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( ^ω^)人魚を拾って帰ったようです
1
:
◆HAPPY/juS6
:2016/04/01(金) 08:25:58 ID:aULZrvKY0
.
O
゚
。
O
o
゚
。
.
2
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:27:48 ID:aULZrvKY0
.
゚
人 O
魚 o
を ゚
拾 。
っ
て
帰
っ
た
よ
う
で
。 す
O
゚
o
。
3
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:28:29 ID:aULZrvKY0
.
○
O。
o
○
。
。
。
.
4
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:31:25 ID:aULZrvKY0
薄暗い朝だった。
いつもはカーテンを切り裂くほど眩しい朝陽が今日はやけに大人しい。
寝ぼけた頭のまま、三十秒停止してから、枕元の時計に手を伸ばす。
午前六時十六分四十四秒……四十五秒……。
着実に流れる時間を眺めている間に、瞼の重さが増してゆく。
微睡の誘いは温い糖蜜のようだ。
この心地よさに溺れてしまえば十分と経たずに固まって、もうしばらく目覚めることは出来ないだろう。
雨の音がする。
今降ってきたのか、元々降っていたのかは判断がつかない。
そう言えば、昨日見たニュースではしばらく雨模様が続くと言っていた。
雨は好きだが嫌いだ。
部屋の中で音を聞きながら眺めているのは良い。
心臓を通る血が自然に冷たくなり、気付けば物寂しい心地になるのは何とも言えない風情がある。
ただこの体を晒さねばならぬとなればこの上なく悪い。
傘は持たねばならない。裾は濡れる。空気は湿気て、何もかもがべたべたと不愉快。
そうしてため息を吐く自分を自覚して、常に詩人のように豊かな心を持って生られないことを実感させられる。
5
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:32:37 ID:aULZrvKY0
幸にして今日は休み。
出かける予定はもう無い。
雨を好きでいても良い日である。
だのにこんなにも雨音が頭に響くのは、昨晩飲み過ぎた酒のせいか。
それとも――――。
憂鬱に傾き過ぎそうになった頭を手で支え、起き上がる。
水色の毛布がずり落ちて、少し湿気た空気が肌を冷やす。
服を着替えず寝てしまったようだ。
汗が冷えて無性に寒い。
丸めて落ちていた赤のパーカーを羽織る。
一度シャワーを浴びてしまおう。
汗を流し体を温めなければ。
そう思い立ち上がりそこで初めて気が付いた。
テーブルに見慣れぬペットボトルが置かれている。
6
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:33:39 ID:aULZrvKY0
二日酔いの寝ぼけた目では一瞬それがペットボトルとはわからなかった。
飲み口の部分が切り取られており普段見慣れた形状とは異なっている。
そしてやけに小汚い。藻は絡んでいるし、泥が渇いた跡や、細かな傷も目立った。
酔った勢いでどこかの水辺から拾ってきてしまったのだろうか。
近所の森林公園に池がある。
歩いて帰ってきたとするならば丁度そこを通ったはずだ。
泥酔状態なら素面では予想できない行動を取ったとしても不思議では無い。
とかく捨ててしまわねばならないだろう。
汚いのは当然、中には水が入っており衛生的でない。
時間を置いて気色の悪い虫に繁殖されても不愉快だ。
7
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:34:57 ID:aULZrvKY0
出来るだけ触れたくない思いを我慢し、ペットボトルを持ち上げた。
中身の水が揺れる。
( ^ω^) 「……」
興味本位で、なんとはなしに中を覗きこんだ僕は、そこで一時停止した。
目を疑う。
瞬きを数度する。
まじまじと見る。
少し視線を外して、一呼吸し、視線を戻す。
やはり、いる。
ペットボトルの中に。
ξ ⊿ )ξ。゚
人魚、が。
8
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:35:30 ID:aULZrvKY0
噂ではいくらか聞いたことがあったが実物を目にするのは初めてだ。
大きさは僕の親指より一回り大きい程度。
人間の上半身と、鯉や鮒のような下半身を持っている
眠っている、のだろうか。
動きは無い。
指を咥え体を丸めて動かぬ様は羊水に抱かれた胎児に似ている。
実際、体はまだ未成熟のようだった。
人の部分も魚の部分も体表がうっすらと透け血管や内臓が見えている。
昔、理科の実験で観察したメダカの腹を思い出した。
( ^ω^) 「こいつ、僕が……?」
拾ってきてしまったのだろうか。
ただのゴミを拾ってきてしまうよりは納得出来る。
ペットボトルをテーブルに置きなおし、ベッドに座る。
一体どうして、こんなところに人魚がいるのか。
酒に潰されていない、昨日の記憶を思い起こす。
9
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:37:08 ID:aULZrvKY0
ζ( 、 *ζ 「…………別れてほしいの」
真っ先に過ったのは恋人のその言葉だった。
僕が暴飲するきっかけの一言。
頭痛の重さが数倍になる。胃の中の不快感をそのまま吐き出しそうになる。
そうだ。そうだったのだ。
恋人に別れを切り出されて意味も分からず言い返すことも出来ずただ涙に気圧されて受け入れて。
そのままふらっと立ち寄った居酒屋で酒を飲んで。
( ^ω^) 「……何軒回ったか覚えてないな」
財布の中身が半分以下になっていた。
久々に会うあの人となるべく楽しい時間を過ごすために普段よりも膨らませておいたはずだ。
一人で飲んで減らしたとすれば、相当な量をやったことになる。
道理で、だ。体に起きているすべての不快感に納得できる。
( ^ω^) 「とりあえず、コレ、どうしよ」
ペットボトルを指で小突く。
人魚が、僅かに反応した。
それなりの時間放置していたはずだが生きてはいるらしい。
10
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:38:05 ID:aULZrvKY0
ひと風呂浴びてもう一度寝てしまいたいが、これを無視するわけにもいかない。
僕は窓を開けサッシの端をコツコツと指で叩いた。
弱い雨脚の中塀の向こうからのっそりと現れたのは尾の曲がった薄汚い野良猫。
(,,゚Д゚) 『なんだ』
( ^ω^) 「とりあえず上がってくれ。そこでは濡れる」
猫を家に上げ、体を拭いてやりながら事情を話した。
(,,゚Д゚) 『人魚か。相変わらず妙なものを引き寄せる』
( ^ω^) 「それが、どこでどう拾ったか全く覚えて無いんだ」
(,,゚Д゚) 『そういうものだ。覚えている方がタチが悪い』
( ^ω^) 「どうすればいい?」
11
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:39:22 ID:aULZrvKY0
猫が教えてくれたのは人魚の飼育法だった。
大よそ金魚と同じあるいはそれよりも簡単だ。
僕としては処分方法を聞きたかったのだが、
(,,゚Д゚) 『祟られたくなければ下手に処分しようとするなよ。寿命をまっとうさせるのが最も楽で安全だ』
というので大人しく従っておく。
押入れから昔使っていた水槽を取り出し水を溜める。
金魚ならば水道水のカルキを抜かなければならないが、人魚の場合態々やる必要も無いらしい。
ただし、もともと浸っていた水は必ず混ぜること、とも言われていたので、ペットボトルの水ごと人魚を水槽に移した。
( ^ω^) 「……お、元気になった」
人魚は寝ぼけたように数回瞬いたあと槽の中をクルリと泳いだ。
とりあえずはこれでいいようだ。
餌は不要でとにかくまめに水を足してやれば十分らしい。
僕が言う通り人魚の飼育を始めたのを確認して、猫は雨の中に去っていった。
12
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:40:16 ID:aULZrvKY0
人魚の世話を初めて数日が経った。
みるみるおおきくなり体の色もしっかりとついて、より「人魚」のイメージに近い姿になっている。
ξ゚⊿゚)ξ。゚
性別は、どうやら雌であるようだ。
長い金髪と睫毛の立った大きな目には女性的な印象をうける。
僕は彼女に「ツン」と名を与えた。
ξ‐⊿‐)ξ 〜♪
ツンは昼間は鉢の底の砂利に寝そべり、黄昏を過ぎると水面に横たわって浮かび、唄を歌った。
穏やかで、どこか寂しげな旋律。
仕事を終え家についてからしばらくの時間を、その歌を聞いて過ごすようになった。
13
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:41:08 ID:aULZrvKY0
( ^ω^) 「その唄は、どこで覚えた?」
ξ゚⊿゚)ξ ?
( ^ω^) 「人魚の唄なのか?」
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^) 「それとも魚の歌か?」
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^)
ξ‐⊿‐)ξ ………♪
( ^ω^) 「……まあ、いいか」
ツンの歌は自然に、耳にも生活にも馴染んでいった。
14
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:42:40 ID:aULZrvKY0
.
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。おあよ。
( ^ω^) 「ああ、おはよう」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。いちぇりゃしゃい。
( ^ω^) 「うん。いってきます」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。ちゃだゃいみゃ。
( ^ω^) こういう時は、おかえり、っていうんだ。
ξ゚⊿゚)ξ おきゃえり?
( ^ω^) 「はい、ただいま」
唄を歌うようになってしばらくすると、今度は言葉を覚えるようになった
ちょっとした会話ならば、数度繰り返せばこなせるようになる。
発音はいくらか怪しいが、簡単な意思疎通は可能だった。
僕が家を空ける間ツンが寂しがらないよう、ラジオをかけて出かける習慣が出来た。
彼女の歌に拙い歌詞が付き始めたのもこの時である。
ツンはラジオで聞いた歌を良く口ずさみ、昼間僕がいない間自分がどうしていたかを、精一杯伝えようとする。
僕が彼女に対し愛着を覚えるのは当然のことだと思えた。
15
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:43:38 ID:aULZrvKY0
ツンは歌や言葉を覚えるのに比例して、体も徐々に大きくなっていた。
あくまで金魚並の大きさではあるが、最初の頃の二倍程になっただろうか。
( ^ω^) 「お前、腹は減らないのか」
ξ゚⊿゚)ξ はら、ここ、ある。 モニモニ
( ^ω^) 「そうでなくてな」
ξ゚⊿゚)ξ ? モニモニ
猫に言われた通り、ツンには一切の食糧を与えていない。
一体どこで何を得て体を膨らませているのか不思議だったが、それを異常とは感じなかった。
そもそも人魚である。理解できるとも思わない。
ツンの新しい住処として二回りほど大きな水槽を入手した。
所帯を持ちそれまでの趣味を棄てた知人が処分に困っていたものを安く譲ってもらった。
ξ‐⊿‐)ξ 〜♪
新しい住処に映った日のツンの歌は心なしかいつもよりも明るさを持っていた。
16
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:44:20 ID:aULZrvKY0
ツンの覚えた曲が10を超えた頃、僕は部屋の掃除をしていて、指輪が無いことに気付いた。
別れた恋人とクリスマスだったか、どちらかの誕生日だったか、何かの記念日に揃いで買ったものだ。
外せばくっきりと残っていた指輪の跡が、全く消えている。
そう言えば、あの日の時点ですでになくなっていたような気がする。
酔った時に外して、部屋のどこかに転げてしまったのだろう。
どうして気がつかなかったのか。
いや。気にならなかった、というのが正しいのかもしれない。
あの日から僕は別れたあの人への名残に咽ぶことも無くツンの世話に没頭している。
( ^ω^) 「ツン、ありがとうな」
ξ゚⊿゚)ξ ?
( ^ω^) 「お前が居なかったら、俺は陰鬱な感情に噎びながら日々を過ごす羽目になっていたかもしれない」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。
( ^ω^) 「うん」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。
( ^ω^) 「ああ」
17
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:45:11 ID:aULZrvKY0
なるべく遅く仕事へ行き、なるべく早く部屋に帰る日々を繰り返した。
ツンは毎朝寂しげな唄を奏で、僕が帰るたびに尾びれで水面を叩いた。
( ^ω^) 「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。
( ^ω^) 「CDを買ってきた。たまには一緒に聴くか」
ξ゚⊿゚)ξ ちいでい。
( ^ω^) 「これには、音が入ってるんだ」
ξ゚⊿゚)ξ ?
( ^ω^) 「待っていろ」
休日の度に、僕は新しいCDを買って帰り、ツンと共に聞いた。
それまでは本や漫画、それと恋人と遊ぶために使っていた遊興費のほとんどをCDの購入に充てた。
ツンの歌は次々多様になっていった。
安物のスピーカーから流れる音よりもツンのか細い声を僕は気に入って。
僕が耳を傾けていることに気付くと、ツンは一層声を高くして歌って聴かせた。
18
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:46:56 ID:aULZrvKY0
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。しごと。
( ^ω^) 「今日は休みだ」
ξ゚⊿゚)ξ やすみ。
( ^ω^) 「ああ」
ξ゚⊿゚)ξ やすみ?
( ^ω^) 「しごと、ない」
ξ゚⊿゚)ξ しごと、ない。
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ やすみ。
( ^ω^) 「散歩、いくか」
ξ゚⊿゚)ξ さんぽ
ξ‐⊿‐)ξ さー――……んー――……ぽー―――――〜〜…………♪
19
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:47:34 ID:aULZrvKY0
ツンは僕が休日を迎えるたびに散歩に出たがった。
散歩と言っても街や川原を歩き回るわけでなく、アパートの庭に出てツンに陽光を浴びさせる程度のものだ。
ツンはこの短く近い外出をいたく気に入った。
大きめのグラスに水槽の水ごとツンを掬って、外に出る。
僕がアパートの庭を一周する間、ツンはグラスの縁に捕まって、ずっと周囲を見回している。
あまり長く陽光に当てると火傷してしまうので、散歩は10分もせずに終わりだ。
ツンは、部屋に戻ると上機嫌な歌を口ずさんだ。
僕はそれを聴きながらしばしのうたたねに興じる。
穏やかな心地だった。
ξ゚⊿゚)ξ
( ‐ω‐) 「…………」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん、ねた。
( ‐ω‐) 「…………おきてるよ」
ξ゚⊿゚)ξ ねてない。
( ‐ω‐) 「…………うん」
ξ‐⊿‐)ξ ………………………♪
窓の向こうから猫が僕たちを見ている。
僕は薄眼でそれを見て、気付かなかった顔でそのまま眠りに就く。
20
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:49:10 ID:aULZrvKY0
夢を見る。
僕はいつものベッドに寝そべっていて動くことができず天井を見ている。
金縛りのような苦しさは無く眠気に体が沈み込んで感覚が優しく痺れるようなそんな感覚。
部屋の中には透明な水が満ちている。
月の明りは白い線。
手を伸ばせば触れられそうだ。
そしてきっと心地よく冷たいのだろう。
ツンが泳いでいる。
普段とは異なり、人の子供ほどの大きさでゆったりとたゆらうように。
細くつややかな髪が広がっている。窓から差し込む白に触れて金色に燃える。
ツンが僕の視線に気付く。
すいと泳ぎ寄り手を差し伸べた。
頬に手が触れる。冷たい。
魚の体温だ。あまり長く触れると火傷してしまう。
だけれど僕は何も喋ることができない。
ツンが僕の胸に寄り添った。
唄を歌っている。水の中でも良く通る、不思議な音色だった。
21
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:49:50 ID:aULZrvKY0
( ^ω^) 「……」
目を覚ます。
僕はいつものベッドの上にいる。
テーブルの上。水槽の中。
ツンは砂に横たわり静かに眠っている。
頬が冷たい。
触れると指先が僅かに濡れた。
指を見る。
天井を見る。
部屋の中も外も静かで暗く仄かに青い。
カーテンから白い光が漏れている。
月は今日も眠れないらしい。
ため息を吐く。
それが泡にならないことを少しだけ不思議に感じながら、僕は再び眠りについた。
22
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:50:36 ID:aULZrvKY0
ツンと共に生活を初め一月が経った頃。
それまで元気だったツンが徐々に衰弱し始めた。
初めは些細な変化だった。
記憶を辿れば確かにそうだと思う節がる、という程度の本当に小さな。
しかし、僕がもしやと思う頃には、どれだけ楽観的に見てもそうであると分かるほど著しいものになっていた。
歌うどころか水面に浮かび上がることも少なくなる。
気に入っていたラジオすらも不快なようで電源を落としておくことが増える。
23
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:51:24 ID:aULZrvKY0
僕は再び猫を呼んだ。
人魚を連れてゆくべきなのが、人の病院なのか、動物の病院なのか、分からなかったのだ。
彼に助けを乞うのが、そのどちらかに行くよりも確実だと判断した。
(,,゚Д゚) 『ただの寿命だ。大人しく見送ってやれ』
しかし、猫は僕の話を聞いてそう返した。そうとだけ言った。
そのあとどれだけ尋ねても、「あたりまえの自然だ」としか答えてくれず、彼はぷいと尻を向けて去って行った。
そして遂に、ツンは水槽の底に寝そべったまま動かなくなった。
24
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:53:08 ID:aULZrvKY0
ツンが眠り続ける部屋は、水底に沈んだかのように音と明度を失った。
僕は部屋にいる時間のほとんどを水槽の前で過ごす。
彼女の眠りを妨げないように、一番絞ったボリュームで、一番穏やかな曲を流す。
微かな旋律の流れる小さなこの部屋は、それでも、しんと静まり返っている。
( ^ω^)
ξ‐⊿‐)ξ。゚
( ^ω^) 「ツン」
ξ‐⊿‐)ξ。゚
( ^ω^) 「死ぬのか」
ξ‐⊿‐)ξ。゚
( ^ω^)
ξ‐⊿‐)ξ。゚
( ^ω^) 「そうか」
25
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:54:32 ID:aULZrvKY0
ある日の仕事の帰り道。
ツンが穏やかに死んでゆくあの部屋へ戻る気力が湧かず、僕はふらりと街を歩く。
なにも考えずに動かした足は、懐かしい繁華街へ向いていた。
かつての恋人と良く訪れた場所だと青信号がちかちか笑う。
絶え間ない喧騒。雑踏の波。遠くで聞こえる何かのBGM。
あの部屋と真逆のここに、少しの疎外感と僅かな安心を僕は覚えていた。
「内藤?」
声をかけられ、振り返る。
反射的で、だけれどその途中で、呼ぶ声の色に覚えがあることに気がついた。
( ^ω^) 「……あ」
('、`*川 「……よ。ひさしぶり」
その女は大学の同期で名を伊藤ペニサスという。
この街に住んでいるということは知っていたが、仕事に就いてからは全く会う機会が無かった。
久々に見る懐かしい顔に少しだけ心が救われると同時に、今の自分を見られることが酷く恥ずかしい。
26
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:56:45 ID:aULZrvKY0
陰鬱な顔の僕に何かを感じたのか、伊藤は僕を食事に誘う。
よく見れば伊藤の目元にも気力が無い。
この女もそれなりに人として生きているのだなと漠然と思った。
どの店にしようかと街を歩く間ツンのことが気にかかった。
伊藤に詫びて帰ろうかとも考えた。
逆にツンの死ぬにゆく様を見たくないという思いもある。
結局僕は伊藤と共に呼び込みをしていた居酒屋の暖簾をくぐる。
少しの酒を飲み僕と伊藤はその店で食事を摂った。
交わしたのはさほど明るくも暗くも無い当たり障りのない会話ばかりだ。
食事が終わり、酒も無くなり、僕が勘定の為に店員を目で探してると、
伊藤が「あのさ」と一段声色の低い話しを切り出した。
('、`*川 「本当は、こういうこと、言わない方が、良いと思ったんだけれど」
まるで人を殺した罪を告白するようだった。
('、`*川 「デレ、多分浮気してるわ」
僕は店員に向かって上げかけた手を下した。
27
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:57:33 ID:aULZrvKY0
伊藤はまるで自分が大罪を犯したかのように、犯しているかのように苦しげに、
僕の元恋人が知らぬ男と逢瀬を重ねているのを数度となく見かけたと告白する。
忘れていたはずの感傷と、伊藤への罪悪感が自分の胸に芽生えるのを感じた。
( ^ω^) 「ペニサス。俺とデレは、もう別れてるんだ」
('、`*川 「え」
( ^ω^) 「わざわざ知らせることでもないから言わなかったんだけれど、そんな心配をさせたのなら。申し訳ない」
('、`*川 「なあんだ。なんだ、そうなの」
( ^ω^) 「そう。ごめん、だから、気にしなくていいよ」
('、`*川 「そうか、そうよね。なんで私、そういう発想にならなかったのかしら」
「真っ先に友達を疑うなんて」と、伊藤は陰鬱さと苦みの濃い自嘲の笑みを浮かべる。
俯き、垂れた前髪から覗くその表情を、僕は他人事のように不憫に思った。
('、`*川 「もう、半年近くも前から悩んでたのよ。まったく、バカみたい」
( ^ω^) 「半年?」
('、`*川 「ごめんね内藤。どっちにしろ愉快な話では無かったでしょう」
( ^ω^) 「半年?」
28
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:58:05 ID:aULZrvKY0
部屋に戻ると暗がりの中から微かな旋律が聞こえた。
明りを点ける。
ツンが水面に浮かび唄を奏でていた。
その声はか細く、僕の記憶にあったツンの歌声だった。
( ^ω^) 「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。おきゃえり。
( ^ω^) 「ああ」
手を差し伸べる。
ツンはすいと泳ぎ寄って頬ずりするように上半身の全てを使って指先を抱きしめる。
柔らかく冷たい。少しぬるりとしている。
( ^ω^) 「離れろ。火傷する」
ξ゚⊿゚)ξ いーしょ
( ^ω^) 「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ つん。ぶん、いーしょ。
( ^ω^) 「……ああ」
29
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:58:56 ID:aULZrvKY0
翌朝僕は、ツンが元気を取り戻したことを猫に伝えた。
彼は酷く間を空けたあとに。
(,,゚Д゚) 『そうか』
とだけ言った。
正しい何かを知る彼の意見を聞くのが恐ろしく、僕はこれまでの礼を言って窓を閉めた。
ξ‐⊿‐)ξ 〜〜♪
ツンは、相変わらずであった。
相変わらずだったが、変わったこともあった。
いくらか成長し、さらに人間らしい形になり、美しくなり、言葉も少し達者になり。
そして以前よりも暗く重い旋律や激しく情動的な旋律を好むようになり、
かつて好んだ優しく軽やかな旋律や静かで寂しげな旋律を聞くことも歌うことも減って行った。
僕はその変化を自然に受け入れた。
むしろ、それを望んでいたようにすら思う。
少しだけ色を変えた僕とツンとの生活はそれでも穏やかに続いた。
30
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 08:59:49 ID:aULZrvKY0
夢を見る。
僕はいつものベッドに寝そべっていて、天井を見ている。
カーテンを閉め忘れていた。
夜色の空に、星が浮かんでいる。月はようやっと眠れたらしい。
口から泡が抜けてゆく。
水を吸い込む。
不思議と噎せらず苦しくも無い。
鏡があれば顎と首の境目にえらが出来ていないか確かめられたろうに。
ツンは僕の傍にいた。
年頃の少女のような姿で僕の腰元に寄り添っている。
僅かに動く唇の隙間から唄が零れていた。
愛らしい。
成長した体に僕の視線は少しだけ恥じらった。
ツンが僕の顔を見た。
いつもは魚のように半開きになっている口を揃えて少し端を持ち上げて。
そう。微笑みのような表情を見せる。
その顔が誰かに似ていたことだけを忘れて、僕は目を覚ました。
31
:
名無しさん
:2016/04/01(金) 09:00:48 ID:aULZrvKY0
それから少し経った土曜日のこと。
残業を重ねて疲れ果てた、六連勤最終日の帰り道。
電車で寝過ごし二つ余分に過ぎてから降りた駅で僕に流れている時間が止まった。
ζ(ー *ζ
( ∀ )
向かいのホームで親しげに腕を組むその男女はどうやら少し酒に酔っているようだった。
僕には聞こえない声の大きさで何かを囁き合い笑い合っている。
男のことを僕は知っていた。
元恋人と同じ職場の一つ下の青年だ。
以前見たのは歓迎会だかの写真だったが、その頃よりも少し大人びて見えた。
真面目で頑張り屋で皆に好かれる子なのよと恋人が誉めていたのを覚えている。
確かに人柄の良さそうな、日向の気配を感じる人だった。
電車がホームに入る。
僕の視界から二人は隠される。
平坦な駅員の声。発車のベル。走り出す銀色の車両。
電車の居なくなった僕の視界からはその男女もまた消えていた。
家に帰りツンに一声だけかけて床に就く。
どこかで買ったウィスキーは僕の正常性を冷たく焼いている。
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