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( ^ω^)人魚を拾って帰ったようです

1 ◆HAPPY/juS6:2016/04/01(金) 08:25:58 ID:aULZrvKY0
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2名無しさん:2016/04/01(金) 08:27:48 ID:aULZrvKY0
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                   拾    。                  
                      っ                     
                        て                           
                   帰                          
                       っ                         
                        た                          
                        よ                         
                       う                       
                        で                         
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3名無しさん:2016/04/01(金) 08:28:29 ID:aULZrvKY0
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4名無しさん:2016/04/01(金) 08:31:25 ID:aULZrvKY0

薄暗い朝だった。
いつもはカーテンを切り裂くほど眩しい朝陽が今日はやけに大人しい。
寝ぼけた頭のまま、三十秒停止してから、枕元の時計に手を伸ばす。

午前六時十六分四十四秒……四十五秒……。

着実に流れる時間を眺めている間に、瞼の重さが増してゆく。
微睡の誘いは温い糖蜜のようだ。
この心地よさに溺れてしまえば十分と経たずに固まって、もうしばらく目覚めることは出来ないだろう。

雨の音がする。
今降ってきたのか、元々降っていたのかは判断がつかない。
そう言えば、昨日見たニュースではしばらく雨模様が続くと言っていた。

雨は好きだが嫌いだ。
部屋の中で音を聞きながら眺めているのは良い。
心臓を通る血が自然に冷たくなり、気付けば物寂しい心地になるのは何とも言えない風情がある。

ただこの体を晒さねばならぬとなればこの上なく悪い。
傘は持たねばならない。裾は濡れる。空気は湿気て、何もかもがべたべたと不愉快。
そうしてため息を吐く自分を自覚して、常に詩人のように豊かな心を持って生られないことを実感させられる。

5名無しさん:2016/04/01(金) 08:32:37 ID:aULZrvKY0

幸にして今日は休み。
出かける予定はもう無い。
雨を好きでいても良い日である。

だのにこんなにも雨音が頭に響くのは、昨晩飲み過ぎた酒のせいか。
それとも――――。

憂鬱に傾き過ぎそうになった頭を手で支え、起き上がる。
水色の毛布がずり落ちて、少し湿気た空気が肌を冷やす。

服を着替えず寝てしまったようだ。
汗が冷えて無性に寒い。
丸めて落ちていた赤のパーカーを羽織る。

一度シャワーを浴びてしまおう。
汗を流し体を温めなければ。

そう思い立ち上がりそこで初めて気が付いた。
テーブルに見慣れぬペットボトルが置かれている。

6名無しさん:2016/04/01(金) 08:33:39 ID:aULZrvKY0
 
二日酔いの寝ぼけた目では一瞬それがペットボトルとはわからなかった。
飲み口の部分が切り取られており普段見慣れた形状とは異なっている。
そしてやけに小汚い。藻は絡んでいるし、泥が渇いた跡や、細かな傷も目立った。

酔った勢いでどこかの水辺から拾ってきてしまったのだろうか。

近所の森林公園に池がある。
歩いて帰ってきたとするならば丁度そこを通ったはずだ。
泥酔状態なら素面では予想できない行動を取ったとしても不思議では無い。

とかく捨ててしまわねばならないだろう。
汚いのは当然、中には水が入っており衛生的でない。
時間を置いて気色の悪い虫に繁殖されても不愉快だ。

7名無しさん:2016/04/01(金) 08:34:57 ID:aULZrvKY0

出来るだけ触れたくない思いを我慢し、ペットボトルを持ち上げた。
中身の水が揺れる。


( ^ω^) 「……」


興味本位で、なんとはなしに中を覗きこんだ僕は、そこで一時停止した。

目を疑う。
瞬きを数度する。
まじまじと見る。

少し視線を外して、一呼吸し、視線を戻す。

やはり、いる。
ペットボトルの中に。


                ξ ⊿ )ξ。゚


人魚、が。

8名無しさん:2016/04/01(金) 08:35:30 ID:aULZrvKY0

噂ではいくらか聞いたことがあったが実物を目にするのは初めてだ。
大きさは僕の親指より一回り大きい程度。
人間の上半身と、鯉や鮒のような下半身を持っている

眠っている、のだろうか。
動きは無い。
指を咥え体を丸めて動かぬ様は羊水に抱かれた胎児に似ている。

実際、体はまだ未成熟のようだった。
人の部分も魚の部分も体表がうっすらと透け血管や内臓が見えている。
昔、理科の実験で観察したメダカの腹を思い出した。


( ^ω^) 「こいつ、僕が……?」


拾ってきてしまったのだろうか。
ただのゴミを拾ってきてしまうよりは納得出来る。

ペットボトルをテーブルに置きなおし、ベッドに座る。
一体どうして、こんなところに人魚がいるのか。
酒に潰されていない、昨日の記憶を思い起こす。

9名無しさん:2016/04/01(金) 08:37:08 ID:aULZrvKY0
 

ζ( 、 *ζ 「…………別れてほしいの」


真っ先に過ったのは恋人のその言葉だった。
僕が暴飲するきっかけの一言。
頭痛の重さが数倍になる。胃の中の不快感をそのまま吐き出しそうになる。

そうだ。そうだったのだ。
恋人に別れを切り出されて意味も分からず言い返すことも出来ずただ涙に気圧されて受け入れて。
そのままふらっと立ち寄った居酒屋で酒を飲んで。


( ^ω^) 「……何軒回ったか覚えてないな」


財布の中身が半分以下になっていた。
久々に会うあの人となるべく楽しい時間を過ごすために普段よりも膨らませておいたはずだ。
一人で飲んで減らしたとすれば、相当な量をやったことになる。
道理で、だ。体に起きているすべての不快感に納得できる。


( ^ω^) 「とりあえず、コレ、どうしよ」


ペットボトルを指で小突く。
人魚が、僅かに反応した。
それなりの時間放置していたはずだが生きてはいるらしい。

10名無しさん:2016/04/01(金) 08:38:05 ID:aULZrvKY0

ひと風呂浴びてもう一度寝てしまいたいが、これを無視するわけにもいかない。
僕は窓を開けサッシの端をコツコツと指で叩いた。
弱い雨脚の中塀の向こうからのっそりと現れたのは尾の曲がった薄汚い野良猫。


(,,゚Д゚) 『なんだ』

( ^ω^) 「とりあえず上がってくれ。そこでは濡れる」


猫を家に上げ、体を拭いてやりながら事情を話した。


(,,゚Д゚) 『人魚か。相変わらず妙なものを引き寄せる』

( ^ω^) 「それが、どこでどう拾ったか全く覚えて無いんだ」

(,,゚Д゚) 『そういうものだ。覚えている方がタチが悪い』

( ^ω^) 「どうすればいい?」

11名無しさん:2016/04/01(金) 08:39:22 ID:aULZrvKY0

猫が教えてくれたのは人魚の飼育法だった。
大よそ金魚と同じあるいはそれよりも簡単だ。
僕としては処分方法を聞きたかったのだが、


(,,゚Д゚) 『祟られたくなければ下手に処分しようとするなよ。寿命をまっとうさせるのが最も楽で安全だ』

というので大人しく従っておく。

押入れから昔使っていた水槽を取り出し水を溜める。
金魚ならば水道水のカルキを抜かなければならないが、人魚の場合態々やる必要も無いらしい。
ただし、もともと浸っていた水は必ず混ぜること、とも言われていたので、ペットボトルの水ごと人魚を水槽に移した。


( ^ω^) 「……お、元気になった」


人魚は寝ぼけたように数回瞬いたあと槽の中をクルリと泳いだ。
とりあえずはこれでいいようだ。
餌は不要でとにかくまめに水を足してやれば十分らしい。

僕が言う通り人魚の飼育を始めたのを確認して、猫は雨の中に去っていった。

12名無しさん:2016/04/01(金) 08:40:16 ID:aULZrvKY0
 





人魚の世話を初めて数日が経った。
みるみるおおきくなり体の色もしっかりとついて、より「人魚」のイメージに近い姿になっている。


ξ゚⊿゚)ξ。゚


性別は、どうやら雌であるようだ。
長い金髪と睫毛の立った大きな目には女性的な印象をうける。
僕は彼女に「ツン」と名を与えた。


ξ‐⊿‐)ξ 〜♪


ツンは昼間は鉢の底の砂利に寝そべり、黄昏を過ぎると水面に横たわって浮かび、唄を歌った。
穏やかで、どこか寂しげな旋律。
仕事を終え家についてからしばらくの時間を、その歌を聞いて過ごすようになった。

13名無しさん:2016/04/01(金) 08:41:08 ID:aULZrvKY0

( ^ω^) 「その唄は、どこで覚えた?」

ξ゚⊿゚)ξ ?

( ^ω^) 「人魚の唄なのか?」

ξ゚⊿゚)ξ

( ^ω^) 「それとも魚の歌か?」

ξ゚⊿゚)ξ

( ^ω^)

ξ‐⊿‐)ξ ………♪

( ^ω^) 「……まあ、いいか」


ツンの歌は自然に、耳にも生活にも馴染んでいった。

14名無しさん:2016/04/01(金) 08:42:40 ID:aULZrvKY0
. 
 
 
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。おあよ。

( ^ω^) 「ああ、おはよう」
 

 
ξ゚⊿゚)ξ ぶん。いちぇりゃしゃい。

( ^ω^) 「うん。いってきます」



ξ゚⊿゚)ξ ぶん。ちゃだゃいみゃ。

( ^ω^) こういう時は、おかえり、っていうんだ。

ξ゚⊿゚)ξ おきゃえり?

( ^ω^) 「はい、ただいま」


唄を歌うようになってしばらくすると、今度は言葉を覚えるようになった
ちょっとした会話ならば、数度繰り返せばこなせるようになる。
発音はいくらか怪しいが、簡単な意思疎通は可能だった。

僕が家を空ける間ツンが寂しがらないよう、ラジオをかけて出かける習慣が出来た。
彼女の歌に拙い歌詞が付き始めたのもこの時である。
ツンはラジオで聞いた歌を良く口ずさみ、昼間僕がいない間自分がどうしていたかを、精一杯伝えようとする。

僕が彼女に対し愛着を覚えるのは当然のことだと思えた。

15名無しさん:2016/04/01(金) 08:43:38 ID:aULZrvKY0

ツンは歌や言葉を覚えるのに比例して、体も徐々に大きくなっていた。
あくまで金魚並の大きさではあるが、最初の頃の二倍程になっただろうか。


( ^ω^) 「お前、腹は減らないのか」

ξ゚⊿゚)ξ はら、ここ、ある。  モニモニ

( ^ω^) 「そうでなくてな」

ξ゚⊿゚)ξ ?  モニモニ


猫に言われた通り、ツンには一切の食糧を与えていない。
一体どこで何を得て体を膨らませているのか不思議だったが、それを異常とは感じなかった。
そもそも人魚である。理解できるとも思わない。

ツンの新しい住処として二回りほど大きな水槽を入手した。
所帯を持ちそれまでの趣味を棄てた知人が処分に困っていたものを安く譲ってもらった。

ξ‐⊿‐)ξ 〜♪

新しい住処に映った日のツンの歌は心なしかいつもよりも明るさを持っていた。

16名無しさん:2016/04/01(金) 08:44:20 ID:aULZrvKY0

ツンの覚えた曲が10を超えた頃、僕は部屋の掃除をしていて、指輪が無いことに気付いた。

別れた恋人とクリスマスだったか、どちらかの誕生日だったか、何かの記念日に揃いで買ったものだ。
外せばくっきりと残っていた指輪の跡が、全く消えている。

そう言えば、あの日の時点ですでになくなっていたような気がする。
酔った時に外して、部屋のどこかに転げてしまったのだろう。

どうして気がつかなかったのか。
いや。気にならなかった、というのが正しいのかもしれない。
あの日から僕は別れたあの人への名残に咽ぶことも無くツンの世話に没頭している。


( ^ω^) 「ツン、ありがとうな」

ξ゚⊿゚)ξ ?

( ^ω^) 「お前が居なかったら、俺は陰鬱な感情に噎びながら日々を過ごす羽目になっていたかもしれない」

ξ゚⊿゚)ξ ぶん。

( ^ω^) 「うん」

ξ゚⊿゚)ξ ぶん。

( ^ω^) 「ああ」

17名無しさん:2016/04/01(金) 08:45:11 ID:aULZrvKY0

なるべく遅く仕事へ行き、なるべく早く部屋に帰る日々を繰り返した。
ツンは毎朝寂しげな唄を奏で、僕が帰るたびに尾びれで水面を叩いた。


( ^ω^) 「ツン」

ξ゚⊿゚)ξ ぶん。

( ^ω^) 「CDを買ってきた。たまには一緒に聴くか」

ξ゚⊿゚)ξ ちいでい。

( ^ω^) 「これには、音が入ってるんだ」

ξ゚⊿゚)ξ ?

( ^ω^) 「待っていろ」


休日の度に、僕は新しいCDを買って帰り、ツンと共に聞いた。
それまでは本や漫画、それと恋人と遊ぶために使っていた遊興費のほとんどをCDの購入に充てた。

ツンの歌は次々多様になっていった。
安物のスピーカーから流れる音よりもツンのか細い声を僕は気に入って。
僕が耳を傾けていることに気付くと、ツンは一層声を高くして歌って聴かせた。

18名無しさん:2016/04/01(金) 08:46:56 ID:aULZrvKY0

ξ゚⊿゚)ξ ぶん。しごと。

( ^ω^) 「今日は休みだ」

ξ゚⊿゚)ξ やすみ。

( ^ω^) 「ああ」

ξ゚⊿゚)ξ やすみ?

( ^ω^) 「しごと、ない」

ξ゚⊿゚)ξ しごと、ない。

( ^ω^)

ξ゚⊿゚)ξ やすみ。

( ^ω^) 「散歩、いくか」

ξ゚⊿゚)ξ さんぽ

ξ‐⊿‐)ξ さー――……んー――……ぽー―――――〜〜…………♪

19名無しさん:2016/04/01(金) 08:47:34 ID:aULZrvKY0

ツンは僕が休日を迎えるたびに散歩に出たがった。
散歩と言っても街や川原を歩き回るわけでなく、アパートの庭に出てツンに陽光を浴びさせる程度のものだ。
ツンはこの短く近い外出をいたく気に入った。

大きめのグラスに水槽の水ごとツンを掬って、外に出る。
僕がアパートの庭を一周する間、ツンはグラスの縁に捕まって、ずっと周囲を見回している。
あまり長く陽光に当てると火傷してしまうので、散歩は10分もせずに終わりだ。

ツンは、部屋に戻ると上機嫌な歌を口ずさんだ。
僕はそれを聴きながらしばしのうたたねに興じる。
穏やかな心地だった。


ξ゚⊿゚)ξ

( ‐ω‐) 「…………」

ξ゚⊿゚)ξ ぶん、ねた。

( ‐ω‐) 「…………おきてるよ」

ξ゚⊿゚)ξ ねてない。

( ‐ω‐) 「…………うん」

ξ‐⊿‐)ξ ………………………♪


窓の向こうから猫が僕たちを見ている。
僕は薄眼でそれを見て、気付かなかった顔でそのまま眠りに就く。

20名無しさん:2016/04/01(金) 08:49:10 ID:aULZrvKY0

夢を見る。
僕はいつものベッドに寝そべっていて動くことができず天井を見ている。
金縛りのような苦しさは無く眠気に体が沈み込んで感覚が優しく痺れるようなそんな感覚。

部屋の中には透明な水が満ちている。
月の明りは白い線。
手を伸ばせば触れられそうだ。
そしてきっと心地よく冷たいのだろう。

ツンが泳いでいる。
普段とは異なり、人の子供ほどの大きさでゆったりとたゆらうように。
細くつややかな髪が広がっている。窓から差し込む白に触れて金色に燃える。

ツンが僕の視線に気付く。
すいと泳ぎ寄り手を差し伸べた。

頬に手が触れる。冷たい。
魚の体温だ。あまり長く触れると火傷してしまう。
だけれど僕は何も喋ることができない。

ツンが僕の胸に寄り添った。
唄を歌っている。水の中でも良く通る、不思議な音色だった。

21名無しさん:2016/04/01(金) 08:49:50 ID:aULZrvKY0


( ^ω^) 「……」


目を覚ます。
僕はいつものベッドの上にいる。

テーブルの上。水槽の中。
ツンは砂に横たわり静かに眠っている。

頬が冷たい。
触れると指先が僅かに濡れた。

指を見る。
天井を見る。

部屋の中も外も静かで暗く仄かに青い。
カーテンから白い光が漏れている。
月は今日も眠れないらしい。

ため息を吐く。
それが泡にならないことを少しだけ不思議に感じながら、僕は再び眠りについた。

22名無しさん:2016/04/01(金) 08:50:36 ID:aULZrvKY0








ツンと共に生活を初め一月が経った頃。
それまで元気だったツンが徐々に衰弱し始めた。

初めは些細な変化だった。
記憶を辿れば確かにそうだと思う節がる、という程度の本当に小さな。
しかし、僕がもしやと思う頃には、どれだけ楽観的に見てもそうであると分かるほど著しいものになっていた。

歌うどころか水面に浮かび上がることも少なくなる。
気に入っていたラジオすらも不快なようで電源を落としておくことが増える。


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