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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

97 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:06:03 ID:jVmYTyVs

( ・∀・)「もう僕らは最後の種目か……」

楽しい時間ほど早く流れる、というのはどうやら本当らしい。
いまだに和らぐ気配のない日射しは、残り少ない体力を容赦なく奪っていく。
それでも、疲れたと口に出す人間はひとりもいない。

o川*゚ー゚)o「リレーまで、長かった。あまりにも、長すぎた」

隣で太陽にも負けないほど目を輝かせるキュートは、その代表格だ。
どこかで聞いたような台詞を呟きながら、入場の合図を待っている。
その横顔を見つめていると、キュートもこちらを向いた。

o川*゚д゚)o「勝とうね! ぜっっっったい勝とうね!」

現在僕らのクラスは学年二位。一位との差も、三位との差もわずかだ。
つまり、優勝はこのリレーの結果次第で決まる。
神様はなんてドラマチックな舞台を用意してくれたのだろう。

( -∀-)「……ああ、勝とう。絶対に」

ここまで来たら勝敗を分けるものは、ただひとつ。
熱くなれるだけ熱くなれた方が勝つ、というやつだ。

先生が生徒たちに、起立するように指示を送った。

『それではプログラム24、「全員リレー」の選手の入場です』

アナウンスの声に背中を押され、手作りの入場ゲートをくぐる。

98 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:09:24 ID:jVmYTyVs

校庭の中央で、偶数組と奇数組に列は分かれていく。
四十番目、つまりアンカーのキュートと、三番目を走る僕は別々になった。
中途半端に足の速いやつの宿命で、僕は二十六番目も走ることになっている。

o川*゚ー゚)o「キューちゃんの見せ場のために最下位でよろしく!」

(;・∀・)「それがさっきまで絶対勝とう、って言ってた味方に言う台詞か!?」

親指をグッと立てながらキュートは反対側へと歩いていった。
彼女の言うことを聞く気はない。絶対に上位でバトンを繋いでやろう。

( -∀-)「……」

( ・∀・)「……よしっ」

少しの間、目を閉じて深呼吸をする。緊張を吐息とともに吐き出す。
胸を締め付けていた何かが、すうっと消えていく。
目を開くと、すでに第一走者がスタートの姿勢をとっていた。

「用意……」

審判の先生の声が途切れて、火薬の破裂音が響いた。

99 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:12:25 ID:jVmYTyVs

第一走者がカーブに入っていくのを横目で見ながら、バトンゾーンへ向かう。
軽く屈伸をしているうちに、バトンは第二走者へと渡った。
いまの順位は7クラス中、3〜4位あたりだろうか。

頭ひとつ抜け出した1位のクラスが、いち早くバトンを受け渡した。
それから少し遅れて、僕のクラスを含めた3つのクラスが、一気になだれ込んできた。

「いけっ!」

第二走者の声を合図に、振り向かず全力で走りだす。
真っ直ぐ後ろに突き出した右手に、バトンが押し付けられる。
それを落とさないようにしっかり握りしめると、腕を大きく振って加速した。

(;・∀・)「くっ……」

最悪なことに、バトンで差を付けられて内側に入られた。
さすがに第三走者だけあって、簡単には抜かせてくれない。
なんとか離されずに次の走者へバトンを渡すだけで精いっぱいだった。

(;・∀・)「くそっ……」

痛む心臓に鞭を打ちながら、次の順番のため列に向かう。
その途中、僕を見つめるキュートに気付いた。
その眼差しには、何故かさっきまでのやる気は見て取れない。

100 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:15:23 ID:jVmYTyVs

( ・∀・)「どうしたんだよ……そんな顔して」

ただならぬ気配を感じて、近づいて話しかける。

o川; ー )o「いや、なんか……あんなこと言って悪かったな、って」

( ・∀・)「なんで?」

体育座りのまま視線を落として、ぼそぼそと喋るキュート。
やる気どころか、普段の元気すらなりを潜めてしまっている。

o川; ー )o「モララーだって、みんなだって頑張ってるのに……
       他の学年の人も一生懸命応援してくれてるのに……
       みんなで走るものなのに……わたし、最下位でいいとか――」

( ・∀・)「……」

( ・∀・)「ていっ」

o川;゚ー゚)o「んむぅっ!?」

言い終わる前に、両手で頬を挟み込んでやった。
キュートは目を丸くして、呆然と僕を見つめてくる。

( ・∀・)「らしくないな、キュート。そんなこと気にするようなやつだったか?」

o川;゚ー゚)o「で、でも……」

101 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:18:11 ID:jVmYTyVs

キュートの柔らかい頬をこねくり回しながら、話を続ける。

( -∀-)「そうだな、確かに気にしないのもどうかと思うな」

o川;゚ー゚)o「でしょ!? だから……」

( ・∀・)「だったら絶対1位になってこい、それで許してやる。
      あと、いつものキュートに戻れ。お前が元気じゃないと調子が狂う」

o川*゚ー゚)o「……」

言いたいことを全部言い終わると、ちょうど僕の順番がまわってきた。
一走目と同じように閉じて深呼吸をする。体力も問題なさそうだ。
バトンゾーンへ向かう途中、後ろから聞き慣れた、あの元気な声が聞こえてきた。

「かっこいいとこ見せてこいっ、モララー!」

僕は振り向かず、言葉にもせず、ただ右手を高く掲げた。

102 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:21:05 ID:jVmYTyVs

いつの間にか僕のクラスは、最下位争いを繰り広げていた。
1位との差は半周近く開いてしまっている。

( ・∀・)(ここで差を詰めておきたいな……)

幸い、僕といっしょに走る他のクラスの走者は、練習のときから速くはなかった。
あわよくば、順位を上げてから次の走者にバトンを渡したいところだ。

「頼むっ!」

( ・∀・)「おうっ!!!」

絶好のタイミングでバトンパスに成功し、すぐ後ろの走者を引き離すことができた。
前には抜けそうな走者があとふたり。一気に順位を上げるのも夢じゃない。

(#・∀・)「……っ!!」

差を詰めて、カーブで外からひとり抜くことに成功する。
その勢いのまま、直線の入り口でもうひとりを射程圏内に捉えた。

(#・∀・)「いけええええええっ!」

バトンゾーンへと入るころには、ついに横一線の状態になる。
次の走者にはっきり聞こえるように、大きな声で合図を送る。
大きすぎたのか、少し驚いた表情を浮かべたがすぐに走りだしてくれた。

103 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:24:08 ID:jVmYTyVs

ふと視界の隅に、競っていたクラスの走者が映る。
タイミングを誤ったのか、バトンの受け渡しにもたついていた。

(#・∀・)(チャンスッ!)

差し出された右手にバトンをしっかりと押しつける。
握りしめられたのを確認してから、手を離す。
走り出した次の走者は、すでに隣のクラスより体ひとつ分抜けだしていた。

(;・∀・)「はあっ……はあっ……んぐっ……」

よろよろとトラックの内側に戻ると、足の力が抜けてしまい、その場に座り込んだ。
心臓が誰かに鷲掴みにされてるかのように、ずきずきと痛む。

(;・∀・)「っ……はあっ……」

喉に絡みつくつばを吐いて、空を仰いでいた視線をトラックへ向ける。
4位をキープしたまま、向かい側でバトンが渡されるのが見えた。
あとは応援しながら見守ることしか出来ない。みんなを信じるしかない。
  _
( ゚∀゚)「お疲れさん、大活躍じゃねえか」

(;・∀・)「どうも……」

早々に出番を終えたジョルジュが声をかけてきた。

104 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:27:03 ID:jVmYTyVs
  _
( ゚∀゚)「よっと」

ジョルジュは隣に座ってきて、リレーの行方をいっしょに見つめる。
女子の羨望と妬みの混じった視線を、ぴりぴりと背中に感じた。
 _
(#゚∀゚)「行けえ! そのままそのまま!」

(#・∀・)「頑張れええええ!」

舞い上がる土煙、飛び交う声援。夏の始まりのような日射しで、校庭を照らす太陽。
いつかフラッシュバックしたとき、思わず笑顔になりそうな、青春の1ページが刻まれていく。

そして、最後の1ページを刻むべく――

o川*゚ー゚)o「……」

( ・∀・)「……」

キュートがゆっくりとバトンゾーンへ向かっていった。

105 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:30:12 ID:jVmYTyVs
  _
( ゚∀゚)「おっ、ついにキューちゃん登場だ!
      いくぜ、みんな! せーn」

(#・∀・)「キュートおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
  _
( ゚∀゚)「」

ジョルジュの合図を待たずに、自然と声が出ていた。

o川;゚д゚)o「!?」

相当驚いたのか、慌てて僕の方へ振り向くキュート。

(#・∀・)「全員抜いてこおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!」



o川;゚ー゚)o



o川*゚ー゚)o



o川*^ー^)o

キュートはただ笑って、右腕を高く突き上げた。

106 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:33:31 ID:jVmYTyVs
 _
(#゚∀゚)「いよっしゃあああ! みんなモララーに負けんなよおお! せーのっ!」

仕切り直して発せられたジョルジュの合図。
せきを切ったかのように大きな、様々な声援が僕を飲み込む。

「キューちゃん頑張れええええええええええ!!!」

「全部キューちゃんに託したぜえええええええええ!!」

「残像拳じゃああああああああああああああい!!!!」

そして、みんなの思いが詰まったバトンを、

o川#゚ー゚)o「っ!!!」

キュートはその手にしっかり握りしめて、最後の一周を走りだした。

107 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:36:02 ID:jVmYTyVs

現在の順位は変わらずに4位のまま。
だけど、1位との差は確実に詰まっていた。

o川#゚ー゚)o「っ!!」

バトンゾーン内で競っていた3位のクラスを、あっという間に置き去りにする。
当たり前だけど、他のクラスのアンカーは全員、運動部に所属する男子だ。
しかしキュートの速さは、自分より頭ひとつほど大きい相手を完全に圧倒していた。

o川#゚ー゚)o「〜〜〜〜!!」

カーブに差し掛かっても、2位のクラスにぐんぐんと迫っていく。
カーブが終わり、直線に向いたところで外から並びかけ、一気にかわした。

「きゅううううううううちゃあああああああああああああん!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

目の前で繰り広げられるごぼう抜きに、クラスのボルテージは最高潮に達する。
応援しているつもりだろうけど、言葉にすらなっていない応援がほとんどだ。

(#・∀・)「きゅううううううえええええああああああああ!!!」
 _
(#゚∀゚)「おっぱああああああああああああああああ!!!」

それは、もちろん僕らだってそうだった。

108 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:39:41 ID:jVmYTyVs

前に残るのは総合得点1位のクラスに属する、陸上部期待のホープの男子のみ。
しかし、アンカーは丸一周走ることもあり、疲れる後半は抜かすのも難しくなってくる。

o川#゚ー゚)o「っ!! っ!!」

それでも、キュートは差をみるみる縮めていく。
そしてついに、カーブの中ほどで追い付き、外からかわしにかかる。
これなら抜ける、そう思った瞬間だった。

o川;゚д゚)o「!?」

(;・∀・)「ああっ!?」

全力で振られる腕と腕が、ぶつかった。
体格で劣るキュートがバランスを崩して、大きく外に膨らんでしまい、再び差が開く。

o川#゚ー゚)o「〜〜〜〜!!」

体勢を立て直し、必死で差を詰めるキュート。
すさまじい速度で、あと体ひとつ分というところまで迫る。



しかし、無情にも、キュートから体ひとつ分先で、ゴールテープは切られた。

109 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:42:08 ID:jVmYTyVs

o川; д )o「……」

一瞬遅れて、キュートがゴールテープのあった場所を通り過ぎた。
勢いで数メートル先まで走った彼女は、ゆっくりとトラックの外へ出てから力なく座り込んだ。

(;・∀・)「……っ」
  _
( ゚∀゚)「やめとけ、モララー。お前はここから動けない。
      動けても……いまのキューちゃんにしてやれることなんて、ねえだろ」

立ちあがろうとした僕の肩を押さえつけて、ジョルジュは言う。
競技が終わるまで、自由に歩いてはいけない決まりになっている。
だから、僕は見ていることしか出来なかった。





体を丸めて、遠くから見ても分かるほど震えている、キュートの背中を。

110 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:45:04 ID:jVmYTyVs

キュートを心配したのか、近くにいた先生が近付いていく。
しばらくしてふらりと立ちあがったキュートは、先生といっしょに校庭の外へ消えていった。

「ううっ……ひぐっ」

「くそ……くそっ……」

はしゃぐ1位のクラスの幸せそうな喧騒。
それに飲み込まれる、すすり泣く声。
その対比が喜びを、悲しみを、残酷なほど際立たせていた。
  _
(  ∀ )「行くぞ……集合だ」

悔しさを噛み殺すかのような、ジョルジュの声。
その声に反応して、さらに男女問わずに泣き声が広がる。
それでも、整列するために歩いていかなければならなかった。

(  ∀ )「……ああ」

キュートをたったひとり残して、歩いていかなければならなかった。

〜〜〜〜〜〜

111 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:49:45 ID:jVmYTyVs

『それでは、結果発表です』

やたら丁寧な口調で放送委員が言った。
行儀よく敗北宣言を突き付けられる身にもなってほしい。

『最初に、失格になったクラスがあることを報告します』

突然の知らせに、にわかに周囲がざわつき始める。
うつむいていた誰もが、はっと顔を上げた。

『全員リレーで7組はバトンゾーンをオーバーしたことにより、失格となります。
これにより、2位に入った2組が繰り上がりで1位となりました』

( ・∀・)「……え?」

1位のクラスが失格になり、僕たちのクラスが、繰り上がりで全員リレー1位。
聞き間違いでないのなら、確かにそう聞こえた。
それはつまり、総合優勝も僕たちのクラスということで。

(*・∀・)「やっ……」
  _
( ;∀;)「やったあああああああああああああああ!!!」

「マジで!? マジでか!?」

「うわああああああああん!! うわあああああああああん!」

112 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:52:00 ID:jVmYTyVs

僕がすべてを理解するより早く、クラスメイトが一斉に歓声をあげた。
さっきは泣いていなかったジョルジュも、ぼろぼろと涙をこぼしている。
  _
( ;∀;)「勝ったんだよ! 俺たち勝ったんだよ!」

(*・∀・)「ああ、勝ったんだ! 優勝したんだ!」

泣きながら抱きついてきたジョルジュと、肩を組みながら跳ねて喜ぶ。
  _
( ;∀;)「みんなでバトンを最後まで繋いだから!
      それでキューちゃんが頑張ってくれたから!
      だから勝った! 優勝できたんだよ!」

組んだ肩をほどいて、みんなへ語りかけるジョルジュ。
しかし、その中にキュートの姿はなかった。

( ・∀・)「そうだ、キュート……」

キュートはこの結果をどこかで聞いているだろうか。
そう思い、消えていった方へ体を向けた、まさしくそのときだった。

o川*^ー^)o「モララーっ!!!」

(;・∀・)「うおおおおおおおおっ!!」

満面の笑みを浮かべたキュートが、胸の中に飛び込んできた。

113 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:54:05 ID:jVmYTyVs

リレーでは見せなかった全速力でぶつかられ、僕の体は宙を舞う。
しばらく鳥になったあと、したたかに地面に背中を打ちつけた。

(;・∀・)「いってええええ! 超いってえええええええ!」

o川*゚д゚)o「勝ったんだよね!? わたしたちが勝ったんだよね!?」

http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2171.png

(;・∀・)「ああ……誰かさんが頑張ってくれたおかげでね」

仰向けになった僕の上で、キュートは目を輝かせながら聞いてくる。
荒くなった吐息がかかるほど近付いた砂まみれの頬には、ふたつの筋が残っていた。

o川;゚ー゚)o「ごめんね……全員抜けなかった」

( ・∀・)「いいんだよ、1位になれば全部許すって言ったろ?」

o川*゚ー゚)o「でも……」

o川* д )o「モララーはちゃんとかっこいいとこ見せてくれたのにさ……」

(;・∀・)「え? ごめん、いまなんて――」

114 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 21:57:39 ID:jVmYTyVs
  _
( ゚∀゚)「いきなり公衆の面前でなーにやってんだか」

(;・∀・)「うわっ!?」

ジョルジュの声で我に返ると、クラスメイトが僕らを囲んでいた。
  _
( ゚∀゚)「いきなりキューちゃんはモララーに抱きつくし。
      抱きついたかと思ったら今度はいちゃいちゃし始めるし。
      あーあ、モララーだけ死ねばいいのに」

「俺ちょっと黒魔術かじってるんだ。試してみようか?」

「あ、それ名案だな。とびきりひどいの頼むわ」

「キューちゃんどいて! モララーくん殺せない!」

さっきまで同じ目標に向かって頑張ってた仲間が手のひらを返しだす。
返しすぎて、もはや関節を無視して何回転もしてそうな勢いだ。
  _
( ゚∀゚)「ま、モララーはあとで体育館裏として……
      みんな! キューちゃんを胴上げだ!」

o川;゚д゚)o「う、うぇぇっ!?」

僕から引きはがされて、人混みの中へ消えていくキュート。

115 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 22:00:47 ID:jVmYTyVs

「よーっし、いくぞ! せーの……わーっしょい!わーっしょい!」

「うわあっ、高いよぉっ! ちょっ……こわっ!」

「こらー! 何やってるんですか!」

「よかった……先生! これやめさせないと邪魔に……」

「私も混ぜなさい!」

「ええええ!? 先生ちょっとおおおおお!」

「教え子がこんなときに黙って見ていられますか!」

「こんな場面じゃなきゃいい言葉だったのにいいいい!」

「それじゃあ先生もいっしょに! わーっしょい! わーっしょい!」

「わーっしょい! わーっしょい!」

「だああああああ! もうめちゃくちゃだああああああ!」







o川*^ー^)o「あはは、もうっ! みんなぁー! こわいよぉー!」

116 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 22:01:32 ID:jVmYTyVs
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第三話 熱くなれるだけ熱くなればいい

おわり












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117 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 22:03:27 ID:jVmYTyVs
以上で今回の投下は終了です。
次回の投下は8月9日20時〜の予定となっています。変更がある場合はお知らせします。
第三話のメイキングはこのあと22時30分に公開予定です。

最後になりましたが、質問や感想のある方は気軽にどうぞ。

118 ◆LemonEhoag:2016/07/26(火) 22:32:24 ID:jVmYTyVs
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-38.html

第三話のメイキング公開しました。

119以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/07/27(水) 01:01:48 ID:sLtkcvEc

おっぱいも絵も素晴らしいです

120 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:00:13 ID:pIVeN7EU
投下開始します。

121 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:03:16 ID:pIVeN7EU

o川*゚ー゚)o「ねえ、モララー。もうすぐ一学期が終わるね」

( ・∀・)「……ああ」

o川*゚ー゚)o「いろんなことがあったよね」

( -∀-)「……ああ」

o川*゚ー゚)o「……これからもわたしのこと、助けてくれる?」

( -∀-)「……」

o川* - )o「……なんで、黙るの?」

( -∀-)「……仕方ないだろ」

o川* - )o「……言ってよぉ」

(  ∀ )「……言えない」

o川*;д;)o「キューちゃんに期末試験の勉強教えてあげるって言ってよぉ!!!」

(#・∀・)「シリアスな感じで頼んでもダメに決まってんだろおおおおおお!」

梅雨も過ぎて、もうすぐ夏休み。
それは、期末試験の一週間前ということでもあった。

122 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:06:08 ID:pIVeN7EU
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第四話 第六感でときめいて













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123 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:09:35 ID:pIVeN7EU

o川*;д;)o「なんでぇ!? こんなに真面目に頼んでるのに!」

(#・∀・)「普段から勉強してないのが悪いんだろうが!」

涙目になりながら、キュートはすがるように制服の袖にしがみついてくる。
せっかくの昼休みなのに、休むことすらままならない。

(#・∀・)「だいたい、僕に頼んでる暇があるならさっさと勉強しろよ!」

o川#;д;)o「それができたらとっくにやってるもんっ!
          モララーはキューちゃんの頭の悪さナメてるの!?」

(;・∀・)「なんてひどい逆ギレ……」

この数日間、僕はキュートにこうして付きまとわれっぱなしだった。
だけど、断られ続けて、ついにキュートの中でなにかがはじけたのだろう。
キレ気味に勉強を教えてくれと頼んできたのが、ついさっきのことだ。

( ・∀・)「ていうか、中間試験のときに言ったこと、覚えてるか?」

o川*;д;)o「……え?」

124 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:12:14 ID:pIVeN7EU

――――――

o川*゚д゚)o『ふはははは! もうすぐ中間試験だ!』

(;・∀・)『……なんだよそのキャラ』

o川*゚д゚)o『テストで勝負だ、モララー!』

(;・∀・)『……ああ、そういうこと』

o川*゚д゚)o『いまからテストが終わるまでは敵同士だよ!
       だから、いままでのような仲良しこよしはナシ!』

( -∀-)『あー、はいはい。じゃあ、勉強も教えてやらないからな』

o川*゚д゚)o『そのセリフ、そのまま返させてもらおうから!
       モララーが泣いて頼んでも教えてあげないっ!』

( -∀-)『僕も泣いて頼まれたって教えません。これでいい?』

o川*゚д゚)o『そんなどうでもよさそうな態度でいられるのもいまだけだよ!
       テストが終わったころにはキューちゃんに土下座してるんだからっ!』

( ・∀・)『はいはい、そうですね。さーて、予習予習』

o川*゚ー゚)o『さーて、まずは授業に備えて仮眠でも取ろっと』

125 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:15:00 ID:pIVeN7EU

〜〜〜〜〜〜

(゚、゚トソン『えー、それではテストの返却をします。
       今回の平均点は56点、最高点は88点、最低点は21点でした。
       名前を呼ばれた人から取りに来てください』

o川*゚ー゚)o『ふふふ……ついにこのときが来ましたよ、奥さん!』

(;・∀・)『いつから僕は人妻になったんだよ……』

o川*゚ー゚)o『そんなこと言ってられるのもいまだけなんだから!
        土下座の練習はしてき……はーい』

(;・∀・)『やけに自信満々で怖いな……』

o川*^ー^)o『ただいまー。むふふふふふ、ふふっ、ふっふふふふふふ』

(;・∀・)『なんだよその気持ち悪い笑い方……あ、はーい』

o川*゚ー゚)o『地獄への片道切符をもらってきちゃったね。
        それじゃあいっせーのせ、で見せ合いっこね』

( ・∀・)『分かった、んじゃ……』

o川*゚д゚)o『いっせーのせ!』(・∀・ )

126 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:18:03 ID:pIVeN7EU

o川*゚д゚)o『ふははははは! キューちゃん見事に平均超えの64点!
       対するモララーは……』

( ・∀・)『……』

o川;゚д゚)o『』

o川;゚д゚)o『は……88、点……だと……?』

( ・∀・)『……で、誰 が 土 下 座 だ っ て?』

o川;゚ー゚)o『ま、まだ勝負はついてないもん! 五教科の合計で勝負だもん!』

(;・∀・)『あ、汚いぞ!』

o川;゚д゚)o『き、キューちゃんオールラウンダーだし!?
       マリオ顔負けだし!? これぐらい痛くもかゆくもないし!?』

( ・∀・)『仕方ないな……名誉挽回の機会くらいは与えてやるよ』

o川*゚ー゚)o『言ったね!? 五回勝負認めたね!?
        もちろんこれでキューちゃんが勝ったら土下座だからね!?』

(;・∀・)『人が情けをかけてやったら調子に乗りやがって……
      まあいい、決着はテストで付けようじゃないか』

127 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:21:11 ID:pIVeN7EU

――数学――

o川*゚ー゚)o『難問揃いで平均49点の中、キューちゃんはなんと60点!
        どうだー! まいったかー!』

( ・∀・)『ところが、僕はなんと72点でしたとさ』

o川;゚ー゚)o『……つまり、どういうこと?』

( ・∀・)『キュートが僕に負けて、僕の二勝目ってことです。
      これで僕が次も勝ったら、勝ち越しで終わりだろ?』

o川;゚д゚)o『ちちち、違うよ! 五教科の合計得点で勝負だもん!
       勝ち越したって終わらないよ! 終わらせないよ!』

(;・∀・)『こう言えばああ言って、ああ言えばこう言うな……』

128 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:23:59 ID:pIVeN7EU

――英語――

o川*゚ー゚)o『見たか! 最高点の80点だ!
        キューちゃんの得意教科に勝てるとでも思って……』

( ・∀・)『最高点がひとりだけなんて、誰も言ってないぞ?』

o川;゚д゚)o『モララーも80点……だと……?』

( ・∀・)『さて、あと社会と理科を残して僕の36点リードなわけだけど……』

o川;゚ー゚)o『まだキューちゃんが高得点取れていれば……
        いや、モララーがミスをたくさんしていれば……』

(;・∀・)『だんだん発言が弱気になってきたな……』

129 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:27:27 ID:pIVeN7EU

――社会――

o川;゚ー゚)o『よ……46点……』

(;・∀・)『勝つには勝ったけど……54点か』

o川;>д<)o『うう……せっかくチャンスだったのに……』

(;・∀・)『いや……正直、今回は難しすぎたと思う……』

o川;゚ー゚)o『シュー先生ったら容赦無さすぎだよぉ……』

(;・∀・)『最後の一問の配点が30点って……
        しかもコシヒカリが出来るまでの歴史って……』

o川;゚ー゚)o『いや、それはできたんだけど他が全然……』

(;・∀・)『そっち!? ていうか70点中16点って!?』

130 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:30:07 ID:pIVeN7EU

――理科――

o川*゚ー゚)o『はーい、50点でーす。モララーが6点以下とかありえませーん。
        どう見てもキューちゃんの負けですよねー』

(;・∀・)『急に投げやりになったな!? 75点だけどさ!』

o川#>д<)o『だいたいさ、モララーずるいよ! 普段から勉強なんかしちゃってさ!
          この卑怯者! インテリ! クラス順位3位! 学年19位!」

(;・∀・)『そっちから勝負ふっかけてきたんだろ!
        ていうか最初以外悪口になってないぞ!?』

o川#>д<)o「知らない知らない! もうモララーなんてずっと敵だもん!
          二度と口聞いてあげない! ぜぇぇぇぇったいずぇぇぇったい聞いてあげないっ!』

(;・∀・)『おい、どこ行くんだよ!』

(-@∀@)『キュートさーん、授業中ですよー……先生の存在忘れないでくださーい……』

――――――

131 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:33:18 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「と、いうことがありました」

o川;゚ー゚)o「えー……あったっけな……」

僕が話し終わると、頭を抱えてキュートは唸りだした。
口を開けば、自問自答の言葉ばかりが漏れ出してくる。

o川;゚ー゚)o「そんなこと覚えてないよー……
        それと勉強教えてくれないことのどこに関係が……」

考えに考え抜いた末に、キュートはギブアップ宣言をした。
汗をかいたのか、手で前髪をほんの少しいじってから僕に問いかける。

( ・∀・)「次の日にはなにもなかったかのような顔で、
      『おっはよー! キューちゃん今日も可愛いでしょ?』
      なんて挨拶してきたからな……覚えてないと思ったよ」

o川*゚ー゚)o「あ、それは覚えてる!」

(;・∀・)「えええ……」

どうやら、相変わらず素敵な思考回路をしているようだ。
いったん仕切り直して、話を続ける。

( ・∀・)「キュートはこう言ったんだ。『ずっと敵だもん!』ってね」

132 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:36:10 ID:pIVeN7EU

o川;゚д゚)o「はっ!!!」

大きく目を見開いて、両手で口元を押さえる。
気付いちゃいました、とでも言わんばかりの反応だ。

( ・∀・)「もう分かったよな? 言ってみろよ」

o川;゚ー゚)o「わ、わかんない! キューちゃん可愛いけど頭残念だし!」

そう言いながらも、視線は定まらずに宙を泳いでいる。
不自然な笑顔を浮かべたまま、乾いた笑い声を漏らす姿は実に不気味だ。

( ・∀・)「分からなくても、とりあえず言ってみな?」

o川;゚д゚)o「えーと……あのー……」

普段なら素っ頓狂な答えが飛び出すはずなのに、言い淀む。
これは完全に分かっている。分かっているからこそ、言えない。

o川;゚ー゚)o「……まだ敵対関係って感じ?」

( ・∀・)「正解。だから勉強を教える義理もありません」

o川*;д;)o「うわぁぁぁぁぁん!! 待ってぇぇぇぇ!!」

133 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:39:14 ID:pIVeN7EU

( -∀-)(ま、本当はこじつけで言ってるだけなんだけどさ)

僕との対決では完敗だったけど、キュートの成績も決して悪くはなかった。
期末で多少点数が落ちたとしても、進級に関わるほどでもないだろう。
それに、今回は自業自得だ。キュートにお灸をすえてやるいい機会だ。

o川*;д;)o「モララーごめんなさい! 謝るから勉強教えてぇ!」

(;・∀・)「だからさぁ……」

o川*;д;)o「ちゃんと言うこと聞くからぁ!」

「キューちゃんが言うことを聞く……?」

「なん……だと?」

( ・∀・)「ん?」

もはやキュートは、僕をしがみついてでも引き止めようとしてくる。
あまりに必死さに、キュートの騒がしさにも慣れたはずのクラスメイトもざわつき始めた。

134 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:42:10 ID:pIVeN7EU

o川*;д;)o「お願い、キューちゃんにいろいろ教えてよぉ!」

「い、いろいろ……ハアハア」

「キューちゃんにいろいろ……まさかモララーの野郎……」

(;・∀・)(あれ、これなんかまずくないか?)

いまや廊下にいた人まで含めた周りの視線は、僕たちに集中していた。
それに、内容がなぜかまずい方向に歪んで伝わっているようだ。

o川*;д;)o「こんなこと頼める人、モララーしか知らないのぉ!」

「……俺ちょっとトイレ」

「……ふう……ふう」

「実技ってか!? 実技でいろいろ教えましたってか!?」

(;・∀・)「キュート、なんか周りがアレだからやめよう……」

o川*;д;)o「やだっ! いいって言ってくれるまでやめないっ!」

135 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:45:01 ID:pIVeN7EU

「おーい。こないだの黒魔術、俺も手伝っていい?」

「ああ、ちょうどいいや。大人数でやると呪いが強くなるんだ」

「俺だってキューちゃんに保健体育を実技で教えてえよおおおおおおおお!!」

気付けば、僕とキュートを中心とした大きな人ごみが作られていた。
そして、その中では様々な感情が渦巻いていた。主に、僕への怨みや妬みが。

(;・∀・)「分かった分かった! 教えてやるから離せ!」

o川*;д;)o「ありがどぉおおおお!! もららぁああありがどおおお!!」

早くここから逃げ出したい一心で、つい了承してしまった。
キュートは鼻水を垂らしながらなにか言っているのだけど、さっぱり聞き取れない。
たぶん、お礼の言葉だと思うのだけれど。

o川*;д;)o「あどで、ぎゅーぢゃんね」

(;・∀・)「あとで聞くから! だからいまはここから逃げるぞ!」

o川*;д;)o「よぐわがんないけどわがったぁぁ!」

キュートの手を引いて、行くあては無いけど教室を飛び出した。
背中に氷柱のように刺さる視線と、怨念のこもった声が痛かった。

〜〜〜〜〜〜

136 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:48:26 ID:pIVeN7EU

あのあと、僕は殺気に晒されながら一日を過ごした。
日が延びて明るくなった夕暮れどきの現在まで、襲われなかったのは奇跡だったと思う。
そして、平穏を取り戻した放課後、僕はキュートといっしょに下校していた。

( ・∀・)「……ひとつ質問していいか?」

o川*゚ー゚)o「なになに? キューちゃんが気になっちゃってる系?」

陽の光に当たってきらめく色素の薄い髪をたなびかせて、キュートは答える。
自転車に乗ってさえいなければ、思わず魅入ってしまうほどに綺麗だ。

( ・∀・)「なんで付いてきてるんだ?」

o川*゚ー゚)o「え? 今日から勉強教えてくれるんじゃないの?」

いつも別れる道を通り過ぎても、キュートは僕の隣から離れなかった。
さらに言うなら僕は、坂を自転車で下っている真っ最中だ。
要するに、キュートは僕の横を、平然と同じスピードで走っている。

(;・∀・)「僕がいつそんなこと言ったんだよ!?」

o川*゚ー゚)o「言ってないけど?」

137 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:51:05 ID:pIVeN7EU

どうやら、キュートの正常な部分は耳だけらしい。
まさか、このまま僕の家まで付いてくるつもりだろうか。

(;・∀・)「なあ……どこで勉強するつもりだ?」

o川*゚ー゚)o「モララーの家だけど?」

そのまさかだった。漏れたため息が、景色とともに後方へと流れていった。
いまになって帰れと言っても、そうする気なんてさらさらないだろう。

(;・∀・)「ちょっと待て、家に連絡とかしないでいいのか?」

坂を下りきって、自転車を止めるから尋ねる。
変質者に出会ったとしても逃げ切れるだろうけど、キュートだって女の子だ。
帰りが遅くなれば、両親だって心配するに違いない。

o川*゚ー゚)o「ふふふ……忘れてた!」

そう言ってキュートは、なぜか自慢気に胸を張ってみせた。

(;・∀・)「さっさと連絡しろおおおおおおおおおお!!」

o川*゚ー゚)o「りょーかいりょーかい。コール!!!」

そして、悪魔でも呼び出しそうな感じで電話をかける。

138 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:54:13 ID:pIVeN7EU

o川*゚ー゚)o「もしもしー、お母さーん?」

数瞬の沈黙のあと会話が始まる。電話の相手は母親のようだ。
この距離からでは当たり前だけど、キュートの声しか聞こえてこない。

o川*゚ー゚)o「今日ね、モララーの家で勉強するから遅くなるね。
       うん、そうだよ。モララーだよ。お母さんに話したことあるでしょ。
       え? うん、わかった。ちょっと待ってて」

そう言うと、キュートは自分の携帯を僕の前に差し出した。

o川*゚ー゚)o「お母さんがモララーと話したいんだって」

(;・∀・)「え……ああ、分かった」

突然の申し出に、緊張しながらも携帯を受け取った。
耳にあてがってこんばんは、と挨拶すると声が聞こえてくる。

「こんばんは。そして、初めまして。モララー君」

(;・∀・)「は、初めまして」

「ふふふ、そんなに緊張しなくてもいい。結婚の挨拶でもあるまい」

139 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 20:57:16 ID:pIVeN7EU

キュートの母親の声は、想像よりずっと若々しく、とても落ち着いた声色だった。
横で聞き耳を立てているキュートの声とは、似ても似つかない。
実はお姉ちゃんでしたー、なんて言われても納得してしまいそうだ。

「あんな子だからなにかと迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むよ」

(;・∀・)「い、いえ……そんなことは……」

「私が母親だからって、遠慮しなくても別にいい。
 家でキュートは君のことばかり話しているんだ。実に楽しそうにね。
 あの子が楽しんでるときは、たいてい周りの人は振り回されている。君もそうだろう?」

o川* д )o「ちょっ、お母さん!!!」

キュートが耳を赤くして割り込もうとしてくるのを制して、話を続ける。
家での様子を暴露されたのが、よっぽど恥ずかしかったんだろう。

(;・∀・)「まあ、振り回されてますけど……僕もなんだかんだ楽しいんで」

「そうか……それじゃあ、これからもあの子を頼むよ。
 仕事もあって、なかなかあの子に構ってやれないからね」

そのひと言が、やけに寂しげに響いて聞こえた。
家の手伝い、というのに関係があるのかもしれない。
聞いてみたかったけど、むやみに触れない方がいいような気がして思いとどまる。

140 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:00:09 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「分かりました。あ、なるべく早く帰らせますね」

「気を使わせてすまないね、モララー君。
 仕事があるから、悪いけどそろそろ切らせてもらうよ。
 ああ、そうだ。素敵な彼氏じゃないか、キュート。今度はうちに来てもらいなさい」

(* ∀ )「あっ、いや、べっべべっ別にそういう関係では」

o川* д )o「おおぉ、おっおっお母さんったら、んななななにを」

「ふふふ、冗談だよ。それじゃあ失礼」

その言葉を最後に、電話は切れた。
僕たちの間に、なんともいえない空気を残して。

o川* д )o「ご、ごめんね、お母さん人をからかうの好きなんだ!」

(* ∀ )「あ、ああ……そうだな……からかってるに決まってる」

僕から携帯を取り上げたあとで、キュートはそう謝ってきた。
そんな風に言われたら、もうキュートに合わせるしか選択肢がない。

(* ∀ )「さっさと家に行こうか……」

o川* д )o「そうしよう! うん、それがいい!」

いつの間にか、淡い橙色だった空は、赤く燃え始めていた。

〜〜〜〜〜〜

141 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:04:21 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「はい、到着」

o川*゚ー゚)o「おじゃましまーす……あれ、開かない」

(;・∀・)「当たり前だろ! 自分の家じゃないんだぞ!!」

家に着くなり、早々と入っていこうとするキュート。
無理やりドアを開けようと、ドアノブをガチャガチャと動かしている。

(;・∀・)「とりあえず、親に友達が来るって話してくるから。
      それが終わるまで絶対入ってくるなよ!? 絶対だぞ!?」

o川*゚ー゚)o「ハチ公並みに待ってる! ま、犬よりキューちゃんの方が可愛いけどねっ!」

ドアの鍵を開けて中に入り、リビングへと向かう。
いつもなら、すでに母さんが夕飯の支度を始めているころだ。

( ・∀・)「ただいまー」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、おかえりなさいモララー。
        誰かと話してたみたいだけど……お友達?」

リビングに入ると、キッチンから出てきた母さんが出迎えてくれた。
声が大きかったのか、外での会話も聞こえていたらしい。

142 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:08:15 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「ああ、それなんだけど……」

母さんにキュートのことを伝えようとしたとき、トイレから水音が聞こえた。

( ^ω^)「おっお、おかえりだおモララー」

そして、いつもは会社にいるはずの父さんが出てきた。

( ・∀・)「あれ、なんで父さん家にいるの?」

( ^ω^)「いやあ、今日はちょうど母さんとの二百四十ヶ月目の記念日なんだお。
      だから有給取って蜜月の時間を過ごそうと思って」

( ・∀・)「ああ……なるほど」

息子の僕が言うのもなんだけど、父さんと母さんはいまでも仲がいい。
夫婦というよりはバカップルに近いものを感じる。 悪いことではないけど、結構恥ずかしい。

( ・∀・)「でもすごいじゃん、二十年目だよ。 父さん、母さん、おめでとう」

( ^ω^)「ありがとうだお、こうして息子に祝ってもらえるなんて幸せものだお」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですね……感慨深いものがありますよね……」

o川*゚ー゚)o「おふたりったらラブラブじゃないですか、このこのー!」

( ・∀・)「」

143 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:12:13 ID:pIVeN7EU

o川*゚ー゚)o「よっ! 日本一の幸せもの!」

(#・∀・)「い つ は い っ て き た」

o川;゚д゚)o「うぇぇっ!!」

いつの間にか会話に加わっていたキュートの両頬をつねって問いただす。

o川;゚д゚)o「らっふぇふぃまだからひょっほげんかんにはいっへみふぁの。
       ほひたら、おでべふぁいふぁらいがきこえふぇきふぇ……ふい」

(#・∀・)「『だって暇だからちょっと玄関に入ってみたの。
        そしたら、おめでたい話題が聞こえてきて……つい』
        で、済んだら警察いらないんだよおおおおおおおおおお!!」

o川;゚д゚)o「んむぅえぇぇぇ!!」

追撃にそのまま頬をこねくり回す。
おかげでキュートはさっきからまともに言葉を発せてない。

ζ(゚ー゚*ζ「あら……その子が外にいたお友達?
        うちに来るのはじめてかしら?」

その状況を打破したのは、母さんのひと言だった。

144 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:16:02 ID:pIVeN7EU

(;・∀・)「あ、えーとこいつは……あっ」

o川;゚ー゚)o「やっと抜けれた! はじめまして、わたし素直キュートっていいます!
        モララーとは同じクラスで、今日は勉強教えてもらいに来ました!」

一瞬の隙をついて、キュートが僕の手を振り払う。
そして、いつもの様子からは想像もつかない、丁寧な自己紹介をした。

( ^ω^)「……母さん」

ζ(゚ー゚*ζ「……ええ」

(;・∀・)「なにこの空気……」

さっきまでの賑やかさが嘘のように、静まり返る。
父さんも母さんも、神妙な顔つきになっていた。

( ^ω^)「「モララー……」」ζ(゚ー゚*ζ

僕の方へ向き直って、ゆっくりと語りかけてくる父さんと母さん。
生唾を飲み込んで、ふたりの口から語られる言葉を待ち構える。

(;・∀・)「な、なに?」

( ;ω;)「「ようやく家に彼女を連れてきた(おね)のね……」」ζ(;ー;*ζ

145 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:20:25 ID:pIVeN7EU

(;・∀・)「え、えええええええええ!?」

( ;ω;)「いつ連れてくるかと待ち続けて十五年……」

ζ(;ー;*ζ「女の子に興味がないのかと思ったときもあったけど……待っててよかったわ」

大粒の涙を流しながら、しみじみとふたりは語る。
親からしたらそこまでのイベントなんだろうか。

(;・∀・)「ち、違うって! ただの同級生だよ!」

o川;゚ー゚)o「そうですよ! 友達っていうか味方っていうか……」

キュートと分担してふたりの誤解を解きにかかる。
本日二回目ともなれば、成功するかともかく、いくらか冷静に対処できる。

( ;ω;)「こんな可愛い女の子連れてきて、ひどい冗談だお」

ζ(;ー;*ζ「いいのよ、いつか本当のことを話してくれれば、それで」

(;・∀・)「駄目だこりゃ……聞く耳持たないや。
        まあいいや、このあといっしょに勉強したいんだけど、いい?」

こんな調子では本当のことなんて分かってくれそうもない。
とりあえずこの問題は置いておいて、用件を先に済ませることにした。

146 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:24:06 ID:pIVeN7EU

ζ(゚ー゚*ζ「愛する息子が連れてきた子を追い払ったりなんてしないわよ。
        ましてやそれが彼女ならなおさら、ね」

( ^ω^)「そうだお、こんな可愛くておっぱいの大きい子を……」

ζ(゚ー゚#ζ「なんでキュートちゃんを見たあとに私を見たのかしら?」

(;゜ω゜)「いや、つい出来心で……ちょっかあさnアッー!」

誤解したままだけど了承してくれて、勝手に夫婦喧嘩を始めるふたり。
うちはよそから見れば、かなりおかしい家庭なんだろうと思う。

( ・∀・)「よし、許可も出たし部屋行くか」

o川;゚д゚)o「ちょっ、あれ放っておいていいの!?」

キュートが見つめる先では、母さんが包丁を持って父さんに迫っていた。
部屋の隅に追い込まれた父さんは、なす術もなく震えている。

( ・∀・)「母さんのヤキモチはいつもあんなんだよ。
      でも、いつもすぐに仲直りするんだ。日常茶飯事さ」

o川;゚ー゚)o「なんかすごいお母さんだね……」

それは常々思っていたけど、キュートですらそう思うということは、相当なんだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、階段を上がって自分の部屋へと向かう。

147 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:28:26 ID:pIVeN7EU

o川*゚д゚)o「うおー、男の子の部屋だー!」

(;・∀・)「盛り上がる要素がどこにあるんだよ……」

部屋に入るなり、キュートははしゃぎながらベッドに座り込んだ。
きょろきょろと室内を見渡しながら、目を輝かせている。

( ・∀・)「なんか飲み物持ってくるから、適当に待っててくれ」

o川*゚ー゚)o「わかった、こないだ見た映画の外国人の主人をずっと待ってる犬並みに待ってる!」

それもハチ公だよ、と心の中でツッコミながら一階へと戻っていく。

( ・∀・)「かあさーん、なんか飲み物ない?」

ζ(^ー^*ζ「この間おいしいオレンジジュースもらったのよ。
        あれ持ってっていいわ、うふふふふ」

リビングに入ると、母さんがいつもより上機嫌で迎えてくれた。
どうやら、さっきの喧嘩は無事に仲直りしたらしい。

( ^ω^)「やっぱりデレが一番可愛いお。さっきはごめんだお」

ζ(^ー^*ζ「やぁん、ブーンったらもう」

その証拠に、母さんを膝に乗せた父さんとお互いを名前で呼び合っている。

148 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:32:02 ID:pIVeN7EU
(;・∀・)「僕も大人になったらああなるのかな……」

オレンジジュースをコップに注ぎながら呟く。
まだ見ぬ最愛の人と自分が、あんな風に愛を囁く光景を想像してみた。
そして、僕は両親とは違う愛し方をしようと決意した。

ζ(^ー^*ζ「モララー、棚のクッキーもいいわよ。
        なんてったって彼女なんだから、うふふ」

リビングを出ようとして、母さんに呼び止められる。
机にコップの乗ったお盆を置いて、クッキーを取ってくる。

(;・∀・)「彼女じゃないってば……言っても分かってくれないだろうけど」

ζ(^ー^*ζ「あら、あのとき母さんたちはなんて言ってるかわからなかったのよ?
        それを難なく聞き取れるほど通じ合ってるのに……彼女じゃないの?」

相変わらずにこにこしながら、母さんは僕に尋ねてくる。
あのとき、というのは僕がキュートの頬をつねっていたときだろう。

(;-∀-)「通じ合ってたら彼女じゃないといけないの……?
        はあ……キュートのお母さんからも誤解されてるし大変だよ……」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、もう向こうのご両親に紹介されてるの?」

( ・∀・)「……電話越しだけどね」

クッキーをいくつか適当に選んでお盆に乗せた。
暇にしているであろうハチ公の元へ向かうため、今度こそリビングを出た。

149 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:36:11 ID:pIVeN7EU

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、モララー」

(;・∀・)「今度はなに?」

階段を上がろうとして、また呼び止められた。
上げかけていた足を下ろして、母さんの方を向く。

ζ(゚ー゚*ζ「……孫はちゃんと養えるようになってからね?」

( ・∀・)「」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、聞いてる? ちょっとー、モララー?」

母さんの声を無視して、僕は階段を上がっていった。

(;・∀・)「まったく、なに考えてるんだか……」

ぼやいている間に部屋の前までやってくる。
お盆を片手に持って、慎重にドアを開けた。

o川;゚ー゚)o「あっれー、おかしいなー。
        ベッドの下ならえっちな本あると思ったのにー。
        本棚にも無いし……はっ、まさか……キューちゃんで……?」

目に飛び込んできたのは、ベッドの下を漁っているキュートの姿だった。

〜〜〜〜〜〜

150 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:42:44 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「さて、気を取り直して勉強するか」

o川;゚ー゚)o「もう真面目にやるから首根っこ掴むのやめてぇ……」

( ・∀・)「本当に?」

o川;゚д゚)o「ほんとほんと! 本気と書いてマジで!」

あのあと、キュートの首根っこを捕まえて部屋を片付けさせた。
好き勝手荒らしてくれたおかげで、思ったより時間がかかってしまった。

( ・∀・)「じゃあ……はい」

o川*>ー<)o「はー、首周りすっきり! よーし、やるぞー!」

掴んでいた手を離すと、キュートは自分の鞄を漁りだした。
中から出てきたのは、パンパンに膨らんだ筆箱と淡いピンクのノート。
それと、水色のガラス珠が付いたヘアゴム。

o川*゚д゚)o「キューちゃん本気モード!」

そう言いながらまっすぐ下ろしていた髪を結っていく。
首の後ろにかかっていた髪をすべて脇に持ってきて、ふたつ結びにまとめる。
普段は隠れている白いうなじが、顔を覗かせた。

o川*゚ー゚)o「準備おっけーい!」

151 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:46:34 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)(なんか……いつもと雰囲気違うな)

中身はともかく、キュートは美少女と言っても差し支えない容姿だ。
なんでも似合うんだろうけど、このヘアゴムは特によく似合っていると思う。
そして、いつもは見えないうなじがなんとも艶っぽい。

o川*゚ー゚)o「どーしたの? 早く勉強教えてよー」

(;・∀・)「ん、ああ……じゃあ社会から」

キュートの呼びかけてくる声に、はっと我に帰る。
どうしたの、と言われても答えられるわけがない。

o川;゚ー゚)o「えー、キューちゃん社会苦手……」

(;・∀・)「苦手だからやるんだろ……」

今日ばかりは、勉強という逃げ道を用意してくれたキュートに感謝しよう。
そう思いながら教科書のテスト範囲を開いたとき、ふと思い出す。

( ・∀・)「そういえば、中間の点数そんなに悪くなかったよな?
      なのに、なんで今回はこんなに必死なんだ?」

o川*゚ー゚)o「いやー、実はモララーに負けて以来やる気を無くしちゃって……
        真面目に授業受けないでいたらこうなっちゃった」

(;-∀-)「……やっぱ断ればよかったかな」

152 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:50:22 ID:pIVeN7EU

〜〜期末試験当日〜〜

o川*@ー@)o「空気中の電子を波でも粒子でもない曖昧な状態に固定する事で、
         「壁」として固定された電子は動かす事により圧倒的な破壊力を有する。
         これは正式な分類上は流機波形高速砲と称され……」
  _
( ゚∀゚)「……キューちゃんに何があったんだ、モララー」

(;・∀・)「最初は自分の家でも少しずつ勉強しろって言ったんだ。
        だけど、どんどんテスト範囲を超えたところまで勉強し始めて……
        ついにはどこから持ってきたのか分からない眼鏡までかけだして……」

o川*@ー@)o「違うよモララー、これは視力の補正や遮光を目的としない眼鏡。
           一般的に装身具としてかけられている伊達眼鏡だよ。
           「伊達」の語源は「立つ」で、これは「引き立つ」という意味で……」

そう言うと、キュートはくいっと眼鏡を指で持ち上げた。
さながら漫画やアニメに出てくる天才美少女のようだ。
違うとすれば、知識がかなり付け焼き刃なあたりだろう。
  _
( ゚∀゚)「そのうち白衣とか着たりしそうだな……」

(;・∀・)「これ以上おかしくなるのは、死んでも阻止したいね……」

いままでがいままでだっただけに、違和感が半端じゃない。
とりあえずテストが終わったら元に戻ってくれるんだろうか。

153 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:54:16 ID:pIVeN7EU

〜〜〜〜〜〜

o川*゚ー゚)o「見て見てー、平均70点!」

そう言ってキュートは成績の書かれた紙を僕の机に広げる。
苦手だと言っていた社会も、平均点くらいにはなっていた。

( ・∀・)「おっ、よかったよかった。教えた甲斐があったよ」

o川*゚ー゚)o「これ勝っちゃったんじゃない? モララーに勝っちゃったんじゃない?」

( -∀-)「キュートに勉強を教えることによって、僕も勉強になりましたとさ」

キュートはいつかに見せた自慢気な顔で僕ににじり寄ってくる。
負けじと僕もキュートの紙の上に、自分の紙を置いてみせた。

o川;゚д゚)o「クラス順位のところにきらきら光って見える1という文字はなにっ!?」

(*・∀・)「ふっふっふ、今回ばかりはキュートに感謝しないとな」

o川;゚ー゚)o「うぬぬ……じゃあ感謝のしるしとして今回は引き分けに……」

( -∀-)「それはそれ、これはこれ、勝負は勝負。僕の完勝だ」

o川;゚ー゚)o「くそう……草食系な顔のくせに……」

154 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 21:58:36 ID:pIVeN7EU

一時はどうなることかと思われたキュートの様子は、テスト終了と同時に元に戻った。
詰め込み過ぎた反動だろうか、知識が一気に頭から流れ出たようだ。
まだ伊達眼鏡は持っていて、クラスメイトからのリクエストがあると、ときどきかけている。

o川*゚ー゚)o「あ、そうだ。今日モララーの家行ってもいい?」

( ・∀・)「いいけど……なんで?」

僕の問いかけを聞くと、キュートは鞄から紙袋を取り出した。

o川*゚ー゚)o「お母さんがお礼にこれ持っていけ、って」

(;・∀・)「そんな……わざわざいいのに」

o川;゚ー゚)o「ちゃんと家まで行って渡してこいって言ってるんだよね。
        お願い、これ持って帰ったら……わたしがお母さんになにされるか……」

困ったように語るキュートの額に、暑さが原因ではなさそうな汗がつたう。

(;・∀・)「なんか大変そうだな……分かった、それじゃあ受け取らせてもらうよ」

o川*^ー^)o「ほんとっ!? ありがとうモララー!!!
        キューちゃんいまなら質量を持った残像とか出せそうな気がする!!」

よく分からない例え方だけど、たぶんすごい嬉しいんだろう。
はしゃく動きに合わせて、あの日以来ヘアゴムでまとめられたふたつ結びの髪が揺れる。

155 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:02:01 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「僕はてっきり、そういうのも出せるんだと思ってたんだけど」

o川*゚ー゚)o「えー、そんな漫画やゲームじゃあるまいし」

(;・∀・)「お前が言うなって誰もが思うだろうよ……」

他愛ない会話をしながら時間は過ぎていく。
僕も、キュートも、いつもと変わらないまま時間は過ぎていく。
それだけのことが、いまは無性に楽しくて仕方なかった。

〜〜〜〜〜〜

o川*゚ー゚)o「あの、これ、母がこの間のお礼にと」

ζ(゚ー゚*ζ「まあ、ありがとう。あら……サプリメントや健康食品がたくさん。
        こんなに高そうなもの、もらってもいいの?」

o川*゚ー゚)o「いえ、母の仕事の関係でこういうのは余るくらいあって……」

リビングのソファーに座りながら、ふたりのやり取りをぼんやりと眺める。
父さんが最近不摂生気味だから、母さんは内心大喜びだろう。
しかしながら、礼儀正しいキュートは眼鏡のときほどではないけど、違和感しかない。

156 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:06:04 ID:pIVeN7EU

ζ(゚ー゚*ζ「せっかくだし、モララーと遊んでいったらどうかしら」

o川;゚ー゚)o「いえ、今日はこれを持ってきただけなんで……」

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃない、遅くなったら送らせるわ」

o川;゚ー゚)o「あー……それではお邪魔させて頂きます」

自然すぎて気付かなかったけど、僕を差し置いて話が進んでいっている。
それに気付いたときには、もう結論が出されてしまっていた。

(;・∀・)「ちょっ……ってもう手遅れか」

o川*゚ー゚)o「手遅れでーす! ていうわけでお邪魔しまーす!」

(#・∀・)「だったらもうちょい遠慮してる態度を見せろおおおお!」

一瞬で普段通りに戻ったキュートが、さっさと階段を上がっていく。
僕もキュートを追いかけて階段へと向かう。
視界の端に親指を突き立てる母さんの姿が見えたけど、見なかったことにした。

157 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:10:08 ID:pIVeN7EU

o川;゚д゚)o「えいっ! えいっ!」

(;・∀・)「……なにしてるんだ?」

ドアを開けて飛び込んできたのは、キュートがタンスに向かってジャンプしている光景だった。
そのたびに、スカートの裾がひらり、と揺れている。

o川;゚д゚)o「あの段ボールにっ、えっちなっ、本がっ、入ってるとっ、思ってっ!」

(;・∀・)「入ってないって……卒業アルバムだよ」

o川;´д`)o「えー……」

途端にジャンプをやめて、ふてくされるキュート。
そんな彼女を尻目に、学習机のそばから椅子を持ってくる。

( ・∀・)「ちゃんと椅子押さえてろよ、危ないからな」

o川*゚ー゚)o「え?」

( ・∀・)「せっかくだし、見てみようかなってね」

o川*゚ー゚)o「うーん……じゃあキューちゃんもモララーの黒歴史を見る!」

そう言うと、キュートは椅子の背をがっちりと抱え込む。
夜の海のように黒い瞳に、満月が浮かんだような輝きが灯る。

158 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:14:19 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「……よっと」

段ボールをタンスから下ろして、慎重に椅子から降りる。
キュートが支えてくれているとはいえ、車輪の付いた椅子は不安定だ。

o川;゚ー゚)o「うえっ、ホコリが……」

(;・∀・)「もらってから少し見たっきりだからな……」

段ボールを覆う大量の埃を払って、封を開く。
床に落ちた埃の塊を見て、ほんの少しだけ自分の行動を後悔した。
掃除のことは忘れて、中に入っている卒業アルバムを取り出す。

o川*゚ー゚)o「おお、これがうわさの卒業アルバム!」

(;・∀・)「どこで噂になってるんだよ……」

o川*゚ー゚)o「んー、キューちゃんの脳内限定で!」

(;・∀・)「野球中継が延長されない地域より限定的だな……」

ぼやきながらベッドに腰かけてアルバムを開く。
僕を追うようにキュートも左隣にちょこん、と座った。
アルバムをふたりで半分ずつ持つ格好になる。

159 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:18:07 ID:pIVeN7EU

( ・∀・)「えーっと……僕のクラスは……」

o川*゚д゚)o「ストップストップ! せっかくだし最初から見てこうよ!」

( ・∀・)「でも先生とか校舎とか知ってるし……」

o川*゚ー゚)o「モララーは知っててもキューちゃんは知らないの!
        おお、なんてきれいな校舎! モララーにはもったいない!」

僕の言い分をさえぎって、キュートは食い入るようにアルバムを覗きこむ。
まるで初めて見たんじゃないかと思えるほどに、興味津々だった。

〜〜〜〜〜〜

o川*^ー^)o『ぷぷっ、この先生の頭頂部まずくない!?』

( ・∀・)『よく怒る先生だったんだけどさ、すごい怒るとそこが噴火するって噂があったよ』

o川*;д;)o『あははははははっは! お腹痛い……』

o川*゚ー゚)o『おー、黒髪だけどジョルくんイケメーン!』

( ・∀・)『あいつ髪染めたいからVIP高校にしたって言ってたしなあ……』

o川*゚ー゚)o『おっ……モララー……変わってない。なんだつまんない』

(;・∀・)「たかだか数ヶ月じゃ変わらないって……」

〜〜〜〜〜〜

160 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:22:15 ID:pIVeN7EU

o川*>ー<)o「あー! 楽しかったぁー!」

大きく伸びをしてから、キュートはベッドに倒れこんだ。
それを見届けて、僕はアルバムをぱたん、と閉じる。
窓の外から射す夕日が、裏表紙を照らしていた。

( ・∀・)「それじゃあもうすぐ暗くなるし……帰るか?」

o川*゚ー゚)o「別に送ってもらわなくても大丈夫だけど……」

( ・∀・)「いいよ、夜道に女の子がひとりってのはいろいろ危険だし」

段ボールにアルバムをしまって、キュートの方へ振り返って答える。
本当に大丈夫なんだろうけど、僕も一応は男だ。
こういうときは送っていくのがエチケットというやつだろう。

o川*゚ー゚)o「おうおう、モララーにしてはかっこいいこと言っちゃってー!
        でもせっかくだし……お言葉に甘えさせてもらおうかな」

茶化しながらもキュートは僕の提案を受け入れてくれた。
色素の薄い髪は夕日に透けてきらきらと光っている。

( ・∀・)「よし、これさっさと片付けるか」

中身を戻した段ボールを胸に抱えて、椅子へと向かう。
その間に、キュートは椅子の背を持って僕を待っていた。

161 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:27:26 ID:pIVeN7EU

o川*゚ー゚)o「支える班、準備万端です!」

( ・∀・)「ごくろうさまです、っと」

椅子に立ってタンスの上に段ボールを戻す。
置き終わったとき、なにかに気付いたようなキュートの声がした。
その直後、なぜか足元がぐらつき始める。

o川*゚ー゚)o「危ない危ない、一冊入れ忘れてるよ」

揺れる視界に飛び込んできたのは、手を離してアルバムを取りに行くキュートの背中だった。

(;・∀・)「ちょっ、馬鹿……」

o川;゚д゚)o「ん……? あああっ!」

僕の声に反応したキュートが、慌てて椅子を支えに戻ってくる。

(;・∀・)「うわああああ!!」

o川;>д<)o「きゃあっ!!!」

しかし、時すでに遅し。僕はバランスを崩し、キュートめがけて倒れこんだ。

162 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:32:25 ID:pIVeN7EU

(;-∀・)「いって……だ、大丈夫か……?」

床にぶつけた肘は少し痛むが、それほどでもない。
それより、自分の下になってしまったキュートの方が心配だ。
一瞬でその思考に至って問いかけるが、返事はなかった。

(;-∀・)「……キュート?」

キュートの髪がなびくときに、かすかに香る匂いがして。
首筋にかかる、吐息のぬるさに気付いて。
そこでようやく、状況に頭が追いついた。

http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2178.png

o川* д )o「……」

目を丸くして僕を見つめる、真っ赤に染まったキュートの顔が、目の前にあった。

163 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:36:04 ID:pIVeN7EU

(*・∀・)「……」

o川* д )o「……」

いつまでも無音の時間が流れていく。
早くどかないといけないのに、体が一向に動いてくれない。
だけど、キュートはそんな僕をはねのけるようなことはしなかった。

(*・∀・)「……」

o川* д )o「……」

お互いの吐息が顔にかかる。絡み合う視線が離せない。
キュートにも聞こえているんじゃないかと思えるほど、鼓動が大きく、早くなっていく。

o川* - )o「……っ」

唇を真一文字に結び、目を伏せたキュートの両手が、僕のシャツの裾を掴んだ。
その手がゆっくりと僕の体を押しのける。動かなかったことが嘘みたいに、すんなりと離れる。
シャツ越しに触れられた部分だけが、じんわりと熱い。

o川* - )o「……っ!!」

まだ赤い顔のまま、キュートが勢いよく立ちあがる。
窓を閉めていたはずの部屋に、かすかな風が吹いた、次の瞬間。
キュートの手には僕の背後にあったはず鞄が握られていた。

164 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:40:14 ID:pIVeN7EU

「ざ、残念! 質量を持った残像でしたー!!!」

「……ああ、うん」

「そそ、そういうことだからっ! じゃあねっ!」

「あ、送り迎え……」

「大丈夫! ぜんっぜん大丈夫だから!」

「あ……」

「お邪魔しましたー!!!」

「……」

「……」

「やばい、顔が熱い……」

「……思ってたよりずっと体小さかったな」

「……やっぱキュートも女の子なんだな」

「……はあ」



「……なんか、可愛かった、な」

165 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:43:58 ID:pIVeN7EU
.











o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第四話 第六感でときめいて

おわり












.

166 ◆LemonEhoag:2016/08/09(火) 22:47:50 ID:pIVeN7EU
以上で今回の投下は終了です。読んでいただきありがとうございました。
ちょっと直前まで会社の用事が入るかわからなかったので、また予告できませんでした。すみません。
次回の投下は8月23日20時からの予定です。変更がある場合はお知らせします。

また、第四話のメイキングは明日21時公開予定です。
公開時にスレにも報告しに来ます。

最後になりましたが、質問、感想などありましたら気軽に書いていってください。

167以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/08/09(火) 23:44:34 ID:TxbSUG3w
乙、覚えてる場面出てきてテンション上がったよ

168以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/08/10(水) 01:12:18 ID:27t6vYpY
毎回毎回、絵のチョイスが抜群なんだよな
すごく良い

169以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/08/10(水) 01:39:47 ID:lUwJy1SA
一回しか読んでないから最初と最後しか覚えてないから新鮮!

170 ◆LemonEhoag:2016/08/10(水) 21:02:29 ID:YBdunV0E
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-39.html

第四話のメイキング公開しました。

171以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/08/10(水) 23:44:41 ID:M5vvjbuo
おつ

172 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 06:23:45 ID:G9CJR.d6
今日は仕事の都合で帰宅が遅れるため、投下時間を21時からに変更させていただきます。申し訳ありません。

173 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:00:43 ID:G9CJR.d6
投下開始します。

174 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:05:00 ID:G9CJR.d6

( -∀-)「I feel レモンスカッシュ感覚〜♪」

イヤホンから流れてくる曲に合わせて口ずさむ。
昨日買ってきたお気に入りのバンドのアルバムだ。
真夏の午後の部屋は暑いけど、それを苦に思わないくらい気分は良かった。

( ‐∀‐)「例えばラブ例えばポップ第六感でときめいて〜♪」

ポップとロックの両立したメロディーと青春を感じさせる歌詞。
それを彩るギターのリフと力強いドラムが心地いい。
自然と口ずさむ声も大きくなっていく。

( ‐∀‐)「一生消えぬ感覚〜ふりむいた君の輝き〜♪」

サビの最後のファルセットも完璧に出た。
今度カラオケに行ったら歌ってみよう。
そんな風に思った、まさにそのとき。ふと視線を感じて、目を開いた。

o川*^ー^)o「モララーって結構歌上手いんだねー」

( ・∀・)

(*・∀・)

(* ∀ )「い、い、いつからいたんだああああああ!!!」

いつの間にか部屋のドアの前で、キュートがにやつきながら立っていた。

175 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:08:27 ID:G9CJR.d6
.












o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第五話 ふりむいた君の輝き













.

176以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/08/23(火) 21:09:56 ID:0BerLIRM
支援

177 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:15:03 ID:G9CJR.d6

(* ∀ )「ノックぐらいしろよおおおおおお!」

o川*゚ぺ)o「しましたー! でも全然開けてくれませんでしたー!」

(*・∀・)「だからって勝手に部屋に入ってくるなああああああ!」

唇をとがらせて、不満を口にするキュート。
確かに、大音量で音楽に聞き入っていた僕にも非はある。
だからといって、勝手に入ってくるのはいささか非常識じゃないか。

o川*゚ぺ)o「勝手じゃないよ! 居間にいたお母さんに聞いたら
       『あらあら、彼女なんだから遠慮しないで入ればいいじゃない』
       って言ってたもん!」

(* ∀ )「無視か! 僕の意思は完全に無視か!
        ていうか、キュートは彼女じゃないだろ!!」

自分の方が正しいと言わんばかりの主張だけど、とんでもない。
一体、母さんは何を考えてそんなことを言ったんだろう。
母さんの言うことをすんなり聞き入れるキュートもキュートだけど。

o川*゚ー゚)o「どうせ否定しても信じてくれないし、じゃあお言葉に甘えちゃおうかなって」

(* ∀ )「そういう問題じゃないだろおおおお!」

178 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:20:21 ID:G9CJR.d6

テスト勉強での一件以来、どうも調子が狂っていた。
キュートとの仲についての話を、いままでのようにあしらえずにいた。
だけど、そんな僕の苦労を知ってか知らずか、キュートの反応はいままでと変わりない。

o川*^ー^)o「顔赤いよ、もしかして照れてるのー?」

(*・∀・)「あ、暑いからだよ! 何か用があって来たんだろ……早く言えよ」

相変わらずニヤニヤしながら僕を茶化してくる。
このままじゃ暑さと恥ずかしさで身が持たない。
頭をフル回転させて、できるだけ自然に話題を変える。

o川*゚д゚)o「ねえねえ、海行こうよ! 海水浴!」

( ・∀・)「……いつ?」

o川*゚д゚)o「いま!」

実に楽しそうにキュートは提案する。 だけど、荷物は見た限りでは小さな鞄ひとつだけ。
とても海水浴に行く準備が整っているようには思えない。
それよりも、さらに大きな問題が存在する。

(;・∀・)「ここから最寄りの海まで電車で二時間かかるんだぞ……
        海水浴場にいたっては三時間だ」

いまは午後三時を回ったところ。
これから海に向かえば着くころには夕方で、帰りは夜になる可能性もある。
いくら日が長いとはいえ、海で泳ぐなんて到底無理だ。

179 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:25:10 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「ありゃ、そうなの?」

(;・∀・)「そんなことも知らずに誘ってきたのか……?」

o川;゚ー゚)o「だって……あんまりこの辺のこと、知らないし……」

数ヶ月の付き合いで、キュートについて分かったことがいくつかある。
そのうちのひとつが、十代の女の子のわりに、かなり世間知らずだということ。
VIP高校まで通ってきてるくらいだから、地理くらいは分かっていると思っていたのだけど。

o川;゚ー゚)o「うーん……もうお母さんに海行ってくるって言っちゃったし……」

予定変更を余儀なくされ、体育座りで頭を抱えて唸り始めるキュート。
白地のタンクトップと、デニムのショートパンツは海で遊ぶための服装だったんだろう。
それからひとしきり悩んだあと、決心したような表情でキュートは顔を上げた。

o川;゚д゚)o「やっぱり海に行こう!」

(;・∀・)「だから海までは……」

o川;゚ー゚)o「海水浴じゃなくてもいいから、ね!?」

キュートはそう言うと、顔の前で手をパン、と合わせて話を続ける。

180 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:29:53 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「モララーといっしょに海に行きたいの!」

(;・∀・)「……っ」

そのひと言は、僕の心を大きく揺さぶった。
揺さぶって、いともたやすく崩した。

(;-∀-)「ああ……わかったよ」

o川*゚ー゚)o「ホント!?」

念を入れて確認するように、キュートが僕の目の前まで寄ってくる。
間近に迫ってきた顔があの日の記憶と重なり、思わず視線を逸らす。

(;-∀-)「僕の負けだ……行くよ」

o川*^ー^)o「やったー!!! ありがと!!」

嬉しくて仕方ないといった様子のキュートは、僕の肩を掴んで一層距離を詰めてくる。
気持ちは分かるけど、これじゃいつまでも正面を見れない。
気を紛らわすために、これからどうするか考えてみても、何も思いつかなかった。

181 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:34:59 ID:G9CJR.d6

まあ、何をするかは行く途中でも考えられる。
もしも、何も思いつかなくても、行ってみれば何かあるかもしれない。

o川*^ー^)o「よーっし、それじゃあいますぐいっくぞー!!!
          ほら、モララー早く支度して! 40秒ね!」

(;・∀・)「いろいろ持ってくべきものがあるんです! そんなすぐには無理です!」

それに、キュートといっしょなら、楽しくないはずがないと思えた。

〜〜〜〜〜〜

182 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:40:26 ID:G9CJR.d6

o川;´д`)o「あーつーいー、とーけーちゃーうー……」

(;・∀・)「口に出すなよ、余計暑くなるだろ……」

うだるような暑さの中、僕たちは駅に向かって歩いていた。
正午を過ぎたとはいえ、真夏の日差しは無慈悲なほどに強い。
太陽の眩しさに目を細めながら見つめる景色には、陽炎が立ちのぼっていた。

o川;´д`)o「ねー、駅まだー?」

(;・∀・)「このペースだと……あと五分くらいかな」

駅までの道のりは、まだ半分ほど残っている。
普段なら歩いて行くのも億劫ではないはずの距離。
だけど、いまは何倍にも引き延ばされたように思えるほど、遠い。

o川;´д`)o「もーダメ、限界! ごめんモララー!」

キュートがそう言うと、ぬるい風が吹いてその姿が消えた。
そして、次に僕が彼女を見たのは、陽炎の向こうだった。

(;・∀・)「あっ、ずるいぞ自分だけ!」

暑さのせいなのか、いつもより遅い気がする。
それでも置いていかれるから、早く追いかけようと僕も走りだした。

183 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:45:33 ID:G9CJR.d6

o川;´д`)o「はひー……着いたぁ……冷房……じゃなくて電車どこー?」

(; ∀ )(やばい……死ぬ……)

走りだしたキュートに釣られて走った結果、駅には早く着いた。
だけど、その代償として僕は命の危機に瀕していた。
よくよく考えれば、キュートが疲れ切っているんだから、僕が無事で済むわけがない。

o川;´д`)o「モララー、キューちゃん電車全然乗らないから案内……」

(; ∀ )(それより水分……助け……)

もはや声を出すことすら辛く、なんとか口の動きでキュートに伝えようと試みてみる。

o川;´д`)o「おっけぇ……」

気付いてくれたらしく、キュートはふらふらと自販機へ向かっていった。
戻って来たその手には、ふたつのペットボトルが握られている。

o川;´д`)o「開けられる?」

(; ∀ )(なん……とか……)

ペットボトルを受け取って、残された力を振り絞ってふたを開ける。
喉を鳴らして一気に飲み干すと、体の中を冷たさが駆け抜けていくような感覚がした。

184 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:49:55 ID:G9CJR.d6

(;・∀・)「ぶっはあ!!! 死ぬかと思った!!!」

声が出る元気も戻り、天を仰いで思いきり叫んだ。
視線の先では、僕の命を奪おうとした憎き宿敵が燦然と輝いていた。

o川;゚ー゚)o「よかったぁ……」

横でペットボトルに口を付けながら、キュートが安心したように言う。
どうも、傍から見ても相当まずい様子だったらしい。

(#・∀・)「チクショウ太陽め、もうお前なんか知るかっ!! 行くぞキュート!!」

o川;゚д゚)o「なんかさっきとは違う意味で変だよ!?」

地面に置いた鞄を乱暴に掴んで、ずかずかと駅へと向かう。
後ろから聞こえる心配そうなキュートの声も気にも留めなかった。
電車の中で我に帰って、夏の日差しとは違う顔の熱さを覚えたのは、言うまでもない。

〜〜〜〜〜〜

185 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 21:55:49 ID:G9CJR.d6

電車に揺られて二時間、すっかり僕の顔も冷めたころ。
窓の外の景色から、町並みは消え去った。
その代わりに広がっているのは、

o川*゚ー゚)o「見て見てー! 海だよ、海!」

(;・∀・)「窓から体出すな! 危ないだろ!」

どこまでも続く青空と、淡い橙色を帯び始めた太陽。
そして、空の色をそのまま映した海と、白い砂浜だった。

o川*゚ー゚)o「すごいねー! きれいだねー!」

キュートは小さな子どものように、座席に膝立ちになって窓の外を眺めている。
こんな時間に海へ向かう人なんていないのか、車内は僕たちだけだった。
そうじゃなきゃ首根っこを掴んででもやめさせているところだ。

o川*゚д゚)o「反応薄いぞー、海に失礼だぞー!」

(;・∀・)「どんな礼儀だよ……わー、うみだー」

小さな子どものようなのは、どうやら中身もらしい。
その証拠とでも言わんばかりに、海を見つめる瞳はきらきらと輝いている。
瞳の色と相まって、まるで夜の海に星が浮かんでいるようにも見えた。

186 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:00:13 ID:G9CJR.d6

「次はVIPヶ浜〜、VIPヶ浜〜。お出口は〜左側です」

独特のイントネーションのアナウンスが、もうすぐ駅に着くことを知らせる。
それを聞くなりキュートは席からぴょん、と降りてドアの前へ小走りで駆けていく。
ころころと変わる表情はどれも楽しそうで、見ていて飽きない。

「VIPヶ浜〜、VIPヶ浜〜」

o川*゚ー゚)o「置いてっちゃうよー!」

キュートはドアが開くと、我先に、とホームへ飛び出した。
そして、振り返って僕に早く来いと催促してくる。

( -∀-)「はいはい……よっと」

僕も軽くジャンプしてホームへ降り立つ。
すぐ後ろでドアが閉まる音がして、電車が走り出す。

o川*^ー^)o「れっつごー! 海が待ってるぅー!!」

(;・∀・)「おわっ!?」

187 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:05:21 ID:G9CJR.d6

電車と競走でも始めるかのようなタイミングで、キュートが僕の手を掴んで走りだした。
軽く繋いだだけでも、手の小ささと柔らかさが伝わってくる。

o川*゚ー゚)o「改札にとうちゃーく……モララー顔赤いよ、だいじょぶ?」

(*・∀・)「こ、こんな暑さの中で走らせるからだろ……」

尋ねられたけど、とりあえずそういうことにしておいた。
キュートはそれ以上は追及はしてこず、僕たちはそのまま改札をくぐっていった。

o川*゚ー゚)o「これが潮の匂いってやつかー!」

外に出ると、キュートが両手をいっぱいに広げて深呼吸をしてみせた。
駅の前にコンビニが一軒あるだけで、周りに建物はひとつもない。
大多数はもう少し先の海水浴場へ行っているのか、人ひとりすらいなかった。

o川*゚д゚)o「貸切だー! プライベートビーチだー!」

はしゃぐキュートは残像を残し、道路の向こう側へ広がる海へと駆けていった。
と、思いきや道路から砂浜へ降りる階段の前で止まると、普通に降りていく。

( ・∀・)「ぷっ……階段は普通に降りるんだ」

思わず吹き出しながら、僕もキュートの背中を追いかけて海へと向かった。

188 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:09:52 ID:G9CJR.d6

少し遅れて砂浜へと降りると、不思議な光景が目に飛び込んできた。

o川;゚д゚)o「あつっ! あっ! あちっ! 」

キュートが残像を残しながら、砂浜を右往左往していた。
あちこちで砂が宙へ舞い上がっている。

o川;゚д゚)o「あちっ! モラっ! たすっ! けっ! てっ!」

(*;∀;)「はっはははっはっは!!! 何やってんだよ!!!」

その様子がおかしくて、声を張り上げて笑う。
今度は吹き出すなんてレベルじゃない、大爆笑だ。

o川;゚д゚)o「海っ! 入ろうとっ! 思って靴っ! 脱いだらあつっ!」

(*;∀;)「はははっ、さっさと海、ははっ、入れ……はははっはっははは!!!」

海に入れと教えようとして、こらえ切れずに声を上げてまた笑う。
笑いすぎてお腹が痛いし、涙が出てくる。
海にこんな楽しみ方があったなんて驚きだ。

o川;´ー`)o「ふいー……生き返るぅー」

波打ち際でくたびれた顔をしているキュートに感謝しよう。
涙をぬぐって砂浜の真ん中へと歩きながら、そう思った。

189 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:15:04 ID:G9CJR.d6

適当に平らな場所を見繕って、鞄からビニールシートを取り出して敷く。
小さいころに遠足とかに持っていった物だけど、ふたりで使うには問題ない大きさだ。
飛ばないようにそこらの流木を四隅に置くと、鞄をその上へ放り投げた。

( ・∀・)「これでよし……と」

o川*゚ー゚)o「ねー! 早くこっち来なよー!」

呼ばれるがままに振り返ると、キュートが波打ち際でぱちゃぱちゃと水を跳ねあげていた。
手に持ったままの靴や鞄のことなんてお構いなしに、海を満喫している。
とりあえずサンダルに履き替えて、キュートの元まで歩いていく。

( ・∀・)「とりあえず荷物置いてこい。濡れても知らないぞ」

o川;゚ー゚)o「だいじょーぶだy……ひゃっ!?」

そう言った途端、キュートは靴を片方地面に落としてしまった。
拾い上げようとかがんだ目の前で、靴はむなしく波にさらわれてしまう。

o川*;д;)o「あーん、じゃりじゃりのべちゃべちゃ……」

(;・∀・)「何がだいじょーぶ、だよ……」

指先でつまみ上げた靴のつま先からは、海水が止まることなく滴り落ちている。

190 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:20:27 ID:G9CJR.d6

o川*;д;)o「えーい、こうなったらやけくそだー!」

(;・∀・)「ちょっ、おまっ!!」

キュートはそう言って鞄を僕に押し付けると、濡れた靴を履いて海へ入っていく。
そして、ふくらはぎくらいまでの深さのところで、なにやら叫びながら海水を蹴りあげ始めた。

o川*;д;)o「海のばかやろー! あれお気に入りだったのにー!」

(;・∀・)「だったらなんでそんなの履いてきたんだよ……」

シートにキュートの鞄を置きながら、その光景を眺める。
晴れ渡った空に大きな入道雲。夕方の到来を予感させる色で、太陽は海を照らしている。
そして、まっさらなキャンバスのように白い砂浜の向こうで、叫ぶキュート。

(;・∀・)「ものすごいシュールだな……」

キュートさえいなければ、一枚の絵画のような風景だ。
いるにしても、せめて笑顔で真ん中にでも立っていればいいのに。

(;・∀・)「人はいないけど……一応止めてくるか」

ジーパンの裾を膝までまくり上げて、再びキュートの元へと向かった。

191 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:24:54 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「はあ……はあ……まいったか」

(;・∀・)「誰がどうみてもキュートの負けだろ……」

疲れたのか気が済んだか、キュートはやつあたりをやめた。
頬をつたう玉のような汗が、日差しできらりと光っている。

o川*゚ー゚)o「今日はこれくらいで勘弁してあげるっ!」

( ・∀・)「まあ、そこまでして頭冷やせ。それっ」

o川;゚д゚)o「んにゃあっ!」

海水を少しだけすくって、キュートの腕にかけた。
突然の刺激に、派手に水しぶきをあげてキュートは飛び上がる。

o川*゚ー゚)o「やったなー! このっこの!」

(;・∀・)「ちょっ、そこまでやってないだろ! こんのっ!」

o川*゚ー゚)o「キューちゃんの服を透けさせようとした罪は重いのっ!」

(;-∀・)「いって! 目に入った!」

キュートは海水を思いきり蹴り上げて、何倍返しとも分からない反撃をしてきた。
サンダルが脱げてしまう可能性のある僕は、手で少しずつかけるしかない。戦力の差は歴然だ。

192 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:30:10 ID:G9CJR.d6

o川*^ー^)o「やーいやーい、ジャッジメントだー!」

(;・∀・)「似たようなこと出来るからって……こんにゃろ!」

多少濡れるのを覚悟で、僕は渾身の反撃に出た。
その場でかがみ込んで、腕を深く海の中へ突っ込む。
そして、いっぱいに海水をすくい上げ、キュートめがけて腕を振り抜いた。

o川;゚д゚)o「なにぃっ!?」

完全に調子に乗っていたキュートは、避けるタイミングを逃した。
服が透けるほどじゃないけど、海水でべとべとにはなるだろう。いい気味だ。
しかし、僕のそんな思考を読んだかのようにキュートは言い放った。

o川*゚ー゚)o「モララーは、いつからキューちゃんが海じゃ速く動けないと思ってたの?」

(;・∀・)「なん……だと……?」

海水のカーテンが、淡いオレンジ色にきらめいてキュートを覆う。
それが取り払われた瞬間、キュートの姿ははるか彼方にあった。
はるか彼方の、ここよりもずっと深いところに。

193 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:33:04 ID:G9CJR.d6

o川*゚д゚)o「ふははは! 見誤ったなモラr」

その言葉を最後に水しぶきが上がって、キュートの姿は見えなくなった。

(;-∀-)「どうみても見誤ったのはお前だろ……」

平泳ぎで懸命に戻ってくる光景は、滑稽を通り越してもはや哀れだ。
岸に泳ぎ着いたキュートは、息を切らして僕の元へ歩いてくる。
体力自慢のキュートといえど、さすがに着衣水泳はきついものがあるらしい。

o川*;д;)o「あぇぇ……」

(;・∀・)「聞くけど、着替えは……?」

o川*;д;)o「水着だけぇぇぇ……」

(;-∀-)「だろうね……」

海水浴に、普通の服の着替えを持っていく人はそうそういないだろう。
どうするか考えながら、とりあえずシートのところまでキュートを連れていく。

194 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:36:19 ID:G9CJR.d6

(;・∀・)「一応、体拭けよ。服はあきらめろ」

o川*;д;)o「あぅぅ……」

タオルを放り投げて渡しても、放心状態なのか反応がない。
いつまでも幽霊のように手を前に突き出して、半泣きでよわよわしい声を出すばかりだ。
ふたつ結びの髪と、指の先からぽたぽたと雫が垂れていく。

(;-∀-)「……ったく、いくら夏でも風邪ひくぞ」

o川;゚ー゚)o「!!!???」

頭にかかったままのタオルで、キュートの頭を拭いてやる。
どうやって拭けばいいのか分からないので、優しく押し当てて水気を取っていく。
キュートは驚いたような顔をして手を頭に伸ばしかけたけど、すぐに下ろした。

o川* д )o「あっ……」

( ・∀・)「動くなよ、すぐ終わるから」

ほんの少し、キュートの頭がうなだれて体が離れていく。
それを追いかけるように動き、今度は離されないよう少しだけ手に力を込める。

195 ◆LemonEhoag:2016/08/23(火) 22:39:20 ID:G9CJR.d6

( ・∀・)「ほら、終わったぞ。さすがに体は自分で拭いてくれよ」

o川*゚ー゚)o「あ……うん」

あとはキュートに任せて、鞄の中からもう一枚タオルを取り出す。
キュートほどではないけど、僕の体も拭かないといけない程度に濡れていた。

(;・∀・)「まいったな、この時間で乾くかな……」

僕を背後から照らす太陽は、青かった空を、橙と薄紫に染め始めている。
あとどのくらいで沈んでしまうのだろう。そう思い、再び海の方へ振り向いた。

o川* д )o「……」

太陽よりも、タオルを頭にかけて呆けているキュートが先に目に入った。
なぜかさっきまで僕がしていたように、手を頭に置いている。

(;・∀・)「……何やってんの?」

o川;゚ー゚)o「ふぇっ!? い、いやっ、別になんでもない!」

はっとしたように、慌ててタオルで体を拭き始める。
夕日のせいか、その顔はほんのり赤く染まって見えた。

196以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします:2016/08/23(火) 22:41:10 ID:YvmSsMaM
キューちゃん可愛すぎ罪


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