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( ・∀・)ボクらの英雄譚のようですミ,,゚Д゚彡
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命の温もりが零れ落ちていく中、
毛皮をまとった獣人の体に神々しい光が絡まっていく。
意識の全てが消える最中、彼は友の声を聞いた。
( メ∀・)「い、け……フサっ!」
ミ,,゚Д゚彡「――っ!」
貫かれたはずの心臓が大きく脈打つ。
そのことに驚きながらも彼は大きく一歩を踏み抜き跳躍する。
友が最期に賭けたというのならば、応えなくてはならない。
騒がしいはずの城内がやけに静かに感じられる。
滴る血の音すら聞こえてきそうな中、フサは全ての思考を投げ出して目標に向かう。
ひと呼吸分の時間だ。
無駄に割く余力などない。
ミ,,゚Д゚彡「終わりだ」
_
(;゚∀゚)「やめ――!」
煌びやかな装飾も、美しい金属の輝きもない。
低品質な鉄で作ったちっぽけな槍を前へ。
皇帝の心臓へ目掛けて突き出す。
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幼い子どもにとっての世界とは、自身の目の届く範囲のことを指す。
帝国の片隅、貧しい農村の子どもとして生まれたモララーにとっての世界とは、
鬱屈とした雰囲気が漂い、今にも砕けて消えてしまいそうな村であった。
物心ついた時から腹が満たされたことは一度としてなく、
春から秋にかけて痩せた土地を懸命に耕しては周辺の荒れた土地から自然の恵みを頂く。
冬は備蓄していた食料を細々と消費していき、毎年村から十数人の死者が出る。
( ・∀・)「こんなのおかしいとは思わんかね」
ミ,,゚Д゚彡「……ん」
背をピンと伸ばし、モララーは空を見上げる。
何度も修理された跡のあるボロボロのクワを握る彼の手には、自然の厳しさから身を守るための硬く厚みのある毛皮。
頭にはぴょこりと動く耳があり、下半身には意識せずとも動く尻尾が生えている。
彼らは獣人と呼ばれる種族であった。
人間よりも頑丈で体力があり、力仕事を含めた荒事に適性があるが、その寿命は人間の半分程度。
対して、人間は脆く弱い存在であったが、手先の器用さや魔法への適性が強く、
両者は互いの長所を高め合い、短所を補い合うようにして歴史を築いてきた。
しかし、数百年前辺りから、帝国では魔法技術が急速に発展し、
今では魔道具と呼ばれる魔力を原動力にした超技術が戦いと生活の両方で活躍している。
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魔力への適正が低い獣人の殆どは魔道具を使うことができず、
兵士としての戦闘力も、市民としての労働力も期待されないようになってしまった。
その結果、獣人達の殆どは僻地に追いやられ明日も知れない生活を強いられている。
一部、町に残ることができた者達も路地裏で物乞いをできれば良い方で、
大半は奴隷として過酷な労働に従事させられるか、尊厳のないような扱いを受けているらしい。
ミ,,゚Д゚彡「でも、どうしようもない」
( ・∀・)「それがいかんのだよ!」
モララーは非力な腕でクワを持ち上げ、天へ掲げる。
( ・∀・)「こんな停滞した世界で生きることを受け入れるなど馬鹿のすることだ!
ボクらは抗うべきだよ。このクソみたいな世界に」
ミ,,゚Д゚彡「……で?」
モララーのこれは今に始まったことではない。
獣人にしては珍しく魔法の適正があった彼は幼少期から聡明で、
村の飢えた子ども達が虫を採って食べていた頃から親に本をねだっては首を横に振られていた。
彼と幼馴染であるフサは典型的な獣人とも言える性質を持っており、
親から言いつけられた仕事を黙々と、時に周囲の大人以上の力でこなしていた。
貧しい村の中でどちらの方が褒められるか、と言えば後者である。
知識とは、ある程度の余裕がある中でなければ習得すら難しいものだ。
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大人達から明らかに差のある扱いを受けていた二人だが、
幸いなことにモララーは他者からの評価を気に留めないため劣等感を抱くことなく、
フサは自分の目で見て感じたものしか信じない性質であったため優越感で偉ぶることもなく、
非常に良好な関係を構築することができていた。
( ・∀・)「ボクはね、いつかこの国に革命を起こしたいんだ」
役人もおらず、監視の目もないような村だからこそ声を大にして言うことができる。
こんなことを街中で言おうものならばその首は地面に落ちていただろう。
ミ,,゚Д゚彡「お前が?」
( ・∀・)「キミと一緒にさ!」
ミ,,゚Д゚彡「……巻き込むな」
( ・∀・)「じゃあキミは今の生活に満足してるのかい?」
ミ,,゚Д゚彡「……」
( ・∀・)「ほら見たことか」
フサは土を耕すのを止め、モララーに向き直る。
水浴びも碌にできないこの生活で、本来は黄色であるはずの彼の毛はフサのような茶色に染まっていた。
ここにあるのはそれだけだ。
どこまでも続く、栄養のない土と懸命に体を大きくしようとする少量の作物。
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視線だけで周囲を見ればある者は飢えに苦しみ、またある者はものを言わぬ屍となっている。
村を捨てる選択すらできぬほどに体力も気力もそぎ落とされ、
その日その日を生きるためだけに皆、漠然と体を動かしているだけ。
満足などできるはずのない世界だ。
( ・∀・)「ボクら獣人の足はさぁ、苦痛を味わう日々を歩くためにあるわけじゃないんだよ」
広い大地を駆け抜けるためにその足はある。
いつかの旅人が語っていた言葉だ。
自由を愛すると格好をつけていた人間の男は、ふらふらとこの村に迷い込み、
いくつかの知識と引き換えに屋根のある寝床を求めた。
飯はないが空き家ならばある。
滞在日数は二日程度であったが、外から来たその男にモララーはよく懐いた。
好奇心の赴くままに問いを投げかけ、答えを貰い、時たま夢物語を聞かせてもらっていた姿を村人全員が見ている。
そのお話の中では獣人も人間も互いに手と手を取り合い、対等な立場でものを考えて事を成す。
英雄と呼ばれた獣人さえいたんだ、とモララーは高らかに語ってみせた。
( ・∀・)「キミとならやれるとボクは思ってる」
彼がフサを誘うのは幼馴染だから、という理由ではない。
大人も子どもも真っ暗な目でただ生きているだけの停滞しきった世界の中で、
フサの瞳は静かに凪いではいたが鮮やかな光を宿していたからだ。
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( ・∀・)「勿論、無計画ってわけじゃない。
まずは村の意識改革。
それが終わったら獣人の村や町を回ろう」
その辺りの具体的な案はその時に、と、
モララーは指を指揮者のように振って楽しげに話す。
( ・∀・)「協力者をたくさん作るんだ。
最後は一斉蜂起。
村や町の騒ぎに乗じて王様を殺す」
ミ,,゚Д゚彡「ぶっそうなこって」
仕方のないことなんだよ、とモララーは眉を下げる。
本当はやりたくないのだろう。人を殺す決断など。
( ・∀・)「魔法の基礎は教えてもらったし、ちょっとした知識だってある。
キミの力強さがあれば世界に革命だって起こせる気がしてこないかい?」
ミ,,゚Д゚彡「しない」
呆れてため息を一つ零し、フサは再び種が根付かない土地を耕す。
往復するだけで半日かかる距離にある川から採ってきた土を混ぜてみたり、
動物の骨などを砕いて混ぜてみたりしているのだが一向に効果が見えない。
そもそものやり方が間違っているのか、この土地が呪われているのか。
答え探しをすることもなく村の人間は同じことを繰り返すばかりだ。
ミ,,゚Д゚彡「でも、お前がどうしてもやるって言うなら、手伝ってやってもいい」
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( *・∀・)「わお! フサ! ボクと親友よ!
キミならきっとそう言ってくれると信じていたさ!」
ミ,,゚Д゚彡「いい加減、お前の話にも飽きたんだ」
手を取り踊り出しそうなモララーの頭をはたき、フサは面倒くさげに頭を掻く。
革命を起こすのだ、という妄言が始まって、既に一年以上が経過している。
明確な拒否も意味をなさないとなれば、頷いてやるまで一生涯同じことを聞かされ続けるのだろう、と
フサが嫌な予想を立ててしまうのも無理のないことであった。
( *・∀・)「ん〜? そうだったなかぁ?
まあ、まあ良い! 結果は同じことだ」
ミ,,-Д-彡「……で、お前はオレに何をさせたいんだ」
土を掘り返し、よく空気と混ぜる。
今年こそ税を払ってなお余るほどの収穫を目指したい。
( ・∀・)「決起はボクが担う。
せこせこ火種を作っている間、キミは、もしかするとやれるんじゃないか、って思わせるだけの力を身につけてほしい」
ミ,,゚Д゚彡「……?」
( ・∀・)「もっと具体的に言うと、体鍛えてどんな敵でもなぎ倒せるようになってくれってこと」
ミ,,゚Д゚彡「なるほど。初めからそう言え」
( ・∀・)「……誘っておいてなんだけど、危険なことを押し付けられてるのわかってる?」
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あまりにも軽々しいフサの態度にモララーは不安を過らせる。
英雄譚を語る彼ではあるが、心構えの一つもない幼馴染を戦場に送り出したいわけではない。
ミ,,゚Д-彡「今さら何言ってんだ?
第一、お前だって別に安全な場所にいるわけじゃないだろ」
訝しげに言われ、モララーは言葉に詰まった。
窮したわけではない。
やりたいことも、これから起こるであろうことも全て理解した上で、
自分の作り出そうとしている流れの一つになってくれる、という幼馴染に喜びと感動が渦巻いていた。
揚々と語ってはいたが、英雄への道は辛く厳しい。
一人で歩むのと、二人で肩を抱え合いながら歩くのでは全く違ってくる。
( ・∀・)「……うん。そう、だね。うん!
ボクもね、たくさん危ない橋を渡ることになる。
その時、キミがわかりやすく強いと、とってもありがたいんだ」
ミ,,゚Д゚彡「へぇへぇ。ま、体鍛えんのは好きだしな。
対人戦ってなると、独学じゃ限界があるが、やれるとこまでやっておくわ」
( ・∀・)「規模が大きくなれば素人集団でもそれなりにできることも増えるだろうし、
武術の心得がある人が見つかるかもしれないしね。
それまでは頑張ってくれたまえ」
毛皮の下に筋肉をこれでもかと秘めたフサの背中を叩き、モララーは高らかに笑う。
淀んだ村に似つかわしくないそれは、確かに革命の始まりを告げるものであった。
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物事の始まりは小さな一歩から始まる。
解放を望み、英雄を夢見た二人もそれは同じだ。
すぐに事を起こせるのは、それこそ物語に描かれる選ばれし者だけ。
フサはモララーに言われた通り体を鍛え始めた。
父の膝下程度の背丈のころから農作業の手伝いをしていたことと、
幼馴染からの入れ知恵によって捕った獲物を分けるより前にこっそり食べていたおかげで体力は人並み以上にある。
仕事の傍ら、槍に見立てた長い棒を振り回すくらいのことは難なくこなせた。
ついでに走り込みを兼ねた狩猟の数を増やし、今まで以上に他の人間の仕事をこなしてやる。
(*゚ー゚)「……ありがとうね」
ミ,,゚Д゚彡「身重なんだ。ゆっくりしとけ」
毎年大勢が死に、それよりわずかに多い子どもが生まれ、半数が死んで逝く。
妊娠中であったとしても働かなければその日その日の生活すらままならず、
産み落としたとしても弱い子どもの面倒をまともに見てやることは難しい。
そういった環境の中、弱い者を優先的に手助けしていくフサの姿は、
英雄譚に語られるような遠い存在よりもよほど身近で、よほど英雄めいて見えたことだろう。
モララーは幼馴染の素直で真っ当な性根に人知れずほくそ笑む。
自分が多少、卑怯な生き方を教えはしたが、本人が身に着けてきた人の良さは変わらなかった。
それでこそ革命の相棒に選んだかいがあるというものだ。
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フサが無意識のうちに村人からの好感度を稼いでいる間、
モララーはといえば魔法の基礎訓練と並行して比較的若い人間に声をかけて回っていた。
語り口はフサを誘った際のものと大きくは変わらないが、
より華美な装飾を言葉に施し、あのフサも協力してくれているのだ、と強調する。
初めは悪い冗談だと聞き流していた者達も、
繰り返される耳障りの良い言葉と村人達の手助けをしているフサの名前に気をひかれ始めた。
獣人も人間も変わらず現金なもので、希望などないとふてくされていた者達も、
いざ目の前に希望の紐が見え始めると以前の自分は死んだとでも言うかのように手のひらを反す。
( ´ー`)「確かにモララーの言う通りだ」
(´・ω・`)「ボク達だって生きてる。
このままでいいはずがない」
一人、また一人と時間をかけてモララーの賛同者が増える。
若い者が流されればその勢いに飲まれる者達も出始め、凝り固まった大人達も徐々に革命の意思を持ち始めた。
ミ,,゚Д゚彡「お前ってやべぇ奴だったんだな」
( ・∀・)「何のことやら」
意思の炎など消えてしまっていた村に種火が生まれ、くすぶりを見せ始める。
間もなくそれは大きな赤とオレンジを伴いうねりをあげるだろう。
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仲間と呼べる人数が増えてきたところで、モララーはごく少数を村から出した。
( ・∀・)「キミの負担が増えてしまうのは申し訳ないけど……」
ミ,,゚Д゚彡「今に始まったことじゃない」
( ・∀・)「あぁ、ボクは何て物分かりがよく、優しい友人に巡り合えたんだろう!」
白々しく声を張ってみせたモララーの頭が軽くはたかれる。
今のフサが全力をもって手を振るえば、モララーなど容易く地面と一体化してしまう。
ミ,,゚Д゚彡「あいつらの分まで仕事するくらいわけねぇよ。
お前の魔法のおかげで収穫も増えて飯が食えるようになってきたしな」
本気で革命を起こそうとした場合、この小さな村一つでは不足が過ぎた。
人数の問題はもちろんのこと、知識も人脈も経験も、補い合うこともできないほどに少なすぎる。
少しばかり離れた村の者ならば何か新たな知見や経験を持つ者もいるかもしれない。
希望的観測ではあるが、輪が広がれば広がる程、引っかかってくるものも増えてくる。
そのためにモララーは戦いのために必要な魔法より、生きていくために必要な植物に関する魔法の習得に取り組んだ。
獣人の村はどこも碌な環境でないことは間違いない。
そこに余所者が来たところでどうして協力してくれようか。
仲間を増やしたいのならば手土産の一つでも必要だろう。
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ミ,,゚Д゚彡「とはいっても、流石にそろそろ誤魔化しも効かねえだろ」
周囲をぐるりと見渡せば、モララーとフサが手を取り合った頃とは大きく異なりつつある村がある。
満たされているとまではいかずとも、以前と比べれは口に入る食料が増えたことによって、
村人達の体格や目の中に宿る光は真っ当なものになりつつある。
毎年毎年、決まった月にやってくる税の徴収人も流石に気づくころだろう。
基本的に彼らは、モララー達にとって都合の良いことにすこぶる愚か者だった。
王都に居場所がなく、この辺境の地に左遷されてくるような連中だ。
現状に対して不平不満を述べはするが、だからといって真面目に仕事に取り組むこともない。
本来であるならば、税の徴収にしてもその時の収穫量を確認するのではなく、
実りの具合の確認や、村民の取り組みについての情報収集をする必要がある。
やるべきことを怠るからモララーのような者に騙されるのだ。
彼は魔法で収穫量を増やしつつ、役人には例年通りであったと定型文を返し続けていた。
おかげで日々の食事に冬の糧までとっておくことができた。
( ・∀・)「ん〜。そうだねぇ。今年、いや、来年はヤバいかもねぇ」
しかし、村の雰囲気は明らかに変わっている。
訝しげな様子を見せるだけであった人間が、疑いの眼差しを向け始めていた。
あちらも愚鈍ながらに何かを感じ、事を起こしてくるやもしれない。
その時、今の自分達に何ができるのか、モララー達は真剣に考えていく必要があった。
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そして、歴史は歌い始める。
(;・∀・)「全てを灰へ変える絶対の王者。
その身をもって彼のものを燃やせ!」
ミ,,#゚Д゚彡「ここで根性見せねぇなら死んどけ!」
晴れ渡る青空の下、人間が燃え、獣人が血だまりに伏していく。
隠されているであろう食料を奪うためにやってきた人間をきっかけに獣人の反抗が始まった。
無論、互いにとってそれは突然のことではなく、両者共に準備を重ねての行動だ。
けれど、そこに至る熱量という観点でみれば、二つは全く異なっていた。
明日を生きるために行動した獣人と、己の私利私欲を満たすためだけに動いた人間。
かけた熱量の違いは戦いの場にあって、如実に表れていた。
小さな村のあちらこちらで上がる悲鳴は圧倒的に人間のものが多く、雄たけびと共に駆け、死んでいく。
死因にしても、獣人は対人間との闘いで死ぬが、
人間は何年も時間をかけて作り上げられた罠や作戦にハマってその命を落とした。
ミ,,#゚Д゚彡「どっりゃあ!」
お手製の槍が敵兵の頭をぶち抜く。
頭蓋骨をものともせぬそれは、獣人の力だからこそ成せる技だ。
成長の早い獣人であるモララーとフサの体格はすっかり出来上がっており、
こうして一応は訓練されてきたはずの兵を前にしても一歩も引かぬ強さを有していた。
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(メ・∀・)「……やったぞ」
獣人最初の反旗となったその戦いは、多くの犠牲を出しながらも勝利を収めた。
ミ,,゚Д゚彡「モララー」
(メ・∀・)「わかってる」
折り重なる人間の死体と生きた顔をして死んでいる獣人の死体。
それらの前に立ち尽くすモララーであったが、彼にはまだやらねばならないことがある。
モララーはこの戦いの音頭をとった。
最後の最期まで舞台から降りることは許されない。
(メ・∀・)「みんな、ボクらは犠牲を出した。
でも、勝った。人間に勝った!」
生き残った村人達へ激励を投げ、全員が地獄の底を揺らすような勝鬨を上げる。
これは始まりだ。気を抜くわけにはいかない、と全員が共通の認識を持っていた。
(メ・∀・)「今後、ボクらが灯した火は強く広がっていくだろう。
そのためにも今はこの村を捨て、隣の村へ行く必要がある」
人間達が自分達の糧全てを奪い取ろうとしてくるのを察知していたモララー達は、
戦いのその後についても考え、周知していた。
獣人達は惜しむような顔をすれど、彼の言葉に異を唱えることなく粛々と動き始める。
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壮絶な戦いであったが、一人の漏れなく殺しきるなど不可能だ。
必ず取りこぼしが生まれ、より多くの、より強い人間が襲撃してくることは目に見えていた。
故に、村は捨てなければならない。
周辺の村々は既にモララー達と志を同じくしているため、一時的に匿ってもらう手はずを整えている。
村が空になっていると知った人間達は近隣をしらみつぶしに探すだろうが、
今まで虐げてきた人間達へ素直に協力する獣人などいやしない。
万が一、苛立ちを募らせた人間が他の獣人を襲うというのであれば、
奇襲からの全員散開も視野に入れている。
最終的な着地点はその時にならなければわからない。
とりあえず、今は速やかに行動に移すことが先決だ。
(メ・∀・)「…………」
ミ,,゚Д゚彡「モララー」
(メ・∀・)「ボクが始めた。から、うん」
犠牲なく成せるなど思っていなかった。
自分が死ぬ可能性も十二分にあった。
覚悟はしていた。
それでも、目の前に積み重なる死は重い。
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生まれ故郷を捨てることとなったモララー達は、
予定通り幾つかの集団に分かれて近隣の村に匿ってもらうこととなった。
そこで仕事の手伝いをしつつ、
各村にいる獣人の経験や知識を取り込み、最終戦への積み重ねとする。
その中で、モララーはとある人間との縁を得るために動いた。
( ^ω^)「初めましてだお」
彼はブーン。
それなりに歴史のある商家の息子であり、今は商人としての経験を積むため国を回って商品のやり取りをしている。
フットワークが軽く、身分もあり、帝都への出入りも容易い。
その上、彼の一家はこの国に生まれ、血を繋いでいるにも拘わらず、獣人を蔑む現行制度に疑問を抱いている。
言い方は悪いが、これほどモララー達にとって都合の良い人間はそういないだろう。
(メ・∀・)「初めまして。ボク……私はモララーと言います」
( ^ω^)「噂はかねがね。
いや、表立っては動けない身ではありますが、あなた達の力になりたいと思っていますお」
にこやかな言葉の裏に悪しきものがないのはこの村の獣人達が保障してくれている。
彼は国の人間に怪しまれないギリギリの場所まで行商に来ては、
帝都で奴隷として売買されていた獣人を食料と共に解放していた。
奴隷、それも相手が獣人となればその扱いは筆舌に尽くしがたく、
購入後すぐに壊れてしまったから森に捨ててきた、と言っても周囲は疑いもいないという。
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皇帝の膝元で生計を立て、家族もいるブーン達が目立った行動を起こすというのは、
何も持たない獣人達が決起するのとはまた違った覚悟が必要となる。
良心の呵責にあいながらも、何も行動に起こすことができなかった彼らを責めることはできない。
むしろ、ブーンの庇護下にあった獣人達は彼に大きな感謝を抱いているし、
革命を前に秘密裏の協力を申し出てくれたのだからモララーとしても靴にキスをしてもいいくらいには恩を感じていた。
( ^ω^)「そちらに合わせて家族を隣国に旅行させる算段も既についてますお」
(メ・∀・)「行動が早くて助かります」
( ^ω^)「期を逃さず動けるものだけが商人として在れる。
……曾祖父の言葉らしいですお」
火をつけたからにはあまりのんびり時間をかけすぎるのも悪手だ。
時間が経てば経つほど、相手は対策を練ることができ、こちらの戦力を減らすこともできる。
かといって、焦りも禁物だ。
ブーンという協力者を得るのは非常に大きな一手ではあったが、
有効活用するためにも獣人個々の能力を底上げする必要がある。
(メ・∀・)「では期を見極める目を持つ商人さんにお聞きしたい。
猶予はいかほどと考えますか」
( ^ω^)「三年。
あなた方の寿命、腐った上層部がやっきになるまでの時間、今回の勝利で得た酩酊感が消えるまで。
全てを考慮した場合、三年が限度だと思いますお」
-
(メ-∀-)「同感だ」
両の手をパチン、と叩く。
(メ・∀・)「我々の時間は限られている。
やるべきことは多いぞ」
仲間を増やし、戦いの技術を学ぶ。
せっせと作っていた罠や武器、防具も先の戦いであらかた壊れてしまっているため、そちらの調達も必要となってくるだろう。
(メ・∀・)「そのためにも更なる分散が必要だな」
モララーは傍にいた仲間達と顔を突き合わせこれからの話を詰めていく。
(メ・∀・)「帝都に何人か潜入させたい」
( ^ω^)「心苦しいけど、奴隷としてなら連れて入れますお。
奴隷用の首輪さえつけていれば、外で捕まえたって言っても十分通るお」
(´・ω・`)「でぃ何かがちょうどいいかもしれない」
(メ・∀・)「よし。でぃとつーに行かせよう」
( ^ω^)「武器はこっちでも多少は用意できるけど、あまり数が多いと危険ですお」
(メ・∀・)「それはこっちで何とかします。
幸い、鍛冶をする者もいますしね」
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皇帝は長くこの泥土のような世界に慣れ親しみ過ぎて危機感が薄い。
奴隷が反抗するなど思いもしていなかっただろうし、
彼らの解放を望む人間が存在しているなど微塵も考えていない。
その隙を突く。
逆に言えば、その隙を逃せば勝機はない、ということだ。
(メ・∀・)「フサはあっちこっち回ってみんなを鍛えつつ、
お前なら任せられる、って思わせてきてくれよ」
ミ,,゚Д゚彡「……いや」
(メ・∀・)「ん?」
ミ,,゚Д゚彡「オレはお前といる」
静かな否定にモララーは目を数度瞬かせる。
フサが意見を口にするのは別段珍しくない。
寡黙気味ではあるが、疑問を疑問のままにせず、過ちはハッキリと認めることのできる男だ。
だが、今の場面で否定が来るとは思わなかった。
彼は細かい策略事より、わかりやすく体を鍛える方が性に合っていたし、人に教えるのも上手い。
適材適所を理解せぬ男ではないため、今回の提案も二つ返事で頷いてくれるとばかり思っていた。
(メ・∀・)「フサ?」
ミ,,゚Д゚彡「お前が巻き込んだ。
オレがいたから皆も巻き込んだ」
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フサの力強い瞳は周囲から音を消し去る力を持つ。
誰も、呼吸音一つ、彼の声を邪魔しない。
ミ,,゚Д゚彡「だからオレにも責任がある。
お前と同じだけの責任だ」
昔よりもずっと力強く、硬い毛皮に覆われた拳がモララーの胸に触れる。
ミ,,゚Д゚彡「遠ざけるための作戦は聞かん」
(メ・∀・)「何を」
ミ,,゚Д゚彡「この先、どんなことが起こるかなんてオレには想像もできないが、
オレはお前が書いた革命の地図に乗ったんだ。
他の誰でもない」
重い空気の中、彼の声は鋭く切り込むようだった。
多くの死を目の前に、幼馴染の死を強く連想したのだろう、と。
無意識のうちに危険から遠ざけようとしただろう、と。
ミ,,゚Д゚彡「一緒に行くぞ、オレは」
茨の道を裸足で歩いてやる。
その覚悟がなければ、あの時、手をとったりなどするものか。
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(メ ∀ )「……んだよ」
声が震える。
(メ;∀;)「バーカ! 何でお前のことなんか心配すると思ってんだよ!
そんなんじゃねぇよ! 革命のために必要なことなんだ!」
一粒零れれば後は止めどなく涙が流れていく。
見ないようにしていた自分の心と無理やり向き合わされた男の顔だ。
こんなみっともない姿を見られては、全体の士気にかかわる、と思っているのに、
モララーの心は叫ぶのをやめず、目頭はより熱を持って涙を落とす。
彼は止まらぬものを一度乱暴に拭い、フサを睨みつける。
(メ;∀;)「だからっ! 行ってこい!
ボク達の、革命のために!」
フサがそうしたように、モララーも彼の胸へ拳を押し当てる。
今度の言葉は本心だ。
遠ざけるためではなく、革命のために。
物理的に距離が離れようとも志は一つ。責任はきっちり等分。
(メ;∀;)「失敗したら許さねぇからな!」
ミ,,゚Д゚彡「おう」
短い返事は実にフサらしいものであった。
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その後の彼らを待ち受けていたのは穏やかさとはかけ離れた日々だ。
フサは帝国軍から身を隠しながら様々な村を回り、
模擬戦などを繰り返して実戦に近い空気感を仲間達に体験させた。
訓練こそ厳しいものの、それ以外の場面では素の優しさや気遣いを見せる彼は他の村々でも評判が良く、
革命に対するモチベーションにも繋がっている。
人伝ではあるがモララーとのやり取りも行っており、
村を後にする前には彼からの言葉を獣人達へ伝えることで、
革命への気概をさらに高めることにも成功していた。
一方でモララーも多忙を極めていた。
帝都へ潜入を果たした同胞からの情報を整理し、武器を調達しては配給。
仲間を増やすためにあちらこちらへ赴きつつも、彼らの生存を繋ぐため食料状態にも気を遣う。
いくらかの仕事は見どころの在りそうな者に教え込み、任せることにも成功していたが、
革命の根幹を担う者が直々に動くというのはそれだけで士気が向上するものだ。
( ・∀-)「ふぅ……」
(´・ω・`)「大丈夫ですか?」
( ・∀・)「ああ、疲れてないと言えばそりゃ嘘になるけどね。
このくらい大丈夫さ」
(´・ω・`)「フサさんから、無理するな、休めるときは休め、って伝言がきてますよ」
( ・∀・)「あいつらしいよ。
心配するな脳筋、って返しておいて」
-
小さな笑みを見せるモララーであったが、彼と近しい者達は着実に迫りくる限界を感じていた。
フサと別行動を始めてはや一年と少し。
以前までは自然と浮かんでいた笑顔は減っていき、
気が付けば面でも被っているかのような一様の笑顔を見せるようになっていた。
身を隠しながらの交渉や移動にはどうしても時間がかかるため、
満足に眠ることもままならず、モララーの目元には黒いクマが居座っている。
食事こそしっかりととっているし、体が鈍らぬよう運動もしているが、
それ以外の部分はお世辞にも健康的とは言い難い。
( ・∀・)「あとおよそ二年。ボク達に残された時間は決して多くないんだよ」
理屈はわかる。
事実、ブーンを含めた獣人解放の思想を持つ人間達とのやり取りからもタイムリミットはひしひしと感じるところだ。
ここで事を仕損じている場合ではない。
(´・ω・`)「ですが……」
それでも、目の前で苦しむ仲間がいれば手を差し伸べたくなるというもの。
モララーも彼らの心情を解せぬわけではない。ありがたいとも思っている。
だからこそ、その手をそっと振り払う。
( ・∀・)「革命は、起こして終わりじゃない。
その次についても考えておかないとだし、
後のことに関しては誰がいなくなっても機能するようにしておきたいんだ」
やれることはしておきたい。
そう続けたモララーは今日も会議に顔を出す。
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忙しなく一年が過ぎ、いよいよ来年には大規模な反乱を起こす、と誰もが何処か落ち着かない気持ちを抱えていた頃。
小さな村が人間によって滅ぼされた。
( ・∀・)「……そう、か」
(´;ω;`)「くっ。あの帝国兵どもめ……!」
比較的村民が少なく、革命に対しても気持ちはあるが積極的に動ける状態ではないような場所だった。
モララー達としても無理に戦いに加勢するより、村の状態を良くして平穏な未来で力を貸してほしい、と
出来る限りの援助をしており、腕に覚えのある獣人を護衛代わりに置いていた。
正直、もしもその村に皇帝が目をつければ何の意味もないことである、とはわかっていた。
弱い者達と少ない護衛。
こちらを本気で殺しにかかる人間を前に、それらは紙ペラよりも無意味で薄い防御だ。
見せしめのつもりだろう。
ありとあらゆるものが破壊され、死体は辱められ、原形をとどめぬほど無残な姿にさせられたものもあったらしい。
そんな報告を聞いたモララーの感想としては、やはりな、というのが一番近かった。
戦いの後に来る世界で協力してほしい、と願った気持ちは嘘ではない。
だが、そのためだけに数少ない戦力の一部を割くことはできなかった。
可能であるならば護衛の一人もおかず、放置していたい、とさえ思っていた。
目をつけられれば終わり。気づかれずに済むのならそもそも護衛など必要ない。
わかっていながらも人員を配置したのは、獣人をすべからず守る正義の味方、というポーズに過ぎなかった。
-
( ・∀・)「とりあえず、皆の気持ちが心配だな。
具体的な進捗を周知して落ち着いてもらう、いや、計画を前倒しに――」
見せしめというのは一長一短だ。
恐れおののき身を引く者がいる一方で、さらなる怒りや憎悪に身を焦がす者も出てくる。
今回のことはプラスとなるか、マイナスとなるか。
頭の中で計算をしようとするモララーの耳に聞きなれた、いや、聞きなれていた声が入り込んできた。
ミ,,゚Д゚彡「おい」
( ・∀・)「……フサ?」
ミ,,゚Д゚彡「おう」
( ・∀・)「何でここに」
ミ,,゚Д゚彡「丁度、近くにいたんだよ。
情報が回ってきてすぐこっちに来た」
(;・∀・)「おいおい、仕事はどうした」
ミ,,゚Д゚彡「モララー」
つかつかと近づいてくる幼馴染は、記憶にある存在よりも薄汚れていて、たくましい。
いつの間にやら事を報告してくれたショボンの姿はない。
そう広くもなく、何もない部屋にフサと二人きりの状態であった。
困惑しているモララーを他所に、彼の表情は相変わらずの鉄面皮だ。
-
ミ,,゚Д゚彡「オレの忠告散々無視しやがって」
( ・∀・)「は?」
表情は変わらないくせにどこか怒りを含んだ声色を投げられ、モララーは眉をひそめる。
忠告、という言葉に心当たりがない。
フサが冗談を言うような獣人でないことは誰よりも理解しているし、
咎めるような声色からしても本気で言っていることが窺える。
となれば、と記憶を掘り漁ってみたところ、もしや、というものが見つかった。
( ・∀・)「あの母さんみたいなやつのこと?」
ミ,,゚Д゚彡「賢いふりして実はバカなお前に対する親切な忠告だよ」
ドッ、と鈍い音を立ててモララーのみぞおちに拳が入る。
本気ではない。本気ではないが、昔ながらの激励やツッコミのような優しいものでもない。
胃の内容物が喉の奥までせりあがってきたのが感じられた。
( ∀ )「な、にを……す、るんだ、よぉ」
ミ,,゚Д゚彡「ちゃんと寝てねぇから周りがよく見えなくなるんだ」
腹を抑えて膝をついたモララーを見下ろし、フサはため息を零す。
ミ,,゚Д゚彡「んで、自分も見失う」
-
( ∀ )「……」
ミ,,゚Д゚彡「大丈夫だ」
( ∀ )「何が」
ミ,,゚Д゚彡「オレがいる」
フサもその場に膝をつき、モララーの肩に手を置く。
ミ,,゚Д゚彡「抱え込むなよ」
悔しい。
モララーが真っ先に思ったのはそれだった。
この幼馴染は口が達者なわけでもないし、気遣いはできるけど大雑把だし、
特に自分に対しては対応ががさつ過ぎるというのに、
どうしてこうも見透かしてくるのだろう。
ミ,,゚Д゚彡「村がやられたのはお前のせいじゃない。
全てを守るなんてできねぇよ」
( ∀ )「可能性は理解していた」
ミ,,゚Д゚彡「理解できたらなんでもできるのか?
だったらオレは今頃世界一強い男になってら」
-
この二年で何人も死んだ。
村の壊滅のような残虐で大規模なものは初めてだったが、
斥候に向かった者が、モララーを護衛している者が、武器を作っていた者が、何人も何人も死んで逝った。
その度にモララーは自分が正しかったのか、何か間違っていたのかを考え、
課題が積みあがる度に睡眠の時間が削られていった。
前を向くことだけを考えていなければ立っていられなかった。
ミ,,゚Д゚彡「オレがいて、お前の夢を信じてる限り大丈夫だ。
お前は間違ってない。
仮に何か間違ってたんなら、その責任はオレにもある」
( ・∀・)「……」
ミ,,゚Д゚彡「揺らぐな。
オレ達ならできる」
力強く言われてしまえば、すとんと腑に落ちる。
大丈夫なのだろう。このまま進めば未来が勝ち取れる。
楽観視するわけではないが、今まで見えていなかったモノが見え始めたような気がした。
( ・∀・)「キミに説教されると、胸が痛いよ……」
ミ,,゚Д゚彡「されないようにしろってこったな」
( ・∀・)「まったくだ」
-
フサの説教を受けたモララーは以降、慌ただしいながらも自身を鑑みる生活を送ることとなった。
よく眠り、愚痴を吐き出してみれば、周囲の様子を冷静に把握することもできる。
自分が思った以上に心配をかけてしまっていた、と自覚して改めて申し訳なく思ったりもした。
( ・∀・)「とうとう来てしまったね。この日が」
生活を改めて一年。
モララーは帝都に比較的近い村の中央に立ち、仲間達を見渡す。
一見すると少人数に見えるが、これはあくまでも今から帝都に乗り込む部隊の一部分にすぎない。
各村では一斉蜂起の為の獣人が前もって伝えてある時間を心待ちにし、
別ルートで帝都に向かう者達も気を高ぶらせていることだろう。
( ・∀・)「今日、ボク達は王を討つ!
そして獣人がヒトとして生きられる世界を手に入れる!」
雄たけびは上げずとも誰もが開戦の熱に身を宿し、
燃やし尽くさんばかりの瞳でモララーを映している。
( ・∀・)「行こう。ボク達の戦場へ」
協力者であるブーンは既に隣国に逃亡しているが、
今日は彼の部下が行商帰りに偽装してモララー達を引き入れてくれる予定だ。
この日のために彼は苦渋の顔をしつつも奴隷商人の免許まで取ってくれたのだから感謝してもし足りない。
-
( ・∀・)「フサ、ここが正念場だ。
力を貸してくれるかな」
ミ,,゚Д゚彡「ここまで十分貸してきたと思うが?」
奴隷にはめられる首輪を装着して荷馬車へと乗り込む。
適当なボロ布を被り、俯いていれば哀れな奴隷の完成だ。
この荷馬車は特性の二重底構造を成しており、
そこに槍や剣といった武器をこれでもかと敷き詰めている。
鎧や盾に関しては既に帝都へ搬入済みであるが、それらを手に入れるまではどうしても無防備になる。
モララーが率いる部隊は最も危険度が高いが、手練れも多い。
防御の手段を手に入れるまでの間をやり過ごせるように、という人選だ。
彼らは城近くまで奴隷商人を偽装したまま近づき、一気に攻勢をかける予定となっている。
( ・∀・)「……ありがとう」
泣いても笑っても最後の戦い。
傍らに座る幼馴染へ素直な感謝が零れ出る。
ミ,,゚Д゚彡「…………礼を言うのはオレの方だろ」
沈黙の後、フサの小さな声が荷馬車に転がった。
-
ミ,,゚Д゚彡「お前がいなけりゃ、オレはあの村で絶望しないまま、それでも何か成すこともなく生きてた」
いや、お前がいたから絶望だってしなかったんだ、と口ごもりながらもフサは続ける。
ミ,,゚Д゚彡「力を借りてたのは、いつだってオレだったんだ」
自嘲めいた響きのある彼の言葉に、モララーは思わず笑ってしまう。
ずっと、自分ばかり助けられてきた気になっていたが、存外そういうわけでもないらしい。
( ・∀・)「ボクの力でいいならいくらでも貸すよ」
モララーは拳を彼の手にぶつける。
( ・∀・)「キミがしてくれたようにね」
二人はパっと目を合わせ、同時に頷く。
そこに宿るのは信頼の炎だ。
互いに貸し、借りてきた。
隣に在る存在を疑う必要なんてない。
幼い頃にうそぶいたあの言葉が二人の鼓膜をくすぐる。
「キミとならやれるとボクは思ってる」
.
-
帝都に着いてからは一瞬の出来事であった。
予定通りの時刻。
予定通りの流れ。
まだ距離はあったが、奴隷商人が城に近づけるギリギリの地点に差し掛かったと同時、
獣人達は手に武器を持ち一斉に飛び出した。
無辜の市民と獣人を害してきた市民の違いなど判らないが、
いずれにせよ今、この場で殺さなければならない対象ではない。
勝鬨を上げた獣人達は帝国兵を中心に、自分達へ向かってくる者達を薙ぎ払う。
少し離れた地点からも黒煙が上がり、反乱の始まりを仲間達に伝える。
帝都の周辺でも獣人達の反乱が始まり、徐々に人間を追い詰めるようにして動いているだろう。
(´・ω・`)「お二人はこちらへ!」
フサが直々に鍛え上げた手練れ達に囲まれ、二人は城を目指す。
何百人の人間を打ち取ったとしても獣人達の勝利は掴めない。
皇帝を討たねばこの戦いは負けと同義だ。
( ・∀・)「人より馬より声よりも。
早く駆け抜け敵を討て!」
モララーの手から雷が放たれ、周囲一帯が眩く光る。
それでも全員を倒すことはできない。
相手は魔法に長けた人間だ。その対策もさることながら、生まれもっての耐性を持つ者もいる。
-
モララーを守って一人死に、
誰かが剣を振るって人間が死ぬ。
絢爛豪華な城内はあっという間に炎に飲まれ、血の化粧をまき散らす。
_,
( ゚∀゚)「やってくれたな、獣共が」
眉をひそめ、忌々しげに低い声を響かせたのはこの帝国の主だ。
街や城に広がる阿鼻叫喚が聞こえていないはずもないというのに、彼は逃げも隠れもせず玉座にいた。
周囲には大勢の兵と文官らしき人間が控えてはいるが、普通の精神であればさっさと逃げてしまうものだろう。
そのパターンを想定し、モララーは城の周辺や帝都の外にも人員を配置している。
_
( ゚∀゚)「余の顔を見れただけでもありがたいと思え」
皇帝が右手を挙げ、振り下ろすと同時に兵士達が一斉に動き出す。
剣を振るう者、槍を突き出す者、魔法を使う者。
獣人達も同じく動き、彼らと対峙する。
_
( ゚∀゚)「ほう、やるではないか」
口角を上げるその顔を見て、モララーは何故今も彼がここにいるのかを悟る。
舐めているのだ。獣人を。
そして同じくらい自分以外の人間を見下している。
-
誰が死のうとも、どのような目に合おうとも興味を示さない。
だから現状が正しく把握しきれていない。
獣人を馬鹿にしているから自分が逃げる必要性を思い浮かべることができない。
長き安寧によって隙があるとは思っていたが、ここまでのものとなると流石に予想外だ。
( ・∀・)「……好都合さ」
唾を吐き捨ててやりたい気持ちを抑え、モララーは人間の魔法に対処していく。
多くの仲間を集めたが、魔法を使うことができたのは彼だけであった。
肉弾戦ならばフサ達に任せられるが、魔法関連だけはどうしてもモララーに一任される。
( メ∀・)「ぐっ……!」
ミ,,゚Д゚彡「モララー!」
( メ∀・)「大丈夫!」
敵の炎がモララーの顔を焼く。
悲鳴を上げてのたうち回ってもおかしくない痛みであったが、
脳内物質のおかげか今は耐えることができる。
_
( #゚Д゚)「貴様らたかが獣人相手に何をしている!」
兵士が次々と死に逝くこの様を見てもそれが言えるのか。
獣人の三分の一が死に、人間の半数が死んだ中で舌を打つ。
ミ,,#゚Д゚彡「ってっめえ!」
-
一歩、フサが前へ出る。
敵の兵士達の間をすり抜け、その背後、座る皇帝に向かって。
( メ∀・)「いけっ!」
人間の魔法使いは後一人。
モララーの相手をしている以上、皇帝を守るための余力はない。
そのままフサが駆け抜け、本命を殺せば勝ちが決まる。
頭を失った有象無象を散らすのも一苦労ではあるだろうけれど、
勝ったとなれば獣人側は勢いづき、人間側は敗北に戦意を喪失する者も大勢出てくるはずだ。
獣人達の期待を一身に受け、フサは床を蹴る。
ミ,,゚Д 彡「――ッガァ」
あと数歩。
フサの間合いに皇帝を入れるまでの距離を詰め切る前に、彼の胸から剣が生えた。
( <●><●>)「陛下には指一本触れさせません」
( メ∀・)「……フサ」
ずるり、と剣が抜かれ、フサの胸から血が落ちる。
無慈悲な現実を見せつけるようなその光景に、獣人達から急速に気力が抜け落ちていく。
しかし、モララーからすればそれどころではない。
-
自分の幼馴染が、いつも一緒にいた存在が喪失する。
この戦いに負ける。
一生涯を賭けた革命が、終わる。
あらゆる喪失感。
何もかもを投げ出したくなるような白が彼の脳を支配した。
にもかかわらず、彼の意思は、まだ諦めない。
( メ∀・)「――我が身を糧にその命を」
使うことなどないと思っていた魔法がある。
自らの命と引き換えに、ほんの瞬きの間、死人を蘇らせる奇跡の魔法。
( メ∀・)「――かの者に与えたまえ。
天に光を。底に闇を。我らに命を」
死ぬのだ。
フサは死ぬ。
革命に失敗すれば獣人は皆殺しになる。
ならば、最期に賭ける。
幼い頃の自分が発した言葉を嘘にしないためにも。
ついてきてくれたフサと新しい世界を創るためにも。
-
( メ∀・)「い、け……フサっ!」
ミ,,゚Д゚彡「――っ!」
フサの槍は周囲の人間が止めるより、
川の流れより、酸素が体を巡るより早く、電撃のように皇帝の心臓を貫いた。
_
( ∀ )・..,
皇帝が血を吐き出しその場に崩れ落ちる。
一瞬のことだった。
忌々しくも、彼が痛みを感じたのはほんのわずかな時間だっただろう。
そして、フサもそのまま真っ赤なカーペットの上に横たわる。
今まで眠りについてきたどんなベッドよりも上等な布地が彼の体を優しく包み込んだ。
周囲の人間が動き出す。
皇帝側も、獣人達も慌ただしくする中、フサとモララーの体は徐々に体温を失っていく。
彼らは死した。
しかし、彼らは成したのだ。
皇帝を討った。
革命の根幹を成し遂げた。
ちっぽけな村の片隅で夢に見た英雄に、彼らはなったのだ。
END
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END曲
https://www.youtube.com/watch?v=McaEBf-tAlk
水流のロック/日食なつこ
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乙です
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やっぱりこういうのは熱い
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乙
いいなこれ。好きだ
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こういう簡潔でアツいクラシックブーン系はいいぞ
-
求めた展開がきちんとやってくる物語だった
乙
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