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さよなら、そしてまた会おう

224名無しさん:2018/11/24(土) 20:41:04 ID:r04Hoi3o0
映像には明らかにドクオ自身が映ってる。
それでいて、事件現場にはいないドクオのことを警察が不審に思わないはずはない。

('A`)「モララーさんか」

事件現場にすでにモララーは辿り着いている、とドクオは推測した。
その途端、デレの「そうだ」という声が被さってきた。

ζ(゚ー゚*ζ「とりあえず、まだ警察の捜査も疑惑段階ってことよね。
       それなら私の方からファイナルプロへ電話をするっていうのはどう?
       明後日に大きな仕事があるから、それまでに必ず復帰するとか、
       どうにか言いつくろえば、事件性は消えるでしょ?」

('A`)「……良い考えだとは思うけど」

225名無しさん:2018/11/24(土) 20:42:02 ID:r04Hoi3o0
警察の捜査は事件性をもって始められる。
人が殺されれば一目瞭然。たとえ見た目でわからなくても、
被害があったという申告があれば捜査を始めることができる。

被害の申告がない。つまり今回のケースでいえば、デレが現場から去ったことに対し、
その失踪が事件と関係ないと主張されてしまえば、警察の捜査はひとまずナイフ男だけに絞られる。

ただし、その場合でも警察の取り調べ中に失踪したデレの身分は怪しい。
仕事に復帰した途端、厳しい尋問に遭うことになるだろう。

それにくわえて。

('A`)「悪いけど、明日には全部バレると思うよ。
    向こうにはモララーさんがいるから」

226名無しさん:2018/11/24(土) 20:43:04 ID:r04Hoi3o0
ζ(゚ー゚*ζ「モララー? 誰、それ」

('A`)「僕の上司で、探偵です」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

ζ(゚ー゚;ζ「探偵!?」

デレが大声で叫び、ドクオは肝を冷やした。
月明かりでもわかるくらいにデレの顔が青ざめる。

ζ(゚ー゚;ζ「え、じゃあ君も探偵?」

227名無しさん:2018/11/24(土) 20:44:04 ID:r04Hoi3o0
'A`)「見習い、バイトですよ。前にちょっとモララーさんに厄介になったんだ。
    それからしばらく、あの人についていっている」

ζ(゚ー゚;ζ「へー……そうなんだ。格好いい、ね」

ぎこちなく、デレは言葉を繋いでいった。

ζ(゚ー゚;ζ「探偵って、あれでしょ。事件とか
       警察が手出しできないようなものを解いちゃうあれ」

('A`)「そんな格好いいものじゃないですよ」

デレの反応が大袈裟すぎて、ドクオは思わず頬を緩めた。

('A`)「探偵の仕事は普通、地味なものです。
    ドラマみたいにしょっちゅう事件を解決しているってわけでもない」

でも、とドクオは続けた。

228名無しさん:2018/11/24(土) 20:45:08 ID:r04Hoi3o0
('A`)「でも、モララーさんは別格です。あの人の執念深さは並じゃない。
    警察が手を掛けないような、どうでも良さそうなところから
    しつこくほじくりかえして、人の裏側を覗き込んで、
    散々嫌な目に遭わせた揚げ句にいつの間にか真実を掴んでいる。そんな人です」

ζ(゚ー゚*ζ「……最悪じゃない?」

('A`)「うん。実際、初めてあの人と出会ったら誰でも一度は最悪だと思うだろうね。
    でも実力は本物だ。僕もそこは尊敬している。だから、明日にはバレる」

同じ言葉を繰り返して、ドクオは腕を組んだ。

元より、デレが本当に襲撃を受けるかどうかもわからなかった。
だから、約束とは別問題で、車の練習の付き添いをモララーに頼んでいた。

229名無しさん:2018/11/24(土) 20:46:05 ID:r04Hoi3o0
それに、たとえ何らかの事件が本当に発生したとして、自分がそれに巻き込まれた場合、
モララーが外にいるならば、きっと怪しんで、調査をしてくれる。

車の免許の取得自体は偶然だったが、
モララーに付き添いを頼んだのはそのような打算もあった。

それがまさか、裏目に出るとは。


('A`)「はっきり言って、僕も気が進まないよ」

ハンドルを指で叩きながら、ドクオは言った。

('A`)「狂言の手伝い。警察を相手にするだけでも大変なのに、
    ましてモララーさん相手じゃ分が悪すぎる。
    正直に警察に、嘘ついてましたって言うのが一番な気がするよ」

230名無しさん:2018/11/24(土) 20:47:04 ID:r04Hoi3o0
ドクオに向けて、デレは何度か口を開いた。
言うべき言葉を探して、なかなか見つからない、そんな仕草だった。

ζ( ー *ζ「……いやなら帰って良いよ」

やがてデレは目を伏せて言った。

ζ( ー *ζ「巻き込んじゃったのは完全に私のせいだし、忠告もそのとおりだと思う。
       でも、ごめん。これは辞められないの。こんな機会、きっと他にないから」

('A`)「機会って、いったい何をするつもりなんですか」

話の流れで、ドクオは尋ねた。
デレは伏せていた目をわずかに上げて、それから唇を噛みしめた。
言うつもりはない、と顔が語っていた。

231名無しさん:2018/11/24(土) 20:48:03 ID:r04Hoi3o0
('A`)「……教えてくれないんですね」

ζ(゚ー゚*ζ「それはお互い様でしょ?」

('A`)「……」

ドクオは窓枠に肘掛けをして頬をついた。
そろそろ時間帯は深夜にさしかかる。
郊外の道路は疎らで、車の音よりも、虫の鳴き声の方が遥かに元気だった。

('A`)「さっきスマホで調べたんだけど、高速の入り口の手前にカプセルホテルがある。
    明日は平日だし、辺鄙な場所だから、一泊はできるはず」

ζ(゚ー゚*ζ「それって」

('A`)「車がないと、俺も帰れないんですよ」

232名無しさん:2018/11/24(土) 20:49:04 ID:r04Hoi3o0
いつもは『僕』を使っているドクオが、『俺』と自称するときは
自分の中で意を決したときだけだった。

('A`)「送るところまでですけどね」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう!」

文字通り飛びついて、デレの腕がドクオに絡まる。
息苦しく思いながら、ドクオは首を捻りだした。

('A`)「……あと、宿代と電車賃も頼みます」

ζ(゚ー゚*ζ「……お金ないの?」

('A`)「うん」

コンビニには立ち寄らずに、彼らの車は車道へと躍り出た。


     +++

233名無しさん:2018/11/24(土) 20:50:07 ID:r04Hoi3o0
宿場に決めたビジネスホテルに辿り着き、翌朝は無事に迎えることができた。
来るときは気にしなかったが、海沿いの街らしく、窓を開けると潮の香りが気持ちよく漂ってくれた。
朝食と会計をデレの所持金で済ませると、高速道路に入り、延々と走った。

暖かい時期ならば景色を楽しめたかもしれないが、季節は真冬だ。
海は寒そうな灰色をしていたし、それを越えると、木枯らしの吹き荒ぶ山裾を走り抜けた。

パーキングエリアに辿り着くと、ドクオが買い出しに出かけた。
軽食と、それからテレビニュースの確認だ。
変装しているとはいえ、デレ一人で歩かせるのは危ない。
そのような判断から、ドクオが率先して動く側に回った。

234名無しさん:2018/11/24(土) 20:51:04 ID:r04Hoi3o0
デレの事件は、昨日と比べたら扱いが小さくなっていた。
狂言なので、犯人も見つからず、捜査も難航しているらしい。

デレがいなくなっていることについて、言及しているニュースもあったが、
事務所自身が事件との関連性を否定しているとのことで、それきり触れられなかった。

デレの推測どおり、ファイナルプロ側もあまり表立った騒ぎにはしたくないらしい。

(;'A`)「指名手配とかされてなくてよかった」

思ったことをそのまま口にだして、ドクオはデレの待つ車へと戻った。

235名無しさん:2018/11/24(土) 20:52:09 ID:r04Hoi3o0
今度はデレが外に出る番だった。
ドクオがコートを貸し、人目を避けて、
ドクオが見える範囲の公衆電話に向かわせる。

ファイナルプロへの連絡。
失踪はコンサートのナイフ男と関係がないという知らせだ。

上手く、ことが運んでくれればいい。
祈りながら、戻ってきたデレとともにパーキングエリアを後にした。

山々を抜け、開けた大地に辿りつき、またしばらく走り続ける。
助手席にいたデレはすっかり眠りに落ちていた。
宿は取ったものの、疲れが溜まっているらしかった。

デレを起こす気にもなれず、ドクオは黙々と運転し続けた。

236名無しさん:2018/11/24(土) 20:53:03 ID:r04Hoi3o0
およそ300キロを、休みを挟みながら進む。
邪魔が入ることもなく、次第に景色に人が増え始めてきた。

空に太陽が高く昇り、反対側へと降りていこうとする頃に、

('A`)「N市、か」

中部地方の中核となるその都市の名が、看板で確認できた。
来たこと自体はなく、まして車で来ようなどと思ってもみなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「私の故郷」

いつの間にか目を覚ましていたデレがつぶやいた。
とはいえまだ起きたばかりらしく、声には不思議と覇気がない。

ζ(゚ー゚*ζ「何もない街だよ」

静かに、つけたされたその言葉が、生々しくドクオの耳に残った。

237名無しさん:2018/11/24(土) 20:54:04 ID:r04Hoi3o0
ジャンクションを降りて、デレの指示を受けながら、
二人はやがて湾の望める街に辿り着いた。


ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、本当に」

最終到着地は銀行の駐車場だ。

ζ(゚ー゚*ζ「はい、電車賃と、その他諸々」

('A`;)「こんなに」

ζ(゚ー゚*ζ「迷惑掛けたし」

そういって、デレは髪をニットから引き出した。

238名無しさん:2018/11/24(土) 20:55:03 ID:r04Hoi3o0
ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、これ」

と、ニット帽を手に取る。
それを、ドクオは押し返した。

('A`)「あげますよ。まだ使うでしょう? 宿代と食事代、
    それ以上にお金もらったし、そのお返しってことで。
    それ結構伸びますし、髪を隠すのにぴったりでしょう?」

デレはしばらく時間を置いて、素直に頷いた。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、大事にする」

239名無しさん:2018/11/24(土) 20:56:03 ID:r04Hoi3o0
それじゃ、とドクオは去ろうとする。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、待って!」

車の窓から、デレが顔を覗かせた。

ζ(゚ー゚*ζ「君、名前は?」

半日も一緒にいながら、一度も名前を尋ねられなかったことを
ドクオは今更のように思い出した。

隠すような事情はない。

('A`)「……ドクオです」

240名無しさん:2018/11/24(土) 20:57:19 ID:r04Hoi3o0
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオくんか、よし。
       覚えておくよ。この恩はきっと忘れない」



さよなら、そしてまた会おう。



躊躇わずにそう言って、デレは車を走らせていった。


('A`)「……」

('A`)「また会おう、か」

銀行の封筒に入れられた紙幣を、ゆっくりと二つ折りにして、
ドクオはズボンのポケットに押し込んだ。


     +++

241名無しさん:2018/11/24(土) 20:58:15 ID:r04Hoi3o0
一人になって、ドクオは眩暈を覚えた。
文字通り半日を費やしての旅路に、純粋に疲れが溜まっていた。

休憩が取れる場所をと探し回ったのだが、お昼時だからかどこも混んでいた。
人混みを見るのすらうっとうしく思えて、人通りの少ない、路地の裏手に回り込んだ。

('A`)「『猫の足音』……か」

そこに、小さな看板が立っていた。
木枠に囲われたブラックボードに、手書きの文字が描かれている。

バーが一番大きな文字で、その頭に噴き出しでカフェ・レストランと付け足されていた。

(;'A`)「なんか、節操ないな」

乾いた笑いをしつつ、冒険心を煽られて、
ドクオは狭いビルの階段を地下に降りていった。

242名無しさん:2018/11/24(土) 20:59:03 ID:r04Hoi3o0
店内は案外広かった。

窓がないが、何故か窓の形をした厚紙が貼ってある。
青い色合いは空のようにも、海の中のようにも見えた。

淡い暖かな色合いの照明に照らされて、
カウンターやテーブルは飴色に輝いていた。

往年の有名なジャズが、まるで小川のせせらぎのように流れている。

ドクオ自身にバー通いの趣味はなかったが、
その道の人がいるのに相応しい場所のような気がした。

「いらっしゃい」

呼びかけてきたその女性のことを、ドクオはもちろん知らなかった。

243名無しさん:2018/11/24(土) 21:00:03 ID:r04Hoi3o0
('A`)「やってます?」


だから、



从 ゚∀从「もちろん」



ここにドクオが居合わせたのは、文字通り奇跡というほかない。



ドクオはカウンターに座り、メニューの中から一品を選ぶと
女性はキッチンへと入っていった。

244名無しさん:2018/11/24(土) 21:01:08 ID:r04Hoi3o0
ようやく腰を落ち着けて、座り心地の良さに感服しながら
ドクオは内装をぼんやりと眺めていた。

カウンターの奥には酒が飾られている。
種類について、ドクオは詳しくはない。
モララーに聞けば講釈をしてくれるだろうか、
などと考えているうちに、ある写真に目が留まった。

コルクボードに止められているその写真は

('A`)「逆さまの、鴨。それと並木道……」

よくわからない組み合わせだ。
写真が趣味というわけでもないだろう。
見栄えのある風景とも思えない。

245名無しさん:2018/11/24(土) 21:02:06 ID:r04Hoi3o0
从 ゚∀从「暗号だよ」

女性はキッチンから顔を出して、お冷やを運んできた。

从 ゚∀从「昔の自分がさ、金庫に大事なものを入れたんだ。
      ちょっとしたことがあって、長いことほったらかしにしちゃってさ。
      押し入れにしまってるのを掘り起こしたら、あれが一緒に混ざってたんだ」

言われてみれば、写真は古びている。十年か、あるいはもっと前のものか。
同じ頃に撮られたと思わしき写真がコルクボードに並んでいるが、
そのうちの、ドクオが注目した二枚は、特別に大判で印刷されていた。

从 ゚∀从「ヒントだったと思うんだが、肝心の数字は忘れた」

从 ゚∀从「だから、新しく来たお客さんにはまず聞くことにしているんだ。
      この暗号、何か、ピンとは来ないかいってね」

246名無しさん:2018/11/24(土) 21:03:06 ID:r04Hoi3o0
推理ゲームか。
思いつつ、ドクオは首を横に振った。

('A`)「僕は推理の才能はないですから」

モララーさんならできるだろうか。
などと思っているうちに、引っかかりを覚えた。

('A`)「あれ?」

並木道の写真の方だ。

人が歩いている。誰もカメラの方をみていない。
こっそり撮られた写真なのだろう。
そのまばらな人のひとりに、見覚えがある。

247名無しさん:2018/11/24(土) 21:04:39 ID:r04Hoi3o0
(;'A`)「これ、もしかして」

写真の中央に、その人は立っている。
むしろどうして気づかなかったのか不思議だった。

(;'A`)「モララー……さん?」

放心しているドクオの呟きに、
ハインは目を光らせた。


     +++

248名無しさん:2018/11/24(土) 21:06:03 ID:r04Hoi3o0



   Next>第五話 真実はいつも笑顔の裏に


.

249名無しさん:2018/11/24(土) 21:07:14 ID:r04Hoi3o0
今日はここまで。

続きは明日。

250名無しさん:2018/11/24(土) 22:01:06 ID:AVrSQAqU0
お疲れ!

251名無しさん:2018/11/26(月) 19:20:15 ID:zUB.UeDw0
乙!
続き楽しみにしてる

252名無しさん:2018/11/27(火) 17:11:03 ID:3uwr3OA20
otu

253名無しさん:2018/11/27(火) 18:00:13 ID:eaVoFikc0
明日とはいったい…

254名無しさん:2018/11/27(火) 18:03:34 ID:5FR6Tnzs0
明日って今さ

255名無しさん:2018/11/27(火) 18:04:34 ID:eaVoFikc0
つまり今から投下されるのか!

256名無しさん:2018/11/27(火) 18:56:41 ID:wKWA89.A0
作者無事か?
本体に何かあったのか?

257名無しさん:2018/12/10(月) 20:27:00 ID:BIN2XcsY0
手直しや現実逃避で時間が思いのほか経ってしまいました。
お待たせしました。本体は無事です。投下を始めます。

258名無しさん:2018/12/10(月) 20:27:57 ID:BIN2XcsY0
     +++


心地よいときは、無視されているとき。
こう言うとなんだか変な性癖のようだな。
言い方を変えよう。

他人のことを考えるのが、俺はとても面倒なのだ。

誰も俺に注目していないときは、
他人は自分の好きなことをしていればいい。
そこに俺が割り込む必要はない。
実に気楽で、無理がない。

小学生の時点で余計な他人をはねのけて、
父親を怒鳴り散らしたら、もう怖いものはなくなった。

縛り付けるものも、寄りつくものもない。
これでようやく楽になれる。
そんな甘い想像は、すぐに掻き消された。

259名無しさん:2018/12/10(月) 20:28:24 ID:BIN2XcsY0
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッ君!」

その頃のデレは帰宅時にいつも、
校門で待っていて、俺を見ると飛びついてきた。

腕で抱きつくなんていう、日本人離れした所作に、
周りの生徒どもが調子に乗って、好機の目や口笛なんかを飛ばしてくる。

( #^ν^)「うるっせえ! 黙れてめえら!」

俺が怒鳴っても、何が楽しいのか笑い続ける。

( ^ν^)「お前もだよ、デレ」

260名無しさん:2018/12/10(月) 20:29:11 ID:BIN2XcsY0
胸元にあったにやけ面を押しのけた。
掌に、柔らかい頬の感触が残った。

デレはふらつきながらも、やはり顔を綻ばせていた。

ζ(゚ー゚*ζ「へへ」

どいつもこいつも、何が楽しいんだか。

俺は特殊な環境で育った。
思い上がるなと言われそうだが、この実感に嘘はない。

ずっと独りでいた。
寄ってくる奴らも遠ざけてきた。
苛められることもなく、代わりに威圧することばかりに長けてきた。

261名無しさん:2018/12/10(月) 20:30:09 ID:BIN2XcsY0
だから帰りに毎日横をひっついて歩かれる、
当時の状況をどう扱って良いのかわからず、なすがままになっていた。

夏は過ぎ、秋が深まっていた。
地方都市とはいえ、郊外だ。ひとたび歩けば緑地に行き当たる。
夕方にもなれば、コオロギの声が目立ち始める。

デレと初めて出会った河原を眺めながら、土手沿いの道を、ゆっくりと歩いた。


俺の暮らしている街を抜けて、デレの暮らしている街まで。
無事に送り届けたら、俺はUターンして自宅に帰る。

一緒に歩きたいというデレと、
俺の家に近づけさせたくないという理由を、
摺り合わせると、遠回りせざるを得なかった。

262名無しさん:2018/12/10(月) 20:31:15 ID:BIN2XcsY0
途中は会話を交わしていたが、
今にして思えば、黙っている方が好きな俺の分を
補うかのように、デレは途切れることなく声を発してくれていた。

それは決して歌声とは違う。
ごく普通の女子の声だ。

高すぎず、甘ったるいこともなく、快活で耳辺りの良い声。

内容は、悪いがほとんど覚えていない。
ただ、どうしてこんなに楽しそうに話すんだろうと
奇妙な感慨を抱いたことは覚えている。

ζ(゚ー゚*ζ「それでね、せっちゃんにまた笑われちゃって」

263名無しさん:2018/12/10(月) 20:32:06 ID:BIN2XcsY0
ζ(゚-゚*ζ「……あっ」

そのときも、会話の途中だったはずなのに、
デレは不自然に声を途切れさせた。

すでに土手沿いを離れ、住宅地に入っていた。
デレの家が見えてくるはずの四つ角だ。

ζ(゚-゚*ζ「今日は遅くなるって言ってたのに」

デレの家は低い塀に囲まれており、そのときは、
入り口のそばに軽自動車が二台止められていた。
つまり、デレの両親の分だ。

ζ(゚ー゚*ζ「ごめん、今日はここまで。
       あんまり近くにいくとニュッ君のこと見られちゃうから」

264名無しさん:2018/12/10(月) 20:33:03 ID:BIN2XcsY0
デレの父親と、一度だけ出くわしたことがあった。
そのとき受けた、湿り気のある暗い視線は、よく覚えている。

決して強い感情ではない。暗く、冷えた、錆びた釘のようなそれが
俺の胸に入り込んでくるような感触だった。

俺はデレの両親から倦厭されていた。
俺が父の息子だから、というわけではない。むしろ、逆だ。

俺がデレを庇ったことで、父は、デレの両親を自分の権力の傘から外したのだ。

だから避けられていると、デレから教えてもらって、
いったいどんな感情を抱けば良いのか皆目見当がつかなかった。

265名無しさん:2018/12/10(月) 20:33:44 ID:BIN2XcsY0
落胆も罵倒も意味がないし、そんなことをする義理もない。
胸に残る気持ち悪さを軽減するには避けるに限る。
だから俺は、デレの家には近づかなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、これで」

手を振って、デレは去っていく。
名残惜しいのか、足並みはゆっくりだ。

いつもなら見逃していたかもしれない。
たまたま、俺はデレを見つめていた。

だから、彼女の足の震えにも気づいた。

その震えの意味を、詳しく聞くのは野暮だと思った。
俺から何か、手を伸ばしたとして、解決できるようなことばかりじゃない。

266名無しさん:2018/12/10(月) 20:34:38 ID:BIN2XcsY0
独りになるために得た力は、使い物にならない。
それでいて、せめて少しでもデレを救いたかった。
慣れないことをしてでも、その震えを止めてやりたかった。

( ^ν^)「勉強してた、とでもいえば何とでもなるだろ。
      どこかで休もうや」

クラスの人気者の口調を真似てみたんだ。
きょとんとしたデレの顔が、一気に明るくなっていった。

デレに街を案内されて、駅前まで歩いた。
学校からそれまで休み無しで歩いたけれど、疲れは全く感じなかった。

デレの街には港があり、俺の暮らしている郊外と比べたら遥かに栄えていた。
隣町といっても、その差は歴然としていた。

267名無しさん:2018/12/10(月) 20:35:11 ID:BIN2XcsY0
駅前の賑わいの中はデレが先導してくれた。
表通りは人混みだからと、裏に回り、
一軒の店を見つけ、デレは指し示した。

『猫の足音』

( ^ν^)「バー?」

ζ(゚ー゚*ζ「お昼は食事も出すし、この時間ならコーヒーも出るんだよ。
       店主さんが凄く優しい人で、お気に入りなの」

いつ来てもガラガラだし、とデレは言い添えて笑った。

明るい髪色に、華やかな笑顔。
客観的に見ても、デレは人気が出そうな女子だった。

それなのに、俺と同じように独りでいることを好んでいるのは、不思議だった。
もっとも、当時の俺は、デレにそれ以上の深入りはしなかった。

268名無しさん:2018/12/10(月) 20:35:44 ID:BIN2XcsY0
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは」

階段を降り、デレが扉を開き、呼び鈴がちりりと鳴らされる。
シックな内装が目に入ってきて、中に入ると小さな音楽がきこえてきた。
古めかしいジャズの音が、雰囲気を作り上げていた。

カウンターの掃除をしていた従業員は
くすんだ金髪を振り上げ、こちらに向けて、にっと笑った。



从 ゚∀从「おう、久しぶり。お嬢ちゃん。
      今日は男を連れてきたのか。やるなあ」

269名無しさん:2018/12/10(月) 20:36:32 ID:BIN2XcsY0

デレははにかんで、店主の女性はますます口角をつり上げた。

俺の苦手そうな人だな、というのが第一印象だ。
派手な髪色も、濃いめの化粧も、俺の苦手な人種の好きそうなものだ。

ただ、店の中で過ごしているうちに、印象は緩和されていった。
その人は、デレと俺の一緒にいるところには無理に割りいってこなかったし、
時折サービスと称して、コーヒーを出してくれたりもした。

心地よい距離感だった。
店を出る頃にはすっかり印象が変わっていた。

从 ゚∀从「君も、また来てくれよな」

最後に、俺に向けて言ってくれたことも、素直に受け止められた。
その人の名前はハインと言った。

270名無しさん:2018/12/10(月) 20:37:16 ID:BIN2XcsY0
数日後、俺は隣町をひとりで歩いていた。
デレを送ったあとの暇潰しに、またあの店に行こうとしたのだ。

路地で迷いながら、どうにか辿りついたとき
店の前に主婦のたむろしているのが見えた。
邪魔っ気に毒づいて、俺は無理矢理階段を降りた。

「よく入るわね。ここってさ――」

ひそひそと噂話が続いた。
振り向けば、目を見開いて、逃げていった。

聞きたくなくても聞こえてしまった。

从 ゚∀从「お、今日はひとりか」

店主はいつもの、つり上げた笑みで迎えてくれた。

271名無しさん:2018/12/10(月) 20:38:15 ID:BIN2XcsY0
( ^ν^)「……どうも」

从 ゚∀从「なんだよ、元気ないな。淋しいのか?」

ケラケラと笑うその人が、犯罪者だという噂を
確かめる気には、このときはならなかった。

( ^ν^)「そんなんじゃねえよ」

固まっていた足をポケットの中からつねって、俺はカウンター席に腰掛けた。

ハインが怖いとは思っていなかった。

どっちかというと噂そのものに憤っていた。
デレと俺の過ごしていたあの店に、ケチのつくのが嫌だったのだ。


俺とデレとの交際は、およそ一年間続いた。


     +++

272名無しさん:2018/12/10(月) 20:39:03 ID:BIN2XcsY0


第五話


   真実はいつも笑顔の裏に



     +++

.

273名無しさん:2018/12/10(月) 20:39:39 ID:BIN2XcsY0
――1994年12月24日
L教団という、新興宗教団体に警察の目が向けられる事件が起きた。

麻薬取締法に始まり、県中の密輸や暴力団関係者との接点など、
多くの後ろ暗い事実が白日の下にさらされた。

きっかけとなったのは、宗教団体が秘密裏に開発していた地下空間で起きた爆発事件。
これにより、元警察官であり、かつ宗教団体の関係者でもあった高岡ハインは逮捕された。

モララーが最後にハインを見たのは、現場で手錠を掛けられる瞬間だ。
それ以来、モララーは一度もハインとは会っていない。

从 ゚∀从「ドクオくん、っていうのか。へえ」

電話口の相手はそのハインである。
いくつかの言葉を交わしても、確信は揺るがなかった。

274名無しさん:2018/12/10(月) 20:40:18 ID:BIN2XcsY0
( ・∀・)「知らなかったのか」

从 ゚∀从「お客の名前は聞かないだろ、普通」

ハインの説明によれば、彼女は今、
個人経営の飲食店で従業員として働いており、
今日の昼過ぎに、ドクオが来店したということらしかった。

( ・∀・)「……ドクオは今どこにいるんだ」

当時のことや、ハインの今に至る経緯。
訊きたいことは山ほどある。
その中で、今一番知りたい情報をモララーは厳選した。

从 ゚∀从「言えないよ」

返事は端的だった。

275名無しさん:2018/12/10(月) 20:40:57 ID:BIN2XcsY0
( ・∀・)「はい?」

从 ゚∀从「あの子と約束したのさ。
      居場所について、あんたに聞かれても言わないってな」

( ・∀・)「……」

モララーは、視線を上に泳がせた。

( ・∀・)「じゃあ、一体どうして俺に連絡を寄越すんだ」

从 ゚∀从「ああ。無事でいるから安心してくれ、だとさ。
      あとレンタカー返しておいてくれとも」

( ・∀・)「それだけ?」

短い肯定の返事に、モララーは眉を顰めた。

276名無しさん:2018/12/10(月) 20:41:36 ID:BIN2XcsY0
ドクオが居場所を隠す理由は、判然としない。

通話状態のまま、モララーは人通りの多い通りを避けて、
車も入れないような建物の隙間に入り込んだ。
寝床を荒らされた黒猫が、目を光らせながら睨み付けてきた。

壁に背を凭れさせ、モララーは携帯を握り直した。

( ・∀・)「じゃあ、お前の店はどこにあるんだ」

从 ゚∀从「同じだろそれ」

( ・∀・)「場所そのものがタブーなのか」

返事はない。
モララーは白い吐息をついた。

277名無しさん:2018/12/10(月) 20:42:10 ID:BIN2XcsY0
( ・∀・)「あいつは昨日、久城という歌手のコンサートに行った。
      コンサートホールで起きた事件のことは知っているか?」

从 ゚∀从「ああ、デレのコンサートにナイフの男が乱入してきたっていう奴か。
      今朝のニュースで言っていた気がするな」

( ・∀・)「そう。その事件のあと、久城は行方を眩まし、なぜかドクオまでいなくなった。
      現場には久城の車が消えていた。一時は、ドクオが犯人じゃないかという話だってあったんだぜ」

从 ゚∀从「そこまでは知らなかった」

( ・∀・)「あ報道されていないからな。二人の接点もわからないし、
      結局は久城から連絡があって、捜査そのものがなくなった」

278名無しさん:2018/12/10(月) 20:42:56 ID:BIN2XcsY0
言い終えると、しばらく間を置いてから、「ん?」とハインが言ってきた。

从;゚∀从「じゃあどうしてドクオはお前から身を隠しているんだ?
      何かしら追われる事情があるのかと思っていたんだが」

ハインは本気で困惑している声色だった。

( ・∀・)「さあ、俺にもそのあたりはさっぱりだ。
      もしもここで情報共有ができれば、何かわかるかもしれないがなあ」

返答を待ったが、またもハインは黙っていた。
気になるだろう? と畳みかけても同じだった。

( ・∀・)「じゃあ、ドクオのことは置いてだな。
      次はお前のことを訊こう」

279名無しさん:2018/12/10(月) 20:43:34 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「昔のことか」

即座に言葉が返ってくる。
先ほどまでの歯切れの悪い感じとは異なっていた。

ハインは身構えているのかもしれないと思い、
モララーは見えもしないのに首を横に振った。

( ・∀・)「お前、久城とどういう関係なんだ」

今度の沈黙は長かった。

从 ゚∀从「なんで関係があると思うんだ」

( ・∀・)「『デレ』と名前で呼んだからさ。俺は『久城』としか呼んでいないのに」

疑問に大して、即座にモララーは言い放った。

路地の奥から風が吹き込んでくる。
ハインが答える間、モララーは通りを歩く人々の寒そうな背中を眺めていた。

280名無しさん:2018/12/10(月) 20:44:27 ID:BIN2XcsY0
从;゚∀从「歌手の名前くらい私だって知っているさ。
      ニュースでもフルネームで呼んでいるし」

焦りを帯びた声音にモララーは思わずしたり顔をしてしまう。
クライアントやドクオから、度々悪魔のようだと言われる顔だ。

( ・∀・)「そういったものの中では、普通フルネーム呼びだろ。
      歌手の『久城デレさん』って感じでな」

( ・∀・)「それなのに『デレ』だけの呼び方をわざわざしたのは、
      お前が久城とプライベートで関わりがあるから、だろ?」

――それが、ドクオとお前の接点なんじゃないか。

最後に言い添えると、ハインが「はーっ」と呻いた。

从#゚∀从「昔から変わらず、突然推理を突きつけてくる奴だな。
      どうせしたり顔してるんだろ? 腹立つぜ」

281名無しさん:2018/12/10(月) 20:45:13 ID:BIN2XcsY0
否定はできなかった。

(;・∀・)「とにかく、つまり、肯定だな?」

从 ゚∀从「はいはい、認めるよ。デレとは知り合いだ」

投げやりな口調になって、どこか緊張が緩和された。
モララー自身、落ちついて耳を傾けることができる気がした。

从 ゚∀从「それで?」

( ・∀・)「質問を変える。お前と久城との関わりを教えてくれ」

それは、とハインが言いかけた。
戸惑っているらしく、唸り声のようなものがときおり混ざった。

( ・∀・)「今言わなくても、そのうち警察に何かを訊かれるかもしれない。
      心構えしておいて損は無いぞ。久城の過去が絡んでいるのは確かなんだからな」

282名無しさん:2018/12/10(月) 20:45:53 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「過去? なんだ、それは」

モララーは、よく聴けと念押ししてから続けた。

( ・∀・)「三週間前、久城デレの元にひとつの葉書が届けられた。
      『過去の痛みをこの場所で、私は今も忘れない』
      この一文だけが書かれていたらしい」

从 ゚∀从「脅迫状か」

( ・∀・)「いや、それが少し込み入っている」

モララーは事件の経緯を説明した。
狂言だった脅迫状。その一方で起きたデレの失踪。

ハインは笑い声を潜め、モララーが話し終える間、真剣な声色で時折質問を挟んだ。
ハインが乗り気なのを察して、モララーは俄然、声に力を込めた。

283名無しさん:2018/12/10(月) 20:46:41 ID:BIN2XcsY0
( ・∀・)「久城は葉書を見て、今回の失踪を企てた。
      久城は自分のプライベートを決して明かさなかったらしくてな、
      事情や過去については、事務所側からじゃ探しようがない」

( ・∀・)「もしも、お前の今いる場所が久城の過去に関係する場所ならば、
      この失踪事件の謎を解く鍵もそこにある。
      葉書の文面から考えても、そう考えておかしくないだろ」

モララーは、ハインの返事を待った。

ハインからの電話が掛かってきた時点では、モララーの頭の中にはいくつもの疑問符が浮かんでいた。

ドクオは何故か自分を避けて逃げている。それでいて、ハインに連絡先を託した。
ドクオは居場所を言えない。これはつまり、ドクオからハインに、居場所を言うなと伝えたということだ。

284名無しさん:2018/12/10(月) 20:47:22 ID:BIN2XcsY0
ドクオが居場所の特定を恐れたと、ハインの態度からは察せられる。
間接的に、ドクオが失踪に関与していることを浮かび上がらせていた。

どうしてドクオが居場所を気にするのか。
答えはひとつしかない。誰にも居場所を明かさない久城デレとともに行動しているからだ。

それでいて、ドクオはモララーに連絡は寄越してきた。
携帯に出られない時点で怪しいのに、ドクオにとっては第三者にあたるハインを介して。

何かある。
ハインからの電話があった時点で、モララーの直感は語っていた。

( ・∀・)「さっきの、ドクオっていう奴のことだけど」

285名無しさん:2018/12/10(月) 20:48:19 ID:BIN2XcsY0
( ・∀・)「あいつは探偵はまだしも、警察には絶対向かないと思うんだよね」

从 ゚∀从「……体つきが貧弱だからか?」

ハインの言わんとすることはすぐにわかった。
大目に見ても、ドクオの身体は軟弱そうに見える。
今日あったばかりの人に言われるとは、とモララーは苦笑した。

( ・∀・)「それだけじゃない、精神的な問題だよ。
      警察は、事件が起きなければ捜査ができない。
      だけどあいつは、事件が起きることそのものが嫌いなんだ」

それは、夏から今まで、助手としてドクオを使役してきたモララーの所感だった。

从 ゚∀从「警察じゃ、遅いってか。良いことじゃないか。血気盛んな奴は嫌いじゃないぜ」

ケラケラと笑う声はモララーの声に掻き消された。

( ・∀・)「ドクオの友人が刑務所にいるんだよ」

286名無しさん:2018/12/10(月) 20:49:08 ID:BIN2XcsY0
ドクオと最初に出会った事件のことを、モララーは口にした。

モララーの過去にまつわり、ドクオが深い恩義のある人物を巡る、今年の夏の事件。
内容を掻い摘まんで、ドクオと、彼の友人ジョルジュの顛末に絞った。

( ・∀・)「ドクオはその状況を、何も感じずにいられる男じゃない。
      もしもあいつが久城と一緒にいるなら、そして何かを感じたなら
      こう考えるはずだ。何かが起きる前に、止めなければならない、と」

从;゚∀从「ちょっと待て!」

ハインが鋭い声を上げる。

从;゚∀从「お前、何を考えてやがる」

( ・∀・)「ドクオはどうして俺に連絡を寄越そうとしたのか、だよ」

287名無しさん:2018/12/10(月) 20:49:54 ID:BIN2XcsY0
無事であることを伝えるため。
それだけがハインに連絡先を伝えた理由とは思えなかった。

从 ゚∀从「……私がお前と知り合いだとわかった後で、
      私がお前の連絡先を知らないって言ったからかもな」

ハインの鼻で笑う音が微かに聞こえてきた。

从 ゚∀从「『話せるうちに話した方が絶対に良いですよ』ってさ。
      やたら大袈裟にいうから、何だと思ったけど、
      なるほどね。刑務所か」

どうりで実感が籠もっているわけだと、ハインが笑った。

从 ゚∀从「……ひとつ、お前の推理は間違っている。
      私とドクオが、デレを接点にして会ったと思っているようだけど、
      それは違う。ドクオは本当に偶然、私の店に来たんだよ」

288名無しさん:2018/12/10(月) 20:50:31 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「接点になったのはお前だ、モララー」

ハインの説明によれば、きっかけは、ハインの店にモララーの写真が置いてあったかららしい。

( ・∀・)「なんでそんなものが」

从 ゚∀从「いつか教えてやるよ」

と、一言残して、説明は続いた。

ドクオとハインの会話は弾み、そして、歌手のデレとハインが、
知り合いだとわかった途端に、ドクオは目の色を変えた。

从 ゚∀从「最初ははぐらかせたよ。あまり気持ちの良い話じゃないし、
      ただのファンなら、言うべきじゃない過去だ。
      だけど、ドクオは真に迫る勢いだった。
      どうしても必要なんだと、店の真ん中で頭下げてきてさ」

必死だったな、とハインは言った。

ドクオの姿をモララーは思い浮かべた。

289名無しさん:2018/12/10(月) 20:51:04 ID:BIN2XcsY0
デレの失踪に、ドクオが関与していることは事実なのだろう。

何故か、ドクオはデレの過去を知りたがった。
何かをしようとしている。

深く考えようとして、どういうわけか、背筋が寒くなる感触がした。

( ・∀・)「あいつは俺の助手だ」

悪寒を抑え、モララーは言った。

( ・∀・)「上司として、知りたい。あいつは何を考えているのか。
      その鍵がデレだというのなから、探偵として改めて質問する」

290名無しさん:2018/12/10(月) 20:51:37 ID:BIN2XcsY0
デレの過去とは何か。

从 ゚∀从「私が言えるのは、私の知っていることだけだ」

ハインは返事をしてくれた。

从 ゚∀从「あとは自分で、推理しろ」

探偵らしく。
モララーはまた、したり顔を作る。

( ・∀・)「得意分野だ」

自分で言うか、とハインが笑った。

从 ゚∀从「それじゃ、まずは自分語りをさせてくれ」

291名無しさん:2018/12/10(月) 20:53:09 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「私が仮釈放されたのは、今から9年前。2001年の秋だ」

思ったより、遅い。
モララーは率直に思ったことを口にした。

从 ゚∀从「本当は刑期を満了したかったんだぜ?
      だけど、まあ30歳越えちまっていたし、
      素行に問題ないのだから、出た方が良いって、しつこい刑務官に説得されてさ」

从 ゚∀从「まあ、出たからといって、待っていたのは予想どおりの生活だったけどな」


この国では、犯罪者は忌避すべき存在である。
21世紀になったばかりだった当時でも、今でも、そこは変わらない。

出所者の知り合いがいるわけではないが、
多くのニュースや書物などで、モララーもその実態を知る機会はあった。

从 ゚∀从「犯罪者だと明るみになったら、普通の人間は近づいてこない。
      たとえ隠して就活しても、9年間という空白期間に深入りされたら終了だ」

292名無しさん:2018/12/10(月) 20:53:51 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「しばらくは、面接の緩いフリーター生活を細々と続けた。
      生き抜くために切り詰めまくって、体調不良も全部気のせいってことにした」

从 ゚∀从「私の所在を知った、M市の教会の保護施設の人たちとか、
      手を差し伸べてくれる人もいたけれど、私はどうしてもひとりで生きたかったんだ。
      半ば、いや、八割方意地になっていたと、今更ながら思うよ」

ハインの癖で、乾いた笑いが時折挟まる。
それは単純な笑いのときもあれば、深い痛みを湛えたときもある。
過去の話が始まってから、合間に入る笑いは全て後者に寄っていた。

从 ゚∀从「その頃には、インターネットが普及して、過去の犯罪歴も、誰でも手軽に暴けるようになった。
      犯罪者の疑いがある奴を調べ上げてばらまく連中とかさ、これが大勢いるわけだ」

从 ゚∀从「連中の言い分はいつも正義だ。
      皆が犯罪者を嫌っているのだから、特定して晒すのが世のため人のためってな。
      私達みたいな不安分子は、正義の名の下にプライバシーを蹂躙されたわけだ」

293名無しさん:2018/12/10(月) 20:54:28 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「私が出所してからの2年間でも、東京は清潔な街になっていった。
      あるいは、清潔に見せかけることが得意な奴らの、な。
      穢れを隠せない愚鈍な奴らは、存在することさえ許されないんだ」

从 ゚∀从「普通に暮らしていた人にはわからないだろうけど、
      私みたいな暗部にいる人は皆実感しただろうよ。
      自分らの居場所がどんどんなくなっていく感覚を」

从 ゚∀从「東京のどこにいても無理だと悟った私は、地方都市に移った」

一瞬の間を置いて、ハインは「今は中部地方にいる」とだけ教えてくれた。
ドクオとの約束と、話の流れを折衷しての回答だろう。
モララーが短く礼を挟み、ハインの話が続いた。

从 ゚∀从「あたしが流れ着いたのは、一軒のバーだ。
      店主さんが、どうもあたしと同じ身分らしくてね、
      苦労話とか、いろいろ聞かせてもらえて、仕事も与えてくれたんだ」

294名無しさん:2018/12/10(月) 20:55:02 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「それが2003年だった。ようやく世間ってものに入り込めたような気がしたよ」

話が終わったらしく、ハインの声が途切れた。

( ・∀・)「……大変だったな」

口にして、そのあまりの軽さにモララーは唇を噛んだ。
どう労いの言葉を考えても、ハインには届かない気がした。

从 ゚∀从「同情はいいよ。刑務所に行った意味がなくなっちまう。
      犯罪に関わったっていうのは、そういうことなんだよ。
      私に下された判決は真っ当だったと思うぜ」

(;・∀・)「……」

何か言いたいという気持ちはあっても、言葉は形を成してくれなかった。

やがて、ハインの方から話を続けてくれた。

295名無しさん:2018/12/10(月) 20:55:51 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「デレが店にやってくるようになったのは、その年の秋からだったな。
      あのとき、デレはまだ中学生だった」

ハインが店に来てから、すぐのことであったという。

( ・∀・)「中学生でバー?」

从 ゚∀从「あたしが来てからはカフェみたいなことを始めたんだ。
      店主が出勤してくる夜前は、あたしひとりで切り盛りしてるんだぜ」

从 ゚∀从「デレは放課後にいつもやってくるみたいだった。
      あたしは個人的なことに干渉する気はなかったから、詳しくは聞かなかったけれど
      家族と上手くいってなかったんだろうな。いつも淋しげな顔をして来るんだ。
      あたしの、たいして美味くもないコーヒーをありがたがってよ」

296名無しさん:2018/12/10(月) 20:56:41 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「あれは、冬になってからか。デレが男子を連れてきたことがあった。
      デレからは、ニュッ君って、呼ばれていたな」

男子、と聞いてモララーは反射的に背筋を伸ばした。

( ・∀・)「あだ名っぽいな」

从 ゚∀从「だろうな。ま、本名も知ってるし、居場所も知ってるけど」

息をのむモララーの声が聞こえたらしく、ハインが低い声で言葉を続ける。

从 ゚∀从「あいつ、関わりそうか?」

297名無しさん:2018/12/10(月) 20:57:16 ID:BIN2XcsY0
( ・∀・)「予感はしている」

オサムが最後に教えてくれたことを、モララーは思い浮かべていた。

( ・∀・)「デレの過去のコンサートで、ファンではないのに会場に来た男の目撃情報がある。
      もしもニュッ君とやらの、写真があるなら、見せてほしい。照らし合わせたい」

返事はすぐには来なかった。
またか、とモララーは内心でぼやいた。

( ・∀・)「どうした?」

从 ゚∀从「はあ、いや、ね」

途切れ気味の声音に首を傾げていると、ハインが口を開いた。

从 ゚∀从「モララー、あんたはどうして探偵になった?」

298名無しさん:2018/12/10(月) 20:58:05 ID:BIN2XcsY0
いきなりの質問に、モララーは若干狼狽えた。

( ・∀・)「……真実を暴くことで、救える奴がいると思った」

それができなかったから、ハインは逮捕されたのだから。
受話器の向こう側にいる本人に、さすがにその言葉は伝えられなかった。

(;・∀・)「黙るなよ、気恥ずかしい」

ハインからの返事は、また遅かった。
いつものことだと思ったモララーは、戯けながらその声を待った。

从 ゚∀从「モララー」

声色は妙に澄んでいた。
今までの雰囲気から一転して、余計なもののない声だ。

从 ゚∀从「この真実は、誰も救わない」

299名無しさん:2018/12/10(月) 20:58:38 ID:BIN2XcsY0


( ・∀・)「……」


从 ゚∀从「……」


( ・∀・)「どうしてわかる」

つい、語気に力が籠もった。

从 ゚∀从「デレの過去について、私が知っているのは結果だけなんだよ」

( ・∀・)「結果? それっていったい」

300名無しさん:2018/12/10(月) 20:59:17 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「ニュッ君は、ここにはいない」

返事ではなく、言い切りの形でハインは言った。

从 ゚∀从「アドレスを教えてくれたら写真を送る。照らし合わせて、
      確信を得たならメールを寄越せ。あいつの連絡先を教えてやる」

( ・∀・)「わかった。けど」

知っているのは結果だけ。
その含みを持った言い方が、モララーには気になった。

( ・∀・)「先に教えておいてくれ。ニュッ君って奴は、何かしたのか?」

301名無しさん:2018/12/10(月) 20:59:51 ID:BIN2XcsY0
从 ゚∀从「……誰にも言うな」

ハインが一際低く言う。

もちろん、とモララーが答えると、息を吸う音がした。

从 ゚∀从「あいつは、かつて逮捕されたことがある。家裁で保護観察処分になったんだ」

耳を打った言葉を吟味するまでもなかった。

从 ゚∀从「罪状は殺人、被害者は、デレの父親だ」


     +++

302名無しさん:2018/12/10(月) 21:00:51 ID:BIN2XcsY0
サングラスを基本として、夏には髪の結い方を変え、冬にはマスクをかける。
それがデレのいつもの変装のレパートリーだった。

元よりテレビなどの露出は少なめで、あってもライブやMVの撮影などのみ。
ファン以外には気づかれないと思い、そこまで気をつけてはいなかった。
だからこそ、ドクオにも見つけることができたといえる。

N市への旅の途中でニット帽を手に入れたが、今はそれも外していた。
街の郊外の、夜。人気はほとんどない。

ゴルフ場が近くに、高台と緑地が作り上げられており、
鬱蒼と茂る森は街に食い込むようにして生えていた。

303名無しさん:2018/12/10(月) 21:01:27 ID:BIN2XcsY0
街灯がつきはじめ、薄闇の中にアスファルトを浮かび上がらせる。

森の合間に入ってすぐの場所に空き地があった。
管理されていないのか、草木が野放図に広がるその場所の隅に、デレの車が鎮座していた。

まっすぐに車に向かう途中で、デレはふと足を止める。

(  )

車の傍らに人がいた。

ζ(゚ー゚#ζ「誰っ」

304名無しさん:2018/12/10(月) 21:02:03 ID:BIN2XcsY0
警戒心から声を荒げ、携帯のライトを点けて、相手に向ける。


('A`)


照らされたその顔には見覚えがあった。

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオくん」

昼過ぎに別れたばかりの、度の同行者だ。

出会ったのはとある街の書店。
ファンでもないのに、デレのことを訊いてきたという、不思議な青年だ。

305名無しさん:2018/12/10(月) 21:02:42 ID:BIN2XcsY0
ζ(゚ー゚*ζ「どうしてここに……」

近づこうとしたデレの前に、ドクオの腕が向けられる。

('A`)「君の車のトランクに仕舞われていたものだ」

その手の中には銃が握られていた。

ζ(゚ー゚*ζ「……盗ったの?」

('A`)「うん」

宿に泊まったときや、パーキングエリアに停めたとき、
デレが眠っているうちに、調べる隙はいくらでもあった。

ζ(゚ー゚*ζ「へえ、人は見かけによらないというか。
       意外と手癖が悪いんだね。探偵さんなのに泥棒みたい」

306名無しさん:2018/12/10(月) 21:03:30 ID:BIN2XcsY0
おどけてみせるデレに対して、ドクオは銃を握り直した。

デレは真顔になり、ドクオと視線を合わせた。

('A`)「俺は別に詳しくないから、この銃が本物かどうかはわからないです。
    試し撃ちをすることもできない。本物なら、持っているだけで犯罪ですね」

足を止めてしまったことを、デレは歯噛みした。
銃を構えたのは、銃が本物かどうか確かめたかったのだろう。
持ち主が銃口を見て身構えれば、それは本物であることの証左だ。

息をのんで、それからデレは背筋を伸ばした。

ζ(゚ー゚*ζ「君は何がしたいのかな?」

307名無しさん:2018/12/10(月) 21:04:17 ID:BIN2XcsY0
自分の提案に乗ってきて、予想外に協力してきた青年。
自分の味方かと思いきや、人知れず疑念を抱き、私を睨み付けてくる。

デレはドクオの心境が今ひとつ掴めないでいた。

('A`)「俺がどうして君のことを知りたがったのか、訊いたことがありましたよね。
    そのことを今から話しても良いですか」

デレが黙っていたのを、ドクオは消極的な肯定と受け取ったらしい。

('A`)「俺が君の歌を聴くようになったのは、俺の友達が聴いていたからでした」

銃を構えたまま、ドクオは少し、遠い目をした。

('A`)「あいつと一緒に会うときに、いつもイヤホンで聴いていたんです。
    俺が話しかけてもなかなか外してくれなくて、よほどお気に入りなんだろうと思っていました。
    それで、一度だけ、あいつが俺に歌を聴かせてくれたことがありました」

308名無しさん:2018/12/10(月) 21:04:53 ID:BIN2XcsY0
('A`)「あいつは言っていたんです。この歌を聞いていると心が安らぐって。
    俺にはよくわからなかったです。だけど、あいつが捕まって、刑務所に行ってしまってから
    あいつのことを理解したくなって、それで、君の歌を聴くようになったんです」

世間への諦念、生きることへの絶望と希望。
久城デレの歌に紛れ込んでいた、幾多の抽象的な歌詞は、聴き手によって如何様にも解釈できた。

('A`)「俺は歌を聴き慣れていなくて、なかなかつかめずにいたんですけど、
    最近になって、ようやくわかってきたんです。
    あいつがこの歌に惹かれたのは、共感したからだって」

デレは相変わらず無表情のまま、まっすぐドクオを見つめていた。
いつもの笑顔がなくなると、深い色の瞳が矢のように射貫いてくる。

だが、いつでも笑顔でいる人間などいないことを、ドクオは知っている。
かつて、ドクオが知り合った、いつも笑顔だった男の裏に、
覆い尽くせない悲しみがあったように。

309名無しさん:2018/12/10(月) 21:05:33 ID:BIN2XcsY0
('A`)「君はいったいどうしてこの歌を――」

言葉の途中で、デレが動いた。

ドクオと全く同じように、右手を前へ突き出した。

ζ(゚ー゚*ζ「残念だけど、その銃は不良品だよ」

デレの手には、真新しい銃が握られていた。

ようやく頬を綻ばせたデレだったが、その笑顔は変質していた。
見つめていると、鳥肌が立ちそうな、人に似た何者かの笑い方だった。

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり変なルートで手に入れると、碌なものが手に入らないんだよね。
       高い買い物だったのに、返品なんてもちろんできないし」

310名無しさん:2018/12/10(月) 21:06:05 ID:BIN2XcsY0
デレの素性は誰も知らない。
遠い東京の喫茶店で、ちょうど同じ頃に、
デレのプロデューサーが訴えたその言葉を、当然ながらドクオは知らない。

ζ(゚ー゚*ζ「盗まれたことにも、ごめん、すぐ気づいた。
       でも、ただの泥棒なら見逃したんだけどな」


言いながら、デレは自分の銃を顔の位置まで上げた。

ζ(゚ー゚*ζ「私のことを黙っているって、約束してくれるなら、見逃してあげる」

言いながら、デレはスマホを操作した。
見ないまま、アプリケーションが開く音がして、デレは素早く文字を入力する。

311名無しさん:2018/12/10(月) 21:06:39 ID:BIN2XcsY0
ζ(゚ー゚*ζ「私の友達、またすぐここに来ちゃうよ。
       それまでにどうにかしてくれないと、困るんだけど」

送信を示す音が響き渡った。

('A`)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「君は私を止めようとしたんだね。私がやろうとしていることを察して、
       お友達のことを思い出したから、ってことなんでしょ?」

いつから、と尋ねようとして、辞めた。
それは重要なことではない。

大事なのは、今目の前にこの青年が立ち、
私に反駁しているという現実だ。

312名無しさん:2018/12/10(月) 21:07:10 ID:BIN2XcsY0
ζ(゚ー゚*ζ「そのお友達は、私と確かに似ていたのかもしれない。
       犯罪なんて、しなくても人間は生きていけるもの。
       罪を被ってでも得たいものや、壊したいものが無い限り」

デレは言葉を止めて、ドクオを見つめた。
睨むというほどでもない。ドクオの行動を観察していた。

スマホの明かりで浮かんだ景色に、ドクオは青白く浮かんでいる。
知った顔でなかったら、幽霊と思い込んでいたかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ「銃を下ろして。でないと、君を撃つ」

言い放ったそれは、脅しと言うには力の弱い宣告だった。
もっと強い言葉で、と思ったデレだったが、
そのとき銃口を、ドクオはアスファルトに向けた。

引き金が引かれる。
弾は、確かに出なかった。

313名無しさん:2018/12/10(月) 21:07:44 ID:BIN2XcsY0
('A`)「こんなのばかりだな」

と、ドクオは小さく呟いていた。

('A`)「撃つつもりはなかったんですよ」

ドクオは銃を放り投げた。
弧を描いて、デレの足下に滑っていく。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。そのまま黙って逃げて」

('A`)「いいや、そうはいかない」

ドクオがデレに顔を向けた。
思いのほか力の籠もった声に、デレは身体を強張らせる。

('A`)「俺はもう、人が人を殺そうとするところを見たくないんです」

314名無しさん:2018/12/10(月) 21:08:32 ID:BIN2XcsY0
ドクオは一歩、デレに近づいた。

ζ(゚ー゚#ζ「来ないで!」

デレの声は、金物を打ち鳴らしたかのように、声が森の奥まで反響していった。

('A`)「デレさん」

二歩目、三歩目、歩きだしていく。

デレの目が見開かれていった。

('A`)「俺は」

目の前の青年のことが、デレにはわからない。
その不可解さが、逆にデレを刺激していた。

315名無しさん:2018/12/10(月) 21:09:28 ID:BIN2XcsY0
書店で声を掛けられたあのとき、自分を見ているようで、
全く別のものを見ていた彼について、デレは興味を抱いた。

その心の裏側に何があるのか。
知りたいと思ったことは確かにある。

あまつさえ、それで自分の本心を理解してくれたなら、
これより喜ばしいことはない、そんな期待をデレは抱いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ごめん」

期待は潰えた。

目の前のドクオは、友のためにデレの前にいる。
決してデレを見てはいない。

銃口は依然として前を向く。

泣いていた。
涙が月明かりに照らされ、筋となっていた。

316名無しさん:2018/12/10(月) 21:10:11 ID:BIN2XcsY0
(#'A`)「――!!」

ドクオが自分を止めようとする。
必死に声を荒げている。

デレの耳を、空虚に通り抜けていく。

そして乾いた銃声が、高らかに響き渡った。



     +++

317名無しさん:2018/12/10(月) 21:11:20 ID:BIN2XcsY0



   Next>第六話 知っているかと探偵は問う


.

318名無しさん:2018/12/10(月) 21:12:07 ID:BIN2XcsY0
今日はここまで。
続きはなるべく早いうちに。

319名無しさん:2018/12/10(月) 21:12:36 ID:JyqXwQgU0



   Next>第嘘話 ドクオ死す!


.

320名無しさん:2018/12/10(月) 21:14:51 ID:7I8R/n/A0
おつ!
リアルで遭遇できるとは。。。
次も待ってる。

321名無しさん:2018/12/10(月) 22:07:07 ID:mMvrYqQA0
乙!

322名無しさん:2018/12/11(火) 12:52:52 ID:D3Y/mEzI0
乙! 城之内やめろ

323名無しさん:2018/12/20(木) 22:32:50 ID:/uxqXowg0
     +++


2003年、冬。

『猫の足音』の扉は乱暴に開かれた。
鈴の音がやかましいほどに鳴り響き、
キッチンで仕込みをしていたハインは慌てて顔を出した。

从 ゚∀从「いらっしゃい」

言いはしたが、言葉は尻すぼみになる。



(  ν )

324名無しさん:2018/12/20(木) 22:34:02 ID:/uxqXowg0
雨音がハインの耳に届いていた。
外はひどい雨のようだった。
その雨に打たれたのか、彼は傘も持たず、
青ざめた顔で、びしょ濡れのまま立っていた。

从;゚∀从「ちょ、ちょっと待ってろ!」

キッチンに引っ込んで、タオルを持って慌てて駆け寄り、彼の顔に押し当てた。
彼は息苦しそうに藻掻いていたが、構わずハインは拭き続けた。

从 ゚∀从「とりあえず席に座れ。どこでもいい。ここのテーブルでいいか、な?」

325名無しさん:2018/12/20(木) 22:34:33 ID:/uxqXowg0
話しかけながら、むりやり彼を座らせる。
呻いてはいるが、ほとんど抵抗はない。
具合でも悪いのかと心配になるほど、彼は静かだった。

怯えているようだった。
直接聞いたわけではない。
青ざめた顔や震えている指先が、そう感じさせた。

普段から、彼は話す方ではない。
だけど、怯えるという態度もどこか見慣れない。

じっと、黙りこくる彼を見ていると、
言いようのない不安がハイン胸中に染み渡った。

从 ゚∀从「ほら、コーヒーだ」

326名無しさん:2018/12/20(木) 22:35:17 ID:/uxqXowg0
自分用に、こっそり準備していたものを、ひとつ彼の前に差し出した。
コーヒーカップとソーサー。青い曲線に彩られた陶器同士が
触れ合うその繊細な音に、彼は初めて顔を上げた。

把手を抓み、ゆっくりと口に運んでいく。
喉を鳴らす音が聞こえて、ようやくハインも安心できた。

(  ν )「……うめえ」

从 ゚∀从「だろ〜? 良い豆が入ったんだ。
      焙煎から自分でやって、ようやくこの深みが出せたんだよ。
      どうだ? バーなんかやらずに喫茶店やれて話しだろ?」

327名無しさん:2018/12/20(木) 22:36:02 ID:/uxqXowg0
ハインは彼の向かいに座り、身振り手振りを交えて話をした。
勢いに気圧されたのか、彼の口元が引きつるように笑った。
だが、ハインの話題が尽きるとすぐにまた元の、沈黙に戻ってしまった。

塞ぎ込んだ彼の顔を見て、ハインは背筋を伸ばした。

从 ゚∀从「何があった」

彼がいったい何を語ったとしても構わない。
なるべくなら、彼のことは守りたかった。
ひとりの少年として、常連の客として、
それ以前に、暗い顔をした彼をこのまま帰したいと思わなかった。

328名無しさん:2018/12/20(木) 22:36:37 ID:/uxqXowg0
(  ν )「なあ。あんた、犯罪者なんだろ?」

か細い彼の、率直な問い掛けに、ハインの顔が強張った。

噂くらいは、どこでも聞く機会はあるだろう。
自分から言いふらさなくても、地域住民は勝手に話題を拾って広める。

結局どこへいっても、噂はついて回ってくる。
隠し続けることは、このご時世じゃ難しい。
どこにだって監視の目はある。
悪人と見定めたら、人は容赦しない。

彼は自分から、そのことを尋ねてきた。
単純な興味でも、悪戯心でもなく、
訊く必要があるから訊いたのだと、ハインは察した。

329名無しさん:2018/12/20(木) 22:37:09 ID:/uxqXowg0
从 ゚∀从「そうだよ」

自分から打ち明けることはほとんどなかった。

今までの、例えば採用された仕事場などは、
疑惑を持たれた段階で辞職するように求めてきた。

それが当然の対応だ。
ここは、後ろ暗い人が傍にいるだけで、不利益が生じる社会だ。

だが、この少年に対しては、
嘘をついてはいけない気がした。

从 ゚∀从「で、だからなんだよ」

肘をついて、少年に顔を寄せる。

330名無しさん:2018/12/20(木) 22:37:45 ID:/uxqXowg0
彼が真剣だとわかっていても、
穏やかなままではいられない話題だった。

意識せずとも、ハインはつい強気な口調になってしまった。

从 ゚∀从「おい!」

机を掌でバンッと叩くと、彼が急に顔を上げた。

(  ν )「教えてくれ」

从;゚∀从「……!」

暗く落ち窪んだ彼の双眸は、涙に濡れていた。

(  ν )「犯罪者は、いったいどんな目に合うんだ」

331名無しさん:2018/12/20(木) 22:38:27 ID:/uxqXowg0
悲愴を体現したかのような顔を見て、
ハインの頭から、言葉がこぼれ落ちていった。

しばらくの間を置いてから、ハインは咳払いをした。

从 ゚∀从「地獄」

躊躇いもなく、ハインは言ってのけた。

从 ゚∀从「刑務所の中だけの話じゃないぞ。
      それまで普通に生きていた、この世界の全てが、
      自分を取り巻く地獄へと、一気に塗り変わるんだ」

ハインは知っていた。
周りの全てが敵に思えてくる恐怖。
反発したら、それすらも嘲笑う世間。

犯罪者はこの世界に生きていてはいけないと、真顔で言えるのがこの国だ。

332名無しさん:2018/12/20(木) 22:38:59 ID:/uxqXowg0
(  ν )「……そうだよな」

コーヒーカップを持ち上げて、彼は一気にそれを飲み込んだ。
まだ熱いだろうに、咳き込みながら、それでも一度も口から離さなかった。

(  ν )「美味かった」

短い言葉は、区切りをつけるような調子だった。
何かしら思うところがあったのか、背筋を伸ばして入口へと歩き出した。

从 ゚∀从「馬鹿」

ハインは彼に歩み寄った。

从 ゚∀从「傘、今出すから」

(  ν )「いらねえっすよ」

333名無しさん:2018/12/20(木) 22:39:38 ID:/uxqXowg0
彼は振り向かずに、首を横に振る。

その背中がもう震えていないことに気づき、
ハインはまるで怒鳴るように、彼の名を叫んだ。

从 ゚∀从「美味かったんだろ? 私のコーヒー。
      だからさ、また、来いよ」

ハインは彼が何をしたのか知らない。
詳細を知るつもりもない。

だけど、直感はあるものだ。

334名無しさん:2018/12/20(木) 22:40:11 ID:/uxqXowg0
彼はもうこの場に帰ってこないのだろうと、
察して、それでもハインは続けた。

从 ゚∀从「またな」

(  ν )

ようやく振り向いてくれた彼は、微笑みこそしたけれど
返事はついにしてくれなかった。


     +++

335名無しさん:2018/12/20(木) 22:40:54 ID:/uxqXowg0


第六話


   知っているかと探偵は問う



     +++

336名無しさん:2018/12/20(木) 22:41:27 ID:/uxqXowg0
県警察署の植え込みのそばで、ショボンはひとり佇んでいた。
植物を眺めて和んでいた、というほど優雅な時間の使い方はしていない。
そもそもが夜更けだ。風も冷たく吹き付けてくる。

(゚、゚トソン「なに黄昏れているんですか、警部」

缶コーヒーを抱えたトソンが、一本をショボンに差し出した」

(´・ω・`)「ありがとう。まだ帰ってなかったのか」

(゚、゚トソン「残務整理と、それから、スマホをまだ返してもらっていませんから」

プルタブを引いて、トソンはちびりとコーヒーを啜る。
噴き出すような湯気が立ちこめた。

337名無しさん:2018/12/20(木) 22:42:00 ID:/uxqXowg0
(´・ω・`)「ああ、あれな。多分今日は返ってこないぞ」

(゚、゚トソン ブッ

植え込み目がけて飛沫が飛んでいった。

(゚、゚トソン「返って? は? 警部にお貸ししたのでは???」

(´・ω・`)「ああ。私の知り合いが欲しがっていたのでな。
       又貸ししたんだ。すぐ返すと言っていたんだがな」

(゚、゚トソン「もう今日が終わりますよ? 見えますこれ? ねえ?」

腕時計を見つめ、指で強調する。
返答代わりに溜息を返されて、トソンもまた肩を落とした。

(゚、゚トソン「あのモララーという探偵ですか」

338名無しさん:2018/12/20(木) 22:42:31 ID:/uxqXowg0
モララーのことは、トソンも知っていた。
夏の事件の後、墓参りに赴いたショボンと同行して
彼と、その助手というドクオに出会っていた。

(´・ω・`)「よくわかるじゃないか」

(゚、゚トソン「他に誰がいるっていうんですか。
     警部、あの人以外に仲のいい人いないし」

(´・ω・`)「……」

警察署の入り口から、賑やかな笑い声が聞こえてくる。
残業とは名ばかりの雑談をしていた一行だ。
これからは近場の居酒屋にでも入り込んで盛り上がるのだろう。

339名無しさん:2018/12/20(木) 22:43:14 ID:/uxqXowg0
警察官とはいえ、人間の本質は変わらない。
群れることの好きな奴もいれば、嫌いな奴もいる。
ショボンは後者で、黙々と仕事をする方が好きだった。

少なくともショボン自身はそう思っていた。

(´・ω・`)「モララーの方から勝手に絡んでくるんだ」

(゚、゚トソン「はいはい。
     コーヒー早く飲んでください。冷める前に。
      せっかく買ってあげたんですから」

トソンにコーヒーを指でつつかれ、
ショボンは不満げなまま、それを口に運んだ。

340名無しさん:2018/12/20(木) 22:43:45 ID:/uxqXowg0
(゚、゚トソン「でも、警部は夏にモララーさんと再会したばかりなんですよね。
     どうしてそんなに入れ込むんですか」

(´・ω・`)「……向こうが勝手に」

(゚、゚トソン「同じ答え禁止です」

先手を打たれ、ショボンは口を尖らせた。
苦みばかりが目立つコーヒーを流し込み、
ぽかりと口を開いて、雲みたいな息を吐いた。

(´・ω・`)「私が第四課にいた頃、ひとりの部下がいた。
       警察として勤めながら、とある反社会組織に所属していたんだ」

お前も知ってるだろ? とショボンは尋ね、
トソンは無言のまま頷いた。

341名無しさん:2018/12/20(木) 22:44:18 ID:/uxqXowg0
(´・ω・`)「彼女は自分の手で悪を裁こうとし、モララーはそれを食い止めた。
       そして彼女は逮捕され、刑事罰で服役することになった」

(´・ω・`)「そのときのモララーは明らかに私を敵視していた。
       部下である彼女を捜査に利用していた私に憤慨していたのだろう。
       あの目はなかなか、忘れられない。仕事と割り切っても、罪悪感が拭えなかった」

(゚、゚トソン「……」

(´・ω・`)「同時に、モララーにしてみても、彼女のことが忘れられなかったらしい。
      モララーと別れてから、何時の頃か、私は気になって彼の仕事を調べてみたことがあった」

342名無しさん:2018/12/20(木) 22:45:04 ID:/uxqXowg0
(´・ω・`)「彼は今まで、探偵として様々な事件に関与し、真実を暴いてきていた。
       ときには明らかに利益にならないような事件もあった。
       真実を見つけたところで、誰も救われないようなものさえも、彼は見つけて暴きだした」

(´・ω・`)「そうすることで、人を救うことができると、純粋に信じているかのようにな」

(゚、゚トソン「いけないんですか?」

(´・ω・`)「あのなあ、純粋すぎるものは、世の中じゃ嫌われるんだよ。
      誰もがどこかで嘘をついているんだ。真実を偽って、素知らぬ顔して生きている。
      小さな嘘や悪事を見過ごせないなんて、つらくて疲れるだけなのさ」

343名無しさん:2018/12/20(木) 22:45:37 ID:/uxqXowg0
(゚、゚トソン「……なんだか、警部に似てますね」

(´・ω・`)「なんだと?」

ショボンはきょとんとするが、トソンは真面目な顔を変えなかった。

(゚、゚トソン「警部はいつでも正しくあろうとしています。冗談はいっても妥協はしない。
     私がまだ配属されて間もない頃のことを、憶えていますか?」

(´・ω・`)「君が来た頃のこと、か」

新規採用で入ってきた新人が、ショボンの課にも複数名入ってきた。
慣れない対応に追われるものや、あからさまに邪魔物として誹るものもいる中で、
ショボンは事実上、育成を担当する長として活躍していた。

344名無しさん:2018/12/20(木) 22:46:18 ID:/uxqXowg0
(゚、゚トソン「私の他の部下で、怠慢や違反を見つけたらすぐに、警部は怒りました。
     青筋を立てる警部に対して、素直に謝るものもいれば、
     必要以上に怖がったり、見えないところで非難する人もいました」

(゚、゚トソン「いつだったか、警部に責め立てられたとして、私の同期が人事課に訴えたことがあったと思います。
     警部と人事の人とで、長い間話し合って、その内容は聞かされていませんが、
     おそらくは説法めいたものがあったんじゃないかと推察されます」

(゚、゚トソン「だけど警部はそれからも、他者に迎合しようとはしていませんでした。
     自分の信じる正義は曲げない。警部もまた、私からすれば稀少な人間です」

それは、とトソンは続けた。

(゚、゚トソン「警部も、心のどこかに残っているんじゃないですか?
     昔、部下のハインさんの犯行を、真っ当な形で止められなかったことに対する悔恨が」

345名無しさん:2018/12/20(木) 22:46:48 ID:/uxqXowg0
(´・ω・`)「……」

淡々と、そうでありながら長く続いたトソンの言及に
ショボンは神妙な顔をし、

(´・ω・`)「……くはは」

と声を上げて笑った。

(´・ω・`)「あいにく私は、それほど綺麗な人じゃないよ。
       似ているなんてとんでもない。モララーは私とは違う」

ショボンは、開いた口を小さく窄めた。

(´・ω・`)「私なんぞは、あいつの背中に、エールを送るので精一杯さ」

半分ほどあった缶コーヒーを、ショボンは一気に飲み干した。
空になったそれを指先でつまみ、トソンを振り向いた。

346名無しさん:2018/12/20(木) 22:47:25 ID:/uxqXowg0
(´・ω・`)「というわけで、スマホはまだ待っていてくれ」

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「それとこれとは話が別では???」

喚くトソンに背を向けて、ショボンは警察署へと向かっていった。

空は晴れている。冬の冴えた空気が、星明かりをよく通していた。
今年の雪はまだ降ってきていない。
寒々しい冬の風が、二人の去った後の花壇を揺らしていた。


     +++

347名無しさん:2018/12/20(木) 22:48:01 ID:/uxqXowg0
薄明の空が、東から広がりつつあった。

長い一日を終えて、深夜に自宅に帰り着いたモララーは
朝の五時にはすでに、その光を見つめていた。

探偵事務所があるのは、某県の地方都市だ。
差し込む明かりにビルが照らされ、濃い影を一方向に残していく。

この景観はすべて、人が作り上げたものだ。
発展を求めた人々が、集って働き、
コンクリートやアスファルトで、地面をひたすら覆い尽くした。

348名無しさん:2018/12/20(木) 22:48:38 ID:/uxqXowg0
見たくないものに蓋をして、
まるでこの世界が白と黒でできているかのようにする。
それが人間の求めるものであるらしい。

しかし、人は決して、モノクロでは決められない。
一言では言い表せない、不定形の内側に何が潜んでいるのか
知らないまま過ごせる人もいれば、知らずにいられない人もいる。

知らない方がいいと、わかっていながら
足を踏み入れてしまう人もいる。

349名無しさん:2018/12/20(木) 22:49:22 ID:/uxqXowg0
( ・∀・)「よし、いくか」

使い古したスーツを手にし、羽織る。
天気予報は晴れを示した。
気温は低い。吐息はすでに白い靄に変わっている。

外へ出て、空気を肺に流し込み、
始発が動き出す駅へと、モララーは足を進めた。

350名無しさん:2018/12/20(木) 22:50:05 ID:/uxqXowg0
電車がビルの狭間を抜けていくうちに、人々の数が増えてくる。
年末が迫っているとはいえ、平日。会社はいつもどおりなのだろう。

満員になった電車から、人が吐き出されて、入ってきて、
それを何度も繰り返すうちに目的地へと辿り着いた。

東京都内の工場地帯、そのうち一際古びた建物だった。
錆が目立つ階段をのぼり、メモをした部屋番号と照らし合わせる。

三回、淀みなくノックをすること。
それが到着の合図だった。

351名無しさん:2018/12/20(木) 22:50:32 ID:/uxqXowg0
「どうぞ」

中から声がする。
すでに鍵は開いていたらしい。

ノブを軋ませて回し、部屋の中に踏み入れた。



( ^ν^)「初めまして」



家具の少ない質素な四畳半に、
青年は正座をして待っていた。

352名無しさん:2018/12/20(木) 22:51:02 ID:/uxqXowg0
( ・∀・)「君が、新見ユウくんだね」

返事の代わりに新見は、刈り込んだその頭を下げた。

工場の寮、早朝では、他の入居者はまだ眠っているか、
寝惚け眼で朝の支度をしているか。

いずれにしろ、注目されることの最も少ない時間帯だと、
新山から提案されていた。

( ^ν^)「ハインさんか、懐かしいな」

353名無しさん:2018/12/20(木) 22:51:55 ID:/uxqXowg0
モララーが遠慮しても聞かず、新山は卓袱台の上にお茶を運んできた。
冷めた空気に湯気が浮かぶ。モララーは失礼して、ひとくち啜った。

昨日中に、写真の照合を済ませ、
ハインから連絡先を教えてもらっていた。

真実は誰も救わない。

忠告を受け取っていても、モララーは躊躇うことなく電話をかけた。

寝ようとしていたらしい新山に話をつけて、今日の約束を取り付けていた。

354名無しさん:2018/12/20(木) 22:52:32 ID:/uxqXowg0
( ・∀・)「まだ会いには行っていないんですか」

( ^ν^)「そうですね。なんかこう、気まずくて」

新見は、受け答えはとても丁寧だった。
その代わり目を合わせてくれない。

モララーは、新山のその態度に壁のようなものを感じていた。
触れてくれるな、というサインとも受け取れる。

だが、心を外から推し量るには限界がある。
踏み込まなければ、真実は掴めない。

355名無しさん:2018/12/20(木) 22:53:06 ID:/uxqXowg0
( ・∀・)「時間もないですし、本題に入らせて頂きます。
      久城デレのことを、あなたはご存じですね」

( ^ν^)「……」

( ^ν^)「はい」

目を伏せ、頷く新見の前でモララーはノートを開く。
文字で埋め尽くされたページを捲り、まっさらなページに移った。


     +++

356名無しさん:2018/12/20(木) 22:53:38 ID:/uxqXowg0
モララーと名乗ったその探偵は、俺の昔話を静かに聞いてくれていた。

出社時間は迫っているが、俺も興に乗ってきたのか
自然と話し言葉が饒舌になっていったように思われた。

自分の身体なのに、思われたっていうと不思議だが、
探偵の聞き方が上手いというのか、とにかく何でも話してしまいたいという気になった。

俺が生まれたときのこと。育った環境や、いかにして父を尊び、そして蔑んだか。
その過程で自ずとデレのことに触れた。もちろん、そちらの方が本題だ。

357名無しさん:2018/12/20(木) 22:54:09 ID:/uxqXowg0
俺は父の薄汚い欲望から、デレを退けた。
デレを庇うことで全てが救われると思った。
が、それは甘かった。デレの両親は、父の影響を欲していた。
実の娘を売ってまで得たいと思う、その権力には、心底吐き気がしたものだ。

男がいて、女がいて、その間で取り交わされる欲望に子どもが振り回されていく。
見えないもののせいで運命が決まっていて、下卑た笑いと嬌声に彩られている。

世の中全部が狂っていると思った。

碌でもない人間に対して、ナイフを振るわない理由が、
俺の内側ではすっかりなくなってしまっていた。

358名無しさん:2018/12/20(木) 22:54:41 ID:/uxqXowg0
( ^ν^)「もちろん、当時の話です。
      保護司の方とカウンセリングを重ねることで
      少しずつ、考えを改めるようになりました」

事件を起こした俺は警察に捕まり、家庭裁判所に送られた。
俺はすでに15歳になっていた。当時の少年法でも、刑法の適用範囲内だった。

殺人は、十分に重い罪だろう。
俺はてっきり、審判の余地もなく少年院にぶち込まれるものだと思っていた。

ところが、憶測は外れた。

家庭裁判所は、一般の裁判所とは審判の段取りが違う。
罪の重さは、罪状そのものよりも、状況の精査によって判断される。

359名無しさん:2018/12/20(木) 22:55:24 ID:/uxqXowg0
俺が殺したのはデレの父親で、そいつは、デレを虐待していた。
デレがまだ幼い頃は暴力で、中学生に上がる頃には性的な嫌がらせをも繰り返していたらしい。

俺の父親も大概だが、どこにでもクズはいるものだ。
まして家族の中から手を掛けてくるなど、想像もしたくない。

家庭裁判所は、俺の犯罪がデレを庇っての行動だということを強く認めてくれた。
学校での態度も、煩わしさから逃れるために孤独で過ごしていたのが却ってよかったらしく、
悪行に流されない、真っ当な態度であると評価された。

下された審判は保護観察。
俺は家に帰ることができ、月に一度の保護司との面談を
最低でも二年間続ければいい、というところに落ちついた。

360名無しさん:2018/12/20(木) 22:56:07 ID:/uxqXowg0
( ^ν^)「保護司の方は、定年退職された警察官の方がつきました。
      年は取っているんですが、がたいが良くて、衰えを感じさせない人でした」

その保護司は熱心に俺と接してくれた。
本当は挑発的な行動は禁じられていたのに、
素っ気ない態度をとり続けていた俺を、叱ってくれたこともあった。

その怒声が、なぜだか胸を打った。
あとになってから、俺は実の父から
一度も真面目に怒られたことがなかった、と気がついた。

361名無しさん:2018/12/20(木) 22:56:42 ID:/uxqXowg0
俺は父のことをほとんど知らず、ただ恐れてばかりいた。
父の方からも俺に触れてくるようなことはなかった。

地元の繋がりを軽視するようになってからは、
父はあからさまに俺を邪魔物として扱っていたように思う。

俺は意識せずとも、保護司と父を比較するようになっていた。

保護司の人と会うときは、母が笑っていた。
あんな笑顔を見せる母を、俺はそのときまで見たことがなかった。

362名無しさん:2018/12/20(木) 22:57:38 ID:/uxqXowg0
普通の人の、普通の環境。

そんなものに憧れていた時期もあった。
自分には得ることのできないものだと思い込んでいた。

( ^ν^)「……歪んだ話ですが、犯罪をして、裁かれて
      俺はようやく人としてスタートできた気がしたんです」

転校した中学校を一年遅れで卒業した俺は
高校には進学せず、働ける場所を探した。

363名無しさん:2018/12/20(木) 22:58:14 ID:/uxqXowg0
( ^ν^)「保護司の方も手伝ってくれて、一緒に選んだのがこの工場でした。
      もう5年になりますか。よく続けて来られたなって、今では思います」

俺が鼻をさすると、曙光がちょうど差し掛かってきた。
窓ガラスの外は、すでに青空が見えていた。

( ^ν^)「俺の話が長くなりすぎましたね。すいません。
      デレのことは、最近になって歌手になったと知ったんです」

今年の春頃のことだ。

364名無しさん:2018/12/20(木) 22:58:55 ID:/uxqXowg0
仕事終わりに、先輩から誘われた居酒屋のテレビで、
音楽番組で歌を披露しているデレを見つけた。
俺は驚きすぎて、手に持った料理を危うく落とし掛けた。

歌声にはもちろん聞き覚えがあった。

本質は変わらない、それどころかかつてよりさらに磨きがかかって
成長したデレの姿に自然と涙が出てきて、先輩が引いていた。

( ^ν^)「コンサートが近くに開催されるのを聞いて、行ったこともありました。
      俺、全然仕組みがわかっていなくて、チケットが全部前売りだったんですよね。
      どこで当日券が売られているのかとうろついてたら、警備員に捕まりそうになりましたよ」

365名無しさん:2018/12/20(木) 22:59:31 ID:/uxqXowg0
( ・∀・)「……」

俺は戯けて笑ったのだが、
探偵は顎に手を当てて、真面目な顔つきをしていた。
ぎこちなく、俺は綻んだ口元を再び結んだ。

( ^ν^)「デレは今でも、俺の心の支えなんです」

昔から、そうだ。
あの河原で、彼女の歌を聴いたときから、
俺はずっと励まされ続けていた。

366名無しさん:2018/12/20(木) 23:00:11 ID:/uxqXowg0
( ^ν^)「探偵さん、あなたがデレを追っているとは聞きました。
      俺は知っていることを全部話しました。
      デレの居場所は俺にはわかりません」

( ^ν^)「失踪したことは、もちろん心配ではあります。
      でも、あいつも馬鹿じゃないし、子どもでもない。
      きっと考えがあっての行動だと思うんです」

( ^ν^)「勝手なお願いで恐縮ですが、でもどうか
      あいつの邪魔をしないでいただけないでしょうか」

昨日の夜、モララーから電話を受け取ったときから、言いたかったことだ。

デレのことは俺も知らない。今何をしているのかもわからない。

ただ、探偵に追いかけられることが、彼女の目的を阻害するならば、
俺にできることはただひとつだ。

367名無しさん:2018/12/20(木) 23:00:49 ID:/uxqXowg0
( ^ν^)「お願いします」

深々と、額を卓袱台にすり寄せた。

途中でどんなことを言われても動かない自信があった。
動かなければ、探偵もそのうち諦めるだろう、と思っていた。

( ・∀・)「なあ、新見さん」

探偵は卓袱台の上を指先で軽く叩いた。

俺を起こそうとしたのかもしれないが、
俺は、探偵が言い終えるのをじっと、耐えて待っていた。

俺は、甘かった。

この探偵は、ただの探偵じゃなかったんだ。

368名無しさん:2018/12/20(木) 23:02:03 ID:/uxqXowg0


( ・∀・)「知っているか」


( ・∀・)「完全犯罪のやり方ってやつを」


( ^ν^)「……はい?」

不穏な言葉が、耳に届く。

思わず顔を向けた俺の目の前で、
探偵は怖いくらいに、口の端をつり上げていた。


     +++

369名無しさん:2018/12/20(木) 23:02:33 ID:/uxqXowg0



   Next>第七話 真実への供物


.

370名無しさん:2018/12/21(金) 08:06:56 ID:.ZyKoSe20
おつ!

371名無しさん:2018/12/21(金) 09:28:37 ID:JSFa.O4o0
乙です

372名無しさん:2018/12/21(金) 15:14:08 ID:aIyzJOmA0


373名無しさん:2018/12/24(月) 12:48:26 ID:HazDQvWw0
シリーズ最初から読んで追いついた、乙です!

374名無しさん:2019/01/07(月) 22:31:25 ID:mPGIEqFg0
     +++




目を見て話さないとキレる人と、時折出くわすことがあった。
顎とか鼻とか、変なところばかりに焦点を当てていた俺が気にくわなかったのだろう。
不真面目だと思われていたのかも知れないが、いくら怒鳴られても癖は消えなかった。

目には、人の本質が映っていると思う。
よくある、目に線を入れた怪しげな特集記事とかも、
要するに、目を隠すことで、誰だかわからなくするためのものだ。

その人の目を見れば、考えがわかる人もいる。
好意的ならばまなじりが下がる。逆に睨まれれば警戒されている。

そして、冷たい視線というものもある。
強い言葉も、払いのけるような手の動きもなく、
ただ見据えるだけでこちらが竦み上がる。

そんな視線を、強化ガラス越しから彼は向けてきていた。

375名無しさん:2019/01/07(月) 22:32:31 ID:mPGIEqFg0
  _
( ゚∀゚)「お前に何もわからねえよ」

冷たい視線に冷たい声。
俺は彼の傍にいてやれなかった。
彼が、それを拒絶していることは明白だった。

('A`)「僕は……」

言い返したいのに、言葉は上手く紡がれなかった。

一度犯罪者になってしまったら、この国で生きていくのは途端に辛くなる。
ドラマや映画に頼らずとも、世間の人々が事件を見る目を見ればわかることだ。

376名無しさん:2019/01/07(月) 22:33:27 ID:mPGIEqFg0
勝手にと思われるだろうけど、俺は彼の力になりたかった。
確かに、彼は罪人だ。人を殺そうとした、それだけでも十分に罪となる。
でも、その理由を俺は知っている。

彼は俺と、同じ人のことを想い、行動をした。
考えていたことは同じだった。
どちらかといえば彼の方が、純度が強すぎたんだ。
俺は、彼ほど徹底して行動にうつすことはできなかった。
  _
( ゚∀゚)「いいか、もう二度と来るんじゃねえぞ」

彼は俺を前に凄んだ。
強化ガラスに押し当てられた指先が白く圧迫されていた。

やがて彼は刑務官に終わりを伝えた。

377名無しさん:2019/01/07(月) 22:34:08 ID:mPGIEqFg0
刑務所で面会できる人間は限られている。
受刑者の親族なら、理由はつけやすいけれど
関係のない第三者は、会う理由を証明できないといけない。

交友関係を続けたいだけだと言い張っても、
その実は受刑者の更正を妨げる可能性があるからだ。

まして、受刑者自身が拒否を示したならば、
面会はほとんど途絶されたようなものだ。

('A`)「待ってくれ!」

咄嗟に叫んだけれど、後ろにいた刑務官が立ち上がるのがわかって、声が萎んだ。

378名無しさん:2019/01/07(月) 22:34:38 ID:mPGIEqFg0
捕まることは結局怖い。
俺は決して罪人にはなれない。

半分占められた扉から、ジョルジュが顔を覗かせていた。

  _
( ゚∀゚)「さよならだ」

もう二度と会わないと、その顔は告げていた。



     +++

379名無しさん:2019/01/07(月) 22:35:39 ID:mPGIEqFg0


第七話


   真実への供物



     +++

380名無しさん:2019/01/07(月) 22:36:24 ID:mPGIEqFg0
( ^ν^)「なんですか、完全犯罪って」

礼儀正しかった新見の顔つきが、険しくなった。

( ^ν^)「俺が何かしたとでもいうんですか」

低い声から、はっきりと敵意が感じられた。

モララーは顔を強張らせたが、すぐに首を横に振った。

犯罪から更生した者に、犯罪を匂わせれば、そんな反応になるのも無理はない。

心の中で、拍を打つ。
まず訊きたいことがひとつあった。

( ・∀・)「君さ、フルネームなんだっけ」

381名無しさん:2019/01/07(月) 22:37:19 ID:mPGIEqFg0
( ^ν^)「……新見優です」

訝しげな顔つきのまま新見は言った。

( ^ν^)「知っているでしょう? ここまで辿り点いたんですから」

( ・∀・)「だよなあ」

新見の苛立ちを無視して、モララーは鷹揚に首を傾げ、顎を掻いた。

( ・∀・)「不思議だ」

( ^ν^)「なにがっすか」

( ・∀・)「どうして君、『ニュッ君』なんだ」

新見が一瞬、息を止めた。
瞳はにわかに広がった。

382名無しさん:2019/01/07(月) 22:37:45 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「ハインの話によれば、君は久城デレに連れられて猫の足音に行った。
      そのとき、君は最初『ニュッ君』と紹介されていた。
      そのあとで、ハインが尋ね、本名が新見だとわかった、と、まあこんな具合でな

でも、とモララーは続けた。

( ・∀・)「俺もちょっと抜けててな、今朝になって気づいたんだ。
      『にいみ ゆう』って、『に』と『ゆ』の音が離れているだろう?
      『に』と『ゆ』が近いなら、『ニュッ君』ってあだ名も無理はない、が」

( ・∀・)「『ゆ』の前には『み』がある。それを飛ばして、あだ名をつけるか?
      例えば、『ミュッ君』、あるいは『ミュウ君』なら、音が連続していて違和感がない」

( ・∀・)「久城デレはどうして、君を『ニュッ君』と呼んだんだ」

383名無しさん:2019/01/07(月) 22:38:17 ID:mPGIEqFg0
( ^ν^)「そんなの、人の好き好きでしょう」

新見は即座に言ってのけた。

( ^ν^)「俺だって、確かにデレと一緒にいたけれど
      彼女の考えを一から一まで全部わかっているわけじゃない。
      実際あだ名だって、彼女の方から突然つけてきたんですよ。
      由来なんて、そういえば聞いたことなかったな」

( ・∀・)「それはいつ?」

割って入る形で、モララーは尋ねた。

( ^ν^)「……あいつのことを助けて、学校で会うようになってから、です」

384名無しさん:2019/01/07(月) 22:38:48 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「なるほど」

( ^ν^)「……これ、重要ですか?」

( ・∀・)「重要じゃないかもしれません」

( ^ν^)「……馬鹿にしてます?」

モララーは返事をせず、もうひとつ、と指を上げた。

( ・∀・)「保護司さんにお世話になった、そうですよね」

むっとしつつ、新見は頷いた。

385名無しさん:2019/01/07(月) 22:39:37 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「……新見さんは中部地方の出身ですよね」

ハインのいる場所は中部地方だ。
その彼女と知り合いなのだから、それくらいは類推できた。

( ^ν^)「そうですが」

( ・∀・)「それなら、不思議だ」

( ^ν^)「なにが」

( ・∀・)「保護司には管轄があるはずです」

新見からの反応を待たず、モララーは続けた。

386名無しさん:2019/01/07(月) 22:40:20 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「関東地方なら東京を含めた首都圏一帯、中部地方ならN市を中心とした一帯。
      もとより、保護司なんて名前がついていますが、実体はボランティアですからね。
      退職した警察官や教師、聖職者なんかがやっていることもある。
      活動の幅は、物理的にも決して広いとは言えません」

( ・∀・)「で、君はどうしてここにいるんだい?
      保護司の紹介で仕事を授かったんだろう?
      それならば、君はどうして"東京"にいるのかな」

中部地方という他、ハインは自分の場所を言わなかった。
ドクオのために隠していたというのもあるが、新見について言えば、ヒントのひとつでもあったのだろう。
新見は今、過去にいた場所から離れている。どうしても、離れないといけない事情があった。

(;^ν^)「……仕事が、その、見つからなくて」

387名無しさん:2019/01/07(月) 22:42:17 ID:mPGIEqFg0
新見が歯切れ悪く答えたのを、モララーは見逃さなかった。

( ・∀・)「それで東京? それはおかしい。
      君が15歳で犯行をし、保護観察処分になったならば
      最低でも数ヶ月は、月に一度の面会を受けないといけない。
      卒業後も面倒を見てもらったんだろ?
      それなら、保護司が管轄外から出ろと勧めるのは変だ」

指の一本を、今一度モララーは眼前に突き立てた。

( ・∀・)「考えられることはただひとつだよ。
      君が面談を受けた保護司は、関東地方の担当だった。
      つまり君は、関東地方の家庭裁判所で審判を受けたんだ」

388名無しさん:2019/01/07(月) 22:43:00 ID:mPGIEqFg0
(;^ν^)「……」

( ・∀・)「俺以外誰も聞いていないんだ。
      嘘をついても、言いやしないさ」

柔らかいモララーの声に
新見は、窒息でもしかかっていたかのように、深く息を吸い込んだ。

( ^ν^)「そうです、俺は、東京にいました」

新見は目を閉じて、頭を下げた。
すいません、と小さな声が聞こえたが、モララーは首を横に振って続けた。

( ・∀・)「君のご両親は、離婚したんだね」

389名無しさん:2019/01/07(月) 22:44:00 ID:mPGIEqFg0
新見が息をのみ、顔を上げると、モララーは真剣な顔で待っていた。

( ・∀・)「さっきの名前の件も、俺の言ったとおりだとすれば、
      居住地域の変更と、君の改姓が、ほぼ同時に起こった可能性が高い。
      とすれば、離婚が妥当だろ。違うか?」

(;^ν^)「……いえ、あの、そうです」

新見は背筋を元のとおり延ばし、モララーと向き合った。

( ・∀・)「さて、だとすれば君の両親も随分思い切ったことをするね。
      事件を起こして、さあ審判だってときに、離婚をしたことになる。
      あるいはもっと前、事件が発覚する直前か?」

( ・∀・)「なんにせよ、君を支えていかなきゃならない大事なときに、
      突然両親が不仲になって離婚した」

390名無しさん:2019/01/07(月) 22:46:00 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「……あるいは、というか、普通に考えたら」

( ・∀・)「君が事件を起こしたから、両親は離婚することになった」

( ・∀・)「そうだろ?」

(;^ν^)「……」

( ・∀・)「沈黙は、肯定と受け止めるよ」

モララーは念を押したが、新見はそれでも黙っていた。
卓袱台の下に置かれた新見の拳が、
握りすぎて、小刻みに震えているのが見て取れた。

391名無しさん:2019/01/07(月) 22:46:52 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「親権のことを考えれば、君らを東京に追いやったのは父親だな。
      苗字も考えて、君は父親の姓から、母親の新見姓になったんだ。
      君がこのあたりの話を一切俺にしなかった理由は、今は訊かないでおこう」

( ・∀・)「それよりも、どうして君の父親は、君らを追い出したのか」

モララーの目の前で、新見はひたすら苦渋の顔をしていた。
目線だけはどうにかモララーに繋がっていても、
身体はこの場からの逃げ道を図っている。

モララーも、それがわかっているが、
視線を逸らさなかった。

392名無しさん:2019/01/07(月) 22:47:33 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「長谷(ながたに)優」

新見の肩が跳ねるように揺れた。
口が開いて、音にならない声をかたどる。

( ・∀・)「当たり?」

(;^ν^)「な、なんで」

( ・∀・)「勘」

(;^ν^)「……」

393名無しさん:2019/01/07(月) 22:48:08 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「なんてな」

モララーは自分の鞄の蓋を開き、腕を突っ込んだ。

( ・∀・)「君らという家族を切り捨ててまで、
      自分の名声に傷がつくことを恐れた男。
      それほどの野心家なら、自ずと仕事は限られてくる」

( ・∀・)「ただの仕事の都合だけじゃない。
      名前そのものへの信用度が大切な仕事。
      ならば、今も響き渡ってしかるべきだ」

394名無しさん:2019/01/07(月) 22:48:43 ID:mPGIEqFg0
高らかな音楽が、場違いなほどに鳴り響く。
昨日の夜のニュースを、モララーが撮影したものだった。



ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「さて、いよいよ明日に迫りました、N市のスカイブリッジ開通式典!
      地元の人々からも大いに熱望され、賑わいを見せておりますね!」

髪のあかるいキャスターの隣に、丸みを帯びた、柔和な顔つきの男が座っている。
撫でつけられた白髪交じりの髪の下で、柔和な微笑みを浮かべていた。

ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「いやあ、それにしても"長谷"市長!
      昨日はうっかり私の読み間違いで、"ハセガワ"なんてお読みしてすみませんでした。
      あのあとも苦情がお電話たくさん頂戴しまして、市長の人気の高さを思い知らされましたよ」

395名無しさん:2019/01/07(月) 22:49:20 ID:mPGIEqFg0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それで市長、明日の式典では――」

明るい声が、モララーの操作で途切れた。

( ・∀・)「デレの失踪は、どうしてこのタイミングだったのか」

モララーは低い声で言った。

( ・∀・)「確証はない。何より、動機が俺だけでは見つけられない。
      だが、君の話を聞いて推測を打ち立てることはできた。
      君の犯行を、否定する形ではあるが、ね」

396名無しさん:2019/01/07(月) 22:49:58 ID:mPGIEqFg0
( ・∀・)「完全犯罪、やり方は簡単だよ。
      絶対に信用できる第三者に、アリバイを作ってもらうんだ。
      その時間に犯行ができない理由、あるいはもっと直接に、
      その人が罪を被れば、真犯人に警察は手も足も出なくなるんだよ」

モララーは、新見に顔を寄せた。

( ・∀・)「お前の起こした事件は全て、お前の自白が鍵となった。
      被害者の遺族であるデレも、その犯行を認めていた。
      警察が詳しく調べるまでもなく、君は犯罪者として逮捕された」

( ・∀・)「つまり、証言によって確立された犯行は、
      その証言が嘘だと認められない限り、真実とみなされるんだ」

397名無しさん:2019/01/07(月) 22:50:36 ID:mPGIEqFg0
( ^ν^)「……」

( ・∀・)「想像しろ。このままデレが、長谷市長を狙う。
      成功するにしろ、失敗するにしろ、警察には捕まるだろう。
      そうなれば、デレは絶対にお前のことは話さない。
      つまり、動機は決してあかさないか、漠然とした殺意のみだと押し通す」

( ・∀・)「待っているのは殺人者の汚名だよ。
      情状酌量の余地の無い犯罪者に対して、民主主義社会はどこまでも冷たいぞ」

(  ν )「……やめろ」

( ・∀・)「やめねえよ。お前が本当に彼女のことを想っているなら、隠すな。
      嘘で塗り固めた真実は、貪欲に、お前らの嘘を欲し続けるぞ。
      まさしく真実への供物として、お前らは一生嘘を吐き続けることになるんだ」

398名無しさん:2019/01/07(月) 22:51:21 ID:mPGIEqFg0



(# ν )「やめろって言ってるんだ! いい加減にしろ!」



卓袱台の上に、新見は掌を打ち据えた。
部屋全体に音が響き渡る。

朝の鳥の声が、穏やかに鳴り響く中で、
新見は荒い呼吸を無理矢理押し込めようとしていた。

目に溜まっている涙が、こぼれ落ち、雫になる。
唾を飲み込んだのち、新見は言葉を吐いた。

399名無しさん:2019/01/07(月) 22:52:04 ID:mPGIEqFg0
(; ν )「……そうですよ」

震え混じりの独白だった。

(; ν )「俺は、あいつが自分の父親を殺すところに出くわしました。
      たまたまだったんです。あいつの母親が夜に街を歩いているのを見かけて、
      あいつが家の中に、父親と独りでいるのが心配で、見に行っただけだった」

(; ν )「守りたかった。
      パニックになって、泣き叫んでいるあいつが、
      壊れていく姿をそれ以上見ていたくは無かった」

(; ν )「でも、絶対に逮捕されるってことはわかってた。
      犯罪者に対して、この世界は地獄になることも、もちろん」

400名無しさん:2019/01/07(月) 22:52:34 ID:mPGIEqFg0
(; ν )「警察の捜査を逃れるためには、俺が犠牲になるしかなかった。
      全部、あなたの言ったとおりです。探偵さん」

言い終えると、新見は鼻を啜り、顔を手で覆った。
言葉にならない嗚咽のような叫びを響かせて、
卓袱台の上に頭を垂れた。

( ・∀・)「……そうか」

モララーは新見の肩を軽く叩き、
スマホを耳に押し当てた。

401名無しさん:2019/01/07(月) 22:53:02 ID:mPGIEqFg0


( ・∀・)「聞こたか、警部」



(´・ω・`)『ああ、ばっちりだ』



( ^ν^)




(;^ν^)「はああ――!?」



がばっと顔を上げた新見に、モララーは特大のしたり顔をしてみせた。

402名無しさん:2019/01/07(月) 22:53:41 ID:mPGIEqFg0
(;^ν^)「は、え、ちょっ、あんたしかいないんじゃ」

( ・∀・)「"ここ"には、いないだろ」

(#^ν^)「汚なっ、は!? やっていいことと悪いことあるだろ!?」

( ・∀・)「悪いな、これも仕事でね」

(´・ω・`)『容疑者は久城デレだ』

スマホからショボンが言った。
淡々とはしているが、普段の彼からすれば相当勢い込んでいる。

403名無しさん:2019/01/07(月) 22:54:50 ID:mPGIEqFg0
(´・ω・`)『折良く、今し方組織犯罪対策課からも連絡が入った。
       これで証拠が揃った。胸を張ってデレを追跡できる』

( ^ν^)「組織、対策……?」

( ・∀・)「デレの自宅のパソコンから、反社会組織との通信の記録を入手したんだ。
      今電話に出てる、ちょっとした変わり者がいろいろ手を回してくれてね。
      デレには昨夜の内に、銃刀法違反の疑いが掛けられているんだよ」

なおも質問を重ねようとした新見だったが、
折しもスマホから、ショボンの悲鳴と怒号が聞こえてきて、途切れた。

404名無しさん:2019/01/07(月) 22:55:50 ID:mPGIEqFg0
(゚、゚#トソン『おいこらクソ探偵! 早く私のスマホ返――』


( ・∀・)「もうちょっとね、待って」

と、言いながら通話を終了させた。

静寂が部屋に戻ってくる。
朝焼けの光が何時しか普通の青空となり、新見とモララーを等しく照らし出していた。

( ・∀・)「君の証言で、久城デレの失踪に事件性が付与された。
      ゆえに、警察は動くことが可能となった。そういうことだよ」

モララーが新見を見据える。
精悍な顔つきの青年は、開いた口をわずかに震わせた。

405名無しさん:2019/01/07(月) 22:57:12 ID:mPGIEqFg0
( ^ν^)「……止められるんですか、デレを」

( ・∀・)「止めるんだよ」

そう言って、モララーは立ち上がった。

( ・∀・)「工場長に連絡しろ。今日は一日休むって」

( ^ν^)「えっ」

( ・∀・)「おいおい、ここで躊躇ってどうするんだよ」

( ・∀・)「久城デレを、助けるんだろ?」

406名無しさん:2019/01/07(月) 22:57:50 ID:mPGIEqFg0
( ^ν^)「……」

焦りや戸惑いの色が、一転して消えていく。

( ^ν^)「工場長を説得するには時間が掛かるかもしれませんが」

( ・∀・)「安心しろ、舌先三寸は得意だ」

モララーがドンと胸を叩くと、新見は初めて、顔を綻ばせた。


     +++

407名無しさん:2019/01/07(月) 22:58:22 ID:mPGIEqFg0
閉まる扉。

暗闇になって、何も見えなくなる。

手を伸ばした。
相手がそこにいないことが、
わかっていても、叫ばずにいられなかった。


(;'A`)「ジョルジュ!」


ばさり、と音が聞こえてくる。

薄闇の中、ベッドの上にドクオは座っていた。
シーツの先が、腕から落ちて、音を立てた。

夢だ。
気づいても、ドクオの呼吸は落ち着かなかった。

408名無しさん:2019/01/07(月) 22:59:10 ID:mPGIEqFg0
(;'A`)「……病院」

カーテンで仕切られたその場所に外からは淡い光が差し込んでいる。
柔らかな寝息の音が絶えず聞こえていた。


ξ-⊿-)ξ


('A`)「母さん」

穏やかな顔つきのまま、腕を枕にしている。

なんだかとても、懐かしいような気がした。

409名無しさん:2019/01/07(月) 22:59:46 ID:mPGIEqFg0
lw´‐ _‐ノv「惜しいな」

(;'A`)「うおう!}

ツンと向かいあう形で、シュールはベッド脇に座っていた。
本を読んでいたらしく、ドクオが叫んでから、文庫本に悠長にしおりを挿した。

lw´‐ _‐ノv「おはよう、変態」

('A`)「……おはようシュール」

('A`)「惜しいって?」

lw´‐ _‐ノv「ほんの五分ぐらい前までかな、ツンさんも起きていたんだ。
       昨日の夜中に高速をかっ飛ばして、N市まで来たんだよ」

410名無しさん:2019/01/07(月) 23:00:23 ID:mPGIEqFg0
('A`)「N市……」

記憶が朧気に蘇ってくる。

昨夜、ドクオはN市に来た。
デレという歌手の車を借りて、移動した。
彼女と別れた先で、ハインという女性と出会い、それから。

('A`)「つっ」

腕を押さえる。そこだけ包帯が巻かれていた」

lw´‐ _‐ノv「痛む?」

('A`)「いや、ちょっとちくっと来ただけ」

411名無しさん:2019/01/07(月) 23:01:19 ID:mPGIEqFg0
lw´‐ _‐ノv「痛いんじゃん。まあ、擦り傷とは言ってたけどね」

シュールは文庫本を自分の鞄にしまいこんだ。

lw´‐ _‐ノv「昨日の夜に、君がこの病院に搬送されたと連絡が来たんだ。
       ツンさんはモララーをとっちめるとかいって、私をさそって来たんだよ」

('A`)「……モララーさんは関係ない。全部、俺の独断だよ」

言いながら、ドクオは頭を抱えた。

自分ならデレを止められると思った。
だが、結果は見てのとおりだ。

銃で狙われ、腕を怪我して、気を失った末に、病院に運ばれた。

412名無しさん:2019/01/07(月) 23:01:51 ID:mPGIEqFg0
よくよく考えれば、一日そこら一緒にいただけで、人と人とが理解しあえるはずもない。

妙な自信を持っていた自分が、急に恥ずかしく思えてきた。

lw´‐ _‐ノv「久城さんを追っていたんでしょ」

と、シュールの方から尋ねてきた。

('A`)「知っていたのか」

lw´‐ _‐ノv「モララーさんが私のところに来て、いろいろ聞いてきたから。
       あのあと自分でもニュースを調べて、久城さんがいなくなっていることを知った」

('A`)「……」

一瞬迷ってから、ドクオは、自分がデレの逃亡を手助けしたことを話した。
シュールもさすがに驚いたのか、仰け反るような仕草をしたけれど、
すぐに話を聞く姿勢になって、ドクオを真剣な顔で見つめた。

413名無しさん:2019/01/07(月) 23:02:56 ID:mPGIEqFg0
lw´‐ _‐ノv「久城さんは何から逃げていたの?」

('A`)「それは」

記憶はまだあやふやだ。
デレはどうして、銃を構えていたのだろう。

友達に会うと言っていた。
確かそのために、N市に着いた。

友達とは、銃をくれる人だったのか。
あの銃を貰う為に。

(;'A`)「あれ?」

414名無しさん:2019/01/07(月) 23:03:35 ID:mPGIEqFg0
違和感があった。

記憶が混濁している。

lw´‐ _‐ノv「どした?」

(;'A`)「いや、確か、あのとき……」




昨日の夜、ドクオはデレと向かいあった。
大きな公園の脇にある道で、彼女を止めようとして、
銃を突きつけられた。

415名無しさん:2019/01/07(月) 23:04:02 ID:mPGIEqFg0
光を見た。彼女が発砲したものだ。
肩じゃない、それは、ドクオの足下で爆ぜた。

ζ(゚ー゚*ζ「逃げなさい!」

ドクオは彼女に叫ばれた。

('A`)「でも」

ζ(゚ー゚*ζ「いいから早く! 無駄にしないでよ!」

それは救いの手、つまるところ囮だった。

(;'A`)「くそぉ!」

416名無しさん:2019/01/07(月) 23:04:43 ID:mPGIEqFg0
選ぶ余地はなかった。

たとえそれが、どれほど選びたくないものであったとしても、
ドクオは翻って、道を引き返した。

物音が聞こえた。

誰かがあのとき、そばにいた。

銃声が、もうひとつ聞こえてきた。

( A )「ぐああ!」

肩に走る痛みに、ドクオは悶えた。
倒れ伏す直前、視線を後ろに飛ばす。

愕然とするデレ、その横に、誰かがいた。
ドクオの知らない、誰か。

417名無しさん:2019/01/07(月) 23:05:58 ID:mPGIEqFg0
('A`)「――友達」

回想をやめて、ドクオはぽつりと呟いた。

lw´‐ _‐ノv「ドクオ、聞こえているか」

('A`)「え、あ、ごめん」

lw´‐ _‐ノv「いや、大丈夫」

ホッと口で言ってから、シュールの口元が弧を描く。

lw´‐ _‐ノv「なあ、まだ満足していないんだろ」

シュールが声を低くする。

418名無しさん:2019/01/07(月) 23:07:06 ID:mPGIEqFg0
lw´‐ _‐ノv「例えばさ、あの窓、普通破らないだろ」

言われて、ドクオも振り向いた。
窓の外に、枯れ木が枝を伸ばしている。
ちょうど窓枠に差し掛かる形であった。

lw´‐ _‐ノv「あんたがむかし、私の部屋のドアをぶち抜いたとき
       あたしは思ったんだ。こいつ、どれだけ諦めが悪いんだろうって」

ふと、シュールが笑みを浮かべた。
かつて、彼女を助けたドクオの姿を、思い出しているらしかった。

419名無しさん:2019/01/07(月) 23:07:40 ID:mPGIEqFg0
lw´‐ _‐ノv「あのときの、あんたはかっこよかった」

('A`)「それは、まあ必死だったし、若気の至りっていうか」

lw´‐ _‐ノv「それでも、誰でもできることじゃないよ」

シュールはドクオに視線を合わせた。

lw´‐ _‐ノv「久城さんの事件については、よく知らない。
       でも、あんたが生きているってことは、銃が狙っている本命は別の人なんだろ?
       ってことは、犠牲者が現れるはずだ」

lw´‐ _‐ノv「そういうの、変態は見捨てられないだろ」

シュールの言葉はドクオの中に迫ってきた。

420名無しさん:2019/01/07(月) 23:08:26 ID:mPGIEqFg0
ドクオの胸の内には、まだデレの姿が思い浮かんでいる。

デレはあのとき、確かに自分を助けようとした。
自分からドクオを切り離して、ひとりで、修羅の道を行こうとしていた。

どこかで見たことがある。

自分と近くにいながら、自分より遥かに徹底していて、
だから道を踏み外してしまった姿を。

('A`)「できない」

自分とは違うと、見限ってしまった友の視線。
あの冷たい視線を思うと、どうしようもなく胸が痛んだ。

421名無しさん:2019/01/07(月) 23:09:10 ID:mPGIEqFg0
もう二度と、あの痛みは味わいたくなかった。
たとえほとんど部外者でも、接点はあるのだから、止められない道理はない。

lw´‐ _‐ノv「じゃあ、やれよ変態」

シュールは思いのほか強く、ドクオの背を押した。
ほとんど押し上げるような形で、ドクオの身体が起き上がる。

('A`)「お、おお!?」

lw´‐ _‐ノv「あんたはやればできる男だ」

ドクオは慌ててベッドから降りた。
なぜかそこには、すでにスニーカーがセットされていた。

422名無しさん:2019/01/07(月) 23:11:21 ID:mPGIEqFg0
('A`)「シュール、これ」

lw´‐ _‐ノv「勘が当たってよかったよ。
       あんたはインドア派だけど、じっとはしていられない奴だ。
       そのことは、私が一番わかってるよ」

シュールは親指を上げた。

lw´‐ _‐ノv「いけよ、変態」

w´‐ _‐ノv「そして絶対、戻ってこい」

数分後、蛻の殻になったベッドを前にして看護師は叫んだが、
シュールは、本を読んでいて気づかなかったと、頑なに言い張るのだった。


     +++

423名無しさん:2019/01/07(月) 23:14:49 ID:mPGIEqFg0



   Next>第八話 さながら刻印のように


.

424名無しさん:2019/01/08(火) 00:11:37 ID:k.tao71Y0
乙!

425名無しさん:2019/01/08(火) 05:31:43 ID:uR0t3HZ60
乙乙

426名無しさん:2019/01/24(木) 11:19:46 ID:cMUh54CM0
シュールいいぞ

427名無しさん:2019/02/24(日) 08:10:08 ID:G6JQm9z.0
楽しみに待ってます!


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