。俺達が何とかして工面してやるからな。」
周囲で頷く仲間達に涙が出てくるが、それに甘える訳にはいかないと気を持ち直す。
「大丈夫だ。実は蓄えが少しあるから、恐らく何とかなりそうだ。」
周囲の仲間が帰った後、△△の家に泊めて貰えることとなり、家には二人きりになった。あいつが口を開く。
「おい、本当に蓄えなんて有るのか?」
いぶかしげな目で見てくる△△。外界の人間として、こちらの懐事情もお見通しということであろうが、それをそのまま口に出すには憚られた。
「一応…ある。」
「嘘、だな。」
あっさりと嘘を見抜かれる。そのまま△△は肩に手を置いて話してくる。
「長年って程ではないけどさ、お前が嘘を付いている時は何となく分かるんだよ。」
「しかし、他の連中に負担を掛ける訳にはいくまい。恐らくあいつは、俺たちに余裕が無いのが分かってやっていそうだ。」
「それでも見捨ててはおちおち外界に戻れん。俺の費用を貸しとくよ。」
「いや…。貸して貰えるあてはあるんだ。」
△△がじっと目を見てくる。
「今度は…、本当だな。駄目だと思ったら、いつでも来いよ。」

 翌朝になり-帰る前だったらいつでも来いよ-と見送る△△と別れて里に行く。人里に向かう途中で出会ったのは…

1、霧雨魔理沙
2、上白沢慧音
3、二ッ岩マミゾウ


222 : ○○ :2018/02/19(月) 22:03:18 7lpOH9aY
初投稿

脅迫系霊夢

「○○、少しいいかしら?」居間でそう言う彼女は、断ることを良しとしない雰囲気を出していた。
断れば何をされるか・・・。
仕方なしと思い、了承すると彼女は、
「○○、私の夫になってほしいの。」
そう告げた。

大妖怪に親しい博麗神社の巫女、博麗霊夢。彼女の'お願い'を叶えることは人里を守るために必要なことらしい。
部外者である外来人には、帰還するので関係ない話だが、だからこそ運が悪いことに自分が選ばれたのだと思う。
願いを受け入れない場合は、妖怪に殺されるか、あるいは人里で殺されるか。
そうならないよう、彼女の'お願い'を叶えるように努力をした。
食料、水、家事。色々手伝った。話相手にもなった。
すべては生きるため、そして帰るため。仕方のないことだ。そう自分に言い聞かせた。

ある日、自分は霊夢に外界へ帰りたい事を告げると
ある程度は予想していたが、帰さないと彼女に言われた。
「○○、私はあなたのことが好き。愛しているわ。」
いつかこうなることは予期していた。
その日から自分は神社に住むことになり、そして外界へ帰ることを諦めた。
彼女の心も蝕んだ。

行幸とは突然やってくるもので、どうやら外来人が幻想郷を出入りできるらしいことを
買い物を終えて帰る途中、人里に住む人から聞いた。聞いたといっても噂話程度のものだが・・・。
その話を纏めると、外来人の少女が人里に現れては手品を見せている。
その少女は、見慣れない格好をしていて、女子高生だそうだ。
自分はこの情報を大切に扱わなければならない。特に霊夢には、知られてはならない。

それから3日後、自分が霊夢の夫になる願いを霊夢から聞いてしまった。
「急にどうしました。」
「急でもなんでもないわ。分かっているでしょ?」
気づいているのか?
「霊夢さんが自分のことを好きなのは知っています。しかし、外来人の自分では
博麗神社の巫女の霊夢さんとは釣り合わないですよ。」
「違う。あなたは外界に帰る事を諦めてない。だから、私と結婚することに抵抗している。そうでしょ?」
どうやた逃げ道をつぶし始めたようだ。
「外界に帰ろうと思っていた時期がありました。でも、それ以上に幻想郷は素晴らしい、
魅力溢れる面白い場所だと気づかされて以来、自分は永住しようと決意を固めています。」
「だから、抵抗しているわけではない、そう言うのね。・・・いいわ。そこまで言うなら
私も考えがある。」
「え?」
「あなたのことが好きだから、今まで自由にさせてきたけど、人里に"お願い"をして行く。」
打つ手がない。なりふり構わず彼女に土下座をする。
「お願いします、霊夢さん!!それだけはやめてください!!」
「じゃあ、私の夫になってくれる?」
「それは・・・」
言い淀んでしまった。
「やっぱり隠し事があるじゃない!!どうして・・・。どうしてお願いを聞いてくれないのよ・・・。」
霊夢のその言葉に何も言えず、そのことが霊夢の蝕まれた心を修復できないものにした。
「○○に選択を与える。一つは、おとなしく私の夫になる。もう一つは、人里に協力して私の夫になる。」
選択肢はないようなものだ。
「自分は霊夢さんの夫になることを誓います。」
霊夢は土下座している自分の顔を上げさせ、口づけをした。
「浮気も外界へ帰ることも許さない。でも、私を愛すことは許すわ。いっぱい愛してね、旦那様。」
こうして霊夢と自分は夫婦となった。


223 : ○○ :2018/02/19(月) 22:13:00 D//13abo
>>217
このジットリとした感じがイイ…
ヤンデレになったら同じ天狗でも、文が外見は普通だけれど、話すと直ぐ
に「アッ…。」と分かる系の狂人的なヤンデレ、はたては話してもあんまり分から
ないけれど、後からよくよく考えると「あれ、あいつなんかオカシクね?」
見たいなヤンデレの素質が有るような気がします。

>>220
十代後半からアラサー位までで微妙に動きます。そうすると魔理沙と組で
動かすことはできるけれども、霊夢とは年の差が何故か気になって多少
動かしにくいような…
○○を霧雨商店の婿養子として使えるか、否かの違いでしょうか。


224 : ○○ :2018/02/19(月) 23:00:20 D//13abo
1、霧雨魔理沙の場合
 「おーい、○○!」
空中より箒に跨がった人物が降りてくる。声の調子からして魔理沙だろうと思ったので、こちらも手を振っておく。こちらの愛想が良いのは
魔理沙に里まで送って貰えたならいいなと、少し甘えた考えがふっと浮かんだせいなのかもしれない。瞬く間に降りてきた魔理沙は箒を放り
出してこっちに駆け寄ってくる。こちらの体をぺたぺたと触りながら、体の様子を確かめていた魔理沙であったが、自分が大丈夫であること
が分かっても、なおも心配そうな様子で話してきた。
「○○、大丈夫だったのか?」
「ああ、大丈夫だ。」
「そうか…。実は○○の小屋が火事にあったって聞いて。心配したんだぜ。」
いやに耳聡いなと思いつつ、魔理沙に返事をする。
「まあ、幸いに怪我は無かったがな、しかし一年分の収穫した米がパアになってしまったのは痛いな。」
ビクリと反応をした魔理沙が言う。
「ということは、今は無一文ということなのか?」
「ああ、そうだから、人里に行って何か直ぐの金になる、日雇いでもしようかと思ってな。出来れば、里まで乗せて行って貰えるとありがた
いんだが…。」
幾ら見知った人とはいえ、少女に男と二人っきりで飛ぶ様に頼むのは少々ハードルが高いと思ったが、駄目で元々と頼むこととした。こちら
の頼みを聞いた魔理沙の顔が一瞬暗くなり、やはり駄目かと思ったが正反対の答えが返ってきた。
「大丈夫だぜ。」
「いや、厚かましいとは思っていたんだ。年頃の女性に二人っきで飛ぶのは、ちょっと噂になったら問題だからな。」
言ったものの、魔理沙を気遣って断ろうとするが、それでも魔理沙は頑なであった。
「大丈夫なんだぜ。大体、何が問題なんだ?」
「いや、変な噂が立つのはお互い問題だろうと思ってな。」
目つきが鋭くなった魔理沙を見て、隠れていた地雷を踏んだかと思う。全く、秋の空と乙女心とはよく言った物である。
「○○は私と一緒にいるの迷惑か?」
直球でボールを投げつけてくる魔理沙。ならばこちらも誤魔化して返す訳にはいかない。
「いや、そんなことはない。」
「ふーん…。」
こちらの顔を暫く眺める魔理沙。これでは猫に睨まれた鼠である。
「嘘、じゃないな。」
「そんなに顔にでるのか?」
二人に言われては思わず聞いてしまう。
「ああ、箒に乗ったら教えるよ。ほら、いくぜ。」
箒に誘導されて空の旅に出る。地上とは一転、上機嫌になった魔理沙にさっきの答えを尋ねる。
「ああ、あれか。○○が嘘を付く時には、僅かに目が動くから。」
普段からそこまで見ているのかと、思わず女性の観察眼には驚かされてしまった。


225 : ○○ :2018/02/19(月) 23:00:55 D//13abo
 人里に差し掛かり、もうそこら辺で下ろしてもらおうと思ったが、魔理沙はぐんぐんと人里の中を進んで行く。人が上を見上げている中で
男女二人で箒に相乗りしている状況に気後れするが、箒の速度は緩まない。少々恥ずかしくなり下ろしてもらおうと、思い切って声を掛ける。
「魔理沙、ここら辺で…。」
「いや、○○は日雇いに行くんだろ。」
「ああ、そうだけれど…。」
そうしている内に、日雇いの口利きをする店を通り過ぎる。
「だったら、私の店で探すぜ。商店には付き合いもあるし。」
「いや、そこまでしてもらうのは悪いな。」
「○○は私が迷惑か?」
空中にいるというのにまたも地雷が炸裂する。
「お言葉に甘えるよ。」
こちらには魔理沙の提案を鵜呑みにする道しか残されていなかった。

 霧雨商店に入り離れの奥まった座敷に通される。魔理沙は着替えてくると言ってさっさと部屋から出て行ったので、自分の住んでいた小屋が
何個も建てられそうな広い部屋にいると落ち着かなくてソワソワとしてくるが、お茶と菓子を運んできた使用人がこっちに話しかけてきたので、
そちらに気を取られていた。先祖から奉公していたという初老の女性から魔理沙についての話しを聞いていると、着替えた魔理沙が入って来る。
「ど、どうかな…。」
普段着の白と黒とは違い、色を纏った着物を着た魔理沙は正直に綺麗だと思えた。
「よく似合ってるぞ。」
「そ、そうか…。」
下を向いて言葉が出なくなる魔理沙。一緒に居た奉公人はいつの間にかいなくなっており、広い部屋に無言が広がる。このままでは埒が開かない
ので、本題に入る。
「それで、何か良い日雇いか奉公はあるのか?」
それを聞いた魔理沙は呆けたように言葉を返してくる。
「ああ、それはまあ、どうでもいいじゃないか。○○は昨日大変な目にあったばかりだし、ちょっと位ゆっくりしてもいいんじゃないか?」
「いやいや、財産が空になってしまったから、出来るだけ早く仕事をしないといけないんだ。」
「そんなこと…。ここにいればいいじゃないか…。」
事もなげに言う魔理沙。彼女からすれば他人事なのであろうが、こっちとしてはそうはいかない。
「いや、そんな迷惑を掛ける訳にもいかない。何か取引先は無いか?肉体仕事ならば有り難いが。」
「○○、それは辞めといた方がいいぜ。」
こちらの提案を即座に蹴る魔理沙。会話が噛み合わない。彼女は一体何を見ているのか。
「○○の小屋の残骸から油の跡が見つかったぜ。それも上等の燃料の。」
-だから-と言葉を続けて距離を詰める魔理沙。不意に香水の匂いを感じた。
「下手にここから動かない方がいいぜ。なにせ中々の事件だからな。」
-火付けは繰り返すって言うしな-と付け足す魔理沙。深淵を見透かされている気がした。


226 : ○○ :2018/02/19(月) 23:06:08 D//13abo
>>224-225
題名「だれがそれをやったのか2」

>>222
GJでした!
手段を問わない霊夢がいい
神社に引き留められた時点で99パーセント手遅れだよね…


227 : ○○ :2018/02/19(月) 23:20:01 KysIbapQ
>>220
私はだいたい二十代後半が多いかなぁ…
もしくはヒロインと同年代

○○、男の方から能動的にストーリーを動かしたくないってのがあるから落ち着いた性格っていうか、割かし良識的というか人格者にすることが多いからちょっと大人にするねぇ

っていうのは建前で自分の歳と同じぐらいにしちゃうかな…体験してきたはずなのになんかもう『少年』がどんな考えするのかわからへんから…
若いこ書いても『こんな考えする少年おらへんやろ…おっさんくさいわ…』ってなっちゃう…


228 : ○○ :2018/02/20(火) 12:35:41 cK1at57Q
>>217
はたては文に比べてあまり出歩かない設定あるしツインテってけっこうアレなイメージあるからかな
しかし順調にクオリティ上がってるなあカラーでも見てみたい

>>222
初投稿乙
霊夢ってやっぱ人里としても大事な存在なのかな


229 : ○○ :2018/02/20(火) 13:55:06 YjgZCHeg
ノブレス・オブリージュに囚われて(146)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=136
>>217
私の中にある、ちょっとこじらせている時のはたてちゃん像がこんな感じ

>>222
力を使うことに対して卑屈なのも良いけれども
『私と一緒ならすっごく得できるわよ!?』
みたいな感じで、力の行使に迷いがないのも極まっていて素晴らしい

>>225
なんだろう……複数犯の匂いがする
未必の故意もありそうな気配
どちらにせよ霧雨の本家は、魔理沙お嬢様に立て付ける人間はいないと考えてよさそう
しかし魔理沙はしおらしい姿の時の方が、魅力が倍増する


230 : ○○ :2018/02/21(水) 01:35:17 pynvjVT6
>>217
ゾクゾクくるいい微笑みだ
絵師ニキさんの絵は「なんで私のこと見てくれないの!!(ホウチョウグサー」みたいなのじゃなくて違和感と不自然さが絡みつく感じがして好き

>>229
姫様と映姫さんの器が大きすぎて生きるのがつらい
いつか普通に自然に笑えるように…いや無理かなあ


231 : ○○ :2018/02/22(木) 00:43:36 64FohCXE
>>223 >>227

 ○○の年齢は、どのキャラと組ませるか、または話とかで変わってくるようですね。
或いは、描く精神年齢が高すぎる故にそれに合わせて年齢の高い場合もあるのですね。
私の場合は>>227と同じで二十代後半ですね。大人らしく落ち着いた性格でも、ティ
ーンのように激しやすい性格でも違和感が無いから、描きやすいです。


232 : ○○ :2018/02/22(木) 02:45:33 5mDIbq/E
ところで『春は買わせない』って『ノブレス・オブリージュに囚われて』の長編さんの作品で合ってます?


233 : ○○ :2018/02/22(木) 03:04:35 64FohCXE
 以前お話ししていた、とよ姉に地上に堕とされたよっちゃんの話がキリの良いところまで出来上がったので投稿します。
【1/10】
『前編:Losing White, 』

 ――彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吼えたりけり。
 ジョン・ミルトン『失楽園』

 私の意識が、深く暗い深淵の底に沈んでいた時。目や耳には何も感じなかったけど、肌の感覚
だけは明瞭に覚えていた。温かさに包まれて、硬いような柔らかいような何かに抱えられていた。

 意識が浮上する際、夢を見た。そこでは私は、お姉様によって半死半生にまで追い詰められ、
そのままどこかに落とされていた。落とされて、私は、重力によって自身が愛しき地から引き離され
ていくのを、虚しく手を伸ばしながら見ているばかりだった。そして、硬い地面に激突して、跳ね上
がるように急激に意識が浮上して、私は叫び声を上げながら目が覚めた。

 放心気味に、私は荒い呼吸を繰り返していた。恐ろしかった。途轍もない孤独感が込み上げてき
て、それと心なしか肌寒い。

 「大丈夫ですか、依姫様」

 そうして障子を開けて入ってきたのは、かつて私の飼い兎であったレイセンだった。どういうわけ
か彼女は自身のそばに、目隠しがされた男を一人控えさせていた。

 「レイセン……、どうしてここに……。あれ、ここは……」

 見慣れた部屋ではなかった。月の私の部屋とはまず造りが違う。それと、障子の向こうから差し込
む眩い光は……。

 「ここは地上の永遠亭ですよ、依姫様。あなた様は、半死半生で打ち捨てられていたところ、ここ
に運び込まれたんです」

 静々と告げてきた。

 「地上っ……、そ、そんな!……」

 飛び起きて、私は障子を開けて外に出た。眼が眩むほどの光を受けた。思わず腕で目を隠す。
そのままゆっくりと上を向くと、青い空の中でかんかんと照る純白の太陽が見えた。そしてそこら
じゅうから漂ってくる穢れの粕。

 途端に私は力が抜けた。覚束ない足取りで、履物も履かずに縁側を下り、呆然と私は空を見上
げていた。そのうち、目元を日の光から隠していた腕が落ち、項垂れた。

 「そんなに動いては傷に障りますよ」

 レイセンは私の肩に手を回して私を起き上がらせて、室内へ戻した。私が寝ていた布団まで誘
導して、私を寝かせた。絶句していた私は、なんの反応も示せないでいた。

 「気が付いたみたいね」

 そう言いながら入ってきたのは、私がかつてお世話になった八意XX様だった。何故か、こちら
もレイセンと同様、端正な顔立ちの男をそばに控えさせていた。

 驚愕して私は我に返った。

 「八意様! 私は……、私はどうしていたのですか!」

 本来なら、私がさっさと記憶の整理をつけて事情を話すのが正しいのであろうけど、取り乱してい
たものだから、縋る心持ちで無礼にもそう尋ねてしまった。

 八意様はそれを咎めることはせずに教えてくれた。

 曰く、私は半殺しにされた状態でこの幻想郷に放られていたらしい。そこを通り掛かった、○○と
いう男性によって保護され、ここ永遠亭に運びこまれ八意様に治療されたのだという。

 「そうなのですか……。あの、その節は、どうも……」

 私は布団から起き上がって座り直し、手を突いて深々とお辞儀をした。

 「気にしなくてもいい、人が死にかけてるのを助けないのは寝覚めが悪いし。――それにしても
驚いたな、俺が発見した時はもう原形を留めていないくらいだったのに、もうそんな元通りになって
るとはな。駄目元で運んだ甲斐があったよ、……おかげで服が駄目になったがね」

 そう言って彼はからからと笑った。優しい声音で話していたから、最後の皮肉の言葉は、単なる
嫌味ではないと分かり、少し安心した。

 「それで、一体全体何があったのかしら」

 八意様が話しを進めるために促した。

 「はい……」

 ひとまず了承の応答をして、私はそのまま沈思した。すると、先ほど見ていた夢の内容が頭の中
で閃いた。それまでただの夢だと感じていたものが、即座に実感として胸に染みてきて、じっとりと
脂汗が滲んでくる。

 「お姉様です……」

 私はどうにかその言葉を絞り出し、事の次第を話しだした。

 お姉様が地上の男子を月に連れ込んだあの事を。

 「なるほど……」

 何かを察したように八意様は呟いた。その推察が、私がこれから言わんとすることまでのものなの
か、或いはそれ以上のことにまで及んでいるのかは分からない。


234 : ○○ :2018/02/22(木) 03:06:35 64FohCXE
【2/10】
 「で、あなたはどうしたの」

 「当然、帰すように言いました」

 けどお姉様は、まるで私が、お姉様自身の大切な物を奪わんとする外敵かのように反発してきた。
いつものお姉様ではなかった。最早別人と言っても過言ではない。だって、私たち今まであんなに
上手くやってきたのに、ただの苦言であそこまで嫌悪されるなんて……。

 お姉様から、あの男子への強い執着を感じた私は、彼を送り返したとしても、きっとまた連れてき
てしまう、さてはあの男子への執着を弥増しにしてしまう。その危惧から、私は強硬手段を取ろうと
した。即ち、かの男子の抹殺を図った。

 「そのままお姉様と一戦を交え、私が敗北しました。思い出せるのはここまでです……」

 とは言うものの、今のこの状況を鑑みれば、その後どうなったのかは火を見るよりも明らかだった。
私はお姉様によって、地上へ放り出されたのだ、それも半死半生の状態で。悲憤といった激しい
感情が起きるよりも、ただ沈鬱な気であった。頭の中は同じような想念が渦巻いていて、氾濫した
川の如く混沌としていた。

 「つまり、豊姫に半殺しにされて地上に送り捨てられたということね、それは非道いわ」

 淡々と八意様は、まるで状況について書いた文書でも読み上げるかのような口吻で言った。そ
れから――、

 「気持ちは分かるけど」

 と、このように、今度は情念を込めて呟いていた。私は耳を疑った。八意様があの事について気
を荒げず平静でいるのは相変わらずとしても、お姉様の所業については一部共感する様子を、そ
れも分かりやすいくらい見せるなんて。

 これが地上の穢れの影響なのだろうか。レイセンにしても、八意様の発言を諫める素振りは一切
見せなかった。おろか、嬉しそうに笑みの声さえ漏らしていた。

 「ともかく、豊姫と膝を交えて話す必要があるわね。さりとて、そのためにしたためる書簡を届ける
方法は限られてくるし、あなたを月に戻す方法もまた限られてくる。まずは時間が要るわ」

 「時間、ですか? ということは、既に方法は考えてあると?」

 「そうね」

 彼女は頷きながら、さらっと言った。

 「八雲紫に頼むわ」

 「えっ……」

 八雲紫と言えば、過去二度に渡って月の都を襲撃したスキマ妖怪だ。事もあろうに八意様が当
たり前のようにそのような提案をするとは予想だにしていなかった。

 無論反対した。月と彼女は敵対関係、しかして過去二度の戦いの内の後のほうは、起こってから
まだまもない、ついてはまだ残り火が燻ってさえいる。そんな時分に私があの妖怪に狩りを作るよう
であれば、それは多大なる穢れである。何より、あの妖怪に辱めを与えたお姉様の妹である私に
協力するとは到底思えない。

 「それなら問題ないわ、あのスキマ妖怪には、あなたと豊姫を取り持つことへの協力、及びあなた
を月に送り返す意義があるのだから……」

 至って平然として八意様は返した。

 「その意義とは――何なのですか?……」

 私がそう尋ねると、八意様は意味深長な微笑を浮かべ、

 「そのうち分かるわ」

 とだけ告げてきた。

 「まあ、あれね、とにかく私が交渉しといてあげるから、待ってなさいってこと。依姫には席を外し
てもらうわ、彼女との交渉で話がこじれる懸念があるから。その間は……、そうね、この機会に地上
を直接視察するというのも良いんじゃないかしら」

 「地上の視察を?」

 悪い話ではない。でも、私の面相は例の戦で地上の何人かに知られてしまっている。その問題
はどうするのかと訊くと、私の身元を保証する書状を用意すると切り返された。また、私を独りで行
動させるわけにもいかないとして、八意様はこともあろうに、私を救助した男○○に、私に付いてい
くように頼みだしたのである。私も彼も難色を示したのだが、永遠亭の者は現在手を離せないこと
と、同行者は人間であることが望ましく、頼める人物が彼しかいなかったことで、しぶしぶながらも
私たちは同意することとなった。

 なお、○○は私に同行することを承諾する間際、

 「ところで、●●、お前行ったらどうだ。遊郭の元男娼なら女のエスコートくらいお手の物だろ」

 と、○○は、八意様の隣に居る男に向かって冗談めかして言っていた。

 「ははは! ぶっ殺すぞ!」

 「ははははは!」

 ○○と、●●と呼ばれた男はお互いに朗らかに笑っていた。地上では斯様に物騒な冗談がなさ
れるのかと、つくづく地上の者の感性はよく解らないものだと思った。

 ふと私は八意様を見た。八意様は、笑っている●●を一瞥して、それから○○を、盗み見るよう
にねめつけていた。


235 : ○○ :2018/02/22(木) 03:07:57 64FohCXE
【3/10】
 「おっと……、ごめんよ、先生。何もこいつが卑しい奴だって言ってるわけじゃないんだよ。……
まあ、……幻想入りした原因はこいつの身から出た錆なんだけどな」

 すまなそうに、それでいておちゃらけた調子で○○は両手を上げて謝った。

 「てめっ、この野郎!」

 「ふははははは!」

 半笑いでいきり立つ●●と、それを見てげらげらと笑う○○。そんな二人の様子を見て、八意様
はますます不機嫌な面持ちとなっていた。ほとんど無表情に等しいが、ふつふつと煮えていく憤り
が、目に見えて浮かんでいる。私はこの表情を見たことがある――そんな気がする。


 そして思い出した。あれはお姉様と同じもの。あの男子を取り上げようとした時に私に向けた、嫉
妬にも似た情が瀰漫した面相。――でも八意様と違ってあれは、さながらケダモノの母が、我が子
を狙う外敵に牙を見せるみたいに露骨だった。

 その日、一日中、あの表情が忘れられなかった。八意様のあの表情が、お姉様のあれと重なっ
て見えて仕方がなかった。表面では、片や無、片や威嚇で違っているはずなのに、各々が孕む情
念は全く同じ。いずれにも共通しているのが、そばに居る男性の存在。もし、その男性の存在が、
彼女らに影響を与えているのなら? お姉様がおかしくなったのも、あの少年の存在が? ……だ
としても、お姉様から彼を取り上げることなんて出来るのだろうか。もう私はお姉様に立ち向かえる
気がしない。あの恐怖が忘れられない……。倒れた私に執拗に追い打ちを掛けられた時……、そ
の時の鈍痛や激痛……。

 ひとまずお姉様に関しては、八意様にお任せしよう。それで私は、明日の視察で、地上人のこと
についてよく知らなければならない。

 何故お姉様ほどの方が、地上の――それもただの無力な子供にほだされたのか。私はどうして
もそれを知りたい。地上人が月人に与える影響というものに、何か致命的な見落としがあるのでは
ないか。

 然り而して翌日、予定通り私は人里へ出かけることとなる。

 ところで――

 「私の剣は、どこに?」

 「少なくとも俺があんたを見つけた時、周辺には何も無かったし、後で血痕を辿ってもう一度確認
したが、やっぱり無かったな」

 と○○が答えた。

 「ま、月の物をむざむざ地上に落としておくわけもないわよね」

 そうおっしゃられたのは、かつての月の姫君――輝夜姫様であらせられた。かの方だけは、どう
いうわけか男をお連れになっていなかった。

 「珍しく早起きですね、姫様」

 と茶化すのはてゐ。姫様は、

 「よくぞ聞いてくれたわね!」

 意気揚々に語られた。何でも、かの方は、藤原妹紅なる者と男の取り合いをなさっているらしく、
先日その男が藤原妹紅に連れ去られたというので、取り返しにおいでになるのだそうだ。

 「で、何か御用があったんじゃありませんかね、姫様。それだけの気まぐれってわけじゃあないで
しょう」

 砕けた丁寧語で○○は切り出した。ああそうそう、という具合に姫様は話を戻され、パンパンと手
を叩いた。それに反応したてゐが、兎たち――因幡たちに合図を出した。彼女らの内、二匹の因
幡が、布に包まれた一本の棒状の物を持ってきた。これを○○に差し出し、彼は受け取った。

 「刀?」

 「そ、刀。本来なら依姫に渡すとこだけど、如何せんその子はまだ完治していないし、今回のお
出かけも、療育(リハビリ)に兼ねている部分もあるから。だからあなたが彼女を守ってあげなさい」

 「いや俺よりこのお嬢さんのほうがゴツそうなんですけど。それに刀使えないし」

 そこはかとなく揶揄されている気がする。

 「男でしょ。それに、女ってのは、たとえ自分が男より強くても、男に守られていると思うと安心でき
るものなのよ。――とは言え、人間相手はまだしも、妖怪はあなたの手に余るでしょうということから、
本当に無理だった場合は刀を依姫に渡して、任すのよ。勿論、渡すのはそっちの裁量で」

 そう結ぶと、姫様は懐から一通の書状を取り出して○○に渡した。

 「責任重大だ……」

 受け取り○○は渋い顔で呟いた。

 「まあ請け負ったからにはちゃんとやるけどね。さてお嬢さん、行こうか」

 ○○は書状を懐に仕舞い、刀を肩に担ぐと、手招きをしながらやおら歩き出した。

 「綿月です。綿月依姫」

 彼の言う『お嬢さん』という呼称が気になったので、それを改めさせるように私は自己紹介をした。


236 : ○○ :2018/02/22(木) 03:09:32 64FohCXE
【4/10】
 「ん、おお、そうか、よろしく。改めて自己紹介するよ、俺は○○っていうんだ」

 振り向いて彼は手を差し出そうとした。が、そうしようとした刹那に、ふと何かに気付いた態度を見
せたのち、引っ込めて、その右手を左手で押さえ付ける仕草を見せた。それからバツが悪そうに視
線を泳がせて、

 「さて綿月さん、行こうか」

 先ほどと同じ調子で言いながら、踵を返して歩き出した。一寸逡巡して私は後に続いた。

 亭の外にある入り組んだ竹林を案内役として、藤原妹紅という女子が居た。御札の張られた赤い
袴を履いた、白髪の娘であった。姫様と一人の男を懸けて争っている女というのは、どうやら彼女
のことであるらしい。が、そのそばに男は居ない。

 「ところで、□□はどうしたんだ」

 ○○が訪ねた。

 「あの人を連れてのこのこ永遠亭に来るわけないでしょ。バラバラになってもらって、ちゃんと地面
に隠したよ」

 「そ、そうか……」

 物騒な冗談を言うさすがの地上人も、肉体を解体して地面に埋めるという行為をそのまま受け取
るのは抵抗があるらしい。しかしながら、藤原妹紅のその行いは既に何度も行われているからなの
か、どことなく彼からはそういったことに慣れた様子が看取された。

 竹林を出て案内人と別れ、しばらく歩くと人里に着いた。木の塀に囲まれた向こうに家屋が立ち
並ぶのが見える。一ヵ所、門があった。その両脇には槍を持った人間が一人ずつ佇んでいた。○
○はその片方に軽く挨拶をして、中に入っていく。私も同様に入っていくのだが、その際に、その
人たちから強い視線を感じた。私が月人だとかの異物だと早速気取られたのだろうか。その懸念
を告げると、

 「美人だからだろ」

 出し抜けに言われたものだから、あまり実感は湧かなかった。異性に対して美しいと感じる場合、
それは得てして生殖的な意味合いを包含している。今の二人も、私をそのような眼で見ているのか
と考えてみても、私としては、果たして自身がそういう存在であるのか疑問なので、彼らのそういっ
た劣情は、絵に描いた餅に涎を垂らしているのと同じくらい不毛なのではないか、などと思ってし
まう。

 「木で鼻を括ったみたいな物言いだな」

 ○○は呆れ返っていた。

 「ところで、あなたは素っ気なく私に美人と言ってましたね」

 「言い慣れてはないな。俺だって、こんな佳人と一緒に歩くことになってどぎまぎしてるんだ。こう
いうリップサービス……御世辞は、もっと相手に敬意ってものを見せなくちゃいけないんだがな」

 自身の頭を、撫でるように掻きながら○○は歯切れ悪そうに言った。

 「御世辞?」

 「言葉の綾だ、語彙力が無いんでね。さて、まずはどこから行くか……。あんたのご希望は?」

 「そうですね……、出来るだけ穢れの多そうな場所を、見てみたいのですが」

 地上での表面的な穢れのみではなく、もっと深い穢れというものがどのようなものであるのか。

 「そんなとこ行きたいのか。まあ……、そっちがいいなら構わないけど……」

 訝みながらも○○は了承してくれた。で、彼は少しの間考え込み、

 「やっぱあそこしかないかな……」

 と言って、案内を始めた。それで連れてこられたのは、

 「賭場だよ」

 薄暗く寂れた座敷の中で、刺青をした男が、茶碗型のざるに二つのサイコロを入れ、丁か半かと
訊く。すると、その対面に座った男たちがこぞって、丁だの半だのと言い手元の木札を差し出して
いく。

 「みんなここで、自分が汗水たらして稼いだ金を、膨らましたり、溶かしたりするんだ」

 そう言いながら○○はいくらかの金を木札に換えて、空いてる所に適当に座ったのである。一人
だけ立っているのも落ち着かないので、私もその後ろに座って、場を覗き込む。

 木札はあっという間に無くなった。○○は手持ちの木札を三つに分け、一回の勝負につき元金
の三分の一を賭けていく。一回目は負け、その次では勝ち、後は負け越し。

 「今日は負けだな」

 そう宣言して彼が立ち上がろうとすると、

 「何だい、もう帰っちまうのかい、○○さん。いつもだったらもっとやってくのに」

 座敷の奥のほうに居た年配の男が話し掛けてきたのである。

 「今日はあまり手持ちが無いんだよ」


237 : ○○ :2018/02/22(木) 03:10:48 64FohCXE
【5/10】
 「なら貸すぞ。……担保がありゃの話だがね」

 と言って、男はじっとりとした目つきで私を見やった。そぞろに感じる不快さに、私の肌が粟立っ
た。この男だけではない、ここの賭場の関係者一同、並びに客たち、それら全員が私に対して無
粋で不埒なな視線を向けている。まさに四面楚歌。私に掛かればこの場に居る者全てなんてひと
ひねりだ。けど……、どうしてか今の状況が、手負いの私が捕食者に囲まれているように思えて、
心細かった。

 「やめとけ」

 その○○の声に抑揚は無かった。直後に彼は、懐から取り出した書状を開いて周囲に見せびら
かし、

 「彼女は永遠亭預かりの身だ。この通りお墨付きさ。手を出すとやべえぞ」

 告げられて、この場に居る誰もが、さっと顔を青ざめさせた。そんな彼らを一瞥して○○はその場
を後にし、それに追従して私も座敷を出た。外の空気が清浄に感じる、汚れた地上の空気のはず
なのに。彼の言う通り、あそこは確かに、この世の中で穢れが多い場所であった。むさ苦しい男た
ちの様々な欲望が醸す熱気や瘴気のるつぼだ。

 「すまないな」

 「え?」

 唐突に彼が謝罪をしてきたので、私は素っ頓狂に聞き返した。

 「危ない目に遭わせちまった。それと、あんたを餌に、この書状の効力を試すようなことをな」

 「いえ、行きたいと言ったのは私ですので……。それで、その、私を餌にとは、どういう意味で」

 「実は……あんたみたいな器量良しがああいうとこ行けば、目を付けられることは――確証こそ無
いが――およそ予想は付いていた。それで敢えて連れてったんだ。で、予想通り連中はあんたに
ちょっかい掛けたわけだ。それでこの、姫様の母印が押された、あんたの身を保障する書状を見
せた次第というわけさ。あいつらは人里で結構幅利かせてるヤクザもんで、そんな奴らに効果があ
るということを確かめられて、尚且つ、人里のゴロツキがあんたに手を出さないよう奴らに手を回さ
せることが出来た」

 「そういうことだったのですね……」

 先ほどはいささか怯えた私だが、それでも彼奴らのような手合いに後れを取ることはない。けど、
もしどこかで不届き者に絡まれた際、騒ぎを起こすのは宜しくないだろう。この幻想郷の人里では、
私の顔は当然知られていない。だからこそ、何も知らずに手を出す輩が居る。むやみに騒動を起
こさずに牽制をするのなら、あれは有効な手だったのかもしれない。

 「事情は察しました。あなたのお気遣い、痛み入ります」

 「そう言ってもらえると、気が楽になるよ。なら、もう一つ、俺にとって得だったことをぶっちゃけても
怒られないかな」

 若干の笑いを含ませながら○○は口を切った。

 「得、ですか。それは一体」

 「あんたの前で格好付けられたこと」

 「……、ふふ……」

 卒然と、実にあっさりとしたオチを付けられたものだから、思わず顔が綻び、笑みがこぼれた。

 「さて、さすがにまた変なとこに連れてくのも何だし、今度は無難に茶屋とかにでも行こう。俺の行
きつけのな」

 「地上の食物であれば、永遠亭で頂きましたけど……。それより、地上の食物を摂取するのは、
避けたいところなのですが……」

 「なあに、下手な物は食わせない。ま、ももんじ屋で獣の肉を食うよかましだろうさ」

 「そんないい加減な……」

 けど結局、流されるままに彼の言う茶屋について行くのであった。それで、その店と思しき所に来
た。赤い傘の下に、赤い敷物が被せられた腰掛け台が三つ。話に聞いていた茶屋という物に合致
するので、間違いないのだろう。

 「あ! ○○さん、いらっしゃい!」

 私たち二人がそこに腰掛けると、綺麗な色の着物の上に前掛けとたすき掛けをした、年頃の可
愛らしい娘子が話し掛けてきた。俗に言う看板娘という者か。

 ふと娘は、○○の隣に腰掛ける私に目を移した。すると、一瞬、戸惑ったように僅かに笑みが崩
れて固まった。彼女は須臾にして、あたかも何も無かったみたいに再び満面の笑みを見せると、

 「あら、そっちの人は?」

 虚心坦懐に尋ねてきたのである。

 「俺の担当の所の関係者ってところか。ちょっと込み入った事情があって向こうで世話になってる。
で、こっちに居る間に人里とかを見ておくってんで、俺が案内することになった」


238 : ○○ :2018/02/22(木) 03:12:14 64FohCXE
【6/10】
「へえ……」

 彼女は、固定された微笑みでしげしげと私を見た。妙に居心地の悪くなる視線である。直感的に
私は、お姉様や八意様のものと同じ類のものであると思った。しかしこちらの場合、お姉様らのよう
な過激なものではなく、どちらかというと探るような眼であるよう見受けられた。

 「なーんだ、つまんないのー。てっきり、ついに身を固めたりするのかと思ったのに」

 「俺は結婚なんてしない、責任が大き過ぎるからな。独り気ままに生きて孤独死のほうが楽だ」

 ○○はとぼけた調子で笑った。

 「好きな人の人生を背負うのがそんなに怖い? 無鉄砲に行動して、後の苦労は未来の自分た
ちに押し付ける、それが結婚なんだっておっ母さん言ってた」

 「ほっとけ。ほら、さっさと団子持ってこい」

 しっしっ、と○○が手を払い、女の子は、べー、と舌を出しながら店に戻っていった。

 「随分と好かれてるようですね」

 私は敢えて茶化す風に言った。

 「止してくれ、そんな暑苦しいもんじゃない」

 「そうでしょうか。彼女、お姉様があの少年に向けていた眼と同じものをあなたに向けていました
けど」

 「そうかい、それは嬉しいもんだ」

 そうして何も言わなくなる○○に、それ以上踏み込めなかった。しばらくの間沈黙が流れ、それま
での会話の流れが薄れだした頃、はたと、女が男に向ける思慕という話題から、ある疑問が浮き上
がった。

 「あの……、その……、男女の間の恋慕というのは、如何様なものなのでしょうか」

 「どうした」

 「いえ、ちょっと気になって……。お姉様の事もあるのですが、そのほかにも、八意様やレイセン、
てゐ、姫様らのこともあったもので。……八意様も随分と変わられてしまいました。レイセンだって
そうです。彼女らの隣には、必ず殿方が居ます。さては、いずれも強い執着によって結ばれている
ようにしか見えないのです」

 何かがおかしい。八意XX様が相手だったものだから、つい言われるがままに従ってしまったが、
そもそも私を月に戻すまでの暇潰しと言えど、何の準備も無しに地上の視察だとか、その御守とし
て○○をあてがうのはどういうことなのだろう。

 「致命的な何かが大きく欠けた人間ほど、それ埋めるための何かに執着する。而してこれは同時
にその人間の弱点ともなり、謂わば肝心を外部に曝しているに等しい状態とも言える」

 私が沈思していたら、不意に○○が語り出した。

 「まず八意先生の情夫だが、――名前は言ったっけな――●●と言って、俺とはこの幻想郷に
来る前から友達だった。俺が外に居た頃では、部屋に血痕を残して行方不明になったとだけしか
知らなかったが、ここで再開して詳しく聞いてみると、何と痴情のもつれで心中させされたんだと。
で、その後、女性用遊郭で働いていたんだが、そこで八意先生に見初めらて身請けされたってわ
けだ。次に鈴仙の男、■■だが、●●に拠れば俺の前任の運び屋だった奴で、鈴仙による事故
で感覚器官がぶっ壊れて永遠亭で療養している。ただ、失った五感の代わりに物の波長を感じ取
る器官が発達したから生活には困らないんだそうだ。俺もよく話すが、面白い奴だ。尤もどういうわ
けか女が発する波長にだけは鈍感になるけどな」

 「そう言われれば、彼は全く私に対して意識を向けてきませんでした」

 「あとは察してくれ。で、何だっけ、恋愛がどうとかだったな。そうだな、根底には、生きたい、残り
たいって思いがあるんだろう。だから何かを残したがる。血とか、思想とかな」

 「なーにー、さっきは所帯持つ気なんてないって言ってたくせに、恋愛話? まさか遠回しに口
説いてるの?」

 いきなり声を掛けられたから驚いた。振り向くと、先ほどの娘が、団子を持ってそこに居た。

 「こんな綺麗な人、落とせるわけないじゃん。それに、すぐに帰っちゃう人なんでしょ」

 ――そうですよね?

 と、彼女は、囁くように私へ言った。またあの眼だった。一抹の攻撃的な情と、不安げな情が入り
混じっていた。勿論見えたのは一瞬だけだった。さあらぬ体で彼女は団子を私たちに渡すと、また
戻っていったのであった。

 「また跡形もないことを……。さ、遠慮せず食べなよ」

 手で私に促し、○○は自分の分の団子を一口頬張った。私は団子を一本取って、これを見つめ
る。一見して鮮やかなこの三色団子も、穢れに満ち満ちた地上の食物であり、食欲をそそられるこ
の見た目も、誘惑でしかない。

 食そうと開きかけた口が、躊躇して閉じる。もう一度○○を見やった。彼は平然と団子を口に運ん
でいる。私は、それを真似るような心持で、団子を一つ食べた。


239 : ○○ :2018/02/22(木) 03:13:16 64FohCXE
【7/10】
 「美味しい……」

 口の中で咀嚼する度に、控えめながらも豊かな甘みが団子から溢れだす。その甘みが私の頭の
疲れを癒してくれた気さえする。

 この味は、私の思い出に深く刻まれる。

 今日一日で私の中に流れ込んできた情報は多く、これらをどう総括したものかと戸惑う。

 それは就寝しようと布団に入った時に顕著となり、毛布の下で私は目を閉じながら頭の中で忙し
なくそれまでの事柄を反芻していた。

 生命を蝋燭に例えるなら、地上の命は、吹き荒ぶ風の中で懸命に燃える炎と言える。激しく燃え
上がるほどに穢れに染まり染まり、然れどもそうせずにはいられないから燃え続ける。そうやって引
き延ばした寿命を過ごす間、自身の残すモノを決める。

 他者に施す者、他者から奪う者。真理の探求に生涯を捧げる者、無為に時を浪費する者。彼ら
いずれも、自分の何かを残したいという思いを持つが故に、その道を走る。自らが永遠に生けるこ
と叶わずとも、子供たちに血や思想、またある時は団子の味を伝え、子々孫々に自分を託そうとす
る。

 次の日も同じように。またその次の日も、地上人の人情というものを知り、その考えへの確信をま
すます強めていく。

 でも気が付けば、八意様は私が月へ帰るための段取りを既に終えていて、私は月に帰れるよう
になっていた。帰郷の当日、永遠亭以外の面々で居合わせたのは、あの忌々しいスキマ妖怪の
他に、○○もだった。

 ○○は……彼は私にとって不思議な人だった。自己紹介の時、握手をしようと手を差し出そうと
して、私に気を遣ったのかその手を引っ込めた。けど握手とは敵意の無いことを示す行為でもある
ため、彼は握手の代わりに、右手を押さえ付ける――利き手を押さえ付けることで友好を示した。
そうした気配りの出来る生真面目な一面を垣間見せる一方で、たびたび賭場に言って散財したり、
私に地上のお団子を食べさせたり、普段は無精な振る舞いをしたりする。そんな人。

 「この何日の間、お世話になりました」

 私は深々とお辞儀をする。

 思えばここ何日間、彼はいつも私の隣に居た。私の御守だから当然かもしれない。そして不思議
な温かさのある人でもあった。初日に賭場で周囲から邪な視線に纏わり付かれ、うそ寒いものを感
じていた中、彼の居る方からだけは温かさが漂ってきた。何と言うか、彼の隣に居れば大丈夫な気
がする、安心するのである。

 「いや、俺もあんたから色々な話を聞いて、少し学んだ」

 そう言いながら、彼は左手に持った刀を差し出した。初日に姫様が、いざとなったら私が使うのに
彼に持たせた物である。けど結局使うことはなかった。

 「念のため持ってったほうがいい、どうなるか分からないからな。姫様、別にいいよな」

 「別にいいわよ、今度帰してくれればいいから」

 姫様はあっさりと、私がこれを持っていくのをお許しになられた。

 「お言葉に甘え、しばらく拝借致します」

 私は○○から刀を受け取り、姫様に向き直って、それを両手で掲げてこうべを垂れた。そしてもう
一度○○を向いた。

 「お達者で」

 言いながら私は手を差し出した。最初彼がしようとしていた握手を、改めてしようというのだ。

 勿論彼はいささか面喰っていた。が、やがておずおずと、私の手に自らの手を重ねた。

 「あなたの手って、大きいんですね。膂力は私のほうが上なのに、私のより逞しく頼もしい……」

 彼の手を握り、その感触を感じる。熱くて、厚くて、大きくて、堅牢な骨格と筋肉。

 「運び屋やってればそうなる」

 そう言う○○は照れ臭そうだった。それを見ていると、何だかこっちまで同じ気になってきそう
だった。

 やがて私たちは、結んだ手を離していく。手が完全に離れる間際、お互いの指先が名残惜し気
に引っ掛かった。けどその繋がりは蜘蛛の糸のように儚く切れるのであった。

 「もう宜しいかしら」

 そう言ったのは八雲紫だった。

 「ええ」

 私はわざと不愛想に応えた。けど、一応会釈くらいはする。気に喰わない相手だけど、礼儀を守
るに値する者ではある。すると、八雲紫はにっこりと大変愛想の良い笑顔を返した。一点の曇りの
無いその笑みは、却って何か謀があるのではとすら勘繰ってしまいそうだった。さりとて、彼女が胡
散臭いのは元からであるから、判然としないのだが。

 八雲紫が開いたスキマの前に立つ。毒々しい背景に、おびただしい目が浮かんでいる。その不
気味さに、気後れする。不安のあまり、○○の方を向こうとしたが、そうすると迷いが強くなってしま
いそうだったので、意を決してそこへ入った。


240 : ○○ :2018/02/22(木) 03:16:00 64FohCXE
【8/10】
 気味の悪い空間に入ったと思ったら、次の瞬間には見慣れた風景があった。久しく見ていないこ
れは、まさしく月のものだった。私はとうとう月に戻ってきたのである。

 前を見ると、お姉様が居た。彼女は静かにそこへ佇み、私を見ながら微笑んでいた。

 「おかえりなさい、依姫」

 あんな事があったとは思えないくらい、柔らかな態度であった。ひょっとすると自分は夢を見てい
ただけなのではと錯覚するほどに、自然なものだった。もしかすると、八意様がとりなしてくれたの
かもしれない。

 どう切り出したものかと私は口を開きあぐねている。

 「八意様のお加減はどうだったかしら」

 「息災でした」

 「そう、それは何よりね……。いつかご挨拶にでも出向きたいところね、……あの子も紹介しなく
ちゃ」

 お姉様の口からそんなことが出た時、私は、あれが夢などではないのだと、思い出した。

 「やはり……あの男子を帰さないのですね」

 「それはどういう意味かしら」

 「そのままの意味です。あの子を月に置いておくのは、良くないと言っているのです。お姉様のこ
とですから、きっとあの子の穢れは取り去ってしまっているのでしょうが、しかし彼が地上の人間で
あることには変わらず、一つの因果を歪めていることには変わりありません。だから、帰さねばなら
ないのです」

 「ふふ……」

 私の言い分を聞き終えるや、お姉様は小さく笑いだし、少し間を置いてから、今度は腹を抱えて
笑いを、押さえ付けるように出した。

 「うふふ……、ふふふ……」

 「何が可笑しいのですか……」

 苛立ちながら私は問い質した。胸をいくらかの不安で孕ませて。私は何かを見落としている。事
件の全容が把握出来ていない。

 「何って、滑稽だからよ、あなたが……」

 「滑稽? 私が?」

 「ええ、そうよ。よもや、自覚も無しに地上の穢れに染まっているあなたに言わていると思うとね…
…」

 「確かにそうかもしれません……。私は穢れた地上に何日か身を浸し、いくらかの食物を口にし
ました。ですが、その程度で取り返しのつかない穢れに染まるわけでもない。祓うことなど容易いは
ずです」

 「あなたは何も分かってないわ、何もね。言ったでしょ、自覚の無い穢れって……」

 お姉様の言葉がじっくりと胸に沈むのを感じた。何故か私は反論する気が起きなかった。

 「依姫、あなた地上に誰か好い人でも見つけたんじゃないの?」

 それを聞いてある人物の姿が喚起された。つい先ほどまでいつもそばに居てくれて、今はもう遠
く離れてしまっている……。不意に胸が苦しくなった。

 「図星のようね。だってあなた、今とても穢れた表情をしているもの……」

 お姉様は、侮蔑――ではなく、どちらかというと勝ち誇ったように私を見据えていた。

 ――穢れた顔? ――私は今、どのような顔をしているの?

 ――何だか気持ちが悪い……、吐きそう……。頭も痛い……。それに重い……、身体が重い。
重くて、思考が鈍る……。

 「どうやら、追放されるのはあなたのほうみたいね、綿月依姫」

 「そんな……」

 何も言い返せなかった。これは私の自業自得……。地上のほんの一部を間近で視たという程度
で、真理でも得たような気になっていた。でも実際には、穢れをその身に受け入れ、堕落している
ことにも気付かない愚か者に過ぎなかった……。

 「これで分かったでしょう。自分がまともだと思っていた想念が、実は狂気でしかないこともある。
けれども皮肉なことに、狂気こそがその人間を一番よく表現してくれる……。だから帰りなさい、在
るべき所へ――」

 莞爾として微笑しながらそう言うと、お姉様は私の耳元へ口を寄せ、

 「束の間のさよならよ、依姫。いつの日か、仲直り出来る日を楽しみにしているわ……」

 私がその言葉の意味を考え出すまでに、既に目の前の風景は月のものではなくなってしまって
いた。また私は戻ってきてしまったのだ。

 「私は……どこでどう間違っていたの?……」

 考えようとしたところで、放心している私では、同じようなことが頭の中で回り続けるばかりだった。


241 : ○○ :2018/02/22(木) 03:17:14 64FohCXE
【9/10】
 死にたい。

 そんな想念が浮かんだ時、ふと左手に持っていた太刀を思い出した。私はそれを数寸ほど抜き
出した。周囲の光を反射した冷たい輝きが私の目を照らすのを感じた。この刀は優しくこそないが、
その代わり残酷でもない。振るう者の意思に従い、触れ撫でた物を容赦なく傷付ける。故に中立。
それが安心する。


 私はその刃を頸に当てた。あとは刀を引くだけでいい。さすれば私はこの苦しみから逃れられる。

 「○○……」

 でも出来なかった。あの男性、○○からも離れてしまうと思うと、死にたくなくなった。

 すると、唐突に横から伸ばされた手によって刀の刃が覆われ、頸から離された。それは私から刀
を取り上げると、その刃を鞘に納めてしまった。

 「○○!……」

 見てみると、何とそれは○○だったのである。

 「あんた何を考えて――」

 厳かな面持ちの彼が何かを言おうとする前に、私は彼に縋り付くように抱き付いた。そんな私を
○○は抱き留めてくれた。温かかった。彼の硬い筋肉の弾力を感じた。彼の匂いが頭に染み渡る。
そうすると、自分がこの恐ろしい世界から守られている気がした。他でもない彼によって……。

 「あッ!……」

 突如、下腹部に鈍い痛みが走った。初めての痛みだ。これに伴って、私の身体が、それまで感じ
ていた吐き気や寒気を思い出した。

 「おい、どうしたんだ!」

 ○○からの問い掛けに応えることもままならず、

 「助けて……」

 弱音を吐き、彼に回す自身の腕の力を遮二無二強めるばかり。

 然り而して、不意に私の身体が持ち上がった。○○が私を抱き上げたのだ。そのままどこかに走
り出すのである。私を抱きながら走って息が切れても、彼は走りを止めなかった。

 私はこの感覚を憶えている。たとえ意識が無かったとしても、この肌が感じたものを。私がここに
落とされて意識不明となっていた折に、彼はこのようにして私を、自らの服が血にまみれることも厭
わず運んでくれた。よもやまた同じように救われるなんて……。

 彼に運ばれたのは永遠亭だった。八意様は私を受け取ると、○○に別の所で待つように言って、
私を診た。八意様は、ふむと一つ漏らすと、まるであらかじめ用意していたかのように懐から薬を取
り出し、私に飲ませたのである。すると気分の悪さはゆっくりと引いていき、ひとまず行動出来るくら
いには回復した。

 「月経ね」

 出し抜けに八意様は告げた。

 「子供を作るために子宮に施された準備が使われずにいると、それが血として膣から排出される
生理現象。地上人であればお赤飯でも炊くところだけど……、月人のあなたでは真逆の意味を持
つことになるわ。そもそも月人には月経は無く、一定の穢れに染まることで初めて出るものから」

 苦悶に鈍った頭の中で、何かが弾けた。

 その後のことはよく憶えていない。気が付いたら永遠亭の廊下をふらふらと歩いていた。八意様
の薬があるとは言え、例の月経というものの症状は依然として私を苛む。耐えかねて倒れ込む私を
受け止めたのは○○だった。


242 : ○○ :2018/02/22(木) 03:19:08 64FohCXE
【10/10】
 「大丈夫か? 何なら肩を貸すぞ」

 私を気遣い優しい声音だった。誰のせいだと思っているのか。何も知らないくせに。私の苦悩な
んて知りもしないくせに。

 私は、腕に当たる刀に気付いた。○○が持っていたらしい。それを引っ掴むや、○○を突き飛ば
したのである。

 「触らないでッ! 私に近寄らないでよ! どうして私に構うの……。どこかに行ってッ、ほっとい
てよ!」

 「お、落ち着け」

 宥めるように言って○○はその場で止まった。けど私から離れようとしない。私は○○から引った
くった刀を抜き放つと、彼に向って振るった。切っ先が彼の衣服を切り裂き、彼の胸に一筋の傷が
走った。

 さっと私の熱が冷え、血の気が引く感覚を覚えた。○○は切られた箇所を手で撫で、付着した血
を見ると、泡を食って尻餅をつき、上擦った声を上げながらその場から逃げ出してしまった。

 「待って……」

 手に持った刀を取り落として私はその場で崩れ落ちた。

 「お願い○○、行かないで……。痛くて怖いの、一緒に居て……。寂しいの、寒いの……」

 彼が居なくなり、苦痛と私だけが取り残された。血の巡りが悪くなっているから、肌寒い。そんな
私を包んでくれる○○はもう行ってしまった。私はさめざめと泣きなつつ譫言のように同じようなこと
を繰り返していた。

 そして私の記憶はまたあやふやな物となった。

 後日、私は、○○に会いたいという思いに押されて人里へ赴いた。彼の居そうな所は、あそこし
か思い浮かばなかった。望みは薄いけど、足が勝手にそっちへ進む。

 着いたのは、○○と一緒に行った団子屋だった。○○は店先の腰掛け台に居た、――隣にはあ
の看板娘が座っていた。彼女は、私が付けた彼の胸の傷に手を当てていた。

 近づく私に二人が気付いた。立ち上がったのは娘のほうだった。庇うように○○の前に立って、
キッと私を睨みつけてきたのである。当の○○は、彼女の脇から顔を出して、気まずそうに私を見
つめるばかりだった。彼は私を守ってくれた、それが今では私に怯えている。

 その様を見て私は、色々と思うことはあれど、何よりも目の前の彼女が邪魔で邪魔で仕方がな
かった。彼女は○○を奪おうとしている。私の安寧を脅かそうとしている。そんな理不尽な怒りがこ
んこんと湧いてきた。

『後編:Staining Red. 』に続く


243 : ○○ :2018/02/22(木) 22:30:34 pSojdN1c
以前、脅迫系霊夢を書いた者です。
感想や指摘をしていただける嬉しいです。

「○○、あなたはお見合いをするの?」
彼女は、自分にそう聞いた。
なんてことはない。些細な理由のお見合いだった。

月の民の中で大きな影響力を持つ貴人にして女神、稀神サグメ様。
その彼女の能力は、彼の幻想郷をも容易に征服できるとの噂だ。
どんな能力か、自分はそれを知らない。
そんな恐れ多い彼女に、仕える自分は今も疑問に思う。
前まで下っ端兵士だった自分が、何故彼女の側で仕えるようになったのだろう。
貴人の考えることは分からない。

きっかけは、月の都で祭りが行われた時のことだと思う。
月の都の下っ端兵士だった自分は、お互い暇だった上官と一緒に居酒屋で酒を飲んでいた。
何を祭る祭りなのか。
自分達は貴人達が開いた催しものに乗っかることにした。
酒は進み、意識は少し曖昧に、突然、上官からお見合いを持ちかけられた。
自分は、女性との付き合いを知らない、身も蓋もないことを言えば、
モテない人生を歩んできたため、突然の縁談に返事が返せなかった。
上官は、良い返事を待っている、そう言って会計を済まし立ち去った。

自分はその後、足取りはおぼつかないのに、妙にお見合いのことだけは、気がかりだった。
だからだろうか、貴人にして女神であるサグメ様と肩をぶつかってしまうのは。
意識が曖昧だったが、覚えていることは、彼女に土下座をし、許しをただ請う情けない自分の姿。
それが、彼女に仕えることになったきっかけだと思う。

自分は友人と呼べる仲間はいない。家族もいない。独り身だ。
簡単に捨てられる兵士として、条件は良かった。良く分かっていた。
だから立場も自然と下に見られた。
特に同僚のある兎(以下、同僚と呼ぶ)は、自分を惨めで哀れで存在価値のない獣と罵るくらいに。
同僚は将来、有望な兵士として貴人にも仕えている。依姫様の部隊だ。
対して自分が誇れるのは忠誠心ぐらいか。
その忠誠心も、貴人に見捨てられたら、儚い一方的なものだった。
だから、あの時は必死だった。きっと拷問で惨めに死ぬと思ったから。
本当に生きる価値がないことを恐れていたから。

その翌日、サグメ様に仕える者からサグメ様直筆の従者任命書を頂いた。
自分は、疑いと恐れをもちつつ、サグメ様のもとに向かい、サグメ様と面会することとなった。
面会はサグメ様と自分だけで、部屋で行われた。
自分はこのとき、相当緊張をしていた。死ぬことを覚悟していた。
しかし、サグメ様から発せられた言葉は
「任命書通りの内容よ。」それだけだった。
その日から、サグメ様の従者として仕えることなった。


244 : ○○ :2018/02/22(木) 22:32:19 pSojdN1c
サグメを脅迫させたかった。(できていない)

サグメ様は自分のことを常に気にかけてくれた。
食事、服、体調管理。相談も聞いていただいた。
さすがに金銭的な関係を持ちかけられたときは、
遠慮したが。
それでも、こんな捨て駒の自分に、親身になってもらった。
彼女からすれば、大したことじゃない、あるいは裏があるかもしれないが、
自分は彼女に感謝をしている。
彼女からもらった恩に報いようと思った。
だからだろうか、油断をしていた。心酔していたのだろう。
同僚から受けたイジメを彼女に言ってしまった。

サグメ様に仕えることが決まった日から1週間後、
恐ろしいことをサグメ様に仕える従者の同僚から聞いた。
下っ端兵士時代、自分をいじめていた同僚が、無残な死体になっている。
とても見られる状態ではないほど、酷い死に方をしていたそうだ。

数日後、サグメ様からお見合いについて聞かれた。
「上官から、お見合いすることを勧めらていますが、今は返事をしていません。」
自分は正直に答えた。
「そう。・・・あなたは好きな人がいるの?」
? 妙だ。
「自分は色恋沙汰に興味がありません。」
数分黙った後に、
「あなたのお見合いは成功するわ。私と結婚することはできないけれど。」
? 何だ最後?
自分はお見合いについて話した覚えはないが、
調べられても困ることではないので、祝言だと思い
「ありがとうございます。」
とだけ言った。

突然、上官から手紙が送られた。
内容は、お見合いは中止となった。
上官曰く、お見合い相手は病気で倒れたらしい。意識は不明。
そして、最後にサグメ様が紙で忠告をしたそうだ。
曰く、私は彼の妻である。

自分は真偽を確かめなければならない。
彼女はどうして、自分に固執するのか?
今、サグメ様の部屋で彼女と二人だけ。
「サグメ様、何故自分に固執をなさるのですか?」
我ながら貴人、しかも月の女神にこんなことを言えたものだ。
「・・・。○○は私のことを愛している?」
なるほど。
「・・・。申し訳ありません。自分はサグメ様を
恋愛対象として見れません。それに、サグメ様ほど素晴らしい方なら
他によい人を見つけられますよ。自分とは釣り合いません。」
「○○。私は月の女神。」
「存じ上げております。」
「あなたは私の能力を知っている?」
「いえ、知りません。」
「やっぱり。嘘じゃなかった。」
なんのことだ。
「私とあなたが初めて会った時、
少し肩をぶつけただけなのに、あなたに謝られた。
恐れを抱き、絶望に沈む、必死だったあなたの顔。
苦しみと焦りがあなたをそうさせた。
胸が締め付けられた。あの時のあなたは、
哀れでそして、とてもとても愛おしかった。
私のすべてをかけて、守ってあげたかった。」
絶句した。あまりに衝撃的だった。
「あなたをいじめていたゴミは殺したわよ。
お見合いは中止させた。・・・そして、
私の能力は言ったことが逆転する力。」
自分とサグメ様との距離が近づく。
「あなたは私のこと、愛してくれる?
それとも、愛させる?旦那様。」
つまり、詰みだ。
「自分はサグメ様の夫になることを誓います。」
サグメ様は自分にめいいっぱい、口づけをした。
こうしてサグメ様と自分は夫婦となった。


245 : ○○ :2018/02/24(土) 20:39:08 z1QkiF8k
>>242
愛する人を自分で傷つけてしまったことへの罪悪感に苛まれるのっていいよね…
一度許して貰えてもフラッシュバックするたびにずっと償い続けちゃうんだ…


246 : ○○ :2018/02/24(土) 22:18:44 i4XIvnNI
>>229
コカはヤバすぎる… これ確実に、祖父は人間ならば廃人状態になっていそう

>>242
自分で追い払っておいた癖に、自分以外の女性が○○の側にいると嫉妬しまくる
ってのがイイ… その身勝手が人間味が有るような

>>244
脅迫ってヤンデレの標準装備だよね


247 : ○○ :2018/02/24(土) 22:22:12 i4XIvnNI
誰がそれをやったのか3

上白沢慧音を選んだ場合

 まだ暗い内に△△の家から出て道を歩く。先生の家は村の中心にあり、人里の外れにある外来人の集落からは少々遠い。
正直宛てはないのであるが、上白沢先生に尋ねればきっと何か良い案が生まれてくるに違いない。
 そう考えて道を進んでいくが、冬の風は冷たく身も凍るような寒さである。鼻をすすりながら声が思わず出てくる。
「ああ、寒い。」

そう言ったとしても寒さがましになることはないのであるが、それでもそう言わずにはいられない。いったいどうして
こんな状況に
なってしまったのかと考えつつ、薄暗い道を進んでいく。霜柱が足で踏みつけられ、グシャリと音を立てた。
霜を履んで堅氷至るという言葉があるが、今の自分にはそれが思い至る余裕は無かった。

 いざ家の前に入ろうと思うとなかなか思いきりがつかない。しかしそれでもどうにか気持ちを奮い立たせて部屋の扉を開
ける。早い時間であったが先生は起きていた。明かりがついていない暗い部屋の中で、先生は座って涙を流していた。いつ
もは丁寧に櫛でといている白い髪は、ボサボサで振り乱していた。そして服は乱れており見たものに恐怖を与えてしまうよ
うな、まるで外界で読んだ本の中にいた夜叉のようですらあった。
 こちらが扉を開けた音に先生が反応する。赤く充血した目で胡散臭げに此方をぼおっと見ていた。突然の訪問を詫びるため
にこちらが挨拶をしようとする前に、先生が猛烈な勢いで跳ね上がって私に飛びついてきた。
「○○一体どうしたんだい!一体どうしてここに来たんだい!」
「実は自分の小屋が火事に遭いまして…」
私はそう言って先生に事情を説明しようとしたが、先生は私が話そうとするにも関わらず、私を自分の家に引っ張り込んだ。
「分かっている。ようく、分かっているんだ。まさかあんなことになるなんて…。」
先生はそう言って涙を流しており、私はそのまましばらくぬいぐるみの様に、先生に抱きしめられていた。ややあって、と
言っても数分の間であったのかもしれないが、先生が少し落ち着いた頃を見計らって、私は先生に話しかけた。
「実は、先生にお願いがございまして。」
「一体なんなんだい?」
涙で嗄れた声で先生は言う。


248 : ○○ :2018/02/24(土) 22:22:44 i4XIvnNI
「実は火事で財産をなくしてしまったので、来年の地代が払えないのです。是非とも先生にお願いしまして どうにか収穫以降
まで待ってもらえるように、顔役にお願いしてもらえないでしょうか?」
村の守護者とはいえ、かなり負担を掛ける私のお願いに対して先生はこともなげであった。
「なんだそんなこと…。○○、お前がそんなことをする必要なんてないんだぞ。」
なぜかそのようなことを言い出す先生に対して、私は呆気に取られてしまう。何か致命的なまでに会話が噛み合わない。
「お前は大変な目にあったんだから、ひどい目にあったんだから、そんなことをわざわざ考えなくていいんだぞ。どうせならば
一年や二年…いや永年でもいいんだから、そんな事ぐらい私が話をつけてどうにでもしてやるよ。」
「しかし、そんなことを言われても…。先生に気苦労をかけるわけにはいきません。申し訳ありませんが、秋までの繰り延べの
方をどうか頼んでいただけないでしょうか?」
こちらとしては先生にそこまでの迷惑をかける訳にはいかず、あくまでもお願いをする。
「だめだ!」
普段は穏やかな先生が大声を出す。
「私がそのお願いをしたら、君はここから出て行くつもりなんだろう!」
いつのまにか話しがすり替わってしまったが、それでも迷惑を掛ける訳にはいかないと答える。
「駄目だ。駄目だ!それは絶対ダメだ!」
優しい先生が断固、私の言うことを拒絶する。村人から普段慕われている姿とは違う、鬼気迫る勢いにすっかり私は圧倒されて
しまっていた。
「一体、どうしてですか…。」
自分の声は知らず知らずのうちに震えていた。もしも知ってしまえば、もう二度と戻ることが出来ないかのように。
「私は歴史を創る能力と、食べるる能力を持っている。だから幻想郷のことがよくわかるんだ。」
私に話したくなかったことを、先生は言う。
「だから…だからこそ、お前の家に火をつけた犯人を私は知っているんだ。お前はそれを知れば、絶対にそいつを許さないだろう。
私はお前に出て行ってほしくないんだ…。」
先生は涙ながらに話す。
「大丈夫だ、私が全部上手くやる。私が全て歴史を食べてそして新しく作り変えてやる。だから、お前は何も心配しなくていいんだ。」
そう自分自身に言い聞かせるように言って、先生は僕を見つめていた。

以上になります。


249 : ○○ :2018/02/25(日) 22:15:08 wvI1pvGM
ここってアスキーアートは大丈夫かな?
スレの邪魔になるならロダを使えばいいと思うんだけど……どうだろう


250 : ○○ :2018/02/26(月) 00:01:42 1ImVhrvA
是非見てみたいです…


251 : ○○ :2018/02/27(火) 00:37:51 AOSQ9UvM
なんかバグってる
まとめwikiの右メニューにある
総アクセス数
今日の来訪者数
昨日の来訪者数
の所で良くわからない英文が表示されているけど私の環境だけか?

247-248は今日の午後にまとめておきます
眠いけど調査しないと・・・やっぱ寝る


252 : ○○ :2018/02/27(火) 00:52:07 AOSQ9UvM
SSを更新したら直ったっぽい?
日付が変わる時に発生する一過性のバグかな?

とりあえず右メニュに
The level of configured provisioned なんとかというのが
また出たら時刻、日付を教えてください


253 : ○○ :2018/02/27(火) 18:00:46 r8NOQH3c
初投稿ですよろしくお願いします



「あのー、すみませーん」
「え、はい?」
 境内の掃除をしていると突然声をかけられ、思わず返事をし、顔を上げた俺は面倒なことになると直感した。
 といっても、別に話しかけてきた人が知り合いだとか、タチの悪そうな輩だったわけではない。
 ただ単にその人が女性だったという話である。
「あのー?」
 言葉を発しない俺を訝しんだのか、ここに参拝に来たであろうその女性が再び声をかけてくるが、俺はそれに答えられなかった。正確には答えるわけにはいかなかった、だが。
 そんな、頑なに喋ろうとしない俺の態度に少しムッとした女性がもう一度口を開こうとし――しかしそれは叶わなかった。
 神速としか言い様のない速さで、俺と女性の間に割り込んだ人物がいたからである。
「ようこそ、守矢神社へ。私はここの巫女である東風谷早苗と申します。今日はどういったご用件ですか?」
「あ……え?」
 突如目の前に現れ早口で話し始めた早苗に、女性が目を白黒させて驚く。
 どう考えても人間業ではないものを披露されたのだから当然の反応だと思うが、早苗はそんなことお構いなしというように言葉を続けた。
「参拝でしたらまず手水舎で禊をお願いします。拝礼は再拝二拍手一拝になります。御守りがご入用でしたら授与所の方でお渡ししています。他のご用件でしたらお伺いしますが?」
「え、あ、はい」
 早苗による怒涛の説明に、女性が若干ひき気味にそれだけ返し踵を返す。しかし、早苗はそんな女性の肩を掴みさらに言葉を続ける。
「我が守矢神社は参拝の方をいつでもお待ちしています。信仰していただければとても嬉しいです」 
 そこで一旦言葉を区切った早苗の雰囲気が一変する。それは明らかな怒気を孕んだものだった。
「ですが、○○さんに、この人に手を出すというのであれば、そんな方の信仰などいりません」
「は……い」
 早苗の迫力に気圧されたのか、女性が震えながら声を絞り出す。掴まれた肩には指が食い込んでおり、目の端に涙を浮かべながら時折痛みに耐えるような表情をしていた。
「いいですか?二度はありませんよ?……わかったなら行きなさい」
 最後に早苗が念を押すと女性は何度も頭を縦に振り、逃げるように去っていた。
 そんな女性に申し訳なさを感じながらその後ろ姿を見送っていると、顔を両手で挟まれ視線を下に向けさせられる。
 そうして間近に迫った早苗の表情は先程女性に向けていたものとは打って変わって今にも泣きそうなものだった。
「大丈夫ですか?何かされませんでしたか?ごめんなさい、私がもう少し早く気づいていれば……」
「ああ、いや、うん。大丈夫だ早苗。何もされてない」
 恋人の行き過ぎな程の心配に若干の疲れを感じながらも頷いて返すと、早苗は明らかにほっとしたように息を吐いた。
「よかった……」
「うんうん。俺は大丈夫だからさ。ほら、参拝者の人の相手が途中だったんだろ?待ってるみたいだから行ってこいよ」
「……はい。それでは失礼します」
 俺の言葉に対して何かを言おうと口を開いた早苗だったが、結局はそれだけ言うと名残惜しそうに参拝者の元へ戻っていった。
「……さて、あんまり早苗を心配させるのもアレだし、俺も中に入るかな」
 掃除はまだ終わっていなかったが、もう一度今のようなことがあったらどうなるかわからないので、俺はさっさと片付けを済ませて社務所の方へ戻ることにした。


254 : ○○ :2018/02/27(火) 18:01:30 r8NOQH3c
 それからしばらくして、暇になった俺が縁側から境内を眺めてみると、相変わらず早苗は忙しなく参拝者の相手をしていた。
 一人であの人数を相手にするのは大変だと思いつつも、俺が手伝おうとするとさっきのようなことになるので手出しすることはできない。
 だったら家事なんかをしようと思ったこともあるが、それは私の仕事だからと早苗が言って聞かないのでそれもできない。
 だからこその境内の掃除だったのだが、あのようなことがあったので今日はやめておいた方がいいだろう。
 そんなわけで、俺は湯呑みを片手に人間観察を交えた日向ぼっこをしているわけである。
「……ん?」
 ふと、あるものが目に入って思わず声が出る。
 遠目だったから見間違えたのかもしれない。幽霊の正体見たり枯れ尾花という言葉もあるくらいだから、その可能性はあるだろう。
 しかし、俺の目には参拝者の男が早苗の肩に触れたように見えたのである。
 ちりちりとしたものが心に燻る。
 そういえば、参拝者には男が多い気がする。
 そういえば、男達は心なしか早苗にデレデレしているように見える。
 そう思うと心に黒いものが広がり、心臓の音がうるさいくらいに聞こえてくる。
「○○、何してんの?」
「うおあっ!?」
 突然後ろから声をかけられて思わず叫んでしまう。
 別の意味で心臓が跳ねるのを感じながら振り向くと、そこにはこの守矢神社の一柱である洩矢諏訪子さんが立っていた。
「……あ、諏訪子さんでしたか。すみません、いきなり大声出して」
「あはは、いいよいいよ。けど、何にそんなに集中してたの?」
「え?あー……」
 諏訪子さんは笑って許してくれたが、そんな諏訪子さんの質問にはすぐ答えることができなかった。
「ありゃ、早苗じゃん。ああ、早苗が一人で頑張ってるから負い目感じてたの?あれは早苗が望んだことなんだから気にしなくていいのに」
 俺が言い淀んだことをそのように受け取った諏訪子さんが、慰めるようにそう言う。
 しかしそれは少し前に考えていたことで、今はもっと個人的であまり大っぴらに言えないようなことを考えていたので、罪悪感が湧いてくる。
「いや、その……」
「あれ、違う?」
「えーっと、早苗、参拝者の男達と距離……近くないですか?」
 罪悪感と心の中にある不安が混ざり、つい本音が漏れてしまう。言ってから俺は何を言っているんだと後悔するが、時すでに遅しである。
 俺の言葉を聞いた諏訪子さんは驚いたように目を見開いていた。
 きっと女々しいとか言われるんだろうと思い、叱られる子供のように消沈するが、諏訪子さんの反応は俺の思っていたものとは全く違っていた。
「あー、よかったあ」
 諏訪子さんはそんな言葉と共に大きく息を吐く。そしてこちらに嬉しげな笑顔を向けてきた。
「うん、ほんとによかったよ」
「えっと、何がですか?」
「いやあ、○○って優しいじゃない?」
「はあ。そうですかね?」
 突然話が別の所に飛び俺は疑問符を浮かべながら答えるが、諏訪子さんはしみじと頷きながら言葉を続ける。
「そうだよ。優しいから早苗の想いを受け入れて、優しいから人里からここに移り住んで、優しいからあの重たい愛を我慢してるって、私は思ってたんだ」
「えっと……」
 優しいという言葉を決して良い意味で言っているのではないと理解し言葉に詰まる。
「でも、今○○は早苗に対しての独占欲を見せてくれたの。私はそれが嬉しいよ」
 そう言われ、俺は自分が如何に受け身でいたかを知った。
 早苗がずっと好きだと言ってきて、心配してきて、俺はそれを受け入れることでその想いに答えてきたと思っていた。
 しかし、諏訪子さんにはそうは映っていなかった。
 そして、早苗もそう思っているかもしれないのだ。


255 : ○○ :2018/02/27(火) 18:02:28 r8NOQH3c
「俺、言葉足らずですかね?」
「足りなさ過ぎだよ。どれだけ私と神奈子がハラハラしてたか」
「すみません。でも、好きじゃなきゃ付き合ったりしませんよ?早苗もちょっと過保護だとは思いますけど慣れてきましたし」
「いやいや、それはあの子に言ってあげてくれる?」
「……ですね。後で必ず」
 呆れ気味の諏訪子さんにそう答えると、諏訪子さんは満足げに頷いた。
「あ、もちろんそれだけ伝えてもあの子はびっくりするくらい喜ぶだろうけど、他の男と仲良くするなって言ったらもっと喜ぶんじゃないかなあ」
「いや、それは……」
 ニヤニヤと笑いながらそんなことを言ってくる諏訪子さんに困り顔で返す。
 流石にそれを言ってしまうのは男としてよろしくない気がするためだ。
 そんな俺につまらなさそうに口を尖らせる諏訪子さんだったが、その表情は優しげなものだった。
「あ、そうそう。あの子、自分の執着心に嫌悪感を持ってるっぽいんだよね。よかったらそれもフォローしてあげて?」
「そうなんですか?まあ、それは構いませんけど、諏訪子さん、どこかへ行くんですか?」
 おもむろに立ち上がった諏訪子さんを不思議に思い聞いてみると、諏訪子さんはある方向に指を指した。
 見てみるとあまり機嫌のよくなさそうな早苗がこちらに向かってきているところだった。
 気がつけば辺りは暗くなってきていて、参拝者もいなくなっていた。
「邪魔しちゃ悪いし私はこのことを神奈子に教えなきゃだから」
「いや、あれ絶対諏訪子さんに怒ってると思うんですけど」
「……じゃ、よろしく」
「ちょ――」
 俺が止める間もなく諏訪子さんは去っていき、その数秒後に早苗が到着し俺の隣に腰を下ろした。
「諏訪子様と何を話していたんですか?」
 早苗は座るなり俺の想像していた通りの文句を発する。
 なのでその答えは用意できていたが、今から言うことがかなり恥ずかしいものだと気づき喉まで出ていた言葉が引いてしまう。
「……言えないようなことですか?」
 そんな様子を早苗は悪い意味で捉えてしまったようで、諏訪子さんへの怒りと不安が混じった顔を向けてきた。
 それを見て、俺は何をやっているんだと自身を叱咤し決心を固める。
「いや、早苗のことを話してたんだよ」
「私のこと……ですか?」
 俺の言葉は全くの予想外だったようで、早苗はきょとんと首を傾げる。
「そう。で、その時俺はお前に言わなきゃいけないことがあると知ったんだ」
「な、なんでしょうか?」
 再び早苗の顔が不安げなものに戻る。
 自身にとってプラスになることを言われるだなんて微塵も思っていないであろうその姿に、俺は自分の不甲斐なさを痛感する。
「今まで早苗に言ったことがなかったんだけど」
「は、はい……」
 何を言われるのか怖くなったのか、早苗は体を震わせ、目を逸らそうとする。
 しかし俺はそんな早苗の手を握って体を引き寄せ、もう片方の手で早苗の頬に触れこちらを見させ、意を決して言葉を紡いだ。
「俺はお前が好きだ」
「…………」
 早苗は俺の言葉に文字通り固まった。
 沈黙がしばらく続き、もしかして目を開けたまま気絶でもしてるんじゃないかと心配になったところで、早苗はようやく口を開いた。
「今……なんて言いましたか?」
「好きだって言ったんだよ」
「えっと、誰が、誰を?」
「俺が、早苗を」
 それを聞いた早苗はぽかんと口を開けてまた固まったが、その顔は徐々に赤くなっていた。
「……ほんとう?」
「うん。本当だ」
 目を潤ませて聞いてくる早苗に頷いてやると、早苗は俺の胸に飛び込んできた。
 次いで胸元からしゃくりあげる声が聞こえてきたので、俺は早苗が泣き終わるまで抱きしめて背と頭を撫でてやることにした。


256 : ○○ :2018/02/27(火) 18:03:17 r8NOQH3c
 早苗はしばらく泣いていたが、鼻を啜る程度までに治まると自分から俺のもとから離れた。その顔は泣き腫らしたという表現がぴったりだったが、表情は嬉しげなものだった。
「ごめん。もっと早く言ってやればよかったな」
「いえ、そんな。○○さんの想いを聞くことができたので私は今とても幸せですよ。えへへ」
 未だに余韻が抜けきっていないのか、早苗の口角は上がりっぱなしだ。
 それほどに喜ばれると思うと俺も嬉しくなる。
 しかし、そんな早苗の表情が突然暗いものに変わる。
「……○○さん。私も謝らないといけません」
「どうした?」
「私、自分勝手な嫉妬のせいで○○さんに不自由な思いをさせてます」
「……ああ」
 そう言われ先程の諏訪子さんの言葉が蘇る。 そして、その少し前のことも思い出される。
 そういえば、今日女性とトラブルがあった後も早苗は何かを言おうとしていたし、それより以前からそんな姿はちらほら見られていた。その時も、早苗は謝ろうとしていたのではないだろうか。
「私、○○さんが他の女性と話をすると駄目なんです。頭が真っ白になって、自分が抑えられなくなるんです。そんな自分が嫌なのに、○○さんは受け入れてくれるからってそれに甘えてっ……」
 俯きながら絞り出すように言う早苗の膝に涙が落ちる。きっと、早苗はずっと苦しんでいたのだろう。
 そんな早苗の姿を見て、気がついたらもう一度早苗を抱きしめていた。
「いいよ、俺なら気にしてないから。怒ってなんていないから」
「でも……」
「それに、俺も早苗と同じだからな」
「……同じ?」
 不思議そうに聞き返してくる早苗。
 俺は早苗にこれ以上泣いてほしくなくて、早苗が愛おしくて、言わまいとしていたことを伝えることにした。
「実はな、さっき早苗が参拝者の相手をしているのを見て、俺はすごく嫌な気分になった」
「……はえ?」
 俺の告白に胸元から素っ頓狂な声が上がった。
 しかし、恥ずかしいことは早く済ませてしまおうと敢えてそれを無視して話を進める。
「参拝者の男に肩を触られたりしたか?」
「え?いえ、そんな、○○さん以外の男性に触れられたりは――」
「なるほど。じゃあ幻視だな。けど、それでも俺は嫌だった」
「あの――」
「そもそもあいつらお前のことをいやらしい目で見すぎじゃないか?ブチ切れそうなんだけど」
「い、いえ、あの人達は純粋な信者の方なのでそのような視線を感じたことは――」
「ともかくだ」
「は、はい」
「俺も嫉妬をするわけだ。他の男と話さないでくれ」
「はい。あ、いえ、しかし――」
「そう。早苗はここの巫女だからそういうわけにはいかない。だからそれは諦めるけど、俺は嫌だと思っているってことを覚えておいてくれ」
「は、はい」
 そこで一度言葉を区切る。
 早苗は次から次へと言葉を発する俺に若干混乱しているようだが、内容は理解しているようで隠しきれない喜びが語気から伝わってくる。
 これなら大丈夫そうだと思い、俺は早苗の頭を撫で、最後の言葉を付け加える。
「まあ、そんなわけで俺も早苗と同じように普通に嫉妬なんかはするんだよ。早苗のはちょっとそれが強いだけだ。俺は今の生活も嫌いじゃないからさ、もう泣いたり謝ったりするなって。な?」
「――はいっ!」
 そんな俺の説得に今度こそ早苗の心の暗雲は晴れたようで、一度離れて俺の顔を見据えると元気の良い返事と共に俺の首に抱きついてきた。
 勢いを殺しきれずにそのまま二人で倒れ込むが、周りに誰もいないことを確認した俺は早苗を力いっぱい抱き返してやることにした。


257 : ○○ :2018/02/27(火) 18:07:16 r8NOQH3c
 ――そんなことがあってから三ヶ月が経ち、俺と早苗の生活は大きく変わった。
 まず、俺は堂々と境内を歩けるようになり、たまにだが人里に一人で行かせてもらえるようにもなった。もちろん、下手に女性と話し込むようなことがあれば酷い目に合う――主に女性の方が――のだが、それでも以前に比べればかなりマシになったと言えるだろう。
 次に、早苗がかなり自然体になったことだ。以前までの早苗はどこか卑屈さのようなものがあり、どんなところにいても一人でいるような感じがあったのだが、それが無くなったように思う。もう一つの神社の巫女さんやその周りの人妖の元にもよく通うようになり、友人も増えたようだ。
 そして最後に、俺と早苗は本当の意味で恋人になることができた。俺は早苗に思うことがあれば言うようになり、早苗も俺に甘えるようになった。そのおかげで喧嘩をするようになったし、早苗が俺を困らせることは増えたが、前よりはずっと健全な関係だろう。
 そして今日は、そんな俺達の初のデートの日である。
「○○さん。お待たせしました」
 可愛らしい洋服に身を包み、薄く化粧をした早苗が玄関に現れ、俺は思わず言葉を失う。
「……無言は女の子に失礼じゃないですか?それとも可愛すぎて言葉が出ませんでしたか?」
「……ああ、うん、そう。可愛くて驚いた……あ」
「え?あ、あはは……」
 俺は本音が出て、早苗は褒められて、お互い照れてしまう。
「なにコントみたいなことやってるんだい」
「初々しくていいじゃん」
 どこに隠れていたのか、神奈子さんと諏訪湖さんがそんなことを言いながら現れ、俺と早苗は肩をびくりと震わせた。
「か、神奈子様に諏訪子様?いったいどこから……」
「まあまあ。それより今日は丸一日の休みなんだからさ、楽しんでおいで」
「はい、神奈子さん。お土産買ってくるんで楽しみにしておいてください」
「わーいお土産ー」
 お土産という言葉にはしゃぐ諏訪子さんに神奈子さんが軽くチョップをし、それを見て俺と早苗は笑う。
 神奈子さんと諏訪子も俺と早苗の今の関係に大いに満足しているようで、あれこれと気を使ってくれている。今日のデートのための休みも実は二柱が立案してくれたものだ。今こうやって出てきたのも気を利かせてくれたのだろう。そう思い俺は心の中で礼をする。
「それでは行ってまいります」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてねー」
 二柱に挨拶をし、見送られて玄関を出ると外は晴天だった。
「晴れて良かったですね」
「だな……あ、早苗」
「はい?」
「手、繋いで行こう」
 そう言って少し照れながら手を出すと、早苗はにっこりと笑ってその手を取った。躊躇いのない早苗の行動になんとなく負けた気になって、俺は自身の指を早苗の指に絡ませる。いわゆる恋人繋ぎというやつである。
 すると早苗は驚いたようにこちらを見てきて、しばらくの沈黙の後にお互い破顔し赤い顔で笑い合う。
「行きましょうか」
「そうだな」
 そう言って、俺達はどちらからともなく歩き始めた。
 今日が最高の一日になるという予感と共に。
 


以上です
書いてから思ったんですがwikiの好きなお話にかなり引っ張られてるかも…
女の子には幸せになってほしいんです…


258 : ○○ :2018/02/27(火) 23:16:15 8WuPSQ46
>>252
管理人さんお疲れ様です。
お体に無理の無きようになさって下さい。

>>257
○○の方も軽く嫉妬かヤンでるよね…


259 : ○○ :2018/02/27(火) 23:17:38 8WuPSQ46
誰がそれをやったのか4

二ッ岩マミゾウを選んだ場合

 △△の家に泊めて貰った次の日に明るくなった頃に街に向かう。日は高く上り、冬の冷たい風が土埃を巻き上げて道の上を通
り過ぎていた。吹きすさぶ風に身を委ねていると、火事に遭ってすっかり心細くなってしまったのであろうか、なんだか自分が
吹き飛ばされそうに感じた。そんなあまり良くない調子で歩いていたものだから、道中の中程まで来ると少し疲れた気がした。
偶々目についた茶屋に寄り少し休む。歩いていたせいか不思議と喉が渇いていたので、焼け残ったなけなしの銭を払う。三文の
お茶を注文すると、軽かった財布は朝の半分の重さになっていた。

ほうじ茶をすすりながらぼうっと道を眺めていると、頭の中をグルグルと思いが巡っていく。昨日のこと、これからのこと。アン
ニュイな気分になっていると、
「隣はいいかい。」
いつのまにか横に座っていた、二ツ岩マミゾウが声を掛けてきた。
「なるほど、なるほど、なるほどな。全くもってそうなっていたとは儂も想像もできなかった。」
僕を見た後、そう言ってニヤニヤとマミゾウが一人笑う。薄い眼鏡の奥に深く隠された彼女の心は見えなかったが、僕にとっては
渡りに船、少々付き合いのあった彼女に頼めば、どうにか地代の工面ができるだろうと思えた。
「少し、色々と話したいことがある。」
早すぎて機嫌を損ねないように、遅すぎて時機を逃さないように、タイミングを見計らって隣に座るマミゾウに言う。
団子を食べ終わり、満足そうに煙管をふかすマミゾウが言う。
「お主の考えていることは無論わかろうぞ、しかしまあここで話をするにはちと風情がなさすぎる。」
-どうじゃ儂の家にでも来ないかい-そう言って、空中を飛んで行こうと手を差し伸べる彼女。僕は、半分以上残ったままで温く
なった湯飲みを置き、彼女の手を取って申し出を受け入れた。

上空の風は地上よりも冷たいのであったろうが、しかし彼女の防壁があったためか、風の冷たさはそれほど感じなかった。マミゾウ
の家に入ると、いつもなら手下の狸が動いているであろうその屋敷は、皆が出払っていてガランとしていた。意図せずして二人っき
りになった部屋でマミゾウと対面する。普段の人里で見せる姿とは異なり、化け狸の親分としての貫禄が体の奥から滲み出ていた。
マミゾウは大きなしっぽをくるりと出して、畳の上にドサリと置く。それが切っ掛けになって声が出た。
「実は、借金をしたい。」
そう彼女に言う。
「ふむふむ…来年の地代か。」
考えていたようで、その実は想定内であったのか、彼女は言葉を続ける。
「全くそんなものなどはどうにでもなろうに…。まあそれでも、霧雨や上白沢の所に話を持って行かないだけ、まだマシなのであろ
うかのう…。」
マミゾウが、カツンと煙管を火鉢に叩き付ける。


260 : ○○ :2018/02/27(火) 23:20:42 8WuPSQ46
「全く餅は餅屋と言うであろうに…。金子の事は貸金屋に任せるのが一番というものじゃ。」
「いけるのか?」
うんともいいえとも言わない彼女に、その意図を確かめる。
「その必要などない。」
途端に機嫌が悪くなった彼女が切り捨てるように言う。その言葉を聞いて、僕は借金が断られたのかと思い、知らず知らずのうちに
顔が白くなっていたようである。それを見た彼女が慌てて付け加える。
「いやいや悪い意味に取るでないぞ。ワシとお主の間柄じゃ、借金などという水臭いものはいらぬ。」
思っていた以上のことを言われて返って僕は驚いた。反射的に言葉が出る。
「いやいやそれは困る。親しき仲にも礼儀ありと言うだろう。いくらそのような間柄と言っても、なあなあにしてはかえって悪い
だろう。」
-ふむ-そう彼女は言って考える。深く深く虚空を見つめるようにキセルを吹かす。
「お主、少々勘違いをしておるのかもしれんの。」
白い煙が空中に吐き出される。艶やかに動く唇に目線が吸い寄せられた。
「金を掴んでおれば、人の心を読み解くことができる。」
-世の中の大体は、金か女の揉め事と言うからの-そう彼女は付け足す。
「例えばそこらの柄の悪い若者連中が、お主の家を焼いたとして、はてさて、一体それが何の得になろうぞ。全く、そうじゃ、全く
もって一銭の得にも成りはせぬ。そしてそれが、霧雨商店で手に入る外界の、上等な油を使っていればなおさらのことじゃ。」
マミゾウが持つ煙管が僕に向けられる。犯人が断罪されるように、名探偵が罪が暴くように。
「つまりお主は、そうされなければいけなかったということじゃ。それも、見つかれば磔、獄門になるようなやり口での。お主はこの
後、大方日雇いにでも行こうとしていたのだろうが、それは少々危なっかしすぎるのう。黒幕を知らずして、ここから出るのは辞めた
方がいいじゃろうな。」
硝子のレンズの奥で、彼女の目が僕を捕らえていた。

以上になります。初投稿の人や書き手の人が増えて嬉しいです。


261 : ○○ :2018/02/27(火) 23:56:32 XqJRYkkI
>>257
初投稿にも関わらず気合いの入った作品乙です
早苗さんが超可愛いし○○の方も嫉妬したりして新鮮だったしお互いが納得したうえで良好な関係を築けたハッピーエンドなのも自分的には超グッドです
自分もまとめwiki読み漁ってるのでどの作品の影響を受けたかは読んでてなんとなくわかりましたがまあ指摘するのも無粋ですね


262 : ○○ :2018/02/28(水) 00:04:18 5dBzSn.2
おおう途中送信…

>>257
上記のことを踏まえてとても素晴らしい作品でしたのでまた次の投稿楽しみにしています

>>260
投稿乙です
節々から怪しげな雰囲気を感じますがどうにもその手のことは苦手なので上手く合致しない…
しかし○○はどの女性からも愛されていますね


263 : ○○ :2018/02/28(水) 11:22:26 sFC1WOF.
>>252
お疲れ様です
今のところそういったものは表示されませんね


>>257
ちゃんと早苗さんがヤンデレしてるのに読み終わった後晴れやかで優しい気持ちになる良いお話でした
そして読んでてビビっとくるものがあったので勝手ながらイラストを描かせていたただきました

ttps://i.imgur.com/yjyPkbZ.jpg

>>253の早苗さんです
イメージと違ってたら消すので言ってくださいね


>>260
魔理沙の商店の油が使われて、慧音は歴史を弄ることができて、マミゾウは…ふーむ?
なんともきな臭いという表現がぴったりな雰囲気ですね


264 : ○○ :2018/02/28(水) 23:25:28 2rx43Dgc
>>263
この早苗さんからは、刃物のような鋭さと危うさを感じます…
寄らば斬るとでもいうような


265 : ○○ :2018/02/28(水) 23:26:08 2rx43Dgc
誰がそれをやったのか5

二ッ岩マミゾウを選んだ場合2

「一体どういうことだ?」
マミゾウにそう言われて、思わず言葉を返す
「どう、とはどういうことじゃ。そはそれ、言ったそのままじゃろうに。」
口と声は巫山戯たような調子を崩していないが、彼女の硝子の奥にある目は笑っていない。
「お主まさか、コウノトリが赤ん坊を運んでくるとか、キャベツから生まれてくるとかそういった類を信じておる
のか?信じておれば、教えてやってもよいがのう。」
「それは信じていないが…。」
マミゾウが何を言ってるのかわからず、言葉を濁す。
「ならば、お主の家が燃えた原因は一つ、お主の家に火をつけて得をする奴がいるのじゃよ。」
マミゾウからの推理を聞かされて、反射的に否定したくなる。
「違う、そんなこと違う!大体、俺の家を燃やして何の得ががあるというんだ!」
「得…。得とな。」
哀れみを込めた声が耳に入ってくる。
「そうじゃの…、おそらくまあ、外来人一人が困窮するというやつじゃの。」


266 : ○○ :2018/02/28(水) 23:26:58 2rx43Dgc
それだけのために、まさか!という思いが生じる。まさか、まさかそれだけのために俺の小屋は燃やされたのだろう
か。これまで一年間、必死で働いてきたそのすべてを踏みにじるが如く、脳裏の中で悪意をのせた炎が燃え盛る。
「まあ村の方からすれば、色々あるの。」
そう彼女は言う。
「聞くところによれば、お主ら、外来人同士で助け合っているそうじゃないか。」
「ああ、そうだ、何が悪い。村から除かれている者が助け合う、それが悪いことなのか。」
「いや、悪くはない。悪くはないのじゃが…。」
歯切れの悪いマミゾウ。
「ならば、何が問題だというのだ!」
思わずマミゾウに、きつく当たってしまう。
「まあ、村のものからすれば、外来人などというよそ者が固まって過ごしているのは、なかなか不安になるという
ものなんじゃよ。特に、そいつらに対して辛い仕事をせているという、負い目があるのならばな。」
「そんな、無茶苦茶じゃないか。これじゃあ只の逆恨みじゃないか…。」
心から溢れた言葉が部屋に流れる。
「ああ、無論そうじゃ。」
-しかし-とマミゾウは言葉を続ける。
「村の顔役なんぞは、それを良いとは思っておらなかっただろうな。自分の言うことを聞かない連中がいるもんじゃ
から、それはそれは目障りじゃったろうな。」
明かされた黒幕に対して、怒りが頭に達し血が全身を駆け上る。
「あの野郎、畜生。今すぐ行ってぶっ潰してやる!」
「まあ待て。」
そうマミゾウがたしなめる。
「何を待てというのか、やられたことをやり返してやるやるだけだ。」
「おいお主、まさか火でも放つというのか?」
マミゾウの目が細められる。
「それは、そこまではしないが…。」
「無駄じゃ。やめておけ。」
煙管を火鉢に叩きつけて言う。


267 : ○○ :2018/02/28(水) 23:27:45 2rx43Dgc
「どだい、よそ者が村の連中に勝とうというのは無理な話じゃ。」
「しかし、それじゃあ俺の腹が治らない。」
「正直なのは儂の好く所じゃが、そんなものに犬でも食わせておけ。」
吐き捨てるマミゾウ。
「ああ、そうじゃ。慧音がお主の歴史を消していたぞ。」
重要なことを、こともなげに彼女は言い放つ。
「上白沢先生が、何故そんなことをするのだ?!」
訳が分からず、疑問が頭を駆け巡る。
「先生は今まで、色々やってくれたじゃないか!村の連中とは違って、助けてくれていたんだぞ!」
信じたいという思いで、思わず声が大きくなる。
「さて、どうじゃろうな…。慧音とて村の一員だからこそ、お主のような存在は疎ましく思っていたのかもしれんぞい。
大体、柄の悪い連中が何人も集まって、えっちらおっちらと大きな油を運んでおれば、夜に出歩く人も居ないこんな村
なんぞでは、それはそれは目立つじゃろうしな。」
「何が言いたい。」
「察しが悪いの…。いや、お主のその目は、知ってるけど認めたくないという目玉をしておるの。」
「嘘だ。」
「嘘ではない。お主、気づいていないだけで、動揺した時に耳が赤くなっとるぞ。」
とっさに耳に手がいく。その瞬間、マミゾウがニヤリと笑った。やられた。マミゾウに騙された。
「どうじゃ、分かったかの。上白沢慧音か裏でこの事件を操っていたということにな。目障りな者を消して、そして下手人
すらも歴史の闇に葬ってしまえば、後は綺麗な人里が出来上がるという訳じゃ。」
「まあ、安心せい。この家で大人しく居る限りは、儂ががどうにかしてやるぞ。」
僕はただ、黙って頷くしかなかった。

以上になります。


268 : ○○ :2018/03/01(木) 02:27:52 2ttt9wBo
>>263
笑ってるのにめっちゃ怒ってるのすごく良い…
絵師ニキにはこんな感じで挿し絵をたくさん書いてほしいなあ
書き手はこんな支援してもらえたらモチベ上がるだろうし読み手もイラスト一枚あるだけで場面のイメージしやすいだろうし
つまり何が言いたいかっていうと羨ましいから自分もイラスト書いてほしいです(直球)


>>267
なんだか疑心暗鬼になりそうだ
マミゾウさんの話が正しければ慧音が怪しいのかな?
けどマミゾウさんも超怪しいしのう


269 : ○○ :2018/03/01(木) 22:48:29 Mn4UvVhY
>>257の早苗すごくかわいいなあ
○○に幸せにしてあげてと言いたくなる
やっぱりヤンデレはふたりとも幸せなのがいいよ

ところで>>261で言及されてる影響を受けた作品?ってなんだろう
ここって基本匿名だから、阿求の人とか長編の人くらいしかわからないんだよね


270 : ○○ :2018/03/02(金) 00:24:18 wjALZHGY
>>268
かまいませんよ
ただ、絵の完成までにどのくらいの時間がかかるかは分かりませんし、背景や難しい構図なんかは描けないと思うので完成した絵があなたのイメージ通りのものになるかも保証できません
それでも良ければという条件になりますが、あなたのどの作品を描いてほしいのか教えてもらえれば取り掛からせてもらいます


271 : ○○ :2018/03/03(土) 07:10:40 aE4YnAR.
>>269
影響を受ける位のオススメの作品ということで、私も知りたいでふ

>>270
絵師ニキはイメージと違うなんて、しんなに気にしなくていいと思も
あくまでも、絵師ニキがどう思ったかが重要だから


272 : ○○ :2018/03/03(土) 09:00:24 SMhyr/eg
>>257の人が好きな作品って多分だけど「白蓮/20スレ/436-442」じゃないのかなあって思うな
雰囲気というか女の子の可愛さが似てる気がする


あと絵師ニキさんてお願いすればイラストとか書いてくれるんだね
それなら自分の日頃の妄想も書いてみようかなあ


273 : ○○ :2018/03/03(土) 15:38:45 xyt1dRLo
 自分の作品がどんな雰囲気として認識されているのかを知るのには良いよね、絵師ニキ
に描いてもらうの。例えばだけど、私が今後編を書いているよっちゃんのSSは、絵師ニキ
だったらどのシーンをどんな風に描きます?


274 : ○○ :2018/03/03(土) 15:44:30 kCd7WajU
ノブレス・オブリージュに囚われて(147)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=137

>>257
こういう、冷静にキレる事の出来る子が一番怖い
怒りで苛烈になりやすいけれども、根っこがまだ冷静だから、逃げ道を探しながら一線を越えれる
○○の方が早苗に感化されて、似たような性格を持ち始めたから何もなかったけれども
実際は、薄氷ですね

>>267
そもそも、上等な油を大量に買う金はどこから出てきた?
霧雨商店で大量に、上等な油を買ったのに。なぜそれが噂にならない?
それ以前に、魔理沙や慧音にマミゾウと、アポなしで会えるほどに好かれている○○に喧嘩を売る事による利益は?

こりゃ、複数犯どころじゃなく、組織立ってるかも


それから、今まで言わなかったけれども。私も挿絵が欲しい


275 : ○○ :2018/03/03(土) 21:52:54 0/RMhYRM
>>271
ありがとうございます
ですが人の作品を別の形にさせてもらう以上作者さんの思いは大事だと思うのでそこには気をつけたいのです
せっかくのお言葉を無下にするようですみません


>>273
私が描くとこんな感じでしょうか
ttps://i.imgur.com/1H6oBJ4.jpg
>>242の依姫さんになります
やっぱり女の子が病んでるシーンが描きたくなりますね
というか○○が映ってる場面が描きたくても○○をどう描けばいいかわからないです
薄い本みたいに禿げにして目を描かなければいいんでしょうかね?


>>274
投稿お疲れ様です
長編さんの頼みであれば断る理由がありませんのでぜひ描きたいです
が、どれも大作で描く場面に悩むのでどの場面かだけでも指示をいただけるとありがたいです


276 : ○○ :2018/03/03(土) 22:41:17 xyt1dRLo
>>275
 ありがとうございます! 私自身としてはよっちゃんのヤミが足りなかったかなと懸念
していたのですが、絵にしてもらってみると意外にヤンでて安心出来ました。


277 : ○○ :2018/03/03(土) 22:50:00 FGTUVA4o
誰がそれをやったのか6

上白沢慧音を選んだ場合2

「…それでも、私は真実を知りたいのです。」
決意を込めて先生に言う。私の言葉を聞いた先生は、涙でぐずぐずに濡れた顔を上げて言った。
「どんなことがあっても、それでも知りたいのか。」
「ええ、知りたいです。何もわからないのは嫌ですから。」
「分かった。」
そして先生は言った。
「実行犯は**、**…だ。」
村の中でブラブラとしていて、鼻つまみ者と噂されている名前が数個上がる。
「そいつらの評判は分かっているようだな。」
私の顔を見て先生は理解したようである。
「正直に言うとそいつらはあまり賢くない。いやむしろ馬鹿と言うべきかもしれない。しかしそれでも、いや馬鹿
だからこそ、あくまでもそいつらは大それたことはしない。せいぜいが村の中で収まるような、その程度のことだ。」
少し先生の言葉が止まった。考え込むように、そして勢いをつけるように。
「そんな奴らが果たして、お前の家に火をつけるだろうか?放火は殺しや強盗と同じ重罪だ。とてもあいつらでは
そんなことはできない。いやそれ以前に度胸がないと言うべきか…。つまりこの事件には黒幕がいるんだ。」
「一体誰なんですか?その黒幕は!」
思わず先生に詰め寄ってしまう。
「私の一生を台無しにした、そいつは一体誰なんですか!」
「…霧雨、魔理沙だ。」
先生はそう言った。しかし、何度も彼女に会ったことのある私としては、そのようなことは信じられなかった。あの
明るい笑顔を見せる彼女がそんなことをするなんて、何かの間違いにしか思えなかった。
「嘘だ!何かの間違いじゃないですか?!」
反射的に先生に反論してしまう。


278 : ○○ :2018/03/03(土) 22:50:56 FGTUVA4o
「お前は何も知らない…。あの女の何も知らないんだ。」
いつも穏やかな先生が、敵を睨みつけるような目で私を睨み付ける。
「よく思い出すんだ。あの女が何をしているかを。」
「何って…。ただの魔女ごっこじゃないんですか。親元から飛び出して、魔法の森で一人暮らしをしてるっていう。」
「そうだ、表向きはな…。だけれど、あいつはしょっちゅう家に帰ってるし、しかもそれほど親子仲は悪くないんだ。」
「そりゃ結構なことじゃないんですか。」
「…彼女の本当の仕事は、裏の番頭なんだ。」
裏の番頭などと言う、外界にいた時は中学校にでもいるような、裏番長のようなそんな名前を聞き滑稽さが滲み出てくる。
「分かっていないな。ああ、それは仕方ないことなんだが。○○、お前はあまりにも霧雨を軽く見すぎている。霧雨は
この里の大部分を握っている。主に流通という面でなのだが。親父の方が遣り手というのもあるが、それを裏で支えて
いるのは魔理沙の方だ。親父の方が表に出て行き商売をしていれば、娘の方は裏でトラブルを解決していく。並み居る妖
怪や異変を解決し、人外にも睨みを利かせることができる魔理沙にかなう人物など、人里ではほぼいないだろう。
息を整えた先生が手櫛で髪を直す。
「そして、ついに霧雨は米を握ろうとしている。お前たちが預けられなかった米倉、霧雨はついにそこに入ってきた。そし
て見せしめのためにお前たちは潰された。霧雨の元に降らないとどのような目にあうかと、そう脅しをかけるためにな。」
なんてことだ。先生に言われるまでは全く気付かなかった。彼女にそんな裏があったなんて、私は想像もしていなかった。
「それだけじゃないんだ。」
先生は続ける。
「そして霧雨魔理沙はしたたかなんだ。あいつは裏の仕事は自分では証拠を残さないようにして、実際の犯行は他の奴にや
らせている。金で縛ったり、魔法で縛ったり、契約で縛ったり、いろいろやり方はあるが、あの女は手持ちを持っている。」
恐らくそれは、金だけではなく人という意味もあるのだろう。
「そして今度もあの女は、直前にあいつらと会っていたんだ。おそらく魔女の秘薬であいつらの意識を朦朧とさせたのだろう。
そして自分の店にある油を持ち出して暗示をかければ、見事鉄砲玉の出来上がりというわけだ。だから私はお前の歴史を食べ
たんだ。これ以上霧雨に目をつけられないためにも。お前の仲間はおそらく駄目だろう。こうなった以上、徹底的に向こうは
やってくるだろう。だからこそ…だからこそお前だけは守りたいんだ。」
先生が私の肩を掴み押し倒す。水の粒が上から落ちてきた。
「さあ、お前の歴史を食べよう。何も考えず、何もわからず、ただひたすらに私に溺れてくれ。ただの肉欲でいい。最早私には
それしかできないんだ。済まない、○○…。」


279 : ○○ :2018/03/03(土) 22:55:00 FGTUVA4o
>>274
人里は相変わらずどん詰まりだなぁと
妖怪の山が、どこまで介入できるのかが勝負なのでしょうか

>>275
依っちゃんって基本強いから、涙を流しているのは新鮮…


280 : ○○ :2018/03/04(日) 00:25:04 jbPu5B3A
誰がそれをやったのか7

霧雨魔理沙を選んだ場合2

「無理だ。」
誘惑に負けそうになりつつも、魔理沙の誘いを断る。一方の魔理沙の方は、誘い断られることを意外に思っていたよう
だった。しばらく考えていた後、納得がいったようで、ああ、と小さく声を出した。
「成程、○○。ひょっとして他の奴らが気になっているのか。」
思っていたことをズバリと魔理沙に当てられる。
「ああ、そうだ。放火が繰り返されるのであれば、おそらく他の奴らも危ない。」
「成程な。良い線いってるぜ、○○。」
-だけれど-と彼女は言葉を続ける。
「それは中々難しいぜ。特に何も知らないで仲間の場所に行くのは、ちょっと危険すぎるぜ。」
「魔理沙は何か知っているのか?頼む、教えてくれ。」
拝むようにして、魔理沙に頼みこむ。
「本当に知りたいのか?酷い目に遭うかもしれないんだぜ。」
「…それでも頼む。」
自分の決意を悟った魔理沙が答えた。
「分かった、分かった、○○の頼みだしな。…それじゃあ言うか。黒幕は二ッ岩マミゾウだ。」
「どういうことだ?マミゾウはそんなことをするような奴じゃない。」
思いがけない人物の名前ができたことで、強く反応してしまう。
「マミゾウはそんな…「○○、人を信じるのは○○の良い所だけれど、あの女を信じるのは、ちょっとどうかと思うぜ。」
自分の言葉に割り込むようにして、マミゾウに対する敵意を見せる魔理沙。
「一体、何があったんだ?」
「あの女は金貸しをしてるだろう?その金の力を使って、顔役に圧力を掛けていたんだ。」
「圧力とは一体どういうことだ…?」

「大体、不自然に思わないか?あくまでも顔役からすれば、○○が地代を払えなければ、それはそのまま損ということなん
だぜ。土地の方は次の奴に貸すこともできるかもしれないけれど、そうそう上手くいくもんかな?中々タイミングも難しい
だろうし…。そもそもあんな場所、外来人しか行かない場所なんだぜ。」
確かにそうであった。自分達の住む場所は村の外れであり、そこには外来人ばかりが住んでいる。
「そしてその外来人に喧嘩を売るようなタイミングであんなことを言うなんて、本当は顔役だってしたくないはずなんだぜ。
それでも顔役はしなくちゃいけなかった。マミゾウにだいぶネジを巻かれたって、ヤケ酒を飲んでぼやいてたそうだぜ、あ
いつ。」


281 : ○○ :2018/03/04(日) 00:28:10 jbPu5B3A
「どうして、マミゾウがそんなことをやるんだ?一体どうしてなんだ?」
普段の理性的な彼女とイメージが合わず混乱する。
「実は最近、マミゾウは人里に入ってきているんだ。それも阿求の庭にな。」
「…?以前から色々、金貸しはしていたんじゃないのか?」
「ああ、金貸しについてはそうなんだが、最近別のところに手を突っ込んでてな。借金で外来人の首に縄をつけて、後はお好み
に応じて引っ張りあげれば、見事妖怪のところに人間が一匹手に入るっていう寸法さ。」
マミゾウが自分に隠していた悪事の裏を暴いていく魔理沙。目を爛々と輝かせて彼女は話す。
「だから家の方でも、阿求の所と手を組んで色々な所で防戦しているってことさ。なにせ向こうが金を抑えているなら、こっち
は現物を押さえるのが一番だからな。」
そして魔理沙は付け足す。
「つまりはこういうことだ。あの女は外来人を手に入れようとしていて、そして○○、お前を一番に手に入れようとしているん
だ。だからこそ顔役に無理やり圧力を掛けて、そしてその顔役にブラブラしている連中を使わせて、お前の小屋を燃やしたって
ことさ。いくらなんでも顔役には、死罪になりそうなことをする度胸なんて無いからな。」
「その証拠に若い連中は、大分羽振りが良くなっているんだぜ。顔役にも最近金が流れているそうだから、つまりそいつらに向
けて、たんまりと金を流している黒幕がいるっていうことだ。そいつらに金を流せるような余裕が奴らなんて、この人里じゃあ
たかが知れているし、おまけに最近顔役が、若者連中の所に行っているのが近所の目についていたんだぜ。」
情報が過剰になり、只流されるだけの自分に、魔理沙は更に流し込んでいく。
「よく考えるんだ○○。お前が困れば、一体誰が得をするかを。○○の米が燃えて金に困れば、○○はきっとマミゾウの所に
行くんだぜ。もし私が○○を先に見つけなければ、きっと○○はそっちに行っていたんだぜ。」
魔理沙のつけている香水が、微睡むような匂いを運んでくる。
「なあ、○○。お前はもうすでに、マミゾウに目をつけられたんだ。もうはやこの家から一歩でも出れば、妖怪にとって喰われ
てしまうんだぜ。」
魔理沙の声が脳に染み渡る
「だからもはや、○○はずっと私と一緒にいるしかないんだぜ。私だけが○○を守ってやれるんだぜ。」
魔理沙の体温が、直に伝わってくる。
「ずっと一緒なんだぜ。ずっと…」

以上になります。
あと違う2名の話しを書けば完結の予定になります。


282 : ○○ :2018/03/04(日) 20:27:59 VzCVQEP2
絵師ニキめっちゃいい人で笑う
あなたの絵は楽しみにしているけど無理はしないでね
あとハゲはちょっと感情移入しづらいから〇〇は髪あり目無しが個人的にいいなって思う


283 : ○○ :2018/03/05(月) 18:02:32 eUuHKGNI
そういえば挿し絵ってまとめwikiに載るのかな?

載ると嬉しいんだけど無理なのかな?


284 : ○○ :2018/03/05(月) 21:34:19 27KifsDk
イラストをまとめに載せるのは絵師ニキが否定的だったから無理じゃないかなー
まあまとめでいつでも見られたら嬉しいし絵師ニキと実際の作業をする管理人さんに交渉してみてどうぞ(他人事)


285 : ○○ :2018/03/06(火) 00:53:41 XrxeCx3Q
憑依華が出てから2ヶ月温めてたけどたぶんこのまま孵化しそうにないので卵だけ置いておきなす
アタタメテイイノヨ?

『春紫菀の花冠』

・憑依華ストーリー後、結局一人になっちゃったしおんが廃屋に住み着く。(けどもともと○○が手を入れて住む予定だった)
・○○は地霊か何かだと勘違いしてちっちゃいお碗にお供え物を供えはじめる
・せっかく見つけた家を取られまいと取り憑いて幸運を吸いとってやろうとしたけどご飯くれるので妥協するしおん
・少しずつコミュニケーションをとりはじめてちょっとずつ打ち解ける
・○○はポジティブな貧乏なので紫苑の影響を大して受けなかった
・庭一面に生えているハルジオンで花冠を作ってみたら○○が褒めてくれていっぱい嬉しい紫苑(色々と拗らせる)
・ハルジオンがいっぱい咲いているところをみつけたので、○○のために延々とハルジオンの花を摘み、花冠を生成しては○○に届け続けた結果、その場所に紫苑から漏れ出た「負」が染み付きはじめる
・生えていたハルジオンがそれを吸いとって溜め込みはじめる(だからハルジオンを折ったり摘んだりするとそれが出て来て不幸になる。ゆえに貧乏草とry)
・花冠を作るためにハルジオンを摘んで更に貧するしおん
・でもやっぱり○○のために花冠を生成し続けるしおん
・一方の○○、紫苑のそばに長いこといたせいで運気が下がり、ついには食に困りはじめて紫苑が大量に送った花冠を天ぷらにして食べる
・おいしい→お洒落→商売をはじめる→○○のもとに人があつまる→紫苑さみしいかなしい
・とうとう我慢できず○○に憑くしおん
・不自然なまでに唐突に飽きられ、貧する○○
・○○もさすがにおかしく思って紫苑を問い詰める(紫苑とあってから運が悪くなっていると薄々感じていた○○)
・紫苑が正体を告げる→○○ついカッとなって怒る

「なによ、そこまで言わなくてもいいじゃない!(嗚咽混じり)」

・しおんとてもかなしい+罪悪感→○○から離れてまたハルジオンを摘んで華細工をつくり、それを売って御代を○○の小屋へ届ける→以下ループ
・時間がたって頭が冷えてきた○○は日々投げ込まれる端金の差出人を察する
・走る○○。花畑に座ってやつれたきった顔で華細工を生成するしおん→○○止めようとするけど色々拗らせて頑なにやめないしおん
・最終的に○○が男気をみせる→俺に憑けと諭す→しおんとてもうれしい(ので、○○が死ぬまで離れなくなる)
・ふたりは貧しくても幸せなくらしをつづけてゆく
おわり
(ヤンデレ…?)

>>280
誰が糸を引いているのかというかもうこれは全員がイートーマキマキ状態なのではと考えると誰も信じられないぜ!やっぱり白黒はっきりしてるまりさが一番あんしんだね!!


286 : ○○ :2018/03/06(火) 14:16:55 E18kR/Xw
ノブレス・オブリージュに囚われて(148)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=138

>>284
紫苑ちゃんとの仲は、やはり共依存が似合いそうだよなと感じていたけれども
やっぱり自分の思った通りだなと……
○○は貧乏神を一身に引き受け、紫苑ちゃんともども厄介者にされるけれども。本人が幸せそうだからこれでいいのかな……
と迷う感じがヤンデレってる


それから絵師さんが場面を指定してほしいとのことで
映姫と輝夜の間に、妙に大きな乳母車がある場面が欲しいです。自分で書いてても、結構気に入ってて
もっといえばドン引きする姫海棠夫妻なんかも欲しいけれど、そこまでは欲張りすぎなので余裕があればで


287 : ○○ :2018/03/07(水) 00:36:32 wm1IopP2
>>286
投稿乙です
乳母車のシーンてけっこう記憶に残ってるけどどの辺りでしたっけ?
絵師ニキが描く前にもっかい読んでおきたいところ
そんなに前じゃないですよね?


288 : ○○ :2018/03/07(水) 01:04:40 GwSARg66
104の、かなり後半です


289 : ○○ :2018/03/07(水) 01:40:48 mM7Ir7dY
誰がそれをやったのか8

霧雨魔理沙、上白沢慧音、二ッ岩マミゾウのいずれかを選んだ場合

 閉ざされていた扉をこじ開けて、「彼女」の家から飛び出る。千載一遇のチャンスを逃してなるものかと戸を閉める暇もなく
そのまま道に突っ込んでいく。後ろから「彼女」の止める声が聞こえてくるが、それにも関わらず全力で足を動かして土を蹴っ
ていく。前もって草履を準備することができたのは、舗装された路などは存在しないこの幻想郷の時代を考えるとファインプレ
ーだと手前味噌ながら褒めてもいいのかも知れなかった。
 始めは「彼女」が単に良くしてくれただけだと思っていた。火事で焼け出されて、財産を失った者に対して優しくしてくれて
いるだけなんだと。しかしいつまで経っても家から出そうとはせずに、それどころかいつまでもこの家に居るように仕向けてく
る「彼女」を見ると疑念が生じた。そしてその疑念を伝えたとき疑いは確証に変わった。
「駄目 だぞ、 だ、 じゃろ、○○。○○はずっとこの家に居ないとな。」
そしてそれから「彼女」は錠を掛けた。獲物が逃げ出さないように。ずっとそこに縛り付けておくために。ただ自分の物にする
ために。
 監禁生活が長かったためか、しばらく走っていると息が上がる。全身から力が抜けて存在が消えそうになってしまうが、あの
生活なんぞもう沢山だという思いを込めて、がむしゃらに足を動かし続ける。ただひたすらに逃げ出すために、今の生活を捨て
て、もう一度人間らしい生活を取り戻すために、道も分からずに走り続けていく。捕まることを恐れて、今度捕まればもう二度
と外の空気を吸えなくなると鞭を打ちながら、全身を動かし続けていた。

 どれ位走っていたのか、遂に息が切れて地面に手を付いてしまった。あの女の家からどれだけ離れたか分からない。頭ではも
っと離れないといけないと思い体を動かそうとするが、息は上がり手は地面に吸い付いたように離れない。そしてもっと悪いこ
とに、足が痙攣をしてきたところを見ると、これ以上はもはや動けそうにもなかった。
 足音がする。これが後ろから聞こえてきたり走ってきた音がするならば、一巻の終わりであるのだろうが、その音は前からゆ
っくりと聞こえてきた。顔をどうにか向けて音の方を見る。黒い女物の革靴が見えた。漆黒の色、何にも染まらない色。そして
それを体現する彼女。
「久し振りですね、○○。」
目線を上げた先には、四季映姫がいた。

 地獄の閻魔として罪人を裁いている彼女であるが、人里にも多少関わりがあるようで、何度か村の祭りの時に目にしたことが
あった。もっとも声を掛けるような距離ではなかったのだが、その時、彼女の視線が此方を向いていたような気がしたので、特
に記憶に残っていた。
「普段ならば少々お話をするのですが、そのような余裕は無さそうですね。」
「済まないが少々手伝って頂けないか。」
名前を名乗った覚えはないものの、知られているのならば都合が良い。どうしても遣らなければならないことのために、失礼なが
らも助けを請うた。
「ふむ…。どこへ行く積りですか、○○。」
「村の仲間の所だ。地代を払えなければ、仲間が代わりに払う羽目になり、外界への帰還が遅れてしまう。」
純然たる疑問ではなく確認。閻魔大王の浄玻璃の鏡の前では、どのような嘘や偽りも暴かれるのだろう。
「成程…。やはりそうなのですね。」
「やはりとはどういうことなのだ?」
内心で焦れてくる。こんな場所で時間を食う暇なんぞないのに、目の前の相手の機嫌を損ねないようにしないといけず、ジクジク
とした感情が心に上ってくる。何としてでも、一刻も早く仲間の元に行かなければならない。
「焦ってはいけません。物事には順番がありますから。」
「…。」
此方の心の内の見透かしたようなことを言う映姫。そして彼女は話しを始めた。


290 : ○○ :2018/03/07(水) 01:41:25 mM7Ir7dY
 さて○○、あなたがどうしてここにいるのかを問う前に、そもそもの出発点を解き明かすことが必要ですね。
切っ掛けとなったのは、あなたの小屋が燃えたこと。しかし災いの種が芽吹く前には、種が播かれていることが前
提だと言えましょう。そもそも、「誰がそれをやった」のでしょうか。
 それに対する答えはある意味では単純です。村の若者の中に紛れているの、虫にも劣るような連中。全身を針で
貫かれても未だ足りないような、そんな奴等があなたの小屋を焼きました。それは事実です。閻魔のこの私が保証
しましょう。ですが、それでは無事解決とはいかないですね。その屑どもは幾ら脳味噌に欠陥があるとは言え、あ
なたの小屋を焼く動機が無いのですから。そう、この事件には黒幕が居るのですよ。

 さて黒幕は一体誰なんでしょうか。霧雨魔理沙?上白沢慧音?それとも二ッ岩マミゾウ?この世界でも、あなた
はいずれかの相手から、その他の相手が黒幕であることをもっともらしい理屈を付けて教えられたのでしょう。

霧雨魔理沙は犯人に油を渡した。そして直前に彼らに会っていた。

上白沢慧音は犯人の犯行を助けた。そしてあなたの歴史を隠した。

二ッ岩マミゾウは顔役に圧力を掛けた。そして顔役は彼らに犯行を行うように仕向けた。

これら何れもあの時に実際にあったことなのですよ、○○。これら全てが事前に行われていて、そしてあの事件は
起きたのです。まあ、そういった意味では、黒幕は三人とも言えるでしょうね。誰か一人が計画していただけでも
この事件は起きたのかもしれませんが、もうちょっと小さい規模になっていたのかもしれませんね。上等な油が無
ければ。村人の人目のせいで、持ち運べる油が少なければ。顔役から圧力が無ければ。小屋を焼いた火事は単なる
ボヤ騒ぎで収まったのかもしれません。
 ところで、彼女達はあなたを匿っていましたが、その理由については嘘を付いていますね。ええ、三人とも外来
人を締め出そうとはしていないのですよ。でなければ…。もう分かるでしょう。○○、あなたが欲しかったのです
よ。彼女達はあなたを独占しようとしてこのような計画を練り、そして今回の事件は引き起こされたのです。まさ
に愛されすぎたせいですよ。

 さて、それでは行きましょうか。どこにとは全く…、地獄ですよ。私の元でずっと置いておいてあげますからね。
おや、どうしてとは分からず屋ですね。いいですか、人間は神が創り出した物なのですから、神が正しく人間を導
いてあげないといけないのですよ。○○はとても正しい人間なのですが、致命的に悪い部分があります。私以外の
他の女を受け入れたのは余りにも悪すぎます。全くもって死刑にするべき位の罪悪です。ですが安心して下さい。
私が白くしてあげます。そう、○○の悪い部分を全て神の力で白く染め上げ、一点の曇りもないようにすることが
絶対に、ええ絶対に必要なことなのですよ。さあ、私に全てを委ねて下さい。過去のことを全て捨てさり、全てを
私の記憶で埋め尽くしてあげますからね。祭りの日に運命の出会いをしてからずっと、浄玻璃の鏡であなたのこと
を見てきたのですから、あなたのことは全て知っているのですよ。特に昔の女のことは念入りに消しておいてあげ
ますからね。


291 : ○○ :2018/03/07(水) 01:41:56 mM7Ir7dY
 おや、抵抗しますか…。そうですか、残念ですね…。それでは少々荒療治といきましょうか。

「○○、あなたは**だのです。」

 どうですか。折角知らないでいたのだから、このまま安らかに地獄へ連れて行って上げようと思ったのですが、
どうやら予想外に抵抗しますね。ですからその執着をポキリと折ってあげました。どうしてあの女どもはあなたの
姿を見て驚いたのでしょうか。計画違いであなたが**でしまったのを知ったからです。どうしてあなたを部屋か
ら出そうとしなかったのでしょうか。あなたがそのまま消えてしまうことを恐れ、無理矢理に現世に縛り付けるた
めです。どうしてあなたはそんなに仲間の元に行きたがるのでしょうか。それがあなたの未練だからです。
 そう、○○、あなたは既に**でいて、幽霊としてこの世に留まっていたのです。そして、あなたがあの三人の
どの女を選ぼうとも、全て私の元に来るのは必然なのですよ。**だ者が彼岸へ来るのは、定められた運命なので
すからね。
 無駄ですよ、幾ら**だ事実を受け入れずに、それを否定しても神の前では無駄なことですよ。あなたの魂がそ
れを受け入れないのから、分かるまで私が刻みつけてあげますからね。あなたは***のです。***のです。*
*だのです。*んだのです。*んだのです。死んだのです。ほうら、ね…。それじゃあ、地獄へ行きましょうか。
大丈夫ですよ、死ぬほど愛してあげるなんていう程度じゃなくて、私は○○が死んでしまっても愛してあげますか
らね。


---------------------------------------------------

「○○、それは本当の運命なのかしら?」

少女の声が微かに聞こえた気がした。


292 : ○○ :2018/03/07(水) 01:49:01 mM7Ir7dY
>>285
鋭い…ひょっとしてさとり妖怪が背後に居ませんか

>>286
苛烈に成り切れない部分が魅力ならば、息子君が悪くなれば余計に周囲の
女性はひっついてくるのかしらん…


293 : ○○ :2018/03/07(水) 23:18:31 mM7Ir7dY
誰がそれをやったのか9

誰も選ばなかった場合

 目が覚めて布団から勢いよく飛び起きた。未だ夜中であろうか、家の中は暗く月の明かりが窓から家の中
を照らしている。今まで酷くうなされていたようで、真冬だというのに服はぐっしょりと汗で濡れていた。
「夢、だったのか…。」
さっきまで随分と長い夢を見ていたような気がする。酷い悪夢、彼女達に監禁され、そしてそこを抜け出し
た先で、地獄に引きずり込まれた記憶がある。生々しい感覚、鼓動する心臓、夢だとは思えない程の迫力と
絶望、そういったものをこの身で味わったはずなのだが、いざ起きてみると静かな闇が、夜の幻想郷を包み
こんでいた。こうしてじっとしていると息が整うにつれて、今までの記憶が嘘のように思えてくる。胡蝶の
夢、夢幻の誘い、そういった類いのものに騙されていたのかと思い、再び布団に入ろうとした。
「起きて○○、眠っちゃだめよ。」
どこからともなく少女の声が聞こえてくる。辺りを見回しても、勿論小屋には誰もいない。一体あの声はな
んだったのか、以前聞いたことがあるような声だった。
「さあ、もう一度やり直しましょう。今度は上手くいくから。」
再び声が聞こえる。やり直すとは何なのか、一体何をやり直せば良いのか、疑問が募る。
「あの日々を繰り返す訳にはいかないの。運命はまだ決まっていない。今なら…まだ。」
寝起きの頭の中で言葉が響く。脳のシナプスの中を悪寒に似た電気信号が貫き、今の状況をフル回転で計算
しだす。ひょっとして、あの夢は夢ではなかったのか?あれは実際にあったことなのか?霧雨魔理沙、上白
沢慧音、二ッ岩マミゾウ、そして四季映姫。彼女達に囚われていたのは、事実だったのだろうか?だとすれ
ば今の状況は何なのか。未だ小屋は燃えていない。だとすれば…
「さあ、静かに家を出て。逃げましょう○○。今ならまだ間に合うわ。」
少女の声を聞いたとたん、雷に打たれたかのように体が動く。取る物も取らず、それでいて音を立てずに、
体が勝手に動いて扉を開けていた。

 家の裏手から音が聞こえる。何かを地面に下ろす音、そしてジッパーを開ける音。外界でしか手に入らな
い物がそこにある以上、夢の通りだとすれば、次に起こるのは…
「○○、今なら大丈夫。あいつらは魔女の薬で操られているから、大きな音がしないと気が付かないわ。」
家の裏手からは死角になるように、田んぼのあぜ道を慎重に走っていくと、後ろから赤い光が差し込んだ。
思わず振り返ると、夢で見た通りに小屋が赤く燃えていた。
「さあ、このまま道を進んでいって。あなたが誰にも見られなければ、歴史を創る能力も発揮できないわ。
誰にも見られないということは、誰の歴史にも残らないということ。あなたの歴史が消されている今、あな
たを見つけるには、他の誰があなたを見つけることが必要なの。」
夜の道を月明かりを頼りに走っていく。暫く進むとまた少女の声が聞こえてきた。
「次の木の裏側に隠れて。もうすぐ魔理沙があなたの小屋が燃えたかを確かめに、上空を飛んでくるから。」
木陰から上空を見ていると、月に照らされて一つの黒い影が飛んで行くのが見えた。
「さあ、もう大丈夫。こっちに来て。」
少女の声に導かれるように走っていく。行き先も分からないのに、ただ安心感だけがあった。
「遠回りをしましょう。人里の周りには狸が見張りを立てているから。」
人里を迂回するように進んで行く。普段ならばとっくに息が上がっているのに、今はいくらでも走れるような
気がした。
「霧が出てくるわ。その中に入って。」
今まで乾いた風が吹いていたのに、急に霧が立ちこめてくる。普通に考えれば数メートル先も見えない状況で
走るのは危険に思えるが、そのまま霧の中に走り込んだ。


294 : ○○ :2018/03/07(水) 23:21:12 mM7Ir7dY
 霧の中を進んで行くと、ふと足が止まる。疲れて足が止まった訳ではなく、ただ見えない力で止められたよ
うに、足が地面に接着剤でくっつけられたように、一歩もそこから動けなくなった。向こうに人影が見える。
もう少しであの少女の元にたどり着けるような気がした。
「○○、最後の選択よ。」
前からあの声が聞こえる。早くそこに辿りつきたいのに、それでも足は動かない。
「あなたがさっき見たあの三つの悪夢は、実は本当は起こりえたこと。この世界は色々な選択で動いていて、
どの選択を選ぶかで未来は動いていく。勿論動かないこともあるけれど、未来が大きく変わることもある。
もしもこの世界以外に、架空のパラレルワールドがあるとすれば、そこではあなたはあんな目にあっていたの。」

「だから、私は運命を操ってあなたに別の未来を示した。あの三人を選んでしまうから、あなたは囚われて、
そして最後には、いずれの選択でも四季映姫によって地獄に落とされる。だけど、もしあの火事であなたが死な
なければ?あなたはあの三人を選ぶ必要はなくなるわ。火事が起こることまでは変えられない運命だけれど、
あなたが死ぬ運命は操ることができる。ここまで来れば、あなたの未来は変わるわ。」
「そちらに行きたいのだが、足が一歩も動かない。」
「あなたは死ぬ運命に囚われていた。それを操っているのだけれど、それでも運命は執拗にあなたに食らいつ
いているわ。あなたを逃がすまいと。」
-だから、最後はあなたの力でしか、抜け出せないの-そう彼女は言う。
 懸命に足を動かそうとする。しかし、一歩も動かない。あと一歩、あと一歩だけ動けばいいのに…。ふと足
元を見ると、土に塗れた草履が気になった。震える手で草履から足を外す。そういえばこの草履は誰から貰っ
たのか。詳しくは思い出せないが、きっとあの彼女達の内の誰かから貰った気がした。
「止めろ○○!止めるんだ!!」
脳裏に彼女達の声が聞こえる。愛に狂った女達の哀れな声だった。
「悪いな。」
草履から足を外し、そのまま地面に倒れ込む。そのまま彼女の方にゴロゴロと転がっていくと、赤い靴が見えた。
「もう、レディを下からのぞき込むなんて、エッチよ。」
照れたような笑顔の彼女がそこにいた。
「済まない。」
レミリアの手を借りながら立ち上がる。全身が土に塗れていた。レミリアに手を引かれ、霧の中を進んで行く。
「神はサイコロ振らないと言うけれども、そのサイコロを奪い去ることができるとしたら、それはどういう意味
を持つと思う?」
レミリアが言う。軽やかに、歌うように、華麗に演じた舞台にフィナーレの幕を下ろすために。
「例え神であろうとも、紅白の巫女のように何物にも囚われないの力があれば、それに打ち勝つことができる。
神のサイコロを勝手に振ることができたのならば、それは神に勝ったということだわ。私と、○○、あなたとの
二人の力で…ね。」
大きな扉を開け、レミリアが招き入れてくる。
「さあ、新しい運命を始めましょう、○○。」

Fin.

1から順に読むのがわかりやすい作りになっております


295 : ○○ :2018/03/07(水) 23:28:18 vVKnxTkY
ヒプノメディックなうどんちゃん置いておきますね。

空を見上げれば雲が見える。
例えその時に見えなくとも、時間が立てば雲は出てくる。
春も、夏も、秋も、冬も、決してかわらずに。

そして人もまた然り。
心の中には多かれ少なかれ"雲"が存在する。
そしてその雲は他者との関わりによって形を変え、増えたり減ったりするのだ。

本来のソレは自力では儘ならないものだし、ましてや他人のものならばなおのこと。
では目も耳も優秀なこの私ならどうだろうか。


「ごめんくださぁい。薬売りですけれども、何か足りないお薬はございませんかぁ」

里のある家の前。中に居るであろう者へと向けて、わざと間延びした声で呼び掛ける。
中からは住人の声が聞こえ、私を出迎える。

私は薬売りの立場を利用してカウンセリングの真似事を行っている。表向きは社会貢献というという触れ込みではあるが、あくまでも建前だ。
真の目的は至ってシンプル。○○さんに新しい認識を抱いてもらうことである。

「件のお悩みのお話ですけれど、どうなりました?」

「ええ、順調ですよ。こうしてお話を聞いてもらえるだけでも楽になりますから」

「そうですか、ふふ。そう言っていただけると治療のしがいがありますよ」

治療ーーすなわち催眠を用いた認識の誘導がここのところのお仕事。○○さん相手では少々"別の目的"も含まれているが、まあ本人の精神が健全な方向へ向かっていることは事実なので特に問題はないだろう。

催眠というと、相手がこちらの意のままに従順になるというようなステレオタイプな認識をもっている患者もいた。実のところ、これは正しくない。催眠暗示は"本人の強い意思"には逆らえないのだ。活力溢れる者に"常に憂鬱になる"などと突飛な暗示をかけようとしても、心の壁によって容易くブロックされてしまうだろう。心強きもの、つまり人間に対しては尚更だ。
結局のところ催眠は洗脳ではなく、ただそっとその背中を押すことだけしかできない。

そう。背中を押すことだけ。迷いを抱える本人の一歩を後押ししてあげるのが催眠暗示の力だ。
そして催眠にかかる深さは術者への信頼の度合いに依存する。
つまり○○さんが私を信頼して、暗示に身を委ねてくれさえすれば、私は○○さんに幸せなな一時を与えてあげられる。

「さあ、治療を行います。横になってください」

少しずつ押して、押して、押して。
そうしてあなたは私に向かって"自ら"歩み寄ってくれるはず。
洗脳して服従させるだけなら機械へのプログラミングとかわらない。そんなものを愛と呼ぶのは月の連中くらいだろう。

大切なのは相手が本気で私を愛してくれること。相思相愛にこそ意味があるのだ。
だから私は、○○さんが私に対して安心感を抱くように言葉をかける。そうして背中を押された○○さんはさらに私を信頼し、さらに私の言葉を受け入れる。もしかすると心の治療が終わる頃にはプロポーズされるかもしれない。

「どうしよう、最終回はちょっとお洒落して行った方がいいかな…でもだめか、まわりに正体がーー」
「……あの?"イナバ先生"?」
「ひゃいっ?!なっ、なんでしょう!」

「あ、いえ。今なにか仰っていたように聞こえたので」
「あはは…独り言ですよ。最近多くて…」
「先生もお疲れなのですね。無理はなさらないでください」
「恐縮です……」

そう、これも計算のうちなのだ。茶目っ気とかそういうのが大事だって言うじゃない。
だからこれは思ったことが口から勝手に出てたとかそういうアレではない。決して。

ともかく、こうしてゆっくりと○○さんに"歩み寄ってもらう"ために色々な暗示を与えてきた。それらは私が○○さんの波長をちょいちょいっと弄ってあげればそれに呼応して幸福感やら不安感やらを沸き上がらせる"起爆装置"として機能する。

だからもしこの治療が終わったときに私恋愛感情とか抱いてくれていれば、仕込んだ"起爆装置"をさっぱりと消し去っておしまい。あとに残るのは相思相愛の恋人たちだけ。
逆に結果が芳しくなければ、適当なタイミングて"再発"させて、はじめからやり直すこともできる。だがあまりやり過ぎると○○さんの精神がダメになるので多用は禁物だ。

「さて、気を取り直してもう一度深いところへ行きましょうね……」
「……頬に耳当たってます。くすぐったいです」
「……それはきっとお布団の当たる感覚ですよ」
「……これやっぱり先生の耳ですね」
「……はい、耳です。すみません。……それじゃあその耳が頬を撫でる感覚に意識を集中してくださいーー」

…と、毎回こんな感じで治療は進んでゆく。○○さんの波長を見る限り、あと数回で心の病は消え去るだろう。私への感情もよい方向に進んでいると見てとれる。

さて、結果はどちらに転ぶのだろうか。 楽しみだ。

以上です


296 : ○○ :2018/03/07(水) 23:33:44 vVKnxTkY
>>286
お話が進んでいけば光明が差すかとおもってましたが逆に絡まってゆきますね…この先が楽しみです

>>294
これ残りの方々が他の方々とは比べ物にならないくらい驚異的なあれそれになる予感…とおもっていたら最後に全部持っていったレミリアお嬢様ステキ…//


297 : ○○ :2018/03/07(水) 23:55:20 MOCoHMak
>>295
催眠は強制するものでないという美学が素晴らしい
燃やし尽くすのではなく、じっくりことことと煮込むような愛ですね
なんというか、このウドンちゃんは通な気がします

>>294
訂正
×神はサイコロ振らない
◯神はサイコロを振らない


298 : ○○ :2018/03/08(木) 02:11:29 KMjFoI9k
>>294
「運命」という単語を見たとき、まさかと思ったが、やはりレミリアだったとは…

レミリアが「エッチ」という言葉を発すると、かつてのレミリアのヤンデレssを思い出す


299 : ○○ :2018/03/10(土) 10:35:34 Sn5OXrjY
>>286
お待たせしました
場面の指定を見て姫海棠夫妻の前に現れたところを描いたんですがこんな感じですかね?
ttps://i.imgur.com/57hhJDT.jpg


300 : ○○ :2018/03/10(土) 20:19:52 V45fUDHU
>>299
これは街でみた瞬間に「あっ…(察し)。」となるパターンですね
手前にいる先に居た輝夜と奥にいる後からきた映姫の対比のような気がしました

ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/22
R-18要素が少しあるため、ロダにアップしました。
そういえば、今日はさとりの日らしいですよ…。


301 : ○○ :2018/03/11(日) 17:39:11 1qVpLXj2
>>300
一生かけてさとりだけだと証明しないといけませんねぇ(にっこり

ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/23
頭がちょっとよくなったルーミアです。短くてほんのり病み気味。


302 : ○○ :2018/03/13(火) 00:03:49 80r0zXE2
【まとめwiki更新情報】
>>295までまとめました
・誰がそれをやったのかシリーズはちょっと工夫を凝らしてます
嫌だったら直してね
>>291の*を×に変更しました (atwikiの仕様上の問題で)

別件で報告
咲夜さんのページの「永遠に我がモノ」の内容が消えているのに気付いた
こっちはサービス終了なんて聞かされてないんだけどなー


303 : ○○ :2018/03/13(火) 08:47:57 DpYh1QoM
>>299
めっちゃ歪んだ愛情だよなぁ……ノブレス○○周りは
つーか、ノブレス○○はさっさと輝夜と映姫を抱いてればこんなことにはならなかったんじゃ

あと、長編さんの穏やかな文で穏やかに罵倒するスタイル好きだけど、他にいる?


304 : ○○ :2018/03/13(火) 13:14:34 1CHlSyuU
ノブレス・オブリージュに囚われて(149)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=139

>>299
拝見いたしました。リクエスト通りの絵を、本当にありがとうございます
書いているときから、成人男性がゆったりと寝れるベッドに車輪を付けた物が往来をとおっているんだよな……
と考えていたので、エグイなと思っていましたが
実際に挿絵として、視覚化されると。破壊力が明らかに増したのが分かりました

>>300
さとり様はさとり能力のせいで、○○の心の中が嫌でも読めちゃうから
だから、自分以外の女性の姿も。さとりでなければ必死で無視できることですら、見えてしまう
さとり様が病んだ場合、束縛は他の女性よりも強そう

>>301
むしろ少し悪いままの方が……純粋にきれいなままだったのかもしれない
でも水に限らず純粋すぎるっていうのは、毒なんですよね。ままならない

>>302
定例の更新、ありがとうございます


305 : ○○ :2018/03/14(水) 00:10:49 aE7s6l2I
 宿に入ろうと思い 、扉を叩く。その場所は町の外れにある。やはりこういったものは人目につくところには立てづらいのであろう。
人目を避けるようにそこに男たちが通って行く。好みの店を探そうと思い軒先を眺めながら辺りをぶらぶらする。軒先には女性の代わ
りに写真がちらほら貼ってある。おそらく天狗が撮った写真なのであろうもので中々綺麗に撮れていた。最も、外界のいわゆるそうい
うところと同じものであったので、ゆえに少々の苦笑はあるのであったが、しかし加工技術を駆使した偽装工作といったものが無いに
等しいものである以上、期待で胸が膨らんでいく。気に入った写真を見つけ扉を叩こうとすると、ふとどこからか見つめられている視
線を感じた。 怪しい店に入るために少々他人の目を気にしすぎているのだろう。そう無理やり納得させ店に入った。もしもここで、
空中に浮いていた首を見つけることができたのならば、この後の展開は少々違ってたのかもしれないが。まあ、とは言っても後の先か、
先の後かそういった程度の違いしかないのであるのも、また事実である。

 店に入ると老婆が話しかけてくる。
「お兄さん、こういったったお店は初めてですか。」
「ああ、恥ずかしながら初めてだ。」
こちらの格好をじっと見てなおも質問してくる。
「お兄さんひょっとして…外来人かい?」
「そうだ、服装でわかったのかな。」
「それじゃあお兄さん、妖怪とかそういった者に関わりはあるかい。」
「それはどうしてなんだ。もちろんそういったことはないんだが。」
傍目にわかるほどに安堵する老婆。
「いやね、それはそうですよ。なにせここでは妖怪はご法度ですからね。あいつらには常識が通用しやしない。間違えて恋人のお客さん
でもとろうものなら、ここら辺一帯を壊しに来ますからね。」
「そんなに乱暴なのか。」
普段とは違うことを聞き驚いてしまう。仕事柄、何人か館にいる彼女達と知り合う機会があったが、そのような素振りは一切見せていな
かった。あまりにも違うギャップに驚く。
「いやー壊されるだけならまだマシかもしれませんね。最近浮かんだ遊女、聞くところによると竹林に触れたらしいですからね。」
「竹林…なんのことだ?」
「いえいえ、知らないのならいいですよ。こんなところでするような話じゃありませんからね。さてお客さん、奥に進まれますかね。」
いよいよ女性に体面できるとわかり、期待に胸が膨らむが、突如乱入者によって扉が勢いよく開けられた。
「ちょっとすまんね、その人はウチ預かりだ。」
頭巾をすっぽりと被り、マフラーを口元まで掛けた人物が中にズカズカと入ってくる。大胆な行動とは別にして、その声の高さからおそ
らく少年なのであろう。歳が若いにも関わらず、その人は老婆と対等に話している


306 : ○○ :2018/03/14(水) 00:11:44 aE7s6l2I
「いやー驚いた、蛮奇さんのところと関わりがあるとは知りませんでしたよ。 本当に知らなかったんですよ。」
「まあ先方からの無理からの頼みだから、そこは分かってくれるさ。それじゃウチに来てもらっていいかな。」
その人物に連れられて店を出る。こちらはいいところでお預けを食らってしまったので、少々あたりがきつくなる。
「一体何だって言うんだ。こんな店までわざわざ押しかけて、一体何をしようっていうんだ。」
「いやいや実は旦那の方が、ちょっと訳ありの店の御用達に載っていてね。何か見に覚えがあるんじゃないかい。」
「そんなことあるはずないだろ、大体今日ここに来たのは初めてなんだから。」
「そいつは重畳。こちらの首がまたひとつ繋がるというものだよ。さあ、この店に入った入った。」
数分ほど歩くと一軒の店があった。この店は写真すら掲げていない。他の店とあまりに違い目立とうとするのではなく周囲に溶け込こもう
としている。およそその手の店とは思えないその形ぶりに疑問の声が出る。
「おいおい、本当にこの店なのか。これじゃあ怪しすぎる、変なぼったくりなんじゃないのか。」
思わず踵を返して立ち去ろうとするが、ちょうどいい具合に中から人が出てきた。こちらの人もやはりフードを深くかぶっている。胸が大
きく膨らんでいたので、おそらく女性なのだろうと思った。
「あら蛮奇、この人がお客さん?ささ、入ってくださいな。」
立ち去ろうとするこちらをややもすれば強引に店内に案内する。おかげで帰る機会を逃してしまった。
「おい、この人が相手なのか?」
連れてきた少年に尋ねる。
「いやいやまさかまさか、そんな訳はないさ。絶対に、絶対にだ。」
いやに否定する少年。まるで誰かに聞かれるとマズイかのように、必死で誤りを訂正していた。
店の中に入りお茶を出された。自分にぴったりの人が来ると調子の良いことを言われて、しばらく待つように言われ、茶を飲んでしばらく
くつろいでいると興奮が冷めてきたのが急に眠くなった。無雑作に置かれた座椅子に座りしばらく目を閉じてると、いつのまにか眠ってしま
っていた。
「はい、こちらが例の…。」
「勿論指一本も触れては…。」
「それでは…え?運ばれ…?いえいえ、どうぞ、どうぞ。」
何やら周囲でざわざわと声がしていたが、普段の疲れがぐっすり眠ってしまっていたので、自分が眠りから起き上がることがなかった。

「うーん、よく寝た。」
爽快な気持ちで起き上がる。いつのまにかぐっすりと眠っていたようで、思いっきり伸びをする。奥の部屋に通されたのだろうか、部屋の中の丁度
が変わっており高級そうなベッドに寝かされていた。はて、こんなベッドが果たしてあんなボロ家にあったのだろうか。そういった疑問は、タイミ
ング良く扉が開けられたたことによって中断された。
「お客様、ご機嫌はいかがですか。」
しずしずと背の低い女性と、それに従うように背の高い女性が入ってくる。部屋の照明のせいだろうか、なぜだか焦点が合わず目の前の女性の顔が
わからない。どこかで見た気がするのであるが、それはどこで見たか思い出せない。こちらが疑問に思っていることが相手にも伝わったのだろう。
背の低い女性が問いかけてきた。
「お客様何か気がかりでも?ひょっとしてこういう場はお嫌いですか?」
何かを期待するような女性。ひょっとして慣れている男性だったら嫌なのだろうか。まさかとは思えども、やはり慣れている男性はいろいろ怖い
ものがあるのだろう。外界ならばそう言ったものはある程度防げるのであるが、この幻想郷ではそれもままならないのであろう。
「いや、どこかで貴女を見た事があるような気がしてな。」
-おお-と後ろでどよめく背の高い女性。
「どこででしょうか? ひょっとして、好きな女性に似ているとかですか?その女性に似ているから悪い気がするとか…?いやん、困っちゃいます
わ、お客様。」
頬に手を当てて身をくねらせる女性。なぜか照れているようなのだが、こちらにはその原因が全く分からない。


307 : ○○ :2018/03/14(水) 00:12:25 aE7s6l2I
「いや別に好きな女性などはいない。」
「ア゛ン゛?!」
「落ち着いてくださいお嬢様、あくまでも薬のせいです、薬のせいで頭が混乱しているんです。」
なぜだか急に客に逆ギレをする女性。外界ならばそのようなことは、ついぞ見なかったであろうが、ここ幻想郷では常識に囚われてはいけないのだ
ろうか。恐らくは後ろの女性が必死で止めているからして、そのようなことはないのであろう。気を取り直した女性が話を続ける。
「それではお客様、私がたっぷりとサービスをさせて頂ますわ。どうぞご堪能下さい。」
「いや、そもそもが自分にピッタリという人が来るという話だったじゃないか。何か話が違うぞ。俺が選ぼうとしたあの女性とは全然違うじゃない
か、一体どうなってるんだ。」
固まる目の前の女性。空気が凍った音がした。
「お客様、私の年齢が少々若すぎるということでしょうか。」
青筋を立てて今にも降り出しそうな目の前の女性。本当は違うのであったが 、さすがにそれを言うと本気で二人とも怒り出しそうだったので、とり
あえず適当なことを言って合わせておく。
「いや、本当、そ、そうなんだよ。いやー実は俺、年上が好きなんだ。」
「本当ですか、お客様。」
「うん、ほんとほんと。」
この場を切り抜けるために、心にも思っていないことを言っておく。写真に写っていた女性に会うのは今度にしておこうと思った。
「へえ…。」
怒りが解けない女性。思わずヘマを打ったかと思ってしまった。
「若さ抜群、豊満な体をお楽しみ下さい…。ですってねぇ咲夜。」
怒りながら写真を弄ぶ女性。目の前で一枚の写真が見る間に灰になっていった。
「お嬢様の魅力で、ゆっくり過ごしていただければ、きっと分かっていただけるかと存じます。それでは。」
そう言って退出していく女性。 後には二人だけが残された。

「○○の馬鹿!」
そう言って自分に突進してくる女性。華奢な見た目の癖に、軽々と自分を突き飛ばしてきたので、二人してベッドに飛び込んだ。
「ねえ、どうしてそういうこと言うの!」
泣き出しそうな女性。初対面の筈なのだが、何故だか悪いかと思ってしまった。
「すまない、どこかで会ったはずなのだか思い出せない。」
「馬鹿、そういうところじゃないのよ!もう良い!薬を吸い出すから。」
癇癪を起こして首元に吸い付く女性。いきなりの熱烈なキスに、この場を忘れて思わず手で遮ぎろうとしてしまったが、何の抵抗も無いかのよう彼女に
押し切られてしまった。目の前の靄が取れてきて次第にはっきりと顔が見えてくる。目の前にいたのは時々仕事で会ったことのある彼女だった。 ああ、
まずい。いや、まずいなんてものじゃない。とてつもないピンチに自分が落ちたことに気づいてしまった。 とりあえずこの場をどうにかしようと考え
たが現実は非情である。 目の前の少女は何かを決心したのか、薬が抜けたはずなのになおも自分の首筋に牙を突き立てて血を飲んでいる。
「ゴメン、レミリア。」
窮余の策として彼女の頭を撫でておくと、滲んだ涙が胸に擦りつけられた。
「馬鹿…。」
あやすように背中を擦る。抱きしめる力が強くなった。
「大丈夫、レミリアのこと好きだよ。」
「本当…?」
勢いが剥がれ不安が顔に現れる。彼女の口元に唇を近づける。
「もう、騙されないんだから…。」
そう言いながらも拒まない彼女。言葉とは裏腹に態度は正直であった。
「もう、もう…。馬鹿…。」
嫉妬と不安と喜びが同居する彼女にキスを降らせて感情をかき混ぜる。
「○○があんな女に行かないように、ちゃんとしておくから…ね。」
最早自分が写真の女性に会うことは二度とないのだろう、そういう確信があった。


308 : ○○ :2018/03/14(水) 00:18:09 aE7s6l2I
>>301
突っ切れない故の悩みは悲しいですね…

>>304
白蓮のキャラがイイ… めっちゃ腹の中では不満が渦巻いていそうなのに、無理クリ
隠してそれで不自然になっているのが堪らないです

>>302
更新乙です。自分では思いつかない凄い編集でした。
ありがとうございました。


309 : ○○ :2018/03/14(水) 00:27:28 .Q1uBy3M
追記、>>189のネタを使用させて頂きました


310 : ○○ :2018/03/16(金) 19:16:47 u54evHJg
今考えてるストーリーでどうしても「敵」が必要なんだけど「オリキャラ」にならないようにちょっと皆の意見聞かせてほしいンゴ
ざっくり言うと○○を騙そうとする悪いやつの存在を知ったヒロインがなんとかしようとするみたいなのなんだけど…
ヒロインに「瞬殺されない」為と「オチがこいつが強くないとなりたたない」ゆえにまぁそれなりに脅威になる強さにする必要があって
「○○の為にこいつはぶっ殺さないといけない」と思うような悪辣な性格も必要もあって…
バトル描写は全くしないつもりだから
能力とかは考えないつもりなんだけど

あとは、秘封とかでメリーや蓮子以外に仲のいい学友とかの登場とか…
(蓮子メリーには話せない本音を話せる男友達や蓮子メリーにはない趣味の合致などで親しい女友達など)
秘封はただでさえメンバー少ないからどうしても避けられないみたいなのがあって…

東方キャラをヤンデレヒロインからの攻撃や踏み台にさせないために使い捨てのキャラクターを産み出すって言うといいのかな…
ショッカーの怪人の能力お披露目の為に襲われる名もなきモブ、ではなくその話限りに出てくる重要なサブキャラというか…
どうもこういうやつ「物語の都合上に出すモブではないオリジナルキャラクター」ってどうなんだろって思ってるんだけど…どうなんやろ…


311 : ○○ :2018/03/16(金) 21:20:24 dJs9pZY.
どんどん出していけばいいんじゃね?


312 : ○○ :2018/03/16(金) 21:45:43 L3Yjf63A
まずはここのメアリスーチェックスレのURLで飛んだ先を熟読してみてはどうでしょうか
今回は主人公ではなく敵という話ですがそれでもここの皆さんは『東方キャラのヤンデレ』を見に来ている方が大半だと思うのでオリジナルキャラを出すのならそのキャラを出すことの必要性や説得力がいると私は考えます
どのような展開になるかはわかりかねますがもしも東方キャラで代わりが務まるのなら悪役にしてしまうことにはなりますがそうする方がベターかと

二つ目の質問に関してですが舞台的にも他の東方キャラは出せないですしオリジナルキャラとも言えない程度の一般学生ならありじゃないかと思います

とここまで書いてて思ったんですがこういうことの線引きって難しいですね
ですので一意見として受け取ってもらえると嬉しいです


313 : ○○ :2018/03/16(金) 23:11:30 m3YBaaB6
「どうして彼女を殺したんだ。」
疑問では無く、断定。目の前の彼女を問い詰める。直接的な証拠は無く、もっと言えば状況証拠すら無い。彼女がそんなヘマをするとは
思えない以上、ただ勘だけを頼りにさとりに向かい合う。
「○○さん。」
さとりの目が歪む。楽しそうに、愉快なように、第三の眼は僕からの敵意すら貪欲に貪る。好意の反対は敵意ではなく無関心と人は言う
のであれば、裏を返せば敵意すら好意になり得るのだろうか?
「ええ、そういうこともありますよ。」
僕の感情を読んださとりが言う。哀れむように、慈しむように、天使のような笑顔に悪魔の心が宿らせ、彼女は独白をする。純粋に、た
だ僕の問いかけに答えるために。
「○○さんは優しすぎます。」
「友人の人がいくら大切だからといって、それを助けるのはあくまでも、おまけでしかありません。」
「そう、おまけのおまけ。世界で一番○○さんが大切なんですから、それで○○さん自身が危なくなっていては、元も子もないのですよ。
例えば、逆手に取られて脅されるなんてこと…。」
痛い所を付かれた。友人を助けようとしてノコノコ罠に飛び込んだ挙げ句に、スマホで「証拠写真」を取られてしまっては返す言葉もない。
「まったく…。実は結構○○さんは危なかったんですからね。あのまま放っておけば、○○さんの方が犯罪者として祭り上げられていた
んですから。それも…とびっきりの下衆野郎として。」
「だから殺したのか。」
「ええ、勿論です。」
-折角ですから、命乞いの悲鳴でも聞いておきますか?-と彼女は言う。気楽におまけを付け足すように、なんの感慨も存在しないかの
ごとく。彼女にとって全てのことは一か零なのであろう。只ひたすらに、彼女は自分の求めるものだけを追求する。
「人を殺して大丈夫とでも思っているのか。」
「うふふ…。」
袖で口を隠し、笑う彼女。僕が気に掛けてくれたから嬉しくなっている、なんていうイカレた想定は、今回の場合に限っては、まだマシ
な方の想定である。最悪の場合…。うるさい、うるさい、これ以上笑うな、笑うな…
「笑うな!」
「ハハハハ、残念でした。そっちの方ですよ。」
笑顔の奥で彼女の目が僕を捕らえる。肉食獣が獲物に牙を突き立てるように、そして気道を締めてゆっくりと窒息死させるように。見え
ないトラウマで彼女は僕の心を締め上げていく。
「記憶を操れば幾らでも、どうとでもなるのですよ。あんな連中は。」
既に何人が犠牲になったのか、それを知るのは悪魔のみである。
「ひどいですね、こんなに○○さんのために働いた私を悪魔呼ばわりなんて。まあ、私は○○さん限定で心が広いですから、○○さんに
なら、何を言われても大丈夫ですよ。」
「記憶を、消してくれ…。」
余りにも酷い現状にこれ以上、耐えきれないと思った。
「だーめ、です。」
クルリと一回転し、僕に指を突きつけるさとり。
「私を受け入れてくれるのは、○○さんだけなんですからね。私が○○さんの記憶を消したら、それじゃあ駄目なんですよ。意味がない
んですよ。そのままの私を○○さんに受けいれて貰いたいんですからね。だって、好きな人には、何だって認めて欲しいじゃないですか。」


 「ねえ、○○さん。だから、私と一緒にいて下さいね。何処までも…。」


314 : ○○ :2018/03/16(金) 23:19:49 m3YBaaB6
とりあえず試しに>>310さんの設定に近い物を勝手に作るとこんな感じになりました。
書いてみて思ったのは、話しに合わせて登場人物が出てくるので、あまり310さんは
気にされる必要はないのではないかと…「自分がが書いてて楽しいから出しました。」
みたいな作品なら、勝手にキャラの方が作品に馴染んでいくのでは?と楽観的に思えた
りします。とりとめがなくなりましたが、自分は310さんが好きなように書いた作品が
読みたいです。

 勝手に設定を使ってしまい、すみませんでした(_ _)m


315 : ○○ :2018/03/16(金) 23:46:09 AeoVCVXQ
良い子の諸君!よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが「誰もやらなかった事に挑戦する」とほざくが大抵それは「先人が思いついたけどあえてやらなかった」ことだ。王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は作れないぞ!(AA略)
っての思い出した
けどまー好きに書いてみればいいんじゃない?
相談してきてるってことは懸念があって実際その通りに叩かれるかもしれないけど話さえ面白けりゃここの人達は受け入れてくれるだろうし


316 : ○○ :2018/03/17(土) 01:57:11 6p3azKGg
遊女連続変死事件
と言う、パワーワード


317 : ○○ :2018/03/19(月) 12:59:53 QLGy1MCw
>>316
切り裂きジャックはヤンデレ少女だった…!?


318 : ○○ :2018/03/19(月) 22:13:56 IdGYvmO2
hypnotherapist K K 4

 こんばんは。今日はなかなか暖かい日だったね。最近まで寒かった幻想郷にも新しい春が来たのかもしれないね。でもあなたの心は
カチコチに凍り付いてしまっているね。どうかしらちょっとここで私とお話をしてみないかしら?きっと心が晴れるかもしれないから。

 そう…そうだったのね。確かに長年一緒にいた人が離れてしまったら寂しいもんね。とってもよくわかるよ。お姉さんの心の中には、
ずっと昔からその人がいたんだもんね。だけれどもその人が最近離れてしまって、だからお姉さんも同じように恋人を作ったんだけれ
ども、結局はお姉さんもその恋人の人に依存しているんだもんね。とっても苦しいよね。自分の気持ちをずっと押し殺していて、それが
習慣になっていて、それを紛らわすためにずっとずっと長い時に渡ってひたすら実験をしていたり、あるいはずっとその人に仕えることで
自分の感情を気づかないようにしていたんだもんね。
 本当をあなたにも自分の気持ちがあったはずなのに、それを押し殺すことが正解だと思っていて、あくまでもに理性的に振る舞うことが
正しいことだと思っていて、けれどもそれが寂しくて辛くてだから月から逃げ出したんだもんね。 どうして逃げ出したのか、お姉さんは
その時は頭ではあんまり良くわかっていなかったけれども、心はとっても正直だよ。お姉さんの心が限界だってことは、よおく自分では
わかっていたんだよ…。
 だけれども地上に来て、お姉さんは結局その人のお世話をしていたよね。自分の気持ちに蓋をして自分の感情を押し殺して、それが罪
なのだと思いながら、自分に思い込ませながらずっとずっと長い時を過ごしてきたんだよね。そうして長い間過ごしてきたから、もはや
自分の気持ちがわからなくなっていて、それでも心の方は悲鳴をあげていて、重い重い蓋が今取れてしまったから、ついに感情が吹き出し
てきたんだよね。どうかしら?案外お医者さんでも自分のことはわからないっていうものね。だからもう、自分の気持ちに蓋をしなくて
いいんだよ。自分の気持ちを大切にしていいんだよ…。

 そうだね、確かにその気持ちを恋人の人にぶつけても、結局はそれは同じだね。お姫様に仕えていたとしても、結局は精神的に依存を
していたんだから、その依存の対象が恋人の男の人にすり替わったっていうだけだもんね。 恋人の人のことをずっと考えていて、他の人に
目を向かないかずっと考えていることで、結局はまた自分の気持ちを考えないようにしていたんだもんね。
 だからもう、それをやめないといけないね。お姉さんの長い髪、綺麗だね。昔月にいた頃、お姫様が幼かったときに、不安になったときに
安心するためにお姉さんの長い髪をよく触っていたもんね、お姉さんのスカートの裾を掴んでずっと後をついていたんだもんね。だから今に
なってもお姉さんはずっとその格好をやめていない。その銀色の髪と長いスカートで今も自分を縛っている…。だから、新しい格好をするの
がいいかもしれないね。髪を少し短くして、お医者さんみたいにスカートじゃなくってズボンにしてみると、ちょっと違った新しい自分が
みえるかもしれないね。 知ってたかな?お姉さんはずっともっとサバサバと生きていたいと心の中で思っていたんだよ。だけれどもそれを、
ずっとお姫様への罪の意識で覆い隠していたんだよ。だからきっと、新しい自分に気づくことができるかもしれないね。
きっとかっこいいと思うよ。それじゃあ、お大事にね…。


319 : ○○ :2018/03/19(月) 22:50:08 IdGYvmO2
 白玉楼の一室、そこで僕は妖夢と向かい合っていた。最近巷で世間を騒がせている、連続殺人事件。遊女の女性ばかりが被害者と
なっているその事件は、誰も犯人の姿を見たことがなく噂ばかりが飛び交っていた。村の方でも稗田家や上白沢先生が対処している
ようなのだが、犯人は一向に捕まらない。業を煮やした自分としては、何かできることはないかとこうして回っている次第であった。
「事件を追うのをやめろとはどういうことだ。」
「それはそのままのことですよ、○○さん。」
机を挟んで向かい合った先で彼女はそう言う。正座をして背筋を伸ばしている彼女は、とても嘘を言っているようには思えない。
「この事件は○○さんが追うにはあまりにも危険すぎます。そういうことは他の人にやらせておけばいいのですよ。」
正義感が強い彼女にしては、おかしなことを言う。これではまるで彼女が犯人を知っているようではないか。それに普段の彼女ならば、
犯人を見逃せなんていうことは到底言うはずがない。
「一体どうしてだ妖夢。いつもらしくないじゃないか。」
こちらからそう反論しても彼女は頑なであった。
「ですからこの○○さんの手に余るということです。」
「俺では力不足ということか。」
「もちろんです。」
辛辣な宣告をする彼女であるが、ここで引く訳にはいかない。
「そうまで言うことは、犯人の目星がついてるんだろう。教えてくれよ。」
一瞬たじろぐ彼女。やはり嘘がつけない性格なのだろう。
「その反応を見るに、妖夢自身が犯人じゃないんだろう。ならいいじゃないか。」
彼女の隙を突いて畳み掛けておく。こうでもして押し切っていかないと、この難事件は解決できそうもない。優しい彼女に負担を掛け
ているという負い目はあったが、敢えて心を鬼にして問い詰める。
「なあ、いったいどこなんだ?人里にいるのか、はぐれの妖怪か、それとも山にいるのか?」
思いつくことを手当たり次第に上げていく。きっとその先に犯人がいると思いながら。
「分かりました○○さん…。」
諦めたような彼女。そしてしつこく念押しをしてくる。
「どうしても諦めないのですね。」
「勿論だ。」
「どうしても…どうしてもですか?」
「くどい。」
一刀両断で切り捨てる。ついに真実を見つけることができるのだと、そう愚かにも確信した。
「ならば…」
バン、と音が立つ。正座をしていた彼女がいきなり跳ね上がり机に手をついたかと思うと、自分の左腿へ冷たい感触が通っていた。
背骨の中を電気信号が暴れ回る。ビリビリとした感触と共に左足の服がゆっくりと赤く染まっていき、そこでようやく彼女に切ら
れたことが分かった。
「あ、あ、あ…うわあああ!」
足を抱えて畳の上でもがく。なぜ彼女に斬られたのか分からなくて、とにかく足が痛くて、何も考えられずにひたすら足を押さえ
て言葉にならない声を出していた。
「動かないで下さい。」
そう言って彼女が止血をしてくる。憎悪もなく興奮もなく、ただただ、冷たい目をしていた。
「どうして…。」
疑問が流れる血と一緒に漏れだす。少なくとも彼女は犯人じゃない。それくらいのことがわかる程度には、彼女のことを知ってる
つもりだ。
「この事件は○○さんの手には負えないものです。これ以上聞き込みを続けたならば、きっと犯人の耳に入るでしょう。そうすると
○○さんは殺されるかもしれません。」
恐ろしいことを淡々と言う彼女。しかしそれにしては論理が飛躍しすぎている。
「なんで斬っ、ッウ!」
痛みによって言葉が途切れ途切れになる。 一方彼女は黙々と手当てをしている。しばらくの間、沈黙が流れた。
「愛、です…。」
思いもよらない単語が聞こえる。
「私は○○さんを愛していましたから、ですからこれ以上行かせるわけには…。」
驚いた。そんなにも妖夢が自分を愛していたことに。そしてそれゆえに斬ったことに。
「こうなっては、外に行っていただくわけにはいきません。ですから二度と立てないように…。」
きっと、自分が立つには彼女の支えがいるのだろう。死なない程度に、然りとて立てなくなる程度に調整するのは、達人の彼女に
とっては容易なのだろう。
「大丈夫です。私がいつでもそばにいますから。」
そう話す彼女は冷静であり、それ故にそこが恐ろしかった。


320 : ○○ :2018/03/19(月) 22:54:28 IdGYvmO2
>>316>>317のネタを使用させて頂きました。


321 : ○○ :2018/03/22(木) 16:48:30 SpTH0M7s
>>272
亀だけど…
白蓮の話よかったよ。理性と偏愛の間で揺れてる様子がすごい好み
あとはなんというかなぁ…当事者の視点なのが個人的には感情移入しやすいかな
結構猟奇的なジャンルだしさ、三人称視点だと事件を眺めてる感じがするのよね


322 : ○○ :2018/03/23(金) 08:45:22 WUt7/PTk
「やっほー○○。昨日ぶりだね、元気?……そう、何事もなくてよかったわ」

「じゃあ、はいこれ、今日の分のお金ね」

「え?昨日より多い?えへへ、○○も男の子だもん。たくさん食べてたくさん遊ばないとだめでしょ?」

「ただ、念を押すようだけど女を侍らせるようなお店には行かないでね?いい?……うん、ありがとう」

「そうだ。欲しいものなあい?なーんでも買ったげるわよ?……今は特に無い?そう?何か欲しくなったらいつでも言ってね?」

「あ、えと、その……じゃ、じゃあ、ご、ご飯でも食べに行かない?私良いお店知ってるの」

「行ってくれるの?ほんと?…えへへ、ありがとう○○。いーっぱい食べてね?」

「え?お礼?ううん、いいのいいの!私が○○にしてあげたいだけだから!」

「明日はもっといっぱいお金持ってきたげるからね!」

という女苑ちゃん妄想
自分の価値がお金しかないと思い込んでる女苑ちゃんに引くほど貢いでほしい
○○は断ろうとするんだけどそうしたら女苑ちゃんが死にそうな顔をするから受け取らざるを得ないんだ
女苑ちゃんは女苑ちゃんで貢いでるお金は所詮人から奪ったものであって『自分』が○○にしてあげられることが無いことに苦悩するんだ…


323 : ○○ :2018/03/23(金) 13:25:44 iQaTUUow
ノブレス・オブリージュに囚われて(150)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=140

>>322
そうは言うけど、女苑ちゃんの金づるは、この資金力の源泉は。口八丁でだました男からの物
きっと彼女は、自分が男と(その気はないけど)遊んでいるのに、○○には禁ずるという。この矛盾に苦しんでいそう
それを、『○○に渡す金のため○○に渡す金のため○○に渡す金のため』
と、必死になって正当化を繰り返しているんだろうな
その必死になっているけれども苦しんでいる様子、かわいい

>>320
ヤンデレ少女がたくさんいる幻想郷の遊郭は、定期的に襲撃されてそう……
もう八雲家や稗田家レベルの存在が管理するしかないね


324 : ○○ :2018/03/23(金) 14:47:58 QUnXM2n2
>>322
 卑屈系ヤンデレはイイね! 人から奪った偽りの豊かさを自覚しているあたり、時系列
上では憑依華以後っぽく見える。


325 : ○○ :2018/03/23(金) 23:49:17 PiaMGTBI
>>322
とんでもなくかわいい女苑ちゃんをありがとう…今日はいい夢みれそう…
なんか抱きしめてあげたくなるけどしたらしたで拗らせちゃいそう


紫菀ちゃんだと何も貢げずに頭抱えながら悩んだ挙げ句○○がいない間に布団を温め逃げすることに活路を見出だしてほしい…
帰宅後の○○が床につくまでに自分由来の体温が無くならないか気が気じゃなくて何度もこっそり確認しに来てしてるとはかどる
たまに布団温めてる最中に寝落ちしてくれるととてもうれしい


326 : ○○ :2018/03/24(土) 06:53:28 JMxLD.5s
>>322
これはぐうかわ疫病神
○○の対応次第でドロッドロのバッドエンドにもキュンキュンするようなハッピーエンドにもできそうなポテンシャルがあって妄想が捗る


327 : ○○ :2018/03/26(月) 19:14:28 awx3Edls
いつの間にかWIKIにランキング機能がついてるじゃないか……見に行かなきゃ……(使命感)


328 : ○○ :2018/03/26(月) 21:16:05 mchw/US2
こんばんは、○○さん。今日も"よい天気"ですね。
空気が済んでいて冷たい。そのわりに星も月も全くみえません。
まぁ…それも当然と言えば当然ですか。何せこれはあなたの心象風景なのですからね。

あぁ、そんなに怪訝な顔をされて…如何致しました?

…私は誰かって?
フフフ…これは失礼いたいました。私、ドレミー・スイートと申します。

これから長い付き合いになりそうですので、ご挨拶をと思いまして。はい、そうです。それはもう永いものになります。


おっしゃるとおり、あなたの知り合いに私は居ません。ここは夢の中ですから。
ですが夢の中ではもう知り合いです。はい。既知の仲なのです。


ああ、話は変わりますけれど。
○○さん、あなたはレム睡眠というものをご存知ですか?…聞いたことくらいはありますよね?…そうです、あれです。睡眠段階のうち、一番浅いところに位置します。

実はですね、そのレム睡眠の最中って眼球が急速に動いているんですよ。フフフ…おもしろいですよね?フフフ……。

……あぁ、そうでもないですか……そうですか……。こほん。

それにしても、瞼は閉じたままで意識もないのに"眼球は何を追って"いるのでしょうね。

…うふふ、冗談ですよ。そんなに怯えないでください。レム睡眠とはそういうものなのです。

しかし問題もあります。
先ほども申し上げましたが、レム睡眠は睡眠段階のうち最も浅いところに位置しています。

ですから眠りにおいてレム睡眠の合計が多すぎると、それはつまり"深く眠れていない"ということに他ならないのです。
もちろん、浅い眠りがいけないということではありません。 大切なのはバランスです。

……フフ。私が現れた理由がお分かりになったようですね。

○○さん、最近よく眠れていませんよね?睡眠
時間は確保しているのに、朝起きても怠い……それはとても辛いことではありませんか?……そうですよね。

○○さん。私はあなたを深い眠りへ……その最下層までお連れすることができます。
浅い睡眠時に脳が見る"夢"ではなく、あなたの奥底……魂が安らぐ夢の世界へ。

……なにも心配することはありません。そこには安寧と穏やかな幸福感があるだけです。

ほら、こうやって抱き締められると何も安心しますよね……あぁ、そうです。そのまま私の香りを感じていてください。

……あたま、真っ白になってゆきますよね?そうです……私の体温と、声と、優しい香りにだけ意識を向けてください。

上手ですよ……そのまま、そのまま。……ほら、あなたは今、暗い森のなか、木々の囁きに囲まれて横たわっています。

とても良い香りがしますよね……優しくて、温かい存在が近くにいますよ……。それは誰ですか……?

ンフフ……そうです、ドレミー・スイートです。
復唱、してみましょうか。
あなたの安らぎは……誰によってもたらされていますか?
あぁ、正解です。いいこですね。……頭、撫でてあげます。

このまま、ずっと私の存在だけに意識を向けていましょう……そうです、上手ですよ……それでいいのです。


ーーもう、目覚めなくて良いですからね。


329 : ○○ :2018/03/27(火) 06:19:29 Lx/J.iMI
 古びた洋館の一室で、いつものように白いシーツをひいたベッドに横たわる。先生に治療をしてもらってから早数回がたっていた。僕が記憶をなくしてから、こうして先生のもとに通っている
のだが最近は慣れてきたのか、徐々に記憶が戻ってきたような気がする。そして今日も僕は先生のもとで治療を受ける。
「さあゆっくり力を抜いて。」
先生の優しい声が聞こえてくると、僕は催眠の中に入っていった。


「また留守か。」
最近何度も訪れているが、いつも彼の家は留守だった。あの事件の真相を追うと言って、調査をしていたやつなのだが、ある日とてもいい手がかりを見つけたと言って 、しばらく帰らないと
 言い残して出かけて行った後、いつもならその日中に帰ってくるはずだったのだが、彼は帰ってこなかった。たまたま調査先で遅くなってしまったのかと思い、その後も一日おきほどに彼の家を
訪れているのだが、いつ来ても彼の家は無人であった。それ以降、僕も彼のあとを追うようにして、調査をすることにした。近頃人里を賑わせている、切り裂き魔、外界では似たような犯罪が
あったと記憶しているが、ここ人里でもこのまま放っておけば未解決事件となるような気がした。僕はそれが忍びなくて、このままでは行方不明になってしまった彼に申し訳ないような気がして、
こうして調べ物をしている間に、時々彼の家に寄っていた。
 彼の家から帰ろうとすると、ふと、向こうから一人の里人が歩いて来るのが見えた。何かのついでだと思いその人に声をかけてみる。
「こんにちは、この家に用ですか?」
「ああ、そうだが…。お兄さんはこの家の人の知り合いかい?」
自分が住んでいる人ではないと知っている事に対して、ふと疑問が生じた。
「ええ、そうなんですけれども、実はここに住んでいた友達がずっと家に帰ってこなくって、それで心配になって見に来たんですよ。近くのあんな事件がありましたしね。」
「ああ、そうなのかい。それなら大丈夫だよ。この家の人は引っ越したらしいからね、そこで家を売ってくれって頼まれて、それでこうして見に来たんだよ。」
「嘘。」
「おいおい、のっけからなんだい。私は本当にその人から頼まれたんだよ。」
「それも嘘。」
「気味が悪い奴だな…。ほら帰った帰った。」
形勢が不利になったのか、こちらを追い出しにかかる。 しかしそれに負けずに追撃をかける。
「おじさん何か知ってるでしょ?」
「何かってなんだよ、私は何も知らないよ。」
「実は僕、能力があるですよ。」
「妖怪なのかお前?!」
相手が目に見えて驚いた。
「いえ、ただの能力者ですよ。」
「ならとっとと帰りやがれ。一々つきやってやる暇なんてないんだよ。」
「ここに住んでいた人は何か事件に巻き込まれた。」
「知らん。」
「おじさんはその事件を知っている。」
「知らん!」
「おじさんは、真相を話すことを恐れている。」
「知らん!」
「その相手は人外の有力者だ。そしてその有力者の報復が怖い。」
「知らんと言っているだろう!!」
逃げ出すように去っていったその人の後ろ姿を眺める。非常に困ったことになってしまった、どうやら友人の失踪には、妖怪が関わっているようだ、それもとびきりの強力なやつが。


汗をびっしょりとかいて飛び起きる。ベッドのすぐ横には先生が立っていた。
「驚きましたか、大丈夫ですよ。」
先生が優しく声をかけてくれる。
「忘れていた記憶を思い出しましたので…。」
「そうですね、忘れてしまいたくなるほどの記憶を思い出したので、きっと心に負担がかかったのでしょう。でも、大丈夫ですよ。思い出せたということは、それを思い出す時が来たという
ことなのですからね。さあそれではまた明日、こちらに来てくださいね。」
僕の手を握って、穏やかに話しかけてくれる先生の目は、ただ優しかった。


330 : ○○ :2018/03/27(火) 06:21:32 Lx/J.iMI
人影が消えた路地の闇の中に、濃い血の臭いが充満していた。物言わぬ骸となり果てた末に、生者の尊厳と共にその肉体すらも壊されている女。
その隣には銀色のナイフを血に染めた犯人がいた。若い女、見た目は未だ少女と言っても通用する年代なのかもしれない。辺りに飛び散る紅い悪意
と手にした狂気とは裏腹に、その目には激情の一片たりとも浮かんではいなかった。
 女が深く、丁寧に一礼をする。今さっき殺人を犯した筈なのに、それ以上に優先することがあるとでもいうかのように、優雅にカーテシーをする
少女。グニャリと視界が歪む。止めてくれ、止めてくれ、これ以上は見せないでくれ。あの惨劇を繰り返したくないのだから!

 そして僕はベットから飛び起きた。

 窓の外は暮れており、部屋の中にはランタンが赤々と点いていた。夢で乱された僕の心をほぐすように優しく揺れる炎。その光を見ていると、段々
と気分が落ち着いてきた。改めて考えると酷い夢だった。しかし、どこかで体験したことだと、紛れもなくそれは現実にあったことだと、僕の直感は
伝えていた。頭を振ってベットより出る。先生の元に行かなければならなさそうだ。この記憶こそが、僕の欠けていた記憶なのだから…。
 夜の時間になっていたが、先生は優しく僕を迎え入れてくれた。診察室のベットに横たわり、先生の穏やかな声に耳を傾ける。たゆたうような、海
の中で泳ぐような、そんな揺らぎに身を任せて催眠の中に入っていく。深く深く、記憶の海の中へと。



 その日、僕は人里の離れに来ていた。最近起こっていた遊女惨殺事件を追うために、身近な人物から何か情報を聞けるのではないかと思ったためで
ある。色街の門をくぐり一角に足を踏み入れる。途端に濃厚な空気にあてられた。艶やかな色、女性の艶やかな声、そして艶めかしく淫靡さを漂わせ
る香り。そういった俗世とは離れた諸々が、僕の五感にシャワーのように流れ込んでくる。熱に浮かされたようにフラフラと周囲を歩く。本当は証言
を誰かから聞きださないと行けないのであるが、どのようなことは思いもつかなかった。ただひたすらに圧倒されながら夢遊病者のようにあてどもな
くふらふらと歩いていく。そして僕は何かに吸い込まれるかのように、ある一軒の店に入っていった。
店の中には老婆が一人いた。値段の交渉をしてくる老婆を適当にあしらった後で、部屋の奥へ進んでいく。奥の部屋には女性が一人いた。
「いらっしゃい。こういったお店は初めてかしら?」
突っ立っている僕に対して優しく声をかけてくれる彼女。そう言われて、ようやく僕は当初の目的を思い出した。


331 : ○○ :2018/03/27(火) 06:22:14 Lx/J.iMI
-へえ、お客さんそんなこと調べてるんだ。確かにあの事件は怖いものね。ここら辺ならあの噂で持ちきりだよ。でもみんな腰が引けてるんだよね。
どうしてかって?それはあんなことをする犯人に対してはみんな怒っているけどね、でもそれ以上に怖いんだよ。あんなことをする奴がこの周囲を歩
いているなんて、本当にゾッとする話だよ。本当に人間がしたとは思えないものね。あんなに死体をぐちゃぐちゃににするなんて、悪魔の仕業だよ。
よしそれじゃあ、お姉さんがいろいろ教えてあげるね。何せこんなお客さんは初めてだからね。お遊びはどうでもよくって、ただ事件の解決のために、
私に話を聞くだけのために、態々お金を払う人なんて初めてだからね。私だって本当は、あんな事件がなくなってほしいと思ってるんだよ。
 でもね実はね、私達は襲われないって知ってるんだ 。どうしてかって?実はあの犯人に襲われてる女たちは、裏モノ通りの人達なんだよ。裏モノって
何かって?お兄さん初心だね。実は本当は知ってるんじゃないかい?本当に知らないの?珍しいなぁ。あそこの通りにはね、普通の人では満足できない、
そういう人たちが通う特殊な店があるんだよ。そこの通りには色々なお店があってね、所謂特殊なお遊びを提供してるっていうことなんだよ。そして
その中にはね、妖怪専門のお店ってのもあるんだ。女の人が妖怪でね、あっこれ内緒の話だよ、男の人に色々提供するんだけれども、普通の人里の人
だったら妖怪になんて、関わりたくもないと思うだろうけれどね、それでも中には、普段はかなわない妖怪に対して、思う存分欲望の丈を吐き散らか
そうっていうねじれた人がいるらしいよ。私には理解できないけど…。まあそんなこんなで、主にそこら辺の店に関わる人が狙われているようだね。
まあ他にもちょこちょこやられているみたいだけれど、一番殺されているのはそこの人達だから、犯人はそこに恨みがあるんだろうね-



「今日はここまでにしましょう。」
軽やかな先生の声で現実に引き戻される。催眠の余韻で、しばらくぼうっとしている僕の頭を、先生は優しく撫でてくれた。穏やかな声が心に染み渡る。
「さてだんだんと、色々思い出してきたことかもしれません。これから先は何か、あなたが記憶をなくした本当のことにたどり着くのかもしれません。
これ以上進んでしまっては、見たくもないことを見るのかもしれません。どうですか、これ以上続けますか?」
「お願いします。」
先生の方を見て強く伝える。先生が頷いたのを見ると、僕の決意がしっかりと伝わったようだった。


332 : ○○ :2018/03/27(火) 06:22:49 Lx/J.iMI
その日も先生のもとに通い治療を受ける。幾度目かとなった催眠療法に慣れてきたのだろうか、僕はすんなりと夢の中に入っていった。


 女の人に教えられた通りに向かう。そこは一般の場所とは違い裏手に回った、いわば裏の中の裏であった。派手派手しい店が連なっ
ている表通りとは異なり、わずかに看板を掲げているだけである。これでは知っている人以外は何の店かわからないだろう。いわば玄
人向けといったそこの店の列から、目当ての看板を探す。見つけるのに苦労するかもしれないと思っていたが、数分探しただけで案外
簡単に見つけることができた。やはり表通りに比べると、店の数が少ないというのが大きいのであろう。
 扉を開けて中に入る。昼間なのにやや薄暗い部屋では、男が店番をしていた。表の店ではやり手の老婆が店番をしていたのでやや面
食らったが、考えてみればそれもそうなのかもしれない。いくら俗世とは離れた遊郭とあっても、普通の店にいかつい男がいれば、
それはやはり気が削がれるというものであろう。しかしそれであったとしても、敢えて男を置くという理由。それはやはりここがとびっ
きりの、濃い部分だからという他に違いない。それとも逆に、ここに来るような男はそんなことなど気にしない、心が鋼のような強者
ばかりということなのかもしれないが。
「お客さん新顔だね、誰からの紹介で?」
不躾に男が尋ねてくる。
「いやそのようなものは無い。」
「じゃあだめだ、この店は一見さんお断りなんだよ。」
「そこをなんとか、噂で聞いたんだ。この店は特に通の店だと…」
「さあ帰った帰った。」
 すげなく男に追い返されてしまう。しかしこちらとしても、それで引き下がる訳にはいかない。 少し離れた場所の草陰に身を隠し、
出入りする遊女を確認することとした。顔さえ分かってしまえば、後は話しを聞く程度のことはどうとでもなる。完全に長期戦となる
と腹は決まった。
 しばらくの間身を隠す。半刻が経ったか、数刻が経ったか、或いは最早それ以上か、相当な時間が経過したように感じた。いい加減
退屈になり、体を動かしたくなる。固まった背筋をほぐそうと少し伸びをした瞬間に、後ろから声を掛けられた。
「お兄さん、こんなところで何やってんだい。」
思わず尻餅を付きながらも、首をひねり後ろを振り返る。自分よりは少し若そうな、軽薄そうな青年がいた。青年は馴れ馴れしく話し
てくる。
「お兄さん頭を隠すのはいいけれど、反対側から見れば丸見えだぜ。もうちょっとうまく隠れなよ。」
「…。」
「おっと、失礼。自己紹介をしなけりゃ警戒するってもんだよな。俺っちはしがない村人だが、お兄さんと似たような職業していてね。
情報屋とでも呼んで頂戴よ。」
「それで、情報屋が何の用だ。」
こちらの怪しむような目線にもかかわらず、青年は軽やかに話しを続ける。
「お兄さんもどうせ、あの事件のために来たんだろ?」
「だったらどうというのだ?」
「どうだい、兄さん組まないかい?ちょっと今、人手がいるからね。」
「組まないと言ったらどうする?用心棒に突き出すのか?」
胡散臭さをまとわせる相手を、試すかのように反論する。
「いやいやそんなことはしないさ。だけれどもきっと俺っちの能力を聞けば、お兄さんは仲間に入れたいと思うぜ。」


333 : ○○ :2018/03/27(火) 06:23:49 Lx/J.iMI
 夜が大分更けて暗くなった道を、情報屋と二人並んで歩く。目の前には遊女が店の男と共に並んで歩いている。 更に女の前後には用心
棒が最低二人は囲んでいる。おそらくは、どこかに店の者も潜んでいるのだろう。完全なる重装備の形で、静々と、しかし仰々しく夜の
道を進んでいく。手持ちぶたさになったのか、隣の情報屋が話しかけてきた。
「な、お兄さん、俺っちと組んで良かっただろう?」
どこか人の神経を逆なでするような軽い口調だが、それでも青年のおかげで遊郭に潜り込めたのは事実である。そこの部分は確かに感謝
てもよかった。
「しかしお前の能力、人を納得させる程度の能力とはなかなか強いな。」
「いやいやそうでもないよ。嘘で納得させる程度の力は無いからね。結局は、正直に生きるしかないってことさ。」
手をひらひらと振りながら青年が謙遜する。
「しかし、勝算はあったのだろう?お前程の頭の回る奴が、無策で突っ込んでいくとは思えない。」
「まあね。」
辺りをちらりと見回し、声を潜めて青年が言う。
「しいていえば、俺っち達は肉の壁ってことさ。」
「…?逃げるために生贄にしたいのならば、普通前に置かないか?」
「いやいやそう考えるの素人さ。これまでの事件は目撃者一人ともいないんだぜ。しかも手練れの人間が居てそうなってるんだ。これは後
ろからバサッとやられたと考えるのが、常道だと思うってことよ。」
軽薄のように見えて、案外考えている青年の意見に頷いてしまう。
「ふむ、確かにそうか…。いかんいかん、能力に呑まれてしまった。」
「いやいや本当に思ってるんだよ。それにこれは戦争だしね。」
「それほど大事なのか。いや確かに大げさだと思っていたのだが。大体向こうも、まだまだ命知らずの若い連中がいるような、そんな素振
りをしていたじゃないか。」
「それはちょっと違うね。」
「どうしてだ?」
「情報屋の端くれとして数を数えてみたところ、もうすでに七割程は顔を見ていないんだよ。一週間近く見ていないから、まあ、おそらく
は、ってことだよ。」
「そんなに死んでいるのか?!」
「ちょっとお兄さん、声が大きいって。」
青年に小声で窘められる。 それほどまでにこの事件が抱えている闇が多かったとは、想像だにしていなかった。
「まあこういう商売は、弱みを見せたら終わりっていう部分もあるからね。そうすると他の店から色々ちょっかいを出されるかもしれない
からさ、こうして唸る金に物を言わせて、仰々しく見せているって訳さ。まあそれも、今回ばかりというやつだね。」
「今回で犯人が捕まえられるということか?今まで捕まっていなかったんじゃないのか?」
「いや今回で捕まらないと、店の方が綺麗さっぱりに破産するってことさ。もうすでに稼ぎ頭と番頭格のような中心人物は、とうの昔にや
られてしまっているからね。」
「なんということだ…。」
思わぬ事態に考え込んでしまった。そうすると、ふと疑問が湧いてきた。
「ということは、今回の事件は遊女を狙った訳ではないということか。」
「うーん、当たらずとも遠からずというやつかなぁ。」
おしゃべりな彼にしては珍しく、歯切れが悪そうに言う情報屋。
「確かに犯人は遊女に対して恨みを持っているはずってことよ。でなければあんな残酷なことをする訳がないし、他の遊女もちょこちょこ
とやられているからねぃ。」
「しかしまあそれならば、この店ばかりの人物を狙ってるっていうのは、ちょっと引っかかる点さ。そうなれば考えられることは一つ、女
の方を隠れ蓑にして男の方も潰しておくからには、結局はこの店に何か恨みがあるってことさ。それに店の方も、最初の一人二人で何か恨
みを買っていると気がついたようさ。二人目以降は警戒をしてたようで、女の帰り道に恋人を一緒に付けたようだし、それすらやられた後
には形振り構わず、用心棒をかき集めていたようだからね。」
-まあ、目下連戦連敗中だけれどもね-そう情報屋は軽口を叩くが、隣にいるこちらとしては気が気でない。
「ひょっとしてお兄さん、死ぬかもしれないって思ってるんじゃない。」
「ああ、正直そうかもしれないと思っている。」
「大丈夫大丈夫、お兄さんはそうならないからさ。」
僕の能力は予想に反して、情報屋が嘘をついていないと、そう告げていた。


334 : ○○ :2018/03/27(火) 06:24:40 Lx/J.iMI
ふと気がつくと先生が隣にいた。心配そうな目で服を見つめる先生。優しく僕の手を握りながら先生が話しかけてくる。
「大丈夫ですか、先日はあの後気絶してしまったので、こちらの方にお連れしました。ですので今日、あなたの様子を見にきまして。」
「ありがとうございます。今日は大丈夫そうです。」
「どうですか、せっかくですので今日はここで治療をしましょうか。」
願ってもない申し出にうなずく。
「それでは始めましょう。」
先生がパチンと指を鳴らすと、僕はまた催眠の中に入っていった。


情報屋と夜の道を進む。ふと周囲に、霧が出てきた気がした。
「そういえば、この殺人鬼についたあだ名を知ってるかい?」
「切り裂き魔じゃないのか?」
「ああそうさ、だけど別名は切り裂きジャックって言うんだ。丁度、霧の都の倫敦から幻想入りしたようだね。」
「馬鹿馬鹿しい、そんなもの妖怪でもなんでもないじゃないか。」
そう言って前を見た瞬間、目の前にいたはずの女達が消えていた。慌てて後ろを振り返る。自分たちの後ろにいたはずの達人の先生とやら
も、霧に紛れて忽然と姿を消していた。
「おいどうなってるんだ!」
思わず隣の情報屋にくってかかる。彼は平然として答えた。
「いやいやまさに、切り裂きジャックのご登場ってことじゃないか!」
何処か芝居がかった様子で、待ちわびていたかのようにそう答える情報屋。
「さあ、こっちだ!」
興奮した情報屋に腕を引っ張られて、僕はそのまま彼について行った。月の光もわずかにしか入らない霧で覆われた幻想郷。路地裏の奥に
そいつは居た。

 そこにいたのは少女だった。白を基調としたメイド服に銀色の髪が映える。普通に昼間に見たならばとても美しいと思えたその少女は、
死の結晶を周囲に積み上げつつ、月光の光を浴びて赤いナイフを光らせていた。こちらを見て逃げるでもなく、襲ってくるでもなく、
ただ悠然と佇む少女。そしてこちらを見ると、ナイフを手に持ったまま優雅にスカートを上げ一礼をする。あまりにも非日常的すぎるその
光景を見ていると、なんだか自分が場違いのように思えた。ふと、その少女の視線は自分を見ていないような気がした。まるで自分の隣に
いる情報屋に向けて、あの軽薄な青年に向けて、まるで主人に仕える臣下のように彼女は礼をしていた。時が止まったように凍りつくその
空間。悪あがきのように僕が隣を見ると、そこにいた彼は、青い髪の少女になっていた。
「 ご機嫌麗しゅう、お嬢様。」
透き通るような声で挨拶をする犯人。そして隣にいたはずの彼は、彼女となって労いの言葉を返した。
「ご苦労さま、咲夜。これで全員ね。」
「はい全員です。お嬢様。」
そのまま優雅に彼女は歩いていく。僕の側から離れ、向こう側へと行ってしまうかのように。
「どうしてだ…。」
相対した彼女を見ていると言葉が漏れた。それと一緒に、逃げる気力すらもなくなってしまったような気がした。
「そうね、ちょっと昔話をしましょう。」
そう言って彼女は話しを始めた。


335 : ○○ :2018/03/27(火) 06:25:51 Lx/J.iMI
 もしも、そうもしもの話だけれども、あなたはもし大切な人を失ったらどうするかしら。そしてその原因が誰かの罠にかかったとしたの
なら、あなたはどうするかしら?復讐するかしら、それとも復讐なんて割に合わないと思って、残された人生を大切にしようと生きるかし
ら。あなたはどう生きるかは、あなた自身が選べばいいのだけれども、 ある人にとってはどうしても許せないことがあったの。
 とあるところに一組の夫婦がいたわ。夫は人里の普通の男性で、妻の方は獣人の狼の妖怪。幻想郷からすればちょっと珍しいという程度
なのかもしれないけれど、それでもその夫婦は平和に暮らしていたわ。だけれどもある時、悪い奴らに目をつけられてね、ちょうど妻の方
が満月の光を浴びた時に、色々と策を凝らして襲われたのよ。わざと夫の前で妻を襲わせて、夫に見せつけるかのように妻を辱めようとし
て…。そうすれば夫の方の心が折れるかもしれないと思ったのかもしれないし、あるいはそうやって満月の晩にそうすれば、妻の方が絶対
逆らえなくなると、そういうような邪法を使っていたのかもしれないわね。そして奴らの方は、逆らえない奴隷を一匹作り上げて、それを
自分たちが経営しているここの店で使って、金を稼ごうとしていたのかもしれないわね。
そう、屑にも劣るその下劣な行為、もしもそれが行われていたならば、おぞましい悲劇になったであろうその話は、妻の獣人が必死に抵抗
したことで未遂に終わったわ。いえ、未遂終わったとしてもそれは恐ろしい話よ。それも気持ちの面だけでなく、物理的にもね。妻の方は
必死で、そう、自分の方がどうなってもいいと、そう思いながら夫の方を懸命に逃がそうとしたわ。そして、どうにかして自分がひどい傷
を負いながらもどうにか夫の方を解放することができたのだけれども、逆に自分の方は、もはやどうにもならなくなってしまったの。そし
て妻の方は、もはやこれまでと思ったのでしょうね。わずかに折れずに残った自分の鋭い爪で、自分の命を掻き切ったのよ…。 夫に操を
立てるためにそうしたのでしょうね。追い詰められて、どうしようもならなくて、もう一度夫に会いたかったのでしょうに、汚れてしまっ
てはもはや合わせる顔がないと思ったのかしら。ああ、なんともかわいそうなお話ね。
 そして、夫の方はどうしたと思う?自分の平和な家庭を無残に壊されて、自分の愛する妻に酷い死に方をさせてしまって、そして、自分
だけはのうのうと生き残ってしまって、いろんな気持ちに夫はなったのでしょうね。辛く張り裂けそうな気持ち、凄まじいまでの後悔、も
う二度と取り戻せない日常への渇望、そして…こんなことをした奴等への心の底からの復讐心! だけれども、夫の方には復讐をする力は
なかった。あの襲撃で自分の体は満足に動かなくなっていたし、目撃者もいない出来事、よしんば村に訴えたとしても彼らに本当の罰が下さ
れるとは、そう夫には思えなかったの。正義にも、神にも見捨てられたその男。どうかしら…?だからその男は悪魔に魂を売ったわ。神様が
助けない者は悪魔の領分でしょう?そして今回の事件の幕が開けたのよ。


336 : ○○ :2018/03/27(火) 06:26:34 Lx/J.iMI
「どうかしら。」
悠然と 彼女は立たずむ。おぞましい罪を犯したというのに、それすらも当然だというように、彼女がこちらを見ていた。
「そうか…。」
圧倒されていた僕には、彼女に返事を返す気力がほとんど残っていなかった。
「そういえばどうしてあなたはこの事件を追っていたのかしら?」
「親友が行方不明になった…。」
「お嬢様、○○という人物のことかと。」
隣にいた少女が、青い髪の彼女に話しかける。
「あら、その人物なら白玉楼で無事に過ごしているわよ。良かったわね。」
「そいつは良かったよ。それで、このまま逃がしてくれるとありがたいんだがね。」
少女が笑う。悪魔の笑みを浮かべながら。
「もちろん私もあなたのことを信じたいわよ。でもそれは駄目。このままでは色々と不都合なの。あなたの様なお喋りな人が地上に居るの
は、私あんまり好きじゃないの。」
-だから-と少女は言う。運命を見通すかのように。
「あなたには稗田の屋敷に行ってもらうわ。そうね、そこできっと運命の出会いをするでしょうから。」


ガバリとベッドから飛び起きる。ああそうだ、僕はあの後気づいたら、稗田の屋敷に連れて行かれていて、そしてそこで…。物となった
自分、九代目の裏の顔、訪れて来た妖怪のあの女、そして積まれた金!!
「ようやく思い出しましたね。」
隣にいた先生が僕に声をかける。優しかったはずのその声が歪み、あの女の声が聞こえてくる。
「さあこれで、ようやく一緒になれますね。」
先生の形が溶けていく。あの女の姿が目の前に現れた。そして周囲の風景もいつのまにか、あの館のものに変わっていた。
「さあ、あなた。これからずっと一緒に過ごしましょうね。」
「さとり…」
粘つくような目で、彼女は僕を見ている。屋敷で僕を買ったその時から、彼女の目は執着と情念に塗れていた。
「はい、あなた、折角思い出してくれたんですからね。これでもう、私達の間に邪魔はありませんよ。」
「お前なんてきら「そんなことはないですよ。」
僕の言葉を遮る彼女。
「だって、あなたは記憶を自分から取り戻したのですから。あのまま偽りの記憶に留まるよりも、私との真実を選んだのですよ。」
「嘘だ…。」
「嘘じゃないですよ。ええ、あなたは私を選んだのですよ。私と一緒になることをあなたは本心では望んでいたんですよ。どうですか?
あなたの心を読んだ私が嘘を言っているか、能力で確かめてみてはどうですか?」
僕の力は残酷な真実を告げていた。


337 : ○○ :2018/03/27(火) 06:29:42 Lx/J.iMI
>>323
果たして白蓮は魔法で強化しているのか否か。自分が傷ついてもいいと思って
いるのならば、深刻な問題のような

>>328
このドレミーさんイイ…


338 : ○○ :2018/03/28(水) 16:29:35 jkXLpjEY
純愛とは対極の世界である遊廓ネタって、実は可能性の塊なんじゃ


339 : ○○ :2018/03/28(水) 20:57:38 j7wGgqLg
身請けしてくれた恩を返そうと一途な娘のssが見たいなあ


340 : ○○ :2018/03/28(水) 22:23:35 XodYFoF6
遊郭ネタで2つ思いついた。

1個目はヒロインが下位の女郎の話。
ある日ヒロインは偶然○○に出会い、励ましの言葉を貰いその上一目惚れ。
○○が綺麗な身なりをしていたことから裕福な家の出と判断。
いつか身請けしてもらうことを夢見て花魁まで昇りつめる。
しかし何年経っても○○は身請けに来ない(どころか自分のいる店に来ない。元々遊郭は好きじゃないとか通ってないとかでも可)
焦燥と悲しみに少しずつヒロインの心は壊れていく。

>>339なら、身請けしてくれたけど実は○○には本妻がいて自分はその次。
衣食住は与えられても○○の一番の愛はもらえない。
それでも恩を返そうと必死に頑張るが、嫌でも○○と本妻の睦まじさが目に入り、徐々に嫉妬に狂っていってしまう。


遊郭で出世するには高い教養が必要だし、花魁ともなると仲良くなるのは大変(最初は口も聞いてくれないのがほとんど)。
そういう意味では現代の風俗とはちょっと違うんだが、好き嫌いは分かれそうだな。


341 : ○○ :2018/03/28(水) 22:31:08 KD3YNSmI
パルスィ投入したら一ヶ月くらいで吉原炎上レベルの事件起こしてくれそう

史実の吉原炎上は、失火だけどさ


342 : ○○ :2018/03/29(木) 01:33:38 K2WpD/fA
依っちゃんの話の後編がようやく書き上がったので上げます。
【1/8】
『後編:Staining Red. 』

 ――人間は堕落する。義士も聖女も堕落する。それを防ぐことはできないし、防ぐことによって人
を救うことはできない。人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道は
ない。
 坂口安吾『堕落論』

 改めて私がこの地上に降り立って、およそ三ヶ月程。慣れはしたけど、やはり穢れた地上という観
念が抜けないものだからか、この幻想郷にそこまで馴染めていないのが現状であった。懇意にし
ているとしたらせいぜい、霊夢をはじめとした、かつて月で戦ったあの三人組と吸血鬼一人、及び
その周辺人物くらいだろうか。でも彼女らは厳密には人ではない。

 永遠亭で私に割り当てられた業務をこなしていると、藤原妹紅が襲撃してきた。目当ては十中八
九□□という男――輝夜様と藤原妹紅が奪い合っている情夫である。どうやら姫様は、またもや藤
原妹紅のもとから□□を攫ってしまわれたらしい。どうにかしたいところではあるけど、ここ三ヶ月の
経験上、二人の仲裁に入ったところで、□□を懸けた争いは普段の喧嘩に輪を掛けて酷く、手を
出しても出さなくてもあまり結果は変わらないため、被害を抑えることに徹することにしている。

 「やあ綿月さん、配達だ」

 怒号を上げて屋内に乗り込んでいく藤原妹紅を尻目に間延びした挨拶をする○○。

 「ああ、○○」

 いつもの調子で居る彼を見て、少しだけ心が落ち着いて、顔が綻んだ。

 「ごめん、これ俺のせいかも。ちょっと□□に頼まれた物があって、永遠亭に行くついでに渡そう
としたら、姫様があいつをこっそり攫ったのが発覚しちゃってさ」

 「遅かれ早かれ彼女はここに乗り込んできてたわ。それより、あなたも早くどこかに避難しないと」

 と、私は慌てて○○の手を引いて、避難させることにした。それで通したのは私の部屋であった。
そこならあの二者の争いの余波の被害を受けることも無い。またこの永遠亭の中で私が自由に弄
くり回せて、かつその仕様を他と比べて把握しやすい場所でもあるから、都合が良かったこともある。
それに聞きたいこともある。

 藤原妹紅と輝夜様の争いは普段に輪を掛けて長引いた。いつもであれば、互いに自身の体力
を考えずに力いっぱいに暴れ続けるところを、今回はいやに力を節約したり、様子見を挟んだりと
いったことで、数時間にも渡ることとなった。その間中ずっと、○○は永遠亭の一室で拘束されて
いる状態でいたことになる。騒乱が終わる頃には、既に辺りは逢魔が時の様相を呈しており、加え
て彼女らの騒乱の影響で滞っていた業務、並びに亭の修繕のこともあって、彼を帰すことが出来
なくなってしまっていた。

 そういうわけで、彼は今夜は永遠亭に泊まることになった。

 なお、屋敷の修繕は、先ほどまで輝夜様と藤原妹紅の争いの渦中に居た□□を加えて永遠亭
の男手で行われることとなった。が、あろうことかそこに、客人であるはずの○○まで加わったので
ある。

 「おうい●●、俺も混ぜておくれよ、体力が有り余って仕方がないんだ」

 「オーケイ、是非働いてくれ変態糞ニート」

 「無職じゃねえよ、ちゃんと働いてるよ、……肉労だけど」

 相変わらず罵倒から始まる○○と●●やり取りは、こちらが羨ましくなるくらい仲良さげであった。
○○は、普段は、いささかズボラながらも紳士的に接するからついつい失念しがちだけど、●●を
はじめとした友人らと話す時には、馬鹿みたいに笑って、ワイワイと騒いで、はしゃいだりする。そ
んな○○を見る度に、私に見せない彼の一側面があるのだとしみじみ感じる。

 「本当、嫉妬しちゃいますよね」

 男性陣を見つめる私の横にいつの間にかレイセンが佇んで、不意に声を掛けてきた。

 「■■も、普段は物静かなのに、あの面子で居る時は人が変わったみたいによく喋るんです。そ
して、その内容は私が全然理解出来ないんです。――おそらく外の世界についてのものなんだと
思います……」

 と、レイセンは切なそうに語って、それから顔を俯かせ、

 「本当に、邪魔……。ひょっとして、私と■■の時間を奪おうとしているの?……」

 ぼそぼそと、低い声で何かを呟いていた。深く考え込んでいるから、まばたきはほとんどされず、
焦点はどこにも合っていないようだった。


343 : ○○ :2018/03/29(木) 01:35:23 K2WpD/fA
【2/8】
 以前の私であれば、こんな不穏な様子を見せるレイセンを見れば、叱咤するなりしたことであろう。
が、今の私は、踏み込むことすら出来ないでいる。

 「深く突っ込むことではないわね」

 と、楽観的な想念を浮かべて、自分の業務に戻っていくのである。

 当然であるが、業務と、屋敷の修繕は、いつもより遅い時間に終わることとなった。不幸中の幸い
にも、深夜まで掛かることはなかった。それでも、争いの鎮静化や、急ぎ足で仕事をこなしたこと、
予定時間がずれたことによる疲労は著しいが。

 ようやく一息吐けるところで、私は○○の部屋を訪ねた。無論、知己の中と言えど、一応彼はお
客人ということもあり、入る際には礼を欠くことなく――

 「肩肘張ることないさ。それだけ折り目正しくいれば、後は崩したっていいだろ。むしろ俺はそうし
てほしいな、あんたには」

 そう言われて私は、逡巡は無しに居住まいを崩すことにした。満更抵抗が無いわけではないが、
やっぱりそうして意識は大分薄れてきている。

 「あの子のお葬式、今日だったみたいね……」

 単刀直入に訊いた。

 「ああ、そうだ」

 この幻想郷で初めて私が人里へ行き、その時に案内をしてくれた○○によって紹介された茶屋
の看板娘が、つい先日何者かによって惨殺された事件。

 「お葬式には、行ったの?」

 彼の親しい人の死ということもあり、私はこわごわと、不躾にもそう尋ねた。

 「いや行ってない。というか行けなかった」

 「行けなかった?」

 「遺族から拒絶されたんだ。先方は、俺が殺したようなものだとも言っていた。勿論、殺したのは
俺じゃない」

 ○○はそこまで言うと、不意に口を噤んだ。不自然な途切れだった。彼が何か隠し事をしている
のだと、直感が私に告げた。

 「何か……隠し事があるんじゃないの」

 私が○○の目を見つめると、私からの視線に耐えかねて彼は目を伏せた。ちらちらと彼は私を見
やっていて、私はそれでも視線を送り続けた。やがて彼は首をもたげ、

 「実は――彼女を殺害した下手人として、君が疑われているんだ」

 言いづらそうに告げてきた。

 「私が? そんなことあるわけ……。第一、私と彼女が険悪だったことなんて、ましてや険悪だっ
たところを見られたわけでもない。一体どうして」

 「……。さあね……、分からない。けど、人里の連中は、外来人だとか、力のある人外を忌み嫌っ
ている節がある――永遠亭も例外じゃなくな。以前、あいつが親父さんと喧嘩しているのを聞いた
時、外来人や永遠亭という言葉が飛び出していた」

 そこで私はふと、ここ数日で人里でのことを想起した。しばしば人から堅苦し過ぎるとまで言われ
る私が人里の人々と打ち解けられないのはいつも通り。しかし、この数日間は、いつも以上に里で
は異様な雰囲気が流れていた。その際に感じた視線は気のせいではなかったらしい。

 確かに、地上人からすれば、月人は妖怪などと大差ない。三ヶ月もあれば、嫌でもそんなことは
分かる。

 そして外来人は――余所者だからだろうか。余所者とは、敵となる可能性を持つのみならず、外
部の穢れ――即ち病原菌や不安因子――を持ち込み、ともすればそれによって何か不吉なこと
をもたらす。しかし一方で、新たなる血が流れ込む好機でもあり、欲しがられる存在でもある。

 あの茶屋の娘が○○を好いたのも、彼自身の魅力の他にも、全く異なる遺伝子への反応という
要因もあるのであろう。以前、町娘の話に不躾ながら聞き耳を立ててみたところ、どうやら一部の若
者は、外来人は体格が良く(女性は肉付きが良く肌が白い)、学や教養があり、また外の世界に対
する興味もあってか外来人に憧れを抱いているらしい。ところがその憧憬は人里の人に限った話
ではなく、『人ならざるもの』も同様の状態になることがあるため、外来人に色目を使ってはいけな
いという不文律が在る模様であった。

 とすれば、もしかすると、あの娘を殺害したのは、彼女以外に○○を好いていた『それ以外の者』
……。

 自然に、○○にちらりと目が行った。

 ……。

 ……。

 ……。


344 : ○○ :2018/03/29(木) 01:36:35 K2WpD/fA
【3/8】
 あの娘が殺されたのは、必然だったのだろう。何せ彼女は、初めて私に会った時、遠回しに私と
○○が一緒になることはないといった嫌味を言っていた。一聞して○○へのからかいなようで、そ
の実私に対する牽制を孕んでいた。何と向こう見ずな言動か。そんなことを言えば、大抵の女は憤
慨すること請け合いである。気の短い女であれば即刻始末されていることであろう。そうでなくとも、
力のある女であれば、自らの力を以って粛清に掛かることであろう。お気の毒だけれど、身から出
た錆だ。

 この因縁が明確に現れたのは、そう、私が○○を傷付けたあの後。彼の口から聞いたのか、はた
また自分で推量したのか判らないけど、あの娘は私への敵意をあけすけにしていた。まさにあの時
点で、いやそれ以前から私たちは敵対していたのだ、――女として。

 私は口角が吊り上がりそうになった。

 私は○○を見つめた。彼は私の眼を見ると、自らの瞳の中に一抹のもの哀しさを閃かせた。彼が
見せたその悲哀は、誰に向けてのものなのだろう。

 ――私だと嬉しいな。

 いずれにせよ、彼の何もかもが愛おしい。

 「そろそろ寝ましょうか」

 自分でも、声が逸っているのが分かった。

 私は立ち上がった。○○は、布団に向き直った。それを尻目に私は灯台の火を吹き消した。小さ
な灯りによって淡く照らされていた室内が、俄かに暗くなった。そうして今室内には、月の明かりだ
けが薄っすらと漂っているのみ。

 その中で、○○の背中が見えた。

 ムラムラと私は、その広い背中に惹き寄せられていって、そっと後ろから両肩に手を掛けて、自
分の頭を背中に預けた。額からゆっくりと彼の背中に当てていく。彼はそれに気づいて、身じろぎ
をした。

 ○○の肩に掛かる私の手の片方に、彼は手を重ねた。その重ねられた手に私は、口を寄せた。
それからもう片方の手を彼の前面に回し、着物をはだけさせ、撫でる。

 そのまま○○を、敷かれた布団の上に押し倒し、跨った。彼の首元を枕に、私は身体を横たえた。
その私を支えるように、彼は私の背中に腕を回し、腰に手を添えた。腰に添えられた手が気になっ
た。いやに力が籠っていて、しきりに動いている。特に、小指と薬指が、私の臀部に引っ掛かって、
指先が少し食い込んでいる。明らかに、もっと下へ手を置きたがっているのが分かる。さては、撫で
たいとか、揉みたいとかの劣情さえ感じる。

 「ねえ――」

 私は媚びたように言問う。

 「私って、綺麗?」

 どこかで聞いたことがあるような問いだった。あれは、男神をお持成する巫女だったか。食事での
お酌の他に、遊びの相手、それと夜伽の相手をする。まさに遊女。

 彼女らは相手方に、あたかも愛おしい恋人であるかのように媚びていた。今の私は、あれらに似
ている。

 「……とても綺麗だ。少なくとも俺からすれば、この世の誰よりも」

 「嬉しい……」

 でも、私は彼女らとは違う。だって、○○から綺麗だと言われて、こんなにも嬉しい。以前、彼から
美人だと言われた時、地上の男が私の容姿を好ましく見ていると言われた時、その時には分らな
かった。でも今ならわかる。胸が高鳴り、顔に血が行って、ひどく熱い。彼から向けられる劣情は、
彼が私に夢中だという証拠。だから嬉しい。男性から美人だと思われるといっても、○○と彼以外
の男に思われるのとでは天地の差があった。

 眼に感涙を滲ませながら、私は彼に接吻をした。触れるだけでは満足なんて出来ない。とにかく
濃く深く。呼吸を昂らせながら、必死でそんなことをしていると、苦しさのあまり、はしたない声が出
た。

 「――じゃあ、私のこと、好き?」

 ○○の唇から顔を離して、今度はこのように問うた。

 「……」

 「私はあなたが好きよ、この上なく……。ねえ、あなたはどうなの」

 「俺は……」 

 ○○はそこで黙りこくった。

 「あなたは? ねえ、どうなの。ねえ……」

 私は――遊女だ。

 この時の私には、○○の気持ちを慮るなんて出来なかった。相手の男に選択の余地を与えず、
ただ己の望む答えを要求する卑しい女。締まりのない声調でしきりに尋問する。まさに遊女。

 私は、玉依の巫女の一人であり。巫女は、遊女でもある。

 でも存外に悪くない、この感覚。好いた人のことを思って無鉄砲に動くこの感覚。


345 : ○○ :2018/03/29(木) 01:40:12 K2WpD/fA
【4/8】
 「どうして何も言ってくれないの。ひょっとして、本当は私のこと嫌いなの?」

 「いや違うっ……」

 「じゃあどうして――、あ、分かった、私の言うことが信じられないんでしょう」

 「は?……」

 「今、その証をあなたにあげるわ……」

 昂揚と、これからすることを前に、私の顔は引きつったようにニヤけていた。声も若干震えていた。
でももう止まらない。私の頭の中にはただ、“それ”を実行することだけが在った。

 ……。

 ……。

 ……。

 気が付くと私は、自分の部屋の真ん中で、呆けたように座っていた。奇妙な気分だ。

 私は今まで何をしていたのか。何かをして過ごしていたのだろうと、感覚的に見当は付く。けれど、
具体的に何をしていたのかはぼんやりとしていて、また実感が無い。

 目を閉じ私は、左手で顔を覆った。

 違和感があった。明らかに何かが足りなかった。それは私の左手の何かが欠けていたのだ。

 左手を離し、目を開けて私はそれを見た。

 ――無い。

 ――私の小指が無いッ!

 呼吸が乱れ、息苦しさを覚えた。だがそんなことを気にしている場合ではなかった。私の左手に
は包帯が、小指を覆うように巻かれていた。取り乱していた私は、むやみにその包帯を取った。小
指は確かに無くなっていた。血は出ていなかった。指の断面は、やや赤みがかった皮膚によって
覆われ、すっかり塞がっていた。

 私は悲鳴を上げたのち、過呼吸を起こし、その場で蹲った。

 その間の記憶は、憶えているには憶えているが、曖昧であった。私の悲鳴を駆け付けたらしいレ
イセンによって介抱され、どうにか復調して、その後私は八意様のもとへ連れていかれた。そして
そのすぐ後、○○が部屋に入ってきたのである。厳かな面持ちをしていた。観念したような面持ち
でもあった。今まで何かから逃げ続け、ついにそれと向き合わねばならない時が来たみたいな悲
壮な面持ち。

 「八意様……」

 私は縋るように尋ねた。

 「一体私はどうしてしまったのですか」

 次いで○○へ視線を移した。○○は一度私と視線を合わせ、それで私から目を背けるように目
を泳がせだした。

 「まず結論から言うわ」

 八意様は淡泊に告げた。

 「あなたのその症状は、解離性障害という精神疾患よ」

 「私が……精神疾患?……」

 「またの名をヒステリィ。大昔では狐憑きと呼ばれていたわね。女性特有の疾患とも考えられてい
て、女性特有というところから、原因は子宮にあるのではないかとも考えられていたわ。まあ、エスト
ロゲンが卵巣で生成されていることを考えれば、この説もあながち間違いとも言い切れないかしら」

 まあそんなことはどうでもいいわ、と、八意様は一つ息を吐いた。その落ち着き払った態度に反し
て、私の気は弥が上に焦燥していく。

 「あなたのは解離性同一性障害。症状が見受けられたのは大体五週間以上前で、発見したのは
○○。当初からその疑いはあったけど、念のために別の疾患――例えば統合失調症とかも視野
に入れて経過を観察することにしたの。その間に見られた人格は三つ。あなたの小指を切断した
のは、主人格に値する人格ね。性別は女。遊女のような性格をしていて、欲望に忠実。あなたに
とって都合の悪いこと、及びあなたが抑圧してることに関する記憶を管理しているわ。彼女のおか
げで診断が遅れることになった」

 私は戦慄した。私の内側にそうした人格が潜んでいるなんて、実感が湧かない。でも、その人格
は、私の知らぬ内に外へ這い出て、密かに私の生活を奪っていっていたのだとすれば、何とおぞ
ましいことか。

 そこで、ある不安が鎌首をもたげた。

 「八意様……、私は、その……、他に何かを、為してしまっているのでしょうか」

 その不安から、おずおずと、斯様に曖昧な質問をした。知るのが怖い、でもはっきりしたい、そん
な板挟みから抜け出そうとして、無理に尋ねたのだ。


346 : ○○ :2018/03/29(木) 01:42:56 K2WpD/fA
【5/8】
 「……女の子を一人、殺めたわ」

 おもむろに八意様は私へ告げた。

 「その娘とは、人里の茶屋の娘なのですね……」

 悟らざるを得なかった。

 「ええ」

 肯定して八意様は話を続ける。

 「ところで依姫、あなた、自分が○○を傷付けたことは憶えているかしら」

 「えっ……」

 「やっぱり憶えていないようね」

 「それも、私の別人格が?」

 「いいえ違うわ、あなた自身が為したことよ」

 「そんなことが、あるわけ……」

 私が○○を傷付けるような真似なんて……。でも、もう私は、自分を信じることは出来ない……。

 「豊姫に月から弾き返された後、あなたは動揺から、また初めて味わう月経の苦悶から、○○に
八つ当たりをした。その時、○○の胸に切創を作ったの。それが元であなたと茶屋の娘さんは険
悪な間柄となった。○○はすぐさまあなたを赦し仲直りをしたけど、事態はそれで収まるようなもの
じゃなかった。何故ならあの娘は○○に好意を持っていてたから。好きだからこそ、彼を傷付ける
者は許せない。同時に、あなたが○○を傷付けたのは、彼女にとって好機でもあった。何せ、依姫
が相手では、美貌から既に負けていることは彼女自身も分かっていたからね。それだけなら、あな
たが○○を好きにならないかもと楽観的に見ることもあった。けれど彼女は、あなたが○○を好き
になるかもという可能性を直感したのね」

 「だからあいつは、あの時……」

 そう漏らしたのは○○だった。

 「心当たりがおありかしら」

 ○○は顔を伏せたまま、目だけを一瞬だけ八意様の方へ向けた。

 「あまり口では言えません。ただ、ある時、あいつが大胆なことをしてきたとだけは」

 「それは初耳ね。で、手は出したのかしら。看板娘と言われるくらいだから、器量は良かったのだ
し……」

 「まさか。そんな無責任な真似……」

 「出せなかった、の間違いでしょう」

 蔑むような口吻で八意様は、嗤笑を含めて言った。すると○○はますますいたたまれない様子
で、息を詰まらせる声を漏らした。

 「依姫の別人格が娘殺害に及んだのには、きっと何か切っ掛けがあるはずね。大方、彼が今
言ったことの現場を、依姫が目撃したといったところね。だから、殺した。それはもう杜撰な犯行
だったことでしょうね、欲望に忠実なあの人格なら。幸い、依姫がやったという証拠は無いみたい
だけど」

 八意様は皮肉げに笑った。

 そこで私は、自らの左手の小指を思い出した。断面の傷は既に塞がっていて、包帯を巻く必要
が無いくらいなのに、何故だか痺れるような痛みが走っていた。

 「じゃあ、私の……、私の指は?……」

 「ああ、それならあるわよ」

 と、八意様は促すように○○の方へ顔を向けた。それに釣られて○○を見ると、彼は厳かな表情
で、おもむろに懐から、布に包まれた小さな物を取り出して、開いて見せた。

 それは指だった。切断された人の小指。これが私の指なのだという想念が浮き上がった途端、動
悸が激しくなるのを自覚した。身体が緊張し、吐き気すら込み上げてきそうであった。

 「防腐はされているわ、腐敗することはない」

 「何故、再接着をされなかったのですか……」

 蚊の鳴くような小さな声が出た。

 「あなたが望まなかったからよ。○○がそれを手放そうとすると、あなたは取り乱してしまうから。本
当に強情だったわ。露出した小指の骨の髄をいつまでも外気に曝しておくわけにもいかなかった
から、傷を塞ぐ他なかった」

 「どうして……、どうして私は……」

 「小指を○○に持たせたかった、か? それはあなたが遊女だからよ。遊女には、自らの小指を、
好いた男に渡すという風習があるの。それに則っての行動だったんでしょう」

 ――それがあなたなのよ、依姫。

 八意様からの宣告と、私自身の想念の言葉が重なったような気がした。


347 : ○○ :2018/03/29(木) 01:44:35 K2WpD/fA
【6/8】
 「もう気付いてるでしょうけど、この、別人格による一連の事は、全てあなたが心の奥底で望んで
いたことよ。けど、元月人のあなたには不本意で、受け入れがたいものだった。そこで、ちょうど、地
上の穢れに侵され精神が不安定だったあなたは、都合の悪い感情を別人の持つものとして自ら
抑圧した。故に、あなたは心置きなく自らの衝動を吐き出せたとも言える……」

 八意様は一呼吸置いて、

 「狂気こそが、私たちを最もよく表現してくれる……」

 物憂げに、疲れ諦観したように、そう結んだ。それは、かつてお姉様が、私を地上に送り返す際
に放った言葉と、奇しくも同じものであった。

 激しく動揺した。今まで目を背けてきたものと、覚悟も無しに対面させられたような絶望を感じた。

 そして私は逃げ出した。無我夢中で逃げた。しかしどんなに逃げても、頭の中にこびり付いた
忌々しい物が離れることはない。やがて私は遁走をやめ、頭を抱えて怯えだした。

 もがけばもがくほど恐ろしい。なれば、どこかでじっと息を潜めているほうがよほど安心出来た。

 そんな私のもとへ歩み寄る者が居た。驚きはしなかった。何となく、誰なのかは分かったから。

 「○○……」

 振り向いて私は、彼を見てほっと気が軽くなった。卑しいことだけど、どこかで彼が迎えに来てく
れることを期待していた自分が居た。

 「ごめんなさい……」

 まず出た言葉はそれだった。

 「私のせいで、あなたの立場が壊れてしまって……。私の身勝手な想いで、あの娘を死なせてし
まって……。本当に、莫迦だったわ! こんなに堕落しても、また愚かなことを繰り返すなんて……」

 「綿月さん……」

 ○○に呼ばれて、ビクリと身体が強張った。彼の口から出ようとする言葉を恐れて私は、

 「言わないで!」

 と遮った。

 「分かってるわ……。どうせただの自己陶酔よ。結局私は、後悔するばかりで何も学ばない……。
もう、何もかもが嫌……。私の中のケダモノが、知らない間に私の生活の一部を奪い取って、何か
恐ろしい事を仕出かして、私の人生を脅かすかもしれないなんて、耐えられない!……」

 そして、時間を稼ぐかのように、自らの愚昧さを論って訥々と語ろうとする。

 「自分の過ちを見つめざるを得ないってのは、辛いよな。あんたは随分と苦しんできた。それこそ、
もう諦めてしまいたいくらいに。これから先、自分の人生には悪い事しか起きないと思ったら、逃げ
出したくもなる」

 「……」

 そんな私に、○○は共感しようとしていた。彼のその姿勢は、私の胸の内に温かさをもたらした。
ジンと目が熱くなって、融氷のような涙が溢れてしまいそうになる。

 「俺も、少しだけあんたと似ている。俺もさ、姉が男連れ込んだせいで酷い目に遭ってさ。それで
全てを失ったけど、でも、悪い事ばかりじゃなかった。人間、落ちぶれてもどうにかなるもんだ。だ
が、そうなるまで、自分の人生はこのまま真っ暗なままなんじゃないかって、嫌になってた時期も
あった」

 知っている。○○の過去のことは、既に。

 彼は自身の親友である●●に、その過去を打ち明けていた。それを八意様は聞き出して、それ
を私が又聞きした。

 外の世界に居た頃の○○は理想化だった。彼の友人の言葉を借りればお堅い男だそうで、言
動も今よりもっと生真面目だったのだそう。

 理想を見て日々思考していたものの、それによって社会活動を疎かにし、世間で謂う所の無職
の怠け者となってしまっていた。そうして日々を無為に過ごしていると、ある日突然、彼の姉が男を
連れ込んだ。その男が危険であると直感した○○は反対するも、穀潰しという言葉の前に閉黙。そ
して彼の予想通り、家族はその男によって借金を背負わされる羽目となり、返済のため両親は自
殺。当然、○○は働きに出ねばならず、かといって大学を卒業後に働かなかったことが祟ってどこ
にも雇ってもらえず。加えて友人●●も行方不明となった事が重なり、全てを失ったと絶望して自
決を試みた末に、幻想入りした。そこで妖怪に襲われるも、生存本能に因る恐怖から、負傷しなが
らも命からがら逃げ延び、保護されて永遠亭で治療を受けた。永遠亭手の繋がりはこれが切っ掛
けだったらしい。その後、運び屋の仕事を賜わり、現在に至るという次第。


348 : ○○ :2018/03/29(木) 01:45:42 K2WpD/fA
【7/8】
 理想を目指して邁進しようとするも、力が及ばず燻り続けた末に全てを失い、妥協することでよう
やくまともな人生を得るとは、何とも皮肉なことか。表向きにはいい加減な風を装っていても、本来
は生真面目で融通が利かない。根の部分で、私と彼は似ているのかもしれない。

 「あんたの苦悩は、俺の比じゃないはずだ。あんたの殺人罪は未来永劫、消えることはないだろ
うけど、だからといってあんたの苦しみも無視していいものじゃない。それに、俺にも責任はある。こ
んな事になるのは予想出来たはずだ、なのに俺と来たらお為ごかしで保身に走って、向き合うべ
きこととも向き合わなかった」

 今度は○○が自責する番だった。

 私も、こんな風だったのであろうか。私と比ぶれば、悲愴な面持ちはあまり感ぜられなかった。け
ど、その面の内側から醸される哀愁。彼の気持ちが、しみじみと伝わってきた。引き寄せられるよう
に私は、彼に少し近寄っていた。

 「そろそろ、けじめを付けるべきだ。綿月さん、いや、依姫。もしよければだが……、俺に君を、
ずっと見ておかせてみないか。そうすれば、たとえ別人格に替わるのだとしても、少しは怖くなくな
る……。一緒に罪を背負って。もう二度と、過ちを犯さないように……」

 そう言って○○は右手を差し出した。

 とても信じられない。これは夢なの?

 ――いいえ、夢でも構わない。

 私は思考を放棄して、目の前に差し出された魅惑を掴まんと、○○の差し出した右手に自らの
左手を置いた。月に帰ろうとした別れ際に交わした握手を今も覚えている。その感触は確かに○
○のだった。温かかった。幻でもなかった、嘘でもなかった。

 私たち二人はお互いに手を握り合った。より密接に組み合おうとして、指を絡めていく。私の欠け
た小指さえも、愛おしげに彼の指に纏わり付く。

 その瞬間、感涙迸らせて私は○○に身を寄せた。○○はもう片方の手を私の頭に添え、受け入
れてくれた。

 本当に、ひどい人……。私はあなたに弱いというのに、あなたはそうやって私を誘惑する……。

 ○○の胸の中で私は、彼の右手と絡められた自分の左手を見た。そして信じられないものを幻
視した。もう塞がったはずの小指の断面から、じくじくとした痛みと共に血が滾々と湧き出ていたの
だ。薄暗い周囲に反して鮮やかに映えるその赤は、幾数筋の糸のように、私と○○の手を伝り落
ちていく。さながら、赤い糸が二人の手を結び付け合うが如く。

 胸が高鳴った。ようやく私は、自らの運命を悟った。私はあの茶屋の娘を、確かに殺した。未だに
記憶も実感も無いけれど、今なら受け入れられる。もう私に躊躇は無い。私はこの人と添い遂げる
のだ。そのためならどんな卑劣な手だって辞さない。だって、こんなにも幸福なことを知ってしまっ
たら、もう流されるしかないのだから。


349 : ○○ :2018/03/29(木) 01:46:39 K2WpD/fA
【8/8】
『Who Painted It?』

 ――狂気だけが我々の本質を形づくる場合もある。
 グラント・モリソン『バットマン:アーカム・アサイラム』

 こんにちは、八意永琳よ。

 ……これで満足かしら、八雲紫。

 しらばっくれないで、これがあなたの望んだことなのでしょう。

 あなたの思い通り、男にほだされた依姫は、最早地上の、幻想郷の強力な駒となった。もう一方
の豊姫は、ある少年に執着し、そのために月を裏切り内通者となった。こんな露骨にあなたの益と
なる事があって、気付かないわけがない。

 思えば、あの遊郭を私に勧めて、私がそれに応じた時点で、私は負けていたのかもしれない…
…。本当に、夢のような一夜だった……。その夢に連れていってくれた●●が、私はどうしても欲し
かった。欲しくて欲しくて仕様がなかった。するとあなたは、私に優先的に身請けさせてくれたわね。
彼を手に入れられる喜びから、その時は手放しにあなたに感謝をしていたわ。でも当のあなたは、
私を見下げ果て、ほくそ笑んでいたことでしょうね。ええそうよ、どうせ私は男性経験の無い寂しい
女よ。どんなに永く生きても、知識で知っていても、実際に触れ合ったことがない、免疫の無い生
娘よ。

 然り而して○○が鬱陶しくて堪らなかった。折角捕まえた愛しい人、●●……。奪われたくないと
檻の中に入れても、あの男が居ると●●の意識は外へ飛んでいってしまう!……。ついには私の
もとを離れていってしまうのではないかと思うと恐ろしくて、恐ろしくて……。

 依姫が地上に落とされた時、何という巡り合わせなのと狂喜乱舞したわ。あの二人はまさにお似
合いよ。表面的な部分を異にして、本質は同じ。まさに運命の出会いだった。これで依姫と○○を
くっつけて、○○を永遠亭という箱庭に取り込めば、●●が外に出ていってしまう心配もなくなる。
加えて、依姫という頼もしい矛を手に入れられる。上手く行けば、豊姫も……。

 卑怯にも私は、豊姫の情夫の男子の立場の悪さに付け込んで、自分たちの将来が脅かされて
いることをちらつかせた。そのくせ自分は、私はあなたたちの味方だと甘い顔をして、うまうまと豊
姫を味方に付けることが出来た。実に容易かったわ。

 後は依姫のことだけだった。ちょっとごたごたがあったけど、うどんげが上手くやってくれたわ。依
姫がやった殺人の証拠隠滅を速やかにしてくれたわ。きっとあの子も、自分の男が○○と仲良くし
ているのが気に喰わなかったのでしょうね。それこそあの子も必死だった。

 これが事の顛末よ。全てあなたの企み通り。私はあなたより何かも優れているものと思っていたけ
ど、さすがに私の知らないことでは敵わなかったわ。ええ、そうよ紫、認めるわ。

 あなたの勝ち。私の負けよ。

 【完】

 次は既婚○○に横恋慕してNTRしちゃう純狐とか書きたいなあ。○○の息子視点で、○○と純狐が乳繰り合ってるのを目撃するくだりとか書いてみたい。


350 : ○○ :2018/03/29(木) 08:13:26 OHjGRtME
>>349
すごくよかった
ただ、依姫とその主人格が交替しながらの○○との暮らしぶりも読んでみたかったな
よければ番外編というか後日談というか…


351 : ○○ :2018/03/30(金) 12:08:17 owJMyDKw
ノブレス・オブリージュに囚われて(151)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=141

>>349
主人格がそれ以外の人格に嫉妬しだしたら……またもう一度修羅場が訪れそう
それから巫女が歴史を紐解けば遊女に近かったてのは、すっかりと忘れていたから感心してしまった
依姫は、先祖がえりをしてしまったと言う事か


352 : ○○ :2018/03/30(金) 15:15:29 qMS8bUgQ
>>349
話は面白かったんだけどこの○○ちょっと怖い
原型ないくらいから復活した依姫になにも思ってなかったし、ヒステリーで自分に斬りかかってきた上逃げ先になる程度には仲の良かった少女を殺したと知ってる相手と添い遂げるってお前精神状態おかしいよ…


353 : ○○ :2018/03/31(土) 07:25:09 y3ccbup2
よっちゃん美人だし…


354 : ○○ :2018/04/01(日) 15:14:07 iIftShzc
 エイプリルフールですね。
 嘘を考えてみたものの、披露できるほど気安い間柄の人間が居ないことに気がついて自棄になった勢いで書きました。

 -

 4月1日、私が人里へと続く道を歩いていると、○○とばったり出会った。それ自体は珍しいことではない。
 この日の彼は奇妙なことを口走った。家の裏手から金貨が出てきたから、何か奢ってやろうと言うのだ。私は彼の家に度々足を運んでいるが、私のダウジングロッドが反応したことはない。もし本当に金貨が埋まっていたのであれば絶対に気がついたはずなのだ。
 これは噂に聞いたことのある四月馬鹿、エイプリルフールという奴だろう。
「君はそんな危うい嘘を不特定多数に喧伝するつもりだったのか?」
 ○○の面食らった表情を見て、予想が正しかったことを確信した。
「君が最初に話したのがこの人気のない場所で良かったよ。
 親しい人間にだけ言ったとしても、耳聡く聞きつけてくる人間が町中では現れてしまうものさ。俺も俺もと奢らなければない相手がねずみ算式に増えていってしまうことが目に見えているーー」
 仕事に行かないと…と呟く○○をどやしつけてその場に正座させ、説教を垂れることにした。彼の吐くつもりだった嘘は性根の悪い人間を引き寄せてしまいかねない。
 しかし、○○が私に冗談を言ってきたことに悪い気はしない。彼との関係が深まったようで嬉しかった。
 それに、この嘘はこれから私と○○だけの秘密になる。二人だけの秘密というのは甘美な響きだ。それがどれだけしょうもない内容であっても。

 エイプリルフールの嘘をダシにして食事に誘いナズとの距離を深めようと思ったのだが、何故だかバレてしまった。まあ、不自然な嘘ではあったし仕方ないことか。
 ここのところナズとはこの道でしょっちゅう顔を合わせているが、顔見知りや話し相手の域を出ていない。この現状に俺は満足できていない。
 俺はナズのことを好いているし、ナズも俺のことを悪く思っていないだろう。
 一緒に食事でもして、あわよくば俺の家に誘えたら、なんて思っていたのだ、が、現実はそこまで甘くなかったようだ。


355 : ○○ :2018/04/01(日) 22:36:38 yAT/reDg
エイプリルフールネタに便乗して…


「四季先輩、ちょっとお話があるんですけれども。」
「何かしら○○くん?」
黒色のスーツをビシッと着こなしたいつもクールな先輩が、携帯電話を片手に持って不思議そうな顔をする。普段の先輩はは勘が
とても鋭いので、エイプリルフールなど簡単に見破られてしまうのではないかと心配になるのだが、今日の様子だと大丈夫そうだ。
「実は、商店街のくじ引きで温泉旅行が当たったので、どうかなと思いまして…。」
「えっ、そうなの!」
予想外に驚く先輩。ここまで驚かれると、後でネタばらしをしてがっかりさせるのがちょっと申し訳なくなってしまう。
「そう…じゃあ…」
僕の手を握る先輩。白く細い指が僕の指に絡みつき、思わずドキリとしてしまった。
「ゆーびきーりげんまん、嘘付いたら、地獄におーとす。ゆーび切った!」
「ッウ!」
突如、指先を鋭い痛みが襲う。指の先から腕を通って、脳に渡るような痛みが神経を走る。
「どうしたの、○○くん。」
嬉しそうな顔で僕を見つめる先輩。
「ひょっとして…嘘、ついちゃったんじゃないよね。」
クールな美人によく似合うと評判のいつもの声であるが、何かが違う。まるで心の奥で僕をとらえて離さないように、先輩は笑顔
の筈なのに先輩の目の奥は笑っていない。
「も、もちろんですよ…ヘヘッ」
痛みで脂汗を流しながらも、無理やり笑いながら嘘を取り繕う。
「そう…。」
先輩は僕の耳元に顔を近づけて小声で言った。
「私、温泉は箱根辺りがいいな。丁度お泊まりで行けるし。」
-じゃあね-と言い残して去って行く先輩の後ろ姿を、僕はただ見つめていた。


356 : ○○ :2018/04/01(日) 22:45:36 yAT/reDg
>>349
素晴らしい依っちゃんをありがとう…まさか紫の作戦だったとは

>>351
どこまで祖父が踏みとどまれるかが焦点なのか?果たして紫がこの局面を
どう動かすのかが、気になりました。

>>354
ナズと○○との間の温度差が、後々上手いことヤンデレを広げそうな


357 : ○○ :2018/04/03(火) 00:34:44 mw2AVrrA
些細な嘘のつもりが大きなすれ違いを生んでしまって、その反動から冗談でも嘘をつけなくなった娘の話という電波を受信した
エイプリルフールには間に合わなかったな…


358 : ○○ :2018/04/07(土) 06:42:29 klNanspg
ノブレス・オブリージュに囚われて(152)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=142

>>357
女苑ちゃんって、嘘に対する耐性が鬼の次に低そうだなと考えた……
あの子、色々な連中からかっぱいでるから。その為に嘘を随分つくはず
その反動で、嘘をつかれるのを病的に嫌がりそう
怒るじゃなくて、嫌がる


359 : ○○ :2018/04/08(日) 21:23:56 fGbKskz.
よお○○!元気だったか?……へへ、私も元気だ。

表はすごい人通りだったよ。桜もそこら中で咲いてるし、春だなあって気分になるよな。

で、お前も花見に行かないのか?
……ふふん、野暮な質問だったな。『酒』『月』『桜』の三拍子揃わなきゃって去年言ってたもんな。

安心しろ○○。万年ビンボーなお前のためにちょっといいお酒をもらったんだ。……ってな訳で今日は神社へ登る石段で花見と洒落混まないか?

……ぷぷぷー。ちょいとクールにふるまってるつもりだろうが、残念ながら口がにやついてるのバレバレだぜー。

それじゃあ約束だからな!

……へへ、これでようやく○○に披露することができるってわけだ。
ん?何が……だって?
おいおい、しっかりしろよ。お前が去年の夏の流星観察でいってたんだぞ?『目の前で沢山の星をみたいなー』って。

実はな、魔法でちっちゃな星を出せるようになったんだ!
こう……右手をぶわーって、大きく振るんだ。そうすると一面にキラキラした星が漂って、これがまた金平糖みたいに鮮やかで綺麗なんだよ。

もっと空気が澄んでる冬のうちに完成させられればよかったんだけど、この魔法を試行しているうちに左手がうまく動かなくなっちゃったからな。でも○○が楽しみにしてるだろうなーって思ったら結構頑張れたよ。まぁ、結局春になっちゃったけどな。

……○○?おい……なんでそんな悲しそうな顔してるんだ……?私なにか不味いことでも……。

左手……?あぁ、なんだそんなことか。
大したことじゃないぞ?うまく動かせないだけで、触れば温かいし、腐ってない。感覚だってちゃんとある。なんの問題もないじゃないか。

……お、おい……急に抱き締めるなって……照れるじゃないか……えへへ。

……おっと、良いところだけどその続きを真っ昼間からするほど破廉恥な性格してないからな、私。

まあいいや、とりあえず夕方頃に迎えに来るよ。私もちょっぴりおめかししていくから、お前もそのぼさぼさな髪の毛ちゃんと整えとけよ?

それじゃあな!


という何か。まりちゃんはあの性格のまま真っ直ぐな眼差しで歪んだことを口にしてくれそう

>>358
これは…だめみたいですね…
永遠亭をはじめ皆に安寧が訪れる日はあるのでしょうか


360 : ○○ :2018/04/10(火) 13:11:54 8GyuTRNo
ノブレス・オブリージュに囚われて(153)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=143

>>358
この魔理沙、滅私の姿勢が強すぎてこっちの方がやきもきしそう
……ああ、そうなるともう立派な共依存だ


361 : ○○ :2018/04/10(火) 22:43:15 0JtIsPFg

そういえば、鈴仙さん。
この前話されていた抗鬱薬のお方の話で思い出しましたが、
外には擬似的に鬱状態を体験出来る薬があるそうです。
そんなことをどこから聞いたのと言われましても、私とて元々は医者を目指していた身です。
そういうものも外にいた時に興味本位で調べていたんですよ。
…まぁ、幻想郷に来てしまった今としてはなんにも役に立たない知識でしょうけどね。
行きたい学校には行けませんでしたし、
そのせいか幻想郷に来てこうして精神的に体調を崩してしばしば体調を崩すようになってしまってからも
姫様と八意先生、鈴仙さんのお陰で学びたいことを多く学べています。
それにいつも何かを学んだり覚えたりする上で八意先生と鈴仙さんに助けていただいてます。
外の世界では考えられないことです。
いつもありがとうございます。
…何となくですけどこれを言いたくて来ただけです。今日のお昼もお世話になりましたしね…。
では、夜も遅いので失礼致しますね。おやすみなさい。



…おっと、八意先生いらっしゃってたんですか。見えないところにいらっしゃったので気づきませんでした。
鈴仙さんに何かご用事でも…?気になってきただけですか…
ところで八意先生、何かありました?体調が優れなさそうな顔色をされてますが…
大丈夫なら良いのですが、先生は私よりも無理をされている身ですから体調を崩さないように大事になされてくださいね。
では、おやすみなさい。先生もいい夢を。


362 : ○○ :2018/04/13(金) 00:17:28 4Fs9MYOI
>>359
よく金かわと言うけれど、この魔理沙は本人的には幸せそうな
他よりどう見られるかは別にして


>>360
何か、息子君は突発的にやっちゃいそうで危なそう


>>361
永琳が嫉妬しているのかしらん?


363 : ○○ :2018/04/13(金) 02:47:23 oK3mPuSU
○○自慢の高性能うさ耳を通信用じゃなくて自分を感じるための器官にチューニングしようとするサグメ様という電波を受信しましたのでご報告いたします


364 : ○○ :2018/04/14(土) 23:05:56 Hjnhcq9k
明日は諏訪大社御頭祭
鹿の首とか生け贄とかの風習で、何か一本書けないかな…


365 : ○○ :2018/04/15(日) 13:59:18 yrPHjWBQ
神様って、明らかにズレてる部分があるからね……
○○に気に入られる為に、被害とか影響とか余波とか、全部無視をして色々手に入れてきそう


366 : ○○ :2018/04/16(月) 14:24:24 Ob1xUiS2
ノブレス・オブリージュに囚われて(154)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=144

贈り物攻勢も、過ぎればそれはヤンデレだよなぁ
しかも幻想郷の女の子たちだったら、人間じゃあり得ないレベルの贈り物用意できるから
貢がせようみたいな悪い考えよりも、恐怖が前に出てきそう


367 : ○○ :2018/04/17(火) 00:14:18 G/SPVHvM
 普段と変わらない部屋で、いつもの時間に起きる。月の兵士として長年勤めているせいか、休日にも普段と変わらない時間に目が覚めた。
いつも通りに朝食の準備をしようとして、ニュース番組をつけようとすると、違和感に気がついた。音量を上げようとしてリモコンの
スイッチを押す。みるまに目盛りは盛り上がっていくが音は一向に聞こえない。さてはモニターが故障したかと思い、電源を落としリモ
コンをベットめがけて放り投げる。束の間の空中飛行をしたリモコンは、鈍い音を立ててクッションの上に着地した。
 なんだかだるい気分を抱えながら、ゴロゴロとベットの上で寝転がり自堕落に過ごしているといつのまにか時間が過ぎていた。ちょうど
これ幸いと営舎内の売店に行き、適当に昼食になりそうなパンを選ぶ。休日の昼過ぎという人がいない時間帯のせいか、誰一人話し声が
聞こえない静かな店内であった。無人のレジに商品を通し、数千年前に絶滅した貨幣替わりにIDカードを機械に読み込ませる。すると、
いきなり後ろから肩を叩かれた。
「----。」
同期で仲の良い奴が、声をかけてくるがよく聞こえない。とりあえず挨拶だろうと思い適当に手を上げて声をかけるが、向こうも訝しげな
顔で更に何かを話してくる。
「----!」
おそらくは耳が聞こえないのかと言っているのかもしれないが、生憎それすら聞こえない。仕方がないので携帯端末に文字を入力して相手に
見せておく。それを見た相手も端末に文字を入れて返してきた。
『何を言っているか聞こえない』
『俺の声が聞こえないか?』
『全然』
こちらの肩を叩いて、向こうの方向を指差した同僚が何を言おうとしたのかは、端末を見ないでも想像することができた。

「-----。」
「------。」
無機質な医療室で同僚と医者が話をする。ここまで来る途中で気付いたのだが、どうやら自分の耳は単なる音は拾うことができるのだが、
なぜか他人との会話だけを聞き分けることができない。単なる耳鳴りとして自分の耳の中を通り過ぎていく。一見(あるいは一聞か)、
物音ならば聞こえるのであるか、それが誰かの口から発せられたもの、つまりは言の葉ならばそれを脳が拒否しているような感覚すらある。
そうであるが故に、ここまで発見が遅れてしまったのであろうで中々に厄介だと言えた。普通の病気ならば全ての音が聞こえにくくなるので
あろうから、どうにも原因に思いが至らない。こちらを診察している医者の方も同じ思いだとみえ、ストレスは無いか等と質問をしてくる
ところをみると、おそらく精神的な病名がつくのであろう。さてこれからどうするかと、とりとめもなく考えていると診療室の電話が鳴った。
「---。」
「--。」
「----!」
前近代的な設備でありながら、頑丈さゆえに有事の時には役に立つということで残されていた電話であるが、受話器を取っていた医者の背筋が
見る間に伸びていく。最後は見えない相手にお辞儀をしていたのだから、正直誰と話しているのかも見当がつかなかった。おそらくお偉いさんが
診察にでも来るのかと思い、ならば早急に退室させられるのだろうかと考えていると、受話器を置いた医者がそのまま同僚を退出させた。なぜ
そうなったのかが分からず訝しげに思う自分の目の前で、机の上のメモ用紙にペンを走らせた。


368 : ○○ :2018/04/17(火) 00:14:58 G/SPVHvM
『面倒なことになった。』
「どういうことですか?」
『君が呼び出しを受けている。』
「どなたにですか?」
『機密だと命令を受けた。』
「命令される相手すら機密ということは、一体どういうことですか?」
訳がわからず思わず尋ね返してしまう。医者の方もメモ用紙をシュレッダーに突っ込みながら、新しい紙にペンを走らせる。
『かなりの上位者からの命令だ。とても面倒な話だ。身に覚えはないか?』
「いや…そんなことありません。」
いくら思い返したとしても、全く身に覚えはなく正直に返事をしたのだが、医者の方は苦い顔している。
『五分後に君を迎えに相手の者が来る。』
必死になって頭を捻るが、どうしてそのような呼び出しを受けたのか全く分からない。あれやこれやと想像を立てているうちに、いつのまにか
時間が過ぎてしまったようで、ドアがノックされた。

机の上に積まれた色々な書類を机の引き出しにに押し込んだり、シュレッターに流し込んでいた医者が、弾かれたように立ち上がりドアを開ける。
扉を開くと白色の見慣れない制服をを着た二名が、部屋に入ってきた。
「----」
医者は彼らに対して何かを話すと、そのうちの一人が医者に対して胸につけた金色のバッチを見せた。そしてそのまま彼らは無言で僕を車まで
連れて行き、特別製の防弾車のドアを開けた。

時間にすれば恐らく十分程なのだろうが、車がひとしきり走った後である施設の前で止まった。車から降り立った自分の目の前には、教育実習の時に
見学で外側を訪れて以来、ついぞ見ることのなかった重厚な扉が立ち塞がっていた。 最高レベルの警備が敷かれている総司令部の更に奥、特別区と
一般には言われているその場所に僕は立っていた。立哨をしている歩兵とは顔見知りなのであろう。自分を連れてきた二人はそのまま何のチェックも
受けることもなく、ズンズンと奥の方に入っていく。扉から更に二つのチェックポイントを取り抜けた後で(さすがに最後のポイントでは、自分は
身体検査を受けた。そこでは私物をペンに至るまで全て取り上げられてしまった)、最奥の部屋に入った。部屋にいたのは一人の女性。白い服を着て
おり、口に手を当てずっと黙したまま何も語らない。その女性の部下二人は、一言二言報告を述べただけで部屋を出て扉を閉める。自分と女性二人
だけになったところで、ようやくその女性が口を開いた。
「やっと手に入れた。」
僕の耳に、今日初めて声が聞こえた。


369 : ○○ :2018/04/17(火) 00:25:12 G/SPVHvM
>>363さんのアイデアを利用させて頂きました。
最近綺麗サッパリ消えてしまっていた衝動が復活したネタなので
是非に続きを書きたい…

>>366
ところで今気づいたのだけれども、原料ってどこから仕入れたんでしょうね…
人里には絶対に外から流入しないから、本命、太陽の畑 対抗、紅魔館 大穴、八雲外界貿易
と想像が広がりました。


370 : ○○ :2018/04/17(火) 06:32:50 zbAlUovE
まだサグメの台詞が一行しかないしね
続編が待ち遠しいな


371 : ○○ :2018/04/18(水) 14:28:10 3d1uv2.M
ノブレス・オブリージュに囚われて(155)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=145
>>369
サグメ様って、下手にしゃべれないから。ストレスが半端なもんじゃ無さそう
それをいやせる○○に、強引になるのも無理からぬ話か……


372 : ○○ :2018/04/19(木) 23:44:33 1sLuxRx.
>>371
紫がまだ余裕があるのがこの幻想郷の唯一の救いなのかもしれませんね


367-368の続編を2スレ投稿します。これ以降が短い投稿になる気がするため、
完結まで一旦WIKI掲載をストップして頂けるとありがたいです。


373 : ○○ :2018/04/19(木) 23:45:32 1sLuxRx.
目の前の女性がどういった意味でその言葉を発したかが分からずしばらくの間沈黙が流れる。言葉がまた自分の耳に入ってきた。
「座って。」
そう言われて空いているほうの手前にある椅子に座る。目の前にあるテーブルは自分の部屋にある合板とは違い、塵ひとつない
細やかな彫刻が施されており、黒色の艶やかな光を放っている。
「私はキシン・サグメ、サグメと呼んで。」
目の前の女性はそう言うのであるが、このような奥まった場所にいる人が、まさか一兵卒が呼び捨てにできるほど親しいとは思えない。
「分かりました、サグメ様。」
自分の返事にどこか衝撃を受けている女性。どうにも不満げな様子である。
「駄目、サグメと呼んで。」
「…。わかりました。…サグメ。」
自分の思い通りになって満足気なサグメ。自分では隠してるようであったが、手で隠している口元がニヤついていた。
「ああ…やっぱり我慢できない。」
そう漏らしたサグメが、椅子から立ち自分の方に近づいてくる。座れと言ったり自分から立ち上がってきたりなかなか忙しい人物
であるが、おそらく自分に拒否権はないのであろうと察する程度には、月の世界を生きてきたつもりである。
「やっと…やっと手に入れた。」
彼女はそう言って自分の耳を撫でる。最初はこわごわと、徐々に指の力が強くなり、最後には手のひら全体でわしわしと掴む。
敏感な部分を強く掴まれて、自分の口から思わず声が漏れた。
「痛っ。」
途端に全身を硬直させるサグメ。恰もサグメ自身が拒絶されたかのように、怖々とこちらの機嫌を伺う。その姿はまるで小さな
子供が母親に縋り付くようですらある。そしてこちらのしかめっ面を誤解したのか、彼女の妄想はさらに加速していく。
「駄目、離さない。」
そう言って自分の頭を胸に抱えて、きつく抱きしめる。呼吸がだんだんと荒くなり、それに呼応するかのように彼女の頭の中
では悪い想像が勝手にどんどん加速してるのだろう。
「ダメ、だめ、渡さない、私のもの、絶対に。」
「大丈夫です。」
そう言って彼女の腰に手を回して抱きしめる。一瞬ピクリと固まった緊張がゆるゆるとほぐれていった。


374 : ○○ :2018/04/19(木) 23:46:36 1sLuxRx.
「もっと。」
「はい。」
言葉少なに多くを要求する彼女に答える。
「触って、いい…?」
「どうぞ存分に。」
ぬいぐるみならばギュムギュムと音が出るかのように、自分の耳を揉むサグメ。彼女が一頻り満足し、夕食を運んで来させるまで
それは続いた。

二人きりの夕食は無言のまま過ぎ去った。気の置けない同僚とわいわい騒いで食べた、食堂の定食の味が無性に懐かしかったが、
残念なことに自分の舌は、今まで食べたどの食事よりも美味しいと告げていた。
「どう…?」
「とても美味しかったです。とても。」
「良かった…。」
正直に返答を返しておく。自分の答えにサグメも満足そうであった。本人の美貌も相まって、宗教画に描かれた天使の様な笑みに
すら感じられる笑顔で自分に話す。

悪魔の言葉を。

「ずっとここにいるんだから、口に合って良かった。」


375 : ○○ :2018/04/20(金) 17:57:43 n2OgSjNQ
ハァン…このサグメ様いい…
なんというかちょっと不器用な感じがきゅんきゅんする…
続きたのしみにしております


376 : ○○ :2018/04/20(金) 21:53:58 LW3gCseM
月の貴族に気に入られたのなら、これからの生活は何も考えなくても
めっちゃ豪華になるけども、豪華以外が何もないような


ところで、長編さんが7パーセント溶液って表現あるけど検索したら
シャーロックホームズが出てきた


377 : ○○ :2018/04/21(土) 03:01:22 .B5YemPc
人懐っこいにとりにはグッと来るけど、心以降のぶっ壊れにとりもこれはこれで妄想が捗って嫌いじゃないよ

-

 幻想郷の河童達は自由奔放で金にがめつく、里の人妖に嫌われる存在だ。その中でも河城にとりという河童は妙に目立つことが多く、とりわけ嫌われていた。その人妖を問わない嫌われぶりは並の妖怪であれば地底に逃げたくなってもおかしくはないほどだったが、ふてぶてしいことに人が集まっていると聞けばわざわざ足を運んでテキ屋を開き、自ら汚名を広げていく始末だった。
 外来人である○○もそんなにとりを好かない人妖の一人だった。だが、彼にとってにとりは唯一の命綱でもあった。
 帰還を望んでいた彼だったが、博麗霊夢には首を縦に振らなかった。
「ウチも最近厳しいから、外の世界に戻りたい人から少しばかり賽銭を貰うことにしたの」
 つまりはカネの問題である。
 縁故が重視される幻想郷で根無し草の外来人が金策を行うのは甚だ難しいことと言える。日々の生活に必要な分は稼げるが、それ以上は難しい。
 そこへ目ざとく声をかけてきたのがにとりだった。売り子が必要だ、金は出すから馬車馬のように働け、そんなにとりの誘いに○○は悩みつつも良心よりも実利を取った。
 にとりに雇われてから○○の貯金は増えたが評判は反比例してガタ落ちし、今となってはにとりの下を離れようものなら再就職は絶望的で、死を待つのみとなるだろう。

 にとりの屋台ではこのような会話がたびたび行われている。
「なあ、にとり」
「なんだい」
「値段、少し下げないか」
「この値段でも客に物を買わせるのが君の仕事だろ」
「俺は里の人妖からぼったくり野郎って罵られるのが嫌になったんだよ」
「それを受け入れたのは昔の○○じゃないか」
 そしていつも、自分を曲げようとしないにとりに○○は辟易するのだった。
 そんな日が続いていた。


378 : ○○ :2018/04/21(土) 21:49:41 V5hZoCQ2
「どうしたの?」
固まってしまったこちらに対して、サグメから不思議な視線が注がれる。疑念でも疑いの目でもなく、ただただ純粋に知らない
という無知。どうしてそれが分からないのかという怒りにも似た感情が心の中でパッと燃え上がるが、それが顔に出る前に用心
深く心の奥に深く沈める。まかり間違っても浮かび上がらないように、厳重に慎重に。万が一それを欠片でも出せば、ガラスの
ように繊細で脆く壊れやすい彼女はきっとそれを感じ取るのであろうし、さぞかし悪い結果となるのであろう。砕けたガラス
細工は破片を撒き散らし、二度と元には戻らない。たった数時間の短い付き合いであったが、自分が一歩対応を間違えて道を踏み
外してしまえば、そこに落ちてしまうという予測を、嫌というほど執拗に本能が警戒と共に刻み込んでいた。
「なんでもないです。」
彼女の言葉に否定を返す。細いロープの上で、命綱を付けずに曲芸をするサーカスのピエロも、やはり自分のように笑みを浮か
べているのだろう。
「そう。」
短く納得する彼女。純粋な故に人を疑うことを知らないのだが、それは逆に鋭く人の心を突き刺す。例えば自分の言葉に隠れた、
僅かな反発すらも逃さないように。後ろめたさも相まって話題を変えようと視線を走らせると、まるで自分の言葉を押し殺す
ように、彼女が口元に当てている手が気にかかった。
「そういえばサグメは、どうして手を口元に当てているんですか。」
「…!」
彼女に緊張が走る。悪手を踏んだかと思い、サグメの言葉を打ち消すタイミングを図るが、そんな自分の浅薄な意図を嘲笑う
かのように、彼女の中で何かの気配がうねった。
「私は女神だから…。」
サグメから言葉が告げられる。アテネイの丘で神託を受ける神官のように、自分の周りの世界から音が消えていく。
「私の言葉は運命を捻じ曲げる。それが何であろうとも、全てを反対にする。」
彼女の口から苦しみに彩られた言葉が零れる。自分の内面を告白しているその姿は、内臓を抉り取る苦しみに似ていた。
「私が何かを言う度に、周りの者は壊れていく。だから、貴方を選んだ。」

「選んで、壊して、これ以上壊れないように作り変えた。」

「私の声しか聞けないように、私と言葉を交わせるように。」

 見えない血を流しながら心の奥を吐き出したサグメ。彼女がフラフラとこちらに歩き、自分の肩に顔を埋めるように倒れ
込む。彼女の肩にそっと手を添えたとき、自分の手にヌメリとした感触を感じた。


379 : ○○ :2018/04/21(土) 21:51:51 V5hZoCQ2
>>373-374のつづきになります

>>377
このにとりは強そう…


380 : ○○ :2018/04/22(日) 22:41:54 /rluETdk
>>378のつづき

 体の中を冷たいものが貫いていき、全身の皮膚が泡立つ。原始的な本能が自分と異なる存在に対して、嫌悪と拒絶の反応をフルコーラス
で突き上げるが、面の皮一枚、辛うじて奥歯を噛み締めて押さえ込む。サグメの目がグルリと目敏く動く。自身を曝け出し、全てを空っぽ
にした彼女の内面は空虚となり、目の前の自分の情報を無尽蔵に吸い込いこんでいく。赤い目が自分を見つめると、周りの景色と気配が
白くなり、全ての色と音が彼女を残して消え失せた。
「駄目。」
自分が僅かに見せた拒絶をサグメが見つけ出す。神は全能であり、それ故に全ての存在は神の元に集約される。そこには些かの灰色も存在
せずに、あらゆるものはサグメの意に染まる。孤独に苛まれ全てを失った彼女は、唯一の拠り所となる自分を逃がさない。自分の全てを手に
入れようと、神の見えざる手はその力を顕現させる。彼女の手が肩に触れる。椅子が滑り台になったかのように背中がずり落ち、彼女の重み
によって背もたれに縫い付けられる。硝子ケースに入れられてピンで留められた昆虫標本のようだなと、ふと、とりとめのない考えが生じた。
 サグメの顔が迫り、唇に柔らかい感触を感じる。声にならない息が漏れ、その隙間を割って口の中に舌が入る。焦点がぼやけ視界が白く
なる。体が宙に浮きグルリと舞わされる。背中から柔らかい布地に月面着陸したところで、辛うじて声が出た。
「サ、グ、メさま…。」
右耳が痛い程に強く捕まれる。彼女の吐息を感じた。
「ほら、やっぱり様を付けた…。」
普通の者ならば失望の色が声に乗っているのだろうが、サグメの声は平坦であった。落胆もなく悲哀もなく、事実を確認するだけの言葉。
感情が枯渇しきった世界に残ったのは、ただ醜いまでの自分への執着。それのみを元にして神は動き、自分の全てを染めていく。
「あなたは私のモノ、私だけのモノ。」
神の力を乗せたドロリとした声が耳に染みこんでいった。


381 : ○○ :2018/04/23(月) 01:48:48 ODi733Pc
最近○○の布団を暖めることに執着してる女宛が頭から離れない…
気温上がってきて暖めが必要無くなると思うと頭を抱えずにはいられない女宛。○○ハウスにお姉ちゃんを配置して気温を下げてなんとかしようとするけど幽霊でもなんでもない紫宛にそんな能力ないし、そもそも天人様のところへ行って姿を見せなくなったからお姉ちゃんは戦力外。色々拗らせすぎて姉からも捨てられて○○の布団さえ暖められなくなったら自分は本当になにも産み出さない無価値な存在になってしまうという思考に取りつかれた女宛は○○の外出中に押し入れの中でひとり袖と○○の布団を濡らす。そしてふと思い付いたのが「夏場は布団を冷やせばいい」という結論。目を真っ赤にしたまま氷を買い込んでひんやり女宛になって○○○布団をひんやりお布団にする女宛。カタカタふるえながらひんやりお布団で気持ち良さそうにに眠る○○を見守る女宛。朝になって○○が押し入れに布団をしまうと、それにくるまって○○由来の温度を感じながら安心したように眠りにつくんだ…

>>377
にとりも結構いい性格するようになってまた幅が広がりましたよね
>>380
繊細さとひたすらねちっこい感じが相まってサグメ様の内側が透けて見えてくるきがします


382 : ○○ :2018/04/23(月) 02:09:33 UYs7P5o6
いい性格と言えばさとりさん11点
ここまでメンタル強いと病んでるとかじゃなくて全ては自分の手にあるという確信に近い


383 : ○○ :2018/04/24(火) 14:19:30 C68BK0NQ
ノブレス・オブリージュに囚われて(156)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=146
>>377
初めはすごくニコニコして、優しいんだろうな。いや、今も優しいけれども
にとりの商売を手伝わないともう生きる術がないのは、うまくやられている感覚が強くて素敵

>>380
絢爛豪華だけれども、玉兎の身分ならば考えられないほどに贅沢できるけれど
黄金製とはいえ、ウサギ小屋に捕えられているんだよな……
もっとも月世界そのものが一部身分の者を除いてウサギ小屋か……


384 : ○○ :2018/04/24(火) 23:03:50 hwYvEB2o
「お断りします。」
「そのようなこと、絶対にしません。」
「○○さんを裏切るようなことは、私は死んでも致しません。」
「ふん。見下げたことですね…。そのようなもので他人を無理矢理に手篭めにしようとは…。」
「自分にとって都合が良ければそれで良し、なんて言う無粋な屑野郎なぞ、生憎大嫌いですので。」

「おや、本当にそんな金や権力で、現世のしがらみなんかで私を縛れるとでも思っていたのですか?」
「残念ですね…。言ったでしょう?死んでもお前の物には成らないって。」
「この世は胡蝶の夢の如くと云えども、汚されて現世にしがみつくぐらいなら、死んで○○さんに操を
尽くします。」

---------------------------------------------

「こんばんは。夜桜が綺麗ね。散歩かしら?」
「ええ、私もちょっと、偶にブラリと歩くんですよ。最近は夜中も暖かくなりましたから。」
「人目がない夜は、息抜きには丁度良いですからね。」
「ええ、そうなんですよ…。実は私も、少し訳がありまして…。」
「下衆な遣り口で女性を手に入れようとしたら、自刃されて後ろ指を指されてしまって、お陰でお天道
様のもとは歩けなくなった…。なんて真っ赤な嘘ですよ。」
「それにそれは…。あなたの方ですものね。」
「従者の後始末を付けるのは、主人の大事な役目でしてよ。」
「冥界で永遠に、魂を亡者に喰われなさい。」

全く…。私があの子なら、きっと○○さんを誘なうのだけれどね…。


385 : ○○ :2018/04/24(火) 23:16:04 hwYvEB2o
>>381
女苑ちゃんって、持っている小物が泡と消えたバブルの格好みたいな派手派手さだから、
それが見た目の豪華さの裏に潜む、哀れささえ感じる破滅への予感がする…
いくら外見を作っても、バブル崩壊とその後の不況によってそれが砕けたことを
無意識の内に思い出させてくるような

>>383
何だか息子君の主張を聞いていたら、業が何なのか分からなくなってきたり…
ちょっと前は感じられていたのに、核心に近づくと返ってぼやける蜃気楼のような
気がする… この濃厚な空気が味がある気がしました、乙でした。


386 : ○○ :2018/04/27(金) 14:09:06 BJ/k5l1A
○○を誘拐しようだなんて、酔った勢いでも悪党仲間にボコられるだろうな
少しでも計画っぽいものを考えてたら、ボコった後で生け贄がわりに投げ込まれそう

ここまで考えて思ったけれど
稗田家って、ヤンデレ幻想郷においてはヤクザっぽくなりそう、紅魔館も
当主や組長の男に危害を加えちゃって……集団が全滅するまで炎が収まりそうにも無いだろうな


387 : ○○ :2018/04/29(日) 22:53:29 fOxZqgAY
>>386さんのネタを使用

「へぇ、そうですか…。」
「酔っ払った末の口からの出任せと、そう仰りたいんですね。」
「そうですか…。」
「実は貴方がお仲間の方とご一緒に色々と準備をされている様子を見て、それを心配して私に教えて下さった
ご友人の方がいましてね。」
「その方が仰るには、どうやらご大層に入念に準備されているようでしたので、てっきり勘違いしてしま
いましたわ、私。」
「どうやら主人のことになりますと、私も限度と言いますか、歯止めが効かなくなりがちでして。全く
お恥ずかしいことですわ。」
「主人にもしものことがあれば…と思いまして、ついつい過剰に反応してしまいますの。御免なさいね。」

「ああ、ありがとう。ん?この封筒ですか?只の写真ですよ。一枚一円もしない只のカラー写真ですから
ねぇ。こんな物、ウチの家ではこうやって…。ほら、掃いて捨てるくらいあるんですよ。」
「あらぁ?これはどうしたんでしょうね?出任せにしては随分と、物騒な物を集めていらっしゃいますこと。」
「それにこの人は、あらまあ…。この間慧音先生が捕まえて下さった極悪人でございませんこと。色々と
悪さをしていたそうで、ウチの家で一頻り調べてから、小町さんに引き取って貰った程の悪党でしたね。」
「それにこちらの人もまあ、借金が嵩んでついこの間、夜逃げをした人じゃありませんか。お可哀想にねぇ、
今朝方村の外れで、妖怪に食い散らかされているのが見つかったんですよ。」
「一体こんな人達と組んで、どんなことをしようとされていたんでしょうね。ええ、本当に…。」
「大丈夫ですよ。お酒の上での戯れですもんねぇ。私も女ですから男の人が酔って、時々憂さを晴らされる
ことは、よぉく存じておりますので。」
「ですからここまでご足労頂いたので、稗田の家名に掛けてお礼をしなくてはいけませんね…。」
「そうですね、この大江山の鬼ですら殺すと言われている、幻のお酒を飲んで下さいな。」
「さあさご遠慮なさらずに。この一升瓶を飲んで頂いて、一服した後で山菜採りにでも行って頂くか、
或いは川に魚釣りにでも行って頂くのが良いですわ。」
「どうぞ、人足の方は此方で用意しますので、お気になさらずに。貴方には目が回って動けなくなるまで
飲んで頂きますから。」
「山は滑りやすいですから、どうか足下にはお気をつけ下さいね。」


388 : ○○ :2018/04/30(月) 01:32:07 0o6T0jR.
ちなみに
一円って、明治時代劇では。二万円以上の価値があるとか
それを何名もやれるひえだ


389 : ○○ :2018/04/30(月) 01:33:54 0o6T0jR.
途中で投稿してごめん

一円=二万円
それを何枚もぶちまけれる稗田家って、めちゃくちゃヤバいよね


390 : ○○ :2018/05/04(金) 07:00:22 dMR1NjCc
ノブレス・オブリージュに囚われて(157)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=147

>>387
阿求は、その気になったら今すぐに何でもできるから。怖いもの無しなのだろうけれど
もしも小鈴ちゃんが、阿求に泣きながら頭を下げて協力を願い出たらと言うのは考えた事がある
このスレ的に考えたら、阿求は小鈴の、ややもすれば偏執的な愛情を理解するだろうし



ノブレスが終わったら
さすがに今度はスレに直書き出来る程度の世界観と文章量に留めたい
いろんなヤンデレ家庭を描きたいという欲求は強い


391 : ○○ :2018/05/07(月) 18:40:42 xWjt5SXM
小鈴ちゃんのような一般人は陥りにくい感情だけれど
ぶっちゃけ、他のほとんどはまぁまぁですら温い表現なぐらいの強さだけれど
その力で○○を守るも良いし
やや負い目に感じていて……わざと弱そうに見せて、○○と対等に近い状態を演出し続けるのも面白い
個人的には、慧音先生はこの感情。強さに対するコンプレックスを抱きやすそう


392 : ○○ :2018/05/08(火) 12:27:34 RswvmfEo
>>391さんのネタを使用

影狼「あっ!毛玉だ!」ザシュ!
影狼「痛っ。」
○○「おのれ、毛玉め〜!影ちゃんは俺の後ろに隠れてて!」ドタバタボコボコ
○○「大丈夫?どうにか追っ払ったよ。」ボロボロ
影狼「ありがとう○○!」
○○「えへへ…。」イチャイチャ
----------------------------------------
その夜
○○「ZZZ」
影狼「あれだけシタんだし、当分起きないよね…」
影狼「ベトベトだけど…鼻が効けばいいか。」
   テクテクトコトコ
影狼「クンクン、こっちか…」
影狼「みーっけ。」
   ザシュ!ブチッ!グチャ!
影狼「毛玉の癖に私の○○に傷なんて付けるのは、許さない!」
----------------------------------------
翌朝
○○「ふぁー、朝か…。」
影狼「おはよう、○○。」コソコソ
○○「おはよう。あれ、いつもより早いね?どうしたの?」
影狼「う、うん、何でもないよ…。」タオルゴシゴシ
○○「そういえば、昨日の夜、随分野犬が吠えてたのかな、何だか煩くて。」
影狼「そ、そう、そうなんだ。」ビクッ
○○「???」


393 : ○○ :2018/05/08(火) 12:29:46 RswvmfEo
>>390
そういえば、元を絶つってどうするんでしょうか
想像が膨らみます


394 : ○○ :2018/05/10(木) 21:59:31 vXWec3Ak
>>380の続き

 意識が覚醒し目が開かれる。窓が無い部屋には朝日は差し込んでこないが、懐古趣味として部屋に取り付けられた明りは、柔らかな光で部屋を照ら
していた。いつもの自室とは違う雰囲気に少しの間脳が戸惑うが、直ぐに昨日起こったことを思い出した。サグメは既に起きており、椅子に昨日最初
に見た調子のままで座っていた。音で気が付いたのであろうか、こちらが目を覚ましたことに気が付いたサグメが声をかけてくる。
「その服を着て。」
指で差された机の上には白い服が置いてあった。服を着ている途中、いつも制服を着ている癖で、階級章をくっつける部分を無意識の内に指でなぞって
いた。着慣れていた服には付いていた穴はそれには無く、ただただ上質な滑らかさのみが感じられた。
「必要ない。」
目敏くこちらの動きを捕らえたサグメが言う。言葉を発することを恐れて自ら口を閉ざした彼女は、そうでなくなった今でも言葉数は少ない。
「すぐに判る。」
昨日見た、直属の部下ですら付けていた紋章が必要なくなると言う彼女。何も分からずに目まぐるしく変わる状況に流されていた昨日とは異なり、自分
の頭の中で、それが意味することはボンヤリと答えが見えかけていた。そして、その答えが余りにも恐ろしく、自分はわざとそれを頭の片隅に追いやる
ことで考えないようにしていた。


395 : ○○ :2018/05/10(木) 22:01:04 vXWec3Ak
 朝食が済んだ後で、昨日の部下がサグメを別室へと案内するのに合わせて、自分も付いていくこととなった。一番の奥の部屋から手前に警戒線を一つ
抜けると、月の中枢部のスタッフが行き交う区域であった。色とりどりの階級章をくっ付けた相手が、全て部下の服装を見るなり道を譲っていく。
そして数分歩いた後に、一つの部屋に入った。部屋の中には一つの椅子とその後ろ、一段高い場所に段が作られていた。その段は地上で生えている竹に
よく似た物で作られた御簾によって中が隠されている。御簾の中にサグメは入り、自分はその前にある椅子に座わらせられる。サグメは自分を座らせる際に
「紙を持って来て。」
とだけ言いつけて段を上っていった。説明不足にも程があるが、部下の二人は扉付近でそのまま、直立不動の姿勢で待機していたので、自分もそれに倣い
ジッと待っていた。
 一人の人物が入り、自分の前で紙を出して宣誓するかのように読み上げる。いくら彼が声を張り上げようとも、それは自分には意味のある言葉として
は聞こえないのであるが、そんなことを言い出す空気ではないままに目の前の人物は読み上げを続ける。文章が終わったのであろう、最後にその人物が紙を
差し出したので、サグメの言葉に従い後ろに紙を持って行く。御簾の前に立つと中から声が聞こえてきた。
「入って。」
簾を持ち上げて中に入る。座った彼女は手を下ろしていた。
「来て。」
彼女に近づき紙を差し出す。サグメは一瞥しただけて紙を机の上に置き、自分の耳に手を当てる。そして口を近づけて囁いた。
「良きに計らえと言って。」
そして自分は、彼の前でオウム返しのようにそのままのことを言った。たった数語の短い言葉であるが、彼にとっては大変に意味がある言葉であったので
あろう。深々と敬礼を見せ、恐らくは感謝の言葉であろう挨拶と共に部屋を退出した。



続く


396 : ○○ :2018/05/11(金) 19:06:24 9TFJRvl.
飼う、愛でるだけでは満足せずに
サグメ様と限りなく同等の存在に引き上げたかったのかな
なんか、神話を見てる気分。実際、サグメ様は神様だから


397 : ○○ :2018/05/13(日) 23:55:36 DIRQSH2g
身分の低い愛人に泊をつける話で面白い話をどこかで聞いたような…
周りから問題視されたり蔑まれたりするんだけど、愛で無理やりねじこむような話


398 : ○○ :2018/05/14(月) 14:35:25 cajUMAuk
ノブレス・おぶりーじゅに囚われて(158)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=148

>>395
古代でも、高貴な身分の人の言葉を聞ける人間は限られていて
卑弥呼の言葉やご神託も、一部の女官にしか言わずに。その女官伝いに聞くしかなかった
○○はサグメの声しか聞こえなくなったけれども、代わりにサグメも○○としか話さない事で帳尻を合わせたのかな……
なんか公平な判断だなと思ったのは、このスレに毒された結果だろうな


399 : ○○ :2018/05/14(月) 22:44:54 cGalDzXg
今日はこいしちゃんの日なので

 人の目って、実は視界に入る物の全部を見ている訳じゃないんですよ。例えばあなたの視界の隅っこで、何かぬいぐるみが置いてあったとしても、
それがあなたにとって重要でないのなら、ぬいぐるみはあなたの意識には入らずに、ただただ見過ごされているんですよ。逆にあなたにとって何か
重要なことが目に入れば、そうですね…例えばあなたが気にしている人が、視界の片隅をチラリと通り過ぎれば、あなたの目はそれを敏感にキャッチ
するんです。それは人が自分にとって何が重要で、何がそうでないかを分けて普段の生活を送っているっていう事なのですね。それは皆がやっている
事でしょうし、それがないと不便だということはあるかもしれませんねえ。色々と…。

 でも、だけれどね…それで見過ごされた人はどうなるのかな…。お姉ちゃんがチラリとあなたの視界の片隅に入るだけで、あなたの目はそっちに
釘付けになっちゃう。いくら私が目の前に居ようとも、あなたの心の中からは私は消えてしまって、代わりにお姉ちゃんが私の居場所を奪ってしま
っていたよね。酷いよね…。とっても酷いよね。だからね、私考えたんだ…。私がお姉ちゃんになれば、あなたは私を見てくれるんじゃないかって
こと。そう、今まであなたが彼女だって思っていた人が、実は気にも留めていなかった女で、あなたが無意識の内に遠ざけていた人が、本当はあなた
が好きだった人だったんだよ。どうかしら…。実は自分の目に映っていたことが、丸っきり逆だとしった気分は。無意識の内に見下していた女のせい
で、自分の人生を狂わされた気分は。

 うん?なんで今日、突然に言ったかってこと?ふふふ…、実は今日は私の誕生日だったんだよ。幾ら何でも、他の人の誕生日を祝われるのは、あん
まりだと思ったからね。だから取り敢えず、何も考えずにぶち壊してみたんだ…。今日は私の誕生日、あなたの心に私の存在を刻み込んだ誕生日。
これからこの日には毎年、私のこと思い出してくれると嬉しいな。なんてね…


400 : ○○ :2018/05/14(月) 22:46:25 cGalDzXg
>>398
いつも乙です。王手飛車と取りなるのかしらん


401 : ○○ :2018/05/14(月) 23:09:45 cGalDzXg
短編で1レス使用します

「つまり、ヤンデレとメンヘラとの境界線って自分が大切か、それとも相手が大切かって部分に集約される面があると思うんだよね。
よくヤンデレは相手を大切に思う余りに監禁とかの問題を起こして、メンヘラは自分が大切だからリストカットを起こすって、よく
創作の中では定義されていたりするんだ。だからあくまでも愛の方向を考えれば、その二つのものは区別できるんじゃないかって僕は
思うんだよね。同じことは、狂気的な行動をするキャラクターが単純に主人公を愛している場合に、それは愛の重さっていう部分から
はヤンデレとは違っていて、それは単純にヤンデレに分類するべきじゃないとも僕は思うんだよね。だからさ、幽香はきっとおかしく
なっているんじゃなくってさ、単に愛情がちょっと深すぎるだけなんじゃないかって思うんだよ。だからさ、きっと、幽香はきっと
恋人のことを思いやれる気持ちがあるはずだからさ、だからさ、お願いだから、そろそろ離してくれないかな、それが駄目なら、この薬をどう
にかして欲しいんだよね。さっきから僕ひたすら口が止まらなくなってしまっているからさ、何かきっと幽香がしたと思うんだよね。
花を育てている幽香ならきっとマンドラゴラかな、上に乗っている幽香は重い訳じゃないけれど、ちょっと頭がクラクラしてきて
苦しくなってきたんだよね、きっと幽香は優しいからさ、だからだから、ねえ、お願い」

「だーめ」


402 : ○○ :2018/05/14(月) 23:46:53 cGalDzXg
>>395 続き

 その日より何日かは同じことの繰り返しであった。朝にサグメと共に部屋を出て、サグメの言葉を伝え、そしてサグメと共に
部屋に帰る日々。いくら神と同じ空間に居ようとも同じことの繰り返しであれば慣れが生じてくる。豪華な物に囲まれた生活で
あろうとも日々の感覚は麻痺をし、そしてサグメが同じ空間にいることが次第に当たり前になってきた。そんな日々がダラダラと
続いていき、自分の神経を腐らせていく時が続くかと思えた。その日までは。

「全て認めない。」
普段は捧げられた伺いに許可を与えていたサグメが、突然に拒絶を告げてきた。余りのことに数秒の間、体が固まってしまった。
彼女の口から聞いたことがない言葉であったと共に、その言葉を言った彼女は冷酷な表情をしていた。あれだけの力を注いでき
た提案を、だからこそなのかも知れないが、ギロチンの刃で切り落とすが如くの断罪。固まっている自分をサグメが促す。
「言って。全て認めないと。」
ノロノロと段を降り、神託を受ける人物の前に立つ。表情になるべく出すまいとしていたのであったが、自分の顔が今までのもの
とは異なり固くなっていたのであろう。疑惑の感情が見る間に浮かんでくる。暴れる心臓の音を感じながら神託の断罪を下した。

 その瞬間、殺意が溢れ零れ落ちた。目の前にいる人物は、以前自分が持っていたような光線銃など何一つ持ってはいないのに、
その顔は悪意と敵意をグチャグチャに混ぜ込み、目には殺意がドロドロに籠もって自分に向けられていた。今まで生きてきた中で
体験した事が無かったあまりの濃度の負の感情に、体が竦んで動けなくなる。空気が凍り付いた部屋の中で、一番早く動いたのは
サグメの部下の二人であった。一人が自分と相手の間に割って入り、懐に手を入れてポケットに入った銃を掴む。そしてもう一人が
部屋に付けられたボタンを全力で殴って、警護部隊に緊急事態を伝えていた。そのままの姿勢で皆が固まる。不意に自分の口が動いた。
「失せろ、下郎。」
まるでサグメに乗り移られたかのように。

続く


403 : ○○ :2018/05/16(水) 16:14:36 qctDaQK.
サグメがもう一段階、深い部分まで『神』と言うものに慣れさせたのかな
基本的に神様は、気まぐれで理解の難しい存在だから
今回の拒絶の神託も、相手が力をいれているからだけの理由でやりかねない
だって神様だから


404 : ○○ :2018/05/16(水) 22:22:39 ..b0vnQw
旦那を自分の色に染めるというのは……どうしようもなく楽しいんだろうなあ


405 : ○○ :2018/05/18(金) 13:41:29 yGFT0Ch6
ノブレス・オブリージュに囚われて(159)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=149

>>402
神は気まぐれ、そんな感想が浮かんだ
あとはサグメに影響されてではなくて、○○自身が気まぐれに何かをやらかせるようになれば
すべてはサグメが望んだ状態って事なのかな


406 : ○○ :2018/05/21(月) 21:56:28 tNtR.2sE
阿求とかもはや怪文書並みのラブレター送られそう
下手に文才あるだけに、暴走しやすいっていう


407 : ○○ :2018/05/22(火) 15:42:19 2CYqWBXw
阿求とかパチュリーのような、体の弱い子達は物に執着しそう
自分の私物と言う意味ではなくて、○○を飽きさせないために物を収集しそう
しかも、どっちも聡明で目利きも出来そうだから。集めてくるもの全部、価値はあると言う。余計に厄介


408 : ○○ :2018/05/26(土) 01:04:33 arrhDJDg
感想ください
長編の感想ください


409 : ○○ :2018/05/26(土) 17:51:01 o9h5yy2.
おもしろいよ


410 : ○○ :2018/05/27(日) 00:07:27 jf6JbmcY
訓練中の事故で○○の玉兎耳がズタボロになる
訓練時のバディだった鈴仙がもともと生えてた自分のみみを移植させる
鈴仙は○○の耳を受け取り、再生医療である程度治したあと自分の耳として移植、固定する→だから鈴仙の耳元にはボタンがry
そしてこれが原因で○○は鈴仙の存在に敏感になってそのうち○○の精神の中に鈴仙の耳由来の記憶の残滓がこびりつくのいいよね…

>>408
(完結してから一気読みしようと思ってて)すまんな


411 : ○○ :2018/05/27(日) 23:05:38 Q1B7j/Lw
>>402続き
 男が倒れる。自らの意思で倒れるのではなく、見えない力に押さえつけられて潰されていくが如く、あたかも自分の声に反応して
倒れるかのように。
「ぐぇ。」
潰されたカエルのような音を立て、目の前の男は動かなくなった。生きているのか死んでいるのかすらわからない。ただ目の前の男は、
もう二度と立ち上がることができないだろうと、確信にも似た何かをその時自分は感じていた。 神の怒りに触れた人間は、哀れにも
討ち滅ぼされていく。 後ろの御簾の中で、サグメが短く笑う声が聞こえた気がした。
 その直後に、 軍用光線銃を肩から下げた重武装の警護部隊が1ダース程入ってきた。入ってきた連中は、ボディガードと二言三言話を
して奥に居るサグメが無事であることを確認すると、目の前で倒れている男を無造作に引きずっていく。かなりの高官であっただろう
その男は、何の価値もないかのようにぞんざいに扱われていた。動かなくなった男が襟に付けていた立派な勲章は、泥か何かで黒く
汚れていた。

 部屋が片付いた後、自分とサグメは部屋に戻っていた。自分が拒絶した男はかなりの地位の高官であったようで、ボディーガードの
一人は移動の間ずっと、携帯端末を使ってどこかの部署とやり取りをしていた。しかし諸々の後始末は全て自分のところまでは届かずに、
下の場所でストップしていた。自分が改めてその影響の大きさを知ったのは、依姫が部屋に来た時であった。
 珍しく夕食の時間でもないのに、ボディーガードが二人して部屋に入ってきたと思うと、二人は自分に目もくれずに、まっすぐサグメ
の方に向かって行った。二人から報告を受けたサグメが手を振ると(それが許可を表すと分かる程度には、彼女の事を知るようになって
いた)連絡役の一人が部屋の外に出ていった。そしてサグメはソファーに座り自分を呼んだ。
「来て。」
相変わらずの短い言葉ではあったが、確実な意思の力ががこもっていた。大抵の相手を迎える時には携帯端末へ連絡をするようなボディー
ガードが、わざわざ部屋の外へ迎えに行ったということはおそらくは相当な人物だと思えるのだが、それにもかかわらずサグメの態度は
そうと思えなかった。半信半疑で自分がサグメのそばに寄ると、服の裾が引っ張られた。


412 : ○○ :2018/05/27(日) 23:06:11 Q1B7j/Lw
 気まぐれなサグメの膝の上に座り、彼女に耳を弄ばれていると、依姫がボディガードの一人と共に入ってきた。こちらの様子を見て一瞬
視線がぶれたが、すぐに持ち直し片膝を立てて臣下のようにサグメの前に控える。おそらくは今日のことを詫びにでも来たのだろうが、
一方のサグメは依姫すら気にかけないように、相変わらず自分の耳を触っている。ひとしきり依姫の言葉が終わったのであろう、顔を上げ
た彼女に対してサグメが言葉をかけた。
「気にしない。」
深く、深く
「私の○○に逆らった愚かな者など、問題ない。」
呪いを言葉に乗せていく
「たった今、そいつの運命は終わったのだから。」
部屋の空気が凍りつく中で、サグメの吐息が自分の耳に当たる。たった今、一人の月人を殺したにも関わらず、彼女の心の中には自分しか
いない。サグメから向けられる濃密な感情によって理性を司る脳が痺れていく。月の高官の命よりも、月の最高指導者の謝罪よりも、自分
の方が重要であるという明確な答えをこちらに向けられて、不意に自分の中に高ぶった感情が湧いてくる。サグメ以外の他の全てを見下し、
蔑み、捨て去る。ただ彼女と共にいる世界。ドロリと自分の心が溶かされていく気がした。


413 : ○○ :2018/05/27(日) 23:17:25 Q1B7j/Lw
区切り区切りの作品でしたが、以上で完結になります。

>>405
紫は何か策がありそうだけれど、何だろうか…息子君の気持ちの整理は○○にぶつけること
だろうけれど、それを輝夜が許さないのなら、何が出来るのか。難しい局面になった気がし
ました。いつも乙です。

>>410
成程、と思いつつ、よくよく考えると、これいい人と見せかけつつ最初っから
狙って耳を提供してるよね…


414 : ○○ :2018/05/28(月) 01:31:07 xM2QDS8w
長編はだるいから読んでないっすわ


415 : ○○ :2018/05/28(月) 14:24:06 fGnt3.n.
ノブレス・オブリージュに囚われて(160)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=150

>>412
この様子だと、サグメ様。
○○を自分よりもやばい存在に作り変えてしまったんじゃ
でも声は聞こえないけれども、依姫がほとんど問題にしてないどころか。むしろ謝りに来てるのが
月のヤバさが滲み出ていて、乾いた笑いが出てきた


ひいおじいちゃんや、ひいおばあちゃん世代だと。
カエルと遊んだとかひ孫が言い出したら、猛ダッシュで博麗神社にぶち込んでお祓いさせそう


416 : ○○ :2018/05/28(月) 19:29:05 ZJDkqKPo
最近空気の東方ヤンデレwiki管理人です
久しぶりにスレに顔を出したら長編が終わってた
ようやくサグメ様のSSがまとめられますね

それよりGWからスレが伸びてない気がしますが気のせいですか?
最近、別件に忙しくてwikiを弄ってませんがその影響ですかね?


417 : ○○ :2018/05/28(月) 20:09:37 xM2QDS8w
 過疎ってきたのかなぁ……。東方ヤンデレものは貴重だから存続してほしいところ。


418 : ○○ :2018/05/28(月) 21:00:05 e90NGAFg
>>416
ゥー!お久しぶ鈴瑚

確かに管理人さんが就任された前後は書き手さんが多かったように感じます
(って、もうあれから一年ぐらい経つんですか……)

今週中に書き上げよう…
今週中に書き上げよう…
今月中に書き上げよう…
今月中に書き上げよう…
来月中に…
今は忙しいからな、余裕ができた頃くらいに…

結局頭の中でストーリー作るだけでなんも書かなかった…

うまくいかなくて長い間ほったらかしのものたくさんある…あんなに書いてた頃の自分にはどんなパワーが宿っていたんだろう…


419 : ○○ :2018/05/28(月) 22:25:09 afMuIjpc
長編の人もサグメの人も管理人さんもお疲れ様です
昔ここに来たときは笛吹女が始まる前だったかな……春は買わせないをリアタイで追ってたと思う
あれから自分で書き込んでみたりもしたけども、時間が経って、いつの間にか創作の暇なんて無い身分になって……
東方ファンの世代はちょうどその辺り、社会に出たばかりの人が多いと思うんですよね
だからこそこのスレのような場所は貴重だし、特に長いこと盛り上げ続けてくれた長編さんとか、阿求の人なんかには感謝しきれない
現実が酷いほどに幻想郷への憧れが止まらなくなるから、このスレがずっとずっと永く続いてほしいです
長文失礼しました


420 : ○○ :2018/05/30(水) 01:29:51 3z7anunc
 おい、もう一杯、お替りだ。いやぁ、酔っ払っちゃいねぇよ。これくらい晩飯前ってぐらいだよ。おお、どうもあんがと。やっぱこの酒は刺さるねぇ。
ガツンとくるのが癖になるよ。ああ、そうだ。さっきの続きだな。まあ、竹林の医者がこの幻想郷では一番って言われているからな。なんせ治せない
病気は無いって言われるぐらいだし。まあ、良くして貰うコツはアレだな。意外にも先生を褒めるんじゃなくって、助手の方を褒めるんだよ。まあ
これが女だとちょっと色々あるんだけれどな。そこはお前さんは男だから、いくら褒めても大丈夫って寸法よ。え?女の方は何が難しいのかって?
そりゃあ、女だとやり過ぎると色目を使ったって思われるからな。少々おだてつつ、先生の機嫌を損ねないようにってのが、大方一番いい線だろうな。
 まあ、最悪なのはこの前の奴だな。酒に酔って行ったばっかりに、モヤシだのヒモだの散々助手の悪口を言ったらしくって、怪我を治してもらう前
に兎に叩き出されたらしいじゃないかい。全く、医者に行って怪我増やしてちゃ世話ねえよな。ん?それはアレだぜ。言わぬが花っていうやつだな。
幾らそいつが後から熱が出て、苦しんだ末に死んだとしてもさ。村の医者は流行の病だと言ったそうだけれど、両隣の家はピンピンしているっていう
からまあ、皆知ってるってことだよな。結局は一々暴いても得にはなんねぇからなぁ。まあ、そういうことだってことよ。


421 : ○○ :2018/05/30(水) 01:34:24 3z7anunc
>>415
輝夜と息子君が対決している最中に、紫が見計らって横やりを入れるのは
いかにもらしい…

>>416
いつもありがとうございます。よろしくお願い致します。


422 : ○○ :2018/06/02(土) 16:19:58 cs93mEq6
阿求とか魔理沙なら、旦那が営利目的の誘拐にあっても
その後の警備やら保護を強烈にするだろうけれど、巻き添え上等の救出作戦はしそうにない印象

でも純狐は違うだろうな……幻想郷の表面を一枚ひっぺがしそう
やばい奴の旦那が犯罪に巻き込まれないための調査組織とか慧音や阿求が作ってそう


423 : ○○ :2018/06/02(土) 23:39:08 4/1393Ec
折角話題が出たので以前のヤンデレもので別視点を投下

不夜城レッド2

 辺りが闇に覆われだした時刻になっても、まだ○○が帰ってこない。いつもならばとっくに帰ってきて、私と一緒に朝食を食べる時間
なのに、未だに彼は湖にすら姿を見せていなかった。少しイライラが募る。普段なら何気なく行っていることが出来ないことで、それが
例えこんなに小さな事であっても、こんなにも感情が揺れ動いていることに自分でも驚いてしまった。いけない、いけない、咲夜に命じ
て紅茶を煎れさせる。小さなティーカップに入れられた、湯気にのって香る紅茶の匂いが脳に浸透して、血液を乗って全身をゆっくりと
巡っていく。心に浮かぶざわめきを消して、あえて大胆なふてぶてしい顔をして周囲に控える妖精メイドに聞こえるように言う。
「まあ、偶にはいいんじゃないのかしら。○○だって遅くなることだってあるでしょうし。」
こんな小さなことで一々目くじらを立てて、彼に嫌われることをただ恐れて。

 それから時間が経ち真夜中となり、半月が顔を出し始めるときになっても、彼は未だ帰ってこなかった。数時間前までは平静を保って
いた心の中に、黒い雲が次々に湧き起こってくる。酔っ払ってしまって道ばたで寝込んでしまっているのだろうか、それとも帰り道の途
中で怪我をして、身動きが取れなくなってしまっているのだろうか、あるいは誰かの所に泊まっているんじゃないだろうか、そうだ、他
の女の所にいるのかもしれない、きっと○○は人が良すぎるせいで私というものがありながら、他の女のところにホイホイと付いていって
しまっているに違いない。やっぱりそうとしか考えられない。そうでなければ○○が私に黙って無断で外泊をするなんてこと、起こりえる
筈がないのだから。そうなれば、どこのどいつのところに○○がいるのか、この前町に出た時に見たあの女か、それとも店にいた女の方か
いや、知り合いということも考えないといけない。あれだけ見せつけてやったのに、身分不相応にも私の○○を奪おうとするのなら、やっ
ぱり痛めつけてやるしかないだろう。そうなればどうするか、槍で突き刺してやるか素手で引きちぎってやるか…


424 : ○○ :2018/06/02(土) 23:39:52 4/1393Ec
「お嬢様、お嬢様。」
咲夜の声が聞こえる。ふと手元を見ると、すっかり空になったカップがバラバラになっていた。しまった、すっかり妄想に夢中になってし
まっていた。これでは側に控えているメイド達にも示しがつかない。そこにいた妖精メイドの一人に割れた陶器を下げさせる。咲夜に命じ
て○○がいる場所に襲撃をかけようかと思ったが、ふと思い留まった。わざわざ自分から向かってしまっては、全く威厳が無いように思っ
た。あくまでも紅魔館の当主は私である。○○が居ないからといって当主自ら足を運んでいては、まるで私が○○の後を無様に追っかけて
いるようではないか。これでは駄目だ。もっと当主は落ち着いて構えないといけない。例え○○が他の女の所に行っていても、それで取り
乱していてはいけない。それを何事もないかのように受け止めないといけない。そう考えて私は咲夜に命じて、○○が行きそうな場所に向
かわせた。

 朝日が昇る前、薄らと周囲が明るくなってきた頃になっても、未だに○○は帰ってこなかった。おかしい、○○はこんな人じゃない。今
まで何回か帰宅が遅れたことがあったけれども、それも誰かに会ったりしたとかで、全部一時間も遅れたことがなかった。オカシイ、まさ
か私が嫌いになったのかという考えが頭の中をよぎる。途端に心臓に刃が刺さった様な衝撃を感じた。息が漏れる。無理矢理に自分を落ち
着かせようと、呼吸を押さえつけるが歯の間から音が出る。心臓の音が頭の中に響き、全身の血液が脈打つ。恐怖と焦りで全身が浮き立ち、
今にも大声でわめきたくなるのを堪える。握りしめていた手を解き口に当てると、今度は自由になった手に、手当たり次第に周囲の物を投
げつけたくなる衝動が感染した。手の平に牙を突き立てる。赤く流れた血を見ると、頭の中でパチンと何かが弾ける音がした。
「レミィ、一体何をするの。」
暫く前から咲夜に頼んで起こして貰ったパチェが、私に質問する。親友の彼女が心配そうな顔をする位なのだから、今の私の顔は相当なの
だろう。
「ちょっと、霧をばらまくわ。」
異変以来の行動。取り違えられれば、そのまま博麗の巫女や八雲と争いになることもある行為であったが、私の親友は反対しなかった。
「直ぐに終わらせるのよ。」
この時ばかりに親友に感謝したことは今まで無かった。


425 : ○○ :2018/06/02(土) 23:42:35 4/1393Ec
前編が終了
後編を来週ぐらいに投下したいです


426 : ○○ :2018/06/04(月) 00:35:58 H20Vp1KU
不穏だな……
続きが気になる……


427 : ○○ :2018/06/04(月) 19:48:02 NJTqQA2w
蓮子やメリーからぎゃん泣きされながら追いすがられたら
別れ話を持ち出した○○の方が悪者になるだろうな
間違いなく、両方とも美人だから


428 : ○○ :2018/06/04(月) 23:27:23 6c9bs2sU
>>424のつづき 中編になります

 魔力を発動させて霧を周囲にまとわせて、幻想郷中にばらまいていく。赤い霧は風に乗ってたちまち幻想郷中に充満していった。
霧の中に自分の魔力を乗せているのではなく、自分自身を霧の中に溶け込ませていき、あたかも自分がそこにいるかのように、
全てを見ることができるかのようにして、○○の姿を探していく。かつて起こした異変の時よりも、もっと強く大きく広げて
○○の姿を探していく。そうしている間にも、どんどんじれったく感じてしまう。もっと速く○○を探さないといけない。余裕を
かましてあれだけ悠長に待っていた過去の自分を、思いっきり殴り飛ばしたくなる。私があの時にすぐ動いていれば、今頃は
こんなことをしていなかったのに、という後悔が背骨を伝って脳みそを揺らしてくる。もはやこれ以上の時間はかけられない。
そう思った私は自分の能力を幻想郷そのものにかけた。○○が私に見つかる。そのような運命を無理矢理に作り出し、強引にねじ
曲げて物理現象すら覆して、ただ望んだ結末をその場に顕現させる。そして私の目の前に○○が現れた。スカーレット・レミリアに
ふさわしく、真っ赤な真っ赤な服を身につけて。ウラド・ツェペリンの末裔にふさわしく、丁寧に針で皮膚を一つ一つ貫かれながら。
「あ、あ、ア゛アアアア!」
悲惨な姿の○○を目にして、声が漏れてすぐに絶叫に変わった。頭の中でぐるぐると考えがよぎる。どうしてどうして、どうして○○
がこんなことをされなければいけないのか。どうしてこんなに弱い○○がこんな酷い事をされなければならないのか。どうして私は
○○にこんなことをさせてしまったのか。疑問が頭を埋め尽くし、全身にひどい震えが走る。瞬間的に○○を抱えて、紅魔館へと
疾走する。優雅さもカリスマも、全てを投げ捨ててただただひたすらに赤い槍となり、私は空中を飛んでいた。


429 : ○○ :2018/06/04(月) 23:29:08 6c9bs2sU
「咲夜! さくや! さぐやあぁぁ!」
屋敷に入った私にできたのは、ただただ無様に声を上げて咲夜を呼ぶことだけだった。いくら吸血鬼の力を持ったとしても、ただ傷つ
いている○○一人を救うことすらできない。私はただ、咲夜が時間を止めパチュリーが治療をすることを見ているだけしかできなかった。
 自分の部屋に一人で閉じこもり椅子に座ると、心の中にざわざわと恐怖が浮かんできた。○○があのまま死んでしまうのではないか
という恐怖。私の最愛の人であり弱い人間。だけども昨日まではそういうことは一切考えずに生きてきた。いや、幸運にも生きてこれた
と言うべきなんだろう。針のように細い幸運に縋っていただけで、その実あまりにもあっけなくこれまでの生活は崩れ去ってしまう。
一体どうすればよかったのか、これからどうすればいいのか。答えの出ない疑問が堂々巡りのように頭の中を埋め尽くしていた。
 「お嬢様、○○さんの容態が安定されました。」
咲夜が私に○○の治療が成功したことを伝えに来た。すぐにでも会いに行きたくて咲夜に返事をしようとするが、口まで出かかった言葉が
恐怖で蓋をされた。怖い。○○は私を憎んでいるだろうか。私が紅魔館の当主だから○○が襲われてしまったのならば、きっと○○は私を
恨んでいるんじゃないのか。そういった気持ちが私の心をよぎる。
「○○は意識を取り戻したの。」
「いえ、パチュリー様のおかげで良くお眠りになられております。」
「…。そう、なら後にするわ。」
後ろめたい気持ちからどうしても○○に顔を合わせることができずに、会うことから逃げてしまった。私の返事に対して、心配そうな声で
咲夜が疑問を返す。
「よろしいのですか…お嬢様。」
「一人になりたいの…。分かって。」
私は歯を噛み締めて、咲夜が去っていく音を聞いていた。



前後編の予定が三部作になりました。


430 : ○○ :2018/06/04(月) 23:59:22 6c9bs2sU
>>427さんのネタを使用

 風が心地よい季節となった午前中のファーストフード店の中で、二人の女性の前に一人の男性が座っていた。
人目もはばからずに懇願する二人に対して周囲の人は怪訝な視線を注ぐ。黒色の髪をした女性と外国の風貌が
漂う金髪の女性。あまりにもタイプの違う、しかし美人であることには共通している二人を目にして、普通に
考えるならば二股がばれて攻撃されているとでもいうのが王道であろう。しかしその二人の女性は異なっていた。
いわゆる修羅場と違い、むしろ必死に男性の方に縋り付いている。まるで捨てられないために、男性を引き止め
るかのように、あるいはプライドを捨てて媚を売るかのように。
「ねえ、お願い…。捨てないでよ。」
黒髪の女性が薄っぺらい机を乗り越えて男性の手を取ると、金髪の女性が男性の横に回り込み、自分の腕を男性
の胴体に回して抱えこむ。二人の攻勢に男性が一瞬怯むんだ隙に、黒髪の女性も反対側に回り込み男性を挟み込
んだ。そしてなおも渋る男性に対して、耳元でそっと告げる。
「まるまる、もし私たちが、ここで大声を出したらどうする?」
反対側からも声がする。
「お金をいくら払ってもいいですから、あれを消して下さいって言ったらどうする?」
あからさまな、しかし周囲の人には聞こえないように巧妙にされた脅迫に、男の首筋に汗が流れた。
「二人対一人だから、どっちが有利か分かるよね。」
「女性が泣きながら叫べば、どうなるか分かるよね。」
ダメ押しのように二人が耳元で囁く。
「「それじゃあ、 家に行こっか。」」
男は首を縦に振るしかなかった。


以上になります


431 : ○○ :2018/06/05(火) 00:00:56 ZLAXw69g
>>430 訂正
誤 まるまる
正 ○○


432 : ○○ :2018/06/05(火) 14:13:01 FB./fMiw
ノブレス・オブリージュに囚われて(161)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=151

>>420
こういう第三者視点の『しかたない』みたいな、達観したお話好き
相手が悪かったで済ませてるけれど、一歩間違えばパンデミックじゃないか

>>429
420の話もそうだけれど……何でそこにケンカ売っちゃうのだろうか
勝てると思ったのか、功名心が暴走したのか

>>430
ある意味、蓮子とメリーを相手にする方が難しいのかもしれない。
幻想郷なら、そして月ですら。逆らわない方が良い相手に○○が好かれているのは分かりやすいけれども
現実世界ではなぁ……やりにくい事この上ない
たぶんこの○○は、ひきこもる


閑話休題ですけれど、夢の話で恐縮ですがヤンデレスレにあった内容だったので簡単にまとめておきます
腐らせるのも、何だかもったいなくて

帰り際にいつもの道を通っていたが、明らかに景色が違ってきた
怪訝に思いながらも後ろを振り返ると、なぜか力士がいて道をふさいでいる
力士によって、無理やり前に進ませられたら。道端にある神棚で御祈祷をしている霊夢
霊夢から久しぶりと言われる、○○はやや混乱しながらも霊夢に帰りたいと伝える
しかし霊夢は○○の話を無視。今住んでいる、空飛ぶ船の話ばかり
どんなに質問してもこちらの質問には答えず、霊夢は自分の住んでいるところに来させようとする
やや強引に前に歩き出す○○、その先の風景は明らかに富士山より高い山があった
時代劇に出てくるような町人のかっこうをした人から「霊夢さんの知り合いだろう?最近田畑が変なのに荒らされて困っている。あんたから霊夢さんに頼んでほしい」と言われる
○○はさらに混乱するが、そこに空飛ぶ船に乗った霊夢が迎えに来る


433 : ○○ :2018/06/06(水) 00:07:19 EP4taA0c
>>429続き 

 咲夜が去り、自分一人になると心の奥から後悔が襲ってきた。今からでも○○に会いに行った方がいいのではないかという思い
が沸き起こるが、同時に自分が○○に嫌われているのではないかと思うと、怖くて踏ん切りがつかない。会いたい、怖い、その二つ
の思いが頭の中を駆け巡る。こうして何も出来ないこの時間にも○○は苦しんでいると考えると、余計に自分が惨めに感じてくる。
ふと、○○の側に居る親友のことが気になった。
 今パチェは○○の側に居て看病をしてくれている。私にはできないことをやってくれているパチェは本当にありがたいのだが、
きっと○○にとってもそうであろう。ひょっとして○○は自分を怪我させた自分よりも、パチェの方に良い印象を持っているのでは
ないのだろうか?いくら運命を操れる能力を持っていても、恋人一人無事に守ることすらできない。ああ、これでは駄目だ。きっと
○○は私に愛想を尽かしているに違いない。普段威張っているだけの口先だけの女、当主として偉そうなことを言っているだけの
ただの置物、本当はパチェや咲夜が居ないと何もできない、ただの子供。ああ、そうだ。咲夜もきっとこんな私が駄目でどうしようも
ない主人だと思っているだろう。きっとこんな私には、大事な○○を任せてはおけないと思ったかもしれない。○○があんなに遅れる
ことなんて今まで無かったというのに、自分の体面だけを気にして無駄にグズグズと探すことを遅らせて、もしあの時に直ぐに私の
能力を使っていれば、あんなにも○○は苦しまなくて済んだのに!私がのうのうとしている間にも、きっと○○は針で拷問を受けてい
たに違いない!きっとそうだ!それを私は…、○○を見捨ててしまった。
 ああ、きっと○○は私を捨てて、パチェか咲夜を選ぶだろう。嫌だ!そんなの嫌だ!でも、きっと…。私にそんな資格なんて無い…。
ああ、どうすればいいのか。こんなの私じゃない。私らしくない。ウラド・ツペシュの末裔たる私ではない。


434 : ○○ :2018/06/06(水) 00:08:20 EP4taA0c
「本当?」
どこからか声が聞こえる。
「本当に貴方はウラド公の末裔なの?本当は勝手に名乗っているだけじゃないの?だから、きっと○○は針で刺されたのよ。串刺し公
を騙る愚か者への鉄槌として。」
「うるさい!」
鏡に向かって、机の上にあった万年筆を投げつける。大きな音をたてて鏡は砕け散り、その音で私は冷静に戻った。いけない。こうして
いる位なら、どうにかして離れてしまった○○の気持ちを、私の元にもう一度戻さないといけない。私は誇り高き吸血鬼、紅魔館の当主
たるレミリア・スカーレットなのだから。…でも、どうやって?

 どうしようか、考えても○○の気持ちを取り戻す方法が思いつかない。焦りが募り、ますます思考がグルグルと頭の中を駆け巡る。完全
な悪循環、そして分かっていようとも、それを止めることなどできない状態。ああ、こうしている間にも、時間はどんどんと失われて
いってしまう。どうしようか、どうしようか、ひたすら口からはその言葉ばかり漏れ、そればかりを考える。いくら考えてもどうしようも
ない、○○が私から去ってしまう。嫌だ、嫌だ、誰にも相談できない。苛立ちがつのり力任せに机を殴り付ける。木目をデザインに生かした
一品物の机に、年輪に沿うかのように大きな穴が開いた。その穴を見ていると、ふとこの元凶について考えが巡った。
「そうだ…。こんな目に遭わせた奴ら、殺さないと…皆。」


予想外に話しが膨らんだためまだ続きます


435 : ○○ :2018/06/06(水) 00:10:46 EP4taA0c
>>432
ついに衝突が始まったか!というフィナーレへの幕開けのような気がしました。
あれだけ釘を刺されてからのいきなりの攻撃には驚きました。


436 : ○○ :2018/06/08(金) 15:49:02 0S.L0Quk
>>434
こうならない為に、ヤバイのに好かれた○○には。
紫さま辺りから、説明会みたいなのに強制参加させられそう

死体が上がったとの報告があったから、慧音先生が急いで向かったけれども
慧音「なんだ、夜鷹じゃないか。煩わせるな、どこぞに投げ込んでおけ」
みたいな慧音先生が見えて、凄くゾクゾクした


437 : ○○ :2018/06/11(月) 00:32:53 5rvaU4pc
>>434 続き

一度口に出してしまえば、その考えはとても良い物に思えた。
「そうよ、そうしなきゃ…。皆、殺してしまわなきゃいけないわ。」
○○をあんな目に遭わせた奴らに復讐するために。
「そうしないと、○○は私を見捨ててしまう…○○に捨てられてしまう。」
○○に見放されないために。
「渡さない、○○は絶対に、他の誰にも…」
○○を私の元に留めておくために。
「殺す!殺す!皆まとめて皆殺しよ!!」
全ての因縁をぶつけるために。部屋の呼び鈴を大きく鳴らすと、直ぐに咲夜が目の前にやってきた。忠実なメイドに命令を下す。
「今すぐメイド妖精部隊を纏めなさい。」
一瞬考え込んだ咲夜が私に質問をする。
「お嬢様、犯人は誰なのでしょうか。」
「誰でも関係ないわ。運命を操ってあそこら辺一体を全部焼き払って、皆殺せば死んだ奴が犯人になるのよ。」
かつての異変でも使うことのなかった程に、事象をねじ曲げてしまおうとする私を咲夜が必死に止める。
「一日…いえ、半日頂けましたら、お嬢様のお手を煩わせることなど無く、犯人を捕らえて差し上げます。」
その冷静な態度が癇に触った。八つ当たりに近い怒りが、一瞬で自分を貫いていく。
「遅いのよ!今すぐやれ!!」
「…美鈴に妖精部隊を指揮させます。私は露払いを。」
次の瞬間に、私の返答を待たずに咲夜の姿は消えていた。

 ○○を見つけた辺り一帯に赤い霧を立ち込ませた上で、グルリと円を描くように妖精メイドで取り囲み、そこらにある物全てに
火を放っていく。家、畑、果ては只の野原にすら見境なしに、武器を持たせた妖精メイドが焼き払うか、あるいはたたき壊していく。
私の能力で因果律を歪めたため、位置座標が歪曲された亜空間となったそこに放り込まれた犯人の妖怪共を、次々と槍で突き刺して
引きちぎっていく。ああ、○○が受けたあの苦しみを万分の一でも味わうといいのだ。私の能力に巻き込まれ、訳も分からず逃亡し
ようとする野良妖怪は、妖精メイドに討ち取られていき、暗くなった地面を濡らしていった。
一帯に付けられた火が夜の幻想郷を赤々と照らす中、腰の位置よりも高くにある、ありとあらゆる物が残らないように丹念に壊して
いると、咲夜が後ろに控えて声を掛けてきた。
「お嬢様、村の者が申し上げたいことがあると。」


438 : ○○ :2018/06/11(月) 00:34:04 5rvaU4pc
「…許す。」
何人かの連中が平伏し、そのうちの一人が話し出す。
「お館様、恐れ多くもこの度の事件は解決したようでございますので、これ以上のことはどうか何とぞ…。」
身の程知らずにもこの私に意見しようとした者の首根っこを掴み、顔を持ち上げる。モゴモゴと動く口を目掛けて、ガツンと一発入れ
ておいた。吸血鬼に比べると脆い人間の歯が砕ける感触がした。
「うるさい。」
男を仲間の方に放り投げる。全く…、○○がもう一度あの風景を見て、トラウマで苦しんでしまわないようにしているのが分からない
のだろうか?一方、男の仲間は無事であるが、腰が抜けたのか固まったままである。
「咲夜。」
「はい。」
咲夜に命じると、ずっしりと重い袋が村人の前に現れた。
「治療費よ、取っときなさい。…まだ居るの?足りないなら、幾らでも増やしてやろうか。」
槍をグルリと回して村人の目の前に突きつけると、気絶した男を抱えて慌てて逃げていった。

 次の日に○○が意識を取り戻したと聞き、○○がいる部屋に向かうが入る勇気が出せずに、部屋のドアの前で立ち止まってしまう。○○
に嫌われていたらどうしようか、どうにもできないのだろうか、最早能力を使って○○の運命をねじ曲げてしまうしかないのか、そのよう
に考えが募ると、ドアの取っ手が恐ろしく重く感じた。
「レミィ。」
部屋の中から私に呼びかける○○の声が聞こえる。もう二度戸聞く事ができないかと思った暖かい声、そして私が待ち望んだ声。身体に熱
が灯った。
「大丈夫だから、入って。」
「○○!」
堪えきれずにドアを思いっきり開けて、ベットにいる○○の元に飛び込む。飛び込んだ反動をベットのマットとスプリングが吸収し、○○に
抱きしめられた後で、○○が大怪我をしていたことを思い出した。
「私のこと、嫌いになった…?」
見上げる私を○○は優しく抱える。
「大丈夫だよ。どうしてそう思ったの?」
「だって、私のせいで○○があんなに酷い目にあったから…。」
○○が私をギュッと抱きしめる。
「そんなことないよ。レミィを嫌いになったりしないよ。」
「本当…?」
「本当。」
耳元で○○が囁いた。


439 : ○○ :2018/06/11(月) 00:36:33 5rvaU4pc
「……それでね、それでね。犯人を殺したついでに、辺りを全部焼いていったの。○○のためにしたの。」
「あ、ありがとう…。」
○○を酷い目に遭わせた犯人共をどうやって始末したかについて、一部始終を○○に話していると○○の言葉が少し詰まった気がした。
「むー。○○は本当にそう思っているの?」
「勿論だよ!」
よかった、○○は私に飽きていなかった。気分が良くなった私は横になっている○○の胸をよじ登る。外の快晴のように、私の心は晴れ
渡っていた。

以上で終了です。21スレ816-819に対応する作品になります。


440 : ○○ :2018/06/11(月) 22:10:33 nWnq9PAE
>>439乙です!
素敵なレミリア様でした


441 : ○○ :2018/06/11(月) 23:30:40 NWDuYyII
>>439
乙でした
個人的にはこのくらいの中編って好みだな
中編だとこのレミリアみたいに個性のある重さが出てくる気がして印象に残りやすいと思う


442 : sage :2018/06/12(火) 14:10:45 rCn29WVs
ノブレス・オブリージュに囚われて(162)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=152
>>439
○○がちょっとうらやましく思ってしまった
でも○○はこれから先、かなり自分の行動に気を付けないと……下手をしたらまたレミリアが焼き討ちをかけてしまう
おまけに、本人からして強いから。フランドール程直情的ではないから、敵の首を食卓に飾って祝勝会とかは……
無いと思いたい

でもこういうのはまだ、恨みを晴らせたらすぐに笑顔に戻るだけマシなのかな


443 : ○○ :2018/06/14(木) 23:23:48 zkmSrLOU
何度かに分けて投稿します。

毒花

 ミルクを入れないブラックのホットコーヒーは、香りを部屋に漂わせながら静かに黒い水面をたたえていた。まるで今から
自分が話す言葉を表すかのように深く、一切の妥協を許さないかのように何にも染まらない色を見せる。昔から幽香が煎れて
くれたものが一番好きだった。本人は甘党なのに自分の好みに合わせて、恋人とお揃いのものを飲む彼女。そんなに嫌ならば
砂糖を入れれば良いと何度か言ったのだが、いやに頑固なところをみせて、毎回苦みを堪えて顔を歪めて飲んでいた。少し飲
んだところでカップを置く彼女。こちらのカップに視線が目敏く動いた。
「飲まないの、珍しいのね。」
不思議そうな表情をする彼女。その言葉を切っ掛けに、今まで詰まっていた言葉が出た。
「いや、いい。」
「体調悪いの?それだっ「そういう訳じゃない。」」
彼女の話しに無理矢理に割り込む。普段はしないことをしたせいか、彼女の目に疑惑の色がすっと差しこまれた。
「一体どうしたの。なんか、今日、変よ。」
そう言いながら、所在なさげに指を組み合わせる幽香。買ってあげた指輪が不安げに爪で擦られた。僕は拳を握りしめ、喉に
つっかえた言葉を強引に吐き出した。
「別れよう。」
「えっ…。」
今まで聞いたこともないような、か細い声が幽香の口から漏れた。


444 : ○○ :2018/06/14(木) 23:32:16 zkmSrLOU
>>442
遂に祖父が投入された!これでどうなるのか楽しみです。祖父にとってはなに
げに命蓮寺が一番の鬼門のような…


445 : ○○ :2018/06/15(金) 07:47:17 SNp3j/dI
考えたら、ヤンデレに別れ話をするのって地雷の上でタップダンスをするような物だよな
でも、別れ話なら爆発しても○○が火の粉をほとんど、全部ではないけれどほとんど被るからまだマシなのかも

それで思ったのが。旦那どうしで仲悪かったらの例があったら
最悪勢力間のガチ抗争だな……色んな人達が和解に向けて動きそう


446 : ○○ :2018/06/16(土) 01:18:24 TEfJfCcg
別れたあとで再構築する話も面白そう
一度別れた、という事実が二人を互いに縛り合いそう


447 : ○○ :2018/06/19(火) 18:21:44 EuIYZq.2
旧作キャラで話を考えたことのある人っている?
個人的には、小兎姫がものすごく色々できそうなキャラクターなんじゃと考えてる

あの人、幻想郷の治安維持をやってるから
そりゃもう、ヤンデレ幻想郷世界なら
証拠の捏造すら、簡単にやるだろうな


448 : ○○ :2018/06/20(水) 23:16:36 6RysJs6A
最近某所で流行ってるシンギョク♀→シンギョク♂とかどうだろう
もう二人の世界で完結してる感じがいいなあ……


449 : ○○ :2018/06/21(木) 23:37:37 Po1wCUno
諏訪子「神奈子ぉ、随分と丸くなった。いや、これは言わせてもらうけれど、腑抜けたね」
諏訪子「神奈子さぁ、軍神をやってたのなら分かるよね。誰かにとっての奇跡の勝利は、相手からしたら悪夢だってことぐらい」
諏訪子「だから、これで良いんだよ。奇跡と祟りは、表裏一体。だからこそ、私は信仰された。悪鬼羅刹すらをもにすがりついて、仇敵を相手にする。逆転の発想だよ」
諏訪子「神奈子、私たちは神様だ。あの子も、早苗も神とは同格」
諏訪子「だからこれで良いんだ。死人?怪我人?些末だよ。重要なのは、早苗にとっては奇跡なんだ」


450 : ○○ :2018/06/23(土) 00:14:41 0gUz9fMw

 1

 さとりがその外来人と初めて出会ったのは雨の中だった。男は傘をさしていて、さとりも傘をさしていた。これは妹のこいしがどこからか拾ってきて彼女へとプレゼントした代物である。
さとりはこのコウモリ傘がなんとなく気に入っていて、雨の日は必ずこれをさして外出した。
 それじゃあ、よろしくおねがいしますわ。
そう言って外来人のそばにいた八雲紫が、不敵な笑みを浮かべて境界の中へと消えていった。いつ見ても胡散臭い人だわ、さとりはそう思った。
(これがこの地霊殿の主か)(本当にそうなんだろうか?)
(ふつうの女の子みたいな外見だ)(うまくやっていけるだろうか)
(不安だな)
(おれはあんまり人とうまくやれるタイプじゃない)(とにかく今は明日のことだけ考えて……)

「不安ですか?」

 さとりがどこか蔑むような、哀れむような、そんなふうな複雑な表情で言った。
「人とうまくやっていけないのは、私もですよ」
 外来人が目を丸くして、さとりを見る。
ひょっとして……男が思考する……他人の心が読めるのか?
 さとりは男を見ず小さくうなずいた。コウモリ傘に雨がパラパラとあたる。
このごろ幻想郷では、幻想入りする外来人の多さが小さな問題になっている。
元々そういった人々を守るのは博麗の仕事だが、あまりに多さに手を焼いているのだそうだ。
そこで賢者の八雲紫によって考案されたのが、この幻想郷のパワーポイントとなっている複数の強力で影響力を持った機関や組織、または個人にそういった外来人を分配すること。
無論これは彼らにとっては危険極まりない話だが、農村で暮らすには外来人は脆弱すぎたし、農村側も使えもしない人手はもうこれ以上必要ないという話だ。

 というわけで、有力者の会合によって正式な措置が決まるまで、その代替案として一時紫のこの案が採用される形になったのだった。
そして外来人の引き取り手にはここ、地霊殿も含まれていた。

「……お名前は○○さん、ですか?では、そろそろ行きましょう。雨の中で突っ立っていても仕方がないですしね」
 さとりは後ろを向いて、すたすた地底の入り口へ歩いていった。
彼女の後方では、外来人がさまざまな思いをめぐらせている。その思考はどうもネガティブで、途方に暮れているものだった。
まぁ、変に明るすぎる人間じゃなくて良かったわ。さとりはそう自己完結して、この男の思考はできる限り範疇に入れないようにしよう、と考えた。
人間の思考なんて、だいたいどれも似たようなものだわ。

 さとりはそう思っていた、この日までは。
 彼女がこの考えを改めるのは、そう遅くもない後日のことである。



つづきます。たぶん。


451 : ○○ :2018/06/23(土) 23:17:50 YYleFAIg
>>443 続き
「どうして…、そんなこと言うの…?」
幽香からか細い声が聞こえる。睫毛は微かに震え、頬に影が見えた気がした。しかしその驚きも一瞬のものであり、次の瞬間
には反発の色が彼女の顔に表れた。元来の、生来の、しなやかに、かつ折れることのない彼女の性格。遠慮があったのだろう、
いまだ恋人たる僕相手にはぶつけてきたことは無いその気性は、今この時にも押さえ込まれていた。理性の皮一枚で怒りを抑
え込む幽香。努めて冷静になろうとしている彼女であったが、地の底から漏れ出た怒りを乗せて声が向かってくる。
「笑えない冗談ね。私、そういうの大嫌いなの。」
彼女の顔を正面から見据える。反発と怒りとそこに僅かに潜む、驚愕と恐れ。あの人から助言を受けていなければ見逃してし
まう程であろうそれは、僕の目にははっきりと見えていた。
「冗談じゃないよ。」
「なら、なによ。余計に悪いんじゃない。」
荒れ狂う心を隠している彼女。コップになみなみと注がれた水は、硝子の淵いっぱいで揺れている。そして僕は、そこに石を
投げ込んだ。
「××さんに「あんなこと」したよね。」


452 : ○○ :2018/06/23(土) 23:21:11 YYleFAIg
>>449
諏訪子様って早苗さんの先祖だから、神奈子様よりも過激に振る舞いそう

>>450
しとしとと雨が降るのが今後の二人を暗示してそうな気がします…


453 : ○○ :2018/06/26(火) 14:10:16 bHpIB3EA
ノブレス・オブリージュに囚われて(163)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=153
>>451
ヤンデレの典型例だけれど、恋人以外にはやたらと苛烈になるよね
しかもその典型例を演じるのが、純粋に強い風見幽香だから。被害は典型例とは思えないほどひどくなりそう


454 : ○○ :2018/06/26(火) 22:06:22 p2Pwcu9I
みすちーの屋台の
にたまご…すっげぇうまくねぇか?
は?食べたことないの?
この前飲んでたらさぁ…サービスですって出してくれてさぁ、もうっめっちゃくちゃうまいのなんのって
こんなうまいもん食べたことないって言ったらめっちゃ喜んでくれてさー!
それで聞いたんだよ、これなんのたまごって?
企業秘密だってさー!教えてくれてもいいのにさぁー!あー食べたくなってきたなー週末また行くかー


455 : ○○ :2018/06/27(水) 00:40:00 YO50wk1g
>>451 続き

「……。呆れた。それ只の逆恨みじゃない。確かにその人とは会ったけど、むしろこっちが向こうに迷惑を掛けられたのよ。」
数瞬の後にさも迷惑しているかのように返事をする幽香。こちらが又聞きで話しをしていると見越して、自分を丸め込みにきた
のだろう。いつも落ち着いていて頭がよく切れる所は、以前は好きな所だったが、今となってはとても醜悪に見えた。タンポポ
のように粘り強く、ツタのように絡みつく。幽香から花が好きだと聞いたことがあったが、むしろ雑草が似合っているようにす
ら思えた-とても悪い意味で。
「へぇ、脅して踏みつけるのが?」
「……。」
そこまで自分が把握していたとは知らなかったのだろう。目が忙しなく宙を彷徨い、指がグッと握りしめられる。唇が言葉を紡
ごうとして、声にならずに打ち消される。言葉に詰まり沈黙が続いた後で、観念したように幽香が答えた。
「…あなたの為よ。」
「そう…。」
短く答えて席を立つ。これ以上彼女と話し合っても、お互いの溝は埋まらない気がした。
「待って!」
自分を呼び止める声が聞こえる。振り返らずにそのまま数歩進むと、更に大きな声が聞こえた。
「御免なさい!」
ガツンと鈍い音が床から響き思わず振り返ると、幽香がフローリングに頭を付けていた。
「ご、ごめんなさい…。お願い、別れないでぇ…。」
涙ながらに訴えてくる幽香。あれだけ自分に自信があった彼女は、今は見る影もなくグズグズに崩れて去っていた。彼女が自分と
別れたくないがためにここまでしたことに驚いたが、それでも別れる気持ちに変わりはなかった。
「サヨナラ。」
そう言い捨てて、僕はドアに手を掛けた。


456 : ○○ :2018/06/27(水) 00:41:26 YO50wk1g
>>453
裸の王様はどこへ行くのか…

>>454
フラグが盛大に立っていますね


457 : ○○ :2018/06/27(水) 01:12:30 YO50wk1g
1レスを使用します

側にいて

「はい、もう一歩、もう一歩、大丈夫ですよ。ゆっくりと、ゆっくりと、はい、お家に着きましたよ。よく頑張りましたね、○○さん。」
地霊殿の周りを散歩する僕の肩を持ち、歩みに合わせて僕を支えるさとり。道行く通行人といった普通の人(或いは妖怪)からすれば、
献身的に僕に尽くすように見えるのであるが、それが偽りであることを知る者は少ない。トラウマを植え付け、精神に異常をきたさせるこ
とにより、今の僕はさとりが居なければ外を出歩くことすら出来なくなっていた。自分のために相手を踏みにじり、徹底的に支配する。
全てを彼女に握られている僕は、人形師によって操られるマリオネットのように、さとりによって操られていた。
 玄関で荒く息をつく僕を満足そうに眺めるさとり。彼女の心が歪んだ独占欲で埋め尽くされていることは、心が読めない僕にも分かる
ことであった。
「うふふ…。」
丁寧に僕のほほを撫でる彼女。第三の眼によって心が鷲づかみにされ、ザラザラと削れていく音が聞こえた。ふと良い事を思いついたかの
ようにさとりが言う。
「○○さん、食べ物や飲み物って、案外溢しやすいんですよ。○○さんも注意しないと、ちゃんと口に入れることが出来ないですからね。
あと、無理に口に突っ込んではいけませんよ。きっと気管に詰まってしまって咽せてしまうか…」
僕の顔を自分の方向に少し寄せ、目を覗き込みながら彼女は言う。
「息が詰まってしまうかもしれませんからね。」
ああ、最早僕に残されているのは息をすることだけなのかもしれない。そんな絶望に濡れた僕の心を彼女は読む。
「大丈夫ですよ。それは「まだ」しませんから。」
その時はそう遠くないような、そんな予感がした。


458 : ○○ :2018/06/27(水) 23:33:49 YO50wk1g
>>455続き 1レス使用します

 苦い思いを胸にしつつ、ドアのノブに手を掛ける。しばらく幽香と付き合ってきた間に部屋には色々な私物が増えていたが、
残してきた物はどれも換えが効く物であった。後で宅配便で送って貰うか、さもなくば彼女がゴネるのであれば、最悪捨てて
しまっても良い。金銭的には少々-いや割と大きい損失かもしれないが平穏には替えられない。取っ手を回して外に出ようと
すると、後ろか声が追いすがってきた。
「行かないで…。」
未練が溢れる幽香の声。勝ち気や傲慢といったものは剥がれ、中の脆い中身が零れているようだった。トマトのように柔らか
く、潰された中身から赤い液体が滴り落ちる。地に落ちた果実は傷み、潰れ、そして甘い匂いを放つ。腐ったような、毒の花
のような、蠱惑の香りを。
「お互いのためにも、一緒に居ない方がいい。」
胸に辛い思いを抱えながらも答える。これ程までに彼女が狂ってしまっていたのは何故だろうか?愛、恋、そんなもので人は
ここまで狂うのか、人間がヒトであるために-まともに生きていくために必要な心を、あの時の彼女は捨てていた。
「嫌、嫌…イヤなの…○○が居ないと駄目なの…。」
うわごとのような言葉で僕を引き留めようとする幽香。彼女が此処まで狂ってしまったのは、自分のせいなのかもしれない。
あの人から写真を見せられてその思いが沸き立ち、僕は居ても立ってもいられなくなり、幽香の家に向かっていた。壊れかけ
ている彼女を見て罪悪感が生じる。しかし、それでも別れなければならない-自分のために彼女があんなことをしてしまった
のであれば。
「済まない。」
断腸の思いで言葉を紡ぐ。後ろから発せられた悪寒が全身を貫いた。
「駄目。」
急に足首を捕まれて思いっきり後ろに引きずられる。反射的にドアノブを掴もうとするが、手の中からノブは虚しく滑り抜け
ていった。掴む物が何も無いフローリングを氷上を滑るストーンのように滑走する。まるで幽香が僕を見えない蔓で手繰り寄
せているかのように、僕は抵抗らしいこともろくろくできずに引きずられていった。


459 : ○○ :2018/06/28(木) 21:00:07 oi0450yo
久々の投稿。3レス使用します。
文章力は相も変わらず。


あなたはいわゆる普通の東方オタクだ。
たまにヤンデレ系のSSを書いては東方ヤンデレスレに投稿している程度の。
しかし、最近ネタが無い。
困り果てたあなたは仕方なく一旦東方から離れ、他の作品にネタを求めに行くことにした。

嫌な予感がするような……?

東方から離れて約半年が経過した。
気がついたら他の作品に夢中になってSSを書いていない。
久々に訪れたヤンデレスレはかなり閑散としていた。
あまり活気がない、といったほうが正しいか。
仕方ない、と言わんばかりにあなたは久しぶりにSSを書き始めた。

……妙な寒気を感じる。

書き始めて5分が経過した。だめだ、思いつかない。
気がついたら半年のうちにあなたの頭の中で動き回っている……つまりは妄想で動いているキャラクターが別作品のキャラクターばかりになっていたのだ。
……あなたは考えた。
このまま東方ヤンデレスレからおさらばしてしまってもいいのではないか?
あなたは考えてしまった。
自分は……なんで、東方でヤンデレSSを書こうとしているんだ?
あなたは気がついてしまった。
自分はただヤンデレのSSを書きたいだけで、別に東方でなくてもいいじゃないか――

……どこからか視線を感じる。

それから約1ヶ月後、あなたは別のSSサイトで様々な作品のヤンデレSSを書いていた。
やはり過疎っている東方ヤンデレスレとは違い活気がある。
その証拠に、あなたの作品には決して多いとは言えないが、それでも感想がついている。
あなたは嬉しくなり、様々なSSを書く。
……そういえば、あなたが東方ヤンデレスレにSSを投稿し始めたのは、最初のSSに感想をもらえたからだ。
ちょっとしたホラー風味、その結果「怖かった」という感想をもらえた。
それが嬉しくて、SSを本格的に書き始めたのだった。
なぜか、そんなことを思い出した。

未だ、視線を感じる。


460 : 459 :2018/06/28(木) 21:00:53 oi0450yo
ある日、久しぶりに東方でヤンデレSSを書くことにした。
さて、書き始めよう。
……短めでもいいよね。
あなたはそう言い訳をしてから執筆を始めた。

…………

俺は目の前の女を睨みつける。
「そんな怖い目は似合ってないぞ、〇〇」
どの口が言うんだ?俺をお前の都合で、
「だけどまあ、その目が私だけに向けられているなら、それもまたいいか」
死ねなくして、外に帰れなくしたおまえが。
俺は何度目になるかわからないが奴めがけて拳を振るう。
この力すらあいつが俺に埋め込んだ心臓のおかげなのだから憎たらしい。
あいつが拳を避けたのを見て、振り向きざまに炎を放つ。
「うんうん、よく使いこなせてるじゃないか。それでこそ〇〇だな」
黙れ、黙れ。だまれ!
「そう、それでいい。私にだけ、すべてを向けてくれ」
狂ったような笑顔であいつは言う。
外の世界に帰りたい。あいつにそう言って、別れを告げたのが間違いだったのだろうか。
後ろから心臓を貫かれ、代わりにあいつの心臓を埋め込まれ、こんなことになったあの日を忘れない。忘れられない。
「その殺意すら愛おしい。その狂気すら愛おしい――」
さあ、今日もあいつを殺すために。
炎を放ち、あいつの銀の髪を燃やそう。
拳を振るい、あいつの白い肌を赤黒く染め上げよう。
蹴りを放ち、あいつの細い腰を砕こう。
「――だから、私を殺し続けろ、〇〇」
――それが、今の俺にできることなのだから。

…………

よし、うまくできた。あなたは久しぶりに作ったヤンデレSSは自画自賛してしまいたくなるほど会心の出来だった。
あなたはそれを……何をトチ狂ったのかこれまで上げていた別のSSサイトだけではなく、久しぶりに東方ヤンデレスレにも投稿してしまった。

……布団の上に何か色とりどりの髪の毛があった気がする。気のせいだろう。


461 : 459 :2018/06/28(木) 21:01:29 oi0450yo
投稿してから数日後、少しの感想があなたのSSにつけられていた。
久しぶりに東方ヤンデレSSを書いたかいがあったというものだ。
東方ヤンデレスレの方の感想はいつもどおりだった。
が、別のSSサイトの方につけられていた感想は何か奇妙なものが紛れていた。

・ようやく戻ってきたね
・ずっと待ってたんだよ?
・もう逃さないからね

……何だこれは?それがあなたの感想だった。
まるで――パソコン越しに、見られているような。
そんな奇妙な感覚に襲われる。
気のせいだろうとあなたは首を振る。まさか、そんな非科学的なことが……
そう思った矢先、あなたのパソコンから謎の音声が流れる。
「さあ、あなたもこちらへ――」
なんだ、これは。
「あなたを望んでいる人は――」
やめろ、気味が悪い、何かがおかしい。
「他の世界にはいなくても――」
やめてくれ、やめてくれ。やめろ、やめろ!
「――幻想郷には、いるのですから」
瞬間、あなたは力任せにパソコンを閉じ……ることはできなかった。
ディスプレイから出てきた腕が邪魔をしている。
あなたは恐怖を感じパソコンから逃げるように遠ざかる。
途端に、浮遊感を感じる。
何か、足を踏み外したのだろうか?いや、違う、
目玉だらけの気味の悪い空間には心当たりがある。
これは……
あなたはこの先どうなるか、簡単に予想ができてしまう。できてしまった。
絶望を感じ、すぐやってくるであろう未来を察し、あなたは意識を手放した。
最後にあなたは、こう思った。

どこで、間違えたんだろう。

以上です。


462 : 459 :2018/06/28(木) 22:37:14 oi0450yo
>>469
あなたは久しぶりに作ったヤンデレSSは→あなたが久しぶりに作ったヤンデレSSは


463 : ○○ :2018/06/29(金) 14:04:52 2A8Ku.bI
ノブレス・オブリージュに囚われて(164)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=154

>>462
ヤンデレ少女たちって、究極的に優しいよね
随分長いこといなかったのに、迎えてくれるんだから


464 : ○○ :2018/06/30(土) 00:16:06 1AIDq1Tc
その絶対的なやさしさこそ理想のヤンデレの姿なんだよ
ある種の信仰なんだ


465 : ○○ :2018/07/03(火) 13:47:22 BGvECwMQ
ノブレス・オブリージュに囚われて(165)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=155

毎年思うことだけれども
年々暑さがヤバくなっていないか……命が削れる暑さだ

蓮子はプールとか行くの好きそう(よく寝坊するけれど)
メリーも、蓮子と(このスレ的には○○も)一緒に行けるなら割と、どこへでも喜んで行くだろうな
問題は○○の胃。蓮メリに挟まれて、嫉妬をモロに浴びる○○の胃が危ない


夢美教授とちゆりなら、上手く立ち回ることができれば。
生活能力のない奇人と天才のお世話役と思われることはできそう
この場合、教授とちゆりの側にいる男性だけが
蓮メリに挟まれた男の理解者なのだろうな


466 : ○○ :2018/07/03(火) 20:29:27 SBekVWdc
むしろ○○がいいやつすぎて逆に蓮メリがダメージを負う展開のほうがぼくはすきです

どんなにヤバいことやっても○○がキチンと向き合ってくれるから自分にダメージ跳ね返ってくる感じ

この人はこんなに優しくて親切でいい人なのに
私を純粋に心配してくれているのに
そういうところが好きなのに

私はいったいなんなの…?

あんなことをやったのに許してくれるの?どうして?
それに比べて、嘘をついて善意につけこんで、私はなんてちっぽけなんだろう。

この人は知らない
あなたは知らない
なにも知らない
私の汚さを

汚いから、触っちゃ駄目

眩しいの、照らさないで


なんていうんだろう
「病むほど悩んで苦しんでいるんだから、たまには幸せになってほしい…」っても思っちゃうわけですよ
○○がヤンデレヒロインの弱さに向き合ってくれるって感じ
病んでいくんじゃなくて
心の病を、○○が少しずつ治してくれるような


467 : ○○ :2018/07/03(火) 23:18:16 ONkW5ZFs
>>458続き

 良く掃除され塵一つ落ちていない廊下のフローリングの上を、シャツの跡が残らんばかりに幽香に引きずられていき、遂に足に幽香の
手が掛けられた。
「はあ、はあ、はあ…。」
荒い息を付きながら、幽香が足からにじり寄ってくる。女性らしく軽い筈なのに、今の自分は身体を少しも動かせそうも無い。全身をか
らめとられたかのように、いくら藻掻けどもピッタリと腕が身体に張り付き、上に乗っている幽香を僅かに揺らすのみであった。
「もう…、これ以上暴れないで。」
荒い息を付きながら幽香が抱きしめてくる。大きな鼓動が振動として伝わってきた。ドクン、ドクンと規則正しいリズムのみが無言の室
内に存在する。言葉を交わさずとも、お互いの気持ちが伝わっている気がした。
「もし、○○が居なくなるなら…毒を打つわ。」
思い詰めたように幽香が言う。彼女は凶器も武器も持っていないのに、白刃か銃口が自分の首筋に突きつけられているような錯覚を覚え
る。少しでも切っ掛けがあれば、針のように尖らせた激情が叩きこむであろう状態で、幽香は踏みとどまっていた。
「信じていないの?トリカブトで全身が動かなくなるように麻痺させてあげましょうか。きっと、何をするにも私の手助けが無いと生き
ていけないようになるわ。水を飲むのも、御飯を食べるのも、私がいないと駄目。とっても素敵じゃない?」
「それともスズランの毒がいいかしら。きっと全身が捩れるような傷みが襲うでしょうね。息が出来なくなり、ゆっくりと心臓が止まる
のを感じる苦しみ。私を捨てたのを後悔しながらゆっくりと死んでいくのがあなたには相応しいかしら?」
「マンドラゴラでもいいわね。周りの人全てが怪物に見えて、常に何かに襲われる妄想を抱き、部屋の中で一歩も動けずにただ蹲るだけ
しかできなる毒。でも大丈夫、そんな世界でも私だけはちゃんと元のままだから。」
説得しようと蕩々と言葉を流す幽香。無理をする彼女を見ていると、思わず問いかけてしまった。
「本当にそれで幽香は満足なの?」
「……! 満足な訳ないじゃない!!」
涙と共に本心が零れ落ちる。大粒の涙を流しながら幽香が訴える。
「私だってあなたを傷付けたくない。でも、あなたが私の前からいなくなるじゃない!だったらもう、何をしてでも、殺してでも無理に
引き留めておくしかないじゃないの!!」
「お願い…。戻ってきて…捨てないで…。」
不意にカシャリ、とシャッターを切る音がして、一枚の写真が風に舞うように、幽香の前にどこからともなく落ちてきた。写真を幽香が
手に取る。
「う、う、う…。」
手が震え、涙が零れる。憑きものが落ちたように幽香の背筋がぐにゃりと曲り、写真を掴んだまま崩れ落ちた幽香は床に顔を伏せる。そ
して僅かに泣き声が漏れているのみとなった。あれだけ強い力で自分を縛っていた見えない蔓は、まるで枯れ果てたかのように消え果て
ていた。


468 : ○○ :2018/07/03(火) 23:18:58 ONkW5ZFs
 都会の中に溶け込むようにして店を構える、お洒落な喫茶店に入る。先に自分が席に着いて居たはずなのに、約束の時間になるといつ
の間にか目の前の席にその女性はいた。
「お役に立てたようでなりよりです。」
ツインテールの髪型をした女性が言う。まるであの出来事を見ていたかのように。
「そう言えば、結局彼女は何だったのでしょうか。とても手品やトリックでは説明が付かない気がするのですが…。」
約束のものを渡しながら、あの時に気になったことを尋ねる。あの時の恐ろしい幽香は、まるで人間ではないかのようであった。
「さて…。世の中には不思議なこともあるものですからね。」
サラリと受け流しつつ席を立つ女性。去りゆく彼女に声を掛けた。
「マンションでの写真、ありがとうございました。お陰で助かりました。」
「…こちらも良い写真が撮れましたので、お気になさらず…。」
紫色のチェック柄をした、スカートが印象的な人だった。





469 : ○○ :2018/07/03(火) 23:29:50 ONkW5ZFs
最近短編を書こうとして、ズルズルと長くなって中編になることが多いような。
短編よりも深く書けるけれども、投稿間隔が間延びしがちになってしまう…

>>462
自分が書いた小説に取り込まれるとしたら、ディストピアを後悔しそう…

>>465
紫が仮に後ろで絵を描いているとしたら、流石と言いたなる。この配置を
よくも整えることが出来たのが苦節何年、何十年というスパンでしょうから。


470 : ○○ :2018/07/03(火) 23:34:34 ONkW5ZFs
>>466
弱いヤンデレヒロインが新鮮でいいですね。自分が書く作品のヤンデレが、ことごとく
11点オリハルコンメンタル連発になってしまうので…。


471 : ○○ :2018/07/04(水) 21:40:36 PN4i0BHk
弱いのも強いのもいいね
崇拝して絶対服従するような弱さとか
逆に○○のためと思ったことはたとえ本人が反対しても断行する強さとか
そんなのがかわいいな


472 : ○○ :2018/07/06(金) 17:48:27 mkfOWdKU
ヤンデレ書いてるとその人の恋愛観というか人間観が如実に現れるような気がする


473 : ○○ :2018/07/06(金) 19:57:38 f3F.NFoI
この際だから聞きたい
長編さんって、○○的なキャラが三人もいるけど
ノブレス○○、息子君、婿天狗

この3人のイメージってどんな感じ?


474 : ○○ :2018/07/06(金) 21:45:33 0yZrLMxI
貶すわけじゃなくてただの個人のイメージだけど三人とも現実にいたらあんまり関わりたくないタイプの陰キャって感じ
まあ世界観的になるべくしてなったって感じのキャラクターでしっくりくる


475 : ○○ :2018/07/07(土) 21:34:16 mw9IQvX6
慧音「七夕イベントで○○が吊るした短冊を取っていった人がいる模様。怒らないから先生のところにきなさい」(私が回収するつもりだったのに誰が盗ったんだ!?)


476 : ○○ :2018/07/09(月) 14:48:08 IuklSqFA
ノブレス・オブリージュに囚われて(166)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=156
>>475
察してる○○ならば、卒の無いことを願ってお茶を濁しそうだけれど
それでも全力で願いをかなえてきそうなのが強いヤンデレだろうな
そうなると抽象的な方が危ない。○○のためのディストピアを、拡大解釈で作り上げそう
霊夢とかそれが十分可能だから怖い

でも幽香さんとか純狐さんとかネムノさんは。孤立主義貫いて、○○を悪い虫から守る方向に動きそう
いわゆる過保護タイプ

成美とかアリスや椛は、陰ながら見守りタイプかもな
でもそれも随分怖い、何せ○○が強者から好かれているという証拠が少ない、あるいは無かったりする
あってもただの人間には気付けない
そんな状態で○○に敵対したり(議論ですら危ない)苛めたりの場合はもう一発アウトだろうな
明日どころか……昼食から帰ってこなかったり


477 : ○○ :2018/07/09(月) 23:19:41 ssBIe.sY
>>476さんのネタを使用

「そいつは中々、いや、かなり難しい問題だね。」
内心の焦りを隠しながら、上っ面だけは堂々と返事を返す。あくまでもそれが何でもないかのように、それでいて相手の事に心を
砕いている素振りを見せながら。はったりを効かせながら酒が入った猪口に視線を移す。動揺を隠して相手の目を見ながら話しを
するなんて年期が入った化け物狸のような真似は、自分には未だ到底出来そうになかった。
「そこを何とか頼みますよ、××さん。」
「相手が相手だしなあ。」
目の前の酔っ払いが相変わらず妄言を吐く。-馬鹿も休み休み言え-そう言って思いっきり叱りつけてやることができれば、どれ
程楽だろうか。もっともそんなことをした日には、今までの自分の地位が全て崩れ去ることは間違いないことなのだが。
「いんや、本当、相手の後ろにあの森の魔女が控えていたなんて、本当ありえないことですよ。ええ。」
-ありえないのは、お前の脳味噌だろ-と、すんでの所まで出かかった言葉を口の所で食い止める。そういった魑魅魍魎とやっか
いになるのはこれまでも何度かあったが、今回は相手が余りにも悪すぎる。今まで間一髪躱してきたような、夜になると人間を求
めて里の外を徘徊する名も無き妖怪とは違い、正真正銘の魔女が相手になっては只の一般人には荷が重すぎる。藪を突いたら化け
物が出てきたようなものだ。
「××さん、妖怪にも顔が利くんでしょ?」
「いやいや、これ位の事なんぞ、あの人を煩わせるまでもないよ。」
「おっ、これは凄いね。こりゃあ、××さんに話し持って来て正解だね。」
冗談じゃない。自分が持っているそれなんて、口が裂けてもコネとも言えないような細い糸にしか過ぎない。まかり間違っても、
○○が持っているような-本人が自身の後ろで糸を引いている魔女に、気づいていないということはあるにせよ-自分の事を犠牲
にしてでも、体を張ってくれるような関係は望むべくも無い。まあそれがバレた日には、今度は自分の身が危ないのだけれども。
「それで、どうすれば良いんだい?」
こいつ、本当は俺がコネなんてないの分かって言ってるんじゃないのか。そう思わせるような声に、脳の血管が膨張する感覚を覚
えた。ああ、もうこんな奴、どうなってもいいか。理性の紐がブチンと切れる音が聞こえた。
「…なあ、魔女と狼天狗ってどっちが強いと思う?」
毒を喰らわば皿まで、そういう言葉をかつて聞いたことはあれども、その言葉を作った当人は、化け物に化け物をぶつけることま
では許した覚えは多分ないだろう。一歩間違えれば、いや例え最善手を辿ったとしても、恐らくは両方の側から目を付けられるこ
とは間違いないのだが、取り敢えず今日の所は、自分は無事に家に帰ることが出来る。それだけが今の自分にとっては、何よりも
大切に感じられた。


478 : ○○ :2018/07/09(月) 23:32:37 ssBIe.sY
>>473
壊れきって心がバラバラになった人、壊れかけているのを周囲が繋ぎ止めている人、妖怪になって精神
が変質してしまった人 でしょうか。

>>476
輝夜がヤバすぎる…
ふと思ったのが、この作品のテーマに従い、上の立場の者ほど苦労している、あるいは
弱い者程かえって強くなるという逆転が起きているような。


479 : ○○ :2018/07/12(木) 00:49:35 IsfJ2lvc
久しぶりにまとめwikiの方読もうかと思うけど数多くて読みきれない…というわけでここ数年で印象的だったものがあれば教えて貰えると嬉しいです


480 : ○○ :2018/07/12(木) 14:59:14 bshyXWc6
>>479さんが数年間ヤンデレヒロインに監禁されていたのでここにくるのが久しぶり説

数年前ホラースポット感覚でヤンデレスレに探検にきたらヒロインに捕まってしまう
長い間監禁されててやっとの思いで逃げ出したのに
トラウマであるヤンデレスレに戻ってきてしまう
心は捕まったままで逃げられませんでしたエンド


481 : ○○ :2018/07/12(木) 19:48:20 I11/niXE
フィーリングが合うかはわかんないけどこのスレの>>253>>322の話は自分の妄想の幅を広げてくれた
あとはwikiでも複数レスを使った中編以上の作品はだいたいどれも読み応えあって面白かったよ


482 : ○○ :2018/07/12(木) 21:16:39 En6FzJbE
>>479

 サグメの項目の『月都貴人専属医療班、隊長の日記』
 サグメの話だけでなく、綿月姉妹もヤンデるからボリュームあって良かった。事実上の
『複数』項目の話。ただし完結はしていない。


483 : ○○ :2018/07/12(木) 23:12:09 9xUbp4XM
>>480さんのネタを使用

 深淵より

 夜になり全ての事をやり終えて、後は眠るだけとなった時間。忙しい毎日の中で唯一自由に使えるこの時間に、あなたは
インターネットを開いていた。ニュース、趣味、スポーツといったいつものように定期的に見ているサイトを巡回している
と、いつのまにか時間が過ぎている。眠るには早く、かと言って本格的に新しいサイトを発掘していては、翌朝に眠い目を
こする羽目になってしまいそうなこの時。本当は早くベットに入ってしまうのが良いのだけれども、それでもついついペー
ジを開いてしまう。女の子に愛されて眠れない、刺激的なタイトルが付いたその掲示板は、見る人が見れば趣向や素性とい
ったものが分かるのであるが、あなたはいそいそとそのアドレスを開いた。まるで誰かに見咎められるのを恐れているかの
ように。

 昔と同じタイトル形式で、順調に番号だけが増えていたその掲示板は、昔と同じ様な賑わいぶりであった。頻繁に人がひっ
きりなしに来ているのではなく、然りとて更新が無く死に絶えているのではなく、ややもすればうら寂しいながらもひっそり
とそのサイトは続いていた。ふと懐かしくなる。昔はよくこの掲示板に来ていて、あなた自身も時折投稿をしていたものだが、
それはあれ以降ぱったりと止んでいた。まとめページも更新がされており(どうやら初代管理者も幻想入りしたそうだ)数が
相当に増えていた。これを読むのは相当に骨が折れる。確かにこのサイトは好きであったが、そうはいっても偶にしかネット
を使う時間がない以上、全部読んでいてはいつまで掛かるか分からない。そう思ったあなたは掲示板に書き込んだ。
「久し振りに来たんですけれど、何かお勧めの作品はありますか?」
ぽつり、ぽつりと返信が返ってくる。足早に読んでみると、成程どれも面白そうな作品だ。これは期待が持てると心が躍る
あなたに一件の返信が付いた。
「見つけた」
たった一文。その他には何も書かれていないその文面はシンプルであったが、あなたがそれを見た瞬間にドキリと心臓が音を
立てた。


484 : ○○ :2018/07/12(木) 23:12:43 9xUbp4XM
 まるで昔のよう、そう何年か前にこの掲示板に来たときにも、同じ様に…。あれ、自分は一体その時に、何を見たのだろう
か?記憶はそこで断ち切られており、いくら思い返そうとしてもそれ以降は何も思い出せない。心臓が早鐘を打ち、息が荒く
なる。何か、何かがここに隠されている。そう考えたあなたは返信をしようとした。

 パチリ

 音が響き、目の前の画面が暗くなる。暗くなった画面には自分の引きつった顔と、その後ろに立っているバスタオルを体に
巻き付けただけの彼女がいた。白い手がノートパソコンの画面をパタリと閉じる。呆気なく、しかし断固として断ち切るように。
肩に彼女の顔が乗り、金色の髪が視界の端に見えた。
「何やってたのかしら、○○?」
薄手のパジャマを通じて彼女の体温が伝わる。囁くように横から聞こえた声は、スルリと耳に入ってきた。情欲に濡れた声が
脳に染み渡っていく。そのまま彼女は頬をくっつけてくる。しっとりとした肌は、ピタリとくっついていた。何も自分との間
に邪魔が無いかのように。頭がぼやけてきて、感覚が鈍ってくる。ぼうっとした感覚の中で昔の記憶が零れてくる。まるで封
印が緩んできたかのように。ああ、あの時もそうだった。偶々訪れたサイト、呼びかける文面。そして永遠の少女…
「…アリス。」
目の前の少女はにっこりと笑っていた。


485 : ○○ :2018/07/12(木) 23:19:15 9xUbp4XM
>>479
WIKIのまとめではないですが、長編さんの作品は良いですね。
あとは阿求の所に、阿求の人が書いた21スレ405-416と21スレ438-444が
ありますので是非に。


486 : ○○ :2018/07/14(土) 23:09:20 r/V1xKnQ
 春の陽気と緑豊かな高原の風を受けたコテージは爽やかな空気に満ちており、そこに建てられたリゾート用のコテージは都会で生活する
人間を癒やすために最適に作られていた。本来ならばそこにいる来客達もそこで快適な空間を過ごす筈であったが、その場は今、疑心暗鬼
に包まれていた。無言で椅子に座る面々。グルリと一同を見回した霊夢が堪りかねたように声を出した。
「で、○○は結局どこにいるの?」
「さて、知らないぜ。」
椅子にもたれた魔理沙が霊夢に真っ向から声を返す。ギシリと椅子が歪み、その反動と共に霊夢の方へ言葉が返ってきた。
「大方誰かのヒステリーに、嫌気が差したんじゃないのか?」
明確な反感と敵意。普通ならば言うのに躊躇するようなものであっても、同じ学校に通う二人の間にはそのような垣根は存在しないのであ
ろう。良くも悪くも。もっともこの場ではその遠慮のなさは一方の天秤に傾くのみである。霊夢と魔理沙、二人の間で緊張が高まったのを
みかねて咲夜が間に入る。
「二人とも、言い合っている場合じゃ無いでしょう?まずは○○を探さないといけないわ。」
正論で宥めにかかる咲夜に対して、早苗が横から噛みつく。
「そんなこと言って先輩、○○さんの居場所知っているんじゃないんですかぁ?最近仲良さげでしたし。」
「ちょっと、いい加減にしてよ。そんなことないじゃない。」
「とか言って、ホントに知らない証拠でもあるんですか?○○さんと一緒に写真撮ってたのなら幾らでもありますけど。」
「無茶苦茶な理屈よ、そんなの。」
咲夜にしつこく迫る早苗に、魔理沙から横槍が入る。
「○○を取られそうで焦るのはみっともないぜ。早苗。」
「はあ?意味不明なんですけど。」
お互いのボルテージが上がってきた空間に、か細い声が響く。
「あのう…取り敢えず○○さんを探しませんか?」
これまで殆ど発言らしい発言をしてこなかったさとりだが、この一言で場は静まった。
「…まあ、根暗の言うことも、もっともね。」
霊夢がそう言うと、
「そうだな、探すか。」
魔理沙も同調し、皆でコテージ内を探すこととなった。


487 : ○○ :2018/07/14(土) 23:11:57 r/V1xKnQ
>>486の作品については細切れになりそうなので、お手数ですが完結時に
一括してまとめていただけるとありがたいです。


488 : ○○ :2018/07/15(日) 23:21:44 R3GiMYtg
>>486 続き

 さとりの提案の後、皆でコテージの中を○○の姿がないかを探していた。先の言い争いの時には周囲の女性の迫力に押されて
口を挟むことが出来なかった××も、五名の女性と共に居なくなった友人の姿を探していた。○○を取り合う四人が、お互いを
牽制するように各人の部屋を開けていく一方で、男性だからと追いやられた××と余り物として弾かれたさとりは、食堂や倉庫
といった共用部を探していた。埃を被った備蓄の段ボールをかき分けるように格闘し××は捜索をするが、当然とも言うべきか
○○の姿は見られなかった。悪い空気の中で咳き込みながら、××はさとりに声を掛けた。
「ゴホッ、うーん、ここにはいなさそうだね。」
舞い上がった埃を吸い込まないように、ハンカチを口に当てたながらさとりが返事をする。
「こんな部屋、早く出ましょう。」
「もうちょっと…。」
なおも○○の手掛かりが無いか探そうとする××を、さとりが引きずるようにして部屋から出す。小柄な体からは想像も出来な
いような力で引っ張られ、あっという間にドアノブが回され○○は部屋の外に連れ出されてしまった。なおも○○の痕跡を探そ
うとする××にさとりが言う。
「良いですか、××さん。あの部屋には××さんが思っているようなものなんて、何もないんですよ。」
「ゴメン、でも何だか全部調べないといけないような気がして。ゴホッ。」
先程の部屋の影響が抜けきっていないせいか、咳き込む××に対して諭すようにさとりが話す。
「××さんが友達思いの優しい人だってことは分かりますが、あんなに綺麗に埃が積もっている部屋なんて、長い間誰も使って
いない部屋なんですよ。あんな所に長くいたら、××さんの体が心配ですよ。」
「ありがとう。ゴメンねこんな、埃っぽい嫌な場所に付き合わせて。さとりさんも他の四人と一緒に、○○を探したかっただろ
うに、自分に付き合わせちゃって。」
感謝の言葉をさとりに述べた××だが、さとりの機嫌はは一向に良くならない。いくら自分の下手な世辞だからと言って、せめ
て少しは愛想良く返して欲しかったと思った××だが、目の前のさとりの表情は見る間に強ばっていく。
「…××さん。そんなこと思っていたんですか…。」
突然暗く陰鬱な、怒りすら籠もっていそうな目で××を見るさとりに対して、気圧された××は言葉を返すことすらできない。
「そんな理由なんかで、この旅行に参加したりはしません…。」
「……。」
唐突に機嫌を悪くした、いや××が地雷を踏んでしまったか逆鱗に触ってしまったかのような怒りをたたえるさとり。一方の×
×は、さとりを怒らせてしまった理由に見当がつかない。そのため××は返事を返すことができずに、ただ黙ることしかできな
かった。二人の間に流れる沈黙。先程までの雰囲気とは一変した重苦しい空気の元で、二人は黙々と残りの場所を調べていった。

続く


489 : ○○ :2018/07/17(火) 15:34:10 ZbURzEFk
ノブレス・オブリージュに囚われて(167)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=157

>>488
逃げを選んだ○○、××の真意はどこにあるのか……
しかしさとり妖怪が目の前にいるから、○○の計画を知らなくとも。消極的協力すら出来ない
みんな詰みの大勢に陥ってるじゃないか


490 : ○○ :2018/07/18(水) 10:41:18 9Jkg6d2o
幻想郷から外の世界へと帰ってきた時、そこには彼女がいた。

「ねえ○○さん。今夜…。」
彼女が僕にそっと話しかけてくる。敢えてメールやらSMSが発達した世の中で、コッソリと恥ずかしそうに。
だけれど、周囲には分かるように。
そう彼女に言われてしまっては、僕は彼女を断れなくなってしまう。
第一、またアレを繰り返す訳にはいかない。
前回は風邪と見せかけて誤魔化すことができたが、今の季節、春先の花粉症で今週はミスを連発してし
まいますと、予言めいた言い訳するのは苦しすぎる。
「大丈夫。今日は早く仕事が終わるから。」
返事を聞いたとたん、瞳の中に写る不安げな色が消え、喜びの表情が顔に浮かんでくる。スーツの奥に隠した第三の眼で僕の気持ちを見ていても、やはりそれだけでは満足ができなかったようだ。
そそくさと席に戻る彼女を見送りつつ、仕事の算段をつける。
恐らく今日は仕事の方から勝手に消えていくのだろう。例によって例の如く、そう予想が付く程度には僕も成長をしていた。

「こんばんは。」
「お帰りなさい、○○さん。」
「…ただいま。」
あくまでも彼女の家にお邪魔をしているだけだと、そうした気持ちを表明しているのであるが、目下敗北中である。
いかに職場でデキル人を演じて、彼女より上の立場に立っているように見せかけていても、一旦彼女の家に入ると張りぼての虚像は呆気なく吹き飛んでしまう。
「はい、今晩は○○さんが一番食べたい物にしましたよ。」
-ありがとう-と言葉を返しながら、そういえば彼女は僕が家を訪ねたときに、漫画のようにお風呂にするか食事にするかを尋ねたことがなかったなと思った。
チラリと彼女を見る。
「やりましょうか?」
こちらの心を読んだ彼女がそう笑顔で話してくる。
「いや、いい。」
即断で断っておく。
もしもそういう遣り取りをした日には、「○○さん」から「あなた」に、転職を果たしていそうな気がしたためである。
「あら残念です。」
言葉とは裏腹に嬉しそうにそう言った彼女の笑顔は、勿論そうだと言っていた。


491 : ○○ :2018/07/18(水) 10:42:54 9Jkg6d2o
 灯りを消して暗くなった部屋の中で、ベットに彼女が潜り込んでくる気配を感じた。
柔らかい手が顎に添えられて、口の中に更に柔らかい物が入ってくる。
上で触れ合いつつ下でも繋がると、首元にいつもの違和感を感じた。皮膚の抵抗をもろともせずに、彼女から伸びる管が入ってくる。
僕の意思など鼻で笑い飛ばすような暴挙を起こし、そのまま管から彼女の何かが流れ込んできた。
侵食するような、体の隅々まで染みるような、彼女と溶け合うような何か。
人間では出来ない芸当を演じた彼女は、敢えて口に出して僕に思いをぶつける。
「○○さん、大好き。絶対に離さない。」
口に出せば興奮が増すかのように。
「ねえ、何でもするから好きでいて。」
自分に燻る不安を消したいかのように。
「私の初めてをあげたんですから、絶対に捨てないで下さいね。」
自分より非力な相手に懇願するかのように。
「捨てたら潰しますよ、他の女に目移りしたら殺しますよ。絶対に、絶対に!」
強く呪いを刻み込むかのように。
 そして彼女は自分の言葉で興奮したのか、僕を塗りつぶそうとする。
管を通じて強く注ぎ込まれる。
人間としての魂を削り去る嵐が吹き荒れ、彼女を求める生存本能が一層強くなった。
彼女との一体感が更に強くなる。
境界があやふやになり、爆発が起き視界が白く塗りつぶされる。
しかし意識が宙に浮いたままで、それでも僕はの体は勝手に彼女を抱き続けていた。
今晩もいつものように、両方が満足するまでは夜は終わらない。

 一段落ついた彼女を腕に抱きながら髪を撫でつける。
彼女の気に召したのか、彼女から伸びる管は未だ繋がれていた。
どうやら彼女のせいで人間から逸脱しつつあるようであったが、夜にあまり眠らなくなくてもよくなったのは、利点の一つに挙げてもいいことだろう。
先程の暴風のようなものではなく、ジワリジワリと彼女が流れ込んでくる。
穏やかではあるが、潮が満ちるように包まれていく。
慢性の病と同じように、時間を掛けて変質したものはもはや元には戻れない。
ここまで執拗な彼女に対してふと疑問が生じる。
「信用できません。」
こちらの思考を悟った彼女が答える。
「たとえ私としかしたことがなくても、それでも不安です。」
-だから-と彼女は付け足す。
「他の女で興奮しないように、私とだけできるようにしているんです。」
そんな彼女を嫌わない僕自身が、他人から見ればおかしい考えをしているように思えた。
彼女に狂わされたのか、元々だったのか、既に僕はそこの区別がつかなくなっていた。
 朝になり、彼女の家を出る時に、彼女が僕の肩を掴んで引き寄せる。
出かける前にキスでもせがむのかと思った僕の耳元に、彼女がささやくように言う。
「○○さん、今日からこの家に帰ってきて下さいね。」
僕にはやっぱり、彼女のお願いは断れそうになかった。


492 : ○○ :2018/07/18(水) 10:46:57 9Jkg6d2o
次回は秘封倶楽部を題材としたモノを書いてきます


493 : ○○ :2018/07/18(水) 23:20:42 EOD/HFWc
>>492
>>490-491のこちらの文章は24スレ>>300にて投稿された文書とほぼ同一になります。
何らかの誤りの投稿でしょうか?


494 : ○○ :2018/07/18(水) 23:23:39 EOD/HFWc
>>488 続き

 さとりと××の間で気まずい沈黙が続いた後に、××は手ぶらでロビーに戻る道を歩いていた。やってしまった後で××は、何か
さとりと関係を戻す切っ掛けを作ろうとしていたが、先に立って進んでいくさとりの後ろ姿は拒絶の意思を無言のうちに物語ってお
り、××の気持ちは焦れども、前を歩く彼女に話しかけることはできなかった。
 さとりがロビーの扉を開けると、部屋の中では四人が真剣な面持ちで机に向かっていた。スマートフォンを操作する魔理沙はせわ
しなく指を動かしており、それを後ろから覗く霊夢と早苗は背をいっぱいに伸ばしている状態であった。そして残りの咲夜は厳しい
顔で反対側から三人を見守っており、事情を知らない××にとっても、なにやら重要なことが行われていることが伺えた。
「駄目だ。ロックが掛かっている。」
諦めたように魔理沙がスマートフォンを放り投げ、早苗がそれを慌ててキャッチする。
「危ないですよ、魔理沙さん。○○さんの重要な手掛かりなんですよ。」
もうちょっとで携帯を壊すところであった魔理沙に早苗が抗議する。
「履歴が見れないんじゃ無駄だよ。文鎮代わりがいいとこじゃん。」
「それはそうかもしれませんけれど…。」
もっともな反論をされて勢いがなくなった早苗。そこに霊夢が爆弾を投げ込んだ。
「これではっきりしたわ。○○は誘拐されたのよ。○○はいつも携帯を持っていたわ。それをあんな所に置いておくなんて、有り得
ないことよ。つまり、無理矢理に連れ去られたってこと。」
「「!!」」
驚く周囲。○○の友人の××も、四人から執拗なアプローチとそれによって引き起こされる諍いに嫌気が差し、○○は自分から姿を
消したものばかりと思っていたのだから当然であった。突然の霊夢の発言に咲夜が疑問を呈する。
「ちょっと待ってよ。幾ら何でも推理が飛躍していないかしら。」
魔理沙も咲夜に続く。
「咲夜の言うとおりだぜ。根拠なんてあるのかよ。」
早苗も霊夢を無言で見ているところを考えると、無条件で賛成とはいえないようであった。三対一になった霊夢であるが、自信に満
ちたの態度は変わらない。
「ただの勘よ。」
そう言い放ち周りの疑惑を一言で切って捨てた。確かに××も霊夢が過去に超人的な勘を発揮したことは何度か見た事があった。そ
れを考えると、妄言として取り合わないのは何だか踏み切れない。溺れる者は藁を掴むという諺のとおり、余りにもか細い糸であるが、
現状それに頼るしか無さそうに感じられた。


495 : ○○ :2018/07/18(水) 23:31:24 EOD/HFWc
>>489
一族への愛が重すぎるが故に、それを受け入れられない祖父の描写がいいですね。
輝夜程の実力者ならば、その気になれば一瞬で押しつぶせるのに、それをしよう
とも思わないのは、愛、あるいは何か他のよく似たドロドロとした非合理な物に
囚われているからなのでしょうか。乙でした。


496 : ○○ :2018/07/19(木) 09:08:06 7wxuU8YQ
>>492です
誤って他作者の作品を投稿してしまいた。
この度は本来の作者に及び、東方ヤンデレを見ている方々に混乱を招いてしまい
申し訳ありませんでした。
次回からはこのような間違いが無いように気を付けます。


497 : ○○ :2018/07/21(土) 18:45:48 30qQYhf.
さとりと一緒にいたら、声の出し方忘れそう
能力が便利すぎるから、常に先回りできるし。間違うこともない
お醤油取ってみたいな簡単なことから、身の回りの用意と言った個人の好みで大きく違う事柄も、完璧に合わせれる
自分以上に自分の事を理解して、先回りして用意してくれる
それに慣れきったら、○○の方がさとりに依存しそう


498 : ○○ :2018/07/21(土) 23:14:51 Y3Vl.0.A
>>494 続き

「それで、一体何処に○○さんは居るんですか?」
早苗が霊夢に当然の質問を返す。お得意の勘で○○の居場所が分かれば、すぐにでも○○を探しに行く積りなのであろう。
テーブルの上で組まれた指は忙しなく動いており、内面の動揺を表していた。
「そんな物、分かっていれば今すぐに行っているわよ。」
もっともな答えを霊夢がする。彼女達の今までの○○への執着ぶりを見れば、あながち間違いではないだろうと××は思
う。長期の休みに入る前の学校生活では、休み時間の度に○○は四人に囲まれていたし、放課後の部活では毎日出席をし
ていた筈なのにやる気の無い幽霊部員と同じ程度の功績、要は○○に掛かりっきりで何も成果が残っていないという、首
ったけという表現がピッタリと当てはまるような状態であった。そんな中で、四人やそれによって多少なりとも被害を受
ける周囲の人物への対応に苦労していた○○に対しては、間近で見ていた(或いは見させられていた)××としては何と
かしてやりたいという、友人としてはある種当然の気持ちはあったのであるが、力及ばず四人を止められずにいた。
「それじゃあ、警察に連絡する必要がありますね。早速一一〇番をしましょうか。」
さとりが一同に真っ当な提案をする。
「あら、その必要は無いわ。」
「どうしてかしら。誘拐されたんなら事件じゃないかしら?」
それを一蹴する霊夢に咲夜が疑問を呈する。
「○○はこの近く、恐らくはまだこの屋敷にいるんだから。」
「へ?でも、さっき皆で探しましたよね?……まさかあの二人が…。」
早苗の視線が××とさとりに向く。鋭くかつ疑心が混ざっているそれが自分に向けられて、××はよく研ぎ澄まされた鎌が
自分の首に当てられているような錯覚を覚えた。狂信者に命を狙われる感覚を感じ、横に座っているさとりを自分の方に肩
を掴んで引き寄せる。抵抗はなく彼女はすんなりと自分の方に引き寄せられた。暫く無言になる室内。××は自分の心臓の
音だけが部屋で唯一響いている気がした。

「××は犯人じゃないわ。」
数秒か、あるいは××にとっては数分にも感じられた沈黙の後で、霊夢が白の判定を下す。あらぬ疑いが晴れてホッとする
××であったが、未だ問題は解決していない。
「それじゃあ、他の人物がここにいるってのか?」
魔理沙が残る可能性を挙げる。見知らぬ人物、それも友人を誘拐するような奴が人里離れた避暑地のコテージに潜んでいる
という、背筋がぞっとするような推理であったが、霊夢はもっと恐ろしい事を言った。
「勿論、その可能性も否定出来ないわ。でも…。」
一同をぐるっと見回して霊夢は言葉を続ける。
「こう考えることも出来るんじゃないかしら、つまり、この中の四人の内の誰かが○○を誘拐して、今もこのコテージか何
処か近くに監禁しているってこと。」


続く


499 : ○○ :2018/07/22(日) 19:43:54 3I.RPwoQ
○○「さしものヤンデレヒロインもこの猛暑では平気ではいられまい」


500 : ○○ :2018/07/22(日) 22:56:54 AQRq5rdo
>>498 続き

「成程な…。」
ニヤリと魔理沙が口を歪める。学年の中でも秀才として評判が良い魔理沙だが、その頭脳をふんだんに発揮していた裏では
「魔女」という名で呼ばれていた-勿論、悪口の類いであるが。そして付け加えるならば、その渾名を霊夢や早苗といった
親しい人物以外が呼んだ場合、大抵はその場では何とも無いのであるが、数日後か長くても一週間後に「不幸」に見舞われ
ていた。これが単に魔理沙が呪いや黒魔術といった、オカルトティックなものを利用しているだけならば、まだそれはマシ
だったのだろう。しかし××は知っている。友人の○○に何かした奴の机や椅子に、魔理沙が何かを振りかけていたことを。
これを○○から聞いただけならばまだ半信半疑であったが、とある雨の日に傘を差して歩く魔理沙が、通行人とは逆方向に
階段を下り標的にぶつかることで、ターゲットの怒りの感情を煽り魔理沙に手を伸ばさせて、それを払い階段の下に突き落
とすという、まるで周囲の人物が見れば「男子学生がか弱い女性に因縁を付け、正当防衛により振り払われる」という完全
な状況を作り上げたことで、疑惑は確信に変わった。彼女は魔術なんて使っているのでは無く、そう見せかけているだけな
んだと、本当の脅威は彼女の悪の頭脳なのだと。
「わざわざ○○を目の前にして、逃げ帰るのは癪に障るな。」
今も彼女の頭の中では、黒い脳細胞が高速で回転しているのだろう。いかに自分の方に優位に持って行けるのか、例え他の
人を蹴落としたとしても。
「○○さんを見つけ出せば、報酬があるのは当然ですよね。」
魔理沙に同調する早苗もやはり、彼女と同類なのであろう。他人を報酬としか見ていない下劣さは勝るとも劣らない。普段
は冷静沈着な咲夜もお手上げというように、両手を挙げていた。
「だから、助けを求めるなんて無しにしましょうよ。外から邪魔が入るのは面白くないでしょうし。」
笑顔の裏に脅迫を隠し、霊夢が××に同意を求める。顔は笑っているのに目の奥は笑っていない霊夢。今彼女の言う事に逆
らった場合、彼女は前言をあっさりと翻して容赦なく自分を犯人に仕立て上げるだろう。チラリと横目でさとりを見る。緊
迫した状況でもさとりは平然と××に体重を預けていた。そして××の目線を目敏く見咎めた霊夢は、一層口角を吊り上げ
た。もし拒否するのなら、二人ともだぞ、という意味を存分に込めながら。追い詰められた××にはもはや、同意すること
しか選択肢は残されていなかった。

 抜け駆けを防ぐために皆でロビーに待機する事となり、一時間程が経過した。未だに状況に変わりはなく、残されていた
○○のスマートフォンにも着信は無かった。もしも自分の意思で○○が姿を消したのならば、四人には兎も角、流石に自分
には連絡が来るだろうと思っていた××も、ここまで○○からの応答が無いことで、霊夢の言うように誘拐されてしまった
のではないかと考えるようになった。咲夜が昼食を作りに行くと言ってキッチンへ向かう。彼女の後ろ姿に魔理沙が、誘拐
犯に誘拐されないようにと、信じてもいない心配を掛ける。
「ええ。気をつけるわ。」
そう短く答えたその言葉が、最後に××が聞いた咲夜の声になった。


501 : ○○ :2018/07/22(日) 22:58:12 AQRq5rdo
 それから時間が経ち、ゆうに昼食が完成してもいい時間となったが、咲夜は戻ってこなかった。不審に思った皆がキッチンへ
向かうと、そこには少し前に出来た昼食があるばかりで、咲夜の姿はどこにも見当たらない。その状況を見た魔理沙が吐き捨て
るように言った。
「ふん、早速抜け駆けか…。案外咲夜が犯人なのかもな。」
この言葉に目の色を変えた霊夢と早苗が、咲夜と○○を逃がすものかと大急ぎで、コテージの中を探そうと駆け出していった。
××も○○の無事を案じ、二人に続いて駆け出そうとする。ふとその場に居たさとりの姿が目についた。無意識の内に彼女の手
を引いて部屋を出る。さとりを怒らせてしまったために嫌がられるかと思ったが、やはり先程と同じくさとりは引かれるがまま
に××についていった。
 方々の部屋を探すも手掛かりは無く、荒い息をつきながら××がロビーへ戻ると、早苗からSMSが××とさとり宛てに届いて
いた。どうやらキッチンに皆は集合しているようである。××とさとりがキッチンに向かうと、三人が地下の収納スペースを遠
巻きに見ていた。××に気が付いた魔理沙が指を差す。
「なあ、何か匂わないか?」
心なしか顔が青ざめている魔理沙の指は、僅かに震えているような気がした。
「ねえ、開けてみなさいよ。」
霊夢が収納スペースを開けるように××に命令する。何やら不穏な雰囲気が漂うこの場所を開けるのに××が躊躇していると、
後ろから霊夢の声が飛んでくる。
「いいから早く開けなさいよ!」
声に押されるようにして、不承不承××は扉を開けた。

 開けた瞬間に、むわっとした血の臭いが鼻を突く。匂いというレベルではなく、刺激となって脳に突き刺さる状態に、思わず
××は息を吸い込んでしまった。一層口から吸い込まれていく異臭。肺を余すことなく犯した臭いの先には、狭い場所に不自然
な格好で押し込まれている咲夜がいた。
「咲夜…さん…。」
声を掛ける××。当然ながら反応は無い。それを認識したとたん、××の神経に酸が流し込まれたような衝撃が走った。死んで
いる!死んでいる!確実に目の前の咲夜は死んでいる!死を忌避する本能が暴れてこの場から逃げ出したくなる。心臓が早鐘を
打ち気が動転し、視界がグルグルと回転する。逃げないと、逃げないと、そう思っても体は動かない。まるで腰が抜けてしまっ
たとよく表現されるように!パニックになった××の視界を後ろから手が覆い隠した。
「落ち着いて下さい、××さん。」
後ろからさとりの声がして、抱きしめられた感覚がした。フッと暴走していた感情が落ち着いた気がした。
「そのまま目をつぶって、口で息をして下さい。」
さとりの手が××の手を導く。何かに濡れた柔らかい物を掴んだ感触がした。
「このままだと可哀想ですから、引き出しますね。××さんは目を瞑ったまま…」
さとりの声に誘導されるようにして、どうにか堪えて咲夜の体を引き出す。予想外に思い感触に苦労しながら、やっとの事で咲
夜を引き出すことが出来た。そのまま××の目を瞑らせて、××の手を顔を洗わせるさとり。柔らかいタオルの感触がただ有り
難かった。
 そのまま衝撃が大きかった××は部屋を出され、残りのメンバーが咲夜の死亡した部屋の状況を見ていた。しばらくして、皆
が部屋から出てきた。そのまま××を連れ立ってロビーに戻る四人。ロビーにつくと、一番先に××が口火を切った。
「なあ、どうして咲夜さんは死んでいたんだ。誰か殺したのか?犯人は分かったのか!」
今まで堪えていた物が一気に吹き出た××。只でさえ○○の失踪という不安な状況で、死人まで出たのであるからある意味混乱
しているのは当然の事であった。
「多分、殺された筈よ…。」
霊夢が重い口を開く。
「殺人なのか?!犯人は誰なんだ!」
××が霊夢に食いつく。
「分からないわ。」
「えっ…。そ、そんな…。勘で何とかならないのか…?」
「そんなに都合の良い物じゃないわ。勘なんて。」
冷淡に霊夢に否定され、動揺する××。こうなっては外部に連絡するしかないと思った瞬間、横からさとりの手が伸びてきた。
柔らかい手が××の頬に触れ、そっと顔が傾けられる。耳元に口を近づけてさとりは小声で言う。
「××さん、それは止めた方が良いです。」
ここに至ってまで、外部に連絡しない事を勧めるさとり。困惑する××にさとりが囁いた。
「もし、××さんが連絡しようとすれば、恐らく霊夢さんが気づくでしょう。○○さんを独占しようとしている三人に一気に襲
われては、いくら何でも生きて逃げられないでしょうから。」
××はただ、耐えるしかなかった。

続く


502 : ○○ :2018/07/22(日) 23:24:34 AQRq5rdo
>>501 続き

 暗い空気がロビーの中を覆っていた。まさか夏休みの部活動の一環として避暑地に来ていた筈が、この様な大事件になる
とは、××は思ってもみなかった。しかしその中においてより一層の狂気を××が感じたのは、死人が出たのにも関わらず
霊夢や他の二名は、警察に通報する等して外部に連絡を取ろうとしなかったということであった。まるで彼女達は○○を逃
すことが他の何よりも-それが例え他人の命であろうとも-恐れているようであり、それ故に彼女達は未だにコテージに留
まっていた。皆口数が少なくなり、ジッとしているばかりである。他の誰かに出し抜かれないようにするためか、あるいは
考えたくない事であるが、他のライバルを手に掛けるために消耗した体力を回復しようとしているか、そのようにすら××
の想像が膨らんでしまっていた。
 夕食の時間となり漸く動きがあった。今度は先の愚を避けるために霊夢と魔理沙の二人が台所に立ち、早苗と××とさと
りの三人がロビーに残されていた。ライバルの二人が居なくなり、早苗の緊張が少し緩んだように見えた。彼女が口を開く。
「ねえ、誰が怪しいと思っていますか。」
早苗が××に犯人を問いかける。しかし××は誰が怪しいかの判断がつかない。
「全く分からないよ…。まさかこんなことになるなんて…、思ってもみなかったから…。」
途切れ途切れに言葉を返す××に見切りをつけ、早苗はさとりに質問を向ける。
「それで、根暗はどうなんですか?さっきもあれだけ死体を見ていたから、さぞかし推理小説で勉強しているんでしょう?」
「…私も分かりませんよ。」
さとりが否定をする。××の方には期待していなかった早苗も、さとりの方には少々期待をしていたようであり、あてが外れ
た状態であった。
「根暗のくせに役立たずですね…。まあ良いです。それで分からないんだったら、どうですか、私に協力しませんか?」
突然の申し出に驚く××。
「一体何を協力するんだい?どうしていきなりそんな風になったんだい?」
当然の疑問を表す××。確かに霊夢は××は犯人では無いと言ったが、果たしてそれだけでそこまで信用出来るものだろうか
と、××は考え込む。
「いえいえ、簡単な理屈ですよ。同類は同じ匂いがするって言いますからね。分かるんですよ、何となくですが…。」
「…どういうことだい?」
「本当に分かっていないんですか…?まあ、ソレがいる以上、××さんには動機がありませんからね。そしてそっちが向いて
いる方向を見てみれば、××さんは安パイというやつなんですよ。」
「うーん、分からないなあ。」
考え込む××の思考を打ち切るように、早苗が結論を迫る。
「それで、どうしますか?私、色々凄いんですよ。」
早苗との距離が近くなり、彼女の使っている香水の香りがフワリと飛んできたような気がした。早苗の体に目が行き、心臓の
鼓動が速くなり、早苗の体のラインから目が離せなくなる。
「痛っ!」
太ももに鋭い痛みを感じ、急に現実に引き戻された。横でさとりが冷たい目で××を睨んでいた。そんな二人をからかうよう
に早苗が笑う。
「フフフ、まあ覚えていて下さいね。私は実は奇跡を起こせるんですから。」
「まさかぁ。それだったら、テストはいつも満点を取れるんじゃないか。早苗さん、そんなに成績良かったっけ。」
「そんな単純なことには奇跡を使いませんよ。」
ニッコリと笑いながら、あくまでも冗談の様に早苗は言う。
「私の奇跡を使えば、死んだ人も生き返るのですから、ね…。」


503 : ○○ :2018/07/22(日) 23:25:14 AQRq5rdo
 皆がロビーで食事を取った後、安全を図るためにロビ-でソファに横たわり雑魚寝することとなった。護身のためにコテー
ジの中からかき集めた色々な道具を、各自で持っておいたり部屋の中に置いておく。××にも唯一の男手ということで、用意
しておいた箒やモップといった長物は割り当てられていたが、××は万が一咲夜を殺した犯人が襲ってきたときのことを考え
ると、甚だ不安に包まれていた。正直、殺人鬼が襲ってきたときに、犯人に立ち向かい他の皆を守る自信など無い。ソファの
割れ目に沿わせるように差し込んだ竹箒の柄を触っていると、それが如何にも頼りない物のように思え、××は机の下の工具
箱に仕舞っている金槌と交換しようかと考えていた。
 思い立った××は非常灯だけを点けた薄暗い暗闇の中で体を起こす。なるべく音を立てないように体を捻ると、横にいたさ
とりが声を掛けて来た。
「××さん、どうかしましたか?」
「いや、ちょっと武器を替えようかと思って…。」
正直に答える××。さとりが優しく返事をする。
「食後のコーヒーを飲み過ぎたせいで目が冴えてしまったんですね。大丈夫ですよ。ここには皆いるんですから、犯人も襲っ
てはきませんよ。ほら、手を握っていますから、安心して眠って下さい。」
さとりに手を握って貰っていると、××の緊張が解れていくような気がし、いつの間にか××は眠りに就いていた。

 翌朝××はすっかり日が昇ったコテージで目を覚ました。周囲の皆も緊張の余りか、すっかり寝込んでいるようであった。
慣れない状態で眠ったせいかガンガンと響く頭を擦り、体を起こして伸びをする。そこには魔理沙は居なかった。
「おい、皆、魔理沙が居ないぞ。」
「ええ…なんですかぁ?」
早苗が寝ぼけ眼といった様子で起きてくる。横にいたさとりも顔を上げ、霊夢を起こしにいった。
「うん…。魔理沙が居ないの……!」
数秒で事態を把握する霊夢。直ぐに隠し持っていたナイフを取り出して猫の様にソファから飛び起きる。
「行くわよ。」
臨戦態勢をとり、皆は一団となってコテージの捜索に移った。


 魔理沙は廊下に倒れていた。咲夜の時とは違い、周囲に血は流れていない。しかし彼女もまた、不自然な格好でピクリとも
動かない。生きている筈ならば、呼吸がして体が僅かに動くのが注意深く見れば分かるだろうに、それが一切感じられない。
時間が止まってしまったような魔理沙を、おそるおそる××が肩に手を掛けて揺さぶる。
「魔理沙、おい、魔理沙、大丈夫か?」
一分の望みを賭けたために力が籠もったのであろうか、ゴロリと仰向けに力なく転がった魔理沙は、虚ろな目をしていた。驚
愕の余り自分の呼吸が止まる気がする××。彼女の首筋には、青黒い一本の痣がクッキリと付いていた。
「うわ、わあああー!!」
爽やかな朝のコテージに、××の悲鳴が響き渡った。
やっとのことでロビーに戻った××は、すっかりショックを受けていた。ソファーに座り込んでいる××の横で、さとり
が慰めてようと話しかけているが、落ち込んでいている××は空返事のみであった。ふとスマートフォンをチラリと見たさ
とりが何かに気づいた。そして他の三人に向けて唐突に言う。
「皆さん、ババ抜きでもしませんか?」


504 : ○○ :2018/07/22(日) 23:25:54 AQRq5rdo
 さとりはトランプを持ち出してカードをより分けていく。普通のばば抜きならば五十四枚にジョーカーを一枚加えた五
十五枚のカードを使うのであろうが、さとりはもっと少ない数を使う積りのようである。一そろいのカードを半分以下に
して、おもむろにマジックを取り出した。
「これだけ少ないと、ジョーカーが来ると直ぐに分かるでしょうから、マジックで別の奴に印を付けておきますね。」
-その方が面白いでしょうから-と言って、さとりはトランプに何かを書き込んだ。早苗がこれに反対する。
「それって、そっちが有利になりすぎじゃないですか?」
「ええ。ですから、私のカードを最初に霊夢さんが引いて貰えれば良いですよ。直ぐに終わるでしょうから。」
そう言いながらカードを配るさとり。そして霊夢の方にカードを差し出す。
「…これにするわ。」
ババ抜きの一巡目という、普通ならばノータイムで選択をする場面であるが、霊夢は十秒程考えていた。さとりのカード
から一枚を引くと、暫く考え込む。そして手持ちのカードを捨てて、一枚だけ上に突きだして早苗にカードを選ばせた。
「これにしますね。」
早苗もまた、暫く考えた後にカードを一枚選んだ。そして手持ちのカードを捨てると、残り一枚となったカードを××の
目の前に持ってくる。
「上がりですね。ババはしっかりと体で隠して他の人に見えないようにして下さいよ。」
そう言う早苗から××がカードを取ると、果たしてハートのエースに、マジックで文字が書き込まれていた。
「窓の外に人が居て、こっちを見ています。」
心臓が捕まれたような衝撃を感じた××が、ビクリと震える。今、まさに自分の背後に人が居て、自分を見つめている。
そう考えると全身の血液が激しく流れ、心臓がバクバクと震えるような気がした。それを見た霊夢が冗談のように言う。
「馬鹿ね、ババを引いたのがわかりやすすぎよ。」
この状況の中でなんでもないように振る舞う霊夢は、驚嘆するべき精神力であった。二巡目に入りさとりが××の手札か
らカードを引き抜き、追加のルールを宣言する。
「折角ですから、ババをもう一枚追加しましょうか。」
そう言って更にカードに何か書き込み、それをシャッフルする。霊夢はやはりカードを見極めて一枚のカードを取り、横
にいる早苗に見せてから他のカードを捨てた。
「ほら、これが最後よ。負けたら罰ゲームだからね。」
そう言われてカードを取る××。そのカードにはもう一文が書かれていた。
「携帯を見られている。」
今度は何とか動揺を押さえ込んだ××は、さとりに向けてカードを差し出す。そして再度さとりがカードに文字を書き込み
カードをシャッフルする。震える手でカードを取ると、そこには別の文が書かれていた。
「この後、私と部屋を出て下さい。」

 さとりと部屋を出た××は、廊下を歩く。ぎこちなく歩く××にさとりが話しかける。
「ここは大丈夫ですよ。さっきの人は未だ窓の所に居ますから。」
「一体そんな奴がいたなんて…。そいつが犯人なの?」
激しく動揺する××であったが、さとりは冷静であった。
「さあ、どうでしょうか…。それを聞きに行きましょうか。」
「えっ…。まさか…。」
嫌な予感が××の脳を過ぎる。
「そのまさかですよ。今なら霊夢さんと早苗さんが囮になっていますから。」


505 : ○○ :2018/07/22(日) 23:27:01 AQRq5rdo
 二人は廊下から玄関に出る。途中、××は園芸用の網を持ち出した。そっと扉を開け、外の様子を窺う。角に身を隠して
ゆっくりと進んで行くと、フードを被った怪しい人物が、窓からコテージを覗いているのが見えた。よっぽど熱中している
のか、窓に顔を押しつけている不審者。さとりはあっさりと近づくと、おもむろにスプレー缶を風上から噴射した。
「ゴホッ、ゲホッ、何ですか!」
咽せながら地面に倒れ込む不審者。××は網を不審者に被せ動きを押さえる。窓が開き、霊夢と早苗が勢いよく乗り出して、
あっという間に持っていたロープで、不審者を縛り上げてしまった。

不審者のフードを取って顔をよく見てみると、××の顔見知りの人物であった。同じ学校に通う××と○○の後輩である
妖夢であった。思わぬ人物の登場に呆気に取られる××。一方の霊夢と早苗は厳しく妖夢を責め立てる。
「あんたが犯人だったのね!○○さんは何処よ!」
「え、何の事ですか!私も○○さんを探していたんですよ!」
「嘘言っているんじゃないですよ!咲夜さんや魔理沙さんを殺したのはあなたなんでしょう!」
「違います!私、何もしていません!」
必死に否定する妖夢であったが、霊夢が得意げに証拠を突きつける。
「じゃあ、どうして窓にへばりついて見ていたのかしら?これじゃあ、まるで次に殺す人を狙っているようね。」
「違います!私○○さんと連絡が取れなくなって、それでここに来たんです!」
あくまでも自分は関係ないと言い張る妖夢であったが、更に霊夢が突っ込んでいく。
「へぇ…。じゃあ、どうしてSMSの履歴が、○○の分も既読が付いているのかしら?○○の携帯は今、私達が持っているのよ?」
「それは…。」
言いよどむ妖夢。ふと霊夢の視線が、もみ合った際に落ちたスマートフォンに向かった。必死にそれを隠そうとする妖夢。霊夢
はそれを見逃さなかった。
「早苗!それ!」
「はい、霊夢さん!」
阿吽の呼吸でスマートフォンを奪う早苗。指紋を押し当てて強引にロックを解除する。
「うわー、私達の会話が全て見られていたじゃないですか。」
妖夢の携帯を探る早苗が、驚きの声を出す。おそらくそこには、○○のアカウントだと思って会話していた内容が、全て記載さ
れているのであろう。
「違うんです、私○○先輩と付き合っていて、それでしつこい人が居るって聞いたから、その人達の相手を先輩の代わりにして
いて、それで今日も先輩と連絡が取れなくなったから、心配になって、それで…。」
泣き出す妖夢。いきなり外で襲われて押し倒されてしまえば、そうなってしまうのも当然のように××には思えた。霊夢と早苗
は尚も妖夢の事を信じようとしない。コテージの個室に縛り上げた妖夢を連れ込んで、中で尋問をすると言い出した。それには
流石に反対した××であったが、凶器を持った二人相手には、強硬に出ることができない。そして霊夢の方からも、妖夢が犯人
かもしれないと言われてしまえば、それを止めることはできなかった。


 霊夢と早苗がボロボロになった妖夢を、××の元に連れて来た。余りの惨状に言葉を失う××を尻目に、霊夢が早苗に向かっ
て言った。
「私さ、この事件の犯人と○○の居場所が分かっちゃったと思うのよ。これから一緒に行かない?」
そして早苗の方も霊夢を見て言う。
「私もそうなんですよ、お揃いですね、霊夢さん。」
手に濡れた凶器を持ちながらも、お互いに表面上には敵意は見えない。××も○○の元へ行こうと、霊夢と早苗の二人について
行こうとすると、さとりが××を引き止めた。
「行かないで下さい、××さん。」
「○○が心配だ、行かないと。」
なおも行こうとする××を、さとりは説得する。
「女性一人を殺人犯かもしれない人と、二人っきりにするんですか?」
そう言われてしまえば、××はさとりを一人にすることはできず、霊夢と早苗の帰りを待つこととした。

続く


506 : ○○ :2018/07/22(日) 23:43:03 45jiUOJ2
>>505
あれか……数的に不利だから、各個撃破を犯人は狙っているのか
けれども、動機が分からないな
さとりも腹の底が何にも分からなくて不気味


507 : ○○ :2018/07/23(月) 20:29:15 kpIIQ4I6
もしも○○が、人を殺めてしまったら
ヤンデレ娘がやるのは、心理的障害がほとんど無いけど


508 : ○○ :2018/07/25(水) 01:39:46 KITKIw8o
>>505 続き

 霊夢と早苗が部屋を出て行くと、さとりは妖夢から手を離した。散々に二人から痛めつけられた妖夢は、床に倒された
格好のままで動かない。余程手酷く傷付けられたのだろう。血がドロリと流れ出るが、それを拭う気配すら見せない。流
石に可哀想になった××は、手持ちのハンカチで血が流れる傷口を押さえる。タオル地のハンカチが忽ち染まっていく。
傷口に触られた妖夢が、僅かに呻き声を漏らした。
「××さん、替わります。」
大きなタオルを持って来たさとりが××に替わって、妖夢の傷の手当をする。
「何か手伝えることはあるかな?」
××はさとりに尋ねたが、さとりは××の手助けを断った。
「お気持ちは嬉しいですけれど、こういうのは女性の方が良いでしょうから。」
気が動転していた余りに、そんな単純なことにも気が付かなかったかと恥じて妖夢から離れる××。手持ち無沙汰になっ
た彼に、さとりは用事を頼んだ。
「××さんはドアの近くで、霊夢さんが帰ってこないか聞き耳を立てておいて下さい。」
確かに先程の霊夢は異常であった。普段の彼女はとても良いクラスメイトだったし、いくら○○を巡って四人で牽制して
いたとしても、それはあくまでも恋の鞘当て-いわゆるそういった単語で済ませても、問題はない程度のものだったから
である。それが今では殺人事件にまでなってしまい、さっきには拷問まがいのことまでするという、正に狂ってしまった
と言わんばかりの状況になってしまった。そう考えると、昔の部活を思い出されてきた。楽しかった部活。○○や霊夢、
早苗、魔理沙といったクラスメート、咲夜先輩や後輩の妖夢といった他の学年の部活仲間。そして皆が○○の方を気にす
る中で気づかないうちに××のことを気にかけてくれていたさとり。色々な思い出が頭の中を過ぎる。泣いている自覚は
自身には無かったが、知らぬ間に頬が濡れていた。

 感傷に浸っていた××の耳に足音が聞こえてきた。重い足取りの音が一人分聞こえてくる。××は無言のままで大きく
手を振ってさとりに合図を送る。扉を離れてこっちに来るように、というサインが向こうから返ってきた。
 ガチャリと音をたてて扉が開かれる。服を着替えた霊夢が戻って来た。スカートの上からつけたベルトのズレを気にし
ながら、霊夢は言った。
「ようやく犯人が分かったわ。」
「!!」
驚く××。霊夢はさとりの横にいる妖夢を指差しながら、話しをする。
「結局、そこの妖夢と早苗が全部仕切ってたのよ。○○もその二人で監禁していたわ。」
-だから-と霊夢は続ける。もうすぐ全てに決着がつくかのように。
「そこの女を渡してくれない?」
「嘘だ!」
妖夢が叫ぶ。後ろ手になりながらも、その声には気迫がこもっているように思えた。
「本当にそうでしょうか。妖夢さんは否定していますよ。」
さとりも霊夢の主張を否定する。二人に否定された霊夢は、××に説得のターゲットを変えた。
「××、あそこの女は先輩や魔理沙を殺したのよ。今始末しないと、犯人を知った私達まで殺されるわ。」
「……。」


509 : ○○ :2018/07/25(水) 01:40:35 KITKIw8o
沈黙を続ける××。もう少しで落ちると踏んだ霊夢が説得を続ける。
「お願い、そこの女だけが○○の居場所を知っているの。そこの女に話しをさせて。」
「……!」
○○のことを持ち出されて××の心が激しく動いた。もし○○の居場所を知っているのが妖夢だけなら、今ここで妖夢から
聞き出さないと、○○を助け出すことができなくなる。焦りと疑問の狭間で××の心が揺れる。
「私のことはどうでもいいの。○○を助けられるのは××、あなただけよ。」
「ほんと「負けましたよ。」
霊夢に答えを返そうとした××に、さとりが割って入る。
「××さんを人質に取られた以上はこっちの負けです。妖夢さんを渡します。××さん、この人の肩を持って、霊夢さんに
渡して下さい。」
妖夢を立たせ、彼女の後ろ手にくくりつけられたロープの先を××に渡すさとり。霊夢に従うこととした××であったが、
それでもいざ引き渡すとなれば迷いが生じた。
「霊夢さんに渡したら直ぐに後ろに引いて下さい。間違っても庇おうなんてしないで下さいね。」
××の迷いを見透かすかのように言い含めるさとり。その目の真剣さに××は頷かずにはいられなかった。
 妖夢を連れて霊夢の元へ歩く××。高原の風がロビーに入りカーテンを揺らした。
「ご苦労さん。」
霊夢は××から妖夢を受け取る。襟首がつかまれ、妖夢の体が引き寄せられた。霊夢が空いた利き手を背中に手を回す。
「下がって!」
反射的に妖夢の方向へ行こうとした××の腕を掴み、さとりが引き寄せる。そのまま××を引っ張って窓の方へ走るさとり。
「あああああ!!!」
凄い叫び声が後ろから聞こえてきた。××の視界の端で、もみ合いながら床を転がる二人の姿が写る。縛られていた筈の妖夢
は、両手で霊夢に掴みかかっていた。
「飛んで!」
さとりに従い、開けた窓から外に飛び出す××。外には夏の青空が広がっていた。
「こっちに妖夢さんの自転車があります!」
コテージより少し離れた場所へと誘導するさとり。さとりの持っていた鍵でロックを外し、自転車に二人で乗る。置いてあっ
た自転車が山道を走るのに向いているマウンテンバイクでなく、後ろに荷物台があるタイプであったことに、××は心の中で
今まで信じたこともなかった神に祈りを捧げた。

 できる限りのスピードで山道を下っていき、麓の公道に辿り着いた二人。自転車から崩れるように降りた××は、疲れのあ
まり道ばたに腰を落として座り込んでしまった。丁度迎えに来た車に事情を話し警察に連絡をとってもらう間、疲れた体を休
めながらも、××はさとりに事件の真相を尋ねた。
「結局は誰が犯人だったんだろうか。」
「……さあ、誰だったんでしょうね。」
「○○はどうなったんだろう。」
「どうなったんでしょうね。生きていればいいですね。」
二人の間に沈黙が流れる。木々のざわめきだけが、そこでは音をたてていた。
「…さとりはどこまで分かっていたの?」
「何も知りませんよ…。でも、××さんが無事で良かったです。ただ、それだけです。」
サイレンの音が遠くから聞こえてきた。


510 : ○○ :2018/07/25(水) 01:47:23 KITKIw8o
題名「探偵のさとり」が以上になります。対になる物語にて裏側を書きたい


511 : ○○ :2018/07/25(水) 14:18:39 2ZJDXKu2
ノブレス・オブリージュに囚われて(168)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=158
>>510
邪魔だと思うものをすべて潰すというのは、やっぱり王道ですね
普通、全部排除するまでの間に。罪悪感や、暴走で上手く行かないものなのに
霊夢はきっちり、冷静に全部始末した……それがすごく怖い


ふと思ったけれど、純狐さんは物凄いモンペになりそう
それから隠岐奈様は芸能の神様であり養蚕の神でもあるから、星神に比べたら前二つは世情の安定がないとついてきてくれ無さそう
○○の周りを、ディストピアに両足突っ込ませようとも安定させて
自分たちが舞う能楽を永遠に見せてくれそう


512 : ○○ :2018/07/25(水) 22:06:47 jnZ5tTFA
あれ、絵師さんのイラストまた消えてる…?


513 : ○○ :2018/07/25(水) 22:40:58 KITKIw8o
>>510の作品の対になる作品になります。

 黒幕のさとり

 夏休みを利用した部活メンバーでの合宿は、避暑地で有名な高原のコテージを利用した、泊付きの本格的なものであった。そこに
参加したメンバーは大半が女性であり、しかも間の悪い事に一人を除いては、今回の合宿を○○との距離を近づけようと考える者ば
かりであったため、○○が突然姿を消した今、コテージに気まずい沈黙が走っていた。
「で、○○は結局、どこにいるの?」
泊まりがけの朝から○○が居なくなり、霊夢の機嫌は非常に悪いものとなっていた。それは当然だろう。今まではお得意の勘で○○
に近づく女性を度々牽制していたのに、今は○○の居場所が掴めないのだから。泊まりがけの朝、という日程も重なり、霊夢の心の
中では悪い妄想が広がっていく。一方の魔理沙も○○の居場所に心当たりがないようである。必要があれば盗聴器やGPSを○○に仕込
んでいる彼女も、この合宿では流石に活用できないと判断したのだろう。まあ、そもそも今仮に、○○にそれらが取り付けてあった
としても、今の○○の状態では役に立たないであろうが。
「二人とも、言い合っている場合じゃ無いでしょう?まずは○○を探さないといけないわ。」
 そう言って二人を宥めにかかる咲夜こそが今、○○を確保していた。物ではないのに確保とは少々言葉が不自然なのは否めないが、
それでも人間を監禁するというよりは、物体のように確保しているといった状況の方が、現在の○○の状態を正確に表している。咲
夜が他の人間に隠している秘密の能力、時間と空間を操る能力により、○○は時間を止められて缶詰と一緒に、キッチンの収納スペ
ースに押し込まれているからだ。咲夜の心の声を読む分には、どうやら昨日○○にアプローチをして断られたために、衝動的にやっ
てしまったらしい。当然である。そもそも○○は後輩の妖夢と付き合っているのだから。全くもって自意識過剰な肉食系丸出しと言
わんばかりの女だが、ここに至っても堂々と振る舞うのは、ある意味感動さえする。少々見習いたい程に…。そうしている間にも、
場の空気は悪くなっていた。咲夜に早苗が噛みついて争いを広げていく。実家が新興宗教をやっている早苗は少々ズレている。どこ
か明確に悪い訳ではないのだが、常人ならば違和感を感じるその態度、空気が読めていないだの、常識が無いだのと言われる彼女で
さえも、○○は拒否をしなかった。それを良い事に○○に纏わり付いているのだから救われない-教祖をやっている癖に。
「あのう…取り敢えず○○さんを探しませんか?」
早苗と咲夜の言い争いが沸点を迎える前に、取り敢えず二人を止めておく。二人だけならばどうぞ心ゆくまで、世界の果てで争って
いて下さいな、と言いたいのであるが、この場所には××さんがいる。ああ、私の××さん。私だけの××さん。私の全てを捧げて
も足りない程の存在の××さんは、彼女達四人の諍いに心を痛めている。ああそんな、そんな女の醜い争いなんかに心を痛めなくて
もいいのに、優しい××さんは部の雰囲気が悪くなることだけでなく、争っている四人に対して心配をしていた。勿体ない、あまり
にも勿体ない。そんな物、泥棒猫同士の争いなんてどこかの犬にでも喰わせておけばいいものを、それでも持っているなんて慈悲深
すぎる。そして四人は予想通りに、お互いを牽制し合いながら○○を探しに行ってしまい、後には私と××さんだけが残された。
「…行こっか。」
私を誘う××さん。正に計画通りの展開に、私は内心の笑みを殺して頷いた。


514 : ○○ :2018/07/25(水) 22:47:01 KITKIw8o
>>511
○○は果たして回復するのか、おそらく映姫様は回復させるとマズイと思っていたから
ああやっているのだろうけれど…

しかし、問題が明らかになったということは、これが一番の底になればいいな
→な、なるよね、きっと…
と一抹の不安が生じる場面でした。乙でした。


515 : ○○ :2018/07/27(金) 23:27:25 B72.RMwQ
長編さんって、文章が国語の教科書並みに古風なんだけど
普段は何やってんだろ


516 : ○○ :2018/07/28(土) 00:10:43 CXFqvAWM
俺も長編さん並みの文書力があったらなぁ


517 : ○○ :2018/07/28(土) 00:56:58 vs3OPTwE
>>513 続き

 埃だらけの部屋の中で××さんと一緒に、居なくなった○○さんを探すふりをする。××さんは額に汗をかきながら一生懸命に
部屋の中を探していた。そこに○○さんは居ないと知っている以上、××さんの頑張りが無駄になってしまうのをただ見ているだ
けなのは気が咎めてしまうが、それでも××さんと一緒にいられることがとても嬉しかった。
 幸せな気分で部屋の中を探している途中に、××さんがあまりにも無理をしていたので、思わずお節介を焼いてしまった。もっ
と自分を大切にするべきだと言った私に対して、あろう事か、自分なんかよりもあの女子の群れの中で、○○さんの方を探したか
っただろうにと××さんは言った。ああ、一体どういう事なのか。どうしてしまったのか。私はずっと××さんのことしか見てい
なかったのに!それを他の女と一緒にするなんて酷すぎる!咄嗟に××さんの心の中を読む。そして気の迷いで言っているのでは
なく、本心でそう思っていたと知ると私の心の中に大きな衝撃が走った。そしてそれ以降、私は××さんの方をまともに見ること
ができなかった。もしも××さんが、私が他の人を狙っているなんてことを考えているのを読心してしまったら…そう考えると、
とてもではないが、××さんと目を合わせることができなかった。

 部屋に戻ると四人が、○○さんのものと思われるスマートフォンを弄くっていた。下らない。そのスマートフォンは○○さんの
私用携帯なんかではなく、ただの連絡用に使っているだけのものなのに。お前達が○○さんだと思って会話しているのは、悪い虫
付かないように見張っている妖夢なのに。それに血道をあける四人を見ると、○○さんの誘拐なんてどうでもよくなってきた。精
々報われないなりに頑張って欲しい。自分が××さんの視界に、入ってすらいなかったことにショックを受けながら四人の奮闘を
見ていると、霊夢が突拍子もないことを言い出した。
「つまり○○さんは誘拐されたのよ。」
良かったね、おめでとう、正解だよ。まあ、犯人は目の前に居るけれどね。取り敢えず警察を勧めておくが、霊夢は警察に連絡を
取る素振りを一向に見せない。
「その必要はないわ。」
おかしい。○○さんのことになると普段の冷静さが無くなる筈の霊夢がやけに不気味だ。
「○○はこの近くにいる筈だから…。」
マズイ、早苗の目つきが変わった。完全にこちらを犯人と思い込んでいる。距離を取ろうとした瞬間に、犯人と決めつけて殺しに
掛かってきそうである。身動きが取れずに固まっていると、××さんが私を庇って抱き寄せた。
 ××さんに抱かれて体が固まる。こんな時なのに好きな人に抱きしめられて、全身を血液がさっと巡り顔が赤くなった気がした。
沈黙が続く室内。霊夢がそこに割って入った。


518 : ○○ :2018/07/28(土) 00:57:38 vs3OPTwE
「××は犯人じゃないわ。」
やられた!敢えて××さんだけが犯人から除外された。そして駄目押しの霊夢の目線。これで完全に××さんが人質に取られた。
ここで仮に私が逃げ出せば、○○さんと自分自身以外は全て塵以下の価値しか認めていない狂人共の中に、××さん一人を取り残
してしまう。良くて人間の盾、悪ければ邪魔になった瞬間に、あっさりと殺されてしまうだろう。私にそれができないことが分か
っている霊夢は、皆に大胆な提案をする。
「いい案だな。」
と魔理沙が乗れば、残る早苗も賞品に惹かれてやる気満々である。二人は止められない。ならばこのゲームに乗れば損をする咲夜
を味方に付けて、三対三に持ち込むしかない。チラリと咲夜の方を見る。計算高い彼女は両手を挙げて、霊夢と真っ向から衝突す
ることを早々と諦めていた。心の中で元凶の咲夜に罵声を浴びせておく。賽は投げられた。私は最早四人の狂人、しかも一人は絶
賛監禁を行っている犯人が混じっている中から、何としてでも××さんを守り抜かなければならない。希望は蜘蛛の糸の様に細い。
しかしそれでも私はやらなければならない。例え他人の全てを犠牲にしたとしても、××さんのために…。

続く


519 : ○○ :2018/07/28(土) 23:26:38 vs3OPTwE
>>497さんのネタを使用

博霊神社で納涼にかこつけた宴会が開かれた時、私はその人に会った。落ち着いた桜色の服を着た、地味だが粋な男性。
肌は外に出たことがないかのように白かったが、それが病弱から来る物ではないように思えた。近づきの挨拶として会釈
をし、杯に透明な酒を注ぐ。向こうからの返礼を飲み干してから、私は彼に話しかけた。
「いやあ、最近はいやに暑くなってきましたね。」
「…………。」
ニコニコと笑いながらこちらをみている彼。身振り手振りはまるで言葉を話しているようであるが、彼は初期のトーキー
映画のフィルムのごとく無言であった。
「どちらからお越しになられましたか?私は里の方から最近こちらに越して来まして。」
「……、……。」
やはり返事は無い。何かを話している意思はあるのだが、それが言語として空気を震わせる事は無い。彼は何か具合が悪
いのであろうか。場合によっては誰か人を呼ぼうかと思い、彼に確かめた。
「どこか具合でもお悪いですか?お連れの方は居られますでしょうか?」
「………!」
否定するかのように手を振る彼。はて、どうしたものかと考える私の後ろから、声が聞こえた。
「○○さん、声を出すのをお忘れですよ。」
私を通り越し、静々と彼の隣に座る彼女。そして彼女は彼に代わって私に返答をする。
「失礼しました。主人は地底で暮らしているもので、少々声を出すことを忘れてしまったようでして。」


520 : ○○ :2018/07/28(土) 23:27:48 vs3OPTwE
「ああ、そうでしたか…。これは失礼を。」
軽く引いてしまった私を尻目に二人は仲良く杯を注ぐ。二人の間には言葉は無く、それでいて濃密な会話が成されていた。
厄介者は必要ないかと思い、二人に席を立つ旨を告げる。
「それでは他の人にも挨拶したく思いますので、失礼。」
「お気遣い、ありがとうございます。奥様がお待ちですよ。」
-いえ、独身ですが-と反射的に返事をしようとして固まってしまう。彼女がそう言うのであれば、そこには意味がある。
「あらあら、困らせてしまったようでしてすみません。ですが、人間として生きていかれるお積もりであれば、あちらの
女性にご挨拶なされた方が良いかと。」
優しい笑顔で言葉を続ける彼女。恐らく彼女は全て善意で行っているのであろう。私はどうして以前に里にいる者から、
彼女に近づくべきではないと言われたのか、その意味を知った。
「小鈴さん、こちらの御方、○○さんと言われるのですが、実は最近外界から幻想入りされまして…」
「あらそうですか。実は阿求から、最近新しい人が幻想郷に来たと聞いていまして…」
知ってしまった以上、私には他の道を選ぶ勇気は無かった。


以上になります。


521 : ○○ :2018/07/29(日) 07:30:08 JitzSvJM
まとめ管理人様更新乙です


522 : ○○ :2018/07/30(月) 06:15:14 o3rts/W.
>>520
なんか、もうさとりの旦那は安楽椅子にずっと座ってそうだな
それでも、ピリッと頭を動かせばさとりが気付くんだから
妖怪は精神的と言うが、あまりにも精神に割り振りすぎと言うか


523 : ○○ :2018/07/31(火) 22:06:34 asyCU7Cg
>>518 続き

 皆がロビーに集合して数時間が経ち、○○を巡る事態は膠着をしていた。誰かが○○を一人で手に入れることがないように、
全員が見張り合いをする中で、部外者からすれば一見動きはないように見えるが、心の内では各々が他のライバルを出し抜い
て、○○を独占しようと作戦を練っていた。ご苦労千万なことだが、○○を唯一解放できる犯人を封じているのでは、結局動
く事はできない。時間だけが過ぎ去って行くなかで、各々の心の内に焦りが徐々に積み重なってきていた。特に咲夜の心は乱
れが大きくなっていた。自分が折角○○を確保したというのに、○○が失踪したことを他の人に気づかれてしまい、こうして
今、動きを封じられている。本当ならばこの瞬間は○○と蜜月を過ごしているのにという果てもしない妄想と、もし○○が見
つかってしまえば終わりだという緊迫感が、彼女の心の中で波のように押し寄せていた。理性の壁でどうにか防いでいる衝動
も、波が寄せるかのように何度も感じていれば我慢の限界が来る。いずれ咲夜が行動に出る瞬間が来るであろうことは、明白
に感じられた。
 しかし、一方で魔理沙はひたすら音楽プレイヤーを聴いていた。他の人から見れば、暇を潰しているだけに過ぎないその行
動も、実際は盗聴器に仕込んだ音を早送りで確認している。どのような音も聞き漏らすかとする真剣さが、音楽を聴くに相応
しくない表情をもたらしていたが、○○を案じているというお題目が掲げられている今の状況では、それ程に不自然には見ら
れなかった。第一早苗は小声で独り言をずっと言っているし、霊夢も厳しい表情のままで目をずっと閉じている。コテージの
至る所に仕掛けた盗聴器を通じて魔理沙は、○○はどうやっているのか、どこに居るのか、誰が監禁しているのかを必死に解
析しているが、時が止められた○○は息一つ、心臓の鼓動一つすら物音をたてない。未だに魔理沙は手掛かりを掴めない状況
でもがいていた。


524 : ○○ :2018/07/31(火) 22:07:33 asyCU7Cg
 そろそろ状況が煮詰まってきた。仕掛ける時間が来たようなので、魔理沙に聞こえるように小声を漏らす。
「本当に○○さんは見つかりませんね。」
「…そうだな。」
手掛かりが見つからない中で声を掛けられて、やや反応が遅れる魔理沙。上の空の彼女のヒントを流し込んでいく。
「どこに行ったんでしょうね。屋敷の中は隈無く探したのに、まるでトリックでも使って消えてしまったようですね。」
「○○はこのコテージの中にいるわよ。一応、言っとくけど。」
捜査を継続したい霊夢が釘を刺しにくるが、構わず次のヒントに移る。
「人の居そうな場所は全部探しましたからね。とすれば忍者の様に固まって天井裏にでも居るのでしょうか?」
或いはネズミのように、なんて冗談で付け加えた日には、最低でもビンタか蹴りが飛んでくるであろう言葉を飲み込んでおく
-実際には、それより狭い場所に押し込められているのだが。それを聞いた魔理沙が考え込む。ついでとばかりに付け加えて
おく。
「あるいはホラー映画のように、秘密の地下室なんてあるのでしょうか。」
「ばっかみたい。そんなのあれば一発で分かるわよ。」
霊夢は吐き捨てるように言って、再び目を閉じた。尚も魔理沙は考える。どこにも居ない○○、そんなことが出来るのは誰か?
まるで手品の様に…手品!そういえば咲夜は手品を得意にしていた。それも時間を止めていないと出来ないような手品しかし
ていなかったが、その腕前はプロ級だった。もし仮に彼女が時間を止めることができたなら、○○の時間を止めてしまうこと
で、冷凍食品を保存するかのように扱うことができる。しかし人間を閉じ込めて置いておけるの場所は、あの二人が探しつく
している。それこそ倉庫に至るまでを。ならばどこに○○を置くことができるのか、天井裏?いや、そんな重労働は女には無
理と考えるべきだ、ならば逆に地下、それも簡単に押し込める地下は…そうか、食品を保存する収納庫が台所にあった筈!
ならば今すぐそこに行って…いや、もし咲夜が来たらどうするか。時間を止められたらこっちはお手上げだ。ならば罠を張る
べきか…。立ち上がる魔理沙。既に頭の中では無数の罠の構想が浮かんでいた。

続く


525 : ○○ :2018/08/01(水) 01:00:45 hq1MO5p.
>>524
みんな、目につく人たちみんな真っ黒ですね


526 : ○○ :2018/08/01(水) 16:08:10 eSfwFAsE
ノブレス・オブリージュに囚われて(169)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=159

>>524
愛する人以外は等しく価値がない……一線を越えていないさとりが一番マトモそうに見えるけれども
少しでも状況が悪くなれば、さとりだって簡単に恋人以外は全部犠牲にできるんだから。根っこは同じだな

ふと、妹紅は無視や無感情と言う状況に陥るぐらいならば
嫌われ続けて、復讐を受け続ける駄目な注目でもいいやと、簡単に考えそう
それで、まぁ。その状況は、自分の肝臓をだまして食わせるという形で

それからてゐが無意識のうちに○○の幸運を奪い、そして○○が逼迫するも
てゐの協力で盛り返すみたいな


527 : ○○ :2018/08/03(金) 17:54:15 8LHaXN7.
水蜜「あの浮き輪○○の息がパンパンなんだよね…」


528 : ○○ :2018/08/05(日) 20:57:48 Jhggi0kc
すごろくとか、とにかくサイコロを使う遊びで
ゲンかつぎとして、サイコロに息を吹き掛ける描写をドラマで見たことあるけど
ヤンデレ娘は、そのサイコロを持って帰るだろうな


529 : ○○ :2018/08/06(月) 22:03:30 4aVWh6Ys
>>524 続き

「ちょっとコーヒーを入れてくるぜ。」
そう言って魔理沙が立ち上がった。勿論目的は違う事にあるのだが。
「じゃあ、私も頂戴。」
ならばとばかりに霊夢が自分の分も欲しいと言う。○○をキッチンに隠している咲夜は僅かに震えた。そうと知っていない
と分からない程の微かな動き。だが、既に知っていた魔理沙にとっては、推理の正解を教えてくれるものとなった。
「皆飲み物が欲しいでしょうから、私も手伝うわ。」
魔理沙を野放しにさせじと、咲夜は自分も一緒に行くと言い出した。
「いや、咲夜先輩はいいですよ。一人でちょっと考え事をしたいんで。」
二人の間に火花が散る。口に出せば忽ちの内に終わる危ういジレンマ。
「…そう、遅くならないように気をつけてね。」
先に勝負を降りたのは咲夜の方だった。例え魔理沙がいくら○○を見つけたとしても、時間を止めていればどうしようもな
い。そう考えたのは間違いではないのであるが、しかしそれが物理的に正しいものであったとしても、そこには欠点があっ
た。致命的なまでの大きな見落としが。


530 : ○○ :2018/08/06(月) 22:04:04 4aVWh6Ys
 魔理沙がコーヒーを持って帰ってきた後。昼食の時間となると咲夜は率先して準備を買ってでた。魔理沙が先程の時間の
間に、○○を見つけたかどうかが気に掛かり、急いでキッチンに向かう咲夜。帰って来た魔理沙が皆に何も言わなかったこ
とから、恐らく○○は見つかっていないと咲夜自身は考えているのだが、それでも不安になる物である。勢いよく収納スペ
ースの扉を開ける咲夜。棘が刺さったのか手に痛みを感じたが、それよりも○○の方が心配であった。祈るように中を覗く。
いた、○○は自分が押し込めたのと同じ状態であった。途端に気が楽になり、上機嫌で昼食の準備に取りかかる。まだ○○
を自分の物には出来ていないが、それも時間の問題である。今日の夜にでも時間を止めて○○を部屋に連れ込んで、コッソ
リと既成事実を行ってしまえばいい。○○に事後の状態だけを見せれば、後から酔って襲われたと言っておけば、○○は否
定することができない-記憶の無いものは否定すらできないのだから。きっと責任感の強い○○は自分の物になるだろう。
 それを想像しながら鼻歌を歌ってフライパンを動かしていると、グラリとめまいがした。咄嗟にコンロの火を消す。熱く
なったフライパンを避けるようにシンクに手を付くが、手は体重を支えられずに体ごと床に崩れ落ちた。視界が暗くなって
きて、音だけの世界になる。○○が居るであろう方向に手を伸ばすが、暗闇の中で何も掴めない。自分の息がゆっくりにな
り、指に力が入らなくなってきた時、魔理沙の声が聞こえた。
「よう、死んだか?」
そしてそこで漸く、彼女は自分が罠に掛かったことを知った。

続く


531 : ○○ :2018/08/06(月) 22:09:11 4aVWh6Ys
三人称と独白が難しい…

>>526

小町は一連の出来事の後に、日常に戻れる気がするけれど、鈴仙は二度と正常に
戻って来れなさそうなポイントオブノーリターンを突破したような気がしますね。
それを誇りにすら思っていそうな。

>>527
浮き輪をいつも抱える水蜜。いい加減に呆れた寺のメンバーが浮き輪を掴んだ
瞬間に、碇が飛んできそう。


532 : ○○ :2018/08/06(月) 22:53:42 4aVWh6Ys
ネタ投稿

 大妖怪のスキマの中、暗く大きな部屋の中に人妖がいた。賢者の計らいであろうか、お互いの顔が分からない
状態で席に座る面々。小さな、恐らくは少女であろう一人の人物が正面に座り、会議が始まった。
「それでは、某所の人気投票を踏まえた結果を基に、今回の会議を始めたいと思います。」
若い声が部屋の中に響く。各々が手元の資料を捲る音だけが聞こえた。
「今回の投票結果及び私の…、ゴホン、S書店の「いんたーねっと」上における貸本の歴代の閲覧履歴を踏まえ、幾つ
かの結論を得ることが出来ました。」
ゴクリ、と唾を飲む音がする。少女は発表を続ける。
「貸本の人気結果と人気投票結果は、大凡一致しております。」
「…ふむ、妥当なところじゃの。」
年を取った面妖な妖怪の声が賛同の意を示す。
「しかし一部で大きな食い違いが見られました。それは年下属性に対する逆風です。」
「…なん、だと…。どうしてなんだぜ。」
「そうです、おかしいです。外界のヤンデレ教本には、妹ヤンデレの時代が来ると書いてあるそうじゃないですか。」
男勝りの声や、真面目な半霊の声が反論を唱える。
「事実です…。年下の属性を持つ者は、閲覧履歴件数の順位は人気投票よりも下がる傾向にありました。」
「な、なんてことなんだぜ…。」
「じゃあ、私はいいのかしら。495歳だし。」
幼い吸血鬼の声がする。
「いえ、実際の年齢には関わりがありません。むしろ、見た目の年齢に比例していると考えるべきでしょう。」
「そ、そんな…。」
絶句する声、一方で別の声が上がる。
「ならば、別の考えが出来るのでは?例えば、年上属性に追い風が吹いているとか…。」
月の天才の声に司会が答える。
「確かに年上属性には強力な追い風が吹いています。ヤンデレにおいては、重要な要素と言えるでしょう。」
「ちょっと待って!これって結局、胸が大きい方が有利ってことじゃないの!」
「気づいてしまいましたか…。幻想郷において意中の人の愛を得るには、胸の大きさは…くっ!憎い、私の体が憎い!」
天人に司会者が隠された真実を告げた。ざわめく室内。これでは他の女に○○を奪われてしまうと、部屋の中に不穏な
空気が流れ出した。
「ですが、それを回避する方法があります。」
「!!!」
一同の視線が司会の方に向けられる。


533 : ○○ :2018/08/06(月) 22:54:42 4aVWh6Ys
「歴代の履歴の中で一位を示すもの、博麗の巫女を押さえて堂々の首位を保つものがあります…。」
「な、なんなのかしら、私の地位を抜くなんて…。」
驚きを隠せない巫女。それに構わず司会は続ける。
「複数によるヤンデレです。」
「……。」
沈黙する一同。
「あらあ、それは一人で敵わなければ、大勢でってことかしらん。」
大賢者が茶々を入れる。
「いいえ、確かに一人よりも二人いれば相対的に有利なのかもしれません。しかし、それでは各勢力の順位が各人の順位
よりも低くなることがあります。本質はそこではありません。思い出して下さい、ヤンデレは何を求めているかというこ
とを…。」
「愛、ですね。」
さとり妖怪が心を読む。
「そうです、愛です。それも独占的な愛です。他の誰にも向けられることのない愛を、自分にだけ溢れる程に注がれる…。
それこそがヤンデレに求められているのです。それが一人でなく、二人、三人と注がれる…。これは正に楽園(エシュリオン)
と言うべきことでしょう。」
「そ、そうだったのですね。流石幻想郷では常識が通用しませんね。」
緑色の巫女が感嘆を述べる。
「更に自分を巡っての激しい遣り取り、複数の女性が自分を巡って修羅場を演じる。この相手を排除してでも自分の物とする
という優越。更には上手くいけば複数の女性を手に入れられるという贅沢な欲望。これを一挙にを叶えるのが複数という選択肢
なのです!」
「咲夜に命じて早速させようかしら…。」
吸血鬼の姉が今後の予定に思いを巡らせる。
「それでは、各自に良きヤンデレがあらんことを」
「「夜も眠れない程の愛を」」
部屋は闇に包まれた。

以上になります。


534 : ○○ :2018/08/08(水) 14:45:37 zcGtrS26
ノブレス・オブリージュに囚われて(170)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=160

>>530
一番怖いのはさとり様ですよね……
次はだれが毒牙にかかるか、ほとんど把握できているのに
彼氏と一緒に逃げやすいように、数が減るまで待っているような雰囲気がある

>>533
お話の幅が広がるから登場キャラを増やす傾向がありますけれど
ハーレムに関しても、やっぱり意識はしています
しかたないと開き直って書いてます


535 : ○○ :2018/08/11(土) 23:01:32 gWgF3Dyc
>>530 続き

 咲夜が死んでいるのを目撃してしまったことで、××さんは衝撃を受けていました。今まではいくら○○が居なくなってい
るといったからといって-実際には割りと近くで眠っているのですが-本当にそれが誘拐事件かどうか実感が湧いていなかっ
たために、どこかで本当は冗談やドッキリといったものでないかと心の何処かで思っていたのですから。それは不安になりが
ちな心を守る為に無意識でやっていたことだったのですが、その幻想が血塗れの死体で暴力的に壊されてしまった以上、剥き
出しになった心に犯人の悪意が暴風雨のように叩き付けられていました。あれだけの残酷な事をやる犯人がこの近くに潜んで
いる、その事実に○○さんは半ばパニックになっていました。○○を監禁している犯人が、コッソリと近づいてきてナイフを
振り下ろす。そんな空想が頭の中を駆け巡り、そして執拗な妄想となって××さんを苦しめていました。
 そしてそれを外部に伝えることは出来ないという状況が、更に××さんのストレスになっています。ああ、ごめんなさい。
確かに霊夢は勘が鋭いので、××さんが携帯を掴む前に××さんの胸に包丁を生やすことになるのでしょうが、それでも私と
××さんが今、この瞬間に窓を蹴破ってこのコテージから脱走してしまえば、いくら彼女と言えども××さんを殺すことは出
来ないのですから。まあ、その代わりに私がやられる以上、やりませんけれどね。痛いですし。
 それに本当は霊夢だって気が付いているんですからね。あれだけ勘が鋭いのに犯人に気が付かないなんて事、よく考えたら
不自然だと思いませんか?あれ、実は誰が犯人かって分かっているんですよ。あくまでも気が付かない振りをしているだけ。
○○を手に入れて浮かれている魔理沙と、情緒不安定な早苗は分かっていませんが…。さて、それでは夕飯を処分しないとい
けませんね。万が一ということがありますし。しかしあの女、いくら自分に耐性があるからって、全部の料理に睡眠薬を入れ
るのはやり過ぎじゃないでしょうか?流石サイコパス顔負けの魔女っぷりという奴ですね。おかげで全部吐かないといけなく
なりましたよ…

 まあ、今晩お前は死ぬからいいんですけれどね


536 : ○○ :2018/08/11(土) 23:02:15 gWgF3Dyc
 皆がロビーで眠りに就いた頃、魔理沙がこっそりと抜け出した時分に、あろう事か××さんが起きてしまいました。…これ
はちょっとマズイ状態ですね。前日まで風邪薬を飲んでいたせいで、市販の睡眠導入剤が効きにくくなっていた様ですね。こ
の状態で魔理沙が居ない事に気づくのは、計画が崩れます。折角薬が効かない早苗に魔理沙を始末させないといけないのに、
この状態で皆が起きて○○が見つかってしまえば、最悪三人で何でもありのバトルロアイヤルが始まってしまいそうなのは問
題です。少なくとも私は巻き添えを食らうでしょうから。あの女共に一対一では勝てない以上、このまま計画通りに進める必
要があります。空いたソファーが××さんから見えない様にして、序でに早苗のソファーを蹴飛ばしておいて、××さんの手
を握れば大丈夫…うう、ドキドキするなぁ…。
 さて、こっちが眠りに付いたと思った早苗が計画通りに魔理沙を探しに出かけた様ですし、奇跡の力で薬を消してしまった
早苗に比べて、皆が眠っていると思い込んで油断している上に、いくら慣れているといっても導入剤の影響でふらついている
魔理沙ならば…。いやあ、今日の夜は夢の中で良い悲鳴を聞けそうで楽しみですねぇ…。


537 : ○○ :2018/08/11(土) 23:06:12 gWgF3Dyc
>>534

成程、永琳に当代をぶつけるのはあの場面では最善なのでしょうね


538 : ○○ :2018/08/14(火) 04:38:41 R1WNf4Sw
椛は狼だから、○○にはこれでもかってほど匂いを付けてマーキングしそう
他にも、強者ほど自分の匂いや。自分を連想させる物を身に付けさせそう

それでも心配ならば、軟禁や常に横にいるだけれども


539 : ○○ :2018/08/18(土) 07:23:26 F//igtAM
ノブレス・オブリージュに囚われて(171)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=161

久しぶりにポワロを読んだけれども。オチを分かっていても、謎解きの段階になると感心してしまう
昔はシャーロックホームズに憧れてた、今もだけど

>>536
さとりが一番怖い。いつどこでだれが次の被害にあうか分かっているのに、澄ました顔なんだから
他の人たちですら、覚悟は持っているけれども恋敵の死体をいきなりみたら少しは驚くのに


540 : ○○ :2018/08/19(日) 17:45:12 rbV6x6wk
>>536までの
黒幕のさとりを少し書き直しして、最後まで追加した全編をアップロードしました
ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/25

探偵のさとりと対になる作品になります。


541 : ○○ :2018/08/19(日) 17:47:41 rbV6x6wk
>>539
○○が言葉が分かっているとしたら、次がどうなるのでしょうか…?
息子君の行動の予想がつきませんね。

>>538
そういえば、猫って嗅覚も人間より鋭いらしいですね


542 : ○○ :2018/08/20(月) 23:24:14 yA8m3qwU
デパートのおもちゃ売り場の前で男の子がわんわん泣いててうずくまってて「お母さんを困らせないで」ってお母さんが手を引っ張ってた
私もあんな頃あったなって。フフって微笑ましく見てたんだけど慧音がゆっくりその二人に近づいていってこんな時までおせっかいしなくていいのにって、でもこども好きな慧音らしいなって成り行きを見守ってたら男の子が慧音に助けを求めるような目をしてるわけ。なんだかおかしいなって、変ダナーって

「このひとおかあさんじゃありません!たすけて!」

なんて口の悪いこどもなんだろうって気持ちが沸いたと同時に、言い様のない不安
意味わかんなくてさ、どういうことなのって、話についていけなくて。ただただボーッと突っ立ってることしかできなった
周りの人も「?」ってなってて

「しらないひとです!たすけてください!たすけてください!」
「この子愚図るといつもこうなんです。お騒がせしてすいません」

そうなの?そう、なんだよね?…家族、なんだよね?って…納得しかけてて。だって、目の前でそんな…
もし本当にこのこが言うようにこのひとが「お母さん」じゃないんだとしたらじゃあいったい何なのって。
「お母さん」じゃない人がお母さんだと言って「どこか」へ連れていこうとしてる…それって、つまり。
つまり『そういうこと』なの?って、周りの人も狼狽えてて、顔をあわせてもいやさすがにそれはないんじゃないのって気持ちが目の前で起こってる現実を受け止められずに首を振り合うばかりだけどひきつった笑顔と冷や汗が止まらないのは、もう皆も気づいてる証拠だった。

「このこの名前、誕生日、通ってる寺子屋。答えられますか?」
「このこは○○、誕生日は××年×月×日。今年で7歳。通ってる寺子屋は□□寺子屋よ。母親は私です、このこは私の子」

「あなた、なんですかさっきから。ウチの子が愚図ってるだけですよ?」

足がすくんで動けなかった。まるで足を滑らせたら助からないそんな高さで細い細い鉄骨の上にいるような『母親ではない』この女への底知れぬ恐怖

「私はこの○○くんの担任、上白沢慧音です。家庭訪問などで何度もお会いしたことある…『はず』だと思いますが?」

まだ、まだ言い訳はきく、授業参観にはこれなかったかも知れない。家庭訪問は父親が対応したかもしれない、その他の行事にも参加できなくて…もしかしたら慧音が会った後に再婚とか複雑なことがあって本当に『お母さん』じゃないのかもしれない…こどもの担任の顔や名前を知らない親なんていないわけじゃない。きっとたくさんいる。だから、だから嘘だと言って
全くの『他人』が人の子をさらう
やめて。嘘であって

「このこは『私の子』」

女が呟いた。ゆっくりと顔をあげる

「私が『母親』だ!私がお母さんなんだ!この子の…!そうなるはずだったんだーっ!」

女は弾幕で慧音を吹き飛ばす。私は慌てて慧音に駆け寄ろうとしたけど「妹紅!あいつを追ってくれ!」と叫んだ。
正直、まだ迷っていた。
信じてた、泣き叫ぶ純粋無垢なこどもを拐えるものは人間にも妖怪にもいないと。それもこんな誰もが見ている前で母親を騙りどこにでもいるような親子を演じ欺き悪意を覆い隠すことなど、できないと思っていた
あの子には本当のお母さんとお父さんがいる。その子を拐う。それは未来を奪うということだ、この家族の進む道を閉ざすということ
そんなことが…『どうしてそんなことができる』?
そんな『邪悪』があっていいの!?

無我夢中で駆けた、追いかけた。周りにいた人間も妖怪もあの女を追いかけた。けれど目の前で見せつけられたどうしようもない悪意にあてられて混乱しきっていた
目の前で起こったことを信じたくなかった

結局
誰もあの女を、あの子を見つけることはできなかった
この気持ちをどうしたらいい
悲しさや怒りが遅れて奥底に沈殿していく、それ以上に無力な自分が許せなかった

あの子のお父さんとお母さんは愕然としてて、何かの冗談ですよねって半笑いしつつも目に涙を浮かべていた。
私は慧音にあわせる顔がなくて、情けなくて、泣いた。慧音は「私がもっと気をつけるべきだった」と声を震わせて私を抱き締めた
拐った女の特徴を伝えると、夫婦はまるであの女に力を持っていかれたみたいにその場に膝を落とし力なく項垂れた

「舞…もしかして隠岐奈様じゃ…ないよな…?」
「嘘…なんでお師匠様が…僕たちのこと祝福してくれたんじゃなかったの…?」

わからない
なぜあの女がこの夫婦の未来を奪っていったのか
夫婦とあの女の間に何があったのか、わかるべくもない

今はただ、ろくに話したこともないあの子のことで頭がいっぱいで涙が止まらなかった



※つい最近目にしたツイートが元ネタ。愚図るこどもを引っ張る親と思っていたら誘拐現場だったという話にガクブル


543 : ○○ :2018/08/21(火) 15:36:47 NwhF4LI.
ノブレス・オブリージュに囚われて(172)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=162

>>540
愛に狂っているさとりの独白だけが判断材料だけれども
○○は境遇が似ている××といることで、傷を癒していたのだろうな(根治はできないけれど)
○○の周辺女性が××に迷惑をかけていても、少しは○○を理解できる××を失いたくなかった
まぁそれを続けたが末に、さとりは全てを知っていながら全てが終わるまで何もしなかったのだけれども
潰しあってくれれば、さとりとしても逃げやすいしその後の心配材料も少なくなる

>>542
誘拐は純狐さんがやりそうだなと前々から思っていたけれども
隠岐奈様は障礙(しょうげ)の神でもあるから
こう、救っていると信じながら色々とやらかしそう


544 : ○○ :2018/08/22(水) 20:04:18 kgcmltVU
>>542
 おっきーなは鬼子母神ことハーリーティと同一視されているとかあったな。沢山の子持
ちでありながら子供を攫ってたもんだから、お釈迦様が彼女の子供を隠しちゃったってい
うエピとか。それ思い出した。


545 : ○○ :2018/08/22(水) 22:45:05 rI8VDyBg
生きるべきか

 「はあ…。」
夕暮れが迫る公園にて溜息が出た。最近の風潮なのか公園には遊んでいる子供は居らず、自分一人が遊具を使いたい
放題であった。一日中靴をすり減らした身としては、童心に返って遊具で遊びたくなってしまう。昔、昔、自分が小
さい子供だった頃に、親に連れられて毎日遊んだ風景。無邪気に滑車に身を任せた、束の間の空中遊泳。直ぐに終点
に辿り着くが、何度もまた飽きずに遊んでいた。
 現実逃避だとは自分でも分かっている。近日中に自分の財産以上の負債が掛かってくることなどは、寝ても覚めて
も頭を悩ませていた。暫くの間の休息によって頭が冴えた所為か、より借金が自分に迫ってくることがリアルに感じ
られた。
「隣、良いかしら。」
懐かしい声が聞こえた。遠い昔に聞いた声。
「お元気…そうじゃなさそうね。」
「ああ、ちょっと色々あってな…。」
以前いた世界で世話になった彼女は、以前と相変わらず同じ服を着ていて、顔も昔のままだった。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
スキマが開いて中からコーヒーが出てくる。ブラックの味が苦いのは、豆の為だけではなさそうだった。
「悩んでる?」
「君に関係することじゃない。」
「ふうん…。」
沈黙が流れる。こうしている間にもリミットは刻々と迫っているのに、ベンチを立つことができなかった。
「ねぇ。」
「なんだい。」
「昔、言ったよね。イイ女は、どうしても思い出してしまうことになるって。」
「そうだったかな…。」
彼女の誘いを断って帰った身としては、正直に認めることが嫌でとぼけてしまう。家族にも言われた悪い癖だ。
「私、あなたを助けることが出来るかも知れません事よ。」
「…夢は忘れることにしているんだ。」
一瞬心が揺らいでしまった。時折彼女は心臓に悪いことをして、巫女や魔法使いをからかっていた。
「これ、なーんだ?」
甘い声と共に目の前に差し出される封筒。地味な封筒に生命保険の文字が見えた。
「……。」
「何年もの間、コッソリと支払いをしていましたのよ私。」
「どういう積りだ。」
「ご自身が一番良くお分かりでしょう?」
「俺に死ねと言うのか。」
「……。」
黙ったまま微笑む彼女。家で帰りを待つ家族のことを考えると、こんな封筒なんぞ破り捨てたくなる。そうだ、こんな
不吉な物なんて捨ててしまって、次の方法を取って…取って…取れば…。指が固まったままピクリとも動かない。
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題であるってね。如何かしら?」
心臓が激しく鼓動する。家族の顔が過ぎり、得られる金額を夢想し、そしてこれからの家族の苦労が湧き出てくる。
「さて、あなたはどちらを選ぶのかしら?この世界で生きるのか、それとも幻想郷で生きるのか…。」
「ゆ、紫…。」
何でもないような顔で決断を迫る彼女。昔からそうだった。何でもないような振りをして、その癖どちらを選んでも、
結局は彼女の手のひらで踊らされている。世界が回る。グルグルと回る。世界に自分と彼女だけしかいないかのように。

生きるべきか、死ぬべきか、それこそが問題であった。


546 : ○○ :2018/08/22(水) 22:48:48 rI8VDyBg
ここ2、3日眼精疲労が辛い

>>542
読んでいるとドキドキとしますね。サラリと読める文章なのに、後に引く味が
濃いような。

>>543
○○が何処まで戻っているのかが気になりました。息子君の思い通りになって
いるのでしょうか…


547 : ○○ :2018/08/24(金) 13:29:22 b9TqLPj6
ノブレス・オブリージュに囚われて(173)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=163
>>545
紫様が「これ、なーんだ?」って言いながら証書の類を出す場面にゾクゾクした
こう、知らないうちに外堀どころか内堀までやられてる展開は、策士で好き

それで少し考えたけれども、阿求とかマミゾウとか。金回りの良い人が○○と食事しながら
お前じゃ払えないだろ?今日の飲み代すら
みたいな展開が頭に浮かんだ
金目を掴まれるのは、どんな袋を掴まれるよりも効果的な一撃のはず


548 : ○○ :2018/08/24(金) 23:38:49 AvNEc0Iw
【1/7】
『因縁と因業』

 それは、生贄という習慣がまだ存在し、これによって神様が確かに存在出来た時代の事であっ
た。

 ある所に、一人の少年が居た。どこにでも居る、何の変哲もない男子であった。名は○○。とかく
自由奔放で、他の子と遊ぶことはあるものの、決まった遊び相手もおらず、一人で遊ぶことさえあ
る、猫のように気ままな子供であった。

 ある日○○は、二人の少女に出くわした。名前は舞と里乃と言って、一緒に遊んだことは無いが、
顔と名前と、あと、不思議な娘たちであることくらいは知っていた。

 彼女らは何やら妙な恰好をして、妙な踊りの練習をしていた。

 「何をやってるの」

 そう訊くと、

 「今度のお祭りのための踊りの練習をしてるんだ」

 舞がそう答えた。

 「君たちが?」

 ○○の住んでいる村では、数年に一度、祭りが開かれる。その祭りでは、神へ踊りを捧げる巫女
役として、二人の女子が踊るのである。

 「えへへ、すごいでしょ」

 里乃は照れを含ませながら得意げに言った。

 「これで儀式が成功すれば、君らんちもアンタイってやつだね。ま、失敗したら、怒った神さんに
食べられちゃうんだろうけど」

 からかうように○○が笑ってみせると、二人とも一様にムッと頬を膨らませて、

 「失敗なんかしないよ! だって今までだって失敗しとことなんかないって、ジサマも言ってたも
ん! ……ね、里乃?」

 と、いささか不安が入り混じった膨れっ面で反論したのは舞のほう。言葉尻が頼りない。

 「え、うーん……、そうだよね?……」

 ところが、同意を求められた当の里乃のほうも、気の無い返事をして、心許ない様子であった。そ
んな二人の様子を見て、○○はニヤニヤと顔に笑みをにじませた。今すぐにでも腹を抱えて笑い
だしたいという気が満ち満ちているのが外からでも分かる。

 「どうだかねー。ジサマでさえ分からないくらい昔だったら、ひょっとするとそういうのもあったかも
しれないし」

 と、自分の知ったこっちゃないという塩梅に、○○は顔を逸らしておもむろに語った。そうして少し
間を置いて、ちらと二人を見やった。最初は強気だった彼女らも、今では不安げな様子を隠し立
てすることもなく俯いている。よく見れば涙目であった。そんな二人を見て○○はニヤニヤと笑って
いた。だがその視線に二人が気付くことはなかった。

 「ふふふ、ちょっとからかっただけだよ。ダイジョブでしょ。だって陣屋の人たちが話してるのを聞
いたけど、あの人たちが知ってるだけだと、儀式が失敗したことはないんだってさ。だからさ、ダイ
ジョブでしょ」

 そう和やかな調子で告げると、二人はポカンと拍子抜けしたような顔を見せ、その後二人してし
かめっ面をして、

 「もうっ、なにさ、なにさ! 僕たちにいじわるなんかして!」

 と、まず舞のほうがプリプリと○○に詰め寄った。彼女は突き飛ばすように○○の襟を掴むと、そ
のまま前後に大きくゆすった。それに続いて里乃のほうも、横から○○に突撃し、彼の肩を両手で
掴んで、グングンと押したりするのだった。

 ○○は悪戯成功だとばかりにゲラゲラと笑った。これを見て二人はまた更に顔を赤くしてますま
す怒り出すのだった。

 そうして揉み合っていたら、○○が足を滑らせてしまい、それによって二人も、巻き込まれて地面
に倒れ込んだのであった。

 構わず二人は、仰向けに倒れた○○に圧し掛かってその上でバタバタと暴れだした。今度は○
○が堪らなかった。上に乗っかっている二人の娘で起き上がれず、加えて暴れられるものだから
息苦しいことこの上なかった。

 舞と里乃の顔からは、○○の上で暴れ出した時から、とっくに怒りの表情は失せていた。その今
では、自分たちが下敷きにしている少年を困らせることを楽しんでいた。

 「ちょ、ちょっと! どいて、どいてよ!」

 と懇願するも、

 「へへへ! やーだよ! 僕たちをおどかしたバツだー!」

 「そう、そう。バツよ、バツ!」

 二人は耳も貸さず、それどころかもっと激しく暴れ出すのだ。

 さすがに○○もそろそろ根を上げ始め、

 「わ、分かった、分かったよ、参った! 参ったから、もうカンニンして!」

 手を頭上に伸ばして降参の意思表示をした。これに満足して、二人は勝ち誇ったように笑いなが
ら○○の上からどいたのであった。


549 : ○○ :2018/08/24(金) 23:40:20 AvNEc0Iw
【2/7】
 「まったくひどい奴らだ……。何もそんなに怒ることはないだろうに……」

 「ふふん、からかうほうが悪いのよ!」

 「そうだ、そうだ!」

 明らかな劣勢に、○○もこれ以上反駁するのは止しておき、ただチェッと小さく舌打ちだけをした。

 「で、○○はここで何してたのよ」

 「そこら中をぶらぶらして気ままに遊んでただけだよ、今日は一人で遊びたい気分だったから」

 「ふうん、一人だったんだ。じゃあ、せっかくだし、いっしょに遊ぼうよ。○○、色んな子と遊んでる
けど、私たちとはまだ遊んだことないでしょ」

 地面に腰を下ろしたままの○○に、舞が食い気味に顔を寄せて提案してきた。

 「僕はいいけど、舞たちは? 踊りの練習だったんでしょ」

 「ダイジョブ、ダイジョブ。今はちょっとお休み。ちょっとくらいヘーキだって」

 と、里乃は○○の腕を取って引き起こした。

 「そう言うなら、僕もかまわなけど。で、何して遊ぶの」

 「んーとね、ドロボウごっこ!」

 舞が指をピンと立ながら腕を真上に上げて言った。

 「私たちがオヤクニンさんで、○○がドロボウさんね」

 「えっ、僕が?」

 「いいから、いいから。はい! じゃあ始め! ――やい盗っ人、隠したモンはどこにやった!」

 と、舞は有無を言わさず遊びを開始して、役人みたいに居丈高な口調で彼を問い詰める台詞を
放ったのであった。

 「ダンナ、こいつ吐きませんぜ。痛めつけてやりやしょうよ」

 と、手をすり合わせて言う里乃の眼は妖しく光ってい、口角が目に見えてつり上がっていた。そ
れは演技と言うより、これからしようとすることを楽しもうとしているようだと、○○には見受けられた。

 「そうだな、このゴウジョウな奴には立場ってモンを分からせてやらなきゃあな」

 と舞が言うと、二人は一際ニヤつきを深め、手をワキワキさせて○○に迫ったのであった。舞は、
未だに腰を下ろしたままだった○○の背後に回ると、自らの脚で彼の胴を挟み、万歳させるように
羽交い絞めにした。

 あとは言うまでもない。猛烈にくすぐられたのだ。それそこ息が出来なくなるくらい。汗も沢山かい
た。当然、舞と里乃の二人もである。日がカンカンと照っていた中で、溌剌な子供三人がくんずほ
ぐれつしていればそうなる。で、すっかり遊び疲れた三人は、その体勢で重なり合ったままぐったり
と寝っ転がっていたのであった。しかし、日の下でずっと寝ているのは暑いため、日陰に移動し、
三人並んで木に背を預けて涼むことにした。

 「ねえ」

 と声を掛けたのは舞で、おもむろに○○に視線を寄越した。○○は黙って視線を返した。

 「もしよければだけど、また一緒に遊ばない? 流石に、教えてもらってる時はムリだけど、自主
練習の時だったら、誰にも文句は言われないし」

 「それ以外の時に遊ぶってことはしないの?」

 ○○がそう訊くと、二人はくすくすと悪戯っぽく笑い、

 「だって、そのほうがヒミツのアソビって感じがして、良いじゃない」

 反対側から里乃が囁いた。

 それを聞いて○○は、ふむ、と唸って虚空を見上げた。ヒミツのアソビと聞き、いくらか惹かれるモ
ノを感じたらしい。

 「じゃあ、またここで遊ぼっか」

 迷うことはなかった。その話から、彼自身が損する要素が見当たらなかったからだろう。縦しんば、
損することがあったのだとしても、それについて考え及ぶことはないだろう。謀というものを知らない
子供であれば尚更。

 それから○○は、舞と里乃と最初にあった場所にて、三人でたびたび遊んだ。

 その遊び方というものがまた風変わりなもので、まず三人が離れることはなく、常に接触している
ものだった。最初会った時にやったくすぐり拷問ごっこなんかはまだ可愛いもので、きわどいものだ
と、はたから見れば二人の女郎と一人の客がまぐわっている図にしか見えないというものであった。
○○はそれに対して、まだそういった知識に疎くよく理解していなかったが、名状し難い興奮を本
能的に覚えていた。他方の舞と里乃は、○○より幾分ませていたため、その昂揚の正体を承知し
た上で彼との遊びに興じていたのであった。


550 : ○○ :2018/08/24(金) 23:42:06 AvNEc0Iw
【3/7】
 斯様な日々を送りつつ、例の祭りの日が訪れた。

 祭りは問題なく進行した。村人らは祭りの熱に浮かされ、普段であれば不快な騒々しさに身を任
せ、自らもその騒音の炎の中に声をくべた。気難し屋のジジイも、陰気なあの青年も、女たちに
よって杯に注がれる酒を意気揚々と呷っていた。

 「ちぇっ」

 と○○は、つまらなそうに彼らを見た。

 「どしたの」

 と舞が訊いた。

 「父ちゃんたちは僕にあのお酒飲ましてくれないんだ、まだワッパだって言ってさ。僕だって飲ん
でみたいもんだ」

 「へー、そうなんだー」

 「ふーん」

 やけに二人が意味ありげな調子だった。

 「な、何だよ」

 ○○もこの二人にさんざん引っ張り回されたものだから、二人が見せる妖しげな態度を訝んだ。

 「んっふふー」

 「ふふーん」

 ○○のその反応を面白がって二人は口々に笑みを漏らした。そうして彼女らは、手に持っていた
杯を、顔の横まで持ち上げて、可愛らしく首をかしげて見せたのであった。

 あっと○○が声を上げそうになると、舞が杯を持っていない手で彼の口を覆った。彼女は無邪気
に歯を見せて、しーっと言った。その後ろで、里乃は過剰なまでに自信たっぷりなしたり顔で笑っ
ていた。

 「ほら、こっちに来て」

 との言葉でその辺の物陰へと引っ張られた。もしかしたらお酒が飲めるかもという期待から、○○
は手を引かれるままついて行った。そこは祭りの喧騒から少し離れて、ちょっとだけ静かな所だっ
た。向こうのほうでは皆騒ぐことに夢中になって、○○らの行動を不審に思う者は居なかった。

 「さて、○○」

 声を掛けられて○○は二人の方を振り向くと、酒の入った杯と一緒にいきなり顔を寄せてきた舞
に驚き、思わず仰け反った。

 「このお酒、飲みたい?」

 「うん飲みたい!」

 逸った様子を隠すこともせず、目を大きく開いて、ほのかに嬉しそうな面持ちで○○は即答した。

 「うふふ、ふふ……、そうなんだ……」

 舞は、そんな様子の○○を見て、如何にも男を弄んで楽しむ女に通ずる愉悦の情を浮かべ、里
乃と顔を合わせ、微笑み合ったのである。そして手に盛った杯を、○○の文字通り目前で呷った
のであった。それを見せつけられた○○の顔は見る見る落胆の色に染まっていった。

 そうしていじけようとした○○の口に、唐突に舞の口が被さった。開いた口から挿し入れられた舞
の舌を伝って、彼女の口に含まれていた酒が口の中に少しずつ流れ込んだ。○○は口を上に向
かせられて、それを吐き出すことが出来ず飲み下すしかなかった。時間を掛けて、口内の酒を全
て流し込まれたところで、舞は口を離した。

 「うえー……」

 ○○は気分悪そうに呻いた。まだ幼い彼は口付けの甘美さというものが解らない。そんな彼から
すれば、自身の口に流し込まれた酒は気色の悪いものでしかない。他人の口の中で生暖かくなり、
唾液で味が薄まった分、唾液の味というものを意識させるのである。

 その態度に舞はムッと口を引き結んで怒った様子。そんな彼女を見て里乃は可笑しそうに笑っ
た。里乃の嘲笑でひとしお不愉快になった舞は、その仏頂面のまま顎をしゃくって、今度は里乃が
やるよう促した。

 里乃は逡巡してから、舞と同じように口に酒を含んで○○に近づいた。が、彼のほうは、もう一度
やられたくはないと、里乃の肩を押して抵抗した。それを里乃は門前払いされたとでも思ったのか、
意地になって、なおも○○に自分の顔を肉薄させようとしたのであった。○○も負けじと押し返す
のだが、やはりそれにも限界はあり、じわじわと彼女の口が迫ってきて、ついには接触し、押し付け
られた。里乃はそこから○○の口に酒を流し込もうとしたのだが、今度は彼も拒んだため、酒は口
の間から溢れ両者の首を伝って胸にこぼれただけだった。そんな二人の押し合いに、舞はひたす
ら腹を抱えて笑うばかりだった。


551 : ○○ :2018/08/24(金) 23:43:48 AvNEc0Iw
【4/7】
 さて、

 「そろそろ君らの出番だし、早く行ったほうがいいと思うよ」

 ○○は手拭いで口や頸、胸元に付いた酒を拭いながら調子悪そうに言った。酒のせいか顔が赤
い。一方の二人は、酒は舐める程度にしか摂取していなかったからか、調子を崩した様子は無
かった。○○は、自分だけ酔っ払う羽目になりながら、向こうは何ともないことへの不満を見せてい
た。

 さりとて、気分が優れない時に食って掛かる気にはならないし、二人にはこれから神へ踊りを捧
げるという大事な役目があることを慮れば、これ以上引き止めるわけにもいかなかった。そのため、
彼は悪戯っぽく笑いながら手を振る彼女らを、黙って見送るだけだった。

 群衆の中に紛れ○○は儀式を眺めることにした。最前列に居る大人の体の隙間から覗く形であ
る。

 儀式は恙なく進行しているらしいということが、○○には分かった。

 この祭りは数年に一度執り行われるものであり、前回執り行われた時には○○はまだ物事を明瞭
に理解出来る年頃ではなかったので、彼は祭りをよく知らないのだが、周りの大人たちに不穏な様
子が無いことから、今のところ問題は無いものだと思ったのだ。だがそれは、例の二人――舞と里
乃の踊りの披露までのことであった。

 そして二人の踊りが始まった。

 「ヘンな踊り」

 であった。

 以前一度――小さな頃に見た時には何とも思わなかった○○であったが、こうして意識して観る
と、その奇抜さをしみじみ感じた。

 奏者各々が好き勝手に音を撒き散らしているんじゃないかというくらい滅茶苦茶な曲の中、踊り
手である舞と里乃らは、下手くそな笛の音みたいな拍子を口ずさみつつ踊っていた。何かの植物
を手にドタドタと足踏みをして、後ろの楽器の音とはちぐはぐな動きであった。騒がしく、荒々しく、
如何にも不吉なモノを威嚇して追い払おうという気を振り撒いていた。

 その熱気に観客たちも中てられてか、ある者は立ち上がって飛び跳ねたり、ある者は近くの者に
絡んだりして、それまでに輪を掛けた異様な盛り上がりとなっていった。客観的に見れば、それは
歓楽とも、暴動とも、或いは乱交とも言えるだろう。が、その時その場には、そんな野暮な指摘をす
る者は居なかった。

 ただひたすら彼らは流されていったのみ。怪しげな術にでも掛けられたとしか思えないほど面妖
な光景。

 ところが、その場に掛けられた術は、祭りの終わりを待つことなく解けることとなった。

 儀式が終わる間際、不吉な事が起こったのだ。

 かつて前例の無い事であった。それにより俄かに場がどよめいた。若い者らは怪訝という程度で
あったが、大人たちはどこか浮足立っていて、歳を取った者ほどこれが顕著になっていた。殊に、
長老をはじめとした村の年長者らは、まるで三千世界の終わりを目の当たりにでもしたかのように、
いつもは力なく垂れていた目をカッと見開き、口を半開きにしてをガクガクとわななかせていた。

 「災いじゃ……、近く災いが訪れる!……」

 長老はこのように呻いた。次には、生贄を捧げねばならないという意味のことを、興奮でどもりな
がら滔々と語り、そしてその生贄というのが、舞と里乃たちのことであるのだと、皆にはっきり聞こえ
るよう結んだ。

 この祭りは本来、村の安泰を、二人の踊り手の少女を通して祈願するもの。儀式を終えて何事も
無ければ成功とし、踊り手を担った少女の家には祝いの品が置かれる。だがもし失敗した折には、
村の安泰はおろか、祈願する相手である荒神により災いがもたらされるのである。そこで、その荒
ぶる神を鎮めるために、二人の踊り手が生贄として捧げられるという風習が存在していた。

 俄かに村人らは慄いた。まだ神が信じられていた時代なら尚更そうである。皆ひそひそとざわつ
いていた。時折口々に、あの二人だとか、生贄だとか物騒なことを呟いていた。


552 : ○○ :2018/08/24(金) 23:45:16 AvNEc0Iw
【5/7】
 彼らの中で誰よりも動揺していたのは他でもない○○であった。舞と里乃と、背徳的な秘密の遊
びをしていたというそれが心当たりだった。確証があったわけではない。が、何かが失敗した時、そ
の原因が自分にあると考えるのは自然なことである。心当たりがある時は特に。

 ○○は二人に目を向けた。彼女らは怯えと絶望の情をその顔に瀰漫させていた。そして自らを
取り巻く苦境の中で一縷の希を求めるかのように、○○へ縋る視線を寄こした。これを彼は、見て
見ぬ振りをし、目を背けた。自分に原因があると考えてはいても、その責任を負う度量は無かった。
たとえ、その二人がどんなに悲痛な眼で見てきたとしても、○○はちらちらとそれを見るばかりで、
やはり助けることは出来なかった。

 このような態度を取られて舞と里乃は、今にも打ち首に処させれようとする罪人よろしく、目の前
が絶望で暗転した。そして失望し、幻滅し、これらを経て、ついに怒りとして煮えていった。

 彼女らにとって○○は、憎からず思っている相手であった。ついては彼女らは、○○のほうも自
分たちに好感がであったとも期待していた。そんな彼女たちからすれば、○○は自分たちを裏
切った男に他ならなかった。それは一方的で、恣意的な想念。だが煮え立つ憤怒がそうさせてい
た。

 「○○だッ!」

 「そうよ、○○だよッ!」

 舞と里乃は口々に彼の名を、憎悪を込めて叫んだ。すると村人らは、やおら辺りを見回しだした。
で、○○の近くに居た村人が、あっと声を上げて○○を見た。その声を聞きつけたまた別の誰か
が、彼に気付いた。そうして○○に近い者から順々に、次から次へと○○の所在を悟っていくので
あった。この不穏な流れに彼は顔を青ざめさせた。

 「あいつと遊んだのが原因だよッ、そうとしか思えないッ!」

 彼女らはただ感情のままに叫んでいるわけではなかった。あらん限りの力で声を張り上げていな
がらも、その場に居る誰もが聞き取れるものであった。

 「舞の言う通りよッ! だって、ここ最近で、私たちが練習している頃に○○を見たって人は居な
いでしょッ!」

 「違うよっ!」

 咄嗟に○○は二人の言葉を遮るように声を上げた。

 「僕は君たちなんかと遊んでなんかいなかったっ! こ、この子たちは、自分が助かりたいからっ
て僕を悪者にしようとしてるんだっ!」

 「何言ってんのよ、あなたのせいにしたところで私たちがイケニエにされるないわけがないじゃな
い! あなたはヒキョウ者よ!」

 「そうだ、君はヒキョウ者だ! もしかしたら○○もイケニエにならなきゃ村が大変な事になるかも
しれないのに、自分だけ逃げようとしてるんだ!」

 「違うッ! 違うッ! そんなんじゃないッ!」

 ○○は反駁出来なかった。激情に思考を乱されまともな言葉が浮かばなかったからだ。だから、
頭を抱えひたすら否定を叫び続けるしかなかった。

 惑う彼を見て、舞と里乃はほんの僅かながら理性を取り戻していた。怒り、憎しみ、悲しみ、執着
といった情念が消え失せることはないが、今の自身らの欲求を満たすために頭を働かせることは
出来ていた。即ち、○○を道連れにすること、そして罰として、死んだ後も自分たちのそばに居さ
せることであった。

 然り而してその邪知は今将に奏功するところであった。

 今しがたの二人の言い分に、村の誰もが納得しかかっていたのだ。

 これは法に基づいた裁判ではない。規定された条文のみに従って実施するものとは違う。そもそ
も儀式は祀られている神に向けてのものである。ついては、それらのことについて決めるのも神で
ある。

 もし、決め事通り舞と里乃を生贄に差し出したとしても、それで神が満足しなかったら。二人の
言った通りに、儀式の失敗の原因は○○にあって、その○○を裁くことを望んていたとしたら。

 ○○を差し出さなかったばっかりに、神が怒りを鎮めないことが危惧される。だが、○○を差し出
せば、子供をいたずらに一人失うこと以外に被害は無いかもしれない。

 と、村人たちの中でこういった保身の人情が働くのは無理からぬ話であった。


553 : ○○ :2018/08/24(金) 23:46:56 AvNEc0Iw
【6/7】
 ○○はそんな彼らの考えを敏感に感じ取った。自らに集中する視線が、強欲な追い剥ぎのそれ
かのように感じていた。

 だから逃げ出した、脱兎の如く。そんな○○を捕まえようとする幾多の手。これらをその小さな体
ですり抜けて、どうにかそこから逃げ出した。

 しかし、その場から逃げ出すことが出来たのは、彼だけの力ではなかった。

 「逃げろ、○○ッ!」

 そう後ろから叫びを受けて、走りながら○○は振り返った。彼を捕まえようと殺到する村人らの行
く手を阻む二人の男女が居た。それは○○の両親であった。一瞬立ち止まりそうになった。でも、
父と母が押さえ切れず取りこぼした村人らが迫ってくるのを見て、逃げ続けた。とにかく我武者羅
に走り続けた。逃げたところで、宛は無いのに。

 むしろ、何もないからこそであったのだろう。居場所も、親も、未来も、何もかもを失ったという事
実を忘れ、逃避するために。

 やがて疲れ果てた彼は、近くの茂みに身を隠すことにした。周囲に追っ手は居なかった。ひとま
ず一休みは出来る。

 茂みの中に座り込みながら○○は、陰鬱に、何かしらの想念を浮かべることもなく、ただ茫然と途
方に暮れていた。身も心も疲弊し、煩悶する力も無かった。張り詰めていた神経が弛んで、眠気に
沈みそうであった。

 そうしてうつらうつらとしていたために、○○は自らに近寄る者の存在に気付けなかった。

 「見ぃつけた」

 聞き覚えのある声が掛かって、○○は一気に覚醒した。しまったと感じた時にはもう遅く、○○は
目の前に居た二人の少女――舞と里乃に組み付かれていて、身動きが取れなくなった。

 「ねえ、逃げないでよ」

 冷たい声で舞が言った。

 「そうだよ、逃げちゃダメ。そうすればもう私たちは怒らないから。ね、あんなことしたのは赦してあ
げるから……」

 と囁きかける里乃は、怒っている風ではなく、微笑んでさえいた。媚びるような声、或いは勝ち
誇ったような声でもあった。未だ○○への負の感情は健在でも、今の○○の惨めな姿を見て幾分
か溜飲が下がったから、そんなにも穏やかな風を装っていられたのだろう。

 「ははは……」

 「ふふふ……」

 舞も、里乃も、二人とも口や目を、裂けてしまいそうなくらい引き延ばして笑っていた。

 ○○は戦慄し、逃げることはおろか、呼吸もままならなかった。而して叫ぶことも出来なかった。

 「い、いやだ……、いやだ……。助けて……」

 絞り出すようにそういうばかりで碌な抵抗も出来ず、二人によって村に連れ戻されることとなった。
そして三人とも、神への生贄に捧げられた。


554 : ○○ :2018/08/24(金) 23:48:43 AvNEc0Iw
【7/7】
 村はその後、何の災厄にも見舞われることはなく、無事平穏を得ることが出来た。そのための犠
牲となった子供三人の親たちは、村から手厚く面倒を見てもらえることとなった。我が子を失って幸
せに暮らせたわけではないが、不自由の無い暮らしは出来た。

 しかし、村はそれだけで事が収束しても、○○の苦悶はまだ終わっておらず、むしろ始まりはそ
れからであった。

 舞と里乃は、その後、摩多羅隠岐奈の配下(二童子)である丁礼田と爾子田として取り立てられ、
隠岐奈が領く『後戸の国』に移り住んだのである。が、何と○○は二人に引き摺られる形でその『後
戸の国』に迷い込んでしまったのだ。

 無論、彼は『後戸の国』に招かれた存在ではないため、ただそこを彷徨うだけである。既に死ん
でいるその身に苦痛は無いが、変わり映えのない薄気味悪い景色ばかりの世界で、音もほとんど
立たないし、食べ物も無く、においも感じられなければ、何かに触れることも出来ない、そんな日々
を延々と体験させられる無間地獄。

 唯一刺激を受けることが出来る機会といえば、丁礼田舞と爾子田里乃が時折彼のもとに現れた
時である。

 彼女らは人間だった時の記憶は全て無くしている。はずなのだが、何故か○○への情念だけは
覚えていた。そして二人は、そのことについて深く考えることはせず、ひたすら己らの欲するままに
○○とむつむ。一方の○○も、唯一受けられる刺激にその身を委ねるしかない。

 なお、そんな状況に、舞と里乃の上司である摩多羅隠岐奈は頭を抱えていた。

 自身の同神異体の神が祀られているとある村で、それまでの二童子の後任として良さげな二人
の少女を見つけたので、その神に掛け合った後、その少女らが生贄になったところで彼女らに声
を掛けた。で、そのままトントン拍子で話が進んで二童子にしたのは良かった。ところが、その二人
に、○○がくっついて来てしまったのである。

 二人を取り立てる際、彼女らに何やら妙なエニシが付いていると隠岐奈も気付いたのだが、その
時は、彼女らを二童子にしてしまえば消えるだろうとそのままにしておいたのだが、それがこのざま
である。

 隠岐奈としても出来るなら○○を二人から切り離して解放してやりたいところなのだが、どうも二
人との因縁と、その種となった因業が強過ぎて切り離せない上に、下手に切り離して排除したら何
が起こるか分かったものではない。差し当たって二童子の仕事に深刻な影響が無いから、仕方な
しにそのまま放置するしかなかったのだ。

 しかしながら、隠岐奈としては、巻き込んでしまった以上、何かしら彼を厚遇はしてやりたいところ
であった。人を雇用する立場として福利厚生はしっかりしておきたいし、あと解放した後に訴えられ
たら嫌だし、何より巻き込まれた○○が可哀想だ。

 そんなこんなで、隠岐奈は目下頭を悩ませている最中であった。

【完】

 出来のクオリティに不満があるけど、とりあえず投稿。
 それにしても、自分の描くヤンデレものって何故かねっとりしたエロシーンが出てしまう。今回は
そうならないようにしようって思ったのに。


555 : ○○ :2018/08/25(土) 19:44:48 2Nm0od22
>>554
関係ないけど、おっきーなは頭を悩ませている姿が似合うなぁ……


556 : ○○ :2018/08/25(土) 23:02:05 pMAjb2JE
>>547のネタを使用

「如何でしたか○○さん。」
普段から何かにつけ、九代目のサヴァンこと稗田阿求より屋敷に呼ばれていたのだが、今日は趣向を変えて街の方に連れて
いかれ、そこで阿求と共に夕食を食べていた。恐らくは現代では、料亭やら割烹と言う類いの店になるのだろう。そこで出
された食事はとても美味しく、自分の口からは正直に賛辞の声が出ていた。
「いやあ、本当に美味しかったですよ。稗田さん。」
「…お酔いに成られても、まだそう呼ばれるのですね。阿求と呼んで下さいまし。」
少し機嫌を崩したような阿求。いつもそう彼女は言うのであるが、下の名前を呼んだことは未だ無い。
「そうは言われても…。きゅ「九代目様、などは御免でございます。」
せめてもの抵抗は、有無を言わせない激しい反撃にあった。そのままの勢いで彼女は思いを言の葉に乗せる。
「確かに外の世界とは違いまして幻想郷は大層遅れております。外界には他にもっと楽しい事がございましょうから。」
一旦”こう”なった彼女は止まらない。暫くは拝聴に回ることとなる。
「私もこのような仕事に就いていなければ、一度なりとも外の世界に行ってみたいと思っております。このような場所とは
比べ物にすらならないでしょうから。しかし、しかしでございます。いくらそうでしても、私の努力も認めて頂いても宜し
いのではないでしょうか。」
「そうですね。確かにこちらのお料理は大変美味しかったですよ。」
「まあ、まあ…。全く…ああ、本当に弱味を持った方は辛い物でございます。」
どこかおざなりな感情が交じってしまったのであろうか、すっかり阿求は怒ってしまったようだ。こうして皮肉交じりの言
葉が出てくるのは、過去に何回か見た事があった。


557 : ○○ :2018/08/25(土) 23:02:44 pMAjb2JE
「本当に…、本当に貴方様という人は……。今日という日は許しません。紫様や四季様も、年貢の納め時だとお認めになさ
るでしょう。」
阿求の目が据わる。幻想入りして暫く経つのだが、こうなった彼女は初めて見た。不意に笑う彼女。障子が閉まった部屋に、
冷たい風が流れた気がした。
「阿求と呼んで頂けないような、薄情な人にはご馳走する謂われなぞございません。」
「いやはや、いきなりそれは、何とも…。冗談ですよね?」
「さて、お幾らでございましょうか、この街一番の名店でございますからね。」
「すまなかった、阿求。」
冗談で済まなかった以上、即座に手を合わせて阿求に謝る。
「ええ、大丈夫ですよ。○○さん。さて、行きましょうか。」
阿求が謝罪を受け入れたことに安堵するが、阿求はそのまま腕を組んできた。
「さて、今日は遅いので屋敷に帰りましょうか。勿論、お優しい○○さんは私とご一緒に帰って下さいますよね?」


558 : ○○ :2018/08/25(土) 23:13:29 pMAjb2JE
>>547
更に状況が混沌としてきましたね。周囲の状況が悪くなる中で、○○と息子君の
最終決着がつくのが唯一の救いでしょうか。

>>554
上司の隠岐奈が手を焼く位に二人がヤバいのでしょうね。
乙でした。


559 : ○○ :2018/08/26(日) 08:04:45 VTX3G7Ds
>>554
乙でした

その後、天空璋のEXで後戸の国に入ったチルノがどさくさに紛れて○○を連れ出したら、
それはそれで面白そうだ(外の自機勢はスルーしそうだし)


560 : ○○ :2018/08/26(日) 14:53:12 12GEQ.0.
>>557
 強制的にヒモ状態にさせているのに、時折気に入らないことがあると、厄介な状況
の真っ只中に捨てる旨をチラつかせるっていうヤクザ的な脅しをする女ってシチュは
良いなあ。狂気が表出しているものより、表面上は理性的に見えるほうが好き。


561 : ○○ :2018/08/26(日) 18:26:46 ntaXnjOQ
>>554
いい…二童子いい…
なんだろう個人的に里乃と舞の子供っぽさというかこういう子だったんだなっていうイメージとぴったり重なってるのもあってめっちゃ読み返してる


562 : ○○ :2018/08/28(火) 14:03:39 wfB0kVkU
ノブレス・オブリージュに囚われて(174)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=164

>>554
二童子は、他の作品における5ボス。いわゆる従者キャラと違って、本心でどう思っているか分からないという
これまでとは全く違う存在ゆえの作品だと感じた
正邪ですら、本心は『騙す、いつかは裏切る』と言うのが見えるのに
この二人は本心が全く分からないのが、隠岐奈様にとっても頭痛の種となり得る状況が多くなるのだろうな
もしかしたら○○がらみでは、二童子は全く言う事を聞かなくなるかもと言う可能性が、無きにしもどころか結構高いのも怖い

>>557
そもそも関わった時点で負けなんだろうなぁ……
関わった瞬間から、敗戦処理が始まっている
相手を嘆かせて(怒るではない)軟禁だったりする、不自由状態に落ち込むか
○○の本心はともかくとして相手に協力して、もしかしたら外にいるよりも豊かに暮らすか

意地を取って地獄で自由に暮らすか
受け入れてしまい天国で不自由に暮らすか


563 : ○○ :2018/08/31(金) 23:01:54 wZlMU9sE
 なあ、○○、お前彼女に振られたんだってな。落ち込んでいるとこ悪いけど、返ってよかったんじゃないか?
いやいや、実はあの女が裏では色々やってたのを、案外皆知っているもんだぜ。え、誰って…。誰でもいいんだぜ。
そんなのは。結局はあの女、ちゃっかり他の男とくっついているんだから、これはコッソリと繋がっていたことは
お見通しなんだぜ。まあ、そう落ち込むなよ。ここにいい女がいるんだからさ、がっかりする必要なんでないんだぜ。

----------------------------------------------------

 うん?ああ、ちょっと村の慧音の所に行ってたんだよ。大した用じゃないさ。……そうか、知ってたのか。あんな
奴らなんて思い出すことないんだぜ。あんな酷いことして…○○を捨てていった女と、そんな尻軽を釣り上げていい
気になっていた屑なんて、どうでもいいんだぜ。むしろ逆に天罰が当たったんじゃないか。○○を傷付けた罰が当た
っただけなんだから、○○は気にしなくていいんだよ。本当なんだぜ。
 大体、フラフラと浮気するような奴が、そのままジッとしているなんて思う方がどうかしているぜ。男の方は他に
も女を作ってて、しかもそこからか街からか悪い物を貰ってきたから、女の方にも移っちまって、今では見る影も無
いって評判じゃないか。それに酒を多く飲める事を自慢していて、「燗も満足に飲めない情けない奴は、女を奪われ
て当然だ」なんて言ってたそうじゃないか。そんな生活をしていたから、奴さん肝を潰してしまって、満足に仕事が
出来ないから、ここ最近ではどこも奴の作った物を仕入れなくなったんだぜ。
 ん?どうしてそんなに詳しいかって?………秘密、なんて嘘だぜ。親父の店が色々仕入れてるからな。そっちから
幾らでも情報は入ってくるんだぜ。ああ、永遠亭の方もよく知っているからな。そこもまあ伝手が ある っ て 
こと… だ…

 ふう、危ない危ない、今日はやけに勘が鋭いなあ。薬が効くかヒヤヒヤしたぜ。まあ、あっちが使ってた毒入りの
偽物じゃあ無くって、正真正銘の本物だから勘弁して欲しいんだぜ。今夜は二人でめくるめくる快楽の波に溺れてた
いな…なんて似合わないなあ、うふふ。


564 : ○○ :2018/08/31(金) 23:07:51 wZlMU9sE
>>562
事態を終わらせようとする息子君の一撃が重く、全てを投げ捨てている○○の一撃が軽いの
ならば、そこにはノブレスの精神が詰まっているからなのでしょうか。
とするとこれが終わると息子君はしんどそうな気がしました。


565 : ○○ :2018/09/02(日) 23:03:08 qW6h7ZZ2
猫色骨董店

 落ち着いた時間が流れる午後の昼下がり、骨董店の一室では店員が一人椅子に座っていた。客を待つにしては
余りにもなおざりで、然りとて暇を潰しているには余りにも殺風景なその場所で、彼はただ椅子に座り時折、膝
の上に居座る猫を撫でていた。ゆっくりとした、或いは時間が止まっているかのようにすら見える空気は、しか
しながら客が一人入って来たことによって破られた。

 入って来た客は男性であり、この店に来る層としてはかなり若い部類であった。この店に初めて来た客の大半
がするように、骨董店にしては余り物が置いていない店内をグルリと見回した客は、店員にトランプのカードを
差し出した。
「この店では、こういった種類の物を取り扱っているようだが。」
一見何の変哲もないただの一枚のトランプ。まるで道すがらどこかの雑貨店で買ってきたかのように思えるその
カードを店員は手に取る。表を見て、裏を見て、クルリ、クルリとカードを裏返す。ふう、と溜息一つ吐いて店
員は客にカードを返した。
「いやあ、中々珍しい物を見せて頂きましたよ。」
万年筆がクルリと回り、手元の紙に数字が書き込まれる。
「世の好事家ならば、死ぬまでに一目でも見たいと言われるあの悪魔のトランプを見せて頂けるとは。…私もダ
イヤとハートを見たことは有りますが、スペードは初めて見ましたよ。」
これくらいで如何-と何でも無いように店員は紙を差し出すが、そこには車一台は優に買える金額が踊っていた。
ゴクリと唾を飲み込む客。暫くの逡巡の後、彼は店員の申し出を断った。
「いや、実はこれを売る積りは無い。」
「おや、金額の問題ですか?」
「これは私の名刺代わりの物だ。このような種類の物を正確に鑑定出来る人は少ないからな…。鑑定して欲しい物は別にある。」
「ほうほう、これ以上の物ですか…。」
身を乗り出す店員。膝の上の猫がミャアと鳴き、机の上に飛び乗った。客に試すような事をされても顔色一つ変
える様子を見せないのは、この店員の方も客に劣らす中々の変わり者であると言えた。


566 : ○○ :2018/09/02(日) 23:03:56 qW6h7ZZ2
 男が取り出したのは銀色の懐中時計だった。年代物だろうか、くすんだ銀色をしているが、丁寧に手入れが成
されていたようで、今この瞬間にも正確な時を刻んでいた。
「この時計を売りたい。」
客から出された時計を受け取る店員。やはり先程と同じ様に表裏を見た後に、クルリ、クルリと時計を手の上で
回転させる。普通の時計職人ならば気にするであろう時計の内部や刻印には目もくれず、男は時計を机の上に置いた。
「ふむ、ふむ…今度はこれで如何でしょうか。」
いつの間にか白紙に戻っていた紙の上に、店員がペンを走らせる。今度の数字は酷く単純なものであった。
「こ、これはどういうことだ!これは本物だぞ!絶対に絶対に本物だぞ!それを…ゼロとはどういうことだ!」
「ええ、これは本物ですね。」
あっさりと認める店員。
「そうだ!それがゼロ円なんてどういう積りだ!この節穴め!」
「ですから、本物だからゼロ円なんですよ、お客さん。」
「……どういうことだ…。」
動揺が走る男。顔に一筋の汗が流れた。

「お客さん、この商品をどこで手に入れられましたか?」
「元の持ち主から譲って貰ったんだ。」
「嘘…ですよね。」
疑問ではなく断定。店員は男を追い詰めていく。
「この時計は持ち主の人から、特別な人に送られた物なんですよ。そこに込められた意味を考えれば、これは他
の人に譲るべき物では無いと分かるんです。あの館への通行証代わりのトランプとは違って、世界に一つだけし
か存在しない時計なのですからね。」
「でたらめだ…。」
「いえいえお客さん、この時計に込められたモノが分かりませんか?まあ、分からないから売りに来たんでしょう
けれど。第一あなたの持っていたトランプに描かれているスートはスペード。しかも数は四と随分小さい。大方警
護をしている下っ端のメイド妖精か、門番メイド隊から奪ったんじゃあないですか?この時計の本当の持ち主なら
ば、ハートのエースのカードを持っていないといけないんですよ。剣ではなく、恋人を意味するハートのカードをね…。」
「か、帰らせてもらうぞ!」
嘘を暴かれて急いで逃げだそうとする男の後ろ姿に、店員は声を掛ける。
「お客さん、逃げるのは結構ですけれど、本当にこの連中相手に逃げ切れると思っているんですかい?」
次の瞬間男の姿はかき消え、机の上には綺麗に真っ二つに切れたハートのカードと、封筒が一枚置かれていた。
「ふむふむ…クローバーのカードをご覧になった事がないとのことで、同封させて頂きました。魔術の関係者の方
にお配りしております…とさ。しかし手厳しいね、僕は数字の2じゃないか。ねえ、君のダイヤのカードが羨ましいよ。橙…。」
店員は、やはり猫を撫でていた。

以上になります


567 : ○○ :2018/09/03(月) 14:28:34 cEJPgZZQ
ノブレス・オブリージュに囚われて(175)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=165

>>566
実力はちゃんとあったのだろうね……妖精メイド相手とはいえ通行証をかっぱらえるし
咲夜さんより恋人の方が弱いとはいえ、忍び込んで銀時計を盗めるんだから
ただ相手が悪いを通り越している。下手に実力があるから、やばいよりも好奇心が勝ったんだろうね
しかもどうやら一匹狼。そりゃ忠告してくれる人もいない


こう考えると、下手なカタギよりも悪党の方が。横のつながりで、絶対に手を出しちゃいけない人物の情報を共有してそう
風俗業界とか。ほぼ毎日情報共有のための集まりがありそう

そうなると、気の弱かったり罪悪感を持っている○○は。相手さんの勢力範囲の外には絶対出無さそう
下手に出たら、いったい何が起こるやらだから


568 : ○○ :2018/09/09(日) 01:56:44 DTEhqHw6
「知り合いの話なんだけど」
 僕へ茶菓子を出すと、アリスはそう話を切りだした。
 よくある定型句だ。僕か白黒魔法使いぐらいしかまともな知り合いの居ないアリスのことだから、それがどういう意味なのか察するなという方が難しい。
「好きな人ができたかもしれないんですって。だから相談に乗ってほしいの」
 これは思いがけない話題を出してきたものだ。僕か白黒(中略)だから、僕への告白にしか聞こえない。気分を落ち着けるために、僕の分の紅茶に口を付ける。
 アリスが僕のことを好きだというのならこの話を僕に振ってくるのは少し不自然な気もするが……
「そういう話なら魔理沙の方が適役じゃないのか?」
「男性目線の意見が聞きたいの」
「そういうことなら話を聞こうじゃないか」
 僕もアリスも、ものすごく白々しいやりとりであることは自覚していると思う。
「独りで部屋にいるときその人のことを思い浮かべると胸が苦しくなるんですって。これって恋だと思う?」
「それは恋だろうね」
「ずっと一緒に居たいと思っていて、別れの瞬間がとても辛い」
「それも恋だな」
「その人が他の女の子と話しているのを見ると無理にでも止めさせたくなる」
「恋だろうなぁ」

「いっそ監禁して私だけのものにしたい」

 部屋の空気が何度か下がったようにも感じられた。
「恋だな。愛とは呼べないような独り善がりな恋だ」
「そう、よね」
 アリスは見るからに落ち込んだ様子だ。
「今日のところはこのぐらいにさせてもらうよ。紅茶と茶菓子、ありがとうね」
 僕はそう告げて椅子から立ち上がる。が、足腰にうまく力が入らない。立っているのがやっと。
「紅茶、美味しかったでしょう? 珍しいものを入れてみたの」
 気づかぬうちに一服盛られていたらしい。これは完全に一本取られた。
「ごめんなさい」
「謝るぐらいなら、こんなことしないでほしかったな」
「でも、もう我慢できないの」
 アリスは僕へ歩み寄ると、抱きついた。
「これからは、いっしょよ。ずっとね」


569 : ○○ :2018/09/10(月) 14:39:11 jH9xHYYs
ノブレス・オブリージュに囚われて(176)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=166

>>568
「ごめんなさい」
「謝るぐらいなら、こんなことしないでほしかったな」

このやり取りに背筋がゾクリとした
アリスも、こんなことしたら嫌われるのはちゃんと理解していた
でも彼女は、○○がずっとそばにいないと安心できなかった
だから嫌われてでも、○○がそばにいなければならないようにした
業が深い。だからこそ駄目な決断をしたのだろうけれども


570 : ○○ :2018/09/12(水) 01:32:08 nvNzGau2
【1/2】
 こいしがどんな世界を見ているのかを、真面目に考えてたら思い付いた。

『アニムス』

【1】
 私、古明地こいし。今、適当に外をぶらついているの。で、そしたら人里を歩いていたの。だから、
あの人を探しにそこら辺をうろうろとしてみた。そしたら見つけた、あの人、○○。

 嬉しくなって私は○○に駆け寄った。彼の腕に取り付いて、一緒にお散歩をした。とても楽しい。
何も無かったけど、○○と一緒に居るのは楽しい。何故なら私の居なきゃいけないのは○○の隣
だから。

 いつの間にか夕暮れになっちゃった。そうなったらもうおうちに帰らなくちゃいけない。もっと○○
と一緒に居たいのに……。

 名残惜しいけど、今日はもう○○とは離れることになった。別れ際に、○○の首に抱き付いて、
頬っぺたにチュウをした。また会おうねのチュウ。

 あ、寺子屋の子たちだ。一緒に遊ぼうと声を掛けた。けどみんなはこれからおうちに帰るみたい
だから、一緒に遊べなかった。ちぇっ、つまんないのー。仕様がない、私もおうちに帰ろー。お姉
ちゃんも私を心配して探してるみたいだし。だってそう言ってたもん。

 あれ? いつの間にか夜になっちゃってる。お月様が綺麗。お星様たちがキラキラ空に散りばめ
られている、お砂糖みたいに。

 私は歩きながら晩御飯のおにぎりを頬張って、時々夜空を見上げた。やっぱりお月様は綺麗。
お砂糖みたいに輝くお星様。いっぱい。

 風も気持ち良いし、今日はこの空の下で寝よう。

【2】
 今日、○○の家に入れてもらった。お邪魔しまーす!

 置いてる物のは少ないけど、散らかってるって印象だった。布団は出しっぱだし、急須もお茶も
あんまり洗わないで使いまわしてるみたい。だから片付けてあげた。布団もぱっぱと押し入れに、
お茶もジャブジャブ水で洗った。○○、ビックリしてた。

 そのあと、○○の作ったお夕飯を食べた。とても美味しかった。ちなみに、○○が作ってる最中、
おかずをちょっとだけつまみ食いしちゃったのは内緒。

 で、ご飯を食べさせてもらったのだから、食器は私が洗うことにした。ていうか、どうせ○○は碌に
食器を洗わないんだろうし。

 その日はそれで帰ることにした。日もすっかり暮れちゃったし。それに、うちには最近帰ってない
し、きっとお姉ちゃんが心配してる。

 帰り際、私はその場で、○○の持っている電話に電話を掛けた。こんな近くで電話をする意味な
んてないのに。ちょっとした演出ってやつかな。○○ってば、怪訝な顔をしていた。風情の無い人
よね。

 だからちょっとしたいたずらをした。

 私、メリーさん――って。

 いじわるだったけど、でも、また会いたいよ、また会いに来るよって気持ちの裏返し。


571 : ○○ :2018/09/12(水) 01:34:33 nvNzGau2
【2/2】

【3】
 あ、起きた。

 私は○○の枕元に屈みこんで、彼が起きるのをじっと見ていた。○○は寝惚け眼で目をしばた
たかせてから、二度寝を決め込もうとしていた。

 ふっと○○のおでこに息を吹きかけてあげると、驚いて跳び起きた。危うく頭ぶつけるところだっ
た。危ないなー。

 でも、それで周りをきょろきょろ臆病なネズミみたいに見回しているのって可愛いなぁ。男でも、可
愛いものは可愛い。

 まだ寝坊助さんな○○に、モーニングコールをしてあげる。

 もしもし、私、メリーさん。今、あなたの家の中なの。……これからもね。

【4】
 ○○の家に知らない女が来た。○○はその女に連れられてどっか行っちゃった。

 私は追いかけた。そして後を尾けた。

 ○○を盗られた。我が物顔で盗ってった。○○は抵抗しないばかりか、笑ってさえいる。女も笑っ
ている。男に媚びる女がするような、品が無くて甲高い声で笑っているのが癇に障る。あいつ……
私を嗤ってるッ!

 ムカついた! ムカついた、ムカついた、ムカついたッ!

 だから包丁で刺してやった。そこら辺にあった包丁で、後ろからぶっすりと。

 はしたない笑い声だった女は、次の時には見っともない金切声を上げて地面をのた打ち回った。
まるでゴキブリの死に際。そんな女に私はトドメを刺す。何度も、何度も、刺してあげる。何度だって
刺してあげる。死ぬまで刺してあげる。傷口から滲み出る程度だった血が、飛び散るようになっても。
それで私の服に付いたとしても、そんなこと知らない。

 やっと死んだ。手を洗わなきゃって私は立ち上がった。

 でもその前に片付けなきゃ――ってもう一度それを見た。そしたら○○がそれの前で膝を突いて
いた。私は彼をゆすってみたけど、全然何も言ってくれないし、動いてくれなかった。

 つまんない。

 それから、あっと閃いて、私は電話を二つ取り出した。一つを○○の前に置いて、それに電話を
掛けた。果たして○○は、鳴る電話に気付いて、出た。

 ――もしもし、私、古明地こいし。

 私は○○の目の前にしゃがんで、そう言った。

 ゆっくりと○○は私の方へ目を向けた。そして私と目が合って、大きく目を見開いた。やっと目を
見て話せたね。

 私は微笑んで、それから満面の笑みを浮かべようとした。でも、急に可笑しくなってきたものだか
ら、笑顔を見せるどころか、いきなり噴き出して、大きな笑い声を上げることになった。

【完】

 ※余談ですが、こいしは上の一連の行動を全て、原作通りに終始笑顔でやっています。


572 : ○○ :2018/09/16(日) 02:50:35 vgwbn5NE
>>571
こいしちゃんは、嫌なことや望んでいないことがあったら、即座に心を閉ざして。
その上、見たい現実を実現させようと動くだろうね
酔いすぎて記憶をなくしても家に帰れるのと、ほぼ同じ理屈で


573 : ○○ :2018/09/16(日) 15:06:10 o436Lo.k
>>572
 ただし、『実現させようと動く』というだけで、それが達成出来るとは限らない。なぜ
ならこいしちゃんは自らの無意識に行動を支配されているから。無意識の中で諦観してし
まったら、もうどうにもならない。


574 : ○○ :2018/09/16(日) 23:15:52 ygsHof2M
ふと考えたけれど
○○とヤンデレの間に生まれた子供(特に息子)って、凄い苦労しそう


575 : ○○ :2018/09/16(日) 23:19:42 BkYvaYYo
>>574
いや、ヤンデレから産まれるのはさらに洗礼された娘でこどもである立場を使って父をとりにくるやべーやつの可能性


576 : ○○ :2018/09/17(月) 12:48:12 gawSm9LY
ヤンデレと一般人の間にはよりすごいヤンデレが……サイヤ人かな?


577 : ○○ :2018/09/18(火) 09:42:34 izSbvOVA
慧音「○○、君も私と同じように少し以上に畏敬の念を持たれていてほしい」
○○「気持ちは嬉しいよ、だが慧音の隣にいられるならばそれでもう大きな宝なんだよ」
慧音「それでは不公平だ、私を本当の意味で手懐ける事が出来るのは君だけだ」
○○「やり方が荒すぎる」
慧音「子供たちに手はあげない。私が、機嫌を悪くして、物を壊したりして暴れる一歩手前になるのは。全て演技だ」
○○「そうだね、よく分かるよ。現に、この部屋の荒れ模様にも臆する必要が無いと分かっている。でもやり過ぎ。まさか小屋ひとつを潰すどころか更地とは」
慧音「私は、半分妖怪なんだよ。それを大きくみない君は貴重なんだ。私を本当の意味で止めれるのは、会話が出来るのは君だけだ。それを周りに分からせたい」

慧音「そうすれば君は、今以上に大きな顔が出来る」
○○「もう十分出来ているし、それを周りも理解してくれているよ」
慧音「人間は、忘れっぽい。○○のように個人単位では記憶力が良いものもいるけれど……全体では大したことがない」
○○「その為に、人間は記録を作る」
慧音「すぐに役立てる人間が少ない」

結局、私は慧音とそうやりながら一晩中水掛け論を繰り返した。
けれどもそれこそが、慧音の目的なのだ。会話に疲れてきた頃、慧音は私を膝元に誘った。
○○「こんな上物に、膝枕をもらえるとはね」
ややを通り越して、下世話な言葉だが。少しばかり強く笑うだけ、あるいは挑発的に胸元を少し開けた。
○○「そう」
私は短く答える。
白状しよう、私はこのとき慧音を一人の女としてみていた。
最も、慧音はそれを望んでいる。
守護者でもなく、ワーハクタクでもなく、半人半妖でもない。
上白沢慧音をみている、○○を。
○○「稗田阿求よりは、マシか……」
しかし、他の女の話は。ましてや比較には少しばかり機嫌を悪くした。


578 : ○○ :2018/09/18(火) 14:24:28 ySRI32YI
ノブレス・オブリージュに囚われて(177)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=167
もう終わりは見えています
続いてもあと五話ぐらいです

>>577
旦那にそれなりの地位を与えたいのは、何となくわかる
そのやり方が、旦那以外に価値を置いていないから被害上等な所が歪んでいるなと……


579 : ○○ :2018/09/19(水) 20:28:02 VwtjMSPw
紫 「さて私達は晴れて夫婦になったわけですけれど」
○○「はい」
紫 「○○は家の外に出てはいけません」
○○「えっ」
紫 「えっ」
○○「何故ですか」
紫 「妖怪と結婚するということはそういうことなのです」
○○「そうなんだ」
紫 「それと他の女と話してもいけません」
○○「えっ」
紫 「いけません」
○○「藍さんもですか」
紫 「駄目です」
○○「なにそれこわい」
紫 「えっ」
○○「えっ」
紫 「まさか他の女と話したいのですか」
○○「進んで話したいとは思いませんが」
紫 「では問題ないですね」
○○「なるほど」
紫 「じゃああなたを妖怪にしますね」
○○「えっ」
紫 「えっ」
○○「なぜですか」
紫 「あなたを独占し永く愛し合うためです」
○○「なにそれこわい」
紫 「まあ泥棒猫があなたを奪いにきたらそいつは地獄を見ますが」
○○「なにそれもこわい」
紫 「えっ」
○○「えっ」


紫 「ってことがあってね。結局全部受け入れてくれた旦那様が愛おしすぎて生きるのが楽しいわ」
霊夢「へー。いい人ね」
菫子(なんかどこかで聞いたことのあるようなノリだなあ)

という、コピペのテンポを真似したネタ


580 : ○○ :2018/09/19(水) 20:57:41 GNkWp.v2
○○のセコムは基本的に怖いから
もうぶっちゃけ家から出ないでください(談、人里の皆さん)


581 : ○○ :2018/09/20(木) 02:37:37 tLw.Eppc
なにそれこわいで済む○○の聖人っぷりよ


582 : ○○ :2018/09/22(土) 19:53:25 s89ooMU.
>>579の紫様がやば可愛かったのでラフになりますが描かせてもらいました
いつものように言ってもらえば消します
ttps://i.imgur.com/JzI0gbx.jpg


583 : ○○ :2018/09/23(日) 00:50:51 o.PvKJBQ
>>582
滅茶苦茶可愛く書いてもらえてどちゃくそ嬉しいです本当にありがとうございます!


584 : ○○ :2018/09/25(火) 15:48:36 SFwq7ftk
マミ「ただいま○○……おい、お前は帰っていいぞ」
子狸「はっ」
○○「おかえりマミゾウさん。茶髪ちゃん、今日もありがとうね」
マミ「…………」
子狸「あ、し、失礼します!」
○○「あ……うーん、やっぱり嫌われてるのかな。ねえ、マミゾウさん。お手伝いさんを付けてくれるのは有難いんだけど、他の人じゃだめなの?あの子なんだか俺のこと苦手みたいだし、可哀想じゃない?」
マミ「……ふむ、考えておこう」
○○「うん、お願い……と、そうだ。お風呂、まだしばらくかかるけど先にご飯食べる?」
マミ「んー?ふふ、それならば○○を先に……や、冗談じゃ、風呂を待つ。だからそんな顔をするな。それよりも――」
○○「はいはい、どうぞ」
マミ「ふふふ、ドーンじゃ!……んんんんぅぅ……ああ、やはり○○にこうやって抱きしめられるのは最高じゃのう」
○○「それは良かった」
マミ「……むぅ。○○は素直なのはいいが、もっとこう、女を喜ばせるようなことは言えんのか?」
○○「え?どんなことを言ったら女性が喜ぶかなんて分からないんだけど」
マミ「全く、女の悦ばせ方は熟知しているくせに……まあ、試しに何か言ってみい」
○○「ええ?」
マミ「容姿を褒めたりとかあるじゃろ」
○○「褒めるといっても……ああ、でも、マミゾウさんの目ってくりくりしてて綺麗だよね」
マミ「む、そうか?」
○○「うん。眼鏡も瞳の色が映えて似合うし……あ、髪もふわふわでいい匂いするから、抱き締めた時とかつい嗅いじゃうなあ」
マミ「あ、ん、え……?」
○○「笑ったらすごい可愛いし、大妖怪なのに俺みたいな人間にも優しいし、手とかこんなに小さくて柔らかくて、こうやってずっと握ってられるし」
マミ「こうやってって、ちょ、手……」
○○「俺がマミゾウさんの尻尾もふもふしてたら自分の尻尾なのに嫉妬しちゃうとことか本当に愛おしいし、喧嘩しても一時間持たなくてこっちの視界に入る所で怒ってないアピールするのとか――」
マミ「待て待てまてマテ!」
○○「あれ、マミゾウさんの良い所挙げてみたんだけどお気に召さなかった?」
マミ「最後の方のは良い所か!?」
○○「違うかな?」
マミ「違……わないのかもしれんが、恥ずかし過ぎるわ!」
○○「あ、ごめん。じゃあやっぱり嬉しくなかったんだ?」
マミ「…………ぃ」
○○「え?」
マミ「嬉しいって言ったんじゃ!こんな、抱き寄せられて、手も指を絡めて握られて!○○が儂をどう思って見てたかなんて、今まで聞いたことのないことを言われて!嬉しくないわけがないじゃろ!」
○○「え、と。ごめん?」
マミ「許さん。四六時中良い意味でも悪い意味でも儂をドキドキさせおって。もう辛抱たまらん、お仕置きじゃ」
○○「あー……お仕置きって?」
マミ「閨事に決まってるじゃろ」
○○「ちょ、夕飯とお風呂――」
マミ「そんなもん後じゃ!」
○○「いや、ほんと待っ――」
マミ「問答無用!」
○○「うおあ!?」


585 : ○○ :2018/09/25(火) 15:50:31 SFwq7ftk
―――――――――――――――――――――

マミ「まあ結局、最後には儂があひんあひん言わされたんじゃが――」
ぬえ「いや親友の情事の詳細なんて知りたくないわ!」
マミ「なんじゃつまらん」
ぬえ「うるさい!久しぶりに会いに来たかと思ったら惚気の上に猥談まで始めやがって!」
マミ「仕方なかろう。休みなのに○○に家を追い出されたんじゃから」
ぬえ「あれ、それは初耳。なに、喧嘩でも……いや、それなら今頃怒ってないアピールとやらをしてるか」
マミ「ぐぬ……言わなければ良かったかのう」
ぬえ「いやほんとにね。で、実際どうしたの?」
マミ「ああ、今日は同棲を始めて一年の記念日なんじゃが、ご馳走を作ると言って下準備に忙しくしてた○○にちょっかいを出してたら、夕方まで帰ってくるなと言われた」
ぬえ「子供かよ……けど、マミゾウも随分落ち着いたよね」
マミ「そうか?」
ぬえ「そうよ。少し前なら、家を追い出されたりしたら○○が他の女に靡いたとか言って暴れてたでしょ?」
マミ「あー、まあ、そうじゃなあ」
ぬえ「どういう心境の変化?」
マミ「うーん、○○に愛されていることが分かっているから、かのう?」
ぬえ「そんなことでそんなに変わるもの?」
マミ「儂のような女にはそれが一番大きな影響を及ぼすもんじゃ。相手から想われていないというのは……堪える」
ぬえ「わあ、実感篭ってるなー……でも、マミゾウみたいな疑り深いのが、なんでその男を信じられてるの?」
マミ「ふむ。普段の言動が誠実であったり、ちょっとした時に優しさや気遣いを感じられたりと色々あるが……やっぱり一番は閨事かのう?」
ぬえ「そこでまたその話になるわけ!?」
マミ「いや、これは冗談ではない。男女の営みを『愛し合う』と表現するのは伊達じゃないぞ?」
ぬえ「えー?」
マミ「まあ、おぼこのお主には分からんかもしれんが、閨事には本音が出るものじゃ。アレは互いが本当に想い合っていなければ心まで満たされん」
ぬえ「……つまりマミゾウは○○との、その、ソレに毎回大満足、と」
マミ「うむ!」
ぬえ「うるせえ!」
マミ「はっはっは」
ぬえ「はあ……けど、それなら良かったじゃない」
マミ「そうじゃな……じゃが、儂の心根自体は変わっておらんよ」
ぬえ「心根?」
マミ「ああ。儂は今、心が満たされているだけなんじゃよ。○○を愛し、○○に愛されていることで、心が穏やかになっているだけに過ぎん」
ぬえ「それはいいことなんじゃないの?」
マミ「いいことじゃ。じゃが、もしも○○の心が儂から離れることがあれば、儂は……ナニヲスルカワカラン」
ぬえ「っ……!」
マミ「……のう?少し考えるだけでもこうなるんじゃ。落ち着いたように見えてもそれは表面上だけじゃよ」
ぬえ「……そうみたいね」
マミ「それに、儂が家を離れる時は手伝いと称して部下を監視に付けておる。それも命令される以外で口を聞いたり、好意を受け取るなと伝えてな。それでも心配で、家に帰ったら○○に他の女の匂いがついていないか確認してしまう。結局、儂は臆病で嫉妬に塗れたままなんじゃ」
ぬえ「……不安ならそう言えばいいじゃん」
マミ「何を言えというのじゃ?捨てないでくれと、自分だけを見てろとでも?……男はこういう面倒くさい女からは離れたがる。それを口にするのは自分の首を絞めることにしかならんよ」
ぬえ「いつか破綻するよ」
マミ「させんよ」
ぬえ「…………」
マミ「いい時間じゃな。儂はそろそろ帰るよ」
ぬえ「……また来いよ。惚気くらいなら聞いてやってもいい」
マミ「ありがとうの」

ぬえ「…………」
ぬえ「あーあ。私も面倒くさい性格してるなあ」
ぬえ「……次会った時は怨まれてるかなあ」


586 : ○○ :2018/09/25(火) 15:53:16 SFwq7ftk
―――――――――――――――

マミ「ただい……ま」
○○「おかえり、マミゾウさん」
マミ「ぬえの匂いがする」
○○「あ、そういうのわかるんだ?」
マミ「おいお前 、ぬえは何をしに来た?」
子狸「は、はっ。その……」
○○「あ、俺が説明するから茶髪ちゃんは帰っていいよ」
子狸「え、と……?」
マミ「……ああ、帰れ」
子狸「はっ、失礼します!」
○○「今日もありがとねー」
マミ「……それで、ぬえは何をしに来た?」
○○「そんな怖い顔で震えなくてもそんな大したことじゃないよ。ほら、いつものしてあげる」
マミ「……何を知った?」
○○「まあ、色々。主にマミゾウさんが、思ったよりも俺のこと好きだったってことかな」
マミ「……嫌じゃ……捨てんでくれ……」
○○「おっけー」
マミ「……今なんと?」
○○「おっけーって。というか、なんでそういう話になるのか分かんないんだけど」
マミ「ぬえに全部聞いたんじゃろう?儂が何を思っていて、何をしていたか」
○○「うん、聞いた」
マミ「ならば愛想が尽きたじゃろう!」
○○「いや全然?」
マミ「え?」
○○「それよりマミゾウさんは俺をどうしたいの?俺にどうして欲しいの?ほれ、怒んないから言ってみ?」
マミ「っ……○○を、誰の目にもつかない所に閉じ込めてしまいたい。そして、それでも○○に愛してもらいたい!」
○○「うん、いいよ」
マミ「は……?」
○○「だって俺、幻想郷に来て働くとこが見つからない所をマミゾウさんに拾ってもらったわけだから、別に会いたい人もいないし……あ、外の世界に帰りたいってのも特にないから安心してね」
マミ「な……」
○○「それで、どこか遠くの地でマミゾウさんと今まで通り過ごせば、マミゾウさんが悲しまなくていいんでしょ?じゃあもうそれ一択だよね」
マミ「……やめてくれ。夢を見せないでくれ。その優しさが怖い……それは、信じられない……」
○○「信じてもらえないって微妙に傷つくけど、まあ、そうなるんだろうね」
○○「……となれば、やることは一つ」
マミ「やること?」
○○「いやあ、ぬえさんに色々聞いたって言ったじゃん?その中にこんな言葉もあったんだよね」
マミ「……え、と?」
○○「『閨事には本音が出るもの』なんだってね?」
マミ「なっ!?」
○○「言葉で信じてもらえないなら、伝わる方法を取るしかないじゃない?」
マミ「えっと、その、もしかして○○、怒っておるのか?」
○○「……いっぱい気持ち良くしてあげるからね」
マミ「怒っとるじゃないか!ちょっ、まっ……」
マミ「みゃあああ!!」


587 : ○○ :2018/09/25(火) 15:59:43 SFwq7ftk
―――――――――――――――――――――

マミ「そして儂は何度も気をやるまで――」
ぬえ「だから親友に自分の情事を語るんじゃねえ!」
マミ「つまらんのう」
ぬえ「つまらなくてけっこうだ!」
マミ「……ありがとうの」
ぬえ「ああ?……別にいいよ。ぶっちゃけ博打だったし、その博打に負けてたら怨まれてただろうし、礼を言うならあんたを受け入れた○○でしょ」
マミ「じゃが、お主がその覚悟を持って○○に会いに行かなければ、こうはならんかった。もしかしたら最悪の結果になったかもしれん。じゃからお主には感謝してもしきれん」
ぬえ「あ、じゃあ○○貸してよ。そろそろ生娘は卒業したい」
マミ「それとこれとは話が別じゃ。死ぬか?」
ぬえ「冗談だってば。全く、そんなんでその子を育てられるの?」
マミ「大丈夫じゃ……多分」
ぬえ「そこは断定してよ……まあ、○○って子供溺愛しそうだし、ヤンデレ奥さんとしては気が気じゃないか」
マミ「息子なら安心なんじゃが娘はなあ……いや、冗談じゃからその顔はやめい」
ぬえ「冗談に聞こえないんだよ!」
マミ「ふふ、大丈夫じゃよ。この子を身篭ってから、どす黒い感情が小さくなってきているのを感じるんじゃ」
ぬえ「母性にでも目覚めた?」
マミ「かもしれんのう」
ぬえ「そりゃ良かった。全く変わらなかったら○○が報われなさすぎる」
マミ「違いない。本当に儂にはもったいない程のいい男よ」
ぬえ「そうね……けど、意外」
マミ「なにがじゃ?」
ぬえ「結局、○○を閉じ込めたりしなかったし、人付き合いに関してはもう自由にさせてるんでしょ?○○に部下も付けてないって話だし」
マミ「ああ、そうじゃな」
ぬえ「なんでそうしたの?」
マミ「それが普通だから、かのう?」
ぬえ「……?」
マミ「○○に、歪な生活を強いるのが嫌になった。代わりに、○○のためにできることをしたいと思えるようになったんじゃ」
ぬえ「いい奥さんになりたくなったってこと?」
マミ「要はそういうことじゃ。自分の想いだけを押し付けるなど、夫婦とは言えんじゃろう?」
ぬえ「ふーん。なんかいいね、そういうの」
マミ「うむ。お主も早く相手を見つけるといい。世界が変わるぞ」
ぬえ「えー」
マミ「ああ、この子が男子だったら、お主になら婿にやってもいいぞ」
ぬえ「マミゾウが義母とか嫌すぎる!」
マミ「ははは……っと、そろそろ帰るかの」
ぬえ「ああ、そう?そういや、今日はなんでこっちに来たわけ?」
マミ「前と同じじゃ」
ぬえ「懲りろよ!お腹も大きくなってきたんだからそろそろ落ち着け!」
マミ「○○がちょこまか動いているのに落ち着いてられるか!」
ぬえ「……はあ。もういいや、○○も待ってるでしょうし早く帰んなよ」
マミ「うむ。本当に世話になったな」
ぬえ「はいはい。あ、子供が生まれたら遊びに行くね」
マミ「ああ、待ってる。それじゃあの」
ぬえ「ん、ばいばい」
マミ「…………」
マミ「本当に、儂の周りは良い奴ばかりじゃ」


マミ「ただいま、○○」
○○「おかえりマミさん。大丈夫?疲れてない?」
マミ「本当に○○は過保護じゃのう。大丈夫じゃ、それより――」
○○「はい、どうぞ。ゆっくりね?」
マミ「むぅ。分かっておる……うむ、落ち着く」
○○「……ね、マミさん」
マミ「ん?なんじゃ」
○○「愛してる」
マミ「!……ああ、儂もじゃ!○○、愛しておるぞ!」


うん、「また」なんだ、済まない 仏の顔も(ry
というわけでハッピーエンドしか書けないわけですよ
ヤンデレが好きだけど女の子には陰のない笑顔でいてほしいんですよ
あとできればでいいんで絵師ニキさん挿絵書いてくださいオナシャス


588 : ○○ :2018/09/25(火) 21:27:50 XcpUxyr2
自分の闇を自覚して悩むの好き
ハッピーエンドも全然悪くないむしろウェルカム


589 : ○○ :2018/09/26(水) 12:06:23 IoqDg4ZE
長編さんがバットエンドへの直行便飛ばしてるから、こういう軽いのは癒される


590 : ○○ :2018/09/26(水) 14:45:58 VaVo9fnk
俺はヤンデレマミゾウにハラハラしていたはずが砂糖を吐いていた(ポルナレフ)
ここエログロは駄目だけど男女の結びつきとしてセックスが深い描写無しで書かれていて個人的に良いなと思った


591 : ○○ :2018/09/28(金) 21:03:43 HOrL0/eI
ごめんねと思いつつ、相手を監禁。もしくはそれに近くする
罪悪感を覚えつつも、手放したくない……

そこを通り越して
○○と二人きりのときに、土下座して
私のそばにいてくださいと言うのは
献身的なヤンデレかも
しかし問題は、○○が悪人でもヤンデレの行動と組織力が勝っている


592 : ○○ :2018/09/28(金) 21:19:18 Rf9W2YtY
>>587さんお待たせしました
怖いマミゾウさんが描きたかったので>>585の場面を切り取りました
イメージと違ってたら消すので言ってくださいね
お話もマミゾウさんがしっかり病んでいるのに暗くなりすぎず、ぬえと〇〇がマミゾウさん想いでなるべくしてなったハッピーエンドという感じで面白かったです
ttps://i.imgur.com/xkD8ybU.jpg


593 : ○○ :2018/09/28(金) 23:59:31 wrtOqLfM
久し振りに投下

 猫色骨董店2

 温暖化の影響か例年よりも暑かった日々が過ぎ去り、爽やかな空気が朝の街に流れるようになった頃、静かな
店内の一室で店員は椅子に座っていた。ビジネスマンが行き交う忙しない外の世界とは切り離された、落ち着い
た時間が流れる店の中。店員の膝の上には一匹の猫が座っていた。撫でるように手を動かす店員。このまま何事
も無く今日が過ぎ去っていくかと店員が思ったその時に、客が一人入って来た。
「いらっしゃい。」
何回か見た事のある客に声を掛ける。普通の質屋ならば馴染みの客の一人や二人は居るのであろうが、生憎この
店はブランド物や宝石というような在り来たりの物は扱っていない。必然、客は一期一会が多くなっていた。
「また、これを頼むよ。」
男が取り出したのは人形のぬいぐるみだった。金色の髪に緑の目とくれば、西洋人形をモチーフにしているよう
な気がするが彼女に付いている尖った耳が、彼女が人外だと教えていた。慣れた手つきで人形をテーブルの上に
乗せた後で、男は気怠げに椅子に座って店員の査定を待っていた。
「今回はこちらの金額で。」
店員が一枚紙を千切る。すると紙は風にに吹かれた様にふわりと飛んでいき、男の手元に着地した。
「おっ、ラッキー。前回よりも金額が上がってるじゃん。」
「そちらの人形の評価です。」
予想よりも金額が良かったのか、ホクホク顔で男は言う。
「やっぱ最高だわ。呪いの人形なんて売っちまえば、何回でも稼げるんだから。」
「…そうですか。恐らく今回の査定が最後になるかと。」
「…?あっそ。そんじゃね。」
店員が意味深げな言葉を言うも、人形への興味が薄れた男は、さっさと店を出て行った。


594 : ○○ :2018/09/29(土) 00:00:12 WybEgq5I
 それから暫くしてドアに付けた呼び鈴が鳴り、再び客が現れた。
「いらっしゃい。」
こちらも何回か見た事のある客に店員が声を掛ける。彼女はいつも、男の後にこの店にやってきた。
「この人形、引き取ります。」
金色の髪に尖った耳、そして嫉妬に駆られた緑色の目をした女が、男がこの店で売った人形を買い戻す。自分そっ
くりに仕立て上げた、呪いを掛けた依り代の人形を。男が売る度に人形の値段は高くなり、そして呪いはその度に
深くなっていく。幾度も繰り返された一連の行為によって、既に男の手足には雁字搦めに呪いが掛かっていた。
「次は頭ですか?」
ふと店員が女に尋ねる。男を救うなんていう崇高な気持ちでは無く、単純な興味として。
「次は心臓、頭はその次。」
それだけを言い残して女は去っていった。人形が女の持っていた袋に入れられた時、金属がジャラリと音を立てた。
 客が居なくなった店で、店員は猫の背中を撫でながら独り言のように話す。
「ねえ、橙。一思いに藁人形の頭を打ち抜くんじゃなくて、わざわざ魂を絡め取ってから命を奪うようだね。まあ、
彼の寿命が一回伸びたと思えばいいのかな…。」
店員に返事をするかのように、猫が鳴き声をあげた。


595 : ○○ :2018/09/29(土) 00:07:50 WybEgq5I
>>578
あと僅かとは思えない程、緊迫の場面が連続しています…
これで婿殿との縁は切れたのでしょうか。

>>587
上手く○○が闇を収めましたね
ハッピーエンドには○○の協力が必須なのかもしれません。

>>592
いつも乙です。妖怪らしさが漂うマミゾウですね


596 : ○○ :2018/09/29(土) 01:20:12 T0Q7gpTg
>>592
本気で何するかわからないって感じがひしひしと伝わってくる…そりゃ妖怪のぬえでもあんな反応するわと
しかしモノクロ調に瞳だけカラーってヤンデレにすごくマッチするね
他の作品の挿絵も見てみたい


>>594
怖いはずなのになぜか爽やかな読後感を持ってしまうという不思議な感覚
淡々とした作風?店員のキャラ?どれが要因か分からないけどサッと読めてすごく面白いです(小並感)


597 : ○○ :2018/09/29(土) 02:12:50 O8XEQZzg
絶対輪廻退夢ちゃん(平安編)のパロディ的な感じに作ってみた。


悠久輪廻阿求ちゃん

 今日も一日が終わった。
 ここは幻想郷の人里の一角。外から幻想郷に迷い込んだ者や、何らかの形で財産を失った者たちが身を寄せ合う、貧乏長屋である。
 俺は○○。昔の記憶が少しばかり曖昧なのだが、元は外の世界からやって来た日本人であり、何故か元の世界に帰る事が出来ないというので、仕方なくこの長屋の世話になっている。
 しかし、仕方なくとは言うが住めば都。住人たちの仲は良く、金欠であってもお裾分けのおかげで食い逸れることは無い。受けた恩は後できっちりと返す必要はあるのだが、それは礼儀節度の問題だろう。
「おや、○○くん。いま帰りかい?」
「ええ。どうにか今日も無事に終わりましたよ」
 うん、実に平和だ。こんなのどかな時間は、外の世界で経験した記憶が無い。いや、単に忘れているだけなのかもしれないが……。
 だが、俺にはもう一つだけ忘れていたことがあった。
「あ、○○兄ちゃん。今日もいっぱいお手がみきてたよ」
 近所の子供の言う通り、俺の部屋の前には大量の手紙が置いてあった。
 大量と言われても想像がつかないかもしれないが、一言で表すなら、神社の巫女が使っている何とか陣というのをリアルで再現できそうな感じだ。

#########################

 ああ、貴方を思うと胸が高鳴ってしまうのです。
 まるで夜空に輝く星々のように心は煌めき、貴方と胸の高鳴りを確かめ合いたく思います。
 出来ることなら、大声で叫びたく思います。私はここにいるの、貴方の手で見つけてほしいの、と――。
 でも、貴方が気付いてくれるとは限らないでしょう。
 ですから私は、この心の内を墨に託して恋文として贈ることに決めたのです。

 ええ、贈りましょうとも。百通、千通、二千通。腕が腫れ上がろうとも、したため続けてご覧にいれましょう。
 食事などとっている場合では御座いません。夜空を翔る魔女の如く、秋の山を翔る天狗の如く、疾風怒濤の恋文嵐です。
 そう言えば今日から使いの者が変わるのでご了承くださいませ。何せ、さがさなひで下さひ、と書置きを残して去ってしまうんですもの。
 たかだが丑三つ時に手紙を置きに行くだけの簡単な仕事に、何を疲れるというのでしょうか。
 そんな情けない方は稗田家には必要御座いません。その程度で私の恋情は止まるものではないのですから。

 ところで、先日の文の返事は何時になるのでしょうか。
 貴方のような律儀な御方が忘れているとは思えないのですが、私も待ち焦がれているのです。それこそ、魑魅魍魎になってしまうかと思いました。
 まさか、浮気などはしていないでしょうね。
 いいえ、きっと貴方の事ですから、相手から一方的に思われているだけなのでしょう。そんな一方通行な恋慕は、私が穏便に"沈めて"みせましょう。

 ああ、でも恋文だけでは足りなく思えてきましたわ。
 最近はつい、貴方によく似た人形に愛の一文字を記した紙を張りつけて、二度と剥がれてしまわないように、釘を打ち込んでしまいますの。

 いつか、好き返事をお待ちしておりますわ。

#########################

 はじまりが何時だったかは覚えていない。覚えていないのだが、とにかく俺の部屋に恋文らしきものが送られるようになってから、すでに一ヶ月は経っていたと思われる。
 人間の里のご令嬢。歴史を知る少女。転生の娘。何度も生まれ変わっては、幻想郷縁起を綴ってきた数奇な運命の持ち主。
 稗田阿求。それが、この文の送り主の名前だ。

 そんな彼女の、人里の名門である彼女の琴線に、貧乏人の俺の何が触れたのか。きっと俺には一生理解できないのかもしれない。
 別に嬉しくない訳ではない。訳ではないのだが、流石にこの量は困る。
 とにかく、この手紙の山を放置しては部屋には入れない。そう考えた俺は手紙の山を抱えて、体を起こし……その場にうずくまった。
「げ……が……なん……!?」
 痛く苦しい。原因不明の症状が、俺の胸に襲い掛かった。
 まさか病気か。大して蓄えが無い身で病気などもっての外だと思って、健康にはそれなりに気を付けていたつもりなのだが……。

 "貴方によく似た人形に"
 "釘を打ち込んでしまいますの"

 まさか、な……。


598 : ○○ :2018/09/29(土) 23:11:16 DRumSwQo
居酒屋『旧地獄』

△△「○○氏さぁTwitterとかやってないん?」
○○「アカウント作っただけ、なんにも呟いてない。これ」
△△「うわっ2年前に作ってるのに一回も呟いてない」
○○「みんなワイワイTwitterやってるのに俺一人だけ誰も見てないとこで呟くのを想像すると悲しくて…」
△△「ほら拙者フォローするから」
○○「フォロワーにリア友がいるとなるとそれはそれで呟きづらいな」
△△「んもぉ」
○○「知らない人にフォローとかリツイートもいいねも気を使うしなんも呟いてない俺のアカウントをフォローする人も怖い」
△△「いやいやTwitterってそういうもんでござるよ」

○○「なに呟こうかな」
△△「今きたメニュー、だし巻き玉子」
○○「だーしーまーきーたーまーごー」パシャッ

丸之助@yandere
んぅ〜!!だしまきたまごおいしすぎるぅ〜!!ハチャメチャが押し寄せてくる〜!ブイブイ今夜は飲むぞ〜!!!

△△「あんな不信だったのになんでこんなテンション高いの」
○○「△△こそなんでTwitterじゃ萌えキャラ路線なんだよ」
△△「いいじゃんそこはネット上じゃかわいいキャラでいさせてよ現実がこんなんだから…ん?」
△△「○○氏フォロワーいるじゃん」
○○「アカウント作りたての時になんかしらんけどフォローしてくれてた人だと思う」
△△「ふーん…ほー…○○氏ぃこのフォロワーの人多分JDでござるよJD…おう?」
○○「んお?」ピロン

ウシロベリー@yakumo
返信元@yandereさん
そのだし巻き玉子すごくおいしそうですね。どこのお店ですか?

○○「えーっと京都幻想大学の近くの…」
△△「待って、ちょっと待って○○氏。待って、待って?」
○○「え?何?」
△△「いきなり知らない人から話しかけられたんでござるよ?さっきそういうの怖いって言ってたじゃん!っていうか返信早すぎるよこの人!」
○○「Twitter雑魚の俺に話しかけてくれるなんていい人に違いない」
△△「なんでこういう時だけそんなピュアなの!?下手したら自分が誰かを特定する材料になることだってあるんだよ?」
○○「え?だったらリア友になれるじゃん」
△△「Twitterでびくびくしてた人がなんでそんな人間関係に逞しいのさ」


○○「また飲もうなー」バイバーイ
△△「うーい」

△△「……」

△△「あ、もしもしウサミン氏?あー、うん。○○氏の…そう、うん。Twitter…放置アカウントがあって…うん…言われた通り特定したから…拙者のフォロワーから…うん…うん…」

△△「……あの、拙者がバラしたことはくれぐれも内密に…○○氏とは…いい友人のままでいたいし…うん…うん…それじゃ、また」ピッ


例えば弱味を握られて、暴力で脅されて、自分がこんなことをやっているのかと問われると答えるのに困る。
では自分の意思で友人のTwitterの情報をバラしたのだとしたら責められるべき人間だ
でもそれをなんとも思っていないほど自分は悪人ではないと信じたい
この煮え切らない罪悪感を抱えるようになってどれ程経つか
一番の親友の情報を自分の想い人に渡すという不毛なことを続けてどれ程経つか
宇佐見蓮子は知っている、なぜ僕が『協力』するのかを。知っていて、知っていて…
実ることのない偽物の僕
こんなどうしようもなく汚い自分の感情を誰でもいいから聞いて欲しい。
Twitterでぶちまけてしまいたい
でもできない、できない。
現実の僕の不甲斐なさにネットの僕は世界はもっと楽しくて喜びに満ちあふれてるとキラキラした幻想の自分を騙る
誰に話せばいい、誰に助けを求めればいい
偽物の友達、偽物の協力者
これ以上自分を呪うのは辛すぎる
本当のことを吐き出したい、友達を騙すのは辛いと叫びたい、騙してごめんと謝りたい。
好きだから協力できないと断りたい、愛していると語りたい
現れてくれ、誰でもいい
ヒーローよ、怪人よ、僕を裁いてくれ
無数の登録者の隙間をすり抜けて彼のアカウントをフォローしていた『あなた』でも構わない
全部壊してくれ

本物の友達になりたい、本物の協力者になりたい
笑いたい、心の底から

声にならない言葉はどこにも届くことはない
ならば差し伸べられる手も向けられることはない
そうしていつか、病に至る


599 : ○○ :2018/09/30(日) 07:48:46 W8qP4AbI
ノブレス・オブリージュに囚われて(178)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=168


台風怖い停電したら、文章も書けなくなる

>>594
この客、鈍感と言うか悪人過ぎてパルスィを応援してしまった
しかし前回の客も、咲夜さんの恋人から金目のものを奪ったし
なんかこの骨とう品店が、各ヤンデレ達が表だって動けない時のための仕事人なんじゃと思った
その発想だと、呪いの人形を送り付けられる客も、事故などではなくて故意に何かをやったのだろうか

>>597
やったね○○、これからは阿求の家で療養生活だ
阿求はいい子だから、罪悪感のおかげですごく贅沢させてくれるよ

>>598
異性よりも、同性の方が初めのとっかかりとしての会話は難易度が低いから、諜報役として必要
どこで何を食べたりしたかも、これで情報が手に入りやすくなる
考えたくはないが、あるいは異性の影もこれで早めにつかめる
この諜報役さん、○○の傍に雇い主以外の異性を見つけたら胃潰瘍になりそう


600 : ○○ :2018/10/01(月) 01:03:55 gCiyIQrA
>>592
まさか本当に書いてもらえるとは…!
髪型や貧乳加減、表情やポーズまで完璧です!ありがとうございます!


601 : ○○ :2018/10/02(火) 13:46:19 .yRRzLx.
>>594
文章上手い。ありきたりな舞台なのに、ここまで綺麗にさりげない比喩と耳障りの良い語彙のチョイスで文章作れるのおいちゃんちょっと悔しいくらい。
投稿しようと思ってた奴また見直しだよこんなの…(誉め言葉)


602 : ○○ :2018/10/07(日) 23:52:09 cgYcLlIg
 ノックス破り

「つまり、犯人は貴方です。レミリア・スカーレット…いえ、フランドール・スカーレットさん。」
洋館の中で探偵が高らかに宣言する。お決まりのように関係者を全て集め、神の見えざる手に導かれるか
のように犯人を指差す。ミステリー小説では有終の美を飾る筈の光景はこの空間では少々常識に囚われて
しまっていたようだ。例えば、誰かが探偵の推理にケチを付ける程度には。
「誰…?」
「どなたでしょうか?」
「お嬢様に御家族が居らっしゃるなんて、存じておりませんわ。」
「うーん、知りませんね。」
いきなり出だしで躓いた探偵だが、なおも諦めずに推理を展開していく。
「事の始まりは五年程前、レミリア・スカーレットは妹のフランドールを幽閉したんですよ。そしてその
事を恨みに思っていた妹が、今回の犯行に及んだのです。即ち密室になった部屋の外から当主のレミリア
を秘密の通路のトリックを利用して殺して、その後で自分がレミリアに成り代わっていたのです。」
「レミリア様が入れ替わったのなら、多分皆、気づくと思いますけれど…。」
「そうです。美鈴の言う通り、お嬢様を見間違うなんて事は絶対にあり得ません。」
忠実なボディーガードや瀟洒なメイドから反論が起こるが、探偵はなおも話しを続ける。
「いいえ、彼女はそれが可能なんです。とはいえこんなトリックをする事が出来るのは最早、フランドー
ルだけになってしまったと言えるでしょう…。」
探偵は指を再度掲げ、青い髪の少女に突きつける。
「何故なら、彼女はこの世でただ一人の吸血鬼だからです!」


603 : ○○ :2018/10/07(日) 23:52:53 cgYcLlIg
「ぷっ、ははは、貴方馬鹿じゃないの?」
「ほんと笑ってしまいますね。流石、当てずっぽうの名探偵の二つ名は伊達じゃありませんね。」
「よりによって吸血鬼なんて…そんなの「現実の世界」にいる訳ないじゃないですか。」
「お客様、お帰りはあちらのドアですよ。」
そのまま探偵達は回転寿司がコーナーに流れていくように、あっという間に館を後にすることとなった。取っ
て置きの推理を否定された探偵は、憤懣やるかたないといった案配だったが、隣のさとりは何処吹く風といっ
た涼しい顔をしている。たまらず探偵はさとりに話しかける。溜まったものを吐き出すかのように。
「さとり、どうしてそんなに平気でいられるんだい?」
「いえ、流石に直感だけでは、どうしようもありませんからね。……それに当主の方からの依頼は大成功で
したので。」
さとりに否定されたと思った探偵は、不満げに反論する。
「さとりも僕の推理が間違っているって言うのかい?これについては本当に、当たっている予感がするんだ
よ。まさに心の奥底から確信と共に、急に湧き上がってきた傑作なんだから。」
「…推理の方は当たっていますよ。でも、真実を暴くのが誰からも望まれるとは限りませんからね。ほら、
こいしが来ましたよ。」
探偵の空いていた方の腕に急に重みが掛かる。今の今まで気づかなかった探偵が声を上げた。
「うわっ!びっくりした。今まで何処に行っていたんだ?折角の推理を聞かせられなかったじゃないか。」
「えへへ…。」
探偵の腕をこいしが掴み、ヤジロベエのように体が揺れる。
「まあ、向こうのように妹に全て譲るなんてことは出来ませんから、丁度分け合う位が良いのかも知れませ
んね。今のように。」
「ふふふ…。」
探偵の耳をすり抜けていったさとりの言葉は、こいしには届いたようであった。


604 : ○○ :2018/10/07(日) 23:59:19 cgYcLlIg
>>597
やはり阿求は権力を剥き出しにすると強そうな気がします。

>>599
最後にカタをつける人が続々と集まってきましたね。これで終わりが遂に
訪れるのでしょうか。

>>598
蓮子ちゃんが結構な悪女をしているような。しかしどっちかとると、
どっちかを壊すのは確実なのが悩ましい…


605 : ○○ :2018/10/09(火) 11:59:31 z3Knfedo
ノブレス・オブリージュに囚われて(179)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=169

紫様に『デウス・エクス・マキナ』と呟かせたかったかと言われたら
はい、そうです。としか言えない

>>603
さとりもレミリアも黒いなぁ……
レミリアはフランドールと言う、幽閉を続けたい妹の存在を
変な探偵が変な推理をしたという事実をもってして、根も葉もないうわさに仕立て上げることができた

さとりは、この以来のお蔭で。○○の評価が落ちるので、○○の傍にいる異性は必然的に自分だけになる
どっちも本当に策士


606 : ○○ :2018/10/14(日) 00:22:02 ABxIkOCM
>>605
祖父が退場となりついに二人の最終決着が着きそうですね。
追いかけてきた二者が来るまでに息子君は間に合うのか…


607 : ○○ :2018/10/14(日) 00:28:55 ABxIkOCM
猫色骨董店3

 朝晩の気温が涼しさを通り過ぎて冷たくなってきた頃、骨董店の中には心地よい空気が流れていた。部屋の
中に店員が煎れたコーヒーの香りがフワリと漂う。インスタントとは違う風味を舌に感じながら、店員はいつ
も座っている椅子にゆったりと腰掛けていた。いつの間にか舌がこの味に馴染んでいた事に気が付いて、溜息
にも似た息が彼の口から吐き出される。知らぬ間に彼女の内側に取り込まれているような、そんな気持ちがふ
と心を過ぎった。

 ドアが開き、客が一人入って来た。ウインドブレーカーを目深に被り、ゆったりとした服を来ていても、女
性の客が入ってきたことは直ぐに店員には分かった。客(の一部分)に目を寄せられながらも店員が声を掛け
る。手元に居る猫が素早く店員の手を引っ掻いた。
「いたた…お客さん、何をお探しですか?」
店員が女性に声を掛けると女性がビクリと震える。
「え…。ちょっ…とxxx…を探x…。」
小さく途切れ途切れに帰って来る声を良く聞こうと、店員が身を乗り出そうとすると猫が一声鳴いた。茶色と
白が彩られた前足が一つの商品を示す。女性の顔がそちらに吸い寄せられた。
「あっ…、これ…」
猫が再度鳴くと、女性が怖ず怖ずと財布を開いた。
「これ、く…下さ…ぃ。」
店員から奪うようにして月の兎が作ったメガホンを手に取ると、女性は商品を抱え込むようにして店を出た。


608 : ○○ :2018/10/14(日) 00:29:37 ABxIkOCM
 彼女はそれから暫くして再びこの店を訪れた。かつて被っていたフードと服は同じであったが、内側からは
かつてと違い濃密な匂いがあふれ出ていた。異性を吸い寄せるような、或いは惑わせるような何か。勝手に魅
了されてしまいそうになるのを、手の甲についた傷跡を机の下で抓りながら店員は密かに堪えていた。一度目
の悲劇を二度繰り返すのは喜劇である-但し本人を除いた周囲にとっては、の話しであるが。
「こちら、お返しします。」
堂々とした足取りで歩み寄り、フードを取った女性が催眠銃を返す。大きな耳が布の下から現れていた。
「お、お気に召しませんでしたか…?」
女性の色香に押されるかのように店員が問いかける。二人は以前とはすっかり逆の立場となっていた。
「いえいえ、私、気がついたんですよ…。」
「何にですか…。」
「物に頼らなくっても、月はいつでも空にあることに。」
女性の視線が下がり、机をのぞき込むような体制になる。相手の体が近づき、店員は自分の吸う空気が相手の
体温で押しつぶされていくかのような圧迫感を感じた。
「ふふ…。」
自分の紅い唇に長い爪を立てながら女性が視線を猫に合わせる。自分の目前の空間に、大きく亀裂が入る様を
店員は幻視した。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ…。」
からかうことに満足したのか、そう言った後で彼女は店を出て行った。放心する店員の膝の上で猫が不機嫌そう
に一声鳴いた。

以上になります。


609 : ○○ :2018/10/16(火) 13:45:27 KCd5.AdU
ノブレス・オブリージュに囚われて(180)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=170

>>608
この店主は橙に感謝すべき
海千山千よりも恐ろしい相手に商売をして、今も生きているのは間違いなく橙のお蔭


神隠しって、民話ではよくあるけれども
ヤンデレ幻想郷では、○○が神隠しに会うならばまだ穏やかな結末
恥ずかしがって陰ながら見守るしかできない、アリスや成美ちゃんの目の届く範囲で○○になにかやろうものならば……

もっとも、純狐さんみたいな穏やかな人でも
満足いくまで悪漢を拷問した後に○○を神隠しだけれども
彼は誰に好かれているかは大事だけれども。
誰に以前の問題で、彼はそういった存在に好かれているかどうかの見極めから、人々の生存競争は始まっているんだ

年かさの老人たちが、あそこにはいくなと言う注意は。幻想郷の場合だと現実以上に、意味のある言葉なのだろうな


610 : ○○ :2018/10/17(水) 00:58:29 xDJXqdUc
病ませようとして考えてた娘が思考の隙間に入り込んだままになってる現象いいよね…

さておきさとのんは飴と鞭の絶妙な使い分けで堕ちるところまで落としてくれそう。不可逆点超えたあたりで急に甲斐甲斐しい恋人になってもうさとのん無しではこの先生きのこれない心になった段階で一旦放流してから
必死に自分を求める姿を後戸の国から愛おしそうに眺めて、ちょうどいいタイミングで回収するのが里乃流。


611 : ○○ :2018/10/21(日) 22:36:44 EV04473E
純狐さんって、虐待する親を次々と始末して。残った子供を全力で育てそう
そして、周りの人間も。特に子持ちの人間が容認しそう


612 : ○○ :2018/10/23(火) 01:34:50 gqZA/uFo
「-----。」
 その言葉に場の空気が凍りついた。何気ない会話の中での何気ない言葉。されども発せられた声は耳を貫いて、聞いた者の脳を揺さ
ぶった。
「なんだ、結局女の方に全部握られているだけじゃないか○○。男の風上にも置けない情けない野郎だ。」
ピクリとさとりの目が動く。いくら心の中の声を読んでいる彼女であっても、それが実際に言われたとなれば、それはまた違うものなの
であろう。取り分けそれが自分の大切な人への雑言ともなれば。テーブルの下で○○を庇うように添えられていた、さとりの指がピクリ
と動いた。
「あら、それでは男らしいとは何でしょうか?是非とも教えて頂きたいものですね。」
挑むようにさとりが相手に言葉を返す。丁寧な、ともすれば慇懃さを与えかねない言葉遣いは普段と同じであったが、一段と低いトーン
が隣にいる○○に対しては言葉よりも雄弁に、さとりの怒りを伝えていた。
「ふん、そんな物は単純な事だ。」
男は尊大に返す。横に居る自分の所有物達を見せつけるかのように。
「男らしくいかにいい女を、そして、多くの女を自分の物にするかだ。」
-最も-と正面に首を返しながら男は付け加える。
「そちらの亭主殿にはそんな意気地も気概も無い様だがな。竹林の姫君ならば兎も角も、陰気な地底妖怪一人に振り回されているなんて
ハッキリ言って○○、お前には失望した。」
その言葉を聞いたさとりは、ニヤリと口元を歪ませた。村の有力者たる相手から明確な悪意を向けられてもなお、さとりは薄笑いを浮か
べていた。心が読める妖怪にとっては、たかが数十年しか生きない人間の言葉などはたかが知れているとでもいうように。まるで、強か
かに打ち付けられて地面に這いつくばらされながらも、必死に人間に威嚇をする害獣を見るかのように。
「こちらも残念ですね…。それがもう直にあなたの命取りになりますから。」
「…興が削がれた。お前達、帰るぞ。」
「それではこちらも帰りましょうか、○○さん。」
思ったような反応を示さないさとりに興味が失せた男は、連れだった女達を引き連れて去って行く。去り際にさとりが男に向けて別れの
言葉を告げた。


613 : ○○ :2018/10/23(火) 01:35:58 gqZA/uFo
「健康にはお気を付けて。」
「…ご忠告痛み入る。」
背中越しに交わされた言葉は、風に乗ってフワリと消えていった。

 さとりと二人だけになった○○がさとりに声を掛けようとすると、先にさとりが○○に話しかけてきた。
「大丈夫です。○○さんは世界一凄い人ですから。」
「そ、そんなのじゃなくって…。」
さとりを気遣おうとする○○の言葉を止めるかのように、さとりが○○を抱きしめる。
「大丈夫です。他の人が○○さんにどんなことを言おうとも、私は○○さんのことを愛していますから。どんな○○さんでも、私にとっ
ては一番大切な人ですから。○○さんが自分をどんなに駄目だと思っても、それでも私は○○さんと一緒に、側に居たいんですから。で
すから、そんなに自分のことを悪く思わないで下さいね…。」
言葉が出なくなった○○に、なおもさとりが語りかける。母が幼子を抱きしめて話すかのように。
「○○さんが私を気遣ってくれることだけで、私は嬉しいんですよ。」
-ですから-とさとりが耳元に口を近づけて○○に囁く。
「○○さんを傷付けた最低のあの男が、馬鹿みたいに侍らせている女がこっそり持っている病によって、苦しんでいくところを二人でゆっ
くりと見ましょうね。」
甘い砂糖で理性を溶かされた○○の心に、一滴の墨が垂らされた。


614 : ○○ :2018/10/23(火) 01:38:22 gqZA/uFo
>>609
蓬莱人は命の加減がないので強いのに、元々の実力が加わると更に限度が
なさそうな気がします。


615 : ○○ :2018/10/23(火) 22:47:50 gqZA/uFo
 猫色骨董店4

 台風が一頻り暴れ、街を荒らして通り過ぎた次の日の朝、店員はいつものように椅子に座って店番をしていた。
ビルの外では通りを挟んで停電が続いていたり、強風で割れた硝子や散らかった物の後片付けをしているのだが、
この店は不思議と台風が暴れている間でも何も起こらなかった-まるで結界に守られているかのように。
 目を閉じた猫の背を時折店員の指が這う。そんな空間の中で、一人の男が机にしがみつくようにして店員に縋っ
ていた。殆ど動かない店員に向けて男が変わらずに訴える。今朝から来たこの男は小一時間ほど机の前で粘って
いた。
「なあ頼むよ、お兄さん。この間の奴が欲しいんだよ。」
あれやこれやと店員に頼み続ける男。かれこれ男は長い間店員に絡んでいたが、店員の方は何処吹く風といった
案配であった。
「そうは申しましても…。あれは一品物ですからね…。」
猫を撫でながら男を躱す店員。必死に店員にせがむ男を対照的にのらりくらりと言葉を交わしていた。
「あれが無いと駄目なんだよ…。一回やったらもう、あれ無しじゃ駄目なんだよ。」
「残念ながらここには有りませんからね。次に入荷するかも分かりませんし…。」
どこかおかしくなってしまった男であるが、店員は変わらずにあしらう。二人の言葉を聞いていた猫が、いい加減
飽きたかのように目を開けた。


616 : ○○ :2018/10/23(火) 22:48:50 gqZA/uFo
「でしたら、こちらは如何でしょうか。」
不意に男の後ろから声がした。室内で白い日傘がクルリと回されて、パチリと閉じられる。緑色の髪をした女性が
男の方にゆっくりと歩み寄り手を差し出した。体半分で振り返った男の前に和紙で包まれた粉薬が差し出される。
後ろを向こうとして首をいっぱいまで曲げていた男の唇から、涎が一筋つっと滴った。
「-----」
ゆっくりとした足取りのまま男の横まで回り込んだ女性が、男に包みを握らせてから耳元に口を近づけて何やら囁
いた。するとあれだけ店員にしつこく絡んでいた男が、あっさりと店から出て行ってしまった。女性がそのまま店
員の方に近づいてくる。男が絡んでいた間ずっと店員の膝の上を占領していた猫が、カウンターの上に飛び乗った。
「こちら、お騒がせしてしまったお詫びのお品です。」
先程と同じ包みを女性が差し出す。
「は、はあ…。」
あっさりと男を従えた女性に対して困惑している店員をそのままに、女性は猫に軽く会釈をしてから店を出ていっ
た。未だに何が何だが分かっていない店員が女性を目で見送った後でカウンターに視線を戻すと、いつの間にか先
程の包みは無くなっていた。台所の方に少女の後ろ姿が見える。少女は丁度、コンロで燃やした物をシンクの排水
口に流しこんでいる所だった。少女の行動に想像がついた店員が抗議の声をあげる。
「おいおい橙、ひょっとしてあの商品を燃やしちゃったのかい?確か結構な値段だったと思うんだよ、あれ。」
「他の女からのプレゼントなんて知ーらない。」
少女のスカートからは、嬉しそうに揺れる二本の尻尾が飛び出していた。

以上になります。


617 : ○○ :2018/10/24(水) 23:19:51 44AP4qGc
幽香さんって冷静に考えたら太陽の花畑を持っている彼女は、ヤバめの草を大量に作れそう


618 : ○○ :2018/10/25(木) 22:53:21 sNQJVBdE
死ぬ事すら許されずに永遠に幽香の幻覚を見続ける植物使われそう。ゆうはくのやつ


619 : ○○ :2018/10/25(木) 23:51:35 z0iOUC46
 反魂丹

 ふと話しの淵に上った言葉であった。とりとめのない会話、ありきたりの雑談、彼女とのそういった会話で交わされた
言葉で記憶に残っていたものがあった。
「そういえば、幽霊って見たことありますか?」
その時僕は、大した考えもなく彼女に聞いた。
「うーん。私は見たことがないわ。○○はどうかしら?」
彼女に尋ねられて考える。過去の記憶を思い返して考えるも、生憎思い当たることはなかった。精々が小さい頃にお化け
屋敷で見た程度である。作り物の、まがい物の、人間が人間を驚かせるために作った類いの、子供だましの実在物。種が割
れれば呆気ない程度が僕が体験したものの全てであった。
「あら、そうなの…。」
それを聞いて言葉を濁す彼女。こういう時の彼女はいつも僕の考えつかないことを考えていた。小気味良く、切れ味が抜群
の頭脳はいつも健在で、そして僕が密かに憧れているところだった。いや、そういうと何か彼女の頭の良さだけを尊敬して、
そのお零れを浅ましくも利用してしているのではないかと混ぜっ返されそうなので(!)敢えて彼女の名誉のために反論し
ておくが、僕が彼女に引かれていたのはそれだけでない。優しさに満ちた落ち着いた雰囲気、影がありながらも美しい横顔、
そして周囲に対する控え目な態度。いわば彼女の全てに僕は好感を持っていたが、それ故にどこか彼女に踏み込めないでいた。
「ねえ、誰かから言われたの。」
「なんか最近元気が無いって言われまして…。僕に何か幽霊が取り憑いているんじゃないかって。」
「…誰かしら。」
ドキリと、心臓を捕まれたような感覚を覚えた。見えない手で体の内側を撫でられたような刃物のような冷たさ。それに反発
するように、反射的に僕は返事をしていた。
「いえ、覚えていなくって…。」
「本当…?そう、じゃあ…」
彼女は椅子から体を起こして僕の額に手を当てた。彼女の顔が近づいて火照った顔を、ひんやりとした冷たさが覆っていく。
「ふんふん、成程ね…。」
一人で何やら納得する彼女。僕の意識はいつの間にか無くなっていた。


続く


620 : ○○ :2018/10/26(金) 14:54:35 R5.IVVU.
ノブレス・オブリージュに囚われて(181)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=171
書いているうちに書きたいものが増える。まるで乾燥ワカメの増殖のように
これが終わったら、次はスレに直書きしよう……その方が長くなりづらいし、感想も付きやすそう



>>616
危ないお薬と言えば、永遠亭が思い浮かぶけれども。
そうはいっても医療従事者の永琳や鈴仙は、ミスではなくわざと危ない薬を飲ませるのには忌避感がありそう
実は幽香さんの方が、心の壁を感じずに。自分の下に留め置くための薬を使いそう
ここまで考えて、やばい薬だとわかりつつ。そして○○に気づかれていることを知りつつ処方する永遠亭の面々が見えた
ところで橙さん、それコンロの火で燃やしても大丈夫なの?煙でもやばくなるのはよくあるから

>>619
幽霊って、監視や尾行にはやたら便利な存在だよなぁと……


621 : ○○ :2018/11/01(木) 01:33:54 0itqQJOI
 幻想少女が病んでいるというよりは変な○○を好いてしまった結果世間的に見れば歪んだ愛になってしまっているみたいな話しか書けない病を発症してしまった

-

 幻想入りして数日が経ち、そろそろスマホのバッテリーが尽きようとしている。俺は残り少ないバッテリーを思い出の曲を聴くのに使うことにした。
 人気のない静かな湖畔でヘッドホンを装着。人里から離れた場所で無防備になることが不安だったが、八百屋で顔を合わせてから何かと世話を焼いてくれるメイドさんが護ってくれるというのでお言葉に甘えることにした。
「素晴らしい曲なのでしょう? 私も聞きたいものね」
 咲夜は辺りを警戒しながら俺へと語りかける。
 確かに、普通はそういう曲を聞くのだろう。普通は。
「いや、紛うことなきクソだよ。他人に聞かせるようなものじゃねぇ」
 俺は音楽プレーヤーアプリを起動してその曲を再生する。
 不抜けた音色のせいで真面目な曲のはずなのに笑えてしまうというシロモノだ。破綻らしい破綻はそれほど多くないが褒められる部分も皆無という残念さ。
「でも、嫌いにはなれねぇんだ。
 何度も聞いているうちに好きになれるかもな、とも思ったが駄目だったみたいだ。これで聞き納めだと思うと少し寂しいね」
 この曲のことはもう忘れないだろう。これからずっと目の上のたんこぶであり続ける気がする。
「……なんで、俺は最後にクソみたいな思い出を振り返ってるんだろうな。家族写真とか、見るべきものはいくらでもあったのに」
 家族や友人と笑いあった思い出よりも人を指さして笑った思い出の方が強いというのがやるせない。
「他人の嫌なところばかりが目についてしょうがないんだ」
 俺は完全で瀟洒な従者の方をちらりと見る。そう呼ばれるだけあって、彼女はあの曲とは別の意味で目の上のたんこぶだ。
 視線に気付いた咲夜は一つ俺に質問をする。
「そんなあなたの目に、私はどう写っているのかしら」
 分かってて言ってるだろこいつ。
「人間のくせに人間臭さがない」
「褒め言葉と受け取っておきますわ」
「……いつかその化けの皮を剥いでやる」
 咲夜には隙らしい隙が見つからない。それを薄気味悪く感じる。
 彼女の顔を見かける度に気が付くと目で追って、必死に彼女の粗探しをしている俺が居る。
「それはとても嬉しい宣言ね。
 私のことが嫌いではないのでしょう? それで十分よ。最高と言ってもいい」
 俺と咲夜は顔を見合わせる。
 こいつが俺を好ましく思ってくれていることは薄々感じ取っていたが、どうもおかしな方向に行ってはいまいか。
「お前、それでいいのか?」
 今の俺は無意識に彼女のことを考えてしまうようになっている。だが、それは悪口を言いたい、気持ち悪いといった負の感情に由来するものである。
 仲良くしたい、愛しているといった真っ当な関係性にはこのままでは永遠に届かないのだ。
「俺だって人並みの恋人みたいな関係には憧れてるんだ。そうなれる可能性を捨ててしまってもいいのか?」
 俺は咲夜の言葉を待った。
 少しして、咲夜は口を開く。
「ええ」
 俺は何も言わずにヘッドホンの音量を上げた。


622 : ○○ :2018/11/04(日) 22:29:59 2.e75uVs
>>619 続き
 ふわふわと浮かぶ様な感覚。手足に力は入らなく、それでいて神経は繋がっていて、不安定な感覚を脳に伝えている。
だけれども意識は水面に浮かぶことはなく、ただ深い水の中に沈んでいるようにぼんやりとしている。ゆっくりと、だた
ひたすらにゆっくりと落ちていくように、まどろみの中で音が聞こえてくる。
「大丈夫、○○。」
疑問ではなく確認。予めこうなることが分かっていたかのように彼女は言ってから、いつの間にか控えていた人を呼んだ。
「ちょっと家まで行って休みましょうか。疲れてしまったでしょうから。」
僕は自分が返事をしたのか、覚えていなかった。

 いつの間にか暗闇に沈んだ意識が再び浮かんだのは、それから暫く時間が経ってからのことであった。目が覚めた勢い
で布団を捲ると、障子越しの月明かりによって照らされた畳が見える。他には誰も居ない薄暗い部屋の中を、寝ぼけたせ
いか霞がかかった頭でぼんやりと眺めていると、障子に影が映りおもむろに開かれた。ああ、若し此処で僕が「或ること」
に気が付いていれば、引き留めようとする家人に何か理由を付けて一目散に僕はここから抜け出していただろうし、そう
してこの後の展開は大きく変わることになっていただろう。それは僕の人生を大きく変えることになることになる、謂わ
ば一大分岐点であった。-即ち、彼女に足音が無かったということに-

「気分はどうかしら?」
丁度いいタイミングで障子を開けた彼女が僕に尋ねる。おそらく大分長い間眠っていたであろう僕は、十分な休息のために
その時にはすっかり意識は明瞭になっていた。秋の夜に冷えた空気が肺に入り、全身を通して脳に巡る。
「おかげさまで大丈夫です。すみません、こんなにお世話になってしまって。」
「あらあら、それは丁度良かったわ。」
障子をきっちりと閉めて僕の方に寄る彼女。いつの間にか彼女は着物に着替えていた。日本屋敷に良く似合う薄い桜色が彼
女の美しさを引き立てているような気がした。
「今日はもう遅いから、泊まっていったらどうかしら。」
「いえいえ、そんな!態々家で休ませて頂いたのに、そんなにお世話になる訳にはいきません。」


623 : ○○ :2018/11/04(日) 22:30:32 2.e75uVs
慌てて断る僕を優しく見ている彼女。僕に顔を寄せてそっと言った。
「でも…今日の電車はもう終わってしまっているけれど…それでも帰るの?」
どこか嬉しそうに悪戯っぽく僕に囁く彼女。帰る言い訳が思いつかずに黙り込む僕に彼女が更に言った。
「じゃあ、決まりね。ここに泊まること。」

 彼女が呼んだ従者に案内をしてもらい自分の家とは似ても似つかない程の広い風呂に入った後、やはり従者の人に案内を
されて先程の部屋に戻ると、畳の上の布団が増えていた。一瞬固まっている僕の後ろで障子がピシャリと音を立てて閉めら
れる。思わず振り返って障子を方を見た僕の後ろから、音も無く誰かが僕に抱きついた。
「だーれだ?」
嬉しそうに僕をからかう彼女。ドキリとした僕が流石にからかいすぎだと言おうとすると、急に寒気が来た。最初の数秒は
皮膚が水に晒されたような冷たさを感じたそれは、直ぐに全身が氷に漬けられたようなおぞましい悪寒となり、やがて心臓
が捕まれたようになってしまい、僕は身動きが取れなくなってしまった。歯がガチガチと鳴り全身の震えが止まらなくなっ
た僕を布団に導く彼女。風呂にゆっくりと入って温まった筈なのに、厚い布団に入って彼女に抱きしめられている筈なのに、
一層強くなる震え。まるで何か恐ろしいものに、人間とは比べ物にならないようなものに自分の命を、魂を手中に収められ
ているかのように感じた。そして彼女の横顔は昼間と同じ筈なのに、まるでこの世のものとは思えない程に美しかった。生
存本能が圧倒的強者に悲鳴をあげている中で、僕のもう一つの生存本能も盛んに主張をしていた。心臓がバクバクと鳴り響
くのは、一体どちらのせいなのだろうか。彼女の唇が僕に触れる。震えが収まると共に僕の魂はグニャリと溶けていった。


624 : ○○ :2018/11/04(日) 22:35:39 2.e75uVs
>>620
革命であったり新しい誕生にはやはり血が流れるのでしょうか。
あと少し、あと少しと思う中で息子君が間に合うかがやはり気になります。

>>621
嫌も嫌もは好きの内、なのでしょうか
静かな中のうねる感情がうかかがる場面が乙でした。


625 : ○○ :2018/11/06(火) 03:04:54 TSp8xApQ
「さよなら」




まだ空が藍色に染まっていない夕時に掃除を終えた後、二人で境内を歩いていた。霊夢は竹箒を引き摺りながら膝をつんのめらして。夜の風の靡きだけが森の暗闇から僕らをみていた。霊夢はうつ向いたまま、独り言を呟くように突然ぽつりぽつりと話はじめた。

「ありがとうって言いにくいよね」



「気付いてなかったんだけどさ」

「あんたがここに来るまで、私は寂しかったんだと思う」

「ずっと一人でここに居てさ。秋とか春とか紅葉に桜になったりさ。そんなの見ても何も感じなかったし、興味もなかった」

すうっと夜空を見上ると、長い黒髪が顔から零れるように肩に落ちた。

「あたしね、一回くらいは考えたのよ。でもね、そんなこと意味ないって分かってた。」

「意味なんてあっちゃいけないもの」

「私さ、どこにいても、ここにいかなきゃいけないし。誰とも関わっちゃいけないの」

「でもね」

彼女が歩を止めてこちらを振り向くと、
その顔は僅かばかり強張ってるように見えた。らしくない表情だった、少なくとも二年傍にいた中では。そんな自分に気付いたのか、霊夢は一瞬小さく口許を緩めると髪を振り乱せて、また前を向いて大きくじゃくじゃくと砂利道を踏み進めた。

「やめた」

変に機嫌がよさそうなふりをしている癖には、その声色はどこか諦めたようなものだった。


二日後、僕は故郷へ還った。

そして、その一年後には、
彼女は結婚して子供を産んだ。
まだ、顔が赤く目も開いていないその子供を見て彼女は泣きながらこう言ったそうだ。

「さよなら、○○」


626 : ○○ :2018/11/06(火) 14:26:19 shkfXbCo
ノブレス・オブリージュに囚われて(182)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=172


>>623
自分と同じ種族や存在にする
一言でいうけれども、霊界の存在がそれを言い出すのが一番怖いな
そうでなくても、幽霊は隠密行動が得意を通り越して反則級だから……


627 : ○○ :2018/11/07(水) 23:58:31 5rd3JuRs
>>623の続き、反魂丹ラストになります。一応ロダに投下
ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/26


628 : ○○ :2018/11/08(木) 00:02:07 a.v/REx6
>>625
余韻が残る悲恋系ですね…

>>626
これは絶体絶命では…?ここから逆転の方法は難しそうな…


629 : ○○ :2018/11/10(土) 09:34:03 13ZGdh.s
鈴仙「彼の浮気を見つけたの、インスタにあげてた写真の眼球に写ってた女をみつけたからなんだけどこんな女とは付き合いたくねぇよなって自分でも思う」


※元ネタTwitter


630 : ○○ :2018/11/11(日) 23:31:58 Z7IEz6IM
短編を一つ

 幾枚かの大きな金貨と添えあわせの銀貨が重ねられてチャリンと音を立てた。そのまま私の手の内に収められたものを
無造作に財布に仕舞いこんだ。(本当は私の働きではないのだけれど、姉さんの物は私のモノだから)枚数の確認などと
いう、面倒くさいことはしない。どうせ几帳面に決められた金額だろうから。
「どうだった?」
席を立つ前に目の前の女に聞いたのは、ふとした気まぐれだった。ただ、何となくの、だけれどもある種の確信をもった
怖い物見たさのような、そんな気持ち。
「ええ、最高だったわよ。」
中々の笑顔で答える目の前の女。軽く笑みを溢す様は、女が使っている人形の様に美しかった。普通の人間ならば騙され
るであろう、その表情の偽物度合いは宝石やらバッグやらで「作っている」自分にはよく分かった。
「三人とも…ええ、皆居なくなってしまったのは、本当に良かったわ。最高のお姉さんね。」
「そりゃどうも…。」
姉さんが褒められると嬉しくなってしまう。例え見え透いたお世辞めいた決まり文句であってもだ。
「本当、あそこで無理をしてでも縁を切っておかなければ、きっと彼を悩ませる災厄になってしまったわ。」
それじゃあ、と挨拶をして席を立つ女。疫病神は厄を操り引き寄せる。その当たり前の事実のせいか、タップリと砂糖を
入れた筈のコーヒーは、これまで飲んだ事がない程に苦かった。

以上になります。


631 : ○○ :2018/11/13(火) 09:01:25 lqsmThXc
紫苑ちゃんに、IDの数だけお寿司パックを買う

小僧寿しとかの持ち帰り寿司チェーンって、見なくなったな
ドラえもん寿司とか、懐かしい



632 : ○○ :2018/11/13(火) 09:05:23 lqsmThXc
スレ間違えた、申し訳ない……


633 : ○○ :2018/11/13(火) 13:22:23 Ax/kpR3U
ノブレス・オブリージュに囚われて(183)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=173

>>630
女苑ちゃんは、○○をヒモにしてしまう姿がよく似合うなぁ
金や財産はあってもよく思われない○○も、十分に女苑ちゃんの気質である、疫病神に囚われている

○○ヒモ化計画が、女苑ちゃんを発端に幻想郷に流行しそう
こればかりは霊夢も黙って見過ごしながら、女苑のやり方を参考にしそう


でも勇儀姉さんとか鬼の場合は、真正面から「私に養われろ!!」ぐらいのことは言いそう
鬼は良くも悪くも真正面から○○を取りに来る生き物だと考えてる


634 : ○○ :2018/11/16(金) 17:24:23 HTuIWFqA
ここ一月くらい更新ないけど管理人さん大丈夫だろうか


635 : ○○ :2018/11/17(土) 18:13:24 hvazl2A2
阿求「あの、いつも良くしてもらってるお礼におはぎを作ったんですけど、よ、よろしければ食べていただけませんか?」
○○「え、マジ?こっち来てから甘いものとか無縁だったからすげえ嬉しいわ。さんきゅー阿求ちゃん」
○○「……」モグモグ
阿求「ど、どうでしょうか?」
○○「美味い。いやマジで超美味い。これ店とか開けるんじゃない?」
阿求「えへへ、褒めすぎですよう」
○○「ほんとほんと。あ、そっちの阿求ちゃんの付き人の、えっと……△△君だっけ?君も食べなよ」
△△「えっ!?」
○○「めっちゃ美味しいぞ?いっぱいあるし、仲間外れも可愛そうだしな。阿求ちゃんもいいよな?」
阿求「……えー、と。△△?」
△△「は、はいっ!!」

阿求「あなた……食べたいの?」

△△「ーーーーっ!??」
△△「い、いえ!とても美味しそうだとは思うのですが!その……そ、そうです、阿求様も知っての通り私は先程遅めの昼食を終えたばかりですので!!」
○○「あ、そうなの?」
阿求「……ええ、そうなのです。ですから気にせずに○○様がお食べください」
○○「そっかー」
△△「……」ホッ
○○「あ、でも俺も食べきれないし、残った分を後で食べてもらえばいいんじゃね?」
△△「!?」
阿求「……そうですね……」チラッ
△△「!!」
△△「い、いえ!!こちらは阿求様が○○様への感謝を込めて作られたものですので!!どうぞ、○○様が全てお受け取り下さい!!」
○○「あ、そ、そう?」
△△「はい!!」
○○「いやー、俺より歳下なのに△△君ってすごいね。俺だったら何も考えず貰っちゃうわ」
△△「きょ、恐縮です!」

―――――――――――――――――――――

○○「ありゃ、暗くなってきたな。そろそろ帰るかね」
阿求「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
○○「俺も楽しかったよ。それにおはぎご馳走になった上に、残りも包んでもらっちゃって、ありがとね」
阿求「お気に召したのでしたらまた作らせてもらいますね。それと日持ちはしないので、今日か明日には食べてしまってください」
○○「了解。じゃあまたね。△△君も」
△△「はい!○○様、お気を付けて!」
阿求「お気を付けて」
△△「……」
阿求「……△△」
△△「はい!」
阿求「今日はよく働いてくれたわ。また何かあればお願いね?」
△△「は、はい!もちろんです!」


鈍感男とヤンデレヒロインとそれをフォロー?する苦労人みたいな話


636 : ○○ :2018/11/18(日) 00:23:44 YA.cE7vw
>>633
これを易々と見逃す相手では無さそうな…

>>635
△△に思わず感情移入してしまいそうになりました。
中々新鮮なシチュエーションですね。


>>634
××「◯◯最近見ないけれど、大丈夫かな?」
アリス「あら、◯◯なら大丈夫よ。」
××「ふーん。ならいっか。」



××「あれっ、どうしてアリスがそんなこと知ってたのかな…」


637 : ○○ :2018/11/19(月) 00:18:03 nsFj9jLU
>>635
△△君有能ですなあ
はたから見るには面白い関係って感じで面白い

>>636
あっ…(察し)


638 : ○○ :2018/11/20(火) 14:11:32 p1LLwFMg
ノブレス・オブリージュに囚われて(184)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=174
これが終わったらスレに直書きする
そうじゃないと、書きたいものが整理できなくて滅茶苦茶長くなる


>>635
知らぬは○○ばかり。阿求も、○○の前では乙女でいたいのだろうね
全部知っている△△を初めとした、内部の人間は大変な気苦労を抱えるけれどもね
そんな△△も、慧音先生とかと仲良かったりするのかな……
ただ△△の場合。慧音先生のような強者を利用しているみたいな罪悪感を抱えそう
ただ慧音先生級になると、罪悪感すら愛おしく思って守りたくなるのだろうけれども


ふと。妖忌おじいちゃんが、妖夢や幽々子のために土下座して、付き合ってやってほしいと
そんな場面が思い浮かんだ


639 : ○○ :2018/11/26(月) 22:42:11 ZCjP3I5M
 猫色骨董店5

 朝晩は言うに及ばず昼間すらも太陽と風によっては寒くなり、冬の訪れを感じさせる時分だが、骨董店の中は暖かかった。
店内の四隅に人目に付かないように貼り付けられている、陰陽道の模様が描かれた札のせいか、あるいは店内にある何やら
オレンジ色の光を放つ結晶のためか、店員がいる空間は不思議な暖かさに満ちていた。一歩外に出れば冷たい風に吹かれる
だろうことを想像した店員が、ブルリと首を震わせる。膝の上で眠っていた猫が目を覚まし、文句を言うかの様に一声鳴いた。

 ガチャリとドアが開き客が一人入って来る。外の風が酷く堪えたのか店の中に入ったというのに、男は未だに震えていた。
そんな男を見かねたのか店員が声を掛ける。
「いらっしゃいませ。暖かいコーヒーでもいかがですか。」
普段は自分だけで飲んでいて、同居している少女にすら理屈を付けて飲ませていないコーヒーを、一見の客に振る舞おうとし
たのは、店員にとっては中々珍しいことだと言えた。しかし男は首を横に振る。
「いや、いい。結構だ。それより欲しい物がある。」
「ハイハイ、何でしょうか。」
自慢のコーヒーを断られて少々ムッとしていた店員の機嫌がコロリと直る。店員の性格も中々に、一緒に居る猫の少女の様に
移り変わりが激しいようだ-どちらが飼われているのかはさておき。
「猫いらずが欲しいんだ。」
「ほう…。」
店員が感心したような声を出す。猫が居る店に猫いらずとは少々皮肉が効いているが、どういうわけか丁度、店には入荷して
いたものであった。暖かい場所に居るというのにダウンジャケットを脱ごうともせずに、震えながら男は話す。
「勿論、普通の物じゃ駄目だ。特別なやつが必要なんだ。」
「こちらになります。」


640 : ○○ :2018/11/26(月) 22:42:45 ZCjP3I5M
店員が男に商品を差し出すと、値段も気にせずに男は手に取った。懐に商品をしまい込もうとする男に店員が話しかける。
「お客さん、結局のところそれを使っても解決しないかもしれませんよ。…うちの看板娘の予感では。」
「これしか方法はないんだ…。あの女が俺に付きまとう限り…ずっと…。」
男は最後まで震えながら店を後にした。

 客が帰った店の中で店員が猫に話しかける。
「ねえ橙、あの可哀想な男性の未来がどっちになるかどうだい、賭けないかい?あれだけ恐怖に震えていたのなら、たとえ毒
を飲ませることが出来たとしても、その内自滅してしまうのが大抵の落ちなのだろうけれど、ここは僕としては助かる未来を
想像してみたいものじゃないか。そうだね…晩ご飯の一品を賭けるのが丁度良いかな?」
店員の声に答える様に猫が鳴いた。それを聞いた店員が深く溜息をついて言った。

「そうかい、そうかい…。中々世の中は上手く行かないものだねぇ。

……僕を店に縛り付けている君が言うと、尚更だよ。」

地を這うように低い声で話された店員の言葉は、店の空気に深く沈んでいった。


641 : ○○ :2018/11/26(月) 22:43:36 ZCjP3I5M
「それは無理よ。」
彼女から言われたのは思いもよらなかった返事であった。外界とは違っていくら行方知れずの人を探すことが難しいからといっても、そう頭ごなしに言われてしまっては、
何だか無性に腹が立つような気がした。これがいつも冷淡で有名な博麗の巫女から言われたのであれば、まだそういうものだと諦めもつくのであろうが、普段から良くし
て貰っている彼女からそう言われたので、余計にそう思ってしまったのかもしれなかった。そんな僕の無意識の内の反感を感じたのだろうか、そのまま机の上に置いてい
た本を一つ取りページを捲り始めた。余りにも冷淡なその行動に僕が彼女に言い返そうと息を飲んだ時、彼女が続けて僕に言った。
「大体一ヶ月も行方知らずの外来人が、どこかで無事に過ごしているとでも思っているの?」
「………。」
そう言われてしまっては言い返すことができない。正論な、素晴らしく筋があるいは道理が通っている理屈であったが、人の感情を逆なですることにかけては、その切れ
味は真逆に働いてしまっているのであった。僕の心の中でわだかまりがくすぶり、喉が焼かれたように気持ちが這い上がってくる。
「そうかい、それなら別にいいよ。」
彼女の助けを得ることを諦めて、図書館の外に出ようと紅茶を飲み干してから椅子を立ち上がった。砂糖とたっぷりのミルクが入った紅茶は、今の気持ちに似つかわしく
ない程に美味しかった。ここ暫く飲んだ事が無かった濃厚な甘みが神経を撫付けようとしてくる。それを振り払うように足に力を入れてドアの方に歩いて行く。
「どこに行くの?」
彼女が後ろから声を掛けてくる。彼女の何気ない、恐らく悪意はないのであろうがぶしつけすぎる質問に、これから当てもなく幻想郷中を歩くことになることが思い起こ
されて、言葉が刺々しくなった。
「幻想郷のどこかさ。そんなにこの世界は広くはないらしいそうだからね。」
「呆れた…。飛ぶことすら出来ないのに?」
「座っているよりかはマシさ。」
どこかの動かない魔女よりは、というキツい言葉を飲み込んだのは、咄嗟の判断にしてはマシだったのかもしれなかった。
「あら、都会派な魔女よりはマシなつもりよ。監禁なんてしていない分には…ね。」
「…驚いたよ。読心術を使えるなんてね。」
「そんな大したものじゃないわ。ただの観察と推理の結果よ。」
そう言って彼女は本を閉じて机の上に置いた。凝った装飾が施されている重そうな本だった。目的地が分かったことに元気づけられてドアノブを回そうとすると、ノブは
錆び付いたように動かなかった。何度もガチャガチャとノブを回そうとする僕に、彼女が声を掛ける。
「貴方、私の言ったことの意味が分からなかったのかしら?」
「よく分かっているさ。目的地が分かっただけでも上出来だ。」
目の前の扉が急に光ったかと思うと魔方陣が描かれていた。視界の端で青い光が動いたのが見え、反射的に振り返ると、部屋の床一面にで魔方陣が作動していた。素人目
でも分かる程の複雑な呪文体系。どんどんとルーン文字の動きが速くなっていた。


642 : ○○ :2018/11/26(月) 22:44:10 ZCjP3I5M
「地面を這いつくばるだけの人間が、空を飛ぶ魔女みみたいな存在に太刀打ち出来ると思っているとしたら…貴方、相当大馬鹿ね。」
「生憎、人間には意地があるものでね。」
精一杯の見栄を張る。ここから出る手段は無いのは分かっていたが、それでも引くことは出来なかった。
「残念ね…。安心して、死にはしないから。」
魔方陣の動きが止まると同時に、僕の視界がぼやけていった。

----------------------------------------------------------------------------

 図書館のベットで目を覚ますと夕日が窓から差し込んでいた。どうやら図書館で居眠りでもしてしまっていたのだろうか?ベットから起き上がると、隣で彼女が椅子に
座っていた。
「すまない、どうやら居眠りをしていたようだ。」
「いいえ、貴方、妖怪に襲われていたのよ。」
-記憶はどうかしら-と彼女に尋ねられてみて気が付いたが、ここ暫くの記憶が無くなっていた。
「どうやら、そうらしい…。その妖怪は?」
「ええ、そっちの方は大丈夫よ。でも、暫く様子を見るためにここに泊まっていた方がいいわ。」
「すまない…世話を掛けて。」
「いいえ、気にしないで。そういえばこの人に見覚えがあるかしら?」
彼女が差し出した写真を見ると、顔の所が不自然に黒く塗りつぶされていた。
「うーん。こんなに塗りつぶされていたら分からないなあ。どんな関係の人かな?」
そう言って彼女に写真を返すと、彼女は掴んだその写真を指で軽くなぞった。すると一瞬で写真は灰になった。
「貴方が思い出せないのならいいのよ。思い出さない方が良いものも世の中にはあるんだから。」
そういった彼女の横顔はどこか悲しげであった。


643 : ○○ :2018/11/26(月) 22:54:02 ZCjP3I5M
まとめ管理人様いつもありがとうございます。更新が励みになっております。

お手数ですが、>>641-642>>639-640と別作品になっております。

>>638
こういう形で両者の結末が付くことは予想外でした。人里の一角が遂に壊れた
ので、一気に進んだ感じでした。


644 : ○○ :2018/11/27(火) 14:36:28 yrM4p27M
ノブレス・オブリージュに囚われて(185了)
ttp://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=all&all=39700&n=175

終わった……

>>642
蔵書をたくさん持っているパチュリーだからこそ、彼の記憶の一部を破壊することは苦しいのでしょうね
たとえ本筋とは関係ない、彼の友達。裏表紙程度の存在だとしても

>>640
案外と、苦労させているのは自覚している
だからこそ、自らの愛を他に向けないのでしょうね


645 : ○○ :2018/11/27(火) 23:30:19 .p3rz8SI
>>644
完結おめでとうございます。
ここまで悪化しかしない話なかなか無くて素晴らしいですほんと乙。

自分もなにか書きたくなったな...


646 : ○○ :2018/11/29(木) 07:27:10 utiaLyIw
>>644
完結ありがとうございます。

まだ途中までしか読んでませんが、八百長風味が良い終わり方な分
物語的に転げ落ちるのがちょっと怖い。
次回作も楽しみにしてます。


647 : ○○ :2018/11/29(木) 09:28:57 fT89wjL.
>>644
完結ありがとうございます
おめでとうございます
少し寂しくなりますね…


648 : ○○ :2018/11/29(木) 22:55:14 b9i7MjFI
>>644
思えば自分がこのスレ来たときから連載してらっしゃるからなんだか感慨深いようなさみしいような。
ともあれ完走お疲れ様です。


649 : ○○ :2018/12/02(日) 10:43:31 7CVcnegQ
>>644
続きを読み進めていくたびに内蔵に石が詰め込まれていくような、そんな感覚が心に伝わる作品でした。
自分の中での解釈や考察にも大きな影響を与えてくれた素晴らしい作品をありがとうございます。

既視感の時からリアルタイムで読み進めていた作品が終わってしまうのは寂しいですが
完結お疲れ様でした。


650 : ○○ :2018/12/05(水) 00:17:31 zqisB1PU
○○「あのよ」
早苗「なあに?」
○○「俺、慧音さんに告白するわ」
早苗「あー、ついに?」
○○「うん。大丈夫、早苗にも色々手伝ってもらったし絶対成功させてみせる」
早苗「やる気満々ね。じゃあ今晩はご馳走作って待っててあげよう」
○○「さんきゅ。いつか早苗に好きな相手が出来たら絶対手伝うからな」
早苗「……うん、ありがと」
○○「じゃあ行ってくる」
早苗「いってらっしゃい」

�� �� ��

○○「……………………」
早苗「げ、元気出しなよ」
○○「……………………ぁー」
早苗「その、男として見てくれる人もきっといるから」
○○「ぐふぅっ」
早苗「あ、ご、ごめん」
○○「……まー仕方ないわな。俺なんて外から来たそれこそ馬の骨だし。慧音さんみたいな美人で人望ある人と付き合うってのが無謀だったんだよ、ははは」
早苗「○○……ちょっとごめんね」ギュッ
○○「え、な――」
早苗「辛いって言って?」
○○「いや、俺は……」
早苗「全部、吐き出して?」
○○「……ありがと。わりい、ちょっと泣くわ」
早苗「うん」

�� �� ��

○○「……すまん、かっこ悪いとこ見せた」
早苗「いまさらいまさら」
○○「はは、早苗ってほんと良い奴だよな。お前なら彼氏の一人や二人すぐにでも作れそうなもんだけど、もしかして俺邪魔だったりしてないか?」
早苗「そんなわけないじゃない。彼氏ってのもよくわからないだけだし」
○○「そう?」
早苗「そうよ。それより、ご飯どうする?○○の好物ばっかりだけど」
○○「あー……準備手伝うのでいただけます?」
早苗「はいはい。じゃあご飯装っておいてくれる?」
○○「うっす」
早苗「……ごめんね」
○○「?なんか言った?」
早苗「んーん。じゃあちゃちゃっとおかず温めちゃおっか」
○○「おー」

�� �� ��

Q.なぜ○○の告白を断ったのですか?
A.○○の傍らによくいる風祝に前々から親の仇のような目で見られ続け色々と察したから。本当はそれが無ければ受けてもよかった。

�� �� ��

早苗「○○、○○、○○、○○……ごめんね。失恋なんて悲しい思いをさせて。私が責任を持って癒してあげるから。私の全てを使って必ず心から笑えるようにしてあげるから。○○。私の大好きな○○。今は幼馴染でいいから、いつかきっと私を見てね」


651 : ○○ :2018/12/06(木) 13:45:38 Q07NAaes
○○の前ではいい女で裏ではヤンデレムーブしてるの好き


652 : ○○ :2018/12/07(金) 00:44:09 EnTJlWz2
 突然だが、現代人が異世界に突然ワープしてしまったとして、一体何が出来るのだろうか。最近のネット上では色々な
現代知識を持ち込んでその世界を改革するような小説や、甚だしくは転生をさせた神様とやらから何か贈り物を貰ったり、
もっとお手軽に超能力を授けてもらったりして、その世界で強者として生きて行く物語が流行っていた。前の世界でそれ
を娯楽として読んでいた頃には、楽しい余暇や格好の暇つぶしといった気楽な立場で鑑賞していたのだが、いざ自分の身
にそれが降りかかると途端に事情が変わってくる。遠くからみた山が綺麗に見えたとしても、山に近づくにつれて鬱蒼と
草木が道の邪魔をするようになり、登山をする域になればゴツゴツした岩が出迎えて不死の山を見せつけてくるかの如く、
ここ幻想郷に流れ着いた自分が得られたのは、精々が在り来たりな農業の手伝いか丁稚奉公といった程度のものであり、
それすら他の人より上手ではなかった自分が辿り着いたのは、村の人間が絶対に関わろうとしない、いわゆる妖怪や人外
といった連中に関わる仕事であった。
 毎日村の九代目のお屋敷からその日の分の荷物を貰い、それを各所に届けていく。妖怪が人里近くに住むことが無い以
上は、幻想郷の各地を歩き回る羽目になるのだが、それでもあの頃に比べればマシと言えた。自分を嘲るような、見下す
ような、暗い愉悦を湛えた連中の目。今から思えば妖怪に管理されている奴隷なんぞは物の数にも入らないのだが、当時
異世界を珍しがっていた若い外来人を精神的に叩き潰すには、十分過ぎる分量のものだった。始めのうちは幻想郷の色々
な場所に行かされていたが、数ヶ月が経つ時分には得意先の数が一つ減り、二つ減りとなっていき、ここ最近では二、三
の場所を巡るのみになっていた。自分以外にも同じ事をしている奴は屋敷で良く見かけたので、自分が行っていない場所
が恐らくは、他の奴の営業所になっていると予想が付いた。ワークシェアリングなんていう随分と先進的な取り組みをや
っているものだと、配達先での雑談で言ったことがあるのだが、その時は相手の門番は笑って流していた。そしてそこに
も最近は行かなくなってから、自分の荷物は随分と少なくなっていた。人里で採れた野菜や適当な小物。現代人からすれ
ばそれ程価値は無いように思える品物であっても、ここの連中にとっては中々の高級品なのか、かなりの値段-人間一人
を配達させて、そしてそこから随分と中抜きをしたとしても-が付いていた。
 そして今日は遂に、最後の得意先の分も無くなってしまったのだと、いつも顔を合わせている使用人から言われてしま
い、そしてどういう風の吹き回しかは分からなかったが、珍しくも御当主に面会することとなった。初めて屋敷を訪れて
以来のことだがら、余りにも上からのお達しに押されたのか、正直流されるままに部屋に連れられていってしまっていた。


653 : ○○ :2018/12/07(金) 00:44:50 EnTJlWz2
 広い大広間に通されてみると、部屋には当主と屋敷の人間以外には、村の寺小屋で教師をしている半獣がいた。促され
るままにここに来てから目にしたこともなかった程の座布団に座り、何やら当主が言っていることを他の人物と同じ様に
拝聴する。日本語で話している筈なのだが、何故だが当主の言葉は耳に入った途端に頭の中をすり抜けていき、意味を成
す言葉としては一言も記憶に残っていなかった。そして何やら分からなかった当主の話が終わると、九代目御自らが、花
を一輪自分に渡してきた。いつも三途の川に行く道中に船頭に渡していた一輪の紅い花。それをいつもと同じ様に届ける
ことが今日の仕事だと言うことは、頭がぼやけている自分にも理解できた。
 通い慣れた道を通り三途の川に着くと、いつもと同じ様に死神の小町は船に乗って待っていた。色々な場所に配達に行っ
ていた時分には、冥界に行く時や人里から遠く離れた場所に配達をする道中で、時折序でに小町に花を届けていただけだっ
たのだが、ここ最近は毎日の様に小町の船に乗せて貰わないと行けない場所ばかりとなっていた。小町が船の舵を漕ぐ。
一漕ぎすると船は岸から離れて動き出し、二漕ぎすると船は川の中を進んで行く。そして三漕ぎすると船は目的の場所に
着き、自分は小町に花を渡して船から降りるのだが、今日はいくら進んでも先が見えなかった。普段とは違う状況に周囲
を見回すが、広い川の周りには何も無い。小町が前を向いたまま言った。
「こういう仕事をしてるとさ、時折りあんたみたいな人を見るのさ。」
返す言葉が出ずに小町の後ろ姿を見ていた。
「段々得意先が少なくなってくると、もう直ぐだなって分かるんだよ。そしたらさ、つい、こう…逃がしたくなるんだよ。
やっぱりこんな怠け者にも慈悲の心があるんだね。」
船はゆっくり進んでいく。
「だけれどさ…いくらそう思っても、出来なくてさ…。どうしてもやった時のことが頭にちらついてさ…。そうしてそい
つが居なくなると、落ち込んでしまうんだよ。ああ、あの時無理してでも逃がしてやれば良かったって。だけど…」
小町が振り返る。いつもの余裕を湛えた皮肉げな顔ではなく、何かを堪えたような笑みだった。
「こうして手に入れて思うんだよ。あいつらには悪いけれど逃がさなくて良かったって、だってお陰で-」


654 : ○○ :2018/12/07(金) 00:49:36 EnTJlWz2
>>644
完結お疲れ様でした。大変素晴らしい物語をありがとうございました。破滅へと
向かって行く中でズルズルと引きずり込まれていく人や、そこからもがこうと
する人の葛藤であったり努力であったりが生々しく描かれていて、とても良か
ったです。次の作品もお待ちしております。


>>650
○○の近くにいる女性は排除するけれど、自分からは恋人には中々踏み切ろうと
しないのが、何だか闇が深いポイントな気がしました。


655 : ○○ :2018/12/11(火) 19:39:39 KelziIKY
蓮メリの間にはさまれる○○は、何を思うのか

うまく立ち回れる未來が全く見えない
美人と美人にはさまれて、嫉妬不可避


656 : ○○ :2018/12/11(火) 19:57:17 2HVsvjTU
●○●→●●●

オセロみたいに黒と黒に挟まれたらひっくり返って黒になっちゃうから
○○が●●になって想定外のやべーやつになって報いを受けるパターンかも


657 : ○○ :2018/12/12(水) 01:26:27 7DRplAcE
久し振りに

アルカナゲーム4

 暗い部屋の中で僕は一人椅子に座っていた。反射的に周囲を見回すも辺りは闇に包まれて何も見えない。視線を
手前に戻すと、目の前の机に幾枚かのカードが散らばっているのが見えた。闇の中に浮かびあがるカードを見てい
ると、手前に二枚のカードが飛び出してきた。青い髪の幼い少女が描かれたカードと、それよりかは少し大人びて
いるであろう桃色の髪をした少女が描かれたカード。自分の目の前に浮かぶカードはまるでゲームのようにゆっく
りと回転していた。まるで、どちらかを選択するのを待っているかのように。
 この中からどちらかを選ばなければならないのだろうか?何のことかも分からずに、突然何かを選択しないとい
けないのだろうか?それはあまりにも唐突で、そして説明がなさ過ぎた。これではあまりにも無茶苦茶ではないか。
これから一緒に過ごすパートナーを決めるには…。
「…ん、パートナー…?」
自分の思考に疑問が湧く。一体どういうことだろうか?パートナーとは何のことだろうか?どうして僕はそれを、
いや、そのことだけを知っているのだろうか?疑問が頭の中を駆け巡る。思い出そうにも、それ以外のことは一切
浮かばず、焦燥だけが過ぎていく。そんな時に、声を掛けられた。
「お困りの様ですね。」
いつの間に現れたのだろうか、僕の目の前には女性が座っていた。胡散臭げな紫色のドレスを身に纏い、ニヤリ、
ニヤリと笑みをうかべていた。童話に出てくるチェシャ猫のように、まさに人を食ったような表情で、彼女は話す。
「色々と疑問がありますね。ですがそれらは些細な事。これから貴方が選択することに比べれば、ですが。」
「選択って言っても、この中から二人を選ぶなんて、色々と無茶じゃないか。」
「残念ながら貴方には選んで頂きます。…それはとてもとても残酷なこと。」
人間の癖に、まるで融通が利かないポンコツのプログラミングが組み込まれたコンピューターもどきの回答をする
彼女。目の前の彼女から情報を得ることを諦めて、浮かんでいる二枚のカードをジッと見つめる。しかし、いくら
考えても選べない、いきなりどちらかの少女を選べなんて言われても、どだい無理な話しだろう。いっその事、二
人とも選べば良いのではないかと思った。
「あら、本当にそうされるおつもりですか?」
こちらの心を読んだようなことを言う彼女。ならば勿体ぶらずに言って欲しいものだという感情が湧いた。
「地獄の炎にも勝る二人の嫉妬を同時に受けて、果たして無事で済むとお思いですか?片方と一緒に居れば反対か
ら恨まれて、三人でいれば針の筵。どちらからも逃げれば…。さてはて、逃げられれば良いですね。針の穴にラク
ダを通す試みに他なりませんが。」


658 : ○○ :2018/12/12(水) 01:27:05 7DRplAcE
そこで言葉を切る彼女。そうまで言われれば、どちらかを選ばなければならないのだろう。そして僕は-

---------------------------------------------------

「ありがとう。選んでくれて。」
 カードを選んだ僕は気が付くとさっきとは別の場所にいて、そして目の前には選んだ方の少女がいた。恋人のカ
ードに描かれていた彼女。桃色の髪をした彼女が僕の手を両手でギュッと握る。
「さあ、私を選んでくれたのだから一緒になりましょう。」
ドキリと心臓が鳴る。美しい彼女にそう言われたためだけではなく、むしろ本能が警告を鳴らしたような気がした。
僕に抱きつく格好で腕を背中に回す彼女。彼女の綺麗な声が歌うように耳に届いた。
「ドロドロに溶かしてあげるわ。意識を溶かしきって何も何も無くなる位に。」
途端に空気が歪んだ。視界はそのままの景色を普通の世界を映している筈なのに、世界が曲りグニャリと歪む。皮
膚の感覚が切り離されて、目の前の彼女の感覚を感じるだけになり、怖くなった僕は彼女を強く抱きしめる格好と
なった。
「ふふふ、大丈夫、意識の垣根を取り払うだけだから。深い深い海に溶けるように、貴方の意識を私に溶け込ませ
てあげる。とても気持ちが良い世界。ドロドロの快感を味わわせてあげる。」
感覚が消え上も下も解らない世界。グルグルと螺旋を描くように彼女だけを見ながら沈んでいく。神経は泥が詰め
込まれたかのように伝わらなくなり、脳の方に彼女から伝わった何かが迫っていく。手足は動かないのに、意識は
体を越えてどこかに飛んでいきそうだった。
「…あっちの方よりかはマシよ。私は心を溶かすだけだから。」
僅かに残った心の残渣が取り払われて、僕の意識は眠るように沈んでいった。


以上になります


659 : ○○ :2018/12/15(土) 02:36:22 uTkYev3w
>>658
選ぶことが救いにならない理不尽さがたまらないです


>>655
疑問符いっぱい浮かべながら胃を痛めそう
ttps://i.imgur.com/dILrMHa.jpg


660 : ○○ :2018/12/15(土) 12:14:04 tqzPgSn2
>>659

○○が片方にだけチヤホヤして嫉妬させて仲違いさせる作戦にでそう


661 : ○○ :2018/12/15(土) 13:28:38 GWywtqvI
>>659
男子は大半が嫉妬してるけど女子はけっこうな人数が察してそう
そして同情から愛が生まれ三つ巴に…


662 : 通りすがりの○○ :2018/12/15(土) 16:39:00 2mtYnhHk
彼女は見ている。
○○のことを見ている。
朝、○○が目を覚ます姿を見ている。
昼、○○が弁当を食べる姿を見ている。
夜、○○が床につく姿を見ている。
その瞳は○○の姿を見続けている。
yuugenmaganは○○を見守り続けている。


663 : 通りすがりの○○ :2018/12/15(土) 19:48:45 KiMgmF3Y
彼女は見ている。
○○が幻想郷へ迷い込む姿を見ている。
○○が野良妖怪に襲われたところを見ている。
○○が楽園の素敵な巫女に助けられたところを見ている。
○○が人里に住むことになった経緯を見ている。
○○が楽園の素敵な巫女の元へお礼をしにいくところを見ている。
○○が普通の魔法使いと友人になるところを見ている。

彼女は見ていた。
○○が隣人の女性に恋慕し、告白する所を見ていた。
○○に彼女ができるところを見ていた。
○○が彼女を友人達に紹介するところを見ていた。
彼を祝福する友人達の目が笑っていないことに気づかない○○を見ていた。
○○が彼女を失うところを見ていた。
○○が友人達に慰められているところを見ていた。
○○が友人達に好意を抱く瞬間を見ていた。
○○が新たな彼女を作るところを見ていた。
○○をめぐり2人が戦うところを見ていた。
○○がその戦いを知る瞬間を見ていた。
○○が外の世界へ帰りたがるところを見ていた。
○○が錯乱した彼女に殺められる姿を見ていた。

そして、○○の全てを見たyuugenmaganは○○への自分の愛を確信した。


664 : ○○ :2018/12/15(土) 21:25:03 NhsAPPPw
>>663
可哀想すぎて愛しくなるのだろうな
保護欲と言うか


665 : ○○ :2018/12/16(日) 16:15:46 uKzPcghM
>>659
開き直ってヒモになるのが一番よさそう


666 : ○○ :2018/12/16(日) 20:55:39 9RbWJdF6
 私は父様があまり好きではない。
 別に虐待を受けているというわけではないし、むしろ愛情いっぱいに育ててもらっている思う。
 性格だって温厚で、悪戯をして叱られることはあっても感情に任せて怒られたことなんて私の記憶上一度もない。
 優しくて、暖かい人。
 それでも私は父様を好きだと言えない。だって、父様は毎日家で遊んでいるから。
 友達のお父さんが日中働いている間、父様は家でゴロゴロしている。本を読んだり、筋トレとやらをしたり、猫と戯れたり、とにかく里の大人とは思えないような過ごし方をしているのだ。
 代わりに家事をするのかといえばそうでもなく、家のことは全て母様か女中さん達がしていて、それを見ているとモヤモヤする。
 そして私が一番嫌なのは、父様は母様にだけ少し横柄であることだ。母様が家のことを取り仕切り、お仕事までしているのに、父様は日に何度か母様にわがままを言う。
 小腹が空いた、喉が乾いた、肩が凝った、暑い、寒い。
 そんな、まるで子どものようなことを母様の忙しさそっちのけで放り込む。
 私だったら怒りそうなものだが、母様は母様で、そう言われると嬉しそうに父様の不満を解消し始め、それがまた私のモヤモヤを大きくする。
 なぜ私の父様はこんなのなのだろうか。幼い頃、私は気になって聞いたことがある。『どうして父様は働かないの?どうして母様に負担ばかりかけるの?』と。
 すると父様は困ったように笑って、『俺がどうしようもない人間だからだ』と返してきた。
 幼い私は――今でもそう思うが――その言葉が頭にきて、母様の方へと走っていき、先の父様との会話を母様に伝えた。大好きな母様のことを蔑ろにする父様を許せなくて、母様にそれを許して欲しくなくて。
 けれど母様はそれを聞いても嬉しそうにするだけで、私は理解してもらえないことに涙した。
 すると母様は困ったように私を抱き上げ、あやし始める。母様の腕の中で愚図りながらも、私は母様が零した言葉が頭にこびりついた。
「ごめんなさい。でも本当は私が駄目な母様で、あの人はなにも悪くないの。どうかあの人を怒らないであげてちょうだい」
 寺子屋に通うようになった今でもあの言葉の意味は分からない。ゆえに私は父様に対して怒りを覚えてしまう。
 今日も父様は働きもしないで、母様につまらないわがままを言っている。
 きっとこの日常が変わることはなくて、だから私は父様を好きになることはないのだと思う。


667 : ○○ :2018/12/16(日) 21:44:02 vPh2dJgM
やばっ!YuugenMaganのSSが投稿されるまで
まとめwikiに彼女の名と対応するページがないことに気づかなかった
慌てて作成したけどセーフだよね…?


668 : ○○ :2018/12/16(日) 21:53:06 L8/dZ6qM
>>666
あぁ…『どうしようもない人間』になるしかなかったのか…


669 : ○○ :2018/12/17(月) 03:18:59 Psa4HvAk
>>666
子ども視点という斬新な形式で、かつ夫婦の直接的なやり取りがないのに病んでる感じが伝わってきてめちゃくちゃ面白い
この子もいつか察したりあるいは愛に狂ったりしてしまうのかな

>>667
旧作キャラで今まで話が投下されてなかったならしかたないんじゃない?
というかSS無いキャラはページ作らない方が変な期待させなくていい気が…


670 : ○○ :2018/12/17(月) 13:02:42 rvSIx7Jw
ノブレス・オブリージュに囚われての完結後、いくつもの感想や反応。ありがとうございます
次のレスより、また続き物を投下します
前々から言っていた通り、短く収められるように直接投下します

>>663
まさかの第二ラウンドは、見えないところからやってきた

>>666
ヤンデレと○○に子供ができたらどうなるだろう
その答えの一つを明示してくれた作品だ……
両親以外の周りの大人はこの子にどんな言葉を与えるのだろう


671 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 1 :2018/12/17(月) 13:03:55 rvSIx7Jw
「こんばんわ」
その男性は、勝手知ったる態度で。とある豪邸の裏口、正門ほどの豪奢さは無いがそれでも豪邸らしい佇まい。
いや、この裏門ですら。そんじょそこらの豪邸の正門としても十分と通用していた。何も知らない人間が、このやたらと豪華な裏門の写真を見せられたのならば。誰も彼もが、よほどの天邪鬼ですら正門だと思うだろう。
しかし、この里の住人。いや、幻想郷の住人が。それを間違えることはなかった。
この豪華な裏門を正門とは間違えない、何故ならば。
この裏門にも表札が掲げられており…………。
その表札には、『稗田』の文字が掲げられているからである。


そう、稗田である。幻想郷と稗田の関係は最早論ずるまでも無い。その場所に、この男性は勝手知ったる態度で入って行き。
そして慣れたように、近くで掃き掃除をしている女中に挨拶をした。
「これは、助手さん!旦那様に御用なのですね?さぁさぁ、どうぞお入りください。自室で資料の整理を成されているはずなので。すぐにお茶などをご用意いたしますので。
勝手知ったる態度でいるだけあり、どうやらこの男性は家中の者からの覚えも良く、更には態度から見て決して悪い客では無い。むしろ良い風に捉えられているのは明らかであったが。
しかしながら、その『助手』と呼ばれた男性は。唇を動かしながら、少しばかり面白くないような表情を作りつつ、その微妙な感情を誤魔化す為に衣服のボタンをいじっていたが。
「『助手』って、『どっち』にとっての?」
けれどもそれらの小細工は、あくまでも目の前の人物。掃き掃除をしていた女中に対して、悪印象を抱かせないための慎ましい程度の努力でしかなかった。
そもそも最初から、『どちらにとって』の『助手』と言う表現なのかははっきりさせる腹積もりであった。『助手』と言う言葉を聞いた、その時にはもう既に決まっていた。

「あー……」
女中は明らかに、大きく困ったような顔をしていたが。その『助手』と呼ばれた男性は、許す許さないと言うほどの大事では無いけれども。仔細をはっきりとさせるまでは、真相を知るまでは動かないぞと言う決意が見て取れた。
「誰か来たらこっちも困るから、それまでだんまりでも構いませんよ。稗田家の女中なら考える事は一つ」
「夫様。かの九代目当主の稗田阿求の夫である○○の助手、と言う意味でしょうから」
「……ええ、まぁ。そうです。口が滑りました……どうか、お許しを」
女中は深々と頭を下げようとしたが、その行動を即座に、その男性は止めた。
「そこまで怒っている訳じゃない。ただ、ほら、○○って。奇妙な部分が多いから。あれの助手かよって部分があるから」
はははと、男性は笑った。その笑い方に邪心などが無いのは、素人目にもはっきりと分かるような。明るい物であった。
「失礼しました……その、ええ。助手と言う呼び方になれている物ですから。旦那様も、○○様も貴方様の事は助手と呼ぶもので」


672 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 1 :2018/12/17(月) 13:04:43 rvSIx7Jw
「百歩譲って、慧音の助手と言ってくれ。助手と言った後に、慧音のと急に付け加えても良いから」
怒りこそないが、男性からは疲れたような態度が見て取れた。
ようやく目の前の女中も。この男性の怒りが、それほどでもないどころか。全くない事を信じる事が出来た。
「寺子屋の先生さん、慧音先生の所の副担任さん!」
それに、女中の機転が功を奏したようであった。
先ほどまで疲れたような態度の男性が、急に機嫌を直して。ぱぁっと、明るい顔を作った。
「そうだそっちの方が良い!助手よりもずっと、慧音の下についている人間だと分かりやすいから!!」
女中は機転が上手くいったことを、ホッと息を付きながら胸をなでおろしていたが。
そんな様子に対してこの男性は、何らその気持ちを慰める事無く。足取りも軽く、お屋敷の奥へ奥へと進んで行った。
しかし女中にとってはそれでよかったのだ。これ以上、上手い会話が出来るとは思っていなかったから。
まさかこの期に及んで、他愛のない話が出来るとも思っていなかったから、余計に。

「…………はぁ」
男性が完全に見えなくなったのを十分に確認してから、女中はため息をついた。
「ご当主様、九代目様……阿求様の次に緊張して。気を付けて相手をせねばならないお方だという事を、夫の○○様も、あの先生さんも。どちらもまるで自覚していない」
大変なのは分かりますよ?でもね、でもね。女中はそんな意味の言葉をひたすら呟きながら、掃き掃除を続けていた。



「俺の事を『ワトソン君』等と言う愛称で呼んでみろ、ぶん殴る」
そして男性は、ある一室へと入って行った。しかし、さきほどまでは軽快な足取りであったのに。だというのに、その一室へと入る時には、憤怒とまでは言わないが呆れ混じりの苛立ちが色濃かった。
そして、文机に向かって書き物をしていた男性の笑顔を、しょんぼりとしたものに。急速に変えてしまった。
「少しは付き合ってくれ。お前と違って、俺は立場が恐ろしく弱いんだ。お前は謙遜するが、それよりも弱い!紛らわせるために少しはおかしな気分にさせてくれ!」
文机に向かっている男性は、ぶつくさと言いながら書き物の続きを始めた。

「今日は何をやっているんだ?○○」
「昨日、阿求の口述を全部書き留めていたから。それを整理しているんだ。資料を読みながら気になった事や、求聞史記に書き留めておきたい事そんな事をつらつらと述べているんだが」
そう言いながら、文机に向かって書き物をしている男性。その名前を○○と言う者は、若干の笑顔を取り戻しながら、大量の紙束の中から一枚を抜き取った。
「それでも、口述でそれをやっているから。ほら、他愛のない話が少なくとも全体の三割ぐらいはあるんだ」
そしてそれを、○○は自分と相対する男性に渡そうとするが。
「のろけるな」
丁重な態度で付き返した。


673 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 1 :2018/12/17(月) 13:07:32 rvSIx7Jw
「それで?今日、お前が持ち込んできた話は何なの?いたずら妖精が、加減を間違えて寺子屋の生徒に怪我させちゃったぐらいなら、阿求の口述をまとめる作業を優先したい」
しかし○○の目の前にいる男性は、うんともすんとも言わない。それどころか、立ち振る舞いを直して耳をそばだてるような態度になった。
「多分、女中の誰かがお茶とお茶菓子を持ってくるはずだ。その後だ」
剣呑な雰囲気である。
若干ふざけているような態度でいた○○も。一度は筆をおいて、男性の方を見つめたが。
「出来るところまでやろう……その方が有意義だ」
すぐに、男性は誰の邪魔も入らないと言う場面が。それが絶対にと言い切れるまでは待つつもりだと判断出来たので、書き物の続きに入った。
先ほどのように、友人を前にして気持ちが少し浮つくと言うようなものは一切なかった。

「どうぞ、先生さん!」
さきほどの女中との会話が、もう家中の隅々にまで広がっているようで。先ほど掃き掃除をしている女中と、先生と呼ばれた男性にお茶を持ってきた女中は別人なのに。
その別人であるはずの女中は、先生と言う部分を若干強調して、わざとらしいような大きさで口に出した。
しかしそれよりも○○が気にしたのは、先生と呼ばれた男性の表情だ。
○○は、この男性が実はどう呼ばれ対価と言う部分を、十分に理解している。だと言うのに、と言う感想しか出てこなかった。
「笑顔が固いな。それほどの大事か?上白沢慧音と同じような立場の呼ばれ方をしたのに」
○○は立ち上がって、ふすまの向こう側をもう一度、左右をしっかり確認してからしめて、空気取りに開けていた窓もしっかりとしめてから言葉を促した。
男性は、それでも緊張が解けないのか左右を確認してから。ようやく口を開いた。

「八意永琳が誘拐された」
「ありえない」
驚いたら迷惑になると分かっていたから、大きな声は出さなかったが。
より大きな話になると、却って声は出ない物であった。
「その通りだ、ありえない。蓬莱人に勝てる相手などいない」
とは先生が言うが、その時に○○はもう本棚の前に立って。永遠亭についてまとめられた書物を取り出したが。
「いや待て」
○○は何かに思い当たった。
「八意永琳が連れている、あの書生!あれは確か……」
「そうだ……学者馬鹿のきらいがあるせいなのか、八意永琳が蓬莱人である事を知らない」
○○は盛大な溜息を出しながら本棚に書物を戻した。
「そうだ、そうだ。思い出したよ。八意永琳は猫をかぶっていたんだった。あの見習い書生君の前では」
「永遠亭はウサギの住処なのにな」
先生は皮肉を言うが、○○は笑わなかった。
「それだけならば永遠亭だけの問題だろう?なのに何で」
「台本が無いんだ」
「は?書生君が八意永琳を助ければ万々歳だろう。晴れて2人は一緒になれる!自分を助けてくれた相手と!」
「終わりはそこでも、そこに至るまでの台本がまとまっていないのに、始めたんだ」
「はぁ!?」
「そして書生君ったら。何も知らないくせに、いや知らないからこそ。いきり立っちまって」
話の本筋に入っていくとともに、この先生は。上白沢慧音の夫は、お茶を一息で飲み干した。
「戦争だと騒いでいるよ、書生君ったら。このままじゃあいつ、何かやらかす」
○○は両手で頭を抱えた。
「でもそもそも誰と戦うんだよ、狂言誘拐なのになのに?敵は始めからいないのに!」
「けれども」
しかし状況を整理した○○は、重々しい雰囲気で口を開ける。
「狂言であるとバレてはならない。狂言だとバレる事を、八意永琳は恐れているはずだ」
○○はそれを言うと再び頭を抱えたが。
「バレたら嫌われるだろうからな、書生君から」
先生はひきつった笑いを見せていた。失敗を何より恐れているのは、もはや八意永琳だけではなくなった。

続く


674 : ○○ :2018/12/18(火) 23:01:29 o6qIaLGw
>>666
たまにくるこういう変化球話狂おしいほど好き

>>673
自分が馬鹿なだけなんだろうけど人物相関図というか、今誰が話していてその中の単語が誰を指してるか?がよくわからない


675 : ○○ :2018/12/20(木) 01:59:15 qPj82ynQ
○○=今回の主人公=阿求の夫
冒頭の男性=先生=慧音の旦那
話に出てくる書生=永琳が惚れてる男

の、はず


676 : ○○ :2018/12/20(木) 06:01:12 RU6TNaLE
○○以外のオリキャラに固有名詞使わないのは長編さんのこだわりなんじゃないの?
ぶっちゃけ□□と△△とか使ってくれた方が読みやすいけど
俺としてはそれより慧音の旦那さんがちょいちょい半ギレしてる理由と女中の呟きの意味の方がわからん


677 : ○○ :2018/12/21(金) 05:07:03 BrJSGO.o
>>673
会話の節々だけで人里の後ろめたさが伝わる……
きっとこの二人も同じような経験をして今ここに居るんでしょうね
続きを楽しみに待ってます。


678 : ○○ :2018/12/22(土) 20:53:36 8TsmbSe2
 ○○「――つまり俺は片想いを拗らせた東風谷に異世界転移する際拉致されたと?ついでに帰る術はないと?」
諏訪子「……そうなる。本当にすまない、まさか早苗があんなことをするとは思いもしなかったんだ」
神奈子「そして、今のお前にこんなことを言うのは不躾だと思うが、どうか早苗を許してやってほしい。衣食住で不自由は絶対にさせない。可能な限りお前の願いは叶える。だから、どうか……頼む……」
 ○○「……あの、一つお願いしていいですか?」
神奈子「あ、ああ!なんだ?なんでも言ってくれ」
 ○○「じゃあ、ニートさせてください」
諏訪子「うん……うん?」
 ○○「働きたくないんです」
神奈子「えぇ……」
諏訪子「あ、あのさ、もっと他に……というか、願い以外で言いたいこととかないの?いきなりこんな所に連れてこられて怒るとか、二度と親や友人に会えないくて泣くとか、その、ちょっとアレな女の子に好かれちゃって怖いとか」
 ○○「びっくりはしましたけど住む場所にこだわりはないですし、親とは折り合い悪いのでどうでもいいですし、友人はちょっと悲しいですが割り切れますし、東風谷はまあなんとかしますよ。というか大事なのは そ こ じ ゃ な い」
 ○○「社会に出たらパワハラアルハラセクハラに怯えながら上司の顔色を伺って残業代で栄養ドリンクを買う羽目になるんですよ?」
諏訪子「げ、幻想郷でそれはないんじゃ――」
 ○○「人里って明治時代の田舎みたいなものらしいじゃないですか。上下関係現代よりきついだろうし余所者ハブるとか余裕でしてきそうで怖すぎるんですが。だからどのみち俺はニートを望みます」
神奈子「あー、ええと……つまり、働かせなければこちらの非を水に流し、早苗を受け入れてくれると?」
 ○○「東風谷には後で説教はしますけどね」
神奈子(……あれ、これ考えうる限り最高の答えじゃないか?)
諏訪子(早苗の様子を見る限り働きになんて出せるわけないしね。言う必要はないけど)
神奈子「じゃ、じゃあ、それで頼めるか?」
 ○○「はい、よろしくお願いします」
 ○○「ではちょっと今回の元凶である東風谷を正論でボコボコにしてきます」
諏訪子「ほ、ほどほどにね?」
 ○○「はい。何があっても暴力に訴えたりしませんし、禍根は残さないようにしますので安心してください」
諏訪子「……行っちゃった」
神奈子「穏便に済んだことについては感謝しかないが、しかし、早苗もすごい男を気に入ったものだな……」
諏訪子「ほんと、あんなタフな子だとは思わなかった。これは元の世界に帰れないって嘘ついたのは悪手だったかも」
神奈子「か、帰れると分かれば躍起になるとか言い出したのはお前だろう」
諏訪子「普通の人間だったらそうなるじゃん!まさかあんなこと言い出すなんてわかるわけないだろ!」
神奈子「……徹底して秘匿だな」
諏訪子「まあ、本来は説得だけでももっと大変……いや、下手したら拗れてどうしようもなくなる可能性もあったんだ。これくらいは喜んでやらなきゃ」
神奈子「その通りだな……さて、それじゃあ一応二人の様子を見に行くか」
諏訪子「りょーかーい」

―――――――――――――――――――――

 早苗「他の女に興味を持たない。家から出ようとしない。家事を全てしてくれる(尽くせなくてちょっと残念。けど自分のためにしてくれてすごく嬉しい)。私を愛してくれて、私に甘えてもくれる。ああ、○○君、大好きです。今でもこれ以上ないくらい好きなのに、日増しにこの想いが大きくなっていきます。○○君○○君○○君……」
 ○○「まあ養ってもらってるしこれくらいはね?早苗可愛いし、やりたいことやってるだけであの光のない目もされないから苦でもないし」
諏訪子「すごい」
神奈子「つよい」

―――――――――――――――――――――

 ○○「元の世界に帰れる?途中から気づいてましたけど、だからどうしたんです?え?帰るわけないじゃないですか。嫁と子供いるのに。それに向こうで今以上の生活を望める気がしませんし、そもそも気づいた時点で二年経ってたんですよ?帰ったって面倒なことにしかならないでしょ。え?怒る?感謝こそすれ怒る要素がどこに?」
神奈子「ありがとう」
諏訪子「本当にありがとう」


後半筆が滑りました


679 : ○○ :2018/12/23(日) 00:56:19 hCuoGMNQ
ドレミーさんにもう目覚めなくていいんですよされたい…。夢の中に閉じ込められて耳元で「ンフ…」みたいな妖しい笑いかたされたら絶対現実の肉体溶ける。というかもう頭のリソースの半分くらいドレミーさんに持っていかれてるからもういっそのことドレ

>>678
◯◯が寛容というかぶっ飛んでるとお互い幸せになれるのいいよね…


680 : ○○ :2018/12/23(日) 02:07:21 2clcUj6A
>>678
こんなん笑うに決まってるだろ!
なんて個人的なツッコミは置いといて、メンタルおばけの○○の話は謎の安心感あって好きだからもっと筆滑らせていいと思うよ

>>679
大丈夫?言いたいことはよくわかるけど君持ってかれてない?


681 : ○○ :2018/12/24(月) 22:25:43 TzvNdBy6


今日も私はしあわせだ。
夜空を駆ける私は、今まさにふとももと両手で愛しいその人を感じている。

きっと身を切る風でさえその心地よい熱を吹き飛ばすことはできないだろう。

欲しいものが有るならばありったけ腕を伸ばし、それでも手に入らないならば私ごと大空を飛んで掴み取ってしまえばいい。今までそうやって生きてきたのだ。

このまま何処までも飛び続けてやろう。
お前が死ぬときは私が死ぬときだ。

「それまで付き合ってもらうからな、◯◯」

そう口にすると、箒を優しく撫でた。


682 : ○○ :2018/12/24(月) 22:58:45 wqhpKbOY
なるほど、与えるのではなく奪うのか


683 : ○○ :2018/12/24(月) 23:02:12 w/xIaaVQ
本当に愛しているのは誰なのか

 始まりはほんの些細な、そう、本当に些細な事であったが、それがレミリアの琴線に触れてしまった。いや、悪い事が引き起こ
されてしまったのだがら、逆鱗を踏んでしまったと言うべきか、はたまた虎の尾を踏んだと言うべきなのか、いやはや引き起こす
なんて被害者のような振りをしている現状では、-お前は本当に反省しているのか-と手痛い反論を受けてしまうのだが、普段は
大人しい彼女と珍しく喧嘩をしてしまった私は紅魔館を飛び出して、そのまま足が向く方に歩いていくといつの間にか人里の大通
りを当てもなくブラブラとしていた。
 冬の訪れと共に通りを吹きすさぶ風が強くなり、日が落ちるのが早くなったことと相まって、体が冷えてきたと感じた私は手頃
な屋台の暖簾を潜った。何か温まる物を頂こうと付け台をのぞき見ると、大根が出汁で煮込まれて湯気を立てていた。早速店主に
注文し、出された大根を頬張る。熱々の汁がすっかり冷えきっていた体に染み渡った。ふと隣の客から視線を感じて首を横に捻る
と、女がこちらをジッと見ていた。
「もし、どうかされましたか?」
女の手が震え、持っていた猪口が滑り落ちる。机の上に透明な酒が広がり酒の匂いが店に広がった。
「大丈夫ですか、お具合でも悪いですか?」
気遣って伸ばした私の手が、その女によって強く払われる。始めは女の顔に広がっていた驚きが、さっと憎しみに彩られていく。
酒の酒精が顔に乗せられていくのと同じ様だと、どうでもいいことであるのに何故だか私はそう感じた。恐らくはレミリアと言い
争いをしていた私はどこか動揺した、あるいは浮ついた雰囲気があったのかも知れない。女はそんな私の、ふわふわとしていた気
持ちを一瞬で打ち消すようなことを言った。
「お前…オニのオトコじゃないか!触らないでおくれ!」
「……。」
「吸血鬼と寝た奴に触られたら、こっちまで妖怪に引きずり込まれるじゃないか!触るな!」
彼女の余りの言い草に私は言葉を失ってしまった。私と女の争いを聞きつけた女の連れが、私の前に割り込んでくる。女よりも酒
を空けているせいか一層血色は良くて、そして悪いことにその分以上に威勢が良さそうであった。男の方が目を吊り上げて私に迫っ
てくる。
「おい、お前、俺の連れになにしようっていうんだ?」
「いやいや、私は何もしていないぞ。」
厄介な酔っ払いに絡まれたと私はチラリと店主の方を横目で見た。視界の端で店主は後ろを向いており、我関せずの態度を貫いて
いた。


684 : ○○ :2018/12/24(月) 23:02:46 w/xIaaVQ
「テメエ、いい加減にしろよ。」
男の方はすっかり私が女にちょっかいを出したと思い込んでいた。どうにか宥めようと話しをする。
「お連れさん、落ち着けって、私は何もしていないよ。」
「嘘つくなよ!お前が手を出していたのはしっかりと見てたんだよ。」
「だから誤解だと言っているだろう!」
「俺の女から血を搾り取る積りだったんだろ、クソ野郎め!」
酔った男の方が私を思いっきり押した。突き飛ばされた格好の私は自分の座っていた椅子を巻き込んで倒れた筈だったが、一向に
衝撃が来ない。反射的に瞑った目を開くと、何故か私は離れた椅子にちゃんと座っていた。

「つまり、貴方は我が紅魔館の主が見境無く人を殺している…と、そうおっしゃりたいのですね?」
男の後ろから声が聞こえた。普段館でレミリアに使えるメイド長の声。普段と同じ声の筈なのに、店の中が時が止まったかのよう
に静かになった。メイド長は普通ならば相手と応対するために向かい合っているのであるが、今の彼女は男の後ろにいた。まるで
死神が鎌を振りかざして命を刈り取るかの如く。男の顔から汗が噴き出し、一筋が首に滴った。
「い、いえ…。そんな…ことは…。」
「そうですか…。ならば貴方はなんの理由も無く、御主人様を侮辱された…と。」
ぐにゃりと目の前の空間が曲り、悪意と敵意がない交ぜになったものが後ろから流れ出す。確実に殺す、その意思がナイフのよう
に男に突き刺さり、一緒にいた女の方は放っておかれているにも関わらず、咲夜さんの殺意に当てられて既にまともに息をするこ
とも出来ないようだった。荒い呼吸が店に響く中、カチャリと刃物を鞘から外す音がした。
「そこら辺にしておけ。「言い間違い」や「勘違い」は時々有る物だ。」
一触触発の空気の中に慧音さんが入って来た。途端に張り詰めていた空気が消え去っていく。男の方は腰を抜かしてしまい、ズル
ズルと地べたに座り込み、女の方は涎が流れていた。
「あら、勘違いならば仕方ありませんね。」
勿体ぶるかのように、銀色のナイフを鞘にしまう咲夜さん。そのまま彼女は歩いていこうとしたので、私も慧音さんに頭を下げて
から、後を追うようにして店を出た。
 先に店を出た彼女を追うように早足で店を出ると、彼女はさほど離れていない場所にいた。こちらを待つ彼女に追いついて礼を
言う。
「ありがとう、咲夜さん。」
「いえ、そのような事は…。」
彼女はいつものように言葉少なに返す。十六夜咲夜という人物の忠誠心は、紅魔館の主のレミリアのみに捧げられていた。そして
私は精々がそのおまけという扱いなのだろう。いつも彼女は私から距離を取ろうとしていた。


685 : ○○ :2018/12/24(月) 23:03:27 w/xIaaVQ
「旦那様。お嬢様の所にお戻り下さい。」
低い声で咲夜さんが言う。何かを押し殺したかのように。
「何だか戻りにくくって…。」
「お嬢様がどれだけ、旦那様のことを気に掛けておられると思っていらっしゃるのですか?私とは比べ物になりません。」
いつも冷静な彼女の言葉は、今日は取り分け辛辣に感じた。
「レミリアは咲夜さんのことをいつも自慢しているよ。最高のメイドだって。」
「ええ、お嬢様から信頼を頂いているのは重々承知しております。しかし旦那様とは比べることすらできません。」
「そりゃあ、まあ、仕事に対するものとは別だろうから…。」
咲夜さんの足が止まる。普段感情を見せない彼女の瞳の奥に、うねるような感情が潜んでいた。
「私はお嬢様より人間として生きることを許されました。それはお嬢様の好意でありますが、結局は私はそれだけの存在だという
ことなのです。……失礼致しました。口が過ぎました。」
足早に紅魔館に向かう咲夜さん。隣で歩いている筈の彼女と私の間には、越えられない亀裂が存在するかのように感じた。

「ただいま…。」
「おかえりなさい、ダーリン。」
紅魔館に帰った私をレミリアが迎える。先の口ケンカのことなどなにも感じさせないように、私の方に寄り抱きしめる彼女。抱き
しめ返すと、レミィの羽がパタパタと嬉しそうに揺れた。
「えへへ…。」
小さく細く抱きしめれば壊れそうなレミリア。この非力な少女が私を愛しているということだけが、私の紅魔館での地位を保って
いる。細い道を踏み外さないようにして歩く人生。心に浮かんだ不安を打ち消すかのように、私はレミリアを強く抱きしめた。

続きは電波が飛んでくれば…


686 : ○○ :2018/12/24(月) 23:05:46 w/xIaaVQ
>>673
永琳が暴発してしまうとは…果たしてどう着地するのか気になります。

>>681
○○を箒にしてしまったのでしょうか…


687 : ○○ :2018/12/24(月) 23:54:43 w/xIaaVQ
「ねえ、生まれ変わったらどうする?」
唐突な質問をする彼女。吸血鬼である彼女からすれば当たり前の質問かも知れないが、少々いや多分に、普通の人類代表
を自称している私には理解の外にあるものであった。
「うーん。どうだろうね?そんなことは考えたこともなかったから、分からないな。」
「ふう…ん。」
微笑を浮かべる彼女。得てしてこういう時には天使のようなかわいい笑顔の裏で、悪魔のような考えが浮かんでいるもの
である。もっともそうは言っても私が体験した限りではあるが、それでも被験体としては十分を越えて十二分であろう。
「私はどうしよっかなー。」
チラチラと上目で私を見る彼女。小さく整った口から白い歯が零れる。
「次はあなた以外の他の人を好きになろうかなー。そうして…」
舌がペロリと唇を嘗めた。

 ドクリ、と心臓が鳴る。魂が震え、全身に流れる血液が冷たくなって逆流する。
「許さない…。」
彼女の小さい肩を掴んでそのままの勢いでベットに倒れ込む。押し倒すなどどいうものではなく、衝動に任せて乱暴に叩
き付けた。
「絶対、許さない!!」
彼女をマットレスに押しつけて大声で叫ぶ。隣近所に聞こえることなどということは沸騰した頭の中からは消え去っていた。
叫んだために荒い息をつく私を、彼女はやはりニヤニヤと笑って見えていた。
「本当に…?」
試すように意地悪く言う彼女。悪女のように、そして悪魔のように。返事の代わりに唇を奪う。貪るように口内を犯し、部
屋に音が響いた。


688 : ○○ :2018/12/24(月) 23:55:44 w/xIaaVQ
「本当に私が欲しい?この命だけでなくって、生まれ変わってもずっとずっと?」
「他の奴になんて渡さない。」
「私が嫌っていったら?」
「そんなの潰してやる!無理にでもそうさせてやる!」
「えへへ…。」
だらしなく溶けた笑みを浮かべる彼女。口の端からドロリと唾が零れていた。

「あなたがそう望んだんだからね…。」
彼女が何か小さな槍のようなものを虚空から引き出す。小さな、紅い槍。外見は大したことないようなそれが、私の運命を変
えるものだということは、直感的に理解できた。
「あなたが悪いんだからね、私に騙されて人間じゃなくなっても、やっぱりまた挑発されて騙されたんだからね。二度も私に
運命を変えさせたんだからね…。」
彼女が槍を私に突き刺す。痛みも熱さも感覚すらも、何も感じなかった。
「はい、終わり。これで○○は私のものになりました。一生、これで私のもの。死んでもずっと次の運命でも私と一緒。」
彼女は前と同じように、グチャグチャになりながらひどい顔で笑っていた。


689 : ○○ :2018/12/24(月) 23:57:34 w/xIaaVQ
>>679
溶かされるっていいよね…ところで戻ってこれそうですか(小声)


690 : ○○ :2018/12/25(火) 11:01:51 fBCjFdsU
>>683
自分の存在が非常に重大で、自分の体はもはや自分だけのものではないと言う事
それを自覚していない○○は、このチンピラは論外としても。頭の良い存在にとっては
たとえば慧音先生からしたら、危なっかしすぎて迷惑とすら思うかもしれない

>>687
挑発に乗った時点で、○○の負け。そこまで依存させたレミリアの勝ち、ですね


次より、八意永琳(狂言)誘拐事件の続きを投下します


691 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 2 :2018/12/25(火) 11:02:52 fBCjFdsU
○○は明らかに苛立ちながら、指を何度も文机に向かって打ちつけて、苛立ちを具現化するように音を鳴らしていたが。
「ここにいるままでは駄目だ。書生君が戦争だといきり立っているのに……何も無い所を燃やす前に、せめて俺たちが話を聞いておかないと」
「それだったら○○、お前の飼い犬を連れてきてほしいと言われている。鼻が良いと評判だからね……」
○○は、部屋着から外出用の服に着替えて行ったが。先生からの注文に引っ掛かりを感じた。
「犬のトビーを連れて行くのは構わないけれども。そう言えば先生。いったい誰からこの、超が付くほどの厄介ごとを聞かされたんだ?結構深い部分まで知っているようだけれども」
「ああ、鈴仙さんが朝一で寺子屋に来た……稗田家には最初に行ったと聞いたけれども。まぁ、もしかしたら知らないだろうなとは思っていた」
○○は着替えの手こそ止まらなかったが、やや遅くなって、何かを吟味するような顔つきになった。
しかし吟味の内容は面白くも無い物らしく、渋い顔であった。
「稗田阿求と、お前の奥方様と話をしたいのならばしばらく待つけれども?」
少し考えた後で、○○は首を横に振った。
「良いのか?全く持って、気になっている様子だけれども」
先生はそう言って、いくらかの思いやりを見せてくれたけれども。
「いや、良いさ。阿求の方が記憶力も知識も知恵も、全部良い物だから。本当に緊迫した事態ならば、鈴仙さんが阿求に話を持って行ったときに。すぐにこっちの耳に入れた。
「それに」○○は更に続けながら、文机の上を見やった。
「それに、書き物仕事がまるで進まなくなる」
○○は、その口調こそ穏やかな物ではあるけれども。首の方は何度も頷いたりしていて、バネ仕掛けのバネが少しばかりおかしくなったように感ずる程であった。
無理をしている、先生の目に映る○○の様子は、この一言だけで殆ど説明できてしまえた。
無理にでも信じたいのだろう、妻である稗田阿求の事を。
……九代目の完全記憶能力者と一緒にならねばならぬ心労は。それなりに理解してやれるけれども。

何となく蚊帳の外にいる事に、若干の嫌悪感や心痛を○○が覚え始めた。まさにその時であった。
「ごめんなさい、○○。これはね、私からの永遠亭への入れ知恵なの」
稗田阿求の声が聞こえた。
ホッとはしたが、長くなるなよと言う祈りにも似た苛立ちがやってきたことは認めなければならない。


692 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 2 :2018/12/25(火) 11:03:45 fBCjFdsU
「永遠亭の書生君が、戦争だとか言っていきり立っているのは知っているわ。だからよ、今は永遠亭で籠って身を守っていろと」
「なるほど。その入れ知恵に従ってくれたのならば、あの書生君もしばらくはおとなしいね」
「それに、書生君が。○○と先生さんが前に解決した。四人組盗賊団事件や、邪教崇拝者捕り物事件の記録を読んでから。あなた達の愛好家と言うのも助かったわ」
○○の文机の上にあった急須に、まだ中身が少し残っていたので、失敬させてもらった。
「あとは、先生と慧音さん以外には話すなと。私が鈴仙さんに口止めもしたから……あなたに今まで話さなかったのは……狂言誘拐の後始末だと言われたら」
「そうだね、午前中にやっていた書き物は、間違いなく全く進まなかった。イライラして女中に何かを勘付かれたかもしれない。それは危険だね」
○○がこちらをすまなさそうに見てくれたし、稗田阿求も会釈をしてくれたので長くはなら無さそうではあるけれども。
目の前でのろけられては、何か口直しが欲しくなるのは必定であるから。
それに何となく、阿求が今まで黙っていた事の答えにはなっていないような気もする。
だと言うのに○○は、阿求を既に許してしまっている。
……地縁も血縁も無い故に、阿求には甘く。もっと言えば媚びを、無意識に売っているのかもしれない。

「そうか、どっちの事件でも鼻の良い、犬のトビーが活躍したからね……最も、二つの事件は狂言などでは無かったけれども」
「だとしてもよ、○○。あなたの愛犬を連れて行けば、向こうは多少なりとも安心する……」
「まだか?」
先生はしびれを切らしたようであった。急須の中身が思いのほか残っていなかった事も、横槍を入れるきっかけとなってくれた。
「ああ、すまない」
妻を愛しているのは誠に良い事であるのだけれども。客がいる時ぐらいは、そちらに少しは気を回してほしい物であった。



かくして、○○と先生は連れだって。ついでに鼻が良いとされて評判の名犬も連れて、永遠亭にやってきた。
「出迎えがいるね」
先生はぶっきらぼうに答えたが、○○は記憶力が稗田阿求といれば鍛えられるらしく。
「東風谷早苗?永遠亭とはあまり関係が無いはずだが」
○○が口に出した名前を聞けば、先生もいくらかは頭が揺れた。
永遠亭の内部だけで済みそうにないどころか、他勢力がわざわざ首を突っ込んできたのだった。
「こんばんは、○○さんに先生さん。きゃー、わんちゃんも一緒なんですね」
東風谷早苗は○○と先生の眼の奥を覗き見るように、状況を確認するように計った後。○○が連れている飼い犬を可愛がり出した。
随分な落差であった。

「まさか永遠亭まで飼い犬の散歩なんて言わないで下さいよ」
相変わらず早苗は、○○の飼い犬を可愛がっているが。声に圧力が確かに乗せられていた。


693 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 2 :2018/12/25(火) 11:04:21 fBCjFdsU
「どこで気づいたの?」
○○は観念したようで、早苗に答えを聞かせてくれとお願いした。
「射命丸さんを始めとした、天狗の皆さんとは仲よくしていますし。私も、信仰集めに人里にはよく降ります」
「そこで、ですね。先生さんを見かけたのですよ。ちょっと早い時間に……寺子屋の生徒さんが下校するのと同じ時間に、結構な早歩きで。何かあったのかなと思って」
○○は先生の方を、横目で見た。非難めいたものは無かったけれども、例えそうであっても安堵は出来ない。
先生さんとしては、バツが悪くなるばかりである。

「素晴らしい観察眼ですね、東風谷早苗。確かに先生さんは、寺子屋の授業が終わってもまだしばらくは、慧音さんと残って明日の準備や掃除をしますから。確かに、何かあったと考えるべきだ」
「裏道を通ればよかった」
先生は嘆くけれども、早苗は首を横に振った。
「そうしたら、カラスが見つけます。明らかに隠れながら進んでいると言う事実を」
「悟られないように、欺瞞(ぎまん)する方法をこれからは考えないとね」
そう言いながら○○は、愛犬を連れながら永遠亭の門をくぐった。
「またあとでねー、トビーちゃん」
早苗は笑顔で、○○の愛犬であるトビーに手を振って。トビーの方も悪い気はしなかったのか、ワンと一声吠えてくれた。

しかし、○○とその愛犬が永遠亭の門を完全にくぐって見えなくなると。早苗の顔は一気に、真面目な物に打って変わった。

そして先生に向き直り。
「いつまで○○さんのシャーロック・ホームズ『ごっこ』を放っておくつもりなのですか?」
「…………」
強い言葉で、○○が先生に向けた慰めるような視線や態度とは打って変わって。非難を全力でぶつける態度を早苗は持っていた。
「やっぱり、監視していたんだな」
「当たり前です!稗田阿求は○○さんへの慰みとして、色々な事件の解決に関わらせているのかもしれませんが!私から見れば、性質の悪い、実際の事件を稗田阿求が都合よくその軌道を修正させている分、余計に性質の悪いノンフィクションですよ!!」
「のん、ふぃく……何だって?」
「ノンフィクション、作り話では無くて実際に合った話の記録とでも言いましょう。でもホームズのお話はただの小説!だと言うのに○○さんの精神は、そこに飲み込まれている!!」
「…………」
先生は、初めて聞いた言葉の意味を問うたきり黙ってしまった。
「犬のトビーも、ホームズの話に出てくる名前とおんなじ、鼻が良い所もおんなじ!!稗田阿求は何を考えて、こんな戯れを作り上げるのですか!!」
「しかし、事件自体は事実だ」
「その解決の仕方と、やたらと情緒的な記録文書が問題なのです!!ホームズ憚っぽく描かれている!!○○さんが先生さんの事を、ワトソンと呼びたがるのも――」
「○○と同じで、外の知識で俺を圧倒するな!!ここは幻想郷だ!!稗田阿求が差配しているんだから、稗田阿求に言え!!」
付き合いきれないと言うよりは、勝ち目が明らかにない。外の知識は先生には、○○と違って殆どない物だから。
彼としては、逃げるしかなかった。


続く


694 : ○○ :2018/12/25(火) 20:36:36 jvMCRgHQ
「もしもし?サンタさんになにもらった?はは、そうか。俺?うん、なんかすっごいデカいプレゼントくれたんだよ、中身?まだ見てない、ワクワクしすぎて」

「あん?どれくらいデカいかって?そうだなぁ…」

「人間が体育座りしたらちょうど入れるぐらいのデカい箱だなぁ」












キスメ「メリークリスマス」


695 : ○○ :2018/12/28(金) 00:07:48 SGR2AJ4c
 深淵に潜むモノ

 友人と連絡が取れなくなっていてから、はや数ヶ月。失踪する前日まで私は彼と大学で顔を合わせていたので
あるが、次の日から彼は大学に姿を現さなかった。彼が持っている携帯に幾度連絡をするも一向に電話がが取られる
ことがなく、教務課が保証人に連絡をしようとするも、その人物にも連絡が取れずに中で、私は遂に彼の家を訪
れることにした。
 都市から電車で一時間程離れた場所にある、田舎と言い切るにはやや躊躇するような街にある一軒家。周囲は
農地に囲まれており、夜になれば辺りは僅かな該当が照らす所以外は、真っ暗になるであろうという場所に建つ
友人の家を私は単身訪れていた。長い間雨が降っていないせいだろうか、薄らと埃を被った家のチャイムを鳴ら
したが一向に返答が無い。誰か家人でもいれば事情を話そうかと思っていた私であったが、こうも返事が無いと
少々当てが外れる格好になった。もう一度期待を込めてチャイムを押す。まるで待ちぼうけを食らわされた格好
となった私が腹立ち紛れに門扉を押すと、門はあっさりと開いた。
 ドキリと心臓が鳴る。おかしい、これは明らかにおかしい事だった。いくらカーテンが閉められてた人気のな
い家だからと言って、ここまで人が居ないものなのだろうか?もし仮に旅行等の理由で家を空けているのであれ
ば、まさか戸締まりを忘れるなんて事はないであろう。それに第一、ただの旅行であるならば、携帯に出ること
ができる筈なのだから。私の心臓の鼓動が激しくなり、呼吸が荒くなる。開かれた門を通り一歩、一歩家のドア
に近づいていく。恐らくは誰かが手入れをしていたのだろう。小さな花が咲くプランターは手入れがされている
ようだった。
 家のドアの前に立った私は暫くドアの前で逡巡していた。これ以上入るのは明確な一線があった。それは不法
侵入になるという無機質な法律論だけでなく、直感といった本能的な物であった。これ以上踏みこんでしまうと
何かが起こってしまうという第六感が、私の靴の裏側と庭に貼られたタイルをがっちり繋いでいた。頭の中を色々
な考えがグルグルと過ぎる。あと一歩、あとほんの僅かなその一歩が私には踏み出せなかった。突然私の後ろで
ガシャリと何かが壊れるような音がした。反射的に振り向くと、先程見た植木鉢が風も無いのに倒れて割れてい
た。予期せぬ音に心臓が縮まりながらも、私は首を前に戻す。閉まっていた筈のドアが少し開いていた。


696 : ○○ :2018/12/28(金) 00:08:30 SGR2AJ4c
「誰かいますか!」
ドアを勢いよく開けて家の中に入る。恐らく誰か、病人でも玄関に居るのだろう。そうだきっと友人とその家族
が流行のインフルエンザにでも掛かっているのだろう。そのせいできっと連絡を取ることができなかったのだろ
う。私はそう確信して身を玄関の中に踊らせた。窓ガラスを通した昼の光によって照らされる玄関。そこには誰
も居なかった。
「え…。」
声が漏れる。余りにも予期せぬ状況に、頭が真っ白になって理解ができなくなっていた。どうしてドアが開いた
のだろうか?誰も居ないのに?
「キャハ♪」
不意に二階から声が聞こえてきた。子供のような、楽しそうな高い声。二階に誰か居るのかと思い、声を掛ける。
「すいません、誰かいますか!」
静まり返る家。一筋の恐怖が私を貫き、首筋から汗が噴き出した。後ろを向き、ドアノブを回す。ガチャリと重
い音がして、私はドア思い切り押すがドアはビクともしない。息を吐き力を込めてドアを押すが、それでもドア
は動かなかった。
「こっちだよ。」
再び二階から聞こえる声。恐怖を感じた私は思わず叫んでいた。
「いい加減にしろ!」
恐怖を紛らわせるために靴を乱暴に脱ぎ捨て、大股で階段を上る。しかし手すりをしっかりと掴んでいたのは、
少々いや、かなり恐怖を感じていたためだろう。一歩間違えれば落ちてしまうような恐怖。私はそれと戦って
いた。


697 : ○○ :2018/12/28(金) 00:12:10 SGR2AJ4c
>>692
単純な誘拐事件ではなく、何やら稗田家や果ては守矢が関わってくるので、これは中々
深い事件になりそうな

>>694
「私がプレゼント」というのは漫画では鉄板ですが、ヤンデレが加わると
こうも味が変わるのかと


698 : ○○ :2018/12/28(金) 00:16:06 SGR2AJ4c
訂正
>>687-688の作品の題名はアルカナゲーム5になります。


699 : ○○ :2019/01/01(火) 01:36:40 6YX3qeWs
>>695-696の続きになります

階段を息を切らせながら登った私だが、予想通りと言うべきかやはり二階の廊下には誰も居なかった。辺りはしんと
しており自分が動いたせいだろうか、昼の光に照らされて埃が舞っているのが見えるだけだった。
「くそっ、一体どうなっているんだ…。」
思わず一人悪態を付いてしまう。どう考えても誰かこの家に人がいる筈なのに、私はその人間を見つけることが出来て
いなかった。いくら何でも有り得ないこの現象を見て予感が働く。即ち、-この家には誰も居ないのではないのか?-
という悪い予想が。
「ふっ、馬鹿馬鹿しい。そんな物ある訳ないじゃないか。」
放っておくと膨らんでしまいそうになる予想をわざと声を出して断ち切ろうとするが、相変わらず心の中にその予感は
漂い、そしてザワザワと音を立てていた。-誰かから見られている-視線を強く感じる。向かいの部屋から。
「そ、そこか!」
体を蝕もうとする恐怖と戦いながら、私は扉を開けた。

 部屋の中にはやはり誰も居なかった。そこは恐らくは友人の部屋だったのだろう、物が少なく整頓されている様子で
あったが、数少ない小物や用具は自分と同じぐらいの年齢をした人物が、この部屋を使っていたと告げていた。部屋を
一通り見回すが、やはりと言うべきか誰かが窓を開けた形跡は見られなかった。ひょっとして近所の悪ガキかあるいは
泥棒がこの部屋に居て声を出していたのならば、そう私は殆ど願うように自分にとって都合の良い予想をしていたのだ
が、生憎そうは行かないようであった。
「仕方ない、か。」
気が進まないながらも、机の上にあった日記に目を遣る。それは部屋に入ったときから私の視界に飛び込んでいたのだ
が、何だか気が進まなくて私は後回しにしていた。人の日記を見るのが悪趣味であるということに加え、今、この部屋
にただ一人でいるという事実。それが良くできたホラーゲームのように私を不気味にさせていた。日記を手に取ろうと
机に近づくと、突然日記が開いた。パラパラと風も無いのにページが捲られていく。そして、あるページを開いて日記
帳の動きが止まった。
「ど、どういうことだ?」
心臓が捕まれたように鳴り響き、足が震える。この世の中に絶対に無いと信じていた、異常現象を見て私の思考回路は
混乱していた。今まで一笑に付してきた様々な心霊話や、都市伝説といったものが脳裏に浮かんでくる。全てが酔っ払
いや精神的に異常な人物の妄想だと思っていたのだが、今この目で見たモノは正に人知を超えている。おかしい、なら
ば私は今、正常でないのか?いや、そんなことはない筈だ。私は正常なのだ、そしてどうにかして友人の手掛かりを探
さないといけない。そのためにこんな場所まできたのだから。

 おそるおそる日記帳を覗き込み、ページを読んでいく。良かった、ただの日記であった。友人が単純にその日あった
ことを綴っているだけであった。これならば大丈夫だろう。そう判断した私はページを捲っていった。日記の内容はそ
の日あったことや、考えたことを書き記していたのだが、その内に夢の内容が日記に書かれるようになっていた。そし
て徐々にその分量と占める割合は増えていき、一ヶ月経つ頃にはほぼ全てのページが夢日記となっていた。そこに書か
れていたのはある怪物のこと。黒く、姿の見えない恐ろしい怪物が友人を襲って来るようだった。可哀想に、彼は眠る
度にその怪物に襲われていたようだった。悲痛な思いでページを捲る私であったが、突然彼の日記の中に私の名前が出
てきた。
 「親友たる○○へ」
その言葉を見た瞬間に、私の背筋に電流が走ったかのような衝撃を受けた。どういうことなのだろうか?彼は一体どう
して私がこの日記を見ることを予測していたのか?まるでこれでは彼は私がこの家に来ることを知っていたみたいでは
ないか、丁度失踪でもするかのように…。私の目は日記に釘付けになり文章を追っていく。


700 : ○○ :2019/01/01(火) 01:37:25 6YX3qeWs
-----------------------------------------------------

 親友たる○○へ

 僕のこの日記を見ているということは、きっと僕は今、失踪しているのだろう。あるいは病院に入院してしまってい
て、面会謝絶なのかもしれない。どちらにせよ僕にとって良い状況ではないのだろうか(願わくば後者であれ!!)そ
れでも君に伝えたいことがあって此処に記した。もし、他の人が見ているのならば、このまま本を閉じてしまって欲し
い。できれば○○に伝えて欲しいのだが、そこまでは少々高望みというものなのかもしれない。


 よし、ここで本当に○○、君がこのページを読んでいると信じて僕が体験したことを記そう。○○、君はかつて幽霊
などいないと豪語していたね。どうやらその勝負は君の負けのようだ。いや、何も僕がそんな何年もの前のことを根に
持っている訳ではないんだよ。君は僕の親友なのだから。だけれども、ああ、だからこそというべきなのか、こんなこ
とを伝えることができるのは、君だけなんだよ。まさか、本当に深淵に潜むモノに出会うなんてね。いや、そいつはこ
ちらを見ていると言うべきなのかもしれない。そいつらは僕達とは違う世界に存在していて、そして確実に僕たちの世
界と何処かで繋がっているんだ。僕達がオカルトの世界に分け入って深淵をのぞき込んだ時に、そいつらも僕達を見て
いるんだよ。ああ、本当なんだよ。きっと君のことだから、信じられないだろうけれども、僕は夢でそいつに遭ってか
ら、本当に深遠に潜むモノがいることを痛感しているんだ。あいつらは普段はジッと潜んでいるが、いざとなれば僕達
の世界に入ってきて、そして僕達に触れることができる。信じられるかい?本当にあいつらは人外の力を持っているん
だよ。全くそいつらに僕らは、いやことによると霊能力者、あるいは人類すらも太刀打ちできないんじゃないかと思わ
されているよ。一体どうすればいいのか、君にこんなことを書いていながらも僕はどうしようかと、本当に困ってしま
っている次第なんだ。

-----------------------------------------------------

 ああ、僕はなんて幸運なのだろう。***に会えるなんて、そして彼女が僕を連れていってくれるなんて。ああ、僕は
今までなんて小さな世界で生きていたのだろうか!この世界とは違う世界で、そして人類とは異なる彼女の元で私はこ
れからの人生を過ごすことができるなんて、ああ、本当に素晴らしい!偉大な、全ての大本である根源より出でし彼女
と一体になり、僕はこれから生きていけるなんて、ああ、僕は本当に素晴らしい!○○、君も早くこの世界に来るべき
だったんだ!***の*に狙われていた親友の君が少しでも早く(いや、実の所は対処する術などは僕には思いつくこ
とができなかったのだから、無駄なあがきというべきだったのかもしれないが)知ることができればと思って書いた日
記すらも、無駄な心配だったと今ならば断言できる。僕はついに彼女と一体になったんだ!彼女に包まれて、ドロドロ
の心になって無意識の世界で生きている、その世界はどんなに素晴らしいか!

 ああ、早くおいで、○○

-----------------------------------------------------


701 : ○○ :2019/01/01(火) 01:38:42 6YX3qeWs
 がたり、と私の後ろの襖が音を立てた。少し前まではそこには誰も居なかったのに、そう、五感は何も感じなかった
にも関わらず、僕の第六感は今、そこに何かが居ると、人間以外の何かがそこに居ることを感じ取っていた。少女達の
声が聞こえてくる。可愛らしくて、無邪気で、そして恐ろしい声が。
「ねえねえ、お姉ちゃん、今度も誰か***に連れて行くの?」
「ええ、そうよ***。今回はその人の知り合いよ。そして…、」


「今度は私の番ですよ、○○さん…。」


702 : ○○ :2019/01/01(火) 01:47:13 6YX3qeWs
皆様あけましておめでとうございます。昨年は読者の皆様より感想を頂きまして大変嬉しかったです。
時々読み返してニマニマさせて頂きました。作者の皆様もこのスレットを共に盛り上げて頂きありが
とうございました。思わぬネタを頂いて作品が生まれることが多々ありました。そして管理人様、
まとめ管理人様には大変お世話になりました。特にまとめ管理人さまには沢山の作品を管理して頂
き、更に使いやすいように工夫して頂き感謝の念に絶えません。どうか今年もよろしくお願いいたします。


703 : ○○ :2019/01/01(火) 14:07:46 NSQdnUCs
みんなも初詣あうんしてこようね

新年、明けましておめでとうございます!◯◯さんっ!
今年もまたよろしくお願いしますねっ!
いやぁ思えば私と◯◯さんの出逢いも遡ればちょうど一年になるんですよねぇ
確か初詣に来ていた◯◯さんが滑って転びそうになったのを私が助けたのが始まりなんですよね。あのときは急に腰を捕まれてビックリしちゃいましたけど、馴れ初めなんて古今東西見渡してもこういう偶然からはじまるものなんですよ、きっと。まぁ怪我がなくて良かったです!


出会って一年、夏は一緒に花火をみたり、秋は紅葉を楽しんだりと色々ありました。私がご実家にお邪魔しちゃうなんてこともありましたが、ご両親にお茶菓子まで出していただいて…いやぁ…本当に良いお嫁さんにならなきゃなぁって、決意を新たにした次第です!

振り返ってみれば人の生というものはあっという間に過ぎてしまうんですよね。年越しのそばに願をかけて長生きしようという想いもさもありなん、といったところでしょうかね。
私にとっては残りの時間などないに等しいですが、◯◯さんは人間です。
何れは土の下に納まるときがきてしまうんです。私はとても辛いですが、◯◯さんを人の輪からはずしたくはありません。
ですから、これからもいっぱい思い出を作って、春夏秋冬、あらゆる時間において◯◯さんのことを風と感じれるように、たくさん思い出を作ってゆきましょうね!◯◯さん!










え?「あんた、誰だっけ?」って?
…いやだなぁ




狛犬の高麗野ですよ。


704 : ○○ :2019/01/02(水) 15:20:03 Of4zHoqs
デパートカワシロ

盟友○○お値段以上福袋
松10000円
竹5000円
梅3000円

にとり「転売目的の方は他のお客様にバレないようにお願いします!当店では購入後の責任はとれません!!そこ割り込まないでください!一列に並んでください!!走らないで!!お一人様ひとつまででお願いします!ひとつまでです!!」


705 : ○○ :2019/01/02(水) 16:56:43 cjqHS/Gc
>>705
何が入っているんですかねぇ…
霊夢「むっ、今回は梅で勘弁しておいてあげるわ。(えっ、そんなの売ってるって知ってたら、もっとお金持ってきてたのに!)」
魔理沙「た、竹一つ…(ひょっとして◯◯の手作りとかか?!)」
レミリア「梅、竹、松を全て一つずつ頼むわ、咲夜。(◯◯と名前が付くのなら、とりあえず全部買っとかないと!)」
輝夜・永琳「松買い占めます!」


706 : ○○ :2019/01/03(木) 10:33:33 s13Sz/D.
>>705
バイオテクノロジーで複製された○○の一部


707 : ○○ :2019/01/06(日) 01:53:40 paW5y5SE
>>221からの「誰がそれをやったのかシリーズ」で従来のまとめ方に限界を感じたのでタグ機能を追加するか検討しています

タグ機能を追加するかしないか投票する項目ができたので
お手数をおかけしますが参加できる方はよろしくお願いします
ttps://www26.atwiki.jp/toho_yandere/?page=%E6%8A%95%E7%A5%A8%E6%89%80%28%E4%BB%AE%29

ちなみに誰がそれをやったのかシリーズはかなり凝ったまとめ方をしてます
「白文字のリンク」と「ジャンプ機能」はあのシリーズしか使用してません


708 : ○○ :2019/01/06(日) 11:03:17 eXIRfNFo
ほほう、ここにきて新しい試み
戦いの中で成長している…!


709 : ○○ :2019/01/06(日) 23:20:11 kS/IsddE
Hypnotherapist K K 5

こんばんは。寒さが一番厳しい季節になったけれども、どうかしら?以前にお姉ちゃんの所に来てくれたときには
秋の風が吹いていたけれども、今はすっかり雪に変わって幻想郷中に積もっているね。そんな雪があなたの心に柔ら
かく降るように、今日のお話をするね。

 ある人のお庭には冬になると、雪が降ってきていたんだ。その庭に降る雪は普通の白い雪と、時々黒い雪が降って
庭に積もっていたんだって。その家に住んでいる人は白い雪は綺麗で好きだけれど、黒い雪はキタナクテ汚れている
から、黒い雪のことは嫌いだったんだって。そして雪が降る季節になると、庭で空を見上げて-ああ、今日は白い雪
が多いなあ-とか、-おや、黒い雪が降ってきたぞ-って言っていたんだよ。だけれどもね、そのうちに黒い雪が我
慢出来なくなって、庭に積もった黒い雪をドンドンとスコップで掬って捨てていったんだ。
 するとね、黒い雪がみるみるうちに減っていって、その人は喜んだんだけれども、そうしたら今度は少しだけ残っ
た黒い雪が目に付いたんだ。その雪も捨てて満足したら、今度は黒い雪が白い雪に混ざって、灰色になっている雪が
気になってしまったんだって。だから今度も頑張って灰色の雪も捨ててしまったら、随分白い雪も減ってしまったん
だけれども、-まあ、黒い雪が無くなったから、いいや-って、その人は満足したんだって。


710 : ○○ :2019/01/06(日) 23:20:48 kS/IsddE
 そうするとね、その白い雪がどんどん薄らと灰色になっていくんだ。ほとんど白色と変わらないんだけれどもね。
少しずつ空から降ってくる黒い雪が混ざってしまったんだね。それでもその人は頑張って薄い灰色の雪を捨てていっ
たんだけれども、そのうち気が付いてしまったんだ。-ああ、これではいつまで経っても、白くならない-ってね。
そしたらその人は、黒い雪が降ってこないように、混ざって灰色にならないように、庭に覆いを被せてしまったんだ
って。そしたら当然、雪は皆降ってこないよね。庭に積もっていた雪も全部消えてしまったんだよ。その人が見るの
が好きだった。とっても好きだった雪が全部消えてしまったんだ。

 雪が消えてしまってその人はがっかりしてね。もうどうにもならなくて、今までやってきたことが全部出来なくな
ってしまってね、そのまま庭に座り込んでしまったんだ。そうしているとね、覆いが倒れて雪が降ってきたんだ。そ
の人が大好きな白い雪が。あんなに頑張っても手に入らなかった白い雪が、全部諦めると手に入ったんだ。それも雪
を捨てていた頃よりもずっとずっと沢山。そしてその人は最早、雪を捨てることはしなくなったんだって。めでたし
めでたし。

 どうだったかな?私のお話。今日は灼熱地獄にも雪が降るみたいだし、お姉さんの心にも響くといいな…。


711 : ○○ :2019/01/06(日) 23:24:01 kS/IsddE
>>707
まとめて頂きましていつもありがとうございます。
更にわかりやすい、使いやすいWIKIにして頂く数々のアイデアには脱帽です。


712 : ○○ :2019/01/08(火) 17:56:40 Pb74gLRg
>>699
そう言えば、私の地元に。見えているんだけれども行き方が分からない建物があったのを。
このお話を見ていたら、何故か思い出した
私が子供のときですら、歪んでいて崩れかけだったけれども
Googleマップで確認したら、まだあって驚いた

>>709
優しい虐待という言葉を思い出した……
水がキレイすぎて、魚がすめなくなる。そんな感じにも取れる
優しさの上にさらに優しさを与えて
ついに無菌室でないと生きられなくなるのだろうか

次より、八意永琳(狂言)誘拐事件の続きを投稿いたします


713 : 八意永琳(狂言)誘拐事件3 :2019/01/08(火) 17:57:35 Pb74gLRg
○○は愛犬のトビーを連れながら、鈴仙と相対した。
「どうも、鈴仙さん」
そうは、○○は言うけれども。
「……はい」
鈴仙はと言うと。いくらかは、遠ざかりと言うか、おずおずとした回答であった。

そのまま、とは言っても。一分未満の時間なのであるが。鈴仙にとっては、この事件の裏側を全部知っている鈴仙にとっては。この一分未満が酷く長かった。
そうしているうちに、誰かの、強い足音が聞こえてきた。
「○○さん!」
まぁ、彼。書生君だなとは。哀れにも何も知らされていない、彼だろうなとはすぐに鈴仙も○○も思い当たった。

「良かった!来てくれて!!八意先生が大変なんです!!」
「存じていますよ」
○○はそう言いながら、鈴仙の方を。書生君がいるから繕った表情であるけれども。
裏側を知っている存在からすれば、鈴仙への目配せその物が、や非難判なのである。

「あの、○○さんといつもご一緒に行動されている。寺子屋の、副担任さんは?上白沢慧音さんの、旦那さん。そう、先生さんは?」
「すぐに来ますよ」
実際その通りなのであるけれども。連れ合いが、○○と先生以外にもいることは。鈴仙からすれば非常に胃が痛くなる事象であった。

「東風谷早苗?」
「そこで会ったんですよ。何か、感じ取られたようで」
鈴仙は警戒感を滲ませるが、○○はどこ吹く風。極端なことを言えば、ざまぁみろぐらいにしか思っていなかった。
仮に、早苗が色々とわかっていても。稗田に喧嘩を売るほど、浅薄ではない。


「先生、書生君から色々と聞いておくれよ。俺は鈴仙さんと話をしてくる。一旦別れた方が、効率的のはずだ」
それじゃ、またあとでともいうふうな態度で。○○は先生や書生君から離れて行った。鈴仙は、早苗の事を若干は気にするが、まさか○○を放っておくわけにも行かず。
「後で、てゐをそちらに向かわせますので!」
そう言い残した。特に、早苗の方に向かって。
「大丈夫ですよ、私は協力しに来たんです。私も、稗田阿求のまとめた事件簿の、探偵役さんたちの……ファンですから」
探偵役と言う部分に、若干の非難と皮肉を○○は感じ取ったが。
「分かってるよ、それぐらい。その分、俺は阿求のワガママも聞こうと。覚悟を決めているんだ」
誰に聞かせるでもなく、自分自身に言い聞かせるように。○○は呟きながら歩を進めた。


714 : 八意永琳(狂言)誘拐事件3 :2019/01/08(火) 17:58:54 Pb74gLRg
「おや……」
○○は鈴仙から、こっちですと言われて入った部屋にて、興味深いと言うような声を出した。
「阿求の資料で何度もお名前は拝見しておりますが……お会いするのは」
「そうね、初めてよね。だから自己紹介させてもらうわ。蓬莱山輝夜よ。上の名前は長いから、輝夜と呼んでもらって構わないわ。貴方達の活躍した記録文書は、私もよく読んでいるわ」
「光栄です」
○○はそつなく、永遠亭の首魁である輝夜と挨拶を交わすが。鈴仙は、この場において空気になろうと徹しているてゐだけがこの部屋にいると思っていたので。
しばらくの間、息をうまく吸うことが出来なくなってしまった。


「輝夜さんは、この事件について……」
けれども○○は、狂言誘拐の後始末なのだからそうなるのは自明の理なのだけれども。
どうにも、一足飛びで。早々に事件を終わらせたがっていた。
焦りとは違うけれども、周りに対する配慮は少なかった。 
最低限、狂言だろうとの非難はしなかったが。

「知っているわ、狂言だってことぐらい。そもそも、最初に絵を描き始めたのは、私だから」
輝夜は実に簡単に、そして軽く。自分が絵図を描いた、元凶だと告白してしまった。
「あっ、そうなんですか」
○○の態度が一段階、冷たいものに落ちたのは。言うまでもなかった。
鈴仙は口元に手を当てて、てゐは天井を見上げながら更に空気になろうと徹したり。



「てゐ、鈴仙。私と○○さんを二人きりにして」
幸いと言って良いのかは謎であるけれども。
輝夜はてゐと鈴仙に、優しく気を使ってくれた。
抜け目のない性格のてゐが、真っ先に部屋を出ていって。
「あ、待って。先生さんと書生のあの人が話をしているから……それに東風谷早苗もいるのよ…………」
「嘘だろ……」
無論、抜け目ないからこそ警戒心も高いてゐは。こめかみを抑えて唸るが。
「東風谷早苗は、シャーロキアンと言う人種らしいわね」
永遠亭ほどの場所で首魁を務め続けられる輝夜は、やはり頭の冴えが違っていたし、知識量も同じくであった。

「全てを阿求に任せています。阿求からの究極のワガママが来るまでの暇潰しです」
そして○○は……妙に澄んだ目をしていた。
「殊勝ね」
輝夜の目には哀れみがあった。
「この絵図を描いた者からの哀れみは必要ない……」
この時初めて、○○は輝夜に苛立ちを見せた。
「そうね、実際の事件ならば、貴方はもう少し楽しかったかもしれないけれども。他人の尻拭いにしたって、これはねぇ……」
そう言って、輝夜は○○に対して深々と頭を下げた。
はっきりと口には出していないが。文脈を、そしてこの事件が狂言であることを知る者達からすれば、間違いなく謝罪の意思であった。


「姫様!?」
突然の謝罪に、鈴仙は面食らうけれども。
「行くぞ、この二人に落としどころを見つけさせた方が良い」
てゐはこの場を立ち去る方が、結果的に全てにとっての利益だと理解して。
鈴仙の服を引っ張った。


715 : 八意永琳(狂言)誘拐事件3 :2019/01/08(火) 18:00:19 Pb74gLRg
○○の目線では、この話に多少の動きが見えていたが。
「実際に誘拐現場を見てもらった方が早いですよ!!」
先生さんは、この書生君の。実に哀れなことに、主要人物の中でただ一人。何も知らないこの書生君の動きを止めることに苦心してしいた。

「待て、待て待て待てと言っている!!賊の狙いが永遠亭だとは考えなかったのか!?お前もそれなりに優先順位の高い標的だと思うぞ!?」
「だとしても!私よりも高い八意先生が捕まったんだ!何もしないわけには行かない!」
ここで、賊なんていないんだよと。狂言誘拐なのだよと叫ぶことが出来たら。果たしてどれだけ楽であったことか。
しかしながらこの先生も、稗田との付き合いがあるゆえに。稗田の大きさが分かるゆえに。
稗田阿求の手のひらの上にいることを自覚しつつも、踊ることを余儀なくされていた。



「全滅しそうな奴を、放っておくはずがないだろう!?座れぇ!!」
「そうですよ、狙われている人間が不用意になるのは探偵小説でよくあるけれども……実際には見たくありません」
それだけではない。稗田阿求の手のひらと言う、舞台の存在にすら批判的な者が先生の隣には何故かいた。
東風谷早苗だ。

「あの、あなたは?」
書生君が多少いぶかしむけれども。
「稗田阿求の、事件記録の……もっと言えば○○さんと先生さん。二人の探偵のファン……支持者ですよ」
探偵、そしてファンと言う言葉を幻想郷土着の存在である先生に分かりやすく支持者と、早苗が言ったとき。
確かに皮肉気な視線を、先生は早苗から感じたが。先生は目線を書生君の方向にまっすぐとやったままで、逃げることにした。
「とにかく書生さん、貴方は永遠亭でおとなしくするべきです。狙われているのに、外に出すなんて。囮作戦をやるにしても、それは今ではありません。光る犬に襲われては……目も当てられません」
光る犬……おそらく、舞台を用意している稗田阿求や。舞台の存在を知りつつ楽しく踊っている○○ならば分かるのだろうけれども。
先生からすれば、それは外の知識だ。外の知識でまくし立てないで欲しかった。


手のひらで踊ることを余儀なく……それだけならまだいいのだけれども。
「八意先生が誘拐されたと気付いたのは何時ごろだ?そして、八意先生は何時ごろに薬を持って永遠亭から外に出た?」
先生は手練れの捜査官のように、慣れた手つきで帳面を取り出して証言を書き留める形を作ったが。それは素振りでしかなかった。
へのへのもへじを描くほどにふざけてはいないが。帳面の隅にぐちゃぐちゃとした線がいくつも描かれているのは、先生の苛立ちを知るにはもっとも簡単な証拠であろう。


ここまで苛立つのは、この事件が狂言であることもそうなのだけれども。
先生はこの書生君の事が、嫌いとまではいかないけれども、苦手であった。
阿呆ではない、薬学に関してはきっと、八意永琳が連れ歩くのだから、目を見張る才能はあるのだろう。

けれどもそれだけとも言えた。こいつは、人を疑う事を知らない。

『例えば、川で溺れている者がいれば。いますぐこの橋から飛び降りて助けに行くのだろうな。服すら来たままで』

以前に先生は、皮肉でそう言ったことがある。
そのときのこの書生君の答えは、馬鹿みたいに直情的でお人好しと言う他はなかった。
一緒に散歩をしていた○○が少し困りながら、服を着たまま水に入ったら、衣服が水を含んでお前も溺れるとだけ口添えをくれたお陰で。
書生君は、それは気付かなかったと。やっぱり馬鹿みたいに人の良い顔でお礼を言っていた事があったのを先生は思い出した。

『あそこまで人が良いから、幻想郷に迷い混んだのかな』
書生君と別れたあとに、○○はそんなことを言っていたが。
先生からすれば、同じ外からの迷い人でも。
若干悟りながら、稗田阿求の手のひらの上で、気持ちよく踊っている○○の方が。
よほど知的な存在だと考えていた。

続く


716 : ○○ :2019/01/10(木) 23:16:40 zR9MNlc.
最近になって東方のヤンデレスレってものを知ったけどすごくいい...
ss書けるようになりたい


717 : ○○ :2019/01/11(金) 05:54:47 lGeVPRMo
小鈴「あら、いらっしゃい。ドブ川よりも心の汚い元親友さん」
阿求「こんにちは。酷いわね、私は今でも親友だと思ってるわよ?」
小鈴「……何しに来たのよ」
阿求「今度祝言を挙げることになったから、親友に伝えておこうと思ってね」
小鈴「……まだ、間に合うわ。○○さんを解放しなさい」
阿求「ま、人聞きの悪い。それに……もう手遅れだし、私は○○さんを手放す気はないわ」
小鈴「……最低よ、あんた」
阿求「…………」
小鈴「失恋した『フリ』をして、同情を引いて絡めとるなんて……阿求には誇りというものがないの?」
阿求「○○さんの隣にいられるのなら、そんなもの犬にでも食わせておけばいいわ」
小鈴「っ……!」
阿求「……けど、そうね。本当なら、こんなことはしたくなかったわ」
小鈴「なら――」
阿求「でも、こうするしかなかったのよ」
小鈴「どうして?」
阿求「……○○さんは私と仲良くしてくれた。けれど、どれだけ経っても私を女として見てはくれなかった」
小鈴「そ、そんなの、阿求の接し方が――」
阿求「悪かった?ふふ、小鈴、あなた私が何もしてこなかったと本気で思っているの?」
小鈴「…………」
阿求「○○さんと楽しくお話できるよう、紫様にお願いして外の世界のことを必死に勉強したわ。お料理も練習した。お洒落にも気をつけた。意識してもらおうと手や肩に触れたりもした」
阿求「でも、私がいくら頑張っても、○○さんは私を『子供』として見ていた。慧音先生や茶屋娘と接する時のような、『女性』としての扱いなんてしてくれなかった!」
小鈴「阿求……」
阿求「私が勇気を振り絞って抱きついても困った顔しかしない人が、他の女と指が触れただけで顔を真っ赤にするのよ?」
阿求「無造作に私の頭を撫でる手が、他の女を壊れ物を扱うように触れるのよ?」
小鈴「っ……」
阿求「知識なら負けない。財産は十二分にある。容姿だって、多分負けてはいない。でも……年齢なんてどうしようもないじゃない!」
阿求「どうして私は子供なの!?どうして○○さんはもっと遅くに生まれてくれなかったの!?どうして私はもっと早く生まれてこれなかったのよ!!」
小鈴「でも、それは……」
阿求「……そうね。こんなの誰にも文句なんて言えないただの運命。でも、私の心が納得してくれないの。きっと○○さんが他の女と結ばれでもしたら私は壊れてしまう」
小鈴「…………」
阿求「言い過ぎだと思ってる?多分本当にそうなるわ。現に今、想像しただけで気が違えそうだもの」
阿求「愛に狂うというのはこういうことなんでしょうね。私は○○さんへの愛に狂って、だから人の道を踏み外した」
小鈴「…………」
阿求「理解してくれなんて言えないわよね。だから、貴女に会うのはこれで最後」
阿求「……そろそろ行くわ……ごめんなさい。貴女は私みたいにならないでね」
小鈴「あ、あきゅ……」
小鈴「行っちゃ……た」
小鈴「なんで……どうしてこうなっちゃったの?」
小鈴「なんでよ、阿求……」


718 : ○○ :2019/01/11(金) 09:36:23 OWgrVo0.
>>717
仲のいい失恋直後の女の子がいたら慰めるだろうしそんな子に泣いて懇願されたら断りきれないだろう私はこれを読んで戦慄した
しかしなんというかやり方はえげつないけど年齢という一点だけで土俵に立てなかった阿求にはちょっと同情しちゃうな


719 : ○○ :2019/01/12(土) 00:54:34 t.ZUSJmc
 引力に引かれて

 「今日は如何ですか?」
 まだ日が高い昼の時間であったが、おそるおそるといった風に魔理沙が私に切り出してきた。既に夫婦となって久しいのだが、
矢張り気恥ずかしさといったものがあるのであろうか、こういう時の彼女にはどこかしらの躊躇いがみえた。
「最近お仕事を頑張られてお疲れでしょうし、それに明日は休みでございますし…。」
「そ、それに…久し振りでございます…し。」
とってつけたような言い訳を話している内に顔が赤くなり、最後の方は小声になる魔理沙。そんな彼女の頭を撫でてやり、一言
頼むと告げればたちまち顔に明りが差してくる。
「はい、あなた。喜んで。」
そう言って下がる魔理沙。夜に向けて色々と準備をするために、使用人に言付けをする彼女を私は見送った。

 夕餉が済んで部屋の障子に明るい月の影がが映る時分になると、妻が手ずからに盆を一つ運んで来た。綺麗に漆が塗られた朱
塗りに金色の細工が施されたものに、白い徳利と猪口が一つづつ載っている。猪口を持つ私に透き通った水を注ぐ魔理沙。別に
彼女が下戸という訳ではない。むしろ酒には強い方であり、どちらかというならば蟒蛇と言われる方であろう。しかしその酒を
飲むのは私だけである。妻が私のためだけに作った酒であるが故に。
 注がれた酒が口を通り過ぎ、胃へつうっと落ちていく。口に味すらも残さずに消えていく様は、成程これぞ気狂いの水と言わ
れんがばかりであろうか。痺れた頭に黒色の感情が湧き上がってくる。ああ、今晩は「これ」のようだ。
「口惜しい。」
「なんでございましょうか。」
側にいる妻を引き寄せる。流されるようにこちらに寄りかかる彼女。部屋が暖かくされているためであろうか、薄い着物に彩ら
れた魔理沙の起伏が目に付いた。媚びるような、不安げな色を瞳に湛えた彼女へ囁いた。


720 : ○○ :2019/01/12(土) 00:55:14 t.ZUSJmc
「お前が他の男に抱かれることができるのが、口惜しい。」
ぷつり、と頭の筋が切れた音がして、私は魔理沙を畳に押し倒していた。癖のある髪が下地に散らばり、はだけた服から見える
白い首筋が、現代に比べればやや薄暗い部屋の中に浮かび上がっていた。
「私はこうやってお前としかできないのに、お前にはそれがない。」
「それが堪らない。嫌だ、嫌だ。他の男に取られるなんて気が狂いそうだ。」
駄々っ子の様にわめきながら自分の体重を魔理沙に押しつける。私の頭の後ろに魔理沙の手が廻り、顔が彼女の胸元に押しつけ
られた。ぎゅうぎゅうと音が出そうな程に私を抱きしめる魔理沙。きっと今、溶けたような顔を妻はしているのだろう。
「うふふ、うひひ。」
感情が高ぶった時の癖、そのままに衝動を堪える魔理沙。やがてねじれきった愛情が、限界まで達して溢れ出した。
「うふふ、そう思ってらっしゃったんですね、あなた。」
「そうですわね。私としかできないようにしたんですものね。いくら私があなた様だけしか愛していなくても、男の人なら不安
になりますものね。」
「大丈夫ですよ…。ほうら、今、操を守らなければ直ぐに死ぬ呪いを掛けましたから。これで私は一生、あなただけの物だとお
分かりでしょう?」
「ですから、たっぷり可愛がって下さいね。私を抱けるのはあなただけなのですから。」


721 : ○○ :2019/01/12(土) 01:01:59 t.ZUSJmc
>>712
永琳のために姫様が一肌脱いだということでしょうか。
ほとんど先の見えない暗闇を進んで行く様な雰囲気を感じました。

>>717
小鈴の元から去らなければならないとは相当ですね…
一体何をやってしまったのか。


722 : ○○ :2019/01/15(火) 03:41:20 BD2/gz8.
○○「なあ宇佐見、ちょっといいか?」
菫子「え、誰?」
○○「ああすまん。俺は○○っていうんだ……つっても一応クラスメイトなんだが」
菫子「あ、ご、ごめん。興味なくて……えーと、それで?」
○○「実は頼み事があってさ……女の子と仲良くする方法を教えてくれないか?」
菫子「うん…………うん?え、なんでそんなことを私に聞くわけ?」
○○「いやー、俺女友達なんていないし、かといって初対面の女子にそんなこと聞くの迷惑じゃん?」
菫子「あ、喧嘩売ってる?」
○○「んーん。宇佐見はぼっちだから話聞いてくれそうとか思ってないよ」
菫子「火葬でいい?」
○○「ごめんて!でもほんとお願いします!男だけの寂しい高校生活は嫌なんです!!」
菫子「……はあ。まあ許してはあげるけど、私も友達いないからモテる方法なんて教えたくても教えられないし、そもそも私にメリットないじゃない」
○○「宇佐見のやってる……なんだっけ?あのよく分からん活動の雑用くらいなら喜んでさせてもらうんだけど……どうにかならない?」
菫子「む……下っ端か。たしかにちょっとほしいかも……」
○○「だめか?」
菫子「んー……うん、じゃあ私基準でよければプロデュースしてあげてもいいわよ。ま、それが世の女子に通じるか保証できないけど」
○○「まじか!女子視点からのアドバイスが貰えるならもうなんでもいいぜ」
菫子「あんたちょいちょい喧嘩売ってくるわね。買うわよ?」
○○「すみません」
菫子「ま、いいわ。じゃ、よろしくね。下っ端君」
○○「おう。よろしく頼む」

――学校――
菫子「うーん……そうね、じゃあ始めに美容院でも行ってきたら?あんた顔は悪くないのに髪型が酷い」
○○「ばーちゃんに切ってもらってたのが悪かったか……おけい今日にでも行ってくる」

――放課後――
菫子「あ、なんだ。ファッションセンスは悪くないのね。じゃあ女子の流行りとかも学びなさい」
○○「うす。いやあ調べれば出てくるネット社会便利だなー」

――休日――
菫子「今日は私に付き合いなさい。荷物持ちとご飯奢ってくれればそれでいいわ」
○○「う、宇佐見が普通の女子みたいにショッピングに行く……だと……?」
菫子「はっ倒すわよ○○」

菫子(うんうん。○○は垢抜けてきて、私も雑用係が増えて色々と楽。始めはどうなるかと思ったけど、ウィンウィンの関係ね)
菫子(幻想郷はもちろん楽しいけど、現実もそう悪くないかな。なんて、昔の私からは考えられない成長ねー)
菫子(ふふ、明日は○○となにしよっかなー)

○○「彼女が出来た」
菫子「え……え?」
○○「けっこう自信ついてきたからちょっと頑張ってみたらさ、選択授業の女子と気が合ってよ」
菫子「…………」
○○「ほんと今までサンキューな。あ、もちろん雑用は続けさせてもらうぜ?さすがに休みの日とかは無理になりそうだけど」
菫子「……そう」
○○「あ、宇佐見もいい奴なんだし、頑張って彼氏作ってもいいんじゃないか?」
菫子「……うん」
○○「じゃあ△△……って、彼女の名前なんだけど、あいつ待たせてるから今日は帰るわ」
菫子「……そう」
○○「じゃあな!」
菫子「…………またね」

菫子(……うん。始めからそういう契約だったんだし、そりゃいつかこうなるわよね)
菫子(ぼっちだった私がプロデュースした○○に彼女ができたんだし、喜ばしいことよ)
菫子(○○はこれからも私の活動を手伝ってくれるらしいし、いいこと尽くめだわ)
菫子(…………違う)
菫子(なにもいいことなんてない)
菫子(彼女ができたんだもの。○○はそのうち彼女の方を優先していく)
菫子(だいたい、私は女なんだから○○の彼女が私といることを嫌がるに決まってる)
菫子(○○が私の前からいなくなる。○○とお話できなくなる。そんなの……)
菫子「……ああ、そっか。私、○○のことが好きだったんだ」
菫子「……ぐっ、うぅ。ぐすっ」
菫子「わ、わたしが、私が○○の魅力を引き出したのに!」
菫子「私が一番○○を知ってるのに!私の方が親しいのに!」
菫子「なんで!なんでっ……!」
菫子「…………………………」
菫子「……私の方が……」
菫子「ふ、ふふ、そうよ。諦める必要なんてないわ。だって、私は特別だもの」
菫子「……少し。ほんの少しだけ待っててね、○○」

―――――――――――――――――――――――

女子生徒「△△さん、彼氏できたばっかりだったのに……」
男子生徒「火元不明の家事らしいな。○○も可哀想に。何を恨めばいいのかわかりゃしない」
女子生徒「可哀想といえば宇佐見さんもよね。○○君を通してできた高校初の友達だって、△△さんといることが多くなって、明るくなって、すごく接しやすくなったところなのに」
男子生徒「ほんとにな。神様もえげつないことするよ」


723 : ○○ :2019/01/15(火) 12:55:26 i4SvuKH.
>>722
ニヤニヤしちゃうようなラブコメからの急転直下にゾクゾクする、素晴らしい


724 : ○○ :2019/01/15(火) 13:42:06 /mYd6JTw
>>719
試合に勝ったのは○○、勝負に勝ったのは魔理沙
そんな印象を覚えた
○○は魔理沙の体を自由にできるけれども、謀で、思索の上ではぼろ負けしちゃった

>>722
あーあ、菫子のスイッチが入っちゃった……
でもこの状況すら利用して、○○の真横にいる権利みたいなのを、周りに黙認させそう

次より、八意永琳(狂言)誘拐事件の第4話を投稿いたします


725 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 4 :2019/01/15(火) 13:44:55 /mYd6JTw
「ふぅ……」
そもそもの発端は自分だと、蓬莱山輝夜からの自白を貰った○○であったが。全く嬉しいと言う気分に離れなかった。
永遠亭の首魁の前だと言うのに、○○は『めんどくさい事に巻き込みやがって』と言う非難を口に出す代わりに。足を投げ出したりして。
楽に座れる体勢だけれども、無作法な格好で相対していた。
そして指先をこすり合わせながら、うんうんと唸りながら何かを考えていた。
「食べる?」
無作法なうえに輝夜の事を若干無視している○○であるけれども。そんな○○にも、輝夜は優しく相手をしてくれて。お茶菓子を1つ勧めてくれた。

「あぁ、失礼」
これはさすがに○○も、思考の渦から自ら這い出て来てくれて。会釈で謝意を示しながら、お茶菓子を1つ頬張った。
しかし頬張るその瞬間でも、○○は輝夜の方を見ていたし。輝夜の方も、そもそも発起人であるのに状況と言う手綱を制御しきれなかった罪悪感があるのか。先ほど○○が見せた、茶菓子に対する謝意の会釈よりも深く、頭を下げてくれた。

「……つまりこの状況は。さすがに輝夜さんとしても想定外と言うか。ここまで大事にするつもりは無かったという事ですね」
輝夜の真摯な態度に、○○は若干の苛立ちはまだ残りつつも。それでも輝夜の事を信頼する気にはなれた。
「そうなの。もっと時間をかけて練り上げて、○○さんとそのご友人にも最初から最後まで打ち明けた後にするつもりだったのだけれども……ちょっと永琳が焦ってしまって」
○○は輝夜からの謝罪含みの雑談を聞きながら、口の中に残った茶菓子をお茶で洗い流した後に。
「八意永琳と言う天才の歯車は、何で狂ったんですか?多分ここ最近に、あの書生君が意識せずにやった事が…………」
○○は輝夜に質問を投げかけようとしたが。
喋っている最中に、○○自身の妻である阿求や。友人である先生の妻である上白沢慧音。
つまるところ、八意永琳は阿求や慧音と同じような種類の人種。あるいは性格を内包していると言い切ってしまって構わなかった。
これに気付いた時に、これらの女性たちが焦ったり、いつもの知性を発揮できない状況は、阿求の事を深く愛して『しまった』○○にはすぐに思い当たる節が出てきた。
「あの書生君に女の影が!?」
ただその思い当たる節は、このひたすらに面倒くさい狂言誘拐事件に対して。緊迫感を○○が持つ原因ともなってしまった。
「…………ええ」
長めの沈黙の後に、輝夜が○○の懸念を肯定した事で。この誘拐事件が狂言で済めば御の字と言う事を認めねばならなくなった。
面倒くさい程度ならば、無血で済ませる事が可能だ。


「いつ、どこで女の影が?」
○○は髪の毛が逆立つような感覚を味わったものだから。さきほどまでは慇懃にして緩い口調だったのが、今では興奮しながら素早い口調に変わっていた。
危機感の有無が、同じ者でもここまでの変化を見せる物なのである。
「細見(さいけん)って知ってる?」
無論、危機感の事に関しては蓬莱山輝夜だって同じように強く持っているけれども。
年季の差、あるいは首魁を張れるだけの胆力の差と言う物が。○○よりも遥かに上であったから、はっきりと現状の危うさを認識しつつも。
それでいて、感情に飲み込まれないように穏やかな口調を維持していた。


726 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 4 :2019/01/15(火) 13:46:51 /mYd6JTw
「細見(さいけん)……雑誌の事か?」
「ああ、外では細見と雑誌がごちゃ混ぜになった知識になってるのね…………遊郭歩きの指南書を書生君が持っていたのよ。何冊も。遊郭宿や遊女の評判も載っているわ」

遊郭!この単語を○○が聞いた時、彼は歯を目いっぱいきしませて、歪んだ顔を浮かべてしまったが。
同時に、単純な狂言誘拐の後始末程度だと思っていた時の自分を、酷く懐かしんでいた。
狂言誘拐ならばまだマシだった!
他の女の気配など、八意永琳にとってよくよく見知った永遠亭の住人ですらよくよく気を付けているはずなのに!!
遊郭だなんて!!
しかし八意永琳がここに来て急速に焦った理由は、残念ながら良く理解してしまった。

「まさかと思うが、あの書生君もう遊郭で」
しかしそれよりも○○には、怖い事があった。
「いえ、それはまだよ。でもお給金は十分に渡しているから、時間の問題」
幸いにも輝夜はそれに関しては否定してくれたが。今この瞬間が大丈夫だからと言って、明日も大丈夫だと言う事にはならない。
実際輝夜はこの事について、時間の問題だとの認識だし。○○も同じくである。
――いや、この狂言誘拐事件が長引けば。さすがにあの真面目な書生君は遊郭なんざ忘れているだろうけれども。
そうなればそうなったで、今度は別種の厄介ごとが持ち上がるのは必定である。


「遊郭歩きの指南書だなんて……あの書生君、どこで手に入れた?」
目下の厄介ごとは、狂言誘拐を何となく幸せな感じで終わらせてしまう事だが。それは根本的な解決では無い。
八意永琳が惚れている男の顔を、遊郭の連中が。下働きならばともかく、全く知らない人間ばかりと言うのはまるで考えられないのも道理なのである。
「まったく分からないの。まさか直接聞く訳にも行かないし……それをやったら、永琳に嫌われるわ」
○○の顔がまた歪んだ。蓬莱山輝夜ほどの存在から、分からない等と言う言葉は聞きたくない者である。
彼女ほどに思索を深くすることの出来る上に、使える手駒も多い存在が。分からないと言う状態が思いのほか長引くと言うのは、裏側の謀の大きさに対する証拠の1つとして挙げる事が出来てしまう。
「なんてことだ」
この一件、とてもじゃないがすぐには終わらないのが。この時初めて理解できた、間違いなく尾が長い。
それもあるけれど、一番初めに来るのは。半分キレながら参加してくれている先生が、○○にとってのワトソン君。
彼が本気でキレないか……○○が一番先に心配せねばならないのは、恐らくこっちの方であった。


727 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 4 :2019/01/15(火) 13:49:08 /mYd6JTw
「慧音先生、まだ私が指定した時間にはなっていないので。あの男はまだ来ませんから。お茶でも飲んで待っていましょう」
稗田阿求は持ち前の物腰の柔らかさで、目の前にいる上白沢慧音の……いや、慧音だって厳しい側面はいくつもあるけれども、物腰は基本的に柔らかい。
「……ああ」
だと言うのに今の慧音は、付き合いが長いとは言え名家である稗田の九代目から勧められたお茶に対して。
さすがに強烈に拒否などはしなかったけれども、実にぶっきら棒な形で受け取って。一息で中身を喉へと流し込んだ。
「お代わりいります?ついでにお茶菓子も、もう少し持ってこさせましょう」
慧音は喉の奥へとお茶を流し込んだ後、妙に唸っていた。阿求の呼んだ女中が、余りにも機嫌の悪い慧音を見て無言でお茶やらの用意を片付けて帰ろうとしたが。
「ああ、ごめんなさい。私ったら、ちょっと寒いから。羽織る物をもう一枚持ってきてくれませんか?私の自室の椅子にかかっているので構いませんから」
しかし阿求はひるむことも無く、―わざとらしいぐらいの朗らかさで―あれやこれやとやって、客人である慧音をもてなしていたり。
ついでに自分の分の用もお願いしていた。


「ああ、お茶も菓子も。有りがたくいただく……やけ食いでもしていないと収まらん」
「何なら、お酒もありますけれども?」
阿求の、出来れば冗談と思いたいような提案に。慧音は少々目をむきながら阿求の方を見たが。
いたずらっぽく笑っているのを見て、『半分は』冗談だと言うのが分かって。
「悪い冗談だ」
慧音もその咎めるような口調を、『半分』程度の強さで収めておいた。

「それに酒が回ったら、いよいよ感情の抑えが利かなくなる。阿求、お前だってわざとらしく柔らかい演技をしていないと苛立つから、口数も多いのだろう?」
慧音からの指摘に、阿求は痛いところを付かれたのを誤魔化すように笑ったが。
笑いすぎていて、これが終わったら顔面が痛いのではないかと思うぐらいに、口角は吊り上っていた。
「まぁ」
何も言わないのも慧音に悪いと阿求は思ったのだろうけれども、図星を突かれては口数もいつも通りとはいかないし……演技も鈍る。ましてや指摘の主は懇意にしている慧音だから余計に。
「そうですね」
短い言葉を、不恰好につなげるのが精一杯であった。


「阿求様、それに慧音先生。お茶とお茶菓子にございます。それから阿求様の羽織る物も…………」
阿求が無理に演技をしなくなったせいか、戻ってきた女中は運の悪い事に。さっきよりもずっとよどんだ空気の中で仕事をせねばならなかった。
「自分でやれるよ」
相変わらず慧音はぶっきらぼうに、お代わりのお茶とお茶菓子を受け取り。
「……ありがとう」
阿求も一気に抑揚を無くした声で羽織る物を受け取った。


そのまま時間がまたいくらか過ぎた。
「私の旦那と、○○は……そろそろ知った頃だろうな。阿求、お前から真相の裏を知った時、私は柱を拳で殴ってしまったが。私の夫は永遠亭だから、感情の発露も難しいだろうな」
湯飲みの中身を、はっきりいって睨みつけながら慧音は呟いた。
「今日明日で終わるとは思えませんから。今晩は慧音先生がたっぷりと、風呂やら寝床やらで、労うのが良いでしょうね。もちろん私も○○とはそうします」
阿求にしては若干の下ネタである。いつもならば慧音は、珍しいなと思いながら顔を赤らめながら相手を出来るだろうけれども。
「皮肉に笑える気力も無い」
とんでもない事に、慧音は湯飲みの中身とにらめっこをしながら。一笑にすらふさずに、話を受け取ろうともしなかった。

「しかし」
慧音が笑ってくれないから、阿求は仕方なく真面目になったが。けれども、阿求はまだ笑っていた。
しかもその笑い方には明らかなトゲや牙が見え隠れしていた。
「私や慧音先生の方がよほど清いでしょう、今から合うアイツ……遊郭の中でも特に酷い。忘八※(ぼうはち)が!しかもそんな忘八(ぼうはち)の頭が相手ではね!!」
「…………今後は私も遊郭の統制に参加する。八雲紫の理論では、一般人には性風俗が必要と言うから、乗っかってやろうじゃないか」
阿求は黒々と笑っていたが、慧音は眼の奥で遊郭を締め上げる方策を考えていた。


続く


※忘八(ぼうはち)
遊郭において、宿を経営する旦那の意味
言葉の由来は、人間が守るべきとされる八つの徳
仁(じん)・義(ぎ)・礼(れい)・智(ち)・信(しん)・忠(ちゅう)・孝(こう)・悌(てい)
この全てを忘れた存在でなければ、遊郭宿など経営できないと言う軽蔑から来ている


728 : ○○ :2019/01/16(水) 19:55:48 o0HWyVNg
>>722
火元不明の家事、パイロキネシス、あっ…(察し)
まともだった子がヤンデレ堕ちするのいいよね


729 : ○○ :2019/01/19(土) 11:49:04 13PXeHCw
>>722
何度も読み返してるうちに失礼な男(初対面時の○○)に対する反応が「火葬でいい?」ってことに気付いてあっ…ってなった
そのときは本当に誰かを火葬にするとは思ってなかっただろうに


730 : ○○ :2019/01/20(日) 13:20:00 z1LyQ1zU
△△「幻想郷って美人多いよな」
□□「可愛い系から綺麗系までなんでもござれですよね」
○○「お、おう。どうした急に」
△△「いやあ、せっかくの酒の席だし小粋な恋愛トークでもしようかなと」
□□「俺ら普段そういう話しないですし」
○○「たしかにそうだな。たまにはそういうのもいいか」
△△「うむ、そんなわけで俺から発表。俺は早苗ちゃんだ」
○○「へえ、△△ってああいう子が趣味なんだ?」
□□「ちょっと意外です」
△△「真面目で元気で浪漫分かる子って最高だろ」
□□「なるほど」
○○「あの子時々男のノリになるしな」
△△「だろ?……じゃあ次□□いってみようか」
□□「俺ですか?んー、俺は慧音先生ですかね」
○○「あー」
△△「あー」
□□「あなた達すげえ納得って表情してきますね」
△△「まあド安定というか」
○○「納得せざるを得ないというか」
□□「ちょっと頭が固いけど優しくて面倒見のいい美人な先生……まあ、そうですね」
○○「里の少年達の初恋はだいたいあの人らしいぞ」
△△「多分性の目覚めもだろうな」
□□「ま、そんなわけで俺は以上です。さあ、最後は○○さんですよ?」
○○「はいよ。俺は……ん?」
△△「…………」
□□「…………」
○○「え、なにこの空気」
△△「べ、別に普通だろ?」
□□「そ、そうそう。○○さんが緊張してるから変に感じるんじゃないですか?」
○○「そんなことはないけど……まあいいか。しかし、うーん……」
□□「ど、どうしました?」
○○「あー、これ好きな人じゃないと駄目か?」
△△「気になる人でもかまわんが」
○○「気になる……んー、気になるか……」
△△「なんだよ。とりあえず考えてる人挙げてみろって」
○○「あー、そうだな。じゃあ、西行寺のお嬢様」
△△「……え?」
□□「嘘……でしょう?」
○○「いや、好きとかじゃないけどな?一度遠目に見たことあるだけだけど、なんというかあの人は……怖い」
△△「じゃ、じゃあなんでその人なんだ?」
○○「上手く言葉に出来ないんだけど……『綺麗』なんだよ。儚さと死がそこにあるような感じがして。まあ絶対にお近づきにはなりたくないけど」
□□「あー、えっと……○○さんが仲良くしてる紫さm――さんとかは……」
○○「紫さん?はは、あの人はねえよ」
△△「……な、なんでだ?」
○○「なんというかあの人、言動も外見も嘘臭いんだよ。いや、美人だし知的で優しいしで、すごい人だとは思うけどな?……けど、西行寺のお嬢様と違って『綺麗』じゃない」
○○「それに、なんか時々ゾッとするような目でこっちを見てくるし、西行寺のお嬢様とは別の意味で怖いかな」
○○「……あー、はは、なんか『綺麗』だとか怖いだとか、よくわかんないこと語っちまったな。すまん……って」
△△「」
□□「」
○○「……えっと、二人とも顔色悪いけど大丈夫か?」
△△「……少し、飲みすぎたかもしれん」
□□「そう、ですね……」
○○「大丈夫かよ。今日はもう解散するか?」
△△「……ああ、そうさせてもらう」
□□「……失礼します」
○○「おう。気をつけて帰れよな」

○○「……ん?あれ?あいつら『誰』だ?……なんで俺は『知らない奴ら』と家で酒飲んで恋愛トークなんてしてたんだ?……こわいこわいこわいこわい!」


731 : ○○ :2019/01/20(日) 19:42:50 i1Z2g7lE
>>730
なるほど、○○という匿名性が高い単語を利用したSSでいいですね
そして、○○に監禁フラグが立ちました


732 : ○○ :2019/01/20(日) 21:19:32 2ALZygHc
>>730
ああこれそういう話か面白いな
しかしまあ○○も綺麗に地雷を踏み抜くもんだ


733 : ○○ :2019/01/21(月) 17:23:37 APmrIjC6
>>730の話って怖い雰囲気がするのは分かるけどなにか裏があるんですか?


734 : ○○ :2019/01/21(月) 20:09:19 b5REZj9M
>>722
△△と仲良くなってから焼いちゃうとか、たまらんですな。
その上同情までかってしまえるという。

>>733
その二人、藍と橙だよ...


735 : ○○ :2019/01/21(月) 20:26:43 APmrIjC6
あ、そういうことですかありがとうございます
うわあ、、、うわあ、、、


736 : ○○ :2019/01/21(月) 22:12:37 dv6qwPSY
かなりアピールしたであろう紫を酷評
あろうことかその紫の古くからの友人を絶対的な美として評価、ついでに紫と対比

じゃあな○○!また来世で会おうぜ!


737 : ○○ :2019/01/21(月) 23:21:34 KqJkleyY
>>736

輝夜「残念だけどあなたに来世は来ないしお友達とは会えないわ。さっきあなたに出したお茶に入れといたから、蓬莱の薬。あなたは私と永遠を生きるのよ」


738 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 5 :2019/01/22(火) 14:23:40 vfhEdtqU
>>727の続きとなります

「ここで良いよ、後は私一人で稗田邸に向かうから」
その男は見るからに羽振りがよさそうで、言葉も態度も品よくしていたが……しかしながら羽振りの良さと品の良さが、何らかの欺瞞(ぎまん)とも思えてしまうような。
剣呑さ、それに加えて淫靡(いんび)な風体であった。
見た目も、言葉使いも確かに申し分は無いのだが……香るおしろいや香水がそうさせてしまうのだろうか。
「しかし、頭」
あるいは従者が、演じる事を放棄しているからだろうか。頭と呼ばれた男性が連れているこの従者は、明らかに筋者であった。
確かに、従者と呼ばれる存在の中には、旦那や奥方やそれらの子息や息女を守るために。
身の回りの世話以上に護衛と言う性格を強く帯びている物がそれなり以上の数存在している。
そう言った人物は、自らの主の為に。必要とあらば矢面に立って、最悪の場合は悪漢の命など保証しないと言う部分を際立たせるために。
身の回りの世話をする従者とは少しばかり趣が違うのが常であるのだが……

「お、お1人で?せめて私を稗田邸の門前まで付いて行っても、それぐらい許してくれねぇか?そりゃ遊郭よりは牧歌的かもしれませんが」
どうにもこの従者、若干ではあるけれども言葉使いが汚かった。
「良いよ、良いよ。あそこを遊郭と呼ぶけれども、苦界よりは一人歩きもずっと安全さ。場所柄ここらへんはもう、上白沢慧音の勢力に入っているし」
「そして上白沢慧音は、稗田家とも懇意。そんな場所に悪漢が、お天道様の高いうちにいるとは思えん」
頭と呼ばれた男性は、相変わらず品よく振る舞っているけれども。
しかしながら従者がポロポロと見せる、筋っぽい部分に全く物おじしないどころか。問題とすら思っていなかった。
そうなると、先ほど筋者っぽい従者から飛び出た遊郭と言う単語とも合わさり。
この奇妙な2人が、奇妙では無くて危険な2人と認識せざるをえなくなる。
「君はそこらのお茶屋で何か飲んでいなさい。小一時間経っても戻らなければ、先に帰って能楽の稽古には来られないと、伝えておいてくれないか」
事実。頭と呼ばれて明らかに上役っぽい男性は、筋者らしき従者にお金を渡してしばらく時間でも潰していなさいと。
優しく気遣いながら。稗田家に呼び出された、遊郭からやってきた、この頭と呼ばれた男性は。
従者に対して金銭を渡していたが……いかんせんその額が問題だった。
お茶でも飲むにしてはいささか…………多いとしか言いようが無かった。
小銭は一枚も無く、高額紙幣を渡すと言う有様であった。お茶一杯につかう金額でない事だけは明らかであった。
「だとしても……そのまま帰るなんてのは絶対に無いですから!また戻ってきますから」
そしてこの筋者を隠しきれない従者も、自分の主があまりにも多い額を渡したことを何とも思っていなかった。
と言うよりは、それが普通の事であるからマヒしているとも表現する事が出来た。
しかしながら余りにもつっかえないから、自然な物として観客は見てしまいかねなかった。

「それじゃ、そこらの『茶屋』にあっしはいますから」筋者の従者は渋々、主の厚意を受け入れた。
この場面を見ている観客がマヒから戻る唯一の場面は。
筋者らしき従者が入って行った『喫茶店』で。若い女性の給仕が慌てて奥へ引っ込み。
年かさの老婆や店主らしき男性が、女性給仕の代わりを勤め出した事であろう。
「…………そこまで見境のない存在では無いよ。遊郭と呼ばれる苦界にいるからと言って、他の者も巻き込んでやろうとは思わないよ」
頭と呼ばれた男性が、筋者を隠しきれない従者を『喫茶店』――『茶屋』では無い――に入るのを見届けながら。悲しそうに呟きながら。

「私は全部助けたいんだ。苦界の全てを。神仏だろうが何だろうがすがって、私に敵対している者ですら、苦界にいる以上あの者達も被害者だ。助けたいんだ」
その後にやってきたのは、焦るような感情であった。
「まだ遠い、まだ遠いのに……稗田家に目を付けられるわけにはいかない丁礼田(ていれいだ)さんも爾子田(にしだ)さんも。まだ、まだだと言っている以上」
その男は振り絞るように、そして助けを求めるように。
「後戸(うしろど)の国はまだ遠い……けれども遠ざかってはいないはずなんだ。後戸の国は確かに見えているんだ……!!」


739 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 5 :2019/01/22(火) 14:24:22 vfhEdtqU
「本日は心地よい日どりに、苦界の者達が水を差してしまい……実に――
さすがに社交辞令が通用するとは思っていない、ましてや謝罪など。稗田家に呼び出されたこの男はそう思いながらも謝罪に近い言葉を口に出していたが。
「忘八(ぼうはち)どもの頭、お前に聞きたいのは厳然たる事実、それだけだ。回りくどい言葉を使うな」
忘八と呼ばれたその男は、慧音からそれ以上の発言を禁じられてしまった。さりとて、下げた頭を再び上げる訳にも行かず。奇妙な格好で微動だに出来なくなってしまった。
実を言うと、何も聞かされていないのだ。何故稗田家に呼び出されたのか、それすら分からないのだ。
「お1人で来られるとは、殊勝ですね」
故に、稗田阿求の落ち着いた声が怖かった。
「従者が付いてきましたが……良くは無い話だと思いまして。近くにある『茶屋』で何か飲んでいなさいと一旦置いて――
「『茶屋』じゃない!『喫茶店』だ!!遊女どもがたむろしているいかがわしい『茶屋』などが遊郭街との間にある門のこちら側にあるはずがないだろう!!」
歴史家でもある上白沢慧音からすれば、『茶屋』と『喫茶店』の違いは。遊郭街と人里の間にある門と同じく、重要で絶対に譲れない一線なのだろう。
しかし稗田阿求が落ち着いている分、上白沢慧音はその限りでは無かった。さすがに者は投げつけられなかったが、次はどうなるか。
しかしこれはこれで、役割分担が出来ているとも言えた。それをやられるこちら側としては、溜まった物ではないが。
やはり忘八など、割に合わない商売だ。


「これですよ」
幸いにも上白沢慧音の爆発から一分と経たぬうちに――それだけ早々に追い出したいという事かもしれないが――阿求がこの男に一冊の小冊子を投げつけた。
「細見(さいけん)ですか。珍しいですね、稗田家にこのような物が」
細見を叩きつけられて……つまりは遊郭で遊び歩くための指南書を見せられて。この忘八どものお頭はようやく状況の不味さを知る事が出来た。
何も知らされてはいなくとも、稗田阿求や上白沢慧音に旦那がいるのは周知の事実。
それは遊郭で遊女たちを商売道具として扱っている忘八達にとっては、知識の有無が死活問題にまで大きくなってしまう。
稗田阿求や上白沢慧音の旦那たち以外の知識も、無論の事である。
ある種の一線の向こう側にいる女性たちの夫を、そこまで行かなくとも恋人たちを把握しておかねば。
間違って遊女をあてがっても見ろ、明日どころか今日の命すら知れぬ有様なのだ。
しかしながらそこまでの綱渡りを強いられながら、世間では遊女を商売道具として扱い、道徳をかなぐり捨てて銭を追いかける忘八として蔑まられる。
遊女たちと遊んでいる男どもにすら、そう思っている者は多い。
おまけに統制が崩れたならば。稗田家に呼び出されて、この有様だ。
全く持って、割に合わない商売である。遊郭宿の経営などと言う稼業は。
故にある種の信仰心を、この忘八どもの頭は持ったのであるが。故に、自らのいる場所を遊郭などとは思わず苦界だと認識を改めているのであるが。


「この細見はどちらで見つかった物でありましょうか?」
しかし苦界を隅々まで助けるのは、今日明日になる物では無い。稗田家にこれ以上目を付けられては、助かる物も助からない。
不味い事になったと内心で頭を抱えながらも、一体何人が後戸に向かえなくなるかを考えつつ冷静さを取り繕っていたが。
「永遠亭です。八意永琳が恋慕を重ねている事は、稗田家からの定期的な助け船でご存じのはずでは?」
永遠亭だと!?忘八どもの頭は思わず叫びたくなったが、そうなってしまえば自分は終わりだ。懸命にこらえたが。
永遠亭にそっぽを向かれてしまえば、遊郭は終わりだ。もう死ぬしかない。あそこ以上の医療機関は存在しない。
ましてや遊女たちは、『濃厚な接触』がある以上。梅毒(ばいどく)に限らず、病の種は多い。
それを何とかしてもらっているのが永遠亭なのに!!

「ええ!ええ、もちろん!あの永遠亭におります書生の事は、私の管理しております楼主(ろうしゅ、遊郭宿の経営者の意味)達に!その情報は、直接手渡しました!!」
「じゃあ何で、永遠亭のあの書生君の部屋で細見などと言う遊郭でしか売っていない物が見つかった!?」
慧音は眼の前に置かれている器の中にある、せんべいやらアラレをむんずと掴み。それを怒号と一緒にぶちまけた。
投げられたものがお菓子であるから、別に痛くも何ともないが。
聡明で理知的な上白沢慧音がそれをやったのが問題なのだ。これが終わっても、この感情は終わらない。


740 : 八意永琳(狂言)誘拐事件 5 :2019/01/22(火) 14:25:15 vfhEdtqU
「泣きたい」
○○の妻である稗田阿求と、寺子屋の副担任である彼の妻である上白沢慧音が。かの女性二人が、忘八を苛ませている頃。
○○からちょいちょいと、書生君のいる部屋から呼び出されて行ってみたら。蓬莱山輝夜から、遊郭における不穏な事柄が関わっていると伝えられて。
「泣きたい、慧音の所に帰りたい、知らなかったことにしたい。遊郭街情報誌を持っているだけじゃないか」
彼は柄にも無く、泣き言をひたすらに呟いていた。
「そうも行かないよ……書生君は止める事が出来ても八意永琳は止まらないさ。他の女を抱く可能性がある以上な」
寺子屋の副担任さんはまだうーうー唸って、泣き言を漏らしていたが。○○は状況を深刻に考えてくれていた。
「なら、自らの事と考えようか。悪い友達から遊郭に誘われたら?」
○○はたとえ話をするが、彼はそれを鼻で笑った。
「自殺志願者だとしても、迷惑すぎるぞそいつは。慧音に始末されてしまう。もちろん、俺じゃなくてその悪い友達が」
世間一般の考えとしては、彼の言う通りであろう。しかし○○の考えは違った。
「遊郭の統制は想像以上にきつくて、外部から……まぁ、阿求たちだな。そこからの統制も強いけれども」
「自分たちの命が絡んでいるだけに、遊郭宿を経営している旦那たちの内部統制はもっと強いんだ。それが強すぎてほころんでいるのかもしれない」
「だからって、新規の客に何で!よりにもよって八意永琳が恋慕している男を選んだ!!」
彼は机をガンガンと叩きながら、怒りと焦りと苛立ちをあらわにした。
奇遇にもその姿は、慧音がカッとなってお菓子を忘八どもの頭に投げつけた姿と似ていた。
「分からない……黒幕がいたとして、そいつは冒険心に富んでいるのかもしれない」
そして○○も、慧音よりも感情を抑えている阿求のように。○○もやはり、自省的な姿を見せていた。
「細見を手に入れた場所は、多分人里じゃないと思います」
そして一番静かで、思考を回していたのは。
「東風谷早苗?そうですね、貴女の推理を聞きたいですね」
遠路はるばる首を突っ込んできた東風谷早苗であったが、○○はそんな早苗の推理を聞きたがっていた。

「いくらなんでも人里は危険すぎます……慧音先生と阿求さんのお膝元で?考えるだけでふるえます」
○○は斜め上を見ながら、早苗の言葉にうなずいていた。自らの妻である稗田阿求を思い出したのだろう。
「……あんまり守矢神社としては嫌な話題ですけれども。人里以外で人の出入りの激しい場所となると、正直うちになる」
早苗はため息を出しながら、輝夜に向き直った。
「何か、出勤表と言うか作業の工程表みたいなの有りますか?今日は誰がどこに向かうかみたいな」
「それぐらいの記録ならすぐに分かるはずよ、鈴仙に用意させる」
「それから、細見も見たいですね」早苗の横から、○○が次に言い出した。
しかし○○の動きに、輝夜は良い顔をしなかった。
「稗田家に渡したわ。○○さん、ご自分の立場を考えて。貴方に見せたら、私まで責を負う事になる」
「そうは言っても、その細見がいつ発行されたものかが分かれば……あの書生君が最低でもいつからそう言う話題に触れているかが分かる」
○○は食い下がらなかったが。
「私が調べますよ」
東風谷早苗がその分まで引き取り、慧音の夫である寺子屋の副担任から肩を掴まれた。
「分かった……じゃあ、捜査の真似事で書生君を安心させてくるよ」
仕方なく○○は、この場を引き取った。

続く


741 : ○○ :2019/01/23(水) 05:59:27 HJdEj4AI
○○「え?紫さんもレトロゲー好きんですか?」
 紫「ええ。まあ、古いものが好きというより、新しいものに馴染めないという方が正しいかもしれませんけど」
○○「ああそれすごく分かります。どうにも新しいゲームって合わないんですよね」
 紫「あら、○○はまだ若いのに随分保守的ね」
○○「はは、おかげで外じゃ懐古厨とか呼ばれてましたよ。ま、他人になんて言われようと俺は自分の好きなことを好きと言いますけどね」
 紫「ふーん。いいわね、私そういう考え方できる人好きよ?」
○○「ありがとうございます。ところで、紫さんはどんなゲームをするんですか?」
 紫「んー、ここで教えてもいいけど……せっかくだし私の家に来ない?プレイしながら語るのも楽しそうですし」
○○「え、紫さん実機持ってるんですか?行きます行きます!うっわ、すげー楽しみ!」
 紫「ふふ、じゃあ行きましょうか」

―――――――――――――――――――――

霊夢「なるほどね。○○さんが人里に帰ってこないって聞いてたけど、紫の仕業だったわけか」
 紫「仕業だなんて酷い言い草ね」
霊夢「……二つ、聞きたいことがあるわ」
 紫「なにかしら?」
霊夢「一つ、○○さんは無事で……正常でいるの?」
 紫「愛する人を傷つける女がいるかしら?狂わせたり弄ったりなんて論外よ」
霊夢「嘘……は、言ってなさそうね。なら私の出る幕はないか」
 紫「あら怖い」
霊夢「……はあ。じゃあ二つ目、あんた『げーむ』なんて好きだったっけ?」
 紫「いいえ?」
霊夢「好きな人を謀るのは良いわけ?」
 紫「好きな人の好きなことを好きになるよう努力する。そんな乙女心は許されないことかしら?」
霊夢「あんたの口から乙女とか聞きたくなかったわ」
 紫「ふふ、ごめんなさいね。年寄りの惚気話に付き合わせちゃって」
霊夢「べつに。けど、紫ならそんなものに頼らなくても篭絡なんて出来たんじゃないの?」
 紫「人聞きの悪い……まあ出来たかもしれないけど、それじゃあ駄目よ」
霊夢「?」
 紫「女としての魅力に自信がないわけじゃないけど、それだけだと○○が他の女に気移りしてしまうかもしれないじゃない?」
 紫「でも、共通の趣味を持っていて……それが幻想郷で他に語れる者がいない事柄なら、絶対的なアドバンテージになるでしょう?」
霊夢「ふーん。紫がそこまで本気になるなんて、本当に○○さんのこと好きなのね」
 紫「そうね、誰よりも、何よりも愛しているわ」
霊夢「……幻想郷より?」
 紫「ええ」
霊夢「……」ゾッ
 紫「あ、そろそろ帰るわ。今日は○○と一緒にお昼を作る約束をしているの」
霊夢「……そう」
 紫「じゃあね」
霊夢「……またね」
霊夢「……あー、○○さん、絶対破局しないでよね……」


742 : ○○ :2019/01/23(水) 16:08:51 757QLjOU
>>741
多分この紫様は絶妙に○○より知識も実力も下な演技してるんだろうなあ
真実知らなかったら誰でも落ちそう


743 : ○○ :2019/01/23(水) 23:38:59 mhCIBKeo
wiki管理人さん凄い…ありがとう
人並みな事しか言えないけれど、めっちゃ頑張ってくれてる…


744 : ○○ :2019/01/24(木) 18:49:35 VGRRAkJ6
>>741
絶対に○○の一番であり続けるという強い意志を感じる


745 : ○○ :2019/01/25(金) 23:42:24 8aINveoM
○○「なんつーか、いつも悪いな」
永琳「○○が気にする要素は何もないわ 。はい、あーん」
○○「あーん」
○○「…………そうは言ってくれるが、俺は俺の勝手でお前に背負わせちまってる」
永琳「何を?」
○○「俺だよ俺。お前に世話されなきゃほとんど何も出来ない穀潰しが増えただろ」
永琳「次、自分をそんな風に卑下したら怒るわよ」
○○「…………」
永琳「……むしろ、あなたはなぜ私に怒らないの?」
○○「怒る?」
永琳「……私を庇ったせいで右腕が無くなって、左腕も満足に動かせなくなったのよ?私は不死なんだから放っておけばよかったのに」
○○「いやー、いくら死んでも生き返るからって、男として惚れた女をそんな目に会わせるわけにゃいかんだろ」
永琳「……そういう言い方はずるいわ」
○○「つっても事実だ。あの行動に後悔はない。ただ、こうやってお前にありがた迷惑で罪悪感を植え付けちまったことだけが、な」
永琳「…………」
○○「そう怖い顔で睨むなよ。美人は怒ってても美人だけど、俺はお前のそんな顔は見たくない」
永琳「……私は悪い女ね」
○○「…………」
永琳「私のせいであなたを取り返しのつかない体にしてしまったのに、あなたの想いを嬉しく思ってる」
○○「はは、めんどくせえな。俺ら両方とも」
永琳「そうね」
○○「……ま、世話頼めるのなんてお前しかいないし、悪いと思うのなら俺が死ぬまではよろしく頼む」
永琳「もちろんよ……そっちも、悪いと思うならこんな歪んだ女でも最後まで愛してみせてよね」
○○「それこそもちろんだ……じゃ、続き食わせてくれるか?」
永琳「ええ。はい、あーん」
○○「あーん」






輝夜「まあ、二人がそれでいいなら文句は言わないし、実際○○に怪我負わせた私が言えることなんて無いんだけどね?」
輝夜「あの日、妹紅と戦った場所と時間。私達の他には永琳しか知らなかったのよねえ」
妹紅「あーあー聞こえなーい」


746 : ○○ :2019/01/26(土) 00:31:46 .XI4XOXg
病み受け入れ系のいい話かと思ったら最後に特大の闇ぶっ込まれてなんか興奮した


747 : ○○ :2019/01/27(日) 00:15:59 f01X04IU
 深淵に潜むモノ3

 元は白色だった障子に長年の劣化で色が付き少し黄色みがついた襖の向こうに、私は確かに何かがいることを
確信していた。生まれてから二十年程この方、二十一世紀に生きている人間としては、世間一般人と同じ程度に
は科学万能主義にかぶれていたのだが、そのある種の信仰にもなっていたそれが、目の前でばらばらと崩れてい
くことが感じられていた。緊張の余りに何度か瞬きをする。次の瞬間に、僕の目の前に彼女達はいた。女性と言
うには余りにも幼すぎる二人の少女。しかし彼女達が見た目通りの非力な存在であるとは、私には到底考えるこ
とができなかった。
「初めまして○○さん。」
姉だろうか?やや身長が高いピンク色の服を着た少女の方が私に話しかけてくる。音も無く、襖が動くことも無
く瞬間的に現れるという、人知を越えた目の前の存在に私は恐怖を感じながらも精一杯の虚勢を張り、二人に向
き合う。
「君たちは一体何者なんだ?この家の親戚か何かなのか?」
言外に圧力を掛けつつ少女に話す。ピンクの少女が答えた。
「いいえ、そうではありません。私達は○○さんを迎えに来ましたので。」
「迎える?一体何の話しなんだ?」
「**さんと同じ様に幻想郷へ連れて行くって話しだよ。」
妹の方だろうか、緑色の服をきた少女が答える。**の名前が出た瞬間に、私の意識は沸騰していた。
「**がどこに居るんだ!」
「幻想郷だよ?」
相変わらずに私の知らない場所を言う少女。
「だからそれは何処なんだ?聞いたことが無いぞそんな場所。」
「幻想郷とは忘れ去られた者が行き着く場所。今の日本とは違う場所です。」
「だからどこの田舎なんだ?東北か?それとも四国の山の中か?」
「いいえ○○さん。幻想郷はこの世界ではないのです。いわば異世界といった方がいいでしょう。」
自分の理解ができない事を告げられ、私は混乱してしまっていた。固まってしまった私に少女は話しを続ける。
「私達の様な現代の外界で存在できない者達が集まる場所、そこに○○さんをご案内致します。**さんも地霊
殿におりますので、お会いになれますよ。**さんも会いたがっておられましたし。」

 少女の話を聞いているうちに、私の頭の中で一本の線が弾けた。そうだ、この女どもはきっと近所の悪ガキなん
だ、悪戯か泥棒のために留守の家に忍び込んで、自分に見つかったので適当な嘘を付いて誤魔化そうとしているに
違いない、そうだ、きっとそうに違いない、そんな異世界なんて有るはずがないのだから!!
自分を震い立たせる怒りに燃えて少女の襟首を掴む。見た目よりも遙かに軽い少女は、さほど運動していない自分
でも軽々と持ち上げることができた。
「いい加減にしろ!お前らが留守の家に勝手に入っていることは分かってんだよ!そういうのは泥棒って言うんだ
よ!とっとと出て行けこの野郎!」
口から唾を飛ばす勢いで怒鳴るが、目の前の少女は何処吹く風といった様子。荒い息をつく私にニヤリと笑いかけ
てきた。丁寧に私の指を引きはがしていく彼女。まるで壊れ物を扱うかのように、ゆっくりとそっと一本一本の指
を外していく。まるで私の力など込められていないかのように。
「○○さん、信じていませんね。まあ、別に良いんですけれどね。それでもやっぱり私としては、勝手ですけれども
ちょっとは信じて欲しいなぁなんて思う訳なんですよ。ええ本当に。だって、好きな人には自分のことをやっぱり
信じて欲しいじゃないですか。」


748 : ○○ :2019/01/27(日) 00:16:38 f01X04IU
どさり、と私は尻餅をついていた。怒りに我を忘れていた私を軽々とあしらい、まるで赤子の手を捻るが如く対処す
るその姿に先程まで感じていた怒りは消え去り、代わりに全身を恐怖が支配していた。生存本能が背中を駆け巡り脳
で暴れ回る。手と足が考えるよりも早く、自分の体を動かしていた。
 障子を破れんばかりに掴み、思いっきり横に動かす。ガラガラと音を立てて動いた障子の奥に見える、曇りガラス
のアルミサッシに飛びつくように手を掛けた。思いっきりの力を込めて横に引く。動かない!ピクリとも、一センチ
とも窓は動かない、この窓の外には今までの日常が広がっていた筈なのに、今この部屋は悪夢に支配されていた。ポ
ケットを探り、一番最初に見つかった財布を握りしめ、窓ガラスを割るように財布をガラスにぶつけた。鈍い音が響
くが、窓は割れる様子がない。ヒビ一つ入らない窓を見て、私の額に汗が流れた。
「○○さん。そろそろ諦めて頂けるとありがたいのですが。世の中には徒労という言葉もありますし。この家の人は
無駄な努力が好きな様でしたが。」
後ろから声が聞こえてくる。誰もいない家、直前まで世話のされていたプランター、固く閉ざされた部屋。悪い推理
が私の頭に浮かんだ。
「お前-まさか-!」
「その、まさかですよ。」
一メートルは距離が空いていた筈なのに、映画のコマ送りのように、一瞬の後には彼女は私を抱きしめていた。力を
込めて引きはがそうとするが、少しも空間が開かない。私を捕まえているという余裕なのか、蕩々と説明を彼女は続
ける。
「駄目ですよ、○○さん。私から離れるなんて…。まあ実際にやったのはこいしの方ですけれどね。何でしたっけ、
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえってやつですよ。」
「そうか…なら、好きにしてくれ。」
全身の力を抜き降参の意思を示した。
「うふふ○○さん。大好き。」
自分を抱きしめる彼女。すっかり気が抜けている彼女の頭に携帯を全力で叩き込んだ。ゴン、と重い音がする。彼女
の様子を確かめることもなく、そのままボタンを操作して緊急通報をする。
「もしもし一一〇ですか!今友達の**の家にいるんですが、家族の人が居なくって、その家族を殺したっていう侵
入者が二人いて、住所は-」
ドアを開けようとして電話を掛けつつノブを回すが、一向に扉が開かない。後ろから殺気が降りかかり、手に持って
いた携帯が柱に包丁によって磔になっていた。
「無駄だよ。この部屋には結界が張ってあるから、お兄さんは出れないよ。」
にこやかに妹の方が言う。ゆらりと立ち上がる姉を見る分には、どうなってもいい積りで殴った割りには勢いが甘かっ
たようである。二人を牽制するために大声で叫ぶ。
「そうか、だがこれ以上は無駄だ!警察には既に通報してあるからな!」
「住所を言う前に携帯を壊されてしまった。どうしよう、逆探知までには時間が掛かるからな…ですか。」
私の心を読んだかのようにピッタリと言い当てる彼女。額から流れる血よりも、彼女の目の方が私には怖かった。ド
ス黒く澱みきった目。裏切りに激怒し、破壊を湛えた目。自分がやったこととはいえ、私は身勝手にも少々後悔すら
してしまっていた。
「ああ残念です。○○さん。あなたは裏切らないと思っていたのに、あなただけはそう思っていたのに、とっても私
は残念です。」
-あーお姉ちゃんスイッチ入っちゃったかぁ-と後ろで少女が呟いた。
「私を裏切った○○さんには、一体どんな罰が良いでしょうか?そうですね…これなんてどうでしょうか?」
彼女が柱に刺さった包丁を引き抜く。ガシャリと音を立てて壊れた携帯が畳に落ちた。
「さっき○○さんは、住所を言えれば助かったと思っていますね?」
ニッコリと笑いながらこちらに近づく彼女。後ろ手では刃がクルクルとダンスを踊っていた。愉快ように、これから
起こるであろう愉悦に塗れて。
「そんなことないんですよ。緊急配備してから突入するまでの一〇分に満たない時間、それだけあれば十分すぎる程
なんですから。」




「ようやく墜ちてくれましたね。○○さん…。」


749 : ○○ :2019/01/27(日) 00:21:31 f01X04IU
次でラスト予定

>>738
後戸組まで参入してきそうな状況にワクワクしました。天才の永琳が考えることはややこしそうですね。

>>745
自分に釣り合わせるために負い目を作らせているのだとしたら、闇が深いですね。


750 : ○○ :2019/01/27(日) 13:54:18 fCQtlWEo
ずっと前のSSで幻想の砲火が地味にお気に入りだね
内容はいわゆるヤンデレから逃げる系だけど、シンプルで好きだね
最近じゃこの逃走系がみないから寂しいものを感じよ

>>747
やばすぎるだろう、JK
二童子かと思ったけど、さとり姉妹なのね


751 : ○○ :2019/01/29(火) 22:17:24 ODIGrU6.
 深淵に潜むモノ4

 **市連続失踪事件暫定報告

 1 現場状況
 **市**丁目**番、木造一軒家二階建て
 住居門扉が施錠がされていないものの、玄関扉は施錠されていた。窓については全て施錠済、または格子により出入り
が不可能。
 2 周辺状況
 隣の家までは数十メートルの距離があるため、事件発生日より通報当日までの間に、近隣住民からの有力な目撃情報は
無し。月曜日までの付近での聞き込みにおいて不審者についての目撃情報は数件あるも、いずれも本件との関係の薄い不
確定情報のみ。
 3 当事者
 父(A)、母(B)、兄(C)、妹(D)、及びCの友人(E)。いずれも安否不明。
 4 現場状況
 一階和室A及びD、一階台所よりB、階段よりD、二階北側和室よりD、二階南側和室よりEの血痕を確認。DNA鑑定済。
A、B、Dの出血は多量であるも、日数の経過により正確な総量の特定は困難。生死を断定するに至らず。Eについては後述
の状況により、生存の可能性を支持する。
 5 二階和室状況
 ベランダ窓ガラスに数カ所の何かが当たったような跡が認められる。部屋の柱に刃物で突き刺した跡。その下にE所持
のスマートフォン(ガラス部分破損)。押し入れ手前にEの右**が切断された状態により放置。押し入れに向かって血
痕が続くが、押し入れ内部には血痕等の痕跡が全く存在せず。
 6 遺留品についての痕跡
 包丁のような何らかの鋭い刃物による切り口。相対した場合右利きによる犯行、但しためらい傷を数カ所に認める。
(特記事項として生活反応が確認された)
 7 加害者
 犯行現場と一部そぐわない面があるも、二名の女性の可能性が最も高いと判断される。これらは以下の状況証拠による
もの。女性用靴跡二種類、市販品に該当品は無し。衣類の繊維片については綿織物であるが、着色が現在の日本市場に現
存しない染料を使用。このため入手経路より人物が絞られるものと考えられる。室内より採取された前歴者データベース
未登録指紋二人分。犯行現場の血液痕より身長は一四〇〜一六〇と推定。毛髪についてはDNA鑑定を行うも、検体損傷の
ため女性という部分のみ判明。
 8 犯人の逃走経路
 現時点で不明。Eからの通報を受け現場に警察官が派遣された後、非常線を市内全域において構築するもこの事件に繋が
る者は発見されず。目下付近の駅及び幹線道路、その他商業施設に設置された監視カメラを解析中であるが、犯行推定時刻
以降においてはいずれの被害者、加害者においても確認できていない。重傷の被害者を誘拐した可能性が高いため、他府
県の警察にもNシステムにかかる協力が本部より要請されており、逃走経路の解明に全力を尽くすことが現状において第一
の捜査目標となっている。

-------------------------------------------------------


752 : ○○ :2019/01/29(火) 22:17:56 ODIGrU6.

「おい、佐藤。お前、このヤマどう考える?」
「なんですか北さん…。藪から棒に。」
「あんまりにも奇妙だと思わないか?これじゃあ状況が無茶苦茶すぎる。」
手に持った報告書をひらめかせながら、ベテランの刑事が部下の捜査員に話しかける。短く剃られた髭に白いものが混じっ
ているのは、彼の長年の捜査人生を物語っていた。ハンドルを握る部下は少し考えた後に回答する。
「まあ、そうですが…。一番可能性が高いのは犯人二人が家族と友人を殺して、死体は誰か他の奴が回収していったってこ
とですかね。」
「ふん、お前もやはり上と同じ見解だな。」
「ご不満のようですね。」
「ったりめぇだ。第一、ガキ二人が大人の男が居る現場で暴れ回った癖に、回収役は足跡一つ髪の毛一本残さずに家に入っ
たってことになるじゃねえか。」
不満顔のまま煙草を携帯灰皿で潰す北巡査部長。最近は税金の増税と禁煙ブームの影響で、すっかり喫煙者は肩身が狭くなっ
てしまった。室内に漂う煙をそのままにして佐藤巡査が再び話す。
「まあ、痕跡が残っていないということは、その可能性しか考えられませんからね。」
「ああ?じゃあなんだ?そんな、ホシ二人の指紋すらも上から触って消さないように慎重にドアノブを開ける奴らが、ガイ
シャの足首だけは残していくって言うのか?!馬鹿も休み休み言いやがれ。警察学校で法医学の触りぐらい習っただろう?
遺体を切り刻む犯人の目的は?」
「犯行の隠匿、又はシリアルキラーなどに見られる異常心理によるもの。ですね。」
「そうだ。その上生活反応が出てやがる。鑑識はぼやかして書いてやがるが、ありゃホシが自分で切ったものじゃないぞ。」
「ん?どういうことです?」
「大人しく自分の足が切られるのを眺めているお人好しなんて居ないってことだ。女の細身で押さえつけるには体重を掛け
て足ごと押さえ切らないといけねぇ。その場合は刃物の向き逆になる筈だ。そのくせ躊躇い傷が数本出てやがる。Eは確か左
利きだった筈だろ?」
「ええ、そうですが…まさか!」
「ああそうだ。そのまさか、さ。ホシの奴らガイシャに自分から切らせやがったんだよ。女のガキ二人で普通そんな事でき
るか?できない。ついでに言えば誰か男の大人が犯行に加わらないと、大人に怪我を負わせるなんてことなんてできやしね
えんだ。戦後七〇年、今までの少年犯罪でも自分以下の弱い子供しかターゲットにならなかったんだ。なのにあの家には他
に誰も居なかったんだ!あのガキ達が、たった二人だけで皆を何処かにやってしまったんだよ、まるで神隠しのようにな!」
「まさか…。そんな筈は…。」
「お前の大好きな名探偵はそう言ってんだろ?最後に残ったものだけが真実だって。ああ、ついでに言っておくが、現場の
アレ、犯行声明だぞ。俺がくさるほど見てきた物と一緒だ。そうだな-私はこれをやった-とでもいうところだな……おい、
そこに車止めろ。」
「ここですか?大学に何が?」
「なあに、オカルトにはオカルト専門家が一番ってことさ…。」


753 : ○○ :2019/01/29(火) 22:21:53 ODIGrU6.
これで一旦終了になります。2で終わる予定が管理人さんにwikiにタグを付けて頂いたので、
せっかくだしもう少し、となるうちに倍になりました。ご感想ご視聴ありがとうございました。


754 : ○○ :2019/01/30(水) 22:53:36 lJLqfObQ
天人五衰

 ちょいとお兄さん、こっちに来てくれないかい?少し占おうじゃないか。ああ見料は要らないよ。そんなちんけ
なことなんて必要ないさ。なにせこれからお兄さんに起こることに比べれば、そんなこと大したことじゃないんだ
からね。
 ふーむ。やっぱりお兄さんちょっと特殊だね。ここの住人の人は陰陽師の末裔が多いらしいが、お兄さんも何か
修行でもした口なのかい?へえ、そんなことはちっともしていないんだね。そうかい…。それじゃあ一体どういう
ことなのかな?実はお兄さんの体からどんどん気が抜けていっているんだよ。ああ、今この瞬間にもどんどんと無
くなっているんだよ。まあ普通の人には見えないけれどね。どうやらお兄さんが元々持っていた気が尋常じゃない
ぐらい多いから、今はどうにか持ちこたえているんだけれどもさ、この調子で抜けていってしまえば、その内空に
なってしまうんじゃないかって、心配になって声を掛けたんだよ。そうさな想像しにくければこう考えてもいい。

 人間が持っている霊力で仮に空中を飛べるとしよう。まあ普通の人間なら丁度飛び跳ねた位、一メートルも浮か
べば上出来だな。少し修行した人物なんてのは、屋根ぐらいまでは空中浮遊ができる位だな。そして妖怪やら巫女
なんて連中は空を飛べる訳さ。俺かい?大したことはないさ。精々が一メートルにおまけが付く程度。自力でその
程度飛べる連中なんて山程いるし、なんなら山の中で走って獲物を狩っている猟師の方が強いんじゃないかい?
 ああ、話しが逸れてしまった。そうそう、霊力の話しだな。そしてお兄さんはなんと、空高く雲に達する程なん
だよ。おや疑っているね。本当だよ。信じられないかもしれないけれども、これはこうやって外界の電気を使った
珠算機を弾けば…ほら、この通り。並みの妖怪では手も足も出ない程さ。正直どうしてそんなに霊力が高いのか、
不思議でしょうがないね。ほんとに何にも心辺りがないのかい?まあだけれども、それが今は抜けてしまっている
んだよ。普通の人間ならば元々霊力が無いからいいんだけれどもね、お兄さんみたいに空高く飛んでいた人が落ち
れば、丁度空から落ちたみたいに体に衝撃が来るんだよね。天人五衰とはよく言ったもんだね。
 さあ、これについても珠算機を弾いて、ううむ…。丁度後二日といったところだね。え?何がって?お兄さんの
残りの寿命さ。今まさに空からどんどん落ちていっている状態だから、二日後にお日様が傾き出す頃には目出度く
地面に接吻できるって寸法だね。ああ、悪い悪い。あんまりにもお兄さんが暢気だから、茶化してしまったよ。
うん、どうにかできないのかって?それは少々難しいなあ。並みのお寺や神社では落ちるのを弱めることすら出来
やしない。え、命蓮寺かい?普通なら良い選択なんだけれどなあ…。そんなに素養があったなら、そこで十年修行
すればひょっとすれば、それだけの力を自分で手にすることが出来たのかもしれないんだけれども、今からじゃあ
遅すぎるってことよ。


755 : ○○ :2019/01/30(水) 22:54:25 lJLqfObQ
 ああ、お兄さん、言い忘れていたけれど二日ってのは文字通りの死ぬまでの時間だからね。先に体の方が動けな
くなってしまうから、まともに動けるのは今日の日が暮れるまでってところだよ。夜?駄目駄目。弱っている人間
なんて幽霊や妖怪のご馳走じゃないか。そんなの今すぐに死神を呼んできて魂を刈り取って貰った方がいい位だよ。
なにせ痛いのは一瞬だからね。そっちは。

 どうすれば良いかって…?お兄さん本当は知っているんだろ?思い当たる節があるけれど、それを選ぶのが嫌だ
から、わざと頭の中から消して、他の方法を探しているんじゃないかい?どうして霊力なんて何も知らない只の一
般人が、そんなに高い霊力を持っているんだい?きっと徳の高い天人様か誰かから貰ったか、贔屓にされているん
じゃないかい?
 そしてどうしてそれが今、そんなに凄い勢いで消えてしまおうとしているんだい?それが消えてしまえばお兄さ
んが不味いことになるのはその天人様も知っている筈だよ。折角霊力をあげるなんてことをしているのに、何も理
由が無いのに消すなんてことはないんじゃないのかい?まるで天人様に嫌われてしまって、加護を受けられなくなっ
てしまっている感じさね。
 さあ、どうすればいいか、お兄さん分かったんじゃないかい?いやはや全く…手遅れになる前に、天人様の元に
戻らないといけないんじゃないかねえ…。


以上になります。


756 : ○○ :2019/01/30(水) 23:41:25 RIFXzxqY
天子様すっごい不機嫌そうな顔で◯◯を待ってるのかな…でも内心ちょっと不安だったりすると捗る
あと「お兄さん」てフレーズ見ると反射で脳内お燐物質が出てくるから語り手の一人称が出るまでお燐モノかとおもってしまった…


757 : ○○ :2019/02/02(土) 00:22:09 v4Q0Tnn.
こんばんは○○さん…もう、投票なさりましたか?ええ、そう、それそれ。きっと物知りな○○さんならご存じかと思い
ますけれど…

あらそうなの、今丁度投票をされる所なのね。丁度良かったわ。私も今から投票をするところなんですの。是非紅魔館ま
でご一緒なすって下さいな。今は便利な河童の機械がありますので、わざわざ遠くの投票所までまで足を運ぶ必要はあり
ませんですものね。

どうぞご遠慮なく私の持っている機械をお使いになって下さいな。ええご心配無く、私と○○さんとの間ですもの。お気
遣いなんてなさらなくて大丈夫ですわ。咲夜に紅茶でも煎れさせて二人でゆっくりと過ごすのもまた、良い物ですから…ね。


758 : ○○ :2019/02/02(土) 22:35:17 ytjL6COg
◯◯さん、◯◯さん、投票は誰にされましたか?え、やってない?忘れてしまっていた、ですか…人里が離れているから今からだったら行っても間に合わない…と。

「カチ」

ハイ、ここが投票所ですよ。今からならギリギリ間に合いますね。お礼ですか、いえいえ結構ですよ。これくらいならお安い御用です。
でもそうですね…せっかくご案内致しましたので、◯◯さんの取って置きの思いが頂けると嬉しいですね。


759 : ○○ :2019/02/02(土) 23:08:23 ytjL6COg
◯◯さん、フフフこんばんは。夢の世界にようこそ。本当ならばここで朝まで◯◯さんのお相手をしたいのですが、
残念ながら◯◯さんには起きて頂かないといけません。ええ、「まだ」ですよね。ひょっとして他の方に投票…とかされちゃってないですよね。

ムフフ、例え夢の中でも◯◯さんからそう言って頂けると嬉しいですね。まさに至福の一時です。…おや、◯◯さんどうされましたか?
こんなにしがみついて、まるで夢から覚めたくなさそうですね。駄目ですよ今直ぐ目覚めて頂かないと、投票に間に合いませんからね。
さあ、槐安通路を投票所まで繋げましたよ。一緒に手を繋いで行きましょうか。

ねえ、ホントに他の女に投票、してないよね…


760 : ○○ :2019/02/03(日) 01:22:59 BUogEpT6
◯◯さん。こんばんは。……あぁはい、私はお薬を売り切る必要があったので…はい、まあちょっとした"社会貢献"ですよ。それよりも◯◯さんはこんな夜更けにお散歩ですか?

…へえ、投票なんてものがあったんですねぇ
ふふふっ…いやぁ、◯◯さんってそういうの断れないタイプかなぁって思ったので。

あ、もしかして当たってました?……なるほど、おもしろい偶然もあるものですね。

……さっきから気になっていたんですけど、◯◯さんの目、真っ赤になってません?……気付かなかったんですか。なるほどね。
ちょっと見せてもらってもいいですか?こう見えてもお薬を扱う身ですからね。ちょっとした営業でもしようかなと。

ん…もうちょっとよく見せて……?
私の目をみつめる感じて…うん、上手だよ……

……はい、これで大丈夫だよ。うん、私の見間違いだったみたい。えへへ、ごめんね。
それじゃあ、また明日ね。里のなかでも夜は妖怪やら何やらが出るから戸締まりはしっかりするんだよ?


761 : ○○ :2019/02/03(日) 04:20:29 vfueLxa6
蓮子とメリーが自分の美貌を利用しだしたら、もう勝ち目が見えない
そもそも表の世界で蓮メリを両にはべらす時点でヤバめの嫉妬が来るのに




場所は、閑静な喫茶店。
「はっきりと言うよ、○○くん。宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンからはもう逃げられなくなったんだ」
「私がもはや夢美とちゆりから逃げる方が不利益を被るのと、全く同じ理屈だ」
「私も、○○くんも。好かれた存在に社会的な生命を握られてしまった」
○○と呼ばれた大学生風の男性を前に、別の男が。
こちらはまだもう少し年上の方が、諭すように。君と同じ境遇だから理解できると言うように。
とにかく、なだめ透かしていた。
年上の方は穏やかさを出来るだけ維持しながらも、危機感は隠しきれず。
○○の側は側で、運ばれたコーヒーには目線を一切落とさずに。
憮然とした態度で、諭している人物を。睨むとまでは行かないが、おおよそ友好的ではなかった。

「先輩は頭脳的に恵まれている、私なんかよりもずっと。その頭脳でいくらでも挽回可能なあなたに言われたくない」
大学から30分以上も離れた場所にある喫茶店で、○○は目の前の男性に苛立ちをぶつけていた。
「この間科学専門誌で、あなたの顔を見ましたよ。インタビュー嫌いの夢美教授とちゆり研究員の助手として、その広報で人当たりの良い貴方は世界中で人気のようでありますね」
「この間も学内でカメラの前で話していましたね、今度は国営放送にでも出ますか?」

そして苛立ちと皮肉をぶつけられた、先輩と言われた男性も、おおよそ失礼な態度の○○に決して怒らず。むしろ悲しそうな表情でコーヒーを少しだけ口に含んだ。
「○○くん、私だって大統一理論を全部理解しているわけではない。夢美やちゆりに比べれば、その数十分の1だよ」
「数百分の1しか出てこない大統一基礎を、ひいこら言いながら『可』の判定をもらった俺に比べたら……ははは!」
先輩格は謙遜しつつ話をしようと努めるが。
苛立っている人間にはかえって逆効果。だからと言って上段に構えるのも悪手だけれども。


762 : ○○ :2019/02/03(日) 04:22:58 vfueLxa6
閑静な喫茶店で、さすがに怒声こそ○○は散らしていないが苛立ちは隠さず。
先輩格も、焦りを隠せない。
静かであろうとも、およそ閑静な場所には似合わない二人の空気。
一触即発にも思える空気に、周りの客は好奇心半分、恐ろしさ半分で。普段よりも更に静かになってしまった。

先輩格は辺りに会釈を何度もやりながらも。
「状況は○○くんの方が深刻だ」
○○に対する同族意識が、辺りへの配慮や謝罪を後回しにさせていた。
場合によりけりだが、基本的には美しくて尊い感情であろう。

「そりゃ、三食与えられて。飼い慣らされたらそう思うでしょうね」
○○は相変わらずコーヒーには手をつけず。憮然としながらソファーに腰を深く落とした。
「些末だよそれは。本当に厄介なのは、私には『天才とその助手』と意見が食い違ったと言う演出が可能だけれども……○○くんにはそれだけの地位が無い」
○○のこめかみがヒクヒクと動くのが見えたが。
ここが喫茶店であることを思い出して、お冷やに口を付けて落ち着いた。
コーヒーには相変わらず手を付けない。

先輩格はずいっと、○○の方に身を乗り出した。店員も最悪を想像して体に力がこもった。
「基本的に、世の中は女性の側が浮気なり。よほどの悪女でない限り。彼氏を責める傾向にある。老婆心をどうか覚えておいて欲しい」
「あとはまぁ、先に手を出した方が悪者になりやすい。これが男女の関係ならば、なおのことなのだよ」
そう言って、先輩格は席に戻った。
コーヒーに口を付けようしたが、空であった。それを目の前にいる○○は、自分の分のコーヒーを付き出した。
差し出すではなくて、付き出した。
「良いのかい?」
「一口も飲んでいませんから。それに……そろそろ」
○○の予測は当たった。携帯電話が、何者からかの着信をけたたましく告げ出した。



「気にせずに、出なさい。宇佐見蓮子か、マエリベリー・ハーンだろう?」
○○は先輩格には目も向けず。
「むしろ両方」
そう言いながら、着信を受け入れながら。喫茶店の外に出て、電話を始めたが。
「蓮子にメリー?」
先輩格からすれば、その『もしもし』に代わる言葉を聞ければ。
その後の展開など、些末であった。



「先輩、失礼ですけれども」
電話は一分もかからずに、○○は戻ってきた。
「会談の相手が先輩で助かりました。女性なら10分で済むかどうか」
「彼女『達』からだろう?戻りなさい、きっと心配している。ここの支払いは、私が持つから。所でコーヒーは?全部残っているけれども」
「いりません!」
○○はそう、この場で初めて大きな声を出しながら。ジャケットを着て外に出た。
ほどこしは受けないと言うことらしい。



○○から先輩と言われた彼は、冷めきったコーヒーをぐいっと飲み干して。
○○とは、きっと○○の方がかち合いたくないので。
携帯電話を取り出して、自らの彼女『達』である夢美とちゆりにメールを出すことにした。
……それだけでなく、○○にもメールを送った。
『宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンの方が苛烈だ。自説を科学的な理論で叩き潰すのとは、訳が違う方法を取ってくるだろう』
『私の場合は、夢美とちゆりに。自説の誤りを認めて頭を下げるだけで構わない場面を作ってくれる。あの二人は最悪、君を、自発的にこもらせる』




一通り送ったあと、先輩格はソファーに深く座った。
気を使って、長居しすぎたから他に何かを。
コーヒーは飲みすぎたからジュースでも頼もうかなぐらいには考えるが
居心地は、むしろ良くなった。なにせ一番いきりたっている○○が、扉を乱暴には扱ったが。出ていってくれたことで。


763 : ○○ :2019/02/03(日) 04:25:27 vfueLxa6
「大統一理論の理解は深まった?」
○○は自宅にてメリーが--少なくとも蓮子とメリーにとっては--、三人も並んで寝られるようなベッドで!
三人並んで寝ても余裕のあるベッドでの読書中に、メリーがお風呂上がりの。
さすがにタオルを巻いただけではないけれども、中々の薄着で、○○の横に滑り込んだ。
そして○○の横には、○○の読んでいる本を覗き混んだり、表情を見つめる蓮子がいた。

「まぁ……ある程度は。蓮子とメリーのお陰で大統一理論の基礎理論に『可』はもらえる頭に育ててくれたから……先輩の話も、理解できたよ」
全て嘘なのだけれども。全く理解出来ないどころか。
今日の先輩との会談は、先輩が手を回して蓮子とメリーに、大統一理論の個人授業と言うことになっているが。
その実は全く違って。先輩から○○への、降伏勧告であった。

「そう、良かった」
疑う様子は見せずに、メリーは○○の隣に。
三人も並んでも余裕のあるベッドに寝転んだ。
こうしてベッドには、蓮子とメリーと○○が並んで。
真ん中は○○だ!○○は自分で自分をを『どこの王さまだ!』と、胸の中で自分自身を馬鹿にしていた。



「嘘ね」
メリーが○○に熱い口付けをした、まさにその時であった。蓮子は○○の説明を否定した。
「どっち?蓮子の考えすぎかしら、それとも……」
○○は口を開こうとしたが、そもそも個人授業が嘘なのだから、新しい知識など手に入れていないから。なにも言えなかった。
「○○が読んでいる小説、判を押したように60秒から80秒の間でページがめくられているのよ」
そして蓮子に先手を奪われたが、説明をする蓮子の表情は心苦しさが表れていた。
「それに、前の段落やページの内容をもう一度頭にいれて読み直すのは。論文や科学書でなくても、小説でもあるはずなのに」
「十分よ、蓮子。あなたが時間の感覚を間違うはずがないもの」



これ以上に、窮している状況は。○○年も中々思い付かなかった。
さながら、名探偵とその相棒から。完全に疑われた形である。
「あの先輩、それ以上に夢美教授とちゆりさんの相方と会っていたのは、信じるわ。とうのその人から、三日も前から個人授業の話を。しつこくされたから」
メリーはまだ嘆きの感情であるが。蓮子は獲物を完全に捕らえた名探偵のように、冷たかった。


764 : ○○ :2019/02/03(日) 04:27:18 vfueLxa6
「蓮子、そんなに責めちゃダメよ。女とは会っていないのでしょう?」
「だとしてもよ、話の内容が問題なの。ただの授業でないのは確かなのだから。サボりでカラオケにでも行ったのなら、まだ笑えるわ」
メリーの作りたがった、○○のための逃げ道を蓮子は潰していった。



蓮子とメリーは、○○を愛している。
それと同じくらいに、メリーは蓮子の能力を信頼していた。
「ねぇ、夢美教授とちゆりさんの助手さんと。何を話していたの?」
かくして、メリーも蓮子の側に。○○を疑う方向に走った。
この場は観念して--この場だけ、諦めていない--○○は読んでいるふりの本を閉じた。


「先輩から、夢美教授とちゆりさんの助手さんから、あの男から。降伏勧告をもらったよ」
降伏勧告。その単語を聞いたとき、蓮子もメリーも、悲しいと言う。
演技ではなくて、確かに悲しいと言う表情を作った。


「ふふ、ふふふ……」
蓮子が、悲しさを誤魔化すように笑って。
「別に、私は。○○とならいくらでも。やらしいことが出来るわよ」
急に苛立ちながら、○○へ口づけを。
○○の唇に、無理やり口づけを行おうとしたが。
それを○○は身体をよじりながら、明らかに拒絶した。
先ほど喫茶店で会った先輩からは、きっと悪手だと言われて嘆かれるだろうし。
それ以外の男性からは……こちらの方が問題だ、明確な嫉妬を注がれるだろう。それも全く隠されず。
最悪、暴力的な発作を相手に誘発させるだろう。


「ただ、これだけは認めるよ。蓮子もメリーも、二人とも上の上の更に上ぐらいと言っても過言ではない……」
○○の言葉は拒絶と称賛が半々に混じった、おかしな言葉であった。
「じゃあ、何故?だったらもう、それで良いじゃない」
蓮子はメリーと比べれば、活発な方であった。つまり動くのも早いと言うことだ。
メリーよりもずっと力強く、○○の唇を奪いに行ったが。まだ優しさを内包しているような強さであった。
つまり、蓮子が本気でない以上、○○がそれをいなすのはそこまで難しくないのだ。


蓮子が少しばかり唸った。それをメリーが蓮子の肩を撫でたりしながらなだめつつも。視線の大半は○○の方向であった。
何か言いたそうなのは、明らか。○○は先手を打って場に割り込むように話し出した。
「世間的には完全に、『俺が』美人と美人の間で二股をかけているのと同じだ」
「私達はそう思わない、一妻一夫にこだわる必要はない」
メリーは気にする必要が無いとはするけれども。
「世間がそう思うし!俺はこだわる!!そして俺もどちらかと言えば、世間と同じ理屈で生きている!!」
○○は拒絶する。


「先輩はもう気にせずに、夢美教授とちゆりさんの二人の間に収まってるじゃない」
だから私たちもそうしましょうよと、蓮子は提案する。蓮子の方が熱っぽいらしく、肌を触れようと求めてくるが。
依然として○○は態度を変えずに、自らの劣情や浴場から遠ざかるために。蓮子の肌を拒否する。
蓮子の力がまた強くなったが。
嫌な言い方をすれば、男の力でならアスリートではない蓮子の力など、いくらでも何とか出来る。


765 : ○○ :2019/02/03(日) 04:30:27 vfueLxa6
「先輩のような恵まれた頭があればそれも妥協点の1つだよ!?」

○○は蓮子を、肩に手をかけて少しばかり突き飛ばしてしまったが、何とか向こうに遠ざけた。
嫌な感覚だ。持って生まれた男の力に頼っている、○○は自己を恥じていた。
けれどもこれ以上、恥を上塗りしたくない。
ヒモだなんて。



「先輩の場合は、天才だけれども生活能力の無い岡崎教授と北白川ちゆりさんの助手でお守りでお世話役と言う立場を手に入れても」

「そんな都合の良い場所にいても許されるぐらいに!大統一理論を世界で何番目かによく理解している」

「俺にそこまでの頭があると思うか!?科学専門誌の表紙を飾れるような頭が!?無いから浴びせられる嫉妬で狂い死にそうなんだよ!!」

「世間的には、俺はヒモでしかない!!逆立ちしても、先輩のように天才の世話役のような立場には座れないんだ!!」
一通りの事を叫んだあと、○○はベッドに倒れ込むように横になった。



「嫉妬、そうだ嫉妬だよ。大学内の殆んどの人間から、男からは嫉妬で女からは二股野郎と非難される」
○○の意思は変わらない。全くもって。
「追い出されましたと、ヘラヘラ笑いながら言うのが一番無難な展開だ。どんなやつの学生時代にも、そう言う女たらしはいるさ」


「無難?何を考えているのかしら」
メリーが○○と添い寝しようとするが、○○は枕に顔を突っ伏して拒絶した。
「気にはなっていたのよ。最近、○○ったら荷物をひとまとめにしているわね」
蓮子からの指摘に○○は「ああ……」唸りながら悔しがるけれども。
「出ていくつもりなの!?」
メリーからの悲鳴に限りなく近い声が、○○の唸り声などかき消す。


「ここからなら大学には近いが……その程度の利点はもう消し飛んでいる」
しかしその程度で、美人からの悲鳴に意思を曲げることはなかった。
そもそも学内での人間関係が最悪になっているのは、蓮子とメリーのせいだから。
「向こうの部屋で寝る」
手こそ上げないが、それ以外では可能な限り○○は蓮子とメリーへの苛立ちをぶつけていた。



「……メリー。明日は土曜日よね、土曜に予定は?」
あわあわ言いながら○○を見送ってしまったメリーとは対照的に、蓮子は何かを思い描いていた。蓮子が強いのは数字だけではないようだ。
「無い、けれども……」
「世間なんてクソ食らえだけれども、利用は出来るのよね……私もメリーも、美人と言う立場を使うのは何か癪だけれども」
ぶつぶつ言う蓮子に、メリーはまだよく把握できていなかった。

「蓮子?」
「メリー、土日は○○の社会的立場のために家で傷を癒しましょう」


766 : ○○ :2019/02/03(日) 04:31:33 vfueLxa6
何かが、重量物が倒れ込む音が、ひとまとめにしていた荷物を枕代わりにしていた○○の耳に飛び込んだ。
まともな枕でない上に飛び出してすぐだから、普段の睡眠時以上に鋭く聞こえた。
「何だよ、喧嘩か?俺のせいで?」
ドッタンバッタンと、音は絶えることが無かった。
さながら乱闘の音である。


○○は更にいきり立ちながら、先ほど飛び出した寝室に向かった。
「何だよ!今度は勝った方が正妻にでもなるつもりか!?」



「まさか、私は蓮子も○○も。両方愛しているのよ。この大喧嘩は演技よ、安心して」
飛び込んだ○○と違って、メリーは冷静であった。
ただし、鼻から血を止めどなく流していなければ。凛々しい姿で済ませることが出来たのだけれども。
「……メリー?」
「良かった、まだ私の事をマエリベリーではなくて、愛称のメリーで呼んでくれて」
笑顔と流血を一ヶ所にまとめるのは、矛盾の塊であった。


「正直、こんな手は使いたくなかった。でも○○を留めるのにこれ以上に即効性のある方法がないの、ごめんね」
蓮子は呼吸も荒くなりながらも、それでも必死で○○の為に言葉を紡いでいた。
恋人への美しい献身であるが、しかしその献身にこそ○○はゾッとした。
「メリー、加減しろとは言わないけれども。急所はもう少し外してよ」
そう言う蓮子の衣服は、ズタズタのビリビリに引き裂かれており。
裂かれた服の隙間からは、蓮子の柔肌よりも赤い痕や引っ掻き傷の方が鮮烈であった。
よく見れば、メリーの衣服も。片方の袖が根本から破かれていた。
ノースリーブと言うには、かなり厳しい見た目であった。



こいつら、もう片方を倒して世間の理論に近づけようとしたのかと○○は考えたが。
「ねぇ、○○。この状態の私やメリーが、泣きながら外に飛び出して。『襲われました、助けてください』って言ったらどうなるかしら」
蓮子の描いていた絵図は、○○の予想を遥かに上回る凶悪な物であった。
思わず○○は、メリーも蓮子も、どちらも部屋から出ていかぬように。出入り口にて仁王立ちを見せた。



「大丈夫よ、○○。それは最終手段の中でも、一番最後に……取らざるを得ない展開だから」
蓮子はそう言いながら座り直そうとするが、筋を違えたのか座るだけでも顔を苦悶に歪めた。
「でも世間は信じないでしょうね。そもそもこの部屋は、メリーの持ち物で。そこに女友達と一緒にならまだ、世間も問題にしないけれども……」



「これ以上悲しい話はしないで」
そのあとの○○は、記憶が無かった。
警官が目の前に来る夢を見て飛び起きたら、時刻はもう昼前であった。
土曜日に授業は入れてなかったので、眠らせてくれたのだろう。
「どこまでが夢だ」○○は事態を否定したがったが。
「捕まる以外は事実よ」メリーが無情にも現実を突きつける。


767 : ○○ :2019/02/03(日) 04:32:20 vfueLxa6
メリーはにこやかであったが、鼻っ柱が赤く腫れており。
今日は破れたのではなくて、確かにノースリーブを着ていたが。
両の腕は鼻っ柱以上に生々しい、引っ掻き傷や赤い所か赤黒いアザまで見えた。
「大丈夫よ、蓮子が手加減してくれたから。腕のアザは長袖で隠せるし、鼻の赤みも、朝よりも良くなってるから月曜には消えるわ」
全て事実なのである。蓮子とメリーに脅された事は、現実にあったのである。
そのあとに見えた警官だけが、夢なだけで。その気になれば蓮子とメリーはあれを実現できる。

「さぁ、お昼にしましょう。蓮子も待ってるから」
呆然して周りの判別が付かなくなった○○を、メリーは優しく起き上がらせて。
その上、着替えまで手伝ってくれた。
肌は多少なりとも触れるが、メリーは気にしない所かそれを望んでいた。


夢遊病のようになりながら、メリーに手を引かれて食卓に座った。
横には蓮子がいた、その笑顔はいつもよりも強めであったが。
計算高い蓮子の笑顔こそ、○○には恐怖であった。
そして皮肉にも、その恐ろしい笑顔が○○の意識を呼び覚ました。
「やっと頭が冴えてきたのね」
そして蓮子もメリーと同じくノースリーブ。メリーと同じく、腕にはアザがあった。
生まれつきの色味ではなくて、暴行によって着くアザがである!!


蓮子はそのまま強めの笑顔を携えたままで、ノースリーブの隙間からワキの向こう側。
ブラジャーに阻まれて見えないが、胸元にもアザが!
胸元に至っては、赤黒いを通り越して紫じみた黒さであった!!



「クスン、クスン……アイツが私を殴ってきて……メリーに襲いかかって……メリーが逃げてって言うから、私は逃げたけれども、人を呼ばないとってすぐに……」
○○が自身の感情を全て整理する前に、蓮子はわざとらしく泣き真似をしながら、○○の方をチラチラ見ていたが。
これによって○○は、自身の感情が原因で致命的な発作を起こした。
「ああああ!!?」
○○はイスを転がしながら、トイレに駆け込んで。
「オエエエエア!!」
そのまま、不快な音を便器の中に垂れ流した。


「蓮子……意地悪しすぎよ」
「ご、ごめんねメリー……」
「私よりも○○に謝らないと。○○、たぶん夢の中で警官に捕まったから」
「ゾッとする想像ね……」
そもそも蓮子がそんな状況の一歩手前まで追い込んだのに。
蓮子は深く心を痛めた表情を浮かべながら、○○の下に駆け寄った。


768 : ○○ :2019/02/03(日) 05:14:23 vfueLxa6
>>752
幻想が現実を侵食していっているような感覚……
この様子だと小明地姉妹以外にも現実で活動してそう


769 : 八意永琳(狂言)誘拐事件6 :2019/02/04(月) 14:28:47 xxNHhgkM
>>740の続きとなります

「残念でしたね」
慧音の旦那である彼も大概の苛立ちを抱えているが、東風谷早苗の方がもっと苛立っている言うのは。
ちょっとは行儀よくしてくれと言う意味で、彼も更に苛立った。
「はい?」
○○は愛犬のトビーをあやしながらだから、本気の声は出さなかったが。その笑顔が完全にわざとらしい物であった。

書生君だけが知らない狂言事件に、書生君だけはこの誘拐事件を真実だと思っているから。
せめてもの真実味を持たせるために、少しは捜査を。鼻が良いとして評判の名犬まで借り出して演じようとしている上に。
遊郭街の暗部が見えてしまった以上、一線の向こう側にいる女性を妻としている○○には。演じるだけでそれ以上はやめろと言われてしまい。
せっかく、どう考えてもそちらの方が本命で本丸に挑める遊郭への調査を。最初から禁じられてしまっている。
それだけでも踊る事にさしたる恥を持っていない○○は、退屈を通り越して苛立ちを抱えているのに。

「だから、残念でしたねと言っているのですよ。クレオソートに義足を突っ込んだ犯人もいなければ、未知の毒物を吹き矢で射かけられた被害者もいないのですから」
「……ええ、全くですよ。登れそうな雨どいもありませんし」
その上、もう何個めかの上乗せか分からなくなってしまったが。その上で、東風谷早苗は○○に対して挑発のような態度を取っているのだから。
その割に、○○はなおも笑顔で東風谷早苗は悲しいような、憤るような。○○の笑顔もわからないが、東風谷早苗からも妙に心配してくれているような態度と言うのも。
はっきり言って、どちらも分からなかった。

「クレオソートって何だ?」
多分このまま、慧音の旦那が何も言わなければ5分でも10分でもにらめっこのような状態を維持していそうな。
そういう意地っ張りな部分が、寺子屋の子供たちで見るよりも酷いそれが見えてしまったから。
つくづく嫌々ではあるけれども、慧音の旦那は声を掛けざるを得なかった。
「石炭を高圧蒸留した後に出てくる液体ですよ。木材への防腐剤なんかに使われていますね」
最近は地底や河童からそう言った、特殊技術が必要な物品も入り込んでいるし。慧音も科学の知識が必要だとしてそう言う授業も増やしているので。
思ったより簡単に理解できたが……

若干ではあるけれども、つまらなさそうな顔をしている○○。これが全く持って理解できなかったが。
「行こう○○。阿求さんと慧音が良さげな着地点を見つけるまで時間を稼ぐぞ。鼻の良い名犬トビーが動き回れば……まぁ、何とか持つさ」
慧音の旦那からせっつかれる形で、○○は立ち上がってくれたが。
「これ持って、それからトビーのエサも少し持ってた方が良いかな」
○○は東風谷早苗からの次の一手を待っている形であった。友人である慧音の旦那に犬をつないでいる紐とエサを渡して。
そして、腰に手を当てて早苗の方を見やった。早苗が少しばかりため息をついて、仕方なく口を出してくれた。
「喋りたければどうぞ。私もシャーロキアンですから、今の皮肉を言われた側の気持ちもわかりますから」
○○は少しばかり安心したような顔を浮かべた。
「四つの署名(※)」
「ええ、シャーロキアンを自称している方がクレオソートと義足の単語達に反応しなかったら。ちょっと驚きですからね。そう言う意味では安心しました」
「俺も、外の知識で話が出来るなんて楽しいですよ」


770 : 八意永琳(狂言)誘拐事件6 :2019/02/04(月) 14:29:43 xxNHhgkM
○○はようやく満足したのか、早苗に背を向けて歩き出した。
「じゃあ私は、ちょっと稗田さん所に顔を出してから、守矢神社に一旦戻ります」
ようやく話が切りあがったのを確認できた早苗は、すいーっと言う風に飛び上がって。
その姿はあっという間に、見えなくなってしまった。
「うらやましいなぁ……」
○○は飛んでいく早苗を見ながらぼやいたが、慧音の旦那は○○が犬を結わえている紐を受け取ってくれなくて若干機嫌が悪くなった。

しかしながら、この場で最もかわいそうなのは。
先ほどから声を一言も上げる事が出来ていない鈴仙とてゐであろう。
鈴仙とてゐからすれば、永琳の焦りや輝夜ですら手綱を制御できなくなったこの狂言誘拐事件に巻き込んでいると言う。
そう言う強力な負い目がある物だから、○○やその友人である慧音の旦那や。
また、真意は謎であるけれども。わざわざ遠くからやってきて、何だかんだで協力してくれている東風谷早苗。
これら全部に、意見を言う権利が無いのではと思ってしまい。結果として、黙って付いて行く以外の道が無いのである。


「○○さん!!先生さん!!」
その上あの、八意永琳が惚れているあの書生君ったら。大人しくしていろと言っているのに、永遠亭から飛び出しやがった。
「もちろん皆さんの傍は離れません!だから私も連れて行ってください!!」
○○は笑顔で書生君と握手していたが、慧音の旦那は犬をつないでいる紐を強く握りしめながら。
面倒くささにキレないように耐えていた。

「派手だな」
慧音の旦那は、竹林のある場所で巻き散らかされている。さも運搬中のような薬やら何やらを見て、ただ一言だけ呟いた。
「ええ、そうですね。派手に……やりましたねぇ」
○○も余りにも派手派手しい、要するに演出過多の現状を見て。苦笑を浮かべては書生君に怪しまれると思ったからだろう。
○○の方は唇を引き締めて、さもこの場を重大であると言う風に見ている自分を作っていたが。
慧音の旦那の方は、そう言う小細工を使う必要が無かった。
何せ初めから狂言誘拐だと分かっている、要するに茶番へ付き合わされている事で腹が立ち胃がムカムカ。
そして頭脳は沸騰寸前なのだから、さして演じる必要が無いのである。
今の慧音の旦那は、人の良すぎる書生君の目から見れば。
「ありがとうございます、永遠亭の為にそこまで真剣に取り組んでくれて……」2人ともが、特に慧音の旦那は怒りと憤りに満ちている風に見えているのだ。
いや、それもある意味では正しいのだろうけれども。


「よほど転げまわったんだね……賊の足跡も八意先生の足跡も。全部消えている」
○○は下手に黙っていると、そちらの方が却っておかしな姿を見せて怪しまれると思ったのだろう。
喋り出して、演技を始めたが。黙り続けたい慧音の旦那からすれば、そちらの方が願ったりであった。
役割分担が出来ていると言う事であるから。


771 : 八意永琳(狂言)誘拐事件6 :2019/02/04(月) 14:30:55 xxNHhgkM
「八意先生の持ち物は残っているかな?薬の特徴的な匂いと合わせれば、あるいは」
とは言うけれども、○○も慧音の旦那も期待はしていなかった。
慧音の旦那は付いてきた鈴仙とてゐの方を見たが、鈴仙はしきりに書生君から見えない所から頭を下げて謝罪の意思を示して。
てゐはこちら側にやってきて。
「姫様だけ」
と言う短い言葉を残してくれたが、意味は十分に通じた。
要するに、八意永琳の居所は蓬莱山輝夜しか分からないという事である。
「トビー、辺りを嗅ぎまわっておくれ。俺はもう少し何か無いか広く調べてみるよ。それから書生君からの聞き取りも頼むよ」
そう言いながら、○○はガサガサと竹林の奥へ入って行った。

またかよ……そう思いながらも慧音の旦那は殊勝にも筆記具と帳面を取り出した。
「もちろん!何でも聞いてください!!」
口の端が笑みのような形を見せたが、これは笑みと言うよりは痙攣(けいれん)と言った方が正しかった。
人が良すぎると言うのも実は案外迷惑なんじゃとすら思ってくる。
「ねー?人里以外にもお薬って配達に行ってるの?書生君も付いて行くの?」
竹林の少し中から、○○がいきなり声を入り込ませた、横から割るように聞いてきた。俺に任せるのじゃなかったのかよ。
「人間のいるところは、毎回ではありませんが一人で行くことはそれなりに有りましたよ!人里とか」
「そう、人間のいるところなら一人で行ってたんだ」
このやり取りは、耳に入っていたが頭にはまるで留め置かなかった。
考えていた事と言えば、後で永遠亭からたっぷり給金を頂いてやると心に決めていたという事ぐらいであろう。
どうせ1日では終わりそうもない。


「そう、そう……いつもは何時ごろに八意先生は帰るのかな?」
さすがに慧音の旦那も、歩き回りながらだから不意に書生君から帳面の中身を見られても良いように。多少はまじめにかき込んでいたが。
はっきり言って、書生君からの言葉は右から入って帳面にかき込んだら、即座に左から排出していた。
○○の愛犬で、鼻の良い名犬も。こんな狂言や茶番に付き合わされて、さざ哀れだろうとも思ったが。
やはりそうは言っても犬だからなのからか、いつもとは違う場所に来れた事の方が嬉しいようで。
辺りを嗅ぎまわってこそいるが、それは捜査の為なのでは無くて純粋な興味でしかなかった。
まぁしかし、しきりに嗅ぎまわる姿は。書生君の眼には必死の捜索と言う風に映っているから、放っておくことにした。
実際、因幡てゐも若干と言うより最初から呆れて力が出ないのか。○○の愛犬の頭をなでたりして、ちょいちょい気を抜いている姿が見受けられるが。
そこは、抜け目が無いと言う奴なのだろう。少なくとも書生君にさえ見られなかったら良いのだ。
真面目な鈴仙はやや小突くけれども、こちらもため息の方が強いので。あまり真剣では無かった。
とにかく慧音の旦那からすれば。見えない範囲にさえ、○○の愛犬が飛び出しさえしなければそれで良かった。
けれども、そろそろタスキを○○に持ってもらいたいと言うのも事実。
今度は自分も、竹林の中に入って操作の真似事で時間を潰したかった。


772 : 八意永琳(狂言)誘拐事件6 :2019/02/04(月) 14:31:49 xxNHhgkM
「○○!?何か見つかったか!?」
殆ど真面目に書いていない帳面を閉じたら、真面目でない証拠が書生君から見えなくなったら力が若干抜けて。
思ったよりも大きく声を出すことが出来たし。立っているのに、何だか楽な体勢になったような安堵感があった。
やはりこんな面倒くさい仕事のせいで、力が過剰に全身を駆け巡っていたらしい。

「おーい、○○!?」
しかし、2度目の呼びかけにも返事が無いのは。身の安全とは違う意味で、嫌な予感がした。
書生君の場合は種々の不安感だけれども、慧音の旦那の場合は謀られたかもしれないと言うただ1点のみの不安であった。
たまらず鈴仙が竹林の少し奥へ入っていくと「あー……あー…………何か見つけたみたいですよ」
○○がそう簡単にくたばるとは思えないし、妻である稗田阿求の事を愛しているようだから危険に自ら足は踏み入れないだろうとは思っていても。
こう、予告なしに何かをやられると腹が立つ。
「置いて行かれた」
「○○さんは何か見つけられたのですか?それで、急に?」
可愛そうだけれども、今の慧音の旦那に書生君の質問や疑問に答える元気は無かった。


鈴仙がおずおずと竹林から出て来て、1枚の書き置きを渡してくれた。
「これが、竹にくくりつけてありました」

置手紙の内容は『当てを見つけたから人のいるところに行ってくる』これのみであった。
ちくしょうが!!





「間に合った……」
○○は自転車を手近な木の幹に建てかけながら、守矢神社行のロープウェー周辺の空気を読み取って安堵した。
もしも東風谷早苗が、輝夜から稗田邸に渡された細見の閲覧や調査が終わっていたならば、すぐにこちらに。
守矢神社に戻ってくるはずだからだ。
そして現人神である東風谷早苗が戻ってきたならば……
「今ならベビーカステラ、同じ値段で3個おまけしちゃうよー!」
的屋達も、さすがに少しは荘厳な空気を作っているからである。
「時間が無かったから、伊達眼鏡と帽子だけだが……まぁ、書生君に細見を渡すという事は。顔すら知らないらしいから、どうにかなるかな」
蓬莱山輝夜からは立場を考えろと言われてしまったが。しかしながら事件調査と言うのは、○○からすれば。
もはや稗田阿求から許された数少ない娯楽であるどころか、○○にとっては最後の一線なのだ。
東風谷早苗から、ごっこ遊びだと批判されようとも。同じ外から来た身分とは言え、東風谷早苗のように現人神では無い○○は。
こうやって、踊り狂って己を慰めるしかないのである。
阿求からの究極のわがままが来るまでは、○○は好き勝手に踊ってやると決めているのだ。
幸いなことに阿求もそれを認めてくれている。究極のわがままを聞くと言う条件の下で。


773 : 八意永琳(狂言)誘拐事件6 :2019/02/04(月) 14:32:53 xxNHhgkM
「やぁ、似顔絵屋」
そのまま○○は、ロープウェイで神社には向かわず。ある人物の所に歩を進めた。
その人物は、帽子を伊達眼鏡をかけている○○を見てしばらく目をぱちくりさせていたが。
「あっ、きゅ、九代目様の夫様…………!!」
すぐに気付いてくれた。
「最近、いかがわしい奴はいない?ちょっと調べているんだ」
「……今日はまだ」
どうやら当たりを引いたようであった。
「そう、じゃあちょっと付き合って」
そう言いながら○○は、似顔絵屋に給金を渡そうとしたが。
「いえ、いえ……」
阿求が怖いのか、素直に受け取ってくれなかった。少しばかり悲しくなった。
「じゃあ、調査内容がうまくいったら。成功報酬はもらってくれよ」
「それでしたならば……まだ」


その後の○○の会話は、若干際どかった。
屋台で買った甘酒を飲み歩きながら。
「なぁ、現人神様に。東風谷早苗のお顔を直に見たことあるか?」
「い、いんや?遠くからや新聞でならあるけれども」
「とんでもない別嬪らしいなぁ……しかしまぁ、こんなふもとで甘酒飲んで管を巻いている俺らじゃ、金積んでもお言葉さえ聞けないだろうなぁ!」
そこまで下品では無いが、そこはかとなく女好きの部分を香らすような会話を。
○○は意識的に、行っていた。
「○○様、後ろです……」
その甲斐はあったようだ。似顔絵屋が指摘した通り、みょうに鼻につく男が近づいてきて。
その男の脇には、雑誌類の束が握られていた。
「慧音先生の旦那さんが、めんどくささにキレそうだから。早く終わらせるか」
なんだよもう釣れたのかと思いつつも、○○は次の段階に移った。


続く


774 : ○○ :2019/02/08(金) 03:13:12 hl9qR5rI
○○「懸賞で遊園地のチケットが三枚当たったんだけどさ」
△△「……うん」
□□「……それで?」
○○「土曜日にでも三人で行かねえ?」

菫子「………………」

△△(君の後ろにいるやべえ殺気飛ばしてくる子にぃぃぃぃぃぃぃぃ!!)
□□(気づいて○○ぅぅぅぅううぅぅぅぅう!!)
○○「どうした?」
△△「いや……なあ?」
□□「俺らは……ちょっと……」
○○「ああ、部活か?それなら仕方ないな。じゃあ……隣のクラスの女子でも誘うか」

菫子「………………………………………………」

△△(死にてえのか○○ぅぅぅぅう!!)
□□(わざわざ宇佐見の前で言うこたねえだろうがああああああああぁぁぁ!!)
○○「お前らほんとどうした?大丈夫か?」
△△「大丈夫じゃないのはお前だよ!!」
□□「ふざけんな!!」
○○「えぇ……?」
△△「宇佐見がいるだろ!?」
□□「ふざけんな!!」
○○「ああ、菫子?こいつ昔から遊園地みたいな人多い所嫌いなんだよ。なあ?」
菫子「行く」
○○「え?あ、そう?じゃあ行くか。あと一人は――」
菫子「二人でいいわ」
○○「そうか?んー、勿体無い気もするけど、それなら仕方ないな」
○○「……と、そうだ。部活のミーティング行かなきゃならないんだった。ちょっと行ってくるわ」
菫子「ん」
△△「お、おう」
□□「いってらー」
菫子「…………」
△△「…………」
□□「…………」
菫子「一応、ありがとうと言うべきかしらね?」
△△「い、いえ!」
□□「滅相もないです!」
菫子「ふふ、敬語なんて使わなくていいわよ。あなた達は○○の友達だし、良い人達みたいだしね?」
△△「あ、ああ」
□□「わかった」
菫子「けどまあ、私達のことは特に気にしてもらわなくても大丈夫よ」
△△「いや、でも……」
□□「さっきも俺らが言わなきゃ……」
菫子「大丈夫よ。だって――」

菫子「私と○○は『どんな邪魔があっても』絶対に結ばれるもの」ニコッ

△△「っ……!?」ゾッ
□□「っ……!?」ゾッ
菫子「だから、ね。今後とも私達をよろしくね?」
△△「は……」
□□「はい……」
菫子「ふふふ、敬語じゃなくていいって言ってるのに……さて、私もちょっと行ってくるわ」
△△「は、はい」
□□「行ってらっしゃいませ」
△△「……どこに行ったのか……いや、やめとこう」
□□「そうだな、俺達は○○の友達で宇佐見のクラスメイト。それでいい、それだけでいい」


775 : ○○ :2019/02/08(金) 18:11:05 F6Dd0tk2
この菫子ちゃん、意外と女子を味方につけれそう
逆に早苗さんは、色々見えたり分かってることを伝えようとして失敗しそう


776 : ○○ :2019/02/08(金) 20:09:28 3IYFYwd2
コメディとヤンデレの比率がいい塩梅だな
それはそれとしてこういう本人のいない所で画策する話好き


777 : ○○ :2019/02/09(土) 01:00:24 lasUvJ3U
ここ最近会話形式の話を投下してる人って多分同じ人だと思うんだけど、どの話もほんと設定良いし面白いんだよね
けどだからこそ地の文あり+ギャグ部分削除されたバージョンを読んでみたいって思ってしまう


778 : ○○ :2019/02/10(日) 00:11:49 aJmPvWXk
○○「加奈子様は凄い神様なんだぜ。二人のヤンデレが争っていると時に、加奈子様が両手を挙げると途端に
ピタリとヤンデレ共が争いを止めたんだぜ。」
××「いやいや、諏訪子様の方が凄い神様なんだぜ。その二人のヤンデレが停戦している時に諏訪子様が両手
を挙げると途端に、ヤンデレ共がもう一度争い出したんだからな。」



守矢の信徒百人へのアンケート結果
Q、理想の恋人は?
A、早苗さんのように親しみやすく、加奈子様のように大らかでがあり、諏訪子様のように常識がある人

Q、では付き合いたくない恋人は?
A、早苗さんのように常識があり、加奈子様のように親しみやすく、諏訪子様のように大らかな人

これを受けて風祝の一言
「浮気を知った諏訪子様のように常識があり、激怒した諏訪子様のように親しみやすく、ミシャグジ様を操る
諏訪子様のように大らかな存在を、皆様は知らないようですね。」



○○が守矢神社である日おみくじを引いた。
-大吉、何をやっても絶好調です。ラッキーポイントは帽子-
帽子を被っていた○○は、気を良くしてそのまま帰っていった。

次の日にまた○○が守矢神社でおみくじを引いた。
-吉、信仰心が今後の鍵となります。ラッキーポイントは神様-
○○は露骨なマッチポンプに苦笑して、わざと博麗神社に賽銭を入れて帰っていった。

また次の日に○○が守矢神社でおみくじを引いた。その日はいつもの緑色の巫女ではなく、小さな子供が代わ
りに社務所に座っていた。
-凶、祟り神のミシャグジがあなたを付け狙うでしょう。でも大丈夫、ラッキーポイントの蛙を見つけること
ができれば…-
とても悪い内容にがっかりした○○は、おみくじを境内の木に結びつけようとして、ふと気が付いてしまった。
「どうして祟り神のミシャグジ様が、呼び捨てで書かれていたのだろうか」ということに。



守矢神社に住んでいる外来人が、ある日幻想郷に飽きて外界に帰りたいと言い出した。この一大事に守矢神社
の総力を挙げて問題に取り組んだ。加奈子様が戦神としての威厳を妖怪の山中に見せつけ、諏訪子様が心地よ
い家庭を作り早苗が昼夜献身的に尽くすことで、一ヶ月後無事に外来人を守矢神社に引き留めることができた。

一方、霊夢は監禁した。


779 : ○○ :2019/02/10(日) 00:18:07 aJmPvWXk
>>767
一人なら狂言でも、二人ならば立派な証言になってしまうのは、○○にとってとても不利ですね

>>773
ここから遊郭の闇に入り込んでいくのでしょうか。大きく動きそうな気がしました。
乙でした。

>>774
これは周囲が既に悟ってしまっているような…。


780 : ○○ :2019/02/10(日) 01:36:42 q6NO4.A.
>>774
男子はともかく女子は即行で情報共有してそう
>>778
諏訪子様やべえなあと思ってたら霊夢のがド直球にやばくて笑う
>>777
設定と内容はいいけど書き方も個性も好きじゃないから僕好みに書いてほしいなチラチラってことか?
それはさすがに引くんだが


781 : ○○ :2019/02/11(月) 19:23:47 NbkGvOFc
◯◯からすれば病んでるし突飛な行動に見えるけど女の子視点では必死に悩んだ末の行動だといいよね……よくない?


782 : ○○ :2019/02/11(月) 22:47:52 G760A1JY
彼は鉈を手に幻想郷を逝く

久しぶりだな……××」
「あぁ○○か……俺の感覚じゃ2年ぶりだが、そっちじゃ10年ぶりといった所か?」

目の前の痩せた烏天狗の青年、××を見下ろす作業着姿の一人の男は懐かし気に彼の名を呼び、呼ばれた烏天狗も久しぶりにであった友の声を懐かしそう聞いていた
男……○○の声は、顔の下半分を覆う青い防毒マスクで聞こえずらかったが烏天狗の××にはそれが自分の友の声だとすぐに分かった。

「10年も経っていないよ……俺の感覚じゃ7年ぶりに君を顔を見たよ。もっとも幻想郷じゃ時間の流れはアテにならんからな」
「そうだな……俺が空を飛べたのは3ヵ月前が最後で、それ以降この部屋に監禁されぱなっしだよ」

××は背中の衣服を突き破って生えた黒い烏の羽を忌々し気に見た。その翼は部屋に彼を部屋に縛り付けるように錆が浮かんだ金具と鎖で根元が拘束され、彼の手足にも重たげな枷が取り付けられていた

「あのパパラッチは……君を自由に空を飛ばせてくれないのか、君を無理やり烏天狗に変えたというのに」
「烏天狗にされたばかりの時は、文の監視下でなら自由に飛ばせてくれたけど……三か月前に元同類の女性を逃がすのに手を貸して以来……この様さ」

××は乾いた笑みを浮かべて、右腕を揺らすと右手の枷の鎖の金属音が小さく部屋中に響いた
○○はそれを防毒マスクで表情を隠しているが、その目は彼の惨状を嘆いていると××にも分かるように彼を見ていた

「お前は前からお人よしだからな…自分の立場も少しは考えて動けよ」
「はは……うまくやったつもりだったけどね、女のカンは恐ろしいよ。というかその防毒マスクはなんだ、仕事帰りか?」
「ちょっとしたおしゃれだ……似合っているだろう?」

二人は久しぶりのお互いの声を聞けてうれしかったのか、××は大きく笑い声をあげ、○○も防毒マスクでは隠しきれないほどの笑みを浮かべていた
ほんの数分ほどの雑談を交わした後、××は鋭い目つきで小さく切り出した

「雑談はここまでにして、本題に入ろうか……○○」
「なんだ?」
「ここ一週間で幻想郷で夫殺しが三件も続いている……お前の仕業か?」

××の疑問に○○の顔から笑みが消え、顔のマスクに完全に隠れた。少しの沈黙ののちに彼は口を開いた


783 : ○○ :2019/02/11(月) 22:49:11 G760A1JY
「どうして、それを知っている? 文に監禁されていると言っていたじゃないか?」
「アイツが自分が作った新聞を持ってくるのさ……それであいつらが殺されたのを知ったのさ」

××はそういうと少し黙った後に、小さく呟いた

「なぜ殺した……被害者の一人の□□は俺達の親友だったはずだろう」
「親友だから俺が殺したんだよ……なぁ、××」

○○は静かにかつ、確信を持って質問を××にぶつけた

「お前は死だけが真の意味で自由を得られるとしたら、死を選んで自由を取るか」
「それは……」

ふと××は○○の右手に出会った直後にはなかったそれを握られている事に気づいた
厚みのある黒光りする長い鉈を○○は体の一部のようにしっかりと握りしめ、さらに言葉を続けた

「××……上部だけの言葉は要らない……君の本心を教えてくれ」
「……このままだと飼い殺し同然に数百年も生きるというのは実質死んでいるのと同じだな……もう楽になりたいよ」

そう言って、××は黙って頭を下げた……まるで自らの首を捧げるように。
そして、○○はそれを見るとすぐに右手の長鉈を両手で持ち直し、振り上げた。

「××……すべてが終わったら俺も後を追う、先に逝け」

そう呟き、両手に構えた長鉈を××の首に向かって振り下ろすと嫌悪感を感じさせる手ごたえが彼に伝わり、重い物が床に落ちた音が監禁部屋に響い


784 : ○○ :2019/02/11(月) 22:50:40 G760A1JY
>>783はミスです

「どうして、それを知っている? 文に監禁されていると言っていたじゃないか?」
「アイツが自分が作った新聞を持ってくるのさ……それであいつらが殺されたのを知ったのさ」

××はそういうと少し黙った後に、小さく呟いた

「なぜ殺した……被害者の一人の□□は俺達の親友だったはずだろう」
「親友だから俺が殺したんだよ……なぁ、××」

○○は静かにかつ、確信を持って質問を××にぶつけた

「お前は死だけが真の意味で自由を得られるとしたら、死を選んで自由を取るか」
「それは……」

ふと××は○○の右手に出会った直後にはなかったそれを握られている事に気づいた
厚みのある黒光りする長い鉈を○○は体の一部のようにしっかりと握りしめ、さらに言葉を続けた

「××……上部だけの言葉は要らない……君の本心を教えてくれ」
「……このままだと飼い殺し同然に数百年も生きるというのは実質死んでいるのと同じだな……もう楽になりたいよ」

そう言って、××は黙って頭を下げた……まるで自らの首を捧げるように。
そして、○○はそれを見るとすぐに右手の長鉈を両手で持ち直し、振り上げた。

「××……すべてが終わったら俺も後を追う、先に逝け」

そう呟き、両手に構えた長鉈を××の首に向かって振り下ろすと嫌悪感を感じさせる手ごたえが彼に伝わり、重い物が床に落ちた音が監禁部屋に響いた


785 : ○○ :2019/02/11(月) 22:51:27 G760A1JY
全身に××の血が濡れた服から隠していた別の作業着に着替えると俺は、足早に山の中を走っていた……介錯に漬かった長鉈を担ぎながら、人だった頃では考えられない速さで妖怪の山を下る
この長鉈も本来なら捨てるべきだが、これは俺の役割を忘れないように俺があえて捨てず、友人達の介錯に使い続けたのだ

これだけの速さで走りながら息一つ乱れないのは、忌々しいがこの状況では助かる
幻想郷での夫殺し……否、幻想に囚われた友人達の介錯はまだ始まったばかり、ここで捕まる訳にいかない

「私の××をよくも、絶対に逃がしませんよ!!!!!!」

遠くで、××を幻想郷にしばりつけたあのパパラッチの悲鳴と怨嗟の声が聞こえてくる。思ったよりもばれるのが早かった……マスクで顔を隠したから、俺だとバレていないはずだが五感は人間のソレよりも鋭いのだろう
このままだと俺が殺されてしまう、急いで彼女と合流しないといけない
そう考えた時、目の前に例の人物……脇を露出させた巫女服を着た少女、博麗霊夢が立っていた
俺はそれを見てホッとした……助かったと思い、自然と足が止まった
それを見た霊夢がこうなる事を分かっていたように口を開いた

「○○終わったようね……嫌な予感がしたから迎いに来たけど、案の定……バレたのね」
「スマン、思ったよりも早く死体が見つかってしまった……天狗の足止めを頼めるか?」
「もちろんよ……妖怪となった大罪を犯したあなたを殺すのは私の役割。あんなパパラッチ天狗に殺させはしないわよ」

そう言って、霊夢は文の叫び声が聞こえた方へ飛んでいく……俺はただ黙って再び山の麓を目指して走り出した
俺はまだ死ねない……友人達全員を介錯する時までは、俺の後悔をすべて断ち切る日が来るまでは絶対に死ぬ訳に


786 : ○○ :2019/02/11(月) 23:06:59 G760A1JY
投下以上です
以下はSSについての簡単な補足です

○○と××について
彼らは親友あり、同じ友人の△△と同じ時期に幻想入りしました
しかし、○○だけがすぐに外の世界に帰り、××は数日だけの滞在を選びました
だが××と△△は、幻想郷の少女達に魅入られて強制婿入り、妖怪化してしまう

一方の○○も外の世界に帰るも何の因果か、また友人や知り合いと幻想入りを繰り返し
彼だけが帰って、同行者達がヤンデレ少女に魅入られるというある種のループにハマってしまう

オマケに結界の影響で、時系列もバラバラに幻想入りしてしまう

こうした事が積み重なり、○○の中で後悔が蓄積した結果、妖怪となり、完全に幻想入りする


○○と霊夢の関係
基本的には、ヤンデレのそれだが束縛をする事はせずに○○を外の世界に帰還させる
○○が妖怪化後、霊夢が○○を退治することを条件に○○の介錯に協力する


787 : ○○ :2019/02/11(月) 23:10:26 G760A1JY
>>785
一部誤植がありました

誤:俺はまだ死ねない……友人達全員を介錯する時までは、俺の後悔をすべて断ち切る日が来るまでは絶対に死ぬ訳に

正:俺はまだ死ねない……友人達全員を介錯する時までは、俺の後悔をすべて断ち切る日が来るまでは絶対に死ぬ訳にはいかない


788 : ○○ :2019/02/14(木) 23:30:00 xNOtSTXU
霊夢の殺し愛みたいな感情…うまく言えないけどすき

ご報告:ドレミーさんついに夢に出現。すごくねっとりした口調だったけど目がちょっと濁っててこのスレ向きだった


789 : ○○ :2019/02/16(土) 01:28:45 ZcVadCns
>>788
お達者でな…


790 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:27:35 DVAEgn7g
>>773の続きです

「あの書生君、細見をこんなに……?春画もそこそこありますね」
稗田邸で永遠亭から渡されたと言う細見を閲覧している早苗は、その量の多さに若干どころではない不安を覚えた。
状況を少しずつ紐解けば、何らかの勢力が裏側で暗躍しているのは、もはや自明の理であるからだ。
「これは一体、何週間分だ……そんなに前から?」
また、そう言う知性や知識が無いとしてもだ。
遊郭の最大派閥の長が、このようにして息遣いも苦しそうにしながら、顔を青ざめていれば。嫌でも裏側の謀の存在を認識せねばならないはずである。
「まさか、あの書生君の事を知らない存在が遊郭の……統制する側にいたとは」
早苗は何の気なしに呟いたが。
「今回捕まえることが出来るのは末端でしょう。どこまで迫れるかは、怪しいものです」
阿求は重々しい呟きであり、慧音は唸り声を上げた。
あの理知的な慧音が、言葉すらあげれないほどに思考がメチャクチャになっているのである。
そして、一番の懸案は……長い目で見れば。


「まことに……まことに…………遊郭街のいざこざに……心をかき乱させてしまい……」
青ざめた顔と苦しい息で謝罪の言葉を述べ続ける、この忘八。
しかもただの忘八ではない、遊郭街における、最大派閥の長。
言うなれば、忘八達のお頭。彼が苦境を脱する為に何をやるだろうか。
早苗にとっては、それが怖かった。
何せこの忘八のお頭、泣いていないのだ。
人里における最高権力である稗田家の当主阿求と。
人里における最高戦力、上白沢慧音の両方からにらまれているのにである。
間違いなく何かを考えている、この後の組織再編など、種々の事を。
それが堪らなく怖いのだ。こちらにその火の粉が来なくとも、東風谷早苗は、優しいから。
早苗は隠しつつも、心中では確かにうんざりとしたが。
(隠岐奈様、隠岐奈様、隠岐奈様)
忘八達のお頭が何を考えているか分かれば。
早苗だけではなく、阿求も慧音も目を見張る事になるであろうが。
このお頭、自身の信仰に関しては『まだ』隠していた。


791 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:28:15 DVAEgn7g
「若干……繰り返しにはなりますけれども」
阿求が豆菓子を食べながら口をはさんできた。
この人里で、阿求が言葉をはさんでくると言うのは、明文化こそされていないが傾聴せよという圧力が常に発生する。
そもそもこの席に同席している慧音が、そう言った圧力が存在することを容認している。
とは言え早苗は、人里を拠点とはしていない。阿求、慧音、そして遊郭の代表者である忘八の頭に対して少しずつ目配せするだけで。
またすぐに、細見や春画の中身を改める作業に戻った。
最も、記事の内容にはほとんど興味がない。早苗は、ページの隅を丹念に調べたりして。
早苗の中では何かの、仕分ける際の基準でもあるのか。細見や春画たちを、いくつかの組に分けていた。
目の前に遊郭の代表者がいるから、彼に聞けば良い部分もあるはずなのだが。そうはしなかったのは、阿求と慧音に苛まされる彼に対する、一定の同情がそこには存在したからである。


「貴方の事は、実はそれなりに評価していたのですよ?遊郭何て言う、見た目だけで一皮剥けば醜い世界を、あんなにも統制出来ていましたから」
さて、阿求のこの言葉はどこまでが本心なのだろうか。
早苗はまだ、苛まれるいわれは無いから。客観的に物を見れる立場にいられるために、阿求の事を訝しむ事も、何の苦もなく可能ではあるけれども。
慧音は、そもそも遊郭の存在にすら否定的で……かと言って男性が持つその手の衝動も同時に理解していて強烈な二律背反。


その上、今の慧音には旦那がいる。
種々の者達が表現する、一線の向こう側。その場所に慧音は間違いなく立っている上に、最愛の旦那まで手に入れたのだから。
阿求のような、演技や振りですら。もしくは必要最低限の妥協。
どんな形であれ遊郭の事を容認、あるいは黙認するような態度は甚だ慧音を苛立たせる。
「本当に大丈夫なのですか?嫌ですよ、夜鷹が増えるだなんて。制御が効かないだけでなく知識も低いから、危ないところでも平気で客を取りますからねあの手合いは」
阿求だけでなく、阿求の言葉に影響されるように慧音も若干目線を遠くした。
表情にある獰猛さは雲泥の差であるけれども、考えていることは一緒らしい。
恐らくは、早苗が来る前の話だろう。
遊郭に属さず、春を売っている連中がいたのは話の欠片だけでも理解できる。


792 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:29:02 DVAEgn7g
「実を申しますと」
忘八達のお頭が、きっと損得勘定の末にまだマシな方を見つけたのだろう。
それでも、意を決すると言うよりは諦めの様子であったが。声を出した。
無論、良い話のはずがない。阿求も慧音も、顔が渋くなる。
だからこその諦めなのだろう。
早苗は思わず願ってしまった、この忘八達のお頭が出した結論と言うか、諦めじみた覚悟が。
せめてマシな方向に転ぶことを、切に願った。
はたから見ているだけでも、今の阿求と慧音はうんざりする。渦中にいれば、精神がすりきれそうな思いになるだろう。

「夜鷹がまた増えるのか?」
慧音がようやくまともな言葉を喋ってくれたが、寺子屋で見たり聞いたりするような雰囲気はどこにも無かった。
「それはまだ、ええまだのはずです」
忘八達のお頭も、あわてて打ち消そうとするが。
多分慧音は、この言葉を信じてなどいないだろう。



「遊郭外では、簡単な話でも。遊郭にまつわる事柄を話すのは禁じていますが」
「実際の上では、人の口に戸は立てられませんから……コソコソとは話しているでしょうね」
阿求もそれぐらいは、黙認できるようだ。慧音はどうだか謎だけれども。
「しかし、その口振りですと……隠れなくなったのですか?種々の派閥の方々が」
阿求からの問いかけに、忘八達のお頭は力無げにうなずいた。
「やり手ですからね、貴方は。頼る人間もいますが、同じぐらいに嫌がる者もいるのは自然ですが……なぜここに来て?いきなりですね」
中々に含蓄のある言葉だ。嫌われても構わないとも取れる。



最も阿求ほどの存在なら、多少嫌われようが。その仕事と言うよりも、運命がむしろ阿求を嫌うことを許さないかもしれない。
慧音の場合はもっと分かりやすく、実際の驚異に対する防備が減る。守護者としての慧音は、時に阿求よりも上にたてる。
その場合、慧音の機嫌を損ねた存在は、それが里の者ならば。村八分ですら済まないだろう、村十分だ。
この幻想郷、それも人間の方が。時折、妖怪や神よりも苛烈になる。


793 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:29:43 DVAEgn7g
外敵を、驚異に対する過剰反応ならばまだマシだ。
早苗は思い出す、神奈子様がまずい酒の飲み方をしたとき地の底から吐き出すように出す言葉を。
『信仰や忠誠の証明が最もおかしくなりやすい』
そう言う意味では、慧音は自分以外に向いている火の粉を制御しながら生きねばならないのだろう。神奈子様と同じで。


「ある程度の予想は既に着いています稗田阿求様が申された通り、ここに来てなぜ更に嫌われたのかは」
真相と思わしき部分を告げるとき、口が空回っていた。
忘八達のお頭が、『見た目は』そこまでの年を重ねていない……下手をすれば少女に怯えていた。
お頭なのだから、この男もそれなり以上の年齢。なのにである。
幻想郷だからこそ見られる、おかしな光景であろう。最もそれは、早苗が外の出身だからそう思えるだけなのだが。



「私には、今以上の野望がまるでございません。遊郭の商いをこれ以上に大きくしたくはないのです」

「遊郭街の裏側に、特段切り開かれていない山合の区画があるのはご存じでしょう」
「炭焼き小屋が二つか三つある程度の?」
「はい」
全てを覚えることの出来る阿求がいれば、話の進みは早い。
慧音も言いたいことはきっと山ほどあるのだけれども、早く済ませたいのも事実。
お菓子を腹立ちを紛らわすように口のなかに運び続けていた。
更に部外者の早苗は、夕飯に差し障りがないだろうかと言う、若干ズレた心配を慧音に対して思っていた。



「結論から申し上げます。あの山を、切り開こうと言う勢力が確かにおります。せいぜいが炭焼き小屋二つか三つ、それも個人持ちではなく全て私の遊郭が持っています」
「そのお話は、不幸中の幸いでしょうか?」阿求のこの言葉は本心ではないだろう。
せめてそう思わせてくれるだけの良い話を聞かせろと言う、ほとんど脅しの意味しかない。


794 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:30:20 DVAEgn7g
「つい最近も……釘を刺しました。炭焼き小屋を増やして、あまり立ち入れないようには、今のところは」
忘八達のお頭が一番分かっているはずだ、これは根本的な解決ではないと。
「今のところはな!!」
そして慧音は、根本的な解決が見えないことに。ここに一番腹を立てる。湯飲みを乱暴に置いたので、茶卓が割れたのではと思うような音が響いた。


「まぁまぁ、慧音先生。この方は殊勝なのでまだ、いくらかは助かりましたよ」
「いくらかだと!?」
阿求のいくらかの擁護も、あまり効かなかった。
どうやら阿求は、この忘八達のお頭がやり手で、しかも阿求達には一切の謀を持っていないから。
先程の評価しているという言葉は、それなりに本心なのだろう。
「こいつの話を聞いている限り、その場しのぎの上に発端となった者はまだ放っておいているではないか!!その結果の永琳殿の狂言誘拐だ!!」


「発端となった者は確かに気になりますね、けれども貴方の口ぶりだと、その黒幕も何だかんだで貴方の事を怖がっているご様子。隠れていますね。分かっているなら、炭焼き小屋を増やすだなんて遠回しなやり方は……」
忘八達のお頭が少し、苦しそうに唸った。
図星を突かれたとはこの事だろう。
「お顔をお上げくださいな、お頭さん。最大派閥の長に収まり続けられる事には、それなり以上の経緯を持っていますのよ。私達の懸念や不安にも敏感で……」
ここで阿求は慧音の事を長めに見やった。
「貴方の事は、信じてくださるかどうかはともかく。貴方がお頭でまだ良かったと言うのは、本心ですのよ」
「こいつ以外ではもっと酷くなると?」
「ええ」
阿求は慧音にも釘を刺した。刺して『くれた』訳では無さそうだ。
あくまでも実利と損を考えると、今の形が最上とは言えないものの妥当な線ではあるのだ。
まかり間違っても、忘八達のお頭のために慧音に大人しくしてくれと頼んだわけではない。
「そのままで大丈夫ですよ、お話の続きを。黒幕の予想は?」
だからだ、阿求は忘八達のお頭に頭は下げさせなかった。
そうなったら慧音に傷がつく。あくまでも阿求と慧音だけのやり取りで終わらせるのだ。


795 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:31:16 DVAEgn7g
「……正直な話、よく分からないのが実情です。切り開く話をした者は、格の、ずいぶん落ちる楼でして……頭の方もいささかだなと言うものも多く。だからこそ、それにまずは言わせてみたのでしょうが」
「様子見と言ったところですか」
阿求が若干顔を歪ませた。やはりこの話、深い。
「間違いなく。誰が入れ知恵しているかは謎ですが、私が山を切り開かれないように駒を置いていても、その、話が消える気配が無く」
阿求は残り少なくなったお菓子を数えながら考えたあと、少しだけ笑った。
あまりキレイな笑い方では無いので、忘八達のお頭は嘆くような顔を見せたが。
「私は今すぐでも構わんぞ!」慧音は、実に楽しそうに。
むしろ荒っぽいことを望んでいる風であった。
「まぁ、人里に食い込みそうならお願いしますよ」
阿求がそこまで望んでいないので、早苗は少しホッとした。
あくまでも『まだ』なのだろうけれども。
(隠岐奈様、申し訳ありません。いくらか減るのを、止められそうにありません)
しかしこの場にさとり妖怪がいないのは恐らくは悲劇だ。
忘八達のお頭は、全く違う方向を向いている。


796 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:31:59 DVAEgn7g
「阿求様……九代目様…………」
ふいに、阿求がお茶やお菓子のお代わりを頼んでいないのに。女中が申し訳なさそうに入ってきた。
悪い話に決まっている。
「旦那様の、○○様のご愛用の自転車が消えています」
忘八達のお頭が、今日一番の青ざめた顔を見せたが。
「遊郭に、私の旦那の顔は出回っていますよね?」
「楼の大小問わずに!」
「まぁ、でも。大丈夫ですよ、私は夫を信じていますから、調査が必要だと思ったらすぐにこぎ出す癖は熟知していますよ。それに遊郭の敷地内の話とも思えない」
阿求は湯飲みに残ったお茶を飲み干しながら、早苗を見た。

「ええ、ええ。ほぼ間違いなく守矢神社か、そのふもとですね」
あー、もう……と早苗は頭を抱えながら唸るしかなかった。
○○さんはどうやら、思い立ったら動き出さねば気がすまないようだ。



「先に謝っておくね!」
そのままいくらかの沈黙のあと、幸いにも○○が帰ってきた。
ずいぶんと明るい声なので、調査は上手く行ったのであろう。
それが憎々しいのはまぁ、言うまでもないが。


「阿求、ただいま。それに慧音先生もこんにちは。早苗さん、間に合って良かった。いつ帰ってくるかひやひやで」
「上手くいきましたか?」
阿求が駆け寄った。大邸宅とはいえ、室内での話なのに、駆け寄るという表現がピッタリであった。


797 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/17(日) 05:32:58 DVAEgn7g
「ああ、全部ではないけれども。いくらかは分かった。似顔絵屋と仲良くしていて良かった」
そう言いながら、○○は懐から紙を何枚か出した。
阿求はそれをヒュッと。鮮やかな早業で受け取った。
早苗は似顔絵の主たちに、お悔やみを心の中で唱えてしまった。
○○も察したのか、目線が少しばかり泳いで。早苗のところにたどり着いた。


「おめでとうとだけ言っておきます。クレオソートも義足の男も、未知の毒物を使った毒針もないのにね」
「また四つの署名からの引用ですか、好きですね」
「初めて読んだホームズ物なので、印象深くて」
「私はボヘミアの醜聞です」
やたらと楽しそうな○○の姿に、早苗はこめかみを押さえた。皮肉がほとんど通じていない。
今が楽しすぎてしかたがないのだ。
ただ、それだけならば良いのだ。まだため息だけで済ませられる。


「そちらの方は?」
そう、そう。忘八達のお頭。彼の存在だ。
ふと早苗は、彼の事を『奴』などではなくて彼と表現していることに気付いた。
まぁ、同情心はある。



「遊郭の最大派閥の長さんですよ」
阿求の声が明らかに変化した。そして○○にしなだれかかった、近づくなと言う事は明らかだ。

「……お初にお目にかかります」
忘八達のお頭は、うやうやしく頭を下げながら。名刺らしきものを取り出した。○○は取りに行こうかまよったが。
阿求は始めから予想しており、○○が迷う頃には九代目自ら、名刺を取りに向かい。
○○に手渡すのであれば、まだ良かった。
「ええ、どうも」
阿求は忘八達のお頭の名刺を、手の中で握りつぶした。
「うわ……」早苗は思わず悲鳴とまでは行かなくとも、驚嘆の声を上げたが。
「はははは」慧音は乾いた様子で笑っていた。


798 : ○○ :2019/02/17(日) 15:48:16 E1hIBb6g
なんか段々ヤバイ方向に向かっている
こんな幻想郷にいたら、SAN値が持ちませんよ……
幻想少女の夫達、ドンマイ


799 : ○○ :2019/02/17(日) 17:57:49 RbcSxdOE
あかん書いてるうちにヤンデレisなにってなってループ沼に…


800 : ○○ :2019/02/17(日) 20:37:01 Akyu2Pgc
Q、文々新聞記者が調査しました。ヤンデレには何が一番大切だと思いますか?

A、
レミリア「独占」
咲夜「忠誠」
幽香「支配」
輝夜「永遠」
隠岐奈「洗脳」
諏訪子「復讐」
さとり「恐怖」
霊夢「監禁」

魔理沙「えっ、愛じゃないの…?」
一同「?!!」


801 : ○○ :2019/02/18(月) 10:33:25 ME6XijLI
>>800
これで一番ヤバいのが魔理沙ってパターンかもしれない


802 : ○○ :2019/02/18(月) 14:29:30 3RzeJKCQ
>>797の続きとなります
やっぱり、直接スレに書いた方が感想付きやすいな


名刺を阿求の手によって、しかも目の前で握りつぶされた遊郭の最大派閥の長である彼の事が、○○は若干哀れに思ったが。
「あ、そうだ」
○○は彼の事を哀れに思ったからこそ、話題を一気に変える事に決めた。阿求がまたしなだれかかっているので動けない事もあるけれども。
忘八達のお頭の事が哀れだと思ったからこそ、○○は自分が彼から離れるべきだと考えた。
阿求は自分を離してはくれないだろうし、慧音先生の顔つきも獰猛で普段の理知的な姿が消え失せている。
となれば……彼には若干申し訳ないが。彼をいない物として扱うのが得策であろう。

「早苗さん、細見と春画を手に入れてきたのですが……」
「細見にも春画にも数字の書き込みがありましたよ。1〜5までですよ。○○さんが手に入れてきたのは何番ですか?」
「さすがだ、2番ですよ。でも5という事は、5人いるという事なのかな……手に入れた似顔絵も2人だから」
「ええ、まだ三『枚』もあるという事ですか。厄介ですね」
最悪は、○○の機転で去りつつあるけれども。しかしそう良いともいえないのが苦しくて仕方がない。
阿求は連中の事を明らかに、人扱いしていなかった。
「○○、これいりますか?私は――忌々しいですけれども――すぐに覚えれるのでもう必要ありませんが」
多分触るのも嫌なのだろう、似顔絵をつまみながらヒラヒラとさせていた。
「一応、河童の複写機(コピー機)で何枚か予備は作っておいたけれども」
「ならよかった」
阿求はそれを聞いて嬉しそうにしながら、忘八達のお頭に対してピンッと言う擬音が似合いそうな仕草で、持っていた二枚の似顔絵を投げ渡した。
「はは、は……」○○はもう笑うしかなく。
「あぁ、○○さん。コピーしたのもらえますか?まだいるならしょっ引くんで」早苗はそそくさと帰り支度を始めたが。
「東風谷様」
やはりこの忘八達の頭。さすがは最大派閥の長になれるだけの事はある、もういくらか以上に荒い行動をとる事に対する諦めと言うか、覚悟のような物を携えていた。
「もし捕らえることに成功しましたのならば……亡骸でもよろしいので私に引き取らせていただけませんでしょうか」
早苗は少し以上に嫌な発想をしてしまった。
もしかしたら生け捕りは、却ってこの似顔絵の主たちにとって残酷な結果をもたらすのではないかと。
であるならば……さっくりと閻魔様に引き渡してしまった方が、むしろ苦しまずに済ませてあげる事が出来るのではないか。
結局早苗は、忘八達のお頭からの。『亡骸でも構わないから渡してほしい』と言う願いに対して、はいともいいえとも言えなかったが。
彼らの命に対する、終結の宣告はもはや下されたのと同じであるので。早苗がここで返事をしようがするまいが、変わらないと言うのは実に悲しかった。


803 : ○○ :2019/02/18(月) 14:30:45 3RzeJKCQ
東風谷早苗が稗田邸を後にしてすぐ、忘八達のお頭は。
「失礼いたします。稗田様、○○様、上白沢様」恭しく挨拶を残して行った。
「ええ、後三『枚』分はお願いしますね」
「…………」
阿求は相変わらず似顔絵の連中の事を人間扱いせず、○○も早苗が感じたのと同じく、忘八達のお頭に対しては同情的な視線で見やり続けていたが。
「○○」
多分それが嫌なのだろう、阿求は○○の顎に手をやって、視線を阿求の側に向けさせたと思えば。
そのまま流れるような動きで、阿求は○○に口づけを与えた。
○○としても断る理由は無いし、そもそも断る事による不利益が想像できなかった。
「……私の旦那はまだ竹林か?」
意外な事に慧音はその間中ずっといたが、言葉の内容を聞けば何故立ち去らなかったのかは何となくわかった。
自分の旦那の所に行きたいのだ、確実に。行き違いの可能性を無くしたかったのだ。
「ええ……俺の飼っている犬を押し付けて、守矢まで行ったから。その、会った時に囮にしてすまないとだけ言っといてください」
「分かった……そっちはそっちで、まぁやり方があるからな。私は私のやり方を通させてもらう」
忘八達のお頭は、もう既にいなくなっていた。
それがあるからなのか、慧音の表情や声色が一気に柔らかくなった。
「ごゆっくり」
若干の下世話な洒落も残すし、また阿求からしてもそれに笑えるだけの余裕があった。
○○はその変わり身の早さに、純粋に驚かされてしまった。


願わくば残りの三人が、そこまで苦しまないようにと考えるのみであった。
東風谷早苗が担当したあの2人は、多分そこまで酷くならないはずだ。
結果的に命を落とすとしても……だ。



目の前で5人もの命が沈もうとしているのに、予測できるのに何もできない事に。少しばかり焦燥感に塗れていたが。
「○○は、また竹林に戻るのでしょう?」
「ああ、竹林と言うか永遠亭に戻る。慧音先生の旦那に謝るのは、もうちょい後になりそうだ」
極論を言えば、自分とは違う世界の話なのだ。少しだけ諦める事にした。


「じゃあ、ね。○○」
阿求の表情が、急に赤らんだ物に変わった。しかしそれは自然な成り行きであろう。
論外とも言える忘八達のお頭はいなくなり、早苗も厄介ごとを片付けに行って、慧音も自分の旦那に会いに行ったから。
つまり今の阿求は、最愛の夫である○○と二人っきりなのだ。仮に女中が何か、申し付ける事はありませんかと聞きに近くに来たとしても。
稗田家程の場所で働ける女中が、その程度の場面に慌てるはずが無い。ただただ、黙ってこの場は阿求とその旦那の○○の為に引き下がるだけである。


804 : ○○ :2019/02/18(月) 14:32:33 3RzeJKCQ
「○○の自転車の後ろに乗せてくれないかしら?」
「そのくらい、いくらでもやれるさ」
と、言葉の上では軽く○○は述べるが。自転車の後ろに乗せてくれとお願いするときの阿求の表情は。
○○にだけ見せるであろうその赤らんだ表情は、本当に可愛くて仕方が無かった。
こういう時、お願いするときの表情はもう何度見せられたか分からない。
その上お願いの内容は、はっきり言ってそこまで大それたことでは無い。
しかしながら――あり得ない事なのに――阿求はお願いをするとき、本当に可愛い表情に幾ばくかの。
もしも断られたらどうしようと言う、殊勝で悲壮な雰囲気を見せてくれるのだ。
あの稗田家の当主である、稗田阿求がである!運命づけられた仕事以外では、何だって好きに出来るはずなのに。
たった一人の男、○○に対して、どうか拒否されませんようにと言う美しさすら感じる悲しげな感情を持っているのだ。
それがあるから、○○は、究極のわがままがいずれ待っていると分かっていても。
阿求の事を好きで、むしろ時を経るごとに更に好きになって行っていた。
そして阿求の方も、それは同じであった。




阿求は○○と語らいあい。
慧音は愛しの旦那の下へ駆けている頃。
恐らくは東風谷早苗が、今現在では一番の貧乏くじを引いていたであろう。諦めじみた覚悟を持って、涙1つ流さない忘八達のお頭よりもである。

「と言う次第です、諏訪子様」
早苗は簡潔に、自らの主である神奈子と諏訪子に説明をした。
無論、このまま早苗が『じゃあひっ捕らえてきます』と言いながらふもとに降りても、ちゃんと引っ張って来れるであろう。
ただその後が厄介である。どう考えても、無駄に騒ぎが大きくなる。そう言う事を早苗は全く望んでいなかった。
「そう、か……あの遊郭街はいつか何かの火種になると思っていたが。内部抗争からの飛び火とは、一番厄介だねぇ」
神奈子は盛大な溜息を洩らしながら、供物として与えられた酒瓶の中身を、大きな盃にとくりとくりと注いでいたが。
諏訪子は黙ったままであった。押し黙ったままで、早苗から渡された二枚の似顔絵をじっと見ていた。
「それ、○○さんが用意してくれたんです」
「稗田阿求の夫の?」
早苗が声をかけるまで、本当にピクリとも声を出さなかったのである。
「ええ、そうです。○○さんが、仲よくしている似顔絵屋さんに手伝ってもらって。細見だとか春画だとかの、まぁ、いかがわしい奴を裏で売ってる奴を二人見つけてくれたんです」
「後で稗田家に内々の礼状と品物を用意しないとね、似顔絵屋も少しは良い目見れるようにしとこう……所でこいつらどうなるかな?」
諏訪子が似顔絵の主の今後を聞いた時、早苗は言葉を詰まらせた。
「意地悪するな、諏訪子。分かっているだろう?あの遊郭街の、今のボスが。想像以上に何かに対する忠誠心で狂っている事を」
神奈子が助け船を出してくれたが、それよりも気になる事を彼女が言っていた?
「狂っている、ですか?あの忘八達のお頭が?」
「ああ、狂っている。私や諏訪子は長く現世を見ているからね。嫌でも分かるんだ、何かを求め『過ぎている』よ、奴は」
「どちらにせよ、あの忘八達のお頭さん。今回の事で涙1つ流さずに稗田家への筋を通してくるよ」
「かといってこの業界……精進落としと言う概念があるからなぁ。聖と俗は、案外相容れる物だからなぁ」
「だからと言って、こいつらを放っておく理由にはならないよ。うちの信者が遊郭に通っていても構わないけれども、うちを遊郭の出先機関にはさせないよ」
そう言いながら諏訪子は、二枚の似顔絵を懐にしまいながら立ち上がった。
「おう、お前は男も女もいけるくせによ!」
若干悪酔いしている神奈子が、諏訪子に野次を飛ばすが。早苗は全く、笑う事も諌める事も出来なかった。
ましてや諏訪子を止める事など。
「せめて、手早く終わらせてください。哀れぐらいには思っていますから」
「大丈夫、初めからそのつもり」
そのまま諏訪子は神社から、山を下って行ったが。ほんの10分程度で帰ってきた。
両手に一つずつ、動かなくなった二人の人間を携えながら。


805 : ○○ :2019/02/18(月) 14:33:50 3RzeJKCQ
タイトルを書き忘れた……
八意永琳(狂言)誘拐事件の第8話となります
書くのが好きと言っても、やはり感想は欲しいので。よろしくお願いします


806 : ○○ :2019/02/21(木) 22:21:07 eFtxV3ms
感想としては、ただ一つ……ヤンデレを通り越してホラーの域ですよ
亡八もマタラ様の信者っぽいし‥…着地点が全然見えない


807 : ○○ :2019/02/25(月) 02:05:20 sNdj36W.
久しぶりに着てみたら面白そうな長編が

>>805
今は常識的な判断に努めている早苗でも、この先病んで変わってしまったりするのかな?なんて思ってしまった
盲信的な愛が似合うと思うんだよね……


808 : 八意永琳(狂言)誘拐事件9 :2019/02/25(月) 14:25:39 kz4AZKpY
>>806
>>807
感想ありがとうございます
この話が終わっても、また同じ世界観で続きを書きます
今回は、既視感〜ノブレスまでの、あそこまで暗くしない方向です


>>804の続きとなります


「あぁ、お二方……」
○○が阿求と一緒に部屋を出て行ったとき、女中の1人と出くわした。
○○は知らないが、その女中は阿求に○○愛用の自転車が消えていると。先ほどに伝えて来てくれた、あの女中であったのだ。
「……よかった」
だから、その女中は。本気で安堵のため息を漏らしてしまった。ややもすれば、失礼な態度であるのは言うまでも無いけれども。
忘八達のお頭が青ざめた顔で入って行き、出て行くときは何も無い空間をにらみつけながら出て行ったのは。家中の者ならばもう知れ渡っている。
それだけでなく、慧音先生が苛立ちながら出入りしたり。東風谷早苗が、永遠亭から渡された物を自分も拝見したいなどと言って入り込んできたのだ。
何事か、それも非常に大きな厄介ごとが持ち上がったのは。稗田家程で働ける者達であるならば、論じるまでも無く理解できなければならない事である。
故にこの女中は、そこに来て更に○○の自転車が消えているのを見た時に心配したのである。

稗田阿求の夫の○○に、しかも阿求の方が通俗的な表現を用いれば○○にベタボレしているのは。家中の物でなくとも、もはや人里に住む者すべてが知っておかねばならない事実であるから。
忘八達のお頭の、明らかに苛立ちを超えた怒りを見れば。そもそもそれ以前に、遊郭を統制する側の稗田家に忘八を呼びつける時点でおかしな事になっているのだ。
そのおかしな事の一部に、○○が巻き込まれていないかを。そんな事、稗田家の奉公人でなくとも考える事だ。
現状の稗田阿求の精神的充足感と、阿礼乙女としての義務――と言うより運命――に対する進捗がなかなか上手くいっているのは。
○○がほぼほぼ付きっ切りでいる事による部分が多い。


○○は外からの流れ者?些末である。実利さえあれば、祟り神にすら頭を下げて拝むことが出来る、それぐらいに幻想郷の人間たちはしたたかである。
故に、○○の行方が一時でも分からなくなったとき。稗田家の家中は、まだ確定された事象ではないからと、それに阿求の方がまだ危険視はしていないから。それを信じてはいたが。
そうはいっても、緊張と不安で押しつぶされそうで合ったところを。この女中は、阿求と○○が連れ立って歩いているのを目撃する事が出来たのである。
朗報を見る事が出来たのである。


「あっ……失礼いたしました」
精神が復調したとき、自分が中々以上に失礼な態度を取ってしまった事に気が付いて。慌ててその女中は頭を下げた。しかし阿求は、問題が全くなかった。
「すいません、夫と一緒に少しばかり出掛けてきますわ。場所は永遠亭です。ええと、帰ってくるのは」
「当てが外れてもそんなにはかからないよ、この件『だけ』はもうそれほど時間はかからない。夕飯までには帰れるよ」
東風谷早苗が守矢にこの話を持っていき、忘八達のお頭は自身の保身もあるだろうけれども即座に動いてくれる。
……女中も似たような認識でいるのだろう。阿求が自分の方を余り見ていなくて、若干浮ついていても朗らかに。
と言うよりも偉い人が入れ代わり立ち代わり入ってきた直後では、こういう軽い感情が見えた方が後々の事を楽観視できるのでありがたいくらいであった。

○○も……無残な事になる命が最低でも五つ。早苗が守矢に向かったので。
そう、あと三人分、いや阿求の認識では三『枚』分の情報を手に入れて『処理』。それにさほど時間はかからないだろう。
「そうでしたか、ええ。ええ!お夕食はいつも通りの時間にいつも通りの場所に」
「はい、お願いいたしますね」
「帰りに阿求の好きなお菓子でも買おうか」
しかし○○は、最低でも五つの命が沈んでいくことに気づき、思いを馳せる事が出来るぐらいの感受性は備えているけれども。
冷たい言い方をすれば、かわいそうだとは思うけれども阿求の方を優先して何が悪い。結局のところ、そこに論は行きついてしまうのだ。
事実、帰りしなに菓子屋によると言った時の阿求の顔は。女中にとっては緊張感から解放される特効薬であり。
○○にとっては自分の判断が間違っていない事を示す証明なのである。


809 : 八意永琳(狂言)誘拐事件9 :2019/02/25(月) 14:26:18 kz4AZKpY
「阿求、しっかり捕まってね。もちろんあんまり速度は出さずに、安全運転するけれども」
「永遠亭までなら、思ったよりも長い時間あなたの自転車に乗っていられそうですね」
○○は阿求を乗せて走る事に慣れてはいても、いつも以上におっかなびっくりな運転だけれども。
阿求は阿求で、いつも通り。○○の自転車の後部座席に乗るとなると、こうやって浮かれていた。
「あっ!ご夫妻さん!」
折が良いのか悪いのか、いつも日用品を持ってきてくれる配送屋の男性と。まだ稗田邸を出てもいないのにすれ違う始末であった。
しかもこの配送屋、余りにも良い愛想でこちらに挨拶までしてきた。
恥ずかしいので、会釈ぐらいならばともかく、あまり景気の良い挨拶は今はして欲しくなかったのだが。
「いつも配達ご苦労様です。私達は少し出かけるので荷物はいつも通り、夫妻の部屋に入れておくだけで構わないので」
阿求の方はまた違った趣を楽しんでいるようでむしろ見せつけたいと言う部分が多分に存在しているのであった。
「……その、それじゃあ」
○○も何か一言位は残そうかなとは少し考えたけれども、阿求が回りに見せつけるようにギュッと抱きついてくるものだから。
少々失礼でも、この場を早く切り抜けてしまいたかった。
どうせ走り出してしまえば、そう長々と里の人たちと喋る事は無くなる。
隠そうと言う気は最初からない。考えるだけ無駄な事であるから、もういっそのこと受け入れてしまっている。
あの旦那も、慧音先生とはほぼ毎日。横にたがいを連れ合って歩いている。



「阿求」
自転車が竹林に入って、里の人たちに会釈をしたりする必要が無くなった辺りで。
○○は少しだけ声を落として、真面目な色で阿求に声をかけたが。
「あなた」
阿求からは、返事こそもらえたが若干の咎めるような色であった。
「分かった」
何も聞いていないが、○○はすぐに引っ込めた。
「込み入った話は、永遠亭に付くまでは無しにしてくださいな。あの忘八達のお頭は、あほうではありませんしやり手ですから。極論を言えば、アレに丸投げしても構いません」
「そうも行かないよ、八意先生と書生君の仲を取り持つ役に。思ったより深入りした以上はね」
「もう、また!言ってみればこれは、『さいくりんぐ』しながらの『でーと』なんですから!今日は帰ったら、食後のお菓子を手ずから食べさせてくださいね!」
要するに阿求は、『あーん』してくれと言っているのだ。昨日もやったし、と言うより数える意味が無い程に何度もやってはいるけれども。
「分かった。じゃあ俺の方にも、俺の好きなお菓子を『あーん』して欲しいな」
「あら、あなた。私は言われないでもそれは、やる気で。最初からいましたよ?」
どうも阿求の発想と言うか決定は、○○よりも一歩も二歩も先んじている。
どのみち阿求の決定に従う上に、こういうところも阿求の可愛い所だと○○は認識しているから。
結局のところ、誰も損していないのだ。
もうそれで良いじゃないか、いつの頃からか○○はそう考えて疑問や話をしまいにするようになってしまった。
こと、阿求の笑顔が目の前にあれば。


810 : 八意永琳(狂言)誘拐事件9 :2019/02/25(月) 14:27:11 kz4AZKpY
「さてと」
そのまま○○は、阿求の望み通りに込み入った話は一切抜きにして永遠亭までたどり着いたが。
阿求は、込み入った話は永遠亭についてからにしてくれと言われていたから、もうこの場では多少そう言う話をしても構わないはずなのだけれども。
(おいおいで構わないか)
阿求を、彼女から手を差し出されたからと言うのもあるけれども。彼女の手を握ったら、○○は疑問の解消を先延ばしにした。
阿求も、込み入った話をしようとしない○○を前にしていると。
「ふふふ、じゃあ永遠亭に入りましょうか」自然と笑顔が出てくる。
この自然な笑顔を前にすれば、おいおいで構わないかと言う。先延ばしでしかない、よくない決断も。
阿求の笑顔が前では、大体の事が○○にとっては些末になってしまうのである。




「永遠亭にはまだ、慧音先生もその旦那さんも……と言うより、書生君だけでなく鈴仙さんもてゐさんも付いて行ったようなんですね」
「ふりだけれどもね、書生君以外は」
○○は皮肉な笑みで答えるけれども、阿求はもっと先が見えているらしくそれすら無かった。
「まぁ、しばらくは大丈夫でしょうけれども。そのしばらくでどこまで固められますかね」
阿求の顔が少しばかり怖くなった。
最も、先ほどの阿求が見せたような。忘八達のお頭が差し出してくれた名刺を、確かに初めて会う○○に対して差し出してくれた名刺を。
それを代わりに受け取って懐にしまうだけならばともかく、目の前でくしゃりと握りつぶした、あの時の顔よりはまだ穏やかであるけれども。
「ひとまず妙なのを五つも一気に処理すれば、変な新規開拓は無くなりますから。後は忘八さん達のお頭から定期的に情報を出させて。あぁ、嫌な話」
そう言う割には、阿求の顔には笑みが見えていた。黒々としているけれども。
「まぁ、阿求が楽しければそれでいいよ」
○○は全肯定していた。
「あらやだ、私ったら!」
たまに○○は思う、阿求はもしかして二重人格では無いのかと。阿求が○○の事を若干放っていると分かった瞬間、顔つきが変わる物だから。
しかし二重人格疑惑も、少しだけしか考えない。
頭の良い者と言うのは、二面性を多分に備えていて。複雑な人格を持っている物だと。
いつの間にかそう、阿求に都合の良い思考を回していた。


811 : 八意永琳(狂言)誘拐事件9 :2019/02/25(月) 14:28:01 kz4AZKpY
「輝夜さんはいるかな?いないのか…………」
永遠亭を跳ねている手近なウサギに、輝夜の私室を尋ねたら。思いのほか素直に教えてくれた。
いや、これは都合がいいのだ。鈴仙やてゐならば、裏を読み取ってくるし。書生君だと人が良すぎて面倒くさい。
○○はそんなことはおくびにも出さずに、案内してくれたウサギ、つまりはイナバ達の誰かに丁寧にお礼を言いながら。後でも構わないと言って、分かれようとしたが。
イナバが完全に別方向に行ったことを確認できたら。
「つくづく都合がいい」そう言いながら○○は、輝夜の私室に乗り込んだ。


「ふん、ふん……簡単に開くとすればあそこぐらいしかないな。なに、駄目元だ」
「○○、何か当てでもあるのですか?」
「無いよ、でもこの床の間。盆栽も陶磁器も、掛け軸すらかかっていない。蓬莱山輝夜さん程の、お姫様が?何か美術品の1つもたしなんでいるはずだよ、阿求の部屋にだって蓄音器があるのに」
「言われてみれば○○の言う通りですね、すっきりしすぎている」
阿求からも肯定の意見を貰った○○は、少しばかり満足げな顔で床の間をベタベタと触って。
押したり、引いたり、少しばかりコンコンとやったり、あるいは耳をそばだてたりしていると。
『分かったわよ、入れてあげるから』
輝夜の声が聞こえてきた、しかもその声は床の間の下側から聞こえてきたのであった。


そして、カチリと言う音がしたかと思えば。ギィーと言った音が、床の間の畳部分から鳴って。
なんと、床の間の畳部分が持ち上がって行って。
「よく気づいたわねぇ……私が永琳をどこかに隠しているのはともかく、永遠亭の内部の私の部屋をドンぴしゃで当てるとは」
持ち上がった畳からひょっこりと、輝夜の姿が見えたのであった。

「あらあら〜」
阿求はそう、驚いたような顔をするけれども。好奇心の方が強い笑顔で。
○○の方は満面の笑みで、拳まで小さく握りしめて喜んでいた。それに気付いた阿求は。
「あなた、あなた!当てが当たりましたよ!守矢神社でも当たりを引きましたのに!今日だけで二回も!!」
自らの旦那をことさら褒めそやし。
「ははは、ありがとう。阿求!」
○○も最愛の妻に褒められたものだから、つい喜びを大きく表現したが。

「貴方達はそれで良いでしょうけれども、この隠し部屋の向こうには永琳がいるの。少しは自重して?」
まだこの問題が片付いていないのは事実なのである。ましてや絵図を中途半端に描いたところでいきなり、見切り発車を余儀なくされた輝夜にとっては。
この問題がすべて片付くまでは、一切喜べないのである。


「これは、失礼しました輝夜さん。でも早苗さんや……それに遊郭街の最大派閥の協力を阿求が取り付けましたので」
遊郭の事を話す時、少しだけ○○は阿求を気にしたが。
「ええ、少なくともあの書生さんはもう安全です。その、輝夜さん、八意先生とお話をしても構いませんか?」
輝夜はため息をついたが、美人のため息も中々に様になる。しかし畳の下からひょっこり顔を出しながらと言うのは、思ったよりもおかしな光景であった。

「ええ、構わないわよ。永琳も今の状況を知りたがっているから」
幸いにも、○○が笑い出す前に輝夜は阿求と○○を隠し部屋に招き入れてくれた。
ひょっこりと顔を出した輝夜が、またすぽっと言う風に穴の下へと降りて行ったあと阿求が○○に耳打ちした。
「助かりましたわ、今の輝夜さんの姿が、何だか妙に面白くて」
どうやら阿求も○○と同じことを考えていると知って、○○は確かにうれしくなった。
好きな人と同じことを考えていると言うのは、この上ない幸福であろう。


812 : 八意永琳(狂言)誘拐事件9 :2019/02/25(月) 14:28:53 kz4AZKpY
続きます
上手く行けば2月中に、この話は終えることができそうです


813 : ○○ :2019/02/26(火) 19:43:59 I54v0yC6
鈴仙話書こうと思うんだけど鈴仙って憑依華の時点だと瞳の狂気を制御出来るようになってるのかな?
波長を操る程度の能力の詳細的にはできそうなんだけど瞳は別か気になってしまう
好きにしろよって言われたらそれまでなんだけど二次創作書くならできるだけ原作は大事にしたいんだよね


814 : ○○ :2019/02/27(水) 00:07:29 f6yZ4srQ
天人五衰2
ええ、大丈夫ですよ。確かにあの人は真っ直ぐに向こうに向かって行きました。あれだけ脅かしておけば
大丈夫でしょう。流石に自分の命と天秤を掛けてしまえば、下らない意地よりも勝つという物ですからね。
え、いえいえそんな事思っておりませんよ。あれはあくまでも言葉の綾で、本当です。おまけなんてそんな
ことちっとも思っておりませんから。本当に、本当ですよ。お使い様にはいつもお世話になっておりますか
ら、そんな事はちっとも…。
 …弱りましたね。どうにかご機嫌を直して下さいな。後生ですから。ええ、分かりました。私めが悪うご
ざいました。ああ良かった。美人の方が怖い顔をされていますと、本当におっかないものですから。寿命が
たっぷり半年程は縮まった気分ですよ。…いえいえ!結構でございます。そのような事は滅相もございませ
ん。お使い様にそのような事をして頂く訳には。生憎まだまだ人間でいたいものですので、その様な事には
及びませんよ。

 おや、今度はこの人の占いですか。ほうほう…この生まれはまた、私と同じですね。いやはや何とはなく
ですが少し親近感が湧きますよ。うん、この人の動きは、電気の珠算機を動かしてみれば…はい、このよう
に出ましたね。うむ、この数字がちょっと弱く出ていますから、そうですね、何もなれけばもう暫くはフラ
フラするようですね。これがもう少し大きく出ていれば決め打ちになっていたのでしょうが、この感じだと
決まる迄にはかなり時間が掛かるかと。
 …ど、どうされましたか?お使い様、顔が御険しいですよ。折角のお顔が台無しでございます。うわあ、
何だか雨が降りそうな位に曇って来ましたよ。ゴロゴロと雷も遠くで鳴り出して来ましたし。この状況じゃ
あもう、さっさと店を閉めてしまった方が良さそうですね。えっ、このまま占えと?お使い様、折角のあり
がたいお言葉ですが、こりゃもうじき本降りになりますよ?うーん、大丈夫だって?本当かな…。今度は何
ですか?さっきの人とこの人との相性占いですか…。ふんふん、これは、ううむ。まあまあでございますね。

 い、いえ!そんな悪い訳ではございません!ええ決して悪いとか、駄目だとか、そんな訳ではございませ
ん!ただちょっと、天人様とあの人を占ったときの様にピッタリとはいかないものですので、まあ世の中に
は良くあることですよ。これ位はほんの誤差程度の問題ですよ。は、はあ。次はこの人との相性ですか。そ
れでは手早く占いまして。おや、これは中々良いですね。かなり相性は良いですよ、このお二人は…
 うわっ!こりゃビックリ!こんなに近くで雷が落ちるとは思ってもいませんでしたよ。うわぁ、これは酷
い、完全にあと少し近ければ黒焦げにされてしまっていましたね。大丈夫でしたか?え?次の占いですか?


815 : ○○ :2019/02/27(水) 00:08:20 f6yZ4srQ
もう今日の所は止めにされませんか、こんなに危なくなってきましたし。うーんこれが最後と言われまして
もねえ…。どうすれば最初の人が二番目の人に勝てるかですか。うむむ…気が乗りません…ね、えっ!!
 はぁ、はぁ、はぁ…。一体何なんですか、また雷が降ってきたじゃありませんか。え?最後の占いの答え
ですか?これをこうして、そしてこうすれば、あっ…。


すみませんね、まだですよ。


ええ、もうちょっとかかります…。


いやあ、本当に難しい占いですね…。

 
 いやはや、申し訳ありませんが、かなりお時間が掛かりますね、これは。…ところで、本当にこの答えを聞
かれるのですか?実は私、この答えを聞かれた瞬間にお使い様がその通りに動かれてしまうのではないかと、
ふと思ってしまいましてね…。例えば先手必勝なんて占いが出た日には、この場で私をどうにかしてしまう…
なんてことは…ない、ですよね?


816 : ○○ :2019/02/27(水) 00:11:24 f6yZ4srQ
>>812
不安定そうに見えた阿求さん家が、案外安定しているのではないかとすら思ってしまい
ました。幻想郷の底がゆったりと、見えないように揺れているような感覚を感じました。


817 : 八意永琳(狂言)誘拐事件7 :2019/02/27(水) 19:30:08 lGeksbeY
>>813
鈴奈庵見る限り、さすがは5ボスで普通に(あの頃は)一般人の小鈴とも相手できたから
暴発の危険性はほぼ無いと考えて良さそう



所で、ギャン泣きされながら別れないでくださいと言われたい子は
自分の中では菫子に決定した
蓮子は、何か計算高い気がする


818 : ○○ :2019/02/27(水) 19:39:22 lGeksbeY
名前欄を消し忘れた……


819 : ○○ :2019/02/27(水) 20:52:31 X7KEVF/g
ほんの、ほんの些細な取るに足らないようなミス
名前を、消し忘れた。たったそれだけ

アリス「へぇ、そうなの。あなたが」

あとはそんな小さな綻びを、糸を手繰り寄せるように辿っていくだけ……


820 : ○○ :2019/02/27(水) 21:46:38 9p2/6KIY
>>813
あぁーどうだっけ…
スペカ的に狂気の瞳自体が波長を操る程度の能力の延長だとずっと思ってたからそもそも制御できてると思ってた…
うどんちゃんのこと好きなのに全部わかってなくていっぱいごめんねしなきゃ…ウ,ウワー


821 : ○○ :2019/02/27(水) 22:35:54 NAQ8WnvY
>>819
あぁ……終わったな
というか、仮に幻想少女と縁が出来た状態で外の世界に帰っても連れ戻されそうだな


822 : ○○ :2019/02/27(水) 22:50:58 fAv3oFp2
鈴仙はオートで三月精やらこいしのステルス無効化したことあるしある程度能力が漏れてる&眼を覗けばとりあえず影響が出ると解釈してる
ただ紺珠以降なら波長を操れるわけだからおかしくなった相手を治すのも自在じゃないかなって


823 : ○○ :2019/03/02(土) 07:31:27 WsV9MT6k
ドレミー「たまにいるんですよねぇ、夢を夢だと自覚して好きに振る舞う人が」
ドレミー「ただねぇ、そう言う人って……現実に対しては心の中だけとはいえ中指立てながら暮らしてる人がほとんどだから」
ドレミー「……なんだか、保護したくなっちゃうんですよ。事実とっても楽しそうで、邪魔するのも罪悪感が出ちゃって」

ドレミー「所であなた、私の事をしっかりと把握していますよね?」
ドレミー「ええ、まぁ。好きに振る舞われると厄介なんで、初めのうちは強制起床させていたのですが」
ドレミー「やはり、何度目にはあなた逃げ出しましたからね。私を把握していないと出来ないぐらいの反応速度でね」

ドレミー「そのうち、振り向けば。つまり見えていない場所を自分の好きな空間に改変までしてくれちゃう能力手に入れちゃって」
ドレミー「なんですか、あなた。あんなに悪夢を見せて夢から追い出そうと努力したのに」
ドレミー「なのに、何でまだ夢の世界にこだわってくれるんですか」
ドレミー「……あぁ、失礼。あなたとはもう少しお話ししたいのに。この反応は、投薬が、永遠亭に担ぎ込まれましたよ、あなた」
ドレミー「まぁ、眠らせ過ぎた私の落ち度でもあるのですがね。ひとまずはごきげんよう」



ドレミー「……また来てくれますよね?」


824 : 八意永琳(狂言)誘拐事件10 :2019/03/02(土) 10:41:12 WsV9MT6k
>>811の続きです

「入り口、天井が低いから気を付けてね」
隠し部屋の存在を見抜かれた輝夜は、渋々と言うものはあるけれども、結局は観念した方が、輝夜の意地を通すよりも永琳の利益を優先して素直に応じてくれた。

「地下室だからでしょうか、少し寒いですね」
「そう?まぁ、道すがらにはさすがに置いてないけれど、部屋にはあるから、暖房を強めるわ」
輝夜はこの場所を使うのが慣れているのか、○○や阿求のように低い天井と足下を気にしながらと言う風は全くなく。
ずんずんと、突き進んでいた。その様子に、稗田夫妻を待つような素振りはなかった。
顔には出していないけれども、輝夜も現状をまったく楽観視はしていない。
そのため、いつもならば気にすることの出来る周りへの気遣いが明らかに目減りしていた。
「こっちよ」
一本道だと言うのにそんな言葉を言って、つまりは急いていたのだけれども。


「阿求、寒いのなら俺の上着を羽織ると良いよ」
「ありがとう、○○」
先導してくれている輝夜の事が、限りなく見えていない様子で。
普段通りとしか言いようがない姿を、今の稗田夫妻は見せていた。
確かに普段であるならば、仲むつまじくて周りも穏やかになれるであろうけれども。
今は日常ではなくて、しかも輝夜からすれば渦中の人なのだ。
「…………」
輝夜は唸ったりもしなかったが、壁を叩いて早くしろと、言外に伝えてきた。
輝夜にとっては幸いにも、壁を叩く音だけで稗田夫妻がハッとなって、現実に意識を戻してくれたので。
これ以上に苛立ちを具現化させずに済んだ。
それにこれ以上は、いきなり大声になりそうで輝夜としても怖かった。
存外に自分も追い詰められている事を、自覚しなければならなかった。


825 : 八意永琳(狂言)誘拐事件10 :2019/03/02(土) 10:41:53 WsV9MT6k
「終わりそうか?」
そして案内された部屋には、八意永琳がと行きたかったが。
そこには八意永琳の他にもう一人の人物が。
藤原妹紅の姿も、そこには合った。
「これは藤原妹紅さん」
別にこれは意外でも何でもなかった、今回の事件の中心にいる永琳や、絵図をいくらか描いていた輝夜。
この二人と同じく、藤原妹紅も蓬莱人であるから。
しかしここで問題なのは。
「早く帰りたいんだ」
藤原妹紅が、決して協力的では無いことであろう。
「あ、妹紅さん丁度よかった。新しい竹炭を、ひとまず一キロほどまた稗田邸にお願いできますか?」
阿求も、妹紅が不精不精であることはすぐに見抜き。代わりに、商売の種を投げた。
「まいど」
妹紅はすぐに懐から手帳を取り出して、新しい売り上げを上機嫌に書き込んだが。輝夜は違った、こちらは焦っている。
「次は永琳と話してちょうだい」
そう言って阿求を促したが、妹紅は苦笑しながら。
「回りくどいことしやがって……変わったな」
批判ではないけれども、そう呟いた。
「少しは乙女でいても良いでしょう?」
妹紅の呟きが批判ではない以上、輝夜の呟きも独り言以上の価値は出てこなかった。



「これは八意先生。今朝がたにお話をいただいたときには、次はいつお目にかかれることかと不安でしたけれども、まぁ、幸いにも長くかからずにまたお会いできて」
妹紅がさほどこの件に関心が無いことを知った阿求は、輝夜の言った通りに、八意永琳へ目を向けた。
その姿はさすがに焦りと、それを噴出させぬようにと言う努力によって。
永琳はガチガチの状態であったから。
阿求はそれに見合った態度、とてつもなくうやうやしい態度で、あくまでも刺激を少なく抑えようとしていた。


826 : 八意永琳(狂言)誘拐事件10 :2019/03/02(土) 10:42:50 WsV9MT6k
「…………何か良い報告はあるのかしら」
事実永琳は、阿求からの丁寧に丁寧を重ねた礼儀正しい挨拶にもほとんど反応せずに。
一足飛びで、いきなり本題に突き進む話の展開を要求していた。
儀礼的な態度など、不要であると言う返答である。
「あぁ、遊郭の動向は気になるな」
妹紅も、時勢の話題には多少は興味を出してくれたが。あくまでも興味の範囲。
「気楽な身分」
輝夜は若干の苛立ちを乗せながら独り言をまた呟いた。
「もっと早く出来たはずなのに」
意外な事に妹紅は独り言に反応した。
「私にやったみたいに」
今度は若干の批判を込めながら。

「では、お話しします。遊郭の最大派閥に対する、反乱とまでは言いませんが権力闘争の様相が強いですね」
妹紅と輝夜の意識を見てとった阿求は、すぐに話を始めた。


第一、永琳がそれを望んでいる。
「……今の最大派閥の長。忘八達の頭は、私も会ったことがあるから知っているわ。野心が無さそうで安心していたけれども」
「いえ、あの最大派閥の長さんは確かに安心です。問題はそれよりも下ですね、商売を手広くやりたがっている」
永琳は首を横に振った。否定的な意味であることは確かだが、その内容がよくわからなくて若干の恐怖がある。

「続けますね、商いの拡大を目論んでいる勢力は、今のお頭さんが怖くて隠れながら手探りをしているみたいで……まぁ人里は大丈夫ですが、それ以外の人間が多いところ」
「特に守矢神社周辺が危ないと、東風谷早苗さんが気づいてくれたので。二つの勢力からの協力があります」
「それに、私の夫がすこし歩き回ってくれたお陰で」
この時阿求はすこしばかり言葉を切って、○○の方に向いた。
阿求は自分の夫の各種勢力や有名人への覚えを良くしたいのだろう。
○○は即座に頭を下げたが、それは阿求にとっては重要ではなくて、輝夜と永琳からの会釈を、明らかに待っていた。

輝夜は○○との最初の会談で、阿求の夫と言う立場を考えて、あまり動くなと伝えていただけに。
その会釈の様子は、ぎこちないものであった。
永琳と輝夜からの会釈を確かに確認した阿求は満足げな様子て話を続けた。


827 : 八意永琳(狂言)誘拐事件10 :2019/03/02(土) 10:43:36 WsV9MT6k
「少なくとも愚か者が五人、守矢神社で活動していました。それは東風谷さんがすぐに取り除いてくれますし、偶然今日は出てきていない連中も、忘八達のお頭が遊郭で探してくれます」
「少なくとも、今回の一件で八意先生が恋慕を抱いてらっしゃるあの書生君は、もう無事です。助かりました。問題は遊郭内部の権力闘争ですが、それは稗田や慧音先生で受け持ちます」
○○は阿求の話を聞きながら、どういう着地を見せるのが忘八達のお頭にとってマシだろうかと思ったが。
阿求も慧音先生も、そして永遠亭。
このどれもが手心を加えるはずがないので、永遠亭が参加しないだけマシだというのにすぐ気づいた。


……阿求には隠すが。○○は忘八達のお頭に対しては、同情があって。優しく見ていた。
それがばれた瞬間、あのお頭が更なる苦境に立たされるので、この感情は隠す以外の方法などないのだけれども。



「ねぇ、○○。あなたも何か質問が合ったらお聞きなさいな」
○○はまんじりともせずに、自分以外の者達を眺めていたら。阿求から発言を促された。
別に、阿求の方がはるかに格上だから。自分は何も言わなくても良かったのだけれども。
「あなた、遠慮なさらずに」
そう言う謙遜や遠慮こそ、阿求は嫌がるのである。
だった、外れても構わないから気になったことを聞こう。


828 : 八意永琳(狂言)誘拐事件10 :2019/03/02(土) 10:44:41 WsV9MT6k
「じゃあ、ひとつ。的外れだなと思われたら、素直に引っ込めます」
○○は少し間を作り、阿求以外の三人を、一人ずつ見ていってから声を出した。
「あの書生君は、少しおかしいように思えて」
永琳と輝夜はピクリともしなかったが、妹紅は苦笑していた。なにか知っているのだろうか。
「具体的に言えば……書生君は、八意永琳に陶酔している。いえ、良い思い出があってそれが理由ならば、失礼な質問を詫びながら引っ込めますので」
「陶酔?違うね、あれは精神的に依存させられているんだよ。ちゃんと見ているんだな、バカげたお人好しに作為を感じたんだろう?」
○○は礼儀正しく、詫びる可能性にも言及したが。妹紅からそんな必要はないとばかりに、称賛含みで間に入られた。


「一服盛られているんだよ、依存薬物の効果がある時と八意永琳と一緒にいるときを、巧妙に同じときに合わせているんだ!!」
「……なるほど。納得しました」
八意永琳はいまだピクリともしないが、輝夜は違った。
「弁解させて、私の感慨なのこれは」
「私にやったことの焼き直しだからな!?」
輝夜は即座に、永琳の責任も引き取ろうとしたが。妹紅はそんな輝夜の態度に腹が立ったのか、昔の話を蒸し返そうとした。
「ひとつだけ覚えてほしいの!蓬莱人はね、寂しがりやなの!!」
「阿求、逃げよう」
どうやら輝夜も妹紅が自分を忘れないように手を回していたようだが、その話は確かに気になるけれども。聞けるような状況ではなさそうだ、何より妹紅が怒りに我を忘れ始めていた。
ここは、逃げるが勝ちであろう。

続きます


829 : ○○ :2019/03/02(土) 12:05:55 ScS4Eq2I
永琳、薬を盛ったのか……定番だがエグイな

ふと思ったんだが、ちょっと前にヤンデレ系で見た人間を無理やり辞めさせられる展開があるんだけど
霊夢的には、容赦なく退治しそうだよね……他の面々と殺し合いになりそうだが


830 : ○○ :2019/03/02(土) 12:44:17 3xJGZYqw
どうして
どうして妖怪なんかになってしまったの
愛していたのに
好きだったのに
なんでっ…なんで…

博麗の巫女として…私が殺すしかないじゃない…
他の誰かじゃなく、私が





ヤンデレといえど、いくら好きな人といえども許容不能になる項目があったりするの好きよ
めっちゃ大好きだった○○が妖怪になったと知ったとき『好きだけど退治しなきゃいけない対象』になって苦しむ様が見たい


831 : ○○ :2019/03/02(土) 13:27:16 RdNQMEGQ
「人里の人間が妖怪になること」がタブーっぽいから分かってる神妖は自陣営に呼び込んだ上で変異させるみたいなルールの穴つきそう


832 : 八意永琳(狂言)誘拐事件10 :2019/03/02(土) 14:40:59 8hl7Bk3Y
博麗の巫女より命ずる。下記の者は、人里への『定住を』禁ずる

つまり、人里の構成員ではなくなった

あの娘と一緒に、どうなろうと勝手にして良いわよという、霊夢の優しさ

定住を禁ずるのであって、人里で遊ぶのは構わないわよ


833 : 八意永琳(狂言)誘拐事件11 :2019/03/06(水) 21:39:02 Yh7Oa0VI

>>828の続きです


「あら……」
稗田夫妻が、まったくもうぐらいには思いながら。
地下の隠し部屋にて乱闘を始めた輝夜と妹紅から逃げて、床の間に隠された出入り口から出ようとしたら。
先に出た阿求が、少し面白くないなと言う声を出した。
「阿求、どうしたの?何かあるの?」
それは夫である○○の耳にも聞こえているので、何より狭い道でいきなり止まったのだ。逃げていると言うのに。
不安になってしかるべきであろう。


「いえね、あなた。目の前にてゐさんがいるのですよ。ごめんなさいねあなた、狭い道なのにいきなり止まってしまって」
阿求はそう言いながら夫に詫びるが。
「うーん……いや、まだマシかな」
夫である○○の方も先程の阿求と同じく、これは確かに面白くないなと言う感想を。
はっきりと言葉には出していないが、声色は確かにそう述べていた。

しかしながら。
「やぁ、てゐさん。ごきげんよう。あの書生君は、いないようですので」
輝夜と妹紅曰く、一服盛られて動きや思考を誘導されている書生君がいないのならば。まだマシだと、○○ははっきりとそう断言することが出来たから。
阿求の後に続いて、床の間にポカンと開け放たれた穴から這い出ながらも、笑顔でてゐにあいさつを述べることが出来た。
阿求も○○とは似たような考えのようで、こちらも笑顔で会釈をしていた。
夫妻そろってにこやかなので、それはまぁ良いのだけれども。床の間にぽっかりと空いた穴が、夫妻の姿に強烈な違和感を添えているのは、この場では特筆しておかねばならぬ事であろう。


「あー……」
てゐは、床の間から這い上がってきた稗田夫妻と言う、見方によってはちょっとばかし面白い光景を目の前にしている物だから。
主である輝夜の部屋に入ってきたてゐは、何事かの話を持ってきているはずなのに。稗田夫妻が与えた衝撃や面白さでそれを口に出せなかったどころか。
「もしかして、姫様もだけれども。八意永琳も、その穴蔵の奥にいるの?」
持ってきた話よりも、自分の興味を優先すらしてしまったが。
「ええ、そうですよ」
けれども○○は、自分が見たもの聞いたものに対する。興味深いだとか、面白いと言う感情の方がまだ色濃くて、てゐの言葉に、妙な笑いかたで答えた。


834 : 八意永琳(狂言)誘拐事件11 :2019/03/06(水) 21:40:07 Yh7Oa0VI
「あぁ、てゐさん。穴蔵の奥へ、今行くのはやめた方が。妹紅さんが輝夜さんに突っかかったので……」
○○が楽しそうに笑ったままな分、阿求がてゐに気を付けるように口添えしたら。
地の底から突き上げるような振動が、稗田夫妻やてゐの足下から感じられて。
「うわ……」
開けっぱなしであった、床の間から地下の隠し部屋に通じる出入り口から、黒煙が吹き上がり。
○○が驚いて、そして急いで出入り口のふたと言うか、扉を閉めた。
扉を閉める前に、言葉になりきっていない女性の声が聞こえたような気がしたが。多分あれは藤原妹紅の声であろう。
しかしその声が、地下室への出入り口を閉めても聞こえてくるのには閉口するしかなかった。
おまけに、閉めても黒煙がスキマからあふれでてくる始末であった。


「歩きながら話そうや、ああなった妹紅は怖いんだ」
稗田夫妻が現状にやや目を見張っていると、てゐの方から声をかけてきた。それに、てゐには持ってきた話があった。
「稗田家から、使いのものが手紙を持ってきたんだが……夫妻のどちらかでないと渡さないと強情張ってるんだよ。助けてくれ」


阿求も、そのてゐからの報告には意識が呼び覚まされた。
「どちらから……いえ、誰からの手紙をうちの使いは持ってきたのですか?」
阿求はやや訂正しながらてゐに聞いたが。○○の頭のなかにある、今手紙を寄越してくれそうな人物は二人しかいなかった。東風谷早苗か、遊郭の忘八達のお頭だ。
阿求も同じ考えで、どちらからと聞いてしまったのだろう。けれども。
「……それすら分からないんだ。あの強面さんったら、中身に関する公表するしないの権利は、あんたら夫妻にしか無いと言って、きっと今も竹林で突っ立ってるよ」
てゐにすら、使いのものは答えなかったらしい。この様子では、その使いのものは手紙の差出人すら、下手をすれば把握していないかも知れなかった。
しかし、稗田家の奉公人と言うのはそれぐらいでなければ困るとすら阿求は考えていたので。
強情を押し通しているその使いのものには、好印象しか抱いていないようであった。


「書生君は?まだ竹林かな?」
しかしながら○○の気にする部分は、もう少し別であった。突っ込んだ話に、彼は少々邪魔なのだ。口さがない表現だが、それが本心だった。
「……あぁ、強面の使いに手紙の中身を教えてくれとせがんでいるよ。慧音先生もやってきたから、抑えられるとは思うが」
てゐからそれを聞いたとき、○○は少し笑ってしまったが。
「笑い事かよ」
てゐからの評価は厳しかった。


835 : 八意永琳(狂言)誘拐事件11 :2019/03/06(水) 21:41:08 Yh7Oa0VI
「いやいや、違うんだ……あの書生君は今回の狂言誘拐事件の被害者の一人ですよ」
○○の表現に阿求は思うところがあるのか、少しばかり流し目を○○に寄越した。
事実○○の脳裏には、細見やら春画を売り歩いていた五人組の末路が思い描かれていた。
「最大の被害者ですよ……」
○○の語勢が少し弱くなった。
「いちゃつくな」
てゐからは見とがめられてしまった。


「失礼、失礼……単刀直入に聞きますね。地下室での会談で、あの書生君は一服盛られていると聞かされたのですが……ご存じで?」
「……やっぱりとだけ言っておく」
てゐは、遠回しであるけれども色々と認めてくれた。
「そうでしたか、何だかあの書生君、心がここに無いような感覚に見えましたので。思いきって聞いたら、妹紅さんがぶちまけてくれて、輝夜さんも追認してくれて……」
てゐの表情は更に重くなっていった。


そしてポツポツと、てゐは永遠亭の構成員だからこそ見られる、状況証拠を口に出してくれた。
「例えば食器だね。あの書生君が使う食器は、姫様と八意永琳が慎重に管理していたし。後からかける醤油やらの調味料の類いも、同じ種類のはずなのに、隠し収納に仕舞っていたんだ。あの書生君専用の調味料だ。本人は気づいていないけれども」
「まぁ、一番ヤバいの仕込まれてるだろうなと思ったのは。八意永琳からお菓子を貰っていたのを見たときだね……おあつらえ向きに、色々仕込めそうな飴玉だったのには寒気すらしたよ。実際、よく台所で砂糖を煮詰めて何か作っていたからさ。砂糖以外も煮詰めていたのだろうけれども。精神依存なのは間違いないから、よく鈴仙とどんな薬物を盛っているのか話したもんだよ」
「たまに卒倒もしていたから、配分を間違えたのか。それとも看病の名目のために卒倒させたのか……」

知らぬ存ぜぬは、最大の被害者である書生君のみ。
しかもてゐの口ぶりだと、少しは知恵の回る者であるならば、口外こそ禁じているが腹の底で何かを考えていても一向に構わないと言う。
八意永琳の立ち回りは、いさぎがよいと言うべきか。それとも回りを気にしなさすぎと言うべきか。
あるいは、永遠亭の最高戦力が。首魁である輝夜の協力も取り付けていると言う自信の現れか。
なんにせよ、判断に困ってしまう。


836 : 八意永琳(狂言)誘拐事件11 :2019/03/06(水) 21:42:29 Yh7Oa0VI
判断に困ると言えば。
いかがわしい物を売り歩いていた例の五人は、下手をすれば全員がもう。閻魔様にその魂が引き渡されているだろう。
けれども、連中はもうそれで。こちらとしても興味の対象外になってしまう。
これ以上はない。少なくとも苦しまない。
けれども書生君は……これからも一服与えられ続けるし。てゐが言う、卒倒も度々味わうことになるだろう。


「まぁ……卒倒はかわいそうなんじゃないですかね。八意先生は、その、下世話な言い方ですが魅力にあふれていますし。他にやりようが」
「あぁ、そうだな。あの体に、あの魅力に耐えられる男がいるとは思えない」
てゐも、少しはこの茶番に付き合わされる事への苛立ちがあるようだ。下世話な話に付き合ってくれたが。
阿求は若干、表情を曇らせながら。
ペタペタと、自分の胸元を触っていた。
てゐが『まずった』と言う表情をしたが。
夫である○○は、きっとわざとらしくなると考えたのだろう、阿求の方は見ずに、阿求自身の胸をペタペタと触る手を握った。


阿求がてゐの出した、下世話な話に付き合ってくれるはずがないのだ。
阿求は一線の向こう側の中でも特に向こう側だから、下手をすれば蓬莱の薬を飲んだ永琳よりもこじれてすらいる。
阿求の様子は確かに違ってしまった、○○の方に少しばかり気にするような目線をやった。
……八意永琳と比べて、恵まれていない自身の体を気にすることはなくなったが。
それとはまた別の事で阿求は○○に対して、気にするような罪悪感を抱いているような雰囲気を見せた。


「その、あなた。もしお気になさっているのでしたら」
「何が?」
○○は努めて平静を装っていたが。阿求が何を気にしているのかは、何となく分かっていた。
「そのですね……私は絶対にそう言うことはしませんが……証明とでも言いますか。これからは大鍋や大皿料理を増やしましょうか?」
○○が若干不機嫌な音を喉から漏らした。
「気にする必要は無いよ、お膳の方が気兼ねなく。配分も決めやすいから」
阿求からの、気にするような提案に○○は若干の失望感すら覚えた。
こっちはこんなにも、信じているし覚悟も決めているのに。
下世話な勘定だけれども、これより良い目が出るとも思えない。



口さがない話ではあるけれども。阿求と○○の婚姻関係は、はっきりと言って○○側が玉の輿である。
幸いにも周りが、人里と言う組織が。稗田の九代目、阿礼乙女の指命を滞りなく進める、その中心的な助けを成している○○に対しては。
安堵や感謝こそあれ、『最後まで』付き合う気持ちに揺らぎが無い○○の事を邪険に扱う空気は一切存在していない。
事実稗田の家中は、『最後まで』付き合うと決めた○○に対する。畏怖の念まで存在している。
もっともこれはまだ、あまり表には出ていない。
病弱な阿求の体を見てくれている永遠亭ぐらいだろう、何とはなしに察しているのは。


「それに阿求。俺は好きにやらせてもらっているよ。十分すぎるよ」
○○にとっては、『最後まで』付き合うのはその代償とすら考えている。


けれども阿求が気にしている。○○に、不自由を味わわせていないかと、よく気にしてしまっている。
健気ではあるし、それすらも可愛いとは考えてしまうぐらいに○○の方が惚れているけれども。
しかし現状に苛立つのも事実。
『最後まで』付き合うと言う言葉には、○○の中に嘘や偽りはない。
それを疑われているようで心外なのだ。



「それに、衣食住のほとんどを共にしているんだから。食事以外にも機会は、いくらでもある。気にするようなら最初から抵抗しているよ」
○○はそう言いながら阿求の肩を持って抱き寄せた。
「今だって、俺に『何か』をやる機会は、いくらでも存在している。けれども俺は阿求から離れようとしない」
「離さないの間違いじゃ」
てゐが茶々を入れてきたが、しかしながら彼女の言う通りであった。
おずおずとしている阿求に反発するように、○○は更に阿求を力強く抱き寄せる。
反発しているくせに、抱き寄せて近づけているなと。
てゐは矛盾している文章に影と皮肉のある顔で笑った後に。
いや、永遠亭の方はまだまだ笑い事じゃない状況だと思いだした。
こっちは『最後まで』の道筋すら見つけられてないんだ。


837 : 八意永琳(狂言)誘拐事件11 :2019/03/06(水) 21:45:24 Yh7Oa0VI
「イチャつくのはそこら辺にしてくれ、お前らが『最後まで』やれるのは十分承知してるから。こっちの仕事を手伝ってくれ」
てゐからの責めるような口調に、稗田夫妻はようやく我に帰ってくれた。



そのまま稗田夫妻は、お互いに肩を寄せ合いながら仲睦まじく歩いていた。
稗田家からの使いが待っている場所まで先導するてゐは、この夫妻の事は何を言っても変わりは無いだろうと。
諦めにも称賛にも取れる感情で、黙ったままで先導を続けた。



てゐが無言の圧力を携えたまま突き進んでくれたお陰で、稗田夫妻は多少の確かめ合い、手を握りあったりするなどのいちゃつきはあったが。
滞りなく、稗田家からの使いの者がいる場所まで一度も立ち止まらずに向かうことが出来た。


「どうも、お手紙の配達ありがとうございます」
稗田阿求がそう言って、使いの者へ労いの言葉を与える随分と前から。
稗田夫妻の姿を見受けたその、てゐが言うところの強面の使いは、何かに乗っ取られて操作されたかのごとく。
直立不動から、直角に腰を曲げて頭を下げた。
それはまぁ良い、問題はその様子を見ながら阿求が、何秒ものあいだに渡って。
にこやかではあるけれども、ただの一言も言葉を発する事の無い、その事実である。


なぜ、誰も。特に稗田阿求がしゃべらない。
そう、周りの者が思い始めた頃。
「まぁ、まぁ……」
ようやく、阿求の夫である○○が言葉を紡いで、状況を動かしてくれた。

「はっ……ありがとうございます!」
誰かからの手紙を持ってきてくれた使いの者は、感謝にも似たような声で。更にかしこまった。

「いや、そうじゃない……ひとまずは、お手紙を渡してください」
使いの者がひたすらに礼儀正しすぎる様子に。
○○はとまどったけれども。本題を押し通した。


「はっ!!」
そう言いながら、強面の使いは懐の手紙を○○に差し出したが。
その後も、きっと稗田夫妻のどちらからかの許可の言葉を待っているのか。
使いは、垂直に腰を曲げて頭を下げたままであった。


○○が阿求を見たが。一秒ほどであったし。その一秒ほどで○○が少し変な顔をしているのは、友人である『慧音の』旦那には確認できた。
ただその変な顔は、すぐに消えてしまって。
外行きの顔と声に変わった。
「ありがとう、貴方も他にお仕事があるでしょうに。お手間を取らせてしまって申し訳ない。もう、普段に戻っても大丈夫だから」

「いえ!これが、稗田家にお仕えする、わたくしの勤めでございます!!」
○○からの言葉は、気遣いにあふれていた。だのに。
だと言うのに。稗田家からの使いの者は、やり過ぎな程の態度で受け答えをして、立ち去った。
その様子を見ている阿求は、終始満足していたが。
夫である○○は、ため息をつきながら手紙の中身を確認しながら、阿求の所に戻っていった。

『慧音の』旦那は、理解が中々及ばずにこの光景を見ていたが。
とうの、かの旦那の妻である上白沢慧音は、まるで驚かず。
むしろ、その旦那に。
「あれが、あの二人なりの愛を証明する形なのだよ。○○が調整してくれて、阿求は満足なんだ」
そう口添えするのみであった。


続きます


838 : ○○ :2019/03/07(木) 22:33:20 ZxlZlpbg
>>837
隙あらばイチャつく夫婦って、いいですよね……

3月7日にちなんで早苗さんで一本書こうかと思ったけれど、間に合わなかった
宿題になりそうです


839 : ○○ :2019/03/08(金) 19:45:21 Ba3X7BjU
アップローダーを利用させて頂きました
ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/27


>>837
わざと夫に見せ場を作らせるのは、ある種の負い目があるからなのでしょうか。魔理沙も同じ様なな事をしそうなイメージが…


840 : ○○ :2019/03/11(月) 14:09:51 kn69LJzk
>>761->>767の続編のような物です
個人的に蓮子は、菫子の隔世遺伝の結果だと思っている。
性格にせよ、行動力にせよ、異能にせよ



「ねぇ、私のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会ってほしいの」
蓮子からそう提案された時、○○の口の中には運悪くパスタが詰め込まれており。
「え!?菫子(すみれこ)おばあ様に会えるの!?」
機先と言う奴は、完全にメリーの手によってすべてが持って行かれてしまった。
しかもこういう時に限って、本日の食卓に供されたパスタは固めのゆで加減であるから。急いで噛み砕いて飲み込もうにも。
「いつ?」
「連休初日よ、昨日にねお祖父ちゃんが電話して聞いてきたのよ。来れるかって」
蓮子とメリーを、いや彼女たちはその間に○○が入り込むことをどちらともが許容を通り越して。
もはや脅迫じみたやり方で、蓮子とメリーの間にいる事を強制されているけれども。
世間の物の味方は、絶対に○○の味方をしてくれない。それぐらいの事は理解していた、理解していたからこそ○○はこの二人から離れたかったのだけれども。
あの日の、脅迫じみた説得はいまだに夢に見るぐらいの衝撃と恐怖が合った。


『世間は、どっちを信じるかしらね』
『青あざのある女の子二人の泣きながらの言葉と、あたふたする男一人の言葉。どっちが重いかしらね』
『大丈夫よ、出て行きさえしなければ良いだけだから』
確か蓮子はこんな事を言っていた。
蓮子に比べれば穏やかなメリーは、最終手段であるだとか言って。必死に○○を落ちつけつつも蓮子を宥めていたけれども。
『取らせないでよね、私もあんまりやりたくなりから』
メリーからの宥めは、あまり蓮子には聞いていなかったし。よくよく考えれば、メリーでさえも蓮子の脅迫を最後に取り得るしかたの無い手段ぐらいには。
それぐらいには現実的な方法だと考えてしまっていることに○○が気付いた時。
○○は全身の力が抜けてしまい、それ以上行動する気力と言う者がわいてこなかった。
その癖蓮子ときたら。
『ごめんね、こんな方法しか取れなくて』
一通り脅迫しつくした後、○○に抱きつきながら許しを乞うてきた。
『逃げさえしなければ、何をしても良いから』
そして蓮子は○○に体を許した。
『私もよ、蓮子の提案を結局飲んでいるんだから』
そこにメリーも続いたのは言うまでも無かった。

脅迫しているくせに、綺麗な顔で、その上罪悪感を抱いているのだ。
『ごめんね、でも一緒にいてほしいの』
この言葉は、あの脅迫の後何度も聞かされた。特に眠りしなに。


841 : ○○ :2019/03/11(月) 14:10:48 kn69LJzk
思い出してしまったが為に、咀嚼を続けて急いで飲み込もうとしていたパスタが。口の中で微動だにしてくれなくなった。
いや、それは一種の本能から微動だにしなくなったのだ。
これ以上無理を続けると、恐らく嘔吐していた。きっと蓮子もメリーも優しいから――逃げない限りは――慌ててこちらを心配してくれるだろうけれども。
そう言う問題では無いのは確かな事であると問いかけたかったが。
残念ながら、こんな美と美人の間に挟まれている○○は。殆どの人間から疎まれてしまっているのだ。
おまけに無理に離れようとすれば、さきの脅迫を蓮子は間違いなく実行してくるだろうし。多分メリーも何だかんだで協力する。


「○○、もちろんあなたも来るのよ」
ありありと思い浮かべてしまえる最悪の情景が王手直前なのに、蓮子の祖父母には会わない方が――個人的な精神衛生の為にも――厄介にならずに済むだろうと言う考えを、出来るだけやわらかく伝えたかったが。
「お祖父ちゃんがね、○○の顔を一度見てみたいって言ってるのよ」
蓮子の祖父と言う、蓮子の親族と言う。場合によっては蓮子からの希望よりも強力に何かを押し通せる存在からの、直々のご指名には。
ただでさえ美人と美人の間に挟まれて外聞の悪い○○には、これを拒絶する手段は中々に思いつかなかったが。
「お祖父さんは、俺と蓮子とメリー。三人の関係は?」
「お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも知ってるわよ。何回も話してるから」
既に蓮子の祖父母にまで外聞の悪さが伝播しているのには、もはや諦める以外の方法は無かった。
いっそのこと、バックれてやろうかとも考えたが。右を見ても左を見ても、蓮子かメリーのどちらかがいる状況を考えれば。
逃げる事は可能性が期待できないし、よしんば赤信号などを使って無理に突破すれば。
蓮子は即座に、脅迫を実行に移しかねない。そうなったら女性二人の狂言を狂言だと証明する術が、○○には存在していない。

「あぁ、そうそう。お祖父ちゃんから○○に言伝があるの」
ここら辺からの蓮子の話は、○○にはほとんど聞こえていなかったし。
「菫子と蓮子はよく似ているから、会うのが楽しみだって。良い会話が出来るはずだってさ」
何とか聞こえたこの部分も、蓮子の祖父から頂戴した強烈な皮肉にしか聞こえなかった。
むしろこれを、皮肉以外にどう解釈しろと言うのだろう。
1つ確かな事は、蓮子の祖父は。蓮子の祖母である菫子さんの事を今でも十分に愛しているという事だろう。
ならば嫁と似ている孫への愛は、推し量る事すら出来ない大きさのはずだ。
(ビールか何か腹にぶち混んで、脳みそをマヒさせてから行こうかな……)
残念ながら○○には、来るべき皮肉と罵声に対する防御は。もはやアルコールぐらいしか思いつかなかった。


842 : ○○ :2019/03/11(月) 14:12:08 kn69LJzk
そして当日がやってきた。蓮子の祖父母とは、蓮子もメリーもよい関係を気づいているらしく。
特にメリーは、蓮子の祖母である菫子(すみれこ)に関しては菫子おばあ様とまで呼んで慕っている。
菫子とメリーの関係が良好である事は火を見るよりも明らかな事であろう。
(あー!あー!あー!シラフで最悪!!)
それよりも○○は、事態を覚える能力を下げる事の出来るアルコール様のご加護を得る事が出来なかった事の方が。
もっとも悪い報告であろう。
途中でコンビニに寄ろうとしたが、いわゆる駅中のコンビニでさえも蓮子とメリーは付いてきたのだ。
出入り口が一つしかないコンビニを狙って、入り口で待っててと。そういう、逃げる事の出来ない場所に○○自ら足を踏み入れても、どちらともついてきた。
片方だけだったらまだなんとかなったろう。
アルコールを手に入れる事は出来ないが、連れているのが蓮子かメリーの1人だけならばまだ良い。
美人の彼女がいやがるな程度の視線は頂戴するだろうけれども、不特定多数が出入りする電車や繁華街で、カップルだなんて、珍しくなさ過ぎて見た何分か後には。
たとえ男か女かのどちらかが大層見た目が恵まれていても、意外とすぐに忘れてくれる。
しかしこれが蓮子とメリーを同時にとなると、状況は大きく違ってくる。
それが嫌だから、○○はインドア派を二人の前では気取っていて。自宅――と、蓮子とメリーが表現する場所――から殆ど出たがらなかったのだ。
必要な資料やら本やらも、ネットを使えばかなり大量に。大学を卒業できる程度には引っ張る事が出来る。
文明万歳である。




「こっちよ」
そうメリーが○○を先導してくれる。
蓮子ならば分かるのだけれども、メリーがそれをやるという事は前にも来たことが合って。しかもそれは一度や二度では無い、覚える事が出来る程度の回数は来ているという事だ。
なんてことだ、状況は考えれば考えるほど○○に悪い。
孫が美人でその友達も美人で、ここで終わればいいのに。○○と言うよく分からない男が真ん中にいるんだから。
本当に、何で、俺はこの二人と仲良くなってしまったのだろう。
オカルト嫌いをこじらせたあげく、突っ掛り、種々の事を見た結果に残念ながらオカルトの存在を肯定した。
ここで終われば、それで良かったのに……何故、ここまで仲良くなれたのだろうか。なってしまったのかと表現した方が正しいのだろうけれども。





「いらっしゃい、蓮子にメリーちゃん」
菫子(すみれこ)と言う、蓮子の祖母がにこやかに出迎えてくれた。ここまでは良い、と言うよりここで終わってほしい。
「……あなたが○○君ね。あの人ほどでは無いけれども、私も確認したかったのよ。貴方の顔を」
だが終わらない。そうだ、何故ならば。蓮子とメリーの間に、○○と言う。自分でも何度考えたかは分からないけれども、下手な異物が存在しているからだ。
「蓮子、悪いんだけれども料理を用意するの手伝って。五人分だから、思ったよりも時間がかかって」
そう言いながら菫子さんは、○○の顔を見ながら少しばかり笑みを見せた。
ひとまず、自分の分は感情に入っているようで。それだけは安心して良かった。
「私も手伝いますわ菫子おばあ様。それから、おじい様のお加減はいかがですか?」
宇佐見家の事情をいくらかは知っているメリーが、菫子に気を使いながら彼女の夫。蓮子の祖父の事を気遣う。


843 : ○○ :2019/03/11(月) 14:13:47 kn69LJzk
「相変わらず、足腰が痛いからベッドに座りながらだけれども。難しい顔をしながら昔の映画やドラマを見ているわよ。私の頃ですら昔だから、あなた達からすれば大昔ね」
あなた達と言う言葉に、果たして○○は含まれているのだろうか。いなくても構わないが、自分の立場は理解している。
それから、蓮子の祖父が難しい顔をしているのは。○○自身のせいだと言う自責の念に駆られてならないのだけれども。

「白黒映画を見ていた時は何事かと思ったわ。あんた私と出会った高校の時からパソコンもスマホもあったでしょうに」
パソコンとスマホと言う言葉に、蓮子もメリーも○○も。若干戸惑った。
「ああ、ごめんなさい。今はもっと進化している物を使っているんだったわね。さすがに、手首にチップをぶち混む気には私もあの人もなれなかったけれど」
昔話が通じないと思った菫子さんは、素直に話題を今に戻してくれた。



「それから、○○さん」
「……はい」
一通りの会話が終わった後。すこしばかり菫子さんが声色を整えながら○○に向かった。
ついに来たかとしか思えなかった。
「あの人が私よりもずっと、貴方と話したがっていたから。向こうの部屋にいるから、会って来てあげてよ。足腰が悪いから、呼んだら肩も貸してあげて」
「……はい」
菫子さんの口調に重さを見てしまった○○は、沈鬱ながらもきれいな所作で頭を下げる。
「じゃあ○○、後でね」しかしメリーと。
「何話していたか聞かせてね」蓮子は、ここが自らの安全地帯であるから。どこか肩の力を抜いているから、安心感しかなかった。


「大丈夫よ」
去り際に、菫子さんが一言残した。
「私と蓮子は似ているから、○○さんと私の夫も似ているわ。保証出来る」
何かを思い出しながら菫子さんは答えた、きっと昔の話なのだろう。
しかしその時の顔が、蓮子が自分を脅迫するときの顔と似ていた。
綺麗だけれども怖くて、その癖どこか罪悪感を抱いているような顔である。
「あと、あの人に。いろいろ思い出したのなら、私が謝っていたとも伝えて……一緒にいたかったのよ」
その上、蓮子と同じような事まで言い出した。



続きます
せっかくなので、この作品のタイトルは『秘封の源流』とします


844 : ○○ :2019/03/11(月) 20:24:18 oggs3t/Q
>>839
幻想郷って、閉じている世界ですからね
外からの流入はあるけれども、本質的に詰みの感じ
と言うことは、そもそも喧嘩する意味が無い
勝っても利益が見込めない。
となれば、仲良く出来るもの達を選抜する
上手くやれる者を選ぶ
それらを本能的に求めて、無茶をしてしまう
自然の流ではあるが、何だか悲しい


次より、八意永琳(狂言)誘拐事件の最終話を投稿します


845 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:25:48 oggs3t/Q
「誰からの手紙だ?」
狂言誘拐が、思いの外種々の思惑が乗っかってきている事に慧音の旦那は気づかざるを得なかったが。
目の前の厄介事まで放り出せば、いよいよ目が当てられなくなってしまうから。
せめて目の前にある物だけは片付けてやると思いながら、慧音の旦那は強面の使いから手渡された手紙を検分する○○に近付いた。


「東風谷早苗からだ……五名確保。主要な文章はこれだけだ」
○○は正直に伝えたが、実を言うと全部を伝えたわけではなかった。
件の忘八達のお頭のやり方が、早苗の神経を煩わせるのか、後ろの方の走り書きは。
文字もその内容も、察するには余りあるものであった。
『赤黒いずた袋を3つも運んできた、臭い、早く来てください。しかもなんかうごめいてる』
思わず○○は、この文章だけは阿求には見せたが慧音の旦那には伏せておいた。
いずれは知ることになるかもしれなかったが、今それを伝えて慧音の旦那の神経を逆撫でする事による利益は見出だせない。
なので伏せておいた、上手く行けば何も見せずに済ませてやれるかも知れなかったから。

「ふん……そうか」
幸いにも、○○が不味い部分を隠したことを慧音の旦那には悟られずに済んだ。
「ひとまずはこいつらを下手人……と言うことにしてしまう」
○○がうんざりとして言った。
「それしか無いだろうな」
慧音の旦那は半笑いで皮肉げだけれども。
「事態は急展開を見せたね……一気に解決に向かってくれそうで何よりだ」
「八意永琳に関してはな」
○○はわざとらしく楽観的に振る舞って見せたが。慧音の旦那は苛立ちを強めている様子を、隠そうともしなかった。
ぷりぷり怒っている今の状況では、きっと何を言っても火に新しい燃料を注ぐようなものであろう。


846 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:27:27 oggs3t/Q
なので、少しだけ話題を変えようと努力したら。
その努力はすぐに実った。
かの書生君が、手近な岩に座り込んで動かなくなっていたのだ。
これはちょっと看過できない変化であった。
馬鹿みたいにお人好しで、回りが見えていないーーそうなるように投薬を続けられていたのだがーー彼が、意識すらどうにかすれば無くしているのだから。



「そう言えば」
○○は慧音の旦那から目線を書生君の方へ動かしながら声を出すと。その視線の方向に気付いた慧音の旦那は皮肉っぽく笑った。
「静かだな、書生君が」
「むしろ助かるよ。若干の同情心もあるにはあるが」
どうやら慧音の旦那も、この書生君はおかしくさせられている事には、薄々感づいているようだ。


「どうしていきなり静かになったのかな……何かあったのか?」
「……何も?」
とは旦那は言ってくれるが。少しの間が合ったのは、見逃せなかった。
「何も、なさすぎる?」
少しの探りを入れてみたが、まぁ元々が仲良くかどうかはともかく。
少なくとも上手くやらせてもらっているから、旦那は「あぁ、急に大人しくなった」素直に自分の中にある違和感を教えてくれた。


「急にね……そう。心当たりは?」
○○の方にはあるのだけれども。何せこの書生君、定期的に一服盛られているのだから。
「心当たりなんて、あるわけないだろう。急に、燃料切れを起こしたみたいに静かになってしまったんだ。怖いくらいだ」
燃料切れ。慧音の旦那がそう表現したことに、○○は乾いた笑いを見せてしまった。
ある意味ではその表現、間違っていないのだから。
きっと今の書生君が見せている無気力状態は、薬の離脱症状……悪い言い方をすれば禁断症状が出てきているのだ。
事実、薬を盛られていることに気づいている鈴仙とてゐは、書生君のことをひどく可哀想な目で見ている。
容易に想像出来るのだろう。


慧音の旦那が、じっとりと○○を見る。
言葉には出していないが、お前何か知っているだろうと言う。そう言う表情だ。


「今になって腹がますます立ってきた。てめえの飼い犬を押し付けて、俺を書生君の相手として、囮にしやがって。慧音からの伝言なら俺があまり強く出ないことを知りつつ……なのだろう?」


847 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:28:29 oggs3t/Q
慧音の旦那が、自分が体よく扱われたことに思いを巡らせたようで。更には、○○だけが。正確には稗田夫妻だけが色々知っている事に対する苛立ちもあるのだろう。
「あっはっは……ひとまず稗田邸に戻ろう」
それを○○は、歯切れの悪い笑顔で誤魔化しながら。書生君の元に向かって。
「聞こえていますか?」
と、問いかけるが。書生君は少し目線を上げてくれるだけで。声の方は残念ながら、口元が半端に動くのみであった。
どうやら常に薬が効いている状態が長いようで、禁断症状に慣れていないのだろう。
なるほどこれは、可哀想な物を見る目線にもなってしまう。


「もう少しで解決しますよ。少しばかり稗田邸に戻りますが、きっとお夕飯は八意先生と一緒にとれますよ」
書生君の目に、少しばかり輝きが戻った。
しかし、常人のそれとは言い難かった。
最初に会った時よりも、陶酔が深く。焦点も定まっておらず……頭脳の方も退行が深まっているはずだ。


「八意先生はご、無事な、んですか!?」
会話の方もひどい。ぶつ切りであるし、急に立ち上がろうとしてふらつくのは百歩譲って理解できるが。
鈴仙によって、後ろから抱き抱えられなければならないほど、と言うのはいくらなんでも酷い状況である。



「ご心労の程、深くお察しします。それから鈴仙さん、今の書生君は『色々な意味で』気付け薬など処方されるべきでしょう。まぁ、八意永琳を取り戻せばどうにかなるか……八意女史が横にいるだけで構わないんじゃとすら思いますよ」
「ええ……姫様に聞いてみます」
しかし○○としても、八意永琳なら最初から色仕掛けでも良かったんじゃないかと言う思いはあるので。
分かるものにのみ沈痛な表情をもたらしてしまう、冷たい皮肉を投げ掛けざるを得なかった。
それぐらいの事は許してほしかった。



「そうだ、てゐさん」
そして○○が稗田邸に一時帰ろうと歩を進めようとした所で。○○は後ろを振り返り、書生君が鈴仙によって確実に遠ざかっていくのをしっかりと確認したら。
てゐに声をかけて、少しばかり戻っていったが。
「それじゃあ、お願いします」
すぐに戻ってきた。
「何を頼んだ?」
慧音の旦那はいぶかしむが。
「妹紅さんと輝夜さんがケンカをしたのは、都合が良かった。お互い無傷じゃ済まないだろうから、良い演出だ」
○○からの答えで何となく理解できた。
要は、あの書生君さえ騙すことが出来れば良いのだ。


848 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:29:33 oggs3t/Q
そう、慧音の旦那は件の書生君にさえ怪しまれなければ良いと考えていたが。
「あぁ、もう……増々混沌としてきたじゃないか」
稗田邸にて、五体の亡骸に出くわした際にはそんな安楽的な結末。望むべくも無いことに気づかされて、頭を抱えそうになったが。
「構うことはないさ、君は私の近くにいれば安全だ」
慧音はうそぶく等ではなくて、本心からそう言って自らの旦那を。熱っぽく抱き寄せてきて。
その……妙に獰猛な視線は、うやうやしく頭を下げる男性に注がれていた。


「彼が、今の遊郭の。最大派閥の長さんだそうですよ」
○○は、慧音の旦那に初対面の彼を紹介するが。
「覚える必要はない、お前も私の旦那と顔を会わせる必要はない」
慧音は歯をむき出しにして、忘八達のお頭に対して威嚇をしていたし。
阿求は阿求で、慧音と比べても自分の体は魅力に薄いなと感じて。
またペタペタと胸の方を撫でて、それを○○が気にすることは無いと欧風に肩を抱き。
早苗は、周りの風景を見ないように努めながら。お茶を飲んでいたが。
稗田家にて共されるお茶なら高級品のはずなのに。味をまるで感じていなかった。



「ひとまずは、この亡骸の程。皆さま方にお渡しします。東風谷様からも好きになさるようにいわれておりますので」
けれどもこの忘八達のお頭は。慧音に威嚇されようが、阿求が何だか苛立っていようが、早苗からの助け船が期待できなくとも。
自らの立場を理解して、構わずに話を進めた。
自分が仕留めてきた、湿っぽい亡骸も含めて全て提供したが。
早苗は早苗で、一発で楽にしてやったこちらと妙に粗っぽい向こうを。それが一緒にされるのは若干の心外であるけれども。何も言わないでおいた。
つまるところ、面倒だからだ。


「一応、お聞きしますが」
亡骸の入ったずた袋を眺めながら○○が口を開いた。
「確かなのですよね?忘八さんが仕留めてきた三人は」
「はい、確かにございます。連中の部屋に押し入った所。一人で使うには多すぎる細見に春画……それも重複が数多くございました。それらには、管理のための番号が後から降られており売る目的以外の何だと」
「それに加えまして、連中の羽振りがここ最近ようございまして。しかもその出所、この三人の周りが前々から聞いてもはぐらかすのみでして」
どうやら間違いはなさそうなので、それだけは安心して良さそうであるが。問題はこいつらがどこの問屋を使っているかだ。

「こいつらに商品を渡したのは誰でしょうね?」
阿求もそこは気になっているので、敢えて聞いてきたが。
「奴等の部屋から、いくらかの手紙や指示書を押収しました。写しはもう取っておりますので、原本をどうぞお納めください」
「あなたの名刺より、ずっと役に立つものを下さいましたね」
今度ばかりは、阿求も忘八達のお頭の名刺のように、握りつぶしはしなかったが。
○○には触らせなかったが。
「うーん……アホにそれとなく入れ知恵して、捨てゴマにしてるだけですね。兄貴分からのお手紙も、知性にかける」
「僭越ながら、私も同じ意見にございますが。だからと言って、放ってはおきません。処分は致します」
酷い会話だけで、お腹は一杯になりそうであった。


849 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:30:20 oggs3t/Q
「……じゃあこれ、竹林に持っていってください」
酷い会話にうんざりしたので、○○も仕舞い支度を見せた。
何より湿っぽい亡骸をこれ以上置いておきたく無いのだろう。
「竹林の入り口で、てゐさんが妹紅さん……もしかしたら輝夜さんも連れてきているはずですから。後はこの亡骸を、良いように使ってくれますので。さてどうしようかな……」
「もう新聞で十分でしょう?」
○○は事の終わりまで見ていきたかったが、阿求から制されて。
「何か合ったら、手紙でも送ってくれ」
慧音も自分の旦那を連れ帰ってしまった。
「うちの愛犬に水でもやってくるか……動き回って疲れているだろう。あぁ、東風谷さん、後で箇条書きでも構いませんので、何かを」
「ええ……守矢神社から正式に。礼状等と一緒にご報告します」
なので○○も、ここは諦めた。早苗も心労があるので、立場が厄介な○○はいない方が良いだろう。


そして、○○が愛犬のトビーに水をやって帰ってくると。
亡骸は全て消えていた。
酷い話であるけれども、これで、解決。してくれたら実はそれが一番良いのだ。





次の日の昼。寺子屋の昼休憩とおぼしき時間に、かの、慧音の旦那がやってきた。
「新聞読んだか?」
開口一番、これであったが。○○は首を横に降ってまだだと言う意思を示した。
慧音の旦那は黙って、文々。新聞を投げ渡した。
相変わらず扇情的な文面はこうであった。


850 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:32:55 oggs3t/Q
半日にて、誰にも気付かれずに神速の解決!
昨日早朝、永遠亭の薬師、八意永琳女史が悪漢にて誘拐されると言う事件が勃発。
なれども読者諸氏よ安心されたし、この事件は既に当新聞の執筆者が知ったときにはもう解決していたのである。

九代目様こと稗田阿求と、上白沢慧音女史には夫がいるのは知っての通りであるが。
普段は、聡明なる二人の妻の影に夫たちは隠れているが。
いざ事件が発生すれば、その解決者として夫たちが、またもや!立ち上がったのである。

稗田阿求の夫、○○は。事件を聞くや否や、鼻の良い名犬トビー号を連れて。盟友である上白沢家の旦那を連れて竹林へと出陣。
八意女史誘拐現場である、散らばった医薬品等の中から重要な証拠を発見し、名犬の力も借りてこれを追跡。
最終的に、竹林に住まう藤原妹紅の助力も願い。見事八意女史を奪還せしめたのである!
恐らく悪漢達は、八意女史を当てに身代金を。
もっと悪い想像であるが、慰みものにもしてしまおうと考えたのかもしれぬが。
犯行を大々的に喧伝する前に、制圧されてしまったのである。


唯一残念な事は、『六名』の悪漢達が。八意女史の奪還に浮き足立ち、仲間割れの末に全員が共倒れになってしまった事であろうが。
上白沢慧音女史の指揮の下で、似顔絵が作成され。
本誌にも掲載されておるため、この者達を知っておるならば最寄りの自警団や、寺子屋にご一報願いたい。




読み物としての派手さは相変わらずであるが。○○はひとつ、気づかねばならないことがあった。
「六人だと!?」
「そうだ、死人が一人増えている」
「どういうことだ?」
○○の疑問に答えてくれたのは、一通の手紙であった。
「今朝がた東風谷さんから届いた」
○○はしゃにむになって、その中身を読んだ。


851 : 八意永琳(狂言)誘拐事件12 :2019/03/11(月) 20:34:34 oggs3t/Q
大変なことが起こりました。
死体がひとつ増えたのです、しかも猟奇的な。
竹林の奥に、いい感じに死体を並べようとしたら。新しく見つけてしまったのです。
しかもその死体、口には竹笹が突っ込まれていて、腹は竹槍で貫かれていました。
明らかに、何かの意思を感じますし。その死体は、五名の亡骸の兄貴分だったのです。
一番怖かったのは、この猟奇的な死体を見た忘八達のお頭が、跳び跳ねながら喜び出して。
何もないし、いないはずの。自分の背中を何度も振り返った事です。
お伝えするべきだと思ったので、お手紙を送ります。


「何てことだ。たぶん、似たような事件がまた起きるぞ」
○○は首を降りながら恐れおののいたが。
「○○、俺たちに今出来るのは。お前の妻である稗田阿求や、俺の妻の慧音が、天狗を使ってまでもでっちあげた名声に乗っかることだ」
慧音の旦那は、どこか諦めのような悟りがあった。



八意永琳(狂言)誘拐事件 了


同じ世界観で、続きます


852 : ○○ :2019/03/12(火) 23:53:32 hhbatLYY
 探偵助手さとり11

 すっかりと夜の帳が落ち、辺りが暗闇に包まれた街で探偵はさとりと一緒にいた。世間を騒がせている怪盗やら連続殺人犯とは違って
テレビや新聞といったマスメディアで誰もが知っているコメンテーターによって喧々諤々と話題にされることはないものの、れっきとし
た事件のためにこの場所に来ていた。世間一般には出回らずに、インターネット上のみで密かに注意喚起されているその事件。人目に憚
る性質のせいで、ゆっくりと、緩慢に、しかし確実に、当局の必死の捜査にも関わらずに、被害者は増えていた。
 もし、さとりが助手として依頼を仕入れて来なければ、そんな事件が起きているとは露にも思わなかったであろうと探偵は思う。陰湿
な-しかしどす黒い暴力を感じる一連の事件。探偵としての使命だけでなく、一人の人間として単純に何かしたいと思わせたそれは、今
探偵の目の前で網に掛かろうとしていた。事件を見つけてきたのと同じように、業務用の飛ばした携帯を何度か操作するだけで、あっさ
りと犯人をおびき寄せたさとり。彼女にまかせればどのよう難事件でもたちどころに解決をするのだろう。今まではそうしてきたし、恐
らく今回もそう出来るのであろう。しかし探偵は今、どうしてもさとりを引き留めておきたかった。
「さて、そろそろ待ち合わせの時間ですよ。」
「ああ…。そうだな。」
「そうですが、これは?」
心を読めば直ぐに分かるであろうに、敢えて探偵に捕まれた腕を上げて尋ねるさとり。いや、彼女の場合ならば分かっていて、わざと質
問をしているのであろう。その証拠に薄らと彼女は笑っている。嘲笑うように、そして慈しむように。遙かに非力な彼という存在を。
「今回はさとりの作戦に乗れない。」
さとりの言うことに反対する探偵。これはかなり珍しいことと言えた。普段ならば大抵のことに、或いは大抵という常識の枠を超えてし
まった具合についても、探偵はさとりがしたことを受け入れていた。彼女によって人間からはみ出してしまった時ですら、厳密に言えば
「さとりそのもの」については怒っていなかったというのに、今回は明確に拒絶の意思を伝えていた。
「一応、聞いておきますが、どうしてですか?」
「危なすぎる。わざわざ犯人の居る場所に行って、睡眠薬が入った酒を飲むなんて。」

「ふうん…。そうですか、ありがとうございます。」
探偵の忠告をそのままにして店の方に歩き出すさとり。三歩も歩かないうちにさとりの後ろから、探偵のもう片方の腕も飛んできた。そ
のまま力任せにさとりを抱き寄せて、身を隠していた壁に押しつける探偵。掴んださとりの体は人形のように軽かった。普段はしない立
ち回りをしたせいで、息を吐き体を崩す格好でさとりにもたれかかるような姿勢になる探偵。見下ろす位置からさとりが言った。
「所長、このままだと、犯人を捕まえられませんよ。」
「大丈夫だ、警察に通報すればいい。」
「まだ向こうが、犯罪を起こしてもいないのに?」
「睡眠薬を大量に持っている不審な男がバーにいる、と言っておけばいい。」
「残念ですが所長、私なら自分で使うから持っていたとでも言いますよ。」
「沢山持って出かける人間なんて、邪な目的で持っている奴しか居やしないさ。」
「持っているだけで違法になる麻薬なら、その手も使えるのですけれどね…。今回は睡眠薬を飲ませないと、現行犯になりませんよ。」


853 : ○○ :2019/03/12(火) 23:54:29 hhbatLYY
「駄目だ。」
さとりをグイグイと壁に押しつける探偵。精一杯の力で押しているせいだろうか、荒い息が探偵の口から漏れていた。ふと、さとりが探
偵のほほに手を当てた。夜の風で冷やされて少し冷たい手の平によって、探偵は自分の熱が少し冷めた気がした。
「このままそうしていれば、犯人が帰ると思っているのでしょう?」
「……。」
「私が、このさとり妖怪の私が、そんなことをさせると思いますか?ほら、あの窓を見て下さい。あそこに女の子が一人いるでしょう?
前もって呼んでおいたのですよ。私の代わりになるようにって。」
「どういうことだ…。」
「お分かりでしょう?私が行かなければ、あの子が睡眠薬を飲まされるんですよ。ああ可哀想に。私なら睡眠薬なんてどうとでもなるの
に、何にも知らないあの子なら、きっと眠ってしまうでしょうね。そして周りで待ち構えている犯人達によって…。どうですか、これで
もまだ、このままでいますか?私は構いませんよ。どちらでも良いのですからね…。」
「ああそうだ。折角ですから力を使ってあの子の声でも聞きますか。いやはや、きっと良い悲鳴がするのでしょうね。」
「本当に強情ですね…。そんなに私を行かせたくないのですか?」
「ああ…。」
「他の女を犠牲にしても?」
「………そうだ。」
「ほらほら、私を選んだのですからそんなに涙を流さないで下さい、「あなた。」」
さとりが探偵を逆に抱きしめた。涙でさとりの服が濡れる。探偵の耳元で囁くようにさとりが言った。
「ほら、彼女お酒を飲みましたよ。一口、二口、わあ全部一気です。よっぽどお酒に強いんですね。」
中に入ろうとする探偵をさとりが抱き止める。探偵よりも細い腕なのに、体は少しも動かなかった。ニヤニヤと笑みを浮かべてさとりが
言う。
「駄目ですよ。ここからがいいところですから。」


854 : ○○ :2019/03/12(火) 23:55:13 hhbatLYY
店内で少女がグラスを口に運ぶ。既にテーブルの上には幾つもの空いたグラスが置いてあった。すっかり酔った少女が、上機嫌な風で一
緒に飲む男に話した。
「えへへ…。いやあ、悪いねお兄さん達。こんなにお酒を奢って貰って。」
「いや良いんだよ。どんどん飲んでくれ。」
ガチャリと音を立ててテーブルの上からグラスが落ちる。床に落ちたガラスは粉々に砕け散った。大量のアルコールを飲んで、テーブル
の上で崩れる格好になった少女を取り囲むように、人相の悪い男達が寄ってくる。
「ひひひ…。」
「嬢ちゃん、いやに嬉しそうだね。そんなに酒が旨いかい?」
「いんや、睡眠薬入りの酒なんて不味いだけさ。」
「あん?!」
さっきまでテーブルに突っ伏すようにしていた少女が立ち上がる。ゆらりと何かが少女の後ろから現れる気配がすると、犯人の周りに居
た共犯者がバタバタと倒れていった。
「あたいが嬉しいのは、お兄さんの新鮮な死体を運べることさ。なにせ、こんな悪霊に成り手がある奴は久しぶりだからねえ。」
「お、おまえ…何者だ?!」
「何って、妖怪だよ。…あっ、言っちゃいけなかったんだ。さとり様に怒られちゃうな。まあいっか、お兄さんすぐに死ぬし。」
逃げだそうとする男を素早く捕まえる少女。スカートから出た尻尾が嬉しそうに揺れていた。
「駄目だよお兄さん。本当は全員運びたいんだけれども、外の世界にも取り分を残さないといけなくって、お兄さん一人で我慢してるん
だから、さっ!ほら、大人しく、してっ!」
それから数分後に、店に入った少女が出てきた。どこに隠していたのか、入るときには持っていなかった一輪車を転がしている。大きな
荷台にはシートが掛けられていた。少女が走るように闇に消えていく。
「ね、いい光景が見られたでしょう?」
さとりは探偵に、今日一番の笑顔を向けた。


855 : ○○ :2019/03/13(水) 00:02:47 zQhfosZ6
>>843
遺伝する(?)ヤンデレというところが、闇というか業というべき物かが深まった気がするのでとても良いです…

>>851
頭が後ろを振り返ったとは後戸組の仕業なのでしょうか…。更なる謎が深まりそうな様子でした。長編乙です。


856 : ○○ :2019/03/15(金) 23:22:33 KhQQT86w
 ショック療法

 ふと気が付くと、パソコンを打つ手が止まってしまっていた。プログラムを組んでいた筈なのだが、目の前に打ち出されて
いるアルファベットはどこをどう間違えていたのか、無意味な文字列を画面に映し出していた。普段よりも疲れている気がす
る。理由は分かりきっているのだが、脳が納得するのかはまた別の種類の問題だ。固まっていた指をほぐすとコキコキと音が
なり、いつの間にか随分と力が入ってしまっていたことに気が付いた。そのまま肩を回すと血の巡りが良くなったせいか、体
の中で温かいものが巡るように感じた。
 そのままぼうっとしていると、ふと彼女のことが頭に浮かんでくる。あれだけ近くに居たのに、離れてしまった今ではどこ
となく調子が狂いそうであった。目覚ましのために入れたコーヒーを飲むといやに苦く感じてしまうのも、彼女がいつも人の
分までミルクを入れてたせいであろう。気分を変えるために別の作業をしていると、ふと、目が留まった。いつの間にかマウ
スのポインタがあらぬ場所を指している。このままクリックをしてしまえば、とんでもない誤操作になってしまいそうな場所
にポインタが置かれていた。
 ホッと息をつき作業を続ける。危ない所であった。あれに気がつかなければ酷い目にあっていたであろう。やはり疲れてい
るのだろうか。彼女に付き合っていた以前の方がよっぽど疲れていそうなものであったが、今の方が元気が無くなっている気
がする。いや、そんなことはない筈だ。いくら何でも有り得ないと思い、首を振って考えを打ち消そうとする。しかし心にこ
びりついた考えは、中々消えそうになかった。


857 : ○○ :2019/03/15(金) 23:23:11 KhQQT86w
 ざわついた心を押さえつけながら、更に作業を続けていく。今度は間違わないように細心の注意を払って、キーボードを叩
いていくと、徐々に工程が捗っていった。行列が進んで行き画面に文字が埋まっていく。乗ってきた気分のままに後半部分を
片付けようとすると、画面にエラーの文字が出ていた。
 ページを繰り戻して、問題の箇所を修正する。リトライを行うも再びエラーが表示される。今度は複数の箇所が赤く染まっ
ていた。イライラする心を抑えて修正をする。三度のエラー。今までのバグよりも、もっと根本的な箇所に間違いが表示され
たのを見て、グラリと視界が沸騰するように感じた。顔を手で覆いやり過ごす。荒くなった息が口から漏れ出る。去り際に彼
女が言った言葉が勝手に耳の奥でリピート再生される。そんな筈は無いのに、それでも居なくなった彼女のせいのようにすら
感じてしまう。自分が居なくなれば、きっと後悔すると言った彼女。噛み締めた奥歯の隙間から、声が漏れた。
「…天子。」
白昼夢の幻覚の中で、彼女がこっちを見て手を伸ばしている気がした。


以上になります。


858 : ○○ :2019/03/16(土) 21:53:28 RgcZzJHY
>>856
あ、そうか。天子は紫苑と仲良くなったから……相手を困窮させる事が前よりもずっと簡単になったのか

>>851と同じ世界観で、続編を投稿いたします


859 : 日中うつろな男 :2019/03/16(土) 21:54:47 RgcZzJHY
俺達の妻が、天狗すらも使ってもでっち上げた名声だ。噛み締めるしかない』
慧音の旦那からは、そう言われてしまった。
……その意味はすぐに分かった。


「これは!稗田の旦那様!ほら坊や、あんたも頭を下げなさい!永遠亭の薬師を守ってくれたのだよ!?あんたも飲んでる永遠亭の薬が、どうなってたか分からなかったんだよ!?」
稗田家で使う資料やらを持ち帰る際に、そうだ阿求にお菓子でも買って帰ろうと思って大通りに向かったのだが。
「九代目様の夫様!貴方は私の母の恩人と言っても過言ではありません、母は永遠亭の薬無しでは歩くこともままならなくて……」


先程は、親子連れが。今度は青年から、それ以外にも何度も何度も何度も。
最初の方以外は、多すぎる物だから。ついに誰からお礼を言われたのかと、それを覚えることを放棄してしまって、愛想笑いを浮かべる以外はやらなくなってしまった。

思わず大通りに向かった事そのものを、後悔してしまうほどであった。
人々にもう少しばかり分別を無くすぐらいの興奮をもってしまっていたならば、○○は今頃はとっくにもみくちゃにされてしまっていたであろう。

しかし幸いにもそれはなかった。
「どうも、どうもありがとう。でも阿求が待っているから……資料もそうどけれども、帰りが遅いとすぐに心配するから」
○○の妻である阿求のお陰であろう。
阿求の事を口に出すや否や、○○を囲んでやんやと言っている者達は、急に我に帰るのである。
お陰で随分と囲まれながらも、○○は特段には困らずに大手を振って歩くことが出来るのだけれども。
そうしたら、それはそれで。永遠亭の危機を招いた悪漢に--そう、阿求と慧音が演出した--立ち向かった○○に。拝む者まで現れる始末であった。
(……俺は仏像か何かか?)
相変わらずの笑顔であるけれども、疑問と言うか違和感は膨らむばかりである。



なるほど確かに、永遠亭は幻想郷における最高水準の医療機関である。
そこに、人間よりも体が丈夫な種々の連中ですら頼っているのである。
人間ならばなおのこと、もはや依存と言っても過言ではないだろう。
永遠亭の存在によって、人里の健康衛生寿命の水準は引き上げられた。

故に、永遠亭には神仏にすら勝るとも劣らない。不思議で崇高な魅力が……
専門的な知識を得ている者達ですら、最初から永遠亭に泣きつくことすらある。
そう言った知識が無い場合は、その不思議で崇高な魅力は、高止まりこそすれども、引き下げられることは万に1つも無かった。


860 : 日中うつろな男 :2019/03/16(土) 21:55:36 RgcZzJHY
「ありがたや、ありがたや……」
阿求の為にお菓子を買って帰ろうと言う思いに揺るいだものは無いので、すこしばかり流行っている菓子屋の近くで。一人の老婆が一心不乱に拝んでいるのが見えた。
またかと呆れたが、よくよく見ればその老婆は違う方向に向かって一心不乱に拝んでいた。
「はい、はいはいはい……汝に幸あれ」
だが出てきた人間を見て、その老婆の行動が理解できたし。友人に対する同情心も芽生えた。
慧音の旦那であるのだから。
阿求と慧音が、持ち上げた。二人のうちの一人なのだから。
世間的には、○○の友人であるかの慧音の旦那も。
永遠亭の危機に立ち向かった英雄なのだから。


「よう」
すこし助けてやるかと考えながら○○が声をかけたら、友人はひどく皮肉な笑みを浮かべながらも。
「助かったよ、俺一人じゃ大変なんだ」
腹の底から重々しく吐露したのだけれども。
「ひえええー!?お二人ともが一辺にぃー!?」
老婆が卒倒してしまった。
友人は皮肉げな笑みが張り付いて固まってしまった。



幸いにも老婆は、少しばかり腰を抜かしただけで、泡を吹いたりもしなかったので。丁重に立ち上がらせれば--相変わらず拝んでいたが--永遠亭に担ぎ込む必要は無かった。
まぁ、無理もないだろう。年かさほどこの幻想郷では神仏に対する信仰心--慧音の旦那は依存といつか表現していた--がやたらに高い。


最高水準の医療機関に対する信頼も、年かさ達にとっては信『頼』ではなくて信『仰』なのだ。
○○はそれを、いやらしい話だけれども面白いぐらいには考えていたけれども。
慧音の旦那は、冷ややかに見ていた。


861 : 日中うつろな男 :2019/03/16(土) 21:56:30 RgcZzJHY
老婆の知り合いが偶然近くにいたので、助かったと思いながらその者達に笑顔を浮かべながら見送ったのだが。
○○の真横にいる慧音の旦那は、笑顔の張り付き具合がひどく。
こめかみ辺りのひくつきも、○○が彼の横にいるから嫌でも観察できた。


そして老婆が完全に見えなくなった折に。急に慧音の旦那は、スゥっと表情が消えて。
「慧音のためにお菓子でも買って帰ろうと思ったのだがなここまで巻き込まれるとは思わなかった。しばらくお前に付いていかせてもらう。その方が一人で相手するより楽になるだろうからな」
「……奇遇だな。俺も阿求にお菓子でもと思ったんだ」
お互いに妻の事を考えている事を、称賛含みで○○はつぶやいたが。
「悪たれ小僧を相手にしている方が楽だし、むしろ楽しいよ。面倒じゃない」
○○の宥めるような声にも気づかずに、自分のなかにある苛立ちをぶつくさと呟いていた。



「何を買ったんだ?」
とにかく拝まれることすら慧音の旦那はうっとうしいようで。他愛もない会話をひたすら続けて、歩く邪魔をさせないように必死であった。
ただ○○も歩くことすら間々ならないのは、確かに我慢は難しく。○○も付き合った。
「豆大福と、おこげせんべいだ」
「旨そうだな。俺が買ったのとは違うが、流行りの店だけあって見た目も良い」
慧音の旦那は更にぐいっとやって、中身を覗いてきた。


要するに周りから距離を起きたいのだ。目線さえ合わさなければ、妙な方向に発展もしにくい。
「あぁ、豆大福だったら一個だけあげれるよ。おこげせんべいは勘弁してくれ」
そのまま他愛もない話を無理矢理続けて、○○と慧音の旦那は稗田邸にまでたどり着いて。
慧音の旦那も、何となく流れで稗田邸に入っていく事になった。
あくまでも流れでそうなったので、すぐに帰るが。
また妙な信仰心に揉まれるのではと。慧音の旦那は気が気では無かった。



「ところで、帰りはどうするんだ?」
○○はもう構わないけれども、慧音の旦那はここから更に歩いて、寺子屋の方まで向かわねばならない。
「人力車でも呼ぼうかな……」
慧音の旦那が、半ば唸りながら案を呟いていたが。
周りから完全に、視界すら遮るとなると。それが最も安全な牌なのかもしれなかった。
その上、稗田家が呼んだ人力車ならば引いてくれる人足夫の素性も安心できる。


862 : 日中うつろな男 :2019/03/16(土) 21:57:34 RgcZzJHY
「あぁ、人力車を呼ぶのなら一緒に乗ろう」
慧音の旦那が人力車で逃げてやると決心を固めていたら。思わぬ人物から声がかかった。
この旦那の妻である、上白沢慧音であった。
「え?」
声を聞けば、この旦那も○○同様で。妻の事は深く愛しているので、声の一端だけで気づけるが。
さすがに頓狂な声を出してしまった。
まさかいるとは思わなかったのだから、仕方がない。


「やぁ……まぁ、表向きは永遠亭を助けた英雄だから。まぁしかし悪く思われているわけではないからな。献上品が来るのは若干困るが……」
「あぁ、あぁ……」
そのまま慧音は、横にいる○○の事は素通りして--仕方のないことだけれども--自分の夫にズイッと寄った。
鼻先が触れるほどの近さである。そのまま唇どうしが触れるのではないかとすら思う。
ただ○○は覗き見の趣味はないので、視線をすぐに外した。

「あぁ、阿求。お土産買ってきたよ、大通りにある、流行りのお菓子屋」
それに○○も、自分の愛妻の姿を確認した。
「あら、○○。この間私が美味しいって言ってたの、覚えていたのですね」
「もちろんだよ」
○○が優しく声を出しながら、袋の中身を愛妻の阿求に見せたら。
パリッと言う、せんべいが割れるような心地いい音が聞こえた。





「おめでとう」
少しばかり両夫妻がイチャついて、一息着いたとき。慧音が少しばかり首を、軽く横にふりながら○○に声をかけた。
言葉と体の動きが矛盾しているが。慧音の旦那は何かに気づいたようだ。
「……そうだよ。慧音が、何の用もないのに稗田邸に来るはずが無い」
慧音の旦那はうんざりとした。○○とはうまくやっているが、○○の探偵ごっこだけは呆れ返る嗜好だと考えていたから。


「そうだ、依頼人が来た。稗田邸に直接来るのは遠慮やはばかりがあったから。寺子屋にいる私を仲介役として頼んできたんだ、よくない依頼ならこちらではねてしまうから。審査してもらおうと言う魂胆もあるのだろうな」
慧音の説明に、○○はにんまりと表情が変わっていった。
何より、慧音が首をたてに降ったのならば。
--慧音の旦那にとっては忌々しいが--○○にとっては最高水準の暇潰しなのだ。
まことに忌々しいけれども。


「依頼の内容は」
案の定○○の声色は上ずっていた。しかし稗田阿求が笑っているので、○○の嗜好は、○○にとっては幸いにも愛妻の公認があるのだ。


「猟師兼退治屋の主が、どうにも『うつろ』らしい。何にうつつを抜かしているのか、調べてほしいんだとさ」


続きます


863 : 秘封の源流2 :2019/03/19(火) 14:27:09 ZgUv2gts
ちょっと長くなりそうだ……
>>843の続きとなります


「あなた、あなた。○○さんが来てくれたわよ」
菫子さんは自分の夫が、つまりは蓮子にとっての祖父がいる部屋をノックした。
無論○○は逃げる気など無いが、菫子さんの足さばきと言うか体運びと言うか。
スッという風に動いて、間違いなく意図しているのだろうけれども相手の動きを若干封じるような場所に菫子さんは驚くほど滑らかに。
それ以上に恐怖してしまうぐらいに静かに、そしていつの間にか菫子さんが移動している。
それをまさか蓮子以外から見せられてしまい、遅ればせながらではあるけれども。あぁ、やっぱり彼女は蓮子のお祖母ちゃんなんだと。
そう言う関係の濃さと言う物を見せつけられてしまった形であった。
これでは逃げる事は出来ない、逃げるために少々の無茶――それも暴力的な――を押し通さねばならない。
蓮子とメリーと言う極上の美人をこっぴどく振るのと、菫子さんと言う老人を突き飛ばすのと。
非難の矛先は違うけれども、社会的生命に致命的な打撃を被るのはどちらの例をもってしても、さしたる違いは存在していない。

それに菫子さんから、私の夫の方が会いたがっていると言われている。○○に興味を――良いか悪いかはこの際では置いておく――抱いている人間が1人だけでは無い以上。
もう、ここまで来てしまった後に逃げるだなんてことに、先延ばし以上の価値が無いのは明白であるから。
だったら最初からバックれた方がまだマシとすら言えてしまえる、その場合も蓮子とメリーが動くから、誰の手によって破滅を迎えるかの違いにしかならないのは苦しい所である。
○○はまな板の上の鯉のようにする以外の道は無かった。本当の命までは取られないだろうけれども、その次ぐらいには追い詰められている。

「ああ、大丈夫だ。入れてくれ」
菫子さんが部屋の扉を叩いて数秒後、中から声が聞こえた。老人らしくしわがれていたが、重々しさの方が際立っていた。
その重々しさは、誰の手によって重くさせられているのだろうか。最も○○としても、全くの無関係だとは考える事は出来ないのだけれども。


かくして部屋の扉は開かれた。
願わくば、この扉に○○は比喩的な意味を見つける事が無いようにと。柄にもなく神仏に祈りをささげてしまった。




「もう少しで終わる」
菫子さんが最初に言っていた通り、蓮子の祖父であるこの男性はベットに座りながらではあるけれども、昔の映画もしくはドラマを見ていた。
しかし流している映像よりも、入ってきた自らの妻である菫子と。どう考えても孫にその友人ごとまとわりつく厄介者の○○を見ていた。
「君が○○君だね?もう聞いていると思うが、私が蓮子の祖父だよ」
蓮子の祖父は、○○を見たままで手元にあるワイヤレスキーボードを操作して、画面の映像を止めた。

「このエピソードは何度も見たから、もう感覚で残りの時間が分かってしまえる。あと五分も無い」
手元にあるワイヤレスキーボードの少し向こう側に、電源が入れっぱなしのパソコンが置いてあった。
「オンデマンド配信……良い時代だよ。借りに行く手間も必要ないし、動画を見るだけならそこまで高性能のパソコンも必要では無い。本気で気に入ったならソフトを買うが、そこまで行かないのも多いからな」
蓮子の祖父はそう言うけれども、それは本心からの他愛のない会話などでは無いのは、人生経験のまだまだ低い○○でも分かる。
蓮子の祖父はただただ、じっと。○○の瞳を常に覗き込んでいた。
オンデマンド配信を褒める時も、と言うよりは菫子が○○を連れて入ってきたときからずっと。
○○の方向に興味が固定されてしまっていた。


864 : 秘封の源流2 :2019/03/19(火) 14:28:03 ZgUv2gts
「菫子」
蓮子の祖父が、○○の瞳を覗き込むのをやめるまでの時間は、そこまで大きなものでは無かったはずだけれども。
○○の主観ではもう既に、何十分も詰問されている気分であった。悪い印象や空気程、長く感じる物である。
「蓮子とメリーちゃんは?」
「料理の用意を手伝ってもらっているわ、五人分だから思ったより手間がかかって。まぁでも、あとは盛り付けて配膳するだけだから。そんなにはかからないわ」
「そうか、じゃあ○○君と話をしていればすぐに終わるな。用意が出来たら呼んでくれ」
そう言って蓮子の祖父は手元のワイヤレスキーボードを、使い慣れているからだろう、全く見ずに一時停止から再生の状態に戻った。
菫子さんの言う通り、彼は古いドラマや映画が好きなようで。今の技術で映像に修復を加えているのだろうけれども。
根底に眠るセピア調の雰囲気までは消えていないと言うか、あえて消していないのかもしれなかった。
どちらにせよ雰囲気が良くて、彼が、蓮子の祖父が古い映画やドラマを好む理由が何となくわかった。
最も、やはり蓮子の祖父は。何度でも好きな時に見られるオンデマンド配信よりも。次はいつ来るか分からない○○の方に、意識が固定されていた。
良い意味であればまだ、良かったのであるけれども。


「ええ、じゃあ私は用意に戻るわね…………」
菫子さんはひとおもいには去らずに、○○の方を見た。
「大丈夫よ私と蓮子は似ているから。私が選んだこの人も○○さんと似ていると思うわ」
そして意味深長な事を言い残して立ち去った。良いか悪いかの判断が全くつかなくて、怖いだけであった。



「まぁ、座りなさい……喉乾いていないか?封の開いていない飲み物があるぞ、水とお茶しかないのは申し訳ない、ジュースは喉に絡んでしまうから避けているんだ」
せっかく再生した映像を、蓮子の祖父はまったく見ていなかった。
映像は、よほど見慣れている蓮子の祖父が言った通りでもうほとんど終わろうとしていた。
探偵らしき主人公が相棒と一緒に、馬車から飛び降りて駅へ駆け込み。連れ去られようとしている女性を、悪党たちの手から取り戻した所で終わった。
中々に暗示的じゃないか……蓮子の祖父、彼は狙ってこの話を○○が来るときに合わせたのだろうか。
だとすれば計算高い蓮子と同じだ、彼は間違いなく蓮子の祖父だ。
男は究極的には、目の前の子どもを産むのにお腹を痛めていないから。科学が発達するまでは確証が持てないと言う葛藤を抱えていたと聞いたことがあるけれども。
彼と、菫子さんと、その孫の蓮子。この間に血のつながりを不安視するようなものは無いと断言してしまっても良いだろう。



○○は、蓮子の祖父から差し出されたお茶も水も。厚意に甘えてはいとも、せめてもの遠慮で点数を稼ぐためにいいえとも言えなかった。
「どうせ私の話は長くなる」
そこで、蓮子の祖父がしびれを切らして、お茶の封を開けてしまった。もうこれはいただくしかない。
「あの……ありがとうございます」
「ただ私の話を聞いてくれればいい、相づちも必要ない」
蓮子の祖父から飲み物を受け取る際、無論の事○○は礼を言ったが。ともすれば蓮子の祖父は、礼すら必要ないと言う冷たい態度を取っていた。
「蓮子はメリーちゃんと結婚する物と思っていたよ……まさか男を、互いの公認で連れるとは思わなかった。子孫は、菫子よりも進化しているのかな」
やはり心象は最悪ですら生ぬるいのだろうか。
そりゃ、孫が美人でその女友達も美人ならば。間に入る男に良い顔をしろと言っても難しいことこの上ない。


「でもこれだけは保証しよう、○○君は被害者だ。若くて知識も豊富な分、蓮子は菫子よりも苛烈になれる。私よりも危ない立場に、目的の為ならば孫の蓮子は○○君を追い詰める。私の話よりも悪い状況を苦も無く作るだろう」
けれども、蓮子の祖父は同時に、○○の知る有る人物と似ているとも考えてしまった。
「私もだてに年はとっていない。○○君と同じ大学の彼にせよ、目を見れば諦めの色は感じ取る事が出来る、同族だからな!」
半ばやけっぱちに笑いながら、蓮子の祖父は手元のワイヤレスキーボードを操作して。ある人物の画像を出した。


865 : 秘封の源流2 :2019/03/19(火) 14:29:37 ZgUv2gts
「あっ……」
それは先輩だった。けれども、先輩の画像がネットを検索してすぐに出てくるのは不思議では無い。
この世界で、大統一理論をほぼ完ぺきに理解している、岡崎教授と北白河助手のお世話役兼広報でもあり。
暗黙の了解の内での、岡崎及び北白河さんの恋人なのだから。
だから、蓮子の祖父が○○の先輩の画像を出してきたのは全くの別の所からの驚きであった。

「やはりな、同じ大学と言うのに因縁を感ずるがそれは、今はよしておこう。どちらにせよ私は一目見ただけで、この岡崎と北白河さんが、うちの菫子と同種の……」
蓮子の祖父は少し言葉を切って、ため息を大きく付いた。
「今思い出しても寒気がする」
心配になって寄ろうとしたが、彼は何かを思い出している真っ最中のようであった。
体調の急変では無いので、それは安心できたが……心の底からでは無い。


「話を続けよう。私の恋人で、今は妻である菫子の話をしよう」







菫子の言った通り、私と菫子の出会いは高校だ。
そのあと菫子は、私を追いかけて同じだが国までやってきたが。まぁその部分に関しては枝葉だ、殆どの話は高校で完結する。
菫子が大学でやった事は、高校で上手くいったことを洗練させているだけに過ぎない。
……焼き直しでは無くて洗練させられることが出来ると言うのは、恐怖含みで賞賛に値する事だがな。

菫子から聞いているから私も知っているが、蓮子は秘封倶楽部と言うオカルト趣味のサークルをメリーちゃんと行っているそうだな。
若干の補足を入れると、実はその初代会長は私の妻である菫子なのだよ。
どこでどう見知ったかまでは知らないが、何年か前に菫子の話を目をきらめかせながら聞いている蓮子の事は覚えているよ。

……それで。この際だから聞くけれどね、○○君。秘封倶楽部の活動に君は関わっているのかい?


○○は黙ってうなずいた。蓮子の祖父は満足気な顔をしていた。


ならば話は早いな。今の、大統一理論すら完成してしまったこの時代にオカルト趣味に理解を持てる君ならばこの話も信じてくれるだろう。
私の妻の菫子は、どうやら、目には見えないけれども確かに存在する世界に入り込むことが出来たようなのだ。


○○は言葉こそ出さなかったがその表情に、困惑の色があったけれども。
結局は、オカルト趣味と言うよりも。オカルトそのものの肯定を、秘封倶楽部と関わった時点で行っている自分に気付いた。


最初は私も鼻で笑っていた。けれどもね、私の趣味も実を言えば鼻で笑われるような趣味だったから。

そう言って蓮子の祖父は、オンデマンド配信のサイトに画面を戻した。


履歴を見てもらえばわかると思うが、私が好んで見る作品はどれも古い物だ。
私の学生時代の映画は、もう大規模なセットや数百人のエキストラを動員して画面に迫力を持たせるなんてことはほとんど消え去ってしまって。
愛想もこいそも無い、緑や青い布の前で俳優が演じて。後から強大な敵や、頼もしい味方たちやら、大乱戦やら。そう言った物をCGでかき込んでいた。
私はどうにもそれが、高校の頃から苦手でね。最初から全部書き込みで作られている、アニメやゲームならば平気だったのだけれども。
この微妙な感覚は、残念ながら同年代の人間には理解されないままであったよ。
単色の布の前で演じる俳優たちのメイキング映像を見て、この人たちは精神がおかしくならないのだろうかと、心配にすらなったよ。


たった一人の例外。
宇佐見菫子を除いては、私の微妙な感覚や趣味は理解されなかったよ。


866 : 秘封の源流2 :2019/03/19(火) 14:30:52 ZgUv2gts
続きます
最近、スマホでも長文が打てるようになったから。
そこは助かるようになってきた、喫茶店に入れば外でも書ける


867 : ○○ :2019/03/19(火) 20:19:24 Q5a8RS9w
俺もスマホ太郎なんだけどスマホから見ても気づかなくてPCから見たら一文だけ長いとかでレイアウトがひどいこととかしょっちゅうある…
みんさんも自分が書いてる媒体と投稿した時の文章レイアウトの差異とか気をつけてたりします?


868 : ○○ :2019/03/21(木) 03:32:15 6V7IYylA
「神は試すものではない。とはよく言ったものね○○。」
どういった意味で彼女が言ったのか記憶は定かではなかったが、僕の耳にその言葉は嫌に残っていた。電話越しの声しか知らない彼女であったが、
不思議とその言葉は僕が想像する彼女のイメージに合っている気がした。僕と彼女の不思議な関係。今までに一度も会ったことはなく、常に彼女
との会話は電話であった。電子の波が押し寄せたこの御時勢にはやや古くなった、電波を通じた声の遣り取り。常に彼女は一方的に通話をしてき
て、そしていつも別れの挨拶は彼女から。この関係を彼女に振り回されていると言えば何だか語弊があるだろう。第一、僕は彼女との遣り取りが
嫌いではないのだから。

 その日も彼女と話していて、されどもその日は歩きながら電話をしていて、偶然にビルの建ち並ぶ街並みの合間に入り込もうとした時、唐突に
ピリリとした雰囲気が電話の先から流れてくるのを僕は感じた。今までに経験したことのないような、鋭利な刃物が突きつけられるような、日常
の穏やかな雰囲気を切り捨てるような感覚。僕の心臓がドキリと鳴った。今まで話していた内容を急に打ち切り、数瞬の間か、あるいは後から思
い出してみれば数秒の間だったかもしれないのだが、その時彼女は黙り込んでいた。そして彼女は言った。いつもの彼女からすれば珍しく大声で
はないものの、芯の入った強い声で。
「○○、今どこにいるの?」
彼女の声が耳に入ると、僕は反射的に返事をしていた。
「もうちょっとで××ビルの所。」
「すぐに出なさい。」
「え?もうビルの影に入ったとこだけど…」
「止まりなさい○○。駄目ね……。 と ま れ。」
その瞬間に僕の足が止まる。まるで地面に縫い付けられたかのように、ピタリと僕の足は制止していた。いくら僕が力を込めても、足はウンとも
スンとも動こうとしない。電話の先からなおも彼女の声が聞こえてくる。
「いい、○○。電話を切るんじゃないわよ。今からそっちに行くから。」


869 : ○○ :2019/03/21(木) 03:32:46 6V7IYylA
 その言葉を皮切りにしたように、僕が入ろうとした路地から黒い影が出てきた。日の当たらない陰より現れた明らかなる異形のモノ。それは絶
望を塗り固めていた。怨念、悪意、敵意、そして死の匂い。そういった諸々の害意を纏い、ソイツはそこに存在していた。僕の首筋から汗が流れ
る。最初に流れた一筋の汗が肩に落ちる頃には、首筋一面から、そして額からも汗が流れ出ていた。全身の皮膚が泡立つようにかき回されて神経
が縮み上がる。浅い息が口から漏れて、知らず知らずの間に小さな悲鳴となっていた。
 いつの間にか動くようになっていた足を動かし、後ろを向いて逃げだそうとしていた。恥や外聞など忘れ、唯々生存本能のままに駆け出そうと
する。動かなくなっていた神経に強引に命令を捻り込んで駆け出すが…、遅い!遅すぎる!まるでスローモーションが掛かっているかのように、
ゆっくりとしか僕の体が動かない!後ろの様子は分からなくとも、背中から強烈な感覚がこちらに近づいているのを、僕はひしひしと知覚していた。
「お待たせ。」
いつも聞いていた彼女の声がした。誰も周囲には居なかった筈なのにいつの間にか彼女は僕の隣にいた。テープを切るマラソンランナーのように
倒れ込む僕。地面に転びながらも見上げた先で、彼女は剣を握っていた。
「…緋想溢れて塵に同ぜよ。」
呪文のような言葉と共に彼女が剣を振るう。剣の先は悪霊まで届いていないにも関わらず、ソイツは消しゴムで文字を消すかの如く消滅していっ
た。一刀の元に悪霊を切り捨てた彼女が剣を収める。晴れ渡った空の元で、青い髪がサラサラと揺れていた。


870 : ○○ :2019/03/21(木) 03:36:56 6V7IYylA
>>862
○○は阿求によって染まってしまったのでしょうか。そこが先生との対比に
もなっている気がしました。

>>865
諦めの中にいる○○は何を思うのか…


871 : 日中うつろな男2 :2019/03/22(金) 18:44:02 mWL0h.2Q
>>862の続きとなります

阿求と慧音が、客を通す為の部屋に○○と慧音の旦那を連れていった。
○○は必死に表情を取り繕って面白がってる風を、なんとかして隠していたが。
付き合いが多い慧音の旦那にとっては、表情にわざとらしさが乗っているのが見えて奥歯を噛み締めて、不快感をあらわにするけれども。いつだったかに気付いた事があった。
不快感を堪えているこの顔が、えらくその時々において、物事をさも深刻に考えていますよと。
慧音の旦那はそんなこと思っていなくても、稗田家や阿礼乙女の九代目に泣きつくほどに切羽詰まっていたならば。
依頼人の方が、そういう希望的観測を強く持ってしまうものであった。


だったらいっそのことニコニコしてやろうかなとも考えたが、少しだけ表情を動かしただけでかなり無理があると気づいてしまったので。
いつも通りの顔でいておくことにした。それこそが○○の暇潰しに協力してしまっているという、間々ならない結果をもたらしているのだけれども……
無理をして気分や神経に悪影響は与えたくない。
それに、稗田阿求が結局のところは全ての采配を行っている。少なくとも○○の周辺においては。
……となれば、慧音の旦那としても無茶は出来ない。
いまだに稗田阿求が何を考えているか分からない以上は、黙って状況の理解に頭を使うのが最善なのである。
まぁ、人里の最高権力がその気であるから。状況が理解出来たあとも黙っていることになりそうではあるが。

それに、くちさがない話ではあるけれども。阿礼乙女は短命だと聞いている。
……そう考えれば、アリなのかなと考えてしまった。
慧音の旦那は、自分の甘さを意外にもまさかこの場で自覚した格好となった。
となれば、○○もきっと甘いのかもしれなかった。


そう考えていると、部屋に入ることになった。客人である青年はガチガチに緊張して、凝り固まった形で正座の形を維持していた。
湯飲みからは湯気が立ち消えており、小皿に入れられたお菓子は落雁(らくがん)だったので、ようかん等と違って乾く心配はなかった。
まぁ、この状況で。稗田家に入り込んでいて普通に飲食ができる方が異端なのだろうなと。
「○○、あなたにはようかんを用意していますからね」
稗田阿求が愛する夫である○○の為に、ようかんを戸棚から出してきたのを見て笑ってしまったが。
「あぁ、上白沢さんご夫妻も。ようかんを用意していますから、ご心配なく」
よくよく考えれば、慧音の旦那だって。稗田家で与えられたお茶やお菓子を、慧音と同じく普通に食していた。
自覚しなければならなかった、自分が他と比べれば遠い場所にいることを。
自分の妻は、上白沢慧音は、一線の向こう側にいる女性なのだ。
それと共にいる自分だって、一線の向こう側だと思われている。


872 : 日中うつろな男2 :2019/03/22(金) 18:44:51 mWL0h.2Q

「それじゃあ……多分阿求や慧音先生にはもう話されたのかもしれませんが。繰り返しになっているかもしれませんが、どうか持ってきたお話をお教え願えますか?私はまだ、貴方の所の頭領さんが退治屋兼猟師の頭領さんが『うつろ』だとしか知らないので」


依頼人である青年は、○○の柔和な促しと。慧音の旦那が見せた、手帳を取り出す姿にホッとしてくれたようだ。
……○○はともかく、慧音の旦那は話をいくらかは聞いている振りの手帳という小道具なのだけれども。
大体、九代目の完全記憶能力者がいるのに。自分のメモ書きにどこまでの価値があるというのだ。



「はは……退治屋ですか。買い被りすぎです、私達の事を」
しかし○○は柔和な姿以上に効果的な言葉でこの青年をほぐした。
そう言えばと思い出した、慧音は依頼人の事を猟師兼退治屋と言っていたが、○○は退治屋兼猟師と言って、一般的にはカッコいい部類に入る職業を先に持ってきた。
だがそれに関する依頼人の反応は冷ややかと言うか、ここにはいない連中への蔑みが確かに見えた。



「指先に火傷痕がありませんが、その代わりに爪の先に墨が挟まっていますね。袖口から見えた肌にも、跳び跳ねた墨が見えます。銃器ではなくて書類管理をなされているのですか?」
少しばかり青年が謙遜とこの場にいない者への蔑みを見せている、まさにその間隙に。○○がぽつりと自分の推理を出してきた。
そしてどうやらその推理、当たっていた。
依頼人の青年が驚いていたからだ。
慧音の旦那の口元が少し歪んだ、また○○が調子に乗る。
妻の慧音が旦那を少しばかりなだめた。
「良いじゃないか、阿求は喜んでいる」
その慧音の言葉は、慈愛と言うものに富んでいた。
旦那は皮肉気に笑った。稗田阿求が空いてでは勝てないなと。
それに阿礼乙女は、生まれながらに運命で押し潰されそうな事ぐらい、知っている。



「はい、そうでございます。私は頭領さんや『他の連中』への世話もありますが。一番は頭領さんや『他の連中』の出費、支出、収入。それら全部を管理する出納帳係りでございます」
「少々、言葉の端々で刺を感じますね。采配を振るっている頭領さんの事は、下に着くことを良いとしているようですが……」
端々に対する違和感については、慧音の旦那も気づいていた。
旦那は妻である慧音の方を軽く向くけれども。
少し困ったような顔をしていた。
……どうやらあまり質の良い連中ばかりではなさそうだ。
けれども、この依頼人からは悪感情を抱かない。ならばそれが尊敬しているとおぼしき頭領も大丈夫だろう。
……詰まるところ、この二人への愛着で慧音は依頼を受けるように稗田阿求を説得したのではないだろうか。

これならば、先に起こった。八意永琳狂言誘拐事件の方がマシかもしれなかった。



「……まぁ、頭領さん以外の人となりに関しては後程ということで。頭領さんの現況についてお聞かせください」
気付けば○○も、慧音の困ったような顔を確認していた。
目ざといやつめ!!
しかし慧音の様子から大体の事を感じ取ったらしく、話の中心を『うつろ』な頭領に関わることに限定しようとした。
どうせ○○は調査に赴き『たがる』から、後々でも構わないのは確かにそうかもしれなかった。



「そうですね、そうしましょう」
依頼人も嫌な話は避けたいようで、頭領の事だけを話したがった。


873 : 日中うつろな男2 :2019/03/22(金) 18:45:56 mWL0h.2Q
「まずは、この話はお二方が解決に尽力された八意女史誘拐事件までさかのぼります」
慧音の旦那は思わず、稗田阿求を見た。
これはお前がほとんどの絵図を新たに書き直したのではないかと、目線で訴えた。
「少しね、六体目の死体にかじられたり振り回されたり叩かれたり、そう言うなぶる様な痕跡が見えたから。内々に、生業とされている方には教えておいたのですよ」
六体目、件の六体目!狂言誘拐事件で命を取られたチンピラは五人だと思っていたのに。
まさかの六体目!それが酷く我々を困惑させているのだ。


次に○○の表情を見たが、○○は。
「阿求から多少は」
「そうか……まぁいい」
どうやら知らないのは、慧音の旦那のみであったようだ。

腹は若干立ってしまうが、この依頼人には関係の無いことだ。慧音の旦那が促した。
「どうぞ、お話の続きを」
依頼人も慧音の旦那が思ったより知らされていないことに恐縮したが、話さないことの方が失礼だと思ったようだ。



「稗田家から情報をいくらか貰いましたので……私と頭領さんだけで少しばかり」
「時間は?」これは○○
「調査は基本的に日の出直後からにございます、竹林から川に出て、そこを上っていきました」
「はい、○○」
○○が地理関係を思い出していると、阿求が懐に収まる大きさであるが、地図帳を取り出してくれた。
少しばかり懐をはだけすぎのような感じは見えたが。慧音もその旦那もあえて問題にはすまい。
旦那に関しては後ろ向きな感覚で問題にしないかもしれないが。
そんなことを言えば、上白沢夫妻の互いの互いに対する態度だって。
慧音はともかくその旦那は、実は気付いていない。


「川を上ったのならば、紅魔館が近いですね……」○○が地図帳を見ながら依頼人へ聞いた。
「はい、ですが氷精の……」
「チルノ」今度は阿求が補足した。
「そうです、チルノ。あれの声が聞こえたら引き返すことにしています」
依頼人はなおも続けた。

「ですが、竹林から川から、そこを上る間に。明らかに暴れたような荒れたような、その痕跡ですね。それが見当たるのですよ」
○○が少しばかり思案顔になった。
「例えば、野武士や。我々が把握していない修行者がいるとか」
「……いや、それにしては荒れすぎている。あれは手当たり次第の暴れかたですよ」
依頼人がすぐに否定した。
「……厄介ですね」
○○もこくこくやりながら繕うが、内心楽しそうなのは、付き合いの長い慧音の旦那から見ればすぐに分かった。
「阿求は、心配してないからまだ大丈夫だろう」
妻の慧音が旦那に耳打ちした。なるほど確かに、落ち着いている。
落ち着いて、豆の入ったおかきを食べている。


「それで、ですね。確かに色々と避けていますが。毎日毎日、かち合う訳ではありませんし。氷精チルノだって、こちらが敵意さえ持っていなければ、向こうも割りと礼儀正しいですよ……力配分を理解していないような気がして、それは怖いですが……」


○○が間髪入れずに質問をした
「かちあった事がおありで?」
「……はい」
「それもごく最近、頭領さんと一緒に」
「…………はい、その通りです」
「かちあったのが何かまで、分かりますか?」
その段になったら、依頼人は残念ながら首を横にふった。
「複数なのは間違いが無いのですが……こう、晴れているのに雷でも落ちたかのような音がしたので頭領から逃げるぞと言われたっきり。よくわからなくて。場所は湖畔です。あれは倒木の音でもありません」
ここで依頼人は少しばかり話を切って、何かを思い出した。
きっと頭領さんの事を思い出したのだろう。


「それから数日経ってからです、頭領が『うつろ』になったのは」


874 : 日中うつろな男2 :2019/03/22(金) 18:48:53 mWL0h.2Q
「その上頭領は食事すらあまり取らなくなり……奇妙なことは更に続きまして。日陰を好むどころか、日の光を避けるようになったのです。毎日の鍛練のために外出こそしますが……その格好も黒ずくめで」


なるほど確かに頭領さんは、おかしくなっている。
けれどもその理由は、なんだろうか?
「阿求」
これだけては理由が分からないなと思っていたら、○○が声をあげた。
「人力車を呼んでくれ、依頼人の居宅へ行こう。善は急げだ」
活動的な○○が、もう立ち上がっていた。
「私達も着いていっていいかな」
意外にも慧音も、それなりに興味を持っていた。
まぁ、依頼人を稗田家に通した責任もあるから。ここで放るのも失礼だと思ったのは、どうやら慧音の旦那だけの感想であった。

「そうですね、人力車は密室に近い空間ですから」
稗田阿求は、少しばかり上気した顔をしていた。
それを見て慧音の顔を見ようとしたら、その前に慧音は旦那の腰に手を回していた。
無論のこと、密着度は高まった。


「……わたくしは歩いて参ります。お近くの甘味処でお待ちくだされば、伺います」
「では、私達が待っていると。店員にお伝えください」
阿求は人力車を呼びに部屋の外へ向かい。
「それじゃ、向こうで」
○○は外のやり方らしく、握手を求めた。依頼人はまごつきながらも応えてくれた。

「……あなた、何か匂いを消すために。銭湯に入りましたか?石鹸の匂いが強い」
「……実は、私も頭領も。タバコは吸わないのですが、他の連中は違っていて」
○○が少し妙な顔をした。
「タバコが嫌でしたなら、裏口からどうぞ。裏口の方が、連中目立つのが好きだから。使わないんですよ」
ここでようやく、○○の表情が戻った。



続きます
長い上にまだ途中ですから、感想をくださいと言っても、難しいかもしれませんが
どうか、感想をよろしくお願いいたします
書いてると、どうしても欲しくて

>>868
天子って若干めんどくさい子の印象があるから
神は試させてくれないけれど、私はどんどん試して良いわよ
○○にとって有益な存在であると、試されるだけ証明を続ける
そう言う意思表示なのかな


875 : ○○ :2019/03/25(月) 07:01:35 sWXy9rW2
>>874
今度はどれだけの長さになるんでしょうか?
既視感とか、先の誘拐事件くらいの長さが読者としては追いやすいかなと感じます。
それぐらいの長さのもので世界観を共有していくのがいいのかな、と。
遅ればせながら、誘拐事件完結おめでとうございます。


876 : 日中うつろな男3 :2019/03/25(月) 20:54:35 UbxUyCHU
>>875
書いていてやたら楽しかったけれど、やはり以前のは長すぎましたか。意識します

>>874の続きとなります


慧音にせよ阿求にせよ、愛する夫がいるからどうにも脇にそれがちではあったが。人力車にて、依頼人の居宅へ向かうことが出来た。
依頼人も自分の役割を出納帳の整理であって、猟師ではないと謙遜していたが。
馬車なら無理だったろうけれども、人力車であるなら、また身一つであるから余計になのだろう。
少しばかり早足を維持しつつではあるけれども、人力車を引く屈強な人足夫に難なくついて行くことが出来ていた。

「この様子なら、一直線で頭領さんのお宅まで追いかけられますか?」
阿求が人力車の窓から少しばかり身を乗り出して依頼人の青年に声をかけたが。
依頼人は息をまるで切らさずに。
「ええ!思ったより私の体力も、捨てたもんじゃなかったようで、嬉しいですよ!!」
そうは言うけれども、この依頼人は猟師兼退治屋の頭領さんから指名されて脇を固めることが出来るくらいには能力があるのだから。
数字の計算だけではなく、力仕事も十分に出来る素養があると言うのは自明の理と言うものであろう。


「あっ」
阿求と○○が、甘味屋には帰りに行こうかと話をしていたら阿求が短く、外に向かって声を出した。
無論、馬車ほどではないとは言え人力車はそこそこの早足で動く。
反射的に振り向きながら、何も見えないだろうと思ったが。
「東風谷さん?」いたのだ、というよりは見えてしまったのだ。東風谷早苗の姿が。
団子を食べながら、人力車とふよふよ並走しながら着いていく、彼女の姿が。そこにはあったのである。


「勘が当たりましたよ」
団子をもぐもぐ食べながら、早苗は得意げの中にため息も混じらせながら○○に向かって言葉をかけた。
○○は早苗に返答をする前に、人力車から身を乗り出して。後ろにいる上白沢夫妻を確認した。
慧音先生は笑っていたが、旦那は口をあんぐりと開けながらこめかみを抑えていた。
厄介事が増えたとでも言いたそうに、口元も動いていた。
○○も苦しげな微笑で返答らしき姿を見せてすぐ、東風谷早苗に向かった。


「勘と言いますが東風谷さん、勘を働かすきっかけは?」
「慧音先生が男の人を連れていたから、あんなに仲むつまじい夫妻なのに他の男性と通じるはずがありません」
早苗は最後の団子を飲み込みながら、人力車と並走する依頼人の方を見た。依頼人は空中浮遊しながらら付いてくる早苗から目が離せなくなっていた。
早苗は優しい顔で会釈を見せたら、また稗田夫妻に視線を戻した。


「それに慧音先生に色目を使うバカもいないでしょう、住人からの制裁が来る前に慧音先生がはっ倒すでしょうから。となると、真面目な話をそちらの男性は持ってきたと考えるのが自然。案の定稗田邸に入りましたし……そこの依頼人さんのご職業は知ってますから。張り込んでたんです」


877 : 日中うつろな男3 :2019/03/25(月) 20:57:18 UbxUyCHU
○○は早苗の推理を一通り聞いたあと、快活に笑った。
依頼人は稗田夫妻、上白沢夫妻、そして文字通り浮かんでいる東風谷早苗の間を視線がいったり来たりであるが。
人力車の運転者達は、やはり稗田阿求が呼んだ者は他とは違うのだろう。
目線を一切散らさずに、人力車を引くことに集中していた。
きっとこのあと、天狗なりに物を聞かれても。
何も聞いていないの一点張りで押し通してくれる。
そんな信頼感を持つには十分なほどに、前しかみていなかった。


「素晴らしい!八意先生の時も、表沙汰になる前に気付いたし、東風谷さん貴女も探偵の素質が、シャーロック・ホームズと同じ才能がありますよ!」
シャーロック・ホームズ。この人名が出てきたとき、呆れの中にも得意げな部分があった早苗の表情が。
その表情の全てが、渋いものに変わってしまった。

「あぁ、やっぱり。またなんですね!稗田阿求も何を思って、手を貸すのですか!?副業にしては趣が違いすぎる!!」



慧音の旦那は相変わらずこめかみに手を当てていたが、表情は真面目な物に変化した。
彼だって、どういうわけだか協力しているが。
根底にある部分を理解しているとは言いがたかった、まるでわからないと言っても良かった。
皮肉や嫌味のこもる表現ではあるけれども、○○のやっていることは人助けではあるけれども。
それでもやっぱり、純粋な物ではなくて。
華麗なる遊びなのである、○○が依頼人の抱える問題に立ち向かう様子は。
お礼を言われたり名声を高めることは目的とは思えなかった、問題にぶつかることそのものが目的なのだ。


まるで戦いのために戦いをするような物である。
故に慧音の旦那は、○○に対して。
もっと言えば、そんな○○の為に舞台を用意することすらをいとわない稗田阿求。
詰まるところ稗田夫妻に対する、不気味さすら感ずるのであるが。
そんな事をとつとつと考えていたら、顔付きが真面目よりも怖いに寄ったのを慧音には見えたのだろう。背中の辺りを優しくなでてくれた。


「稗田夫妻のやり方が、万人に受ける物でないことは私も分かっている。しかし阿求の立場は特別なんだ。○○は本当に……ありえない量の優しさの代償を阿求は今、まさに今、払っているんだ」
慧音の言葉は暗示に富んだものであった。

「○○は稗田阿求と何かの契約を交わしているのか?○○は何かを差し出したのか?」
「……絆が深いのだけは確かだ」
言質を取られたくないのだろう。慧音はそれ以上教えてくれなかった。
しかし、契約の存在は確かであろう。慧音が本当に隠したければずっと黙るのが一番のはずなのに。
慧音は少しだけ喋ってくれた。
「……ありがとう、慧音。特殊な事情の存在は飲み込めた」
問題はその事情の中身がまだ分からないことだが、それは今この場で分かることでは無いだろう。


東風谷早苗も難しい顔をしながら。
「○○さんをみていると、現実感が薄くて怖いんですよ。いきなりいなくならないでくださいね」
その一言を述べるだけに留まった。


878 : 日中うつろな男3 :2019/03/25(月) 21:00:19 UbxUyCHU
頭領さんの詰所の近くで、人力車は歩みを止めた。
これは○○の提案だった。思いの外所帯が大きくなったから、周りが騒がないように、迷惑にならないようにと言う配慮と言うか。
極端に言えば騒ぎになったら○○がやりにくくなるから、と言うのが一番の理由であった。
いや、もしかしたらそれと同じぐらいに。
「阿求、寒くないか?」
○○が阿求の手を取りながら、寒がっていないかと気を使いながら。結局は膝掛けを一枚人力車から拝借して、阿求の肩にかけた。
その光景を見ている稗田夫妻が乗った人力車の運転者の頬が少し柔らかくなったように、慧音の旦那はそう感じた。

何となく自分たち上白沢夫妻の人力車の運転者を見たら。
うやうやしく頭を下げてくれた。
平身低頭ではなく、うやうやしくである、しかもわざとらしくない。
貴人へ仕えると言うことの意味を理解している人間の動きであった。
もしかしたらこの人力車、引いてくれた人間ごと稗田家の支配下にあるのかもしれなかった。


となればこの依頼は最初からずっと、稗田阿求の手のひらで転がされているような気分すらしてくる。
とりたててそれを問題にしたり、抵抗したりはする気も起きないが。
心の中での引っ掛かりは発生してしまう。
ならば手を引けば良いではないかと思われるかもしれないが、しかし慧音の旦那は難しい顔をしながら○○達。稗田夫妻についていった。

こうなるとこの旦那も、○○の事を笑えなかった。
稗田阿求は何故、○○の為に舞台を用意し続けるのだろうか。
この知的好奇心に抗えなかったのである。
仲むつまじく歩く稗田夫妻を、慧音はしかたないと言った感じで、その旦那は難しい顔で考え事をしながら着いていった。


そして東風谷早苗は……不安感を募らせるような顔であった。
「東風谷さん、貴女は何故そんなに。怯えすら見える顔を?」
「あの二人は納得ずくなのかもしれないのかもしれませんよ、でもねぇ、でもねぇ……周りがどう思うか。ずっと、本当にずっと、どこまでも一緒にいるつもりでもねぇ……」
しかし早苗は、慧音の旦那からの質問に。聞こえているのかいないのか疑問符がつく言葉を口にするのみであった。





「車道に体をさらすな、私の体を盾にしろ。家屋の方に寄って歩いてくれ」
不意に慧音が、自分の旦那の場所をぐいっと大きく入れ換えてきた。
「慧音?」
この旦那も、慧音からいきなり軽く抱き締められたり。人目さえなければ、口づけすら日に何度もあるから慣れきっていたが。
この力強い、抱擁を超えた動きには。慣れているこの旦那ですら驚いた。


「ここら辺、遊女が多いんですよ。門の向こう側程ではありませんが」
いったい何が慧音を突発的に動かしたのかと考える前に、東風谷早苗が後ろに立って説明してくれた。

あぁ、なるほど……慧音の手によって、若干は温室の花のごとく扱われているから、その手の知識にはどうにも欠けているのはこの旦那は認めざるを得ない。
それを教えてくれた東風谷早苗に、車道の方向を視線が通らせずに後ろをみて、お礼を言おうとしたが。
慣れない動きに四苦八苦しているうちに。早苗は上白沢夫妻の少し前に移動してしまった。
その更に前にいる稗田夫妻……と言うより○○は、奇妙なほどに真っ直ぐとした姿勢て、前だけを見ていた。

少しばかり稗田阿求が甘い理由を見れた気がした。
先程の寒くないかと体調を気遣った事と言い、ここまでの献身を見せられてほだされない方がどうかしていると言えよう。
だとしても舞台の用意に手を貸すのは、返礼としては大きすぎるので。そこはいまだに謎ではあるけれど。


879 : 日中うつろな男3 :2019/03/25(月) 21:01:47 UbxUyCHU
相変わらず稗田夫妻は謎目いているなと考えていたら、耳に聞こえてくる周りの足音が、どうにも騒がしいことに気付いた。
と言うよりは、多少騒がしくしてでもこちらから遠ざかりたい、そんな風にこの足音は判断せざるを得なかった。

「さっき東風谷早苗が言っていたが、遊女が多いんだねこの通りは」
旦那は慎重に首を動かして、慧音の方だけを見たが。
慧音の視線は通りの方にあって、剣呑な物であった。それと同時に愉悦のような物も見えた。
「気にする必要はない、連中は三々五々で散っていくよ」
そりゃ、人里の最高戦力が遊郭や遊女を嫌っていりゃ。そこに関わる連中はみんな逃げてしまうよとしか思えなかったが。

「まぁ、慧音がそう言うなら大丈夫なんだろう。うん、構うことはないね」
剣呑に笑う慧音から見つめられる遊郭勢力に対する、少しばかりの同情が旦那にとってはこの話題を終える一番の理由となった。
話題の変化を期待して、旦那は少し慧音にもたれ掛かった。
正面を歩いている東風谷早苗は、そんな上白沢夫妻の様子を見て。
どうかそのままでいろと言わんばかりに、コクコクと何度も頷いていた。


理性的で案外と常識的な東風谷早苗を見ていると、若干の安堵が出てくる。
そして東風谷早苗には悪いが。
自分は慧音の事をやっぱり愛していた、だから平穏無事にするための配慮や立ち回りを、彼女に任せてしまおうと。投げ出してしまおうと。
そう考えた。



「なんで詰所に行くだけでこんなに、こんなにも……心中穏やかじゃなくなるんですかね」
猟師兼退治屋の頭領さんの住まいが見えてきた折に早苗がひとりごちるが。
それが出来るうちは案外とまだ平穏なのである。
少なくとも登場人物がこれで済むならば。
詰所の入り口--妙に派手であった--から、遊郭街の最大派閥の長が。彼が青ざめた顔で飛び出したのを見たときは、東風谷早苗と言えどもめまいがした。
幸い、○○と慧音の旦那はそれを見ていなかったが。
両夫妻の妻である阿求と慧音の会話がほんの少し、だけど確実に途絶えていた。見えたと言うことだ。


880 : 日中うつろな男3 :2019/03/25(月) 21:05:12 UbxUyCHU
「----お大尽が宴席を開く際、宴席の一番として大物を宴席の真ん中に起きたいので、ですからよくご依頼にこら、こられる」
ここで一番かわいそうなのは依頼人の青年であろう。
遊郭の構成員ほどではなくとも、一線の存在は把握し、踏み越えないように気を配らねばならないのに。
まさかの遊郭街での一番の大物が飛び出してきたのだから。
しかもあの様子だと、ギリギリになってこちらが近付いていることを知って。慌てていたと見える。

「だったら良いんですけれど」
阿求のその一言は、別に重いものではなかった。言ったそのときは、である。

そのまま、騒動などを嫌う--ほんとに嫌っていれば、もっと慎重に動くのだが--ように裏口を通ろうとしたが。
「なんで今日に限ってお前らは……」
外の言葉で言うところの、軽いヤンキー達が何人か、ゾロゾロと裏口を通って外出するところに出くわした。

退治屋--とは、依頼人もそして、頭領も自分をそう思っていないが--を自称するだけはあり、なるほど屈強そうではあるが。
慧音の旦那は、はっきりと断言出来た。
先程、自分たちを人力車で運んでくれた者達の方が。
稗田阿求が呼んだ人手の方が、遥かに格上の職人であると、そう断言出来た。
妙に頭を下げながら外出していく、自称退治屋の猟師達よりも、ずっと格上であると。
「この依頼人と、その頭領は信じられるんだがな……最近は律しきれてないのは心配だ。玄関口も派手になってきたし」
旦那の心中を察したのか、妻である慧音は偶然かもしれないが、同調して。

「はぁ……遊郭街の方で。打ち合わせですか……結構なことで、大きなお仕事なんですね」
阿求はずっとずっと、冷淡であった。



続きます


881 : ○○ :2019/03/26(火) 14:20:00 AkpvzzcE
>>880
遊郭というか、性産業の是非が重いテーマだと思いますが、男はどうしても反応するんですよね。
他人の食事を見ても腹が減るように、商売女にだって掻き立てられる。
それを各人がどう思っているのか……


882 : 秘封の源流3 :2019/03/26(火) 14:59:14 bxw3kfZs
>>865の続きとなります

「私と菫子との出会いは、高校の教室でだ。そう言うだけならば普通だけれども……」
「詳細を語ったらとてもじゃないがロマンスなどと言う物は期待できない。」
「まぁ、現実などそういう物なのかもしれないが。」

そう蓮子の祖父は愚痴交じりに呟いているけれども、足腰が痛くなるまでの年月付き合ってしまえば、それでも笑えることの1つや2つは見つけてしまえるのか。
とにかく蓮子の祖父は、快活に笑いながらパソコンをシャットダウンしていた。
しかしその笑い方は、いや確かに気持ちのいい声と顔だけれども。どうにも、神経質と言うか。
どうにもそう思い込みたがっているような、専門の医療従事者では無いから○○には、確たる判断を付ける事は出来ないが。
ストックホルム症候群と言う単語が、どうしても頭の中で行ったり来たりを繰り返していた。


「私は特に部活にも熱心にはならずに、本ばかりを読んでいた。よく楽しいかと聞かれたけれども、十分楽しかったね」
「アガサ・クリスティやコナン・ドイルなど。今では古典扱いされるミステリーはほぼ読んだよ、そこに菫子の姿があったんだ」
蓮子の祖父はロマンスなど期待できないと謙遜していたが、そうでもなさそうじゃないかと○○は安堵した。
「文学青年とそれに興味を持つ少女だなんて、まさしくロマンスじゃないですか」
目の前の老人の孫娘、蓮子と。その女友達メリーを。向こうの方からの脅迫とは言え。騒いだらお前が社会的に終わるぞと言う脅迫に負けて。
遂にその中央に収まってしまった○○は、かなり遠慮気味ではあったが菫子さんとのなれ初めに対して、素直に称賛とうらやましいと言う気持ちを伝えたが。

「なんてことはないよ、私が放課後の教室でひたすら本を読んでいる後ろで、菫子は机に突っ伏してひたすら寝ていたんだ」
「最初の2〜3ヶ月どころか、話が動いたのは2学期に入ってからだ」
蓮子の祖父であるこの老人からは、にべもなく袖を振られてしまった。やはり美人の孫娘とやっぱり美人のその女友達を籠絡(ろうらく)している風にしか見えない○○は、嫌われているのだろうか。
安堵しかけた息を、○○は再び飲み込んで腹を決めるべきかなと弱気になった。



「声をかけて来てくれたのは、菫子の方だったな」
――貴方、いつ起きても本を読んでるわね。それ、面白いの?
「確かそんな事を言われた記憶がある。実際はもっとぶっきらぼうで、感情が殆どこもっていなかったかもしれんがな。ただそれは、読書を邪魔された私の方も同じだが」
――面白いよ。古典ミステリーの方が、俺は好き。
「ぐらいの事は言った。それでもまぁ、菫子は……旦那の私が言っても説得力に欠けるかもしれんが。当時から可愛かったから。ぶっきらぼうに言った事はすぐに罪悪感が湧いたよ」
果たして○○にとっては、妻が学生時代から可愛かったと自慢できる日は来るのだろうか。このまま何年たっても二股野郎のそしりを受けざるを得ないのではと考えると。
急に、目の前のこの老人がうらやましくなってしまった。


――アガサ・クリスティ?貴方古いのよんでるのね。
「さすがに菫子からこの言葉を聞いた時は、ムッとしたがね。ミステリーの古典どころか、ミステリーをほぼ完成させた女傑の名前を古い呼ばわりとは」
それよりも、蓮子とメリーの方が。○○にとっては女傑であろう。

――読んでみれば分かる。
「しかし何もわからん奴に反論しても、意味が無い。ならば一冊無駄にする勢い、上げるつもりで貸した方が有意義だろう。しかしまぁ」
――1冊千円近くするんだ。一週間以内に読んで帰せ!
「高校生の時分で、千円近い本は。中々苦しかったからね、ほとんど図書館で済ましていたが、カバンにある物はお気に入りの作品だから買っていたんだ……今思えばよく渡す気になれたな」

「少しばかり話を飛ばそう。菫子はちゃんと読んでくれたよ、まぁアガサ・クリスティの中でも、あの特急の事件は今でも読後感の大きさはすさまじいからな」


883 : 秘封の源流3 :2019/03/26(火) 15:01:04 bxw3kfZs
「菫子は、私の選択も良かったと思いたいが。一気に古典ミステリーのファンになってくれたよ。その後、ミニシアターなんかで無名や低予算の作品を漁ったりもしたな」

「楽しかったね。それに私と付き合い始めてから菫子は、相変わらず寝ていたが、少なくともその頻度は減った」

「菫子が寝てばかりいると言うのは、教師だけではなく周りの同級生も知っていたから。私と菫子が古典ミステリーや無名や低予算映画の話に花を咲かせているのを、好機も含めた目だが……まぁ、良い風に見てもらえていたよ」

周りからの視線を話題にした時、老人の肩が明らかにすくんだ物になった。
「基本的に、男が女を『ふる』と言うのは外聞が悪い。捨てられるならまだしも、ましてや高校生の人格ではな、そう言う意味では私も菫子も早熟なのだな」
そして誰に聞かせるでもなく、つぶやきを始めた。
「ただ、私は早熟故に周りを若干見下していたが。菫子はそこからさらに、煽りやすい操作しやすい連中だと勘付いたのだろうな」

「菫子は、黙っていれば地味属性だから。女王蜂属性の女子からも、女王蜂を良く見せるための道具に成り下がるが、操作しやすかった。どうせ高校を卒業したら会う事も無いと思えば、我慢できたのだろうな」

「その上、ボス猿属性の男から。彼女もちなら彼氏らしくしろと言う圧力がなぁ…………あれが一番きつかった」
そのまま老人は天井を見上げながら、十数秒ほど。過去を思い出していたが。
老人の呟きから○○が、この老人はとてつもなく危険な綱渡りを強いられていたのは、容易に想像できた。

女王蜂属性の女子や、ボス猿になりたがる男子。○○もこういう連中が厄介な連中だと言うのは高校時代の記憶がまだ鮮明故に。
この老人の心労が、何十年もたってもまだ鮮明に思い出せる事に同情する他は無かった。

そして思い出しているうちに、○○へ話を聞かせている事を思い出して。老人は向き直ってくれた。
「すまない、話を続けよう。今でも覚えているよ、菫子が覚悟を決めてしまった瞬間は。あれは、ミニシアターで面白そうな映画を見つけたから、勧めた時だった」




「この監督の経歴、スマホで調べたけれども凄いわね。なんか人生経験豊富だけで片付けて良いものか……」
ある日の事だったな、私が勧めた映画の出演者や監督の経歴まで気にしてくれたことに気を良くしてな。
あの時は本当に少しばかり、喋りすぎた。でも嬉しかったんだ。今思えば、菫子に本を渡した時よりも、あの時の方が分岐路としては大きかったように思える。


「元軍人で、辞めた後は民間運送会社にいながら脚本書きつつ、自分の体術やサバイバルの光景を動画配信……多彩と言うか生き急いでいると言うか……」
「ねぇ」
あの時だったな、気に入った作品の監督から話し出したとき。菫子の顔が真面目な物に変わった、はっきりと覚えている。
「あなたって、私と似ている気がするの」
私の目をまじまじと、一切そらさずに見つめながらそう言ったのだ。それにあそこから、私の呼び方が。
『貴方』から『あなた』に変化する、まさにその瞬間があそこだったのではないか。
「あなたって、私と一緒で。いわゆる普通だとか、一般的だとか、そう言う周りがあんまり好きじゃない。場合によっては嫌いとすら言い切っている事もあるかも」
はっきり言って、菫子からのこの指摘は図星でしかなかった。
それ故に、私は全く返答も反応も出来ずに黙りこくってしまった。
「だからね、大丈夫だと思うの。私が知っている世界に案内しても」
しかし菫子は、もう自分が向かう道は。もはや決定事項となっていたのだろうね、菫子は私の額やこめかみに何度も手を当ててきたよ。
「感覚の共有は……向こうで練習したけれど、いままでやったことなかったから。どこまで行けるか…………」


最初は、菫子が言っている。感覚の共有と言う、その言葉の意味が分からなかったが。その日の晩、眠った後にその意味を知る事が出来たよ。
「あ、○○来れたのね!良かった上手くいって!」
夢の中に菫子が出てきたのだがね。そこは神社の境内だったが……それだけだったら昨日夢の中で菫子と神社でお参りしていたと言う笑い話で終わるのだが。

「ようこそ!幻想郷へ!!」
菫子が満面の笑みで、マントをひるがえしながら迎えてくれたその場面を見た時。
ただの夢では無いと確信できたね。


続きます


884 : ○○ :2019/03/27(水) 21:57:43 vNugdIX6
 日が高く昇る日中のひとときに、永遠亭の一室で一人の人間が弓を教わっていた。外界で弓道の心得もなく幻想入りして
まだ間もない外来人に術を教えるのは、月の頭脳こと八意永琳である。本来ならば初心者にとっては、弓道場のような広い
場所で教わるのが一番の正道なのであろう。しかしこの場合に限ってはそのようなことは当てはまらなかった。それは単に
永琳が先生、師匠として教えるのが上手い訳だけではなく、(伊達に妖怪兎に師匠と呼ばれている訳ではないのだ。)その
教え方が少々独特のものであるためであった。
「ほら、もっと力を抜いて。」
「は、はい…。」
○○の体に密着するようにして、文字通り手取り足取りしながら教える永琳。こうも体が接触していては、いくら教えを受
ける方としてもやりにくいであろう。ともすれば、術の方よりも永琳の体が○○に触れる柔らかさに気を取られ、○○の気
はそぞろになりがちであった。しかし流石は天才。○○の浮ついた心すらも想定の内だと言わんばかりに、未熟な技を直し
てゆく。一挙手一投足を正しい型をに嵌めていくという地道ではあるが王道な方法ではなく、初心者にありがちなよく言え
ば独創的な、悪くいえば軸が定まっていない(どちらが真実に近いかは、実際に確かめてみるのが一番であろう。果たして
ずぶの素人による常識に囚われない発想でどこまで可能かを…。勿論、結果は見えているのであるが。)乱れを最小限の修
正で最適なものに直していた。
「そう、…そのまま前に飛ばして。」
「はい…。」
○○が構えた矢を放つと、ポトリと矢が落ちる。いくら素人とはいえ、指導を受けて少しは経つのであれば、矢は的には当
たらずとも、少しは、いや、最低でも前には飛ぶであろう。しかし○○の番えた矢はその場で地面に向けて自由落下をして
いた。例えレオナルド・ダビンチが幻想入りしなくとも、聞いただけでは不可解な現象は一目見るだけで解明されるであろ
う。なにせ-
○○の持っている弓には、弦など全くもって張られてなどいないのだから。
「駄目ですね…。」
何度目かの失敗に言葉を漏らす○○。一方の永琳は○○が持っていた弓を取り、端から端に弦を張るかのように指を一文字
に動かしてゆく。張り終えた弦の弾力を確かめるかのように、二度ほど指で見えない弦を弾き、おもむろに弓を引き絞り、
的に向けて矢を放った。一直線に的に吸い込まれて行く矢。小気味よい音を立てて、矢は中心を貫いていた。お手本のよう
な射撃を見て思わず感嘆の声を出す○○。永琳が○○に再び矢を番えるように言った。
「もう一度、こうやってみて。」
「……!」


885 : ○○ :2019/03/27(水) 21:58:26 vNugdIX6
後ろから抱き抱えられるようにして永琳に指導され、○○の体が固まる。永琳の豊かな胸が押しつけられる格好になり、鼓
動が速くなる気がした。○○の様子にはお構い無しに永琳は体の動かし方を教えていく。
「こうやって気を両端から通して…。」
○○の持つ弓に透き通った力が加わり、両手の間を何か見えない物が通っていく感覚がした。部屋の空気が研ぎ澄まされ、
○○は永琳の熱を体中で感じた。
「ゆっくりと引いて。」
永琳が話すと○○の後ろから吐息が当たった。見えない弦に引かれて、練習用に作られた小型の弓が撓んでいくと共に、周
囲の空間が曲がっていく様な錯覚を○○は感じていく。
「放して。」
衝撃と共に弓が放たれ矢が飛んでいった。真っ直ぐに空気を切り裂いた矢は、先程刺さった矢の隣に並んで刺さっている。
永琳に後ろから密着して教えられたせいか、○○は全身に軽い酩酊感を感じた。

「師匠、診療の時間です。」
「そう…。今行くわ。また後でね、○○。」
鈴仙が午後の診療のために永琳を呼びに来たので、○○の練習は此処までとなった。どこにでも有るような弓を永琳が袋に
収め、何故か丁寧に紐で口を括る。そして鈴仙と共に診療室の方へ向かっていくと、入れ替わりに輝夜が部屋に入ってきた。
「ふうん…。」
部屋に足を踏み入れるなり、中をグルリと一瞥する輝夜。面白いものを見つけたかのように、彼女の口が少し綻んだ。
「いかがしましたか?」
意味ありげな態度をする輝夜に尋ねる○○。
「永琳があなたに弓を教えているのは知っていたけれど、まさか弦を張らない方法を教えていたなんて…ね。」
「珍しいのですか?」
「ええ、とっても。外界の種子島は筒に付いている引き金を引くだけで何発も鉛玉を打ち出すから、弓なんて余り使わない
でしょうけれど、これはそもそもスペルカードで弾幕を撃つのと同じ要領よ。丁度、そう、こんな感じね…。」
手の平で小さな弾幕を創り出す輝夜。キラキラと輝くそれは手の平から宝石が零れるように弾幕は溢れ出す。零れた玉は畳
に落ちずに空中に浮かび、輝夜の周りをグルグルと回り出して渦を作った。まぶしい光が部屋を照らし○○は思わず手の平
で目を覆う。手の平の隙間から僅かに見える光景の中で、光の竜が○○に向かって口を開いているのが見えた。
 突然光が消える。○○が手の平を顔から外し目を瞬かせると、輝夜が部屋の中で仰向けになって倒れていた。黒い髪が畳
の上に流れるようにして散らばっている。胸を押さえながらムクリと起き上がる輝夜。口から一筋の赤い唾液が流れていた。
「全く、どれ位ぶりかしら。」
口を拭う輝夜。その口振りはどこか面白そうにみえた。
「大丈夫ですか、輝夜さん…。」
「ああ、大丈夫。これ程やられたのは、月以来の随分と久しぶりだったから。」
「ご病気なら先生を呼んで来ましょうか?」
○○の言葉を聞いた輝夜の目が真ん丸に開かれた。
「ぷっ、はははっ。よりによって永琳を呼ぶだなんて…。あなた何も感じなかったの?」
「すみません…何も…。」


886 : ○○ :2019/03/27(水) 22:00:14 vNugdIX6
「やれやれ、天才の力を持ってしても道は未だ遠しってね。まあいいんじゃない、時間は無限にあるんだし。…或いは、弱
い方がかえって良いのかもしれないし。」
○○には分からない言葉を残して、輝夜は部屋から出て行った。

 一人部屋に残された○○が練習の片付けをした後で部屋を出ると、廊下でてゐを見かけた。○○の姿を見ると、いそいそと
歩み寄ってくるてゐ。てゐは○○と並んで歩きながら質問をした。
「一体何があったの?随分派手にやってたけれど。」
「いや…先生に弓を教えて貰った後で、姫様が部屋に入ってきたら弾幕を見せられて、気が付いたら姫様が畳の上で倒れて
た。」
「ふーん。ちょっと失礼。」
○○の胸元でちょこまかと手を動かして風を起こすてゐ。兎の妖怪らしく鼻を動かしてすんすんと匂いを嗅いでいた。
「成程、成程、大分しっかりと匂いがするね。やっぱりだ。離れてて正解だね。」
「何か分かったのか?」
「ああ、大分…、いや、殆ど分かったよ。後はいつそうなるか、ってことぐらいさ。」
「こっちは全然分からないんだ。」
「いや、分からない方がいいこともあるのさ…。特に姫様と永琳の間はね。精々、永琳の修行を真面目に受けておくのがい
いってことぐらいしか、私には言えないよ。」
「それ、姫様も珍しいって言ってたな、そういえば…。」
「本当に珍しいよ。何せ地上に降りてからは教えてない筈だからね。」
「うん、何年前?」
「さあ?ざっとせん…。いやいや、止めた止めた。命は大切にするもんだ。私から言えるのは、さっきのは永琳が姫様の放っ
た弾幕を、全て打ち落としたってことだけさ。」
「えっ…あんなに沢山あった弾を?それに先生は部屋に居なかったのに?」
「勿論だよ。むしろ姫様相手だがら、永琳はあれでも遠慮したのさ。まさに天才のなせる神技ってね。じゃ。」
○○から離れたてゐが振り返る。口に手を当てながら思案顔であった、
「あー、あとさ、匂いが残っているから暫く人前には出ない方が良いよ。私とか鈴仙なら大丈夫だけどさ、気を混ぜるなんて
永琳と○○が「そういう」関係だと言っているようなものだからね。」
未だ掛けられた言葉を飲み込めない○○を置いて、てゐは廊下を去っていった。


887 : ○○ :2019/03/27(水) 22:09:21 vNugdIX6
>>884-886
題名 天才の弓矢 になります

>>880
やはり阿求は○○に何かをしているように感じました。表には出てこないだけで、
結構裏でうごめくものが…それが感情だけなのか、それとも他にあるのかは
分かりませんが。


>>883
祖父を幻想郷に引き込むことまでした菫子以上の蓮子が、一体どんな手段を
使うのかが気になりました。○○が今のスタイルから逃げようとすると、
かなり凄いことが起こりそうな。


888 : ○○ :2019/03/27(水) 22:11:04 vNugdIX6
時間切れ

 はい、はい、はーい、時間切れ!!もう待ってなんかいられないわ。ここまでよ、○○。大体あんたのペ
ースに合わせて待っていたら日が暮れるどころか待ちぼうけになってしまうじゃない。人間は天界と違って
すぐに老いて死んでしまうんだから、待ってなんかいられないの!
 え?ここでまだやることがある?そんなこと私と一緒にいることに比べて、どうでも良い事でしょう?私
の方よりもそっちの方がそんなに大事なの?ふーん、あっそ。じゃ、行こっか天界に。私、待つなんて一言
も言っていないんだから。無理って言っても力ずくでも連れていくわよ。
 全くしょうがないわね…。はい、これで○○の体は動かなくなったから。手足の感覚が無くなったでしょ
う?そして力を使えば…ほら、ひとっ飛びで天界よ。人間が夢見る桃源郷、ってね…。


889 : ○○ :2019/03/31(日) 04:49:24 gF.0xk3o
>>886
輝夜ですら、愛に重きを置いた永琳は手を挙げる事ができた
ならば付き合いの少ないてゐでは、命が危うい
どちらにせよ、弓道の鍛練は体よく近づく方便
てゐの言う通り、そのまま仲良くしていろといいたくなりますね。下手なことは少ない方が良い


>>888
天子って、わがまま娘だから。物に溢れているし囲まれていそう
だから、与えられる物の多さが愛の証明ぐらいに考えていそう
○○がやりたいことがあれば、その作業場も。贅を尽くして用意してくれるだろうな
理解してくれているようで何もわかってなさそう

次より日中うつろな男の続きを投稿します


890 : 日中うつろな男4 :2019/03/31(日) 04:50:48 gF.0xk3o
「……頭領さんのお帰りは、多分遅いですね」
遊郭の方向へゾロゾロと向かう連中を阿求がギリギリと見ていたから。○○は無理に話題を変えてきた。
「……え、ええ。うちの頭領が『うつろ』になってからは、外出も一人でするのが多くなって。確かに帰りも遅くなりました」
そういって依頼人は溜め息をつく。
「頭領が『うつろ』になってから、元々優しいから強く言えなくて、さっきの連中の遊び歩きが激しくなるばかりで」
依頼人は頭をがしがしと引っ掻く。山ほどの鬱憤がある証拠だ。
それにこの依頼人は、当たり前のことだが自らの仕事ぶりに意地や誇りを持っているはずだ。
慧音も、頭領とこの依頼人は信じられると言っている。
「弾を何発使ったかは分からなくとも、何発持っていったかぐらいは出る前に書き留めれるだろうに……何故その程度の事ですら、筆が重い!」
資金の支出を全て管理している出納帳係であるなら、なおのことであろう。
「頭領さんは優しいんですね……あんなのでも、まともな仕事がなければ余計にこじれるから世話をしているのでしょうね」
「ええ、そうなんですよ!私はもう、見限る時が通りすぎている気がするのですがね」
依頼人は怒りと憤りに震えて、周りを若干見ていないが。○○は奇妙な行動を取っていた。
頭領さんの詰所裏口と、隣家の間に挟まるようにして、何かを覗こうとしていた。
幸い、掃除道具などを置く程度の幅はあったので動けなくなることは無いが。
○○の立場、稗田阿求の夫と言う立場を考えればおかしな話だ。
たまらず東風谷早苗が両肩を持って停めるが。
阿求はあらあら、また何かを見つけたのかしら。という風な笑顔を見せるのみである。


裏口故にその、○○が覗こうとした場所は。雨どい等が無遠慮に延びており。また隣家の壁が光を遮るが。
頭領さんの詰所は自宅も兼ねているのか、立地がよく。
隣家と接しているのは、頭領さんの詰所から見れば北側だったので。差し込む光などには、それほど影響はなかった。
最も、今の頭領はどういうわけだか。日の光を好まないようだけれども……


「頭領さんの優しさは、却って弱点になるかもしれませんねぇ」
早苗から無理やり、家と家の間から引っ張り出されたが。
依頼人は、頭領さんがいないのを良いことに遊郭へ向かったあの、少しばかりの柄の悪さを感ずる自称退治屋の連中の姿を脳裏に思い出して。ますます顔つきが怖くなったが。
「所で頭領さんのお部屋はどこですか?」
すぐに他の質問を投げ掛けたが……もしかしたら○○は、この行ったり来たりする質問で依頼人を揺さぶり、聞けるだけ聞こうとしているのでは?


「あぁ、頭領の部屋でしたら……正門から見て、二階の窓がそうですよ。二階の半分は頭領の部屋で、四分の一が私の部屋です。もっとも部屋の中身は本やらで制圧されかかっていますが」
二階の二割以上をこの依頼人は与えられているのは、頭領がこの青年を信頼していることの証であろう。
もっともそうでなければ、金銭の管理を一手には任せない。
その気になれば、彼はいくらでもちょろまかせる立場にある。


「頭領さんの部屋には、北側にも窓がある設計でしょうか?」
○○はまた妙な事を聞いた。
「はい、ありますよ。もっとも隣に家屋がある前から、北の窓は空気取であって光を入れるのは二の次でしたが……」
そう言いながら依頼人は、隣家の壁を指差した。ついに明かり取の役は無くなったのは、言うまでもなかろう。
「今じゃ、天窓を作ってやろうかと頭領とふいに相談するほどですよ。まぁ、頭領の部屋は南向きだから良いんですが。私も西には向いているので」
「なるほど」
○○の返事は生返事に近かった。代わりに、視線は雨どいに……丈夫そうなので登っても壊れなさそうな雨どいに向いていた。


891 : 日中うつろな男4 :2019/03/31(日) 04:51:41 gF.0xk3o
「はぁー!」
慧音の旦那が、まさかと思ったら。東風谷早苗が牽制するように大きく溜め息をついた。
「頭領さんが戻られる時間は、大体分かりますか?」
そしてそのまま、早苗は依頼人に聞いた。
「そうですね……普段通りなら、あと一時間半は戻りませんよ?『うつろ』でも鍛練は欠かしていないので」
何故か○○が満足そうに頷いて。
「依頼人さん、今から我々が頭領さんの部屋に……鍵が掛かっていても入りますが、その許可をください。先程の柄の良くない連中のいる場所に、何かを置いておくとは思えないので」
依頼人から許可を貰おうとしたが、依頼人はすぐにうなずいた。

「え、ええ……そもそも、『うつろ』な頭領から何かを聞いてもだんまりだから、それも止む無しかなとは考えています。もちろん、扉を破るのはやめていただきたいですが」
けれども、何故○○が満足そうなのかは疑問があったけれども。
慧音の旦那は、ハッと思い付いた。○○が丈夫そうで登れそうな雨どいを見つめていたことから、気付いたのだ。


「東風谷早苗、貴女は飛べましたよね」
慧音の旦那が先手を打った。○○の顔が明らかに、口の端が歪んだ。やはり、そうらしい。こいつは登るつもりだったのだ。
させるかよ、稗田家の方にそんなこと!


「そうですね、飛べる私なら。危険も少ない」
早苗もやはり気付いていたので、慧音の旦那にはすぐ合わせてくれた。
そして早苗が若干わざとらしく、○○を見た。○○は目を閉じて、天を仰いだ。
「私がやりますから」
○○が何かを言う前に、早苗はまた少しばかり浮いて。家と家の間に入っていった。
「北側の窓、開いてますよー。やっぱり空気取りだから、しかも二階だから。鍵もかけてないですね」
「予想通りだ」
早苗の報告に、○○は驚く必要はないと言う態度を取るが。残念そうな姿は、全く隠れていなかった。
肩を落としながら、頭領さんの詰所へと入っていった。
無論、阿求も続いた。
慧音は困り顔だが、笑っていた。



依頼人の青年が、怪訝と言うよりは苦笑しながら慧音の旦那の方を向いた。
「その、くちさがない表現ですが。ちまたで貴方が○○さんのお守りと言うか、歯止め役だと言う話を聞いたのを思い出しました。止めなかったら、登ってましたね、あれは」
慧音の旦那は重苦しい顔で頷いた。妻の慧音はまだ笑っていた。
「まぁ」
慧音が少し声を出した。どうにも慧音は、稗田夫妻の趣味に対して、旦那よりも容認派のようだ。
依頼人の青年は、八意永琳誘拐事件が狂言だとは知らないので。容認派と言っても、慧音のそれとは違う。
「こんな言い方だと、傷つく者もいるけれど。特殊な存在は、特殊なやり方を好みやすいんだ」
慧音の答えは、理由になっているかどうか。旦那はそれを怪しいなと思ったが。
裏を何一つ知らない依頼人は、笑うのみであった。


892 : 日中うつろな男4 :2019/03/31(日) 04:53:05 gF.0xk3o
「室内鍵は、簡素なボルト錠か……これじゃ針金で無理やり解錠は出来ないな」
頭領さんの部屋の前で、早苗が扉を開けてくれるのを待ちながら○○が不穏な事を呟いた。
よくよく見れば、○○は上着の懐をいじいじしていたが。
まさかあの中に、盗賊が使いそうな錠前破りの道具でもあるのだろうか。
「まさかドアを蹴破るわけにもいかんし」
もしそんなことがあったら、ドアを蹴破る前に○○を張り倒そうと慧音の旦那は決意を新たにした。


「どうぞ」
ボルト錠を開けるだけなのに、早苗が扉を開けてくれるのを稗田、上白沢両夫妻と依頼人は訝しげに待っていたが。
一、二分ほどしてようやく開けてくれた。
「東風谷さん、地面に何か落ちてませんでしたか?」
○○は、開けてくれた礼よりも先によくわからないことを問いかけた。
「これがありました」
しかし早苗には、○○が何を気にしているのか、それをなんと理解していた。
早苗が○○に示したのは、割れた瓦であった。
重いし、切っ先が尖っているので危ないが。そう変哲のある物ではない。
「まだ二枚ほどが。地面に落ちてますよ、隣家との間に落ち込むように。それから、どこから落ちた瓦かも分かってますよ」
早苗は割れた瓦をちゃぶ台に置いて、北側の窓。隣家の壁が迫っており、空気取りにしか使えない窓の方に移動した。

「ほら、ここ。一階と二階の間の屋根に使われている屋根瓦。これが見る限りで三つも外れています」
早苗が指し示す場所をまんぞくげに○○は見ていた。
「つまりここを、足場にして……雨どいを伝って降りたのか。帰ってきたときは、この逆で良い。頭領さんの目の前の部屋は依頼人の部屋だから。気づかれたくなかったんだね」
依頼人の青年もようやく事態が飲み込めてきたのか、北側の窓に駆け寄った。
「なんでこんな面倒くさい方法で外に出るんですか?頭領は」
「それはまだ分かりません」
○○は素直だけれども厳しいことを告げた。分からないというのは実に辛い。
ましてやそれが、信頼している人間に関わることであるならば尚更であろう。



○○は分からないことは分からないと素直に告げたら。早苗の見つけてくれた物には興味を無くして、頭領さんの部屋の中身を調べ始めた。
二階の半分を使っているだけあり、本や資料や日用品が多くあっても。
また頭領さんの性格が几帳面なのか、きれいに整頓されており、物の数が多いことが気になることはなかった。
部屋の広さもあるのだろうけれども、広々と使えるように整理されていたが。


「日用品の類いが少ないね。細々とした物がもっとあると思ったのだけれども。ちゃぶ台の上の湯飲み一式ぐらいじゃないか?本や資料以外の、個人的な持ち物となると」
○○の見方は違っていた。扉のある戸棚などを片っ端から調べていたが。
確かに○○の言う通り、空っぽの収納が多かった。
そのまま収納を調べながら部屋の奥へ、一番奥の部屋にある金庫を気にし出した。
大きな金庫が1つ、その上には小振りの金庫が1つ乗っていた。小降りな方はまだピカピカだった。
さすがに金庫となると、貴重品の収納場所だから○○も遠慮して。許可を求めるように、依頼人の方を向いた。
「いや……」
しかし反応は芳しくなかった、まぁ無理もないとは○○も思ったが。趣は少し違った。
「金庫の番号は、頭領しか知らないんです。それに、小降りな金庫を新調したのもはじめて知りました」


893 : 日中うつろな男4 :2019/03/31(日) 04:54:27 gF.0xk3o
「ふぅん……」
依頼人からの返答を聞いて、○○は少しばかり深刻そうな顔をした。
「大きな金庫は、最近開けられた形跡がある。埃の類いが全くついていない……それに、日用品の少なさが気になる。物は少ない方がいいってのを通りすぎている。まるで身辺整理だ」
依頼人の顔付きが強ばっていった。
確かに○○が言う通り、この部屋には生活感が薄い。


「ゴミ箱だって、普通に生活していたらもうちょっと溜まるよ。少なすぎる、紙くずが少しあるだけじゃないか」
そう言いながら○○はゴミ箱の中身を取り出した。
「……いや、実質的には1つのゴミだ。一枚の紙を引き裂いたのを乱暴に放り込んだんだ」
○○は紙くずのシワを丁寧に伸ばして、パズルを完成させるかのごとく紙と紙を繋ぎ会わせようとした。
「何かを書いた紙を引き裂いたのか……」
○○が呟くと、阿求が色めいた。
「だったら私に任せてくださいな、あなた!パズルは得意なんです!」
慧音の旦那は、苦笑した。完全記憶能力者ならば確かに、完成図を一度見れば、パズルなんて簡単だろう。
ましてや書き方が決まっている文字が相手なら、それは阿求の領分だ。
慧音以上に、阿求の方が文字には強い。



阿求が色めいたのは間違いではなく、ものの一分ほどで引き裂かれた紙片は復元された。
その紙片には、やはりある言葉が書かれていた。


過度に恐れるな
魅惑されるな
相手を知るべし


紙片に書かれていたのはこのような言葉であった。
「お心当たりは?」
○○が依頼人に声を向けた。
「頭領の新年みたいなものですね……妖精でも何でも、少なくとも喋ったり酒が飲めるなら、思ったよりも会話ができるんで。むろん、相手の領域を侵してはなりませんが」
依頼人は少しばかり饒舌になったが。それは心配からの饒舌だろう。信念を記した紙を引き裂いたのだから。
「日に焼けている感じもあるし……」
○○はおもむろに紙片の匂いをかいだ。
「臭くないのか?」
これには慧音も思わず声をあげたし、その旦那に至っては口をあんぐり開けて何度目か分からないけれど、やっぱりこいつはおかしいと認識を強くした。
依頼人は○○の突然の行動に、認識が追い付いていなかったし。
東風谷早苗は、少しだけ笑うのみ。
肝心の稗田阿求は、軽めの拍手をしていた。
やはり稗田夫妻はかなりおかしい。周りの者はそう結論付けるしかなかった。


「古い紙の匂いしかしない。おかしいよ、本当におかしい。生きてればゴミ箱の中身は、増えるはずなのに。古い紙しか無いだなんて」
○○の表情は更に深刻な物に変わっていく。
「このまま消えるんじゃないのかな……そんな疑念が湧くよ」
○○が深刻そうにそう呟くが、東風谷早苗はその言葉をそのまま、○○に言いたかった。
演じるだけ演じたら、満足したら消えそうな存在。それが、早苗の○○に対しての印象であった。


「二階から雨どいを伝って降り、人目を明らかに避けている。その上身辺整理かとすら思える周りの状況」
一通り呟いた後、○○は依頼人に向き直った。


894 : 日中うつろな男4 :2019/03/31(日) 04:55:24 gF.0xk3o
「頭領さんから目を離さないで下さい。何かあったら、夜中に外出するようでしたら、報告をください。すぐに向かいます」
○○は優しくそう言ったが、まさか深夜に稗田家の門を叩く勇気は。この依頼人も出てこないのか、少し困っていた。
旦那は自分の妻の慧音を見た、慧音も同じことを考えていたようで頷いてくれた。
「深夜なら、寺子屋の近くにある私たち夫妻の家に来てくれ。私たち夫妻しかあの家にはいないから、まだ来やすいだろう」
依頼人は見るからに安堵していた。
稗田家では、夫妻が納得していても使用人がどう思うか分からない。
その上、稗田家ほど大きければ、使用人の格も、他の豪邸とはまったく違う。
稗田家の使用人、それも年かさとなれば。時には大きな発言権を持つことになる。
そんな者達に目はつけられたくないだろう。



「では、依頼人さんにこれを渡しておきますね」
話が一段落付いたところで、早苗が懐から人形の紙片を依頼人に渡してきた。○○は陰陽師を思い出したが、神道でも似たような事が出来るのだなと一人で勝手に納得していた。
「私の事を思い浮かべながら、上空に思いっきり放り投げてください。そしたら守矢神社まで、ひとりでに飛んでくれますので」
早苗が依頼人に使い方を説明しているときに、慧音の旦那は○○を見やった。
東風谷早苗の動きは、○○からすれば邪魔立てに近いはずだから気になったのだが。
○○は満足そうに頷いているだけだ。東風谷早苗も、○○にとっては観客の一人なのだろうか。



「本日はご足労いただき、ありがとうございます」
そのまま本日はお開きになった。依頼人はこの短時間で憔悴していた。信頼している頭領の裏の顔が見えてきたこともあるが。
「頭領が終わったら、この猟師集団も終わる」
依頼人の青年は急に呟きだした。独白かもしれないし、独り言かもしれなかったが。
急にバッと依頼人が動いたら、居間に通じる。中央の部屋に通じる扉を乱暴に開け放った。
しっかりと見た訳では無かったが、あの柄の悪い連中がたむろする場所だけはあり。
乱雑で猥雑であった。春画の類いも見えたような気がする。
「私はここを掃除します!それじゃあ、何かあったらすぐにお伝えに伺います。東風谷さんにも、人形の紙を守矢に、きちんと投げ渡しますので!」
依頼人は断言しなかったが、この集団が終わるときは近いと。そう信じざるを得なくなったのだろう。




だがこの依頼人の苦境はまだ終わらなかった。
あの頭領さん、話に聞くだけだが。せめて今日は大人しくしてくれとすら思った。
これじゃあ、依頼人の青年があんまりだ。
「助けてください、上白沢先生!頭領が、頭領が屋根を伝って人里の外に向かったんだ!」
時間は午後11時ごろ。風呂にも--夫妻一緒に--入り終わって。そろそろ寝ようかと言う頃だった。
依頼人の青年が泣きわめきながら我々上白沢夫妻の元にやってきた。


続きます


895 : ○○ :2019/03/31(日) 23:26:05 QjgCOrBA
そういや幻想郷の一般的なお風呂事情ってどうなってるんだろう
安定して適温のお湯を供給できるインフラがあるか、そうでなければ五右衛門風呂ベースになるのかな


896 : ○○ :2019/03/31(日) 23:33:38 QjgCOrBA
そう言えば、あと少しでジオシティーズが終了する
幻想入りするサイトが多くてとても悲しい……


897 : ○○ :2019/04/01(月) 22:55:39 frzGZ/HY
>>895
日常生活を描写しようとするとこういう所で悩むよね
まあ河童や守矢がいるから家風呂普及してるでもいいし、時代背景を考えて銭湯メインでもいいんじゃない?
そもそも明治維新頃の風呂事情って調べてみても家風呂の有り無し、銭湯でも混浴か否か、蒸し風呂か据え風呂かってのが見る媒体によって違うから普通に困る


898 : ○○ :2019/04/03(水) 23:22:43 80i/7EUY
ミーム汚染

 どうだい、最近の調子は?…そうか、それなら良いんだ。君がそう言うならなら僕も安心だよ。ああ、僕の方
かい?そうだな…、まあまあ、とでも言えばいいのかもしれないな。おや、不思議かい?そうだな、君がそう思
うのもある意味当然の話かもしれない。何せ君はこう思っているだろう「紅魔館の図書室でずっと居られるのに、
どうして満足していないのか?」ってね。
 まあそうだね、そう世間から思われるのは納得できる話しだね。勿論さ。ここの生活は何不自由はないさ。木っ
端妖怪とは違って、押しも押されぬ吸血鬼となれば、その友人としても過分の待遇を貰っているからね。知識人
を囲うのはきっと貴族の嗜みなんだろうね。

 そういえば君は、僕がどうしてここに居るのか知っているかい?いや、大した話しじゃあないんだ。ただ単に
何かの切っ掛けでここの図書館の本を読み、それから何度かお邪魔している内に、いつの間にかここに居着いて
しまったんだからね。全く他愛もない話しさ。この話しは此処でお終い。絵本にすれば一ページで収められる、
ただそれだけの物語なのさ。
 だけれどもね、この物語には裏が有るのさ。ああ、存在すると言ってもいいね。それは実在するという意味で
はなく、人に観測されることによって情報の渦の中に、あるいは量子として存在が確定すると言ってもいいかも
しれないんだ。ああ、ごめんごめん。流石に外来人の君でもちょっと飛躍し過ぎたかな。実は妻と一緒に図書館
に籠もりきりになっているせいで、話しの内容がこしゃまっくれてしまっているんだ。人里の人間と話している
と、全く駄目なんだよ。いや、正確に言うと話すことすら出来なくなってしまいそうになっているんだ。まあ、
普通に八百屋で買い物をする程度は…うん、多分大丈夫だと思うんだがね…、こうして少し雑談をすれば、彼ら
にとってみれば訳の分からない言葉が入るせいで、適当に流されてしまうんだ。だからこうして君と話す時間は
僕にとってみれば、とても心安らぐ時間なんだよ。ところで、君はミーム汚染って聞いたことがあるかな?僕が
その言葉を耳にしたのは、たしか架空の生物を創作して楽しむファンサイトだったんだけれどもね、なんでも話
す言葉や、思考回路があるイメージに誘導されるってことを意味する概念のようだね。本人にとっては、不本意
だという意味も暗黙の了解としてあるんだろうけれどね。


899 : ○○ :2019/04/03(水) 23:23:37 80i/7EUY
 今思い返せば、全くもって僕はそれに嵌まっていたんだろうね。図書館に行って本を読むことが当たり前にな
り、彼女と話すことが当たり前になり、ああ…話すことが普通は先なんだろうがね、全くもって彼女らしいね。
そして図書館に居ることが当たり前になれば、僕は立派な紅魔館の一員となってしまったって訳さ。中々鮮やか
な手口だったよ。流石、魔女の名前は伊達ではないね。しかし本当に恐ろしいのは、僕が自分では全く今の状況
が不自然だと思わないことさ。いつの間にか、彼女の存在が当たり前になり、いつの間にか自分の居場所が紅魔
館になっていたのだから、普通は疑問に思わないといけないんだろうがね、僕は今でもそれが当然のことのよう
に、呼吸をするのに一々気を遣わないのと同じ様に思っているのさ。こうして君と話しながら考えることで、漸
く普通の人がするであろう思考回路を使うことで、どうにか言葉にすることができるだけなのさ。今この瞬間も
僕の心は、それが不自然だとは思っていないのだから。
 だからさっき僕は、まあまあだと言ったんだよ。心臓が動いているのが珍しいと考える人はあまりいないから
ね。それが自然に与えられている限り、病気にならない限り健康の価値が分からないように、それは意識されな
いのさ。まさにそれこそがある種の誘導なのかもしれないけれど、そう考えても僕には何の感慨も湧かなくなっ
てしまったんだ。ひょっとすれば、僕がそう考えるようになってしまったから、今君とこういう話しを出来るの
かもしれないね。おや、それはないと思っているね。…いや、君は幸福さ。彼女は流石にそんな事まではしない
なんて、そう思えるのはある種の幸福なのさ。明治の文豪ならば豚的幸福と酷評するんだろうな!

なにせ僕は今朝方久し振りに、妻から文々新聞を見せられたんだからね。 …ああ、勿論君が写っていたとも。


900 : ○○ :2019/04/03(水) 23:27:55 80i/7EUY
>>894
幻想郷の中で夜に村の外を歩くのは、かなり危険な筈…そうすると、頭領がかなり危険な橋を渡っているような
気がしました。かなり強い勢力が潜んでいるのでしょうか?乙でした。


901 : ○○ :2019/04/05(金) 11:27:19 BQOVsj.M
>>899
一度認識能力が高まると、それ未満の存在とは上手く付き合えなくなる
頭の良いパチュリーは出不精である以上に、自分と同じ物を見れる存在がいないから動かないだけか……
認識できた以上は、もう昔には戻れないと言うことか

次より、秘封の源流4を投稿します
今回で結末まで迎えます


902 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:28:23 BQOVsj.M
「幻想郷ですって!?」
蓮子の祖父から幻想郷と言う、その単語を聞いたときの○○の驚きようときたら。
夢の話は夢じゃなくて現実に合ったんだと祖父が話した瞬間の、祖父が感じていた『こいつ、認知症なんじゃ』と思われる事の恐怖感はすっかりと消え失せた。
その代わり、嬉しい誤算と○○への罪悪感が芽生えた。
しかし、見えないけれども確かに存在する何か。それを感じ取ることの出来る蓮子とメリーに挟まれた○○君が。今さら、他で上手くやれるとも思わなかった。
どちらにせよ今の祖父に出来るのは、○○の話を聞くことだった。



「知っているのか?幻想郷の事を……」
○○は蓮子の祖父から、驚き半分と優しさがもう半分の声色で聞かれたことに頷くのみであった。
「どこで、いつ幻想郷の事を知ったのだい?」
蓮子の祖父は、足腰の座り位置が悪いのか。ベットの上でごそごそとしていたが。視線は○○の方向に、固定されたままであった。

「……場所は、そのう」
○○は若干のまごつきを見せたが。蓮子の祖父は鋭かった。
「蓮子とメリーちゃんの家で聞いたのだね?」
けれども優しく、問いかけてくれた。

そもそも○○にとって、蓮子とメリーの間に収まった○○にとって。今更否定や拒否は悪手である。
それぐらい、蓮子から良いように脅迫されて、彼女とメリーの間で三人で恋人のような関係を結ばされている○○には理解できた。
世間の誰が信じると言うのだ。あんな美人を抱き続けないといけないように、脅迫されているのだと。
世間的には逆だ、どんな奇抜な発想のドラマや小説でも、○○のような立ち位地の男は悪人だ。
何かのミステリーなら、蓮子の祖父母は自分を始末するために動いても不思議ではない。
そっちの方が、読者の受けも良いはずだ。


「はい……ええ、その通りです。蓮子とメリーの家で。幻想郷の話を、あの二人がよくしていたので。よく覚えています」
「ふむ……」
蓮子の祖父は、まだ何か言えることがあるだろうと言う顔つきで○○を見た。
「食事時にかい?」
ポツリと蓮子の祖父が呟くが。○○は口を半開きにするのみで、何も言わなかった。
「なるほど、違うのか……部屋ではないのだね……もう少しいやらしい話かな?シャワーとか、濡れるのかな?」
少しずつではあるが、蓮子の祖父は○○から退路を奪っていた。
一気に奪わないのは、恐らく最後の配慮や優しさがあるのであろう。
少しずつ退路を奪っていくその老人の顔は、決して楽しげではなかった。
むしろ罪悪感や心配で押し潰されそうな物であった。


903 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:29:26 BQOVsj.M
「早くこっちに来い。その方が、蓮子もメリーちゃんも安心するから。むしろやりやすくなるかもしれんぞ」
○○がまごついて、何も言えずにいると。祖父から助け船がやってきた。
……そもそも、幻想郷の話を持ち出した時の祖父は。中々に楽しそうであった。
……そう、明らかに楽しそうであむた。○○はそこに気付いて、話題の転換を図ってみた。


「幻想郷のお話をもう少しお願いできますか?その、貴方があんまりにも、楽しそうだったので」
「楽しい……ね、まぁそう見えるなら菫子への申し訳もたつだろう」
老人は妙な言い回しをしていた。
「もしかしたら菫子の力で、そう思わされ。あるいは保身の為にそうおもうことにしたのか。菫子の機嫌次第だったからな、高校も大学も」
この老人は時折、周りを全部無視して独白を始めてしまう。
いや、彼の中では筋道が通っているのかもしれないが。まだ心のどこかで、蓮子とメリーから解放されないかと考えている○○には。
老人の独白にあった、菫子の機嫌次第で高校でも大学での生活も、悪いことになりそうだったという方が深刻な話であった。
残念ながら菫子の孫である蓮子は、とっくに祖母を超えている。
菫子さんの事をあまり知らない○○だが、いきなり脅迫してくる人間には恐怖しかない。

ふと、もう一つのこと。○○が脅迫されているのを知っているか聞きたくなったが。
まだ幻想郷の事も聞いていないのにと思い、少しばかり黙っていた。


「幻想郷……今も、あの時と同じ雰囲気だよ」
懐かしさはあるのだろう。飲みかけのお茶を口に含みながら、ゆっくりと話始めた。
「君は幻想郷に向かったことは?」
「いえ、ありません」
端から見ればおかしな会話だ。蓮子とメリーと付き合うようになって、秘封倶楽部に付き合わされている今だからこそ。受け入れることのできる会話だけれども。
失礼な表現だが、認知症の老人のとりとめのない会話に巻き込まれている。
今の○○は、自分がそんな風に見えていた。
ただ、一部の人間にとって『幻想郷』と言う単語は、大きな意味を持つのである。
だから、○○は。
「でも、見たことはあります。メリーから見せられましたし。蓮子からも、夢で見ていたことを気付かれました」
わかっている以上、最低でもこの答えを述べなくてはならなかった。


先程は孫娘の濡れ場を、まさか祖父であるこの老人の前で話したくなかったから黙っていたが。
メリーから『風呂場で』手を差し出されたから蓮子と一緒に握ったら。
竹林が、どこまでもどこまでも、続いている風景が見えたり。
真っ黒な羽の生えた女性が二人見えたり。
神社が二つも見えたり。

始めは何かのマジックを疑い。言質を取られたくなくて蓮子から先に話させていたが。
毎回毎回、寸分たがわず。順番も間違わずに話すのであるのだから。
遂には紅白の巫女を夢の中で見ただろうと、蓮子から。
刷り込みやすい起き抜け一番ではなくて、昼食時にいきなり言われたものだから、信じざるを得なくなってしまった。

故に○○は、幻想郷の存在を認めなければならなかった。
幻想郷の存在を認めた○○に、このろうじん。蓮子の祖父は満足そうに頷いた。
「まぁ、最低でもそこは認めてもらわないと困る。蓮子とメリーちゃんの事を理解するにはな」
機嫌が良くなったので、若干饒舌になったようだ。

「古道具屋の銀髪店主は見たことがあるかい?ナイトキャップを被った夢の管理人は?」
この老人は親族以外で幻想郷を理解してくれる事が嬉しいのだろう。
今日一番の笑顔を見せながら質問をして来た。
「いえ……そこまでは知らなくて」
「ふむ、そうか。まぁおいおい分かるようになるさ」
失望させるような答えにも、時間の問題だという風にして。深刻には考えなかった。

「まぁ、私は。あの日以来幻想郷に赴く事が出来たけれども。基本的に菫子の行動範囲に連れていってくれただけだったが。楽しかったよ」
それよりもこの老人は幻想郷の話を。それ以上に菫子の話がしたいのだろう。
「ぶしつけな質問ですが」
そこに水を指すような形であるが。○○は聞いておきたいことがあった。
「貴方が幻想郷の存在を信じざるを得なくなったのはいつからですか?」
○○は努めて丁寧に、礼儀正しく質問したが。
「信じ『ざるを得なく』……ね。いや、信じきって随分たつ私だからこう言うだけだ。最初は私も半信半疑だったよ」


904 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:30:56 BQOVsj.M
「けれどもね、あの日。菫子から博麗神社で『ようこそ幻想郷へ』と出迎えられたその瞬間から。これは本物だと信じることは出来たよ」
○○が持つ疑問符の存在を感じ取られてしまい。老人はあからさまに……しかし、怒りはなかった。悲しそうな顔であった。
博麗神社と言う、新しい単語の出現はそこまで重大ではなかった。


「自分で言うのはおこがましいけれども。結局、菫子が私抜きではいられなくなったのと同じくらい。孫娘の蓮子は君抜きじゃ駄目なんだ。君は理解できるのだから!」
メリーが常にいるからこの話はこじれるのだけれどもな。これを言うと更にこじれそうなので、黙っておいた。
どうにも、宇佐見家は信じることが出来ない。
とっくに向こう側だ。


「そうだなぁ、話の続きを始めよう。まぁ、幻想郷訪問はいつも楽しかったよ。とってもね。特に夢の管理人や銀髪の古道具屋とは今でも会えるから、こっちの友人よりも気のおける仲間だよ」
○○は急にこの老人が怖くなった。
蓮子は時折、メリーと○○以外は。精々が岡崎教授周辺以外のすべての世間をクソミソにけなすことがある。
大体そういう時は、大学で嫌なことが合ったときなのだが。最もその嫌なことが起きる原因の半分は、多分○○自身の世間の評判がそうさせるのだろうけれども。

その話は、今は良しておこう。
どちらにせよ、この老人は幻想郷を上に見ていて。世間を下に見ている。
蓮子と全く同じ価値観で生きている。
恐るべきは隔世遺伝の成せる技とでも表現しようか。


「どちらにせよ、私と菫子は夢の中でしか幻想郷に向かえない。起きる時間は存在する」

「……まぁ、授業は真面目に受けていたよ。多少は疲れていた方が眠りやすく、つまり菫子と幻想郷に行きやすくなる」

「けれどもね、ある日。気付いたことがあったのだよ……現実の方でね」
失礼な話だけれども、この老人にまだ現実の変化を感じ取る能力が残っていたことに驚いた。
高校の時点で、色々とかなぐり捨てたかと思っていたのに。

「ボス猿が妙に応援してるぞとかいって馴れ馴れしくなった事と、女王蜂以外の女子が私を避けるようになった事だな。始めに感じた変化は」
老人の言う変化に、始めは○○もピンとは来なかったが。
冷静に思い返せば、この老人の恋人であり今の嫁は、あの蓮子の祖母なのだ。
何もやっていないはずがない。

「つまりその時点で、既に何かを菫子さんが……?」
「そうだな……蓮子と付き合っている君なら、気付くだろう。そもそも蓮子のやり方は、菫子仕込みだから。若干の先鋭化はあるけれども」
婦女暴行をでっち上げてやると言うやり口は、果たして先鋭化と言う表現で済むようなやり口なのだろうか。


○○はいっそ問いただしてやりたかったが。今は、菫子さんのやり方が気になる。
それを過激にしたのが今の蓮子なのだから。
それを考えていると、老人が少し笑った。
○○の懸念や悪感情に呼応するように。
やはり知っているのだろうか、蓮子のやり口を。
この話の後に問いただす腹は決まった。


905 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:32:16 BQOVsj.M
「恋愛リアリティショー……と言う番組の一種は知っているか?」
「安っぽいドラマよりも安っぽい、さも台本がありませんよと言う体の?」
○○は思わず本音を包み隠さずに、吐露した。
思わず本音をぶちまけすぎたかと不安になったが。
この老人は満足気に笑っていた。
「あぁ、蓮子が君を選ぶはずだ」
「蓮子もあまり好きじゃありませんから、その手の番組は」
安堵したし、その後の老人の言葉は案の定。
「菫子も好きではなかったよ……しかしながら、そんなのが好きな連中が多いのも事実だ。同時に煽りやすくもある……連中を煽って、聖域を作ったんだ」
案の定と、悪い予感の半々であった。
○○は背筋に冷や汗を感じた。話はここから悪くなる一方だぞ、気をしっかりもてと自身に言い聞かせた。



「ある日だったな……女王蜂がおとなしめの女子に何かを詰問口調で喋っていたよ」
その話をするときの老人は、顔つきが強張っていたし。○○としても、高校時代にそんな光景は何度か見た。
嫌な記憶である。

「話の経緯など、正直な話愚にもつかんが。内容は気になったから、要点だけは今でも覚えているよ」
老人は更に顔をしかめた、しかめながら「菫子の根回しには恐怖した」と、呟いた。


「要点だけを言おう。私と菫子は上手く付き合えているのだから、その手の番組の変な女みたいに私に付きまとうなと言うことらしい」
言っている内容は理解できたが、生憎と○○はその手の番組を見ないので。その変な女がどういう振る舞いをするのか、そこまでは分からなかった。
なので「要するに、横恋慕しそうな奴を片っ端から潰すと?」その程度の感想しか無かったが。

「いや、もっと酷い。あの女王蜂は、さもカップルの守護者面がしたかっただけだ。件のおとなしめの女子も、たまたま課外授業の班が一緒になっただけで、そこで少し話しただけだ」
老人から聞かされる真相は、予想よりも酷かった。

「菫子さんが、それを煽ったと?」
話の展開的に、そうとしか思えないが。出来れば否定して欲しかったものの。
「あぁ、そうだ。菫子は女王蜂やボス猿からの影響力を外に向けたくて、自分達を敢えて陳腐に見せることに決めたんだ。どうせ卒業したら会わないし、直に大学受験で連中も首が回らなくなると見越しての行動だ」
老人は何度も頷きながら、悪い気を堪える顔付きはしていたが。
「上手い判断だ。恋愛リアリティショーの見世物に成り下がる事で、連中から遠ざかったんだ。合いの手以上の干渉を無くしたかったし、実際にゼロにしてしまった」

「更に菫子が選んだ女王蜂も上手い判断だった、ボス猿の一匹に惚れてる女王蜂を煽って、守護者面をさせたんだ」


段々と菫子さんの計画が見えてきた。
菫子さんに彼と言う。磐石なカップルであれば、女王蜂も横恋慕の危険性を感じずにこちらに協力してくれるし。
女王蜂も、勝手に守護者面とはいえボス猿に良いところを見せて点数を稼げると言うものだ。
女王蜂は菫子さんを使って点数を稼いだのだろうけれども、真意は菫子さんと彼の周りを掃除すること。女王蜂のことなど、口先だけの関係だ。
その掃除屋として操られた女王蜂は、さながら冬虫夏草に寄生されたような格好である。
喜んで点数を稼ぎに回れば回るほど、鬱陶しく思われるのはその女王蜂だ。

何かがあって、その女王が失墜したとしても。絡まれて鬱陶しかったと言う態度を取ればそう面倒にはならない。
そもそも時期的に大学受験も近いと言うではないか。となれば、女王蜂の取り巻きも遊びに付き合ってられなくなる時期だ。
時期も味方しているとはいえ、それら全部を利用するとは、狡猾なやり口だ。


906 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:33:46 BQOVsj.M
「だが菫子の真意は、私の首に縄をかけることだったんだ。何もしなければそれで捕らえたままであるし、下手を打てばその縄で私は首がしまる。そういう状況を作ったんだ」
しかしながら宇佐見家の、秘封倶楽部の源流が。この程度の謀略で満足するはずは無かった。
やはり菫子さんの本命は、目の前の老人、今における蓮子の祖父であったのだ。


「恋愛リアリティショー等はまるで見ていないが、恋愛の絡む小説ならばいくらかは読んださ。だから理解せざるを得なかった」

「女王蜂が、ボス猿が、教師ですら。あぁ、この二人は付き合っているんだなと思わせることに成功してからは、菫子は慎ましやかだったよ。腹の底を全て隠してな」
「蓮子と同じで世間なんて大嫌いなのに?」
○○からの疑問に答える前に、老人は、蓮子の祖父はさも面白そうに笑った。
自らの事であるはずなのに、自分すらをも客観的に見てしまい。
一流の喜劇を見ているかのようであった。
「しかし利用できる。ましてや黙っていれば可愛い菫子の涙に勝てる世間が、どれほど存在する?蓮子も似たようなやり方で君を縛っているではないか!蓮子をふった先にある物が見えたからここにいるのだろう!?」
いや、違うだろう。この老人は自分と○○の境遇に共通点を見いだしてしまい。
まさか孫の世代が、○○が自分と同じ道を、蓮子が菫子と同じやり口を貫くとは思っていなくて。笑うしか出来なくなったのだろう。


「……ええ、まぁ。世間では、大学では二股野郎としか認識されていない俺が、円満に別れる方法が『在学中』は無いことぐらい」
「卒業しても存在せんよ。もはやあれが、君を放っておくと思うか?幻想郷を認識できた君を!!受動的に認識『させられた』ぐらいには考えるか!?それでもやっぱり貴重なのだよ!!」


「○○君ほどではないかもしれないが、あの状況で菫子をふってしまえば、何があると思う!?」
「……非難の雨あられでしょうね」
○○はずいぶん穏やかな表現を使ったが。老人はそんな○○の手心を笑った。
いや、○○にだって分かっている。この老人以上に追い詰められた○○は、理解しなければ生きてこれなかった。
だから逃げられなかったのだ。蓮子とメリーが諦めない以上。

「非難!?そんな程度で済むものか!!私刑(リンチ)だよ私刑以外に落着点は無いよ!菫子も蓮子も!あんな美人である以上は、世間を煽るなんて朝飯前だよ!!」

「私が一歩踏み外せばそんな状況を容易に作れる!そしてそれは菫子にすらもはや制御できない!その恐怖は理解できるはずだ!私を逃がさない為だけにそんな事を!」

「菫子は安っぽい恋愛リアリティショーに自分を、私を巻き込みながら落とし込んだんだ!観客を味方につけながら!」
老人ははっきりとは言わなかったが、その安っぽい恋愛リアリティショーに、○○君だって巻き込まれているのだぞと言われているようなものであった。


「唯一穏やかな点は、菫子が女王蜂やボス猿に、どういう風に私の事を吹聴しているか、全て教えてくれたことぐらいだな……お陰で目をつけられない立ち振舞いは、簡単に思い付けたよ」
ではその孫娘の蓮子はそれよりも酷いではないか。
あれは、メリーとの仲も維持したいから、観客すらいない狭くて閉じた世界を作り出した。
その象徴が、三人で住んでいるあの部屋だ。


907 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:35:25 BQOVsj.M
老人の昔話にある程度の落着を見た○○は、ついにあることを聞いた。
「貴方は、孫娘の蓮子が……」
しかし全てを聞く前に、老人は答えた。
「知っとるよ、脅迫の内容も。まさか、去るつもりならば強姦や暴行をでっち上げてやるとまで言い切るとはなぁ。まぁ、メリーちゃんとの仲もあるから、若干強引に行かねばならなかったのだな」
やはり知っていたが、それは問題ではない。
問題はこの老人が蓮子のやり口を、若干の強引さと言う言葉で片付けたことだ。


急に、はっと気付いたことがあった。
「菫子さんは、宇佐見ですよね?旧姓がではなくて、元々から」
この老人の頃はまだ、結婚したら旦那の姓を妻が名乗るのが一般的だったはずだ。けれどもこの老人は宇佐見を名乗っている。
「あぁ、菫子の姓を私が名乗ることにした。婿養子と言う奴だな、今ではそう珍しくもないが。あの頃はまだ、さほど、と言う物だったな」
もうこの老人は、とっくの昔に宇佐見に毒されている。
そもそも始めから、話し合いなど無理だったのだ。
これだったらまだ、二股野郎とこの老人からも非難された方が気持ちは楽であった。
それが一番、常識的な展開なのだから。
まさか全く血筋の違う人間を宇佐見家の流儀に毒させるとは。
蓮子のやり口にすら異を挟まないのだから。毒されている以外にどう表現しろと。


「そうですか」
残念とも無念とも言わなかったが、○○がこの老人から心が離れたのは。
もっと言えば宇佐見家そのものから心が離れたのは、言うまでもなかった。
冷たい態度の一言で話を仕舞いにした○○を、老人は頬杖を付きながら黙って見ていた。



会話に強烈な断裂が見えたまさにその時であった。
「あなた、用意が出来たわよ」
菫子さんの声と、扉を叩く音が聞こえた。
「あぁ、ちょうど良い時に来たね」

ちょうど良すぎるぐらいである。いつからかは分からないが、外で状況を観察していたとしか思えない、間の良さである。
「○○君、すまないが杖を取ってくれないか」
蓮子同様、この老人もお洒落であるのか。室内用とおぼしき杖を使っていた。
取ってくれと言う頼みを無視するほど薄情ではないが、受け渡し方はぶっきらぼうにならざるを得なかった。
横にいる菫子さんが、少し笑った。
どういう意味だろうか、それを聞く前に菫子さんは老人の肩を持って介助を始めたので。○○はさっさと食卓に向かった。


食卓には、宇佐見夫妻と孫娘と美人の友達と……その両方と恋人の関係を結んでいる男。合計で五人分--六人じゃない--の食事や飲み物が揃えられていた。
全員とっくに成人しているので、食卓にはお酒も並んでいた。
やや古風な瓶ビールだけでなく、瓶入りのカクテルといった洒落たものも、食卓には並んでいた。
「まだ冷蔵庫に、ビールもカクテルもあるからね」
「冷凍庫にジンある、ジン?メリーも冷たい方が良いでしょ?」
蓮子は勝手知ったる物だから、冷凍庫から勝手に、凍りかけのジンの入った瓶を取り出したて。
「きゃー!国産ジンじゃない!!」
ジンの表面を見て狂喜乱舞にも近い動きを蓮子が見せたり。
「蓮子、ついでにラムとライムを冷蔵庫から取ってくれ」
「あなた、カクテルは少し胃袋に食べ物を入れてからよ。悪酔いするわ」
菫子さんが、夫が始めから強い酒を飲もうとするのを嗜めたりしている様子を。
そうは言っても親族ではないメリーが困りながらも笑みを見せている様子を、○○は表情を変えずに、目の前にある瓶入りのカクテルを引っ付かんで喉に流し込んだ。

カクテルとは言っても瓶入りの物であるから、度数はチューハイと変わらない物であったが。
苛立ちなどで機嫌の悪いときに飲む酒と言うのは、酔いの回り方が酷くなるのは古今東西で変わりはしないであろう。
一本目をほとんど一息で飲み干しただけあり、アルコールは確実に○○の認知機能を麻痺させてくれた。
ともすれば麻痺など、避けねばならない事なのだけれども。今の○○は現実逃避を行いたかった。
色々カクテルも種類が取り揃えてあるので、次は何を飲もうかと思ったら。
蓮子が瓶ビールの栓を開けて、メリーが三人分のコップも用意してくれた。
癪ではあるが、酒が欲しいのは事実。○○は大人しく頂くことにした。
「このまま楽しく飲んでいましょうよ」
注がれたビールを飲み干す祭に、メリーがそう呟く、よりは大きな声で述べた。
○○は敢えて返事をせずに、2本目のカクテル瓶に手を伸ばした。
老人が、孫娘である蓮子と何かを話していたが。
蓮子が歓喜した国産ジンを老人のグラスに注いでる姿だったので……
何より、飲み方を考えずにやって。アルコールが強烈に回り始めた○○には、その光景を見てこそいたが、観察はしなかった。


908 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:38:56 BQOVsj.M
○○が気付いたら、瓶入りのカクテルが何本も転がっていた。
食べるよりも飲む方が明らかに多かったので、○○は酩酊していたが。まだ記憶は保持していた。思考回路も遅いが、正常であった。
○○はアルコールの副作用である利尿作用に抗うことなく、トイレに向かったが。
「○○くん」
老人がいきなり声をかけてきた。
「これでも罪悪感はあるんだ、けれどもね。孫娘の方の味方をしたいのも事実。それと同時に、幻想郷を認識できる君を大切にしたい」
老人の話は、要点が見えてこなかった。
酔ったが為のとりとめのない話に聞こえたが。
「君がまだ、この場を立ち去りたいと思っているのは。先程の会話で、冷たい態度の君を見たことで確認できた」
「宇佐見に毒された貴方に言われたくない!」
○○も酔っているのだから、思わず喧嘩を買ってしまった。
舌打ち程度で済ましていれば、多分何もなかった。

「毒された、ね。百聞は一見にしかずだ、ならば見せてやろう。宇佐見の毒を。メリーちゃん、菫子から渡されたゴム手袋を」
老人は幕を上げろと命じた。 
「……はい、お爺様」
メリーは言われた通り、ゴム手袋をはめて、○○が飲み散らかしたカクテル瓶のひとつを手に取って。蓮子に向かって振り上げた。
蓮子はゆっくりと、腕で防御の体勢を取った。


○○は一気に状況を理解して、蓮子とメリーの間に割って入ろうとしたが。
「うぎゃあ!?」
蓮子の孫であるこの老人は杖を使って、○○の膝小僧を打った。
的確な打撃であった。恐らく、この老人はほとんど飲んでいないのだ。
倒れ混む際に見えた老人の目は、まったく濁っていなかった。
倒れ混んだ○○の後ろに、即座に菫子が回り込み。両足を掴んでズルズルと遠ざけられた。
その間も、老人はやや遅れてだが。それでも杖で、○○の全身を何度も叩いた。
それよりも鮮烈な、ガラス瓶の叩き割れる音が。○○にとっては毒であった。



そのまま○○は、別の部屋に収容されたが、鍵などは掛けられていなかった。
代わりに、三組の布団と。遅れて蓮子とメリーがやって来た。
メリーは苦虫や罪悪感の味を一心に感じていたが。
蓮子は興奮を内包した笑みで、腕に突き刺さったガラス瓶の破片を抜きながらやって来た。

演者が出揃ったところで、宇佐見夫妻も戻ってきた。
「あなた、割れた瓶は金庫に入れておいたから。○○さんが暴れても、あの金庫は破れないわ」
菫子さんが、若干の棒読みで演じながら喋った。どうやら演技は苦手のようだ。
「それはよかった、あのガラス瓶には○○の指紋がベッタリと張り付いている。ガラス瓶で殴打された記録も、蓮子の柔肌に残っている」
老人の演技も説明口調であるが……演技の上手い下手はもうこの際どうでもいい。


嵌められた!そう、重要なのはその一点なのに。その言葉がちゃんと、○○の口からは出てこなかった。
「諦めろ、何の不自由がある」
代わりに老人から、降伏を勧められた。
「高校の頃を思い出したは、こんな謀略をまた経験できるなんて」
しかしより残酷なのは、どこか楽しげな菫子さんであろう。
「お祖父ちゃん、ありがとう。やっぱりだてにアガサ・クリスティを全部読んでないわね、こんなトリックをすぐに思い付くんだから」
その上、蓮子からの言葉も残酷さに拍車をかけている。
○○をこの会食に連れてきたがったのは、蓮子の祖父であるこの老人だが。
この老人は、始めから○○を嵌めるつもりで呼びつけたのだ。
これだったら、これだったらまだ。二股野郎のそしりの方がマシじゃないか!?


909 : 秘封の源流4 :2019/04/05(金) 11:40:15 BQOVsj.M
「お爺様もおばあ様も……蓮子も!どうか○○を追い詰めるのはこれっきりにして」
どうやらメリーだけは渋々のようだが。○○からしたら、何の違いもない。
さながら良い警官と悪い警官を交互に出向かせる交渉術にしか見えなかった。

メリーが宇佐見一族に釘を刺した後、彼女は即座に○○に駆け寄った。
「ごめんなさい、ほんとにごめんなさい……この計画を知らされたのは、今日だったのよ……でも、あなたに去って欲しくないのは本当なの!」
「だからって……こんなやり方があるか!!脅しつかせて大人しくして、そんなやり方が!!」
「そうね……」
メリーも、そこは理解しているようだ。


「俺にビールを注いでくれたのも、老夫婦と女二人でも確実に勝てるように、泥酔させるためか!?」
「ええ……確実性を高めるためには、やっぱりお酒は有力な武器だから」
「それにしたって、酷いじゃないか!ただでさえメチャクチャな俺の社会的立場をどこまで貶めれば気がすむんだ!!」
「だって……幻想を認めることが出来る人間は貴重なのよ!!」
メリーの反論は、体を成していなかった。


○○の方が最もな言葉ばかりだが、殆どの存在が認識できない幻想を、○○は認識できるのだ。
それが○○の立場を難しくしてしまう。
自身よりも周りが放っておかない。
○○は憮然として、併せ飲んだり。あるいは無視して現実を生きることが出来るが……
「幻想が見える人間はね、辛いのよ。理解できる仲間に飢えているの」
菫子が言う通り、あまりにもわかることの出来る存在は、少しでも理解してくれる存在を欲しがる。
例え無理矢理にでも。


「蓮子、今日はあなたが先に脱いで。私と○○がずっと主導権を握るから」
「きゃー、襲われるー」
「うるさい、○○の為に肌をさらけ出すのよ」
メリーが蓮子の衣服を剥がしにかかった所で、宇佐見夫妻は部屋を後にした。


メリーは、無理にでもこの場にいさせるその対価に『色』をふんだんに○○へ与えてくれるが。
宇佐見一族にかかればメリーのこれだって、社会的生命をますます握る踏み台に使ってくるだろう。
メリーによってひんむかれた蓮子を前にしても、こんなにも美人だけれども。
○○は自分の首に絞められていく縄を思わずにはいられなかった。


秘封の源流 了



感想、お待ちしております
どうかよろしくお願いします


910 : ○○ :2019/04/06(土) 00:19:22 e/7qCtoM
んー、良くできてると思うけど割りと胸糞に感じたな
一方的に嵌められ続けるとモヤモヤする
大事な存在を追い込みすぎた結果目の前で死んでやったらどういう反応するかな、と思ったわ


911 : ○○ :2019/04/06(土) 03:33:31 .I0K710s
理由無しに完璧美女に好かれるって恐怖なのかね
まあ〇〇も手を出しちゃっているわけだしいずれ落ち着くところに落ち着くでしょう


912 : ○○ :2019/04/06(土) 12:14:14 Ex1QIuDU
寝落ちしたら8割ぐらい書き終わってたSSが半分消えてて吐きそう
これはもう気分を変えて一から書き直すか


913 : ○○ :2019/04/07(日) 23:18:30 Bh0h.luw
word落ちとかgmail保存失敗でおんなじことしたことあるけどほんまに心折れるで…筆折らないようにがんばってな


914 : ○○ :2019/04/08(月) 18:24:17 7IiFyAvY
>>909
男の方が自分のことしか考えられない上にネガティブな方向にしか捉えないのが個人的に好きになれない人物像だった
そんなに社会的影響力のある相手から好かれたらならもっと利用していけばいいのに
大学生だったら研究室とかで無双できるでしょ……って考えてしまう


915 : 秘封の源流4 :2019/04/10(水) 00:31:52 MCzvAsHg
菫(すみれ)と蓮(れん)の漢字が似てるのは
想像力を掻き立てられる


916 : ○○ :2019/04/10(水) 00:32:59 MCzvAsHg
キャッシュで
前の名前を消さずに投稿してしまった


917 : ○○ :2019/04/10(水) 00:45:47 6tDbvOVk
 目の前の大きな門を見上げると、そこには大きな館が眼前に広がっていた。赤く、朱く、紅い館。幼いながらも強大な
力を持つ吸血鬼の姉妹についてはこの幻想郷では良く知られていたが、私が今日会おうとしているのは、図書館にいる魔
女の方であった。
 彼女が余り知られていないのは普段は部屋に籠もっているせいだが、然りとて彼女が館の主人に比べて弱い訳ではない。
むしろ実際には対等であり、そして彼女の方がある意味では恐ろしい。鬼としての純然たる恐怖の化身ではなく、魔とし
て闇をも従えるその力。人間の力、知識、技術、そして悪意など片手で捻り-そして彼女は潰していた。身の程知らずの
無謀さの対価には何よりも高い値札が付く。その力を私は間近で見せられることとなり、それは深く刻み込まれていた。
 司書の女性に案内されて着いた部屋には、いつものように彼女が座っていた。テーブルに置かれているカップからはま
だ湯気が立っている。彼女がいつも使っている金色の装飾が施されたお気に入りのカップ-そう知る程度には、私はここ
に慣れてしまっているのだろうが-の向かい側に、御丁寧にも青色の上薬が塗られた私用のカップが置かれていたのには
少々閉口したが。
「何の用?」
素っ気がない態度だが、これでもかなり機嫌は良い方である。彼女にとって外の、或いは気を許していない人間程、彼女
の対応は「丁寧」になる。魔女狩りの血に濡れた歴史のなせる業なのだろうか、契約や外敵に敏感な魔女の習性として、
外部の人間には彼女は少しも気を許さない。一部の隙もない程に覆った余所行きの仮面に騙される者は多いらしい。もっ
とも彼女に言わせれば-騙される方が悪い-とのことだが。こちらに構わずにページを捲る彼女に声を掛けた。
「君の力を借りたいんだ。」
ピクリ、と手が止まる。彼女の頭の中では僅かな時間の間に膨大な思考が流れたのであろうか、パタリと音を立てて本が
閉じられた。栞すら挟まることなく。
「対価は?」
儚げな透き通った声が響く。契約の力を乗せた声符が場の空気を支配した。
「こちらの持っている「足りない」」
渾身の提案は聞くまでもなく否定された。一部たりとも、交渉の余地が無いとでも言わんばかりに。確かに中々の骨が折
れる妖怪絡みの事ではあるが、まさかここまできっぱりと断られるとは思ってもいなかった。暫くの沈黙が流れる。いつ
もならばここで折れた私が、取って置きの、そしてなるべく使わずに取っておきたい案を出す羽目になるのだが、それで
は彼女の術策に嵌まってしまう気がした。ジリジリと駆け引きの時間が流れていく。私に取っては時間は有限であり、彼
女に取って見れば幾らでも時間はあるのだから、こちら側が一方的に不利といえるものだが。彼女の方は上機嫌のままに
本を捲っていた。向こうからすればいくらでも私がここに居れば良いと思っているのだろう。そしてそのまま…。私は挽
回のために、席を立とうとした。


918 : ○○ :2019/04/10(水) 00:46:29 6tDbvOVk
「今日の所は出直すよ。」
「出ない方がいい。」
言葉少なに忠告される。しまったな、と思ってしまったが、しかし言った手前、出ない訳にはいかない。そのまま椅子か
ら腰を浮かせた。
「また今度にするよ。」
「湖の外で貴方を狙っている。」
動きがピクリと止まった。彫刻のように固まった私に彼女は言う。
「本当に出る積りがなかったんだから、丁度良い。いつもなら貴方は帰る前に紅茶を飲み干していた。」
うっかりしたミスを突かれてしまい、私には返す言葉が無かった。彼女が催促をする。
「対価は?」
「三日泊まる。」
「全然駄目。」
「一週間ここに泊まるよ。」
「足らない。ベットを釣り上げたのは貴方。」
「これ以上居れば、帰れなくなってしまいそうだよ。」
「人里に帰らなくていい。」
再び沈黙が流れる。これ以上時間を掛けると、余計に状況が悪化しそうな気がした私は勝負に出た。
「一ヶ月、これでいっぱいだ。」
「私が飽きるまで。」
渾身の提案もあえなく拒絶されてしまい、私は彼女の意見を受け入れるしかなかった。
「分かった、そうするよ。」
彼女が指を振ると窓の外で大きな音がして、水飛沫が上がっていた。私に降りかかってした厄介事は、まさに一瞬のうち
に解決したのだが、今度は別の厄介なことに頭を悩ませることになりそうだった。


919 : ○○ :2019/04/10(水) 00:50:04 6tDbvOVk
>>909
一度は菫子によって取り込まれた祖父が、自分と同じ様な存在を罠に掛けるのは複雑な心境だったのでしょうか。
蓮子の親が居ないのが、何気にヤバそうな状況を醸し出していました。乙でした。


920 : ○○ :2019/04/10(水) 22:18:41 vCVcUwxc
>>912
>>913

この曲、どこで聞いたんだっけ
ヘッドホンから聞こえるBGMに耳を傾ける
確か、なんかのドラマの…映画だった気も…
がくん。
首の落ちる衝撃に目を覚ます、はてさっきまで何を考えていたのか思いだせない
今何時なのか、パソコンのモニターの隅の時計を探すが霞んで数字もなにもとらえることができない
目をグシグシと擦る、その一瞬目を閉じた為か眠りに入るもまた首を落とし目を覚ます。だがそれもほんの一瞬だけ、起きたのはなにかの間違いだったかのように意識は夢の中へとかけていく
モニターにうつる書きかけのSSをぼんやりと捉えながら、なにも考えられず不確かな覚醒と睡眠を繰り返している
遂に力尽き、奮発して購入した超カッコいいパソコンチェアに不恰好に身を沈めた
些細な抵抗もできなかったエナジードリンクの缶は力なく倒れデスクに広がり絨毯へとポタポタ落ちていく
彼はもう知ることはないがパソコンに表示された時刻は03:23。
いつしかBGMは終わりヘッドホンから漏れる音は聞こえない。夜の静寂に包まれて、部屋の中に潜む家電の囁き声と部屋主の汚い寝息が聞こえるばかり
誰もいない。仄かな風がカーテンを揺らす


当時、男はとあるソシャゲの推しキャラが排出されるガチャのために学業の合間に勤めて得たなけなしのバイト代で課金を行い、無惨に屍を晒した
さらに友人がログインボーナスだけで得たアイテムでガチャを回す所謂無料ガチャで自分の目当てのキャラを引き当てたのもだから彼の心中をどうか察して欲しい
その苛立ちをぶつけるが如くパソコンに向かいキーボードを叩き出した
勢いというものがある、鉄は熱いうちに叩け。この『高ぶっている』間にSSを書き上げてスレに投下し賞賛の声を浴びようと目論んでいた
しかし勢いだけで書き上げることができるなら誰も苦労はしない。次第に文章が雑になりタイピングの速度はみるみるうちに落ちていく
しまいには動画サイトにて良さそうな作業BGMを探し回り結局それだけで30分は無駄にする
亀の歩みのような進捗でタイピングを続けている、書いては消して、書いては消して、その繰り返しを何度も何度も
眠気で頭は回らない、先程までTwitterをやっていた癖に『今日中にしあげなければ』という無用な使命感に突き動かされそれでも鈍く鈍く進んでいく
そして意識は途切れいつの間にか迎えた朝、自分のイビキで目を覚ます
時刻は08:48。その数字に冷や汗をかき完全に遅刻コース確定だと跳ね起きたが今日は日曜日。奇しくもプリキュアを見逃したことの方が悔しく感じられた
寝ぼけ眼でホットサンドメーカーにパンを挟む。タイマーをセットしてテレビをつけるとちょうど仮面ライダーが始まった
焼けたパンを頬張りながらヒーロー番組を眺めるのどかな日曜日。
さて今日は何をするか、映画でも見ようかな
そういえば昨日遅くまでSS書いてたな、まぁ別にいっかそんなすぐ投下しなきゃいけないやつじゃないし一週間もあれば書けるだろ(書けない)
どこまで書いたんだっけ?っていうか保存したか?
パソコンに向かいつきっぱなしだった画面を確認する
昨夜のことを思い出すように文章を読み返していく
読み返していく
読み返していく
読み返していく

読み返している。そのはずだ
俺が書いたのだから…内容も全部わかるはずなのだ
なのに、なのに
この文章に見覚えがない。書き覚えがない。
全く関係ないページでも開いたか?いや違う、キチンとファイル名は自分のものだ
寝ぼけている間に俺が書いた?それも違う、自分の作風じゃない。
例えば、例えばこの単語…えっと…漢字読めないけど……こんな言葉知らない
待て、待て、待て。なんだ、どういうことだ?
『誰』が書いたんだ?だとしたらどうやって?
寝落ちして書きかけが『パァ』になった話ならよく聞く、よく聞くが
書き足されているだなんて、何がどうなって…

読み返していく
口はだらしなく半開きになっている
しかしスクロールは止まらない、それほどまでに作品に引き込まれていく
自分の考えていた拙いストーリーなんかよりずっとおもしろく、恐ろしい
得体のしれない文字の羅列に明確な危険を感じながらもホイールを動かす指は止まらない。止められない

よくよく考えてみれば、掲示板の皆の顔だって見たこともないし声も聞いたことがない。
当然名前も知らないしどんな人間なのかもわかるべくもない
いままでそうだったじゃないか
そんなことはどうでもいいのかもしれない
誰が書いたかなど問題ではない
知らなくていい、名前など、姿など

そうして彼はずっと、ずっとずっとスクロールをし続けた
毎日毎日彼のパソコンに書き込まれる作品を、名無しの誰かが書き連ねる物語を延々と読み耽る
その誰かが人間だろうが妖怪だろうが構わない
与えてくれたかたちのない本のページをめくるのがその人に報いるたったひとつの方法だと信じて
もう閉じることのできない闇にかかったことも知らずに
名無しの本読み仲間の物語を読み続ける
ずっと、ずっと


921 : ○○ :2019/04/14(日) 18:34:52 4hOgjr7I
>>920
これは一体誰の仕業だ?

ただ一つ……幻想少女に魅入られたら、外の世界に逃れても無意味という事だな


922 : ○○ :2019/04/16(火) 14:17:55 5FRgQH2c
名無しの本読み妖怪ちゃん?


923 : ○○ :2019/04/19(金) 15:46:28 IJ0XTYEc
永遠亭の手口を紹介

薬でどうとでも出来ますの永琳
狂気の瞳で弱らせて看病も、催眠も。お手のものですの鈴仙
幸運を強化して、知らず知らずのうちに相手の依存心を煽るてゐ
金!権力!輝夜と言う美女!大体これでなとんとかなりますの輝夜



輝夜「ほんと、永琳と鈴仙は直情的で怖いわねぇ。私たちは仲良くしましょうね、てゐ」
てゐ(この間、姫様が包丁で自分の腹をかっさばいて、自分の肝を取り出してたのは言わないでおこう。誰かに永遠をあげたようだから)


924 : ○○ :2019/04/19(金) 18:27:23 IJ0XTYEc
>>920
書く存在には読んでくれる存在が
読む存在には書いてくれる存在が
それぞれ必要なのが良く分かる作品だと感じた
種族なんて、作者と読者が出会ったことの価値に比べれば。些末ですね


次より、日中うつろな男の続きを投下します


925 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:31:08 IJ0XTYEc
依頼人の青年は、見ていられないほどに泣いていた。
「なんで、なんで!!屋根を渡ってまで私が見えていたのに、目線が合ったのに!無視して向こうに……」
慧音の旦那は、彼を何とか落ち着ける為に背中をなででいたりしたが。
妻である慧音に目配せはかかさなかった。

「分かっている、稗田家には私が報告する」
そう、慧音が言ったから。
「そうだね、慧音の方が稗田家の覚えが良いからさ……」
これは事実だ。けれども、旦那自身を下げる表現に。妻である慧音は嫌な顔をしたが。
「頭領!頭領がぁ!私を見たのに!!」
依頼人の青年がおかしくなりそうな程に泣いているから。慧音は、依頼人の方に向き合って。
依頼人が信じる頭領のために、稗田家に火急を知らせにいった。

「ひとまず落ち着いて……と言っても難しいかもしれませんが、それでも落ち着こうとすらしないのは悪い手段ですよ」
そう言いながら旦那はやかんの水を暖めて、依頼人の前に湯飲みと、お茶菓子も添えて。一席を作ってくれた。
依頼人の方も、これ以上ああだのこうだので騒いでいては、落ち着くものも落ち着かなくなるとは理性で理解してくれたから。黙ってやかんの注ぎ口から立ち上る白い煙を泣きそうな顔で見ていた。
さすがにこれ以上は、叫んだり喚いたりはしなかったが。
不意に両手で顔を覆ったり、頭をぐしゃぐしゃとかきむしった祭には、慌てて止めたが。爪の先に髪の毛が詰まっていた。
幸い、皮膚までは貫かなかったようで。赤いものは見えていなかったので安堵した。
古い小説なら、気付けには強い酒と相場が決まっているが。今の依頼人に酒なんて、危険きわまりない。
なので、依頼人の前に置いた皿に。かりん糖をざらざらと入れて、甘味の量を増やして。
急須(きゅうす)に入れる茶葉の量も、普段の倍以上に増やしてやった。

依頼人は、茶葉が多すぎて渋いお茶の口直しにかりん糖を放り込む。稗田邸に急を知らせにいった慧音を待つこの旦那も、依頼人が落ち着くまでは黙っていた。
依頼人も、自分が大騒ぎから元に戻るのを待ってくれていると分かってくれる程度には、この依頼人も理知的なので。
一通りお茶を飲んで、甘味も体に入れたあと。瞑想のような形を作って、自分自身の感情を取り戻そうと努めてくれていた。
なのでこの旦那も、黙って待ち続ける事を苦だとは思わなかった。
かりん糖をすこしずつ摘まみながら、依頼人の回復を待っていた。


926 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:32:27 IJ0XTYEc
「お陰さまで落ち着きました、ありがとうございます」
濃いを通り越して渋いお茶を飲み干した依頼人は、辛抱強く待ってくれた慧音の旦那に対して、丁寧に頭を下げて。待ってくれたことのお礼と、待たせたことは勿論、夜中に騒々しくやって来たことの謝罪をして。
「上白沢先生はまだのようなので、先にお話をしてもよろしいでしょうか」
「あぁ、メモするよ」
待たせたことを気にして、話をすぐにでも始めたがっていた。旦那も依頼人をこれ以上苛ませないように、筆記具を取り出した。


「とは言っても、見つけて声をかけたと思ったら。屋根に上って、ものすごい早さで闇に消えてしまって」
「構いませんから、見聞きしたことは全て教えてください」
旦那から、不明瞭でも構わないからと優しく促されて、依頼人の青年は申し訳なさそうに話始めた。



「○○さんから、頭領から目を離すなと言われて。ましてや、雨どいを伝って深夜に外に出ているらしい何てことが分かって、眠れるはずがありません」

「遊郭通いが好きなあの派手な連中は帰ってきてませんが、私と頭領はいつもの時間におやすみとお互いに挨拶し合いましたが。私は眠らずに、本すら読む気になれずに黙って布団の上であぐらをかいて、取り止めのないことを考え続けていました。特に、頭領が何の目的があるのかとか」
信じていた頭領から、完全に裏切られたような格好なのだから。依頼人の青年は喋るごとに憔悴していくが。
この謎を解かないままでいることの方がこの先の人生に影響を与えると考えて。
うつむき加減の顔を、強引に前へ向けたが。
きついことを言うならば、もう既に影響を受けてしまっているのではないか。

「続けますね。考え事は、ガタガタと言うような音で中断されました。陶器が触れあうような音……ええ、東風谷早苗さんが見せてくれた、割れた瓦は、やはり雨どいまで屋根を移動する際に落ちたものなんでしょうね」
依頼人の青年は合間に「なんのために……」と独り言を呟いた。まったくその通りである。

「私はすぐに、あの音は頭領が屋根づたいにまた外に出る音だとすぐに断じて、外に飛び出しました。雨どいを降りようとする頭領の目は輝いていましたよ。私を見るまでは」

「私は頭領に全部、歯に衣着せずに聞き出そうとしました。最近、日中うつろなのは、深夜に用をこなしているせいかと。何かの討伐なら私も連れていってくれと」
ここで依頼人の青年は少しまごついた。理解が追い付かないと言うか、今ある情報だけでは何も分からないのだろう。
「聞いた通りを、稗田夫妻が意味の有無を判断するでしょうから」
「……はい。頭領はこう言いました『そんな物騒な話じゃない』と。何だか泣きそうな声でした」

「それから頭領は、あまどいの下で待ちかまえている私を避けるように……跳び跳ねるような形で、屋根に飛び乗って。屋根づたいに隣家の屋根に渡って。そうやって、夜の闇に消えました」

「その……お気を悪くするような質問かもしれませんが。頭領さんが遊郭街に向かった可能性は」
「ありません」
依頼人はきっぱりと否定した。
「夜の闇に消えましたが、まったく追いかけられなかった訳じゃないんです。あれは明らかに、外に向かっていました」
「……そうですか」
慧音の旦那は、沈痛な表情を浮かべた。
はっきり言って、遊郭絡みの方が。慧音や稗田阿求は仕事を放り出す勢いで嫌がるだろうが、分かりやすくて困り事も少なくてすむ。
けれども人里の外に関わることとなると……厄介な話だ。
「頭領はもう戻らないかもしれない……」
慧音の旦那は思わず口を滑らせたが、それは失言ではなかった。
「ええ……理解しています」
依頼人の青年も、泣きそうな顔であるけれども、頷いて旦那の意見を肯定した。
旦那も今のは軽率な言葉だと感じ、思わず罪悪感を抱いてしまったが。もう遅い。
依頼人にお茶を、先の渋すぎる物とは違いちゃんと入れ直した物を再び与えて、お茶菓子のお代わりも勧めたが。
深夜だからと言うことで、そちらは断られた。


依頼人も慧音の旦那も、その後は黙ったきりであった。
まさか依頼人だって、世間話をするような気分でもないし。
慧音の旦那も、聞きたいことを書き留めたあとは、いったい何を聞けば良いのかまるで分からなかった。
こうなってしまえば二人とも、稗田邸に急報を知らせにいった慧音を、早く帰ってこないかと、今か今かと外の様子を何度も気にしながら待つのみであった。


927 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:33:52 IJ0XTYEc
「すまない、思ったより時間がかかった」
そして慧音が戻ってきたときには、二人とも明らかに安堵の息を漏らしたが。慧音は若干申し訳なさそうで、その旦那も何かにはすぐに気づいた。
○○しかいないのである。



「いや、すまない」
上白沢夫妻が何かを話し出す前に、○○は理由を話し出した。
「夜の風は、ましてやこんなに深い夜の風は寒いから。阿求の体には寒さが毒だから、やっぱり阿求は館に留めることにしたよ」
○○からの話は、まぁ、理解することは可能であるが。○○に対してベタぼれと言う表現が似合う阿求にしては珍しいというのが、上白沢夫妻の感想であったが。
依頼人の青年は、神の使いどころか神が来てくれたといわんばかりに喜んでいたので。上白沢夫妻としても、横槍を入れる事は出来ずに。
「慧音、それに○○、依頼人から状況を聞き取ったよ」
そう言いながら旦那は、○○にメモ帳を渡してしまったが。はたと気付いた。
小さなメモ帳を、顔や額を付き合わせながら見る○○と慧音を想像したくなかった。
「何を聞き取ったんだい?」
しかし慧音はすぐに気付いて、自らの旦那の口から、物を聞き取りたがるその降るまいに。慧音の旦那は、依頼人の前だから出来るだけ抑えた笑みで、聞き取ったことを話始めた。



その後、○○はメモ帳を全て読んで。
慧音は自らの旦那の口から、全てを知った。
間に置かれた依頼人は、まごついていたが。神からの信託を待つような面持ちであった。
「頭領さんと調査に出掛けられたとき、倒木なんじゃない、天気から雷でもない音をお聞きしたのですよね?」
ふいに○○が依頼人に新手な質問を投げ掛けた。
「え、えぇ。湖のふもとです」
「そのふもと、とは。人里側ですか?それとも紅魔館側?」
「紅魔館の方に近いですね」
「逃げろと言ったのは頭領さん?」
「はい」
「逃げる際に、頭領さんと貴方。どちらが前を走っていましたか?」
「私です、頭領は後ろを警戒していたのか。思ったより遅かったです」
「……つまり頭領さんは、紅魔館側を見ながらこっちに逃げてきたと?」
「そうなりますね」
それを聞いたとき、○○は首を左右にふりながら。
「悪い予感があたった。魅了された、となると邪魔するのは悪いな」
○○はメモ帳をパタンとたたみ慧音の旦那に返しながら。
「邪魔するのはこちらの危険も高い、頭領さんの部屋で待って、意趣返しをしましょう。それぐらいの権利はある」
○○の話は、若干よく見えなかったが。
誰かへの説明をするためなのか、自分のメモ帳に色々と書き込んでいたが、それが済む前に、東風谷早苗がこの場にやって来た。
「まさか今日の今日で、あの人形(ひとがた)の折り紙が、神社にやって来るとは思いませんでしたよ」
早苗はそう言うけれども、どこか楽しげなのは若干気になったし。
「東風谷さん、これが俺の推理だ」
そう言って東風谷早苗に、先程まで懸命に書き物をしていたメモ帳を渡す○○。
○○の方に腹が立った。
何かに対して理解が深いのに、喋らない○○の方に腹が立ったのである。
「○○」
若干の非難を込めた、強い口調で○○に詰め寄ったら。
「頭領さんは、恐らくフランドール・スカーレットに会いに行ったんだ」
すぐに○○は答えを明示してくれたが、そこに至る過程は教えてくれなかった。
「あぁ…………まぁ、そんなところでしょうね。ほとんど説明できる」
東風谷早苗は、○○と同じく外の名探偵に対する好事家だからなのか。思考の道すがらが似通っているらしく。
○○から渡されたメモ帳の内容を、ほとんど全部肯定した。
慧音の旦那は、何かを隠されているようで腹の底が湯だって来ていたが。


「多分頭領さんは、依頼人の方に対する罪悪感もあるから。帰ってくるでしょう」
東風谷早苗が場を引き取って。
「俺は阿求と、朝イチで頭領さんの居室へ向かいます。朝までは何も動かないでしょう、紅魔館に乗り込むのも悪い策だ」
○○は東風谷早苗に、メモ帳の書いた部分を全部渡して。上白沢夫妻の居宅から立ち去ってしまった。
旦那は○○を追いかけて、聞き出してやろうかとも思ったが。メモ帳の書いた部分を残したと言うことは、隠す気はないが。
それよりも阿求の所に早く帰りたいのだと思ってやることにした。
「やれやれだ!!」
○○の阿求を最優先する態度に、苛立ちを少しだけ噴出させながら。旦那は東風谷早苗を見た。
正直、話してくれないなら読ませろとぐらいは言いたかった。


928 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:35:17 IJ0XTYEc
「あー……詳細は本当に、頭領さんの口から聞くしかありませんが。フランドール・スカーレットは、黙っていれば好奇心旺盛な少女ですから……魅了されたんだと思いますよ」

「レミリア・スカーレットの可能性は……性格上ちょっと考えにくいかな。十六夜咲夜がその役と言えば、そうなるから」
早苗はぶつぶつと、自分の推理を整理していたが。ハッと目の前に人がいることを思い出して続けた。


「それから、頭領さんのゴミ箱から見つかった。恐れるな、魅惑されるな、相手を知るべしの標題も……それを破り捨てたと言うことは。自分でも分かってたのでしょうね、信念を違えてしまったことの自覚を、はっきりと」

「そもそも……頭領さんの部屋は、綺麗すぎたんです。生活感が無さすぎる、個人の持ち物もほとんどない。というよりは、処分したんでしょうね……近いうちに拠点を移すから」

「それに、依頼人さんが頭領さんに聞いた。討伐なら連れていってくれの言葉に過剰反応したのも、相手の側に立っちゃった証明のひとつかもしれませんね」


依頼人の青年は、反論がひとつも出来ずに項垂れるどころか。
へたり混むほどに、心痛を覚えてしまったようだ。
彼が正気に戻るには、まだしばらくかかりそうなのは、一目見ればすぐにわかる事であった。
なので、○○の書いたメモ書きを読ませて欲しいなと東風谷早苗に言おうと、目配せしたが。
「これでも結構、柔らかく表現したのですよ……」
どうにも○○は、東風谷早苗にメモ書きを渡したくせに。相手に読まれることを想定していなかったようだ。
今のささくれだった心でそれを読んだら、我慢できなくなるやも知れぬから。
そう気を回した東風谷早苗は、必死になって翻訳してくれたらしい。
「あぁ、○○らしい。言い回しが下手なんだ」
旦那は妙に納得してしまったのがしゃくで悪態を着いたが。
妻の慧音は少しだけ笑って。
「稗田家らしい……」と、納得していた。




しかし悪態を着いたまま、動かないでいるわけにもいかない。
旦那は、依頼人の方に向き直って。
「ひとまずは、頭領さんの部屋で待っていましょう。向こうがそちらを確かに確認したのなら、罪悪感があれば、戻ってきてくれるでしょう」

「……そうですね。頭領の部屋で待つのは、○○さんの言う通りで、最高の意趣返しだ」
そうは依頼人が言うけれども。悪い顔はまったくせずに、沈痛な表情を浮かべるのみであった。
楽しもうとも思えないのであろう、こんな形になってしまったが、それでもこの依頼人は頭領への恩が裏切られているかもと言う疑念よりも、はるかに上に、相手への心配が来ているのである。


929 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:36:16 IJ0XTYEc
「……私も日の出すぐぐらいに、あちらへ伺いますね」
若干の居心地の悪さを感じた東風谷早苗は、何より上白沢夫妻と一晩共にするのも心労の種だから。
日の出すぐになったら、合流することを約束して一度守矢神社に帰ろうとしたし。
「そうですね、守矢の二柱様にも悪い」
慧音の旦那も、明らかに安堵していた。この旦那も、稗田阿求のように○○のような夫がいて、しかもその仲が恐ろしく上手く行っているような人物が相手ならば。
多少長めの世間話でも気にすることはないのだが。
東風谷早苗のように、美しい上に独り身の女性と話をする際には、常におっかなびっくりなのである。
寺子屋の生徒達の親御さんならば、向こうから遠慮してくれるのでやりやすいが。
……東風谷早苗には悪いが、彼女は明らかに一線の向こう側に位置する存在なのだ。
となれば、一線の向こう側の女性を娶った自分は、東風谷早苗の事は否が応でも絶対に深入りは出来ない。
近づいてはならない一線が存在してしまうのである。
「それじゃ、日が上ったらすぐに向かいますので」
しかし東風谷早苗は、幸いにもすぐに飛び立ってくれた。
多分、彼女だって自分の立場を。そして一線の存在を否が応でも理解しているのだろう。
だから、すぐに飛び立ってくれたのだろう。
若干どころではなく淡白な関係だけれども。
それの方が、お互いにとって最良の関係だから。世知辛い物である。


東風谷早苗が一旦戻ったあと、そして依頼人の青年が明らかにとぼとぼと歩くものだから。
誰も喋る気にはなれず、ましてやそろそろ日付が変わりそうだから。往来に人通りは少なくて。
頭領への居宅には、人力車を使うよりもずっと早くたどり着いた。

「どうぞ、私は頭領の部屋で寝ずに待っています」
依頼人の青年が、自分の部屋を一晩上白沢夫妻に貸し渡して。
依頼人は、頭領が夜の密通をする際に使っている道。
丈夫な雨どいを登って、施錠されていない北側の窓から頭領の部屋に入っていった。
これもまた、頭領に対する意趣返しなのだろう。


「どうしよう」
旦那が、貸し渡された依頼人の部屋でぼやく。
「まぁ、夜明けまでは寝ようか?」
その妻である慧音が、種々の事を考えすぎて堂々巡りの旦那を諌めながら。寝床に案内した。
「……あぁ」
そう、旦那は答えるしかなかった。
依頼人の青年のすすり泣く声が聞こえてきそうだし、依頼人の青年が唾棄している派手な連中。
頭領は優しいから、そんなのにも仕事を与えて落ち着けようとしていても派手な。
遊郭と通じている、あの連中は案の定帰ってきていなかった。
もうこうなってしまうと、日の出と共に帰ってきたのならば早い方であろう。


「はぁ……頭領さんの帰りと派手な連中の帰り。どっちが早いかで、賭けが出来そうだな」
若干の呆れや諦めを内包しながら、旦那は来客用の布団にくるまった。
「まぁ精々、フランドール・スカーレットとの馴れ初めを期待してやる」
そのままぶつぶつと言いながらだったが。
旦那はすぐに寝息をたてた。気疲れが勝ったのであろう。
しかし慧音は、どうにも幻想郷そのものが転換を迎えているような気がして。心配でならなかった。
先の狂言誘拐事件は遊郭のほころびが主たる要因であるし。
頭領が落ち着けようとしている派手な連中にも、遊郭がツバをつけて回っている空気はある。
今の遊郭街には明らかに、最大派閥に対抗しようとする勢力が。事業の拡大を狙っている存在が確かにある。
その上そいつらは、あの長を。忘八達のお頭に怯えているのか、目立った。何もしないはずはない。あの男が、そんな流暢で穏やかな男とは思えない。

最大派閥とは言え、その長が警戒感を解いていないのは明らかだ。
いや、と言うよりは。そうでなければ遊郭の最大派閥の長ほどの存在には、収まり続けることなど不可能だ。


しかしそう軽々しくここまで出張るだろうか?
あの男も苛烈な部分は間違いなくある。こちらへの敵意はなくとも、とばっちりは注意したい。
……考えているうちに慧音は不安になってきた。明日でなくとも近いうちに、阿求に相談するべきかも知れない。
そう、少しばかり穏やかならざる事を考えながらだが。
いざとなれば腕力で、どうにか。そう考えた。
粗っぽくてキレイじゃないとは思いつつも。遊郭相手ならば、別に……
そう考えているうちに、慧音も寝入った。


930 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:38:46 IJ0XTYEc
「お帰りなさい!!」
上白沢夫妻の味わっていたまどろみは、依頼人の青年が乱暴に叫ぶ声で断たれてしまった。

「帰ってきたようだな」
慧音はまだ、ため息混じりとは言え苦笑しながら起き上がれたが。
「……」
旦那の方は、若干の俺は巻き込まれてるだけなんじゃと言う不満が抜けなくて。
ガリガリと頭をかきむしりながら起き上がった。
布団を畳む手も、若干の雑さがいなめない物であった。


「どこに行ってたんですか!?」
その雑で、今回の件にどこか遠巻きな旦那の気分も。依頼人の極度に興奮した声には、意識を傾けざるを得なくなった。
「放っておけば、殴りかかってもおかしくないな……」
片付けはそこそこで、旦那の懸念に慧音も呼応して。
上白沢夫妻は、頭領の部屋に移動した。
さすがにこの夫妻が入ってきたら。
「あぁ……申し訳ありません、騒いでしまって。でも、派手な連中は遊郭からまだ帰ってこないんですよ」
依頼人も少しは周りを見渡せるようになったが。
頭領がおかしくなり、あまり質のよろしくない連中は、いよいよ相手をすることすら耐えれなくなりつつあり。
出納係りとして、縁の下でこの集団を支えていると言う自負のあるはずの依頼人は、どうとでもなれと言わんばかりに、演技の強い身振りで振る舞っていた。
頭領の方は、手に袋を持っていて。それを握りしめながらも、目線は依頼人の方にはやることが出来なかった。
「紅魔館だ」
けれども、黙ったままが不義理くらいは分かっていた。
けれどもその、答えてくれる内容は、よろしくなかった。
遊郭街とどっちが厄介か、わからないぐらいであった。


依頼人の青年の顔が一際怖くなり、目元には涙もあった。
「うん……まぁ、そうだよな。責任はとる、身辺整理の付け方はもうすでに、一筆書いているから。迷惑はかけない」
頭領も罪悪感はあるようで、手に持っている袋をいじりながら。目元を伏せながら、怒りを隠さない依頼人の青年に向かって。弱々しく言葉を繋いでいたが。
「そんなものより、猟やらで連れ回されてた方が平和でよかった。連中には手切れ金を渡して追い出しましょうよ。心労が祟ったのですよね?」
依頼人の青年は、責任をとるよりも回復を願っていたから。
派手な上に質の良くない連中を追い出してやり直そうと、真正面から提案してきた。


「心労ね……まぁ、遊郭街の忘八頭に取り入ったと思い込んでいる連中には、もう、呆れたと言う感想しかないよ。実際は逆なのに」
ここで頭領が、言葉の上だけでも依頼人の青年に同調したら。
きっと嬉々として、出納帳を繰って手切れ金を捻出したであろう。
けれども、そうは行かなかった。
それは依頼人にとってだけではなく、上白沢夫妻。
特に妻の慧音にとって、厄介な話をこの頭領は見聞きしているかも知れなかった。


931 : 日中うつろな男 5 :2019/04/19(金) 18:39:31 IJ0XTYEc
「…………しかしだ。そうも行かんのだよ、昼までに戻ると、フランちゃんと約束をしてしまった」
依頼人にとっては『これが』最悪の一言である。
上白沢夫妻にとっては、忘八達のお頭の話題が出た、さっきからが最悪であるから。
慧音によって肩に置かれた手の握りしめる力を。
遊郭の事柄ではなくて、依頼人が血気に逸らないようにと言う心遣いだと勘違いしていた。
でも実際は、ごく個人的な憤慨である。


旦那は、嫌になったので意識を目の前の問題に向けた。
○○は頭領がフランドール・スカーレットと通じているのではと考えていたが。
○○の推理よりも向こう側に、頭領は到達していたようである。
実際、頭領はフランドールの事をフランちゃんと言って慕っている。
慧音が依頼人の青年の肩を掴まなければ、依頼人は頭領をきっと殴り付けていたであろう。



慧音に止められたから、無理におとなしくしている依頼人はそのせいで青筋を余計に立てながら。
息遣いもどこかおかしくて、喘ぐような唸るような。そんな声であった。
「○○の推理よりも進んでいたのは、驚きだな」
そんな空気に、この旦那が耐えられなくなって言葉を出してしまった。
出来れば観客に徹したかったのだが、だったらそもそもの昨日から。こちらには赴かなければ良かったのだ。
結局何を言おうが、自分は演者の一人として認識されているのかもと思うしかなかった。
「遅いか早いかの違いでしかない。どうせ行き着く先が同じなら、この場合は早い方が良いと思っただけだ」
事実頭領も、旦那の質問に答えて『くれてしまった』


そして頭領は旦那の質問に、答えてくれやがりながら。
帰ってきたときから弄っていた袋の中から。
キレイで、透き通っていて、キラキラと光っている。
キャンディのようにも見えるが、むしろ宝石のキレイさを持つ欠片を。
そいつを口の中に迷うことなく放り込み、大事そうに口の中で転がして。
そして飲み込んだ。

慧音の顔付きが、諦めのそれに変わったのを。
旦那は見逃さなかった。
やはりあれは、ただのキャンディのはずがないのだ。


続きます


932 : ○○ :2019/04/20(土) 23:04:21 HlFj13ww
>>920
幻想側が現実に近づいて来るのって良いですよね。

>>923
姫様って時々一番過激に動く印象が。普段は大人しいだけに尚更に…

>>931
悪い想像が出来るキャンディーですね。まさか羽…?


933 : ○○ :2019/04/20(土) 23:08:02 HlFj13ww
やや過激なヤンデレですので、ロダを使用しました。

ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/28


934 : 日中うつろな男6 :2019/04/23(火) 15:42:46 ia4I2nPk
>>931の続きです

「また『うつろ』になった!」
頭領が大事そうに下げている袋の中身を、キャンディ――のように見える物――を口の中に運んだら。
依頼人の青年が『また』だと言って憤慨しだした。
いよいよ頭に上る血の量が制御できなくなっている雰囲気があった。
これには個人的な憤慨を覚えている慧音も、目の前の暴れ出しそうな人物を前にしては。強制的に冷静な頭に戻るしかなかった。

「確かにいろいろ気になる事はあるが、落ち着いてくれ」
慧音はそう言って、依頼人と頭領の間を割って入るけれども。慧音だって実の所では気が気では無いのである。
遊郭街の、最高派閥の長であるかの忘八達のお頭が、コソコソと裏で権力の維持に努めているような雰囲気は。
この頭領が折角、少しは世話をしてやっている派手な連中に、あえて近づいていることから、感じ取る必要がある。
けれどもあの忘八頭にふさわしい言葉は、深慮謀謀(しんりょぼうえん)であろう。
放っておくことは出来ないが、今すぐにその謀が炸裂する事を……皮肉な話だが、あの忘八頭がそれを一番望んでいない。
大嫌いな場所での最高権力者と言う、二重の意味で嫌う理由の存在する男ではあるけれども。
あんな場所で権力を握り続ける事の出来る存在が、生半可では無い事も……同時に信頼できてしまえるのである。
だから、今日や明日の話では無い。あの忘八達の頭との対決は。


今はそれよりも、依頼人の青年を落ちつける事。
「稗田夫妻や東風谷早苗が時期にきてくれるはずだ……それまで少し、離れていよう。お互いに。その方が、全員の為になる」
何よりも、物理的に距離を取らせて。この依頼人の青年が無意味な暴力に身をゆだねることの無いようにせねばならなかった。
「今ここで暴れたところで、それが何になる程度の頭はまだ、持っているはずだと信じていたいのだが?」
人里の最高戦力であり、最高権力である稗田家とも懇意な慧音の言葉はやはり重かったのか。依頼人の青年は、舌打ちこそ大きくとどろかせたが。
お手上げだと言わんばかりの腕の上げ方で、自分の部屋に戻って行った。
しかしながら、誰かに対して手を上げる事こそなかったが。自室への戻り方は荒々しさと言う感情に、そのまま服を着せたかのような態度で。
出入りする扉など、一部が。蝶番(ちょうつがい)が壊れてしまったのではないかと思うような、弾けるような高い音を鳴らしていた。


935 : 日中うつろな男6 :2019/04/23(火) 15:45:32 ia4I2nPk
「……フラン『ちゃん』ね。あの吸血鬼を」
とどろく音がひと段落したのを見計らって。この頭領が余計な事をしないように、そして○○達が来る時間を稼ぐために。
この旦那、慧音の夫は会話で頭領の事を縛る事に決めた。
しかしその会話の内容が、およそ友好的な物にはなり得なかった。
通じている相手に問題が、余りにも例外すぎると言う物である。
「…………君なら少しは理解してくれると思っているのだけれどね。あの上白沢慧音を妻に持っているのだから」
しかし頭領は、この旦那。慧音の夫の態度に対して、皮肉気な笑みを浮かべていた。
意外と手の早い普段の慧音だったならば、この頭領は危なかったが。頭領が再び袋の中から取り出した、キャンディであってほしい物。
キラキラと光る、宝石のようにも見える物を。キャンディにしては恭(うやうや)しい態度であり。
それはもう、食べ物と言うよりは聖体拝領(せいたいはいりょう)に近い何かを、慧音の旦那は感じ取っていた。
いや、妻である慧音も。頭領が口にしているキラキラと光るキャンディのような物が、キャンディであるはずが無いと。
……最初から分かり切っていた事なのだ。何か得体のしれない、厄介な物を口に含んでいるのだという事が。最初から、全部。
分かっていないのは、頭に血を登らせてしまって。荒々しく、扉をも破壊するかのごとく出て行ってしまったかの依頼人の青年だけかもしれなかった。
○○も、その妻である阿求も。○○からメモ帳を渡された東風谷早苗も。感情についての是か非はともかくとして、理解は出来ているはずだ。
少しばかり勢いが良いと言うだけで、方向性は正しいと見るのが妥当であろう。


「まだ役者は全部そろってはいないように思える。永遠亭を助けたようにはいかないのは、○○さんには悪いと思うのだけれども」
その答え合わせかの如くの、目の前での頭領の聖体拝領がごとし態度であろう。それを眺めていると、嫌らしい表現を頭領が使ってきた。
いや、頭領に皮肉な意味合いは。今回は無かったのは見て取れた。表情で分かる。
「役者ね……」けれども、思うところはある。
○○の、もっと言えばそれを許している稗田阿求。あの稗田夫妻の遊びに若干付き合わされているけれども。
ただ、それのお陰で○○共々、自分の立場が悪くないどころか。日増しによくなっているのは、目に見えて理解できていた。
「良い相棒のように見える」
頭領は嫌味もあてこすりも無く、自分たちの事を褒めていた。やめてくれと言わんばかりに旦那は手を振るしかなかった。


「しかし稗田夫妻が来る前に話を始める気は無い。こいつを体に入れるのに、もう少し恭しくやりたいと言う欲求もある」
最初から分かっていたこととはいえ、やはりあの袋の中身がキャンディでは無いと言われてしまうのは。
酷く悲しい事であった、そう表現する他は無かった。


そのまま頭領は、奥の部屋にある自分の金庫がある場所まで赴き。ふすまもしめてしまったので、何をやっているのかは分からなかった。
ただ、重々しい金属音が鳴ったので。金庫の開閉を行っている事は、これは容易に想像できた。
「身辺整理ね……」
慧音は頭領が先ほど言った言葉を反芻して、少しばかり顔を歪めた。


936 : 日中うつろな男6 :2019/04/23(火) 15:47:17 ia4I2nPk
そのまま上白沢夫妻は、ぶらぶらと。当てどもなく時間を空費するしかなかった。
壁に掛けられた時計に目をやる。まだ朝日が昇ってすぐの時間だけれども、今日も寺子屋があるからあまり余裕があるとは言い難い。
「慧音。今日も寺子屋がある事ぐらいは、○○も知っているよな?」
「ああ、それは大丈夫のはずだ……昨日の夜に稗田家の門を叩いた時。朝一で早く終わってくれれば良いのだが、みたいなことを○○も気にしてくれた」
何を考えているか分からない稗田夫妻ではあるけれども、約束や時間は守る。相手の都合も考えてくれるので、信じてはいるけれども。
まだか、まだかと急きながら。窓を開けて往来を見やる、ついでに上空も。東風谷早苗ならば空から来てくれるから。

そうして往来を何度も見ていると、奥から人力車がやってくるのが見えた。
その少し上に、東風谷早苗も飛んでいた。
「来たぞ、頭領さんと依頼人を呼んだ方が良い」


頭領の方は、こんな朝一番に人力車が表に、しかも山の報の巫女まで来たことに。役者が勢ぞろいした事に気づいて、重々しい音を。
金庫を閉めてからまた戻って来てくれた。
袋はもう持っていなかった……全部食べてしまったのだろうか。
もっとも、食べると言う表現が正しいかどうかについては。議論の余地があるのだけれども。


「彼を呼んできてくれないか……私が呼ぶと、無駄に荒れてしまうだろうから」
荒れる原因にそう言われてしまえば、気遣いも嫌味に聞こえざるを得ないが。
頭領にはそう言った意思が無いのだから、厄介極まる話であるとしか言いようがない。


「フランドール・スカーレットとの事、話してくれますよね?」
慧音の旦那が圧力をかけた、真正面から思いっきり。
「無論だ。私はもう紅魔館の、正確に言えばフランちゃんの物になった。もうこっちには戻らんから、今生の別れではないにしても、次はいつ会えるか分からんからな」
この頭領からの答えに、慧音の旦那からは、ため息しか出てこなかった。

続きます
>>933
聖白蓮は、最悪だけれども一番確実な方法を提示して。実行してしまったのか
これに勝る(もっと悪い)方法は、蓬莱人にしてしまうことぐらいかな


937 : ○○ :2019/04/27(土) 01:52:53 EYe03lz2
 ああ君、君もこの場に投稿しているのかい?うんそうだ、僕もここに投下しているんだ。最初は自分のスト
レス解消のために書いていたんだけれどね、その内に書き続けていると、自分でも段々少しはマシになってい
るんじゃないかと思えるようになってきたんだよ。全く、自己陶酔が激しいと言われても仕方がないかもしれ
ないことなんだけれどね。
 まあ書いているとさ、時々感想を貰えることも有るんだよ。自分で楽しむためだけに書いていた筈なんだけ
れどね、その感想を見るのも結構楽しいんだね、これが。まあ本当に自分一人で完結させたいのなら、自分の
パソコンの中に保存しておけばそれでことは足りるんだから、周囲の応援っていうのは有り難いね。なんか心
理学でも何チャラ効果っていう名前がついているそうじゃないかい。ええっと何だっけなあ…。うん、思い出
せないけれど、結局の所周りの人に左右されるってことだね。
 そうしているとさ、実は最近ちょっと考えることがあるんだ。この広大なインターネットの海は、どこか他
の場所に繋がっているんじゃないかってね。勿論僕の想像、空想、妄想の話なんだけれど、ひょっとして僕が
書いた物は他の世界に届いているんじゃないかって思ってしまうんだ。そしてそこで僕が書いた物を本人が見
て返信をしているんじゃないかとも考えてしまうんだよ。
 これも結局の所は、僕がそう思っているだけの話しになるんだけれどもさ、僕はつい考えてしまうんだ。あ
あ、科学的に検証できる証拠なんて物はないさ。幻想郷と科学は相性が悪いそうだからね。だけれどもさ…、
僕が頭の片隅でそう考えざるを得ないことがもしあったとしたら…、一体どうなるんだろうね。いやいや、君
が想像するようなエイリアンが侵略しただの、いつぞや流行したホラー映画の様に向こうがこっちを乗っ取る
なんていうことはないんだよ。それは保証できるよ。でも、この画面の向こう側が違う世界に繋がっていて、
そこで誰か書いた感想がネット上に文字として表示されるとしたら…どうだい、なんだがちょっと、不思議な
気持ちになってこないかい?


938 : ○○ :2019/04/27(土) 01:54:38 EYe03lz2
>>936
頭領の物になったという表現が、痛切に今の状況を伝えてくる気がしました。
乙でした。


939 : ○○ :2019/04/27(土) 22:52:01 EYe03lz2
アップローダーを使用させて頂きました。
過激なヤンデレ注意
ttps://ux.getuploader.com/TH_YandereSS/download/29


940 : ○○ :2019/04/28(日) 13:23:21 5sZjAZWs
>>939
○○……お前、すでに精神が擦り切れちまったんだな
もしかして、もう一度肉体を取り戻して……本当の意味で死ぬつもりか?

それとあのピンクの悪魔が成仏とは……一体なにがあったし


941 : ○○ :2019/04/30(火) 17:42:11 T5veFBq2
映姫で短いのを一つ
豊姫以来の投下だけど相変わらずクオリティ低い


「あまり近づかないで下さい」
「そんなに近づかれたら嬉しさで気が動転して貴方を有罪にしかねませんから」

「料理なんて作らないでください」
「貴方の作った料理は世界一です。美味しさで頰が落ちて食べられなくなってしまいますから」

「他の者にお裾分けしないで下さい」
「貴方の料理は私だけが頂ければ良いのです」

「私に優しくしないで下さい」
「甘やかされると仕事が疎かになってしまいます」

「私から離れないで下さい」
「片時も離れたくないのです。ずっと、貴方の側にいたい」

「私に甘えて下さい」
「いつも頑張る貴方が心配です。私といる時は休んで欲しい」

「嘘をつかないで下さい」
「貴方は嘘を付くのが下手です。私の前じゃ隠し事も通じませんよ?」

「貴方の全てが欲しい」
「私の全てをあげるから」

だってこんなにも貴方を愛しているのですから──


942 : ○○ :2019/05/01(水) 00:51:00 INJiMeV.
贅沢な二人

 その日○○は輝夜によって自室に呼ばれていた。普段から永遠亭で何につけ輝夜の相手をしている○○で
あったが、その日は必ず来るようにと特に強く輝夜より言われていた。いつもの姫様の気まぐれだろうと思っ
ていた○○が、言われていた通りに夜になって部屋を訪ねると、そこには既に先客がいた。永遠亭の薬師、
月の天才、そして輝夜の忠実な従者である八意永琳が輝夜と共に部屋にいた。
 月より逃げてきた輝夜とそれを助けた永琳は、単なる主人と従者という常人としての立場を超えた繋がり
を持っている。それは永遠亭を切り盛りするというだけではなく、もっと深い、月や幻想郷の裏側にたどり
着く暗部を共有しているということであった。そんな二人が話している最中に、自分のような部外者がいる
と都合が悪いと思った○○は、廊下に置いてあった優曇華院特製の電気行灯を再び持ち、部屋から出ようと
した。
「どこに行くの。」
外に出ようとした○○を見咎がめた輝夜が尋ねる。
「すみません、お取込み中のようですので。」
「こっちに来なさい。」
「いえ…。」
「いいから。」
輝夜に促された以上、遠慮しながらも部屋に進む○○。
「もっとこっち。」
「え…。」
二人の間に割り込むように誘われて流石に躊躇する○○に輝夜が焦れた。○○の腕を掴んで自分の方に引っ
張っていく。
「ほらほら、もっと寄って。」
○○を挟んで膝が密着するように座る三人。二人に挟まれることで、○○の背筋が普段よりも随分と伸ばさ
れた。


943 : ○○ :2019/05/01(水) 00:51:44 INJiMeV.
「ふふふ…」
何やらいいことを考えていそうな輝夜であるが、それが時としてかなり突飛な物になることを○○は知って
いた。自分が見てきた分で不足であれば、鈴仙やてゐから聞いたものを付け足せば、十倍には嵩増しができ
るだろう。
「○○って何だか、未だに他人行儀なのよね。」
「すみません。」
「そこよ、そこ。だからさ、永琳も抱きなさい。」
「えっ?」
「そうすればもっとマシになるでしょうから。永琳も良いわね。」
「はい。」
あっという間に重大なことが決まってしまい、驚く○○。永琳が輝夜の言うことに反対しなかったことは、
○○にとってはまだ想定の範囲内であった。何せ永琳は輝夜のためには咎人にすらなったのだから。しかし、
今まで輝夜が○○の相手をしていたのは、決して気まぐれではないということには、未だ○○は気が付いて
いないのであった。


944 : ○○ :2019/05/01(水) 00:54:30 INJiMeV.
>>941
映姫様、なかなか複雑な感情…
近づいてほしいのに、それを拒絶しているのはハリネズミのジレンマ
に似ているのか…


945 : ○○ :2019/05/02(木) 00:43:13 kJOs8SZs
ついに令和になりましたね。
長編さんが3作目を書いてた頃からお世話になってますけど、ここも随分息の長い掲示板ですね。
自分も折を見てまた短編を書いてみたいと思います。
皆様、令和元年もよろしくお願いいたします。


946 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:25:18 ucqJ3l8.
>>936の続きです

依頼人の青年は、自分を呼んできたのが上白沢夫妻だったから。
それに、自分が助けを願った一番の存在である稗田夫妻。そして何だかんだで協力してくれた東風谷早苗。
これらがやって来てくれたのも合わさったから、この依頼人の青年としても、無礼な態度は見た目の上ではさすがに鳴りを潜めてくれた。
もっとも、腹の底ではまったく違うだろうけれども。


依頼人は最後の一線を踏み越えないように、それだけを気にしているのだろう。
「どうも、稗田様ご夫妻にせよ東風谷様にせよ、昨晩から泊まってくださった上白沢様ご夫妻はもちろんのこと」
そう言いながら、この場に集まってくれた者達に丁寧に礼儀正しく出迎えと謝辞を述べているが。
その視線の動きかたは、不自然そのものであった。
言葉だけならば自然なので、正常と異常が混ぜ合わされた今の依頼人の動きは、何か悪いものにでも憑かれているのではと。
退治の家業を、本人は謙遜しているが。周りが思ったよりも評価するだけのことはあるからこそ。
何かに憑かれているのではと言う懸念は、実は冗談ではないのだけれども。
依頼を受けた自分達なら、真相がよく分かっていた。

ただただ、『うつろ』な上に何も話してくれない頭領に腹が立っているのである。
ただただ、目線すら合わせたくない。

それだけなのであるけれども、今の彼にとってはそれが最も重要なのであった。

しかし、奇妙な動きを繰り返したとはいえ。
一番重要な、頭領とは目線を合わせたくないと言う考えを完遂出来ただけあり。
また頭領からしても、罪悪感から伏し目がちで。
それに頭領ほどの人物なら、憑かれているのと嫌がられているの違い。
これは簡単に見分けを着けることが出来ることだ。
故に頭領は、黙って座り尽くしたままであった。


947 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:26:09 ucqJ3l8.
「お茶などお入れ……」
依頼人は両夫妻と、東風谷早苗に気を使ってお茶の用意などを始めようとしたが、それは慧音が制止した。


「今日も寺子屋があるんだ」
だからお構い無くと、その意志を伝えるにはその一言で十分であった。
その言葉に依頼人よりも頭領の方が、ハッとしたような表情を浮かべて、伏し目がちだった様子から一転して息を吹き替えした。


上白沢慧音の存在が、恐らくは稗田阿求の次に里では重いのと同様に。
彼女が平素の拠点としている寺子屋も、稗田邸と同じような扱いを受けている。
慧音が、あまり大きくなるのを好んでいないから上白沢夫妻で切り盛り、精々がたまに近所の人達から野菜等をもらったり掃除の手伝いを得る程度であるが。
慧音が何も言わなければ、あの寺子屋の横に稗田邸の次に豪華な建物が建ちかねない勢いであった。
それに慧音の夫であるこの旦那も、口には出していないがそろそろ帰りたかった。
ただ、その早く帰りたいと言う腹の底は。妻の慧音は無論であるが、友人の○○が目線をわざわざ合わせに来たので。
きっと分かってくれていると期待した。
たぶん、阿求が寒くしないように囲炉裏の炎を強くするついでにこっちを気にしたのだろうけれども。
分かってくれるのならば、それでも十分である。


そして○○は、この旦那の期待通りに動いてくれた。
中々察しの良いところは、○○の良いところなのであるけれども。
腹のそこが見えてこないのが、どうしても引っ掛かる。
○○だけじゃない、もっと大きな単位。稗田夫妻が何を考えているか分からないのだ。
「頭領さんが話してくださらなければ、何も始まらないかと」
しかし今は、その稗田夫妻の腹の底はまぁ置いていても構わない。
それよりも、○○が頭領に話を促してこの場を動かして。
「依頼人である貴方も、まぁ、文句はひとつどころじゃないでしょうけれども……
時間がかかるので、まずは話させましょう」
それに加えて依頼人の青年も、牽制してくれた。
今一番、感情の触れ幅が大きくて危ないのは彼であるから。
それを制してくれたのは、嬉しい誤算である。
少なくとも頭領の話を全て聞いてからならば。
帰ってしまってもいくらかの申し訳は立てられる。
「何かあったら頼みます」
旦那は若干の皮肉気な笑みを浮かべながら、東風谷早苗の方を少しだけ見て呟いた。
東風谷早苗も聞こえてはいた。
若干の困ったような、そしてひきつった笑みを見せてくれたが。
頼みは、聞いてくれたような雰囲気だから。それで良しとした。
何かあったら、後で菓子折りでも渡せばいい。


948 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:27:21 ucqJ3l8.
○○からの合いの手が絶妙だったお陰で。
一番の懸案であった依頼人も、憮然とはしているが聞く方に回ってくれた。
「あぁ」
頭領も、周りからの視線で意を決してくれた。


「きっかけは、稗田と上白沢の両家からもたらされた情報……妙な死体の調査だ」
依頼人は、あぁやっぱり、と言うような表情を作ったが。
黙って最後まで聞いていようと、圧力をかけられているから。おとなしかった。
頭領もこの青年が黙って聞く気ではあるのを見て。罪悪感はややあるが、続けてくれた。
「八意女史誘拐事件の犯人達の、最低一人はおかしな死に方。仲間割れではない殺され方の調査で、湖まで上った時の話だ」
そこら辺の話は依頼人からも聞いているが、慧音の旦那にとっては別の感想。
狂言だと知ったら、どんな顔をするだろうなと言うのが一番強い感想であった。
しかし時間が無いので、その感想は飲み込んだ。


「妙な死体があった場所から上って、湖で何度か調査をやっていた時の話だ」
ここで頭領は言葉を切って、依頼人の方を見やった。
依頼人も何を聞かれるか覚えがあるのか、少しだけ息を吐き出した。
「快晴なのに、雷が落ちたような。倒木でもない、あの轟音が鳴った時の話ですよね?」
依頼人の予測は正しく、当たっていた。
頭領は押し黙る様子が強かったが、重々しく頷いてくれた。
「あの時、あなたの言いつけ通り走らずに。横合いに立って守ればよかった!」
全てのきっかけが、湖での調査にあると。
予想はしていたが、張本人から頷かれると悔しさが滲むのだろう。
依頼人は明らかに声を荒くしたので、慧音が手を顔先に出して制止した。
○○も「続きを」と、頭領に促す。
今はまだ、依頼人に発言権は無いと示した格好だ。


「……その時見たんだよ。せめて君だけでも逃がすために、音のした方を見ながら後ずさっていたら」
頭領は唇を噛んだ。何か、恥ずべき物に耐えるような印象を他者に抱かせる様相であった。
「フランちゃん、フランドール・スカーレットの悲しそうな顔が見えてしまったんだ。彼女は遊んでいただけなんだ、的当ての的がたまたま大きな木だっただけなんだ」
頭領は明らかに恥じていた、それはフランドールに対しての物であるのは言うまでもなかった。
依頼人の青年は口を動かしていたが、半端で声も出ていなかった。
大きな木を遊びでぶっ倒せる存在に、なぜこんなにも新身にと言いたいのだろう。


その依頼人の横で、○○は手帳ほどの大きさの資料を繰っていた。
「あった、写真も載っている」
○○は依頼人に資料の一端を理解の助けとして提示した。
すると依頼人は、少しばかり困惑の表情を浮かべた。
慧音の旦那も、横から体を伸ばして覗きこんだ。
そこには、金髪で宝石のような装飾を羽に着けた女の子が写っていた。
「彼女が、フランドール・スカーレットだ」
○○は補足してくれたが、その必要はなかった。
それよりも羽についた宝石のような装飾。これの方が問題であった。
無論、依頼人もそれに気づいていた。


949 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:28:11 ucqJ3l8.
「頭領!さっき食べていたキャンディは!?」
「なぁ、君もチルノと不意に出くわした時。彼女と遊んでくれただろう」
「頭領、質問に答えて!それにあれは、刺激しないように遊びに付き合っただけ!!」
「楽しそうに雪合戦をしていたじゃないか。氷の妖精の力は凄いな、いつでも雪が作れる」
「質問に答えて!!あれは、あのキャンディは!?」
「これでも、すまないと思っているんだ。けれども私がフランちゃんと仲良くなる前に、それに気づいたら君を叱責したろうから……皮肉だな。今は君の方が正しいと言える」
「質問に答えろぉ!!」
ここまで来たらさすがに、慧音が不味いと考えて依頼人と頭領の間に割って入った。
頭領はかなり興奮こそしていたが、それでも依頼人の事を認める口振りで合ったが。
依頼人からすれば、今この時点の状況からして不愉快なのだから。
おかしくなった頭領にいくら認められようとも、皮肉な物でしかなくて、荒れる原因であった。


しかし頭領の興奮と依頼人の激昂は、話の邪魔であることは論を待たない。
慧音は二人の間で仁王立ちにも似たような体勢を取って。
「落ち着け二人とも!!」
はっきりと、そう叱責した。
腰を中に浮かしかけた依頼人も、慧音からの大音量での叱責には、素直に腰を再び下ろすしかなかった。


依頼人はさりとて自室に戻るわけにも行かず、声を出さずに口を動かして。
音こそないが、怨嗟を漏らしていたのは見て分かった。
○○がチラリと、頭領の方に目線をやった。
上白沢夫妻も、若干わざとらしく時計に目をやった。
「ああ、そうだな……」
「…………」
頭領も依頼人も、続けろと言う部分は汲み取ってくれたようで、何よりであった。




「私はね、どうしても気になったんだ。あの時はまだあの子がフランちゃんだとは知らなかったが、逃げる私を見る目がね……」
頭領は少しばかり涙ぐんだ声を出した。
依頼人は向こうを見ていた、悪いとは思ったがこの場においては邪魔が入りにくくなった。

「つまらんだとか、そう言う見下げるような目線だったら。見逃されたと言う悔しさはあれども、生き長らえたことばかりを考えていたであろう」
「しかしながら、あんな風に涙目で唇をキュッと。それもあんな少女の見た目で……いや、中身も少女にそんな表情を作らせたことに罪悪感があって」
罪悪感と頭領が表現したとき、依頼人の頬がヒクヒクと動いたが。慧音からの叱責のお陰かそれだけで済んでくれた。


950 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:29:18 ucqJ3l8.
「私は……あの時の、逃げ去る私たちを悲しそうに見つめるあの顔がどうしても忘れられなくて会いに行ってしまったんだ」
依頼人の頬がますますヒクヒクと痙攣していく。
「正直、死すらも覚悟していたが……楽しかったよ。受け入れてくれた」

「そこからは大体、皆さんの予想通りですよ。鍛練と言うもっともらしい理由で外出して、湖の奥まで向かったんだ」

「けれどもフランちゃんは吸血鬼だから、残念ながら夜型だ」
この言葉で慧音の旦那は、ちょっとした矛盾に気付いた。
だったらあの時、日が上っているのになぜフランドールはいたのだろうか。
「あの時はフランちゃんは、我々で言う夜更かしをしていたんだ」
しかし理由を聞いて、類いまれなる巡り合わせに神にすら毒づきたくなった。
つまりは、あの日フランドールが我々流に言えば夜更かしをせずに寝ていれば。
この依頼すら無かったと言うことなのだから。

「更に言えば申し訳ないことに。私と会うために、フランちゃんは朝まで起きていてくれていたんだ。吸血鬼だから、朝は寝た方が良いのに」
「だから夜に外出を?よく変なのに食われませんでしたね、フラン『ちゃん』はともかく」
依頼人が、横を向きながらではあるが声を出した時にはドキリとした。
それに依頼人がフランドールにつけた『ちゃん』と言う呼び方は。
どう考えても皮肉であるのだから。
しかし飛びかかったりする様子は無かった。
もっとも、それだってギリギリの線ではあるだろうけれども。
けれども頭領は、皮肉の味だって理解しているはずなのに。クスリと笑うのみ。


「実に優しい子だよ」
頭領は心底そう思っているのが、実に厄介である。
「日中にずいぶん眠そうで、フラフラしていて。受け答えもたまに遅れるし。だったら私が夜に向かうと約束したんだよ」
その結果、頭領は日中に『うつろ』となってしまった。
「しかし、フランちゃんも夜にただの人間が散策するのは危険だと言う認識は合った。そうしたらチルノちゃんが良いことを思い付いてくれたよ」
依頼人の口が少し、うわ言を呟くように動いた。
お前、チルノとも付き合っているのかよと言いたいのだろう。
「悪いね」
今の頭領には下手に謝罪をしてほしくなかった。憮然とされた方が諦めがつく。

「チルノちゃんがね、眷属(けんぞく)なら大丈夫だろう?ってね、いやあの子は中々、体面から言い出せないことでも簡単に指摘してくれる」
頭領は快活に笑っているが、笑いながら大きなアクビをかいたのを。ここにいる全ての物が見逃さなかった。
「もしかして『うつろ』なのは眠いだけなんじゃ……」
東風谷早苗が思わず呟いたが。結局はそれでほとんど説明できてしまえるだろう。


951 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:30:11 ucqJ3l8.
だが、説明できない方が良かったと言う場合も。残念ながら存在するのだ。
「なったのか?」
依頼人の彼である。謎は謎のままだったほうが、頭領への心配で眠りも浅くなりそうではあるが。
それでも、裏切られたような感覚は味会うことは無かったはずだ。
「なったのかと聞いている、眷属になったのか!?」
「なったよ、私は始めからチルノちゃんの案に乗り気だったし、フランちゃんも姉から一流の吸血鬼なら眷属のひとつぐら--
遂に依頼人が頭領に殴りかかってしまった。
致し方のないことであるとは言え、放っておいて良いものではない。
東風谷早苗が後ろに回り込んで両脇から腕を突っ込んで。
上白沢夫妻が頭領の前にたって、依頼人が突っ込まないように牽制して。
なおかつ、軽薄な態度が目立ってきた頭領に強い視線で忠告する。
依頼人は東風谷早苗ほどの別嬪に後ろから抱きつかれた格好であるけれども、そこに気づいてはいなかった。
○○は阿求の前に立って、急に何かが飛んでこないように気を配っていた。



「手応えがなかった。本当に変わってしまったんですね」
東風谷早苗から組伏せられながらも、依頼人は頭領を睨むような嘆くような表情であった。
「あのキャンディのせいで!変わってしまったんですね!フランドールの一部を食って!」
依頼人は自分のことを会計だと言って謙遜していたが。
それでも体躯は平均より鍛え上がっていたから、そんなのに殴りかかられたらたまったものではないはずなのだが。
「あぁ、びっくりした」
頭領はどこ吹く風で……見た目の方も、衣服と髪型が崩れている程度。
かすり傷すら無い、大の男に殴り付けられたはずなのに。

依頼人も、ここまで見せつけられてしまえば。諦めもついてしまうのか。
恐る恐る手を離した東風谷早苗の気持ちはつゆとも考えずに。
ストンとまた座ってしまった。
「もうここは終わりだ!貴方がいるから嫌々、派手な連中の世話もしていたのに!」
真面目な依頼人にとっては、遊び歩いている他の連中などいない方がマシ。
さりとて、慈悲深い頭領がまともな仕事を世話しようとするのも分かるから手伝っていたが。
こう言う落着では、もう何もかもがとうでもよくなってしまうだろう。
頭領も、依頼人が自分のことを信じてくれていたのは把握しているので。
やけっぱちな態度にはさすがに罪悪感が込み上げてきたらしい。
ようやくかよと言いたいぐらいではあるが。


952 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:30:52 ucqJ3l8.
「……チルノちゃんがまた君と雪合戦をしたいと言っていたが」
さすがに先の罪悪感があるから、おずおずと喋って。そして今は不味いなと思って話題を急に変えてきた。
「遺言状のような物なら、もう作っている。フランちゃんの所に行ったときに少しずつ書いたんだ」
ただ変えた話題も、依頼人にとっては決して良くはない。
むしろまた暴れることのできるチルノの話題の方が良かったかもしれないぐらいだ。


「……」
依頼人は結局、自室に戻ってしまった。
「ああ……」
頭領は嘆くが、その権利があるのだろうかとはこの場にいる者なら少しはいぶかしむ。
「…………お願いがあるのですが」
ややの間があって、頭領が頭を下げながら頼みを言おうとした。
「内容次第ですね」
○○が若干の冷たさを持ちながら次の言葉を促す。
まるっきり相手にしていないだけ優しい部類だ。

「遺言状のような物を、確実に執行させるための見届け人をお願いしたいのです」
「彼の言う通り、正直、遊郭通いが過ぎるあの連中はもう無理だと考えてます」
「私も……まぁ、やめる理由はさっき話しましたから。ええ、フランちゃんと暮らします」
「ですから、私の財産を出来るだけ。出納帳を管理しながら私についてきてくれた彼に持っていってほしいのです」
「しかし、あの派手な連中が厄介。一思いに紅魔館へ行かなかったのは、あの連中を謀るための文章を作っていたのです」
○○もこう言われたら、得心した。
「そのための遺言状か……」
「はい」
頭領も力強く答える。


953 : 日中うつろな男 6 :2019/05/10(金) 19:31:59 ucqJ3l8.
心配なのは、夫が乗り気でも稗田の頂点である阿求が嫌がらないかどうかではあるけれども。
「あんな派手な連中が頭領の財産を、形見分けと称して持っていくのは確かに、ね」
こちらも問題はなさそうどころか。
「頭領さん、一度その遺言状を見せていただけませんか?稗田には判例も多く残っていますから……少しでも依頼人に有利に動かします」
九代目の完全記憶能力者から、粗を探して修正してやるとまで言われたのだ。
これほど力強い言葉、人里ではこれより上は恐らく存在しない。
「はっ、ははぁ!ありがとうございます!!」
フランちゃんとの遅れてやってきた色恋に受かれていた頭領も、これには畏まる。


「それで、遺言状はどちらに?」
阿求が頭領に、すぐにでも見せろと言う。
「紅魔館に置いております……あそこが一番安全だ」
しかしすぐには無理な場所に合った。安全を考えた結果そうなるのには、笑ってしまったが。
結局は頭領も、あの派手な連中を信じていなかったのだ。


「私が行きますよ」
しかし東風谷早苗が、『あぁ、もう!』と言う雰囲気ではあるけれども。引き受けると言ってくれた。
「上白沢夫妻は今日も寺子屋が、稗田夫妻が紅魔館に行ったらちょっと勘ぐられます。私なら信仰云々で誤魔化せます」
それに東風谷早苗からの指摘に、2つの夫妻はどちらともがぐうの音も出てこなかったのである。

「助かります、山の巫女。フランちゃんと昼食は食べる約束だったので……」
所々でこの頭領は、雑になっている。フランドールの眷属(けんぞく)になった影響なのだろうか。
「ちなみに、昼食の献立は?」
慧音の旦那が、若干の嫌味を見せながら聞いた。
効かなくても、もう構わなかった。何か言ってやりたかった、それのみである。
「ハトを料理してくれるそうだ。わざわざ白いハトを用意してくれたと、フランちゃんが喜んでいたから、美味しいのだろう」
「ハトね……ニワトリ以外では、鴨ぐらいですね、私が食べたことあるのは」
慧音の旦那は白いハトと聞いても何も思うところは無かったが。
外から来て、その知識がある早苗はそれとなく○○に目線を合わせて。
○○も苦笑していた。
慧音の旦那が見たときは、○○が苦笑しながら早苗に目を合わせていたので。
「……何の意味があるんだ?今の頭領の言葉に」
「白いハトは、西洋では愛の象徴なんだ。それを一緒に食べるんだぞ?告白に近い」
頭領には気付かれないように然り気無く聞いてみたが、聞かない方が良かったかも知れなかった。
「寺子屋に行ってくる!こっちは頼んだぞ○○、慧音行こう!」
旦那は呆れ混じりとは言え、大きな声を出してしまった。

続きます。新元号初めての投稿が出来てちょっと嬉しい


954 : ○○ :2019/05/16(木) 23:01:04 Dkj5SgFg
 コクリ、コクリと小さな音が鳴ることで、私は今晩も夢の中で目が覚める。もう何度目になるのだろうか、
レトロなレリーフが施された安楽椅子に腰掛けている私の首筋に彼女が唇を付けていた。幼い少女とはいえ
人間一人が自分の膝の上に乗っている筈なのだから、もしも夢でなく現実ならばきっと彼女の体重が体にの
し掛かっているのだろう。濡れた唇が柔らかく首筋を食み、鋭い牙がプスリと血管に突き刺さる感触がした。
痛みは無く柔らかく差し込まれていく感覚。動脈に当たっているかは定かではないが、それでも確実に深く
刺された小さな牙は、きっと本当ならば私の大きな血管に当たっているのだろう。ポタリ、ポタリと水道の
蛇口から水が滴り落ちるかのように私の血が少しずつ流れ出し、彼女の舌がそれを舐め取っていく。一滴も
溢さないように、優しく舌で味わうかのように。
 私の心臓がドクリと鼓動を刻み、それに合わせる様に血が零れる。私の体にしがみつく小さな体からも、
彼女の鼓動が感じられた。私と彼女の鼓動が合わさり同じタイミングでワルツを奏でる。起きている時には
気にも留めていなかった心臓の振動が体を支配し、二人の間を紅く繋いでいた。無言の時間。その場に存在
するのは私の彼女の脈拍の音だけだった。彼女の背中にあてた手を撫でる様に動かす。黒色の羽の付け根を
そっと擦るように。彼女の唇が私の首筋を吸い、赤いお返しの跡を残した。
 彼女が顔を上げ私の方を見るのが、いつもの夢の終わりだった。赤い眼が私の方を見つめ、彼女が私に何
かを話す。ふわふわとした曖昧な夢の中で彼女が何を言っているのかは、私はいつも覚えていないのだが、
それでもいつも彼女は私に手を伸ばしていた。


955 : ○○ :2019/05/16(木) 23:05:18 Dkj5SgFg
もう一回続く予定です。

>>953
既にかなり頭領は紅魔館に取り込まれてしまっているんだなあと。既に人外になって
しまっていることへの悲壮感等が無いことが、一層妖怪側に踏み出してしまった
ことを感じさせました。


956 : ○○ :2019/05/16(木) 23:06:57 Dkj5SgFg
もう一回続く予定です。

>>953
既にかなり頭領は紅魔館に取り込まれてしまっているんだなあと。既に人外になって
しまっていることへの悲壮感等が無いことが、一層妖怪側に踏み出してしまった
ことを感じさせました。


957 : ○○ :2019/05/16(木) 23:20:21 Dkj5SgFg
二重書き込み失礼しました。

ヤンデレWIKI管理人様宛

お疲れ様です。現在wikiフランドールのページにて連続更新によるアクセス規制がかかっています。
そのため>>934-936 日中うつろな男6が未収録となっております。そこを除くと941の作品より未収録です。
なお、933が重複していましたので内容を削除しております。お手すきの時にページを削除して頂けるとありがたいです。

いつもwikiを管理して頂きありがとうございます。どうぞお体にお気を付け下さい。


958 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:30:16 .CHK7zvE
>>953の続きとなります

依頼人は自室にこもったっきりで……しかもすすり泣いてすらいた。
そして上白沢夫妻は、旦那の方がしびれを切らして日常へと強引に戻ってしまい。頭領の付添も東風谷早苗が受け持ってしまった以上。
「……一旦帰るか。まぁ、東風谷早苗なら今日中に何か報告をくれるだろうから。構わないだろう」
思い立ったが吉日の如く動くため、待つのが若干苦手な○○は頭をかきながら出遅れたことを悔むが。
「そうですね。朝食も後回しにしていましたし、早く戻って食べましょうよ」
しかしそういう若干でしかない悔みも、阿求がうれしそうに横合いに立ってくれたら。待つのもそこまで苦痛ではなくなってくれるのであった。
(現金なもんだ)
○○は自分の即物的な感情の動き方に、誰にも悟られないように心中でひとりごちるが。
「そうだな……そろそろ朝食を食べないと。昼に差し支える」
阿求の肩を優しく抱きとめる時点で、結局の部分で○○は阿求の側に立っている。
そういう結局の部分での行動がいつも、阿求の方に寄せているからこそ。
稗田阿求は、○○の趣味を最大限に許容しているのである。
「大丈夫ですよ、あなた」
しかし稗田家の九代目ともなれば、目の前にいる者が何を考えているか。何に後ろ髪を引かれているか。
しかもその相手が、最愛の存在である自らの夫ともなれば。
「私はまだまだ元気な予定ですから。次の事件はもっと面白い物かもしれないじゃないですか。落胆するには早いですわよ」
「ふむ」
○○は阿求からの慰めに、軽く返事をしながら。彼女の頬や額を触った。
○○の手に感じた熱は、まさしく人肌であった。熱くも無く冷たくも無く、血流がちゃんと通っている証拠であろう。
医術の知識が無い○○でも、今の阿求が『まだ』健康体であることを理解するのはたやすかった。
「そうだな、次に期待しよう。何か千両箱が一夜で消えるような事件でもあれば、侵入経路から逃走経路まで全部調べてやる」
「うふふふ、私もあなたが現場で走り回っている姿を見るのは。とても楽しみにしていますからね」
「ああ、そう言われたら。期待に何がなんでも応えなきゃね」
朗らかに笑い、語りあいながら稗田夫妻はここまで来るのに使って今は待たせたる人力車に戻って行った。
人力車の引手は、先ほど上白沢夫妻が特に旦那の方がいきり立ちながら、寺子屋の方向に帰って行ったのを見ていたから。
少しばかりどごまぎしていたが、流石は稗田家が扱う人力車の引手と言えるだろう。
稗田家に対する思考と言うのは、もはや信仰心にまで達していた。
稗田夫妻が、阿求が特に問題なく夫と一緒に笑っているのを見て。胸をなでおろして、何も問題はなさそうだと結論付けていた。
恐らくこの者は、自分が高所から転げ落ちるような事故があっても。稗田家の事を気にするであろう。
「ああ……上白沢夫妻は大丈夫だった?」
○○も、この人力車の引手の顔を見れば。もはや陶酔に近い表情を見れば。
「はい!奥様の慧音先生の方がなだめながらでしたが……」
「大丈夫ですよ、後で夫が説明に行けば納得してくれる程度の問題です」
「だったら私めが口をはさむのは却って失礼ですね!では、お屋敷に帰られますか?」
そして阿求自ら、この問題はもうそこまで大きくないとの……もはや神託だ。
それを頂戴したこの引手は、恭しく頭を下げた。
もうここまで来れば、○○も何となく出てきた微笑を使って。何度も頷く以外の事は、思いつかなかった。


そして件の人力車の引手の事も少しばかり忘れかけた、夕方ごろにまで話は進んだ。
「失礼いたします……お二人様。お会いしたいと言う方が――」
女中頭が丁寧に輪をかけたような振る舞いで稗田夫妻の居室へとやってきた。
「東風谷早苗が来たの?」そして○○が全部を聞く前に口を開いた。
事情をほとんど知らない女中頭は、ハッとしたような顔を作ったが。○○は謙遜するように、やめてくれと手を振った。

この時の○○はもう報告を待つだけだと言うので、はっきりと言って事件の事はほとんど考えていなかったが。
来客の予定も無いのに誰かが来たこと、それと一緒に今朝がたにため息交じりに付き添った東風谷早苗の姿が思い出された。
その事を説明したら、幸いにも納得してくれた。
いくらなんでもこの程度では驚かれるには値しないが。
またぞろ、裏側で何か厄介ごとを解決しようとしている風には思われてしまった。
やはり阿求が演出した、八意女史誘拐事件を一日で解決したと言う逸話が。あまねく力を発揮しているようだ。
狂言ではあるのだがな……特に慧音の旦那はあの狂言誘拐を酷くバカバカしい物として見ているから。
英雄扱いされるのには、とっくにうんざいりとしていたが。
○○の方は、もしかしたら事件の依頼が増えるかなと言う期待があった。上白沢の旦那が聞いたら、顔をしかめるような考えだけれども。


959 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:31:56 .CHK7zvE
「まぁ良い、夕飯まではまだ時間があるから。少しは話を整理できるはずだ。阿求、一緒に来て」
「何ならここにお通ししましょうよ。ここなら奥ですし……あぁ、お茶は自分で用意しますわ」
少しの間があった後、阿求は女中頭に世話は必要ないと伝えたが。真意は無論別にある、遠慮や優しさのみのはずが無い。
「ご安心を、九代目様に旦那様。誰も近づきませぬので」
人払いである。




そして辺りが妙にシンと静まり返った。夕飯が近いと言うのに、バタバタと言う音も聞こえなくなった。
そこに、人払いの雰囲気を察して皮肉気に笑う東風谷早苗と。
ローブのような物を被って、小さくなりながら早苗に付いてきた人物がいた。小柄な人物であった。
しかし○○には、これが誰だか。そして阿求だって、すぐに分かった。
「フランドール・スカーレットさんですね?阿求は有るかもしれないけれど、私とは直接お会いするのは初めてですね」
○○は座り直して綺麗な所作で、ローブを目深にかぶった小柄な人物に挨拶した。
「何だか頭領さん達の事が誤解されているみたいだから、説明に来たの!!」
その小柄な人物は、礼儀正しい○○の所作を無視するように。ローブを脱ぎ捨てて、説明と言うが抗議に近い声色で○○に向かった。
その小柄な人物は……金髪が、それ以上に目立っていたのは。
宝石のようなきらびやかさを持つ何かをぶら下げた、羽。これが金髪や里では奇抜な服以上に、よく目立っていた。





「まぁ、お茶を……」
「いらない」
阿求が気を利かせて少しは落ち着いてもらえるようにと、お茶を差し出したが。脇目もふらずに拒否されてしまった。
「……じゃあ私がこれ、いただきますね」
東風谷早苗が更に気を利かせて、フランの前にあるお茶を引き取った。
「むしろね、私があの頭領さんとその横にいる若い人に助けられたのよ!」
しかし早苗が折角、場の空気が悪くなり過ぎないようにと言う配慮も。フランドールの目には見えていなかった。
早苗はどうしようかと少し迷ったが、今は黙って引き取ったお茶を頂くことに決めた。
早苗の脳裏には、なんだか以前の八意永琳(狂言)誘拐事件の際に、お茶を飲みながら時間が早くすぎないか耐えた記憶がよみがえった。
しかしあの時は、忘八頭は平身低頭で許しすら乞うており、状況を打開するために稗田や上白沢に協力する姿勢を前面に押し出していたが。
「あの頭領さんからほとんど聞いてないんでしょ!?あの人優しいから、説明もしたがらずに自分で片付ければいいとか考えちゃうし!!」
今のフランドールは、あの時の忘八頭と違っていきり立っている。場合によっては対決すら持さない、そう言う腹積もりを隠してすらいない。


960 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:33:05 .CHK7zvE
「まぁ、まぁ……」
早苗がフランドールを宥めながら、稗田夫妻に目線をやる。話を進めてほしかった、出来ればフランドール以外に。
しかし付添いの時分では、その役目は期待できない。間々ならないことこの上なかった。


「頭領さんは……何だかしきりにフランドールさんに失礼な事をしたと言うような雰囲気を出していましたね」
「そんなのもう気にしてない!!むしろ私があの2人を脅かしてしまったぐらいなんだから!!」
キーキーと言いながらフランドールは抗議を続ける。
今朝がたに早苗は依頼人の青年を押し留めるために後ろから抱きかかえたが、フランドールが相手ではもっと酷くなりかねなかった。
これには○○も、話題を変えなければと結論付けた。
「フランドールさん以外にも、チルノさんや。他にもお友達が?」
「ええ、もちろん。でも今から考えれば、遊んでるんじゃなくて暴れているだけだったわ。大妖精は、良い子だけれどもチルノに振り回されっぱなしだし」
ここまで言ってフランドールは、苦虫を噛んだような表情を見せた。これは自らを恥じる、悔いるような表情だ。

「ルーミアもたまに来るけれども、やっぱり同じで振り回す方。でも私が一番酷かった、他意は無いのだろうって、頭領さんは優しくいってくれたけれども」
○○は阿求に目線をやった。阿求は少しばかり、けれども肯定的な意味の頷きを見せた。
○○も話が少しずつ見えてきた。
有り体に言えば、今までのフランドールには秩序が無かった。荒れ狂う嵐のような物だった。
「力の使い方を、教えてくれたのですか?頭領さんが」
「そうよ。それに、いろんな遊びも教えてくれた」
だが奇跡的に、頭領が秩序を与えた。フランドールに対して。そしてなおいい事に、秩序立っている状態に利益があると気づいたのだろう。
そしてフランドールは、それらをすべて受け入れた。
「素直な子だ……頭領が紅魔館を。フランドール・スカーレットを選ぶはずだ」
○○の脳裏には、遊郭通いが多すぎる派手な連中、奴らの姿が脳裏にあった。

頭領は慈悲深くも、まともな仕事をあの連中に与えようとしたが。
自らを退治屋などと、うそぶき続けて遊郭に通い続ける連中。出納長を管理している一番の部下は、連中のせいで苛立ちを溜めてばかり。
そのスキマに、教育をまともに聞いてくれる存在が現れてくれたのだ。
「雪合戦もね、頭領さんが決まりを作るまでは。辺りを走り回りながら適当に、雪玉を目につくものに投げるだけだったのに」
「頭領さんが組み分けして、動く範囲も決めて、初めに隠れる事の出来る壁も作って。それでよーいドンで始める事に決めたの」
「大妖精も振り回されてばかりだったけれども、私やチルノみたいな振り回す方に雪玉を当てられるようになったし」
「私の部屋の掃除も手伝ってくれたのよ、本とかぬいぐるみとか沢山あったから。それを直す本棚作りから始めてくれたの!」

なるほど確かに彼女は、長命な割には子供っぽい部分が強い。
けれども愚かでは無い、教育が秩序が、それらを理解して受け入れる事が出来る。その先にある利益も理解できる。
折角まともな仕事を世話してやった、あの遊郭にばかり通っている派手な連中とは。比べる事も出来ないぐらい、フランドールは聡明だ。
彼女は吸血鬼?
頭領にとっては、それは全くの些末であろう。
何せここ最近世話をしてやっている奴らが……はっきり言って、頭が悪いを通り越して愚かなのだから。
あの、遊郭大好きな連中の世話が嫌になった頃に。
フランドール・スカーレットと言う中々素直な子が出てきたんだから。
それを説明すれば、あるいはあの依頼人も……
完全に納得は無理でも、いくらかはわだかまりを解消できるかもしれないと言う。
そう言う一縷の望みを託したかったし。それをするには十分な材料だ、この事実は。


961 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:33:45 .CHK7zvE
「ありがとうございます、フランドール・スカーレット。彼に聞かせれば、少しは事情を理解してくれるかもしれません」
少なくとも○○は、頭領がフランドールを選んでしまった理由を理解して。なおかつ納得も出来た。
これを依頼人の青年に喋ってやれば、少しは苛立ちも収まるだろうか。
早い方が良い、こういうのは早ければ早い方が良い。
「このお話を聞かせたい人がいる。その人も、この話を聞けば少しは納得してくれるかも……阿求、夕食までには帰るから」
「あ、そうだ」
○○が依頼人の青年の所にひとまず行こうとした際、フランドールが何かを思い出した。
「チルノが頭領さんと一緒にいた若い方とまた会いたいってうるさいの。伝言お願いできる?」
若い方……依頼人の青年の事だろう。
「……ええ、それぐらいでしたら」
「あの若い人、何か病気?私もチルノも心配してるのよ。チルノと一緒に湖で水切りを、本気でやってたから。あの人の事も気に入ってるの」
○○はフランドールが依頼人の青年の事を思い出しながら話す時の顔を、まじまじと見た。
先ほどの頭領との思い出話を語る、その顔の次に朗らかな物であった。
この時、○○の脳裏にはある推測が出てきた。
(もしかしてあの依頼人……頭領に対する嫉妬もあるのか?チルノと本気で遊べて気に入ってもらえるのは、ある種の才能だぞ)

「なるほど」
○○は極めて平静に振る舞い、穏やかに一言だけ言ったが。
あの頭領と依頼人の根っこが、余りにも似ている事には。思わず笑みすらこぼれそうになってしまった。




「……良いと言ったんだがな。阿求には」
依頼人の所に、朗報かどうかは分からないがまともな話を持っていくことは阿求も理解してくれたが。
大体数百歩ごとに、もしかしたらと思いながら振り返っていたら……案の定であった。
ゆったりとした服で隠してはいるが、屈強そうなのが少なくとも三人も見えた。
夕方ごろなので、何かの買い物に偽装した荷物も持っていたが……中身は考えなくても。護身具だ。
その上○○相手には隠れる気は余り無いようで、目線も何度か合って。
○○もそれが阿求からの指示だと分かっていると言う、謎の安心感が稗田家には隅々まで広がっているので。
屈強そうなのも、○○と目が合っても笑顔で会釈するのみであった。
……あの様子だと、家中の物ではなくとも少しは勘や観察眼が強ければ。気付かれでもおかしくないぐらいである。
はっきり言って、隠れようと言う気が見えてこない。
「まぁ良い」
とは自分で自分を慰めるように呟いたが、依頼人のいる家屋――頭領は多分いないだろう――につく少し前で。
ここで待っていてくれと言うような仕草くらいは送らせてもらった。
幸いにも待ってはくれたが、特に場に溶け込もうともせずに。隅の方で立ちっぱなしでいたままであった。
あれじゃいよいよ、自分の所属を大きく書いて頭上に掲げているようなものだ。
○○としては、段々と指摘する気力もなくなってきていた。


962 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:34:43 .CHK7zvE
「おや……これは」
しかし万事塞翁が馬を、この場において1から10まで感じる事になるとは思わなかった。
依頼人が頭領と住んでいる――いずれこの表現は過去形になるだろう――家屋に入っていったら。
「確か、遊郭街の……ええ覚えていますよ、忘れるはずがありません。遊郭宿の経営者、忘八さん達のお頭じゃないですか」
少し無作法だとは思いつつも、依頼人の部屋に入って行ったら……むしろ無作法な方が良かったぐらいだ。
忘八達のお頭は、○○が来るとは思っていなくて。依頼人の青年の為にお香や、酒まで用意してあげていたのだ。

そんな場面に○○が登場する?
阿求が絶対に嫌がる!遊郭街の権力者である忘八。その最大権力者が、依頼人と一対一で会話をしているのだから。
これは、阿求が無理やり自分に付けた護衛を途中で止まるように言ったのも……もっけの幸いであろう。
「ああ!大丈夫ですよ、忘八さん達のお頭さん!阿求は知らないし、付けてくれた護衛も途中で待たせてあるから!」
それに思い出した事もある。始めに依頼人の居宅へ向かった時、この忘八達のお頭が急いで外へ飛び出して。
判を押したように、遊郭通いが好きな派手な連中も。裏口から出て行ったのが、脳裏に鮮明に映し出された。
「あの派手な連中の事を教えてほしい。あれは小銭だ、その程度の存在に『ごひいきにしてください』なんて自ら向かうとは思えない」
○○はにこやかに喋りながらだが、出入り口の真ん前で仁王立ちした。
忘八頭は頭領のように、窓は見なかった。そこから逃げようとは思わなかったようである、そもそも雨どいを伝って出入りするような。
そう言う、いざと言う時に役立つ鍛えられた体力を持っているような職業では無いから。忘八と言うのは、どちらかと言えば心理的な職業である。
観念したような顔で、あるいは慈悲を乞うような顔で。忘八達の頭は○○を見ていた。
ただ、良い気と言うのはまったくしなかった。
○○の妻は阿求だから、それが最も大きな理由だという事ぐらい。○○はすぐに、理解できる。
それぐらいの頭はある。


忘八達のお頭は、ため息を盛大につきながら座ってくれた。
「そうは言っても、短く説明できてしまえるんですよ。○○様の言う通り、あの程度が来ようが来るまいが、売上に大きな違いは無い」
「ただの偶然だったのですよ、○○様。私が連中に良い顔をしたのは、遊郭街を大きくしようとする勢力が新店の護衛に尖兵を欲しがった」
「巧妙に巧妙な、てっぺんは頭が良いようですが私や……もっと言えば稗田様や上白沢様への恐れがあります。けれども商いを広くして利益を得たい」
「その二律背反の解決方法が実に姑息。夜鷹(※)に近い、安いけれども質にも疑問符が付く遊女を売っている楼を、まずは身代わりにして前を歩かせているんです」
「あの手の安い楼は……出たり消えたりしますから。客も関係の無い楼も、急に入れ替わってもあまり気にしないんですよ」
「私が指揮しております最大派閥の敵はまだ見えませんが、敵が私を見ているのは確実です。ですから、奴らの尖兵候補を片っ端からツバを付けて動けなくしているのです」
○○は忘八頭の説明を聞きながら、納得を刻々と深めて行って頷き続けていた。
そして○○は顔の前で手の指先を合わせながら頷くだけで、筆記具は一切出さなかった。
しかし忘八達のお頭はまだ、気が気では無い様子であった。やはり阿求か!阿求の影が!
「書きませんし、阿求にも伝えません」
筆記具を出していない時点で、忘八達の頭ほどの人間には気づいてほしかったが。いささか無茶な注文と言うのもまぁ事実だろう。
こういう場合は、また外部への密談の漏えいが無いと分かっていれば。
察してくれなどでは無くて、はっきりと言葉にしておくべきだろう。それが誤解を減らす。

けれどもこの忘八達のお頭は、自分の敵がいると分かっているのに見えなくて疲れているのだ。
……こんな身を案じた言葉すら、○○が言えば阿求の癇に障って。
忘八のお頭が危ないと言うのには。理不尽さを感じてしまうのだけれども。


963 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:36:21 .CHK7zvE
「敵さんの尖兵探しを妨害しているようですが、首尾は上々ですか?」
「……幸いにも。『この程度の客に支払以上の対応を?』と言った例は確実に減っております。少しは連中の、商い角田の計画を邪魔できております」
「……まぁ、それに関しては良かった。阿求の癇の虫が少しは鎮まる」
本当ならば、忘八達のお頭には真っ直ぐな労いの言葉を与えたいのであるけれども。
今この場は大丈夫でも、仲よくなり過ぎれば不意に懇意な会話をしかねない。
そうなれば迷惑を被るのは、何と○○では無くてこの忘八のお頭なのだ。


「まぁ、忘八のお頭さんも。これ以上何を話せば良いか分からないでしょうから。私はこの依頼人に、ちょっと説明しておきたい事柄があるので。それだけ喋ります」
忘八が自分の持っている話を全て披露してしまったらしく、恭しすぎる礼を見せられてしまったので。
いよいよ○○はこの忘八の頭が可愛そうになってくるので、今度は○○が話し始めた。
内容は、無論の事で。先ほどフランドール・スカーレットから話された内容を。
フランドール曰く、頭領は誤解されていてむしろ私の方が頭領に付き合ってくれと頼んでいる、と言った内容を。
今まさに聞かされた、遊郭街の商いの拡大を目論んで遊郭街に体よく利用されているのに気付かず。
むしろ自分たちは遊郭防衛の重要戦力だと誤解して、調子に乗り始めているあの派手な連中と比べれば。
体力に任せて暴れるように走り回っているフランドール達に、皆が心地よく遊べるように決まりごとを教えている方が。
そっちの方が遥かに建設的で、精神衛生にも素晴らしく。達成感だって雲泥の差であろう事は言うまでもない。



「でしょうね。むしろ頭領の方が遥かにマトモな判断と動きだ」
忘八達のお頭から聞かされた話と、○○からの追加報告を合わせれば。出てくる答えはおのずと一つに収束される。
依頼人の青年は、忘八達のお頭から与えられた酒を――おべっかでは無くて、真意からの。あるいは詫びの品――に口を付けた。
その飲み方は上品で、唇を少し濡らしただけではと言うような飲み方であった。
忘八達のお頭は、少し綻んだ顔を見せた。
やはりあの派手な連中の飲み方は、酷かったのだろう。
なので、依頼人の青年は穏やかさに甘えてもう一つほど聞いた。
「チルノちゃんが、心配していると聞きました」
「ぶふっ……」
しかし少し聞いただけで、依頼人は器官に酒を流しいれてしまったのか。むせた姿には、少し罪悪感が湧いた。
やはりフランドールの言う通り、チルノと仲良く遊んでいたようだ。
「非難しているわけではありません……ただ、頭領と貴方はやはり似ているなと。もちろん、あんな派手な連中とはずっと違う善性の持ち主だ」
頭領の件と、派手な連中が調子に乗った件で苛んでいるのに、これ以上苛ませるのは余りにも酷い行いだ。
○○はこれ以上の無礼を重ねる前に、この場を後にした。


964 : 日中うつろな男8 :2019/05/21(火) 13:42:30 .CHK7zvE
「お帰りなさい、あなた!良い話は出来ましたか?東風谷さんから頭領さんの遺言の試作を貰ったので。早ければ明日にでも完成度を一気に高められますわ」
忘八達のお頭の話を聞いて、今度は依頼人に話をしたから思ったより時間がかかったが。思ったよりも阿求の機嫌が良く出迎えてくれたので安心したが。
「…………『依頼人さんとは』、良いお話が出来たようですね?」
二度目のこの言葉には、重みを感じてしまった。
何処からばれたのかを考えたが、まさかアレかとしか思えなかった。
あの時、忘八達のお頭は依頼人の気持ちをほぐす為に酒と……お香も炊いていた。
阿求もお香には少しぐらい造詣は持っている。けれども稗田阿求が自称する少しは、他の物にとってはとても深い造詣である。
「すぐに服を着替えて……いや、お風呂に入って!その方が確実!!」
その後の会話には本当に苦労した。
とにかく偶然、忘八達のお頭と出会った事だけは信じてもらわねばならなかった。
その後、最大派閥に対する抵抗勢力の暗躍。忘八達のお頭だって、苦労していることを理解してほしかったが。
少しでも親身になれば、逆にあのお頭が危なくなる。
なので事実だけは何とか、信じてもらうために。暗躍する勢力の事を悪く言いすぎたかもしれないと……寝入りばなになって不安になったぐらいであるが。
もう後の祭りであった。



※夜鷹(よたか)
遊郭に属さずに春を売る遊女の意味
公に遊郭の営業が認められていた江戸時代において、夜鷹の存在は厳しく取り締まりされていたが
男風呂に出入りする女性である湯女(ゆな)や普通の飲食店ではない店には飯盛り女と言った、『そういう事』もやってくれる業種が抜け道のようにあり
いたちごっこが実情であった模様


>>954
その気になったら自分の命はないけれども、そもそも目の前の子と一緒にいたいから
その気になって命奪われてもいいかなと言う○○の思考が見える。決意ともいえる
もちろん、向こうはそんな○○を裏切らないために。定期的な血液のみで満足しようと努力するんだろうな


965 : ○○ :2019/05/22(水) 22:59:49 3rEMm4Jw
>>954の続き

 再び夜となり私が夢の世界に入ると、彼女がいつものように私の首筋に触れて牙を刺した。ゆっくりと
流れ出す血とともに、彼女の息づかいが聞こえてくる。風が流れるように小さく一定のリズムを刻む音。
流れ出た血の香りが辺りに漂い一面に満ちる。じんわりと自分が流れ出していき、彼女の中に流れ込んで
いく錯覚すら受けた。
 彼女が首筋から牙を抜き去り、顔を私の耳元に近づける。いつも聞こえなかった彼女の声が体温と共に
世界を揺らす。ソプラノのように幼い声で、アルトのように染み渡る声で、彼女の声が私に聞こえてきた。
「明日でようやく最後。」
クスリと笑うような声を残し、彼女の姿が歪み夢から覚めていく。薄れていく姿の中で彼女の目が赤くなっ
ていることだけが私の記憶に残されていた。

 夢から覚めた私を迎えたのは、見慣れた風景だった。いつも通りの部屋の景色が僅かな電気製品の明りで
ボンヤリと灯された暗闇の中に浮かんでいる。彼女の姿をもう一度捕らえたく手を伸ばすと、空気を掴む感
触だけがそこにあった。彼女の声がじんわりと脳裏に再生される。明日で最後だと彼女は言った。今まで血
を吸っていた彼女は、きっと人間ではなく妖怪なのだろう。吸血鬼に血を吸われた人間は同じ魔になる。今
まで生きてきたヒトを辞め違う存在になる。最近話題のネット小説によくある題材だが、それを純粋に信じ
る程にはひねくれの度が過ぎてしまっていた。夢は所詮、非現実の世界。いくら夢の世界で活躍をしたとし
ても、それは現実に何の影響も及ぼさない。…筈であった。…そう信じていた。これまでの時間は。ならば
毎日首筋につく生々しい傷跡は一体何なのだろうか、徐々に失われていく血液は、原因不明の重度の貧血は
どう説明がつくのだろうか、そしてそれにも関わらず私の体が正常に動いているのは何故なのだろうか。
 明日で最後と彼女は言っていた。これで彼女が二度と私の夢に現れなくなるのだとは、到底私には思えな
かった。むしろ真逆の、彼女が私に何かもう二度と戻れないような、何かをするような気がした。ドクリと
心臓が鳴る。今まで毎日地道に血を吸われていたのならば、既に私は彼女の方へ向かっているのだろう。
コップの淵から水が溢れ出すように、最後の一押しが加えられる。人間から妖怪へと、そして日常から非日
常へと。ドロドロと感情が全身に流れる。恐怖ではなく、喜びが無くした血を埋めるように湧いてくる。こ
のまま過ごせば、再び彼女は私の前に姿を現すのだろう。今はただ、ひたすらに彼女に会いたかった。


966 : ○○ :2019/05/22(水) 23:05:43 3rEMm4Jw
>>964
フランちゃんは過激なヤンデレのイメージが強かったので、このように穏健(?)
なキャラクターは新鮮です。一旦揺れたこの依頼も舞台が進行して地面が固まってきたの
でしょうか。乙でした。


967 : ○○ :2019/05/23(木) 00:00:30 mHeNltOg
フラン「○○ー」
 ○○「んー?」
フラン「○○は私のこと好き?」
 ○○「?ああ、好きだぞ」
フラン「愛してる?」
 ○○「愛してる」
フラン「私のために死ねる?」
 ○○「死ねる」
フラン「えへへ。じゃあ利き腕壊しちゃっていい?」
 ○○「……え?」
フラン「……もしかして嫌なの?さっき言ったことは嘘?」
 ○○「それは嘘じゃない。けど、なんでそれが腕破壊に繋がるんだよ」
フラン「私のことを愛してるって証明が欲しいの。この館って女が多いじゃない?だから……不安なの」
 ○○「……あー」
フラン「不便になるかもしれないけど、私が誠心誠意○○の腕の代わりになるからそこは安心してね」
 ○○「んー……」
フラン「……なによ、私のために死ねるなんて言って、本当は自分の身が可愛いの?……それともまさか、すでに他の女に──」ザワッ
 ○○「それはないから落ち着け。つーか、痛いのも不便になるのも嫌っちゃ嫌だけど、フランが本気で望むなら吝かじゃねえよ」
フラン「……それじゃあ何をそんなに悩んでるの?」
 ○○「フランが好きな抱っこしながら頭撫でるの、出来なくなるなーって」
フラン「あ…………」
 ○○「あとは、万が一フランが後悔しちまったら俺はお前に腕の無い身体を見せ続けることになるだろ?それは流石にキツい」
フラン「…………!」
 ○○「他にもあるけど……いや、俺の腕一本でフランの不安が消えるなら安いもんか。よし、覚悟は決まった。いつでもいいぜ。あ、多分痛みで喚くか気失うから止血よろしくな」
フラン「…………」
 ○○「フラン?」
フラン「…………やーめた」
 ○○「あん?」
フラン「よく考えたら、片腕無くなっちゃうとえっちの時にアレとかソレとか出来なくなるしー」
 ○○「おい……おい」
フラン「それに、そこまでしなくても○○は私のことが好きで好きでしょうがないみたいだしね」
 ○○「だからそうだって言ってるだろ」
フラン「えへへ。ね、これからも私を愛して安心させてね?」
 ○○「それはもちろん。不安にさせてたのにも気づかなかったみたいだし頑張らせてもらう」
フラン「じゃあじゃあ、寝室に行こっか」
 ○○「ん?え?ちょ、フラン?まだそういう時間じゃ……力強っ!?」
フラン「目指せサッカーチーム!」
 ○○「ああああああああぁぁぁ……」


ヤンデレってなんだよ(哲学)


968 : ○○ :2019/05/23(木) 01:33:30 AZ0JWvAQ
>>967
ヤンデレとはなにかって?躊躇わないことですかね…
愛情に満たされて凶行止めるフランちゃん素直可愛いです


969 : ○○ :2019/05/23(木) 11:54:50 xwy2wpD.
ヤンデレの定義はWikipedia先生でもズバッと示してはくれないからあまり深く考えない方が良いと思うよ
自分は最低限メンヘラとの違いとして優先順位のトップが愛してる人間になるように気をつけてる


970 : ○○ :2019/05/25(土) 01:36:14 NqeD9V8s
グリモアオブウサミを呼んで思ったんだけど、幻想少女が花火大会に行っている間に
男が外の世界へ脱走する話とか面白そうだよね

家に帰ったら、男はすでに外の世界に脱走していましたという感じで


971 : ○○ :2019/05/25(土) 15:37:12 VNLrPQx2
>>967
やーめたって言ってる時のフランの表情はきっとものすごく可愛い
それを想像するだけでご飯が進む


972 : ○○ :2019/05/26(日) 11:38:51 MzyMuYGw
>>967
ヤンデレの定義は難しいですね。自分も書いていると考えることはあります。
素直なフランちゃんですね。乙でした。


973 : ○○ :2019/05/26(日) 11:39:31 MzyMuYGw
切り札はいつだって悪手

初夏となったために辺りがまだほの明るい中、竹林の案内役である蓬莱人が営む居酒屋に二人の男が座っていた。夜の本番
というには随分と早い時間帯のためか、小さな屋台の中で座っているのは二人だけだった。
「店主さん、ビール二つとお勧めをぼちぼち頼むよ。いやあ、ここの焼き鳥は中々のもんだからねえ。」
一人の男の方が注文を告げる。幻想郷では未だ珍しいビールを頼んだのは、季節外れの暑さがやってきた日には外来人の男に
とって日本酒よりも、こっちの方が好きだろうと考えたためだった。そつなく店主との馴染みを先手を取る形でアピールした
男は、そのまま相手を値踏みするかのように横目でちらりと見た。
 外来人に多い、日焼けしていない顔。袖から伸びたこちらも白い腕から見えたのはやや古びているが、時を正確に刻む腕時
計。時間を気にしないと言っては語弊があるが、外界の社会とは比べ物にならない程おおざっぱな時間感覚しかないこの世界
にあって、時計を腕に付けている人物は少数派であった。時計を身につけてかつ、それを手入れしているのは、何か目的があ
る人物か、或いは好き者や歌舞伎者の類いである。外に出てない-むしろ白い程の肌色からすれば、目の前の人物は恐らくは
人里で店に雇われている、番頭格辺りではないかと男には思われた。中々どうして十分だ。叩き上げの商人ならば世間に慣れ
もしているし、しかも弁も立つ。しかし頭を買われて店に入った外来人は生憎そうはいかない。いくら外の世界で生きていた
としても、幻想郷にはこちらのルールが見えない形で存在しているものだ。つらつらと男は考える。偶然の出会いにかこつけ
てここまで引っ張って来た獲物は、そうそうお目に掛かれない上等の鴨に見えた。
 -どう料理をしようか-目の前の人物と会話をそつなく交わしながら、男は頭を捻る。単純に美人局をするには手駒が欠け
ていたし、然りとて単純な脅迫といったものでは、その場は金を引っ張れども次が続かない。最上級の餌とは、即ち何回でも
お替りができること。目の前の外来人の骨すらしゃぶりつくすにはどうするべきか。相手に度数の強い日本酒を注ぎつつ、男
はぐるりと頭を回した。これだけの上玉ならば成功率が高くないといけない。逃した獲物は大きいし、第一に無闇に後を引く。
 暫く考えていた男であったが、やはり最初に考えた通りに種を播くこととした。予め罠を張っておき、芽が出て実をつ
けた所で何度も刈り取る。今までの仕事よりも随分に気の長い話しであったが、それだけに気が付いた時には身動きが取れな
くなっている。これまでの経験からすれば、恐らく数ヶ月以内には自分の手元に大金が転がり込んで来て、嬉しいことに今回
はそれが何度も続く。鶏は生かさず殺さず飼い殺していけば壊れるまでは金の卵を産むであろうし、その内に壊れてしまった
としてもそれはそれで需要は有る。無論、ひどく胸の悪い話しではあるのだが。


974 : ○○ :2019/05/26(日) 11:40:15 MzyMuYGw
「実は○○さんに耳寄りな話しがあってね。」
「と、言いますと?」
「実はこちとら、八雲の方々にはよくお世話になっててね。その関係で珍しい物を扱っているんだよ。」
「ああ、そうなんですか。」
幻想郷の管理者である八雲の名前を出したのに、意外にも相手の反応は淡泊なものであった。権威にひれ伏す普通の村人なら
ばここでのビックネームの登場に大いに動揺するのだが、人里に閉じこもって妖怪から目を背けている外来人には、少々効果
が薄かったかと男は考えた。
「〜〜〜なんだよ。」
「それなら〜〜〜。これはどうでしょうか?」
「おう、そりゃあ良かった。こりゃあ○○さんに力を貸してもらって正解だったな。そら、前祝いだ。」
 男は無事に種を播き終えたことに心の中で歓声を上げ、目の前の獲物と乾杯をした。ここまでくれば一つ大きなヤマを超え
た事になる。あとはズルズルと計画に○○を引きずり込んでしまうだけであり、その商売で失敗があれば○○に擦り付ければ
良い。大して後ろ盾の無い外来人などはひとたび頭の固い天狗が団扇で風を起こせば、あっさりと吹き飛んでしまう存在だ。
トカゲの尻尾を切る類いの目眩ましには、最適の選択である。
「ああ、ちょっと失礼。携帯が。」
「どうぞ。」
人里の人間が持っていない携帯を理由に席を立つ○○を見送り、再び男は考えた。計画に感づかれたか?いや、相手の振る舞
いはこちらの悪意を知る態度ではなかった。これでもスレスレの所で稼いできた感覚はある。もしもこちらの真意を疑ってい
るのであれば、最初からもっと警戒しているだろう。ならば一人では決められず誰かと相談をしているのか、あるいは只の偶
然なのか…。男が何本もシナリオの想定をしている内に、席を立った○○が戻って来た。
「そういえば、**さんのお名前をウチの者が知っていませんでした、ええと…どういったご関係で?」
予想通りに男の話しを疑っているようであった。妖怪の居ない世界から来たせいか、外来人はどうにも妖怪についてだけは簡
単には信じようとしない。○○が持っていたのは携帯であった。携帯なんていうハイカラを持っているのは、里のかなり大き
めの商店か、もしくは河童であろう。河城とかいう河童が作ったスマートフォンが最近ここでも出回りだしていた。最悪霧雨
か河童が相手。霧雨家の要注意人物は別の奴を追っかけている以上、警戒するのは河童のみ。河童程度ならば商売の話しをし
ていると言って押し切れるので、男は計画通りに事を進めることとした。○○に向けて男は鋭い反撃の言葉を返す。
「いやいや、それをこちらから言えば○○さんに迷惑がかかりますからねえ…。」
「言って頂いて結構ですよ。」
-クソ野郎!-思わず男は心の中で○○を罵倒した。相手が八雲の名前を聞いても引かない以上、こうなれば徹底的に争う必
要がある。懐の中を探り最後の切り札を探る。相手の男が外来人なので村人相手に使う予定の、彫刻が入った外界製のスマー
トフォンを出す訳にはいかず、男は○○に向かい合うようにしてもう一つの切り札の筆の方を出した。
「ほら、これだよ。こりゃあ○○さん、大失態だぞ。」
筆に刻まれた複雑な紋様をチラリと見せるように出し、相手がこちらを見るなりとすぐに引っ込めた。堂々とした口調のまま
で獲物を逃してなるものかと、男は相手の言葉尻を捕らえて、必死に喉笛に食いついていこうとする。


975 : ○○ :2019/05/26(日) 11:41:13 MzyMuYGw
「あら、どういう意味かしら…ね。」
澄んだ声が店内に響いた瞬間に、辺りの空気が変わった。火を使っている焼き鳥屋の筈なのに、あたかも冷凍庫にいるかのよ
うに冷たい風が男の周りに漂いギリギリと肺を締め付けていく。そのまま冷気が血管を通して全身を犯していき、流行風邪を
引いた時以上の悪寒が男の体に走った。○○の直ぐ後ろから突然人が現れた。桜色の和服を着た、この世のものとは思えない
程の美貌の女性が。女性は足音も立てずに男の方に迫っていく。一歩、また一歩と、男の本能が死が近づいて来ることに悲鳴
を上げ、恥も外聞もなく逃げだそうとするが足はガクガクと震えるばかりで、椅子に座ったままの腰が凍り付いたかの如く動
かない。
「あ、いや、この、それは…。」
「どういう意味かしらね、幽々子。」
男の後ろからも突然に女性が現れた。黒い空間から半身だけを出しているドレスを着た女性が、口元を扇子で隠しながら男の
すぐ背後に立っていた。空いた手が男の体から何かを抜き出していく。さっき男が○○に見せつけた筆が、着物を貫通するか
のように再び引き出されていた。男が堪らず胸を押さえる。証拠を出してなるものかと、必死に心臓を押さえるように筆を押
さえつけるが、その手をなんの抵抗もなく女性の白い手がすり抜けていく。
「ひゅ、ひゅう、ば、化け物…。」
心臓が、あるいは人間を形作る魂その物が引き抜かれた錯覚を覚えた男が、呻くように漏らす。断末魔の息は誰にも聞き届け
られずに虚空に消え去っていった。
「あらこの筆、割りと良く出来ているけれど、只の人間が作った物じゃない。やーね。」
女性が筆を摘まみ、ジロジロと男の吐いた嘘を確かめるように見ていたが、やがて興味が無くなったのか空中へ放り投げた。
黒色の空間に筆が音も無く吸い込まれていく。筆と同じ様にあの空間に自分の体が吸い込まれていく錯覚が、男の全身に走り
皮膚が波打つように泡だった。逃げなければいけないのに、体が動かない。走馬燈が過ぎり絶望が脳裏に走る。言葉にならな
い声が口から漏れ、理性を失った涎が止めようもなくダラダラと垂れてきていた。
「さて、勝手に人の名前を騙る悪い子には、お仕置きしないといけないわね。」
男の顔が歪む。死刑宣告かあるいはもっと悪いことか、この手の妖怪にとっては一時の苦痛しか与えられない死は、ある種ま
だ生温いということを男は知っていた。只の外来人がどうしてこんな事になるのか。一寸の虫にも五分の魂とせめて視線に恨
みを込めようと、一分の遣り返しをしようと○○の方を見ようとする。和服の女の後ろに外来人がすっぽりと隠れており、そ
して女の背後にいる○○を隠すかのように、光る蝶が視界を埋め尽くさんばかりに殺到した。
 蝶が薄れていくと同時に、まるで神隠しのように男の姿も消え去った。
「さて、それじゃあね、幽々子。」
「ええ、またね、紫。それじゃあ、お愛想下さいな。」
「毎度。お愛想なしですまないね。」
ドレスの女性が黒い空間に姿を隠すと、和服の女性も○○の腕を引いて店を出ていった。日はすっかり落ち、辺りには暗闇が
広がっていた。


976 : ○○ :2019/05/26(日) 11:41:57 MzyMuYGw
以上になります。そろそろ次スレの季節でしょうか。


977 : 日中うつろな男9 :2019/05/27(月) 14:30:00 IYYiZV7I
>>964の続きです
結論から言えば、さすがに相手が○○と言う部分は絶対に存在するとはいえ。阿求は○○の言い分を信じてくれた。
遊郭街の忘八頭との突然の会談は、向こうが仕組んだものなどでは無いと。本当に偶然出会ったから、○○の側が興味をかきたてられて長話をしたと。
1から10まで信じてくれた。これは喜ばしい事である。
けれどもそうして貰うために、敵を作ってしまった。これは○○としても不安この上なかった。
しかもその敵は――正確に言えば忘八頭の敵なのだけれども――全くの虚構では無い物だから、さらに厄介と言うべき状態でもあった。
忘八頭が遊郭街を今の大きさと勢いのままで維持したいと思いつつ、商いの拡大を目論む勢力の動きを。これの妨害を続けつつ、首魁を探している。
そもそもの話の根っこであるこの部分が、掛け値抜きで全くの真実であるから。
○○は阿求に説明をすればするほど、阿求の顔が険しくなっていったが……残念ながらその状態から阿求を解きほぐすことは。
全くと言っていいほど出来なかった。
「まぁ、あの男は存外動き回って自分の目が光っている事を周りに喧伝している。そうそう敵も大きくは動けないはずだ。第一怖くて隠れながらなんだから」
「だからこそ嫌な感じなのですよ、あなた。敵がいると分かっているのに、決定的な動きを見せないで観測気球ばかり。そんなものいくら撃ち落しても……そもそも気球を打ち上げれなくしないと」
○○から投げられた楽観的な観測も、阿求は即座に打ち消してくる。
「まぁね……」
思わず○○も、阿求の言葉に肯定的な相づちを打ってしまった。打った瞬間に『しまった』と思ったが、もう後の祭りである。

「そもそもあの男以外に誰が動いているのか……隠れているだけと思いたいですけどね。まぁ恩は売りやすいですけれども」
阿求は○○の心中を果たして分かっているのか、いないのか。どちらが真なりだとしても、阿求のこの言葉は○○の懸念をど真ん中から打ち抜いてきた。
いや、阿求は妻だから内側からかもしれなかったが。すぐに頭を振って言葉遊びはしまいにした。
しかしこれと言って、良い提案や話題を持っていくことも出来なかった。
一度あの男、忘八頭に現在の状況を聞いてみたらどうかとも思ったが。
そもそも阿求も、そして旦那同士で仲がいいと言うつながりのある慧音にしても。どちらともが遊郭街の事を快くは思っていないどころか。
その気になれば一ひねりできると言うぐらいの立場、もしくは戦力を有していたのを思い出してしまっては。
ロクな対案が出せなかった。


つまるところあの遊郭が、こんな状況でもまだ存続を許されているのは。
一線の向こう側にいる女性たちは、強さや権力こそあれど。決して多数派では無いからこその妥協案でしかないのだ。
遊郭など、潰れてしまうのは案外と混乱のもとになるなと思い直して似たようなのを黙認するかもしれなかったが。
そこまで至る間に、今の遊郭は何回か破滅を迎えねばならないであろう。
「まぁ、おいおい考えますわ。お夕飯まではあと10分ぐらいですかね……」
結局、話の転換をうまく迎える事はおろか、時間稼ぎとしてのつたない会話すら出すことが出来ずに。
阿求は食事の時間がまだ、すぐには来ない事を確認して。○○の膝の上に少しばかり跳ねながら乗った。
「おっと……」とは言うが、相手は小柄な阿求だから。一般的な身体を持っている○○は特段の動きを見せずに跳ねて飛び乗る阿求を抱える事が出来た。


978 : 日中うつろな男9 :2019/05/27(月) 14:30:58 IYYiZV7I
阿求の事を頭頂部から観察していると、阿求が少しばかりこちらの体にほおずりをするような恰好をしながら。
そうしながら、鼻をヒクヒクと動かしていた。
それだけではなく、○○が来ている湯上り後の肌着を少しばかりはだけさせても来た。
「阿求?」
夕食後ならばともかく、まだ始まってすらいないこの時間。しかも大体10分前という事は、そろそろ女中が呼びに来てもおかしくは無い。
最も阿求は、見られても構わないと考えているのだろうけれども。
ねじ伏せると言えば聞こえは悪いが、問題にさせない、あるいは見なかったことにしてもらう程度の力は間違いなく存在していた。
だから気にするだけ意味が無いとも言えた、全てが阿求の御心次第である。
そもそも先ほど、風呂場に阿求と一緒に入って行く姿は数多の奉公人に見られている。
隠す必要が無いと言うよりは、隠そうと言う努力すら存在していない。むしろ見せに行っている以上、もはや○○が気にする必要すら無かった。

「うん……まぁ、永遠亭謹製の薬用せっけんですからね。清潔な香りだけですね。少なくともさっきの、遊郭の匂いは消えましたね」
少しばかりはだけさせられた○○の肌に、阿求は鼻先をくっつける。
もちろんそれだけでは終わらない、鼻先を更に押し付けて行き。人体の中でもさほど固くも無く、また小柄な阿求の鼻はやっぱり小さいので。
やすやすと形を変えて行き、また小さい事もあって阿求の唇が○○の肌に触れた。
口づけならば、あまりおおっぴらにやるような話でもないので外ではめったにしないが。
夫婦である以上、更には阿求の方が○○に対して――苛烈に――惚れている以上。
口づけは何度も行ってきたから、そして口づけの際の習慣として今回も目を閉じたが。それでも断言出来てしまえることがあった。
阿求は○○の体に、舌をはわせたのであると。唇以外の生暖かい感触は、この場においては刺客以上に鮮烈な刺激となって○○に状況を伝えてくれた。

「――阿求?」
まだまだ夜には早い時間なので。○○は少しの間を作ってしまったが、その間で落ち着きを取り戻し。
阿求にやや強めに阿求の名前を呼んで、今はその時では無いはずだと伝えたが。
「なんでしょう?いつもと感覚が違いますか?それでしたらどうかお許しくださいな……私も先の事をどうしても忘れるために、たかぶっていますの」
確かに痛くは無いが、いつもより強いのは感じた。それの強くなった原因が、阿求の執着心がなせる業だと言うのも同時に理解できた。
「○○、あなたが私に付き合ってくれる対価として。あなたの知的好奇心と冒険心を満足させることに手を貸すこと。喜んでやりますわ。これからも」
「でもね、遊郭街の事には……深入りしてほしくないのです。あそこは蠱毒(こどく)です。その結果生まれたのが忘八頭と言う、遊郭と言う蠱毒に最適化された人格なのです」
「アレにだけは不必要に関わらないでください。蠱毒の持つ甘い香に惑わされないでください。せめて私の目の届く範囲で、遊郭街をもてあそんでください。でも買わないで」
「お望みとあらば、遊女と同じような事も。知識ならありますからいくらでも出来ます。でも遊女と違って私はあなただけにそれをやるのです」
小柄で、背も同年代同性の者達と比べれば阿求の体躯は小柄なはずなのに。
言葉と言う、最も難解な意思疎通の方法を持つ存在だからこそ。阿求の紡ぎ続ける言葉の重みが、小柄な体躯を援護……それどころか。
それどころか、阿求が小柄であるからこそ。必死で紡ぐ言葉が持つ重みは、否定することに対する罪悪感すら聞くものに与えていた。
その上この阿求の○○に対する独白は、遊女がやるようなこともできるけれどもあなたにしかやらないと言う独白は。
いやしくも男である事を自覚している○○には、これを拒否する事は自分自身の価値すらも乏しめることになると。
そう考えざるを得なかった。


979 : 日中うつろな男9 :2019/05/27(月) 14:31:52 IYYiZV7I
結局○○はまだ時間が早いとして最初は難色を示した、阿求の艶っぽい動きを。突き放すことなどできなくなってしまい。
少しばかりはだけた○○の裸体に、阿求が頬や額や、後は唇に舌。これらをこすりつけたりはわせたりするのが、これ以上激化しないように。
ただただ、阿求の頭をなでながら。
「俺の方こそ阿求には感謝している。積極的に生きる事も、さりとて終わる事も考えていなかったから。鮮烈な生き方を提供してくれた阿求に、本当に感謝している」
「稗田家の家名も利用しているような気はするが……問題解決人○○は、早世したとしても歴史書に載るさ」
阿求を落ち着けるためではあるけれども……しかしながら○○のこの言葉だって真意なのである。
「載せます。私が持ちうるすべての権力を使っても、あなたの名前は残します」
それに対する阿求の返答は力強くて。
「じゃあ、安心だ。九代目様にそこまで言われたのなら」
その余りの力強さに○○は、安堵感もあるけれども苦笑をせざるを得なかった。



気が付いた時には、女中がいつも夕食を呼びに来る時間を過ぎていたが。
阿求がチラリと時計を見て、○○の小膝から降りてくれたものの数十秒程度で。
「お二方、お夕飯の準備が整いましたので……」
待っていましたとばかりに女中が呼びに来てくれた。つまりみられていたという事、そう考えて間違いは無い。
それに気付かされた時○○は、ヒュウっっと言う風に。苦笑では無くて、変な音を出しながら笑ってしまった。阿求は気にすることはないと言う風に背中を叩いてくれて。
そして女中は、いつも通りの表情と振る舞いでこちらを注視しないように努めてくれた。
よく訓練されている。これならば稗田家の奉公人が高給と言うのも、うなずける。
夕飯のお膳がいつもの、正面で相対する形では無くて。新婚ホヤホヤのように隣り合う席にされていたのには。
また再びヒュゥっと、今度はさっきよりも変な音大きくなってしまったが。女中も他の奉公人も相変わらずであった。




「阿求?」
夕飯前に――遊郭の匂いを消す為に――お風呂には入ったので。夕食後はのんびりしていた。
蓄音器でレコードでも聞いたり、読みかけの本を開いたり。そう言う、特筆すべきことはないけれどもだからこそ平穏と言える時間だったので。
「……阿求か?こんな時間に起きるのか?」
「あら、あなた。ごめんなさい起こしてしまって。お手洗いの方に行ってきます」
「阿求、俺の羽織りを被って行け。冷えるのは体に良くない」
もぞもぞと阿求が起き出したので、どうしても思い出してしまった忘八頭との会談があったが。
阿求の動きにやましそうな部分は無い。なので○○はすぐに阿求の体を心配する方に頭を動かして、枕元に置いてあった自分の部屋用の羽織りを掴んで渡した。
そこで阿求に対する心配とか、疑念と言うのは消えてくれた。少なくともその時は。
ただ、阿求の動きは結局。最後まで付き合ってくれる○○に対する、感謝からの動きでもあるのだ。
○○が知的好奇心を満たしたいと言う、ある種の性癖を満たしてくれるように動くのである。


980 : 日中うつろな男9 :2019/05/27(月) 14:32:28 IYYiZV7I
「……?」
翌朝○○は、部屋着の袖に付いた墨汁のシミに気付いた。
ほんの小さなシミではあったけれども、部屋着の柄が黒に対して相性が……この場合は良いと言うべきか悪いと言うべきか。
とにかく墨汁の黒がはっきりと確認できた。
「あら、どうしましたあなた?何か面白そうな……そう、知的好奇心が満たせそうな何かでも…………」
部屋着の袖に付いた墨汁のシミを見つめながら、どこで付いたかを。その可能性に考えをめぐらせていたら阿求が声を後ろからかけてきた。
出来れば考えたくなくて、意識的に阿求が関係している可能性は頭の隅に追いやっていたが。
とうの阿求の方から、掘り起こして○○の前に提示してくれた。
「フランドール・スカーレットに手紙を?」
「半分正解です。出した手紙は正確には二通ですけれども、文章量は一通と半分程度ですかね……もう一通はまじめに書く気がしなかったので」
あの男……○○の脳裏に忘八頭の。それも疲れたような表情が見えた。
やはり自分は、あの男にかなり同情心を抱いていた。せめて少しはゆっくりと休める時間を、与えてられても良いのではないか。


「厄介なのを見つけるだけではね……ツバを付けて飼い殺しにするつもりなのでしょうけれども。あの手合いは荒事が無ければ作りに行きますから。そうでなくても思慮に欠ける」
阿求は首を横に振って悪く笑った。
「この後どうするつもりだ?今度は何人死ぬ?」
「あはははは」
○○は聞き咎めるような態度を取りたかったのだが、上手くいかなかった。阿求の笑い声に反応できなかったのもそうだけれども。
「あなた、顔がほころんでいますわよ。何も起こらないはずが無いと言う、期待に満ちた目!動いた甲斐がありましたわ」
阿求がほころんでしまった○○の頬に笑いながら手を触れて、口づけも行った。
そこに奉公人の声が聞こえてきたが。声だけであった。イチャついているところを見ないようにと言う配慮だろう。
「九代目様。『あそこ』から『アレ』よりお手紙の返信が届きました」
抽象的な言い方だけれども、遊郭街。そこの忘八頭からの手紙以外の何だと言うのだ
「ありがとう、もう下がって良いわよ」
阿求は普段の手紙と違って、雑に封を切って中身を検める。
幸いにも阿求は、○○の横に立ってくれた。今回の手紙は一緒に見ても良いらしい。
そこには何名かの人名が書かれており、全て頭領の家で世話をしていた派手な連中だと阿求が言った。
そして手紙の末尾には、稗田家にこの者達は一任いたしますとの文字が。
しかしこの『一任』の二文字には、酷く残酷な意味が隠れているのは言うまでも無かった。
「残念ながら今日明日の話では無いのですよね……頭領さんは自分の財産をあの依頼人にすべて持って行ってほしいぐらいですから。あの遺言は有効活用しないと」
「一応、機会は与えますわよ?悔恨があればそれでよし……」
阿求は慈悲深く逃げ道も用意していたが。そもそも一番初めに慈悲を与えたあの頭領へ、まともな仕事を与えてくれたと言う意識も無いのでは。
これはもう、連中は詰んでいる。
「あなた、頭領さんの遺言状は、遅くとも明日までには私が手直しをして完成させますから。明日は遺言の執行見届け人役の為に午後は少し時間を下さいね」


981 : 日中うつろな男9 :2019/05/27(月) 14:35:09 IYYiZV7I
もう終わりかけの依頼だと言うのに、少しだけ楽しくなってきてしまった。
「おい」
だが慧音の旦那は、そんな事考えもしないだろうし。基本的に彼は平穏無事であれと願いながら生きているから。
退屈を紛らわしてくれる事件を望む○○とは、酷く相性が悪いはずなのに。
一線の向こう側と知りつつ、そう言う女性を娶ったと言う共通点が。旦那同士に連帯感を持たせてくれていて。
それが、仲よくは無くとも上手く付き合いたいと言う意識を作っていた。
「聞こえていないのか?お前、何をニヤ付いている?」
しかし遺言状の執行見届け人の役目を果たす為の道すがら、慧音の旦那が。自分の妻である慧音よりも、そして○○の妻である阿求も気にせずに。ツカツカとやってきて。
そして心中を喝破されてしまった。

「怒る気力も無いが、気になるから言え。この先何がある?」
「今日明日の話じゃない」
○○は阿求の言ったのと同じようにはぐらかしたが。
「それでも構わんと言っているんだ」
はぐらかせば、はぐらかすほど。慧音の旦那は追いかけてきて、先よりも強く噛み付く。
きっと言わないままであったら、このまま見届け人の役割が終わっても。稗田邸まで追いかけてきて聞き出してきそうなほどであったが。
この旦那が持つそう言う性格は、阿求の方も熟知しているので。阿求はニコニコと場にそぐわぬ顔をしながら。
「遺言状は私が大幅に手直しをしましたから。最後まで聞けば分かりますわ」
そう言うのみであった。
「何か罠を仕掛けたのか?」
九代目の完全記憶能力者自らの差配には、さすがにこの旦那もひるむが。聞かせろと言う部分は徹底していた。
○○と阿求の両方に目をやるが、阿求は笑うのみで。
○○はと言うと「実は全部は読んでいない」物凄く軽い発言でいなされてしまった。見届け人がこれで良いのかと言われても仕方ないであろう。
慧音の旦那は諦めて、妻である慧音の方に戻って行った。慧音はそれを優しく迎え、稗田夫妻に対しては。
「お手柔らかに頼むよ」
と言うのみであった。










「ひとつ」
頭領の居宅兼事務所にて、阿求の荘厳な声が響く。
見た目はあどけなさすら見えると言うのに。声の張りには、有無を言わせない重みが。
半端な人生では作れないはっきりとした威圧感すら存在していた。
「小さな金庫の中身は、頭領の私的な書類の処分方法も含まれているため。出納長を管理しているこの者がすべてを持っていく物とする」
「それ以外の財産および、家業における道具も含めた品々が収められている倉庫の中身は。猟に使う鉄砲など以外はすべて現金化して。出納長管理人以外で等分せよ」
「居宅兼事務所に関しては…………」
阿求はここで言葉を切ったが、その意味はすぐに分かった。依頼人の青年を見たからだ。
「私は出て行く。次の住処である部屋も確保したから、荷物……まぁほとんどが書物だがな。それを全て移動させてすぐに出て行くよ」
書物が殆どと言う部分に対して、依頼人の青年は確かな優越感と嫌味を。遊郭に利用されている派手な連中を見ながら言ってのけた。
はっきりとは言わなかったが、この依頼人は、派手な連中は読み書きの能力すら危ういと思っているのではないか。


982 : 日中うつろな男9 :2019/05/27(月) 14:38:21 IYYiZV7I
引っ越しに関しては実を言うと、○○も少しは手伝おうかなと考えていた時。頭領の、少しは残った書物はどうするのだろうと考えていたら。
『紅魔館から来ました』
とぶっきら棒に答えるメイドが、妖精を何匹も連れてやってきて。
阿求が遺言状の内容を朗読して確認させるのもお構いなしに、二回の頭領の部屋へ登って行き。
空が飛べるからと言うのもあるけれども、あっという間に全てを箱詰めしてしまい。
『失礼いたしました』
そう言い残して、何匹もの妖精の先頭に立って。飛び立ってしまった。
頭領の急な引退宣言、生きているはずなのに死んだかのように始まる身辺整理。
それ以前に、稗田家の屈強な男衆が朝一から自分たちを探し出して、頭領の居宅に連れて行かれ。
そして何よりも、『紅魔館』が頭領の持ち物を全部持って行ってしまった。
退治屋をうそぶいていると言うのに、オロオロとしていた。
そう言う時の覚悟も含めて、退治屋をやらねばならぬと言うのに。


依頼人の青年は柄にもなく、慣れないタバコを吸って何度か咳き込んでいるが。
そんな様子にも派手な連中は嘲笑すら漏らさずに、連中どうしで無駄な話し合いをするのみ。
(面白そうだ、聞いてやろうじゃないか)
慧音が自分の夫や稗田夫妻、依頼人に耳打ちしてきた。慧音も珍しく、悪い笑みを浮かべていた。


しかし話し合いの内容は、実に利己的であった。
結論から言うと、しばらくは金に困る事はなさそうだからまだマシと言うらしい。
やはりまともな仕事を与えてくれた頭領を、疎んじていたようだ。
これには依頼人も、吸おうとしたタバコをしまって。無駄に咳き込まないように努力したくらいであった。
「あの……」
派手な連中の中から、まだまとめ役らしき人間がおずおずと声を出した。
「この建物はどうなりますか?」
そう言いながら、依頼人の方に目を向けた。この依頼人が一番真面目で、付き合いも長く、金銭の管理もさせているから。
彼が受け継いだら住処はどうなるのだろうと考えたのだろう。

阿求が小さくため息をついたのが、○○の目には見えていた。
「長年出納帳を管理していた彼が受け継ぐのであれば彼が……そうでなければ」
「いらんよ、俺は……」
必要ないと言う態度に、連中が明らかに喜んでいた。腹の底すら隠せないようでは、阿求に一任されずとも蠱毒の遊郭で長生きは出来ないだろう。
「でしたら、皆さんで相談の下。受け継ぐ人間を決めるようにと書かれています」
書かれていますではなくて、阿求がそう書いたの間違いのような気は○○もしたが。
依頼人に限りなく有利に運ぶように出来上がっているので、文句は言わない。


「最後に……遺産の相続者たちが3年以内に死去した場合。残りの相続者たちによって現金や財産は等分とすること」
阿求が遺言状の最後の部分を読み上げた時。
慧音は歯を食いしばって笑わないようにして、その旦那は稗田夫妻の特に○○をにらんで。
依頼人の青年は優しくて。哀れみを持った目を、この場で初めて見せた。

続きます
次で最後になります

>>975
なんでどいつもこいつも、ケンカを売る人間を間違えてしまうのか
まぁ、金持ってる相手に悪党は
こいつならいけると考えちゃった瞬間から、うずうずして動いちゃうんだろうな
そこで動かずに相手の背後を知るところからやれば大悪党なんだろうけれども


983 : ○○ :2019/06/01(土) 13:39:25 3qB0T4c.
問題なければ、深夜にでも新しいスレを立てるけれど
1の部分は前スレのURLをここに変えるだけで良い?


984 : ○○ :2019/06/01(土) 23:19:20 HcuDEEWM
好きでたまらない人の為の23個目のスレ
となってしまっていたので、そこ位でしょうか。
何か他にネタがありましたら追加して頂けましたら…


985 : ○○ :2019/06/03(月) 20:28:17 cU0GO4o2
新スレだよー
25個めのスレだよー
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/22651/1559561112/l30


986 : ○○ :2019/06/03(月) 23:52:57 VL.D8uJU
>>985
乙です!


987 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 16:53:01 lIjAny0.
>>982の続きとなります。新スレがあるから、気兼ねなく投稿できる

「はぁ……」
依頼人の青年は、わざとらしく首を横に振りながらため息をついて立ち上がり。小さい方の金庫の持ち手を掴んだ。
頭領から、中身にある私的な書類等の処理を任されたと言う形ではあるけれど。稗田夫妻も上白沢夫妻も分かっている、それが方便である事ぐらい。
確かに、全部が全部うそでは無いかもしれない。頭領も外での取引や何かを借りているぐらいはしているはずだから。
それを処理しきった後に残った物を、長年出納帳を管理してくれたこの依頼人の青年が持って行っても良いと言うのも理解できる。
問題はいくら残るかだ。
こういう場合、少ない事を気にする人間が多いけれども。両夫妻にとっては、この依頼人がいくら持って行けるかの方が重要な関心事項である。


小さな金庫は持ち手が付いているほどの小ささ、そして基本が私的な書類だと頭領が事前に上手く仕組んでいるからという事もあるけれど。
依頼人の青年は得に苦労や力も入れずに持ち上げる事が出来た。
依頼人が持って行った小さな手提げ金庫の中身が。そう詰まっていない事に。遊郭通いが好きな派手な連中は、見るからにホッとしていた。
この一等地に立っている住居兼事務所から出て行くという事もあり、実験は俺たちの物。わが世の春だとでも考えていそうな顔であった。
猟に必要な猟銃などは現金化せずに置いておけと言う遺言はあるけれども、大きな金庫に残されていた紙幣や少しは高値で売れそうな貴金属に沸き立つ連中を見ていると。
ほとぼりが冷めたら売り払いそうだなと言う疑念は出てくるが……依頼人からすればこいつらがどうなろうと、もはやどうでも良いのであろう。
脇目すら見ようとしない、この時点でもうこいつらと依頼人の間に存在していた関係性は消えたも同然だ。
持っと言えば、頭領と共に過ごしたこの住居も。依頼人の中では何かの災害で消えてなくなったぐらいには考えていそうだ。
「ああ、ちょっと良いか?」
いそいそと、立ち去ると言うよりは逃げようとしている風に見えた依頼人を慧音の旦那が見かねて声をかけた。
「ここ以外でなら」
少し立ち止まってくれたが、見た先にある物を見てすぐに、青年はすぐに嫌な感情から遠ざかりたくて外に出て行った。
「うん、そうだな。まぁ食事でもしながら話そう。近くに喫茶店あるかな……?」
慧音の旦那もこの場にいる事を、感情が拒否していた。


988 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 16:54:01 lIjAny0.
「うん、そうだな。まぁ食事でもしながら話そう。近くに喫茶店あるかな……?」
慧音の旦那もこの場にいる事を、感情が拒否していた。

稗田夫妻は、○○はどうするかなと思って目配せしてくるか?と言外に聞いてみたが。
「少し頼む」
○○はそう言って、阿求の手を引き。たおやかに付き添いながら外に出て行った。
しかし自宅に帰ったとは、思えなかった。
どちらかと言えば、始末する用事が、そう言った物の存在を若干どころでは無くて感じさせるような動きや態度であった。
少しばかりため息が漏れるが、派手な連中を見ていると……自業自得だと言う冷たい感情も出てくる。
どちら共に間違った感情では無いのが、ことさらこの話を厄介にしている。
「どうしました?」
依頼人の青年は、立ち去って行く稗田夫妻に対して――派手な連中とは違い礼儀がある態度で――頭を下げていたら。
慧音の旦那がまごついているのを見て、何をしているんだ早くいきましょうよ、と言った具合に声をかけてきた。
「阿求に任せればいいさ」
だが慧音の態度は軽かった。
何かがまだ裏にあると、そう確信せざるを得ない事の成り行きに頭痛とまでは行かなくとも重たい物を感じていたが。
妻である慧音はもう、終わったと認識しているようであった。
確かにその結論も……間違ってはいない。あんな派手な連中ごときが稗田に抵抗できるとは思えない。
そもそも周りの人間には何が起こったか分からないうちに、全てを終わらせることだってできるであろう。
「昼には早いが、何だか腹が減ったよ」
多分慧音のこの軽い態度は、わざとだ。旦那である自分に、そうそう頭を悩ませるようなことはもうないさと、そう言いたいのだろう。
無論、言いたい事はある。1つや2つでは無い、けれどもだ。
「まぁ、そうだな……小腹は空いているな」
多すぎて、こういう中途半端な返事しか出すことが出来なかった。そして往々にして中途半端な態度と言うのは、すでに決意や結論を固めている人物に対する追認になってしまう。
(あーあ……)
立ち去る際に、頭領が使っていた一番広い部屋で。大きな金庫の中身に詰まっていた現金類を、下卑た様子で山分けしている連中をもう一度見たが。
突き放すような感情しか出てこなかった。




「……」
依頼人の事が心配で上白沢夫妻は、近場にある食事処に誘ったが。
建設的な会話が出来る雰囲気では無いし、またその為の材料も見当たらない。
この場にいる者達は、上白沢夫妻にせよ依頼人の青年にせよ品があるから。ただただ黙々と。
注文をした後は、品物が届くのを待ちながら水を飲むぐらいであった。
依頼人は持ってきた手提げ金庫の中身をさっそく検めていたが。遺産が手に入った事による、喜びの感情とは程遠い沈痛な表情であった。
頭領が遺言状に書いた通り、私的な書類が。と言うよりは、書類ばかりであった。
けれども文書仕事が主な業務であるこの依頼人にとっては、何十枚かの紙幣よりもよほど重要な意味を、こういった文章の方が持つことをよく知っている。
依頼人の表情が、徐々に驚愕の色に塗れて行った
「え……な、ああ?」
ガタガタと震えだしても来たが、文章の内容を確認する事はやめなかった。と言うよりはそれを選択肢に加えてすらいなかった。
そうかと思えば、手提げ金庫の底の方に入っていた鍵を手に取り。明らかに生唾を飲み込むようなしぐさを見せた。


989 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 16:54:48 lIjAny0.
さすがにそろそろ、心配になってきた慧音が声をかけてくれた。
「頭領は君に何を残したんだ?」
依頼人は少し頭を振って考えていたが、上手い表現が思いつかなかったのだろう。
「一切合財ですよ。あの大きな金庫に入っていたのは見せ金だ……俺も知らなかった、頭領がこんなに色々なところに投資をしていたなんて」
依頼人の青年はおずおずと、何枚かの文書を見せてくれた。
その内容には、上白沢夫妻ですら驚嘆の表情を作り出すことになった。
その文書には、頭領は誰でも知っているような名店の出資者として名前を連ねていて。この証明書を持っていれば、年にいくらもの収入が約束されていると言う塩梅の文章であった。
それだけではなく、人里で一番大きい貸倉庫。当然だが一番お置きだけあって、警備も厳重な区画が存在するのだが。
頭領はその一角を借り上げており、間違いなくあの大きな金庫に入っている金などは眼では無い量の蓄財が詳細に書かれていた。
無論、先ほど依頼人が震える手でつかんでみていたあの鍵は。その蓄財を保管している場所の鍵である。

「どうしよう……こんな金額、管理した事なんて無いぞ」
依頼人は突然、豪商並みの金額の管理人として頭領から指名されたも同然である。
そして依頼人の性格と、頭領との仲を考えれば。どれだけの金額を貰おうとも、喜ぶよりも責任感が前に立ってしまって慌てふためく。
けれども一つだけ言えることがあった。
「だからこそ頭領は、君に一切合財の財産を任せたんだ。慣れていないから上手く活用できない事はあるだろうけれども……不義理な使い方はしないと確信しているんだ」
慧音はそう言って依頼人を励ました、金額の大きさに慧音の旦那は中々思考が追い付いてこないけれども。
復活した思考で考える事は、やはり慧音と同じような感想であった。

「慧音は知っていたのか?あの頭領が案外手広く、確実な儲けや誠実な商人には出資していたと」
「知っていた」
慧音はあっけらかんと答えた。けれどもそこには苦笑も見えていた。
「しかしここまでの金額とはな……あの頭領が必死になって遺言状を作るはずだ。あんな派手な連中に渡したら、すぐに使い潰す」
依頼人から渡された、頭領の隠れた家業を示す書類を見ながら。慧音にしては珍しく、嘆息の息を漏らしていた。
予想をはるかに超えていたのであろう。
ふと依頼人を見たら、まだ金額の大きさと。それを管理しなければならないと言う、二重の重さから精神が復活しきっておらず。
「おい、それしょうゆだぞ!?」
水差しと間違えてしょうゆ差しを手に取り、湯飲みに水を入れるかの如くダバダバと注いで。
なお酷い事に、飲もうとまでしていた。
「うわぁ!?」
依頼人もさすがに味で気づいたが、ゴトンと落してしまう始末。
机の上は、中々ひどい事態に陥ってしまった。


990 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 16:55:30 lIjAny0.
その後しばらく、店員に平謝りしながら布巾などを借りて机の上を掃除していたら。
あらかた綺麗になって一息ついたところに「おくつろぎ中、横から失礼いたします。九代目様よりお手紙を預かっています」
と言いながら、屈強そうであるけれども立ち振る舞いも身なりも上品な男性が声をかけてきた。
自己紹介されずとも一目見て分かる、人里でここまで訓練された屈強で品のある者と言えば。稗田の家中で働くものだ。
「中身の程は、私も知りませぬ。ただ私はお手紙を届けるようにと申し付けられただけです」
恭しく渡された封筒は、蜜蝋で封印がなされており。稗田の家紋がハンコで押されてもいた。
これが偽造ならば大した物である、犯人が余りにも頭が悪いと言う意味で。稗田を騙るなど、命がいらないにしても酷いやり方だ。

故に上白沢夫妻も依頼人の青年も、すぐに信じた。
「これを阿求に持って行け。確かに受け取った」
慧音が懐から、何かの札を配達人である男に手渡した。
夫であるこの旦那も何度か見たことがある、稗田家との内々の意見のやり取りの際。確かに手紙や書類を受け取った事を示す、証明用の木札だ。
残念ながら、これがどこで作られているかは夫の彼でも知らない。木札に書かれている事も、良く見えないからそれも知らない。
「はい、ありがとうございます」
男は木札を受け取ると。丁寧にお辞儀をして立ち去った。


「……ああ、この手紙は頭領から君にあてたものだ。阿求が一時預かってくれていたんだな」
慧音は手紙の封を破ると中身を読もうとしたが、あて名ですぐにどういう状況かを察して。一行も読まずに依頼人の青年に手渡した。
「……ああ、酷い。気付けなかった自分に対しても腹が立つ」
しばらく読み進めていたが、後の方になるにつれて依頼人は酷いと言う感情を隠さなくなった。
「どう酷いんだ?何、君に明白な責任は無いと信じているよ」
慧音が優しく言い含みながら、何があったかを問うた。依頼人の青年は自らを恥じるような気持ちで、唇を結んでいたが。
慧音程の守護者を相手に、そう長々と黙っていようとは彼も思わなかったから。少しずつ喋ってくれた。
「あいつら、遊郭に通いたいが為に二重伝票を作っていたんだ。頭領は、不意にそれに気付いたけれども。私は出納長の管理と猟銃の管理や人里の外での調査が重なるから。あいつら、私をダシにして横領していたんだ!!」
「なるほど、十分だ。食事が不味くなる」
依頼人は手紙を慧音に渡そうとしたが、依頼人の言葉を疑う必要が無いためもうこれで十分だとしか言わなかった。
「なるほど」
しかし無言もきまずく、慧音の旦那が会話を引き取ったが。
差して多くの言葉は必要なかった。
「まぁ、稗田夫妻が良きに計らってくれるさ。何も考えていないとは思えん」
結局、あとは稗田夫妻。特に阿求の考えに乗っかるのが、一番の方法なのだ。




それから何日か後。
寺子屋にめずらしい客が現れた。
東風谷早苗である。
「これは、東風谷さん」
また何かあるのかと警戒した旦那は、少しばかり慇懃に対応したが。
「これ、まるで囲ったところを読んでください。それじゃ、私はこれで」
文々。新聞を旦那に投げ渡すだけで、不機嫌さを全く隠さずに立ち去ってしまった。
残念な話だけれども、東風谷早苗がそうそう理不尽な苛立ちや怒りを募らせることはない。
それに良くも悪くも二人きりの世界を大事にしている稗田夫妻よりもずっと、まともな感覚が残っている。
だから東風谷早苗は、本当に悪い報告を持ってきてくれてしまったのだ。

だがここまで来て何も確認しないのは、折角話を持ってきてくれた東風谷早苗に対する不義理につながる。
意を決して、旦那は天狗の新聞を広げた。
性格なのかどうかは分からないが、相変わらず射命丸の文章は扇情的で。
事実は述べられているのだろうけれども、無意味に感情が刺激される。


991 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 16:56:15 lIjAny0.
奇妙な死体!性質の悪い低級妖怪か、もしくは謎の宗教的儀式か!?
昨日の夕刻頃、遊郭街にて居を持ち。退治や猟などを生業とする一団の内何名かが、腹部等の部分を破裂させた状態の死体で発見された。
写真を掲載して描写をしてしまうと余りにも無残で残酷な場面となるので、簡潔な図画と文章のみの攻勢になる事を許していただきたい。
退治および猟師の一団は、何らかの依頼(イノシシなどの狩っていたのか、それとも退治の仕事かは不明)で人里の外へ。
天狗などが管理をしている妖怪の山とも違う方向へ向かった事が確認されている。
その後、一団の内の生き残りが血相を変えながら、拠点としている遊郭へととんぼ返りを果たしたが。
帰ってきたものは皆が皆、ろくに口をきけず。ただ聞き取れたことと言えば、破裂しただとか、叫び声が聞こえたと思ったら血が降ってきた。
等と、にわかには信じられない話ばかり。
やや話はそれるが、この者達は遊興にふけりすぎており。何か悪い薬をやっていたのではないかとも怪しまれたが。
一団の内の一名が、急に吐血をもよおした姿には。これは、全くのデタラメではなさそうだと周りの物が信じるしかなく。
更に屈強な物たちが徒党を成して、連中が異変を感じたと言う場所まで連れて行った際。
詳細な立ち位置は図画を参考にしてもらいたいが、腹部が破裂したように見える者は既に絶命しており。
両足が無くなっている者も、呼吸こそあるが時間の問題である事は言うに及ばず。
最も猟奇的だったのは、両手両足が無くなった状態で虚空を見つめながら絶命している死体であろう。

しかもそれらが、散り散りになっているのであれば何かに襲われたとも考えられるが。
この三名の哀れな被害者たちは、人の往来のある場所で木の根もとに建てかけられるようにして放置されていたのである。
つまり下手人は、これらを発見されることを望んでいたと言う結論を下さざるを得なかった。
しかしながらこれだけ派手な事件ではある物の、現場が妖怪の山とは別方向という事もあり。人や妖怪に限らず、目がどうしても届かない場所であるのだ。

今回の事件を受けて我が文々。新聞は、人里の守護者上白沢慧音に取材を試みようとしたが。
上白沢女史からは『天狗や河童などで比較的管理のされている妖怪の山方面以外での狩りを慎むように。山姥、坂田ネムノから肉類の貿易も続いているので。食料の心配は無い」
との言葉を貰うのみで、事件に対しての私見や捜査状況などは一切答えてはくれなかったが。
上白沢女史の言う通り、しばらくの間における猟場は、妖怪の山周辺に限った方が良いのは。我が新聞社としても同じ判断である。



旦那は一通り読んだ後、寺子屋の奥にいる妻である慧音の方に向かった。
「これ、知ってたの?何が起こるかって」
「いや、思ったより早いと思ったが。あと、こんなに派手にやるとは思わなかった」
そう言われるのみで、つまりはあの件はもう稗田阿求に全部任せていて。自分は事後報告を聞くのみにまで手を引いていたという事だ。
「ちょっと散歩してくる」
旦那はそう言ったが、行先は決まっている。稗田邸である、○○から何か聞こうと言う魂胆だ。とは言え、旦那の方もあまり期待はしていない。
だから散歩半分の気持ちでしかないのだ。
「何か買ってきてほしい物ある?」
「食器洗剤を買ってきてくれ」
もう半分も、ついでに日用品の購入をしておこう程度の物。この旦那にしたって、気にはなっているがこれ以上首を突っ込む気は毛頭ないのである。


992 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 16:59:15 lIjAny0.
「よう、○○」
「ああ、そろそろ来ると思ってたんだ」
稗田とは、○○とは上手く付き合わせてもらっているので。さすがに正門からの入場は遠慮するが、裏門からなら日中は事由に出入りできる。
何の障害も無く○○の居室までたどり着いた旦那であるけれども、彼の登場を予想していたかのような○○の動きには。
机の上に2人分のお茶と、流行の店――その店は頭領が出資者の1人だ――の豆大福が用意されているのには。
口角の端っこが吊り上り、面白くないなと言う感情を抱いてしまった
「どこまで知っている?全部教えてほしいな」
しかしお互い、一線の向こう側にいる女性を嫁にしたと言う仲間意識があるから。
この程度の先回りでは、面白くは無いけれども気分を害するとまでは行かない。
「そうは言ってもね。俺も今日の新聞で初めて知ったんだ、存外阿求が苛烈だなってことぐらいしかわからない」
「そうだな、確かに……しかし遊郭街を拠点にしていたのは偶然か?」
どうやら○○も阿求からの事後報告を待っていたようで、知っている内容は自分と大差ないようであった。
諦めて新聞にもう一度目を通したら、遊郭の二文字には注目せざるを得ない。
「いや、必然だよ。忘八達のお頭と反目する、商いの拡大を目論む勢力が兵隊を集めようとしていて……そのうちの一部なんだ、連中は」
「かわいそうに」
旦那が目を付けたとおり、あの派手な連中は遊郭に食い込もうとしていたが。目を付けられた存在が、相手が悪すぎた。
しかし二重伝票を作って、あの誠実な依頼人から何年も横領を企てていた連中が被害者では。
何となくやり過ぎだよと言う気分も、無いことは無いが。因果応報、自業自得と言う感情の方が前に立ってしまう。
なのでかわいそうの一言だけしか、浮かんでこなかった。慧音や阿求からすれば、それですら甘い対応かもしれないけれども。


993 : 日中うつろな男10 :2019/06/04(火) 17:00:31 lIjAny0.
「遊郭はデカくなったら駄目なんだ……一線の向こう側にいる女性たちは、俺たちに変心させる可能性がある場所を許しているだけでも大きな譲歩なんだ」
○○もやや事務的に話し出した。
「退治屋を自認しているくせに、一線の向こう側がどれほど危険かも分からなかった連中。早晩、狩りに失敗して落命してるよ。そうでなくても何かの罪で投獄だ」
事務的で、冷たい判断と口調であるが。それぐらいの冷たさを持っていないと、今度は自分が危なくなりかねない。
それをよく分かっているこの慧音の旦那も。
「そうだな」
○○の判断を全肯定した。
「まぁ、お茶とお菓子。有り難く頂こうか」
旦那は黙って、用意してくれたお茶たちを楽しみ始めた。

「あなた」
上等なお茶と、○○が好物だと言っている甘い豆大福を食べていると。稗田阿求が夫である○○に声をかけた。
彼女もそろそろ、慧音の旦那が様子を聞きに来ると分かっていたからか。姿を見ても、笑顔で会釈するのみで驚かなかった。
「フランドール・スカーレットさんが来たのだけれども、お話聞きますか?」
稗田阿求の横には、赤い衣服が。それ以上に羽が、その羽からぶら下がる宝石のような装飾が特徴的な女性がいた。
フランドール・スカーレット。頭領が魅入ってしまい、幸いなことに彼女も頭領をいい先生ぐらいに思っているから。
これが中々……良い関係なのは皮肉的だ。
ただ今はそれよりも、フランドールが何の理由も無しに稗田邸に来るとは思えなくて。
そう、それで。どうしても新聞記事を思い出してしまった。

「ああ、その記事の犯人。分かってると思うけれども、私だから」
だが、旦那が聞く前にフランドールは自供してくれた。
最も、捜査機関に伝えることは無いのだけれども。稗田邸にいる、誰もが同じ判断を下す。

「頭領さんのお金を、横取りしてたんでしょ!?折角色々と、教えてくれてたのに!!」
「私、頭領さんから色々聞いたよ!あの人が周りを良くしようとしていたのに、そいつらは邪魔ばかり!頭領さんと親しい人にも迷惑かけて!」
「その頭領さんの傍で一番働いてくれた人、取られていることに気づかなくて。なのにお金が思ったより無くて苦労してる横で!遊郭なんかで『ふけってた』んでしょう!?ざまぁみろよ!!」
「キュっとしてドカーンよ!残った連中も、何か遊郭の変な連中に脅しをかけるために遅くしてやってるけれども、全員ドカーンとしてやる!!」
「頭領さんは優しすぎるの!私みたいなのがいれば、ちょうどよくなるわ!!」
フランドールの叫び声は、下手に会話をするよりも多くの事を教えてくれた。
○○は苦笑しながら、仕事に使う帳面を少し確認したりする程度で。
慧音の旦那の方は、珍しく妙に笑っていた。ここまで突き抜けると、皮肉気な感情も出なくなる。
「……まぁ、フランドールさん。とりあえず今後をどうしましょうか?そのお話をしないと。ああ、○○も旦那さんもご一緒したければどうぞ」
阿求は慧音の旦那にも優しくしてくれたが。十分であった。
「大丈夫、もうよく分かったよ。ああ、○○。豆大福有難う。それじゃ、慧音が待ってるから……食器洗剤を買って帰る事にするよ」

日中うつろな男 了
同じ世界観で、またしばらくしたら投稿いたします
そういえばここって、最大何行までかけるのだろうか……本文が長すぎると何度も言われる


994 : ○○ :2019/06/04(火) 17:15:20 PCc8N2c6
行数の時は改行が多いだったような気がします
本文は文字数が多いもしくは一行の上限数みたいなのだったような
上限行数いってなくてもでも文字が多いとひっかかるし逆も然りだった、ような…
定かじゃないですけど…
上限行は100行ぐらいだったような


995 : ○○ :2019/06/04(火) 18:40:51 NZwvao3c
>>995
ちょっと気になる事が……フランは大きくなったのか?
描写からして、幼女という印象がしなかったのだが……ヤーンな事で急成長したのか?

下手するとレミリアが悲惨な事になりそうだが(かりちゅま的に


996 : ○○ :2019/06/07(金) 00:00:07 NqSjo94Q
「あなたは好きなのでしょう?こういうの。」
「違う。僕が君の物だなんて、そんなの認められない。」
僕の否定する言葉にも彼女は動じない。心を読めるというためなのか、彼女はいつだって僕の事を知り尽くしているかのように振る舞っている。
たゆたうように、揺らめくように、彼女の言葉が宙に舞う。
「嘘…。本当は心の奥ではそう思っている。」
心を抉り取るようなゾクリとする感覚は、僕の首筋にかけられた吐息のせいだけではないのだろう。
「本当…?」
ねっとりとまとわりつく声。彼女の細い指が僕の顔を撫で、自分の心臓が今動き出したかのように大きく鼓動をたてた。
「君が僕の物だ。」
「ふうん…。」
横に座る彼女の体重が僕の方に掛かり、彼女の唇が合わさって舌がうごめくと、僕の体の血液も合わせるように踊り出す。
「君は一生僕だけの物。他の男には渡さない。」
「嬉しい。」
彼女が蕩けるような笑顔を見せる。彼女の毒にも似た感情によって僕の理性が溶けていく。
「でも、本当は怖いのでしょう?私があなたを捨てないかって。」
ドキリと心が揺れる。心の奥に潜む本音が彼女によって暴き出されていく。呼吸が速くなり心臓が強く打ち鳴らされる。彼女が僕の首筋を撫で
ると何かがそこに差し込まれる感覚がした。
「奪われる恐怖があるから相手を支配しようとする。だから…ずっと繋がっていればいい。」
僕の口から荒い息が漏れる。視界が熱を帯びたように歪み、グルグルと回転する。揺らぐ視覚を繋ぎ止めるかのように、両腕で抱きしめている
彼女の感覚を強くした。
「あなたを溶かしましょう。全てを溶かして私と一つに。」
薄れゆく意識の中で彼女の声だけが聞こえていた。


997 : ○○ :2019/06/07(金) 00:04:40 NqSjo94Q
>>993
完結お疲れ様でした。手探りで進んでいく道中から一変しての急転直下の解決が鮮やかでした。
文章から漂う雰囲気が幻想郷に良く似合っていると思いました。乙でした。


998 : ○○ :2019/06/10(月) 10:30:41 Jr9LRjqc
 輝夜に命じられてから暫く経ったある日の夜、○○は永琳の自室にいた。永遠亭で医者として働いている永琳はいつも口数が少なく冷静沈着という文
字を纏っているようであったが、それは寝床であっても同じだった。これが、普段周囲の目がある場所では才媛の女性が、親しい人しかいない私生活で
は気の抜けた所を見せるというような、全く違った面を○○に見せているというのであれば、輝夜に言われたように他人行儀が無くなるものであろうが、
これではいくら共に寝たといえども○○にしてみれば、お互いの距離が近づいた気がしておらず未だに彼女に対しては気後れする部分があった。
 ○○の隣で眠ろうとしている永琳。普通の恋人同士であるならば甘い会話でも交わしている最中であろうが、それすらないとあっては彼女が本当に自
分を好いているかが疑わしく思えてきた。気だるさと眠気が混じった空気の中で○○が尋ねる。
「八意さん。」
「…永琳と呼んで。」
「永琳さん。」
「さんは要らないと言ったでしょう?」
「永琳。」
「何?手早く言ってね。早く寝ないとあなた、朝起きれないでしょう?」
「こんな事本当はしたくないんだったら、俺から姫様に言いましょうか。いや、していてこういう事言うのもあれだけれどさ…。何だか永琳が本当は嫌
じゃないかって思って。」
タップリ数秒間程、時間が止まった。見る間に端正な顔が歪んでいく。驚きか或いは嫌悪か。願わくば前者であって欲しいと○○は願った。
「……あなた、馬鹿かしら。いいえ馬鹿ね。きっとどうしようもない程なのね。」
「…すみません。」
「ここまでさせてるのにそんなこと言うの。有り得ない事考えてる暇があったら、さっさと寝なさい。」
○○は背中を向けた永琳に返す言葉が無かった。

 次の日○○は一日掛かりで薬局の倉庫を掃除するように永琳に言われた。普段○○は永琳の側で、彼女が患者を診察するのを横で見ている。これが優
曇華ならば助手として育成しているのであるが○○は殆ど何もしていなかった。患者に包帯を巻いたり消毒をするといった簡単な処置ならば、看護師の
因幡が大抵はやってしまう。結局のところ○○に出来ることは、電子化されたカルテを呼び出すか休憩時間にお茶を出す程度であった。それが今日は、
日が暮れるまで永遠亭の奥まった倉庫にいるように永琳から言われていた。まるで外の世界で行われていたリストラ対象者のような扱いに不安になる○○
であったが、それでも湧き上がってくる雑念を振り払いつつ掃除をしていた。しかも何故だか○○の隣には常に鈴仙とてゐが両方ともいた。これがどちら
か一方と、普段このような雑用をしている因幡の組み合わせであれば、優曇華かてゐが適当に因幡を言いくるめて手を抜いていたのだろうが、それすら
も出来ずに三人は黙々と掃除をこなしていた。
 夕方になり東の空に月が昇り始めた頃、輝夜から自室に呼ばれていた○○は部屋に向かっていた。一日中働いていたため疲れており、食事もまだであっ
たため酷く空腹であった。この時間に輝夜の部屋に呼ばれた場合、いつもならば輝夜の夕食に相伴できるため○○はそれを楽しみに歩みを進めていた。
しかし部屋に入ると○○の予想に反して皿は無く、それどころか普段は色々置いている輝夜の私物が、他の部屋に移したのだろうかすっかりと無くなって
いた。輝夜に促されて座る○○。自分の前の座布団に座らせた○○に輝夜が問いかけた。


999 : ○○ :2019/06/10(月) 10:31:17 Jr9LRjqc
「永琳と上手くいっていないの?」
「いえ、そういう訳ではないのですが…。」
「そう。永琳はそう思っていないみたいよ。」
輝夜が○○と永琳との仲を切り出した。輝夜自身が勧めただけに気にするのはある意味当然だと○○は思う。いっそこの場で言ってしまうべきか、○○
は考える。いつもならば気後れして到底言えないことであったが、疲労と空腹で短慮となっていた○○は自分の考えをそのまま輝夜に言った。
「そうですか…。姫様、永琳さんはきっと自分と夜を過ごすのが嫌なんじゃないでしょうか。姫様が言われたので反対することも心苦しくて、きっと無
理をして私に付き合っているんだと思います。」
「あら、それはないわ。」
断言をする輝夜。打てば響くといった具合に、或いは快刀乱麻といった様で。それは自信というレベルの話では無い、もはや自明の事を、科学者が理論
方程式を生徒に教えるが如く答える。地球の周りを太陽が回っているのではなく、太陽の周りを地球が回っているのだと。
「だって永琳が自分から、あなたと寝たいと言い出したんだもの。」
「えっ…。そんな、信じられません。」
「まあ永琳が無愛想なのは昔からだしね。丁度使者を騙し討ちにしてからだから…ざっと千年ちょっと前かしら。それ以来ずっとああだから、あれでも
あなたに好意を持っているのよ。信じられないかもしれないけれど。大体女として二番目に大事なことをしてあげているというのに、それでも不満なの?」
「いえ!そんなことは…。」
○○の心の内を読み取ったかのように輝夜は言う。
「顔に出ているわ○○。男の人はやっぱり気になるわよね。因みに一番目は…。」
輝夜が○○の耳元に口を寄せ小声で言った。○○の手をとり自分の腰に誘い導く。輝夜の焚く香の匂いと艶やかな絹の感触に○○の喉が大きく動いた。
「ねえ、そうしたい?永琳と私を二人ともそうさせたい?」
「はい…。」
「蓬莱人になっても?」
「姫様のお気に召すままに…。」
「ふふっ。」
輝夜が小さく笑う。千年前に貴族を惑わせた美しさは満月の今宵も人を狂わせる。月にも似た、静かなる熱狂。輝夜が向こう側に声を掛けた。
「永琳、薬を出して。」
途端に襖が開き、横の部屋に控えていた永琳が静々と入ってきた。二人の遣り取りを子細に聞きつつ、それでも今まで物音一つ立てずに隣の部屋に隠れ
ていたのだろうか。天才にとってそれは朝飯前という程度のものなのだろう-生憎、夕食前であったが。
「これを飲んで。○○。」
永琳が出した茶碗には、抹茶のような濃い緑色の茶が点てられていた。
「これは-。」
言い淀む○○。これが何であるかは容易に予想できたが、それを言ってしまえば何かが終わる気がした。今の環境を崩すとてつもなく重要な何かが。
「蓬莱の薬を改良したものよ。」
永琳が○○に言う。もはや賽は投げられた。引き返す選択肢はそこには無かった。


1000 : ○○ :2019/06/10(月) 11:37:36 Jr9LRjqc
埋めネタヤンデレジョーク

「○○、良いニュースととっても悪いニュースの二つがあるんだ。」
「悪い方から聞こうか。」
「さっき風見幽香が死んだそうだ。」
「それで、悪い方は一体何なんだい?」


Q. ○○がストーカーをしていた咲夜を許したのは何故?
A. 見つけた時にナイフを持っていたから。


映姫「よく外来人を監禁できますね。」
文 「鈍いから簡単ですよ。」


阿求「私はイエスマンは嫌いです。周りにそんな人全然居ません。え、夫ですか?あの人は私がノーと言ったら必ずノーと言ってくれますよ。」


少年「慧音先生来て下さい!聖様と神子様がケンカしているんです!」
慧音「どっちが君のお母さんかな?」
少年「どっちがなるかで争っているんです。」


幽々子「先生、夫がノイローゼなのでどこかで療養しようと思うのですが、どこが良いでしょうか?」
医者「どこでも大丈夫ですよ。冥界以外ならば。」


Q.あなたが幻想郷で夜道を歩いていると、人相の悪い男、あなたを付け狙うヤンデレ、野良妖怪の三人が現れた。ピストルに入った弾は二発しかないがどうする?

A.ヤンデレに向けて二発撃ち確実にトドメを刺す。


Q.妹紅が居たら?

A.自分に向けて銃を撃つ。


橙「藍さま、天使さまってお空を飛べるんですよね。」
藍「そうだよ橙。どうしたんだい?」
橙「さっき○○さんが、あの女の人に、「君は天使みたいだ。」って言っていたんです。あの人はいつお空を飛ぶんですか?」
藍「今晩だよ。」


■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■