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death論教90

1death論教 ◆VmEWkyauU.:2015/02/14(土) 18:12:03 ID:rc.99Jts
death論教

2名無しさんの住居は極寒の地:2018/05/07(月) 02:13:01 ID:???
あの春の日、桜舞い散る踏切で運命的なすれ違いを果たした男女
男はやがて結婚し、一女をもうけ、その子に初恋の人の名を授けた。
女は男の子の母となった。彼女もやはり息子に初恋の人の名を授けた。

女の子の名は明里。男の子の名は貴樹。

数年後。東京のとある小学校の始業式。成長した明里と貴樹の姿が、その教室にあった。
一目合うなり、明里は父親と、貴樹は母親と同じ名を持つその同級生に強く惹かれた。初恋だった。
彼らはその日も、また次の日も、通学路の桜の舞う小さな雑木林を並んで歩いた。

3名無しさんの住居は極寒の地:2018/05/07(月) 02:52:17 ID:???
その頃、同じ東京の、同じ町の、桜の舞う踏切。
40歳前後だろうか、かつては美男子だったのだろう。しかし今はくたびれたスーツ姿の冴えない中年男が踏切に差し掛かる。
男はふと立ち止まり、桜の大木を見上げる。ゆっくりと花びらが舞う。そして男は呟く。

「えーと…秒速…何センチだったっけ…」

目の前からひとりの女性が歩いてきた。40歳前後だろうか、人生のすべてに疲れきったような化粧気の無い陰鬱な表情。彼女は重たげな足取りで踏切に差し掛かる。小さく砂を蹴る音が、ふいに鳴り出した警報音に掻き消されて行く。

4名無しさんの住居は極寒の地:2018/05/07(月) 03:07:45 ID:???
小田急線の銀色の電車が目の前を流れてゆく。遮断機が上がる。
男女は再び重たげな足取りで歩き出す。そして踏切の中央でふたりはすれ違う。

「明里…?」

「貴樹…くん…」


どんなに容姿が衰えていようと、お互いのことを見間違うはずはなかった。
十数年前、二人はこの踏切で確かに出会っていた。一度目の奇跡だった。
あの時、二人は言葉を交わすことはなかった。新しい生活と未来のへの希望に溢れていた。あの時、二人はお互いを必要としていなかった。

あの時は…

5名無しさんの住居は極寒の地:2018/05/07(月) 03:52:08 ID:???
二人は駅前の喫茶店で、お互いのことを話した。考えてみればお互いの声を聞くのは実に27年ぶりなのだ。あれは雪晴れの朝のたしか栃木県の小さな駅だった。
男は大学卒業後に勤めたソフトウェア開発会社を退職後始めたフリープログラマーの仕事が瞬く間に軌道に乗り、翌年には友人と社員3名の小さなアプリ開発会社を立ちあげた。その年に結婚、翌年には娘が生まれた。
しかし幸せは長くは続かなかった。ほどなく経営は下降線に転じ、設立4年目で会社は潰れた。
その後彼は自動車販売店の営業職に就いた。妻子を養うためには働かなければならないが、もう彼はコンピュータ関連の仕事に就きたくはなかったのだ。
もうこの頃には夫婦間の関係はすっかり冷えきっており、幼い娘のためにかろうじて婚姻関係を継続しているにすぎなかった。


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