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( ^ν^)自殺日和のようですζ(゚ー゚*ζ
-
朝食を作っているとき、ふと死にたくなった。だから自殺を決めた。
フライパンに乗せたバターがぐじゅぐじゅに溶けていくのを見ながら、どこで死のうか考えた。
そうだ。食べ終わったら樹海に行こう。
今日はきっと、死ぬのにもってこいの日。
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( ^ν^)自殺日和のようですζ(゚ー゚*ζ
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いじめられてるってわけじゃない。職場の人間関係は悪くない。
借金で首が回らないってわけでもない。貯金が趣味みたいなものだから、通帳の残高は増える一方だ。
変わらない日常に飽きたってわけでもない。わたしは今の穏やかな生活がわりと気に入ってる。
ただ、なんとなく。
甘い物が食べたくなるように。
好きな歌手の曲を聴きたくなるように。
駅前に新しくできたカフェに行きたくなるように。
なんとなく死にたくなった。
それだけのこと。
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ζ(゚ー゚*ζ
がたんごとんと電車が揺れる。
わたしの目の前には、親子がいた。子供が大きいリュックを背負って、楽しそうにはしゃいでる。
どうやらこれから遊園地に行くらしい。
ζ(^ー^*ζ
目が合ったから微笑んでみたら、恥ずかしそうに逸らされた。
子供は、割と好き。恋人のいないわたしに、持つ機会は訪れなかったけど。
ζ(゚ー゚*ζ
これから全部捨てるからだろうか。
幸せそうな家族連れも、陽に照らされる座席も、揺れる電車も、全部愛おしい。
ζ(゚ー゚*ζ (人生って、うつくしいんだなぁ)
ライフ・イズ・ビューティフル。
今更そんなこと思ったって、もう遅いけど。
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ζ(゚、゚*ζ「……」
ζ(゚、゚*ζ「ここが、樹海?」
思っていたよりも、普通。
想像していたよりおどろおどろしいわけでもなくて、どこにでもあるような森に見えた。
都会の人だったら森自体が珍しく思えて、また違う感想なのかな。
ド田舎出身のわたしにとっては、森は見慣れたものに過ぎないけど。
ζ(゚ー゚*ζ「うっし、行っちゃおう」
とはいえ、樹海は樹海。
トートバックを握り締めて「いのちは大切に」という看板を乗り越える。
そうしてわたしは、非日常へ足を踏み入れていった。
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樹海では磁石が利かなくなるんだとか、どこかで見たことがある。
コンパスでも持ってきて、真偽を確かめてみればよかった。
ζ(゚ー゚*ζ「ここ、どの辺りなのかな」
数分ほど歩いてみたけど、似たような景色ばかり続いて、方角なんて全くわからなくなった。
けど、このまま歩き続けて反対側の出口に着くとかはない……はずだ。多分。
ζ(゚ー゚*ζ「どこに行こっかな」
がさり。
ζ(゚ー゚*ζ「……ん?」
ζ(゚、゚*ζ「……たぬき、とか?」
いや、樹海にたぬきがいるかどうかは知らないけど。
それとなく辺りを見渡してみても、動物らしき影はない。
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がさ、がさ。
ζ(゚、゚;*ζ「!」
今度ははっきり見えた。
あれは、人だ。
そういえば、と思い出した。
自殺スポットには金品や女を目当てにやってくる強盗がいる、ということ。
冗談じゃない。わたしは痛いのとか苦しいのが大っ嫌いだ。
ζ(゚、゚;*ζ「……っ」
衝動的に駆け出していた。
同時に影も動く。同じ方向に向かってる。
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ζ(゚、゚;*ζ「勘弁してよね!」
わたしと影は、連なっている木を壁にして並走している状態。
走る方向を変えようにも、他の道は石だの枝だのが散乱していて、うまく走れそうにない。
そうこうしている内に道が開けて、そして、
ζ(゚、゚;*ζ「ひぎゃっ!」
(;^ν^)「うおっ!」
ついにご対面してしまった。
ζ(゚、゚;*ζ「レイプならせめて死んだあとにして!」
(;^ν^)「金目の物なら持ってねえぞ!」
ζ(゚、゚;*ζ「は!? いりませんよそんなの!」
(;^ν^)「俺だってそんな趣味ねえよ!」
(;^ν^)「……え?」ζ(゚、゚;*ζ
.
-
ζ(゚ー゚*ζ「つまりあなたは、わたしを強盗だと思っていたと」
( ^ν^)「お前は俺をレイプ魔と勘違いしてたわけか」
ζ(゚ー゚*ζ「強盗するほどお金に困ってないんで」
( ^ν^)「成金女」
ζ(゚ー゚;*ζ「成金ってほどは持ってないけど!」
ニュッと名乗ったその男は、わたしと同い歳くらいに見えた。
鬱屈しきった目つきにへの字に曲げられた口は、世界中を呪っているみたいで。
ザ・自殺志願者って感じ。
( ^ν^)「さすが女は自意識過剰だな。どうせ夜歩いてるとき後ろに男がいたら、不審者だって決めつけて走るんだろ」
ζ(゚、゚#ζ「なっ……そんなの当たり前でしょ!? 油断して襲われたらどうするんですか!」
( ^ν^)「誰がお前みたいなブス襲うかよ」
ζ(゚、゚#ζ「ブス!?」
.
-
ζ(゚、゚#ζ「さいってい。私もう行きますから、さよなら!」
( ^ν^)「おう」
ニュッさんとかいう、礼儀知らずでコミュ障のクソ野郎に背中を向けて歩き出す。
さくさく、地面を踏む音が、二人分。
ζ(゚、゚*ζ「ちょっと」
( ^ν^)「んだよ」
ζ(゚、゚*ζ「なんでついてきてるんですか?」
( ^ν^)「どこに行こうが俺の勝手だろうが」
ζ(゚、゚#ζ「ついてこないで!」
( ^ν^)「お前の言うこと聞く義理ないし」
.
-
ついてくるなんて、やっぱりそういう目的なのかもって思ったけど。
それならさっき話してる途中にでも襲えばいい話で。
つまり、ただの嫌がらせ? 性格悪すぎじゃない?
ζ(゚、゚#ζ「わたし、よさそうな場所見つけたらさっさと死にますから」
( ^ν^)「よさそうな場所ってどこ」
ζ(゚、゚*ζ「どこ……って、その、景色のいい場所とか」
( ^ν^)「景色のいい場所? 樹海で?」
ζ(゚、゚;*ζ「……」
( ^ν^)「ばーか」
ζ(゚、゚;*ζ「うっ」
.
-
確かに、ニュッさんの言う通りだ。
鬱蒼としてるこの森に絶景も何もない。
( ^ν^)「第一、お前どうやって死ぬか決めてんの」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふん、もちろんですよ。ホームセンターに寄って道具も買いましたからね」
ζ(゚ー゚*ζ「まずこれ! 包丁です」
( ^ν^)「腹でも刺すのか」
ζ(゚ー゚*ζ「手首切ってブシャーですよ。そのまま意識を失って……」
( ^ν^)「手首なら切り落とす勢いでいかなきゃ死なない」
ζ(゚ー゚;*ζ「えっ」
( ^ν^)「リストカットで死ぬ確率は5%未満って言われてる」
ζ(゚ー゚;*ζ
( ^ν^)「別の方法がいいんじゃねーの」
-
ζ(゚ー゚;*ζ「ならこれ!」
( ^ν^)「紐……首吊りか」
ζ(゚ー゚*ζ「自殺といえば首吊りでしょう。シンプルイズベストです」
( ^ν^)「包丁よりかは確実だろうな、その紐じゃなきゃだが」
ζ(゚ー゚;*ζ「え、これだめなんですか!?」
( ^ν^)「お前アホだろ。なんでビニール紐チョイスした」
ζ(゚、゚*ζ「だってピンクがこれしかなくて……他に可愛い色なかったし」
( ^ν^)「クソほどどうでもいいだろ、色なんて」
ζ(゚、゚*ζ「死ぬ間際まで可愛くいたいって乙女心、わかりません?」
( ^ν^)「クソほどどうでもいい」
-
ζ(゚、゚*ζ「ビニール紐じゃだめなんですね……」
( ^ν^)「一概に駄目とも言えねーけど」
ζ(゚ー゚*ζ「お!」
( ^ν^)「まず、お前の重みでちぎれる可能性がある。お前の重みで」
ζ(゚ー゚*ζ(なんか二重に言われた)
( ^ν^)「死ぬまで紐が持てばいいが、まだ息がある内に紐が切れたら……」
( ^ν^)「首の神経だのが傷付いて後遺症が残るかもな」
ζ(゚ー゚;*ζ
( ^ν^)「下手したら全身麻痺」
ζ(゚ー゚;*ζ
-
なにはともあれ、困った。
あと持っているものといったら。
ζ(゚ー゚*ζ「お薬!」
( ^ν^)「バファリンでどうするってんだよ。しかも一回分」
ζ(゚ー゚;*ζ「と、飛び降り……?」
( ^ν^)「木から?」
ζ(゚ー゚;*ζ「んんんん」
突発的な思いつきだったから、方法なんて深く考えなかった。
なんとなく自殺に使えそうなものを揃えたつもりだったけど。
……そういえばこの人も自殺しに来たんだよね?
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんはどうやって死ぬつもりなんですか?」
( ^ν^)「……俺のことはいいだろ」
ζ(゚、゚*ζ「秘密ってやつですか」
別に、どうでもいいけど。
-
( ^ν^)「最近よく見るのは、練炭だな」
ζ(゚ー゚*ζ「あー、二酸化炭素の」
( ^ν^)「一酸化炭素だバカ」
イメージ的には、車に乗り込んで七輪で、みたいなやつ。
あれって苦しいのかな。眠るように死ねるのかな。
ζ(゚ー゚*ζ「あ! あの車ってそうじゃないですか!?」
( ^ν^)「そうかもな」
ちょうどよく、少し離れた場所に車が停まっているのが見えた。
どうやってここまで車で来たんだろう。どうでもいいけど。
ζ(゚ー゚*ζ「練炭まだ余ってませんかね? 使えないかな」
( ^ν^)「再利用する気かお前」
わたし、エコロジストですから。前の持ち主も喜んでくれるって。
-
車のフロントガラスには、木の葉や小石がちょこちょこと積もっていた。
「比較的新しいな」とはニュッさん談。
ζ(゚ー゚*ζ「どれどれ、どんな――」
ζ( 、 ;*ζ「っ」
そういえば、死体を見るなんて初めてだった。
興味本位で覗き込めたのは、知らなかったゆえの好奇心。
きっと安らかな死に顔なんだろうと思っていた。さっきまでは。
ζ(-、-;*ζ「……練炭自殺も色々大変みたいですね」
( ^ν^)「やめるか」
ζ(-、-;*ζ「別の方法にします」
( ^ν^)「そうか」
どうせ死ぬにしたって、あんな苦しそうな顔で死にたくない。
-
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさん、知ってました?」
( ^ν^)「なんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「トーストって、トースターよりもフライパンで焼いたほうがおいしいんですよ」
( ^ν^)「へぇ」
ζ(゚ー゚*ζ「帰ったら試してください」
( ^ν^)「帰れたらな」
そういえばニュッさんはいつ死ぬつもりなんだろう。ずっとついてきてるけど。
ひょっとしたらわたしが死ぬのを待ってる? 死姦が趣味とか?
ζ(゚ー゚*ζ「……ニュッさんって死体に興奮する人?」
( ^ν^)「お前が何を想像したのか大体理解した」
-
ζ(゚、゚*ζ「じゃあどうしてついてくるんですか」
( ^ν^)「俺の勝手だろ」
ζ(゚、゚*ζ「またそうやって誤魔化す。死ぬ気あるんですか?」
さくり。足音が止まる。
振り返ると、ニュッさんがわたしを睨んでいた。
( ^ν^)「それはてめえのほうだろ」
ζ(゚、゚;*ζ「ニ、ニュッさん?」
( ^ν^)「知識もねえ、準備も不十分、なんのかんの理由つけて生きるつもりなんだろ」
ζ(゚、゚*ζ「な、」
(#^ν^)「どうせ死ぬ気なんかねえんだろ? 死に軽く触れてみたいだとか、そんな気持ちで――」
ζ(゚、゚#ζ「っ!」
-
わたしにビンタされたニュッさんは、さっきまでの赤い顔が嘘みたいに青ざめていた。
殴られた痛みよりも、殴られたことに怯えているような。
それについて詳しく考えるほど、今のわたしは冷静じゃない。
ζ(゚、゚#ζ「あなたに何がわかるの! 勝手なこと言わないで!」
( ^ν^)「……都合が悪くなったら暴力かよ。やっぱり女はクソだな」
ζ(゚、゚#ζ「うるさい! もう、大っ嫌い! ついてこないで!」
ありったけの罵声を浴びせて走った。
あの空間に一秒でも長くいたくなかった。
あんな人と、これ以上話したくなかった。
-
ζ(゚、゚#ζ
あんな、男女論板でくだをまいているような男。
その男に心の奥底を見透かされたような気がして、不愉快だった。
ζ(゚、゚#ζ「なんなの」
わたしはどこかで甘えてたのかもしれない。
同じ自殺志願者だから、わかりあえると思ったのかもしれない。
今となってはそんな自分に腹が立つけど。
がさり。
ζ(゚、゚*ζ「! ニュッさ……」
ζ(゚、゚;*ζ「っえ、」
(*・∀ ・)「ひひっ、ひひひ」
-
物陰から飛び出してきたのは、全く知らない男だった。
(*・∀ ・)「あんた、割と可愛いね。いいじゃん、いいじゃん」
ζ(゚、゚;*ζ
(・∀ ・)「自殺するのって大体ブスだからさ、萎えるんだよねー」
ζ(゚、゚;*ζ「あなたは」
(・∀ ・)「強盗犯ってやつ。樹海には俺みたいな奴が結構いるんだけど、知らなかった?」
まさか、こんなところで。
(・∀ ・)「自殺する奴ってさー、財布に金たんまり入れてくんだよね」
(・∀ ・)「これから死ぬってのになんでまだ金持ってんのかなwwwバッカじゃねーのwww」
(*・∀ ・)「ま、俺にとっては万々歳だけど。女だったら金もらえた上にヤれるし」
ζ( 、 ;*ζ
-
(・∀ ・)「てかお前、早く死ねよ。魂なんかいらねえんだよ。その肉体置いて失せろ」
ζ( 、 ;*ζ「っ」
(・∀ ・)「は? おい、待てや」
ζ(゚、゚;*ζ「はあっ、はあっ、はあっ!」
(#・∀ ・)「待てやクソアマァッ! 犯す前に殺すぞオラァ!」
ζ(゚、゚;*ζ「ひっ……」
ζ(゚、゚;*ζ「! あ……!」
走って走って、辿り着いた場所は行き止まり。
すぐ後ろから足音と怒声が聞こえて、わたしはその場にへたり込んだ。
-
(#・∀ ・)「手間かけさせやがって、クソが」
ζ( 、 ;*ζ「やめ……やめて、ください……」
(・∀ ・)「は? お前何言ってんの。どうせ死ぬからいいだろ」
ζ(;、;*ζ「い、いや、いやです」
(・∀ ・)「はー? 土壇場になって怖気づいたってやつ? ダッサ」
(*・∀ ・)「でもま、マグロよりはいっか。反応あるほうが新鮮だし」
ζ(;、;*ζ「いやぁ! 誰か、誰かぁ!」
男がゆっくり近付いてくる。にやにや笑ってる。
その手がわたしの髪を掴もうとしたとき、体の力が抜けた。
それは真夜中に自分の未来を考えたときと同じ感情。
多分、絶望って名前の。
-
ζ( 、 ;*ζ
きっと罰が当たったんだろう。
流れるままに生きて、軽い気持ちで死を選ぼうとして。
それでも、軽い気持ちだったとしても、死にたいって願うくらいには絶望していたんだよ。
ああ、次はもっと素敵な人生を送りたいなぁ。
「――――あ」
(#^ν^)「あああああああ!!!!」
( ∀ ;)「あがっ!」
ζ(゚、゚;*ζ「――――え?」
-
男が吹っ飛んだ。というか吹っ飛ばされた。
不格好な体当たりをかましたニュッさんが、転がるようにわたしに近付いてきた。
(#^ν^)「立て! 逃げるぞ!」
ζ(゚、゚;*ζ「ひぁ、はい!」
無理矢理起こされて、そのまま走る。
引っ張られるままに右や左へ。何度も転びかけながら。
(; ν )「はーっ……はーっ……」
ζ(゚、゚;*ζ「はあっ、はあっ」
(; ν )「ここまでくれば……いいだろ……」
するりと手が解けて、ニュッさんがそのまま倒れた。
服や靴がどろどろになってることとか、持ってたバッグをどこかに落としたとか。
気付いてはいたけどそれどころじゃなくて、わたしも力が抜けるままに座り込んだ。
-
ζ(゚、゚;*ζ「ニュッさん……なんで……」
(; ν )「なんか、男の怒鳴り声が聞こえて……行ってみたら、お前がいた」
ζ(゚、゚;*ζ「そうじゃなくて! なんで助けたんですか……私のこと……」
(; ν )「うるせえな」
ζ(゚、゚;*ζ「……ねえ、ニュッさん」
(; ν )「……なんだよ」
ζ(゚、゚;*ζ「ニュッさんは本当に、自殺するつもりだったんですか?」
(; ν )
-
( ^ν^)「朝飯作ってるとき、ふと死にたくなって、じゃあ死のうって思った」
( ^ν^)「その日天気よかったし、自殺と言えば樹海かなって」
( ^ν^)「初めて行ったときは、入り口でビビってそのまま帰った」
ζ(゚ー゚*ζ「自殺未遂ってやつですか」
( ^ν^)「俺、道具なんか用意してこなかったし」
ζ(゚ー゚*ζ「その点についてはわたしのほうが賢かったですね」
( ^ν^)「お前は役に立たない物しか持ってこなかっただろ」
-
( ^ν^)「二回目は、樹海の中で人と会った。見届けてほしいって言われたから、見届けた」
( ^ν^)「首吊りだった。何回か痙攣してそのまま終わり」
( ^ν^)「俺もこんな風になるのかって考えたらなんか萎えて、その日も帰った」
( ^ν^)「それからは、来る度に人を探すようになった」
ζ(゚、゚*ζ「死ぬ瞬間を見るために?」
( ^ν^)「死ぬ瞬間を見るために」
( ^ν^)「俺はもう自殺する気がなくなってた。というか最初に来たときから、そんな勇気ねえってことに気付いてた」
( ^ν^)「それでもここに来ていたのは、あいつらの死に様に自分を重ねて楽しむためだ」
( ^ν^)「死にたいって気持ちは確かにあるんだ。ただ、自殺したくないだけで」
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死を間近に感じてわかったことがある。
ひとは、死ぬことに対する恐怖を刻みつけられているということ。
本能とかいうどうしようもない場所に、インプットされてしまっているということ。
あの男に襲われたとき、わたしは怖かった。「生きたい」と思った。
けど一難去ってみれば、心の中にはまだぽっかりと穴が開いている。
理性が終わらせたいと叫んで、本能が生きたいと叫んでる。
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんはどうして、死のうと思ったんですか?」
( ^ν^)「は? そんなの……」
ニュッさんは一度口を閉じて、首を傾げた。
「そういえばなんだっけ」と表情が物語ってる。
少し間が開いて「ああ」と続いた。つまらなさそうな顔で。
( ^ν^)「なんとなく甘い物食いたくなるときってあるだろ。それと同じだ。なんとなく」
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わたしたちは、そのまま森の外に出た。
あんなに青かった空は色を変えて、オレンジ色に染まっている。
ζ(゚ー゚*ζ「人生で一番濃い一日でした」
( ^ν^)「そりゃ何より」
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんはこのまま帰ります?」
( ^ν^)「それ以外選択肢ないだろ。別に帰りたくねえけど」
ζ(゚、゚*ζ「その言い方、もしかしておうちに居場所がなかったり?」
( ^ν^)「ハッキリ言うなお前。お察しの通りだよ」
家族と仲良しこよしの自殺志願者のほうが珍しいんじゃないだろうか。
わたしも、仲悪いってわけじゃないけど、疎遠だし。
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ζ(゚ー゚*ζ「だったら、わたしとルームシェアしません?」
( ^ν^)「……は? 何?」
ζ(゚ー゚*ζ「ルームシェア。すまいの居住形態の一つ。
ひとつの住居を親族関係や恋愛関係にない他人同士が、シェアして居住することを指す。
by wikipedia」
( ^ν^)「意味くらいわかるわ死ね。ていうかそういう意味じゃねーよ」
ζ(゚、゚*ζ「だってニュッさん、おうちに居場所ないんでしょ?」
(;^ν^)「そういう意味でもねえ! お前、今日会ったばっかりの奴とルームシェア!? 馬鹿じゃねぇの!?」
ζ(゚ー゚*ζ「賢い人が自殺なんて目論むと思います?」
(;^ν^)「……」
-
ζ(゚ー゚*ζ「わたしの家いくつか部屋あるし、一人暮らしだから遠慮なく転がり込んでください。
あ、でも家賃とか生活費は折半してもらいますよ。ニュッさん働いてますよね?」
( ^ν^)「……バイトだけど、一応」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、わたしも非正規です、派遣。わたしたち意外に似てますね。うまくやっていけそう」
( ^ν^)「お前、頭おかしい」
ζ(^ー^*ζ「知ってます」
( ^ν^)「馬鹿女」
不機嫌というよりも、戸惑っているようだった。
そりゃそうだ。会ったばかりの女に「ルームシェアしましょう」なんて言われて戸惑わないほうがどうかしてる。
わたしもわたしのこと、おかしいと思う。
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ちょっと樹海行ってくる
-
( ^ν^)「もっと考えろよ。同性ならまだしも、俺男だぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「あら。ニュッさん、わたしに恋する予定がおありで?」
( ^ν^)「おありなわけあるかボケ」
ζ(゚ー゚*ζ「なら大丈夫です。わたしもそんな予定ないですから」
( ^ν^)「予定、予定って、恋愛ってそういうもんじゃねえだろ」
ζ(゚ー゚*ζ「今まで一度も人を好きになれなかった女が、自殺志願者の毒舌男を好きになる理由があります?」
( ^ν^)「……お前」
それこそがわたしの希死念慮の理由。
自分以外誰も愛せない人生に、価値なんてないでしょ?
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ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、強制する気はないですけど」
( ^ν^)「……」
決定権はニュッさんにある。
こんなイカれた女に付き合ってられないと思えばそれまで。
それまで、なんだけど。
( ^ν^)「俺も、人を好きになったことなんかない」
( ^ν^)「きっとこれからもそうだと思う」
ζ(゚ー゚*ζ「自分が一番好きだから?」
( ^ν^)「自分が一番好きだから」
わたしたちはどこまでも似ている。
自分が一番可愛くて、でも死にたくて、なのに踏み出しきれない、中途半端なポンコツ人間。
-
ζ(^ー^*ζ「なら、帰りましょ」
手を差し出す。
ニュッさんの視線が、わたしの目とわたしの手の間で揺れる。
ややあって、握手の形で手が繋がった。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたんですか?」
( ^ν^)「……いや」
( ^ν^)「人の手って、あったかいんだな」
ζ(゚ー゚*ζ「ブフッwwwwww」
( ^ν^)「なに笑ってんだブス」
ζ(゚ー゚*ζ「だって、わたしも同じこと考えてたんですもん」
-
非日常はたぶん、麻薬なんだと思う。
わたしは今日初めて自殺しようと思った。
死を身近に感じて、恐怖を感じて、命を救われて、それでもまだ少し死にたくて。
背筋がぞくぞくするような、そんな非日常。
幸せの最後に小さな花が咲いていたとして、それを持ち帰りたくなるのは当たり前のことだ、きっと。
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさん」
( ^ν^)「ん」
ζ(゚ー゚*ζ「これから、よろしくお願いします」
( ^ν^)「……おう」
-
こうして、私の平凡な日々は幕を閉じた。
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-
投下は以上になります。ありがとうございました。
書いてる内に浮かんだので、IFルートみたいな話をその内投下するかもしれないです。
そのときは新しくスレ立てるのもあれなんでここに投下します。たぶん。
-
よかった
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乙 続きが楽しみ!
-
乙
めっちゃ好きだ
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また素晴らしいニュッデレかよ
乙
-
IFも短編だろうか…乙
-
ニュッデレの親和性はなんなの…
-
乙
最近多いな
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>>40で浮かんだものが形になったので投下します
-
孤独死はいまや老人のみに適用される問題ではない。
それは突然死する壮年のものでもあるし、自分の未来を儚む青年のものでもある。
結婚しているならいい。配偶者や子供がその日帰ってくれば、浴室の中でシチューにならずに済む。
けれど昨今叫ばれている少子高齢化、増大する未婚率、ひいて増える孤独死。
苦肉の策として政府が推奨したのはシェアハウス。
ひとを愛せず、家族を作れないポンコツに対する温情。
-
職業安定所のように、結婚相談所のように、各地にはそのための施設が建てられた。
ある一定の年齢以上で結婚や交際が見られない人間に対しては、ここに通う指示が出される。
すべては孤独死を防ぐため。
悲惨な事故物件を救い、やれ地域の繋がりがどうだとかいう国民を黙らせるため。
( ^ν^)
ζ(゚ー゚*ζ
わたしとニュッさんはそこで出会った。
何人もの同居希望者に断りを出され、ようやく見つけた「自分の条件に合う」相手。
「いっそ付き合っちゃいますか」と係員がはしゃいでいたのは、お荷物案件がようやく片付いたからだろう。
わたしたちはただ、お互いを冷めた目で見ていた。
わたしたちがお互いに提示した条件はただひとつ。「明日お互いが死んでも恨まないひと」。
-
ζ(゚ー゚*ζ「あ、この歌手、流行ってるよね」
( ^ν^)「知らねえ」
ζ(゚ー゚*ζ「え、めちゃくちゃ人気なのに?」
( ^ν^)「テレビ見ねえもん」
ζ(゚ー゚*ζ「このくらいは知っておいたほうがいいんじゃない」
( ^ν^)「知って俺に何か利あんの」
ζ(゚ー゚*ζ「ないけど」
( ^ν^)「ならいいだろ」
ζ(゚ー゚*ζ「それはそう。ニュッさんのことなんてどうでもいいし」
( ^ν^)「なら初めから黙ってろクソ女」
-
わたしたちは、いくつかルールを決めた。
生活費は割り勘。不必要に干渉しない。お互いに対して恋心をもたない。
他人への関心が乏しいわたしたちにとって、ふたつめとみっつめは容易に過ぎることだった。
日中銀行員として働くわたし。
株やらFXやら難しそうなもので稼ぐニュッさん。
夜は味の濃いコンビニ弁当を食べて、会話もそこそこに寝床に着く。
同居人というより、喋ったり動いたりする置物のようなもの。
これなら犬や猫のほうがまだ愛着が湧くだろう。
わたしは動物なんて嫌いだから、わからないけど。
-
歯を磨いて布団を敷く。
着々と寝る準備を進めるわたしの背中に、ニュッさんが声を投げかけた。
( ^ν^)「なあ」
ζ(゚ー゚*ζ「なに」
口ごもる。ただ無言で、わたしを見てる。
このひとはいつもそれだ。黙っていれば周りがなんとかしてくれると信じて甘えてる。
今時そんな優しいひと、いやしないのに。
ζ(゚ー゚*ζ「したいの?」
いやしない、はずだけれど。
ζ(゚ー゚*ζ「いいよ、しようか」
驚くなかれ、ここにいるのだ。彼には感謝してもらわなければならない。
-
世界と隔絶された部屋で、お互いの身体を使って自慰行為に励む。
なんて非生産的で愚かしい行為だろう。
青白くて薄っぺらいニュッさんの身体。
何度見ても性欲がそそられない。生気がない。性器はあるけど。なんちゃって。
顔も身体も亡霊みたいなくせして、生の根源たる性器はぎんぎんに滾っているから愉快だ。
ζ(゚ー゚*ζ「もう少し鍛えたほうがいいよ」
( ^ν^)「こんな狭い部屋でどうやって鍛えろってんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「腹筋とか、腕立て?」
( ^ν^)「めんどくせえ」
ニュッさんがわたしの乳首を吸う。わたしはそれを、黙って見ている。
-
人間の身体というものはすごい。
どんなに心が冷え切っていても、体は熱くなるし濡れるから。
でもそれは単なる防衛本能。心を伴わない粘液の排泄。
「お前も感じてるんだろ」と笑うレイプ魔は無知なのだ。
ζ( ー *ζ「はぁ、ね、入れて。早く」
( ^ν^)「ビッチが」
ζ( ー *ζ「あ――んんんっ」
表情と裏腹に滾った男性器が打ち込まれる。
背を仰け反らせるわたしを、ニュッさんは冷めた目で見下ろしている。
くねくねと腰を動かしても、娼婦のように物欲しげな顔をしてもその表情は変わらない。
なんて演技のし甲斐がない男だろう。
-
律動が始まる。喉から勝手に声が絞り出されて面白い。
心臓はいまだに冷え切ったまま、灼熱の杭だけがわたしの膣を往復している。
心なしかニュッさんの動きが早くなる。わたしはそれを、喘ぎながら見てる。
ζ( ー *ζ「あっ、あっ、いい、いいよぉ」
( ^ν^)「演技臭え」
演技だもん。嘲りを含めて微笑むと、奥深くまで刺し込まれた。
体が仰け反る。これは本当。反射的なものだけど。
ζ( ー *ζ「もっと、ちょうだい」
奥底にある子宮を突き破るくらいに。
性欲に犯される脳が興奮を孕む。股をめいっぱい開いて、男を誘う。
恋人同士がするように腰に脚を、背中に腕を回した。
わたしの胸を凝視しながら腰を振るニュッさんを見てたら、ふいに嗜虐心が湧いて。
-
よく考えもしないまま、薄っぺらい背中に爪を立てる。
爪から伝わる皮膚の抵抗。もっと深く沈ませると、ぶつんと破れた。
赤い血が玉になって浮き出ているのを想像して、今日はじめてわたしの心が躍った。
(; ν )「っ、ぎっ」
ζ( ー *ζ「あは、あんっ、ね、きもちい? あはっ」
(; ν )「このっ、阿婆擦れ女ッ」
ζ( ー *ζ「あ――――」
首に指が絡む。
抵抗する間もなく――いや、元よりする気はないけれど――力が込められて、体が仰け反る。
圧迫されて悲鳴を上げる喉。
もっとも、押し潰されているから空気の塊しか出なかったけど。
-
( ν )「あ――――」
首を絞めれば当然締まる。
さぞ気持ちいいのだろう。その快楽が表情からありありと伺えた。
ζ( ー *ζ「ぃ、ひ、ぃ、ぃ」
声にならない声。意志とは別に体がもたつく。
視界がひときわ暗くなって、ほとんどが黒いベールを纏ったように見えなくなった。
目隠しされているみたいで、興奮する。
( ν )「うお、あ、あ」
ζ( ー *ζ「かっ、あ――ぁ――」
突き立てた爪の中に血が溜まる。溢れる。
掻き毟るつもりで、上下左右に滅茶苦茶に動かした。
きっと背中はひどいことになっているんだろう。想像してまた笑う。
さっき砕いた錠剤が胃の中で回る。吐き気を催す感覚。
旋回する視界。死滅する倫理観。肉体的な快感。冷えきったまま感情。
生死を握られる被虐心。反して傷めつけられる自身への嗜虐心。
目の前の男に対する憐れみ。静観と諦観。頬を伝う液体状のなにか。
-
低い天井に星が瞬く。
もうニュッさんの手はわたしの首にかかってない。代わりに惨めな嗚咽が降り注いでいた。
わたしの膣の中で暴れ続けるものが痙攣して、限界を告げている。
酸欠の脳ではなく、本能でそれを理解した。
ああ、この瞬間がずっと続けばいいのに。そしたら何もかも忘れていられるのに。
死にたいと漏らす男。それに矛盾して繰り返される本能に順じたピストン。
卵子に辿り着くことなく精子たち。笑うわたし。泣く男。主導権が流動する。感情が死んでいく。
ねぇお母さん、どうせ愛してくれないなら、どうして子宮の中で殺してくれなかったの。
ζ( ー *ζ「こ、ぉ、ころ、ひて」
( ν )「ころしてくれ」
子宮が弾けた。
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まだ両親が仲睦まじかった頃、プラネタリウムに連れて行ってもらった。
右手を父と、左手を母と繋いで。
幼いわたしには、頭上から降る解説の意味はよくわからなかったけれど。
それでも夜空を模した天井に浮かぶ星はきれいで。
両親と一緒にそれを見ていることが楽しくて。
だから、わたしは星に願った。
「この瞬間が、ずっと続きますように」
.
-
白昼夢から覚めて、陰茎をぬろりと引き抜いた。
溢れた精液が滴る。倦怠と嘲笑、プラスアルファ嫌悪感。
ひりつくほどに喉が渇いていたけれど、起き上がる気はない。
それ以前に瞼を上げることすら億劫で、結局わたしは一ミリも動かなかった。
ζ( 、 *ζ「プラネタリウムに行きたい」
( ^ν^)「またその話か」
ニュッさんもわたしと同じように、気怠そうに横たわっている。
同じ体勢で天井を見ながら、ピロートークというにはあまりに色気のない言葉を交わし合う。
眠気と疲労で混濁していく意識の中、訥々と口から漏れる言葉。
どうせ相手も半分死んでいるようなものだ。遠慮なく喋れる。
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ζ( 、 *ζ「ずうっと昔に、みんなで一緒に行ったの」
( ^ν^)「聞き飽きた」
ζ( 、 *ζ「またあそこに行きたい、もう一度だけでいいから」
( ^ν^)「とっくに潰れたんだろ」
ζ( 、 *ζ「戻りたいなぁ……戻りたいよぉ」
( ^ν^)「そんなこと、無理だ」
天井はもう星空じゃなかった。汚い染みだけが目立つ、安いアパートの天井だった。
わたしたちはお互いに背中を向ける。おやすみなんか言わない。言う必要もない。
ふたりで寄り添っていても、わたしたちはどこまでもひとりぼっちだ。
こめかみに涙が流れた。悲しくはない。ただ空しい。
どうか明日の朝、目が覚める前に、死んでいますように。
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( ^ν^)おひとりシェアハウスのようですζ(゚ー゚*ζ
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投下は以上です。前の話含めて支援とか乙ありがとうございました。
IFとか言ったのに全然別の話になったし冒頭に閲覧注意って入れ忘れました。許してにゃん。
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乙
おひとりの方も好きな雰囲気だった
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正直油断してた、乙
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乙
どっちも好きだわ
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だいぶ好きな感じだった
好き
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