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ノスタルジア

1名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:48:57 ID:elClFZFk
その日、僕はいつものように新作のゲームソフトを探しながらゲームショップの中をぶらぶらとしていた。

2名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:50:15 ID:elClFZFk
店内にあるほとんどのゲームは既にやったことのあるものばかりで、新作のゲームもパッとしないモノだった。
代わり映えのない風景に半ば諦めを持ちながらも、古い中古のレトロゲームコーナーに何気なく足を運ぶ。

「…ん?」

ぼんやりと陳列されている中古ゲームソフトをチェックしていると、見慣れないパッケージの箱をみつけた。
普通のゲームソフトよりも、一回り大きく、黒い紙に包まれている。

3名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:51:25 ID:elClFZFk

その真っ黒なゲームソフトを見た瞬間、僕は足を止めた。
有名な古いゲームソフトたちの間にひっそりとあるそれは、異様な雰囲気を放っており、そこだけ別の空気が浮きだっていた。

まるで、何かに操られたかのように僕はそのゲームを手に取る。
表には何も書かれていない。裏返してみると、一言だけ説明が書いてあった。




―あなたの一番大切なものをゲームにしました。

4名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:52:56 ID:elClFZFk

たった一行。僕にとって一番大切なもの?

頭の中にいろいろなモノが浮かんで、消える。
僕は、不気味に思いながらもその真っ黒なゲームソフトを買うことにした。

なぜか、キョウミをもってしまうのだ。それは僕自身の内側から出てくるのではなく、
そのゲームに買わされているような、これを買うことが然も運命なのだ、と自信を持っていえるような、

そんな感覚であった。

5名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:54:02 ID:elClFZFk

レジに持っていくと、店員さんは少し眉をひそめ、
少しお待ちくださいと僕に告げた後、店の奥に入っていってしまった。
しばらくして、店長らしき人が嬉しそうな表情をしながら出てきた。


「いやぁ、まさか本当に買ってくれるとは思いませんでしたよ」


店長は、ウキウキと話しながら真っ黒な箱を袋に詰める。

6名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:55:03 ID:elClFZFk

「どういうことですか?」

「いやねぇ、昨日のことなんですけどね。変なお客さんがそのゲームを売りに来たんですよ。金は要らないからここにこのゲームを置いてくれって言うんです」

「はぁ」

「こっちも商売ですからねぇ、どうしようか迷っちゃって。そしたら言うんですよ、明日には絶対に売れるからって、やけに自信満々な口調で。いやぁ私も折れちゃって、半ば賭けだったんですよ」

7名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:56:20 ID:elClFZFk

まるで、当たった宝くじを自慢するかのように、ペラペラと店長は流暢に話し続ける。

「いやぁ、本当に助かった。あのまま売れなかったらどうしようかと」

「あの、おいくらですか」

このまま放っておくと、いつまでも話し続けそうな気がしたので間に無理やり入る。

「あっ、あぁそうでしたね。じゃあ、100円で」

売れると思っていなかったのだろう、いかにも今値段を付けたのがバレバレだが、安いに越したことは無い。
僕は財布から100円玉を一枚取り出し、会計を済ませた。

「まいどありがとうございました。いやぁ、それにしても…」

8名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:57:28 ID:elClFZFk


僕は逃げるように店を飛び出し、家に帰った。
道中、手からぶら下がっているゲームを思い出しては、どんなゲームなのだろう、とワクワクしながら足を速めた。
思えば、ゲームを買ってこんなにワクワクしたのは久しぶりかもしれない。



―あなたの一番大切なもの

あのゲームに唯一書いてあった言葉が、頭の仲でずっと漂っていた。

9名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:58:39 ID:elClFZFk


家に着くと、さっそくゲームを始めることにした。
ゲーム機をテレビにつなぎ、買ってきたソフトを手に取る。

真っ黒なパッケージをビリビリと破くと、今度は真白な入れ物が現れた。
恐る恐る白い箱を開けると、中には小さな石が1つ。メモ紙と一緒に入っている。



てっきりCDやフロッピーを想像していた僕は、一瞬混乱し、ボリボリと頭をかいた。
一緒に入っていた紙を見てみると、こう書かれていた―

10名無しの権兵衛殿:2014/02/01(土) 23:59:39 ID:elClFZFk





―あなたの一番大切なものを思い浮かべながら、その石を潰してください―
 
          ―それが、物語の始まりです―



_

11名無しの権兵衛殿:2014/02/02(日) 00:01:07 ID:8CQoVMw.


また、あの言葉だ。
あなたの一番大切なもの。

小さな石は、豆粒のように小さいながらも、キラキラと赤い色に光っているように見える。
僕は、その石を手に取り、目をすうっと閉じた。
脳裏に浮かんでくる僕の一番の宝物。
その宝物を手の平にこめて、石を握りつぶす。







その瞬間、僕は、僕の人生の何もかもを忘れてしまった―

12名無しの権兵衛殿:2014/02/02(日) 00:02:01 ID:8CQoVMw.
つづく

13名無しの権兵衛殿:2014/10/22(水) 13:43:51 ID:GssovTsE
まってる

14名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 01:23:42 ID:3OkdjXAI

例えば、電車やバスから降りる瞬間。

何かを忘れたような気になって、通り過ぎてゆく時間を思い出しても
いったい何を忘れたのか、そしてそれは本当にあったことなのか、

根拠もへったくれもない不安に身を包まれることがある。


落し物は、落としてしまったから落し物なのであって
失ってから、初めてその存在価値を見出すことなんて、日常茶飯事で、

きっと、そうやって僕たちの大切なものは捨てられ、拾われ、繰り返していくのだろう。

15名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 01:31:39 ID:3OkdjXAI

僕は、よく物を失くす。

家の鍵、筆箱、片方の靴下、飲みかけのペットボトルの蓋、
コミックの背表紙、記憶、たくさんの、記憶。


失くしたことさえも忘れて、ノウノウと生きている僕に
モノ達はきっと恨みを抱えているに違いないだろう。


モノだけではない。
人の誕生日や、自分の好きだったゲームの名前
初恋の人の声、母親の、とにかく沢山の事柄を僕は忘れてしまった。


日常において、必要最低限に覚えておかなくてはならないことなんて
米の炊き方と尻を拭くこと以外に、あまり存在しないのではないだろうか。

いや、そんなことはないか。

この世では、あたりまえのことは覚えていて当然だと、決められている。

例えば、そう。自分の名前とか。

16名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 01:32:57 ID:3OkdjXAI


【あなたの名前を 思い出してください】

【_         】

17名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 01:44:41 ID:3OkdjXAI


「ちくしょう、ゴミしかねぇ」

時刻は夕方過ぎ、もう日は暮れるというのに空気は熱く
額に浮かぶ汗に、ドロのようなモノがいくつも引っ付いている。

ボロボロの手袋を取り、ぬるくてまずい水を一口
水分を取らないと体にたまっている汚い何かが、身を蝕んでいくような気がする

本当は酒のほうがいいのだが、贅沢は出来ない。


「オイ、そっちのほうはドウダ?」

「うんにゃ、どうにもこうにもガラクタばかりさ。錆びた一本の釘でもありゃマシなんだけどな」

「クギ?そんなもの金になるのかヨ」

「いや、俺の趣味。ほら子供の頃とか集めただろ。異様に長い棒とか、硬い黒ずんだビー玉とか」

「オイラはどんなに綺麗な石ころでも、食える草の方が、好きダ」

「だめだねぇ。錆びた釘の価値が分からないようじゃ、ガラクタヤはやってけねぇよ?」

「シネ」


相棒は、そういうと潰された片目をゴシゴシと擦り、またゴミ溜めの中へと潜っていった。

18名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 01:53:14 ID:3OkdjXAI

黒く、汚い、相棒は自分のことをヘドロと言った。

ゴブリンといわれる種族は、自分のことをそんな風に卑下したりしない。
いつだって小さなプライドを持って、アホなことでも果敢に立ち向かう。

その結果、多くのゴブリンはそれこそアホみたいに死に、アホみたいに扱き使われる。

俺からしてみれば、その姿がゴブリンのあるべき姿であると思うし
相棒も、そのことについて納得はしているようだ。

「どうせアホなら、どん底までアホなほうが、カッコイイだロ」

俺は、そう言い切る相棒のことを、尊敬しているし、アホだな、とも思う。

どうせ生きるなら、何かを成して死にたいと思うのは当然なのではないか。


何か、なんなんだろうな。何かって。

少なくとも、その日の飯を食うためにガラクタを拾うことではないような気がする。

19名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 02:02:12 ID:3OkdjXAI

しばらくの間、またゴミを漁り、日が頭だけ残して地に帰った頃
体中をゴミだらけにした相棒と俺は途方に暮れていた。


「どうする、今日はとことん調子が悪いな。もう見渡す限りゴミしかねぇよ」

「ゴミ捨て場に、ゴミがあるのは当然ダロ。今日のゴミは全部が全部ゴミだったってことだヨ」

「そうはいってもよぉ、ここまでゴミ尽くしだと、こう参っちゃうよな」

「そうだナ」

「あー…酒飲みてぇな」

「そうだナ」

「うん、肉も喰いてぇ」

「そーだナ」

「……」

「そうだナ」

「帰るか」

「うン」


とぼとぼと、肩を並べて帰る支度をする。
メインディッシュが草になってしまったことを嘆きながら、またぬるい水を飲もうとした。

「あれ、水が無い」

「ン?落としたのカ?」


腰に着けて置いた筈の、水筒が見当たらない。
どうやらゴミ山に落としてきたらしい

20名無しの権兵衛殿:2014/11/06(木) 02:10:15 ID:3OkdjXAI

「…あー、探すカ?」

「…悪い。もう少し残業してくれるかね、相棒」

「なんか、おごれヨ」

「あーあーあー…わかったよ、ぬるい水をたらふく飲ませてやるって」

「肉がイイ」


そういうと、相棒はクンクンと鼻を鳴らし辺りを探し始めた。

「それ、意味あるのか?」

「さぁナ」



すっかり日が暮れ、辺りが文字通りゴミだけになった頃。
相棒が、一言声を上げた。

「見つけたゾ」

「おっ、やっとか。すまねぇなぁ。さ、早く帰って草でも食おうぜ。道草食ってたら腹壊すからな」

「違ウ、めいんでぇいっしゅダ」

「メインディッシュ?」

相棒の目線の先には、ボロボロのゴミの塊
いや、ゴミのような動く物体、人間が、捨てられていた。


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