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SS・ソロールスレッド

1高天原いずも ◆Fff7L077io:2015/07/18(土) 15:39:19 ID:0kR.N/UQ
スレタイの通りSSを書く専用のスレです。
過去の出来事なんか記したい時にご活用ください!

設定忘れた時のwiki
http://www8.atwiki.jp/schoolcitiy/

2陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs:2016/03/23(水) 18:40:34 ID:8um4PRmQ
―――困りましたわね。

白い少女……陽愛白は、魔女狩りの足を殺ぐために奮闘していた。
魔女狩りは風紀委員や魔術師に知られていない非合法な組織である。
逆を言うと、ばれないほどの手腕、もしくは政治力を持った人間が魔女狩りのリーダーであるということ。

実際彼ら……魔女狩りの遣り方は無駄や隙と言ったものが無い。
Level0や1の大量に居る諜報員が襲撃前に魔術師の様子を調べる。
その魔術師が実力が低い者なら訓練された執行部隊の複数人で誘拐をし、実力が高いものなら能力者を向かわせるという具合だ。
自身が魔術師を明かす程信頼している様な親友や恋人が居るのなら遺恨を残さないようそれも誘拐し、脱退は即粛清。
団員の殆どは魔術師は魔女で在るが故に抹殺するべしと、能力者万歳という風に洗脳されている。内部崩壊は期待できない。

監視カメラの合間を縫って行われる誘拐は、白の目から見ても鮮やかで【神隠し】と言われるほどの手際だ。

しかしこのような統率された組織は、首領……組織のリーダーが死ねば、簡単に瓦解するものである。
宗教で言う所の教祖のようなもの。強いカリスマを持つ人間が居なくなれば、魔女狩りは自然分解に近い形になる。
少なくとも、白と乾を追っている場合では無くなるだろう。
リーダーの居場所……それが、今の陽愛 白に最も必要なことだった。

連絡係の黒い仮面を一流の探偵に尾行させてみるも、応答がない様子。
どうやら消されたようだ。この黒い仮面の人物も能力すら分からず得体が知れない。
リーダーを排除する時には間違いなく障害になるだろう。

「今の所、私と乾は裏切りを疑われてはいませんが……」

しかし持って5日と言った所でしょうか、間違いなく一週間は持たないでしょう。

陽愛 白は、 知恵を振り絞って考える。
諜報員に尾行され始めたらアウトと思った方がいい。とにもかくにも先手を取る必要がある。

魔女狩りのリーダーはこの学園都市の、何処に潜んでいるのか。
木を隠すには森の中の要領で人が多い場所に堂々と居るのか、路地裏のような人が通りかからない場所か。
純白の少女は考え続けていた。

3陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs:2016/03/23(水) 20:08:24 ID:8um4PRmQ
ふう、と固まりかけた思考を解すように息を吐き出す。
過去の魔女狩りの活動、データ等からではリーダーの居場所を探ることはできませんでした。
ならば、純粋に魔女狩りのリーダーという人物がどんな人間か。
それを考えてみましょう。白はそう考えた。

「まずは、魔術師の存在を知っている人間。そして、組織の動かし方を分かっている人間ですわね。
金等で握りつぶせるようなコネ……経済力もあるでしょう」

そう、魔女狩りのリーダーは組織の成り立ちという物を理解していて、それもあって私は組織に入って―――――

そこで、陽愛 白の思考に閃く物があった。

「どうして私のことを、リーダーは特別視しなかったのでしょう?私は魔女狩りに所属してから、普通の能力者と待遇が変わっていない……」

私がリーダーなら、飴を与え新たな御輿として扱うか、排除することを考える。
恐らくは利用することを考えるだろう。小規模の組織としては、父から信頼されかなりの権力を持つ社長令嬢の存在は在り難い。
勢力拡大に繋がる物になると考える。しかし暫く警戒は怠らないだろう。これほど緻密に構成された組織の長が、私に対して何のリアクションもしないなど考えられるだろうか?

私が魔女狩りに入団した時から違和感があった。それでもどうでもいいと捨て置いた理由は――――

―――――緩慢な自殺をする為に都合が良かったからだ。

白い少女は、背筋が冷たくなるのを感じた。

「リーダーは下手すれば私以上に私のことを知っている……?それも深く……そして、私が勝手に死ぬことを良しとしていた?」

突拍子もない考えに思えるかもしれない。
しかし、白い少女には、何かピンと来るものがあった。
それは、人の上に立った事がある経験から成り立つ勘であり、馬鹿にできるものではない。

「私のことをよく知っており、恨みを持ち、頭が良く組織を運営する能力に長けている人間……」


陽愛白に恨みを持つ人間は多い。
それは白い少女が過去に嗜虐心で多くの人間を甚振って来たからだ。しかし普段純白の少女は笑顔の仮面を被っている。
陽愛白が破滅願望を覚えることを見抜くことができ、尚且つ恨みを持つ人間なんて……家族くらいだろう。

白は、裏で有名な探偵に複数連絡を取り、同じ依頼を伝える。何と無く、これが当たりだろうという確信があった。

「調べて欲しい人物が居ます。どんな手を使っても構いません、三日以内に頼みますわ。謝礼は惜しみません」

純白の少女は、溜息を付く。
陽愛の名で魔女狩りの存在を広めることを、考え直す必要が出てきた。
私が個人で実力ある能力者や魔術師を頼るしかない。命を懸けることになったとしても。

「調べて欲しい相手の名は――――陽愛 黒。私の弟です」

これは、身内同士の争いであり、同時に権力者による小規模の戦争だった。
白が黒を染めるのか、黒が白を染めるのか。
過ぎたる白は、過ぎたる黒と等価であったが、両者は同一の色ではない。
例えコインの裏表のような関係でも、黒は黒であり、白は白でしかないのだから。

「私が死ねば、乾も死ねと頼みました。乾が死ねば、私は今度こそ死ぬでしょう」

残る色は、一つだけ。

「家族を殺しても、私達は生き残ります」

純白の少女は、そう覚悟を固めるのだった。

4大木陸 ◆ptlrdCRQLs:2016/04/06(水) 20:16:08 ID:5GggaGYc
制服を着たまま大木は、いつものように学園都市を彷徨っていた。しかし、彼の足は路地裏で止まっていた。
止まらざるを得ないというのが正確だろう。彼の周りを取り囲むのは、大木を羨む不良達である。
けれども大木の眼差しは細くとも凛々しく確かなもので。彼の心は一番安定していた。

「もう少し、楽に生きることはできないのかな。俺を狙った所で一銭の得にもならないよ」

同じ言葉を放つ。違いがあるとすれば大木が冷や汗をかいていないことだろう。苦し紛れの言葉ではない。
その言葉には確かな力強さがあった。相変わらず恐怖はある。戦うのは怖いし死ぬのも怖い。
しかし自分の制御しきれない能力のために泣いてくれる人間がいた、臆病なままでも困っている人を助けることができた。
それだけで嬉しかった。大木は、やっと地に足が着いた気がした。

「俺らを舐めてるんじゃねえぞ死ねやあ!」

左手のナイフを袈裟懸けに斜め上から振り下ろしてくる不良の攻撃に対して、大木は能力を発動することすらしなかった。
そもそもナイフは突き刺すものであって、振り下ろすものではない。大木は右手でナイフを掴んだ。
当然掴んだ場所が裂傷し血が流れていく。しかし大木は微動だにせず、ナイフを持ったままだった。
能力を発動せずに右手から血を流した大木に、周囲の不良はギョッとする表情を見せた。

「じつは俺、興味があったんだよね……人の中身ってものにさ。君達の中身はどうなっているんだろう?気になるなあ」

小学生の好奇心を輝かせたような純粋な瞳で、大木は不良を見た。自身の内に眠る狂気。大木が少し前まで恐れていた物の一つである。
女を殺害した二度と会いたくない逢坂という少女の姿は、今でもはっきり覚えていた。
それに合わさっているのは大木の妄想と匂いの付いた死体という豊富な死の経験である。
その結果は演技にすら見えないリアルさとなって、直ぐに現れた。

「……」

ナイフを振り下ろした不良は大木の放つ濃密な殺気と狂気で、逆に固まっている。
周囲を取り囲んでいる不良達の動きもそうだった。まるであの時頭を麻痺した大木のように、口をパクパクと動かすだけ。
大木はそうなるよなと納得する。俺だけじゃない、誰だって死ぬのは怖い。臆病な俺なら分かる。そうだろうと。
死にたくなければ襲わなければいいのに、と大木は内心で溜息をつく。

―――――成る程、いずもの言う通りだ。こういう輩は恐怖をうえつけてやればいい。そうすれば、二度と襲ってくることはないだろう。

大木はナイフから手を離すと、固まっている不良達の輪から歩いて立ち去ろうとする。
その間も不良は固まっていた。逃亡を悟られないために走らないのが大事だった。

よほど大木の演技が強烈だったのか、不良達の思考が正常に戻るまでの間。それは大木が逃げるのは、十分な時間だった。

狂わず、能力も使わず、誰かの助けの手も借りず。大木は、自身のトラウマと言える状況から抜け出した。

その胸に宿るのは、番町を名乗る少女から受け継いだ炎だけではない。


―――――――大木の胸に強く燃え盛っていたのは自らが武器とする臆病という、元々持っていた炎だった。

地面……陸に足は着いた。後は大木となるために育とう、と。
大木陸は、やっと元々持っていた自分自身を受け入れることができたのであった。

5陽愛白 ◆ptlrdCRQLs:2016/05/04(水) 17:53:01 ID:WoJMMzuc
「どうして私はこんなことをしているのでしょうか……?」

学園都市は曇り空。晴れているわけでもなくかと言って雨が降っているわけでもない。
湿度は低いものの春なのに肌寒さを感じさせる気温。
白いワンピースと白いハイヒールの洋服で着飾っている
全身を白く染めた少女、陽愛白。
彼女が向かっているのは魔女狩りが誘拐した魔術師と親しかった存在。恋人の家族の下だ。

――――――それも自らが過去に殺した人間の遺族。白い少女はその家族の元を訪れていた。

白い少女は家の前でインターホンを鳴らす。ピンポーンという間抜けな音がした数秒後扉が開く。

「はあい……」

白い少女の前に立ったのは、瞼が大きく腫れ上がり隈を作っっている犠牲者の父親の姿。
もう何日も寝ていないのだろう。その男はぼんやりとしていて元気がない。
大事な一人娘が誘拐されて数週間。今でも見つかっていない。彼の心中は子を持った親ならば誰でも理解できるだろう。

「えっと、私は…………さんの知り合いなのですが、彼女についてお話したいことがあります」

白い少女がそう言うと、父親はふらふらと白い少女の前に歩みを進め、彼女につかみ掛かった。

「わたしの娘を見つけたのですか?」

男の険しい表情に現れているのは白い少女への僅かな希望と、圧倒的な絶望。
父親にとっては愛する一人っ子の愛娘。それを奪ったのが白い少女だと知らずに
彼は陽愛白に縋り付く。白い少女はそんな姿をしている父親の姿を愉しまなかった。
なぜか、微塵も愉しむ機がしなかった

6陽愛白 ◆ptlrdCRQLs:2016/05/04(水) 17:54:04 ID:WoJMMzuc


「ごめんなさい、私にはそれは分かりません……!」

白い少女は頭を下げる。笑顔の仮面はそこにはない。
嘘を付くことが心苦しい。白い少女の顔には泣きそうな、痛みを堪えるような表情。
父親は苦しむ白い少女の様子を見て、穏やかな表情を浮かべた。声色も落ち着き、大人としてのものを取り戻している。
陽愛白が行方不明の娘のことを心配しているのだと勘違いしたのだろう。

「娘の友達かい?」

白い少女は、ゆっくりと言葉を返す。彼女の声色は震えていた。
まるで自らに下る断罪の刃を目の前にしているようだ。
いや、陽愛白にとっては娘を心配する父親の姿は正しく断罪の刃である。
どんな魔術よりも。どんな能力よりも。
陽愛白を傷つける。

「……彼女のことを、良く知っている者です」

そう、よく知っている。可愛らしい女の子だった。
彼女を拷問した時、陽愛白は愉しんでいた。
お父さん、お父さんと助けを求める声。それを嘲笑うように白い少女は拷問し彼女の四肢を捥いだ。

「上がっていくかい?」

父親の言葉に、白い少女は首を横に振る。
彼女の家まで侵してはいけないと思った。ただでさえ今この父親の目の前でいることが白い少女の自己満足に過ぎない。

「じゃあ立ち話だけど、ここで娘について話そうか」

父親の言葉に白い少女は震えながら頷く。

「彼女は少し気が弱いですが、優しい人ですわね。芯がとても強かった」

どの口で言っているのか。白い少女は自らの口を縫い合わせて二度と開かないようにさせたいと思った。

「私の娘は一度そうと目標を決めたらやり遂げる娘だ。
 どうやら外人の怪しい人物と仲良くなっていたようで、心配していたんだけど。
 『彼は怪しい人じゃない、とても優しい人だから』って言うことを聞かなくて」

ぽつぽつと娘について話し出す父親。誰かと娘について話したかったのかもしれない。
きっと誰にでも自慢できる、目に入れても痛くないような少女だったのだろう。

「彼氏については知らないけれど、娘の様子は変わらなかった。彼氏ができたと言ってもそんなに変わらなかった。チャラチャラと髪を染めるような様子もなかったよ。
彼氏との生活だけじゃなく普段の生活をとても大切にしてたし、きっと彼氏は本当に良い人だったんだろうね」

7陽愛白 ◆ptlrdCRQLs:2016/05/04(水) 17:55:00 ID:WoJMMzuc

「………そうですわね。彼氏さんのことは私も伺っていますわ」

実際に潜入していたとは言え彼女の彼氏はバルタザール……穏健派の魔術師だったらしい。
こちらは白い少女が直接拷問していないが魔術師と能力者、二つの『力』の架け橋になろうと一生懸命になっていたらしい。立派な志を持つ人物だったのだろう。
だから狙われたのかもしれない。

―――――――彼らの助け合う尊い思いを、陽愛白を含む魔女狩りは踏みにじったのだ。相手を単なるゴミとしか見ないことによって。

白い少女は震えていた、自分へのやり場のない怒りを堪え切れない。そうまるで被害者とその魔術師は。
陽愛白とその下僕の関係ではないか。いや、それよりももっと尊いものだろう。能力者と魔術師が幸せに共存できる優しい世界を彼女たちは目指していたのだ。比較することが間違っている。
白い少女は、命の重さと言う物を。自らが犯した罪を。
その責任をようやく実感していた。

「私のせいですわ」

気がつくと。白い少女はぽつりと言葉を漏らし。俯いて涙を流していた。
彼女の中からいつの間にやら弱肉強食の理念は消えていた。
心中にあるのは何てことをしてしまったのだろうという後悔の念。

「わたしの娘のために涙を流してくれるのだろう?そんな君が原因のはずがないよ」

父親はそんな白い少女の言葉にも穏やかに微笑んだ。
きっと、誘拐前後に仲良くしていたと思われているのだろう。
一番辛いのは、彼のはずなのに。それでもその父親は白い少女を気遣ってくれた。
その優しさが、何とも言えなくて。辛くて。白い少女の瞳から流れる雫の量が、慟哭が増していく。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

謝り続ける陽愛白。頭の中も口に出す言葉も謝ることしかできない。
父親は白い少女の背中を暫く優しく擦ってくれた。

8陽愛白 ◆ptlrdCRQLs:2016/05/04(水) 17:56:13 ID:WoJMMzuc
30分ほど話した後に、被害者の父親の家から離れた陽愛白。
いつの間にやら雨が降っていた。ぽつぽつと天から落ちる水が、白い少女を濡らす。
白い少女の心内でも、雨は降っていた。

「私がこれからすることは、このような被害を増やすことなのでしょうね」

魔女狩りの人間にも、それぞれ家族は居る。親友が居る。恋人が居る。
白い少女は自らの欲望でその幸せを壊そうと、そうしようとしている。
それは何と罪深いことだろうか。なんと傲慢なことだろうか。

「しかし、私は立ち止まるわけにはいきません」

そう立ち止まる訳にはいかない。白い少女は自らの下僕の為に学園都市の一部を破壊しようとしているのだ。そうしなければ自らと下僕が死んでしまう。
愛する人が死んでしまうのだ。

「私がこれから行う行動には、とても重い責任が降りかかります。
悔しいですが高天原いずもの言う通りですわ」

高天原いずもが言った、被害者の責任を受け止めるという意味がようやく分かった。
人の上に立っていたのだから実際はもっと前に気づくべきだったのかもしれない。
しかし後悔に遅すぎるなんてことはない。

「それは大きな罪ですわ。それでも私は乾に死んでほしくはない」

白い少女は自らの決意を固めるように、強くはっきりと呟く。

「ならば受け入れましょう。高天原いずもがそうできたのなら私にできないはずがありません。
――――私が齎す被害者の痛みを、受け止めた上で引き摺りましょう」

白い少女は、他人にも自分にも厳しい少女だ。彼女は自身の醜い弱肉強食の思考を、傲慢さを捨て去り。

――――――――――――それよりももっと傲慢な少女となった。

雨は、いつの間にやら晴れて。曇り空の雲の僅かな切れ目からは太陽の日差しが差していたのだった。

9サークル語り ◆5QE4wOW7sQ:2016/05/05(木) 03:28:27 ID:knD6JRu.
「今のトレンドはな…ズバリ腋や」
「は」

段々と気温が上がってきた春の昼下がり、ファーストフード店のテーブルを境に向き合って、鉢頭摩の言葉に黒繩が間抜けな声を出した。
今の時間は午前11時半過ぎ、休日の為人で騒つく店内の隅っこで、近寄り難い容姿の二人が何を話すかと思えば、聞こえてくるのはそんな会話だ。

「せやからな?巨乳とか貧乳とかじゃなくて、今のフェチのトレンドは腋だと思うんよワイ」
「お前ブッ殺すぞ?人を電話で叩き起こしておいて言いたい事がそれか?あ?」
「まあ貧乳一途なジョーにはわからんやろうけどあ痛たたたた!!!冗談冗談!!ちょっとしたオープニングトークやて!!」

気が付けばイライラが頂点に達していた黒繩が、鉢頭摩のアホ面にナイフを突き付けていた。
どこから取り出したのかその漆黒のナイフの先端がちょっとだけ頬に突き刺さっている、痛みに叫んだ鉢頭摩の方に店内の視線が集まった頃にはナイフは納められていて、鉢頭摩は「いや、すんまへん」と客と店員に二ヘラと笑いかけた。閑話休題。

「テメェのつまんねェ話に付き合う暇はねェんだよ、何もねェなら帰って寝るぞ俺は」
「まあそう慌てんなやジョーよぉ、ま、なんや…ちょっとシリアスな話やから先に空気を和ませとこ思ってな」

溜息を吐いた黒繩は、さっきまでと態度を改めた鉢頭摩を見て「さっさと話せよ」と悪態をつく。
鉢頭摩はわざとらしく少し貯めてから、ようやく口を開いて語り出そう…としたが、すぐにそれもまた防がれた。
ボゴンと響いた重い音、頬を腫らした鉢頭摩と拳を握り締めた黒繩、腫れた頬を撫でながら鉢頭摩は涙目になっている。

「せ、折角人が真面目に話そうとしたのに何するのん!?」
「無駄に貯めてんじゃねェよ腹立つ」

鼻息を荒くして詰め寄る黒繩を「どうどう」と抑えた鉢頭摩は、今度こそようやく語り始めた。
それは、自分達と同じ闇の中に潜む者達の事、魔女狩りについてだ。

「これはワイが集めた情報と噂から予想した事なんやけどな…」
「最近魔女狩りがヤンチャし過ぎてな、堪え兼ねた魔術師が対抗勢力を集めとるっちゅう噂や」
「……へェ」

鉢頭摩は普段から、サークルという血気盛んな連中の中にいて『喧嘩は嫌い』だとか宣っている変な奴だった。
その為黒繩のように自ら魔術師を探して狩るような事はせず、情報や噂を集めて他のメンバーに流すという事をしている、要は実質的なブレインの様な仕事を請け負っていた。
その鉢頭摩が、最近手に入れたという情報を元に学園都市の不穏な空気を語る。表の人間には知られていない暗部間での動きだ。
学園都市にはいくつか、秘密裏に行動する組織があって、それは暗部と呼ばれている、話題としている魔女狩りもそうだし、黒繩達のいるサークルもそうだ。
この二つの組織の共通している所は同じく『学園都市にいる魔術師の殲滅』を目的としている所、目的が同じなら協力する事も不思議ではない。

「サークル(こっち)としちゃあ手を貸して恩を売ってやるのも吝かやないが、そんな義理も無いし他の奴等も余り乗り気やない、上も特に何も言わんからジョーも好きにしいや」

だが、目的が同じだからと言って実際に協力し合うかは話が別だ、元来サークルという組織は群と言うには余りにも身勝手で、『個の集まり』と言うに相応しい形態をしている。
それ故に手を貸すかは個人の考えに任せ、するもしないも自己責任、組織として語るならば『どうでもいい』というスタンスでこの一件を傍観しているようだ。
気に食わないだとか面倒臭いだとか、諸々の理由はあるが殆どのメンバーは魔女狩りに非協力的だと鉢頭摩は語り、それを踏まえて黒繩に胡散臭い笑みを見せた。

「お前、こういう祭り好きやろ?」
「……ケッ」

対面のソファーにどっかりと腰を下ろし、ジュースを啜りながら話を聞いていた黒繩は、自分の性格を見透かすような態度の鉢頭摩に嘆息を漏らした。
何が『こういう祭り好きやろ?』だ、人の性格を知った気になりやがって。
───まあ、嫌いではないが。

「好きにしていいんだろ?じゃあ好きにするわ、後で文句垂れんなよ」
「おうやれやれ、何なら魔女狩りの方に連絡しとくか?」
「まだ協力するとは言ってねェ……本当に楽しそうなら行ってやるってだけだ」

空になった紙コップをぐしゃりと握り潰し、テーブルに置いた黒繩は、聞くだけ聞いたと席を立つ。
尚座ったままニヤニヤと笑う鉢頭摩を一度睨み付け、フンと鼻を鳴らして店を出た。

快晴の空、日光に暖められたアスファルトの熱気が襲い掛かり、憎々しげに舌打ちをした黒繩はすぐに路地裏の中へと入っていく。

「……精々盛り上げろよ、魔女狩りィ…!」

闇の中に生きる一匹の蝶は、流されるべき風が吹くのを待っていた。

10せいぎのゆうしゃ・ももたろう? ◆BDEJby.ma2:2016/05/05(木) 13:54:59 ID:M5rJPzIY
むかしむかしあるところに、1人の子どもがいました。名前は”むめい”といいました。
むめいたちが住んでいるのは鬼ヶ島というとても小さく、みんなのところからとても離れた島でした。食べ物は少なくて、おもちゃなんかもない。
でも、そんな中でみんな助けあって、楽しくくらしていました。むめいはそんなくらしと、家族、ともだち、みんなが大好きでした。

ですがとうとう、この島も食べ物がなくなり、どうしようもなくなってしまいました。彼らは『そだてる』ことをしらず、ただただあるものをとっては食べるのみだったのです。

しょうがないので、お船をつくってしらない人たちのところに何人かが行きました。
しばらくして、しょんぼりした顔でかえってきました。どうやら、ことばが通じず何ももらえなかったとのことでした。
でもそんなことどうしようもありません、ただひたすらお願いするしかないのです。もう一度、彼らはしらない人たちのところに行きました。

でも、彼らが帰ってくることはもうありませんでした。鳥さん達にようすを見てもらっても、彼らの姿は見えません。あれー?どこいったのかなぁ??

しばらくして、おっきなお船が鬼ヶ島にきました。でも乗ってるのはいち。に。さん。よにんでした。
食べものをくれるんだろうと、お父さんがいちばんてらそうな人のところに行きました。
お父さんは切られました。見た事のないするどいはもので、血がいっぱい出ていました。
そしてそれと同時に、えらいひとじゃないさんにんもうごきだしました。みんなはひっしに抵抗しました。

むめいはお母さんにいわれて、ゆかのしたの空いた場所にかくれていました。こわくて、こわくて、ずっと目をつぶってたら、いつの間にか寝ていました。

起きて、外に出てみると、みんなしんでいました。さっきのよにんはもういません。でも、あの大きなお船だけは、穴があいていたけど、のこっていて、小さいお船がなくなっていました。

あとできいた話ですが、あのえらそうな人の名前はは”桃太郎”というそうです。とてもつよく、せいぎのゆうしゃだっていわれてたみたいです。


僕たちは何もしていないのに、みんなとくらしていただけなのに。それなのにこの人が『せいぎ』なの……??

11”探偵” ◆NYzTZnBoCI:2016/05/08(日) 15:32:03 ID:vfULsUNc
春の季節を感じさせられる陽気と桜の花吹雪をバックに、一人の青年が思いに耽る。
肌寒さも抜けて心地よい暖かさに包まれる時期となったが、青年の心は曇天のように晴れることはない。
その原因は言うまでもなく、かの陽愛社の令嬢から請けた依頼に関することだ。
身辺調査という依頼自体は珍しくもなく何度も受けてきたが、今回はその規模が違う。
単なる権力だけでは調査できない相手であり、その依頼人は世界的にも有名な社長令嬢。
視界に映る景色が全て違う世界に見えるほどに、探偵は頭を抱えていた。


「……ここまで聞き込んでも、有力な情報を得られないとは…」


一人愚痴るように溢す探偵、小柳=アレクサンドル・龍太。
”高天原いずも”の聞き込みを始めてから実に1週間、情報を尋ねた人数は200を優に超える。
そうして分かったのは高天原いずもは番長を名乗り人助けを行っていることと、第一学園に所属していることと、簡単な容姿の情報だけ。
何処に住んでいる、何処に現れる――…などという明確な情報は誰も持っておらず、殆どが無駄足に終わる。

その僅かな情報から推察するだけでも、高天原いずもという人物像はだいたい想像がつく。
お世辞にも学園都市は治安がいいとは言い切れない街だ。能力という力を手に入れたからか、悪い方向へ進む者も少なくない。
そんな中で高天原いずも、彼女は能力に溺れずに人助けという方向へ進みその名を轟かせている。
直接見なくともその情報だけで、自分よりも相当人間が出来ているのだと実感させられた。

「私が困れば颯爽と現れる……なんて、都合のいい事は起きませんよね……」

自分が態と襲われ危機的状況に陥りいずもを誘う――それも考えたが、一瞬で振り払う。
可能性はあるかもしれないが博打にしては分が悪すぎるし、何よりリスクが高い。

ならば風紀委員を頼るか?
いや、それはダメだ。自らプライバシーの侵害を犯す風紀委員など存在しないだろう。
学園の生徒に聞き込むにしても、その噂が高天原いずも本人に流れてしまったら本末転倒だ。
だとすればやはり、今自分に出来ることといえば外部からの聞き込みを行うだけ。


「――お兄ちゃん、探偵さん?」


そんな思考の中だ、探偵に声が掛かったのは。

12”探偵” ◆NYzTZnBoCI:2016/05/08(日) 15:33:22 ID:kPdKZ8zY

思案の渦から我に返り視界に映ったのは、一人の小学生くらいの少女。
探偵だと訪ねてきたからには、青年の容姿を見てそう判断し何か用事があって声をかけたのだろう。
焦げ茶色の探偵服を羽織り直し、警戒させぬよう声の主へと微笑みを向ける。

「ええ、その通りですよ。……ご依頼ですか?」
「あのね、あのね……えみぃを探して欲しいの!」
「えみぃ……とは?」

慌てた様子で身振り手振り説明する少女は、どうやら人探し或いはペット探しを依頼している様子だ。
だがその慌てぶりから恐らく居なくなったのは気ままなペットではなく、身近な人間だろう。
視線を合わせるように座り込み穏やかな口調で尋ねれば、少女からはやはり予想通りの返答が返ってきた。

「私のお友達!小早川エミちゃん!
 ……今日のお昼、広場でかくれんぼしてたら居なくなっちゃったの…」
「…なるほど、分かりました……その広場へ案内していただけますか?」

こくりと大きく頷き、探偵を先導するように駆け出す少女。
追い越さぬように背後を付いていきながら、探偵は静かに思案する。

人探し自体は珍しい依頼ではなく、特にこの街ならばそういう話は多い。
大半は迷子だとか家出だとか、探偵が大した活動をしなくとも自発的に解決するケースも多いが。
だが同時に自発的に解決できないケース――すなわち、”人攫い”などの場合があるのも否めない。
言い知れぬ焦燥を抱きながら、探偵たちは”現場”へと向かった。


―――――
―――



「ここだよ!ここでかくれんぼしてたの…っ!」
「…………」

数十分移動した末にたどり着いたのはいたって普通な、噴水がシンボルの平凡な広場だ。
外景だけならば昼時には学生や子供が集まり、穏やかな時間を過ごしていても何らおかしくはない。
だが、それでもこの時間に人っ子一人いないのは相応の理由があってこそのものだ。
そう、この広場は近場では有名な不良達の集い場。事案も多く発生し風紀委員が手を焼いている。
滅多に人も訪れないこの場では目撃証言も期待はできないだろう。
そんな場所で小学生ふたりがかくれんぼ等をしていたらどうなるのか――想像は容易い。

13”探偵” ◆NYzTZnBoCI:2016/05/08(日) 15:34:21 ID:vfULsUNc

「貴方は風紀委員に連絡を入れ、大至急ここへ来るよう伝えてください。
 私は近くを捜索していますので、時間があるようならばエミさんの親御様にも連絡を入れてくれませんか?」
「あ…う、うんっ!」

早口で捲し立てる探偵の言葉に僅かに困惑を見せながらも、言われた通りに携帯電話を取り出す少女。
しっかりした子だ、と感嘆している場合ではない。一刻も早く少女を探し出さなければ、最悪の可能性も浮かび上がる。
少女が自ら失踪した場合も考えられるがここまで条件が揃っていて、そう判断するのは愚策だ。
まずは手がかりを見つけなければ……何も残さず失踪しているとは、考えられない。

「風紀委員の人たち、すぐ来るって!」
「ご苦労様です、……エミさんの親御様にも連絡を」
「うんっ!…探偵さん、絶対えみぃ見つけてねっ!」
「……勿論です」

手から携帯を取りこぼしそうになるほど焦った様子で再び連絡を入れる少女を他所に、捜索の目を広げる探偵。
地面を這い、壁を伝い、花壇を漁り、噴水の中を覗き込み――裏通りへと続く道を歩くさなか、ふと陽光を反射する何かが目に映った。

「……これは…」

探偵が手にとったのは花柄にあしらわれた女児向けのヘアピン。
誰かに踏まれたのか、いびつな形に歪み土が付着していたが……それほど汚れてはいない。
という事はつまり、まだこのヘアピンが落とされて時間は経過していないという事だ。

「……………」

この裏通りを抜けた先にあるのは旧繁華街。人が寄らず、自然と寂れていった街並み。
少女たちがかくれんぼを行っていたのは時間にして約2時間ほど前。
そしてこのヘアピン――…探偵は弾かれるように、裏通りへと飛び出した。

背後で少女が何かを叫んでいるが、敢えて耳にしない。
これから自分が向かうのは、少女が入り込んではいけない世界なのだから。
そこで待っていてください、と、ただ一つ言葉を残して探偵は姿を消した。



―――――――――――――――

14”探偵” ◆NYzTZnBoCI:2016/05/08(日) 15:35:08 ID:vfULsUNc



「大丈夫だからねぇ…お嬢ちゃん、ちょーっとだけ利用するだけだからねぇ……?
 ……おいてめぇら!!ガキの親とはまだ連絡がつかねぇのか!」
「そ、それが……誰かと通話中らしくて……」
「通話中だぁ!?…っち、5分後にまたかけろ!」

リーダー格の不良が撒き散らす怒号が辺りに響き渡り、部下の一人がおどおどしくも「へい」と返事をする。
その傍らではもう一人のガラの悪い部下が、椅子に縛り付けた女児の首元にナイフの鋒を突きつけていた。

「んーっ!!んんっ!!」
「うるせぇ!黙ってろ!!」

猿轡越しに悲鳴を上げる少女、小早川エミの表情は悲痛に歪み瞳に涙を溜めている。
彼女の周りを取り囲むように佇んでいる人数は2人、リーダー格を含めれば3人となる。
その集団はどうやら少女の親に脅迫を送り、少女の安否と引き換えに金銭を要求する魂胆らしい。
だが所詮は不良少年の集まり。先程から上手くいかず、苛立ちを募らせているのが目に見えてわかる。
広場には人気がないと言え時間が経過しては厄介事になるかもしれないというのは、流石に彼らも理解していた。
だからこそこうして少女の親に連絡を入れているのだが、このザマだ。

「おいおい、女の子にそんな乱暴なこと言うなよ……?
 こいつは俺らの大事なお客様だ、金を運んできてくれる幸運の招き猫ってやつだよ……」

少女の顎を乱暴につかみ、怪しげに微笑むリーダー。
相変わらず少女の表情は恐怖に囚われており、泣き声もあげられない状況だ。
そしてそんな中遂に、電話のコールが全員の鼓膜を揺らす。

「!……ボス、繋がりました!」
「ようやくか!……おい、金の要求を――――」





「――させませんよ」




その瞬間、全員の動きが凍りついた。

15”探偵” ◆NYzTZnBoCI:2016/05/08(日) 15:36:27 ID:vfULsUNc


一斉に注がれる視線の先に佇むのは、焦茶色の探偵服を羽織る高校生くらいの青年。
瑠璃色の眼鏡の奥から覗く眼光はこの状況に臆することなく、真っ直ぐに全員の顔を見渡していた。

「て、てめぇ…風紀委員か…!?」
「いえ、私はただのしがない探偵ですよ……ほら、紋章がないでしょう?」

狼狽する不良の一人へ向けて、自身の探偵服を見せつけるように裾を引っ張る青年。
3人の不良が緊迫した状況の中ここまで余裕を保っているのは、恐らく何か理由があるのだろう。
自身の能力に相当自信があるのか、場慣れしているのか、本物の馬鹿か――推察するリーダーは、一先ず疑問をぶつける。

「……どうしてここがわかった」
「”落書き”ですよ、この工場跡にはほかの場所よりも一層色濃く落書きが描かれていたので。
 ……縄張り意識を優先するあまり、第三者からの視点を見落としていたのでは?」
 
淡々と紡がれる言葉の裏には一切の油断もなく、人数差があるというのにいつの間にか後退しているのは不良の方だ。
だがこの状況が不良たちにとって有利であることには変わりない。一人の部下が少女の首元にナイフの刃を当てて。

「動くなよ兄ちゃん、ちょっとでも怪しい動きを見せたら……」
「…ふっ!」
「がっ!?」

突如、青年が投擲した小石が部下の右手に被弾しナイフが弾き落とされる。
その生じた隙を見逃さず一瞬で距離を詰めれば、探偵による実戦に向けた一本背負いが決められた。
硬い地面と背中を勢いよく衝突させ悶える不良は、当分動くことすらままならないだろう。
一瞬で繰り広げられた探偵の攻撃にようやく危機感を覚えたのか、リーダー各が怒号をあげた。

「やれェ!!」
「へ、へいっ!」

スキンヘッドの部下が勢いよく返事を返すと同時に、その掌に宿るのは灼炎。
恐らくこの男は能力者なのだろう、Levelは2……或いは3といったところか。
無能力者と能力者では圧倒的な差があるというのに、探偵は微塵も動かずに徒手空拳の構えを取っている。

「いいんですか?能力を使って」
「は、はぁ…?テメェなにを……」
「私の後ろにあるオイル缶は可燃性のエンジンオイルです。
 貴方の能力は発火能力……万が一にも狙いが逸れたら、全員吹き飛びますよ」
「……っ!?」

探偵の言葉を受けて怯む部下の足元へ、傍に落ちていた鉄パイプを投擲する。
短い呻きを挙げて崩れ落ちる男の胸ポケットからナイフを抜き取り、顔面へ向けて肘鉄を決めた。
鼻血を噴き出し再起不能となった男に一瞥をくれることもなく、最後に残ったリーダー格の男と向き合う。
冷や汗を頬に伝わせ拡大した瞳孔で探偵をみやり、リーダーの男は自身の上着のポケットに手を掛けた。

「銃を抜く気ですか?」
「……な…っ!」

だが――それさえも、目の前の探偵は見抜いてしまう。

「やめておきなさい、この距離ならばナイフの方が速い。
 銃は抜く、構える、撃つの三点動作で初めて攻撃が成り立つ反面、ナイフは斬るの一点動作ですから」
「…っの…野郎がぁッ!!」

もはや探偵の言葉が聞こえていないのか、ポケット内の銃に手を掛けるリーダー格。
その瞬間リーダーの手にはナイフによる裂傷が刻まれ、耐え難い激痛に手を抑えながら膝から崩れ落ちた。
自身の流れる血を見て戦意を喪失したのか、呻きを上げるだけで自ら起き上がろうとはしない。
だが念には念を……動きを封じる為両足をネクタイで縛り、鉄骨に凭れさせる。
鎮圧化は完了、椅子に縛られる少女の元へ向かい拘束を解いた。

「……もう大丈夫ですよ、小早川エミさん」
「…あの、あなたは……?」
「申し遅れました、私は小柳=アレクサンドル・龍太。
 先程申した通り探偵です……あなたのご友人から依頼を受けました」

探偵さん?という少女の反芻をかき消す様に辺りにサイレンが鳴り響く。
恐らく依頼人の少女が風紀委員に事情を伝えたのだろう、この場所に到着するのにそう時間はかからない。
やがて武装した風紀委員がこの拠点を絞り出し、不良達を取り囲んでこの一件は無事終わりを迎えた。



―――――――――――――――

16”探偵” ◆NYzTZnBoCI:2016/05/08(日) 15:37:27 ID:vfULsUNc



「本当に、エミを助けていただいてありがとうございます……!
 このご恩はいつか必ず……」
「探偵のお兄ちゃん!エミちゃんを見つけてくれてありがとう!」

騒動が収まり風紀委員の事情調査を終えた頃、エミの父親と依頼人の少女が探偵へ礼を述べていた。
解放されたエミは一足先に母親と自宅へ向かっており、精神面での休息をとっているらしい。
探偵は短く首を振って、変わらず澄ました表情で二人の顔を交互に見やる。

「いえ、探偵としての仕事を遂行したまでです」
「お兄ちゃん……私も何かお礼したいけど、お金…持ってなくて……」
「……お礼、ですか」

そう言えば考えてなかったなと、少女が口にして初めて気がついた。
本来ならばここで依頼料を請求するべきなのだろうが、別に探偵業で生計を立てているわけではない。
金よりも情報を求める彼にとって、この選択は真っ先に切り捨てられた。

「では、一つお願いがあります」
「お願い……?」
「ええ、”高天原いずも”という学ランとハチマキを身につけた人物を見かけたならば連絡をください」
「う、うん……でも、そんなことでいいの?」
「勿論です」

にこりと、軽く微笑む探偵の言葉を受けてパッと明るい表情を浮かべる少女。
もしも他の探偵がその様子を見ればせせら笑い、小柳の事を自分よりも劣った存在だと思うかもしれない。
だがそんな事を気にしていたら探偵などはやっていられない。ポン、と少女の頭に手を乗せれば踵を返し歩き出す。
時刻はもう夕暮れどき、街灯が広場を照らし出し夕焼けが空を独占する時間帯だ。

「探偵さーんっ!ありがとーっ!!」

後ろから響く声が自身の背中を後押しするような、そんな感覚に身を馳せて。
学園都市に吹き渡る気まぐれな風は、夕闇を歩いた。


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