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沼男はいないようです

1 ◆qRAFc2g8TE:2016/03/30(水) 14:46:57 ID:jK9Wh.Rc0





「もう一度問おう」





「君たちは、ニセモノを許すことが出来るか?」





* * *

2名無しさん:2016/03/30(水) 14:48:46 ID:jK9Wh.Rc0

 ポン、と。
到着音が、3人の乗客の耳に響く。
上部パネルに映し出された階数表示は、この建物の最上階を示している。

 音もなく左右に扉が開くと、出口には白衣姿の老人が1人佇んでいた。

 3人組は驚いた様子だったが、呆然としているわけにもいかない。
扉が閉じてしまう前に、慌てて鉄箱から降りる。

 全員が降りたことを確認してから、老人は口上を述べた。


/ ,' 3「ようこそ、私の研究所へ。本日はわざわざ来てくれてありがとう、学生諸君」


 それだけ言うと、老人は返事も待たずに背を向け、スタスタと歩き始めた。
廊下は一本道になっていて、最奥には両開きの扉が見える。

 「学生諸君」と呼ばれた3人の男女は、置いて行かれぬよう、老人の後ろについていく。

3名無しさん:2016/03/30(水) 14:50:31 ID:jK9Wh.Rc0

 しばらくして、扉の前に到着した。
プレートには「所長室」と書かれている。
老人がその扉を押し開き、3人に入るよう促す。

 彼らは「失礼します」と言い、部屋の中へ入る。
そして最後に老人が入り、バタンと扉を閉じた。

部屋の中央まで進み、くるりと3人の方へ向き直り、語りかける。


/ ,' 3「……まずはそうだね、自己紹介でもしてもらおうか。君から順に頼むよ」

(;^ω^)「は、はい!」


 老人に視線を向けられた小太りの男は、額に汗を浮かべながら応える。
見るからに緊張しているようだ。


(;^ω^)「えーと……VIP大学2年、内藤ホライゾンですお。本日はよろしくお願いしますお」

4名無しさん:2016/03/30(水) 14:51:39 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「内藤君だね、よろしく。じゃあ次、君」


 老人は軽く頷くと、内藤の隣の女性へと視線を移す。


(*゚ー゚)「同じくVIP大学2年の猫田しぃです。本日はよろしくお願いします」


 ショートヘアの女性は、そう言いながらぺこりとお辞儀をする。
内藤ほどではないが、彼女も若干緊張しているようだ。


/ ,' 3「猫田君、よろしくね。最後は……」

( ・∀・)「同じくVIP大2年の茂羅モララーです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

5名無しさん:2016/03/30(水) 14:52:50 ID:jK9Wh.Rc0

 整った顔立ちの男が最後に答える。
襟元をきっちりと揃え姿勢を正して挨拶をするその姿は、学生にしては随分としっかりしているように見える。


/ ,' 3「はは、そんなに畏まらなくていいさ。それより、立ちっぱなしで話すのも億劫だ。みんな座っていいよ」


 そう言うと、老人はおもむろに一人掛けの椅子に座る。
透き通ったガラスのテーブルを挟んで、向かいの長椅子が空いている。
詰めれば4人ほど座れることだろう。

 促されるままに、3人は席に着く。
それを見届け、老人は口を開いた。


/ ,' 3「ふむ……それじゃあ最後に、私も自己紹介をしようかね」


.

6名無しさん:2016/03/30(水) 14:54:04 ID:jK9Wh.Rc0





/ ,' 3「初めまして。私の名は荒巻スカルチノフ。しがない研究者だ」



/ ,' 3「そして、早速で悪いが……君たちにはこれから」



/ ,' 3「私の『実験』に、付き合ってもらう」





* * *

7名無しさん:2016/03/30(水) 14:56:03 ID:jK9Wh.Rc0

 事のはじまりは、およそ1週間前。


( ФωФ)「内藤と猫田、この後ちょっと来てくれ」


 テスト期間も終わり、学生たちはこれからの夏休みに思いを馳せていたところだった。


( ^ω^)「? わかりましたお」

(*゚ー゚)「はい」


 そんな中、教授に呼ばれた2名。
彼らは同じゼミ生という以外、特に接点が無い。

 他にも同じゼミ生は周りに何人かいるのに、何故自分たちだけが呼ばれたのだろう。
そんな疑問を抱きながら、彼らは教授の元へ向かう為に軽く身支度を済ませる。


('A`)「杉浦教授から指名で呼び出し、おー怖い怖い。いってら」

( ^ω^)「おーん、行ってくるお。遅くなるかもしれないし、先に帰ってていいお」

('A`)「へいよ、そんじゃまたな」

8名無しさん:2016/03/30(水) 14:57:41 ID:jK9Wh.Rc0

(*゚ー゚)「ごめんねミセリ、その話はまた今度で」

ミセ*゚ー゚)リ「ううん、良いよ。頑張ってきてね」


 各々の友人と別れを告げ、教授が行った方角を目指して歩く。
彼の姿はもう無い。
おそらく、研究室に来いという事なのだろう。


(*゚ー゚)「内藤くん、心当たりは?」

( ^ω^)「身に覚えが無いお……そっちは?」

(*゚ー゚)「私も……なんだろうね、ゼミのことかな?」


 教授の杉浦は、学生の間で厳しい事で有名だ。
彫りの深い強面な外見に加え、妥協を許さない性格が、そういった印象を与えるのだろう。

 そんな教授からの指名での呼び出し。
身に覚えが無いとはいえ、些か緊張するのも無理はないだろう。
いや、身に覚えがないからこそ緊張するのだろうか。

9名無しさん:2016/03/30(水) 14:59:03 ID:jK9Wh.Rc0

 そんなことを考えつつ、軽く雑談を交わしながら、杉浦の研究室へと向かう。まだもう少しかかりそうだ。


ξ゚⊿゚)ξ「あら、ブーン」

( ^ω^)「お、ツン」


 向かいから歩いてきた女性は、津出ツン。内藤の恋人だ。

 ブーンというのは、内藤の愛称である。もっとも、そう読んでいるのは彼女と親しい友人くらいしか居ないが。

 津出は内藤が他の女性と2人で歩いてるのを見て、やや眉をひそめる。


ξ゚⊿゚)ξ「どこに行くの?」

( ^ω^)「杉浦教授に呼ばれたんだお」

(*゚ー゚) ペコリ

ξ゚⊿゚)ξ「そう……じゃあ私、先に帰ってるから」

10名無しさん:2016/03/30(水) 15:00:06 ID:jK9Wh.Rc0

( ^ω^)「……わかったお」


 内藤が言い終わらないうちに、スタスタと横を通り過ぎて行く。


(*゚ー゚)「内藤くんの彼女さん?」

( ^ω^)「そうだお。高校時代からの付き合いだおね」

(*゚ー゚)「へー。なんだかごめんね、空気悪くしちゃったみたいで」

( ^ω^)「おっおっ、猫田が謝ることないお。最近ちょっと喧嘩しちゃって、少し険悪ムードなんだお」

(*゚ー゚)「ふぅん……なんで喧嘩しちゃったの?」

( ^ω^)「大した理由じゃないお。次のデート先について口論になって……」


 そこまで言うと、内藤はほんの少し顔を顰める。
どうやら、嫌なことを思い出してしまったようだ。

11名無しさん:2016/03/30(水) 15:01:22 ID:jK9Wh.Rc0

( ^ω^)「あーもう、やめやめ。そんなことより、そっちこそギコとはどうなんだお」


 内藤の高校時代のクラスメイトである埴輪ギコ。
彼と内藤は、それぞれ違う学部に所属している。

 元から親しい間柄だったという訳ではないが、大学に入ってからは特に関係が疎遠になった。
詳しくは数えていないが、恐らく話した回数なんて両手で足りる程度だろう。

 猫田とギコが付き合っていると知った時は驚いたものだ。
まだ付き合って半年程度らしい。


(*゚ー゚)「相変わらずかな。今度ギコくんの家で飲むんだー」

( ^ω^)「おっおっ、仲が良さそうで何よりだお。そういえば、ギコが甘党って知ってるかお?」

12名無しさん:2016/03/30(水) 15:02:19 ID:jK9Wh.Rc0

(*゚ー゚)「もちろん知ってるよー。和菓子とか大好きなんだ」

( ^ω^)「高校の時、毎日ボンタンアメを常備してたくらいだお。今は知らないけど」

(*゚ー゚)「そうなんだ、かわいいなー」


 当たり障りのない会話を続けながら、てくてくと進んで行く。
そうこうしているうちに、杉浦の研究室に辿り着いた。

 コンコンとドアを叩く。
そして名を告げようとすると、その前に中から杉浦の返事が聞こえる。
どうやら入って良いようだ。


( ^ω^)「失礼します」

(*゚ー゚)「失礼します」

13名無しさん:2016/03/30(水) 15:03:35 ID:jK9Wh.Rc0

 中に入ると、待っていたのは杉浦と1人の男。
横長の机を挟んで、お互い椅子に座っていた。
杉浦は何やら手元の紙束を眺めながら、声だけをこちらに向ける。


( ФωФ)「よく来てくれた、2人とも。急な呼び出しで済まない」

( ^ω^)「構いませんお。えっと、そちらは……」

( ・∀・)


 見た感じ、おそらく学生だろう。内藤も猫田も、彼と面識が無いようだが。


( ФωФ)「彼は茂羅君。君たちとは違う学部の生徒だ。同じ理由でここに来てもらった」


 杉浦から紹介を受けると、こちらに向かって頭を下げる。
釣られてこちらも軽く頭を下げる。

14名無しさん:2016/03/30(水) 15:05:08 ID:jK9Wh.Rc0

 軽い挨拶が済むと、杉浦が書類から内藤と猫田の方に視線を移す。
2人は茂羅の隣、杉浦の向かいの席に腰掛ける。
それを確認すると、杉浦は口を開いた。


( ФωФ)「さて、集まって貰って早速で悪いんだけどね。君たち、来週の土曜は空いているかい?」

( ^ω^)「はい?」

(*゚ー゚)「……ちょっと待って下さいね」

( ・∀・)「僕は大丈夫です」


 唐突な質問を怪訝に思いながら、内藤と猫田は予定帳を開いて確認する。
茂羅は何も見ずに即答した。


(*゚ー゚)「私は空いてますよ」

( ^ω^)「僕もまぁ、空けることは出来ますお」

( ФωФ)「そうか、運が良い。実は君たちに、実験の手伝いをして欲しいと依頼してきた方がいらっしゃるのだ」

15名無しさん:2016/03/30(水) 15:06:27 ID:jK9Wh.Rc0

( ^ω^)「……はぁ」

(*゚ー゚)「えっと……」

( ・∀・)「……なんで僕たちに?」


 杉浦に呼ばれた3人に、特筆すべき接点は無い。
内藤と猫田は多少の付き合いがあるけれど、茂羅に至っては2人とも今日が初対面だ。

 何故自分達がその実験の対象にされたのかが、理解出来ない。
3人の考えを代表して、茂羅が杉浦に質問をする。


( ФωФ)「順を追って説明しよう。まずは依頼者の話だ」


 そう言うと席を立ち、杉浦はおもむろに壁際の棚を漁り始める。
そこにあるのは、ビッチリと収納されたファイル群だ。

 何か資料でも探しているのだろうか。
そんな事を考えていると、杉浦が思考に横槍を入れてくる。


( ФωФ)「君たち、テレポート装置は知っているよね?」

16名無しさん:2016/03/30(水) 15:07:27 ID:jK9Wh.Rc0

 テレポート装置。

 今から3年前、我が国のとある研究者によって、「それ」は発表された。
世界中に衝撃を与えた大発明だ。

 2つのテレポート装置の間を、たったの十数秒程度での移動が可能、という夢のような装置である。
それも、AからBに。BからAに。
どちらからでも往き来することが出来るのだ。

 無機物はもちろん、生物の移動もOK。
さらに1度に1人だけといった制約はなく、多人数の同時テレポートを実現させた。

 漫画や映画、小説の中の世界でしかあり得なかったことが遂に実現されたのだ。
まさに夢の技術である。

 当時ニュースやテレビ番組、ネットでは当然ながらその話題で持ちきりだった。

 国民ほぼ全員が知ってると言っても、過言では無いだろう。
無論、内藤達も例外では無い。

17名無しさん:2016/03/30(水) 15:09:02 ID:jK9Wh.Rc0

( ^ω^)「当然知ってますお」


 内藤が代表して答える。他の2人も同様だろう、軽く頷いている。

 すると杉浦が、机の上にファイルを広げる。
3年前、テレポート装置発表当時の記事がスクラップにして纏められたものだ。


( ФωФ)「実は今回の依頼者が、それの開発者でね」


( ^ω^)

(;^ω^)「…………え?」

(;*゚ー゚)「…………へ?」

(;・∀・)「…………はい?」


 唐突な重要情報に、理解が追いついていない様子の3人。

 茂羅が新聞記事をチラリと一瞥し、少し震えた声で尋ねる。

18名無しさん:2016/03/30(水) 15:10:01 ID:jK9Wh.Rc0

(;・∀・)「……荒巻博士からの依頼、ということ、ですか?」

( ФωФ)「その通り。今回の実験の依頼人は、荒巻スカルチノフ博士。テレポート装置の開発者だ」

(;^ω^)「……マジですか?」

(;*゚ー゚)「冗談とかじゃ無いですよね?」

( ФωФ)「信じられん気持ちは分かるが、マジだ。条件に合った学生を数人寄越せと言われた。あ、これ絶対知り合いとかに言いふらすなよ」

(;・∀・)「いやいや、そもそもなんで杉浦教授の元にそんな話が?」

( ФωФ)「私は荒巻博士と親交があってな。先日手紙を寄越された」


 そう言いながら、机を指差す。
書類だらけで何が何やら分からないが、恐らくあの紙束の山の中に手紙があるということだろう。

19名無しさん:2016/03/30(水) 15:10:50 ID:jK9Wh.Rc0

(;*゚ー゚)「……初めて聞きましたよ。杉浦教授が、あの荒巻博士と知り合いだなんて」

( ФωФ)「まぁそりゃあ、言ってないからな。そこそこ長い付き合いだよ」

(;・∀・)「そうなんですか……」

(;^ω^)「あの、それよりも。さっきチラッと言ってた『条件』というのは……?」

( ФωФ)「おお、そうだ。話が脱線したな」


 咳払いを1つして、杉浦は話を続ける。
3人は心なしか、先ほどより少し前のめりになっているようだ。

20名無しさん:2016/03/30(水) 15:11:51 ID:jK9Wh.Rc0

( ФωФ)「荒巻博士が課した条件は、残念ながら全て開示することは出来ない。実験に関わる問題らしいからね」

(;^ω^)「はぁ……」

( ФωФ)「でもその中で、これだけは明かしても良いと言われた。それは……」


 もう一つ軽い咳払いをして、杉浦は答える。


( ФωФ)「テレポート装置を使ったことが無い人間であること、だ」



* * *

21名無しさん:2016/03/30(水) 15:13:01 ID:jK9Wh.Rc0

 テレポート装置は、民間でも活用されている。

 純粋に移動手段として使われることは勿論、例えばエレベーターの代替手段として用いられることもある。

 代表例はこの国のシンボル、「VIPタワー」。
世界で一番高い建造物として名高いこの建物、高さは全長1300メートルにも及ぶ。

 そしてこの建物は、いち早くテレポート装置を取り入れたことで世界的に有名だ。

 これを導入したことにより、最上階に到達するまでの所要時間を大幅に短縮させることに成功した。
もちろん、景色を楽しみたいという人のために従来のエレベーターも備えている。

 回転効率の上昇による待ち時間の軽減と最新技術の導入によって関心を集め、来場者数は導入以前と比べ数倍に跳ね上がった、という話がある。

 このように、高層階まである建物ではテレポート装置を利用しているところも少なからずあるようだ。

22名無しさん:2016/03/30(水) 15:16:30 ID:jK9Wh.Rc0

 他にも、先月にオープンしたばかりの「したらば水族館」。
水深300メートルの深海に佇む、ドーム状の自然水族館だ。

 従来のエレベーターでは維持が困難だし、客を毎回潜水艦で運ぶのはコストがかかり過ぎる。
そのような問題を一挙に解決したのが、このテレポート装置だ。

 こちらも世界中から、様々な観光客が訪れるメインスポットとなりつつある。
オープンから一月経った今でも、その人気は衰えることを知らない。

 人間が容易に行くことの出来なかった場所へ簡単に行けるようになり、行くのに時間を要した場所へは短時間で行けるようになった。

 だが、いくら便利だとはいえ、内藤達のように今まで使ったことのない人間も少なからずいる。

 先日やっていたニュースの世論調査によると、この街の7割以上の人は、テレポート装置を利用した事があるそうだ。
VIP大でも、利用したことのある人間の方が多いことだろう。

 つまり、今やテレポート装置を利用した事のない人の方が少数なのだ。

23名無しさん:2016/03/30(水) 15:17:31 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「今回の実験にあたり、条件を設けた。今一度確認させてもらうよ」


 荒巻がこちらをぐるりと見渡し、尋ねてくる。


/ ,' 3「君たちは、テレポート装置を1度も利用した事がない。間違いないね?」

( ^ω^)「はい」

(*゚ー゚)「はい」

( ・∀・)「はい」

/ ,' 3「よろしい。他の条件については何か知っているかね?」


 内藤たちは顔を見合わせる。杉浦は何も教えてくれなかった。


( ・∀・)「何も知らされていません」

24名無しさん:2016/03/30(水) 15:19:33 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「うむ、良かった。ロマはちゃんと言いつけを守ってくれているみたいだ」


 あの杉浦を愛称で呼んでいる。
どうやら、親交があるというのは事実のようだ。
疑っていたわけではないが、いざその事実を突きつけられると改めて実感する。

 しかし、一体2人はどのような関係なのだろう。

 荒巻は見た限り、齢70を超えている。
白髪だらけの頭髪や肌の皺の具合は、テレビや雑誌で見かける姿よりもやつれて見える。

 きっとこっちが荒巻本来の姿なのだと思うと、やはり研究者は苦労が絶えないのだろうな等と勝手に想像してしまう。

 少なくとも杉浦と同い年には見えない。
杉浦は見た限り50を少し過ぎた程度だ。
師弟関係か何かなのだろうか。

25名無しさん:2016/03/30(水) 15:20:22 ID:jK9Wh.Rc0

 コンコン。

 控え目なノックの音が、思考の海から意識を引き上げる。
荒巻が「入れ」と言うと、奥の扉が音を立てずに開く。


川 ゚ -゚)「失礼します」


 入ってきたのは、スーツ姿の女性だった。
左手に載せたお盆には、コップが4つ並んでいる。


/ ,' 3「彼女も一応研究員なのだがね。秘書業務もこなしてもらっている」


 独り言のように呟き、お茶を受け取る。


川 ゚ -゚)「どうぞ」

( ^ω^)「ありがとうございますお」

(*゚ー゚)「いただきます」

( ・∀・)「どうも」

26名無しさん:2016/03/30(水) 15:21:16 ID:jK9Wh.Rc0

 コトリと軽い音を立て、机の上にコップが並べられる。冷たい麦茶のようだ。

 空になったお盆を抱えて、彼女は再び奥の扉へと消えた。


/ ,' 3「さて、それではそろそろ本題に入ろうか。これからの実験について」


 ついにきた。

 3人とも背筋をピシリと伸ばし、座り直す。
世紀の発明家、荒巻スカルチノフの実験とは果たして何なのか。

 好奇心と、若干の恐怖心が支配する。
沈黙は、そう長く続かなかった。


/ ,' 3「今回の実験は、人間観察だ。観察対象は君たち。そこまではいいね?」

(;^ω^)「……はい」

(;*゚ー゚)「わかりました」

( ・∀・)「はい」

27名無しさん:2016/03/30(水) 15:22:16 ID:jK9Wh.Rc0

 嚙みしめるように、腹を括ったように、何ともないように。

 三者三様の答えを聞き終えると、荒巻は語り始める。


/ ,' 3「君たちには、一月後にまたここに来てもらう。もちろん交通費は出すから安心してくれたまえ。それから今回の実験の参加報酬も、その時に渡す予定だ」


 報酬があるということは、前々から聞かされている。
具体的な金額については触れられていないが、少しは期待していいだろう。

 被験者3名は、それぞれ参加の拒否という選択肢が用意されていた。
自分達以外にも何人か、「条件」に合う生徒は居たそうなので、無理なら無理と断っても構わないとのことだったらしい。

 ところが、この3人は誰も拒否しなかった。
後日貰えるという報酬目当てか、それとも杉浦からの協力報酬である単位が目当てなのか、はたまたそれ以外の理由か。

28名無しさん:2016/03/30(水) 15:23:21 ID:jK9Wh.Rc0





/ ,' 3「それではこれより、実験を開始する。今から君たちには、私の話を聞いてもらう」



 動機なんて何だって良い。

 賽は投げられた。

 もう後には、戻れない




.

29名無しさん:2016/03/30(水) 15:24:18 ID:jK9Wh.Rc0










沼男はいないようです









.

30名無しさん:2016/03/30(水) 15:26:18 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「まずは君たち、私のテレポート装置がどういった原理で機能しているかを知っているかね」


荒巻は早速、質問を飛ばす。
いち早く回答したのは茂羅だった。


( ・∀・)「大まかにですが。出発点の人間を分子レベルに分解して、到達点で再構成するということだと認識しています」

/ ,' 3「うむ、そこまで理解しているなら話が早い」


 杉浦から見せて貰った、テレポーテーション理論についての資料に書かれていたことだ。
今回実験に参加するにあたり、3人はそれぞれ予習をしていた。

 条件から考えるに、恐らく今回の実験はテレポート装置について関わりがあると踏んだためだ。

 どうやら功を奏したらしい。

31名無しさん:2016/03/30(水) 15:28:03 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「……が、それだけでは勿論足りていない。その程度の理論なら、私はとうの昔に実用化まで出来ていた。この理論には、いくつか穴がある」

( ^ω^)「穴……ですかお?」


 頭上に疑問符を並べる内藤と猫田。
茂羅も表情に出してこそいないが、まるで分からないといった様子だ。


/ ,' 3「以降便宜上、出発点をA、到達点をBと呼ぶ事にする」


 机の上のコップを持ち上げ、中身を一口含む。


/ ,' 3「大きく分けて、問題点は2つ。まず第一に、転送と再構成の方法だ」


 コップを持ったまま、荒巻は話を続ける。


/ ,' 3「先ほど茂羅君が説明してくれた通り、A地点の人間は一度分解され、B地点で再構成される。しかしこれは、A地点の分子をそのままB地点に移動させてるわけではない」

32名無しさん:2016/03/30(水) 15:30:01 ID:jK9Wh.Rc0

 目付きが研究者のそれとなる。
学生にも分かるよう、噛み砕いて説明しているようだ。


/ ,' 3「分子ごと転送させるのは、正直今の技術では残念ながら不可能だった。2地点を太いパイプか何かで繋いだりしてるわけでもないしね」

/ ,' 3「そこで、分子移動自体を諦めた。私が考えついたのは、分子情報だけの移動だ」


 そこまで言うと、少し大袈裟に首を横に振る。
やれやれ、といった表情だ。


/ ,' 3「だがもちろん、その分子情報だけでは何も出来上がらない。そこでB地点には、あらかじめ『素材』を用意しておく必要があった」


 半分ほどにまで減ったコップの中身を、ちゃぷちゃぷと左右に揺らしている。
手持ち無沙汰なのだろうか。

33名無しさん:2016/03/30(水) 15:31:09 ID:jK9Wh.Rc0

 すると不意に、猫田が何かに気付いたかのように、ハッとなる。
今まで静かに聞いていた猫田だったが、唐突に荒巻に声を張り上げた。


(;*゚ー゚)「……ま、待ってください! それって、A地点とB地点の人間は別人じゃないですか!」


 ニヤリ、と。
荒巻は口角を上げる。
まるでその質問を待っていたかのように。


/ ,' 3「何故、そう思う?」

(;*゚ー゚)「な、何故って……だって、その分子は結局、別の物質ですよね? そんなの、同じ人間じゃない!」


コップを机に置き、腕を組む。


/ ,' 3「その反論は、論理的じゃないな。確かに元の物質は異なる。それは認めよう。だが、分子や原子という単位で見た場合、それは完全に同一のものだ。一体、何がどう違うというのだね?」

34名無しさん:2016/03/30(水) 15:32:07 ID:jK9Wh.Rc0

(;*゚ー゚)「…………」


 猫田は何かを言い返そうと、口をパクパクと開いている。
しかし、それ以上言葉を紡ぐことが出来ていない。


/ ,' 3「先に言っておく。私が語っているのは、冗談でも妄想でもない。全て真実だ。これは前提条件として、頭に入れておいてくれ」

( ^ω^)「……」

(;・∀・)「……」

/ ,' 3「……2人は、彼女と比べて動揺が少ないね。ここまでの話を聞いて、どう思った?」


 促される。先に茂羅から、自分の考えを言葉にしていく。


(;・∀・)「……難しい、です。正直、僕も猫田さんと似た意見を持っています。ですが、人間の本質は外見じゃなくて、心や精神に宿ると考えているので……なんというか……」

35名無しさん:2016/03/30(水) 15:33:58 ID:jK9Wh.Rc0

 そこまで言って、茂羅は黙り込む。
考えが上手く纏まらないようだ。


/ ,' 3「内藤君は、どう思う?」


視線を茂羅から外し、内藤へと向ける。


( ^ω^)「……特に問題は、無い、と思いますお。表面で見た限り、別の分子を使っているからって、僕ら人間には判別出来ませんし」

( ^ω^)「それに、その新しい人間は、ちゃんと前の自分の記憶を引き継いでいるんですおね?」

/ ,' 3「その通りだ。記憶だけでなく、生活習慣や日常の癖まで、全てを完璧に引き継いでいる」

( ^ω^)「だったら、別に構いませんお。僕は受け入れられると、思いますお」

36名無しさん:2016/03/30(水) 15:37:31 ID:jK9Wh.Rc0

(;*゚ー゚)「なっ――!?」

/ ,' 3「ふむふむ、なるほど。この時点で、三者三様の意見が出ているね」


 猫田が内藤に向けて何かを言おうとしたが、荒巻が先に話し始める。


/ ,' 3「さて、ここまでは世間で語り尽くされた話だ。だが、ここからは少しばかり、話が飛躍する」


 3人それぞれの目を覗き込むように、じっと見つめている。

 確かめるように、噛み締めるように、一言ずつ紡いでいく。


/ ,' 3「既に少し話題に挙がったが、『感情』『記憶』『精神』『魂』『心』といった、目に見えないもの」


 組んだ腕を解き、左手の指を1本ずつ立てていく。
全ての指を開いた後、また手を元に戻す。


 そして軽く、深呼吸。

 数秒の間を置いて、言い放つ。


/ ,' 3「私はこれらを、分析、そしてデータ化することに成功した」

37名無しさん:2016/03/30(水) 15:39:32 ID:jK9Wh.Rc0

 唖然、といった表現が一番適しているだろう。
まるで言葉を奪われてしまったかのようだ。
それでも、茂羅はなんとか喰らいつく。


(;・∀・)「どっ……どういう、ことですか?」

/ ,' 3「言葉の通りだ。A地点で肉体の分子情報だけでなく、精神や記憶の情報も全て読み取り、データ化する。そしてその後、マザーコンピュータを経由して、B地点にその情報が転送されるのだ」

(;・∀・)「馬鹿な!? そんなこと、出来るわけ――」

/ ,' 3「出来たんだよ。やったんだ。その産物が、テレポート装置さ」


 荒巻は立ち上がり、奥へと歩いて行った。
少し声を張って、話を続ける。

38名無しさん:2016/03/30(水) 15:41:10 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「先程挙げた、2つの問題点。1つ目は存外楽に解決出来た。以前から私が研究してた分野だったのでね」


 ガラッ

 奥にある机の引き出しを漁っている。どうやら、何かを探しているようだ。


/ ,' 3「しかし……2つ目の問題。精神や感情は、難しい問題だった。これが解決出来なければ、B地点に現れるのは、A地点にあった人間と全く同じ形をした、ただの抜け殻だけだからね」


 目当てのものを見つけたのか、荒巻は何かを手に取り、引き出しを元に戻す。
内藤たちの座っている場所からは、若干遠くてよく見えない。


/ ,' 3「だが、長年の研究の末、私は辿り着いた。人間の『精神』をデータ化することに」


 コツ、コツ、と此方へ歩み寄ってくる。

39名無しさん:2016/03/30(水) 15:42:21 ID:jK9Wh.Rc0

(;・∀・)「嘘だ!!」

/ ,' 3「嘘はつかんと約束しただろう」

(;・∀・)「そんな、だって、一体どれほどの情報量に――」


 コトッ。

 戻ってきた荒巻が、机の上に何かを置く。
今、引き出しから取り出してきたものだろう。


/ ,' 3「1人分の情報につき、この記憶装置たった1つで事足りる」


 思わず3人全員が息を呑む。
見たところ、タバコの箱程度のサイズにも満たないこの小さな黒い物体。

 こんなものの中に、人間の精神は収まるというのか。


/ ,' 3「これはあくまで、視覚的に捉えやすいようにと出しただけだ。実際には、マザーコンピュータが一元管理している」

40名無しさん:2016/03/30(水) 15:43:24 ID:jK9Wh.Rc0

 荒巻の台詞に食ってかかるかのように、茂羅が発言する。


(;・∀・)「それじゃあ、今この街にいる人間は殆ど――!!」

/ ,' 3「殆ど?」

(;・∀・)「…………」

(;*゚ー゚)「…………」

(;・∀・)「…………ニセ、モノ…………だらけ…………じゃないか…………」



荒巻は言い返す。


/ ,' 3「ニセモノなんかじゃない。本人そのものだ」

(;・∀・)「……失礼を承知で言わせてもらいます。それは、荒巻博士の作り物だ」

41名無しさん:2016/03/30(水) 15:44:24 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「では君にも、ついさっき猫田くんにぶつけた質問をしよう。一体、何がどう違うのだね?」


 茂羅は少し言葉に詰まる。
だがすぐに自分の意見を纏めたようで、荒巻に食らいつく。


(;・∀・)「……A地点で、オリジナルは一度殺されている。B地点で生成されているのは、本人なんかじゃない。クローン人間だ」

(;*゚ー゚)「そ、そうです!! A地点で分子レベルに分解されたそのオリジナルの意識は、そこで途絶える!! やっぱり別人です!!」

/ ,' 3「その反論は、確かに一理ある」


 すんなりと認める。
しかし、荒巻の表情は変わらない。


/ ,' 3「君たちの言う通り、A地点でオリジナルは生物学的な意味での死を迎えている」

(;*゚ー゚)「!?」

/ ,' 3「だが、そのことには誰も気が付かない」

42名無しさん:2016/03/30(水) 15:46:39 ID:jK9Wh.Rc0

/ ,' 3「本人は自分が死ぬということを認識せず、君たちの言うところのクローンだって、自分が既に一度死んだということに気付いていない。それでもそれを、死と呼べるのかね?」

(;・∀・)「そんなの……」


 茂羅は反射的に言葉を紡ごうとした。
が、後に続けるべき言葉がないことに気付く。

 荒巻はそれを見透かしたかのように、追撃を放つ。


/ ,' 3「少し聞き方を変えてみよう。一体、誰が困る?」

(;*゚ー゚)「…………」

(;・∀・)「…………」


 たっぷり、10秒。
この場を沈黙が覆い尽くす。


/ ,' 3「そう、誰も困っていない。誰にも迷惑をかけていないんだ。むしろテレポート装置によって、人間は圧倒的な利を得ているじゃないか」

43名無しさん:2016/03/30(水) 15:48:02 ID:jK9Wh.Rc0

 違う。そうじゃない。
そう言いたげな表情だが、何も反論を思いつかない様子だ。

 荒巻の論理は、一貫して筋が通っている。
反論しようにも、糸口が掴めない。


 話がひと段落ついたからか、荒巻は腕時計にチラリと目をやる。


/ ,' 3「さて、本来ならここでもう少し君たちと語り明かしても良いのだがね。生憎、まだ実験の本質に触れていない」

/ ,' 3「……今のところ、誰も気付いていないようだ。少し話を進めさせてもらうよ」

44名無しさん:2016/03/30(水) 15:48:38 ID:j55wpHwA0
スワンプマンな時点で不穏だったがこわいこわい

45名無しさん:2016/03/30(水) 15:49:04 ID:jK9Wh.Rc0



 気付いてない?

 一体、何に?


 衝撃の事実により頭が混乱しているのか、荒巻が一体何のことを言ってるのかまるで分からないといった様子だ。


 勿体をつけるつもりは無いのだろう。荒巻は続ける。


/ ,' 3「津出ツン。埴輪ギコ。都村トソン」


.

46名無しさん:2016/03/30(水) 15:49:59 ID:jK9Wh.Rc0

 3つ、列挙された名前。
3人とも、どれかしらに心当たりがあったのだろう。
何故この場でその名前が出てくるのかと、困惑しているようだ。


/ ,' 3「君たちの恋人で、間違い無いね?」


 誰も否定しない。首を縦にふる。


 そして数瞬後、全員が同時に気付く。



 構わず、荒巻は告げる。





/ ,' 3「君たちの恋人は、テレポート装置を利用したことがある」




.

47名無しさん:2016/03/30(水) 15:51:13 ID:jK9Wh.Rc0










実験、開始









.

48名無しさん:2016/03/30(水) 15:53:15 ID:jK9Wh.Rc0





case.A 内藤ホライゾン




.

49名無しさん:2016/03/30(水) 15:54:36 ID:jK9Wh.Rc0



 静寂。


 荒巻博士のその言葉から、誰も何も喋らない。

 猫田は何か喋ろうと、口をわなわなとさせている。
茂羅に至っては、目を見開いたまま動かない。

 その一方、僕はというと、比較的落ち着いて情報を整理することが出来ていた。


( ^ω^)「これが、例の条件ですかお」


 教授に知らされなかった、他の選抜条件。

 偶然にしては出来過ぎているし、それに博士が僕たち全員の恋人の名前をフルネームで知っていることが何よりの証拠だろう。


/ ,' 3「その通りだ。今回の実験の対象者は、『テレポート装置を利用したことが無く、かつ親しい人間がテレポート装置を利用したことがある人間』だ」

50名無しさん:2016/03/30(水) 15:56:41 ID:jK9Wh.Rc0

 今更隠す気もないのか、博士は肯定した。


/ ,' 3「恋人だけじゃない。例えば、内藤君。きみのご両親も、テレポート装置を利用したことがあるそうだね」

( ^ω^)「そうですおね。なにぶん、ミーハーなもので」


 僕の両親は、テレポート装置見たさにわざわざVIPタワーまで行ったことがある。
珍しいものや流行りものが大好きなうちの両親は、わざわざ並んでまでテレポート装置に乗りに行った。

 帰ってきた時はもう酷く興奮して、テレポート装置を利用した感想やらを僕に目一杯伝えてくれたものだった。
もっとも、表現力が乏し過ぎて何を言っているのかよく分からなかったが。

 ちなみに、僕はその日、友人のドクオの家で一緒に遊んでいた。


/ ,' 3「内藤君だけじゃない。茂羅君も猫田君も、身内や友人でテレポート装置を使ったことがある人間がいるだろう。それも、1人や2人ではないはずだ」

51名無しさん:2016/03/30(水) 15:58:47 ID:jK9Wh.Rc0

 言われて、2人がビクリと体を跳ねる。
どうやら心当たりがあるようだ。

 まぁ、当然だろう。
むしろ今、テレポート装置を使ったことのない僕らの方が異端なのだから。


/ ,' 3「この実験は、とある思考実験が基となっている。『スワンプマン』というものを聞いたことはあるかね?」


 僕は知らない。首を横にふる。

 猫田と茂羅も、虚ろな目をしながら軽く首を横に振っている。


/ ,' 3「ふむ、誰も知らないか。これは所謂、人格の同一性問題を考えるための思考実験でね」

52名無しさん:2016/03/30(水) 15:59:58 ID:jK9Wh.Rc0

 博士は語り始める。


 ある男が沼にハイキングに出かける。
この男は不運にも沼の傍で突然雷に打たれて死んでしまう。

 その時、もうひとつ別の雷がすぐ傍に落ち、沼の汚泥に不思議な化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一形状の人物を生み出してしまう。

 この落雷によって生まれた新しい存在のことを、スワンプマンと言う。

 スワンプマンは原子レベルまで死んだ瞬間の男と同一の構造をしており、見かけも全く同一である。
もちろん脳の状態も完全なるコピーであることから、記憶も知識も全く同一である。

 沼を後にしたスワンプマンは死んだ男が住んでいた家に帰り、死んだ男の家族と話をし、死んだ男が読んでいた本の続きを読みながら眠りにつく。
そして翌朝、死んだ男が通っていた職場へと出勤していく。

53名無しさん:2016/03/30(水) 16:01:23 ID:jK9Wh.Rc0



 語り終えて、一息つく。
一気に喋って、少し疲れた様子だ。


/ ,' 3「これが、スワンプマンだ。これより、テレポート装置を使ったことの無い人間を『オリジナル』。使ったことのある人間を『スワンプマン』と呼ばせてもらう」


 一々呼び分けるのも面倒だからね、と加える。


/ ,' 3「正直、スワンプマン問題についてなんて、これまでにあちこちで語り尽くされている。私は既に自分の意見を持っているし、別に君たちとそのことについて議論をしたいわけじゃない」


 博士はぐいっと、残ったお茶を飲み干す。
そしてコップを机の上に叩きつけるように置き、僕たちに言い放った。


.

54名無しさん:2016/03/30(水) 16:02:14 ID:jK9Wh.Rc0





/ ,' 3「愛するものが、スワンプマンだと知った今。君たちは、その人を愛し続けることが出来るかい?」




.

55名無しさん:2016/03/30(水) 16:03:12 ID:jK9Wh.Rc0







 はは。

 趣味の悪い実験だ。






* * *

56名無しさん:2016/03/30(水) 16:06:52 ID:jK9Wh.Rc0

 今からちょうど1ヶ月後、もう一度荒巻博士の元を訪れる約束だ。
しかもご丁寧に、レポートの宿題付きで、だ。


/ ,' 3『この話を聞いてから、今までと変わった行動があったら書き込んで提出して欲しい。些細なことでも構わない。形式とかも特に凝らなくていいし、何なら箇条書きで1枚だけでも問題ないよ』


( ^ω^)「はぁ……」


 今いるのは、電車の中。
夕暮れが窓から顔を出している。思ったより時間が経っていたようだ。
ガタンガタンと揺られながら、先ほどの「実験内容」を思い返す。

 白昼夢だったのではないかと思うほどに、突拍子も無い話の連続だった。
あれが夢じゃなくて現実だという証拠は、ポケットに入っている荒巻博士の名刺で十分だろう。


( ・∀・)「……」


 隣に座っているのは、茂羅だけだ。
猫田はどうやら別方面らしい。

 あれから一言も喋ってこない。
なんとなく空気が気まずいので、なんとかコミュニケーションを図ろうと試みる。

57名無しさん:2016/03/30(水) 16:08:36 ID:jK9Wh.Rc0

(;^ω^)「……」


 何も思いつかない。
あぁ、しっかりしろ僕。

 いやしかし、例えどんなことを言ったとしても、この状況は簡単には好転しないだろう。
だが、何も言わないよりは話し掛ける努力をすべきか――


( ・∀・)「……あのさ」

(;^ω^)「お! な、なんだお?」


 答えのない迷路をぐるぐると彷徨っていると、意外にも茂羅の方から僕に話し掛けてきた。
目は前を向いたままであるが。


( ・∀・)「……内藤は、俺や猫田ほど驚いてないように見えるけど……どうしてだ?」

(;^ω^)「おー……」


 難しい質問だ。僕が2人よりバカだから、まだ事の重大さに気付けてないだけだ、とも言い辛い。

58名無しさん:2016/03/30(水) 16:10:02 ID:jK9Wh.Rc0

 ここは僕なりの考えを、正直に述べよう。


( ^ω^)「……さっきも言った通り、僕は博士の考えにそこまで否定的ではないお」


 茂羅はピクリと反応する。視線を少し、こちらに傾けた。


( ・∀・)「……なんで?」

( ^ω^)「なんでって……僕には見分けが付かないからだお」


 僕なりの論理を頭で組み立てながら、なんとか言葉を紡いでいく。


( ^ω^)「荒巻博士が言ってた、えーっと……スワンプマン? が、街に溢れかえったとしても、正直、そこまで気にならないと思うお。だって、そのことに誰も気付けるわけがないんだから」

( ・∀・)「……」

59名無しさん:2016/03/30(水) 16:11:21 ID:jK9Wh.Rc0

 茂羅は黙って聞いている。
いや、聞いているというより、聞き流しているように見える。
恐らく、求めている答えと違ったのだろう。


( ・∀・)「……そうか」


 それっきり、また黙り込んでしまった。


 再び沈黙が支配する。
バックが奏でる音色は、リズミカルに揺れる電車の音だけ。
他に乗客は少なく、片手で数えるほどしか見当たらない。


 ああ、この中に一体何人のスワンプマンが紛れているのだろう。
もしかしたら全員オリジナルなのかもしれないし、或いは僕たち以外全員がスワンプマンなのかもしれない。
確率的には後者の方が十分あり得るだろう。


 考えれば考えるほど、眩暈がしてくる。全く、とんでもない実験だ。


 世の中には、知らなければ良い事実がたくさんある。
小説などで飽きるほど見たことのある陳腐な言い回しだが、これ以上に今の状況に合った台詞は無いだろう。

60名無しさん:2016/03/30(水) 16:12:37 ID:jK9Wh.Rc0

ふと、スマホで時間を確認する。僕の降りる駅まで、あと5分程度か。

 すると、ツンから連絡が数件来ていたことに気付く。
ああ、そういえば本来、今日はデートの予定だったなぁ。

 杉浦教授に頼まれた時、予定があるとちゃんと断っておけばよかったと今更ながらに後悔する。
そうしていれば、こんな事実を知ることも、お怒りのお姫様を宥めることも無かったのだ。


今度必ず埋め合わせをする、といった趣旨の返事をササっと書き上げ、送信。

 ふう、とため息をついてスマホを仕舞ったところで、茂羅が再度話し掛けてくる。


( ・∀・)「そういえば内藤ってさ、なんでテレポート装置使ったことないの?」

( ^ω^)

61名無しさん:2016/03/30(水) 16:13:35 ID:jK9Wh.Rc0

(;^ω^)「……」

(;^ω^)「……テレポートの瞬間、もしも痛かったりしたら嫌だなーって思ってて……」

( ・∀・)

( ・∀・)「……なーんだ、それww」


 軽く笑われた。
なんだろう、馬鹿にされてるのだろうか。


 言ったことが子供っぽくて少し恥ずかしくなったが、これで茂羅が元気になってくれたなら安いだろう。
そう自分に言い聞かせる。


 ああ、そろそろ目的地に到着だ。

 最後が明るい雰囲気で終わって良かった。



* * *

62名無しさん:2016/03/30(水) 16:15:07 ID:jK9Wh.Rc0

 家に帰ると、両親はもう夕食を用意して待っていた。
急いで手を洗って、食卓に着く。
2人とも待っていてくれたようで、申し訳ない反面、嬉しく感じる。


 今日の夕食は、デミグラスソースのハンバーグ。
小さい頃から僕の大好物だ。
特に母の作るハンバーグは絶品で、どうも先祖代々に伝わる秘伝のレシピがあるらしい。
配合や調理法は全て、頭の中だそうだ。
僕が知っているのは、牛と豚の合挽き肉を使用しているということくらいである。

 今まで一度たりとも、味が変わった事はない。
それなのに何度食べても飽きない。
まさに魔法のハンバーグだ。


 そう、一度たりとも。


( ^ω^)「……」


 嫌な考えが頭をよぎったが、すぐに揉み消す。
美味しいものを食べている時、嫌なことは忘れるに限る。

63名無しさん:2016/03/30(水) 16:17:10 ID:jK9Wh.Rc0

 いただきますの合図とともに、箸を構える。
さて、どれから食べようか。

 まずは付け合わせのジャガイモを、ハンバーグから溢れたデミグラスソースに浸す。
まだ微かに湯気が見える一口サイズの芋を、ぱくり。

 ほろほろと崩れるような食感。
熱々の芋を冷ますようにホフホフと口内に空気を送り込むと、じわっと味が伝わってくる。
芋本来の甘みが、ソースによってより一層際立つ。

 様々な野菜を含んでいるこのソースは、複雑ながらも綺麗に纏め上げられている。
独特の酸味は、きっと何か隠し味のせいだろう。

 口の中が少し濃い味に占拠されたところで、ご飯を一口含む。
じんわりと、優しい甘みが広がる。
内藤家のご飯は他所の家より若干硬めだ。
噛みしめるほどに、米の旨味が湧き出てくる。

64名無しさん:2016/03/30(水) 16:18:08 ID:jK9Wh.Rc0

 さぁ、そろそろメインのハンバーグに移ろう。
ぐっと力を込め、箸を入れる。
すると、刺した所から肉汁が洪水を引き起こす。

 それを一旦無視して、一口大サイズに割っていく。
下にはどんどんと肉汁が溜まる。

 このハンバーグの肉汁とデミグラスソースを軽く箸でかき混ぜ、それにハンバーグを浸し、がぶりと食す。

 少し大きく切り分け過ぎたか。口中で熱々の肉が暴れ回る。
獰猛なハンバーグを抑えるように、歯で捕捉。
噛むごとに野性的な旨味が溢れ出る。
時折自己主張してくるシャキッとした玉ねぎの食感も、良いアクセントとなっているようだ。

 この特製デミグラスソースは、組み合わせ次第で色々な顔を見せる。
野菜と合わせたら、野菜の甘みを最大限に引き出すサポート役。

 一方ハンバーグと合わさったら、とても攻撃的な顔を前面に出してくる。
大喧嘩になりそうなほどの旨味の戦いも、どういうわけかしっかりと調和してしまう。

 あぁ、いつもの味だ。いつもの母のハンバーグの味だ。
何故か軽く感動を覚えながら、次々と食べ進めていく。

65名無しさん:2016/03/30(水) 16:18:50 ID:jK9Wh.Rc0

 ふと、父と母の方に目をやった。
2人とも、とても美味しそうに食べている。
一口一口食べるごとに、ころころと表情が変わっていく。

 すると父が視線に気付いたのか、「どうした?」と尋ねてきた。


( ^ω^)「おっ、なんでもないお」


 そう言い、またハンバーグをつつく。
「変なやつだな」と一蹴されてしまった。
父もすぐに、意識は食事の方へと向き直ったようだ。


 これをニセモノだなんて、認めない。

 この人たちは間違いなく、僕の家族だ。



* * *

66名無しさん:2016/03/30(水) 16:20:18 ID:jK9Wh.Rc0

('A`)「そういえば、この前教授に呼ばれてたのって結局なんだったんだ?」


 ガチャガチャとゲームコントローラーを操作しながら、尋ねられた。

 中学からの友人である鬱田ドクオは、大学生になってから一人暮らしをしている。
大学から歩いて行ける距離のため、講義が終わったらよく遊びに寄る。
下手にゲーセンやカラオケで遊ぶより経済的だし、何より楽しい。

 いつもは僕とドクオの2人で遊ぶことが多いのだが、今日は珍しいことに、もう1人居る。


(´・ω・`)「呼び出し? ブーンなにかやらかしたの?」


 垂眉ショボン。
こいつもまた、中学からの付き合いだ。

 彼は僕やドクオとは違う学部に進学したのだが、今でも付き合いがある。
たまに時間が合うと、こうして一緒に遊んだりしている。

67名無しさん:2016/03/30(水) 16:22:00 ID:jK9Wh.Rc0

 最後に3人で遊んだのは、確か2ヶ月前だったか。

 僕のかけがえのない、親友の2人だ。


( ^ω^)「おっ、ゼミのことだったお。また杉浦教授の手伝いさせられただけだお」

(´・ω・`)「杉浦教授って、あの怖い人だよね確か。お疲れ様」

('A`)「そりゃご苦労なこった、っと……よっしゃ! アイテム貰い!」

(;^ω^)「あー!! ズルいお!!」

('A`)「勝負にズルいもクソもあるか!」


 今日は3人で、昔懐かしのアクションゲームをやっていた。
僕も何個かソフトを持ち寄っている。

68名無しさん:2016/03/30(水) 16:23:15 ID:jK9Wh.Rc0

 中学時代、よくドクオの家でこれやってたっけ。
実家の方だけど。

 年齢や場所が変わっても、やってることは変わらない様子を見ると、思わず笑えてくる。


(´・ω・`)「相変わらず、ドクオはコレ強いねぇ」

('A`)「もう5年以上前に買ったゲームだしな。ブーンには目を瞑ってでも勝てるぜ」

(;^ω^)「ぐぬぬ、悔しい……もう一回だお!」


 躍起になり、次のゲームを探す。僕がドクオに勝てるゲームなんて、あっただろうか。


(´・ω・`)「あ、そうそう。僕からブーンにプレゼントがあるんだ」

( ^ω^)「お?」

69名無しさん:2016/03/30(水) 16:24:35 ID:jK9Wh.Rc0

 不意に思い出したように、ショボンは鞄からガサゴソと何かを漁り始める。

 中から取り出したクリアファイルに入っているのは、何やら小さな青い紙だ。
クリアファイルに手を入れて、それを掴み取り、僕に差し出す。
その正体は、したらば水族館のペアチケットだった。


(´・ω・`)「これ、あげる」

( ^ω^)「いいのかお? このチケット、手に入れるの大変だったんじゃ無いかお?」

(´・ω・`)「別に。親父が仕事の付き合いで貰ったらしいんだ。母さんと行く暇が無いからって僕にくれたんだよね」

('A`)「彼女と別れた直後の息子にペアチケット渡すとか、お前の親父さん鬼畜かよ」

(´・ω・`)「おう、ケツ出せ。忘れようとしてるのに、ぶち殺すぞ」

70名無しさん:2016/03/30(水) 16:25:30 ID:jK9Wh.Rc0

 ショボンはつい最近、彼女に振られたそうだ。
理由は知らない。
確かまだ付き合って3ヶ月くらいだったか。
前回この3人で遊んだ時は、ショボンの惚気が鬱陶しかった覚えがある。

 余談だが、ドクオは生まれてこの方、一度も恋人が出来たことがない。
なのでショボンに新しい彼女が出来る度に妬み、別れる度に傷を抉ってくる。

 しかし、随分とまぁ早いことだ。
そのショボンの元彼女さんは既に新しい男を作っているとのことらしい。

 高校時代からツンとしか付き合った事のない僕には、とても信じ難いことだ。


 学生の恋愛なんて、所詮そんなものなのだろうか。


 とにかく、と少し大きな声で呼び掛けられる。
涙目に見えるのは気のせいだろう。そういうことにしておいてやろう。

(´・ω・`)「今日のブーン、なんか浮かない顔してるからさ」

71名無しさん:2016/03/30(水) 16:26:23 ID:jK9Wh.Rc0

(´・ω・`)「ツンと何があったか知らないけど、取り敢えずコレでデートでもしてきなよ」

( ^ω^)「お……」


 どうやら少し、勘違いされているようだ。
僕の気分が優れないのは、別にツンのせいではない。
荒巻博士の実験のせいである。
いや、ある意味ツンも関わってはいるが。

 この2人に博士の実験のことは勿論伝えていない。
というか、誰にも喋っていない。
分かる術がないのだから、勘違いは仕方のないことだろう。


 それにしても、驚いた。
自分も大変だろうに、僕の些細な感情の変化まで感じ取って、しかも気遣ってくれるとは。


 まったく、良い友人を持ったものだ。


( ^ω^)「ありがたくいただくお。今度何か奢るお」

(´・ω・`)「期待せずに待ってるよ」

('A`)「俺には?」

(´・ω・`)「ペアチケットなんだけど、僕と行く?」

('A`)「お断りします」

72名無しさん:2016/03/30(水) 16:27:30 ID:jK9Wh.Rc0

 そこでふと、何かを思い出したように、ドクオが尋ねる。


('A`)「でもよ、確かしたらば水族館って、アレだろ? ブーン良いのか?」

( ^ω^)「お? ……あぁ、そういえばそうだったおね」

(´・ω・`)「げ、そうか。テレポート装置のこと忘れてた。ブーンあれ嫌いなんだっけ」


 露骨にしまった、という顔をされる。
貰った手前、むしろこちらの方が申し訳なくなってくる。

 しかし、あんな話を聞かされた後では、行き辛いのも事実だ。


( ^ω^)「……まぁ、考えておくお。ショボンありがとうだお」

('A`)「何回も言ってるけどよー。別にあれ、痛くもなんともなかったぜ?」

(´・ω・`)「僕はちょっとクラッとしたけどね。でもまぁ、大したことないよ」

73名無しさん:2016/03/30(水) 16:28:35 ID:jK9Wh.Rc0

( ^ω^)「そうらしいおね」


 そのことについては、開発者本人から直々に聞くことが出来た。



* * *



/ ,' 3「――最後に、質問があれば答えるよ。答えられる範囲内で、だがね」


 実験の詳細について語り終えた後、荒巻博士は僕たちに質問が無いか尋ねてきた。

 その時僕は、せっかくの機会なので、どうしても気になっていたことを質問させてもらった。


( ^ω^)「じゃあ、僕から1つ」

/ ,' 3「言ってみなさい」

( ^ω^)「単刀直入に聞きますお。テレポート装置に、健康上の被害はありますかお?」

/ ,' 3「正常に作動した場合、それは全くない、と断言させて貰おう。A地点のオリジナルの人間は、痛みすら感じることはない」

/ ,' 3「構造上、分子分解される前に意識を失うことになるのだ。本人が痛みを認識したりすることは絶対に無い」

74名無しさん:2016/03/30(水) 16:29:57 ID:jK9Wh.Rc0

 ちなみに、と続ける。


/ ,' 3「到達点で少し眩暈を感じたという報告もあるが、立ち眩み程度の微々たるものだそうだ。個人差はあるだろうが、そこまで酷い不調を訴えた者はいない。安心して良いよ」


 他に質問は?
荒巻が、猫田と茂羅の方を見て促す。

 黙り込んでいる2人。見た感じ、特に茂羅の顔色が悪い。
しかし、何か聞きたいことがあったようだ。
額に汗を浮かべながら、博士に問う。


(;・∀・)「『素材』――」

(;・∀・)「転送先の、スワンプマンの身体を構成している、『素材』というのは……一体何なんですか?」


 何故、そこまで顔色が悪いのだろう。先程の話を聞いてしまったからだろうか。


 いや、違う。
きっと、それだけじゃない。

 これはまるで、何か気付いてはいけないことに気付いてしまったかのような――

75名無しさん:2016/03/30(水) 16:31:11 ID:jK9Wh.Rc0

 荒巻が、少し目を見開いた。感心したように、応える。


/ ,' 3「君はやはり、頭の回転が速いようだね。先程といい、反論するべきポイントを的確に突いてくる。ただの学生には、到底思えない」

(;・∀・)「そんなことはどうだっていい!! まさか――!!」

/ ,' 3「――君の想像通りだ」



 一言。

 たったその一言で、茂羅の表情が一変する。いや、余計に悪化したとでも言うべきか。

 残念ながら、僕には2人が何の話をしているのか理解出来ていない。
猫田も虚ろな目で、2人を見ているだけだ。


/ ,' 3「スワンプマンの話で登場した、汚泥。これは所詮、空想だ。素材には適さない。仮に実現出来たとて、不完全要素が多過ぎる」

76名無しさん:2016/03/30(水) 16:32:29 ID:jK9Wh.Rc0

 茂羅の様子を気に留めることもなく、博士は語り始める。


/ ,' 3「人間の構成物質を馬鹿正直に揃えて、それを素材とするのも悪くないのだがね。一つ、問題があった」


 左手の人差し指を1本、見せつけるように立ててくる。
すると今になって、薬指に嵌められている指輪を視界に捉えた。
既婚者だったのか。


/ ,' 3「それは、コストだ。装置を動かすエネルギーに加え、素材のコストが丸々と上乗せされてしまう」


 思わず意識が他に逸れた。
博士の説明に集中し直す。


/ ,' 3「人間1人分だけとかなら、まだ何とかなるのだがね。将来的に、世界中の人間が利用することになるのなら、そのコストは馬鹿にならない」

77名無しさん:2016/03/30(水) 16:33:38 ID:jK9Wh.Rc0

(; ∀ )「……」

/ ,' 3「他にも数点問題はあったが、一番の問題はそれだ。そこで、それを解決する手段が――」

(;*゚ー゚)「――っ!?」

( ^ω^)「……っ!」


 ああ、そういうことか。

 なるほど、確かに合理的だ。



/ ,' 3「――君たちも気付いたようだね。そう、リサイクルだ」

/ ,' 3「A地点で分子分解されたものを、そのままA地点でスワンプマンが再構成される時用の素材として使用する」

/ ,' 3「人間の死体を、素材にしているのだ」



* * *

78名無しさん:2016/03/30(水) 16:34:59 ID:jK9Wh.Rc0

 結局、ドクオの家で夕飯を済ませた。今日はオムライスを作ってくれた。

 ドクオの作るオムライスは、巷で流行っている半熟トロトロのアレではない。
昔ながらの、薄焼きの卵で包んだものだ。

 我が家はとろふわ卵に秘伝デミグラスソースのオムライスが主流なのだが、ドクオ流のケチャップオムライスも文句無しに美味しい。
なんとも甲乙つけ難い。

 チキンライスには、微塵切りにされた野菜がたくさん入っている。
しかも食感を楽しめるように、火の入れ方まで拘っているらしい。
肉はその時の気分で変更するそうだ。
今日は切ったウィンナーが入っていた。

 このチキンライスを、バターの風味が香る卵と一緒に食べることで、数段階上のランクにレベルアップする。
卵の上にかかったケチャップもくど過ぎることなく、飽きずに最後まで楽しめるオムライスだ。


 余談だが、ショボンの分のオムライスにはケチャップでハートマークが描かれていた。普通に殴られていた。

79名無しさん:2016/03/30(水) 16:37:02 ID:jK9Wh.Rc0

 ああ見えて、ドクオは料理が得意だったりする。
中学2年生の夏休みに、料理男子はモテるという情報を信じて修行した結果、料理の腕前が上達した。

 料理を披露する相手が僕らしかいないということに気付いたのは、それから1年ほど経った後である。

 僕とショボンは最初から気付いていたが、敢えて黙っていた。
しかしまさか、1年間も気付かないとは思わなかった。

 料理を始めたての頃は、とても食べられるものではなかった。
一応ちゃんと食べたが。

 ショボンもなんやかんや文句を言いつつ、きちんと完食してから味の批評をしてあげていた。
はじめは辛口コメントばかりだったが、夏が終わる頃にはそれもほとんど無くなっていた。

 良いところ、悪いところをしっかりと指摘して、どうすれば改善されるか等もきっちりと言う。
自分でも分からないことは、ちゃんと調べてからドクオに話していたことを僕は知っている。

 ショボンの口から美味しかった、という言葉が出たのは10月になってからだった。
あの時はドクオも感極まって泣きだしそうになって、大変だったものだ。

 きっとショボンが居なかったら、ドクオの料理の腕前がここまで上達することは無かっただろう。
間違いない。

80名無しさん:2016/03/30(水) 16:39:19 ID:jK9Wh.Rc0

 それから少し経って、高校の頃だったか。
僕らは相変わらず、休みの日はドクオに材料費と少しの手間賃を払い、昼食をご馳走になっていた。

 そんなある日、ちょっとした事件が起きる。
当時のショボンの彼女が、ショボンに手料理を振舞ったらしい。
するとその手料理を食べたショボンが、


(´・ω・`)『ドクオの飯の方が美味い』


と、漏らしてしまったのだ。
当然速攻で振られたとのこと。

 あれからショボンとドクオのホモ疑惑が後を絶たなかった。
しかも本人が面白がって否定しないせいで、ドクオに余計女子が寄り付かないという事態が巻き起こっていた。

 そのことをドクオはまだ知らない。
いつの日か、彼に彼女が出来た時にでも教えてやるとしよう。


( ^ω^)「おっおっwww」


 そんな来るかも分からない未来のことに思いを馳せながら、帰り道を歩く。
ショボンとは先程別れたので、今は1人だ。

81名無しさん:2016/03/30(水) 16:40:32 ID:jK9Wh.Rc0

 辺りはもうすっかりと夜の帳が下りているが、まだまだ暑い。
夏特有のじめっとした空気が、身体に纏わりついてくる。

 汗で張り付いてしまいそうなシャツを手で摘み、パタパタと乾かす。
額から滴る汗は、既に湿ってしまったハンカチで拭き取る。

 あまり良い気分ではない。
こんなじめじめした空気の中にいると、つい自然と思考まで湿っぽくなってきてしまう。


( ^ω^)「……」


 今、存在しているドクオは、ショボンは、荒巻博士の言うところの「オリジナル」では無い。
彼らは既に、テレポート装置を利用したことが何度かある。
所謂、「スワンプマン」だ。

 中学の頃、ワイワイと遊んでいた彼らとは別人だと言うのか。


( ^ω^)


 頭の中で、即座に否定する。
別人のわけがない。
ドクオはドクオ。ショボンはショボンだ。

82名無しさん:2016/03/30(水) 16:42:08 ID:jK9Wh.Rc0

 そもそも、「オリジナル」とは一体何なんだ。

 たとえばドクオの分子構造は、昨日と今日で全く同じということはない。
もっと細かい区切りで見ても、全く同じ状態なんて存在しない。

 例を挙げるなら、オムライスを食べる前のドクオと、オムライスを食べた後のドクオ。

 この2つを比較すると、当然ドクオを構成するものは異なる。
ドクオの胃の中にはオムライスが入っているし、食後のプリンだって体内に吸収されている。
食事中に飲んでたお茶だって、今ではドクオを構成する物質の一つだ。

 極論、1秒前の自分と今の自分だって、別人だとさえ言えるだろう。


 しかし、本当に別人であろうか?

 たった今、瞬きした瞬間、僕が僕でなくなるというなら。

 一体、僕とは何なのか。
僕という物質は、どの状態のことを言うのか。

83名無しさん:2016/03/30(水) 16:43:00 ID:jK9Wh.Rc0

 つまり、「オリジナル」なんてものは存在しないのだ。

 人間の身体は、決して不変的なものなどではない。
昨日の僕と今日の僕が、同じ僕であるという証明なんて、他の誰にも出来やしない。

 それを唯一証明出来るのは、自分の意識だ。

 ドクオはスワンプマンになっても、5年以上前に買ったゲームのことだって覚えているし、美味しい料理を作ることが出来るし、彼女が出来ないし、内藤ホライゾンと友達だ。

 ショボンはスワンプマンになっても、優しいし、ホモ臭いし、彼女に振られ続けるし、内藤ホライゾンと友達だ。

 彼ら自身の意識が、記憶が、体験が、心が。

 自分を自分だと証明している。

84名無しさん:2016/03/30(水) 16:43:43 ID:jK9Wh.Rc0



 しかし。


 その意識すら、記憶すら、体験すら。


 機械によって、0と1で構成された「ツクリモノ」だったら。


 果たしてそれは、「ホンモノ」と言えるだろうか。


 唯一、自分を自分と証明できる、彼ら自身の「心」でさえも。


 他人によって作られた、「ニセモノ」だっていうのなら。


 僕は、彼らをちゃんと、受け入れることが出来るだろうか。


.

85名無しさん:2016/03/30(水) 16:44:52 ID:jK9Wh.Rc0

「――ちょっと!!」

( ^ω^)「!!」


 唐突に後ろから突き刺さる、聞き慣れた女性の声。

 そのたった一言が、泥沼のような深い深い思考から、僕を掬い上げてくれる。


ξ゚⊿゚)ξ


 津出ツン。
僕の、恋人だ。

 まさかこんなところで出会うとは思っても無かったので、驚いた。


(;^ω^)「どうしてこんなところにいるんだお? 夜も遅いし、危ないお」

ξ゚⊿゚)ξ「バイトが長引いちゃったのよ。そんで帰ろうとしたら、偶然あんたを見かけたの」


 ほら、と紙袋を見せてくる。
きっと中に、バイト用の制服でも入っているのだろう。
そういえばツンのバイト先の飲食店は、ここからすぐ近くだった気がする。

86名無しさん:2016/03/30(水) 16:46:17 ID:jK9Wh.Rc0

ξ゚⊿゚)ξ「ブーンこそ、どうしたのよ。まさか他の女の子と遊んでたんじゃないでしょうね?」

( ^ω^)「おっおっ、バレちゃったお。実はドク美とショボ子っていう2人と遊んでたんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「まーたあいつらか……友達付き合いが良いのは分かるけど、たまには私にも構ってよね」


 そう言い、少し頬を膨らませる。
確かに、最近ツンに構ってやれてない。

 そもそもそれは、ツンとデートの行き先について喧嘩になったからだ。
あれから少し気まずかったので、意識的にこちらから連絡を控えていた。

 どうやらもう、機嫌はなおったようだ。
ギスギスした雰囲気は得意でないので、ありがたい。


( ^ω^)「……夜も遅いし、家まで送るお。ほら、それ貸すお」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、珍しく紳士的ね。せっかくだし、お言葉に甘えようかしら」

87名無しさん:2016/03/30(水) 16:47:26 ID:jK9Wh.Rc0

 彼女から紙袋を受け取る。
やはり中身は制服だったようで、それほど重くない。
そのまま横に並んで、2人で歩を進める。
ツンの家は、途中まで僕の家と同じ方向だ。

 喋ることも思いつかないので、暫くは無言でいる。
だが不思議と、気まずい無言ではない。

 先に口を開いたのは、ツンの方だった。


ξ゚⊿゚)ξ「……最近、ごめんね。ちょっとキツく当たってたでしょ」


 今日の彼女は、やけにしおらしい。
こんなことを言うと、照れ隠しに1発貰ってしまうことが目に見えているので、心の中に仕舞っておく。

 代わりに僕の口から出たのは、謝罪。


( ^ω^)「こちらこそ、ごめんだお。ほら、VIPタワーの件」

88名無しさん:2016/03/30(水) 16:48:36 ID:jK9Wh.Rc0

 ツンとはこの間、デート先について一悶着あった。

 彼女はVIPタワーの夜景を観に行きたいと主張していたのだが、僕は得体の知れないテレポート装置を使うことを頑なに拒んでいた。

 するとツンは、せっかくVIPタワーに行くのに、なんでわざわざ長時間エレベーターで寿司詰めにされねばならないのか。
そう反対し、僕と意見が食い違った。

 流石にデートで別行動は避けたいので、僕がVIPタワーへ行くこと自体を渋っていたら、次第にエスカレートして行き、喧嘩になったのだ。

 こうして思い返してみると、なんとも下らない喧嘩だったなぁ。

 きっかけは些細なものだったが、お互い引くに引けなくなり、どんどんヒートアップしていった結果である。


ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ。私の方こそ、あんたのこと考えてあげられなくてごめんね」


 僕のこと。
そう、元はと言えば、僕が頑なにテレポート装置を拒んだことが原因なのだ。

89名無しさん:2016/03/30(水) 16:51:06 ID:jK9Wh.Rc0

 だが、得体の知れないという理由だけで毛嫌いしていたテレポート装置は、実際健康上の被害が皆無だと言う。

 無知は罪なり、とはよく言ったものだ。

 ただ、その代償により得た知は、空虚どころでは済まされないものだったが。

 ツンの横顔を盗み見る。相変わらず綺麗だ。何年見続けていても飽きない。


 しかし、そう。
彼女もまた、スワンプマンなのだ。


 一度張り付いた嫌な考えを上書きするように、次の話題を探す。


( ^ω^)「それより、埋め合わせの件だお。前の土曜日の」

90名無しさん:2016/03/30(水) 16:52:23 ID:jK9Wh.Rc0

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、あれ。そういえば結局、何をさせられたの?」

( ^ω^)「ゼミのことだったお」

ξ゚⊿゚)ξ「ふーん」


 適当な相槌をうたれる。あまり興味が無いようだ。

 杉浦教授には、荒巻博士の実験について他言無用だと事前に告げられていた。
漠然と、有名人だから仕方ないと考えていたが、そんなレベルの問題ではなかった。

 今思うと、当然だろう。
こんな情報がむやみやたらと広まったら、大パニックどころでは済まない。
というか、発表から3年経った今でも表面化してないのが不思議なくらいだ。

 取り敢えずツンには、教授に呼ばれたということだけ伝えておいた。
そのおかげでデートの予定が先延ばしになってしまったわけだが、あまり根に持っていないらしい。

91名無しさん:2016/03/30(水) 16:54:36 ID:jK9Wh.Rc0

ξ゚⊿゚)ξ「……別に、ね。私は無理してデートがしたいわけじゃないんだ」


 声のトーンを少し落とし、ツンは話す。


ξ゚⊿゚)ξ「でもほら、なんていうか、さ。周りの子とかの話を聞くと、みんなもっと、恋愛にこう、……精力的、なんだよね。うん」


 言いたいことが纏まってないのか、途切れ途切れに言葉を紡いでいる。
周りの音が小さくなったように感じた。


( ^ω^)「……精力的?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……ほら、話題のお店に並んだり、旅行に行ったり、そういう感じがさ」


 ツンの交友関係を熟知しているわけでは無いので詳しくは分からないが、ツンの周りではそういった人間が多いらしい。

92名無しさん:2016/03/30(水) 16:55:16 ID:jK9Wh.Rc0

 そういえば、ツンがやけにデートに拘り始めたのは、今年に入ってからだったか。


ξ゚ -゚)ξ「けど私たちは、なんかもう、そういうことする感じじゃなくなってると言うか……少し、冷めてる気がするんだよね」


 言われてみると、そうだろうか。
僕は特に気にしてなかったが、確かにそうかもしれない。


ξ゚ -゚)ξ「それが、その……そろそろ振られちゃうんじゃないかって、不安になってきて」


 思わず目を見開き、歩幅がズレる。
僕が、ツンと、別れる?

 頭の片隅にもなかった考えを、唐突に目の前に突き出され、思わず動揺する。
しかし、そんな僕の様子の変化に気付いていないのか、ツンは続ける。

93名無しさん:2016/03/30(水) 16:56:45 ID:jK9Wh.Rc0

ξ゚ -゚)ξ「だから、今までに行ったことのない場所に行ったりして、新鮮さを取り戻そうかと思ったんだけど……」

ξ゚ー゚)ξ「……私ってば、空回りばっかしちゃって。逆に喧嘩は増えちゃうし、ダメダメだったね」


 泣き笑いみたいな表情を、こちらに向ける。
心なしか、声が震えているように聞こえるのは、気のせいだろうか。

 そしてこの時、理解した。
僕の、本当の気持ちを。

 安心してくれ、ツン。
君のそんな心配は、全て杞憂なのだ。

 だってそうだろう?
荒巻博士のあんな実験に付き合わされても、ツンと別れるという発想に今まで至らなかったことが、何よりの証拠じゃないか。


 僕は君を、手放したりなんかしない。
手放してやるもんか。


( ^ω^)「……僕は、昔の関係も、今の関係も、両方好きだお。どっちが良いとか、選べないお」

94名無しさん:2016/03/30(水) 16:58:13 ID:jK9Wh.Rc0

( ^ω^)「それでも、ツンが以前のような関係を望むと言うなら。僕は全力で、それに応えるお」


 改めて言葉にするのは、とても恥ずかしい。
でも、今言わなければいけない気がする。
この言葉は、ツンだけにじゃない。
僕にも伝えなければならないものだ。


 だから、告げよう。


( ^ω^)「――だって、僕は、ツンが好きだから」

( ^ω^)「どんな形であろうと、ツンのことが大好きだから」


 思いの丈を、拙い言葉ながら、ぶつける。
そして、自分で再確認する。


 きっと、難しく考え過ぎていたのだろう。

 「オリジナル」だとか。

 「スワンプマン」だとか。

 そんなことは、関係ない。
僕はツンのことが好き。
ただそれだけだ。


 本当に、たったそれだけのことだった。

95名無しさん:2016/03/30(水) 16:59:39 ID:ZRYoA5Q.0
いや面白いなこれ。

96名無しさん:2016/03/30(水) 16:59:41 ID:jK9Wh.Rc0

ξ*゚⊿゚)ξ「……ばーか。勘違いしないでよね」

ξ*゚ー゚)ξ「私は、ブーンと一緒に居られるだけで、十分幸せなんだよ」


 こんなに可愛い笑顔を浮かべる彼女が。

 こんなに可愛い笑顔を作れる心を持った彼女が。


 ニセモノのわけがない。
 ツクリモノのはずがない。


 今、僕の隣にいる彼女は。

 僕の右手に、そっと指を絡めてきた彼女は。

 赤面しながらも、満面の笑みを浮かべている彼女は。


 紛れもなく、津出ツンだ。


 そんな当たり前のことに、やっと気付く。

97名無しさん:2016/03/30(水) 17:00:28 ID:jK9Wh.Rc0



 久しぶりに見た、恋人の笑顔。

 何故かそれだけで、全てが救われたような気になった。





* * *

98名無しさん:2016/03/30(水) 17:02:19 ID:jK9Wh.Rc0

 彼女のマンションのエントランスホールまでたどりつく。
時刻はもう、夜の10時を回っていることだろう。
辺りには誰もいない。

 繋いだ左手を名残惜しそうに手放し、僕にそっと告げる。


ξ゚⊿゚)ξ「……ここまでで良いわ。今日は本当にありがとう」


 左手をスカートの横まで下ろし、ぎゅっと握りしめている。
代わりに差し出された右手が、僕の目の前に留まる。


( ^ω^)「……?」

ξ゚⊿゚)ξ「か、み、ぶ、く、ろ!」

(;^ω^)「おっ!」

99名無しさん:2016/03/30(水) 17:03:17 ID:jK9Wh.Rc0

 すっかり忘れていた。
あやうくこのまま持って帰るところだった。
左手に持っていた紙袋を、ツンに手渡す。


ξ゚⊿゚)ξ「持ち帰って何をする気だったのよ! この変態!」

(;^ω^)「ひっでぇ誤解だお」

ξ゚ー゚)ξ「……ふふっ」


 こんな軽口を言い合える関係が、僕は好きだ。

 いや、「好き」では収まらないかもしれない。

 きっと、僕はツンを――

100名無しさん:2016/03/30(水) 17:03:51 ID:j55wpHwA0
食テロがいい味だしてる

101名無しさん:2016/03/30(水) 17:03:58 ID:kMxSUOw.0
まだ読んでないけどスワンプマン?


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