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異界大戦記のようです
1
:
名無しさん
:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。
魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。
きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。
ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。
429
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:31:52 ID:MIIfyG.M0
『情報は、武器だよう。それも我が国の重要な、武器。それを捨てようとする国は止めないと大変なことになるよぅ』
('A`)「そう、ですね......いや」
『?』
('A`)「もう、なってるかもしれません」
そう言いながらドクオの顔は暗いものとなる。
ドクオが自宅でこんな連絡をしている理由。
それは非戦派が異端者扱いされ、直接的ではないものの排除が行われているのだ。
理由は非戦派が人間達に国を売り飛ばそうとしている等という怪情報が出回ったことに起因する。
これを流したのは自分達の利権を守りたい権力層、すなわち敵対派ではないかと言われているが事実は不明であり、出所の怪しい情報であった。
しかし出所が不確定なことがむしろこの噂の効力を強くし、権力層から嫌われないため、捨てられないためには敵対するしかないという風潮が出来ていた。
これにより非戦派の意見は封じられていたのだ。
そもそも敵対しない態度自体が売国行為だと罵られる始末である。
反戦派が一般層に多いのに対し、敵対派が権力層であるため、単純に力の差が出ている構図となっているのだ。
430
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:34:04 ID:MIIfyG.M0
さらにその混乱に乗じるようにルナイファと共闘して人間達を滅ぼすべきという意見が出始めていた。
これについては元から国内にいたルナイファとの同盟を進めたい一部の勢力、及び諜報員の工作とドクオは考えており、これまでと同様に大事にはならないと見ていたのだが、驚くべきことに受け入れる者も少数ではあるがいるのだ。
それほどまでに人間が受け入れられないのかと、その事実にドクオは強い衝撃を受けることとなった。
人間が持つ力を理解できていないわけではない。
むしろ集められた情報からそれを理解し、恐怖している者の方が多く、情報を頭から信じないで否定する者は比較的に少ない。
だからこそ真っ正面から戦おうと言うような、馬鹿丸出しな事を言うものはいない。
工作や、抑止力的な魔法の開発により召喚国家の行動を制限する。
そうして国家として動きを封じ込め、弱らせ、潰す。
勿論最悪の場合、直接戦うことも考慮はしているがルナイファの二の舞にはならないようにと、ちゃんと考えてはいるのだ。
431
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:35:46 ID:MIIfyG.M0
まともに戦っても勝てない相手になぜ戦いを挑もうとするのかと、第三者から見れば酷く愚かに見えるであろう。
だが滅ぼされるかもしれないという恐怖。
捨てられない魔法と利権とエルフのプライド。
また人間に話が通じるわけがないという、この世界の常識。
これらによりたどり着く答えはひとつ。
―分かり合えないのだから、いつかは戦うしかないのだ、と。
最も重要な情報、真っ先に目を向けなければならなかったが常識であったがゆえに気づけなかった可能性、人間とは話し合えるのだということを見落としてしまったままの結論であった。
『そんなことに、なってるのかよぅ。予測はしていたけど、最悪だ......』
愕然としているのが、声だけで伝わってくる。
これまで情報を集め、正しく処理することを仕事にしてきただけにこうもおかしな考えに結び付いている現状が受け入れがたいのだろう。
432
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:37:31 ID:MIIfyG.M0
('A`)「やはり......無理にでも動いて先に国同士の繋がりを作るべきでしょうか?」
『......それについてなんだけど、人間たちとの交流が我が国にとって有益かは分からないよぅ?鎖国の影響で我が国はお世辞にも外交がうまくないし......』
(;'A`)「交渉がうまくいかないと?」
『そうだよぅ。それにあれだけの力を持つ国となると国力も凄まじいだろうから、下手すると経済的に飲まれる可能性だってあるよぅ』
('A`)「......なるほど、確かに。そうなるととにかく動く、というのは悪手かもしれませんね」
『そうだよぅ。だけどそれ以上に少なくとも対立だけは避けないと』
(;'A`)「分かっては......いるんですが」
『こうなると、クーの誘いに乗るのも......考えなくちゃかもな』
('A`)「え?」
433
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:39:18 ID:MIIfyG.M0
それはなんのことか―
そう聞こうとした瞬間、向こうの物音が騒がしくなる。
『っ!すまない、また避難しないと不味そうだよぅ!』
('A`)「あっ」
なにか返事をする前に、魔信は途切れる。
すっかり静かになった部屋のなか、ドクオは一人、考える。
同盟か、対立か、はたまた無関係を貫くのか。
これからのことを、どうするか。
そんな考え事をしているうちに疲れが溜まっていたのだろう、気付けば彼は眠りに落ちていた。
434
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:41:15 ID:MIIfyG.M0
ルナイファ帝国 南方沖
海上に、多数の黒い点が現れる。
それらはまるで隙間なく敷き詰められたかのように密集し、進んでいた。
そしてその艦よりも多く、空にも黒い点、ワイバーンが広範囲に渡って飛び交っている。
今ここにある戦力だけで一体どれだけの国を滅ぼせるだろうか。
それほどの大戦力。
それがたった一国相手に向かおうとしていた。
(゚、゚トソン「......」
そんな艦隊から、敵を探そうとトソンは監視をしていた。
先程の基地への攻撃の件もあり、艦隊への攻撃も予測されたことから皆緊張感を持って仕事にあたっている。
だが、その誰もが顔に自信が満ち溢れていた。
先の激励が彼らの心を奮い起たせ、愛する国を守る重要な使命に燃えていたのだ。
さらに、この最強とも言える艦隊の規模。
その強さに疑問を持つものなどいるはずもなく、必ずや敵を討ち倒せると信じていたのだ。
絶対的な、自信であった。
435
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:47:56 ID:MIIfyG.M0
(゚、゚トソン「......?」
だが不意に、空を飛んでいたワイバーン達が不規則に乱れ出す。
さらに遠くからはドンドンという、不穏な音が聞こえたかと思えば、遠くの空にいたはずの黒い塊に見紛うほどにいたはずのワイバーン達は気づけば姿を消している。
たった一瞬、視線を外しただけであったはず。
それにも関わらず、いくつもの艦隊を滅ぼしてきたはずのそれらが、強力な味方がいなくなったのだ。
なにかトラブルか―
『......全艦隊に告ぐ』
(゚、゚トソン「っ!」
心の奥底に隠していたはずの恐怖が溢れそうになった、そのときであった。
再び司令部からの連絡が入る。
『敵の位置を特定した。これより言う座標の位置へ向かえ』
(゚、゚トソン「......」
遂に、戦闘が始まる。
世界最強の力を見せつけるときが来たのだ。
恐怖を再度封印し、読み上げられた敵がいる座標の方角を睨み、呟く。
―今に見てろ、侵略者共め。
436
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:51:11 ID:MIIfyG.M0
ルナイファ帝国 地下司令部
( ´_ゝ`)「......ふむ、ここまでは作戦通りか」
次々に入ってくる情報を元に、机に置かれた海図の上の模型がひとりでに動く。
それらの動きを見て、アニジャは小さく頷いた。
( ´_ゝ`)「幾つか最悪の想定をしていたが、その中でも本当に最悪なやつだなこれは。まあ想定内なだけまだマシな方か......」
彼は今回の戦いに当たり、様々な想定をして望んでいた。
それはこれまでに集められた様々な情報をどこまで信頼するかから始まった。
信じられない情報が数多くあり、多くの者が欺瞞情報であるとし切り捨てていたが、彼にはそれが出来なかった。
ギコやハインといった、先の戦いに参加し、行方が分からなくなった者たちから上げられていた情報が、彼の脳内に残り続けていたのだ。
普通に考えればあり得ないことばかりではあったものの、現状がそもそもあり得ないことの連続である。
だからこそ彼はあり得ない情報を全て受け入れると同時に、そんな相手と戦うにはあり得ない発想が必要であると結論を出したのだ。
437
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:53:33 ID:MIIfyG.M0
( ´_ゝ`)「ワイバーンは......この位置だな。ここから撃墜が始まったわけだ」
ボロボロと崩れたワイバーン型の模型、それが存在する海域に印を付けていく。
最早形すら分からなくなったその模型が示すことは、既に動きを連動する相手が同じように砕け散ったこと。
ワイバーンを広範囲に突撃させ、その撃墜された位置から敵の位置の特定を試みる。
彼が考えた、苦肉の作戦であった。
本来であれば勿論、あり得ない作戦である。
ワイバーンが潤沢にいるルナイファといえども、貴重な生物であることに変わりはない。
一度失えば、再び戦場で飛び回れるようなものを育てるまでに長い月日が必要になる。
さらに戦力として考えるならば訓練も必要になるのだ。
そうして育て上げたとしても、個体差によっては望むようなワイバーンが得られない場合もある。
このような理由と唯一と言ってもよい航空戦力なため、どの国においても重要な資源として数えられている。
438
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:54:47 ID:MIIfyG.M0
だが、それを使い捨ての駒として扱う選択をしたのだ。
力と技術と時間、そして資金を費やし産み出されたそれをである。
被害を受けることを前提とした屈辱的な判断。
だがしかし。
その判断が敵の進行ルートを明らかにする。
これまで捉えることの出来なかった敵を、おおよそではあるが捉えることに成功したのだ。
( ´_ゝ`)「......うむ。やはり、このルートか。となると......全魔術師に連絡。敵の予測される侵攻ルートを共有する。このルートを防ぐよう、港の凍結封鎖を急げ」
( ´_ゝ`)(しかし、撃墜ペースが異常すぎるな。やはり、敵はこちらの動きを把握しているとしか思えない。本当にとんでもない策敵能力だなこりゃ)
そして、敵を捕捉したからこそ分かる、敵の異常性。
こちらは犠牲覚悟でどうにか位置の当たりをつけるのに精一杯だというのに、敵は一定距離に近づいたものを次々と攻撃しているようである。
439
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:56:01 ID:MIIfyG.M0
( ´_ゝ`)「それにこの距離は、こちらの射程距離に気付いてる可能性が高いな......」
さらに敵から撃墜地点までの距離を推定するに、明らかにこちらの射程範囲を超えるように行動していることがわかる。
つまり敵は、こちらの戦力の分析を行っており慢心はない、と言えるだろう。
だが逆にいえばそれは、敵はこれまでのこちらの情報を知らないことを意味している。
つまり、この国に生まれた二つの新しい魔法であれば、通用するかもしれないのだ。
( ´_ゝ`)(......まあそのうちの一つがあんな魔法じゃ、結局残された手札は一つだけと変わらんな。まぁ、まだ手があるだけマシと考えるべきか)
( ´_ゝ`)「やれやれ......油断してくれてれば、他にもやりようがあったんだがな」
作戦通りに進行しているとはいえ、決して良いとは言えない戦況である。
さらにこれから行う作戦についても、敵には通用しないかもしれないのだ。
440
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:57:45 ID:MIIfyG.M0
自信を持って指示できるほどの、作戦等ないのに、それに命を懸けろと言わざる負えないという苦痛―
だがこの任務を請け負った以上、その責任は全て背負わなくてはならないのだ。
彼は決意し、指令を出す。
( ´_ゝ`)「......念写艦は今から言う地点を3分後より等間隔で念写してくれ。その他の艦については」
そこで一呼吸をおき、告げる。
( ´_ゝ`)「新魔法を使用する。魔法陣の構築準備を進めろ」
441
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 16:59:05 ID:MIIfyG.M0
ルナイファ帝国 南方沖
『新魔法を使用する。魔法陣の構築準備を進めろ』
その言葉が艦内に響くと、多くの者が驚愕する。
新魔法と言えば、つい先日にロマネスクをはじめとした著名な魔術師が集まり作り出したと言うこれまでにない攻撃であるとのことだったはずである。
まだ試作段階という話ではあったが、間違いなく切り札となるものである。
それを真っ先に使うことになるとは―
だが同時に、敵の命運はここで尽きることを意味するであろう。
そう考えた者たちは敵を少しだけ憐れむ。
これから敵は、何が起こったかも分からぬままに死ぬのだから。
442
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 17:00:59 ID:MIIfyG.M0
(゚、゚トソン「......まぁ、これも報いよ」
しかし、敵はこちらを一方的に侵略してきた憎むべき者たち、我々の宿敵であるソーサクという話であり、さらに現在もワイバーンに被害を与えているという。
罪としては充分どころか、もはや死を与えるだけでは物足りないとすらトソンは考える。
だからこれから行うことに、罪悪感などはありはしない。
『敵部隊、ポイントを通過した!!魔法陣を起動しろ!!』
(゚、゚トソン「......っ」
司令部より、再び指令が入る。
それは敵を念写で捉えたという報告。
すなわち、敵の位置を完全に捉えたということである。
ならば、どうするか。
答えは簡単である。
―敵がやってきたように、こちらも遠距離から攻撃を叩き込むのだ。
443
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 17:02:16 ID:MIIfyG.M0
艦上の魔法陣が紅く輝き、一つの光となる。
その光は爛々と輝く焔。
魔力が籠められる度に、大きく、力強く輝くそれは艦の船員を照らす光となる。
救いの光だ―
そう、トソンは感じた。
敵からの攻撃以降、陰りが見えていたルナイファに救いをもたらす奇跡の光。
まだどこかで敵の強大さに怯えていた自分がいた。
だがこの光を見て、確信する。
(゚、゚トソン「約束は、守れそうね」
『攻撃、開始っ!!』
トソンの小さな呟きは、号令にかき消される。
救いの光はその号令と共に、天高く舞い上がり、真っ直ぐ進んでいく。
無数の光が、敵に向けて放たれた。
444
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 17:02:39 ID:MIIfyG.M0
続く
445
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 19:26:42 ID:rOKWiwr20
乙
イヨウも亡命しようとしてる…
ドクオも一緒に逃げちゃえばいいのに
446
:
名無しさん
:2023/07/29(土) 22:14:06 ID:rV035ctI0
流石兄弟が流石すぎる
447
:
名無しさん
:2023/07/31(月) 15:20:19 ID:pdau8Cns0
乙です
448
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:08:10 ID:STw8idWQ0
ルナイファ帝国 地下司令部
1464年3月1日
『発動完了!!異常は見られず、敵に向けて、飛翔中!!』
艦隊より、新魔法が不具合なく発動した報告が入ってくる。
その報告にひとまずアニジャは胸を撫で下ろす。
テストすらままならず、急な実践配備となり、そのまま使用することになったのだ。
下手をすれば暴走し、自滅していた未来もあり得たかもしれない。
だが、少なくともそれは回避された。
となれば、残りの願いはあと一つ。
この攻撃が敵に通用することを願うだけ。
449
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:08:47 ID:STw8idWQ0
( ´_ゝ`)「頼むぞ......」
人間達との戦いにおいて様々な問題があったが、その中の一つに射程がある。
元より魔法は操作魔法により如何に命中率よく敵に当てるかが重視されており、このためこの操作魔法の範囲、すなわち目視圏内での戦いが常識であった。
目視圏外からの攻撃などあり得るはずもなく、もしそれを実行したところで操作魔法がない、無誘導の攻撃など当たるはずもなく、それが当然であった。
しかし、その世界の常識は異界の常識により打ち破られる。
目視圏外から、ほぼ必中の攻撃を打ち込む。
あり得てはいけないほどの、高性能の攻撃。
これまでの戦い方では犠牲覚悟の突撃しか、出来ることはなかった。
450
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:10:18 ID:STw8idWQ0
( ´_ゝ`)「長距離制圧魔法、これが通じなければ......」
そこで新たに作られたのが、新魔法。
―長距離制圧魔法。
そう名付けられた魔法は名前の通り、これまでの魔法の常識を打ち破る射程を持つ。
ただひたすら遠くに飛ばすことのみに着目され作り出されたそれは、優れた術者が使えばおよそ80kmにも及ぶ長射程を実現することに成功していた。
さらに距離の問題により操作魔法よる誘導が出来ず、そもそも見えない敵に対して誘導する方法など無いことから、少しでも命中率を上げようと空中にて複数の火炎球に分離し、広範囲に拡散、攻撃ができるように調整がされている。
だがこれで敵に対抗できるかと言えば問題は山積みであった。
まずは策敵能力。
射程を活かすためにはまず敵を見つけなければならないが、ワイバーン位しかまともに敵を探す術がないこと。
次にそもそも攻撃が行えたところで、拡散しある程度の範囲の攻撃が可能とはいえ無誘導で攻撃を当てることなどほぼ不可能に近い。
451
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:12:00 ID:STw8idWQ0
―では、どうするか。
答えは単純であり、二つの課題両方とも同じ方法での解決を試みた。
答えは、物量。
ルナイファ最大の武器を用いたのである。
ワイバーンの大量投入による範囲のカバーと撃墜覚悟で、その位置からの推定による策敵。
一撃では当たらなくても大量の艦から一定範囲を同時攻撃することで命中率をカバー。
勿論、これで完璧だとはアニジャは考えていない。
むしろ、問題しかない。
被害が大きすぎる上に、広範囲を完全にカバーしきることなど不可能。
結局のところ、勝算が全くないわけではないが当たるかは運に任せるしかないというわけである。
だが現状でこれ以上に良い方法は思い付かなかったのだ。
452
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:14:02 ID:STw8idWQ0
そしてこの作戦は、まだワイバーンも艦も大量にあり、かつ敵がこちらの射程を短く考えている今くらいしか、通用しないだろう。
最初の攻撃だが、これほどの条件が揃うのは、敵に大打撃を与えられるのはこれがラストチャンスに近いのだ。
だから、彼は祈った。
この状況を変えるような、何かが起こることを。
『効果確認念写カウント、5、4、3、2、1......』
( ´_ゝ`)「......」
『......っ!こ、これ、は......』
魔信の向こうから驚愕の声が響く。
その声にアニジャは固唾を呑む。
453
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:15:32 ID:STw8idWQ0
それから暫しの沈黙の後、報告が入る。
『敵艦隊を念写に成功......敵、健在。被害、認められず......』
( ´_ゝ`)「そう、か......くそっ」
その報告は、攻撃の失敗を意味するものであった。
うまくいく可能性は高くはないと分かっていたはずである。
だが、チャンスではあったはずなのだ。
当たる可能性だって0ではなかったはず。
しかし敵が避けたか、防いだか、そもそも外れたのか分からないが、失敗した。
そして少なくとももう、敵が無警戒ということはあり得ないだろう。
何らかの対策をとってくる可能性が高い。
454
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:16:31 ID:STw8idWQ0
( ´_ゝ`)(......だが、まだ可能性は)
ある、そうアニジャは考える。
確かに初撃ほどの好条件ではないものの敵は艦であり陣形を組み換え対応するにしても射程から逃れようとするにしても時間はある程度かかる。
そして念写にて艦隊を捉えることに成功している今なら、再度の攻撃を行えるはずであり、当たらなくても一定のプレッシャーを与えることは出来る―
( ´_ゝ`)「艦隊に連絡。再度、魔法陣のこうち......」
魔信に向かって指示を伝えようとしたその瞬間であった。
バラバラと、海図の上にあった艦の模型が崩れ去る。
それも、複数である。
455
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:19:32 ID:STw8idWQ0
(; ´_ゝ`)「なっ......」
一定間隔で崩れていくそれはまるで、そういったオモチャなのかと錯覚させられるようである。
だが現実は一つが崩れる度にとてつもない命が失われているのだ。
―敵からの反撃!
そう気が付いたときには既に多くの艦が沈んだことが示されていた。
(; ´_ゝ`)「......」
繋がったままの魔信を握りしめたまま、海図を呆然と眺める。
異常なまでの早さで砕けていく味方。
そして、魔信の先からは悲鳴に似た叫び声が響きわたる。
藪をつついて蛇を出す。
下手に攻撃をしたせいで敵の攻撃優先対象の範囲が広がったということだろう。
こちらの反撃の芽が、どんどんと摘みとられていく。
456
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:21:00 ID:STw8idWQ0
さらにその被害から明らかになる最悪の事実。
沈みゆく艦と敵の予測される位置、その距離は優に100kmを越える。
導き出される結論は一つ。
敵はこちらよりもさらに長い射程を持つということ。
新魔法ですら無茶をしているというのにそれでもまだ届かないというのだ。
一体どれほど敵との差はあるのか、アニジャには分からない。
そんな力量の離れた相手に出来ること。
残る手段はもう、一つしかない。
(; ´_ゝ`)「全軍、密集陣形にて魔壁を張り突撃するしか......」
ムーでの戦闘の二の舞である。
但し、その時よりも離れた距離を進む必要がある。
絶望どころの話ではない。
それはもう、不可能と言っても良い。
だが逃げようにも敵が見逃してくれるとは限らず、また国の目前まで迫る敵をそのまま通すわけにもいかないのだ。
457
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:22:05 ID:STw8idWQ0
期待できることとすれば敵の攻撃漏れか、燃料切れといったところであろう。
しかし敵国まで攻めてくる者達が、その程度のことを考えずに攻め込んでくるとは考えにくく、期待は出来ない、というよりしない方がよいだろう。
(; ´_ゝ`)「......せめて上陸だけでも防がなくては」
港近くの海は既に氷で封鎖されている。
さらにここに、これまで沈められてきた艦の残骸も加わり、無理に陸に近づこうとすれば座礁することに疑いはない。
常識で考えれば艦が近づけない以上、上陸はないはずなのだ。
敵に遠距離攻撃能力がある以上、沿岸設備は攻撃で破壊されるだろうが仕方ないと割りきるしかない。
だが問題は敵がさらに常識を越えてきたら。
上陸を難なくこなしてきたとしたら―
アニジャは部隊の再編を急ぐ。
458
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:22:44 ID:STw8idWQ0
ルナイファ帝国 南方沖
失敗した―
そう魔信から連絡が入ると艦にいた誰もが驚愕の声を上げる。
失敗をするなど、誰が予測しただろうか。
ルナイファで最高の魔術師であるロマネスクが作り上げた常識を打ち破るような魔法。
それを、最高練度を誇るルナイファの主力が使用したのだ。
この世界で最も強力な魔法攻撃と言っても過言ではないとトソンをはじめとした誰もが考えていた。
それが、効果がないという理解しがたい報告。
何かの間違いではないかと口々に言うがそれで現状が変わるはずもなく、無為な時間だけが過ぎる。
459
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:23:24 ID:STw8idWQ0
そうしてようやく、次の攻撃に備えて準備をするべきではないか。
そう誰かが発言したそのときであった。
『艦隊に連絡。再度、魔法陣のこうち......』
ズガアァン!!
(゚、゚トソン「ひっ!?」
凄まじい轟音が複数箇所から魔信を遮るように響きわたる。
そのあまりのすさまじさに思わずトソンは悲鳴をあげてしまった。
そして何事かと辺りを見回し、それを目にする。
(゚、゚;トソン「え?え?」
威風堂々と、ルナイファの力を誇るように海上に浮かんでいたはずの艦、それが姿形なく消え去っている。
代わりに燃えながら沈む無惨なオブジェ、もしくは砕け散ったかのように残骸が散乱し廃材と化していた。
460
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:24:03 ID:STw8idWQ0
トソンがそれを目にしたとき、一体どうしてこんなことが起こったのか、理解できなかった。
そしてそれはトソンだけでなく他の艦にいた者たちも同様であった。
あまりの現実感のない現実に、思考が追い付かなかったのだ。
だが、そんな彼女達を待ってくれるはずもなく。
また新たな大破壊が始まる。
(゚、゚;トソン「きゃっ!?」
近くで航行していた艦にも何かが、襲いかかる。
魔壁を展開する余裕も無かったのだろう。
抵抗すら出来ぬまま、艦は爆発し、海上から姿を消していく。
461
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:24:36 ID:STw8idWQ0
あまりに呆気なく、消えていく。
艦が、命が。
そして。
絶対に勝てるという自信、心の支えが。
気が付けばトソンは震えていた。
神の加護など、無かった。
現に皆が、どの艦もなにも出来ずに沈んでいく。
まるでお前たちは無力であると、言われてるかのようである。
事実、今の自分たちに何ができるというのか。
敵の的となり、資源を消費させる以外に何も出来ないであろう。
462
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:25:08 ID:STw8idWQ0
(゚、゚;トソン「......光」
そうしてもう、どれだけの艦が沈んだろうか。
ようやく、何が自分たちを襲っているかを認識する。
それは、光であった。
その光はまるで、自分たちが放った新魔法、あの救いの光のようであった。
最も、迫りくるそれは救いなどではなく破滅をもたらす。
こちらの命を刈り取るものである。
次々に光が飛来する。
だが気づいたところで高速に迫りくるそれに、対抗する術など持ち合わせていない。
ただ耐え凌ぐ、いやもはや耐えるどころではなく数に任せて自分が狙われず、事が過ぎることを祈ることしか出来ない。
463
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:25:39 ID:STw8idWQ0
様々な悲鳴と怒号が飛び交う。
生き残りが集まり、何とか陣形を組み直し魔壁を展開しようとするが敵はそれを待ってくれるはずもなく、叩き潰される。
『こっちに向かってくるぞ!』
(゚、゚トソン「っ!!」
そして、彼女も見逃されるはずがなかった。
どうにか魔壁を展開はできたものの、時間もなく作られたそれは弱々しい。
そうして一つの光が艦の後方に飛び込んでくる。
耳をつんざくような爆音。
意識を失いそうになるほどの衝撃にふらつきながらも、その耳に残る不快感に自分がまだ生きているのだとトソンは安堵する。
464
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:26:24 ID:STw8idWQ0
『か、艦後方が......消滅!!』
(゚、゚;トソン「は?」
だがそんな安堵などすぐさまかき消されるような報告が耳に届く。
被害、どころの話ではない。
消滅など一体どういうことなのか。
しかし彼女に今どうなっているかを確認する時間など残されていなかった。
(゚、゚;トソン「ふ、艦が、傾いてっ!?」
『そ、総員退艦!!総員退艦!!』
(゚、゚;トソン「っ!」
退艦。
その言葉に皆がハッと気がついたかのように走り出す。
加速度的に傾きつつある艦。
このままいけばどうなるかなど誰でも分かる。
理解しがたい現実の連続ではあるが、そんなことに頭を悩ませる暇などない。
死にたくない気持ちは誰もが同じなのだから。
465
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:27:20 ID:STw8idWQ0
どうにか艦から海へと飛び込み、トソンは流れてきた艦の瓦礫らしきものにしがみつく。
そうして、海に浮かびながら辺りを見渡し、その惨状を見る。
(゚、゚;トソン「酷い......なんなのよ、これは」
目に写る艦で無事なものなど無かった。
どれもが破壊され、沈んでいる。
そしてその多くが最早、避難する暇もなく沈むか、沈む前に艦内のすべての命が刈り取られていた。
そうして、彼女は気がつく。
こんな地獄のような現状ではあるが、生き残れた。
それが如何に幸運であるということかを。
(゚、゚;トソン「......」
だがそれを喜べるほど、彼女に余裕など有りはしない。
ただ海上で波に揺られながら、静かに目の前で沈んでいく艦を眺めることしかできなかった。
466
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:28:12 ID:STw8idWQ0
ルナイファ帝国 軍港
(´<_` ;)「......なんという」
魔信から入ってくる報告に、オトジャは動揺を隠せなかった。
敵が強く、こちらを上回ることは理解していたつもりであった。
だがそれでも、敵に何ら痛打を与えられないとは考えもしなかった。
新魔法もそうである。
敵がこちらに侵攻してくるとなるとかなりの数が戦いに参加すると考えられていた。
つまり、的が多くなることを意味しており多数の攻撃を拡散させれば必然的に命中する確率は上がり、何かしらの被害を与えられ、少しの猶予は稼げると考えていた。
だが現実は手も足も出なかった。
その戦力、今回の被害から推測するならばルナイファが万全の状態であったとしても勝てはしないだろう―
467
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:29:26 ID:STw8idWQ0
(´<_` )「......敵がこちらに気がついている様子はあるか?」
『いえ、今のところそのような様子は見られません』
(´<_` )「よし、ならば作戦通り攻撃準備だ」
しかし、たった今。
敵がこちらに気が付いていないこの状況であれば話は別である。
油断した敵の脇腹に、攻撃を突き刺すのみならば、可能なはずなのだ。
(´<_` )「雷槍を準備、敵が射程距離内......いや」
そこでオトジャは思案する。
敵が気が付いていないならば、無理に最大距離で攻撃する必要はないのではないかと。
特殊艦隊に配備されている高性能な魔方陣により、どの魔法も通常の艦隊に比べ威力、命中率共に上回ってはいる。
しかしそもそも雷槍は命中率が低い攻撃である。
敵に大きくダメージを与えるためにはやはり、接近するしかない。
468
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:31:12 ID:STw8idWQ0
(´<_` )「......ここは待機だ。敵の動きを見て、再接近時に攻撃を行う。警戒は怠るな。妙な動きがあればすぐに知らせろ」
『了解しました』
(´<_` )「さて、どうなるか......」
オトジャ達、特殊艦隊は待機を選択するがこの選択にリスクが無いわけではない。
現在は魔法により隠れているとはいえ、敵の攻撃が施設に当たり、その魔法が解ければ全てが水の泡である。
さらに自分たちに近づくということはそれだけ国へ敵の接近を許すことに等しいのだ。
敵の攻撃の射程と威力を考えれば、少し陸に近づくだけでも、沿岸部への被害は凄まじいものになってしまうであろう。
だが、救いもある。
すでに海は凍結され、また艦の残骸が積み重なり、上陸地点になると思われる箇所の周囲を覆うように封鎖されている。
これでは艦は港内に侵入できないし、また艦が陸まで近づけない以上、兵を陸に揚げることも出来ない。
そうして陸に近づけず、ここから離れようとしたところを不意討つ。
それがオトジャの思い描いた、作戦であった。
469
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:32:20 ID:STw8idWQ0
『ほ、報告!!』
(´<_` )「ん?」
『て、敵艦より、小型の船、らしきものが現れました!!』
(´<_` )「なんだそれは?」
敵のよく分からない行動にオトジャは首を捻る。
この局面で小型船を使う理由が、分からないのだ。
そもそも、らしきものとはなんなのか。
目の前にあるのは氷で封鎖された海。
大型船で氷を砕き、進行しようとするならまだしも、小型の船で何ができるというのか―
『そ、その船なのですが......』
(´<_` )「ん?どうかしたのか?」
『こ、氷や艦の残骸の上を......進んでいます......』
(´<_` ;)「......は?」
470
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:33:45 ID:STw8idWQ0
何度目か分からない理解しがたい現実。
想定出来る筈もない、常識外からの攻撃である。
聞けば船底にバルーンのようなものが付いたような見た目の、船と呼んでよいのか分からないものが氷の上をまるで滑るように進んでいるという。
話を聞いてもオトジャにはそれがいったい何なのか、そしていくら小型船とはいえどうして座礁せず、氷の上を進めるのかが理解できなかった。
だから当然、こんなことを想定した作戦など有りはしない。
頼りになる兄も、今は近くにはおらず自ら判断し、行動しなくてはならない。
(´<_` ;)「......ならば」
出来ることを、するまで。
覚悟を決め、彼は立ち上がり、命令をする。
(´<_` ;)「総員、我々は偽装を解き、攻撃を開始する。魔法陣を起動せよ」
海戦の、終わりは近い。
471
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 19:34:08 ID:STw8idWQ0
続く
472
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 22:27:30 ID:NhMZT.qI0
乙
砕氷船が出てくるかなって思ったけどホバーかな?出たのは
473
:
名無しさん
:2023/08/05(土) 23:10:38 ID:UtISylbg0
おつおつ
ルナイファ流石にかわいそうになってきた
召喚地ってどのくらいの規模で召喚されたんだろう
国単位?大陸丸ごと?
474
:
名無しさん
:2023/08/06(日) 15:53:38 ID:l08aGs7o0
乙です
475
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:31:20 ID:BHcrJwo20
ルナイファ帝国 地下司令部
1463年3月1日
(; ´_ゝ`)「船が氷の上を走る、か。本当に魔法を使えないとは思えんなこりゃ」
その信じられないような報告を前に、アニジャはもう驚愕を通り越して感心してしまう。
何と敵の手札の多いことか、と。
ルナイファの戦争と言えば、数と技術力にものを言わせ圧倒することである。
それに対し敵のそれは相手に合わせて適切な手段をとるという、洗練された動きである。
( ´_ゝ`)「経験の差、かもしれんな」
これまでこの世界では大国同士の本格的な戦争は無かった。
その矛先は小国や、それこそ召喚された国々に向かうことがほとんどであり、同等クラスと戦う想定など、ほとんどされてこなかったのだ。
476
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:31:58 ID:BHcrJwo20
ようやく、他の列強との戦いに向けて準備を進めようとしていたところで、それ以上の敵が現れる。
同等の敵ですらほとんど想定されていないのに、格上の敵など考えたこともない。
そんな状態であるため、まともに戦いになるはずがない。
何もかもが、足りていない。
戦略も、技術力もだ。
( ´_ゝ`)「とはいえ、だ」
ふぅとため息をつきながらも彼は考える。
諦めたところで敵が帰ってくれる筈もない。
少しでも敵にダメージを与えるためには、思考を止める暇など無いのだ。
477
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:33:04 ID:BHcrJwo20
( ´_ゝ`)「もう上陸は止められんな」
『では、部隊を海岸線沿いへ......』
( ´_ゝ`)「いや、後ろに下げろ」
『はい?』
( ´_ゝ`)「港町まで後退だ。敵も家屋に紛れた奴らまでは把握できないだろう」
『......ま、町への被害が』
( ´_ゝ`)「そんなもの、気にしている場合か。なにもしなければ一帯が火の海になるかもしれんぞ」
『......了解、しました』
( ´_ゝ`)「よろしい。また、ここの基地の生き残りも向かわせろ。少しでも敵の足を止めるぞ。ただ無茶はするなとは伝えておけ」
『はっ......』
ムーへの上陸作戦の結果を見るに、敵は陸上でも強力である。
そもそも、敵艦が近づけないとはいえあの射程である。
沿岸にわざわざ陣地を作ればこれ幸いと遠距離攻撃で潰しにくるであろう。
478
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:35:24 ID:BHcrJwo20
そうなると真っ正面から防ぐことは難しい。
では出来ることはと言えば、敵が町へ侵攻してきたところへの不意討ち、詰まるところゲリラ戦である。
勿論そんなことをすれば建物だけでなく、逃げ遅れた住人たちへの被害も少なからず出る。
そんなことはアニジャも分かっている。
だが、これ以上の作戦をアニジャは思い付くことが出来なかった。
( ´_ゝ`)「やれやれ、将来の歴史書では敗戦した無能の将として載ってしまうかもしれんな」
『ほ、報告!』
( ´_ゝ`)「なんだ?」
そんなどうしようもない状況に頭を抱えていたところへさらに追撃の報告が入ってくる。
『な、謎の飛行物体を発見!超上空です!』
( ´_ゝ`)「超上空、とは?」
『とにかく、すごい高度を飛んでいます!ワイバーンの飛行限界を優に超えており......攻撃も届きません!!』
479
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:36:50 ID:BHcrJwo20
( ´_ゝ`)「敵からの攻撃は?」
『それが、ないのです。ただ、上空を飛んでいるだけのようで......』
( ´_ゝ`)「......なるほどなぁ」
その報告に、アニジャは点と点が繋がったと頷く。
これまで、敵がどうやってこちらの情報を手に入れていたか不思議であった。
だが、分かってしまえば単純なことであった。
ただ高空からこちらを覗いていたのだろうと、アニジャは推察する。
とはいえ、それを潰す手段を持ち合わせていないため、分かったところでどうしようもない。
( ´_ゝ`)「空は敵に支配された、か」
そうポツリとこぼし、改めて海図に目を落とす。
至るところに山のように積み上げられた塵がそこにはあった。
それらは大量にいたはずの味方は既に消えていることを、そして最早敵を止めることなど出来ないことを示していた。
480
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:38:15 ID:BHcrJwo20
( ´_ゝ`)「ワイバーンは残っているのか?」
『既にほとんどが撃墜されており......また基地がやられ、召喚用の魔方陣が機能しません。復旧も、すぐには......』
( ´_ゝ`)「そう、か」
『まともに残っているのは敵の上陸に備え、後方に控えていた陸上部隊のみ、です』
( ´_ゝ`)「......」
空からの支援も望めず、敵にぶつかることしか出来ない。
手詰まりと言っても間違いではないはずであり、どうしようもない絶望感が狭い司令室を包み込む。
かつて自国に滅ぼされた敵たちも、このような苦悩をしていたのだろうか―
481
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:38:52 ID:BHcrJwo20
とはいえ、切り札が全く無いわけではない。
特殊艦隊。
未だ敵に感づかれず、一撃与えられる位置にまで接近しているはずである。
( ´_ゝ`)「......オトジャ」
弟の名を呼び、願う。
ただその願いは敵に一撃与えることではなく。
彼の無事を願うためのものであった。
( ´_ゝ`)「......っ!」
そしてその時、海図に変化が現れる。
これまで動かなかった駒、特殊艦隊が動いたのだった。
482
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:39:44 ID:BHcrJwo20
ルナイファ帝国 軍港
(´<_` )「目標敵上陸部隊!」
敵の上陸を目指す部隊はこちらに迫り、目前に迫ってきていた。
その数は多く、これを見逃せば敵にこの港を奪われるだろう。
しかし、敵の上陸艦は何とも無防備な姿である。
さらにこちらに気がついていないならば、間違いなく叩き潰せる。
『敵艦を叩かず、狙いは上陸部隊のみでよろしいのですか?』
(´<_` )「......うむ」
敵艦を攻撃しようにも雷槍では命中率が悪く、魔炎では防がれるという情報がある。
さらに、防げるはずであった上陸が実現しようとしている今、優先すべきは上陸の阻止であろうとオトジャは判断していた。
483
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:40:27 ID:BHcrJwo20
とはいえ、ある意味ではチャンスかもしれないのだ。
敵はもうこちらに上陸を妨げる手段がないと、油断しているのだろう。
明らかに守りが弱いあの氷上を進む小舟ならば、間違いなく沈められる。
(´<_` #)「一隻でも多くに当てるんだ!いいなっ!!」
『はっ!』
一気に込められた魔力により、魔方陣が大きく煌めく。
そしてその余波に当てられ、空間が揺らめいたかと思うと偽装魔法で包まれていた艦隊が海上に姿を表す。
恐らく、敵もこちらを認識したであろう。
だが、それはもう遅い。
484
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:41:21 ID:BHcrJwo20
『魔方陣!起動完了!いつでもいけます!!』
(´<_` #)「よし!!......ってぇ!!」
あらんかぎりの声で叫び、攻撃を指示する。
その声に呼応するように、赤く燃える炎の塊が全艦より宙を舞う。
赤い軌跡を残し、天を駆けるそれは、真っ直ぐと港へ向かう部隊へと向かっていく。
予想通り、まともな対抗手段を持っていないのか、どうにか回避しようとするような動きが見られた。
485
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:42:30 ID:BHcrJwo20
だが。
(´<_` #)「そんな動きで避けられると思うなよ!!」
不意打ちのため上手く回避が出来ていないのか、もしくはそもそも旋回能力が低いのか分からないが曲がろうとするその動きは、ひどくゆったりしたものに見えた。
こちらは選び抜かれた魔術師を総員した特殊艦隊。
魔法の操作精度も、他より抜きん出ている。
心血を注ぎ魔法に打ち込み、そして血反吐を吐くほどの努力を積み重ねてきた。
だからこそ、この選ばれた艦隊に所属できている。
その結晶たるこの魔法を、そんな動きで防げる道理などあるはずがない。
放たれた魔法はまるで、それが当たり前かのように全て敵へと飛び込んでいく。
486
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:43:03 ID:BHcrJwo20
業火。
凍った海に、火柱が立ち昇り、砕けた氷が空に舞う。
キラキラの煌めくその光景は美しく、恐ろしいものであった。
(´<_` #)「っ、どうだっ!!」
迎撃も、魔壁のような防御もなく、火炎弾が突き刺さる。
そして、それに呼応するようにいくつもの爆音が響きわたる。
それは、火炎弾だけのものではない。
(´<_` )「こ、れは......!」
敵の小舟、そしてそれに乗っていたであろう、兵器が燃え上がる。
あれだけ、無敵を誇った敵たちが呆気なく沈んでいく。
攻撃が当たれば沈む。
そんな当たり前なことだというのに、敵の強大さから久しくその事を忘れていた。
487
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:43:53 ID:BHcrJwo20
だが、今。
彼らは思い出したのだ。
敵は無敵でも何でもなく、殺せるのだと。
艦全体が沸き上がる。
無理もない。
多くのものが何も出来ずに、この海に消えたのだ。
そして自分たちもそれに続くのだと、誰もが考えていた。
だが、どうか。
自分達は、あの強大なる邪悪な敵を打ち倒し、その鼻っ柱をへし折ったのだ―
(´<_` #)「呆けるな!!今しかないんだぞ!!ありったけ叩き込め!」
だが、オトジャはそんな事に感動している余裕など無いと言わんばかりに指令を飛ばす。
その言葉に数瞬、時が止まっていたものもハッと気がついたかのように動き出す。
488
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:44:39 ID:BHcrJwo20
そう、一瞬たりとも無駄にすることは許されない。
ここで如何に敵に攻撃を与えられるか、それはこの国の命運を握っているとも言えるかも知れないのだ。
少しでも敵を削ることができれば、敵が海岸線を維持することが出来ず、押し返すことも不可能ではないはずである。
『命中!全魔法、命中しました!』
『効果、絶大!』
(´<_` )「よしっ!追撃だ!さらに敵をおいこ」
『......っ!敵より、高速の光がこちらに向かってきています!』
(´<_` ;)「なっ!」
その報告に、オトジャは思わず心の中で舌打ちをする。
敵の行動が速い。
確かに何も抵抗なく攻撃させてくれるとは考えていなかったが、まさかここまで早く、対応されるとは考えていなかったのだ。
489
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:45:14 ID:BHcrJwo20
『ダメです!魔壁の出力最大には間に合いません!!』
『げ、迎撃不能!直撃します!!』
(´<_` ;)「総員、何かに掴まれ!!」
その言葉を合図に、再び海に業火が現れる。
凄まじい爆風が魔壁を叩き、そして砕ける。
(´<_` ;)「ぐおぉ!?」
ドゴン、と嫌な衝撃が艦を襲う。
その揺れにゾワリと嫌なものを感じながらも未だ沈む気配の無い艦に若干の安堵を覚える。
490
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:46:13 ID:BHcrJwo20
(´<_` ;)「被害報告しろ!どうなった!!」
『こちら魔法陣室、今の衝撃で魔力が霧散。機能は無事ですが充填に時間がかかるため再度攻撃が来た場合、防げるかは不明!!』
『四番艦、艦上部が爆風にやられました!沈む恐れはないものの魔法制御に影響する恐れがあります!!』
(´<_` ;)「むっ......」
流石に沈む艦はなかったものの、少なからず被害の報告が入る。
正面からの殴りあいでは敵わないと予測はしていたものの、こちらは最強の艦隊、少しは勝負になるとも無意識のうちに考えていた。
だが、その根拠の無い考えは一瞬にして吹き飛ぶ。
多少は耐えられるものの、決して無視できる被害ではない。
491
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:48:32 ID:BHcrJwo20
とはいえ、やはり敵も対処できる数には限りがあるのだろう。
先ほどの攻撃を無尽蔵に放つことができるならば既にオトジャ達はこの世にいないはずである。
それがまだ、生存できており思考できているのだ。
(´<_` ;)「......数さえあれば」
もし、ムー奪還に向かう際の戦力をもっと多く、国の限界まで出していれば勝てたかもしれない。
そんな今更ながら仮定に思い当たり彼は顔を歪ませる。
現実はもう既に戦力を使い潰してしまっており、敵に唯一対抗できたであろう数の暴力も、全て海の底である。
492
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:49:32 ID:BHcrJwo20
(´<_` ;)「......」
このとき、オトジャには2つの選択肢があった。
一つ目は最後までここで戦うこと。
敵艦隊に接近できている今なら、少しでも敵を減らすことが出来るかもしれない。
ただし、こちらは全滅無いしはそれに近い被害を受けるだろう。
もう一つの選択肢は撤退。
アニジャから聞いた通り、ここには転送用の魔方陣がある。
幸運なことにまだ施設は壊れていないため、機能するはずである。
だが敵を目の前に、さらに上陸しようという敵から逃げるなど許されるのか。
周りのものたちもこの国の守りの要、そして最後の砦とも言える最強の艦隊に所属しているという信念からか、逃げることなく最後まで戦おうという意思を感じられる。
ー脳から溢れ出る物質が恐怖を、そして理性を殺し、死んでも戦おうとする一種の暴走状態に陥りつつあったのだ。
493
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:53:32 ID:BHcrJwo20
(´<_` )「......魔方陣を起動せよ」
『っ......はっ!では攻撃準備を』
(´<_` )「違う、転送陣だ」
『え?』
しかし、オトジャは退くことを選択する。
その言葉に少なからず周りのものが動揺しているのが、伝わってくる。
『で、ですが......』
(´<_` )「ここでもう、我々ができることはない。だが、我々は負けたわけではない。生きていれば、負けていないんだ。そして、最後に勝てばいいんだ。今は、悔しいが奴らに勝てない。ならば、退こう」
『......了解、いたしました』
心の底から悔しさが滲み出るような声。
しかし反発はなく、受け入れられた。
その声の主も分かっているのだろう。
このまま戦っても、勝てないということを。
この国の最強の艦隊を持ってしても、まともな戦闘にならない。
この国の技術とプライドを結集しても、勝てない。
494
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:54:12 ID:BHcrJwo20
だがオトジャは言った。
今は、と。
その言葉に、ほんの少しだけ皆の心が救われる。
受け入れがたい現実ではあるが、まだ負けていない。
生きていれば、いつかは奴らを倒す機会がある。
そんなか細い可能性にどうにか皆が納得し、生き残ることを決意する。
当然の結論と言えるだろう。
今は戦地という興奮から麻痺しているが、本音で言えば皆死にたくはないし、あんな凶悪な敵と対峙などしたくないのだ。
495
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:56:05 ID:BHcrJwo20
『敵、追撃来ます!!』
(´<_` ;)「なんだとっ!?」
そして、その決意と同時に敵の追撃。
その報告に敵を見れば、艦から煙を吹き出し、多数の光が空に伸びる。
先ほどとは比べ物にならない量の攻撃がこちらに向かってきていることを示していた。
(´<_` ;)「転移陣の準備は!?」
『ま、まもなく完了します!!』
(´<_` ;)「発動急げ!」
敵の攻撃はこちらに届くまで10秒もかからないだろう。
先ほどの威力から考え、あんな攻撃を喰らえば壊滅的な被害を受けることになる。
敵の対応の早さは分かっていたはずであった。
だがそんな中で、一瞬ではあるが撤退するか、戦うかを考えてしまった。
それが、命取りになるかもしれないというのに。
自身の判断の遅さを呪うしかない。
(´<_` ;)「間に合ってくれ......っ!!」
祈るようにその言葉を叫んだその瞬間、オトジャ達は光に包まれたのだった。
496
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 12:56:31 ID:BHcrJwo20
続く
497
:
名無しさん
:2023/08/12(土) 17:13:50 ID:Tx3IVBiw0
乙
オトジャたちは逃げ切れたのか…
ゲリラ戦まで始まりそうとは泥沼化してきたかな
498
:
名無しさん
:2023/08/13(日) 03:10:46 ID:7ZQ2mgCg0
乙です
499
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:15:34 ID:f0uftMbQ0
ムー近海
1463年3月1日
ルナイファと対立する未知の国家と接触すべく、一月近くフィレンクトは船に揺られていた。
この日は快晴。
春の訪れを感じるような暖かな日であった。
そんなある日の昼下がり、フィレンクトは船の上で穏やかな波に揺られ、欠伸をしながら資料を眺めていた。
(‘_L’)「......うむぅ」
彼が読んでいるのは、ムーに潜伏している諜報員から送られてきていた報告書であった。
あまりに荒唐無稽な内容に出所の怪しい情報として多くのものから忘れ去られ、過去には廃棄されそうにすらなっていたものである。
だがルナイファのムーにおける敗北が確実となった今、どんな情報でもほしいと廃棄寸前であったその資料を見つけたフィレンクトが持ち帰り、今に至る。
500
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:16:50 ID:f0uftMbQ0
そして今日、改めて内容を確認してみると確かに怪情報としか思えないものばかりが出てくる。
やれ召喚された人間が魔法を越える何かを扱うだの、ルナイファを越える超大国が現れただの、砦のような巨大な艦を運用しているだの薬か何かをやったのではないかと思える内容ばかりであった。
(‘_L’)「......筋は通る、か」
だがしかし、そうと言えるのは半年前までである。
改めて現状と照らし合わせると信じられないことであるが全て矛盾なく辻褄が合う。
さらにムーにて、現地の調査員がルナイファと敵対する勢力と接触を行ったところ、相手から渡されたと言う品々についての報告書が魔信によって届けられていた。
その中にあるものを一つ取り上げるならば一定のリズムで時を刻む小さな針が付けられた円盤について書かれたものがあった。
501
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:18:53 ID:f0uftMbQ0
時間を示す道具とのことであるが、その小ささには驚きを禁じ得ないし、何より魔法であれば魔力の操作や魔石の補充などが必要になるというのに、この道具は光さえ当てておけば半永久的に動くと言う。
一体どんな原理が使われているのか、全く分からない。
どうにか原理を調べようとしたらしいが、分かったことは二つだけ。
一つは現時点では分解すればもう二度と戻せないだろうと言うこと。
そしてもう一つは魔法ではないなにかが使われていると言うこと。
最早何も分からないのとほぼ変わらない。
だが言い換えればとんでもない技術を持つ国がルナイファと敵対していることである。
この国がニータを救う一筋の光であることは、間違いないであろう。
502
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:20:48 ID:f0uftMbQ0
(‘_L’)「しかし......」
再び手元の資料に目を戻す。
そこに綴られているのは何度読んでも信じられない報告ばかりである。
その最たる一文はやはり、これらが人間の国家により引き起こされたということだろう。
これまでの常識が邪魔をし、これほどまでに常軌を逸した内容となるとやはり文字の情報だけでは信じようにも信じきれない。
そもそもエルフのなり損ないの劣等種族くらいに思っていた輩が、急に自分達を越えるものを生み出し、世界最強の国家を叩きのめしているなど、作り話であればもう少しうまく作るだろうと思えるほどである。
(‘_L’)「......確かめなくてはな」
だが確かに現実に起こっていることであると報告があり、証拠もある。
そしてそれが自国の運命を左右すると言うならば、これを切り捨てることなどできるはずがない。
503
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:22:29 ID:f0uftMbQ0
どうにか召喚された国との交渉の場を設けることには成功した。
後はその交渉をどうにかするのみ。
それが、フィレンクトがここにいる理由である。
―果たして、自分は一体この目で何を見ることになるのか。
様々な不安と、微かに感じる希望を胸に、彼は未知の国家との接触を目指す。
504
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:24:29 ID:f0uftMbQ0
ルナイファ帝国 地下司令部
海戦が終わった。
その事を示すように、先ほどまで海図の上で動いていた駒達は全て消え、そのほとんどが塵と化していた。
もう味方を示すものはなにもなく、海上で敵を止められるものは誰もいない。
それが何を示すのか分からないほどアニジャは愚かではない。
海での戦いは完全なる敗北であり、敵に支配された。
さらに付け加えるならば、ワイバーンも撃墜され、こちらからの攻撃が届かない遥か上空を押さえられた以上、空も敵のものといえるであろう。
すなわち残るは陸のみであり、完全に追い込まれていた。
505
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:25:40 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「......とはいえ、だ」
だが、何も出来なかったわけではない。
オトジャ達、特殊艦隊の活躍により敵の上陸部隊に攻撃を加えることに成功しており、上陸地点近くには元からいた部隊に加え、基地の生き残りの部隊も出している。
敵の先制攻撃により、陸上の部隊に大きな被害が出ていたとはいえ、数が武器のルナイファ、今回の戦いに向けてかなり無茶をして戦力を集めただけあり、まだまだ大部隊が陸に残っていると言える。
一方で敵は強力だが、複数とはいえ小舟を利用した上陸部隊。
さらに一部の迎撃に成功していることから数は多くないはずであり、こちらを制圧しきるにはそもそも数が足りないであろう。
つまり、このままいけば多大な被害が出たとはいえ、この地を敵に奪われない以上、防衛という面では成功と言える。
506
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:27:41 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......」
だが、それがアニジャには腑に落ちなかった。
敵がその事に気づかないとは考えられなかったからである。
アニジャであれば、不意討ちがあった時点で上陸を諦め、作戦目標を港施設への攻撃による破壊のみに切り替え、撤退する。
それだけで十分な戦果であるし、そもそも無理に進めたところで上陸地点を確保できない以上、無駄に命と資源を消費するだけになる。
だが、敵はそれをしてきたのだ。
これまでの戦況から考えれば敵の目標たるこの港はほぼ壊滅と言ってもいい被害を受け、さらに後方のこの基地も壊滅しており、上陸は無理でも十分すぎる戦果といえるはずである。
どう考えても無理に上陸を進める局面ではなく、それこそ万全の状態で再度侵攻するだけで良いはずなのだ。
ではなぜ、そんなことをするのか―
507
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:35:50 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......焦っているのか?それで無茶な命令が出ている?」
そして、ふとそんな考えに行き着く。
突然の思い付きだが、案外しっくりくるものであった。
思えば敵は召喚され、資源的に余裕がない可能性がある。
そんな状態で戦争に巻き込まれたためにルナイファに対して凄まじい恨みを持ち、また国の近さから脅威であるため、敵からすればルナイファをすぐにでも滅ぼしたいはずである。
故に、敵の本土を出来る限り早く上陸を完了させて滅ぼすことが望まれ、無茶な命令に繋がってしまったのではないか。
一つの可能性、単なる思い付きに過ぎないが、あり得ない話ではない。
敵も軍人である以上、国からの意思と命令には逆らえず、無理な作戦をさせられることもあるであろう。
508
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:36:27 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「案外異世界の人間達も、我々と同じなのかもしれんな」
世界も種族も違うのに不思議なものだと、小さく笑う。
その言葉の通り、上からの指令に逆らえないのはルナイファも同じと言えるだろう。
自国に下れと脅し、従わなければ実際に国土を奪い取り、交渉という名の命令を行う。
そのための手段として軍人達がこれまで一体どれだけ命令され、無理に動かされてきたか。
改めて酷いものだと、今更になって感じてしまう。
そしてこれは、その報いなのかもしれないとも感じてしまうのだ。
昔はそうではなかったらしいが今では上層部はコネが重視され無能ばかり。
それでも成果が出てしまうほどに強大な力を持ってしまっていたことがさらにこの国の腐敗を進めてしまっていた。
509
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:37:18 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......その尻拭いが、これか」
そのために一体いくつの命を支払えばよいのだと、アニジャはため息をつく。
流石に本土にこれほどまでの攻撃を受けたのだから、多くのものが目覚めてくれると信じたい。
だが、相手はあのプギャーを始めとしたルナイファの狂信者と言えるものたち。
ルナイファが最強であり、神に等しいとまで考えてそうな彼らがこれでも現実を受け止められない可能性があるということだけでも頭が壊れそうなほどに痛む。
510
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:37:48 ID:f0uftMbQ0
『報告っ!!』
(; ´_ゝ`)「っ!」
そしてそんな痛む頭に突き刺さるかのように、大声の連絡が魔信から鳴り響いた。
あまりに慌てたような、悲鳴に近い声に驚き、痛む頭を押さえつつアニジャは応答する。
(; ´_ゝ`)「どうした?何があった」
『て、敵が、そ、空から!!』
( ´_ゝ`)「っ、空襲か。制空権がない以上、どうしようもないな。だが陸上部隊は空から見えないよう隠れているのだろう?」
『いえ、ち、違うんです!あ、いえ、確かに陸上部隊にも攻撃が行われていますが......』
( ´_ゝ`)「報告ははっきりしろ。何が言いたいのかさっぱりだ」
511
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:38:31 ID:f0uftMbQ0
『す、すみません!そ、その、て、敵が、基地上空より、侵入してきています!!』
( ´_ゝ`)「......?それは、件の高速に飛ぶという飛行物体が再度、基地上空に侵入してきた、ということか?」
『それも、ありますが......空から、敵兵が基地に降ってきており、侵入してきているのです!!』
(; ´_ゝ`)「......なんだと?」
それはもう何度度目か分からない、アニジャの常識を超えた報告であった。
確かにこの世界にはワイバーンという航空戦力がいる。
だがワイバーンはその飛行の繊細さからものを持たせたり、騎乗したりなどが出来ず、空の移動として使うことが出来ない。
それゆえに空からの攻撃と言えばワイバーンのブレスくらいなものであった。
しかし、敵は空から兵を送り込むという反則とも言えることをしてきたのだ。
前線を回避し、敵の後方に回り込めるその機動性は戦い方そのものが変わってしまうほどのものである。
512
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:40:06 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「......ここに残っている兵は?」
『わずか一部隊のみであり、魔道具もわずか......魔石も最初の攻撃でほとんどが吹き飛ばされました』
(; ´_ゝ`)「......」
『最早......我々に抵抗できる力はありません』
基地は崩壊した時点で司令部と最低限の兵のみを残し、他は全て迎撃部隊へ合流させていた。
そんな戦力では報告の通り、抵抗など出来るはずもない。
そして、もしここを敵に制圧されたとすれば。
迎撃部隊は敵の上陸部隊とここの制圧した部隊で囲まれ、完全に孤立することとなる。
他の基地から援軍を呼ぶにしても、そもそも今回の迎撃のために付近の戦力の多くが集められたため、すぐに動かせるものはない。
513
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:42:00 ID:f0uftMbQ0
(; ´_ゝ`)「やられた......」
完全に、敵にしてやられた。
上陸の強行も決して無謀な作戦などではなく、こちらの戦力を引き付けさせる立派な作戦だったのだと悟る。
多数いる陸上戦力は後方と分断されてしまったのだ。
また海だけでなく空から兵を送れるとなれば、数による優位も保てるか怪しい。
この一手で敵を迎え撃つ立場から、狩られる獲物と化してしまっていた。
そしてそれは彼ら、アニジャ達も同様であった。
『司令......ご決断を』
魔信から聞こえたその声は、覚悟を決めたものであった。
その意味が分からないわけではない。
こんな状況で最後に決断することなど、一つしかない。
514
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:42:53 ID:f0uftMbQ0
『皆、覚悟は出来ておりますっ!どうか、命令を!』
( ´_ゝ`)「......そうか」
そう言い、アニジャは目を閉じる。
皆の覚悟を受け止めると言うことは、その命を背負うことに他ならない。
彼もまた、その覚悟が必要だったのだ。
そうして数瞬の後、覚悟を決め、アニジャはカッと目を開き、言葉を発した。
( ´_ゝ`)「では、皆に最後の命令をする。抗命は許さん」
『っ!』
もう後戻りは出来ない―
それを意味する言葉、つまり今日この日に命を散らす。
いくら覚悟をしていても動揺は隠せない。
515
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:44:24 ID:f0uftMbQ0
死を間近にしたもの達のみが味合う、極度の緊張感の中、アニジャは言葉を続けた。
( ´_ゝ`)「全軍、抵抗を禁ずる。我々は敵に、降伏する」
『......なっ!?』
その言葉は、誰もが予測し得なかったものであった。
先ほどまで張り詰めていた緊張感から一転、困惑が広がる。
そしてその困惑はいつしか、アニジャへの怒りへと変わりつつあった。
『て、敵に降伏すると!?そう仰られるのですか!?』
( ´_ゝ`)「そうだ」
だがそんな怒りに対してアニジャは態度を変えず、至って冷静に言葉を返す。
516
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:45:25 ID:f0uftMbQ0
『こうして、我々の国を侵略されているのですよ!?軍人として、この国のエルフとして、最後まで戦わせてくれないのですか!?』
『それだけでも屈辱的だというのに......聞けば敵は人間と言うではありませんか!!人間の捕虜になるなど、生き恥以外の何物でもありません!』
『ただでさえ捕虜など扱いが酷いものなのに加えて敵は野蛮な種族!一体どのような扱いをされるか―』
( ´_ゝ`)「皆、聞け」
響き渡る怒りの声を遮るように、アニジャは言葉を発した。
その声は決して荒げた声ではなかったが力強く、興奮していた者達が皆、ぴたりと言葉を止める。
それこそ、魔法にかかったかのようにしんと静まり、アニジャの次の言葉を待った。
517
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:46:07 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「......ルナイファは強い」
『......?』
( ´_ゝ`)「皆も、知っているだろう。我らが祖国、ルナイファは世界で最も優れた国家である。我が国は強い。違うか?」
『......』
( ´_ゝ`)「そう、我が国は強いのだ。これは間違いない。だが......今日、我々は負けた。これも、間違いない」
( ´_ゝ`)「だが......今日の敗北は、決してルナイファが負けたことを意味していない。我が国は、決して負けていないのだ!!」
『っ!!』
( ´_ゝ`)「我が国は、決して滅びることはない!皆も知っているだろう!我が国の、強大さを!!戦いはまだ続くのだ!!その戦いから、皆は逃げるというのか?今ここで、無駄に死ぬというのか!?これから続く戦いを、我が国で残された本来守るべき者達、君たちの家族や友人に託し、無駄に死のうと言うのか!?」
『......』
518
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:47:02 ID:f0uftMbQ0
( ´_ゝ`)「そう、我々は生き延びねばならない!!我々は軍人だ!戦いがあるのならば、その時まで戦おうではないか!皆を守るために!!決してそれが泥水をすするような、生き恥を晒すようなことになろうとも、だ!」
( ´_ゝ`)「我々は、生き残らなければならないのだ!二度と、そう、もう二度とこのような失態を起こさないために!!今日、この日、あの凶悪なる敵を知った我々は生き残り、生き証人として!!国を、ルナイファを守るために!!」
『っ!!......ぅ......ぅ』
気が付けば魔信から聞こえるのは嗚咽に変わっていた。
自国を踏み荒らされる屈辱、そして野蛮な種族と見下していた者達に敗北したという受け入れがたい現実。
プライドというプライドを破壊され、誰もが涙を流す。
519
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:48:54 ID:f0uftMbQ0
そしてそれと同時に皆が理解していた。
そんなプライドがあったところで、この状況をどうすることも出来ないのだと。
( ´_ゝ`)「......皆、良いな?もう一度、命令する。敵に降伏する。そして追加で命令だ。決して死ぬな、自決も許さん」
『了解、しました......』
無念である。
その声はそう言っているようにアニジャは聞こえた。
そしてそれは気のせいではないのだろう。
だが皆、ここで無茶に玉砕するような蛮勇など持ち合わせていなかったのだ。
そんな様子にアニジャは安堵し、小さくため息をつく。
(; ´_ゝ`)(やれやれ。降伏するのにも一苦労だな。後は敵さんが受け入れてくれるか、だが......俺達は恨みを買いすぎた。一人でも多く生き残ることが出来れば良いが、どうなることやら)
こうしてアニジャ達は無抵抗で降伏を決断。
これによりルナイファは本土防衛に失敗、建国後初めて本土の領土を失うこととなったのだった。
520
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 20:49:23 ID:f0uftMbQ0
続く
521
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 22:59:28 ID:oefSvpLU0
おつ!
流石兄弟めっちゃ優秀だな
しかし上層部がめちゃくちゃにしそう
522
:
名無しさん
:2023/08/19(土) 23:24:13 ID:rOUqMBAw0
兄者、名将すぎんか?
523
:
名無しさん
:2023/08/20(日) 09:12:57 ID:VOonrgkg0
乙
524
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 11:58:33 ID:udmqBVI.0
ルナイファ帝国 帝城
1463年3月4日
(;´-_ゝ-`)「申し訳、ございません。全て私の責任です」
大粒の汗をかき、死人のような顔で頭を下げる男の姿がそこにあった。
原因はもちろん、本土防衛の失敗である。
一会戦は耐えきれるようにと、回せるだけの戦力を回していたはずであった。
確かに敵が強力であり、多大な被害、それこそ全滅に近い被害が出ることは予測していた。
それでも敵の上陸だけは防げるはずであった。
それだけの戦力はあったはずであり、準備を進めてきたはずであった。
/ ,' 3「......」
(;´-_ゝ-`)「どのような罰も、受ける覚悟です」
525
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 11:59:14 ID:udmqBVI.0
しかし敵の作戦により、それは呆気なく崩壊した。
力だけでなく、戦術でも後れを取っていたのだ。
これによりまともに戦うことも出来ずに消えていった戦力も少なくない。
その責任の重さから、デミタスは今日、死ぬ覚悟でここに来ている。
/ ,' 3「......ロマネスクよ」
そんなデミタスの様子を眺めながら、口を閉ざしていたアラマキがようやく言葉を発する。
その声は、至って冷静そのものであった。
( ФωФ)「はっ、何でしょうか」
/ ,' 3「此度の敵を、貴様はどう見る?」
( ФωФ)「......どう、とは?」
526
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:00:39 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「奴等は......噂では我が国よりも遥かに強力と聞く。貴様から見ても、間違いないのか?」
( ФωФ)「えぇ、間違いございません」
ロマネスクはアラマキの問いかけに対して即答する。
力強く、間違いないと。
そして、続けた。
( ФωФ)「我々が召喚した人間達は、怪物です。世界最強であると断言できます」
/ ,' 3「何故そう言いきれる?」
( ФωФ)「初めは、確かに我々は彼等を侮っていましたが、ムー奪還作戦、そして今回の本土防衛戦、そのどちらも間違いなく本気でした。それでも勝てないのです。世界最強と吟われた我らが全力を尽くしても、です。この事実のみで、十分なのではないですか?」
/ ,' 3「......ふむ」
527
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:01:10 ID:udmqBVI.0
そうしてまた、暫くの沈黙が辺りを包み込む。
アラマキは手を口元にあて、深く考え込むような仕草をする。
その体勢のまま、再びの質問を投げ掛けた。
/ ,' 3「では質問を変えよう。我々は奴らに勝てるのか?」
( ФωФ)「......勝つ、という定義によりますな」
/ ,' 3「......そうか」
その言葉だけで、何かに納得したのだろう。
アラマキは深くため息をつき、頭を抱える。
/ ,' 3「我々は世界で間違いなく最強であったはず......それを自ら異界から呼び出したもの達によって崩すことになるとはな」
( ФωФ)「......陛下」
528
:
名無しさん
:2023/08/26(土) 12:01:59 ID:udmqBVI.0
/ ,' 3「デミタスよ」
(;´・_ゝ・`)「は、はっ!」
/ ,' 3「頭を上げよ。今回の件は、貴様のみの責任ではない。不問とする」
(;´・_ゝ・`)「ですが......」
/ ,' 3「ロマネスクよ、聞くところによると今回の敗戦で海軍は壊滅状態と聞くが真か」
( ФωФ)「はい。南方は壊滅。他の地方についても今回の迎撃のために多くの艦が引き抜かれ、大幅な弱体化。これまでの敗戦により予備戦力も少なくないため、領海をカバーしきれません」
/ ,' 3「なるほどな。では再建のために、優秀な人材を失うわけにはいかんな」
(;´・_ゝ・`)「陛下......」
/ ,' 3「とはいえ、次はないと思え。間違いなく、成し遂げてみせよ」
(;´-_ゝ-`)「ははっ!」
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