したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ζ(゚ー゚*ζ 燐光を仰ぐようです

68 ◆W.bRRctslE:2024/01/16(火) 22:47:05 ID:6VmzJa0k0

 頭上高くをカラスが飛び去り、宵闇が静かに波打つ。
 添樹とは何を話すでもなく、ただ手を取り合って立ちすくんでいた。

 そうして、永遠にも続くように思われた時間は、遠くから微かに、けれども確かに近付いてくるサイレンの音で呆気なくほどけた。
 添樹が背伸びをして遠くを見やる。離れた彼女の体温がどこか名残惜しかった。

ミセ*゚ー゚)リ「警察…?」

ζ(  *ζ「そう、だと思う。多分」

 巴祀屋が呼んだのだろう。
 どこまでも手際の良い男だ。およそ、自分と同じ学生だとは思えない。


 彼は何者なのだろう。


 不審者を取り押さえたのも、錯乱する九檀を落ち着けたのも、こうして、事件を片付けてしまうのも、九檀とは年がひとつしか違(たが)わないはずの巴祀屋は、当たり前にこなしてしまった。
 勇気や正義感があるというより、躊躇いが無いとか、場馴れしているといった表現の方が近い気がする。

ζ(  *ζ(少なくとも、ヒーローって感じではないかも)

 日曜朝の主人公にはなれなさそうだ、と内心でくすりと笑う。
 彼に感じていた得体の知れない恐怖は、いつの間にか消え去っていた。

 やがてパトカーが到着すると、先程までの静寂が嘘のように騒然として、頭の中のぼんりやりとした何もかもが頭の隅に追いやられた。

 三者面談よりもずうっと沢山の質問攻めに遭い、やっと解放される頃にはクタクタで、棒になった足を押して添樹の家まで向かう。
 「送るよ」と言った巴祀屋は、特に会話に交じるでもなく、二人の少し後ろをのんびりと歩いていた。

ミセ*゚ー゚)リ「ねえねえ、やっぱりさ、やっぱり……そういうこと?」

 肩を寄せて添樹がこそこそと問う。
 吹き出すのを堪えたような声が後ろの方から聴こえた。
 振り返らず、地の底から響くような声で返す。

ζ(  *ζ「ばか言わないで」

ミセ*-ヮ-)リ「えーっ!」

69 ◆W.bRRctslE:2024/01/16(火) 23:18:37 ID:6VmzJa0k0
   
 互いにほとんど空元気の笑い声をくすくすと交わしつつ、そのうちに到着した添樹宅の前、温かく照らす玄関の灯りに九檀は胸を撫で下ろすような心地を覚えた。
 添樹が鍵を開けるのにほとんど被せるようにして、勢いよく出迎えた彼女の母親に一緒になって抱きしめられる。

;; ミセ* 。- 、)リ ;;゛

 堰を切ったように、それでも声を殺して泣く添樹につられて、鼻の奥がジンと熱を持つ。
 滲んだ涙を見られる前にぬぐって、そっと離れた。

 会釈して玄関を出る。
 今はきっと、家族だけになりたいだろうから。

 玄関が閉まりきる刹那、ついぞ溢れたような泣き声は聞こえないふりをした。
 添樹宅の手前、曲がり角の暗がりを覗き込む。

ζ(  *ζ「お待たせ」

 なにとなく、まだそこにいるような気がしたのだ。

(,,^Д^)「見つかっちゃった」

 軽く両手をあげて、お決まりの降参のポーズをしてみせると、巴祀屋は悪戯が見つかった子どものようにはにかんだ。
 その手先がかたかたと小さく震えていることに気付く。

ζ(  *ζ「それ」

 あっという顔をして、ばつが悪そうに両手を背に隠した。

(,,^Д^)「ええと、はは」

 らしくもなくぎこちなく笑って、ため息を吐く。

(,,-Д-)「情けないよ、ほんと」


( ,, -Д)「いつまで怯えてるんだか……」


 それはほとんど独り言のように聞こえた。実際に、そうだったのかもしれない。
 巴祀屋は後ろ手に、震えを握り込んでいた。それはどこか恐怖を押し潰すように。


 目を瞑ると草いきれの匂いがする。むせ返るような血の匂いも──


.

70 ◆W.bRRctslE:2024/01/16(火) 23:23:50 ID:6VmzJa0k0

ζ(  *ζ「大丈夫?」

 声をかけられて、つい、遠くを眺めていた意識を引き戻す。

(,,^Д^)「……ん」

 曖昧に頷くと、九檀は少しだけ首を横に傾けて、けれどもそれ以上は何も言わなかった。
 心配してくれているのだろう。
 彼女は、表情こそ眩い燐光に包まれて見えないけれど、それは決して感情を覆い隠すほどではないのだ。

(,,^Д^)「怪我はなかった? 君の友達」

ζ(  *ζ「そうね、本人はかすり傷ぐらいって言ってたわ。でも、あんなに怖い思いをしたから……」

 そう言って俯く。

 言葉にはしないけれど、トラウマになったかもしれない。
 きっと、夜道をこれまでのように何でもなく一人で歩くことは、しばらく……あるいはずっと、難しいかもしれない。

 けれど。

(,,^Д^)「君のせいじゃないよ」

ζ(  *ζ「でも」

 食い気味に言いかける九檀を見据える。
 見えなくとも、目が合っているという確信があった。

             ・・
(,,^Д^)「君が未来を見たから、悪い目にあったわけじゃない」
               ・・
(,,゚Д゚)「君が未来を見たからこそ、俺は、あの場に間に合えたんだ。そうだろ?」

ζ(  *ζ「それは…」

(,,^Д^)「それに、きっとあの子は大丈夫さ」

 そう言って、視線を上に投げた。
 つられて九檀も振り返る。

71 ◆W.bRRctslE:2024/01/17(水) 21:20:32 ID:/OZUhXmg0

ミセ*゚ヮ゚)リ「おーい!」

 見れば、二階の窓から添樹が身を乗り出していた。
 遠目にも彼女の頬にはくっきりと涙の跡が残っている。


ミセ*^ワ^)リ「デレ、また明日ねー!」


 それでも伸びやかに、もちろん強がりもあるだろう、けれど少なくとも声を張り上げる添樹の姿は、思い悩む九檀の目には眩しいほど晴れやかに映った。

ミセ*゚ー゚)リ「先輩もありがとっ」

 手を後ろに組んだまま、巴祀屋はニコッと笑った。
 大きな声を出すのが躊躇われた九檀は、控えめに手を振って返す。
 添樹はそれで満足したようで、大きく手を振り返して応えた。

 そのうちに母親に窘められたのか、慌てて部屋に引っ込む彼女を眺めながら背後の巴祀屋へ小さく問う。

ζ(  *ζ「あなたは」

ζ(  *ζ「どうして、私のことを助けてくれるの?」

 ずっと疑問だった。
 添樹の件で有耶無耶になってしまっていたけれど、一度、聞いておきたかった。

(,,^Д^)「約束したんだ」

 一言、それだけ返ってくる。

 約束。
 
 誰とのものだろう。
 少なくとも、九檀ではない。

 自分にも、それこそ添樹のように──大切な人がいるのと同様に、巴祀屋にもまたそういう人物がいるのだろう。
 意外だった。
 なにとなく、彼は点のような印象があったのだ。

 彼にも線が繋がっている。
 自分はまだ、それを知らないだけ。

72 ◆W.bRRctslE:2024/01/17(水) 21:25:10 ID:/OZUhXmg0

ζ(  *ζ(星座に似ているかも)

 思い出すのは幼い頃のおぼろげな情景。
 望遠鏡のレンズ越しに、煌々と輝く星々だけがくっきりと記憶に焼き付いている。

 知らなければ、見えているひとつの星としか捉えられないけれど、本当は気の遠くなるぐらい大きな何かを描いている星座の、一部かもしれない。

 夜風に撫でられる髪をどこか懐かしく思いながら、「そうなの」とだけ返した。
 巴祀屋もまた、それ以上を語ろうとはしないようだった。

ζ(  *ζ「……ねえ」

 小声で言う。

ζ(  *ζ「星を、見に行くのよね」

 一瞬、間の抜けた空白があった。
 想定外の言葉だったらしい。

(,,^Д^)「デートのお誘い?」

 思わず転びそうになりながら、勢いよく振り返る。

ζ(  *ζ「……っ」

 言い返すのも癪で無言で睨みつけた。
 今だけはこの燐光に感謝したい。……きっと、頬が真っ赤になっていただろうから。

 巴祀屋の肩を軽く叩(はた)いて歩き出す。

 星を見るならうってつけの場所があるのだ。
 ちらと腕時計を見る。
 今から歩いても、さすがに終バスまでならまだ余裕がありそうだった。

 先日、巴祀屋の言っていた流星群の時間には間に合うだろう。

 そもそもの言い出した本人は、何故だか、耐えきれずといったふうで吹き出して笑っている。
 いつもの嘘っぽさがないのがむしろ憎たらしい。

73 ◆W.bRRctslE:2024/01/18(木) 22:11:09 ID:A7rK2KdY0

 九檀が露骨に歩を早めると、それもまたおかしかったのかすぐ後ろで笑いを堪える気配がする。

(,,^Д^)「待って待って」

ζ(  *ζ「もう、知りません」

(,,^Д^)「そんなこと言わないでってば

 歩を緩めず、ため息も隠さず、あなたには呆れましたと態度で示す。
 どうせ表情は伝わらないのだ。
 だんだん九檀まで面白くなってきたけれど、そんな気持ちを突っぱねるようにすたすた歩く。

(,,-Д-)「ほんと、君は意外と素直だね」

(,,^Д^)「それでいて意地っ張り。どう?」

 巴祀屋はと言えば、一切気にするふうもなく得意げにそう言う。

ζ(  *ζ「それって両立するのかしら」

(,,^Д^)「っふ、はは、してるじゃん」

 「してない」「してる」とくだらない応酬を繰り返し、最後にはどちらからともなく黙り込んだ。
 夜の底はシンと冷えて、すぐ後ろの静かな息遣いが心地良い。
 バス停が見えるころ巴祀屋が口を開いた。

(,,^Д^)「あのね」

 前を歩いていた九檀は足を止めて振り返る。
 ばちり。
 ハッキリと、目の合ったような感覚に息を呑んだ。

(,,^Д^)「流星群を見に行く前に、君に伝えることがある」

ζ(  *ζ「伝えること…」

(,,^Д^)「君の〝未来視〟は災厄の前兆じゃない。それは恐らく……救うための眼だ」

 少しだけ悩んでから、確かめるような口調でそう言う。

ζ(  *ζ「恐らく?」

 九檀が繰り返すと「ああ」と頷いた。

74 ◆W.bRRctslE:2024/01/18(木) 22:12:18 ID:A7rK2KdY0
 
(,,^Д^)「そうさ。本当のところは君にしか分からない」

ζ(  *ζ「ちょ、ちょっと待って」

ζ(  *ζ「その言い方だと、まるで」

 思わず言葉を飲み込む。
 言えない。何より、そんな、ありえない。

            ・・・
(,,^Д^)「だって君は星に願ったんだろ」

 巴祀屋の言葉は九檀の祈るような気持ちに反して、けれども予想通りに紡がれていく。
 そうだ。彼は初めからそう言っていた。

ζ(  *ζ「星は〝願いを叶えるもの〟…」

(,,^Д^)「よく覚えてたね。その通り」

 遠くからバスのヘッドライトが近付いてくる。
 巴祀屋の姿が後ろから白く、眩く、照らされていく。

(,,^Д^)「君の身に起きた異変のうち、未来視それ自体は星が〝叶えた〟君だけの異能だ」

 がこん、と大きく揺れて目の前にバスが停車する。
 扉の開くまでの一瞬が、不思議とスローモーションのように遅れて見えた。


(,,゚Д゚)「──さあ、〝願い〟に心当たりは?」


 巴祀屋の目の奥、赤く煌めく光点はもう怖くない。
 彼の手を取って乗車する。

 夜は、まだ長い。

75 ◆W.bRRctslE:2024/01/18(木) 22:13:14 ID:A7rK2KdY0
前編、一から四にて終了です
次回から後編になります。よろしくお願いします

76名無しさん:2024/01/19(金) 18:16:10 ID:3csMRdwY0
おつおつ

77 ◆W.bRRctslE:2024/01/19(金) 23:52:49 ID:8/a8Lnws0
>>68
すみません
巴祀屋が〝ひとつうえ〟と記載がありますが、正しくは〝ふたつうえ〟です

巴祀屋 高校三年
九檀、添樹 高校一年
訂正入れるか迷いましたが、一応…

78名無しさん:2024/01/21(日) 16:18:19 ID:wLOI9vSI0

設定がきれいで好き
スレタイのデレには顔があるんだよね…どうなるか楽しみ

79名無しさん:2025/06/17(火) 21:57:27 ID:AZFipHN.0
文章力があって、読ませる感じイイ
続き待ってる


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板