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梨子「ピアノの発表会」

20以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:41:37 ID:BA8s88hk
梨子「…美味しい!」

ことり「ふふっ、良かったぁ」

ことり「今度の演奏会、みんな自分で作曲した曲を披露するって言ってたけど、梨子ちゃんの曲はどう?」

梨子「うん、もう殆ど仕上がってるよ。そう、今日はその相談もしたかったんだ」

ことり「相談? ことりに出来ることなら何でも言ってね」

梨子「どうしても曲中に決められない部分があって、2パターンの候補があるんだけど、一緒に決めてほしいの…」

ことり(どうしよう、ことり、音楽のことなんて…)

梨子「ダメ…かな」

ことり「ううん! 聴いてみたい、ことりも一緒に考えるね」

梨子「ありがとう、じゃあ、まずこっちからね」

梨子ちゃんの音楽プレーヤーに繋がったイヤホンを両耳に着ける。

スイッチを押した瞬間、梨子ちゃんの優しいピアノの音が聞こえてきて、ついうっとりしちゃった。


梨子「どう…?」

ことり「うん…、綺麗で、整ってる感じがするね」

21以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:42:16 ID:BA8s88hk
梨子「今度は、こっちを聴いてみて…」

出だしはもちろん最初の音源と一緒。

途中からは、さっきのよりも少し明るめで、

ふんわり柔らかそうなメロディ。

いつの間にか、ふたつの旋律の判断よりも、

音源から伝わる、梨子ちゃんの真剣さと、ピアノに対する気持ちに気を取られちゃって…つい聴き惚れてしまっていた。

梨子「どうだった? どっちがいいかなぁ」



真剣な梨子ちゃんにちゃんとした答えを出したい…。


コンサートのお客さんが好きそうなのはどっちかな…


梨子ちゃんが弾きやすいのは、どっちだろう…


曲のイメージに合うのはどっちになるかな…


…どう考えればいいか分かっても、ことりには知識が無くてダメ…

22以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:43:06 ID:BA8s88hk
ことり(うーん… あ、そっか♪)

ことりが答えられるのは、今はこれしか無かった。

ことり「ことりは、後から聴いた方が好き♪」


梨子「ことりちゃんは、2つ目の方がいいのね…」


ことり「…?」

梨子「実はね、彼にも相談したんだけど、そっちは1つ目の方が良いって言ってるの…」

ことり(…ことりだけに相談してたんじゃ、ないんだ…)

梨子「うん、ありがとう 参考になったよ」

ことり「ごめんね、ことりはピアノやってないから、まともな意見じゃないかも…」

ことりなりに、好きな部分を感じて答えたのに、自信がなくなっちゃう… 梨子ちゃんも、1つ目の方が良いと思ってるのかな…






……………………今度は、はっきりと胸が痛かった。

23以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:45:25 ID:BA8s88hk
レストランを出て、駅で梨子ちゃんをお見送り。

梨子「今日はありがとう。次会うときは、本番かな」

ことり「もうあと少しだもんね、応援してるよ♪」

梨子「うん!じゃあ、またね」

梨子ちゃんが改札の向こうに消えていく。

梨子ちゃん……ことりになんか聞かないで、その人だけに聞いた方が迷わなくていいのに……

久しぶりに梨子ちゃんに会えて、楽しかったはずなのに…

ひとりで歩く帰り道が、いつもより暗くて、冷たかった…







今日はついに、梨子ちゃんのステージ。

ことりは、今梨子ちゃんの控え室の方に向かっています。

梨子ちゃんの演奏がうまくいきますようにって、

おまじないをかけながら作った 桜色の髪飾り。

24以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:49:02 ID:BA8s88hk
ピアノの演奏に相応しいような、派手すぎないで、

でもしっかりと主張のある、

梨子ちゃんにぴったりな髪飾り。

受け取ってくれるかな……

ことり(あれ…ドアが空いてる…)

『梨子ちゃーん!! ついに本番だね!!』

『緊張してるでありますか??』

『んもーぅ、今更梨子が緊張するわけナッシングでしょ?』

『そうよ!我がリトルデーモン、リリーには俗世の波動など届かぬわ!』

『東京って、すごいね…ルビィ達も招待客としてここまで来れちゃった…』

『大きな音楽団体なだけはあるね。今日は、私達がついてるからね!』

『いつもどおりやれば大丈夫ずら!』

ことり(梨子ちゃんが言ってた、友達が来てるんだ)


ことり(邪魔したら、悪いなぁ…)

25以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:51:02 ID:BA8s88hk
ことり(でも、もう時間がないよ…)


『ほら、皆さん、もう梨子さんのスタンバイの時間が近付いてますわよ。 客席に向かいましょう?』

『じゃあね〜梨子ちゃん、頑張ってね!』

女の子が8人、控え室から出てきて、私とすれ違った。

次はことりが部屋に入ろうとすると、中から梨子ちゃんが出てきた。


ことり「梨子ちゃん、おはよう」


梨子「おはよう、ことりちゃん」


ことり「梨子ちゃん、あのね…」


梨子「ごめんね、もう行かなきゃいけないの…」


ことり「あっ…うん…、頑張ってね!」


梨子「本当にごめんね…!」

26以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:51:45 ID:BA8s88hk
ことりは、渡すことが出来なかった髪飾りを箱に入れたまま、鞄にしまって、客席へ向かった…


受付でパンフレットを貰って、ホールのドアを抜けると、中はお客さんでいっぱい。


ことりの席は、真ん中少し後ろの、ぽつんと開いた通路側の席。



どうして、こんなに悲しいの…?


ピアノはあの人に相談して、


友達の応援なら地元の人が控え室に来て、


そうした方が梨子ちゃんにとって良いことなんだ、って


分かってるつもりなのに……

27以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:52:28 ID:BA8s88hk
ピアノも出来なくて、


知り合って半年にもならない私の励ましなんて…


梨子ちゃんには必要ないんだ…



なのに、なんでことりに曲のことを聞いたの…?



なんで、ことりに会いに来てくれたの…?



なんで、プレゼントを受け取ってくれなかったの…?



ことり、わかんないよ…


ブーーーーーー


会場にアナウンスが流れる。

28以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:54:26 ID:BA8s88hk
今日のために、全国から有望な高校生ピアニストが集められたことや、主催者の挨拶などが伝えられる。



梨子ちゃん……あなたは、ううん、



ことりは、梨子ちゃんにとってなんなの……?



ことりは、ひとりで勝手に舞い上がってただけなの……?



梨子ちゃん、梨子ちゃん…………



『では、続いての演奏者です。』



『静岡県、浦の星女学院からお越しいただきました。桜内 梨子さんです。桜内さんは、先の東京におけるーー』

29以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:55:25 ID:BA8s88hk
梨子ちゃん………教えてよ…………



『更に音楽活動を続けながらも、スクールーー』


ことり、梨子ちゃんのこと…………


『それでは、桜内梨子さん作曲、【小鳥】です。』



…!!



ことり(今、司会の人、なんて………!)

慌ててパンフレットを確認する。

梨子ちゃんの曲目は、【小鳥】…。

ことりが、ステージに目を向けると、

滲んだ照明の下に立つ梨子ちゃんが居て、

客席に向かって一礼して、顔を上げた。

30以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:56:50 ID:BA8s88hk
ピアノに向かう前、梨子ちゃんがこっちを見たような気がした…


梨子ちゃんの指が動き、鍵盤に触れていく。


その音のひとつひとつは、とっても綺麗で、


今まで聴いたどんな曲よりも、ことりの耳に、


心に、優しく溶けていった。



涙が、とまらないの………


こんなに素敵な曲で、梨子ちゃんのステージなのに、


ことりは、溢れてくる涙を止められなくて…


聞こえてくる、ふんわり柔らかそうなメロディが、


ことりの心を包んでくれてるからかな……?

31以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:58:20 ID:BA8s88hk
梨子ちゃんの指が、最後の鍵盤を鳴らして、

透き通った残響が静まったあと、

梨子ちゃんは立ち上がって、客席に向かってお辞儀をした。

鳴り止まない拍手の中、梨子ちゃんは堂々と降壇して行った。

司会が次のアナウンスをしている最中だったけど、

ことりは席を立って、ホールから出た。

たくさん泣いてたからかな、ドアの係の人はことりを通してくれて…


すこしでも早く、梨子ちゃんに会いたい。


梨子ちゃん、ありがとう って


ごめんね って… 伝えたい。


控え室のドアをノックすると、梨子ちゃんが開けてくれた。

中には、出番を終えた例のピアニストと、梨子ちゃんが居て、話をしている様子だった。

梨子ちゃんの演奏を、誉めてたのかな。梨子ちゃんは少し嬉しそうで、恥ずかしそうな顔をしていて…

32以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 22:59:25 ID:BA8s88hk
ことり「梨子ちゃん、」


梨子「ことりちゃん…!? どうしたの…!?」


そうだ、 ことり、泣いてたんだった…


ことり「ありがとう…梨子ちゃん…」


ことり「ごめんね……」


梨子「ごめんねって…私、何もことりちゃんに嫌なことされてないよ?」


ことり「うっ、うう…」


気付かないうちに、彼は部屋から出ていて、控え室はことりと梨子ちゃんの二人きりになっていた。


ことり「梨子ちゃん……!」


梨子「ことりちゃん…?」

33以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 23:00:27 ID:BA8s88hk
梨子「………………。」


ぎゅっ


ことり「………!!」


梨子「ごめんね、ことりちゃん」


ことり「りこちゃん…」


ことり「うぇぇ…」


梨子「どうして、泣いてるの…?」


ことり「わかんないの…涙が…とまらなくて…」



梨子「……そっか。」


梨子「そういえば、演奏前は、ごめんね」

34以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 23:01:30 ID:BA8s88hk
梨子「なかなかみんな帰らなくってさ…ことりちゃん、来てくれないかなって、ずっと思ってたんだよ」


梨子「だから、ことりちゃんが来てくれて本当に嬉しかった」


梨子「あの時、何か手に持ってなかった…?」


ことり「もう、いいの」


梨子「もういい?」


ことり「うん……」


梨子「そうなの…? 本当のこと、教えて…?」



ことり「……実はね、ことり、梨子ちゃんのために…」


ことり「開けて…?」

鞄から綺麗に包装した小箱を取り出して、梨子ちゃんに渡す。

35以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 23:02:51 ID:BA8s88hk
薄いピンク色のリボンを解いて、白い箱を開けて……


中身を見る梨子ちゃんの目は、潤んでいて……


桜の花を模した、可憐な髪飾りに、


雫が一滴、二滴と落ちる。


梨子「ことりちゃん……これ…」


ことり「うん…梨子ちゃんに似合うように、今日うまくいくように、ことりが作ってきたの…。」


梨子「…ありがとう……!」


梨子「…ごめんね……!」


今度は梨子ちゃんの涙がとまらなくなっちゃった。


ぎゅっ…

36以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 23:04:14 ID:BA8s88hk
今日は、第2回の『高校生によるピアノ演奏会』。

梨子ちゃんは今回トップバッターを勤めるんだって。

梨子ちゃんが登壇してきて、お辞儀をした。

演奏、楽しみだなぁ…♪

綺麗な赤い髪に、桜色の髪飾りを添えた梨子ちゃん。

優しく構えた梨子ちゃんの指が、鍵盤に触れる。


おしまい

37以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 23:08:06 ID:BA8s88hk
楽しんで頂けたら幸いです
読んだあとにスクスタのキービジュアルを見に行くといいものが見れるかも

投稿もここでおしまい

38以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/23(火) 20:19:23 ID:GviLToms



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