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( ゚¥゚)自分がいないようです
101
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:41:30 ID:ywMTNbRg0
***
( ・∀・)「僕はね、この平凡な暮らしに飽きちまって、スリルを求めてるんですよ。
ええ、それがゴミ漁りの理由です」
網羅さんの平素を私は全く分からないし彼がどう言った性格の人物かも詳しく知らない私は、
嫌味なほどに整理整頓を極めた塵一つ浮かばない殺風景な部屋と、
そこへ目一杯の色彩を洪水させる曼陀羅のように精微で、それでも一般的な建築物には大凡持て余し過ぎてしまう歪で巨大な窓から、
空白に色を付ける日射に照らされた彼を眺めていた。
( ・∀・)「発達障害って、よく親に言われてたんです。
人が出来て当たり前なことが出来ないのに、どうでもいい手先の器用さとか着眼点ばかりが目立ってしまっててね。
そりゃ死に物狂いで勉学に励みましたよ」
不釣り合いな猫足は光線を鈍く曲げる合金製、
天板部分がマーブルの大理石柄、若しくは本物のそれを使用しているかのような洋風のテーブルで、
八の字型に腕を柔らかく組み直した網羅さんは接吻の礼という建前の元、話したくて話したくてうずうずしていただろう告発を連ねる。
( ・∀・)「当然だとか常識だとか、普通なことってやつですら、僕はずーっと努力してないと出来無かったんです。
表情だって、無愛想でつまらねー不貞腐れ顔だったんですよ」
ニヤニヤとした笑顔は張り付いたと形容するより極々楽しそうで愉快で堪らないと言った印象しか抱かせないし、
話し振りや身の振る舞いはかなり不遜で外界全てを烏合の衆だと見下し揶揄っているようにしか見えないが、
不思議と嫌悪感を抱かせないのは表出する声が劣等感を語っているからだろうか。
( ・∀・)「練習しまくった笑顔ってのは、今の僕のアイデンティティになっちまってましてね。
良くも悪くも口角は常に上がってるし、心もきっと、楽しんでるんですよ。
何が楽しいかなんて、考えたこともないですねー」
102
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:44:17 ID:ywMTNbRg0
( ・∀・)「努力してる間は、一層無心になれるんです。
下らねー自分自身を忘れられるし、新たな知見を得れるのが単純に楽しい。
変わり始めたのは競争要素が混じってきてからですよ」
網羅さんの言葉は嘘っぽくは聴こえないけれども、如何にも尤もらし過ぎて、
そしてとても…悪く言えば有触れている憂鬱的な気質だったので、人目を憚り変哲な行動を起こす理由も宜なるかなと考えていた。
だから質問の最初に廃棄物を探る浅い根拠を提示したのは、彼が本来的に尋ねられたいと希求しているもの、
或いは伝えたいとしている根本的なものの一切は、これから切々と形を成して行くだろうと予想を立てている。
( ・∀・)「探究心というか好奇心ですね──は溢れてましたけども、それよりも負けたくないって気持ちが強かったんですよ。
僕は生まれてこの方、誰かと顔を合わせた途端に敗北してたんですから、
力を付けて勝ち残りたいって思ったって、バチは当たらないでしょ?
その内、負けたくないんじゃーなくて、勝ちたいになっただけです」
( ・∀・)「自分の歳を忘れるくらい、一生懸命生きてきましたよ。
だから僕にはもう、こうして身に付けた実力しか無いんです」
(,,゚-゚)「それは、ある意味満ち足りた、円満な今を勝ち取ったということではありませんか?」
( ・∀・)「ええもちろん、全てでは無いにしても、努力の大半は報われましたよ。
容姿は生まれつきなモンなんで、両親には感謝していますとも」
(,,゚-゚)「私では無く他の住人が網羅さんを目撃してしまった場合、あなたは不断の努力によって
成り立つ完璧で至高である今を捨てざるを得ない事態に陥るかもしれなかったのに、どうしてあんな奇態を?」
( ・∀・)「ついさっき言ったでしょう、スリルですよ、ス・リ・ル。
僕のうすーっぺらい人生に重い理由付けなんて、似合わないんですよ」
(,,゚-゚)「…」
103
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:46:12 ID:ywMTNbRg0
( ・∀・)「平凡で退屈で真新しい事の何にも無い、順風満帆な人生に色を付けてるだけですよ。
そんな為体のおかげで凪沙さんみたいな女性とお近付きになれただけでも、幸せ者なんですよ、きっとね」
(,,゚-゚)「…網羅さんは、何か隠してらっしゃいます」
( ・∀・)「そんなことはないですよ、僕はつまらねー男です。
ゴミ漁り以外、特筆話すような…話したいことなんて、伝えられることなんて、無いんですよ。
何かありそうだなって想像するのは自由ですけどね」
(,,゚-゚)「何か、一抹の引っ掛かりがあるのです。
網羅さんの言葉に嘘は無いと信じておりますが、一切合切を語っているとはどうにも思えない節がございまして」
( ・∀・)「全部話す義務なんてありませんよ、恥ずかしいことなんて特に、
見られたくないに決まってるじゃーないですか。
ましてや凪沙さんみたいに綺麗な女性に、僕の汚いところを晒すってのは、抵抗ばっかりですよ」
(,,゚-゚)「私はそれを批判しません、理解出来なくとも受容することは出来ます。
私は網羅さんが私に期待するような関係性を持てないでしょうけど、
だからといって蔑ろにするつもりは毛頭ありません」
( ・∀・)「分かりませんよー、そんなの。
凪沙さんもきっと、同級生や両親みたいに、僕を障害者だと馬鹿にするかもしれない。
こんな歳になってまでガキみたいなこと言うんじゃーないって思うかもしれない」
(,,゚-゚)「網羅さんは自分を卑下し過ぎています。
あなたがそう思われたく無いのなら私は表情同様の心持ちでいますし、軽蔑もしませんよ、絶対に。
私は網羅さんが望む私で此処にいますから」
( -∀-)「…凪沙さんは表情が変わらないから、本当なのか嘘なのか、全然分からないです。
本当っぽいっちゃ本当っぽいし、嘘っぽいっちゃ嘘っぽい」
104
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:47:56 ID:ywMTNbRg0
(,,゚-゚)「具に語って下さったら、網羅さんの望む言葉を当ててみましょう」
( -∀-)「……馬鹿にしてるんですか?」
(,,゚-゚)「網羅さんの偶に露出する心情が、私の愛している人々に似ているのです。
お気に障ったらのなら申し訳ありません。
しかし私は、あなたのその部分を知っておかないといけない気がしてならないのです」
( -∀-)「…」
( ・∀・)「…凪沙さんは優しいんですよ、甘すぎるんです。
今朝の事や不貞をネタに僕を脅せば、どうやったてって断り切れないのに、それをしない」
(,,゚-゚)「誰に対しても温和な訳では御座いませんし、自身が意識している強かな部分と言うのは、
優しさも狡猾に用いている性格ですので」
( ・∀・)「自分で全部言っちゃうあたりも、二重三重に計略組んでそうですねー。
全く持って賢い人ですよ、凪沙さんは」
静逸極まった朝日は徐々に鋭敏で赫焉たる日輪へと表情を変えて行き、
窓外遠方にて大気に曇りながらも林立する摩天楼群や広々とした雲一つ浮かばない空を
何処までも眺望出来る部屋の中にて、韜晦していた網羅さんは漸く話してくれるらしい。
と言っても彼が起こした奇妙な癖に関しての理由は既に耳に通しているし、
今回に限って私はこの男性を信じてみたくなっていたらしく、詰まる所聴き出そうとしていた内容と言うのは
網羅さん自身が持つ痼りであった。
とどのつまり私は自分が網羅さんに抱いた類似性の確証が何たるかを得たかっただけかもしれない。
105
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:49:42 ID:ywMTNbRg0
( ・∀・)「…僕は、人に愛されてる実感が、まるっきり持てないんです。
発達障害気味って、最初に言いましたよね。
このことなんですよ」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「"他人から大切にされている"という感覚の一切が、無いんです。
あの時から……親に、障害持ちだと言われてから、です」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「僕はね、両親が大好きでした。
貧乏でしたけど、沢山遊びに連れてってくれるし、一緒にスポーツを楽しんでくれるし、美味しいご飯だって作ってくれる」
(,,゚-゚)「……」
( ・∀・)「頭が悪くて虐められたって相談すれば、
恥ずかしげも無く学校に抗議してくれて……近所からは、モンスターペアレントで有名でした」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「それでも、僕のために恥も外聞も擲って、
"家の自慢の息子が、馬鹿なわけ無いだろうが! 何処のどいつだ! そんな事言う大馬鹿野郎は!"
って、声を張り上げてくれるのが、とても…とっても、嬉しかったんです」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「お金は無くても、愛情一杯の、一人っ子だったんです。
甘やかされてましたね、本当に…」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「普段の楽しかったこととか、学校の友達のこととか…他にも、
悩み事や、先生の言葉が厳しいとか、そういう身の周りのこと全部を、気兼ね無く相談してたと思います」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「…だからあの言葉だって、親にとっては何気ないつもりだったんです、きっと。
僕がそれを、深く、深く覚えてしまっていたのが、いけなかったんです……」
(,,゚-゚)「…」
106
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:50:57 ID:ywMTNbRg0
( -∀-)「………」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「…宿題が分からなくてね、教えて貰ってたんです。
学校で、特別学級に通う子は先生が付きっきりで教えてくれるから、いいよなーなんて、話しながら……」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「僕はそれを、羨望じゃ無く軽蔑していました。
"あいつよりはマシだ"って…下を見て、自分はまだ大丈夫、大丈夫って……言い聞かせてたんですね」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「不意に…だったんです。
"慈円は少し、発達障害っぽいところがあるからね"って」
(,,- -)「……」
( ・∀・)「それが意味するところを知らなかったから、"障害"って単語しか、頭に入らなかったんです」
(,,゚-゚)「…」
( ∀ )「……心臓がね、止まってしまったみたいに、苦しくて…思わず胸を抑えました。
両親は特に何も…いえ、僕には、そっちを見る余裕すら、無かったんですよ…」
(,,゚-゚)「…」
( ∀ )「…それからというもの、僕は、両親から優しくされても、一緒に楽しく遊んでも…
"愛されてる"とは、全然思えなく、なっちまった……」
(,,゚-゚)「……」
107
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:52:19 ID:ywMTNbRg0
( ∀ )「家族どころか、友人や、恋人にも…好きって言って貰えてるのに、
飽きたら皆、僕から離れて…行くんです」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「…皆、いなくなってるんですよ。
"友達だろ"とか、"愛してるわ"とか、心を持って伝えてくれた人達がね……皆、みーんな、いないんです」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「……これを言うとね、情け無い自分を思い出しちまって…それに、
言った人達がもう戻ってこない実感をまた、味わってしまって…とても、とっても、惨めな気持ちに、なるんですよ」
(,,゚-゚)「…」
( ・∀・)「………僕は、やっぱり…足りないんでしょうか…」
(,,゚-゚)「……」
( ・∀・)「…ゴミ漁りの癖を目撃した人物に……自分の半生を語るなんて、
やっぱり、おかしいんでしょうか……」
(,,゚-゚)「……」
( ・∀・)「……おかしい、ですよね…ハハ、ハ…。
……すいません、今のは、その、忘れて…」
108
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:53:16 ID:ywMTNbRg0
(,,゚-゚)「そんなこと、ないですよ」
( ・∀・)
(,,゚-゚)「網羅さんは確りと独り立ちの出来ている、立派な大人です」
( ・∀・)
(,,゚-゚)「自らの苦しみを燃料に誰よりも努力して、人生の勝利を勝ち取っている、本義の勝者ではありませんか」
( ・∀・)
(,,゚-゚)「私は、内に秘めた辛い過去を乗り越えて、踠きながらも生き抜いている人が、大好きですよ」
.
109
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:54:31 ID:ywMTNbRg0
( ・∀・)
( ・∀・)
( ・∀・)
( ;∀;)「あ……」
( つ∀∩)
( ・∀∩)
( ;∀∩)
( つ∀∩)
( つ∀・)
( つ∀;)
( つ∀∩)
( つ∀∩)
.
110
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:56:12 ID:ywMTNbRg0
( つ∀∩)
( つ∀∩)スゥゥ…
( ;∀;)「…あっ……」
( ;∀;)「あり、が、とうご、ざい、ます」
(,,- -)
( ;∀;)「…僕は、人のことが、知りたかった」
(,,- -)
( ;∀;)「みんな、に、嫌われて、遠ざけ、られて、しまっ、て」
(,,- -)
( ;∀;)「理解、した、したく、ても、僕は、ひとり、ぼっち、だった、から」
(,,- -)
( ;∀;)「だ、から、ゴミくらい、しか、他人の、一部、を見つけ、られな、くて」
(,,- -)
( ;∀;)「わかって、るん、です。こんな、考え、だ、から、発達、しょ、しょうがい、って、言われる、こと、くらい」
(,,- -)
( ;∀;)「また、人と仲、良くなっ、てもっ、嫌わ、れると、思うと、怖く、て」
(,,- -)
( ;∀;)「だ、だから、人、から、遠ざけ、られる、ことを、わざと、して」
(,,- -)
111
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:57:21 ID:ywMTNbRg0
( ;∀;)「僕は、卑怯、者、です。
また、傷付く、のが怖、か、ったん、です」
(,,- -)
( ;∀;)「だ、だれか、に、聴いて、欲しく、って……で、でも、それで嫌わ、れたら、ぼ、僕は今度、こそ、立ち上、がれなく、なり、そうで」
(,,- -)
( ;∀;)「笑、えば、平気、な、はず、な、のに、ハハ、ハ……おかしい、ですよ。
…だ、だって、な、涙、が、止まら、ない、ん、です」
(,,- -)
( ;∀;)「自分、の、どうしよう、も、無さを、披露、して、受け入れ、ら、れたこと、なんて、なかった、から」
(,,- -)
( ;∀;)「し、真剣、に、話、を聞いて、くれる人、なんて、いな、いなかっ、た、から」
(,,- -)
( ;∀;)「だ、だから、あ、あり、ありが、ありがとう…ござ、い、ます………」
(,,- -)「……」
.
112
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 13:59:24 ID:ywMTNbRg0
***
奇天烈な、珍しい夜。
様々な事情が重なった末に私は帰宅時刻を大幅に遅らせて、早番にも関わらず遅番の打刻にて、
つまりあなたと一緒にとぼとぼと歩けることになったのだけれども、偶然にも帰途の道すがら、
珍しくお尻の出ていない仕事着に身を包んでいた内藤君達と合流して、三人生温く頬を撫でる夏風に身を晒しながら、
網羅さんについて話し合っていた。
あなたは初めの方こそ険しい心持ちだったのだろうと容易に想像出来るけれど、
表情も態度も普段通り毅然と沈黙していたから、果たして真実あなたは何を考えているか全く分からなかった。
( ^ω^)「私は網羅氏を嫌いになれませんね、ええ、なれませんとも。
だって彼はこんなにも正直者で、そして如何したって救われないのですから」
今日ここにいるのは冷静沈着で淡白な物言いと、内に秘めた狂気性を薄目の笑みから
ほんのり流出している内藤文化君本人の様子で、自らの意思で言動を律している点がブーン君との差異らしいのだけれど、私には二人の相違が話し方以外いまいちよく分からないでいる。
何故か私たちにとても懐いているし、私は説明出来る感情で彼らを嫌いになれないのだから、
かと言って無関心でいようと努力するより好きでいた方が絶対的に安心であるし気が楽だった。
(,, ゚¥゚)「不思議と私も、内藤君と同意見なのですよ。
尤もこの言説は岸さんに危害が無かったが故に導き出された結論であるので、
もしあなたに何か不当が起きていたのなら、私は私の内包する全力の悪意を持ってして、それを発散させる覚悟でしたが」
(,,゚-゚)「…そういうのを言葉に出してしまうと、とても陳腐で薄情で、
がらんどうの内側が露呈してしまうから、上辺だけの羅列には気を付けたほうが良いよ」
113
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:01:00 ID:ywMTNbRg0
(,, ゚¥゚)「私は言葉が苦手ですので、実は案外ぐらぐらと心情を右往左往させておりましたし、
瞠目して悋気を嵩張らせ連綿と幻覚の坩堝を流離った後、年甲斐も無く旋毛を曲げていたのですよ。
蟠る内情に則した反応です」
( ^ω^)「おや、先生にしてはこれはまた珍しい日々をお送りになられていたのですね。
全く持って未曾有ですよ、ええ」
(,,゚-゚)「あなたとは久遠にも無縁な愁い事としか思えないわ」
(,, -¥-)「…」
恰も悩み倦ね子細に渡り流転し続ける気持ちに揉みくちゃにされた風を装う物言いだったけれども、
私や内藤君はあなたが斯様に傷付いたり濫觴から追って慮ったと賢しら口を叩くとは丸きし思えなかったから、自然否定的になる。
それでも何故か今回ばかりは真っ当に、若しかしたらだけれども、
虚偽でなく自己を見遣り虚脱の末に悔悟や煩悶を通した、似合わない稀覯があったのかもしれない。
だってあなたの言は私たちがそれを信じない心境を見越しての妄言に思えてならないし、
言い繕った風体は何処か諦観と悲壮を秘めた様子に見えないこともなかったから。
でも終局、あなたが網羅さんの横恋慕じみた行動や内包している幼さに関心を寄せて
思考を混ぜ合わせていたのか否かについては、真偽を下せなかった。
114
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:02:48 ID:ywMTNbRg0
…そういえば、今日はあなたが香奈ちゃんと会話する時の口調や態度が、何処か余所余所しく見えてしまったのは、
果たしてあれは気のせいだったのかしら。何故かしら。
( ^ω^)「岸さんは如何なのでしょうか? 網羅氏について」
(,,゚-゚)「どうって……つまり、何を訊きたいの?」
(,, -¥-)「……」
( ^ω^)「これはこれは、お惚けになられて居りますね。
ええ、網羅氏は確実に岸さんへ恋慕の情を当てておりますよ、ええ、そうですとも。
これは何処かあなたの慈愛にも類した態度や言葉使いに感情が絆されて、己が幼稚さを発散させてしまった事態なのですからね」
(,,゚-゚)「…そう、ね」
( ^ω^)「これを見て見ぬ素振りで拒まれたとして、網羅氏は如何なるでしょうか?
人の感情とは移ろいやすい山の気候のような物ですから、心理に根差していた述懐を聴いた後の岸さんが、
前後で齟齬を生じないとも限りませんからね、限りませんから」
(,,- -)「……」
(,, ゚¥゚)「…」
( ^ω^)「…」
(,,- -)「……彼が私に望んでいる物を、私は最初から持って居ないよ」
(,, ゚¥゚)「……」
( ^ω^)「ほう、では一体網羅氏が岸さんへ望む物とは、何でしょうか?」
115
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:04:49 ID:ywMTNbRg0
(,,- -)「…母性愛」
( ^ω^)「……ほう」
(,, -¥-)
(,,゚-゚)「…本物の両親から現在に至るまで、確かに曲がりくねった経緯はあったに違いないでしょうけれど、
肉親から利害感情なく愛を、優しさを、辛さをも受け取って生きてきた人に、
私が与えられるものなんていうのは、結局仮初でしか無いの」
( ^ω^)「それはまた、悲観的な観点ですね。全く持って、根暗でありますよ」
(,,゚-゚)「網羅さんは連続性の上に刹那的で享楽的な今を生きている。あの発言が嘘とは全く思ってないけれどね。
網羅さんは私よりも年齢を確りと重ねた、重みのある成人よ…いつかのお婆さんと違って」
( ^ω^)「ははぁん、皮肉的ですね、好きですよ私は」
(,,゚-゚)「模倣は出来ても比較されて仕舞えば、根を詰めた態度もとっくり思案した言葉も、縁睦びには敵わない。
糊塗に飾り立てても網羅さんを満たすのは、私には出来ないから」
(,, ゚¥゚)「…気になっていたのですが、その」
(,,゚-゚)「何?」
(,, ゚¥゚)「岸さんが網羅さんから連想させている人物と言うのは、結局のところ誰なのでしょうか?」
( ^ω^)「おやおや、先生、これは余りにも何一つ考えていないなあと思われても致し方ありませんよ。
ね、私は岸さんの発言を聴いていると、件の人影が先生以外には当て嵌まらないのです。
…だって、ねえ? それ以外だと変じゃありませんか」
(,,゚-゚)「……」
116
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:07:11 ID:ywMTNbRg0
( ;^ω^)「ん? 実は違ったりなんてこと、ありませんよね?
ここで全く無関係な第三者を議題に出されたら、私の窺い知れない他者を見立てていたというのなら、
それこそ問屋が卸さない事態とか言う奴ですよ?」
(,,゚-゚)「…私が思い描いていたのは、子供たちなの」
( ;^ω^)
( ^ω^)
( ^ω^)「なるなる」
(,,゚-゚)「親に認められようと必死になる子供の姿…網羅さんは幼い自分を捨て去ることが出来なかった。
きっと分離は出来ていたんだと思うけど…不遜な態度から児戯が見えたから」
( ^ω^)「人が少なからず持っている子供っぽい部分に感情移入してしまった結果として、
岸さんは網羅氏へ懐旧に近しい想いを持ったのですね、持ったのですね。
なるほど左様でありましたか」
(,, -¥-)「……」
たぶん内藤君の仰る通りで、私は孤独で独り泣き噦る両親に見放された私と
子供の影を内に秘めた網羅さんとに共通点を見出した気になって、危うく彼自身の本質、
潜在的な軸となる人間性そのものが幼稚だと勘違いしてしまうところだった。
あなたを問い質して再三の解釈を聞き直した以前の老婆と同様、
元来が虚言と停滞と拙い精神性だけで練り上がっているのかもしれないと思っていたけれど、
そして網羅さんが最終的に感情を発露しなければ、優しい口調を重ねた上で思い切り地面へ叩き付けようとさえ考えていた。
だから私はあの時、実の所網羅さんが年齢に似合わず涙を流した際、心の底から安心していた。
果たしてその時私が抱いた感情が網羅さんの心理に符合した物だったのか否かについて、私は何も分からなかったけれども。
117
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:09:28 ID:ywMTNbRg0
( ^ω^)「…おや、もうここまで到達してしまいましたか。
タイミングの妙と言うより、まさにあっという間というやつなのでしょうね」
(,, ゚¥゚)「内藤君はそちらの方角でしたか」
( ^ω^)「本日は真面目腐って疲労困憊である故、些少な悩みですら浮かび上がらぬのです。
それに最近という物、とてつもない日照り続きのせいで、虫など死骸しかありませんからね。
お腹を壊してしまうのですよ」
(,,゚-゚)「…その、あんまり道端に落ちてる物ばかり食していると、
何れ体の何処かが変調を来してしまうから、気を付けてね」
( ^ω^)「程度という物を私はある程度弁えております故、お気持ちだけありがたく貰い受けておきますよ。
ブーンにもその優しさを伝えておきましょう、ではまたその内」
内藤君がゆさゆさと草臥れた足取りで肉体を引き摺るように歩き去って行くのを見守り、
自然路傍に居座るのは私とあなた二人きりという状況が生じた。
あなたはやっぱり何故か物憂げに見えるのだけれど、遍く意気が雁字搦めに混在した結果として
波頭の立たない今のあなたが顕在しているのだと思うと、私は素直に喜んで良いのやら、悲しんで良いのやら、分からなくなってしまっていた。
けれども、如何にも愛おしく感じてしまう。
私は私があなたに抱く具体的、抽象的な観念の一切に明確な記号を付けれないけれど、
逼迫した事情等も今のところ見出せない。
曖昧な関係は、案外心地良い物ですよ、あなた。
(,, ゚¥゚)「…帰りましょうか」
(,,゚-゚)「そうね、御伽さんも心配だし」
(,, ゚¥゚)「車の鍵は私が持っておりますし、現在のあの方に積極的な活動性は宿っておりませんよ。
…それだから安心、という訳でもありませんがね」
118
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:11:13 ID:ywMTNbRg0
(,,゚-゚)「…なんだか、ごめんね」
(,, -¥-)「…」
(,,゚-゚)「私は独り善がりで、それでも若しかしたらあなたの心理が動いてくれるかもって、
何某かの一助になるかもって、思ってしまっていたから」
(,, -¥-)「…心配だっただけですよ。今はもう、安心しておりますから」
(,,゚-゚)「……」
(,, ゚¥゚)「……内藤君が網羅さんを救われない人物だと評した理由が、私にも何となく分かった気がします」
(,,゚-゚)「…え?」
(,, ゚¥゚)「そちらの、収集所をご覧になってみて下さい」
月暈が同心円状に朦朧と月光を落とし込む中、
顫動する昆虫類、撥ねながら鱗粉を散逸する夜光虫、ほんの少しだけ鳴き声の弱まった七日目の蝉が群がる、
朧げな黄緑色した蛍光灯の下、ゴミ収集場所の青白い網の中で、何やらモゾモゾと寝返りを打つ人影が見える。
近付いて顔を寄せるに、その人相が指し示す人物とは件の網羅慈円さんだった。
白い頬を薄桃色に紅潮させて、似合いそうだなと感じていた洒脱なスーツをくしゃくしゃと襞寄せて、
網羅さんは酩酊の彼方にて多重の白河夜船を漕いでいた。
彼が求めた他人の一欠片である幾つかのビニール袋を、それはそれは愛おしそうに、心地良さそうに頬擦りしながら、
愉悦に染まった笑顔のままで寝言を呟いている。
119
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:12:18 ID:ywMTNbRg0
( * -∀-)「…むにゃ……むにゃ…そう、僕はね……頭、良いんですよ…君や…隣の…彼氏君、よりもー…へへへ……。
そりゃー…頑張って、きたから…えへへ〜……幸せに…して…むにゃむにゃ…あげれる…よ〜…うふっ…ぐぅー……」
(,,゚-゚)「……」
(,, ゚¥゚)「…一時凌ぎでは、彼は救われなかったのですね」
(,,゚-゚)「…どうなのかしら、ね」
(,, -¥-)「……」
(,,゚-゚)「…でも、良いんじゃ、ないかしら」
(,, ゚¥゚)「?」
(,,゚-゚)「だって…」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,゚-゚)「……だって彼、こんなにも幸せそうなんですもの…」
.
120
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:14:58 ID:ywMTNbRg0
隣に佇むあなたの手をそっと取り合って、ゆっくりと歩み出す。
背後からは暫くの間、中身の欠如した歯噛みじみた音と空虚な笑い声、独り言が聴こえていたけれど、私は決して振り返らなかった。
幸せの尺度というのは、生きている限り必ずしも必要な物なのかしら。
網羅さんは本心から話して本心から救済を望んでいて、私は私なりの解答を彼に示したと思う。
でも果たしてそもそも、彼は岸凪沙という名称の個人を望んでいたのかと言われると、私は否定的な意見を持ってしまう。
網羅さんは最初、相手の望む通りの人間を演じることが出来ると言ってた気がする。
話を聞いて欲しい時はしっかり心を傾けてやれるし、笑わせて欲しい時には笑顔にできる、と。
ならばそれに成り切っているつもりでいる彼本人は、その時一体何を望んでいるのだろう。
遅れている分の能力を努力で埋め合わせていた網羅さんは、結局のところ彼を見下していた人達の劣等な模倣品でしかなかったらしい。
その証左が現状なのだから。
私が選り分けられたのは本当に偶然だろう。
網羅さんは必ずしも私たち家族のゴミだけを漁っているわけではなかったから。
高尚な考えが有ると言っていた。
人のことが知りたかったと泣いていた。
だから廃棄物を物色していると。
しかしそんな廃品に、人の深浅な感情など篭っているはずも無かった。
そこに在るのは、ただの塵芥なのだから。
少しだけ強く握り締めたあなたの掌は、ゾッとするくらい冷たかった。
私は終局、自らの成否を付けられなかった。
月は輝いていた。
2.終
121
:
名無しさん
:2020/08/09(日) 14:27:47 ID:mTE.ZKfU0
乙
122
:
名無しさん
:2020/08/10(月) 01:36:40 ID:S6gpCbDo0
おつ
ネタは良さそうに見える
でも正直読みにくい
自分の読解力が低くなったんだろうか
123
:
名無しさん
:2020/08/10(月) 03:37:24 ID:sn1wNj3A0
文体がめちゃくちゃだからだよ
124
:
名無しさん
:2020/08/14(金) 15:48:55 ID:C5b/2Cwc0
おっとりさんの声色は穏やかでありますから、度々のことであっても然程諄く感じず、
125
:
名無しさん
:2020/08/14(金) 15:50:03 ID:C5b/2Cwc0
ごめんミス
126
:
名無しさん
:2020/08/31(月) 14:48:43 ID:zWg8Lx7Y0
まだかな?
127
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:29:41 ID:AwyDQg0s0
私にはあなたを全く理解できませんし
思考と逡巡に多くの時間を割いたところで、
具体的又は抽象的な経緯の把握が出来るとは到底思っておりません。
ですが話を聞く限りには恐悦至極なのです。
私に無い物語を見聞して、それを追体験してゆく過程が
私の昨日を、今日を、明日を糊塗に飾ってくれるのです。
聞かせてください、あなたの話を。
( ゚¥゚)自分がいないようです
3.始
128
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:30:55 ID:AwyDQg0s0
(-@∀@)「上がってるね」
(,, ゚¥゚)「そう、ですよね」
(-@∀@)「ええと、食事は妹さんが作ってくれているんだっけ?」
(,, ゚¥゚)「…はい、基本的に塩分、カロリー控えめですよ」
(-@∀@)「なるほど。酒や煙草はやらないんだったね」
(,, ゚¥゚)「最近は殆ど嗜まないです」
(-@∀@)「うんうん…運動習慣は大して無いんだったよね」
(,, ゚¥゚)「職場までは極力歩くように心掛けてして居りますが、基本的には皆無ですね」
(-@∀@)「うーん、適度な運動は必要だけれども…君くらいの年齢なら妥当かな。
最近は早寝早起きを心掛けているんだったよね?」
(,, ゚¥゚)「と言うよりも、最近は疲れるとすぐに眠ってしまいます。
又且つ眠りが浅い為、朝は早く目が覚めてしまうのです」
(-@∀@)「…まぁ、眠れないよりはマシ、か。雁貝さんから何か訊きたいことはある?」
(,, ゚¥゚)「いえ、今のところ特には」
(-@∀@)「そう、じゃあ今回も血圧のお薬だけ処方しておくよ。
次の受診は二ヶ月後だから…十一月のこの辺りで予約入れておくね」
(,, ゚¥゚)「分かりました、いつもありがとうございます。旭日先生」
(-@∀@)「いえいえ〜、お大事にね」
(,, ゚¥゚)「はい、失礼します」
129
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:31:56 ID:AwyDQg0s0
从^ー^从「一等! 一等! 一等賞〜〜!! 大当たり〜!!」
(,,゚-゚)「…」
(゚-゚,,)「……」
(,,゚-゚)「…」
(,,゚-゚)「え」
从^ー^从「出ました出ました〜! 一泊二日温泉旅行ペアチケット〜〜!!」
(,,゚-゚)
(,,゚-゚)
(,,゚-゚)「え」
从^ー^从「おめでとうございます〜奥さん!! あっ、本日これにて終了ですのでティッシュもどうぞ〜全部どうぞ〜!」
(,,゚-゚)「えっ、えっ」
从^ー^从「ささっ! 遠慮なく〜!! あ、クーリングオフは承っておりませんので」
(,,゚-゚)「え、ちょ」
从^ー^从「何はともあれ、おめでとうございます〜!! 二日間の温泉旅行、ゆっくりと休養をご堪能あれ〜!!」
(,,゚-゚)「…」
(,,゚-゚)「……」
(,,゚-゚)「…どうしよ……」
130
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:32:49 ID:AwyDQg0s0
***
(,,゚-゚)「スーパーの福引で一泊二日の温泉旅行チケットが当たったんだけど」
(,, ゚¥゚)「は」
(,,゚-゚)「祝日が重なって三連休だから一緒に行きません?」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,゚-゚)「…」
(,, -¥-)「……」
(,,゚-゚)「……」
(,, ゚¥゚)「…難しいでしょう。
ただでさえ人手が足りておりませんし、バイトの彼等は温厚で優しい性格ですが、大半の方にサボり癖があります。
非番でも急遽呼び出される可能性が大いに御座いますよ」
(,,゚ -゚)「……」
(,, ゚¥゚)「行きましょう」
131
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:35:39 ID:AwyDQg0s0
***
常理の宿痾と化した他者批判と自己評価は互いに関係を拮抗させ乍ら延々と起伏し、
夫れ宛ら双極性障害の様相を呈しては居るが然し、狂想の態に分類される精神疾患其の物を患っている訳では無い。
煩わしくも、卑近な我欲を敷衍する公共の俚言は同調圧力と同義的な意味合いとして捉えられる場合も在れば其の実、
聴者の心情抔無関係に暴威を奮っている。
胸に納めた凡百の情念は人の顔を見れば再燃して燻りを吹き返す、
又徒歩に電車と情景を渡り歩いても尚平坦に為る兆しが見えないで居る。
其の内へ秘める波を他人視点へと転嫁しているのか、或いは其の他人より授けられているのか定かでないものの、
副次的に追随する雑念が内情に楔して人を刺すことは間違い無いだろう。
心理は定かではないものの、斯様に逡巡して居るのだから。
暦の上では残暑に当たる月へ突入したにも拘らず、愈々持ってして盛夏と相成った日射は止め処無く降り注ぎ私達を枯らす。
広葉樹林帯の肉厚な葉に日陰する羊歯の草熱れが蒸し蒸しと募る路傍の停留所は、
田園風景の中心に位置していた駅舎より一本道で、大凡三十分許りに設置されていた。
進行に伴い爪先上がりの坂道と地割れが増すアスファルトは中央の白線が疾うに擦れ消え、
他方地平線彼方迄見届ける蒼穹は鬱蒼と繁茂した林藪に包み隠されてしまった。
天を仰げば好天を望めるものの、然し炯然と色めき立つ日照りは風流の欠片すら欠如して、唯其処には途方も無い熱が横たえるだけ。
目を落とせば蚯蚓の乾物に蟻の群れ、水平地点はてらてらと青葉の表面が蝋のように光りを反射させる為、然るに私達は気が滅入る思いだった。
トタン屋根が辛うじて残骸している所為で僅かばかりの影を落としてくれては居るが、
面積二畳にも満たない木造空宇が如し小屋に四人もの人物が集えば、篭る熱は路上の其れと大差無い。
132
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:38:04 ID:AwyDQg0s0
从 ゚∀从「……まるで、チンチンに熱したケトルの中にいる気分だ。
ドクオもそう思わないか?」
('A`)「……」ブツブツ
从 ゚∀从「しっかし暑いよなー、もう九月だってのに。残暑どころの気温じゃないぜ。
小木さん達もこんな時期に旅行なんて、なかなか度胸あるよな」
(,, ゚¥゚)「四季折々の風流を楽しめるのもまた一興ですよ。
敢えて季節を外した花火というのも、案外素敵ではありませんか」
从 ゚∀从「悟ってるよなー色々と。
こんな真夏の昼間だってのに、顔色一つ崩さないなんてさ」
(,, ゚¥゚)「暑そうな表情一つ浮かべただけでも汗が吹き出てしまいそうな心持ちである為、微動だに出来無いのですよ。
其れを言うなら高岡さんこそ、暑い暑いと言い乍らも涼しい顔ではありませんか」
从 ゚∀从「こうやって少しでも鬱憤を撒き散らしておかないと、頭が可笑しくなりそうなのさ。ドクオも一緒だよ。
じっと耐えてるよりは幾分気分も落ち着くもんだぜ」
(,, ゚¥゚)「理解出来無くもない言ですね」
从 ゚∀从「その点あんたの奥さんは、相当に図太い神経の持ち主らしいよな」
(,,゚-゚)「…全く以って、沸騰しそうですよ」
奇遇にも時期時節を同じくして一時間に一通のバスを待っている彼女達は所謂恋仲で在るらしく、
夏季休業中其れらしいことをしていない旨に気付き急遽郷愁を満喫すべく田舎へ赴いた次第。
聴くに大学にて日本古来の民俗学を専攻している学生らしく、懐郷と休養とフィールドワークを伴った旅路らしいのだが、
高岡氏曰く彼氏との思い出作り的な要素を主眼に置いた遊楽とのこと。
133
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:40:50 ID:AwyDQg0s0
やや肥満気味の体型と乱雑に伸び跳ねた髪の毛、他者が居る場に限り独り言を連々呟き続ける癖を持つ
猫背で垂れ目の男性は名を津田徳夫と申し、独語と絡めてドクオと渾名されているらしい。
一昔前の俗語より独身男性を揶揄していた意味を知ってか知らずか、
名付け親である快活な女性、高岡背理氏は掲焉たりと腰を下ろしている。
顔貌や様相全体から湿気た雰囲気を散見させる暗澹としたドクオ氏とは正反対に、
小麦色した肌と白のタンクトップ、土塊色のグルカショーツという健康的な出立の女性。
見縊る事勿れと白日に晒された長く撓やかな四肢は細く狭まった物で在るが、
手持ちの団扇を煽ぐ度に浮き出る筋節は豊穣な運動神経の才覚を連想させる。
傍目から見て二人が添い遂げて居る理由の一縷でさえ見出せないが、
世の中には直感的に理解出来無い事象が数多に存在して居る本質を私は知っている。
目前で其れが繰り広げられている場面も常時目にして来たのだから今更違和感を抱くのは間違いではないかと疑問を想起する一方、
相応の納得を得たい気持ちも同時に孕んでいる。
そんな自らですら真偽の付けられない想像の一端は瞬く間に陽炎へ溶け消えて、
残骸した思念と云えば水のすっかり蒸発してしまった消極性と呼ばれる器のみだった。
(,,゚-゚)「本当、いつになったら来てくれるのかしら」
ぼやく岸さんは相変わらずの無表情を貫いているが普段にも増して其の眼差しは鈍く混濁して居り、
死んだ魚の目という比喩が直に正鵠を射ると思わせる双眸を携えて居る。
从 ゚∀从「適度に水分補給してないと、あっという間に即身仏だよな」
(,,゚-゚)「もはや水を飲む気力すら失せてしまうほどだわ」
从 ゚∀从「旅館着いたら、とりあえず温泉入って汗でも流すかなー。
観光地巡りはその後でもいいだろ? なードクオー」
134
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:43:33 ID:AwyDQg0s0
('A`)「……」ブツブツ
从 ゚∀从「だよなー、やっぱり風呂上がりの牛乳は格別だよなー、分っかるわー」
(,, ゚¥゚)「……」
先程からこう云った調子で、私や岸さんには伝わらない程の微小な声量を高岡氏は常に聞き取り把握して返答を繰り返している。
彼女のお陰でそれとなく発言内容を察知出来るものの、鼓膜を遽に揺らす小言の呟きは寒蝉の囂しい鳴き声に飲み込まれ、
ドクオ氏自身の声色は吃音じみた揺らぎとしてしか伝わって来ない。
加えて彼特有の早口、鼻声がより一層の悪目立ちをして居り、
空転し続けているようにしか見えない一人会話からは詳細な口上を欠片すら窺い知れないで居る。
特段具体的な話癖、声色の調子等が分かった所で有用性抔微塵も無いのだが、
二人の縹渺たる像から何処と無く狂気が散逸しているかの如き紫煙が立ち上っているのは、果たして気のせいだろうか。
単純な不穏さに妄執しているのとは抜本的に異なる念慮で、
高岡氏が盲信的にドクオ氏へ阿ている姿が自己破壊願望の現れに見えてしまい、何処か遣る瀬無い心持ちなのだ。
或いは、もっと別方向の何某かが在るのかもしれない。
一言で言うのなら、よく分からないが故に不安だった。
二人の関係性が。
从 ゚∀从「風流と言えば、その旅館周辺の観光名所とか風物詩とか、小木さん達は何か知ってるか?」
(,, ゚¥゚)「そうですね…向かうに辺り地域名で検索を掛けてみたものの、然程栄えている地域でも無いらしい様子でしたよ。
季節外れの小規模な花火祭に丘陵の蛍火、旅館近辺ですと小振りな鍾乳洞が在るとか」
135
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:45:12 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「なんと言っても、一番の目玉は温泉らしいわ。
美肌効果に長寿延命、疲労回復や縁結びといった具合に、かなり雑多で広範囲な効能が人気らしいの」
从 ゚∀从「そうだよなー、やっぱり温泉が絶品らしいよなー」
('A`)「……」ブツブツ
从 ゚∀从「そうだな、ドクオの言う通りだ。何なら私たちは其の為に来たようなもんだからな」
(,, ゚¥゚)「津田さんは何と?」
何の気無さに沸き立つ疑問をぽつりと尋ねてみたものの、私の発した質問は余りにも軽率で楽天的過ぎやしないかと声を出してから思い返す。
擾々たる虫の喧騒が邪魔立てしてドクオ氏の発言を包み隠しているに違い無いと踏んでいたのだが、
もしや彼の不審な話し方は高岡氏以外の他人に自ずの意図を隠匿する役目を担っていたのでは無かろうか。
敢えて伝わり辛く言を発することで自身への干渉や関心を突っ撥ね、積極的に自閉しているのでは無かろうか。
だが然し、其れならば一体全体どのような理由が起因して斯様な閉塞性を保っているのだろうか。
一抹の不安は高岡氏のあっけらかんとした饒舌により一時断絶した。
从 ゚∀从「なーに、ただのストレス解消さ。
ドクオはさ、人一倍物事に敏感で、不意に考え込んじまう癖があるんだ。
都会は疲れるんだよ、人が沢山いるからな」
136
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:47:29 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「精神的な休養と云う名目な訳ですね」
从 ゚∀从「そっ。て言っても私もさ、取り留めも無く色々と悩んじまう癖があるんだ。
最良ってのは何だとか、あの時こうしていれば…みたいな後悔だとかさ」
(,,゚-゚)「ちょっとだけ意外ですね」
从 ゚∀从「こんなナリだからよーく勘違いされるけど、私ってば意外と乙女なのよ。
まー正直なところ、悩みにも満たない一時の発想が飛び交ってるだけさ」
私はな、と小さく呟く高岡氏の視線は一瞬ドクオ氏へと向いたかのように見えたが、
瞬きの合間に何事も無く虚空を眺める眼差しへと元通りに成っていた為、きっとこれも杞憂が見せた錯覚なのだろう。
事実二人とも人波を離れ山奥の避暑地へ旅愁を求めて此処に来ているのだから、
高岡氏が瞬目の内に旅の共である彼を見遣った処で何の不思議も無い筈だ。
其れでも私や岸さんが息を吐くかの如く身分や姓名を偽装してしまっているのはまごう事無き現実の出来事であるし、
内的に増長する雑音が高岡氏とドクオ氏二人に因る着想で在るのは相違無い。
周辺地帯の宿屋はこれから赴く場所には一つしか無いのだから、
しかも此の時期、温泉と言う灼熱は需要が薄れているらしいのだから、自然旅館で相見える機会も起こるだろう。
其の時胸の内に蟠る煩悶もとい雑念の正体を得られれば幸いだ。
終局のところ、二人からは狂気じみた湯気が立ち昇っていた。
137
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:49:19 ID:AwyDQg0s0
***
気に食わない物だらけだ、嫌いな物が多過ぎるんだ。
俺だって色々試してみたんだよ。
映画やアニメ、テレビドラマみたいな映像媒体から書籍、漫画、小説とかまで広く観察して、心惹かれる対象を追い求めて来たんだ。
其れなのに今の俺の心は尽くそれら事物を跳ね除けようとしてるんだ。
なんやかんや上手い具合に合致してくれたのは視覚と聴覚を程よく刺激してくれる動画達だった。
レンタルショップで雑多に乱立されたディスクを片っ端から見るみたいなことはしてないが、有名所と評判の良い人気作品を掻い摘んで鑑賞はした。
今となっては、もう飽きてしまったけどな。
本はダメだ、集中力が続かない。長々とどうでもいい描写を書き連ねられても読む気が失せるだけだった。
小説に限って述べるなら、逐一場面毎の情景を想像するのも疲れる。
漫画に至っては次のコマへの変遷が違和感だらけで、感情移入どころか非難の声すら出ない。
それに第一、紙媒体の質感が気持ち悪いんだ。多汗症気質のせいでページを捲る度に疣が痛むし、インクが手汗に滲んで指が汚れる。
本は決まって濡れそぼって縒れてしまうから読めたもんじゃ無い。
適当にネットサーフィンしてる時に見かけたSSとか云うジャンルは表題の時点で明らかに詰まらなそうだったから、
我慢してまで読まなければいけないとは到底思えなかった。
それでもこのご時世、偉そうにも小説の一ジャンルとして確立してる分、大勢から支持されているわけだから、
もしかしたら面白いかも知れないと思ってリンクを踏んだこともある。
食わず嫌いは苦手なんだ。不味いと思ってた物が実は一級品の味だったりする可笑しな世の中だ。
野菜を味見せずに器の縁へとこびりつかせる人間はくたばるべきだと思う。もしもって奴があるかもしれないからな。
ブルーライト越しに見る訳だから、紙の本と違って読み易いし眠くもならない。そう云う利点も在ったんだ。
結果は散々な物だった。
案の定、素人小説が愉快な訳は無かった。
138
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:51:21 ID:AwyDQg0s0
無駄に没入して疲弊してしまわぬようにと斜に構えて、いつ面白くなるのだろうと思いながら文字を目で追ってたらいつの間にか終わってた。
瞠目して読み返してみても、意味の分からない切り方で話が終わってたんだよな。
本当に後悔した、俺の時間を返せと心の内で叫んだ。
それでも一作品だけ、偶然外れ籤を引いてしまった可能性も無きにしも非ず、寛大な俺は他の奴等を一応目に通しておこうと考えたんだ。
苦痛だった、尽く詰まらないどころか其れを支持する輩が大勢いる。
気が違っているに決まってる、こんな下劣で低俗な文章を本気で優れているなんて、
ここの読者連中はよっぽどの阿呆なんだなってのが常だった。
本当に馬鹿馬鹿しくて批判を書き込む心意気すら生まれなかった。
そこで感想やらを書き込んでいる連中も、それこそ数えきれない程いたけれど、どいつもこいつも偉そうで不快だったな。
どこのどいつが書いたかも分からない素人小説に評論家ぶって小賢しい悪態を付いている。
箸にも棒にもかからない悪辣な感想文で他人を見下す行為は果てしなく愚劣で屁泥じみてた。
小学生が夏休みの宿題でこなしてくる読感文の方がよっぽどマシだと思いような文言を、
剰えインターネットを活用出来る能を持った人間が書いてるんだ。
滑稽過ぎて笑えもしない。
もっと酷いのはそれを受け取る書き手の方だ。
あからさまな知識のひけらかしが目立つ言葉数ってのは、執筆者の底の浅い脳味噌を遺憾無く示していた。
自虐趣味だと思ったよ、見てるこっちが赤面したね。
誤植やら誤用やら誤謬やらだらけの推敲不足の文章は読んでるとつい笑ってしまうほどだ。
普通に分かりやすく表現すりゃいいのに無駄にカッコつけて難解漢字や言事を多用したり、
何処から得たのか哲学用語の切れっ端を意味無く引用したり、兎に角酷かった。
139
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:53:01 ID:AwyDQg0s0
そうかと思えば一転して分かりやすい表現を多用しまくる水みたいな読み物も多かった。
当然といえば当然なんだろうけど、理解し易くはある。
だが分かり易ければ分かり易いほど、そこに記されてる内容の薄さが露呈してるんだ。
香辛料たっぷりの赤色したラーメンを食おうとしたら、ただの合成着色料が見せる幻だったみたいに、思いきし肩透かしを食らうんだ。
読了感なんて有ったもんじゃない。小中高生向けのライトノベルを更に単純化したような作品群だ。
警句のつもりかもしれないが、中身の無い短文に穿つような真理なんて全く以って皆無なんだよな。
ああいう連中は心の内で猜疑心を働かせたりしないのかな。自分が本当の意味で詰まらない人間だって事実に。
自分自身の薄っぺらい人間性が如何に努力したところで、本当の意味で他人に影響を与えるなんて出来ないってことに。
俺は動画が好きだった。
アニメはそれを見て評価を下す偉そうなオタク共が嫌いだからほとんど見てないが、実写映画というジャンルには在る程度興味を持っていた。
目紛しく場面が転換して視覚的に疲れて来たと思ったら一転、穏やかな音楽と一緒に緩やかな安らぎの一時が訪れる。
常に景色が流転し続けて、疾風怒濤の勢いのまま世界観が終幕する作品も多い。
あいつら分かってるんだよ、その時その場面で視聴者に及ぼす影響って奴を。
何処でどんな風に演出すれば狙い通りのウケを狙えるかってのを詳細に。
長過ぎず短過ぎず、それでいて決して退屈しない為の手法を熟知しているんだ。
140
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:54:39 ID:AwyDQg0s0
場面毎の浮沈が見る連中の心理をどう左右するか分かってやがる。
思い通りの反応を示すのはちと癪だが、機微に富んだ映像はワクワクするんだよ。
この辺りが紙媒体との絶対的な相違点だよな。どっちも製作者がいるのに、映像だと作者の気持ちを考える余裕が無い。
だから徹底的にその世界観に浸れるわけだ。
書籍は空きだらけだ。小説については幼い頃からの学校教育も助長して、
『この場面での作者の気持ちを答えろ』って問いが浮かぶ余念がある。
俺は耽美な空想に浸って居たいのに、なんで態々それを作った輩を想起しなければならないんだ?
自分の低能振りを包み隠して自己韜晦に溺れる能無し共の気持ちなんて、知りたくも無い雑念だろ。
三人称視点の物語で執筆者の心情が浮かび上がってくるような書籍があれば、それこそ最低最悪だ。
俺が読んで覚えてる小説は二人称視点の私小説ばかりだから、そんな文庫全然知らないし興味も惹かれなかったけれど。
ああ、そういえば未だ、今現在好きなものについては言って無かったな。
映像作品がまだ幾分マシだと言っただけで、決して好きでは無いからな。
批評批判と高岡背理が好きだ。
141
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:57:07 ID:AwyDQg0s0
***
規則正しく交錯する梁は何処か工場の天井を無数に走るパイプラインの網目構造や沿岸に林立された工業地帯の煙突、
鉄管やらを彷彿とさせる複雑性を帯びていて、排気ガス臭い都市部の街並みを郷愁漂う旅館の例示として写し見てしまった自身に嫌気が差す。
私の懐かしさが本来依拠している土地はこう云う田舎風景である筈なのに、
懐郷する過去の輪郭とは常に朧気なままで、終局追憶、随想すら容易に許されない。
畜産場で放牧されていた豚や牛や鶏の醸す酪農苦い体臭や、山並みに掛かり夕焼けに照らし出されていた入道雲、
田畑の水路と対岸までを畝りながら橋掛けていた畷。
伝統的な日本家屋、或いは古風な趣を醸す軒先には見目麗しい杢目が並んだ漆工の鴨居、
石材の玄関は二段の式台が敷かれていて、臙脂色と焦茶色のスリッパが何組か整然と置かれている。
温泉の有名な湯屋と称するより古民家のような構造と間取りだった。
私が幼い時分に両親と別離してあなたに邂逅したあの園とは似ても似つかない造りなのに、
望郷の念が繋がりあったせいか、私は往日の妄想とも現実とも判別付かない情景を思い返していて、
なんだかノスタルジーな心持ちを耽っていた。
灼熱の炎天下、湿度が体感温度を数倍にまで跳ね上げていた停留所、気の遠くなるような思いのまま、
もはや声を出して暑さを誤魔化す段階すら辟易している最中、ドクオ君は絶え間無く独り言を呟いていた。
じいじく、じいじくと鳴き荒ぶ蝉の雨は倦怠感許りを募らせて、間隙を縫った彼の囁きは狂気じみた様相を湛えていた。
高岡さんは初めの方こそ相槌を打ち、ともすれば睦み合いにすら見受けられる仕草を浮かべていたけれど、
汗の滴りが増す程徐々にそれも成りを潜めて、結局彼は独りごちり続けていた。
142
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 22:59:26 ID:AwyDQg0s0
時折思い出したかのように煙草に火を付け、忌憚無く呼気吸気を繰り返す動作は緩慢を極めていて、
副流煙で自身の肺が汚されて行くのに苛立ってしまいそうだった。
一宇で紫烟を燻らせるドクオ君を横目に決り悪そうな高岡さんの居住まいは、
真情これ以上無いくらいに沈痛で、気温以外の要素で紅潮した彼女の頬を眺めていると彼を注意する気になれなかった。
煙に巻かれる意識は自他の境界線を解して、耳障りな声調も肺腑を犯す毒気も彼方に押しやってしまっていた。
何とは無しに狭い道路を挟んだ対岸の藪沢へと目を向けていると、その奥深くに緋色の浴衣を纏う怪談じみた童が翻っていた。
鮮烈な紅色を放逸させているのでは無く、鬱蒼とした木陰に重なる薄暗い色彩を落とした衣は曲線を玉響に描いていた。
何て事は無い、早咲きの曼珠沙華だった。
暦の上では今月下旬以降が旬の筈だけども、日射の勢いはますますの躍進振りを示していたから、
私はもう不思議で不思議で成らなかった。
そういえばこの煙草らしからぬ焦げた臭い、何処かで嗅いだことがあるような…然程昔日の記憶では無い筈だけれども。
鼻の先から喉の奥まで粘つく粘膜が絡み付いたみたいにしつこくて、
不意に涙腺が緩んでしまいそうになるくらい渋い煙…まるで直截青葉を焚べているかのような、鼻持ちならない悪臭。
隣で微動だにしないあなたを見遣ると、欠けたトタン屋根から猛射する陽光に胴体の左半身を躍らせて、其方側だけ太陽に供した姿のまま伸びていた。
平易の顔貌だから大丈夫でしょうと朧々流れる時間に身を任せ、実はあなたが自我を亡失していたと気付いたのは三十分後バスが到着した頃合だった。
(,, ゚¥゚)「…」ズモモ
(,,゚-゚)「大丈夫?」
(,, ゚¥゚)「…ハイ、なんとか」
143
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:01:27 ID:AwyDQg0s0
和紙貼りの襖から射し込む木漏れ日を避けるようにして畳へと臥床して居るあなたは、
相変わらず例え辛い表情を浮かべつつ、よく分からない寝言を漏らしている。
薄ぼんやりと目蓋を持ち上げ物憂げな眼差しを湛えて居たから、要らぬ心配とは理解し乍ら声を掛けてみると、
案の定平生の調子をすっかり取り戻した反応を示してくれた。
安穏、安穏。
(,,゚-゚)「温泉にでも浸かりましょうか。
裏山から源泉を引っ張ってきた、五十度近くの熱湯らしいけど、疲労回復の効能があるらしいよ」
(,, ゚¥゚)「冗談が厳しいですよ…」
(,,゚-゚)「お風呂上がりの牛乳は格別だって、高岡さんも言ってらしたわ」
(,, ゚¥゚)「私は天然水派ですので、遠慮願いたいですね」
女将さんに頼んで貰い受けた氷枕を額に乗せて仰向ける姿は何処か新鮮で、
それでいて普段と同じ話し振りだったから、ちょっぴり滑稽な佇まい。
自らを客観視する余裕すら無さそうな気怠い起床仕草だったものだから、
そんな彼辺此辺の可笑しさで吹き出しそうな心持ちだった。
予ていつもぼんやりと過ごしているように見えますけれど、
こうして其の大きな体躯を真昼間から転ばしているのを見ると、将に其の儘独活の大木な為人よ。
(,,゚-゚)「そうして言葉を叩けているならもう安心でしょうけれど、心配していたんですからね」
(,, ゚¥゚)「それは…只管申し訳無いです。
いつの間にか気を失ってしまっていたらしく、気付いたらバスの中でしたから」
(,,゚-゚)「高岡さんが水分補給は大事だって言った矢先に日射病で倒れるなんて、ぼんやりし過ぎじゃないですか?」
144
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:04:25 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「水筒を捻り口付けたはいいものの、魔法瓶に入れた味噌汁みたいに煮立っていて、飲めた物ではありませんでしたから」
(,,゚-゚)「最近なんだか抜けて無い? 確りと眠れてないの?
それとも疲労が溜まり過ぎてるとか?」
(,, ゚¥゚)「そんなことありませんよ。
熟眠出来ておりますし、重大な悩みなど抱えておりませんから」
(,,゚-゚)「嘘、あなた昔から眠りが浅いじゃない。
煩悶云々は知らないけども、質良く眠れてないことくらい分かりますよ」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,゚-゚)「それに最近妙に忘れっぽいというか、ぼーっとしているというか…本当、確りしてね」
(,, ゚¥゚)「大丈夫ですよ、私は不意に居なくなったり抔しませんから」
(,,゚-゚)「それ、この間も言ってたよ」
(,, ゚¥゚)「はて、そうでしたか」
真偽の程が真に分からないあなたの特性は良し悪しが非常に付け辛い議題だけれども、
好き嫌いで言うのならどちらかと言うと好きだから、煩わしく詰める道理も無くて兎角落ち着けない。
何某かを隠そうと努力しての仏頂面なら心情知りたさに垂涎の的と認めて追求する気概にも為れるのだけれど、
あなたの其れは明滅の消え失せた燭台上の灯火其の物だから深入りする洞窟すら実在しない。
仔細に絡み合う煩累を躍起になって押し込めているのなら手八丁口八丁で懐柔して如何とでも解き明かせる発端が在るって言うのに、
隠匿したいから黙っているんじゃ無くて空洞だから沈黙しているなんて、手の施しようが無い事例ですよ、全く。
あなたの浮べる無表情と私の浮べる無表情が絶対的に異なる所以という物は、
詰まるところ真実気掛かりとなっている心情の行方を本人が知っているか否かって部分でしょう。
145
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:07:32 ID:AwyDQg0s0
私は意識せずとも痼疾を自覚出来ていると思うけれど、あなたは其れが余りにも明から様であるから、
遠回りして道を辿らないと自らの心底と対峙出来無いでいる、と思う。
似た様な物でしょうと感じる私も此処に居るのだけれど、近しいが故に分かる部分と思案せざるを得ない事情が在るのも又事実。
難儀なのは頭を捻り、唸りながら峻別を逐一下して行っても、その過程で一時的に退き無心の胸中へ足を踏み込んでも、
共棲する私自身の中にあなたの内包が存在し得ないという、極々当たり前な真理にすら悩んでしまう魯鈍な性。
きっと訊けば答えてくれるんでしょうけれど、私はあなたに何を訊けば良いのかが滅切分からないの、
自分が何に悶えて、如何な無力さに項垂れているのかが。
折角の旅行だと言うのに私は心此処に在らずと云った気持ちに支配されがちに成って居て、
相も変わらずあなたに対する気懸り許りが募って行く。
(,, ゚¥゚)「今頃子供達は、どのように過ごして居るのでしょうね」
(,,゚-゚)「確か近所の市民プールに皆んなで遊びに行くって、秋華さんが話してたわ」
(,, ゚¥゚)「平和だと良いですね…きっと向こうも灼熱でしょうから」
(,,゚-゚)「杉浦さんが口を酸っぱくして、全員に塩飴を配ってる姿が容易に想像出来ますね」
(,, ゚¥゚)「今日は一応、バイトの二人にも来て頂いている筈ですよ」
(,,゚-゚)「…鴨志田君と赤梨さん、よね。
互いにサボりがちではあるけれど、居てくれると助かるからね」
(,, ゚¥゚)「二人とも、妙に子供たちからの人気が高いですよね…羨ましい限りです」
(,,゚-゚)「民男も満も、私たちや杉浦さんたちの言うことを全然聞いてくれない癖に、
鴨志田君だけには何故か、とってもよく懐いているよね。
赤梨さんは女の子達に引っ張り凧だし」
146
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:10:02 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「…民男君と満君はかなりの問題児ですけれど、根はとても良い子ですからね。
休みがちな学生さん二人も、性格は極めて穏やかで優しい気質ですし」
(,,゚-゚)「実際、あそこに悪人は居ないでしょ」
(,, ゚¥゚)「全面的に同感です。尤も、何を以ってして善悪の成否を下すかに依るのでしょうけれど」
(,,゚-゚)「家の子供達に憧れて、嫉妬心の表れとして暴力やら悪戯やら悪態やらに訴えてしまう気持ちも分からなくないわ」
(,, ゚¥゚)「あれ位の年頃は、感情の整理が上手く出来ませんからね。
私も昔は、或種の羨望を常に抱いて居りましたから。
全面的に全て理解出来ると豪胆する気概さえ乏しいものの、近しい感情を抱いた経験が在る故に、如何しても同調的に考えてしまいますが」
(,,゚-゚)「…でも私、昔を思い返してみると、楽しかった気持ちで自分を必死に騙して、
いつになったらこの地獄から抜け出せるんだろって、思ってた気がする」
(,, ゚¥゚)「誰しも一度は通る道です。好きで来た子は一人としておりませんよ。
私も、鮮明には覚えていませんが、車に乗せられている間は、まるで遊園地にでも赴く時のように意気揚々としていた気がしますし」
(,,゚-゚)「置いて行かれた許りの頃は、最初はあんまりにも辛くて、人目も憚らず泣き噦ってしまっていたけれど…
日が経過するに従って、そんな哀切が平たく引き延ばされて行くんだよね」
(,, -¥-)「……苦艱は限り無く無に近付いて行くものの、決して消える事は無いのです。
其れと同様、無理して消さなければ行けない道理も御座いません。
過去が在ってこそ、私も岸さんも、民男君や満君や香奈ちゃんや真君や皆んなが、今此処に在るのですから」
(,,゚-゚)「そうなのだけれども、何だかつい…」
(,, ゚¥゚)「倒れてしまって申し訳ありませんでした、本当に」
(,,゚-゚)「いいよ別に、其れは其れよ」
147
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:11:32 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「有難いです」
(,,゚-゚)「…」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,゚-゚)「…」
(,, ゚¥゚)「…そろそろ、動き出しませんか?」
(,,゚-゚)「え?」
(,, ゚¥゚)「あ、いえ。
一泊二日ですから今日の内に観光名所を巡っておかないと、瞬く間に時間が過ぎてしまうと思いまして」
(,,゚-゚)「もう平気なの?」
(,, ゚¥゚)「岸さんと話している内に、持ち直しましたよ」
(,,゚-゚)「ん、それは良かった。じゃあ最初は…と言うか、見所なんて其処くらいしか無いけれども…近場の鍾乳洞にでも行きましょうか」
(,, ゚¥゚)「年甲斐も無くワクワクしますね」
(,,゚-゚)「…」
いつも通りの口調と平坦な顔付きのまま、そんなこと言わないで欲しかった。
いつかあなたが話してくれた思い出の場所。
幼い頃、両親の帰省に合わせて年に何度か足を運んでいた田舎近郊に設立された遊園地。
閉園したが為に急遽目的地として割り込んだ、水琴窟を持つ鍾乳洞。
あなたの目は、決して笑っていなかった。
楽しそうな本意など絶えていた。
暗く、ただ黒く、淀んでしまったままだった。
148
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:13:32 ID:AwyDQg0s0
***
認めるとか認められないとか、そう言う次元の話じゃないんだ。
伝えたいのかもって耳を澄まして意識を傾けても、実態なんて最初から存在して無かったんだ。
伝えたい趣旨すら欠けているんだから宿る意思なんて初めから無くて、
それでも吐き続けないと具合が悪いんだろうと思ったから、聞き流さずに受け止めようと決めたんだ。
別に良いんだよ私は、ドクオが他人から見たら変人に写ろうと。
初対面の頃の私だって、当時は随分と気の毒な癖を持ってる人だなって感じてたんだからさ。
よっぽどストレス溜まっているんだろうなとか、代償行動で独り言を選ぶなんて失敗してるなとか、自分勝手に考えてたよ。
また一段と暗い顔した奴が喫煙所に来たなって位の認識だったさ。抑々民俗学なんて学問を専攻する人間に、まともな奴なんて滅多にいなかった。
加えて現役生で大学に籍を置いてる輩もほぼほぼ見掛けないし、同級生は見た目からじゃ年齢の判別が付かない輩ばかりだし。
良く言えば大人びてるって称されるんだろうけど、ハッキリ言って顔が老けてるだけだ。
話してみると大半が私より歳上なのに、変に幼稚な性格してるんだ。
独りっきりで生き過ぎてしまって、もう後戻りなんて出来やしないのに必死で若者装ってるみたいな…見てるとなんだか痛々しいんだ。
中にはそんな堕落した性格を理解してますって顔で達観振ってた連中も居たけど、吹っ切れて自己承認してるのも見苦しかった。
だから喫煙所に入ってきたドクオを見かけた時は、ああ此奴も自分のことを壊れてるって思い込もうとしてる、
思春期を抜けられないままででモラトリアム化した一学生なんだなって哀れんでいたんだ。
概ねその予想は当たってたんだけれども、合コンの数合わせでお前と再度相対した時は本気で驚いたね。
その一角だけ湿度が高いんだもん。
149
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:15:37 ID:AwyDQg0s0
体臭もなかなかどうして濃厚で、誰が誘ったんだこいつって茶化されてんのは流石に惨め過ぎて笑えなかった。
キャンパス構内で遠目に見かけた時は口元なんて微動だにしてなかったってのに、
こうして面を合わせた途端に俯き姿勢で小言呟いてたんだから、対面の女共は猛烈に引いてたな。
目の前に座ってた女子が喫煙所吉見の私で良かったよな、下手すりゃ村八分状態だっただろうし。
正直言ってドクオはそれを望んでたようにも見えたけれども。
多分さ、圧倒的に異質過ぎたんだよ、何もかもが。
当時の私は必死こいて周囲の(気持ち悪いけど)成績の良い連中に追い付こうと努力してて、高飛車な態度装ってマウント取りばっかしてたんだ。
周りの視線に怯えてた部分も、少なからずあったと思う。
どちらかというと、反骨精神を目一杯働かせて勉強しまくってた感じだったろうけれど。
どうせ私なんか歳下で、両親にも親友にも恵まれた甘ちゃんだから勝てないに決まってるんだって卑屈になるのが、ただただ気に食わなかった訳だ。
同級生を跳ね除けられる程の勇気なんて持ってなかったから、あいつらと言葉尻を合わせて良い人を演じていたけれども、
本当のところは独りっきりになるのが怖かったんだ。
窓の外で風に靡く夜の大木が無性に恐ろしくなるみたいに、不必要な同輩との関係性を失って孤立するのが怖かったんだ。
思い返せば、私の近くにはいつも誰かしら人がいた。
好き嫌い問わず誰に対しても親切に接していたし、自分の容姿もある程度理解していたから。
高校までは常に見知った顔の友人が側にいた。
だから大学でも、それまで自分が意識出来無いところで続けていた習慣のお陰で、孤独に苛ませることなんて無いと思ってたんだ。
私の進学先の大学に、同級生が誰一人として進まないだなんて思いもしなかった。
どんなに低く見積もっても二、三人は来てくれるだろうと思い込んでいたんだな。
150
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:17:11 ID:AwyDQg0s0
その事実を自覚した時は、柄にもなくビクついてしまったよ。感情が顔に出て無いか心配で堪らなかった。
こんな話の後だと意外かもしれないけれど、友達が出来無いか不安だったと言えば嘘になる。
何となくでも会話が通じる相手が作れればそれで上等だったし、経験則から言って大丈夫だと考えていたから。
生来のお嬢様気質が助けてくれたというか、甘やかされ過ぎて自然他人にも優しくしてしまっていたというか、
話し相手を見つけるのは殊の外簡単だった。
都心ではあるものの文系で、しかも大して偏差値も高くない学校だったから、予想通り隠花植物みたいな生徒ばかりだったけどな。
外見から内向的な性格が如実に伝わって来たから、彼らに取り入るのには少しばかり苦労も経験したよ。
隣の奴に話し掛けても反応が返ってこないなんてザラにあったから。
それでも大学には喫煙所という特異な出会いの場が有るらしく、暇な時そこに入り浸っていれば交友関係は意外と簡単に広められるんだ。
好きな映画のマフィアが吸ってた姿がカッコよくて、真似て高校の頃から煙草を吸う習慣が付いて居て良かったと思ったよ。
思わぬ僥倖だったともさ。
高嶺の花だと思ったが話し掛けてみれば意外とフットワークが軽くて驚いた、とも言われたな。
151
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:18:16 ID:AwyDQg0s0
妙にプライドの高い男性連中も嫌味な精根を気にしなければ実害は無いし、
美形な女子は自分の方が優れていると確信しているから自然と集まってくる。
陰険な態度から勝手に自分に対するアイロニー感じて考え込めるほど器用な頭してないから、些細な疑問なんて容易に無視出来た。
成績が悪くたって話さえ通じれば、後は会話力だけだったから。
本当、お前と会った時は真っ向から私の生き方全てを否定されたみたいな気分だったよ。
不快感とは別種の衝撃に襲われたって感じでさ。
何を考えているのかまるで理解出来無かった。
耳は良かったから独り言の内容も何となく耳には届いていたけれども、主旨も意図も介していなかったんだ。
少なくとも初対面の私目線では。
カッコ良く見えたんだな、私と真反対の生き方が。
孤立を恐れて群れる人間を他所目に、積極的に独りを望む強かさっていうのかな。そう云う所が切掛さ。
好きだよ、ドクオ。
152
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:21:18 ID:AwyDQg0s0
***
栄華の夢に縋り此れからを独創して生きて行く気概は言わずもがな希薄であるが、
其れこそが痴呆症改善の一助と成り得る旨を薄目乍らに所懐して居た人物は誰で在っただろうか。
眉間に皺寄せ目頭を凝らせ不合理且つ理不尽な現実の看破を幾度と無く試みて来ても、
観測されない内情抔存在しないことと同意義である、猜疑心を重ねた或種の盲信など無益であると、斯様に私は確然自らの心理へ刻み付けた筈だ。
嗚咽は咽頭を傷付けるのみで在るから、悲哀を回想し慟哭する価値など在りはせぬと自我を挵ったにも拘らず、
身勝手に其れを想起しては独り落涙して、そして本当の意味での自己崩落すら叶わずに、
方角の見誤った狂燥を繰り返し繰り返し弄んでいたのは、他でも無い過去からの私だ。
自己破壊願望に打ち勝つ希死念慮は内側に留まれず外界への八つ当たりとして巻き散らかされ、
寂寥せし己の惰弱を見詰め地産地消に鬱憤を発散させる恥ずべき愚行を擁護出来る世道人心抔露も無かった。
懐古するのは塞ぎ込む以前、比較的明るかった両親と共に祖父母宅へ帰省した際、遊園地が閉園して居たからと急遽予定変更の後に訪れた鍾乳洞。
夏場の焔を不可視な境界で隔てた岩窟は緊張にも似た冷気の充ち満ちる異郷として幼い私の眼に写り、
色彩豊かな照明灯は幽玄に佇む曲線の石灰岩を一層際立たせる。
痛覚を刺激する迄の静寂が占めるのは外側の静謐な空洞か、
それとも空白に埋没した私の心か。
所詮小康状態を保っているに過ぎないのだと俯瞰的に捉える狡賢い常習性が根差し、
哀れな立枯れの花を咲かせている幻視を浮かべては、自ら望んで安息地を隔絶し腐る自我を誇大妄想に遊ばせる児戯。
拙い精神的逃避癖の一環。
153
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:23:12 ID:AwyDQg0s0
…如何やら幼稚な思い出に浸りつつ在りもせぬ虚妄を蔓延らせ、似ても似つかぬ目前の景観を昔日の一部に繋げ思い返して居たらしい。
僅か許りに遊離を免れた意固地な気性が雑感宿る硬い言葉使いと愚弄じみた態度として与しているから、
幾重にも嵩張るさもしい狂言綺語を弄んでしまっているのだろうと、私は未だ自己の素行を責め詰らず鈍感の振りをして居る。
魯鈍にも怠慢な性を修正しようと顧みず幻影を彷徨き歩く姿は呆れて物も言えない程だと宣い、
然うして自己嫌悪に陥る病巣部位を切り離し謗り踏み躙る態度こそが私の本来的な堕落せし精神の真相だった。
子連れの家族が自分達以外にも複数組見えたから普段は無言で咎められる我儘な言動も、
果たして叱咤まで行かずとも、手を繋いだりする程度で在れば許可を頂けるだろうと勘違いしてしまった。
緋色、藍色、紫斑、翡翠と豊かに彩られた暗闇の洞穴は音波許りが漣立つと知って居たのに、
欠片たりとも存じない無邪気性への模倣が両親の迷惑に為ると知って居たのに。
手は払われた。
顔を見上げた。
視線は真っ直ぐだった。
二人共虚空を見詰めて居た。
私は間に居た。
私は間に居た。
私は間に居る。
ぽちゃん、と。
雫が落ちて反響した。
二人は欹てて居る。
私は此処に居る。
……。
私は何処に居る。
154
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:25:54 ID:AwyDQg0s0
幼少期の未熟な精神に引っ掛かった小骨を、まるで太い楔が打ち込まれたようだと表現していた小説は
畏怖に突き動かされ荼毘に付してしまったのに、己の人心を分断し焚べること抔不可能で在ると相場は決まっていたから、
夜もすがら遭逢する自身の心情が上げる唸り声を無風に揺れる梁の軋轢音へと転嫁するのに許り必死だった。
迂遠に現況を濁して理想の夢幻を描く行為は隣室にて鼾を掻く実存の父母を蔑ろにしていることと同じで在るから、
然し童心にて自閉の仕方を実践出来るほど優れた擬態化方法抔知る由も無かったから、
切端の語群をひけらかし虚な言語化許りを装うように為った。
言葉遊びに選別される語句へ深い思い入れは全く無いのだが、与えられた書籍は押し並べて辞典辞書の類いで在った。
又その他貰い受けた外国語翻訳特有の堅持な言い回しが目立つ児童文学作品も、畢竟焚書どころか棄却すら出来ず、
寧ろ両親との思い出の一品として今尚大切に保管して居る為体だった。
此処は遍く透き通る迄に安穏を極めて居るから、誰何の問いすらも無粋に感じ入る。
漠然たる顔貌を極々自然と晒しているかの如く斯く迄大地深奥抉る玉髄の地勢は、
内部にこそ存在の真価が在るのだと告げているみたいで、臆面も無く膨張する自己肯定感許りが列を成して居た。
乃至は胸に納めた阿漕な気質が静かに泡立ち、四六時中無機な貴様には美しく繊細な景色を覗き伺った所で猥雑な己しか見えないのだと、
そして斯様な擬人感を持ってして自己批判を貪るのが精々だと、そう諭されているかのようだった。
(,,゚-゚)「盛夏の外気が嘘みたいに、窟中は涼しいのね」
日光に備えて誂えた薄白粉を窶す岸さんは削り均された円かの鍾乳石達と同様、不自然なのに違和感を抱かせない人工光に照らし出されて居た。
振り返る顔貌の左側三割程を朱色に、残る右側六割程を群青色に、隔てる接触点は淡く混ざった菫色に。
丹青で在った。
155
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:28:05 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「元来鍾乳窟とは内部と外部を石灰岩により隔絶しているのですから照らす光等が付け入る隙抔無く、
加えて湧き水や結露が発散する天蓋は岩肌で閉ざされて居りますから、蒸発と凝縮を繰り返し繰り返し、篭る熱を気化させているのですよ。
気温が低いのは自然の摂理なのです」
(,,゚-゚)「へえ」
(,, ゚¥゚)「嘘です。ただの勘ですよ」
(,,゚-゚)「そんなことだろうと思ったよ」
淵源的事実などに興味関心を惹かれなかったと言えば、其れこそ迷妄甚だしい虚言だ。
体感を通して感受する世界を法悦に浸る思いで眺める美的な情趣も勿論兼ね備えているが、
清朗な理解を得ようと只管形象的に頭を捻った所で予め自身に刻まれた知識以上の解釈抔生まれる訳が無い。
知見に根差した機智の糸を張り繋げ理性の獲得を目指す程の積極性こそ欠けているものの、疑問は根拠を用立たせ氷解したいと強く望む性質。
殊更欠けているのは人間性と能動性だ。
つまり最初から己の内情を詳らかに暴露して居る物は無性に魅力的で、
自ずに無い要素を惜し気も無く白状する狂人達も同様、私は其れに何処か憧れじみた感情を抱いて居る。
其の一方的な所与を飲み下す為には頑健な歯牙が必須となるし、
広漠と憧憬物を求め得る為には虚飾で綺麗に取り繕った外装も又持って居た方が良いと考えている。
私は何を連ねているのだろう。
思考の発端は何だったのだろう。
生の葉が焼けた後の臭いが篭っている。
換気が果たされていないのだ。
空調は作動する以前に設置されていない。
(,,゚-゚)「思い出の場所、でしたっけ」
156
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:30:18 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「両親と共に訪れた場所は、想起出来れば全てが然うですよ。
本当は遊園地に行きたかったのに実際は随分と前に閉園して居たらしく、その道すがら立ち寄れる観光名所として候補に挙がった一箇所です」
(,,゚-゚)「幻想的な避暑地ですこと」
(,, ゚¥゚)「全面的には賛同致し兼ねますね。
…両親は恐らくセンスが良かったと称するより、単に暑気払いとして山内の霊地を選んだのでしょう。
父も母も、何処か浮世離れした気質でしたから」
(,,゚-゚)「どんな人達なのでしたっけ」
(,, ゚¥゚)「家内では堅物でも心根の柔らかな父親と、無責任な所もありますが私を一人の人間として愛してくれた母親です。
今の私を象ってくれた二人です」
(,,゚-゚)「あなたが話すからこそなのかも知れないけれど、素敵な人達だよね。陳腐な表現に成ってしまうけど」
(,, ゚¥゚)「とても不揃いな性格の、ともすれば正反対かのような二人でしたよ。
其れでもやはり夫婦ですから、日常の仕草や物事の考え方等で、きっと近しい物でも感じて居たのでしょう」
(,,゚-゚)「…この、ポンっと木霊する滴下音、水琴窟とも言うのよね。
国内でも有数の穴場を偶然にも選び挙げて居るのですから、きっと相性の良い二人だったのでしょうよ」
(,, ゚¥゚)「…実際の残響は、これより不断に響くのです。
風に揺られる金属製の風鈴が奏でる旋律に似て、或種の忙し無さを含んでいるのです」
(,,゚-゚)「本物も偽物も、何方も知らない私には区別が付けられないわ。
純粋に私は此処が好き。それが例え紛い物で在ってもね」
カツカツと硬質な音が洞窟内に反響し行き渡る様子を何と無しに伺い乍ら合金の骨組みが剥き出しに成って居る階段を下る。
雨でも降っているのかと連想してしまう程の水音は、きっと地下水脈の潺なのだろう。
157
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:32:04 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「あなた、まだ寂しかったりする?」
(,, ゚¥゚)「?」
(,,゚-゚)「その、両親との別離」
(,, ゚¥゚)「言わずもがな、もう平気ですよ。
顔を合わせなくなって随分と経ちますから、当時抱いていた感情を思い出す行為すら難いのです」
(,,゚-゚)「…私も同じ。やっぱり何も感じなくなってしまうよね。
不意に思い出して悪夢を見る機会も何年か前迄は在ったけれど、今じゃ滅多に無いですから」
(,, ゚¥゚)「寂しい気持ちが時間と共に薄く平たく伸びて行き、自分の体の中に広がりきると、段々とそれが透明に成ります。
何時になったら迎えに来てくれるのだろう、忘れられていないだろうかと訊ねる声すら消えて行きます。
私にはもう院の子供達が抱える声が、まるっきり聞こえて来ないのです」
(,,゚-゚)「良くも悪くも、でしょうけれどね」
(,, ゚¥゚)「御伽さん達に対する気持ちも、不肖極まりないとは思い乍らも、徐々に透明に為りつつあります。
消えずに残留し続ける思念と云う物は、何時迄も許されないことと同義ではないでしょうか。
私は臆面も無く、そんな自分勝手な思考を浮かべてしまって居るのです」
(,,゚-゚)「私は…御伽さん達が好きだったから」
(,, ゚¥゚)「私も好きですよ、今も尚」
(,,゚-゚)「だからこそ、本当に申し訳無い気持ちで一杯なの、私は。
子供達にも御伽さんにも、其れこそ凡ゆる人達に対して、心の中でずっと謝り続けてる」
(,, ゚¥゚)「…」
158
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:34:46 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「この歳に成る迄実の両親の代わりに愛情を注いでくれた、生活に困らないように学校へ通うお金も出して貰って、
我儘だって沢山聴き入れて頂いたのに、変わり果てた御伽さん…お義父さんが、全くの別人、赤の他人にしか思えなくなってしまった。
介護の負担が感謝から来る物じゃ無くて、苦痛だけの責務だと感じてしまっているの」
(,, ゚¥゚)「…どの家庭も、きっといつかは直面する議題ですから、そんなに自分を責める必要など無いでしょう。
老人虐待や介護疲れ絡みの事件が昨今の社会を騒がせている中、私達は私達の出来ることを確実に熟せているではありませんか」
(,,゚-゚)「表面的には正解なのかも知れない、常識的に判断して実行出来ているのかも知れない。
けれど…感情とか、気持ちとか、所謂他人には見えない内側に根差した問題なの。
親を待つ子供達を見守る陰で、きっと彼らも私たちのようになるのだろうと、再び肉親と一緒に暮らすことなど不可能だろうと、
そして里親に愛され実の両親を忘れていって、遠い未来では継親の介護に疲れ果て頽れているのだろうと…」
(,, ゚¥゚)「其れでも、生きて行くしか道は無いのだろうと思います。
預けられた院の子達が必ずしも不幸な生涯を強いられるか否かと問われれば、果たして然うとも断定出来ません。
実際私は、もう十分な迄に幸福を享受して来れました。
自分にこれ以上の幸いを望むなど、烏滸がましい行為だとすら思えてしまうのです」
(,,゚-゚)「私みたいな心境に陥って欲しくないから、こんなことを考えてしまうのかも知れないわ。
勿論、本来の父母が更生して考え直してくれて、或いは実の子を直視出来るようになれば、それが最良でしょうけれど」
(,, ゚¥゚)「家の子に戻れるのなら、其れが一番であると思いますよ。私たちは戻れませんでしたから。
…実際、仕事の都合等で一時的に預けられた子達は案外直ぐに家庭へと帰って行きますし、
其の時の彼らの表情は今迄見た事が無い位に明るく彩られておりますからね」
159
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:36:54 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「結局は羨ましいのよ。醜いとまでは思わないけれど、嫉妬してるの。
民男の口が悪いのも満の素行が悪いのも、悲しい八つ当たりなのでしょうね」
(,, ゚¥゚)「辛い経験も苦い思い出も、将来自分を助けてくれる物になる。
今はとても苦しくても、何れその記憶が自分を守ってくれる。
杉浦さんが斯様に仰られておりました」
(,,゚-゚)「……」
(,, ゚¥゚)「各々が全く異なる至難を、その幼い身体と精神には余りに大き過ぎる受難を抱えているのです。
其れを乗り越えられるか否かは、結局のところ本人の気質に左右されてしまいます。
だから私たちは、其れを少しでも和らげられるように頭を働かせる可きなのです。
厭世観に感けて想像力の種を知悉に許り求めて居たら、子供達の心を行方不明にさせてしまいますから」
(,,゚-゚)「……あなたは、亡失して行く精神の復興として、御身との会話を求めて居ると言いたいのね。
其れが子供達の為になると盲目的に、或いは独善的に信奉して実行している」
(,, ゚¥゚)「…分からないだけ、なのです。私自身が何を望んでいるのか、心身的にどの段階に居座っているのか、自分が何処に居るのかが。
…不安、なのですよ」
不意。
葉の燻る臭い。腋臭。硬水の飛沫。
鍾乳洞は色鮮やかに暗い。換気されて居ない。空気は停滞する。声は遠近響く。
水が有触れ目に写る。しかし其れには触れられず嚥下すらも許されない。距離が在る。柵が在る。
口内が粘着き舌根が麻痺する。感覚障害に既視感が在る。苦熱伴う嘔吐感を催す。
160
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:39:15 ID:AwyDQg0s0
一顧するは過去の残影。残り香から辿る足跡は革靴と拡充する顎髭。
無くして行く、瓦解して行く、停留所の藪深くに緋色の衣が翻る。
風が吹かずに翻って居た。茫々たる曼珠沙華が開いて居た。渇いて居た。意識は酔歩を踊り晴天なりと大夢を闊歩して居た。
回顧の合間、見聞した人非人は食人鬼の前に話した狂人。
紫烟を燻らせ脳髄に毒虫の卵鞘を根付かせる人で無し。
私には何も出来無い。岸さんを危険に晒す訳には行かない。只管其処に存在するのみ。厄は揺蕩う。
事実害悪は被らなかった。勝手知ったる仲の素振りを宿す自縄自縛の彼は私と同い年だった。岸頭の舟は不繋で在った。
何故彼が出てくるのだろう。随波逐流惑う。内藤君はまごう事なき気違いと名称して居た、人当たりの良い青年。
赤い彼岸花を童の浴衣と見違えた時点で、ドクオ君の喫煙する生臭い煙を鼻腔に通した時点で、
起も承も、行き着く場所さえ見失った精神活動内の持論を自覚した時点で、自らの愚考を論うより以前に気が付けば良かったのに。
(,, ゚¥゚)「…岸さんは、バス停の対岸に赤く翻る彼岸花を、見掛けましたか?」
(,,゚-゚)「え? 何、急に如何したの?」
(,, ゚¥゚)「鮮やかな緋色とは対照的な仄暗さを存分に放逸させる、
まるで怪談話に出て来るかのような奇々怪々とした色彩を纏った、早咲きの華を見ましたか?」
(,,゚-゚)「バス停って…ドクオ君や高岡さんと出会った場所のこと?」
(,, ゚¥゚)「鬱蒼と茂る青緑の暗闇奥深くに風も無く翻る花弁の筋が、
まるで子供が夏祭りに着て行く浴衣みたいに靡いているのを、岸さんは目撃しておりましたか?」
(,,゚-゚)「ちょ、ちょっと…」
161
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:41:37 ID:AwyDQg0s0
(,, ゚¥゚)「あの時のドクオ君が吸っていた煙草の臭いに、私は何処か既視感じみた片端を覚えたのです。
あの、思わず噎せ込んでしまう、目元の涙腺が不規則に緩む臭いに脳裏が犯されてしまって」
(,,゚-゚)「ねえ、あなた」
(,, ゚¥゚)「沸き立つ血潮に類似したおどろおどろしさを、躁鬱気質じみた不確か且つ沈鬱に塗れた雑念の幻影を、私は想起してしまいました。
五感を介して受託された誤認を感覚的には是と捉えてしまって、竦然と立ち竦む思案すら奪い取られ、独り荒涼に置き去られたかのような…」
(,,゚-゚)「スモモさん!」
(,, ゚¥゚)「!」
(,,゚-゚)「…落ち着いて話してくれないと、分からないよ。
こっちに来て、手を取って、ゆっくりと深呼吸を繰り返して……ゆっくりでいいから」
(,, ゚¥゚)「ですが」
(,,゚-゚)「本当に伝えたい事がある時に、態々真実の隠れた、回り諄い発言をする意味が在る?
あなたの其れは癖に近しいでしょうから、最早咎めたり抔しません。
でも…焦る気持ちも分かりますけれど、相手にしっかりと自身の意思を伝達したいのなら、其れに見合った声を、単語を選択して。
然うじゃないと、分かりたくても分からないから」
(,, ゚¥゚)「……」
(,,゚-゚)「あなたは其れが出来る人。あなたが意図的に理解し辛い言葉を使って自分自身への解釈を歪めて居るのを、私は知っている。
意識的、無意識的問わず癖として染み付き本音を歪に濁して居るのを知っている。
そしてあなたが、そんな悪癖を持った自分自身を常に嫌って開き直りの自己肯定を演じているのも。
無理に今すぐ直してとは言わないから、だから、今は兎に角落ち着いて、鎮めて…言いたい内容が整理出来てから、其の本旨を教えて」
162
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:44:31 ID:AwyDQg0s0
私は何を口遊んで居たか。
煙草の臭いが見せる幻覚と紛い物の高揚感だろうか。
岸さんの発する言は御尤もで在るし混乱気味に捲し立てる私を見兼ねて教え諭す声色と文体で話して呉れて居ると理解は出来るのだが、
何故か思考が纏まらずに堰を切って情景と感情が絡まり流れて来る。
高々日射病の後遺症として夢現のまま回想を弄んで居ただけなら、
斯様に滑稽で目も当てられない愚かしい卑語を繰り有触れた狂言を散見させる程の動揺もしなかっただろう。
否、畢竟私は些細な出来事にすら朦々と情動を昂らせ、心中にて狼狽を氾濫させている惰弱な精神を隔離して、
不変的且つ強固な自己を晦渋な言行、思案に依り取り戻そうと腐心して居た。
外気の放つ瘴気も憂慮も飲み込み割れてしまった脆弱な器を、あれ程迄に忌避して居た無表情な自我を、
両親や御伽さん達が逝ってしまってから身に付けた、或意味辛抱強い人格を、再度構築し直そうと躍起に成って居た。
私は何がしたいのか。
動かぬ心を解したかったのではないか。
何故未だに以前の自分へ縋り付いている。
何故。
結論を出すことは許されない。何故か。
解決すべき疑問点が外に在るからだ。
持論の決着は最優先事項ではない。何故か。
終局その落着を望んでいるのは私のみだからだ。
またお前は遠大に事を引き伸ばす。何故か。
労した逡巡を貴方に認めて貰えないからだ。
口に出さないと分からないのに話さない。何故か。
表情乏しく本態を放っても真偽を理解されないからだ。
また言い訳か。いい加減にしてくれ。いつも言っているだろう、そうやって何事も後ろ向きに考えているから卑屈だと思われるんだ。
誰が、何故か、何処で、分からない、分からない。
163
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:45:59 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「落ち着いて」
一拍
(,, ゚¥゚)
二拍
(,, ゚¥゚)
三拍
(,, ゚¥゚)
…。
…。
…。
……落ち着いた、だろうか。分からない。
大丈夫なのだろうか。分からない。
思考は未だ混乱して居るだろうか。分からない。
これは私の言葉だろうか。
分からない。
白く埋めてしまった。明るく照らされ過ぎてしまった。
そう思い込もうとしているのだろうか。
分からない。
分からない。
此処が考えるべき時節なのだろう。きっと。然う思い込もうと試みた。
妄想の放つ罵詈雑言は神経を逆撫でする代物だったが、私の中には染み入らなかった。
164
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:48:17 ID:AwyDQg0s0
他者から被る心理への追求が足りないからだ。
私は私自身に対して一巡思考し終えている。
変遷した自己を第三者的視点で眺める行為と同じように、形而下に烙印された譫言を拾い上げ下準備を拵えなければならない。
人生朝露の如し、沖天の勢いは摧折する迄、私は其れが枝葉で在ろうとも伸ばす。
ドクオ君の持って居た煙草は、生得的な惑乱を引き出す。
彼が然う話して居た。
平和を実現させると、然し其れは如何に一顆明珠で在ろうと独り善がりで在ると豪胆して居た彼が、然う話して居た。
(,,゚-゚)「話して。何が気掛かりなの?」
決然たる表情と清かな声。その実態は何処だろうか。
分からなかった。
分からなかったが詰る語気を孕んでいない、心安い姿。
幾分気が鎮まったように感じる他方、今居る場所こそが問題の一部である以上、この鍾乳洞に長居は禁物であった。
空気が換気されず対流しない為、二ヶ月前の梅雨時期が如く瘴気や濁気が蟠り、望みもしない身勝手な開放感、
憖人の執心や自愛心じみた狂的な側面を露にしてしまう。
過去一時的に副流煙を体内に循環させている為、また安易な理由から酷な所業を連ねた人物に慣れている為、
自らが其れに侵されつつあると認めさえすれば、幾分常識を取り戻す事が出来ると経験則が告げている。
真実其れが取るに足らぬ些事で在ろうと、青桐一葉落ちて将に天下の秋を知る場合も在る。
今は寝覚月だった。
(,, ゚¥゚)「……」
(,,゚-゚)「……」
(,, ゚¥゚)「…」ズモ
165
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:49:51 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「…」
(,, ゚¥゚)「…終わってから詳しく伝えますが、ドクオ君が吸って居た煙草は以前対談した彼の嗜好品と同じ原料の物だと思います。
真相の裏付けの為に、高岡さんと話して来て頂けませんか?」
(,,゚-゚)「…唐突」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,゚-゚)「……別に構わないけれど…彼女の弱みなんて私、握ってないよ。ドクオ君についても詳しく知らないし」
(,, ゚¥゚)「本当に単純な勘に過ぎないのですが、あの二人は他人に暴露したい秘密を抱えて生きているような気がするのです。
特に高岡さんは、ドクオ君という謎多き男性を恋い慕っておりますので、何某か一念携えて居ると考えてしまうのです」
(,,゚-゚)「確かに奇妙な気配は二人から感じ取れたけれども…其れが隠匿された狂気的な思念とは限らないでしょう?
それに…高岡さんの様な系統の人物は、徹底して秘密を明かさないか、
若しくは最初から存在しないかの二種類に大別される類型だと思うのだけれど」
(,, ゚¥゚)「仮に彼女が何一つとして自らを表白せずとも、然る程支障は在りませんから、
もし何かを感じ取れたのなら傾聴するという姿勢で問題ありません。
件の障りを嗜んでいたのは、今のところドクオ君のみですから」
(,,゚-゚)「…ちゃんと、全部説明してくれるんですよね?
以前のように再三問い質さなくても、確りと経緯を教えてくれるんでしょうね?」
(,, ゚¥゚)「流石に今回は、隠し通せそうも在りませんから」
(,,- -)「…出来る事なら言いたくないのね」
(,, ゚¥゚)「私は岸さんが危険な目に遭う事が只管に恐ろしいだけです。色々と付き合って貰っておきながら、身勝手な発言をしている自覚は在るのですが、
如何しても折り合いを付けられない部分も在るのです」
166
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:52:10 ID:AwyDQg0s0
(,,゚-゚)「いいよ別に、分かっているから。
…高岡さんと相対して、彼女の述懐を待てば良いんだよね」
(,, ゚¥゚)「左様です。あの煙を常時吸い込んでいるのですから、高岡さんにも何某かの影響が及んでいると考える方が自然なのです。
無理に訊き出す必要は御座いませんから、若し身の危険を感じたのなら直ちに私へ連絡して下さい。
…事後報告は、その、心臓に悪いので」
(,,゚-゚)「…その節は、ごめん。もうしないから」
(,, ゚¥゚)「取り敢えず私はドクオ君が居そうな場所を当たってみます。
旅館に戻る頃合ですと、時刻も丁度夕餉前くらいでしょうか。
私たちと同様、彼等もある程度の観光を楽しみ、外気に充てられて居たでしょうからね。目処は立って居りますよ」
(,,゚-゚)「!」
岸さんは場違いな迄に目を爛々と輝かせ、此処へ訪れるに当たり調べ上げた一つの情報へと思考を結んだらしかった。
まるで童心に戻ったかの様な純粋な仕草が私には眩し過ぎたが、
彼女の幼さと成熟さの同居した安穏な気立てが私は好きだったので、陶酔境な心持ちのまま喟然と嘆息する。
(,, ゚¥゚)「急を要する案件で在っても、私たちには何かをどうこうする力は在りません。
聴いた上で何を伝え何を伝えないかも自由ですし、彼等の成り行きは彼等自身で取捨選択して行くべきだとも思っています」
(,,゚-゚)「一方的に聴いておきながら、全く持って身勝手ですこと」
(,, ゚¥゚)「解決せずとも暴露する行為に意味を持つ人達も居りますからね。
逆も然り、私は新たな視座を得る為に話しているのです」
(,,゚-゚)「…」
(,, ゚¥゚)「羽休めも兼ねて、温泉へ向かいましょう」
167
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:53:54 ID:AwyDQg0s0
***
('A`)「俺は常に世の中へ苛立っている。あいつら低能のせいで俺自身の感情やら時間やらが消費されていると思うと腸が煮え繰り返る思いだ。
こんな自分に育ってしまった責任だって、俺自身に問題が在るとは全く以って思わない。
何故なら俺は表立った悪行を仕出かした記憶なんて無いからだ。
正確には身に覚えが無いって言った方が正しいのかもしれない。
自分が意識しなくても勝手に不快感を募らせて意味不明な他者批判をしたがる輩は多いからな。
小説やらアニメやら映画やらの娯楽でも、何々の此の部分をパクっただの、此のキャラクターは此の作品が元ネタだの、
諄々と訊いても居ないのに捲し立てる奴等は思いの外多い。
然う云う害悪の塊みたいな連中に限って、自分は他人とは違う真理を穿った物言いが出来てると勘違いしてやがる。
傍から見れば批判してる奴もされてる奴も似た者同士で見分けが付かないのに、
豪快に偉そうな発言を繰り返してる奴に限って自分自身が見えてない。
斜に構えて偉ぶるだけで具体的な解決案やら正当性やらを著しく欠如させて居るんだな。
言葉の言い回しが極一般的な普遍的事実を述べてるみたいに当たり前風で話すから妙な説得力が在るだけで、
実際細かく理詰めしてみれば穴だらけの論理なのに。
人はある程度の連続性を伴って生きている。
過去から現在に向けての人生の来歴だとか中学、高校で学んできた数学、国語だとかが人を構成している」
168
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:55:24 ID:AwyDQg0s0
('A`)「論理の破綻した奴の人生を鑑みれば、そいつの発言は全部自分自身に刺さる内容なんだよ。
昨日は"皆んなで仲良く遊ぼう"って言ってた学生が、今日は"二人だけで遊ぼうね"って言ってるようなもんだ。
この程度ならまだ可愛気が在るが、例えば此処に一人のおっさんを登場させる。此奴は如何しようもなく底辺な奴だ。
学も無ければ金も無いし顔も悪ければ性格も悪い。おまけに幼い頃から成功体験、所謂胸を張って自慢出来る功績が何一つ無い。
だから自分自身への評価が著しく低く、何かを実らせた経験も皆無だから努力の意義も分からない。
こんな底辺な輩が"人は努力あっての物種"だの"顔と性格が人の真価"だの言い腐っても説得力なんて微塵も無いだろ。
いや、或種の哀れみが混じった庇護的な意趣は有るんだろう。
分かり易すぎる程に莫迦莫迦しい発言が憐憫の情を誘って、自分自身への反骨精神が正論じみた私論を言わせて居るんだろうとか。
俺はこういう存在が徹底して嫌いだ。
自分の本質が見えてない癖に他人の心情ばかり伺い、全部分かった気に成って居る勘違い野郎共が大嫌いだ」
169
:
名無しさん
:2020/09/09(水) 23:58:25 ID:AwyDQg0s0
背離の小高い丘から湧き出ていると標に書かれていた。
近くの鍾乳洞を経由して流れ出た源泉は歳月を重ねた鉱石の成分が滲み出ているらしく、ナトリウムやらリンやらと言った元素が健康に良いと。
夏場の熱気に負けず劣らず立ち昇る湯気は勇猛果敢な日輪を濁してくれる。露天造りに就て深い意欲を持って居ないお陰で、
何故と疑問を浮かべる姿勢を持っても不思議ではないのだが、如何してか思考力が鈍っている。
身体を浄めて白くささ濁りする湯船に、どっぷりと肩まで浸っているからかもしれない。浴槽は滑らかな花崗岩の石畳だった。
逆上せてしまう程の高温が私の中に蹲って居た毒気を溶かしているらしい。煩雑に扱って来た語群が一切合切抜け出てくれて、同時に訳無く育んで来た劣等感やら自閉の嫌いが得々と失せるのが自覚出来る。
ようやっと真っ当に極楽往生へ辿り着けた心持ちだった。
唯、一心に心地が良い。
青天井は茜色に燃ゆ中、山嶺にかかる暮は山の輪郭を丁寧に縁取って光を零落する。
頭抜けて異観を極めた景色に耽溺を感けるだけとは失礼な気概もするが、やはり益々思索は緩むけれど、
堕落だとか脆弱だとかと自らを可哀想だと思う晦蔵は在りもせぬので、良しとしようと思う。
事の発端は自己分析許りに頭を悩ます愚策が阿呆らしいと感じたが為に他者への観察眼を磨こうと対談し始めたのが最初だろうに、
紆余曲折不逞な駄々捏ねを回して居たが為に自失したと云う経緯で在った。
雅趣に富む素朴な気と真実に低俗な心理との一絡げが助力と相成った。
卑小極める人を思い考えると、きっと誰しもが達観した観念で居られるという事実を再認識出来たのだから、此れだけでも十全良きで在った。
170
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:01:12 ID:dWhsdNPw0
('A`)「然う云う愚かしい発言は得てして自覚出来無い物なんだ。言ってる本人は他人に対して論を展開してるから、
そんで持って鬱積と苛立ちを撒き散らしているから、自分に其れが当て嵌まるとは丸きり考えて居ない。
高飛車に現実を見据える自分に酔って気持ち良くなるだけの自慰行為を、高貴な批評に置換して考えて居るんだ。
其奴が思う所の正論を振り翳してる姿は他人目線で眺めれば狂言回しと大差無い。
本人が自らの愚行に気付いて居ない分、余計質が悪い。
言葉の重要性を理解出来て居ないんだよ。声に出して伝えなくても勝手に相手に理解された気持に為ってやがる。思うだけじゃ伝わらない。
誰しも自明の理として確知して居る筈なんだ。
意思を文字やら単語やらに変換して伝えないと、どんなに下らない内容でも正しくは理解されないってことを。
心が通じ合うなんて比喩もよく聞くが、そんな不可視な物を信じるくらいなら目に見えて、耳に聞こえる物を信じるべきだろ。
だが其れでも、分かっているのに失敗する奴らばかりがこの世にのさばっている。
本人にとっては見返したり考え直したりして再度見詰めれば、すんなりと主旨が頭に入ってくるんだろうけれど、
他人からすれば分かり難い事この上無いんだ。
対人会話の場合は身振り素振りと話し方やら態度やらからニュアンスで何となく伝えられる部分も在る。
だから此処では専ら文章に就て話している。
例えば、説明書って在るだろ。大概の人間は一度でも触れた機会がある代物だ。俺は或種あれが文章の最上級系だと考えている。
伝えたい内容が簡潔に記されているからだ。
過不足無く書かれた文体は一糸の乱れも無く、非常に理解し易い。
そのせいで面白味も情緒も無いのが最大の難点だけどな。
自慢じゃないが、俺はある程度多くの文字を読み耽って来た。
面白い話も下らない物語もほぼ同数熟読して来た。物語批評も趣味の一つだが、俺の最近の趣向としては論点がややずれる。
話そのものに対しての批判なんて有触れているし、誰しもが無意識的に実践してるからな。
俺は俺だけにしか出来無いことがしたいんだ。
誰しも自分だけの能を持って居たい、唯一無二の何かを保って居たいと考えたこと位在るだろ。
そこで思い付いたのが批評批判だ」
171
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:03:01 ID:dWhsdNPw0
露天風呂に浸かっているのは私とドクオ君の二人だけになってしまったのだけれども、
つい先刻迄は地元の人物と思しき浅黒い肌の老人が二人ほど居た。
田畑を耕したのか山の中で狩猟でもして居たのか、
恐らく何某か生活の行程を経て流れ出た汗を拭う為に、此処に立ち寄って気を休めて居たのだろう。
立端はドクオ君と五十歩百歩で在ったが、二の腕や大腿部は脂肪とは別種の太ましさ、逞しさが如実に現れ出た容貌だった。
会話内容は取るに足らない他愛も無い日常の彼是と云った具合で、詳細抔殆ど思い出せないが、
きっと常日頃感じ募って居る心情を汗血と共に吐き出して居たのだろう。
ドクオ君は禊を終え私や老爺共が浸かる露天にゆっくり顎迄沈んだと思うと、諸方かかる鼻声で独白を試み始めた。
昼の時分とは打って変わって唐突に大声を放ち、毬栗頭の二人組はぎょっと一瞥後、見て見ぬ素振りを決め込んだ。
予想通りドクオ君が独語を擲ってから幾許もせぬ内に、醜悪を決め込んだ顔付きを浮かべた二人は裸足で退いて行った。
私は其れを予定調和の一環として、占め子の兎と目元に伝う玉の汗を拭き去った。
172
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:04:39 ID:dWhsdNPw0
('A`)「自分達じゃ何も生み出せない癖に偉そうな感想許り連ねて、其れで達観したつもりに為ってやがる。
凡人の一時的に思い浮かべた所感が金言に為る訳無いだろ、常識的に考えて。
確かに読者各々にも培って来た人生観やら知識やらがごまんと在るだろう。年齢なんて大した問題じゃ無く、誰しもが一人の人間として今日日生きているんだからな。
だが裏を返せば、誰しもが同じ程度の存在て訳だ。
読者作者と云う境界に於いては、物を書くか否かって具合の相違が其処に在るがな。ほんの一部の違いが何よりも重大な点なんだ。
進んで不快な、面白いと露ほども感じ無い小説を読む輩なんて多くは居ないだろ。
誰しもが少なからず自身の幸福実現を目指して日々を送っているんだ。
だから詰まら無い文章に悪評が付与されるのも、ある意味自然なことなんだな。
然う云う言葉は決まって自分勝手だ。感想と称して罵詈雑言を捲し立てて、読むのに費やした時間で溜まったストレスを発散しようとする。
本来の目的が幸せの追求だったのに、予期せぬ理由で果たされなかったんだからな。
その気持ちは分からなくないし、実際俺自身にも思う所がある。
頭が可笑しいのは、其れを直截相手に巻き散らす奴原だ。
読者諸賢が孤独に消化している不平不満を恥ずかしげも無く晒して、剰え同意を得ようとする蛮行」
173
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:06:33 ID:dWhsdNPw0
('A`)「苛々するんだよ。皆んなが我慢している行為を曝け出している奴に。
今の御時世インターネットが世間一般的に普及しているから、誰しもが批評家として名乗りを上げれるんだ。
畑違いのジャンルに片足突っ込んで中途半端な視点しか持って居ないのに、
そんな初見的見解にこそ警句と成り得る真理が詰まってると勘違いしてる連中のことだ。
浅く広くの思考が社会全般に流布し過ぎてるお陰で、そう言う奴に同意の意を示す人間も少なくない。というか実際多い。
ならば若輩者共と比較した古参兵は如何だろうと思う? 此奴は新参よりも選りすぐりに厄介な老害共だ。
凝り固まった偏見を英知と履き違えてやがる。慣習的な様式美にばかり囚われて、狭い視界でしか物事を観察出来無い。
そんな老頭児風情の頑陋至愚が罷り通る程世間は優しく無い。
だが現実問題其れが通用している訳だから、暗黙の了解として是認されて居る節も在るんだ。
言い換えれば、凡ゆる衆人がその意見の不条理さを無視して居る。
偏った意見の持ち主と真剣に議論を交わした所で相手は俺の意見を受け入れ無いし、俺も自分の芯を曲げる気が無い。
押し合い圧し合いの取っ組み合い勝負は飽きた方の負けって雰囲気が作られるんだ。
愚か者との会話を一早く無益だと理解して切り上げた奴の方がよっぽど賢いのにな」
174
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:09:30 ID:dWhsdNPw0
小心を車輪にして繰り出される言動は説得力こそ毫も無いが、
鼻声且つ早口に吐き出される字句の列が何を示唆しているか、把握出来無いとは思わない。
独り善がりな浮世話は時々疑問符を交えつつ進行して居るけれど、其れに返答を求めている縁は見えない。
日向に座する私と対立的に陰差した表情は俯きがちに薬湯を見詰めている。額に脂汗とも湯気とも判別つかぬ汁を浮かばせながら万方へ、
殊物書きの批評家に向けて放たれる雑感の数々は、堪え難い悪臭を醸し出そうとして居る様子で、
実を云うと耳が痛く成る憤怒じみた響きが其の声に篭っていた。
往々の素懐を撒き散らし無愛想のまま擲つ姿勢には憐情を感じ得ない心積もりなのだが、
徒に放たれるその鼻声は自らを律し、己の口から己の耳へ、改めての方々の性行を刻み付けて居るようで、
或いは韜晦へ溺れ入り自らの言が自戒に成らぬように、と卑陋なる私観を独白の内の鬱積へ中てるのに四苦八苦しているだろうと感じてしまう。
と云うのは、大兵肥満を横たえ扞挌する態度やら声色に、桎梏を嵌めている習気の如きが存じ無かったからだろう。
己を卑下し現世を祟る思想家は驚く程溢れて居る中、徹底した他者批判を意識する余り、
本来的には外へ感慨を込める為の声を総身を隠す為に案入る様子は、見聞きする者へ薄寒い非難の気持を抱かせて来る。
何かに付けて理解力の在る自己を議題に出し、その都度己の威厳を示す言葉癖の数々が、即ち自己肯定意外の何者をも含み得なかったからだ。
175
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:11:33 ID:dWhsdNPw0
('A`)「どいつもこいつも一緒だ。誰も求めてないのに感想と称して、その作品の解説者を気取っているんだ。
予め作られている話を色々な方向から眺めて、どの文がどの心理を描いているか考察して、自分好みの批判と解釈を長々と書き募る奴。
そう云う素人は目が肥えてやがるから、自分自身じゃ面白い物なんてまるっきり生み出せない癖に偉そうな発言許りしたがる。
馬鹿げてるよな、大して実力も能力も無い癖に大仰な態度で構えてるなんて。
正直言うと有能な奴、面白い作品を書く作家の述べる所感も、其れは其れで不快極まり無いけどな。
そんな長ったらしい解説文書き添えるくらいなら、自分の新しい物語の一部として代用すりゃいいのにって思うよ。
加えて現代の評論家共は覆面が矢鱈と多い。顔も素性も、凡そ個人的な情報を殆ど一切包み隠して、匿名的に愚図を述べる。
発言者がどんな輩か分からないし、遡及して身元を洗い出すことも限られた人間にしか出来無い。
相手から返答されないのを良い事に、好き勝手言いたい放題書き殴ってるんだ。
寧ろ対象が反応したら、それを面白可笑しく茶化して馬鹿にして、飯の御菜にするような卑近な奴らだ。
大学もそんな連中許りだったよ。こっちの方が余計に質が悪い。
顔も見えてるし情報も直ぐに攫えるってのに、群れで行動してるから横槍を入れ辛い。
此奴等に批判が届いたが最期、その蛆虫の大群に襲われて骨すら拾われないって算段だ」
176
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:13:31 ID:dWhsdNPw0
('A`)「独りじゃ何一つ、自分の襁褓さえ交換出来無い赤子顔負けの屑共なのに、
団体行動してれば何でも出来ると思い込んでいる。可哀想な奴らだよ。
俺は独りで生きている。其れが正しいと考えているからだ。
誰とも群れず誰とも交わらず、徹底的に自分自身への内省を極めて生きてきた。今後共決して其の意思が揺らぐことは無いだろうと思う。
気持ち悪いんだよ、虫螻が大量に蔓延ってて邪魔なんだ。鬱陶しいんだ、其奴等の存在自体が。
人は独りで生きる可きだと俺は常々考えてる。
成る可く他人へ迷惑を掛けず、必要最低限の交流だけ保ちながら、互いに過干渉して煩わしい関係に成ら無いよう努める可きだ。
其れに、低俗は感染る。
病の歴史と一緒で、紀元前から今に至るまで遍く奔流して居る悪意の源は、阿呆と賢人が同じ括りとして扱われている事実だ。
剰え、馬鹿が賢者を啓蒙しているかのような逆転関係が長い遍歴の中で育まれて来ているんだ。
根本から間違っているってのに誰もその真理を再考しようとしない。
下らない俗物には潔く身命を捧げて熟考してるってのに、根源的な問題を抱えている己を掘り下げて考えない。
独りだ、独りが良いんだ。自我の境地に至るまで自己を考え尽くす可きなんだ」
177
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:15:47 ID:dWhsdNPw0
屡々繰り返される茫々たる持論は、本人に於いては確然と決着しているのだろうと想像に難く無いが、
節々より派生を生じる本音を紐解いて鑑みるに、復する禅問答は咨咀逡巡の範疇を出ない。
大凡百歳に及び独創したであろう世相への批判が紡ぐ内容と云うのは、
殊文士が低俗である(と思い込んで居る)こと、
其れへの所懐を白日に晒す行為が低俗である(と思い込んで居る)こと、
団結せし世人が低俗である(と思い込んで居る)こと、
遍歴に身を浸した自我こそが常住涅槃の宝土である(と思い込んで居る)こと、
だろうか。
彼のような生き方こそが幸福者だと皮肉を込めて捉える気持も在る一方、
或種若しかしたらの理想郷とやらを己の中にのみ見出してしまったのだろうかとも思うのは、
由論拠無くとも自らを見詰める機会にばかり恵まれて居ると語ったからだ。
一体が孤独乃至は孤高を希っての思想こそ至高と抱負するに、又何かに付けて冷淡な態度を構えるに、
虚妄を述べて居るとは思えない程生き生きとして居る。
その本音でさえ酷く聞き取り辛い鼻声で在るのは愚にも付かぬ様相だったが、
何処か筋書き通りに準え換言して居ると思えない所もなく、そう思うと忽ちに老獪めいた案出を感じざるを得ない。
真に其れが抱負に基づいた権謀術数かと断定出来得る依拠は見当たらない為、編み出された思索の声が偶発的な産物とも断定出来無い。
しかし其れが人為による物で在ろうと泡沫の虚栄心が与した虚夢で在ろうと、私に於いては然る程究明を求める誤差では無い。
偶さかに相対した独語へ肖り思惟を耽ることこそが目的で在る為、
彼が無意識的に慣れない大声で喉を痛めて居ようと、人目も憚らず淪落して居ようと、全く取るに足らない瑣末事だった。
178
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:17:45 ID:dWhsdNPw0
('A`)「嫌いな事物は幾らでも語り尽くせるから楽しいんだ。
最初こそ変人だと白眼されるのが億劫で、柄にも無く怯えて居た時期も在った。
独り言は自分一人の時は決して言わない。言えない、の方が正しい。
俺は俺の意思を外部の誰かに伝えようとは考えて居ないが、其れが偶然他人の耳に入って記憶に残ることを願って居るんだ。
何処の誰とも分からない人間の呟きが聴者の心に居座って、俺と同じように独語癖が発現すれば良いのにって思って居る。
喜ばしいだろ、真理に最も近い孤独者が点々と増えて行くと思えば。
そんな大義名分が元来だったかと自らへ問い質すと、意外と然うじゃ無かったりする。
一度鬱憤を垂れ流し始めると止められなくなるんだ。
意味が無かろうと思惑が介在しなかろうと、自分の内にストレスを貯めることが我慢出来無くなるんだよ。
貰った煙草のお陰で最近こそ少しだけ楽に成って来たが、やっぱり黙ってると落ち着かない。
──嗚呼、畜生、畜生!
何だって俺はこんなにも情緒が落ち着か無いんだ!
漸く寵愛出来る物が批判以外にも見つかったって言うのに!
一時的に虚脱に近い安らかな心持ちへ成れる妙な葉巻も手に入れられたって言うのに!
結局俺の本質は独語を言い出す前後で変容しなかった。
けれど高岡と出会って、徹底的に孤独だった自分が本来的に望んでいた物に、何となく気付けたような気がしたってのに!」
179
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:19:48 ID:dWhsdNPw0
('A`)「──独りは至高だ。俺の到達点だ。
但し其れを確知する為には、独語を実践するには、俺の特性上常日頃付き従って呉れる第三者の存在が不可欠だったんだ。
誰も居ない、自分以外何も無い空虚へ言葉を吐いていると、俺は俺の情操を得られずに瓦解して行く心情に陥るんだ。
否が応でも他人と云う実存が其処に必要だったんだ。
糞、嫌いな事物を語るのは何よりも生き生き出来るし至上に快いにも拘らず、何だって俺は嫌いな事物許りしか饒舌に話せてしまうんだ!
如何して高岡みたいに好物を語る視点を持って、素直な好意を露わに出来無いんだ!
思えば彼奴と出会って以降、俺は変に雑観が増した気がする。
初見の時点、生き様容姿思考回路全て正反対に在る存在が間近に迫った時点では、
本人の性格良し悪し問わず讒謗めいた悪口が募りに募った記憶が在る。
聴こえないだろうと高を括って彼奴本人への非難を延々呟いて居たし、其れについての後悔は全く無い。
相変わらず俺には彼奴の深層心理が全然読めないが、恋われる理由が在るとすれば俺の吐く言葉くらいしか思い付かない。
だからこそ、自分の発言にあんな別嬪を従事させる気概が在ると有頂天に成ったもんだ。
嬉しさよりも手折ってやったと云う優越感が勝ったからな。
だが会って間もない内は、俺は彼奴が嫌いだった。
凡ゆる点で異なる処か、拠り所と成る考え方すら悉く合致しなかったからな。会話したって楽しくないし好みも全部合わない。
彼奴も俺と一緒に居た所で、そんなに愉快じゃないだろうとしか思えなかった。
別れたく無い気持が俺の中に蟠っていた理由なんざ、付き従わせて居る悦楽だけだったよ、愛だの何だのは分からないからな」
180
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:22:37 ID:dWhsdNPw0
而して厳しい格式高さを一心に担って居ると豪胆する姿勢には汗顔の至りを感じ得ない他方、
誰に聴かせるでも無く、敢えて言うのなら自我への問いと論拠の介されない莫連たる内観を隠らず放る平生のままの調子には、
倫を絶する気勢強さが顕現されて居るようにも見えた。
二様の解釈やら扞挌する異論やらを全くの雲霧無く辱められる厚皮面な人格は、快刀乱麻を断つが如くの痛快さを醸していた為だ。
とも有れ壺中の天にて懈怠を矗々貪る所以、則ち斯様な繰り言を喝破する声の出所と云うのは、真に件の彼が授けた触だと判明した。
扨はと予想した悪寒が当然顔で発露する経験は少なくない数骨身に沁みて居るものの、
又何処かで予測の在り方を待ち望んで居た気もするが、其れは勢いと云う物で、
怪我の功名とも開き直れる一方に、矢張り好事も無きに如かずであった。
唐突に又仮初に単身思索の跳躍が発症するのは喫んだ成分に因果する副作用(或いは作用)が見せる物で、
漸次的に往時の砌を思い返すらしく、宛ら其れは瘋癲やら癲狂の類を身に窶すが如く忽焉たる様なのらしい。
が、然し其れも弾指の間である、と話して居た。
暫時瘧が落ちる迄待てば良いらしい。
その間所志の節々は重畳流されるから却って幸いだろう。
聴くに症候の動態は常時思う本意が竜頭蛇尾に投げられて行き、終局は欺瞞している懸想やら繊弱やら瞋恚やらの、所謂三毒に尽きるとのこと。
何故と拝聴するに言語道断だから、死活同様漫ろに溘然たる様子が行住坐臥人と相成って居るから、と曖昧な論旨を述べて居たような気がする。
要約するに、斯く口幅ったい死生観を発する件の彼が曖昧に示した薬効は、
現在ドクオ君の陥って居る大惑不解乃至自ら自覚出来無いで居た煩悶の自覚を躁的に葛藤する状態
──潜在化の矛盾が明るみに出た状態──が発露すると、直に元へ戻ると云う内容だった。
181
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:24:54 ID:dWhsdNPw0
山焼けの湯治場で裸に表白するドクオ君の様は、声の大きさも助けて若干演者に見えなくもない分、失笑を買う諧謔性が滲んでいた。
結局疚しい精神性等は秘すれば花で在る為、真の精神性を衒った途端に陋なる性が露呈するので、
其の浅く未熟な思考の真相たる一点が詳らかになる須臾許りが要だった。
と云っても折衝に向け賺すのに用意した文句を脳裏の内にのみ留め、予てからの抱負だけに用立てられるのは幸いであるし、
本来交渉時に相手を騙し自身を威厳立てる必要抔無いのだから、私は随波逐流の輩としての本分に則り糊塗しようと思う。
糅てて加えて、長広舌の悪言に辟易して居た。
ドクオ君にも、自身にも。
段階的には終局に近付いて居て欲しいのだが、然し如何な物だろうか、
矛盾する己に気付き惑い始めている兆候が見て取れるから屹度、此れ以上彼の不満が投げ打たれ無いとは思うのだが、
いや、そろそろ頃合いでないと茹で上がってしまうのだが……。
……。
……、分からないが、聴こう、聴いて向来若しくは先刻抱いた二人の関係性が含む狂燥的な一面の真相を推理しよう。
其れが良い。余計なことは考えない方が良い。こう云う場面では故に。心頭を滅却すれば火もまた涼し。
尤も、其の思念に基づき私は気を失ったのだが。
182
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:27:45 ID:dWhsdNPw0
('A`)「高岡は孤独を徹底的に恐れていた。一人で生きることを至上に避け続けて、必要無い人間関係ばかりを育んでいた。
俺から言わせれば、何が楽しくてそんな遊び呆けた生き方してるのかって具合に。
ところが彼奴は元来根差した今日迄の生き方に起因して、そんな癖が付いていたらしい。俄かには信じ難いことだったよ。
俺は彼奴と違って小中高一貫、友達が出来無かった。幼い頃こそ周囲の人気者を妬んだりもしたが、其の内に飽きた。
俺は間違ったことなんて何一つして無かったからな。
高岡は正真正銘俺と正反対だ。自然に笑って自然に会話して、其れで凡ゆる他人と仲良く出来るタイプの奴だった。
外見的な優位性も有ったんだろうけど、話して嫌な性格してないからな。良い奴だよ。
其処に存在するだけで俺の生き方全てを否定されたみたいな気分になって、
なのに人間性やら性格やらは究極に優しい奴だから、俺の中では彼奴に対して矛盾した気持ちが常に渦巻いてる。
恋仲に成った今でさえ其の感情は在るんだ。嫌いと好きが同居してるなんて常々変だと思うよ。
相対した最初の頃は嫌厭が優っていた。
だからこそ彼奴に好かれて好き勝手出来る優越感に浸って居たし、非人道的な行為で俺好みの性格に調教してやろうとも考えて居た。
顔も体も一級品だから尚更な。
不思議なんだ、今でも。この胸の底から沸き立つ温い気持ちが何処で生まれたのかが。
高岡は何もかもが俺と違う。其れを俺が分かって居るのと同じ様に、彼奴も又俺と全て正反対であることに気付いていた。
カッコいいって言われたんだよ、馬鹿みたいだよな。いや、馬鹿だよ彼奴は。
顔か? 性格か? 言葉か? どれだ? 何がだ?
──生き方だとさ。俺は思わず吹き出してしまったよ」
183
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:29:58 ID:dWhsdNPw0
('A`)「こう見えて俺は劣等感に生きている。
この言葉も考え方も全て心根の弱い部分を隠す為に被せて居る。
今でこそ其れが俺の強みにも成って居る自覚を持てては居るが、其れは偏に高岡のお陰なんだ。
自分一人だけしか認めて居ない性を他人の裏付け無くして、如何して確信出来ようか?
いいや、出来る訳がない。そんな反語じみた具合にな。
思考の跳躍は俺の中じゃ度々起こるから、彼奴に向けた恋慕も其の程度なんだろうと思う。
何時か夢が覚めてしまうのと同じ様に、俺も彼奴も別々の生き方を選んで行くのだろうとも思う。
確信したくないんだよ、"思う"って推量で止めてるのは、本音じゃ高岡とまだまだ別れたく無いからだ。
彼奴は俺に内在する彼奴とは異なる部分を愛してくれた。
異物を除去する白血球みたいに除けるんじゃなく、其れを生暖かく包んで消化してくれた。同期してくれたんだ。
俺は其れを今のところ無視し続けて居る。異物を認めようとも飲み下そうともして居ない。
清濁併せ呑む性格が元来では在るにせよ、良し悪し全てを受け入れられる度量を俺は未だ手に入れて無い。
或種孤独の弊害だと、漸く思えて来た所なんだ」ブツブツ
声は徐々に窄まり行く。
('A`)「…自信持って言えるのは、高岡のことが単純に好きに成ってしまったって気持ちだけだ。
磁石は正反対だから惹かれ合うんだ……」ブツブツ
声は聴こえなく成った。
素っ裸で在る。
184
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:32:02 ID:dWhsdNPw0
***
从 ゚∀从「お」
(,,゚-゚)「あっ」
从 ゚∀从「何処の美人さんかと思ったら小木さんの奥さんじゃないか」
(,,゚-゚)「私だって、小木ですよ」
从 ゚∀从「そらそうだわな」
(,,゚-゚)「…高岡さんは、こんな所で何をしてらっしゃるの?」
从 ゚∀从「暇つぶし、かな。中庭のある旅館とか初めてだからさ、どんなモンだろうと思ってよ」
(,,゚-゚)「確かに現代じゃ、余り馴染みがない物ですしね」
从 ゚∀从「こう云うのを風流だとか雅だとか言うんだろ? 日本人の原風景とかさ」
(,,゚-゚)「如何なのかしらね。
確かに馴染みの無い景色にも拘らず懐かしい気持ちに成ると言えば、そうなのかも知れないけれど」
从 ゚∀从「私ん家は実家が洋風造りだからさ、日本家屋って物にはてんで慣れて無いんだ。見た事も粗無い」
(,,゚-゚)「都心に住んでる人達は大抵がそうなんじゃ無いかしら」
从 ゚∀从「奥さんはどの辺りの出身なんだ?」
(,,゚-゚)「私は……田舎の出身よ。
徒歩五分の道程にすら車を用いる様な、或いは夏場に平気で川遊びして居る様な、そんな所」
从*゚∀从「ほー! なら奥さんはこう云う辺鄙な場所にも、何となく郷愁感じたりするのか。
茅葺屋根とか瓦とか、山並みとか水田とかにも」
(,,゚-゚)「案外そうでも無いわ」
从;゚∀从「あれ?」
(,,゚-゚)「中途半端な片田舎だったのよ。
私鉄とは言え鉄道は走ってるし、神社仏閣も有ると言えば在るってだけで、コンビニもスーパーも同時に在ったから。
屋根なんてどの家も洋風よ」
从;゚∀从「ふーむ、何でも一括りには出来無いモンなんだなぁ」
185
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:33:24 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「そう云えばドクオ君は何処に行ったの?」
从 ゚∀从「ああ、彼奴なら多分未だ風呂に浸かって居ると思うよ」
(,,゚-゚)「長湯好きなの?」
从 ゚∀从「いーや、単純に汗っかきなんだ。
夏場の休日なんかは、日に何度も何度も風呂に入るらしいぜ」
(,,゚-゚)「確かに昼間は表情に余り機微は見えなかったけれど、服の生地上は汗染みが沢山出来て居たね」
从 ゚∀从「よく見てんな〜」
(,,゚-゚)「あの人が卒倒した時に助けて貰ったからね。
其の時印象に残っただけよ…其の節は有難うね、お陰で助かったわ」
从 ゚∀从「なーに、一市民として当然の事をした迄さ」
(,,゚-゚)「御礼に何かしなくちゃね」
从 ゚∀从「いーよいーよ! 彼奴も私も、御返し欲しさに手を貸した訳じゃ無いんだから! 純然たる善意の賜物さ」
(,,゚-゚)「なら、ドクオ君にも有難うって伝えて貰って良いかしら?
彼が一早く気付いて支えてくれたお陰で、あの人も転倒せずに済んだのだから」
从 ゚∀从「おうよ、其れくらいなら喜んで貰っとくわ」
(,,゚-゚)「…実を云うと、ちょっぴり意外だったの」
从 ゚∀从「? …あー、ドクオの事な。うんうん、彼奴は表面的には分かり難い性格してるからなぁ」
(,,゚-゚)「正直、ドクオ君こそ気絶してるんじゃ…とも思ってた」
从^∀从「ははは、十分に有り得るな。
私は寧ろ彼奴が倒れてなかったのが意外なくらいだったよ」
(,,゚-゚)「彼も余り気丈じゃ無いの?」
186
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:34:56 ID:dWhsdNPw0
从 ゚∀从「見て呉れの通りさ。其れでも案外、性格は外見通りじゃ無いから面白い奴なんだ」
(,,゚-゚)「そうなんだ?」
从 ゚∀从「ああ。基本的に暗いし人目も憚らず独り言を呟きまくる癖が在って、
やっぱりそう云う部分は変わってるんだけれども、心根は優しい奴だよ」
(,,゚-゚)「人の変化に一早く気付いていた辺りとかかしら」
从 ゚∀从「と云うより、彼奴は独りが好きな癖して、他人の事を観察するのも好きなんだ。
なのに集団行動は嫌いらしい。変な奴さ」
(,,゚-゚)「其れでも、高岡さんはドクオ君の事が好き」
从 ゚∀从「当たり前だろ。私は彼奴の中に在る、私と正反対な部分に惚れたんだから」
(,,゚-゚)「複雑なのね」
从 ゚∀从「いーやいーや、至極単純な経緯さ。
喫煙所で顔見知りだったから合コンの時に連絡先を交換して、其れから済し崩し的に付き合ったってだけだよ」
(,,゚-゚)「学生特有の楽しさよね、昔が懐かしいわ」
从 ゚∀从「小木さん達は貫禄有るけれど、そんな云う程歳食って無いだろ? 何より話し易いし」
(,,゚-゚)「童顔なだけよ、多分四捨五入で一回りくらいは離れてるんじゃ無いかしら」
从 ゚∀从「あー、確かに其れくらいの、丁度いい温度感かも知れないな。
気兼ね無くタメ口で会話出来るし」
(,,゚-゚)「でも合コンなんて卒業して以来一度も行って無いから、やっぱり昔の思い出って感じはするのよ」
从 ゚∀从「と云うと、旦那さんとは大学で知り合ったとか?」
187
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:36:41 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「一応そう成るのかしら。私、専門学生だったのよ」
从 ゚∀从「ほー!」
(,,゚-゚)「専ら女子許りの学科だったから出会いなんて殆ど無くてね、誘われた合コンで知り合ったあの人と仲良く成ったの」
从*゚∀从「えー! マジかよマジかよ? 私等と同じ馴れ初めじゃんか〜!
其れが切掛で目出度くゴールインってかー? 良いな〜羨まし〜!」
(,,゚-゚)「所が、そう上手く事は運ば無いの。一度…いえ、二度ね、私たちは破局し掛けて居るのよ」
从 ゚∀从「ええっ?」
(,,゚-゚)「学校入って間も無く、一寸嫌な事件に巻き込まれてね。
其れであの人所か、私は異性全般に対して、少し怖く成ってしまったの」
从;゚∀从「えぇ…」
(,,゚-゚)「其れで一度は彼から距離を取ってしまったのだけれど、
あの人は献身的に私を助けて呉れて、改めてお付き合いし直したって感じ」
从;゚∀从「…何が遭ったのかに就ては、詳しく考えないよう善処するよ」
(,,゚-゚)「ありがと。でももう疾うの昔に過ぎ去った事だから、こうして何食わぬ顔で語れるのよ」
从 ゚∀从「いやぁ……大人の恋愛って、一筋縄じゃ行かないこと許り何だなぁ…」
(,,゚-゚)「別に人生は長いのだから、沢山悩む可きだとも思うよ」
从 ゚∀从「うーむ…」
(,,゚-゚)「そんな一方で忽焉と終わる事態も儘在るから、難しいのだけれどね」
从 ゚∀从「だよな……唐突に、何の前触れも無く今の関係が潰える場合も在るんだよな……」
188
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:38:43 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「…」
从 ゚∀从「……なあ、小木さん達は結婚して何年くらい経ってるんだ?」
(,,゚-゚)「そうねえ…卒業して以降だから、もう七年位の付き合いに成るわ」
从 ゚∀从「結構経ってるんだな」
(,,゚-゚)「何気にね。色々在りましたとも」
从 ゚∀从「…私さ、結婚とか云う難しいことはよく分からないんだけれど、
未だ彼奴と別れたく無いんだ。終わりなんて考えたく無い」
(,,゚-゚)「其れが自然でしょう。
誰しも喜悦の渦中に在る時、禍事抔思い浮かべたくありませんとも」
从 ゚∀从「彼奴…ドクオさ、やっぱり変な奴なんだ。
最初見た時点で気付いて居たんだけれど、一緒に居る時が長くなればなる程、奇妙な奴だって分かるように成ったんだ」
(,,゚-゚)「…失礼だけど、何処にでも居るような人種には見えないね」
从 ゚∀从「でもさ、彼奴の独語癖とか思考回路が嫌いに成った訳じゃ、決して無いんだ。
一方的な語りは多いけれど、そして其れが私の考えと真逆な事が屡々起こるけれど、不思議と嫌悪感は無いんだ」
(,,゚-゚)「私はてっきり、其の癖に辟易しているのかと思ってたよ」
从 ゚∀从「同じ内容を同じ言葉で、何度も何度も繰り返し言われれば飽きるだろうけれど、彼奴は独り言を呟く度に語句やら趣旨やらを変えて話すんだ。
成績は私と五分五分だけれど、明晰さは抜群だよ、彼奴」
(,,゚-゚)「…」(実際の真偽は定かでは無いにしても、其の疑問を態々口に出す利点は無い。傾聴しよう)
从 ゚∀从「…最近、妙な煙草を吸い出したんだ。悪臭には慣れてるから、其の香りが嫌って訳じゃない。ただ、妙なんだよ」
189
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:40:02 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「煙草……昼のバス停で吸って居た物かしら?」
从 ゚∀从「将に其れさ。煙草って言うより、形状的には葉巻の方が妥当かもな。
聴くに梅雨時期、軒先で雨宿りして居た際に貰ったらしくてな。
偶然煙草を切らして居て、自分と相手二人だけで、其処で知り合った男から譲り受けたと」
(,,゚-゚)「あの、生の葉が其の儘焼け焦げたような臭いのする代物?」
从 ゚∀从「ああ、色物系なんて今迄手を出さなかった癖に、不思議と嵌ったらしくてな。
アレを吸い始めてから、何だか上手く行かないんだよ」
(,,゚-゚)「何か、変わった点でも…?」
从 ゚∀从「うーん…」
(,,゚-゚)「…」(言い辛い内容なのかしら)
从 ゚∀从「…取り敢えず、声がデカく成った。独語でも会話でも、全部聴こえ易く成ったんだな」
(,,゚-゚)「…?」
从 ゚∀从「彼奴が言わんとして居る内容が、頭の悪い私でもすんなりと理解出来る風に成った。
独り言の頻度は…大差無いな、相変わらず四六時中囁いてる」
(,,゚-゚)「……ん?」
从 ゚∀从「なあ、奥さん」
(,,゚-゚)「!」
从 ゚∀从「? どうかしたか?」
(,,゚-゚)「い、いえ。…ちょっと暑くて、茫としてただけ」
从 ゚∀从「おいおい、大丈夫か? 何なら部屋で休んでた方が良いんじゃないか?」
190
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:41:50 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「ごめんなさい、大丈夫よ。其れより何かしら?」
从 ゚∀从「ああ、うん。上手く言えないんだけどさ…恋人との関係で苦労した事って、例えばどんな物が在った?」
(,,゚-゚)「…苦労、苦労ね。苦労…苦労……」
从;゚∀从「ああ、いや、別に無理して捻り出さなくて良いからさ。
…私が聴きたいのは、要はそう云う些細な躓きを、如何したら解消出来るかって話だから」
(,,゚-゚)「そうね……一度、私があの人とは別の男性とキスしたことが在ったのだけれど、
其れ迄の経緯や抱いた気持ちを正直に伝えたら、時間と共に何事も無かったかの如く、普段と同様の関係に戻って行ったわ」
从;゚∀从「は? え? …ハア? 何だそりゃ?」
(,,゚-゚)「一般的には可成りの一大事でしょうけれど、互いに素がずぼらだから、寛恕を請わずに雲散霧消してしまったの。
…此れ、参考に成るかしら」
从;゚∀从「えぇーっと…うん、うん、まー、うん。
私にはよく分からなかったわ」
(,,゚-゚)「悩みの内略に因るでしょうけれど、時間と休養と娯楽を併せれば、気付いた時には瘧が落ちて居る物よ。
細やかさが大切なの」
从 ゚∀从「…其れは、愛情とか、親切気とか、そう云う物か?」
(,,゚-゚)「其の意味で合ってるわ」
从 -∀从「……そう、か」
(,,゚-゚)「…」(どんな悩みなのかしら)
从 -∀从「…時間と休養と娯楽、か」
(,,゚-゚)「…」(葉巻の齎した影響、高岡さんは然程悪く捉えて居ない様子だけれど)
191
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:44:00 ID:dWhsdNPw0
从 ゚∀从「…ドクオもさ、会った許りの頃と比べると、相当変化したんだ。
誰で在ろうと跳ね除けて、徹底した独りの環境を作って居たけれど、最近は徐々に社交性を帯びてきたんだ。
私は其れが少しだけ悲しかったのだけれど、結果嬉しさの方が優ってるんだ」
(,,゚-゚)「…」(大学生、恋人、煙草…共通項の懊悩って何?)
从 ゚∀从「私と正反対でさ、私が恐れて来た孤独を進んで生きて居る強い奴でさ…
いや、しゃかりきに偏屈で頭の硬い奴なんだけども、其れでも彼奴は私に取って特別な存在なんだわ」
(,,゚-゚)「…」(煙草に起因する弊害…肺腑の疾患、副流煙、中毒性、躁状態、吸殻、眼付…)
从 ゚∀从「私もよくスパスパやってた方だから、咎める気概なんて無いんだ。
好きな銘柄を好きな時に吸ってくれて構わないし、其方の方が私も気兼ね無く吸える。あの青葉を焼く臭いだって気にしない」
(,,゚-゚)「…」(咽頭痛、咳嗽、喀痰、高血圧、社会からの目線、後は…口臭……口内環境の変化?)
从 ゚∀从「ただ、アレだけは辛抱堪らないんだ。何でだろうなぁ…自分でも不思議なんだよ、許容出来無い理由が分からない。
──此処の温泉、薬効が凄いらしいから選んだんだ。万病に効くなんて謳い文句迄在る」
(,,゚-゚)「…若しかして、だけれど……口周りの事情?」
从 ゚∀从「アレ? 奥さんも煙草吸う人だったのか?」
(,,゚-゚)「職場の同僚が偶に吸うのよ。
其の人、昔両親も煙草を嗜んで居たらしくて、口臭が如何とか話していた気がしたから」
从 ゚∀从「うん、将に口の事情なんだ。
勿体振る必要なんて無いんだけれど、こう云うのって縁が無い人からすれば、何を話して居るのか分からないだろ?
だから筋道立てて言おうと思ってさ」
192
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:45:16 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「…確かに私もあの人も、吸いませんけれども」
从 ゚∀从「本当、不思議なんだよ、此れ。若いと代謝が良いから出来難い筈なんだけどもさ」
(,,゚-゚)「…漸く落ちが見えましたよ、ええ、見えましたとも」
从^∀从「ははは、汚い話で申し訳無い。
けれど私に取っては、けっこーな一大事だったんだぜ?」
(,,゚-゚)「全く…正直にドクオ君へ意向を伝えて、お医者さんに相談すれば良かったじゃ無い」
从 ゚∀从「決め倦ねて居たんだ。
何しろ私も初めて見たわけだから、若しかしたら重病なのかも知らないって、怖かったんだわ。
…長湯して代謝も活発に成ってるだろうから、此れで駄目ならクリニックに通うつもりさ」
(,,゚-゚)「…心配して損したよ」
从 ゚∀从「調べてみたら"人体が抱える爆弾"なんて比喩が出てきたからさ、ビビっちまったんだな」
(,,゚-゚)「…狂言ね」
从^∀从
(,,゚ -゚)
从 ゚∀从「…そう、膿栓さ」
193
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:46:54 ID:dWhsdNPw0
***
何等の痴愚を自ずから得ること無くして大覚抔有りはせぬ旨を如何にも体現して居た者と、
漫談を孜々営々と有情に宿し憖に亘って鼓吹され続けた空然の者とが其処に居た。
当然と暈された鬼胎は無きに如かず、然し乍ら毀誉褒貶相半ばする通り、
見ず知らずに昏愚と例え貶める者も居れば又股肱の臣が如く廓然と受容する者も在る。
其れ即ち傍から眺めれば猖獗を極めしとも、万世不易、盲千人目明き千人の見解が是で在った。
(,, ゚¥゚)「かくかくしかじか」
(,,゚-゚)「斯々然々」
(,, ゚¥゚)「なるほど」
(,,゚-゚)「成程…ね」
あらましを伝え合い、大体を知った。
然程急を要する事態は起こらず大方あんじょうに流れた邪推、岸さんには頓狂と遮二無二御足労頂いた為、唯只管に申し訳無い所存。
(,, ゚¥゚)「其の……」
(,,゚-゚)「何」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,゚ -゚)「…」
(,; ゚¥゚)「…ええ、と……」
(,,゚ -゚)「何」
(,; ゚¥゚)「……」(…ぐう)
(,,゚ -゚)「…折角の客遊、真昼は行き倒れ名所では惑い、湯屋で又頽れドクオ君の世話に為り、其れで一体何を言いたいのかしら」
194
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:48:35 ID:dWhsdNPw0
藍の単衣をゆうるり夜風に靡かせて、月光の挿し込む窓際に片膝を立てる其の人。
頬が薄桃色に明らんで見えるは月見酒と洒落込み濁酒一引が為で在ろうか。
唇頭窄め薄目に覗く無色透明な虹彩、婉然相纏うた佇まい。
所謂怒髪、冠を衝く形相。
(,; ゚¥゚)「こ、此れは、そ、其の……」
(,,゚ -゚)「何」
(,; -¥-)「……ぐぅ…」
(,,゚ -゚)「何」
(,; -¥-)「も…申し訳……」
(,,゚ -゚)「其れ、捨てて、端的に、分かりやすく、簡単に、簡潔に」
(,; -¥-)「ご…」
(,,゚ -゚)「ご?」
(,; -¥-)「…ごめんなさい……」
(,,゚ -゚)「……」
(,; -¥-)「……」
(,,゚ -゚)「…」
(,,- -)=3
(,,- -)「…」
(,; -¥-)「………」
(,,- -)「…顔、挙げて」
(,; -¥-)「で、ですが」
195
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:50:05 ID:dWhsdNPw0
(,,゚-゚)「早く、こっちに来て」
(,; ゚¥゚)「…」ズモモ
(,,゚-゚)「ズモモじゃないよ、全くもう」
(,; ゚¥゚)「…」
(,,゚-゚)「…怒ってないよ、ちょっと疲れただけ。私こそ、熱く為ってしまってごめんね」
(,, ゚¥゚)「そ、そんな事」
(,,゚-゚)「…要するに、彼等との対話は済んだのでしょう。
なら今夜と明日は、ゆっくりゆっくり、休もうよ」
(,, ゚¥゚)「岸さん…」
(,,゚-゚)「もう、くたくたなの。
あなたを"小木さん"とか、"あの人"とか呼んだり、言葉癖を併せて硬く話すのも…こう云う真夜中許りは、大目に見て欲しいの」
(,, ゚¥゚)「……分かりました。善処…いえ、然うします」
(,,゚ -゚)「凪沙で良いよ、今は。だから季さんと呼ばせて」
(,, ゚¥゚)「……分かりました、凪沙さん」
(,,- -)「…何だか、未だ半夜と云うのに酷く疲れてしまって、眠たくて、仕方が無いの」
(,, ゚¥゚)「然う、ですね。私も何だか久し振りに、とても疲れたような気がします」
(,,- -)「…季さん」
(,, ゚¥゚)「はい」
(,,- -)「…季さんは、外から沢山影響を受けてるの。
毎日沢山、たっくさんの気に充てられてるの。その度に又沢山悩んで、考えて、感じて、迷って居るの」
196
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:52:30 ID:dWhsdNPw0
(,, ゚¥゚)「…はい」
(,,- -)「今日だって、一杯狂いに充てられて…変な影が、山程くっ付いて来てる」
(,, ゚¥゚)「…はい」
(,,- -)「ドクオ君の怒気と、私から預かった高岡さんの煩悶と、自分の過去と照らし合わせた、
自ずから思い返した辛酸とに充てられて、きっと…自覚出来無い位に悩んでるの」
(,, ゚¥゚)「…はい」
(,,- -)「だから、だから、私に季さんって、今だけでも良いから、そう呼ばせて。
季さんが確り此処に居ることを、私に確かめさせて」
(,, ゚¥゚)「…はい」
(,,- -)「季さんは、他人を見て自分を知らない振りをして、
他人に対して自分を投影して見る振りをして、周り諄く考えて迷子になることを望んで居て、
本当は誰よりも他人を中心に添えて考えてるって、私は思うの」
(,, ゚¥゚)「…はい」
(,,- -)「…ねえ、見て見て季さん。蛍が体を焦がして居るよ。
蜩の声は、もうすっかり聴こえないよ」
(,, ゚¥゚)「…凪沙さん?」
(,,- -)「蛍火は儚いよ。栖々現に瞬いたと思ったら、気付いた時には見えなく為って居るんですもの」
(,, ゚¥゚)「…寝惚けて居るのですか?」
(,,- -)「つくつくぼーし、つくつくぼ〜…し、って……。
昼間、寒蝉が鳴いて居たのが、全部嘘だったみたいだよ」
(,, ゚¥゚)「……相当酔ってらっしゃいますね。浴衣が肌蹴て居りますよ」
197
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:56:02 ID:dWhsdNPw0
(,,- -)「季さんに見られて恥ずかしい所なんて、私は持って居ませんよう、
持って居ません、よ〜う…」
(,, ゚¥゚)「幾ら残暑と雖も、夜半は気温が下がりますから…左様に御粗末な格好で狸寝入りして居ると、風邪を引いてしまいます」
(,,- -)「なら今度は、私が季さんのお世話に成ろうかしら」
(,, ゚¥゚)「…」
(,,- -)「分かってますよ、普段は私こそ、季さんのお世話に許り成っていることくらい」
(,, ゚¥゚)「私は何もして居ません」
(,,- -)「不調に肖って、偉ぶりたいだけなの…今日くらいは、今だけは、甘えさせて、お願い」
(,, ゚¥゚)「…残りのお酒、少し頂いても?」
(,,- -)「全部呑んじゃって良いよ」
(,, ゚¥゚)「いえ…お医者さんに、控えるようにと言われておりますから」
(,,- -)「私が許すよ」
(,, ゚¥゚)「ですが」
(,,- -)「季さんは本当は、蟒蛇じゃ、無いですか…呑みましょう、呑みましょうよ」
(,, ゚¥゚)「…違いますよ」
(,,- -)「秋口の風流だと思って、月見で一杯…風靡ですよ」
(,, -¥-)「……」
(゚-゚,,)「…あっ」
(゚¥゚ ,,)「…ほう」
(゚-゚,,)「スターマインだ!」
襖側へと顔を逸らし黒ずんだ尾籠度色の空中を見遣ると、月の光の中一杯に唐黍色した大輪の黄水仙が広がっている。
膨よかな黄色揚羽の翅脈は末端から水沫を滴らせ、手元の濁り酒を遽に灑掃したようにはためくと、空を鎧う黄雲と共に消えて行く。
私は此の情景を素直に言い伝えられない自ずからの能が、唯只管に悔しくて、悔しくて、歯噛みすると同時に、心が軽く成った。
198
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:58:14 ID:dWhsdNPw0
「たーまやー!!」
「…か〜ぎや〜……!!」
何処か近くより、闊達で活き活きとした女声と粘つく鼻水混じりの胴間声が聴こえた。
(゚-゚,,)「……私たちが逐一観測し無ければ存在し無いなんて、そんなこと在るわけないんですよ」
(゚¥゚ ,,)「当たり前でしょう」
其処には歪な二人が居た。
(゚-゚,,)「何がどう成って、とか、どんな経緯が在って、とか…知らなくても、理解出来無くても、結局生きるしか無いんですもの」
(゚¥゚ ,,)「……」
落着所が如何で在ったか、畢竟私は分からず吾を失せて居た。
(゚-゚,,)「其々が其々の落とし所を見つけて、或いは偽証して、最後の最後に属絋を迎えるの。
だから今は焦らないで、唯、この一日を紡いで行くの」
(゚¥゚ ,,)「……」
たたなづく、畳なづく。
分からない、分からない。
199
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 00:59:43 ID:dWhsdNPw0
(,,- -)「…季さんは、此処に居るよ。
私の近くで、誰よりも近くで、しっかり私を掴んで離さずに、此処に居るよ…」
(゚¥゚ ,,)「……」
私は何処に行ったのだろう。
雁貝季は私だが、何を見て何を感じて居るのだろう。
私は何処に居るのだろう。
(,,- -)「分からなくても良いから、兎に角其処に居ることだけが、故に真秀ろばなの」
(゚¥゚ ,,)「……」
私は何処に居る。
あなたは此処に居る。
(,,- -)「おやすみなさい、季さん…好きよ、好きよー……」
大覚は無い。
然し私は此処に居るらしい。
許されたらしい。
花火が落ちた。
3.終
200
:
名無しさん
:2020/09/10(木) 02:06:40 ID:RT5hsMHY0
惹き込まれるわ…乙
やっと(,, ゚¥゚)視点が来たけど言い回しがあさきみたいに難解だなっと
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