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仄暗い水の底のようです

1名無しさん:2022/08/06(土) 19:09:51 ID:iH32PQpI0




百物語のようです2022参加作品
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2名無しさん:2022/08/06(土) 19:11:35 ID:iH32PQpI0

仕事に詰まるとこの喫茶店に来て美味しい珈琲を飲むのが習慣になっている。
今日もまた、逃げてきた。家に缶詰で作業をしていると息が詰まってしまう。
ここはいつ来ても客がたくさんいるが、皆各々過ごしているので談笑なども気にならない。
店員のこだわりであるソファーやチェアーはあちらこちらに置かれている。
毎度同じ席に座るわけではない。今日は店の奥の端っこにある深いソファーに座った。そういう気分だった。

3名無しさん:2022/08/06(土) 19:12:07 ID:iH32PQpI0


(-@∀@)「お待たせ致しました」

(´・_ゝ・`)「ありがとう」

カチャリと静かにホットコーヒーが置かれた。
鼻先を擽る香りが心地よい。やはりここの珈琲は良い。

一口飲んで、ため息をつく。そしてカップを置いたところで、視線に気がついた。

(‘_L’)「……」

(´・_ゝ・`)「あの、何か?」

4名無しさん:2022/08/06(土) 19:12:48 ID:iH32PQpI0

向かいのカウチに腰を掛けた男と目が合い、その鋭い眼に思わず声をかけてしまった。
男はハッとした顔をしたあと、土下座でもしそうな勢いで頭を下げ出した。


(‘_L’)「ああ、ああすみません。すみません。あまりに美味しそうに珈琲を飲まれているから、つい見てしまいました」

喫茶店で珈琲を飲むことが珍しいのか?
男は冗談を言っているようには見えず、心の底からそう思っているという風に言った。

(´・_ゝ・`)「美味しいですよ、ここの珈琲」

(‘_L’)「いやあすごい、すごいですね、やあやあ美味しそうな香りだ」

(‘_L’)「……よく飲めますね」

(´・_ゝ・`)「え?」

急に、男の声が低くなって驚く。
珈琲が飲めないのだろうか。
それにしたって、いちいちの言葉に棘を感じる気がする。

5名無しさん:2022/08/06(土) 19:13:47 ID:iH32PQpI0


(‘_L’)「ああ、ああ、すみませんすみません、つい羨ましくて。……というのもね、私も珈琲が大好きだったんです」

(´・_ゝ・`)(『だった』?)

(‘_L’)「でも、飲めなくなってしまった」

大きな溜息が聞こえた。それがあまりにわざとらしく演技じみていたので、話を聞いてほしいのだと思った。

今更席を変えるのも面倒だ。
何より、1番端の奥の席なのだ。
別の席に行くには男が座っているカウチが邪魔だ。

時間もある。仕方がないので、この面倒くさそうな男の話を聞いてやることにした。

6名無しさん:2022/08/06(土) 19:14:09 ID:iH32PQpI0

(´・_ゝ・`)「アレルギー……か何かですか?」

(‘_L’)「いえ、いいえ、私はね珈琲が大好きでした」

男はニンマリと笑った。

(‘_L’)「そうですね、どれくらい好きだったかというと、最早依存の域で、私は職場でも毎日珈琲を飲んでいました。後輩が淹れてくれるんですよ」

(‘_L’)「しかしながら私、きっと何か気に入らないことをしてしまったのでしょう、人に嫌われていたのです」

(´・_ゝ・`)(何となく、わかるな)

失礼なことをぼんやり考えていた。
何かはわからない、話し方かもしれない、もしくは下卑た笑顔か。
人を不快にさせる何かがこの男にはある。数分しか話していないのに、そう感じる。

7名無しさん:2022/08/06(土) 19:15:08 ID:iH32PQpI0


(‘_L’)「それでもね、淹れてくれるので毎日毎日珈琲を飲んでいました」


(‘_L’)「毎日毎日毎日毎日淹れてくれるのです、飲み終わったらすぐにコップを持って行ってねまた淹れてくれる、わんこそばわかりますか?あんな感じでしたよ」


(‘_L’)「それでね、そうだなぁ。貴方、闇鍋ってやったことありますか?」


(´・_ゝ・`)「闇鍋ですか?……ああ、学生の頃友人とふざけてなら」


(‘_L’)「ああ〜!良いですね良いですね!!ご友人と!楽しい思い出だあ!!」


パン!と両手を頭上で叩いて笑っている。
その音と声の大きさにビクッとし、周りを見渡す。
誰もこちらを見ていない。
店内は客が結構入っていたが静かに感じる。なので音が響くのだが、案外己の世界に夢中で気にしないものなんだな、と変に感心してしまった。

8名無しさん:2022/08/06(土) 19:15:41 ID:iH32PQpI0


(‘_L’)「私はねぇ無いんですよ友達がいなかったから!なので想像の話になるんですけどね、暗闇の中でやるんでしょう?あれは!暗い中で何が入っているかわからないものを食べるんですよね?」


(´・_ゝ・`)「は、はぁ……まぁ」


(‘_L’)「なるほど!友人と、そういうものだとわかってやれば楽しいのかもしれませんね!」


(´・_ゝ・`)(何が言いたいんだこいつ)


(‘_L’)「でもね私の場合は違います、そういうものだとは思って無いんですよ。だって厚意でくれてる物ですからね」


(‘_L’)「ある日ね、淹れてもらった珈琲がやけにぬるかったんです。おや?と思いました。でも味は変わらず美味かったので飲みました、それはもうPCをカタカタ打っては飲んでカタカタ打っては飲んでカタカタ打っては飲んで」

9名無しさん:2022/08/06(土) 19:16:04 ID:iH32PQpI0


(‘_L’)「それでね、飲み終わった時に丁度後輩は席を外していたんです。だから普通ならその時点でカップは持っていかれて新しいのが淹れられるんですけど後輩は席を外していたから飲み干したままのカップはそのままだったんです」

(‘_L’)「中身が空っぽなのを忘れて口にカップを運んでしまいます、ええ、ええ、もはや習慣というか癖になってるんです、カタカタ打っては飲んでが。でね、カップに口付けようとして、あっ空になっていたなと思って口から離そうとして」

(‘_L’)「空のカップの中に目が行ったんです」

(‘_L’)「空になったはずのカップにはね、大小様々なゼムクリップが4、5個入っていたんですよ」

(´・_ゝ・`)「ええ……」

(‘_L’)「わかりますか、わかりますか?空だと思っていたカップにクリップが複数入っていた時の気持ち、ゾッとしましたよ!何も気付かず飲んでいたのです、珈琲って黒いでしょう、私はブラックで飲むのが習慣でしたからもう真っ黒な液体の中に何が入っていてもわからないんですよ、気づけないんですクリップ位って思いますか?飲んでいた物の中に関係ない無機物が入っていたら気持ち悪くなるのは当然じゃ無いですか?」

10名無しさん:2022/08/06(土) 19:16:31 ID:iH32PQpI0

(´・_ゝ・`)「こ、後輩が入れていたとか?」

(‘_L’)「わかりませんわかりません、恐ろしくて確認なんてできませんでした、その後後輩は何事もなくカップを持っていき新しい珈琲を淹れてきました。わかりますか、わかりませんか?何が恐ろしいか。今まで飲んでいた珈琲にも何か入れられていたかもしれないこれからの珈琲に入れられているかもしれない何せ珈琲は黒い液体ですから、無機物が入っていても分かりづらいし唾や虫が入っていてもわからないのです」

(‘_L’)「ねえ、わからないんですよその黒い暗い液体の中に何か入れられていたとしても、飲み終わるまで飲み終えてもわからないかもしれません」

(‘_L’)「ねえ、恐ろしくないですか恐ろしくないです?わからないって恐ろしいでしょう、私はねぇもう飲めないんですよ珈琲……」

(´・_ゝ・`)「そう、ですか……」

11名無しさん:2022/08/06(土) 19:17:01 ID:iH32PQpI0

何でこんな話を聞かされなきゃいけないんだ。言いかけた言葉をぐっと堪えた。
声をかけてしまった自分に腹が立つ。
男はまた演技がかった顔をして言った。

(‘_L’)「ああ、ああ、すみませんすみません、こんな話をしてしまって、ついね、つい、羨ましくて話をしてしまいました……はは、はははははは」

(‘_L’)「邪魔をしてしまいましたね、すみません……どうぞ、折角の珈琲、楽しんでくださいね」

男が無遠慮に黒い液体が入ったカップを指差した。
指の先を何故だか見たくなかった。

(´・_ゝ・`)「……」

なんて返したものか、悩む。
珈琲の上に漂う湯気を見つめて、嫌な話を聞いたなと思いながら顔を上げる。

12名無しさん:2022/08/06(土) 19:17:46 ID:iH32PQpI0


そこにはもう男はいなかった。

(;´・_ゝ・`)「何だったんだあいつ……」

静かだった店内にざわめきが戻ったような感覚だ。急に周りの話し声が聞こえ出して、カウチには誰も座ってなかったかと思わせる空気だった。

何だったんだ、ともう一度口にしてカップに手を伸ばす。
黒い、暗い液体が揺れる。まるで波紋のように。

13名無しさん:2022/08/06(土) 19:18:19 ID:iH32PQpI0




──中に何か入れられてたとしても──







(;´・_ゝ・`)「……」

14名無しさん:2022/08/06(土) 19:18:47 ID:iH32PQpI0


そんなはずは無い。この喫茶店には何度も通っている。
何かが珈琲に入っていたことなんてない。
入っていたらすぐわかる。そうだろう。
そう、だろうか?
先程の男の、耳障りな声がこだまする。
黒いからわからない、もし何か入っていたら?入るわけがない。
自分はあの男とは違う。入っていたことはない。

確かめたことは、ない……。
当たり前だ。

(;´・_ゝ・`)

(;´-_ゝ-`)(……あんな男の話聞くんじゃなかったな)


カチャリ、カップを置く。良い香りだと思っていたそれが、途端に得体の知れない黒い液体に見えてしまったのだ。

どうしても、今日は飲む気にはならなかった。
多分、しばらくは、きっと──

15名無しさん:2022/08/06(土) 19:19:35 ID:iH32PQpI0






   )
  i  フッ
  |_|





使用お題『波紋』

ありがとうございました。

16名無しさん:2022/08/06(土) 19:32:49 ID:KL59HIOE0
おつおつ

17名無しさん:2022/08/06(土) 21:26:18 ID:40AtPx260
フィレンクトぶん殴りてぇ〜
おつした!!

18名無しさん:2022/08/06(土) 22:40:30 ID:c.fLMhtg0
乙です

19名無しさん:2022/08/07(日) 00:38:38 ID:2qPUcXaI0
乙乙
フィレンクトの話し方も良かった
不快感を覚えつつも、つい聞き入ってしまう

20名無しさん:2022/08/18(木) 22:18:27 ID:im3qVXC20
すげぇ嫌な話でよかった


21名無しさん:2022/08/27(土) 16:34:20 ID:sEpNgJa60



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