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( ^ω^)人魚を拾って帰ったようです
45
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:13:28 ID:aULZrvKY0
( ^ω^) 「俺は自分で捨てたものをよしよしと愛おしがっていたのか」
(,,゚Д゚) 『そういうものだ』
垂れていた尻尾を猫は重たげに体に巻き付けた。
(,,゚Д゚) 『ただ要らぬ者であれば産み落とされることすらも無かった』
( ^ω^) 「……」
(,,゚Д゚) 『痛みを伴わぬのならいくらでも抱いていたい。そうだろう』
( ^ω^) 「……猫にはわかるのか」
猫の瞼が閉じる。
(,,‐Д‐) 『もういいだろう。しばし休む』
( ^ω^) 「……ああ」
46
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:14:14 ID:aULZrvKY0
猫の空き地を後にし自室へと帰り着いた。
気付いたら靴を脱ぎ台所で水を飲んでいる。
帰路の記憶が恐ろしく薄い。
行く道すがらのそれも思い起こせば曖昧だ。
手に持つ指輪が無ければあの空き地を尋ねたこと自体が、夢だったようにすら思う。
足の裏と脳みそがここに無いような感覚が体に付きまとう。
水を飲み干しグラスを洗う。
時計の目覚ましが鳴っていた。
月曜日。午前六時半と少し。
着替えようとして、掌に握った指輪を見る。
目の前には、床を拭くのに使ったトイレットペーパーが詰め込まれたゴミ袋がある。
47
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:14:46 ID:aULZrvKY0
左手の指で摘まみ、右手の薬指へ持って行く。
「左は結婚する時に取っておかなきゃ」と、彼女が言って、僕らはこの指に指輪を通していたのだ。
指先が少し入る。
馴染み深かったはずの感触が嗤う程によそよそしい。
( ^ω^) 「そりゃそうだ」
ひと息を呑む。
へその緒を切り落とすような心地で、指輪を手放した。
指輪はゴミ袋の中に積もった屑の隙間に落ちて、姿を消した。
部屋は相変わらず、静かなままだった。
48
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:16:29 ID:aULZrvKY0
数週後の休日。
僕はコンビニでいくつかの買い物をして、近所の公園に向かった。
それなりに大きな森林公園で、中央付近にひょうたん型の池がある。
横切る形で遊歩道が敷かれていて、石組みの小さな橋が架かけられている。
元は散歩やジョギングのコースとされることを目的とされていたのだろうが、
周辺の道との兼ね合いなどからあまり人が通ることは無い。
遊歩道をまっすぐ池へ向かう。
ぼんやりと覚えている。確かにあの日。僕はこの道を通ったのだろう。
いま胸に抱えているものはあの日のそれとはきっと違うのだけれぼんやりとした既視感がある。
少し急な上りになっている橋を渡る。
中腹で梁に寄りかかり下を覗く。
透明だけれどやはり濁ってはいて。
どこかねっとりとして見えるのはそこに犇めく鯉のせいだろうか。
49
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:18:05 ID:aULZrvKY0
( ^ω^) 「……僕は、あまり覚えていないのだけれど」
コンビニで買ったものを袋の中から漁る。
ビニルの擦れる音。鯉たちが全身をうねらせながら集まってくる。
背びれが。尾びれが。頭が入り乱れて一つの異形のような形を成す。
( ^ω^) 「お前らの中のどれかには、面倒をかけた」
袋から取り出したのは安物の食パン。
枚数の多さと不味くないことだけが取り柄の量産品。
( ^ω^) 「これは、詫び」
包装を破って一枚取り出す。
耳のあたりを千切り池に落とした。
水音が跳ねて鯉が押し合いへしあう。
僕はもうひと毟りパンを落としてそのさまを見ている。
50
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:20:42 ID:aULZrvKY0
水底の色が浮き上がり黒に見える水面。
ねっとりとした光の反射が乱れ揺れている。
僅かに黄ばんだ黒い鯉が数え切れないほどいる。
口を開けて白い欠片を喰らう。
目には意志の光がない。
水面にはどこもかしこも穴が開いている。
なにもかもが呑み込まれて当然だ。
あの日の僕にはあの穴の群れが自身の淀みを棄てるべき深淵に見えたのだろう。
白いパンが落ちる。
黒の中に消える。
水音がする。
風が温い。
「にゃあ」と声がした。
ハッとしてみると、猫が欄干の上に座っている。
目が合った瞬間に、顔を背けられた。
怒っているようにも、気にするなと言っているようにも見える。
僕は彼にかける言葉がわからず、再び視線を落とした。
51
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:22:09 ID:aULZrvKY0
夢を見ていた。
僕が居るのはいつものベッドでは無い。
欄干が胸に当たる。冷たくて硬い。
太陽の光が水面に反射する。
ちかちかと眩しい。
だけれど瞼を閉じることができずにそのさまを見ている。
口から出る息が気泡になることは無い。
薄霞の青過ぎぬ良い天気だ。どこまでも登っていけただろうに。
きっと空まで昇って雲になることだってきっとあったろうに。
猫が細い声で鳴いた。
眼下で鯉たちが蠢いている。
なぜ彼らはもっと自由に泳がないのだろうか。
こんな小さな池で、仲間の肌を感じ続けなければならないのだろうか。
(,,゚Д゚) 『おい』
猫が呼ぶ。
振り向くと、不満げな光の金色が二つある。
52
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:23:23 ID:aULZrvKY0
(,,゚Д゚) 『腹が減った』
( ^ω^) 「部屋に缶詰がある」
(,,゚Д゚) 『マグロか』
( ^ω^) 「牛だ」
(,,゚Д゚) 『牛』
( ^ω^) 「ああ」
猫が欄干を飛び降りる。
堅い肉球が地面を叩いた。いい音だ。
猫が歩く、という音だ。
数歩行き猫が振り返る。
(,,゚Д゚) 『早く行くぞ』
( ^ω^) 「ああ」
橋の下を覗く。
黒い鯉が犇めき、蠢く。
その中に白い人の半身を見つけることは、ついにできなかった。
【了】
53
:
◆HAPPY/juS6
:2016/04/01(金) 09:24:11 ID:aULZrvKY0
以上
プチ紅白参加作品です
54
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:43:09 ID:JUbE1u/Y0
これはサザエさん方式にすると面白そうだな
55
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 14:17:42 ID:NduApR4o0
めちゃくちゃ面白かった。乙
56
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 20:50:24 ID:HhdrMKww0
乙
雰囲気がとても好きだ
57
:
名無しさん
:2016/04/02(土) 02:58:12 ID:Ym5HGxCM0
めっちゃ面白い
どうなることかとハラハラしたけど悲しくも爽やかな終わりだった
58
:
名無しさん
:2016/04/02(土) 09:10:05 ID:S3fINrZU0
これは良い
59
:
◆mQ0JrMCe2Y
:2016/04/04(月) 01:41:28 ID:Eto4oo/M0
【連絡事項】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
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60
:
名無しさん
:2016/04/05(火) 23:07:51 ID:F61O2fcc0
すっごく良かった
61
:
名無しさん
:2016/04/07(木) 02:57:15 ID:x/BuAKM60
これだよこれこれこういうの
美しくも悲しいビターな結末、大好きです
ハードボイルドな文体も超好み
面白かった
62
:
名無しさん
:2016/04/07(木) 17:45:33 ID:FlgvNF8Y0
書きかけのまま放置している小説がある。
登場人物は男、男の恋人の鼠、窓から入ってくる猫。
筋書きはお察しの通り。
こんな感想ありかな、そこに居るなら言ってくれればよかったのに。
そしたら、僕は独りぼっちにならずにすんだのに。
乙、素晴らしかった。
63
:
名無しさん
:2016/04/07(木) 20:54:07 ID:JE5PNiEE0
乙
いいなあ
64
:
名無しさん
:2016/04/18(月) 00:43:28 ID:VaFr/tV20
http://i.imgur.com/7FKsTNR.jpg
乙
大好きでした
65
:
名無しさん
:2016/04/20(水) 01:20:10 ID:NpB4ftKA0
>>64
なにこれすごっ
66
:
名無しさん
:2017/01/28(土) 03:46:19 ID:2Zz0vUdM0
今でもたまに読み直す
好き
67
:
名無しさん
:2017/04/24(月) 19:49:02 ID:.TrbPp5U0
大好き最高
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