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川 ゚ -゚)フェアウェルキスのようです

1 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:42:41 ID:BSJtsC2.0
ラノブンピック参加作品です。
使用イラストはNo.91。
よろしくお願いします。

2 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:45:39 ID:BSJtsC2.0
社会人3年目を迎えたクーは、ついに生まれた家を出て一人暮らしをしようと決意した。
何か差し迫った理由があるというわけでもなかったが、強いて上げるのならば通勤の不便さだろうか。
クーの生まれ育った土地は田舎とまではいかないが、都心からは少し離れたところに位置していた。
また交通手段が限られているということもあり、通勤には複数の交通機関を乗り継がなければならず、それなりの時間を要する。
とはいうものの、それも何か決定的な理由というわけではなかったが、数年働いてきたことで経済的な基盤も出来てきていたし、新しい環境に身を置いてみるのも悪くないかなと考えていた。

3 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:46:32 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「ん、ここか。」
クーは目的地に着いたことを知らせる音声案内に足を止める。
彼女が目を向けた一階建てのこじんまりとした家、それが彼女の新しい住まいだ。

クーが一人暮らしを決めて物件を探し始めた時、彼女の母親がある提案をしてきた。
昔母の叔母が住んでいた家が長く空き家の状態なので、そこに住んでみてはどうかということだった。
母の叔母、つまりクーにとっての大叔母は若くして病気で亡くなっており、更に独身だったため家を引き継ぐような人もいなかった。
クーが生まれる前に亡くなった人なので当然面識もないし、姪である母でさえそれほど交流はなかったらしいが、巡り巡って物件の所有権がクーの母にあるということだった。
そ物件は一軒家だが家族で暮らすにはちょっと小さめで、クーの母も権利を持っているというだけでほとんど行ったこともないらしかった。
細かい状況を把握できていない状態ではあるものの、場所はクーの働く会社の最寄駅から2駅の距離でオフィス街から少し離れた閑静な住宅街。
様々な管理費も大叔母の財産で賄われているため家賃もかからない。条件としては申し分無いものだった。

4 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:48:00 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「しかし…ずいぶん長く空き家だった家なんて大丈夫なのか?」
クーはそれほど住居に特別なこだわりを持っていなかったが、綺麗好きなこともあり元々築浅の物件を希望していた。
聞けば大叔母が亡くなったのは40年ほど前の話。
長く人の住まない家は劣化が早いと聞くので、クーはあまり気乗りしていなかった。
しかしそれについては全く問題ないという母の説明を受け、大叔母の家への引越しを決めた。

5 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:50:41 ID:BSJtsC2.0

('A`)

その人はまさに、目を向けた先の庭にいた。
『人』という表現は正確ではない。
この家には、長い間『人』は住んでいなかった。
彼はロボットだ。
庭に置いてあるプランターに水をあげているところだった。

川 ゚ -゚)「君がドクオか?」

クーの問いかける声に反応し、ドクオが玄関の方を振り返る。

('A`)「あ、はい。そうです。」

彼はそう答えると、手に持っていたジョウロを近くに置いてクーの方に近づいていく。
クーの前に来ると、彼はヒョロリと縦に長く横幅のない体をぺこりと折り曲げてお辞儀をした。
彼は生前、大叔母に作られたロボットだ。
彼女が亡くなった後もずっとこの家で暮らし、管理してきた。

6 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:53:11 ID:BSJtsC2.0
ここ10年ほどで爆発的に普及し、今となってはなんら珍しいものではなくなった
家庭用のお手伝いロボット。
しかし40年近く前はまだそれほど普及していなかったはずだ。
しかしクーの大叔母、ハイン博士はロボット開発の第一人者と呼ばれる人だった。
ドクオはハイン博士が個人で開発し研究をしていたロボットで、
実に長い時間をここで過ごしてきたということだ。

川 ゚ -゚)「今日からここで暮らすことになった、素直クーだ。よろしく頼む。」

事前にクーの情報は送信してあったため、手短に自己紹介を口にして右手を差し出す。

('A`)「はい、こちらこそよろしくお願いします。」

ドクオはぎこちなく笑顔を作り、差し出されたクーの手を握る。
その様子にクーは小さな違和感を抱いた。

('A`)「届いた荷物は全ていただいたデータの通りに配置してあります。部屋の中をご案内しますね。」

ドクオはそう言ってクーを玄関へと促す。
クーはふっと湧き出た違和感を一旦頭の片隅へ追いやり、家の中へ入ることにした。

7 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:54:48 ID:BSJtsC2.0
各部屋を回り設置してもらった家財道具の確認、
備え付けの家電についての説明等を聞く。
そして最後に、廊下の奥にある地下へと続く階段を下っていく。
その先には一つだけ部屋があった。

('A`)「多分ここはあんまり使わないと思いますけど、一応説明しますね。」

ドクオが扉を開けた先にはこじんまりとした空間があり、
そこには本や機械が所狭しと置かれていた。
そこはかつて、ハイン博士の研究室として使われていた場所だった。

川 ゚ -゚)「おお…すごくメカメカしいな…!!」

部屋のどこをみても、何に使うのか見当もつかないような機械や道具ばかり。
本はタイトルを見ただけで頭痛を起こしそうな、到底理解できそうにない言葉がずらりと並んでいる。

地下なのでジメジメと埃っぽいのかと思えばそうでもなく、天井には窓がついていた。
どうやらこの部屋は庭の方に少し飛び出した位置にあるらしい。

川 ゚ -゚)「私が理解できそうなものは何一つないが、なんだかかっこいいな。」

('A`)「そうですか。」

クーが子供のような感想を述べつつドクオに向き直ると、
また先ほどのぎこちない笑みを浮かべてそう答えた。

8 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:57:24 ID:BSJtsC2.0
家の中を一通り見て回った二人はリビングへ戻り、
クーはソファーに腰を下ろして一つ息をついた。

('A`)「コーヒーでも淹れてきますね。」

ドクオはそう言うと、キッチンへと向かって行った。
心地よい良い柔らかさのソファーに身を預けてリラックスしながら、
クーは南向きの大きな窓を眺める。
窓からは庭が見え、ドクオが先ほど水をあげていた花達が太陽の光でキラキラと光って見えた。
外からは車の行き交う音もほとんどなく静かで、
ここは環境の良い場所だなとクーは安堵した。
最初は少々不安もあったものの、この家に住むことにして良かったかなとクーは考えていた。
家は一人で暮らすには申し分ないほどの広さだし、
思いがけずお手伝いロボットもついていた。
想像していたよりも快適に暮らせそうだと感じていた。

9 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 14:58:36 ID:BSJtsC2.0
少しすると、マグカップやシュガーポットなどをのせたお盆を持ってドクオがキッチンから戻ってきた。
クーが座るソファーの前にある低めのテーブルに、静かにマグカップを置く。

('A`)「どうぞ。」

続けてミルクやシュガーポットもテーブルに置かれる。
マグカップからはふわりと白い湯気が立ち上り、コーヒーのいい香りがリビングを満たしていた。

川 ゚ -゚)「ありがとう。いただきます。」

クーはミルクや砂糖を使うことなく、ブラックのままコーヒーを飲み始める。
するとドクオはちょっと意外そうな表情をしてクーを見た。

('A`)「あ、ブラック派なんですね。」

ドクオはそう言いながら部屋の端に寄せられていた座布団を持ってくると、
テーブルの近くに置いて腰を下ろす。

川 ゚ -゚)「ん、ああ、甘くしたコーヒーはあまり得意ではなくてな。」

ドクオは自分のコーヒーにミルクと砂糖を多めに入れながら、
その言葉を聞いて少し恥ずかしそうにしているように見えた。

10 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 15:01:17 ID:BSJtsC2.0
川 ゚ -゚)「それにしても、このコーヒー美味しいな。」

その言葉を聞いたドクオの表情がパッと明るくなる。

('A`)「近所に豆の専門店があって、そこは店の中で焙煎もやってるんですよ。豆のブレンドも絶妙で。」

ドクオはクーの方に視線を向けないまま、少し早口になりつつ嬉しそうな様子でそう話した。
口の端が少しにやけている。
そんな彼を見て、クーは先ほどから何度も感じていた違和感について尋ねてみることにした。

川 ゚ -゚)「ちょっと聞いても良いかな。」

('A`)「なんでしょう。」

川 ゚ -゚)「ちょっと失礼なことかもしれないんだが…」

ロボットに対して失礼というのも少し妙な話ではあるが、
しかしまさにそんな風に思わせてしまう彼の様子がとても気になった。

11 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 15:02:35 ID:BSJtsC2.0
言葉を思案するクーの姿を見て、
ドクオは少し緊張したような面持ちで言葉を待つ。

川 ゚ -゚)「君は随分とその、感情が豊かなんだな。」

ロボットなのに、という言葉は飲み込んだ。

それを言ってしまえば気分を害してしまうかもと思わせるほど、
彼はあまりに人間らしく思えた。

('A`)「あ、そのことですか。」

ドクオはクーの言葉を聞き、緊張感を解いた。

川 ゚ -゚)「もしも気分を悪くしたらすまない。
ただ、実家にいたロボットはもっと表情が固かくて、
反応ももう少し一定のものだったなと思って気になったんだ。」

12 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 15:03:52 ID:BSJtsC2.0
世の中に普及している所謂一般的なロボット、
例えばクーの家にいたロボットなんかがそれにあたるが、
もちろん人とのコミュニケーションができるようには作られている。

ロボットの仕事は単純作業のみではなく、人とのやりとりを通して
人間らしく物事を進めることが重視されているからだ。
だから子供の面倒を見ることや、人との直接的なやりとりが多く発生するような
仕事で使われることも少なくない。

それにしても、このドクオのように照れたり緊張するといった
細やかな感情を示すロボットをクーは見たことがなかった。

('A`)「失礼なんてこと全然ないですよ。」

クーが少し気まずそうに質問の意図を話す姿を見て、
彼はふわりと優しく笑って見せた。
その表情を見たクーは少しほっとしたと同時に、
その表情の柔らかさにまた人間らしさを感じ驚きを覚えた。

13 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 15:05:51 ID:BSJtsC2.0
('A`)「僕は感情を研究するために作られたロボットなんです。」

彼は砂糖とミルクをやっぷり加えたコーヒーを
スプーンでくるくるとかき混ぜながらそう答える。

('A`)「ハイン博士が僕を作った頃、お手伝いロボはまだ人の形をしていなかったんです。」

バラエティ番組でやっていた懐かしい家電を紹介するコーナーを、クーは思い出した。

床を勝手に掃除してくれる掃除機、
家の電気を音声認識で点けたり消したりしてくれるスピーカー、
胸についたタブレットを使って注文を聞いてくれる白いロボット。
少し前はそれぞれの作業に特化したロボットが作業をこなしていた。

14 ◆vsB9FT5GvI:2020/05/06(水) 15:07:07 ID:BSJtsC2.0
('A`)「世の中は大抵人間の形に合うようにデザインされている、
だからロボットも人の形をしていなければ効率的ではない。
ハイン博士がよく言ってました。」

彼は綺麗なパステルの茶色になったコーヒーに口をつけて、また少し表情をゆるませる。
彼はどこを見ているのかよくわからない目をして、懐かしそうに話し続ける。

('A`)「ロボットが仕事をこなすためになぜ感情が必要なのか、
それは何事も定型に当てはめてインプットすることが難しいからだ。
とも言ってました。」

ロボットにして欲しいことをロボットに理解できる形でインプットする、
そのやり方では結局型にはまったことしかできないということ。
だからロボットも人間と同じように感情や考えをもち、学習し、
時に間違えたとしても人間の感情に寄り添うことで、できることの幅は広がる。

命令ではなく意図を汲み取る、ハイン博士はそう言った考えの下ドクオを作り、
今日の世の中に普及してるお手伝いロボットの研究の基礎にしたと言う。


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