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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/10(金) 21:01:44 ID:U0jBOVFc0
第二部までのお話はBoon Roman様に収録されています。
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/tender/
(リンク先:boon Roman)
348
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:01:59 ID:DM6Pm.mI0
こうして不利に傾くとは思いも寄らなかった。
何がおこるかわからないものだ。ブーンは改めてそう思う。
ハクリの顔にはもう嘲りは浮かんでいない。
あるのはよりはっきりとした敵意、憎悪。ブーンを見つめる目に温情はまるでない。
たとえ、昨日魔人の子どもを助けたことで、ブーンが義勇兵会議に取りざたされ
すでにその身分を剥奪され掛かっていると説明したところで、ハクリは止まらないだろう。
( ^ω^)「・・・・・・それで? どうするんだい」
視界は良好。
冷たい空気を吸い込んで腹をくくる。
(・く・ハリ「お前を徹底的に痛めつけ、捕獲する」
349
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:03:00 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「・・・・・・そうか」
拳が来るのはわかっている。
受け止める剣はもう残っていない。
それでも止まるわけにはいかない。
背を見せるには戻る場所も、どこにもないのだ。
だから。
( ^ω^)「悪いけど僕は、こんなところで死ぬわけにはいかない」
素手の拳は魔人には届かない。
なんとか地面に転がっていた、石畳の破片を掴み、投げつける。
(・く・ハリ「ふん」
面白くもなさそうに、破片はハクリによって粉砕された。
粉々になって宙を舞う。
350
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:04:02 ID:DM6Pm.mI0
その塵の中にブーンは突っ込んでいた。
(・く・ハリ「また懐に突っ込むのか? 芸の無い男だ」
拳が振るわれる。
ステップを踏んで、ブーンは退却する。
(グー゙ル「やっちゃいなー」
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと、丸腰の人間相手にやりすぎじゃないの」
(グー゙ル「ハクリさん最近身体動かしてなかったからね。首都に来てから籠もりっぱなしだし。
派手にやりたいのさ。好きにやらせてやんなー」
ξ;゚⊿゚)ξ「勝手すぎるわよ。ブーンは何もしてないじゃない」
(グー゙ル「ふん」
グルーは鼻を鳴らして目を細めた。
351
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:05:01 ID:DM6Pm.mI0
(グー゙ル「何もしていないっていいながら、仲間が見る間に捕縛されたんだ。
少しは八つ当たりしたくもなるもんね。君だって、わかるだろー?」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんな・・・・・・」
二の句が継げずにいる間、ブーンとハクリは睨み合っていた。
見えない何かが詰まっているように、二人の空隙には何もない。
風の運んだ木の葉が一枚、地面に伏して、影を落とした。
白髪が先に舞う。
(・く・ハリ「悪いがこれで終わりだ」
石畳に掌が吸い付く。ナックルの鋼が陽光とは違う銀の輝きを放った。
低い響き、直後、文字通り地が裂けた。
並べられた石が思い思いに飛び出して、ブーンはふらつき、遠くツンやグルーも揺れた。
352
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:06:02 ID:DM6Pm.mI0
隆起する地面の動きが読めず、一様に驚き身を固くする。
その中で、ツンの片腕が唐突に下へ落ちた。
ξ;゚⊿゚)ξ「んなあ!」
ちょうど掌をついていた地面が陥没し、穴になった。
接着はとうに剥がされている。
(グー゙ル「あ、ちょっと! ハクリさん!」
慌てたグルーの言葉をよそに、ツンは腰へと手を伸ばす。
白い小杖が爆ぜたように輝いた。
ξ#゚⊿゚)ξ「ふん!」
(ク>ー<ル「うわ」
空気の塊、疾風に、思わずグルーは目を閉じた。
が、それは方頬を撫でるのみ。
吹き抜けた風は真っ直ぐに相対するブーンを横薙ぎ、ハクリにぶち当たる。
(・く・;ハリ「風か!」
塵芥、砂埃を纏った風に、一瞬だが、目は伏せられる。
失態に気づいたときにはすでに遅かった。
353
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:07:01 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「――ッ!」
声になる前の叫び。
一気呵成の吠え声を吐き、ブーンは腕を振る。
その手にはすでに剣が握られていた。転がっていたそれを一瞬の眩みをついて拾っていた。
(・く・;ハリ「ふん、そんなもの」
異常があるとすれば、ハクリの能力。
触れたものを引き剥がす力。
それはすなわち、避ける必要も無く致命傷を避けられること。
引くべき足を前へと踏み出す。
迫り来るブーンの身体に敢えて接近し、その肘に手を軽く触れた。
甲高い音とともに、剣がブーンの手から逃れる。
空を舞う白銀を見て、ハクリはほくそ笑んだ。
が、視界の端に影が見える。
ブーンの腕が意表をついて伸びてくる。
354
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:08:09 ID:DM6Pm.mI0
(・く・ハリ「なっ」
ここにきて、ハクリは自らの失策に気づく。
剣は武器だ。だが、いつでも攻め手になるとは限らない。
自分の能力をすでに読まれているとしたら。
剣がはじき飛ばされることを織り込み済みであるとしたら。
その握り手は、実は拳。剣はブラフ。狙いは初めから決まっていた。
悟ったときには、視界は黒ずんだ。
星が明滅する。開けようとする間もないほどに強烈な痛みが襲ってきた。
( ^ω^)「良かったね、丈夫な身体で」
笑っているのだろう。
その顔を見ることは、ハクリにはかなわなかった。
身体が横転する。
最後に地面に触れる鈍い音を耳にして、ハクリの意識は地に落ちた。
355
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:09:01 ID:DM6Pm.mI0
一瞬の静けさ。
息を荒くしていたブーンは、ゆっくり深く呼吸をする。
これで終わり。
安心しきったブーンの耳に、突如、全く別の音がする。
( )「十分だ」
誰かの声と、拍手。
それらの主は煙を吐き出す扉の下にいた。
空気が張り詰める。
戦闘行為により内心昂揚していたブーンにもその緊張が伝わった。
(グー゙ル「司教・・・・・・」
356
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:10:03 ID:DM6Pm.mI0
グルーの声色が、先ほどまでとは打って変わって低くなる。
司教――国教会の保有する領土を、各地域ごとに分担して統括する、その統監を指す。
( )「例えば、もしその男が義勇兵としての職務を果たしていたら、とっくに仲間がやってきて、君たちはもう一網打尽だろう。
だが、すでに時間も経っている。それなのに無事と言うことは、その男に我々を逮捕する意志はないということだ。
戦い方こそ奇妙に熟れていて油断ならないが、無碍に断る相手でもないよ」
扉の向こうの暗がりから、男が一歩前へ出る。
傾き始めた陽の光に、その細面が明らかとなった。
爪'ー`)「つまり普通の、ツンの恩人だ。招き入れようじゃないか。俺たちの隠れ家、ここフュームへ」
アジトの名前を述べた後、司教、フォックスはツンとブーンを交互に眺め、微笑んだ。
☆ ☆ ☆
357
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:12:50 ID:DM6Pm.mI0
(7)the lily bells
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「お待たせ」
トレイを抱えてスパムが戻ってくる。二つ置かれたコーヒーから湯気がたゆたっていた。
ひとつがニュッ君の前に置かれる。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「気に入ってもらえるかな」
さっきも言っていたことを、スパムはまた口にする。
ニュッ君は小さく首を振った。
答えの代わりに一口含む。
芳醇な香りが呼気とともに肺へと届く。
熱いコーヒーが沁みる。
358
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:13:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「俺も、味なんてわかんねえっすよ。でも」
コーヒーカップにはまだ半分ほど残っている。
コースターに戻すと、コーヒーがわずかに波打った。
( ^ν^)「いい香りだと思います」
自然とニュッ君の口許に笑みが浮いた。
スパムの顔が明るくなった。ほっとした様子で、「良かった」と呟いた。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それじゃ、私も飲もうっと」
( ^ν^)「あ、待ってください」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「?」
359
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:14:50 ID:DM6Pm.mI0
ソファに座りかけた姿勢でスパムが固まる。
( ^ν^)「さっきの答え、の前にちょっと昔話してもいいですか。飲みながらでいいので」
スパムが小首を傾げる。
その顔が柔和なことをニュッ君は肯定と受け止めた。
スパムは静かに腰を下ろした。
それを合図に、ニュッ君は口を開く。
( ^ν^)「俺がヘルセの学校に通ったのは、俺が養子に出された次の年です。
デミタスに会ったのと、入学したのと、時期として三ヶ月も離れていませんでした」
( ^ν^)「俺、その頃はまだまだ世間に馴れていませんでした。知り合いもデミタスだけで、そのデミタスだってまだ知り合ったばかりで。
学校では落ち着いて見えていたのかもしれないけれど、単純に人が怖かっただけです。
誰かと関わるのが怖くて、必要最低限のことしか言わないように努めていました」
360
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:15:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「そんな俺には友達もできるわけなくて、帰り道もいつも一人でした。
デミタスの喫茶店、ロッシュは街の外れの山際にあったから、いずれにしろ民家の少なくなる場所ではあったんですけれど」
( ^ν^)「その途中、山から流れてくる川縁に、スズランの花畑がありました。
その周りには本当に誰もいなくて、静かで、川のせせらぎと草花のさざめきしか聞こえなかった。
初めはただ横の道を通り過ぎていたんです」
( ^ν^)「ある日、そこで音を聞いたんです。低く震えるような、動物の声。
何かがいる、そう思ったら興味が湧いて、花畑の中に足を踏み入れたんです」
( ^ν^)「あとで知ったことなんですけれど、スズランって毒草なんすよね。
山沿いの辺鄙な場所だったし、人が寄りつかなかったのも、毒のせいだったんだと思います。
でもとにかく、人の気配が全然無くて、静謐で、俺はその場所が気に入りました」
( ^ν^)「学校で嫌なことがあったときとか、なんとなく苦しかったときとかに、何度か通い詰めました。
帰り道にスズランを見ながら、岩に腰掛けて一人黙考したんです。いろいろと取り留めの無いことを」
361
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:16:50 ID:DM6Pm.mI0
ニュッ君は言葉を切ってコーヒーを啜り、喉と唇を潤した。
ほろ苦さが残り、言葉を続ける勇気をくれた。
( ^ν^)「俺はそのスズラン畑で、スパム先生と会いました。覚えていますか、先生」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「・・・・・・ええ」
聞き役に徹していたスパムは、視線をわずかにずらしながら頷いた。
一年目からニュッ君の担任だったスパム。初めて顔を合わせたのも学校の中だ。
そのときは何も感じなかった。
学校の先生というひとつの立場、自分らを育てる役割の大人、それだけがニュッ君の、彼女に対する評価だった。
そのスズラン畑に行くときまでは。
362
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:17:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「俺は何も言いませんでした。弱音を吐くなんて性に合わないし、何を言えばいいのかも考えなかったし、ただ黙って岩に座っていました。
そんな俺の傍に、先生も何も言わずにいてくれました。あれ、良かったです。気持ちが楽になりました」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「それこそ大したこと、なんにもしていないけれど」
( ^ν^)「それでいいんです。とやかく言われたり、変に気を遣われたり、まして慰められたりしたら、俺はきっと先生のこと嫌いになりました。
ただ傍にいてくれたから、安心できたんです。あの頃の俺は本当にガキだから何も言えなかったけど、今なら言えます」
( -ν-)「ありがとうございました」
頭を下げた。
人に礼を言う、なんて滅多にないことだ。声が上ずりそうだった。
これだけはなんとしても言いたかった。
言うためだけにこの家に来た、といっても過言ではない。
そう言い切ることができたら、どんなに嬉しかっただろう。
363
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:18:51 ID:DM6Pm.mI0
下げた頭の瞳で見えた。
テーブルに入った罅、崩壊している片側。
コーヒーカップも、比較的綺麗なのを持ってきてくれたのだろうけれど、縁のところが欠けていた。
顔を上げたら視界が晴れた気がした。
重荷が下りたからか。
それとも覚悟ができたからか。
余計なものがたくさん見える。
壁にある罅、割れたガラス窓。砕けたロッカーの下にはちぎれた衣服の切れ端が見える。
カーテンの裾もちぎれていて、床にはいくつもの裂傷が見えた。
見えないはずがなかった。
いくら誤魔化そうにも、見逃しきれない、明らかな崩壊の兆し。
364
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:19:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「先生、どうか正直に答えてください」
ニュッ君はソファから身を乗り出した。
両手をついてスパムへと肉薄する。
スパムは顔を俯かせていた。
聞いているのかわからないが、それでもニュッ君は言った。
( ^ν^)「先生は、魔人ですよね?」
確たる証拠があるわけじゃない。
それでも、ヘルセの街にいたときから薄ぼんやりと察していた。
365
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:20:50 ID:DM6Pm.mI0
どうしていつも、スパムは山間の花畑にいたのか。
他の先生方と交流せず、人気を離れて潜んでいたのか。
最初の勤務地がヘルセで、ショックだったとかつて言っていた。
だが本当にショックなら、都合八年も居座るものだろうか。
辞めるきっかけも結婚という、半外的要因。それさえなければスパムは今もヘルセの街にいただろう。
そして、最初にスズラン畑に訪れたとき耳にした、低く震えるような声。
毒草の群生地に、野生の動物はまず寄りつかない。
ましてあの奇妙な声は他の場所では全く聞いたことがない。
スパムが何も言わなかったのは、本当にニュッ君への配慮だけだったのだろうか。
その口を開いたら、人間の声とは違う種類のそれが出てしまうからだったのではないか。
引っかかった理由といえばそれくらいのものだ。
あとは長年話していた期間が直感を育んでくれた。
366
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:21:50 ID:DM6Pm.mI0
だが、追求する気は、ヘルセにいる間はついぞ起こらなかった。
スパムはニュッ君にとって支えだった。
何も言葉を交わさなくても、傍にいるだけでありがたい存在。それを手放せるわけはなかった。
ヘルセの街の中だけで生きて、他になんのしがらみもなかったニュッ君にとって、スパムは自分の味方と言っても良かった。
時を経た今、敢えて追求をした。
スパムが大切だからこそ、その身を心配してのことである。
( ^ν^)「いいっすか、スパム先生。聴いてください。義勇兵は近いうちに強硬手段に出ます。
許可の有無関係無しに、大規模な探索が強制的に行われ、全ての魔人が隔離されます」
367
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:22:49 ID:DM6Pm.mI0
首都の中にはまだ、元々住み着いていた魔人の半数が残っている。
今のところ、サイレンで凶暴化していなかった者は、家から出ないことを条件に居住を赦されていた。
が、やがて警備兵は安全という理由を楯にし、市内の魔人を一斉に魔人を摘発する。
内々にその決定がなされようとしていた。
ブーンのことが気になって警備兵の動向を探るうちに、ニュッ君はこの市政府のこの動向に気づいた。
重点探索地域の情報も入手済みであり、そこには、かつてスパムからもらった手紙の中で示されていた場所が示されていた。
慌てて古い荷物を漁り、捨てるかどうか思案していたスパムからの案内状を握りしめ、この家へと辿り着いたのであった。
( ^ν^)「警備兵は早ければ今日の夜にでも進行してきます。
今ならまだ間に合います。落ち着いて、教会へ行きましょう。
自ら申し出る魔人と逮捕される魔人とは待遇が異なります。逮捕されたら、きっともう市民として認められない」
368
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:23:50 ID:DM6Pm.mI0
話しながら、ニュッ君の脳裏には五日前のブーンの姿が浮かんでいた。
魔人を救おうとする彼を、ニュッ君は諫め、キャンプから追い出した。
だが、今の自分も、魔人を助けようと躍起になり、思いついた案を口にしている。
魔人を救うための提案。人間側のルールに則っているとはいえ、それが魔人に襲われる人間として不似合いな気持ちであることは変わりない。
自分はブーンとは変わらない。
だからあの人のことを、諫めつつも嫌いになれない。
ニュッ君はそう気づきながら、今はスパムの顔に集中した。
そこには諦観がありありと浮かんでいる。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「同じだよ。魔人はみんな、人とは違うもの。怖がられた者は、みんな遠くに追いやられちゃうからね」
ようやく開いたスパムの言葉は、投げやりな調子でも合った。
自分の推測が当たっていたことを感嘆する暇もなく、ニュッ君は先を急いた。
369
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:24:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「それでも、捕まっちゃダメです。酷い目に遭わされますよ」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「そうだろうね」
(#^ν^)「なに達観してるんすか! こっちは必死で――」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「スズラン畑、懐かしいな」
ニュッ君の言葉がまるでとどいていないかのように、スパムがあっさり話題を変える。
苛立つニュッ君を横目に、スパムが曖昧な笑みを浮かべた。
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「あたしの本能でね、スズランは危険な植物だってわかっているの。遺伝子に組み込まれているんだろうね、そういう情報が。
だけど、そういう危険と向き合わないと、克服しないと、普通の人にはなれないの」
370
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:25:50 ID:DM6Pm.mI0
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「スズランだけじゃないよ。最初はコーヒーも、紅茶も、人間が作るもの全部あわなかった。
全部本能的には毒薬で、人間とは違う身体だって身に染みていた。それでも克服したかった。
人間の社会の中で暮したかったから」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「かつてこの国では、確かに魔人は敬われていた。神様の使者だから、人間を導く特別な人たちだから、って。
でもね、あたしみたいに、人間の世界に興味を持った魔人には、その敬いは邪魔だった。
今みたいに嫌われてしまっても、前みたいに畏れられても、同じなんだよ。身分を隠さないと、あなたたちは私を同種とみてくれない」
ヽiリ,,-ヮ-ノi「ま、それも仕方ないのかもね。事実なんだから。
こんな興味を抱いちゃったのがそもそもの間違いだったんだよ」
スパムは目を伏せ、笑っていた。声はなく、鼻を鳴らす音だけがある。
薄目を開いて、下を向いたまま、その口は徐々に閉じていった。
ヽiリ,,゚ー゚ノi「みんな、あの人のせいなんだから」
371
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:26:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ν^)「あの人?」
ヽiリ,,゚ー゚ノi「私の夫。昔からお世話になっていた人なのよ。人間のことをたくさん教えてくれたの」
ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「せっかく買った家をこんなに壊しちゃう前に、さっさと現実を教えてくれたら良かったのに、馬鹿みたい」
諸手を挙げたスパム。真上には天井があり、その端には穴が開いている。
そこもまた、彼女が壊した跡なのだろう。空が見えていた。
ニュッ君が歩いてきたときからまた一段と濃くなった雨雲が、今にも泣き出しそうに唸っていた。
☆ ☆ ☆
372
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:27:50 ID:DM6Pm.mI0
(8)司教と趣味の店
フューム、煙。たゆたうそれは店の中に充満していた。
匂いからして煙草。それも香草の甘い香りが混ざっている。
息は詰まるが深追いしたくなる匂い。それらはフォックスが手に持つ煙草からも漂っていた。
遊技場と呼ぶのが一番適しているだろう。
奥の方からビリヤード台、ダーツのスペース等が建ち並び、壁一面にはワインセラー。バーカウンターも設置されている。
(グー゙ル「腹減ったー、おやつまだかー」
(・く(#ハリ「お前は大して動いてなかっただろ」
(グー゙ル「外に出れば腹は減るのだー」
先ほどまで戦っていたことや、周りの建物が廃墟同然であることを踏まえれば、暗い話題であってもおかしくないところ
顔を腫らしたハクリも、グルーも、すでに気楽な無駄話ができるほどに回復していた。
食事の話が一段落つくと、昼に食べた料理や昨夜のダーツの成績など、他愛の無さに拍子抜けしてしまう。
373
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:28:50 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「・・・・・・」
ξ゚⊿゚)ξ「・・・・・・」
数席を置いて離れた場所に、ブーンとツンは並んで座っていた。
二人の前には水の入ったグラス。お互い一口だけ飲んでいる。
フォックスからは、とりあえず待て、と言われていた。
まさか遊ぶわけにもいかず、座って休息。目立った傷はないものの、ブーンはひしひし疲労を感じていた。
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ」
( ^ω^)「ん?」
374
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:29:49 ID:DM6Pm.mI0
ξ゚⊿゚)ξ「あんた、随分強いじゃない。どこかで鍛えたの?」
( ^ω^)「だと思う」
ξ゚⊿゚)ξ「思う?」
ブーンは、掻い摘まんで説明をした。
記憶がないこと、それを探す旅を続けていること。身に覚えのない強さが身体に備わっていること。
経緯について話した人の数は多くない。
表だって誇示するような内容でもない。その上、返って弱みと捉えられることもありえる話題だ。
例えば記憶について、手がかりがあるとでも仄めかされれば、ブーンはそれを探るだろう。
たとえそれがブーンを嵌めるための罠だとしても、ブーンを誘き寄せる効力は高い。
その点、ツンにはすんなりと打ち明けた。
わずか数時間一緒に歩いた程度で信頼するのは愚かしいことかも知れない。
だが、真剣に話を聞くツンの姿は、その手の不安をブーンの胸中から払拭してくれた。
375
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:30:49 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「言い忘れていたんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
( ^ω^)「さっきはどうもありがとう。アシストが無かったら結構厳しかったよ」
先の戦闘。ブーンがハクリの許に飛び込めたのも、ツンが作った隙があったからだ。
ξ゚⊿゚)ξ「何も聞かずにあいつらが襲ってくるものだから、ついね、やっちゃった」
( ^ω^)「あれは、“ふしぎなちから”なんだよね? ハクリもグルーも能力を使っていた。
君たちは全員、ここの店主さんと契約しているってことなのかな」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、そう見えるでしょうね。でもちょっと違うのよ」
376
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:31:53 ID:DM6Pm.mI0
そう言うと、ツンは腰元にあった杖を、帯を解いて持ち上げた。
素材のわからない、端麗な杖。先端の円と十字は今は光りも動きもしていない。
ξ゚⊿゚)ξ「あたしは契約をしても能力は使えないの。性質が備わっていないから。
あそこのグルーもハクリも同じ。魔人の中では“出来損ない”って呼ぶ奴もいるわ。
契約をしても人の役には立てない、って意味でね」
ξ゚⊿゚)ξ「でも、あるとき魔人の学者がこの杖を発明した。
魔人の能力を、契約無しで執行する杖。個人の性質を無視できるのよ」
カウンターまで持ち上げた杖は、揺れると甲高い音を発した。
円と十字。思えばそれは、大聖堂やこれまでブーンが通ってきた教会の天辺にも掲げられていた記号にも似ている。
( ^ω^)「“出来損ない”か。知らなかったな。魔人の中にも差があるんだね」
ξ゚⊿゚)ξ「普通、人には言わないけどね。言っても良いことなんて無いし。
あんたは信じられそうだから言っておく。助けてもらっているし、ここにも無事に来られたし」
377
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:32:52 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「襲われたけどね」
ξ゚ー゚)ξ「それも含めて。傍から見ている分には結構楽しかったわよ?」
(;^ω^)「はは、そうですか。そりゃ良かった」
話の区切りに、ブーンはコップを飲んだ。
水が一気に半分なくなる。
そこへ折良くフォックスが店の奥から出てきた。
爪'ー`)「待たせたね」
抱えていたトレイから、小皿を選り分ける。
それぞれには小さな焼き菓子が載っていた。
(・く(#ハリ「イチゴのタルトですか。よく材料が手に入りましたね」
爪'ー`)「まだまだ在庫はあるよ」
(グー゙ル「くれー、はやくくれー」
378
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:34:04 ID:DM6Pm.mI0
爪'ー`)「ツンと、君にもできているから」
各人の前にタルトが配られ、カウンターの向かいに立ったフォックスは、続いて棚から瓶を捕りだした。
手早くグラスを取り出して、人数分のそれらを混ぜ合わせる。
カウンターの上に置かれたそれの匂いを嗅いではじめてピンとくる。ココナッツミルクだ。
爪'ー`)「君らも早くお酒を飲めるようになるといいな」
ξ゚⊿゚)ξ「そろそろいけるんじゃないですかね」
(グー゙ル「やってみましょうよ」
(・く(#ハリ「何の根拠も無いだろう」
( ^ω^)(僕、道中ちょくちょく飲んでたな)
ココナッツミルクからは湯気が立ち上っており、温かさを感じさせた。
379
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:34:50 ID:DM6Pm.mI0
爪'ー`)「記憶がないんだって?」
最後のグラスをブーンの前に置いた折にフォックスは尋ねた。
ブーンは頷いた。
爪'ー`)「そうか。どこかの軍隊にでも所属していたような太刀筋だったが」
( ^ω^)「そうなんですか?」
爪'ー`)y‐「まあね、こうみえて元々は軍人だったから」
口に煙草を含んだまま、フォックスはカウンター向こうの椅子に座った。
横を向いて煙草を離し、煙の塊が宙を漂う。
爪'ー`)「ちょっと話してもいいかい? 長いかも知れないけれど」
( ^ω^)「いいですよ。聞いてみたいです」
爪'ー`)「ありがとう」
380
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:37:18 ID:DM6Pm.mI0
そう言うと、フォックスは視線をやや上へと向けた。
爪'ー`)「軍といっても暇な仕事だった。戦いなんてつい最近までどこにもなかったからね。
国境防衛が関の山。あとは趣味で剣術や格闘術を独学しながら、一日一日を気長に過ごしていた。
暇ってのは、堕落への道だ。煙草の味もその頃に覚えた。聖職についた今でも、こればっかりはやめられない」
煙草を揺らすと煙も揺れる。
フォックスの気怠げな顔が煙の向こうで微笑んでいた。
爪'ー`)「戦いがなくても、小競り合いくらいはあった。運が悪い奴がそういうのに当たる。
俺の弟も場末の遊び場でつまんない喧嘩をして、勝手に報復された。
まずいことに相手は国軍のお偉いさん。表だっては問われなかったけど、俺はあっという間に居場所を無くしたよ」
低めのゆったりしたトーンは煙の揺れと調和していた。
薄暗いバーの灯りがその雰囲気を保っている。
隣でグルーとハクリがタルトを頬張り始めていたが、ブーンとツンはグラス片手に聞き入っていた。
爪'ー`)「しばらく仕事を転々として、世間に嫌気が差して洗礼を受けた。
剃髪、祈り、修行・・・・・・とにかく世の中を脱したくて、熱に浮かれたように真面目に取り組んだ。
気がつけば司祭、その次は司教。それくらいになれば地域統括の教会に赴任される。そこでもまた随分真面目におつとめをした」
爪'ー`)「グルーやハクリ、ツンとも、その教会で出会ったんだ」
381
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:38:19 ID:DM6Pm.mI0
煙草を持った手の甲がツンの方へと傾ぐ。
グラスを口元に寄せていたツンは、首肯して、言葉を継いだ。
ξ゚⊿゚)ξ「本当にお世話になりました。二年ほどの間に、いろんなことを学べた気がします」
爪'ー`)「うん、まだ終わってないから過去形にするのはやめなさい」
ξ゚⊿゚)ξ「まだ終わりそうにないんですか」
爪'ー`)「教会本部からの通達が来ない限りはね。と、ブーンさんにもわかるように言ってやらなきゃ」
改めて、フォックスがブーンに向き直る。
爪'ー`)「ブーンさん、今更だが、俺は人間の聖職者だ」
自分を指差してフォックスは言う。それからツンを指差した。
382
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:39:17 ID:DM6Pm.mI0
爪'ー`)「ツンはウサギの魔人、奥の二人はイヌだ。
共通点がいくつかあるが、重要なのは、全員杖無しには『ふしぎなちから』が使えない」
( ^ω^)「さっき、ツンからも聞きました」
爪'ー`)「本当に? 随分気前がいいじゃないか、ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンは大丈夫です」
爪'ー`)「・・・・・・ふうん。まあいいや。どうして使えないかは、聞いたかい?」
( ^ω^)「いえ・・・・・・」
フォックスの目がツンを一瞥する。
ツンは頷いてから、グラスを置いた。ココナッツミルクにはまだあまり手はつけられていなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「例えば、呼吸をする。これは人間が活動するために必要なの。
最近テーベの学者も発見していたけれど、人間は酸素を取り込んで、その助けを借りてエネルギーを作り出すのよ」
383
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:40:26 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「ほえー、詳しいね」
ξ゚⊿゚)ξ「世界のニュースとか読むと楽しいものなのよ。
で、私たち魔人には、人間とは別のエネルギー源があるの。これを私たちは“オル”と呼んでいる。
酸素と同じように、空気中にある。目には見えないエネルギーの基。普通の魔人はそれらを受容し、エネルギーへと変換する」
ξ-⊿-)ξ「そして、使う。これがふしぎなちからと呼ばれているあの現象よ。
その作用は基本的に、“オル”への働きかけなのよ。物を動かしたり、力を付与したり。固めたり。
人間は感知できないから不思議に見えているだけ。理論はあるわ。もっとも、複雑な力は魔人の学者に秘匿されてしまっているけれど」
ξ゚⊿゚)ξ「そんな力を与えられなかったのが、出来損ないの私たち」
最後にトーンを落としたツンに変わって、今度はフォックスが話を継いだ。
爪'ー`)「力を使えない魔人は一定の割合で存在している。各国によって対処は違うだろうが、メティスでは彼らは全て教会の管理下に置かれる。
教会から支給される円と十字の杖は“オル”を蓄える補助具だ。それがあるから君らも人の役に立て、ってね」
ξ゚⊿゚)ξ「司教は出来損ないって言わないよね」
爪'ー`)「言いたくないんだ。差別用語だから」
口を突き出してフォックスが言う。口の端には微笑みが浮かんでいる。対するツンも気軽そうで、親しい間柄が察せられる。
384
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:41:36 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^)「お二人はどういう関係なんですか」
爪'ー`)「俺は司教、兼指導者。ツンは助手で、兼指導対象者」
要するに、とフォックスの言葉が続く。
爪'ー`)「能力を使えない魔人にも、大きく分ければ二つのグループがある。自分の身分を弁えた奴と、教会に反発し続ける奴。
ツンも長いこと反発を通してきたらしい。な?」
ξ゚⊿゚)ξ「・・・・・・ええ」
これまた面白くなさそうにツンは頷いた。
爪'ー`)「それを教会が見つけて、俺のところへ送り込んできた。
俺の経歴が変わっているからか、どうも教会は俺を指導者として評価しているみたいなんだ。
だから俺の区域には所謂問題児が多い。俺のところで信仰を学び、改心したら送り返される」
( ^ω^)「送るって、どこへ?」
爪'ー`)「エウロパの森だよ。そこには、心の清らかな魔人の集まる村がある。
問題児たちも、改心したらそこへと送られる。そのあとは知らないけど、人の役に立つ仕事に就くらしい」
385
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:42:34 ID:DM6Pm.mI0
この国の北側に広がる、エウロパの森。
その名前を耳にしたことはブーンにももちろんあった。
彼の記憶が始まったとき、その北辺に広がっていた森のことだ。
( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・」
両肘をカウンターに置き、グラスを一口。
甘い柔らかな香りが広がった。
( ^ω^)「ツンもいずれそこへ?」
ツンは言葉ではなく、首を横に振ることで態度を示した。
ξ゚⊿゚)ξ「あたし、聖職が性に合っているみたいなの。助手の仕事もやめたくないし、まだ戻りたくない」
爪'ー`)「どの口がいってるんだか」
せせら笑うフォックスの口元からぷかぷかと煙が漏れた。
386
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:43:35 ID:DM6Pm.mI0
爪'ー`)「君の場合は森に戻りたくないんだろう。あそこには自由なんてないんだから」
( ^ω^)「自由?」
爪'ー`)「そういう噂だよ。僕は人間だから、詳しくはしらないけれどね。魔人の方が知っているだろう」
ξ゚⊿゚)ξ「あいにく、細かいことは何にもしらないの。ずっと避けてたから」
ツンが一段と冷え切った声で言った。
エウロパの森の話題が出てから、ツンの態度が明らかによそよそしくなった。
恨み言が募っている様子がありありと伝わってくる。
爪'ー`)「君の経緯はよく聞いている」
やや時間を置いてから、フォックスが話し始めた。
387
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:44:42 ID:DM6Pm.mI0
爪'ー`)「かつて、メティスの東方にあったというコミューン“ジンユィ”。
エウロパの森の魔人たちが立ち入ったのは、君が五歳のときだったか。
その危難を脱すると、君は人間社会へと隠れた。当時健在だったラスティアで、運良く従者見習いとしての身分を得、住み込みで働いた。
ラスティアがマルティアの所領となるとテーベへと流れ、やがてエウロパの森に帰還。更正のために俺のところへ来た」
爪'ー`)「酋長から聞いた君の経緯を聞くとね、目に浮かんでくるんだよ。
魔人のしがらみから必死に逃れようとしていた、お前の姿が」
あいかわらず、口の端には微笑みが浮かんでいる。
しかしその視線は揺るがずツンを捉えていた。
ツンはグラスを両手で握っている。
残り少なくなったココナッツミルクを包み込むようにしておさえ、見つめていた。
ξ゚⊿゚)ξ「それを認めるわけにはいきません。
余計なことはしたくありませんし、されたくもありません。
だからどうか、黙っていてください」
爪'ー`)「・・・・・・ああ」
388
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:45:34 ID:DM6Pm.mI0
小さな返答が聞こえてくると、ツンの手にこもっていたちからがいくらか緩んだようだった。
爪'ー`)「またそうやって強いことを言う。お前はいつだってそうだ。教会にきたときから、昔から」
ξ゚⊿゚)ξ「悪い?」
爪'ー`)「いいや別に。ただ、いつかは落ち着いてほしいけどね。指導者としてそれだけは望むよ。
妥協っていう言葉もあるんだし、それは決して悪いことじゃない。使い処を間違えなければ」
身を乗り出そうとしたツンの前に、フォックスが「さてと」と口を挟む。
爪'ー`)「疲れたろう。しばらくゆっくりしてくれ。ただし、今日は客人が来る予定だから、それまでだけど」
フォックスはカウンター席から離れた。室内に流れる低い音楽に合わせて手を振りながら、グルーとハクリの許へ向かった。
話し込んでいた二人の間に割って入るフォックス。冗談を飛ばしたらしく、笑いあっていた。
389
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:46:43 ID:DM6Pm.mI0
薄暗い店内の雰囲気にも馴れて、ブーンは背もたれに寄りかかった。
レザーの座椅子が軋む。それすらも趣がある。柔らかすぎず、固すぎず。
ξ#゚⊿゚)ξ「ふん、何が妥協よ」
フォックスに聞こえない音量で、ツンが口を尖らせた。
ブーンに話しているというよりは独り言に近い。
ξ#゚⊿゚)ξ「司教自身、妥協できないことがたんさんあったんでしょうに。
転職しまくっていた時代に見つけたこのお店をこっそり維持していたのは何だっていうのよ。
やりたいことを忘れられなかったから、人まで雇ってお店を存続させていたんでしょう。
首都に来てサイレンに巻き込まれたからって嬉々として経営のまねごとなんかして。お客なんて私らくらいしかいないってのに」
ココナッツミルクが一気にあおられ、空になったグラスがカウンターの脇に避けられる。
続いてタルトに手を伸ばしながら、ツンはブーンを今一度見つめた。
ξ゚⊿゚)ξ「・・・・・・飲まないの?」
( ^ω^)「え? ああ、いや」
390
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:47:39 ID:DM6Pm.mI0
ブーンのグラスにはまだココナッツミルクが残り、イチゴのタルトも手つかずだった。
持ち手を握れば容易に揺れて、間接照明を乱反射する。歪みがなおるとブーンの顔が浮かびあがった。
常に笑みが絶えない顔。
( ^ω^)「僕にはこの国の魔人についての知識なんて知らなかったから。
教会が魔人を管理する。そんな仕組みも知らなかった。やがて送られる、森って場所についても」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしたちも、何も知らないよ。ただそういうルールが不文律としてあるってだけ」
( ^ω^)「誰が決めたんだろう」
ξ゚⊿゚)ξ「さあ・・・・・・魔人のお偉いさんは、だいたい森にいるらしいけどね」
そう続けると、ツンはカウンターに突っ伏した。
手の力が抜けたかのように、腕を突っ張って大きく溜息をついた。
ξ゚⊿゚)ξ「ブーンさんは人間だから、面白くもないでしょう。こんな魔人の内輪話」
( ^ω^)「・・・・・・」
ξ゚⊿゚)ξ「あたしも人間になりたかった。ずっと、そう思っている。昔も、今も」
391
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:48:34 ID:DM6Pm.mI0
ξ゚⊿゚)ξ ・・・
ξ ⊿ )ξ「きっと森へいったら、もう後戻りできないのよ。あたしは魔人って、決まっちゃうの」
垂れ落ちた獣の耳がカウンターへと垂れて広がる。
ウサギのそれとはいえ、異形は異形。人との違いが現れている。
ツンが受けてきた悲しみがひしひしとブーンに伝わってきた。
差別意識なんてものは、社会がある限りついてまわる。いつの時代もきっと同じだったのだろう。
300年前にやってきた魔人も、同じように迫害されたのだろう。
更正施設としてフォックスのもとへ送られてくる魔人たち。
国中から集められた問題児たちのうちにツンもいる。
なぜなら自分が魔人であることを認めなかったから、と推測できた。
フォックスとて骨を折っただろう。
一筋縄でいく女の子とはとうてい思えない。
嫌なものは嫌だと良い、良い物は良いという。
ブーンが思い描いたツンの像は、まさしくそんな強い姿。
だからこそ、今傍らで見せているような弱気な顔は珍しかった。
今日会ったっばかりだというのに、そう感じるのも不思議なものだが。
392
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:49:35 ID:DM6Pm.mI0
できれば彼女から、なるべく目を離したくない。
記憶じゃない、ブーンの身体のどこかでそんな気が起きている。
ξ ⊿ )ξ「ねえ、ブーン」
そのときだけ、ツンの雰囲気が変わっていた。
深刻なことのように、声を低くして、絶対に誰にも聞こえないように。
ツンは顔を手で覆っていた。
片手でもその顔つきはわからない。目元だけ隠してしまえば、その本心は誰にも見えない。
やがてツンは口を開いた。
ξ ⊿ )ξ「お願い、教えて。何のことだかわからなくてもいいから、答えて」
( ^ω^)「・・・・・・」
ξ ⊿ )ξ「あなた、本当に何も憶えていないの?」
393
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:51:00 ID:DM6Pm.mI0
空気が薄くなった気が、ブーンに起きていた。
どうしてそんな気がするのかはわからなかった。
身体が心に先行して、張り詰めた空気を感じていた。
ブーンは何も答えなかった。
かろうじて、僅かに首を横に振る。
ツンが溜息をつくのがわかった。
息を止めていたらしい。
謝ろう、とブーンは思い立ち、口を開こうとした矢先。
ツンが「それじゃ」と言葉を挟んだ。
頬を伝う涙が、
指の隙間から垣間見えた。
ξ;⊿ )ξ「良かった。うまく・・・・・・いったのね」
394
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:51:57 ID:DM6Pm.mI0
すぐにまた指に覆われてしまった。
鼻を啜る音もなく、顔色だって変化はない。
それでもブーンは彼女が泣いていることを確信した。
どうしてかはわからない。
が、ブーンの胸中にも冷たい感覚が広がる。
それの名前は、おそらく嘆きだ。
天啓があった。
ツンは自分を知っている。
理由などなくても、確信が湧いた。
( ^ω^)「それって」
続けようとした言葉が、別の怒鳴りで遮られる。
(・く(#;ハリ「どういうことですか、それは」
395
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:53:08 ID:DM6Pm.mI0
振り向けば、ハクリが身を乗り出してフォックスに詰寄っていた。
グルーも青い顔をしている。穏やかな雰囲気ではない。
(ク;゙ー゙ル「奥に引きこもって何をしているのかと思えば、手紙を書いていたんだ・・・・・・」
(・く(#;ハリ「相談も無しにですか」
爪'ー`)「・・・・・・そうだな」
(・く(#;ハリ「俺らがどれだけあそこを嫌っているか、知らないわけじゃないでしょう」
いきり立つハクリがカウンターを叩く。グラスが揺れ、零れそうになる。
凄みを加えてフォックスを睨み付けていた。
爪'ー`)「仕方ないんだ。このバーだっていずれ国軍か義勇兵に立ち入られる。
そうなったら君たち魔人が無事でいられる保証はない。無能力とはいえ、人にとって脅威となりうるのだから」
396
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:54:12 ID:DM6Pm.mI0
(・く(#;ハリ「そんなの、いくらだって耐えられる!
森に連れて行かれるくらいなら、ここで一暴れした方がずっといい」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと」
突然ツンが割り込んで、その場の視線が彼女に集中する。
気圧される風でもなくツンが続けた。
ξ゚⊿゚)ξ「司教、今の話は本当ですか。私たちが森に連れて行かれるって」
爪'ー`)「・・・・・・ああ。すでに話はつけてある」
ξ゚⊿゚)ξ「酋長が、ここに来るってことですか」
爪'ー`)「そうだ。この街に来ているという連絡だけ受け取っている」
397
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:55:00 ID:DM6Pm.mI0
ξ゚⊿゚)ξ「そう、ですか」
(・く(#;ハリ「だから勝手に連絡するなって」
(グー゙ル「落ち着いてよ、ハクリ。司教の言うことも一理あるよ」
二人の魔人が騒ぎ立てるのを横目に、ツンが顔を俯かせている。
顔は窺えず、見えているのは口元だけ。
ξ ⊿ )ξ「そう」
何を思っているのだろう。
落ち込んでいるようでもあり、怒っているようでもある。
そしてとても不思議なことに、笑んでいるようにも見えた。
( ^ω^)「あの」
今の表情の意味か、先ほどの問いかけの続きか。
言おうとした言葉の続きは、ついぞ出てこなかった。
398
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:56:04 ID:DM6Pm.mI0
( ^ω^) !
ξ゚⊿゚)ξ !
音。
二人同時に顔を上げた。
地面を揺るがすほどの大音量。
話し声も遠ざかり、代わりに周期を帯びたうねりが蔓延る。
高く、遠く。
この世のものとも思えない、叫びのような音が届く。
サイレン。
その音を聞いた魔人は正気を失う。
(;^ω^)「ツン!?」
ξ;゚⊿゚)ξ「あたしはまだ何も起きてないわ」
399
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:57:02 ID:DM6Pm.mI0
(ク;゙ー゙ル「チッ」
グルーが舌打ちをする。
(・く・;ハリ「今日はお前か」
(ク;゙ー゙ル「ああ、頼んだよー。“接着”!」
余裕のない声を残して、グルーは杖を振りかざす。
淡い緑の光が彼の身体を包み込むと、彼の手足が身体に貼り付いた。
(・く・ハリ「杖は引き剥がす」
ハクリのナックルがグルーを衝いた。
杖がくるくる宙を舞う。
グルーは苦悶の表情を浮かべたまま佇み、やがて物同然に倒れた。
板張りの床に石をぶつけたような重い音が響いた。
(・く・ハリ「牢へ連れて行きます」
爪'ー`)「手伝うよ」
400
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:58:00 ID:DM6Pm.mI0
ハクリとフォックスに抱えられ、グルーは固まったまま奥の扉へと連れ込まれる。
真っ暗闇の中に、灯りがいくつか見えていた。
鉄格子が遠くにある。
手慣れている。それがブーンの所感だった。
サイレンが初めて鳴ったときから日が経っている。対策が講じられるのも道理だろう。
とはいえ、つい先ほどまで歓談していた兄弟を瞬く間に処理する手腕には舌を巻きたくなる。
サイレンはすでに止んでいた。
火災が起きたのか、人的な警報がどこかで鳴っている。
人の少ない地域だったために音は少ないが、市街の方は大騒ぎに違いない。
( ^ω^)「僕も戻らないといけないかもね。義勇兵にも招集が掛かるよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。急いだ方がいいかも」
401
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:58:38 ID:DM6Pm.mI0
爪'ー`)「待ってくれ」
奥から戻ってきたフォックスが、ブーンを見据えた。
爪'ー`)「酋長が君に会いたがっている」
フォックスが言い、ツンが息をのんだ。
憤りが感じられる。
それが何を意味するのか、ブーンにはまだわからなかった。
店の薄いガラスに、雨粒のあたるのが聞こえてきた。
曇り空は雨雲へと変わっていたらしい。
冷たい雨がしとしとと、首都を包み込み始めていた。
☆ ☆ ☆
402
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 23:59:40 ID:DM6Pm.mI0
(8)rain dear
ED Romance de Amor(愛のロマンス/映画『禁じられた遊び』より)
https://www.youtube.com/watch?v=Xw4CJDknHSY
.
403
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:00:33 ID:akbUVHvM0
この日、サイレンの音は荒廃した首都に容赦なく響き渡った。
発症した魔人は数知れず。住まいを自ら破壊して、崩れた暖房器具から火の手が昇り、黒煙を上げた。
それは、ニュッ君がいたあの新居でも同じだった。
( ^ν^)「・・・・・・ってえ」
頭をおさえる。掌には血が滲んだ。
落ちてきた家具に当たったらしい。大怪我ではないが、軽い眩暈が生じた。
しかし、それはどうでもいいことだ。
それ以上の衝撃が、目の前に広がっているのだから。
( ^ν^)「・・・・・・」
記憶の中にあった、その音は、今はっきりとニュッ君の耳に思いおこされた。
スズラン畑で聞いた、獣の低い唸り声。
404
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:02:42 ID:akbUVHvM0
その話をしていた途端、サイレンが鳴るのだから、偶然にしてはできすぎている。
口は災いの元。
そんな言葉が頭に浮かんで、口の端が奇妙に歪んだ。
火が起きている。
元々ストーブの焚かれていた場所だ。
煙はニュッ君の周りを漂っていた。
目の前の光景も、それによって際立たされている。
覆い隠してくれたら、いっそどんなに良かっただろうか。
405
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:04:19 ID:akbUVHvM0
'´ ⌒``ヽ、 _r'⌒(
ヽ ノ`...:.:::::ヽ
::: ) r‐‐‐--、 r' .: `ヽ
`:::::::::::: ノ -‐''''''´ ヽ_. ).::.:. .:.:.:::::::::)
ヽ, / ``-、. く.:. .:.:.:::::: ⌒
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`ヽ、 l `:::: ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: : ).:.:.....
..::: ヽ j `;:::::::::::::: _r'⌒ .:.:.:::::::::.
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....... ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ::::.. __r' .:.::.:.:. .:.:.::::::.... .:. .:.:.:..... .:.:
406
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:05:19 ID:akbUVHvM0
γゝ ζヽ
ζ,,ζ ヽ,, ゝ
λ( ξζ
ゞヽ、 丿γ
τ,,λλ,,τ´
ヽiリ,,゚ ゚ノi
巨大な双角。
細身の怪物の指先にもにた、それは、弧を描いて天を穿つ。
本物を見たことはない。
だが、古い絵本や、童話の中で、ニュッ君はその名前を聞いたことがあった。
407
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:07:07 ID:akbUVHvM0
( ^ν^)「トナカイっすか。初めて見ましたよ」
角が揺れる。
天井に引っかかり、引き裂いて、二階にあった調度品が降ってくる。
絨毯、小机、箪笥、そしてベッド。
降ってくるそれらは、ニュッ君のすぐ脇をとおりすぎ、砕け散った。
ヽiリ,,゚ ゚ノi「逃げて」
スパムの声は洞穴を潜り抜けてきたように歪響していた。
角の生え際は引っ張られ、元々の垂れ目がつり上がっている。
人相は違えど、恩師であることに変わりなかった。
( ^ν^)「嫌っすよ」
天井から逃れた角は、今は壁へと進撃する。
泥細工のように壁が削られ、外へと角が飛び出した。
408
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:08:07 ID:akbUVHvM0
隠していられるのも時間の問題だろう。
警備兵が見たらすぐにでも飛んでくるに違いない。
そうなっては、元も子もない。
( ^ν^)「先生、俺はまだ目的を果たせていません。
あんたを助けるために来たんです。これくらいで止まっちゃいられないっすよ」
実力はない。
算段も今のところはない。
それでもニュッ君は、腰を低く落とし、身構えた。
ヽiリ,,゚ ゚ノi「う・・・・・・ああ・・・・・・」
あるいは感化されていたのかも知れない。
ずっと一緒に旅してきた、ブーンの影響が、身構え方にも現れていた。
それがラスティア国の衛兵に伝えられていた構えであることを、ニュッ君はおろか、ブーンも知らなかった。
409
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:09:13 ID:akbUVHvM0
( ^ν^)「やれるだけのことはやってみます。それでダメなら、それでいいです」
そう言って、ニュッ君は駆けだした。
自身の身体の三倍はあるその角が振り下ろされるのをかいくぐる。
衝撃が身体を揺らがせる。
穿たれた壁から、雨が吹き込んできた。
黒煙が震え、蠢く生き物のようにくねる。
咆哮。
スパムの口からだ。
やはり人の声とは違う。深く震えすぎて、言葉とも聞き取れない。
スパムが聞かれたくなかった声。
それを聞いて、ニュッ君の足はなおも止まらなかった。
410
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:10:18 ID:akbUVHvM0
彼の口からも声が漏れていた。
誰も聞いたことのない彼の声。
咆哮というよりも、むしろ、慟哭。
誰に見られることもなく、ただ冬の冷たい雨だけが彼らを包み込んでいた。
親愛なる者の手が、猛る獣を鎮めようとするかのごとく。
.
411
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:11:51 ID:akbUVHvM0
第二十一話 首都は冷たい雨に頽れ 前編(冬月逍遙編⑥) 終わり
第二十二話 同 後編(冬月逍遙編⑦)へ続く
.
412
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:12:24 ID:akbUVHvM0
今日はここまで。
それではまた。
413
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:33:09 ID:akbUVHvM0
おまけ 第二十一話設定資料①(あくまで執筆当初のもの)
【メティス国内情勢】
●国王<教会
数年前(305年)ラスティア国王ショボン、王女デレを招いた宴会にて、王女が魔人に襲われる。
襲撃の原因を解明できなかったメティス国王は多額の賠償金支払いを約される。
国内の富裕層への課税で賠償金は賄われたが、その対応に不満を抱いた富裕層らが国王を非難。
賠償金工面の割合が一等高かったメティス国教会が中心となって反国王派の旗手となり、富裕層を最大の教会領メガクリテに囲い込む。
●首都メガクリテの誕生
メティス国王への不信が高まっていた一方で、隣国テーベでは女帝(国王)ハイン主導による産業革命が巻き起こっていた。
メガクリテ周辺には鉱山と森林が豊かに広がり、かねてより港を中心として交易が盛んに行われていた背景もあって、産業に係るテーベとの貿易が過熱していた。
メティス国教会による囲い込みも重なって、富裕層からの支援もあり、メガクリテは急激な発展を遂げる。
貿易の恩恵を受けたメガクリテ市長はこれを好機と捉え、309年に国王側首脳との講和会議を開き、首都としての権限を奪取する。
●現在
テーベ国の産業革命の余波を受けて工場が整備、メガクリテ内部でも機械工具類を中心に工業が発展し始める。
また、魔人を排したテーベとは違い、魔人が積極的に労働に参加している。
もとより肉体労働を中心として活躍していた魔人は、工場内の労働でもその真価を発揮する。
今後順調に進めばテーベと並び立つ産業革命国となるかに思われた。
だが、309年12月17日未明、サイレンの音が鳴り響き、魔人が暴走。工業地帯に致命的なダメージを与えることとなる。
産業壊滅、それに付随する富裕層の乖離を恐れたメガクリテ市庁は事態の抑制に重点をおき、当日中にメティス国軍に応援を要請、合わせて義勇兵の募集を開始する。
メガクリテを含むメティス国内では魔人排除の発想が勃興。
その一因として、テーベの人間第一主義が挙げられる。
テーベの産業革命に感化され始めたメティス国、わけても最先端のメガクリテでは、魔人がいなくても人間だけの力で生きていける、という発想が育ちつつあった。
414
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:37:27 ID:akbUVHvM0
おまけ 第二十一話設定資料②(あくまで執筆当初のもの)
【メティス国教会】
●役割
魔人出現前からあった宗教と魔人出現後の宗教が融合、そのうち魔人を神の使いと崇める宗派がメティス国内において主流となる。
信仰に生きていた人々の祈りの場。生活の支えであり、儀式の場所でもある。
保有地である教会領で農作物を栽培し、貧しい人々に頒布する。また、時には魔人を駆使して公共事業の手助けをしたり、人助けを行った。
魔人は神の使いであり、人間の正しい導き手ともされる。
魔人を従えて職業に従事することもあり、利益追求のための労働ではなく万民に資するための労働が善とされた。
余剰分のお金は教会への献金することで浄化され、より多くの献金を行った人の下にはより屈強な魔人との契約が可能となった。
正史ではカトリックの腐敗が禁欲主義のプロテスタントを生み、結果としての利潤追求に正当性を与えることで資本主義の発展を促した。
しかし衛兵王女の世界では結果としての利潤は全て魔人への恩赦として教会に手渡されることになる。
見返りとして送られてくる魔人は人間に絶対的に服従する神の使いなので不満も抱かない。
より屈強ならより生活は楽になる。そしてむやみに闘争心をかき立てなくても、良い魔人が手に入ればより良い生活が送れる。
逆に悪事を働けば魔人を没収されて常人よりも酷い生活が待っている。
よって、闘争心は沈静化されていった。
●教会の魔人
教会に管理されている魔人は基本的に無能力(出来損ない)である。
能力のある魔人は森に住んでいる。出来損ないの魔人が森から集められ、教会における奉公活動によって俗世への執着を払い、○○へと送られる。
それが魔人の究極の使命として伝えられていた。
415
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/09(月) 00:42:10 ID:akbUVHvM0
おまけ 第二十一話設定資料③(あくまで執筆当初のもの)
【ブーン】
●現状
309年12月21日、メガクリテに到着。メガクリテ市庁が募っていた義勇兵に参加する。
メティス国内でたびたび用心棒として活躍した実力がすでにメガクリテ市庁に伝わっていたため、簡易な面接だけで即採用となる。
●経緯
サナ雨林の村で三匹のカエルのマークを目撃しており、そのヒントが隣国テーベにあることを知った。
自分の記憶の手掛かりになるかもしれないと悟り、目的地をテーベに定め、メガクリテから出発する船への搭乗を目指していた。
エウリドメで猪の魔人が街を破壊する様を目撃し、魔人が崇拝されているメティス国内の混乱を予想。
旅の同伴者であるニュッの希望もあってメガクリテに移動し、魔人抑制に協力する。
●内情
依然として10歳以降の記憶は戻らないまま、自分の強さの理由も笑顔の理由もわからないまま、記憶を知るための旅を続けている。
エウリドメにて自立の意思を表明したニュッに期待を寄せる。もとより頼まれて一緒に旅していたが、ニュッを本心から応援しようと思ったのはこのときが初めてだった。
それゆえに、エウリドメの惨状を目の当たりにしたニュッが、今まで旅で通ってきた街を思い、心を痛めているさまを辛く思う。
しかし、ブーン自身は魔人を悪とは見做せないでいた。
魔人の錯乱の原因はサイレンであることは見て明らかであり、サイレンが予測不可能なうえ、暴れているときの魔人に意識がないことを鑑みても、魔人だけを責めるのは酷であるからだ。
付け加えていれば、彼のかつての経験が、魔人への悪感情を著しく削いでもいる。
【ニュッ】
●現状
ブーンとともにメガクリテに入り、義勇兵として参加する。
戦闘の実績はほとんどなく、また十四歳(現時点)という若さも考慮され、今は衛生兵として働いている。
●経歴
309年10月末、ニュッに社会経験を積んでもらおうという育ての親デミタスの希望もあって、旅人ブーンと一緒に首都を目指していた。
鴉の街ヘルセ、蛇の街パシテー、パシテー=アーケ間のサナ雨林に潜む虎の村、そして猪と栗鼠の街エウリドメを経験し、魔人と人々との様々な交流に触れる。
良くも悪くも、人の行動を制限する幾多のしがらみ(あがめられ不自由する蛇、過去の内乱に敗れ森に隠れた虎、壁に閉じ込められた猪等)を知ったニュッは、
自身がデミタスへの恩義によってヘルセの街に自分を縛りつけていたこと、そしてデミタスが自分をしがらみから脱する後押しをしてくれたことを悟る。
その発見をエウリドメでブーンに告白し、ブーンを離れての自立の意思を宣言する。
直後、サイレンを聞き、猪の襲撃で壊滅するエウリドメを目の当たりにする。
鎮火活動に協力したニュッは、その日の朝のニュースにて、メティス国内各地で同様の現象が起きていたことを知る。
自分が知り合ってきた人々の災禍を意識し、いてもたってもいられなくなり、首都での義勇兵募集の報を受け、ブーンに首都への移動を提案し、移動を開始する。
●内情
今まで魔人と人々との交流を平和的に受け止めていただけに、内心の混乱は大きい。
魔人が危険を及ぼす生き物であるという考えが、ほかのメティス国内のニュースからも耳に入る。
他のメガクリテ市民と同様に、魔人排除の発想が育ちつつある。
旅に出たことでニュッが抱いたのは社会への興味である(デミタスが希望したとおり)。
人々が交流する社会の一員になりたいという希望生まれたために、その社会を破壊する魔人への不信感はおのずと高まっていった。
416
:
同志名無しさん
:2017/01/09(月) 03:48:44 ID:K1hYFzes0
来てた!
417
:
同志名無しさん
:2017/01/09(月) 10:35:07 ID:RqB6p0.k0
レジスタンスのメンバーは今どうなってんのかな
418
:
同志名無しさん
:2017/01/16(月) 02:00:49 ID:RKRJTK5I0
最高に面白かった!
続きも期待!
419
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:31:29 ID:nozhF/0E0
始めます。
420
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:33:23 ID:nozhF/0E0
(1)ジンユィ
ξ・⊿・)ξ「あたしはどこで生まれたの」
昔の思い出に浸るとき、ツンは決まってこの問いを思い出す。
質問をしているのはツン本人で、相手はいつも母だった。
「この村でよ」
そう言って、ツンの母は彼女の頭を撫でてくれた。
大きな掌の緩慢な動きに、ツンはいつも安らぎを感じとっていた。
何回も同じ答えを聞いているのに、ツンはその問いをやめなかった。
問いをするときは、いつも夜中だった。
急に目が覚めて、心臓が早鐘を打って、いたたまれなくなって母の寝床へと急いだ。
母の答えを聞く度に、村の景色を見て回って、いつもと変わらない世界が広がっているのを確認する。
それからようやく落ち着いて、眠りにつくことができた。
ツンは村のことが好きだった。
ジンユィ。
不思議な響きの名を持ったその国は、たった一人の人間の手によって拓かれた。
421
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:34:41 ID:nozhF/0E0
暮らしている人はみんな、大きな耳を持っていたり、角や尻尾が生えていたり、濃い体毛に覆われていたりする。
そのような人たちのことを魔人と呼び、普通の人間とは区別することを、ツンは幼い頃から聞かされていた。
自分達は人とは違う。だから気をつけなければいけない。
母もそう教えていた。
生きるうえで大切だから覚えておきなさい。
それが彼女の口癖だった。
ツンも素直に従って、話を聞く度に大きく頷いていた。
同意するだけなら簡単だった。笑って、それから話題を変えた。
今日は何を食べるのか、これからどこの家へ遊びに行くのか。
そんな身近な話題の方が楽しくて、ツンにとってははるかに重要だった。
422
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:35:44 ID:nozhF/0E0
コミューンは緑に溢れていた。
道沿いにはカシやブナの木が並び、足下には年中色とりどりの花が咲き乱れていた。
整備がされているわけではなく、自然のままの植物たちが思い思いに育っていた。
ツンが暮らしていた場所は小高い丘だった。
川沿いにはもう少し多く人が暮らしていて、山の谷間まで民家が並んでいた。
東西に長い村。といっても広さなんてたかが知れていて、
中央にある広場に集まれと言われたら、誰でも三十分以内には集まることができた。
お昼過ぎの時間になると、広場の大きなケヤキの下にて、人々は集まった。
真ん中にはいつも先生が分厚い本を片手に声を張った。
( ゚д゚ )「今日は福音書第六節から」
それはメティス、この国で聖書と呼ばれている本だった。
423
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:36:40 ID:nozhF/0E0
ほかの子どもたちに混じってツンもその朗読を聞いていた。
といっても話している内容は五歳の彼女には難しくてさっぱりわからなかった。
後で両親に質問をして、ようやく朧気ながら意味がつかめるくらいだった。
遠い昔のご先祖様が、この土地で斃れたとき、友が彼に手をさしのべてくれた。
あらゆるものを腐らせる死の灰の上で、草木を生やし、食べ物を与え、暮らす場所を与えてくれた。
ご先祖様は生き延びることができた。
だから私達はいかなるときも友への恩義を忘れるわけにはいかない。
( ゚д゚ )「この場合のご先祖様はメティス国民、友とは僕たち魔人のことだ」
会ったこともないメティス国民だったけれど、友と言われて悪い気はしない。
だからツンはそれなりに彼らに親しみを感じていた。
424
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:38:16 ID:nozhF/0E0
298年 ある春の昼下がり――
( )「だったらどうして私たちは」
ツンのすぐ隣から、その声は聞こえてきた。ツンのよく知っている、友達だ。
ちょうど先生の朗読が途切れたばかりで、しんと静まりかえっていたときに、その声はよく響いた。
村人のほとんど全員の視線が彼女に集中するのがわかった。
ξ・⊿・)ξ「どうしたの、急に」
心配になってツンは小声で呼びかけた。
友達はツンを一瞥して、すぐに逸らして先生を見据えた。
( )「どうして私たちは……隠れて暮らしているんですか」
広場の空気は張り詰めた。
中央では先生が悲しげな顔で俯いていた。
( ゚д゚ )「すまない」
ツンの友達はなかなか座らなかった。
銀色の髪飾りの下で、見開かれた目が赤くなり、涙ににじんでいた。
425
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:39:17 ID:nozhF/0E0
その場がどうおさまったのかはあまり覚えていない。
理由の無い痛みがツンの胸に残った。
ただその子のことを慰めてあげたいと思ったことは確かだった。
ツンはその日から、度々少女の家を尋ねるようになった。
一緒に遊びに誘ったり、スープや煮物のお裾分けをしたり。
何かにつけて理由をつくり、少女の家に押しかけた。
少女も最初は嫌がっていたけれど、やがてツンの勢いに負けた。
少女はツンと一緒に遊び、やがて気がつけば友達になっていた。
そのうちいらいらするよりも笑顔でいることの方が多くなった。
298年の夏。
ツンの五歳の誕生日のとき、その少女がツンの家を訪ねてきた。
426
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:40:18 ID:nozhF/0E0
( )「ほら、これ。みんなで作ったんだ」
胸もとに寄せた木箱の中に、厚紙でできた地球儀があった。
ξ・⊿・)ξ「これ……あたしに?」
( )「うん。地図とかいつも見ていたから、こういうの好きかなって。嫌いだった?」
ξ*・⊿・)ξ「そんなわけない」
ツンは目を滲ませて地球儀を受け取った。
少女を自室に誘って、ペンを取り出し文字を書いた。
覚えたばかりの人間の文字。意識的に書いたのは生まれて初めてで、形も歪んだ。
それでも知っている名前を必死にいくつも描き連ねた。
北にある山、南にある海。西にある町、東に広がる砂漠のその先。
あっという間に地球儀は文字で埋め尽くされた。
427
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:41:18 ID:nozhF/0E0
ξ*・⊿・)ξ「できた」
達成感は一入だった。
知っている土地は少なくて、範囲はずいぶんと狭かったけれど。
ツンは厚紙を愛おしく撫でた。
書かれている文字が回転し、模様のように広がる。
後日、友達の前でひたすら感謝を示した後、約束と称してツンは胸を張った。
ξ*・⊿・)ξ「あたし、決めた。この地球儀に書いた場所、いつか絶対行ってみせる」
ξ*・⊿・)ξ「それがあたしの夢」
絶対できると信じていた。
だから力強く言い切ることができた。
現実は、それから一週間もせずにやってきた。
428
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:42:15 ID:nozhF/0E0
「動くな」
奇妙な紫の衣服をまとった魔人たちがツンの集落を取り囲んだ。
各々の手には銃が構えられていて、これまた珍妙なことに銃弾はなく、先端から光りを飛ばして大人達を襲った。
くらった大人はあっという間に横になり、いびきをかいた。
「君らは包囲されている」
ツンにはわけがわからなかった。
武器を持っている人たちにも耳はあった。体毛も尻尾も生えていた。
話を聞くと、北西に広がるエウロパの森からやってきた人たちらしかった。
ξ・⊿・)ξ「どうして?」
質問に答えてくれる人は誰もいなかった。
母に聞こうとする前に、彼女は縄にかけられて、あっという間に外へと連れ出された。
ξ>⊿<)ξ「お母さ――」
言い切る前に口を塞がれた。
紫の男達が、赤い目をして睨んでくる。
黙れ、と大きな怒鳴り声がした。
耳が劈けるような思いがして、恐かったけど、ツンは何も言い出せなくなった。
429
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:43:18 ID:nozhF/0E0
無理に歩かされて、前方を歩く母の背中を眺めた。
ぼろぼろになった衣服をまとった母の背中がかなしくて、わけがわからなくて、もがこうとしたら口に布を詰められた。
何も言うことができなくなり、痛みと恐怖で涙が出てきた。
ほかの家からも煙があがり、人が出てきて、それこそ獣同然に縄に結ばれて歩かされていた。
混乱がまったく落ち着かない。
広場が見えてきた。
村人がみなそこに集まっている。
そのとき、煙が巻き起こった。
430
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:44:16 ID:nozhF/0E0
「煙幕だ」
と、紫の男達が叫んでいるのが聞こえる。
白む景色に怯えていながら、ツンは自分の縄が緩んだのを感じた。
背中を押される。
( ゚д゚ )「速くこっちへ!」
聞こえた声は先生のものだった。
☆ ☆ ☆
431
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:47:26 ID:nozhF/0E0
第二十二話
首都は冷たい雨に頽れ 後編(冬月逍遙編⑦)
.
432
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:48:21 ID:nozhF/0E0
(2)あなたとここで
( ´∀`)「……けほ」
扉を開いてすぐにモナーの息が詰まった。
鼻の頭から先がずっと煙で埋もれていたからだ。
煙の中に浮かぶ影が一人。
爪'ー`)y-~「お待ちしていました」
穏やかそうな顔に見える。
むしろ必要以上に砕けている。
口に咥えている煙草を徐に手に取っていた。
( ´∀`)「久しぶりモナ、フォックス司教。顔を合わせるのはいつぶりだったか」
爪'ー`)y-~「一年ぶりですよ。毎年ご挨拶を賜っていましたから」
魔人でありながら、聖職者でもあるモナー。
メティス国教において、彼は魔人と人とを繋ぐ要衝でもあった。
433
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:49:16 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「毎度毎度ご苦労様だモナ。毎年同じ事なのに」
ミ,,;゚Д゚彡「こらこら、何を言い出すんですか」
モナーの隣にいた男が彼を窘めた。
もじゃもじゃの体毛を見るにつけ、フォックスは一瞬顔を顰めた。
爪'ー`)y-~「お一人ではなかったんですね」
( ´∀`)「ボディーガードモナ。でも信頼できる男モナよ。口も堅いし、便利だし」
いろいろ言い足そうな顔をぐっとおさえて、男はフォックスに手を伸ばした。
ミ,,゚Д゚彡「フサギコと申します。今日はご協力ありがとうございます」
爪'ー`)「ああ、こちらこそ」
つ- ジ...
434
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:49:50 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「毎度毎度ご苦労様だモナ。毎年同じ事なのに」
ミ,,;゚Д゚彡「こらこら、何を言い出すんですか」
モナーの隣にいた男が彼を窘めた。
もじゃもじゃの体毛を見るにつけ、フォックスは一瞬顔を顰めた。
爪'ー`)y-~「お一人ではなかったんですね」
( ´∀`)「ボディーガードモナ。でも信頼できる男モナよ。口も堅いし、便利だし」
いろいろ言い足そうな顔をぐっとおさえて、男はフォックスに手を伸ばした。
ミ,,゚Д゚彡「フサギコと申します。今日はご協力ありがとうございます」
爪'ー`)「ああ、こちらこそ」
つ- ジ...
435
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:51:12 ID:nozhF/0E0
モナーはこの日、フォックスの手紙によって招集された。
急を要するとの題で始まり、魔人が避難している様が続く内容だった。
先日のサイレン以来、メガクリテの中では魔人に対する憤りが高まっている。
今日もまた、高らかに響いたサイレンに、多くの魔人が暴走し、町を破壊し始めていた。
もうじき、メティス国軍による魔人討伐が始まる。
情報は魔人の間にも広まっていた。
逃げるならば今しかない。
フォックスはモナーに、自分の身近にいる魔人を匿うよう依頼したのであった。
( ´∀`)「魔人は三人、モナか」
爪'ー`)「ああ。全員私の教会で雇っていた、謹慎中の奴らだ」
( ´∀`)「ほかの魔人は?」
爪'ー`)「難しい質問ですね」
436
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:52:12 ID:nozhF/0E0
メガクリテには未だに多くの魔人がいる。
その全てを把握しているのは、メティス国教会だろう。
だが教会の本部はすでに破壊されている。
野放図となった魔人が路頭に迷い、あちこちで争いごとの渦中となっていた。
( ´∀`)「外は酷い有様だったモナ」
旅をしながら見てきた景色を、モナーはついぞ思い起こしていた。
勇壮だったメガクリテの街並みが石つぶてへと変貌したこと。
人の気配も薄れた町で、血だらけで呻いていた魔人達。
( ´∀`)「安全に森まで辿り着けるか保証は無いけれど、それでも良ければ協力するモナ。
最低限の尽力はするつもりモナよ」
魔人の村の酋長として、モナーは来訪していた。ここに来るまでの間にも葛藤はあった。
当初の目的だった新年の挨拶はとうに果たせそうにない。
本来ならサイレンが鳴った時点で帰路につくこともできた。事実、付き人のフサギコはそう提案をした。
だがモナーは拒否し、メガクリテへの旅路を急いだ。
町の魔人をサイレンや、人々の手から保護するためだった。
437
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:53:16 ID:nozhF/0E0
メガクリテの中にはすでに魔人の隠れ家が数カ所発生していた。
彼らはメティス国軍や義勇軍によって捜索、逮捕されていたが、何件かはいまだ残っており、モナーと連絡を取り合っていた。
司教フォックスもそのうちのひとつで、今日は別の魔人の隠れ家も訪ねてからの来訪だった。
爪'ー`)「恩に着ます。今連れてきますので」
そう言って、フォックスは店内の奥へと進んでいった。
フュームがバーだという話はモナーもすでに伝え聞いていた。
そのシックな内装に、このときになってようやく意識を向けられた。
木製の丸テーブルや椅子、バーカウンターも設えてあり、棚には数点のワインボトルが淡い灯りに照らされている。
( ´∀`)「拠点に戻る前に一杯ひっかけたいモナね」
ミ,,゚Д゚彡「そんな余裕ありますかね」
( ´∀`)「ないモナ?」
ミ,,゚Д゚彡「さっきのサイレンで国軍も義勇軍もざわついています。
できることなら用が済んだらすぐに帰った方が、私は安心します」
438
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:54:15 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「ぐむむ、面倒モナね」
口惜しい、とでも言いたげな様子で、モナーはワインセラーを見つめていた。
戻ってきたのはフォックスと、もう二人いた。
(・く・ハリ「ハクリです」
短い白髪の小柄な男がまず頭を下げた。
ξ゚⊿゚)ξ「ツン」
その隣に並ぶ金髪の少女が短く名乗った。
( ´∀`)「二人とも、久しぶりだモナ」
モナーは一層の笑みを湛えた。
ハクリもツンも、更正という名目でモナー自身がフォックスの教会へ送った魔人だった。
439
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:55:16 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「こんなところで巡り会うだなんて、何かの縁モナね。元気モナ?」
(・く・ハリゞ「それなりです」
ハクリは少しだけ顔を綻ばせた。
一方のツンは何も応えない。
どちらかといえば、モナーのことを睨み付けていた。
( ´∀`)「……まだ恨んでいるモナ? 教会に送ったことを」
ξ゚⊿゚)ξ「別に」
( ´∀`)「それじゃ、何モナ?」
ξ゚⊿゚)ξ「何も」
ミ,,#゚Д゚彡「おい、おまえ」
見かねた様子で、フサギコが一歩前へ出た。
440
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:56:16 ID:nozhF/0E0
ミ,,#゚Д゚彡「無礼だぞ。まともに顔も合わせずに」
( ´∀`)「まあいいモナよ。フサギコ、落ち着けモナ」
ミ,,;゚Д゚彡「しかし」
( ´∀`)「いいモナ。ツンの性格は私もよくわかってるモナよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……何言ってんのよ」
ツンは吐き捨てるように呟いた。
ミ,,#゚Д゚彡「お前」
( ´∀`)「やめろって」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
重苦しくなった空気を、モナーが「そういえば」と断ち切った。
441
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:57:17 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「確か人間を匿っているモナよね?」
爪'ー`)「ええ、ツンを助けてくれた人です」
( ´∀`)「どこにいるモナ?」
爪'ー`)「ツンには客間を案内させておきました。おい、ツン。呼んできてもらえるかな」
フォックスがツンに呼びかけると、ツンは見るからに嫌そうな顔をしてみせた。
それでも何も言い返さず、バーカウンターの奥へと下がった。
爪'ー`)ゞ「すみませんね、いつも苛ついていて」
( ´∀`)「いやいや、わかっていますモナ」
頭を下げるフォックスを前に、モナーが愛想笑いを浮かべたとき、唐突に怒声が聞こえてきた。
先ほどツンが入っていったのとは別の、店の奥へと通ずる鉄扉からだ。
爪'ー`)「ああ、まずい。ハクリ」
442
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:58:14 ID:nozhF/0E0
フォックスが焦り顔で言い、ハクリは「おう」と奥の扉へと駆けていった。
爪'ー`)「すみません、こっちで抑えていた魔人がいるんです」
( ´∀`)「三人のうちのもう一人か、サイレンの影響モナ?」
爪'ー`)「縛っておいたのですが、甘かったみたいですね」
言い終えるやいなや、扉の向こう側から大きな打撃音が響き、フュームの店内が揺れた。
明らかに何かが崩れる音が響き渡る。
爪;'ー`)「ちょっとしゃれにならないかもしれない」
フォックスは苦笑いをしてポケットに手を突っ込んだ。
抜き取ったその指先には煙草があり、流れるように口へと運んだ。
443
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 21:59:14 ID:nozhF/0E0
爪'ー`)y-「手伝ってもらえますか」
火をつけながら、フォックスは酋長に目を向けた。
モナーは鷹揚に頷いた。
( ´∀`)「フサギコ」
ミ,,゚Д゚彡「ええ」
言うが速いか、モナーの隣にいたフサギコが、消えた。
爪;'ー`)y-~「え?」
フォックスがきょとんと呟く、その瞬間には鉄扉が弾け飛んでいた。
444
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:00:40 ID:nozhF/0E0
( ´∀`)「大丈夫。もうあっちに言ったモナ」
モナーは笑みを湛えたまま言う。
相変わらずフォックスは呆然としながら、煙草を口に咥えた。
その煙草の火が消えていると気づいたとき、扉を失った店の奥から激しい打撃音が数回響いた。
獣の呻きは、そこで途絶えた。
☆ ☆ ☆
445
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:04:17 ID:nozhF/0E0
獣の声がフュームの店内に響き渡っているのと同じ頃。
簡易な客間にて、ツンはブーンと相対していた。
( ^ω^)「何の音?」
ξ゚⊿゚)ξ「グルーが暴れているのよ。さ、ちょっとついてきて」
と、ツンが手招きをする。
ブーンは少し首を捻った。
( ^ω^)「お店に戻るんじゃないのかい」
ξ゚⊿゚)ξ「今は戻らない方が良い。裏口から出て行って」
ツンはきっぱりと言ってのけた。
446
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:05:59 ID:nozhF/0E0
ξ゚⊿゚)ξ「今、魔人の村の酋長が来ているの」
( ^ω^)「それってフォックスさんが言っていた、僕に会いたがっている人だよね。だったら尚更言った方が」
ξ-⊿-)ξ「会わない方が良い」
ツンは前のめりになって言った。
ξ-⊿-)ξ「フォックスさんの手前、何も言わなかったけれど、酋長はとっても悪い人なの」
( ^ω^)「悪い?」
ξ-⊿-)ξ「そう。最悪。絶対関わり合いにならない方がいいから、今は逃げて。
それで今から私が言う人のところへ」
447
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/05/20(土) 22:07:24 ID:nozhF/0E0
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待って」
慌ててブーンはツンを制した。
(;^ω^)「いきなり言われても困るよ。悪いって、どういうこと? どうしてそんなに急がなきゃなんだ」
ξ#゚⊿゚)ξ「いいから! 言うことをきいて!」
ブーンが要領を得ないのをよそに、ツンが声を荒げた。
ξ#゚⊿゚)ξ「いい? 細かいことは気にしないで。
今ならまだ、あなたがいなくなっても、『グルーが暴れたのに驚いてどこかへ行ったみたい』って理由がつくの。
酋長達も反論できないの。ぐずぐずしてたらあなたが、酋長に捕まっちゃう」
捲し立てながら、ツンの声が震えを帯びていった。
顔つきが次第に赤らんで、今にも泣きそうになってくる。
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