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【デレマスSS】やんでれ法子のドーナツサークル【オリP】
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先日このタイトルでスレを立てた者ですが、冒頭を書いたところまでまとめていただいて元のスレが落ちてしまったので再投稿です
いくつかの箇所を修正したりしなかったりしてますがおおよその内容は変わらないので
既に読んでいただいた方は数レス飛ばして続きの部分からお読みください
よろしくお願いします
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ありがとうございました、という店員さんの声を背中で聞きながら、香ばしい匂いが漂うお店を出る。
そして紙袋からひとつ、ドーナツを取り出してぱくり。
うん、やっぱりドーナツはいつもおいしいねっ!
そんなことをつぶやきながら、事務所に向かって足を動かしていく。
あたしの名前は椎名法子。
ドーナツが大好きで、ドーナツからもらったパワーをみんなに届けたくて、アイドルをやっているんだ〜!
まだまだ成長中のかけだしアイドルだけど、世界中の人たちを元気つけるために頑張ってるっ!
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もうひとつドーナツを手にとって口に入れる。
オールドファッションのサクッとした食感と、チョコソースの甘みがとろけそうでたまらない。
えへへ、ドーナツを食べるとついつい笑顔になっちゃうなっ。
口のまわりについたチョコソースを舌でぺろっと......おっとと、これはあんまり行儀がよくないかな。
でも仕方ないよねっ。ドーナツがおいしいから!
口に含んだチョコソースの味が広がって、またにこにこしちゃう♪
そういえば、プロデューサーにはじめて話しかけられたときも、ドーナツを食べ歩いてたっけ。
ふふっ、あのときはドーナツが欲しいのかなって思って、あたしのを分けてあげようとしたんだ。
そうしたら......。
っと、そんなことを考えていたらいつのまにか事務所の前に着いちゃった。
紙袋をうっかり落とさないように左腕でしっかり抱き抱えながら、あたしはちょっぴり駆け足で部屋へ向かう。
そして空いた右手でドアノブを思いっきり強く握って、がちゃり。
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「おっはよープロデューサー! 今日もいいドーナツ日和だねっ」
挨拶と共に部屋に入ってきたあたしの方に目を向けて、手を振った男の人がいた。
「やあ法子、おはよう! ......そして、ドーナツ日和って?」
その男性は席を立ってあたしのところに歩いてきた。
ニコッと笑って、でもちょっとハテナを頭に浮かべて話しかけてくれるこの人こそが、あたしのプロデューサー。
「今日は天気が良くてドーナツを気持ちよくぱくぱく食べられるから、ドーナツ日和なんだっ!」
「なるほど。でも法子は曇りの日でも雨の日でも毎日ドーナツを気持ち良さそうに食べてるよね」
「うん! だから、毎日がドーナツ日和〜♪ 」
「あはは、それはいいね」
プロデューサーはまだ20代の若手で、あたしが初めての担当アイドルだと前に言ってた。
お互い新米だから、力を合わせて頑張ってるんだ。
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「というわけで、プロデューサーもドーナツ、いる?」
「うん、もらおうかな。どんなのがある?」
「えへへ、今日はオールドファッション特集! チョコオールドファッションと、シュガーオールドファッション、ハニーオールドファッションもあるよ〜!」
「じゃあ、チョコをいただくね」
紙袋の中からドーナツを取り出して口に運ぶプロデューサー。
うん、美味しい、と言って食べ進めてるけど、唇にチョコソースがついてちょっと黒くなってた。
「あ、チョコが口についちゃってるよっ」
「え、ほんと?」
ぺろり、とソースをなめ取るプロデューサーを見て、あたしはおんなじことをしたさっきの自分を思い出した。
なんだかおかしくなってつい笑っていると、プロデューサーがあたしの頭をわしわししてくる。
「なに笑ってるんだ、法子」
「あはは、プロデューサーとあたしってそっくりさんだなって思って!」
「ええ、どのへんが?」
「いろんなところ!」
あたしの返答を聞いたプロデューサーも、ぷ、と吹き出して笑い始めちゃった。
それもまたなんかおかしくて、あたしも一段と笑いが込み上げてくる。
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そうしてしばらくのあいだ二人で笑っていると、プロデューサーの後ろから声をかけてくる人がいた。
「ふふっ、お二人とも楽しそうですね」
「あ、ちひろさん! おはよ〜!」
「おはようございます、法子ちゃん」
緑の服を着たこの女性は、千川ちひろさん。
この事務所のアシスタントさんで、みんなのことに目を配ってくれる頼れるお姉さん!
プロデューサーもよく、ちひろさんには本当にお世話になってる、って言ってた。
「仲良くじゃれるのもいいですけど、確か法子ちゃんに伝えることがあるんですよね、プロデューサーさん」
「ああ、そうでした。よく聞いてね、法子」
「なになに〜?」
プロデューサーがあたしの両肩をガシッとつかむ。
「法子がいま持ってるその紙袋のドーナツチェーン会社から、仕事がもらえたよ!」
「......ええ! ほんとにー!?」
「そんな嘘なんてつかないよ。おめでとう!」
「やった〜!!」
耳に入ってきた言葉に、思わず大声をあげちゃった。
とび跳ねたい気持ちを抑えて、両手をあげて喜ぶ。
ちひろさんも、おめでとうございます、とあたしに言ってくれた。
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「ねねっ、どんな内容!? いつやるの〜?」
「これがなんと、CM撮影だ! 収録は三週後の木曜日! 大抜擢だよ、法子!」
「CM!? 楽しそうだねっ、プロデューサー♪」
あたしとプロデューサーはお互いに抱き合って大はしゃぎした。
ドーナツチェーンのCM出演......あたしがやりたくてたまらなかったお仕事っ!
これで、ドーナツからもらったパワーを、ドーナツを通じて、みんなに分けてあげられるね!
「あたし、わくわくが止まらないよ!」
「僕もだよ! でも収録はまだ先だから、それまでの仕事もしっかりこなさないとだね」
「もっちろん♪」
あたしは紙袋からドーナツを取り出して口に入れた。
どんどん力が湧いてくるような気がする!
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「この勢いでレッスンも頑張っちゃうねっ」
「うんうん、その調子! 僕ももっと仕事もらえるように頑張るね」
そこで、ちらっとプロデューサーが時計の方を見た。
レッスンの開始時間まで、四十分ほどあった。
「まだ少し時間あるけど、せっかくだからレッスン場まで送ってくよ」
「ありがとっ、プロデューサー! そうと決まればダッシュ〜」
「うおっと! それじゃ行ってきます、ちひろさん」
「はい、気を付けてくださいね」
あたしはプロデューサーの手を握って駆け出した。
プロデューサーは体勢を崩しつつもちひろさんに挨拶を欠かさず、ぺこりと頭を下げながら外へ出た。
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あたしたちを照らす太陽の光が気持ちいい。
やっぱり、今日はドーナツ日和だね!
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「新作ドーナツで、カラフルな楽しさ、味わいたいなっ」
「おなかいっぱいの幸せをあげちゃおう♪」
カット!
という声がスタジオに響いて、室内のスタッフさんの緊張感がほぐれる。
あたしも手にドーナツを持ったままぐぐぐっと伸びをすると、口から「んんーっ」と声がもれちゃった。
まだまだ体力的には大丈夫だけど、あたしもちょぴっと緊張してるのかな?
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「法子、お疲れさま!」
「あっ、プロデューサー!」
天井に伸ばしてた手を降ろすと、プロデューサーがあたしのもとに歩いてきた。
両手にはストローつきのカップを持ってる。
そこであたしは自分のノドがかわいていることに気付いた。
「これ、法子が疲れてると思って貰ってきたんだ」
「わあ! ありがと、プロデューサー!」
さっそくカップを受け取ろうとしたけれど、あたしの両手にはさっきまで撮影に使ってたドーナツがある。
どうしよーかなーと悩んでると、プロデューサーが口を開いた。
「あ、そういやそのドーナツ食べちゃっていいって言われたよ」
「えー! ほんと?」
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あたしはドーナツに目を向けて、またプロデューサーの顔に視線を戻した。
そこで、ピカーンっといいことを思い付いちゃった。
「じゃあそれならっ...」
この右手のクルーラーを...!
「はいっ!」
「もごっ...!」
プロデューサーのお口にずどーん!
あははっ、びっくりしてるっ!
プロデューサーは口をもごもごさせて、しばらくしてノドをゴクンと鳴らした。
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「えへへっ、おいしいでしょ?」
「むぐっ、何で僕に......」
「ほら、あたしはみんなにドーナツのパワーを伝えるアイドルだから、プロデューサーにも食べてほしいなって!」
ふふ、CM撮影を経てあたしはどんどん成長するんだっ。
プロデューサーはあたしを見てはははと笑った。
「法子は流石だなあ、敵わないよ」
「えへ、それじゃあ今度はプロデューサーの番だね! ほらほらっ!」
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んーっと口をつき出してみる。
けどプロデューサーはあたしの意図がわからないみたい。
あたしの顔を見ながら少しおろおろしてる。
「えーっと......?」
それじゃあ、答え合わせだねっ!
「そのドリンク、あたしに飲ませてっ♪」
あむ、とプロデューサーの右手にあるカップのストローをくわえる。
炭酸がノドをぴりぴりと通っていく感じが爽やかで気持ちいい♪
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「ごくごく......ぷはっ! おいしいね、プロデューサー!」
「わざわざそんな飲み方しなくても、カップごと渡してあげるのに」
「ほら、あたしはいま両手にドーナツがあるし、プロデューサーはそのジュースがあるでしょ?」
だからっ!
「食べさせあいっこ、飲ませあいっこ、しよっ♪」
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あたしはそう言って食べかけのクルーラーをまたプロデューサーの口に差し出す。
プロデューサーは眉をハの字にしつつにこっと笑って、ガブリと食いついた。
そしてそれを飲み込んじゃうと、あたしにカップを向けてくれる。
「じゃあ今度は法子の番だね。はい」
「ありがとっ、プロデューサー!」
繰り返すうちにあたしのクルーラーはなくなって、プロデューサーの右手のドリンクも空になっちゃった。
でも、何となく、お互いの両手のモノがなくなるまで食べさせあいっこを続けた。
ドーナツを二個食べたプロデューサーと、炭酸を二つ飲んじゃったあたしは当然......。
「......お腹いっぱい」
「あたしもお腹たぷたぷかも......」
えへへ、こうなっちゃうよね。
あたしとプロデューサーはお互いに目を合わせて、ふふっと笑い出した。
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「今日の仕事はさっきの撮影で終わりだから、スタッフのみなさんに挨拶したら車で寮まで送るよ」
「オッケー♪」
手についたドーナツの生地をぺろっとなめとって歩き出そうとした。
でも、そのとき、あることに気付いちゃった。
「あっ!」
「え、どうした法子?」
「ドーナツ、二つともプロデューサーにあげちゃってあたしは食べ忘れちゃった......!」
「......あっ」
プロデューサーに食べてもらえたのは嬉しいけど、うっかりしてたなあ〜......。
でも、いっかっ!
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「んーじゃあっ、このドーナツが発売されたら、一緒にお店にいこうねっ♪ プロデューサー!」
また、プロデューサーと食べにいけば問題ないよねっ!
あたしとプロデューサーはなかよしコンビだからっ♪
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今日は以上です、続きます
前回から大分遅くなってすみません
次はもっと早く書いてきます
このスレが残っていればスレ内で完結させたいのですが落ちてしまったら諦めます
また後日、よろしくお願いします
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すき
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とんでもねえ、待ってたんだ
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いい!いい!
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毎時間投稿しろ
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平和な世界だぁ…
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ヤンデレになるんですかこれ(期待)
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みんな平和が一番!
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もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
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Pの体のどこにドーナツサークルが空くか楽しみですね
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――――――――それからしばらくたって。
CM撮影が終わって、それが放送されて、いまはちょっぴりひまな時期。
今日はたまたまオフがプロデューサーと重なったから、お仕事のごほうび&約束ってことで一緒にドーナツめぐり!
いまいるこのお店で四軒目、ドーナツ一つ一つどれも違った味わいがあっておいしかった〜♪
「......けふっ」
「あれ? プロデューサーはもうダウン?」
「水分が......水分が欲しい......」
今にもしなびちゃいそうなプロデューサーに、はい、とあたしは自分のコップを差し出した。
プロデューサーはそれを手にとって一気にぐいっと飲みほす。
相当ノドが渇いてたみたい......?
「ふう、生き返る......あ、飲みかけもらっちゃってごめん」
「いーのいーのっ! あたしは平気だけど、ドーナツってたくさん食べるとノド渇いちゃうよね」
「たくさんじゃなくて1つでも......いや、なんでもない」
「そう? それじゃ、あーむ♪」
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そしてあたしはドーナツの残りをぱくり。
見た目鮮やかなドーナツを、唇でくわえる感触。さくっとこぼれていく音、鼻へ抜けていく甘い香り、舌の上に広がる豊かな味!
五感で楽しむドーナツは、とっても―――
と考えていると、目の前にいるプロデューサーが口元を抑えて体を震わせていることに気づいた。
「ははっ、法子はドーナツのことになるとすごいね」
「ん? ええと......もしかして!?」
「『五感で楽しむドーナツ』、いい言葉だね」
どうやら考えてたことが口からもれちゃってたみたい。
「あ、あはは〜」と笑うあたしを見て、さらにプロデューサーは体を震わせた。
そこまで笑わなくても...!とは思うけど、不思議と嫌にはならなくて、むしろ心地が良かった。
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「でも、法子のドーナツに対するその真っ直ぐな気持ち、僕はスゴくいいと思う!」
あたしの目をしっかり見ながらプロデューサーはそう言った。
そのまなざしには真剣さがあって、あたしはそれが嬉しかった。
「えへへっ♪ ありがと、プロデューサー!」
だからあたしも、ニコっとプロデューサーに笑顔をプレゼントっ!
それを見たプロデューサーが、僕も負けてられないな、と言いながら残ってるドーナツを口にくわえようとしたそのとき、プロデューサーのポケットからプルルルルと音が鳴った。
プロデューサーはちょっとごめんと携帯を取り出してその画面を見たあと、「ちひろさんからだ」とゴクリと唾を飲んで席を立った。
オフなのにお仕事かな? プロデューサーってお仕事、大変なのかな。
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戻ってきたプロデューサーは、目を見開いてさっきと同じように口元に手を当てていた。
「......これはびっくり」
「なにかあったの? プロデューサー」
あたしがそう聞くと、プロデューサーはぱあぁっと笑顔になって、あたしの方に顔を向けた。
「この前撮ったCMなんだけど、向こうのお偉いさんが大変お気に召したらしく、第二弾が決定したって!」
「ほんと!? やったね、嬉しいなっ♪」
またドーナツを通じて、みんなにパワーをあげることができるんだねっ!
「しかもそれだけじゃなくて」
「んん?」
「法子専用のCMソングも作りたいって話があったんだ!!」
......。
......!
!?
「え〜!? ほんとうにほんとなの、プロデューサー!!」
「本当だよ! やったね、法子!!」
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ついに自分の曲ができるんだ......!
そう思うとわくわくしてきちゃって、あたしとプロデューサーは手を取り合ってはしゃぎあった。
はしゃぎすぎて店員さんに「申し訳ありませんが他のお客様もいらっしゃるので......」と注意されちゃった。
てへっ。
「コホン。さて、CMソング製作が決まったということは、いろいろやらないといけないことがあるんだ」
注意されてばつが悪そうに頬を少し赤く染めながら話を戻すプロデューサー。
その様子がちょっとだけおかしくて、ふふっと笑っちゃった。
「歌をしっかり覚えるとか?」
「もちろんそれもあるけど、振り付けを習ったり、あとは今まで以上にレッスンを頑張らなくちゃいけないね」
「おっけーおっけー! 頑張るねっ♪」
「僕の方でもレコード会社の人や作曲家の人と打ち合わせしたり、忙しくなるなあ」
勿論嬉しいことだけど! と言いながらプロデューサーはまだお皿の上に残ってたドーナツを思いっきり口に放りこんだ。
......そして思いっきりむせてる。
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曇ってきたな・・・
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「ごほっごほっ......また.....やっちゃった......」
「ええと......あっ! さっきプロデューサーにあげたのでジュースなくなっちゃったみたい! お水貰ってくるからちょっと待っててねっ」
「ご、ごめん......ありがとう」
あたしは席を立って店員さんのもとにかけ寄った。
そして貰ってきたお水をゆっくり飲んでいるプロデューサーを見て「しょーがないなあ〜」と思ったけど、同時にある想いがあたしの心にわいた。
ちょっぴり頼りないけど真摯なプロデューサーにはあたしがいて、
ドーナツ一直線なあたしにはプロデューサーがいる!
あたしとプロデューサーがずっと一緒にいれば、今回みたいにCMのお仕事が貰えたり、あたし専用の歌が貰えたり。
どこまでもドーナツパワーあっぷ♪できちゃうよねっ!
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......本当に、
ずっと、
ずうっと一緒に、
いられるなら。
あたしの胸に浮かび上がったこの想いの意味が分かるのは、もっと後になってからだった――――――――
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急落する準備はできてきましたね
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以上です、続きます
構想的にはまだ序盤の方なので、ご期待いただいてる部分まではしばらくかかりそうです
お待たせして申し訳ないですが、長い目でお付き合いいただけると嬉しいです
また後日、よろしくお願いします
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恋すか?(能天気)
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もう終わってる!
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病んでもいいから曇らないで…(無茶振り)
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早くドーナツまみれになろうぜ
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――――――――――――――――
「おつかれさまでしたー!」
トレーナーさんにしっかり挨拶をして、レッスンルームを出た。
プロデューサーに言われた通り、CMソングを作ることが決まってからのレッスンはどんどんハードになっていってる。
更衣室へと向かうあたしの手足はもうパンパンで、おでこからは汗がどばーっと。
体力的にはちょっぴりこげこげドーナツって気分だけど、歌ったり踊ったりするのってとっても楽しいねっ♪
楽しいから歌ってて、そうしたら、だんだんうまくなっていって!
そして、レッスンのあとはっ!
「とりあえずドーナツ、だよね♪」
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ジャージから着替えて建物をあとにしたあたしは、そのまま行きつけのドーナツ屋さんへしゅっぱーつ!
そしてお店に着いて中に入ると、たっくさんのドーナツがショーケースに並べられているのが目に入ってきた。
鼻にすうっと入ってくるあま〜い香りとのセットで、頭がくらくらしちゃいそうっ。
「どれにしよっかな♪」
トングをカチカチさせながら色とりどりのドーナツを選ぶ。
そのとき、ふとプロデューサーの顔が頭に浮かんだ。
忙しくなるって言ってたから......疲れてるときにはあまいもの、欲しくなるよねっ。
「ふふ、プロデューサーの分も買って事務所で食べようっと!」
プレーン、メープル、シナモン、そしてーイチゴチョコー !
味・見た目のバランスが取れた組み合わせを選んで、店員さんに袋につめてもらった。
このノリコセレクションを見たら、プロデューサーどんな反応するかな?
袋を開けたプロデューサーの表情を想像しながら、事務所までスキップ〜。
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もう始まってる!
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「プロデューサー! ドーナツ買ってきたから食べよー!」
ばーん!とドアを開けてあたしはプロデューサーに呼びかけた。
ちょっとお腹がすいておやつが欲しくなるこの時間、きっとプロデューサーは喜んでくれるはずっ。
......。
......ん?
あれ、お返事がこない。留守かな......?
プロデューサーがいつも使ってる机の方を見てみると、そのイスには誰も座ってなかった。
むむっ、タイミング悪かったかな。
「プロデューサーさんは外回りに出ちゃってますよ、法子ちゃん」
袋を片手に持ったまま悩んでるあたしに、ちひろさんが話しかけてきてくれた。
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「外回り......?」
「はい、今度収録する歌の件で、レコード会社の方や広告代理店の方々と打ち合わせがあるそうです」
ヒザをかがめてあたしと目線を合わせながら、ちひろさんは優しく教えてくれた。
......とってもステキな笑顔!
あたし思うんだけど......ちひろさんも相当かわいいよね。
ちひろさんもアイドルやればいいのにっ。
そして、あたしとグループ結成してみんなにドーナツお配りできたら楽しいな〜♪
ほら、ちひろさんはいつもプロデューサーにドリンクとかプレゼントしてるから、そのノリでっ!
「そのドーナツ、プロデューサーさんに?」
「そうっ! でもタイミング悪かった......みたい?」
「えーと......今日はプロデューサーさん、打ち合わせのあとそのまま帰宅の予定ですね」
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せっかく来てくれたのにごめんなさい、と申し訳なさそうに言ったちひろさんに「押しかけたのはあたしだから!」とにこっと答えた。
今日はたまたま会えなかっただけだから、誰も悪くないよねっ。
「んーそっかあ、やっぱり忙しいんだねプロデューサー」
「それだけ法子ちゃんがアイドルとして頑張っている、ということですよ。プロデューサーさんも『やってやるぞ!』と張り切ってましたから!」
「なるほどー! えへっ、じゃあ、あたしももっと張り切らなきゃねっ!」
あ、そうだ、とつぶやいてあたしは袋の中からメープルのドーナツを取り出して、スッとちひろさんに差し出した。
「はい、これ、ちひろさんに!」
「あら、いいんですか?」
「うん、プロデューサーには新鮮なドーナツを食べてほしいから! 今日はちひろさんとっ!」
「新鮮なドーナツ......ふふっ♪」
「?」
「いえ、じゃあこちらは頂きますね♪」
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ちひろさんが何か言いたげにしながらほほえんだのが気になったけど、あたしもすぐに袋からドーナツを取り出して食べた。
もぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
うんっ、今日のドーナツもおいしい♪
これをプロデューサーに食べさせてあげられなかったのは残念だけど、お仕事ならしょうがないよね。
「ちひろさん! 明日はプロデューサーいるかな?」
「ええと......そうですね、確か明日は社内で済む用事だけでした」
ドーナツをこくんっと飲み込んで、口元に手をあてながらちひろさんは教えてくれた。
何も見ずに答えたってことは、プロデューサーの予定をちゃんと覚えてるってことだよね!
あたしのプロデューサー以外の、他のアイドル担当のプロデューサーのスケジュールも知ってるのかな?
さすがちひろさん!
「オッケー♪ 明日またドーナツを持ってくるねっ」
「ええ、プロデューサーさんも喜んでくれると思いますよ」
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そのままちひろさんとお話ししながらドーナツをぺろりと完食!
えへへ、誰かと一緒に食べるのは楽しいねっ。
そうだっ、今度プロデューサーとちひろさんとあたしの三人で食べたらもっと楽しいのかなっ?
その次は、他のアイドルの子にも食べてもらって、またその次は他のプロデューサーさんにも!
あたしとプロデューサーから広がる、ドーナツの輪!
なんだかわくわくしてきちゃうな♪
......最後の一口を食べたあと、ちひろさんがお腹をさすりながら「今日は一駅分歩かないと......」ってつぶやいてたのを聞いちゃったのはちょっと申し訳なかったけど。
......。
あたしはレッスンでたくさん運動してるから、おなかはスリムだよーっ!
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――――――――
次の日。
昨日と同じようにレッスンを受けて、同じようにドーナツを買って、事務所へダッシュ!
部屋の前に着いて、そのままの勢いでドアをオープン!
「ドーナツの時間だよっ、プロデューサー!」
部屋に入ってすぐプロデューサーの席の方を見る。
......。
良かった、今日はいるっ!
一生懸命にパソコンに向かってるプロデューサーの顔をみて、なんだかホッとした。
けど返事がなかったってことは、まだあたしに気づいてないみたい。
あたしはプロデューサーのそばまで近づいて、そのまま目の前にドーナツをスッと取り出した。
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「ドーナツの時間だよっ、プロデューサー」
「あ、やあ、法子」
もう一度同じセリフを言うと、プロデューサーは画面に向けていた両目をあたしの顔に向けなおした。
あれ、なんかちょっといつもと違う......?
「あっ、目の下にクマができてるよっ!? 寝てないの、プロデューサー?」
「......えーと、二時間ぐらい?」
「だめだよプロデューサー、まんまるおめめドーナツがしなしなになっちゃうっ!」
これはいけないっ。
あたしは差し出していたドーナツをプロデューサーの口にずいっと押し込んだ。
プロデューサーはむぐっと声を上げて、必死にもぐもぐしてる。
「疲れてるときには甘いドーナツで元気百倍っ♪ まだまだドーナツはあるから、いっくよー!」
「ちょっふぉふぁって、まふぁたへてるふぁら!」
「えいっ、ずどーん!」
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左手に持っていた袋はからっぽになるまでプロデューサーの口にドーナツを運んだ。
「どう? おめめパッチリ?」
「......うん、目はとても覚めたね」
ドーナツももちろん美味しかったよ、と言いながらプロデューサーは机の上にあったマグカップを口元に持っていった。
ズズッと真っ黒なコーヒーをすする音が聞こえる。
すんすんと空気をかいでみると、おだやかな香りが鼻にすうっと入ってきた。
昨日はなかったプロデューサーの音と匂いにまたあたしはホッとした。
「そういえば昨日も来てくれてたんだっけ、留守にしちゃってごめん」
「ううん大丈夫、ちひろさんと一緒にドーナツタイムを楽しんだからっ!」
「そっか、後でちひろさんにお礼言っとくよ」
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「ドナドナドーナードーナーッツ♪」
プロデューサーと一緒にいると、テンションあっぷ♪
ウキウキしてきて、自然と口から歌が出てきちゃう!
「レッスンの方はどう? うまくいってる?」
「うん! 歌うのってとっても楽しいから、今度のお仕事ワクワクしてるんだっ」
「良かった! 法子は声が良いから、歌もアピールポイントにしていけるね」
「えへへっ、アイドルノリコに歌のトッピング追加だね♪」
あたしというドーナツに、歌というあま〜いソースがかけられて、どんどんおいしくなってく!
このおいしさを、早くいろんな人にあげたいなっ。
「ねねっ、CMの曲、いつごろできそ?」
「えーと、まだ詳しくは決まってないんだけど来月の―――」
「プロデューサーさーん!」
プロデューサーが手帳を取り出してパラパラとページをめくろうとしたとき、ちひろさんの声が聞こえた。
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声の聞こえた方に顔を向けると、ちひろさんが片手に電話を持ってもう片方の手をあたしたちの方にふりふりと振ってる。
「お話し中のところすみません。昨日プロデューサーさんと打ち合わせした方がご用事があるとのことなので、お電話回しますね!」
「あ、分かりました、ありがとうございます! ......というわけでごめん法子、ちょっと待ってて」
「うん、大丈夫だよー」
両手を合わせて謝るプロデューサーに、あたしは右手の親指と人さし指でちっちゃな輪っかを作ってオッケーサインを出した。
プロデューサーはそれを見ると、ハの字にしていた眉を元の形にもどして電話を取った。
「はいお電話変わりまし......え、本当ですか? それは......はい......今日ですか? この後でしたらいつでも......ええ......急ぎで......」
プロデューサーは電話を頭と肩ではさんで落とさないようにしながら、手帳を開いて何かメモメモしてる。
あっ、眉と眉のあいだにしわができちゃってるね。
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「かしこまりました、それではよろしくお願いします」
かちゃん、と電話を置いたプロデューサーはカバンをいそいそと手に取ってあたしと顔を合わせた。
さっきとおんなじような、申し訳なさそうな表情をしてる。
「ちょっと用事ができたから急いで向かわないと行けなくなって......。来てもらったのにあまり話せなくてごめん!」
そっかお仕事がんばってっ、というあたしの返事を聞く前に「ドーナツごちそうさま!」と言ってプロデューサーは部屋を出ていっちゃった。
......プロデューサー、すごく大変そう。
ばたんきゅーしないといいけど...... 。
「あ、そうだっ、あたしのお気に入りのクッションとおんなじやつプレゼントしてあげようかな?」
どれくらいの大きさにしよう、とプロデューサーがさっきまで座ってたイスを見てみる。
そして、茶色の上着がせもたれにかけられたまま置いてあることに気づいた。
「これ、プロデューサーの? 忘れちゃったのかな?」
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......。
......かばっ。
............♪
「あはは、ぶかぶかだけど暖かいなっ」
何となく気になって着てみたけど、どんなに腕をピンとのばしてもあたしの手は袖まで届かなかった。
でも着てるととっても心地がいいの!
なんか、プロデューサーに包まれてるみたいで、ドーナツの真ん中にいるようなかんじ!
「プロデューサーのぽかぽかドーナツ、だね♪」
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......ふああ。
なんだかうとうとしてきちゃった。
レッスン頑張ってきたから、疲れちゃってるのかも?
「じゃあちょっとだけ、ドーナツの穴の中でおやすみなさい......」
プロデューサーのイスに座って、あたしは目をとじた。
それから数時間後にちひろさんが起こしてくれるまで、あたしはプロデューサーの上着をきたまま眠りっぱなしだった。
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今日は以上です、続きます
少し間が空いてしまったので、長めに書いてきました
次は木曜か金曜あたりにお見せできるかと思います
よろしくお願いします
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http://b--n.net/
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ええぞ
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まだヤンデレ化はしてないっすね(安堵)
じゃあ俺、法子の夢を見るために寝るから…
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ええぞ!ええぞ!
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Pがドーナツになる日も近いですね
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――――――――――――――――
「〜♪」
ざああ、とシャワーから降ってくる暖かいお水があたしの体に当たってぽたぽたと落ちる。
汗とか、一日の疲れとかも一緒に流れてく。
お湯に入れば全身もほかほかになって、まるで揚げたてドーナツっ!
「気持ちいいなっ、お風呂って♪」
お風呂用のイス(もちろん、真ん中に穴が空いてるやつ!)に座って鏡とむかいあわせ。
そして前を向くとあたしの体がそこにうつってる。
......そういえば、ちひろさんはいまダイエット中なんだっけ。
「......あたしはどーだろう?」
ふと、お腹をもにゅんと触ってみる。
............もにもに......もにもに。
うん、大丈夫そうだねっ。
むしろ前よりちょっぴりイイ感じ......?
「レッスン頑張ってるからかな?」
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この前、歌が完成して事務所に届いた!
ということで、レッスンはそれに合わせた歌の練習と、数週間後のおひろめに向けてダンスの練習にチェンジ。
おひろめといっても、CM撮影だけじゃなくて......。
「プロデューサーが、お仕事もらってきてくれたんだよねっ♪」
テレビ局の人と何回も打ち合わせをしてくれたおかげで、あたしはついに歌の番組に出させてもらえることになったの!
これってスゴいことだよねっ!?
だって、日本中のみんなにパワーをあげることができるからっ!
「えへへっ、楽しみだなっ♪」
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そして鏡を見ながら、ビジュアルチェックー!
まずは口角を上げて......まっすぐ鏡を見つめて......。
ぱっ!
......うんうん、このちょーし!
じゃあ次はー、せっかく髪を下ろしてるから......ちょっと肩の前に持ってきて......スマイル〜!
にこっ。
どうかなっ、カワイクなれてるかなっ?
ふふ、お風呂のパワーで体はリラックス♪
もっともっとカワイクなれそうだねっ。
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......プロデューサーは。
ちゃんと、リラックスできてるかなあ。
............。
「プロデューサー......」
あたしは、さっきのことを思い出した。
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――――――――
『......それでね、申し訳ないんだけど明日の仕事は法子一人で行ってもらいたいんだ』
電話を通じてプロデューサーの声が聞こえる。
直接姿を見なくても、電話のむこうがわでぺこぺこしてそうなのが何となく想像できる。
実は、あたしとプロデューサーが電話するのはそう多くない。
だって、いつもは事務所でお話ししてるし、お仕事のときも一緒に移動するからあんまり離れることってなかったから。
ほぼ毎日レッスンの前か後に会って、なにか連絡があれば直接教えてもらってた。
でも最近はプロデューサーがいそがしくて、会えない日も少しずつ増えてきちゃって。
ちょっとだけ、さびしい......かな?
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「あたしはいいけど......お仕事を見に来れないぐらい大変なんだね、プロデューサー。だいじょーぶ?」
それでもお仕事にはゼッタイついてきてくれたから、それにすら来れないってことは、よっぽどいそがしい......みたい。
『大丈夫! 明日の仕事はうちの会社が普段お世話になってるとこの写真撮影だから、スムーズにやってくれるよ。先方にもこの件はもう伝えてあるから、いろいろサポートしてくれるはず。だから安心して頑張って!』
電話越しに早口でしゃべるプロデューサー。
あたしのことを心配してくれるのは嬉しい。
けど、あたしは他に聞きたいことがあった。
「えぇとねプロデューサー、お仕事のこともそうなんだけどね」
『ん?』
「あたしが『だいじょーぶ?』って聞いたのは、プロデューサーのことだよっ」
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『え、僕?』
「そう! 最近お仕事が多いから......疲れてない? プロデューサー?」
あたしもレッスンは楽しいけど、たくさんやった後はどーしても疲れちゃう。
プロデューサーもたくさんお仕事したらしわしわドーナツになっちゃうかも......!?
『大丈夫! 今はたまたま仕事が重なってるだけだから!』
「......そう? ほんと?」
『本当だよ。それによく法子が美味しいドーナツをくれるから、体力も回復できてる』
心配してくれてありがとう、とプロデューサーは言ってくれた。
ドーナツの力でプロデューサーに元気をプレゼントできてるのは、やっぱりドーナツはすごいって思う。
それなら......。
「......そっか、じゃあ、プロデューサーっ」
『?』
「今度、もっとスペシャルなドーナツを、あたし特製のドーナツをプレゼントしてあげるねっ♪」
もっとドーナツを食べてもらって、もっとプロデューサーにパワーをあげるんだ!
あたしはそう決心して、プロデューサーに宣言した。
-
『......ありがとう! 楽しみにしてるよ』
「うん、あたしの全力込めて作るねっ!」
あたしは頭の中でどんなドーナツにしようかトッピングを考えてみた。
とろーりとろけるハチミツにしようかな?
男の人向けのビターなチョコにしようかな?
それとも......?
ふふっ、考えるだけでわくわくしてきちゃう♪
『......じゃ、明日は頑張ってね。また朝にメールで指示送っておくよ。おやすみ』
「あっ、おやすみーっ」
-
いろいろ考えてる間に電話が切れちゃった。
......。
明日は、あたし一人でお仕事。
......ドーナツがあれば大丈夫だよねっ?
とりあえず、お風呂に入ってリフレッシュしようっと。
-
――――――――
そして次の日。
あたしはプロデューサーからもらったメールの通りにスタジオへ。
お話は聞いてますよ、とスタッフの人たちが優しくサポートしてくれたおかげで、何とかいい感じに写真撮影はできてる。
昨日のお風呂でのビジュアル練習も役立ってるかな?
カメラさんの方向に〜。
ぱっ!と。
にこっと!
-
パシャ。
パシャパシャ。
パシャリッ。
何十枚か撮ってもらったところで、衣装チェンジ&休憩タイム!
えへ、でもその前にこの衣装をプロデューサーにみてもらおーっと......。
......あっ。
そういえば今日はプロデューサーいないんだった。
「いつも欠かさず見てくれてたからなぁ......」
次の撮影の時は、きっといてくれるよねっ?
それまで、おあずけだねっ。
ちょっとさみしさを感じながら、あたしはそのまま更衣室に向かった。
-
カワイクポップなドレスから、ちょっぴりシックな衣装にメイクあーっぷ!
こうやって色んな姿にチェンジできるのも、アイドルの楽しさだねっ。
スタッフさんたち待たせるのも申し訳ないから、ダッシュで部屋まで向かおうっと!
そして、ドアオープン!
ガチャン!
「......という連絡があって―――」
「流石に伝えずにこのまま続けるってわけには―――」
「.....今回は一旦先送りということに―――」
「それじゃスケジュールの調整が必要―――」
......あれ?
着替え終わって部屋に戻ると、なんかスタッフさんたちがザワザワしてる。
眉間にシワを寄せて、何か困り事かな?
-
「あ、椎名さん!!」
一人のスタッフさんが気づいてあたしの方にかけ足で近づいてきた。
今日の撮影で、はじめからあたしのことをよくサポートしてくれた女の人っ。
「お、落ち着いて聞いてくださいね!!」
「え、えーと......?」
あたしの肩を強くつかんで、その人は言った。
-
「椎名さんのプロデューサーさんが、た、倒れて病院に......!」
-
今日は以上です、続きます
遅れてしまってすみません
次にお見せする部分がもしかしたら一番人を選ぶシーンになりそうなので
少しだけ考えて書く時間をください
1,2週間以内には来ます
また後日、よろしくお願いします
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あくしろよ(ホモはせっかち)
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やばいよぉ!
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続き楽しみですねぇ!
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もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
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あげ
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あ、ドーナツみっけ!いただきまーす
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もう待ちきれないよ!早く(続きを)出してくれ!
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――――――――――――――――
「はぁ......はぁ......!」
ズドドドドと思いっきり階段をかけ上がる。
レッスンとドーナツで鍛えてるから、体力なら自信はあるんだっ。
病院まではさっきのスタッフさんに送ってもらった。
タクシーを降りて、プロデューサーのいる病室目指してひたすらダッシュして、そしていま!
「......〇〇〇号室、ここだ!」
スタッフさんに聞いていた部屋まで到着っ!
部屋番号の下にはプロデューサーの名前も書いてある。
あたしは、走ってきたそのままの勢いでドアに手をかけた。
「プロデューサーっ!!」
-
部屋に入ってあたしの目に飛び込んできたのは。
「ほら、飲んでくださいプロデューサーさ......あ、法子ちゃん」
トレードマークの黄緑の服を着て、ベッドの側のイスに座るちひろさんと。
「むぐっ。い、いえ、自分で飲めますから!......あっ、法子」
ベッドの中で上半身を起こして、ちひろさんにビンのドリンクをゴクゴク飲ませてもらいながらこちらを見てるプロデューサーだった。
-
「......」
「ええと、法子......? どうかした?」
「法子ちゃん......?」
「......よ」
「よ?」
「良かったぁ〜!! プロデューサー、大丈夫!? 」
-
もう始まってる!
-
ベッドのそばまで行って、ぎゅっ、とプロデューサーの左手をにぎる。
プロデューサーはちょっと驚いちゃったのか、体をぴくっと動かした。
「倒れたって聞いたから......心配したんだよっ! だから、スタッフの人に急いで送ってもらって......」
「そっか、それで衣装のままなんだ......」
「プロデューサーさん?」
「いえ、はい、すみません......」
ちょっとズレた返事をしたプロデューサーにちひろさんが怒ってる横で、まだあたしはその手をにぎり続けてる。
しっかりとしたぬくもりがあって、あたしはどこか安心した。
そして、思ってたよりごつごつしてて、あたしの手と比べてみるとなんだか不思議な感じがする。
やっぱりプロデューサーも男の人なんだなあ......。
「でも、この通り大丈夫だよ、法子。といっても大したモノでもなかったんだけど......」
「え?」
「お医者さんが言うには......ただの働きすぎ、疲れすぎってことだね」
別に病気になったわけでもないよ、とプロデューサーはあたしに握られた手を左右に揺らしながら笑ってた。
うーん?
それっていいことなのかなあ......?
でも、すごく元気そうだし、ホントに大丈夫なのかも。
-
「だからスタドリをこんなに飲む必要もないと思うんですけど」
プロデューサーはちらっとちひろさんの方を見ながら言った。
「だめですよ、プロデューサーさんにはしっかり治していただかないと! そのためには、疲労回復にはスタドリが一番ですから!」
ちひろさんはどこからかビンの飲み物を取り出して、ぱきっとふたを開けてプロデューサーにぐいっと差しだした。
にこっ、と笑うちひろさんの顔を見たプロデューサーは眉をハの字にしてなんとも言えない笑顔を浮かべてる。
......あ、よく見るとテーブルに空のビンがいっぱい積まれてる。
いち、にい......ごーろく......たくさんっ。
あれって全部ちひろさんがプロデューサーに?
もしかして......ひょっとして......ちひろさんは......。
-
......あのドリンクがものすごく大好きなのかな!?
だから他の人にも飲んでほしい......。
つまりあたしがみんなにドーナツをおすそわけするのとおんなじ感じ......だねっ。
わかるよ、ちひろさん。
あたしもドーナツをみんなに食べてほしいもん。
そして、みんなに元気になってもらいたいよねっ。
えへ、ちひろさんとあたしって結構似たもの同士かも!
やっぱり、ちひろさんにアイドルになってもらってユニット組んでみたいなっ♪
それに、プロデューサーには、なんか、いっぱい食べてほしくなるよね。
なんか、ね。
うん。
あたしも負けられないなっ。
今日は持ってこれなかったけど、明日はドーナツをどっさり持ってこようっと♪
「プロデューサー! 明日は覚悟しててねっ!」
「えっ? 何を!?」
新しく渡されたドリンクを右手でぐいっと必死に流し込んでるプロデューサーに、あたしは宣言した。
-
でもそのとき。
たぶん、思ってたより元気そうなプロデューサーを見てて、どっと体の力が抜けちゃったんだと思う。
がくっと、体のバランスを崩したあたしは。
そのままベッドの上に。
ばたん。
「きゃっ!」
「ごふっ!」
思いっきりダイブしちゃった。
-
プロデューサーのおなかの辺りに、あたしの頭が横向きに乗っかる。
手をにぎったまま倒れちゃったから、あたしの顔はプロデューサーと向かい合ったままで、にぎってた手もあたしの目の前にばたんと落ちてきた。
そのせいで、プロデューサーの左手はプロデューサー自身のおなかの上あたり、みぞおちのところを思いっきり叩いた。
「つうっ......」
「ご、ごめんね、プロデュー......っ!」
「だ、大丈夫......!」
プロデューサーの顔を下から見上げると、ちょっと唇をかみながらプルプルしてた。
大丈夫とは言いつつ痛いのをがまんするようなその表情が、なんか子どもっぽくて。
............ちょっとだけ、カワイイ......かも?
プロデューサーのおなかまくらを楽しみつつ、その顔を眺めてると、なんだかほっぺたがじわあっと熱くなっちゃうような感じがした。
......。
あれ?
もしかしてこれってちょっとヘンなことっ......!?
-
「大丈夫ですか!?」
ちひろさんが声をかけてくれて、あたしははっと気がついた。
「ちひろさん......。えへ、ちょっと、チカラ抜けちゃった......」
「ぼ、僕は平気です。それより法子を......!」
「はいっ! 法子ちゃん、いきますよ!」
「えーと、お願いしまーす......」
ちひろさんがあたしの体をゆっくり抱き起こしてくれた。
「ありがとっ、ちひろさん」
「いいんですよ、法子ちゃん」
......ありがとうって口では言ったけど、ホントはもっとプロデューサーのあたたかさを、もうすこしだけ感じてたかった......な。
-
そしてちひろさんはそのまま、さっきまで自分が座ってたイスにあたしを座らせてくれた。
ちょっと落ち着いて、ふうっ、とあたしが息を出すと、プロデューサーとちひろさんも同じようにふうっと息を出した。
なんだかそれがおかしくて、あははって笑いがこみ上げてきちゃった。
しばらくしてちひろさんが口を開いた。
「法子ちゃんも疲れが出ちゃったんですね」
「うん......。ごめんねプロデューサー」
「いや本当に大丈夫だよ。法子の方こそ」
「あたしも大丈夫っ。あっ、イスはちひろさんが使って! あたしはもういいからっ!」
あたしは立ち上がってちひろさんにゆずろうとする。
でもちひろさんは笑顔を浮かべて手を横に振った。
「いえ、私はそろそろ失礼しますから、法子ちゃんが使ってください!」
「あっ、そーなんだね」
ふと時計を見てみると、あたしがスタジオを出たときから90分近く経ってる。
病院までかかった時間を考えると、ここについてからは40分ちょいくらい?
あんまり長くいるような気はしなかったけど、もうそんなに過ぎちゃってたみたい。
-
「もっといてもいいのに〜」
「そうしたいのはやまやまなんですけど、色々とやることがありますので......」
「お忙しいところありがとうございます。すぐに駆けつけていただいて助かりました」
「いえいえ、いいんですよ! 私はみなさんに頑張っていただきたいだけですから!」
キビキビとお礼を言うプロデューサーに対して、ふふふと素敵な笑顔を浮かべるちひろさん。
......そういえば、あたしが来たときにはもう部屋にちひろさんがいたけど、いつから来てるのかな。
あのビンの山を見た感じ、だいぶ前からいてくれてるっぽいよね。
スタジオより事務所の方が病院に近いのかもしれないけど、それでもかなり早いよーな......?
なにか理由が、あるのかな?
んーむむー、とあたしが考えてるとちひろさんが笑ったままこっちに顔を向けた。
-
「それに、良いものも見れましたし♪」
「イイモノ?」
「なんですか、良いものって」
あたしとプロデューサーはニヤニヤしてるちひろさんに聞き直した。
ちひろさんは待ってましたという表情で。
「さっきプロデューサーさんのお腹に乗っかった法子ちゃんの顔が、すごく赤くなっててとってもキュートだったなあって思いまして♪」
とんでもないことを言っちゃった。
-
「あ、あの、ちひ――――」
「じゃあプロデューサーさん、お仕事の調整や今回の件に関する手当ての申請などは私の方でできる限りやっておきますからしっかり休んでくださいね。休みの最中の連絡事項などはファイルにまとめておくのでお時間あるときあるいは現場復帰後にお読みください」
「法子ちゃんもずっと衣装でいるのはちょっと面倒ですよね。そう思ってあらかじめ着替えをご用意しておきましたので置いておきますね。お手洗いかどこかで着替えていただいて、その衣装は明日中に事務所で渡していただければ私の方で返却対応します。あ、寮には連絡しておきますので今晩いくら遅くなっても大丈夫ですから」
「そういえば、追加のスタドリをそちらの部屋の隅にある段ボールと病室付属の冷蔵庫にたっぷり補充しておきましたのでお二人とも遠慮なさらずご自由にどうぞっ!」
「それでは」
「お二人とも」
「ごゆっくり♪」
-
はじまってる!
-
パタン、と病室のドアが閉まって、すたすたと部屋から遠ざかる足音が聞こえてきた。
ちひろさんが帰っちゃったから、いま、この部屋にいるのはあたしとプロデューサーの二人だけ。
でも、二人ともちひろさんの勢いに圧倒されてなにも言えなくなっちゃった。
......。
......見られちゃってたんだ、あのときの、あたしの顔。
それを、プロデューサーにも知られちゃった。
............。
は、はずかしいっ!
いまのあたしの顔はたぶん、いやゼッタイ。
揚げたてのドーナツみたいにアツアツになっちゃってるよ〜っ!
「......言いたいことだけひたすら言って帰っちゃったなあの人。ね、のり―――」
「っ! プロデューサーっ! そ、その、あたしの方、あまり、見ないでっ......」
「え、あ、ああ、ごめん......」
今度こそ、あたしの顔を見せられない。
さっきよりもいまの方が真っ赤になっちゃってるはず......だから。
-
「......」
「......」
また、二人ともしゃべらなくなっちゃった。
プロデューサーはあたしに言われた通り、顔を右側に向けてあたしの方に視線を向けないようにしてくれてる。
あたしは、自分の顔に手を当てて熱を冷やしながらぼうっとプロデューサーの顔を見てみた。
......やっぱり、前と比べるとげっそりしてる感じがするなあ。
おめめのクマはくっきり残ってるし、もともとほっそりとしてたほっぺのお肉もさらになくなってる。
プロデューサー、すっごくお仕事頑張ってくれてるんだ。
でも、プロデューサーがこのままへなへなドーナツになってっちゃうのはいやだな。
......。
プロデューサーを、元気にしてあげるためには......。
-
「......プロデューサー、聞きたいことがあるの」
「......?」
「なんで、プロデューサーはここまで......倒れちゃうまで頑張ってくれるの?」
「なんで、あたしをアイドルにしてくれたの?」
「なんで」
「あたしを」
「はじめての担当アイドルに選んでくれたの?」
-
「......」
「知りたいなっ、プロデューサー」
プロデューサーは顔をあたしの方に向けなおした。
あたしはそのプロデューサーの目をじぃっと見つめて。
すうっと息を飲みこむ。
「あたしはドーナツみたいなアイドルになりたいんだっ」
「でも、美味しいドーナツを作るためには、まず、そのルーツの、プレーンなドーナツを知らないとでしょっ?」
やがて、プロデューサーが口を開いた。
「......うん、わかった。でも、あんまり面白い話じゃないよ」
「いいのっ! だって、それがアイドルノリコとプロデューサーのコンビのはじまりだから!」
あたしのその言葉を聞いたプロデューサーは、口を閉じて優しくちょっとだけ笑った。
それからしばらくして、ちょっと長い話かもしれないけど、と言ってプロデューサーは話し始めた。
-
今日は以上です、続きます
大変お待たせしました
書いてきたのが結構長くなってしまったのでキリのいいとこで分けました
この続きは明日か明後日にはお見せします
よろしくお願いします
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お前の投稿を待ってたんだよ!
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(ヤンデレの片鱗が見えてきて)いいじゃん…いいじゃん…
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あくしろよ(ホモはせっかち)
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――――――――――――――――
「まずは、この会社に入ったときのことから......話してくよ」
あたしはこくん、と首を縦にふった。
「......憧れだったアイドル事務所に入社できたときは、すごくワクワクしたんだ」
「とはいえ、入りたての新人にプロデュースなんてさせてもらえないから、初めは研修......勉強の毎日だったよ」
「覚えることは多くてキツかったけど、アイドル事務所に入社できたんだからと、やりがいはあった」
あたしにもわかるように、細かく説明を入れてくれながら、ゆっくり口を動かしてる。
-
「研修が終わった後は先輩に付いていって学ぶんだけど......」
「......驚かされた。芸能界ってすごく大変な世界なんだって。夢と現実は違うんだって痛感した」
ごめん、アイドルの前で話すことじゃないよね、と言いながらプロデューサーは視線を足もとの方に移した。
あたしも、そんなことないよ、って言いながらプロデューサーの目線を追いかけて、おんなじところを見つめてみる。
「それで......正直に言っちゃうと、自信がなくなった。僕は本当に良いプロデューサーになれるのかなって。自分の担当のアイドルを、芸能界のてっぺんまで連れていけるのかなって」
「でも、ともかく頑張ろうと決めた。アイドルと二人三脚で成長していけばいいんだって思った。それからはなんとか先輩からいろいろ聞いたり調べたりして、バテるぐらい勉強した」
頭のなかで、その時のプロデューサーはどんな感じだったんだろうと想像してみる。
......プロデューサーが体がぼろぼろになるまで頑張っちゃうのは、そんな前からだったんだ。
-
「その研修が終わったら、先輩からアイドルのプロデュースを引き継いで、その子が初の担当アイドルになるんだけど」
「でも......僕の担当になるはずだった子は、担当プロデューサーが変わるのをすごく嫌がっちゃって」
「結局、その子はそのまま辞めちゃった」
プロデューサーの顔の方に目を向けると、唇をぐっと噛んでつらそうな表情をしてた。
せっかくアイドルになれたのに、辞めちゃうなんてことあるんだ。
......でもたしかに、あたしもプロデューサーが変わっちゃうのはやだなあ。
「......この事務所はアイドルとプロデューサーの距離が近くて仲がいいから、そういうのは稀にあることらしいとは聞いたけど......。自分の中で何か大事な線がプツンと切れちゃったような気がした」
「僕に何か悪いことがあったのか、あの子に何かしてしまったのか、僕はプロデューサーに向いていないんだろうか――――」
「そんなことが頭の中をずっとグルグルするようになって。同期たち.....僕と一緒に入社した人たちは始まったプロデュース業をこなして過ごしている一方で、僕は頭を抱えてただ事務作業をやってるだけなのが、恥ずかしかった」
「仲の良い友だちやちひろさんは心配してくれたんだけど......」
ごくっとツバを飲み込む音が聞こえた。
プロデューサーの顔を見てみると、おでこにちょっと汗がにじんでた。
-
「最初に引き継いだアイドルのあとは、基本的に自分でオーディションなりスカウトなりで見つけ出してくるのが事務所のルール......。でも、僕はもう何もできなかった」
「それからしばらく経つころ、上司の人に呼び出されてすごく怒られた。君は何をしにここに入ったんだと」
「......何も言い返すことができなかった」
さっきと比べると、プロデューサーの声はだいぶ細くなっちゃってる。
いつものプロデューサーのイメージからは、ホントに考えられないくらい。
なんだか、プロデューサーの体がちっちゃく見えた。
「意気消沈して、事務作業にも手がつかなくなっちゃって......。でも、それを見かねたちひろさんが、『気分転換に少し旅行に出てみたらどうでしょうか』ってアドバイスをくれた」
「それにすがりつくように、休みを取って、大阪に行った」
......!
大阪っ!
あたしのふるさとで、そして、あたしとプロデューサーと出会った場所だっ。
-
「といっても大阪にした理由って特になくて......。ただ、美味しいものを食べたいって思ってたら大阪に来てたんだ」
あ、ちょっとわかるかも。
なんだかおいしいものが食べたくなるときってあるよね。
あたしも、おいしいドーナツを探しに旅に出ることがあるからっ。
......。
でも、そのときのプロデューサーは、とにかく大変だったんだよね。
「街を歩いていろんなものを食べたけれど、どれも美味しくなかった。というより、なんだか味を感じなかったんだ......もう限界かなって思った」
......うん。
あたしも、ドーナツの味がわからなくなっちゃったら、限界......って思っちゃうよ。
「......でも!」
自分の足もとを見てたプロデューサーが声を張り上げて、あたしの顔の方を向いた。
あたしはちょっとだけ驚いちゃったけど、プロデューサーと目を合わせた。
「そこで、法子を見かけたんだ。可愛らしい女の子が、にこにこ笑って、ドーナツを口にくわえながら歩いてた」
プロデューサーはさっきよりも早口で、次から次にどんどん話してく。
-
「目が離せなかった」
「見ているだけでドーナツの香ばしさ、美味しさが伝わってくるような気がした」
「なんて幸せそうな笑顔なんだろう、なんて元気づけられる笑顔なんだろう......!」
「この子となら、もしかしたら......!」
「......そして気がついたら声をかけてた」
-
......その日のことはしっかり覚えてる。
街角でもぐもぐと揚げたてのドーナツを食べてたら、男の人が話しかけてきて。
はじめは、ドーナツが一つほしいのかな、とか、お店を教えてほしいのかな、とか思ってたけど。
『スカウトです』と言われて、驚いちゃった。
「そして君は応えてくれた。だから、今の......法子のプロデューサーとしての僕があるんだ」
そのときは、あたしじゃなくてドーナツをアイドルにした方がいいかなって言った。
でもドーナツは歌えないから、かわりにあたしがドーナツのチカラを知ってもらうためにアイドルになろうって決めた。
「......『僕が法子をアイドルにしてあげた』んじゃなくて、『法子が僕をプロデューサーにしてくれた』」
アイドルになる前のあたしは、ただドーナツを食べたいって思ってた。
「『法子をはじめてのアイドルとして選んだ』んじゃなくて、『法子のおかげではじめてプロデューサーとして歩き出せた』」
プロデューサーに会ってアイドルになってからは、ドーナツになりたいって思った。
「『僕がここまで頑張れる』のは、『法子がここまで頑張る力をくれるから』なんだ」
そして、いまはっ......!
-
プロデューサーは、ずっとあたしの目を見つめてくれている。
あたしもプロデューサーの目をじいっと見つめ返す。
そして、あたしは口を開いた。
「......ううん、ちがうよっ、プロデューサー!」
「......?」
プロデューサーは不思議そうに首をちょっとかたむけた。
「あたしがプロデューサーにドーナツパワーをあげられてるのは嬉しいな」
「でもね」
「あたしも、プロデューサーから元気をもらってるんだっ!」
プロデューサーの目がぐっと開いた。
高級なお店のドーナツぐらいに、大きくなってる。
「......あたしはドーナツが好きな女の子で、ドーナツになりたいアイドルだったよね」
「でもプロデューサーと一緒に成長して、そしてプロデューサーの話を聞いて、いま、あたしはこう思ったの」
「ドーナツより輝きたい!」
......すごいこと言っちゃった。
だって、今までどんな人も、ドーナツを越えるなんてこと、できなかったはずだよね。
-
「......あたしのおかけでプロデューサーになれたって言ってくれたけど」
「あたしもプロデューサーのおかげで、こんなおっきな夢まで見れるようになったんだよっ!」
あたしは、左手でプロデューサーの右手を、右手でプロデューサーの左手をぎゅっとにぎった。
「プロデューサーはあたしのおかげでプロデューサーになった。あたしはプロデューサーのおかげでアイドルなった」
「こうして、あたしとプロデューサーは二人で一つ......大きな輪っかを作ってるの!」
あたしは両手の指をプロデューサーの指と指のあいだに通すようにすうっとからめる。
「だから、あたしとプロデューサーがお互いにチカラをあげあって、頑張って、成長していけば」
「この輪っかは、いつかっ!」
「ドーナツよりキラキラした、ドーナツよりドーナツなドーナツサークルになるよねっ♪」
-
あたしが言いたいことをぜんぶ言っちゃったあと、しばらくプロデューサーは下を向いてなにも言わなかった。
でも、そのかわりに、お鼻をずずっとすする音が聞こえてきて、手が震えるのを感じた。
あたしは、ベッドの上にのぼって、繋いでた手をほどいて、プロデューサーをきゅっとやさしく抱きしめてみる。
そのとき、プロデューサーがたまってたものを思いっきりはき出しちゃうようにしゃべりはじめた。
「僕がもっとしっかりしてたなら、もっとはやく、もっと手短に、もっと簡単に、そしてもっと法子を楽しませながら、もっと輝かせるようなプロデュースができたのに......!」
「そんなことないよ。プロデューサーと会えたから、プロデューサーがいてくれたから、プロデューサーといちから成長できたからっ! あたし、もう最高ってくらい楽しいよっ!!」
全身で、プロデューサーの体の重さを感じる。
「......そっか、そう言ってくれると嬉しいな......僕は、法子がいないとだめな、プロデューサーだ......ううっ......」
......プロデューサーの涙で、衣装がぬれていく感覚が。
「ほらっ、ぎゅってして......こうやって抱きしめ合えば、もっとつながりの強い輪っかになるよ! これって......とっても素敵なことだよねっ!」
プロデューサーが抱きしめ返してくれた、この感触が。
なんだか、すごく、すごく。
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「........................♪」
"オイシイ"、って感じた。
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今日は以上です、続きます
内容的には多分このあたりが全体の折り返し地点ぐらいだと思います
でももしかしたらもっと伸びるかもしれません
今回はかなり時間いただいちゃったので次は早めに来ます
日曜〜火曜のどこかでお見せできれば......
また後日、よろしくお願いします
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なんていい話なんだぁ…(恍惚)
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地の文が法子だとドーナツに洗脳されそうだ
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たまらねぇぜ
-
やりますねぇ!
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――――――――――――――――
「いっただきまーす♪」
目の前のお皿の上にたくさんのドーナツが山積みになってる。
ひとつ取って、ぱくり。
もぐもぐ......。
優しくふわっとした生地に、たっぷりかけたチョコがとろけて......。
ごくんっ。
「うん、おいしいねっ。上手にできた!」
思わずガッツポーズがでちゃう♪
-
あのあと......プロデューサーは一週間ほど病院でお休みすることになった。
倒れた次の日からすでにもうばりばり元気そうだったけど、念のため体力全快になるまで入院したほうがいいってお医者さんに言われたみたい。
また倒れちゃったらいやだもんね。
「もぐもぐ......」
プロデューサーがお休みの間、あたしはひたすらレッスンに集中することになった。
もちろん、大事なお仕事があるときは行ったけど、別の日でも大丈夫そうなやつは後日にしてもらった。
「もぐもぐもぐもぐ......」
それっていいのかな?って思ったけど、ラッキーなことにこの週のお仕事は少なめで、それもいつもお世話になってるところのものがほとんどだったから大丈夫みたい。
こんなこともあるんだねっ。
......あ、でも、そのことを教えてくれたちひろさんが「うふふふふ」とすごくにこにこしてたのはなんでだったんだろう?
-
「もぐもぐ......もぐもぐ......」
あたしは時間ができるたびにプロデューサーに会いに行った。
ドーナツをたくさん食べてどんどんさらに元気になってほしいなって。
でもあたしが行くたびになぜか冷蔵庫のスタドリが増えてた。
あたしが来てないときにちひろさんも来てたのかな?
これはもうあたしも負けてられないって思って、ひたすらプロデューサーのお口にドーナツをずどーんって連打した。
そしてついに明日、プロデューサーが退院するのっ。
「もぐもぐもぐもぐ......もぐもぐもぐもぐ......」
お祝いにあたし特製のドーナツをプレゼントしてあげようって思って、女子寮でドーナツクッキング♪
前にも手作りドーナツをあげるってヤクソクしてたからねっ!
そしていま!
ここにドーナツがかんせー......。
-
「......ってああっ!!」
考えごとから戻ってきてお皿を見てみると、ひとつ残らずドーナツがなくなっちゃってた。
な、なんで!?
周りを見渡してもあたし以外に誰もいないし......。
まさかっ!
「......ドーナツが自分で逃げ出しちゃったのかな!?」
......どうやらあたしは自分の意思をもって動き出すドーナツをつくりだしちゃったみたいだねっ。
あたしの手元から離れていっちゃったのは寂しいけど、ドーナツのためなら応援しなきゃ。
強く生きるんだよっ、あたしのドーナツたち!
あたしも強くなるからっ!!
-
あたしはしばらくのあいだ、一人立ちしていったドーナツたちに思いをはせてた。
.....あたしの口回りと指先にチョコがたくさんついてて、ちょっとまんぷく感もあるから、多分その行き先はあたしのおなかの中かも。
......。
ともかく!
「もういっかい作らなきゃっ!」
材料と器具の準備をしなおして、あたしは新しいドーナツを作りはじめた。
-
――――――――
「......まだかな、プロデューサー」
次の日。
あたしは病院の入り口のところでプロデューサーが出てくるのを待ってた。
作ってきたドーナツはしけちゃわないように、大きめのお弁当箱にとーにゅーして、カバンに入れてきてる。
ホントは今日レッスンがあったけど、やっぱりプロデューサーを迎えにいきたいからってわがままを言ってなしにしてもらった。
だからプロデューサーは今日あたしが来ると思ってないはず......!
せっかくだから、プロデューサーには知らせずサプライズでここに来ちゃった。
今はまだ、ちひろさんに教えてもらった退院の時間よりちょっと早いけど、気合いは十分だよっ!
-
玄関の方を見ながら、入り口のところにある丸くてでっかい柱(もし真ん中に穴が空いてたらドーナツぽいよねっ)によりかかってぼうっとする。
お弁当が入ってるカバンを持つ手には少しだけぎゅっと力を入れてみた。
ここにいるあたしを見たときプロデューサーはどんな顔をするかな。
お手製のドーナツをあげたときプロデューサーはどんな表情をするかな。
ドーナツを食べたときプロデューサーはどんな笑顔を浮かべてくれるかなっ。
......えへへ。
想像するだけでなんだか楽しくて、ドキドキしちゃうねっ!
-
......。
......ん?
あれっ......?
なんでドキドキ......するんだろう?
いつもなら、ドキドキじゃなくてワクワクって感じだよね。
......?
......まあ誰でも、自分の作ったものを食べてもらうときって緊張しちゃうからかなっ。
きっと、そう......だよね。
......。
......もしっ!
このドキドキが何かの病気のせいとかだったらどーしよう!?
あたしもここの病院に入っちゃうことに......!?
むむっ、プロデューサーとかちひろさんに相談した方がいいのかなあっ?
-
そういえば、ヘンな気持ちと言えば。
この前の......プロデューサーのお話を聞いて、プロデューサーをぎゅってしたときに込み上げてきたあの感じは、なんだったのかな。
「オイシイ」......って思っちゃったけど、お腹がふくれたわけじゃなくて。
でも、お口でなにか甘さとかほろ苦さとか味を感じたわけでもなくって。
もっとからだの内がわ、奥の方でぴりりと生まれたあのキモチ。
ゾクッとするような、でもなんかちょっびりスウィートなようにも思える、はじめて感じたあのキモチ。
......。
うーん、考えてもわかんないよっ〜!
-
「―――りこ、法子!」
「......はっ!」
声に気づいてそっちの方に顔をあげると、プロデューサーが目の前にいて、いつも通りの優しげなほほえみを浮かべながら、やあ、と手を振っていた。
真剣モードで考えごとしてたから、玄関からプロデューサーが出てきたのに気づかなかったみたい。
あたしが先に気づいてサプライズをしかけよーと思ってたのに、やっちゃったっ。
でもいっか。
プロデューサーに無事会えたし、元気そうだから!
「おはよっ、プロデューサー!」
「うん、おはよ」
それに、スーツじゃなくて私服のプロデューサーってすごく新鮮。
そういえば私服っていままで見たことなかったかも......。
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「びっくりしたよ。病院から出たらすぐそこに法子がいたから」
「えへ、ホントはあたしから話しかけようと思ってたんだけど、考えごとしちゃってて......。でも安心して! まだサプライズはあるからっ!」
「サプライズ?」
「何だと思う?」
プロデューサーは不思議そうに目を開いた。
右手を顎に当てて、ふむ、となにやら考えはじめた。
「なんだろう、ちょっと考えてみるね......まずは......サプライズっていうくらいだからいつもと違ってドーナツとは別のもの......かな?」
「んーん、正解はもちろん、ドーナツだよ!!」
「......」
だって、ドーナツといえばあたし、あたしと言えばドーナツだからね!
さっそくスイリを外しちゃったプロデューサーの顔がちょっとひきつっちゃってる気がするけど、実物を見てもらえばニッコリしてくれるはず!
あたしはお弁当箱をカバンから取り出して、はいっ、とプロデューサーに差し出した。
-
「でもね、ドーナツはドーナツでも、あたしお手製のノリコスペシャルドーナツっ♪」
そのままプロデューサーの目の前でお弁当のフタを開ける。
中を見たプロデューサーはくしゃっと笑ってくれた。
「おお! 法子が作ったドーナツかあ......!」
「たくさんあるから、どうぞ召し上がれ〜」
「それじゃあ早速一つ......」
プロデューサーはひょいっとつかんだドーナツをそのまま口にもってってぱくっと食べた。
あたしはその流れをじいっと見つめる。
......なんだか緊張しちゃうな。
しばらく口をもごもごさせて、ごくんとノドを動かすとプロデューサーは目をカッと開いてあたしの方を見た。
-
「このドーナツ......すごく美味しい!」
「ほんと!? 良かった〜!」
あたしはホッとして肩の力をぬいた。
もし口に合わなかったらどうしようって思ってたけど、もしゃもしゃ食べてるプロデューサーを見てると味には問題ないみたい。
「法子も食べようよ、作ってる段階でもういっぱい食べちゃったかもしれないけど」
「大丈夫、ドーナツは別腹だから! じゃあ、いただきます♪」
あたしもお弁当箱からひとつドーナツを取り出して食べる。
......うん、おいしい!
やっぱりドーナツってすごいなあ。
あたしが作ってもこんなにおいしくて、人を笑顔にできるなんて。
でもあたしは、こんなに美味しいドーナツを越えるのを目指すんだよね......!
なんだか果てしない目標のような気がしてきたけど、プロデューサーといっしょならっ!
-
ドーナツをくわえながら、ちらっとプロデューサーを見てみる。
すると見られてることに気づいたプロデューサーが、ドーナツを飲み込んでから口を開いた。
「ここまで美味しい手作りドーナツが食べられるなんて......本当にありがとう」
「いいのっ! だってあたしはプロデューサーに笑顔になってほしかったから♪」
こうしてあたしがあげたドーナツパワーでプロデューサーが元気になってくれれば、あたしも嬉しくなれる。
そうするとどんどん、あたしとプロデューサーの結びつきが強くなるよねっ。
「あ、でもこれ全部を一気に食べるのは難しいかな......このお弁当箱借りても大丈夫? 残りは家で食べてこの箱は洗って返すよ」
「オッケー♪」
あたしは右手の親指と人差し指で小さいまるを作ってプロデューサーに見せた。
それを見たプロデューサーはお弁当にフタをして、自分のカバンにいれた。
-
「このドーナツはゆっくり家でいただくよ。......今日は来てくれてありがとね!」
「うん!」
プロデューサーは、じゃあ、と手を振って満足そうな顔をしながらスタスタと歩き出した。
あたしもそれを見ながらてくてくと足を動かす。
スタスタ。
てくてく。
スタスタスタスタ。
てくてくてくてく。
ぴたっ。
ぴたり。
......。
......。
-
「......法子」
「ん? どーしたの?」
「いや......なんで僕の方についてくるのかなって」
「だってプロデューサーのおうちに行くんでしょ?」
「え?」
「?」
あれ、ヘンなこと言っちゃったかな。
「ええと......なんで法子が僕の家に?」
「え? そのドーナツを家で食べるって言ってたから、てっきりあたしもそのままプロデューサーのおうちでいっしょにドーナツを食べるものだと思って......」
「まてまてまてまて」
あたしが答えると、片手をブンブンと左右に振りながらプロデューサーは焦るように言った。
-
「それは僕個人が家でドーナツを食べるってことで......。それに、相手がプロデューサーだとしても、アイドルが男の人の家に行くのはあんまり良くないんだ」
「ええー、でもあたし、プロデューサーといっしょにドーナツ食べたいなっ。この前言ったよね。『あたしとプロデューサーは二人で一つ』だって」
「ああ、うん。あのときは......いろいろごめん」
思い出したのは、プロデューサーが倒れちゃった日。
病室で、プロデューサーのお話を聞いた、あの日。
あれから、その話題になるたびにプロデューサーはあたしに謝るけど、そんな必要ないのになって思う。
むしろ、あたしも昔のプロデューサーを知ったからこそ、アイドルとして新しい夢を見れるようになったし、ますますプロデューサーとのつながりの大切さを意識するようになった。
「だから、いろんなこと......今回のことも二人でやっていきたいって思うの......だめ、かな......?」
「うぅん......そう言われると......」
プロデューサーは腕を組んで考え始めた。
そしてしばらくして、プロデューサーが言った。
-
「......わかった。せっかくの退院祝いで、せっかく美味しいドーナツを、せっかく法子が手作りしてきてくれたから、今日は一緒にこれを食べよう!」
「......うん! ありがと、プロデューサー!」
プロデューサーは困ったように眉をハの字にしつつも、しょうがないなと言いたげにニコっと笑いかけてくれた。
やっぱり、プロデューサーは優しいねっ。
「ちょっと荷物があるからタクシー使うけど、それでも大丈夫?」
「大丈夫! むしろ一番楽かも」
「オッケー。それじゃあ、とりあえずタクシー乗り場まで行こう」
そう言うとプロデューサーは歩き始めた。
あたしも、プロデューサーの隣にならんで歩いてく。
-
プロデューサーのとなりに。
プロデューサーとならんで。
プロデューサーといっしょに。
プロデューサーとふたりで。
そんなことを意識すると、あたしはなんとなく心地よさを感じてウキウキしちゃう。
ただ。
同時に。
あの、「オイシイ」ってキモチがまた。
あたしの心に浮かび上がってきたのを。
いま、強く感じた――――――――
-
今日は以上です、続きます
火曜にはと言いつつ水曜に突入してしまってすみません
まだ火曜の28時ということで許してください
次は一週間以内にはお見せするつもりです
よろしくお願いします
-
体に気を付けて毎週投稿しろ
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もう待ちきれないよ!早く出してくれ!
-
おー、ええやん
-
ごめんなさい、ここ数日私用が重なり多忙のため、続きはもうしばらくお待ちください
お待ちいただいてる方には申し訳ないです
よろしくお願いします
-
あくしろよ(ホモはせっかち)
-
ドーナツ食べて待ってるぞ
-
遅くなってすみません
続きのほう、明日か明後日のこの時間ぐらいにお見せできる予定です
お待たせしてしまって申し訳ないです
よろしくお願いします
-
――――――――――――――――
「ここがプロデューサーのおうち......」
病院からタクシーに乗って何十分かしたころ、プロデューサーが住んでるところに着いた。
その建物は二階だてになってて、同じようなドアと窓が廊下にずらっとならんでる。
これがアパートってやつかな?
あたしがいま住んでる女子寮と似てるねっ。
ちょっとこじんまりとしてるけど、外の壁やドアはつやつやしててキレイ。
もっとアパートってぼろぼろなイメージがあったから、すこし意外かも。
「プロデューサーのお部屋ってどれ?」
「二階の端っこ......あそこだよ」
「オッケー! いこう、プロデューサー♪」
ほら、とプロデューサーが右手に持ってたカバンをすっと取って、代わりにぎゅっと空いた手をにぎった。
プロデューサーは「わざわざ持ってくれなくても大丈夫なのに」とは言ってたけれど、手をにぎったまま建物の入り口に案内してくれた。
-
お部屋の玄関まで着くと、ドアのカギを開けたとこでプロデューサーが、あっそうだ、とつぶやいた。
「ごめん、数分だけ待ってもらっていいかな? 家の帰るの久しぶりだから、いきなり人を家に入れる前にちょっと軽く掃除したくて」
いつものように両手を顔のまえで合わせて、いつものように申し訳なさそうな表情をしてプロデューサーはあたしに言った。
なんか最近、プロデューサーがあたしに謝ることが多いよーな......気がする。
事務所に遊びに行ったけど会えなかったときとか、お仕事の付き添いができないときとか、この前のお話を聞いたときとか。
べつにそんなに謝らなくてもいいのにね。
......そのときのプロデューサーの顔とか声が、なんだかちょっと犬っぽくてカワイイとは思うけど。
あっ、またこういうこと考えちゃうのってもしかしてヘンなことだったり......!?
ううーん、あたしも最近落ち着かないなあ。
まあ、それはおいといてっと。
「うん、いいよっ!」
そういうのって、いい状態で見てもらいたいよね。
あたしも、たとえば誰かにドーナツを食べてもらうときは見栄えをキレイにしてから渡したいしっ。
「ありがとう。できるだけ早く片してくるから!」
プロデューサーはそう言って、あたしの手からさっきのカバンを受け取りながら部屋のなかに入っていった。
-
アパートの廊下でひとりぼっちになったあたしは、ぼうっとドアを見つめてみる。
その横にはお部屋の番号とプロデューサーの苗字が書かれた表札があった。
そういえば、プロデューサーのこと、名前で呼んだことって実はないかも......?
そう思ってプロデューサーの名前を口にしてみたけど、あんまりしっくりこない。
......。
......あたしの名前、しいなのりこ、の「しいな」の部分がもしプロデューサーとおんなじだったら......。
..................。
..................!
「なんだろう、は、恥ずかしいっ!」
ちょっと想像してみたけど、なんだかすっごく恥ずかしいキモチになって顔がアツアツになってきちゃったっ。
「............うん、やっぱりプロデューサーはプロデューサーだね」
あつくなっちゃった顔を冷ますように首をブンブンとふってみた。
-
「そういえば、歌の収録もじわじわ近くなってきたなっ」
歌番組に出るのはもっと先だけど、歌やCMの収録はそろそろ。
この一週間はレッスンに集中して頑張ってたから、いまのところイイ感じにうまくなってる!
「〜♪」
なにより、歌うのって楽しいよねっ!
いろんな歌い方して、もっと楽しんじゃおっ!
「サクッと、カリッと、もちっと♪」
歌詞の部分をドナドナ〜とかぷろぷろ〜って変えて歌ってみたり、くるっとターンしたり。
ちょっとキラーンって表情をキメてみたり!
前にこの表情をみたプロデューサーが「『ドナァ......』って感じの顔......だね」って言って「ドナ顔」って呼んでた。
でもドーナツを越えるためには、もっとドナァ......感あるドナ顔ができるようにならなきゃだよねっ。
もっとドーナツを追い求めて、ドーナツを追い抜かすようにっ!
たくさん練習して、あたしの歌、はやくみんなに聴いてもらいたいなっ♪
-
ドタン!!
『ああっ!!』
「わ!?」
ラララ〜って歌ってたら、急にお部屋の中から大きな音とプロデューサーの声が聞こえてきた。
ついあたしもびっくりして大きな声を出しちゃった。
......いったい何がおきたんだろう?
待ってとは言われたけど......。
あの音を聞いちゃうと、ちょっと心配になっちゃうよね。
うん、行こうっ!
「プロデューサーっ! だいじょうぶ!?」
-
ドアをガチャッと開けてなかに入った。
プロデューサーのお家は玄関とキッチンがひと続きになってて、しきりを挟んで奥に大きなお部屋がある、って感じで。
その奥のお部屋で、足をおさえながら倒れてるプロデューサーがいた。
「いたた......」
「プロデューサー、どうしちゃったの?」
「あ、法子......いや部屋の整理は終わったんだけど、ドーナツ用に飲み物を用意しようとしたときにうっかり転んじゃって......」
それを聞いてプロデューサーの周りを見てみると、ふたが開きっぱのペットポトルが横に倒れてて、そこからトクトクとお茶がこぼれ出してた。
お茶はプロデューサーにもおもいっきりかかっちゃってて、洋服がビチャビチャにぬれちゃってる。
ペットポトルをよいしょとひろい上げて近くのテーブルにおいて、プロデューサーにハンカチをわたした。
「あるよねこういうことって! あたしもドーナツをうっかり落としそうになって、そのままお口でぱくりとキャッチしたら飲み物の方をこぼしちゃったりしたことがあるもん!」
「あるよね......ん? 落としかけたドーナツを? そのまま口で? ぱくりとキャッチ? え、そんなことできるの?」
「うん! 『あっ、このままじゃ落ちちゃう!』って思った瞬間に、あーむ、っとね♪」
「......あれ、僕がおかしいのかな」
-
プロデューサーはあたしのハンカチを使って服についたお茶をふきとろうとしたけれど、あんまり水分を吸えないみたいで、まだビチャビチャのまま。
それをみてあたしはプロデューサーに提案してみた。
「とりあえずお風呂入ってきちゃったら? さっぱりすると気持ちいいよっ」
「そうしようかな......さらに待たせちゃうことになるけど」
プロデューサーは、また、あの申し訳なさそうな表情をあたしに向けた。
......そして、また、胸のあたりがぞくってする。
「いいよ、食べるのを待つ時間も楽しめるのもドーナツのいいところだからっ!」
「わかった......じゃあ少しお風呂行ってくるね」
そう言ったプロデューサーは、キッチンから持ってきたぞうきんで床にこぼれちゃったお茶を掃除してから、洗面所に向かった。
-
――――――――
それから15分くらいして、プロデューサーが別の服装になってリビングに戻ってきた。
リビングのテーブルにはプロデューサーがお風呂にいく前に一通り準備がしてくれてあって、でかいお皿の上にあたし特製のドーナツがどどーんと置かれてる。
飲み物は、さっきこぼしちゃったせいで半分ぐらいなくなっちゃったお茶と、いくつかのジュースのペットボトルがテーブルに置いてある。
さっきまであたしの食欲と理性のバトルが凄かったけど、プロデューサーが戻ってきたいま、ドーナツパーティーを開催できるねっ!
「それじゃ、ドーナツ食べよ〜!」
「よし、じゃあ早速......」
「「いただきます!」」
あむっ、と二人で同時にドーナツをお口でぱくり。
もぐもぐ。
ごくん。
「......うん! おいしくできてるね♪」
味見をしなかったわけじゃないけど、プロデューサーにたくさん食べてほしくて作ったもののほとんどを箱にいれてたから、実際に食べてみてひと安心!
すぐにぺろりと一つ食べ終わっちゃった♪
-
......プロデューサーのお口にも合うかな?
あたしは手についたシュガーをちろりとなめながら、プロデューサーの方を見てみた。
プロデューサーはドーナツを一口かじったまま、ぷるぷると体を震わせてる。
......どうしたんだろう。なんかダメなとこあったかなあ。
「あれ、どうしたのプロデューサー? ひょっとして、あたしのドーナツが―――」
「うまいっ! すっごく美味しいよ、法子!!」
あたしが言葉を言い終わる前に、プロデューサーが大きな声でそう言った。
「ほ、ほんと?」
「本当だよ! 完全な丸の形じゃないけどかえって手作り感があって、素朴だけど優しい味で! 食べるだけでなんか楽しい!」
瞳をキラキラさせてあたしの方を見つめてくれる。
目と目があって、なんだかどきっとしちゃった。
そのままプロデューサーはすごい勢いでドーナツを食べてく。
「手作りのドーナツも、お店のドーナツと違った体験ができるんだね」
「そう言ってもらえるとうれしいな♪ 食べてくれてありがとっ」
楽しそうにドーナツに手を伸ばして、楽しそうにドーナツを食べてくれるプロデューサーを見ると、あたしもすごく嬉しくなってくる。
そのウキウキとした顔をみるだけで、なんかこっちも元気が出てくる感じ。
あ、プロデューサーが前に言ってくれた『見ているだけでドーナツの香ばしさ、美味しさが伝わってくるような気がした』ってこーいうことかも?
えへ、やっぱりあたしとプロデューサーって似た者同士だね!
-
「なんか、久しぶりに心が満たされるようなもの食べたかも」
もちろん入院中にもらったドーナツの差し入れも美味しかったけど手作りだとやっぱ変わるなあ、って言いながらプロデューサーは次のドーナツを手に取った。
「プロデューサーっていつもどんなもの食べてるの?」
「僕? ううん、そうだなあ......」
ドーナツを持った手をあごに当てながら、ちょっと考えてプロデューサーは答えた。
「......コンビニ弁当とかカップ麺とかがほとんどかな、最近はなんか面倒になってそもそも食べないこともあるかも」
「ええ!? それってカラダは大丈夫なの?」
そういうのってあんまり食べすぎるとカラダ壊しちゃうイメージがあるから。
プロデューサーは難しそうな表情をしたまま言った。
「よくないなあとは思ってるけど、どうしてもね。......毎日ドーナツたくさん食べても健康を維持してバリバリ元気なアイドルが目の前にいるけど」
-
あはは、と小さな笑いを浮かべるプロデューサーを見て、ふと思いついたことを言った。
「プロデューサーって、自分のことになるとあんまりちゃんと考えなくなっちゃうのかな?」
「うーん、どうだろうな......」
「そうだと思うよっ。だから―――」
「プロデューサーには、ちゃんとサポートしてくれる素敵な人が必要かもねっ!」
......このときは本当にただ思いついたことを言っただけで、特別な意図とかキモチがあって言ったわけじゃなかった。
プロデューサーはさらに笑いながら、そうだね、とか、今は仕事が大事かな、みたいな返事をしてくれるだろうと思ってた。
でも、プロデューサーが見せた反応は。
「え......? あ、ああ、うん......」
なんか思ってたのとちがくって。
なんか引っかかったから、あたしはさらに聞いてみた。
-
「......プロデューサー? どうしたの?」
「ああいや、その、なんでもない、よ......」
ちょっとだけ顔を赤くして、ちょっとだけ口もとがにやっとしてて、ちょっとだけはずかしそうに目をふせるプロデューサー。
この感じって......!?
「プロデューサー、もしかして......いま、付き合ってる人とかっ......!?」
「いや、そういうわけじゃ......! ああ、でも、もうそこまで聞かれたら言っちゃうしかないかなあ......」
ううんでも、いやしかし、と手と顔をブンブンと振りながら眉をハの字にするプロデューサー。
あたしはそんなプロデューサーを見ながらも、頭のなかでたくさんのハテナが思い浮かんでなにがなんだか分からなくなって。
......プロデューサーに、素敵な人?
付き合ってる人?
恋人?
好きな人?
そもそもスキ、ってなに?
特別な、ひと?
好きなひとは特別なひと?
じゃあアイドルってとくべつなひとじゃない?
じゃあ、あたしは―――
いろんな言葉がまとまらないまま、ドーナツの輪っかみたいにぐるぐるしてるなか、プロデューサーはついに口を開いた。
-
「実は、」
「その、」
「僕は......」
「ちひろさんのことが、好きなんだ―――」
-
今日は以上です、続きます
日に日に書くペースが遅くなってて申し訳ありません
プロット自体は最後まで出来ているのですが、このペースだと完結までまだかかりそうです
そのこともあるので次はできる限り早めに来たいと思ってますが、長い目でお待ちいただけるとありがたいです
また後日、よろしくお願いします
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私は待ってるぞ
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おいやべぇよ…やべぇよ…
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ノンケばっかじゃんかお前んちぃ!(歓喜)
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あくしろよ(ゲシゲシ
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ラブリーチッヒ(白目)
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あくしろよ(ペチペチ
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ゾクゾクする
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この時期全裸待機はキツい
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諦めきれない……
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ついに3ヶ月が経過いたしました
いかがお過ごしでしょうか
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こわいなー
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年末から年度末にかけては忙しいから多少はね?
続きあくしろよ(豹変)
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プロデューサーの告白を聞いた2日後。事務所に、プロデューサーに内緒で久しぶりに実家に帰ったあたしは母親と話をしていた。
「そういえば、あたしの子供の頃の物ってどこかに仕舞ったり捨てたりした?」
「あんたの荷物は段ボール箱に入れて全部あんたの部屋の押し入れの中だよ」
「えっと……机の中に入っていた物は?」
「触ってないからそのままよ」
2階へ上がり自分の部屋に入る。机の1番下の引き出しを開けると鍵の付いた小さな小箱が出て来た。
「うーん……この中に仕舞った気がするんだけど、鍵はどこにやったかな?」
5年以上もほったらかしにしていた鍵の在処なんて分かる訳が無い。まあ鍵と言っても子供の玩具だ。複雑な構造では無い。
「よし!この精密ドライバーの先でちょいちょいっと」
カチッと言う音と共におもちゃの南京錠が外れる。中に入っていたのは……
-
「うーん、もう朝かぁ……」
小鳥のさえずりと窓から差し込む柔らかな日差しがやけに煩く感じた。
出来ることなら目覚ましの音で目覚めたかったが、そうはさせてもらえないらしい。
「服は鏡の前にあるぞ。ああ、衣装も一緒に置いといたからな」
「は〜い」
あたしとプロデューサー、今となっては勝手に家へ上がってくる程の関係……な訳が無い。
正直に言ってあたしは彼に愛情を与えるというギブしか与えていない、テイクが一つも無いのは流石にどうかと思う。
許可を貰うならまだしも、プロデューサーは勝手に家へ上がってくる。
「せめてさぁ、あたしの許可ぐらいは貰いませんかね?」
冗談めかして問い正しても、プロデューサーは曖昧な笑顔を見せるだけだった。
-
期待してもいいのか
-
あくしろよ
-
あたしの本格的なアイドルデビュー以降、身を取り巻く様子は変わった。
年中無休で美味しかったドーナツ屋さんは休業し、道路沿いに建てられた真新しいパン屋が繁盛しているだけ。
すっかり寂れた商店街は、不良達にとって格好の遊び場になっている。
人情も灯りも無い、虚像のような街並み。
まあ、あたしは別に、静かな夜は嫌いだから、それで構わないんだけどね。
ねえプロデューサー、もっと知らない景色を見せてよ。
あたし達の夜は、まだまだ長いんだからね?
-
P「でも、俺も信頼されたいし心配されたいし疑われたい……俺は何を言いたいんだ?」
法子「えぇ……そこで私に聞く?かっこわる……」
P「けっきょくのところ……法子には俺のことを考えてほしい。プロデューサーとしてはどうなんだってところもあるけどな」
法子「信頼できる人であっても完璧な人なんていないんだから、ある程度は心配したり疑ったりすることは必要だと思うよ?」
P「確かにな。あんまりイメージはない」
法子「なんか、仕事のときみたいな素直さだね」
P「うん。法子が好きだから、ってのあるかもしれない」
法子「私みたいに元気な女の子がいい感じ?」
P「仕方ないだろ? 最高だったんだから」
法子「仕方ないかな? それとはまたべつの?」
P「提案だが、法子の言う通りたまに見るからこそってこともあるかもしれないから遠慮しとく」
-
!
-
三日後…
法子「あ、そうだプロデューサー」
Ρ「うん?」
法子「友達からLINEで連絡あって、お母さんの様子がまたおかしいみたいなんだけど」
Ρ「…今すぐブロックしろ」
法子「でもプロデューサーの件で必要だったじゃん…心当たりない?」
Ρ「いや、特におかしいところはなかったけどな」
法子「そう…大体理解しちゃった」
Ρ「そうか…」
法子「さて、ドーナツ食べよっか?プロデューサー」
P「ん…なんだそのノリ?」
法子「え? いや、なんとなくね」
P「そうか。しかし……結構量が多いな」
法子「うん、プロデューサーは大盛りだからね。ま、私も多いような気はするけど…」
P「うーん…まあ問題ないだろ」
-
法子「ねぇプロデューサー?」
Ρ「何だ?」
法子「あたしがここ最近…よく兵藤さんのバーターにされてるのは、気のせいじゃないよね?」
Ρ「それがどうかしたか?」
法子「あたしの仕事が増えるのは嬉しいんだけどさ…できればもう少し頻度を少なくしてほしいかな…」
Ρ「…分かった、法子がそう望むならそうするよ。レナさんと一緒はしんどかったのか?」
法子「そういうことじゃなくて…プロデューサーともっと居たいっていうかさ」
Ρ「…武内じゃダメなのか?」
法子「そうじゃなくて!プロデューサーと武内さんは違うじゃない!」
Ρ「ぇ…?」
法子「あ…っ」
Ρ「法子、あのさ…」
法子「……ド、ドーナツ食べよ!?」
Ρ「あ、あぁ…」
-
法子「……」
P「まぁ、プロデューサーとアイドル、難しい問題ではあるよな」
法子「うん」
P「やっぱりさ、芸能人っていう将来が不安定な職についたこと、それが親御さん後ろめたいっていう訳だな?」
法子「でも、あたしってその…売れてる方だよね?」
Ρ「まぁ、テレビ番組に興味がない、NHKしか見ない家庭もあるからなぁ」
法子「それはそうだけどさ……」
P「法子…」
-
寝室
法子「それじゃあおやすみ…プロデューサー」
Ρ「ああ…おやすみ」
法子「プロデューサー?」
Ρ「うん?」
法子「プロデューサーの掌……ゴツゴツしてるね」
Ρ「そりゃあ、男の子だからな」
法子「ふふっ…おやすみ……」
Ρ「ああ…」
-
地味に続き来てたんすねぇ
-
数日後
P「取り敢えず、常務に提出する書類を整理しておくか」
P「…ここ誤字か。他の事考えながら文字打つのは危険だな」
P「…そういえば、法子の着替えと歯ブラシと…」
P「あとは…化粧品?」
凛「いや、それは別に…」
P「……」
凛「どうしたの?」
P「…凛、いつからここに?」
-
凛「………ふぁ……少し眠いかも…」
Ρ「おいおい、明日はライブ初日だろ?」
凛「そうだけどさ…あんまり乗り気じゃないんだけどな」
Ρ「…歌って踊るのがアイドル、か。誰が決めたんだろうな、そういうの」
凛「……うーん、どっかの偉い人?」
Ρ「凛。頑張れよ」
凛「うん、ありがとう」
凛(あたしは……あんたの為に歌うんだよ……だから)
一週間前
ベテラントレーナー「……それでは、二人一組でペアを組んでもらう」
凛「二人一組?」
法子「あ、凛ちゃん! 一緒に組もう!」
凛「あ、うん…」
法子「えへへ、よろしくね。凛ちゃん」
凛「……よろしく」
-
法子「プロデューサー、いつもドーナツでごめんね?明日はプロデューサーの好きな物でいいから」
Ρ「いや…俺は大丈夫だよ。ありがとう、法子」
法子「うん、どういたしまして……そう言えば、最近凛ちゃんとはどうなの?」
Ρ「凛とは良い関係を構築できている気はするかな……まあいつも通りって感じさ」
法子「そう、それなら良かった」
Ρ「……ふう。法子は心配性だな」
法子「誰だって心配するよ……あたしがプロデューサーの心配をするのは当たり前でしょ?」
Ρ「…そうだったな。じゃあ、いただきます」
法子「いただきます……」
-
凛「法子、プロデューサー。ちょっと質問してもいい?」
P「どうした?」
凛「例えば…そう。疲れがすごく溜まっていたら」
法子「疲れが溜まったら、ドーナツ食べて糖分補給!」
P「…いや、間に合ってる」
凛「……話が脱線しかかってる。疲れが溜まると、凡ミスや間違いが起こりやすくなるじゃない?」
P「まあ、徹夜すればささいなミスも多くなるな」
法子「そうだね」
-
三週間後〜
Ρ「うーん……」
ありす「おはようございます。プロデューサー」
Ρ「ここは、俺の部屋……一体何をしてたんだ……全然思い出せないんだよ」
ありす「悪い夢は……忘れていた方が良いですよ
プロデューサー「夢…夢だったのか…」
法子……凛……あれ?
-
ありす「もう、暗くなっちゃいましたね、プロデューサー」
Ρ「ああ…」
ありす「……こんな時に、こんな話をするのも変ですけど」
Ρ「うん」
ありす「貴方が側にいてくれるだけで嬉しい……好き。大好きですプロデューサー」
Ρ「ありす……」
でも…………俺は、俺は法子の事が。
Ρ「……あれ?」
ノリコって……誰だっけ?
ありす「プロデューサー?」
P「あ……ああ、何だ?」
ありす「……何を考えていたんですか?」
P「……いや。別になにも」
ありす「……そう、それならいいんですけど」
-
法子「プロデューサー、ごめんなさい」
プロデューサーの頬を撫で、その手を胸板へ……ほんのりと綺麗な赤を差し入れた肌。
法子「……あたしがプロデューサーを助けて、ずっと支えていくから」
法子「……プロデューサー、ごめんなさい」
……サクッ!
続く
-
そして月日は流れ、三年後…
今日も残業で疲れた身体を引きずり、自宅であるアパートの一室へと帰ってきた。
美城専務からは嫌らしくなじられ、ちひろさんからも嫌味を言われる。
心身共に摩耗する日々は、これからも続いていくのだろうか?
三年前、あたし達が迎えた最後のライブ、結局客席は埋まらず中止する運びとなった。
その後ちひろさんはタレントに転向して芸能界で活躍。今では346プロの稼ぎ頭として活躍している。
凛ちゃんは346プロを退社後、その行方は誰も知らない…どこかで元気に暮らしているといいんだけれど。
兵藤さんは一度芸能界を引退後、961プロに再スカウトされたとかで、今ではAV業界を代表するセクシー女優として頑張っている。
ありすちゃんは315プロのアイドルと電撃結婚。子供も三人出来たらしく、ママタレとしてよくテレビで見かける。
そして…あたしのプロデューサーは…。
-
Ρ「おぉ〜法子、お帰り。もう22時だぞ?俺さ、腹ペコでたまらんぞぉ」
法子「インスタントラーメンの買い置きは?冷凍うどんだって入ってるじゃん…」
Ρ「インスタント食品はもう飽きちゃったよぉ」
プロデューサーは、相変わらずあたしの部屋に住んでいる。
ライブの失敗でその責任を問われ、退社。
その後プロデューサー業の復帰を目指して懸命な就職活動を続けたが、30代後半の彼はもう、芸能界に居場所はなく、そのままあたしの部屋に転がり込んできた。
そして、無精髭を剃ることなく、1日1日を自堕落に過ごしている。
-
心機一転、新たな環境で働きだそうにも、彼はプライドを捨てようとはしなかった。
スーパーにパートで入社できても年下の先輩に頭も下げられず、上手くコミュニケーションを取ることも出来ず、すぐ辞めてしまった。
…もう彼はプロデューサーでもなんでもない、くたびれた中年男性となっていた。
どうしようもない現実が、プロデューサーの心を壊してしまった。
もうあたし以外に心を開かず、アパートから出ることはない。
Ρ「あぁそうだ!今日はレナさんのAVでシコったんだよぉ…気持ちよかったなぁ」
…兵藤さんの出演する作品ばかり観ている彼は、虚ろな瞳であたしに感想を話してくる。
Ρ「……でさ、せっかくレナさんが潮吹いたのに男優の顔射が下手で下手で!結局胸にかかってやんの」
法子「そう…」
-
Ρ「もうさぁ、俺が男優だったらちゃんと顔にもかけて、レナさんを満足させてあげられるのに…法子もそう思うだろぉ?」
法子「うん。プロデューサーは絶倫だからね…」
Ρ「そうだよ……俺が……男優だったら……プロデューサーとして、ライブを成功させていたら……ッ」
プロデューサーの瞳から、一筋の涙が流れる。
法子「プロデューサー…!」
Ρ「俺は、俺はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
法子「プロデューサー!」
-
最近のプロデューサーは情緒が不安定で、時々こうして発狂する。
一体何が引き金になっているのか分からず、あたしも困り果てているのだ。
……だからあたしは暴れるプロデューサーを抱きしめる。彼の心が落ち着くまで…
すぐ大人しくはならないので、プロデューサーからは何度も殴られ、蹴られ、私の体はすっかりアザだらけだ。
Ρ「おああああぁぁぁぁ……!!」
法子「大丈夫だからプロデューサー……あたしがずっとそばにいるから。もう大丈夫だからね?」
-
Ρ「の、りこ……」
暫く暴れた後、ようやく彼が大人しくなった。
あんなに頼もしかったプロデューサーがこんなにも弱々しく……。
……違う。あたしが勝手に「プロデューサーは強い」って思い込んでいただけなんだよね?
本当の彼は、こんなにも弱く、赤ん坊のようだ。
あたしが、あたししかプロデューサーを守れる人は……もういないんだ。
法子「お休み、プロデューサー…」
落ち着いたプロデューサーを寝かしつけ、あたしは立ち上がり、鏡を見つめた。
そこに映っていたあたしの瞳は、ぽっかりと穴が開いた、ドーナツの中心のようだった。
〜完〜
-
これにて完結です。
ヤンデレというものが思い浮かばず、一年以上の月日がかかってしまいました。
どれだけの方々が読んでくれていたか分かりませんが、感謝の気持ちを込めて、ありがとうございました。
AILEくんもスレを落とさずに残してくれてありがとうございました。
-
(プロデューサーが)ヤンデレ…
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