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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/10(金) 21:01:44 ID:U0jBOVFc0
第二部までのお話はBoon Roman様に収録されています。
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/tender/
(リンク先:boon Roman)
602
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:16:48 ID:RSX8/wbk0
ノパ⊿゚)「……なんてね」
鼻を鳴らして微笑むと、ヒートの雑巾が再び拭き掃除を始めた。
ノパ⊿゚)「別に不服があるわけじゃないよ。今の私はひとりの店長。それ以上でも以下でもない。
だからあんたも早く、身分を手に入れなよ。今は落ちついた時期なんだからさ」
('A`)「……俺に戻るなよ」
愚痴をついた手の元で、グラスに水が注がれた。
もう少しここにいてもいいのだと、わかるのは嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。
ドクオは傭兵である。
国軍の兵士になることもできたが、今の今まで拒否している。
603
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:17:27 ID:RSX8/wbk0
テーベ国軍は、有事のときには傭兵を募る。
最近のもっとも大きな事件はメティスの首都、メガクリテの鎮圧だった。
かりだされた傭兵たちの中で、ドクオはいくつかの軍功も得た。
付随して報酬も多額。たとえしばらく戦いがなくても、
無理をしなければひっそり生きていけることができるほどだった。
戦いがなければ、傭兵は必要でなくなる。
国軍でもないドクオには、国事への参加もない。
ゆえに昼間から酒が飲める。
工場労働者になるつもりは、ドクオにはまったく思い浮かばなかった。
604
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:17:50 ID:RSX8/wbk0
自分にできることは何か。
この頃時間のあるときに、ドクオはよく考える。
逆に言えば、暇なときでないと、こんな悩みは抱かない。
結論はひとつ、戦うことだ。
ずっとそれが、自分のやるべきことだと思ってきた。
魔人を憎み、彼らを倒すことのみを考えて、研鑽を積んだ。
ラスティアで魔人の受け入れが進んでからも、
油断せずに監視を続け、レジスタンスを組織した。
魔人に取り込まれていた城に潜入したとき、心躍っていたのも確かな事実だ。
605
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:18:16 ID:RSX8/wbk0
ラスティアが陥落してからは、
ことの成り行きでテーベに辿り着き、魔人の討伐に荷担した。
テーベ主体の、自国の魔人の徹底排除。
強行すぎると、後に国内からも非難された行為だが、ドクオ個人は進んで取り組んでいた。
なぜなら魔人を憎んでいたから。
戦うことこそ自分の正義だと信じていた。
そして、行き着いた森の中で、あの人と対峙をした――
606
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:18:36 ID:RSX8/wbk0
「隙あり!」
劈くような声を聞き、ドクオは咄嗟に身を翻した。
陽光を受けた木刀がオレンジ色に光る。
一閃、その間にドクオは身を屈めた。
揺らいだ相手が腰を浮かせたところへ、蹴りを入れる。
そのまま椅子を持ち上げて、相手の顔目がけて振り下ろした。
悲鳴。
激突する寸でのところで制止させる。
607
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:19:03 ID:RSX8/wbk0
('A`)「……惜しいな」
両手で構えた椅子の先、涙目の相手を見ながら、ドクオはにやりと歯を見せた。
対して、相手は頭を抱える。
(,,;^Д^)「くあー、ドクオさん相変わらず反応早すぎるっすよ。マジで隙がねえっす」
大袈裟すぎるほどに口を広げ、大声で呻き続けて止まらない。
掻きむしった髪はぼさぼさになっていくが、男は一向に気にしていなかった。
608
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:19:39 ID:RSX8/wbk0
( ,,;^Д^)「いったいどうして俺の奇襲がわかったんすか。店入るときも忍び足だったのに」
('A`)「そりゃお前、叫ぶからだろうよ」
( ,,;^Д^)「……あっ」
くあー、と男の声が木霊する。
三匹のカエルの店内が震え、厨房からヒートが顔を出した。
ノハ;゚⊿゚)「げっ、暇人が二人になってる」
609
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:20:23 ID:RSX8/wbk0
( ,,^Д^)「ちーっす、ヒート姐さん。とりあえず生ひとつ」
ノハ#゚⊿゚)「出さねえっつってんだろ」
('A`)「タカラは未成年だしな」
タカラ、とドクオに呼ばれた青年は、頭をかきつつドクオの相向かいに座った。
( ,,^Д^)「バレなきゃいいんですよ、バレなきゃ」
('A`)「こんなくだらんことで悪目立ちするのはやめろ。ただでさえテーベの規律は厳しいんだから」
( ,,^Д^)「かあー、せちがれえ。やっぱりおれはテーベ国民には近寄りたくないですわ。国軍もしかり」
610
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:21:03 ID:RSX8/wbk0
渋面でヒートが運んできたお冷やをタカラは一息に飲み干した。
タカラはドクオと同じく、マルティアからの避難民でありながら、傭兵で居続けている。
国軍への誘いもあったらしいが、気が向かないといって突っぱね続けている。
初めて出会ったのは一年前。
マルティアとの小競り合いの最中、
初めて戦闘に配備されたタカラにドクオが指示を出した。
戦闘は無難に終わり、帰路へつくと、タカラが目を輝かせてドクオについてきた。
戦い方について教えて欲しい。
十代半ばの青年の視線に、ドクオは隠しもせず顔を顰めたが、
青年は何も感じとらずにドクオの背中を追った。
611
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:21:44 ID:RSX8/wbk0
以来、ドクオとタカラの付き合いは続いている。
避けようとしても決して逃げず、いつの頃からかドクオも諦めがついていた。
時には武術を教え、規律を守らせ、社会での振る舞い方をも教えている。
まるで教育係だと揶揄されると、ドクオは決まって嫌な顔をした。
好きでしているわけじゃない、というのがドクオの気持ちだった。
その言い訳を、タカラは一切意に返さない。
鈍いだけかもしれないが、その強引さが、ドクオはいまいち拒否できずにいた。
( ,,^Д^)「ドクオさん、次の隊内訓練出ます?
傭兵もどしどしきてくだせえって感じありましたけど」
612
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:22:26 ID:RSX8/wbk0
('A`)「俺はいいよ。行ったところで囲われて国軍に誘われるのがオチだ」
( ,,^Д^)「そうっすよね、国軍なんて絶対嫌ですよね! あんな顰め面の連中の仲間なんて」
('A`)「や、別にそれが嫌ってわけじゃないけどな」
肩の力が抜ける。
タカラのペースに飲まれる。いつものことだった。
戦いの最中ならば、もう少し緊張感はあるだろう。
タカラだって、真面目な顔をするときもある。でなければ傭兵などなれはしない。
だが今は確かに暇な時期だ。
613
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:23:09 ID:RSX8/wbk0
店内のストーブが灯されると、
じんわりとした温かさが身体を包み始めていた。
もうじき夜が来る。
仕事を終えた人々が押し寄せてくる夜。
賑わいは苦手だが、満足げな人々の顔を見るのは嫌いじゃない。
今日も一日が終わっていく。
弛緩。
言葉が思い浮かんだ、その途端。
614
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:23:48 ID:RSX8/wbk0
「なら、何が嫌なんだ」
声の主は、タカラではない。
(;'A`)「あ」
細い金物。有り体に言えば刃。
その感触が喉に当てられる。
冬の弱々しい温もりが、一瞬にして飛び去った。
殺気がする。
ほんの数センチ後ろから、再び冷たい声がした。
615
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:24:30 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「答えられないか」
切れ長の目、黒々とした瞳。
振り向かずともイメージが湧く。
無感情のまま、刃先を引くことも可能な目。
(;'A`)「シナー……大尉」
( `ハ´)「うむ、こんにちは」
刃が離れる。
急ぎ呼吸を試みて、咳き込んで少し悶えた。
616
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:24:57 ID:RSX8/wbk0
( ,,^Д^)「シナーさん、何でこっちこないのかなと思ったら隙をうかがってたんすね」
(;'A`)「……一緒に来たのかよ」
( `ハ´)「気配を消し、つねにお前の死角にいた。見えないものはいないとする。人とは単純な生き物よ」
シナーの瞳に向けられ、ドクオは慌てて頷き返した。
国軍大尉、シナー。
中隊を率いるこの男は、傭兵隊を率いる任につくことが多かった。
故にドクオとも顔見知りだ。
617
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:25:26 ID:RSX8/wbk0
('A`)「なんで大尉がこんな一般庶民の店に来てるんですか」
( `ハ´)「散歩」
('A`)「気配消して死角に入ることを散歩とはいいません」
( `ハ´)「それもそうだな」
短いナイフをテーブルに置くと、シナーは真っ正面からドクオと向き合った。
618
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:26:27 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「しかし公職というわけでもない。
最近は戦いもないからな。有望な傭兵の様子を見に来た。それだけだ」
('A`)「……」
( ,,^Д^)「ちなみに道案内は俺がしやした」
('A`)「お前の行動に意味があったとはな、さすがに盲点だったよ」
( ,,^Д^)ゞ「あ、そうでうすか? えへへ、嬉しいな」
ノパ⊿゚)「皮肉だろそれ。大尉さんお水どうぞ」
( `ハ´)「こりゃどうも」
619
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:27:01 ID:RSX8/wbk0
テーブルにある三つのグラスに水が注がれ、改めてドクオはシナーと向き合った。
この国の一般人とは趣の違う、細長く色白の顔立ち。
ただの水をやたら丁寧に口に運ぶと、シナーの方からドクオに声を掛けた。
( `ハ´)「国軍に入ったらどこまでいけると思っている」
('A`)「入る気はないです」
( `ハ´)「それはいいんだ。仮に入ったとしたら、だよ」
低い声に促される。
ドクオはテーブルの木目に視線を下ろした。
620
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:27:34 ID:RSX8/wbk0
考えてもいない。
そう答えられたらどれだけ楽だろう。
黙考のち、ドクオは口を開いた。
('A`)「小隊長にはなれるでしょうね」
微動しないシナーの横で、タカラが目を見開いた。
( ,,^Д^)「少尉、中尉クラスっすね。そこまで見込めるなんて、さすが」
621
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:28:05 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「謙遜はよせ」
軽妙だったタカラの口調が、シナーの鋭い言葉に消される。
( `ハ´)「中隊、大隊も率いる素質は十分あろうに」
タカラの息をのむことが聞えた。
ドクオ自身、驚きは隠せなかった。
('A`)「……今し方殺され掛けたところですよ」
( `ハ´)「あんなの、戦場じゃないからだろう。
翻ってみれば、油断さえしなければお前は強い。それはワシも認めている」
622
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:28:32 ID:RSX8/wbk0
機会はいくつもあった。
マルティアとの防衛戦。メティス内乱の鎮圧。そして隊内での戦闘訓練。
シナーが目を掛けてくれていることは、ドクオも感じとっていた。
最も粘り強い勧誘といってもいいかもしれない。
実力は認めている。
だからこそ国軍を奨めてくる。
シナーの言い分をドクオはわかっていた。
それでいて、未だ肯んじ得ない。
('A`)「強さは置いておくとして、意志はないんですよ。
俺は別に、テーベの人じゃないんで」
623
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:29:10 ID:RSX8/wbk0
ラスティアの衛兵。
その身分であることを、度々ドクオは口にする。
体の良い断り文句だ。
( `ハ´)「ワシもテーベの人ではないがな」
シナーは一旦言葉を切って、両目でしかとドクオを見据えた。
( `ハ´)「ワシの故郷は、東の外れ。カルメ砂漠のその先だ。
かつてそこには国があった。戦いの止まぬ不毛の地。
いつしかそれらは、森に飲まれて消えていった」
シナーは一瞬上を見た。
そこにかつての故郷が浮かんでいるのかもしれない。
624
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:29:51 ID:RSX8/wbk0
視線は再び、ドクオへ戻った。
( `ハ´)「ワシ自身、わからないから聞くのだが、国への忠誠はそんなに大事なことなのか。
ワシの経験上、国のために戦う男はみな、建前だ。
本当は戦いたくない、それを隠すために、国を理由としてあげる。
国など所詮、人の作るもの。多くの人にとってみれば、今このときを生きることの方が大事なのだ」
( `ハ´)「で、お前は本当に国が大事なのか。
かつて失われた国に身分があったとして、その身分を後生大事に掲げるのか。
そこにどんな意味があるというのだね?」
答えには窮した。
そもそも考えつかなかった。
建前は完全に見抜かれている。
ならばもはや意味を成していない。
625
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:30:17 ID:RSX8/wbk0
シナーはじっとドクオを見据え、両手を組んで答えを待った。
だが、ドクオが何も言わないのを悟ると、一人俯いた。
( `ハ´)「……テーベの北端に、ヘゲモネという街がある」
話の筋が唐突に変わる。
シナーはドクオの顔を見ず、淡白な顔をしていた。
( `ハ´)「貿易街として栄えた街だ。工芸品の作成、輸出の他
魔人の売買など、裏方で怪しい商売を続け、潤っていたテーベの暗部だ。
もっとも今となっては、魔人廃止の国策を受けて、寂れるいっぽうだがね」
626
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:30:57 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「その街の北側、国境付近のコレー山渓の隘路で、マルティアの軍事部隊が先日確認された。
監視員は国境侵犯の疑いで軍に報告をしてくれた。しかし、越境というにはグレー。
奴らはマルティア国からテーベの端を通り、旧ラスティア領へと向かっていった」
( `ハ´)「軍上層部はマルティアに注意勧告を出す。早ければ一週間後には決定は下されるだろう。
マルティアが素直に従えば、軍事部隊は自国内での移動に切り替えるだろう」
( `ハ´)「そもそもどうしてコレー山渓を歩いていたのか。
目的のラスティア領までの近道、というには、道が険しすぎる。
なぜ通りにくい道をわざわざ選んでいたのか。
ワシには、人目を避けていたように思えるんだ」
無表情だったシナーの口元に、不意に薄い笑みが浮かんだ。
627
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:31:27 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「個人的関心に国軍は使えない。いいたいことはわかるな」
双眸がドクオをつかまえる。
力を込めているわけでもないのに、刺されているような感触がドクオにはあった。
('A`)「……旧ラスティア領に入ったら追いかけられません。テーベ国内、ヘゲモネ領地内だけになります」
( `ハ´)「致し方ないさ。成果がなくても構わない。
こそこそ隠し事をしている奴らのことを調べたい、悪趣味な児戯のようなものだからね」
シナーの唇がつり上がる。
笑っているというのに、冷たい感触はドクオから離れなかった。
628
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:31:54 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「もちろん、報酬を出す。
軍報酬の三倍。成果がなくても半分は出す。
どうだね? 最近はさもしい状況だろう?」
戦闘がなければ、傭兵の懐は満たされない。
シナーもそれは十分心得ているのだろう。
('A`)「……」
もしかしたら、自分は試されているのかもしれない。
そんな考えがドクオの脳裏に浮かんだ。
629
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:32:48 ID:RSX8/wbk0
作戦に成功すれば、実力の証明になる。
シナーはそれをダシに自分を勧誘するだろう。
たとえ何の成果がなくても、自分には報酬が与えられる。
生活の糧になり、シナーからはますます離れられなくなる。
もしもこの申し出そのものを断った場合、俺は傭兵でさえなくなるのかもしれない。
ドクオのうちに、答えは出ている。
自分にできることは、戦うことだけだ。
('A`)「何人集めます?」
630
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:33:16 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「君と、タカラ。その他ワシの部下のうち、信頼できるものを寄越そう」
( ,,^Д^)「あ、呼びました?」
いつの間に注文したのか、タカラはプリンを頬張っていた。
スプーンの上にのったそれが、急な振り返りに揺れている。
('A`)「秘密裏の仕事だ。あとで話すよ」
( ,,^Д^)「マジっすか! ナイショにしないと怒られる奴ですね! 気をつけないと」
声は大きいし、ミスも多い。
しかしタカラには実力があり、ドクオに対しては従順な態度でいる。
連携するには、今のところ最も適した相手だろう。
631
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:33:43 ID:RSX8/wbk0
( `ハ´)「明日から、どうだね」
注意勧告まで一週間。それまでに何かしら掴めれば御の字。
('A`)「いけます」
ドクオの歯切れのいい答えに向けて、シナーは満面の笑顔を見せた。
( `ハ´)「期待しているよ。雇われ部隊のエースの君に」
戦いに毎回参加していれば、国軍にも噂がたつというものだ。
軍隊には属していない。
そうだというのに、いつしかドクオはエースと呼ばれていた。
632
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:34:12 ID:RSX8/wbk0
ドクオには強さがある。
隠そうと思っても隠せない、経験値の反映だ。
職務を果たせば、自分に自然注目が集まってしまう。
('A`)「了解です」
シナーは席を立ち、店をあとにした。
ノパ⊿゚)「うわ、あの人何も頼んでない」
憤慨するヒートの声がする。
633
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:34:51 ID:RSX8/wbk0
ドクオはしばらく口元をおさえて考え込んでいた。
日は既に暮れている。
街路のいたるところで電灯がついた。
賑わいの声がする。
街はもうじき、一日の疲れを癒す声に満ちるだろう。
('A`)「ヒート、話がある」
客が来るまであと少し。
ノパ⊿゚)「……どうせろくなことじゃないんでしょ」
厨房から姿を現したヒートは、話が聞えたわけではないだろうに
どことなく、据わった瞳をドクオに向けていた。
☆ ☆ ☆
634
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:35:11 ID:RSX8/wbk0
二年前の冬、テーベは自国内魔人の国外追放を推進させた。
その嚆矢となったのが、国南部を東西に延びるアイトネ山脈への進軍だ。
当時山中に集落を形成していた魔人たちを、
テーベの軍隊が追放のために攻め入った事件である。
ラスティアという故郷が失われ、仕事を探していたドクオは、
テーベの傭兵となり、この追放作戦に傭兵として参加していた。
生活の糧のため。
そしてそれ以上に、魔人を討伐する意義を自分なりに見出していたためだ。
635
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:35:34 ID:RSX8/wbk0
魔人は人の、超えなければならない壁である。
かつて、戦友だったモララーと酌み交わした近いが、ドクオの胸の中で未だ生きていた。
アイトネ山脈での魔人討伐は、当初、容易になされると見込まれていた。
比較的軽い武装ではあったものの、人員は過剰気味。
安定して進軍すれば、被害をおさえて魔人を追放できるはずだった。
しかし、魔人は抵抗した。
自ら棲まう森に火を放ち、テーベ軍を逆に猛火の中に閉じ込めようとしたのだ。
636
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:35:54 ID:RSX8/wbk0
散会した軍は散り散りになりながら、
ゲリラとなった魔人と戦闘を繰り返した。
ドクオもまた、火の手の合間をかいくぐり、
やがて開けた場所に辿り着いた。
相見えた人物は、そのとき仮面を被っていた。
だから彼は気づくよしもなかった。
その仮面の下に、彼がかつて追い求めていた、幼い頃の友人だったのだ。
637
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:36:35 ID:RSX8/wbk0
名前をクー。
ドクオを魔人との戦いに駆り立てる原因となった彼女は、
ドクオのあずかりしらぬところで、魔人に味方をする立場になっていた。
戦うための剣を交わし合った彼女は、ドクオの手により深手を負った。
偶然にも彼らのそばに現われた、かつての仲間に対しドクオは縋った。
彼女を助けてやってほしい。
魔人を憎む感情を一時忘れ、
敵であるはずのクーを、ドクオはついに殺せなかった。
638
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:36:56 ID:RSX8/wbk0
以来、クーとは会っていない。
どこへ行ったのかもわかっていない。
アイトネ山脈での作戦が落ちついてからも、しばらくドクオは放心していた。
クーはドクオにとって、戦う理由でもあった。
彼女が不在であるからこそ、魔人を憎む意識を保つことができた。
その意識が、自らの思い過ごしであるとわかったとき
彼の中で目的は潰えた。
639
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:37:30 ID:RSX8/wbk0
クーの存在そのものを無視することもできた。
たとえ旧友であろうとも、自分の決意を鈍らせる存在ならば、無視していないものとする。
そうすれば、また戦いに参加することができる。
だが、ドクオは、クーのことが忘れられなかった。
望み薄だとわかっていながら、テーベの新聞に毎日目を通し、
尋ね人としてクーが出ていないか確認することもあった。
クーは一度も、その名をドクオの前に見せなかった。
640
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:38:10 ID:RSX8/wbk0
もはや戦う意味はない。
いつしか胸のうちでその思いをドクオは抱くようになった。
しかし、彼は今も戦いを続けている。
戦うことに、身体が慣れすぎてしまっているのだ。
たとえば、目の前に剣を構えた男がいて、自分に迫ってきたとする。
ドクオはその振り下ろされる剣に対し、自らの剣を当て、
自然な所作で受け流し、反撃することができた。
641
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:38:40 ID:RSX8/wbk0
意志とは関係がない。
彼の身体は、向けられた闘気を感ずることができる。
そうなったら最後、自らの手が勝手に動く。
自分の中には内なる獣がいる。
ドクオは常々、その思いを抱くことがあった。
魔人を討伐する意欲に燃えていたとき
内なる獣は魔人を見かける度に惹起し、
ふつふつと沸き立ち、戦いへと駆り立てる存在だった。
642
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:39:09 ID:RSX8/wbk0
その意欲がなくなった今も、獣はいる。
何も無くても、むしろ避けても、身体が自然と動いてしまう。
傭兵の身分でありながら、テーベの軍隊に参加し、軍功を重ね、
国軍への入隊を示唆されもする。
実際、ドクオは軍議のたびに話題に上る有望株であるらしかった。
積極的に戦う意志はない。
生活のための資金が得られれば、それで十分である。
そのような言い訳が、はたして幾日通じるのか、ドクオにはわからない。
すでに通じていると考えることすらおこがましいのかもしれない。
643
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:39:52 ID:RSX8/wbk0
('A`)「モララー」
人に言えない悩みが胸のうちに募ったとき、
ドクオはたびたびその名前を口にした。
かつて失った友の名前。
相談など数えるほどしかしたことないのに、
なぜか弱るとその名を口にしたくなる。
夜更け、月光が窓から部屋の中程まで差し込むのを見つめながら
ほこりっぽいベッドの匂いを感じつつ、問いが醸成されていく。
644
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:40:35 ID:RSX8/wbk0
('A`)「俺はいったいどうすればいい」
魔人と敵対することを是としていた彼は
今の俺に何と言ってくれるだろう。
戦えというだろうか。
身をひけというだろうか。
どちらもありうる。
両方とも言いそうで、でも決して曖昧な態度はとらないだろう。
645
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:41:17 ID:RSX8/wbk0
ドクオの問いに、今は答えはどこにも存在しない。
ゆえに、満たされることもない。
唯一わかることといえば
悩み悔やむ俺のことをモララーはきっと、鼻で笑うだろうということくらいだ。
☆ ☆ ☆
646
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:41:51 ID:RSX8/wbk0
コレー山渓は二つの大きな連峰から成り立っている。
ひとつはテーベより北方マルティアへ、エウロパの森の東側をなぞりながら伸びていく山脈。
もうひとつは逆側へ弧を描き、旧ラスティア領へと続く山脈。
いずれの連峰にしても、切り立った岩肌が目立つ。
天を突き刺すような頂付近では、夏を除いて常に雪化粧が施されている。
逆巻く風の立てる音ばかりが隘路に響き渡る。
隘路にも街はある。小さく、人口も疎らな街だ。
コレー山渓から吹き下ろされる風が、
秋から冬のこの時期では痛いほどの冷たさを帯びる。
ひっそりとした街中を枯れ葉が吹き荒ぶ様は見る者の寂しさを掻き立てた。
647
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:42:16 ID:RSX8/wbk0
コレー山渓は、交通の要所として重視されていた時期もあった。
しかし、魔人の扱いについてテーベとマルティアの関係が
悪化すると、交通が減り、人も離れていった。
山渓では国境を監視する兵士が出入りする。
大規模な戦闘や、マルティアとの衝突は今のところ起きていない。
手の空いていることが多いからか、監視係は嫌な顔をせず
口外できない理由でやってきたドクオを面白がりつつ、宿舎に受け容れてくれた。
吹き荒ぶ強風や強い寒気にもすぐに慣れた。
変化の少ない街の岩山の合間から、ひたすらマルティアの国境を見続けた。
648
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:42:50 ID:RSX8/wbk0
双眼鏡を東にずらせば、旧ラスティア領の北端が見える。
土地だけを見れば、そこがかつて他国であったことも、
今はマルティアに属していることも、わかりはしない。
マルティアの北。
そこにあるスィオネという街に、ドクオは聞き覚えがあった。
彼の友、モララーは、その街の孤児院で育っていた。
モララー自身、スィオネの街を訪れたことはない。
他国とあっては、行き来も困難だ。
649
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:43:18 ID:RSX8/wbk0
岩山の向こう側にある、モララーの故郷。
モララーの育った環境について、興味は湧いた。
身寄りはすでに亡くなったと聞いてはいたが
漠然とした興味は、漠然としているがために簡単には消え去らない。
監視の合間、たびたび旧ラスティア領へ
視線を向けてしまうことに気づき、ひとり静かに恥じた。
同行したタカラは、たわいない雑談をひっきりなしに続けていた。
五月蠅くはあったが、街の静けさも尋常ではない。
その音さえなかったら、さぞ寂しさが募ったことだろう。
650
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:43:53 ID:RSX8/wbk0
タカラはラスティア出身でありながら、
感傷的な表情は一切見せなかった。
過去は顧みない質なのかもしれない。
そのタカラも、変わり映えのしない監視に飽き始めた、五日目の午後。
('A`)「いた」
小さな影が双眼鏡の端に映ったのにドクオは気づいた。
山の合間を隠れつつ進む。
夕陽の陰が濃くなるにつれ、視線を気にせず、移動しやすくなった。
651
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:44:15 ID:RSX8/wbk0
空は晴れている。
月夜になってもある程度は尾行が続けられると見越し
ドクオはタカラを自らのそばにつけた。
シナーが寄越した仲間を街に残して置いた。
もしもドクオからの連絡が七日目の朝までになかった場合
テーベ城下町にいるシナーに即時連絡が入る手筈となっている。
ドクオに何事かがおきた場合、
シナーは堂々とマルティア国内を捜索するというわけだ。
ぬかりのない男に操られていることは重々承知。
それでもドクオは、山を進む。
652
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:45:06 ID:RSX8/wbk0
目標もまた進んでいる。
影は複数人分。隘路に慣れているらしく、速度は出ている。
だがおいつけない速度ではなかった。
人数は六人ほど。
フードを深く被っているが、脚絆代わりの装甲から兵士であることは察せられた。
馬型の魔人を二頭連れ、その後ろには馬車が繋がれている。
幌の中には、金属質の箱のようなものが見えた。
何かを運んでいる。
視認できる距離になると、俄然興味が湧いた。
653
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:45:39 ID:RSX8/wbk0
相手はもうじきマルティアの領土を南下する。
テーベの領土に入ったときに監視役として駆け寄り、詰め所へと連行する。
国際法上は何の問題もない。連れているものへの監査も可能である。
マルティアの武器か、機密情報。
あたりをつけつつ、後を追う。
(;,,^Д^)「うう、なんか寒くなってきましたね」
道中、タカラが呻いた。
寒さが強まっている。
空はまだ明るい。しかし、光り始めた明星がどことなく翳って見える。
654
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:46:10 ID:RSX8/wbk0
('A`)「……これは」
気温が急に冷えたからだろうか。
あたりにうっすら白い靄が見えつつあった。
ドクオの胸中で警鐘が鳴る。
見通しの悪い場所での尾行は危険だ。
慣れない道ならば尚更。
今は特殊な任務についているため、
遭難した場合、救助はシナー頼りとなる。
655
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:46:40 ID:RSX8/wbk0
シナーを信頼していないわけではない。
問題はコレー山渓での冬がどれほど厳しいかだ。
この五日間、天気は安定していた。
しかし急な雪が降り積もらないとも限らない。
サバイバルの知識はあるが、大した武装もないなか、無理は禁物だろう。
対抗するは好奇心。そしてタイムリミット。
七日目の朝は、あと三十五時間後。
このときまでに成果がなければ、何も発見できない。
逆に無理をすれば、自分達はだめでも、シナーが調査を継続させられる。
656
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:47:05 ID:RSX8/wbk0
どちらを選ぶべきか。
それはすなわち、自分が何をするべきかという問いに繋がる。
思いつつ、ドクオは自嘲する。
それは自分の大きな悩みだ。
答えは未だ見つかっていない。
たとえ今でも、平時でも。
('A`)「む」
ふと、違和感を憶えた。
霧はさらに深まっている。色も濃く、相手の影を見つけるのがやっとだ。
657
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:47:46 ID:RSX8/wbk0
('A`)「……」
記憶の底で、引っ掛かるものがあった。
このような霧を、以前見たことがある。
最も思い出したくない記憶とともに、その光景は思い浮かばれた。
(;'A`)「まさか」
呟きのうちに、霧はますます濃くなる。
(;'A`)「タカラ!」
658
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:48:06 ID:RSX8/wbk0
( ,,^Д^)「はい? なんです」
('A`)「俺から離れるな。嫌な予感がする」
相手の影は見えなくなった。
これで追跡は断念せざるを得ない。
(;,,^Д^)「見失っちゃいますよ」
('A`)「命の方が大事だ」
命という大きな言葉に、タカラが息をのんだ。
大袈裟だとでも思っているのだろう。
だがドクオからしてみれば、警戒するに越したことはない。
659
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:48:54 ID:RSX8/wbk0
視界不明瞭の中、凶刃の振るわれた記憶が蘇る。
鳥肌が立ったのと、ほぼ同時に、衝撃があった。
地震。
(;,,^Д^)「地面が!」
地震のような揺れ。
足下に亀裂が走る。
660
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:49:15 ID:RSX8/wbk0
(;'A`)「タカラ! 身体を丸めろ。どこかが潰れたらしゃれにならん」
(;,,^Д^)「ひい!」
地響きが起きると、足下が傾いだ。
崩れ落ちる音。
それが地面のしたで起きていると、察した恐怖はすぐに実感を伴った。
激しい揺れが全身を襲い、重力が掛かる。
足下は砕けた。
なだれ落ちる土砂とともに、身体が滑り、落ちていく。
661
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:49:51 ID:RSX8/wbk0
(;,,^Д^)「ドクオさん!」
地面が二つに裂けた。
タカラとドクオの合間から。
(;'A`)「静かに! 助けは来る! 今はじっとしてるんだ」
それ以外にいうことはない。
できることはない、という方が正しい。
この地震は、敵の手によるものにしては激しすぎる。
おそらくは自然現象だ。
そうだと信じた方がまだマシである。
662
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:50:21 ID:RSX8/wbk0
身体が落ちていく。
白い霧に黒い影が紛れ、岩肌が途切れ途切れに見えた。
タカラの姿は見えなくなった。
暗転した視界の端で、また岩肌。
それは一部ではない。眼前いっぱいに広がっている。
ドクオは身体を丸め込んだ。
肩に痛みが走る。打ち身はひとつ、ふたつでは済まない。
頭だけは必死に護りつつ、落下の衝撃に備え、意識を集中させた。
やがて、ひときわ強い痛みが背中を打った。
☆ ☆ ☆
663
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:50:51 ID:RSX8/wbk0
寒い。
意識が戻ってまず、ドクオはそう口にした。
地面が青白く光っているようだ。
雪が降り積もり、広がって、月明かりに照らされている。
吐息が白む。
かじかんだ手を無理矢理地について身を起こした。
664
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:51:24 ID:RSX8/wbk0
細い道が正面に延び、左右には背丈の倍ほどの岩壁が続いている。
見上げれば壁の隙間から星々が天に広がるのが見えた。
裂け目の合間に落ちたらしい。
頭を打たなかったのは幸いだ。
('A`)「タカラ」
呼びかけるも、返事はない。
吹降りる風が代わりにあった。
矢の刺さるような寒さが身体を襲う。
665
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:51:48 ID:RSX8/wbk0
装備の中には防寒着が挟まれている。
しかし顔は生身。風が沁みるのはどうやっても防げない。
懐には簡易な栄養食が四日分入っていた。
空腹にはなるだろうが、しばらくは生きられる。
シナーの捜索隊が来るとすれば、三日目だ。長く見積もって一週間。
岩山にも植物や獣の類いはある。最悪の場合はそれらで食いつなぐ。
666
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:52:23 ID:RSX8/wbk0
マルティア軍の追跡は残念ながら諦めよう。
体力を考慮しつつ、タカラと合流しなければ。
顔を引きつらせながら、ドクオは道を進んだ。
('A`)「……む」
白い雪に影は色濃く浮かぶ。
岩壁に沿う形で何かが横たわっていた。
月明かりに照らされた姿は、筒型をしている。
マルティア軍が運んでいた物体だ。
667
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:52:49 ID:RSX8/wbk0
ドクオは逸る気持ちを抑え、駆け寄った。
筒は意外にも木製だった。
大きさにして、長い辺は二メートルほど。
丸形のハッチがあり、把手もついている。
逡巡はあった。
むやみに動かして本当にいいものだろうか。
結局は好奇心だ。
ドクオは把手に手を掛けた。
668
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:53:35 ID:RSX8/wbk0
('A`)「!?」
ハッチの隙間から蒸気が噴き出した。
急ぎ、ドクオは手を引っ込める。
まだドクオは力を込めていない。
小さく軋んで、ハッチは開いた。
暗い内部から、月明かりのもとにまず、手が見えた。
人が入っていたのだ。
指、腕、それに続いて頭が見えた。
煌めいた髪はゆるく、豊かに波打っている。
669
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:53:57 ID:RSX8/wbk0
('A`)
(;'A`)「嘘だろ」
目を見張った。
その途端、相手の顔がドクオを見据えた。
双眸に驚きが浮かぶ。
670
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:54:21 ID:RSX8/wbk0
「……あなたは」
澄んだ声が耳に通る。
実感がある。確かにその人は目の前にいた。
671
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:55:09 ID:RSX8/wbk0
ζ( 、 *ζ
ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶりです」
.
672
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:55:44 ID:RSX8/wbk0
(;'A`)「デレ……様」
彼女は亡国の姫君だ。
ラスティアの元王女。
そして、モララーがその生涯の最期に、護ろうとした人だった。
☆ ☆ ☆
673
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:56:28 ID:RSX8/wbk0
.
第二十二話 優秀なる雇われ部隊(雪邂永訣編①) 終わり
第二十三話 邂逅するは雪渓にて(雪邂永訣編②)へ続く
.
674
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/12/16(土) 00:57:36 ID:RSX8/wbk0
>>673
ミス
.
第二十三話 優秀なる雇われ部隊(雪邂永訣編①) 終わり
第二十四話 邂逅するは雪渓にて(雪邂永訣編②)へ続く
.
675
:
同志名無しさん
:2017/12/16(土) 09:10:23 ID:PY4kISDcO
久しぶりだな
面白かった乙乙
676
:
同志名無しさん
:2017/12/16(土) 09:30:20 ID:MTDuGXEY0
待ってたよ!乙
いろいろ気になるからまたまとめ読みしなきゃ
677
:
同志名無しさん
:2017/12/16(土) 12:07:44 ID:DdYHSYYU0
ムカデ
678
:
同志名無しさん
:2017/12/16(土) 12:08:32 ID:DdYHSYYU0
ムカデ作品を参考にして勉強した方が良い
679
:
同志名無しさん
:2017/12/16(土) 12:08:56 ID:YTd7wZnA0
乙乙
待ってたぜ
680
:
同志名無しさん
:2017/12/16(土) 20:10:23 ID:E0YBgCI20
まとめ死んでるから誰か今までのスレ一覧を・・・
681
:
同志名無しさん
:2017/12/17(日) 06:13:00 ID:ysmOoMkA0
また謎が増えるな
682
:
同志名無しさん
:2018/01/23(火) 20:52:30 ID:tvGuRNEQ0
wktk
683
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:00:01 ID:8dfHuhNs0
それでは投下を始めます。
684
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:01:00 ID:8dfHuhNs0
『 無駄話をするな!
全部聞かれているぞ! 』
.
685
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:02:01 ID:8dfHuhNs0
308年10月25日。
ラスティアの城下町にて新嘗祭が敢行されていたこの日、ドクオたちは城へと侵入した。
数ヶ月前に任務途中で命を失った友モララーの長剣を取り戻すのが目的だった。
城内は手薄となっていたが、魔人も数名残っており、倒しながら上階、王室を目指した。
ようやく辿り点いた国王の間にて、最後の障害が立ちはだかった。
( ФωФ)
衛兵隊長ロマネスク。
当時のラスティアで、最も長けた実力の持ち主だと称されていた男だった。
686
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:03:00 ID:8dfHuhNs0
その彼が、
( ФωФ)
つ| |
手元に紙を提げていた。
無駄話をしてはいけない。
すべて聞かれている。
(;'A`) ?
687
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:04:01 ID:8dfHuhNs0
その場にはドクオとロマネスクの他、ヒートもいた。
三人は国王の間からは離れ、
廊下の隅、雑多に物が置かれた区画へと入り込んだ。
ここは無警戒だから安心しろ、とロマネスクが太鼓判を押した。
無論、ドクオたちには何が起きているのかさっぱりだった。
ただ、ロマネスクが自分達の敵ではないことだけが悟れた。
( ФωФ)「この城は今、魔人に占領されつつあります」
ひっそりと、衝撃の内容がロマネスクの口から明かされた。
ラスティア城は秘密裏に魔人で溢れかえっていること。
元凶となった、魔王と名乗る者を倒すための作戦が敢行されていたこと。
その作戦の首謀者は、モララーだということ。
688
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:05:03 ID:8dfHuhNs0
('A`)「あいつは命がけで魔王を倒そうとした……?」
ドクオは疑いの目をロマネスクに向けた。
( ФωФ)「デレ様のためですよ」
ロマネスクの真顔の返答を聞いても、ドクオの怪訝な顔は崩れなかった。
( ФωФ)「人質となっているデレ様のことをモララーは案じたのです。
彼女を束縛する者を除こうとするあまり、
闇の深みにはまり、抜け出せなくなってしまった」
689
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:06:09 ID:8dfHuhNs0
('A`)「……情感溢れる説明だな」
いたずらに丸い月を眺めつつ、ドクオが口を尖らせる。
( ФωФ)「ドクオ殿は、モララー殿からは何も聞いておりませんでしたか?」
('A`)「知らねえよ」
吐き捨てるように言い、話を続けた。
('A`)「俺はただあいつに言われるがまま任務に付き添っただけだ。
それで南の山で、あいつをみすみす殺しちまったと思い込んだ。
デレ王女と、それからあんたが、モララーを殺したんだと思っていた」
一呼吸おくと、重い沈黙が流れた。
仁王立ちの姿勢のまま、ドクオはロマネスクの言葉を待っていた。
690
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:07:03 ID:8dfHuhNs0
ロマネスクは伏し目がちになり、言葉を添えた。
( ФωФ)「似たようなものです」
一瞬自嘲が浮かび、すぐに無表情となった。
半眼の瞳は鋭く光り、カーペットの下を突き刺そうとでもしているかのようだった。
('A`)「どういう意味だよ」
( ФωФ)「見殺しにすることは、殺すのと同じなんですよ。
魔王の手先が迫ってきているとわかっていたのに、
手口がわからなかったものだから、攻め入る隙を与えてしまった。
( ФωФ)「それが作戦の趣旨、抵抗したり邪魔立てすれば魔王に感じとられてしまう。
だから私には余計な手出しができず、モララー殿もそのことを承知して、覚悟していた」
( ФωФ)「頭では理解しているつもりです。
それでも、罪の気持ちは消えないものなのです」
ロマネスクもまた、窓から覗く月を見上げた。
月光は彼の、傷の浮き沈みする頬をなぞった。
691
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:08:27 ID:8dfHuhNs0
ロマネスクは貴族の出だという。
それでいて、育ったのはラスティア城ではない。
国の東側、カルメ砂漠を放浪していたところを確保され、
衛兵に入るやいなや頭角を現した変わり者だ。
王族とも近い位置にいた。
デレ王女の教育係として登用された時期もあったと聞いている。
そのロマネスクが、今は重く深く息を吐いた。
( ФωФ)「デレ様も止めることはできませんでした。
どうあっても自分でとどめを刺す、そういってナイフの使い方を学んでいました」
('A`)「デレに武器を? まさか、自力で魔王を倒すために?」
( ФωФ)「それが彼女の望みでした」
692
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:10:07 ID:8dfHuhNs0
('A`)「……あの人、他人を斬ったことあるのかよ」
( ФωФ)「武術は教えました。物にするにはまだ数年掛かりそうでしたが」
('A`)「体力もないし、無茶だろ」
( ФωФ)「いずれにしろ、今夜の結果次第です」
ロマネスクは視線をドクオにずらし、今度こそ静かに笑みを浮かべた。
( ФωФ)「もしも作戦が成功したなら、魔人たちはいなくなる。失敗したなら、この地から逃げる。
最後の最後に私さえ残ったら、私が魔王を倒す。それが彼女の立てた作戦です」
693
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:11:01 ID:8dfHuhNs0
('A`)「……なに考えているんだよ、王女様は」
苛立ち混じりの声がこぼれる。
ドクオはロマネスクと顔を合わせないまま、唇の端を噛んだ。
突き刺さる犬歯の痛みが一瞬何も見えなくなる。
('A`)「モララーに助けて貰った命、なんで賭するんだよ」
ロマネスクからの答えは無かった。
その後、お城が慌ただしくなるのに乗じて、三人は城の外に出た
694
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:12:07 ID:8dfHuhNs0
魔人はいなくならなかった。
作戦の失敗を察したドクオたちは、ロマネスクとその部下の助けを受けつつ、
その日の夜遅くにテーベへの国境を渡った。
ラスティアという国がなくなってからも、ドクオは傭兵となって戦いを続けていた。
自分にできることを突き詰めていった結果残ったのは、剣を振るうことだけだった。
☆ ☆ ☆
.
695
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:13:02 ID:8dfHuhNs0
ζ(゚-゚*ζ「やっぱり簡単には信じてくださらないのですね」
縄で手首を縛られた両の手を喉元まで上げながらデレは呟いた。
痛みがないように手加減しながら、内側からは解けないようにドクオが結んだものだ。
('A`)「ラスティアが落ちたとき、デレ王女はマルティアに連行されたと聞いている。
その後の消息はわからないが、要人だ。こんなところにいるなんて、本物かどうかさえ疑わしい」
地震ののち、落下した地面の切れ間。
幸い洞穴を見つけた二人は中に入り、風を凌いでいた。
外は段々と薄暗さを増していく。
霧はすでに晴れていた。
冴え渡る夜気が身を震わせる。
696
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:14:02 ID:8dfHuhNs0
ドクオは携帯していた道具類から火種を取りだし、地面の窪みに火を灯す。
ほのかな温かさが次第に確かなものとなっていった。
ζ(゚-゚*ζ「あの新嘗祭とき、私は魔王を倒そうとしてしくじりました」
揺らめく炎に照らされたデレの口が動く。
魔王。その名前は、ドクオもロマネスクから聞いていた。
デレ王女に取憑き、人質として脅し、
ラスティア城に魔人を引き入れ、陥落のきっかけをつくった魔人。
('A`)「王女の誕生日祝いだった、あの白馬か」
697
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:15:06 ID:8dfHuhNs0
魔王の正体は、マルティア国から贈られてきた白馬かもしれない。
ロマネスクのその推理を聞いたときの驚きは小さくなかった。
もしもそれが正しいならば、ラスティアの陥落はマルティアに謀られたことになる。
ζ(゚-゚*ζ「魔王の正体は、白馬でもありましたが、でも本当はもう一人。
私の従者だったミセリが、その人間体での姿でした。
従者のリーダー、トソンさんが彼女を手招きしていたみたいです」
ドクオはミセリの姿を見たことがなかった。
ただ、デレに専属の付き人がついていたことはうっすら記憶に残っている。
('A`)「懐まで入り込まれていたんだな」
悔やんでも仕方ないと思いつつ、周到さに舌打ちをする。
698
:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:16:03 ID:8dfHuhNs0
ζ(゚-゚*ζ「二人は私を捕らえると、潜んでいたマルティア軍の兵士に私を引き渡しました。
簡易な牢屋の中で、情報もないまま、私はしばらく過ごして、
外に出たときにはすでに、ラスティアは無くなっていました」
ζ(゚-゚*ζ「マルティアの陰謀であることは、まず間違いないでしょう。
私が魔王をこの手で殺めようとすることまで織り込み済みだったのかはわかりませんが。
私の行いによって、謀がスムーズに運んでしまったことは否めません」
ζ(゚-゚*ζ「本当に軽率なことをしてしまった、今となってはそう思います」
言葉を途切れさせると、デレは深く頭を下げた。
黄金の髪が橙に染まり、ドクオに向けられたまま動かなくなる。
目元は見えなかったが、唇は噛みしめられていた。
699
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◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:17:03 ID:8dfHuhNs0
('A`)「……たとえあんたが殺さず、ロマネスクが殺したとしても。あるいは未遂でも。
政治的にはおおごとであるに変わりない。ラスティアの衛兵隊長だったんだからな。
かといって魔王を野放しにしていたらそのままラスティア城は内側から乗っ取られていただろう」
ドクオは起伏のない調子で話を続けた。
('A`)「根本的に、マルティアの悪事を暴けない限りは突破できなかった。
気に病んでも詮無きことだ。その口を咬みちぎっても、何の得も無い」
そこで、話は途切れた。
デレが少し息をのんで、ドクオを見上げる。
ζ(゚-゚*ζ「気を遣ってくださるの?」
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:
◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:18:01 ID:8dfHuhNs0
('A`)「あんたはモララーの想い人だ」
ドクオは一旦目を閉じ、それからデレと視線を交わらせた。
('A`)「詳しいことは知らないが、無闇に傷つかせるのも忍びない」
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとうございます」
堅かったデレの表情が、ほんの少し和らいで見えた。
パチパチと、炎の爆ぜる音がしばらく続いたのち
デレは自ずから話を続けた。
701
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◆MgfCBKfMmo
:2018/01/23(火) 21:19:05 ID:8dfHuhNs0
ζ(゚ー゚*ζ「マルティアに渡った私は、捕虜になるのだと思っていました」
デレが遠い目をして言った。
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、実際にもそう見えていたでしょうね。
でなければラスティアは瓦解しなかった。でも……」
('A`)「違うのか?」
ζ(゚ー゚*ζ「私の想像とは違いました。魔王は私を牢には入れず、
それどころか、城下町外れの空き家をひとつ私に宛がってくださったのです。
まるでマルティアの新しい民のように」
('A`)「……どういうことだ?」
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