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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
195
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:39:20 ID:G9CJR.d6
( ・∀・)「ほら、終わったぞ。さすがに体は自分で拭いてくれよ」
o川*゚ー゚)o「あ……うん」
あとはキュートに任せて、鞄の中からもう一枚タオルを取り出す。
キュートほどではないけど、僕の体も拭かないといけない程度に濡れていた。
(;・∀・)「まいったな、この時間で乾くかな……」
僕を背後から照らす太陽は、青かった空を、橙と薄紫に染め始めている。
あとどのくらいで沈んでしまうのだろう。そう思い、再び海の方へ振り向いた。
o川* д )o「……」
太陽よりも、タオルを頭にかけて呆けているキュートが先に目に入った。
なぜかさっきまで僕がしていたように、手を頭に置いている。
(;・∀・)「……何やってんの?」
o川;゚ー゚)o「ふぇっ!? い、いやっ、別になんでもない!」
はっとしたように、慌ててタオルで体を拭き始める。
夕日のせいか、その顔はほんのり赤く染まって見えた。
196
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/08/23(火) 22:41:10 ID:YvmSsMaM
キューちゃん可愛すぎ罪
197
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:42:08 ID:G9CJR.d6
( ・∀・)「変なやつ……そうだ、服のことなんだけど」
o川;゚ー゚)o「う、うんっ!」
( ・∀・)「この時間じゃ乾きそうもないし、体も冷えるから着替えよう」
o川;゚ー゚)o「え……でもキューちゃん着替えなんて……」
がしがしと体をこすっていた手がぴたり、と止まる。
ひと息ついて、キュートの疑問の答えを口にした。
( ・∀・)「僕の着替えだよ。大きいだろうけど、ベルト貸せばなんとか着られるだろ。
その下に水着を着ればなんとかなりそうだし」
o川*゚ー゚)o「……モララーだって濡れてるのに?」
( ・∀・)「僕はいいって。だいたい、そんな格好で……」
言いながらキュートのいまの有様を見てみる。
胸元に透けて見える水色に自然と目が行ってしまい、慌てて目を逸らした。
(* ∀ )「そ、そんな格好でいられても……」
o川*゚ー゚)o「ん、どうしたの?」
キュートはさっきまでの僕の視線を追うように胸元を見る。
そこでようやく気付いたらしく、慌てて胸を覆い隠した。
198
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:45:00 ID:G9CJR.d6
o川* д )o「ごっ、ごっご、ごごごごごめん!!!」
(* ∀ )「いやっ、その、そんな反応されると、か、かえって恥ずかしい……」
o川* д )o「すっ、すぐ着替えるから!」
そう言うなり、キュートは僕の目の前でタンクトップを脱ごうとする。
裾を掴んだ手をほとんど反射的に握りしめて、制止させた。
(* ∀ )「バカバカバカッ!!! こんなとこで脱ぐな!」
o川* д )o「どどっどっどどどこで脱げばいい!?」
(* ∀ )「道路の横で僕がシートで囲って見えないようにするから!
そこに行くまで頼むから脱がないでくれ!」
o川* д )o「わ、わかった!」
真っ赤な顔をしたまま錯乱しているキュートは、言うなり砂塵を舞い上げて消えた。
着替えと敷いていたシートを持って、僕も彼女のいるであろう道路の方へ走りだした。
199
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:48:11 ID:G9CJR.d6
腕を胸の前で組んで、キュートは壁に寄りかかって僕を待っていた。
駆け寄って僕の服と、腰から引き抜いたベルトを渡す。
(*・∀・)「ほら、これ着替え」
o川*゚ー゚)o「うん、ありがと」
心なしかまだ顔が赤いように見えたけど、態度は普段のキュートに戻っていた。
一連の出来事のせいか、走ったせいか。僕の顔はまだ熱を帯びている。
o川*゚ー゚)o「このまま立ってればいい?」
この海岸は、道路より低い場所に広がっている。
海岸に降りるには、等間隔に設置されている階段を使うしかない。
つまり、道路のすぐ横は海岸から見ると、壁のようになっている。
( ・∀・)「うん、……よっと」
だから、僕が正面からキュートを隠すようにシートで囲えば、即席の着替え部屋の完成だ。
上は僕がなんとしても死守するし、横は誰もいない。とりあえず問題はないだろう。
「それじゃ、ちょっとだけ頑張っててね」
シートの向こうからは、その声を最後にかすかな物音しか聞こえなくなった。
200
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:52:08 ID:G9CJR.d6
(#・∀・)「ふんぬぬぬぬ……」
両腕と両足を目いっぱい広げて壁に付ける。
自分の体より大きいシートを押さえるのは、思った以上にきつかった。
しかし、こうしないとキュートが着替えるスペースが確保できない。
(#・∀・)(早くしてくれ……)
幸い、キュートはさほど体が大きいわけじゃない。身長は僕の肩より少し大きいくらいだ。
その小さな体がもぞもぞ動くのを、シート越しに感じる。
よく考えればシート一枚隔てただけで、僕とキュートの距離はかなり近い。
(#・∀・)「……」
脳裏に浮かんだのは、目の前で僕を見つめるキュートの顔。
そこから先程の光景、さらには部屋での一件がスライドショーのように頭をかすめた。
(;・∀・)「……いや、待て待て待て。キュートだぞ?
あのキュー……」
一瞬よぎった思考に、思わず言葉を飲んだ。
そんな風に考えたことが、自分でも信じられなかった。
201
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:53:59 ID:G9CJR.d6
.
他ならぬキュートだから、そう思うんじゃないか。
そんなことを考えた自分が、信じられなかった。
.
202
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 22:56:56 ID:G9CJR.d6
( ・∀・)「……」
「着替え終わったよモララー……モララー?」
(;・∀・)「っ! ごめんごめん」
キュートの声で我に返って、シートを取り払う。
o川;^ー^)o「たはは……すっごいだぼだぼ」
シャツの襟を軽く摘まんで、キュートは困ったように笑った。
まるでクラブにいるラッパーの格好のようで、かなりアンバランスだ。
(;・∀・)「ははは、ぜっんぜん似合ってないな。下は大丈夫か?」
o川*゚ー゚)o「ベルトぎゅーって絞めたから大丈夫!」
そう言って両手を胸の前でグッと握って見せる。
ヘアゴムの飾りが少し揺れて、夕日できらりと光った。
( ・∀・)「よかったよかった。んじゃ、脱いだやつ鞄に入れてきな」
o川*゚ー゚)o「うん!」
走りづらいのか、普通の速度で荷物のところへ走っていく。
203
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:00:13 ID:G9CJR.d6
o川;゚ー゚)o「あっ!」
鞄に服を閉まっていたキュートが、急に大きな声を出した。
( ・∀・)「どうした?」
僕も荷物の場所までたどり着き、後ろから声をかける。
o川;゚ー゚)o「え、えーと……そのー、うん」
( ・∀・)「気になるじゃんか、早く言えよ」
o川;゚ー゚)o「こ、こんなものが……」
キュートが広げて見せたのは、檸檬色のビキニだった。
なんでこんなものを見せてくるのか、しばし考え込む。
そして、さっきまでの自分の発言を思い返して、合点がいった。
( ・∀・)『僕の着替えだよ。大きいだろうけど、ベルト貸せばなんとか着られるだろ。
その下に水着を着ればなんとかなりそうだし』
(;・∀・)「しまった……服の下に何も着てないのか」
o川;゚ー゚)o「よ、よろしければもう一回頑張っていただきたいなー、なんて……」
204
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:02:54 ID:G9CJR.d6
(;・∀・)「このまま帰らせるわけにもいかないよな……」
o川;゚ー゚)o「大丈夫なの……?」
(;-∀-)「やれるかやれないかじゃない……やるんだ」
砂浜に置いたシーツを再び持って、道路の方へ歩いて行く。
正直腕はかなりきついけど、やれないこともない。
「ありがと……でも、ごめん」
うしろからキュートの申し訳なさそうな声が聞こえた。
らしくないな、そう思いながら振り返って話しかける。
( ・∀・)「お前、そんなやつだったか? いつもみたいに
『キューちゃんの悩殺バディを守るためによろしく! 覗いちゃダメだぞ?』
とか言ってればいいんだよ」
o川;゚ー゚)o「ん……でも……」
それっきり、キュートは何も言わなかった。
そして再び壁にたどり着いて、僕はキュートの体をシートで囲んだ。
205
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:05:51 ID:G9CJR.d6
「モララー……いる?」
しばらく経って、キュートの動きが止まる。
そして、ぽつりと僕の名前を呼んだ。
(;・∀・)「いないわけないだろ……」
「そっか、そうだよね」
( ・∀・)「どうした? もう着替え終わったのか?」
「うん。それより、聞いて」
いつもと変わらない声で放たれた、言葉に込められた真意を僕は汲み取れなかった。
お構いなしと言わんばかりに、キュートは話を続けた。
「今日、楽しかった?」
( -∀-)「そうじゃなきゃ途中で帰ってるよ」
「あはははは、モララー楽しかったんだ……よかったぁ」
206
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:08:54 ID:G9CJR.d6
「わたしもね、楽しかった。モララーと海に来れて、すっごい楽しかったよ。
だからこそ、少しでもいいからもっと楽しんで欲しくて、迷惑かけたくなくて。
申し訳なくて……いつもみたいになんてできないよ」
カラフルだったシートは、いつの間にかオレンジ一色に染め上げられていた。
それをキュートの顔を見るために、降ろそうとする。
「ダメ……恥ずかしいから、ダメ」
( ・∀・)「……」
僕を制する、恥じらいを含んだ声に、手を止めて答えた。
沈黙を話を続けることへの肯定と受け取ったのか、キュートは話を再開する。
「たまには……真面目なこと、言ってみようかな」
深く息を吸い込んで、吐き出す音が、波の音に混じって聞こえてくる。
よし、と小さく呟く声がして、シートの上からキュートの手が出てきた。
(;・∀・)「うわっ!」
シートを取り払って、中からキュートが飛び出してきた。
真っ直ぐと海の方へ小走りで駆けていく。
そして、キュートは沈み始めた太陽を背負うように、こちらを振り向いた。
207
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:11:56 ID:G9CJR.d6
.
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2181.png
o川*^ー^)o「いつもありがと! モララーといっしょにいれて楽しいです!
ずっといっしょにいたいです! これからもよろしくお願いします!」
.
208
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:15:04 ID:G9CJR.d6
夕日よりも赤く耳を染めて、そう叫んだキュートが見せた、満面の笑みが。
振り向いた瞬間に夕日に透けて、きらきらと輝いたキュートの髪が。
僕がいままで見たどんなものよりも、綺麗に見えた。
(* ∀ )「え……あ……」
別に激しく動いたわけでもないのに、鼓動が一気に高鳴る。
そして、収まるどころかますます強くなっていく。
その原因から目が離せないまま、僕はその場で立ち尽くす。
o川* ー )o「あー、はずかし……」
キュートは手で顔を扇ぎながら、荷物の置いてあるところへ歩いていく。
相変わらず耳は真っ赤だけど、逆光でその表情はうかがい知れない。
o川* д )o「もー、恥ずかしいからしゃきっとして! 帰ろ!」
自分の鞄を持って、キュートは僕にそう促す。
僕が近付くと、こちらも見ようともせずに、さっさと先に行ってしまった。
その背中を、すでに強く脈打つ心臓を抱えて、走って追いかけた。
209
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:17:55 ID:G9CJR.d6
「……なんで置いていくんだよ」
「だって顔見れないもん! 恥ずかしいよ!」
「僕だって恥ずかしいよ!」
「んー! そういうこと言われるともっと恥ずかしい!」
「あっ……消えやがった」
「……なんだよ、いっしょにいたいって言ったくせに」
「いつも僕のこと振り回してばっかで、あきれるようなことばかりして」
「そのくせ……ときどき、すごい女の子らしいとこ見せて」
「ずるいんだよ……まったく」
「……」
210
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:20:55 ID:G9CJR.d6
.
「好き……なのかな」
.
211
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:21:55 ID:G9CJR.d6
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第五話 ふりむいた君の輝き
おわり
.
212
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:26:42 ID:G9CJR.d6
以上で今回の投下を終了します。
次回の投下は9月6日20時からの予定です。変更がある場合はその都度お知らせします。
第五話のメイキングは明日21時公開予定です。公開時には再度スレでお知らせします。
最後になりましたが、質問や感想などありましたら気軽に書いていってください。
213
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/08/23(火) 23:30:03 ID:YvmSsMaM
乙
やっぱり絵がいいね
214
:
◆LemonEhoag
:2016/08/23(火) 23:31:58 ID:G9CJR.d6
ちょっとしたお知らせです。
なんかNGワードがどうとかでURLが書きこめませんが、このたびブンツンドーさんがリマスター版をまとめてくれました。
この場を借りてお礼を申し上げます。ありがとうございます。
215
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/08/23(火) 23:42:56 ID:0BerLIRM
乙
期待してます
216
:
◆LemonEhoag
:2016/08/24(水) 21:02:33 ID:S1NHGkow
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-40.html
第五話のメイキング公開しました。
217
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/08/24(水) 23:36:27 ID:N.dy2zmA
乙
夏がまぶしいなぁ
キュートのかわいさにグッとくるし、モララーも好きだ
218
:
◆LemonEhoag
:2016/09/06(火) 20:42:12 ID:FRrYStjI
すみません、体調不良のため本日の投下は延期させていただきたいと思います。
第六話の投下は来週9月13日、時刻は20時からです。
219
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/06(火) 22:03:51 ID:lnytr2Ho
残念
220
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/06(火) 22:06:55 ID:FypZB4.U
しっかり休みなされ、お大事に
221
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:01:32 ID:G7xN1/5c
投下開始します。
222
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:05:10 ID:G7xN1/5c
( -∀-)「ん……むう……」
けたたましいアラームの音で目を覚ます。
枕もとの時計に目をやると、ちょうど七時半。
どうやら、二学期の最初から遅刻はしなくて済みそうだ。
( ・∀-)「ふあ……」
二度寝してしまわないうちに、目をこすりながらベッドから降りる。
制服に着替え終わるころには、眠気もすっかり覚めていた。
( ・∀・)「よし、準備ばっちり」
夏休み中でも早寝早起きしたおかげだろうか。
体は以前とと変わらないバイオリズムを保っていた。
朝食の献立に思いを馳せながら、階段を降りてリビングへ向かう。
( ・∀・)「母さーん、今日の朝ご」
o川*゚ー゚)o「このトースト超おいしいです! さっすが専業主婦してるだけありますね!」
ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、キューちゃんったら嬉しいこと言ってくれるじゃない」
( ^ω^)「女の子がいると家が賑やかになるおー」
( ・∀・)「」
リビングに入ると、なぜかキュートが我が家で朝食を食べていた。
223
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:10:09 ID:G7xN1/5c
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第六話 制服のあの子が泣いてた
.
224
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:15:07 ID:G7xN1/5c
(;・∀・)「な、なんでいるんだよっ!?」
o川*゚〜゚)o「んーっとね、んぐんぐ……今日から二学期でしょ?
夏休みの間に髪型変えた、とか髪染めた、とかあるじゃん?
それが早く見たくて……あむっ……とりあえずモララーのとこに来たの。
でも変わってないね、つまんない。あ、焼けた。バター取ってください」
キュートは説明しながらどんどんトーストを頬張っていく。
遠慮、という言葉を知らないのだろうか。
(#・∀・)「食べながら喋るな少しは遠慮しろその最後の一枚は僕に食べさせろおおお!」
o川#゚д゚)o「モララーのケチー!」
僕が皿ごとトーストを奪い取ると、頬を膨らませながらキュートが取り返そうとしてくる。
迫ってくるキュートの額を、すかさず空いた方の手で押さえた。
前に進めなくなったキュートの両手は、トーストに届くことなくむなしく空を切る。
o川*;д;)o「あーん! とーどーかーなーいー!」
(#・∀・)「僕が来る前にさんっざん食べただろうが!」
o川#;д;)o「全然食べてないもん! 三枚しか食べてないもん!」
(#・∀・)「六枚切りを三枚食べてが何が全然だあああ!」
225
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:20:56 ID:G7xN1/5c
(#・∀・)「ふんっ!」
o川;゚д゚)o「あぁーっ!!」
一瞬のすきをついてトーストを口に運ぶと、途端にキュートの力が弱まった。
o川*;д;)o「キューちゃんが大事に大事に育てたトースト……」
名残惜しそうに言いながら、キュートはその場に崩れ落ちた。
しかし、どんな理由があってもこの一枚だけは失うわけにはいかない。
ようやくありつけた朝食を、ゆっくりと噛みしめる。
(;‐∀‐)「……冷めてる」
長く小競り合いしすぎたんだろう。
ふわふわだったはずのトーストは、よく噛んで食べざるを得ない状態だった。
o川*;д;)o「キューちゃんにおいしく食べられるはずだったのに……」
(;・∀・)「そもそも僕の朝ご飯になるはずだったんだよ!」
キュートはいまだにトーストを諦めきれないらしい。
僕が仕方なく牛乳で胃に流し込んでいる間も、そんなことを言っていた。
226
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:25:28 ID:G7xN1/5c
ζ(゚ー゚*ζ「あらら、明日からふたつ買ってこないといけないわねぇ」
(;・∀・)「なんで毎日キュートが来る前提なの!?」
僕らの意思を差し置いて、母さんが当たり前のように言ってのける。
そのうちキュート専用の食器とか用意しそうで怖い。
そうなるとキュートも調子に乗って、遠慮なく家に来るようになりそう気がする。
( ・∀・)(キュートが毎日家に来るのは……まあ、うん。悪くは)
( ^ω^)「のんびりするのはいいけど……時間まずいんじゃないかお?」
( ・∀・)「え?」
ぼんやりしていると、父さんの気まずそうな声が聞こえた。
定まっていなかった視線を、壁にかけられた時計に向ける。
( ・∀・)「」
いつも家を出ている時間を、とっくに過ぎていた。
227
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:30:07 ID:G7xN1/5c
(;・∀・)「ああああああああ!!! まずいいいいいいいいいいい!!」
慌てて階段を駆け上がって、自分の部屋へ飛び込む。
机の上に置いてある鞄をひったくるように掴み、再びリビングへ戻った。
(;・∀・)「おい、キュート!! 早く行かないと遅刻するぞ!!」
いまだに床に座りこんでいるキュートの腕を引いて、立つように催促する。
o川*;д;)o「やだー! トーストもう一枚食べるまで動かないー!」
(#・∀・)「お前は子供かあああああああああああ!!」
o川*;д;)o「子供だもん! 永遠のティーンエイジャーだもん!」
駄目な意味で開き直ったキュートは、手足をじたばたさせて駄々をこねる。
トーストが食べたくて駄々をこねる女子高生なんて、全国探してもこいつくらいだろう。
(#・∀・)「ティーンエイジャーだってもっとしっかりしてるわああああああ!
早く行かないと新学期早々遅刻するんだよおおお!
早く行っても遅刻だろうけどさあああああああ!」
o川*;д;)o「キューちゃんは走れば今からでも間に合うもん!」
(;・∀・)「そういえばそうだったあああああああ!!!」
228
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:35:16 ID:G7xN1/5c
ζ(゚ー゚*ζ「あまりモララーを困らせないであげて、キューちゃん。
今度はいっぱい買っておいてあげるから、ね?」
o川*゚ー゚)o「ほんとですかぁ!? じゃあ学校行ってきます!」
(;・∀・)(あっさり陥落したあああああああああ!)
母さんの話を聞いたキュートは、さっきまでのわがままっぷりが嘘のように態度を改めた。
そして、次の瞬間には立ち上がって、玄関まで駆けていくのだった。
「ねー、モララー置いてっちゃうよー?」
(;・∀・)(僕よりトーストの方が大事なのか!? そうなのか!?)
そう考えると、なんだか目の奥が熱くなってくる。
なんとも言えない胸のもやつきを抱えたまま、キュートのあとを追って玄関へ向かおうとした。
( ^ω^)「「モララー」」ζ(゚ー゚*ζ
( ・∀・)「ん?」
背後から父さんと母さんが僕を呼び止めた。
どこか変なところでもあるのか、と自分の体を見てみても、特に何もない。
不思議に思って顔を上げると、ふたりが真剣な面持ちで口を開いた。
229
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:41:48 ID:G7xN1/5c
( ^ω^)「大丈夫だお、お前は父さんと母さんの自慢の息子。
気にしなくてもトーストなんかに負けちゃいないお」
ζ(゚ー゚*ζ「だからあまり気を落とさないで。もっと自信を持つのよ」
(;・∀・)「……あー、うん。それじゃいってきます」
なんだかよく分からない励ましを受けた。
どう反応したらいいのかも分からなかったので、無難に返事をして玄関へ向かう。
( ・∀・)「あれ? キュート?」
しかし、玄関にいたはずのキュートがどこにもいなかった。
靴もなかったので、たぶん外にいるんだろう。
さっさと靴を履いて、僕も外へ出る。
(;・∀-)「うおっ、まぶしっ!!」
出た途端にまばゆいな光が、僕の目に飛び込んできた。
思わず顔を腕で覆って、横へ逸らしてしまう。
「あははは、びっくりした!?」
230
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:45:15 ID:G7xN1/5c
声のした方へ視線を向けようとすると、また光が僕の目に飛び込んできた。
手のひらで光を遮りながら、なんとか声のする方に向く。
(;・∀-)「……おい、キュート」
o川*゚ー゚)o「遅いってばー、キューちゃん待ちくたびれちゃったよ!」
手鏡で僕の顔を照らして笑いながら、キュートはそう言った。
o川*゚ー゚)o「罰ゲームのキューちゃんシャイニングビームはどうだt」
(#・∀・)「トーストで駄々こねて人を待たせたやつの態度かあああああああ!!」
o川;゚д゚)o「モララーがわりと本気で怒ったー!」
キュートは踵を返すと、あっという間に残像を残してその場から消え去った。
逃げたといっても、どうせ行き先は学校以外にない。
僕は急いで自転車にまたがり、生ぬるい風を切って通学路を走りだした。
(#・∀・)(久しぶりにいっしょに学校行けるって思ったのに散々人を振り回しやがってええええ!!!!)
o川;゚д゚)o「うぇぇっ!? モララーはやっ! 追いつかれる!?」
これからの人生で、こんなに速く自転車を漕げる日はもう来ないだろう。
走って逃げるキュートにみるみる迫る自分を、どこか客観的に見ながらそう思った。
〜〜〜〜〜〜
231
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:50:17 ID:G7xN1/5c
(#・∀・)「いいか、社会に出ればいままで以上に周りに対して気を配らないといけなくなるんだ。
そして僕たちはいま高校生。社会に出るまでの練習期間なわけだ。だけど、そんなもの呆けているとあっという間に終わる。
いまからでも遅くはない、少しは自分の周りに目を向けてみろ。気を配ってみろ。そうすれば……」
o川;´д`)o「わかったよぉ、わかったからもうお説教はやめて……」
始業式が終わって、体育館からの帰り道。
弱り果てた顔でキュートが振り返って呟く。
(#・∀・)「都合よく男女に分かれて並んで出たのに、キュートが僕の前にいたからね。
てっきり説教の続きが聞きたくて仕方ないと思ったんだよ」
o川;´д`)o「なんで近付いちゃったんだろ……キューちゃんのバカ……」
自分の頭を抱えて、アホの子だとでも言わんばかりのリアクションを取る。
ちなみにキュートに追いついたおかげか、僕は奇跡的に遅刻せずに済んだ。
そこだけは感謝すべきなのかもしれない。
(#・∀・)「バカなら仕方ない。また最初から言ってやろうか、理解できるまでな」
o川;´д`)o「誰か助けて……へるぷみー……」
遅刻の心配がなくなった僕は、溜まりに溜まった鬱憤を説教という形でぶつけた。
始業式で中断させられたけど、こうして再開していまに至っている。
232
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 20:55:08 ID:G7xN1/5c
_
( ゚∀゚)「助けを求めるキューちゃんの声を聞いて参上!
さあキューちゃんを離せ、怪人モララー!」
o川;゚д゚)o「ジョルくん助けてー! キューちゃん洗脳されそう!」
(;・∀・)「なんだこの小芝居……」
ぼそりと呟いたキュートの声を聞いたのか、ジョルジュがどこからともなく現れた。
そして、ヒーローショーのごとくポーズを決めて、僕を怪人呼ばわりする。
_
( ゚∀゚)「安心しろキューちゃん! すでに手は打ってある!」
o川;゚д゚)o「な、なんだってー!?」
親指を突き立てたジョルジュに、キュートが棒読みもいいところの合いの手を入れる。
そして、キュートに爽やかに笑いかけながら、ジョルジュは力強く言い放った。
_
( ゚∀゚)「実はこのあと、席替えがある! つまりキューちゃんはモララーと離れる!
いくら怪人モララーとはいえ、離れた相手に説教など不可能!」
(;・∀・)「席替えって別にジョルジュが手を打ったわけじゃないだろ!?」
見事すぎるほどに勢いだけで、内容が伴っていなかった。
233
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:00:06 ID:G7xN1/5c
o川*゚ー゚)o「モララーに説教されなくなるよ! やったねジョルくん!」
_
( ゚∀゚)「俺の手柄ってことで、ここは御褒美にキューちゃんのお」
(#・∀・)「おい」
_
(;゚∀゚)「イエ、ナンデモナイデス」
肩を叩いてひと言、声をかける。
少しだけ僕の顔を見たジョルジュは、謝罪の言葉を最後に何も言わなくなった。
( ・∀・)(席替え、か)
説教はともかく、冷静に考えればあまり喜ばしいことじゃない。
席が離れれば当然、キュートと会話する機会も減るだろう。
そして、その間にキュートと親交を深めるクラスの男子。
(;・∀・)(やがてふたりは……いやいやまずいまずい)
o川*゚ー゚)o「ふたりともどうしたの?」
_
(;゚∀゚)「ナンデモナイヨ……ハハハ……」
(;・∀・)「そ、そうそう……」
適当にはぐらかしている間も、生徒たちの列は教室へと進んでいく。
いまは周囲のクラスメイトが、羊の皮を被った狼に見えて仕方がなかった。
〜〜〜〜〜〜
234
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:05:17 ID:G7xN1/5c
o川*゚ー゚)o「結局前と変わらなかったね!」
振り返りながらキュートが話しかけてくる。
机の位置は変わったけど、キュートが僕の前の席というのは変わらなかった。
「またかよ……なんだよ……主人公補正でも働いてんのかよ……」
「せっかく隣になったのに……向いてくれるのは後ろばかり……」
_
( ;∀;)「遠くだからイチャつかれてもよく見えないもんねー、わーい……」
(;・∀・)(一学期より居心地悪っ!!)
その代償、とでも言えばいいのだろうか。
僕への羨望というか、殺気というか、怨念のようなものは一層その強さを増していた。
(゚、゚;トソン「……席も変わって心機一転したところで、次へ進んでいいでしょうか」
暗い空気の漂う教室をぐるりと見渡してから、気まずそうに先生が口を開いた。
本当に問題ないのか、答える余裕がないのか分からないけど、反対の声は聞こえない。
確認するかのようにもう一度教室を見渡してから、先生は黒板に向かう。
235
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:10:14 ID:G7xN1/5c
(゚、゚トソン「はい、黒板にも書きましたが文化祭での出し物についてです。
これを決めるまで今日は帰れません!」
綺麗な文字で「文化祭の出し物」と書いた先生が、振り返って言い放った。
えー、という不満げな声があちこちから聞こえてくる。
o川;゚д゚)o「えぇーっ!? キッズウォーの再放送をみるという大事な用事があるのにっ!」
(;・∀・)「いや、確かに夏休み終わっても続いてるから気になるけどさ!」
目の前にいるキュートも、そんな声の発信源のひとつだった。
教室がにわかに騒がしくなり始める。
それを遮るかのように、先生の凛とした声が響いた。
(゚、゚トソン「早く帰りたいなら早く決めればいいんですよ。
食品を扱う出し物は一年時には禁止されていますので、それ以外でお願いします」
( ・∀・)「なんかいいのないかな……」
頬杖をついて文化祭の風景を思い浮かべる。
喫茶店、展示、劇、ゲーム。ぱっと浮かんだのはそれくらいだ。
喫茶店は無理だから、必然的に残り三つから選ぶことになる。
236
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:15:29 ID:G7xN1/5c
「劇とかどうですか!?」
「なんかゲームしましょうよ!」
_
( ゚∀゚)「クラスの女子全員のおっぱいをかたどったオブジェをですね」
(゚、゚トソン「ジョルジュ君、あとで職員室に来てください」
_
(;゚∀゚)「冗談ですごめんなさいすいませんでしたぁっ!」
思い浮かべたそばから、黒板は同じ意見で埋まっていった。
みんな考えることは大体いっしょ、ということだろう。
(゚、゚トソン「まだ他に意見があるという人はいませんか?」
手を上げる人が誰もいなくなって、教室が静かになる。
切り上げるために先生が最終確認を取ったときだった。
o川*゚ー゚)o「はい! はいっ!! はああい!!!」
キュートが勢いよく立ちあがり、ぴょんぴょんと跳ねながら手を挙げた。
237
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:20:19 ID:G7xN1/5c
o川*゚ー゚)o「キューちゃんは気付いたの、いままで挙がった案に足りないものに!」
「「「な、なんだってー!?」」」
台本でも用意されているかのように、教室中から驚きの声が上がった。
みんなの注目の視線を浴びながら、なぜかキュートは教卓に向かっていく。
そして、チョークを手に取ると黒板に大きく文字を書いた。
o川*゚ー゚)o「それはね……具体例だよっ!」
書かれた文字をばんばん、と叩きながらキュートはみんなの方へと向き直った。
勢いを重視し過ぎたのか、書かれた文字は言われなければと『具体例』とは読めない汚さだ。
しかし、それを気にすることなくキュートは話を続ける。
o川*゚ー゚)o「劇ならどんな劇をするのか。
ゲームならどんなゲームをするのか。
なにか作るならなにを作るのか。
それを決めるために、これからさらに時間を取られるに決まっているんだよ!」
(;・∀・)「キュートがまともなことを言っている……だと……?」
想像すら出来なかった光景に、思考が口からそのまま出てしまう。
戸惑いを隠せずにいるとキュートは胸を張り、それから息を大きく吸い込むと、声高に宣言した。
238
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:25:12 ID:G7xN1/5c
o川*゚д゚)o「だからキューちゃんは……ここで具体例としておばけ屋敷を提案します!!!」
「灯台もと暗しだった……しかし、灯台の下にはキューちゃんがいたんだな」
「これがキュートさんの77の能力のひとつ……相手は死ぬ……」
周りの席から納得の意見が続々と僕の耳に入ってくる。
ざわつく喧騒の中を、キュートは颯爽と戻ってきた。
僕の気のせいだろうか、どことなく表情がいつもより凛々しく見えた。
(;・∀・)「どうしたんだキュート……こんなのお前のキャラじゃないだろ……?」
まるで、どこか遠くに行ってしまったかのような感覚すら覚える。
知らないものに初めて触れるみたいに、おそるおそる、その横顔に呼びかけてみる。
o川*゚ー゚)o「キッズウォーまでに家に帰りたいキューちゃんに死角はないっ!」
僕の心配を粉々に砕くようなどや顔で、キュートは右手の親指を天へと突き上げた。
(;‐∀‐)「なるほどね……」
さっきまでの自分があまりに馬鹿馬鹿しくて、頭を抱え込む。
僕はどうやら、キュートのことになると大げさに考えすぎてしまう傾向があるらしい。
239
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:30:15 ID:G7xN1/5c
(゚、゚;トソン「ええと……他に意見がある人はいませんか?
なければこの中からひとつ選んで手を上げてください」
異様な空気の中、先生が本来の目的を思い出させるように問いかけた。
挙げられた順番に多数決を取っていくが、上げられる手はまばらだ。
(゚、゚トソン「おばけ屋敷がいい、という人」
一番最後の案が読み上げられる。
途端に、教室中の手が一斉に上げられた。
(゚、゚トソン「それでは、おばけ屋敷に決定ですね」
もはや数えるまでもない、といった調子で先生は結論付けた。
(゚、゚トソン「これでホームルームは終わりです。みなさん文化祭に向けて頑張りましょう」
先生がそう告げると、教室は一気に騒がしくなる。
みんな内心は早く帰りたくて仕方なかったんだろう。
o川*^ー^)o「わーい! やっと終わったよぉー!」
嬉しくてたまらないといった感じで、キュートが大きく伸びをした。
そして、すぐに鞄へ勉強道具を詰め込んでいく。
240
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:35:06 ID:G7xN1/5c
o川*゚ー゚)o「準備完了! じゃあねモララー、文化祭楽しみだねっ!」
(;・∀・)「ああ、じゃあなキュー……ってもういないし」
言い終わるより先に、キュートの姿は目の前から消えていた。
あそこまで急いで帰るあたり、相当楽しみにしているらしい。
( ・∀・)「僕も帰るか……」
午前で終わる予定だったから今日は弁当を持ってきていない。残るなら昼食は自腹になってしまう。
幸いそんな予定もないから、おとなしく帰って節約することにしようと思った。
〜〜〜〜〜〜
241
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:40:15 ID:G7xN1/5c
あっという間に月日は過ぎて、文化祭が目前に迫っていた。
ここ最近の放課後は、クラスみんなで残って小道具を作る日々が続いている。
「あ、そこのガムテープ取って」
( ・∀・)「ん……はい」
「サンキュー」
いまやっているのは背景作りだ。
順路の両側に置くための壁や、おどろおどろしいお墓といったところだ。
_
( ゚∀゚)「モララー、これ倉庫に運ぶの手伝ってくれ」
ジョルジュが完成した壁を軽く叩きながら誘ってくる。
( ・∀・)「おお、分かった……せーのっ」
_
( ゚∀゚)「よっし、行こうぜ」
息を合わせて壁を持ち上げる。
周りに気を付けながら教室を出て倉庫へと向かった。
242
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:45:13 ID:G7xN1/5c
(;・∀・)「いつ来てもほこりっぽいというか、こもってる……?」
_
( ゚∀゚)「ささっと置いて戻ろうぜ。息苦しくてたまんねえ」
( ・∀・)「そうだな……ん?」
僕らのクラスの小道具を置く場所のすぐ脇。
影になっててよく見えないけど、何かが置かれてある。
(;・∀・)「うわっ!!」
_
(;゚∀゚)「な、なんだよ!?」
(;・∀・)「だ、っだだだっだ誰かいる!!!」
目を凝らして見てみると、それからは乱れた長い黒髪が生えていた。
大きさはちょうど、人がうずくまったくらいの大きさ。
さらに、髪の色とは対照的に、新雪のように白い着物がかけられている。
243
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:50:15 ID:G7xN1/5c
_
( ゚∀゚)「ん……?」
(;・∀・)「ちょっ、何してんだよ!? 逃げようよ!!」
心霊的なことをしていると本物が寄ってくると聞いたことがある。
鼓動が高鳴って、脳が警鐘を最大音量で鳴らしている。
僕は声を荒げて余裕の態度を見せるジョルジュに呼びかけた。
_
( ゚∀゚)「ああ……大丈夫だよ。これ、うちのクラスで使う衣装だ」
(;・∀・)「……へ?」
_
( ゚∀゚)「モララーってヘタレだったんだな……ははっ」
(;・∀・)「う、うるさいな!!」
さっきとは違って、今度は恥ずかしさで鼓動が高鳴る。
からかわれながらも、壁を他の小道具と一緒のところに置いた。
244
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 21:55:52 ID:G7xN1/5c
_
( ゚∀゚)「ったく、よく見れば分かんだろこれぐらい」
( ・∀・)「そういえば……こういうの作ってるところ見た気がするな」
改めて近寄って眺めてみる。
正体さえ分かってしまえば、こんなの怖くもなんともない。
( ・∀・)「なんでこんなのにビビってたんだろう……」
じっくり眺めてみようと思い立って、カツラを手に取ろうとした。
(;・∀・)「えっ!?」
_
(;゚∀゚)「はぁっ!?」
手が届こうとした瞬間、目の前からカツラが消え去った。
それだけじゃない、衣装も消えている。
いったい何が起こったのか。それを理解する前に。
「……うらめしや」
背後からぼそり、と低い声が聞こえた。
245
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:00:32 ID:G7xN1/5c
o川д゜川o「うらめしやあああああああああ!!!!」
(; ∀ )「」
_
(; ∀ )「」
頭が真っ白になって、言葉も出せず足元からその場に崩れ落ちた。
動こうとするけど、体が言うことを聞いてくれる気配はない。
本当に恐ろしい体験をしたとき、人は何もできなくなるらしい。
o川д川o「……ぷっ」
(; ∀ )「……?」
o川*д川o「あっはははははは! あーおかしい!」
どれほど固まっていただろう。
静寂の中に、聞き慣れた笑い声がこだました。
(;・∀・)「あ……れ?」
ようやく強張っていた体が動き、後ろに振り返る。
広がる視界の先で、小道具もとい幽霊が笑い転げていた。
246
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:05:41 ID:G7xN1/5c
o川*д川o「ふたりとびびりすぎ……お腹痛いぃ……!」
( ・∀・)「……」
いまだにぷるぷると震える幽霊に近付いていく。
向こうが僕に気付く気配はない。
( ・∀・)「ていっ」
「あっ!」
振り乱された黒髪を掴んで取り払うと、
(;・∀・)「……やっぱりお前か」
o川;゚ー゚)o「あ、バレた?」
見慣れた顔が現れた。
247
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:10:31 ID:G7xN1/5c
( ・∀・)「……何やってんだ?」
o川*゚ー゚)o「いやね、せっかく衣装も小道具もできたから誰か驚かそうと思って。
そしたらさ、モララーが倉庫へ行くっていうじゃん。
だからキューちゃんは先回りしてスタンバイしておいたんだよ!」
両手の親指をグッと立てて、僕の眼前に突き付けてきた。
よほど思い通りにいったのか、キュートの表情はいきいきとしている。
日も暮れ始めて、薄暗い倉庫の中でも輝いて見えた。
(#・∀・)「そうか、それはよかったな」
o川*゚ー゚)o「うん! でも、まさかここまでうまくいくなん」
(#;∀;)「いきすぎなんだよバカ野郎がああああああああ!!!」
o川;゚д゚)o「うんにゃああああああっ!?」
大成功の余韻に浸ろうとするところを、ヘッドロックで阻止した。
僕の背後でキュートの体がじたばたと暴れる。
248
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:15:09 ID:G7xN1/5c
(#;∀;)「時と場所ってものがあるだろうがよおおおおおおおおお!!」
o川;゚д゚)o「え、選んだ結果がこれ……いひゃいー! やあー!」
弁解しようとするキュートの頬を、空いている方の手でつねる。
より強くキュートが暴れるが、体勢的には僕の方が有利だ。
(#;∀;)「見ろ、ジョルジュなんかまだ魂抜けたみたいになったままなんだぞ!!」
_
( ∀ )「」
o川;゚д゚)o「ろれんあひゃい! もえんあはい!」
こうして時に騒がしく、準備に追われる日々は矢のように過ぎていった。
ちなみに、このあと目覚めたジョルジュは
_
( ゚∀゚)『おっぱいの大きい天使さんが手を引いて川へ連れてってくれたんだよ。
そしたらさ、川の反対側で遺影でしか見たことないひいじいちゃんが手振ってたわ」』
ということを話してくれた。
〜〜〜〜〜〜
249
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:20:34 ID:G7xN1/5c
( -∀-)「ふあ……おはよう」
ζ(゚ー゚*ζ「おはようモララー。はい、朝ご飯」
まだ重力にあらがえない目を擦りながらテーブルに着く。
僕の前にことり、とトーストが置かれた。
(;・∀・)「またトースト?」
(;^ω^)「仕方ないお、母さんが大量に買ってきちゃったんだから……」
トーストを一口かじって、諦めたように父さんが呟いた。
大きくため息をついてから僕もトーストにかじりつく。
当たり前だけど、味は食べ飽きた食パンだった。
( ・∀・)「今日の天気はどうですか、っと」
牛乳でトーストを流し込みながら、テレビに目をやった。
ちょうど清楚な美人のキャスターが天気情報を読み上げていく。
今日も明日も、その先にも太陽のマークが並んでいた。
ζ(゚ー゚*ζ「あらぁ、よかったじゃない。ずっと晴れよ」
( ・∀・)「うん、たくさん人が来てくれた方がいいしね」
明日はいよいよ文化祭だ。
250
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:25:35 ID:G7xN1/5c
「えー、ただいま入ってきた情報です」
天気予報が終わると同時に、神妙な面持ちの初老のキャスターが映された。
手に持った原稿らしき紙に目を配りながら、それを読み上げ始める。
「筋ジストロフィーの特効薬、通称SNOCを開発し、
2000年のノーベノレ医学・生理学賞を受賞した荒巻博士が、
先ほどシベリア市内の病院で亡くなったとのことです」
画面が穏やかな顔をした老人の写真に切り替わる。
横に簡単なテロップが表示された。
「死因はまだ発表されていません。今後情報が入り次第……」
(;^ω^)「この人死んじゃったのかお……」
( ・∀・)「父さん知ってるの?」
( ^ω^)「モララーはまだ小さかったから覚えてないだろうけど、受賞当時はすごかったんだお。
テレビを付けると、どこかのチャンネルには出ているくらいだったんだお」
( ・∀・)「ふーん……」
視線を父さんからテレビに戻すと、すでに画面は次のニュース番組に変わっていた。
そして、右上に表示されている時刻は八時ちょうど。
251
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:30:36 ID:G7xN1/5c
(;・∀・)「ああっ! やばい、遅刻する!」
慌てて立ち上がってトーストを無理矢理小さく折りたたむ。
大きく開けた口にねじ込み数回噛んで、牛乳で一気に流し込んだ。
(;・∀・)「行ってきまーす!」
「車に気を付けるのよー」
母さんの声を聞きながら、玄関を勢いよく飛び出した。
鞄を前かごへ乱暴に放り込んで、自転車にまたがる。
( ・∀・)「ひっく」
(;・∀・)「……食パン一気に食べたからか」
しゃっくりは学校に着くまでの間、止まることはなかった。
252
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:36:42 ID:G7xN1/5c
o川*゚ー゚)o「おはよ、モララー」
( ・∀・)「おはよう」
短い挨拶をかわして席に座る。
最近は殺気も弱まってきたので、ここにいるのが億劫じゃない。
こんな高校生活が続けばいい、そう思った。
(゚、゚トソン「ホームルームを始めます、みなさん席について下さい」
物思いにふけっていると、ドアを開けて先生が入ってきた。
いそいそとみんな自分の席に戻っていく。
(゚、゚トソン「明日は文化祭ですので、午後の授業はなしです。
今日はみなさん怪我に気を付けて準備をしてください。
文化祭実行委員は……」
( ・∀・)「なんか……わくわくしてきたな」
去年、志望校の候補の文化祭に行ったときを思い出す。
あのときは廊下ですれ違う生徒がみんな大人に見えていた。
今年は自分が大人に見られる番なのだろうか。
253
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:40:55 ID:G7xN1/5c
o川*゚ー゚)o「だよね、楽しみだよね!!!」
僕の呟いた独り言を聞いたのだろう。
キュートが体をこっちにひねって話しかけてきた。
僕を見つめる瞳は、綺羅綺羅としたビームが出そうなほど輝いている。
o川*゚ー゚)o「初めての文化祭だよ! 絶対今日寝れない!」
(;・∀・)「小学生かよ……」
思い返せば初めての体育祭も、海に行ったときもやたらはしゃいでいた。
小学生というのはあながち外れていないのかもしれない。
o川*^ー^)o「キューちゃんいっぱい驚かせるんだ!!
家で怖い声を出す練習もたくさんやったんだよ!」
(;・∀・)「すごい念の入れようだな、おい」
o川*^ー^)o「それだけじゃないよ! たくさんホラー映画見てありとあらゆるパターンの……」
(;・∀・)「分かった分かった、キュートの努力は分かったから」
僕は、こうやって無邪気で、素直なところに惹かれたのかもしれない。
254
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:45:51 ID:G7xN1/5c
(゚、゚トソン「素直さん、素直さん」
o川*゚ー゚)o「はい?」
満面の笑みで喋っていたキュートに先生が呼びかけた。
キュートは顔だけ先生の方に向けて答える。
(゚、゚トソン「ホームルームが終わったら、私と一緒に校長室まで来てください」
o川;゚ー゚)o「先生、もしかしてキューちゃん……なにかまずいこと、しました?」
(゚、゚トソン「私も呼んでくるように言われただけなので……」
o川;゚ー゚)o「なんだろ……わかりました」
どうやらキュート自身に思い当たる節はないらしい。
しかし、身に覚えはなくても天然で何かやっていそうな気はする。
(゚、゚トソン「それではこれでホームルームを終わります。
行きましょう、素直さん」
o川*゚ー゚)o「そういえば、一時間目移動なんですけど……」
(゚、゚トソン「それは事前に向こうの先生に連絡済みだそうです。
遅れても問題ないですよ」
o川*゚ー゚)o「わかりました、じゃあ行きます。またあとでね、モララー」
255
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:50:22 ID:G7xN1/5c
僕に軽く手を振って席を立つと、キュートは先生といっしょに教室から出ていった。
( ・∀・)「しっかし、なんでなんだろうな……」
ふたりが出ていったドアを眺めながら、思案にふける。
当然だけど、答えは分からないままだった。
( ・∀・)「……移動するか」
キュートのことは気がかりだけど、僕があれこれ考えても仕方ない。
教科書を机を取り出すと、誰もいなくなった教室を出た。
( ・∀・)「LOVELETTER FROM HEART BEAT 今〜♪」
最近気にいった歌を口ずさみながら、無人の廊下を歩く。
人がいそうなところではなるべく小声だ。
( ・∀・)「心よりの恋便りあなたへ〜……あれ?」
移動先の教室が目前に迫ったとき、妙な違和感を覚えた。
なんだろう、と自分の体をぐるりと見渡してみる。
(;・∀・)「筆箱忘れた……」
ここに来るまでに気付かない自分に、我ながらあきれる。
ため息を漏らしながら、仕方なく教室への道を引き返し始めた。
256
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 22:55:33 ID:G7xN1/5c
(;・∀・)「やばいやばい、授業に遅れる!」
息を切らしながら廊下を駆けていく。
筆箱のせいで遅れました、なんて説明することだけはなんとしても避けたい。
(;・∀・)「よっし、着いた……」
開けっぱなしだった教室に、勢いのまま転がりこんだ、そのとき。
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2184.png
o川 - )o
誰もいないはずなのに、何故かキュートの姿があった。
俯いたまま机の上の鞄に勉強道具を詰めている。
前髪に隠されたその表情を、窺い知る事はできない。
(;・∀・)「ど、どうしたんだよ。早く移動し――」
o川 - )o
僕が言い終わるよりも早く、キュートの姿が消える。
(;・∀・)「っ!?」
次の瞬間、僕の体は見えない何かに突き飛ばされていた。
受け身を取る暇もなく、壁に思い切り頭をぶつけてしまった。
257
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 23:00:12 ID:G7xN1/5c
(;・∀・)「おい! いきなり……」
いきなりの暴力に対する文句は途中で途切れた。
それを聞く相手は、すでにこの場から消え去っていたからだ。
(;・∀-)「なんなんだよ……いつっ」
後頭部をさすりながら立ち上がった。
痛みからして、あきらかに手加減なしで突き飛ばされている。
( ・∀・)「ん……?」
ふと触れた自分の頬に、何かが付いていた。
手を見てみると、それは水のような無色の液体だった。
( ・∀・)「これ……何だろう」
僕しかいない教室に、チャイムの音が鳴り響く。
それでも僕はただただ、その場に立ち尽くしていた。
〜〜〜〜〜〜
258
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 23:05:12 ID:G7xN1/5c
「モララー、お疲れさん」
「ジョルジュ……ありがとう」
「文化祭、大盛況だったな」
「ああ」
「お客さん、たくさん来てたな」
「ああ」
「みんなすごい怖がってくれてたな」
「……ああ」
「……なあ、モララー」
「……」
「なんで……キューちゃん、来なかったんだろうな」
「……なんで、だろうな」
大盛況に終わった文化祭。
そこにキュートの姿は、なかった。
259
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 23:07:16 ID:G7xN1/5c
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第六話 制服のあの子が泣いてた
おわり
.
260
:
◆LemonEhoag
:2016/09/13(火) 23:11:49 ID:G7xN1/5c
以上で今回の投下を終了します。
まず、先週は投下を延期してしまい大変申し訳ありませんでした。
ちょっと暑さにやられて熱中症になってしまいました。もう大丈夫です。
どうしようもない限りは、なるべく投下間隔は守っていくようにしたいです。
次回の投下は9月27日20時からの予定となっています。変更がある際はその都度お知らせします。
第六話のメイキングは明日21時公開の予定です。更新され次第スレでお知らせします。
最後になりましたが、質問や感想などありましたら気軽に書いていってください。
261
:
◆LemonEhoag
:2016/09/14(水) 21:02:59 ID:n9ONO0hw
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-41.html
第六話のメイキング公開しました。
262
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/14(水) 21:15:45 ID:.4M0GKB6
乙
話が大きく動きはじめてドキドキする
263
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/14(水) 21:56:50 ID:fHYaKw7U
相変わらず絵がすげえな
264
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 19:36:33 ID:4mU/onyo
帰宅が遅れるため、投下は21時から開始させていただきます。申し訳ありません。
265
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:02:02 ID:4mU/onyo
投下開始します。
266
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:06:02 ID:4mU/onyo
ベンチに座る僕を、一際強い風が撫でて、通り過ぎていった。
思わず身震いするほどの寒さは、冬がすぐそこまで迫っていることを予感させる。
(;-∀-)「コンポタにしとけばよかったかな……」
かたわらにふたつ並べた、レモンスカッシュの缶を見つめて呟く。
いくら初めて会ったときのことを思いだして買ってしまったけど、この寒さでは少し考え物だ。
ため息をついて、自販機の明かりに照らされるへと視線を移した。
( ・∀・)「まだ、来ないのかな」
普通に考えれば、待ちぼうけになる確率の方が高いだろう。
なにしろ、あの日から一回も学校には来ていないのだから。
そんな考えが頭をよぎって、再びため息をついたときだった。
( ・∀・)「……あ」
自販機の明かりに照らされながら公園に入ってくる、人影を見つけた。
僕は立ち上がって、のろのろと近づいていく。
やがて、はっきり顔が見える距離になり、僕はいつものように、彼女の名前を呼んだ。
( ・∀・)「よう、キュート」
o川*゚ー゚)o「……久しぶり、モララー」
電灯に照らされるキュートの顔は、前よりも痩せて見えた。
267
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:10:16 ID:4mU/onyo
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第七話 一生消えぬ感覚
.
268
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:15:40 ID:4mU/onyo
o川*゚ー゚)o「びっくりしちゃったよ。届いたプリントの中に手紙、混じってるんだもん」
( ・∀・)「こうでもしないと、連絡取れないと思ったからさ」
o川*゚ー゚)o「書いてあったけど……頑張って連絡取ろうとしてくれたみたいだね」
ふたりでベンチまで歩いていき、僕は右、キュートは左の端に腰かけた。
僕らの間に挟まれたレモンスカッシュを、おもむろにキュートが手に取る。
寒いのに、と小声で呟いて笑みを浮かべてみせたけど、弱々しさは消えない。
( ・∀・)「そりゃ……心配だしさ。でも、元気でよかった」
o川*゚ー゚)o「ごめんね、心配かけて」
(;・∀・)「いや、いいんだ。うん……」
ぎこちない会話が途切れて、無言の時間が訪れる。
早く話せ、と催促するように風が吹いて、キュートの髪が揺れる。
見慣れた水色の髪留めは、見当たらなかった。
( ・∀・)「……髪留め、取ったんだな」
o川*゚ー゚)o「もう寒いからさ……首が冷たくなっちゃうよ」
269
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:20:43 ID:4mU/onyo
なんとか会話のきっかけをつかむ事ができた。
そして、このチャンスを逃したら、もう二度と口を開けない気がした。
( ・∀・)「……なあ、キュート」
o川*゚ー゚)o「ん?」
恐る恐る名前を呼ぶと、キュートはくるりと僕の方に向いた。
一瞬、話を切り出すことを躊躇する。だけど、迷いを振り払うように口を動かし続ける。
(;・∀・)「どうして……どうして文化祭来なかったんだ?
あんなに楽しみにしてたのに……それに、あれからずっと学校も……」
o川* - )o「モララーはさ、荒巻博士って知ってる?」
突然、目を逸らすように、表情が読み取れなくなるほどキュートはうつむいた。
そして、まったく関係のない話題を切り出した。
(;・∀・)「荒巻……?」
どうしてキュートがそんな話題を出したのかは分からない。
だけど、わざわざ僕に聞くのだから、何か関係があるのだろうと考えた。
記憶の引き出しを漁ると少し前に、その名前をニュースで耳にしたことを思い出した。
270
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:26:41 ID:4mU/onyo
o川* - )o「すごい発明だけど、なかなか成果が出なかった時期があってね。
十六年前、すぐに成果を出さないと研究の支援を打ち切られちゃうって話が出たの。
でも、成果って言われても、まさか開発中の薬を患者に投与するわけにはいかないでしょ?」
( ・∀・)「それじゃ、どうしたんだよ?」
o川* - )o「健康な状態でも投与すれば、筋肉にある程度作用することはわかってた。
だけど、臨床試験の被験者を募集している時間はなかった」
そこまで話して、一度、話が切られる。
縮こまるようにますますうつむいて、一呼吸置いてから、キュートは話を再開した。
o川* - )o「……だから、博士は最終手段を取った」
(;・∀・)「最終……手段?」
o川* - )o「研究に参加していた研究員を、臨床試験の被験者にしたの」
(;・∀・)「え……」
僕には、その行為が許されることなのか、否かは分からない。
ただ、最終手段というくらいだから、普通はあり得ないことなんだろうと思った。
271
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:32:13 ID:4mU/onyo
o川* - )o「研究の存続に関わる事態だったから、誰も反対しなかった。
そうして、SNOCは参加していた研究員全員に投与されたの」
( ・∀・)「それで……結果は?」
o川* - )o「投与された結果、予想されていた範囲内の筋力の増加が観測されたよ。
……たったひとり、なにも変化も見られなかった例外を覗いてね」
話の途中、キュートがためらうように、一瞬黙り込む。
再び口を開いてから紡がれた例外、という言葉に、不穏な気配を感じた。
o川* - )o「その研究員には、再びSNOCが投与されたの。
そして直後に、研究員の妊娠が発覚した。
発覚当時の胎児の月齢は5週。ちょうど……手足が、形成され始めるころだった」
急にキュートの口調がスムーズさを取り戻す。
まるで、早く喋り終わってしまいたいと言わんばかりに。
o川* - )o「そして、投与されたSNOCはすべて、胎児に吸収されていた」
最後の言葉を聞き、心臓が潰れそうなほどに大きく脈を打った。
僕の頭の中を、いままでの会話から導き出された、ひとつの仮定が埋め尽くす。
(;・∀・)「待て……よ、それって……まさか……!」
o川* - )o「たぶん……モララーの想像通り」
272
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:37:27 ID:4mU/onyo
.
o川* - )o「研究員の名前は素直クール……わたしのお母さんだよ」
.
273
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:42:10 ID:4mU/onyo
(;・∀・)「……っ」
o川* - )o「薬の投与はただちに中止されて、精密な超音波検査が毎週行われた。
幸い、わたしは異常も見られないまま育って、元気に生まれてきたよ」
戸惑い、言葉を失う僕を尻目に、キュートは話を続ける。
わずかに見える口元は、さっきにも増してせわしなく動いていた。
o川* - )o「でも、わたしって生まれて半年で、立ち上がって歩くどころか走り始めたんだって。
びっくりして調べてみたら、異常に足の筋力が発達してたみたい」
(;・∀・)「……だから、キュートはあんなことができるのか?」
やっと絞り出した言葉は、なんとも無神経な質問だった。
だけど、キュートは意に介さず、まるで他人事のように返答する。
o川* - )o「うん、正解。大きくなっていくにつれて、どんどん人間離れしていってね。
世間で言う中学生になったころかな。いまみたいに残像しか残らなくなったのは」
ふと、キュートの言い回しに違和感を覚えた。
(;・∀・)「世間で言うって……まるで自分が世間の中学生じゃないような言い方だな」
274
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:49:02 ID:4mU/onyo
o川* - )o「……行ってないんだよね、学校」
( ・∀・)「え?」
ぼそりとキュートが呟いた言葉に、思わず気の抜けた声が出てしまう。
一瞬、自分の耳がおかしくなったのかと考えた。
o川* - )o「まともに学校行ったの、高校が初めてなんだ」
(;・∀・)「そんな馬鹿な! 普通は……」
o川* - )o「普通じゃないんだよ」
僕の言葉を、感情のこもっていない声でキュートが遮った。
o川* - )o「どこから聞いたのかわからないけど、国の偉い人がわたしのことを知ったらしくて。
身体能力の詳しいデータを取ることになったの……」
(;・∀・)「それじゃ……そんなの、実験動物みたいじゃないか……」
悪い冗談であって欲しい。そんな思いが頭の中を埋め尽くしていく。
だけど、願いもむなしく、キュートは淡々と自分の過去を語り続ける。
o川* - )o「実際、そんな感じだったんだ。ずっと研究所で暮らして、何時間もデータの測定をして。
籍だけ置いて学校にも行かないで、同年代の子がやるような勉強も全部研究所でやって」
275
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 21:54:05 ID:4mU/onyo
(;・∀・)「……」
o川* - )o「残像が出せるようになったころからね、いままで上がり続けていた身体能力も頭打ちになったの。
普通だったら成長期って、そんなことないんだろうけど」
氷柱のような冷たく鋭い何かに、心臓を刺し貫かれたような感覚。
まるで自分のことのように、胸が痛くて、辛くて、悲しかった。
o川* - )o「そしたら去年さ、博士がわたしに普通の生活をさせようっていう提案を出したの」
( ・∀・)「それと研究にどんな関係があるんだ?」
o川* - )o「博士が言うには、心と体は密接に繋がっているらしいの。
だから、精神的な変化を促すことで身体能力にも変化が見られるはずなんだって」
(;・∀・)「その考え、分からなくもないけどさ……」
根拠は分からないけど、確かによく耳にする理論だ。
科学者が提唱するあたり、科学的な立証でもあるのだろうか。
276
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:02:56 ID:4mU/onyo
o川* - )o「特に変化がないままで、研究も行き詰まり始めいてたから、提案が通ったんだ。
とは言っても、けっこう反対意見もあったみたいだけどね」
( ・∀・)「それで学校に行くことになったのか……」
o川* - )o「データの測定は続いてたから、早く帰らないといけなかったけどね」
キュートの言葉には心当たりがあった。
体育祭のときに言っていた『家の手伝い』。
さすがに事実をそのまま伝えることはできないから、ああ言っていたのだろう。
o川* - )o「入学式の日、待ちきれなくて夜も明けないうちに起きちゃった。
それから、空が明るくなってきたころに家を出てさ。たくさん寄り道しながら登校したよ。
それでもやっぱり早すぎて、学校入れなくて。ここに座って、時間つぶしてた」
( ・∀・)「……」
入学式の日は、僕もはっきり覚えている。
早く来てしまって、なんとなくこの公園に立ち寄ったことを。
そして、桜色の空を見上げているキュートの姿を。
277
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:10:25 ID:4mU/onyo
o川* - )o「そしたら、モララーと出会った」
o川* - )o「初めて同年代の子と、男の子と話した。初めて友達ができた。すっごい……嬉しかったよ」
キュートは少しだけ顔を上げて、僕の方へ向き直った。
そして、ひと言ひと言、噛みしめるように呟く。
( ・∀・)「僕も……嬉しかった」
o川* ー )o「そっかぁ、よかった」
わずかに見える口元が緩んで、キュートが優しい声で呟く。
最初に見せた笑顔よりずっと、ずっと嬉しそうだった。
o川* ー )o「初めて授業を受けた。初めておしゃべりしながらお昼を食べた。初めて先生に怒られた。
ほんとは全部当たり前のことなんだろうけど、新鮮だった」
キュートは思い出を語り続けるのを止めない。
僕だって全部見てきて、全部覚えているのに。
278
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:15:59 ID:4mU/onyo
もう会えないから、ずっと覚えていて欲しい、とでも思っているのだろうか。
o川* ー )o「初めて友達のことを心配した。初めて友達と、モララーといっしょに帰った」
( ・∀・)「うん」
もしもそう思っているなら、いますぐやめて欲しかった。
o川* ー )o「初めて学校行事に参加した。初めて男の子に、モララーに抱きついた」
( ・∀・)「うん……」
思い出だけが残されても、いまの僕には無意味だ。
o川* ー )o「初めてモララーと一緒にテスト勉強した。初めてモララーに押し倒された……初めて、ドキドキした」
( -∀-)「……うん」
僕はキュートといっしょに、思い出を増やしていきたい。
o川* - )o「初めてモララーと出かけた。初めてモララーと海に行った。初めて、モララーとデートした」
( -∀-)「……」
279
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:22:51 ID:4mU/onyo
.
o川* - )o「モララーといると楽しかった。ずっと忘れたくないくらい、忘れられないくらい楽しかった」
僕は、好きな人といっしょに、思い出を増やして生きたい。
.
280
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:28:53 ID:4mU/onyo
o川* - )o「でも、もうおしまい」
ベンチからおもむろにキュートが立ちあがって、僕の方へ振り返る。
そして、さっきまでと変わらない穏やかな声で、終わりを告げた。
耳を塞いで逃げ出したくなる衝動に襲われる。
o川* - )o「博士が亡くなって、反対派だった人が研究を引き継いだの。
だから、二度と学校にも行けない。モララーとも会えない」
(;・∀・)「あのとき呼び出されたのは……それが理由か?」
誰もいない教室に、ひとりでたたずむキュートの姿が脳裏に蘇る。
いまになって、あのとき顔に飛んできたのが涙だったのだと気付いた。
o川* ー )o「うん、正解。さすがモララー、物わかりがいいっ」
再び笑みを浮かべて、キュートが僕の肩をばしばしと叩く。
口元は綻ぶというより、歪んでいるように見えた。
本心から笑っていないと、簡単に分かってしまう。
o川* - )o「学校に行かなくなってからは、いままでと変わらない生活してるんだ。
ただ測定されるのを待つだけ。ずっと続けてきた、慣れた生活」
o川* - )o「慣れていたはずなんだけどね、すごいつまらないの。
……変だよね。それが普通だったのに」
281
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:34:12 ID:4mU/onyo
( ・∀・)「キュート……」
o川* - )o「いままでが普通じゃないって知ったから……かなぁ……」
キュートの肩がふるふると小刻みに震え始める。
小さく白い手が、余った袖を握りしめているのが見えた。
o川*;д;)o「なんでっ、わたし……普通じゃないんだろ……」
o川*;д;)o「ふ、普通がよかった……わたしだって……みっ、んなみたいに……」
言葉を何度も詰まらせて、しゃくりあげながら話し続ける。
電灯に照らされて綺羅綺羅と輝く涙が、前髪の向こう側から次々とこぼれていった。
o川*;д;)o「学校だっていっ、行きたいし……遊びたいっ、しぃ……恋し、しだいのに……っ!」
鼻をすする音が、嗚咽を上げる音が、静かな公園に響く。
せき止められていた感情が溢れ続ける音というのは、こういう音なんだろうか。
(;・∀・)「……」
o川*;д;)o「ごんなにっ、辛いなら……ふっ、普通なんて知らな、きゃよがったぁ……!」
その言葉を最後に、キュートは顔を両手で覆って、何も語らなくなった。
聞こえてくるのは、子供のように泣きじゃくる声だけだった。
282
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:47:00 ID:4mU/onyo
( ・∀・)「なあ……キュート」
o川*;д;)o「うえぇぇぇっ……!」
答えられるような状態ではないだろう。
それでも僕はキュートにどうしても聞きたいことが、言いたいことがあった。
( ・∀・)「本当に、そう思ってるのか? 普通の人のことなんて知りたくなかったのか?」
o川*;д;)o「っふぅ……ひぐっ……っ」
キュートは泣き声を噛み殺そうとしているけど、それでもまだ答える余裕は出そうにない。
聞こえているのが分かった僕は、そのまま話を続けた。
( ・∀・)「キュートが普通に暮らして知ったことは、全部要らないことだったのか?」
o川*;д;)o「はっ……っ」
さっきの言葉は本心ではなく、気の迷いだと分かっている。
それでも、僕は衝動を抑えることができなかった。
ベンチから立ちあがり、キュートの眼前まで近寄って、問いかける。
( ∀ )「僕のことも……知らない方がよかったのか?
キュートにとって……僕は要らないやつだったのか?」
283
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 22:52:14 ID:4mU/onyo
例え本心でなかったとしても、いっしょに泣きたいくらいに悲しかった。
僕のことをそんな風には思っていないと、はっきりと聞きたかった。
我ながら子供で、意地の悪い人間だな、と心の中だけで吐き捨てる。
o川* - )o「……ずるい」
ふと、囁くような小さい声が聞こえて、胸に何かがぶつかった。
視線を落とすと、僕の胸にキュートの顔がうずめられていた。
背中に回された腕には、痛いほどに力を込められている。
o川* - )o「そんな風に言われて……うん、なんて言えるわけないじゃん……」
顔を上げることなく、顔を押し付けたまま涙声でキュートは答えた。
乱暴に扱えば壊れてしまいそうなほど華奢な肩が、再び震えだす。
o川*;д;)o「モララーのこと……好きな人のこと!!! 知れてよかったに決まってるじゃん!!!」
( ‐∀‐)「……」
キュートは近所迷惑なんて考えないほど大きな声で叫んだ。
想像を越えた返答に、心がとても暖かくなる感覚がする。
だけど、いまは自分のことよりキュートを落ち着かせる方が優先だ。
284
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:00:30 ID:4mU/onyo
o川*;д;)o「ぁ……」
左手を腰のに回して、優しく抱き寄せる。
そして、右手でゆっくりと頭を撫でてやった。
( -∀-)「普通って幸せなことかもしれないけど、まだ知らないキュートだけの幸せもきっとあるさ。
もし、見つからないって言うなら、いっしょに探すから。ずっといっしょにいて探してやるから」
( -∀-)「だから、普通なんて知らなきゃよかったなんて言うなよ。
自分の過去を、いまの自分を否定なんてするなよ」
僕の腕の中で、キュートは無言で何度も何度も頷いていた。
〜〜〜〜〜〜
o川*゚ー゚)o「ありがと……もう大丈夫」
( ・∀・)「そっか……だったらいいけど」
落ち着きを取り戻したキュートは、目を拭いながら僕から離れた。
僕を真っ直ぐに見つめる表情は、いつものキュートに戻っていた。
285
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:06:03 ID:4mU/onyo
o川*゚ー゚)o「ねえ、モララー」
( ・∀・)「ん、どうした?」
o川*゚ー゚)o「さっき言ってくれたこと、ほんと?」
小首をかしげて、覗きこむようにして僕に尋ねてくる。
思い返すと、よくもあんな臭い台詞を言ったものだ。
(;-∀-)「ああ……本当だよ」
o川*^ー^)o「わかった。それだけ聞きたかったの」
キュートが満足そうな顔で頷く。
自分も僕のことを好きだと言ったくせに、この態度の差はなんなんだろうか。
o川*゚ー゚)o「もう帰らなきゃ……脱走してきたし、絶対怒られるなぁ」
(;・∀・)「なんか……ごめん」
ちらりと時計を見たキュートが呑気に言う。
よく考えれば外出禁止の身だ。きっといまごろは大騒ぎになっているはずだ。
286
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:11:17 ID:4mU/onyo
o川*^ー^)o「ううん、いいの。久しぶりに会えたから、いくら怒られても幸せ」
(;・∀・)「そ、そういうものなんだ……?」
o川*^ー^)o「うん、そういうもの」
キュートはニヤニヤという擬音がぴったりの笑顔を浮かべる。
そして、ポケットから髪留めを取り出すと、髪をいつものふたつ結びにまとめてみせた。
o川*^ー^)o「どう?」
( ・∀・)「……その方がキュートらしくって、いいかな」
o川*^ー^)o「えへへへへ……」
(;・∀・)「なんだよ気持ち悪い……大丈夫か? 送っていくか?」
o川*゚ー゚)o「だいじょぶだいじょぶ、モーマンタイ」
(;・∀・)「分かった……」
お気楽な口調で、キュートが手を振って公園の出口へと歩いていく。
とりあえず出口までは付いていこうと思い、僕も少し後ろを歩く。
287
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:25:34 ID:4mU/onyo
o川*゚ー゚)o「……」
( ・∀・)「キュート? どうしたんだ立ち止まっ――」
突然、キュートが立ち止まって振り返る。
理由を聞こうとしたその瞬間、キュートの姿が眼前に現れた。
そして、伸びてきた手になすすべなく襟首が掴まれる。
(;・∀・)「!?」
すべてが、スローモーションに見える。
巻き起こった風になびく、色素の薄いキュートの髪も。
その髪が電灯の明かりに照らされて、綺羅綺羅と輝く光も。
閉じられたまぶたから伸びる、まだ涙に濡れたキュートの長いまつ毛も。
288
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:30:55 ID:4mU/onyo
.
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2240.png
気付けば、いままで感じたことのない柔らかさと熱が、唇に重ねられていた。
.
289
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:39:43 ID:4mU/onyo
o川* ー )o「んっ……」
唇越しに漏れた、キュートの声。
襟首を掴まれて、少し前かがみになったまま固定されている。
柔らかさはまだ、僕の唇に触れている。
(* ∀ )「……っ」
視界を埋め尽くすキュートの顔が少しふらつく。
反射的に肩を抱いてやると、ぴたりと収まった。
o川* д )o「ふぁ……」
どれくらい時間が経っただろうか。
砂糖をまぶしたような甘い声を出して、キュートの顔が離れる。
どうやら背伸びをしていたらしく、離れた途端にストンと身長が縮んだ。
o川* д )o「……」
うつむいたその顔を呆然と眺めていると、キュートはいきなり顔を上げた。
そして、普段から想像もできないほどにどもりながら、
o川* д )o「ま、まっ、またねっ!」
それだけ言って踵を返すと、残像だけを残して消え去った。
ひとり立ち尽くし、夢心地なまま残像を見つめる。
夜の帳の中でも分かるほど、その顔は真っ赤に染まっていた。
290
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:41:46 ID:4mU/onyo
「……」
「……」
「……いま、何された?」
「キュートの顔が近付いてきて……」
「それから、それ、から……」
「キュートの顔が目の前にあって……」
「顔が離れて……」
「……」
「……」
「顔真っ赤のキュートが急いで帰って……」
「……」
「……」
(* ∀ )「こんなの、ずるいだろ……馬鹿……」
291
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:42:40 ID:4mU/onyo
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第七話 一生消えぬ感覚
おわり
.
292
:
◆LemonEhoag
:2016/09/27(火) 23:48:39 ID:4mU/onyo
以上で投下を終了します。帰宅が遅れてしまい、投下を遅らせて申し訳ありません。
まだ未確定ですが、職場の都合で残り二話の投下日が変更になる可能性が出てきました。
変更が決定した際にはスレでお知らせします。ご理解いただければ幸いです。
メイキングは明日21時公開予定となっています。こちらも公開され次第スレでお知らせします。
最後になりましたが、質問や感想などありましたら気軽に書いていってください。
293
:
◆LemonEhoag
:2016/09/28(水) 20:23:24 ID:TJxG8wKw
すみません、ブログにログインできない状態になってしまったため、第七話のメイキングは明日に延期させていただきます。
公開できる状態になり次第、スレでお知らせします。
294
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/28(水) 23:38:54 ID:3YrxzV1A
了解
待ってる
295
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/29(木) 19:35:21 ID:sa1ph.h2
乙
甘酸っぱいけど、切ない...
296
:
◆LemonEhoag
:2016/09/29(木) 21:57:15 ID:IfqThtPg
第七話のメイキング公開しました。
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-42.html
297
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/09/30(金) 02:50:03 ID:UfOYwU7U
あと少しで終わりやね 乙
298
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/07(金) 21:35:29 ID:ft.zo5ug
最近に読み直したらリマスター来てて驚いた
299
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:00:56 ID:aMRR4.E.
投下開始します。
300
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:05:10 ID:aMRR4.E.
_
( ゚∀゚)「うぃっす」
( ・∀・)「おう」
教室に入り、ジョルジュと短い挨拶を交わして自分の席に向かう。
白と黒の縞模様のマフラーを外すと、首筋を冷たい空気が撫でた。
(;・∀・)「寒っ……暖房どうなってるんだよ」
ひとりごちて、視線を暖房が置いてある方向へと移す。
テントウムシの冬眠のように、クラスメイトが排気口の前に固まっていた。
なるほど、あれなら暖気が教室に広がらないのも仕方ない。
( -∀-)(だからといって、あそこを確保するために早く来るのもなー)
その様子を眺めながら、暖房と部屋の布団の温もりを天秤にかけてみる。
頭の中で、布団が僅差の勝利を収めた、そのとき。
入口あたりから何かが勢いよくぶつかる音が聞こえ、僕は思わずそちらを振り向いた。
o川*^ー^)o「みんなー!!! おっはよー!!!」
(;・∀・)「……え?」
開かれた前方のドアの前に立って、元気よく朝の挨拶をするキュートの姿が、そこにはあった。
301
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:10:30 ID:aMRR4.E.
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第八話 死んでも忘れない気がしてる
.
302
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:16:39 ID:aMRR4.E.
「キューちゃんやー! ほんまもんのキューちゃんやー!」
「なんということでしょう、あんなに寂しかった教室がこんなに色鮮やかにいいい!!」
_
( ;∀;)「キューちゃああああああん会いたかったよそのおっぱぶべらっ」
教室中の人という人が、一斉にキュートの元へ駆け寄っていく。
頑なに暖房の前から離れようとしなかったテントウムシの集団も例外じゃない。
そうしてできあがった人の壁は、泣き叫びながら飛び込んでいったジョルジュをあっさり跳ね返すほど強大だ。
「キューちゃん待望論が湧きあがってたのは知ってるけど!
だけど落ち着こうっ!? この勢いじゃ誰か死んじゃうって!!」
余計なひと言を付け加えながら、僕の席からでは姿の見えないキュートがみんなを制する。
事態を飲み込めない頭の片隅で、どこか懐かしさを感じた。
(;・∀・)「……って、懐かしんでる場合じゃない。
待て。色々と待て、何が起きてる? もう学校来れないんじゃなかったのか?」
ひと月ほど前、公園で久しぶりに会ったあの日。キュートは確かにそう言っていた。
あのときの様子からして、実は全部嘘だった、なんてことはないだろう。
もし嘘だったら、全力でグーで殴るレベルだ。
303
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:20:28 ID:aMRR4.E.
「そうだ、こんなことしてる場合じゃないんだった! ちょっ、ごめんどいてどいて!」
突如、慌てたようなキュートの声が聞こえてきた。
そして直後、もごもごと人混みが動き始める。
o川*>д<)o「うーん……だーりゃー!!!」
人混みの中からまず最初に、かき分けるように突き出された両腕が出てくる。
次にすぽん、という音でも聞こえてきそうな勢いでキュートの全身が飛び出してきた。
そして、きょろきょろとあたりを見渡して、僕と目が合った瞬間。
o川*^ー^)o「あーモララーいたー!! 会いたかったよー!!」
(;・∀・)「うおおおおおおおあああああっ!?」
花の咲いたような笑顔でキュートは僕の胸の中に飛び込んできた。
304
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:26:10 ID:aMRR4.E.
(; ∀ )「おっごおおお……」
椅子ごと倒れ、受け身も取れないまま後頭部を床に打ちつけた。
視界にいくつもの星が、ちかちかと光りながら飛び交っている。
さすがにまずいと思ったのか、キュートの謝罪の声が聞こえてくる。
(; ∀ )(散々心配させた挙句、これかよ……)
ふつふつと、心の中に怒りが込み上げてくる。
そうだ、ちょうど胸元にいるんだし、ガツンと説教してやろう。
後頭部の針で刺されるような痛みに耐えながら、キュートの方へ顔を向けた。
(#・∀・)「お前な、久しぶりに会っていきな……」
o川;゚ー゚)o「ご、ごめん……だいじょぶ? 痛かったよね?」
( ・∀・)「」
吐息がかかるほど近くに、心配そうな表情のキュートの顔があった。
謝罪の言葉を紡ぐために動く唇に、自然と視線が向く。
頭は痛みも忘れ、あの瞬間を勝手に、鮮明に思い出していた。
(* ∀ )「だ、だっだっだだっだだだだ大丈夫、だ……よ……」
305
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:31:38 ID:aMRR4.E.
o川;゚ー゚)o「ちゃんと喋れてないよ? 頭大丈夫?」
(* ∀ )「ぜ、じぇんじゅえんふぇいき! にゃんともない!」
まともなことを喋ろうとしても、キュートの顔が目に入るのでいろいろと思い出してしまう。
その度に頭の中が真っ白に染まって、どうしようもなくなってしまう。
(* ∀ )「え、えっと、うん、ちょ、ちょっと離れてくれない、かな……」
o川;゚ー゚)o「え、どうしたの? ねえ?」
太ももをつねることで、なんとか少しだけ冷静さを取り戻す。
かつてないくらいにどもりながら、キュートに僕の上から退くように促す。
(* ∀ )「まあ、その、ええ、なん、という、か……思い出しちゃうんで……いろいろ」
頭上にクエスチョンマークでも浮かんでそうな表情で、キュートが理由を尋ねてくる。
顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしかったけど、仕方なく答えた。
o川;゚ー゚)o「いろいろ……? うーん……」
o川;゚ー゚)o
o川;゚д゚)oそ
o川* д )o「ぁ……ぅ……ぁ……」
306
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:35:40 ID:aMRR4.E.
キュートはしばらく、表情をころころと変えて悩んでいた。
やがて、何かに感づいたように大きく目を見開くと、一瞬で耳の先まで顔を赤く染めた。
(* ∀ )「分かったんだったら……って、なんでもっとくっついてくるんだよ!!」
なぜかキュートは僕の制服を握りしめ、顔を胸に押し付けてくる。
ううー、と唸りながら一向に離れようとしない。
(* ∀ )「どうしたんだよ……」
「だってぇ……」
顔を上げないままキュートが消え入りそうな声で呟く。
胸にかかる吐息の温かさに、落ち着き始めた心臓が再び高鳴り始めた。
o川* д )o「こうしないと顔見えちゃうし、見られちゃう……」
ちらりと潤んだ瞳で僕を見上げて、そう言うとキュートはまたすぐに顔を伏せた。
制服がより強く握りしめられ、引っ張られるのを肌で感じる。
(* ∀ )(ああああああああ可愛いなちくしょおおおおおお!!!)
307
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:41:41 ID:aMRR4.E.
「おいコラそこのバカップル。なーにふたりして顔赤くしてんだ」
殺気を孕んだ声が聞こえて、意識を現実に引き戻される。
あたりを見渡すと、クラスメイト一同が僕たちを取り囲むように立っていた。
みんな一様に表情は冷めきっていて、異様な不気味さを醸し出している。
「何があった、俺たちの知らないところでふたりに何があった」
「返答によっては殺す。モララーだけ殺す」
_
( ∀ )「よし、女子はキューちゃんを確保。男子はモララーを取り押さえろ。
モララーから事情を聞き出せ。何をやっても聞き出せ。聞き出したら内容次第で殺せ」
(;・∀・)「ちょっと待て、今回ばかりはみんな本気だとしか思えないんだけど!?」
いつの間にか現れたボロボロのジョルジュが、みんなに物騒すぎる指示を出す。
じわりじわりと、包囲網が狭まってくる。もっと早く逃げるべきだったかもしれない。
o川;゚ー゚)o「みんなストップストップ! ビークール!」
ようやく元に戻ったキュートが立ち上がり、みんなを制止しようとする。
体が自由になった僕も、立ち上がってふたりがかりで訴えかけようとした。
308
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:48:18 ID:aMRR4.E.
_
(#゚∀゚)「悪いがいくらキューちゃんの頼みでも、今回ばかりは譲れねぇ!
全員、構え! 目標捕捉! 突撃ぃぃいいいい!」
しかし、ジョルジュはキュートの制止を振り切った。
号令と共に人の壁が迫ってくる。
(;・∀・)「のおおおおおおおおおお!!!」
o川;゚ー゚)o「いっ……みんなごめん! まだ捕まるわけにはいかないの!
モララー! 絶対離しちゃダメだよ!」
そう言ってキュートは、まだ立ちあがれていない僕の手を握った。
(;・∀・)「えっ、ちょttうおわああああああああ!!!」
僕が反射的にキュートの手を握り返すと、見える景色が一気に後ろへ流れていった。
みんなの声が遠ざかったかと思うと、あっという間に聞こえなくなる。
体が慣性のままに右へ左へ振り回され、全身が満遍なく打ちつけられる。
(; ∀ )(地獄は……ここにあったのか……)
限りなく引き伸ばされた一瞬の中で、僕に分かったのはそれだけだった。
309
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 20:55:38 ID:aMRR4.E.
o川;゚ー゚)o「ここまで来れば大丈夫かな……ってここ、どこ?」
(; ∀ )「」
唐突にキュートが止まって、地獄が終わりを告げる。
頭上から聞こえてくる声からして、めちゃくちゃに走ってここに辿り着いたらしい。
そんなことよりも全身が猛烈に痛い。体を動かす気が削がれるほどだ。
o川;゚д゚)o「ねーモララー、ここって……うわぁ!?」
現在地を尋ねようとして僕を見たのか、キュートは驚きの声をあげた。
すぐに繋いでいた手を離して、僕の体を心配そうに揺さぶってくる。
o川;゚д゚)o「大丈夫!? ねえ!」
(; ∀ )「う、ご……かさ、ないで……痛い」
気持ちはありがたいけど、揺さぶられる度に激痛が走る。
もしかして、逃げても逃げなくてもこうなる運命だったのかもしれない。
o川; д )o「……ごめんね、また迷惑かけて」
視線だけ動かして見たその表情は、泣きそうになるのをこらえているように見えた。
310
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:02:07 ID:aMRR4.E.
(;-∀・)「また、とか言うなよ。迷惑だなんて思ってない」
キュートの頭に手を置き、柔らかな髪をくしゃくしゃと撫でる。
撫でている間だけは、不思議と痛みは耐えられる程度に和らいでいた。
(;-∀・)「とりあえず、そっとしといてくれ」
o川*゚ー゚)o「……うん」
僕の手を取って頭から離すと、キュートはそっと体の脇に置いてくれた。
元気は取り戻してくれたらしく、静かに微笑むとなぜか僕の頭の横へと移動する。
o川*゚ー゚)o「よいしょ、っと」
(;-∀・)「ん……?」
キュートが僕の頭を持ち上げて手を離す。
しかし、頭は高い位置で保たれていた。
頭の下に何かが入れられているようで、後頭部にほどよい柔らかさを感じる。
o川*゚ー゚)o「初めてやったんだけど、具合はどうですかー?」
その何かが、キュートの膝だと理解するのに時間はかからなかった。
(;・∀・)「な、えええっ!?」
311
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:07:17 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「はーい、安静にしてましょーねー」
(;・∀・)「あ、はい……」
慌てて跳ね起きそうになる僕の額を、キュートが手のひらで抑えつける。
為す術もなく体の力を抜くと、そのまま僕の頭を撫で始めた。
同じ体温のはずなのにやたら温かく、同じ手なのにやたら柔らかく感じる。
(;・∀・)「なあ、なんで学校に来れたんだ?」
やることもないので、ずっと聞く機会を失っていた疑問をぶつけてみる。
o川*゚ー゚)o「おお、なんと奇遇な。モララーに会ったら絶対言おうと思ってたの」
運命かもね、とキュートは嬉しそうに微笑む。
そう言うには些細なことすぎる気はするけど、本人はいたって幸せそうだ。
野暮なことは言わないでおこうと思い、代わりに僕も微笑み返した。
o川*゚ー゚)o「えっとね……あのあと、あたりまえだけど家に帰ったの。
そしたら、わたしのことはもちろん探してたんだけど、それとは別件で大騒ぎで」
(;・∀・)「別件?」
312
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:15:48 ID:aMRR4.E.
研究員にとって、キュートの脱走と同じくらい慌てることなんてあるのだろうか。
マウスとは訳が違う、国が介入してくるほどの研究の、唯一の研究対象なのに。
o川*゚ー゚)o「わたしが帰ってきたら、研究所のお偉いさんが喧嘩してたの。
詳しく言うと、荒巻博士の支持派と反対派が」
(;・∀・)「なんでそんなことになってたんだ?」
o川*゚ー゚)o「支持派の人が、わたしが脱走したのは反対派がまた研究でわたしを縛ったからだ、って。
逆に反対派の人は、支持派がわたしを外に出さなきゃそもそもこんなことは起きなかった、って。
恥ずかしい話だけど、責任のなすりつけ合いしててさ」
恥ずかしいというか、みっともない話だと思った。
非常事態と呼べる状況で、大の大人が互いの揚げ足を取りあっているなんて。
o川*゚ー゚)o「しかし、それを知ったわたしの頭はフル回転! いいこと思いついちゃったわけ!」
自慢したくて仕方ない、と言わんばかりにキュートは目を輝かせて口角をつり上げる。
実際に見たことはなかったけど、どや顔というのはこういう顔のことを言うんだろう。
( ・∀・)「面白い、聞かせてもらおうじゃん」
313
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:26:09 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「喧嘩してるところに颯爽と飛び込んでいったわけよ!
話は聞かせてもらった! みたいな感じで!」
o川*゚д゚)o「それでね、わたしはこう言ってやったの!
『わたし、また普通の生活がしたい! ダメなら何度でも脱走してやるんだから!』
その場にいた人たち、みんな目を丸くしちゃって……面白かったなぁ」
悲壮感に溢れていた以前の独白とは違い、実に楽しそうに僕に語りかける。
ころころ変わる表情の中に、悲しみを含んだ物はひとつもなかった。
o川*^ー^)o「これで勢いづいた支持派に、反対派はすっかり抑えこまれちゃったの。
それで、いろいろお偉いさんと話し合って一ヶ月。
ようやく話がついて今日、学校に来れたというわけなんですよー!」
キュートは頬が緩むのを隠しきれないような笑顔を浮かべる。
頭を撫でる手に少しだけ、力が込められるのを感じた。
( ・∀・)「……よかったな、本当に」
o川*^ー^)o「うん!」
キュートの笑顔の奥に、一枚の扉が見えた。
扉にはめこまれたガラスの向こうには、彼女の笑顔に似た雲ひとつない青空が広がっていた。
314
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:33:59 ID:aMRR4.E.
( ・∀・)「そういえば、ここって……」
痛みが治まってきた体を起こして、周囲を見渡す。
確認した限り、ここは踊り場のようなスペースになっている。
そばにあるのは一枚の扉と下に続いている階段だけ。
o川;゚ー゚)o「あ、そうだった。ここってどこ?」
( ・∀・)「うーん……たぶんだけど、その扉の先、屋上なんじゃないか?」
o川*゚д゚)o「屋上!? 行く行く!」
キュートは屋上、と聞くなり眼をきらきらと輝かせながら立ち上がる。
いそいそと扉の前まで歩いていくと、ドアノブを握りしめた。
(;・∀・)「待て待て落ち着け! 普通こういうところには鍵がかかって」
o川*゚д゚)o「開いたー!」
(;・∀・)「なんですとおおおおおおおお!?」
ドアはあっさり開いて、キュートは青空の下へと飛び出していった。
どうやら僕が思っているより、セキュリティーというのは緩いものらしい。
315
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:39:16 ID:aMRR4.E.
o川*>д<)o「うっひゃー、さっむーい!」
キュートはスカートを押さえながら、自分の体を抱いて震わせていた。
晴れているとはいえ、クリスマスまであと一ヶ月に迫っている。
加えて、屋上は風が強いから当たり前の結果と言えるだろう。
(;・∀・)「だったら早く中に戻ってこい、風邪ひくぞ」
o川*>д<)o「そんなこと言ってー、内心は
『ああ、キュートのスカートがめくれてもう少しで見えそう! 風頑張れ!』
とか思ってるんでしょー! えっちー!」
(;・∀・)「1ミリも思ってねえよ!
ていうか、さっきからテンション高いけどめっちゃ震えてるし!
いいからさっさとこっち来い、僕まで寒くなってくる」
o川;゚ー゚)o「うん……正直、自分から言いだしたからすぐ戻たかったけど戻れなかった」
きっかけを掴んだキュートはすごすごと中に戻ってくる。
多分、久しぶりの学校ではしゃいでいるんだろう。
元からこんな感じだった気がしないでもないけど。
316
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:47:35 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「あ、そうだ。モララー放課後って空いてる?」
はーはーと息を吹きかけて、手を温めながらキュートが僕に問いかけてきた。
余程寒かったらしいけど、どうして変な意地を張っていたんだろうか。
( ・∀・)「んー、特に予定はないな」
o川*゚ー゚)o「おー! だったら、帰りどっかに寄ろうよ!
お母さんからおこづかいもらっちゃった!」
嬉々として自分のブレザーのポケットを叩いて見せる。
よく見ると少し膨らんでいる。おそらく財布だろう。
( ・∀・)「それはいいけど、行きたいところとかあるのか?」
o川*゚ー゚)o「んーとねー」
キュートは宙を見つめながら、あごに手をやって考え始める。
ぶつぶつと独り言を呟いたり、眉間にしわを寄せたり首をかしげたり。
その様子を見ているだけで何時間でも待てるほど、僕を飽きさせない表情の変わりっぷりだ。
317
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 21:55:12 ID:aMRR4.E.
o川;^ー^)o「全然思いつかないし、モララーといっしょならどこでもいいや」
キュートは申し訳なさそうに笑うと、結局僕にすべて任せることにした。
よく考えれば、いままでろくに遊んだ経験もないはずだ。
行きたいところを思いつくことも、キュートにとっては難しいなんだろう。
(;・∀・)「まいったな……とりあえず街を歩くか。
歩いてれば何かしら楽しそうなものが見つかるだろ」
o川*^ー^)o「それでおっけー! 楽しみだねー、早く放課後にならないかなぁ」
待ちきれないのか、落ち着きなく僕の周りをくるくると歩き回る。
ステップのごとく軽やかな足取りに合わせて、スカートが生き物のように揺れた。
(;・∀・)「せっかく学校来たんだから、このままここで暇つぶしってのはなしだぞ。
みんなだってキュートに会いたいだろうし、教室に戻ろう」
正直、教室に戻れば確実に五体満足でいれない気はした。
だけど、このまま戻らないと確実に殺されるだろう。
だったらせめて、命は助かる方がいいに決まっている。
(;・∀・)(キュートに気を取られて、僕は放置してくれるとありがたいな……)
318
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:01:29 ID:aMRR4.E.
僕がわずかな希望にすがっていると、チャイムが鳴り響いた。
僕たち以外に誰もいないからか、やたら大きく聞こえる。
携帯で時間を確認すると、一時間目の始業のチャイムだった。戻るタイミングとしては好都合だ。
o川*゚ー゚)o「そうだね、みんなとも会いたいし戻ろっか。
ちょうどチャイムも鳴ったし、戻ってもみんな襲ってこないよ……たぶん」
(;・∀・)「たぶんってちっちゃく呟くなよ、不安になるだろうが」
o川*゚ー゚)o「おっと、こりゃ失礼」
キュートは舌をちろっと出して誠意のこもっていない謝罪をする。
そして振り向いて、床に置かれた自分の鞄を肩にかけて立ち上がった。
o川*゚ー゚)o「わたしが先に行くね。そしたらみんな少しは気が緩むよ」
(;・∀・)「情けないけど、今回ばかりはそうしてもらいたい……」
o川*^ー^)o「あはは、りょーかーい」
軽く微笑むと、キュートは階段に向かって歩き出す。
十分くらいしたら僕も行こう、そう考えながら背中をみつめていたときだった。
319
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:07:13 ID:aMRR4.E.
急に振り返ったキュートは、照れ笑いを浮かべながら言った。
o川*^ー^)o「せっかく彼氏とデートなのに、死なれたら嫌だしね……えへへ」
( ・∀・)「え?」
聞き返したときには、すでにキュートはその場からいなくなっていた。
(;・∀・)「え?」
薄らいでいく残像から目を離せないまま、僕はもう一度間抜けな声を出さずにはいられなかった。
320
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:16:49 ID:aMRR4.E.
( ・∀・)「……落ち着け、落ち着くんだ僕」
そう、まずは落ち着く必要がある。
冷静になってから、ゆっくりと考える時間を取ろう。
まずは頭を冷やすべく、再び屋上へのドアを開いた。
( ・∀・)「うん、いい感じに寒いぞ。これでだいぶ落ち着いた。僕は落ち着いた」
とりあえず近くの柵に寄りかかって、街を見下ろしてみる。
住宅街のそばということもあって、人通りはそれほど多くない。
ゆったりと、静かに時間が流れているように感じた。
( ・∀・)「よーし、落ち着いたぞ。当社比で言うとさっきまでの三割まで落ち着いたぞ。
何回でも言うけど、僕はとっくに落ち着いた。うん、間違いない」
薄々分かっていたことだけど、まったく落ち着けていない。
変わったことと言えば、冷たい風に吹かれて寒くなっただけだ。
( ・∀・)「いや、待て。落ち着けていなくても考えられるはずだ。そうだ考えろ、考えるんだ僕」
ひとまず、なぜキュートがあんなことを言い出したのか考えることにした。
321
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:25:44 ID:aMRR4.E.
物事には順序というものがある。彼氏彼女の関係になることも例外じゃない。
まず、相手のことを好きになる。それから、告白して気持ちを相手に伝える。
そして、相手がOKならば晴れてふたりは恋人同士になるわけだ。
( ・∀・)「僕はキュートのことが好きだ。これはゆるぎない事実だ。
そして、キュートも公園での会話からして僕のことが好き。ここまでは何も問題はない」
問題はここからだ。僕には告白した覚えもないし、された覚えもない。
しかし、キュートの中では告白があったことになっている。
となると、ひとつの可能性が考えられる。
( ・∀・)「何かしらの行動を、キュートは告白と受け取った」
放課後に呼びだして付きあって下さいと頼み、よろしくお願いしますと返答する。
これだけが告白というわけじゃない。やり方は人によって無限にあるものだ。
( ・∀・)「何か……何か告白っぽい行動……」
ようやく冷え始めた頭の中で、記憶の糸をたどっていく。
しかし、すぐに思考は終わることになった。
思い出せなかったのではなく、心当たりが見つかったからだ。
(;・∀・)「……あれしかないよな」
瞼を閉じると、いまでも鮮明に思い浮かんでくる。
――――――
322
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:29:20 ID:aMRR4.E.
o川*;д;)o『モララーのこと……好きな人のこと!!! 知れてよかったに決まってるじゃん!!!』
( -∀-)『……』
o川*;д;)o『ぁ……』
( -∀-)『普通って幸せなことかもしれないけど、まだ知らないキュートだけの幸せもきっとあるさ。
もし、見つからないって言うなら、いっしょに探すから。ずっといっしょにいて探してやるから』
――――――
好きだと伝えて、そのあとに抱きしめられて、ずっといっしょにいる、と言われる。
多少は間接的な表現かも知れないけど、告白の了承と受け取ってもおかしくない。
(;・∀・)「まいったな……」
別にキュートと付き合うことはまったく問題じゃない、むしろ大歓迎だ。
しかし、あのときの僕は了承する意味で言ったのではない。
このことを知ったら、キュートはひどく傷つくだろう。
(;・∀・)「どうしよう……」
323
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:33:40 ID:aMRR4.E.
僕の理想としては、まずはキュートの誤解を解きたい。
( ・∀・)(それで……きちんと僕から言おう)
こういうのは男から言うべきだと思っている。
いまの時代、そうとは限らないのかもしれないけど。
( >∀<)「へぶしっ!」
思案にふけっていると、くしゃみが出た。
よく考えたら、結構長く風に吹かれていて、すっかり体は冷え切っている。
それに、教室にも戻らないといけない。
(;・∀・)「どうやってそこまで持っていくかはあとで考えよっと……」
柵から離れて教室へと戻るべく、早足で歩き出した。
教室に戻ると、みんなが授業そっちのけで僕を追ってきて、再び逃げることになったのはまた別の話だ。
〜〜〜〜〜〜
324
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:38:56 ID:aMRR4.E.
(゚、゚トソン「それでは、これでホームルームを終わります」
先生がそう告げると、途端に教室は喧騒に包まれた。
鞄に教科書を詰めながら、前の席で大きく伸びをするキュートの背中を見つめる。
すると、視線に気付いたのか、キュートはこちらを振り返った。
o川*゚ー゚)o「実に、長かった。あまりにも、長すぎた」
(;・∀・)「前にも同じようなこと言わなかったか?」
o川*゚ー゚)o「そうだっけ? たぶん、そのときもさいっ……こうに楽しみにして待ってたんだよ」
これでもかというくらい溜めに溜めてそう述べる。
そして、勢いよく立ち上がると僕に向かって右手を差し出してきた。
o川*゚ー゚)o「それよりさ、早く行こう! これ以上は一秒も待てないよ!」
イルミネーションのように綺羅綺羅と輝く瞳で、真っ直ぐに見つめてくる。
せわしなく手を開いたり閉じたりしているのは、早く手を取れという催促だろうか。
(;・∀・)「んー、ああ」
o川;゚ー゚)o「あ……」
一瞬悩んで、手を取らずに立ち上がった。
ぼそりとキュートの残念そうな声が聞こえて、胸を針で刺したような痛みが襲う。
325
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:43:42 ID:aMRR4.E.
僕だってキュートが望んでいるようなことをしたいし、してやりたい。
それでも、誤解を解いた上で改めて告白すると僕は僕自身で決めた。
ならば、それまではキュートの好意に甘えるわけにはいかない。
(;・∀・)(それが……僕なりの、けじめだ)
キュートの方へと向き直り、しょんぼりとしてしまっている顔を見つめる。
ハの字に下がった眉が、僕のしたことにどれだけ心を痛めたのかを表していた。
これからもっと傷つけるかもしれないと思うと、鼻の奥にツンとした刺激が走った。
(; ∀ )「……キュート」
o川;゚ー゚)o「……なあに?」
(; ∀ )「キュートに言わなきゃいけないことがあるんだ。
街に行く途中で話すから、聞いて欲しい」
o川*゚ー゚)o「……わかった」
僕の心情を察したのか、キュートは僕を見るなり表情を和らげて頷いてくれた。
キュートの目の中で僕がどんな顔をしていたのかは分からない。
だけど、きっと気を使わせてしまうような表情だったのだろうと思うと、申し訳なかった。
〜〜〜〜〜〜
326
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:49:36 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「そっかぁ、そうだったんだ」
(;・∀・)「ごめん……」
たくさんの店が並ぶ大通りに着いたころ、僕はうべてを話し終えた。
キュートは前方を見たまま、何度もぼそぼそと呟きながら頷く。
しかし、すれ違う騒がしい街の喧騒にかき消されて、何を言っているのかは僕の耳には届かない。
o川*゚ー゚)o「……で?」
( ・∀・)「……うん?」
唐突に僕の方を向いて、キュートが問いかけてきた。
あまりにも脈絡がなく、意図が読み取れずに思わず聞き返してしまう。
o川*゚ー゚)o「勘違いしちゃったわたしにも責任はあるし、もうこれはおしまいにしてさ。
問題はこれからわたしたちはどうするの、ってことだよ」
(;・∀・)「えーと、それは、その」
やけにあっさりとしたキュートの態度に、思わずたじろぐ。
動揺し過ぎて、すれ違ったサラリーマンとぶつかってしまった。
327
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 22:54:38 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「さっきモララーが言ってたことからして、ちゃんとした告白すればいいんでしょ?」
(;・∀・)「飛躍しすぎな気もするけど、まあ……」
o川*゚ー゚)o「よし、じゃあ改めて。わたしね、モララーのことす」
(;・∀・)「わああああああ!! 待って、ちょっと待って!」
いきなり告白を始めたキュートを慌てて制止する。
道行く人が何人かこちらを振り返るのが見えたけど、それに構っている場合じゃない。
遮られた本人は不満げに頬を膨らませて、眉間にしわを寄せて僕を睨みつけてくる。
o川#゚д゚)o「なんでー!? これだったらいいんでしょー!?」
(;・∀・)「いやいいんだけど! いいんだけど駄目なの!」
o川#゚д゚)o「けちー! 説明を要求する!」
そう言うと、キュートは僕の前に仁王立ちして立ちはだかった。
説明するまで逃がさない、という意味なんだろうか。
防寒具が煩わしくなるほど体が熱くなるのを感じながら、口を開いた。
328
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:00:19 ID:aMRR4.E.
(;・∀・)「えーと、ですね。
今回こんな誤解が起きたのは、僕が原因だと思うわけでして」
o川#゚д゚)o「はい!」
(;-∀-)「それで、僕なりにけじめを付けようと思ったんです」
o川#゚д゚)o「それで!?」
(;-∀-)「またキュートから言わせるのもあれなんで、僕からきちんと告白しようと思いまして……
だからさっき、キュートの告白を遮った次第でございます。はい、すいません」
o川#゚д゚)o「モララーからわたしに告白するつもりだったなら、なんで早く言わ……え?」
かりかりしていたキュートの様子が、僕の説明が終わった途端に一変する。
目を白黒させて、口をぽかんと開けたまま固まってしまう。
o川*゚д゚)o「もららーから、わたしに……こくはく」
o川;゚д゚)o「あ、え? それって、その、つまり……わたしのこと」
o川* д )o「え、え、え? モララーが? わたしのこと、すっ、すぅ、す……」
キュートの顔がどんどん赤くなっていくにつれて、落ち着きがなくなっていく。
せわしなく髪をいじったり、手で顔を仰いだり、右往左往したり。
329
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:06:21 ID:aMRR4.E.
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2264.png
o川* д )o「ね、ねぇっ! わたし、また勘違いしてない……よね?」
キュートは死にそうなほど潤んだ目で、僕を見つめてくる。
喜びか、悲しみか、恥ずかしさか。どういう感情で潤んでいるのかは分からない。
僕はその目を見つめ返しながら、はっきりとキュートに告げる。
( ・∀・)「そんな心配するなって。勘違いじゃないよ」
o川* д )o「……ふはぁ」
緊張の糸が切れたのか、キュートは近くにあったガードレールに倒れるように寄りかかった。
手袋を外し、胸元を摘まむと引っ張っては離してを繰り返している。
o川* ー )o「……モララー」
( ・∀・)「ん?」
ようやく落ち着いたらしいキュートが、小さな声で僕を呼んだ。
呼びかけに答えると、キュートは立ち上がって僕に向かって軽く頭を下げた。
o川*゚ー゚)o「ありがと」
( ・∀・)「……こちらこそ、ありがとう」
キュートが顔を上げるのを待って、僕も立ち上がって頭を下げた。
330
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:09:23 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「……で?」
(;・∀・)「……うん?」
ついさっきと同じようなキュートの問いかけ。
思わず素っ頓狂な声が喉の奥から漏れた。
o川*゚ー゚)o「ほらほら、ハグハグ」
キュートは僕の正面に立つと、両腕を広げてみせる。
どうぞ来てくださいと言わんばかりの体勢だ。
(;・∀・)「ハグというのは……抱きしめるアレのことですか?」
o川*゚ー゚)o「いえーす、きゃもぉーん!」
(;・∀・)「なんで、いま、ここで?」
徐々ににじり寄ってくるキュートから、逃げるように後ずさりしながら質問する。
すると、ぽかんとした顔で質問に質問で返してきた。
o川*゚ー゚)o「え? だってそっちから言ってくれるんでしょ?
だからどうぞ来てください、ってやってるんだよ」
( ・∀・)「」
331
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:14:22 ID:aMRR4.E.
(;・∀・)「あのさ、時と場所ってものを考えたりは……」
学校の下校時間とも重なって、街は多くの人が行き来している。
こんなところで告白なんて、それこそドラマや漫画の世界でしかありえないことだ。
o川*゚ー゚)o「本気だったらどこででもできると思ってたのに……」
(;・∀・)「うっ……」
キュートは両腕を下げて視線を落とし、残念そうに小さく呟いた。
その言葉が、氷柱のような冷たさを伴って胸に突き刺さる。
言い返す言葉も浮かばす、ただただ黙り込んでしまう。
o川*゚ー゚)o「そんな落ち込まないでよ、冗談だってば」
(;‐∀‐)(よかった……)
キュートはすぐに顔を上げると少し背伸びをして、僕の頭を軽くぽんぽんと叩く。
向こうは冗談のつもりで言ったらしいけど、結構本気で受け取ってしまった。
好きな人の一挙手一投足というのは、どうしても気にしてしまうものなんだと悟った。
o川*゚ー゚)o「んー、今日のところは我慢してあげるけど……」
キュートは僕の頭から頬へと手をスライドさせると、指でぐりぐりと突いてきた。
そして、悪戯を思いついたような笑みを浮かべる。
332
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:19:25 ID:aMRR4.E.
o川*^ー^)o「ずっと待たされるのは、やだよ?」
(;・∀・)「待たせない!ぜっんぜん待たせない、約束する!」
o川*゚ー゚)o「それじゃ、はいっ」
キュートは右手の小指を立てて、僕の目の前に持ってきた。
すぐに意図を理解し、指を絡ませる。
o川*゚ー゚)o「ご唱和ください、せーの……」
互いの顔を見合わせ、タイミングを取る。
キュートの合図で同時に小声で歌い始めた。
o川*゚ー゚)o「「ゆーびきーりげーんまん、うーそついたらはーりせんぼんのーます」」(・∀・ )
o川*゚ー゚)o「ゆーびきっ……たっ!!」
(;・∀・)「いってえ! ひっかかった!」
o川*^ー^)o「あっははは、ごめんねー」
擦り傷につばをつける僕を見ながら、実に嬉しそうに笑うキュート。
約束を守ったら、もっと笑ってくれるんだろうか。
そう考えると、自然と僕も笑みがこぼれてきた。
333
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:24:55 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「それではそれでは、今後のために街を散策しに行きましょう!
ムード作りがうまくできないであろうモララーのために!」
( ・∀・)「おい、後半どういうことだおい」
o川*゚ー゚)o「気にしなーい気にしなーい、行こう行こうっ」
キュートはそう言って僕の手を引き、人混みを掻き分けて歩いていく。
人が僕たちを避けているかのように、不思議と誰にもぶつかることはない。
o川*゚ー゚)o「〜〜♪」
( ・∀・)「……」
鼻歌を口ずさみながら、歩いていく後ろ姿を見つめる。
繋がれた手からは同じ体温のぬくもりが伝わってくる。
手袋をしていない手を温めるように、ほんの少し、力を込めて握った。
〜〜〜〜〜〜
334
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:29:36 ID:aMRR4.E.
o川*^ー^)o「あー、楽しかったー」
日は暮れてすっかりあたりも暗くなり、淡いオレンジ色の街頭が灯る。
その灯りに照らされて、僕の横を歩くキュートの髪が綺羅綺羅と光りながら宙を舞う。
o川*゚ー゚)o「あれだけ見て回ったのに、見れてないところもあるんだよね……世間は広いね」
( ・∀・)「この街より大きい街なんてたくさんあるぞ。
これくらいで驚いてちゃ、この先驚きっぱなしだ」
o川*゚д゚)o「ほんとー!?」
いちいち反応が大げさだと思ったけど、よく考えればキュートの知ってる世間はとても狭い。
家と研究所と学校。キュートにとっていままではそれが全てだった。
だけど今日、ささやかな自由をキュートは手に入れた。
o川*゚ー゚)o「ここより大きい……何があるんだろ……どれだけあるんだろ」
これがきっかけで、だんだん自由に出来ることも増えていくかもしれない。
そして、いつかは普通の生活が送れるようになるかもしれない。
まだ小さな希望だけど、まるで自分のことのように嬉しかった。
o川*゚ー゚)o「ねぇねぇ」
( ・∀・)「ん?」
335
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:35:22 ID:aMRR4.E.
ぼんやりとしていると、キュートが制服の袖を引っ張って僕を呼んだ。
キュートの方へ向くと、上目遣いで真っ直ぐに見つめてくる。
o川*゚ー゚)o「今度は行ってないところに行こうね。
それで、もう行くところが無くなっちゃったら今度は隣町とか行くの。
隣町も行っちゃったら、えっと……」
( ・∀・)「そうだな。たくさん、いろんなところに行こうな」
o川;゚ー゚)o「あっ、でもわたしの時間がないかも……」
そう言うとキュートはあごに指を添えて、うんうんと唸り始める。
なんとも余計な心配だ、と思った。
肩くらいの高さにあるキュートの頭に手を置くと、わしゃわしゃと撫でまわしてやる。
( -∀-)「時間ができるまでいつまでも付き合ってやるから。気にするなよ」
o川*>д<)o「わっぷ……もー、髪がぐちゃぐちゃー」
キュートは乱れた髪を手櫛で直しながら、ひとりごちる。
しかし、その後に小さくありがと、と呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
336
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:40:23 ID:aMRR4.E.
o川*゚ー゚)o「あ、ここまででいいよ」
( ・∀・)「ん、そう?」
不意にキュートが立ち止まってそう告げる。
内心は、もう少しこうして歩いていたかったけど仕方がない。
o川*゚ー゚)o「じゃーねー、また明日っ」
( ・∀・)「ああ、また明日な」
また明日、という別れの挨拶がいまはとても大切なものに思える。
喜びを噛みしめるように、オウム返しをして別れた。
( ・∀・)「また明日……か」
遠ざかっていくキュートを眺めながらぽつりと呟いた。
キュートは周囲の目も気にせず、姿が見えなくなるまで手を振っていた。
( ・∀・)「僕も……帰るか」
こんなに明日が楽しみなのは、いつ以来だろう。
様々な思いを巡らせながら、ざわつく人混みの中へと紛れていった。
〜〜〜〜〜〜
337
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:42:01 ID:aMRR4.E.
「おい! 救急車はまだか!」
「下手に動かすんじゃない!」
「うわあああああああああああああああん!!! ああああああああん!!」
「ああ……あああ……」
「……やばいよあれ、死んでんじゃね?」
「動かないし……」
「なんだ、何があったんだ?」
「俺見てたんだけど、なんか最初は子供が道路に飛び出してさ」
「その子が車に轢かれそうになったと思ったら、急に女の子が飛び出してきたんだよ」
「うっわぁ……それであれ?」
「ああ、うん……ただ、妙なんだよな」
「妙?」
「その女の子なんだけど、飛び出してきたっていうかさ……」
「一瞬でその場に現れた、っていう感じなんだよね」
338
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:42:49 ID:aMRR4.E.
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第八話 死んでも忘れない気がしてる
おわり
.
339
:
◆LemonEhoag
:2016/10/11(火) 23:44:31 ID:aMRR4.E.
以上で今回の投下は終了です。
ブログの方で一足先に触れましたが、次回で最終回です。
10月25日20時より投下開始予定です。最後までよろしくお願いします。
メイキングは明日21時公開予定です。公開時にスレでお知らせします。
最後になりましたが、質問や感想ありましたら気軽にどうぞ。
340
:
◆LemonEhoag
:2016/10/12(水) 20:22:34 ID:YocA2EuE
帰宅が遅れたため、少しメイキングの公開遅れます。
341
:
◆LemonEhoag
:2016/10/12(水) 21:13:26 ID:YocA2EuE
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-43.html
ちょっと遅刻しましたが、第八話のメイキング公開です。
342
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/13(木) 22:06:46 ID:cJGv8dlo
乙
問題片付いたと思ったら、最後。最後ぉぉ!
343
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:04:39 ID:P7FzPm6w
教室を包む偽物の静寂は、いまにも崩れ去りそうなほど張り詰めている。
どこからか聞こえてくる、誰かがすすり泣く声は止まない。
(゚、゚;トソン「素直さんは一命は取り留めたものの――」
何が起こったのか、先生が説明する声が聞こえる。
異国の言葉のように、 その意味を汲み取ることはできない。したくない。
_
( ∀ )
僕だけが聞き間違えている。淡い希望を抱いて、教室を見渡してみる。
蒼白く染まったジョルジュの横顔が見えた。 うなだれたまま、頭を抱えている。
その表情を読み取ることはできない。したくない。
(゚、゚;トソン「現在も意識は戻らず、VIP総合病院のICUで――」
先生が説明を続ける声が聞こえる。
先生が話す言葉の意味は、分からない。
( ∀ )
聞こえない。分からない。自分にそう言い聞かせ続けた。
344
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:08:13 ID:P7FzPm6w
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
最終話 ボーイ・ミーツ・ガール
.
345
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:12:20 ID:P7FzPm6w
(゚、゚;トソン「いまは面会謝絶中です。お見舞いは遠慮してください」
その言葉を最後に、先生は話を打ち切った。
そして、泣き崩れている生徒ひとりひとりをなだめながら、教室を回っていく。
声をかけられた途端、せきを切ったように泣き始める生徒もいた。
(゚、゚;トソン「あっ……」
しかし、無情にも鳴り響いたチャイムが、始業の時間を告げる。
一時間目は先生の担当教科ではない。いつまでもここにいるわけにはいかない。
( 、 ;トソン「っ……」
いまにも泣き出しそうな表情で、教室を見渡す。
そして、きっと、ためらいで重くなった足並みで、先生はドアへと向かう。
( ∀ )
_
( ∀ )
ドアの閉まる音を最後に、本物の静寂が、教室を支配した。
346
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:18:50 ID:P7FzPm6w
しばらくの間、誰も、何もしようとはしなかった。
やがて、誰かが鼻をすする音がして、押し殺した泣き声が聞こえてきた。
それを皮切りに、教室がざわつき始める。
( ∀ )
自分でも驚くほど冷静で、この状況をどこか客観的に見てすらいた。
耳から入った情報はきちんと整理されていて、当然理解もしている。
それでも、僕には分からなかった。
昨日、僕と別れた後に車に轢かれた。
道路に飛び出した子供をかばったらしい。
VIP総合病院に運ばれたが、意識不明の重体で危険な状態だ。
( ∀ )(……どうし、て)
そうなるのがなぜ、キュートだったのか。
キュートでなければならなかったのか。
それが、僕には分からなかった。
347
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:24:20 ID:P7FzPm6w
「なんでだよ……っ」
心の内を口に漏らしたわけでもないのに、不意に声が聞こえた。
気付くと、僕の机のすぐ横に誰かが立っていた。
「なんで……お前はっ……」
見上げて顔を確認すると、クラスメイトの男子生徒だった。
その表情は泣き出しそうにも、怒りに満ちているようにも見えた。
「俺は、知ってるんだぞ」
( ∀ )「……何を」
教室中の視線が僕たちにへ向けられたのが分かった。
「昨日、お前とキューちゃんが一緒に街を歩いているのを見た」
どういう意図で、その話を持ちだしたのか理解できなかった。
放課後に寄り道することに、特別な意味なんてないだろうに。
348
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:30:17 ID:P7FzPm6w
「先生は、昨日の学校からの帰り道でキューちゃんが轢かれたって言ってたよな」
( ∀ )「ああ、それで?」
「……お前のせいだ」
いまにも僕を殺しそうな、怒りに満ちた低い声で言われる。
心臓が一回、強く脈打つのを感じた。
「お前はそんなときに何やってたんだよ!!」
僕の机を握った拳で殴りつけると、彼は声を荒げた。
まるで、押し殺していた感情を爆発させたように思えた。
( ∀ )「僕は、事故が起きたときにはそばにいなかった。
キュートが事故にあったのは、僕と別れたあとだ」
「だったらどうして送っていかなかった!!
お前がそばにいれば事故になんてあわなかったに決まってんだろ!」
僕はただ、誤解を解くために事実を彼に告げた。
しかし、それで怒りが収まることはなく、机が蹴り飛ばされた。
机は大きな音を立てて転がっていき、隣の机にぶつかる。
349
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:35:38 ID:P7FzPm6w
( ∀ )「僕も、最初は送っていこうとした。だけど、キュートがそれを断った」
「だから僕は悪くありません、ってか!? ふざけんな!!!」
(; ∀ )「がっ!!」
腕を大きく振りかぶるのが見えてすぐ、頬に痛みと衝撃が走った。
体が宙を舞って、さっき蹴り飛ばされた机にぶつかって止まる。
「お前のせいだ! 全部、全部お前さえいなければ起きなかった!!」
「おい、やめろって!!」
「やめてぇっ!! お願いだからぁ!!!!」
殴った張本人は、僕を泣き叫びながら責め立ててくる。
彼を制止しようと押さえ付ける男子、悲鳴に似た声で叫ぶ女子。
教室は明らかに異様な喧騒に包まれていた。
(; ∀ )「……っ」
立ち上がろうとすると、視界がぐらりと揺れた。
よろめいて、近くの壁に激突するように寄りかかってへたり込む。
350
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:41:49 ID:P7FzPm6w
「はっ、なせぇええええ!!!」
視界の隅で、制止を力まかせに振り切る男子が見えた。
そのままの勢いで僕に飛びかかってきて、制服の襟を掴まれる。
何度も揺さぶりながら、むき出しの怒りをぶつけてくる。
(; ∀ )「ぐっ……」
「なんでだよ! なんでキューちゃんがこんな目に合わないといけないんだよ!
なんでお前はきちんと守ってやらなかったんだよ! なんでお前だけのうのうとしてるんだよ!
なんで……なんでだよぉぉおおおお!!!」
(; ∀ )
なんで、なんで、なんで。さっきからそればっかり。
聞き飽きるほど言われても、まだ止めようとしない。
頭の中で、ぷつん、と何かが切れる音がした。
351
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:46:15 ID:P7FzPm6w
( ∀ )「……ねえよ」
「あぁ……!?」
( ;∀;)「僕だって分からねえよ!!!
何でキュートなんだ! よりにもよって、何で!
やっと学校に来れるようになって! やっと望んでた生活を取り戻して!
全部これから始まるはずだったのに、全部!
もっと学校に行けるはずだった!!
もっといろんなところに行けるはずだった!!
もっと普通の生活が送れるはずだった!!
もっと好きなことが出来るはずだった!!
もっと楽しくて笑えるはずだった!!
もっとたくさん話が出来るはずだった!!
もっと思い出を作っていけるはずだった!!
もっといっしょにいれるはずだった!!
なのに……なのにそれが失われようとしてる!!!
あいつが15年間かけてようやく手にした希望が!!!
何一つ自由なんてない生活の末に、求めた自由が!!!
空っぽだった15年の分まで、思い出を作るための時間が!!!
生まれた初めて芽生えた他人への愛情が!!!
全部、何もかも、根こそぎ奪われなきゃいけない理由なんて分からねえ!!!
あいつがこんな目に遭わなきゃならない理由なんて分からねえよ!!!
そんなの……分かりたくもねえよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
352
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:52:51 ID:P7FzPm6w
( ;∀;)「はあっ……っぐ……」
気付けば、僕は相手の胸倉を掴み返して、押し倒していた。
ひどいやつ当たりだと、頭では分かっていた。
それでも、ぶつける先を見つけた感情を止めることは出来なかった。
「……」
教室が不気味なほどに静まり返る。
自分の呼吸と、鼓動だけがやけに大きく聞こえた。
「……おい、モララー」
( ;∀;)「っ!?」
聞き慣れた声が僕の名前を呼ぶ。
振り向いて目に入ったのは、鮮やかな金色の髪。
_
(# ∀ )「何やってんだよ……」
ジョルジュに腕を引っ張られて、無理矢理立ち上がされる。
そして、両肩を掴まれて荒々しく揺さぶられた。
353
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 20:58:26 ID:P7FzPm6w
_
(# ∀ )「何やってんだ、つってんだよ!!」
( ;∀;)「う……ジョル……ジュ……」
いままで聞いた事もない悲壮な声で諭される。
掴まれた肩に指が強く食い込むのを感じた。
_
(# ∀ )「目が覚めてよぉ……お前がそんな顔してたら、きっと心配すんだろ……
それで、それですげぇ悲しい顔するに決まってるだろうが……
それぐらい分かれよ……お前が一番近い場所にいたくせに……」
はっとして、左の頬に手を添えると熱を持って大きく腫れていた。
一度気付いてしまうと、瞬きの際にすら痛みが走るのを感じてしまう。
いつの間にか肩から手を離したジョルジュは、みんなの方へと向いている。
_
(# ∀ )「俺たちには何も出来ないんだ。悔しいけど、悔しくてたまらないけど。
だから、せめて、いつキューちゃんが帰ってきてもいいように待っていよう。
帰ってきた時、楽しそうに笑ってもらうために、さ」
ジョルジュの言葉に、ゆっくりと全員が頷いた。
ある人は唇を固く結んで、ある人は涙をこぼしながら。
354
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:04:56 ID:P7FzPm6w
「……悪かった」
乱れた机をみんなが協力して直していく。
その最中、僕を殴った生徒が深々と頭を下げてきた。
( ;∀・)「……僕こそ、ごめん」
涙をぬぐって、腰よりも低く頭を下げた。
頭上から、もういいから頭を上げてくれ、と声が聞こえる。
( ・∀・)「ん、ああ」
「あ、あの、これ……使って」
タイミングを見計らってたのか、女子がハンカチを差し出してきた。
濡らしてくれたのだろう。触れると少し湿っていて、ひんやりとしている。
ちくちくと痛む頬に当てると、いくらが痛みが和らいだ気がした。
「なぁ、保健室行こうぜ。肩貸すよ」
(;・∀・)「いや、そこまでしなくてもいいって。先に行きなよ」
「そうか……分かった。先生にもお前が来るって言っておくよ」
( ・∀・)「ありがとう、すぐ行くよ」
355
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:11:28 ID:P7FzPm6w
なんとか納得してもらって、先に保健室に行ってもらう。
ドアの向こうに消える姿を見送ったあと、教室を見渡す。
いつも通り、とはいかないけれど、さっきまでとは明らかに違う雰囲気を帯びている。
( ・∀・)「なあ、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「なんだ?」
( ・∀・)「……ありがとう。お前がいてくれて、よかった」
少し照れくさかったけれど、素直な気持ちを口にした。
それを聞いたジョルジュは困ったように笑って。
_
( ゚∀゚)「おいおいやめてくれよ、いくら俺でも男のおっぱいはちょっとな」
(;・∀・)「さっき空気読んだと思ったらこれか!!」
いつもの調子でそう言ってくれた。
356
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:18:40 ID:P7FzPm6w
( ・∀・)「じゃあ、保健室行ってくる」
_
( ゚∀゚)「おお、先生には言っておくわ」
踵を返して、保健室へと向かう。
少しだけ戻ってきたいつもの喧騒が、背中越しに聞こえてくる。
「礼なんていらねぇよ、バカ」
それに紛れて聞こえたジョルジュの呟きを、僕は聞き逃さなかった。
〜〜〜〜〜〜
357
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:24:12 ID:P7FzPm6w
季節が移ろい、街がクリスマスのイルミネーションに彩られた、冬のある朝。
キュートが目を覚ましたと、ホームルームで先生が告げた。
朝の厳しい寒さにも負けず、みんなが飛び上がって喜んだ。
(゚、゚トソン「目が覚めたとはいえ、まだ面会謝絶ですよ。
お見舞いは素直さんがもっと元気になってから来てほしい、とお母様が仰っていました」
あとから付け加えられたひと言が、残念ではなかったと言えば嘘になる。
それでも、そのうち元気な、いつものキュートに会えるようになる。
その事実だけで、この知らせはクリスマスプレゼントと呼べるものだった。
_
( ゚∀゚)「だけどよぉ」
( ・∀・)「ん?」
隣でパンをかじっていたジョルジュが呟く。
残りを一気に口に入れて食べきると、僕に話題を振ってきた。
_
( ゚∀゚)「元気になってるとはいえ、いまどんな状態なのかは気になるよな。
モララーだってそう思うだろ?」
(;・∀・)「そりゃ気になるけど……」
思えば、具体的にキュートがどんな状態なのか、僕たちは一度も聞かされていない。
僕らへの配慮だとは分かっているけど、一方で、やはり知りたいという気持ちはあった。
358
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:30:11 ID:P7FzPm6w
_
( ゚∀゚)「つーわけだ……こっそり病院行ってこい」
(;・∀・)「は!?」
周囲をうかがうと、ジョルジュはいきなりとんでもないことを耳打ちしてきた。
思わず変な声が出て、要らぬ視線を集めてしまう。
_
(;゚∀゚)「ばっかやろ、声でけぇっての!」
(;・∀・)「ご、ごめん……」
再び周囲を警戒しながら、ジョルジュは顔を近づけて小声で話しかけてくる。
僕も声を聞きとるために顔を寄せるが、はたから見るとなんとも怪しい光景だろう。
_
( ゚∀゚)「何も見舞いに行けってわけじゃねえよ。面会謝絶だしな。
でもよ、何か情報があるかもしれないだろ?」
(;・∀・)「いや、うん……」
_
( ゚∀゚)「よし決まり。今日の放課後さっそく行ってこい。
何か情報手に入れたら教えてくれよな」
(;・∀・)(断れる雰囲気じゃないな……)
心のどこかで行くべきではない、とは思っている。
しかし、一方で病院に行ってみたいとも思っていた。
最終的に、ジョルジュに押し切られる形で行くことを決めた。
359
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:35:35 ID:P7FzPm6w
( ・∀・)「……さて」
すでに暗くなり始めたころ、僕はVIP総合病院のロビーで立ち尽くしていた。
事故で入院している、ということは外科病棟にいる事は間違いないだろう。
しかし、何しろ面会謝絶だ。来たからといって、普通なら会えるわけがない。
(;・∀・)(看護婦さんとかに聞いたら教えて……くれないよな、絶対)
患者のプライバシーに関わることを、ぺらぺらと話してくれる看護婦。
フィクションの世界だろうが、そんな軽薄な人間を見たことはない。
結局、どうすることも出来ず、ただ行き交う人を眺めていている間に、時間は過ぎていく。
「おや? 君……」
(;・∀・)「は、はいっ!」
突然、後ろから呼びかけられて肩を叩かれた。
警備員に不審者だと思われたりしたのだろうか。
弁解を考えながら、慌てて振り返った。
360
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:40:52 ID:P7FzPm6w
川 ゚ -゚)「確か……モララー君、だったな」
凛とした顔立ちの、クールという言葉がとても似合う女性が立っていた。
その人は僕の慌てぶりなど意に介さず、少し自信なさげに僕の名前を呼ぶ。
(;・∀・)「そうですけど、あ、あの、どうして僕の名前を……?」
僕にはこの人と会った記憶はない。正真正銘、いまが初対面だ。
それなのに、僕の名前どころか顔まで知っている。
川 ゚ -゚)「ああ、そういえば君とは電話で一回話したきりだったな。
すまない、改めて自己紹介させてもらおうか」
そう言うと、黒に黒を上塗りしたような、夜の海に似た黒髪を手櫛で少し整える。
川 ゚ -゚)「私は素直クール。いつも娘が世話になっているね」
(;・∀・)「……あ!」
そう言われて、テスト勉強のときに電話で聞いた声だと思い出す。
361
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:46:26 ID:P7FzPm6w
川 ゚ -゚)「驚いたよ、どこかで見た顔だなと思ったら君なのだから」
(;・∀・)「あれ、でも僕と会ったこと……」
川 ゚ -゚)「体育祭のとき、キュートを撮っていたら偶然君が写っていてね。
あとでキュートが実に楽しそうに教えてくれたよ」
( ・∀・)「そうですか……」
落ち着き払った態度からは、とてもキュートがこの人の娘だとは想像出来なかった。
だけど、よく見るとなんとなく顔は似ている。
キュートも大人になったら、こんな風になるのだろうか。
(;・∀・)(本人には悪いけど、なりそうにないな)
川 ゚ -゚)「そうだ、どうしてここにいるんだい?
悪いけど、まだ面会謝絶中なんだ。会わせてやりたいのはやまやまなんだが」
表情は変わらないまま、クールさんが質問してくる。
これはまたとない好機だと思った。
( ・∀・)「あ、実はどうしてもキュートのことが気になって。
会えないのは承知で来たんですけど……」
川 ゚ -゚)「やはり、彼女は気になるものか?」
(;・∀・)「へっ!?」
362
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:52:44 ID:P7FzPm6w
クールさんはしれっととんでもないことを言ってのける。
そのことは、僕とキュート以外は誰も知らないはずなのに。
(;・∀・)「なっ、なんでそれを!?」
川 ゚ -゚)「キュートが教えてくれたよ。あの子が家出をして、帰ってきたときに。
家出の理由も、まあ君だろうとは思っていたけれどね。
本人から聞いて自信が確信に変わったわけだ」
そういえば、あのときのことをキュートは告白だと勘違いしていた。
ならば、クールさんが知っていてもおかしくはない。
川 ゚ -゚)「恥ずかしいなんて言いながら、私にだけこっそり教えてくれたよ。
自分から言いに来るあたり、よほど嬉しかったらしい」
( ・∀・)「そう……ですか……」
事故が起きる前の日常が、スライドショーのように映し出されては消えていく。
心臓の中を、針で何本も突き刺される感覚を覚えた。
川 ゚ -゚)「……すまないな、昔の話は少し辛かったかもしれない」
( ・∀・)「いえ……そんなことは」
363
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 21:58:16 ID:P7FzPm6w
これからまだまだ、普通の生活に戻るには時間がかかるだろう。
それでも、いずれキュートが元気に教室のドアを開け放つ日がやってくる。
確かな希望が胸の中に息づいている。それさえあれば、この辛さにも耐えられる。
川 ゚ -゚)「……モララー君」
( ・∀・)「はい?」
川 ゚ -゚)「君は、あの子が……キュートが好きかい?」
( ・∀・)「……はい」
静かに、だけど、はっきりと口にした。
数瞬、遠くから響くかすかな喧騒だけが、僕たちの間に流れた。
川 ゚ -゚)「……本当のことを、知りたいかい?」
ゆっくりと紡がれた言葉に、例えようのないざわつきを感じた。
背中から首筋までを得体の知れない感覚が走り、鳥肌が立つ。
(;・∀・)「それは、どういう意味、ですか……」
川 ゚ -゚)「知ってしまえば……もう君は戻れない」
364
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:03:21 ID:P7FzPm6w
うまく声が出せず、余した息が情けない音を立てて漏れた。
対照的に、僕の質問に対する返事は、とてもはっきりと発せられる。
言葉に秘められた不穏な響きが、明確に分かってしまうほどに。
川 ゚ -゚)「これからも、あの子と一緒にいたいのなら……君には聞いてもらいたい。
いや、聞いてもらわなければならない」
(;・∀・)「……話して、ください」
川 ゚ -゚)「君がこれを聞いて、例えどんな行動をしても私は責めない。
こんなことを伝える私を、許してくれなくても構わない。
ただ……すまない」
君の望みは、きっと叶わない。
そう言って、クールさんはゆっくりと口を開いた。
〜〜〜〜〜〜
365
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:09:40 ID:P7FzPm6w
うまく歩けていると思えない。
足は確かに地面を踏みしめていて、体は前へと進んでいる。
それでも、まるで宙に浮いているような感覚は続く。
『結論から言わせてもらうと、キュートは……死んだ』
『……え?』
音がよく聞こえない。
カラスの鳴き声も、車の走る音も確かに聞き取れている。
ただ、右耳から入った音は何も残さず、左耳から抜け出していく。
『死んだも同然、と言った方がいいか』
『……』
366
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:14:48 ID:P7FzPm6w
目がよく見えない。
焦点が合わない。合わせる気が湧いてこない。
勝手に体は障害物を避けて、無意識に来た道を戻っている。
『事故の後遺症で、過去の記憶を覚えていないんだ』
『……』
体が自分のものではないように思える。
誰か別の人間に動かされているみたいだ。
いっそ思考も何もかも、その別の人間に押し付けられればいいのに。
『それに、両足の怪我がひどくてね。リハビリ次第だが、歩くことも難しいかもしれない』
『……』
367
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:20:06 ID:P7FzPm6w
頭の中だけは、はっきりしている。
病院で聞かされた会話が延々と、鮮明に思い返されている。
きっと、いまの僕のような状態を『頭がいっぱい』と言うのだろう。
『全快しても、もう元気に走り回ることも出来ない』
『私のことも、君のことも、いままでの15年間の人生を何ひとつ覚えていない』
『君の知っているキュートは、もういないんだ』
ポケットの中で、携帯が震える。
きっちり三回震えると、取り出す前に振動は止んだ。
取り出してディスプレイに目をやると、メールが一通届いていた。
( ∀ )「……」
差出人はジョルジュだった。
件名の欄で顔文字がニヤリと笑っている。
368
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:25:16 ID:P7FzPm6w
『君の知っているキュートは、死んだんだ』
( ∀ )「っ……」
開かないまま、削除のボタンを押す。
ほどなくして、受信ボックスの一番上からメールは消えた。
( ∀ )(言えるわけ……ないだろ……っ)
ひと月前に、久しぶりに学校へ来たのが最後でした。
みんなとの記憶も全部なくして、怪我で歩くことも出来ません。
どの面下げて、そんな夢も希望もないことが言えるんだ。
(; ∀ )「くっ……」
電源を切って、鞄の奥深くへと携帯をねじ込む。
そして、自転車のかごに思い切り投げ入れようとするけど、見当たらない。
そこでようやく、自分が自転車を病院に置いてきたことに気付いた。
369
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:31:09 ID:P7FzPm6w
( ∀ )(どうでも……いいか)
明日どうやって学校に行くかとか、どれだけ歩かなければいけないんだろうとか。
普段ならそんな深刻な悩みになる出来事も、些細なことだとしか思えなかった。
( ∀ )「……あれ」
周りを見る余裕が少しだけ出来て、ようやく自分がどこにいるのかを把握する。
目に映るのは、もう飽きるほどに見てきた校門前の風景。
そして、校舎のすぐ横にある、大きな桜の木。
( ∀ )「はは……」
気付かないうちにここまで来ていたことに、思わず自嘲する。
キュートの死刑宣告を受けたあとに、彼女と初めて会った場所へと向かっていた。
自分でも笑えてくるくらい、僕はキュートのことで頭がいっぱいだった。
( ∀ )「……」
足は自然と、公園の入口へと歩を進めていた。
思い返せば、ひとりでこの道を歩くのも随分と久しぶりだった。
370
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:36:08 ID:P7FzPm6w
( ∀ )「……っと」
入り口横の自販機の正面にたどり着き、小銭を入れる。
季節外れになってしまったレモンスカッシュのボタンを押す。
相変わらず乱暴に落ちてきた缶のふたを開け、一気に飲み込んだ。
( ∀ )「いつまで経っても、炭酸に優しい自販機にはなってくれないな」
入り口に向かいながら上を見上げ、もう一口。
視界に入るのは、すっかり暗くなった空と、枝と幹だけになってしまった桜の木。
青空も、満開の桜も、もう僕の記憶の中にしか見えなかった。
( ∀ )(僕、そういえば入学式と同じことしてるな……)
どうせなら、そっくりそのままなぞってやろう。
そのうち、ひょっこりとキュートも飛び出してくるかもしれない。
視線を戻して、公園の中へと進んでいった。
( ∀ )「……」
入り口から一番近いベンチに、人影を探す。
電灯に照らされたそこには、誰も座っていなかった。
371
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:41:23 ID:P7FzPm6w
キュートが座っていたベンチに腰かけ、目を閉じる。
いまでも鮮明に、初めて会ったときのことを思い出せた。
( ∀ )「……ここにキュートが座ってたんだよな」
( ∀ )「それで、いきなり僕が一目惚れしたとか言ってきたんだ」
( ∀ )「本気で殴ってやろうかと思ったなあ、あのときは」
( ∀ )「あまりにウザいから、捕まえようとしたら残像で逃げられたんだった」
( ∀ )「……もう、あんなに驚くことなんて、死ぬまで、ないんだろうな」
( ∀ )「それから……僕、なんであそこまで恥ずかしいこと言ったんだろう」
( ∀ )「でも、そのおかげで仲良くなれたんだよな……」
( ∀ )「あのときは、こんな風になるなんて思わなかったよ」
372
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:47:35 ID:P7FzPm6w
出会ってからの思い出が、映画館のようにまぶたの裏に映し出されていく。
振り返れば振り返るほど、自然と口角が上がっていくのを感じた。
( ∀ )「自己紹介のときは、まさかあんな簡単に受け入れられるなんて信じられなかったな」
( ∀ )「真面目に心配してた僕が馬鹿みたいだった……」
こっちの気も知らないで、帰ろうとしたら追いかけてきたのは忘れない。
何も知らないくせに、僕が心のどこかで寂しさを感じているのをあっさり見抜いたことは忘れられない。
( ∀ )「体育祭だって、リレーで負けてこっそり泣いてたくせに……元気になったら抱きついてきて」
( ∀ )「こっちは恥ずかしくて仕方なかったよ、ったく」
いつでもどこでも、自分の感情のままに動くやつだったことは忘れない。
女の子相手に抱きつかれたのが生まれて初めてだったことも忘れられない。
( ∀ )「自分からは抱きついてきたのに、部屋で偶然押し倒しちゃったときは恥ずかしがるし」
( ∀ )「……あれは僕も悪かったけどさ」
案外女の子らしい一面があったことは忘れない。
心臓が痛くなるほど脈打って、しばらく顔が熱いままだったことも忘れられない。
373
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:52:59 ID:P7FzPm6w
( ∀ )「いきなり海に行きたい、って言われたのには焦ったな……」
( ∀ )「まあ、行った甲斐はあったけど」
夕日よりも輝いて見えた笑顔は忘れない。
はっきりと、自分がキュートを好きだと自覚した瞬間も忘れられない。
( ∀ )「すごく、文化祭楽しみにしてたっけ」
( ∀ )「来年は……いっしょに、参加できたのにな」
子供のようにはしゃいで、誰よりも文化祭を待ち望んでいたことは忘れない。
教室で見た、暗い影をの落とされた背中も忘れられない。
( ∀ )「急に学校に来なくなって……ここに呼びだした」
( ∀ )「……思い出の場所だったけど、また新しい思い出が増えたな」
僕だけに話してくれた、ずっと心に溜めこんでいた想いは忘れない。
何よりも温かく、柔らかかった唇の感触も忘れられない。
( ∀ )「それから、随分遠回りしたけど、恋人になれたんだよな」
( ∀ )「なって……それから……」
誤解を知らされたときの、残念そうな顔は忘れない。
告白されたときの、幸せそうな顔も忘れられない。
374
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 22:58:27 ID:P7FzPm6w
( ∀ )「それから……」
( ;∀;)「それ……から……」
375
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:01:12 ID:P7FzPm6w
頬を涙が伝って、手の甲へとこぼれ落ちる。
こらえようとしても顔は勝手にぐしゃぐしゃになり、嗚咽が漏れる。
( ;∀;)「うっ……ああ、っぐ、ううぅ……」
最後の会話は、また学校で会う約束だったのに。
最後に見た姿は、いつも通りの元気な姿だったのに。
( ;∀;)「ああぁぁ……うわあぁ……」
こんな明日が来るなんて思いもしなかった。
あの日の続きが、こんな悲しいものになるなんて考えもしなかった。
( ;∀;)「いっ……や、だぁぁああああ……っつ」
一緒に過ごした時間は、一年にも満たない。
それでも、僕にとってキュートと過ごした日々は、何よりも大切な思い出になっていて。
頭の中には、残酷なほど鮮やかに焼き付いている。
( ;∀;)「きっ……ゆ……とぉ……」
初めて出会ったこの場所で。
初めて僕に特技を見せて。
初めて向けられたキュートの笑顔が脳裏に映り。
ふと、思った。
376
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:02:16 ID:P7FzPm6w
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2293.png
377
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:03:16 ID:P7FzPm6w
.
僕が見ていたのは、あまりにも早く一生を駆け抜けた、彼女の残像だったのかもしれない、と。
.
378
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:08:09 ID:P7FzPm6w
その後、キュートの状態は学校を訪れたクールさんの口から、直接クラスのみんなに伝えられた。
教室にいた人間は先生も例に漏れず、誰もが大声で泣いた。
それでも互いに励まし合い、変わらずにキュートを待ち続けようと全員で誓い合った。
月日は流れ一年生が終わるころ、キュートの面会謝絶が解かれた。
全員で押しかけると迷惑なので、協議の結果、満場一致で僕が代表して面会に行くことになった。
そして、僕はいま、キュートの病室の前にいる。
379
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:13:19 ID:P7FzPm6w
「本当に、これでよかったのかい?」
「……はい」
「君がそういうのなら、私は止めないが……」
「いいんです……これで」
「そうか……」
「それじゃあ、もう入って大丈夫ですか」
「……待ってくれ。ひとつだけ、言わせて欲しい」
「はい?」
「……ありがとう、モララー君。あの子のこと……よろしく頼むよ」
「……はい」
「キュート、お見舞いに来てくれた人がいるぞ」
「え……? あ、はい、どうぞ……」
380
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:17:14 ID:P7FzPm6w
「……やあ」
「……あ、あの。えっと、その、ごめんなさい」
「何が?」
「わたし、何も覚えていないんです。だから、あなたのこともわからなくて……」
「……」
「本当にごめんなさい、気分を悪くしてしま――」
「……自己紹介」
「……へ?」
「僕たち、ある意味初対面なんだから、自己紹介するのが先だと思うんだ」
「え、ぁ……あの」
「はい……君からどうぞ」
「そ、それじゃ、はい……」
381
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/25(火) 23:17:33 ID:WHwCqT22
名言キタ
382
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:20:03 ID:P7FzPm6w
.
o川*゚ー゚)o「私……素直キュート、って言います。VIP高校の一年生、だったらしいです……」
( ・∀・)「僕はモララー。君と同じ……VIP高校の一年生だよ」
.
383
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:21:09 ID:P7FzPm6w
.
o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
最終話 ボーイ・ミーツ・ガール
おわり
.
384
:
◆LemonEhoag
:2016/10/25(火) 23:28:08 ID:P7FzPm6w
以上で投下を終了します。
いつもならあとがきなんかを書いたりしますが、今回はやめておきます。
まだ明日の21時に最終話のメイキング、明後日の21時にリマスター版のあとがきの公開が控えています。
詳しい時期は決めていませんが、近日中に作品についての裏話をまとめた記事も公開される予定です。
公開され次第順次スレでお知らせします。もう少しだけお付き合いしていただければ幸いです。。
とはいえ、ひとまずこれまで読んでいただいたみなさんには、この場で簡単にお礼を言わせてください。
約四ヶ月に渡ってこの作品を読んでいただき、本当にありがとうございました。
質問や感想などありましたら、気軽に書いていってください。
385
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/25(火) 23:28:46 ID:WHwCqT22
乙!最高に乙!
リマスター前のも合わせて読み返す!
386
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/25(火) 23:31:00 ID:so2uJwFQ
乙
387
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/26(水) 09:10:00 ID:T8KSjIHk
やっぱ名作やな
今回特に絵が素晴らしすぎた
388
:
◆LemonEhoag
:2016/10/26(水) 21:01:53 ID:by.Eu1CQ
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-44.html
最終話のメイキング公開されました。
389
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/26(水) 21:47:00 ID:dXsPHOlk
リマスター完結乙
キュートがほんとかわいかった
ここからはじまるんだな
390
:
◆LemonEhoag
:2016/10/27(木) 21:18:34 ID:iPOPrm7Q
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-45.html
あとがき公開されました。
392
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/27(木) 22:22:46 ID:M2M.8C/I
>>390
乙でござんした
面白かったよ
393
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/28(金) 00:43:22 ID:C6aUuuk6
完結乙です
お粗末ながら絵を描かせていただきました
絵のキューちゃんが素晴らし可愛かった
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2297.jpg
394
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/10/29(土) 02:03:52 ID:kTVRvN0k
絵が良かった
395
:
◆LemonEhoag
:2016/10/29(土) 19:20:49 ID:QR5EUiIY
>>393
ありがとうございます。
タイトルが少し薄れているの、とても素敵な演出だと思います。
396
:
◆LemonEhoag
:2016/11/13(日) 21:19:49 ID:u/a8DtAE
http://afterimage411.blog.fc2.com/blog-entry-46.html
お待たせしました。作品についての裏話公開されました。
397
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2016/11/14(月) 00:01:11 ID:gV.qiYpw
二度目の完結乙
イラストがあると雰囲気がまた変わっていいな
作者もイラスト担当もほんとおつ
398
:
以下、名無しに変わりまして素直キュートがお送りします
:2019/02/17(日) 23:42:37 ID:UCxvLuA6
リマスター版で初読みだったもんで、100選投票したかったなぁ……
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