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ζ(゚ー゚*ζ 燐光を仰ぐようです
1
:
◆W.bRRctslE
:2023/08/28(月) 17:08:50 ID:X1pjkefQ0
願い紡ぐは 青の燐光
夜を彷徨う 愛し仔よ
さあさ 手を取って歌いなさい
さあさ 瞼を閉じて願いなさい
祈りを手放さないように
自らを見失わないように
永遠の果てにて 交じり合うまで
.
58
:
◆W.bRRctslE
:2023/11/02(木) 18:12:59 ID:sb0of7c60
ミセ;*゚ -゚)リ「う、あ」
固まっていた添樹に対し、男は耳障りな音を上げながら自転車で添樹の行く手を阻んだ。
走ればいいのに。
せめて、大きな声を上げればいいのに。
どこか遠くの方で頭が動いていたけれど、その思考も他人事みたいにすべり落ちていく。
男の手元から目が離せない。
そこには、鈍く街灯を照り返す包丁が握られていた。
( -≠[ 三 ])「そこの角、曲がれ」
目線を追えば、先の見えない細道が続いていた。
所々欠けて蔦の絡みついた石垣は高く、湿った空気が重たい。
すえた臭いがする。
錆びついたアルミ缶が転がっている。
ミセ;*゚ -゚)リ「……っ」
不安をベタベタと塗り込めたような光景に息を呑む。
何より、ゾッとするほど暗く見えた。
こちらの道には街灯がないのだ。
( -≠[ 三 ])「さっさとしろよ、おい、おい。おい、おいおいおいおい」
苛立ちを隠す様子がない男は、包丁の刃でガリガリとベルを掻いて添樹を急かす。
甲高い音が糸を引くように粘ついて響いた。
意味がわからなくて、何もかもが恐ろしくて、添樹は涙をぽろぽろと落としながら暗闇を背に後退る。
59
:
◆W.bRRctslE
:2023/11/02(木) 18:14:02 ID:sb0of7c60
中途半端ですが今夜はここまで
秋祭りは幽世を書きました。感想、嬉しかったです
ありがとうございました
60
:
名無しさん
:2023/11/02(木) 19:47:51 ID:iKTXNxOE0
乙……!
61
:
◆W.bRRctslE
:2023/11/03(金) 19:04:30 ID:cu3y1jWw0
ミセ;* - )リ「や、やだ」
男は不意に押し黙ると、手早く自転車の向きを変えた。真正面を塞がれる。
目を逸らすことも出来ずたじろぐ添樹を、重たい衝撃が襲った。
ミセ;* " )リ、「ぁぐ…っ」
耐えきれず、尻もちをつく。ブラウスにはくっきりと車輪の跡が残っていた。
みぞおちが深く抉られたように痛む。同時に、酸っぱいものが喉へ込み上げた。
地面で擦り切れた手が痛い。
強かに打ち付けた腰が痛い。
あまりの恐怖に心臓が痛い。
痛い。
痛い。
全部、痛い。
湿った地面がじっとりとスカートを濡らして気持ち悪い。
目を開けているはずなのに、視界がどんどん昏く淀む。
何も見えない。みたくない。
今更逃げようとしても足に力が入らない。
地面をかく。
逃げたい気持ちとは裏腹に、暗闇の方へ、ずり、と少しだけ近付いた。
ミセ; 、 )リ「いや。こないで」
引きずり込まれるような錯覚を覚える。
深い穴に落ちて、そのまま落ち続けるような、足のつかない絶望が鎌首をもたげてこちらを見ている。
ぼうっと光を失くしていく添樹を満足気に見て、男は自転車を降りようと片足を上げた。
そのとき。
──ガシャン
けたたましい音と共に、男の身体が横に倒れ込んだ。
62
:
◆W.bRRctslE
:2023/11/03(金) 19:49:44 ID:Yl3cMUfw0
ミセ;*゚ -゚)リ「え、は……?」
今、たしかに、一瞬見えた。
・・・・・・
誰かが自転車を横から蹴り飛ばしたのだ。
( -≠[ 三 ])「なんっだてめ、痛ッてェなあ゛あ゛ぁ゛ッ!!?」
いやに細く上背のある人影は、自転車の下敷きになりながらも怒鳴り返す男へ駆け寄り、間髪入れずに腹を蹴り上げる。
呻く男を転がし、そのまま押さえるように体重をかけて背中を踏みつけた。
添樹はもう何が起きているのかわからなかった。
不意に。視界の端で何かがちらと光る。
意識を向ければ、主から引き離されて虚しく空回るペダルが路地の向こうの灯りを拾って照り返していた。
回るたび、からからと微かに鳴る音が少しづつ恐慌状態の添樹を落ち着けていく。
もう、ここは、暗闇の底ではない。
呆けるようにそう思うと、あたりに立ち込めた深い霧が徐々に晴れていくように、身体を固めていた真っ暗な恐怖がゆっくりと雪(そそ)がれてゆく心地がした。
(,,^Д^)「ほら、間に合った」
男を押さえつけていた彼が、ニッコリと目を細めて通りを振り返る。
見覚えのある顔つきだった。ストーカーもとい、九檀にやたらと絡む先輩。
ミセ;*゚ -゚)リ「!」
ハッとして顔を上げる。
彼の呼びかけに応えるのは、聞き馴染みのある優しい声。
ζ( *ζ「っほんと、に」
九檀の姿が見えた瞬間、堪えていた嗚咽が喉に押し寄せた。
思い出したように溢れた涙は、もう、ばかになったみたいに止まらない。
ミセ*;ー;)リ「あ、あ、デレ、デレぇ」
九檀の顔は普段のすました横顔からは想像もできないほどぐちゃぐちゃで、いったい何があったのか、目元もすっかり泣き腫らして真っ赤だった。
きっと、走ってきたのだろう。
息の上がったまま、ほとんど飛び込むように添樹へ抱きつく。
ζ( *ζ「っミセリ! みせ、み、みせりぃ、うう、うううぅ」
ミセ*;ー;)リ「何言ってるのか分かんないってばっ! もう、落ち着いて」
ミセ*ぅヮ-)リ、「大丈夫、大丈夫だから」
63
:
◆W.bRRctslE
:2023/12/06(水) 09:20:31 ID:xqxUxoK60
ζ( *ζ「よか、よかった、う、うぅ。よかった、よかったあ……」
九檀は制服が汚れるのも気にせず、地べたへ座り込む添樹の無事を確かめるように、回した腕に強く強く力を込める。
スカートも、ブラウスも、汗と泥とで汚れ放題だった。
添樹のブラウスもまた、九檀の涙でぐしゃぐしゃだ。
ミセ*ぅ ,゚)リ「ほらもお。綺麗な顔が台無しじゃんっ」
ゴシ、と乱暴に涙を拭って九檀を抱きしめ返す。
それでようやく、石みたいに固まっていた身体がちゃんと動いたようだった。
……なぜだかわからないけれど。
九檀はあきらかに、添樹よりも怯えているようだった。
悪夢に怯える子どものように幼げで頼りなく、それでいて、九檀の流す涙には確かな安堵が見て取れた。
ミセ*-ー-)リ(あーあー。ちょっぴり拗ねちゃいそ)
九檀の安堵。
その意味が、添樹にはわからない。
九檀が抱えているだろう苦悩。
どうしてこの場に駆けつけられたのか。
件の先輩との関係性、そして、彼の言う「間に合った」の意味。
ただ、九檀が今ここにいて、添樹の無事にぽろぽろと涙を流している事実だけがストンと腕の中にある。
ミセ*゚ー゚)リ(仕方ないなあ、もう)
もう一度、ギュウと九檀を抱きしめる。すこしだけ意地悪に力を込めた。
そんな添樹を知ってか知らずか、九檀はしがみつくように抱きしめ返す。
その温もりだけで、全然自分を頼ってくれなかった親友のことを、なにだか全部許せてしまうような気がした。
(#-≠[ 三 ])「クソ!」
突然に大きな声がして、二人して肩を揺らす。
例の男だった。
背中を踏み付ける巴祀屋を振り払うように身体を捻り、無理くり起き上がろうとする。
その手にギラつく、不穏の刃。
ミセ;*゚ -゚)リ「「っ」」ζ( *ζ
いまだ握って手放さない包丁を、踏みつける巴祀屋の足に突き刺そうと振り上げる──
64
:
◆W.bRRctslE
:2023/12/06(水) 09:21:34 ID:xqxUxoK60
(,,^Д^)「危ないなあ。オジさん」
巴祀屋は男の腕ごと踏みつけると、勢いよく頭を蹴り抜いた。
重く鈍い音に思わず目を瞑る。
瞼の裏。その奥で、刃物の落ちるカランとした音が呆気なく響く。
ζ( *ζ「だい、じょうぶ……?」
九檀が、そろりと声をかけた。
巴祀屋は降参のポーズを取るように、軽く両手を上げてみせる。
(,,-Д-)「身体の無事は見ての通り」
そのままひらひらと手を振る仕草がやけに馴染んでいて、九檀はなにだか、ほっと胸を撫で下ろすような心地がする。
力が抜けるように、ふうと息が漏れた。
ζ( *ζ「……よかった」
(,,^Д^)「ごめんね、怖いもの見せちゃって」
怪我がなくて本当に良かった、とそう思ってから一拍遅れて、巴祀屋の言葉が妙に引っかかった。
なにだか、まるで巴祀屋に怯えているのが前提のような物言いに感じたのだ。
65
:
◆W.bRRctslE
:2023/12/06(水) 09:27:23 ID:xqxUxoK60
ζ( *ζ(もしかして)
不意に思う。
今のように敵意がないことを示すのは彼に取って癖のようなものなのかもしれない、と。
……巴祀屋は怖い。
やたらに上背があり、酷い火傷の痕には凄みがあり、全体的に真っ黒な印象を受ける。
・・
時折開く目の奥には、確かに、背筋をシンと冷やす何かがある。
今でさえ、へらりといつもの薄っぺらな笑顔を浮かべた影で、そっと頬に滲む汗を拭い、まるでなんでもないみたいな姿勢(ポーズ)を取る。
その何気ない仕草を九檀は見逃さなかった。
両手を開いて軽くあげる降参のポーズも、嘘くさい笑みも、もしかしたら彼なりの怖がらせないための配慮なのかもしれない。
ζ( *ζ「ねえ、その」
気付けば口を開いていた。
けれども、言葉はうまく繋がらない。
暗闇を手探りで進むように、一言ずつよく確かめて口にする。
ζ( *ζ「私、あなたを……責めてないの。本当よ、だから」
ζ( *ζ「……無事でよかった」
九檀の声は小さくて、今にも静けさに吸い込まれそうだったけれど、巴祀屋はぱちりと不思議そうに瞬きすると、ほんの少しだけ穏やかに口元を緩ませた。
あたたかな沈黙が二人の間をそよいで抜けていく。
ミセ*゚ー゚)リ
ミセ*゚ー゚)リ(あれなんか二人良い雰囲気じゃん?)
ジッと息を潜めて見守っていた添樹は、明日にでも絶対問い詰めよう、と人知れず決心していた。
66
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/15(月) 18:14:03 ID:AEI3vbJ20
(,,^Д^)「さてと」
巴祀屋は手際よく男が気絶しているのを確認すると、糸が切れたようにへたり込んだ。
九檀は一瞬、何が起きたのか分からず目を白黒させる。
(;,,-Д-)「あー、ええと」
(;,,-Д-)「安心してるとこ悪いけど、その、包丁。俺の見えないとこまで蹴っとばしてくれない?」
(,,^Д^)「……刃物、ダメなんだ」
そう言って、冷や汗いっぱいの青白い顔でへにゃりと情けなさそうに笑う。
九檀はこくりと頷くと、流石に蹴り飛ばすのは気が引けて、とはいえ手に取るのも躊躇われ、悩んだ末にハンカチをかけた。
思えば、巴祀屋は初めて会った日もカフェでデザートナイフに紙ナプキンを掛けていた。
あのとき思った〝ナイフも見たくないほど〟というのは、ある種の的を射ていたのだと、九檀は一人得心する。
その様子を気まずそうに見守りつつ、巴祀屋はゆっくりと目を瞑った。
やがて、重つく息を吐ききると、そっと目を開いて立ち上がる。
67
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/15(月) 18:14:56 ID:AEI3vbJ20
(,,^Д^)「ありがと」
ζ( *ζ「ううん、こちらこそ、その……」
言い淀む九檀に、遠くからニコリと笑いかける。
(,,^Д^)「こんなとこにいるの、怖いだろ。明るいとこで待ってな」
立ち上がらず、その場で促す。
巴祀屋はあえてそうしているような、意識的に九檀との距離を縮めないでいるような印象を受けた。
ζ( *ζ(……あ、今)
気遣ったんだ。
不意にそんなことを思う。
それこそ、つい先程まで彼に怯えて錯乱していたのだ。
ζ( *ζ(けれど)
いよいよ九檀は己の未来視に疑念を抱いていた。
ナイフを見るのも辛い彼が、どうして九檀にナイフを向けられようか。
思わず考え込む九檀の袖を添樹がそっと掴む。
ミセ*゚ー゚)リ「デレ…」
あわてて、こくりと頷いた
ζ( *ζ「そう、そうね。行きましょうか」
不安そうな添樹の手を引いて路地を出る。
日はとうに沈んで、辺りはとっぷりと暗く、街頭に照らされた手元だけがいやに明るい。
土埃で薄汚れた手を握る。開く。
ζ( *ζ(間に、合った。変えられたんだ、未来を、本当に)
じわりと熱くなる目尻を擦って涙を押し込む。
なにとなく振り返った暗い路地の中、どこを見るでもなくぼうっと壁にもたれ掛かる巴祀屋がひどく寂しげに見えた。
68
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/16(火) 22:47:05 ID:6VmzJa0k0
頭上高くをカラスが飛び去り、宵闇が静かに波打つ。
添樹とは何を話すでもなく、ただ手を取り合って立ちすくんでいた。
そうして、永遠にも続くように思われた時間は、遠くから微かに、けれども確かに近付いてくるサイレンの音で呆気なくほどけた。
添樹が背伸びをして遠くを見やる。離れた彼女の体温がどこか名残惜しかった。
ミセ*゚ー゚)リ「警察…?」
ζ( *ζ「そう、だと思う。多分」
巴祀屋が呼んだのだろう。
どこまでも手際の良い男だ。およそ、自分と同じ学生だとは思えない。
彼は何者なのだろう。
不審者を取り押さえたのも、錯乱する九檀を落ち着けたのも、こうして、事件を片付けてしまうのも、九檀とは年がひとつしか違(たが)わないはずの巴祀屋は、当たり前にこなしてしまった。
勇気や正義感があるというより、躊躇いが無いとか、場馴れしているといった表現の方が近い気がする。
ζ( *ζ(少なくとも、ヒーローって感じではないかも)
日曜朝の主人公にはなれなさそうだ、と内心でくすりと笑う。
彼に感じていた得体の知れない恐怖は、いつの間にか消え去っていた。
やがてパトカーが到着すると、先程までの静寂が嘘のように騒然として、頭の中のぼんりやりとした何もかもが頭の隅に追いやられた。
三者面談よりもずうっと沢山の質問攻めに遭い、やっと解放される頃にはクタクタで、棒になった足を押して添樹の家まで向かう。
「送るよ」と言った巴祀屋は、特に会話に交じるでもなく、二人の少し後ろをのんびりと歩いていた。
ミセ*゚ー゚)リ「ねえねえ、やっぱりさ、やっぱり……そういうこと?」
肩を寄せて添樹がこそこそと問う。
吹き出すのを堪えたような声が後ろの方から聴こえた。
振り返らず、地の底から響くような声で返す。
ζ( *ζ「ばか言わないで」
ミセ*-ヮ-)リ「えーっ!」
69
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/16(火) 23:18:37 ID:6VmzJa0k0
互いにほとんど空元気の笑い声をくすくすと交わしつつ、そのうちに到着した添樹宅の前、温かく照らす玄関の灯りに九檀は胸を撫で下ろすような心地を覚えた。
添樹が鍵を開けるのにほとんど被せるようにして、勢いよく出迎えた彼女の母親に一緒になって抱きしめられる。
;; ミセ* 。- 、)リ ;;゛
堰を切ったように、それでも声を殺して泣く添樹につられて、鼻の奥がジンと熱を持つ。
滲んだ涙を見られる前にぬぐって、そっと離れた。
会釈して玄関を出る。
今はきっと、家族だけになりたいだろうから。
玄関が閉まりきる刹那、ついぞ溢れたような泣き声は聞こえないふりをした。
添樹宅の手前、曲がり角の暗がりを覗き込む。
ζ( *ζ「お待たせ」
なにとなく、まだそこにいるような気がしたのだ。
(,,^Д^)「見つかっちゃった」
軽く両手をあげて、お決まりの降参のポーズをしてみせると、巴祀屋は悪戯が見つかった子どものようにはにかんだ。
その手先がかたかたと小さく震えていることに気付く。
ζ( *ζ「それ」
あっという顔をして、ばつが悪そうに両手を背に隠した。
(,,^Д^)「ええと、はは」
らしくもなくぎこちなく笑って、ため息を吐く。
(,,-Д-)「情けないよ、ほんと」
( ,, -Д)「いつまで怯えてるんだか……」
それはほとんど独り言のように聞こえた。実際に、そうだったのかもしれない。
巴祀屋は後ろ手に、震えを握り込んでいた。それはどこか恐怖を押し潰すように。
目を瞑ると草いきれの匂いがする。むせ返るような血の匂いも──
.
70
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/16(火) 23:23:50 ID:6VmzJa0k0
ζ( *ζ「大丈夫?」
声をかけられて、つい、遠くを眺めていた意識を引き戻す。
(,,^Д^)「……ん」
曖昧に頷くと、九檀は少しだけ首を横に傾けて、けれどもそれ以上は何も言わなかった。
心配してくれているのだろう。
彼女は、表情こそ眩い燐光に包まれて見えないけれど、それは決して感情を覆い隠すほどではないのだ。
(,,^Д^)「怪我はなかった? 君の友達」
ζ( *ζ「そうね、本人はかすり傷ぐらいって言ってたわ。でも、あんなに怖い思いをしたから……」
そう言って俯く。
言葉にはしないけれど、トラウマになったかもしれない。
きっと、夜道をこれまでのように何でもなく一人で歩くことは、しばらく……あるいはずっと、難しいかもしれない。
けれど。
(,,^Д^)「君のせいじゃないよ」
ζ( *ζ「でも」
食い気味に言いかける九檀を見据える。
見えなくとも、目が合っているという確信があった。
・・
(,,^Д^)「君が未来を見たから、悪い目にあったわけじゃない」
・・
(,,゚Д゚)「君が未来を見たからこそ、俺は、あの場に間に合えたんだ。そうだろ?」
ζ( *ζ「それは…」
(,,^Д^)「それに、きっとあの子は大丈夫さ」
そう言って、視線を上に投げた。
つられて九檀も振り返る。
71
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/17(水) 21:20:32 ID:/OZUhXmg0
ミセ*゚ヮ゚)リ「おーい!」
見れば、二階の窓から添樹が身を乗り出していた。
遠目にも彼女の頬にはくっきりと涙の跡が残っている。
ミセ*^ワ^)リ「デレ、また明日ねー!」
それでも伸びやかに、もちろん強がりもあるだろう、けれど少なくとも声を張り上げる添樹の姿は、思い悩む九檀の目には眩しいほど晴れやかに映った。
ミセ*゚ー゚)リ「先輩もありがとっ」
手を後ろに組んだまま、巴祀屋はニコッと笑った。
大きな声を出すのが躊躇われた九檀は、控えめに手を振って返す。
添樹はそれで満足したようで、大きく手を振り返して応えた。
そのうちに母親に窘められたのか、慌てて部屋に引っ込む彼女を眺めながら背後の巴祀屋へ小さく問う。
ζ( *ζ「あなたは」
ζ( *ζ「どうして、私のことを助けてくれるの?」
ずっと疑問だった。
添樹の件で有耶無耶になってしまっていたけれど、一度、聞いておきたかった。
(,,^Д^)「約束したんだ」
一言、それだけ返ってくる。
約束。
誰とのものだろう。
少なくとも、九檀ではない。
自分にも、それこそ添樹のように──大切な人がいるのと同様に、巴祀屋にもまたそういう人物がいるのだろう。
意外だった。
なにとなく、彼は点のような印象があったのだ。
彼にも線が繋がっている。
自分はまだ、それを知らないだけ。
72
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/17(水) 21:25:10 ID:/OZUhXmg0
ζ( *ζ(星座に似ているかも)
思い出すのは幼い頃のおぼろげな情景。
望遠鏡のレンズ越しに、煌々と輝く星々だけがくっきりと記憶に焼き付いている。
知らなければ、見えているひとつの星としか捉えられないけれど、本当は気の遠くなるぐらい大きな何かを描いている星座の、一部かもしれない。
夜風に撫でられる髪をどこか懐かしく思いながら、「そうなの」とだけ返した。
巴祀屋もまた、それ以上を語ろうとはしないようだった。
ζ( *ζ「……ねえ」
小声で言う。
ζ( *ζ「星を、見に行くのよね」
一瞬、間の抜けた空白があった。
想定外の言葉だったらしい。
(,,^Д^)「デートのお誘い?」
思わず転びそうになりながら、勢いよく振り返る。
ζ( *ζ「……っ」
言い返すのも癪で無言で睨みつけた。
今だけはこの燐光に感謝したい。……きっと、頬が真っ赤になっていただろうから。
巴祀屋の肩を軽く叩(はた)いて歩き出す。
星を見るならうってつけの場所があるのだ。
ちらと腕時計を見る。
今から歩いても、さすがに終バスまでならまだ余裕がありそうだった。
先日、巴祀屋の言っていた流星群の時間には間に合うだろう。
そもそもの言い出した本人は、何故だか、耐えきれずといったふうで吹き出して笑っている。
いつもの嘘っぽさがないのがむしろ憎たらしい。
73
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/18(木) 22:11:09 ID:A7rK2KdY0
九檀が露骨に歩を早めると、それもまたおかしかったのかすぐ後ろで笑いを堪える気配がする。
(,,^Д^)「待って待って」
ζ( *ζ「もう、知りません」
(,,^Д^)「そんなこと言わないでってば
歩を緩めず、ため息も隠さず、あなたには呆れましたと態度で示す。
どうせ表情は伝わらないのだ。
だんだん九檀まで面白くなってきたけれど、そんな気持ちを突っぱねるようにすたすた歩く。
(,,-Д-)「ほんと、君は意外と素直だね」
(,,^Д^)「それでいて意地っ張り。どう?」
巴祀屋はと言えば、一切気にするふうもなく得意げにそう言う。
ζ( *ζ「それって両立するのかしら」
(,,^Д^)「っふ、はは、してるじゃん」
「してない」「してる」とくだらない応酬を繰り返し、最後にはどちらからともなく黙り込んだ。
夜の底はシンと冷えて、すぐ後ろの静かな息遣いが心地良い。
バス停が見えるころ巴祀屋が口を開いた。
(,,^Д^)「あのね」
前を歩いていた九檀は足を止めて振り返る。
ばちり。
ハッキリと、目の合ったような感覚に息を呑んだ。
(,,^Д^)「流星群を見に行く前に、君に伝えることがある」
ζ( *ζ「伝えること…」
(,,^Д^)「君の〝未来視〟は災厄の前兆じゃない。それは恐らく……救うための眼だ」
少しだけ悩んでから、確かめるような口調でそう言う。
ζ( *ζ「恐らく?」
九檀が繰り返すと「ああ」と頷いた。
74
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/18(木) 22:12:18 ID:A7rK2KdY0
(,,^Д^)「そうさ。本当のところは君にしか分からない」
ζ( *ζ「ちょ、ちょっと待って」
ζ( *ζ「その言い方だと、まるで」
思わず言葉を飲み込む。
言えない。何より、そんな、ありえない。
・・・
(,,^Д^)「だって君は星に願ったんだろ」
巴祀屋の言葉は九檀の祈るような気持ちに反して、けれども予想通りに紡がれていく。
そうだ。彼は初めからそう言っていた。
ζ( *ζ「星は〝願いを叶えるもの〟…」
(,,^Д^)「よく覚えてたね。その通り」
遠くからバスのヘッドライトが近付いてくる。
巴祀屋の姿が後ろから白く、眩く、照らされていく。
(,,^Д^)「君の身に起きた異変のうち、未来視それ自体は星が〝叶えた〟君だけの異能だ」
がこん、と大きく揺れて目の前にバスが停車する。
扉の開くまでの一瞬が、不思議とスローモーションのように遅れて見えた。
(,,゚Д゚)「──さあ、〝願い〟に心当たりは?」
巴祀屋の目の奥、赤く煌めく光点はもう怖くない。
彼の手を取って乗車する。
夜は、まだ長い。
75
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/18(木) 22:13:14 ID:A7rK2KdY0
前編、一から四にて終了です
次回から後編になります。よろしくお願いします
76
:
名無しさん
:2024/01/19(金) 18:16:10 ID:3csMRdwY0
おつおつ
77
:
◆W.bRRctslE
:2024/01/19(金) 23:52:49 ID:8/a8Lnws0
>>68
すみません
巴祀屋が〝ひとつうえ〟と記載がありますが、正しくは〝ふたつうえ〟です
巴祀屋 高校三年
九檀、添樹 高校一年
訂正入れるか迷いましたが、一応…
78
:
名無しさん
:2024/01/21(日) 16:18:19 ID:wLOI9vSI0
乙
設定がきれいで好き
スレタイのデレには顔があるんだよね…どうなるか楽しみ
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