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【百合色の】東方の百合カップリング談義55【幻想郷】

366名無し妖精:2018/08/23(木) 23:29:18 ID:N50.SrTQ0
>>355
今更で恐縮ですが……

 = = = = =

「んッ!」
 晩夏の昼下がり。暑さに茹だり、床の上で仰向いていた静葉の眼に、あうんの明るい笑みが映る。
 一瞬遅れて、その手に持たれた木彫りの小像に焦点が合った。
「……可愛い猩々ね」
「猩々じゃないですよ!? 狛犬です! お座りしてるの!」
 慌て気味に正されると、静葉は少しだけ目を細め、怠惰に腕を持ち上げた。
 あうんはその手に木彫りの狛犬を渡しつつ、――像の姿は真似ずに――足を横に折って座った。
「古い物ね」
「ん。外から無縁塚に流れ着いたみたいで、お寺のお目付け役のひとが拾って来たんです。でも、うちにはもう狛犬があるからって」
「貰ったの?」
「はい! 良かったら、どうですか!」
「そうね……」
 胡乱に応える静葉の手中で、小像がゆっくりと回る。
 相変わらず起き上がる気配を見せない彼女は、それを眺める目付きさえ、とろんとしていた。
「……穣子の畑に置いてもらうと良いかしら」
 ぼんやりとした呟きが洩れ、それから少しの間、静かな時が流れる。
 幾許かの違和感を覚えた静葉は像を持つ手を下げ、ちらとあうんの方を見遣った。
 あうんは柔らかく微笑む傍ら、両手の指を物言いたげに絡ませている。
 静葉はやがて「あ」と小さく声を上げ、何処と無く決まりの悪そうな笑みを浮かべた。
「私の所に、ってことね」
「うん、そう」
 妹想いは好いけれど。そんな言葉を胸に抱き、あうんもまた、彼女と同じく苦笑した。
 ようやく、静葉がゆっくりと体を起こした。
「……これが有ったら、いつでもすぐに来られたりする?」
「それはちょっと」
 判り切った答えではあったが、それでも彼女は残念そうに、「そう」と、か細い言葉を返す。
「でも、何かあった時には分かると思います。ちゃんと狛犬として置いてもらえれば、たぶん……」
 確たることが言えず、あうんの声もまた、次第に小さくなっていく。
 しかし、静葉は全く裏腹に、わっと明るく笑顔に染まった。
「ありがと。日が傾いたら置きに行くわ」
「……あくまで昼間出掛けるのは嫌なんですね」
「だって暑いじゃない」
 彼女は飽くまで朗らかで、微塵も影を落とさない。
 先程までの、熱に溶かされていた姿とはまるで別ものの様である。
「穣子さんはしっかりお仕事されてますよ」
「神様にはね、皆それぞれの役割が有るの」
「凄い。真っ当な言い分に聞こえる」
「でしょ。冷たいお茶飲む?」
「あ、はい……」
 貰い物の狛犬一つで、こうも機嫌を好くされては、もはやこれ以上揶揄しようという気も起きない。
 あうんは少々呆れながらも、満更でもなく、揺れる黄葉の髪を見送っていた。




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