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Where is my boogie? のようです

1名無しさん:2016/07/09(土) 23:26:13 ID:YhHKyVTw0





──【 砂洲 華(20) 女性 】






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2名無しさん:2016/07/09(土) 23:27:06 ID:YhHKyVTw0

夜の10時、私はステージに立つ。

別に立派な場所じゃない。
既に閉店の時間を迎えてシャッターを下ろした店の前、コンクリートのタイル敷きの上にギターケースを広げれば、既にそこは私の今日のステージだ。

('、`*川「〜♪」

鼻歌交じりで肩から下げたアコースティックギターのチューニングを始める。
週末を迎えて解放感と酒で満たされた人々の騒めきの中、私の弦を弾く音だけがやけに響いている気がした。

あらかた準備を終えると、私は一息ついて指をグッと伸ばしてストレッチをしてから本日の1曲目をスタートさせる。
急に鳴り出したギターの音に驚いて振り向く人、興味ありげに見つめる人、ニヤニヤと見下したような笑みを浮かべて眺める人。

良かれ悪かれ、視線が集まるこの瞬間はいつだって緊張だ。

3名無しさん:2016/07/09(土) 23:28:02 ID:YhHKyVTw0

('、`*川「逢いたい、気持ちは、この雨のように……」

Gメジャーセブンスコードから始まるこの歌。
なんだかいつも弾いている。

('、`*川「全てを、濡らして、色を増すように……」

歌っていると、ふと思う。

私はいつまでここに立っているんだろう。

私はいつまで歌い続けるんだろう。

私はいつになったらここから離れられるんだろう。

どうでもいい世の中に取り残されて、どうでもいい生き方をいつまで続ければいいんだろう?

4名無しさん:2016/07/09(土) 23:29:01 ID:YhHKyVTw0


週末の繁華街のアーケード、足早に人々が通り過ぎて、私なんていないみたいに西へ東へ歩いていく。

私の歌は、いつだって通り過ぎていくほんの数メートル前の人々に届くことなんてなくて、このアーケードの中に響いてどっかへ消える。
もしかしたら、地縛霊みたいにそこらかしこに曲の怨念が残っているかもしれない。届けられなかった恨みとして残留思念が……なんて。



あぁ、いやだ。



誰かに求められる存在になりたい。
何かになりたい。



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5名無しさん:2016/07/09(土) 23:29:55 ID:YhHKyVTw0






──【 Where is my boogie? のようです】






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6名無しさん:2016/07/09(土) 23:30:32 ID:YhHKyVTw0

曲を弾いていると立ち止まる人は珍しくは無い。

壁でもあるかのように数歩下がった位置で間をあけて見る人だったり、
反対側の店の前でこちらをジッと見つめる人だったり。

ただ、もれなく皆興味が無い。

例えばそれはカフェで流れるジャズやボサノヴァのBGMよろしく、
ここで垂れ流されている空間で聞いているだけなのだから。

たまに私に興味を持って立ち止まる人もいる。ただしかしその向けられた先は、物珍しい事をしている人間に対してである。

7名無しさん:2016/07/09(土) 23:31:40 ID:YhHKyVTw0

(*・∀・)「ねえねえお姉さん、俺と一緒に飲みに行こうよ」

('、`*川「……せーかいは、一つじゃない、あーあそのまま、バラーバーラのまま」

先ほどからしつこく話しかけてくる若い男を無視して歌い続ける私。
彼の後ろに遠目からニヤニヤ眺めている奴らがいるから、多分面白半分にやっているのだろう。

酒臭い息を吐き出しながらテンション高く話しかけてくる男の話を無視して演奏を続けていると、
徐々に言葉の端々が攻撃的になり、最後にはあからさまにイラついた表情になった。

(*・∀・)「……んだよ、せっかく話しかけてんのに無視かよ」

そういって男は八つ当たりのつもりなのか、ペッと唾をギターケースに吐き捨てていった。
赤いライニングにまたシミが一つできてしまった。いい加減ここはゴミ入れでもなんでもないと皆に言ってあげたい。

少々の小銭とレシートやら包装紙やらが入った可哀想なギターケースが私に訴えかけてる気がする。
ごめんよ、ケース君と心の中で謝ってみる。もちろん、返事なんて来ないが、気持ちの問題なのだ。

8名無しさん:2016/07/09(土) 23:32:26 ID:YhHKyVTw0

高校時代から私はひどく物静かな少女だった。

かといってイジメられているわけでもなく、かといって友達と騒ぐわけでもなく、
ただただ平和に静かにいないように過ごして、ドラマでいうところの少女Aが私の立ち位置だった。

成績だっていいほうでは無かったし、
ギターが弾けるという理由だけで入ったフォークギター愛好会でも一部員として3年間をつつがなく過ごした私。

大学に入ってもその立ち位置は大して変わらなかった。

多分、キラキラした生活を送ることはずっと無いのだろうなと思う。

もうすでに人生の中には光輝く人っていうのは運命づけられていて、そうでない人はその光の陰になるか、その光すら届かないんだろう。

演奏を終えて帰路につく途中、車内から見える街の光を眺めながらそんなことを考える。

9名無しさん:2016/07/09(土) 23:33:25 ID:YhHKyVTw0

何故そんな目立たない一生を送るはずの私が路上で弾き語りをやっているのか、
それすら自分でも分からない。

でも心のどこかで、ほんのちょっと芽生えていた私の自尊心が、
自由に過ごし見聞を広めることの出来る大学生活によって、ニョキニョキと自己主張を始めたからだと思う。

多分私はずっとこのまま路上で目立つことなく、時たまあんな風に絡まれながら演奏を続け、そしていつしか辞めていくんだろうな。
自尊心の芽が花咲くことは無くて、多分次第に諦めという毒素に侵されて枯れていく。そして私は平々凡々とした一般的な人生を送るんだ。

きっと。

いつも通り、3駅乗って改札を抜ける。
少し中心部から離れたこの駅はとても凡庸で、そこかしこにあるような普通の駅舎だ。

まるで私みたいと勝手に思っているのだが、最近私はこの駅にすらなれないんだろうなと考えてしまう。

10名無しさん:2016/07/09(土) 23:34:30 ID:YhHKyVTw0

だってこの駅は多くの人々の拠点となって、受け入れた入り吐き出したりを繰り返す、とても働き者だから。
きっと私が役立たせることができる相手なんて、自分の半径3メートルくらいの人間だけなんだ。

ダメだなぁ。どうしても夜はマイナス思考になってしまう。

こんな日は甘いものでも食べて頭をフレッシュさせよう。
帰り道にフラッと寄ってしまうスイーツコーナーから2つほど適当に確保してレジへ向かう。

('A`)「……ッシャーセ」

いつもこの時間にレジを打っているこの男性も誰かに認められたいと思った事があるんだろうか?
生気も覇気もなく、死んだような顔で黙々とレジを打ち、愛想もなく金を受け取って会計を済ませるこの男性にも。

いや、誰だってあるんだろう。そういう願望は。

でもそれはいつの間にか失われるか、悟られないように奥底へ仕舞い込んでいるのだ。


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