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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/10(金) 21:01:44 ID:U0jBOVFc0
第二部までのお話はBoon Roman様に収録されています。
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/tender/
(リンク先:boon Roman)
836
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:06:00 ID:.pp7p.6.0
それでも、言われたことを破る道理もなく、
ドクオはモララーとともに行動するようになった。
モララーは、いつも笑いを湛えていた。
その顔から表情が消えることはほとんどなかった。
笑みは便利な表情だ。何でも好意の裏側に隠してしまえる。
ドクオはモララーと一緒にいながら
彼のことはついにわからないままだった。
837
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:06:49 ID:.pp7p.6.0
☆ ☆ ☆
第二十六話
目覚めたる悪魔(雪邂永訣編④)
☆ ☆ ☆
838
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:07:54 ID:.pp7p.6.0
スィオネの外れにあるハイジャという施設。
そこは、二階建てのコテージをコの字に並べたような木造の建物だった。
とんがり屋根はところどころ剥がれて、壁の傷にも歴史を感じさせられる。
中庭にあたる場所にはケヤキが生えており、枝にはブランコがぶら下げられていた。
風が吹いているからだろうか、そのブランコは音も無く揺れていた。
ハソ ゚-゚リ「とりあえず休んでいてください」
ナチという、ひっつめ髪の少女に案内されて、ドクオたちは中へと入った。
コの字の先端から入り、真ん中の辺にあたる場所がダイニングになっていた。
10人ほどは軽く並べられそうなテーブルがひとつある。
椅子は、ナチが押し入れから三つ運んできた。
ハソ ゚-゚リ「ごめんなさい、古いのしかなくて。あんまり使っていなかったから」
床に置かれた椅子に手をかけると、それだけで脚が軋んだ。
839
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:08:52 ID:.pp7p.6.0
('A`)「孤児院、だったんだよな」
ドクオの呟きに、ナチは顔を上げた。
ハソ ゚-゚リ「よく知っていますね」
('A`)「モララーから聞いた」
ハソ ゚-゚リ「……そうですか」
モララーが育った孤児院。
彼が死んだことを、ナチはすでに知っている。
訃報の連絡はこの場所まで届いたのだろう。
840
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:09:39 ID:.pp7p.6.0
二年ほど前にモララーが死んだとき、まだ健在だったラスティア城の隊舎傍にて、葬儀が行われた。
彼の身内のものは誰も来ず、ラスティア城の衛兵たちによって、彼の送り火は見送られた。
詳しい事情は聞いていなかったが、この辺境の地から呼ぶのも酷だったのだろう。
('A`)「こんなに奥まった場所にあるとは知らなかったけどな」
ハソ ゚-゚リ「そうですね。人もあまり寄りつきません。
本当は大人の方々とも会わないんです。ときどきお買い物に出るときに出会うくらい。
そのときの人たちには、私達の居場所を話しちゃいけないって言われています」
ζ(゚ー゚*ζ「言われている?」
ハソ ゚-゚リ「ええ……母さんに」
少女は心持ち目線を下げた。
841
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:10:17 ID:.pp7p.6.0
孤児院ということは、養母の方を差して母と呼んでいるのだろう。
そういえばまだ姿を見ていない、とドクオは訝しんだ。
そのことを尋ねようとした矢先、ナチは顔を上げた。
ハソ ゚-゚リ「私のことはいいんです。それよりもモララーさんの話が聞きたいです」
少女はドクオとタカラに目を向けた。
( ,,^Д^)「いや、俺は他人だから」
タカラは首を横に振り、ドクオに目配せをした。
('A`)「モララーは……死んだことは知っているんだろ?」
ハソ ゚-゚リ「報せが来ました。二年ほど前の秋口です。
未だに信じられないですけどね」
842
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:10:53 ID:.pp7p.6.0
('A`)「残念ながら、本当だ。
あいつは……任務の途中で魔人にやられたんだ」
少し言い淀みながら、ドクオは伝えた。
ナチの瞳が揺れる。唇を食んで、それからまた顔を上げた。
ハソ ゚-゚リ「そうですか……あの人、とっても強かったのに。
死んじゃうなんてこと、ないと思っていたのに」
自分に言い聞かせるように、ナチは言葉を繰り返した。
そこへ、舌打ちの音が聞こえてきた。
(=゚д゚)「ようは負けたところだろ」
843
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:11:40 ID:.pp7p.6.0
ダイニングの入り口の、開放された扉に少年が立っていた。
ぼさついた髪の舌で、鋭い視線がドクオたち三人に注がれる。
着込んではいるが、外套がはだけ、シャツが見えている。
ドクオたちに比べたら寒さに慣れている出で立ちだ。
_,
ハソ ゚-゚リ「そういうこと言わないでよ、トラ」
少女が口を尖らせると、男の子はまた舌打ちした。
彼の両手には大皿が載っていた。
ジャガイモを潰したポテトサラダと、パンが数斤切られてサンドイッチになっている。
(=゚д゚)「はいはい、それじゃこれ、置いておくから」
ζ(゚ー゚*ζ「まあ、私たちが来てからもう料理をお作りになったの?」
デレの声に、トラと呼ばれた男の子は歩みを止め、顔を背けた。
844
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:12:30 ID:.pp7p.6.0
(=゚д゚)「これくらい、五分と掛かりませんよ。タネは作ってありましたから」
ζ(゚ー゚*ζ「それにしても早いわ。形も整ってるし、すごいのね」
(=゚д゚)「……はあ、どうも」
ハソ ゚-゚リ「だいたいいつもサンドイッチだけどね」
不満を言う少女をトラと呼ばれた少年は無視した。
(=゚д゚)「じゃ、もう少ししたらスープが出来上がりますから」
丁寧に頭を下げる。
デレが声をかけたからだろうか、少し声に張りがあった。
845
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:13:17 ID:.pp7p.6.0
( ,,^Д^)「こいつの料理マジでいけますんで、期待してください。おかわりも自由だし」
(=゚д゚)「あんたは昨日散々食べただろ。おかわり禁止」
( ,,^Д^)「えー」
(=゚д゚)「ああ?」
ハソ ゚-゚リ「お兄さんは、おかわり大丈夫ですからね」
('A`)「え?」
不意な声かけに、ドクオは返答に窮した。
846
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:14:23 ID:.pp7p.6.0
('A`)「いや、俺は別に」
ハソ ゚-゚リ「遠慮しなくていいから」
('A`)「……どうも」
ついでのように「ありがとう」と言い添えると、少女はことさらに相好を崩した。
少女の号令で食事の挨拶が交わされて、少しずつ、サンドイッチに手が伸びていった。
しばらくは、黙々と時間が流れていった。
溜っていた疲労もあり、ドクオを含めた三人は自然と言葉が少なくなり、
子どもであるナチと、トラと呼ばれた少年はそもそも静寂に慣れているようだった。
847
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:15:09 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「モララーさんは」
口火を切ったのはナチだった。
ハソ ゚-゚リ「此所のことを憶えていてくれてたんですね。
てっきりもう、忘れちゃっていたのかと思ってた」
('A`)「あまり話はしなかったけど、憶えてはいたはずさ」
少なくとも、衛兵になりたての頃はまだ話をしていた。
('A`)「連絡とか、なかったのか?」
ハソ ゚-゚リ「……ちょっとだけ」
848
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:16:04 ID:.pp7p.6.0
(=゚д゚)「衛兵見習いのときと、衛兵になったとき。二回だけだよ。
業務内容的なものだけだったしな」
_,
ハソ ゚-゚リ「……」
言い返さないところをみると、どうも本当のことらしい。
モララーが死んだのは二年前だ。
もしも少女が言っているとおりなら、一度も連絡がないのは気になる。
('A`)「まあ」
何か事情があったのだろう。
そう、慰めようとしたところで、トラの声が被さってきた。
(=゚д゚)「来るわけねえだろ。やっと抜け出せたんだから」
849
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:17:37 ID:.pp7p.6.0
_,
ハソ ゚-゚リ「戻ってくるっていってたんだよ」
ナチは顔を顰めた。
(=゚д゚)「口で言ってただけだ。本当のことはわからない。
ここを出て行った子たちだって同じだったろ。
きっと手紙を出す、連絡する、みんな最初はそう言って、疎遠になったんだ」
トラの口調には棘があった。
それはナチを傷つけていることは明らかだったが、
言っている少年自身も傷を受けているように見えた。
外には深々と雪が積もっている。
音が吸い込まれて、まるで建物の外には何もないみたいだった。
850
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:18:12 ID:.pp7p.6.0
_,
ハソ ゚-゚リ「モララーさんは、帰ってくるって言ったんだよ」
声を揺らして、少女は叫んだ。
(=゚д゚)「……けどなあ」
言いかけた言葉をトラは切る。
沈黙の中で、どこかからうめき声が聞こえてきた。
(=゚д゚)「ああ、この馬鹿、大声だしやがって」
トラはナチに悪態をついて、部屋を出て行った。
ζ(゚ー゚*ζ「誰かいるの?」
デレの問い掛けに、ナチは少し間を置いた。
851
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:19:13 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「……あのね」
そのとき、何かのぶつかる音が聞こえた。
廊下でばたばたと騒ぎが聞こえてくる。
少年の低い声と、それよりもさらに低いしわがれ声。
( ,,^Д^)「見てきます」
言うが早いか、タカラが素早く外に出た。
声が俄然大きくなる。
( )「モララーがいるのか」
嗄れた女声だった。
852
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:19:58 ID:.pp7p.6.0
(=゚д゚)「だからいねえよ、母さん! 話の中で出てきただけだって」
ドクオとデレも廊下を出た。
そこには取っ組み合っている男の子と、腰の曲がった老女がいた。
うつろな視線が辺りを彷徨い、どこにも焦点を合わせずにいる。
皺だらけの顔は強張り、歯を剥き出しにしていた。
( ノハノ)「いるんじゃろ、モララー! どうして帰ってきたのじゃ」
明らかに錯乱している。
タカラが銃を構えようとしていたのを見て、ドクオは声で制した。
男の子一人の力でも押さえ込めている。
これはきっと日常茶飯事なのだろう。少年の手つきも慣れている。
手を後ろに回し、捻り挙げ、余計な動きをしないように固定していた。
853
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:20:59 ID:.pp7p.6.0
( ノハノ)「モララー!」
老女が一声大きく叫んだ。
建物中が大きく揺れているように思えた。
( ノハノ)「中途半端なことはするな。情を移すな。
よいか、魔人を根絶やしにしろ。それがお前の使命だ!」
(=゚д゚)「はいはい、母さん。わかったから」
老女の背中を少年が押していく。
もたもたと部屋に入っていくと、ぱたんと扉が閉められた。
防音素材でもはってあるのか、音はすっかり遮断される。
何も聞こえなくなった廊下に、いつしか全員が出揃っていた。
ハソ ゚-゚リ「あれが……母さんです」
ぽつりと呟いた少女の言葉が全てを物語っていた。
854
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:22:53 ID:.pp7p.6.0
かつてのマルティアの内紛の際、ハイジャ孤児院は大勢の魔人の子も匿った。
救いを求める子らには全て救済を。
たとえ国が拒んでも、隠してでも守り抜く。
それがやるべきことだと、「母」は声高に宣言していたそうだ。
そのとき助けた魔人たちは全員、「ふしぎなちから」が使えなかった。
そして全員が、外の世界にでることを異様に恐れていた。
とはいえ、その恐れの根源が何なのか、彼らは教えてはくれなかった。
その彼女のもとへ、魔人たちを匿ってから数日後、
西部に広がるエウロパの森から使者がやってきた。
彼らは魔人を保護するという名目で、魔人の子らの捕獲を始めた。
抵抗したモララーの母もなすすべがなかった。
理由を尋ねても、何も応えてくれず、見たこともない力によってねじ伏せられた。
855
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:23:58 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「私はそのときまだとても小さかったから、あまり憶えていないんだけど
母さんはそのときのショックが未だに忘れられないんだ」
すでに食器を下げ終わったダイニングで、少女は教えてくれた。
孤児院を半壊にされたこともある。
そしてそれ以上に、これから守っていこうとした魔人の子どもたちを連れ去られたことが
母の心に大きな傷痕を残した。
苦い思い出から、「母」は魔人との関わりを断つようになった。
忌避はいつしか嫌悪へと変わり、憎しみへと変わっていった。
ハソ ゚-゚リ「悪夢を何度も見て、そのせいで眠れなくなったみたい。
母さんが寝付けないときはモララーさんが率先して世話をしてくれていたんです。
母さんも、子どもたちの中ではモララーさんを一番信頼していたようだから。
そのモララーさんが衛兵見習いとして行ってしまうと、母さんには誰の言葉も聞かなくなった」
856
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:24:53 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「魔人に関するものは何も、ここには持ち込んではいけない。それが母さんの命令です。
ラスティア国がなくなって、マルティア国の領土になっても未だに援助は断っている。
孤児たちの受け容れもなくなって、育った子どもたちは一人ずついなくなった。
残ったのは私とトラだけなんです。いつまでいられるかはわからないけど」
廊下の奥、トラが保母と付添い入っていった扉を、少女はそっと見つめた。
半分だけ開かれた瞳からは深い悲しみが感じられた。
('A`)「モララーは、何も言わなかったのか」
ドクオは少女に訊いた。
少女は淋しげに首を横に振った。
ハソ ゚-゚リ「モララーさん、あまり自分のことは話したがらない人だったから」
857
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:25:45 ID:.pp7p.6.0
逆に、と少女はドクオを見据えた。
ハソ ゚-゚リ「モララーさんからこの話、聞いたことありますか?
ドクオさんには、モララーさんは心を開いてくれていたましたか」
少女の勢いに気圧されて、ドクオは言葉を濁した。
自分はモララーとは知り合いでいる。
故郷の話を聞いたことがある。
思い詰めた表情で、故郷の場所を見つめているモララーの姿を思い起こすことができる。
あのとき、彼は何を考えていたのだろうか。
単純に望郷の念を抱いていたのだと、ドクオ自身は思っていた。
だけど、少女の話を聞く限りでは、決して純粋な思い出はなかったのかもしれない。
858
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:26:52 ID:.pp7p.6.0
モララーはいつでも笑っていた。
あれのせいで、本心は見えなかった。
余裕のある奴だと思い込まされていた。
ハソ ゚-゚リ「あの、もしよければなんですが。
モララーさんの部屋、見てみますか?」
少女が提案をし、ドクオはデレとタカラを振り返った。
( ,,^Д^)「俺はパス。別に感慨も何もないし」
タカラがすぐに言う。
( ,,^Д^)「風呂がそろそろ沸くんだろ? ゆっくりさせてもらうわ」
859
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:27:26 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「あの……」
少女が今一度、廊下に目をやる。
( ,,^Д^)「大丈夫、トラには気を配っておくから」
思えば、タカラはすでにここに一度泊まっている。
保母のことも、彼は先に知っていたのだろう。
( ,,^Д^)「まあ、問題なさそうなら放置するがな」
ハソ ゚-゚リ「……ありがとうございます」
少女は目を閉じ、頭を下げた。
860
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:28:24 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「私はモララーさんの部屋に行きます」
少女が頭を上げると、デレが応えた。
真一文字に閉じた唇から、感情は読み取れなかった。
ハソ ゚-゚リ「では、行きましょう」
☆ ☆ ☆
孤児院の二階には、小部屋が並んでいた。
元々は子どもたちの寝床であったらしい。
突き当たりに、モララーと書かれた、古びた看板が吊り下がっていた。
861
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:28:58 ID:.pp7p.6.0
室内は薄暗く、それでいてひんやりとした空気が感じられた。
少女はランタンを手に入っていき、カーテンを開いた。
月明かりが差し込み、青白く室内を照らす。
窓の傍には文机があり、その脇には三段の本棚がある。
壁際には小さなベッド、床には白いカーペット。
それ以外には何もない。
ハソ ゚-゚リ「モララーさんが出て行ったときには、すでにこの状態でした」
ドクオたちが何も言えないのを見て取って、ナチは先に口を開いた。
862
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:29:46 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「必要なものはラスティア城に持って行ったのでしょうけど。
本当に最初から、ほとんど物がなかったんです」
少女に促され、ドクオとデレは中に入った。
唯一モララーらしさがあるのは本棚だ。
とはいえ、書籍は少なく、スペースも目立つ。
中程にあるバインダーを引き抜くと街の防衛に関する報告書等が入っていた。
モララーが衛兵見習いになったのは、スィオネという街で功績を重ねていたからだと聞いている。
十代そこそこでありながら、モララーの剣術は卓抜しており、城の者から目をかけられたのだ。
衛兵となることは名誉の徴。まして招待されたとなれば、喜びも一入だ。
あの保母とて、それは違いなかっただろう。
しかし、あの状態では。
863
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:30:39 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさんはどうして衛兵になろうとしたのでしょうか」
ドクオの内で湧いた疑問をデレも口にしていた。
('A`)「お城に行けば、保母の世話をしなくて済むからかもな」
気持ちはわかる、とドクオは思った。
この孤児院にずっと閉じ込められている、とモララーは感じていたのかも知れない。
そうであれば、城からの招待状は自分の環境を一変させるチャンスだったということになる。
故郷へ向けていた、あの視線は、残してきた母への罪の意識だったのか。
そう、心の中で結論づけようとしたとき。
(=゚д゚)「母さんに言われたからだよ」
と、部屋の入り口から声がした。
864
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:32:00 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「トラ、母さんは?」
(=゚д゚)「もう眠ったさ」
少女を一瞥し、トラは部屋に踏み入ってくる。
(=゚д゚)「モララーさんに、衛兵になるように言ったのは母さんだ。
街の防衛の手伝いをしていたのも、もっと言えば、技術を磨いていたのも全部母さんのためだ」
(=゚д゚)「魔人を相手に戦うこと。それが一番母さんを落ちつかせることだったんだよ」
865
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:32:56 ID:.pp7p.6.0
('A`)「戦うことが、落ちつかせること?」
(=゚д゚)「ああ。母さんは自分の願望をモララーに押しつけたんだ。
空虚なもんだよな。そのせいで、モララーさんは戦うこと以外の何も考えられなくなっていたんだ」
トラの口元が引きつる。
つり上げられた笑いを見て、ドクオの頭が揺さぶられた。
昔の記憶がドクオの頭に呼び起こされる。
戦う自分が抑えられない。止められない。
彼はそう呟いていた。
866
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:33:39 ID:.pp7p.6.0
この孤児院が襲われたのは、モララーが10歳にも満たないころだ。
それ以来、母である者から、魔人に対する呪詛の念を
誰にも見られない部屋の中で、一人で浴びていた。
言われるがままに力をつけて、功績を重ね、国からの奨励も受けて招かれた。
喜ぶ母の勧めを断るわけにはいかなかった。
衛兵になって間もなくの頃、モララーは言っていた。
強くなるのは母を安心させるためだ、と。
ドクオの胸の内側が強く脈動する。
867
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:34:40 ID:.pp7p.6.0
どうして違和感に気づかなかったんだ。
彼が何を考えていたのか、わからないのは当然だ。
彼の心は、未だ故郷に囚われていた。
自分自身がどうなりたいかについて、彼は一度も口にしていなかったのだ。
(;'A`)「……」
ラスティア城にて、彼の部屋を整理したときのこともドクオは憶えている。
彼の持ち物には、余計なものはほとんどなかった。
そもそも家族について、モララーは誰にも打ち明けていなかった。
彼に残っていたのは、衛兵としての身分だけ。
だが、その身分も、決して一枚岩ではなかった。
868
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:35:42 ID:.pp7p.6.0
ラスティア城も、最初のうちは魔人と敵対していた。
モララーの目的が、魔人と敵対することならば、
ラスティア国の衛兵としているだけで、目的は果たせていた。
それが、受け容れが始まると、状況は一変した。
敵だったはずの魔人が徐々に国中に進展していった。
モララーは徐々に戦うべき相手を失っていった。
だから、彼はレジスタンスに入ったのか。
つまり。
(;'A`)「あっ」
辿りついた思考に、ドクオは鳥肌が立った。
同時に、振り返った。
869
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:36:26 ID:.pp7p.6.0
(;'A`)「……デレ」
言葉は届いていないようだった。
デレは呼吸を浅くしていた。
モララーの本棚を見つめ、未だにバインダーを手にしたままでいる。
同じことを考えている、とドクオは思った。
('A`)「あの……」
言葉尻が萎んでいった。
伝えてどうするんだと、途中で自制が働いた。
870
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:37:32 ID:.pp7p.6.0
デレはドクオを見つめていた。
強張っていた表情が一瞬崩れ、目が伏された。
ζ(- -*ζ
どうしてモララーはデレを助けようとしたのだろう。
こんな問いをしても無駄だ。傷つけるだけだ。
わかっていたのに、デレと目が合ってしまった。
何も言えなかった。
言うわけにはいかなかった。
モララーがデレを助けたのは、本当は誰のためだったのか。
今のデレに伝えて、どうとなるものでもない。
871
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:38:23 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「トラさん」
静寂だった部屋に、デレの声が響いた。
ドクオは弾かれるように顔を上げた。
(=゚д゚)「なんだよ」
トラは身を竦ませた。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさんが死んだのは、私を助けたせいです」
空気が張り詰めるのがわかった。
少女の息をのむ声が聞こえてきた。
トラは呼吸をするのも忘れて固まっていた。
872
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:39:35 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさんは命がけで私をお救いになり、その結果死ぬことになりました。
私が魔人に命を狙われていることがわかり、モララーさんはそれを阻止しようとしたのです。
そこにいるドクオも、証人です。彼はモララーさんの死の場に居合わせておりました」
デレから目を向けられて、ドクオはやや遅れて頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「トラ、あなたは私達を恨みますか」
デレに問われ、トラは我に返った様子だった。
(=゚д゚)「……恨んでもしかたねえよ」
トラは鼻を鳴らした。
(=゚д゚)「魔人を倒すことがモララーさんの性分だったんだ。
その魔人にやられて死んだのなら、むしろ本望だったんじゃねえの」
873
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:40:12 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「トラ! そんな言い方」
(=゚д゚)「違うっていうのか? ならどうしてモララーさんは戦い続けていたんだ。
この部屋であの人が何をしていたか知ってるか? ずっと、鍛錬していたんだよ。
寝る間も惜しんで剣を振って、魔人をどうやって殺すかだけ考えていたんだ。
それ以外何も考えられなかったんだよ。俺たちが何度話しかけても、ちっとも振り向いてくれなかったんだ!」
自嘲気味だったトラの顔が、徐々に歪んでいった。
叫ぶように言い切ると、肩を上下させてデレに向き合った。
(=゚д゚)「だから、恨まない。モララーさんはやりたいことをやっただけだ。それだけだ」
874
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:40:45 ID:.pp7p.6.0
沈黙が降りた。
その途端。
ζ(゚ー゚*ζ「私の考えは、違います」
(=゚д゚)「……え?」
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさんのやりたいことは、戦うことだけだったとは、私には思えません。
もっといろんなことをしたかったのではないでしょうか。
それを考えるだけの時間が足らなかっただけではないでしょうか」
(=゚д゚)「……そんなことわからねえよ。
どのみちモララーさんはもう、この世のどこにもいないんだ」
875
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:41:53 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、その通りです」
デレはゆっくり、トラの言葉を咀嚼するように頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「私達には正解はわかりません。でも、思いやることはできます。
……あの人がついぞ空虚だったと憐れむことも、
その虚を埋めることができたと悔やむこともできるのです」
ζ(゚ー゚*ζ「ありえたはずの時間を奪ってしまったのは、全て、私の責任です」
デレはトラを見据えた。
時間が止まったように思えた、次の瞬間、デレは大きく頭を下げた。
876
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:42:37 ID:.pp7p.6.0
ζ(- -*ζ「トラ、どうか私を恨んでください。私はモララーさんを見殺しにしてしまったのです。
たとえどんな状況に置かれていたとしても、
あなた方とモララーさんとの時間を奪ってしまったことに変わりはありません」
(;'A`)「お、おい。何もそこまで」
ζ(゚ー゚*ζ「あなたにもです、ドクオさん」
振り返ったデレの、赤く腫らした瞳に射竦められた。
ζ(゚ー゚*ζ「私はもはや王女ではありません。いえ、初めからただの一人の人間です。
私が弱かったから、あなたの友人を奪ってしまったのです。
本来なら、合わせる顔がない身分なのですよ」
877
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:43:25 ID:.pp7p.6.0
(;'A`)「……そんなこと、言うなよ」
それなら俺だって、同じだ。
言葉を発する前に、
(=゚д゚)「やっぱり俺は恨まねえよ」
トラの声が、デレを再び振り向かせた。
(=゚д゚)「俺だって、モララーさんに何も言えなかったんだ。
もっと知り合うこともできたのに、何もせずにいたんだ。
同罪さ。だから、恨む資格なんかない」
878
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:44:29 ID:.pp7p.6.0
ハソ ゚-゚リ「トラ」
ナチのか細い声に、トラは頭をかいた。
潤んでいる目元を手で拭い、トラは背を向けた。
(=゚д゚)「もうすぐタカラさんも出るだろう。風呂が冷めちまう前に入ってくれよ。
それが終わったら……なんでもいいから、モララーさんのこと話してくれよ。
俺、結局ここにいなくなってからのモララーさんのこと何も知らないんだから」
ζ(゚ー゚*ζ「……ええ、もちろん」
デレは言葉で返し、俺を見返した。
('A`)「ああ」
振り返ったトラが照れくさそうに笑みを見せていた。
879
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:45:09 ID:.pp7p.6.0
長く語らっていたような気もするし、それほどでもなかった気もする。
どのみち疲れが溜っていたのだ。
気がついたら、ドクオは夢の中にいた。
真っ暗な夢だ。
モララーが出てくるかと思ったけど、そんなことはなかった。
都合良くはいかないものだ。
結局ドクオは、モララーのことを何も知らなかった。
もっと友達になることもできただろう。
それを悔やむこともできる。忘れることもできる。
どちらかといえば、正直にいえば
忘れる気にはなれない。
結論付いた胸の内に、ドクオは満足していた。
こんなもんでもいいじゃないかと。
880
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:45:58 ID:.pp7p.6.0
☆ ☆ ☆
夜が明ける少し前に、ドクオとタカラ、デレの三人は孤児院を後にした。
見送りに来てくれた二人は長い間手を振り続けていた。
谷道を折れて、彼らの姿が見えなくなるまで。
デレの記憶を頼りに、俺たちは足を進めていった。
マルティアの境界線が見えてきてからは慎重になった。
やがて小さな丘を巻くように歩いて行き、ドクオたちは小さな街を発見した。
崩れた石壁などが野晒しになり、葛に侵食されているものもある。
人の気配はない。見捨てられた、宿場町の跡地なのだろうと推測された。
その民家跡のひとつに、馬車が横付けされていた。
ドクオたちが遠目から追いかけていた、マルティアのものだった。
881
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:47:30 ID:.pp7p.6.0
ドクオたちは、比較的形を残している民家に身を隠した。
( ,,^Д^)「後方、シナーさんの援軍が見えますね」
タカラは今まで歩いてきた道の方を眺めていた。
朝焼けで薄青く染まり始めた空に、黒い狼煙が上がっている。
( ,,^Д^)「マルティアの連中、今はギリギリ、テーベ領との境界に留まってくれていますが
シナーさんの狼煙に気づいたら、連中もすぐにマルティア領の奥へ入ってしまうでしょう。
やるなら今ですね。準備はどうですか」
武器は揃っている。それから、捕縛用の道具もある。
('A`)「偵察には俺が行く」
ドクオが先に剣を持ち上げる。
磨き上げた切っ先が光を反射した。
882
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:48:19 ID:.pp7p.6.0
('A`)「武装している人数は三人だったな」
事前にデレにうかがっていた情報を再確認した。
ζ(゚ー゚*ζ「勝手に減ったり、増えたりしていないとだけどね。
でも、乗り物の数を見た限りでは増援も受けていないようじゃない?」
('A`)「ああ。面と向かって立ち向かうには少々骨が折れる。
タカラは後方支援を頼む。攻め入るのは、もう少しあとだ」
ドクオはそう言ってから、デレを見た。
('A`)「デレ、少し話したいことがある。
ちょっと外に出ても良いかな」
883
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:49:45 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「ええ、何のようだろう」
('A`)「それも外で」
ドクオはタカラと目を合わせる。
タカラは頷いて、ドクオを促した。
明け方の空がドクオとデレを待ち受けていた。
暁の光が連なる雲を赤々と焼いている。
ζ(゚ー゚*ζ「話って?」
('A`)「最終確認だ」
ドクオの剣が、真っ直ぐデレに向けられた。
884
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:50:22 ID:.pp7p.6.0
('A`)「まず、名前を言え」
デレは剣の先を見つめ、それからドクオを見据えた。
ζ(゚ー゚*ζ「デレ・アド・ラスティア」
('A`)「父親と母親の名は」
ζ(゚ー゚*ζ「父はショボン、母はリーン」
そつのない答え方だった。
ζ(゚ー゚*ζ「もっとも、ラスティアの国民なら知っているだろうけど。これで終わり?」
885
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:51:00 ID:.pp7p.6.0
('A`)「いや、まだだ」
ドクオは剣を握り直した。
('A`)「俺の知っているデレならば、その匂いの正体はなんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「どういうこと?」
('A`)「俺には魔人の匂いがわかる」
デレは口を閉ざした。
笑いを浮かんでいた顔が、無表情になる。
('A`)「お前の身体からずっと、魔人の匂いがしている。
曖昧なものだけどな、消えないんだ。出たり入ったりしている」
886
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:51:58 ID:.pp7p.6.0
魔人の匂いをドクオは感じることができる。
だからこそ、デレへの疑いの念を消しきることができなかった。
デレがひとつ溜息をついた。
ζ(゚ー゚*ζ「つまりは、こういうことなんでしょ?
私はあなたの敵か、味方か」
('A`)「そうだ」
ζ(゚ー゚*ζ「どちらでもない、と言ったら?」
不敵な笑みはなおも消えないままだった。
('A`)「どういう意味だ」
887
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:52:52 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「どちらにもつかないってことよ。
少なくとも、今はあそこにいる人たちの敵ではある」
デレはマルティアの連中が潜む方を指差した。
ζ(゚ー゚*ζ「はっきりさせないといけないの?」
('A`)「マルティアに引き渡すのがいいのか、シナー大尉にした方がいいのか。
今のうちに判断させてほしい」
ζ(゚ー゚*ζ「……どちらも嫌よ」
朝の太陽がデレの背後でのぼる。
888
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:53:42 ID:.pp7p.6.0
('A`)「そんなわがままは通らないぜ。軍人の前じゃあな」
ドクオは剣を腰高に構えた。
一度踏み込めば斬りかかっていける。
今、決めなければならない。
ドクオは意を決して、デレを睨み付けた。
(#'A`)「お前は誰だ。答えろ、デレ!」
889
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:55:11 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「……大人しくしてくれていれば」
ζ( ー *ζ「何もしないであげたのに」
影が膨らむ。
(;'A`)「なっ」
人であるそれを乗り越えて、拡大され、弧を描く。
890
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:55:44 ID:.pp7p.6.0
バサッ
.
891
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:56:21 ID:.pp7p.6.0
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暁の天涯を抉り取るかのように、その背から ,:';:;:;:;:;:/;:;:;:/;:;:;:;//;:;∠-'"フ
大白鷲の双翼が燦然と拡がった。 /:;:;:;:;/;:;:;:;:;/;:;:;:;:;//:;:;/;:;:;/
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`丶、;.;.;.;⌒ヽ,,、`´ヽ'"ヽ、ニニ>、 ,':.:彡シシ辷ノ辷ノ辷三ノ三=ソ二二二;.ノ
`丶;.:.:.:,;,;、=シ''ヽヽ,,ヽ三二ヽ }:.:彡シシソ辷ノ辷三ノ三=ソ二二二;.;.;.}
\: :' ,ュヽン'"ヽ,,`丶、ニニ),/:.:彡シシソ辷ノ辷ノ辷三ソ三二二二:; '
ヽ ,,、、ヽ,,,..、、,、`ミ三ニ/:.:.彡彡シシシシシシ辷ソ,'、`丶、ー,―ノ
∨,,. ,.、、,丶-、、,,.""シ:.:.:彡彡シシシシシシ辷ノ`丶、`丶、>'"
∨ ,.、、`"ヽ,,、ソノ:.:.:彡彡シシシシシ辷ノミミ≧ー'""
∨、. ノシ彡チ{≧ュ三シシシシシシシ'"三テ>ー'"
892
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:57:04 ID:.pp7p.6.0
ζ( ー *ζ「誰って……もちろん、私はデレよ」
デレの声は朗々と響き渡った。
ζ(゚ー゚*ζ「だけど、あなたの知っているデレじゃない」
言っていることは正しいのだろう。
そこにいたのは、ドクオの知っているデレではない。
魔人の匂いがはっきりと立ちこめている。
('A`)「デレ……」
893
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:58:03 ID:.pp7p.6.0
ζ(゚ー゚*ζ「しがらみは全て、断ち切るわ。
これ以上、私を誰にも止めさせはしない」
彼女は翼をはためかせた。
風が巻き上がり、その身体が宙に浮かぶ。
剣に風圧がかかり、軋む。
指先の震えにドクオは小さく舌打ちをした。
ドクオを見下ろし、デレは言う。
ζ(゚ー゚*ζ「それでも私を止めるというなら、私はあなたを許さない」
天使のごとき白の翼が、逆光に、今は黒く染め抜かれていた。
894
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 20:59:27 ID:.pp7p.6.0
.
第二十六話 目覚めたる悪魔(雪邂永訣編④) 終わり
第二十七話 君死に給ふことなかれ(雪邂永訣編⑤)へ続く
.
895
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/05/27(日) 21:00:49 ID:.pp7p.6.0
本日の投下は以上です。
雪邂永訣編、残り2話です。
今後もよろしくお願いします。それでは。
896
:
同志名無しさん
:2018/05/27(日) 21:27:56 ID:7hL0rfS60
乙です!!
897
:
同志名無しさん
:2018/05/27(日) 21:28:05 ID:oY0VwpUE0
三ヶ月ぶり乙!
898
:
同志名無しさん
:2018/05/27(日) 21:42:58 ID:VA3sV7fA0
乙
899
:
同志名無しさん
:2018/05/28(月) 18:45:27 ID:AvaYlrdA0
デレの目的は一体……
900
:
同志名無しさん
:2018/05/30(水) 22:17:18 ID:OjWoqfAU0
デレどうなっちゃったの
901
:
同志名無しさん
:2018/05/31(木) 09:42:59 ID:Qtz7lUgg0
おつです!!
902
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:30:52 ID:DwD.EnMM0
それでは投下を始めます。
903
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:33:30 ID:DwD.EnMM0
昨日の夜、歓談もひとしおに、皆が寝入りについた頃、
( ,,^Д^)「ドクオさん」
喉をほとんど震わせない声でタカラは耳打ちをした。
( ,,^Д^)「確認をするなら明日の朝です」
('A`)「……ああ、わかってる」
タカラが言わんとするところを、ドクオはすぐに察した。
デレはいったい何者なのか。
姿形は全く同じ、言動にも違和感はない。
むしろラスティアにいた頃よりも精神的に成長しているようにも見受けられた。
904
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:34:33 ID:DwD.EnMM0
だが、依然として匂いは消えていない。
魔人の、獣の部位が放つ独特の異臭。
魔人に鼻を抉られたドクオだけが、その匂いを感知することができた。
今のデレは、魔人の変装した姿なのかもしれない。
一番最初に抱いたその疑惑は、未だ晴れたわけではなかった。
('A`)「わかっている。マルティアの実験関係者が見えてきたら、俺がデレを呼び出す。
タカラは俺から離れてくれ。デレが警戒する。ただし、いつでも撃てるように」
( ,,^Д^)「離れつつ、狙い続ける、か。いやあ、相手がプロなら難しいっすねえ」
手入れをして傍らに置いた、テーベ製のマスケット銃を、タカラはそっと擦った。
905
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:35:00 ID:DwD.EnMM0
( ,,^Д^)「せめて、あの元お姫様が戦闘慣れしていないことを祈りますよ」
('A`)「……だといいんだが」
最後に見たときから、約二年。
普通の人でも、それだけの時間があれば立場も思想も変わりうる。
ドクオでさえ所属が変わり、心境も違う。
かつての自分であれば、迷いなく剣を振れた。
たとえ敵が知り合いの顔をしていても、だ。
('A`)「今は寝よう。明日は早い。
それと、しっかり帰るんだから、野営道具も忘れるんじゃねえぞ」
消灯して、闇の中に微睡みながら、胸はざわめいていた。
きっとただではすまないだろう。そんな予感が、この山に来てからずっとしていた。
906
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:35:24 ID:DwD.EnMM0
☆ ☆ ☆
第二十七話
君死に給ふことなかれ(雪邂永訣編⑤)
☆ ☆ ☆
907
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:36:00 ID:DwD.EnMM0
一瞬のことだった。
デレが、その背から生える白の翼を悠然と広げた途端
耳を劈くような音が山間に響き渡った。
ζ(゚ー゚;ζ「……っ!」
デレの身体が揺らぐ。
翼の均衡は崩れ、高度が落ちていった。
( ,,^Д^)「ドクオさん!」
民家の影からタカラが駆け寄る。
手にしたマスケット銃は煙を上げていた。
908
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:36:26 ID:DwD.EnMM0
( ,,^Д^)「無事っすか」
('A`)「お、おう」
「なに呆然としてるんですか。作戦どおりでしょ」
タカラはドクオの肩を引いた。
( ,,^Д^)「たとえ魔人でも、銃弾を受けて無事な奴はいませんよ。さ、はやく――」
直感、というよりも違和感だった。
威圧的な白の翼を目の当たりにして、
それが簡単に崩れることが、ドクオにはにわかに受け容れられなかった。
警戒を。
思い浮かんだ言葉は途切れる。
909
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:36:50 ID:DwD.EnMM0
( ;^Д^)「あ、なぁっ!?」
鮮血が空中に散布された。
傷跡はタカラの肩。
(;'A`)「タカラぁ!」
ドクオは咄嗟にタカラの背を押さえた。
仰け反り倒れ込むタカラの体重がかかり、ドクオ自身もよろける。
ζ( ー *ζ「・・…ふふ。不意打ちなんて野蛮なことをするからよ」
銃弾は当たったようにみえた。
だが、その実デレの声から余裕は消えていなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「もっとも、私には無意味だけど」
910
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:37:17 ID:DwD.EnMM0
デレの指先が、くい、と自らへ向けて曲がる。
( ; Д )「あ……があぁ」
タカラがひときわ身を震わせる。
血が滴り続ける肩が不自然に盛りあがり、衣服を突き破った。
真っ赤に染まった金属片が太陽の下に照らされる。
「銃弾……?」
糸もないのにそれは浮かび、漂いながらデレの元へと向かっていった。
ζ(゚ー゚*ζ「さっき私に向かってきた弾よ」
銃弾はくるくると、まるで飼い慣らされた犬のように旋回し、
デレの手のそばで動きを止め、掌におさまった。
911
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:37:55 ID:DwD.EnMM0
テレキネシス
(;'A`)「……念 動 力」
ζ(゚ー゚*ζ「素敵でしょ? この世の全ての物は私の思い通りになるの」
デレの翼は再び羽ばたいた。
その身体を浮かせると、デレは両手を広げる。
壇上の指揮者のような指先の動きに合わせて、方々の民家の窓や屋根が破壊された。
包丁、鍬、鉈、刃物類が一斉に空を舞い、デレの元へと集まっていく。
鋼に撥ね返された陽光が、後光のようにデレを象る。
(;'A`)「くそっ」
タカラの肩を持ち、肩を貸す。
タカラは震えながら脚を地面につけた。
912
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:38:22 ID:DwD.EnMM0
あの数の刃物の全てがデレの意のままというなら、
手負いの人間がまともに受けきることはできない。
かといって当然、タカラを見捨てるわけにもいかなかった。
ζ( ∀ *ζ「ふふ、ははははは」
甲高い笑い声とともに、両の手が振られ、上向く。
背を向けていたドクオだが、その影は目に映っていた。
次いで、取り巻いていた刃物の群れが刀身を下に向ける。
総毛立つのをドクオは感じた。
間に合わない。
思わず目を閉じた。
――予想していた痛みは、なかった。
913
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:38:52 ID:DwD.EnMM0
代わりに悲鳴が野太く響き渡る。
ζ( ー *ζ「私もね、嘘ばかりついていたわけじゃないのよ」
マルティアの運搬員たちが隠れていた民家。
その窓ガラスを突き破り、刃物が突撃する。
いくつかの悲鳴をまとい、別の窓から戻ってきた刃物は血で塗れ、
くるりと振り返ると、また元の民家の中へ襲い掛かっていった。
混乱と絶叫が声だけで伝わってくる。
中に入っている人の顔もしらないが、
マキオコテイル地獄絵図は想像に難くない。
ζ(゚ー゚*ζ「あそこにいるのはモララーさんの仇。それは本当のことよ。
実験の中に彼が参加していることを知ったときから、私はずっと、殺したいと思っていたの」
914
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:39:17 ID:DwD.EnMM0
ζ(゚ー゚*ζ「あなたが何も言わずに殺してくれていたら一番都合が良かったんだけどね」
刃物の攻めは間断なく続く。
欠けた包丁は捨てられて、別の民家から鉈が現れ、惨劇に加わった。
終わることのない絶叫が次第に痩せ細っていく。
ζ(゚∀゚*ζ「でもいいわ。あの血で汚れた凶器たちをあなたの死体の傍に添えればいいだけだもの」
デレの瞳がドクオを一瞥する。
それは冴えた光を湛えていた。
今までみたどの表情とも違う。
距離を感じる。冷たい視線だった。
915
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:39:41 ID:DwD.EnMM0
( ,, Д )「――――っ」
ドクオの脇に、タカラの手の力が加わる。
(;'A`)「お、おい」
慌てている間に、タカラがドクオの身体を引いた。
逃げ込んだ民家は、ほとんど崩壊しかけていて、
屋根さえない簡素なものだったが、大きく、庭もあった。
塀に隠れていれば、デレからの直接の視線を遮ることもできた。
( ,, Д )「……」
916
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:40:19 ID:DwD.EnMM0
( ,,^Д^)「――くくっ」
タカラは顔を歪めていた。
痛みからではなく、笑いから。
(;'A`)「タカラお前、怪我は」
( ,,^Д^)「あっはは、そんなしょげた顔しないでくださいよ」
場違いなほどに明るい声。
顔の強張るドクオの前でタカラは首を横に振った。
( ,,^Д^)「これです、これ」
胸元から、タカラは缶を取りだした。
真っ赤に染まったそれには、うっすらトマトのイラストが見える。
917
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:40:46 ID:DwD.EnMM0
('A`)「トマトスープ?」
( ,,^Д^)「非常食です。ほら、昨日の朝も食べてたでしょ」
まだハイジャに行く前のこと。
デレと二人で食べているときに、タカラと出くわしたものだ。
缶はひしゃげ、穴も開いている。
抉ったのは先ほどの銃弾だろう。
滴る赤は要するに、内容物の残りだ。
(;'A`)「あの血は、これかよ」
( ,,^Д^)「匂い嗅げばすぐわかるでしょ。
もっとも、あの元姫様、あれだけ血まみれならもうわからんでしょうけど」
なおも悲鳴が響き渡る方を見つめ、タカラはにやけ続けていた。
918
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:41:09 ID:DwD.EnMM0
( ,,^Д^)「この民家、来るときから目をつけていたんです。
裏手の庭に池があるでしょう。あそこ、山から水を引いているんですよ」
( ,,^Д^)「今は凍っているんで小路になっています。ちょうど岩陰に隠れる形です。
周り道になりますが、あの元王女様にバレないでシナー大尉の部隊と合流できるかと」
タカラは手早くに説明をしたが、ドクオは黙っていた。
覗き込むかたちで、タカラはドクオと視線を合わせる。
( ,,^Д^)「あの元姫様は敵にだったんですよね」
919
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:41:45 ID:DwD.EnMM0
('A`)「……」
( ;^Д^)「いやいや、なんでそこ黙るんですか。明らかに殺しに来てるでしょ」
('A`)「まだ、理由もわからない」
( ,,^Д^)「油断すれば、マジで死にますよ」
タカラは笑うのを止め、 真顔でドクオを見据えた。
( ,,^Д^)「念動力なんて、魔人の能力としても上位です。人智超えてますよ。
今のところ制限もわからないし、単純に手数が読めない。不意打ちし放題のやべえ奴です。
勝ち筋が見えないのに立ち向かうのはアホですよ。自殺と同じです」
920
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:42:09 ID:DwD.EnMM0
戦いを積んでいる者ならば、無茶な戦いは避ける。
体力を温存し、反撃のチャンスをうかがう。
タカラの言っていることは正論だった。
シナー大尉の狼煙も遠くに見えている。
山へ、ひたすら逃げ続ければ、生存可能性は高まるだろう。
('A`)「それでも、確かめたいんだ」
思考とは逆のことを、ドクオの口は先にしていた。
( ,,^Д^)「……」
921
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:42:36 ID:DwD.EnMM0
タカラはふっと視線を下げた。
( ,,^Д^)「……そうですか」
タカラは立ち上がり、思い切り伸びをして、ドクオに背を向けた。
( ,,^Д^)「まあ、俺からすれば、ドクオさんがあの女を足止めしてくれるってのは、願ってもないことですがね。
俺は死にませんからね。無駄な戦いもしません。
シナー大尉と会っても、シナーさんがノーと言えばそのまま退散します」
( ,,^Д^)「文句ありますか」
922
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:43:07 ID:DwD.EnMM0
('A`)「それでいい」
間を開けず、ドクオは言い切った。
( ;^Д^)「……くぁ〜〜、もう」
タカラは頭を掻いて、ドクオを振り向いた。
( #^Д^)「いいですか、ドクオさん。俺は付き合う人は選んでいるんです。
自分が信じられる人だけを選んでいます。得になる人です。それが第一義です。
それなのに、勝手に死なれたりしたら、たまらないんですよ」
タカラは腰を落とし、ドクオを見つめた。
923
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:43:31 ID:DwD.EnMM0
( #^Д^)「必ず生きて帰ってください。
できなかったら俺、許しませんからね」
タカラは言い残して、民家の跡から庭へと、音も無く駆けていった。
('A`)「許さない、か」
デレは邪魔したら許さないと言った。
タカラは死んだら許さないという。
抵抗も、追求も、誰からも望まれちゃいない。
ただ、残念ながら、大人しく引き下がろうとする自分を
ドクオ自身が許さなかった。
924
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:43:58 ID:DwD.EnMM0
冷えた空気が身に染みる。
静かだった。
悲鳴はとうに収まっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、戻ってきたの」
デレは飛ぶのをやめ、翼も畳んでいた。
見た目には今までと変わりない。地味な厚手のドレス姿だ。
そのデレの周囲を、絶えず、血まみれの刃物が飛び交っていた。
包丁などに加え、いつしかサーベルや槍など、より物騒なものも加わっている。
マルティアの研究者が潜んでいた小屋から、ひとつひとつ、武器が運び出され、取り巻きに加わっていた。
925
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:44:26 ID:DwD.EnMM0
('A`)「まずは確認をさせろ。お前は本当にデレなのか」
ドクオは顎を引いてデレを見据えた。
ζ(゚ー゚*ζ「この期に及んで違うと思う? それともそう思いたいの?」
デレの腕が伸び、刃物の輪の中から一本の槍の柄を握った。
日の光に照る切っ先に、デレの顔が薄く映りこんだ。
('A`)「デレだとしたら、その力はいったい何なんだ」
ゆっくりと回転を続ける刃物たちに視線を飛ばし、ドクオは尋ねた。
926
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:44:48 ID:DwD.EnMM0
ζ(゚ー゚*ζ「マルティアの実験。あれはね、人間の身体に、魔人のふしぎなちからを付与するの。
私は実験に参加した。ただの参加者じゃない、被験者として志願したのよ。
おかげで私は、この力を手にすることができた」
槍が手から離れ、倒れ込む前に宙に跳ね上がった。
飛び立つ鳥のように軽やかに飛び回り、刃物の一陣に加わる。
まるでデレを守る衛兵のように、刃物は並び立っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「知ってる? 魔人って、大昔の私達のご先祖様が
自分達の奴隷にするために作った種族なんだって」
デレは薄笑いを浮かべた。
927
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:45:21 ID:DwD.EnMM0
ζ(゚ー゚*ζ「ご先祖様は魔人に人を超える力を与え、同時に人に絶対に逆らえない制約を与えた。
人の繁栄を邪魔しないように。争う意志を極限まで減らされた。
すべては世界の平和のために」
ことさら軽々しく、デレは言葉を打ち切った。
ζ(゚ー゚*ζ「馬鹿みたいでしょ、回りくどくて。
一番手っ取り早いやり方なんて、わかりきったことじゃない」
刃物のうちのひとつを、デレは手繰り寄せ、そっと撫でた。
ζ(゚ー゚*ζ「力を自分が持てばいい」
928
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:45:45 ID:DwD.EnMM0
('A`)「それが目的か」
ドクオは、携えていた、テーベ支給の黒剣に手を掛けた。
('A`)「力がお前の目的なのか」
腰を低くして、力を込める。
殺気立ったスタイルを前に、デレは無表情になった。
ζ(゚ー゚*ζ「私が初めから強ければ、誰も死なずに済んだのよ」
微笑みの消えたデレの視線が、冴えた空気を突き抜けてくる。
冷たいそれは、吐息を忘れそうになるほどの圧迫感だった。
929
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:46:21 ID:DwD.EnMM0
ζ(゚ー゚*ζ「私がずっと守られていたのも、大切な人を守れなかったのも、全部私が弱かったせい。
だから、刃向かいも、抵抗も、しがらみも全部断ち切ってしまえばいい。
全員殺せば、全て終わる。そこで私は初めて自由になれるのよ」
再び唇が弧を描いて、デレは指先をそこに添えた。
ζ(゚ー゚*ζ「これ、誰にも言わないでよね。あの魔王にだって、この話はしていないのだから」
('A`)「ふん、敵でも味方でもない、ってか」
たまりかねて、ドクオは口を開いた。
('A`)「魔王も、俺たちも、どちらも敵。殺せば良いと本気で思っているんだな」
930
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:46:52 ID:DwD.EnMM0
ζ(゚ー゚*ζ「何度も確認する意味ってあるの? 何度でも、頷くだけなのに」
デレの声に、ドクオは耳をすませた。
余裕のある声、嘘は感じられない。
ドクオはひとつ、溜息をついた。
('A`)「わからんでもない」
ドクオには身に覚えがあった。
初めて魔人に出会い、襲われたとき。
クーという少女を奪われたドクオは強い憎しみを身に宿した。
931
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:47:18 ID:DwD.EnMM0
以来、魔人を倒すべくひたすら力を求めた。
とにかく倒して、殺して、そして自らの存在を確立していた。
戦い続け、ひたすら強くなる。それがドクオの目的だった。
その凶刃で何を、何度斬ったことか。
どれだけの悲鳴と血飛沫を浴びてきたことか。
戦い続け、その先にあったものは――
('A`)「虚無だ」
ドクオは声に出した。
932
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:47:44 ID:DwD.EnMM0
ζ(゚ー゚*ζ「……なにが」
('A`)「何かを奪い続けて、答えがあると思うのは、
視野が狭まって、他のことが思いつかないっていうだけだ」
('A`)「目を背けてるだけなんだよ、お前は」
ドクオはテーベに渡り、そこでクーと対峙した。
魔人の味方だった彼女と対決し、その身を自らの剣で切り裂いた。
浴びた血の饐えた匂いを、ドクオは未だに覚えている。
933
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:48:19 ID:DwD.EnMM0
くぐもった叫びをきいて、それがクーのものなのだと認識したとき、
ドクオは初めて自分が何をしているのかを思い知った。
ドクオは人を殺そうとしていた。
魔人だろうと人間だろうと関係なく、その命を奪い続けていた。
誅殺し、埋め、褒賞を得る。その繰り返しで、胸の満足に行ったことは一度としてなかった。
戦うことは彼の目的だった。それだけが自分の存在意義だった。
だが、ドクオは剣を捨てた。
存在意義は、自らの手が否定した。
934
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:48:49 ID:DwD.EnMM0
失血に震えるクーの肩を抱いて、消えかけた命を前に、目が潤んだ。
手が震えて、できることを探したが何も見つからなかった。
こんなことをしたかったんじゃない。
頭の中で声がした。
獣ばかりで満ちていた、戦闘に明け暮れた声が、
いつしか幼い頃の自分の声になっていた。
自分は何をしてきたのか。
今までどこをどうして生きて、自分を忘れてきたのか。
935
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/07/11(水) 21:49:53 ID:DwD.EnMM0
自分を忘れていたというなら、ここにいる自分は何だ。
いったい何をしている。
自分は――
('A`)「誰かを殺したところで、喪失は満たされない。
お前がいくら暴れても、その胸の内には虚無が広がるだけだ」
('A`)「それはお前の考えなんてものじゃない。信条でさえない。思考停止だ。
自分の前に救いがある、ということにしたい。それこそ弱者の考え方だよ」
ζ(゚-゚*ζ「……あなたが私の何を知っているっていうのよ」
デレの声から余裕は消えた。
低く棚引くような声が、震えをおびていた。
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